魔人「お呼びでしょうか御主人様」 男「………」 (23)

魔人「さあ、何なりと御命令を」

男「………」

魔人「如何なさいました、御主人様? 御顔色が優れないようですが」

男「(何なんだよこいつ。いかにも『ランプの魔人です!』って自己主張の塊のような格好してるんだが……)」

男「(なんで醤油さしに零れた醤油を拭いたら出てくるんだよ……。ランプの魔人じゃねぇのかよ……。醤油さしの魔人なのかよ……)」

魔人「さあ、願いを仰って下さい。どんな願いも三つだけ叶えて差し上げましょう」

男「……願い? 願い事を叶えてくれるのか? 三つも?」

魔人「左様に御座います」

男「本当かよ……」

魔人「おや、御主人様は私を疑っておいでで?」

男「(そりゃ疑うだろ)」

魔人「なに、御心配には及びません。私は魔人の中でも願いを叶える事に関しては右に出る者はいないと自負しております」

男「へ、へぇ~……(胡散臭せェ……)」

魔人「どこぞの呼び出す為に世界各地に散らばった球を7つも集める必要がある上に一度生き返った者を二度生き返らせることもできない、『どんな願いも叶えてやる』などと大言壮語しておきながら自分の力量を超えた願いになると『それは無理だ』などと職務を放棄して丸投げ、あまつさえたった一度働いただけで一年も有給をふんだくるようなクソドラゴンに劣るようなことは断じてありませんので御安心を」

男「おいこら」

魔人「そもそもシェ〇ロンの奴は我々の業界を舐め腐っているとしか言いようがありませんよ。あの世界には自分以外に願いを叶えられる存在がいないからと天狗になっているんです。私に言わせればシェン〇ンなどヒヨッコもヒヨッコ、業界の面汚しにして恥晒し、私の爪の垢を煎じて500ガロンほど飲ませた上で7539回ほど半殺しにしなければ気が済まないほどです。まったく汚らわしい、あのような下賤の輩が我々と同位の存在を気取るなど……おこがましいにも程があります」

男「おい言い過ぎだぞ!神〇に何の恨みがあるんだよ!」

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魔人「その点、私が叶える願い事には斯様な制約などは御座いません。どんな願い事も瞬く間に叶えて差し上げましょう」

男「俺にはお前が〇龍よりも優れているようにはとても思えないんだが」

魔人「何とッ!?御主人様は私があのような劣等種族に劣っていると仰せになるのかッ!?酷い侮辱ですぞッ!!」

男「(だから神龍をそこまで敵視する理由は何なんだよ)」

魔人「私も長い事ランプの魔人をやっておりますが、このような屈辱は初めてで御座いますッ!御主人様、先の御言葉を訂正してくださいましッ!!」

男「あ、ああ、うん……、悪かった…な? そうだよな、一応ランプ(?)の魔人だもんな……俺なんかよりもよっぽど長生きしてるんだよな……」

魔人「左様! 私、こう見えてもランプの魔人歴はゆうに10000年を超える大ベテランなのですぞ! 願いを叶えた実績こそありはしませぬが、仕事に対しての情熱と誇りはあのようなクソドラゴンなんぞに負けは致しませぬ!」

男「願い叶えたことねぇのかよ!経歴が長いだけのド素人じゃねぇか!」

魔人「なぁに、御心配召されるな、伊達に10000年も魔人をやってはおりませんよ。単に力を行使する機会に恵まれていなかったというだけで、願いの叶え方はこの脳裏にしかと刻み込まれておりますゆえ。魔人の持つ0.1254gの頭脳を侮って貰っては困りますぞ、御主人様」

男「ハチドリ以下じゃねぇか!鳥類にも劣る脳ミソの癖してドヤ顔してんじゃねェよ!!」

魔人「ハハハ、何を仰いますやら。仮にもランプの魔人であるこの私が、空中から糞尿を垂れ流す害獣に劣るような事など、万が一―――否、億が一にも有り得ませんよ。フフ、今度の御主人様は冗句が御上手でいらっしゃる。私、感心致しました」

