一人っきりの勇者(92)

王「お前は、命に代えても魔王を倒さねばならない」

それが勇者を呼び出した王の、第一声だった。

勇者「…………」スッ

王「資金や人材の援助はほぼ無いが…、幼き頃より魔王を倒す者として、教育を受けてきたお前なら問題無いと思っている」

ひざまずく勇者に王は続ける。

王「…では、行くがよい。この世界が滅びる前に」

勇者「…はっ」



早足で城下町を抜ける。

この街に用は無い。

酒場や派遣所で勇者が仲間を得られない事は、自分がよく知っていた。

勇者(……死にに行くようなものだ、一度こちらが殺されそうになったからな…)

勇者がいなくなれば旅そのものが発生しないという打算の結果だ。

企てたのは街そのものだ。

留まれば、また命を狙われる…

~外

勇者(…度重なる侵略戦争で、大地が荒野になっている)

ぐずぐずになった土を踏みしめて、勇者は先を急ぐ。

勇者(こんな所では魔物も生きられないだろうな…)

勇者(それにしても、魔王勢がまだいるってのに……まだ他の領土が欲しいか、あの王は)

勇者は人間同士の戦争に駆りだされた事もあった。

勇者(…先を急ごう)



数日歩くと、町に辿り着いた、勇者が元いた王都の支配下におかれている町だ。

勇者の話は伝わっていた。

だがそれで何かが変わるわけではない。皆、勇者などいてもいなくても変わらないのだ。

宿をとり、部屋に落ち着いてから、勇者は一息をやっとついた。

勇者(……少し足を休めないと)

ベッドに身を倒す。

勇者(歴代の勇者も、この宿を使ったのかな…)

今まで一度たりとも成功したことのない魔王討伐の任。

町人等の態度も頷ける。

勇者「…………」

勇者は目を閉じた。

起きたらすぐに出発しなければならない。

魔王に自分の正体が知られる前に…

歴代の勇者は、そのほとんどが魔王の元へたどり着く前に死んでいる。

魔王の刺客が、勇者を殺しにくるのだ。

その前に各地に散らばった魔法の加護をもたらす道具や、武具を集めなければならない。

勇者(それらも簡単に手に入るかどうか、…怪しいものだが)

勇者(それはその時考えればいいか…)

∥ω・)っ④コトッ

クックックッ 勇者め すっかり寝入っているようだな そのまま永遠の眠りにつくがいい・・・

ザン!

勇者「ハッ! 夢・・・か?」

いやな汗をぬぐいながらベットから起き上がる。

勇者「刺客におびえて悪夢をみるとは・・・」

勇者「まずは情報を集めなければ。」

勇者(しかしどうやって?)

勇者(魔法の加護を受けた武具などを探していれば自ら勇者だと言っているようなもの)

勇者(とりあえず道具屋に足を運んでみよう)

道具屋「いらっしゃい」

勇者「こんにちは ちょっと見せてもらうよ」

一通り店の中を見て回る。目ぼしいものは当然ない。

道具屋「あんた冒険者かい?それとも傭兵?」

勇者「冒険者。ここいらで一山当てたいんだけどなにかいい話ないかな」

できるだけ愛想よく答えながら番台に干し肉と包帯、傷薬を置く。

道具屋「儲け話ねぇ。そういや近頃、山賊がでるって話があったな。」

勇者「討伐類か・・・一人じゃ難しいな。」

勇者「お宝関係は何か知らない?」

道具屋「へへ、まあ最後まで聞きなよ。」

道具屋「ちょっと前に旅のキャラバンが山賊に襲われたことがあったんだ。」

道具屋「奪われた荷物のなかには、さる貴族の方が頼まれた珍しい品もあったそうだ。」

勇者「それを取り返すことができたら・・・」

道具屋「その通り。報酬をたんまりってわけだ。」

勇者(もしかしたらその珍しい品の中に魔法の道具もあるかもしれないな)

勇者(仮に何も得られずとも貴族とツテを持つのも悪い話ではないか)

雨の中、険しい山道をひたすら歩き続ける。

人里離れた山間のけもの道を目印もなくただただ進む。

一歩間違えれば遭難してしまうだろう。

勇者(あれから山賊が根城にしている場所の話を聞き出すのに相当金を使ってしまった)

勇者(だがこれが成功すれば・・・)

勇者(! 見えた。あれが山賊のねぐら・・・)

勇者(見張りがいるな・・・ さて、どうやって近づこうか?)

