提督「狙うは旗艦ただ一隻、全残存火力を集中させろ!」 (880)

五月雨「・・・え?でも一人をひいきにする訳には行かないのでは・・・」

提督「自分で言っといてそれかよ・・・。贔屓じゃないぞ、これは俺の素直な気持ちだし、いざ言われたら答える準備はできてた。散々皆からも言われてたからな」

五月雨「け、結婚、って、どうするんでしょうかっ!」

提督「知るかよ」

深くため息をついた後、

提督「とりあえずあいつらに聞こえただろうし」

五月雨「何が、ですか?」

提督「言われなくてもわかるだろ?説明たって、どうすればいいのやら・・・」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1437281255

前スレ。
提督「大和撫子ねぇ・・・」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1412335650/)

というわけで続きますまだ続きます。

また来てくださった方々はありがとうございます。
前スレも読んだ上で来てくれた方は感謝感謝です。

投下は前スレに続いていますが、ここまでです。ありがとうございました。

今思いましたが、これHTML化が完了したかどうかって判断する術あるんですかね?
一週間程度はかかるものなのでしょうか。

何はともあれ、明日、投下します。時間帯は例によって不明です。

>>6
依頼されてから手動でやってるからまちまちだな
依頼してないなら自動落ちまでならないけど

>>9 依頼は宣言どおり三日たってから行いました。
  少し不安に思ってしまいましてww

気にしないことにしますね。

バテてる、暑すぎる・・・。
それでは参ります。



五月雨「そんなに声、大きかったですか・・・?」

提督「中庭だし、音をさえぎるものないから・・・、だいぶ響いたぞ。まずついてきてた扶桑には絶対聞こえてたな」

扶桑は盗み聞きというよりかは提督を探している途中で出くわしただけだった様で、こちらに歩いてきていた。

扶桑「五月雨さんも結構大胆なことをなさるんですね。見直してしまいました・・・。先を越されましたね・・・」

五月雨「そ、そんな意味で見直されても困りますよ!」

提督「とりあえず結婚用具一式に関してはこちらで調えておこう」

五月雨「本気でやるつもりなんですか!?」

提督「なんだよ、結婚したくなかったのかよ」

五月雨「えっ、そういうわけではなくって、提督の気持ちというか、その・・・」

最後のほうは不安からかよく聞き取れなかった。

提督「なるほど、五月雨のことを俺が好きかどうかが気になるわけか」

五月雨「一々説明しなくていいです!」

提督「俺の心境的なものを話すとすればだな」

五月雨「・・・」

提督「他の艦娘とは違う感情を抱いているのは確かだ」

五月雨「恋心がどうかわからないとかそういうことですか・・・」

何言ってんですか、とでも言いたげな視線を投げてきた。

提督「いや、恋心ではあったんだろうと思う」

五月雨「・・・」

提督「でも多分心のどこかで年齢の差みたいな所で決定的な線引きをしていたんだ。言わば気持ちに蓋をしていたというやつだ」

五月雨「・・・要するに?」

提督「ま、まぁ、要するに」

顔を見られたくないのでとりあえず空を見た。

提督「その、だな」

五月雨「はい」

提督「俺も、うん」

そろそろくどいぞ、と自分に言い聞かせる。

提督「好きだ、というわけだ」

五月雨「誰のことをですか?」

提督「性質が悪いぞ五月雨・・・」

五月雨「わからないから聞いたんです」

提督「そりゃあ、お前。五月雨のことをってことだろう。話の流れでわかれよそれぐらい」

五月雨「まぁ、わざとですけど」

提督「だろうな、わかってた」

二人だけで話していた所へ、

扶桑「提督」

後ろから冷ややかな声がかけられた。

扶桑「忘れておいでになっているわけではありませよね?」

提督「お前らの気持ちをどうするのかということだろうが・・・、どうしよう」

扶桑「別にもう皆さん五月雨と提督のことはわかってらっしゃったんですし、今更抵抗するようなことはしないと思います。ですが私の言いたいのはそこではなくて」

提督「・・・なんだ?」

扶桑「誰かを贔屓にするわけにはいかないといってきた提督が、五月雨に恋心を抱いていたというのは大問題ですよ」

提督「あんれぇ・・・、俺そんなこと言ってたっけ・・・」

扶桑「あなたが覚えてなくても私たちは覚えてます」

提督「・・・」

先から顔面トマトのままの五月雨を顔を見合わせる。

提督「重婚するわけには行かないから・・・」

提督「(おそらくこれまで通りやれば、皆不満はあるだろうが割り切ってはくれる、ということなのか。扶桑の言うとおり自分の言動をいかに処理するかが問題か・・・)」

少し考えると、簡単に解決法は思いついた。

提督「俺が贔屓にするわけにはいかないって言ったのは皆が納得というか、割り切ってくれないだろうと思ったわけなのであって、扶桑の言うとおりなら、俺は誰かを贔屓にするのに遠慮しないというわけだ」

扶桑「はぁ・・・、屁理屈・・・」

提督「でも思い出せば当初からこれは言ってきたことだからな。別に手のひら返しをしたことにはならない。な、五月雨な」

五月雨「あ、はい、そうです、ね?」

提督「目下の所現実を見れば俺らは警戒期間中なわけだから結婚式を挙げるわけにはいかない。とりあえず朝結婚発表して、執務室で色々やることになるけどいいか?」

五月雨「・・・あと半月ぐらいは待てばよかった・・・。結婚式かぁ・・・」

扶桑「それと、ていとく?」

提督「ん?」

扶桑「五月雨さんも」

五月雨「は、はい」

扶桑「目下の所、現実を見れば今日の秘書は私ですから。提督はお預かりしますね」

五月雨「・・・す、すいません、扶桑さんの担当日だったのに」

扶桑「五月雨さんは悪くないんです。提督が悪いんですから。さぁいきますよ提督。今夜は消灯時刻なんて無視ですから」

がっしりと扶桑が提督の腕を固定した。

提督「・・・え!?ちょ、五月雨お前はこれでいいのか!?」

五月雨「頑張ってくださいね、提督」

提督「はっ!?何を頑張るんだ!?」

六月二十日。舞鶴鎮守府執務室。午前五時半。

提督「いつもの風景が戻ってきた」

隣にはすでに五月雨がいた。

実家のような安心感。

五月雨「さすがに待ちくたびれました・・・」

提督「では、早速始めよう」

五月雨「え、何をですか」

提督「指輪だよ。結婚っていったら普通そうだろ」

五月雨「え!?ここでやるんですか!?」

提督「昨日執務室でやろうって話しただろっ」

五月雨「えええ!」

提督「ほら手を出せ手を!」

五月雨「は、はい・・・」

提督「右手じゃない、左手だ」

五月雨「は、はいっ」

右手で手を取りつつ、左手で引き出しの中を探って器用に箱を開けた。

五月雨「ほ、本当に、ゆ、指輪なんですよね」

提督「では」

五月雨「二十歳以上も年の差が離れてますけど、もう気にしても意味ないですかね」

提督「別にお前が良いんだったらそれでいい」

そっと指輪を薬指に嵌めた。

と、その時だった。

秋月「司令官!五月雨と結婚するってマジですか!?なんでで、す、か・・・。あ、ああ、ああああああああああ!」
たった今嵌ったばかりの指輪を指差す。

秋月「そ、それ、それって、もしかしなくても指輪ですよね!?」

五月雨「はい、そうですよ」

うふっと笑って五月雨が答えた。

秋月「勝者の余裕・・・!ていうか五月雨に聞いてないし!」

提督「なんだよ朝っぱらから騒がしいな。あ、秋月か、どうしたんだ?」

秋月「そんな棒読みですっとぼけようったってそうはいきませんよ司令官!一人を贔屓にしないって言ってたのに!」

提督「その件については朝ごはんの後にでも話そうではないか」

時間経過&移動。舞鶴鎮守府食堂。午前六時半。

間違いなく扶桑が言いふらしてくれたおかげで今朝は結婚報告をせずにすんだ。

提督「というわけなので、はい」

秋月「確かに仕方ないかなって思っちゃいましたけど・・・」

山城「言葉の端をうまく捉えましたね・・・」

赤城「提督!私とは遊びだったんですかッ」

加賀「私との思い出も忘れてしまわれたのですね・・・」

響「結婚か・・・、いずれするだろうとは思ってたよ」

電「結婚しちゃったのです?」

暁「五月雨のほうがレディーだなんて・・・、そんなの認められないわ・・・」

雷「私というものがありながら・・・」

プリンツ「そんな!お姉様と結婚するものだとばかり思ってましたのに!どうして結婚してくれなかったんですか提督!」

ビスマルク「プリンツ、ちょっと口を控えなさい」

隼鷹「っかー!結婚かぁ!いいねぇ!いいねぇいいねぇ!」

飛鷹「朝からお酒呑みすぎ・・・。臭・・・」

加古「はー結婚かー、結婚とかしたら寝る暇なくなりそう・・・」

古鷹「また寝ること考えてる・・・」

長良「まぁなんとなく想像はついてたよね」

名取「そうだねー。でも結婚かぁ、いいなー」

聞くに大体こんな感じの反応だった。

中でも特にひどかったのが白露型の夕立で、それを除けば白露型の面々は比較的落ち着いていた。

涼風「結婚するのは良いけど、あたいのことも忘れないでくれよー?」

五月雨「別に同棲するわけじゃないから、大丈夫だよ」

涼風「うんうん、やっぱりいい姉を持ったねぇあたいは!」

涙ぐみながら五月雨の肩を叩いた。

提督「何とか乗り越えたかな・・・

間宮「それほどの混乱にならなくてよかったですね、提督」

間宮が冷たい声で話しかけてきた。

提督「お、おう、そうだな・・・、混乱にならなくてよかったと思うよ・・・」

間宮「ふふ」

提督「・・・」

引き攣った笑みを浮かべつつ、提督は目を背けた。

提督「とりあえず今日も今日とて仕事はあるわけだから、俺はそろそろ戻るぞ。五月雨はここにいてもいいが」

五月雨「あ、私も戻りますよ!」

涼風「さて、また暇になるんだね!」

涼風が五月雨を見送ると、春雨を見る。

春雨「?」

涼風「春雨、今日は外に出てみよ!」

春雨「え、ええ、お外は危ないよぉ・・・、雨降ってるし・・・」

提督「涼風って春雨と仲がいいのか?」

春雨が不安そうな声を出しているのを後ろに聴きながら五月雨に尋ねた。

五月雨「ええ、涼風が私がいない時どうしてるのか聞いたら、春雨と遊んでるっていってました」

提督「そうだったんだな・・・。いつも五月雨を秘書にしてるから、そこの所不安ではあった」

五月雨「・・・」

提督「どうした」

五月雨「いえ、その、心配してくださってたんだな、と思いまして」

提督「?」

時間経過&移動。舞鶴鎮守府執務室。午前八時。

提督「・・・」

五月雨「どうかなさったんですか、提督?」

提督「・・・・・・」

五月雨「提督ー?」

提督「・・・ぉ?」

五月雨「お?じゃなくて、仕事しましょうよ」

机に上半身を投げ出したまま、目だけ動かして五月雨を見る。

五月雨「ど、どうしたんですか」

提督「・・・梅雨、だな」

五月雨「そうですね・・・、ここの所ずっと雨が降ってます」

提督「今日の気温、知ってる?」

五月雨「いえ、聞いてませんね」

提督「二十八度だぞ」

五月雨「・・・そうですか」

提督「やる気がゼロだよ。じめじめしてるし」

五月雨「ここ、大分涼しいですよ」

提督「季節的な要因が、こう、精神的に俺を追い詰めてるんだよ」

五月雨「要するに仕事をしたくないんですか」

提督「そんな目で見るなよ・・・、それに五月雨のせいでもあるんだし」

五月雨「いつもこうやってましたよ」

提督「膝に座るのを平気でやらないでくれよ・・・、あーだっるい。だるいよー、アイス食べようぜ五月雨」

五月雨「アイスなんてどこにあるんですか?」

提督「ここにあるぞ」

フシュー、と音を上げて引き出しをあけた。

五月雨「また無駄なことにお金を・・・」

スプーンも取り出して、アイスの蓋も開けて五月雨に渡す。

提督「よし、食べるぞ」

五月雨「それはいいですけど、提督どうやって食べるんですか」

提督「なんだわからんのか五月雨の癖に」

五月雨「五月雨の癖にってどういうことですか!」

提督「妻の癖にって事だよ」

五月雨「つ、つ・・・」

提督「いいからいいから。まずそれでアイスを一口掬うんだ」

五月雨「はい」

提督「そのまま水平を保ってだな、お前の頭の上に掲げるんだ」

五月雨「こ、こうでしょうか」

もし腕を上げるのがつらそうならやめようと思ったが、見る限り楽々とこなしている。

提督「(春雨とかだったら腕プルプルして面白いことになりそうだなぁ・・・)」

五月雨「提督?」

提督「ん、もうちょい俺のほうに向けて出してくれ」

五月雨「いったい何を・・・」

丁度いい位置まで来たアイスを提督はそのままパクついた。

五月雨「提督!?」

アイスがなくなったスプーンを見つめる五月雨。

提督「こうやって食べればいい。ほら、五月雨も食べろって」

五月雨「・・・はい」

何を想像しているのか、五月雨は顔が真っ赤だった。

五月雨「・・・あ、これ、おいしいです。それにしても、間宮さんってアイス以外のものを作らない理由ってあるんでしょうか」

提督「作らないというか、ただ作ってなかっただけだろ」

五月雨「今度新作でも出すんですか?」

提督「この前間宮が秘書になった時に羊羹の味見をしたから、そろそろ羊羹も追加されるかもしれない」

五月雨「羊羹、アイスも好きですけど、羊羹も好きですね」

提督「食べたことがあるのか?」

五月雨「ええ、何回か食べたことがあります。最後に食べたときのことは今でも覚えてます」

以下、回想。七月三十日。横須賀鎮守府執務室。午前九時。

元帥「五月雨、食べないのか」

五月雨「これは・・・、なんでしょうか・・・?」

元帥「・・・羊羹を知らんのか五月雨は」

五月雨「も、申し訳ありません」

元帥「とにかく食べてみたまえ。すぐに気にいるだろう」

五月雨「・・・」

五月雨にはどう考えても目の前の紫色をした長方形の物質が美味しそうには見えなかった。

だが言われては食べるしかない。意を決して口に運んだ。

五月雨「・・・」

元帥「どうだ」

五月雨「おいしい、です」

元帥「だから言っただろう。見た目で決めるんじゃない」

五月雨「これ、ようかんっていうんですよね。どんな風に書くんでしょう」

元帥「・・・こうだ」

羊羹の字を、いらない紙に大きく書いた。

五月雨「ほー」

元帥「・・・それで、だな。五月雨。さっきの、君が異動させられる可能性についての話だ」

五月雨「あ、は、はい」

慌ててお皿を机の上に戻す。

元帥「今まで我が艦隊の護衛は君がずっと指揮を執ってきた」

五月雨「はい」

元帥「今、五月雨の力が必要な鎮守府が一つある」

五月雨「・・・大湊、でしょうか」

あそこはあまりいい評判を聞かない。

元帥「いや、最近着任したばかりの新人といえば新人提督だ」

五月雨「新人というと、舞鶴ですか?」

元帥「彼にはあるようだが、追々話してくれるんじゃないかね」

五月雨「つまり、そこに異動、ですか?」

元帥「八月一日には」

五月雨「明後日・・・」

元帥「すまない、関係各所の合意を得るまで時間がかかってしまった」

五月雨「・・・わかりました」

元帥「悪く思わんでくれ。五月雨のことを考えた結果だ」

五月雨「わかっています」


回想終了。

五月雨「(私のことを考えた結果・・・)」

叙勲式での伊藤元帥の発言を思い出し、全て嘘だったのかとスプーンを握りしめた。気づいたらアイスがなくなっていた。

五月雨「あれ、私全部食べちゃいました」

提督「まぁいいけど。ひとつしかないわけじゃないしな」

空になった容器を脇に押しやりつつ、ズボンの太腿を掴んだ五月雨を見た。

提督「(何か思い出したのだろうか)」

提督「よっ」

五月雨を降ろさないように器用に立ち上がった。

五月雨「・・・どこに行かれるんですか?」

提督「食堂にスプーンを洗いに持っていくだけだよ。今にも泣き出しそうな顔してるぞお前、大丈夫かよ」

苦笑しながら空いた手で五月雨の頬をぐりぐり押した。

五月雨「ひょ、しょんな顔してないれす」

提督「情けない顔してる暇あったらお茶でも入れとけよ」

五月雨「そうやって妻をこき使うんですね」

提督「妻って・・・、お前なぁ・・・」

五月雨「冗談でーす」

七月十二日。舞鶴鎮守府執務室。午後二時。

五月雨と色々あってから二十二日が経過した。

提督「何はともあれ、警戒解除要請はもう出しておいた。地元の皆も帰ってきたし、やっと落ち着けるぜ!」

やったぜ!と拳をあげる提督を見つつ、五月雨が言った。

五月雨「梅雨、明けちゃいましたけどね。酷暑です・・・」

提督「暑いのは嫌かね!」

五月雨「好きな人っていますか・・・?」

提督「そうだろうな、うんうん。そこで、だ」

五月雨「?」

提督「夏といえばなんだ?」

五月雨「・・・海、ですか?」

提督「そう、海!というわけで海水浴をしたいと思います!」

五月雨「・・・は?」

提督「熱い時は海に入るに限るだろ!」

言うが早いかマイクの電源を入れる。

提督「艦娘諸君、長かった梅雨もようやく明け、暑さが厳しくなってきたのを感じているかね?そこで、我が鎮守府は海水浴を開催することに決定した。海開きだ!」

一拍おいて、

提督「というわけで皆私服に着替えろ!水着を買いに行く!」

五月雨「ちょ、ちょっと待ってください提督!この辺に浜なんてありましたっけ?」

提督「こっから三十分ぐらい車を走らせたところにあるけど」

五月雨「鎮守府から離れるつもりですか」

提督「だって晴れて警戒解除されたことだし・・・、ここでやるとしたら味気ない感じになってしまうし。コンクリートの浜辺とか嫌じゃないか?」

五月雨「それはそうですが・・・、もう少し考えましょうよ」

提督「鎮守府の中で柔らかいところなんてあったか?・・・あるな」

五月雨「そうです。今年の花見のときに話してたじゃないですか。海岸に並んでる倉庫前とかも芝生を敷いたみたいですから、そこでやりましょうよ」

提督「散水装置くっそ高かったぜ・・・」

提督が遠い目をして過去を悔やみ始めるのをなんとか止める。

五月雨「ね、それじゃだめですか?」

提督「他の奴らがそれでいいなら、それでいい」

秋月「大丈夫です!」

執務室扉外から誰かが叫んだ。

提督「さて、それでは買いに行くとしようか。水着は巡視兵組、艦娘組でわけて買うぞ。鎮守府に誰も居ないのはまずいしな」

そこでようやくマイクの電源を切った。同時に部屋に艦娘がなだれ込んできた。

秋月「提督っ!さぁ!一緒に水着を選びましょう!さぁ早く!遅いですよ!」

提督「うぜぇ・・・、ていうか俺は別にお前らと行くつもりはないよ」

扶桑「何言ってるんですか?」

ビスマルク「あなたがいくのはもう決定事項よ」

提督「・・・」

赤城「ほら提督、着替えてください!」

提督「おいこら赤城勝手に俺の部屋にはいるんじゃない!」

艦娘は既に私服に着替え終わっている。

提督「・・・お前ら準備早すぎ」

山城「は、提督が遅いだけですから」

提督「で、五月雨は着替えなくていいのか?」

ずっとここで聞いていた五月雨にそんな余裕はなかっただろう。

涼風「五月雨の着替えは持ってきといたから、そっちの部屋でさっさと着替えるよ!」

五月雨「え?あ、うん」

涼風は用意周到だった。

移動。舞鶴鎮守府正面玄関。

巡視兵A「提督がお帰りになり次第、我々も出発いたします」

提督「おう、頼んだぞー」

五月雨「行きますよー!提督ー!」

提督「声がでかいんだよ声が。ていうか俺泳がないぞ」

五月雨「えっ、なんでですか」

提督「当たり前だろ・・・。紫外線で俺が死ぬわ」

五月雨「あら・・・」

提督「なんだ、パラソルだっけ?そんな感じのを買えば割りと行けるんじゃないか」

五月雨「わかりましたから早く行きましょう」

提督「お、おう」

時間経過&移動。某大型店舗。午後三時。

提督は店舗内の通路にあるベンチに座っていた。

提督「入れるわけ無いだろ・・・、女しかいねぇじゃねぇか・・・」

その前に男物と女物の水着がしっかり部屋が分けられてるのがうざい。

五月雨「提督!何やってるんですか!一緒に選んでくださいって言ったじゃないですか!」

目ざとくて提督を見つけた五月雨が提督を見つけて駆けてきた。

提督「いや俺わかったなんて一言も・・・」

五月雨「そうやって妻を足蹴にするんですか」

提督「卑怯だろ・・・。わかったよ、それで、どれがいいっていうんだ」

五月雨「えへへ、こっちです、こっち」

提督「(見られてる・・・。五月雨って否が応にも人目を引くからこういうところはすきじゃないんだよな・・・)」

そうは思えど、こんなに緩みきった五月雨を見るのも新鮮だった。

夕立「あ、提督!これどう?似合ってるっぽい?」

五月雨が連れて行く最中、試着室から運悪く夕立が出てきた。

提督「ふざっけんなよ、おま、ほんとにさぁ・・・。心臓に悪い・・・」

夕立「提督ってば恥ずかしがってるっぽい!」

提督「知るか、俺は五月雨の水着を見に来たんであってお前らの選びに付き合うつもりはないっての」

プリンツ「そんなこといわないで、皆の分もみてあげてくださいよぉ!」

五月雨「で、これですこれ。どうですか?結構いい感じだと思うんです!」

提督「(水色のやつを選んだのか、まぁ予想通りだ)」

五月雨「・・・?」

提督「ん?」

五月雨「な、なんか言ってくださいよ!」

提督「いやぁそりゃお前着てみないとわかんないだろう」

五月雨「えっ!?」

夕立「私と扱いが違うっぽい!?」

プリンツ「思いっきり五月雨さんを贔屓してますよね・・・。しすぎですね・・・」

暁「こんなのってどうかしら?」

雷「暁にはこっちのほうが似あってるんじゃない?」

暁「し、縞々のなんて嫌よ!」

響「少なくとも暁が今選んだのよりかは余程いいと思うよ・・・」

電「私はこれにするのですー」

村雨「これとかよさそうじゃない?ほら、制服の色にも似てるし。でも、五月雨と涼風は制服違うんだよね、どうしよ・・・」

涼風「あたいはいいよ!五月雨と同じの選ぶからさ」

村雨「涼風って大分サバサバしてるよね・・・」

春雨「巷ではそういう方がモテるって、この前兵士さん達が話してるのを聞きました!」

夕立「本当っぽい!?」

五月雨はといえば、入ってから未だに試着室から出てきていなかった。

提督「どうした五月雨?気分でも悪くなったか?おーい」

五月雨「ち、ちちちちち違います!」

提督「(そういえば紐で結ぶ系統の水着だったよな・・・、後ろで結べないとか?それはないか)」

五月雨「て、てい」

提督「お?」

五月雨が個室のカーテンから顔だけのぞかせた。

五月雨「見ないでくださいっ!」

提督「えっ」

五月雨「・・・」

白露「もうさっさとしないと私達の分選んでもらえなくなっちゃうー!」

ばっ、と痺れを切らした白露がカーテンを無理やり開けた。

五月雨「!?」

カーテンが開いてからはまさに低速再生みたいな感じだった。

提督「・・・普通に似合ってるだろ」

五月雨「そう、ですか・・・?」

五月雨「よかったです」

隼鷹「結婚してから途端にカップルみたいになっちゃって、うらやまけしからん!」

飛鷹「ねぇ、もしかしてあんた飲んでない?」

隼鷹「飲んでない飲んでない!素面だよぉ!冤罪だ!」

提督「結構大胆なの選んだなそれにしても」

五月雨「じゃ、じゃあ変え「変えなくていいから!」

提督「それでいい!涼風もおんなじの買うんだろ?」

涼風「うん、同じの買うよ」

五月雨「涼風・・・」

加賀「では、提督。私達のも見てもらえるかしら」

提督「全員分見る必要あるのか・・・?」

加賀「は?」

提督「 ・・・わかったよ」

加賀「はい」

移動。試着室前。

提督「(加賀って案外でか)あああああ、余計なことを考えるな」

加賀「?」

提督「いや、まぁ、似合ってると思うぞ」

加賀「本気でおっしゃってるんですか?」

提督「やっつけでやってるわけじゃないって!普通に思ったことを言っただけだ」

加賀「・・・そうですか」

白露「提督ー、これとうかどうかな、似合うと思うー?」

赤城「提督!」

白露に呼ばれていたために、提督は赤城を見ずにすんだ。

加賀「赤城さんそれはさすがにまずいです。着てください」

提督「ん?赤城か、どうし「提督は見ないでください」

早業で加賀がカーテンを閉めた。

提督「白露、赤城、何かあったのか?」

白露「う、ううん、提督は気にしなくていいよ」

提督「?」

言うなれば加賀は真っ白のものを選んでいた。赤城はどれにしたのか知る術はない。

移動中。舞鶴鎮守府正面玄関。午後五時半。

提督「戻ったぞー。閉店は八時らしいから、まだ間に合うだろ」

巡視兵A「それでは、行ってまいります!」

提督「おうおう。それで悪いんだが、パラソル買っといてくれないか。買い忘れてしまったんだ。」

巡視兵A「了解です!」

五月雨「・・・巡視兵の方々って全部で何人いるんですか?」

提督「三十人ぐらいだ」

大扉を押し開けて中に入り、後続の艦娘を入らせる。

五月雨「結構いますね・・・」

提督「そりゃそうだろ。二十四時間警備すんだから交代でもしないと。三十人でも少ないほうだぜ」

五月雨「十五人ずつですか。でも普段見かけませんよ?」

提督「正面玄関にいるじゃないか」

五月雨「でもあれって二人しかいないじゃないですか」

提督「残りの十三人の話をしてたのか?」

五月雨「それ以外ありませんよ」

提督「残りは隠れてるぞ」

五月雨「え?」

提督「人に見つからないような場所、例えて言うならいわゆる物影とか。そういう所に身を隠しつつ持ち場で警備してる」

全員入ったのを確認して、提督と五月雨は執務室に向かい始めた。

五月雨「今までみかけたことないって相当隠れきってますね」

提督「一応訓練受けた奴らだからな、それぐらいできないと駄目ともいえる」

五月雨「どこに隠れてるのかっていうのはご存知なんですか?」

提督「俺は知ってる、俺は。でもこれは秘書にも言うのは禁止されてるんだ。別に五月雨を疑ってるとかじゃなくて、規則でね」

五月雨「私も提督の立場だったら、それは秘書でも言わないかもしれません。なんかそう思うと巡視兵の方たちがやけに頼もしく思えてきました」

提督「今更、だな」

五月雨「頼もしいのはいいんですが、その方たちを全員行かせちゃっていいんですか?」

提督「いつ俺が全員行かせるなんて言ったんだよ・・・」

五月雨「もしかして今もどっかに隠れてるんですか?」

提督「当たり前じゃないか」

五月雨「じゃあそれともう一つ、聞いていいですか?」

提督「お前今まで聞いていいですかなんていったことあったか?」

五月雨「・・・。不審者を見つけたときってどう対応するんです?出てきちゃったら場所ばらしちゃいますよね」

提督「横須賀で何も聞かなかったのか?」

五月雨「すいません。何も聞いてなくて」

提督「結構現実的な感じの話になるけど・・・、ここに進入した時点で反逆罪だから射殺されて外部に情報は漏れないんだ」

五月雨「しゃ、射殺・・・」

提督「そんなことするような奴いないって、怖がらんでも」

五月雨「ですね」

提督「・・・」

五月雨「・・・?」

提督「いや、なんでもない」

五月雨「なんですか?教えてくださいよ」

提督「今までとは、結婚してもそんなに変わらんなと思って」

五月雨「・・・そうですか?私は変わったと思います」

提督「どこが?」

執務室前につき、鍵束を取り出した。

五月雨「提督と一緒にいられるって思えるようになったことです」

提督「五月雨?」

振り返っても、五月雨は丁度背中の辺りにいるせいで表情は見れなかった。

五月雨「もう、早くあけてください!ただでさえ暑いんですから!」

提督「お、あ、ああ、今開ける」

七月二十四日。舞鶴鎮守府執務室。午前九時。

提督「そういえば今日って土用丑の日だった」

五月雨「今年は二十四日ですねー。鰻でも買いに行きますか?」

提督「暑い」

五月雨「ええ・・・」

提督「お前今日の気温知ってるか?三十七度だぞ。体温超えてんだぞ。出たら死ぬわ」

五月雨「体温って・・・、小学生みたいなこと言わないでください。大体それを言うなら巡視兵さんたちにとっては地獄じゃないですか」

提督「うぐっ・・・」

五月雨「労うと思って、行きましょうよ」

提督「五月雨、お前行きたいだけだろ」

五月雨「そ、そん、そんなことないですよ」

提督「あからさま過ぎる・・・。じゃあちょっと間宮に一言言ってきてくれ。俺着替えるから」

五月雨「着替える必要あるんですか?」

提督「軍服のままじゃ威圧感ありすぎだろ」

五月雨「一回ぐらい姿を見せるぐらいしてもいいのでは?」

提督「俺は天皇じゃない」

五月雨「提督、どう思われてるか知ってますか?」

提督「え、俺あいつらに嫌われてんの?」

五月雨「艦娘のことじゃないです。地元の方たちのことです」

提督「軍人と思われているんじゃないでしょうか」

五月雨「・・・」

提督「本気で言ったわけじゃねぇよ・・・」

五月雨「提督は知らないのも無理ないですね。地元じゃ結構評価高いんですよ?」

提督「誰が」

五月雨「提督が」

提督「そんな馬鹿な!」

五月雨「提督と話してみたいって、子供がここを通りがかる前に言ってるって巡視兵さんが」

提督「でも親が」

五月雨「そうだねーって笑ってるそうです」

提督「なん・・・だと・・・」

五月雨「この前の西号作戦といい、ここ舞鶴には一応目に見える形で提督は働いてるわけですから。それに潜水艦退治もしてくれたって言ってたそうです」

提督「かなりこれ見よがしに言うんだなここの人たちは」

五月雨「いえ、今のは間宮さんが買いだしに行ったときの世間話です」

提督「要するにあれか、俺にこの白い軍服のまま出ろと。そういうわけだな?」

五月雨「そういうことです」

提督「警備隊長が許すかな・・・」

五月雨「警備隊長?」

提督「舞鶴鎮守府の巡視兵の隊長だよ。俺の護衛も任されてるのに、このまま無防備に外出するのを許してくれると思うか?」

五月雨「どうでしょう」

提督「望み薄だろ・・・」

五月雨「聞いてみるしかないですよ」

提督「聞いてみるしかないか」

五月雨がてきぱきと内線をかけた。

巡視兵D「はい」

提督「実は少し相談したいことがあってね、警備隊長を出してくれないか」

相手が替わり、かくかくしかじかなのだよと提督が話し終えると、

隊長「無視できない危険が伴います。全員が全員提督のことをよく思っているわけではないのです。私服であるなら提督の身分がばれることはないですからこの前はあまり危険視していませんでした」

五月雨「そうだったんですか・・・」

隊長「畳み掛けるようで申し訳ありませんが、艦娘の顔写真についてはそこまでの規制はありませんが、無闇にでるのは避けるべきかと」

提督「謎特性がついてる登場人物はずっとそのままのほうが人気が出るってもんだろ。私服で行こう、五月雨」

五月雨「はーい」

提督「手間をかけさせて悪かった」

隊長「いえ」

提督「何回かこの服のまま外を歩いたことがあったような気がする」

五月雨「気のせいじゃないですか?」

移動中。午前九時半。

五月雨「暑いですね・・・」

提督「こういう時だけ半袖半ズボンをはけない自分の体質を呪いたくなる」

五月雨「暑そうですねー提督」

提督「誰かさんのせいで引っ張り出されたからな」

五月雨「誰のせいでしょう」

提督「・・・もう少し歩いたら店が見えてくる」

間宮から渡された地図を見つつ、

提督「お?あれじゃないか?」

五月雨「あれですかー」

提督「五月雨もバテてるじゃないか」

五月雨「早く入りましょうよ・・・」

移動。店内。

提督「涼しい・・・」

五月雨「もう外出たくないです・・・」

提督「あのー、鰻六十パックお願いします」

五月雨「ろ、六十!?」

提督「メモにはこれでも足りないかもしれないって書いてある」

店長「らっしゃーせー。六十パックでいいんです?」

提督「じゃあ七十で」

店長「あんた舞鶴鎮守府の関係者か何か?」

提督「え、なんでそう思ったんですか」

店長「いやぁね、ここらで七十も食うところなんてあそこぐらいだからさ」

提督「そうなんですか」

店長「というか、七十で足りるんですかい?」

提督「いえ、もう一軒回る予定です」

店長「だろうねぇ。七十ともなると、準備でもしないと間に合わないんですよっと。間宮さんが予約してきたときはびっくりしたがね」

代金を渡し、荷物を受け取ると、提督は店を出た。




帰還。舞鶴鎮守府執務室。午前十一時。

提督「暑い・・・」

五月雨「間宮さんっていっつもこんな中外でて買い物してるんですよね」

提督「ああ見えて力もかなり強いしな

時間経過。舞鶴鎮守府食堂。午後六時。

赤城「すごくおいしそうです!ていうかおいしいです!」

間宮「おかわりはまだ十分ありますから。皆さんゆっくり食べてくださいね」

提督「赤城はもはや噛んでない」

五月雨「空母とか千巻の皆さんはやっぱりよく食べますよね」

扶桑「たくさん食べてるところを提督に見られるのは恥ずかしいです」

提督「そんだけ食ってその体型維持できてるんだから別に気にする必要ないだろ」

山城「ちょっと提督勝手にお姉さまの体見ないでください。さりげなく口説いてるんですか五月雨さんというものがありながら何してるんですか」

提督「口説いてねぇよ・・・」

扶桑「いい体、だなんて、提督も大胆なこと言うんですね・・・」

提督「いい体なんて一言も言ってないからな。勝手に妄想しないでくれ」

五月雨「言ってなくても、さっきの発言はそうとも取れますよ、提督」

提督「き、機嫌悪そうだな五月雨」

五月雨「いえ、全然。妻の眼前で人の体の評価をしている提督に怒ってなどいませんよ」

提督「超怒ってんじゃん・・・」

赤城「おかわりとってきます!」

加賀「あ、赤城さん。私も」

扶桑「私も行ってこようかしら。山城も行く?」

山城「いえ、お姉さまの分も私が取ってきます」

扶桑「そう?ありがとう、山城」

山城「提督は」

提督「ん?」

五月雨と話していた提督の器も空になってしまっていた。

山城「提督はおかわり、いらないんですか」

提督「あぁ、じゃあ俺も行くよ」

山城「来なくていいです」

山城が提督とは目を合わせずに、空になった丼を持った。

提督「ありがとう?」

山城「ただの姉様のついでですから、お気になさらず」

扶桑「山師はまだ素直になれないのね」

山城「ね、姉様ッ!」

扶桑「冗談よ」

提督「五月雨はもういいのか?」

五月雨「私あまり食べるほうではないので・・・。一杯で十分すぎるほどです」

提督「駆逐艦だし、そりゃそうか。・・・にしても名取たち結構食ってるな」

五月雨「長良さん毎日走ってますし、名取さんはそれにつき合わされてる分食べるようになってるんですよ」

提督「汗、か・・・」

五月雨「提督?」

提督「なんでもない」

危うく目覚めるところだった。

七月二十八日。舞鶴鎮守府執務室。午後三時。

提督「あと三日で一周年」

五月雨「長いようで短い一年でしたね・・・」

提督「着任して半年もたたない間に大分ドタバタしたけどな」

提督「ここにいる艦娘たちももう戦力として大分成長してきてる。時雨と夕立に至っては改二の話が大本営から来てた。あとビスマルクにもきてた」

五月雨「改二になると扶桑さんたちみたいに外見が少し変わったりするのでしょうか」

提督「変わるんじゃないのか?五月雨も改二になったりして」

五月雨「私はこのままがいいんですよねー」

提督はどう思うんですか?という問いに提督は上の空で答えた。

戦艦三隻、空母二隻、軽空母二隻、重巡洋艦三隻、軽巡洋艦二隻、駆逐艦十二隻。

計二十四隻もの戦闘艦艇を舞鶴は有している。

だが、まだ着任してから一年と経っていない新任艦が多く、若干の戦力不足の感が否めないのもまた事実。

提督「改装、急いだほうがいいのかー」

五月雨「急ぐに越したことはないですねー」

あれぇもっと書いてた気がしたんですが・・・、妖怪のせいですね・・・。

本日はここまでです。ありがとうございました。

五月雨の水着、いつ来るんでしょうかね?待ち続けてるんですがね。

やっばい。千巻もそうですけど、七月十五日の海水浴ごっそり消えてますねこれ。妖怪のせいです。

消えた十五日。明日には挿入してくださいという旨とともに投下します。

申し訳ないです。私情ながら今日の投下は明日に延期します。

七月十五日。舞鶴鎮守府倉庫群前。午後一時。

提督「暑いな・・・、俺も海入りてぇわ・・・」

五月雨達は既に海に入り、巡視兵達とはしゃぎまくっていた。

赤城「提督は泳がれないんですか?」

提督「っとぉ!びっくりさせんなよ!」

赤城「そこまで驚かれるとは思いませんでした」

提督「赤城、お前はどうしたんだ」

赤城「提督に水着を見てもらいたいと思いまして」

提督「・・・」

赤城「ホントです!」

提督「・・・なんだ、加賀と色違いじゃないか。最近は紐で結ぶタイプのやつが流行ってるのか?」

赤城は若干青みがかった、薄水色のものを選んだようだ。

赤城「最初はこれじゃなかったんですよ?なのに・・・」

提督「加賀が着てくださいって取り乱すほどだぞ。お前何選んだんだよ」

赤城「ありのままの自分を見せようと・・・」

提督「は?ありのままだって?」

赤城「一糸まとわぬ姿を提督に見せたかったのです」

顔を赤らめて、体をくねらせてみせる赤城を冷ややかに睨んだ。

提督「見たくもねぇよ・・・、そりゃ加賀も焦るわ・・・」

赤城「それで加賀さんと同じのを選んだのはいいんですが、背中の露出が高いですよね、これ」

提督「ま、まぁ確かに」

赤城「でですね、提督に日焼け止めを背中に塗ってもらいたいんです」

提督「なんで俺に頼むんだよ。そんなの加賀に頼めばいいじゃないか」

話している時に一人、巡視兵が駆け寄ってきた。

五十人近くが海岸で遊んでいる光景はかなり賑やかだ。

巡視兵B「提督、あの、よろしいでしょうか」

赤城がムスッと、膨れ面で巡視兵を睨んでいる。

提督「どうした?誰か怪我でもしたか」

巡視兵B「そういうわけではないのです。ただ、白露型と秋月さんが投げてくれと言ってくるのです」

提督「な、投げるってのは?」

巡視兵B「要するに、私どもの力で力一杯放り投げてくれということのようです」

提督「なんだよ、そんなの俺の許可なんてとらんでもいいだろ。彼女たちがやってくれって言ってるんならやってやれよ。水着脱がさないように注意しろよ」

巡視兵B「了解です!」

赤城「投げるって・・・、春雨さん、大丈夫でしょうか?」

提督「あいつも楽しそうにしてるし、白露も嫌なやつに押し付けるようなやつじゃないから大丈夫だろ」

赤城「では、早く塗ってください」

提督「全然自然な流れになってないからな・・・。そこに横になってくれ」

赤城「本当に塗ってくれるんですか!?」

提督「お前が頼んできたんだろうが」

適量手の平にとって、背中に手を触れた。

赤城「・・・提督?」

提督「背中、綺麗だなと」

赤城「私のことですか?」

提督「何で皆察することが出来ないの・・・?」

赤城「嬉しいです。提督だけですから、他の男の人に触って欲しいとは思わないんですよ?」

提督「・・・そうか」

赤城「あ、提督恥ずかしいんですか?恥ずかしいんですね?この態勢だと顔を見れないのが辛いです!」

提督「もうじたばたしないで落ち着けって、塗れないだろ」

歓声が聞こえるので見れば、巡視兵四人が白露の足と手を掴んで、投げ放った所だった。

周りから大きな歓声が沸き起こり、白露も楽しんでいるようだ。

提督「怖くないのかよ・・・、ていうかすげぇぶっ飛んだなあれ」

赤城「さすが鎮守府を警備する兵士さんだけありますね、力はすごいです」

提督「だなぁ・・・」

赤城「・・・不思議な感じですね。いつも海で闘っているのに、今日は海で遊んでいるなんて」

提督「?」

赤城「あ、違うんです。そういう意味で言った訳じゃなくて、ただそう思ったってだけですから」

提督「さすがにたまには羽目も外させてやらんと、海で遊んでみるのも気分的にはいいもんじゃないかなと思ったんだ」

赤城「提督って泳いだことあるんですか?」

提督「屋内ならな。でも生まれてこの方、海水浴なんてしたことがないんだ。いつも俺は外野でね。輪に入ったことはなかった。言うてみるだけでも案外たのしいけどな」

赤城「みたいですね・・・。提督もいつもより落ち着いて見えます」

提督「そうか?」

塗り終わったのを確認して、背中で水着の紐を結んでやった。

赤城「ありがとうございました」

赤城が去るのと同時に、狙ったように再び誰かが隣りに座った。

提督「間宮はそういえば水着も買いに来なかったよな」

間宮「私、海に入ると蕁麻疹が出ちゃうんですよね」

提督「海のアレルギーみたいな?」

間宮「そうらしいです。海の成分かなにかに反応するんだと思います。詳しいことはわかりませんが」

提督「なるほどなぁ・・・」

しばらくの間、海で遊ぶ艦娘達のはしゃぎ声を聞いていた。

間宮が地面の砂を握る音がした。

間宮「・・・提督、少しこの場にはそぐわない話かもしれませんが、よろしいですか?」

提督「んー?」

間宮「どうして、五月雨さんと結婚なさったんですか?」

提督「なんでって、それは」

間宮「今更なんで私とじゃないの、なんて話をするつもりはありません」

提督「じゃあなんだ?」

間宮「艦娘は、私が言うのもアレではありますが、兵器として存在していますよね。この話は幾度と無くされてきたことですが、今の提督はお考えになられるべきです」

提督「・・・」

間宮「急ぎすぎでは、と私は感じました。つい最近だって、佐世保鎮守府の金剛さんが深海棲艦になってしまったばかりです」

提督「それは・・・、わかってるさ」

間宮「考えないようにして、不安にならないようになさっているだけです」

提督「・・・」

間宮「五月雨さんの事、本当はまだどうとも思っていないんでしょう」

提督「知ったような口を」

苛立った提督を手で遮る。

間宮「正直に話してくださいね。今の事は誰にも言うつもりはありませんから。ただ、一人の女性として言うことが許されるのなら、五月雨さんの気持ちをちゃんと受け止めてあげてください」

提督「受け止めたよ。受け止めたから、俺は五月雨と結婚することにしたんだ」

間宮「扶桑さんもあの場にいたようですが、気づいていなかったようです。もう少し、ちゃんと考えて見てみれば、あれは行き当たりばったりで言ったことだとわかりますよ。心にもないことを取り繕っているだけです」

提督「じゃあなに、受ける以外にどうすればよかったんだ?あそこで断ってしまえば、せっかく勇気を出してくれた五月雨が「憐憫ですか?」

間宮「それが今の五月雨さんに対する提督の気持ちですか。憐憫、おそらくそれ以外にもあるのかもしれませんが、そこに恋心はないのですね」

提督「・・・だったらどうしろって?別れろと言いたいのか?」

間宮「違います。一応提督は、特別な気持ちは五月雨さんに対して抱いているのは本当なようですから。それをうまく、愛情に差し替えることさえできれば、私も文句は言いません」

提督「差し替えるったって、どうやって」

間宮「自分で考えてください。まだ時間はありますから。たくさん考えてください、提督」

提督「間宮、お前・・・」

一瞬の出来事だったが、心を抉るには十分だった。

提督「恋心がないなど、そんな訳はない。あの時は俺は、好きだといった俺は本物だったはずだ。青春ごっこを演じていたわけじゃない」

提督「五月雨・・・」

しばらく髪を靡かせる五月雨を眺めていると、間宮がアイスを持って戻ってきた。

提督(願わくば、この結婚が凶と出ないでくれ)

五月雨「間宮さん!それ食べていいんですか!?」

気づいた艦娘が駆け寄ってきた。

間宮「三日前に提督が言ってから、用意しておいたものですから。皆で食べてくださいねー?」

五月雨「ほらほら、提督も一緒に食べますよ!」

提督「食べないわけにはいかないのか俺は」

五月雨「提督、あーんしてください!早く!」

提督「・・・ん」

夕立「五月雨、抜け駆けはずるいっぽい!」

提督「抜け駆けも何ももう一位とられてんぞ」

五月雨「間宮さんのアイスはいつもおいしいです!」

夕立「ねぇ提督!夕立も提督と結婚したいっぽい!」

提督「重婚はまだ認められてないだろうが。あと三十年ぐらいすれば変わるかもな」

夕立「非公式でもいいから結婚するっぽい!」

提督「そういうわけにもいかないだろ・・・」

夕立「ならなら、私も雰囲気変えれば一位になれるっぽい?」

提督「どんだけ結婚したいんだよ・・・。雰囲気ねぇ、そういえば改二の話が来てたな。時雨と夕立に」

時雨「ほ、ほんと!?」

提督「設計図が届けばすぐにでも改装するつもりだから待ってればいいんじゃないかな」

夕立「なんか適当にあしらわれたっぽい・・・?」

五月雨「改二改二って言いますけど、私の改二ってこないんでしょうか?」

提督「俺に聞くなよ。五月雨は、これまで長く務めて改二がこないんだったらもうないのかもしれんな」

五月雨「そんなぁ・・・」

提督「別に今のままでいいだろうが、無理に変える必要ねぇよ」

五月雨(でもそれじゃあ提督が他の娘に・・・)

提督「ん?なんか言ったか?」

五月雨「な、ななんでもありませんから!」

提督「・・・おう?」

五月雨がそっぽを向いてしまった所へ、巡視兵二人が、一人を介抱しながら上がってきた。

巡視兵B「情けなさすぎだろ、大丈夫か」

巡視兵D「だいじょばないわ・・・」

提督「なんだなんだ、どうしたっていうんだ」

巡視兵B「海水をがぶ飲みしたせいで気分が悪いそうです」

提督「アホだろお前・・・」

巡視兵D「・・・休ませてください・・・」

提督「別に構わんけど、大丈夫か?」

巡視兵D「大丈夫です・・・」

五月雨「ちょっとはしゃぎすぎてましたもんねー」

白露「そうかなぁ・・・、大分手加減してたんだけどなー」

時間経過。午後三時。

提督「お前らそろそろ戻るぞー!」

夕立「えー、まだ遊び足りないっぽい!提督も入るっぽいー!」

提督「いやだから俺無理だから・・・」

提督「早いとこ上がんないと、塩で髪大変なことになるぞ。ていうか日焼けしても知らないからな」

夕立「しょうがないっぽい!提督のバカ!」

提督「なんで!?」

白露「もうそこでとまんないでよ夕立、早くはいろー」

提督「・・・おい、立てるか」

巡視兵D「もう大丈夫です、申し訳ありませんでした」

提督「一応医務室は行っておいたほうがいい」

巡視兵D「はい、了解です」

五月雨「あれ、間宮さんもお風呂はいるんですか?」

間宮「潮風に当たってしまいましたから・・・、あら、提督も一緒に入りますか?」

提督「冗談きついぜ・・・。俺は後ででいいよ」

間宮「・・・提督こそ大丈夫ですか?何だか元気が無いみたいですけど」

提督「少し疲れただけだから、心配しなくていい。もしかしたら夕飯送れるかもしれないから、そん時は先食べててくれ」

間宮「は、はい・・・、わかりました。何かあってからでは遅いですからね?」

提督「わかってるわかってる」

そこへ、

警(備隊)長「一人ダウンしたというから来てみれば、提督がダウンしておられたのですか?」

警備隊長は年上ということもあってか、敬語は使うものの、物言いに遠慮がない。

提督「どうせなら肩ぐらい貸してくれてもいいんだぜ」

警長「肩ぐらいなら貸しますよ、ええ。それにしても海水浴とは、大きく出ましたね」

提督「たまにはこういうのもいいだろ?ていうかあんたは入らないのか?」

警長「もう歳ですから」

提督「歳ね・・・」

警長「元気がないですな提督。日光に当てられましたか?」

提督「なんだよ日光に当てられるって・・・、聞いたこともないよ・・・」





七月十五日を時系列の中に無理矢理ぶちこんでしまってください。

投下し忘れ、申し訳ありませんでした。

乙です
提督が日焼け止めを塗っていたら手が滑って赤城さんの胸をry


な展開は無かったか

>>52 R-18描写は出ませんね恐らく。提督が艦娘とお風呂なんか入れば憲兵ですからね、ええ、そうです。

前スレのミスを現行スレで直させていただきます。

装備量産を工廠に頼む所で、プリンツオイゲン改の初期装備「SKC34 20.3cm連装砲」を完全に見落としています。
書いていて気づく悲劇。
さすがに小さすぎるので、どうか脳内補完でお願いします。

五月雨とお風呂に入って湯船に浮かぶ髪の毛を見てみたいです・・・。

というわけで、割と初めてかもしれませんが。今日、午後の間に投下します。

八月一日。舞鶴鎮守府食堂。午前九時。

提督「一周年記念、と、いうわけでありますが、五月雨さん、どう思いますか」

五月雨「どうって言われても・・・」

提督「五月雨とは玄関で会った事は覚えてるぞ俺」

五月雨「それぐらい私でも覚えてますから」

提督「暁は不法侵入してたのをまだ覚えてる」

暁「不法じゃないし!合法だし」

提督「間宮とも玄関で会ったな。響たちも暁つながりで会ったのをたまに思い出すよ」

響「一人で行こうとするんだから、暁は暁型の風上にも置けないね」

暁「連絡ぐらいするつもりだったわよ」

電「その割には私たちに会った時嫌そうな顔してたのです」

雷「そうね、私にもそう見えた」

暁「そんなことないって!」

赤城が、よよと泣き崩れる演技をしながら提督にすり寄る。

赤城「私と提督の運命的な出会いは覚えてらっしゃらないんですか?」

提督「お前は・・・、工廠じゃなかったか?」

加賀「私も、というか、今提督が言った艦以外はそうじゃないかしら」

赤城「加賀さんひどいです。少しぐらい援護してくれてもいいのに」

加賀「あっ、その、そういうつもりじゃなくって」

提督「以外って、ビスマルクとプリンツは海外艦だったろ」

プリンツ「提督に会った瞬間、私は運命を感じました・・・。ですから提督私と結婚しましょう」

提督「今度な」

プリンツ「断ってくれたほうがまだよかったです・・・」

よいしょ、と提督が立ち上がった。

提督「さて、初期から戦艦として頑張ってくれていた扶桑型とビスマルク」

提督「運用が容易な軽空母の飛鷹型」

提督「優秀な火力と装甲をもつ重巡のプリンツと古鷹型」

提督「水雷船隊旗艦を勤める長良型、艦隊護衛の要の駆逐艦として白露型、防空として先陣を切ってくれる秋月にも、皆に改めて感謝したい」

間宮「とりあえず今夜は料理を用意しないとですね」

加古「はっきり言われると照れるなぁ・・・」

秋月「皆さんの対空射撃も大分上達してきているようで何よりです。これで私も・・・」

春雨「秋月さん!いったい何を!?」

提督「それでだな。白露型の皆も気づいているだろうが、夕立と時雨がいない。あとビスマルクもだ。彼女らは今工廠で改二への改装作業をしているところだ。多分もう終わったと思う」

プリンツ「姉様が改二に・・・!」

白露「改二、どんな風になるのかな!」

そっと、食堂の扉が開いた。

時雨「へ、変じゃない、かな?これ」

夕立「なんか首についてるっぽいー」

ビスマルク「別にどこが変わったわけでもないけど、火力が上がったらしいわ」

プリンツ「また一段とお美しくなられましたよ姉様!」

ビスマルク「そうかな・・・?」

提督「(寝癖か・・・?いやでも朝はついてなかったし・・・)」

白露「どしたん?それ?」

時雨「え、どれ?」

白露「このピョンピョンしてるやつ」

ちょいちょいと白露が、耳みたいに立っている髪を指で弾いた。

時雨「あれ・・・、なんだろうこれ・・・」

提督「(なんで俺を見る時雨)」

夕立も時雨も一様に、提督を見てくるので大体察した。

提督「・・・可愛くなったんじゃないか、それはそれで」

夕立「そっかー、私可愛くなっちゃったっぽい?」

時雨「ありがとう」

提督「お、おう・・・」

提督「まだ後暁にも改二の話はあるのだが、実現は先の話になるそうだからしばらく待っていてくれ」

暁「改二になったらどんな服になるのかな・・・」

五月雨「提督!私も改二ほしいです、提督!」

提督「んなこと言われても俺にはどうしようもねぇよ・・・、工廠の奴らもあんまり乗り気じゃないみたいだし」

技主「五月雨さん、これ以上強くなる必要あるんですか?」

提督「俺もそう思うな」

五月雨「強くなりたいんですー!」

提督「はいはいまた今度また今度」

五月雨「なんですかその言い方!」

提督「ちっとは落ち着けよ・・・、まだ言わなきゃいけないことあるんだからさ」

五月雨「なんですか」

拗ねたように五月雨が先を促す。

提督「ビスマルクの秘書についての話でさ。ビスマルク、明日とかいけるか?」

ビスマルク「問題ないわ」

五月雨「私も大丈夫です」

提督「わかった」

提督「とりあえず一周年の記念会は夜やることにしよう。以上だ」

五月雨「・・・あれ、他に何かないんですか?」

提督「・・・ん?何の話だ?」

五月雨「製油所に行くって話、どうなったんですか」

提督「面倒臭くなってしまったんだが駄目だろうか」

五月雨「手紙、この前見せてもらいましたけどもう一ヶ月以上たってますよね?」

提督「シラナイゾ」

五月雨「そろそろ妹さんがここに来てもおかしくないですよ?」

提督「五月雨が言うと本当のことになるからやめてくれ!俺かお前がそういうことをいうと「提督、ご来客です」

巡視兵が食堂に入ってきた。

提督「だっ、誰が来たんだ!?」

巡視兵D「呉鎮守府の、先生がお見えになっております」

五月雨「・・・」

提督「なんだ先生か・・・、驚かすなよ・・・」

妹「あ、兄さん!」

提督「はっ!?」

先生「なんかついてくる奴がいたが、この前にも普通に話していたようだからつれてきても問題ないと思ったのだ」

妹「あのね兄さん、聞きたいことがあるの」

提督「・・・何だよ」

妹「六月十四日から一ヶ月って、何月何日なのか教えてほしいんです」

提督「九月十四日じゃないかな・・・」

妹「ん?もう作戦の警戒期間は過ぎましたよね?というか最後に約束したときから二ヶ月以上たってますよ?」

提督「明後日、で、どうだ」

妹「?」

提督「明後日必ず行くことを約束する」

妹「・・・わかりました。今回だけそれで許してあげます」

提督「わかってるわかってる。よし、用はそれだけだな」

先生「そんな追い返す必要ないだろう。妹さんと一緒に一周年ぐらい祝ったらどうだ」

妹「一周年?」

先生「お前話してなかったのか?」

提督「・・・はい」

先生「今日で舞鶴鎮守府にこいつが着任してから丁度一年だったはずだ」

妹「なんで教えてくれなかったんです?」

提督「教える必要はないかな、なんて」

妹「とりあえず今日は一日ここにいますから、それで今回のことは延期ということで承諾してあげます」

提督「工場のほうには話さなくていいのか?」

妹「どっちにしろ今日は泊まるつもりでしたから」

提督「そうだったのね・・・」

五月雨「あれ、部屋、余ってましたっけ?」

妹「・・・ん?」

提督「今度は何だ?」

妹「兄さん、それ、なんですか」

提督「どれって?」

妹「その指に嵌っているやつです」

提督「これか?」


そして目ざとく五月雨の指にも同じものが嵌っているのを発見した。

妹「そんな、兄さん・・・、私というものがありながら・・・」

提督「お前をそんな目で見たことは今まで一度もないんだが」

妹「そんないたいけな女の子と、結婚するなんて許されると思ってるんですか!?」

提督「もう過ぎたことなんだからどうでもいいだろ。部屋は余ってるはずだ。三階の艦娘寮の廊下の突き当りの右側に一部屋あるから。申し訳ないですが、先生もそこでいいですか?」

妹「貞操の危機を感じます」

自分を抱きしめて、妹が先生を睨んだ。

先生「今の歳になってそこまで情欲にまみれとらんわ。何もしない」

妹「・・・そうですか」

移動。舞鶴鎮守府先生達私室。

妹「兄さん、結婚してただなんて知りませんでした」

先生「いずれそうなるだろうとは予想はついてた。つい最近のことでもあったのもあるだろうが、警戒期間中のことでもあったから軍部関係者にしか合法的に連絡することはできんかったのだろう」

妹「先生は知ってたって事ですか?」

先生「まぁな」

先生は持っていた鞄から何やら紙を取り出して目を通していた。

妹「私、実際少し兄さんのことが心配だったんですよ。十一月のこともそうなんですけど、自分の存在感?みたいなのを自覚してない節があるものですから」

先生「同感だ」

妹「また近々大規模な作戦が展開されるとか、ないですよね?」

先生「どうだろうな」

妹「教えてくださいよー」

先生「・・・」

妹「機密なのは知ってますから、本当に誰にも言いませんから。工場長にも」

先生「機密って言うのは、部外者に言った時点で機密じゃなくなってしまうものなんだ」

妹「部外者って、私も一応軍関係者ですよ」

先生「それは、そうだろうが・・・」

妹「どうすれば教えてくれるんです?」

先生「どうしようとも、例えそのお前が言う作戦があったとしても教えるわけにはいかない。工場の責任者というならまだしも」

妹「でも、兄さんが本当に危ないときは教えてくださいよ」

先生「・・・危ないときはな」

妹「よかったですよかったです」

隅の寝台を指差すと、

妹「・・・私ちょっと寝ていいですか?」

先生「別に一々言わなくても・・・」

妹「何もしないでくださいね」

先生「とことん信じられてないのか・・・」

一周年で会いに来たというのは建前、本当の目的はこの鞄の中にある。

知らず鞄を引き寄せながら、彼は未来を憂えた。

時間経過。舞鶴鎮守府食堂。午後六時。

提督「今日はどんどん飲んでいいぞー!舞鶴の予算から降ろすからなぁ!」

隼鷹「っくー!いいねぇ!提督も段々わかってきたじゃないの!」

提督「俺は飲まないぞ」

隼鷹「そんなこと言わずにさぁ!」

提督「俺はお前みたいに酒に強いわけじゃないんだよぉ!」

五月雨「一周年ですかぁ・・・、時間は短いものです」

提督「お前も少し背が伸びたんじゃないか、え?」

五月雨「そうですか?伸びましたか?」

提督「なんか伸びたような気がする」

五月雨「艦娘は普通の人より成長が遅いですから、伸びたのは伸びてるんでしょうけど普通は気づけませんよ」

提督「さすが俺」

五月雨「さすが提督です」

提督「さすがだな」

五月雨「それより、妹さんはどこにいるんでしょうか?」

提督「あいつなら赤城達となんか話してるぞ」

五月雨「間宮さんもいますね」

提督「どうせ俺の悪口なんだ・・・、きっとそうだ・・・」

五月雨「こっちチラチラ見てますし、たぶん悪口ですねー」

提督「慰めるぐらいしたらいいだろ」

五月雨「慰める必要なんて無いじゃないですか」

提督「どういうことだそれはッ!」

五月雨「だって、提督ですし」

提督「提督ですしですませないでくれよ」

五月雨「提督がいつももやっていることをそのままお返ししただけです」

提督「因果応報か・・・」

五月雨「悪事は全て自分に返ってきますから」

提督「五月雨の癖にいいこといいやがって・・・」

五月雨「それにしても、今夜は本当に間宮さん張り切ってるようですね」

提督「七面鳥とかどっから仕入れてきたんだろうか」

五月雨「赤城さんと加賀さん、もう一羽食べきったみたいですよ」

提督「空母よりも扶桑たちのほうがペースが速いな」

涼風「五月雨ぇ・・・、あたいもう食えない・・・」

五月雨「いいっていいって、無理したらおなか壊すだけだから」

時間経過。舞鶴鎮守府食堂。午後九時。

三時間近くたってようやく皆も眠くなってきたようで、会はお開きとなった。

先生「あ、すまんが五月雨君。ちょっと提督とだけで話させてもらってもいいかな」

五月雨「え、あ、はい、いいですよ」

提督「どうしたんです?」

先生「いやいや、大した事じゃない」

移動。舞鶴鎮守府執務室。

先生「実を言えば大分大した用事だ」

提督「でしょうね」

先生「すぐに本題に入らせてもらう。南鳥島に大本営が目をつけているのは知っているな。いやいい、私はこっちに座る」

提督の席を促されたのを断り、先生は執務机の反対側、提督の真向かいに座った。

提督「はい、そのことについて一度赤城と話したことがあります」

先生「今のところ横須賀と呉しか知らないことなんだが、南鳥島の奪還が最優先目標に据えられた」

提督「作戦名は?」

先生「今度の総会議で決まる。お前はどう思う」

提督「正気の沙汰ではないですね。今の時期、というか今の時代、南鳥島までの距離だけでも地獄です。着くころには、よしんば轟沈艦が出ていないとしても大破艦がでるのは免れ得ないと考えます」

先生「あぁ、それは私もまったく同意見だ。だがな、既に決まってしまった」

提督「・・・嘘ですよね?」

先生「横須賀鎮守府が先陣を切って敵の防衛線を砕き、後に我々が続くことになっている。大湊はその部隊の護衛だ」

提督「佐世保と呉と舞鶴は」

先生「佐世保は切り込み隊の一員だ。佐世保と舞鶴は、側面攻撃を仕掛けることになった」

提督「・・・」

先生「龍花?」

一転して、提督の目は怒りに染まっていた。

提督「そんな馬鹿な話がまかり通っていいはずが無い。舞鶴は一艦隊で敵、飛行場姫に有効打を与えられるほど戦力は充実していません」

先生「その事は私も進言した」

提督「だったらどうしてッ!」

先生「決定事項、なんだ」

提督「・・・決行はいつですか」

先生「第一次攻撃で、切り込み隊だけがまず十二月一日に陽動を仕掛ける。そこで可能な限りの戦力をその海域に集め撤退。第二次攻撃でそいつらを蹴散らし進軍する」

提督「陽動って、そんなの意味あるんですか?余計に敵を集めて作戦難度を高めゆくゆくは死傷者が出るだけだ」

先生「目標地点の防衛戦力を少しでも減らさなくてはならない。第一次攻撃で可能な限りの戦力を削りきるつもりらしい」

提督「そんなの無茶だ!第一飛行場姫は、今まで横須賀が一度倒したことがあるにせよ、それはこれほどまでに敵地が離れていなかったからこそ出来た事!前哨基地ぐらい築かなくては補給もままならず敵地に突撃することになる!それこそ玉砕攻撃だ!猿みたいな知能しか持ってない大本営にはそんなこともわからんのですか!?」

先生「・・・龍花、頼む。落ち着いてくれ」

提督「・・・すみません」

先生「お前の言うことは正しい。それは私もよくわかっていることだ」

提督「・・・具体的にどうすればいいのですか」

先生「この作戦、受けるのか?」

提督「だってどうせやらなきゃいけないんでしょう!」

先生「駄目だ龍花、自棄になるな。何か妥協案だけでも考え出すつもりで今日私はここに来たんだぞ」

提督「・・・少し、深呼吸させてください」
先生「ああ」

目を閉じ、組んだ手の上に顎を乗せて鼻で大きく深呼吸し、目を開いた。

提督「大本営が米国やソ連に助けを求めると思いますか」

先生「十中八九有り得ない」

提督「ドイツは?」

先生「ドイツに関してはわからない。もしかしたら要請することもあるかもしれない。この作戦がどれだけの危険を伴うか大本営に理解させることが出来たらだが」

先生「ドイツにしてもどこにしても、他の国からの援護は期待するべきではない。これは日本の利益のためでしかないからな。喜んで参戦するやつはいないだろう」

提督「この作戦の決行をやめさせることはもう出来ないと見たほうがいいのでしょう。ならば最大限援軍か、補給手段を持ってくる必要があります。被害を減らす事も目的ですが、作戦達成の見込みを少しでも立てなければ」

先生「護衛艦を導入するのはどうだ。お前がこの前、大湊と演習をやったときのように」

提督「そうですね。もしですが、利益などを無視した問題だとして、米の軍事援助は期待できますか」

先生「まだ冷戦下にあるから具体的なことは言い切れないが、ソ連を挑発するのを恐れて断る可能性が濃厚だ。敵本拠地を見つけたとでも言わない限り援助は無いと見ていい。貸与された駆逐艦と護衛艦、他の潜水艦と掃海艇は使い物にならんだろうから、そいつらを準備したほうがいいだろう」

提督「・・・あ、いや、その線は考えるだけ無駄かもしれません」

先生「?」

提督「今の護衛艦の装甲は余りに薄すぎる。艦対戦となれば、相手の深海棲艦の命中力の前では破壊されるばかりになってしまいます」

先生「ならば前哨基地の建設を念頭に置くかね」

提督「埋め立てている時間はありませんから、輸送船と舞鶴を同行させる方針で行きましょう。うちの指揮艦なら時間はかかるでしょうが、大破艦の修理も可能です」

先生「わかった。当然のことなんだろうが、舞鶴にはお前が乗るのか?」

提督「他操作は全て妖精に任せてありますから、大丈夫です」

先生「お前が乗ることに関して、反対する奴がいるだろ」

提督「そういわれても・・・、あの艦の責任者は俺です。同行しないわけにはいきませんよ」

先生「・・・具体的な話はお前の部下とやっておいてくれ。では、私は先に寝る。長話するつもりでもなかったからな」

提督「はい、お休みなさい」

椅子にもたれ、しばらくお茶を飲んでいたが、ふと見ると時計は午後十時を指していた。

お風呂でも入ろうと立ち上がった時、執務室の扉が開いた。

五月雨「提督」

提督「五月雨?どうしたこんな時間に」

五月雨「すいません。盗み聞きをしてしまったことを許してください」

提督「・・・ああ、気にしなくていい。いずれは話すことだったから」

五月雨「前回の潜水艦掃討の際にも提督の乗る指揮艦があわや撃沈という事態まで経験なさっているのに、今回の作戦でもまた出撃するつもりですか」

提督「俺の所以外で舞鶴ほどの大規模な工作艦を所有しているところは無いんだ」

五月雨「しかし、提督が危険に晒されてしまいます」

提督「それは詭弁だぞ五月雨。俺以外は死んでもかまわないという風に聞こえる」

五月雨「提督さえ死ななければ、舞鶴が無事なら私は気にしません」

何か言おうと口を開いても、出すべき言葉を思いつかなかった。

五月雨「今まではうまくいっても、それがいつまでも続くわけではありません。それこそ油断です、慢心です、提督。どうか今度という今度だけは、行かないでください」

ひしと抱きついた五月雨を掴んだ手の指輪が光を反射した。

提督「・・・わかった」

五月雨「約束です」

提督「その代わりだが、五月雨。お前が死んだら元も事もないんだからな」

五月雨「わかってます」

提督「・・・」

俺が行かないといっても、あいつらはそう考えるかどうか、そこが問題だ。

八月二日。舞鶴鎮守府執務室。午前五時。

ビスマルク「ちょっと提督、起きなさいよ」

提督「そんな起こし方ってあるか・・・?」

提督「ていうかなんでビスマルク・・・」

提督「あ、そういや今日の秘書ビスマルクだったな」

ビスマルク「なに、忘れてたの!?」

提督「ち、違う、そういうわけじゃないから・・・」

ビスマルク「とにかく早く起きて。あと少しで妹さんに先を越されるところだったわ」

提督「妹がどうしたって?」

舞鶴鎮守府食堂。午前六時。

妹「先を越されました・・・」

提督「だから何の話だ?」

妹「今朝兄さんを起こすのは私の役目だったんです・・・」

提督「でも今朝は、というか今日の秘書はビスマルクだぞ」

妹「秘書の役目というわけではないでしょう!」

提督「暗黙のルールみたいなもんだろ」

ビスマルク「そうよ。隙を見て抜け駆けようだなんて、私の前で百年早いわ」

妹「でも明日からは私だけのものですから・・・」

提督「正確には五月雨の夫だけどな」

五月雨「ブッ」

五月雨が盛大にむせた。

提督「大丈夫かよ・・・」

五月雨「うっ・・・、大丈夫、です」

妹「兄さんにも背中さすってもらったことないのに!」

提督「もう少し静かに食べようぜ、な」

妹「五月雨さんが兄さんの奥さんになったってことは・・・、義姉・・・?」

提督「義妹じゃないか?」

妹「義妹って、それ私のポジションですよ!?」

提督「ぽじしょん・・・?ポジフィルムのことかな・・・」

五月雨「役割、とかそんな感じの意味ですよ」

提督「役割か・・・。被ってないだろ別に。義妹に嫁なんだし。被ってないじゃん」

妹「一部!被ってます!」

提督「うるせぇ・・・、大体お前製油所の職員と付き合ってんだろ?」

妹「えっ?」

提督「工場長から聞いたんだけど」

妹「な、なん、なっ!?」

ビスマルクがギロリと妹を睨んだ。

ビスマルク「付き合ってる人がいるのに、それでは飽き足らず提督までもらおうと考えていたのね。提督、無理していくことないのよ」

他人から言われた途端、提督の行く気が一瞬で消し飛んだ。

提督「だな、実際俺も行く気失せはじめてたし」

妹「え!?行くって言ってくれてたじゃないですか!」

提督「遠足の法則」

妹「遠足、の法則?」

提督「行く前まではめっちゃ楽しみなのに、いざ前日になると面倒臭くなる法則のことだよ」

妹「めんどくさくなってきてるって、ことですか?」

提督「俺も行ってやろうとは思ってたけど、男いるんなら行く必要ないんじゃね。ていうかきまずい・・・」

妹「そんなぁ・・・」

五月雨「自業自得です」

妹「わ、私と提督が付き合ったほうが幸せになれますよきっと!」

提督「誰が一番幸せかなんて考え出したらもう末期だ」

妹「なんで駄目なんですかぁ!」

提督「まぁ俺も明日はやることあったし」

先生「・・・ふむ。私も龍花に用があったのも事実だ。明日暇になったのなら呉に来てくれ。話がある」

提督「了解です」

妹「お願いです、来てくださいぃ!」

ビスマルク「浮気しようとしてた女にそんなこと言う権利ないわよ」

提督「また今度暇になったら行くから。な?そん時は彼氏さんにも顔合わせるよ」

妹「私としたことが、不覚でした・・・」

舞鶴鎮守府執務室。午前十時。

ビスマルク「ねぇ」

提督「ん?」

ビスマルク「呉鎮守府に行って、何を話すの?」

提督「・・・すまない、今はまだ話せない」

ビスマルク「・・・そう」

提督「でもそうかからない。すぐに話すよ」

ビスマルク「待ってるわ」

ビスマルクが何か言おうと口を開きかけたところで、

プリンツ「姉様ー、いますかー?」

突然プリンツがやってきて執務室の扉をノックした。

提督「プリンツか?どうンッ」

ビスマルクが提督の口を塞ぐ。

ビスマルク「今になって秘書の仕事を邪魔されたくないの・・・!ちょっと提督の部屋、入れる?」

提督が頷いた。

プリンツ「あれー、いないんですかー?今提督の声が聞こえた気がするんですけど」

そっと私室の扉を開いて、鍵をかけた。

プリンツ「入っちゃいますよー」

提督(あいつ、勝手に入るなって言ってるのに勝手に入ったぞ!?)」

ビスマルク(プリンツはそういう娘なのよ・・・)

プリンツ「いないですね・・・。もしかしてお昼寝でもしてるとか?」

カチャ、と私室扉のノブが音を立てた。

プリンツ「あれ、鍵かかってる。ほんとに寝てるんですかね」

プリンツ「まさか、お姉様と提督は今まさにこの中で・・・?」

プリンツがドアをノックした。

声を上げそうになったビスマルクの口を提督が急いで塞ぐ。

プリンツ「提督、提督ー、いるんですかー?」

提督「(いない、ここにはいないんだ・・・。俺はただの空気、そう空気なんだ・・・)」

プリンツ「ここにもいないか・・・、どこに行ったんだろう」

そのまま執務室を出て行く音がした。

ビスマルク(なんとかやり過ごしたわね・・・)

提督(これは俺の予想なんだが・・・、あいつ多分まだ執務室にいるぞ)

ビスマルク(でもさっき扉が閉まる音が・・・、そこまでするかしら)

提督(いるとしたら、ここからは執務室への扉と窓以外出られる場所が無いな)

ビスマルク「じゃ、じゃあどうするのよ!?」

提督(しっ、声がでかい!)

