吹雪「ドミネーター、ですか?」2 (165)


 前スレ
 吹雪「ドミネーター、ですか?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428341266/)


 ・艦これ(艦隊これくしょん)とサイコパスのクロス

 ・艦これメインで、サイコパスからはドミネーターの設定だけ頂いている

 ・地の文無し ちょっとオリ世界観?



人類と深海棲艦の戦いが収束化してきた頃――両者の戦いは冷戦のような水面下に移った


人に化け、人のように暮らしスパイ活動を行う深海棲艦

鎮守府のある街にのみ現れる彼らは時に人を襲い、人類への脅威性は変わらない

そして流れる、艦娘の深海棲艦化という噂……


日本海軍はこの事態を重く受け止め、政府や陸軍と協力し、各鎮守府に新部署『刑事課』を設立。鎮守府周辺の街に艦娘による警察権が認められた

刑事課に所属する艦娘に与えられるのは、艤装ではなく、特殊拳銃『ドミネーター』。正式名称「携帯型心理診断・鎮圧執行システム『ドミネーター』」である

艦娘や深海棲艦からのみ(一般人にも微弱ながら確認されている)測定される「深海係数」を測り、人に化けている深海棲艦を見つけだし、執行する……

これが、鎮守府刑事課に与えられた使命なのである



そして……街に最悪の被害をもたらした深海棲艦『赤城』の事件から2年。

鎮守府刑事課に新たな事件が襲い掛かろうとしていた…………


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1437985585


鎮守府刑事課所属 特型駆逐艦『吹雪』


私は奪い続ける。

狂ってしまいそう。


私は奪われ続ける。

狂ってしまいそう。


奪い続けなければならない。奪われ続けなければならない。

終わりはない。


引鉄にかけた指を引く度、私の世界は溶け出す。

その瞬間、私は奪う側に立つ。奪い続ける側に立つ。

私の前に神様が降りて来たら、きっとこう言うだろう――


『あなたは 誰?』


・・・・・・

~夜・移動車両内~

吹雪「本日16:03……武装グループが○○駅を占拠。電車の乗客を人質に、海軍内部の重要機密の公表を要求……」

吹雪「武装グループのメンバーは、顔はマスクで隠していたものの、体型から全員女性と判別。更に要求内容から、深海棲艦のグループと判断」

能代「確かに今のご時世、ストレートに海軍上層部の秘密を暴こうとするあたり深海棲艦っぽいわねぇ」

叢雲「それが私達刑事課が出動する理由?」

吹雪「理由としては十分」

能代「警察の機動部隊も出動してるから、ドミネーターを向けて反応が無ければ、そのまま鎮守府に帰れるけどね」

叢雲「…………そうですか」


ブロロロロ……


・・・・・・

~○○駅前~

キィィ ガチャッ


警官「あなた方が、鎮守府の?」

吹雪「はい。刑事課艦娘、吹雪です」

能代「同じく能代です」

警官「(こんな少女が……!)」

吹雪「状況を聞く前に、皆さんにも車内から出てきてもらいましょう」


ガチャッ


叢雲「さて、出番なのかしらね」

武蔵「…………」

熊野「あらあら、静かにお茶もできませんのね」

武蔵「熊野、たるんどるぞ」

熊野「冗談ですわよ。それに刑事課の仕事なんて、やる気起きませんし」


吹雪「皆さん、ドミネーターを」

能代「了解」


運搬ドローン「」ウウゥゥン……

パカッ カシャッ


吹雪「………………」スッ

『携帯型心理診断、鎮圧執行システム「ドミネーター」起動しました』

『ユーザー認証、駆逐艦吹雪……鎮守府刑事課所属、使用許諾確認……適正ユーザーです』


吹雪「準備はいいですね?」

一同「…………」コクッ

吹雪「じゃあ、これより駅構内に潜入します」


・・・・・・

~○○駅構内・吹雪班~


吹雪「能代さん、状況は?」

能代『こっちは大丈夫。敵はいないわ』

吹雪「では予定通り、物陰を利用して隠れながら人質が捕らわれている電車まで行きましょう」

能代『りょーかい!』


武蔵「なぁ吹雪、本当に良かったのか?二手に別れずとも、一気に電車まで駆ければ……」

吹雪「相手は深海棲艦です。こっちが艦娘だと分かれば、人質も巻き込んでしまうでしょう。大勢での行動は危険です」

武蔵「そうか…………」

吹雪「…………あの、今更ですけど聞いていいですか?」

武蔵「なんだ?」

吹雪「何で武蔵さんが、刑事課に入ったのか…………」


武蔵「………………妙な事を聞くな。私が刑事課に入ってから1年半……ずっと聞かなかったろうに」

吹雪「今は2人きりですから…………聞いておきたいんです。それに、大和さんの事も……」

武蔵「…………そうだな」


武蔵「刑事課には、提督からオファーが来た…………最初は大和が死んでしまった部署になど、意地でも入りたくなかったが…………」

武蔵「どういうわけか、私は入ってしまった。これが理由だな」

吹雪「そうなんですか……」

武蔵「そして、お前についても……別に私はお前に怒っている訳ではないぞ?」

吹雪「えっ?」


武蔵「お前は自分のせいで大和が死んでしまったのだと思っているのだろうが、そんなことはない。アレはアレなりに、自分の役割を果たしたんだ。お前を守るという役割をな」

武蔵「だから、この武蔵もお前を守る。それが刑事課での私の役割だと思っているよ」

吹雪「武蔵さん…………!」


武蔵「これからもよろしく頼むぞ、吹雪」

吹雪「はいっ!」


・・・・・・

~能代班~


能代「吹雪ちゃん達は南口から潜入して、私達は北口…………駅構内の構造上、ホームに行くにはこの通りを突っ切る必要があるわね……」

叢雲「駅北口から改札に行くまでの通りね……お店が沢山並んでるわ」

熊野「でも、きっと敵はここに歩哨を置いているはずですわ」

能代「ええ。反応によると、武装グループの内2人がここの通りを見張ってるみたい」

叢雲「じゃあとっとと片付けましょう」

能代「簡単に言うわね……でも、まだ相手が深海棲艦だと決まったわけでもないわ。まずは確かめないと」スチャッ


能代「2人はここで待機。私は敵に気付かれないようにドミネーターを向けるわ」

叢雲・熊野「了解」


能代「…………」タッタッタ


覆面1「…………」

覆面2「………………」


能代「(覆面をした武装グループの2人が通りの真ん中に陣取っている…………)」

能代「(よし、ここからなら相手に気付かれずにドミネーターを向けられるわね!)」スッ


『深海係数、114。執行対象です。セーフティを解除します』


能代「(ビンゴ!)」


・・・・・・

~鎮守府・執務室~


能代『提督、武装グループはやっぱり深海棲艦の集団でした』

提督「了解だ能代。これより現場の担当は我々鎮守府となった。警察には引き上げてもらおう」


・・・・・・

~駅南口・吹雪班~


吹雪「どうやら見立ては合ってたようですね……」

武蔵「では行くか」

吹雪「こっちの方がホームに近いですからね……迅速にいきましょう」


・・・・・・

~能代班~


能代「叢雲ちゃん、聞こえる?」

叢雲『はい』

能代「そっちから、敵見える?」

叢雲『………………1人だけ、ギリギリ狙えるわ』

能代「多分それはこっちから見て右側に居る奴ね。左側はこっちが仕留めるから、合図で同時に撃ちましょう」

叢雲『了解』


叢雲「アイツを…………こっから仕留める……!」スチャッ


『深海係数、149。執行対象です。執行モード、ノンリーサル・パラライザー。落ち着いて照準を定め、対象を無力化してください』


熊野「狙えますの?」

叢雲「これくらいできるわよ!口挟まないで」

熊野「はいはい」フッ

能代『いい?いちにのさんで行くわよ』


能代『いち、にの……さん!』カチッ

叢雲「…………………………!」カチッ


バァン! バァン!!


覆面1・2「!?」


ヴィイイイイイイィィィィィィン…………


覆面1・2「………………」ドサッ


能代『ナイスプレー!』

叢雲「やった……!」


・・・・・・

能代『見張りを無力化、改札まで行きます』


吹雪「私達も…………」

武蔵「………………待て、こちらにも見張りがいるようだ」


覆面「…………」スタスタスタ


吹雪「危なかった……」

武蔵「ここは私がやろう」


・・・・・・


覆面「……」スタスタ

武蔵「おい」

覆面「!?」クルッ


ガッ


覆面「グアッ……ガッ……!」

武蔵「騒いだら首の骨を折る。なぁに、質問に答えてさえくれれば殺しはしない。いいね?」

覆面「…………!……!」コクコク

武蔵「よし。ならまず貴様らのグループについてだが―――」


・・・・・・


武蔵「――なるほどな……深海棲艦で団結して海軍の機密を暴こうと」

覆面「!」コクコク

武蔵「そして貴様らは全員で6人。通路の見張りはお前を含め3人で、人質の監視が2人。リーダー格の奴が電車のどこかに1人……だな?」

覆面「!」コクコク

武蔵「ありがとう。助かったよ」グリグリ

覆面「!?」


『深海係数、298。執行対象です』


武蔵「約束通り殺しはしない。ただ眠ってもらうだけさ」カチッ


バァン! ヴィイイイィィィィン……


覆面「」ドサッ

武蔵「ふぅ……皆、敵の配置が分かったぞ」


・・・・・・

~改札~


吹雪「能代さん達も無事でしたか」

能代「うん。でも電車を占拠して警察を駅構内に立ち入らせなかったグループにしては、やけに人数も手応えもアッサリね……」

叢雲「楽に仕事ができていいじゃない。さっさと人質を解放して執行対象を撃つわよ」

熊野「私も叢雲さんに賛成ですわ。事件が長引けば、その分人質のメンタルにも被害が及びますし」

吹雪「はい……人質の深海棲艦化は避けたいですし、私も人質解放は急務だと思います」

能代「じゃあ吹雪ちゃんのやりたいようにすればいいんじゃないかな」ポンッ

吹雪「えっ?」

能代「吹雪ちゃんは私達のリーダー……艦隊的に言えば旗艦なんだし」

吹雪「ええっ!?私、旗艦なんかじゃないですよ!」アセアセ

武蔵「何を言う。提督も期待し、我らをよくまとめているではないか」

熊野「ま、私は興味なですし、どうでもいいですけれど」

吹雪「そんなぁ……私、駆逐艦ですし……無理ですよぉリーダーなんてぇ!」

能代「あはは、頑張ってねリーダー!」

吹雪「おだてないでくださいぃ!」


叢雲「……………………」


・・・・・・

~電車内・最後部車両~


男性「わ、私達はいつまでこうしていればいいんだ……」

女の子「うわああぁぁあん!おうちかえりたいよおおお!!」

母親「シッ!静かにしなさい!」チラッ


覆面1「…………」スタスタ

覆面2「……」スタスタ

覆面1「問題アリマセン」

リーダー格『ヨシ、私ハ最前車両デ、電車ヲ動カセルヨウニシテイル。ソノママ見張レ』

覆面2「通路ノ仲間カラ応答ガアリマセン」

リーダー格『オソラクヤラレタナ……敵ガ乗リ込ンデクルゾ。注意シロ』

覆面2「ハッ」


・・・・・・

~ホーム~


吹雪「…………あの電車ですね……」

武蔵「見たところ、電気が点いているな……人質は一番後ろの車両に集められているようだ」

熊野「では、人質を見張っている2人も最後部車両に?」

吹雪「その可能性は高いですね…………あと1人、リーダー格と思わしき人物がいるはずですが」

能代「ここからじゃどこにいるか…………とりあえず、人質を解放しましょう」


叢雲「助けるのはいいけど、どうやって突入するの?ドアも窓も閉まってるわよ?」

吹雪「大丈夫。この駅から遠隔操作でドアの開閉と電気のON・OFFくらいは操れるらしいから、駅員の人に協力を要請しておいたの」

叢雲「ふぅん……なら、ちゃっちゃかやっちゃいましょうか」スッ

熊野「ま、適当にやりますわ」スッ


吹雪「よし、じゃあ…………突入!」


・・・・・・

~最後部車両内~


女の子「…………ッ、うぅ……ふぇえええぇぇぇぇぇん!トイレ行きたいよおおお!!」

母親「ちょっと!」

覆面1「ウルサイゾ!静カニシロ!」

母親「ッ、すいません!すいません!」

女の子「うああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

覆面1「コノ、ウルサイト言ッテイル!」グオッ

覆面2「オ、オイ……」


パリィン!


覆面1・2「ッ!?」クルッ


カラッ コロコロ………………ピカッ!!

「きゃああぁぁ!!」「なに!?」「眩しいよぉ!!」


覆面1「ウワァァッ!」

覆面2「目晦マシ……!」


ガシャッ


吹雪「鎮守府刑事課です!!あなた方を執行します!!」バァン!

熊野「返答は聞きませんわ!!」バァン!


