花陽「お願いします……ここから……っ」窓付き「……」   (115)

まっしろな にっきちょうの




かたすみ




にこにこ わらいかけて




きょうも たくさん 




ゆめを みせてよ








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辺り一面に広がる大きな白い海。
白い海だなんて不思議だよね、本物の海は、青くて、透き通ってて、潮の香りがいっぱいして――。


でも、私の海は白いのです。
だって、この白い海は、私が望んで生まれた海。
本当の海より、広くて、透き通ってて、何より気持ちがいい。
何だか花陽の大好きな、白いご飯に似てるかなって――えへへ。


でもそれだけじゃありません。
白って、どんな色にも染まる事が出来るんです。
赤も青も黄色も、みんなみーんな、仲良しになれる――。
そんな誰にでも優しくなれるような色に、私はなってみたいなって、思うんです。



でも、本当の私は、白には程とおい色で――沢山の色がいっぱい混ざってて。
とてもじゃないけど、綺麗な色とは言えません。
うう、もっと綺麗な色になりたいなぁ――。






だから、私は夢を見るのは大好きです。
夢は私の大好きな色を、いつも見せてくれる――。
いつもより、もっともっと、素敵な世界を感じる事が出来る。





だから、お願いします――。
私にもっともっと



夢を【見せて】くれませんか?

チュン


   チュン…




――ガサッ





花陽「……ん」

花陽「うぅ…んっ……今何時」 ウトウト

花陽「……」





花陽「……ぴゃあっ!?」

花陽「く、くくく九時!?あ、あわわわわわっ!!?!?!」

花陽「た、大変っ!ち、遅刻!思いっきり遅刻してるよぉっ!」 

花陽「すぐに準備しないとっ!!何でお母さん起こしてくれないのぉ!?」

花陽「だ、だっ……」

花陽「誰か助けてーーーーーー!!!」


‐喫茶店‐


真姫「……で、そのまま制服に着替えて学校行っちゃったのね。日曜日に」

花陽「ぁ……ぁぅぅ……」 プシュー

凛「休日の朝早くに起こす親は何処にもいないにゃー」

花陽「ううっ……土曜日がライブだったから、今日が月曜日だと思っちゃって……」

真姫「でも、こうして約束の時間には間に合ったんだし、結果オーライって事でいいんじゃない?」

花陽「そういう事にしておいて下さい……」

凛「凛はそんなかよちんも好きだよー」

花陽「り、凛ちゃん……」

凛「それよりこれからどうする?集まったのはいいけど先の事なーんにも決めてないよね?」

真姫「そうね……取りあえず服でも見に行く?」

花陽「あ、じゃあ新しくオープンしたお店に行くってのはどうかな?丁度混んでない時間だし……」

凛「賛成!お金はないから色んな服を試着しようよ!かよちんが」

花陽「花陽限定!?」

真姫「決まりね。花陽そこまで案内お願いね」

花陽「み、みんなで一緒に試着しようよー」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・



凛「じゃあねかよちん!また後でメールするねー!」

真姫「じゃあね、また明日」

花陽「うん、二人ともおやすみなさい」








花陽「ふぅ……」

花陽「ちょっと疲れちゃった……凛ちゃんったら花陽にどんどん色んなお洋服持ってくるんだもん」

花陽「真姫ちゃんも一緒になって楽しんでたし……もうっ」

花陽「はー……今日はご飯食べたら早目にお風呂入って寝ようかな」

花陽「今日は、ペーパーライスを枕の下に敷いて……えへへぇ」








花陽「……あれ」

花陽「なんだろう……あのアパート」

花陽「お花が沢山添えてある」

花陽「……」

花陽「あれ……沢山あるように見えたけど」

花陽「葉っぱがいっぱい生えてるだけで……花自体は少ない……?」



花陽が見たのは、古びた建物の真下に添えてある。数本のお花でした。
瓶の中に水を入れて、綺麗に生けてあって……でも、どこかおかしくて。


花陽「……誰か、お亡くなりになったのかな」


花瓶の中に刺してある花は、菊の様な使者を弔う花ではありませんでした。
一本の茎から沢山の葉が生えていて、おまけの様に花が小さく開いていて。


――まるで、未練がまだあるんだよって、言ってるみたいで。



花陽「……」


私はその花に向かって、小さく合掌をしました。
その花の供え先が誰なのかは分からないけど、花陽が祈っちゃダメなんて理由は何処にもありません。




花陽「……お疲れ様でした。ゆっくりお休みになって下さい。」




花陽はそれだけ呟いて、その場所を離れました。



‐花陽の部屋‐


花陽「ふぅ……」 ドサッ

花陽「はぁ~……お風呂に入った後のベットのごろごろが……一番気持ち良いよぉ……」

花陽「あ、忘れない様にライスペーパー枕に敷いておかなきゃ……」 セッセ

花陽「えへへぇ……これで今日は生春巻きの夢が見られるかも……えへへぇ」










花陽「……」

花陽「そういえば、夕方のあの花、なんて名前なんだろう……?」

花陽「ちょっと調べてみようかな……」 ポチポチ

花陽「えっとえっと……あ、これかな」 ポチッ















【ヨルガオ‐夜顔】
ヒルガオ科/非耐寒性つる性植物
春まき一年草……別名【ユウガオ(夕顔)】



花言葉……『悪夢』


花陽「……夜顔」

花陽「夕顔と同じなんだ……知らなかったなぁ」

花陽「えっと、夕方に花びらが開いて、朝方に萎んじゃう事からそういう名前がついたんだ……へぇぇ」






花陽「……」

花陽「でも、どうして……あそこに供えられてたんだろう」

花陽「少なくとも、人が死んだ後に供えるお花じゃないよね……?」

花陽「だって、この花言葉……」










花陽「」 ブルッ

花陽「ううっ……変な事考えちゃった」

花陽「調べなきゃ良かったかも……」

花陽「はぁ……今日はもう寝ようっと」

花陽「……おやすみなさい」

花陽「……」









・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

私は、夢を見るのがとっても大好きです。
夢の中は、普段なる事の出来ない自分になれるから、どんなに無理で、叶える事の出来ない願い事も。
夢の中だと、もしかしたら叶ってしまうかもしれないからです。


時々、怖い夢も見ちゃうけど――でもそれは、自分の弱い心が見せる幻で、頑張って乗り越えないといけない事で。
そして、それを乗り越えた時の夜に見る夢は、とってもとっても幸せな夢なんです。



だから、私は夢を見る事が大好きです。
どんなに怖くても、辛くても、楽しくなくても、私が私に真っ直ぐ話しかけてくれる。









――そんな夢が、いつも私の中に。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・



「……ぅ、ぅう」

「お布団……固い……寒い」

「誰か助けてぇ……ぇぇ」

「……」






花陽「……ぅ」 

花陽「……」

花陽「ふぁぁ……あれ……お布団がない……?」

花陽「わたし、ちゃんと自分の部屋のベッドで寝て……」
 







花陽「……!」 ガバッ!

花陽「こ、ここ……ベッドじゃないっ」

花陽「床……?そ、その前に」

花陽「ここ、何処……?」



‐ベランダ‐



花陽「……なに、ここ」

花陽「家のベランダ……じゃない、よね」

花陽「花陽の家、こんなに広いベランダじゃないよぉ」

花陽「そ、それに……どうして私、こんな所で寝て」

花陽「…え……ええっ?」








……花陽は辺りを見回すが、自分に馴染のあるものは一切置かれていない。
それ以前に、今自分の視界に飛び込んでくるものは全て気味の悪いものとさえ思ってしまった。

本当に必要であるのかと思えてしまう程のエアコン室外機の数。錆びついた物干し竿。色褪せたスリッパ。
どれもこれもが使い古されているとは言えない、しかし新しいとも言えない……。

まるでただの飾りだと認識してしまうかの様に、この不気味な景色の中に溶け込んでいた。




花陽「……おかしいの、ベランダだけじゃない」

花陽「そ、空がっ……雲が、し、したにっ……」





外の景色は、世界が反転したかの様に雲と空の位置が逆さまになっていた。
フェンスから見下ろしても、雲が邪魔をして地上が見えない。


――この場所が、地上から切り離されているとでも言うのだろうか……?







