北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」 (73)

――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「あ、いたいた。やっほ、藍子」

高森藍子「加蓮ちゃん。お疲れ様ですっ。今日は……雑誌の撮影でしたっけ?」

加蓮「それがさ、なんか4日後にやる予定のインタビューも入ったのよ」

藍子「そうなんですか?」

加蓮「スケジュールが詰まってるって。なんでそんなことするかな、ほんと」

藍子「そうですね……芸能界では難しいのかもしれませんけれど、ゆっくりしていきたいですね」

加蓮「藍子が言うと説得力あるなぁ」


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藍子「荷物、こっちに置きますか?」

加蓮「藍子に漁られそうだからヤダ」

藍子「そんなことしませんよ~」

加蓮「ふーん。今度の雑誌で見開きカラーをもらったんだけど、その完成品サンプルが入ってるんだよね。もちろん社外秘」

藍子「…………」ウズウズ

加蓮「気になった」ニヤリ

藍子「はっ。……あ、あはは、まあまあ、まずは座ってくださいっ、加蓮ちゃん♪」

加蓮「ふふっ」

加蓮「頼んどいてくれた?」

藍子「はいっ。加蓮ちゃんが来たら持ってきてくださいって、お願いしたんですけれど……あっ、来ました!」

加蓮「ん、ありがとー。サンドイッチだ。卵と……ベーコン?」

藍子「はい。サンドイッチです」

加蓮「そのこころは」

藍子「今日の撮影で、ちょっぴり疲れてるかなって。でも、加蓮ちゃんには慣れた撮影だから、ちょっぴりだけかな、って」

加蓮「ふうん……」

藍子「インタビューもやったのは……想定外でしたけど」

加蓮「そうだよね、インタビューがなかったらこれが大正解だったかも……ありがとね、藍子」

藍子「ふふっ。……ちなみに、今日の100点満点の正解は」

加蓮「ちょっとメニュー貸して。ん……この中だったら、ビターチョコのマカロンだったかな」

藍子「そうなんですか!? うぅ、最後に残った2択の片方がそれだったんです……」

加蓮「じゃあもう正解みたいなもんじゃん。あむっ……ふふっ、サンドイッチだって美味しいから、私は十分だよ」

藍子「よかった」




加蓮「んぐんぐ……ごくん。にしてもおしゃれなカフェだね」

藍子「はい。見つけたのはけっこう最近なんですけど」

加蓮「相変わらずぽんぽん見つけてくるなぁ」

藍子「最近は、毎日が予定ってこともないですから」

加蓮「スケジュール表を見たけど、軽めの仕事ばっかりだったね」

藍子「でも、余裕がある体力は、茜ちゃんや未央ちゃんとのレッスンに使えてます」

加蓮「ポジパか。あ、そういえばポジパって言えばさ、今度トラプリと合同LIVEするでしょ。聞いてる?」

藍子「はいっ。未央ちゃんが張り切っちゃって。奈緒ちゃんと加蓮ちゃんには負けないって意気込んでました」

加蓮「え、なんか目の敵にされてる?」

藍子「そ、その、まだ凛ちゃんを持って行かれたって燃え上がってて」

加蓮「まだ言うか……。ニュージェネねー。私としては凛をこっちによこせと」

藍子「凛ちゃん、大変そうですね」

加蓮「それをぜんぶこなすのが凛なんだけどね。……よし、なんか賭けよっか」

藍子「賭け、ですか?」

加蓮「うん。LIVEで勝った方がこれ、みたいな」

藍子「うーん……私は、あんまり争いたくないな……」

加蓮「アイドルでしょー?」

藍子「そうですけれど……うぅ、未央ちゃんも絶対に勝つぞーって張り切っちゃってるし、あぅ」

加蓮「腹をくくりなさい。ほら、そっちが勝ったらなんでも言うこと聞いてあげるから」

藍子「……うーん…………」

加蓮「……藍子?」

藍子「えっと……ツインテール、ピンクのリボン、それからそれから、学生鞄もいいかな?」