勇者(とりあえず相手の様子を探るとしよう)

勇者(今夜からここで野宿だな)

( ・ω・)っ④④④"

勇者「・・・寒い。けど火を起こすわけにはいかない。」

勇者「それに眠い。だが今眠ってしまえば山賊の動きを見逃してしまう。」

勇者(こんな時、仲間がいてくれたなら・・・)

勇者(ええい! なにを弱気になっているんだ!)

干し肉をかじりながら再び入口を凝視する。

幼い頃から厳しい訓練の日々だった。

武術、馬術、魔法、戦術、サバイバル技術、交渉術に心理学。

あらゆる状況下で即座に反応できるように訓練された。

できなければ教官からビンタをくらい、その日は飯抜き。

だがつらいと思ったことはなかった。

あの頃はまだ仲間がいた。

いや仲間といえるかどうかわからない。

同じ教練をこなし、共に飯を食い、同じ時間を過ごした同世代の子どもたち。

だが夢を語らうような心の交流はなかった。

そこでは皆がライバルであり競争相手でしかなかった。

教官や施設の職員からはあきらかな差別が行われた。

日常品、消耗品の支給順位から、食事の量まで。

優秀なものだけが生き延びられる。

そんな世界だった。

もし仮に街でばったり出くわしたとして「よう兄弟!元気にしてたか?」などと気さくに話せないだろう。

たぶん見かけても目をそらし気づかないふりをするだろう。

そして相手の出方を伺いながら、何気ない行動続けるだろう。

相手も同じだ。気づかぬふりをしていかにこちらを出し抜くか。

自らを守るためだけに。

それだけを考える。

僕たちは勇者とは名ばかりの臆病者だった。

支援

勇者「うん?あれは?」

雨でぬかるんだ道を猛スピードでやってくる馬車がやってくる。

その道の行く先は一つしかない。

勇者「ここはひとつ賭けに出よう・・・」

馬車が目の前を通り過ぎる瞬間、勇者は荷台の屋根に飛び移ることに成功した。

御者「? なんだ?」

男「おい! 前を見てろ!」

御者「へ、へい!」

勇者(ふぅ。とりあえずこのまま中に入るまで気づかれないようにしないと・・・)

勇者(しかし立派な馬車だな。いったい中は何を積んでるんだ?)

見張り「おい!止まれ!」

御者「どうどう!」

突然の停止に馬車全体が揺れ思わず振り落とされそうになる。

勇者(くっ!)

男「私だ。頭目に会いに来た。つないでくれ。」

荷台の中から男が声をかけると見張りはあわてて中へと引っ込んでいった。

勇者(何者だ?盗賊どもの頭にいったい何の用だ?)

頭目「こりゃあ旦那。わざわざこんな山奥まで御足労いただいて・・」

男「おべっかはいい。それより娘はどうしてる?」

頭目「へえ、そりゃあもう。てめえの孫よりも大事にあつかってまさぁ。」

勇者(娘? いや今はそれよりもここから移動することが先だ。)

勇者(天然の洞窟を利用したのか。)

周囲に気を配りながら荷台から降りる。

馬車の近くには幸い、御者しかおらず簡単に事は運んだ。

勇者(さて、どこから探っていくべきか。)

勇者(あの男を追ってみるか。それとも、もう一方の道を探索するか。)

勇者(いや、追って行って鉢合わせなんてことになっては元も子もないか。)

勇者(ここは当初のの目的通り宝探しと洒落込もう。)

