友人「夏だーっ!」(208)

7月の半ば。
梅雨も明け、強さを増した日差しが容赦なく照りつける。
高校から駅までの道は日陰もなく、アスファルトからの照り返しもあって、実際以上に暑く感じる。
だからだろうか

友「夏だーっ!」

コイツのように叫び出すようなやつも現れる。

男「......」

友「夏だーっ!」

男「......聞こえてるから」

友「夏休みだーっ!」

男「そうだな」

友「お前なんか予定ある?」

男「......じゅ、塾」

友「後は?」

男「......」

友「......無いよな」

男「急にテンション下げんなよ......」

友「遊びいこうぜ!海いこう、海!」

男「お前去年同じこと言って結局近所の用水路でザリガニ釣ってたじゃねーか」

友「うるせぇ!別に海の代わりに行ったわけじゃねーわ!」

友「弟の自由研究の手伝いだよ!」

男「あーあーはいはい」

友「でもさ、今年遊ばなかったらもうチャンス無いぜ」

男「あー」

友「もう高二じゃん?高三になったらもう受験勉強じゃん?今年ラストじゃん?実質」

男「あー」

友「......」

男「なに自分で言って自分でテンション下げてんだよ......」

友「さみしい」

男「いや、おい」

友「さみしい」

男「いや、わかったから」

友「さみしい」

男「わかったから!」

男「二人で遊ぼう!な?」

友「女の子もいないとやだ」

男「グっ、善処する」

友「......」

友「フフッ、言質は取ったぞ!」

友「夏休みのお前の予定かくてーい!俺優先俺中心のなっつやっすみー!」

友「お前の貴重な青春の1ページ俺の色ー!」

そういうことになるらしかった。

友「ちょ、今の表現マジおしゃれじゃね?」

男「おしゃれじゃねーよ馬鹿」

夏休み初日。
朝起きると友からLINEが125件来ていた。

『カラオケ行こう』

以下スタンプ連打。

男「うるせぇ」

男「ブロックすんぞ、っと送信」

『お、起きたな』

『お前んち行くわ』

『あとブロックやめて』

男「了解」

男「うーん、着替えるかぁ」

-----------------------------------

ピンポンピンピンピピンポン

ガチャ

男「連打すんな」

友「バンバン行こう」

男「ビッグエコーの方が近くね?」

友「バンバンがいい」

男「いや、俺午後から塾もあるし」

友「休め、バンバンがいい」

男「いや、バンバンまで結構歩くじゃん」

友「いやこの前俺一人でビッグエコーの行ったじゃん?」

男「いや知らないけどうん」

友「そんときにさコンビニで飲み物買ってから入ったんだよ」

男「うん」

友「で、持ち込みバレて怒られたから行きづらい」

男「へぇ......」

男「思いっきりお前の都合じゃねーか」

友「いや、お前そら行きづらいだろ!普通」

男「持ち込むお前が悪いだろ!つかバレないようにやれ!」

友「うるせぇ!とにかくバンバン行くぞ!」

男「てかわざわざなに持ち込んだんだよ!」

友「あぁ?キャラメルマキアートだが?」

男「OLかよ!」

-----------------------------------

男「二時間だけな、塾もあるし」

友「うーい、じゃあ早速歌うか」

男「なにいれんの?」

友「夏の歌縛りで」

男「うーい」

-----------------------------------

友「すっとっぷざシーズンいんざさあぁぁぁあぁぁぁん」

デデン

74点

男「びっみょー」

友「うるせぇ」

男「次おれー」



男「このながーいながいくだりーざーかおーぉ」

デデン

76点

男「ドヤァ」

友「いや誤差だろ」

友「あぁああぁああなーつやすみ」

デデン

74点

男「逆にすげぇ」



男「なーつが来るから海へゆこうよちょっとだけ立ち止まって迷う日もあるけど」

デデン

84点

友「ほほぅなかなか」

友「この恋かーんじてーきみとふーたりで夏を抱きしめてぇえ」

デデン

74点

友「ドヤァ」

男「いや、逆にすげぇけどな」

男「なんでTUBEで縛ってんだよ」

友「......まぁあえて言うなら」



友「夏、だからかな?」

男「溜めて言うほどのことじゃねぇぞ」

-----------------------------------

二時間後。

友「あーはい、延長ではい、はーい」

男「おい、次お前の番だぞ早くしろ」

友「了解了解」

友「そろそろTUBEがきついぜ」

男「いや、変えろし」

四時間後。

友「あーはい、延長で、はーい」

男「夏縛りきちぃー」

友「TUBEループも辞さない」

男「お前何歳なんだよ......」

六時間後。

「またお越しくださーい」



男「やってしまった」

友「まさか六時間もいられるとは」

男「夏期講習......」

友「なんか盛り上がっちゃったな」

男「途中から歌う曲無くなったけどな」

友「お前YUIのサマーソング四回ぐらい歌ってたよな」

男「お前がなぜか井上陽水禁止するからだろ」

友「ばっ、お前当たり前だろ!」

友「井上陽水の少年時代は夏の終わりだから!切ないから!」

友「同じ理由で森山直太朗も禁じてるから俺は!」

男「はぁ?だからってお前のTUBE連発もどうかと思うんだけど?何回インザサンでシーズンストップしてんの?」

友「はぁ?そんなこと言ったらお前のサマーソングもしつけぇわ!結構上手かったけどな!」

男「お、おうありがとう」

友「別に......」

男「......」

友「......」

男「...ククッ」

友「...フフッ」

「「ブハハハハハハハハハハ」」

男「あーくだんね」

友「確かに」

男「だーっ!明日からちゃんと塾行かなきゃだわ」

友「頑張れよ」

男「おう、じゃーな」

友「おう」

今日はここまでです

翌日。駅前進学塾。

女「アハハハハハハ」

女「なにそれ?男くんそんな理由で昨日塾休んだの?」

男「面目もない」

今俺を馬鹿にして馬鹿みたいに笑っているのは女さんという。
俺や友と同じ高校の陸上部所属で、ポニテで、脚が長くて、貧乳で、よく笑う明るい性格、とかなりのハイスペックを誇っている。

女「あー呆れた」

女「しかも私がLINEしたのに無視したでしょ?昨日」

男「既読つけたじゃん」

女「返信してないじゃん」

男「じゃあ今返すわ、スタンプでいい?」

女「いらないです」

女「ていうか昨日スコットめっちゃ怒ってたよ?」

女「あの野郎次来たらかっくらしてやる!って言って」

男「マジ?やべぇな」

スコットとは塾教師のあだ名だ。
見た目はひげのおっさん。東○のCMの人に似ている。
いつもチェックのシャツを着ているのを見た女さんが、「せんせースコットランド感バリバリwww」と言ったことが由来である。
一部の野球ファンは更にひねってマシソンと呼んでいた。わかりづらい。