ヴィイイイィィィィン……


覆面1・2「ナッ…………アッ、アァ…………」ドサッ


能代「さっすが、いっちょあがりね」

武蔵「面白いほどにアッサリ片付いたな。敵に武器も使わせないとは」

吹雪「エリミネーターが作動しないでよかった……小さい子もいるし、ちょっとあの光景は見せたくないから……」

叢雲「…………フンッ、まだ1人残ってるんだから気を抜かないでよね」

熊野「でもこれで後1人と考えれば――」


ガコンッ


一同「ッ!?」

熊野「なんですの!?」

武蔵「何かの音がしたが…………」

能代「…………ッ、見て!!前の車両が遠ざかっていくわ!」

吹雪「まさか、この車両を切り離して…………発車した!?」


・・・・・・

~最前車両・運転席~


リーダー格「マサカ全員ヤラレルトハ…………オノレ艦娘……!」

リーダー格「コウナッタラ、私ダケデモ!」


・・・・・・


武蔵「どうする!」

能代「どうするったって……!」

叢雲「…………ッ!」ダッ

熊野「叢雲さん!?」


叢雲「(走れば、まだ追いつく!)」


ガタン、ゴトン…………ガタンゴトン、ガタンゴトン……


武蔵「アイツ……」

能代「もうー!独断専行ー!!」


ガタンゴトン、ガタンゴトン……


叢雲「ドアが開いてなくたって…………!」


ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン


叢雲「とりゃああああぁぁぁぁぁーーーーーー!!」バッ


・・・・・・


熊野「電車が行ってしまいましたわ…………」

能代「叢雲ちゃんは!?」

吹雪「ホームには居ない……じゃあ」

武蔵「電車に、乗れたのか……?」


・・・・・・


ゴオオオオオオオオオオオオオオ


叢雲「うううぅぅぅ……!寒い……!」

叢雲「なんとか車両の間に飛び込んで、潜入できたわね……」


能代『叢雲ちゃん、大丈夫!?』

叢雲「ええ、大丈夫よ。今から執行しに行くから、通信を切るわ」

能代『ちょ、まっ――』プツン


叢雲「…………見てなさい、吹雪に頼らなくたって、私だけでもやれるんだから……!」スチャッ


叢雲「目標は多分運転席でしょうね…………てことは、1番前の車両のはず!」

叢雲「車両間のドアは…………よし、開く」ガラッ

叢雲「一気に仕留めてやるわ……!」


・・・・・・

~○○駅~


能代「これで5人全員縛り上げられたわね」

覆面s「」ドサッ


武蔵「それにしても、仲間を見捨てて逃げるとはな」

熊野「深海棲艦らしい卑怯で卑屈な手に出ましたわね」


吹雪「…………」ペラッ

能代「どうしたの?地図とにらめっこなんかして」

吹雪「電車は線路で行き先が決まっています。いかにポイントを変えようと、駅で待ち伏せしてしまえば簡単に捕まります」

能代「というと?」

吹雪「人質を取って駅を占拠したグループのことだから……逃走経路も考えずに電車を発車させるだけだなんて考えられません」

武蔵「確かにな。なりふり構わず逃げたとしたら、ある意味捕まえやすいのだが」

吹雪「きっと、線路の通っている場所のどこかで電車から降りるはず……」

能代「それで地図を見てたのね!」


吹雪「相手は深海棲艦…………逃げるなら…………多分…………………………あった!」

熊野「これは…………橋、ですの?」

武蔵「ああ、大きな河にかかっている橋だな」

吹雪「この橋の上を電車は走るはずです!能代さん、衣笠さんに連絡を!」

能代「なんて?」

吹雪「ボートでこの橋の下に急行するように伝えてください!」


・・・・・・


叢雲「この次が先頭車両………………よしっ」ガラッ


・・・・・・

~運転席~


リーダー格「ッ、先頭車両ノドアセキュリティニ、反応?」

リーダー格「コノ電車ニ、誰カ乗ッテイルノカ……!」

リーダー格「橋マデアト少シ……ソレマデニ、殺シテヤルカ」スクッ


・・・・・・


叢雲「この先にリーダー格の奴がいるのね……絶対執行してブチのめしてやる!!」

リーダー格「貴様…………艦娘カ?」

叢雲「ッ、敵!?」スチャッ


『深海係数、449。執行対象です。執行モード――』


シュウウウウウウゥゥゥゥゥ………………


装甲空母鬼「艦娘…………沈メ!!」ジャキン


ダァン!!


・・・・・・


能代「吹雪ちゃん!電車を追いかけた索敵機によると、戦闘車両で爆発が起こったみたい!」

吹雪「爆発!?叢雲ちゃんは!?」

能代「まだ分からない……深海棲艦の姿もまだ確認できてないって」

武蔵「我らもその橋とやらに行くぞ!」


・・・・・・


叢雲「あ、あぁっ……ぁ……!」

叢雲「(危なかった…………!!)」

叢雲「(後1歩でも前に出てたら、死んでた…………目の前にあるこの、砲撃によって空いた大穴が良い証拠よ…………)」


叢雲「ッ、そうだ、運転席!」


・・・・・・

~運転席~


叢雲「居ない…………じゃあ、どこに……」


ガンッ、ガスッ…………


叢雲「ッ(天井から、音………………電車の上!!)」

叢雲「車両の間なら、はしごがあったはず!」ダッ


・・・・・・

~最前部車両上~

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオォォォオ


装空「モウスグ橋カ…………」

装空「作戦ハ失敗…………クッ、アイツノ指示通リニシタトイウノニ……!」


叢雲「こんのおおぉぉ!!待ちなさいよぉぉぉぉ!!」カンッカンッ


装空「………………サッキノハ脅シダト、理解デキナカッタノカ?次ハ当テル」

叢雲「分かってるわよ。でもアンタが深海棲艦で、私が刑事課艦娘である限り……この銃口は向けさせてもらうわ」スッ

装空「馬鹿ガ……死ネ!」ダァン!

叢雲「ッ!」


ドォン!!


・・・・・・

~移動車両内~


能代「今度は深海棲艦の砲撃が叢雲ちゃんに……!」

熊野「な、大丈夫ですの!?」

武蔵「走っている電車の上とはいえ、煙でよく見えん!」

吹雪「(叢雲ちゃん……!)」


・・・・・・


装空「愚カナ……死ンダナ」


ヒュウウウウウウ……


装空「橋ニ、差シ掛カッタカ……今ノウチニ河ニ降リ、海ヘト逃ゲナケレバ……」バッ


叢雲「な、に……逃げようとしてんのよぉっ!!」バッ

装空「ナッ……空中マデ追ッテ来タ……!?」


『執行モード、リーサル・エリミネーター。落ち着いて照準を定め、対象を排除してください』


装空「(クッ、空中ダト思ウヨウニ狙エナイ……!セメテ、水ノ上ナラ)」

叢雲「水面に着く前に決めてやるわ!」


叢雲「(落ち着け私…………空中だからって関係ない。ドミネーターさえ向けて引き金を引けば……!!)」カチッ


ドヒュウウウウゥゥゥン……


装空「ナッ…………グ、アァッ……!」モコモコモコ

装空「アアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーー!!!!!」


パァン!!


叢雲「やった…………!」


叢雲「あ、でも下は河だわ…………艤装も付けてないし…………濡れるのかしら」ヒュウウウウ


ブウウウウウウウン


叢雲「えっ?」

衣笠「キャッチは衣笠さんに、お任せぇーーー!!」

叢雲「きゃっ!」ポスッ

衣笠「よーし超低反発クッションの後部座席でキャッチ成功~!見たかぁ競艇を見て学んだボート操縦~!」

叢雲「え、え……?」

吹雪『どうでした?衣笠さん』

衣笠「オールオッケーよ。リーダー格の装甲空母鬼はエリミネーターで執行されてたし、叢雲ちゃんも回収できたわ」


叢雲「え、どうして…………?」

衣笠「吹雪ちゃんがね、私にボートでここに向かえ~って。リーダー格は河から海に逃げるつもりだって踏んでたらしいけど……ビンゴだったみたいね」

叢雲「吹雪が…………」

衣笠「お、噂をすれば皆来たねぇ」


ブロロロロロ……キィィッ ガチャッ


吹雪「叢雲ちゃーん!」

武蔵「無事だったか」

能代「ったく独断専行は厳禁よー!」

熊野「事件解決したのなら早く鎮守府に帰りたいですわ」


吹雪「叢雲ちゃん、大丈夫だった?」

叢雲「吹雪………………ええ、怪我ひとつ無いわよ」

吹雪「よかったぁ!でも、これからは1人で出過ぎないでよ?大切な妹だから、心配するよ」


叢雲「……………………うるさいのよ」ギリッ


 鎮守府刑事課所属 特型駆逐艦『吹雪』


ふと、私の世界はふたつに別れる。

起きている現実の世界なのか、寝ている夢の世界なのかは分からない。

自分でない自分が、私でない私を見ている。

鏡の中の自分が、こっちを見て嗤っているような。


引き金を引く時などが、そうだ。

私はその別れたふたつの世界に沿って、私という『自分』を放つ。


・・・・・・

~吹雪の部屋~


吹雪「はぁ……私、加賀さんみたいにできてるかなぁ…………」

吹雪「というか、なんで私がリーダーみたいに……」

吹雪「…………ハッ!い、いけないいけない!報告書書かなきゃ!」

吹雪「加賀さん……川内さん……大和さん…………私、うまくやってるでしょうか……」


・・・・・・

~執務室~



提督「――そうか、深海棲艦のグループは全部無力化……中々だな」

吹雪「はい、リーダー格の装甲空母鬼を除いては捕縛し、大本営へと送られました」

提督「ご苦労。もう下がっていいぞ」

吹雪「はい」クルッ


スタスタスタ


提督「…………吹雪」

吹雪「なんですか?」

提督「君はいささか働き過ぎだ。少し休暇を取れ」

吹雪「えっ……?」


・・・・・・

~夜・食堂~


春雨「それで休暇を貰ったんですか?」

吹雪「うん……最低でも2週間は出動命令を出さないって……」

春雨「じゃあ刑事課自体が?」

吹雪「ううん、私の端末にだけ命令が来ないようになってるらしいの」

春雨「へぇー……でもよかったじゃないですか!最近の吹雪ちゃんは少し働きすぎでしたし、これを機にリフレッシュしましょうよ!」

吹雪「そんなに私って働きすぎに見える?」

春雨「見えますよ!出動に報告書作成に作戦会議とかしてるんでしょう?しかも他の人達に任せず自分1人で!私から見てもオーバーワークという奴です」

吹雪「そ、っかぁ…………」

春雨「…………吹雪ちゃん?」

吹雪「……うん、じゃあ休もうかな」アハハ


・・・・・・

~廊下~


吹雪「それにしてもすごいねぇ、ちゃんと立って移動できるユニット」

春雨「ええ!なんか歩くよりスイスイしてて楽しいですよ」スイー

吹雪「もう私が車椅子を押すこともないんだねぇ」シミジミ

春雨「あ、やっぱり2年近くも車椅子を押すのは嫌でしたか……?」オロオロ

吹雪「ううん!元気に立ってる春雨ちゃんを見ると安心するから、嬉しいの!」

春雨「そうなんですかぁ……私は吹雪ちゃんに車椅子を押されて移動するのも好きでしたよ」ニコッ

吹雪「わ、私も押すのは好きだったよ」カァァ


衣笠「あれ、2週間の謹慎を喰らった吹雪ちゃんじゃーん!」

春雨「あ、衣笠さん」

吹雪「謹慎じゃなくて休暇です!」

衣笠「アハハ、似たようなもんだって。あ、この前面白い漫画買ったから今度貸してあげるね!春雨ちゃんも読んでみなよ!」

春雨「ありがとうございます」ニコッ

吹雪「用事は私をからかうことと、漫画を貸す宣言だけですか?」

衣笠「おっと、デートの邪魔しちゃったかな。んじゃ後で部屋に持ってくからね~」

衣笠「って、そうだった。明石知らない?」

吹雪「明石さんですか?さぁ……」

春雨「私も……」

衣笠「そっかぁ。強襲型ドミネーターのメンテ預けっぱだったからどこかなーって思ってね。それじゃ!」フリフリ


・・・・・・


春雨「衣笠さんは面白い人ですよねぇ」

吹雪「初めて会った時と全然変わってない……ある意味安心するよ」

春雨「能代さんと並んで貴重な先輩ですものね」

吹雪「そんなこと言ったら、この鎮守府では春雨ちゃんだって私の先輩だよー?」

春雨「おおー!そうでした!」


明石「あ、春雨ちゃんじゃない。どう?脚部ユニットの使い心地は」

春雨「明石さん!とっても使いやすいですよぉ!ありがとうございますっ!」

明石「いいのいいの。発案から完成まで2年近くかかったんだから、むしろ待ってくれて嬉しかったよ」

春雨「いえいえ!明石さんは私の恩人です!」

明石「あはは……立ち止まると地面に着くけど、歩いてるときは地面から2cmくらい浮くようになってるから、面白いでしょ?」

春雨「そうですね……歩いていると地に足がついてないような……って、まったくその通りでした!」

明石「あっはっは!春雨ちゃんは可愛いなぁ」ナデナデ

春雨「うぅ……」

吹雪「私からもありがとうございます……春雨ちゃん、本当に喜んでました」

明石「うむうむ、使用者に喜んでもらうのは開発者としての至上の喜びというもの。壊れたら修理してあげるから、使い潰してあげてね」


吹雪「あと、衣笠さんがドミネーターのメンテナンスについて明石さんを探してましたよ?」

明石「あ、そうだったそうだった。ありがとね吹雪ちゃん!それじゃ!」タッタッタ


・・・・・・


春雨「じゃあまた明日、おやすみなさい!」

吹雪「うん、おやすみ」


・・・・・・

~吹雪の部屋~


バタン


吹雪「………………はぁ…………」

吹雪「休暇かぁ……そういえば、ここ1年くらい長い休暇はとってないかも……」


吹雪「……………………」


吹雪「あれ?」


吹雪「私、休暇って……どう過ごしてたっけ…………」


・・・・・・

~街・裏路地~


女性「そう、あの子達は失敗したのね……」

女性「まぁいいわ。最初から期待はしていないから」


・・・・・・

~執務室~


能代「別の鎮守府の、刑事課艦娘?」

提督「そうだ。吹雪のみならず、君達にも休暇を与えようと思ってな」

熊野「別に私達は、あの人ほど働きすぎてはいませんことよ?」

叢雲「そうね。その吹雪は私達に仕事を回さないもんだから」


提督「なに、いくら平時の仕事量が違うと言っても、出動すれば同じ刑事課艦娘だ。君らもたまには、長い休みを取れ」

武蔵「それは気を遣っていると受け取っていいのか?」

提督「別にそれでも構わんが、私はただ、たまの休みによってその後の効率に関わって来ると判断している」

熊野「『私』……?」

武蔵「フッ、なるほどな……まぁいいだろう。それならば休みを貰おうか」


能代「それでさっき言っていた、別の鎮守府からの派遣なのですか?」

提督「ああそうだ。別の鎮守府から、刑事課に所属する艦娘が3人ウチの鎮守府に臨時配属される。気になるならラウンジにでも行って顔を合わせるといい。もう到着している頃だろう」