加蓮「あのさ、なんか不穏な単語が聞こえてきてるんだけど」

藍子「……ランドセル……」

加蓮「私もう16歳なんだけど!?」

藍子「ひゃっ。さ、さすがに冗談ですよ、あはは」

加蓮「何させるつもりだったの?」

藍子「いえっ。えーと、加蓮ちゃんはいっつもオシャレですよね」

加蓮「ん、ありがと」

藍子「でも、加蓮ちゃんのオシャレは、いつもカッコイイ系ですよね」

加蓮「まあね。可愛い系はほら、他に似合うのがたくさんいるし。藍子だってそうだよ」

藍子「あはっ……でも、たまには可愛い服もいいんじゃないかな、って」

加蓮「……で、行き着く先がランドセルかい」

藍子「あっ、それは違うんです。可愛い加蓮ちゃんを想像したら、なんだか妹みたいだなって思って」

加蓮「妹ねえ……」

藍子「ほら、いつもの加蓮ちゃんは、私のお姉ちゃんみたいな人だから」

加蓮「手のかかる妹を持つ姉ってこういう気持ちなのかな」

藍子「……あの、私、やっぱり、手がかかっちゃいます……?」

加蓮「ごめん。条件反射で悪態をつくのは私の癖みたいなものだから、真に受けないで」

藍子「もうっ」

藍子「それに、他の人にもそんな感じじゃないですか? みんなのお姉さんっていうか」

加蓮「確かに、奈緒とかにはそうだし、たまに子供と遊ぶ番組に出たりするし。おねえちゃんおねえちゃんって言われるのも悪くないかな」

加蓮「…………奏は、まあ、うん」

加蓮「それで、何? 私は藍子の妹になればいいの?」

藍子「せっかく同い年なんですから」

加蓮「…………うん??」

藍子「お姉ちゃんも妹も、両方できるじゃないですか」

加蓮「あ、そういうことか。じゃあ藍子はお姉ちゃんがやりたいの?」

藍子「アイドルをやっていると、1つのことだけじゃ満足できないこともあったりするんです」

加蓮「ふふっ。意外と欲張り」

藍子「加蓮ちゃんなら分かりませんか?」

加蓮「すっごい分かる」

藍子「それに、私の方が先に生まれたんですよ?」

加蓮「7月25日だよね。1ヶ月ちょっと離れちゃってるな……」

藍子「私の方が先に生まれちゃいましたねっ」

加蓮「そだねー」

藍子「にこにこ」

加蓮「…………」

藍子「にこにこ」

加蓮「………でもさ、スマホの録音機能をONにするのはやめなさい」

藍子「バレてましたっ」

加蓮「バレバレ。でもごめん、どうやってもランドセルはない」

藍子「それはもう忘れてくださいっ」

加蓮「できればPさんにつられた訳じゃないってことを信じたいよ」

藍子「Pさんはカッコイイ加蓮ちゃんがお好きみたいですから」

加蓮「妹になるってアイディアはいいかもね。そうだ、今度、事務所に行く時にやってみて、Pさんを驚かせてあげよう」

藍子「あはっ、いいですねそれ! きっとびっくりしますよ!」

加蓮「Pさんが来たタイミングがいいかな? それともミーティングの時に唐突に『藍子お姉ちゃん』って」

加蓮「ううん、こういうのは仕事じゃない時にやるべきだよね」

藍子「Pさんをお出迎えする時にやってみましょう!」

加蓮「やろうやろう。誰か撮影係がもう1人いるね。藍子は全力で役に徹していないといけないし」

藍子「誰かにお願いしちゃいましょうか」

加蓮「こういう時の未央だね」

藍子「未央ちゃん?」

加蓮「や、ほら、事務所内でまともに演技ができて、こんなことに付き合ってくれそうなのが未央くらいしかっていうか」

藍子「アイドルなのに?」

加蓮「アイドルなのに」

藍子「くすっ。なんだか、今すぐにでも事務所に行きたくなっちゃう」

加蓮「……はふぅ……でも今は、ここのカフェかな」

藍子「そうですね。今日はゆっくりして、また今度、やることにしましょう。何か注文しますか?」

加蓮「私はいいや。何か頼むなら一口ちょーだい」

藍子「調子がいいんだから。すみませーん。チーズケーキをおひとつ、お願いしますっ」

加蓮「藍子お姉ちゃん、おごって~」