女「えー、でもいいなぁ仲良しで」

男「そう?」

女「えーだってそうじゃん!カラオケに六時間もいれる友達って貴重だよ!」

男「そんなもんか」

女「そんなもんそんなもん、二人で六時間とか......デキテンノカナ」

男「え?」

女「いやなんでもないよ!ほら!スコット来た!」

ガラガラ

ス「はーい着席ー授業始めまーす」

ス「あと男くんは授業後に来てくださーい」

男「え、無理」

ス「来てくださーい」

女「男くん男くん」

男「ん?」

女「ドンマイ」

男「え、、あ、うん」

授業後。職員室。
スコットはいつも通りチェックのシャツ姿で俺を待っていた。
俺を見ると来いと言うように手招きをし、近くにあった椅子に座れというジェスチャーをしてくる。

ス「タバコいい?」

男「いっすよ」

ス「悪いな」カチッ

ス「フゥー、お前さぁ大学東京の大学考えてんだろ?」

男「はい、まぁ一応は」

ス「んでまぁそこそこ難関なわけでしょ?」

男「はい」

ス「んでまぁ夏期講習は一応は映像で後から追い付けるとはいえ、ね?」

男「はい」

ス「来てもらわないとさ」

ス「まぁ二年の夏からもう勝負なわけだから、しっかりね」

男「はい、すいませんでした」

ここでスコットは一度息をつくと、俺の方を見てもう一本いいか聞いてくる。
俺が頷くとやたら細長いタバコをまたゆっくりと吸い出す。

ス「フゥー、んでまぁここまでは塾の教師としての話でさ」

男「?」

ス「まぁ一人のお兄さん的にはね」

男「おっさん的には」

ス「まぁどっちでもいいけどお兄さん的にはね、夏休みは遊んでいいと思うの」

男「はぁ」

ス「いやだって受験勉強って別に来年からでも間に合うし、最悪再来年もできるしね」

男「いやですけど」

ス「俺は二年してるしね」

男「うわ」

ス「特にお前は地元離れるわけじゃん?」

ス「だからさ、なるべく後悔しないようにしてほしいの、お兄さんは」

男「スコット......」

ス「まぁそんだけ、楽しめよ夏休み」

そこまで言うとスコットは三本目のタバコに火をつける。

男「はいありがとうございます」

ス「なに、いいってことよ」

無駄にかっこのついた仕草で手を振る。
塾から出てスマホを見ると女さんからLINEが来ていた。

『今度私も遊び誘ってね!』

『あと既読無視禁止!ゼッタイ!』

男「善処しますっと」

何故か少しにやけてしまう。
夏休み二日目。
まだまだ夏休みは始まったばかりだった。

今日はここまでです

ぽたり、、ぽたり、、とアイスの雫が落ちるのをボーッと眺める。
8月。
気温の上昇はとどまることを知らず、七月など比べ物になら無い程の暑さが連日続いていた。

友「スイカってあるじゃん?」

友がスイカバーをジュポジュポ食べながら聞いてくる。

男「.......」

友「あれはさ赤いところが美味いじゃん?」

男「......」

友「でもスイカバーは緑のとこの方が美味い気がするわ」

男「......」

男「死ぬほどどうでもいいな」

友「いやでも緑美味いわ、あそこだけ売れ」

男「それなにバーだよ」

友「スイカバー(皮)だよ」

男「面白くねぇよ」

友は特に気にした様子もなくスイカバーを食べ終わると立ち上がる。

友「さぁ!今日はどこいく!」

男「どういうテンションだよ......」

友「上げてかねぇと暑くてやってらんねぇよ!」

男「お前が暑いんだよ......」

友はまぁそうだな、と頷くと、また座り込んでスマホをいじり始める。

男「......なにしてんの?」

友「いやもう一人誰か呼ぼうと思って」

男「なんで?」

友「い、いや、やっぱり二人だけだとマンネリかなっておもって///」

男「ふぅーん、誰?」

友「池くん、あ、でも男くんが二人きりがいいって言うなら私はそれでも///」

男「あーあのイケメンの」

池くんは。イケメンである。
ちょっとおらついてて友いわく不二家のアイスが好きらしい。

男「なんでそんなんしってんの?」

友「池くんのツイッター不二家のアイスの画像ばっかだぜ、ほら」

男「うわ、まじだ、つかお前池くんのツイート全部リツイートしてんじゃん」

友「仲良いし、DMもめっちゃしてるしほら」

男「マジで?見してよ」


友『ウェーイウェーイwwwwww』

池『うるせぇ』

友『ウェーイウェーイwwwwww』

池『うるせぇ』

友『ウェーイウェーイwwwwww』

池『ウェーイ』

友『うるせぇバカだろ』


男「お前酷すぎだろ」

友「あ、池くん来るって」

男「池くんとはなんか友達になれそうだわ」

友「よし!」

友「池くん来る前に移動すっか!マック行こうマック」

男「お前酷すぎだろ」

池「お前らなんで俺が来る前に移動してんだよ!」

池くんは友が連絡してから二十分ほどでやって来た。
背が高くて見た目がチャラいので怒るとちょっと怖い。

友「まぁ座れって、水奢ってあげるから」

池「タダじゃねぇか、チッでなんで呼んだの?」

池くんは基本は良いやつだ。
友みたいなやつに付き合ってくれる。

友「俺と男さぁ、最近よく遊んでんの」

池「おう」

友「で二人だと退屈だから」

池「......」

池「俺帰るわ」

友「まぁまぁまてまてまて!これから女の子も呼ぶから!二三人呼ぶから!」

池「本気でか?」

友「ガチマジ、オレ、ウソ、ツカナイ、キョクリョク」

池「チッ、しゃーねーな」

池くんは基本は良いやつだ。
人を疑うことを知らない。

男「友お前あてあんの?」

友「?ないけど?」

男「うわぁ......」

友「お前こそ無いの?」

男「俺?俺は......」


『今度私も遊び誘ってね!』

男「あ、あったわ」

友「え、誰?私という人がいながら!誰よ!誰なのよ!」

男「ちょっと待って聞いてみる」


女『オッケー!今ちょーど花ちゃんもいるから一緒に行くね!』


男「うわ、いけたよ、女さんと花さん来るってさ」

ガタッ

池くんが勢い良く立ち上がる。

池「マジか!男!よくやった!」

池くんは基本良いやつだ。
単純で純粋だ。

今日はここまでです。

男「女さんと花さんって仲良いんだね」

女「そうだねー中学からだし結構長いしねー」