私室扉の前の床が軋む音がした。

ビスマルク(た、建物の音よね?)

提督(私室の前はゆっくり歩くとあんな風に音が鳴るんだ)

と、その時だった。

五月雨「あれ、プリンツさん、どうしたんですか?」

プリンツ「あっ、ええっと・・・、アドミ、じゃなくて、提督に用があって」

五月雨「提督なら」

そこで言葉を切った五月雨は、プリンツの行動と、鎮守府のどこにも提督の姿が無い理由を悟った。

五月雨「提督ならさっき厨房で間宮さんと話してましたよ?」

プリンツ「え、ほんとに?」

五月雨「ええ、私も提督を探してましたから」

プリンツ「そっか、ありがとう。それじゃあ姉様はどこに・・・」

提督「・・・」

それから三分ほど経つと、

五月雨「提督、ビスマルクさんも、何してるんですか?」

五月雨が外から声をかけてきた。

提督「いやぁ・・・、ビスマルクがプリンツに邪魔をされたくないって言うからね・・・」

ビスマルク「ごめんなさい、少しやりすぎだった」

執務室から出てきて、提督は椅子に座った。

提督「それで、俺に用ってどうしたんだ?」

五月雨「提督宛に書簡が届いてましたよ」

親展、と判子で押された封筒を渡された。

提督「大本営からか」

隠すのもなんだと思い、その場で封を開けた。

『舞鶴鎮守府司令官龍花殿  
   既に呉鎮守府司令官が説明に向かったことと思う。
   先だっては、舞鶴鎮守府が保管、使用する特殊指揮兼修理艇「舞鶴」の運用を頼みたい。艦長は、貴殿で構わない。
  良い返事を待っている。
                   海軍軍司令部』

提督「先生はまだ部屋にいるか?」

五月雨「帰り支度を始めたところです」

提督「急ごう」

移動。舞鶴鎮守府貸部屋。

提督「先生」

丁度鞄に粗方詰め込み終えたところだった。

先生「どうした?」

提督「これを」

先生「・・・」

しばらく静かに読み進めていた。

先生「どうやら彼ら自身でこの作戦の危険性を認識してくれたようだ。原人ぐらいの知能はあるんだろう」

提督「さぁ、心にもないことを言っているだけかもしれませんよ」

先生「その方が知能が高い気がするんだが・・・。とにかく、補給船も随伴可能になるのは時間の問題だ。だが、五月雨」

五月雨「はい」

先生「どうせ提督ともう話したのだろ。君はいいのか?」

五月雨「昨晩、提督とその事について話しました」

先生「それで?」

提督「俺は行きませんよ」

先生「わかった。しかし、・・・その上でだ、五月雨」

先生が声の調子を一つ落として行った。

先生「とりあえず私と、他鎮守府責任者はこいつの同行を却下する方針で意見を固める。だがな、五月雨、それでも駄目だった時は素直に諦める覚悟が必要だ」

五月雨「そんな・・・」

先生「龍花もわかっていたことだろう」

提督「・・・はい」

五月雨「でも、行ったら提督は」

先生「まだ死ぬと決まったわけじゃあるまい。それよりも、命令を無視すれば君の提督は敵前逃亡として銃殺されてしまう」

五月雨「そんな無茶な!」

五月雨の声は既に涙声だった。

提督「五月雨。俺は死にゃあせんよ。今までだってそうだったじゃないか」

五月雨「こ、今度という今度は死んでしまうかもしれませんよ!」

妹「・・・五月雨さん」

五月雨「・・・はい」

妹「どんな形でも、一応五月雨は奥さんなんです。兄さんは元々死んでもおかしくない職業についてるんですよ」

五月雨「そんなこと、百も承知です・・・」

妹「それぐらいわかってんだったら、もっと元気よく送り出すぐらいしてあげなよ」

五月雨「・・・」

時間経過。舞鶴鎮守府食堂。午後一時。

提督「皆に伝えなければならないことがある」

食器類を片付け終えたのを確認すると、提督は通る声で言った。

ビスマルク(それって、さっきの?)

問いかけに軽くうなずきを返す。

椅子を立ち、皆に見える場所まで歩いていく。

提督「これから四ヵ月後に作戦が発令されることになった」

それを聞いた先生が慌てて提督に声をかける。

先生「待て、まだ公式発表は許可されてないぞ」

提督「舞鶴ならなおのこと、早めに準備を始めなければなりません。一々許可など待っている暇は舞鶴にはありません」

先生「・・・そう、だな」

白露「作戦?近海掃討作戦でも発令されるの?」

提督「皆、南鳥島のことは知っているか」

加賀「確か、日本最東端にある島のことね」

加賀が、静まり返った食堂で口を開いた。

提督「あそこが敵領地であることを知らないものもいるだろう。まずはそこの話からだ」

提督「長らく大日本帝国は、戦後にあそこに航空隊を置き、自国防衛の基地としてきた。だが、具体的な日時は不明だが、深海棲艦の出現により防衛基地としての効力は失い、すでに敵飛行場姫の直轄地と化している」

日本に届いてもおかしくないすぐ近くに、敵領地が存在することに皆がどよめいた。

提督「しかし、太平洋側は大湊と横須賀が不定期で偵察航海を行っていることもあってか、何回か対空戦闘がありつつも未だ本土襲撃には至っていない。また、我々が敵本拠地の捜索を並行して行っていることは皆知っているはずだ。わかっただろうが、この南鳥島は偵察範囲を拡大するに当たって欠かすことの出来ない要所であり、偵察活動を円滑に行うために絶対に破壊し奪還しなければならない領土である」

提督「大本営は、南鳥島の奪還を目論んでいる」

暁「南鳥島って、千海里ぐらい離れてない・・・?」

提督「あぁ、それに道中での遭遇戦を考えると、燃料切れは起こさないだろうが、弾薬が乏しくなる可能性がある。その為に輸送船も同行する。そして、舞鶴もだ」

五月雨「舞鶴・・・」

提督「あの船なら大破艦を修理するぐらいなら時間をかければ可能な範囲だ」

秋月「提督も同行するということですか?」

提督「そこのところはまだ決まっていないから明言できない」

加賀「私たちの役割は」

提督「南鳥島の攻略は正面攻撃、側面攻撃を一気に仕掛けることで進めていく。我々舞鶴は側面攻撃を一任された」

秋月「わ、私たちが!?」

提督「そう、舞鶴が、だ。装備の改修はもちろん、あらゆる戦闘に対応する必要がある。遭遇する回数は四回五回じゃすまない。体力も養わなければとてもじゃないが遂行できる作戦じゃない」

白露「久しぶりに演習ってわけですか!」

提督「既に先生にその旨伝えてある。他に佐世保にも明日頼むつもりだ」

赤城「やってやります」

提督「すまない、緊張を高める真似であることはわかっている。だが、早めに伝えたほうがいいと判断した。許してほしい」

五月雨「大丈夫です。提督についていきますから」

隼鷹「これからはまた演習漬けの日々が再開されるって事かー。ま、私はそのほうが楽しいからいいけどね」

提督はまじめな顔を崩して、柔らかな口調に戻した。

提督「当面は装備の改修はこっちでやっておくよ。終了は来月ぐらいになると思う。それでは、解散」

移動。舞鶴鎮守府執務室。

ビスマルク「明日は他の鎮守府のみなも集まることになってるの?」

提督「あぁ、横須賀なしでやるのは気が引けるけど、この際しょうがない」

ビスマルク「少し、踏み込んだこと聞いちゃってもいいかしら」

提督「踏み込むも何もないと思うが・・・、それで?」

ビスマルク「ここって、戦艦だけでも三隻、空母は四隻、他にも水雷船隊を築けるだけは保有してるじゃない。それなのにどうして側面攻撃、つまり一鎮守府で動くには戦力が足りないと思うったの?」

提督「呉の艦隊保有数を知らないのか?」

ビスマルク「他の鎮守府のことなんて今まで気にしたこともなかったから」

提督「呉は戦艦を持っていない代わりに航空戦力が充実してる。正規空母だけでも六隻は持っていたはずだ。駆逐艦は駆逐艦の数もうちの比じゃない、確か二十は下らなかったはずだ。それに加え潜水艦も所持してるからな。うちとは戦力差がでかい」

ビスマルク「佐世保は?」

提督「あそこはまさに水上打撃部隊に特化した鎮守府だ。高速戦艦の金剛型はもちろんだが、伊勢、日向の二隻を合わせて六隻。重巡洋艦はこれまた二十隻だ」

ビスマルク「残りの編成も聞いていい、わよね?」

提督「大湊は、軽巡洋艦十隻。駆逐艦十四隻。横須賀は大和型、長門型四隻以外のところはまだ良く知らない」

ビスマルク「舞鶴ってまだ艦隊拡張する予定って?」

提督「いや、今のところはない。資材も余り始めているし、地下の演習場も宝の持ち腐れ状態だから一時期は考えたこともあったがね」

ビスマルク「でもこのままじゃだめってことなんじゃ・・・?」

提督「と、思うだろ?」

ビスマルク「?」

提督「舞鶴には優秀な工廠と、豊富な資源がある。事燃料に関しては製油所がある限り尽きる事はない。つまり、量より質、他鎮守府に差をつけられるだけの装備生産力が潜在的に舞鶴にはあるんだ。だから俺は拡張しないんだよ」

ビスマルク「確かに、この前工廠でかなり大量の装備が・・・。烈風も持っているのは呉と舞鶴だけなんですって?」

ビスマルク「そうは言ってもほかの鎮守府が追いつくのも時間の問題じゃない」

提督「艦娘の拡張に関してはしないんじゃない、できないんだ」

ビスマルク「どういうこと?」

提督「現時点で確認されてる艦娘全てどこかの鎮守府に配属済みなんだよ。もう増やそうにも人員がいない」

ビスマルク「そうだったんだ・・・」

提督「とりあえず、ビスマルク達戦艦は砲撃練習を再開するから、覚悟しておけ」

ビスマルク「ライン演習はしないの?」

提督「どこの通商を破壊するってんだよ」

時間経過。舞鶴鎮守府執務室。午後八時。

提督「やっと終わったぞ・・・」

ビスマルク「?」

提督「とりあえず射撃演習は明日から開始するけど、指揮は五月雨に委託するからな」

ビスマルク「わかったわ」

提督「施設に関しても使用する予定表は提出してある。明日午前九時に集合をかけるよう五月雨に伝えておいてくれ」

ビスマルク「オーケーよ」

提督「ふむ・・・」

ビスマルク「・・・?」

提督「なかなかできるんだな、ビスマルク」

ビスマルク「な、なにがよ?」

提督「今日一日、秘書として仕事を全うしてくれたじゃないか」

ビスマルク「これぐらい当然のことじゃない」

提督「当然の事をやってくれない奴らもいるんだよ・・・」

ビスマルク「五月雨はもっとうまくやれてるのかしら」

提督「五月雨は俺の仕事を支援する役割の中で言うなら最悪の部類に入るといってもいい」

ビスマルク「じゃあなんで結婚したのよ・・・」

提督「・・・そんな事恥ずかしくて言えねぇよ」

ビスマルク「そういわれると余計気になるんですけど」

提督「ほら、あと二時間ぐらい集中して仕事しようぜ」

八月三日。呉鎮守府会議室。午前十一時。

神埼「久しぶりだね、龍花君」

提督「ええ、演習以来です」

先生「さて、三人とも揃ったようだな」

岩崎「誰かに聞かれるとか、ありませんよね?」

先生「ここは音が漏れない設計になっている。聞かれることはない」

四人各々が席に着いた。

先生「作戦名が決定されてしまえば、我々ではもう動かすことが出来なくなる。今日の会議で全てを決める」

先生「大湊、偵察にはいってくれたか?」

神埼「はい。第三偵察船隊を二週間前から一週間の間、太平洋辺りの偵察へ向かわせました。部隊報告によれば、そこでは戦艦、軽巡、駆逐艦とあらゆる水上艦は探知できなかったとのことです。音響装置による探知にも、潜水艦と思われる反応は一切なかった、とのことでした」

岩崎「何もいなかったって言うのか?」

神埼「考えてみれば、これまでの偵察航海の中でも水上先頭になったことはただの一度もなかったのです。ということはもしかすると「いや」

先生「発見できなかったからといって油断する理由にはならない。偵察部隊の全ての日誌を提出してもらえるか」

神埼「はい」

厚さ三センチほどの紙束が先生に手渡された。

先生「確かに偵察任務の実行日は不定期だな」

神埼「敵に感づかれ、対応部隊を出されないようにする為です」

先生「理由は一度聞いたことがある」

百枚ほど捲ったところで、先生は手を止めた。

先生「最初に偵察任務が開始された頃に、道中の小島付近に電探に何か反応があったが問題なしとして処理されているが」

神埼「私もそれについての詳しい報告を求めましたが、それ以上の接近は危険であると判断したようです」

先生「しかしこの報告だが、五月あたりで途切れているようだ」

神埼「偵察部隊旗艦が問題なしとして、これ以上の記述の必要性はないと判断しました」

先生「・・・同じ場所にあり続けているから、その判断も誤りではないのかもしれないが・・・」

提督「もしや、それは潜望鏡なのではないですか」

神埼「そうは言うが、ソナーに反応はなかったと」

提督「島と一体化しているようにソナーには映っていたとも考えられます。無音潜行のまま、その付近の海域に錨を打ち込んでいたとしたら、機関音を探知できていないのも説明がつきます」

神埼「とすれば、我々はずっと監視されていたということか?」

先生「その小島の場所、わかるか」

神埼「確か座標が・・・、これです」

先生「南鳥島と横須賀の途上か・・・、少し日本よりの場所にあるようだ」

岩崎「潜水艦がこちらの殲滅部隊を認識すると同時に飛行場姫に通達。直ちに迎撃部隊が発進する手筈なわけか」

先生「潜水艦一隻では偵察は困難。他の所にも潜伏していると考えるのが妥当だろうな」

岩崎「我々はずっと、敵の監視下にあったのか・・・」

神埼「第一次隊が向かえば、まず敵潜水艦による雷撃に遭うということになります」

先生「六隻以上いるとすれば、そいつらの扇射撃は避けられんぞ」

提督「今考えてみれば、途中で補給なんて受けられるはずがありません。道中で戦闘をすれば、敵の増援部隊がやってきます。修理などしている間に悲惨な結果に終わります」

先生「・・・それでは手詰まりになってしまう。補給が受けられなければ、継戦能力は絶望的に低くなる」

提督「第一次部隊の案は廃棄すべきでしょう。大湊鎮守府が対潜部隊として先行、それに呉が続く形にしなければ。敵の射程外から攻撃を仕掛ける必要があります」

岩崎「例え最初は遠距離から攻撃が出来ていたとしても、時間がたてば嫌でも距離はつめられていく。それでやっと水上打撃部隊の出番ってわけか?」

神埼「わかりました。大湊が対潜を担当します」

神埼「だとしても龍花、あんたらは東からの側面攻撃を任されてるんだったよな?」

提督「それが問題なんです。おそらく空母を持っている我々舞鶴と呉に上空からの攻撃を期待しているのだと思われますが・・・」

神埼「さっきの作戦で行くと、恐らく呉は航空部隊の被害は生半可なものではすまない。舞鶴もだ。その状況下で航空打撃を使用するのは心許ないと思わないか」

提督「それもそうですね・・・、正面攻撃よりも、肉薄する側面攻撃のほうが航空面での抵抗は大きいものになるかもしれません」

先生「糞が、結局は元の編成に落ち着いてしまうのか」

吐き捨てるように先生が言った。

岩崎「舞鶴にはこれで行ってもらうしか選択肢がないようだが・・・」

先生「それで、問題は提督が舞鶴に登場せよとの通達が大本営より送られてきていることだ」

佐世保「・・・何」

提督「つい先日のことです」

先生「他の提督は同行せず、本土で悠々と指揮を執っているのに若者が戦地に赴かせるなどあまりに後味が悪い」

神埼「五月雨とも結婚したんだったな。許したのか?」

提督「納得ではなく、割り切っただけです」

先生「伊藤元帥に取りやめるよう進言はする。だが命令された場合、手出しはもはや出来ない」

提督「わかっています。やるしかないのなら、やるまでです。俺も軍人ですから、信頼されたからにはやり遂げますよ」

先生「演習など、最大限の援助はする」

提督「ありがとうございます」

結局は大本営の指示に従うしかないという結果に落ち着いただけだった。

提督「徒労に終わっただけだなんて、そんなこと・・・」

移動後、呉にとまっていた飛行機の風防を拳で殴りつけた。

八月四日。京都府沿岸。午前八時。

提督「今回は戦艦、重巡洋艦の遠距離砲撃の練習を行う」

マイクから、提督の声が海に響き渡る。

提督「41cm三連装砲、SKC3420.3cm三連装砲の練習も兼ねているからな」

20km先に敵戦艦と同型、同大の標的を妖精が配置した。

技主「あれ作るのは一苦労でしたよ・・・」

提督「悪い。でも助かってるよ」

並んだ艦娘が一斉に実弾を発射した。

提督「さすがに弾着は遅いか」

発射された中では、誰一人初射命中させたものはいなかった。

ビスマルク「ちょっと、レーダーの精度悪いんじゃない?」

提督「機器のせいにしてもいられん。皆、三連装は一斉に撃てるのが長所ではあるが、それは確実に当たると保証があるときだけだ。三本、又は二本の砲身をうまく使え。一発目で大体の偏差を理解し、二発目で修正した弾道で発射しろ。それで向こうに行き過ぎるか、手前に落ちてしまったのならその中間点にあわせればいい」

扶桑「はい!」

山城「さすがにこの距離は初めてです・・・」

ビスマルク「ま、時間はあるし。一ヶ月もあればこんなの余裕よ」

加古「さて、うちらはあっちだねー」

古鷹「頑張らないと・・・」

プリンツ「あんまり気張りすぎるのもよくないんじゃない?」

提督「極大射程、か・・・」

技主「あれは妖精でもだいぶきつい距離ですよ」

提督「20kmともなると三十秒以上弾着まで時間がかかるからな。あいつらには負担をかける」

妖精「水柱を確認するのだけでも一苦労です」

提督「できれば電探の表示距離で、どの仰角でうったらどこに着弾したかの距離を覚えておいたほうがいい!」

再び提督が拡声器で叫んだ。

扶桑「はい!」

技主「こっちも、射撃レーダーの改良、行っておきますかね」

提督「資材は回しておく」

技主「了解了解」

時間経過。舞鶴鎮守府食堂。正午。

加古「運動したあとの飯はうまいなぁ」

扶桑「仰角三十度でも結構飛ぶんですね」

提督「41cm砲だからな、35.6cmとは火薬量が違う」

山城「あの距離を一発で当てられるようになったら・・・、すごいんだろうなぁ・・・」

プリンツ「ドイツのSKC34も有効射程は二十キロですから。戦艦にも負けないよう頑張らないと」

古鷹「いまいち距離感がつかめないんです」

提督「実際あの距離ともなると大和でも初射命中なんてほぼまぐれに等しいらしい」

山城「そうなんですか」

ビスマルク「大和の46cm砲って、どんなものなのかしら」

提督「過去の資料を見たことがあるけど、実物は見たことないんだ」

ビスマルク「艦砲の中では最大だったんでしょ?」

提督「・・・今は51cm砲の搭載に力を注いでるらしい」

五月雨「ご、五十一センチですか!?」

提督「大鑑巨砲主義万歳精神だから・・・、横須賀は頭が堅すぎる・・・」

五月雨「・・・それは否定できないです」

提督「いっそうちもミサイル開発に着手してしまえばいいのに」

五月雨「アメリカが許してくれるわけないじゃないですか」

提督「だよなぁ」

時間経過。同所。十二時半ごろ。

食べ終わったときを狙って、巡視兵が手紙を渡した。

提督「大本営からか・・・」

躊躇わずにそのまで封を開けた。

手書きではなく、電報が打たれていた。

提督「ちょっとすまん。五月雨、俺先行ってるわ」

五月雨「え?・・・はい?」




移動。舞鶴鎮守府室執務室。電話にて。

提督「先生、明日作戦会議だなんて聞いてませんよ」

先生「私のところにも今来たばかりだ。大本営は大分焦ってると見える。お前はまだ知らなかったか」

提督「何です」

先生「たったさっきの事だ。横須賀の偵察部隊が壊滅した。幸い轟沈艦は出てない」

提督「宣戦布告・・・。でもうちは準備すらできてませんよ!?」

先生「・・・急げ」

八月五日。海軍軍令部作戦会議室。午後一時。

元帥「今回の事はすでに皆知っているだろう。事実上の宣戦布告が深海棲艦からもたらされた」

元帥「四ヵ月後の発令予定だった作戦を三週間後に据える」

先生「一ヶ月後ですか」

元帥「敵はもうすでに開戦の準備を備えたということだろう。よりにもよって今この機にやられるとは私も怒りを隠せないが、このままでは日本が再び急襲される羽目になる」

そこで、神崎が挙手した。

元帥「なんだ」

神崎「伊藤元帥、偵察部隊からの報告をよろしいでしょうか」

元帥「後で頼むつもりだったが、何か進展でも?」

神崎「これまでの作戦報告書を検分しているうちにわかったことがあります」

元帥「ほぅ」

潜水艦と思われる部隊について、かいつまんで説明する。

元帥「・・・作戦変更を余儀なくされている、と?」

神崎「第一次部隊が危険にさらされることになります」

元帥「危険なのは最初からだが、そうだな。だが一回の奇襲をするにしても、敵の防御を少しでも崩さなければならないぞ。南鳥島付近は警備が厳重になっているであろうことは言うまでもない」

神崎「そこで、少し一計を案じてみたいのです」

元帥「言ってみろ」

神崎「我ら大湊の駆逐艦部隊が道中で潜水艦の撃破も行いつつ、全速で南鳥島へ接近。遠距離雷撃で確実に二、三隻は沈められます。その時に空母、戦艦を目標としておいて、敵が行動を開始するまで雷撃を続ける。その後は囮として後続の日本連合艦隊の到着を待つ、というのはどうでしょう」

元帥「駆逐艦がやれるのか?」

提督「(んなこと言ってる場合じゃねぇだろ老いぼれジジイが)」

先生「伊藤元帥、事態は急を要します。大湊艦隊の速力に頼るべきかと」

元帥「・・・了解した。大湊の作戦を飲もう」

提督「道中の敵も引き連れての囮をすることになりますよ」

神崎「そんなことは言われるまでもなくわかっていることだ。私とて言いたくはなかったが、やむを得まい」

元帥「ならば、作戦は変更だ」

そして、先生が発言の許可を求めた。

元帥「なんだ」

先生「龍花提督が本作戦に同行する件についてですが、撤回を進言します」

元帥「何故?」

先生「特務艦舞鶴の責任者は確かに龍花提督ですが、我々が作戦に同行しないにもかかわらずまだ若輩者である彼を現地へ派遣するのは賛同しかねます」

元帥「ならば貴様がいくのか」

先生「まず、我々が行く必要がありません。軍人になろうという人数は多いですが、提督までの地位になっているものは他にいません。ここで死傷者を出すような可能性に賭けるのはあまりにも無謀かと思われます」

元帥「今回の作戦の艦隊と我々との距離は知っているだろう。ざっと千海里は離れるている。その状況下で何らかの事情で味方との連絡が取れない場合に陥った場合、現場指揮をとるものが必要だ」

元帥「現場の非常時指揮監督を行ってもらうために龍花提督には同行してもらう」

提督「・・・」

先生「ですから、伊藤元帥、どうか「これは決定事項だ」

元帥「経験が浅い者が死んだ所で大した被害はあるまい。我々がそれを補えばいいだけの話だ」

先生「死んでも構わないと?」

元帥「・・・そこまでは言っていない」

元帥「反対する理由も無ければ、賛同する理由もあるまい。それか何だ。やむを得ない事情でもあるかね」

提督「(・・・艦娘の感情論を出したところで意味は無いか・・・)」

提督「了解しました」

元帥「貴殿の勇敢な態度を歓迎する。それでは次だ」

伊藤元帥が壁に張られた海図を指差す。

元帥「作戦の変更案を発表する」

元帥「大湊率いる囮部隊が最大船速で南鳥島に接近。我らはその後に第一船速、巡航速度で出発する。大湊から雷撃成功、もしくは敵の陽動に成功したとの一方が入り次第全艦増速。直ちに作戦行動に移る」

元帥「第一連合艦隊が正面を突破すべく、大湊の第二部隊が先頭、後ろに横須賀、佐世保の火力艦隊が続く。舞鶴および呉の第二、第三は敵と遭遇すると同時に、第一連合艦隊より離脱。迂回ルートを通って最大船速で南鳥島の側面へ回ってもらう。なお、特務艦の舞鶴は第一連合艦隊に続け」

提督「舞鶴は離脱時点での艦娘の修理を完了しだい、舞鶴鎮守府の艦隊に同行します」

提督が鋭い声で元帥の言葉を遮った。

元帥「それでは第一連合艦隊の修理が出来ない」

提督「元々敵前で修理など出来るはずがありません。離脱前であっても困難を極めます。舞鶴鎮守府の戦力不足を少しでも補うべく、特務艦舞鶴は第一連合艦隊ではなく、第三連合艦隊に同行する必要があります」

元帥「・・・了解した」

元帥「作戦開始は八月二十一日。無線での作戦名は水谷救出作戦。南鳥島を開拓した人物の名からとったものだ」

各艦隊の使用予定装備など、細かな点の話し合いが行われ、会議は幕を閉じた。

移動。追浜海軍航空基地。

先生「お前、あれでいいのか」

提督「仕方ないです。五月雨には納得してもらうしかないですから」

まだ操縦士が発動機の始動は行っていなかったため、会話は楽だった。

先生「気をつけろよ。五月雨とお前はもう上司部下じゃない」

提督「わかってます」

風防を閉め、提督が前の席にいる男の肩を叩くとプロペラが回り出した。



時間経過&移動。舞鶴鎮守府執務室。午後五時。

五月雨「・・・提督」

消え入りそうな声で、五月雨が帰還した提督に声をかけた。

提督「・・・あいつはもう帰ったのか」

五月雨「はい、帰りました」

提督「五月雨。駄目だった」

五月雨「行かないと約束したじゃないですか」

提督「・・・ぁぁ」

五月雨「死んじゃ嫌です。駄目です」

見ずとも、五月雨が泣いているのは気づいた。

提督「泣いてばっかりだな五月雨は。これで何回目だ?」

五月雨「一々数えないでください!」

泣き笑いのまま、五月雨が提督の腕を掴んだ。

五月雨「本当に死んだら、あの世まで追いかけますから」

提督「後を追ってきてくれるのか?それならあっちでも独りじゃねぇな」

五月雨「そこは死なないでくれって言うべきところなんですけど」

提督「お前も先から俺に死ぬな死ぬなって言ってるが、俺もお前に死んでほしくないんだからな。そこの所忘れんじゃないぞ」

五月雨「わかってます!何年兵役についてきたと思ってるんですか。三十年以上ですよ」

提督「進水日から計算されたら適わんよ・・・」

八月六日。舞鶴鎮守府食堂。午前八時一五分。

提督「黙祷」

原爆が投下された八月六日八時十五分。鎮守府中が静謐な沈黙に包まれた。

一分ほど経った所で提督がやめ、と合図した。

五月雨「原爆って、どれほどのものだったんでしょうか・・・」

提督「半径二キロの建物が全焼、半径三キロの範囲内にいた人畜に致命的熱傷、広範囲の放射線被害。核攻撃の威力はこれぐらいだ、と指定できるものじゃない」

五月雨「落とす必要があったと思いますか?」

提督「もちろん原爆による被害を受けた人もいるだろうし、落とすべきだと俺も思っているわけじゃない。でも日本はそれぐらいされるまで止まらなかった。特攻で大量の人員を見殺しにしているのに、原爆で大量に殺人されてから気づくなんて皮肉だと思わないか」

五月雨「それは・・・」

提督「・・・とにかく、今は昔を振り返っている場合じゃない。緊急事態だ。皆、よく聞いてくれ」

食堂の卓をつなぎ合わせ、持ってきた太平洋地域を詳細にした海図を広げた。

提督「昨日、○九○三にて、ここの地点で」

海上のある一点を指差す。

提督「横須賀の偵察部隊が敵潜水艦隊の雷撃による奇襲を仕掛けられ、全艦大破した」

五月雨「ってことは」

提督「大本営はこれを深海棲艦側からの宣戦布告とみなし、作戦の発令を八月二十一日に定めた」

扶桑「でも、私達の訓練はまだ「わかっている」

提督「工廠技術主任はいるか」

技主「はいはい」

提督「三十二号あ電探の改修は」

技主「先ほど終わりました」

提督「さすがだな」

技主「いえいえ」

提督「戦艦と重巡洋艦の遠距離砲撃の精度は以前よりも高くなっていることは確かだ。あと二週間のうちに練習を積み重ねるぞ」

扶桑「了解です」

提督「編成を発表する」

提督「第一艦隊、旗艦扶桑、山城、ビスマルク、プリンツ、古鷹、加古。
   第二艦隊、旗艦赤城、加賀、隼鷹、飛鷹。
   第三艦隊、旗艦名取、長良、白露、夕立、村雨、春雨、時雨、秋月。
   第四艦隊、旗艦五月雨、涼風、暁、響、雷、電。
   陣形は概ね西号作戦のときと似たようなものだが、対空戦闘に備えたものにする」

皆が頷いた。

提督「また、今回の作戦においても潜水艦を始めとして全ての艦種との戦闘を考慮する必要がある。第二艦隊は複縦陣、各艦距離200m。第二艦隊前方500mに各艦距離200mを保ち、角度百度で第一艦隊が空母を傘上に覆って展開。第三艦隊は対空迎撃艦隊として、接近した敵艦載機の撃墜に当たってもらう。第一、第二艦隊前方500mに各艦距離200m、角度百二十度で展開。第四艦隊は艦隊前方にて潜水艦の掃討、索敵を行ってもらう為に、第三艦隊前方500mに各艦距離200m、角度百五十度で展開」

海図の上に、大まかな形を記した。

五月雨「敵潜水艦の感知方法はどうしますか」

提督「最大船速での接近を余儀なくされる以上、音波の反射を確認すると同時に絶やすことなく撃ち続けろ。潜水艦の探知は能動的に行う」

五月雨「了解です」

提督「秋月」

秋月「はい!」

提督「第三艦隊の面々の対空砲撃に関して、もう一度訓練してやってくれ。今回は負担が前回の比じゃない。地下の演習場は開放しておく」

秋月「了解です!」

提督「第一艦隊は改良済みの三十二号電探を持って沿岸に集合。二十キロ先の静止目標での遠距離砲撃の練習を再開する」

扶桑「直ちに開始します」

本日はここまでです。ありがとうございました。

五月雨提督、結構少なくて俺は悲しいです。


妹が提督に好意抱く理由って既出だっけ?

乙です
提督が舞鶴に着任して初めて建造されたの赤城さんなんだよね

>>92あっ・・・、書いてないです・・・。次投下に書きますね。

>>94そうですよ。赤城さんが鎮守府で最初に開発、登場した空母です。

今まで何度となく第一戦速が巡航速度であるかのような表記をしてきました。ええ、間違いです。

18knは巡航速度ではなく、どうやら16knが大和だと巡航速度だったりするようです。以降訂正していきます。

五月雨提督の俺参上
水着グラ無くて悲しい

>>97 五月雨と涼風だけはぶられてるのはなんでだろうか・・・。憤死しそうです。

今日、投下します。時間帯はわかりません。

改二実装や、水着デザインなど、あったほうが嬉しいですが、俺の五月雨への愛は変わらないです・・・。
ていうか五月雨を現実に引っ張ってk(ry




八月十日。京都府沿岸。午後三時。

扶桑「試射夾叉!一斉射撃準備!」

ビスマルク「・・・よし」

山城「装填完了!」

扶桑「撃て!」

提督「弾着が夾叉を叩き出してくれるようになってきたな」

弾着までの時間の間、提督はこの三、四日での成長ぶりに驚嘆していた。

技主「三十二号対水上電探改、ですから」

搭乗員B「弾着までどれくらいです」

提督「あと二十秒程度でそっちに届く。悪いな、辛い役を任せてしまって」

操縦士に弾着報告を頼んでいたのだ。

搭乗員B「さすがに水上艦で観測するわけには行きませんでしょう。流れ弾もあるんですから」

提督「引き続き頼む。・・・あと十秒」

搭乗員B「・・・」

遠い水平線で着色された水柱が見えた。

搭乗員B「戦艦十発命中、遠弾八。重巡六発命中、六発近」

提督「すごいもんだ。命中ほぼ五割だぞ!」

扶桑「これって・・・?」

提督「この数日で本当によくやってくれてるよ、お前達は」

ビスマルク「わ、私達にかかればこんなもんよ・・・。もっと褒めてくれてもいいのよ?」

提督「さすがにこれで訓練終了というわけには行かないけど、これは素直に褒められるべきことだ」

技主「提督、顔緩みすぎですよ」

提督「重巡達も至近弾と命中弾を叩き出せるようになってきてるんだぜ?こんなに喜ばしいことはない」

加古「あんまり褒められると居心地が悪いね・・・」

提督「何はともあれこれで遠距離砲撃戦術にも光明が差してきたってわけだ」

扶桑「というより、妖精さん達が改造してくれたおかげの部分も大きいです」

技主「ありがとうございます」

提督「そうだ、前から頼もうと思ってたことがあるんだ」

技主「なんです?」

提督「舞鶴の改装をお願いしようと思って」

技主「改装ですか?確かにまだ付加する余地はありますけど・・・」

提督「舞鶴の兵装の換装だよ」

技主「前線に出るつもりですか?」

提督「そういうわけじゃない。護衛のためだ」

時間経過&移動。舞鶴鎮守府作戦会議室。午後八時。

提督「作戦の進行を発表する。編成に関しては前言ったとおりのままで変更はなしだ」

皆がうなずいた。

提督「第一回の敵との遭遇が起こると同時に戦闘は第一連合艦隊に任せて、第三連合艦隊の我々はその場から離脱する」

赤城「第一連合艦隊についていく、という話を聞きましたが」

提督「それに関しては、正面突破に関しては即効性を重視する必要があるとして同行は却下した」

赤城「了解です」

五月雨「敵と遭遇する場所の大まかな場所はつかめているんですか?」

提督「さっぱりわかっていない。大湊の陽動作戦で敵の防衛線も少し動揺する可能性もある」

五月雨「・・・まぁわかったら苦労しませんよね」

提督「我々は大湊からの一報が入るまで横須賀鎮守府から200kmの地点で待機する」

五月雨「入らない場合という想定はしているんですか?」

提督「陽動部隊との連絡が一一○○の時点でなかった場合は失敗とみなし、第二戦速に移行する」

提督「そして肝心の飛行場姫への攻撃を仕掛ける距離だが」

南鳥島の上に×印を書き込んだ。

提督「第一連合艦隊は南鳥島までの一直線を基準航路としている。第三はその航路が南鳥島とぶつかった所から丁度西に九十度の所から側面攻撃を仕掛ける」

第一連合艦隊の航路に分度器の零を合わせ、南鳥島から正確に西に九十度の方向へ小さく点を打つ。

五月雨「綺麗に側面をつくんですね」

提督「ぴったり九十度だ。それで以て少し艦隊の動き方は特殊だからここからはよく覚えておけ」

提督「第三連合艦隊は戦闘開始したところから迂回ルートを取るが、そこは南鳥島から半径300kmの地点上での、丁度九十度の所を目指すことになる」

扶桑「・・・ちょっとわからないです」

提督「説明が難しいな、要するにこういうことだ」
南鳥島を中心に、縮尺どおりに300kmの円を描く。

さっき書いた九十度の印を通って、南鳥島から円まで線を引き、ぶつかったところに×印を描いた。

提督「この地点に到達した時点で艦隊は急速転進、一直線に作戦目標へ最大戦速で攻撃を仕掛ける」

五月雨「300kmも離れる必要があるんですか?」

提督「伊藤元帥は南鳥島の周辺100kmに関しては防衛網は陽動があってもかなり強固なものになると踏んでいる。それに敵艦隊の対空レーダーの補足範囲は180km程度を見ておいたほうがいいという理由からだ」

提督「短いが説明は以上だ。本作戦名は水谷救出作戦に決まった。解散」

八月十一日。京

都府沿岸。午前十時。

搭乗員B「初射命中弾発!」

提督「こりゃすごいな」

技主「今日の砲撃距離はいつもと変えてみてくれって言われて21kmに変更しましたけど・・・、こんなにうまくいくものなんです?」

提督「彼女たちの努力あってこそだ。あれはまぐれでもなんでもなく、努力の結果だ」

提督「射撃演習は今日はこれまで!明日からの作戦に備えて休養してくれ!」

山城「了解」

提督が立っているところへ秋月が走ってきた。

秋月「提督ー!」

提督「秋月、そっちの具合は大丈夫か?」

秋月「皆すごい頑張ってますよ。有効射程内なら命中率は九割を超えました」

提督「全部丸投げの形になってしまってすまないが、それなら問題はなさそうだ」

秋月「いえいえ、提督のお願いとあらば私は何でも聞いていく所存ですから。何でも聞きますから」

提督「何でもねぇ・・・」

五月雨「あれ・・・?」

五月雨が戦艦たちから視線をはずし、違う方向へ目をやった。

提督「どした」

五月雨「あれはなんですか」

舞鶴を指差した。

提督「なにって、舞鶴だろ?」

五月雨「つい最近まで長10cm砲だけでしたよね?なんで副砲が追加されてるんですか?」

提督「いや・・・、15.5cm砲を追加しただけだ」

五月雨「でもさっき妖精さんがSKC34も載せようかとか話してましたよ」

提督「俺そこまで頼んでないぞ!?」

五月雨「やっぱり、提督が頼んだんですか」

提督「・・・仕方ないだろ。自衛のためだよ。10cm砲だけじゃ物足りなかったんだ」

秋月「長10cm砲ちゃんは使える人が使えばとてもいい子です!」

場にそぐわず秋月が意気込んでいった。

提督「わかったわかった・・・」

五月雨「まさか提督自ら出ようだなんて「考えてない考えてない」

提督「大体俺のことが心配ならこれぐらい許してくれよ。本当にただの自衛のためなんだ」

五月雨「それなら、いいですけど・・・」

話していた所に、扶桑が戻ってきた。

扶桑「只今戻りました」

提督「ご苦労さん。とりあえず短い期間だったが通常弾の練習に関してはここで一旦止める」

扶桑「では、明日からは何を?」

提督「三式弾の時限信管の調整方法をもう一回復習しておいて欲しいんだ」

扶桑「・・・?」

提督「飛行場姫とかの陸上目標の場合は、三式弾の焼夷弾で焼き払ったほうが効果がある」

五月雨「でもそれって、一回目の射撃じゃ意味ないのでは?時限信管の調定は素早くは出来ませんよ」

提督「通常戦闘の時はお前らの感覚のほうが頼りになったりするのは確かだ。でも三式弾の場合時限信管は感覚でどうこうできるもんじゃないよな」

五月雨「・・・爆雷投下の時は提督が全部指示してますもんね」

提督「飛行場姫に遭遇した時は無線に注意しておいてくれ」

五月雨「三式弾って近接信管に任せたりってわけには行かないんですか?その方が楽な気がしますが」

提督「五月雨・・・、三式弾って焼夷弾を拡散させる範囲系の砲弾なんだぞ?」

五月雨「なっ、それぐらい知ってますよ!」

提督「だったらわかるだろ。三式弾の拡散範囲は300m前後だけど、円錐型に炸裂するんだ。近接信管が反応するほど目標に近づいてから炸裂したんじゃ300mも被害を広げられないだろうが」

五月雨「た、確かに、言われてみれば・・・」

あからさまに顔を背ける五月雨に苦笑いしつつ、

提督「それに二十キロするのも飛べば砲弾の速度は相当落ちるだろうから、目標の200mぐらい手前で炸裂させてやる必要がある」

五月雨「でも提督、そんなに早く計算できるんですか?」

提督「君たちの装備関係の詳しい数値は全部俺の頭のなかにあるからな・・・、時限信管の調定だけなら一発で叩き出せる」

五月雨「・・・なんか複雑です」

提督「別にお前らの胸囲とかを知ってるわけじゃない」

五月雨「きょうい、脅威?驚異?」

提督「今言ったことは忘れてくれて構わない」

五月雨「教えてくださいよ!」

扶桑「五月雨さんにはまだ早いですよ」

五月雨「早いって、もう子供じゃないんですよ!?」


八月十五日。京都府沿岸。午後二時。

五月雨「なんだか市民の皆さんが集まって来ちゃってるみたいですけど、いいんですか?」

提督「隠すようなことでもないし、いいんじゃないか」

扶桑「・・・三式弾装填完了しました」

提督「射撃準備、おい、出してくれ」

技主「了解っと」

しばらくして、標的艦が遠洋に現れた。

扶桑「レーダーに反応あり、感一。距離約21300m、方位0-2-2」

提督「了解、距離約21300m。・・・仰角16度、三式弾時限信管調定37秒」

扶桑「了解、仰角16度、時限信管38秒!」

提督「撃ぇ!」

扶桑「全砲門、一斉射ッ!」

放たれた三式弾が弧を描いて目標手前40m、高度200m近辺で炸裂した。

提督「弾着報告」

扶桑「命中八、近三、遠四!」

提督「八発か・・・。初めてで五割なら上出来だ」

提督「三式弾の拡散範囲はどうだった?高度200mでうまくいっていたかということだが」

扶桑「200mの高度で炸裂させるのがいいようです。うまく捉えていました」

提督「初速が700以上あっても350ぐらいまで落ちるからな・・・。でもこれなら大丈夫だ。通常弾も混じえながら演習を継続してくれ」

扶桑「了解です」

八月十七日。京都府沿岸。午前七時。

提督「・・・こちら舞鶴。全艦無線装置に異常ないか」

扶桑「全員問題なし」

赤城「問題ありません」

名取「問題ないです」

五月雨「こちらも問題なしです」

提督「装備に不備がないか確認する。読み上げる」

提督「扶桑、山城、ビスマルク。41cm三連装砲二門、15.5cm三連装砲一門、三十二号対水上電探改」

扶桑「戦艦、問題ありません」

提督「第二艦隊、全機烈風で問題ないな」

赤城「問題なしです」

提督「プリンツ、加古、古鷹。SKC34 20.3cm連装砲二門、15.5cm三連装砲一門、32号対水上電探改」

古鷹「はい、こちらも問題なしです」

提督「名取、長良。10cm連装高角砲、九四式高射装置、FuMO25対空電探」

長良「問題なし!」

提督「少し略すが、第三艦隊駆逐艦。10cm連装高角砲、九四式高射装置、十三号対空電探」

夕立「問題ないっぽい!」

提督「第四艦隊、61cm四連装酸素魚雷、三式爆雷投射機、三式水中探信儀」

五月雨「はい、大丈夫です」

提督「舞鶴は長十センチ砲二門、15.5cm三連装砲一門、三式爆雷投射装置一基、32号対水上電探、14号対空電探、零式水中聴音機だ」

提督「これより作戦開始地点の横須賀鎮守府へ向かう。予定通り着き次第燃料を補給する」

扶桑「了解です」

提督「一応今選択中の航路は安全海域に入る海域だが、警戒は怠らないようにしてくれ」

五月雨「・・・大湊の陽動部隊の皆さんは大丈夫なんでしょうか」

いきなり五月雨が口を開いた。

提督「旗艦は島風だか雪風だと聞いた」

五月雨「高い速力を持つ島風・・・、それとも幸運艦の雪風のほうがいいのかな・・・」

涼風「どうした?五月雨?」

五月雨「陽動とはいっても、せめて偵察機ぐらいは出したほうがいいと思うんです。いくら優秀艦とはいっても・・・」

提督「・・・お前の言うとおり、南鳥島周辺の防衛が硬いといっても、具体的な数は誰も知らない。でも偵察機が偵察行動をとるのを許すほど、飛行場姫は馬鹿じゃないんだ」

五月雨「私たち、戦えますかね」

提督「敵が六隻で向かってくる保障が無い以上、出来る限りの事はするつもりで行くぞ」

五月雨「・・・了解です、提督」

八月二十一日。日本近海。一○○○。

前日○六○○に出発した陽動部隊は、35knで南鳥島に向かった。

それに続いて日本艦隊と輸送船部隊出発し、200km地点で待機する。

提督「そろそろ連絡が来てもいいころなんじゃないのか?」

通信士「陽動部隊への無線呼びかけ、以前応答なし」

提督「大湊の陽動艦隊が失敗したと判断するのは一一○○だ。それまではここで待機だ。機関はいつでも発進できるよう低速で動かし続けろ」

航海長「了解」

扶桑「第三連合艦隊、了解」

提督「うまくいっているといいが・・・、最悪潜水艦の雷撃をまともに食らった可能性もある」

最悪の事態を想像しかけた時、

島風「こちら大湊陽動艦隊旗艦島風!敵空母機動部隊を一個殲滅。現在敵水雷船隊一個と鬼ごっこしてます!」

神埼「生きてたか・・・、よかった」

提督「聞こえたな!全艦両弦前進、原速、黒六十。針路南鳥島三百キロ地点。これより水谷救出作戦を開始する」

大和「連合艦隊旗艦大和、了解、作戦開始。両弦前進、原速、黒六十!」

神埼「島風、道中の潜水艦との接敵はあったか」

島風「潜水艦は総六隻でした。全艦無力化は確認済みです」

提督「了解した」

提督「第三連合艦隊、全主砲、副砲砲弾装填、臨戦態勢」

扶桑「了解、全門弾丸装填」

提督「おそらく毎回横須賀と大湊が巡回している海域、つまりここから480km先までは敵との接触はないと見ていい。長い航海になる」

扶桑「言われるまでもありません。伊達に一年戦ってきてませんよ」

提督「第二艦隊、烈風の状態は?」

赤城「全機機体に異状なし。いつでも発艦できます」

提督「了解。その状態を維持せよ」

八月二十二日。太平洋洋上(横須賀より474km)。○○三二。

提督「日付変更時刻を越えた。皆、大丈夫か?」

扶桑「眠気はありません。大丈夫です」

扶桑が敢然と答えた。

五月雨「間もなく480km地点に到達します」

大和「全艦隊へ!レーダーに感あり!数二!距離約33400m、方位0-0-5!」

丁度その時、大和が叫んだ。

提督「この距離で反応があるならおそらく戦艦だ。第三連合艦隊転進、方位0-3-9!最大戦速!」

扶桑「了解、作戦開始、艦隊転進0-3-9、全艦増速、最大戦速!」

第一連合艦隊に続いていた第二、第三連合艦隊がその場から離脱を開始する。

提督「後は頼みます!」

伊藤「任せておけ・・・。レーダーで敵情報を出来る限り採れ!」

大和がそれに答え、元帥が細かな数字を伝える。

大和「全門斉射、薙ぎ払えッ!」

闇夜に46cm砲の爆音が轟いた。

提督が混線を避けるため、第一連合艦隊との通信を切り、モールス信号の受信機を解放した。

扶桑「皆さん、準備はいいですか」

赤城「全機再点検、問題なし!」

名取「対空レーダー、対空砲ともに問題ありません」

五月雨「潜水艦探知行動開始します。・・・現海域に潜水艦と思しき反応なし」

提督「扶桑、機関に異状はないか」

扶桑「25kn出していますが、異常音等問題は認められません」

提督「全艦レーダーに注意せよ。夜間戦闘において先制攻撃をとられることはそのまま敗北を意味する」

五月雨「了解、索敵を厳とします」

○一○○。

提督「全艦減速、赤五十」

扶桑「了解、全艦減速、赤五十」

第一連合艦隊からの離脱は急げども、最大速度のまま動き続けるのは燃費が悪いと判断した。

全力砲撃はモールス信号により呉と時を同じくして開始する予定だ。

五月雨「提督、お休みになられなくても大丈夫ですか?」

提督「心配はありがたいが、こういう状況だと不思議と眠くならない」

五月雨「無理だけはしないでくださいね」

提督「わかってる」

○二四二。

秋月「レーダーに感あり!敵機編隊、距離約125200m、方位3-4-2!!」

提督「第一艦隊、前へ!」

提督「第三艦隊対空迎撃、用意せよ!」

名取「いつでも撃てます!」

扶桑「敵艦未だ見えず!

提督「全艦最増速大戦速、第一艦隊は全砲門を敵機編隊の確認方向へ!」

扶桑「了解、砲塔旋回!」

名取「皆さん、準備はいいですかッ」

秋月「さっき自分でいいっていってたじゃないですか!威嚇でも撃ちますよ!」

提督「敵の接近を許すな!」

五月雨「了解、魚雷装填!」

名取「敵機高度低下を確認!雷撃、来ます!」

提督「全艦最大戦速のまま回避行動!」

扶桑「了解、回避行動をとります!艦隊陣形乱れますが!」

提督「構わん、続けろ!」

赤城「敵艦隊の編成がわかりさえすれば対応もできるのに・・・ッ」

提督「さすがに夜では艦種の判断はつかないのは仕方がない!」

五月雨「少なくとも敵は空母機動部隊と水上打撃部隊とを使っているようです!」

提督「手荒い歓迎だな・・・!舞鶴主砲対空砲撃用意、敵機を残らず撃ち落すぞ!」

砲雷長「了解!」

名取「敵機有効射程に捉えました!」

提督「対空砲、撃ち方始めッ!」

その時、夜の中で強烈な光線が艦隊を照らし出した。

ビスマルク「探照灯!?」

提督「空に眼を向けすぎるな!第一艦隊!」

ビスマルクが主砲を向けようとする前に提督が止めた。

提督「一隻に集中砲火をするわけにはいかない、プリンツ、狙えるか!」

プリンツ「任せちゃってください!」

提督「全艦回避行動を続けろ!」

白露「ちょっと待ってッ、無理、避けられない!」

白露が被雷した。

白露「白露、名取被雷、中破です!」

提督「白露は後ろへ下がり舞鶴に合流しろ!技術兵ッ」

技主「はい!」

提督「中破艦二隻を収容する!ドッグを開けておいてくれ!」

技主「了解!」

提督「決着がつきづらいな・・・」

プリンツ「探照灯照射艦撃破!撃沈しました!」

提督「探照灯撃破、了解。敵艦距離十三キロを切った、あいつら増速しはじめたぞ!」

五月雨「あと少しで酸素魚雷の射程内に捉えます!」

提督「長良、そっちはどうだ!」

長良「さっきから雷装機ばっかり!何とか持ちこたえてるけどそろそろまずいです!」

提督「防いでくれてるだけでも十分だ!第一艦隊第三射装填!扶桑、照射艦付近にレーダー反応があるはずだ!」

扶桑「反応未あり!あっ、くぅ・・・!」

山城「扶桑が被弾、損傷軽微!」

提督「第一艦隊、主砲発射!」

山城「よくも姉様に・・・!撃ぇッ!」

提督「五月雨、発射体勢に入れ!」

五月雨「いつでもいけますよ!」

扶桑「第一射、敵艦三隻を撃沈!」

五月雨「敵艦距離8000m!魚雷射程内!」

提督「直ちに発射!」

五月雨「了解、魚雷発射!」

第四艦隊が各一本ずつ魚雷を発射し、残りの二隻が爆沈した。

扶桑「敵艦全艦反応消失しました!」

提督「・・・敵も連合艦隊で攻めてくるとは、敵空母がまだいるはずだ!追撃する!」

扶桑「了解!」

プリンツ「プリンツ・オイゲン被雷!大破しちゃいましたっ」

提督「了解、舞鶴に合流しろ!」

プリンツ「すいません、皆さん、お願いします!」

ビスマルク「いいのよ、あなたが戻ってくるまで持ちこたえてみせる」

プリンツ「・・・はいっ」

提督「航路戻せ、全砲門発射用意!」

扶桑「しかしさっきは敵機が来た方向だと「目くらましである可能性が高い!」

提督「敵機編隊が大きく回って後方から攻めてきたのかもしれないんだ、よって、進路はこのままでいく!」

扶桑「了解!」

○四三二。

五月雨「敵軽空母群、四隻。停泊中のようです」

最大戦速で航行している中、十分前に五月雨が敵艦隊を発見した。

扶桑「・・・敵艦距離12020m、方位0-4-2」

提督「全砲門、発射用意」

ばれるわけでもないのに、皆の声は若干ひそめられていた。

扶桑「主砲、副砲、目標敵空母群」

静かに主砲が敵艦へ照準を合わせる。

五月雨「敵艦が動き出しました、気づかれましたッ」

提督「馬鹿な奴だ・・・、射撃開始!」

扶桑「全砲門、一斉射ッ!」

徐々に明るくなりつつあった海に、轟音が響き、赤い閃光が翻った。

○五○五。

提督「朝か・・・」

東から明るい太陽が天辺を覗かせ始めていた。

扶桑「提督、偵察機を飛ばしますか?」

提督「・・・そうだな、飛ばしてくれ」

扶桑「了解、発艦させます」

二機の偵察機が、扶桑と山城から飛び立っていった。

気分転換に、提督は艦橋の張り出した部分に出てみることにした。

提督「・・・」

舞鶴の機関音に混じる水の音を聞きながら、提督は大きく伸びをする。

少し気を抜こうという時に、通信兵がやってきた。

通信士「提督、第一、第三連合艦隊から作戦の進捗についてのモールス信号が来ています」

提督「なんと間の悪い・・・。万事問題なしと答えておいてくれ。それと」

通信士「?」

提督「全艦隊へ通達、燃料弾薬の補給作業を開始する」

通信士「・・・早すぎるのでは?」

提督「どっちみち進みすぎたらすぎたで補給船は足手まといになるだけだ。急いでくれ」

通信士「了解、通達します」

○六○○。

つつがなく燃料、食料の補給は終了した。

軍から貰った戦闘食糧を食べつつ、提督は水測員とともにまた外に出てきていた。

水測員「艦娘さんたちがもらった燃料のほうがよほどおいしそうでしたよ・・・」

提督「俺らの食事の事なんかどうでもいいみたいな扱いだよなぁ・・・」

二人(一方は妖精だが)して双眼鏡を覗きながら観測を続けていると、

提督「ん・・・?おい、あれなんだ」

水測員「どれです?」

提督「何やら黒いのが」

言い終わらないうちに、通信士が無線を持って全力で飛び込んできた。

通信士「偵察機より入電、敵機編隊による迎撃に遭っているとの事です!」

通信士の手から無線機を受け取った。

提督「偵察機、聞こえるか」

司令室に戻りつつ、提督が呼びかける。

瑞雲「こちら偵察隊!貴艦隊から見て三時の方向から敵機編隊接近中!迎撃に合っています、早急な収容許可を!」

提督「扶桑、山城!偵察機の収容準備を!第二艦隊、第一次迎撃隊発艦!全艦航路、速度そのまま!」

秋月「すいません!敵機は低空飛行をしているようで電探に反応が・・・!」

提督「方位0-9-3!敵機編隊を迎撃せよ!偵察機、応答せよ」

偵察機「はいッ」

提督「敵の艦載機の種類はわかるか?」

偵察機「ええと・・・、あれはどっちだ・・・」

急げと怒鳴りそうになるのを堪え、提督は待った。

偵察機「爆弾、爆装してます!目視で大体半数が爆装、他は制空戦闘機です!」

提督「第二艦隊、そのまま発艦、換装作業はしない!」

赤城「了解、第一次迎撃隊発艦、行って下さい!」

秋月からの報告を元に、上にではなく、水平方向に弓を射った。

搭乗員B「深海棲艦のくせに低空飛行とは、随分洒落た真似してくれるじゃねぇか」

搭乗員C「目視測距、敵機編隊まで残り約12000m」

搭乗員D「味方艦載機編隊上空の瑞雲通過を確認。よくここまで瑞雲で引き離せましたね」

偵察機「こ、こっちだって必死なんだよ!」

扶桑「収容準備整いました」

偵察機「死ぬかと思った・・・」

搭乗員C「間もなく交戦空域に入ります」

秋月「レーダーにようやく反応出ました!敵機編隊数約150!」

搭乗員B「こっちは全部で100だが烈風なら行けるはずだ。五十一番機以降は後方について撃ち漏らしの掃除をしてくれ」

五十一番機「了解」

敵が編隊の変成を察知したのか、速度を上げる。

搭乗員B「烈風に勝てると思ってる時点で頭ン中空っぽなんだよォ!」

提督「扶桑、敵艦載機以外に水上艦の反応は?」

扶桑「反応、今のところ皆無です」

五月雨「こちらも潜水艦の反応は一切ありません」

提督「空母機動部隊か、連合艦隊か・・・。扶桑、山城、制空権が取れ次第偵察機をもう一度飛ばしてくれ」

扶桑「了解です」

偵察機「嘘でしょ・・・」

提督「すまんな」

搭乗員B「おい、そっちに大分抜けて行ったぞ!」

後ろを振り返りながら、編隊長が叫んだ。

五十一「わかってます」

五十一「(40機前後か・・・、おいおい、機体毎の距離すら取れてない。あいつら最初から突っ込むつもりだったか)」

提督「・・・こりゃあ軌道が特攻隊みたいになってるぞ、あいつら」

名取「艦隊復帰しますー!」

提督が悩み始めた所へ、間の抜けた声が飛び込んできた。

技主「ようやく終わりました。高速修復材がないものですから」

提督「名取はそのまま第三艦隊に合流、旗艦を受け継いでくれ」

名取「わかりました。・・・あ、皆さん離島棲鬼さんと戦ってるんですか?」

提督&五月雨「・・・え?」

名取「ここらへんにそれなりの島が出来てるって本で読みましたよ?多分ですけど、これもまた本で読みましたけど、離島棲鬼じゃないですか?って、私の勘違いですか・・・?」

秋月「・・・今まで陸上型の深海棲艦はみたことがないもので・・・」

提督「第一艦隊、主砲三式弾装填!」

扶桑「りょ、了解!主砲、三式弾装填!」

提督「あの離島棲鬼までの距離は!?」

名取「えっ、離島棲鬼なんですか!?」

扶桑「距離約18800m!方位1-0-2!」

提督「偵察機、何か異常は発見できなかったのか?」

必死で暗算しながら提督が問う。

偵察機「艦隊周辺を一回りしている間に見つけたはいいのですが、脅威判定をする前に迎撃にあってしまって・・・」

提督「そこまで近づいてからようやく動き出すとは、俺たちもなめられたもんだ」

提督「戦艦、主砲仰角13.5度、三式弾調定31秒。重巡、主砲仰角13度、調定33秒。全艦主砲一門、一斉射!」

扶桑「了解、仰角13.5度、調定31秒!一斉射!」

加古「仰角13度、調定33秒!全砲門、撃ぇ!」

練習どおり、慎重に砲撃を開始する。

提督「三式弾次弾装填」

提督「名取、お前やるな」

名取「えっえっ、え・・・?」

扶桑「残り15秒!」

加古「こっちは17秒!」

戦艦、重巡合わせて十五発が半分の距離を飛翔し終わった。

扶桑「・・・弾着観測!五発命中、十発夾差!弾丸炸裂に異常なし!」

提督「調定そのまま!第二射、一斉射!」

扶桑「撃ぇッ!」

搭乗員B「さて、こっちもこっちで全機撃墜!損耗はゼロ!」

烈風からの連絡が入った。

赤城「提督、制空権確保しました!」

提督「制空権確保、了解!後は第二射の弾着だ!」

扶桑「さっきの三式弾の焼夷炸裂でかなりの範囲を焼き払っています。中破程度まで持ち込めたかと」

提督「・・・あと十秒」

そして、

扶桑「弾着報告!離島棲鬼の無力化を確認!」

提督「昼戦だけで撃破出来たか・・・。よくやった」

ビスマルク「陸上だと撃破出来てるのかどうかわかりづらいわね・・・」

扶桑「全艦、被害艦なし。完全勝利です」

提督「離島棲鬼との戦闘は初めてだったが、勝てたな」

名取「離島棲鬼って、資料だとかなりの強さだったはずですよ?提督、これって案外すごいことなんじゃ・・・」

提督「いまいち実感がわかんな・・・」

五月雨「とは言え、随伴艦が一隻もいなかったのは奇跡だったかもしれません」

提督「あぁ、戦艦がいたらこっちもただじゃ済んでいなかったろうな」

長良「そんな資料、どこにあったの?」

無線の向こうで長良と名取が話しているのが微かに聞こえる。

提督「五月雨、まだ潜水艦の反応はないのか?」

五月雨「全くと言っていいほどありませんね」

提督「潜水艦が出ると見るのは見当違いだったかな・・・」

提督「(こんなことなら五月雨達第四艦隊には火砲を積んでおけばよかった・・・)」

一○○○。

提督「総員減速、原速黒三十、航路そのまま」

扶桑「了解、原速黒三十、航路はそのまま」

五月雨「・・・15knじゃ作戦開始に間に合わないんじゃないですか?」

提督は五月雨には答えなかった。

提督「・・・」

五月雨「提督?」

副長「提督は寝たみたいです。作戦までには少し急ぎすぎの感もありますから、減速はそれも考慮してのことでしょう。自分が休みたいってのもあるかもしれませんが」

五月雨「私たちと同じ物差しで計っちゃだめ、ですね」

副長「戦闘になったら叩き起こしますが」

提督「(こっわいなぁ、もう)」

一二○○。

提督「・・・ぁ」

副長「提督、お昼ご飯です」

提督「昼ごはんって・・・、ただのお握りじゃねぇか。間宮ぁ、間宮さんご飯作ってくれぇ・・・」

山城「何寝惚けたこと言ってるんですか。早く目覚ましてください」

提督「なんで山城が・・・、ハッ」

提督「俺が寝てる間何もなかったか!?」

扶桑「大丈夫ですよ」

提督「そうか・・・、ならよかった・・・。偵察機から報告は?」

扶桑「今のところ何もありません」

提督「落とされたりしてない?」

扶桑「定期連絡はちゃんと来てますから、心配しないでください」

提督「連合艦隊と離島棲鬼を撃破。これで二回戦したことになるんだろうが、まだ道程の半分も越えてないって言う」

長良「なかなかの長距離マラソン・・・」

名取「マラソンってレベルじゃないよぉ」

五月雨「到着予定はいつなんですか?」

提督「到着予定は二十三日の二二○○だ。三百キロ圏内突入は同日一四○○。この一四○○までに突入できないと間に合わなくなる」

扶桑「今のところ進行状況は?」

提督「二時間前の減速でそろそろ作戦通りの航路になるけど、余裕は見たほうがいいな」

提督「全艦増速、黒三十、第一戦速」

扶桑「了解、黒三十、航路そのまま」

一四○○。

五月雨「・・・ん」

定期的に水中探信儀での調査を行っていた五月雨が何かに気づいた。

提督「どうした」

五月雨「距離約8200mから魚雷と思われる影が接近しています!方位1-8-1!」

提督「真後ろかっ!?」

提督「報告通りなら敵の魚雷は46kn。到達まで300秒はある。五月雨、何本着てるかわかるか?」

五月雨「反応は・・・、二本です!方位1-8-1,1-8-4より接近中!」

提督「艦隊後方の司令船をまっすぐ狙ってきたな・・・!」

急いで縮尺された艦隊図を引き出し、分度器で魚雷の進入角を記入する。最低でも三分以上はなければ艦隊転針は間に合わない。急ぎすぎても他の艦に当たっただけというのでは意味が無い。

提督「この侵入経路なら・・・、舞鶴取舵三十!」

暁「わかった!」

航海長「取舵三十度、回避します!」

一分足らずでなんとか魚雷の航走ルートをあけると、

提督「第四艦隊、艦隊後方潜水艦隊を殲滅しろ!」

五月雨「了解、第四艦隊、離脱します!」

提督「他の水上艦隊が現れる可能性がある。他の艦は敵影に注意せよ!」

航海長「魚雷反応近いです!」

艦艇の腹のほんの10m横を時間差で二本の魚雷が突っ込んでいき、そのままさっきまで暁がいた場所を通り過ぎた。

五月雨「潜水艦だったのね、水塊かと思ってた!」

暁「潜水艦距離4000m、方位1-8-5!」

提督「第四艦隊、最大戦速。潜水艦排除を優先!」

五月雨「了解、接近します」

山城「っ、やっぱり!」

扶桑「提督、25200m、方位0-2-0に敵艦反応!」

秋月「敵機編隊感あり!数40、距離45020、方位2-0-3!」

赤城「提督、発艦許可を!」

提督「駄目だ!艦載機の損耗はできればだしたくない!五月雨、そっちはどうだ!」

五月雨「敵潜水艦四隻のうち二隻を爆沈!残り二隻が撤退を始めていますが、追撃しますか!」

提督「艦隊から2000m以上離れた場合はこっちに戻れ!第三艦隊、対空砲火用意!40機程度ならやれるはずだ!」

名取「たくさん来てますー!」

扶桑「っ、敵砲弾弾着!全弾近!」

提督「レーダー射撃は厄介だな・・。第一艦隊、全門装填!」

水上艦の種類を判別しようと水測員に連絡を取ろうとした時、長十センチ砲二番砲が爆発した。

提督「何があったッ」

砲雷長「二番砲沈黙!戦艦級砲弾の直撃弾です!」

扶桑「司令船がバレて「全砲門、一斉射撃!」

扶桑「了解、距離21000m!方位0-2-0!撃ぇ!」

四十二発の砲弾の一斉射。舞鶴が震えるほどの轟音は想像を絶する程だった。

提督「艦種報告!」

水測員「敵艦全六隻、戦艦ル級、フラッグシップです!」

提督「戦艦ル級か・・・、こっちの被害もただじゃ済まないぞ・・・!」

水測員「敵砲弾三隻の主砲一門一斉射撃確認!弾丸、来ます!」

提督「舞鶴、緊急回避、面舵二十度!」

航海長「それで避けられますか!?」

提督「腹で弾丸を逸らすしかないだろう!避けられる距離じゃない!」

航海長「了解、面舵二十度!」

完全に制動が完了する前に、舞鶴の右舷装甲に砲弾が着弾した。

船内全体に爆発音と、徹甲弾が擦れる嫌な音が響いた。

機関長「右舷装甲貫通、炎上中!直撃弾ではありません!」

敵の鉄鋼弾が側面装甲を掠り、地面に着弾。

掠ったといえど、装甲は破られた。

提督「一発だけですんだのも僥倖だ、ダメージコントロール急げ!」

扶桑「弾着!敵戦艦二隻撃沈!」

提督「全艦増速最大戦速!」

扶桑「了解、全艦最大戦速!」

水測員「提督、敵砲弾発射されました!全砲門一斉射撃です!」

名取「こ、こっちも五機が抜けて行きました!」

提督「ッ、まずいッ!砲雷長、対空砲火を!」

砲雷長「間に合わないッ!」

甲板に500kg爆弾が一発着弾した。

機関長「艦内前方炎上!何してる、消火作業を開始しろ!」

提督は震える手で無線機の電源を入れた。

五月雨「提督、無事ですかッ!?提督!」

提督「舞鶴大破、繰り返す、第三連合艦隊指揮艦大破。作戦は失敗、撤退します。繰り返す、作戦は失敗・・・」

八月二十四日。○九○○。横須賀鎮守府。

提督「申し開きのしようもございません」

提督は深々と頭を下げていた。

元帥が沈痛な面持ちで声をかける。

伊藤「・・・あの後私の第一連合艦隊も大破艦が立て続けに出た。龍花提督だけのせいでなく、作戦は失敗していた」

提督「・・・」

神崎「・・・陽動に向かった部隊からの報告によると、南鳥島の周辺防御は非常に強固であるとのこと。およそ50隻以上の戦艦、空母。無数の要塞砲があったとのことです」

岩崎「・・・反抗作戦、第一回目は失敗、か」

先生「龍花、いい加減頭を上げろ。謝っている場合じゃない。敵が本土爆撃の準備を始めているということだぞ。じゃなければあれほどの防御は講じないはずだ」

提督「最近になって深海棲艦の攻撃が本土に向かい始めていませんか」

顔を上げ、口を開いた。

伊藤「今まで長い間戦ってきたが・・・、敵はついに足を踏み出してきたな」

提督「全ての防御を崩すのは絶望的です。敵の防御は全体に散っていましたか、神崎提督」

神崎「あぁ、皮肉なことに突入半径の三百キロの地点に。艦種は不規則だが、展開していたしい」

先生「伊号潜水艦を使いますか。敵の水面下を航行して敵飛行場姫に攻撃を仕掛けることが出来ます。小型の零式小型水上偵察機と晴嵐に焼夷弾を搭載すれば撃破も不可能ではありません」

