僧侶「勇者様を、おとします!!」 (30)

酒場

遊び人「何言ってんの?」

僧侶「そのままの意味ですよ、遊び人さん」

遊び人「そのままって言われても、勇者は魔王討伐に行ったきりでしょ。ねえ、魔法使い?」

魔法使い「あなた、新聞読んでないの?先週討伐を果たしたわ」

遊び人「マジで!?」

武闘家「号外って無料で配ってたよな!あたしも知ってるぞ!」

商人「ただどちらにしても、凱旋に各地への挨拶で当分は会えないと思いますけど…」

狩人「そうね、討伐時点でのパーティーならまだしも、リストラ組の私達じゃね…」

僧侶「そういうと思って、色々調べたんです!結果、会えると分かりました!」

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遊び人「本当!?」

商人「情報は!?ソースはどこ!?」

僧侶「本人から、手紙が来たんです!これです!」

魔法使い「見せて!」

僧侶「これによると…!」

狩人「休暇をもらって3日ほどここに、彼の故郷に滞在するようね」

僧侶「そうです!本日皆さんに集まってもらったのはそのためです!」

武闘家「どういうことだよ」

僧侶「私達の大好きな勇者様と会える数少ない機会!これをものにして、勇者様をおとします!」

商人「それは先も聞きました」

魔法使い「それをあたし達に伝えて、何のつもりかって聞いてんの」

僧侶「情報を独占して抜け駆けするのは不公平だと思って、皆さんの前で宣言した次第です!」

遊び人「なるほど~。確かにこれで公平…」

武闘家「な訳ねえだろ!!」

狩人「そうね。これではまだ不公平よ。アタックする順番まで決めて初めて公平でしょう」

遊び人「本当だ!騙された!」

僧侶「だ、騙してませんよ!」

魔法使い「じゃあ、公平に順番を決めましょ?」

商人「まさか断るなんて言いませんよね?」

僧侶「臨むところですよ!」

武闘家「じゃあ、準備はいいな?」

「「じゃんけんぽん!!」」

翌日

勇者宅

勇者「じゃあ皆にも挨拶してくる。昼までには戻るよ」

「いってらっしゃい」

勇者「行ってきます」

勇者「懐かしいな。皆元気にしてるかな…」

遊び人「お~い勇者~」

勇者「遊び人!久しぶりだな、元気にしてたか?」

遊び人「お陰様で…と、改めまして」

勇者「ん?」

遊び人「バ~カア~ホドジ間抜けー、イ~カタ~コ禿ボヨヨン」

勇者「……え?」

遊び人「お前のかーちゃんで~べそ、やっぱりお前もで~べそ」

勇者「…どうしたんだ本当に」

遊び人「じゃ」

勇者「おい待てよ!ってもう行っちまった…」

勇者(何だったんだ…里帰り早々傷つくな…)