叢雲「遠慮しておくわ。休みはありがたく貰うけど、どうせ2週間くらいしかこっちに居ないんでしょ?」

熊野「私も別にいいですわ。せっかくの休みを見ず知らずの人と過ごすのは面倒ですから」

能代「ちょ、ちょっと2人とも~!」

提督「結構だ。別に交流しろと言っている訳ではないからな」

武蔵「私は少しだけ興味がある。会ってみるか」

能代「私も……少しの間とは言え、街を守ってくれるんだから」

提督「私から言うことは以上だ。解散」


・・・・・・

~執務室前~


熊野「あの皆さん……」

能代「どうしたの?」

叢雲・武蔵「?」


熊野「さっきの提督の喋り方、変じゃありませんでした?」

叢雲「変?どこが?」

熊野「一人称が、その……いつもは『俺』なのに、今日は『私』だった気がしますの」

武蔵「そうだったか?」

能代「提督の喋り方とか一人称とか……あんまり気にしたことないなぁ」

叢雲「ていうか、ぶっちゃけどうでもいいし」

武蔵「気のせいじゃないのか?いつもの喋り方でも、意識して聞いてみると案外違って聞こえるともいうし」

叢雲「そそ、気のせいよ気のせい」

熊野「そ、そうですわよね」ハハ

またこれ最初に持ってくるの忘れた……

【吹雪「ドミネーター、ですか?」2 はお話の都合上特定の艦娘が殉職したりします。ご注意ください】


・・・・・・

~ラウンジ~


能代「ここに別の鎮守府の人達が?」

武蔵「まぁ入れば分かるだろう」


ガララ


長門「………………」

飛龍「~♪」

筑摩「あら?」


能代「あなた方が別の鎮守府から派遣されてきた、刑事課の?」

長門「そうだ。戦艦の長門だ、しばらくやっかいになる」

飛龍「私は正規空母の飛龍。よろしくね」

筑摩「私は重巡の筑摩と申します……お世話になります」


・・・・・・


能代「あうぅぅ……私は仲良くしたかったなぁ……」

武蔵「仲良くなってどうする。文通でもする気か?」

能代「他の鎮守府の刑事課の人達がどんなんか知りたいじゃないですかーそこから私達もどっか学べるところあるかなーって」

武蔵「そんなの関係なかろう。我らは我らだ」

能代「はぁぁ……」


・・・・・・

~吹雪の部屋~


吹雪「前回の作戦の人質の深海係数は……よかった、大丈夫だった」カキカキ

吹雪「こちらの被害は0……ドミネーターの破損やメンバーの怪我も認められず」カキカキ

吹雪「目立った被害は電車車両っと…………」カキカキ


コンコンコン


吹雪「はーい」


ガチャッ


熊野「あら、吹雪さんは休暇じゃありませんの?」

吹雪「休暇の間でも、報告書の追記くらいはしておこうと思って……」

熊野「ふぅん…………」

吹雪「熊野さんこそ、どうしたんですか?」

熊野「暇ですの」

吹雪「へ?」


熊野「吹雪さんだけでなく、私達刑事課にも休暇が言い渡されたんですの」

吹雪「ええっ、そうなんですか!?」

熊野「その間は他の鎮守府の方々がカバーしてくれるみたいですわ。吹雪さんも報告書は後にしましょ!」ガシッ

吹雪「わわっ、どこに連れてくつもりですかぁー!」

熊野「買い物ですわ!」

吹雪「か、買い物ぉ?」


・・・・・・

~街・服屋~


熊野「さ、いざオシャレデビューですわよ吹雪さん!」

吹雪「ええぇぇぇぇー……」

熊野「吹雪さんがいつも着ている服……セーラー服と刑事課のパンツスーツ以外になにかありますの?」

吹雪「え、えーと……パーカーとか……」

熊野「はぁぁぁ……」

吹雪「なんですか!熊野さんこそ何かあるんですか!?」

熊野「姉の鈴谷と一緒によくこういうお店には来ますの。勿論沢山持ってますわ!」

熊野「艦娘だってオシャレしてなんぼですわ。さ、選んであげますから入りましょう!」グイッ

吹雪「わ、わぁっ!」

「いらっしゃいませー!」


熊野「うーん……こっちもいいですわねぇ……いや、でも吹雪さんの素朴な可愛さを活かすならこっちの方が……」

吹雪「(色んな服がある…………でも、私に似合う服は……)」キョロキョロ

熊野「あ、これなんてどうでしょう!」

吹雪「あの熊野さん……このシャツ、どう見てもお腹見えちゃうんですけど……」

熊野「これはそういうシャツなんですわ!吹雪さんはスレンダーですから、こういうのもお似合いかと」

吹雪「えぇぇ……似合わないですよぉ」

熊野「物は試し、ですわ!このホットパンツとカーディガンも合わせて着てみてくださいまし」

吹雪「うぅ……わかりました」


熊野「もう着ましたー?」

吹雪「は、はい」


ジャッ


吹雪「こういうのでいいんですかね……」

熊野「………………」ジー

吹雪「あ、あの……熊野さん?」

熊野「Goodですわ!」グッ

吹雪「えっ?」

熊野「ホットパンツで足長効果も得られますから、普段の吹雪さんより身長が高く見えますわ!」

吹雪「そう、ですか?」

熊野「ええ!この調子でドンドン選んでいきましょう!」

吹雪「え!まだ選ぶんですか!?」


・・・・・・


熊野「いやー買いましたわね!」

吹雪「買いすぎですよぉ……どうするんですかこの大荷物」

熊野「このお店は2万円以上の買い物で宅配が使えますのよ。それを利用しましょう」

吹雪「そ、そんなものが……」

熊野「もう男に荷物を持たせる時代は終わったのですわ」


熊野「でも、もしかしてお財布がピンチだったりしますの?だとしたら無理に誘ってしまって申し訳ありませんけれど……」

吹雪「え、あ、そんなことないですよ!刑事課手当で結構貰ってますし、そんなに普段使ってないですし……」

熊野「使っておりませんの?え、吹雪さん。口座の中はどれくらい!?」

吹雪「え?これくらい……」

熊野「私の残高より遥かに多いですわ!!流石刑事課リーダー……」

吹雪「だからリーダーとかじゃないですって!」

熊野「そんなに貯めるなんて……何か大きな買い物でもする予定ですの?」

吹雪「うーん……なんか私、あんまり欲しい物とかなくて……刑事課で頑張ってる内にいつの間にか貯まってたというか……」

熊野「そうですの…………」


熊野「吹雪さん、いつも休暇は?」

吹雪「え、えーっと…………寝たり…………報告書の追記書いたり……」

熊野「遊びに行ったりとか、美味しい物を食べたりとかは?」

吹雪「あんまり遊びに行こうとか思えないし……美味しいのなら食堂にあるし……」

熊野「…………吹雪さん」

吹雪「えっ?」


ギュッ


熊野「なんてこと……!吹雪さん。この熊野、あなたに遊ぶことの楽しさを教えてあげますわ!!」

吹雪「え、ええぇぇ!?」


・・・・・・

~ゲームセンター~


熊野「年頃乙女の通場、ゲーセンですわ!」

吹雪「ゲーセン?」

熊野「え、ゲーセン知りませんの?」

吹雪「はい……」

熊野「ええぇぇ!?」


熊野「まぁ習うより慣れろですわ。早速入りましょう」

吹雪「は、はい!」


ジャンジャンジャガジャン!


吹雪「結構うるさいんですね……」

熊野「色んなゲームが他の音に負けないように音量を大きくしていますからね……どのゲームをしてみたいですか?」

吹雪「え、あー……じゃあアレ。なんか可愛いのが」

熊野「太鼓の鉄人ですわね。初心者でもやりやすいゲームですわ」

吹雪「なんかこの太鼓みたいなキャラが可愛いですね」

『とっととお金を入れるドソ!』

熊野「じゃあお金を入れて、と……始めましょうか」

『曲を選べドソ!』

熊野「こういうのは知ってる曲でやるのが楽しいんですわ」

吹雪「あ、この曲好きなやつだ!選んでいいですか?」

熊野「ええ。いいですわよ」

『さぁ、ゲームスタートだ』


ドドドドカッドドカッ


・・・・・・


熊野「次はあのガンシューティングにしましょうか」

吹雪「はい!」


熊野「音ゲーというものはご存じ?」

吹雪「?」


熊野「よーし、私のエピオンでボコボコにしてやりましたわ!」

吹雪「なんか向こうの台から奇声が……」


・・・・・・

~バッティングセンター~


熊野「はい、吹雪さん。目指せホームランですわ!」

吹雪「は、はい!」


・・・・・・

~夜・吹雪の部屋前~


吹雪「あの、今日はありがとうございました!楽しかったです!」

熊野「楽しんでくれたようでよかったですわ。それより……」

吹雪「え?」

熊野「現場では頼れる先輩ですけど、いつもの吹雪さんはこんなにも頼りないんですのね」

吹雪「あ、あう……」

熊野「でも、やっぱり年下らしくて……可愛かったですわよ」ニコッ

吹雪「えっ!?」カァァ

熊野「それでは、おやすみなさい」スタスタスタ

吹雪「お、おやすみなさい……」


ガチャッ バタン


熊野「(…………初めて吹雪さんとプライベートで過ごしましたけど……いいものですわね……)」


吹雪「あ、もう買った洋服届いてる」

吹雪「はぁぁ…………ベッド気持ちいい」ボフッ

吹雪「今日は楽しかったなぁ…………熊野さんとも仲良くなれた気がするし……」

吹雪「そっかぁ……休暇って、こうやって過ごしてたんだなぁ」

吹雪「…………でも疲れちゃった。寝ようっと」

吹雪「報告書の追記は……明日でいいかな」


 鎮守府刑事課所属 特型駆逐艦『吹雪』



誰……?


「誰しもが自分の内に、もう1人の自分がいて……それが暴走すれば……フフッ」


あなたは……


「かわいそうな吹雪さん……あなたも私と同じ」


違う……私はあなたとは違う。私はあなたみたいにならない。


「いいえ、あなたと私はよく似ているわ。私がそうだったように、あなたも……」


そう言って彼女は、私の『真っ白な』手に触れた。


「ほら、あなたも『そう』。私と同じ。境界線なんて、おぼろげな物よ」


違いますよ、あなたとは。


「あなたもいつかは、私と同じようにおかしくなって……大切な物を、不意に自らの手で奪ってしまうのよ。フフフフフフ」


そうはならない。私は違う。

だから、あなたは出て行ってください。過去に帰ってください。


あなたは、邪魔なんです。赤城さん。


・・・・・・

~1週間後~

~昼・廊下~


吹雪「(意外と早く休暇が過ぎて行ってる……もう1週間過ごしちゃった)」スタスタスタ

吹雪「(熊野さんに明石さんに能代さんに春雨ちゃん……出かけるのに付き合ってくれた人も結構いてくれてよかったぁ)」

吹雪「(今日は…………あれ?)」


長門「貴様が吹雪か」

吹雪「はい!?(スーツ姿に、ドミネーター……じゃあこの人達……)」

飛龍「見ない顔だなぁーって顔してるね、まぁそうなんだけど」

筑摩「私達は他鎮守府からやってきた刑事課艦娘です」

吹雪「あなた方が……私は――」

長門「知っている。ここの刑事課に所属する駆逐艦吹雪だろう」

吹雪「え、なんで私を?」

飛龍「そりゃ、なんてったって有名人だからねぇ」

吹雪「私が!?」

筑摩「2年前の事件の中、見事反逆した深海棲艦赤城を倒した艦娘……それによくテレビにも出ていましたしね」

吹雪「(あっ、そういえば刑事課のPRでよくインタビュー受けてたっけ……)」


長門「まぁそういうわけだが、あと1週間は大人しくしてるんだな」

長門「貴様らがいなくても、我らがこの街の平和は守ってやる」


スタスタスタ


吹雪「行っちゃった……」

吹雪「なんだろう……私、嫌われてる?」

武蔵「違うな」

吹雪「ひゃあぁぁ!?武蔵さんいつからそこに!?」

武蔵「たった今だ。それよりも奴らだが……」


武蔵「連中、結構乱暴な捜査をしているらしいぞ」

吹雪「乱暴な……?」

武蔵「ああ。例えば、我々が密かに探っていた裏町のバーがあっただろう?」

吹雪「はい。深海棲艦に情報をリークしているとの疑いがある……」

武蔵「あいつらは昨日そのバーに突入したそうだ」

吹雪「ええっ!?」

武蔵「結果として、まぁ確かに深海棲艦も多少は仕留めたものの、バーの客も巻き込んだ戦闘になったらしい」

吹雪「そんな!せっかく事を荒立てないよう捜査を進めてたのに……」

武蔵「まぁ連中からしたら、深海棲艦を倒す上での犠牲だと思っているんじゃないか?」

吹雪「…………巻き込まれた民間人は?」

武蔵「数人が負傷して搬送されたらしい」

吹雪「ッ!」ダッ

武蔵「おい吹雪、何処へ行く!」


・・・・・・

~執務室~

ガチャッ


吹雪「司令官!」

提督「…………あ、吹雪」ボー

吹雪「どういうことですか!?あの人達の強行突入を許すなんて!」

提督「あの人……?ああ、長門達か」

吹雪「そうですよ!納得のいく説明を要求します!」

提督「説明も何も、『深海棲艦による被害を未然に防ぐ為』に奴らは少々強引な手段に出たに過ぎん」

吹雪「しかし民間人が負傷したと……!」

提督「必用な被害もある。それに長門達が昨日突入したことによって、起こるかもしれなかった本来の被害が未然に防げたのだ。これは君らにはできないことだと思うが?」

吹雪「それは、そうですが……」

提督「だがまぁ君らのやり方が甘いとは言わない。しっかり結果は出せているからね」

吹雪「…………」

提督「犠牲など先か後かだ。どうせ生じるならいちいち気にしなければいいじゃないか」

吹雪「……失礼します」


ガチャッ バタン


提督「…………ったく、いちいち人の生き死にで騒ぐなんて、僕には分からないね」


・・・・・・

~街・裏路地~


飛龍「にしてもよかったんですかねぇ。今朝ここの刑事課……能代だったかな?その人にすごい剣幕で詰め寄られましたよぉ」

筑摩「大方昨日の突入のことでしょう?」

飛龍「そうそう。手柄を取られて怒っちゃったのかな?」

長門「ふん、関係ない。手をこまねいて被害が広がればそれこそ本末転倒……甘い捜査など奴らを増長させるだけだ」

飛龍「ま、そうですよね…………と、お客さんみたい」


リ級「艦娘……!?」

チ級「何故ココガ!?」


長門「各自、殲滅しろ!」スチャッ

飛龍「了解!」スチャッ

筑摩「ふふっ……」スチャッ


・・・・・・


長門「こんなものか。どちらも300越えだったから始末が楽だったな」

筑摩「そうですね。では引き揚げますか」

長門「ああ………………ん?飛龍はどうした」

筑摩「あら、どこに行ったのでしょうか?」


ザッザッ


飛龍「ぁ…………ぁ……」フラフラ

長門「飛龍、どうし――」


ダキッ


長門「お、おい!?」

飛龍「な、がと…………さ……ん」


筑摩「ッッ……!」

長門「おい、どうしたんだ飛龍!」

筑摩「飛龍、さん……」

飛龍「……ぁ、あ……」

長門「おい、どうしたんだ!血まみれじゃないか!」

飛龍「わ、たし……」


筑摩「飛龍さん…………何で、あなた…………『右腕が無い』んですか……!?」


長門「なに!?」


ドヒュウウウウウン……


長門・筑摩「ッ!?」

飛龍「ぁ、あっ……がっ!」モコモコモコ


パァン!