伊藤「それは・・・」

一瞬目に希望が浮かんだが、すぐに消えた。

伊藤「決断は君に任せる」

先生「はい」

帰還。午後四時。舞鶴鎮守府執務室。

執務室には誰もいなかった。

提督「無理させたもんな・・・」

言ってしまえば、油断していた。舞鶴が被害をうけることは殆ど無いだろうと高を括っていたのだ。

それがあの時攻撃を受けて初めて怖くなった。

提督「五月雨達はいつもあの中で戦ってるわけか・・・。クッソ、イライラすんなぁ!」

机の上に置いてある海図を引き裂いた。

提督「元はといえばこんな図体ばっかりでかい艦隊で行けるわけはなかったんだ・・・!先生は全艦使っても、もう少しまともな編成で行っていたはず!」

作戦に関する書類を手当たり次第に破り捨てた。

提督「っ・・・」

五月雨「・・・提督?」

気づけば部屋の中に五月雨が立っていた。

提督「・・・どうした?」

五月雨「・・・あの時、本当に怖かったです」

提督「あぁ、俺もだ」

五月雨「提督、もう少しで死んでたかもしれないんですよ」

提督「わかってる」

五月雨「わかってないです!全然わかってない!」

提督「・・・今度ばかりは命令されたから行くしかなかったんだ。そう怒らないでくれ」

五月雨「許さないですから!どうせまた次の作戦があるんですよね!?」

提督「あるにはあるが、まだわからん」

五月雨「もう行っちゃ駄目ですから・・・!」

一方。呉鎮守府執務室。

401「提督の命令というなら、いくよ」

先生「違う、そういうんじゃ駄目なのだ。お前らが行けるかどうかだ。俺の命令云々じゃない。横須賀鎮守府の伊藤元帥も最終判断は俺に任せている」

401が、隣に並ぶ四人の潜水艦達と目を見合わせる。

401「私は・・・、行きたくない、かな」

19「19も、できればいきたくないの」

8「はっちゃんも行きたくないよ」

58「怖いでち・・・」

168「別に、その、怖いとかそういうんじゃないんだけど・・・、行きたくない」

先生「了解だ。・・・お前らが行くと言ったら全力で引き止めるつもりだったがね」

長月「そんなことだろうと思っていた」

先生「この話は忘れてくれ。戻ってくれて構わない」

401「はーい」

先生「とすると、どうするか・・・」

長月「司令官、あんまり無理するなよ」

先生「・・・・無理はしてない。南鳥島を放棄すれば本土侵略が始まってもおかしくない、一方相手基地は鉄壁の防御・・・」

長月「そういえば大湊も一隻だが空母を所有していたんじゃなかったか?」

先生「それがなぁ、あの野郎持て余してやがる」

長月「・・・ちなみに艦名は?」

先生「大鳳だ」

長月「あの装甲空母の?」

先生「燃費に若干の難ありだが、艦載数は優秀だ」

長月「うちに入れてやればいいじゃないか」

先生「もう無理だ・・・。今だけでも何百機の艦載機を管理するのに資源がカツカツなんだぞ。いくらなんでも無理だ」

長月「じゃあ・・・、舞鶴?」

先生「龍花、この前これ以上艦隊を拡大する予定はないって言っていたらから絶望的だろうな」

長月「別に資源の問題じゃないなら引き受けてくれる気がするが」

先生「・・・」

八月二十五日。舞鶴鎮守府執務室。午前九時。

提督「・・・おい五月雨。聞いてないぞ」

五月雨「事前に言ったら断られそうでしたから・・・」

大鳳「提督、どうかなさいましたか?」

提督「す、すまん、ちょっとここで待っててくれ」

大鳳「はい・・・?」

部屋の隅に五月雨を連れて行く。

提督「俺もう艦隊拡張はしないって言ったよな?」

五月雨「ご、ごめんなさい・・・」

提督「違う、怒ってるわけじゃないんだ。そんな泣きそうな顔すんなよ・・・」

五月雨「大湊で神崎提督が持て余している空母がいまして・・・、それを引き受けてやってくれと先生から」

提督「持て余すってなんだよ!?自分で建造したんだろ!?」

五月雨「ちょっ、声がでかいです!」

提督「・・・すまん」

五月雨「最低な神埼提督ですが、もう来てしまっていますから・・・」

提督「はぁ・・・。それで、改装はもう終了してるのか?」

五月雨「はい、すでに改造済みとのことです」

提督「だが二十五隻だぞ。六隻編成で組むのに一隻炙れることになる!」

五月雨「でももう帰すわけにもいきませんよ・・・?」

提督がため息をついて、席に戻った。

提督「大鳳さん、だったか?」

大鳳「大鳳でいいですよ」

提督「あぁ、うん、その・・・、大鳳はうちに来たいか?」

大鳳「?」

提督「つまりだ、えと、大湊にいたいわけでは・・・?」

大鳳「ないです」

提督「(即答かよ)」

提督「オーケー、うん。ではまぁ、舞鶴鎮守府に歓迎するよ」

大鳳「本当ですか!?」

提督「何か聞きたいことがあれば言ってくれ」

大鳳「じゃあ、二ついいですか?」

提督「ん?」

大鳳「提督のその髪の毛は地毛なのでしょうか?」

提督「こういう体質なんだ。その辺の説明はここに来る前にあったんじゃないのか?」

大鳳「髪の毛までとは聞いていませんでしたから」

提督「それで、もうひとつは?」

大鳳「提督は、もう五月雨さんと結婚しているんですか?」

五月雨「してますよ」

五月雨が間髪いれず即答した。

大鳳「そうですか・・・」

提督「とりあえずここの空母の連中と顔合わせだけでもしよう」

五月雨「外にもう待機していると思います。私が呼んでおきました」

提督「・・・入ってくれ」

大鳳「どんな方々がいるんでしょう・・・」

期待に瞳を輝かせながら大鳳は加賀達を迎えた。

加賀「あなたが噂の装甲空母の大鳳さん?」

大鳳「はい、そうです!」

飛鷹「よろしくね」

隼鷹「そうそう、うちの加賀って正規空母の人はお酒が飲めないから、気をつけなよ?」

加賀「それは、あなたが無理やり飲ませようとするから」

大鳳「私、お酒は・・・」

苦笑気味に大鳳が答えた。

赤城「まぁまぁ、加賀さん。大鳳さん、ですね?私達がここの空母です。これから、よろしくお願いしますね」

大鳳「よろしくお願いします!」

提督「さて・・・」

前で談笑する空母達から目を外し、机の上に紙をおいた。

提督「空母は五隻編成で固定するか・・・、周りを駆逐艦で囲む形にしよう」

五月雨「別に六隻編成である必要はないんじゃないですか?」

提督「これまでの作戦は全て六隻編成が前提条件だからな、できれば六隻以内に収めたいんだよ」

五月雨「でも第三艦隊六隻超えてましたよね?」

提督「・・・それを言うな、それを。あれは我ながら馬鹿なことをしたと思うよ」

五月雨「あ、別に責めたわけじゃ・・・」

五月雨から大鳳に顔を向けた。

提督「大鳳」

大鳳「はい」

提督「知ってると思うけど、この前の水谷救出作戦は物の見事に失敗した」

大鳳「・・・はい」

提督「今度は大鳳は、君が舞鶴に配属された以上、航空戦力として出撃することになる」

大鳳「重々承知しています」

提督「それならよかった。作戦の内容に関しては、また明日横須賀での会議で決まることになるが、とりあえず今日中に鎮守府の案内よりも優先して装備の慣れを優先してほしい」

大鳳「そういえばここは烈風があるとか・・・」

提督「艦載機の烈風と流星に関しては使い方は心得ているって聞いたよ」

大鳳「はい、さすがにここにいる方々には及ばないとは思います」

提督「加賀、とりあえず演習場で少しだけ教導してやってくれ」

加賀「わかりました」

八月二十六日。横須賀鎮守府会議室。午前十時。

先生「伊号潜水艦による水中突破による奇襲爆撃の話は却下させていただきます」

伊藤「・・・了解だ。ならば、作戦は一つだ」

まっさらな海図を広げる。

伊藤「空母機動部隊で停滞中の防御群の一部に穴を開ける。そして他の敵艦隊が造園に駆けつける前に飛行場姫を破壊。直ちに南鳥島に設置されている要塞砲を鹵獲後、敵戦艦・空母の撃滅を開始する」

伊藤「そして、人員輸送には舞鶴を使う」

先生「伊藤元帥、この前の作戦で舞鶴は敵機による急降下爆撃を喰らったばかりです」

伊藤「修復は既に完了しているのだろう?」

先生「そういう話をしているのではないのです!作戦遂行途中で轟沈してしまうかもしれないという話を「じゃあどうしろと」

伊藤「偵察機による輸送は、敵の空母群に発見されれば意味を成さない」

先生「それは、そうかもしれませんが・・・」

提督「舞鶴の機関の改修を急がせます。島風の機関を流用し、三百キロ圏内を40knで突入します」

神埼「燃料が持つのか?」

提督「予備燃料を積み込みます。弾薬持込は最低限にとどめれば大丈夫です」

先生「どうやって乗り込ませる気だ」

提督「舞鶴は後方が開く形ですから、後方船底装甲を改造すれば強襲揚陸艦にできます」

先生「これはまた五月雨が黙ってないぞ」

提督「・・・わかっています」

帰還。舞鶴鎮守府執務室。午後五時。

五月雨「だから、何度言ったらわかるんですかぁ!」

提督「・・・すまん」

五月雨「さっきから謝るだけじゃないですかッ!」

本気で五月雨は提督の腹を殴っていた。

五月雨「私がッ」

言葉も、拳も重く心にまで突き刺さってくる。

五月雨「どんな気持ちでッ」

五月雨「いるかもッ」

五月雨「知らないでぇッ!」

提督「っ・・・」

五月雨「・・・行かないでください」

提督「俺も同じだよ、五月雨」

五月雨「・・・」

提督「俺だってお前に行ってほしくない。俺の気持ちも忘れるな、五月雨」

五月雨「ッ」

途端に、五月雨は声を上げて泣き出してしまった。

提督「行くときはいつでも一緒だ。な?」

五月雨「行くって、逝くじゃないですよね・・・」

嗚咽を漏らしながら五月雨が言った。

提督「まさか、んなことあるわけないだろ。五月雨は自分が死んで俺が助かればって思ってるのかもしれないが」

提督「俺だってそう思ってる。お互い、同じ気持ちなんだよ」

五月雨「でも・・・」


提督「俺は人間で、お前は艦娘だ。でも、装備を取ればお前も人間だ。そうだろうが」

五月雨「・・・」

提督「ん?」

五月雨「敵に見つかったらすぐに言ってください。助けに行きます」

提督「・・あ、ああ」

五月雨「砲弾が当たったらすぐに撤退ですから」

提督「あぁ」

五月雨「というか、敵を見つけたら撤退してください」

提督「それは無茶だ・・・」

五月雨「・・・何回目ですか、このやり取り」

提督「五月雨は甘えん坊だからな、多分これからもずっとやり続けることになる」

五月雨「真剣な雰囲気なんですよ、ぶち壊さないでください」

提督「真剣も何も・・・、そんなに泣くなよ・・・。泣き虫なのは名前にそっくりだな、ほんとに」

五月雨「名前を馬鹿にしないでください!」

提督「怒るなよ・・・」

五月雨「・・・やってください」

提督「何を?」

五月雨「やってください!」

提督「いやだから何を・・・」

五月雨「そこに座って」

提督「おう」

足を無理やり広げて、五月雨がそこに座った。

提督「髪を梳けと」

五月雨「早くしてください」

提督「でもこっち向いたままじゃ「早くしてください」

提督「怒んなって・・・」

執務室の扉の前で、間宮はその場を離れた。

間宮「海水浴で言った事、杞憂だったかなぁ・・・」

本日はここまでです。ありがとうございました。

にしても、wikiとかだと五月雨を愛してる人が多いのに、どうしてこうSSだとそれほど多くないのでしょう・・・。

五月雨教徒としてはこのスレの存在は非常に有難いな

>>137 そうなんですか、今度探してみます。

>>137~138 ざすであります。

それで、「増援」が「造園」になっていたり、
    「全艦増速最大戦速」が「全艦最増速大戦速」になっていたりしていますが、申し訳ないです。

乙です
さすがに大鳳着任の歓迎会やる余裕は舞鶴鎮守府に無いよな

乙です

乙です
ここの五月雨に癒される日々

>>141 >>142 ありがとうであります。

>>92さんへ・・・、次投下で妹さんのあれを書く予定だったのですが、はい、忘れていました。次です(苦笑

>>140 余裕無いですね、いわゆるイベント中ですから、ええ。

夏イベ、E7甲、「ボス」に辿り着けない幌筵提督がここにいます。

今日、投下します。

小規模投下です。


八月二十六日。舞鶴鎮守府作戦会議室。午前十時。

提督「司令部の偵察機が昨日敵情への威力偵察が行われた」

南鳥島が拡大された地図を広げた。

提督「ここには」

南鳥島の日本から見て反対側になる当たりまでに円を描いた。

提督「おそらく舞鶴と呉の航行ルートを読まれたの可能性もあるが、島全体に均一に防衛網が敷かれている。防衛艦隊は島から100kmほど離れていたとのことだ」

赤城「提督、私の見間違いでなければ前回と縮尺は同じですよね。島の大きさが違う気がするのですが」

提督「・・・今話そうと思ってたところなんだが、どうやら以前要塞砲などを発見した偵察部隊と、今回の偵察報告に関して齟齬があってな。島の大きさがかなり違う」

赤城「元の南鳥島より十倍ぐらい大きくなってますよね?」

五月雨「なんだか縮尺が違うだけかなって思ってました」

提督「最初の構想は舞鶴を海岸に揚陸させて突撃する予定だったんだが、高さ10mぐらいの防波堤が築かれているようだとのことで今の揚陸方法に落ち着いたんだ」

赤城「敵基地が大きくなっているということは、敵の戦闘機の数も・・・」

提督「ああ、尋常じゃない数だ。正直言えば未知数なんだが、とりあえず呉の464機の烈風で様子を見る」

提督「南鳥島に関する情報は今述べた通りだ。本作戦は呉との共同作戦になる。呉鎮守府の空母が制空戦闘機の烈風を、舞鶴が彗星を満載して強行突破をかける。全満載機398機の内、二百機が焼夷弾を搭載、残り百九十八機が爆弾を積んでもらう」

赤城「了解です」

提督「編成を発表する。
   第一艦隊、旗艦五月雨、涼風、暁、響、電、雷。
   第二艦隊、旗艦白露、夕立、春雨、村雨、時雨、秋月。
   第三艦隊、旗艦赤城、加賀、大鳳、隼鷹、飛鷹が中央に複縦陣、各艦距離200m。第二、第三は第一艦隊周辺に距離1500mを保って三十度ごとに並んでくれ。第三警戒航行序列だ」

五月雨「わかりました」

白露「それで、提督はどうやって突撃するの?」

提督「それは今工廠と話し合っている最中なんだよ・・・」

五月雨「あの・・・、そのことなんですけど。舞鶴が要塞砲に迎撃される可能性は?」

提督「要塞砲がどうやって動いているかは神のみぞ知る、だ」

五月雨「・・・え?」

提督「飛行場姫を倒して要塞砲が沈黙すれば俺らの勝ち、沈黙しなければ俺らの負けだ」

五月雨「ちょっと待ってください!それじゃあ提督、舞鶴が撃沈される可能性もあるってことですか!?」

提督「まぁ・・・、そうだな」

五月雨「そんな、話が違うじゃないですかッ」

提督「違う、ちょっと落ち着けよ。最後まで聞け。俺が突入する所に面した要塞砲は舞鶴の爆撃で爆破することになってる」

五月雨「・・・それを早く言ってくださいよ」

提督「他の砲塔がこっちを補足して旋回するまでに作戦を終了させる手筈になってる」

五月雨「なっ!?」

提督「大丈夫だ、多分」

五月雨「た、多分じゃだめですってば!」

赤城「舞鶴に提督が乗る意味はあるんですか?」

提督「舞鶴が突撃を開始した時点で無線通信は全て封鎖されるんだ。だから俺が現場指揮を執らなければならない」

赤城「・・・了解です」

提督「兵装は前回とは違うものにする。覚えておくように。
   第三艦隊は彗星のままだ。
   第一艦隊は12.7cm連装砲B型改二一門、61cm四連装酸素魚雷、十三号対空電探。
   第二艦隊は12.7cm連装砲B型改二、三式爆雷投射機、三式水中探信だ」

赤城「了解です」

五月雨「了解」

白露「わかったよー」、

提督「事態は急を要する。作戦実行は明々後日。作戦名、南鳥島奪還作戦」

移動。舞鶴鎮守府工廠。

技主「どうしましょうかね・・・」

提督「ふむ・・・」

技主「ドックへの注水設備はすでに終えてあります」

提督「いつも手際が良くて助かる」

技主「手際がいいも何も、私達はそれが専門なんですから」

提督「主砲を全て換装してくれ」

技主「といいますと?」

提督「SKC34を一門だけ追加できないか?」

技主「20.3cm砲となると・・・、最高速度が最高出力で40kn前後になりますよ」

提督「ん・・・、まぁ仕方がない。それで続けてくれ」

技主「わかりました」

八月二十七日。舞鶴鎮守府沿岸。午前十時。

航海長「40.3kn!」

今日朝の六時から、舞鶴の速度の試験が行われ始めた。

提督「今弾薬はどれくらい詰んでる?」

航海長「予備燃料も、搭載燃料もほぼ限界まで積んで40knですよ?これ以上弾薬を減らしたら「どれくらい詰んでるんだ?」

航海長「通常の2/3です」

提督「1/4まで減らせ」

航海長「・・・了解、通達します」

急いで弾薬の運搬が行われた。

提督「機関始動、過負荷全力」

機関長「は、はい!」

船全体が悲鳴を上げているような錯覚に囚われながら、再び出力試験が行われた。

航海長「40.5・・・、40.7・・・、41kn!」

提督「オーケーだ、41kn出ればいい。試験は終了する!」

機関長「これは作戦の時は機械の機嫌を取るだけで大忙しだ・・・」

技主「大発動艇の開発は大分進んでいますが、揚陸方法の変更は軍令部に伝えなくてもよろしいのですか?」

提督「伝える必要はないだろう。一々許可などとっていたら時間の無駄になるだけだ」

技主「・・・わかりました。このまま進めます。作戦開始までには十分間に合います」

八月二十九日。一○○○。

先生「さて・・・、時間経過に関しては前回の作戦と全く同じだ。
   全艦、第三警戒航行序列、針路南鳥島正面直進。巡航速度を維持せよ」

長月「了解、第三警戒航行序列、針路真っ直ぐ、巡航速度を維持する」

提督「第二連合艦隊全艦へ通達。第一連合艦隊に続け」

五月雨「了解、第三警戒航行序列、針路真っ直ぐ、巡航速度を維持します」

輸送船六隻が後ろにつき、第二次反抗部隊が横須賀鎮守府を離れた。




九月一日。二一○○。

提督「もう横須賀鎮守府から1000km地点に到達するのに、敵が出てこない・・・」

闇に包まれた海をデッキから見渡し、見えるはずのない敵艦を探し求める。

提督「全艦、燃料の補給作業を開始する」

五月雨「了解、洋上補給作業を開始します」

長月「了解」


一二○○。敵地まで560km。

太陽が天頂に到達すると同時に、提督は号令を叫んだ。

提督「第一、第二連合艦隊へ通達。全機発艦せよ、繰り返す、全機発艦。南鳥島への急襲を開始する」

蒼龍「了解、全機発艦!」

赤城「了解、全機発艦してください!」

大鳳「本格的な航空戦は初めてですが、全機、発艦!」

大鳳がクロスボウを構え、天高く弓を放った。

搭乗員Ⅰ「敵機の掃除は任せて下さい。舞鶴航空隊殿」

搭乗員B「いやはや、頼もしい限りです」

搭乗員C「焼夷弾頭の機体は私が指揮を執りますので、よろしくお願いします」

搭乗員D「最優先は舞鶴の援護ですがねー」

搭乗員α「そうですな、五月雨さんからくれぐれもと「ちょっと」

五月雨「丸聞こえなんですが」

搭乗員β「こいつぁおっかねぇや」

搭乗員γ「はよはよ、もうさっさと終わらせましょう」

860機が機首を上げ、高度を上げ始めた。

提督「渡り鳥みたいだな・・・」

船務長「悠長なこと言ってられませんよ。レーダーに反応があります」

提督「駆逐艦には小型電探しか積んでないんだったな」

提督「編隊長!聞こえるか?」

搭乗員B「はい!聞こえてますよっ!」

提督「水上電探に方位0-1-1に反応がる。なにか見えないか?」

搭乗員B「方位0-1-1・・・、あれか?」

搭乗員B「呉航空隊!そっちからなにか見えないか?」

搭乗員Ⅰ「方位0-1-1だろ・・・?いたぞ。戦艦、あれは何隻だ!?」

搭乗員C「戦艦十二隻、大艦隊です。敵防衛網に侵入しました」

提督「舞鶴航空隊は直ちに爆撃態勢に移行、目標敵戦艦ッ!」

船内に敵との遭遇を知らせる警報音が鳴り響く。

提督「(後260kmで突撃開始地点に到達するのに、こんな所で損耗を出している暇はないのだ・・・)」

搭乗員B「了解ッ!急降下開始する、お前ら、行くぞッ!」

搭乗員α「隼鷹さんらには近づけさせんよ・・・っ」

提督「全艦へ、全艦へ通達、第三警戒航行序列、最大戦速、ヨーソロー!」

五月雨「了解、全艦増速最大戦速、ヨーソロー!」

水測員「敵戦艦発砲!着弾します!」

艦隊前方にいくつかの水柱がたつ。

搭乗員B「全機爆撃、急降下ッ!」

甲高い音をたて、彗星五十機が一斉爆撃に入った。

搭乗員B「十五番機までは俺と一緒に最後尾をやるぞ」

搭乗員D「なら、こっちは先頭をやらせてもらいますよっ」

赤城「・・・敵戦艦三隻轟沈確認!」

提督「今爆撃した機は直ちに再装備させろ」

搭乗員B「まだあと九隻も残ってる!五十一番から百番まで、直ちに爆撃開始!」

五十一「了解、急降下爆撃に入ります」

編隊から再び五十機が突撃を開始した。

百九十九「焼夷弾でも効果はあると思うんだけど、行ったらだめなんか?」

二百「駄目でしょう、普通に。後一時間もすれば落とせますよ」

百九十九「一時間・・・、提督さんの命はわしらの爆撃成果にかかってるのか・・・」

搭乗員Ⅰ「私達がそのための舞台を用意するんですから!しっかりとやってください」

百九十九「プレッシャーかけんな」

搭乗員Ⅱ「・・・隊長、まずいです。敵機大編隊正面、二百機はいる」

搭乗員Ⅰ「気づかれたのか!?」

搭乗員Ⅱ「それはないはずです。今まで敵の偵察機が飛んでいる気配はなかった」

搭乗員Ⅰ「なら、爆撃機か・・・。あと一歩遅かったらやられてたわけだ。二番機から百一番機は前方敵編隊の掃討に移ってくれ」

搭乗員Ⅱ「了解、迎撃体制に入ります」

命令された機体が速度を上げる。

搭乗員Ⅰ「龍花提督、敵爆撃機編隊を前方に確認。迎撃を開始します」

提督「わかった。只今補給が完了した彗星五十機がそっちに向かっている」

搭乗員Ⅰ「了解」

提督「敵戦艦は空に夢中でこっちに気づいてないな・・・」

五十一「戦艦四隻大破炎上を確認!敵艦隊が撤退していますが、追撃しますか!」

提督「第一艦隊、魚雷発射用意!」

五月雨「了解、魚雷発射用意」

提督「敵艦距離5200、魚雷全本、発射!」

五月雨「発射ッ」

撤退する艦隊に、酸素魚雷が追いついた。

五月雨「敵戦艦五隻撃沈を確認」

提督「了解、補給作業に入ってくれ」」

五十一「了解、補給作業に入ります」

一三○○。敵地まで514km。

搭乗員B「敵艦隊発見、距離目視2000m、方位0-2-0!戦艦ル級十五隻、フラッグシップ一隻!輪形陣だ!」

搭乗員Ⅰ「こっちに気づいたようだな」

提督「おかしいな、一箇所にそこまでの防衛人が敷かれているという報告はなかったはずだ・・・」

爆撃命令を出そうと口を開いた瞬間、船務長が叫んだ。

船務長「魚雷航走音、五!回避しろ!」

航海長「了解、回避するッ」

提督「舞鶴航空隊の通常弾爆撃機は直ちに爆撃を開始してくれ。こっちはもう止まれない。敵潜水艦に補足されたッ」

搭乗員B「了解!直ちに排除する!」

航海長「魚雷の針路、五本全て舞鶴に向けられたものですね。扇発射のところを見ると、完全にロックオンされてます!」

提督「第二艦隊、潜水艦の排除へ。さすがにここまで執拗に狙われてはいずれ当たってしまう」

白露「了解、今すぐ行きます!」

提督「第一艦隊は引き続き空母護衛を続けろ」

五月雨「わかりました」

村雨「隠れてないで出ておいで・・・」

白露「ソナー反応あり。距離3800m、方位2-0-9!」

夕立「早く片付けて提督の所に戻るっぽい!」

赤城「損耗二十一!敵戦艦全艦轟沈を確認しました!」

提督「ここまでは順調だな・・・」

一四○○。敵地まで約468km。

白露「潜水艦六隻、排除完了です・・・」

提督「帰りが遅いから心配してたんだが」

夕立「敵の潜水艦がすばしっこくて、中々当たらなかったっぽい!」

提督「損傷を受けた艦は?」

白露「大丈夫ですよ。ゼロです」

提督「了解だ」

そろそろ目標につく頃か、と無線を繋げようとマイクに手を伸ばした瞬間、

搭乗員C「・・・まさか、あれが・・・」

彗星の搭乗員の一人が、驚きに声を上げた。

搭乗員Ⅰ「いくらなんでもでかすぎる・・・、もう南鳥島じゃないぞ・・・」

搭乗員C「これは、突撃するだけでも大変ですな」

搭乗員Ⅰ「何とかしてみせる。何とかしなければならない」

口を引き結び、呉航空隊長が前を睨んだ。

提督「状況を報告してくれ」

搭乗員C「間もなく焼夷弾搭載機は爆撃態勢に入ります。敵目標まで十キロをきりました」

提督「爆撃するとき遠目でいいから敵砲台の様子を見てくれ。誰かが操作してるのか、それとも飛行場姫が操作してるのか、だ」

搭乗員B「了解です」

話していた所へ呉航空隊長が口を挿んだ。

搭乗員Ⅰ「なんだあの馬鹿みたいな要塞砲は」

搭乗員Ⅱ「・・・舞鶴と提携する製油所と似ています。41cm砲です」

一人が望遠鏡を手にし、小さいものながらも推測する。

搭乗員Ⅱ「・・・敵砲台、旋回してないか?まさかもう見つかったのか!?」

搭乗員B「っ、出来る限り高度を上げろ!敵砲台を潰す!」

搭乗員C「その前に、敵迎撃機が一切飛んでこないのはなんでですか!?」

搭乗員B「わからん!とにかく落とさなければ・・・!」

搭乗員Ⅰ「来るぞッ!」

編隊に向いた要塞砲三十門が一斉に火を噴いた。

搭乗員B「一体全部で何門あるんだ・・・!?」

搭乗員Ⅲ「おいおいふざけんな俺達を狙ってないか!?回避」

一瞬にして烈風が百機近く、文字通り吹き飛ばされた。

搭乗員Ⅰ「なんっ・・・、だよ、あれ・・・!?」

搭乗員B「まだ急降下爆撃にすら入れてない・・・!そんな大砲ごときにやられてるわけにはいかねぇんだよッ!」

搭乗員C「第二射が来ます」

敵砲台の頭上をつけば仰角が足りないと踏んでの高度上昇は、一時的には成果があった。

搭乗員D「敵迎撃網、第二陣発見・・・、高射砲台作動開始!」

遅れて追い付いた五十を超える120mm高射砲が、爆撃態勢に入った五十機を破壊する。

赤城「て、提督!被害が大きすぎます!百五十機が落とされましたッ。一体どうやってあんなに正確に撃てるんですか!?」

提督「そんなのこっちが聞きたい!被害を悪戯に増やすだけになるのでは意味が無い!引き返「行きます!」

搭乗員B「三十門だけでも、要塞砲だけでも全部潰してやるッ!」

搭乗員C「まだ焼夷弾機は百五十は生き残ってます!投下開始してください!」

搭乗員D「くっそ、手が震えてるよ!」

搭乗員Ⅰ「敵が小口径の機関砲をもってなかったのが幸いしたか・・・。おい、舞鶴航空隊、何か言え!」

搭乗員B「敵要塞砲四十一門を爆破した!これ以上は無理だ!」

飛行機に取り付けられた無線機から空電雑音しか聞こえてこなかった。

搭乗員B「提督!?応答してくれ!」

提督「慌てるな!パニック状態じゃまともな応戦は出来ない!・・・おい、聞こえないのか!」

提督側も同じ状況だった。

一五○○。敵地まで421m。

赤城「損耗機が三百機を超えました!もうこれ以上はいくら命令といえど爆撃許可を出すわけには行きません!さっきから無線が通じないんです!」

そう言う赤城の声は懇願に近かった。

提督「もう突撃を開始するしかないか・・・っ」

赤城「待ってください!まだ撃破出来たかどうかもわからないんですから!」

その時、通信が突然復旧した。

搭乗員B「聞こえるか!応答してくれ、頼む!」

赤城「どうしたんですか、一体今まで何を!」

搭乗員B「わからない、今上空4000mまで上がってようやく無線が通じたんだ!何が起こってるんだかわからん!」

搭乗員B「とにかく、敵飛行場姫の全艦載機のうち2/3を発艦前に撃破した!にしてもありゃあ艦載機じゃないな!」

搭乗員D「どこに推進装置がついてるんですかね・・・」

搭乗員C「南鳥島の飛行場滑走路はもう使い物になりません。残るは要塞砲のみです」

その一言で提督は決断した。

提督「機関長、過負荷制限装置を解除しろ」

機関長「提督!?」

提督「五時間だけ持たせろ。航海長、突撃を開始する」

航海長「・・・っ、了解!」

五月雨「まだ目標まで400km以上もあります!敵の増援が来ますよ!」

提督「敵の増援が来る前に着けばいい」

五月雨「作戦通りにしてくださいッ、提督、お願いですから!ダメぇッ!」

提督「針路、南鳥島。舞鶴、機関過負荷全力前進!強襲行動を開始するッ!」

航海長「了解!過負荷全力!針路南鳥島!ヨーソロー!」

長月「あの馬鹿は独断で何勝手に始めようとしてんだ!」

ガクンと舞鶴が揺れ、出力試験の時とは比べ物にならない軋みとともに指揮艦は特攻を開始した。

一六○○。敵地まで346km。

機関長「冷却装置の異常はなんとしてでも修復し続けろ!機械の摩耗を少しでも抑えろ!あと五時間の辛抱だ!」

隊員「了解ッ!」

航海長「42kn、完全に通常出力を大幅に上回ってます!エンジンが爆発しますよ!?」

提督「なら爆発しないように祈ってろ」

航海長「そんなぁ!」

水測員「泣き語を言ってる場合じゃない!左舷に敵影あり!増援のようです!」

提督「敵の救援部隊に追い付いたか・・・、これでいい」

砲雷長「応戦しないんですか!?」

提督「全砲弾は万が一の時にとっておいてくれ」

砲雷長「威嚇射撃程度はしたほうがいいんじゃ!」

提督「砲撃の衝撃で速度を落とすぐらいだったら撃たないほうがマシだ。黙って俺の命令を聞け」

砲雷長「・・・了解です!」

提督「俺の合図でドックに注水を開始する。隊員は発動艇に乗り込んでおくように」

大きく息を吸うと、提督は窓から前方を睨みつけ怒鳴った。

提督「なんとしてでも南鳥島の奪還を再優先にする!被弾しようが何があろうが作業の手を止めるな!考える暇があったら手を動かせ!」

技主「了解ッ!」

航海長「飛行場姫が無力化できてなかったらどうするんですかぁ!」

提督「いいから黙って祈ってろ」

航海長「ッ針路修正、左コンマ二度!」

泣きながらも、突撃航路の把握だけはしっかりしていた。

一五三○。

水測員「敵艦発見!こっちを狙ってます!」

水測員が次々と敵艦を発見していく。

提督「構わん。このまま振り切るぞっ」

水測員「敵艦発砲!弾丸、来ますッ!」

舞鶴の後方100mに敵弾が着水する。

航海長「当たるならせめて胴体にしてくれっ、喫水線より下は当てちゃ駄目だからな!」

提督「胴体に当たれば装甲が剥げて船が軽くなっていいじゃないか」

航海長「頭おかしいんじゃないですか!?提督ッ!?」

船務長「それにしてもさっきから電探が一切機能してない!技術兵、早く治せ!」

技兵「こっちもやってはいるんですが・・・、どこにも異常がないんですよ!」

提督「・・・まさか、チャフか」

副長「チャフ?」

提督「チャフってのは、ワイヤーとかにアルミをつけて散布することで敵の電子装置の動作を妨害するものなんだ。さっき艦隊内で無線通信をしていたときもやけに雑音がでかかった、編隊との通信も取れていないから、おそらくチャフで合っているだろう」

副長「空中から散布したと?そういうことですか?」

提督「敵もやることがゲスくなってきたぞ・・・」

一六一二。

突然、船体が大きく揺れ、艦橋から見て左舷前方に火の手が上がった。

提督「当ててきたか・・・!」

水測員「レーダー監視員は何をしてるんだ!?距離12300m、方位1-9-4!敵戦艦六隻!艦種は不明」

機関長「左舷に被弾!ダメージコントロール!消火を急ぐんだ!」

左舷に、のところで無線を切った。

提督「ほんとに来かねないからな・・・」

航海長「着弾で航路がずれたっ・・・、左修正三度!」

機関長「機関室の室温が四十度超えてます!提督、そろそろまずいかもしれない!」

提督「あと四時間の辛抱だ。三時間だけでいい、その後は爆発でも何でも好きにしてやればいいから、三時間保たせろ」

機関長「わかりましたッ!」



一六三○。

水測員「敵艦振りきりました!戦艦と空母しかいなくて本当に良かった・・・!」

提督「そろそろ艦載機に狙われだす頃だと思うんだが・・・」

船務長「そうですね・・・、今、来てます」

航海長「ど、どどどどどどうするんですかぁ!」」

提督「第一次攻撃は当たらないだろ」

船務長「第二次攻撃が来るまでには突撃を開始してる、ってことですか?」

提督「そうだな」

水測員「敵機編隊目視確認!艦内へ避難します!」

提督「今の今まで避難してなかったお前には脱帽だよ・・・」

一七○一。

船務長「ヒヤヒヤしますよ!今後ろを魚雷が通ったんですよ!?」

航海長「駄目だああああ怖い!怖いよ!エンジン出力上昇、45kn!」

機関長「何やってんだお前!?本当に爆発するぞ!」

隊員(隊長ッ、俺もう触りたくないです!)

船内無線の遠くで小さく隊員が叫ぶ声が聞こえる。

航海長「提督が何も言わないから大丈夫です!」

水測員「て、敵機直上二機!急降下ァ!直撃コースだッ!」

提督「取舵九十!甲板装甲なら500kg爆弾まで耐えられる!」

航海長「了解、取舵九十!」

未来予測が完璧になされた500kg爆弾一発がドック直上の甲板に直撃した。

凄まじい爆轟がするや、船体が折れんばかりに後ろへ傾ぐ。

提督「針路戻せ!」

航海長「了解、針路戻します!」

技主「あそこの甲板装甲追加しといて本当に良かった・・・」

提督「あと二時間だ。もう少しで着く!」

副長「飛行場姫はどうするんですか?」

提督「・・・大丈夫だ。爆撃隊ならやってくれる」

その時だった。

提督「あれは・・・」

十一月作戦で、戦艦棲姫が工場に現れた瞬間を思い出した。

航海長「艦右舷!敵特攻機!避けられないぞこれは!」

提督「砲雷長!急ぎ迎撃しろ!」

砲雷長「了解!十センチ砲一番、目標補足!撃てッ!」

五発の弾丸を命中させたが、爆発の破片が戦隊に降り注いた。

爆弾を過積した状態で、敵一機が舞鶴に直撃した。

すいません前レスラス行削除してください。

一方。


五月雨「提督ッ、提督!提督!なんで何も言ってくれないんですかぁ・・・!」

赤城「提督・・・」

加賀「さっきから爆撃機との連絡も一切取れていません。赤城さん、これは一体・・・」

翔鶴「・・・敵の電波欺瞞作戦です」

加賀「これだけの広範囲に一体どうやって?」

翔鶴「電波欺瞞紙といって、電波を反射する素材で出来たものを空中に散布するんです。おそらく私たちはその散布範囲内に入り込んだんです」

赤城「ということは、進むしかないですね」

長月「龍花提督に敵艦は完全に気を取られているようだ。これは確かに作戦通りだが・・・」

白露「一人でいこうだなんていわないで。五月雨が死んじゃったらどうするの」

五月雨「でもっ、提督が何隻の戦艦に遭遇するかもわからないんだよ!?」

夕立「私たちが行っても、提督には追いつけないっぽい」

五月雨「そんなの、そんなのっ、わかってるよぉ・・・」

涼風「五月雨・・・、提督なら大丈夫だって。信じたりとかしかできないけど、今までだってずっと大丈夫だったじゃん」

五月雨「・・・提督・・・」

一八○○。敵地まで194km。

航海長「速度が落ちてきてるッ」

隊員「機械の磨耗が始まりました!潤滑油がもう限界に近いんです!さっきの特攻機のせいで替えの部品の大部分が海に放り出された!」

提督「35knを下回らせるな!あと三時間で到着する!」

舞鶴は機関部周辺から濛々と黒煙をあげながら、瀕死の体で海を進んでいた。

水測員「敵機編隊と思われる影が方位1-1-0より接近中!第二次攻撃隊です!」

提督「まずいぞ・・・」

十分後、砲雷長が悲鳴を上げた。

砲雷長「魚雷多数接近中!20本!」

航海長「提督、これはどうあがいても避けられませんよ!?」

提督「技術兵ッ」

技主「ここにいますよ!」

提督「船のバラストタンク調整の準備をしろ、魚雷を受けたら直ちに気密扉を閉鎖!被弾した反対側の船体を下げる!」

技主「了解です!」

そして、一本の魚雷が左舷中央下腹部に直撃した。

爆撃とは似ても似つかない低い爆発音が船底から響いてきた。

その後、時間差で水面が盛り上がり、舞鶴ごと持ち上げられる。

提督「もう少しだ、舞鶴、もう少しでいい・・・」

機関長「私としては船が折れないかどうかが不安なんですが・・・!気密扉を閉鎖しろ!」

技主「バラスト注水開始!・・・もう少し入れろ!」


一八三○。

技主「駄目だ、吃水線が見えなくなってる!この船沈んでますよ!」

提督「あと二時間だけでいい、二時間なら持つはずだ・・・ッ」

機関長「海水でいいからかけろ!火を消せ!消さないと引火してしまう!」

一九三○。

航海長「無力化、できて、ないじゃないですかッ!」

こちらに気づいた要塞砲が舞鶴レーダー部分を完全に粉砕した。

船務長「嘘だろおい勘弁してくれよ!?」

提督「ドックへ注水を開始しろ。あと二十分で出撃する」

技主「了解!注水を開始します!」

搭乗員Ⅰ「龍花提督、あんた何してんだ!?」

こちらに気づいた味方編隊が無線に割り込んできた。

提督「この距離でようやく通信が回復したか!」

技主「提督!やっぱり無理だ!このままでは沈没してしまう!」

提督「わかっている、とにかく俺の指示通りにしてくれ」

急いで注水が開始され、徐々に船体が後方に傾き始めた。

十数機残っていた彗星が舞鶴を砲撃した要塞砲を沈黙させる。

提督「(もう撃破できるだけの余力は残ってないか・・・!)」

二○二○。

提督「ドック扉開放!ゆっくりじゃなくていい!」

技主「扉吹き飛んでも知りませんから!」

扉を引き上げていたワイヤーを制動なしで勢いよく開放した。

思い切り水を叩いた音がした後、発動艇が船外に飛び出す。

技主「では!行って参ります!」

航海長「提督、島までもう1000m程度ですよ!?」

提督「このまま島に乗り上げる!砲雷長!」

砲雷長「はい!」

提督「南鳥島の防波堤を吹き飛ばせ!全砲門弾丸装填、目標前方!とにかく撃ってくれ!」

砲雷長「了解!目標前方、全砲門、一斉射ッ!」

長十センチ砲では太刀打ちできないと思われたが、20.3cm主砲が、五回目の一斉射撃で見事に打ち抜いた。

航海長「あと400m!」

提督「機関長、ドックの排水作業を中止、注水を急ぎ再開させろ!艦首を上げてこのまま座礁させる!」

機関長「了解、注水を開始しますッ!」

提督「総員、衝撃に備えよ!」

二十秒後、船体は破砕音とともにスクリュー部分まで島に乗り上げた。

遅れて着いた発動艇から降りた妖精が要塞砲に向かって三々五々散っていく。

提督「目標敵砲台、こっちを向き始めた奴は弾薬が持つ限り砲撃しろ!」

砲雷長「あと二回の一斉射分しかないですよ!元より長十センチ砲では意味がない!」

提督「構わん!撃てッ!」

補足し始めた十門のうち七門の旋回を止め、二門を妖精が制圧。

飛行場姫「ナニ・・・シテルノ・・・」

一門の41cm徹甲弾が、舞鶴を艦首から貫き、すでに引火寸前となっていた機関部から、燃料を積んだ船体中央が爆発した。

艦橋が吹き飛び、提督は有り得ないほどの爆風とともに船外へ投げ出された。

二○三○。

飛行場姫「・・・ダレ?」

提督「・・・」

提督は、飛行場姫に抱きかかえられていた。

提督「いっ、てぇ・・・」

飛行場姫「・・・テキ?・・・シロイ・・・」

背中と腹部に痛みがあり、見ると服が脱がされ、なにやら布らしきものが巻かれていた。

飛行場姫「ドウシタノ・・・」

飛行場姫も大破し、似たような状況だった。

提督「はぁっ、ぅ・・・・」

飛行場姫「ワタシハ・・・、ドウシテ、ココニ・・・」

提督「誰だ・・・」

目に血が入り、見ることが出来ない。

飛行場姫「アナタハ・・・、シレイカン・・・?」

提督「お、れは・・・、舞鶴鎮守府、のっ」

右足が突然痛み出し、声を出すことが出来なくなる。

飛行場姫「マイヅル・・・?」

飛行場姫「アナタハ、ワタシタチノミカタ?」

提督「味方・・・、なんのことだ・・・」

もはや言っていることを繰り返すことしか出来ず、何も考えられなかった。

飛行場姫「ワタシタチノモトニ、クル・・・?」

提督「・・・死にたく、ない・・・」

飛行場姫「シニタクナイノ?」

提督「あぁ・・・、死にたくない・・・」

飛行場姫「ナラ、ワタシタチノモトヘクル」

提督「行くって・・・、ど、こへ・・・、うっ」

こみ上げてきた血液を吐き出した。

飛行場姫が歩き出した。

提督「待ってくれ・・・、どこに行く、つもりだ・・・っ」

飛行場姫「ワタシタチノバショニツレテイク。シレイカン、シニタクナイトイッタ」

すると、飛行場姫の背中に艦載機の機銃掃射が浴びせられた。

装甲がまだ残っており貫くことは出来ないが、飛行場姫が足を止めるぐらいの効果はあった。

搭乗員Ⅰ「待てよ!てめぇ何勝手に人のもんもって行こうとしてやがんだ!?ええ!?」

砲雷長「おい!技術兵はまだ要塞砲の占領を終えてないのか!?」

さっきの爆発の中、島に上陸した技術兵の一人が応答した。

技兵「もう沿岸方の占領は完了!敵増援の排除は順調に進んでます!ですが、あいつは提督を抱えてる!撃てるわけないじゃないですかッ!」

砲雷長「一体どうするつもりだ・・・!」

提督「待ってくれ・・・、どこに行く、つもりだ・・・っ」

飛行場姫「ワタシタチノバショニツレテイク。シレイカン、シニタクナイトイッタ」

すると、飛行場姫の背中に艦載機の機銃掃射が浴びせられた。

装甲がまだ残っており貫くことは出来ないが、飛行場姫が足を止めるぐらいの効果はあった。

搭乗員Ⅰ「待てよ!てめぇ何勝手に人のもんもって行こうとしてやがんだ!?ええ!?」

砲雷長「おい!技術兵はまだ要塞砲の占領を終えてないのか!?」

さっきの爆発の中、島に上陸した技術兵の一人が応答した。

技兵「もう沿岸方の占領は完了!敵増援の排除は順調に進んでます!ですが、あいつは提督を抱えてる!撃てるわけないじゃないですかッ!」

砲雷長「一体どうするつもりだ・・・!」

二一○○。

五月雨「提督ッ、何してるんですか!こっちに戻ってきてくださいッ!」

三十分以上もこう着状態が続いていた所へ、五月雨達が到着した。

提督「五月雨・・・、俺は・・・?」

そして、ようやく提督は目を開け、状況を理解した。

何とか腕から体ごと落とす。

提督「いっったいってんだよ・・・!」

落ちた衝撃で体中が痛んだ。

提督「五月雨・・・、肩を」

五月雨「提督!」

五月雨が駆け寄り、立ち上がった提督を支え反対へ歩き出す。

飛行場姫「マッテ・・・、シレイカン・・・」

五月雨「あんたなんかに提督は絶対に渡さない!」

だが、五月雨が予想だにしなかった行動をとった。

飛行場姫「マッテ・・・」

飛行場姫が五月雨の服を掴んだ。

五月雨「何をっ」

飛行場姫「ワタシモ・・・、行く」

五月雨「え・・・」

飛行場姫「私モ、司令官ト帰りタイ・・・」

五月雨「・・・」

二二○○。

技主「外部装甲と偽装の残骸の取り外しは完了しましたが・・・、これ・・・」

五月雨「提督・・・」

提督「どうし」

た、と提督が返事をしようとした所へ、泣き腫らした五月雨が提督に覆いかぶさってきた。

五月雨「死んじゃったと思ったんですよぉ!」

提督「生きてる生きてる。大丈夫大丈夫」

飛行場姫「・・・?」

五月雨「あなたほんとについてくるつもりなの!?」

提督が上半身だけ起こすと、飛行場姫に言った。

提督「お前、俺たちがなんだかわかってるのか?」

飛行場姫「司令官は仲間。ダから、大丈夫」

五月雨「どうして仲間だってわかるんですか」

飛行場姫「私たチと、似てル」

提督「まさか俺の体質のことか・・・?

提督「はぁ・・・、とりあえずドックの中で活きてる装備だけで応急処置だけでもしよう」

技主「深海棲艦の修理なんてやったことないんですが・・・」

提督「そんなん俺だってないよ」

技主「やるだけやってみます」

九月二日。南鳥島。午前六時。

五月雨「なんか全然味しないんですけど・・・こんなの食べてたんですか?」

提督「舞鶴の乗組員は全員これ食ってたぞ」

五月雨「うわぁ・・・」

提督「それにしても早く着てくれないとやばいな。予備の日焼け止めもそろそろ切れてしまう頃だ」

赤城「姫さんはよく食べるんですね、まだありますから食べていいですよ」

飛行場姫「タベル」

加賀「あ、赤城さん、敵ですよ・・・」

大鳳「まさか舞鶴に来て早々こんな事件に出くわすとは思っても見ませんでした・・・」

恐る恐る大鳳が飛行場姫の腕を触る。

飛行場姫「何・・・?」

大鳳「い、いえっ、なんでもないです!」

暁「何で皆そんな平然としてられるの・・・?」

響「敵が装備をつけてないからじゃないかな」

隼鷹「それでも腕力とかやばそうじゃない?」

飛鷹「飛行場姫を鹵獲したら、空母の役目が・・・」

大鳳「いや、飛行場姫は陸上型ですから・・・」

搭乗員B「提督、俺の仲間を消し飛ばした奴をうちに入れるんですか?」

搭乗員Ⅰ「少なくともいい感じはしないな」

提督「鎮守府の部屋の一室に入れておく。諸手を挙げて歓迎しようってわけじゃない。殺したいんだろうが、敵に関する情報をいくらか手に入れることもできるかもしれないんだ」

搭乗員B「・・・提督に逆らうつもりはありませんよ」

提督「すまない、気持ちを考えてやろうとは思うんだが・・・」

搭乗員B「大丈夫です。こういうところでキレるほど性格ねちっこくありませんから。でも仲間の死は惜しいですから、せめて慰霊碑ぐらいは建ててやりたいです」

提督「だったら、投下爆弾から信管抜いて建てとくか?」

搭乗員B「いいですね、それ」

五月雨「要するに不発弾ですよね、それ」

提督「五月雨、泣いた後がまだ若干残ってるぞ」

五月雨「みっ、見ないでくださいよ!」

夕立「五月雨、提督が行っちゃった後ずっと泣いてたから大変だったっぽい」

涼風「船を見た時とかやばかっ「やめて!」

五月雨「それ以上はやめてよ!」

大鳳「それにしても随分派手に撃ち抜かれてましたが、大丈夫だったのですか?」

春雨「司令官、死んじゃったかもって白露も泣いてたのみました!」

白露「えー・・・、そこで言っちゃうんだー・・・」

機関長「後方甲板に500kg爆弾二発、左舷前方に36cm主砲一発、左舷下腹部に魚雷一発、船体中央に40cm榴弾砲一発。いやぁ、これ沈んでないのが奇跡ですよ」

提督「舞鶴は沈みません!って?」

航海長「勘弁してくださいよ・・・、もう死ぬと思ってました・・・」

提督「あの水測員がいなかったら思いっきり艦橋に落とされてたよな」

副長「なかなかいい隊員が集まったものです」

提督「?」

視線を感じて振り返ると、飛行場姫が慌てて顔をそらしたのが見えた。

提督「・・・」

五月雨「?どうかしたんですか?」

提督「いや、なんでもない」

九月三日。午前八時。

救難兵「おい!装甲の応急修理は終わったか!?」

終わってます!と遠くから声が返ってくる。

救難兵「提督!もう点呼終わりましたか!」

提督「大丈夫だ!全員乗ってる!」

甲板の上から提督が返事をした。

救難兵の隊長も走って曳船に戻ると、

救難兵「よし、引っ張れ!慎重にやれよ!はぁ・・・、これは大分派手に乗り上げたなぁ・・・」

九月六日。横須賀鎮守府会議室。午後一時。

先生「生きて帰ってきたか」

伊藤「よくやってくれた。すでに兵を送って飛行場の修理と設備の建造を始めているよ」

提督「天皇陛下より、今朝お言葉を賜りました」

先生「それに見合う活躍はしたんだ。もっと胸を張れ」

提督「はい、ありがとうございます」

提督「・・・それと、岩崎提督、後でお話よろしいでしょうか」

岩崎「ん?・・・わかった」


移動。横須賀鎮守府中庭。

岩崎「金剛なら前手紙をよこしたときのそのままだ。変わりはない」

提督「いえ、金剛さんのことではないのです。今回の飛行場姫のことで」

岩崎「なんだ?」

タバコをくわえながら、目線で先を促した。

提督「岩崎提督には話しておいたほうが良いかと思いました」

岩崎「焦らすなよ」

提督「飛行場姫を鹵獲たのです」

岩崎「・・・へ?」

咥えていたタバコが芝生の上に落ちたのを慌てて拾った。

岩崎「ど、どうやって」

提督「これはわざとではないのですが、飛行場姫が大破状態で戦意を喪失していたので艤装を剥ぎ取って拘束しました」

岩崎「その艤装は?」

提督「工廠に分析にまわしてあります」

岩崎「そりゃすごいぞ。あいつらの装甲と火力があれば「いや」

提督「彼女は陸上艦です。とてもじゃないですが扱えませんよ。滑走路も用意しなくちゃならない」

岩崎「・・・それは、そうだな。わかった。口外しないでおく」

提督「お互い機密情報を握り合ってる状態ですね」

提督が笑って言った。

岩崎「バレたら懲戒処分は免れないから大分大変なことなんだが」

九月五日。舞鶴鎮守府執務室。午前九時。

提督「舞鶴がボロボロンゴ・・・・」

五月雨「なんですか、ンゴって」

提督「この前の戦闘でボーキサイト35万ぐらい使ったんだ」

五月雨「船と鎮守府の資材状況を掛けてたんですか・・・」

提督「南鳥島の設備で偵察行動も捗るらしいぞ」

五月雨「それにしても、飛行場姫、どうするんですか?」

飛行場姫「出来ることはスル」

提督「外見に似つかわしくない性格と口調だな」

五月雨「名前、考えましょうよ。飛行場姫飛行場姫じゃ機密も保てませんし、名前言いづらいですし」

提督「じゃあ・・・、大津でいこう」

五月雨「わかりました、大津にしましょう」

提督「大津ー」

大津「何・・・?」

提督「いや、なんでもない」

五月雨「服とか、替えたほうがいいんじゃないですか・・・?」

提督「大津、お前なんでうちに来たんだ?俺は敵だぞ」

大津「司令官は敵ジャない」

提督「ここは舞鶴鎮守府だぞ。わかってないのか?」

大津「わかってる。でも司令官は味方・・・」

提督「俺の体質とはいえど、そこまで騙されていいのか・・・?」

時間経過。舞鶴鎮守府食堂。午後一時。

提督「皆食べ終わったようだから、新入りを紹介しよう」

赤城「また今度は誰を建造したんですか?」

提督「紹介しよう、飛行場娘、大津だ」

大津「よろしくお願いシマす」

瞬間、皆の顔が凍りついた。

加賀「飛行場娘って時点で、隠そうって言う気を感じないわね」

暁「その服、まさか作ったの?」

提督「あぁ、だからとりあえず巫女服を着させた」

扶桑「なんで巫女服なんですか?」

山城「差し詰め提督の下心ですよ」

提督「そんなわけないだろ!これはちゃんと考えた結果なんだ。本当に」

山城「どうだか」

大津「山城サンは、司令官が好きなの?」

山城「そんなわけないじゃないですか!」

大津「デモ、態度が好きって感じじゃない」

提督(口調変わったぞ。どうした大津。普段どおりにやってくれよ)

大津「これが普段どおりヨ、司令官」

提督「突然敵だった頃の口調に戻ったな・・・」

大津「今日からお世話になるわ」

五月雨「飛行場型・・・、どうやって使うんですか?提督?」

提督「そうだなぁ・・・、どうしようか」

大津「なら私が提督のお世話をするわ」

提督「それは五月雨の役目なんだよなぁ・・・」

大津「五月雨は、あなた?」


大津が五月雨を指差した。

五月雨「そうですけど」

大津「あなたは司令官ノ何?」

五月雨「嫁ですけど」

大津「・・・ヨメ?」

提督「嫁、知らないのか?」

大津「知らない」

提督「結婚って知ってるか?」

大津「知ってる」

五月雨「結婚を知ってて嫁を知らないとは・・・」

大津「男と女が契りをかわすって聞いたわ」

提督「その女のことを嫁って言うんだよ」

大津「五月雨が・・・、司令官の、ヨメ・・・?」

五月雨「提督は私のものですよ」

大津「あなたには負けない」

提督「負けるも何も勝負は決してるんだよなぁ・・・」

五月雨「妹さんといい、大津といい、面食いすぎです」

提督「妹は面食いってわけじゃないだろ、別に」

五月雨「そうですか?家族というわりにはそこまで長い間過ごしてたわけじゃないんでしょう?」

提督「まぁ・・・、会って八ヶ月ぐらいだし、ほとんど話してないな」

中途半端ですが、本日はここまでです。ありがとうございました。

それではおやすみなさい・・・。

乙レスありがとうございますます。雪・は沈みませんっ!

これからもやめることなく完走まで突き進まさせてもらいますのでので!

連投失礼します。

睡魔が襲っていたとはいえ、途中で敵の特攻機が破片が降り注いだだけのはずなのに直撃した(部品がほうりだされた原因は次投下)、電波欺瞞がされているにもかかわらず通信をしている描写があったりと見過ごせないミスがありました。

範囲が広いため、これも脳内変換お願いします。

ここおかしいんじゃないかな?と思った部分は、乙レスと一緒に書いていただければ幸いです。

連投につぐ連投ですが、今気づいた事で電探って敵の隻数までわからないじゃない、ということで・・・、次回以降修正します。

かなり時間が経ってしまいました。

明日、投下します。時間帯は不明です。

(妖精が喋らないと、例えば偵察兵の心境的なものをかけなくなってしまいますから)

では参ります。

今回も小規模です。



九月七日。舞鶴鎮守府港湾。午前八時。

技主「提督・・・」

提督「ふむ・・・」

目の前には未だ大破した状態の舞鶴が乾ドックに鎮座していた。

左舷喫水線下には幅10m以上の大穴、特に特攻機の焼夷弾で溶け、内部が見えるほどにまでなっている右舷装甲が目に付いた。

技主「テルミット焼夷弾を至近距離で喰らえば、装甲が厚くない舞鶴は、高温による攻撃でも被害を受けてしまうんです」

強行揚陸で損傷した艦首部分がクレーンで持ち上げられているのが目に入った。

それにも増して酷いのは、船体前部に開いた大きな弾痕だ。

提督「修復はいつになりそうだ?」

技主「左舷下腹に受けた魚雷攻撃と、沿岸砲による貫通攻撃で機関部分が大破状態。そして左舷前方に受けた弾丸による衝撃と揚陸で脆くなっていた艦首が、ついに帰港した時破損しました」

提督「それは見ればわかる。だから、修復はいつになるんだ?」

技主「それが・・・」

提督「?」

技主「島風の機関をそのまま流用したのはいいんですが、肝心の設計図がないのです」

提督「つまり?」

技主「事実上修理不可能です。エンジンを一から作り直さなければなりません。事実上というのは、三ヶ月以上も修理に時間がかかれば作戦に支障が出るため、修理は断念せざるを得ないということです」

提督「・・・わかった。機関部に関してはこっちで手を回そう。当面は船体修復を進めてくれ」

技主「了解です」



移動。舞鶴鎮守府執務室。ラジオにて。

男性『大本営は、この度の南鳥島奪還作戦が国内初の反抗作戦であることを再度宣言した上で、完全な勝利を収めたことを本日発表しました』

提督「完全な勝利か・・・」

五月雨「提督は死にかけたっていうのに、よくもこんなこと言えますよね」

提督「お前のいいたいことはわかるが、さすがに具体的な作戦内容とか結果は知らせるわけにはいかないんだろうな」

五月雨「大本営が考えればそうなりますよね・・・。言い方をどう変えたところで、言ってしまえば特攻作戦に近いのは誰でも気づいちゃいますし」

いつもと同じように、五月雨が提督の膝に座っていた。

大津「司令官、お茶」

提督「お、おお、ありがとう」

いつもと違うのは、大津(飛行場姫)が執務室に居ることか。

五月雨「ていうか、大津さんは部屋に閉じ込めておくんじゃなかったんですか?」

提督「仕方ないだろ。鍵かけてきたはずなのに扉こじ開けて俺についてきちゃったんだから」

文句を言う五月雨を無視して地元新聞を広げると、舞鶴鎮守府司令官龍花提督の名前が一面に書かれていた。

『我らが海の守護者、龍花提督が再び大手柄か』

提督「守護者って・・・、俺はそんな大層な者になった覚えはないぞ」

五月雨「守護者・・・」

五月雨がたまらんといった様子で吹き出した。

提督「こらっ、笑うんじゃないよ全く」

大津がそれに首をかしげる。

提督「・・・悪い気はしないけどさ」

五月雨「だからって調子づかないでくださいね」

提督「そりゃ調子付くだろう。今回の作戦は一応の成功は収めたわけだし、あまり大規模な作戦はしばらくはないはずだろ?」

五月雨「・・・そう、でしょうか」

大津「この前の襲撃で、私達の中に怒りを感じている者も何人か居たわ」

提督「・・・というと、逆に刺激したって事か?」

五月雨「戦争に負けた相手は憎悪を抱きますから・・・」

提督「・・・なんだ、今回の南鳥島の奪還をきっかけにますます本拠地の発見を急がなきゃいけないってことか?そういうことなら舞鶴もなにか手伝えればいいのだが」

五月雨「本拠地があるのはおそらく太平洋側でしょうけど・・・、日本海の警備のために舞鶴がいるんですから。あんまりおろそかにしないでくださいね」

提督「そんなことはわかってるよ・・・」

新聞を脇に置く。

提督「日本海と太平洋からの挟撃にあってもおかしくないのはわかってる。全く、これだから島国は・・・」

五月雨「冷戦なんかもとっとと終わってくれれば、アメリカの援助ぐらい受けられるようになるのに。癪に障りますけど」

提督「・・・冷戦が終わってもそれは望み薄だろ。この前皇居で誰かが話しているのを聞いたんだが、アメリカも襲撃を受けているらしい」

背もたれに体を預けたままだるそうに提督が答える。

五月雨「へぇ?でもどうせ大丈夫なんじゃないですか?ミサイルの射程は100キロを超えてるんですし。撃てば勝てるとまで言われてるじゃないですか」

提督「それがそうでもないみたいだ。空母とミサイル艇が合わせて十隻程度撃沈されたらしい」

五月雨「えっ・・・」

提督の発言に五月雨が驚きの声を上げた。

五月雨「どうしてそうなるんです?ミサイルの命中精度は聞く限りかなりのものだと聞いてますよ?」

提督「その通りだ」

提督「ミサイルは当たってるんだよ。でもお前も見ただろ?十一月作戦の時の戦艦棲姫の装甲を。ただ破壊だけを目的とした、貫通を目的としてないミサイルじゃ彼女らを押し返すことは出来ない。深海棲艦はその弱点に早々に気づいちまったんだ」

五月雨「でも、弱点を突けるように飛行経路を変えることもできるんですよね?」

提督「どう説明しようか・・・、そうだな、お前ら艦娘は敵砲弾が来たらそのまま受け止めるか?」

五月雨「いえ・・・、そりゃ庇いますけど」

提督「庇う時に使うのは装甲板だろ?」

五月雨「はい」

提督「確かにミサイルは急所をつけるが、その急所が、着弾直前に急所でなくなってしまったら意味がない」

五月雨「防がれている、ということですか」

提督「音速の砲弾でさえそんな行動を取れる奴らだ、亜音速、しかも爆音を鳴らしながら近づくミサイルを防ぐなんて造作もないことなんだろう。超音速並みの速度が出せれば話は別だが」

五月雨「その、超音速って言うとどれくらいなんです?」

提督「秋月の長十センチ砲の初速ぐらいだ」

五月雨「・・・秒速900m以上をそんなに保てるミサイルなんてあるんでしょうか」

提督「大陸間弾道弾、とかな」

五月雨「核弾頭じゃないですか・・・」

提督「通常弾頭もあるんだが、まぁ使うわけないだろうな。費用対効果が悪すぎる」

大津「・・・さっきから私除け者にして何話してるのよ」

大津が不満げな様子で話に割って入った。

五月雨「大津さん、居たんですか気づきませんでした」

提督「どんだけ目の敵にしてるんだ五月雨は・・・」

五月雨「・・・戦艦棲姫に効果がなかったとしても、飛行場姫とか陸上棲の敵には効果がありそうですね。焼夷弾で滑走路を無力化するって言う技も使えるじゃないですか。今回こそ使うべきだったと思いませんか?」

提督「艦娘という完全な兵器がある以上、本当の緊急時以外に限られた兵器を使いたくはないのだそうだよ」

五月雨「そんなぁ・・・」

提督「だからこそ、本拠地さえ見つければこっちのもんなんだが」

やれやれ・・・、とため息をつきつつ、意味も無く五月雨の顔をつついた。

大津「・・・本拠地って?」

提督「深海棲艦の総司令部みたいなところのことだよ」

大津「総司令部・・・」

提督「知らないはずはないと思うぞ?」

大津「いえ・・・、あるにはあるんだろうけど、詳しいことは何も知らないわ」

提督「そうか・・・、まぁ、そんなこったろうと思ってはいたが」

九月八日。舞鶴鎮守府工廠。午前九時。

技主「外郭と、内部設備の修理は完了しました。兵装の修理ももう間もなく終了します。それと、突然で申し訳ないのですが、提督」

提督「ん?」

技主「国内で作られた護衛艦の中にガスタービンを搭載したものがあったはずです。設計図のコピーなど、入手できませんか?」

提督「それはまた突然だなぁおい」

技主「いえ、できなければできないで大丈夫です」

真面目な顔してるし、俺をからかってるわけではなさそうだ・・・。

提督「んー・・・。できるかもしれないが、護衛艦の建造工場がどこかわかるか?」

技主「呉の海軍工廠です」

提督「呉の?」

技主「はい」

提督「設計図を入手するのはいいとして、ガスタービンにするならかなり船の構造を変えなきゃいけないだろう」

技主「それはわかっています。その点についても、あちらから一名か二名でも技術員を寄越してくれないかと思っています。大体1週間強で工事は完了させる見込みです」

提督「1週間強だって?急いでくれるのは嬉しいけど、あまり無茶な真似はするなよ?」


技主「わかってますよ。妖精を侮らないでください」

移動。舞鶴鎮守府執務室。電話にて。

先生「演習の依頼か?」

電話を替わるや、先生は開口一番そう聞いてきた。

提督「いえ、違います」

先生「じゃあなんだ?」

提督「今、そちらの工廠で護衛艦の建造をしていらっしゃいますよね?」

先生「・・・大本営も妖精に建造を依頼するのはどうかと思うがね、うちにだって妖精は仕事がたくさんあるというのに」

提督はその答えを肯定と受け取った。

提督「踏み入った質問かもしれませんが、その護衛艦の主機の動力は何でしょうか?」

先生「なんでもガスタービンエンジンらしいが、それがどうした?」

手短に舞鶴の被害状況を伝える。

先生「・・・要するにその設計図がほしいわけだ」

提督「仰るとおりです」

先生「長月」

長月(なんだ?)