花陽「……う、うぅっ」

花陽「ここ、何か嫌だよぉ……」

花陽「どこか違う場所に……」














花陽「……あ」

花陽「この窓……開いてる」

花陽「……」

花陽「入っても、いいのかな」




窓の奥側は外の光が微かに差し込んでいるのにも関わらず、先が見えない。
その不可解な暗闇がより一層不気味さを醸し出し、入ろうとする欲を萎えさせる。


だが、この窓の他に進める場所などなく、行く宛など何処にもない。
辺りは雲で覆われ、下の階に降りるための非常口も見当たらない。

この場所から離れるには、それこそ飛び降りるか、この窓をくぐるしかない。
それしか方法は残されていなかった。




花陽「……」




花陽は恐る恐るその窓に近づき、やがて部屋の中に一歩、足を踏み入れる。
瞬間に吸い込まれるといった事も、何かに襲われると言う事も無く、簡単に足を進める事が出来る様だ。





花陽「……お邪魔、します」





……花陽はそのまま暗闇に招かれる様に、部屋へ入り込んでいった。

‐部屋‐


花陽「……」

花陽「あ……れ?」




部屋に入ると、花陽の想像とは裏腹になんとも普通だった。
素朴なベッド、机、本棚、テレビ……何処にでもあるような家具の一式が、部屋に設置してある。



花陽「あはは……そ、そう、だよね。お化け屋敷じゃないから……普通だよね」



若干、不気味な柄をしたカーッペットや、乱雑に散りばめられた座布団に違和感を覚えたが、それ以外は何もおかしな所は無い。
花陽は少し安心したのか、肩の力を抜き部屋の中を歩き出した。



花陽「……このテレビ、映るのかな」



型の古い、ブラウン管テレビ……
アナログ放送が終了している今、このテレビが起動しても砂嵐を起こすだけなのかもしれない。
だが、先のベランダで不可解な現状を認識してしまった以上、この世界が現実味を帯びていない事など誰にでも分かる。



花陽「……」 カチリ



花陽はテレビを電源スイッチをゆっくりと押す。すると















花陽「――ひっ!?」



真っ暗な画面一杯に、大きな目だけが不気味に映った。

花陽「あっ……っああっ…っ!」



咄嗟にテレビの電源を落とす。
映っていた目は消え失せ、元の何も映らない画面に戻った。



花陽「はっ……はっ……!」

花陽「うぅっ……びっくりした」



何か情報を得る事が出来ると淡い希望を持ったのが失敗だった。
悪戯に物に触らない様にしよう。それが賢明であると花陽は判断する。



花陽「あ、あ」

花陽「び、びっくりし過ぎて……た、立てない」



腰を抜かしてしまったのか、花陽は四つん這いになりながら壁に手を付けようとする
だが、手が壁に触れる寸前で、その手を止めた。



手を壁に付けてしまう事で、先程のテレビの様に何か仕掛けが稼働するのでは……?
そう思うと無暗に此処の物に手を触れる事に拒絶感が生まれ、壁に手を触れられない。
だが、自力で立つ事も叶わない今、花陽に残された手段は何かに手を置いて支えながら立ち上がるしかないのだ。



花陽「う、ううっ……」

花陽「誰か……誰かぁ……」



自然に起き上がるまで時間を費やしたくない。
それ程までに花陽はこの部屋に対する嫌悪で溢れ、出よう出ようという事ばかり考えてしまう。



花陽「誰か、助けてぇぇ……!」



薄暗い部屋で、花陽はか細く叫んだ。
誰も居ないのは分かっている筈なのに、反髄神経が反応するかのように口から言葉が吐き出される。



……絶対、誰も助けてくれないのに、どうして。
















――パシッ

花陽「―っひぃ!?」



突如、何かに自分の腕を掴まれる。

誰も居なかった筈の部屋。動くものなんて何処にも見当たらなかった筈だ。



……じゃあ、私の腕を掴んでいるこの手は、誰?




謎の手は花陽の腕を掴むと、そのままぐっと力を入れ花陽の足裏を地面に着けさせる。
前進が震えて動けない花陽をベッドまで導き、そのまま座らせた。




花陽「ひ、、あ  あああっ……!!」

花陽「ごめんなさいっ!勝手に入ってごめんなさいっ!」

花陽「すぐに出ていきます!だから、だから許して下さいっ!」

花陽「ひっぐ……ごめんなさい……っぇ……!」




遂に恐怖に耐えられなくなり、涙を流してしまった。
泣いて許されるとは思っていない。でも、泣いて謝る事以外に許しを請う事が出来ない。
赤ん坊でも出来る単純明快な方法で、花陽は謎めいたモノに謝り続けた。



「……」



『それ』は何も物言わず、ただじっと花陽が泣き止むのを待っている。
興味はあるが自分から何かしようとは思っていない。そんな思惑が見えるかのようにただじっと花陽を前から見下げる。



花陽「ひっく……うっ……っ」



恐怖から生まれた涙が一頻り出し終わると、花陽は赤くなった瞼をそっと開く。
何もしてこない『それ』が、自分の前でずっと立っている事に疑問を覚えたのか、恐る恐る頭を上げてみた。


花陽「……えっ」


……花陽は自分を立ち上がらせた『それ』をみて、呆気に取られてしまった。














窓付き「……」


花陽「女の……子?」





……助けてくれたのは、怪物でも悪魔でもない。
自分と同じ年頃の身体をした女の子が、無機質な目で花陽を見つめていた。

今日はここまで。


最初に書くの忘れていましたが、ゆめにっき×ラブライブです。


続きはまた今日の夜に。


――


窓付き「……」

花陽「……あ、あの」

花陽「本当に、ごめんなさい……花陽、知らないうちにここのベランダに居て」

花陽「何処にも行く所が無かったから……この部屋に入って」

花陽「だ、だからその……ごめんなさい」









窓付き「……」

花陽(……何も言ってくれない。やっぱり怒ってるのかなぁ)

花陽(でも、怒ってるなら部屋から出て行ってってとか……部屋から押し出したりすると思うんだけど)

花陽(花陽を見つめるだけで……何も反応してくれない)






花陽「……あ、ごめんね。ずっとベッドに腰掛けちゃって」

花陽「んっしょ……あれ」




……花陽がベッドから腰を上げ立ち上がると、意外な事に気付く。
この少女が見下ろしていた時は自分と同じくらいの高さだと思っていた。
だが、いざ自分が立ってみると逆に見下げる形になってしまったのだ。



――見た目は、中学生と言った所だろうか?




花陽「え、えっと……ここから出る方法、知っていますか?」

窓付き「……」







……少女は、テレビの傍にある扉を見つめる。
指を指して「あそこが出口なんだよ」と詳しく教えるのではなく、ただじっと、見つめていた。

花陽「……あの扉を開ければ。元の世界に戻れる?」

窓付き「……」



少女は再び無言で花陽を見る。
次第にこの少女は喋らないのではなく、喋れないのではないかと思えてきた。



花陽「えっと、取りあえず開ければいいんだよね」

窓付き「……」 コク

花陽「!」



ほんの僅かだったが、少女は花陽の質問に小さく頷く。
コミュニケーションが全く取れない。と言う訳でも無い様だ。



花陽「あ、じゃあ……ここから出るね」

花陽「お邪魔しました……勝手に入ってごめんなさい」



花陽は深々と少女に頭を下げ、部屋の扉の前まで歩いた。
少女もまた何も物言わず、ただただ花陽の歩く姿を眺めていた。

花陽「……この扉を」

花陽「――っ!?」




ドアノブを握った瞬間、えも言われぬ違和感が花陽を襲った。
静電気などといった軽い刺激ではなく、何か、悍ましいものでも掴んだ様な……そんな嫌な予感。



花陽「……こ、ここ」

花陽「本当に、入ってもいいん……だよね?」



怖くなったのか、花陽は今一度少女に確認を取る。
だが少女からは期待している答えは返ってこない。目線の先は扉のままだった。




花陽(ううっ……怖いけど、ここしか進む所ないよぉ)




花陽は諦めて再びドアノブを握り、時計回りに捻る。
がちゃ、という音と共に、立てつけの悪い扉が開いた。



花陽「……えっ」

花陽「ま、待って。ここ、何もみえ――」





ぐ に ゃ り 









――花陽の身体と声は、扉の先の暗闇と共に消えていった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・



「う、うぅ……」

「な、何が起こって……え」

「え……えっ」












‐扉部屋‐



花陽「……こ、ここ、どこ?」

花陽「え、えっ……なんで」




扉と共に闇に飲まれた花陽。
目が覚めると、そこには今まで見たことも無いような柄の扉が幾つも存在していた。



花陽「ど、どうしよう……私、もしかして取り返しのつかない事っ……!」

花陽「…あれ?」



変な世界に閉じ込められたのかと思ったが、自分の後ろには先程開けた扉がしっかりと建てられていた。
花陽が恐る恐るその扉を開けると、先程の少女の部屋に戻ることが出来る様だった。



花陽(どういう事なのかな……)