男「(こいつめんどくせぇ……)」

魔人「では、そろそろ本題に入ると致しましょう」

男「(正直もう帰って欲しいんだが……。俺は醤油さしを拭いてただけだってのに、どうしてこんなことになっちまったんだ……)」

魔人「ククク……。さあ、小さき者よ、願いを言うがいい。この魔人が貴様の願いを三つだけ叶えてやろう」

男「何いきなりキャラ変えてんだよ。急に偉そうな口利いてんじゃねェよ」

魔人「どうした、小さき者よ。あるのだろう、願い事が。何でもよいのだぞ? さあ、欲望の赴くままに願うがいい!己が欲望に身を任せるのだ、小さき者よ!」

男「嫌な言い方するんじゃねぇよ……」

魔人「金か?名誉か?女か? それともこの世界の全てが欲しいかッ!? 我と契約を交わせばそれら全てを手に入れる事など造作もない事だぞ、人間よッ!!」

男「おい」


魔人「金か!? ならば貴様の身体が埋もれて身動きが取れなくなる程のお札チョコレートをくれてやろう!虫歯には精々気を付けるのだなッ!!」

魔人「名誉か!? ならば貴様を貴様が住んでいるこのウサギ小屋のような辺境の集合住宅(35年ローン)の自治会長にしてやろう!近隣の住人(平均年齢78歳)からの羨望の眼差しを浴び、優越感に浸るがいいッ!!」

魔人「女か!? ならば貴様に絶世の美女を1000人ほどくれてやろう!マツコデラックスとクリス松村を足して二で割って更に織田裕二クラスの鼻の穴を持った魔人界トップクラスの美女達だ!肉欲に溺れた淫らな生活を送るがいいッ!!」


魔人「さあ願うがいい、人間よッ!!」

男「黙れ馬鹿野郎!!」

魔人「どうした?何を躊躇うことがある、人間よッ!貴様の欲して止まないものを手に入れるまたとない機会なのだぞ!?迷う余地などない筈だろうッ!!」

男「どれもいらねぇよ!」

魔人「何……!?これ程欲望掻き立てられても尚、顔色一つ変えぬだと!? 人間よ、貴様には欲というものが存在しないのかッ!?」

男「お前の提示してる物がどれも碌でもねぇからだろうが!むしろそんな物を俺が望んでると思われてる事にびっくりだよ!!」

魔人「ならば貴様の望みを言ってみるがいい、人間よ!それがどのような願いでも、我の手にかかれば容易い事だ!どんなものでも構わぬぞ!」

男「えっ……、うーん、そうだな……。そう言われると思い浮かばねぇな……」

魔人「さあ願いを言え、人間よ!貴様の寿命が尽きぬ限りは何でも叶えてやろうッ!!」

男「おい」

魔人「どうした、願いを言うがいい!願いを一つ叶えるごとにその内容に見合った分の寿命を頂くが、貴様は何も気にすることはない!安心して願い事を言うがいいッ!!」

男「安心できるわけねぇだろ!!何さらっととんでもないこと言いだしてんだてめぇ!!」

魔人「そんなに狼狽えるな、小さき者よ。なに、寿命を頂くといっても大した量ではない。この世に生まれてから死ぬまでの全体から見て0.1%にも満たないレベルだ、安心して願うがいい」

男「ああ、そんなもんなのか? 何だよ、三つ叶えても大したことないんじゃねぇか。ったく、驚かせやがって……」

魔人「ただし魔人の寿命が基準になっているがな。人間の寿命に換算すると、そうだな……願い一つにつき平均267年134日21時間55分12秒といったところだ。どうだ、大した量ではないだろう? だから安心して願い事を言うがいい」

男「人間の平均寿命やら諸々勉強してからほざきやがれ!!」

男「じゃあ何か?お前に願いを一つ叶えて貰っただけで、俺の寿命はゼロを通り越してマイナス100年以上まで一気に削られるってか?冗談じゃねぇ!」

魔人「ちなみに寿命が足りなくて払い切れない場合は身体で支払って貰う事になる。足りない寿命の年数だけ地獄に勤務する鬼達の性欲処理係として奉公に出て貰うことになるので願い過ぎには注意するのだな」