先生「工廠に連絡を取ってくれ。話はお前の方でやれ」

提督「えっ、あっ、お、俺がですか?」

先生「当たり前だろ。技術主任でもいいが」

提督「五月雨!」

五月雨「はっはい!」

提督「工廠から技術主任を連れてきてくれ」

五月雨「了解です!」

時間経過。同所。

技主「41cm徹甲弾が艦体前面から鋭角で突入した後蒸気タービン部品まで貫通。修復は困難を極めている状態で・・・。ええ・・・、はい、そうです・・・」

じりじりと待つこと約20分。

主任が電話を置いた。

技主「今から技術員が偵察機で送ってくれるそうです」

提督「これでなんとかなったか・・・、こっちも手を離せないから巡視兵にとりにいかせておくよ」

技主「問題の舞鶴なのですが、速度を殺して装甲を増やしたほうがいいのではないですか?鉄鋼弾が掠った程度で装甲が剥げることからも分かるとおり、舞鶴は敵砲撃に脆弱すぎる気がします」

提督「35cm以上の砲撃に耐え得る装甲なんてつけてたら速度を殺すどころじゃないぞ。船体は今までどおりで行く」

技主「ではせめて、電子兵器の設備の改良ぐらいはしたほうがいいのでは?」

提督「なら舞鶴に現代のレーダースコープの導入を・・・」

五月雨「PPIスコープとかいうんでしたっけ?提督が毎日言うから耳にたこが出来そうです」

提督「あれがあれば大分戦闘が楽になるんだがね・・・」

五月雨「うちでは作らないんですか?」

技主「知識がないものですから・・・、作るとするなら外部に委託する必要があります」

提督「そろそろ舞鶴にも欲しいところだの。どうだ、五月雨はいらないのか?」

五月雨「いえ・・・、私達は今の索敵方法が身にしみていますから。舞鶴だけ、電子兵器として装備するのはいいことだとは思いますよ」

提督「そうなのか。まぁ導入って一概に言っても、大分先の話になるだろうけどな」

九月九日。舞鶴鎮守府執務室。午前八時。

提督「大津、これを工廠に出してきてくれ」

ガスタービン開発に関する資材使用の許可証を差し出した。

五月雨「ちょっと、それ私の仕事じゃないんですか!?」

受け取ろうとする大津の腕を五月雨が掴む。

提督「おいおい、膝に座ってるだけの嫁が何言ってんだ」

五月雨「私だって頼まれればあれぐらいやりますよ!」

大津「それじゃ、行ってくるわね」

五月雨の手をそっとどかして、大津が歩き出した。

提督「寄り道しないようにな」

大津「言われなくてもしないわよ」

五月雨「あぁ・・・、私の仕事が・・・」

提督「これぐらいのことで一々涙目になってんじゃねぇよ・・・」

五月雨「提督は私のことほんとに好きなんですかッ」

提督「大好きだよ」

五月雨「えっ」

提督「えっじゃないから・・・。もういい加減静かにしててくれ。仕事あるんだから」

五月雨「提督最近なんだか冷たいです・・・」

提督「情緒不安定かよ」

五月雨「あー、また女の子に向かってそういうこと言う」

提督「めんどくせぇ・・・」

五月雨「今日は何して過ごしますかねー」

会話が一段落したと思うのも束の間、五月雨が気だるげな声を出した。

提督「子供じゃないんだからさぁ・・・」

五月雨「子供なんですけど」

提督「あーいるいる、都合いいときだけ子供ぶるやつ。なんなんだよ」

五月雨「私は提督の奥さんなんですから、これぐらいしても許してくれないとですよ。夫なんですから、提督は仕事してればいいんです」

提督「はぁ・・・、なんにせよ大津が帰ってこないと資材についての報告書が書けないの。わかるかお嬢さん」

五月雨「それもそうですね・・・」

移動。舞鶴鎮守府屋上。

大津「舞鶴ノ補修工事ノ終了目処ガタッタミタイ」

目的地に一直線、ではなく、大津は鎮守府の屋上に出ていた。

防空棲姫「ソウ・・・、アノ船ノ足ト通信能力ハ目障リダッタ。ソレニシテモ、随分楽シソウニ過ゴシテルミタイネ」

大津「アナタ達ニ命令サレテヤッテルコトヨ。ソノ言イ方ハナインジャナイカシラ」

防空棲姫「マ、殺サレナイヨウニスルッテノモ大変ナノハ想像シナクテモワカルシ。ソレジャ、命令通リニ動イテネ。マイヅルトアノ司令官ハ、コレカラ戦争ヲ進メテ行ク上デ邪魔ニシカナラナイカラ・・・」

大津「二ツトモ、同時ニ処分スル」

移動。舞鶴鎮守府工廠。

技士「通信機器の至る所にワイヤー片が・・・。いつまでこんな単純作業続けなきゃいけないんだよ・・・」

通信士「しょうがないだろ。我慢だ我慢。深海棲艦も戦術兵器を使うようになってくるってのはお前だって予想してたじゃねぇか」

大津「あの、主任さんはいるかしら」

大津が工廠の中へ足を踏み入れ、手近な関係者に声をかけた。

技士「ん?おお、大津さんか。主任ならあっちだよ」

ガスタービンへの転換工事の指示を、一言一句派遣された技術員から聞き逃さないように真剣な顔の技術主任の姿があった。

技士「この騒音もなかなか工廠って感じでいいよなぁ」

大津「私にはうるさいとしか思えないわ・・・」

それに苦笑しながら、技士が言った。

技士「まぁ、そんなもんか」

大津が近づいていくと、メモを一通り取り終えた技主が指示を飛ばす声が聞こえるようになってきた。

技主「そこミスるなよ?その部分はずしたらタービン稼動させたときに吹っ飛ぶんだからな」

技師「わかってますよ・・・、脅さないでください・・・」

大津「これ、司令官から」

声をかけるタイミングを掴めず、結局割り込むことにした。

技主「大津さんが届けてくれたのか。提督は太っ腹だなぁ・・・、うむ、ありがとさん」

防空棲姫から命令された箇所、エンジンを破壊するための工作場所に最も適した部分を今まさに加工しているところだった。

大津(あそこね)

十分に確認して工廠を出ようとしたとき、大津は何かに気づき、足を止める。

大津「ねぇ」

技士「どうした?」

大津「長波無線受信用のアンテナは修理しないの?かなり目立つ代物だったきがするのだけど」

技士「・・・あれ、そういやどこやったっけ」

通信士「何言ってんだよ、もうボケ始めたんじゃねぇのか?そのアンテナなら完全にぶっ飛ばされたから違う工場に修理を頼んでるとこだよ。ついこの前輸送船に乗せて出荷したばっかだろうが」

呆れた目で技士を見ていた。

大津「・・・そう、邪魔をしてごめんなさい、少し気になったものだから」

技士「いいってことよ」

大津が部屋を出て行った後、二人は顔を見合わせた。

通信士「答えに詰まってんじゃねぇよ、馬鹿」

技士「すまん・・・。まさか、そこまで見分けがつくとは誰も思わねぇだろうよ」

通信士「ちょっと俺走ってくるわ」

技士「あぁ、急げ」

通信士「ここは任せたぞ」


移動。舞鶴鎮守府執務室。

大津「・・・いない。あのアンテナ、本当に外部に発注したのかしら・・・」


一方。提督私室。

通信士「提督の言うとおりになりましたよ」

提督「安心しろ。信頼できる製油所に預けてある。ちゃんとあれで聞いてくれてればいいんだがな」

五月雨「製油所の存在、本当にばれてなきゃいいんですが・・・」

提督「製油所をくまなく見られたら一瞬でばれる。超長波の受信アンテナ装置はかなりでかいんだ。舞鶴の艦橋もほとんどその装置が圧迫してるといっていい。今回の損害で装置が破砕されなかったのは幸運といえるだろうな」

五月雨「それって結構やばいんじゃないですかぁ・・・!」


九月十二日。舞鶴鎮守府工廠。午前三時。

大津は、懐中電灯と溶接機を手に、タービン部分の区画に立っていた。

大津「案外簡単にいけるのね」

音を立てすぎないよう、慎重に該当箇所に火を当てる。

巡視兵E「・・・」

そこからわずか数m程度しか離れていない場所で、一人の巡視兵が機材に混じって息を殺しその光景を目に捉えていた。

巡視兵「(本当なら今すぐ射殺してやりたいが・・・、許可は出てない。抑えろ・・・)」

今まさに提督の暗殺計画が遂行されようとしているのを目の前にしながら、必死で巡視兵は殺害衝動を抑え続けた。


九月十八日。舞鶴鎮守府執務室。午後二時。

巡視兵B「提督宛てに書簡が届いています」

提督「大本営からか・・・、ありがとう。下がってくれ」

大津「(最近毎日のように手紙が届いている・・・。五月雨が抱えてくるのはいつも通りだろうけど、機密文書がこうも頻繁に届くものかしら)」

敬礼をして部屋を出る兵士を見ながら、大津は考えを巡らせていた。

『すっかり秋になりまして、龍花提督、いかがお過ごしでしょう。
 今回手紙を差し上げたのはもちろんお願いされた件についてですが。
 まずは通信内容を。あいつら聞かれてないと信じきって暗号ですら会話してないんですよ』

同封されているもう一枚の紙に目を通す。

五月雨「提督、お茶です」

提督「あぁ、ありがとう」

ふふん、と五月雨が大津に無い胸を張った。

そこには、ここ数日の通信内容が時々?記号で聞き取れない部分があるにせよ記されていた。

提督「(敵にしてはやけにほいほいついてくると思ったらやはりそういうことか。堂々と諜報活動とは、うちも舐められたものだ)」

さりげなさを装った視線を感じながら、提督は書簡を引き出しに入れた。

振りをしてポケットに突っ込み、屋上に向かった。

五月雨「どこに行くんですか?」

ててて、と五月雨がそれについてくる。

移動。舞鶴鎮守府屋上。

五月雨「どうぞ」

五月雨からマッチを受け取り、髪に火をつけた。

五月雨「目的は何なんでしょうか・・・」

提督「タービンに細工をしようとするあたり、十中八九、九割九分九厘俺を殺すつもりだろう。そのついでに舞鶴も破壊しようって腹積もりなんだろ」

五月雨「提督は最初から気づいてたんです?」

提督「いいや、岩崎提督と話したときに忠告を受けるまではきづいてなかった」

五月雨「岩崎提督様々じゃないですか」

提督「岩崎提督はああ見えて結構頭が切れるからな」

五月雨「あの、大津さん執務室においてきちゃってますけど、大丈夫ですか?」

提督「今までの通信書類はその日のうちに全て俺が処分してる。引き出しの中を探しても何も見つからないよ」


一方。舞鶴鎮守府執務室。

大津「軍事情報書類を保存しておくわけも無いわよね、普通・・・」

引き出しをそっと閉じながら、ソファに戻った時、執務室内であるにもかかわらず通信が入った。

防空棲姫「殺害命令ガ下リタ。直チニ行動ヲ開始シテ」

大津「どうシテ?マダ決行ハ先ノハズジャナイノ?」

防空棲姫「通信ノ中継地点ノ潜水艦ガ浮上シタサイ、製油所カラマイヅルヘノ不審ナ電波ヲ受信シタラシイ。露見シタ可能性ガ高イワ。急イデ」

大津「ハァ・・・、ワカッタワ」

案外ここでの生活も悪くなかった。かなり短い期間ではあったけれど。

戻。舞鶴鎮守府屋上。

五月雨「これからどうするんです?彼女を拘束するんですか?」

提督「いや・・・、逆に利用させてもらう。製油所の設備で、どの方向から電波が中継されているかぐらいは判別がつくだろうからな。その範囲内を索敵すればたどり着けるはずだ」

五月雨「ずっと気になってたんですが、なんで長波受信装置を使うんでしょう?それ以外の周波数を使用される恐れもあったんじゃ?」

提督「誰が見てるとも知れない海上に出て通信するわけにいかないだろうから、潜水艦を中継してると判断したんだ。水中じゃ長波じゃないと電波が届かないんだよ」

五月雨「おお・・・、提督が提督してる・・・」

提督「・・・。とりあえず、しばらくは泳がせておこう」

提督「(両親の命日まであと二ヶ月も無い・・・。今年は見送るしかないか)」

激化しそうな戦争を思いつつ、当面の作戦を立てようと執務室に戻った。

大津の姿は無かった。

洋上製油所。午後四時三十一分。

防諜長が、工場長の扉を押し開け飛び込んできた。

防諜長「緊急です。理由はわからない、何をするかもわかりませんが、突然の暗号通信を傍受しました。その通信での最後の大津の応答が作戦開始命令に対する了解返答であると判断。舞鶴鎮守府に直ちに連絡を入れてください」

工場長がそれを聞いてから一秒とたたないうちに鎮守府に報告が入った。


舞鶴鎮守府執務室。午後四時三十二分。

提督「了解」

間髪いれず内線で警備長に連絡を入れる。

提督「正門二名を残した上で五名を執務室に寄越してくれ。今すぐにだ」

警備長「直ちに」

提督「五月雨、私室に隠れろ」

隣に立っている五月雨を被害から逃れさせるために声をかける。

五月雨「提督、一人は危険です!」

提督「頼む、急いでくれッ」

五月雨を抱きかかえ、私室に入れ鍵をかけた。

直後、扉のノブが回り始め、完全に扉を開けられる前に提督は執務机を前にして座った。

提督「(出てくるなよ、五月雨・・・)」

おそらくあいつは実力行使をしてくる。

予想できていたからこそ、

提督「どこに行ってたんだ?」

顔を上げた瞬間、首を掴み上げられたときも不測の事態に対応できた。

もちろん、事後で、だ。

大津「・・・」

提督「か、はっ・・・」

鳩尾に刃物を突き立てられたのはすぐにわかった。

対応というのは、そこでパニックにならずに済んだ、というわけなのであって。

提督「こ、れは・・・」

大津「サヨウナラ」

首を掴んでいた手を放し、提督はその場にうつ伏せに倒れこんだ。

提督「ぐぅ・・・っ!」

だが、彼女の計画がうまくいったのもそこまでだった。

扉を振り返った先で到着した五人の巡視兵たちの姿に、大津は足を止めた。

大津「ドウシ、て・・・」

提督は渾身の力で体を仰向かせ、大津の体の陰から出ると、

提督「っ」

右手拳を突き上げ、親指を立てた。

五発の銃声が鎮守府に響き渡った。

提督「ふー・・・、ふーっ」

落ち着かせようと、呼吸を整える。

五月雨「提督!今の音は・・・、提督!?」

銃声の直後、五月雨が部屋の扉をけり開けて飛び出した。

五月雨が言うまでも無く、すでに巡視兵の一人が医務室に駆け出していた。

五月雨「それに・・・、大津、さん・・・?」

隣には胴から血を流して倒れている大津が居た。

医師「はい、通りますよー。はい」

せーの、という掛け声とともに、提督を担架に乗せて巡視兵が運び出した。

提督「五、月雨ッ」

一瞬だけ気絶していた提督は、目を覚まし五月雨を呼んだ。

五月雨「駄目です、喋らないでください!」

それを無視して、提督は喋り続けた。

提督「現時刻を以て、舞鶴鎮守府の全指揮権を一時的に五月雨に委譲する」

本当は喋るのも辛いが、これだけは言わなければならない。

提督「五月雨、第一種戦闘配備だ・・・!全艦娘に出撃命令をっ、・・・出せぇッ」

五月雨「どうしてですか!?」

提督「理由はっ・・・、わからな、いが・・・」

五月雨「提督!?」

飛びそうになる意識をなんとか引き戻す。

急いでいるせいでゆれる担架の上で痛みをこらえて言った。

提督「さっさとやるんだっ、お前、五月雨を・・・、補佐しろ・・・」

指された巡視兵が敬礼し、五月雨とともに執務室に引き返していく。

巡視兵C「五月雨さんは出撃場所へ。私が館内放送で緊急命令を出します」

巡視兵が警鐘を鳴らし、マイクを手に取った。

巡視兵C「全艦戦闘態勢。現在龍花司令官は負傷中のため指揮官は五月雨、補佐は私に委譲された。全艦戦闘態勢、鎮守府近海へ出撃せよ。これは演習ではない、繰り返す、これは演習ではない」

食堂で談笑していた者、自室で仮眠をとっていた者、中庭で遊んでいた者が目の色を変え一斉に走り出した。

京都府沿岸。一六四五。

扶桑「五月雨さん、提督が負傷ってどういうことですか」

五月雨「提督は飛行場姫に腹部を刺され意識不明の重体です。提督の敵襲が来る可能性が高いとの命令により、私に指揮権が一時譲与されました」

涼風「提督・・・」

秋月「皆さん!」

秋月が叫んだ。

秋月「電波山報告!先の目標、大編隊、感一近づく!距離約130km、方位0-1-0、一六四五!」

赤城「皆さん、烈風の準備はできていますね」

加賀「舞鶴鎮守府に、提督に仇なす者の仲間は一人残らず許さない」

加賀の目は殺意に燃えていた。

隼鷹「舞鶴には指一本触れさせないよっと」

飛鷹「準備できてます!」

大鳳「私も大丈夫!」

赤城「迎撃隊、全機発艦!」
後方で、弾薬燃料の補給を終えたばかりの艦娘を見送った技術主任が命令を出す。

技主「おい!早くエンジンをつけろ!ありったけの火力を積むんだ!」

技師「ですが試運転もしていませんよ!?」

技主「細工された箇所は問題なく直してある!早くしろ!」

再武装された舞鶴の心臓が、静かな唸りとともに動き出した。

その中で、他の隊員が誘爆しかねない倉庫内の燃料と弾薬を急ぎ退避させる。

秋月「雲行きが怪しいですね・・・。追い風になったら発着艦が困難になります」

赤城「そのときは峰山防空基地に緊急対応をしてもらうよう編隊長にはすでに指示してあります」

秋月「わかりました」

舞鶴鎮守府医務室。一六五○。

医師「麻酔がやっときいてきたな。さっさと縫合してしまわなければ」

巡視兵A「舞鶴中央病院から救急車出動を確認しました」

巡視兵B「大津はどうしますか」

敢えて頭ではなく、胴体部分を狙われた大津は意識を失ったまま隣の寝台に寝かされていた。

医師「そいつは人間とは違う。その程度で即死するほどのものではないだろう」

巡視兵A「・・・持ち場に戻るぞ。今こそ鎮守府の警備を強化しなければならない時だ」

巡視兵B「了解」

洋上製油所。一七一二。

工場長「俺たちの視界内を堂々と突っ切っていやがる・・・」

肉眼で見えるほどの距離で、艦隊が海を航行していた。

工場長「舞鶴が標的なのは確認するまでもないことだろうな」

妹「・・・どうするの?」

工場長「聞かれるまでもない。41cm中央砲、他全砲、目標視界内の全深海棲艦。撃てッ!」

地面から顔を出している砲口が、舞鶴に行かせまいと猛然と火を噴いた。

京都府沿岸。一七一三。

赤城「味方戦闘機が交戦を開始しました!」

五月雨「本土防空はすべて赤城さん達空母に任せます!私たち水上打撃部隊はこれより前進、敵水上艦隊の迎撃に移ります!暁さんたち四人、秋月さん、名取さんと長良さんはこの場に残り空母護衛の任についてください!

名取「わかりました!」

暁「ここは任せていいから!」

五月雨「総員、第一警戒航行序列、最大戦速、針路0-1-0!」

扶桑「了解!第一警戒航行序列、最大戦速、針路0-1-0!」

そして、電探に反応が無いかとスコープを覗いたとき、手に何か冷たいものが当たった。

刹那、雷鳴が響き渡る。

搭乗員B「五月雨さん!スコールだ!この先はかなり視界が狭まってくる!気をつけて!」

五月雨「わかりました。皆さん、電探に目を凝らしてください!目視索敵は困難です!」

扶桑「了解!」

一七三一。

扶桑「電探に感あり!戦艦と思しき大きい艦隊反応、感一!距離約30km、右舷20度!」

五月雨「距離30km・・・」

言われた方向へ電波を向け、該当距離付近の波を拡大する。

五月雨「距離約34km!敵はまだこちらに気づいていないようです!」

扶桑「偵察機さえ飛ばせれば・・・!」

ビスマルク「・・・何言ってるのよ。偵察機なんか無くたっていいじゃない。八月の間の遠距離砲撃の訓練は何の意味も無かったなんて言わせないわよ」

プリンツ「お姉さまの言うとおりですよ!皆さん!」

山城「そうですね・・・、提督の訓練もあながち間違いともいえないのかもしれません」

扶桑「25kmまで入れば当てられます!」

五月雨「了解、じゃあ駆逐艦の私たちは前に出て魚雷攻撃の準備に入りますよ!」

白露「でもこんな時化じゃ魚雷なんて当たらないよっ!」

五月雨「それでも撃たないよりはマシです!」

夕立「わ、わかったっぽい!」

涼風「舞鶴が攻撃されるかもしれないって時に、司令官の言葉に一々反応してる時間なんて無いんじゃないの!」

春雨「はっ、春雨、がんばります!」

五月雨「距離26km、第一艦隊、全主砲砲弾装填!」

扶桑「全主砲装填、射撃よーい!よし!」

五月雨「目標敵戦艦、発射!」

扶桑「撃ぇッ!」

一七四一。救急車内。

救命士「出血が酷いな・・・、龍花さんの血液型はBであってるんですよね?」

提督がようやく救急車の中に運び込まれた。

医師「はい、龍花提督はB型です」

救命士「龍花提督でしたね。龍花提督、聞こえますか?」

痛み止めと輸血を受けながら、意識が回復した提督が言った。

提督「聞こえてるよ・・・、すまん、ちょっと」

医師とともに乗り込んだ巡視兵に目を向ける。

巡視兵E「はい」

提督「すぐに大本営と、ここの防空基地に連絡を入れて沿岸に対空砲を設置させろ。空襲がきてもおかしくないんだ・・・」

救命士「空襲ですって?」

狐につままれたような顔で、救命士が答えた。

救命士「そんな気配は海にはありませんでしたよ?」

提督「ただでさえもう一時間以上経ってる。急ぎ通報しろッ」

巡視兵E「了解しました。すいません、ここの無線使わさせていただきます」

運転手「これを」

片手でハンドルを握りながら、運転手がコードを伸ばし無線機を渡した。



一七五○。

大鳳「この音は何でしょう・・・?」

遠くからなにか甲高い音が聞こえ始めたのを、大鳳が聞きつけた。

赤城「おそらく空襲警報です。提督が命令したのでしょう」

飛鷹「・・・なら、提督は意識を取り戻したってことでいいの?」

赤城「おそらくそうです」

隼鷹「提督のことで安心するのはいいんだけどさ。加賀がさっきも言ってたけど、敵の艦載機が何故か後ろへ退いてる」

加賀「ええ・・・、何かおかしい」

赤城「艦載機を処理できるだけの対空能力を持った敵が現れる、とか?」

提督、とつい質問しそうになってしまったが、直前で思いとどまった。

それは他の者も同じようで、どうすればいいのか判断が出来ないでいた。

名取「でも、全部で三百機を超える数を一掃出来るだけの兵装をもつだなんて・・・。この前の陸上型の敵ぐらいじゃないですか?」

長良「そうともいいきれない。一気に掃除するんじゃないのかもしれないよ」

赤城「どういうことでしょうか」

長良「戦艦棲姫並みの装甲を持った対空砲艦だと仮定するなら、攻撃を受けつつ、交わしながら徐々に削っていく戦法をとるかもしれない」

赤城「となると、その周りには」

五月雨「赤城さん!聞こえますか!」

赤城「聞こえます!」

現空域を離脱するか否かを悩んでいる所へ、五月雨が無線を飛ばした。

五月雨「こちらの連合艦隊が艦載機群による集中爆撃を受けています!直ちに支援戦闘機をこちらに寄越してください!」

赤城「了解、直ちに私たちもそちらへ急行します」

五月雨「っ、扶桑さん、敵艦種判別つきませんか!?」

扶桑「無理です、見えません!先ほどの一斉射撃弾着観測できず!第二射用意!」

プリンツ「第二斉射、主砲装填完了」

扶桑「一斉射撃、撃てッ!」

重低音が、雷鳴と重なった。

扶桑「弾着確認!敵重巡洋艦二隻、駆逐艦二隻轟沈を確認!」

山城「全艦へ通達、間もなく敵艦隊距離約20kmに入ります!」

五月雨「皆、こっちはそろそろ10kmを切るよ!」

夕立「雨がどんどん烈しくなってきてるし、砲弾も避けなきゃだし・・・!」

この時なら提督だったらどう命令するか、必死に考えをめぐらせ顔を上げた。

と、唐突に既視感を覚えた。

・・・激しい嵐のせいで視界が聞かず、偵察機を飛ばせない。

嫌な爆発音が耳に届いた。

プリンツ「プリンツオイゲン装甲貫通、機関部に異常発生しました!」

ビスマルク「下がってッ!」

機関出力低下を確認した敵が、プリンツに照準をつけたのを察知したビスマルクが慌てて庇いにはいる。

プリンツ「姉様!?」

ビスマルク「・・・これぐらいどうってことないわ。ビスマルク級の装甲をなめないで貰いたいものね!」

まだ着任して間もない頃の、始めて提督が怒鳴った時のことだ。

でもあの時は違い、皆の練度も高いし、十分整備された電探もある。

扶桑「どうしますか、五月雨さん!」

五月雨「・・・」

作戦完遂よりも、皆の無事を優先する提督だったらどうするか。

五月雨「全艦転進、最大戦速!母校へ帰投してください!」

赤城「しかし、それでは敵機が「こちらが嵐で飛ばせないなら」

五月雨「敵も同様に飛ばせないはずです。沿岸で向かい撃ちましょう。この嵐の中航行を続ければ、艦隊を落伍してしまう人が出るかもしれません」

赤城「わかりました。編隊長!」

搭乗員B「命令どおり帰投している最中です!」

赤城「連合艦隊の皆さんを出来る限り援護できますか?」

搭乗員B「了解、三十番機まで、俺について来い!」

二-三十「了解」

赤城たちが待機する後方から、給油を終えた舞鶴が出てきた。

赤城「提督!?」

副長「いえ、提督はまだ戻っておられません。まだ艦隊指揮権は五月雨さんが持っています。遅ればせながら、援護に来させていただきました」

砲雷長「長十センチ砲三門、発射準備完了」

船務長「対空、対水上電探稼動問題なし」

航海長「機関に異常見られず」

舞鶴の登場と同時に、艦隊から近い海岸に高射特科兵団が準備を整え終えた。

五月雨「第一連合艦隊の皆さんは対水上艦射撃の用意をしてください。空は私達の仕事ではありません」

扶桑「了解です」

連合艦隊も、空母群の前へ到着した。

秋月「敵戦闘機群反応、引き返してきています」

緊張に震える声で、秋月が報告する。

秋月「編隊大、感二、距離144km、方位0-0-0、○六一○」

加賀「このあたりはまだ雨はそれほど強くない。風も向かい風になってきている」

五月雨「では、迎撃機、全機発艦用意」

赤城「了解」

弓を限界まで引き絞り、一点を見据え止まった。

五月雨「全機、直ちに発艦!」

赤城「了解、全機、発艦してください!」

夏の本土侵略を繰り返すわけには行かない。舞鶴鎮守府には手を触れさせない。

五月雨「扶桑さん、敵艦隊の反応は!」

扶桑「今のところそれと思しき影は目視できていません」

五月雨「一体どこに・・・」

提督「豪雨が起きているのはここから20km程度先。目視確認できなくても問題ない。電探を見ていろ」

五月雨「了解」

五月雨がいつものように答え、皆もそれに違和感を覚えていなかった。

五月雨「・・・提督?」

提督「一時間もあれば血ぐらいは止まるぞ」

五月雨「ご無事なんですか!?どうして病院にいかないんですか!?馬鹿なんですか!?」

加賀「提督・・・、ご無事で何よりです」

提督「この緊急事態に病院に行っている暇なんかあるものか。今は司令室から無線を飛ばしてる。ここに座るのも随分久しぶりだ。にしても随分雑音がひどい、通信装置の点検は行っているのか?」

五月雨「問題ないは、す」

提督「・・・呉鎮守府にはもう応援部隊を要請してある。到着は八時間後だ」

五月雨「八時間・・・」

提督「八時間ぐらい、たかが迎撃程度お前らなら持ちこたえられるはずだ」

五月雨「了解です」

提督「応援が到着後、敵を撃退したとしても勝ちとはならない。敵の支部を潰して初めて勝利といえることを忘れないように」

五月雨「しかし、この雨の、ど、捜索す、ですか?」

提督「まさか・・・、編隊長、聞こえるか」

搭乗員B「・・・・」

提督「編隊長、応答しろ!」

提督「五月雨!」

赤城「無線、故・・・、連、が・・・、ん」

徐々に雑音がひどくなり始めていた。

五月雨「秋月さんっ!」

無線機に早々に見切りをつけ、出せる限りの大声で五月雨が連絡を取る。

秋月「もし敵機が先ほど発見したときのまま接近しているなら、迎撃機との交戦空域まで残り約25km!」

扶桑「敵水上艦の反応は未だ確認できず!引き続き索敵を続けます!」

その時、見張り員が鎮守府で光るものを肉眼で捕らえた。

見張り員「司令室よりモールス信号・・・、魚雷装填、発射準備をせよとのことです!」」

見張り員は拡声器を手にして喉を壊さんばかりに声を張り上げていた。

五月雨「了解、魚雷装填、発射準備完了!」

見張り員「深度10m、直進、最大雷速で発射せよ!」

五月雨「敵も見えていないのになぜ魚雷を発射するんですか!こちらの位置を気取られるかもしれませんよ!?」

副長「皆さん、先ほどまでは、霧がかかっているのは本艦から約21km先でした。ですが今はおそらく16km程です」

それを引き継ぐように、見張り員が叫ぶ。

見張り員「これはおそらく敵の電波欺瞞作戦であろうとのこと!目視索敵を厳とせよ!」

その報告に五月雨が息を呑む音が聞こえた。

五月雨「了解、目視で敵を確認します!」

見張り員「発射!」

五月雨「了解!魚雷全発射!」

五連装魚雷発射管、三十本の魚雷が着水した。

波が高くなりつつある海の中を、徐々に航跡を消しながら魚雷が航走しはじめた。

扶桑「・・・私たちはここから遠距離砲撃で迎え撃つしかないようですね」

ビスマルク「距離15km程度なら初発命中よ。問題ないわ」

扶桑「提督、伊達に一年も戦艦として戦っていませんからね」

ビスマルクと扶桑が目を合わせ、微笑んだ。

五月雨「全主砲、弾丸装填!」

扶桑「・・・皆さん、無線が息を吹き返しました。了解、全砲門、弾丸装填」

強い向かい風のせいか、ものの数分で電波欺瞞の影が晴れ始めていた。

そして、濃い霧の中から敵の影が見えた。

五月雨「敵影確認、数、十四!全て戦艦と思われます!」

報告と同時に、水中がそのうちの数隻から上がった。

提督「五月雨、聞こえるか!?」

五月雨「提督、無線感度良好、問題ありません!」

提督「このあたりの風速が20mに達し始めてる!そっちは大丈夫か!」

扶桑「波が高いですが、問題ありません」

五月雨「目標敵戦艦、全主砲、撃ぇっ!」

扶桑「了解、目標敵戦艦、全主砲、一斉射ァッ!」

秋月「敵機射程範囲内に突入します!対空迎撃、撃ち方始めッ!」

息を合わせ、高射特科兵と秋月ら対空砲艦が射撃を開始する。

提督「・・・とりあえずはもたせられるか・・・?」

医師「あまり興奮しすぎないように。傷が開く恐れがあります」

提督「そういえば、五月雨から指揮権を返してもらってなかったな・・・」

大津「私はどうなるのかしら」

出し抜けに、巡視兵に銃を突きつけられながら後を突いてきていた大津が口を開いた。

提督「大本営に送ることになるな」

感情を消して、提督が冷淡に言い放った。

大津「・・・送られたら、そこで私は何をされるの?」

提督「拷問されるんだろ」

大津「痛い?」

提督「想像を絶するものだろうな」

大津「痛いのは・・・、嫌よ」

提督「俺の腹を刺しておいて、自分は傷つきたくない、か・・・。深海棲艦のくせに生意気なことを言うものだ」

大津「・・・そうよね」

扶桑「第一射弾着確認、敵艦二隻轟沈、三隻大破!」

提督「直ちに次弾装填、命令を待たず発射しろ」

扶桑「第二射装填・・・、全砲門、撃ぇッ!」

司令室から彼女らが戦っている姿がかすかに見えた。

大津「もうここには置いてくれない?」

提督「しつこいぞ」

提督が静かにしろと言おうとした時、無線が入った。

飛龍「こちら呉鎮守府航空艦隊旗艦飛龍です。まもなくそちらの空域にこちらの戦闘機が到着します」

提督「予定よりかなり早く嵐が接近している。操縦士には細心の注意を払うよう伝えておいてくれ」

飛龍「了解しました」



本日はここまでです。ありがとうございました。

中途半端に見えるかもしれませんが中途半端ではないのです、多分。

それにしても電探って、現代のレーダーみたいに見えるのだとばかり思っていました・・・。

早々すみません・・・。

>>201で、猟奇的な殺人未遂がおきかけてますが変換ミスです。

乙レスありがとうございます。

禿げるどころじゃすみませんよ・・・

ちょっと一週間ほど書いていませんでした。

そこでなのですが、またちょっと絡み等アイデアをいただければと。
よろしくお願いします。
数は問いません。

ありがとうございます。

ようやっと書きたくなってきましたので、書いていきます。
投下は四日内に行います。

またまた今回も小規模になってしまいましたですっ。




秋月「暁さんッ、撃ち漏らしはお願いしましたよッ!」

暁「わかってるっ!」

提督「全艦へ、援軍到着まで残り一時間前後だ。それまで踏ん張ってくれ。舞鶴鎮守府はともかくとしても、一般市民の居住域を敵の戦火にさらすわけには行かない」

五月雨「了解!」

未だ軍令部からの通達は届いていない。

ここまで本土への接近を許せば、何か言ってくると思っていたのだが。

水測員「てっ、敵艦発砲!弾着まで数秒です!」

五月雨「全艦防御態勢をとってください!」

五月雨の号令に、大津が言った。

大津「私たちの狙いは艦娘じゃない」

提督「じゃあ、一体誰を狙うって言うんだよ!?」

そんなこともわからないのかと、大津が呆れたようにため息を付いて提督を見た。

大津「十一月、西号作戦、南鳥島奪還作戦。この一年の間に私たちに大損害を被らせる原因となった張本人はあなたよ。司令官。あなたは、そうね・・・、いうなれば、頑張りすぎたのよ」

五月雨「!?」

敵戦艦の放った砲弾は、艦隊の頭上を飛んでいった。

扶桑「提督ッ、聞こえますか!?」

その弾道を見た扶桑が事態を察知する。

大津「もう少し、一ヶ月ぐらいは殺さないことにしてたのだけれど。バレてたんじゃ意味ないわよね」

巡視兵B「貴様、提督の目の前でよくもそんな狼藉を働けるものだな!恥を知れ!」

素早く巡視兵が構えた銃から、弾が出ることはなかった。

巡視兵B「・・・、武器は、没収したはず・・・」

大津「深海棲艦って、艦娘とは腕力が違うのよ」

巡視兵の体に、大津の腕が突き刺されていた。

提督「なんてことをッ「道連れよ」

大津「私も死ぬことになるかもしれないけど。あなたを殺すことができればこの作戦は一応完了するのだし」

腹に突き刺さっていた腕を、夥しい量の鮮血とともに大津が引きぬいた。

執務室の床に血溜まりができていく。

医師「っ」

咄嗟に部屋を飛び出ようとした医者の首を、大津が手刀で叩き折る。

巡視兵B「提督っ、逃、げて・・・」

虫の息ではあったが、提督に目を向けて巡視兵が言った。

提督「・・・大津、お前ってやつは・・・」

大津「私に殺されるか、私の仲間に殺されるか、どちらかしかないわよ」

そう言って大津が微笑んだ途端、鎮守府敷地内に砲弾が着弾した。

部屋で爆弾が破裂したのかと思えるほどの轟音が響く。

鎮守府倉庫群の一つから火の手が上がる中、容赦なく鎮守府本棟にも弾丸が届きはじめる。

扉の前には大津がいる、窓から飛び降りようにも地面までは二十メートル以上ある。

こいつは死なないで俺だけが死ぬなんていう最悪の結末を迎える可能性がある。

提督「大津・・・、君は、初めて会った時俺のことを司令官と呼んだが」

下の階から轟音が上がった。

そろそろ司令室に照準が合うだろう。

大津「感情に訴えようとするならやるだけ無駄よ。私はその時のこととはもう決別した。引きずるような女じゃない」

提督「・・・そうか。なら・・・、お前は日本軍人の精神、教育課程で骨の髄まで教え込まれる信条を知ってるか?」

大津「何」

提督「敵に殺されるとわかっている状況で、殺されるぐらいなら、自分で死ねと言われるんだよ」

引き出しを開け、小さな軍刀を取り出した。

大津「・・・自分で死にたいのならどうぞ。私が死ななくて済むなら願ったり叶ったりよ」

鞘から刀身を引きぬく。

躊躇うことなく提督は自身の腹部に暴力的に輝く刀身を突き刺した。

提督「そして・・・、その隙を突いてでも敵を殺せと、教え込まれるのさ」

崩れ落ちた膝の前に横たわる巡視兵の銃を取り上げ、背を向けた大津の後頭部に狙いを定めた。

息を止めて、引き金を絞った。

そこまで終わった時、初めて背後で五月雨が自分のことを呼んでいることに気づいた。

そして、下腹部を両手で抑える。

提督「はっ・・・、なんてね」

柄の中に引っ込んでいた模擬刀身を引っ張りだした。

五月雨を驚かそうとして買ったただの玩具だ。

お腹に突き刺しているようにみせるため、わずかな力で見えている刀身部分が持ち手の中に引っ込むようになっている。

五月雨「提督、そちらは大丈夫ですか!?応答してください!」

無線機から聞こえる声に気を引き締める。

提督「第三射、全砲門砲撃用意!」

扶桑「第三射砲撃準備完了。全砲門、撃ぇ!」

未だ届き続ける敵砲弾の音を聞きながら、提督は床に倒れた大津を見やる。

提督「自分の尻は自分で拭わないとな」

と、提督はそこで危機に気づいた。

提督「・・・鎮守府傾いてる」

窓から下を見れば、階下の外壁にヒビが入り埃が出ている。

コンクリート壁の亀裂が滑り始めているのだ。

提督「まずいぞこれはッ!」

窓から飛び降りるのではなく、急いで正面玄関から外へ出ることにした。

してしまった。

二一○○。舞鶴鎮守府正面玄関。

偽装の修理作業をようやく終え、五月雨らは帰路についていた。

敵戦艦群の増援が来ることはなかったが、第三射までの陸地砲撃を許してしまった。

そしてその第三射目の弾着を確認したのか、彼女らはそのまま引き返していった。

扶桑「六隻、十四隻のうち八隻を取り逃しましたね・・・」

五月雨「仕方ありません。おいかけてもよかったのかもしれませんが、提督の無事を確認しないと」

だが、彼女らは修理を急ぐあまりドックから見える鎮守府を見ていなかった。

二階から上が完全崩落し、正面玄関のあった場所も今では影も形もなくなっていた。

五月雨「提督ッ」

扶桑「急いで瓦礫をどかしましょう!下敷きになっている可能性があります!」

それから約五時間。

妖精が持ちだした重機やら、艦娘が総出で捜索し続ける中、華奢な腕で大振りの瓦礫を持ち上げた暁が声を上げた。

暁「司令官、大丈夫!?」

首から下が瓦礫に隠れた状態で、提督がそこにいた。

提督「ずっとこのままかと思ってたぜ・・・」

電「とりあえずお医者さんを呼ぶのです!」

提督「いや・・・、救急車にしろ。医者は居ない、死んでしまった」

本来なら病院へ向かうところだった救急車を進路変更させた際、鎮守府前で待っていてくれと言っておいたがおそらくもう帰ってしまっただろう。

電「わ、わかったのです!」

扶桑「引っ張りだしても大丈夫そうですか?」

提督「・・・、引っ張りだすのは後にしてくれ」

扶桑「わかりました」

提督「(あいつらからは見えないか・・・)」

左腕の生存は確認した。でもどうやら右腕は息をしていない。

電「ここからすぐ近くにいるから、すぐ来るって言ってたのです!」

提督「そうか、なんだ・・・、待っててくれてたんだな」

提督「とりあえず指揮権は俺に返してもらうぞ、五月雨」

五月雨「もう自動的に返却したようなものですよ。今はそんなことどうでもいいじゃないですか」

傍に来た五月雨が、提督のおどけた口調に釣られて笑った。

その笑顔も、瓦礫がどかされた瞬間消え失せたのだが。

九月十八日。舞鶴中央綜合病院ベッド上。

絶対安静を条件に、鎮守府に戻ることを許された。

提督「俺右利きだったのになぁ・・・」

さっきも右側にいる五月雨に手を伸ばそうとして、ないと気づいて絶望したばかりだ。

提督「はぁ・・・」

当の五月雨は事務仕事を肩代わりすると言ってどこかへ戻っていった。

今いるのは間宮である。

間宮「提督、少し五月雨さんを頼り過ぎなんじゃないですか?」

提督「確かに・・・、それはあるかもしれない。五月雨には案外世話になりまくってるのかもしれんなぁ」

間宮「いえ、そういうことではなくて・・・」

提督「じゃあ、どういうことなんだ?」

間宮「・・・こういうことは提督に申し上げるのは控えようと思っていましたが・・・、やはり言っておきます」

提督「ん?」

間宮「五月雨さんと結婚されてから、提督は五月雨さんをよく気にかけておられますよね」

提督「・・・そう見えるか?」

間宮「はい、そう見えます。そして、それをあまり快く思っていない人もいるのです」

提督「・・・つまり?」

間宮「提督ご自身は自覚されていないかもしれませんが、他の艦娘に対しても平等に接してあげてください」

提督「・・・わかってはいるんだけど、その平等ってのがわからないんだ」

提督「五月雨相手に良くするようなノリが通じない奴だっている。そういうのって、丸投げにするようだけど、どうすればいいんだ?」

間宮は、執務室前まできたはいいが、そのまま引き返しくといった艦娘を何人か目撃している。

主に白露型の面々で、涼風に関しては気にしているのかしていないのかどうにもわからない。

春雨と涼風に関しては、そういう傾向が一切見えないのだ。

提督「自分で考えろと言われれば返す言葉もないけどさ。ていうか、入院中に話すことかよ?」

苦笑しつつ、提督が言った。

間宮「入院中だからこそ、です。じっくり考えてほしかったんです。でもわからないなら、・・・、鎮守府内を暇あれば歩いてみるというのはどうでしょう?」

提督「歩くだって?」

間宮「とりあえず、騙されたと思ってやってみてください」

提督「・・・間宮がそう言うなら。なんにせよ怪我が治ってからだな」

間宮「当たり前です」

九月十九日。舞鶴中央綜合病院。午前八時。

白露「提督ー」

夕立「怪我はもう大丈夫っぽい?」

白露と夕立の二人が、朝早く病室に入ってきた。

提督「あと一ヶ月はこのままにしていてくれと言われたよ」

夕立「右腕はもう治らないっぽい?」

夕立が、提督の右半身を見ながら言った。

提督「まぁな、さすがにまた生えてきたりはしないだろ」

白露「提督が病院に運ばれ後五月雨がさぁ、またうるさくって・・・」

容易に想像することができて、思わず笑ってしまった。

提督「左でものを書く練習をしないといけなくなるだろうなぁ・・・」

それきり話が止まってしまったので、提督が思い切って聞いてみることにした。

提督「なぁ」

白露「?」

提督「どっか行きたいところとかないか?」

白露「行きたいところ?」

夕立「・・・それこそ、五月雨と行ってきたほうがいいっぽいよ?」

提督「お前らは、行きたいところないのか?」

白露「そりゃあありますけど・・・」

提督「お前らまで五月雨五月雨なんて言い出さないでくれよ。実際、五月雨と結婚してから他の娘と話す機会が減ってるのは事実だ。遠慮なんてしないでくれ」

提督「それに、こんなのは全ての部下に平等に接するという俺の信条に反するからな」

夕立「んー・・・、じゃあアメリカに行きたいっぽい!」

提督「それは無理だ。国内にしてくれ」

即却下した。

白露「じゃあじゃあ、帝都に行きたい!」

提督「東京・・・、それこそ何もすることなくないか?何かしたいことでもあったりするの?」

白露「ううん、見てみたいだけ」

提督「そうだな・・・、わかった。退院できるようになったら皆で行こうか」

白露「ほんとに!?」

提督「怪我が治ったばかりだから休暇でも無理矢理ぶんどってくるさ」

夕立「それじゃあもう皆に伝えに行ってくるっぽい!」

提督「おう、そうしてくれ」

病室に来て十分も経っていないが、二人は部屋を出て行った。

それからほどなくして、五月雨が病室に来た。

提督「どした?」

五月雨「提督・・・、ありがとうございます」

提督「な、なにが?」

五月雨「いくら嫁と言っても、多少我慢ぐらいは覚えるべきでした」

提督「あぁ・・・、もう耳に入ったんだな」

五月雨「白露と夕立が大声で叫んでましたから」

提督「その、まぁ、なんだ?まだ時間はあるのだし。やり直しはまだ利くだろ」

五月雨「ですかね」

提督「お前には俺の右腕として働いてもらわなくちゃならんのだからな。もっとシャキッとしてくれないと困るぞ」

ベッドの左に立った五月雨の腹を軽く小突いた。

五月雨「はぅっ」

が、思いがけない反応に提督も驚いてしまった。

提督「どっ、どうしたっ?い、痛かったか?」

五月雨「いきなりだったから驚いただけですっ」

顔を真赤にして、五月雨がそっぽを向いた。

提督「・・・にしても、お前と結婚とかするまでは皆遠慮せずに話しかけたりしてくれてたからなぁ・・・。こんなに影響が出るとは予想してなかったよ」

五月雨「私も一応なんとかできないかなって思ってたんですけど、なかなか難しくって・・・」

五月雨「(提督といるだけで忘れちゃうし・・・)」

提督「にしても東京かぁ、なんかあるかな?」

五月雨「提督こそ知って、って、提督新潟でしたっけ」

提督「俺が海軍士官学校で教育課程を過ごしてた時からもう二十年近く経ってるから。あの頃の俺の記憶じゃ使い物にならんだろ?」

五月雨「それもそうですね・・・」

五月雨「私が所属してた鎮守府、帝都に近いは近かったですけど、横須賀ですからあんまりお力にはなれそうにないです」

提督「間宮ならもしかしたらなにか知ってるかもしれないな」

一二○○。舞鶴市綜合病院ベッド上。

正午になると、何故か間宮が病室まで荷台に乗せて料理を運んできた。

間宮「提督、起き上がれそうですか?」

提督「まだ自力では起き上がれそうにない、かな」

そう言うと、間宮がベッドの形を変え、提督が上半身を起こすようにする。

提督「・・・まるで老人にでもなった気分だ」

間宮「自分で食べられます?」

提督「本当なら手伝ってもらいたいところだ・・・。でも慣れなきゃいけないし、自分で食べるよ」

間宮「わかりました。では、三十分程したら戻ってきますね」

提督「あ、と、その前に」

間宮「はい?」

提督「東京について何かしらないか?」

間宮「東京、ですか?」

突然どうしたんだろう、という風に間宮は首を傾げたが、すぐに納得顔になった。

間宮「私も一緒に連れて行ってくださるなら、ご案内しますよ?」

提督「最初からお前を置いていこうだなんて思ってないぞ・・・」

間宮「あら、そうでしたか」

提督「とりあえず間宮が東京について知ってるんならよかったよ。あっちに行った時はよろしく頼むぞ」

間宮「任せてください。そういうことならいつでも相談に乗りますから」

九月二十日。舞鶴中央綜合病院ベッド上。午後二時。

先生「よぉ」

長月「邪魔するぞ」

呉鎮守府の二人が見舞いにやってきた。

先生「どうだ?右腕がなくなった気分は?」

提督「まだそこにある感覚がして気味悪いったら無いですよ。幻肢痛?とかで、右手が痛むんです」

先生「げんしつう?」

長月「脳がまだそこに腕があると思い込んでて、ないはずの痛みを感じてしまう現象のことだろう」

先生「かなり痛むのか?」

提督「いえ、俺の場合はそれほどでもないようです」

先生「義手か何かを作ってやれればいいんだが、半端なものじゃ邪魔になるだけだしな。どの道今の日本の重工業への注力具合じゃまだ先になるだろう」

それから呉の近況など話し、終わったタイミングを狙って、

提督「俺の部下は元気にやれてますか?」

思いついた疑問を、提督はそのまま口にした。

舞鶴鎮守府の再建築は夜通し行われ続けているが、まだ一ヶ月以上は先になる。

その間艦娘達は舞鶴鎮守府の近くに急造されたプレハブ小屋で過ごすことを強いられているのだ。

先生「一応聞かれるだろうと思ってな、見てきておいた。見る限りうまくやっているようだ。冷暖房も完備されているようだし、料理も間宮がいるなら問題ないように見える」

提督「そうですか・・・、それならよかった」

先生「兵士らもそこの警備あたっているから、防犯も問題無いだろう。さすがに身を隠す場所はないようだが」

提督「それで・・・、大本営からは?」

先生「大本営は疑っている。何もないのに提督が暗殺未遂にあったり、舞鶴鎮守府が砲撃に遭うなど言われてみれば疑うなという方が難しい話だ。龍花」

ポツダム宣言受諾後、海軍刑法は確かに廃止された。

だが、今は『日本海軍規則』など名前を変えて復活し、特別裁判所も再設されていた。

提督「はい」

先生「お前は日本海軍規則第二編第一章、叛乱の罪に問われている。怪我が治り次第本部から警察がお前の身柄を拘束しに来るだろう」

第二編第十章第二十三条六項、命令、通報もしくは報告を偽る、又は虚偽の命令、報告もしくは報告をすること、の、前者を疑われているのである。

提督「まさか大津が見つかった・・・?」

先生「せめて私には言っておくべきだったのではないか?」

提督「は、はい・・・」

先生「・・・なんにせよ、見つかったわけではないようだ。彼らはただ疑っているだけで、確信しているわけじゃない。まだ逃げ切ろうと思えば逃げ切ることはできるだろう」

絶望に侵食されつつあった提督の心が、少しだけ軽くなった。

提督「見つかる前に大津の死体を片付けなければ、今度こそ言い逃れができなくなってしまう・・・、俺の部下に伝言を「安心しろ」

先生「死体に関しては五月雨がすでに処分を済ませている」

提督「五月雨が話したんですか?」

それを聞いて、先生が溜息をつく。

先生「我ら司令官と、大本営の連中が少しも疑わないとでも思ってるのか?あの南鳥島で飛行場姫を撃破したというのに死体が出てこなかったんだぞ。当初こそは大本営は海に沈めたという報告を信じてくれているようだったが、こういう事態になってはそうもいかないようだ」

提督「五月雨が、死体を・・・」

先生「はぁ・・・、そこを心配するか・・・。年端もいかぬ少女というわけでもあるまい。あまり気に病みすぎるなよ。さて、私はこれで帰るが、なにか送ってほしいものがあれば言ってくれ」

提督「・・・いえ、特には。わざわざご足労頂いてありがとうございました」

先生「体を大事にしろよ」

そう言って、長月は敬礼をした後、二人は部屋を去っていこうとした。

が、途中で先生は途中で足を止めて振り返った。

先生「軍法会議の件、艦娘らには既に説明してしまったが、よかったか?」

提督「あぁ、いえ、問題ありません」

丁度どうやって説明したものかと迷っていたところだったのだ。

提督「となると・・・、弁護士を探さないといけないな」

十月十八日。横須賀鎮守府軍法会議場。午後七時。

伊東「被告人、前へ」

提督「はっ」

司令長官、元帥たる伊藤が裁判長を努め、他兵科将校四人、法務将校一人が席に座り、提督を見つめていた。

提督がしっかりとした足取りで、法廷中央へと進み出た。

伊藤「被告の、所属、年齢、氏名及び階級は」

提督「大日本帝国海軍舞鶴鎮守府司令長官、三十七歳、龍花少将です」

伊藤「龍花被告は、日本海軍規則第二編第一章、叛乱の罪、虚偽報告の容疑をかけられているが、間違いないか」

提督「私は、現在容疑をかけられている虚偽の報告について、事実無根であると断言致す次第です」

その後、数時間かけて現場検証の結果を発表されたり、現在の飛行場姫の場所などを執拗に聞かれ、その日で裁判は閉廷となった。

物的証拠が全てにおいて確認できないことや、ほとんどが推測の域を出ないことなどを提督が選任した弁護人が徹底的に追求した結果、龍花少将は上訴することもされることもなく、無罪放免と相成ったのであった。

十月十八日。午後十一時。舞鶴鎮守府に程近いプレハブ家屋。

提督は、玄関で歩哨している巡視兵に敬礼した後、鍵を開けてもらって中に入った。

歩くたびにどこかしら音が鳴るのが気になるが、そこは諦めるしかなかった。

提督「あれ・・・、執務室ってどこだ・・・?」

聞いておけばよかったと後悔しながら、壁に沿って作られた手摺を見つける。

提督「御配慮感謝感激、だな」

まだ体の重心を掴みかねるせいで、歩くのが若干不格好だが、なんとか階段を見つけた。

階段の踊場の壁には2/3とある。

元舞鶴鎮守府の執務室は三階にあったので、同じ作りであるならと思い三階を目指すことにした。

既に消灯時刻を過ぎているので、非常出口を示す淡い明かりを頼りにしつつ、ゆっくり階段を登る。

提督「よ、っと・・・」

三階についた。

暗闇になれた眼で、壁を眺めながら歩いて行くと、他の部屋の扉とは異なる様相のものを発見した。

ドアの隙間からは白い明かりが漏れている。

提督「ここかな」

そう呟いて、提督はドアを開けた。



五月雨「提督、遅いなぁ・・・」

午後十一時を回った時計を見ながら、それなりに調えられた執務室を眺め渡す。

昼に呉鎮守府の提督から、彼が軍法会議にかけられると聞いてからというもの、皆落ち着かいままだった。

叛乱の罪がもし立証されでもしてしまえば、問答無用で提督は死刑に処せられてしまうのである。

正直言って気が気でなかった。

だから、扉を開けた音がした途端目を向けて、そこに提督が立っていた時は止める間もなく涙が溢れ出てきてしまったのだ。

提督「お、おい、大丈夫か?」

扉を開けるや、泣きながら提督の胸に飛び込んできた五月雨を抱きとめながら提督は背中をさすってやった。

五月雨「提督を殺すのは私ですからぁッ!」

提督「・・・は?」

それはおかしいだろ、と泣き顔の五月雨を見るべく左腕で五月雨を離した。

五月雨「見ないでください、やめてぇ!」

提督「俺のためにこんなに泣いてくれる嫁がいるとは・・・、幸せすぎる・・・」

泣く五月雨、微笑む提督。

もしかしたら提督は若干サディスティックなところがあるのかもしれなかった。

提督「ていうかもう十一時だぞ。消灯、就寝時刻だろうが」

五月雨「そんなの知りません!」

提督「忘れられちゃったならしょうがないな・・・」

五月雨「そうそう、それでですね提督」

一緒に寝るかと言おうとしたら、五月雨が眼を拭って提督に言った。

五月雨「東京に行くのはいつごろになるんでしょうか?」

提督「気が早いな・・・。とりあえず歩く練習とかもしておかないといけないから、二十五日ぐらいになると思う」

五月雨「わかりました。では寝ましょう」

提督「お、おう・・・」


十月十九日。午前八時。仮舞鶴鎮守府廊下。

五月雨を執務室に残し、提督は仮鎮守府内を間宮の提案通り歩くことにした。

して、歩いてみればこの鎮守府、なかなかの広さである。

提督「あの時は暗かったからあんまり良く見えてなかったけど・・・、大体舞鶴の三分の二ぐらいの大きさはあるんじゃないのか・・・?」

杖をつきながら歩いていると、

加賀「提督、おはようございます」

提督「おう、おはよう」

加賀「朝早くにどうかされたのですか」

提督「いや、特に用はないんだけど・・・。暇を持て余してたから少し歩きまわってみようかなと。リハビリも兼ねて」

加賀「そうですか・・・」

提督「加賀は何か行くところでもあったのか?」

加賀「・・・トイレに」

提督「ん、あっ、ああ、すまん!野暮なことを聞いてしまった!」

加賀「い、いえ、お気になさらず・・・」

顔を赤くしたまま、加賀が提督のそばを過ぎ去っていった。

提督「不用意に歩きまわるのも考えものだな」

そう思って、食堂に入ることにした。


移動。仮舞鶴鎮守府食堂。

提督「お?」

扶桑が居た。

周りを見ても山城もいない。

提督「山城はどうしたんだ?」

席には座らずに声をかけてみた。

扶桑「山城に肩をほぐしてもらおうと、お願いしたのですが・・・、眠いというばかりで全く聞いてくれないのです・・・」

提督「え、肩凝ってるの?なんで?」

隣の席に腰を下ろした。

やっとこの時が来た!

扶桑は内心でサムズアップしていた。

扶桑「(この食堂で毎朝山城説き伏せた後に物憂げに過ごし続けること早三ヶ月。ようやく提督と二人きりになる機会がッ!)」

覚悟を決めると、扶桑は提督の腕を抱き込んだ。

提督「ふっ、扶桑?どうした?どっか行くのか?」

扶桑「提督なら、艦娘のケアをするのは大事なことですよね?」

提督「え・・・?そりゃあまぁ、そうだが・・・、それと今のこの状況になんの関係があるんだ・・・?」

扶桑「山城がやってくれないのなら、提督にマッサージをお願いしたいのです!」

提督「そのお願いをしてくれるのは嬉しいんだが・・・」

後ろ頭を掻きながら、提督が歯切れ悪そうに言う。

提督「その、女性に対するマッサージならやっぱり女性がするものだと俺は思うんだよ」

扶桑「いえ!提督でなければだめなのです!」

提督「ええ・・・、でも艦娘の凝りってどんな手加減でやったらいいかとかわかんないし」

扶桑「私が指示します」

提督「・・・で、どこでやるんだ?」

扶桑「浴場以外にないではないですか!」

提督「男湯にしろよせめて。あいつらの中には朝風呂をしている奴がいることぐらい俺は知ってるんだぞ」

扶桑「大丈夫です」

提督「一体何を以てして大丈夫だと「観念してください!」

扶桑「さぁ!行きますよ!」

艦娘の腕力には勝てなかった。


強制移動。仮舞鶴鎮守府浴場。

提督「プレハブなのにこんな湿気の多いところ用意して大丈夫なのか・・・?」

カビとか、湿気とかで建物が傷んだりしたいのだろうか。

扶桑「さぁ、提督も早く着替えてください」

提督「女湯・・・、頼むから誰も居ないでくれよ・・・?」

移動。女湯。

いた。

加賀と目があってしまった。

加賀「提督、女性を連れて女湯に入ってくるとは。どういうつもりなのでしょうか」

提督「いやッ、待ってくれ!すまない、お前がいると知っていればこんなことはしなかったんだ!今出て行くから!」

加賀「気づかないはずはありません。籠の中に私の着替えが入っていたはずです」

提督「そこもちゃんと確認したけど何もなかったぞ!?まさか扶桑お前」

扶桑「そこまでしないとついてきてくださらないと思いましたから・・・」

提督「いくらなんでもこりゃないぜ!?」

出ていこうとするのだが、扶桑が腕を掴んで離さないのだ。

見ればすでに加賀は自分の体を洗う作業に戻っていた。

提督「(なんで何も言わなくなっちゃったんだよ!)」

そして、タオルを床に敷いた扶桑が、その上に横たわった。

もちろん提督も前は隠している。

扶桑「では提督、お願いします」

提督「さ、触っていいのか・・・?」

提督「(いかん、変な気を起こしそうだ・・・)」

体の横に座って試みようとするが、それではどうもうまくいかない。

提督「えええええい、もう知らん!」

扶桑の腰の上にまたがって、背中の中央、背骨近辺を親指で、体重をかけて押しこんだ。

扶桑「あぁ・・・、提督・・・、そこです・・・」

提督「変な声出すんじゃねぇよ」

扶桑「提督はとことん奥手ですね」

提督「余計なお世話だ」

扶桑「でも気持ち良いのは本当ですから。続けてください」

提督「わかったわかった」

提督「(綺麗な肌してるよなぁ、やっぱり)」

予想してた通りの、透き通るようで、きめ細かい肌だった。

赤城「加賀さん、遅くなりましたー」

提督「えっ!?」

加賀「赤城さん、何かあったのですか?」

赤城「化粧水を入れた瓶がなかなか見つからなくて・・・、あら?」

赤城が、扶桑の腰にまたがる提督を発見した。

赤城「あらあら・・・、朝からお盛んですね・・・」

ポッ、と両頬に手を当てて赤城が顔を背ける。

提督「違う!ただのマッサージだ、見ればわかるだろうっ」

赤城「私が頼んだらきっとそんなことしてくれませんよね・・・」

提督「お前がマッサージだけで済ませてくれるとは思えないからな」

赤城「あ、わかりますか?」

提督「伊達にお前の上司やってねぇから」

赤城「そういえば、加賀さんのぼせてないですか?」

加賀「どうしてです?」

赤城「顔真っ赤ですよ?」

加賀「そ、それは、元々体温が高いから・・・」

加賀の平熱は37.6度だと、各員の詳細資料にはかいてある。

赤城「でもいつもより赤いですよ?・・・はっ、もしかして」

加賀「い、いえその、決して提督がいるからいつもより緊張して」

赤城「私の体を見て興奮してくださってるんですか!?嬉しいですっ!」

加賀「・・・え?」

提督「(やっぱり俺がいるとだめだったんじゃないか・・・)」

扶桑「提督?手が止まってますよ」

提督「ん、ああ、すまん」

時間経過。同所。

マッサージし続けること約三十分。ようやく提督は開放された。

扶桑「日頃の疲れが一気に飛んだ気分です・・・。ありがとうございました・・・」

提督「なに、礼には及ばんよ。うむ」

すっと立ち上がって、提督は執務室へと引き返していった。

赤城と加賀は湯船に浸かっていた。


移動。仮舞鶴鎮守府執務室。午前十時。

五月雨「二時間も一体どこへ行ってたんですか!」

提督「いや、少し歩きに行ってただけだ」

断じて女湯などには入っていない。

五月雨「幸い今日は仕事量少ないですからよかったですけど」

提督「まぁまぁ、午後からは俺もやるから。そんなに怒らないでくれよ」

五月雨「・・・?」

手に持っていた制服を羽織ると、五月雨の動きが止まった。

提督「ん?どうした?」

五月雨「いい匂いがしますね、それ」

提督「そうか?間宮が洗濯方法でも変えたんじゃない?」

五月雨「・・・とぼけるんですか?」

提督「とぼけるって、何を」

まさか・・・、扶桑の匂いを嗅ぎ分けたというのかッ。

五月雨「お風呂場特有のいい匂いがします。それも、女湯の」

提督「俺が入るのは男湯だぜ?そんな匂いするわけないじゃないか」

五月雨「提督が二時間近く戻ってこなかったのも、女湯で何かしていたと考えれば説明がつきます・・・」

提督「つかねぇよ」

無駄な抵抗だとわかっていても、言い返してしまう。

五月雨「提督」

提督「?」

五月雨「今この場で正直に言ってくれれば、許してあげます」

提督「今この場で、か?」

五月雨「今この場で、今すぐに、です」

提督「・・・」

五月雨「・・・」

提督「ちょっと扶桑に頼まれんだよ」

五月雨「扶桑さんに?何をですか?」

提督「ほら、扶桑の艤装って重そうだろ?実際本当に思いらしくてさ、そのせいで肩とか背中とかが痛むからマッサージしてくれって頼まれてたんだよ。山城は寝てるからやってくれないらしいんだ」

五月雨「山城さん寝てませんでしたよ?提督、変な嘘つかなくていいですから」

提督「え?でも扶桑は寝てるからって「本当のことを話してください!」

五月雨「結婚している身で浮気はギルティーですよ!出るとこ出たら私が勝ちますから五月雨さん大勝利ですからね!?」

提督「落ち着いてくれよ・・・、だとするなら扶桑が嘘をついたとしか考えられないだろう?」

ぎるてぃーってなんだ?

五月雨「扶桑さんが嘘なんかつくわけないじゃないですか!」

提督「お前は一体扶桑にどんなイメージをしているんだ・・・」

五月雨「提督には教えてあげませんからッ!」

時間経過。午前十一時。同所。

提督「五月雨ー、いい加減機嫌直してくれよー」

五月雨「黙って仕事してください」

そうは言えども五月雨は提督の膝の上に座っている。

提督「お前がそれをとってくれよ」

五月雨「嫌です」

提督「だったらどいてくれよ・・・、手が届かないんだって」

五月雨「嫌です」

提督「じゃあ仕事できないじゃん」

五月雨「仕事をするのが提督の勤めです。サボらないでください」

提督「言ってることとやってることが矛盾してるよ・・・」

五月雨(・・・私にもマッサージしてくれたことないのに・・・)

提督「何か言ったか?」

五月雨「なんでもありません!」

提督「いつまで怒るつもりなんだか・・・」




本日はここまでです。ありがとうございました。

まだ全ては意見を拾えていません、次投下です。

肌寒くなってきたし、雨も降ってるし、偏頭痛するしで秋はあまりいいことはありませんね・・・。

これを気に提督が整体術にはまってその練習台にされる五月雨
日に日に上手くなって効果抜群だが、首間接ゴキ、背骨ボキ
人の体ってそっち方向に曲がるんだ的な方向に過激に進化、終わった後はしばらく動けない施術の実験台にされる五月雨。
他に頼める艦娘いないのセリフにテレテレし、その後絶叫で後悔、痛みが引いて体が軽くなり疲労が消えていく感覚にうっとりの五月雨百面相がみたい

乙コメありがとうございますです。

>>252、いいですね、やりますw

ちょっと最近書いてない日が多いですね・・・、いや、書きます。

長らくお待たせしました。明日、投下します。

小規模投下です。



膝から滑り落としてやろうかと画策した時、扉が乱暴に開けられた。

提督「だから何度も言うけどノックをだな「提督」

山城「扶桑姉様が部屋に戻ってきてから、様子がおかしいのですが提督何かしましたか」

提督「そこで俺を疑うのね・・・」

山城「それは・・・、姉様の様子からして提督と何かあったのかと思っただけです」

提督「なに、ただマッサージをしてやっただけだ」

答えられるとは思ってなかったらしく、出鼻を挫かれたようにやましろが言う。

山城「マッサージ、ですか?」

提督「疑うな、これはホントの話だぞ。さっきこの建物の食堂で扶桑とばったり会ってな。その時に肩とか腰が凝るものだからマッサージをしてくれないかと頼まれたんだ」

山城「それで、食堂でマッサージをしたんですか?」

提督「いや、よく」

言いかけて、浴場などと言ったら嵐が巻き起こると考え他の場所を選定する。

庭にしよう。そうしよう。

ここまで0.5秒。

提督「よく日光に当たれるようにと思って、この前海水浴のときにつかった庭でやったんだ」

五月雨「は?」

すかさず五月雨が蔑視の目線で以ってで膝に座ったままこちらを向いてくるが、太ももを叩いて宥めすかす。

山城「そう・・・、庭で、ですか?」

提督「お、おう、そうだよ」

山城「では姉様が少し濡れていたのはどうしてですか?」

提督「・・・それは、そう、スプリンクラーが作動した後だったから」

山城「では姉様からいい匂いがしていたのなぜでしょう。まるで浴場にいたかのような」

提督「そ、そこまでは知らないよ。俺がマッサージした後に浴場にでも行ったんじゃないか?ほら、一応海風にあたっちゃったことになるんだし」

うまく逃げ切った、気がする。

山城「上手く逃げ切ったとお思いかもしれませんが、扶桑姉様に聞けばすぐにわかることですから」

そう言うと、山城は執務室を出て行った。

五月雨「山城さん、どうしてあんなに提督を目の敵にするんでしょうね・・・」

提督「あいつにとっては俺と扶桑が仲良くするのを許せんのだろ。いや、その理由がわからないのか・・・」

五月雨「・・・扶桑さん、提督がマッサージされた後なんて言ってました?」

提督「いや、別にもう二度としないでくれとか拒絶されてはなかった」

五月雨「そういうんじゃなくって」

提督「おおう」

五月雨が体ごと提督の方を向いた。

五月雨「マッサージの感想についてです」

提督「あ、ああ、そのことか・・・。うまいって言ってくれてたよ」

五月雨「では・・・」

提督「?」

五月雨「私にもお願いします」

提督「お前凝るようなこと「いいからお願いします」

五月雨「提督は本当にああ言えばこう言いますね。たまには黙って聞いてください」

提督「わかったよ・・・。じゃあちょっとそこに俯せになれ」

五月雨「はい」

提督「・・・。さて・・・、痛かったら言えよ?」

五月雨「わかりました」

よっ、と言うと、提督は五月雨の上にまたがり、服の上から背骨の当たりをそっとなぞってみる。

傍から見るとかなり危ない光景である。

提督「ん?」

五月雨「ど、どうしましたか?」

提督「お前背骨歪んでね?」

五月雨「えっ!?そんな、でも姿勢にはいつも影響ないですよね!?」

提督「まぁそこまでの歪みじゃないんだろう。なに、ちょっと治してやる」

五月雨「えっ、ちょっ、提督資格持ってるんですか!?やめてっ、あぐっ!?」

歪んでいる側の背骨の方を押しこめば治るだろう、という短絡的思考で思いついた指圧式強制背骨矯正施術は見事に成功した。

だが、結果はどうあれされた方はたまったものではない。

五月雨「うぐっ・・・、痛いですぅ・・・」

提督「あっ、す、すまん、つい調子に乗ってしまった」

五月雨「痛かったです・・・」

提督「でもほら」

もう一度背骨をなぞってみる。

提督「治ったぜ?」

痛みが引いたのか、五月雨が立ち上がってみた。

五月雨「・・・ぁ」

提督「ど、どこか痛むか?」

五月雨「いつもより立つのが楽になった、気がします」

提督「ならよかったよ」

五月雨「・・・こんなこと、他の子にしちゃダメですから」

提督「逆にお前以外のやつにやったら俺の無事が保証できないだろ」

五月雨「それもそうですね・・・」

提督「とりあえず体調が良くなったのはいいことだし、俺も勉強してみることにしよう」

五月雨「何をですか?」

提督「整体とやらを」

五月雨「・・・まぁ、してくれたほうがされる方も少しは気が楽になりますし。お願いします」

提督「とりあえず本でも買いに・・・」

提督「いや、取り寄せよう」

本を買いに、と言った時の五月雨の緩んだ表情と、いや、と言った時の落ち込むようなめくるめく表情の変化を提督は面白そうに眺めた。

提督「そうだな・・・、買いに行こう」

五月雨「っ」

提督「昼ごろ行くとしよう」

五月雨「・・・」



時間経過。正午。仮舞鶴鎮守府食堂。

提督「と、いうわけで、午後から少し買い物に行くことにしたので昼から三時ぐらいまでは俺に用があっても執務室には来ないように」

扶桑「わかりました」

秋月「では私も行きますね」

息つくまもなく秋月がずずいっと提督と扶桑の間に割り込んでくる。

提督がチラリと五月雨を目だけ動かしてみると、こうなることは分かってましたというふうに五月雨が力なく首を振った。

提督「あぁ、問題ない」

平然とご飯を食べているように見えて、実際かなりの心的労力を費やしまくっている提督である。

あまり話しかけてこられるのも嫌だなぁと思ったのであっさりうけいれた。

扶桑「私達も行きましょうか。山城?」

山城「ね、姉様がそういうのなら・・・」

プリンツ「ビスマルク姉様、これは私達も行かないといけないんじゃないでしょうか!」

ビスマルク「プリンツがそういうなら・・・」

結果、暁達、名取たちを除いた全員で行くことになった。

時間経過。舞鶴鎮守府。午後一時。

巡視兵A「いってらっしゃい」

提督「おう、頼んだ」

五月雨「ほら、提督、早く行きますよ」

提督「まだ一時だぞ?そんなに急いでも何もいいことねぇって」

扶桑「女性のお買い物は時間がかかるものですから」

提督「・・・え?」

聞いてないぞとばかりに提督が疑問を口にした。

提督「俺はこれから本を買いに行くだけだぜ?」

扶桑「え?」

提督「五月雨、お前何も説明してなかったのか?」

五月雨「えっ、なんで私のせいになるんですか!?」

提督「だってほら、お前秘書だし」

五月雨「そんなぁ!言い出したのは提督じゃないですかぁ!」

提督「それは、そうなんだけど・・・」

扶桑「本一冊だけ買いに行くつもりつもりだったんですか?」

提督「うん・・・、俺は最初からそのつもりだった」

扶桑「ならまぁ、今からでも予定を変更すればいいのではないですか?」

提督「でも鎮守府の警備には三時までに戻るって言っちゃったぞ」

扶桑「三時まで、二時間ですか・・・。わかりました、なんとかします。貸しですからね」

提督「勝手に貸すんじゃねぇよ・・・。ついてきたいって言ったのはそっちなんだから、おあいこだろ?」

扶桑「いいえ」

提督「な、ならないのか」

移動。某本屋。三階。

提督「五階建ての本屋なんて舞鶴にあったんだな・・・」

五月雨「知らないんですか?結構有名ですよ」

角善と玄関に大きく書かれているのを眺めながら、やっぱり知らないなと首を傾げた。

扶桑「じゃあ、私たちは雑誌のほうにいますから」

提督「ん、わかった。こっちで選び終わったら呼びに行くから」

春雨、涼風が漫画方面へ歩いて行ったように見えた。

提督「(漫画くらいで怒るのも変か・・・)」

五月雨「たくさん本ありますねー」

提督「だなぁ」

五月雨がしきりに手を繋ごうとするので、ポケットから手を出して軽く握ってやる。

提督(どこだ・・・?)