酒場

遊び人「勇者貶してきた~」

商人「早!結果はどうでした!?」

遊び人「結果?別に、軽く心配されただけ」

僧侶「それはどういう意味でですか!?」

狩人「待って。遊び人あなた、何て言って落としたの?」

遊び人「バ~カア~ホドジ間抜けー、イ~カタ~コ禿ボヨヨン。お前のかーちゃんで~べ…」

魔法使い「もういいわ。落とすを勘違いしてたのね」

武闘家「しょうがねえな。手本を見せてやるよ!飯食ったら着いて来い!」

遊び人「了か~い」

勇者「今日は後、武器屋と道具屋と…」

武闘家「よう勇者!」

勇者「おわ!いきなり後ろから抱きつくなよ武闘家」

武闘家「んなこと言って、嬉しいくせに」

勇者「い、いや、お前に抱きつかれても、その、重いだけだし…」

武闘家「何を~!?送り襟締め!」

勇者「んが!?ぐぐぐぐ、ぐえ…」

武闘家「やべ!起きろ!しっかりしろ!」

酒場

武闘家「悪い、勇者落としちまった…」

僧侶「謝らないで下さい!余計に惨めになるだけじゃないですか!」

武闘家「そういうことじゃねえんだよ…」

狩人「あなたは何したの?」

遊び人「抱きついて首絞めて経験値もらってた」

魔法使い「字だけ近づいたのね」

商人「独自のアピールには成功してる…なら私も…!」

翌日

勇者「昨日は酷い目に遭ったな。今後はデリカシーに気を配るか」

商人「勇者様」

勇者「商人か、久しぶり。繁盛してるか?」

商人「それなりに。ただ、今日勇者様が協力してくれればさらに発展しそうです」

勇者「俺で良ければ力を貸すよ」

商人「ありがとうございます。では、着いて来て下さい」

酒場

遊び人「2000G!」

武闘家「こっちは3000Gだ!」

狩人「なけなしの5500Gで!」

魔法使い「8600Gよ!」

僧侶「そんなに持ってない…」

勇者「……」

魔法使い「じゃあ、あたしで決まりね」

商人「10万G」

魔法使い「ちょ!?主催者が参加するなんて卑怯よ!」

商人「これ以上の方はいないようなので、今回の落札者は私です!これで勇者様との半日デートは私のもの!」

勇者「…俺は競りに掛けられるまでも…いや、まあいいか」

魔法使い「久しぶりね、勇者」

勇者「今朝会ったばっかだろ。まあ元気そうで何よりだよ」

魔法使い「そういうあなたもね」

勇者「まだ、俺の魔法の研究は続けてるのか?」

魔法使い「ええ。擬似的に再現できるまでになったわ。見てて」

勇者「ああ、期待してる」

魔法使い「じゃあ行くわよ…ライデイン!」

勇者「おわあああ!!」

魔法使い「ごめん!発動位置はまだランダムなの!」

酒場

魔法使い「勇者に落としてきたわ…」

商人「え?てにをは間違えてませんか?」

魔法使い「あいつにライデイン落としちゃったの…」

武闘家「[ピーーー]気かよ!」

遊び人「武闘家に言われたくはないんじゃない?」

僧侶「安心していいのか心配した方がいいのか…」

狩人「明日は私の番ね…」

翌日

勇者「昨日と一昨日の分も取り返さないと、回りきれないぞ」

勇者「…今日は大丈夫だよな?あいつらだってそんな暇じゃないだろうし…ん!?」

勇者(殺気!?背後から、しかも遠い!)

勇者「っと、矢?でも、このくらいなら当たらな…うお!?」

狩人「やった!かかった!」

勇者「狩人!?お前か!矢を撃ってきたのも落とし穴掘ったのも!」

狩人「他の誰も落とせなかったけど、私は落としたわ」

勇者「聞けよ!出るの手伝えよ!ていうか置いてくな!」

酒場

狩人「私は成し遂げた。勇者を落としたの」

武闘家「マジかよ!」

狩人「本当よ。尤も、既に這い出してるかも知れないけど」

遊び人「這い出す?」

商人「もしかして今朝土を運んでたのって…」

魔法使い「往来に罠仕掛けるのやめてって言ったでしょ!?」

僧侶「救出してきます!」

僧侶「勇者様ー!大丈夫ですか!?」

勇者「ああ、服は汚れたけど、自力で脱出できたよ」

僧侶「はあ、良かった~」

勇者「良くないけど、本当お前らどうしたんだ?揃いも揃っておかしいぞ?」

僧侶「勇者様に用事があるだけです…と、そうだ!ついでにここで果たしちゃいましょう!」

勇者「今度は何だよ!?」

僧侶「そのままそこに立っていて下さい」

勇者「え?何だよ、何の魔法陣書いてんだよ」

僧侶「完成後のお楽しみです、と、できました!」

勇者「早!?」

僧侶「降霊術発動!」

勇者『おや、私は生き返ったのか?』

僧侶「お久しぶりです、お義父さん」

勇者『ん?僧侶ちゃんか。君が呼んだということはこれは息子の体か』

僧侶「そうです。本日はご挨拶をしようと、お越し願いました。不束者ですが、宜しくお願いします」

勇者『はは、こちらこそ息子を頼むよ、と、そろそろか。ではさようなら』

僧侶「お元気で~」

勇者「何?誰に言ってんの?」

酒場

僧侶「助けるまでもなく脱出してました!それとお義父さんにご挨拶してきました!」

魔法使い「え!?勇者のお父さんは魔王討伐で…」

僧侶「ですから、勇者様を媒介に一時だけ来てもらったんです!」

狩人「降霊術ね。落とすというより降ろすが正確かしら」

商人「結局最後の最後で遠ざかりましたね」

武闘家「で、どうなんだ!?勇者本人にはちゃんと言ったのか!?」

僧侶「あ!しまった!?」

遊び人「結局全滅」

武闘家「本当、何してたんだろうな、あたしら…」

王城

勇者「今戻ったぞ、女騎士」

女騎士「早かったな。賢者も戦士もまだ戻っていないぞ」

勇者「そうか。はあ…」

女騎士「何だ、溜息を吐いて。久々の帰省で却って望郷を強めたか?」

勇者「いや、ちょっとな」

女騎士「悩みがあるなら話してみろ。共に討伐を果たした仲だろう?」

勇者「ありがとう、実はさ…」

女騎士「共に冒険した者達の平素と異なるテンションに呑まれた、と」

勇者「そうだ。それで…」

女騎士「結局、あのことを伝え損なったと言う訳か」

勇者「理解が早くて助かる」

女騎士「全く、何をしに帰ったんだお前は」

勇者「返す言葉もない…」

女騎士「…パレードは明後日だ。私の早馬を使えば式典には難なく間に合うだろう」

勇者「いいのか!?準備とか諸々兼ねて明日からここで待機って…」

女騎士「女性問題を抱えたままの愚者を、英雄として凱旋させられるか。陛下には私から伝えておく。行ってこい」

勇者「恩に着る、本当ありがとうな!女騎士!」

女騎士「…何も知らず直情的に迫れる彼女らが羨ましい。宮仕えは柵が多くて困る」

翌日

酒場

勇者「皆、いるか?」

僧侶「勇者様!?城に戻ったんじゃ…!」

勇者「皆に言いそびれたことがあってさ、無理言って今日だけ時間もらったんだ」

武闘家「あたし達も言いそびれたことが…!」

勇者「悪い、時間がないから先にこっちの話を聞いてくれ」

遊び人「了か~い」

魔法使い「それで、話って何?」

勇者「ああ、お別れを言いに来たんだ」

狩人「…え?」

商人「ええ!?」

商人「あ、お城で働くようになるから気軽に会えなくなるってことですか?それならそうと…」

狩人「ふう…早とちりして焦った…」

武闘家「どんな早とちりをしたんだ?」

勇者「早とちりじゃないだろうな」

魔法使い「どういうこと?」

勇者「明日のパレードの後、漣の国の姫と結婚することになってるんだ」

僧侶「…え…?」

勇者「そういう訳で、皆と会えるのは多分、これで最後だ」

武闘家「何でだよ…あいつと漣の国の姫なんて接点なかっただろ…」

狩人「政略結婚、でしょうね…」

遊び人「政略結婚って何?どういうこと?」

商人「魔王が討伐され、魔物の脅威が沈静化した今、各国が互いに戦争を起こさないよう互いに人質を出し合う…」

魔法使い「陛下は子宝に恵まれず、国内の有力貴族も既婚者が多い。その足りない枠に勇者が…」

武闘家「国の決定じゃ勇者も異議は唱えられねえか。くそ!どうしようもねえのか!?なあ、僧侶!」

僧侶「……」

商人「そっとしておいてあげましょう。一番ショックを受けているはずですから…」

武闘家「それもそうか…悪かった」

遊び人「手はないの?」

狩人「こればっかりはね…」

魔法使い「個人の力の及ぶところじゃないから…」

僧侶「…手はありますよ?勇者様を落とすという形ではなくなりますけど」

商人「え!?」

武闘家「あんのかよ!」

狩人「どんな手!?」

僧侶「それは…」

翌日

勇者(大目玉食らったけど、パレードは予定通り行われた)

勇者(大観衆を前にすると、改めて俺が背負ってたものの重さに気付かされてびびった)

勇者(ただ、その中にあいつらの姿はなかった)

勇者(特等席を用意したから紛れて見えないことはないはずだけど、まあ来る気にならないよな、あの話の後じゃ)

勇者(あいつらには悪いことしたな…)

勇者(…切り替えないと。明日から漣の国での生活が始まるんだ。日輪の国の顔として、失礼があってはならない)

勇者(魔王討伐とは別の方向で、気を張らないとな)

翌日

漣の国

王宮

姫「日輪の国からようこそお越し下さいました。勇者様」

勇者「はっ、この度は…」

姫「それよりも、質問がございます」

勇者「何なりと」

姫「あなたの後ろにいる女性達は、どういった方々なのでしょうか?」

勇者「…ええと…その、何と申しますか…」

僧侶「従者です!」

商人「衣装係です」

武闘家「護衛です」

魔法使い「付き人です」

狩人「侍女です」

遊び人「以下同文」

姫「バラバラな回答でしたが、全員若い女性ですね?」

勇者「そうですね…」

姫「勇者様からも、是非ご説明を頂きたいのですが」

勇者「あはは…」

僧侶「勇者様を落とすことはできませんでしたが、一緒にいられることになりました」

僧侶「こちらは賑やかで、楽しくて、時々スリリングな毎日を過ごしています」

僧侶「勇者様は時々胃の辺りを押さえていますが、まあ大丈夫でしょう」

僧侶「それと、こちらの日輪の国大使館の護衛が交代するそうです」

僧侶「勇者様もよく知る人物だそうですが、それはまた別のお話です」

おわり

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