男「いらねぇよそんな情報!ますます願いたくなくなったよ!」

魔人「私から伝えておくことは以上だ。それで、願いはないのか?多少のリスクは伴うが、悪い話ではあるまい?」

男「あるわけねぇだろ……この流れでお前に願える奴がいたら心から尊敬するぞ……」

魔人「これは驚いた。どこまでも欲のない奴よ! 私も長い事ランプの魔人をやっているが、貴様のような者に出会ったのは初めてだぞ、人間!」

男「そりゃ初めてだろうよ。お前さっき実績ゼロって自分で言ってたじゃねぇか」

魔人「気に入った!特別にこの私自ら貴様専属の魔人として契約を交わしてやろう!有難く思うがいい、小さき者よ!!」

男「いらねぇよ!!そんな契約破棄だ破棄!!」

魔人「喜べ人間、これで三つと言わずに好きなだけ願い放題だぞ!もちろん対価は頂くがな!!」

男「だからその対価が洒落になってねぇんだよ!いいから帰れ!!」

魔人「無駄だ!既に契約は成った!左手の薬指を見るがいいッ!!」

男「薬指だと……? ……!?!?」

男「な、なんだこの指輪の痕のようなミミズ腫れは……!」

魔人「ククク……」

男「おいクソ魔人!てめぇ一体何しやがった!?このミミズ腫れは何なんだよ!」

魔人「ウフフ……ヒ・ミ・ツ♥ イジワルばっかり言うアナタには教えてあ~げないっ♥」

男「黙れ。真面目に答えないと殺すぞ」

魔人「ほう?魔人である我を殺すと? ククク……貴様にそれが出来るのか、人間よ?ん?」

男「えーっと、物語に出てくる魔人はランプを破壊されると死ぬんだったよな。このガラス製の醤油さしなら……壁に向かってぶん投げるだけで割れるよな、うん」

魔人「すいませんほんの出来心だったんです可愛いジョークのつもりだったんです許してつかぁさい」

男「……で?このミミズ腫れは何なんだ? 俺が醤油さしを全力投球したくなる前に説明してみろよ、ほら」

魔人「そ、それは契約の証でして……契約者か魔人のどちらかが死ぬまで消える事はありません、ハイ……」

男「契約の証?誰と誰の?」

魔人「わ、私と御主人様のです……」

男「俺とお前の?俺がいつ契約するっつったか?そんなこと一言も言ってねぇだろ?あ?」

魔人「魔人は人間よりも上位の存在ですので……自身より下に位置する生物とは一方的に契約を交わすことができるんです……」

男「……で?契約すると何だって?願いが叶え放題だったか?俺の寿命を勝手に使って碌でもない願いを叶えられるとか何とか得意気に言ってたよなお前?魔人ってのはお前みたいに碌でもない奴しかいねぇのか?あぁ?」

魔人「ま、魔人の事を碌でもないと言われるのは心外です!私を含め、世界中のランプの魔人達は御主人様の為に一生懸命働いているんです!!私の事は嫌いになっても魔人の事は嫌いにならないでください!!」

男「黙れ。醤油さし壊すぞ」

魔人「はい……」

男「それで?俺かお前のどっちかが死ぬまで消えない契約だったか?それって俺には何のメリットもねぇよな?むしろ呪いも同然だよな?」

魔人「メリットならあります!願いは三つまでという制約がなくなり、世界の全てが御主人様の望み通りに―――」

男「一つ願っただけで鬼に100年以上掘られ続ける地獄が待ってるってわかってて言ってんのか?あ?」

魔人「大丈夫ですよ御主人様!鬼といえども人間とは位相の違う存在ですので、鬼の精子で人が妊娠することはありません!人間のオス同士が行う性交のように感染症になるリスクもありませんので、どうか安心して―――」

男「………」

魔人「ご、御主人様!無言で醤油さしを振りかぶらないでください!後生ですからッ!!」

男「いいか、一度しか言わないからよく聞けよ。この醤油さしをぶっ壊されたくなければ黙って契約を解消しろ。でなければお前を殺して強制的に契約解除するぞ」

魔人「『契約を解消しろ』ですね!かしこまりました、このランプの魔人が御主人様の願いを叶えて差し上げま―――」

男「………」ポイッ

魔人「ギャアアアアアアッ!?!?」



魔人「ひ、酷いです御主人様!そのランプは魔人にとって命も同然なのですよ!?落下地点がベッドの上だったからよかったものの、そのまま壊れていたらどうするつもりだったのですか!!」

男「酷いのはお前の脳ミソだろうが!勝手に人を地獄送りにしようとしやがって!誰も願い事だなんて言ってねぇだろうが!!」

魔人「で、では、御主人様は私に何を望んでいるのですか!? 私はランプの魔人、御主人様の願いを叶える以外は何の取り柄も御座いません!」

男「何が取り柄だ馬鹿野郎!その願いも碌でもない叶え方しかできねぇだろうが!!」

魔人「――ハッ!? ま、まさか御主人様、ランプの魔人であるこの私に乱暴するつもりですか!? エロ同人みたいにッ!!」

男「………」ポイッ

魔人「イヤアアアアアアアアアアッ!?!?」

男「命綱握られてる割には余裕だなぁおい?本当はこれぶっ壊しても死なないんじゃねェのか?何なら試してみるか?あ?」

魔人「こ、今度の御主人様はお人が悪い……。私、長い事この業界におりますが、ランプの魔人をここまでぞんざいに扱うお方は初めてで御座います……」

男「そもそもこれは100均で買って来た中国製の醤油さしだろうが。そんなもんから出てきたお前のどこがランプの魔人なんだよ。醤油さしの魔人じゃねぇか」

魔人「そ、それは偏見に御座います!私、今は故あってそのような物を棲家としておりますが、こう見えても正真正銘、由緒正しきランプの魔人に御座います!」

男「ランプの魔人が醤油さしに棲まなきゃならねぇ理由って何なんだよ……」

魔人「御主人様は私の事情に興味がおありですか?」

男「そりゃ気になるだろ、ここまで引っ掻き回されたらな」

魔人「かしこまりました。その願い、このランプの魔人が全身全霊を以って叶えさせて頂きま―――」

男「………」

魔人「御主人様お待ち下さい!今のはジョーク!アラビアンジョークに御座います!!ですからその如何にも剛速球を投げられそうなフォームで醤油さしを振りかぶるのを止めて下さいまし!!」