しばらく歩くと、『家庭医学』と書かれた本棚を見つけた。

その列に入り、整体関連の本を探していく。

提督「整体入門、か・・・。なんかありきたりな題名だなぁ。というか整体だけでこんなに本ってあるものなのかよ」

そうして軽く三十分ほど気がついたら費やしていた。

提督「ちょっと時間かけすぎたな。これにしよう」

提督は結局整体入門を手にしたはずなのだが、それには『プロレスラー立案 独自整体法』と書かれていた。

五月雨「お、終わりましたか・・・?」

提督「おう、終わったぞ・・・って、どうした五月雨?」

何やら足をもじもじさせている。

五月雨「な、なんでもありません」

提督「顔真っ赤だけど、熱でもあるんじゃないのか?」

提督がそのまま額を手で触れた。

五月雨「ひぅっ!」

提督「ど、どうしたんだ?」

五月雨「お、おし・・・」

提督「聞こえないぞ・・・」

五月雨「おしっこが、漏れそうなんです・・・!」

なんで行かないんだよ・・・、という気持ちが表情に出ていたのか、五月雨が必死に弁解する。

五月雨「こんなに広い本屋ですから、トイレに行ってる間に迷子になるんじゃないかと思って・・・」

提督「そんなん俺に一言言えばいいだけじゃないか。ほら、トイレ行くぞ」

コクコクと五月雨が頷いた。

提督「(ったく、小学生じゃねぇんだから・・・)」


時間経過。

提督「スッキリしたか?」

五月雨がハンカチで手を拭きながら出てきたので、提督が声をかけた。

五月雨「・・・」

提督「まだ恥ずかしがってんのかよ。別にそんなことひきずったりしないって」

五月雨「わっ、私が気にするんです!」

周りから白い眼で睨まれたので、急いで他の面子を探しに行くことにする。

扶桑達が行った雑誌売り場は二階上なので、階段を探そうと歩き出したが、肝心の五月雨が動こうとしない。

提督「どうした?気分でも悪いのか?」

五月雨「・・・」

市販しているケチャップでも顔に塗りたくったのかといいたくなるほど顔を赤くしたまま、五月雨がハンカチを差し出す。

提督「こんなの別に歩きながら返したっていいじゃないか」

ハンカチを受け取るために差し出した手を、五月雨は握りこんだ。

五月雨「・・・い、行きましょう」

提督「・・・」

提督はうまい反応も思いつけず、ただ手を握り返すしかなかった。


移動。某本屋。三階。

扶桑「ねぇ、山城?」

山城「はい?」

扶桑「やっぱり巫女服って、丈の長いスカートのほうがいいと思う?」

山城「え、私たちが着てるのって巫女服なんですか?」

扶桑「・・・違うの?てっきり私は巫女服を少し変えたようなものだと思っていたのだけど」

山城「少し変えてる時点で、巫女服とはいえないのでは・・・?」

扶桑「まぁ、それはそれとして、丈の長いほうがいいと思う?」

山城「夢のないことを言ってしまってもいいでしょうか・・・」

山城が思いついてしまったというように落ち込むのを見て、扶桑がごくりと唾を飲む。

扶桑「だ、大丈夫よ」

山城「緊急出撃などに陥った場合、丈の長いスカートは戦闘行動の邪魔になりかねません」

扶桑「・・・どうしてそういうことをいうの?」

山城「だから夢のないことを言うと「じゃあ、私たち服装の変更では」

扶桑「五月雨さんを追い抜くことはできないということなのね・・・」

夕立「提督は清楚な感じが好きって言ってたっぽい」

春雨、涼風除く白露型と扶桑型が雑誌が並ぶ本棚を横一列になって占領していた。

提督「お前ら・・・」

扶桑「あら、提督、お探しの本は見つかったのですか?」

提督「あぁ、今来たところだが。いや、まぁ、確かにしょうがないのかもしれないけど・・・」

彼女らは悪意あって並んでるわけじゃない。それが提督が注意するのを躊躇わせた要因である。

他の女性客はどうかといえば、それなりに整っている容姿や顔立ちを持っている彼女たちを前にして口出しできないでいた。

そこへ男である提督が来ればどうなるか。彼女らの非難は提督に集中することになるのだ。

提督「とりあえず、買うものも買ったから、本屋出るぞ」

白露「もう少し見たかったなぁ」

提督「最初からそういう約束だったろ?一先ずお前らは外出ててくれ。俺は涼風と春雨探しに行くから」

五月雨「漫画は一階においてありますよ?」

提督「それを早く言えよ」

移動。某本屋。一階。

ついでに言うと涼風と春雨も可愛い。

そして、漫画コーナーは主にこの地域のガキ共がたむろしている。

そして、ガキ共は可愛い子を見つければ一目惚れしてしまうやつが多い。

つまり、本人らは気づいていなくとも、周りにガキ共の群れができつつあった。

提督「どんだけ漫画熱中してんだよ。ていうか、うちって漫画おいてあったか?」

五月雨「仮設の鎮守府に新しく休憩所みたいなのができたんです。そこに漫画があって・・・」

なんでも高額な料金を取る代わりに、どんな手術でも成功させる外科医の話らしい。

提督「おーい、涼風!」

涼風「あ、てい、いや、どうしたー?って、なんだこれ」

呼ばれて振り返って初めて人だかりに気づいた。

五月雨「近づけても声をかけられないって、大人だったら変質者ですよ」

春雨「こ、これ、何かイベントでもあるのでしょうか・・・?」

涼風「もう邪魔だってー!」

提督「ここの子供たちってこんなやつらばっかりなのか?痩せすぎだろ、もっと肉食えよこいつら。草食系男子か?」

語源は提督であるとか、そうでないとか・・・。

加賀「日頃見るような服装ではありませんから、物珍しさというのもあるのだと思います」

赤城と加賀も目を引く部類だ。

提督「お前がそれを言うか・・・」

涼風「なぁ、提督、あたいの顔に何かついてたのか?あいつらずっとこっち見てくるんだけど」

提督「なに、気にしなくてもいい」

春雨「なんだか怖いです・・・」

加賀が春雨を抱き寄せて、店の出口へと向かい始めた。

手早く会計を済ませた後、提督も急いで店を出る。


移動。本屋前。午後一時四十五分。

扶桑「まだ一時間ありますね」

提督「え」

帰還。舞鶴鎮守府前。午後四時。

提督「大分完成に近くなってきたんじゃないか?」

巡視兵B「本拠地ですから、妖精達も急いでいらっしゃるのかと思います」

提督「だなぁ・・・」

三階部分の建築にかかり始めている建物を、軍帽のつばを押さえながら見上げる。

提督「前も三階建てだったっけ?」

五月雨「そんなことも覚えてないって、提督頭の中空っぽなんですか?」

提督「糠味噌ぐらいは詰まってるぞ」

夕陽に照らされる舞鶴鎮守府本棟を目に焼きつけ、提督はその場を後にした。

五月雨の荷物を両手に持って。


時間経過。仮舞鶴鎮守府執務室。午後九時。

五月雨「ちゃんと勉強したんですか?」

提督「何回も読んださ、大丈夫だって」

五月雨をうつ伏せにし、背中を出すため服を捲り上げた。

五月雨「!?」

提督「いや、マッサージするのに服は邪魔じゃないか」

五月雨「この前は服の上からやってましたよね・・・?」

提督「もうなんだよ背中ぐらいいいだろ?」

五月雨「ぐ、ぐらいって、背中を男性に見せるのは初めてで・・・」

聞く耳を持たないまま、提督は五月雨の背骨に指を這わす。

五月雨「っっっっ!」

提督「ここは問題なしか・・・。肩、だな」

肩の付け根の部分を、提督がなにやら親指の腹で押し始める。

五月雨「痛ッ」

提督「ふむ、やはり肩も凝ってるな。・・・」

五月雨「・・・あれ、マッサージしないんですか?」

提督「五月雨、上、脱いでくれ」

五月雨「は!?」

提督「やりづらいんだよ服の上からって。加減とかわかりづらくなっちゃうだろ?だから脱いでくれ」

五月雨「こ、こ、ここでですか!」

提督「何を恥ずかしがる必要があるんだ?そりゃあ俺だって五月雨の上半身を見るのは恥ずかしいけど、俺たちもう夫婦なんだろ?これぐらいなんてことないじゃないか」

さらりと言ってのける提督を睨み付けながら、五月雨は上の服を脱ぎ、うつぶせになった。

提督「大丈夫か?」

五月雨「大丈夫じゃありません!早くしてください!」

片手で本を持ちながら、親指の位置を修正していく。

その感触に必死に耐える五月雨。でも内心嬉しいのはおくびにも出してはいけない。

提督「ここか」

親指の位置を目で確認し、本を脇に置いた。

提督「よし・・・、いくぞ。五つ数えるからな」

五月雨「は、はい」

提督「五つ」

五月雨「・・・」

提督「四つ・・・、・・・三つっ!」

数え終わる前に、思い切り親指を押し込んだ。

五月雨「っ、ひゃあ~~~~~~~ッ!」

鎮守府中に悲鳴が響き渡った。プレハブだからなおさらよく響いた。

直後にあわただしい足音とともに扉が開けられる。

涼風「五月雨、一体どうしたってんだ!?・・・て、お、お楽しみ中で「いや、違う!」

提督「俺はただマッサージをしていただけだッ!」

赤城「マッサージをしていただけなのにこんな悲鳴が上がるとは思えませんよ!?」

続々と集まりつつある艦娘達を前に、五月雨も固まっていた。

加賀「五月雨さん、大丈夫ですか」

五月雨が涙目になっているのもかなりの不利要因になっている。

五月雨「あの・・・、ほんとに、マッサージをしてただけですから・・・」

涼風「そ、そんな蚊の鳴くような声で言われても・・・」

山城「どうせ提督が五月雨さんに夫婦だなんだっていって乱暴を働いたに違いないです」

提督「いや、ほんとに違うんだって!俺はただ五月雨のためを思ってマッサージを施そうと思ってただけなんだ!」

赤城「・・・そこまでいうなら」

提督「な、なんだ?」

赤城「私達にもお願いします」

提督「それは・・・」

赤城「やっぱりマッサージじゃなか「やります」


五分後。

提督「あ、赤城まで上を脱ぐ必要はないんだぜ?」

赤城「マッサージの邪魔になるかと思いまして」

提督「(おそらく普段姿勢のいい彼女らは背骨や骨盤の歪みとかいったものはないだろう。だとするなら、ここは無難に肩の凝りをほぐしたほうがいいな)」

赤城のそばには加賀が正座して待機している。いや、監視か。

提督「じゃ、じゃあ、いくぞ」

というか、赤城の双丘が床に潰れて広が

そこで考えるのをやめた。

静かに赤城の肩のあたりに手を伸ばす。

赤城「っ」

マッサージしようにも、指を動かすたびに体を振るわせるので落ち着かない。

加賀「何をしていらっしゃるんですか?もう始めてもらっても構いませんよ」

提督「わかってる、わかってるよ・・・。確か、この当たりだったはずだ」

そして、五月雨とは違い、数えることもなく予告もなく目一杯押し込んだ。

赤城「ッッッッッッッッッッッッッ!!!??」

途端、赤城が声にならない悲鳴を上げて、涙をためた目で振り返った。

加賀「赤城さん、大丈夫ですか!?」

赤城「提督、や、優しくしてくださいぃ・・・」

提督「これで肩の凝りは取れたはずだ。ほら、赤城、立って確かめてみろ」

赤城「・・・ほんとですね」

加賀「本当ですか・・・?」

赤城「でも、さすがにこの痛みは結構堪えます。これからはしないようにしてください。無理に取る程でもないですし・・・」

提督「そうか・・・、仕方ない、わかったよ」

結構はまり始めていたのだが、こう言われては引き下がるほかなかった。

その赤城の声を聞いて、集まっていた皆も自室へ引き返して行った。

五月雨「行っちゃいましたね」

提督「すまん、まさかあんなに痛がられるとは俺も思ってなかったんだ。もうしないよ」

五月雨「・・・もうしないでくださいね」

提督「嫌、だったか?」

五月雨「だって、皆痛がってたじゃないですか。・・・私も痛かったですし」

提督「皆嫌がっちゃったからなぁ・・・、このマッサージもう少しやりたかったんだけど・・・」

五月雨「駄目です」

提督「五月雨、ほんとにだめなのか?」

五月雨「何回言ったらわかるんですか?」

提督「こんなの頼めるの五月雨しかいないんだよ・・・」

しか、その限定用法に五月雨が反応した。

それに提督が頼み込んでくるというのはなかなかないことである。

提督「まぁいいか・・・」

椅子に戻ろうとする提督の裾を弱々しく五月雨が掴んで引き止めた。

提督「ん?どした?」

五月雨「わ、私だけなら・・・」

提督「ん・・・?でも、痛いんだろ?」

五月雨「お、夫の趣味を受け止めるのも、妻たる者のつ、努めですから?」

顔をそらしながら答える五月雨を見ると、こっちまで恥ずかしくなってきた提督は執務机に向かったのだった。

十月二十日。仮舞鶴鎮守府。午前八時。

提督「腕の稼動範囲を伸ばすことができるらしい」

五月雨「嫌な予感しかしないです・・・」

早朝から、五月雨が椅子に座らせられ、提督が後ろに立っていた。

・・・別に言ってはいないのだが、五月雨は上を脱いでいた。

決して俺が言った訳じゃないんだと自分に言い聞かせる。

提督「(ここで服を着ろっていうのも、五月雨を傷つかせかねないしな・・・。正直、これは目のやり場に困るぞ・・・)」

当の五月雨も顔が真っ赤である。

女の子の典型とでも言うべき華奢な体躯、透き通るほどの白い肌。

今は後ろに垂らしてある髪を前に下ろしているため、うなじの部分が完全に露わになっている。

提督「(全く、この鎮守府の長たる俺がこんなことで動揺してどうする。阿呆かよ俺は)」

五月雨は覚悟を決めているのに、提督が覚悟を決めていなかった。

五月雨「ま、まだですかッ!?」

提督「い、いい、いまやる!」

五月雨の左肩に右手を添え、横に伸ばした左腕の肘のあたりを左手で掴む。

提督「よし・・・、せーのッ!」

躊躇なく腕を後ろに引いた。

なにやら指を鳴らした時の数倍ぐらいの大きさの嫌な音がした気がする。

五月雨「や、やっぱり痛いです~~~~~~~~~~~~!」

椅子から転げ落ちて五月雨が悲鳴を上げる。

提督「だ、大丈夫か!?」

それから30秒ほどして、徐々に痛みが引いきた五月雨が、あれ?と首を傾げた。

提督「ど、どうした、頭までおかしくなったのか?」

五月雨「腕が軽くなりました・・・」

先程までの後悔と苦痛の入り混じった表情とは打って変わって、五月雨は晴れ晴れとしていた。

・・・今度は巡視兵までもがやってきて、提督に厳重注意が言い渡されたのは言うまでもないことである。

もう二度としませんという誓約書を、五月雨は寂しそうに見つめた。

涼風にまで心配されては、我が儘を言うことはできそうもなかった。

十月二十五日。

工事から一ヶ月少し。

舞鶴鎮守府の再建が完了した。

提督「人とは思えない速さだ・・・」

技主「人じゃありませんから」

提督「あれ、そうだったか?」

技術主任と提督がさして面白くもない冗談で笑い合う。

提督「でも、今までどおり煉瓦の外壁を継いでくれたのは嬉しいよ」

技主「内壁と外壁も従来のままにしたほうが再建築も手っ取り早くできますから。一時は鉄鋼の装甲板でも間に挟んでやろうかって話になったんですが、費用が二倍三倍になるので中止しました」

提督「二倍・・・。というか、別に考えなくてもそんなことやる必要はない。非常時には製油所を鎮守府にでもしてやるつもりだ」

技主「しかし、あそこでは艦娘を入居させることができませんよ」

提督「あそこを使うときは修理などしていられない程の緊急事態以外ありえねぇよ。ここが潰れるってのはよっぽどだぞ。今回でさえ、一応鎮守府としての機能は完全麻痺はしていないわけだから、それには該当してないんだぜ」

技主「完全麻痺って、定義はあるのですか?」

提督「司令部の陥落、だな」

技主「それをいうなら今回司令部は陥落したといえるのでは?敵の侵入を許してしまったわけですし・・・」

提督「俺が死んだわけじゃないんだから、司令部は陥落などしていない。てか、俺が死んだら五月雨が指揮権を受け取るだけだし。実質陥落は起こらないと見ていいだろ」

技主「は、はぁ・・・」

いまいちうまく呑み込めなかったが、とりあえず司令官がいれば良いというならいいのだろうと無理やり納得した。

提督「ていうか冷えるなぁ・・・、さっさと俺たちも入ろう」

こうして、鎮守府は再び軍港としての機能を取り戻す。

十月三十日。舞鶴鎮守府工廠。午後一時。

提督「舞鶴の具合はどうだ?」

技主「この前の襲撃でぶっつけ本番で稼動させても上手くいってましたよ。装甲の損傷を直せばすぐにまた指揮艦として運用できます」

提督「・・・となれば、もう準備ができないから戦闘に参加できませんとはいえなくなっちまったわけだな」

技主「急いで装備の補修を終わらせますので、提督はお気になさらず仕事を進めてくださいね」

提督「頼りになるねぇ」

朝から書類仕事や各部署の視察をして回り続け、さすがに疲労がたまり始めた提督は、地下の演習場へ足を運んだ。

地下ということもあって、ここは無傷のまま残っていたのだ。

移動。舞鶴鎮守府地下大演習場。

そこでは、朝から姿の見えない艦娘達が砲撃と再装填、目標合わせの訓練をしていた。

五月雨曰く、

「一ヶ月もろくに練習できなかったのでは、腕が鈍っているかもしれないので、地下演習場をしらばく借ります」

とのことらしい。

それはそれで大いに結構なことなのだが、これからの戦争の推移を五月雨と話し合いでもしようかと思っていただけに、提督は暇をもてあますことになってしまっていたのである。

提督「それでもまぁ、やっておかなくてはなるまいて」

ここ舞鶴に着任し、鎮守府近海の掃海、掃討、十一月作戦、西号作戦、水谷救出作戦に加え南鳥島奪還作戦。そしてその奪還作戦に付随して起きた舞鶴鎮守府への奇襲攻撃。

だが問題なのが最後、舞鶴への奇襲攻撃だ。

あれは撃退していないのだ。

敵が退いたのは舞鶴鎮守府の機能停止という任務を遂行できたから。

一ヶ月もの間に、敵は戦力を増強していることだろう。

鎮守府近海の安全すら確保できていないのに、他の作戦に従事できるはずがない。

そう、傍目から見ても見なくても素人が見ても見なくてもこれは非常にまずい事態なのだ。

提督「なんとしても、日本海における敵勢力拠点を潰さなければ・・・」

今度こそ完全に潰しにかかってくるだろう。

奇襲攻撃への応戦で舞鶴を引っ張りだしたとなれば、舞鶴の修復が完了したことを相手は知った可能性が高い。

そしてそれは大津の工作が失敗したということである。

相手が仲間思いであった場合、救出に来る可能性も考慮しておかなくてはならない。

提督「近い内、遠征任務を課さなければならないな・・・。場合によっては舞鶴も出撃せざるを得ない」

やることが切迫しすぎていて頭の中が混乱しそうになる自分を、必死に落ち着かせた。

提督「ついこの間までは楽しくやっていたのに、一気に戦闘態勢ってのはやっぱり慣れねぇよ・・・」

時間経過。舞鶴鎮守府食堂。午後七時。

提督「食後、引き留めて申し訳ない」

大抵このように呼び止める前は食堂で食事が始まる前に皆に伝えることにしている。

そのせいで食欲が消えそうになる艦娘もいるとかいないとか。

五月雨「敵勢力に動きでもあったのですか?」

その発言に、皆の顔が険しくなる。

提督「そうじゃない。このまま守勢に回り続けるのは危険だ。可及的速やかに日本海における敵拠点を発見、これを撃滅する必要があると先程判断したのを伝えようと思ったんだ」

五月雨「では、偵察機を?」

提督「あぁ、今回は威力偵察任務だから、水上艦も併用して行う」

五月雨「威力偵察、ですか」

適性地に踏み込み、陽動的な攻撃を仕掛けて敵の武装状態を確認する、死と隣り合わせの危険任務だ。

提督「もちろん、最終判断は皆に任せる」

そしてこの偵察は迅速な撤退が求められるため、必然的に使用艦種は絞られてくる。

とは言え、わかっていても手を上げる勇気がない。

この前の襲撃を体験した皆はわかってはいた。

もし偵察も何もせず、場所もわからないままに襲撃を敢行しようとすれば玉砕は必至である、と。

行かないなどと言う選択は残されていないのだと。

しばしの沈黙の後、提督が口を開いた。

提督「そうか・・・、わかった。これは命令ではない」

五月雨「しかし、ならどうしますか・・・?」

提督「そりゃあ・・・、舞鶴を出すしかない。舞鶴なら緊急時でもすぐに速度を出せるから問題ないと思うんだ」

五月雨「・・・本気ですか!?」

提督「本気に決まってるだろう。この前の南鳥島での件で思い知ったとおり、敵は沿岸砲を整備しているし、対空砲も相当用意している。おそらく日本海に浮かぶ拠点も南鳥島と同等のものと見ていいだろう。唯一南鳥島と違うものがあるといえば、そこは深海棲艦が一から作った人工島であり、滑走路は存在していないということだ。つまり言いたいのは、対空砲の迎撃能力だけを見る偵察機だけでは意味が無い。水上艦での偵察も行わなければならないんだ」

赤城「それを提督が行う理由はどこにもないはずです。偵察のために割ける人員はあるはずです」

提督「あの艦の責任者は俺、指揮を執る権利も俺にあるということだ。あの艦に乗り込むのは俺だと思っている」

搭乗員B「なら、偵察機は俺が乗ろう」

すると、パイロットの一人が手をあげた。

提督「単機侵入になるぞ、それでもいけるか?」

搭乗員B「この命で、舞鶴を少しでも救えるというのなら本望です」

提督「・・・出発は明日だが、それでもいけるか?」

搭乗員B「提督の口調から状況を急ごうとしている事は察しております。問題ありません」

提督「なら、明日峰山防空基地から増槽を取り付けて出発しろ。なるべく武装の重量は抑えておけ」

搭乗員B「了解です」

提督「一日で見つけ出そうとはしなくてもいい。少しずつ偵察の範囲を広げていく形で進めてくれ」

搭乗員B「はッ!」

妖精が小さな体で敬礼をする姿は、本人には迷惑千万なことではあるけれど、ほほえましいと感じてしまった。

提督「なんにせよ、敵の状態がわからない限りはうかつな行動もできない。今日のところはこれで解散してくれ」

その合図で、突然のことに固まっていた五月雨がようやく我を取り戻した。

五月雨「あっちょ、だッ、駄目です!提督!どうして自己犠牲を厭わない発言を毎回毎回私がやめてと言ってるのに繰り返すのですか!?」

提督「五月雨・・・」

白露「・・・なら、私が行く」

提督「白露、お前「五月雨が」

白露「・・・五月雨の意図をどうして汲もうと考えないんですか!?」

白露型一番艦、五月雨の姉として白露が怒鳴った瞬間だった。

提督が白露に抱いていた印象も相まって、衝撃はそれ相応のものになる。

今まで溜まっていたのだと言わんばかりの剣幕で白露が叫ぶ。

白露「毎回毎回、本当に毎回ですよね!?正直言ってもううざいですよッ!?自分が行けば自分が行けばって言いますけど、あなたどこの中二病なんですか!?自分が行けばかっこいいとかってどうせ思ってるんじゃないんですか!?いつまでそんな子供みたいなこと言っていられるんですか!?死にたきゃ死ねばいいじゃないですか!自分は運が強いから、死ぬわけ無いだなんて事言ってる人に限ってある日突然死んだりするんですよ!?」

提督「いや・・・俺は「この期に及んでまだ減らず口を叩くつもりですかッ!」

白露「姉として五月雨がこんなにお願いしているのに見過ごすわけには行きません!いくら上官といえども私は絶対に許しませんよ!指揮官は指揮官らしく後方で控えていればいいんです!一々前に出てこられるこっちの身にもなってください!艦娘だけに危険な思いをさせたくないから?笑わせないでください!」

白露「こっちが死ぬような思いをしているのは認めますが、あなたまで出てくるってのは結局私達の行動力を疑ってるってことですよね!?緊急時のためにっていうけど、緊急時の時に素早く判断を下せる人材が私達の艦隊に一人もいないって考えてるってことになるんじゃないんですか!?いい加減その馬鹿みたいな考えた方やめたらどうですか!?」

一分にも満たない時間内で、白露は息を切らしながら提督をこれでもかという程に罵倒した。

白露「指揮官として、あなた程私達を信頼してくれない人はいないと思います」

去り際、

白露「夕立、村雨、時雨、いける?」

夕立「問題ないっぽい!」

村雨「仕方ないわ、行くしかないなら」

時雨「まぁ、そうだね。僕も行けるよ」

と、三人を引き連れていこうとする白露を提督は呼び止めた。

白露「なんですか」

提督「・・・君達にとってそう見えていたのだな。俺の指揮は」

白露「そうです」

提督「・・・少し、自己中心的になっていた。すまない。だとすれば、これからは散々こき使わせてもらうことになるが、いいか?」

さっぱりとした、穏やかな口調で提督はそう問いかける。

それに答えたのは、五月雨だった。

五月雨「最初からそうしていただければよかったのです」


十月三十一日。舞鶴鎮守府沖。午前五時。

提督「各員、準備はいいな」

白露「問題なしです」

提督「大津の件も考慮して、舞鶴からの無線による指示は原則なしだ。何かの緊急時、五時間頃の定時連絡以外には連絡を寄越すんじゃないぞ」

白露「はい」

提督「偵察隊の指揮はすべて白露に任せる。○五○○。第一艦隊、抜錨!」

白露「白露型一番艦、白露、出ます!」





本日はここまでです。ありがとうございました。

投稿ペース遅くなってるのも、少し書くにあたってその場のノリで大きく改変してしまった場所がありまして。

大津とか。大津とか。

なんであんなことしたのだろうと責めつつ、これからの展開を修正しつつで少し遅れております。

今度は大規模投下したいです(切実


ちなみに本当に痛いと悲鳴上げる余裕すらない
自分の場合痛すぎて現実逃避した結果笑ってたよ


でも翌日キラキラしてそう

乙です
服を脱いでマッサージしてもらったけど>>271で立ち上がった時提督は赤城さんの双丘を見てないよね?


消防のとき跳び箱で頭から着地しちまって、整体で首引っ張ってもらったなぁ

皆様乙レスありがとうございますです。

>>281 現実逃避というか、痛い思いをしている自分に笑いますねw

>>282 肌が綺麗になってるんでしょうね・・・

>>283 まさか、見てるわけが・・・、どうでしょうね・・・。

>>284 首を引っ張る、骨って引っ込んだりするも何ですか・・・?

今思ったのですが、名取が発見した離島棲鬼。これ離島棲鬼だったら大苦戦を強いられることになります。

港湾棲姫と混同していました。すごい今更なのですが、訂正お願いします。

やっちまった、提督同様俺自身も片手を失ったことになれていないようです。
脳内修正お願いします。

投下遅れますが、お待ちいただけると嬉しいです。

完全にやってますね。片手で本を持ちながらって何言ってんだあんた状態ですね。

脳内補完じゃ辛そうなので書き直そうかと思いますが、必要だと思う方がいれば言って下さい。一人でもいれば書き直します。

どんな解釈をしてもおかしいだろと思う部分のみ抜粋、修正します。

少しだけ加筆訂正しました。


強制移動。仮舞鶴鎮守府浴場。

提督「プレハブなのにこんな湿気の多いところ用意して大丈夫なのか・・・?」

カビとか、湿気とかで建物が傷んだりしたいのだろうか。

扶桑「さぁ、提督も早く着替えてください」

提督「女湯・・・、頼むから誰も居ないでくれよ・・・?」


移動。女湯。

いた。

加賀と目があってしまった。

加賀「提督、女性を連れて女湯に入ってくるとは。どういうつもりなのでしょうか」

提督「いやッ、待ってくれ!すまない、お前がいると知っていればこんなことはしなかったんだ!今出て行くから!」

加賀「気づかないはずはありません。籠の中に私の着替えが入っていたはずです」

提督「そこもちゃんと確認したけど何もなかったぞ!?まさか扶桑お前」

扶桑「そこまでしないとついてきてくださらないと思いましたから・・・」

提督「いくらなんでもこりゃないぜ!?」

出ていこうとするのだが、扶桑が左腕を掴んで離さないのだ。

見ればすでに加賀は自分の体を洗う作業に戻っていた。

提督「(なんで何も言わなくなっちゃったんだよ!)」

そして、タオルを床に敷いた扶桑が、その上に横たわった。

もちろん提督も前は隠している。

扶桑「では提督、お願いします」

提督「さ、触っていいのか・・・?」

提督「(いかん、変な気を起こしそうだ・・・)」

体の横に座って試みようとするが、それではどうもうまくいかない。

提督「えええええい、もう知らん!」

扶桑の腰の上にまたがって、背中の中央、背骨近辺を親指で、体重をかけて押しこんだ。

扶桑「提督、片手でやらないでください」

提督「無茶言ってんじゃねぇぞこの野郎」

肩の付け根から外科手術で綺麗に剃り落とされた亡き腕を思いながら、提督が重心を取りつつ言った。

扶桑「義手とか、作ってもらわないんですか?」

提督「いくら妖精だからって、そんなことまで頼めないだろ。あいつらだって業務があるんだし」

扶桑「そうですよね・・・。まぁ片手でも気持ち良いのは本当ですから。続けてください」

提督「わかったわかった」

提督「(綺麗な肌してるよなぁ、やっぱり)」

予想してた通りの、透き通るようで、きめ細かい肌だった。

赤城「加賀さん、遅くなりましたー」

提督「えっ!?」

加賀「赤城さん、何かあったのですか?」

赤城「化粧水を入れた瓶がなかなか見つからなくて・・・、あら?」

赤城が、扶桑の腰にまたがる提督を発見した。

赤城「あらあら・・・、朝からお盛んですね・・・」

ポッ、と両頬に手を当てて赤城が顔を背ける。

提督「違う!ただのマッサージだ、見ればわかるだろうっ」

立ち上がり赤城に顔を向けて、瞬間的に目を背けた。

提督「って、前ぐらい隠せよ!」

加賀「・・・ここは女湯よ、提督。そんなことも忘れたの?」

提督「そ、そうか、そうだったな」

赤城「私が頼んだらきっとそんなことしてくれませんよね・・・」

赤城が妙に傍に擦り寄り、腕を絡めて扶桑から話そうとする。

扶桑「ちょっと赤城さん、今は私と提督がお話しているのですから。水を差さないでください」

赤城「む・・・、扶桑さん、本当にマッサージだけのつもりでここに呼んだんですかそうじゃないですよね?」

扶桑「そんなわけないじゃないですか。私は本当にマッサージだけのつもりで「へぇ」

赤城「なら、扶桑さんのマッサージが終わったら、今度は私が提督とお話する番でいいですか?」

扶桑「ま、まだですよ、マッサージだけで終わるだなんて思わないで下さい!」

提督「扶桑!?」

赤城「やっぱり・・・、伊達に今まで付き合ってきたわけじゃありませんから、それぐらいわかっていました」

扶桑が提督の腕を引っ張り、再び提督を所定の位置に戻した。

赤城「はぁ・・・」

諦めたのか、赤城が加賀の隣に腰を下ろすと加賀を見ていった。

赤城「そういえば、加賀さんのぼせてないですか?」

加賀「どうしてです?」

赤城「顔真っ赤ですよ?」

加賀「そ、それは、元々体温が高いから・・・」

加賀の平熱は37.6度だと、各員の詳細資料にはかいてある。

赤城「でもいつもより赤いですよ?・・・はっ、もしかして」

加賀「い、いえその、決して提督がいるからいつもより緊張して」

赤城「私の体を見て興奮してくださってるんですか!?嬉しいですっ!」

加賀「・・・え?」

提督「(やっぱり俺がいるとだめだったんじゃないか・・・)」

少しだけ振り返りながら、提督も溜息を吐く。

扶桑「提督?手が止まってますよ」

提督「ん、ああ、すまん」

帰還。舞鶴鎮守府前。午後四時。

提督「大分完成に近くなってきたんじゃないか?」

巡視兵B「本拠地ですから、妖精達も急いでいらっしゃるのかと思います」

提督「だなぁ・・・」

三階部分の建築にかかり始めている建物を、軍帽のつばを押さえながら見上げる。

提督「前も三階建てだったっけ?」

五月雨「そんなことも覚えてないって、提督頭の中空っぽなんですか?」

提督「糠味噌ぐらいは詰まってるぞ」

夕陽に照らされる舞鶴鎮守府本棟を目に焼きつけ、提督はその場を後にした。

五月雨が持つはずだった荷物を持って。

時間経過。仮舞鶴鎮守府執務室。午後九時。

五月雨「ちゃんと勉強したんですか?」

提督「何回も読んださ、大丈夫だって。ほら、このページ開いたまま持っててくれ」

五月雨「はぁ」

五月雨をうつ伏せにし、背中を出すため服を捲り上げた。

五月雨「!?」

提督「いや、マッサージするのに服は邪魔じゃないか」

五月雨「この前は服の上からやってましたよね・・・?」

提督「もうなんだよ背中ぐらいいいだろ?」

五月雨「ぐ、ぐらいって、背中を男性に見せるのは初めてで・・・」

聞く耳を持たないまま、提督は五月雨の背骨に指を這わす。

五月雨「っっっっ!」

提督「五月雨」

五月雨「な、なんですかもう!」

提督「お前って肌綺麗なんだな」

五月雨「今言う必要ないですからッ!」

肩の付け根の部分を、提督がなにやら親指の腹で押し始める。

五月雨「痛ッ」

提督「ふむ、やはり肩も凝ってるな。・・・」

五月雨「・・・あれ、マッサージしないんですか?」

提督「五月雨、上、脱いでくれ」

五月雨「は!?」

提督「やりづらいんだよ服の上からって。加減とかわかりづらくなっちゃうだろ?だから脱いでくれ」

五月雨「こ、こ、ここでですか!」

提督「何を恥ずかしがる必要があるんだ?そりゃあ俺だって五月雨の上半身を見るのは恥ずかしいけど、俺たちもう夫婦なんだろ?これぐらいなんてことないじゃないか」

さらりと言ってのける提督を睨み付けながら、五月雨は上の服を脱ぎ、うつぶせになった。

提督「大丈夫か?」

五月雨「大丈夫じゃありません!早くしてください!」

五月雨が持つ本を覗き込みながら、提督が位置を修正していく。

その感触に必死に耐える五月雨。でも内心嬉しいのはおくびにも出してはいけない。

五月雨「んっ」

提督「変な声出すなって・・・」

五月雨「う、うるさいです!」

督「・・・ここか」

親指の位置を目で確認し、本から目線を外す。

提督「よし・・・、いくぞ。五つ数えるからな」

五月雨「は、はい」

提督「五つ」

五月雨「・・・」

提督「四つ・・・、・・・三つっ!」

数え終わる前に、思い切り親指を押し込んだ。

五月雨「っ、ひゃあ~~~~~~~ッ!」

鎮守府中に悲鳴が響き渡った。プレハブだからなおさらよく響いた。

直後にあわただしい足音とともに扉が開けられる。

涼風「五月雨、一体どうしたってんだ!?・・・て、お、お楽しみ中で「いや、違う!」

提督「俺はただマッサージをしていただけだッ!」

赤城「マッサージをしていただけなのにこんな悲鳴が上がるとは思えませんよ!?」

続々と集まりつつある艦娘達を前に、五月雨も固まっていた。

加賀「五月雨さん、大丈夫ですか」

五月雨が涙目になっているのもかなりの不利要因になっている。

五月雨「あの・・・、ほんとに、マッサージをしてただけですから・・・」

涼風「そ、そんな蚊の鳴くような声で言われても・・・」

電「はわわ・・・、五月雨さん、裸なのです・・・」

五月雨「し、下は履いてますよッ!」

山城「どうせ提督が五月雨さんに夫婦だなんだっていって乱暴を働いたに違いないです」

提督「いや、ほんとに違うんだって!俺はただ五月雨のためを思ってマッサージを施そうと思ってただけなんだ!」

赤城「・・・そこまでいうなら」

提督「な、なんだ?」

赤城「私達にもお願いします」

提督「それは・・・」

赤城「やっぱりマッサージじゃなか「やります」

五分後。

提督「あ、赤城」

赤城「はい」

提督「上半身だけ脱いでくれりゃ良いんだぜ?」

赤城「え」

提督「えっじゃなくて」

赤城「マッサージの邪魔になるかと思いまして」

提督「(マジで何で下脱いだんだこいつ)」

提督「(おそらく普段姿勢のいい彼女らは背骨や骨盤の歪みとかいったものはないだろう。だとするなら、ここは無難に肩の凝りをほぐしたほうがいいな)」

赤城のそばには加賀が顔を真赤にしながら正座して待機している。いや、監視か。

提督「じゃ、じゃあ、いくぞ」

というか、赤城の双丘が床に潰れて広が

そこで考えるのをやめた。

静かに赤城の肩のあたりに手を伸ばす。

赤城「っ」

マッサージしようにも、指を動かすたびに体を振るわせるので落ち着かない。

加賀「何をしていらっしゃるんですか?もう始めてもらっても構いませんよ」

提督「わかってる、わかってるよ・・・。確か、この当たりだったはずだ」

そして、五月雨とは違い、数えることもなく予告もなく目一杯押し込んだ。

赤城「ッッッッッッッッッッッッッ!!!??」

途端、赤城が声にならない悲鳴を上げて、涙をためた目で振り返った。

加賀「赤城さん、大丈夫ですか!?」

赤城「提督、や、優しくしてくださいぃ・・・」

提督「これで肩の凝りは取れたはずだ。ほら、赤城、立って確かめてみろ」

さっと赤城が立ち上がる。

提督「って、そのまま立つんじゃねぇよ!少しは考えろって!」

赤城「・・・ほんとですね。軽くなってます」

加賀「本当ですか・・・?」

赤城「でも、さすがにこの痛みは結構堪えます。これからはしないようにしてください。無理に取る程でもないですし・・・」

提督「そうか・・・、仕方ない、わかったよ」

結構はまり始めていたのだが、こう言われては引き下がるほかなかった。

その赤城の声を聞いて、集まっていた皆も自室へ引き返して行った。

五月雨「行っちゃいましたね」

提督「すまん、まさかあんなに痛がられるとは俺も思ってなかったんだ。もうしないよ」

五月雨「・・・もうしないでくださいね」

提督「嫌、だったか?」

五月雨「だって、皆痛がってたじゃないですか。・・・私も痛かったですし」

提督「皆嫌がっちゃったからなぁ・・・、このマッサージもう少しやりたかったんだけど・・・」

五月雨「駄目です」

提督「五月雨、ほんとにだめなのか?」

五月雨「何回言ったらわかるんですか?」

提督「こんなの頼めるの五月雨しかいないんだよ・・・」

しか、その限定用法に五月雨が反応した。

それに提督が頼み込んでくるというのはなかなかないことである。

提督「まぁいいか・・・」

椅子に戻ろうとする提督の裾を弱々しく五月雨が掴んで引き止めた。

提督「ん?どした?」

五月雨「わ、私だけなら・・・」

提督「ん・・・?でも、痛いんだろ?」

五月雨「お、夫の趣味を受け止めるのも、妻たる者のつ、努めですから?」

顔をそらしながら答える五月雨を見ると、こっちまで恥ずかしくなってきた提督は執務机に向かったのだった。


十月二十日。仮舞鶴鎮守府。午前八時。

提督「腕の稼動範囲を伸ばすことができるらしい」

五月雨「嫌な予感しかしないです・・・」

早朝から、五月雨が椅子に座らせられ、提督が後ろに立っていた。

・・・別に言ってはいないのだが、五月雨は上を脱いでいた。

決して俺が言った訳じゃないんだと自分に言い聞かせる。

提督「(ここで服を着ろっていうのも、五月雨を傷つかせかねないしな・・・。正直、これは目のやり場に困るぞ・・・)」

当の五月雨も顔が真っ赤である。

女の子の典型とでも言うべき華奢な体躯、透き通るほどの白い肌。

今は後ろに垂らしてある髪を前に下ろしているため、うなじの部分が完全に露わになっている。

提督「(全く、この鎮守府の長たる俺がこんなことで動揺してどうする。阿呆かよ俺は)」

五月雨は覚悟を決めているのに、提督が覚悟を決めていなかった。

五月雨「ま、まだですかッ!?」

提督「い、いい、いまやる!」

五月雨の左肩に右足を乗せ、左手を左手で掴み、構える。

提督「よし・・・、せーのッ!」

躊躇なく腕を後ろに引いた。

なにやら指を鳴らした時の数倍ぐらいの大きさの嫌な音がした気がする。

五月雨「や、やっぱり痛いです~~~~~~~~~~~~!」

椅子から転げ落ちて五月雨が悲鳴を上げる。

提督「だ、大丈夫か!?」

それから30秒ほどして、徐々に痛みが引いきた五月雨が、あれ?と首を傾げた。

提督「ど、どうした、頭までおかしくなったのか?」

五月雨「腕が軽くなりました・・・」

先程までの後悔と苦痛の入り混じった表情とは打って変わって、五月雨は晴れ晴れとしていた。

・・・今度は巡視兵までもがやってきて、提督に厳重注意が言い渡されたのは言うまでもないことである。ましてや背中を足で踏んづけているとなればもはや言い訳は通用しない。

もう二度としませんという誓約書を、五月雨は寂しそうに見つめた。

涼風にまで心配されては、我が儘を言うことはできそうもなかった。

>>243-272のあたりから、本屋のシーンをカットした部分を少し加筆修正しました。

長らくすいませんでした。

明後日、投下します。

緩射、並射、単発打方、独立打方といったにわか海軍用語を出してみたりしてみました。

投下して、読み直してみてこれで行こうと思ったら、上記の用語を使い続けてみることにします。

了解です

了解

思ったが片腕の提督にマッサージさせるってひどくないか?
片腕になって神経も違う筋肉も使って疲労溜まってるのは提督のほうだと思うが

返しにマッサージしてあげたら?
胸部装甲で負ける駆逐艦もうつ伏せの提督にまたがって腰や肩揉んで上げれば太もも効果でポイント高い

>>305-306乙レスありがとうございます。

そして>>306-307、意見ありがとうです。
面白そうです。見る限りR18展開もなさそうですから、ええ。書いてみます。

それでは参ります。



移動。京都府沖。

頃合いを見計らって峰山防空基地から離陸した百式司令部偵察機が艦隊に追いついた。

夕立「白露、あんなこと言って大丈夫っぽい?」

白露「提督があれで落ち込んでくれたりすればこっちもスカッとしたんだけど。五月雨があんな顔するんだもん、あれぐらい言ってやらないと提督はいつまでもあのままだったと思うよ」

村雨「私もそう思うよー、でもとりあえず今は任務に集中しないと」

白露「私達のことを考えてるのはわかるし、多分純粋な気持ちからなんだろうけど。だからこそ厄介なんだよねぇ・・・」

村雨「き、聞いてる?」

白露「妖精さん、聞こえますか?」

搭乗員B「無線感度良好。ばっちり聞こえてますよ」

白露「総員全周警戒、単横陣、巡航速度を維持してください」

夕立「さすがにこの近くにいるわけじゃないだろうけど、緊張するっぽい」

時雨「緊張してるぐらいが調度いいと思う。偵察ならなおさらそうだよ」

皆、電探と肉眼とを交互に使いながら、あらゆるものに気を配る。

搭乗員B「なるべく接敵しないように俺が周りを飛んでおきますから、皆さんは敵を見つけた時のために英気を養っておいてください」

白露「潜水艦だっているんですよー?」

搭乗員B「わ、わかってますって」

村雨「潜水艦を見つけるのが一番面倒よね・・・」

白露「魚雷が自分で相手を追いかけてくれるような機械ってないのかなぁ」

時雨「そんなのあったら誰も苦労しないじゃないか・・・」

白露「もしもの話だよー!」

上を飛ぶ偵察機のパイロットは、そういえば提督がアスロックとかいう音響誘導魚雷の話をしていたなと思い出す。

しかしここでその話を出せばどうなるか予想もつかないので、口は噤んでおいた。

夕立「あれ、敵を見つけたらどうするっぽい?」

時雨「提督から指示がないってことは、それも白露が判断するってこと?」

白露「そうえいば説明し忘れてた・・・。時雨の言うとおりだよ。あまり弾薬を積んでないのもあるけど、敵に気づかれない限りは撃たないようにしようと思う」

村雨「まぁ、気づかれないなんてことはないと思うけどね・・・」

村雨の言葉に、たははと苦笑して白露は返した。

その為の俺なんじゃないのか?と首を傾げる偵察機パイロット。

だがここでも口は噤んでおいたが、流石にこれ以上の私語をされると困る。

搭乗員B「皆さん、そろそろ危険海域に到達します。気をつけてください」

白露「はーい」

間延びした声に、大丈夫なんだと理屈でわかっていても、本当に大丈夫なのかと疑ってしまった。

〇六〇〇。

ようやく東の空から太陽が見え始めた。

これで視界が利くようになり、少しは気が楽になった。

白露「偵察機、異常はありませんか?」

搭乗員B「現在、貴艦隊上空8000mを旋回中。周辺海域に不審な影は見当たらない」

白露「てことは、警戒すべきはやっぱり潜水艦だねー」

村雨「時雨、今のところ何か聞こえたりしない?」

時雨「何も聞こえない。待ち伏せされてたりしたらさすがに敵わないけどね」

白露「対潜兵器の使用については提督からくれぐれもソナーをうつのは慎重にしろって言われてるから、不用意に打たないでね?」

村雨「そんなの注意されなくてもわかってるって・・・」

それから指定された海域を捜索し続けるも、それらしきものは一切見当たらなかった。


舞鶴鎮守府執務室。午後九時。

白露たちからの報告を受けた提督は、今日はもう寝ていいと言って彼女たちを帰した。

提督「やはり相当奥の方まで出向く必要がありそうだな」

執務机の書類を脇にのけて、日本西部海域の地図を広げる。

中国と日本の丁度中間あたりの海域を差しながら提督が言う。

五月雨「そこまで出向くとなれば、駆逐艦だけだと危険に晒すことになります。近づくに連れて敵の防衛網も当然厳しくなると考えると、重巡以上の戦力を投入しなければなりません」

提督「うちにある陸上の偵察機は一機しかないからなぁ・・・。航空巡洋艦でもあれば楽になるのにね」

五月雨「すぐに現実逃避しないで考えましょうよ・・・」

提督「五月雨の言うとおりだと思って」

五月雨「え?」

提督「彼女達も実践をそれなりに経験しているし、偵察任務に命じたのも彼女たちがそのレベルにまで達したからと判断したからなのは事実だ。だがこれより先へは進ませられない」

大湊に助力を頼むことも視野にいれなければいけない可能性も頭の隅にとどめておく必要があるだろう。

提督「水上艦による捜索は断念するしかない。偵察編隊を組むぞ。烈風専属の操縦士を十人呼んできてくれるか、五月雨」

五月雨「わかりました」

五月雨が早足で執務室を出て行った。

敵拠点を支配する敵深海棲艦がわからないうちは水上艦を出撃させるのはやはり早とちりだ。

今回の偵察任務で何も起きなかったことは奇跡に近かったのだと今はじめて考えさせられる。

提督「彩雲も開発を進めさせるべきだった・・・」

キ46の性能を考えれば今回の偵察の往復には問題ないが、万が一戦闘になった場合はそうはいっていられない。

提督「ま、やってみるしかねぇよなぁ・・・」

背凭れにもたれて、目だけ動かして地図を眺めてぼーっとしていると、五月雨が帰ってきた。

五月雨「提督、お呼びしました」

今回の偵察機のパイロットに加え、十名が部屋に入ってきた。

十名といえど、妖精である。

提督「(そういえば妖精って空は飛べないのだろうか)」

搭乗員C「烈風のパイロット十名、全員揃っています」

変な想像を振りきって、妖精達に向き直る。

提督「諸君らももう察していることと思うが、無論、偵察任務のことだ」

提督「今回水上艦と偵察機による敵拠点発見のための偵察部隊を組んだが、残念ながらというべきか、やはりというべきか、近海には敵拠点は発見されなかった。五月雨との合議の結果、敵拠点は日本海の深奥部、危険海域の奥深くに位置するだろうという結論に達した」

提督「そこへ駆逐艦だけで立ち入るのは大変な危険が伴う。されど、この偵察任務へ戦艦や重巡という足の遅い艦を投入する訳にはいかない。よって、諸君ら烈風十機の護衛とともに、キ46による偵察編隊を組むことにした」

搭乗員B「威力偵察は中止、ということですか?」

提督「その通りだ。これは明日の食堂で皆にもう一度伝えることにする。偵察任務の再開始は明日の午前十時からだ。都合が合わないものは名乗りでてくれ」

手を挙げるものはいない。

提督「伝えることは以上だ。呼び出してすまなかった。今夜はよく休んでおくように。解散」

搭乗員B「失礼しました」

敬礼をすると、十一名は部屋を出て行った。

五月雨「・・・あ、そういえば提督」

提督「なんだ?」

五月雨「そろそろ提督のご両親の命日なのでは?」

提督「よく覚えてんなぁ・・・」

五月雨「十一月の三日でしたよね?」

提督「その通りだけど、今年は延期するしかないよ。いくらなんでも作戦行動中に鎮守府を離れる訳にはいかない」

五月雨「そうですか・・・」

提督「言っとくけど今年はふたりきりって訳にはいかないと思うぞ、多分」

五月雨「そんな!?どうしてです!?」

あからさまな反応に、提督も苦笑してしまった。

提督「そりゃお前、前の旅行だってみんな行きたがってたんだしさ。今年ぐらい一緒に行こうじゃない」

五月雨「そうですよね・・・、なら、提督と同じ寝台でお願いします」

提督「涼風の隣にいてやれよ。俺は一人で寝るから」

五月雨「・・・わかりました」

膨れっ面のまま、五月雨は執務室の扉を不機嫌そうに開けて出て行った。

十一月一日。舞鶴鎮守府地下大演習場。午前八時。

12.7cm砲弾が薬室に運ばれる。

開放された薬室内に砲弾が装填、丸い形をした重厚な尾栓によって完全に密閉される。

尾栓に装着されている撃発式火管の撃針が、弾丸底部に付属する雷管を叩く。

猛烈な勢いで叩かれた雷管が起爆、火管の導火薬に点火。

火管の伝火薬に点火。

点火剤に点火、薬莢内部に詰め込まれた配合非公開のままの火薬が炸裂。

その際に発生した強力なガス圧によって砲弾が叩き出される。

弾丸が砲身を通過。

その間、砲内部に施された施条が、砲弾を削りながら弾道を安定させるための回転をかける。

生じたガスが砲口から漏れる音、弾丸が音速を一瞬で突破した際の衝撃波により地下演習場に爆轟音が響く。

噴煙、墳炎と共に砲弾が弧を描き2km先に設置された目標に向かっていく。

目標に衝突後、知覚出来ない程のタイムラグで着発信管が作動、砲弾内の配合機密の炸薬が炸裂。

目標を粉砕した。

提督「ここじゃなくて、外でやればいいのに」

演習場は設置されているし、使わない訳にはいかないのはわかるが・・・。

提督「それにしてもだな、あんなちっこいのでどうやってあんな爆発力を叩きだすんだ・・・?」

技主「それは教えられないんですよね」

独り言のつもりだったのに、突然背後から声をかけられ驚いてしまった。

提督「うぉッ、・・・、お前、いつでも俺の傍にいない?」

技主「偶然ですよ。とにかく、配合は秘密のまま、これは暗黙の了解です」

提督「それじゃあなんだ、なんで五月雨はこんなところであんなことをしてるんだ?」

技主「五月雨さんが砲弾の軌道が安定しないと言って、私に修理を依頼してきたんですよ」

尾翼がついてない砲弾は、回転をかけることで空気の流れを安定させ比較的安定した弾道を見せる。

その回転をかけるための施条は、当然使われるごとに摩耗していく。

提督「施条が擦り切れてるのか。どれぐらい使い続けてたんだろうな・・・」

技主「なのでそれで今、砲身を交換したので試射をしてもらっているわけです」

提督「なるほど」

提督「(にしても、あんなみみっちい模型みたいな砲塔でどうやってあんな複雑な動きをするんだ・・・?)」

技主「あなた方が使っていた砲塔をそのままスケールダウンしたようなものです」

提督が何を考えているのか大体わかるのか、技術主任が教えた。

提督「すけーる、なんだって?」

技主「スケールダウン、要するにそのまま小さくしたってだけです」

提督「簡単に言うよなぁ・・・」

技主「というか、こんなところにいて良いんですか?偵察隊、一時間前に出たばかりですよ」

提督「定時連絡は二時間毎だから少し時間を潰そうとしてたんだ。でもまぁ、五月雨が忙しいんなら戻るわ」

気怠そうに体の向きを変えると、

提督「装備調整、しっかり頼む」

軍靴の硬質的な靴音を響かせながら、演習場を出て行った。




時間経過。舞鶴鎮守府司令室。午前九時。

搭乗員B「偵察隊より入電。応答せよ」

提督「無線感度良好、首尾を報告してくれ」

搭乗員B「現在鎮守府から針路3-0-0、600km地点、上空6000mを飛行中。敵影なし」

提督「了解、通信終了」

搭乗員B「通信アウト」

提督「偵察円外周に着いたか」

舞鶴鎮守府を起点に、半径600kmで円が書かれた地図に目を落とす。

外国の領空侵犯をしているが、あちらのほうも深海棲艦にかかりっきりだと聞いたことがあるので、まぁいいだろうと国際関係の悪化を招きかねない重大事件を提督はさらりと払いのけた。

武装は外させていないが、念の為に増槽もつけさせてある。航続距離に関してはあまり問題にはならないだろう。

提督「(大体六時間ぐらいで帰ってこれるだろう)」

三時間後。キ46。洋上。

周回円の内側を主に見るようにして偵察行動をしていた偵察隊隊長が異変を感じた。

搭乗員B「なんか視界が暗くないか」

搭乗員C「・・・私も先程から感じていましたが、気のせいだと思っていました」

搭乗員B「総員ここで旋回待機。高度を上げて確認してくる」

搭乗員C「了解」

キ46が上昇に転じ、他機が空域から離れる。

高度計が10000mを指した当たりで、背面飛行に移る。

搭乗員B「なんだありゃあ」

なにか黒い塵のようなものが、島と思われるものの周囲に展開している。

それもどうやらかなり範囲が広く、端に行くにつれ密度は低くなっている。

最も塵が濃い部分に目を凝らす。

搭乗員B「島か・・・?」

地図で場所を確認すると、舞鶴鎮守府から距離概算500km、方位は3-6-0。地図上ではちょうど真上だ。

もっとよく見ようとするあまり、近づきすぎてしまう。

搭乗員B「まさかあれが提督が言ってた奴じゃねぇのか!?」

搭乗員C「拠点を発見しましたか」

搭乗員B「あぁ、それより、お前も早くあの島の位置を地図に書き込んでおけ」

搭乗員C「わかりました」

任務は完了したが、あの黒い霧をどう説明しようか。

考えながらその場で操縦桿を操り、本隊へ戻ろうとした。

搭乗員B「・・・ん?」

搭乗員C「どうしました」

旋回速度が遅い。

防弾性の窓から飛行機の補助翼を見つめる。

見る限りなんの問題もない。

垂直尾翼での機体操縦も試みるが、これも意味が無い。

搭乗員B「おかしい、さっきまでは馬鹿みたいに素直に動いてたのに」

搭乗員C「機体に故障でも起きましたか」

搭乗員B「いや、故障なのかどうかはわガッ!」

突然キ46の機体の操縦が文字通り完全に奪われた。

あまりの急な引力に、言いかけた言葉が喉から押し出された。

搭乗員D「隊長!?どこに行ったんです!」

コックピットから外を見るが、いつの間にか真っ黒な闇に覆われたように何も見えない。

搭乗員C「隊長、状況を報告して下さい」

搭乗員B「わからん!わからんが、何かが俺の機を引っ張ってるッ!」

慌てて三基の発動機に取り付けられているピッチ角を調整、無理矢理機体推進方向を逆にした。

機体全体が引っ張る力と競合し、嫌な音を立て始める。

搭乗員B「ふざッけんな!こんな所で馬鹿みてぇに落ちたら隊長にどうやって顔を合わせろっていうんだ!」

搭乗員D「救援に向かいます!」

よせ!という怒鳴り声でそれを制する。

味方全体に伝わるように敵拠点の座標を読み上げた後、

搭乗員B「全機は直ちに鎮守府に帰還、提督に拠点情報を報告!」

搭乗員C「た、隊長、あなたは」

搭乗員B「機体が死んだだけだ。こんな所で死ぬつもりはない!早く戻れ!」

搭乗員C「・・・了解、帰還します」

搭乗員D「何言ってんだあんた!?隊長見捨てんのかよ!?」

搭乗員C「・・・よくいますよね、あなたみたいなの。戦闘不能に陥ってしまうような空域に助けるんだとか言って駆けつけて、挙句自分まで墜落して仲間の手を煩わせる。邪魔です」

溜息を付いた後、付け加えた。

搭乗員C「助けたい気持ちはわかりますが、隊長が少数より大数を優先しろと命令したのですから、それに従うまでです」

搭乗員D「なっ」

搭乗員C「帰還します」

全員の帰還を確認すると、編隊長は発動機の回転数を最大に上げた。

しかし、本隊が峰山防空基地に戻り鎮守府へ帰還しても、ついぞ編隊長が復隊することはなかった。

移動。舞鶴鎮守府執務室。午後二時。

五月雨「黒い塵とキ46の墜落って関係あるんでしょうか?」

今し方偵察隊が出て行った扉を見ながら、五月雨が言った。

提督「馬鹿な、塵ごときで機体の操縦が奪われるようなことはほとんどないはずだぞ」

五月雨「でも、パイロットが言った情報を考えれば、空気をろ過する装置の処理能力を超える密度だと思いますよ」

空冷式エンジンには、外気を取り入れる際の不純物を取り除くためのエアクリーナーがあり、余程のことがなければ詰まらない。

処理能力が低下しても、せいぜい速度の低下を招くだけだ。

提督「それも確かに原因と考えるべきかもしれないが・・・、編隊長は何かに引っ張られていると言っていた」

五月雨「なら、偵察機は・・・」

提督「間違いなく敵拠点に墜落しただろう。まずいな」

五月雨「まだ死んだと決まったわけでは」

それもあるんだが、と提督は五月雨の発言を遮った。

提督「確かにそれもまずいが、もし無傷のまま敵があの機体を島に引っ張りこんだとすれば確実に機密が漏れるぞ。キ46は戦略偵察機としても実用的な機体だ。作戦の開始を急ぐ必要が出てきた」

五月雨「烈風を主力にする空母の出撃は絶望的でしょうね」

提督「敵拠点は潰すまでは出撃させるわけにはいくまい。とりあえず皆を食堂に集めてくれ」

五月雨「わかりました」


移動。舞鶴鎮守府作戦会議室。午後三時。

提督「今回の偵察機達の尽力により、日本海における敵拠点の位置を正確に割り出すことが出来た」

期待のそれにも似たどよめきが広がる。

提督「だが、その偵察機隊長、キ46が島周辺にて何者かに機体の操縦を強奪され、消息が途絶えた」

赤城「機体の操縦を奪うと言ったって、一体どうやって?」

提督「まだ何もわからない・・・、だが、何かに引っ張られていると編隊長は言っていたらしい」

赤城「毎秒40回転近くあるプロペラが起こす気流を突っ切ってどうやってキ46を引っ張るんですか!?」

提督「だからわからないと「それに」

赤城「キ46の最大馬力は900を超えるのに、どうして引っ張られたりするんです!あの隊長が諦めておとなしく引っ張られたとでも言いたいんですか!?」

加賀「赤城さん、落ち着いて。まだ死んだと決まったわけではないわ」

赤城「そっ、そうだけど・・・」

キ46に搭乗していたパイロットは事実上赤城の部下みたいなものであり、情が移るぐらいはしていたのかもしれない。

提督「・・・キ46は我々海軍において優秀とされ使われ続けてきた戦略偵察機であり、その機密とも言える設計図を敵に奪われる訳にはいかない。よって、我々は兼ねてからの島襲撃の作戦開始を前倒しすることにする」

提督が五月雨に目配せした。

五月雨「え、えと、これより艦隊編成を発表します。今回の仕様編成は水上打撃部隊となります」

隼鷹「え、うちらの出番なしかい?」

加賀「先程の機体の自由を奪ってしまうような兵器を敵が持っているのだとすれば、私達空母は迂闊に出るべきではありません」

赤城の肩を抱えながら、加賀が隼鷹に答えた。

五月雨「いえ、空母の皆さんの出番が無いわけではありません」

加賀「どういうこと?」

五月雨「これからご説明します」

五月雨「第一艦隊、扶桑、山城、ビスマルク、古鷹、加古、プリンツ・オイゲン。
    第二艦隊、五月雨、涼風、暁、響、電、雷。
    以上の連合艦隊で、当該作戦区域に向かいます」

白露「この鎮守府の高練度艦を出してくるってことは、提督も本気なのかな」

時雨「そりゃ日本海だもん、舞鶴鎮守府の縄張りっていっても過言じゃないんじゃないのかな。庭を荒らされてる様で我慢できない、みたいな?」

五月雨「そして、第三艦隊」

五月雨「加賀、赤城、隼鷹、飛鷹、大鳳の皆さんは、作戦開始後艦隊後方30kmの距離を維持し第一、第二艦隊に追従して下さい」

赤城「私達の出番は拠点を潰してから、そういうことですね?」

提督「そういうことだ」

五月雨から引き継いて、提督が言った。

この作戦の動機は、概ね時雨の言う通りだった。

提督は、自分が任された海域に敵がいる事自体まず許せないし、自分の許可無く島を作るなど言語道断、あってはならないことだと考えている。

それに、自分の部下を強奪するなど。

死んで償えと怒鳴り散らしてやりたい気持ちを抑えて、これでも冷静に会議をしているつもりなのだ。

提督「作戦決行は十一月九日。作戦名称は裂島作戦。跡形もなく島を潰してやれ」

提督「詳しい航行針路、陣形については明日発表する。以上、解散」

移動。舞鶴鎮守府執務室。午後四時。

海軍軍令部へ有線電話で作戦内容を送信し終え、提督は椅子に沈み込んだ。

各鎮守府から中央の軍令部へは直接電線を敷けば傍受されないだろうということで、一年の短期間で設置された物だ。

今まで使ってこなかったのは、この送信方法に慣れていなかったからである。決して、会話するのが億劫とかいう理由ではない。

五月雨「大体こんな結末になりますよね」

提督「こんなって?」

五月雨「提督は大抵一ヶ月は作戦開始までに余裕を持たせるんです。でも、何かしら緊急事態が起こって作戦決行を急がないといけなくなるんですよ」

提督「確かに・・・、何かが絶対に起きるのはいつものことだな。まぁ、予定はうまくいかないためにあるとも言うじゃない」

五月雨「・・・それで、今回も提督は出るんですか?」

少し声を小さくして、五月雨が訊ねた。

提督「こればかりはなぁ。さすがに大規模作戦の指揮は俺が執らないといけないし。偵察程度のことならまだしも」

五月雨「でも、通信はここからでもできるんですよね?」

提督「安全な所から指揮するのと、実際に緊迫して、敵を目前にした状態で指揮をするのとは質が違うし速度が違うと俺は考えてるんだよ」

五月雨「それはそうですけど・・・」

提督「白露に言われて目が覚めた。もう無茶なことはしない。今までだって死ななかったんだぜ、これから慎重にするようにすれば俺は絶対に死なないんだ。死ぬ訳にはいかないんだ」

五月雨「私より先に死んだりしないでくださいね」

提督「・・・お前に死なれても困るんだが」

十一月二日。舞鶴鎮守府作戦会議室。午前九時。

九日に出撃するメンバーが揃ったのを見て、提督が切り出した。

提督「まず、今回の作戦決行時間は、九日〇六〇〇とする。方位は3-6-0、敵拠点へ向けて直進針路を採る」

提督「次に、艦隊編成は第二警戒航行序列をとる。各艦距離を離さず、狭めずを保つように」

扶桑「潜水艦に対する警戒はしないのですか?」

いつもならそうするのに、と扶桑が手を挙げ質問する。

提督「扶桑の言うとおり、潜水艦も出没する可能性も無きにしも非ずだ。だからといって対潜陣形を組むほどの脅威とはならないだろう。この前の潜水艦の司令船を排除したことも加味しての判断だ」

扶桑「わかりました」

提督「そして皆も重々承知のことと思うが、偵察隊の事件を鑑みるに、艦載機による航空支援は絶望的と考えてくれ。三式弾による対地攻撃を敢行することになる。また、敵方が航空機を用いないとは限らない。第二艦隊は対空装備を充実させるように。無論、万一のために舞鶴も武装する」

赤城「私達は何をするんです?」

一切空母の話しが出てこないことに怪訝そうな声を赤城があげた。

提督「第三艦隊は拠点への砲撃が開始されると同時に、俺の号令で周辺海域に展開する敵艦隊の掃討へあたってもらう」

赤城「わかりました」

ビスマルク「提督、三式弾の計算はどうするの?」

提督「それについてだが、こちらが指示するのはこの間の作戦の時だけだ。今回からは君達が個人で設定するように。時間がないときに指示がないと撃てないという状況は避けたい」