しばらく考えるが、情報が少なすぎる為これと言った答えが思い浮かばない。
ここがどこで、何故こんな所に連れてこられたのかという目的さえ分かれば、ある程度把握する事が出来るのかもしれないが……。


花陽「うう……何が何だかさっぱり分からないよぉ……」











窓付き「……」

花陽「ぴゃあ!?」



うんうんと唸っている花陽の後ろには、先程の無口な少女が音も立てずに立ち止まっていた。

花陽「び、びっくりしたぁ……」

花陽「あ、あのっ!いきなり後ろに立たれたらその……困ります」

窓付き「……」



少女は相変わらず無言だが、花陽の言葉を気にしたのか自分との距離を少し広げた。



窓付き「……」

花陽「えっと……ここは」



花陽が何処なのか尋ねようとすると、少女は突如歩き出し花陽を横切った。



花陽「えっ!?あ、あの…!」

窓付き「……」



やがて数ある扉の中の一つの扉の前に止まると、再び花陽の方へと身体を向けてじっと見つめる。

……それはまるで、こっちに来い。と言っている様に思えた。



花陽「……そ、そこに行けばいいんですか?」

窓付き「……」

花陽「……」



花陽は少女の近くまで歩み寄ると、おずおずと扉を観察した。
……濃い紫色の、迷路の様な形をした扉だった。







花陽「……」 ギィィ

窓付き「……」



ぐ に ゃ り






……震える手で扉を開けると、花陽と少女は再び暗闇の中へと飲み込まれていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・




‐落書きの世界‐



花陽「……こ、ここは」

窓付き「……」



二人が扉を潜ると、先程より遥かに広い場所へと飛ばされた。
地平線などといったものも見えず、ただひたすら暗闇が続いている……そんな不安になる程の広さだった。



窓付き「……」 テクテク

花陽「あっ…」



少女が歩き始めると、花陽もそれを追う様に歩き出す。
ぐんぐんとわき目も振らずに少女が進むので、花陽は若干戸惑いながらついていった。




ぽにゃ


    ぽこっ


         ぶにっ




花陽「うっ、はううっ……」

花陽(さ、さっきから変な地面を歩く度に変な音がしてるよぉ……!)

窓付き「……」 テクテク



花陽は少女の様子を伺ったが、特に何も気にする事なく歩いていた。



花陽(……ここ、本当に何なんだろう)


地面にはお世辞にも綺麗とは言えない色の床が続いている。
まるで、キレた子どもが絵具をぶち撒けた……色彩の暴力とも呼べる様な色の床が、辺りに散りばめていた。













花陽(あれ?でも……)

花陽(この床、よく見たら……綺麗に並んでる様に見える?)

花陽(真っ直ぐ伸ばして……曲がる所は、横に広がって)

花陽(……まるで、大きな画用紙に絵でも描いてる様な……そんな形)

乱雑に散りばめていると思っていた床の模様は、意外にも規則性があるかの様に見えた。
色の選別は不可解なものの、何かを表しているのだろうという意思だけは何となく分かる様な気がした。


だが、花陽にはこれが何を表しているのかは分からない。
ただ漠然と描かれているだけで、どんな形をしているのかと聞かれたら、恐らく何も答えられないだろう。
この絵を描いた本人の感性や心情などが読み取れなければ、理解するのは難しいのかもしれない。



花陽(……ことりちゃんなら、何が描かれてるのか分かるのかな)

花陽「……あれ?」


しばらく床を辿って歩いていると、色のついた床がぐるりと囲いになっている場所にたどり着いた。
明らかに何かあると主張しているかの様に、床の色は四角形を描いている。











花陽「こ、これって……自転車?」

窓付き「……」


少女は自転車を見つけると、それに近づき小さな手で触れる。







『★じてんしゃ★』








花陽「……」

窓付き「……」


少女は自転車に触れたことを確認するかのように掌を見つめ、そっと目を閉じる。
まるで何かを思い浮かべるかの様に、意識を集中している……花陽にはそう見えた。


花陽「あ、あの」 


――カッ


花陽「きゃっ!?」 ビクッ


一瞬、少女の身体が破裂した様に光を放った。
眩しくて目を逸らした花陽だったが、もう一度少女を目にすると、驚きを隠せなかった。



花陽「そ、その自転車……どうして」

窓付き「……」



質問の答えは返ってくることは無く、逆に少女は花陽に何かを訴えかける様にじっと見つめた。
目線の先は、花陽の身体と、自転車のリアキャリア……荷台に向けられている。



花陽「こ、ここに……乗ればいいの?」

窓付き「……」 コクン

花陽「え、えっと……し、失礼します」

窓付き「……」 グッ

花陽「わあっ!」



花陽が自転車に乗ると、少女はペダルに足をつけ漕ぎ始めた。
二人乗りという女の子の身体には相応しくない、ましてや自分より大きな人間を後ろに乗せているにも関わらず、少女は軽々とペダルを踏んでいく……。



花陽「す、すごい……」


花陽はただ呆然と感心しながら、少女の肩に手を置きその身を任せた。

窓付き「……」

花陽「……」



……お互い無言で不気味な世界を、自転車で進む。
居心地が悪い訳では無いが、何か喋らなければ……と考えても何も浮かばない。
そんなモヤモヤとした感情を抱きながら、花陽はほぼ移り変わりの無い景色を眺めていた。



花陽(この子、一体どうするつもりなんだろう……)

花陽(花陽に変な扉を開けさせて……一緒に歩いて)

花陽(まるで……この世界を案内してるみたい)



沢山の扉、不気味な世界、少女……
どれも花陽の理解を超えており、次々に起こる不可解な減少、少女の意図、自分自身の行方……数え出すとキリがないくらい、疑問は湧き出てくる。














花陽(ここは結局……何処なのかな)

花陽(あまり考えない様にしてたんだけど……やっぱり)

花陽(夢の中……なの?)




やがて自転車に乗った二人は、元来た道を辿り、この世界の入り口である扉を開けて最初の場所へと帰った。

‐扉部屋‐





花陽「…あの、次は何処に」

窓付き「……」


自転車から降りると、少女は立ち止まり辺りの扉を見回した。
どれにすれば……という迷いの様子は無く、ただ無機質に何かに則った選び方をしている様に見える。


窓付き「……」


やがてどれにするか決めたのか、少女は自分の部屋への扉付近まで歩いていく。
立ち止まった先は濃い緑と茶色で模様された、まるで木の様な扉。



窓付き「……」

花陽「ここ、ですね。……分かりました」

花陽「……」 ガチャ



……花陽がドアノブを捻ると、先程の場所に入った時と同じ様に暗闇の中へと吸い込まれていく。
慣れない感覚に少し気分が悪くなるも、何とか我慢して次の場所へと導かれていった。











花陽(……どうして花陽は、この女の子の言う通りにしてるのかな)





ぐ に ゃ り






・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・

今日はここまで
続きはまた明日

ごめんなさい今日明日ちょっと更新できません
木曜日書きます


‐森の世界‐


花陽「こ、ここは……」

窓付き「……」



扉の先は、沢山の木々が生い茂る世界だった。
姿勢正しく伸びた真っ直ぐな木、地面の至る所に勝手気ままに生えている雑草……
正にこの世界は森と言う言葉がぴったり当てはまる。そんな場所である。




花陽「あれ?でも……」




だが、森というには何かが足りない……花陽はそんな気がした。
辺りは夜なのか薄暗く、明かりの様なものはない。
自分たちの周りはとても静かで、逆にその静かな雰囲気が不気味さをより増幅させている。




花陽「……!」

花陽(そ、そうだよ……ここ、静かすぎるよぉ……!)