女さんと、その友人の花さんと合流した俺たちは、
マックにいると邪魔だという判断からカラオケにやって来ていた。
この夏実に五度目のカラオケである。

女「ていうか男くん花のこと知ってるんだ」

男「まぁ有名だし男子の間じゃ」

女「あー可愛いしね、なんていうのあのあれをくすぐる見た目」

男「庇護欲?」

女「それそれ、まぁ見た目だけだけど」

男「見た目だけって」

女「でも花が有名かぁ可愛いもんなぁ」

女さんがしみじみと呟く。

男「女さんも有名だよ」

女「え?」

言ってからしまったと思う。

女「......」

何かフォローをせねばと焦る。

男「ほら、あの可愛いし」

バカか俺は。

女「あ、その、ありがと」

微妙な沈黙。

友「すっとっぷざシーズンいんざさあぁぁぁあぁぁぁん」

花「こぉこぉろうるうぉしてくぅれぇええぇえ」

池「......フッ」

男「......」

女「......あー、なんか盛り上がってるね」

カラオケに来てから友と花さんが真っ先に曲を入れて二人で盛り上がり、
池くんは女子二人が来てから、急に前髪とかを弄って、脚を組みながらフッとか言い始めていた。

花「女ちゃん!女ちゃん!次歌う?歌わないなら私入れちゃうよ!」

女「いいよいいよ花入れちゃいな」

花「わかったー、じゃあ私次AKBー」

友「お、いいねいいね!ナウいね!ヤングだね!」

池「......フッ」

なんにせよ三人のテンションで空気が元に戻る。サンキュー三馬鹿。

男「歌わなくていいの?」

女「私あんま得意じゃないしなー」

女「男くんは?」

男「俺はもうこの夏五回目だから」

女「え?五回目?そんなに友くんと?」

男「え、うん」

女「えやっぱ友くんと?デキて......?」

男「やめてくれ」

女「ゴメンゴメン」

女さんが笑いながら言う。
まぁ冗談なのだろう。

女「でもいいよね、ああいう友達がいてさ」

男「友達......」

その友達はAKBを歌いながらももクロのダンスをしている。

男「......まぁ、そうだね」

女「そうだよ良い友達だよ」

女「まぁ怪しいは怪しいけど」

冗談......なのだろう。

花「ねーみんなでなんか歌おーよ」

友「お、いいね!花ちゃんいいね!」

花「いいでしょ!友くんいいでしょ!」

池「......フッ」

男「友も大概うるさいけど花さんも大概だよなぁ」

友「ちょ、男誉めんな」

花「いや流石に友くんレベルは無い」

友「え、ひど」

「「「ハハハハハハハハハハ!」」」

全員から笑いが起きる。

女「よっしゃー!歌おー!」

男「よし!歌うか!」

花「AKBでいー?」

友「おっけおっけ」

女さんが伸びをしながら立ち上がる。

女「あー!なんか」

女「たのしー!ね、男くん?」

女さんは本当に楽しそうに笑う。

男「うん」

俺も立ち上がり、友に飛び掛る。

男「おい友お前俺にマイク寄越せ!」

友「やるか馬鹿!」

池「......フッ」

きっと俺の顔も笑顔だろう。

今日はここまでです。

花「あー楽しかったぁー」

俺たち五人はカラオケからのボウリング、
ショッピングモールからのファミレスという学生にありがちな順序を辿っていた。

女「ボウリングとか久々だったよー」

池「その割りには上手かったよね」

女「いや池くん程じゃないって実際」

花「ねー池くんかっこよかったよー」

池「え?あそう?フフッ」

池くん顔赤いぞ。

友「けっ、ちょっと棒に球を当てるのが上手いぐらいで」

男「僻むなよみっともねぇ」

友「んだと?」

男「あ?」

友「俺だってなんかこうチヤホヤされてぇんだよおおおぉお!」ガバッ

男「バカ!来んな!掴みかかんな!どこ触ろうとしてんだよ!」

花「ちょww二人とも仲良すぎwww」

池「ったくいちゃつくなら外でやれ」

友「あん?」

池「な、なんだよ」

友「......」

池「な、なんだよ」

友「......てやろうか」

池「え?」

友「てめぇの棒と球を転がしてやろうかってんだよぉおお!」

池「ちょ、やめろ意味わからん、触んなやめろ!やめろ!」

友「良いではないかー良いではないかー」

池「や、やめろおおおお!」

男「......」

女「......」

花「ウケるwwwwww」

男「......出ようか」

女「......うん」

花「お誘いありがとね」

男「あーうんまぁね」

友「じゃあこの辺で解散しようか」

池「わかった」

花「あー写真だけ撮ろ!写真だけ!」

花さんの提案で全員で写真を撮る。

花さんの提案で全員で写真を撮る。

友「じゃあ改めて、解散で」

花「りょーうかーい」

花「友くんと池くんはこっちだよねー」

池「そうだね」

友「じゃーな男、女さん」

女「ばいばーい」

女「っふぅ」

女「帰ろっか」


女さんと二人で大通りを歩く。
何となく居心地が悪いような感覚。

女「ちょっと近道しようよ」

男「うん、いいよ」

皆と別れてすぐは会話があったが、少しすると二人とも口数が減ってくる。

女「......」

男「......」

女「あ、私そこだから」

男「え、あうん」

女「そこだから、うん、じゃあ」

男「じゃあ」

女「またね」

女さんが角を曲がっていく。

男「あのさ」

呼び止める。

女「なに?」

男「あーと、その」

男「また遊ぼう」

女「え?」

男「あーほらみんなで!みんなで!」

焦りで声が大きくなる。

女「なに急に」

女さんが笑いながら言う。

女「でも、うん」

女「楽しみ」

満面の笑み。

男「そっか」

女「うん」

男「じゃあおやすみ」

女「おやすみ」

軽く手を振って歩いていく背中をしばらく眺める。

男「......」

男「あー!なんか!なんだ!」

男「あー!もう!」

スマホに通知が来る。

『友があなたを「夏を楽しもうの会」に招待しました』

友からのLINEも一件。

友『今日のメンバーで組んだから入れよ』

8月の夜。
真夏の生ぬるい夜風が体を撫でていく。

男「入るけど......」

男「名前がちょっと安直すぎるよなぁ」

今日はここまでです

夏を楽しもうの会(5)