洞窟の中は外の空気よりも冷たくその暗い穴の先はどこか異界に通じているように見えた。

薄暗い洞窟を一歩一歩確かめながら歩く。

勇者(大がかりな罠が仕掛けられていないにせよ鳴子ぐらいは警戒せねば。)

勇者(それに先ほどの話からすれば・・・)

足音と気配を殺す。

訓練の中でも基礎の基礎とされたことで勇者にとっては息をすることにも等しかった。

しばらくすると曲がり角の奥から明かりがみえて来た。

勇者(さてここまで見廻りとも出くわさなかった。この幸運が続いてくれれば・・・)

鞘から短剣を引き抜き鏡の代わりをする。

勇者(一人。やはりそう易々とはいかないか。)

まだか?

( ・ω・)っ④"

勇者(ここはひと芝居打つか・・・)

勇者「あれ?ここはどこだ?」

見張り「なんだ、お前は!」

勇者「俺? 俺は新入りの勇者ってんだ。よろしくな!」

愛想よく笑顔を作りながら見張りに近づいていく。

見張り「新入り? 嘘をつけ! 新しい仲間が増えたら頭が黙ってるはずがない!」

勇者「そうだな!」

そう言うと同時に短剣を引き抜き見張りの首筋を切り裂いた。

見張り「かはっ」

一瞬、何をされたかわからないといった表情を浮かべたまま、喉を抑えて倒れこむ。

勇者「ごめんよ。無駄な殺生は好まない。なんて言ってられないんだ。」

そう言って見張りの胸に短剣を突き立てた。

ひゅーひゅーと声にならない声で、恨めしそうにこちらを睨みつけたまま絶命した。

見張りの懐をまさぐり鍵束をしまい込む。

勇者「はてさて。これはどこの鍵かな?見張り君。」

先に進もうにも行き止まり。

隠し扉でもあるのかと壁に目をやるもどこにもそれらしき形跡はない。

ここではないのかと、あきらめ戻ろうとしたとき、ふいに床に違和感を感じた。

何度もブーツで踏みしめる。明らかに周囲の地面と感触が違う。

手で泥を払いのけるとそこに鉄でふたをしているのがわかった。

ふたを開けるとさらに鉄の扉があった。

勇者「さて。なにがでるかな。」

鍵はいくつも無く、すぐに扉は開いた。

扉を開けて地下に降りる。

そこは真っ暗闇で何も見えない。

灯りをさすと闇の中に何かが動いたのがわかった。

勇者「誰だ!?」

そこには女がいた。

それも一人ではない。

五、六人。

一糸まとわぬ姿で。

それだけ聞けば魅力的な話だが、女たちは汗と泥と糞尿まみれだった。

勇者「これは?」

ずっと暗闇の中でいたせいか、女たちは顔を隠し中にはうずくまるものもいた。

ブロンド、赤毛に黒髪。白い肌もいれば黒い肌もいる。

ただ全員に言えることは皆おびえているということだった。

勇者「君たちはいったい・・・?」

女「わ、私たち言われた通り皆大人しくしていました。だからどうかもう・・・」

勇者「おびえなくていい。僕はあいつらの仲間じゃない。」

そう言うと女が顔をこちらに向けた。

殴られたのか目に青あざができていた。

女「私たちを助けに来たの?」

何やらシリアスな匂いがプンプンするな

( ・ω・)っ④"

勇者「残念だけどそうじゃないんだ。」

女「そう・・・ ならどうしてこんなところへ?」

勇者「ここの盗賊たちに用があってね。」

女「盗賊に用があるなんて、あなた変わってるわね。」

勇者「よく言われるよ。」

勇者「ところで君たちはどうしてこんなところに?」

女「・・・」

金髪の女「私は街でさらわれたの・・・」

褐色の女「私は村から」

赤髪の女「私は・・・売られたの。家族に。」

勇者(・・・奴隷なのか?するとさっきの男は人売りの商人?)