花陽(森なら虫や動物の鳴き声がするのに……ここはそんな音一切してない)

花陽(ううっ、やっぱりここもどこかおかしい……)

窓付き「……」




自分の知っている森との差に違和感を覚え震える花陽を余所に、少女は何一つ変わらない顔で森の中を歩いている。
途中、歩くのに疲れたのか、先程の場所と同じように輝き自転車を生み出し、花陽を乗せて進んで行った。
土の無い森の中を、少女と花陽は自転車で走っていく……。




キコキコキコ…







窓付き「……」 ピタッ

花陽「え、どうして止まって」




花陽「――ひっ!?」




しばらく進むと、少女は自転車を止め【それ】に目を向ける。
……自分達の二倍近くの大きさの、不気味な物体に。

窓付き「……」

花陽「あ、あわ、あわわわ……」 ガタガタ




立ちはだかったそれは、二人を見下げゆらゆらと動いている。
大きく吊り上がった眼が雑に絵描かれて、口から血の様な液体を吐き地面に溢している。
……何処をどう見ても、幽霊としか言えない形をしていた。




窓付き「……」

花陽「えっ……こ、これに……え、えっ!?」




少女は幽霊を見つめると、手を伸ばし触れようとした。
恐ろしくて震え上がる花陽にも同じ動作をするよう促すが、頑なに首を横に振る花陽を見て諦めた。



――ピトッ



窓付き「……」 ユラユラ

花陽「     」 ユラユラ




少女が触れると、幽霊は少女の頭の上に取り付く。
……同時に何故か、花陽の頭上にも幽霊が現れていた。




花陽「は   はははは    あはははは……は」

窓付き「……」




少女は自転車を呼び出し、花陽を乗せ森の奥へと漕ぎだした。
二つの幽霊を頭に乗せて……。

キコキコキコ……




窓付き「……」

花陽「あ、あああああのこれこれこれ、どどどどっどうやって取れれれれれ」 ガタガタガタ




頭の上でいつまでも付きまとう幽霊に怯えながら、花陽は少女にすがる様に問いかける。
無論、返事など返ってくる事無くただただ怯えるだけの結果となった。


キキッ



花陽「ぴゃあっ!?」

窓付き「……」

花陽「ど、どうして止まって……あれ?」




少女が突如自転車を止めると、足元に何かが動いているのに気付く。
気になったのか、花陽は膝を曲げよく見える位置にまで顔を近づける。




花陽「……かえる?」

窓付き「……」




少女は先程の自転車の様に、カエルの身体を触れた。





『★かえる★』





――カッ



花陽「きゃっ!?ま、またぁ!?」



少女は触れた途端、光を放つ。
光に驚いて咄嗟に目を瞑った花陽だったが、やがて更に驚く羽目になる。 




窓付き「   」 ゲコ

花陽「    」




少女の顔は、カエルになった。
何処をどう見てもカエル。それしか言いようがない。


……花陽はこれを見て、よく気絶しないな私。と心の中でひっそりと自分を褒め称えた。


――



窓付き「   」 ゲコ

花陽「……あ、あの」

花陽「元に、戻って下さい……それ、ちょっと」



――カッ



窓付き「……」

花陽「……ふぅ」




カエルの姿から元に戻った少女は再び花陽と一緒に森の中を歩き出す。
だが、頭上の幽霊は未だ消える事なくゆらゆらと浮かんでいるので、状況は左程変わっていない。
花陽は溜息をつきながらも、重い足取りで森の中を歩いていた。




花陽(……でも、この子)

花陽(花陽が言葉で話したら、ちゃんと聞いてくれる)

花陽(少なくとも……花陽の事、嫌いじゃないのかな?)




少女を横から覗く様に見つめてみる。
開いているか開いてないのか分からない位目を細めている彼女だが、足はふらつきもせずにしっかりと地面を踏みしめている。
綺麗に結ってある三つ編みが歩く度にぴょこぴょこと揺れるので、その姿に少しだけ和んだ。




窓付き「……?」

花陽「あ、ご、ごめんなさい。気になったよね……?」

窓付き「……」

花陽「……ふぅ」




やがて二人は、森の中で不自然に立てられた二つの柱に辿りつく――。


花陽「……ここ、潜るの?」

窓付き「……」




規則正しく並んでいる二つの柱は、まるで人一人が通る門の様に見える。
少女は頷きはしないが、じっとその門の先を見つめていた。


……少し、彼女の目に濁りがある様に見えるのは、勘違いだろうか。




花陽「……あの、大丈夫。ですか?」

窓付き「……」




深呼吸をすると、花陽は門の中へと一歩踏み出した。
何が来てもいい様にと覚悟を決めるが、どうしても緊張や不安で身体を強張ってしまう。




花陽「すぅー……はぁー」

花陽「……よし」










花陽「……いきます」

窓付き「……」 テクテク



花陽はもう一度自分に覚悟を決めさせ、門を潜る。
二人の身体は再び闇へと消え、別の場所へと飛ばされていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・




花陽「こ、ここは……」

窓付き「……」




門を潜り抜けると、見た事も無い光景が広がっていた。
真っ黒な地面、顔の様な絵に動物の牙が巨大化した様な大きな針……。

まるでそれは、鬼の角の様に絵の額に生えていた。




花陽「こ、これ……なに」 ピトッ

花陽「ひっ!?」



花陽は壁だと思い触れた物は、鬼の角だと思われる大きな針。
それは絵にだけではなく、この場所をぐるりと囲む様にびっしりと生えていたのだ。



どくん、どくん……




花陽「はっ…はっ…!」

花陽(ど、どうしよう…ここ、すごく怖いっ……!)



先程の場所とは明らかに違う危険な雰囲気に、花陽は思わず怯んでしまう。
どくん、どくんと心臓が高鳴り、次の一歩がなかなか踏み出せない。

 

花陽「あ、あのっ……やっぱり戻っても」

窓付き「……」 コク



花陽の恐怖感を感じたのか、少女は言葉に頷き門に戻ろうとする。


……が、振り向いた所で足を止めた。



花陽「へっ?あ、あの……」



花陽が不安そうに声をかけようとした、次の瞬間――




     ドッ

ド

   
         ド
    ド


 ドッ


     ドッ




花陽「――ひっ!?」



前から何かが近づいてくる。
違う。近づいてくるなんて生易しいものではない。
敵意、明らかな敵意を表した何かが襲い掛かってくる。



人間?違う。人間はあんな巨大な目をしていない。

鳥?違う。鳥は人間の服を着たりしない。




花陽「と、鳥のっ……人間……っ!」




鳥の様な嘴、血走った眼、早い足取り。

見た事も無い化け物が、花陽に向かって襲い掛かる。



花陽「はっ  なっ  あっ…あっ…!」 

花陽「い、いやっ……いやぁっ!!」



身体が無意識に動く。
先程まで動かなかった足は、危険を目の前にして驚くほど簡単に動いた。



だが、鳥の化け物の足は想像以上に素早く、全力で走っているのにも関わらず変わらぬ足取りで距離を縮めて来る。

顔色も変えず、声も音も出さないそれに追いかけられていると言う事実が、花陽を恐怖で包み込んだ。



花陽「ひ、ひっ!?あ、ああああっ!や、やめっ…!来ないでっ!」

花陽「や、やだっ…!やだやだやだ……っ!!」



縮められる距離。増幅する恐怖心。
もう駄目だと心の中で諦めかけたその時―。





窓付き「……!」 ギュ



――グワッ



花陽「ひっ!あっ!?」
花陽「な、なに――」
花陽「が」






隣で一緒に走っていた少女が化け物に捕まり、そして消える。

それを見て振り向いた花陽は、逆方向から襲ってきた……







【もう一匹】の化け物に。首を掴まれ――

ここまで






「いやあぁっ!!」








花陽「…っ ……っ!」 ガタガタ




化け物に襲われ悲鳴を上げた。
振り向いた瞬間、あの恐ろしい嘴が目と鼻の先にまで近づいてきた。
そのまま刺されてしまう勢いで向かってきたので、思わず目を塞ぎ倒れた。




花陽「……あ、あ  れ」




しかし、花陽の身体は傷一つ付いていない。
あれだけ鋭利な凶器で刺されたのならば、血の一つでも流している筈だ。
……花陽は身体の隅々まで確認したが、何処にも異常は見当たらなかった。




――異常なのは、自分ではなかった。











花陽「こ、ここ……」

花陽「どこ……ですか」



花陽は、角が引き締められたあの場所には立っていない。
血の滴る様な赤く、焼け焦げたかの様な黒く、歪な壁。


それはまるで、地獄の様な光景が広がっていた。

花陽「え   えっ」



変わっていたのは、場所だけではない。
動けない。動くことが出来ない。
今まで目を眩ます様な広い空間だったのが、一歩も動けない場所へと飛ばされてしまった。



花陽「こ、これ……」

花陽「どうすれば……いいの?」



ずっと傍にいた少女も居ない。周囲を確認する事も出来ない。
あるのは自分の身体と、不気味な赤黒い壁だけ。






花陽「…で、きない」

花陽「こんなの……どうする事もっ……」



ぺたり、とその場で座り込んでしまう。
いくら頭を使っても、この状況を打開する考えなど浮かんでこない。



花陽「う……ぁ……」

花陽「嫌……もう、嫌ぁ……っ」 ポロポロ



今まで我慢していた涙が一気に溢れる。
私は一体どうなってしまうの?このまま訳の分からない場所に閉じ込められてそのまま死んでしまうの?
次々と浮かんでくる絶望に、答えが出てくる事はなかった。



花陽「あ……あっ……うぁ……っ」

花陽「っか……ぇ……か……っ」



……そしてそれは、声となって吐き出された。













『誰かっ!誰か助けてえええええええええええええええええええええっ!」












.