花『今度の土曜日お祭りあるんだけど』

花『いくひとー?』

池『行く』

友『ウェーイ』

池『それどっちだよ』

友『ウェーイ』

花『おっけーいくかんじねー』

女『いくー』

花『いくよねー、浴衣きてくよねー』

女『ねー』

池『男は?』

友『行くぞ』

男『俺まだなんも言ってねぇ』

友『行くだろ』

花『行くよね?』

女『来るでしょ?』

男『いや行くけどさ』

池『男よえー』

花『じゃー駅前しゅーごーでー』

祭りの雰囲気が町を包んでいた。
街路樹には提灯を模した灯りが吊るされ、のぼりが上がり、どこからか囃子の音も聞こえてくる。

友「ごーめーん男くーんまったー?」

男「そのトーンやめろ」

友「そこは今来たとこだろぅがあ!」

男「んでお前とそんな甘ったるい会話しなきゃなんねぇんだよ」

友「いやそういう仲ですし」

男「マジで無い」

池「お前らほんと仲良いな」

友「うわ、池くんだよ」

池「うわってやめろ、てか女子は?」

友「ったく女子女子女子女子言いやがって!この性格以外イケメンが!」

池「あぁ?うっせーぞこの性格含めてブサイクが!」

友「は?安田大サーカスの団長に似てるって言われるんですが?」

池「なんでそれで得意気なんだよ」

男「微妙なラインではあるな」

池「まぁ俺は溝端淳平って言われるけどー」

友「聞いてねぇよ糞が」

男「仲良いなもう」

池「いやでも正直楽しみだろ、浴衣、浴衣だぞ?浴衣!」

池くんの顔が醜い欲望に歪む。

男「うわぁ......」

友「そんなんだからモテないんだよなぁ」

池「あ?やんのか?」

男「いい加減にしろって」

男「お、来たんじゃない?」

花「ごめーん遅れたー」

女「いやーごめんねー着るのに手間取っちゃって」

池「い、今きたところ!」

男「うわぁ......」

友「こいつやっぱポンコツだわ」

花「どうしたの?」

友「池くんがポンコツの話」

花「へぇ、そんなことよりどうよこの浴衣!崇めなさい!」

友「ははーっ」

花「ふはははははJKであるぞーJKであるぞ=」

あの二人は平常運転である。

花「ごめーん遅れたー」

女「いやーごめんねー着るのに手間取っちゃって」

池「い、今きたところ!」

男「うわぁ......」

友「こいつやっぱポンコツだわ」

花「どうしたの?」

友「池くんがポンコツの話」

花「へぇ、そんなことよりどうよこの浴衣!崇めなさい!」

友「ははーっ」

花「ふはははははJKであるぞーJKであるぞ=」

あの二人は平常運転である。

すいませんミスです

女「えっと、どうかな?」

女さんがはにかみながら聞いてくる。
顔が直視できない。

男「お、、あ、、に、似合ってる」

自分の顔が赤いのが分かる。かっこわりぃ。

女「ふふっありがと」

花「よし!花火まで時間あるしそれまでお祭り回ろう!」

花「行くぞぉー!」

花「えいえいおー!」

友「おー!」

もうお前ら二人で回ってこいよ。

祭りが行われる神社の境内は人混みで溢れ帰っていた。

花「うわー人いっぱい」

女「ほんと、はぐれそうだねー花、手繋いでよっか」

花「ねーそーしよっかー」

身長差のある二人が手を繋ぐと、年の離れた姉妹のようにも見える。

池「可愛い子が手を繋ぐ......いい」

友「お前ほんとキモいな」

男「イケメンなのにな......」

女「三人ともはやくー!おいてくよー!」

男「うーい」

池「いい......」

五人で人混みの境内を歩いていく。
金魚すくい、焼きそば、たこ焼き、屋台を次々と冷やかしていく。

池「なんか女さんテンション高くね?今日」

男「そうか?」

女「次あそこ行こー!」

花「うぇーい!」

友「うぇーい!」

男「......まぁそうかも」

友「おい男!次型抜き行こう!型抜き!」

友がヨーヨーと金魚と焼きそばと綿菓子を振り回しながら叫ぶ。

男「あいつ程じゃないけど」

少女漫画のテンプレというのがある。
夏祭りに友達と行って、それから男女二人がはぐれて......そして二人は......
みたいなパターンだ。
だがあくまでもあれはフィクションであり、現実に起こることはめったに無い。
特に学生がみな携帯を所持している現代においては尚更だ。