藍子「今日は加蓮ちゃんが後に来たから加蓮ちゃんの番ですっ」

加蓮「ちっ」


ところで>>1は酉付けないのかな
あと同名のスレが建ってるよー



加蓮「甘……」ゲンナリ

藍子「加蓮ちゃん、辛党ですもんね……ん~っ、おいしい♪」

加蓮「激辛ポテトとかないのここ」

藍子「激甘ミルクティーならありますよ?」

加蓮「私に死ねと」

藍子「1度、挑戦してみたんですけれど……飲み終わるまで、2時間くらいかかっちゃいました」

加蓮「チーズケーキはぜんぶ藍子が食べなよ。それを見て手を合わせておくから」

藍子「じゃあ、そうしますね。……ん~~~~っ♪」

加蓮「こっそりスマホのカメラを起動」

藍子「だめですっ」

加蓮「ちぇ」

藍子「もうっ、加蓮ちゃんはいつもそんな……もう。(パクッ)ん~~~♪」




>>20
……同名スレって、どうしたらよろしいのでしょうか? ここでの勝手は分からない物で……。

加蓮「……今さらだけどさ、私、汗臭かったりしない?」

藍子「おいし……♪ え? 加蓮ちゃんがですか?」

加蓮「時期が時期だけにね、どうしても気になっちゃって。制汗スプレーはかけまくったけど」

藍子「ううん、臭いは気になりませんけれど……」

加蓮「そっか、ならよかった」

藍子「匂いと言えば、加蓮ちゃんの髪ってミントの匂いがしますよね」

加蓮「そう? 自分じゃ分からな――………………え?」

藍子「?」モグモグ

加蓮「ちょっと……ちょっと待って。なんで藍子が私の匂いとか知ってんの?」

藍子「ええっと…………どうしてでしょ?」

加蓮「え? テキトーなこと言ってるんじゃない……ん、だよね? ほら、薄荷からミントを連想して、とか」

藍子「それはないですよ。絶対こうだって知ってますもん、私」

加蓮「いやだからなんで知ってんのって話!」

藍子「どうしてでしょうか……。あっ、そうだ」

加蓮「思い出した!?」

藍子「加蓮ちゃん、よく事務所のソファで横になっているじゃないですか」

加蓮「疲れた時には昼寝したりもするけど……まさかアンタ、寝てる私の髪に頭を突っ込んで、」

藍子「そこまではしませんよ!?」

加蓮「"そこまで"ってどういうこと!? 何ならするの!?」

藍子「それはその……思わず頭を撫でちゃったり、ほっぺたつっついちゃったり……その時に分かったんだと思いま――」

加蓮「私の寝姿で遊ぶなーっ!」

藍子「あっ、そうだ。えっと……えっと……あった♪ これ、加蓮ちゃんの寝顔の写真です!」

加蓮「」

藍子「可愛く撮れちゃったんです、えへっ」




藍子「……写真、消されちゃいました……」グスッ

加蓮「ぜーっ、ぜーっ、こ、今後っ、寝顔撮るの禁止! 好きで無防備になってるんじゃないんだから!」

藍子「はぁい……」

加蓮「今度から疲れたら仮眠室に行ってやる……!」

藍子「その時は、飲み物とおやつを届けちゃいますねっ」

加蓮「……反省してる?」

藍子「え、えへ」

加蓮「ぐぬぬ、どうやってもカメラっていうかスマホは没収できないし……」

藍子「ごめんなさい。でも、加蓮ちゃんを見ていると、つい写真を撮りたくなっちゃうんです」

加蓮「なんでよ……」

藍子「いつも頑張ってるなって。ふらふらになっちゃってますけど……」

加蓮「……ハァ……。藍子」

藍子「はい」

加蓮「曖昧なのはあんまり好きじゃないからはっきりさせてね。撮られたくない写真だってあるの。分かるでしょ?」

藍子「はい、分かります」

加蓮「とりあえず……寝顔だけは本当にやめて。ね? それ以外の写真なら……ちょっとくらいは許すから」

藍子「はいっ。ありがとうございます♪」

加蓮「あー、もー……今日は私の奢りの番だから、注文して困らせるってできないし……」

藍子「すみませーん……はいっ。アイスコーヒー2つお願いしますっ」

加蓮「……………………」

藍子「おねがいしますね」ペコッ

藍子「……加蓮ちゃん?」アレ?

