男「何時の間にか二十歳か...」(14)

女「そうだよ。つまり僕とキミが出会って15年と半年になる」

男「細かいな。でも、もうそんなに経つのか。正直嬉しさ半分虚しさ半分って感じだ」

女「素直に祝おうじゃないか。キミは二十歳になったんだ。
これからは成人として生きていく第二の人生の始まり。今日はその誓いとして二人で杯を交わそう」

男「そうだな。乾杯」

女「乾杯」カンッ

男「やっぱり二十歳になってもビールは苦いままだな」

女「そりゃ二十歳になったぐらいでビールの味が変わるわけなかろう。
この苦さが分かるようになって初めて大人になったと実感するのさ。要するにキミはまだまだ子供だね」

フフッと楽しげに笑う女を見て俺は返事に戸惑い、黙ってビールを飲み続けた

男「ビールは一体どれぐらい飲めば酔い始めるのだろうか。
正直一杯飲み切ったぐらいじゃ何も感じないのだが」

女「僕も詳しくは知らないけど缶ビールを二、三本ぐらい開ければ友達はみんな酔い始めるよ」

男「缶ビール二、三本か。その程度なら全然いけそうだ。俺は案外酒に強いのかも知れない」

女「フフッ、最初はみんなそう言うものさ。そのうち酔いが回ってくるよ」

男「そんなものかね」

女「そんなものだよ。まあ今夜は思い出話に花を咲かせながらゆっくりと夜を語り明かそうではないか」

男「そうだな。あ、二本目終わった」

女「おいおい、あまり勢いよくいかないでくれ。今夜は長くなるんだ。すぐに寝てもらっては困るよ」

男「分かってますって」

そう言いつつ俺は三本目を開けた
なんだろう、癖になるな。これ

男「さっそく思い出について語りたいのだがその前に聞きたいことがある」

女「ん?なんだい?」

男「俺とお前が出会った切っ掛けって覚えてるか?」

女「さぁ、幼稚園で遊んでいたことは覚えているけど、切っ掛けなんて忘れてしまったよ」

男「俺もだ。確か幼稚園の頃はよく四人で一緒にいたのに気付いたら俺とお前の二人になっていた」

女「そうだね。今となってはあの二人の名前も思い出せない」

男「俺もだ。グランドで遊んだり団子作ったり何をするにしても四人一緒だったのにな」

女「そう言われるとそうだった気もするね。かなり曖昧だけど」

男「後でアルバム探してこようか?」

女「んー、でも幼稚園の頃の記憶なんて薄れているからね。アルバムを見ても懐かしい気持ちになれないと思う。
それよりも高校や中学の頃のアルバムを見ようよ」

男「分かった分かった。後で取ってくるよ」

女「ありがとう」

男「それにしても何だったけな。あいつらの名前。ここまで出掛かってるんだが思い出せない」

女「無理に思い出そうとするのは脳によくないからやめておいた方がいい。
そんなに気になるなら後で一緒にアルバムを取ってくることをお勧めする」

男「結局俺が全部取ってくるのかよ」

女「おや?小学校の卒業アルバムも持ってきてくれるのかい。
キミも気が利くようになったじゃないか。フフッ」

男「こいつ...はいはい、分かりましたよ。取ってきますとも」

女「いやー、すまないね」

男「何がだよ。白々しい」

女「フフッ、まあそう気を立てないでくれよ。話が前に進まないじゃないか」

男「…」

男「そうだな。ここは一つ大人の対応とやらを見せておいてやろう」

女「それはどうも。恩に着るよ」

男「それじゃ話を進めて行きますか」

女「そうだね。このペースじゃとても一晩で語り切れないよ」

男「確かにな。なんせ十五年の付き合いだからな」

女「幼稚園から今の大学にいたるまで僕たちは同じ進路を進んで来ているからね」

男「そう考えると長いよな。まさかここまでお前と一緒に過ごすことになるとは思わなかったよ」

女「でも別に珍しいことではないだろう?」

男「そうなのか?ここまで一緒にいるやつも珍しいと思うが」

女「でも僕とキミにとってはそれが当たり前になりつつあるだろ?
このまま死ぬまで一緒にいたって何ら不思議ではないと思うよ」

男「そうかもな...」

男「その時は俺とお前も結婚してるんだろうな。
息子か娘が生まれて、孫が生まれて、最後はみんなに看取られながら死んでいって...」

女「...」

女「でも別に珍しいことではないだろう?」

男「そうなのか?ここまで一緒にいるやつも珍しいと思うが」

女「でも僕とキミにとってはそれが当たり前になりつつあるだろ?
このまま死ぬまで一緒にいたって何ら不思議ではないと思うよ」

男「そうかもな...」

男「その時は俺とお前も結婚してるんだろうな。
息子か娘が生まれて、孫が生まれて、最後はみんなに看取られながら死んでいって...」

女「...」


女「フフッ、キミはもう酔いが回ってきたのかい?
らしくないことを言うじゃないか」

男「そういうお前もな。口調はいつも通りでも顔は赤くなってるぞ」

女「フフッ、そうかい。これはお互い自分に酔ってるだけかも知れないね」

男「うまく言ったつもりか知らんが別にうまくないぞ」

女「フフッ、そうかい。僕もお酒のおかげで少し気持ちが高揚していてね」

男「だろうな」

女「それに今日は未来を語り合うんじゃないんだ。僕とキミの過去を振り返るんだよ。
不確定なものを語るなんて性に合わない」

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