起きるはずがないのだ。

男「はぐれた」

はずがなかった。

男「どうする?」

男「友?」

目の前を流れていく人混みを恨めしげに眺める。
何が悲しくてこいつと一緒に迷子にならなければいけないんだ。

友「まさかのパターンだな」

友が妙に引き締まった表情で言う。

男「まさかだよ」

友「だがまぁ落ち着け、ここで慌ててもはぐれちまったもんは仕方ない」

男「何が悲しくてお前と二人きりになんなきゃなんねぇんだよ」

友「あぁ?」

何か知らんがこいつの地雷を踏んだようだ。

友「お前はどうせ女さんとはぐれたかったとか思ってんだろ!」

男「は?思ってねーよ!」

友「いいや嘘だねお前の顔はそう言ってる」

男「はぁ?意味わからん、そういうお前こそ花さんと一緒が良かったとか思ってんだろ!」

友「いいや、俺はお前が良かったね!」

男「え...」

一瞬二人の間で時が止まる。
まずい何か言わねば。


男「だ、だいたい元はと言えばお前が型抜きなんざやりたがるからだろーが!」

友「うるせぇ!お前の型も抜いてやろうか!」

男「意味わかんねぇよ!ったく」

あぶねぇ。

男「まぁスマホあるし大丈夫だけどよ」

友「早く掛けろよ」

男「言われなくても掛けるわ」

トゥテテトゥテテトゥテテトゥテテン

男「あーうん、池くん?来なくていい?いやすぐ行く、了解、すぐ合流するわ」

友「池くんに電話か、このチキンめ」

男「うるせぇぞ」

友がやけに突っかかってくる。

友「ふん、まぁいい、で?」

男「花火の場所取りしとくからそこで合流ってさ」

男「とっとと行こうぜ」

友「......」

男「おい、早くしろよ」

友「まぁ落ち着け、紅しょうがは抜いてある」

そう言って焼きそばを渡される。

男「ん?」

友「それ食ってから行こう」

男「いやでも」

友「いいから、俺はお前とはぐれたかったって言ったろ?」

男「あれガチだったのかよ......」

友「いいから食え、話がある」

二人で無言でそばをすする。
人混みは少し減っていた。
どうやら皆花火会場に向かっているようだ。

友「お前さ」

友が口を開く。

男「うん」

友「東京の大学行くんだろ?」

男「うん」

男「お前に言ったっけ?」

友「聞いてねぇよ」

友が少し怒ったような口調で答える。

友「東京行くとは聞いてねぇよ」

男「......わりぃ」

友「ついこないだ女さんから聞いたとき俺はショックだったんよ」

男「うん」

友「なんだかんだ言って受験が終わったらさ」

友「お前も地元に残っててさ、また普通にあそんだりとか出来ると思ってたんだよ」

友「今日みたいに皆で」

友「それが東京って、お前遠すぎだろ!チャリで何日だよ!」

男「なんでチャリ換算なんだよ」

友「距離が伝わるだろ」

男「わかりづれぇし」

また二人無言でそばをすする。

男「紅しょうが抜いてねぇじゃん...」

友「うるせぇなぁ」

友「ていうかお前ほんと言えよバカ!」

男「うるせぇ!なんか言いづらかったんだよ!アホ!」

友「はぁ?なにが言いづらいだボケ!思春期か!」

男「思春期だわ!お前みたいながさつな奴にはわかんねーだろーな!この俺の気持ちの機微が!」

友「あーわかんないね!東京行きを友達に言わずに、好きな子がいんのにウジウジしてる奴の機微なんかわかんないね!」

男「んだと?女さんは今関係ねぇだろ!」

友「誰も個人名なんか出してねーよバーカ!」

男「あぁ?大体焼きそばの紅しょうが抜いてねぇじゃねぇか!」

友「はぁ?紅しょうがぐらい食え!このウジウジ紅しょうが!」

二人とも興奮して何を言ってるのかわからなくなってきている。

男「大体てめぇこそ花さんが好きなんじゃねぇのか?このTUBEオタク!」

友「あぁ?それこそ今関係無いね!このどもり赤面ヘタレ野郎!」

男「てめぇが先に持ち出したんだろぉが!大体てめぇ夏休み初っぱなから俺に付きまといやがって!ホモかてめぇは?」

友「はぁドノーマルだわ!女の子バンザイおっぱいバンザイだバーカ!」

男「あぁ?じゃあなんでそんな俺を誘ったりしてくんだよ!」

友「そんなんお前!」

友「ホモとかじゃなくて!」


一瞬の間。


友「親友だからに決まってんだろ!」

一際大きい声で友が叫ぶ。

男「......」

友「......」

男「くっせー」

友「うっせー」

男「顔赤いぞ」

友「いちご味のかき氷食ったからな」

男「んだよそれ」

友「顔でも食えるんだよ、かき氷は」

友「そう言うお前も赤いぞ」

男「紅しょうが食ったからな」

友「なんだそれ」

男「顔でも食えるんだよ、紅しょうがは」

そこまで言って、お互いに恥ずかしくなって顔を逸らす。

男「......」

友「......」

男「行こうぜ、花火始まる」

友「......おう」

二人で並んで歩き出す。

友「お前さぁ」

友「後悔すんなよ、色々と」

男「うっせ」

空はもう暗い。
もうじき花火が上がるだろう。

境内の砂利を蹴飛ばしながら呟く。



男「わかってるよ、それぐらい」

今日はここまでです。

場所取りをしていると言う河川敷まで友と二人で歩く。

池「お前らなに二人してにやついてんだ気持ちわりぃ」

河川敷の手前で池くんが待っていた。

友「にやついてねぇし」

男「にやついてないから」

池くんの表情が見たくないものを見たようなものになる。

池「キモいな......」

池「まぁいいや早く行こうぜ、二人が待ってる」

そう言って無駄にカッコいい動作で、着いてこいと合図をする。
池くんは女子がいないと本当にカッコいいのだ。

友「お前俺らがいない間になんかしてねぇだろうなぁ?」

池「はぁ?なんもしてねぇよ」

男「おい友やめろって、池くんを信じろよ」

池「男......」

男「このポンコツがなんか出来るわけ無いだろ」

池「男......」

女さんと花さんは河川敷の土手に腰を下ろして、俺たちを待っていた。

花「あーきたーはやくはやく!」

女「そろそろ始まるよ!」

池「ったくお前らがダラダラしてるから」

友「ダラダラはしてねぇし」

男「焼きそば食ってただけだし」

池「なにしてんだよほんと......」

花「えー、友くんたち焼きそば食べてたの?ずっるー」

女「女の子待たせて焼きそばとかないわー」

花「ないわー」

池「な、ないよねー」

池くんのイケメンモードが終わりつつあった。

女「まぁいいや座って座って」

花「女ちゃんと私は隣だから男子はどっちかー」

池「ど、どっちか」

池くんが一人でフェイントのような動きをしている間に、友が花さんの横をとる。

女「ほら、男くんも」

俺もなんとなく躊躇して池くんとフェイントの掛け合いをしていたが、女さんの一声で決着が着く。

男「え、あ、うん」

哀れ池くんは友の隣へ。

花「花火楽しみー」

友「あとどれくらい?」