長門「な………………!?」

筑摩「ぇ……!?」


ドチャッ……


長門「ッッ!飛龍!!」

筑摩「ドミネーター……!どこから!?」

長門「気を付けろ!飛龍のドミネーターを奪われている!!」

筑摩「それも右腕ごと……しかも、今の……エリミネーター……!」

長門「深海係数が上がる要因も近くにあるということだ!油断するな!!」

筑摩「はい!」


女性「流石は刑事課艦娘ね。仲間の死よりも状況把握を優先させるなんて、恐れ入るわ」


長門・筑摩「ッ!」クルッ

女性「ん、流石に艦娘……私の体にも馴染むわ」

長門「誰だ!」

女性「あらあらご挨拶ね」

長門「ただの人間……?」

筑摩「いえ長門さん。ドミネーターを持っています!」スチャッ

長門「まさか、コイツが飛龍を殺った……!」

女性「ドミネーターだけじゃないわ。ちゃんとあなた達のお仲間の腕も……ほら。ここ、肘から先の肌の色が違うでしょう?」

筑摩「まさか、飛龍さんの腕を……!?」


女性「まぁ遠目からじゃわからないだろうけど、右目も貰ったわ……フフッ、これでドミネーターが使えることも、彼女で分かったし」

長門「まさか、我らが深海棲艦と戦っている間、飛龍を襲い腕と目を奪ったと?そしてそれを瞬時に自分の体に移植したと!?ばかばかしい!人間業じゃ――」

女性「ええ……人間なら、ね」


女性「そして…………」ダッ

筑摩「なっ!?」

長門「ッ、筑摩!」

長門「(まったく見えなかった……瞬時に筑摩の後ろに回り込み、抱き付いた?)」


女性「さあ、あなたも一緒に堕ちましょう」ギュウウ

筑摩「なにを、あ、がっ……あぁっ……!」

長門「筑摩!!」スチャッ

女性「おっと」

長門「(しまった、筑摩を盾に……!)」


『深海係数、210。執行対象です』


長門「な、なに!?」

女性「ふふふ、驚くわよねぇ…………なんといってもお仲間が……」

筑摩「ぁ……は、ぁ……ぁぁぁ……!」シュウウウウ

女性「深海棲艦になってしまうのだから」


長門「そ、んな……どういうことだ……!?」

女性「ほらほら、早く執行しないと、この人……本当に深海棲艦になってあなたを襲うわよ?」

長門「くっ……筑摩!」


『深海係数、303。執行モード、リーサル・エリミネーター。落ち着いて照準を定め、対象を排除してください』


筑摩「長門、さン…………撃っテ……」

長門「筑摩!」

筑摩「私ハ、いいかラ……!」

長門「(深海棲艦は……たとえ誰であろうと、兆候を見せた時点で、執行……)」

長門「だが…………!」

筑摩「早ク!!」

長門「ッ!う、ああああああああああああああぁぁぁぁ!!」カチッ


ドヒュウウウウウゥゥゥゥン……


女性「ふふっ……」


・・・・・・


女性「せっかくの綺麗な黒髪とスーツが2人の血で思い切り汚れちゃったわねぇ」

長門「はぁっ……はぁっ……!筑摩………………」

女性「お仲間を撃つなんて、酷いわぁ」

長門「貴様ぁぁ!!」スチャッ

女性「無駄よ」ガシッ

長門「あ、ぐっ……!(なんて力だ!)」

女性「そうねぇ……あなたには利用価値がありそうだし、ふふっ…………もう少し生かしてあげる」

長門「なに、を…………」

女性「あなたもすぐに分かるわ。正しいことをするのは辛いけど、間違ったことをするのは、気持ちが良いって」


女性「辛かったでしょう?刑事課艦娘として、人類を守る者として、仲間を手にかけるのは」

女性「でも自分を責めなくていいのよ。誰だって辛い。でもそうするしかないのだから……深海棲艦は執行対象。執行対象は執行」

女性「そんな辛さから、あなたを解放してあげる」

長門「カッ……あ、がっ……!」


シュゥゥゥゥウウウウウ……


中間棲姫「全部、沈メテシマエバイイノヨ」

中間「フフフフフッ……」


・・・・・・

~1週間後・明け方~

~脱衣所~


吹雪「ふぅ……良いお湯でした、と。目が覚めちゃったときのお風呂は気持ちいいなぁ」

吹雪「でもタオル一枚じゃアレかな……湯冷めしない内に着替えちゃわなきゃ」

吹雪「(今日で丁度2週間……仕事に戻れる)」

吹雪「(そういえば、最近長門さん達を見ないけどどうしたのかな?数日かけて外で捜査してるとかかなぁ)」


中間「ナルホド……アナタガ吹雪ネ」

吹雪「ッ!?」

中間「おっと」スチャッ

吹雪「…………!」ピタッ

吹雪「(いきなり横に、何か突き付けられた…………銃!?)」


『深海係数、10。刑事課登録艦娘』


中間「ヘェ……本当ニコンナニ低イノネェ……深海係数」

吹雪「ッ、ドミネーター!?」バッ

中間「正解。ハジメマシテカシラ……ドミネータート分カッタ途端飛ビ退クノハ良イ判断ネ」

吹雪「深海棲艦!」

中間「エエ。中間棲姫ッテイウノ。ヨロシクネ、特型駆逐艦吹雪」

吹雪「私の事を……」

中間「有名人デスモノ」


吹雪「(私のドミネーターは着替えと一緒にカゴの中…………そのカゴは……)」

中間「フフフ……」

吹雪「(中間棲姫の、向こう……)」

吹雪「私に何の用ですか?」

中間「敵ニ敬語ッテ…………少シ調子狂ウワネ」


中間「マァイイワ。アナタヘノ用ハ2ツ」

中間「1ツ目ハ、報告ヨ」

吹雪「報告……?」

中間「アナタノオ仲間ヲ数人イタダイタワ」フッ

吹雪「お仲間…………ッ、長門さん達!?」

中間「エエ。ソレトコノ腕ト、目モ……」

吹雪「どういう……」

中間「私ミタイナノガ、ドミネーターヲソノママ使エルト思ウ?」

吹雪「ッ、まさか…………誰かの腕と目を奪った!?」

中間「ユーザー認証、飛龍……ツイデニ命モモラッタシ」

吹雪「あなたは……!」

中間「デモ筑摩ハ違ワヨ?彼女ハ長門ガ撃ッタモノ」


吹雪「長門さんが、仲間を……!?」

吹雪「(撃ったって……そうなると撃った対象は……)」


中間「サテ、2ツ目ネ…………イイノヨ?スグサマ私ヲ執行シヨウトシテモ。ドミネータージャアナタヲ殺セナイノハ知ッテイルシ」

吹雪「それは、私がタオル一枚だけって知ってて言ってるんでしょう?」

中間「大変ネ……コウヤッテドミネーターヲ挟ミ隠ス胸モ無イナンテ」ポヨン

吹雪「ッ、関係ないでしょう!」

中間「マァドミネーターデナクテモ、アナタヲコノ場デ殺ス手段ハイクラデモアルノダケレド…………何故ソウシナイカ分カル?」

吹雪「私にはまだあなたとって利用価値がある……ですよね」

中間「正解ヨ♪」


中間「2ツ目ハ…………宣戦布告、カシラ」

吹雪「宣戦布告……?」

中間「鎮守府ハ、私達深海棲艦ニトッテ存在シテイルダケデ忌ムベキ存在。跳梁跋扈ヲ繰リ返スコノ世ノ中ノ根源ハ絶タナキャ」

吹雪「その言い分……もう聞き飽きました」

中間「赤城ノコトカシラ?」

吹雪「ッ……」ピクッ

中間「彼女ハ愚カダッタワ……チカラヲ過信シスギテイタノヨ」

吹雪「ならあなたは、どうするんですか?」

中間「ドウモシナイワ。タダ、アナタ達ガ自ラ奪イ奪ワレルノヲ眺メルダケ……」

吹雪「奪い、奪われる……?」

中間「ソウイウコトダカラ、言イタイコトハ言ッタワ。バイバイ」

吹雪「そのまま返すと…………」ジリッ


吹雪「思ってるんですか!」ブォン!