男「次下らねェ事言ったら本気で投げるからな。いいからとっとと説明しやがれ、俺の納得いくようにな」

魔人「は、はいッ!!!!11!1!」

魔人「で、では、僭越ながら説明させて頂きます……」

男「………」

魔人「そもそもランプの魔人である私が何故、このような醤油さしを棲家をせざるを得なくなったかというと、その所以は紀元前1万年に遡ります。その頃の魔界は天界の天使達を相手取った大いなる戦いに明け暮れ、神の尖兵達との殺し合いの日々を余儀なくされた魔人達は精魂疲れ果て、幾度も戦場となった魔界の草木は枯れ、大地は悲鳴のようなうねりを上げ、戦乱勃発から2000年が経った頃にはあれほど美しかった魔界の姿は見る影もなくなっておりました。神の尖兵である天使達と我々魔人との相性は甚だ最悪であり、天軍と魔軍による永きに渡る戦い――中でも魔界の首都パンデモニウムからそう遠くない地点を舞台とした凡そ1年にも及ぶ正面衝突は、両軍に甚大極まりない被害を出しました。我ら魔人にとって天使の聖気は弱点であり、また彼ら天使にとっても我々魔人の持つ瘴気は猛毒であったのです。そんな血みどろの戦いが数千年も続いたわけですから、当然ながら古参の兵は疲弊し、魔界の王はそれに伴って低下した軍事力を増強するために年若い魔人達に徴兵令を出しました。当時はまだ魔人として未熟者であった私も例に漏れず戦場へと駆り出され、手前勝手な正義を振りかざした侵略者達から故郷である魔界を守るため、この生命を削るような想いで日々懸命に戦いました。しかしそんな我々の決死の努力も虚しく、天軍との戦力差は開いていく一方。終期には彼ら天軍の投入した優秀な人間をベースに造られた生体兵器『ユウシャ』によって、多くの魔人達が犠牲となりました。ユウシャの犠牲になった者の中には私の幼馴染も含まれており、その報せを受けた時私の脳裏に浮かんできたのは、自分はこの戦いが終わったら結婚するんだと言って照れたように笑う彼の姿でした……」

男「おい止まれ」

魔人「そんな凄惨極まりない戦いは、我々魔人の敗北という形で幕を閉じました。神の加護を受けて生産されたユウシャの力は凄まじく、並大抵の魔人では傷一つ負わせることができなかったのです。最終決戦の最中に部隊とはぐれてしまった私は運悪くユウシャの後継機にして量産型モデル『ソウリョ』『センシ』の二兵器に遭遇してしまった事があったのですが、彼らの最早理不尽ともいえる強さは尋常ではなく、相対しただけで心が折れてしまいそうになる程で御座いました。なにせこれらの兵器は将校クラスの魔人でようやく互角という相手でしたから、まだ若く力も弱かった私はその場から逃げ出すだけでも命懸けで―――」

男「止まれって言ってんだろうが!」

魔人「ですから私は―――っと、如何なさいましたか御主人様?まだ話は終わっていませんが」

男「長げぇよ!長げェんだよ!いつまで続くんだよその話はよぉ!!」

魔人「はあ、そう言われましても……もう少しでキリのいい所まで話し終えますので、御主人様には今暫くお付き合い頂ければと」

男「……ちなみに聞いておくが、その話、あとどのくらいあるんだ?」

魔人「今言った所までが序章ですので、そこから戦乱終結編へと続き、全八章から戦後処理編を挟んだところで舞台を人間界へと移し、帝国編、焦燥編、アラビアンナイト編へと続き―――」

男「そういう細かいところはどうでもいいんだよ!あと何分で話し終わるんだって聞いてんだ!」

魔人「ええと、そうですね……人間界の時間に換算して、99384時間と24分17秒といったところでしょうか。御主人様も何かと多忙な事と思いますが、今暫くお付き合い頂ければ幸いに御座います」

男「10年以上も続くのかよ!!付き合えるわけねぇだろ!!」

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