ビスマルク「わかったわ」

他の第一艦隊のメンバーも同意したのを確認した後、具体的な速度の指示など細々とした事を海図を指し示しながら発表していく。

三十分程度の会議の間、眠そうなそぶりを見せるものはいなかった。

提督「今回の作戦の目的は敵を再起不能にすることじゃない」

五月雨「?」

珍しく提督の目が真剣な物になっていた。

提督「再起不能などという言葉じゃ生温い。この作戦名称は裂島作戦。島を消滅させるつもりで戦え。敵を殲滅しろ。撤退を許すな」

提督が立ち上がって言った。

提督「敵を殲滅せよ。これがこの作戦の標語であり、達成のための必要十分条件だ」


十一月九日。舞鶴鎮守府出撃港。〇六〇〇。

副長「全火砲、機関問題ありません」

提督「了解。装備点検を行う」

舞鶴の点検が終わり、艦娘達へ移る。

提督「扶桑、山城、ビスマルク。41cm三連装砲二門、15.5cm連装副砲、三十二号対水上電探改。なお、扶桑に関しては一門犠牲にして、照明弾用砲塔に換装してある」

扶桑「問題ありません」

提督「古鷹、加古、プリンツ・オイゲン。SKC34,20.3cm連装砲二門、61cm四連装酸素魚雷、三十二号対水上電探改」

古鷹「こちらも、問題ありません」

提督「五月雨、涼風、暁、響、雷、電。 10cm連装高角砲二門にそれぞれ九四式高射装置、十三式対空電探改」

五月雨「第二艦隊、装備不備なし」

提督「第三艦隊、赤城、加賀、烈風。飛鷹、隼鷹、大鳳彗星一ニ型甲」

赤城「第三艦隊、問題ありません」

提督「総員、第二警戒航行序列。針路直進3-6-0、巡航速度を維持せよ」

扶桑「了解、第二警戒航行序列、針路3-6-0、巡航速度を維持します」

汽笛を持たない艦娘に変わり、舞鶴が出港の咆哮を上げた。


〇七〇〇。舞鶴から約30km。

提督「巡航速度を維持したまま行けば、拠点への到着は十六時間後。二三〇〇に到着予定だ」

五月雨「思いっきり夜間射撃ですね・・・」

提督「万が一にも余念を期してな、夜間ならば航空爆撃と航空魚雷の被害も最小限に抑えられると踏んだんだ」

ビスマルク「夜間攻撃はうちの子達はやれないの?」

提督「うちの子達ってどの子達のことだ?」

ビスマルク「パイロット君達のことに決まってるじゃない」

提督「あぁ、艦載機のほうのね・・・。できるにはできたはずだ。だけど昼に比べて敵が見えないのも確かだし、誤爆の可能性も出てくるから夜間出撃は基本許可してない」

ビスマルク「そうなの・・・」

提督「そんなこと気にしてるな。あまり油断してるとこっちがやられる。扶桑、敵影は見えないか?」

扶桑「まだ電探にそれらしき反応はありません」

提督「こちらも空にこれといった反応は見受けられないが・・・、耳鳴りがするほど静かだな」

〇八〇〇。舞鶴から約60km。

暁が不安そうな声で提督を呼んだ。

暁「司令官、ちょっと」

見張塔から暁がいるほうへ顔を向けた。

提督「どうした?」

暁「なんかちょっと・・・、暗くない?」

提督「そうか?」

確かに、心なしか曇っているのとは違う暗さがあたりを満たしている。

フィルムカメラを覗いた時のような、黒っぽいものが混じっているような感じだ。

提督「(黒っぽいもの・・・?)」

扶桑「反射波!敵艦反応大きい!おそらく六隻駆逐艦隊、近づく!距離25km、三-四-六、〇八一一!」

だが、考える隙を与えずに、扶桑が敵艦接近を告げた。

提督「っ、全艦戦闘態勢、第四警戒航行序列、両弦増速黒四十!」

扶桑「了解、陣形固定、両弦増速黒四十!」

合わせて舞鶴も機関が唸りを上げて速度を上昇させる。

提督「目標敵駆逐艦、個別識別できないか!?」

ビスマルク「方位三-四-五・・・、斜めに向かってるから各艦距離は短く見えるけど、単縦陣ね」

提督「針路転換、三-四-五、反航戦にて会敵する!」

扶桑「了解、針路転換三-四-五!」

針路変更が終わったところで、前方に出ていた第二艦隊が長距離先制雷撃を開始。

提督「第一艦隊全主砲弾丸装填、敵艦隊陣形乱れたところへ叩き込め!」

副長「敵艦隊増速、21kn、こちらは20kn、二十分後に交錯します」

提督「舞鶴主砲牽制射撃、撃ちィ方始め!」

砲雷長「牽制射、主砲装填、射撃開始!」

三門の長十センチ砲が、交互に敵艦隊へ射撃を開始する中、魚雷の一本が敵戦闘駆逐艦に命中、十秒とたたないうちに海の中へ姿を消した。


五月雨「敵駆逐艦一隻、撃沈確認!」

しかし、敵艦隊はいきなりの先頭艦撃沈に怯む様子も見せない。

それに一瞬戸惑いかけるが、頭を振って雑念を振り払う。

提督「並射、単発打方、右から撃て!」

扶桑「距離23600m、全主砲、撃ぇッ!」

並射、単発打方右からという号令がかかれば、艦娘から見て右側の砲塔から順に射撃をしていくことになる。

一番砲塔、二番砲塔が一連の射撃を一度だけ行う。

提督「弾着報告!」

扶桑「全弾近!命中弾ありません!」

小さく第一艦隊の誰かが舌打ちするような音が聞こえた。

さすがに駆逐艦相手じゃ一発命中は期待できないだろうと言いかけたが、さすがにやめておいた。

提督「第一艦隊は全主砲次弾装填、第二艦隊砲撃用意!」

五月雨「敵艦隊目視確認、砲撃用意!」

敵からの砲弾は未だ命中とは呼べないため、少しは余裕がある。

副長「敵艦隊距離約15000m、依然編隊変わらず。あちらも反航戦に持ち込むつもりです」

提督「第二艦隊、目標敵駆逐艦、各個各自撃破!」

五月雨「並射、単発打方、右からっ!」

長十センチ砲の威力はそこまで高くなく、命中したとしても威圧程度にしかならない。

とは言え、これが強みなのだ。一発三秒程度という弾幕は牽制において威力を発揮する。

五月雨の号令で、十一回目の砲撃が行われた。

五月雨「敵艦二隻大破を確認!航行不能!」

十一回撃てば、大体三十秒たったということであり、装填時間が30~40秒の第一艦隊の砲撃用意が整ったことを意味する。

提督「第一艦隊、緩射、単発打方、右から始め!」

扶桑「全主砲装填完了、撃てッ!」

提督「弾着報告!」

扶桑「命中六、敵駆逐艦三隻轟沈!」

提督「五月雨、大破艦の動向は」

五月雨「速力の低下を確認。ですが、以前針路は変わらず。まだ砲塔が生きているとは」

思えない、と言おうとした所で敵艦が爆轟の音とともに姿を消した。

提督「誘爆したか?」

扶桑「恐らくそうです。でないとあれほどの爆発は起きないですから」

提督「初戦は無事に終えたな・・・。それにしても今回の敵はやけにしつこく来るんだな。教官でも変わったか」

提督「(気にしている暇はないか・・・)」

提督「全艦、両舷原則赤四十、針路戻せ」

五月雨「了解、巡航速度を維持、針路戻します」

今の戦闘行動による燃料消費は無視できる程度に収まっていた。

提督「第三艦隊、異常ないか」

赤城「第三艦隊、全員異常ありません」

提督「了解」

一〇〇〇。舞鶴から約121km。

提督「鎮守府から二時間程度のところに駆逐艦隊がいたとは・・・」

暁「白露さん達が哨戒を終えた時の報告には、そんな艦隊の報告はなかったんじゃないの?」

提督「あぁ、昨日の報告では敵性艦隊の報告は一切なかった。だとすれば、白露達が帰還して、夜中の間に敵は展開を終えたことになる」

五月雨「え、それってまずくないですか」

五月雨が少し上ずったような声で言った。

提督「俺達の動向がバレているのかもしれない。というか、バレてるんだろうな。しかしうちの鎮守府に密偵がいるとは到底思えないのだが・・・」

五月雨「私達の中に敵がいるとは思いたくないですし、思えません。すると、上空からの偵察機に動きを補足されたとしか考えられないと思います」

昨日の夜は舞鶴の出港準備で港も結構慌ただしかったため、それを検知されたのかもしれない。

提督「まさかうちの子達が不用心に作戦内容を公共電話で誰かに知らわせるわけもなし・・・」

俺達の誰にも捉えられない程の高高度偵察。

嫌な予感がした。

提督「・・・信じたくないぞ」

五月雨「どう考えてもキ46の模倣品か、本体が使われたと考えるべきですよね」

提督「そして舞鶴の中でキ46の戦略偵察、つまり高高度偵察に耐えうるほどの練度を持つ妖精はそう多くない。それこそこの前の偵察に付き添った烈風操縦士の奴らぐらいだ」

五月雨「その時烈風に乗っていたパイロット達は皆無傷で帰ってきてますよ!?」

さすがに焦ったのか、声に気持ちが現れていた。

赤城も何か言いかけるが、結局何も口にだすことはしなかった。

提督「どういう手段かわからないが、確実にキ46操縦士が敵方に堕ちたと考えるのが妥当だ。危険だ、あいつ一人だけでも艦娘一人は沈められる能力を持っている。それに」

ビスマルク「彼なら夜間攻撃能力を持っているって言いたいの?ちょっと、さっきと話が違うわよ。早く空母を「だが」

提督「こちらは攻撃機を飛ばせないのに、敵は航空支援を受けられる・・・。敵が航空基地とくるか、砲撃要塞とくるか」

扶桑「どっちに転ぶかで勝敗が決まりますね・・・」

提督「馬鹿を言うな。それだけのことで勝敗なんて決まらねぇよ。それでも第二艦隊には相当頼ることになるけどな」

涼風「あたいらなら問題ないって!いけるいける」

五月雨「軽く言わないでよぉ・・・」

一二〇〇。舞鶴から約180km。

提督「お前ら器用だなぁ」

水上航行しながら、間宮が作った戦闘糧食を食べるというある意味曲芸じみた光景に提督が言った。

五月雨「そんなに難しいことでもないですよ?提督もできると思います」

提督「それはない」

提督も豪速でご飯を口に運びつつ、現在位置を記した海図を見た。

提督「今のところ駆逐艦の六隻としか会ってない。前回に比べて防御が薄い気がするな」

扶桑「嵐の前の静けさ、でしょうか・・・?」

提督「またそういうこと言う・・・」

一四〇〇。舞鶴から約240km。

丁度二時になり、冬場の海上も気温が最高に達しようとしていた頃。

五月雨「反射波、先の目標、敵大型編隊感1!方位3-5-9、距離約130km、一四〇〇!」

提督「第三警戒航行序列、針路、速度そのまま!」

扶桑「了解、第三警戒航行序列、針路、速度そのまま!」

提督「第一艦隊、扶桑以外三式弾装填、第二艦隊対空砲発射準備!」

山城「了解、三式弾装填、発射用意!」

五月雨「こちらも高射砲用意完了しました!」

駆逐艦六隻にそれ二連装の十センチ連装高角砲二門、単純計算すれば二十四本の十センチ砲があるということ。

かなりの弾幕を張れるはずだ。

提督「第一艦隊、敵編隊が距離30km以内に入ると同時に斉発射撃で敵編隊を威嚇、25km以内で15.5cm三連装副砲の斉発を。全主砲、副砲ともに弾丸を装填しておいてくれ」

扶桑「了解です」

赤城「私達も出たいけど、我慢よね・・・。我慢」

その発言に苦笑しながら、提督が命令を発する。

提督「全艦増速、最大戦速!」

扶桑「了解、最大戦速、ヨーソロー!」

副長「敵艦載機対地速度約毎時800km、約七分後に第一艦隊41cm砲射程範囲、程なくしてSKC34、15.5cm三連装副砲射程内。約八分後に第二艦隊射程内に入ります」

沈黙の中五分ほどしたところで、敵艦載機群が見え始めた。

見張り員「目測、敵艦載機約150!」

提督「第一艦隊、主砲敵編隊、発射用意!」

扶桑「目標敵編隊、主砲目標合わせ!」

五月雨「敵艦載機、距約32km!射程内!」

提督「緩射、一斉打方、始め!」

扶桑「時限信管調停完了、撃ぇッ!」

船内にいても、41cmの発射音は腹に響く。

提督「いやはや、これが史実通りの巨砲だったら痺れるねぇ」

山城「無駄口叩いてる暇あるんですか!?」

提督「全副砲、重巡主砲、一斉射撃、撃てッ!」

プリンツ「ファイヤーッ!」

二度の斉発射撃が終了し、肉眼で確認する限り編隊の五分の一程度は減らせたように思う。


提督「第二艦隊、射撃用意!」

五月雨「敵編隊目視補足、目標合わせ」

暁「いつでも行けるわ!」

予定通り、一分半ほど経過したとこで射撃命令を出す。

提督「並射、単発打方、右から始めッ!」

五月雨「全主砲、撃て!」

砲雷長「撃ちぃ方始めェ!」

提督「第二艦隊、舞鶴は射撃継続!」

五月雨「了解!」

提督「第一艦隊、装填完了次第並射、独立打方、始め!」

昔なら独立打方といえば、二本の砲身それぞれに配置された砲手が独立して撃ちまくるみたいな意味である。

だが今の時代艦娘が両砲の砲手を兼ねているため、この場合各人打方、のような号令にもできる。

見張り員「敵艦載機識別、艦上雷撃機、魚雷引っさげてやがります!」

副長「敵航空魚雷、射程内まで残り約一分」

見張り員「敵損害大!四分の三は削りました!」

提督「全艦面舵一杯!回避!」

扶桑「了解、取舵一杯!」

航海長「取舵一杯!」

後方に位置する指揮船からだと、統制の取れた艦隊の回避運動を一望できた。

回避運動をとっている間も、第一艦隊、第二艦隊ともに射撃を続け、残り十四機となった所で魚雷が落ちるのが見えた。

提督「捉えられたかッ!」

投下された十四本の内、五本が砲撃による妨害で大きくずれて投下される。

そして残りの九本が、狙いすましたように扶桑、五月雨、舞鶴に向けて走りだす。

間一髪ではあるが、旋回開始に時間が掛かる為不安のあった戦艦達も、事前に回避運動を開始していたおかげで魚雷を回避した。

距離1500mまで接近した戦闘機は、数秒と立たないうちに殲滅された。

提督「被害報告!」

扶桑「第一艦隊、損傷なし」

五月雨「第二艦隊も損傷ゼロです」

赤城「第三艦隊も被害ゼロ」

提督「扶桑、付近に敵空母らしき姿は?」

扶桑「今の戦闘中、レーダーの波長にそれらしき乱れはありませんでした」

五月雨「なら、今回の敵は飛行場系統の深海棲艦ということになるのでしょうか」

提督「可能性は高くなったが、そうとは言い切れない。今回の出撃が読まれていたとするなら、俺達の進撃方向もおおよその検討はついていた可能性もある。それに加えてあの駆逐艦隊との戦闘・・・。わからん、敵の正体すらつかめんな」

扶桑「もし今のが空母から発進した機体なら、かなりの規模の機動部隊ですよ」

五月雨「それに今の戦闘で私達の場所は割れてしまったかもしれません。針路を変えたほうがいいんじゃないですか・・・?」

提督「・・・賭けてみよう。敵が俺達が針路を変更したと思って警備を広げるか。もしくは針路をこのままだと仮定して部隊を集めるか。五月雨、今のところ上空に偵察機らしき反応はないよな?」

五月雨「確かにありませんけど・・・、一か八かですよね」

提督「たった百五十機程度で俺達を潰せると思ったのか、罠にでもはめるつもりだったのか・・・」

一方。深海棲艦日本海支部拠点。

離島棲鬼「・・・」

目の前には何かに繋がれたキ46パイロットの姿があった。

そして、繋がれた状態で片言で何かを指示している。

離島棲鬼「コンナニ良イ偵察機ヲ持ッテイタ何テ、知ラナカッタ」

パイロットの指示で、配置されている「無傷」のキ46の隅々までが黒く塗装されていく。

並べられた300を超える量の艦載機群もまた、着々と妖精とは似ても似つかない姿形をした整備員によって塗装されていく。

離島棲鬼「コレハ・・・、夜間偵察機トシテハ、良イ仕事ヲシテクレソウジャナイ?」

そこへ、先程舞鶴の連合艦隊と遭遇した編隊から連絡が入った。

離島棲鬼「舞鶴ノ司令官ハ私達ニ発見サレタトスレバ針路ヲ変エルデショウ・・・。イイワ、潰シテアゲル」

あの子とは無論、大津こと、飛行場姫の事に他ならない。

離島棲鬼「・・・エ?発見サレタト思ワナイカモ知レナイ?ソンナ司令官ダッタラ、モウトックニ死ンデルニ決マッテルデショウ」

離島棲鬼は、パイロットの頭から伸びたヘルメットから伸びるコードを弄びながら、ニヒルな微笑みを浮かべた。

離島棲鬼「チャァント、私達ノ子供タチヲ指揮シテアゲテネ・・・」

コクリと、キ46パイロットは静かに頷いた。

島周辺の霧が徐々に晴れ始めていた。

一七〇〇。舞鶴から約331km。

周囲の海は、夕日による真っ赤な色で染められていた。

日没とは反対の方向に目をやれば、すでに群青色の空が広がりつつある。

提督「相変わらず、夕焼けは綺麗なもんだ」

六時間以上も敵との遭遇を警戒し続けると、ちょっとしたことに気を奪われるようになってしまう。

五月雨「ですね・・・」

扶桑「照明弾、演習場と外洋で撃ってみましたが、時限信管の調節が難しいです・・・」

その雰囲気の中で、扶桑が悲観的な発言をする。

提督「探照灯はこちらの位置をばらすことになるから危険だと判断したんだ。まぁ扶桑の言う通り、偏差射撃と信管作動のタイミングを掴みづらいのがかなりの難点ではあるけどな」

扶桑「とりあえず、頑張ってみます。レーダーで出た敵艦の距離より遠くに撃てば味方の邪魔になることはないんですから・・・!」

自身を鼓舞するように、扶桑が言った。

提督「頑張ってくれ」

あまりしつこく言うのもいけないと思い、端的に励ますだけにしておいた。

提督「(そういえば、暁改二の書簡で探照灯の設計図が届いてた気がする。・・・ここでは言うべきじゃないな)」

一八〇〇。舞鶴から約361km。

五月雨「今日って新月だったんですか?」

提督「そうだぞ?」

完全に夜になった世界に、何かが足りないと感じた五月雨が、ようやく気づき提督に聞いた。

五月雨「ま、真っ暗ですね・・・」

提督「すぐ近くにいるんだから怖がるようなことはないだろう。それに、新月の夜ならますます敵も攻撃をかけてきづらいだろうと思ったんだ」

とは言うものの、提督も可能性をゼロとは決めつけているわけではない。

航空機から投下する照明弾もあるのだ。

艦隊後方に照明弾を投下、それによって映しだされた影に向かって航空魚雷を投下する。この戦法を敵が使わないわけがない。

それに、と上を見上げる。

提督「さっきまでとは違って、霧が晴れたな」

だんだん暗くなっていく旅路であったはずが、星明かりがくっきりと見えるほどに空気は澄み渡っていた。



二〇〇〇。舞鶴から約420km。

提督「全艦第三警戒航行序列をとれ」

扶桑「了解、第三警戒航行序列」

第四警戒航行序列を保ち、敵艦との接触に備えよとの命令を出していた提督が、作戦通り陣形変更の命令を出した。

430km圏内付近に到達したら、対空警戒に移ると事前に伝えてあった。

二〇四一。

扶桑「反射波!艦隊反応大きい!右舷ニ度、三十五km!」

提督「敵艦隊は動いてないか・・・、まだ気づいてない可能性もある」

提督「扶桑、スコープを絞れ。もう少し正確な距離と角度を知りたい。全艦機関微速、陣形乱すな」

扶桑「敵艦隊・・・、距離32010m、方位0-0-3、単横陣。各艦距離120m±2m。戦艦、または空母。艦首はこちらに向いていません」

提督「第一艦隊重巡、前へ」

古鷹「了解」

静かに、音を立てないように移動する。35kmも離れているのに些細な音まで伝わるとは思えないが。

提督「・・・全射線、魚雷発射用意」

五月雨「提督、この距離の長距離雷撃は躱される可能性が高いです」

提督「先制雷撃で沈められるなら沈めておきたい。派手に砲撃戦はやらかしたくないんだ」

提督「古鷹は一番右、加古が中央、プリンツが一番左の艦を狙え」

古鷹「重巡、魚雷発射準備完了」

提督「並進射法を用いる。艦速20kn、散布間隔は20m。雷速40kn、調停深度6m、目標艦首中央」

古鷹「間隔10m、雷速40kn、深度6m、目標合わせ」

加古「目標照準完了、いつもでいけるよ」

プリンツ「私も大丈夫です」

提督「全射線、古鷹から発射始め!」

速度を上げ、指示されたとおりに魚雷が小気味良い音を立てて海面に着水する。

提督も32kmなどという馬鹿げていると言われてもおかしくない距離での雷撃は初だ。

しかも、魚雷というのは真っすぐは進まない。

発射され、空中にいる間の空気抵抗で少し雷道がずれる。

水中に侵入した時の衝撃、そして着水、調定深度につくまでの間に水中の抵抗でこれまた雷道が上下左右に振れる。

そしてようやく調停深度に落ち着いてからも、完璧に真っ直ぐには進まない。

本当は接触信管ではなく磁気信管を使用してもっと命中に万全を期していきたいところだが、酸素魚雷に磁気信管は搭載されていない。

雷速40knは凡そ秒速21m。32010mを航走し切るには26分近くかかる。

五月雨が当たるわけがないというような発言をしたのもその為だ。

単一目標にこれだけの距離から当てたいとするなら、十本以上の開進射法を使うべきなのだ。

何にせよ、発射したのだから待つしかない。26分。

二一〇五。

幸い、魚雷の隣接間隔を25m程度に設定したお陰か、触雷は起きず順調に水中を走っているようだ。

・・・針路がどこを向いているかなどは、神のみぞ知る、だ。

とにかく、あと二分で到達する。

舞鶴連合艦隊は機関をアイドリングに保ったまま、その場に停止していた。

そして、敵艦隊が動き出した。

扶桑「敵艦魚雷接近に気づいた模様。回避行動の兆し。魚雷、到着まで残り30秒」

敵艦が横っ腹をこちらに向けつつ退避を開始。

刹那、二隻が低い爆轟音とともに、水柱と一緒に姿を消した。

提督「扶桑!照明弾装填、目標敵艦背後、方位0-1-3!撃て!」

扶桑「照明弾時限信管調停完了!撃ぇッ!」

敵の進行方向に少しずらし、扶桑が直ちに照明弾を発射。

提督「第四警戒航行序列!全艦増速最大戦速、第一艦隊全砲門弾丸装填!」

発射を終えた扶桑が、それに応える。

扶桑「全砲門発射用意!」

水上電探上を移動する方向へ、大雑把に砲門を向ける。

三分後、敵艦背後で三つの光源が出現、遅れて破裂音が聞こえた。

提督「出来てるじゃないか扶桑!並射、単発打方、右から始め!」

扶桑「全主砲、撃てッ!」

提督に褒められ、若干顔を上気させながら扶桑が射撃を開始した。

船務長「敵艦転舵!応戦する構えのようです!」

水測員「マジかよッ」

まさか自分の出番はまだないと思い込んでいた見張り番が慌てて見張り塔に出た。

双眼鏡を覗くのと、敵艦が発砲したのはほぼ同時だった。

水測員「敵艦発砲!」

第一艦隊が装甲を前に掲げ、砲弾装填を開始。

第二艦隊と舞鶴は射程外のため出番が無い。


赤城「提督、発艦許可を「駄目に決まってるだろう!」

船務長「敵艦増速、30kn!」

提督「突っ込んでくるか、良いだろう、迎え撃ってやる」

提督「全艦転針、0-1-3!」

扶桑「り、了解、転針、0-1-3!主砲装填完了しました!」

提督「急射、一斉打方、撃て!」

扶桑「全主砲、一斉射、撃ぇッ!」

戦艦一隻に、戦艦三隻が斉射で応じる。

あまりの戦力差にもかかわらず、敵艦は発砲をやめるどころか、負けじと打ち返してくる。

船務長「敵艦更に増速、35kn!」

提督「第三射用意!」

扶桑「主砲再装填、三射用意!」

提督「距離20000mに入るまで射撃待機、確実に仕留める」

射撃をやめると同時に、敵艦が斉発。

第一艦隊から爆発音が上がった。

扶桑「山城、加古が中破!」

山城「推力、武装ともに異常なし!」

提督「フラッグシップ級戦艦か、やってくれる」

加古「武装は問題ないけど、エンジンに異常発生、最大速力26kn!」

提督「了解、まだ撃つなよ!」


七分経過。

副長「敵艦距離18000m、第一艦隊有効射程内」

提督「並射、単発打方、右から始め!」

扶桑「全主砲、撃てッ!」

提督「弾着報告!」

扶桑「ビスマルク、主砲二発命中、敵艦撃破を確認しました!」

提督「・・・全艦機関23kn、針路戻せ」

扶桑「了解、機関23knまで減速、針路戻せ」

提督「このまま敵拠点へ突入。ここまで空母が確認されていないとなれば、おそらく敵は飛行場系統の陸上棲鬼だ」

二二一○。舞鶴から485km。

五月雨「反射波!真っ直ぐ前方、30km、編隊大きい!感三!近づく!」

提督「今までなんの反応もなかったのか!?」

五月雨の報告に、提督の声が裏返った。

五月雨「敵拠点よりたった今飛び立ったと思われます!提督、数が!」

提督「全艦、第四警戒航行序列、増速最大戦速、針路そのまま!」

扶桑「了解、第四警戒航行序列、最大戦速、ヨーソロー!」

提督「第二艦隊対空迎撃用意、射程内に入り次第逐次射撃開始せよ!第一艦隊!」

扶桑「はい!」

提督「既に敵拠点の位置は頭に叩き込んであるだろうな?」

扶桑「たった今、全員地図で詳細位置を確認したところです!」

提督「第一艦隊三式弾装填、急射、一斉打方、始め!扶桑も通常砲弾で参加せよ!」

扶桑「了解!全主砲、通常、三式弾、撃ち方始めッ!」

少しでも航空被害を避けつつ、敵拠点を砲撃する。

肉を切らせて骨を断つ。

骨を断たせて心を撃つ、今の状況ではそのほうが正しい表現だった。

暗闇の中、地図上の位置と自分の現在位置を頼りに、数字計算のみで敵拠点へ弾を送り込む。至難の技だ。

そして、案の定、艦隊背後で照明弾が投下された。

五月雨「この航空隊、やけに連携が取れてない!?」

涼風「確かに、いつもと少し違うよッと!」

連合艦隊が大きく回避行動を取りながら、第二艦隊が空へ、第一艦隊が集中的に、断続的に砲撃を続ける。

提督、第一艦隊はあたっているとは思っていなかった。

だが、予想に反して、訓練の成果か、果たして運か、三式弾は見事に敵滑走路に焼夷弾を散布し続けていた。

扶桑の弾丸が地面を削る。

三式弾が滑走路を滑走し始めていた機体を誘爆、加えて三式弾による高温の焼夷効果で残骸の撤去も難しい。

しかし、既に飛び立っていた機は200機異常。

五月雨「敵編隊残り20%!敵魚雷、来ます!」

舞鶴も加勢していたが、魚雷の投下は避けられない。

狙いすまされた魚雷が、海面すれすれで投下される。

直後、第一、第二から悲鳴が上がった。

五月雨「第二艦隊、雷、響、暁、涼風被雷、大破!」

扶桑「第一艦隊、ビスマルク被雷、大破!」

提督「損傷艦は直ちに後退!主任!」

技主「収容準備は整ってますよ!」

提督「損傷艦は急ぎ舞鶴内ドックへ!」

ビスマルク「わ、わかった」

とは言え、気を失ってもおかしくない意識レベルで彼女達にできるのはせいぜい機関を停止して舞鶴が追いつくのを待つことだけだ。

五月雨「敵編隊反復体制に入りました!」

電「ちょこまかちょこまかすばしっこいのです!」

連携の取れた行動、投下された照明弾。

キ46が搭乗員ごと敵に籠絡されたのは、もはや疑いの余地はなかった。

砲雷長「敵は雷撃機だけなのか!?にしては随分通り抜けた機体が多い!」

提督「全艦面舵一杯、回避!」

艦爆だと即座に当たりをつけた提督が、回避行動を命じる。

直後、爆轟音とともに舞鶴後方甲板に火の手が上がった。

提督「くっそ、またかドック上甲板かよ!」

通り過ぎた敵は、指揮艦艇の存在に気づいていた。

前回の反省も踏まえ、後方甲板にも新たに十センチ連装高角砲が二門増設されてあったお陰で、迎撃に当たることが出来た。

否、迎撃は出来なかった。

敵も馬鹿ではないのだ。

前回の飛行場姫戦で、500kg爆弾を受けてもピンピンしていた舞鶴に怒りを覚えた深海棲艦側航空隊は、対戦艦用としてドイツ空軍などが用いていた1t爆弾を開発。

舞鶴に向けて投下することを躊躇なく命令した。

高速修復材で回復した大破艦が隊に復帰し射撃を開始するのと、舞鶴主砲が急降下接近してくる機を発見、波の動揺で揺れた砲塔が発射した砲弾が1t爆弾を撃ちぬいたのは同時だった。

五月雨「嫌あああああああああああああッ!」

後方甲板から前方甲板へ向けて爆炎に包まれた舞鶴を見て、五月雨が金切声をあげる。

五月雨が舞鶴に転舵するのを、涼風が力ずくで引き止める。

涼風「五月雨、今はダメだ!敵を殲滅することだけを考えろと提督も言ってたじゃない!」

爆炎が晴れた所に、舞鶴が煤けた状態で自律航行をしている姿を見、何とか平静を取り戻した。

提督が気になるものの必死に敵機を撃ち落とす。

提督「被害報告!」

機関長「火器、推進装置に異常は見られませんが、今の爆炎で電子機器が全てやられました。艦隊通信は使用不可能です」

提督「喰らわなかっただけまだましだ・・・!」

悔しげに前を見た提督の顔が、固まった。

気づけば目標までもう1000m手前まで来ており、島は地獄のような火事の様相を呈していた。

提督「だい、だ、第三艦隊!」

赤城「はい!」

提督「全機直ちに発艦!周辺海域を掃討せよ!」

赤城「了解、第三艦隊、全機発艦!」

帰投中。補給船内医務室。

提督「ゴホッ」

咳をしながら、提督は目を開けた。

見慣れた室内だ。白い天井、白い壁、清潔なベッドに点滴。

一瞬でどこかの病院か、艦艇の医務室内だと気づいた。

提督「貧血かな・・・」

点滴だけしか繋がれていないし、特に施術された痕もないので、恐らく貧血で倒れたのだろう。

提督「今何時だ・・・?うわっ」

いきなり減速しているような感覚に襲われた。

やはり船内だったようだ。

提督「な、なんだ、何が起きた。座礁したのか」

室内には誰もいない。

居てもたってもいられず、部屋を出ることにした。

右手をついてベッドから立ち上がる。

少し目眩がしたが、杖をつかなくても十分歩けた。

提督「誰かいますかー・・・?」

部屋を出て、右を見た。

五月雨と目があった。

五月雨「・・・ぁ」

扉を閉めた。

五月雨「え!?提督!」

医務室の窓から外を見ることができたのだ。

提督「もしかして今出たばっかりなのか?」

五月雨「いえ、あれから2日ほどたってますよ」

提督「まだ時間がたってから帰投してるのか・・・。なに、また鹵獲でもしたのか?」

五月雨「大破した舞鶴の破片を回収するのに時間がかかっただけです」

提督「質問に答えろって」

五月雨「この船はこちらの救難無線を受信した大湊の艦隊が派遣してくれた大型輸送船なんですよ」

提督「五月雨、鹵獲でもしたのか?」

五月雨「・・・」

提督「騙されるのはもう懲り懲りだぞ」

五月雨「武装解除後、この船の独房に監禁されてます」

提督「またどうしてそんな面倒くさい事を」

五月雨「提督が、彼女から何か聞きたいことがあるんじゃないかと思ったんです」

提督「余計なお世話だ」

五月雨「そうですか?深海棲艦の誕生の経緯とか、私聞きたいですよ。提督は聞きたくないんですか?」

提督「聞きたくないわけじゃないけど・・・」

五月雨「提督なら顔パスで独房区画に入れますから。行ってみましょう。聞きたいこと、絶対にあるはずです」

さっきまで貧血で頭があまり回らない感はあるが、好奇心が勝った。

この後離島棲鬼様とお話するのですが、まだ少し完成度が低いので投下できません。

日曜日に続きを投下します。なのでここまでですとは言いません。

駆逐艦の駆逐艦による駆逐艦のためのマッサージ大会も開催します。はい。


※深海棲艦に関する設定は他と大きく違いますが、ご了承下さい。

乙です
つまり作戦は成功したってことでいいのかな?

その昔、火山灰でエンジンがやられて旅客機が墜落しかけた事故があったらしい


?「ロシア式マッサージ術を披露する時がくるとはね」

>>342-344乙レスありがとうございますです。

>>342ですね、作戦は成功したことになります。

>>343速度が低下するだけっていっても、失速する場合もあるってことですね・・・。

>>344ロシア式ですと、聞いたことないですなぁw

乙です。

鹵獲か、またなんか企んでるのかな?

マッサージ大会の景品はなんだろう?提督の専属マッサージ権とか?
雷は普通にマッサージ上手そう。
夏グラで着痩せ派だった白露も楽しみ
でも本命は胸部装甲ツートップの村雨、夕立と軽巡クラスの秋月かなぁ
当然18禁ニアミス方面でね

>>346-347 ニ、ニアミス・・・、って、提督は薄い本を買うような人じゃないですよ!

さすがに気づきますよね。防空棲姫の事を覚えていたとは・・・。まだ投下は続きます。

申し訳ない、突然ですが安価とります。

駆逐艦「暁、響、雷、電、白露、時雨、村雨、夕立、五月雨、涼風、秋月」の中から寝台特急で同じ寝台にいるとしたらどれがいいでしょう。

直下↓です。

秋月

あれっ、春雨がいない!?

もっかい安価とります。>>351 すいません!
駆逐艦「暁、響、雷、電、白露、時雨、村雨、夕立、春雨、五月雨、涼風、秋月」の中から寝台特急で同じ寝台にいるとしたらどれがいいでしょう。

直下↓です。

秋月

>>354 秋月、了解です

相当小出しになりますが、マッサージの件、明日までお待ちください。すいませんです。



移動。輸送船内独房区画。午後九時。

離島棲鬼「・・・」

提督「どうも」

離島棲鬼「何?」

提督「舞鶴鎮守府総司令官の龍花ですが」

勢いで敬語ではじめてしまった。

離島棲鬼「あなたが舞鶴の司令官?」

そんなことを気にするより、相手の言葉の抑揚がこちらと一緒なのに違和感を覚えた。

離島棲鬼「あなた達が執拗に二日以上もそちらの言葉で聞いてくるから、移ってしまっただけよ」

気持ちが顔に出てしまっていたらしい。

提督「聞きたいことがあるのですが、答えてくれるでしょうか」

離島棲鬼「どうせ殺すのでしょう。応えるつもりはないのだけれど」

提督「別に誰もあなたを殺すとはいっていないですよ。まぁ、自由を保証するなんてことは絶対にありませんが」

離島棲鬼「・・・内容によるわね」

提督「まず始めに、あなた方とこちらの暦は同じなのでしょうか?」

離島棲鬼「同じよ。昼と夜の区別はないけど」

提督「それならよかった。では、あなた方の生まれた経緯を教えていただきたいのです」

離島棲鬼「そんなの機密事項でもなんでもないじゃない。聞いてどうするの?」

提督「俺の単なる好奇心です」

離島棲鬼「そう・・・、まぁいいわ、教えても損はないし。益もないけど。教えてあげる。どこから話せばいいの?」

提督「そうですね・・・、最初からお願いします」

五月雨も同席していたが、その質問内容に驚いた。

日本軍の間では、その事は恐らく元帥以上の者ですら知らない国家機密なのだ。

五月雨も思わず耳を澄ました。

離島棲鬼「そうね・・・。これは口頭で伝わっているだけだけど、私達はもともと今みたいな形はしていなかったそうよ」

提督「ほぅ、丁度今のあなた方の駆逐艦のような感じですか」

離島棲鬼「だいたいそんな感じね。それと、私や、戦艦達にひっついてる子達も先祖みたいなもの」

提督「・・・砲塔は自立した意思を持っているのですか?」

離島棲鬼「意思と呼ぶには程遠いわ。私達の命令に従って砲撃、装填、増速とかをこなすだけ」

離島棲鬼「さっきの話に戻すわね。私達の先祖達が海底で哺乳類として生活し続けていた頃から、海面から投棄物が沈んでくることはよくあったの」

提督「(当然のように話すが、以前からいたということなのか・・・?確かに、海底生物に関しては未だ謎が多い。見逃していたとしても不思議じゃない、か)」

それに、第一次世界大戦以前でも甲鉄艦の建造は盛んだった。

離島棲鬼「先祖たちは落ちてくる鉄を好奇心で集めてたのよ。それは海底のところどころにある鉄塚からも明白。でも先祖達は腐るという現象を知らないから、鉄が崩れてしまったりする理由もわからない。どうして、というか、これの降ってくる源である上には一体何があるのか。それを初めて考えた個体がいたのか、ただ水上に出てしまった個体がいただけなのか、今でもわかっていないわ」

離島棲鬼「でも、彼らが水上に行こうとしていたことは化石とかの状況を見れば明らかだった。無理な気圧変化のせいで不自然に損傷している化石があったのよ。でも彼らはそれでもあきらめずに挑戦し続けた」

離島棲鬼「二年ぐらいかしら。浮上や沈降などを繰り返していくうちに、急な気圧差にも耐えられる身体的構造をもつ個体が産まれ始めた。そして、その進化の途中、今までと同じように鉄を集めていた固体が降って来るものの中に今までとは形が違うものがあるのに気づいた」

離島棲鬼「『砲弾』よ。何回か海底に落ちると同時に爆発することもあったから、彼らはそれらが爆発という現象を起こしうる、まぁ爆発なんて言葉はなかったけど、ものだということを漠然と理解した」

離島棲鬼「好奇心で少しいじってみる度に爆発を起こし、その度にたくさんの個体が死んだわ。それを何十、百数回と繰り返して、ようやく起爆方法を知った頃には彼らの頭脳は大きくなり始めていた。それからしばらくの間で、その爆発物がどんな被害を起こすのかまでもわかって、それを調べるには茶色い付着したものを取り除く必要があることまでわかった。でも、どうやってやればいいかわからない」

離島棲鬼「それに、海中は他にも生物がいるせいで思うように調べることも出来ないの。だから彼らは、『巣』を作ることにした」

離島棲鬼「主に使ったのは水没船の残骸ね。それらを大量に使用したのよ。扉というものの存在意義を理解して、それを閉める。そして中に砲弾を持ち込んだりしてみたりしてたの。これでもまだ、分解方法がわからない間は大量の個体が死んだ。そうして死んで、学んでを繰り返していく内に肥大化した脳は、海中で摂取する空気量では十分ではなくなってしまった」

離島棲鬼「それでここからは一説による推測だけど、彼らは地上を走る大きな、沈んでいるものと同じ形をしたものを取ろうと考えた。船よ。鹵獲した砲弾で船を威嚇したり、大量の個体が一緒になって船を下から押し上げたりしてたら船が転覆して、沈み始めた。無傷のまま沈んでいく船を、噛みつくなりしながら落下速度を調節してそっと着底させたのよ」

離島棲鬼「中の人はもちろん死んだでしょうけど、中の空気だけは逃がさないように彼らは『扉』をちゃんと閉めた。閉める前に、海水が入ってしまうことに気づいた個体が、砲弾を持ったまま船内に入って研究を続けたんじゃないかって言われてる。息をし続けていれば中の空気が切れるということは、この頃はまだ知らなかったようね。船内で砲弾の残骸らしきものと一緒に見つかった個体も多かったわ」

提督「鉄製の船が使われ始めたのはまだ百年程度しか前の話ではないはず。驚異的な進化速度ですね・・・」

離島棲鬼「私の話を信じないなら勝手にしてくれてもいいわよ」

提督「申し訳ない、話に水を差しましたね。続けて下さい」

離島棲鬼「・・・とにかく、しばらくして彼らは空気の完全な封じ込め方を知ったのよ。水密というものの存在を知った。既にかなり発達していた手の存在もその発展を助けたわね」

離島棲鬼「そして、徐々にその『巣』の数を彼らは増やしていっていた。でも、中には豊富な空気を求め、比較的浅い海域に何ヶ月もかけて土砂を埋め立て、その上で研究を進めていこうとする個体も居た。地上で活動するために足も発達していった。それが今の私達、人型の原型よ」

離島棲鬼「で、ある時、いわゆる潜水艦というものに海中で研究を進めていた個体は遭遇した。喜び勇んで鹵獲したんじゃないかしら。突拍子も無い話だけど、こんな推測でもしないかぎり、それからいきなり空気に対する取り扱い方法、生産方法が高度化したことに説明がつかないのよ」

離島棲鬼「一方で、地上で生活し続けていた個体が作った埋立て地に突然船が座礁した。これは地層の中に錆付いた鉄の成分が混じっていたりしたことから明らかになったことよ。突然の出来事に驚いた地上個体はその船を観察する内、海底にもよく似た、いわゆる砲塔がその船にもついていることを発見した」

離島棲鬼「そして、彼らはその砲塔をまだ人型に至っていない、いわゆる駆逐艦級の子達にくくりつけたりしてみていたみたいね。魚のように水面を泳いだりできる先祖達なら、海面を走る船のように振舞えるんじゃないかと思ったのね」

離島棲鬼「でも、大きすぎるのよ。あまりにも。彼らは小型化することを余儀なくされた。ここからしばらくの期間の事は話せないわ。十五年程度のことだけど、機密事項ですもの。だけど、その小型化した艤装を操作するために生物実験が行われていたことだけは教えてあげるわ。あなた達の言う妖精じゃない?私達が作った子達の子孫だってことは、あの偵察機に乗ってた子を見て確信したわ」

提督「・・・?でも、原型は妖精とは似ても似つかない姿だったはずでは?」

離島棲鬼「教えてあげないわ。そんな細かいこと。元がその個体達なわけないじゃない」

提督「・・・続けてください」

離島棲鬼「それからしばらくして、あの戦艦大和が沈没したの。あ、もちろんそれまでも日本軍艦は沈んでたわよ?」

離島棲鬼「でも今まではそんなことはなかったのに、その沈没船にある一人の個体が飛びついた。あなた達の間で戦艦棲姫と呼んでる中でも、特に外見は美しかったというのを読んだことがあるわ。その子、大きい物に魅了されたのかしらね。一人で武装を分解して、小型化する作業を始めてしまった」

離島棲鬼「もちろん、その作業は彼女が独りで全てやっていたせいで何年もかかったわ。だから他の個体は彼女がその船に徐々にのめり込んでいっていたこと、彼女の精神、身体的特徴に起きていた異変に気づかなかったわ。皮膚が白かったはずが徐々に色みを帯びて、日々の言動にも変化が現れていたことにね。情緒というものを持ち始めたのよ」

離島棲鬼「あ、これもまだ話してなかったけれど、すべての個体はそれまで感情と呼べるべきものは持っていなかったわ」

離島棲鬼「ある者は船に取り付いた乗組員の魂がそうさせともいうし、ある者は彼女は仲間ではなかったのではないか、て言われてる。私も彼女がそうなった原因は分からないけど、どっちの仮説も信じてないわ」

離島棲鬼「それで、彼女は数年かけてやっと艤装の製造を完了した。しばらくは、といっても半年程度だけど、なにもなかったの」

離島棲鬼「でもある時、彼女は突然母集団から離脱した。皆驚いたわ。だって普通は先祖達に取り付けて使役する偽装を、彼女自身が装備していたのだから」

離島棲鬼「でも、周りが驚いている間に彼女はその艤装で、島を離れていってしまったのよ。何も経緯を知らない他個体は彼女も海中に行きたくなっただけだと思った。でも違った。彼女は動かすための体力が尽きてしまった頃に、海面に漂流し始めた。多分彼女はそこを定期的に船が通ることも知ってたんじゃないかしら。多分というか、絶対に知っていたはず。安直な推理だけど、通りがかる船にのっていた人達に混ざりたかっただけなんじゃないかっていうのが私達の間で言われてる意見ね」

離島棲鬼の顔が悔しげなものに変わった。

離島棲鬼「・・・それからよ、全てが狂いだしたのは。それまで小型化した艤装を持っていた駆逐艦達が命令を聞かず、暴走して人間の船を攻撃することはあった。迎撃の砲火も全然当たらなかったのが、彼らの思い上がりの要因の一つね。でも、それを根底から覆された。大和が私達の先祖を、駆逐艦に向かって砲撃したの。目には目を、歯には歯をっていう言葉があったかしら?まさにそれ。大和は駆逐艦を猛烈な勢いで撃退し始めた」

離島棲鬼「おそらく日本側から経緯を聞いてからの行動ね。後に分かったことだけど、彼女は日本軍と約束事をした。一切の秘密を詮索しないという要求を呑んでくれる代わりに、私達が手伝ってあげるって」

提督「ふむ・・・、ですが、それだと建造と呼ぶ方法に納得がいかないですね。元があなた達なら、どうやって艤装を装備する艦娘達を呼び出しているのでしょう?」

離島棲鬼「私たちにもわからないのよ。とりあえずその話は後でしましょう。この話だけでも終わらせたいわ」

提督「わかりました。続けてください」

離島棲鬼「・・・それで、いつしか私たちも種族を殺されるのを止めるために、武装して応戦せざるを得なくなった。それほどまでに、大和一人での戦績は目覚しいだったのよ」

離島棲鬼「私たちは彼らが飛ばしていた航空機や魚雷の残骸などから必死になって製造方法を抽出した。製造段階としては、抽出作業は海中、製造は陸上でやっていた。その中から私や、あの子が持つ装備が生まれ始めた」

提督「その時期というのは、こちらの暦でわかりますか?」

離島棲鬼「そうね・・・、1961年2月11日、じゃなかったかしら」

提督「そんな前、俺がまだ生きていたけどそんな、そんな報道は無かったぞ」

五月雨「・・・日本軍は秘匿することにしたんじゃないでしょうか」

提督「だがどうやって?深海棲艦の姿を何に例えろって言うんだ?聞けばその時期から輸送船舶の撃沈は相次いでいたはず。民衆が気づかないわけが無いだろう」

五月雨が提督に目を向けた。

五月雨「伊藤元帥がチラッと言っていたのが本当だとすれば、大規模な海賊集団だと、日本軍は発表したのだと思います。各国も当初は深海棲艦であると発表するつもりだったようですが、パニックを抑えて見せた日本のやり方に倣ったんじゃないでしょうか」

提督「そうは言うが、今年の鎮守府近海の潜水艦討伐で住民が潜水艦らしきものを目撃していたはずだ。俺はただ最近になって軍が知らせたのだとばかり思っていたのだが」

五月雨「・・・それはご存知だと思っていました。随分前、1967年頃に軍が海賊の一部の写真をマスコミに流したんです。戦艦、空母、重巡洋艦、軽巡洋艦、駆逐艦、潜水艦の写真を。これらは海賊の乗組員で、この装備は人間じゃない証だと言って」

提督「なッ・・・!?」

離島棲鬼「確かに人間じゃないけど、まぁいいわ。とりあえず私達が誕生した話、戦う理由はこれで終わり。建造についての話に戻りましょう」

提督「あ、あぁ」

離島棲鬼「私達も考えあぐねているのよ。大和一人だけだったはずが、何故か似たような、えっと、艦娘だっけ?、が増え始めてね。聞けば妖精が行っているとも言うし。私たちは整備員にそんな方法を教えた覚えなんか無いのに・・・」

提督「・・・言われてみれば、建造している部屋に一度も入ったことがない」

離島棲鬼「私たちの間では、妖精が何らかの方法で私達の中から基となる人材を取っているんじゃないかって言われてる」

提督「確かにそれなら轟沈したときに深海棲艦になってしまうのも、無理やりな理屈ですが、ただ元に戻るだけだと説明がつきます。とするなら、艦娘は元々「提督!」

五月雨「嫌です、私、元は深海棲艦だったっていうんですか・・・!?それに、駆逐艦ってことは、わ、私って「それは違うわよ」

離島棲鬼「別に彼らだけが駆逐艦になれるわけじゃないわ。装備なんてほかの誰でも、人型でもできるのよ。ただ適性に少し左右されるだけ。だから人型自身が装備を持っている艦も見たはずよ?」

五月雨「・・・」

離島棲鬼「人間の形をしていないあの駆逐艦では、人間の世界で艦娘として適性がないと判断されたのかもしれないわね」

五月雨「・・・でもそれでも、元は深海棲艦だったかもしれないってことですよね?」

提督「五月雨、落ち着くんだ。まだそうと決まったわけじゃない。こうなれば彼らに直接話を聞くしかないだろう」

五月雨「か、彼らって・・・?」

提督「決まってるだろう。『妖精』に聞くんだ」

移動。輸送船内居住区画B。午後十一時。

船内の居住区画は大きくAとBにわかれていて、B側が妖精用になっているらしい。用と言っても、ただ割り当てられただけのことだ。

そしてそのB区画の一室を借りている技術主任に、入るなり五月雨が質問をしたところだった。

技主「・・・」

五月雨が、お願いだから押してほしいと泣きそうになりながら懇願し続けると、妖精が突然地に額をこすりつけ土下座した。

技主「黙っていてすいませんでした」

技主「いつかはばれるとわかっていましたが、こんなに早いとは・・・」

提督「いつかはばれるって、教えるつもりがなかったのか?」

技主「・・・」

提督「・・・教えてくれ、彼女たちをどうやって建造してる」

技主「まず一つ絶対に信じて頂きたいのが、艦娘の元は大和さん以外確実に人間であるということです」

五月雨「え・・・?」

技主「試験管ベビー。いわゆる、人工的な体外受精により作り出された幼児が元なのです」

提督「精子と卵子をいったいどこから調達した?」

技主「軍との契約です。一切こちらの設備に関して質問をしない、材料を分けてもらう代わりに、我々は無条件で日本軍に協力する。その設備の資材の一部に関して、我々妖精はあくまでも『人間の』精子と卵子の提供を要求したのです」

提督「・・・それで?」

技主「私たちは成長速度、筋力などのあらゆる能力に関して、受精する前の段階で遺伝子操作を行いました。その結果産まれたのが艦娘です」

提督「母体は?」

技主「・・・」

提督「頼む、答えてくれ」

技主「全て我々が作った器官で産まれました」

その発言に、提督が矛盾を見つけた。

提督「・・・待てよ、それならいったいどこに資材を投入する必要性が出てくる?」

技主「それはカモフラージュ、擬装です。艦娘や軍が我々が作った器官を見れば確実に契約を切ろうとしたでしょう。非人道的な行為だということは我々も理解しています。それを避けるために、他の関係のない想像を招くよう我々が考えたのが、資材の提供を要求することでした」

提督は、たまに見る地球外生命体が産まれる、表面がぬめっていたりする生理的嫌悪を抱くような光景なのかと質問したが、それは違うと妖精は言った。

技主「鎮守府に帰ったらすべてお見せしますが、ここで少し説明します。我々は元々人体というものを知りません。知識でしか知りません。ですから、我々が作ったほとんどの出産のための設備は、機械です」

だからといって、機械だからいいと言うつもりはありません、と技術主任は付け加えた。

提督「・・・艦娘達の出自はわかった。それでも、彼女らの特殊体質に納得がいかない。なぜ轟沈したら深海棲艦化する?装備の破損がなぜ艦娘にまで影響する?あれほどの砲撃を受けて何故体に直接重傷を負ったりしないんだ?」

技主「・・・申し訳ありません。お教えしたいのは山々ですが、正直なところ私達にもまだよくわかっていないのです」

提督「そんなことあるわけが「ですが」

技主「我々妖精の間の最有力の説では、元来艤装の製造方法は深海棲艦出のものなのだから、その過程においてなんらかの影響を人間である艦娘たちは受けてしまうのではないか、といわれています。無意識の間に、艦娘達は艤装の奥深くに眠る深海棲艦の意識を押さえ込んでいるのではないか、と」

技主「彼女らの装甲に砲撃が当たる毎に、装甲内部が揺さぶられるのではないか、と」

提督「精神論だったはずのことに物理効果なんかきくのか?」

技主「ですが、それ以外考えられないのです。そう考えれば、彼女らが傷を負っていないにもかかわらず、制服や、装甲、武装に被弾した際に意識レベルが低下したりするという話にもある程度の整合性が成り立つのです」

提督「・・・その話しぶりからすると、あんたらは最初はそうなるとは思っていなかったってことか?」

技主「はい・・・。当初我々も艦娘に対して砲撃が加わった場合、重傷を負う可能性を考えていました。そしてその結果作られたのが高速修復材です。理論上は提督などの通常の人にも用いることができるものです。傷を治すために作ったものですから、このような、艦娘本人には一切傷がつかないという事態になってからは使用されることはありませんでした」

技主「しかし私以外の技術兵が、大破した艦娘を急ぎ回復させようと高速修復剤を駄目元で使ってみたことがきっかけで、艤装の修復、装甲、艦娘自身の回復全てに応用できることが判明したのです」

提督「なるほど・・・、確かにそれなら辻褄は合うが・・・。すまん、もう一つ聞いていいか」

技主「お答えします」

提督「一旦深海棲艦化してしまった艦娘というのは、元に戻すことはできないのか?」

技主「・・・以前から何度も試したという前例がありますが、それのどれも失敗に終わっています。友好関係を築くことはできても、元の状態に戻すことは不可能でしょう。・・・ん?・・・、いや、もしかすると」

提督「?なんだ?」

技主「私の聞いたことなのですが、ある段階深海棲艦側がつけていた艤装は中枢基地、いわゆる深海棲艦側司令基地の中枢部分にある装置で全てがコントロールできるようになっているそうです」

駆逐艦達の暴走を深海棲艦側がなんらかの対策を講じたという形跡だろうか。

技主「もしかすれば、ではありますが、そこを破壊すれば艤装にとりついた深海棲艦化する要素を取り除けるのかもしれません。あくまでも推論に過ぎませんが」

提督「深海棲艦化した艦娘は、艤装を装備する側ではなく、艤装に装備される側になっているのかもしれない、というわけだ」

技主「念のためもう一度言いますが、推論です。確かなことは何もいえません」

提督「あぁ、わかってる」

これ以上聞くことは無いと判断。

説明を一通り受けた五月雨と提督は私室に戻ることにした。

五月雨が震えたまま手を離そうとする気配が無いため、白露型が驚く中提督は五月雨が寝付くまで傍に添い続けた。

提督「(大和・・・、あんたは確か横須賀鎮守府の・・・)」

初めて姿を現した艦娘、大和。

果たして話を聞く機会があるだろうか。あるならば、聞いてみたい。

あんたは一体何をしにこっちに来たのかと。

だがそれ以前の問題で、提督は完全に思い込んでしまっていたことがあった。

飛行場姫が鎮守府屋上で通信していた相手を、防空棲姫ではなく、離島棲鬼だと結論付けてしまっていたのだ。

帰還。舞鶴鎮守府工廠。午後三時。

帰還してから、三時間ほどの仮眠を取った後、提督は技術主任に連れられ工廠に入った。

装備の改修で火花が飛び散る区画を通り過ぎると、関係者以外立入禁止の文字が書かれた重厚な扉があった。

前回の砲撃で唯一無傷で生き残った場所でもあるという。

技主「こちらです」

中に入ると、ひんやりしているかと思いきや、適温が保たれていた。

無骨な黒く艶消し加工された細いパイプが天井を埋め尽くさんばかりに直線に走っている。

そのパイプは、部屋の奥の壁にきっちり置かれた、ブラウン管の画面や、なにやら試験管を入れるようなチェンバーを備えた装置から伸びていた。

その管を目で辿ると、扉のすぐ隣にある羊水らしきものがたまった四角柱に繋がれていた。

技主「高速建造材というのは、艦娘の成長速度を一万五千倍まで高める特殊溶液です。・・・これも申し訳ありませんが、配合は教えることはできません」

提督「艦娘は全てここで作っているってわけか」

技主「秘匿していたことをお詫びします」

提督「・・・いや、確かにこんな装置、公開するわけに行かないという気持ちもわかる。俺も説明がなければ腰が抜けていただろう」

技主「それと、産まれたばかりの艦娘は、数分間は意識がありません。目を覚ます前に我々が部屋の外に連れて行っているため、彼女たちはここのことを知らないのです」

提督「よく考えたもんだ・・・」

技主「・・・正直、提督がこれ以上の戦力増大を望まないと答えたとき、私達は心のそこからほっとしていました」

提督「そうかそうか」

苦笑して、提督が言った。

提督「妖精にしか作れないということなら、ドイツやアメリカとか周辺諸国でもこういうことは行われているって事になるんだよな?」

技主「そういうことになります。元々深海棲艦は地球上のあらゆる場所に住み着いていましたから。日本だけにしか大和のような存在が現れなかったというのは考えづらいことです」

提督「まさか今回の作戦でこれほどまでの事がわかることになるとは、一ヶ月前の俺は想像すらしなかっただろうな」

この事を他の奴らにも教えるべきだろうか。

五月雨のあの様子を考えれば、しばらくは教えないほうがいいだろうと提督は決めた。

十一月十七日。舞鶴鎮守府執務室。午前九時。

作戦終了から一週間以上が経った。

提督「右腕がないっていうのはまだ不便だな・・・。朝から五月雨もいないし、どこいったんだ・・・?」

無理な姿勢をとっていたせいで、背中が痛くなってきたので一旦休憩する。

と、執務室の扉をノックする音が聞こえた。

提督「誰だ?」

五月雨「五月雨です」

白露「それと後、駆逐艦一同ですー!」

提督「・・・?入ってくれ」

白露「お仕事してるー?」

提督「してるよ・・・、それで、皆揃ってここに来てどうした?」

五月雨「提督にですね、お渡ししたいものがですね、あるのです」

提督「渡したい物?」

提督「俺向けに作られた高速修復材的な?」

とんだブラック労働を要求しやがる。

五月雨「ちっ、違います!」

提督「じゃあ何なのだ?」

五月雨「こっ、こ、これです!」

目の前に光を反射する銀色の長いものが差し出された。

でもなにやらそれに生理的嫌悪感を抱くのはなぜだろう。

・・・よくよく見てみれば、それは人の腕の形をしていた。

提督「人肉を食べる趣味はないんだけど・・・」

五月雨「違いますよ!義手です、義手!」

提督「義手なのか?これが?」

五月雨「とりあえずつけてみて下さい」

提督「どうやってつけるのか知らないんだけど・・・」

五月雨「あ、そうでしたね」

五月雨が、右肩に、義手の方の方に引っ掛けるように加工された部位を引っ掛ける。

五月雨「きつかったらいってください」

そう言うと、何やらベルトか何かを調整し始めたらしい。

少し片の付け根の部分が締まってきた。

五月雨「これぐらいかな・・・、きつくないですか?」

提督「ん、ああ、大丈夫だ」

五月雨がその答えにうんと頷くと、白露からまた新たに何かを受け取った。

それをカタカタと鳴らしながら、肩の付け根部分に接合していく。

終わったころには、その鉄板のようなものが肩の関節をすっぽりと覆い隠していた。

五月雨「腕、動かしてみてください」

提督「動かすって?」

五月雨「右腕があったときみたいに、普通に動かそうとしてみてください」

提督「・・・難しい要求だな・・・」

イメージトレーニングをしながら、目を閉じて右腕を動かそうとしてみた。

ピリッ、となにか電流が走ったような感じが一度だけした。

恐る恐る目を開けて見た提督の表情が、驚愕に変わった。

提督「こりゃ・・・、一体どうなってる?」

ただの飾りだと思っていたものが、提督の意志どおりに動いているのだから驚くのも無理はない。

五月雨「妖精さん達にお願いして、一週間かけて作ってもらったんです」

提督「一週間でできるものなのか!?」

少し重いな、と思いながら腕を動かす。

まさか腕の回転にはついてこれまいと思いやって見たが、どうやらこの肩パッドみたいなもの、層構造になっているようでスルスルと動くのだ。

提督「なんてこった・・・。とんでもねぇもんを作りやがった・・・」

五月雨「工廠に来てくれれば、色はいつでも塗装しなおせるそうです。外すのも簡単ですから、寝るときは外してくださいって言ってました。後々、素材はアルミ合金だからほとんど腐る事はないそうです」

提督「す、すげー」

子供のような感想しかいえなかった。

五月雨「満足してもらえたみたいでよかったです」

提督「満足なんていう言葉じゃ足りないよ・・・。これは楽になるわ」

ほー、すげーと提督が言っている間も、五月雨は何か足をくねらせていた。

提督もようやく他に用事があるのかと察した。

提督「ん?義手以外に何かあるの?」

五月雨「あ、あの」

史上稀に見る赤面具合である。

五月雨「マ、」

提督「・・・ま?」

五月雨「マッ」

意を決したのか五月雨が顔を上げた瞬間、

秋月「五月雨さんが、駆逐艦の皆で提督にマッサージしてあげようってさっき話してたんです!」

五月雨「ちょっ、秋月さぁん!」

秋月「だって五月雨歯切れ悪すぎるから・・・」

五月雨「と、とにかく!そ、そう、そういうことなんですが提督どうでしょうか!?」

提督「俺は別にかまわないけど・・・、いきなりどうして?」

雷「ほら、司令官って片腕になっちゃってからも仕事頑張ってるじゃない?だから、それを労ってあげようってことになったのよ!」

提督「おおお、そりゃありがたい。でもこんな大人数でやる必要はないんじゃない?」

夕立「皆でマッサージして、もし一位を取れた人は今度新潟に帰るときに提督と同じ寝台になれるっぽい!」

提督「はぁ!?さみ、五月雨、お前がそう提案したのか!?」

五月雨「は、はい・・・」

提督「他の誰かに共用されたとかじゃなく、お前が言ったのか!?」

五月雨「・・・はい」

どうやらガチのようである。

提督「てか、五月雨まだ帰省の予定日も決まってないのに皆に話しちゃったのかよ」

五月雨「だって、皆が聞いてくるから・・・」

提督「はぁ・・・、まぁ、もう決まっちまってんだったらしょうがない。別に皆がそれでいいならそれでいいよ。でもな、一つ聞かせてくれ」

村雨「何かしら?」

提督「駆逐艦以外の奴らはどうした?」

時雨「駆逐艦以外の人たちはみんな辞退したんだ」

提督「そんな馬鹿なことあるわけねぇよ・・・、少なくとも二人、この話を聞いて辞退する訳がねぇ奴らを俺は知ってる」

電「?誰なのです?」

提督「扶桑と赤城だ」

あー・・・、と駆逐艦らの顔が騙せなかったなぁという表情になった。

提督「・・でもまぁ、お前らがあくまで駆逐艦の中でだけで決めたいんだったら、反対しないけどさ」

春雨「じゃ、じゃあ決まりですね!それじゃ提督、これをつけてくださいっ!」

目隠しを手渡された。

提督「・・・なんで目隠し?」

涼風「早く早く、つべこべ言ってないでつける!」

提督「わかったわかった、だからキツくすんなってッ!」



まだ終わりとはいいません(苦笑)

それと、>>362、コテハンミスです、俺ですので大丈夫です。


目隠しプレーか、胸熱だな


五月雨的には義手がないほうが甲斐甲斐しく世話できてよかった
なんて、一瞬頭をよぎったり

秋月は大きさ的に
駆逐艦枠(ロリ枠?)からはみ出てるからいろいろ不味いのでは?

なるほど扶桑と赤城の乱入フラグが既に出てるのか

>>366-372 乙レスありがとうございます。

>>368 目隠しプレー(意味深 みたいな感じですね。

>>370 義手作ったほうが後々の展開に便利なので、ええ。それと秋月は駆逐艦です。誰がなんと言おうと駆逐艦なんです。

>>371-372 正妻の余裕をかましてる時に扶桑と赤城が・・・、ですね。

あと、泣きの一回です。マッサージ書いたのはいいんですが、皆さんの予想が結構スレスレを期待しているようなので、明日です。明日、投下します。

では参ります。


時間経過。同所。

一人目、暁。

んしょ、と小さな声で、誰かが提督の背中に跨った。

無論、提督は上半身裸である。

提督「(元はといえば俺が五月雨の上を脱がしたせいだ・・・っ!ああああ失敗したーーーー!)」

提督「(ていうか、マッサージは普通にいいが感触がおかしいぞ。太股の感触があるんだけど・・・、あれ、もしかしてこの子スカート履いてないんじゃないの)」

いやいやそんなまさかねぇ、と提督が心の中で呟く。

提督「(でもおかしいよなぁ・・・、こんなに短いスカートなんて聞いたことない・・・。付け根の辺りからしか布の生存が確認されない・・・)」

立ちながらやるのに疲れたのか、その子は提督の背中に腰を下ろした。

そして、それで提督は確信した。

こいつスカート履いてねぇ、と。

でも、ふと提督は気づいた。

提督「(指先が震えてる・・・)」

背中を小さな手で力いっぱい押しているせいなのかどうなのか、指先が震えているのだ。

提督「(でもそんなに手足が弱いわけはないか。艦娘だし)」

とすれば、これは羞恥による震えなのかもしれない。

スカートを履かないという決断は、本人にとってもかなり苦渋というか、意を決するというか、覚悟をした上でのものなのか。

提督「(でもなぁ・・・)」

背中に意識を集中してみるが、どうも押す場所が外れている。

提督「(一人目・・・、誰か知らないけど大人になろうとして失敗したような感じの子・・・。すまん)」

一人目は外されてしまった。

二人目、春雨。

提督「(お、軽いな・・・。涼風、五月雨、春雨あたりか・・・?)」

跨ったときの衝撃が軽い。

その上スカートを履いているから絞れると思ったが、一人目のようなケースが有ったばかりなのでこれでは条件とは言いがたいだろう。

春雨「・・・」

無言でマッサージを始めるが、提督にはすでにわかっていた。

小さい手ながらも頑張って自分を喜ばせようとする態度。

そして、押す度に漏れる吐息・・・。

吐息というものには、期せずしてその人の声が滲み出てしまうものだ。

提督「(春雨・・・!なんて可愛いんだ・・・!)」

提督「(でもごめんな・・・!春雨、そこは背骨なんだ!)」

正直痛いのだ。

言ってあげたい気持ちもあるが、事前に五月雨から一言もしゃべらないでくれと言い含められているので教えてあげることも出来ない。

提督「(これは公平に判断しなきゃいけないんだッ!悔しい、申し訳ないけど、春雨は諦めるしかないッ!)」

事前にマッサージの腕で競うと宣言されていたので、ここは公平に行かなければ。

あぁ・・・、春雨の寝顔を間近に見れるチャンスが・・・。

三人目。涼風。

提督「(髪が長い、とすれば五月雨、涼風、夕立、村雨、秋月といったところか。いや、暁型にも長いのは結構いるな)」

でもちょっと雑な、それでいてそれなりにまじめにやっているような雰囲気。

日ごろ接している中で、そんな感じの態度をとる者といえば村雨と涼風ぐらいか。

提督「(花見の時に村雨は髪を解いてるからなぁ・・・、髪の長さじゃ判断できないぞ)」

しかし、思いがけないことで人物を特定できた。

上半身を傾けて首をマッサージする際、髪の先が背中に触れたのだ。

提督「(後ろに回した髪が垂れたか・・・?)」

にしては、前に来た髪の量が少ない。

提督「(髪を普段前に垂らしているのは・・・、時雨と涼風か)」

なら涼風以外にありえないということになる。

提督「(性格と髪型で判断できた俺は理想の上司なのかもしれない。と、それより、涼風意外と上手いんだな・・・。これは保留にしておこう)」

四人目。村雨。

提督「(こいつもまた髪の毛長いなぁ・・・。あ、こいつスカートはいてない)」

淡々と人物特定のための材料を集めていく。

提督「(くっ、一人目で羞恥を我慢してでもスカートを履かないという事例があったせいで判断できないぞ!)」

提督「(・・・ん?)」

しかし提督は、それまでの三人と何か決定的な違いを感じた。

背中に柔らかいものがある感触があるのだ。

提督「(・・・)」

そう、明らかに「上を着ていない」のである。

勿論胸を隠す道具はつけているのだ。だが、明らかにつけていない。

なぜわかるかといえば、まぁ押し付けてきているからなのだが。

提督「(先生、これは有りなんでしょうかッ・・・!?)」

周りにいる艦娘の顔も相当なものになっているのではないか。

念のため言うけれど、押し付けるといってもブラジャー越しである。

提督「(こいつは胸で誤魔化そうって言う魂胆が見え見えだな・・・。それなりにうまいのは認めるが、主張するものが違いすぎる。減点だ!減点!春雨でもこんなことしてくれなかったのにッ!)」

五人目。夕立。

五人目に関しては一発で分かってしまった。

夕立、阿呆なのかなんなのか、何やら小さく掛け声を発して提督の上に跨ったのだ。

提督「(・・・夕立、お前何がしたいんだ・・・)」

夕立はどうやらスカートも上もちゃんと身につけるものは身に着けているようである。

だが、この夕立、楽しんでいるのかなんなのか腰の上で若干跳ねている。

提督「(かはッ・・・)」

腰が落ちてくる度に肺の中の空気が若干押し出される。

正直マッサージの気持ち良さをこの行為が相殺していた。

やはり夕立は犬だった。

提督「(夕立っ・・、おまっ、えはっ、減っ点、だぁっ!)」

六人目。時雨。

提督「(なんというか、随分控えめなマッサージだな・・・)」

とてもぎこちない手つきだった。

相手が痛がっていないかしきりに顔を覗き込んできているような気配さえする。

こちらは別に痛くはないのだが、おずおずとした手つきであまりマッサージの体をなしているとはいえなかった。

だが・・・、

提督「(スカートは履いているのに、上は脱いでいる・・・)」

余程胸に自信がある子なのだろうか。

提督「(失礼だけど、脱いだ割には小さいな・・・)」

だいぶ押し付けてきているような感じではあるのだが。

胸の大きさで判断しようにも、海水浴で胸を見てしまった子は五月雨と赤城ぐらいなので難しい。

赤城に関しては直接見てし

そこで考えるのをやめた。

提督「(だけどこの子・・・、なかなかやるな。六人目も保留だ)」

七人目。五月雨。

どうやら七人目は上は脱いでいないようだ。

提督「(いや・・・、上は普通脱いでないのが正常なんだが・・・)」

上は脱いでいないことを確認する俺も俺だ。

七人目にして、やっとマッサージの方に集中しようと思い直して、手の感触に集中してみた。

鈍い痛みが背中のほうから上がってくるたり、恐らく七人目はツボの位置を知っているらしい。

提督「(ツボを的確に押してくるとは、七人目、用意してきたな?)」

用意してきてくれるとは、なんとも嬉しいことだ。

それに力加減も程よいもので、腕はかなり上の部類に入る。

こりゃあ七人目でいいかもしれないな、と決意しようとしたその時。

扉がノックされた。

でも今提督は声を出すことを禁じられている。

扶桑「提督、いらっしゃらないのですか?」

赤城「返事がありませんね・・・。先程から駆逐艦の皆さんもお見えになりませんし・・・、演習場にでもいるのでしょうか?」

外からくぐもった会話が聞こえる。

気づけばマッサージの手もとまり、皆息を潜めていた。

扶桑「それはないはずです。今までだって鎮守府中を探しまわったではありませんか」

赤城「もしかしたら入れ違いで、もう提督は帰っているのでしょうか・・・」

扶桑「では、どうして返事が無いのですか?今は提督も仕事をしている時間のはずです」

赤城「もしかして、風邪で倒れているとか・・・?」

扶桑「入ってみましょう」

提督「ど、どうしたー、扶桑」

たまらず提督は声を出した。

俯せのままなのは、今起きれば駆逐艦の肌を目撃する可能性があるからだ。

扶桑「提督、駆逐艦の皆さんがどこに行ったか知りませんか?」

提督「・・・いや、知らないな。どうしてそんなことを?」

扶桑「それが・・・」

赤城「何やら皆で提督のことについて話している様子でしたから、何か提督にしようとしているのかと不思議に思ったのです」

提督「なるほど・・・」

扶桑「とりあえず、中にはいってもよろしいでしょうか?」

提督「いや、少しだけ待っててくれ」

そう言って、提督は起き上がって扉を振り向いてから改めて招き入れようと思っていた。

・・・赤城と扶桑は既に中にはいり、光景に絶句していた。

扶桑「・・・提督、これは一体・・・」

赤城「執務室はいつから風俗店になってしまったのですか!?」

赤城が提督に非難の目を向ける。

提督「はぁ・・・、こうなるかもとは思ってたけど・・・」

目隠しを外して、提督が立ち上がった。

駆逐艦は皆服を着ていたようで、変な事にはならずに済んだ。

赤城「あら、いい体・・・」

提督「お前は見たことあるだろうが」

赤城「あダッ!・・・提督、痛くしないでください・・・」

提督が赤城の頭を軽く叩く。

提督「すまん、こいつらが俺にマッサージをしてやりたいと言ってきてくれただけなんだ」

扶桑「それで・・・、皆さんの服が少し乱れているのはなぜでしょうか?」

提督「今の今までマッサージをしてくれていたのさ。乱れてても問題はないだろ?」

扶桑「・・・それなら、私達も混ざっても問題ないのでしょうか?」

提督「いや、それは・・・」

答えに窮した所で、五月雨が助け舟を出してくれた。

五月雨「大丈夫ですよ。扶桑さんと赤城さんもマッサージしてあげてください)」

赤城「え?いいんですか?」

五月雨が目配せしてきた。

どうやら赤城と扶桑は外しておいてくれと伝えたいらしい。

わかったよ・・・、と頷くと、提督は目隠しをして再び横になった。

待ってみたが、どうやらどさくさに紛れて七人目は退散してしまったようだ。

八人目、秋月。

八人目は臆すること無く提督の上に跨ってきた。

スカートも上もしっかり履いている。

提督「(ほぅ、正攻法で来たか)」

両の親指をきちんと揃え、背骨から離れた位置を首から腰のあたりまで均等な力で、計算された時間だけ押して往復し続ける。

提督「(上手いな・・・、正攻法ってことは五月雨か)」

髪が垂れてきていないが、五月雨なりの配慮なのだろう。

寝台に一緒に寝たいと言っていたところへ、涼風と一緒に寝てやれと言ってしまっていた手前撤回しづらいこともあったけど。

だが、これほど真摯に臨んでくれているなら選んであげたいと思った。

仕方ない、五月雨にしておこう・・・。

八人目は秋月だったと知るのはそれからまもなくのことであった。

九人目。響。

響「ロシア式マッサージを披露する時が来たようだね」

提督「(・・・?響・・・?)」

というか、ロシアなのは響じゃなくてヴェールヌイの方なのではないだろうか。

個人的にロシア留学に行ったことがあるとか・・・?