勇者(だが何か変だな)

勇者(もし商品として女たちをさらったのならこんな場所にいつまでも閉じ込めておくわけがない)

勇者(それに・・・)

女「・・・ねぇ。ねぇったら!」

勇者「あぁ。すまない、考えことをしていた。何かな?」

女「私たちここから出たいんだけど?」

勇者「? 鍵はあいているよ。」

女「そうじゃなくて、ここから連れ出してほしいの。」

勇者「それは無理だ。」

女「どうして?」

勇者「僕もここに忍び込むのはかなり行き当たりばったりだった。」

勇者「何の計画もなく、女の人を5人も6人もかばいながら脱出するのはとてもじゃないが。」

女「ならどうしたらいいの?」

勇者「君はさっきから僕に頼ってばかりだね。」

女「だって・・・」

勇者「もう少し考えをまとめてから話をしよう。時間はあるんだ。」

女「・・・っ!」

少女「おねえちゃん。」

女「どうしたの?」

少女「おかさん、おはなしてくれないの。ねちゃったの?」

女「」

女「・・・お母さん、ちょっと疲れてるの。お姉ちゃんがお話してあげるからね。」

女「ごめんなさい。あなたにも事情があってここに来たんだものね・・・」

女「勝手なことばかり言って本当に・・」

勇者「いや・・・」

勇者(これでいいのか?)

勇者(俺は何のために?魔王を倒すため?世界の平和のため?)

勇者(目の前にいる助けられる人を助けなくて何が勇者だ!)

勇者「もし」

女「?」

勇者「この大人数が一斉に逃げ出したら一網打尽だ。」

女「別々に逃げるということ?」

勇者「いや出口はひとつだから最初の組が抜けたら警戒されてしまうだろう。」

女「それじゃあ・・・」

勇者「一人が囮になる。その間に騒ぎに紛れて君たちは逃げる。」

女「でも・・・」

勇者「この先に馬車が止まっている。」

勇者「御者もいるがやつらの仲間だ。」

勇者「だから最初に僕が縛って逃げられないようにする。」

勇者「君たちは上で転がっている見張りの得物で彼を脅せばいい。」

支援

勇者「じゃあ僕は用意してくるよ。」

女「どうして?」

勇者「?」

女「どうして急に手助けしてくれるようになったの?」

勇者「さあ?ただの気まぐれだよ。」

女「嘘。」

勇者「あぁ・・・もう自分に嘘をつくのがいやになったのかもしれない。」

勇者「本当に正しいことをしたくなったのかも。」

勇者「じゃあ行くよ。」

女「ねぇ。また会える?」

勇者「たぶんもう会えないよ。」

女「ほんとあなた変わってるわ。こんな時は『また会えるよ』とかいうのがふつうよ。」

勇者「すまない。嘘をつくことより期待させて裏切るのはもっと嫌いなんだ。」

勇者「それじゃ。」

そういうと一息で階段を駆け上がった。

来た道を急ぎ駆け戻る。

勇者(どうしてこんなことになったのかな?)

勇者(任務のことだけ考えて行動するなら女たちなんかわずかな犠牲のはずだ)

勇者(もしかしたら前任者たちもこうやって失敗したのかな?)

勇者(いやまだ失敗に終わるわけじゃない)

御者は馬車の上で居眠りをしていた。

勇者(こんなに簡単にことが運ぶとは・・・)

御者に素早く近づくと持っていたロープで縛り上げた。

勇者「さてこの後どうするか。」

勇者(一対多数の戦闘 それを有利に運ぶためには・・・)

女たちが囚われていた道とは別の道。

慎重に歩みを進める。

途中、食料庫をみつけて簡単なもので腹を満たす。

食料と一緒に油の壺を見つける。

勇者(これは使えそうだな)

廊下に出て油を撒きはじめる。

勇者(これだけでは弱いか・・・)