加蓮「……私、藍子になんか仕返しされることしたっけ」

藍子「仕返し……ですか? お返しじゃなくて?」

加蓮「あ、うん、分かった。悪意ないんだね今の」

藍子「???」

藍子「あ、でも、加蓮ちゃんに仕返しすることなら、いっぱいありますよ?」

加蓮「えー」

藍子「だって加蓮ちゃん、いっつも私に意地悪ばっかりで……慣れない衣装の時に加蓮ちゃんがずっと褒めるから、すっごくやりにくかったんですよ。この前のLIVE」

加蓮「だってあれハイスピードを売りにしたLIVEでしょ? ちょっとくらい気合を入れた方が、藍子としてはやりやすいんじゃないの?」

藍子「……それはそうですけど……」

藍子「あとほらっ、スマートフォンのアプリの時! アプリを入れてあげるって言うからお貸ししたら、待ち受け画像が変わってました!」

加蓮「私とPさんのツーショット?」

藍子「あれ、どこで撮ったんですかっ!」

加蓮「ないしょ。ふふっ、羨ましい?」

藍子「…………うう」

加蓮「羨ましい?」

藍子「……………………羨ましいです」

加蓮「ふふっ。じゃあ藍子もPさんに頼めばいいよ。藍子にはもっとわがままを言ってほしいって、Pさん呟いてたもん」

藍子「Pさんが、そんなことを……」

加蓮「私もそう思うけどな。もっとあれこれ言ってくれていいのに」

藍子「それは……そういうのは、ちょっと苦手で」

加蓮「そっか。じゃあ私がグイグイやるしかないのかな」

藍子「加蓮ちゃんが?」

加蓮「うん。例えば藍子に似合いそうなネックレスがあったから買ってプレゼントする、とかさ」

藍子「いきなりそんなことされたら、申し訳ないって思っちゃいます」

加蓮「それに慣れたら、自分から欲しいって言えるんじゃない? ……あ、駄目だ、そしたら悪女ができあがるだけだ」

藍子「あくじょっ!?」

加蓮「私みたいなのは私だけでいいよね、うん」

藍子「加蓮ちゃん、悪女だったんですか!?」

加蓮「え? 違うように見える?」

藍子「……確かに見えないかもしれません」

加蓮「大人を手玉に取るのは昔からやってるからね、慣れた物だよ」

藍子「……でも加蓮ちゃん、前にPさんから子供扱いされてましたよね」

加蓮「……あれはPさんが悪い」

藍子「ふふっ」

加蓮「…………慣れないことになんて挑戦するんじゃなかった。料理なんてしなくても生きていけるもん」

藍子「他にも、加蓮ちゃんのイタズラがバレて、笑われてましたよね」

加蓮「あっ、あれは自爆芸搭載のウサミン星人がそこにいたせいで――」

藍子「奏ちゃんにつっつかれて顔を真っ赤にしている加蓮ちゃんも見ました」

加蓮「あれはっ……うう、ってか藍子、どんだけ私のこと見てんのよ!?」

藍子「え? ……そういえば、どれくらい見ているのでしょうか」

加蓮「迂闊なことできないじゃん……。ま、いっか」ズズ

加蓮「アイスコーヒーも美味しいね。さすが藍子が見つけたお店だ」

藍子「東京にも静かな場所っていっぱいあるんです。公園でも、カフェでも」

加蓮「私は逆に落ち着かないかもね。喧しいところの方が好きかも」

藍子「加蓮ちゃんは忙しなくしていますよね、いつも」

加蓮「忙しい内が華っていうし……やっぱり、動ける時に動きたいかな、って」

藍子「やっぱり、退屈なのは嫌いですか?」