――ドサッ




花陽「……」

花陽「……ぅ」

花陽「ぁ……れ」




バサッ!




花陽「あ……あれっ?」

花陽「なんで……え、私……」

花陽「……」




花陽「……もしかして、夢。だった……?」

花陽「でも、あんな変な夢……」










花陽「……あ」

花陽「学校……行かなきゃ」


‐教室‐



キーンコーンカーンコ-ン…



凛「うーっ!やっとテスト終わったにゃ~」 セノビッ

真姫「凛、おへそ見えてる」

凛「えっ!?ちょっ!真姫ちゃんどこ見てるの!?変態さんなのっ!?」

真姫「貴女がだらしなくしてるからでしょー!?人を勝手に変態にしないで!」

凛「でも凛が背伸びしただけですぐお腹に目がいくだなんてやっぱりおかしいじゃん!」

真姫「べ、別におかしくなんてないわよ!たまたま目に入ったのだから仕方ないでしょー!?」

凛「キューティパンサー怖いにゃーおっそろしいにゃーその内凛は真姫ちゃんに食べられちゃうにゃー」

真姫「食べないわよっ!」

凛「くわばらくわばら……ここは一旦かよちんと避難!かよちん部室まで一緒に行こー!」












花陽「……」

凛「かよちん?」

花陽「……え?」

真姫「どうしたのよ?元気ないじゃない」

花陽「あ、ううん。えへへ」

花陽「ちょっとぼーっとしてただけだから……大丈夫だよ」

凛「ホントにー?また変なもの拾って食べたりしたんじゃ」

真姫「貴女、花陽を何だと思ってるのよ……」

花陽「あはは…平気だよ」

凛「ちょ、ちょっとかよちん!そこは『タベテナイヨォ!?』って返してくれないと凛も困っちゃうよ…」

花陽「あ、うん」

花陽「ごめんね……部室行く前に、ちょっと保健室に行ってきます」

真姫「大丈夫?一人で行ける?」

花陽「うん。大丈夫」

凛「えっと、何かあったらすぐ電話してね……?」

花陽「うん。…凛ちゃん、真姫ちゃん。ありがとう」

花陽「……行ってきます」


ガララッ…ピシャ











真姫「……どうしちゃったのかしら」

凛「うーん……」


テクテク…



花陽「……はぁ」



花陽(うう……頭が重い)

花陽(昨日変な夢見ちゃってから……全然元気が出ない)

花陽(授業も集中出来なかった……今度真姫ちゃんにノート見せて貰わないと)

花陽(…二人に、迷惑かけちゃった……かな)

花陽(後で謝らなきゃ……)




花陽(モヤモヤする……)

花陽(夢の話だから……あまり気にしなくてもいい筈なんだけど)

花陽(あんな夢……生まれて初めて、見たから)

花陽(凄く……嫌で……苦しい)













花陽「……」

花陽「誰かに、相談したほうがいいのかな……」

花陽「……」

花陽「あはは……無理だよね。夢の相談なんて」

花陽「あんな夢……他の誰かに相談しても、変な子だって思われちゃうだけだし」

花陽「もう、忘れないと……」





――ガラッ!

‐保健室‐


花陽「失礼します……」


「あれ?花陽ちゃん?」


花陽「えっ?」









ことり「んしょ……あっ、やっぱり花陽ちゃんだっ」

花陽「こ、ことりちゃん…?」

ことり「うんっ。花陽ちゃんどうしたの?具合悪いの?」

花陽「う、うん…ちょっとだけ」

ことり「えっと、ちょっと待っててね。ここの荷物、片づけちゃうから」

ことり「んっしょ……あれ?重い……んんーっ!」 ググッ

花陽「え、えっと……お手伝いします」

ことり「え?でも…花陽ちゃん具合悪いんじゃ」

花陽「み、見てるだけだとその、お、落ち着かないっていうか……」

ことり「うーん……じゃあ、無理が無い程度に手伝ってくれる、かな?」

花陽「は、はいっ!」

ことり「ありがとう♪じゃあこっちの段ボールは……」


――



ことり「んっしょ!……はい、これでおしまい」

花陽「はぁ、はぁ……」

ことり「あっ!花陽ちゃん大丈夫!?ごめんね働かせすぎちゃって……」

花陽「う、ううん!全然平気だよぉ」

花陽「寧ろ、身体を動かしたから……ちょっと気分が良くなった気がします」

ことり「本当に……?」

花陽「うん。花陽は大丈夫です。ふぅ……」

ことり「良かった~……あ、先生が帰ってくるまでゆっくりしてていいよ?」

花陽「あ、はい」

ことり「ことり、ポット取ってくるねっ」






花陽(……やっぱり、そんなに気にする事じゃ、ないかな)

花陽(ちょっと運動したら、気分が軽くなっちゃったし。やっぱり考え過ぎだったんだ)

花陽(……ちょっと休憩したら、部室に行こうっと)





ことり「お待たせ~。紅茶でいいかな?」

花陽「あ、はいっ!ありがとうことりちゃん」

ことり「お礼を言うのはことりの方だよ~」

花陽「は、はうぅ……」

ことり「それにしても、花陽ちゃんどうしたの?保健室に入って来た時凄い顔してたから……」

花陽「そ、そんなに?」

ことり「うん。何だか大好きなごはんが食べられなかったみたいな~…そんなこの世の終わりみたいなぁ」

花陽「花陽の世界の終わりってそんなに低レベルなのぉ!?」

ことり「えへへ♪ちょっと言ってみただけだよ♪」

花陽「も、もうっ!ことりちゃん…!」

ことり「花陽ちゃん可愛い~♪」 ツンツン

花陽「や、やめて……ください」






ことり「……うん、もう元気いっぱいかな?」

花陽「えっ?」

ことり「落ち込んでる時は、誰かと一緒に居る方が気持ちが楽になるから…」

ことり「ことりが花陽ちゃんに、元気を分けてあげました」

花陽「ことりちゃん……」

ことり「うんっ。花陽ちゃんはにっこり笑ってる方が可愛いよ~」

花陽「……はいっ!」

ことり「でも、本当に大丈夫かなって思ったよ~」

花陽「えへへ……ごめんなさい」

花陽「今日、ちょっと夢見が悪かっただけで……」












ことり「……夢?」

花陽「うん。何だかいつもと違う、おかしな夢を見たんです」

花陽「変な世界に閉じ込められて……お化けに取り付かれたり、追い掛け回されたり……怖かったなぁ」

ことり「えっ……お化け?追いかける……えっ?」

花陽「それで、その後は変な場所にワープしちゃって……」

花陽「周り、壁だらけで……花陽、怖くなって泣いちゃったんです」

花陽「そうしたら……いつの間にか、夢から覚めちゃって」

花陽「あはは……おかしいよね。いくら夢でもこんなへんてこな夢……誰も見たりしないよ」







ことり「……花陽ちゃん」

花陽「えっ?は、はい」

ことり「ちょっと、待っててね」

花陽「う、うん…」

ことり「……」 バサッ


カチッ カチッ


サラサラサラ……











ことり「……花陽ちゃんが見たお化けと、化け物って」

ことり「もしかして……この絵の二つ、かな」

花陽「……えっ」



ことりちゃんの絵をみて、私はびっくりしました。
プリントの裏に描かれてたのは、花陽が居た夢の中の景色。
あの大きな森の中に、大きなお化け。――そして、目と嘴の大きな鳥人間。




花陽「こ……ことりちゃん?」

花陽「どうして……花陽の夢の事、知ってるの……?」

ことり「そ、それじゃあ…やっぱり」

ことり「あの女の子の隣に居たのは……花陽ちゃんだったんだ」

花陽「そ、そうだけどっ!ええぇ……!?」




ことりちゃんはなんと、花陽の昨日の夢を見ていたらしいのです。
あの女の子と変な色の場所や、おばけの住んでいる森の中を歩いてる花陽の事を――。





花陽「ど、どこまで知ってるの……?」

ことり「あ、えっとね」

ことり「花陽ちゃんが変な色の床を歩いてた所……からかな?」

ことり「それからは、あのへんな赤い迷路に閉じ込められるまで……ずっと」

花陽「……どんな風に、見えてました?」

ことり「よく、分からないんだけど……」

ことり「ことりの目からは……なのかな?」

ことり「女の子と花陽ちゃんとは、少し離れた所で……自分から歩いたり、話しかけたりは出来なかったの」

ことり「例えるなら……うーん」

ことり「二人の様子を、二階の窓から眺めてる様な……そんな感じ」




ことりちゃんはちょっと困った様子で、花陽に夢の話をしてくれました。
二階の窓から、かぁ……。どうりで花陽は気づく事が出来ない筈です。




花陽「でも、どうしてことりちゃんだけ……」

ことり「花陽ちゃん、ごめんね。何だか花陽ちゃんの夢、覗き見しちゃったみたいで……」

花陽「う、うううううんっ!?全然構わないよ!わざとじゃないんだし!」

花陽「それに……」




あの夢の中の事――花陽だけが分かってても、他のみんなには分からないから、相談するのが億劫になってた。
でも、夢を見ていたのは、花陽だけじゃなかった――それを知れた事が、花陽にとってすっごく安心できる事。