山賊「おい!貴様そこで何をしている!」

勇者「しまった!見つかった!」

山賊の声に次々と仲間がやってくる。

勇者「これでも喰らえ!」

手にしていたランタンを叩き割り火をつける。

ぎゃあという悲鳴と炎が暗い洞窟の中に上がる。

勇者は追ってから逃れるために奥へ奥へと逃げる。

途中、何度も追いつかれそうになりながら、相手に掴まれそうになりながらひたすら逃走する。

逃げながら戦う勇者の持つ短剣は血で切れ味が落ちていた。

相手の落とした鉈を拾い上げて必死に抵抗する。

山賊の一人が放った矢が左肩に突き刺さる。

勇者(ぐっ いよいよここまでか・・・)

すでに体力は限界に近づいていた。

じりじりと攻め寄る山賊たち。

そして一人の山賊の槍が勇者の脇腹を刺し貫いた。

勇者「うぐっ」

勇者のうめき声と同時に一斉に切りかかる山賊たち。

山賊たちの剣が勇者の体に次々と突き立てられていく。

勇者(俺はここで死ぬのか・・・)

勇者は目を閉じ、そしてその意識は深い闇の中にゆっくりと落ち、やがて消えた。


game over

青年「うわあ、まじかあー。ここまでセーブしてねーし。」

友「だから『盗賊』じゃだめだってw『戦士』か『騎士』でやれよwww」

青年「致命の一撃が狙いやすいんだよ!」

友「つか魔法どうした? なんか回復覚えてないのか?」

青年「魔法とか邪道じゃん。」

友「馬鹿かwww」

青年「次は友がやれよ!」

友「おk じゃあ俺は『騎士』タイプで・・・」

青年「つうかこのゲームの王様ひどくね?」

友「だよなw 勇者一人で冒険させて魔王軍全部倒せとかマジキチwww」

青年「実はラスボスは王様だったりしてw」

友「あり得るwww」

『王「お前は、命に代えても魔王を倒さねばならない」』







女(あの人が地下牢を出てしばらくすると外が騒がしくなった)

女(外の様子を窺うと山賊たちが次々と奥へと駆け込んで行った)

女「みんな今がチャンスだよ。」

女(そういってあとはもう無我夢中で作戦を実行した)

女(あの人が言った通り御者は馬車の中で縛られていた)

女(緊急時とはいえ、初めて人に向かって刃物を向けた)

女(とても恐ろしかった)

女(それから街までの間生きた心地がしなかった)

女(山賊たちに見つかったら、御者が裏切ったら、様々なことが頭に浮かんでは消えていった)

女(街の灯りが見えたとき本当にうれしくて涙がでた)

女(御者とは街の入口で別れた)

女(そのあと真夜中に教会に逃げ込んだ)

女(事情を知らない修道女は裸の私たちにびっくりしていたけれどすぐに解ってくれた)

少女「ねぇ、シスター。えほんよんで。」

女「ふふ、昔みたいにお姉ちゃんでいいよ。」

少女「うん!おねえちゃん!」

女(私は今教会で僧侶になる勉強をしている)

女(助けてもらった恩もあるけれど一番はあの人の影響だと思う)

女(あの人がいったいどんな人生を歩んできたのかはわからない)

女(もしかしたら私に会うまでは悪人だったのかもしれない)

女(それでもあの人は私にとって『一人っきりの勇者』だから)




乙!

乙!

途中までのシリアス展開飽きちゃったのかな…



continueしての別ルートはよ

>>6
からこんてにゅー。

6以降のは俺じゃねぇ別人の乗っ取りだっぜ。

勇者(…………)

意識がはっきりすると、勇者は白い空間に立っていた。

女「×××」

勇者(……いつもの夢か……)

ここには正体不明の女と勇者の二人だけだ。

女「……××」

勇者(言ってる事分かんねぇよ……)

女「……!」

ただ、何かを必死に伝えようとしている様子は分かっていた。

女「……×××」

いつも最後に女は何かを呟き、手を延ばす。



勇者「!」

そこで目が覚めるのだ。

勇者「ハァッ!!」

金属音が響いた。

?「……」

勇者(資格か!? 早すぎる!!)