中間「ッ、ドライヤー?」バシッ

吹雪「今ッ!」バッ

中間「カゴニ突ッ込ムナンテ……ソンナニ着替エタカッタノ?言ッテクレレバ服クライ渡シ――」


カシャッ、カシャン

『深海係数、445。執行モード、リーサル・エリミネーター』


吹雪「これで!」カチッ

中間「ッ!」バッ


ドヒュゥウウウゥン……


吹雪「外した!?」

中間「ヤルジャナイ、ドライヤーヲ投ゲツケテ気ヲ逸ラシタ隙ヲ突クナンテ……チョット驚イタワ」ガスッ

吹雪「あっ、う……」

中間「引キ金ハ引ケナクテモ、十分鈍器ニハナルノヨネェ」

吹雪「ま、だ……!」スチャッ

中間「無駄ヨ。マタ避ケルモノ。ソレニコンナ所デ死ニタクナイデショウ?」

吹雪「クッ……」

中間「チャントシタ殺シ合イハ、チャントシタ場所デネ…………ソレジャア今度コソ、バイバイ」シュウウゥゥウウ

吹雪「うっ……」ガクッ


・・・・・・


「――!――い、――!」

吹雪「(うぅ…………頭が痛い……なんだろう)」

「ふ――!――き――!」

吹雪「(なんだろう、さっきから…………うるさいなぁ)」

「吹雪!!」

吹雪「はひっ!?」パチッ


吹雪「…………あれっ……?」

能代「うわぁぁ吹雪ちゃんー!」ダキッ

吹雪「の、能代さん?」

武蔵「脱衣所で倒れているお前を叢雲が見つけてな……部屋まで運んできたのだ」

吹雪「叢雲ちゃんが……?」

能代「朝から部屋のドアを叩かれてどうしたのかと思ったら、看病するように頼んで来てたわ」

武蔵「そのくせ奴は頼んだ後どこかへ行ってしまったがな」

吹雪「そうなんだ…………叢雲ちゃんが」

能代「それより、どうして脱衣所なんかで倒れてたの?聞いたところによるとタオル一枚で、ドミネーターを持ってたとか」

吹雪「ドミネーター…………」


吹雪「ッ、そうだ!深海棲艦!」

武蔵「なんだと……?」


・・・・・・

~昼・執務室~


提督「中間棲姫だと?」

吹雪「はい。中間棲姫が長門さん達を襲ったんです!」

提督「…………」


叢雲「バカバカしい。急に風呂場に棲姫レベルの深海棲艦が現れるなんて普通に考えてありえないわ」

武蔵「おい叢雲――」

叢雲「そもそもこの鎮守府にはセキュリティとして要所にスキャン妖精や監視妖精がいるのよ?深海棲艦が1歩でも入ろうとすれば簡単にバレておしまいだわ」

吹雪「でも!」

提督「叢雲の言う通りだ。風呂でのぼせて、幻覚でも見たのではないか?」

吹雪「司令官まで……!」


能代「でも吹雪ちゃんの言うことも無視はできません。事実長門さん達3人は行方不明のままです」

熊野「提督には何も伝えられていませんの?」

提督「そのことについても解明中だ。彼女らの鎮守府からも至急調査を頼まれているからな」

武蔵「それが中間棲姫の仕業とは考えないのか?」

提督「今は情報が少ない。確かに急に艦娘が行方不明になった所に吹雪の報告は点を繋げる線となるだろう……が、事態が事態だ。早計は控えたい」

吹雪「………………」

提督「話は終わったな?ならば君達に新しい指令を下そう」

能代「指令ですか?」

提督「ああ。後で各端末に内容を送る。衣笠を参加させるかどうかは君達に任せよう」

吹雪「……分かりました」

提督「では解散だ」


能代「失礼します」

武蔵「…………」


ガチャッ


提督「あ、吹雪は少し残れ」

吹雪「えっ?」

提督「話がある」

叢雲「…………」


吹雪「ええっと……」

叢雲「私達は邪魔ってことね。ごゆっくり」


バタン


提督「監視妖精やスキャン妖精の報告はこちらに定期的に上がってくる。そこで君が中間棲姫に襲われた時間の報告を調べてみたところ、興味深い記録が入ってきたよ」ピラッ

吹雪「記録報告書……」

提督「早朝の時間を見てみたまえ」

吹雪「………………」パラパラ

吹雪「ッ!?こ、これって……!」

提督「まぁ、君の言うことを裏付ける要因になるな」


【○○:○○ 正門 正規空母飛龍 通過】
【○○:×× 廊下 正規空母飛龍 通過】
【○○:△△ 脱衣所 正規空母飛龍 入】


吹雪「これ…………なんで……」

提督「君は、中間棲姫の片目と右腕は飛龍の物を移植していると言ったね」

吹雪「は、はい……」

提督「どんな手品を使ったかは知らんが、君の話を信じるならこの記録上の飛龍は……まぁそういうことになるな」

吹雪「なんでこれをさっき話さなかったんですか?」

提督「真に重要な情報は多数に教えず、ごく少数が知っていた方が良い。それに……」


提督「非常に興味ある存在だとは思わないかね?」

吹雪「……また、ですか」

提督「察しが良くて助かるよ」

吹雪「1度失敗した私に頼むようなことじゃないと思うんですけど」

提督「だが君しかいないのだよ。2年前から続く我々の仲じゃないか」

吹雪「私はそんなに司令官と仲良しになった覚えはありませんが」

提督「それにだ。深淵を覗いてもなお深淵に染まらない君に頼むのが、一番得策だと私は考えているのだよ」

吹雪「それってどういう……」

提督「おっと、時間だ。すまないがこれから会議がある」

吹雪「…………分かりました。失礼します」

・・・・・・

~執務室の扉の前~


叢雲「………………」

叢雲「なんで、吹雪だけ…………」


ガチャッ


吹雪「はぁ…………あれ、叢雲ちゃん」

叢雲「…………」キッ

吹雪「えっ?」

叢雲「…………」スタスタ

吹雪「あ、待って!」

叢雲「……なに?」


吹雪「今朝、私を見つけて運んでくれたって……」

叢雲「大したことじゃないわ。それに――」

叢雲「鎮守府刑事課の顔に何かあったら皆が困るだろうし」

吹雪「……ありがとう。叢雲ちゃん」

叢雲「…………別に」スタスタスタ


~大和型の部屋~


武蔵「大和……」

武蔵「………………」チラッ

【大和と武蔵が写っている写真】

武蔵「…………大和よ、私はうまくやっているぞ」


ピロロロロ、ピロロロロロロ


吹雪『皆さん、正門前に集合です』

武蔵「了解


武蔵「……行って来るぞ、大和」

・・・・・・

~熊野の部屋~


鈴谷「ん~この新発売のフラペチーノおいし~!」

熊野「ですわね」


熊野「それじゃ、そろそろ出動ですので……」

鈴谷「んー」


熊野「じゃあ行ってきますわ。鍵はかけなくていいですわ――」

鈴谷「熊野最近変わったね~」

熊野「私が?」

鈴谷「前までは刑事課の仕事にやる気ゼンゼン無いって感じだったじゃん。それが最近じゃ真面目にやってるなーって」

熊野「そ、そうですの?」

鈴谷「果たして何が熊野っちを変えちゃったのかなー?」ニヤニヤ

熊野「別に何も変わってませんわ」

鈴谷「じゃあ最近熊野が口を開くと出てくる吹雪ちゃんとやらも関係ないとー?」

熊野「か、関係ないですわよ!失礼させていただきますわ!」ガタッ

鈴谷「頑張って~」ニヤニヤ


・・・・・・

~夜・街中~


吹雪「…………」

能代「吹雪ちゃん、大丈夫?」

吹雪「えっ?」

能代「なんか今日ずっと調子悪そうだから……もしかして、中間棲姫に何かされた?」

吹雪「いえ……大丈夫ですよ!」

能代「そう……?ならいいんだけど」


武蔵「吹雪、作戦の確認を」

吹雪「あ、はい!」


吹雪「今回私達が調べるのは、この下水路です」

熊野「う……個人的には一生近づきたくなかった場所ですわ」

能代「そりゃ私だって!そっかだから衣笠さんは来なかったのね……!」

吹雪「私も嫌ですよ…………でも、この設計図を見てください」

武蔵「これは……下水路全体の見取り図か」

吹雪「はい。そして次に……これが先ほど偵察妖精から送られてきた、現在の下水路の見取り図です」

熊野「あら?若干違いますわね……」

武蔵「本当だ……設計図に無い道や部屋があるな」

叢雲「これが深海棲艦に関連付けられるって?」

吹雪「うん。下水は川に、川は海につながっているでしょう?」

武蔵「なるほど……深海との連絡も取りやすいし、いざとなれば逃げることもできる、と……」

能代「敵も考えたわね!」


吹雪「司令官からの情報によると、下水道で作業をしていた作業員が怪しい影を見た人がいる。とのことです」

叢雲「それだけで私達が動くってのもね……ソイツの勘違いかもしれないし」

武蔵「我らにその判断はできんだろう。提督の出す指令をこなすのが刑事課の役目だ」

叢雲「分かってるわよ」

・・・・・・

~路地裏~


吹雪「ここからその設計図に無い道に行けますね」ガコッ

熊野「うう~~~!マンホールじゃありませんの!本当にそこから入るんですの!?」

吹雪「ここしかないんですよ……」

武蔵「…………なるほど。よく見たらこのマンホール、他の通路からは死角になっているな」

能代「身を隠すにはもってこいってわけね……」

吹雪「じゃあ、入ります」

武蔵「気を付けろ。何が待っているか分からん」

吹雪「はい。皆さんも下水路に入ったら1m感覚で音を立てないようについてきてくださいね」


・・・・・・

~下水路~

カツン、カツン……


熊野「うぅぅぅ~~~~…………プハッ!…………あら、あんまり臭いませんのね」

能代「みたいね。ふぅ……」

武蔵「だな。なんでだ?」

叢雲「最近は下水処理技術も向上してるから、下流側であるこの辺りは既にある程度濾過された下水が流れているそうよ。川や海の汚染を防ぐために」」

能代「おおー!物知りね叢雲ちゃん!」

叢雲「さっき市の下水管理課のホームページを見ただけよ」

熊野「うっかり叢雲さんに賛辞を送りそうになりましたわ。真に送るべきは下水管理課の人達ですわね」

叢雲「なによ!調べてあげたんだから私にも送りなさいよ!」

武蔵「ふむ……私も今そのページを見ようとしたが……どうやらここは圏外のようだな」

吹雪「下水路ですからね……」


熊野「そういえば、通信が届かないとドミネーターが使えないんじゃないですの?」

吹雪「そこは対策してあります。今回の作戦用に即席の中継アンテナをさっきのマンホールから決まった位置に設置してますから」ヒョイッ

能代「それがアンテナ?」

吹雪「はい。ですから下水路の中でも電波を拾えるはずです」

武蔵「お、本当だな。ネットに繋がった」

叢雲「ならとっとと先に進みましょう」


能代「それにしても暗いなぁ……ライトの明かりだけが頼りだなんて」

熊野「でもあれ、蛍光灯ですわよね?なんで点いていないんでしょう……」

武蔵「いつもは点いているが、今は何らかの理由で点いていないと考えるのが自然だが……いよいよ怪しくなってきたな」

熊野「うぅ……な、なんだか一気にうすら寒い気分になってきましたわ」

武蔵「大声は出してくれるなよ」

熊野「わ、分かってますわ!」

叢雲「それよりそろそろじゃないの?設計図に無かった通路ってのは」

吹雪「うん……通路の先には大き目の部屋があるみたいだから、そこになにか……」


・・・・・・

~通路~


武蔵「気を付けろ……仮に深海棲艦がいるとして、ここは既に奴らの腹の中かもしれないからな」

叢雲「後方は?」

熊野「大丈夫、後方クリアですわ」

能代「前方、待ち伏せの気配も無いみたい」

吹雪「各自、ライトを切って。暗視ゴーグルに切り替え」

一同「了解」


武蔵「む、あそこに見えるのは……扉か?」

叢雲「どうやら行き止まりのようだし、あれね」

吹雪「用心してください。いつでもトリガーを引けるよう準備を」

熊野「分かってますわ」


吹雪「扉の周囲を警戒」

能代・熊野「了解」

吹雪「叢雲ちゃん、武蔵さん。突入します。武蔵さんは扉を破って、私と叢雲ちゃんで中に」

叢雲「了解」

武蔵「よし、任せろ…………これは、鍵はかかっていないぞ」

吹雪「…………なら、蹴破ってください」

武蔵「おうともさ」スッ


バゴォッ!


吹雪「突入!」サッ

叢雲「ッ!」サッ


武蔵「どうやら部屋の中も明かりは無いようだな……」

吹雪「全員部屋の中へ。室内を調査します」

叢雲「といっても……なんていうのかしら。学校の教室くらいの大きさの部屋ね」

武蔵「壁や床には何もない……ッ、吹雪!」

吹雪「ッ!?」


「う…………ぅ……」


熊野「人の声ですわ!」

能代「見て、部屋の隅!」

長門「く……ぅ…………」

吹雪「長門さん!?」タッタッタ


吹雪「大丈夫ですか!?長門さん!」

長門「ぁ…………」

能代「気を失ってるみたいね……でもなんでこんなところに1人で……他の2人は?」

吹雪「……多分、死んでます…………」

能代「中間棲姫に殺されたって?」

吹雪「はい……おそらく深海棲艦……中間棲姫は長門さんを人質かなにかに使うためにここに監禁していたのかもしれません」

叢雲「……これは大々的に調べる必要がありそうね。応援を呼んでおくわ」ピッ

能代「衣笠さんがくるかどうかだけどね」アハハ


熊野「長門さんのドミネーターは?」

吹雪「だめ、取り上げられてます」

武蔵「吹雪の言葉を信じ、中間棲姫が刑事課の3人をやったのだとしたら……奴はドミネーターを3つ所持していることになるな……」

吹雪「聞いていますか?司令官」

提督『ああ。状況は確認している。すぐに長門を連れて鎮守府に戻りたまえ』

吹雪「奪われたドミネーター、遠隔で停止させることは?」

提督『無理だ』

吹雪「え、どうしてですか?」


長門「う、うぅ……」

武蔵「目を覚ましたか?」

長門「お前、達は……」

能代「助けにきました!」

熊野「じゃあすぐにここを出ましょう。後は捜査隊がやって来るはずですわ」

長門「いつ来るんだ?」

熊野「そうですわね……さっき呼んだばかりだから、40分から1時間といったところでしょうか」

長門「そうか……」


吹雪「…………(長門さん、監禁されていた割には随分肌の色が健康的……)」

吹雪「長門さん、ここでは食事とかは出されていたんですか?」

長門「………………ああ。連中も私を生かしておきたかったんだろうな」

武蔵「衰弱しているよりはマシだ。早く出るぞ」

能代「そういえば、他の刑事課の人達はどうなりました?」

長門「他……は、奴に……殺され、た……」

武蔵「奴?」

長門「中間棲姫だ…………奴に、飛龍も筑摩も殺された」

熊野「そうですの……」

吹雪「………………」ピクッ


能代「叢雲ちゃん、部屋の周囲を――」

叢雲「意味ないわ…………」


バツンッ


熊野「うっ、部屋に明かりが!」

能代「まぶしっ!」

叢雲「出るのがちょっと遅れたみたいね……」

吹雪「皆さん、暗視ゴーグルを外して!」


ル級「ココカラハ出セナイワネ」フフッ

武蔵「深海棲艦!」

能代「なっ、扉をふさがれ……!」

タ級「残念デシタ」ガシッ

長門「ぐあっ!」

武蔵「背後からだと!?」

熊野「ッ、長門さん!」

タ級「ドミネーターヲ捨テナサイ。サモナクバ……コイツノ命ハ無イ」

武蔵「クッ、人質とは卑怯な!」


吹雪「………………」

ル級「サァ、大人シクシテモラオウ」ザッ、ザッ

吹雪「…………」ジリジリ

叢雲「ッ?(なに?吹雪が背中を合わせてくるなんて)」

吹雪「叢雲ちゃん、同時に撃つよ」ヒソヒソ

叢雲「えっ……?」

吹雪「いいから。私の合図でドミネーターをル級に向けて撃って。私はタ級をやるから」

叢雲「でも人質が――」

吹雪「大丈夫」

叢雲「…………了解」

吹雪「合図は『放してください』……いい?」

叢雲「はいはい」


吹雪「皆さん、ここは言う通りにしましょう。ドミネーターは仕方ありません」

タ級「フフ、素直ナノハイイコト」

吹雪「今床に置きますから……」

タ級「アア」スッ

吹雪「………………(叢雲ちゃん、お願いね)」チラッ

叢雲「…………」コクッ

吹雪「だから、長門さんを『放してください!』」

タ級「ソレハデキナ――」

叢雲「ッ!」スチャッ

ル級「!?」


バァン!ヴィィィィィン……


ル級「ナッ、ガ、ハッ……!」ドサッ

タ級「貴様ァ!コイツガドウナッテモイイノカ!」

吹雪「……!」スチャッ


『執行モード、リーサル・エリミネーター』カシャ、カシャン


ドヒュウウウゥゥゥゥウン!!


タ級「ガ、ア、アァァッ!」モコモコモコ、パァン!!

能代「やった!」

長門「う……」ドサッ

武蔵「長門、大丈夫か!?」

吹雪「武蔵さん、近づかないで!」

武蔵「なに?」


吹雪「今、なんで深海棲艦は仲間を撃たれたのに長門さんに危害を加えなかったり、盾にしたりしなかったんでしょうか」

能代「咄嗟のことで反応できなかったんじゃないの?」

吹雪「それに、長門さんはこう言いました。『飛龍さんも筑摩さんも中間棲姫に殺された』と」

長門「………………」

吹雪「でも中間棲姫はこう言っていたんです。『筑摩さんは長門さんが殺した』と」

吹雪「打ち合わせくらいしておくべきでしたね。長門さん」スチャッ

熊野「ちょ、なにドミネーターを向けて……」


『深海係数、535。執行対象です。執行モード、リーサル・エリミネーター』カシャ、カシャン


一同「ッ!?」

吹雪「…………もしこれで執行対象じゃなければ……私の勘違いであれば、どんなによかったか……」

長門「…………クッ、ハハハハハ!」


シュウゥゥゥウウウウ……


能代「な、長門さんの肌が……白く……!」

長門「流石は刑事課の顔……見破られるとはナ」

吹雪「その呼び方は嫌いですッ!」カチッ


ドヒュウウゥゥゥン!


長門「フッ!」バッ

能代「避けた!?」

長門「お前は危険ダ、排除すル!」ダッ

熊野「吹雪さん!」

能代「速い……!吹雪ちゃん!」

長門「もらっタ!」

吹雪「ッ……!」


ザシュッ……!


吹雪「……!!」

長門「なニ……!?」

武蔵「随分と……長い爪だな……!」ポタポタ

吹雪「武蔵さん!!」


長門「ほウ……腕で止めるとハ、驚きダ」

武蔵「悪いが吹雪はやらせん」スチャッ

長門「!」バッ

吹雪「皆さん、固まって!」

長門「なるほド……これでは流石に分が悪いナ」

武蔵「貴様は逃げられん。大人しく投降しろ!」

長門「さもなくば執行するト?フッ、だから貴様らハ……」


叢雲「つべこべ言わずにさっさと執行しなさいよ!」スチャッ

吹雪「ッ、叢雲ちゃんダメ!」

長門「カカッ!」シッ


バキィッ!


叢雲「ぇっ……!?」

能代「ドミネーターを破壊された!?」

長門「命もいただク!」

叢雲「ぁ、……!」

吹雪「叢雲ちゃん!」バッ


ザシュッ!