花陽「……ぐすっ」

ことり「は、花陽ちゃん!?」

花陽「ひっく……ご、ごめんなさい……」

花陽「えぐっ……私、昨日の夢の事……誰にも……言えなくて……」

花陽「でも……私、すごく怖くて……ずっとっ……どうしようってっ……!」

一度言葉に出すと、次々に言葉が出てくる――。
今までこんなおかしな夢を、見たことなかったから、とっても怖かった。
でも、それは花陽だけの事じゃなくて――ことりちゃんも一緒だった。



それだけが、たったそれだけの事が、花陽にとっての救いでした――。





ことり「……」 ギュ

花陽「ひっくっ……ふぇ」

ことり「よしよーし。花陽ちゃん、もう泣かないで」

ことり「大丈夫。ことりは、花陽ちゃんの事、ちゃんと分かってるよ」

花陽「えぐっ……ひっ……ことりちゃん……ことりちゃんっ……!」

ことり「うん。うん……」

花陽「ひっ……うっ…あ……あああっ……!」

















花陽「ッ……ヒック」

ことり「落ち着いた?」

花陽「はいっ……ごめんなさい」

ことり「……そろそろ練習、始まっちゃうから」

ことり「夢の話は、またその後に、しよう?」

花陽「……うん」

ここまで


‐放課後、屋上‐


海未「…はい、では今日はここまでにしておきましょう」

絵里「みんなお疲れ様。帰ったらゆっくり休まないと駄目よ?」

凛「疲れた……もうだめにゃ~」

にこ「だ、だらしないわねぇ~?にこはまだ大丈夫にこぉ……にこぉ」

真姫「声が死んでるじゃないの」

穂乃果「今日はとってもいい勉強になったよ~!ありがとうことりちゃん!」

ことり「どういたしまして♪ことりでいいならいつでも付き合うよ~」






花陽「…ふぅ」 フキフキ

凛「かーよちんっ!一緒に帰ろ?」

花陽「えっ?あっ……ごめんね凛ちゃん。今日はちょっとダメ……かも」

凛「えっ?どうして?」

花陽「あ、え、ええっと……まだ学校に用事があって……」

凛「あっ、また先生に呼ばれたのー?かよちんあんまりいい子にしてたらそのうちずっとこき使われちゃうにゃー」

花陽「あはは……うん、気をつけるね」

絵里「じゃあ、今日はこれで解散。みんな帰る準備しましょう」

穂乃果「はーい!」

‐部室‐



ガチャ



花陽「……もう、誰もいませんよね?」

花陽「ことりちゃん、大丈夫かなぁ……」

花陽「ちょっと座って待ってようかな」




ギシッ





花陽(……)

花陽(ことりちゃん、花陽の夢で気になる事あるって言ってたんだけ、何だろう?)

花陽(そもそも、どうして花陽の夢にことりちゃんが……うーん)






花陽(……花陽としては、もう忘れたいな)

花陽(どうせ夢だし……辛い夢もあれば、楽しい夢もあるから)

花陽(うん。今日は絶対いい夢をみます!花陽、ファイトです!)




ガチャ




ことり「ふぅ~。お待たせ花陽ちゃ~ん」

ことり「穂乃果ちゃんと海未ちゃんに色々聞かれちゃって……」

花陽「ことりちゃん!」

ことり「よいしょっと……ごめんね残らせちゃって」

ことり「どうしても気になった事があったから……」

花陽「ううん、全然構わないよ!」

ことり「ありがとう♪じゃあ、始めちゃうね」

ことりちゃんは花陽に分かりやすいようにと、イラストブックと色鉛筆を出してくれました。
そして、さらさら何かを描き始めます。赤、青、黄色――何色もの色を使い分けながら。




ことり「……ことりもね、うろ覚えだからあんまり自信ないんだけど」 

ことり「花陽ちゃんから見たあの変な色の世界は、何が描いてあるのか分からなかったんだよね?」

花陽「……うん」




花陽が見て感じた事を、ことりちゃんに正直に話しました。
女の子、扉、音が鳴る色のついた床、森、鳥人間――。
思い出しただけで、ぶるっと震えてしまう。とっても怖い夢。




ことり「……花陽ちゃんを最初に見た場所。色んな色の床、だっけ」

ことり「ことりの目からは、こんな大きな……【絵】に見えました」

花陽「えっ…?」




イラストブックには、色に色を重ねた色――まさにあの世界の色と全く一緒の、目に悪そうな色。
でも、その色の紙を遠くから眺めて見ると。なんと二つの絵が出来上がったのです。




花陽「こ、これは……何?」

ことり「ことりも分かんないよ……でも、こう見えたの」

ことり「お猿さんの尻尾みたいな生き物……身体はぐちゃぐちゃだけど、手足と顔ははっきり描かれてて」

ことり「右の絵は……蛇みたいなながーい身体に、アンコウみたいな触覚、それに顔」

ことり「このアンコウの提灯の部分で、花陽ちゃんと女の子が自転車に乗ってたのを見たよ」

花陽「猿……蛇……?」




ことりちゃんの絵は、言葉にするのが難しくて、でも、ことりちゃんの言ってる事は正しくて。
猿の絵は笑ってるのに、蛇の絵は怒ってる様にも見えて――。
本当に、何を表してるのか、全然分かりません。

花陽「……」

ことり「花陽ちゃん、この絵に見覚えは……ないよね」

花陽「……うん」

ことり「そっか……でも、本当に何なんだろう。これ」

ことり「それに、花陽ちゃんにはあの時に見えなくて、ことりにだけ見えたのもすごく変な話だよね」

花陽「そう、だね……本当に、どうして」




花陽の夢なのに、花陽には見えなくて、ことりちゃんには見えた。
これがどういうことなのか全然分からなくて、でも、何か引っかかります。
花陽にこの絵は見覚えありません。花陽が知っているなら、夢でもちゃんと認識出来ている筈です。




花陽(……じゃあ、この絵は)

希「おっ、何だか面白そうな事してるね」

花陽「ぴゃあっ!?」 ビクッ

ことり「の、希ちゃん!?」

希「はろはろー♪お二人さん練習終わったん?」

花陽「う、うん……どうしてここに?」

希「んー?生徒会の(サボってた)仕事がやっと片付いたから、部室に荷物取に行こうかなって思って」

花陽「そ、そっか……お疲れ様です」

希「ありがと♪それにしても……」

希「うむむ……これはかなりスピリチュアルな絵やね」




希ちゃんはことりちゃんが描いた絵をマジマシと見ると、とても興味深そうな顔をして言いました。
スピリチュアルな絵ってなんだろう。何か変な妖気でも感じるのかな――って、それは違うよね。




希「これ、誰が描いたの?」

ことり「えっと、これはね……」

花陽「は、花陽の昨日見た夢の中の出来事を、ことりちゃんに絵にして貰ったの」

希「夢?」

花陽「うん、花陽からは全然よく分からなくて……」

希「うーん。どれどれ……」











希「猿の絵は、まぁ分かるけど」

希「……右の絵、なーんか嫌な想いがひしひし伝わってくるなぁ」

花陽「嫌な想い……?」

ことり「どういう事かな?」

希「うーん、本当に何となくなんだけど」

希「右の絵だけだったり、猿の絵単体だけだったら、そんなに気にすることでもないと思うんよ」

希「でも……」



希ちゃんは少し言いにくそうに口ごもって、なかなか話してくれません。
なんだろう……私たちには言いにくいことなのかな?