サラサラと手入れが行き届いていて、かすかにいい匂いも漂ってくる髪の毛が提督の顔に垂れる。

提督「(さては風呂にでも入ったな・・・?)」

だが、やはりというかスカートを脱いでいて、緊張で動きが固い。

スカートも上も脱がず、正攻法でしっかりとマッサージをしてくれた五月雨(秋月)には遠く及ばない。

提督「(同じ駆逐艦でも、やっぱり意識の差って出るんだ・・・。にしても、秋月はいつなんだろう。あいつのことだ、上もスカートも脱いで徹底的に攻めてくるに違いあるまい)」

秋月の出番はもう過ぎている。

十人目、雷。

ここからもどうせスカートか上を脱いでくるのだろうと思っていた提督の予想は大きく裏切られる形となった。

十人目、かなりの手練なのである。

提督「(それに加え、上も下もちゃんと服を身に着けている・・・ッ!?)」

まずい、もしここで十人目が五月雨(秋月)以上の成果を発揮してしまえば、公平な判断を要求されている今、五月雨を除外しなければならなくなってしまう。

扶桑と赤城もいるし、変な行動をとるわけにもいかない。

小さな体で、んっんっと出す掛け声に耳をすますが、春雨のように特定することが出来ない。

雷「(秋月が正攻法で提督の横を取るつもりなら、私は正攻法の上に技術の差というものを見せつけてやるわ!)」

提督「(この手練さ、間宮に匹敵するほどの何か母性のようなもの・・・、これは、雷・・・!?)」

駄目だ、五月雨(秋月)と雷だったら、たまには雷と一緒に寝てみたいと思っていた好奇心が邪魔をしてしまう。

提督「(だ、だが、さっきも五月雨とと決めたばかりで・・・!)」

・・・いや、この際、約束を守るという名目でやはり五月雨を除外してしまうという手も・・・。

提督「(駄目だ!)」

マッサージの腕に集中しろ、何かミスさえあれば減点してしまえばいい。

提督「(ふっ・・・、雷、やるじゃないか!だがな、雷)」

提督「(体裁に集中するあまり、お前は同じ所を押し続け、気持ち良さどころか俺に痛みを与えてしまっている。残念だが・・・、減点だ)」

嬉々として提督は雷を減点した。

今思えばそんなことしなければよかったなぁ、と感じるのもほどなくしてからだ。

十一人目、白露。

十一人目は、今までの艦娘のどれよりも違うものだった。

優しく、労ってあげたい気持ちがそのまま出ているような感じだ。

提督「(何か思うところでもあるのか?)」

段々と眠くなってきていた所へ、この十一人目のマッサージはほぼ止めと言ってもいい。

さすがに十分間も目隠しを付け、マッサージをされながらというのは睡魔が押し寄せてきてしまうものなのだ。

気づけば、十二人目の査定をすることもなく提督は寝入ってしまっていた。


時間経過。同所。

扶桑「提督!起きて下さいッ!」

提督「ハッ」

扶桑の悲痛な叫びで提督は目を覚ました。

扶桑「ハッじゃないですよ!なんですか!?せっかく私と赤城さんがマッサージしていたというのに、結局寝てたなんてそんなの酷いですよっ!」

周りの駆逐艦達は何があったのか、目を背けている。

これほどの事を二人がやらかしたに違いない。

そう思うと、寝ていてよかったとも思う。

提督「わ、悪い・・・、十二人目までは起きてたんだが、そこで終わりだと思っちゃってさ」

寝始めたのは十一人目であるが、駆逐艦の機嫌はとっておきたかった。

扶桑「マッサージされてて眠くなっちゃったって言いたいんですか!?」

赤城「せっかく提督にあんなことまでしてあげたのに・・・」

提督「一体何をしたんだ・・・」

扶桑「・・・もういいです。それで?この子達から今回のマッサージの目的はもう聞き出しましたけど?」

赤城「誰と一緒の寝台になるおつもりなんですか?」

提督「そうだなぁ・・・」

さすがに即答はまずいと思い、提督は三十秒ほど考えるふりをした。

しかし、提督はここで最大のミスをしてしまう。

提督「八番目の子、かな」

・・・そう、五月雨と言わず、番号で言ってしまったのだ。

慢心だった。

もしここで五月雨と言っていれば、多少の論争はあれど五月雨とともに過ごすことになり、平和な寝台ライフを過ごすことが出来たはずなのだ。

秋月「提督、私を選んでくれたんですね!?嬉しいですッ!」

提督「いいじゃないか別に。俺だって早めに帰省したいしな。命日三日なのに、相当過ぎちゃってるのもある」

扶桑「じゃあ、他の皆さんにもお伝えしに行かないといけませんね」

提督「あぁ、頼んだ」

秋月が心底から嬉しそうにする様子に、周りの駆逐艦達はもはや呆れて笑うしかなかった。

十一月二十四日。午前六時。

雪かきで少し申し分ない働きをしてくれた右手をさすりながら、提督は雪が降りしきる外へ出た。

ちなみに義手はつや消しの白色で塗装されている。

五月雨「んー・・・」

提督「五月雨あんまくっつかれると歩きづらいんだけど」

五月雨「京都駅までずっとですから」

提督「変な誤解されなければいいけどなぁ・・・」

五月雨「よりにもよって秋月さんだなんて・・・、提督、何回もいいますけど浮気はギルティーですからね」

不機嫌丸出しの顔で、五月雨が提督を見上げて言った。

提督「浮気なんかしねぇよ・・・。俺どんだけ信用ないのよ」

五月雨「だって秋月さんですよ?寝台で一体何をするかわかったもんじゃないです!」

提督「まぁ、お前の言いたいことはわかるけど。さすがに秋月でもそんなことはしないだろう」

玄関に面した道路には、丁度京都まで送ってくれる五台の黒塗りの車が到着したところだった。

提督「皆、荷物忘れ物とかしてないだろうな?」

後ろに続く二十五人の艦娘達に声をかける。

全戦力が鎮守府からいなくなることになるが、前回の作戦の功績を讃えるというわけで、大本営からも長期でなければという条件付きで休暇許可が出たのだ。

哨戒活動は舞鶴航空隊に一任してある。

扶桑「忘れ物なんかしませんよ」

暁「子供扱いしないでっていっつも言ってるじゃない!」

提督「怒んなよ・・・。とりあえず四人ずつ乗り込んでくれ。いや、まぁ四人じゃなくても六人までなら余裕持って乗れるくらいには広いから大丈夫だ」

赤城「はーい。ほら、加賀さんも大鳳さんも。あれ、飛鷹さん、隼鷹さんはどこに?」

手を握られ顔を赤くする加賀には気づかずに、赤城が聞いた。

飛鷹「隼鷹ならもう車に乗り込んじゃったわ・・・。私達も急ぎましょ」

赤城「外寒いですもんね、あ、でも加賀さんあったかーい」

加賀「あ、赤城さん、何を・・・」

と言いつつ、まんざらでもない表情。

一番後ろに空母、その前に戦艦、重巡、軽巡、駆逐艦は二台に分かれて車に乗り込んだ。

ちなみに提督と五月雨、間宮は軽巡洋艦の車に乗り込んでいる。

提督「じゃ、出して下さい。予定通り京都駅までです」

運転手「分かりました」

ダッシュボードに備え付けられた短距離無線を使い、運転手が先頭車に出発の合図を送ると、車列が動き始めた。

提督「さて・・・、今年は賑やかな規制になりそうだ」

一時間か二時間はかかかると言う前に、名取と長良はすでに寝てしまっていた。

五月雨「寝台特急だともっと寝なきゃいけないのに、ここで寝ちゃうんですね」

提督「・・・五月雨、お前も最初一緒に行った時車の中で寝てたろ」

五月雨「あ、あれは仕方ないんです!朝早かったんですから!」

間宮「というか、提督。私にも一緒の寝台で寝るチャンスが欲しかったです」

それまで沈黙を保っていた間宮が、口を開いた。

提督「・・・す、すまん」

間宮「提督は小さい子に甘すぎますよ。たまには大人の女性もいいものなのですよ」

提督「わかったから・・・、あんま寄んなって・・・」

五月雨「何鼻の下伸ばしてるんですか提督!」

提督「伸ばしてねぇよ!」

移動。京都駅。

提督「お、着いたな」

六台分全ての交通費を払い、提督が外に出た。

もちろん提督の自腹である。特急列車の代金も提督持ちだ。

提督「ほら名取、あんまふらふらすんなって」

眠気がとれないのか、名取はまだ足元がふらふらしていた。

長良「いっつも名取は朝はこんな感じなんですよ・・・。名取しっかりしてって!」

名取「なんか足がいうこと聞いてくれなくてー・・・」

提督「大丈夫かよ?」

仕方なく、名取分の荷物は提督が持つことにした。

義手が荷物の重さをセンサーで検知、適切に駆動系が稼働し荷物を保持する。

義手は長袖と手袋をつけているので他の人には見えないようにしてある。

提督「皆降りたな」

一人ずつ数えて、提督が改札に向かって歩き始めた。

今回の車内食は間宮が事前に用意、各自に持たせていた。

朝食、昼食、五十二人分を作ったのとほぼ同義だ。

これだから間宮には本当に頭が上がらない。


移動。寝台特急「日本海」車内。

電車がホームを離れ、徐々に速度を上げ始めた。

落ち着いた所で、嫌なことを思い出した。

A寝台、指定席、大人及び子供料金二十五名。

各員平均一万三千円近くかかる。

前回は二名だったからいいものの、今回は二十五名である。

往復で六十万円を超える出費に、提督もさすがに肩が落ちかけた。

はぁ・・・、とため息を付きたくなってしまう。

考えるまでもないが二十六名じゃないのは、秋月が提督と同じ寝台だからである。

シングルベッドなのに秋月が入ると窮屈になるかと思ったが、五月雨の時ほどではないにせよそれなりにゆとりがあって幸いだった。

・・・というか、一番困るのが目のやり場だ。

秋月はニコニコして提督に顔を向けているし、五月雨ほどではないにしても秋月もかなり可愛いのだ。

反対側を向こうとすれば小さな声で、

秋月(ていとくぅ、こっち向いてくださいよぉ)

とずっと言い続けるものだから結局向き合ってやらないと落ち着いて寝ることも出来ない。

隙あらば抱きつこうともしてくるわで、こんなの五月雨に見られたらてぇへんなことになると、寝台を覆うカーテンが閉まっていることをしきりに確認する。

提督「(雷にすればよかった・・・、痛いぐらいなんで我慢しなかったんだ俺は!?阿呆は俺だ!)」

でも秋月の喜びようを見ていると、思わず提督まで口元が緩んできてしまうのが不思議だ。

秋月「こうしてると夫婦みたいですね、提督?」

提督「馬鹿言え。俺の嫁は五月雨だよ」

秋月「釣れないですねぇ」

提督「釣られてたまるかよ・・・」

秋月「私、こういう狭い場所好きなんですよね」

提督「狭い場所?」

いきなり話を変えたので、提督はついていけなかった。

秋月「こんな風に誰からも見えなくて狭い場所って、なんかこう、落ち着くっていうか、好きなんです」

提督「へぇ?」

秋月「提督は好きじゃないんですか?」

提督「・・・確かに、目線を気にしなくていいっていうのは楽かもな」

秋月「ですよねー」

提督「とりあえず、俺は寝るわ」

秋月「えっ、朝ごはんは食べないんですか?」

提督「眠くなってきたのよ。朝ごはんは食べててくれ」

秋月「えー、一緒に食べましょうよー」

提督「昼までには起きるから、な」

秋月の頭を左腕でぽふぽふと叩いて、あぐらをかいた体勢から横になった。

秋月「・・・」

秋月は、今しがた触られた頭を自分の手で触れながら、朝食に手を伸ばした。


秋月「こんなに温厚な人が司令官って言われて信じる人どれくらいいるんだろう・・・」

基本的に秋月は防空駆逐艦なので、提督の射撃用意の合図は「対空迎撃用意!」とか、「対空砲火用意!」とかいった単調なものになる。

しかしそれも、対空に関しては秋月が頼りになるということでもある。

最初配属された頃に、対空迎撃の腕を褒められた時の嬉しさは未だに覚えているほどだ。

秋月「防空駆逐艦でよかった・・・」

建造された時にほとんどの艦娘は自分のことを艦娘とは知らない。

それ故、生まれたばかりの頃は艦娘であること、戦力要因であることなどの説明をひとしきり受けることになる。

まだ考えるとか以前に、自分が本当は普通の女の子として過ごすこともできるのだということさえ知らないので、ほとんどの艦娘はその事実を受け入れてしまう。

しかし、そこで秋月は気づいた。

秋月「なんで女の子しか居ないんだろう。艦娘って」

本日はここまでです。ありがとうございました。

案外秋月書くのも楽しいです。

では、お休みなさいです。

おつん
確か秋月から提督への呼称って司令or提督で司令官は使われて無かったはず

>>393-395 乙レスありがとうございます。

>>394 司令官呼称、訂正漏れがあったようです。たまに間違えてしまうんですよね・・・


マッサージであざとい手を使った子の姉妹会議とか見たかったかも

まあ、秋月は姉妹艦(わるつき除く)いないから提督と一緒でもいいんじゃないか


寝てるなら秋月にマッサージしてもらえば良いのに

>>397-399 乙レスありがとうございますです。

>>397 やっぱりこう、色仕掛けは苦手でして、まだ機会はありますからその時にまたチャレンジしてみます。

>>399 寝台じゃちょっときつくないですか?w

乙です

>>401 乙レスありがとうございます。

鋭意執筆中です。

訳あってすぐには投下できませんが、来週月曜投下します。

まってるぞい

>>403
無理は禁物ですよっと

駆逐艦たちの切符って一部除いて全員小人扱いにならないかな?(汗
指定席(寝台含む)は正規料金だけど、運賃は全員分の購入の必要が・・・

そもそも「団体料金」という裏技はあるけど。
8名以上(現JR西)で最短14日前の購入で可能

そして駆逐艦sを学生としt(試製51センチ三連装砲の直撃を受けました

>>404-405ありがとうございます。

>>406団体料金、完全に盲点でしたw

勘違いです。修正になります。前回新津駅に向かった時の所要時間十二時間近くかけていましたが、完全に誤りです。

時刻表で確認しろよと言われてしまいそうですが、約八時間です。今回から直します(書いてて気づきました

・・・たった八時間かぁ。

>>407
京都市内-新津、26名(摘要:団体割引・往復割引、日本海B寝台)で799,350円
禁断(笑)の学割摘要(駆逐艦全員を学生とする)で704,090円
#現在時点(片道11340)での計算のため、かなり乱暴です。参考程度にw

北陸新幹線開通で、新潟方面の寝台列車が全滅してますからねぇ…悲しいお話です。

そして、最近の検索だと東京経由の新幹線連チャンとか(汗
旅情もへったくれもない(苦笑

>>408 七十万だと・・・、調査ありがとうございます。でも七十万・・

いつもより規模が大きい投下になるのですが、ちょっとこれだけあるとなんか寂しいですね(イベント的に

言い訳です。明日投下です。約束を守れない主です。

何か新潟でやってほしいことありましたらお願いします。というか、お願いします。十一月なので豪雪地帯と化した新潟で、です。

了解です。
コシヒカリの新米を食べる描写ほしいですね

>>413想像して感動した

>>411-414 全部使わせていただきます。

>>415 露天温泉、近くの宿でありそうなの探しましたがないのでこっちで作っちゃいますね。

露天だと暗くて分からないから、混浴でも結構恥ずかしくなかったりするんだよな

>>417
あ、夜限定ね

そのかわり猿とか一緒に入ってても分からないけど

五月雨(提督ってこんなに毛深かったっけ?)
サル「ムキ?」
五月雨「・・・」

それでは参ります。




提督「(そういえば聞き忘れてたな・・・。また聞いてみるしかないか)」

しばらく経つと、秋月が独りで食べ始める音が聞こえてきて、いたたまれなくなった提督は体を起こした。

秋月「あれ?寂しくなっちゃったんですか?」

提督「・・・うぜぇ」

秋月「どうぞ、提督の分まだ残ってますよ」

提督「俺の分まで食べるつもりだったのかよ」

秋月「はい、どうほ」

提督「食ったまま喋んな・・・」

しばらく外を見ながら御握りを食べ続けていると、秋月が体を寄せてきた。

提督「寒いのか?」

秋月「いえ、寒くはないです」

秋月の肩と提督のが触れ合う。

秋月「皆、提督の事好きなんですから」

お互い最後の一個まで食べ進めたところで、秋月が静かに言った。

提督「・・・急になんだ?」

秋月「皆死んで欲しくないって思ってるんですよ」

提督「・・・?そりゃ俺だって思ってるさ」

秋月「多分、というか、100%の確率で、提督が危ないって知ったら皆駆けつけると思います」

提督「無断出撃と上司の命令無視は軍規違反なんだが」

秋月「提督が死ぬって思ったら、皆そうなっちゃうんです」

提督「・・・まぁ、俺もそうすると思うけど」

秋月「提督はそういうことはしちゃ駄目です。・・・人間なんですから」

提督「馬鹿言え。お前らだって人間だろう」

秋月「・・・常人とは比べ物にならないぐらい筋力とか持っててもですか?」

提督「なんでお前らは・・・、たまにこんなに感傷的になるんだ?妖精からは艦娘だと教えられるのかもしれないけど、別に人間じゃないといわれるわけじゃないだろう」

秋月「そう、でしょうか・・・」

提督「大体艦『娘』とまで言われてるんだぜ?この呼称を最初に使ったのは妖精だって聞いた。あいつらなりのお前らは人間だってことを言いたい気持ちの表れだとしか俺には思えないが」

秋月「・・・」

提督「おい・・・、ここで泣かないでくれよ。ご飯がまずくなるだろうが」

秋月「だって・・・」

提督「秋月が話し始めたんだぞ?自分で泣かれたら話終わっちゃうんだけど」

秋月「やっぱり提督は寝ててください」

提督「眠くない」


一方。隣車両。

五月雨「・・・」

違う寝台だったけど、涼風が一緒に寝ようと言って隣に入ったきりすぐに寝てしまった。

五月雨「苦しい・・・」

涼風が寝たまま、五月雨の胸に顔を押し付けて腕も巻きつけてきたのだ。

我慢していただけで、本当は甘えたかったのかも知れない。

静かに寝息を立てる涼風の顔を眺めながら、五月雨も提督の事を一時ではあるが忘れて眠りについた。

涼風の髪を触ろうとした時だった。

『現在、当列車は強風の影響で徐行運転を開始させて頂いております。お急ぎのお客様には大変御迷惑をおかけ致しますが、何卒、御理解、御協力の程、よろしくお願い致します』

五月雨「そっか・・・、遅くなるんだ」

こんなに横に居続けられるのもそうそうない機会だ。

戻。午前十一時。

秋月「・・・」

提督「秋月、お前退屈しないの?」

秋月「退屈、どうしてですか?」

提督「本とか読んだりしないのかなと思っただけだよ。これからまだ長いしさ」

秋月「そうですね・・・、でもあと一時間でお昼ご飯ですし」

今回の列車も七時二十五分発。

到着予定時刻は午後三時頃だ。徐行してるため、それより遅くなるだろうことは明白だが。

提督「それもそうか・・・」

秋月「じゃあ何話します?」

提督「そうだなぁ、じゃあ秋月の休日の過ごし方とか?」

秋月「軍人に休日なんてないんですけど・・・、言うなら今が休日みたいなもんです」

提督「じゃあ、一日の過ごし方で」

秋月「そうですねぇ、朝起きるところからはじめますか?」

提督「最初からそのつもりだと思ってた」

秋月「まず、朝五時半に目を覚まして、枕元においてある提督の写真を見て眠気を飛ばします」

提督「いつ撮ったんだ」

秋月「それで、執務室の前に言って、五月雨にどやされながら目を覚ます提督の声を聞いて一日の元気をもらいます」

提督「無視か。でも秋月、写真機なんてそうそう手に入らないぞ?」

秋月「そこまで済ませたら、自室に戻って、まだ寝てる春雨のほっぺたを一通り撫で回して一日の春雨分をもらいます」

提督「羨ましいぞ!今度から俺も混ぜてくr「駄目です」

提督「駄目かぁ・・・」

秋月「やめてくださいよぉっていう春雨のかわいい声でさらに春雨分をもらいます」

提督の頭の中で、やめてくださいよぉと非難する声が春雨verで完全再生された。

秋月「それで、着替えてからやっと洗面台に向かって顔を洗って、歯を磨きます。やっと追いついてきた春雨が歯を磨き終わるのを待って、互いに髪を梳かしあいます」

提督「春雨・・・」

秋月「それでそれで、春雨と一緒にお互いの髪を結び合って、食堂にいく準備が整うんです」

提督「ほぅ」

春雨「・・・やっぱりわざとだったんですかぁ・・・?」

提督「・・・ん?今春雨の声が「気のせいです」

秋月「一緒に部屋を出て食堂に向かう途中で、部屋から出てきた白露型と暁型の皆と合流するのです」

提督「毎朝大勢で詰め掛けるのはそういう経緯だったんだな・・・」

秋月「皆が食べ始めたら、春雨が涼風と話して横を向いている間に春雨のお盆から朝ごはんを少しずつとっていくんです」

春雨「やっぱり秋月さんがやってたんですかぁ!」

閉まったままのカーテンの下側がへこんだかと思った瞬間、ピンク色の物体が転がり込んできた。

秋月「えっ、春雨、なんで入ってくるの!?」

春雨「私の好きな物が見るたびに減ってくのって、やっぱり秋月さんがやってたんですね・・・!」

提督「あれ、春雨って下の寝台に居たんだな」

春雨「うるさいです!今は秋月さんとお話し、て・・・?」

うるさいです!と小さな声で怒られた提督は、隅のほうで静かに縮こまっていた。

春雨「し、司令官!?すいません、そんなつもりじゃ、すいません!」

提督「春雨も反抗期に入ってしまったんだな・・・」

春雨「違います!すいません、司令官だなんて思わなくてっ!」

提督「・・・そうか?」

春雨「は、はい!」

一転、提督の顔が満面の笑みに変わった。

提督「いやぁ、春雨はそんな子じゃないと信じてたよぉ!」

春雨「っっ!く、苦しいですぅ!」

春雨を胸の辺りに抱え込んで、そのまま春雨分を吸収するとでもいう様に固まった。

春雨「んんんんんんん!」

提督「ぷはっ!いやはや、やっぱり春雨分は補給せねば生きていけんな」

秋月「ちょっと、春雨、早くこっちきてって」

春雨「秋月さぁん、司令官が乱暴するんですぅ」

春雨が秋月の元へ逃げ込んだ。

といっても寝台の中での出来事である。

秋月「提督、春雨は私のものなんですから、手を出したらいくら提督でも許しませんよ!」

春雨「え!?」

提督「なにおう、春雨は俺の部下だぞ!」

秋月「春雨も春雨よ、なんでこっちに入ってくるの!」

春雨「だ、だって、秋月さんがあんなこというから、やっぱりそうなんだって思って・・・。まさか司令官が一緒に居るなんて、あれ?」

そこで、春雨はようやく気づいた。

春雨「なんで秋月さんと司令官が同じ寝台に居るんですか?」

提督「え、なんでってそりゃあ、そういう約束だったんじゃないのか?」

春雨「でも・・・、秋月さんは提督と一緒の寝台なわけないじゃんって言ってました」

提督「秋月・・・?」

秋月「そ、そんなこと言ってないですよ・・・?」

秋月が顔を背けて、すっとぼける。

春雨「・・・う、嘘ついたんですか!?なんでそんな嘘つく必要があったんですか!」

秋月「う、嘘をついたつもりじゃなかったんだけど・・・」

春雨「酷いです!そんな、ああいうから私も諦めたのに!」

提督「嘘はよくないぞ秋月」

便乗しておいた。

春雨「独り占めしようって魂胆だったんですね・・・!見損ないました!」

秋月「ごめんね、春雨。そんな怒らなくても「怒ります!」

春雨「私も司令官と一緒の寝台で寝ます!」

提督「は!?」


一方。舞鶴航空隊。キ46。京都府遠洋上哨戒中。

搭乗員B「そろそろ帰るか。折り返し地点にもついたからな」

前回、キ46が離島棲鬼側の正体不明の兵器によって強制鹵獲された事を踏まえ、全機に改造が施されていた。

ただ発動機の馬力があがっただけではあるが、これが並ではない。

キ46の三つの発動機による推進力にも勝るならば、烈風の一基の発動ではかなうべくもないと判断され、全発動機の換装が行われた。

一基当たりの馬力が3000を超えた。しかも発動機自体の大きさは変わらずに、だ。

そんなうまい話があるのかと思ったのは提督と艦娘だけである。

とは言えども、燃料が持たないので本当の有事以外は通常上限回転数毎秒40を超えないように、操縦桿横に取り付けられた赤い輪がついたレバーを引っ張らなければその馬力は出せない仕様になっている。

搭乗員D「これ引いたところで、機体が持つんですかね・・・」

搭乗員B「俺らんところもそろそろジェットエンジンにでもしてくれれば話が早いと思うんだがなぁ」

搭乗員C「ていうか、馬力を上げるよりも他にやりようがある気がするんですが」

搭乗員B「それは言ってはいけない約束だ」

偵察編隊はキ46一機を隊長機とし、烈風三機が護衛につく小規模編成である。

そして峰山防空基地には、司令官不在の際の特例措置として約60機の防空戦闘機烈風、四十機の爆撃機彗星一二型甲が常時武装待機している。

赤城ら空母らを残させてその上不寝番というわけにはいかないだろうと判断されたためだ。

・・・司令官がいなくなるっておかしいだろう、というのは言っても詮方ないことと皆承知の上だ。

戻。寝台特急「日本海」車内。

春雨も一緒に寝るということで決着がついた提督のいる寝台。

秋月「やっと寝てくれましたね・・・」

春雨は提督に抱きついたまま昼食を済ませ、そのまま眠り込んでしまったのだ。

提督と秋月はまだだったので、今食べ始めたところだ。

秋月「そうそう、ずっと聞いてみたかったんですけど」

提督「ん?」

秋月「舞鶴って今何機ぐらい飛行機あるんですか?」

提督「ん、艦爆も艦攻も艦戦もあわせてか?」

秋月「そです」

提督「300は超えてると思う」

秋月「300もあるんですか・・・。それで、それぞれに全部妖精が乗ってるんですよね?」

提督「そうだな」

秋月「その件で私どうしても気になることが有りまして」

提督「ふむ?」

秋月「あの子達がご飯食べてるところとか見たことないし、部屋とかどうしてるんですか?」

提督「ふむ・・・」

確かに舞鶴鎮守府に300以上の部屋があるわけでもない。

提督「彼ら彼女らはいわゆる矢から飛び出してくるわけで・・・、これは、そう、赤城と加賀に寄生、あ、でもこれじゃ艤装を外したら駄目ってことに・・・。艦娘地震に寄生してるなんてことはあるわけないしな・・・」

秋月「もしかして、提督も知らないんですか」

提督「そりゃ俺だって知らないことぐらいあるよ!」

秋月「でも、気になります・・・」

春雨「そもそも妖精さんがご飯を食べてないっていう選択肢もあります」

ぱちりと春雨が目を開けた。

提督「起きてたのかよ」

春雨「ずっと起きてました」

秋月「・・・」

提督「でも春雨、それならあいつら、工廠の奴らのことな、が食堂で飯食ってるのは?」

春雨「私、妖精さんがトイレとかお風呂とか入ってる所見たことないんです」

提督「俺も見たことない」

秋月「私もないですね」

春雨「つまり・・・、本来妖精さんはご飯を食べない人種なのかもしれないのです!」

提督「とすれば・・・、操縦士達はよくわからないが艤装に格納されてて戦場で顔を合わせるからいいけど、工廠の奴らは鎮守府で俺達と向き合わなきゃいけない。後者は俺達と関係を維持する為にしなくてもいい食事をしてる、ってわけか」

秋月「艤装に格納されてるなら、操縦士を執務室に呼び出したりしてもおかしくはありませんね」

提督「春雨、今日なんか冴えてるな」

春雨「春雨はいつでも冴えてます、司令官!」

春雨を撫でつつ、なるほどなぁと溜息を吐く。

提督「妖精のことは俺達人間は関わっちゃいけないのが条文で決められてるから、知りようがないんだよなぁ」

艦娘建造施設の事は、立派な条約違反だが相手側も承諾の上だしいいのだろうと提督の中で結論が出ている。

しばらく誰も何も言わず無為に時間を過ごした。

提督「・・・眠くなってきた」

秋月「ですね・・・」

春雨「春雨も司令官の隣でいいですか?」

提督「むしろこっちからお願いしたいところだ」

春雨「ありがとうございます、司令官」

秋月「むー・・・」

その時、車両に放送が入った。

『先程から、強風の影響で一時徐行運転を開始させていただいております。お急ぎのお客様には引き続きご不便をおかけいたしますが、何卒、御理解御協力の程、よろしくお願い致します』
秋月の不満気な顔が一気にむかつくほどのほほ笑みに変わった。

秋月「なんか昼前の放送の時からずっと遅いとは思ってたんですよねぇ」

秋月が抱きついてくるのを無視し、提督は春雨にも腕を抱え込まれたまま眠りについ
た。

秋月「提督って暖かいですね・・・」

そして、はっ、と秋月は気づいた。

白い髪の毛に、白い肌、かすかに見える鎖骨・・・。

・・・たとえ五月雨が嫁であろうとも、さすがに提督もまだ手を出していないはず。

秋月は徐々に頭のなかの温度が上がり始めていた。

秋月「(ここで既成事実を作れば、提督は私のものに・・・)」

提督の息が規則正しくなるのを待って、行動に移す。

ここの時点ですでに秋月の理性は吹き飛んでいる。

秋月「提督・・・、待ってて下さい・・・」

上着を脱いで、畳んで脇に退ける。

秋月「・・・」

さら、と髪を解き、ついに最後の一枚を脱いで下着のみの姿になる。

秋月「・・・っ」

提督のズボンのベルトに手をかけて、起きないように慎重に取り去った。

忘れていた自分のスカートも、狭い寝台の中ゆっくりと脱ぎ捨てる。

今まさにこの現場を見たとすれば、完全に秋月はやばい女だ。

下着のみの姿で提督に抱き付き、胸のあたりでおおきく息を吸う。

秋月「いい匂いです・・・」

そのまま顔を上げ、提督のほんのりと赤い唇を見つめる。

右手を伸ばし、人差し指でなぞってから、ゆっくりを顔を近づける。

しかし、触れるか触れないかの所で秋月は躊躇った。

やはり五月雨の夫である提督に不貞行為を働くのは駄目なのでは・・・。

秋月「ううん、愛はどんな形でもいいのよ・・・」

太腿を提督の足の間に差し込みながら、長い睫毛の瞼を閉じて、そっと口づけした。

提督「油断も隙もねぇ女め・・・」

秋月「てっ、いッ!?」

・・・口付けした、と思ったのは提督の指だった。

体を見られたということと、今自分がしていることに気づき我に返った秋月が提督の足元に退いて顔を伏せた。

秋月「おっ、起きてたんですか!」

提督「いや、貞操の危機を感じた」

秋月「なかなか攻略は難しいですね・・・」

提督「再挑戦なんてしなくていいからな」

秋月「さっ、五月雨さんばっかりずるいです!」

提督「まだ手出してねぇよ・・・」

秋月「じゃあいずれ出すんですね!?」

提督「そりゃまぁいずれはな。いずれ、な」

秋月「私、諦めませんからぁ!」

提督「諦めろ」

春雨「(秋月さん、あんな大胆な・・・)」

提督「(秋月って案外胸大きい・・・)」

その時提督は微かすぎて気づいていなかった。

秋月が香水をつけていたことに。

五月雨が犬並みの嗅覚を持っていることも忘れていた。


到着。新津駅。午前六時三十一分。

秋月はあんなことをしでかしてしまった後では提督とまともに口も聞けず、何も出来ないまま時間を過ごしてしまった。

提督としては願ったり叶ったりであるが。

五月雨「提督!何か変なことされてないですよね!?」

秋月「少しは信用しようよー」

提督「(おまえが言うなよ・・・)」

提督「・・・あぁ、大丈夫だ、何もされてない」

外套の袖に五月雨がひしと抱きつき、顔をすりつける。

五月雨「・・・?」

仄かなバニラの匂い。

五月雨「提督、香水買ったんですか?」

秋月の眉がピクリと動く。

提督「いや?俺は香水なんて買ってないけど、どうしたんだ?臭うか?」

五月雨「提督・・・、正直に話して下さい」

提督「秋月が香水でもつけてたんじゃないの?それなら同じ寝台だし、匂いが移ってもおかしくないと思うけど」

五月雨「・・・でも違う匂いもしますよ」

提督「違う匂いって?」

五月雨「秋月さん以外の匂いです」

提督「春雨じゃないか?」

五月雨「どうしてそこで春雨が出てくるんですか」

ジト目で五月雨が提督を睨みつける。

提督「だって一緒の寝台で寝たからな」

五月雨「・・・は?」

提督「春雨も一緒に寝たいって「司令官!?」

春雨「そんなことまで言わなくて良いんですよ!?」

五月雨「何鼻の下伸ばしてるんですか提督 !」

提督「伸ばしてねぇよ」

五月雨「提督は本当に目を離した途端にこれなんですから!」

すっかり暗くなった駅舎から通りへ出ると、寒風が体に突き刺さってきた。

五月雨が一層強く提督にしがみつき、涼風が五月雨にしがみつく。

提督「寒ぃ・・・」

赤城「加賀さん、あったかいですー」

加賀「えっ、いや、赤城さ、その・・・」

扶桑「提督もあったかいですね・・・」

目を離した隙に、扶桑が提督の手をにぎにぎしていた。

山城「わ、私のほうが暖かいですよ、お姉様!」

提督「まぁ・・・、お前らは厚着してるからいいんだけど・・・、長良、お前寒いだろ」

提督が呆れて軽巡の方へ目を向けた。

名取「提督もそう思いますよね!?長良、全然寒くないよって言ってて・・・」

長良「これぐらい寒いの内に入らない!冬でも朝から走ってるから、寒いのには慣れてるんです!」

提督「にしても半袖は・・・」

五月雨「提督、話してる暇あったら早く行きましょう」

提督「お、おう、すまん。・・・おい、電、家はそっちじゃないぞ」

電「早くして欲しいのです・・・」

暁「だから上着持ってきたほうが良いって言ったのに。ほら、これ」

電「ありがとう、なのです」

提督「暁が・・・、姉してる」

暁「何か悪い!?」

今更ながら、家に泊めきれるのか不安になってきた。

移動。提督実家。午後七時。

配電盤に少し被った埃を取って、明かりをつけた。

提督「この廊下の突き当りを左に行って左の部屋が大広間だから。そこでくつろいでてくれ」

隼鷹「お酒はあるの?」

提督「・・・あるから、行ってきてくれ。間宮、囲炉裏の付け方わかる?」

間宮「任せてください」

提督(・・・ここは一つ、腕がなるな)

外套を五月雨に託し、台所へ向かった。


一方。大広間。

プリンツ「これがジャパニーズ宴会場・・・」

ビスマルク「広いのね・・・」

扶桑「舞鶴にも大広間はあったと思うけど・・・?」

間宮「提督はどこに行ったんでしょう・・・。五月雨さん、わかります?」

五月雨「台所だと思いますよ」

間宮「えっ、どっ、どうしてですか!?」

五月雨「料理を作りに、じゃないですか?」

間宮「そんなぁ、提督、私も手伝いますからぁ!」

慌てて間宮が台所へ駆けていった。

戻。提督実家台所。

提督「・・・」

八百屋の姉さんに三十人分の食材を八食分適当に買っておいてくれと頼んでおいたので、食材には困らなさそうだ。

提督「さて・・・」

もつ煮込み用の肉が冷蔵庫を開けた瞬間に見えたので、モツ鍋にすることにした。

提督「鍋足りるかな・・・、お、ちゃんと三個、それにコンロもあるか」

大広間がある訳だから、もちろんそこで使うための食材を入れるために何個かの冷蔵庫もあるし、食器も揃っている。

提督「つくづく舞鶴と言い家といい、広いな」

間宮「てっ、提督!」

そこへ、息を切らして飛び込んできたのが間宮である。

間宮「お料理は私がやります!」

提督「いやいや、今回の帰省の間ぐらい俺に任せてく「じゃあ!」

間宮「私も手伝います!」

提督「今回ぐらいゆっくりしろって。毎回料理作ってもらってばっかで悪いからさ」

間宮「でも・・・」

提督「大丈夫だから、戻ってくれていいから、な?間宮は休んでてくれ」

呼び捨てにされた瞬間、ボンッと間宮が赤くなる。

間宮「わ、わかり、ました・・・」

帰ろうとして、いやいやいやと自分の目的を思い出した。

間宮「でも三十人前ですよ?」

提督「知ってる」

提督は既にモツのパックを開けて湯に通していた。

間宮「少しだけでも手伝います」

提督「なぁ間宮」

間宮「はい」

提督「今回ぐらいゆっくりしていけよ。俺だって作れないわけじゃないんだから。労いだと思ってくれ」

間宮「・・・じゃあ、お言葉に甘えて」

名残惜しそうに、間宮は台所を出て行った。

が、

加賀「提督」

提督「なんだ今度はお前らか・・・。赤城と加賀も今回は休んでろって」

赤城「毎回間宮さんの料理を手伝っていると言っても、大したことはしてないんですよ」

提督「大したことしてないって、それ自分で言うことじゃねぇだろ・・・。それで?だから手伝いたいって?」

赤城「そういうことです。加賀さんが提案したんですよ」

加賀「赤城さん、今日は別々の布団で寝ましょう」

赤城「えっ!?どうしてそうなるんですか!?酷いです加賀さん!」

提督「まぁ、つまみ食いしないなら手伝ってくれてもいいけど」

なんとなく、赤城と加賀なら別にいいんじゃないかと思ってしまった。

加賀「わかりました。何をすればいいでしょうか」

赤城「加賀さぁん、一緒の布団で寝ましょうよぉ」

提督「とりあえずこのキャベツを五センチぐらいの大きさに切り分けてくれ」

かなりの重さのキャベツの山を指し示す。

加賀「わかりました。切るのは得意ですから。ほら、赤城さんも」

赤城「でも・・・」

加賀「さっきのは冗談ですから」

赤城「赤城、精一杯頑張らせていただきます!」

提督「(いつも同じ布団で寝てたことに驚きなんだが)」

気づけばかなりの速さでキャベツが小さくなっていくので提督も慌てて鍋に火をかける。

赤城「提督、これはなんの鍋なんでしょ痛いッ!」

提督「つまみ食いすんなっつったろ」

ちょくちょくキャベツを食べている赤城。

赤城「手で、手で叩いて下さい!義手は痛いです!」

提督「で、なに、モツ鍋知らないのか?」

赤城「モツ・・・?もつ・・・」

提督「鶏肉の内臓だよ」

赤城「えっ」

提督「レバーとかよく食ってるだろ・・・。内蔵だからってそんな反応すんなよ。旨いんだぞ」

赤城「本当ですか!?」

提督「生で食べるとお腹下すかもしれないから気をつけろよ」

赤城「そんな、生で食べようだなんて思ってないです」

提督「それならいいけども」

赤城「私もそこまで猛獣じゃないです・・・」

提督「・・・よし、やっと温まってきたな」

スープが入った右の鍋から順にモツを適量放り込んで、中火にかけたまましばらく待つと灰汁が出始めるから、それを掬っていく。

加賀「提督、終わりました」

提督「早いな!?」

加賀「伊達に手伝ってませんから」

提督「じゃあそれ、もやしの袋あけといてくれ」

赤城「萌やし・・・」

六分ほど煮込むと、灰汁が止まったので火を止める。

その上にキャベツ、もやし、ニラを入れて強火にかけた。

赤城「味噌の匂いがしてきましたよ!提督!」

提督「知ってるよ・・・」

赤城がキラキラした目で鍋を見つめるのを見つめながらしばらく待つ。

野菜が含んでいた水分が染み出してきたのか、徐々に水位が上がってきた。

提督「できたかな・・・」

菜箸で手近にあったキャベツを口に入れると、丁度良く火が通っていた。

赤城「あ!提督今つまみ食いしました!」

提督「小学生かお前。できたから広間にこれ運ぶぞ」

加賀「提督、コンロは運ばなくて良いんですか」

提督「・・・忘れてた」

時間経過&移動。大広間。

五月雨「提督・・・」

提督「ん?」

五月雨「私、モツなんて生まれて初めて食べました」

提督「なに、ここの奴ら皆食べたことないのかもしかして。間宮は?」

間宮「お恥ずかしながら、私も食べたことはないですが・・・、こんなにおいしいものがあったとは知りませんでした・・・」

提督「まさか、今まで料理一筋の間宮さえ作ったことないのか・・・」

五月雨「でもこの季節に鍋を選んだのは気がききますね提督」

提督「だろ。どっちにしたってモツじゃなくても今夜は鍋料理にするつもりだったからな。やっぱ鍋は冬だよな」

時折ガタガタと窓が震える音に、ふと提督は周りを見渡した。

染みが目立ち始めた天井に、継ぎ接ぎの障子、襖にも汚れが浮いてきている。

畳もところどころ傷んでいるのがなんとなくわかる。

意識したこともなかったが、自分はそれなりの屋敷に住んでいたのだと実感した。

そこに自分の部下のこれだけの人数を連れてくることになるとは、昔の俺は思いもよらないだろう。

せめて母だけには見せてやりたかった。

五月雨「いとく、提督ー、提督?」

提督「お?」

五月雨「お?じゃないですよ。ぼーっとしてるから心配してあげたんですよ」

提督「おおう、すまん、大したことじゃない」

五月雨「こんなに賑やかになるなんてって、感傷に浸ってたんですか?」

左隣に座る五月雨の頭を無言で撫でてから、提督は再び鍋に箸をつけた。

時間経過。同所。

一通り洗い物を終えた所で、提督が各々に部屋割りを伝える。

さすがに部屋数はそれほどないので、型がまるごと同じ部屋になってしまうところもあったが、概ね問題なしだ。

提督「お風呂はさっき言った通りの所にあるから、駆逐艦から入ってきてくれ。俺は最後に入る」

プリンツ「そして皆さんの使用済みのお湯を堪能するわけですね」

提督「人聞きの悪いこと言うなよ」

白露「提督ー、一緒に入るー?」

提督「入んねぇよ・・・」

駆逐艦が出て行くと、大広間も少し静かになった。

プリンツが加古達と話しているのを見て、安心した。

いつもビスマルクについてばかりだから少し心配ではあったのだ。

当のビスマルクも航空戦艦達と話しているが、何やらこちらをチラチラと見ているのが気になる。

提督「(俺の悪口か・・・?そうなのか?)」

空母らはすでに晩酌中である。

軽巡達は間宮と話し込んでいた。

提督「ふぅ・・・」

寝ようにも、列車の中で寝まくったので眠気も覚えない。

提督「うちの風呂ってあいつら全員入れるのかな」

お風呂は大浴場並の大きさではないのだ。

お風呂の中で待機していたり、髪を洗っている光景を想像してみるが、五月雨が髪を洗っている姿しか想像できない。

提督「変態か俺は」

一方。舞鶴鎮守府。

技士B「今頃提督は艦娘たちとイチャイチャしてるんですかねぇ」

技主「案外一人で寝てたりするかもしれないぞ」

製油所からは原油が軽油と航空用ガソリン、それと少量の灯油に精製され、三本のパイプを通して送られてくる。

軽油はもちろん船舶燃料、灯油は各艦娘の部屋のストーブのためのものだ。

今はそのうちレシプロエンジン向けに生成される航空用ガソリンを峰山防空基地に向けて出発する車両のタンクに移しているところである。

昼間の輸送は被偵察の危険を考慮し中止されたままだ。

技士B「今でも思うんですがね」

技主「なんだ?」

技士B「この油を送ってくれる製油所、以前一回狙われたじゃないですか?」

技主「そんなこともあったか」

技士B「・・・また襲われるんじゃないかと思いまして」

そうだなぁ、と主任は溜息を付いた。

技主「・・・それはたまに提督も言ってる」

技士B「そうなんですか?」

技主「そこまで気が回らないような司令官じゃない。定期的に編隊組ませて技士を十数人送ってるだろ。あれは製油所の要塞砲の点検のためなんだ」

技士B「そうだったんですか・・・。あんまり気配ってなかったんでそういうことだとは知りませんでした」

技主「配らさなすぎだろそれはそれで」

技士B「でもこう言っちゃあれですけど、人の手で深海棲艦相手に当てられるんですか?」

技主「そこなんだよ、そこ。最近は提督も生産される原油を他の鎮守府に無償で提供する代わりに妖精を派遣してくれって頼んでるみたいなんだが」

技士B「だが?」

技主「どうも軍令部が派遣に難色を示してるんだと。製油所の生産量は世界でも随一で、日量約三百万バレル程度。大本営のほうも無視はできないのは確かだが、あれだけの要塞砲を置いておいてその上貴重な妖精まで派遣するのは無理だと言われたらしい」

技士B「だから結局定期的な整備にとどめざるを得ない、って感じですか」

技主「大湊と佐世保、呉にも頼んでいるみたいなんだが、今のところ良い反応はないみたいだな」

技士B「ほー・・・、司令官も大変なんですね、意外です」

技主「だからこそ、今回の休養で幾分でも気を休めて欲しいってのもあるから俺達は今回の帰省については反対しなかったんだよ」

技士B「帰省・・・、新潟ですか・・・、ここよりも寒いんだろうなぁ」

技主「よそ見すんな。油垂らしたら容赦せんぞ」

技士B「す、すいません」

戻。時間経過。午後十時。

五月雨は涼風と一緒に寝ると言っていたので、さぁ今夜は一人で寝るのかと思い部屋に向かう。

扉の前に間宮が寝巻き姿で立っていた。

間宮「いつも寝るのは一人ですから、今回は一緒に寝ましょう」

提督「・・・変なことするなよ?」

秋月の一件があったばかりなのだ。警戒してしまう。

間宮「大丈夫です大丈夫です。ささ、こちらへ」

部屋に入るが、布団が一つしか敷かれていない。

提督「間宮、布団が一つ足りない」

間宮「そうですか?一つで十分ですよ?」

提督「なるほど・・・、そう来たか」

間宮「大丈夫です。五月雨さんにはもう言っておきました」

提督「・・・本当に言ったんだろうな?」

間宮「はい、言いましたよ」

語尾に音符が付きそうな調子で間宮が答える。

提督「あの五月雨が許可してくれるとは到底思えないんだが・・・」

間宮「いいですからいいですから。こちらへこちらへ」

提督「・・・仕方ないか」

横になってからしばらくすると、間宮のいる方から寝息が聞こえてきた。

寝すぎたせいもあってか、時間がかかりはしたが三十分ほどで提督も眠りに落ちた。

時間経過。提督実家寝室。午前五時。

間宮「ていとくー」

提督「・・・ん?」

間宮「もう朝です」

提督「なに。朝にしては寒いぞ」

間宮「朝だから寒いんです。寝ぼけてないで朝ごはんの支度しないとですよ」

提督「・・・はぁ・・・。間宮は早起きなのね・・・」

間宮「毎回五月雨さんに起こしらもらってる提督も提督です。一人で起きれるようにならないと駄目ですよ」

提督「でも俺が一人で起きられるようになったら五月雨が寂しがっちゃうじゃないか」

間宮「言い訳は良いですから・・・」

提督「あー、寒いよー。あ、間宮暖かーい」

間宮の背中のあたりに顔を押し付けてだらしなく口を緩ませる。

間宮「ちょ、ちょっと提督!寝ぼけないで下さい!」

とか何とか言いつつ、背中ではなく胸の方にうずめさせて顔を緩ませる間宮も間宮である。

提督(やわらかーい・・・)

移動。提督実家台所。午前五時二十分。

提督「さぁ、今朝はどうしましょう」

赤城「いつもは鮭ご飯とか軽い定食です」

赤城と加賀も起きてきていた。

提督「フレンチトーストにでもするか」

赤城「ふ、ふれんち・・・?」

加賀「提督って、たまに変な外来語知ってますよね」

提督「士官学校に居た頃上司が一回だけ食わせてくれたことがあってな。それ以来その味を忘れたことは一度たりともないほどうまかったんだ」

赤城「トーストってことは、食パンなんですか?」

昨日の夜食材を見て食パンらしきものがあったのを言っているのだろう。

提督「まぁまぁ落ち着け落ち着け。見ていたまえ」

提督「まず、卵、牛乳、砂糖を混ぜるんだ」

ボウルに材料を入れていく。

赤城「さ、砂糖・・・」

赤城が喉を鳴らす。

提督「そして、お前たちにやってもらうことになるけど、食パンを四等分するんだ」

加賀「任せて」

大きめのボウルに混ぜた液を用意し終わる頃には加賀と赤城は仕事を終えていた。

提督「次に、その食パンを丁寧にこの中に浸す」

赤城「つ、つけて食べるんじゃないんですね・・・!?」

浸し終わったものを適当な皿に並べておいて、フライパンにバターを落として火をかけて、まんべんなく伸ばす。

準備ができたと思った所で、食パンをフライパンにいれて弱火で焼き上げていった。

時間経過。同所。

赤城「提督!何でしょうかこの芳しい香りは!」

提督「これがフレンチトーストだ。よく覚えておけ」

加賀「作り方もそれほど難しいものではなかったし、今度鎮守府でも作ってみます」

提督「そうしてくれたまえ。と、まぁこんな感じで完成したので運んで欲しいんだが」

加賀「何か?」

提督「昼ご飯食べた後にお墓参りに行こうと思うので、皆に伝えておいてくれ。防寒と手袋だけは忘れないようにとも」

加賀「わかりました」

赤城「そうですよね・・・、まずは提督のご両親に御挨拶しないと結納も決められませんし・・・いったいです!」

赤城の後頭部に手刀が振り下ろされた。

提督「変なこと言ってないで運ぶぞ」

赤城「乙女の頭を叩くのが司令官のすることでしょうか!?提督、これは私も黙ってませんよ!」

提督「悪かったから、早く運んでくれ」

時間経過&移動。提督実家玄関前。

提督「あ、そうだ」

玄関前の雪だけ除けておいてから、提督は思いついた。

五月雨「どうしたんです?」

提督「八百屋に顔を出そう」

五月雨「?」

提督「せっかく帰ってきたんだしと思って。おーい、お前ら早くしろって」

振り返った先では、艦娘達が寒さにあえいでいた。

山城「姉様、寒いです・・・」

扶桑「私も行くんだから、ね、山城?」

山城「わ、わかりました・・・」

昼を周り、快晴の空に太陽が昇っていてもこの寒さだ。

路面の凍結が少しでも緩和されるだけ感謝せねば。

提督「ていうか、極寒の日本海とかよく出撃してるのに寒がるのかよ?」

五月雨「・・・艤装が付いてるのと付いてないじゃ大違いなんです。提督も艤装つけてみますか?」

提督「いや・・・、遠慮するよ・・・」

移動。霊園。午後二時。

提督「今年も遅れたけど・・・、今回は俺の部下を連れて来てみたんだ」

皆やけに緊張した面持ちで提督の後ろに並んでいる。

扶桑「龍花・・・」

提督がやかんでお湯を墓石にかける。

提督「部下と言っても艦娘っていって・・・、説明はめんどくさいからしないけど。でもとにかく、俺は元気だ。死んでない」

提督「・・・母さんも天国かどこかで父さんと会えてればいいけど、そううまくは行かないか」

だから、と提督が手に持っていたものを掲げる。

提督「だから今日は、父さんがよく飲んでた日本酒を舞鶴から持ってきたみたんだ。なるべく匂いの強いのを持ってきたから、これなら父さんも気づいてくれるだろ」

少しだけ日本酒を墓石にかけてから、栓をして傍に置いた。

提督も徐々に限界に近づいていた。

去年は五月雨を連れていたとて、結婚をしていたわけではないのでさして感慨にふけるようなことはなかった。

だが今年は、幼く見えても一応は嫁の五月雨と、一年もの間奮闘し続けてきた多くの艦娘が付いてきている。

五月雨「提督・・・?」

駄目だ。これは保たない。

もう何十年も前の事なのに、こうして象徴の前にいると今でもあの気持を思い出してしまう。

しばらく墓前で黙祷してから、本当にやばいと思った所で、

提督「帰ろう・・・」

踵を返し、低い声でそういった。

本当はもう少しいたかったが、皆の前で泣くのは嫌だった。

静かに、五月雨が提督の手を握る力を強くした。


時間経過&移動。八百屋前。

提督「お?」

姉さん「お?」

暖簾をくぐった所で、丁度暖簾を潜ろうとしていた姉さんと目があった。

姉さん「帰ってくるなら言って欲しかったのに」

提督「手紙出したぞ」

姉さん「今年は随分大所帯みた・・・、全部女ね」

提督「言い方な、言い方」

姉さん「それで、どうしたの?私と結婚してくれるの?」

提督「しねぇよ・・・。いや、大丈夫かなと思って」

姉さん「私の体がって?」

提督「そう」

姉さん「大丈夫よ。なんなら直接触っても、あら・・・」

ようやく艦娘から注がれる敵対的な視線を感じ取ったらしい。

姉さん「今時の子ってみんなこんな感じなの・・・?」

提督「・・・、とりあえずうちの鎮守府の番号置いてくから。後ここらへんで露天風呂とかないか?」

姉さん「番号・・・。毎時電話するわね!」

提督「せめて毎日にしろ」

姉さん「それで、露天風呂ってどうして?」

提督「せっかくここまで来たんだし温泉に入りたいんだよ。二つ隣の駅に行けば旅館があるけど、この寒い中遠出はしたくないんだ」

姉さん「それならこの近くで秘湯の露天温泉があったよ?」

提督「秘湯って、自分で見つけたのか?」

姉さん「まだ誰にも言ってないから・・・、まだあと一週間ぐらいなら貸し切りよ」

提督「・・・どこにあるかわかる?」

奥に引っ込み、しばらくすると地図を書いた紙を持って戻ってきた。

姉さん「はい、これ」

提督「ありがと・・・。それじゃ元気でな。また今度来るから」

姉さん「あ、ちょっと待って」

提督「ん?どうしッ!?」

顔を掴まれ、頬に口を押し付けられた。

姉さん「・・・これであと1年は生きられるわ・・・」

五月雨「な、なにをして、お姉さん!」

姉さん「やだ、お姉さんだなんて・・・。でも口じゃないんだし、大丈夫よ?」

ふふっ、と姉さんが不敵に笑う。

五月雨「何も大丈夫じゃないですッ!」

それに五月雨がムキになって言い返した。

帰還。提督実家大広間。

提督「五月雨まだ怒ってんのか。可愛いやつよのぅ、ほれほれ」

頬を膨らませたままなのはまるでフグのようだ。

五月雨「わっ、私ともしてください!」

思えば確かに五月雨とキスをしたことがないような気もする。

提督「いや・・・、少なくともここではしたくないな・・・」

さすがに皆の視線があるところでは。

五月雨「はぁ・・・」

五月雨の頬が萎んでいくのに苦笑した提督が話題を変えようと言った。

提督「明日の夜は皆で露天風呂にでも行こうと思うんだけど、いいかな?」

ビスマルク「・・・え、皆でってことは、混浴ってこと?」

提督「混浴もOK!て紙には書いてあるしな。OKもなにも営利目的の場所じゃねぇけど」

山城「そうやってまた姉様の体を見ようと企んでるんですか」

すかさず山城が提督を睨みつけた。

提督「企んでねぇよ、被害妄想だよ。お前が見たいって思ってるだけなんじゃないの?」

山城「どうしてそうなるんですか!私はただ姉様の綺麗な体を見たいだけです!」

提督「・・・見たいんじゃん」

山城が違います!と反論するのをよそに大広間を見渡した提督が気づいた。

提督「そういえばあいつらは?」

涼風「暁達なら外にさっき外に行ってたよー」

提督が伸ばした足の間にいる五月雨が伸ばした足の間に涼風がいる。

提督「何するか聞いたか?」

涼風「雪合戦するって言ってた」

提督「雪合戦だってッ!?」

提督が慌てて聞き返す。

涼風「そ、そうだけど、どした?」

提督「雪合戦は明日皆でしようと思ってたのに・・・」

涼風「それはそれで明日またすればいいじゃん、提督?」

提督「それもそうだな・・・。大人気ないところを見せてしまったぜ・・・」

五月雨「隠さなくても皆知ってますよ」

提督「・・・ぐ」

時間経過。台所。午後五時半。

赤城「さぁ、やってまいりましたよ提督」

提督「嬉しそうだな・・・」

赤城「今回はどんな料理を披露してくれるんでしょうか!?」

提督「別に今回は珍しいやつじゃない」

加賀「それにしても、もう五時半なのだけど。間に合うの?」

提督「なに、ご飯はもう炊いてあるし、食材の下ごしらえもすんでる」

赤城「え・・・、私達の仕事を奪ったんですか・・・」

目を潤ませる赤城をみて慌てて提督が言い繕う。

提督「いやいやいやいや、違う、大丈夫だから。今回はマグロ漬け丼だからもともと仕事っていう仕事もないんだよ。一応今回は酢飯づくりをしてもらおうと思ってたから」

赤城「マグロ漬け丼ですかッ!?」

提督「お、おう・・・」

加賀「さすがに気分が高揚します」

提督「とりあえず海苔を刻んでくれ」

海苔が入った缶を台所の上に並べた。

加賀「任せて」

提督「赤城は酢飯づくりを手伝ってくれ」

赤城「共同作業ですね!?」

提督「お前、飯の事になると気分が高いか低いかのどっちかしかないよな」

炊飯器を開けて、いくつかあるすし桶にご飯を移していく。

赤城がすし酢が入った容器を持って今か今かと待ち構えている。

加賀「終わったわ」

提督「相変わらず早ぇ・・・」

加賀がご飯の移し替えの作業を手伝ってくれたおかげで、大した手間にはならなかった。

加賀「このお米・・・、綺麗な色をしてますね」

艶やかに光を反射する米粒を見つめて加賀が言った。

提督「加賀、そんなことまでわかるの?」

加賀「いつも間宮さんにご飯の炊き方とか教わってるから、見分けがつくようになったのよ」

提督「魚沼産コシヒカリなんだ。高いけど買ってもらっちゃったのよ」

加賀「一年前買ってきてくれたものと同じ?」

提督「あぁ、同じだ。結局お前ら大食い勢がすぐに食いつくしちまったがな」

加賀「仕方ないじゃない。おいしかったんだから」

提督「そういうわけで今夜のマグロ漬け丼はただの丼じゃないってことだ。ほら、赤城、作るぞ」

赤城「はい!」

加賀がうちわでご飯を扇ぎ、赤城はすし酢をたまに足し、提督がしゃもじでご飯を混ぜる。

全ての酢飯を作り終えた所で、丼にご飯を盛っていく。

事前に加賀が刻んでおいてくれた海苔を入れてから、その上にマグロを豪快にのせた。

ちなみにマグロも国産本マグロのみを使用したものだ。

八食分、これは鎮守府経費から落とさせてもらっているが、寝台列車料金に匹敵するレベルであることだけは確かである。

提督「できた・・・。やばい、もう五十分か。急がないと」

六時にぎりぎり間に合った。



移動。提督実家大広間。

扶桑「このお米、普段と違いますね。一回食べたことがあるような・・・」

提督「やっぱりそうだろ?コシヒカリは弾力と良い粘り気と良い、他のコメとは一線を画するからな。分かって当たり前だ」

五月雨「魚沼産コシヒカリですよね。これ同じ銘柄のやつ八百屋でも見つけましたよ」

提督「そりゃあそこの八百屋で買ってるんだから見つけると思うぞ」

赤城達空母や戦艦の方を見ると、凄まじい勢いでご飯が消えていっている。

駆逐艦は、炊きたての御飯を口に入れてははふはふとして、ゆっくり食べていた。

むしろゆっくり食べてくれたほうが提督的には嬉しい。

これだけの量のご飯を用意して、本当に一食分として食いつくされてしまうから嬉しいのか悲しいのかもはや提督にはわからない。

十一月二十六日。寝室。午前五時。

間宮に起こされ提督が目を覚ました。

二泊三日の予定で、明日には鎮守府に帰る予定だ。

欠伸を我慢するでもなく大きくしながら、昨日八百屋の姉さんからもらった手紙をもう一度確認した。

提督「(山の上か・・・)」

この家から日本海の方へ一キロほど歩いた所にその目的の山はあった。

大体標高500mぐらいと書いてあるので、それなりに登山をする羽目になるが艦娘なら大丈夫なはずだ。

しかもその露天温泉、日本海側の斜面にできているとあって景色も見物になるだろう。幸い今夜は晴れると天気予報も言っていた。

間宮「混浴って、なんか恥ずかしいですよね」

提督「どうせ夜なんだし。大して見えないから大丈夫じゃないかな」

間宮(別に見える見えないの問題じゃないのに・・・)

提督「ん?」

間宮「なっ、なんでもないです!」

時間経過。実家前道路。午前八時。

車が全く通らないのをいいことに、提督はあることを決心していた。

今年の正月、提督は巨大なカマクラを作った。

ならば次に作るのはやはり雪だるまだ、と。

朝ごはんを食べた後、見つからないように家を抜け出してきたので誰にもバレていない。

提督「これを見たら駆逐達驚いてくれるんだろうなぁ・・・」

早速手近な雪をつかみとり、直径三十センチ程度の雪玉を作る。

ここからの作業が途方も無く長いが、達成した時の感動はひとしおだろう。

そのことを想像し、提督は気合を入れて雪だるま制作に励み始めた。


二時間半後。同所。

汗を拭き、日焼け止めを塗り、ひたすら小さかった玉を転がすこと二時間半。

提督の身長ほどの大きさの雪玉が出来た。

提督「ハァ、ハァ・・・、んぐッ」

あまりに息が切れているせいで、たまに喉のあたりが詰まりかけたりする。

肩で息をしながら時計を確認するともう十時半になっていた。

提督「そろそろ戻らないと・・・、見つかってしまう・・・」

お昼ごはんは焼きそばにしよう・・・。

帰還。同所。午後一時半。

次は雪玉の上にのせる一回り小さな雪玉の制作作業だ。

正直右手が義手じゃなかったら挫折してる。

提督「よしっ、いくぞ」

気合を入れなおして、再び小さな雪玉を転がし始めた。


二時間後。

提督「ゼェ・・・、ウグッ、ンハァ・・・、ハァ・・・・」

死んだように大の字に寝転がって、体全体で息をしていた。

提督「やば、い・・・、もう、動けねぇ・・・」

しばらくして、ようやく息が落ち着いてくる。

提督「でも、まだまだ・・・!載せる作業が終わってない・・・ッ!」

だが、そこで提督は気づいた。

自分の身長程もある玉の上に、どうやって雪玉をのせるのか、と。

提督「今までの俺の努力は無駄だったのかッ・・・!?」

提督「・・・いや待て・・・。考えろ、考えるんだ・・・。何か手があるはずだ・・・」

考えたが結局思いつかなかったので、雪で土台となる雪玉の上まで緩やかな坂を作った。

この坂を作るだけで三十分費やした。

が、力が足りない。押せないのだ。

途方に暮れかけたその時、ガラリと戸が開いて白露と夕立が出てきた。

玉を襲うと奮闘するあまり、玄関前から隠れることを忘れていた為に即座に見つかってしまう。

白露「提督、なにしてるのー?」

提督「・・・すまん、手伝ってくれ」

夕立「ゆ、雪だるまっぽい?」

提督「よくわかったな」

白露「五月雨の言うとおりだった・・・」

夕立「五月雨がどうせくだらないことしてるからって言ってたけど、本当にくだらないっぽい」

白露と夕立が引いている。

提督「お前ら、これを用意するのにどれだけの苦労があったかわからないのかっ!」

夕立「・・・まぁ完成はさせてあげたいっぽいし、手伝うっぽい」

白露「しょうがないなー、一番艦の私ならすぐにできるから」

そうして約十分程度で、雪だるまは完成した。

提督「艦娘恐るべし・・・」

夕立「伊達に鍛えてないっぽい!」

提督「ふむ、じゃあその苦労に免じて、仕上げはお前らがやってみると良い」

白露「ほんとにいいの?」

提督「・・・俺はもう疲れたんだ・・・」

なんか眠くなってきたなぁと思い始め、目を閉じた。

それから少しすると、顔の横に雪玉が着弾して雪片が提督の顔に降りかかった。

ハッと目を覚まし横を向くと、響がドヤ顔でこっちを見ていた。

提督「やってくれたな響!」

提督が応戦しようとするのを見て、響が言う。

響「私一人だけだと思わないことだね」

後方から三つ新たに提督めがけて雪玉が飛来した。

腕をかざして直撃を躱す。

提督「くっ、支援砲撃か!だがこちらには白露と夕立が」

白露と夕立はすでに仕上げを終えたのか、暁型の背後で支援に加わっていた。

提督「謀ったな!?寝返るとは!」

だが相手は所詮小口径弾しか投げられない。こちらは大人だ。

勝機はある。

提督「目にもの見せてやるっ!」

そいやっと大きめの玉を投げるか、やすやすと躱されてしまう。

反撃に6つの雪玉が提督めがけて投げ込まれ、三個程提督の頭とお腹にあたってしまった。

暁「本番だったら司令官はもう大破してるわよ!」

提督「なにおう、こちとら装甲は伊達じゃないんだぞ!」

雪だるまの背後に駆け込み、陰から様子をうかがっていると、再び玄関の扉が開く音がした。

五月雨「・・・提督ー、どこですかー。はぁ・・・、またこんなもの作って、筋肉痛になっても知りませんよ」

提督「五月雨、酷いんだ。白露も夕立も俺の味方になってくれない!」

五月雨「・・・」

背後から付いてきていた艦娘達の視線が暁たちの方に向いた。

提督「五月雨?」

・・・艦娘は全員、提督の味方にはならなかった。

提督「お前らっ、間宮までっ、俺一対二十六って酷くないか!?」

提督「(でもここに隠れてる限りは安全だ)」

陰からチラと窺うと、五月雨が皆に何か説明していた。

皆が頷くと、各々雪玉を手に取り・・・、

空に向かって投げた。

提督「何だ・・・?」

直後、放物線を描いて飛んできた雪玉が提督の脳天を直撃した。

雨あられと雪玉が提督の元へ飛んでくる。

提督「そんなっ、くっ、山形射撃とは考えたなッ!」

サッと雪だるまから出て勢い良く渾身の一発を投げ込もうとした瞬間、提督の顔面に固めの雪玉がぶち当たった。

提督「ぐはっ」

雪が目に入り、当たった衝撃で後ろに倒れこんだ所へ、再び雪玉が大量に投げこまれる。

提督「ちょっ、酷いっ、大人気ない!痛い!やめろよ!わかった、俺の負けだ!もうやめっ、痛ぇし!誰かマジで固めてるだろ!やめっ!」

一時間にも思われた攻撃がようやくやんだ頃には、提督は涙目だった。

五月雨「す、すいません、提督。やり過ぎました・・・」

提督「五月雨なんて嫌いだ・・・」

五月雨「そ、そんなこと言わないで下さい!」

顔と体にかかった雪を払い、むくりと起き上がると、皆提督が作った雪だるまで遊んでいた。

五月雨「こんなに大きいの、私も手伝いたかったです」

提督「・・・一人で作ってこそ得られる達成感もあるのさ。でもま、皆これで遊んでくれて何より・・・」

五月雨「すいませんでした、さっきは。だから嫌いだなんて言わないで下さい」

提督「冗談に決まってんだろ」

本気で泣きそうになっていた五月雨を抱きかかえ、立ち上がった。

提督「だがお前も山形射撃とは考えたな。演習をここで役立てられるとはさしもの俺も予想だにしなかった」

五月雨「提督が命乞いしてるのみて皆笑ってました」

提督「お前も笑ってたんだな・・・」

五月雨「だって面白かったですから」

提督「ほんとにもう・・・」

暁達が大きな雪だるまを、小さな雪だるまで囲みはじめていた。

空はもう橙色に染まり始めている。

提督「さて、ご飯の準備をしよう」

時計は既に午後五時を示している。

遊んだり気絶したりしてる間に一時間以上も経ってしまっていたらしい。



時間経過&移動。提督実家前。午後七時。

五月雨「どれぐらい歩くんです?」

提督「せいぜい一キロ程度だよ」

五月雨「一キロって結構ありますけど」

提督「たかが一キロだ。よし、お前らも準備良いな?」

夜、太陽も出ていないこの時間帯の寒さは尋常じゃない。

山城「姉様ぁ・・・」

扶桑「ほら、くっついてていいから。行きましょう、山城」

山城「はい・・・」

提督「うし、行くか」


移動。某山露天温泉。

提督「やばい寒い」

一足先に提督が知覚の平らな岩に服を脱いで、タオルを腰に巻いたのだが極寒の中タオル一枚はキツい。

義手は畳んだ服の間に置いておいた。

提督「さっ、先入ってるぞっ」

五月雨「わかりましたー」

暗いのであまり先は見えないが、近めの所から返事がした。

家から持ってきたたらいでお湯を掬い、体にかける。

提督「暖かい・・・」

艦娘達が右肩を気にしないよう、なるべく端の方へ腰掛けた。

そっと、右足からお湯に入れる。

提督「ほぉー・・・」

そのままゆっくり、肩まで湯に使った。

お湯の中にも腰掛けるぐらいの大きさの岩がせり出しているから、水位は問題にはならなさそうだ。

五月雨「提督、どこです?」

不安そうに五月雨の声に、提督の嗜虐心がくすぐられた。

提督「・・・」

五月雨「て、提督、どこですか?」

提督「・・・」

五月雨「て、ていとく・・・?」

泣きそうな気配がし始めたので慌てて声を上げた。

提督「ここだここ」

五月雨「いるなら返事して下さい!」

提督「すまん・・・」

五月雨「じゃあここ、失礼します」

そっと、提督の右隣に五月雨は入ってきた。

提督「・・・大丈夫?溺れてない?」

五月雨「心配ないですよ・・・。溺れるわけ無いです。こうみえても身長ありますから」

山から見下ろす街は、あまり明かりはない。

東京ほどまだ街灯が整備されていないのだ。

といっても、月と星明かりで海との境界は判別できる。

五月雨「綺麗ですね・・・」

足音が近づき水が跳ねる音がする。

艦娘達も湯に入り始めたようだ。

秋月「いいお湯ですね・・・」

春雨「結構お湯の位置が高いです・・・」

たまに風が吹いて木の葉が擦れる音がする以外は、音といっていい音は全く無い中、皆の声だけがやけによく響く。

提督「まさかこんなところがあったとは・・・、生まれてからこの方知りもしなかった」

登山のせいで、提督はそれなりに疲れてしまっていたので、お湯が余計体にしみる。

五月雨「新潟って静かなところなんですね・・・」

完全に黒く染まった海が、かすかに月明かりを反射しているのが肉眼で見えた。

五月雨が静かに頭を提督の右肩に預ける。

提督「日本海は平和なままであってほしいな・・・。この景色は保っていたい」

扶桑「そうですね・・・。私達がこの静かな雰囲気を守ってるんですから」

左に入ったのは扶桑だったようだ。

提督「そうだなぁ・・・」

五月雨「守ってる、ですね・・・。そう考えるとなんか誇らしい気持ちになってきます」

提督「俺も海軍入ってる身として、こんなふうに実際の風景を見ると感慨深いな」

五月雨「・・・ですねぇ」

ふぅ・・・、と顎のあたりまで体をお湯に入れると、五月雨が肩から頭を離した。

白露「ここのお湯はなんだか・・・」

村雨「日頃の疲れを洗い流してくれる感じがするねぇ・・・」

ふと横を見ると、五月雨の顔が街を見ているのがわかった。

月にかすかに浮かび上がる青い髪に、白い肌は綺麗に映えていた。

提督「・・・五月雨」

五月雨「はい?」

五月雨が提督の方へ振り向いて、あまりの近さに赤面して俯いてしまう。

五月雨「っ・・・」

提督「・・・五月雨」

目をきつく閉じたまま、五月雨が顔を上げた。

静かに、五月雨の唇に口を押し付けた。

五月雨「・・・」

長い間だったが、五月雨は何も言わずになされるがままだった。

提督「・・・」

そっと離れて、提督は再び星空へ視線を向ける。

寄りかかる五月雨の重さが増した。

明日にはもう舞鶴だが、不思議な事に名残惜しいという気はしなかった。

本日はここまでです。ありがとうございました。

さて、五月雨の水の滴る姿を想像して悶え苦しむ今日このごろです。

やっぱ五月雨可愛い。可愛い。涼風もかわいい・・・。

乙です


明日歴史秘話ヒストリアで間宮特集だやったー


たまにはオチ以外で赤城さんにも出番を

乙です

秋月の扱いが...