吹雪「うっ……!」ドサッ

叢雲「吹雪!?」ドサッ

長門「チッ、浅イ……」

武蔵「はああぁぁッ!!」ドカッ

長門「ぐあッ!?」


熊野「ふ、吹っ飛びましたわ……」

能代「武蔵さん、素手の方が強いじゃん……って、それより吹雪ちゃん!」

吹雪「大丈夫。腕を掠めただけです……それより確保を……!」

長門「…………フッ」

能代「あっ、逃げた!」

熊野「逃がしませんわ!」ダッ

吹雪「熊野さん!?」

能代「私が追うわ!」

吹雪「お願いします!」


・・・・・・

~下水路~


熊野「(なんで、私こんなにムキになって追いかけてるんでしょう……)」タッタッタ

熊野「(仕事だから?いいえ……刑事課の仕事なんて、私は1度も真面目にやってはこなかった)」

熊野「(じゃあ……なんで…………)」

熊野「ただ、長門さんがムカつく…………」

熊野「(よくも……という感情…………そう)」

熊野「(よくも、吹雪さんに傷を付けてくれましたわね!!)」


熊野「待ちなさい!」スチャッ

長門「……フッ、1人とは無謀ナ……あア、私もそうだっタ…………無謀に無駄なことをし続けてきタ……」

熊野「何を言って……」

長門「お前も思い知レ。自らの掲げる正義の脆さ弱さヲ!」

熊野「ッ……!」


ゾロゾロ……


ツ級x10「…………」

熊野「……まるで壁ですわね…………」

長門「ここで仕留めてもいいガ……私にはやるべきことがあル。ではナ」

熊野「ちょっと!――」


バァン!!


ツ級「!?」ドサッ

能代「熊野さん、まずはこいつらをやるわよ!」

熊野「能代さん!?」

能代「私たちはチームでしょ、1人で突っ走るのは駄目!」

熊野「…………」

能代「私はもう、仲間を失いたくないの!」

熊野「………………ごめんなさい」

熊野「ありがとうございますわ……能代さん」スチャッ


『執行モード、リーサル・エリミネーター』カシャ、カシャン


能代「……」コクッ


『執行モード、リーサル・エリミネーター』カシャ、カシャン


・・・・・・


吹雪「叢雲ちゃん、大丈夫?」

叢雲「…………」

武蔵「能代と熊野が心配だ。先に行って様子を見てこよう」

吹雪「お願いします」

武蔵「叢雲、吹雪を頼んだぞ…………っと、逆か?ハハハ」タッタッタ

叢雲「………………」


吹雪「私達も行こう」

叢雲「…………」

吹雪「さぁ」スッ

叢雲「………………ッ!」


叢雲「触らないでよ!」バシッ

吹雪「ッ!?」

叢雲「邪魔なのよ……あんた」

吹雪「叢雲、ちゃん……?」

叢雲「……!」

叢雲「1人で行けるわ」

吹雪「む、叢雲ちゃん駄目だよ!ドミネーターも持ってないのに……」

叢雲「……なら、そのドミネーター寄越しなさいよ」

吹雪「えっ……?」

叢雲「早く!」グイッ

吹雪「あ、ちょっと!?」

叢雲「…………」スチャッ


『深海係数、23。刑事課登録艦娘』


叢雲「………………!」ギリッ

叢雲「……なんで、あんたなんかが……!」

吹雪「ど、どういう……なんで、向けるの……?」

叢雲「…………返すわ」ポイッ


ガチャン……


叢雲「…………」スタスタスタ

吹雪「あ、叢雲ちゃん!」


・・・・・・


能代「よっ、たぁっ!」ドヒュゥウウン……

ツ級「……!」モコモコモコ、パァン!

能代「ふぅ……これで全部ね」

熊野「……すごい…………」

能代「えへへ、コレを撃ってる回数で言えば吹雪ちゃんよりも長いからね」

武蔵「2人とも大丈夫か?」タッタッタ

熊野「武蔵さん……ええ。2人でやっつけましたわ」

武蔵「長門は?」

能代「分かりません……ツ級で足止めをくらっちゃってたから……」


ピロロロロ、ピロロロロロロ


能代「あ、衣笠さんから」ピッ

衣笠『こちら衣笠、聞こえる!?』

熊野「どうしましたの?血相を変えて……」

衣笠『どうしたもこうしたも無いって!応援要請があったから警官隊と駆けつけたはいいものの、下水路に突入した途端深海棲艦がわんさか出てきてるだってば!』

武蔵「なんだと!?」

衣笠『どうも連中、この辺り一帯の下水路を縄張りにしてるみたいよ!』


吹雪「衣笠さんは今どこに?」

能代「あ、吹雪ちゃん!」

叢雲「……」

武蔵「2人は途中襲撃に遭ったりしていないようだな」

衣笠『私は数十人の警官隊と一緒にあなた達の突入したマンホールのすぐ下にいるわ。でもそこに釘付け!』

提督『ならばいい機会だ』

吹雪「司令官?」

提督『吹雪達はすぐさま下水路から脱出しろ。衣笠達も脱出だ』

武蔵「だがこの下水路に蔓延っている深海棲艦共はどうなる?」

提督『衣笠の報告を聞いて緊急に市長との回線を開いた。これから決行する作戦は、その周辺の下水路の爆破だ』

吹雪「爆破……?」

提督『これは奴らを一網打尽にできるチャンスだ。地下に生き埋めにしてやれば連中の勢いも削げるだろう』

武蔵「よく下水管理課が承諾したな」

提督『鎮守府は色々と強いからな。決行は20分後、それまでに脱出しろ』

叢雲「それまでに脱出できなかったら?」

提督『深海棲艦と運命を共にしてもらう』

一同「ッ!?」


叢雲「なん、ですって……!」

熊野「そんな、何を言って……!」

吹雪「了解。速やかに脱出します」

熊野「吹雪さん!?」

提督『お前達が通ってきたルートはおそらく深海棲艦が多くいるだろう。そこからはこちらのルートを通って脱出しろ、データを送る』

吹雪「受信完了」

能代「西側に抜けるルートね……多分河に出るわ」

熊野「そうと決まれば急ぎましょう!生き埋めはごめんですわ!」

武蔵「同感だ。走るぞ!」

吹雪「はいっ!」

衣笠『私達も撤退ー!落ち着いて1人ずつはしごを上っていって!』


・・・・・・

~出口付近~


武蔵「にしても今回は随分と踊らされたな……」

能代「長門さんの裏切りに、衣笠さんと警官隊の応援の妨害……それに、こんな作戦……」

熊野「……私達、こんな簡単に使い捨てにされますのね…………」

一同「…………」

能代「で、でも脱出できればいいのよ!提督だって私達が間に合うって信じてこういう作戦にしたに決まってるわ!」

吹雪「そうですよ!それにもうすぐ出られますし、時間に余裕もあります!」

吹雪「(とはいえ…………司令官は私達を…………)」

能代「見て、出口――」


中間棲姫「アラ、ゴキゲンヨウ」フフッ

一同「ッ……!!」

中間「久シブリニ会ッタ長門ハドウダッタカシラ?」

吹雪「中間棲姫……!」

武蔵「貴様……貴様が黒幕か!」

中間「黒幕ダナンテ酷イワ……私ハタダ、長門ノ中ニ眠ル衝動ヲ起コシテアゲタダケ……」

中間「ソシテ、私ガ見ル闇ハ…………」

吹雪「……?」

中間「ジャ、私ハヤルコトガアルカラ……精々最後マデ足掻イテミセテ」

武蔵「待て!貴様を執行する!」スチャッ


『深海係数、66。刑事課登録艦娘』


武蔵「ッ!?」

吹雪「武蔵さん?」

武蔵「馬鹿な……何故、飛龍になる……!」

熊野「なんですって!?」スチャッ


熊野「……本当ですわ…………刑事課登録艦娘…………」」

中間「ソウイウコト。ドミネータージャ私ハ裁ケナイワヨ」

吹雪「そんな……前に私が向けた時は……!」

中間「コノ右腕ト目ガ、私ノ体ニ馴染ンデキタトイウコトカシラ…………モウドミネータースラ私ヲ飛龍ダト認識スルホドニ」


中間「ア、ソウソウ。アナタ達ニイイコトヲ、教エテアゲルワ」

武蔵「なに?」

中間「モウスグ、アナタ達ガ信ジテヤマナイ正義ヲ……ヒックリ返ス。ソノ瞬間ヲ楽シミニシテイテネ」

能代「信じてやまない正義……?なにそれ……」


中間「ソレジャ、マタネ」フリフリ

武蔵「ッ、待て――!」

衣笠『ちょっと、何してるの!?もうすぐ爆破時間よ!!』

能代「あっ……は、早く出ないと!」


・・・・・・

~執務室~


提督「ご苦労だった。よく帰ってきたな」

武蔵「しゃあしゃあと……よく言えたものだな」

提督「もう下がっていいぞ。大体の状況は既に聞いている。詳しい報告は吹雪から受けることにしよう」

能代「……了解」

武蔵「クッ……」

叢雲「………………」

提督「あ、叢雲」

叢雲「……なに?」

提督「ドミネーターを破壊されたとの報告も受けた。これを受け取れ」スッ

叢雲「替えのドミネーター…………随分用意がいいのね」

提督「刑事課はドミネーターに戦闘行為のすべてを託している分、失えばただの少女だろう。予備はそれなりに用意しているさ」

叢雲「それはどうも」


ガチャッ、バタン


提督「さて、君の主張が真実であると証明されたな。嬉しいか?」

吹雪「……何を隠しているんですか」

提督「…………なに?」

吹雪「いくら別の鎮守府でも、停止要請を出せばドミネーターはいつでも止めることができるハズです。なにせ刑事課にとって、命よりも重要と言われる代物なんですから」

提督「ほう、では君は私が意図的に深海棲艦がドミネーターを使うことを見逃していると?」

吹雪「はい」

提督「言うようになったな……着任当初からは考えられないくらいに」

吹雪「質問に答えてください。どうなんですか?」

提督「その質問に答える必要は無い」

吹雪「…………そうですか……」

提督「さぁ、とっとと報告をしてくれたまえ」

吹雪「……了解」


・・・・・・

~深夜・浜辺~


吹雪「…………ッ」ドン!

吹雪「…………砂浜なんて叩いても意味ないか……」

吹雪「(中間棲姫の言っていた『信じてやまない正義』……それって……)」

春雨「吹雪ちゃんー」

吹雪「あ、春雨ちゃん?どうしたのこんな真夜中に」

春雨「それはこっちのセリフです!トイレに行く途中に思いつめた吹雪ちゃんを見かけて、急いで追いかけたんですけど……よかったぁ…………この前ドラマで入水見ちゃったから、吹雪ちゃんも……って変に勘ぐっちゃいました」