ことり「悪魔とか、呪いみたいな事かな?」

希「ううん、そういったものでもないんやけど……」

希「……不快、いや、不潔……?」

花陽「……?」

希「……ごめん、うちもあまり上手く言い表せれないかな」

ことり「そっか……」




希ちゃんは申し訳無さそうに謝ってくれたけど、花陽は気にしていません。
それより、希ちゃんが言ったことの方が気になってしまいました。
不潔、不快、希ちゃんはどうしてそう思ったのか、ーー花陽には分かりません。

希「それで、この絵は花陽ちゃんの夢に出てきたのかな?」

花陽「あ、はい。えっと、これだけじゃないんだけど……」

希「……」

ことり「希ちゃん?」




少し考える様な素振りを見せる希ちゃん。
どうやら花陽の夢の世界の絵を見て、思うことがあるみたい。




希「……夢っていうのは、人の心の中そのものを映す鏡みたいなもの」

希「これを花陽ちゃんが見たって事は、花陽ちゃんの心の底の何処かにこの絵と通じる経験や体験したって事かもしれない」

花陽「……」

希「ふふ、そんな怖がらなくてもええんよ」

希「時には他人の出来事を見て、まるで自分が体験した様に夢の中で再現されてしまうって事もあり得るんやから」

希「全部が全部、花陽ちゃんが気にする事でもないってうちは思うよ」

ことり「そっか、凄くびっくりした事を見ちゃった時って、脳に焼き付いたみたいに頭の中でイメージ出来ちゃうから……」

希「うん、そういうこと」

希「そんな時は、違うことで気を紛らわすことが一番!」

希「例えばこうやってぇ……ことりちゃんのおっぱいをぉ~」

ことり「ぴぃっ!?」

希「うりゃー!わしわしMAXやー!」

ことり「やーん!やめてぇ~!!」















花陽「……他人の、出来事」

ここまで、続きは明後日


ーー


花陽「今日はごめんね、色々協力してもらっちゃって……」

ことり「ううん、力になれたのなら、とっても良かったかな」

花陽「はい!お陰でちょっと元気が出ました!」




希「花陽ちゃん、あんまり気にし過ぎちゃいかんよ」

希「嫌な事があった時は、誰かに吐き出すのが一番やんな」

花陽「うん、分かったよ希ちゃん」

ことり「じゃあ、ことり達こっちの方角だから……」

希「ほなーまた明日ー」

花陽「さようなら、また明日っ」














花陽「……ふふっ」

花陽(ことりちゃんに相談して良かった。希ちゃんもすっごく親身になってくれたし)

花陽「あっ、凛ちゃんと真姫ちゃんにメッセージ送っとかなきゃ……迷惑かけちゃったし」

お友達に悩みを打ち明ける事が出来て、私は少しだけ安心しました。
本当はちょっとだけ怖かったけど、二人とも変な顔一つしないで聞いてくれて。
なんだかちょっと、嬉しかったです。




花陽(明日、凛ちゃん達にもこの事話してあげないと……笑われちゃうかな?ふふっ)

花陽「あれ……?」




花陽が帰り道を歩いていると、昨日通ったアパートに着きました。
日の当たらない暗い場所だったけど、昨日とは少し様子が違っています。




花陽「これ、日記帳……?」

花陽「昨日からあったのかな……?全然気がつかなかった」




よく見ると、花瓶の花も入れ替わっていて、誰かが此処に来て綺麗にしてくれたみたいです。
花の種類は相変わらず夜顔でしたが、周りのゴミもきちんと掃除してあってーーご遺族の方かな?




花陽「……」

花陽「この、日記帳」




暗い場所に置いてある一冊の白い日記帳。
どこか悲しいこの雰囲気にはあまり似合わなくて、不自然。
それはまるで、この日記帳だけが、世界から切り離されているようなーー。

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・




花陽「ーーっ!?」

花陽「あ、あれ……わたし」

花陽「どうして……日記帳……持ってきて」



気がつくと私は、あの場所から日記帳を持ち出して、随分と時間が経っていました。
知らない人の、しかも遺品かもしれないものを拾って、家に持ち帰るだなんてーー考えられません。



花陽「す、すぐに返しに行かないと」

花陽「……っ」




日記帳を手にして外に出ようとしても、何故だか身体が動かなかった。
絶対このまま持っていたらダメ。そんな事分かってるのに。




花陽「……」















ーー足が、動かない。

日記帳を机に置いて、私はベットに寝転がりました。
手から離した瞬間、身体の重さがすぅっと抜けて、楽になります。



花陽「……大丈夫、だよね」



気にしてはダメ。折角ことりちゃんと希ちゃんが力になってくれたのに。
電気を消して、お気に入りのクッションを横に添えて、お布団をかける。
頭の中を真っ白にして、すやすやと、夢の中に――夢の中。







花陽「……」

花陽「もう、夜遅いし」

花陽「明日、朝起きたら、ちゃんと元の場所に返そう」

花陽「だから、今日は……」









花陽「おやすみなさい」










・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・





すやすや  ねむろう





なにもかも わすれて





ほらみて きれいな





ゆめいろ の そらさ







.

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・



-ベランダ-



花陽「……」



ムクリ



花陽「……嘘、だよね」

花陽「どうして、またベランダにっ……」




目が覚めると、花陽は昨日と同じ場所で倒れていた。
古い換気扇、錆び付いた手すり、淀んだ空……
全てが全て、昨日の夢と何らかわらなかった。




花陽「……」

花陽「やっぱり、開いてる」




部屋に繋がる窓は、半開きのまま。
相も変わらず先は見えず、その先の場所は分かっている筈なのに恐怖が募る。




花陽(……行きたく ない)

花陽(こんな夢……もう見たくなかったのにっ……どうしてっ……!)




足が竦み、震える。
自分でも実感できるほど心臓の音を高鳴らせ、頭がこの現実を拒絶しろと命令している。




花陽「ひっく……ぐすっ……ぅ」

花陽「嫌だぁ……やだよぉ……」




……泣こうが喚こうが、歪んだ空間は変わらない。
為にし頬を抓ってみても、痛みを感じない夢の中では全くの無意味であった。

花陽「……」

花陽「もう……これっきりにして下さい……もう……っ」





その足は前に進み出す。
この不可思議な夢から抜け出す為に――。


-部屋-




花陽「お、お邪魔します……」




部屋は、何も変わっていなかった。
乱雑に置かれた座布団には使われた痕跡は無く、昨日と同じ場所に散らばっている。




花陽(……他に、誰か部屋に来てないのかな)

花陽「あっ」




花陽がベッドを覗くと、掛け布団が少し膨らんでいる事に気がついた。
規則正しく、それでいて微かに上下するそれを見て花陽はこの部屋の持ち主に気がついた。



……スゥ スゥ




花陽「……眠ってる」

窓付き「 ……」




小さな寝息を立てて寝ているのは、昨日の様々な場所を一緒に歩いた女の子だった。
花陽の存在に気がついたのか、細い眼を手で擦り静かに起き上がった 。


窓付き「」

花陽「あっ、ご、ごめんなさい……」

花陽「起こしちゃった……かな?」




申し訳なさそうに謝り彼女の機嫌を伺う。
別段と悪い様子でも無さそうに布団を雑に跳ね除けると、スクっと立ち上がり。




窓付き「……」

花陽「……?」




……花陽を、じっと見つめ始めた。





窓付き「……」

花陽「あ、あの……何でしょう?」




少女は見つめたまま、返事は返ってこない。
意図がつかめない行動に花陽は困りだすが、糸に引かれたかの様に少女は突然
部屋の扉まで歩き始めた。




窓付き「……」

花陽「……今日も、ここに入るんだ」




不安が胸に突き刺さり、一瞬怖気る。
少女自身がドアノブを握るのではなく、あくまでお前が開けろと視線を向けるのは昨日と全く同じだった。




花陽「……」

花陽「……行きます」




花陽は決まらない覚悟を決め、鉄の塊を手で捻る。
扉の向こうにある、扉を開ける為に――。


-扉部屋-




花陽「……やっぱり、ここも変わってない」

窓付き「……」 テクテク




禍々しい模様の空間に数ある扉……
居るだけで息が詰まりそうなこの場所に慣れることは恐らくないだろう。
そんな部屋の中を、少女は何も気にせず歩いてく。




花陽「本当に、何も気にならないんだ……」

窓付き「……」




正方形が幾つも並べてある味気のない扉。そこで少女は立ち止まる。
どうやら今日はこの扉を開けろと言いたいらしい。




花陽「……」




花陽も少女についていき、扉の前に立つ。
ドアノブを握ると、昨日と同じく嫌悪感が現れ、顔をしかめてしまう。




花陽「……っ」




開けてはいけないと身体が感じているのに、それを押し殺して背くのはかなりの勇気を要する。
胸に手を当てて、二度三度深呼吸を繰り返し、自分が生み出せる最低限の勇気を振り絞った。