花「うーん五分くらい?」

池「あと十分だな」

友「うわ、マジでぎりじゃん」

花「危うく男くんと二人花火だったね」

友「いや俺はそれでもいいんだけどね」

花「え、ホントに言ってる?」

男「俺は嫌だからな」

女「久しぶりだなー、生花火」

男「そうなんだ?」

女「うん、去年とか一昨年はなんだかんだ来れなかったから」

楽しみ。そう言う女さんの肩が微かに触れる。

女「男くんは?」

男「俺は去年友と来たわ」

女「うわっ」

男「いやマジで違うから」

女「ゴメンゴメン」

女さんが笑う。

男「来れてよかった?」

女「うん」

男「そっか、よかった」

女「あ、」

男「なに?」

女「青のり、歯に」

男「うわ、マジで?」

女「うそ」

男「なにそれ」

女「焼きそば食べてた罰だ」

女さんがまた笑う。

女「友くんと二人で何してたの?」

男「焼きそば食ってた...」

女「それだけ?」

男「それだけ」

女「そっか」

女「なんか安心した」

花「あ、上がった!」

何に安心したのか聞こうとして、打ち上げられた花火に邪魔をされる。

池「おぉ...」

友「へぇ...」

女「わぁ...」

夏の夜空に色とりどりの花火が上がり、散っていく。

友「ーーーーーっ!」

花「ーーーーーっ!」

はしゃぐ二人の声が花火の音にきえる。

池「ーーーぁっ!」

池くんの声も聞こえない。

ふと女さんの左手と俺の右手が触れあう。

女「ーーくん!ーーーっ!」

女さんも何か叫ぶ。

俺が何と言ったか聞き返す前に、女さんが指を絡めてくる。

花火は次々打ち上げられ、そして一際大きな花火が、一際大きな歓声と共に、夜空に消えていった。

花火大会が終わって、観客がほとんどいなくなった後も俺たちはまだ動かないでいた。

あんなに花火で輝いていた夜空にはもう何も見えなくて、

花火の後の寂しさと微かな火薬の匂いが夏の終わりを感じさせて、

それがわかっても認められなくて。

女「......帰ろっか」

結局俺たちが帰ったのは花火が終わってから一時間ほど経ってからだった。

二人の手は、もう離れていた。

今日はここまでです

8月下旬。進学塾。

ス「......をこの式に代入して......pを......」

花火大会から一週間が経っていた。

あの後も友には何度か遊びに誘われていたが、俺はその度に断っていた。
女さんが来たときに、どんな顔をして会えば良いかわからないから。

ス「......したらこの値が...」

チラリと横目で女さんを伺う。
最近は塾で見かけても、話もしないし、目も合わせていない。

ス「...んでこれからこれ引いて......」

自分の右手を見る。
あのとき絡めた指の意味は、あのとき女さんが言った言葉は、なんだったんだろうか。
わからない。
わからなくて、確かめるのが怖くて。

ス「はい、男答えは?」

スコットの言葉で現実に引き戻される。

男「あ、えっと...」

慌てて立ち上がるが、全くわからない。

ス「ぶっぶー時間切れー」

ス「授業に集中しろよー」

男「すいません」

ス「まぁよし、座れ」

スコットが呆れたように言う。

あぁ、なんか。




わからない事だらけだ。

翌日は朝から酷い暑さだった。
昼にならないうちから日差しは容赦なく地面を照らし、
早くも気温は30度を越えている。

友『マック来い』

男『嫌だ、暑いから』

友『いいから』

友『女さんいないから』

友『早く』

家からマックまでは十分もあれば着く。
うだるような暑さのなか、自転車を走らせる。

男「別に......」

男「別に女さんは関係無いからな」

誰に言うでもなく呟いた。

友「おう!来たか」

窓際の席で友が手を振っている。

池「俺来る意味あった?」

何故か池くんもいた。

男「聞いてねぇぞ」

友「嘘は言ってねぇぞ」

池「俺は邪魔なのか」

友「まぁ池くんなんか居ても居なくても同じだろ、座れ座れ」

友に促され、友と向き合う位置に座る。

男「で、なんの用だよ」

友「まぁ落ち着けって、ほら飲み物でも飲め」

男「水じゃねぇか......」

気にすんなよ。
そう言って友はコーラをズズッと飲み干すと、ゆっくりと口を開く。

友「お前が来なくなると同時に女さんも来なくなった」

男「っ......へぇ」

思わず動揺が口調に出る。

友「そこで残された俺たち三人は危機感を覚えたわけだ」

友「すわ夏を楽しもうの会解散か!と」

男「......」

友「そこでこうして当事者に話を聞いてるわけだ」

友「女さんの方は花さんが」

花『この地方都市の母こと花に任せて!』

友「って言ってたからお前はこの地方都市の父こと友が担当だ」

池「もうお前ら結婚しろよ......」

池くんの絶望した声が響く。

友「というわけでだ」

友の表情が不意に真剣なものになる。

友「どうして急に来なくなったんだ」

男「......別に、いいだろ行かなくても」

友「俺は理由を聞いてんだ」

男「理由なんかいいだろ、なんでも」

友「チッ、まぁいい、大体察しはつく」

そう言うと友はストローを吸って、もう中身が無いことに気づくと顔をしかめる。

友「お前にさ色々後悔すんなって言ったよな、俺」

男「......言ったよ、それがどうした」

友「お前それで後悔しねぇのかよ」

男「しねぇよ」

友「嘘言うなよ」

男「しねえって」

友「するだろーが」

男「しねえってば!」

友「してんだろ!」

友の声に店内が静まり返る。

友「俺はたださぁ」

一転してトーンの落ちた友の声は、少し震えているようだった。

友「お前がどっか遠くに行く前に少しでも何かを残したくて」

友「少しでも何かを共有したくて」

友「少しでも後悔を残して欲しくなくて」

友「そう思ってるだけなんだよ」

友「お前の...」

友「お前の親友として」

友の言葉に咄嗟に返すことが出来ない。
こんな風に面と向かって、気持ちをぶつけて、
面と向かって親友と言ってくれるやつがいるだろうか。

俺は......


俺は......


自分のためにも、こいつのためにも、この夏に出来ることはやらなきゃいけない。


この夏は、この高二の夏は、人生で一度しか無いんだから。

男「俺は......」

男「俺は......海に行きてぇな」

友「......え?」

男「勘違いすんなよ!まだ今年行ってねぇから行こうかなぁって思っただけだからな!」

友「......」

友「ハハッ、んだそれツンデレかよ」

男「は?ちげーわ誰がだ」

友「ツンデレだろーがよ」

男「いやちげーし、マジ海行きたいだけだから」

友「素直じゃねぇなぁーこのこの!」

男「やめろ、さわんな!」

友「このこの!この!海だな!海行こう!海!」

男「だからそう言ってんだろ!やめろ!」



池「ホントに俺いらねぇだろ......」

夏を楽しもうの会(5)