吹雪「あはは、ごめんね。ちょっと色々あって……」

春雨「刑事課ですか?」

吹雪「うん…………最近は皆とも打ち解けられてきたんだけど、一難去ってまた一難みたいな感じでね」

春雨「大変ですね……う、は、く……クチュン!」

吹雪「大丈夫?」

春雨「風に当たりすぎたかもしれません」

吹雪「夜中の海風は冷えるからね……早く部屋に戻ろう?」

春雨「はい…………あの、吹雪ちゃん」

吹雪「なに?」

春雨「…………今日、一緒のお布団で寝ても……いいですか?」


・・・・・・

~吹雪の部屋~


春雨「えへへ、何も言わずに来ちゃったから朝起きたら姉さん達ビックリしてるかも」

吹雪「大丈夫?暑かったり狭かったりしない?」

春雨「はい!吹雪ちゃん、柔らかくて抱き心地グーです」ギュッ

吹雪「そ、そう?」


吹雪「それにしても、突然だね」

春雨「迷惑でしたか?」

吹雪「ううん全然。ちょっと気になって」

春雨「吹雪ちゃんは友達ですから……友達と一緒に寝ようと思うのは自然です!多分」

吹雪「そういうものなの?」

春雨「そういうものです」


春雨「昔はよく姉さん達に添い寝してもらっていたんですけど、友達と同じ布団というのはまったくなくて……なんだか近くて、不思議な気分ですね」

吹雪「そうだね。私も初めて友達と一緒に寝てるから……変な感覚だよ」

春雨「変……い、嫌でしたか……?」

吹雪「違う違う!とっても幸せ!」

春雨「そうですか……よかったぁ」


春雨「…………ねぇ吹雪ちゃん」

吹雪「なぁに?」

春雨「私と…………ずっと友達でいてくれますか?」

吹雪「私こそ……ずっと友達でいたいなぁ」

春雨「…………ふふっ」

吹雪「あははっ!」

春雨「そうですね……ずっと友達……ふわぁぁ…………」

吹雪「そろそろ寝る?」

春雨「こういう時、ピロートークというものをするのが定番だと聞いていたんですけど…………うみゅ……」

吹雪「ふあぁ……私ももっと話したいけど、眠いや」

春雨「じゃあまた今度……明日でも明後日でも…………」

吹雪「うん。だからおやすみ」

春雨「おやすみなさい……」


・・・・・・

~???~


中間「…………長門」

長門「あア」スチャッ


『深海係数、30。刑事課登録艦娘』


長門「これで10回中10回、お前は飛龍と認識されタ」

中間「ソウ。時ガ来タトイウコトネ…………」

長門「だが先の下水路爆破デ、ほとんどの兵隊が死んだガ?」

中間「イイノヨ、ソンナ雑兵。私トアナタガイレバ、万事問題ナイワ」

長門「フッ、そうカ……」

中間「エエ……早速イクワヨ」

中間「アノ忌々シイ鎮守府ヲ、ヒックリ返シニ」


 鎮守府刑事課所属 特型駆逐艦『吹雪』


「あなたは狂っている」

…………

「あなたは狂っている」

……うるさい…………

「だってそうじゃない。あなたは深海棲艦をなんだと思っているの?」

深海棲艦…………カワイソウな人達……

「あなたは深海棲艦を見ているようで見ていない……そうでしょう?」

「あなたは、なにせ……」


私の前にある鏡は…………今も曇っている。

いや、曇っているのは私の目……

こんなピントの合わない心じゃ――

鏡さえも覗けない。


・・・・・・

~明け方~


吹雪「………………ん……」パチッ

吹雪「また同じ夢……」

吹雪「あれ、春雨ちゃん……いない?」

吹雪「起きてトイレにでも行ったのかな……?」


・・・・・・

~廊下~


明石「ん~……徹夜してたらこんな時間…………はぁ、また大淀に肌が云々言われちゃうなぁ……」

明石「ま、寝れば治るわよね寝れば」


明石「ん?こんな時間に私以外に出歩いてる人がいる?」

明石「あれは……春雨ちゃん?おーい」

春雨「…………」

明石「どうしたのこんな時間に。トイレ?」

春雨「………………」

明石「寝ぼけてるのかな?まぁそろそろ日も出るしひとりでトイレくらい――」


・・・・・・

~吹雪の部屋~


吹雪「…………起きて30分経つけど……遅いなぁ。部屋に帰っちゃったとか?うう……それだと悲しいなぁ」


ピロロロロ、ピロロロロロロ


吹雪「衣笠さん?こんな時間に…………しかも会議回線?はい」

衣笠『あっ、皆今どこ!?』

吹雪「どこって、部屋ですけど」

叢雲『なによ……人が寝てる時に…………』

熊野『ふわぁ…………』

武蔵『どうした?』

衣笠『すぐにドミネーター持って工廠まで来て!とんでもないことになってるから!』

吹雪「とんでもないこと?」

衣笠『よく聞いて、今鎮守府の艦娘が一斉に……深海棲艦化してるの……!』

吹雪「えっ……!?」

能代『それって、どういうこと!?』

衣笠『いいから皆、無事な艦娘は全員工廠に避難させて!!』


・・・・・・

~工廠~


明石「う……」

衣笠「大丈夫?」

明石「まぁ、ね。かすり傷…………それにしても春雨ちゃん、ずいぶんイメチェンしてたね……」

衣笠「…………」

明石「にしても衣笠、なんであんなところにいたの?しかも明け方に」

衣笠「私もトイレだったのよ。だからドミネーター持ってないけど……」

明石「それでも刑事課なのー?」

衣笠「うるさいわね!」


衣笠「なんとか春雨ちゃんから逃げてここまで来れたけど、どうしよう……今外に出ても皆が……」

明石「嫌なものね……昨日まで普通に過ごしてた皆が……」

衣笠「言わないでよ……とりあえず吹雪ちゃん達が来るまでここにいるしかないかな……」

明石「というか皆、来れるの?」

衣笠「………………多分……」


明石「……あと、さ」

衣笠「ん?」

明石「なんで言わなかったの?春雨ちゃんのこと……」

衣笠「っ…………」

明石「……」

衣笠「…………言えるわけ、ないじゃん……」


・・・・・・

~廊下~


吹雪「(おかしい……なんでアナウンスが入らないの?)」

吹雪「(こんな非常事態なら、司令官がまっさきに府内放送で非難を呼びかけるはずなのに……)」

吹雪「とりあえず工廠に…………ん?」


春雨「………………」

吹雪「春雨ちゃん!?」

春雨「ふ、ぶ……」

吹雪「無事だったんだ……大丈夫!?」

春雨「に、ゲ…………!」

吹雪「えっ?」

春雨「アアアアァァァァァァッ!!!!」ブォン!

吹雪「ッ!?」ヒョイッ

>>120
×吹雪「(こんな非常事態なら、司令官がまっさきに府内放送で非難を呼びかけるはずなのに……)」
○吹雪「(こんな非常事態なら、司令官がまっさきに府内放送で避難を呼びかけるはずなのに……)」


吹雪「はる、さ、め……ちゃん……?」

春雨「フーッ、フーッ……!」ギリッ

春雨「忌々しイ、艦娘ゥゥゥ!!」

吹雪「嘘、でしょ……そんな…………」

春雨「コロス……コロスコロス……艦娘、コロス!!」

吹雪「春雨ちゃん、私だよ!分からないの!?」

春雨「ガアアァァァァァァァァッ!!」

吹雪「春雨ちゃん!!」


ザシュッ!


吹雪「……っつっ……!(左肩を、長い爪が……!)」


春雨「カ、ア、カ……!」

吹雪「春雨、ちゃん…………!」

春雨「………………ふブ、キ、ちゃン……?」

吹雪「…………あ……」

春雨「ッ、吹雪ちゃン!?」

吹雪「よかった…………春雨ちゃんだ…………」

春雨「私…………わタ、ギアアアァァァ!!」

吹雪「春雨ちゃん!!」


春雨「吹雪、ちャ、ン……撃ッ、テ……!」

吹雪「!?」

春雨「私、もウ…………」

吹雪「だ、駄目だよ春雨ちゃん!友達を撃つなんて……」

春雨「友達だかラ……!撃っテ!!」

吹雪「ぁ…………ぁっ……!」スチャッ


『深海係数、445。執行対象です。執行モード、リーサル・エリミネーター』カシャ、カシャン


吹雪「嘘だよ……こんなの…………」

春雨「ア、グ、ア、アッ……!」

吹雪「嫌ぁ……嫌だぁ………………」ポロポロ

春雨「吹雪ちゃン……ア、アアァァァァァッ!!」


春雨「艦娘ゥッ!死ねえぇぇぇぇェ!!」バッ

吹雪「…………春雨、ちゃん…………」カチッ



春雨「……………………」

吹雪「……………………」


春雨「……吹雪ちゃン…………あリ、ガ、とウ…………」ニコッ



・・・・・・


吹雪「………………あははは……」ポロポロ

吹雪「私……最低だ…………友達を……」

吹雪「ふっ、ふふふっ……ふふふふふっ…………」

吹雪「……もう、いいや…………」


叢雲「吹雪!」

吹雪「叢雲ちゃん……」

叢雲「あんた、血まみれじゃない……!」

吹雪「………………うん」

叢雲「……着替えてきなさいよ。スーツ、部屋にあるんでしょう?」

吹雪「うん……」


・・・・・・


吹雪「叢雲ちゃんは無事だったみたいだね」

叢雲「まぁね…………それより、あれ」


「ウ、ウゥ……」


吹雪「深海棲艦…………あれもまた……」スチャッ


『深海係数、216。執行対象です。執行モード、ノンリーサル・パラライザー』


叢雲「ちょ、撃つ気!?」

吹雪「うん…………あれは艦娘じゃない。深海棲艦だもの……」

叢雲「ッ、本気で言ってるの!?」

吹雪「1度上がってしまった深海係数は…………戻らない……!」スチャッ


バァン!!


「ウ…………」ドサッ

叢雲「あんた……本当に……!」

吹雪「………………行こう。まだ深海棲艦になってない皆も工廠を目指してる。けどドミネーターを持ってないから深海棲艦に太刀打ちできる手段は無い」


吹雪「私達刑事課で、皆を工廠まで――」

叢雲「あんたねぇ、仲間をそんな簡単に撃てるって、どういう神経してるの!?」

吹雪「叢雲ちゃん……」

叢雲「それとももう深海棲艦だからって?ちょっと肌が白くなったからって、執行なんて……!」

吹雪「叢雲ちゃん!」スチャッ

叢雲「ッ!?」


吹雪「……深海係数、79。危ないよ」

叢雲「……!」

吹雪「あんまり、深海棲艦に感情移入しない方がいいって言われたでしょ?」

叢雲「じゃあ……じゃああんたはなんなのよ!普段深海棲艦をかわいそうだとか言っておいて、自分は深海係数が上がらない!矛盾してるじゃない!」

吹雪「…………それは、私にも分からない……司令官が言うには、免深体質っていうのらしいけど……」

叢雲「それって、本当に体質なの?ただあんたが心の中で深海棲艦を見下してるからなだけじゃないの?」

吹雪「…………」

叢雲「…………なるほどね」スタスタ

吹雪「あ、叢雲ちゃん……」

叢雲「あんた……結構いい性格してたのね」

吹雪「…………」


吹雪「私達刑事課で、皆を工廠まで――」

叢雲「あんたねぇ、仲間をそんな簡単に撃てるって、どういう神経してるの!?」

吹雪「叢雲ちゃん……」

叢雲「それとももう深海棲艦だからって?ちょっと肌が白くなったからって、執行なんて……!」

吹雪「叢雲ちゃん!」スチャッ

叢雲「ッ!?」

吹雪「……深海係数、79。危ないよ」

叢雲「……!」

吹雪「あんまり、深海棲艦に感情移入しない方がいいって言われたでしょ?」

叢雲「じゃあ……じゃああんたはなんなのよ!普段深海棲艦をかわいそうだとか言っておいて、自分は深海係数が上がらない!矛盾してるじゃない!」

吹雪「…………それは、私にも分からない……司令官が言うには、免深体質っていうのらしいけど……」

叢雲「それって、本当に体質なの?ただあんたが心の中で深海棲艦を見下してるからなだけじゃないの?」

吹雪「…………」

叢雲「…………なるほどね」スタスタ

吹雪「あ、叢雲ちゃん……」

叢雲「あんた……結構いい性格してたのね」

吹雪「…………」


叢雲「私は1人で工廠に行くわ……」

吹雪「でも、それは危険じゃ……」

叢雲「今はあんたと一緒にいたくないの」タッタッタ

吹雪「あっ…………」


吹雪「…………私………………」


ピロロロロ、ピロロロロロロ


吹雪「……はい」

提督『吹雪か。状況は?』

吹雪「これから無事な艦娘を工廠に避難させます。ですがかなりの数が既に深海棲艦化していて……事態の沈静化には……」

提督『なるほど……では――』ザザザッ

吹雪「………………司令官?」

提督『――――』

吹雪「司令官、司令官!」


吹雪「…………これって……!」


・・・・・・

~工廠近く~


\きゃあああぁぁぁ!助けてえぇぇ!/


武蔵「早く工廠に行け!奴らにやられるぞ!」

能代「にしても、なんで急にこんな……ッ!」


「やめて、姉さん!やめてぇ!」

「ガアアァァァァァ!!」ザシュッ

「きゃあぁぁぁ!」


武蔵「ッ、貴様ァッ!」

「ヒ、ハハハ……」

武蔵「お、前は……!?……………………クッ!」ドヒュゥウウン!

「ガ、アッ、ム、武蔵……!」モコモコモコ


パァン!


武蔵「……………………」ガクッ

能代「武蔵さん!」

武蔵「………………知った顔だった……」

能代「………………」


熊野「皆さん大丈夫ですの!?」

武蔵「熊野……」

能代「こっちは大丈夫……多分無事な艦娘のほとんどはもう工廠に行ってくれたハズだけど……」

熊野「じゃあ私達は……」

能代「工廠に行って皆と籠城するか、原因を調べに行くか…………」


長門「それについてハ、もう決まっていル」

一同「ッ!?」サッ

長門「ここデ、私に倒されて深海棲艦の仲間入りしてもらおうカ」ニタァ

武蔵「貴様……!」

能代「この事態を引き起こしたのは、あなたね!」スチャッ

長門「正確には中間棲姫だガ……まぁそんなことは些末なことだナ」

熊野「許しませんわ……皆さんを、こんな……!」

長門「フ、クハハハハハ!いい様ダ!大半の艦娘を深海棲艦にされ鎮守府は事実上壊滅!このまま他の鎮守府も破壊シ、この国すべてを破壊してやル!」

武蔵「…………させるか……」

長門「ン?」

武蔵「我々の家に土足で踏み込んだ上に仲間を酷い目に遭わせてくれた報い……必ず受けてもらう!!」スチャッ

熊野「…………!」スチャッ

能代「でもどうしよう……あいつの後ろ…………見知った顔ばかりで、私には……!」


吹雪『皆さん、お願いします』

武蔵「吹雪!?」

吹雪『あの人達は、もう艦娘に戻れません…………だから、せめて……私達の手で』


・・・・・・


吹雪『それに私達刑事課の役割は、深海棲艦の執行です。その役割を、果たすときです……』

叢雲「…………偽善者……」ボソッ


・・・・・・


吹雪「私は執務室に向かいます。彼女の目的が長門さんの言うように鎮守府の壊滅なら、そのトップである司令官を狙うはずです」

吹雪「それに、さっきから司令官との連絡がつきません。おそらく、襲撃を受けたのかも……」

衣笠『え、それヤバいじゃない!』

吹雪「はい……ですから、司令官の救出に向かいます」

明石『でもでも、1人で大丈夫なの!?』

吹雪「他の刑事課メンバーには工廠の守りに徹してもらいます。今は他の皆の安全が最優先ですから」

武蔵『待て吹雪、せめて誰か1人連れて行け!』

吹雪「…………後は、お願いします」ピッ


・・・・・・

~工廠~


衣笠「もうーあの聞かん子ー!」

明石「でも工廠にいる艦娘がこれで全員だとすると……ざっと半分くらいじゃないの?」

衣笠「裏を返せば半分くらいは…………」

明石「…………」

衣笠「…………クッ、ドミネーターさえ持ってれば……!」

明石「……あ、そうだ衣笠、これ!」

衣笠「えっ、これ強襲型じゃない!」

明石「メンテしてた分のやつ。衣笠も刑事課でしょ?」

衣笠「ありがとう!恩に着るわ!」ガチャン


明石「にしても吹雪ちゃん、なんか似てたなぁ……」

明石「(思いつめた感じが、あの時の加賀さんに……)」


・・・・・・

武蔵「くっ……!」バァン!

「ア、アァ……」ヴィィイン……ドサッ

熊野「なんて数ですの……廊下を埋め尽くすほどなんて……!」

長門「ククク、残るはお前達だけだからナ……すべての『元』艦娘共はここに集結させてやっていル……最期の別れハ、愛する姉妹と共にするがいイ」

能代「嫌味な、奴……!」


熊野「…………!」グッ

能代「熊野――」

熊野「……やっぱり、撃つしか、ないですわね…………」チャキッ

能代「……そう、ね…………」チャキッ

熊野「撃った人の姉妹には……恨まれますわね」

能代「でも、それを覚悟の上で……私は…………」

熊野「ええ……私達の後ろには、守らなきゃいけない人達がいますわ」

能代「そのために、私達は撃たなきゃ……ならない!」カチッ


・・・・・・

~執務室前~


「ガアァァァ!」

吹雪「…………邪魔」ドヒュゥゥウウン

「ギ、ソ、ンナ……!」モコモコモコ、パァン!