提督より艦娘中心で書いて欲しいかも
列車では他の艦娘なにしてたのかとか
温泉での他の艦娘の様子とか


俺も春雨分補給しなきゃ

乙です
提督と一航戦の二人がいっしょに料理している姿和んだわ

>>458-463 乙レスありがとうございます。

>>459 間宮って、艦これの方の間宮ですか・・・?w

>>460 赤城さんどうしても使いやすいと思ってしまうんですよね、考えなおしてみます。

>>461 秋月のあのシーンは若干俺も血迷ってました。書きたくなっちゃって書いちゃいました、反省してます、はい。

>>462 一家に一台欲しいですね、春雨のシーンは書いててニヤけます。

>>463 ですよね、間宮と一緒に料理じゃありきたりすぎるかなと思ったんです。

意見ありがとうございます。もっといい作品にできるよう頑張りますよ!

頼りまくりですが、帰りの電車、誰かと寝台一緒かどうかコンマで判定させていただいてよろしいでしょうか。
00~30の間でしたら一人ということでご協力願います。

もしそれ以外であった場合も踏まえ、一緒にして欲しい艦娘をお願いします。現在鎮守府にいる艦娘でお願いします。
直下です。

春雨

>>466、直下なので春雨採用します。

今夜は昨日のヒストリア間宮特集の録画を・・・

すごい今更なんですけど、俺書いていたこと忘れていること多いのですけど・・・。

佐世保鎮守府、飛龍蒼龍持っていると書いておきながら、今回のスレでなぜか空母を一隻も持っていないことになっています。

何やってんだ俺。申し訳ありません、脳内補完で、佐世保鎮守府に二隻正規空母を足して下さい。

すいません投下まだなんですけど言わせて下さい。

五月雨と涼風の追加ボイス、やばいです。歓喜です。やばいです。あ、やばいしか言ってないです。

泣いた・・・。

五月雨超かわいいです。
今日投下します。

十一月二十六日。新津駅構内。午前七時半。

五月雨「朝ごはん、とてもおいしかったです」

提督「あれも前どこかで読んだものでさ。パンケーキだったかホットケーキだったか言うんだよ。うまかったろ?」

間宮「鎮守府に戻ったら作り方を教えて下さいね、提督」

提督「おう、手取り足取りみっちり教えこんでやる」

だが五月雨は、打って変わって不安げな声で言った。

五月雨「でもあれ、太りそうです・・・」

提督「・・・太ったらだめなのか?」

五月雨「体重のことを男の人が気にするのはタブーですよ」

提督「今の五月雨はむしろ痩せてる方だと思うんだけど」

五月雨「そう、でしょうか」

歩きながら五月雨は自分のお腹の辺りを手で触った。

提督「俺の主観だからもしかしたら違うかもしれんけど」

五月雨が何か言おうとした時、構内に電車の接近を知らせる放送が響いた。

提督が耳を近づけるので、五月雨が繰り返す。

五月雨「でも、提督のいうことならそれでいいです!」

提督「照れるわ・・・」

一方。時間経過。舞鶴鎮守府執務室前。同時刻。

執務室の前で、技術主任がドアノブに手をかけるかかけないかという状態で身動きが取れずに居た。

その場へ、

技士「どうしたんです?」

散歩がてら執務室前を通り過ぎようとした技士の一人が技主を見つけ声をかけた。

技主「聞こえるだろ」

技士「?何がです?」

傍まで行って耳を澄ます。

技士「・・・この音って」

設計した本人たちでもあるからわかる。司令室へ電信が届けられたことの耳障りな警報音だ。

技士「これ緊急事態ですよ主任。迷ってる場合じゃありません」

技主「・・・だよな。入ろう」

失礼します、と主任が執務室に入り司令室まで駆け抜ける。

技士「えと・・・、これだ。モールス信号ですね・・・」

技士が音を発する装置を見つけた。

技主「俺は提督への連絡手段を探す。解読しておいてくれ」

技士「了解です」

暗記した暗号符牒を思い出し、とにもかくにも一文字ずつ書き出そうとしたが、手が止まる。

『・・・---・・・』

それは解くまでもない、SOS信号だった。

慌てて無線機を取り上げ、艦隊用に割り当てられた周波数帯に合わせる。

技士「こちら舞鶴鎮守府。貴艦の所在を述べよ」

空電雑音。

??「・・・フフ」

技士「貴艦の所属は、座標を報せろ」

??「・・・」

プツッ、と無線が切れた。

技主「提督の乗ってる特急列車、時間的にはそろそろ魚津駅につくらしい。あっちには連絡を入れておいたからその時に報告する。それで、内容は?」

技士「救難信号でした」

技主「SOSか!?ならさっさと座標を聞けよ!」

技士「いえ、聞いたんですが・・・」

技主「なんだ、はっきり言え」

技士「それが、その、笑い声のようなものが」

技主「・・・聞き間違いじゃないのか?」

技士「聞き間違いじゃないです!そうとしか聞こえなかったんです」

技主「なら・・・、悪戯か?」

技士「わかりません。ですがこの無線を無断に干渉すれば禁錮刑です。そんな軽薄なことをする者は流石にいないでしょう」

技主「そうだよな、当たり前だ」

主任がどうすべきか迷うふうに、その場で黙りこくった。

技士「主任、これは緊急事態かもしれません。指示を仰いでいる暇はないかもしれませんよ」

技主「だが証拠が少なすぎるだろう!」

技士「不審な無線であることは確かなんですから、警戒態勢の強化ぐらいは問題ないはずです」

技主「・・・峰山防空基地に通達、武装待機中の烈風は全機直ちに発艦。鎮守府近海防衛に当たれ」

技士「了解!」

魚津駅。午後二時頃。

その日は海側からの風がかなり強かった。

受話機は、電話が来ているということを識別して呼び出し音を鳴らした。

駅長が受話機を手にとる。

駅長「どちら様ですかぁ」

その日は豪雪で電線に深刻な着雪被害が起きていた。

普段なら、着雪が深刻化する前に業者が定期的に除雪作業を行っている。だが、その日は強風のせいで作業を終えたとしても予想以上の速さで着雪は深刻化した。

ニ、三日も強めの海風に晒され続けた日本海沿岸の電線の一つが、雪の重みに耐え切れず遂に倒壊。

駅長が取ったはずの電話は相手が話しだす前に切れ、提督が乗った電車も駅から300m行った所で電力供給が止まったために停車を余儀なくされた。

駅長「悪戯かね・・・」

停電とはしらない駅長はそんなことを呟いた。

戻。舞鶴鎮守府司令室。

技主「電話が切れた・・・」

技士「新潟の方だとたまに停電が起きる と聞いたことがあります。こっちはそんなに雪降ってないから大丈夫なのですが・・・。どうしましょう」

技主「司令補佐の五月雨さんもいない状況で一番位階が高いのは俺だが、作戦を指揮した経験なんかない・・・」

技士「なら他の鎮守府に連絡を入れるしか」

技主「協力してくれると思うか?決定的な証拠があるならいざ知らず、不審だ、ってだけで協力してくれるか?」

技主「・・・いや、ここは迷ってる場合じゃないか」

技士「はい」

技主「峰山防空基地に派遣した舞鶴航空隊のうち、武装待機していない機にも直ちに出撃要請。兎にも角にも佐世保と呉、どちらかでもいいから俺が打診する。接敵したら直ちに知らせろ」

技士「了解」

執務机に向かい、

技主「提督、無断での使用、今回だけご容赦願います」

椅子に向かい敬礼をした後、主任は電話を手に取り、呉鎮守府への直通回線をつなげた。

長月「佐世保鎮守府司令官秘書、長月だ。そちらは」

技主「舞鶴鎮守府工廠所属、技術主任です。緊急事態です。司令官にお繋ぎ願いませんか」

小声のやり取り。

先生「・・・替わった。それで?」

不審な電信、及び無線に対し舞鶴鎮守府が警戒態勢に入ったこと。

今現在提督は新潟にいるが停電の影響で一切連絡が取れず、指示を仰げない状態にあることを告げる。

先生「そういえばあいつは休暇中だったか・・・。それで、その無線の発信源は特定できたのか」

主任が背後の技士を手招きする。

技士「15秒程度しかありませんでしたので大体の距離しかつかめませんでしたが、約200km±50です」

技士「向こうへこちらが返答し、相手がそれを聞いた時点で話しだしたものと推定した場合の距離です。推測より大幅に近いかもしれません」

先生「それは味方ではないと?」

技主「味方艦隊ならば、所属艦隊、艦名、座標を答えるのが決められています。少なくとも、味方でないことだけは確かです」

先生「・・・だな、私も概ね同意だ。この度のちょっとした越権行為については私から提督に話を通しておく。長月」

長月「出撃準備か」

先生「空母機動部隊を編成、急ぎ舞鶴鎮守府の救援に向かわせろ。当作戦の指揮は提督との連絡がつくまで私が執る。それでいいな」

技主「異論ありません」

先生「恐らくすぐに連絡が取れるようになるはずだ。機動部隊には舞鶴の指揮下に入る準備もしておけと伝えろ」

長月「了解だ。編成は」

先生「翔鶴、瑞鶴、雲龍、天城、長月、文月。全機烈風改で武装させろ。駆逐はそれぞれ水上、対空で武装。対空レーダー装備艦には対空砲を装備。輪形陣、最大戦速で出港だ」

長月「わかった」

戻。提督方。

提督「なぁ、そういえば大鳳は?」

忘れ物でもしたかのような軽い口調で提督が言った。

舞鶴での事態を知らないものだから暢気なものだ。

加賀「大鳳さん・・・?」

大鳳「ここにいますよ!?」

大鳳が悲痛な声を上げた。

提督「・・・、すまん・・・」

大鳳「私は眼中にないということなのですか!?提督、それはあまりに酷くないですか!」

大鳳が本気で傷ついている。

提督「すまん大鳳。忘れてたわけじゃないんだ。忘れてただけなんだ」

大鳳「それを忘れてるっていうんです!うぅ、せっかく舞鶴で心機一転しようと思ってたのに・・・」

提督「(確かに思い出せば電車料金一人分高かったな・・・)」

隼鷹「でも大鳳はよく部屋の中の晩酌突き合ってくれるからな。私は覚えてたよー?」

大鳳「隼鷹さんっ・・・!」

加賀「むしろ、忘れていたのは提督だけなのでは」

提督「大鳳・・・、ごめんよ・・・。もう二度と忘れない」

大鳳「認めちゃうんですね・・・」

提督「・・・てか早く鎮守府に戻らないと。そろそろ休暇終わっちゃうんですけど」

大鳳「・・・」

隼鷹が陽気に大鳳を慰める中、五月雨の視線を感じつつ提督が話題を変えた。

提督「ったくよぉ、これだから電車はだめなんだよ。やっぱ蒸気機関車だろ。あれなら電気なくても走れるのに」

五月雨「・・・何をかいわんや、ですよ」

踏切のところまでついた時、遠くから何やら怒鳴る声が聞こえた。

雪のせいであまり見通しが良くなく、誰が叫んでいるのか見えない。

提督「あん?」

少し経つと、人影が走ってくるのが見えた。

憲兵「龍花提督ッ・・・、ハァ、御無礼お許し下さい。海軍軍令部よりから捜索命令を先程受け取ったのです」

提督「は?何で?」

あまりの突然さに提督も素っ頓狂な返事をしてしまう。

憲兵「おい、早くッ」

ようやく追いついたもう一人の憲兵が、懐から一枚の紙を取り出した。

一方。舞鶴鎮守府司令室。

技主「あの方法は思いつかなかった・・・」

技士「まさか軍令部から停電域外の憲兵詰め所に連絡して捜索させるとは。軍令部ってこういう時は対応早いですね」

技主「今言ったことは聞かなかったことにする」

技士「とは言え、これを考えた先生もなかなか豪胆なお方ですね」

技主「日本海の状態を今一番知っているのは提督だ。早く連絡がついてくれれば・・・!」

技士の場違いな発言は無視することにした。



戻。提督方。

『本日一四〇五、舞鶴鎮守府司令室、不審電信受信セリ。舞鶴航空隊ノ支援ヲセント呉鎮守府司令官従リ、空母機動部隊出港ノ報ヲ受ケタリ。貴官ガ疾ク本任務ヘ戻ラレンコトヲ望ム』

提督「車は持ってるか?」

先に声をかけてきた憲兵に問う。

憲兵「はっ、整っております!近くの詰め所にあるかと!」

提督「新潟空港まで飛ばしてくれ。あそこは電話線の中継基地でもあったはずだ。そこからなら舞鶴と直接連絡を取れる」

憲兵「了解です!」

提督「あと、車は何台ある?」

憲兵「七台ですから、少し狭苦しくなるかと思われますが・・・」

憲兵が、後ろの艦娘に視線を走らせる。

提督「乗れるなら問題ない。無線も置いてあるんだろうな?」

憲兵「問題ありません」

提督「わかった。急ごう。新潟港まで飛ばしてくれ」

五月雨「この強風と大雪で客船を操舵してくれる人なんて居ませんよ!?」

提督「その時は俺がやる」

おどけた風に提督が言うが、

五月雨「そんな無茶なことやめてください!」

五月雨は本気にし、すごい剣幕で提督を叱責する。

提督「冗談だよ!もし出してくれる人が居なければ指揮は先生に任せて、護衛艦を捕まえる」

五月雨「えっ、護衛艦、ですか?」

詰所に到着し、提督が五月雨の手を引いて急いで車に乗り込んだ。

提督「出してくれ!」

憲兵「っ、しっかり手すりに掴まってて下さい!二十分程度で着きます!」

舞鶴鎮守府司令室。

技士「提督を発見したようです。呉鎮守府から連絡がありました」

技主「今どこにいるって?」

技士「大雪の影響で停電したため未だ新津駅周辺にいたようですが、たった今新潟港ヘ向かったと」

技主「今そんなに大雪なのか、新潟は?」

技士「のようです」

技主「なら客船は動かせないか・・・」

危機感を募らせる中、執務机の電話が鳴った。

技主「呉鎮か?」

何か問題でも生じたのか、不安になりながら電話をとった。

工場長「製油所工場長です!提督、緊急事態です!」

予想に反し、電話をかけてきたのは工場長だった。

技主「今提督は鎮守府を空けています。現在当鎮守府の指揮権は呉鎮守府に移っています」

工場長「そんな、何でこんな時に!」

何やら慌ただしい雰囲気が電話の背後から伝わってきている。

技主「お伝えします。緊急事態とは?」

工場長「仕方ないか!製油所に敵艦隊接近中!艦種は不明!」

技主「敵艦隊が・・・!?了解、直ちにお伝えします」

技士「どうしたんです?」

技主「製油所に敵艦隊が接近していると工場長から連絡が入った。舞鶴の出港準備をしろ」

技士「しゅっ、出撃するんですか!?」

技主「違う!新潟へ向かわせるんだ」

技士「まだ提督が新津にいると決まったわけでは」

話を遮り、また電話が鳴った。

まさか今度こそ先生か!と思った矢先、飛び込んできたのは聞き慣れた声だった。

提督「舞鶴鎮守府司令官龍花だ。そちらは」

技主「舞鶴鎮守府工廠主任です!」

提督「あんたか、安心した。今状況はどうなってる」

技主「峰山防空基地に派遣済みの舞鶴航空隊全機を鎮守府の護衛に回しましたが、たった今製油所工場長から敵艦隊接近の一報を受けたところです」

提督「また製油所かよ・・・!わかった、後は任せろ。で、その上で頼みがあるんだが」

技主「何でしょう」

提督「新潟港についたはいいがやはり客船を動かすことは出来ないと言われた。通信終了次第軍用埠頭に向かい護衛艦はるかぜに搭乗、そのまま舞鶴へ向かう予定なのだが、そっちの舞鶴で合流できないか」

技主「了解ですが、海上で乗り換えるおつもりじゃないですよね?」

提督「まぁそうなる。一々文句はいってられん、とにかく発動艇を乗せておいてくれ。あと護衛艦にはこいつらの艤装を即座に出撃できるよう準備するよう伝えろ。ドック内でも出撃準備は可能なはずだ」

返事を待たず矢継ぎ早に提督が命令を伝える。

提督「次に、今哨戒中の舞鶴航空隊全機を製油所に差し向けろ。呉鎮守府の支援が到着するまで持ちこたえられるとは思えない」

提督「最後に警備長に鎮守府の警戒を高めるよう伝えてくれ。お前らが舞鶴に乗れば鎮守府はもぬけの殻同然だからな」

技主「了解です」

受話機を置く。

技主「提督が護衛艦にて舞鶴に向かうそうだ。我々はその援護を頼まれた。舞鶴を直ちに出港させる。行くぞ!」

技士「わかりました!」

慌ただしく舞鶴に搭乗する中、港付近を巡回している巡視兵に提督からの命令を伝える。

巡視兵は敬礼で答えると、全力で警備長のもとへ突っ走っていった。

製油所。

工場長「敵艦隊距離は!」

隊員「敵艦隊距離約31200km、3-3-4!推定30knでこちらに接近しています!」

工場長「砲弾装填は完了してるんだろうな!?」

隊員「中央を含め全砲塔装填完了しています!」

工場長「それをはやく言え!威嚇射撃、狙える砲塔は各自砲撃開始!」

隊員「了解、砲撃開始!」

工場長の命令を、そばのマイクで全隊員に告げる。

それから十秒程して、敵艦隊を狙える方角についている要塞砲が砲撃を開始した。

平然と要塞砲がついている製油所は、中心の石油プラットフォームの周りが埋め立てられている。

中心だけ突然標高が高い、形の歪な大きな島といった様子のものだ。

中央砲塔たる二連装41cm砲はまさしく石油プラットフォームの中心、鉄製の司令塔に備え付けられており、対水上・空レーダーも併設されている。

そのために石油掘削・生産設備などは砲塔の影響で通常のプラットフォームの配置とは異なっている。

また、従業員は有事の際の兵士として使われる戦闘員(隊員)と、通常業務を行う非戦闘員にわけられているが、居住区画は埋め立て地ではなく石油プラットフォームにある。

では埋め立て地は何のためかといえば元は輸送船及び軍艦の港として建設されたものだった。

そこに要塞砲が設置され始めたのは製油所稼働後、深海棲艦の被害が深刻化した頃だった。

それ以降大した改修もなかったが、去年の提督の出資で以前まで蓋も何もなくただ砲塔があるだけだった物は、鉄蓋がついた回転式の30.5cm連装砲塔へ換装されている。

大量に配置されているとはいっても普段砲身は蓋の中なので一見すれば、まぁ普通のよりでかいな、と思われる程度だ。

しかし埋め立て地と製油所本体の外縁部の随所に設置されている対空砲を見て一般人はおや?と思う。

その鉄盖に開いている二つの穴から砲身がせり出し、砲撃を始めたのだから製油所だと一般人に言い聞かせても誰も納得しやしないだろう。

なんだ、ただの要塞じゃないか、と思われる。

ちなみに、前まで鉄筋コンクリート製だった司令塔は、前回の襲撃で粉砕されタンクに引火し大爆発一歩手前までいったことの反省で、強度をあげるために鉄製になった。支柱も何本か増設されたことで余程のことがなければ倒れない。

そのせいでプラットフォームの足が数メートル沈んだという報告もある、らしい。

要塞砲の一斉射撃による爆轟音が響く中、司令塔中央砲塔下の司令室で工場長は焦りを見せ始めていた。

工場長「敵艦隊距離!」

隊員「敵艦隊距離28900m!包囲依然変わらず!」

対艦レーダーを凝視している隊員が叫ぶ隣で、対空レーダーの監視員が焦燥感も隠さず言った。

隊員B「対空レーダーに感あり!距離28800m、3-3-4!小編隊、おそらく三機!」

工場長「対空火器担当官に通達、射撃準備!」

隊員B「了解!」

隊員B「敵機距離28000m・・・、27900m・・・」

かなりの速度で接近しているらしく、二分程度で到着すると監視員が報告した。

二分後、その場にいた全隊員がどよめいた。

敵機は製油所に急降下したはいいが、対空火器で三機即座にやられてしまったのだ。

隊員B「俺達を馬鹿にしてんのかよ・・・!?人間だからって舐め腐りやがってッ!」

だが、その不可解な行動の理由は結果でもたらされる。

隊員「レっ、レーダーに不具合、敵艦隊見失いました!」

工場長「なっ!不具合ってなんだよ!?」

隊員「提督が警告していらっしゃったチャフ攻撃かと思われます!」

工場長「チャフ、まさかさっきの編隊が!?」

隊員B「こちらもレーダー動作不良です!」

工場長「チャフならば時間経過で復旧する!肉眼で観測射撃を行え!」

隊員「了解!」


提督方。

五月雨「この船って確か佐渡島付近で演習を行った時に・・・?」

提督「そうだ。この船は新潟港に停泊中だと偶然小耳に挟んだんだ。賭けで来てみたがあってよかった」

五月雨「偶然停泊してて、ご厚意のようななにかで船を出してくれるとは、提督、何かしたんですか」

提督「何もやってねぇよ・・・、濡れ衣だよ」

五月雨「そうでしたか」

提督「俺に何を期待してるんだお前」

呉鎮守府。

先生「第一艦隊へ、只今提督より敵艦隊発見と製油所より報告、との通達があった。艦隊は目標を製油所に変更せよ」

長月「了解、あの、製油所だな」

先生「龍花が御執心のあの製油所だ。目標まで300kmに到達した段階で発艦準備に入れ」

長月「了解した。・・・だが」

先生「何かあったか?」

長月「最大戦速で向かっても、私達が到着するのは早くて七時間後だ。それまで製油所がもつか?」

先生「龍花ももたないと思っていればあれだけの要塞砲を配備しないだろう。あそこの隊員もそれなりに訓練を受けているはずだ。押し留めるぐらいの力は発揮できるんじゃないか?」

長月「だといいが・・・」

話している最中に背後で電話がなり、少し無線機から離れていた先生が戻った。

先生「舞鶴の航空隊が目標を製油所に向けたようだ。これでしばらくは大丈夫かもしれんな」

長月「舞鶴の艦載機の強さは伊19とか他空母から散々聞かされている。油断してはならないのは分かってるが、こればかりは肩の荷が下りる気分だ」

先生「長月もそう思うか」

若干微笑みながら、先生は言った。


日本海上空。

搭乗員B「敵は300kmほど離れているだけだ。おそらく三十分程度でつくぞ。休んでいる暇はないからな」

搭乗員C「割り算が出来ない隊員などいないと思うのですが」

計器見れば誰でもわかりますよ、と続けて言う。

搭乗員B「そうか?四番なんかはとくにできなさそうだが」

搭乗員D「割り算ぐらいできますよ!見くびらないで下さい!」

搭乗員B「無線機にがなるなよ、うるさい」

搭乗員D「煽ったのはそっちじゃないですか・・・」

現編隊長の機は二番。

一番機の名は、十一月作戦にて没した元航空隊長への配慮として誰にも譲られることはない。

搭乗員B「全機へ、攻撃は俺の合図で開始。攻撃を開始したものは敵艦隊火器の確認を怠るな。損害を無駄に増やしたくはない」

了解、と声を揃えての応答。

今現在、三百九十八機の烈風、彗星が5:5で混成された編隊が海上30mの低空飛行で製油所へ向かっている。

搭乗員B「製油所へ喧嘩をふっかければどうなるか、提督の怒りを買えばただではすまんことをわからせてやる必要がある」

冷静に行きましょうよ、と三番機から無線が入る。

搭乗員C「残り二十分程度で到着しますが、敵に対空レーダー持ちがいるとすれば探知されるのは距離約28km前後になります。注意してください」

搭乗員B「距離28kmに到着したと同時に彗星は急上昇、高度2000mまで上がれば既に敵は目と鼻の先だろうからそのつもりでいろ」

搭乗員B「烈風は彗星の先頭に付き爆撃の成功確率を上げるための支援を行う。万が一的に空母が居た場合は発艦を阻止せよ」

再び了解!、との返事。

搭乗員B「やってやろうじゃないか」

提督方。護衛艦はるかぜ艦内。

艦長「またお会いできるとは光栄です」

提督「やはり縁があるのかもしれませんね」

つい十分前、舞鶴鎮守府一行を乗せた護衛艦はるかぜは最大戦速で出港した。

提督「係員に言っても全然聞いてくれなくて、艦長がお通りにならなかったら目も当てられない状況になってましたよ」

艦長「あいつもあいつです。今まさに戦争になろうってのにのらりくらりと・・・。それで、状況はそんなに大変なんですか?」

提督「製油所が強襲されているようです」

艦長「また、ですか」

提督「今回は一筋縄じゃいかないかもしれません。前回の戦艦棲鬼だけでも苦戦に次ぐ苦戦だったんですが・・・」

艦長「きっと大丈夫です。前回お会いしたときからそんなに経ってないですが、提督の武勇伝は遠い私たちの耳にもはっきり届いていたぐらいですから」

提督「そりゃまた大げさな」

艦内から外を眺めつつ、提督とはるかぜ艦長は談笑していた。

さっきまで提督の隣にいた五月雨は休憩室で隊員他艦娘たちと話している。

艦長「それで?舞鶴にお目にかかれるとか?」

提督「そんな大層な船じゃありませんよ?」

艦長「いやいやいやいや、提督、特務艇舞鶴がどんな風に語られてるか知らないんですか?」

提督「?」

艦長「不沈艦雪風の再来って言われてます」

提督「不沈艦!?それはおおげさです。舞鶴も轟沈寸前まで行ったことなんて何回もああるっていうのに」

艦長「500kg爆弾を後部甲板に受け、魚雷、主砲の直撃弾を受けてもなお任務を完遂。1t爆弾迎撃とかとか伝わってますよ」

提督「そういえば、そんなこともあったような、ないような」

尾ひれが付いているわけでもないのではっきりと否定することができない。

艦長「早く見たいですよ、この艦の乗組員皆そう思ってます。提督が乗るのに加え舞鶴にも会えるのか!?って興奮してましたから」

提督「期待しすぎですって・・・」

艦長「なんにせよ、合流予想は今から大体三時間半後です。それまで気長に待たせて頂きます」

日本海上空。

搭乗員B「通過地点到着!全機機首上げ、急上昇!始めんぞッ!」

了解ッ!、威勢のいい返事に編隊長は満足げにうなずいた。

低空飛行から烈風を戦闘に、戦闘機が高度を上げていく。

烈風が機銃にて援護射撃しつつ、その後ろから急行爆撃を仕掛けるといった寸法だ。

高度2000mの急降下に必要な高度に到達するのに約二分。

二分後の敵との距離は約十キロ。

そこから目標手前300m前後に到着後四十五度の急降下を行うまで一分。

気を緩ませる時間など一秒足りと存在し得ない計画だ。

だが確実にやれる、全員そう思っていた。


深海棲艦側。

防空棲姫「案外要塞砲モ舐メタモノジャナイワネ・・・。結構距離取ラレタジャナイ」

進撃の只中にある深海棲艦側艦隊は製油所からの予想以上の反撃に若干の混乱が生じていた。

戦艦タ級「戦艦棲姫達ハイツ来ル予定ナンデショウ?」

防空棲姫「トリアエズ私達ガ島の無力化ヲシテカラトイウコトニナッテル。二時間程度デ着クンジャナイカシラネ」

それならもう突撃しましょうよ、と戦艦タ級が言う。

防空棲姫「ソウネェ・・・、ココニズットイルノモ疲ルシ、サッサト」

そこで言葉を止めた。

防空棲姫「・・・全艦進行中止」

防空棲姫が何かに気づいた。

搭乗員B「全機必要高度に到達。全機最大速度にて目標に接近中」

搭乗員B「全機、目標視認したな」

目視確認、攻撃態勢!彗星各機から応答。



防空棲姫「ヘェ・・・、ココノ海域ニモ電波妨害ヲ仕掛ケテオイタツモリダッタンダケド、連絡ガ行ッチャッタンダァ」

だが、味方を咎めることはしない。

海上の風は元々強めだったために、こうなることは最初から予想済みだったのだから。

防空棲姫「皆、対空砲の準備ヲシテ」

戦艦タ級「了解、対空砲火用意、全艦目標変更」

戦艦タ級隷下の軽巡部隊四隻がそれに応じた。

防空棲姫「私ヲ倒シタインダッタラ飛行機ナンカジャダメヨォ」

艤装に装着された砲塔が対空電探に映る敵影を補足。

防空棲姫「サヨナラ」

まさに一瞬の出来事だった。

考える暇すら与えず、防空棲姫率いる艦隊は舞鶴航空隊を蹴散らした。


舞鶴航空隊損害確認398機中367機。

帰還31機。

攻撃命中確認12発。

敵艦隊軽巡3隻轟沈、戦艦タ級小破。

防空棲姫、命中0。

呉鎮守府。

先生「空母機動部隊、任務を放棄せよ」

呉鎮守府の空母機動部隊が飛ばした三機の偵察機が舞鶴航空隊を視認したとの報
告。

その後一分とたたないうちに、

「舞鶴航空隊被害甚大、撤退開始!」

を最後に連絡が途切れるという事態に先生は危険を感じたのだ。

長月「何故!今にも製油所が襲撃されようとしているのを黙って見過ごせと!?」

先生「違う、よく考えろ。舞鶴航空隊の数は398機だぞ。わかるか?398だ!」

長月「それがどうしたって?」

先生「たった一分で被害甚大、そして撤退開始だぞ!察せんのか!?」

何か言い返そうとした長月が、考えたのか少し黙る。

長月「・・・これほどの対空火力を持つ艦など聞いたこともないが。舞鶴にいる防空駆逐艦の秋月でも無理だろう」

先生「この敵に対して空母機動部隊で挑むのは自分から死ににいくようなものだ。一体なんなんだ・・・、相手は・・・」


提督方。

提督「相手の艦種は!?」

無事舞鶴と合流した護衛艦はるかぜは水上警戒を続けながら舞鶴鎮守府へ最大戦速で向かっているところへ、被害甚大、撤退する、との無線が峰山より飛び込んできたのだった。

?番機「わかりません・・・。今まで見たこともない艦でした」

提督「編隊長は?」

?番機「・・・逝きました」

はるかぜの指揮所にて赤城、扶桑、五月雨、名取、提督が無線機からの報告に耳を傾けている。

赤城「・・・」

赤城は、両手を握り締め、唇を引き結び直立不動の姿勢を保っていた。

提督「その一隻だけわからなくても、他の艦はわかるはずだ」

?番機「軽巡三隻、戦艦タ級が一隻の五隻編成で、軽巡三を撃破、タ級は小破まで追い込みました」

提督「その未確認艦は無傷だったと?」

?番機「旗艦を担当した隊長率いる彗星隊五十二機が、爆撃すら出来ないまま撃破されました」

提督「副隊長もまさかその中に?」

?番機「三番機・・・、副隊長は搭乗は烈風でしたので生きていますがお話できる状態ではありません」

提督「・・・今までそんな化け物じみた対空能力を持つ深海棲艦を聞いたことあるか?」

技主「いえ・・・、私はありません」

五月雨「私も聞いたことがありません」

しばらくして、提督が意を決して口を開いた。

提督「・・・367機だ」

赤城の肩がぴくりと震える。

技主「・・・はい」

提督「彼らは皆熟練兵だった」

技主「勿論です」

提督「・・・すまない」

五月雨「どうして提督が「これは」

提督「これは全て俺の慢心だった。戦時中、ましてやこの緊張の中旅行に出かけるなど司令官としてあるまじき行動だった」

提督「三百九十八の妖精の命を失わせた責は私の命をもってしても償いきれるものではない」

一拍。

提督「彼らは舞鶴鎮守府を守ろうとする覚悟のもと、散っていった」

提督「彼らの死を嘆くのは今ではない。死ぬ間際まで敵艦隊との交戦を続けた彼らに敬意を払い考えれば、唯一の手向けは敵の命以外にないだろう」

提督「赤城、部屋に戻り空母らに待機命令を伝えてくれ」

赤城「・・・わかりました」

提督が足早にはるかぜの司令室へ向かう。

艦隊無線で舞鶴に発動艇の離艦を命令。

扉を開け、艦長に艦内放送の許可をもらうと、

提督「空母以外の全艦へ通達。甲板へ集合後梯子で発動艇へ搭乗。舞鶴ドック内に移動後出撃準備を開始せよ。繰り返す、空母以外の全艦へ、舞鶴へ移動後、直ちに出撃準備を開始せよ」

提督「口頭で編成を発表する。聞き逃さないように」

二秒ほど間を開けて喋り出す。

提督「第一艦隊、扶桑、山城、ビスマルク、プリンツ・オイゲン、加古、古鷹。
   第二艦隊、暁、響、雷、電。
   第三艦隊、名取、長良、秋月。
   第四艦隊、春雨、夕立、村雨、時雨、五月雨、涼風」
  
提督「出撃準備完了後、舞鶴内で待機せよ。作戦会議は舞鶴で行う」

赤城方。

赤城「私、本当はあの子達を飛ばしたくないんです」

部屋に戻り、待っていた加賀達に事の次第を説明し終え幾分か経った時赤城が言った。

赤城「毎回毎回、必ず撃破されたり、行方不明になる子が三十機はいるんです。その子達が死んでも気にしないって、他の子は言うけど・・・。死ん、逝ってしまった子と無線で仲良く話していた子は、そんなこと一言も言わないんです」

赤城「・・・加賀さん、私もう出撃したくないの。捨て駒みたいに扱うのはもう嫌です」

大鳳「赤城さん・・・」

赤城「時々、戦艦の皆さんが羨ましくなるんです。私達と違って弾を撃つだけなら、命の心配なんてしなくてもいいから・・・」

加賀「・・・」

洋上。舞鶴艦内。

提督「先生、聞こえますか」

先生「聞こえてるが、今どこだ。舞鶴にも戻っていないようだが」

提督「出撃した空母機動部隊を退避させて下さい。今回の敵は航空機では戦えないと思います」

先生「言われなくてももうやってある。お前に言われるまで気づかないほどボケたつもりはない。質問に答えろ」

提督「連合艦隊の編成を完了し、はるかぜが帰還したのを確認したところです」

先生「連合って、お前だけで行くつもりか?」

提督「事態は一刻を争います。今呉や佐世保から応援を出しても時間がかかりすぎるため、最も近い我々が出撃すべきと判断しました」

先生「軍令部、大本営から許可はもらったんだろうな?」

提督「先程提出したばかりです」

先生「・・・もし認められないまま作戦を始めれば、国家反逆罪だぞ」

提督「しかしもう待っている暇はありませんので」

先生「我々も手を貸す。それまで出撃を待っていろ」

提督「それはできませんよ。今はまだ敵の戦力はそれほどでもないかもしれません。ですが、刻一刻と増大しているのは推測するまでもありませんから」

提督「それに舞鶴鎮守府が攻撃されるのも時間の問題。それに今までももう二回も舞鶴は直接的な被害を受けているんです」

提督「三度目の正直、今度はやられる前にやり返させて頂きます」

先生「・・・我々も応援を出す。それまで持ちこたえろ」

提督「・・・善処します」

今回は防空系深海棲艦が相手。

航空勢力を期待できない状況で、一鎮守府だけで、飛行場姫並かそれ以上の敵とどう相対しようか。

製油所方。

隊員「どうしますか・・・」

陸上型深海棲艦と思われる影が上陸を始めていた。

司令塔には油断なく戦艦棲鬼の主砲の口が向けられている。

工場長「他の隊員はまだ砲塔の中にいるのか?」

隊員「ええ、退避命令が出ていませんでしたから。恐らくまだ中にいるかと」

工場長「三式弾も確か用意してあったよな」

隊員「はい」

砲塔へは基本外部に設置されたハッチから中に入る。

だが、そこから離れた場所にもう一つ出口があり、そこへは砲塔内部から続く地下壕から向かうことができる。また、その地下壕への入り口は隔壁が設置されているからある程度の爆発なら十分耐えられる。

見つからずに潜んでいることもできるというわけだ。

工場長「敵に要塞砲を取られれば提督が救援に向かった時に邪魔になる。三式弾の時限信管を退避に必要な時間より余裕を持って設定させろ。砲台ごと爆破する」

隊員「了解」

工場長「それよりも、レーダーはどうだ?」

監視員「十分前ほどから徐々に回復、現在問題なしです」

工場長「舞鶴に無線を繋いでくれ」

隊員「了解です」

時間経過。舞鶴艦内。

提督も舞鶴に移動したが、作戦会議室にはまだ艦娘は来ていない。

まだ艤装の装備中なのだろう。

提督「俺が投資した要塞がここで裏目に出るか・・・」

前回の南鳥島奪回作戦では、敵の要塞砲はむき出し、砲の本体まで見えていたし爆撃隊による援護もあって撃破は大損害を出せども比較的容易だった。

だが今回は違う。

航空支援は望んではいけない上に、鉄盖付きとなるとまともに撃ち合って負けるのはこちら側だ。

相手が深海棲艦なんかではなく、普通の軍艦だったなら製油所は難攻不落のままでいられただろう。

提督「・・・」

正直、勝てる気がしない。

いつもいかに航空支援に依存する部分が大きかったのかを改めて思い知らされた。

提督「中央砲塔以外の要塞砲を工場長がなんとかしてくれる可能性にかけるか・・・?でも中央砲だって破壊力は・・・」

扶桑ら戦艦の主砲、41cm連装砲の破壊力は榴弾になっていても、戦艦の装甲を貫くぐらいは難しくない。

思案に暮れる中、通信員が来た。

通信兵「提督、工場長と無線がつながってます」

提督「工場長からか、わかった」

会議室中央の机を離れ、部屋を出た所で五月雨に出くわした。

五月雨「どちらに行かれるんです?」

提督「すまない、工場長から無線が入ったらしい。すぐに戻るから部屋で待つよう皆に伝えておいてくれ」

五月雨「わかりました」


移動。通信室。

提督「替わった。そちらの状況はどうだ」

工場長「火急の用事がありま」

声をかけすほどの爆轟音が聞こえた。

提督「どうした!?」

工場長「ああ、いえ!ちょっと急ぎます。今の爆発音は中央以外の要塞砲を爆破した音です。今のところはまだ司令塔は占拠されていないっす。なのでさっき中央砲の旋回装置は破壊しておきました。でも上下用の装置は生きてます」

提督「どちらに向いているか教えてくれ」

工場長「0-7-1っす」

提督「0-7-1だな、わかった」

工場長「それで問題が、敵の陸上型っぽい奴らが上陸してきてるんすよ。隊員たちは地下壕に避難させましたが、俺らはここに留まるしかありません」

提督「破壊が目的じゃないのか・・・?大体状況はわかったが、石油タンクにはまだかなり入ってるんだろ?」

工場長「敵を視認した時点で吸い上げは停止させてますが、まだ全タンクの四分の三は残ってるっすね」

提督「了解だ。大体状況はわかった。周りの砲塔を無力化したのは賢明な判断だった」

工場長が何かをしゃべろうとした時、監視員が叫んだ。

工場長「どうした?」

舞鶴側でも、向こうの司令室に一瞬で緊張が満ちるのを感じた。

向こうで何やら早口で会話をした後、工場長が戻ってきた。

提督「何かあったか?」

工場長「最悪の事態っす。水上電探に反応があったというんで望遠鏡で確認させたんすけど」

提督「?」

工場長「戦艦棲姫っす」

戦艦棲姫の諸元を話し終わった所で、工場長がいる司令塔の下方で爆発音がした。

工場長「まもなくここも占拠されそうっすね・・・、通信はこれで終了。ご武運を」

提督「必ず助けに行く」



移動。作戦会議室。

提督「陸上型に加え戦艦棲鬼まできたか・・・。水上、対空も万全の要塞」

他鎮守府と手分けして島を砲撃するという手は、内部に民間人がいる時点で却下。

航空支援も、防空系深海棲艦の脅威が計り知れないために却下。

提督「先程工場長より陸上型深海棲艦、例の防空艦、加え戦艦棲姫の存在を確認したとの報告を受けた。なお、戦艦棲姫は島に近づく手前で停止、製油所から37km離れた場所に待機しているのを目視で確認したとのことだ」

五月雨「また戦艦棲姫、ですか・・・?」

あの時の光景を思い出したのか、五月雨が鳥肌を立てた。

扶桑「となれば、まずその戦艦棲姫を撃破してから、ということになりますね」

提督「戦艦棲姫の配置は工場長が固定したと入っていた砲塔の向きとぴったり同じらしい。そして厄介なのが41cm砲の最大射程は三十八キロだということだ」

五月雨「もたもたしていたら狙い撃ちにされる、というわけですね」

提督「中央砲の最大射程に入らないよう、我々は戦艦棲姫をT字戦で攻撃する。戦艦棲姫を撃破後、一時海域を離脱、鎮守府に戻り燃料・弾薬を補給する」

五月雨「そのまま向かう予定だったのではないんです?」

提督「断念せざるを得ない。確実に撃破する路線を取る」

五月雨「了解です」

提督「陣形だが・・・」



深海棲艦側。

防空棲姫「準備デキタァ?」

泊地水鬼「艦爆モ飛バセルトイウ話ダッタガ」

防空棲姫「ショウガナイジャナイ、マサカ砲台ヲ爆破スルナンテ思ッテナカッタノヨ」

当初は埋立地を滑走路にしてしまおうと考えていたが、要塞砲の自爆の影響で不可能になってしまったのだ。

泊地水鬼「要塞砲ハ蓋ナシデ我慢シロッテイイタイノカ」

防空棲姫「ソンナ怒ラナイデ気楽ニイキマショ」

泊地水鬼「・・・新シイ艦ガデキタトキイタガ、オ前ノヨウナ奴トハ思ワナカッタゾ」

防空棲姫「早ク準備シナイト舞鶴ノ皆ガ来チャウワヨ」

泊地水鬼「ハァ・・・」

製油所まで280km。一七三〇。

第二艦隊が横一列に艦隊前方に、艦隊陣形の最右端から最左端まで並ぶ。

第三艦隊が第二艦隊の後ろ、艦隊の軸線にそって縦一列に。

第四艦隊が、第三艦隊後方に艦隊陣形最右端、最左端に沿い横広がりの複縦陣。

艦隊主力たる第一艦隊が、第四艦隊の後ろに重巡三隻を前に、戦艦三隻を後ろというように分かれ二列に配置されている。

そして指揮艦舞鶴は艦隊最後方にて指揮を一手に引き受ける。

各隊距離600m、各艦距離300m(第四艦隊を除く)。

提督の考えた第二警戒航行序列はこのようなものだった。

提督「全艦現陣形を巡航速度にて維持、前方警戒!目標、製油所から37kmの戦艦棲姫!」

扶桑「了解、前方警戒、巡航速度を維持します!」

本日はここまでです。ありがとうございました。

戦闘の描写は完成が長引きそうなので見送りました。次投下です、申し訳ありません。

>>499-501 乙レスありがとうございます。

キタァ!

>>503 ん!?何がですか!?

明日、投下します。

深海棲艦方。

戦艦棲姫「サテ・・・、私ハ外縁迎撃部隊ミタイナモノネ」

防空棲姫「ソンナツモリジャナイワヨ、ソコデヤッツケテクレチャッタライイナト思ッテルンダカラ」

戦艦棲姫「ソレデ、私ノ随伴艦トシテコノ子達?」

空母ヲ級改Flagship二隻、雷巡チ級Flagship一隻、駆逐ニ級後期型Elite二隻の六隻単横陣で、迎撃艦隊は舞鶴の艦隊を待っていた。

防空棲姫「舞鶴ハ航空機ヲ使エナイ、デモコッチハ使エル。不公平カモ知レナイケド、勝ツタメナラナンデモスルノガ私ノ主義ナノ」

戦艦棲姫「去年、十一月ニヤラレタ子ノ分モヤリ返シテアゲナクチャ気ガ済マナイワネ・・・。・・・ア、ソウイエバ」

防空棲姫「ナニカシラ?」

戦艦棲姫「アノ製油所ノ主砲、動カセルヨウニナラナイノ?」

防空棲姫「破壊サレテタカラネェ・・・、直セル見込ミハ無イワ」

戦艦棲姫「ソウ・・・、ナラショウガナイワ」

戻。一七四四。

舞鶴連合艦隊の各艦装備は既に提督が主任に命令した時点で伝えられている。

提督は確実に敵は航空勢力を併用してくるだろうと考え、第三、第四艦隊を対空装備で万全を期していた。

第二艦隊は潜水艦対処のための武装、第四艦隊は水上警戒、対艦砲で砲撃の準備を整えさせた。

扶桑「説明もありましたが、いくら深海棲艦とは言え三十八キロの超射程で命中弾は出せないと思うのですが・・・」

静かに海を進む中、不安の交じる声で扶桑が訊ねた。

提督「あの中央砲塔は互換性がある。徹甲弾、徹甲榴弾、榴弾の三種類があるんだ」

扶桑「そういうことを聞いて「最後まで聞け」

提督「誰であれ最大射程で命中弾なんて出せないから、極力榴弾を用いるよう俺は製油所に対して助言している」

提督「あそこにある榴弾は41cm砲の名の下に爆発的な破壊力を誇るし、水平方向に害が及ぶように改造してある。敵の位置をレーダーで補足、時限信管をうまい具合に調定してやればズドンと一発かましてやれる、かもしれない。という感じでな」

扶桑「それなら確率は上がりますが、一発では効果が期待できないと思います」

提督「中央砲塔は見たことあるはずだが。二連装だぞ。挟み撃ちをするんだよ、敵の予測範囲に。それでも当たるという確証が得られるわけじゃないけどな」

扶桑「・・・それを人ではなく、深海棲艦が持ったとなると・・・。・・・弾着までの時間はどれくらいになるんでしょうか」

提督「37kmの範囲内なら一分程度で着弾するが、榴弾ならもう少し時間がかかるかもしれない」

扶桑「一分、ですか」

提督「だから言っただろう、中央砲塔に捉えられるわけには行かないんだ」

他の者もよく覚えておけ、と提督が続ける。

提督「この作戦においては敵を発見、異常を感知したら何であろうと報告。撤退の覚悟もしておくように。敵戦艦棲姫まで距離は大体230km。気を引き締めていけ」

五月雨「了解」

提督「第三、第四は準備しろ。確実に来るぞ」

暁「わかってる」

名取「空は任せてください!」

秋月「・・・電波山報告。右舷0-0-1、距離82km。単機、偵察機です」

戦いの初手を切ったのは深海棲艦側だった。

製油所。北緯38度、東経134度。

深海棲艦方。

空母ヲⅠ「偵察機ヨリ報告。敵艦隊発見」

戦艦棲姫「方角ハ?」

空母ヲⅠ「1-1-2。距離約228km」

戦艦棲姫「コッチニ向カッテルト思ウ?」

首を振り、

空母ヲⅠ「舞鶴ガ上ノ言ウ通リノ傾向ノ持チ主ダッタナラ、コノママ直進シ泊地水鬼ノ元ヘ殴リ込ミニ行クカモシレマセン。我々ヲ無視スルツモリデショウカ」

戦艦棲姫「・・・ナントシテモコッチニ来テホシイ。コンナ外野ミタイナ任務御免ダシ。今ノ内ニ片付ケル。全機発艦、叩キ潰シナサイ」

空母ヲⅠ「了解、全機発艦」

戦艦棲姫「雷巡モ準備ヲシテオイテ」

雷巡チ「了解」

小型艦三隻が、静かにその場を離れた。

戻。

舞鶴連合艦隊は、中央砲塔最大射程ギリギリで戦うべく徐々に針路を右方向に曲げていた。

この航路のまま向かい、製油所から半径38kmの円接線部分で砲撃戦に持ち込む。

提督「補足された。第三、第四艦隊対空砲火用意せよ」

提督「砲雷長、我々も加勢する。主砲用意」

砲雷長「撃ち方用意!」

名取「了解、対空砲火用意!」

五月雨「了解!」

提督「全艦速度、針路、陣形そのまま」

扶桑「了解、艦速・針路・陣形そのまま!」

艦隊直上を通過しようとする偵察機を見、提督が言った。

提督「秋月、偵察機を撃ち落とせ」

秋月「・・・了解、長十センチ砲ちゃん、よーく狙って・・・」

片目で敵機を目視、偏差を読み二発発砲。

一発目で偵察機の右翼、二発目が胴体を貫いた。

名取「撃破目視確認です」

提督「初弾で当てるとはなかなかやるな、秋月」

秋月「これぐらいできないと防空駆逐艦の名が廃りますよ。褒めるほどのことでもないです」

言っていることとは違う感情が言葉の端々に感じ取れた。

提督「防空駆逐艦か・・・、さて、今ので補足されたとなれば敵もこの方角に向かって編隊を飛ばしたかもしれない。出し抜くにはちょうどいい」

提督「全艦増速最大戦速、第二警戒航行序列を維持せよ!」

扶桑「了解、全艦増速最大戦速、針路、陣形そのまま!」


横須賀鎮守府執務室。同時刻。

大和「舞鶴鎮守府が作戦行動を開始したようです」

伊藤「・・・例の製油所の件でか?」

大和「そのようです」

伊藤「ようやく始まったな・・・。思う存分派手にやってくれたまえ龍花君。いい陽動にもなるしな・・・。その間に我々は」

大和「本格的な航空機による敵本拠地の捜索を開始、ですね」

伊藤「今まで深海棲艦は舞鶴鎮守府が脅威になるとは考えてこなかっただろうな。それも去年からの無双ともいえる作戦成功の嵐のおかげで、いい陽動になるだろう」

大和「仰るとおりです」

伊藤「大和、艦隊の編成を急いでくれ」

大和「了解しました」

伊藤「散々昼間行動で偵察機を撃ち落とされてきたからな。今回は夜間で行かせてもらう」

南鳥島を奪還してすぐの頃は、海軍も乗り気で何十機も偵察機を飛ばして捜索を行っていた。

が、敵発見とならないうちに編隊が丸々潰される事案が相次いだせいで昼間の偵察行動は危険という判断になってしまう。

それ以来具体的な方策も打ち出されないまま刻々と時間だけが過ぎていく中、航空機用探照灯の開発が決められたことで、捜索作戦は息を吹き返したのだった。

それに重ねて今回の騒動だ。

舞鶴には感謝してもしきれんな、伊藤元帥が低い声で笑った。

伊藤「差し当たっては、南鳥島の航空隊に連絡を取ってくれ」

大和「・・・ずっと疑問に思っていたのですが、夜間でどうやって捜索するのでしょう?」

伊藤「水上をいくら探しても見つからないということは、水中にあるということに他ならん。かといって海底探査船を出しては危険がありすぎる。深海棲艦が出てくるのを昼で見たことがないのなら夜である」

支離滅裂な話をされて、大和は言葉が出せない。

伊藤「深海棲艦が出てきた場所の付近に、司令拠点があるのではないか。そう考えた」

伊藤「そしてその上で、今回はドイツで実用化されたこともある航空機搭載型の大型探照灯をこちらで開発した」

作戦の命の恩人とでも言うべき探照灯である。

大和「そういうことでしたか・・・」

元帥「その装備の輸送船がまもなく南鳥島に到着するころだろう。私はそろそろ司令室に行くから、航空隊への連絡を早めに頼む」

大和「了解です、伊藤元帥」

元帥が席を立ち通り過ぎてるのを待ってから、大和も歩き出した。

大和「(五月雨・・・、大丈夫でしょうか・・・)」

舞鶴へ転向してから後様々な話を聞くが、いずれも危ない作戦ばかり。

今回の作戦にも、あの作戦報告書を見る限り艦隊に組み込まれているようだ。

本当は、哨戒任務を放って舞鶴へ支援に向かいたかった。

戻。一七五二。

すでに空は僅かに青い黒に染まっており、夜の到来は真近になっていた。

秋月「電波山報告!右舷0-1-2、距離約162km!敵機大編隊、高速で向かっています!」

提督「第三、第四艦隊、対空砲火の準備は」

五月雨「大丈夫です!」

名取「問題ありません!」

提督「射撃用意」

砲雷長「了解、射撃用意」

有効射程に入るまで、固唾を呑んで息を潜めた。

秋月「敵機距離120km・・・、?」

提督「どうした?」

秋月「編隊の針路が我々のいる場所と噛み合っていません。私たちのもっと後ろを目指しているように見えます」

提督「・・・うまい具合に驚かせることが出来るかもしれんな」

扶桑「どういうことです?」

提督「俺があのまま直進すると考えたのだろう。あの場で撃破するつもりだったのだろうが、そうはいかん」

五月雨「提督のこと全然分かってないですね・・・。猿じゃないんですから、そんな特攻じみたことしませんよね」

提督「そっ、そうですね・・・」

取り直すように咳払い。

提督「全艦増速最大戦速!針路、陣形を維持し敵艦隊へ攻撃を仕掛けに行く!」

扶桑「了解、全艦増速最大戦速、針路、陣形そのまま!」

秋月「っ、敵機進路変更!距離102km!」

提督「航空機の攻撃に構わず航路を維持!本命を叩く」

扶桑「私達も三式弾を装備したほうが良かったのではないですか?」

対空戦に参加できないことをそれなりに気にしていたらしい扶桑が聞いた。

提督「第一に三式弾を使うとその分通常砲弾の積載量が減る。第二に今回の目標は製油所なのだから、変に爆発力のある三式弾を使用する訳にはいかない」

提督「第三に第一艦隊は今回、対艦・対地戦に力を入れてほしいというのもある」

扶桑「・・・わかりました」

提督「そう不満そうな顔をするな。あいつらだけでも十分やれる」

敵の防空艦以上の力を出せる。

ほぼ毎日のように演習場や沖合いで標的機を利用した対空演習を続けているのだから間違いない。

秋月「距離83km!・・・速度上昇!」

提督「暁、ソナーを打て」

暁「わかった」

20秒ほどしてから、

暁「近海に潜水艦らしき反応はなかった。今のところは大丈夫」

提督「引き続き警戒を続けろ。・・・よし、そろそろだ」

秋月「距離20km!まもなく射程圏内です!」

名取「て、てっ、敵機二百十近いです!」

提督「210機か・・・。戦艦棲姫を無視する作戦も視野に入れていたが、さすがに無理か」

提督「呉鎮守府に繋げろ。急いでくれ」

通信兵「了解」


佐世保鎮守府。

岩崎「俺が行かなきゃいけないんですか?呉鎮だけでも大丈夫だと思うんですが」

先生「そういうわけにはいかんだろうが。空母無しじゃうちは潜水艦か駆逐艦。急いで駆けつけるには駆逐艦しかないが、援助を出すといった手前火力が足りないのでは意味が無い」

岩崎「そこでうちの金剛型を出せというわけですか」

先生「無理なら貴様は腰抜けで艦を出すのすら泣いて断った日本の軍人としてあるまじき男であったと作戦報告書に書いておく」

岩崎「・・・。舞鶴の目標地点到達時間は?」

先生「おそらく」

時間を言おうとした時、司令室の無線が鳴った。

電話のケーブルを伸ばす限り伸ばし、無線受信機をスピーカーから声が出るようにする。

提督「作戦目標を変更します」

先生「何?」

岩崎「てめぇふざけてんだろ・・・」

提督「申し訳ありません、決断が遅れました。とりあえず状況を説明します」

二人が聞く態勢に入る。

提督「現在舞鶴は製油所より戦艦棲姫が製油所沖合にて迎撃態勢に入ったという報告に際し、初動作戦として戦艦棲姫部隊を排除する作戦に入りました。敵の迎撃部隊の航空戦力は今確認出来るだけで二百十機。未だ本隊を見つけていないため敵の詳細は不明です」

先生「初動については理解した。それで、敵の本丸についてはなにか分かったのか」

提督「陸上型深海棲艦が製油所を占拠。加え先程申し上げた戦艦棲姫部隊がいる方角へ、製油所の中央砲塔が向いています」

先生「それを聞きたかったわけではないが・・・、つまりとにかく危険だがわかっていることはないというわけだな」

岩崎「それで?その中央砲塔とやらはどんなものなんだ?向いているということはそこも占拠されたのか?」

提督「事情を話す時間はありませんが、向きが固定されている状態なのです。砲は41cm二連装砲です」

岩崎「なんで製油所がそんなものをもってるんだ?おい」

提督「当初よりあったものに、私が改修を加えたんです」

岩崎「夢だと言ってくれ・・・。俺はこんなのに支援を出したくねぇぞ・・・」

先生が咳払いをする。

先生「作戦目標を決断したということは、お前の艦隊は交戦中というわけか?」

秋月(敵機射程圏内!)

秋月からの報告に、断りもせず提督が艦隊に命令を下した。

提督「直ちに対空砲発射!全機撃ち落とせ!」

それまで他人事のように聞いていた佐世保、呉の司令官の頭が急速に冷えた。

既に戦闘は開始されている。

提督「連絡遅れたことお詫びします!我々連合艦隊は初動作戦にて敵戦艦棲姫に期間を開け波状攻撃、撃破後製油所奪還へ移ります!」

先生「舞鶴の編成を教えろ」

提督「空母を除き全艦で第二警戒航行序列です!」

岩崎「・・・わかったよ、すぐに出す。言っても遅れるぞ。すぐに来れると思うな」

提督「ありがとうございます」

先生「呉の駆逐艦隊も合流させる。待っていろ」

提督「了解しました。では、通信終了」

無線機から離れ、司令室へ戻る。

提督「状況報告!」

秋月「敵機撃破難航中です!撃破約五十!」

提督「全艦面舵三十度、回避!」


南鳥島航空基地。同時刻。

整備兵「これが探照灯か?」

整備兵B「そうらしい」

南鳥島に造られた港に輸送船が到着、大量の探照灯の積荷が降ろされているところだった。

整備兵「こんなの増槽と一緒につんだら重量超過になったりしないのか?」

整備兵B「それはさすがにないだろうけど・・・、こんなの扱えるのかな・・・」

整備兵「なんでもこいつを六十機に搭載して絨毯爆撃的に探すんだとよ」

整備兵B「うまくいくことぐらいは祈りながら整備しよう」

整備兵「おい!こっちだ!」

先導車両に乗り込んだ二人が、後ろで積荷を載せたトレーラーに呼びかけた。

戻。

提督「被害報告!」

扶桑「暁、響、涼風小破です!」

過ぎ去った編隊が体を傾け反復爆撃に移る。

提督「目標を見失わないように注意するんだ!針路戻せ!」

扶桑「了解、針路戻します!」

急降下してくる敵機を避けながら、艦隊は徐々に本体へ近づいていっていた。


南鳥島航空基地。一六一〇。

整備兵「片方じゃない、両翼に取り付けるんだ」

指示に従いながら、部下達がてきぱきと取り付け作業を終えていく。

整備兵B「これってどれくらい明るいんだろう?」

部下がバッテリーを装着したのをちゃんと確認していく。

整備兵「小・中型船艇用探照灯の二百倍らしい」

整備兵B「二百・・・!?」

整備兵「これだけの明るさを交替で照らし続ければ見つけられるんじゃないかっていうのが上が考えた『妙案』らしい」

整備兵B「な、なるほど・・・?」

戻。一九四四。

提督「皆無事か?」

扶桑「あともう一決戦すれば、弾薬が尽きます・・・」

あの攻撃は第一波に過ぎず、その後も百二十、八十機と第三波まで航空機による爆撃は続いた。

その間艦娘は予定針路を外れないよう注意しながら回避行動を続けていたために、皆の精神的疲労が顔に現れ始めていた。

提督「・・・この状態では戦艦棲姫と対峙できないな・・・」

扶桑「・・・いえ、提督。随伴艦だけでも撃破しましょう。それぐらいの気力は残っていますから」

五月雨「戦艦棲姫への攻撃は断念して、第一波は佐世保と呉に任せましょう、提督」

さすがに無理だと五月雨も判断した。

提督「了解した。予定は変更。後続の佐世保、呉連合艦隊の戦艦棲姫撃破を容易にするために、我が舞鶴連合艦隊は戦艦棲姫以外の随伴艦の撃破を最優先事項とする」

内容変更を呉、佐世保に通達すると、

岩崎「了解」

先生「そうなりそうな予感はしていた」

と、いった答えが返ってきた。

提督「第四波までは来ないはずだ・・・。いくらフラッグシップであったとしてもそこまでの攻撃能力は持っていない。いくぞ」

時間経過&移動。二一〇九。

扶桑「・・・電探に反応あり!距離約19000m、左舷2-7-0から急速接近しています!」

提督「駆逐艦だな。第一艦隊、全門発射用意!」

扶桑「全砲門、砲弾装填完了!」

提督「第一艦隊、単発打方、右から始めッ!」

第一艦隊の砲撃音を背景に、電測員に聞いた。

提督「本隊はまだ見つからないのか?」

電測員「・・・はい、今発見した駆逐艦以外には一切反応がありません」

五月雨「敵艦隊速度40knに増速!」

五月雨の緊迫した声。

艦隊左舷からの敵艦はおそらく敵本隊の一部だったはずだ。

舞鶴連合艦隊は間もなく敵本隊の傍を横切ろうとしているのだから、推測は確信に近い。

扶桑「っ、早すぎる・・・!」

提督「慌てるな、落ち着いて撃つんだ!」

突然の奇襲に、扶桑は落ち着きを失っていた。

接近中の艦隊に意識を集中させすぎるあまり、艦隊の針路がずれ始めているのを悟った提督が言う。

提督「全艦現海域を離脱、面舵二十度、最大戦速!」

扶桑「り、了解、面舵ニ十度!」

五月雨「離脱するんですか!?」

その時であった。

舞鶴の船体左舷前方の喫水線より10cm下に、敵の小口径砲が着弾した。

嫌な爆発音が船内に響くが、装甲は貫通されなかったようだ。

五月雨「提督、大丈夫ですか!」

提督「まだ大丈夫だ。艦隊に接近しろ!離れすぎていると見失う恐れがある
!」

航海長「了解、接近します!」

連合艦隊との距離を200mまで縮める。

それから一分程して、戦艦扶桑らの転舵が完了。

艦隊は敵中央砲塔射程圏内である38km地点から離れていきながら、問題の0-7-1の角度の延長線上に到達した。

速度そのまま!と号令をかけようと口を開いた刹那、さっき着弾した部分から4m前に舞鶴が被雷した。

既に