夢の女はいつも、寝ている勇者に危険が迫ると彼を眠りから起こした。

勇者(チ……)

つばぜり合いが続く。

先に引いたのは相手だった。

?「見事だ、流石勇者…私は貴族様からの命――」

ザンッ

勇者「……」

勇者は剣を振り、血糊を落とす。

勇者「貴族の手駒にはならん」

そうしてすぐに宿をでた。

訪れたばかりの町を抜け、国境に向かう。

勇者はまず、伝説の武器を手に入れるつもりだった。

それがあるという噂の国、そこと母国を繋ぐ国境へ向かう。

勇者「……」

土を踏みしめ先を急ぐ。

勇者(この辺りまで侵略戦争の影響がでているのか……、生き物の気配が全くしない)

それは魔物にも言えた事だった。

勇者(国境までまだ2日はかかる……、何か食料を探さなくては)



空腹におされ、勇者は道をそれて森に入った。

勇者(果実の一つも無いのか)

しばらく探すが食べられそうな物は無かった。

勇者(えぇい、この際渋くてもかまわん)

嗅覚に神経を集中させていた勇者は、鼻につくような臭いを嗅ぎとった。

勇者(……?)

臭いの元へ進んでいくと、不可思議な緑色の塊を発見する。

勇者(! スライムか!)

塊は何かを包み、溶かしているか、そうしようとしている途中のようだった。

勇者はスライムを注視する。

勇者(人が…!)

勇者「焦げたら済まない…」

勇者は空中で指を滑らせる。

魔法だ。

言葉で唱える呪文とは違い、何かに魔法陣や魔法文字を描き発動させる不思議な現象を魔法という。

魔法は紙や土に魔法陣を描き、完成するものだが…。

勇者は魔力で光を生み、空中に魔法陣を描く技を編みだしていた。

勇者「火炎よ!」

炎が数秒吹き出し、瞬く間にスライムを蒸発させる。

勇者(…スライム相手に挑発は必要無かったか)

勇者は崩れ落ちた人に素早く駆け寄る。

勇者(この服装……僧侶か? 女の僧兵という事はあるまい)

僧侶「……ぅ…」

勇者「意識があるか? 良かったな。溶かされたのは薄皮一枚だ、肉までは溶かされていないぞ」

声をかけながらも、勇者は魔法を描いていく。

陣が完成すると、その魔法は勇者の左腕に灯った。勇者は淡い光を放つ左手を僧侶にかざす。

勇者「……」

しばらく光を当てると、僧侶ははっきりと意識を取り戻し、目を開いた。

勇者「無事か?」

僧侶「うぅ……あ、あなたは?」

勇者「ただの旅人だ。僧侶がなぜこんなところにいる?」

僧侶「……。薬草を採りにきたんですが、魔物に…」

勇者「そうか」

勇者は僧侶を座らせると、別の事を尋ねた。

勇者「この辺りは薬草しかないのか? 何か食べられる様な物は?」

僧侶「え、ええと……。…あ、あっちの方に赤い実がなった木がありましたよ」

勇者は返答を聞くと、会釈をした後すぐに踵を反した。

勇者「……」

邪魔な枝は切り捨て、道を作りながら勇者は進む。

僧侶「……」

その後に僧侶が続いた。

勇者「……なぜついてくる?」

僧侶は逡巡した後、とっさに思いついた事を答えた。

僧侶「案内っ! …し、ようと思いまして……」

僧侶(一人でいたくありません…)

勇者「……」

勇者は僧侶の本心に気付いてか、実のなる木につくまでそれ以上何かを言う事は無かった。

支援

勇者「……」

勇者(……この森にこんな場所があったとは)

そこは巨大樹を中心に森に穴があいたような場所だった。

巨大樹が立つ場所は丘になっており、より一層巨大樹を大きく見せる。

勇者(この樹が辺りの養分を吸っているせいで、他の木が育たないのか)