吹雪「この人は艦娘じゃない……深海棲艦……撃たないといけなかった……」ブツブツ


吹雪「…………着いた」

吹雪「おそらく中間棲姫はここに…………」


ガチャッ


吹雪「……!」スチャッ

中間「アラ、遅カッタジャナイ」

吹雪「ッ、司令か――」


ドサッ


中間「残念。コノ男ハモウ死ンダワ……私ガ殺シタ」

吹雪「ッ、よくも!」

中間「マァ落チ着キナサイ……ドウセスグ……」

提督「ああ、ソイツの言う通りさ」コツ、コツ

吹雪「え、ええっ!?」


吹雪「司令官が、2人…………同じ顔……!?」

提督「…………」

吹雪「え、そこに血まみれで倒れてる司令官は……」

提督「ああ、それも『私』だ。中身が少し違うだけだが」

中間「ヨウヤク、ヨウヤク辿リツイタ……我ラガ怨敵…………ソノ正体ニ……!」

吹雪「正体って……?」

中間「私ハアル時、妙ナ噂ヲ聞イタ……鎮守府ノ提督ハ、人間デハナイノデハナイカ、ト」

中間「仮ニソレガ本当ナラ、ソレヲ世間ニ公表シタトキ……鎮守府ハドウナル?」


中間「ソシテ結果ハ予想通リ、コウシテ確カメルコトガデキタ」

吹雪「まさか、全部このために!?」

中間「エエ。鎮守府ノ提督ト1対1デ対面スルコトガデキル状況…………艦娘ニ水ヲ差サレルコトナク、ジックリコイツヲ尋問スルニハ、ココノセキュリティヲ突破シ、ナオカツ艦娘モ一点ニ釘付ケニスル…………」

中間「ソウスレバ、コノヨウナ状況ガ作レルト、思ッテイタシ、実現シタ」


中間「スベテハ、我ラ深海棲艦ノ未来ノタメ……!私ハ!!」

吹雪「ッ!」スチャッ

中間「…………無駄ヨ。ドミネーターヲ通シテ見タ私ガ誰ニナッテイルカ……分カルデショウ?」


『深海係数、23。刑事課登録艦娘』


吹雪「それでも!私は……あなたを許さない!」

中間「ヘェ……」

吹雪「春雨ちゃんを…………皆を巻き込んで……奪っていったあなたを……私は絶対に許さない!!」

中間「ジャアドウヤッテ私ヲ裁ク?ドミネーターデハ私ハ――」

提督「クククク…………」

中間「……?」


提督「いいぞ吹雪、よく吠えた」

吹雪「司令官……?」

提督「そして中間棲姫よ。お前もよくここまで来たな。敵ながら天晴と誉めてやろう……」スチャッ

中間「ッ!?」

提督「遅い」ドヒュゥゥウウン!

中間「グ……脚、ガ……!」モコモコモコ


パァン!


中間「グアアァァァッ!」

吹雪「そんな、司令官も……?」

提督「これでもここのトップだからな。ドミネーターくらい使えるし、モードを任意で変更することもできる」

中間「オ、ノレ…………!忌々シイ、奴……!」

提督「確かにお前の言う通り、私は人間ではない。私の正体を世間に暴いて鎮守府の転覆を狙ったお前の目は正しい。だが――」

提督「最後の最後で誤ったな」

中間「グ、ウウゥ……!」

提督「せめてもの慈悲だ。答え合わせだけしてあげようかな」ピッ


ガゴンッ


吹雪「壁に、隠し通路?」

提督「吹雪、悪いがソイツを運んでついてきてくれ」

中間「イイノ?コノ子ノ深海係数……」

提督「吹雪の係数を上げられるものなら、上げてみろ」

中間「…………」

提督「吹雪、急げ」

吹雪「は、はい……」


・・・・・・

~地下~


提督「提督というのは大変なものでね。義体はどうにでもなるが、それを司る中身の選出にはいつも悩まされている」

提督「そこで、海戦時代が終わり今のように冷戦になってから……大本営はおもしろい計画を実行に移した」

提督「それがこれだ」ピッ


バツンッ


吹雪「うっ……まぶしい……」

中間「……バ、カナ…………コレハ……!」

吹雪「……?………………ッッ!?」


ゴボゴボ…………ゴボ……


提督「このカプセル達の中身が分かるか?」

中間「艦娘……!」

提督「正解だ。10ポイントをあげよう」

吹雪「これ、どういうことですか!?」

提督「君にも明かそう。我々『提督』というのは個人ではない。複数の免深体質艦からなる、ひとつのシステムだということさ」

提督「中間棲姫の言う通り、私達は人間ではない。艦娘なのさ。男性の義体というのが、ちと窮屈なところではあるが」

中間「……プ、ハハハハハ!コレハ傑作ネ!鎮守府ノ提督ハ実ハ艦娘ダッタ?ハハハハハ!」

提督「私達で話し合い決めた鎮守府の運営を、1つの提督という男性を通して艦娘に伝える……それが隠された命令系統というわけだ」

吹雪「もしかして、これをずっと……?」

提督「ああ。ちなみに君と私ははじめましてではないよ?定期的に中身だけをローテーションしているが、そちらからは全部同じに見えるだろうけどね」


吹雪「…………司令官……」

提督「ん?」

吹雪「司令官達は……望んでそこに入っているんですか?」

提督「今はそうだね。だが昔は違った……艦娘だった頃の私は、このシステムの真相を知ったときは君のように驚き、そして抵抗虚しくシステムの一部となった」

提督「だが今はこのシステムを素晴らしいと思っているよ。複数の思考元による情報共有の素晴らしさ。鎮守府を裏から支配する全能感。これは私という意識に対する革命であったね」


中間「ナルホド……嫌ガル艦娘ヲ、無理矢理システムニ組ミ込ム……コレガ世間ニ知レタラ…………鎮守府、イヤ海軍ハ終ワリネ!冷戦ノ均衡ハ崩レ、マタ人類ト深海棲艦ノ全面戦争ニ

発展スルイイ口実ニナル!」

提督「そうだな。だがこのことが世間に公表されることはない」

中間「ナニ……?」

提督「お前はここで死ぬからだ」スチャッ

中間「ッ!」

吹雪「………………ッ、待ってください!」バッ

提督「吹雪?そこをどけ」

吹雪「どきません!」

提督「フッ……いい機会だ。君にも誘いをかけておこうか」


提督「私達とひとつになれ、駆逐艦吹雪。免深体質の君なら我々提督の仲間に相応しい」

吹雪「……その前に、ひとつ聞いていいですか?」

提督「ん?」

吹雪「今鎮守府では、刑事課の人達が艦娘達を護って深海棲艦と戦っている最中です。その事についてどうお思いですか?」

提督「それが?」

吹雪「っ……仲間を深海棲艦にされて、皆が危ないんですよ!?」

提督「だからどうした。たったそれだけの被害でこんな大物を獲れるのだから、むしろ利だろう」

吹雪「…………それ、本気で言ってるんですか?」

提督「勿論だ」


吹雪「………………」スチャッ

提督「…………たまにいるよ。君のような愚かな選択をする艦娘は」


『深海係数、0。鎮守府提督。警告、指揮官への反逆行為は記録の上報告されます』


吹雪「(トリガーロック……)」


提督「フッ」


『執行モード、リーサル・エリミネーター』カシャ、カシャン


吹雪「ッ……!」

提督「このように、君の命も簡単に摘み取ることができる。な?提督はいいだろう?」

吹雪「…………そんな最低なシステムの一部になるくらいなら、死んだ方がマシです!」

提督「最低、か…………ククッ、そうかそうか」

吹雪「何がおかしいんですか!」

提督「そもそも君は自分が何故免深体質艦であるのか分かっていないようだな」

吹雪「それは体質じゃ……」

提督「いいや。体ではなく、心の問題さ」


提督「君はここに来るまでに何人の元艦娘を屠った?」

吹雪「…………」

提督「免深体質に重要なこと……それは深海棲艦を心の底から見下すことさ」

吹雪「ッ!」

提督「例えば、吹雪は日頃から深海棲艦をかわいそうだとか思っていなかったか?通常ならその時点で深海係数は上がるものだが、君のは上がらなかった。何故か」

提督「それは君の言う『かわいそう』は、共感によるものではなく、見下しによるものだからだ」

吹雪「見下し……」

提督「そして君は元仲間を手にかけることにより、その免深体質をより強固なものにしていった……君ならいつかの赤城のように突然深海係数が振り切れるということもないだろう」


吹雪「…………それで……」

提督「ん?」

吹雪「それで、なんですか?だから私にシステムに入れと?」

提督「まぁそういうことさ」

吹雪「何度も言っているでしょう……お断りします」

提督「…………そうか、残念だ」チャキッ

吹雪「っ……………………!」ギリッ


提督「秘密を知ってしまったからには、というやつだよ…………さようならだ――」グッ


バッ!


提督「ッ!?」

中間「ハァァァァッ!」ガシッ

提督「グッ、貴様放せ!」

中間「私ノ目的ハ変ワラナイワ……ココデオ前達ヲ……!」バシッ

提督「しまった――ドミネーターが!」


カラララ……


吹雪「ッ……」

提督「吹雪、コイツを撃て!今ならエリミネーターモードに固定してある。早く撃て!」

中間「クッ……!」グググ


提督「ガハッ……は、早く……!」

吹雪「…………これで……」スチャッ

提督「よし、いいぞ……!そのまま、この汚らしい深海棲艦を!」


ドヒュゥウウウウウウン!


吹雪「……………………」

中間「ッ…………!?」

提督「…………」


提督「な、ぜ……!」モコモコモコ


パァン!!


中間「…………アナタ……」

吹雪「ハァッ、ハァッ、ハァッ…………」

吹雪「…………私は、許せなかった……あなたも、司令官も……」

吹雪「司令官は、あなたをおびき寄せるために、わざとあなたのドミネーターを切断しなかったり、皆が深海棲艦になるのを黙って見ていた……」

吹雪「春雨ちゃんだって……!」

中間「…………」

吹雪「あなたも、許さない…………執行します……!」スチャッ

中間「………………ソウ」

中間「ナラヒトツダケ約束シテ……コノ事実ヲ……」

吹雪「…………はい」

中間「ナラ、イイワ…………コノ脚ジャ避ケラレナイシ、上モドウセ、アナタ達刑事課ノ勝チデショウシネ」

吹雪「…………」グッ

中間「ネェ、アナタ……コレカラドウスルノ?」

吹雪「…………もうここには居られません……」

中間「私達ノ仲間ニナラナイ?」

吹雪「それも御免です」

中間「残念……」

吹雪「じゃあ、さようなら…………」カチッ


・・・・・・

~工廠前~


熊野「クッ……!」バァン!

「ガァッ!?」ドサッ

能代「……!」ドヒュゥゥウウン

「ァ、ア……」モコモコモコ、パァン!

能代「これで…………全員…………!」

熊野「…………うっ、くっ…………」グスッ


長門「クッ、仲間を撃つことを躊躇わないとハ……!」

武蔵「後は貴様だけだ!」カチッ

長門「遅イ!」バッ

武蔵「クッ、廊下という限られたスペースにも関わらずこれか……!化け物め……!」

能代「それに壁に隠れられちゃ、こっから狙えないし……」

熊野「近づいたらあの爪でグサリですわね……」


衣笠「どいて!」

熊野「衣笠さん!?」


『執行モード、リーサル・エリミネーター』カシャ、カシャン


衣笠「壁なんてチンケなものは、コイツの前には無いも同然よ!」カチッ


ドヒュゥウウウウウウン!


長門「ッ、ナニ!?」


パァン!


長門「ギアアアァァァァッ!?」

能代「やった!」

衣笠「いや、片腕だけ!」

長門「キ、さまラァァァッ!」ダンッ

武蔵「なっ、速い……!」

熊野「きゃぁぁっ!」ドサッ

衣笠「ッ、熊野ちゃん!!」


長門「許さン……死ねェッ!!」


ドヒュゥウウウウウウン…………


長門「ッ!?」

長門「ア、ガ、…………キッ、ア……アアァッ……!」モコモコモコ


パァン!!


武蔵「や、やった……?」

衣笠「熊野ちゃん大丈夫!?」

熊野「え、ええ…………なんとか……」

能代「よかったぁ…………でもどこから?」


叢雲「…………」スタスタ

武蔵「叢雲、お前だったのか」

熊野「助かりましたわ……ありがとうございます」

叢雲「別に気にしないで」

叢雲「コイツには借りもあったし……ね」


能代「吹雪ちゃん、無事かな……連絡無いけど」

武蔵「そうだな……」


ピロロロロ、ピロロロロロロ


熊野「噂をすれば、ですわね」ピッ


吹雪『…………』

武蔵「吹雪、どうした?」

吹雪『中間棲姫は、執行しました…………』

能代「ホント!?じゃあこれで事件は一応解決――」

吹雪『あと皆さん』

熊野「?」


吹雪『さようなら……』


プツン


一同「ッ!?」

武蔵「お、おい吹雪、どうした!吹雪!」

叢雲「どういうことよ……」

衣笠「吹雪ちゃん…………どうしちゃったの?」

能代「通信は切れてる……」

熊野「と、とにかく私達も執務室に向かいましょう!」

武蔵「ああ!」


・・・・・・

~執務室~


武蔵「吹雪!」バンッ

提督「……来たか。今回はご苦労だったな」

熊野「提督、無事でしたの?」

提督「ああ。中間棲姫も、もうこの世にはいない」

叢雲「…………それで、吹雪は?」

提督「…………」

衣笠「……どうしたのよ?」

提督「吹雪は、我々を裏切った」


・・・・・・


・・・・・・

~数分前~


吹雪「…………また、ですか」

提督「…………」チャキッ


『執行モード、リーサル・エリミネーター』カシャ、カシャン


吹雪「一体何体いるんでしょうね……」

提督「君が行ったことは明確な反逆行為だ。軍法会議にかけるまでもなく、我々は君の排除を決定した」

吹雪「…………そう、ですか。じゃあ――」ポイッ


カラン、カラン……


提督「……ッ、フラッシュ――!」


バァン!


提督「クッ……!」

吹雪「司令官、お世話になりました……」


吹雪「そして、私はあなた達を絶対に許しません」


・・・・・・

~数日後~


TV『先日起きた鎮守府艦娘の一斉な突然死について、調査の結果、原因は無差別に食事に混入された毒物が原因であると判明しました――』

TV『首謀者は、同鎮守府刑事課に所属する駆逐艦の吹雪とされており、別鎮守府の刑事課が失踪するという事件とも関連があるとして、軍上層部は捜査を進めています――』

TV『駆逐艦吹雪は刑事課として何度かカメラの前に出たこともありましたが、今回は凶悪犯として――』

TV『なお当テレビ局にも、匿名で『鎮守府提督は人間ではない』などというイタズラ投稿もされており、同一犯である可能性も――』

TV『この事件について、鎮守府提督は誠に遺憾である。早急な逮捕を望む。とコメントしております――』

TV『現在駆逐艦吹雪は全国特別指名手配となっています。目撃した方は――』



~FIN~

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年08月23日 (日) 03:30:59   ID: S4d1Rw-f

俺得コラボで感動ですわ。狡噛吹雪の逃亡後のssもあるんですよね?ね?

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