加蓮「"退屈なのは"ね。仕事の前の待機時間とか、移動時間とか。そーいうのは、ちょっと嫌い」

藍子「…………」ウーン

加蓮「こうしてのんびりするのは、ね……ふふっ」

藍子「……何かあるといいんですけれど……加蓮ちゃんが、退屈しないで済む方法」

加蓮「え? あ、あははっ、何、それで今ちょっと難しい顔してたの?」

藍子「うぅ、はい」

加蓮「私が藍子の言うことに反発したからじゃなくて?」

藍子「そうですよ?」

加蓮「……あははっ。藍子は私には勿体なさすぎだ」

藍子「そんなっ」

加蓮「あはははっ……あははっ。もうっ。退屈しのぎの方法なんていくらでもあるよ。読書でもいい、ゲームでもいい」

加蓮「1人でできることはだいたいやってるからね。そうだ、今度、藍子用にストールでも編んで来ようか?」

藍子「え、編める物なんですか……?」

加蓮「できるできる。ほら、夏ってどこもかしこもクーラーキツイから、藍子には辛いでしょ?」

藍子「……ありがとうございますっ♪」

加蓮「ずず……」

藍子「すみませーん、はいっ、杏仁豆腐のプリンを……加蓮ちゃんは、何か食べますか?」

加蓮「ううん」ブンブン

藍子「はいっ、お願いします♪」

加蓮「よく食べるね」

藍子「つい、美味しくて……」エヘヘ

加蓮「太れ」

藍子「…………………………………………」

加蓮「ああ、これは冗談にならないんだ……」

藍子「……で、でも、私だって茜ちゃんとランニングしてるから大丈夫です……です、よね?」

加蓮「違う心配をしてしまいそうだね。私さ、藍子のお見舞いでも病院は行きたくないよ?」

藍子「だ、大丈夫です、きっと」




加蓮「たまにさ、ちょっと贅沢だなって思うことがあるんだよね」

藍子「ぜいたく、ですか……?」

加蓮「事務所。ほら、頼めば和洋中なんのご飯だって出てくるし、頼んでないのにお菓子を持ってくるのがいっぱいいあるじゃん」

藍子「そうですね」

加蓮「誰かが地方ロケから帰ってきたらお土産があるし。注文しないでお金も払わない通販みたいな感じ」

藍子「加蓮ちゃんもときどき、不思議な物を買ってきますよね……ラーメン味のバウンドケーキなんて、どこで見つけてきたんですか?」

加蓮「ふふん、好奇心旺盛な加蓮ちゃんを舐めないでよね」

藍子「いつもびっくりさせられちゃいます」

加蓮「……うん。贅沢だなって。だから何ってこともないよ」

藍子「そうですか……」

藍子「あっ、プリン来ました! ぱくっ! ……えへぇ……♪」

加蓮「蕩けた顔しちゃって。こういう顔を見られるのも、贅沢の1つなのかな?」

藍子「んぐんぐ……♪ 加蓮ちゃんも食べてみますか?」

加蓮「いーから。ん……あ、ちょっとごめん、Pさんから通知が来てるっ」

藍子「はいっ。どうぞ?」

加蓮「…………」ポチポチ

藍子「やっぱり早いですよね、スマートフォンを使うの」

加蓮「よしっと。ん? ん、そう?」

藍子「何かコツとかあるんですか?」

加蓮「さあ……とりあえず両手を使えたら、誰でも早くなると思うけど」

藍子「私、そういうのちょっと苦手だな……マルチタスク、って言うんでしたっけ」

加蓮「左手と右手で違うことをやるようなの? こう……左手で△を描いて右手で◯を掻く」

藍子「わっ、加蓮ちゃん、上手ですね……。……えいっ、えいっ」