そして確かに赤い実はなっていた。

僧侶「……?」

しかし巨大樹になる実で、赤い物は希有な程少なかった。

ほとんどは同じ形をしているが、白い実だったのだ。

僧侶(あれ? ……赤い実だけなっていた様な……)

勇者は戸惑う僧侶を余所に、巨大樹に足をかけていた。

そしてあっという間に上まで登り、木の実を手に取る。

勇者(……甘い匂いが届く程か)

勇者は白い実にかぶりつく。

勇者「!?」



下で勇者の様子を見ていた僧侶は勇者が白い実をかじった後、微動だにしなくなった事を怪訝に思い、声をはって訊ねた。

僧侶「どうしたんですか!?」

勇者「……」

返答は少し間が開いて届いた。

勇者「美味い。お前も食うか?」

僧侶の答えも聞かず、白い実が放られる。

慌てて僧侶が掴むのを確認すると、勇者は白い果実を一心不乱にかじった。

しばらくして、ようやく勇者がおりてきた時には僧侶は待ちくたびれ、その場に座り込んでいた。

勇者「……なんだ? その変なポーズは」

僧侶「……///」

僧侶は落ち着いてから気付いた事があった。

僧侶「その……、マントを貸していただけますか?」

勇者「……」

勇者は土色のマントを脱ぐと、僧侶に放り渡した。

僧侶「あ、ありがとうございます」

勇者「…くれてやる」

僧侶の案内で勇者は近くの教会に訪れていた。

僧侶「ありがとうございます……ここまで護衛していただいて」

僧侶は頭を下げる。

勇者「まぁ、いい。道からそれほどそれた訳でもない」

言って、すぐに去ろうとした勇者を僧侶は呼び止める。

僧侶「待ってください! せっかくですから、教会で休んでいってください。お礼もしたいですから」

僧侶の申し出に勇者は首をふった。

勇者「急ぐ旅なんだ」

言い残し、迷いなく勇者は教会から遠ざかっていく。

僧侶「……」



勇者(1日……使った甲斐があったな)

勇者は歩きながら白い果実を放った。いくつか袋に入れて持ってきていたのだ。

勇者「美味い」

場所は変わり、ある砦。

炎の王「まったく……勇者と名を冠するばかりで骨の無い……」

赤黒い肌をした男は水晶玉を覗いていた。

そこには砦の最下層で消し炭になった一団の死体が映っている。

炎の王「これで北の国の勇者も死んだ……。残るは東のみ。だが東で勇者が現れたという噂は無い」

炎の王が立ち上がり、その場に集まっていた部下に命令を叫ぶ。

炎の王「今こそ侵略の時! まずは近場の東の国から攻め落としてやろうぞ!!」

魔物の雄叫びが轟いた。



勇者「やっと着いたか……」

教会を後にして2日後程、勇者は国境に到着した。

番兵「止まれ!」

番兵2「通行証を提示しろ」

勇者は道を塞ぐ番兵達に通行証を示す。

番兵は通行証を注意深く確認した後、道を開けた。

番兵「これより先は北の国。東の法が通用しない事もあるから注意しろ」

勇者「ああ」

国境と言っても、平原に門と高い塀があるだけだ。

そこから一歩進めば他国。

勇者(そして魔王を倒す為の武器が眠っている)

一歩踏み出し、勇者は母国を去った。



北の国、首都。

そのとある魔法研究所。

助手「無茶っすよ! そのハーブは入れたら失敗するっす!!」

魔法使い「大丈夫よ」ポイッ

カカッ

魔法使い「ケホッ……じゃあ、私が帰るまでに掃除しておくのよ」

助手「無理っすよ~」

半泣きの助手を置いて、魔法使いの女は自分のアトリエから出た。

魔法使い(……まったく。すすだらけだわ)