友『海いきまーす』

花『はーいヽ( ・∀・)ノ』

池『了解』

友『女さんは?』

花『くるよー』

女『行く』

花『男くんは?』

友『男は......』

男『行くよ』

男『絶対行くから』

今日はここまでです

海は日差しを反射してキラキラと輝き、水平線の向こうには大きな入道雲が見える。

友「海だー!」

花「海だー!」

お盆をとっくに越えて、元々余り人気の無い海水浴場には誰の姿も無い。

友「貸し切りじゃああああ!」

花「プライベートビーチじゃあああ!」

テンションを上げきった二人が波打ち際へと突撃していく。
俺と池くんは、砂浜へ降りる階段に二人で腰掛けていた。

男「元気だなぁ......」

池「元気だな」

男「ちょっと池くんさ」

池「なに?」

男「二人にクラゲとかいるから海に入んなって言ってきてよ」

池「......やだよ」

男「だよなぁ......」

しばらく騒ぐ馬鹿二人を眺める。

池「女さんとは」

男「うん?」

池「女さんとは話した?」

男「......まだ、なんか気まずい」

池「ふーん」

池「でも話さないと意味無いだろ」

男「うん」

池「二人も楽しくないだろうし、俺らも楽しくないし」

池くんが俺らものところを強調して言う。

男「......まぁ確かに」

池「皆の分の飲み物買いに行くってさ、女さん」

男「......」

男「行ってくる」

池「いってら」

男「まぁ、一人じゃ運ぶの大変だろうし」

立ち上がって、尻についた砂を払う。
われながらカッコ悪い言い訳だと思いながら。

池「素直じゃねぇなぁ」

女さんは、海水浴場近くのコンビニからちょうど出てくるところだった。

男「女さん!」

女「......男くん」

女「どうしたの?」

男「いやえーっと、飲み物一人じゃ重いと思ったから」

男「だから」

女「そっか、ありがと」

そこで少し会話が途切れる。

女「暑いねー」

女「飲み物、ちょっと飲んでっちゃおっか」

男「......そうだね、そうしよっか」

二人でコンビニの前のベンチに腰掛ける。
距離感は少し遠い。

女「どっち?カルピスとファンタ」

男「...じゃあカルピス」

女さんから手渡されたカルピスを開けて、一息に飲む。
隣を見ると女さんもファンタを一気に半分ほど飲み干している。


男「......」

女「......」

女「海、キレイだね」

男「うん」

男「でも泳げないけど、クラゲいるし」

女「残念?」

男「いや、泳げないのはあんまり」

水着が見れないのは結構。
絶対に言えないが。

女「......そっか」

男「女さんは?」

女「私も泳げなくてもいいかなぁ」

男「......そっか」

また少し会話が途切れる。
二人ともお互いどこまで踏み込んでいいのかわからず、距離感を取り合っている感覚。

男「あっちぃ...」

女「ホント......」

カルピスを飲もうとして、中身が無いことに気付く。

男「うわっ」

女「飲んじゃった?」

女「飲む?あたしの?」

男「は?え?」

狼狽えて変な声が出た。

男「いやでもそれはさすがにちょっとそれは」

女「狼狽えすぎだって」

女さんが笑っているのを見て、冗談だったと気付く。

男「勘弁してよ」

つられて俺も笑う。

女「意外にうぶだなぁ」

男「いや誰でも驚くって」

そういって二人でまた笑う。
たったそれだけで、
たったそれだけで二人の間の距離感が、あっけないぐらい簡単に無くなっていく。

女「ホントはね...」

女「花と友くんが色々準備してくる!って言ってたのに」

女「二人とも花火しか持ってきてないから」

男「...あーなんか、あの二人らしいかも」

女「ね!そうでしょ!」

女「二人とも自分が花火担当だと思ってた!とか言ってて」

女さんがクスクスと笑う。

男「友も馬鹿だけど花さんも大概だなー」

女「ね!お互い苦労するよね!」

男「馬鹿な友達を持つとね......」

そう言って二人で笑い合う。

女「なんかね、安心したよ」

男「え?」

女「男くんがいつも通りで」

そう言って女さんが満面の笑みを浮かべる。

男「そっか」

友「俺のクラゲの死体を食らえ!」

池「やめろ!投げんな!捨てろ!」

友「池くんの方にすーてる!」

池「投げんな!」

花「池くん!池くん!」

池「え?なに?」

花「なんかこれ透明のどろどろー」

池「クラゲの死体じゃねぇか!」

海水浴場に戻ると、そこでは和気あいあいとした光景が繰り広げられていた。

男「お互い苦労するよね......」

女「馬鹿な友達を持つとね......」

二人でため息をつく。

女「まぁでも今日ぐらいいっか!」

男「確かに」

女「よし!行こ!男くん!」

女さんが砂浜に向かって駆け出す。

女「池くん!なんか緑のヌメヌメ!」

池「だからなんで俺に見せる!」

夏の終わりはもうすぐそこだけれど、
まだ空は青くて、まだ太陽は強く輝いていて。

男「池くん!」

池「あぁ?」

男「なんか汚い流木!」

池「だから俺に見せるな!」

花「女ちゃんとは仲直りできた?」

男「まぁ仲直りっていうか、一応」

花「ふーん、まぁ女ちゃんの様子を見ればわかるけどね」

砂浜では池くんが女さんと友に、顔を残して埋められている。

男「花さんも埋めてきたら?」

花「いやーちょっと疲れちゃった、日陰最高」

早くも営業をやめた海の家は、格好の日除けとして俺たちに利用されていた。

花「やっぱ友くんに付き合ってあげるのは疲れるからなーほんと友くんはしょうがないからなー」

男「え?」

花「え?」

男「いやなんでもない」

友と花さんはお互いに相手に付き合ってあげてると思っているのだろう。

男「花さんはさ......」

花「うん」

男「友のこと好きなの?」

花「好きだよ」

なんとなく聞いただけのつもりが、即答されて驚く。

男「えっ」

花「なに?なんかもっと恥じらうような反応期待してた?」

花「それとも男くんも友くんを...」

男「いや恥じらう方を」

花「まぁでも隠すことでもないし」

やけに男前に言う。

男「えっと友のどこが?」

花「どこだろ......わっかんない」

男「えっ」

花「まぁでも」

花「恋なんてそんなもんよ」

それだけ言って花さんは立ち上がる。

花「よし!私も埋めてくるか!」

花「男くんもがんばりなよ」

男「お、おう」

花「あーでも」

花「池くんが可哀想か......」

池「出してくれえええええ!」

今日はここまでです

日が沈もうとしていた。
太陽はその半分ほどを水平線の向こうに沈め、海と空を赤く染めている。

友「ぐぁーつかれたー」

男「ずっと走り回ってるからだろ」

友「いやまじ今日だけで下半身ボクサー並み」

男「なんだそれ」

池「それはねぇよ」

女「ないね」

花「ありえなーい」

友「なんで俺こんなぼろくそに言われんだよ...」

女「いやーでもホントにつかれたー」

花「バリバリ焼けたわー」

男「高校生にもなって砂浜で鬼ごっことかすると思わなかったわ」

友「楽しんでたくせに」

男「まぁな」

友「お、素直じゃねぇか、このこの!」

男「うぜぇ、触んな」

池「うおぉ」

花「いやー」

女「キレイ...」

三人の声で水平線に目を向ける。

男「ぅお」

友「おお」

日がゆっくりと沈んでいき、水平線に近い空から深い深い青に染まっていく。
それは確かに夏の終わりの太陽だった。

しばらく誰も話さない。

友「うおぉおぉおぉ!」

友「まだ夏だ!夏だぞ!」

花「うおぉおぉおぉ!」

花「花火やろう!花火!」

その声に全員が動き出す。

友「おら!火つけろ火!」

花「一番派手なのから行こう!」

友「そうしよう!線香花火とかあとでいいわ!」

花「そうしようね!派手に行こう派手に!」

