提督「え、俺がまた召集?」若葉「そうだ」 (23)

提督「・・・なぜだ?俺は提督を引退して2年が経つ。もうあの頃の感覚はないぞ」

提督「それに深海棲艦との決着は既についたはずだが」

若葉「提督が管轄していたエリアについては、だ」

提督「言葉を返すようだが、俺の仕事はその担当区域の沈静化だけだったはずだ」

  「・・・というか、そもそも俺は緊急体制化で臨時召集された雇われ提督だったに過ぎない」

若葉「知っている」

  「そしてその雇われ提督が5年前に着任後、1ヶ月もしないうちに、」

  「鎮守府海域、南西諸島海域、北方海域を沈静化させ」

  「現地深海棲艦と和睦したことも、あなたの秘書艦として目の当たりにしてきた」

  「今回の再召集はその実績を見込んでのことだ」

提督「・・・残りの北方、南方、中部海域が問題ってことか」

若葉「今回の任務内容は、その3エリアでの活動が中心となる。
  
  「話はそこまで複雑ではない。いわゆる平和維持の為にパトロール、必要に応じて応戦するだけ」

  「手順としては記載日時に以前の泊地に来てもらえれば、それで済む話だ」

  「あとは現場で説明がある」


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提督「しかしその3エリアについては和睦の際に不可侵の約束を取り付けたはずだが。彼女らをまた刺激しないだろうか」

若葉「・・・これも軍の意向だ。詳細はその封書内の書類に書いてある」

提督「・・・この『再平定』やら『敵地制圧』の記述、また戦争するつもりだな」

若葉「・・・ここだけの話、最近になってまた深海棲艦らが危なくなってきている」

  「表立って一般人を攻撃こそしないものの、一部海域の漁業権益を寡占したり、」
  
  「自警団と称して油田のある区域を占領したり、よからぬ噂の立っている団体と交流もしているらしい」

  「何より決定的なのはこの資料だ」

提督「なんだこれ・・・明らかに臨戦態勢じゃないか」

若葉「・・・武装した深海棲艦の活動範囲が拡大している」

提督「・・・なぁ、こういうのは政治家の仕事じゃないのか?」

  「端から軍事力で押さえ込むんじゃなくて、話し合いで真相を突き止めて、話し合いで解決というのはしないのか?」

  「なぜ漁業権益を欲しているのか」

  「なぜ油田区域を占領しているのか」

  「なぜ危険な団体と交流しているのか」

  「なぜ活動範囲を広げようとしているのか」

  「・・・この資料には深海棲艦達の活動理由が全く書かれていない」

  「これでは戦いをまた始める理由にはならないよ」

  「まずは話し合いをしないと」

若葉「提督、既に結果として私達の生活に不利益なことが生じている」

  「このままではいずれ、またいつぞやのように深海棲艦達が私達を襲ってくることになるだろう」

  「だから、攻撃されるまえに、まずは先手を打たなきゃいけない」

提督「それが理由か?」

若葉「・・・それに、提督が言うような有能な政治家は、この世界にはもういない」

  「テレビや新聞を見れば分かる。皆自分の立場を守るのに必死だ」

  「誰ひとり、この国、この世界の将来を案じてなんかいない」

  「それは提督が一番、現場を見てきたはずだ」

提督「・・・知ってたさ」

若葉「・・・提督、戦いたくないのは皆一緒だ」

提督「なぁ若葉、・・・敵も味方も共有できる平和は無いのかな・・・」

若葉「・・・何にせよ、今回の召集令は私が決めたことじゃない。軍上層部の一存によるものだ」

提督「そうだな。問い詰めるようなことを聞いてすまなかった」

若葉「・・・提督、あなたには拒否権がある。嫌なら辞退も構わない。その旨を軍に伝えるまでだ」

提督「参考までに聞きたいんだが、この任務について若葉はどう思う?」

若葉「・・・判断の一助を委ねるのは禁止されている。提督自身が結論をだすべきだ」

提督「そうか」

若葉「ああ」

若葉「では、若葉はこれで」

提督「おっとその前に。若葉、スイカ食べていかないか?うちの畑のスイカは甘いぞ」

若葉「・・・提督、呑気だな。さっきの難しい話はもう忘れたか」

提督「難しい話は後で考えるよ。それより久しぶりに会えたんだ。もっとゆっくりしていきなよ」

若葉「・・・すまない、提督。迎えの車で初霜が待っている」

提督「なんだ初霜も来ているのか。一緒に来ればよかったのに」

若葉「初霜は日焼けを好まない。それにこの後も仕事があるからゆっくりはできないだ」

提督「・・・じゃスイカ一玉ととうもろこしを何本かやるよ。初霜や他の艦娘たちと仲良く食べてね」

若葉「・・・提督、今も昔も、私達の提督はあなただけだ」

提督「・・・そうか」

若葉「・・・召集場所は書類に記載されている。・・・待っているぞ」

提督「・・・すこし考えさせてくれ」

若葉「・・・では、失礼する」

【車内】

初霜「・・・提督は昔から優しすぎるのよ。味方にも敵にも、何にでも」

若葉「提督の世界観は大半が理想論だ。甘すぎる」

初霜「どこぞの政党もびっくりするほどの、ね。だってあの時も、」
  
  「まさか敵対する深海棲艦と和解するだなんて、誰も思ってなかったもの」

  「それまで犠牲になった人が全く浮かばれないわ」


若葉「・・・『共有できる平和』か・・・」

初霜「なにそれ」

若葉「さっき提督がつぶやいてた言葉」

初霜「甘すぎるわ」

若葉「・・・あぁ、そうだな」

  「(・・・だが、悪くない)」

  「(・・・もし実現できるなら、誰だって望んでいることだろう)」

  「(・・・だからこそ、提督に来てほしい)」

  「(・・・これは、あなたにしかできない任務だ)」

■提督回答締切日まで残6日───保育園

天龍「・・・成るほど、それで俺らのところに来たわけか」

龍田「国はあいかわらず人使いが荒いのね~」

若葉「急にお邪魔してこんな話を突然してしまい、申し訳ありません」

天龍「なぁに、かつて共に戦った仲じゃないか。気にすることはないよ」

若葉「・・・しかし。本当に保母さんとして保育園を運営されてたとは、実際に見るまで信じられませんでした」

初霜「演習や遠征でよく一緒だったので、なんとなくイメージはできてたんですけど、ね」

龍田「天龍ちゃんったら、この仕事本当に向いてるのよ~。子供たちとすぐ仲良くなれるし、親御さんからの評判も良好なの~」

天龍「龍田も元々マメな性格だし、経理とか事務的なことに結構向いててさ、思い切って園を立ち上げてみて正解だったよ」



天龍「・・・でも召集令が来たってことは、もうこの生活も終わりなんだな」

初霜「・・・提督をはじめ、他の艦娘たちにも同じく召集令が出されています」

龍田「反応はどうなのかしら」

若葉「概ね全員が同意し、快く承諾してくださってます」

天龍「・・・提督が復帰しないなら、俺は戻りたくないな」

龍田「・・・天龍ちゃんの気持ちはわかるわ。でもこの国が、世界が私達の力を求めているのよ?保育園の子供たちの未来にも関わる話よ」

若葉「冒頭でも申しましたが、今回の召集には拒否権があります。強制力はありません」

  「若葉も天龍さんの意見は理解できます。・・・ただ私と初霜は軍属なので、この召集には従わざるを得ないのですが」

龍田「でも提督がいつ決断するかはわからないんでしょう?」

初霜「・・・提督は時間をかけて考える方です。おそらく、提督の決断を確かめてから召集に応じるかどうかを判断するのは」

天龍「奇跡的なタイミングでもない限り、不可能ってことだな」

龍田「提督は締切りギリギリで書類を作り上げる人でしたしね・・・」

若葉「・・・もしこの召集を拒否される場合は、私、若葉に連絡をください。その旨を軍に伝えるまでですので」

天龍「わかった。即答できなくてすまないな」

初霜「いえ、時間はまだありますから」

龍田「ではまた、お気をつけて」

若葉「はい」






龍田「天龍ちゃん、迷ってる?」

天龍「あぁ。提督や昔の仲間に会えるのはとても嬉しいことだ。でも・・・」

龍田「・・・天龍ちゃん、保育園の事はいいのよ。きっと国が運営を代わってくれるわ。若葉ちゃんもそう言ってたじゃない」

天龍「・・・子供達、きっと驚くだろうな」

龍田「天龍ちゃんがいなくなったら、きっと悲しむでしょうね。でもまた、何年後かに戻れるわ。

  「あの子たちにとっても、きっとその我慢が成長につながるはずよ。・・・天龍ちゃんの成長にとっても」

天龍「な・・・バカな。俺は全然悲しくないぞ。いつかは卒園して離れるわけだからな」

龍田「ふふふ(天龍ちゃん、目が赤くて声が上ずっているわ)」

天龍「・・・あとは提督次第、だな。若葉たちに連絡先を聞いとけばよかった」

龍田「でも若葉ちゃんたち軍側の人だし、重要機密とかで教えてくれないんじゃないかしら」

天龍「そうだなぁ。・・・そうだ、青葉にでも聞いてみるか」

龍田「そうね、ちょっと連絡とってみようかしら」

■同日───民間造船所 技術室

若葉「・・・それにしても、ここの造船所は本当に圧巻ですね」

北上「まぁね。造船建造はもちろん、兵器開発、改修・改装整備、補給・入渠まで、何でもできちゃう、鎮守府並みの大造船所だからね」

  「若葉、鎮守府解体後のあたしのことを取り計らってくれて、ありがとね」

若葉「いえ、これは明石氏のツテがあってこそです。私ができることは、軍上部に一言添える事くらいしか」

北上「本当にここは最高だよ。食堂も美味しいし、空調機能完備だし、構内の売店も充実してるし」

初霜「仕事はどうですか」

北上「まぁぼちぼち順調だね。みんな良い人だから分からないこともすぐ聞けて、すごく仕事がしやすいよ。後で若葉達も施設内を案内してもらったら?」

若葉「この後また別件がありますので、またの機会にお願いします。他の艦娘達にも召集令の話をしにいかなきゃ行けないので」



北上「・・・その召集令についてなんだけど、・・・提督が来るなら、あたしは嫌。行かないよ」

若葉「・・・そうですか」

北上「わざわざこんな所にまで来てもらって本当に感謝してるよ。でもあたしは、」

初霜「・・・大井さんのことですね」

 
 
 

北上「提督は今もあんな感じのままなんだろ?・・・自分がした事を反省しない奴なんて、最低だよ」

若葉「大井氏が南西諸島で轟沈した時以来、提督は戦術を変えている。反省してないことはないと思いますが」

北上「戦術を変えようが何しようが、鎮守府でのテンプレートのような謝罪集会以外、提督は何も言ってくれなかったじゃん?」

  「提督は部下のことを、ただの駒としか考えないような奴なのさ」

  「特にあの輸送任務の時なんて・・・あれは防げた事態だった」

若葉「・・・深海棲艦の襲撃、特に潜水カ級の大編成艦隊の出現は予想外でした。それにあの時の私達は、まだ兵装規模が未熟でした」

北上「・・・提督はあの時、なんで誰にも対潜装備をつけてくれなかったのかねぇ。・・・まぁ、今更だけどね、もう」

 
 
 

若葉「・・・では北上氏は召集令拒否ということで軍に伝えておきます」

北上「なぁ、これ拒否した後ってどうなるの?かわりに誰かまた召集されるの?」

初霜「いえ、今回はあの時の鎮守府メンバー以外に召集令は出されていません。集まった人員で任務を行うかと」

若葉「万が一、余りにも召集人員が足らない場合は、軍本部から別途戦力が補充されます」

北上「そっか。・・・悪いね、拒否理由が粗末で。でも若葉たちのことはきっとこの造船所から支援するから、何かあったら任せてね」

若葉「ありがとうございます。では私達はこれで」

 
 

北上「・・・これで良かったのかなぁ、大井っち」

技術室長「北上」

北上「あ、室長・・・、もしかして今の話、聞いてました?」

技術室長「本当に良かったのか?」

北上「まぁ、今回の召集令は強制ではないので、特に問題はないかと」

技術室長「・・・頭の良い北上なら分かるはずだ。戦時記録を見る限り、提督はあの時、最悪の事態の中でも最善の対策をしていたと思うぞ」

  「主な対潜装備は同時進行の別働隊に装備させ、大井氏のいる艦隊には回避性機動力をあげる装備をしていたのだろう?」

  「そして戦闘行為は極力回避するよう、会敵中も一つ一つ指示を出していたと、この記録にあるが」

北上「まぁ・・・そうね」

技術室長「しかも指示内容のどれもが的確だ。・・・予想外の事態の中でこれほど頭の回る提督はいないんじゃないか?

  「・・・強いて言うなら唯一の誤算は」

北上「大井っちが民間船を庇って集中被弾、轟沈したことね」

技術室長「あぁ・・・その民間船は、我々の造船所が所有している船だった」

北上「・・・ほんと、奇遇ですよね」

 
 

  
技術室長「・・・皮肉なもんだ。私達のせいで大井氏が沈んだのに、北上は今、その仇とも言える我々の造船所に所属している。・・・憎くないかね」

北上「いいえ、あの時あなた達を守ったからこそ、こうやって皆が平和に働けてるんです。それは嬉しいことですし、大井っちもきっとそう思ってますよ」

技術室長「それなら・・・大井氏の志を、今こそ北上が引き継ぐ時じゃないのか?」

  「こうやって大井氏に生き長らえさせてもらいながら私が言うのも、身の程知らずでおこがましい限りだが・・・」

  「どうかあの日の出来事を、我々を、・・・彼のことを、許してやってはくれないか」

北上「・・・室長は確か提督と幼馴染で、あの時の民間船に乗ってたんでしたよね。全然そんな、畏まらなくていいんですよ」

技術室長「あの時は何もできなくて、本当にすまなかった。祈ることしかできなかった私を許してくれ」

北上「そんなに気になさらないでください。・・・今、はじめて室長の気持ちを聞いた気がします」

  「室長がそこまで考えてたなんて知りませんでした」

技術室長「・・・」

北上「・・・私、ちょっと休んできますね」

 
 
 
 
 
技術室長「・・・提督。どうか北上を救ってやってくれ・・・」

 
 
 

日焼け跡が痛い。休憩。転職活動してきます。

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