煤にまみれたまま、魔法使いはある場所へ歩きだす。

向かった場所は小さな洞窟だった。国のとある場所から複雑な手順をふまないと辿り着けない場所だった。

この場所を知っているのは魔法使いしかいない。彼女も偶然知ったのだが。

洞窟の奥には一振りの大剣が地面に刺さり、鎮座していた。

大剣は最早風化し、ただの茶色い錆の塊にしか見えなかったが。

魔法使い「……」

魔法使いはその塊に魔力を流し込む。

すると大剣から魔力が返され、それが魔法となって発動する。

魔法使いの皮膚全体の表面から突風が巻き起こる。その突風で魔法使いの服に付着した煤は全て吹き飛んだ。

魔法使い「ふー、やっぱり便利ね、これ。……」

言った後、魔法使いはしばらく大剣を見つめ、おもむろに手を延ばした。

そしてしっかり大剣を掴むと、思い切り引いた。

魔法使い「ふっ! ……むむ、やっぱりだめね」

変わらず涼しい顔で魔法使いは言った。

魔法使い(びくともしないわ……家に持って帰れたら便利なのに)

魔法使いは得意の魔法で大剣を地面からとりだそうとも思ったが、壊してしまっては本末転倒なので止めている。

魔法使い「ま、いいわ。帰りましょ」

ため息を残して魔法使いが洞窟を出ようとした時だった。

突然の疾風に煽られ、魔法使いは転倒してしまう。ついた尻をさすりながら彼女は疾風の向かった方を睨んだ。

魔法使い(何……? 今、何か通ったような……)

その数秒後の事だ。洞窟の中から大剣を持った何かが飛び出し、そのまま走り去ろうとする。

魔法使い「!?」

?「……」

大剣を持った何かは、魔法使いに目もくれず凄まじい速度で疾走する。

魔法使い「待ちなさいっ! 私の掃除機!!」



その頃、勇者は北の国で聞き込みをしていた。

国の全ての酒場をまわったが、伝説の武器の情報は無しだ。

勇者(噂は所詮噂だったのか? ……これでまた振り出しか)

勇者がすっかり暗くなった空を見上げた時、その空が一瞬激しく明滅した。

勇者「!?」

素早く目を庇う。

待ちなさいっ!!

次は叫び声が聞こえてきた。

勇者が声がふってきた方向を視線を向ける。

魔法使い「ボルトアロー!」

魔法使いが発動のスイッチである魔法の名前を叫ぶと、彼女の手にする紙の札から五本の雷が生まれ、それは空中をジグザグに進みながら相手に襲い掛かる。

大剣を持つ何かは、五つの雷をいともたやすくかわしてみせた。

魔法使い(っ! ……もう陣が残り少ないわ。何とかこれだけで仕留めないと……)

魔法使いは魔法陣の描かれた紙札に視線を落とす。

?「……」

しかし考えている暇は無い、魔法を連発して足を止めなければ大剣泥棒はすぐに逃走を再開する。

魔法使いは歯噛みした。そして雷の矢をまた放つ。



勇者「……」

店主「おっ? まぁた久々にやってるねぇ」

酒場前の清掃をしようと外にでてきた店主が勇者の隣で言った。

彼も勇者と同じように点滅を繰り返す空をあおぐ。

勇者「なんだ? あれは……」

勇者が呆れ半分に尋ねると、酒場の店主は愉快そうに答える。

店主「この国の名物だよ。あっちの通りの方に熟達した腕の魔法使いが住んでるんだが……」

<掃除機返せーっ!

店主「誰か彼女を怒らせたようだな。ここまで派手なのは初めてだけど」

苦笑まじりに店主が言った。

勇者(怒る度こんなことしてんのかよ……)

魔法使い「メガボルト!」

一際大きな雷が通る場所で爆発を起こしながら宙を進む。

爆風にあおられ体制を崩した大剣泥棒は魔法の直撃を受け、たまらず落下する。

店主「うおっ!?」

勇者「!」

それは観戦していた二人の前に落ちてきた。

?「……」

勇者はそれを見て眉をひそめた。

勇者(黒い人型……魔物か?)

紫煙

シエンタ

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