窓付き「……」

花陽「大丈夫です。……行きます」




扉を開けると、世界が淀み出す。
闇に飲まれ、花陽と少女は次なる目的地へと招待されていった。


-ブロックの世界-



花陽「……う」

窓付き「……」




意識が戻ると、花陽は無機質な暗闇の世界へと招かれる。
昨日の様な多彩な色どりではなく、古代に描かれた土偶の様な絵が映し出されていた。




花陽「……?」




……だが、存在するものはそれだけではない。
むしろ白絵は背景だと主張する様に、ただ真正面を見つめじっとしていた。




花陽「これって……柱?」




目の前に飛び込んでくる無数の長方形……。
多いなどといった量ではない。白と紫だけで形成された柱の様な四角形のブロックが無造作に何個も置かれている。
法則性の様なものは無く、まるで子どもが積み木遊びをした後の様に組み立てられた世界だった。




窓付き「……」 テクテク

花陽「あっ!ま、待ってぇ……!」




少女はこの世界にも何も怖気つかずに歩く。
花陽もそれに置いてかれない様に付いて行った。


テクテク……

テクテク……



花陽「……柱ばっかりだなぁ」

窓付き「……」

柱、壁、柱……
歩き始めてから随分と経ったが、全く代わり映えしない景色に花陽は疲れ始めていた。
白と紫だけで構成されたこの世界に、一体何の意味があるのか……
勿論花陽には知る術など無かった。




花陽(……ここ、なんだろう)

花陽(ずっと歩き続けてると……とっても不安になる)

窓付き「……」 テクテク




時々、少女が後ろを振り向いて立ち止まり、花陽の方へ目線を向けている。
ちゃんと付いてきているのかを確認しているのかもしれない。




花陽「あ、あの。ちょっと休みませんか?」

花陽「ほら、あそこに丁度ベッドもあるし……」















花陽「……えっ?ベッド?」

窓付き「……」

無数ブロックの空間の中で、ステンレス製の小さなベッドを見つける。
白と紫の無機物しか見る事の出来なかったこの世界で唯一見つけることが出来た異物に花陽は安堵の溜息をついた。



花陽「……座ってもいいのかな」


ギシッ――。


質の悪いステンレスで出来た小さなベッド。座ると軋む音と共に布の柔らかさを感じることが出来た。
夢の中特有の「柔らかいと思ったら硬かった」などといったお約束も無く、自分がっているベッドの様だった。




花陽(……あれ)

花陽(この座り心地……何処かで)

花陽「あっ!」




よく調べてみると、このベッドは花陽があの部屋で座り込んだベッドとよく似ている。
似ているというより、形そのままこの場所に持ってきた様に全く同じものだった。




花陽「……このベッド、どうして」

窓付き「……」

花陽「?」

窓付き「……」 モゾモゾ

花陽「えっ?ね、寝ちゃうの?」

窓付き「……」

花陽「……」



少女は花陽を押し退けてベットに寝転がると、そのままシーツを被り潜り込んでしまう。
夢の中で眠る。とはよく聞く話だが、それを目の当たりにしたのは初めてだったのでどうしていいか分からず、花陽は立ち往生していた。




花陽「ど、どうしよう……」

窓付き「……」

花陽「……本当に寝ちゃったのかな」





ムクリ。





窓付き「……」

花陽「あっ」

花陽「……やっぱり、眠れなかったんだね」

窓付き「……」 コクン




少女はベッドから降りると、また道無き道を歩き始めた。
花陽は少女の見せる子どもっぽさに、少しだけ気を緩め少女の後を追った。



テクテク……




窓付き「……」

花陽(……あのベッド、花陽が初めて見たのは、この子の部屋)

花陽(その前に見た記憶は、ない。だって花陽のベッドは小さい時から木のベッドだったし)










花陽「……やっぱり、この夢って」

窓付き「……」 ピタッ

花陽「……?」




ブロックの壁の中を歩きながら考え事をしていると、いきなり少女が立ち止まる。
花陽は何事かと前を向いてみると、少女の目の前に何かが落ちているのを見つけた。




花陽「これって、マフラー?と……ニット帽」

窓付き「……」 スッ




自転車とカエルの時と同じ様に、少女はそれに触れる。
それと同時に身体から瞬間的な光を放ち、小さな変化を遂げた――。






『★ぼうしとマフラー★』



――カッ!




花陽「!」

窓付き「……」



少女の姿は、ワインレッドのマフラーと藍色のニット帽を身につけた、正に冬の日の外に出かける格好に変身した。
ただ普通に着替えるのではなく、いきなり変わった。と言ったほうが正しい。



窓付き「……」

花陽「わぁ……」




防寒具を身に纏った後、少女は花陽の目をじっと見つめる。
何も示さずに、ただじっと見つめているので、花陽に何か求めているようだった。




花陽「……えっと、とっても似合ってると思います」

花陽「マフラーも帽子も、とても温かそう……」




花陽がそっとマフラーに触れてみると、布の温かさではなく、人の温もりの様な温かさを感じた。
まるでこのマフラーに人の温もりが乗り移り、少女に温もりを与えているみたいに感じられた。




窓付き「……」 プイッ テクテク

花陽「あっ!ま、待ってぇ……!」




少女は表情を変えずに、またブロックの壁の中を歩き出した。
いきなり動き出したので、驚きながらも花陽はせっせと彼女の後を歩き始めた。



ここまで
遅筆でごめん

テクテク……

      テクテク……



花陽「……」

窓付き「……」



お互いに無言のまま歩いて随分と時間が経った気がした。
相変わらず当たりの景色に変化が無い。そろそろ何か変化があってもいい頃だが、二人はずっとこの不思議な空間をさまよっていた。



花陽(さっきの事で、怒ってたりしないかな……)






窓付き「……」

花陽「ふぅ」

窓付き「?」 クルッ

花陽「あっ、何でもないです。ちょっと歩き疲れちゃって……」

窓付き「……」

花陽「ここ、一体なんなんでしょうか……昨日の場所と一緒で、遠くから見たら何かの絵に見えちゃう……とか」

窓付き「……」



テクテク……



花陽(……気には止めてくれるけど、やっぱり何も喋ってくれないなぁ)




花陽は少し残念そうに少女の後ろに付いていく。
気のせいかもしれないが、少しだけ少女の歩くペースが縮んだ様な気がした。


花陽「……あれ?」

花陽「何か、見える……」




ふと遠くを見ていると、何かが動いている事に気がつく。
同じ足取りでそれに近づくと、その物体ははっきりと目に映り出した。












花陽「――っ!?」

花陽「えっ、えっ……!こ、これってっ……!」

窓付き「……」




花陽達の前に現れたのは、少女と同じマフラーと帽子を被った。




花陽「とっ……透明、人間?」




……「意味不明な何か」だった。



窓付き「……」 ピタッ

花陽「えっ、そ、それ……触っても大丈夫――」




少女がそれに触った次の瞬間、花陽と少女はその場から消えた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・




花陽「っ!?」

花陽「えっ?えっ!?こ、ここ何処……」

花陽「ぴゃあ!?た、高いっ…!私、何でブロックの上にっ…!」

窓付き「……」




気がつくと二人は、先程歩いていたと思われるブロック塀の上に飛ばされていた。
余りにも不可解な出来事な上に、狭い足場で足が震えあがっていた。




花陽「ひぃぃっ……!だ、誰かっ…!」 

窓付き「……」 スッ

花陽「えっ……は、あっ……」




少女が花陽の前に手を差し伸べた。
無表情に花陽に目を向けているが、急かす為に手を貸している様には感じられなかった。




花陽「あ、ありがとう、ございます……」

窓付き「……」 グッ

花陽「ひゃあ」




彼女の手に触れると、まるで人形の手に触れた様な冷たさを感じた。
一日目に手を引かれたときには、そんな事を気にする余裕が無かったのか、全くその様には感じ無かった。
が、その異様な冷たさに、花陽は益々この少女に関する理解が遠のいた様な気がした。

花陽(この子は、一体……)

窓付き「…?」

花陽「あ、ごめんなさい。先に進むんだよね…?」

窓付き「……」 コクン

花陽「スゥ……はぁ……」










花陽「……よしっ。大丈夫です」

花陽「えっと、改めてありがとうございました」 ペコリ

窓付き「……」 プイッ




少女は再び前を向き、ブロックの上をすいすいと歩き始めた。




花陽(……あ)

花陽(さっきの透明人間さん、私達の後ろに居る……)

花陽(あの人は、一体誰なんだろう……)




特に気に留めないで、少女は目的の場所まで歩いていく。




花陽「……あ、これって」

窓付き「……」




……やがて、昨日と同じ様な門の様な二本柱に辿り着いた。

間を空けてしまってごめんなさい
今日の夜更新します

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