加蓮「ぷっ、左手が□になってる」

藍子「うぅ……私も加蓮ちゃんみたいに、器用になりたいです」

加蓮「藍子はなりたいものがいっぱいで大変だね」

藍子「加蓮ちゃんと一緒にいたら、望みが叶っちゃったりするんでしょうか」

加蓮「教えるのは苦手だよ?」

藍子「でも加蓮ちゃん、私にいろんなことを教えてくれるから」

加蓮「見えてることを見えてるって言ってるだけだよ」

藍子「学校の先生とか向いていないでしょうか」

加蓮「冗談でも嫌。アイドルとして子供と遊ぶなら全然オッケーだけど、先生としてとか想像しただけで吐き気がするよ」

藍子「あれ、そんなに……?」

加蓮「んー…………」

加蓮「中学の時にさ。面倒くさい先生がいたんだ。ほら……私ってアレだから、色々と配慮がいるでしょ?」

藍子「体育の時間とか……?」

加蓮「うん。ほとんど見学してた……まあそれはいいんだよ? そういうのは。仕方ないなって諦めてる」

加蓮「ただ、それを変に勘違いした奴ってどこにでもいてさ。私1人を仲間はずれにするのはよくないからー、とか、気を遣うようにー、とか」

加蓮「やりたくてもできない奴がいるんだからそれに合わせろ! っていうのは、さすがに我慢できなくて」

藍子「…………」ズズ」

加蓮「私がさ……言っちゃったんだよね。独り善がり、ウザい、って」

加蓮「で、知ってるかな……私みたいなのを庇って自己満足に浸る馬鹿って多いんだよ」

加蓮「その先生、どうなったと思う?」

加蓮「辞職した」

藍子「…………」ズズ

加蓮「タチの悪いことに、私ってその先生の名前を覚えてないんだ。ほら、ウザい奴の名前なんて普通は覚えないし」

加蓮「辞職した後で、聞きにいくのも私には無理だった。……色々な理由があっても、引き金は私が引いたってこと、誰でも知ってたから」

藍子「…………」ズズ

加蓮「……いつか謝りたいなぁ……ととっ、ごめんごめん、暗い話をしちゃって。なんだっけ? まぁとにかく先生はちょっとやだなーって」

加蓮「あっ、でも藍子専属の先生ならいいよ? 師匠って名乗っちゃおうか。むしろ藍子のプロデューサー、なんて」

藍子「…………」

加蓮「…………あはは………………ごめん」

藍子「……ごめんなさい。何か……加蓮ちゃんが楽になれるように、言えたらよかったのに」

藍子「あ、その、私は気にしてないから……あんまり、目を伏せないでください。……ね?」

加蓮「罵ればいいのに。そんな人だとは思わなかったー、って」

藍子「それで、あなたは喜びますか?」

加蓮「………………」

加蓮「………………はー」テンジョウミアゲ

加蓮「うあー…………そうだよね…………ごめん。私の悪い癖だ」

藍子「あんまり、自分を傷つけないでくださいね」

加蓮「頑張る」

藍子「どうしても傷つけないといけないなら……私が、受け止めてあげますから。……あはっ、私じゃ頼りないですよね……」

加蓮「…………ねえ、藍子」

藍子「はい」

加蓮「人間って完璧じゃないよね。絶対にどこかに欠点がある」

藍子「はあ……そう、ですね?」

加蓮「私も自覚はしてるんだ。人に好かれるってことがよく分からないっていうか、人を疑ってばっかりだ。藍子のことだってよく疑っちゃうよ? ……疑っても疲れるから、考えないようにしてるけど」

藍子「そうなんですか……あのっ、私はどうすれば――」

加蓮「最後まで聞いて。藍子はきっと、自分が必要とされてるのが分かってないんだ」

藍子「……私が?」

加蓮「ほら、ぽかんとしてる。あはっ、変な顔!」

藍子「わっ、わっ、加蓮ちゃん、笑わないでくださいよっ」

加蓮「うくくっ。変な顔なんだもん。ねえ、藍子。言ったじゃん。私には勿体無いって」

加蓮「……ね?」

藍子「……私、自分でも分かっているんです」

加蓮「んー?」ズズ

藍子「私、加蓮ちゃんみたいにオシャレじゃないし、歌も上手じゃありません。アイドルに向いてないんだ、って」

藍子「……加蓮ちゃんは、そんな私でも必要としてくれますか?」

加蓮「うん。じゃないと、こんなところでダラダラしてないよ」

藍子「でも私、加蓮ちゃんに何もしてあげられない――」

加蓮「藍子」ベシ

藍子「ひゃいっ!」

加蓮「藍子は……んー、何? 私を大泣きさせたいの? サディスト?」

藍子「え、ええっ!? どうしてそんなお話になっているんですか!?」

加蓮「藍子は天然だからなー、きっと分かってない」ズズ

藍子「え、えっと、あの、加蓮ちゃん……もうちょっと、わかりやすく、その、お願いします」

加蓮「……あ、コーヒーなくなった……何もしてあげられてない? ナメてんの? 私がここで藍子といることで、どれだけ楽になってると思う?」

藍子「…………」

加蓮「すみませーん! 抹茶ラテ1つ。藍子は何か飲む?」

藍子「じゃあ、オレンジジュースで……」

加蓮「お願いしまーす。……信じられないなら、試しに黙って行方をくらましてみるといいよ。でも、その結果、今をときめくアイドルが1人、舞台から降りても知らないけどね?」

藍子「…………?? ……あ、そういうこ――ええっ!? え、そんなにですか!?」

加蓮「ちょっとは分かってくれたかな。あ、抹茶ラテ。ありがとー」

藍子「うぅぅ……」ズズズ

加蓮「オレンジジュース、ちょっとだけもらっていい?」

藍子「あ、はいっ、どうぞ!」

加蓮「ごくごく……これくらいなら飲めるかな」

藍子「……」チラッチラッ

加蓮「はい、抹茶ラテ。美味しいよ。甘いだけじゃないから私でも飲みやすいし」スッ

藍子「そういうのが好きなんですね……あっ、ありがとうございます♪」ゴクゴク

加蓮「やっと戻ってきた。藍子の笑顔。シワを寄せてるなんて藍子らしくないよ」

藍子「……」ゴクゴク

加蓮「はー。ったく、人に隠し事を許さないんだから。藍子ってイジワルだね」

藍子「それ、加蓮ちゃんには言われたくないですよ……」ゴクゴク

加蓮「……いやちょっと待って、抹茶ラテいつまで飲んでるの?」

藍子「あっ!」バッ!

加蓮「あはははっ、うくくっ、変な顔してる! 口、口の周りが緑い! もう、なんでそんなに目を揺らすの。私がそんなことで怒る訳ないでしょ! あははっ」

藍子「も、もう! 加蓮ちゃんこそ分かっていないんです!」

加蓮「んー?」

藍子「加蓮ちゃんはいつでも真面目だから、冗談が冗談にならないんですよ!」

加蓮「えー、何それ。私にも冗談を言わせてよ」

藍子「そ、それならそれで、分かりやすくやってください!」

加蓮「見てすぐ分かる冗談って何か意味ある?」

藍子「もうっ……!」

加蓮「ん~~~」ノビ

加蓮「そろそろ出る? 今日はもう予定ないけど、のんびりし過ぎたら外に出るのが辛くなっちゃうよ?」

藍子「……も、もうちょっとだけ、のんびりしてもいいですか?」

加蓮「そっか。じゃあクーラーがいらなくなる時間までだらだらしちゃおうっ」

藍子「はいっ」

加蓮「晩ご飯、どうしよっかな。藍子、うちに来て食べる?」

藍子「そんな……悪いですよ」

加蓮「お母さんがね、たまには友達も連れて来なさいってホントにうっさいのよ。人を家に呼ぶのってすごく苦手で……ってことで、私を助けると思って」

藍子「……そういうことなら、是非っ♪」

加蓮「ふふっ」

藍子「私、加蓮ちゃんの冗談って、冗談なのか本気なのか分からないことが多いんです」

加蓮「ん、さっきの話?」

藍子「はいっ。でも、加蓮ちゃんのそういう時は、なんとなく分かるんです」

加蓮「そういう時」

藍子「なんて説明すればいいのかな……あれ、気遣ってくれてるのかな、って思う時……?」

藍子「わがままを言ってもいいのかな、って思う時は、ちょっとだけ分かるかもしれません」

加蓮「うん……私って藍子より気遣いが遥かに下手だからさ。簡単に見抜かれるんだろうね、藍子にも」

藍子「きっとそういうことですっ♪」

加蓮「もっと自然にできるといいんだけどな」




加蓮「ん~~~!」ノビ

藍子「なんだか、変な気分……私たち、今度のLIVEでバトルするんですよね」

加蓮「そういえばそうだっけ。まあ、マジに戦うのは凛と未央に任せよう」

藍子「そんなこと言って、LIVEになったら手を抜かないのが加蓮ちゃんですよね」

加蓮「それを受け止めてくれるのが藍子だって知ってるからね」

藍子「もうっ。そんな調子のいいこと言って……定例LIVEに乱入してきたこと、まだ怒ってますからねっ」

加蓮「あ、忘れてなかったか」

藍子「Pさんもすっごく怒ってましたよ?」

加蓮「最後には『加蓮だから仕方ない』ってなってたから、オッケーオッケー」

藍子「ズルいっ」

加蓮「ん、メール。お母さんが晩ご飯を作ってるって。そろそろ行こっか、藍子」

藍子「はいっ。お邪魔します、加蓮ちゃん♪」

加蓮「なんだったら泊まっていくといいよ。服くらいは用意できるし」

藍子「ご飯を食べて、ゆっくりしたいって思ったら、お言葉に甘えちゃいますねっ」

藍子「それと、ごちそうさまです!」

加蓮「はーい。よっと……うわ、体中がねちょねちょ……。ご飯より先にお風呂に入っちゃおうかな」

藍子「一緒に入りますか? 私も、その、ちょっと汗が……」アハハ

加蓮「一緒に入ろっか。藍子の髪の毛は洗うの苦労しそうにないね」

藍子「加蓮ちゃんは……あ、あはは……」

加蓮「仕方ないよ。これだけは絶対に切る訳にいかないし……しょうがない。藍子には特別に私の髪を洗わせてあげよう」

藍子「えー……」

加蓮「髪を乾かすのでも可。両方もアリだよ。大盤振る舞いだね」

藍子「それ、自分が楽したいだけじゃ……」

加蓮「バレたか」

加蓮「じゃ、行こっ?」

藍子「はいっ!」


おしまい。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年07月31日 (金) 01:20:33   ID: REcsGiSc

かーわいい

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