提督「納涼怪談大会」 (47)

提督「うーむ、今年は特に蒸し暑いな」

提督「こんな日は、いっそクーラーを切って」

提督「艦娘と汗だくックスしたいところではあるが……」

金剛「」ピクッ

榛名「」ピクッ

大和「」ピクッ

提督「こうも蒸すと、脱水症状になりそうだ」

提督「ここは一つ、納涼怪談大会でも開いてみるか」

艦娘「チェッ」

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~昼 海岸~

長門「さあ、どんどん来い! 私はびいちばれえでも負けはせん!」

吹雪「すごい……! サーブしたボールが全部破裂してる!」

陸奥「そういうゲームじゃないんだけど……」



赤城「去年の水着が入らない……」

加賀「赤城さん、それは……」

~昼 仮設屋台~

比叡「提督! これ全部タダって本当ですか!?」

提督「ああ。どんどん焼くから、どんどん食え」ジャッジャッ

雪風「カレーに焼きそばにカキ氷……雪風、目移りします!」

提督「おかわりもいいぞ」ジャッジャッ

提督「遠慮するな。今までの分、食え……」ジャッジャッ

飛龍「はい! ごちそうになります!」

~昼 海~

伊19「泳ぎでイクたちに勝てるわけがないのね!」ザババー

伊8「ここは勝たせてもらいます」ザバー

天龍「くっ、流石にはええ……!」バシャバシャ

夕立「負けが確定っぽい~!」ザブザブ

島風「でも、負けないよ! だって私が一番早いもん!」シャーーーーー!!

潜水艦「海の上を走るのはずるい!!」ガーン

~夕方 室内~

カナカナカナカナ……

提督「zzz」

暁「zzz」

響「zzz」

雷「zzz」

電「zzz」

カナカナカナカチャン……

~夜 食堂~

提督「さて、スイカも割ったし花火でも遊んだ」

提督「昼寝もしたしトイレも済ませた」

提督「そして、日が沈んだところで……」

提督「いよいよ、納涼怪談大会の始まりだ」

艦娘「わーーーー!」パチパチパチパチ!

提督「今年は親睦も兼ねて、深海棲艦のみんなも呼んでいるぞ」

レ級「オッス♪」

戦艦「こんばんは」

港湾「お世話になります……」

提督「しっかりと肝を冷やし、今年の夏を乗り切ってほしい」

提督「さて、早速、怪談でも打とうと思うが……」

提督「まずは誰がやる?」

駆逐「はい!」

提督「おっ、駆逐棲姫ちゃん。やる気だな」

提督「では、お願いしようか」

駆逐「分かりました……」

全員「……!」ゴクリ

船が沈むと、どうなると思いますか?

沈没船になる。傷つき、腐食し、魚礁となる

その通りです。普通はそうなります

ですが、時々……

そうならない船が、あるんです

死者の怨念と悔恨をまとい、夜な夜な、ひとりでに動き出す船が

それは海の底から光に誘われ、他の船を引きずり込もうとやってきて……

駆逐「まあ、私たちのことなんですけどねwwwww」

レ級「wwwwwwwww」

戦艦「wwwwwwwww」

艦娘「wwwwwwwwwwwwww」

提督「いやあ、なかなか、つかみとしては良かったぞw」

駆逐「お粗末様でした」

提督「ふふふ……いや、失礼」

提督「さて、次からはちゃんと怖い話をしようかw」

提督「次は誰がいく?」

吹雪「はい!」

提督「おっ、吹雪か。じゃあ、頼む」

吹雪「お任せください」

これは私が体験したことですが……

鎮守府近海で潜水艦を掃討する時、よく組む人がいるんです

ええ。五十鈴先輩です

対潜のプロと言われたあの人といっしょなら、潜水艦だって怖くない

いつもそう思っていました

でも、ある日、気づいたんです

五十鈴先輩は、何かがヘンだって

はじめは、基礎を大事にする人だと思っていたんです

だって、そうじゃないですか。改になったのに、すぐに改造前に戻るだなんて

強い力に溺れないよう、初心を忘れないようにそうしているのかと思っていました

だけど……

「五十鈴です。水雷戦隊の指揮ならお任せ。全力で提督を勝利に導くわ。よろしくね」

工房から戻ってくる度に、五十鈴先輩はこう言うんです

まるで、私と初対面であるかのように……

……おかしいですよね?

だって、私と五十鈴先輩は、何十回といっしょに出撃したのに――

提督「おかしくないぞ」

吹雪「えっ」

提督「おかしくない」

提督「どうしたんだ、吹雪」

提督「暑さにやられたのか?」

吹雪「……」

吹雪「そう……かもしれません」

吹雪「冷静に考えると、同じ艦娘が何人もいるはずが……」チラッ

~窓の外~

五十鈴1「……」

五十鈴2「……」

五十鈴3「……」



吹雪「……!?」ゾッ

吹雪「今! 今、窓の外に!?」

提督「……?」

提督「どこだ? 誰もいないじゃないか」

提督「やっぱり夏バテなんだよ」

提督「ゆっくり休め……なっ?」

吹雪「は、はい」ガタガタ

提督「さて、なかなか迫真的な話だったが……」

提督「その分、ハードルが高くなっちゃったな」

提督「次は誰がいく?」

艦娘「……」

最上「うーん、じゃあ、ボクがいこうかな?」

提督「おっ、最上か」

提督「期待しているぞ」

最上「自信はないけど、頑張るよ」

みんな、鎮守府近海にある小屋のことは知ってる?

うん、そうそう。それそれ

出撃や遠征から帰ってくる時に、いつも目にするあの小屋だよ

小さな島にある、小さなプレハブ

元は見張り小屋だったんだよね?

でも、不便だったから、あんまり使われずに放置された……

知ってる?

あの何もない部屋の、何もない壁に

赤黒い手形がついているのを

みんなは気にしてないみたいだけど

ボクは手形を見てから、どうにもあの小屋が気になっちゃってさ

通りかかる度に、色々考えたよ

幽霊がいるのか、とか

それはどんなのだろう、とか

もしかすると、こっちを見てるのかもしれない、とか

そのうち、自分で考えたことを自分で怖がるようになってさ

近くを通る時は、いつもビクビクしてたっけ

夜戦から帰る時は特に怖かったね

小屋の中で、うすぼんやりとした人影が

目だけはしっかと見開いて、こっちを見ているかもしれない――

そう考えると、足がすくんじゃってさ

そのうち、遠回りをして帰るようになったよ

――でも、おかしいんだ

小屋の近くを通らないようになってからも

やけに気になるんだ。あの小屋が

頭に浮かぶんだ――

小さなプレハブ。荒れ果てた室内。ガラス窓の奥には、赤黒い手形があって

その近くにいるんだよ。小さな影が。目だけがギョロギョロした、白い影が

その光景が、やけにはっきりと頭に浮かぶ――

……実は、見ていたのかもしれない

ボクは小屋を見ているつもりだったけれど

そこにはいつも『アレ』がいて、

いつもボクの方を、見ていたのかもしれない――

最上「おしまい」

最上「あはは、人前で話をするのはちょっと照れくさいね」

最上「どうだったかな・・・・・・って」

最上「どうしたの、みんな?」

提督「あわわわわ……!」

暁「ひぃぃ……!」

天龍「ガチじゃねえか、バカー!」

龍田「そ、その小屋って、いつもの通り道にあるあの小屋?」

最上「そうだけど?」

睦月「あああああ! 思い出してみたら、あった! 手形があった!!」

如月「いつも見られているような気配がしたけど……」

カ級「も、も、もうあの辺りに行けない……!」

最上「えーと……なんか、ごめんね?」

提督「ジャブの次にレバーブローを喰らった気分だが……」

提督「納涼という意味では、趣旨に適った話だった」

提督「さて、次は誰がいく?」

艦娘「……」

深海「……」

提督「むっ、しり込みしたか?」

提督「ならば、私が……」

雪風「しれぇ!」

雪風「雪風にお任せください!」

提督「おお!」

提督「ちびっ子に怪談を語らせると」

提督「なにやら『学校の怪談』じみてきそうだが」

提督「それも一興! 頼むぞ、雪風!」

雪風「はい!」

夕方ごろの話です!

お昼寝から目が覚めた雪風は……

しれぇがいなくなっていることに気がつきました

あれ? おかしいな?

横になる前は、すぐそばにいたのに……

お昼寝部屋はしーんとしていて

窓の外では、ひぐらしが鳴いていました

その時のことです

ふと、しれぇの声が聞こえたように思いました

廊下の奥。普段は使われていない部屋から

その声はしているようで……

雪風はお昼寝部屋を出て、しれぇの声をたどりました

夕暮れでした

廊下は夕日を浴びて真っ赤に染まり

そうじゃないところは、影になって、真っ暗でした

しれぇの声が、また聞こえます

やっぱりそれは、廊下の奥の部屋からでした

でも、おかしいんです

しれぇだけどしれぇじゃない

そんな声でした

そう思った瞬間、急に怖くなってしまって

雪風は、こっそりと、部屋の中をのぞいて……

雪風「するとそこには、裸になったしれぇと南方棲戦姫さんがいたんです!」

艦娘「っ!?」

深海「っ!?」

提督「ファッ!?」

雪風「南方さんは苦しそうに『オオー! て、提督、なんて男なの』とか『止めたら殺すから!』とか言ってました!」

提督「ゆ、雪風、止め」

雪風「二人とも汗だくでした!」

提督「フィー!」ビクンビクン

金剛「ヘイ、提督ぅ」

提督「」ビクッ

榛名「少しお話が……」

提督「それは、その」

提督「違うんだ」

雪風「なめくじみたいにからみあってました!」

提督「違うんだぁ!」



………………

~鎮守府 廊下~

吹雪「はあ……」トボトボ

吹雪「結局、勘違いだったのかな」

吹雪「最近、疲れているのかなあ」

五十鈴「あら?」

吹雪「五十鈴先輩」ドキッ

五十鈴「怪談大会はどうしたの?」

吹雪「ちょっと……抜けてきました」

吹雪「そ、その。五十鈴先輩は?」

五十鈴「私はパス。趣味じゃないわ」

吹雪「そ、そうですか」

五十鈴「これからお風呂に行くけど……」

五十鈴「あなたも来る?」

吹雪「い、いえ。私は部屋に戻ります」

五十鈴「そう?」

五十鈴「じゃあね」ヒラヒラ

吹雪「は、はい」

吹雪(あんなことがあったから、変に意識しちゃったな)

吹雪(……うん。やっぱり、私の考えすぎだよ)

吹雪(五十鈴先輩が何人もいるなんて……)

五十鈴「あら?」

吹雪「っ!?」ドキッ

五十鈴「吹雪じゃない。何してるの?」

吹雪「え、えっと」

吹雪「自分の部屋に……戻ろうかと……」

五十鈴「へえ」

五十鈴「やっぱり怪談って子どもっぽいものね」

五十鈴「お風呂にでも入ってた方がマシだわ」

吹雪「そ……う、ですね」

五十鈴「あなたもどう?」

吹雪「いえ、わ、私は」

五十鈴「そう? じゃあね」ヒラヒラ

吹雪(……えっ)

吹雪(ど、どういうこと?)

吹雪(さっき会ったのは五十鈴先輩で)

吹雪(今、去っていくのも五十鈴先輩で)

???「あら?」

???「吹雪じゃない」

???「何してるの?」

吹雪(じゃあ)

吹雪(私の後ろにいるのは)

吹雪(一体、誰なんだろう……?)



~完~

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