友「池くん!火!火!」

池「え?俺?」

花「早く!早く!」

池「え?お、おう!」

設置するタイプの花火に火がつき、勢いよく火花が吹き上がる。

友「どんどん行け!」

池「お、おし!」

花「燃やせ燃やせー!」

大きく派手な物から次々と火がつき、消えていく。

女「池くん!もっと!もっと!」

池「よしきた!」

また大きな火花が吹き上がる。

男「全部行こう!全部!」

友「やっちゃえ!」

花「派手に行こう!」

女「全部いっぺんに行こう!」

池「よっしゃ!」

花火をまとめて、一気に火をつける。
凄まじい音と、煙、火花。
全員、何か叫んでいたような気がする。
一瞬砂浜が明るく照らされ、そして消える。

友「あああ!消えたあああ!」

花「はやああい!」

男「せつねええええ!」

池「はああああ!」

女「はやいなああ!」

皆無駄に声が大きくなる。

友「もうあと線香花火しかねえええ!」

花「ええええ!」

男「せつねええええ!」

女「線香花火かああ!」

池「皆無駄にこえでけえええ!」

友「うあああ!お前もうるせええ!」

そこで全員で笑い合う。
多分誰も笑った理由はわからない。

友「はい、じゃあ線香花火を全員に一本ずつ配布します」

男「え、そんだけ?」

友「一本ずつ残した以外はさっきまとめて燃やしました」

池「馬鹿だろ...」

男「いや火つけたのお前だろ」

友「異議は認めん!いいから持て!」

友が有無を言わせぬ迫力で全員に線香花火を押し付ける。

日はすっかり暮れ、空には星が輝いている。

友「全員同時でひをつけよう」

全員で同時に火をつける。

パチパチと小さな音で、線香花火が燃える。

誰も喋らない。ただ無言で小さな花火を見つめる。

線香花火の静かな音。

ポトリ、と友の線香花火が落ちる。

突然友が波打ち際に走り出す。

友「おとこおおおおお!」

友「おれはしんゆうだからなあああああ!」

海に向かって馬鹿みたいに大声で叫ぶ。

叫び声は海に消えて、また砂浜に静けさが戻る。

その友を驚いた顔で見ていた花さんの線香花火が落ちた。

決意を決めた顔で、駆け出して、叫ぶ。

花「ともくうううううん!」

花「好きだよおおおおお!」

叫ぶと友の横に駆け寄る。
二人の距離は今までに無いほど近い。

池くんの花火も落ちる。

池「くそがああああああ!」

池「なんで俺にはああああああ!」

叫んだ池くんの顔は、何かが抜け落ちたようにスッキリとしている。

夜の砂浜にパチパチと小さな音が響く。




残ったのは俺と、女さん。

女「私ね......」


女「線香花火が好きなんだ......」

女さんの線香花火が揺れる。

女「線香花火なら...」

女「きっと声が聞こえるから......」

女さんの線香花火が今にも落ちそうに揺らめく。




あれが落ちたら、あれが落ちたら女さんは.....。

『後悔すんなよ』


誰に言われたんだっけ。


女さんの線香花火はもう...

俺は、後悔しないか?


俺は、後悔しないか?


俺は、俺は......

線香花火を捨てる。

俺が。

波打ち際に全力で走り出す。

俺が。

暗い夏の海の向こうを見る。

俺が、伝えなきゃ。

胸一杯に息を吸い込む。

力一杯叫ぶ。

後悔は、後悔だけはしちゃいけないから。

夏の終わり。
夏の終わりの海に、叫び声が響いて、消えていった。

これでとりあえず終わりです。
お付き合いいただいてありがとうございました。

これから後日談を投下します

本当に蛇足なんで適当に読み飛ばしてください

電車を降りてホームにたつ。
久しぶりの地元はいかにも地方都市、といった様子で、その変わらない姿に安心感を覚える。

男「まぁそんなに長く離れてたわけでも無いんだけどな」

改札を抜けて、駅前のロータリーに出る。
強いて変わったところを挙げるとすれば、駅前の進学塾が大手の予備校に変わっていることぐらいだろうか。

池「お、来たか」

池くんは昔とあまり変わっていなかった。

男「久しぶり」

池「久しぶり、何年ぶりぐらいだっけ?」

男「三年ぐらい?」

池「あー、俺の合格祝い以来か」

池くんは高校を出た後、一浪して地元から離れた大学に入学していた。

男「就活とかいいの?」

池「うるせー男こそ仕事いいのかよ」

男「休み取ってきた」

池「お、思いきったな」

男「まぁそりゃ」

男「親友が結婚するって聞いたらな」

夏を楽しもうの会(5)

花『久しぶりー』

花『みんないるー?』

池『久しぶり』

池『どうしたの?』

花『みんなみてるかな』

男『見てるよ』

女『見てるよー』

友『超見てる』

花『いやあんたは別に見てなくてもいい』

友『ひどすぎ』

花『わたしたち結婚します』

女『?』

池『え、まじ?』

男『嘘だろ』

友『ガチ』

花『マジ』

余りにも軽く投げ込まれた爆弾だった。

池「あいつらおかしいよな」

男「本気でビビったわ、あの後混乱した女さんから電話掛かってくるし、可愛かったけど」

池「さりげなくのろけんな」

男「わざとやってんだよ」

池「しね、まぁいいや」

池「行こうぜ、もう三人待ってるから」

男「パシられてんのかよ......」

花「きゃー!男くん久しい!」

男「あ、うん久しいー」

花さんは地元の保育系の短大を出てそのま保育士になっていた。

友「お、来たか」

男「仕方ないから来てやったよ」

友「なんだぁ素直じゃねぇなぁ」

友は地元の国立大を出てこっちでそのまま就職している。
二人とも地元への愛着が強いのだろう。

男「やめろ触んな」

並んで座る二人の指には指輪が見える。

女「ちょっと友くん!触んな!私の!」

友「ええええ!いいじゃん!独身最後の夜ぐらい......」

女「いいから離れる!男くんはこっち来る!」

男「大分酔ってんなあ」

池「正直歯止めが効かんかった」

女さんは俺と同じ大学を受けようとした時期もあったが、スコットの説得で断念。
結局こっちの大学を出て、こっちの企業の事務をやっている。

友「まぁとりあえず男も来たし乾杯すっか」

花「じゃあ私と友くんの結婚を祝って!」

「「「かんぱーい」」」

男「自分で言うんだそういうの」

友「海に行こう」

五人の宴会、そろそろお開きにしようかという空気が流れ始めた頃だった。

花「いいね」

池「あのときの?」

友「そう!花火は無いけど」

女「さーんせーい」

男「っしゃいくべいくべ」

海はあのときと変わっていなかった。

砂浜に座り込んで、海を眺める。

酔って火照った体に海風が心地よい。

女「なつかしー」

花「うわーほんとにー」

友「叫んだよなぁ」

花「あったあったあんときは若かったねぇ...」

友「俺たちの馴れ初めだもんな」

花「そうだね......」

友「...また来ような」

花「...うん、これから、ずっとだよ」

女「ねぇ」

女「あの時さけんだことおぼえてる?」

男「忘れるわけ無いじゃん」

女「じゃあ...さ」

女「もう一回叫んでみない?」

男「え?」

女「あああもうわかんない?」

女「だからその...もういい!」

女さんが突然波打ち際に駆け出す。

そして女さんは大きく息を吸って、
女さんに駆け寄った俺がその口をふさいだ。

男「俺が言うから」

後ろから手で口を塞いだまま、海の向こうに向かって叫ぶ。
あの時みたいに、力一杯。

男「おんなさああああん!」

男「結婚しよう!」

一瞬時が止まったような感覚。

女「よろしくー!」

女さんが叫んで、振り返って笑う。

どこかで池くんがくそがああと叫んだ気がした。

これで終わりです
最後駆け足でしたがありがとうございました

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom