海未「GANTZ…ですか」 (601)

海未ちゃんってガンツスーツとソード似合うんじゃね?と思って立てた

最後までやるつもりです

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見知らぬマンションの一室。

異様な存在感を放つ黒い球体を中心に、数名の男性が座っていました。

私たちを見る彼らの目は、まるで「また来たのか」とでも言いたげでした。

私も穂乃果も、今の状況を正確に把握などしていません。

しかし一つだけわかることは………



ただでは家に帰れそうにもない、ということです。

私はあの時、買い物を終えて家に帰ろうとしていました。

地下鉄駅のホームに降りて電車の到着を待っていると、聞きなれた声が自分の名を呼んでいました。

それだけなら、よくあることです。
たまたま出先で友人と遭遇しただけのこと。

ただその日は少し、いえ、かなり状況が特殊だったと、言わざるを得ません。

何故なら彼女ーー高坂穂乃果は、
あとほんの数分で列車の到着する、線路の上にいたのですから。

私は目を疑い、そして気づきました。

穂乃果の足元に寝そべる、お世辞にも清潔とは言えない格好をした、ホームレスのような男性に。

そばに転がっているお酒の瓶から察するに、酔っ払って線路に落ちた、といったところでしょうか?

それを助けようと、穂乃果は無謀にも自ら線路に降り立ったのです。

ええ。立派な行為ですとも。
しかし少し軽率ではないですか?

まさか女子高生1人の力で、酔い潰れた成人男性を助けようとした訳ではありませんよね?

周囲には多くの人々がいましたが、皆見て見ぬ振りを決め込んでいます。
世も末です。

その時、電車の到着を告げるアナウンスが響きました。

穂乃果の体が、びくりと震えました。
私もこれには愕然としました。
まさか、駅員にこの事態を伝えることすら、誰一人としてしなかったのですか?
『誰かがやってくれる』、そういう訳ですか。


私は周りの人々を睨むと、線路に飛び降りました。
このままではこの男性は間違いなく轢かれてしまいます。
そして、恐らくは最後まで彼を見捨てられないであろう穂乃果も。


穂乃果「海未ちゃん!」


穂乃果が叫びます。
私は頷くと、男性の上半身を持ち上げました。

穂乃果は下半身です。

予想以上に軽いものでした。
栄養状態が良くないのでしょう。
とにかく助かりました。並の男性の体重であれば、2人の力でも動かすことは容易ではありません。

ホームの上にいた人達が数人手を伸ばし、男性の体を引き上げてくれました。


その時です。


私たち2人は、眩い光に照らされました。
電車が来たのです。


「お、おい! 早く上がれ!」


男性を引き上げてくれた会社員らしい人が叫びました。


電車のライトが、目の前にせまっていました。






そして、私たちはあの部屋の住人となりました。





第1章・ねぎ星人



「また来た…」


眼鏡を掛けた男性が声を上げました。

私は戸惑いながらも、彼に問いかけます。


海未「あの…、ここは一体…?」


その疑問に答えたのは、彼ではなくその隣にいる金髪の青年でした。


「天国じゃねーの? …ふん、2LDKのさ」


先ほど私と穂乃果は、確かに地下鉄に轢かれたように思われます。
しかし、ここが天国と言われても、いまいち信じられません。
ごく普通のマンションのように感じられます。

穂乃果「海未ちゃん……」


穂乃果が不安そうに私のそばに寄りました。


海未「大丈夫ですよ、私たちは今こうして生きて…」


穂乃果は震えていました。
事故の恐怖の所為かと思いましたが、どうやら原因は違うようです。

ずっとこちらを睨みつけている、いかにもな感じのガラの悪い大男。

穂乃果が不安を感じるのも当然です。

私は穂乃果を庇うように背後にやると、男を睨み返しました。

男が舌打ちをします。

険悪な雰囲気を感じ取ったのか、眼鏡の男性が場を収めようとします。


「み、皆さん。とにかく自己紹介しましょう。僕は山田です。小学校の教師やってます。スクーター乗ってて事故っちゃって……それで気づいたらこの部屋に」


彼も私たちと同様、事故に遭ったようです。


山田「じゃあ次、君たち頼むよ。一応なにがあったかも教えてくれないかな」


山田さんが私と穂乃果を指名しました。


海未「…園田海未、高校2年生です。地下鉄に轢かれた…と思います」

穂乃果「高坂穂乃果です。私も同じです」


次に、山田さんは金髪の青年を指名しました。

「ん、俺? 稲森。俺も事故って気づいたらここ」

山田「重傷者が集められたんですかね…?」


山田さんの推察を、稲森さんが笑いました。


稲森「いや天国でしょ。絶対死んだもん。そっちのJK2人だって地下鉄に轢かれて生きてる訳ないじゃん」


穂乃果が申し訳なさそうに言いました。


穂乃果「ごめんね海未ちゃん…。巻き込んじゃって」

海未「気にしないでください。それより早く帰りましょう」

窓からは東京タワーが見えました。
東京都内なら、帰れないことはないでしょう。

玄関に向かおうとすると、山田さんが笑いました。


山田「帰れるならとっくにかえってるよ。ドア、開けてごらん」


私は玄関のドアを開けようとしました。
信じられないことに、触れることができません。


海未「あの…これってどういう…」

山田「わからないけど、とにかく部屋に戻ろう」


山田さんに促されて、穂乃果と部屋に戻ります。自己紹介が再開されました。

次は、あの男です。


「俺はアレだよ。ヤ・ク・ザ。はい終わり」


少なくとも、彼は事故ではないでしょう。

この部屋にはもう一人、人間がいました。
今まで一言も口を開かなかった少年。最後は彼の番でした。


「…西丈一郎。中学生」


それだけボソリと言うと、また黙り込みました。


山田「さてどうしよっかなぁ…。電話も繋がらないし」


私も携帯電話を見ました。圏外です。

それは、もう一度玄関のドアを開けてみようと立ち上がった瞬間でした。



部屋の中心にある黒い球体が、『ラジオ体操の歌』を流し始めたのは。


穂乃果「えっ?ラジオ体操?」

稲森「この玉から出てねえ?」


歌が終わると、球体の表面に文章が浮かび上がりました。


「てめえ達の命は、なくなりました。新しい命をどう使おうと私の勝手です。という理屈なわけだす。」


それが消えると、再び文章。さらに画像が映し出されます。


「てめえ達は今からこの方をヤッつけに行って下ちい。」

・ねぎ星人

・とくちょう
くちい

・好きなもの
ねぎ


意味不明です。この部屋を用意した者は、一体何がしたかったのでしょうか。

ガシャンッ!!


唐突に球体の両サイドと後方が開きました。
私たちは皆、目を丸くしました。
両サイドには銃のような黒い物が大量に、後方には四角いケースが人数分収められています。とても、この球体の中に入っていたとは思えません。

中を覗き込んだ山田さんが、「うわッ!?」と声を上げました。
見ると、そこには呼吸器のような物を取り付けられた全裸の人間が座っていました。


海未「一体なんなのですか…?この玉は…」


ただ一人、中の人間には目もくれず、黒い銃を手に取った者がいました。
西と名乗った少年です。

よくみると、彼の着ているパーカーの襟元や裾から、黒いレザーのようなものが覗いていました。


稲森「なんだこれ、コスプレかあ?」


稲森さんは、自分の名前が書かれたケースを開けていました。
そこには、ゴムか何かでできた水着のような衣装が入っているようです。

海未(西がパーカーの中に着ているものと同じ…?)


なにかある、と感じました。
『ウミチャン』『ホノカチャン』と書かれたケースを取ると、穂乃果にも渡しました。


海未「何なのかはわかりませんが、持っててください」

穂乃果「う、うん。わかった」


稲森さんはもうスーツに興味を失ったのか、銃を取り出していじっていました。
玩具にしか見えませんが……


その時でした。

球体から光線が放たれ、私の爪先に当たりました。
反応する間もなく、光線の当たった所から体が消えていきます。


穂乃果「海未ちゃん!?」


私を見て叫んだ穂乃果の頭も、光線によって消されていきます。

周りを見ると、山田さんも稲森さんもあのヤクザも、同じように消えていきます。

山田「さっきはみんなこんな風にこの部屋に来たんだ。またどこかへ移動するのかもしれない…」


あり得ないテクノロジーです。
しかし、現に私の体は消えていきます。
ついに目まできました。光線が私の目を射抜いた瞬間、景色が変わりました。


そこは住宅街でした。


穂乃果「いたいた、海未ちゃん!」

海未「無事でしたか」


とにかく、外に出られたのです。
ようやく家に帰れます。

遅れた言い訳をどうしようか、と考えているとき、少し離れたところにいる山田さんが素っ頓狂な声を上げました。


山田「いっ、1000万!?」


驚いてそちらを見ると、そこには私と穂乃果を除く4人がいました。


西「そ。プロデューサー、うちの父さん」


穂乃果「行ってみようよ」


穂乃果に連れられて駆け寄りました。

西「このレーダーの点が宇宙人。こいつを倒せばクリアなんだ」

稲森「コレで撃っていいわけ?」


稲森さんは、ショットガンのような形状の銃を持っていました。

山田さんとヤクザも、ハンドガンのような物を持ってきたようです。


穂乃果「海未ちゃん、ちょっといい?」


穂乃果が私の服を引っ張りました。


海未「なんですか?」


彼らから少し離れて、私は聞きました。


穂乃果「…まさか本当にゲームって訳じゃないよね?」

海未「ええ。私たちは地下鉄に轢かれたと思います。まさかあれがドッキリだった、というオチは流石に期待していません」


すでに3人は、ねぎ星人を探しに走り去ってしまいました。

西だけが残っています。

海未「西さん。これは本当にゲームなのですか…?」


西は微かに笑って答えました。


西「ああ、ゲームだよ?まあ、『普通の』とは言ってないけどね」


なにか薄ら寒いモノを感じました。

彼は、私たちに何をさせたいのでしょう?


穂乃果「…わたし、あの人たち探してくる!」


穂乃果も不安を感じたらしく、3人を追いかけていきました。


海未「貴方は一体…何を隠しているんですか?」

西「お前も行ってみればいーじゃん。人に聞いてばかりいないでさ」


西とのやり取りは不毛です。

私も、穂乃果を追って駆け出しました。

中断します。

ラブライブにおける時期は後ほど詳しく描写します

これってくろの的なキャラで行くことはないだろうけども
話の通りなら
見知らぬ男にセックスしてって誘ってやるのかな?

じゃあナイスバディガチムチンポのオレが転送されるのか!?

投下再開します。


>>23
海未は玄野ポジの予定ですが、すべて原作通り、という訳ではありません

>>25
(それはさすがに)ないです。

ーーーーーー

住宅街。

先頭を走るヤクザが言った。


ヤクザ「どうやら多摩市みてぇだな」

山田「あの、ここ左です」


西から手渡された掌サイズのディスプレイ。そこには自分達を示す光点と、ターゲットであるねぎ星人を示す光点があった。
順調に近づいているようだ。


稲森「なあ、試し撃ちしてみねえ?」


稲森がショットガンを民家の塀に向けた。
山田が苦笑する。


山田「さすがにそれはオモチャじゃないですか?」

稲森「つってもけっこー重いぜ?」


先ほど体験した『転送』のこともある。今持っている黒い銃にも、なにかあるのではと思っているのだろう。
稲森は二つあるトリガーを、試しに同時に弾いてみた。




ギョーン



銃口が光を放つ。
しかし、それを浴びた塀はびくともしない。


稲森「なんだよ、コレはオモチャなのか」


稲森が不満げに言うのと、それは同時に起こった。



ババンッ!!!



コンクリート製のいかにも丈夫そうな塀が、まるで内部から破裂したかのように弾け飛んだ。


稲森「すッ…、すっげぇ!!」

山田「ほ…本物だ…」


ヤクザも目を見張った。
彼のような人種が扱う拳銃などより、これは遥かに強力であったのだから。

稲森「な、なあっ、コレでターゲット撃ったらヤバくね!?」


相当興奮しているらしい。
その・は心なしか上気していた。


山田「そうですね…。役者じゃなくてロボットか何かなんですかね」

稲森「どっちだっていーじゃん!早くいこーぜ」


3人は再び走り出した。

数分して、ついにターゲットの光点の位置にたどり着く。


山田「この建物じゃないですか?」


目の前には、古びた二階建てのアパートがあった。
どの部屋にターゲットがいるのだろうか?


稲森「とりま101号室からいくぜ」


稲森はチャイムを鳴らした。

ーーーーーー


穂乃果「な、なにこれ……」


穂乃果は崩れた塀を見て目を丸くした。

直感的に、それが稲森達の持っていた銃によるものだと判断する。
この状況だ。あの転送を経験した以上、目の前の光景も黒い球のある部屋に関係しているだろう。

西はこれを企画かなにかのように語ったが、とても信じられなかった。
あの3人がもし、コンクリート塀を粉々にする威力を持つ銃を『ねぎ星人』に向けるというなら……


穂乃果 (急がなきゃ!)


どちらに行ったかはわからないが、とにかく穂乃果は走り出した。

ーーーーーー


海未「は、破廉恥ですっ!」


私はケースの中に収められたスーツを見て愕然としました。

体のラインが強調されるデザインは勿論のこと、一番我慢ならないのは下着まで脱がなければ着れそうにないことです。

あのファーストライブの衣装すら、着るのに躊躇したというのに……

しかし、あの部屋のことを知っているように思われる西が着ていた以上、このスーツには何かがあります。


海未 (近くに公衆トイレは……ないようですね)


まさかこの歳になって、公道で車の陰に隠れて着替えをすることになるとは!

幸い人通りはありませんが、正直地下鉄駅での出来事以上の緊張と恐怖です。

なんとか誰かに見られることなく着替え終わると、私は車の窓に自分の姿を写してみました。


海未「っ……///」


はっきり言って、とても恥ずかしいです。もし本当に企画だとしたら…と思うとぞっとします。

とにかく、穂乃果を探さなければなりません。

脱いだ衣服をケースにしまうと、あの3人と穂乃果が行ったと思われる方向に向かって走ります。


その時です。


なんと運の悪いことでしょう。
目の前にサラリーマンらしい男性が2人、並んで歩いていました。

私は彼らの視界に入ってしまっています。

どうやってこの場を切り抜ければいいのでしょう…
公道でコスプレをしているところを見られるなんて、黒歴史中の黒歴史じゃないですか!

しかし、2人のサラリーマンは私には一切目をくれず、そのまま通り越していきました。

暗いとはいえ、街灯は光っており、私の姿ははっきりと見えているはずです。


海未「見えて……いないのですか……?」


今さら私の中に込み上げてきたのは、『死』というものに対する恐怖でした。

もしかすると、本当にあの部屋は天国だったのでしょうか?

そして今の自分は……


海未 (やめです! そんな考えは!)


今重要なのは、穂乃果のことです。

気をとりなおし、走り始めました。

ーーーーーー

まさか一発目でアタリだとは、誰も予想していなかったに違いない。

101号室から出てきた『子供のようななにか』は、確かに黒球に映し出されたねぎ星人だった。

全体的に緑色の肌に、奇妙に歪んだ形の顔。人間ではないだろう。


ヤクザ「ンだよコイツ。ほんとにクセーぞ」

稲森「早いとこ撃っちまおうぜ?」

山田「ちょっと待ってください。賞金独り占めする気ですか?」


ねぎ星人にショットガンを向けた稲森を、山田が制止した。


ヤクザ「細けえなあ…、全員で撃ちゃいいだろ」

稲森「山分けでも333万…いいじゃん」

山田「じゃあ、いっせーのででいきますよ」


ヤクザも銃を構え、山田もそれに倣う。

ねぎ星人「ね……ねぎあげます、ゆるしてください…」


怯えた様子で、ねぎ星人が言った。


山田「喋るのかぁ。よくできてるな」

稲森「いくぜ? いっせーのーでッ!」



ギョーンギョーンギョーン



3つの銃口が一斉に発光し、ねぎ星人を照らした。



ババンッ! バンッ! バンッ!



先ほど同様、タイムラグの後に対象が破裂する。
これまでは予想できた。


しかし。


ねぎ星人「ぃぎゃあああぁぁ!!?」


まさか、弾け飛んだ両腕と右足から、緑色とはいえ生物のような体液が噴き出すとは、3人のうち誰も予期していなかった。


山田「・えッ、 生き物?」

稲森「うっわキモチわるッ!」


嫌悪感を示す山田、稲森とは対照的に、ヤクザは動じなかった。



「なにやってるんですか!!」



後方から声がした。

3人が振り返ると、そこには部屋で高坂穂乃果と名乗った少女がいた。

彼女は玄関に近づき、彼らが囲んでいるモノを見てしまう。

穂乃果の表情が固まった。

穂乃果「え……これ、どういう…」


声を絞り出すと、耐え切れず口元を押さえた。


ねぎ星人「ね…ぎ、あげます……ゆるっ、して、くださ……」


ねぎ星人は命乞いをしていた。

ヤクザがニヤリと笑う。


ヤクザ「おうお前、もっとはっきり言わんとわからんだろーがッ」

穂乃果「なに言ってるんですか!早く病院連れてかないと!!」

ヤクザ「黙っとけや」


ヤクザが穂乃果を睨みつけた。

瀕死のねぎ星人をどうにかすべきだとは思っているが、怖気付いてしまう。
無理もない。

ねぎ星人が、再び口を開いた。


ねぎ星人「…ね、ねぎ……」

その声は掠れていて、とても聞き取れるものではなかった。


ヤクザ「なんだって? 聞こえんなァ」


ギョーン


ヤクザはニタニタ笑いながら、今度はねぎ星人の頭部に銃を撃った。


穂乃果「あッ……」


穂乃果はそれを呆然と見ていた。


ババンッ!


ねぎ星人の頭蓋が弾け、脳漿のようなものが飛び散る。これも緑色だった。


穂乃果「い…いやッ、いやぁぁぁ!!」


穂乃果が狂ったように叫びだした。

ヤクザ「オイぶっ殺したぞ! 撮影隊出てこんかい!」


ヤクザが言う。
とっとと賞金を貰って帰りたいのだろう。


山田「こりゃあ…、日本のテレビ局じゃなさそうですね」

稲森「規制キビシーもんな。地上波じゃ流せねーだろ」


予想外のグロテスクさに多少戸惑ったものの、あくまで企画だと信じているようだ。


ザッ、ザッ、ザッ、


足音がした。

撮影隊が来たのだろうと思い、3人が振り返った。
だが現れたその影は、撮影隊のものなどではなかった。

そこには、2mを軽く越えるであろう長身の……


緑 色 の 大 男 がいた。

ちょっとメシ食ってきます

ーーーーーー


山田「ひッ、ひいいッ、うわあああ!!」


目の前に、突然山田さんが飛び出してきました。
ひどく怯えた様子で、服には赤黒いものがベットリと付着しています。

なにかがあったことは、間違いないようです。


海未「山田さん! なにがあったのですか!?」

山田「でッ、でかいのがッ! みんなッ、死……」


錯乱しているようです。
まともに答えず走り去ってしまいます。

私は後を追いかけました。


海未「落ち着いてください! 他のみなさんは……穂乃果はどうしたのですか!」


山田さんの耳には届いていないようです。

彼は交差点に飛び出し、叫びながら走り続けます。

それと同時に、どこかから微かにピンポロパンポン、ピンポロパンポン、と間の抜けた音が聞こえてきました。


海未「携帯…ですか?」


しかし、あたりを見渡しても人はいませんし、私の着信音はこんな音ではありません。

山田さんのものでしょうか。
よく聞くと、山田さんの方から聞こえてくるような……



ババンッ!



何かが爆発する音とともに、間の抜けた音は消えました。

山田さんの叫び声もやんでいます。

嫌な予感がしました。

恐る恐る、山田さんの方を見ます。

山田さんが倒れていました。


海未「山田さん?」


彼に駆け寄ろうとすると、また間の抜けた音がしました。

今度ははっきり、発生源がわかりました。


私の、頭です。


海未「ッ!?」


山田さんから離れました。
音が止まります。

山田さんの身に何が起こったのか、予想がついてしまいました。

それを確かめようと見ると、やはり彼の頭部が綺麗に消失していました。


海未「こ、こんなのって……」


自分も下手すると死んでいたかもしれない。
全身がガタガタと震えました。


海未「とっ……とにかく穂乃果を…」


恐怖よりも、彼女のことが心配です。

私は、山田さんの来た方向へ向かいました。

ーーーーーー


バチバチッ…


電気の爆ぜるような音とともに、何も見えない空間から少年が現れる。

西だ。


西 (早速一人脱落ッと…。お、二人目だな)


アパートから逃げだした光点が、四角いエリアの外に飛び出し、処刑。

ほぼ同時に、アパートで交戦している内の一人が死亡したようだ。


西 (園田海未、か。久々に期待できそーな奴が来たじゃねーか)


西は、口の端を歪めて笑った。

ーーーーーー


ヤクザ「あがッ!?」


緑色の大男は、ヤクザの頭を日本刀のような鋭く、長い爪で捕らえると、そのまま握り潰した。

グチャグチャの赤い塊がボトリと落ちる。


稲森「あ、あああッ……、助け…」


全身から血を流し、地面に這いつくばっている稲森が穂乃果に懇願する。

穂乃果は震えていた。足が動かず、立ち上がることすらできない。
ボロボロと涙を零しながら、2人が切り刻まれる様を見せつけられていた。

ヤクザだった肉塊を放り捨てると、大男は稲森に脚を雑に掴む。


稲森「やめてくださいッ! 謝る! 謝るからぁぁ!!」


ブンッ! と空気を裂く音とともに、稲森の体がアパートの外壁へと叩きつけられた。

大男が脚を放しても、稲森の体は張り付いている。
相当なパワーだったのだろう。

大男は、3人に惨殺されたねぎ星人のそばにやってきた。


大男「グオオオォォッ!!」


その目からは、血の涙が溢れている。

穂乃果は、大男がねぎ星人の父親であると悟った。


穂乃果「ご、ごめんなさい……わたし……怖くて…、あなたの子供……助けられな……」


最後まで言い終わらないうちに、大男が穂乃果の体を片手で持ち上げた。

穂乃果も息子の仇だと見なしたのだろう。


穂乃果 (そっかあ…。そうだよね。ヤクザのあの人が怖くて、あんなことを止められなかった。仕方ないよね…)


鋭利な爪が肌に食い込み、激痛が走る。

大男「オオオォォ!!」


大男の目から、さらに大量の涙が落ちる。

穂乃果は父親を思い浮かべた。
親ならば誰でも、自分の子供が殺されたらこうするだろう。


穂乃果 (お父さん、お母さん、ごめんなさい。わたし、もう駄目みたいです。雪穂……お姉ちゃんがいなくてもしっかりやってね)


既に死を覚悟していた。

彼女の意識が途切れる寸前、頭に思い浮かんだのは、2人の親友と3人の後輩。


穂乃果 (スクールアイドル…最後までやり遂げたかったなあ……)

大男「ウォォォ!!」


大男が、さらに力を加える。


穂乃果 (…海未ちゃん、大丈夫かな? どうか無事に……)


彼女は気を失った。

中断します。

11時くらいに再開するかもしれません。

ーーーーーー


海未「どういう…つもりですか?」


穂乃果を探している私の前に、突然西が現れました。


西「なにが?」

海未「とぼけないでくださいっ!何故本当のことを言わなかったのですか!?」


彼が頭の爆弾、つまり本当のルールを説明していれば、こんなことにはならなかったはずでした。

山田さんの様子から、ねぎ星人と交戦する中で何かが起こったことは確実です。


西「言ったって誰も信じねーよ。企画って言うだけ親切だろ?帰ろーとしたら処刑されンだしさ。
まァ、逃げ出してエリアを出たバカもいたみてーだけど」


山田さんのことでしょう。

海未「とにかく教えてください。今のこの状況は一体なんなのですか!」

西「『なに』ッてねぇ…。さっき言ったろ。ゲームみてーなモンだよ。地球に潜む宇宙人をブッ殺すゲーム」


ゲームはゲームでも、これはまるでデスゲームです!


海未「殺し合い……穂乃果は無事なのですか!?」

西「あぶねーンじゃねーかな。ほら、これ見てみろよ」


そう言って、西は先ほどのディスプレイを見せてきました。

ここから100mほど離れた地点でしょうか。
二つの点がほとんど重なっている状態で光っています。


西「お前のお仲間と星人が一緒にいるな。もう死んでンじゃねーか?」

海未「ッ!」


まだ間に合うかもしれません!
私は走り出そうとしました。

西「まあ待てよ。これ、使ってみろよ」


そう言って西が私に渡したのは、一言で表現するなら『刀の柄』と言えるものでした。
肝心の刃が付いていません。


海未「どうやって使えばいいのですか?」

西「念じれば好きな長さで刃が伸びる。まあビームサーベルみたいなもんだ」


急に親切になったように感じられる西に薄ら寒いものを感じながらも、武器があるのは心強いです。


海未 (穂乃果……無事でいてください!)


刀を握りしめると、私は光点の座標へと急ぎました。

本日はここまでです。次回はいよいよ海未vsねぎ星人です

必要性疑問視兄貴は今日も大活躍ですな!

ところで原作の設定を細かく変えない範囲でのオリ設定ならばいいんだけど、うるさいのがいるから気をつけてね

例えば今の場合だと、レーダーの地図上にはハンターの位置は出ませんし、星人の位置もテキトーだから重なってるとかわからない。

まぁあと何で西が刀持ってんだとかもあるけどそれはいいや



ここまでは面白そう

刀は荷物にならねぇから持っててもええとは思う 普段は柄だけだし

西は生き残るためにあえて教えてないだけで
気に入った奴とか(くろのみたいな)
にはスーツ教える
仲間(自分に害を与えない人)
には基本的に色々教えはする

いい奴ではある
猫殺したりとかしてるからいい奴ではないが(矛盾)

西くんはママが大好きないいこです


再開します


>>56
そうですね。気をつけます
味方も見えてた方が書きやすいので…

>>57
西くん味方は殺しませんしね。
クラスメイト虐殺したときもそうですし

ーーーーーー


目を疑う光景でした。

頭がグチャグチャになって死んでいるヤクザ、アパートの外壁に張り付き、もはや原型をとどめていない稲森さん。

そして私は見つけました。

緑色の肌をした大男と、その足元に倒れている穂乃果を……


海未「その子から離れなさいッ!!」


刀をひとまず日本刀サイズまで伸ばします。西の言った通り、任意に長さを調節できるようです。

私の声に反応し、大男が振り向きました。

その姿は、黒球に示されたねぎ星人と確かに似ています。

人間とは思えない風貌でした。

両目からは、真っ赤な液体が溢れています。涙……でしょうか?

大男「グルォォォッ!!」


大男が咆哮します。
私のことを『敵』と見なしたようです。

引きつけていれば、とりあえず穂乃果が狙われることはないでしょう。


ジャキッ!


大男の指から生えた、不自然なほど大きく鋭利な爪。

それを構えると、大男はこちらに向かって駆け出しました。


海未「ッ!?」


その姿同様に人間離れしたスピードでした。

体当たりされれば、タダではすまないでしょう。

しかし直線の移動なら……

避けられる、と思いました。

しかし大男は、私が予想だにしなかった行動をとります。

ドンッ! と踏み込み、アスファルトの破片を散らしながら跳躍し、一瞬にして距離を詰め飛びかかってきました。


海未「うぐッ…」


私はそのまま張り倒され、続いて軽々と持ち上げられると、放り投げられてしまいました。

近くにあった民家の塀に全身を叩きつけられます。

もはや痛みすら感じませんでした。
コンクリートに叩きつけられて、無事でいられる人間がいるものでしょうか?


…妙です。なぜ、意識がはっきりしているのでしょう。

私は体を起こそうとしました。
簡単に動いてくれました。

見ると、塀は粉々になっていました。


海未「この…スーツですか」


私の着ている黒いスーツに、血管のようなものが無数に浮き出ています。

やはり着て正解だったようです。

刀を構え、大男に向き直ります。
とにかくこいつを倒さなければ、穂乃果を助けることはできません。

横目でチラリと穂乃果を見やると、息こそしているものの肩からどくどくと血が流れ、重傷と言える状態のようです。


海未「ふぅっ、ふぅっ…」


剣道の経験はありますが、竹刀と真剣を同じものと語ることはできません。
他者を『殺す』為の道具を握ったことなど初めてでした。

おびただしい量の手汗で、危うく刀を取り落としそうになります。


海未「…穂乃果、すぐに助けます……待っててくださいっ」


動悸が収まりません。

私も山田さん達3人のように死んでしまうかもしれません。


ただそれでも、穂乃果を……



海未「はああぁぁッ!」


小中学生の剣道で、『突き』が禁止されている理由。

それは、容易く大ダメージを与えられるからです。

だから私は……ソレを選択します!


親ねぎ「グルッ!?」


スーツのアシストがあるのでしょう。
私の突きを爪で受け止めようとした大男の体勢が揺らぎました。

私はすかさず刀を一度引き、次は横薙ぎに振るいます。


ザシュッ!


手ごたえを感じました。
大男の左脇腹目がけて振るった刀身は、確かに受け止められてこそいるものの、その体に多少ダメージは与えたようです。

海未 (反応が早い…爪で受け止められたら反撃されます!)


恐怖も忘れ、私は次にどうするべきかを冷静に思案します。


海未 (一度離れて、死角から…)


そう判断すると、私は身を翻し、ここまで来た道を引き返しました。

予想通り、大男は追ってきます。
住宅街の角を曲がると、スーツの力を使って跳躍しました。

いとも簡単に一軒家の屋根に飛び乗ることができました。
大男の攻撃を受けたときも感じましたが、本当に恐ろしいまでのテクノロジーです。

私が下を見下ろすと、丁度あの大男も角を曲がり、こちらにやってくるタイミングでした。


海未 (ここからならっ!)


もう躊躇はしません。

私は刀を構え、大男目がけて飛びかかりました。

ーーーーーー


穂乃果「はあっ、はあっ、わたし…なにして……?」


穂乃果は目を覚ました。
同時に左肩に激痛が走る。

しかし目の前のねぎ星人、そして稲森とヤクザの惨殺死体を見て、全てを思い出す。


穂乃果「・ッ……」


再び吐き気が込み上げるが、吐いてなどいられない。
ねぎ星人の父親が消えているのだ。


穂乃果「海未ちゃんを探さなきゃ!」


彼女は関係ないのだ。しかし、彼に見つかればどんな目に遭うかは目に見えている。

傷の事を気にしている場合ではなかった。

起き上がると同時に、ごく近い距離から「グルォォォッ!」と、またしてもあの大男の咆哮が聞こえた。


穂乃果 (あっちだ!)


痛みを必死に堪え、走り出す。
来た道を戻り、角を曲がった。


そこには………



左腕を失って悶絶するねぎ星人の父親と、刀を握りしめ、緑色の体液を全身に浴びた海未の姿があった。

穂乃果の表情が、怯えとも混乱とも区別のつかない状態で硬直する。


穂乃果「う…海未ちゃん……、なにをして……?」


なんとか声を絞り出した。
当然、震えていた。

海未が穂乃果に気付く。


海未「穂乃果っ!? 無事だったのですね!
こいつは仕留めました、すぐ病院に…」


穂乃果は理解した。
彼女はきっと、倒れている自分を見て、彼を犯人だと判断したのだろう。

それは間違ってはいない。ただ…


穂乃果「…待って。その前にわたし、この人に言うことがあるの」

海未「穂乃果……?」


穂乃果は大男に歩みを進めた。
海未が慌てて静止しようとするが、構わず彼のそばに寄って頭を下げる。


穂乃果「……ごめんなさいっ!
わたし、あの子が殺されているのを見ていることしかできませんでした!」

海未「あ、あの子って誰です?」


事情を知らない海未が戸惑う。

穂乃果は続けた。
泣いているため、嗚咽の混じった声だった。


穂乃果「こんなこと言っても、許されないってわかってます……でも、どうしても謝りたかったんです!」


大男は何も言わなかった。
ただ、その目から落ちる涙だけは、いまだに止まらない。


海未「何を言ってるんですか! 危ないから離れて…」


海未が嫌な予感を感じ、穂乃果を引き離そうとしたときだった。


大男は残った右腕を上げ、穂乃果の脇腹を引き裂いた。

ーーーーーー


「……潮時だな」


私の目の前で、穂乃果の体が引き裂かれた瞬間でした。
どこかから声が聞こえてきました。


ギョーン


そして、間延びした音が響きます。


ババンッ!


数秒して、大男の上半身が破裂しました。

あまりに凄惨な光景に、私は茫然とします。
残された下半身から、体液がプシューッと噴き出していました。

その時、私の前から火花のようなものがバチバチと発生し、そこから西が現れました。

西「よお、なかなかやるじゃん」


西は右手に黒い拳銃を持ち、左手にはさっき見せられた液晶を握っていました。
透明化もそれの機能なのでしょうか?


西「これでミッションクリアだよ。またあの部屋に戻るんだ。
…その女も助かるぜ」


最後の言葉がなにより重要でした。
私は安堵のため息をつきました。

西の頭が、こちらに来たときと同じように消えていきます。
あの部屋に戻るようです。

穂乃果の方を見ると、彼女も同様に転送されていました。


海未「終わったの…ですね……」


全身の力が抜けていくのを感じながら、私も転送されていきました。



少ないかもしれませんが終了です。

次は書き溜める量を増やして一気に投下しようと思います。

カブトムシの奴?

オリキャラ(の自己主張)が強すぎたなあれは

なんかことりあたりがいままでに何回も100点とってそう…w
おつつ

1です。今夜あたり投下します。


>>74
オリキャラは出しません。ガンツのモブはどんどん出しますけどね

>>76
ことりじゃないんですよね……

ーーーーーー


再びあの部屋に戻された私が最初に見たものは、負った傷全てが消えた穂乃果でした。


海未「穂乃果! 体は大丈夫なのですか!?」

穂乃果「う、うん。よくわからないけど…平気」


西もすでに戻っていて、あの黒い球体の前に立っていました。
それは数字を刻んでいます。

3、2、1。そして0。


海未「西、これは……?」

西「見てろって。…ガンツ、採点始めてくれ」


西は黒い球体を『ガンツ』と呼びました。


穂乃果「ガンツ?」

西「俺が来る前から、みんなそう呼んでた」


やはり西は、この部屋に何度も訪れたことのある経験者のようです。

そして、さっきのような戦いを何度も生き延びてきた……

『ガンツ』と呼ばれた球体から、チーンと音がしました。

また文字が浮かび上がります。


『それでは ちいてんを はじぬる』


穂乃果「採点?」

西「そ。さっきのミッションをガンツが採点するんだ」


その文字が消え、また別の文が出てきます。


『ホノカチャン 0てん 泣きすぎ』


穂乃果「っ……」


あの凄惨な光景を思い出したのか、穂乃果が顔を歪めて黙り込みました。

私はなにも言わず、ただ彼女の肩に手を乗せました。


『ウミチャン 0てん 努力は認める』


私も穂乃果と同様、点数は無しでした。
褒められているとは思っていいのでしょうか?


『西くん 3てん Total 90てん』


西「ちッ、たった3点かよ」


西が舌打ちをしました。
これは低いとみなしていいようです。

採点が終わると、球体から文が消え、元の単なる黒いボールに戻りました。


西「今日のミッションは終わり。
帰れるよ」


玄関から出られるようです。
もう用は済んだとばかりに、西が行ってしまいます。
穂乃果が西を呼び止めました。

穂乃果「西君! …まだ一番大事なこと聞いてないよ。帰らないで」

西「はあ?」


一応西は反応してくれましたが、心底面倒くさそうです。
穂乃果が続けました。


穂乃果「どうして、最初からほんとのこと言ってくれなかったの?
そうすれば、山田さん達も助かったかもしれないのに!」


もっともな話でした。
しかし…話したところで信じてくれるとは思えません。

刀を渡された時言っていましたが、『企画だ』と説明しただけ良心的だったように感じられます。


西「お前、ターゲットが一番油断する瞬間知ってるか?」

穂乃果「油断するとき…?」


西は口を歪め、悪意の感じられる笑みを見せました。


西「人間を……殺 し て る 時 だよ」

穂乃果「っ!?」

海未「なんてことを…っ!」


彼の山田さん達に対する適当な態度と、私への妙な善意の理由がわかりました。

彼は、ここに来る人間を振るいにかけていたのです。
すなわち、生存の切札となるであろうスーツを着る者、着ない者とで。

戦力となり、自らの生存の助けになると期待できる者には協力的な姿勢を見せ、反対にこの状況に順応しない者は囮として使い捨てる。

…認めたくはありませんが、賢いと言わざるを得ません。


穂乃果「…そっ、そんな……ひどいこと…」


穂乃果には理解できないのでしょう。
無理もありません。彼女は昔から…とても優しい子でしたから。


西「俺もう帰っていいか?」


疑問系ということは、質問すれば答えてくれるのでしょう。


海未「最後に聞かせてください。
……これは、なんなんですか?」

西「これ…って、このミッションのことか?」

海未「そうです。この『ガンツ』は、私たちに一体なにをさせたいのでしょうか」


西は『そんなことか』といいたげに答えました。


西「決まってんだろ、宇宙人狩りだよ。地球を侵略する連中をぶっ殺すんだ」


あの大男は、確かに人間には見えません。
宇宙人と言われると、納得のいくような……


穂乃果「侵略!? あの親子はただ暮らしていただけじゃない!」


穂乃果が叫びました。

しかし…親子とはなんでしょうか?


穂乃果「海未ちゃんはあの人の子供の死体、見た?」

海未「子供? 何のことですか?」


穂乃果が説明しました。

穂乃果「山田さん達がこの球に映ってたねぎ星人を見つけて…殺した、の。そしたらあの人が……」


そこまで言って、穂乃果は気分が悪くなったのか黙り込んでしまいました。

その様子を見て、西が、呆れたように溜息を吐きます。


西「そんな様子じゃ次は死ぬな。
向こうから攻撃してこねー星人なんて少数派だぜ?」


会話は終わったとばかりに西が出て行こうとしますが、ふと立ち止まって言いました。


西「お前ら帰ってもこの部屋の事言うなよ。頭バンだからな」


山田さんが逃走を図り、頭が吹き飛ぶ光景が思い出されました。

都合の悪い事をすると、無条件で処刑される。恐ろしい話です。

西が立ち去り、部屋には私と、未だにショックの抜けない穂乃果だけが残されました。

第2章・田中星人



放課後の生徒会室。

音ノ木坂学院生徒会長である絢瀬絵里と、副会長である東條希は、生徒会の事務仕事に勤しんでいた。

ひと段落ついたのか、希が声を上げた。


希「なあえりち。そろそろ休憩しよか?」


絵里が答える。


絵里「そうね。こっちも丁度キリのいいところだし」


希が立ち上がり、お茶を入れた。
それを絵里に手渡しながら言った。


希「そういえば、にこっちが入ったんやってね」

絵里の眉がピクリと動いた。


絵里「…そう。だから何?」


どうやらあまり好ましい話題ではないらしい。


希「いい加減認めてあげたらええやん」


湯呑みを啜りながら、希が呆れたような、困ったような表情を作った。

この話題はよそうと、他に面白い話はないかと頭を捻る。


希「そやえりち、このホームページ知ってるか?」

希はパソコンをいじると、黒を基調とした怪しげなサイトを開いて見せた。


絵里「なによこれ。『黒い球体の部屋』?
小説を投稿しているサイトのようね」

希「けっこーおもろいんやで。なんていうか、妙にリアルなんや。
しかもそれだけやない!」


意外と興味深そうな絵里に、希は少し調子づいたようだ。


希「この小説は実体験の通りに書かれたもんやないか、ってのが読者の中でよく言われとるんやで。
なにせ、この物語の中で描写された土地で、実際に奇妙な破壊痕が……ってえりち?」


絵里はというと、希の講釈などどこ吹く風で、そのサイトに見入っていた。

希「なんや、そんなに気に入ったんか?
えりちのことやし、てっきり『子供くさい』とでも一蹴されるかと思ってたで?」


絵里が顔を上げた。


絵里「いいえ、別にこの小説が好みとか、そういうのじゃないのよ。
ただ……なんて言えばいいのかしらね」


神妙な顔つきをする絵里を、希は訝しげに覗き込んだ。


希「えりち?」


絵里「本当におかしな話なんだけど、私……この小説の舞台に出てくる部屋を……

『懐かしい』と、感じているの」

ーーーーーー


絵里「このページね…」


その日の夜。
絵里は希に見せられたサイトを自宅のパソコンで開いた。

どうやらここ数時間内に更新されたようだ。
ページの一番上に、『ねぎ星人』と書かれている。
絵里はとりあえずそれをクリックした。


絵里「この話の舞台は多摩市のようね」


一度閲覧を中断し、別のタブを開く。
『多摩市 破壊痕』と検索した。

すると奇妙なニュースがヒットする。
民家の塀が爆発したらしい。
驚くべきことに、爆発物の痕跡も不審者の目撃証言も皆無とのことだ。

この小説と現実のリンクがはっきりした。


絵里 (とにかく、読み進めてみましょう)


黒い球体の部屋で定期的に行われる異星人狩り。
訳もわからず連れてこられる、『死んだはずの人々』。

状況を受け入れず、あっさりと二度目の死を迎える者たち……


だいたい毎回こんな話だった。

しかし、この『ねぎ星人』の回は違う。


絵里 (スーツの重要性に気づき、ねぎ星人を一人で追い詰める女子高生…?)


筆者によると、彼女はとある女子高の制服を着ていたらしい。

そしてこの小説にしては珍しく…いやむしろ初めてだろうが、人物の名前が表記されていた。


片仮名で『ソノダウミ』、と……

絵里「っ!?」


絵里は思わず叫びそうになった。

この名前、間違いない。
唐突にスクールアイドルを始めようとした二年生の一人だ。

別人という事も考えられるが、描写されている制服の特徴は音ノ木坂学院の制服そのものだった。


絵里「あの子が…あの部屋に?」


絵里の頭には、この小説の内容を疑う考えなど一切なかった。

故に彼女は思う。
自分の感じている不思議な懐かしさの正体は、彼女と接触することで明らかになるのではないかと。

なら行動は、早い方がいい。

ーーーーーー


絵里「…決めたわ希。私、μ'sに入る」

希「な、なんやてっ!?」


次の日。

希が登校して授業の準備をしていたら、絵里が何の脈絡もなくこう言ってきた。


絵里「あなた、あの子たちと結構上手くやってたでしょ? それで、色々と……」


どういう風の吹き回しかは知らないが、彼女もようやく自分のやりたいことに素直になったのだと、希は楽観的に考える。


希「ええでええで! 話、通しとけばええんやな?」

絵里「お願いするわ」

丁度予鈴が鳴り、絵里は自分の席に戻った。

希は、絵里の豹変が昨日自分が見せたサイトの影響だとは思いもしないだろう。
そもそもあれを見せた事自体、大して重要な事とは考えていない。

絵里が昔バレエをやっていた事は知っていた。
そして、挫折したことも。
何より、ダンスにまだ未練があることも。

だから希は、彼女がもう一度踊りを始めるきっかけとして、μ'sとの関わりを期待していた。

だがまさか、こんな急展開だとは…


希 (変なことにならんとええけどなぁ……)


日直が号令をかける。
その日はずっと、朝のことが頭から離れなかった。

ーーーーーー


男…いや、まだ少年と言える年齢だ。
ともかく彼は、机の引き出しに入っていた黒いボールを眺めた。

するとそこに文章が浮かび上がった。
摩訶不思議な現象に、彼は眉を寄せた。


『部屋に戻りたかったらこの方をヤッつけてくだちい』


数秒して文章が消える。
次は、文だけでなく小さな写真も浮かんできた。

写真には、西洋人あたりの血が混じっているように見える風貌の、制服を着た少女が映っていた。

何故だか見覚えのあるような気がした。

『あやせ えり

・とくちょう
かしこい

・すきなもの
バレエ

・くちぐせ
はらしょー』


この制服は、確か音ノ木坂学院の物だ。
外見も特徴的ではあるし、特定は簡単だろう。


「ようやく……行ける。あの部屋に……」


今感じている高揚は、とても普段の生活で得られるものではない。

あのサイトを見たときから、ずっと心に感じていた違和感。
それがようやく解消されるのだ。

この女を倒す……つまり殺すことで、目的を果たせるなら安いものだ。

彼は部屋の隅にある金庫を開けた。

そこに入っているモノは、一応は普通の高校生である彼がおいそれと手に入れられる物ではないし、持っていていい物でもない。

黒光りするそれは、拳銃だった。

コルトガバメント。
大口径の弾丸を発射できる強力なオートマチックピストル。

それをまるで扱い慣れた物であるかのように取り出すと、分解してメンテナンスを始めた。


これから使う。


その意思表示であった。


ーーーーーー


海未「…どういうことですか?」


突然μ'sへの参加を希望した絢瀬先輩は、その日の練習が終わった後、私を生徒会室へ呼び出しました。


絵里「このサイトを見てくれる?」


彼女がパソコンを立ち上げ、小説の連載されているサイトを開きました。

『黒い球体の部屋』。タイトルはこう書かれていました。
あらすじに出てくる、『星人』、『死んだはずの人々』というワード。
間違いなく、私が先日体験したことのようです。


絵里「昨日更新されてたわ。『ねぎ星人』っていう話よ」


『ねぎ星人』。こんなサイトを作れる人物は、一人しかいません。

海未 (西っ…)


彼は去る直前、あの部屋について一切口外しないように忠告していきました。

ネットに書き込むことは許されているのでしょうか…?

先輩が画面をスクロールさせました。


絵里「この小説で、人物に名前は付けられていない。
でもこの『ねぎ星人』は違う」


画面の一箇所を指さして、さらに続けます。


絵里「これ、あなたのことじゃない?」


そこには確かに、片仮名で『ソノダウミ』と書かれていました。

海未「…っ!」


動揺を悟られないよう必死でした。

はいそうです、と言える訳がありません。


絵里「…本当の事を言って欲しいの。
この小説の内容、実話だったりする?」


絵里がまっすぐに私の目を見つめました。

私はあえて目を逸らさず答えます。


海未「こんなことが実際にあると思っているのですか? 先輩。
フィクションに決まっているじゃないですか」


絵里はしばらく何も言いませんでした。
冷や汗が流れました。
下手すれば、私はガンツに処刑されかねないのです。

絵里「…そうよね。ごめんなさい、時間取らせちゃって」


拍子抜けするほどあっさり、彼女は会話を終わらせました。
パソコンを閉じ、荷物をまとめ始めます。


絵里「もう帰っていいわよ」

海未「そうですか…? 失礼します」


私は生徒会室を出ました。

先輩の奇妙な態度を気になりましたが、あまり詮索したいとも思えません。

私の頭には……あの爆弾が埋め込まれているのですから。

ほとんど人気の無くなった学校を出ると、私は家路につきました。

ーーーーーー

夜。

穂乃果は非常に珍しく、真面目に宿題をしていた。
もっとも、わかるとは言っていないが。


穂乃果「ぬわー、わかんない!
そうだ、ことりちゃんにメールして聞こう!」


海未に聞いてもちゃんと教えてもらえるのだろうが、小言の一つや二つ覚悟しておかねばならない。
それに……


穂乃果 (あんなことがあった後だもんね…)


別に仲が気まずくなったとか、そういう訳ではない。

しかし二人きりで話すと、どうしてもあの日の事を思い出してしまうだろう。

穂乃果は携帯を手に取った。

南ことりの連絡先を開き、メールを打とうとした瞬間だった。


ゾクゾクッ…


急に首筋に寒気を感じた。


穂乃果 (なんだろ?)


思わず首に手を当てる。
虫でも這っていたのだろうか。
だとしたら気味が悪い。

だが、虫の方が良かったと、彼女は深く感じる事になる。

何故なら、またあの『転送』が始まったからだ。


穂乃果「う、嘘…またなの!?」


彼女の体が、部屋から消失した。

ーーーーーー


妙な寒気を首筋に感じたと思ったら、またこの部屋に転送されてしまいました。

私は部屋を見渡します。

そこには西、穂乃果の他にも、8人いました。


お婆さんと、その孫らしい幼い少年。

制服を着た男子高校生。

髪が顔を隠すほど長い女性。

そして、前回いたヤクザほどではないにせよ、ガラの悪い風貌の青年が四人。


また、死んだはずの人間が呼び出されたようです。

とにかく私は、西に声をかけました。

海未「西、あなたは『黒い球体の部屋』というサイトを書いていますね?」

西「ああ。アレを見たのか」


西はあっさり認めました。


海未「この部屋のことを口外したら処刑されるのではないのですか?」

西「なんか、基準は曖昧なんだよね。
ガンツ、けっこー適当だから」


いまいち納得はできませんが、これ以上聞いても意味はないでしょう。

ガンツに向き直ると、ちょうどラジオ体操の歌が流れるところでした。

そして、またあの文章が浮かび上がります。

ガラの悪い青年達が、ガンツを覗き込みました。

「ンだよ、新しい命だぁ?」

「日本語おかしーだろこいつ」


やはり、自分の置かれている状況を把握できていないようです。
無理もありません。

前回のように、ターゲットの写真も表示されました。


『田中星人

・とくちょう
つよい とり さわやか

・すきなもの
とり からす

・くちぐせ
ハァー、ハァー』


古くさい人形のような外見をした星人でした。
そもそも生き物であるかがよくわかりません。

また前回同様、ガンツの両サイドと後方が開きました。

青年達が興味深そうに銃を手に取ります。


「オモチャじゃねーの?」

「だっせえ銃だなオイ」

「鉄ちゃんこれ見てみろよ」


リーダー格らしい鉄ちゃんと呼ばれた青年に、仲間の一人がスーツの入ったケースを渡しました。
そこには鉄男と書かれています。
彼の名前のようです。


「着てみろよ」


中身の黒いラバースーツを取り出し、鉄男さんに押し付けます。


鉄男「ざけんなよ! ダセェっつの」

穂乃果「みなさん! よく聞いてくださいっ!!」


その時、穂乃果が声を張り上げて言いました。


穂乃果「わたしたちはこれから、とても恐ろしいことに巻き込まれます!
生き残るためには、まずこのスーツを着てください!」


穂乃果は自分の名前が入ったケースを掲げました。

その様子を、西が鼻で笑いました。


西「…フン。バカじゃねーの?」


穂乃果は続けます。


穂乃果「それと、その銃は絶対人に向けないでください。本物です!」


銃をいじっていた青年の一人がニヤリと笑うと、銃を穂乃果に向けました。

「そーかよ。じゃあ試し撃ちだ」

海未「なっ、なにをするんですか!
やめなさいっ!」


私が静止したときにはもう遅く、青年が引き金を引いてしまいました。

しかし、何も起こりません。


「はぁ? やっぱりオモチャじゃねーか」


つまらなそうに言いました。
穂乃果が答えます。


穂乃果「それは、二つある引き金を同時に引かないと意味がありません」


確かに、その銃には引き金が二つありました。

穂乃果はガンツから銃を取り出しました。


穂乃果「誰か、ペットボトルとか持ってませんか?」

ずっと黙っていた男子高校生が言いました。


「俺持ってっけど」


スポーツドリンクのペットボトルで、もう中身は空でした。

穂乃果はそれを受け取ると床に置き、銃を構えました。


ギョーン


青白い光がペットボトルを照らします。
しかし、それだけでした。


鉄男「なんも起きねーじゃんか」


鉄男さんが言ったときでした。


バンッ!


ペットボトルが粉々に破裂しました。

その場にいた者は、皆目を見開きました。


「すっげえ…」

「本物じゃねーかよ!」


青年達が興奮気味に銃を握りしめました。

穂乃果が改めて言いました。


穂乃果「とても危険な物です! 絶対人には向けないで!
そしてスーツを…」


最後まで言い終わらない内に、転送が開始されました。

穂乃果の体が消えていきます。

続いて、西や青年達も転送されていきました。


「これ持ってけばいいのか!?」


男子高校生が、『北条』と書かれたケースを持ちました。

その後ろには、長い髪の女性もいます。

北条さんが彼女に気づき、「うわっ!?」と声を上げました。
彼女のケースには、『サダコ』と書かれていました。


少年「こわいよー! おばあちゃーん!」

老婆「大丈夫よ、お婆ちゃんついてるからねっ!」


お婆さんと少年も転送されます。

私は前回から置きっ放しにしていたスーツと刀を持つと、静かに転送を待ちました。

ーーーーーー


転送された先は、また住宅街でした。


穂乃果「海未ちゃん! あの小さい子とお婆さん見なかった!?」


前方から穂乃果が走ってきて言いました。
どうやらあのお婆さんと少年は、私たちとは少し離れた地点に転送されてしまったようです。


海未「いえ、見ていませんが…」

穂乃果「わかった! ちょっと探してくる!」

海未「穂乃果っ! その前にスーツを着てください!」


彼女はケースを持ってきてはいるものの、まだスーツを着用していませんでした。

穂乃果「えっ…でも着替えるとこなんて……」


そういえば、穂乃果には話していませんでした。


海未「星人以外に私たちの姿は見えていないんです。他の人たちのいないところなら、どこでも着替えられますよ」

穂乃果「海未ちゃん……ちょっとキャラ変わった?」

海未「そうでしょうか?」


穂乃果が腑に落ちない表情で私を見つめました。
しかしすぐにお婆さんと少年のことを考え、走り去っていきます。


海未「さて…とにかくあの人たちと合流しますか」


歩き出したその時でした。



ぶちゅり。


海未「ひゃあっ!?」


急に足の裏を襲った不快な感触に、思わず甲高く叫びました。

恐る恐る足元に目をやります。


「キエーッ! キエーッ!」


そこには異常なまでに目玉の飛び出た、カラスのような鳥がいました。

体が半分千切れ、傷口から赤黒い液体が溢れています。


海未「・っ……ど、どうしましょう…」


先日凄惨な光景を嫌と言うほど見せつけられましたが、慣れるものではありません。

私は眉をひそめました。

なおも鳥は鳴き続けます。
すると、同じ鳥があたりからわらわらと集まってきました。

10匹ほどが私の周りを取り囲んだ頃でしょうか。

背後から、ガショーン、ガショーンと、機械的な足音が聞こえてきます。

なんだか、とても嫌な予感がしました。
意を決して振り返ります。


「雄三くん?」


そこには、ガンツにターゲットとして表示された『田中星人』がいました。

投下終了です。

次回は海未(スーツ未着用)vs田中星人です。
まあ銃ナシじゃ勝てませんね

1です。

今夜投下します。

ーーーーーー


穂乃果が去った直後だった。

ガショーン、ガショーンと機械的な足音がしたかと思うと、無機質な人形の姿をしたターゲット、田中星人が北条と鉄男達の前に出現した。


鉄男「オイオイどうすんだよコイツ」

「撃てばいんじゃね?」


鉄男達が銃を構えた。

北条もそれに倣う。

拳銃サイズのそれの背部には、小さな液晶が取り付けられていた。
田中星人に向けると、レントゲンのように骨格が映し出された。


北条「生き物…なのか?」


しかしその骨格は、少なくとも人間のモノではなかった。

「…なんか俺の銃おかしーんだけど」


青年の一人が声を上げた。
部屋で穂乃果に銃を向けた者だ。


鉄男「なんだよ?」


鉄男が彼の銃を手に取り、液晶を除いた。
どこに向けても、画面が変化する様子がない。
人の骨格が映っている状態でロックが掛かっているようだ。
おそらく先ほどの穂乃果だろう。


「故障かよオイ」


彼は田中星人に向き合うのをやめた。


「なんか言えよコラッ!」

「撃っちまうぞ!」


他の青年達は、田中星人を取り囲んで威圧している。

田中星人「雄三くん?」


ふいに田中星人が言った。


鉄男「は? わけわかんねーぞおい」

「撃っちまおうぜ」


3人が引き金を引こうとする。

それと同時だった。
田中星人の足元から煙が噴出したかと思うと、ロケットよろしく飛び上がった。

ギョーンと音が鳴り3つの銃口が一斉に発光するが、その光は田中星人を照らすことなく、向かい側にいた仲間に当たってしまう。


鉄男「おっ、おいッ! お前ら…」


たまたま光を浴びなかった鉄男が2人に寄った。

メリッ、メリメリッ


鉄男の目の前で、2人の青年の頭部が膨張していった。

そして……


ババンッ!!


脳漿を撒き散らして破裂する。


北条「・っ!?」


あまりの光景に北条は口元を押さえた。
今まで嗅いだことのない不快な匂いが吐き気を催す。

2人の体液をモロに浴びた鉄男は呆然としていた。


空中に逃げた田中星人が、鉄男の眼前に降り立った。


鉄男「てッ、てめぇ!」


鉄男が再び銃を向ける。

いつの間にか田中星人の顔は、『怒り』が感じ取れるものになっていた。


「鉄ちゃん逃げろ!」


銃の不調により運良く難を逃れた青年が叫ぶ。


鉄男「いや殺すッ! ゾク舐めてンじゃねえぞ!!」


どうやら彼らはゾクだったらしい。
こんな状況にも関わらず、北条は「今どきいるもんだな」と思った。


ギョーンギョーンギョーンギョーン


鉄男が銃を乱射する。
田中星人はロケット噴射で地面すれすれを滑るように移動した。

当然、光は当たらなかった。

タイムラグの後、電柱や民家の塀が爆散する。


北条「ちゃんと狙えよっ!」

鉄男「うっせえッ!」

田中星人の移動は意外と素早く、狙う事は容易でない。

北条は同士討ちで死んだ2人のゾクの死体に寄ると、それぞれの手から銃をもぎ取った。


北条「うおおおッ!!」


ギョーンギョーンギョーンギョーン


当たらないことを承知で撃ちまくる。
道路のアスファルトが次々と爆散した。

鉄男と北条による銃撃で、あたりにはコンクリートの破片が飛び散っていた。
田中星人が距離を取った。


北条「逃げれるぞ!」


北条が走り出す。
鉄男ともう一人のゾクも続いた。

ーーーーーー


海未「は……はい、雄三…です」


質問の意味は全くもってわかりませんが、私は反射的に答えていました。

スーツをまだ着用していない状態で星人と遭遇してしまうなど、運が悪いとしか言いようがありません。

とにかく、一度逃げましょう。

通用するか危ういですが、私は愛想笑いを作ると、一歩後ろへ下がろうとしました。


ブチュッ!


冷や汗が流れました。

さっきと同じ感覚。足元でまたあの鳥が潰れているのを見ると、私は恐る恐る田中星人に視線を戻しました。

田中星人「……」


その機械的な顔が明らかに怒りに歪んでいました。

両足がガタガタと震えました。


海未「あ…あの……」


田中星人がガバッと口を開けたかと思うと、内部から眩い光が迸ります。

攻撃であることはわかりきっていました。


海未「ごっ、ごめんなさいぃぃ!?」


私は回れ右すると、一目散に逃げ出しました。

ーーーーーー


……間に合わなかった。


老婆と少年が抱き合うようにして倒れていた。
2人の目と耳、鼻から赤い血液がドロドロと流れ出ている。


穂乃果「2人とも!」


穂乃果は駆け寄った。
手首に指を当てる。。
何度試しても、脈は無かった。


穂乃果「うっ…、嘘だよね?」


血の気が引くのを感じた。
こんなに小さな子まで……


穂乃果「わたしがスーツを着てたから……そんなことしてたから!」


ボロボロと涙が零れた。

あと数分早く見つけていれば、助けられたかもしれないのに!

「おい、泣いてるヒマなんてねーぞ?」


背後から冷たい声がした。

穂乃果が振り向くと、火花とともに一人の少年が出現する。
西だ。


穂乃果「西君……まさか、見てたの?」

西「お前、俺の事を悪魔かなんかと勘違いしてねえ?」


そもそも彼の事だ。
2人が殺害されるのを放っておいたとしても、星人を見逃す筈はない。


西「今回は数が多いみたいだ。俺と組まないか?」

穂乃果「組むって…、星人を殺すってことでしょ?」


穂乃果は西を睨んだ。
生き物を殺す事に、相当抵抗があるらしい。

西「寝ぼけたコト言ってんなよ」


西の口調がきつくなった。


西「…このババァとガキ見ろよ。なんもしてねーのに殺されてンだ。
死にてーなら死ねよ偽善者が」


ゾクリ、と、穂乃果の背すじに悪寒が走った。
年下の中学生とは思えないほど、その言葉には只ならぬモノが含まれていた。

西が続けた。


西「ここまでしてやる義理はねーけど、殺さなくて済む手段はあるぜ」


西は、前回のメンバーが使っていた物とは違うタイプの銃も持っていた。

銃口が三つにわかれている、変わった外見をしている。

西「ワイヤーで星人を拘束する銃だ。ンでもっかい引き金を引くと、どっか別のとこに転送される」


説明すると、それを穂乃果に投げて寄越した。


西「制限時間があるんだ。早いとこ星人をぶっ殺さねえとクリアにならない」

穂乃果「時間を過ぎると…どうなるの?」

西「さあ? 今までそんなこと無かったけどさ……
やっぱ、処刑じゃね?」

穂乃果「っ!?」


穂乃果は身震いした。

生きて帰る為なら……戦うしか、ないのだろうか?

まだ迷いはあった。
しかし彼女はとにかく、渡された銃を握りしめた。


ーーーーーー


海未「はぁっ、はぁっ、はぁっ…せ、せめてスーツをっ!」


着させてくださいっ!

しかしそんな願いが通じるはずもなく、田中星人は容赦なく私に追い下がってきました。

田中星人の口が発光します。

びりびりと空気が震え、耳に強い衝撃を感じました。

気がつくと、私は地面に倒れ込んでいました。


海未「超音波…ですかっ!?」


平衡感覚が狂ってしまい、うまく立てません。
田中星人が苦もなく私に追いつき、しゃがみ込むと再び超音波を発しようと口を開きました。

この距離で食らえば……間違いなく死にます。


海未「しっ……死んでっ、たまるものですか!」


残された力を振り絞って地面から跳び起き、まずスーツを放り捨てました。

田中星人が照準を修正します。
その口をまっすぐ私に向けました。

私はすかさず、まだ刃を伸ばしていない刀の先を田中星人の口に突っ込みました。


海未「はあああっ!!」


スーツを着ていないことも忘れ、渾身の力で刀を田中星人の喉へと押し込みます。

田中星人が苦悶の声を上げました。
しかし発光は止まりません。

もし今超音波が発射されたら即死でしょう。

刀の柄が半分ほど口内に入ったのを見ると、私は心の中で「伸びろ」と叫びました。

ザクッ!!


思わず目を瞑りました。

失敗したら死ぬのは自分です。
今のところ、超音波は食らっていないようです。

何秒…いえ、何分経ったでしょうか。

私は目を開けました。


田中星人のあんぐりと開いた口から、血がドバドバと流れ、私の服を赤く染めていました。

刀から手を離すと、田中星人の体がゆらりと後方に倒れ、ガチャンと派手な音を立てました。

どうやら私の狙い通り、伸ばされた刀は見事に田中星人の体内を破壊してくれたようです。


海未「はッ、はッ、はッ……」

荒くなった息を整えようと、そのまま座り込みました。

初めて星人を倒し……いえ、殺した、と言うべきでしょうか?

とにかく、これでミッションは終了です。
犠牲を出さずに全員が帰れるのです。

私は転送を待ちました。
しかし、一向に始まる気配がありません。

奇妙に感じたその時、私は『ねぎ星人』のミッションの後に穂乃果が言っていた事を思い出しました。

あの大男だけでなく、子供もいた。
つまり、敵は一体だけではなくて……


海未「穂乃果っ!」


休んでいる場合ではありません!

私は立ち上がると、穂乃果を探して駆け出しました。

投下終了です。

次回は穂乃果&西サイドやります。

1です。

投下します

1です。投下します

ーーーーーー


西「…二体か」


たまたま近いポイントにいた、民家のガレージに潜伏している田中星人達に西と穂乃果は銃を向けた。

まだこちらに気づいてはいない。
その油断しきった様子から、老婆と少年を殺した連中なのではないかと穂乃果は予想した。

敵は排除したと思っているのだろう。


穂乃果「撃ち方はこれも一緒だよね?」

西「ああ。ガンツが用意した銃の使い方はみんな同じだ」


囁き声を交わす。


西「いくぞ。いち、にの…」


穂乃果は指に力を込めた。

西「さんっ!」


ギョーンギョーンギョーンギョーン


それぞれ2発ずつ撃った。
穂乃果の銃は、発光する代わりに逆三角形の光るワイヤーを射出した。

田中星人の体に2発とも巻きつくと、頂点の部分がクルクルと回転し、最終的に地面に打ち込まれてその体を完全に拘束する。

ほぼ同時に、西の銃撃を食らった田中星人が爆散する。

飛び散る血や肉に穂乃果は顔をしかめたが、今度は動じなかった。
だが、西は彼女が相当無理をしていると感じた。

別に配慮してやるつもりもないが。


穂乃果「えっと…、もっかい引くんだよね」


再び引き金を引くと、拘束された田中星人は空から伸びた光線によって『転送』されていった。

穂乃果「これ、どこに運んでるの?」


穂乃果が率直な疑問をぶつけた。
西は肩をすくめて答える。


西「さあな。『上』じゃねえの?」

穂乃果「『上』って…見ればわかるよ」


転送される先は宇宙かなにかだろうか。
もしターゲットが本当に侵略して来た宇宙人だと言うのなら、母星に強制送還といったところかもしれない。

西はまたデバイスを見た。


西「ちょっと離れてっけど……何体もまとまってるな。
一気にカタをつけてやる」


西の顔が嗜虐的に歪んだ。

戦いを愉しんでいるようにも見える態度に、穂乃果は少し不快感を感じたが、文句ではなく別の質問を投げかけた。

穂乃果「さっきみたいな透明化もこれでできるの?」

西「周波数の変更か? 素人はやめとけ。
ある程度賢い星人だと看破するし、味方からも見えねーんだからな」


……周波数って、ラジオのアレだよね?


あまり頭のよろしくない穂乃果には過ぎた機能のようだ。


西「んじゃ行くぞ」


西が歩き出す。
より多数の敵を相手取らねばならないことは不安だったが、付いていく他なかった。


以外と簡単に星人を捕獲した穂乃果は勿論の事、西も多少は油断していた。

星人の密集している場所に自ら赴くということのリスクは、相当なモノであるというのに。

ーーーーーー


北条達3人は命からがら田中星人の攻撃から逃れた。

息を切らして肩で呼吸をしながらも、後方を恐る恐る確認する。
うまく巻いたようだ。

そこで北条は重要な事に気づく。


北条「スーツ……どっかに置いてきた…」


あの部屋では半信半疑であったが、実際に摩訶不思議な星人を見た後では、スーツの重要性を理解していた。

どのタイミングで落としたのだろうか。
しかし戻る訳にはいかない。

途方に暮れたその時、後ろから肩を叩かれた。

北条「なんだ?」


鉄男とか呼ばれていた男か、その仲間のゾクだろう。
そう思って振り返ると、そこには星人以上に恐ろしい、『ヤツ』がいた。


北条「うわああああああ!!?」

鉄男「お、おい! なんだよ!?」

ゾク「またアイツか!?」


北条の悲鳴に鉄男達も反射的に顔を向けた。
しかし、北条が見たのは先ほどの星人などではない。


ーー通称サダコ。北条が死亡する原因を間接的に作り出したストーカー女だった。

顔を完全に前髪が覆い隠しているので素顔はわからない。
別に見たくもない。


北条「ちょっ! お前ら助けっ…」


鉄男とゾクに哀願するかのように縋ったが、彼らの反応は冷ややかだった。


鉄男「知らねーよ。自分でどーにかしろ」

ゾク「黙れっての! さっきのが来るかもしんねーだろが!」


半ば絶望しつつサダコに向き直った北条だが、そこで彼女が手にしている二つのケースに目が留まった。

一つには『サダコ』、もう一つには『北条』と記入されている。

北条「持ってきて…、くれたのか?」


サダコはコクリと頷くと、『北条』と書かれた方を差し出した。
北条は受け取ると、一応軽く会釈をする。

さて、これはどこかの物陰で着るとして、これからどうしようか。

あっという間に、誤射とはいえ二人の人間が死亡したのだ。
下手に動くのは当然危険だが、何かを知っているらしい女子高生達と中学生に合流すべきだろう。

それとも下手に動かない方が安全か?

考えても結論は出ない。なら動こう。
北条は黒光りする二丁の銃を見下ろした。


いざとなれば、こいつを使う。


ーーーーーー


西「…ここだな」


星人が集中しているという場所は古びたアパートだった。

思い出したくもないことだが、穂乃果はねぎ星人を連想した。
宇宙人とは、こういう所に住むモノだったのだろうか?


穂乃果「ねえ、ひょっとして……入るの?」


顔を引きつらせながら質問する穂乃果に、西はニヤリと笑みを浮かべて答えた。


西「当たり前だろ。高得点の大チャンスだぜ?」

穂乃果「得点?」

穂乃果は首を傾げた。

このミッションにおいて一番重要とも言える話をしていなかったことを思い出した西は説明する。


西「星人を倒すと点数が入る。100点になったらガンツから報酬を貰えるんだ」

穂乃果「報酬って?」


こんな戦いを強いるあの黒球が、自分達に何を与えるというのだろう。

西は続けた。


西「一つ目はこのミッションからの解放だ。記憶は消去されるけどな。
二つ目はより強力な武器の入手。
…この戦いを楽しむ連中もいるってことだな」


穂乃果には二つ目を選ぶ人間の神経がわからなかった。


西「んで最後がミッション中に死んだ人間の再生だ。まあこっちも物好きが選ぶな」

当然湧き上がってくる疑問を、穂乃果は西に投げかけた。


穂乃果「西君は、やっぱり一番?」


あの冷徹さからも、彼は相当自身の生存に執着しているはずだ。
だから、解放以外あり得ないと穂乃果は思った。

しかし、西からの答えは意外なものだった。


西「お前、本気で言ってるのか?」


呆れたようにそう言ったのだ。

穂乃果にはその真意はわからないが、西はそそくさとアパートに歩みを進めたため、会話は終了となってしまった。

その態度に納得はいかないが、穂乃果は西の後を追う。

そのアパートは、どうやら集合玄関で靴を脱ぎ、そこから各々の個室に入るタイプのものらしい。


ーー古い。とにかく古い。


穂乃果は物珍しそうに室内を見渡した。
アパートというより、昔の学生寮のらようだ。


それにしても、と穂乃果は思う。

ねぎ星人のミッションが終わったあとはショックで意識がはっきりしていなかったが、確か西は90点に達していたはずだ。

田中星人一体が何点かはわからない。しかし、このアパートにいる個体全てを倒せば恐らく彼は100点を越えるだろう。

部屋を一つ一つ確認する西の様子は、心なしか功を焦っているようにも見える。

無鉄砲さ故にあらゆる失態を経験している穂乃果は感じた。



ーーーこの状態って、まずいよね?


よくよく考えると、ここは敵の本拠地。

逃げ場のない閉鎖的な空間。

自分達より明らかに数が多く、不意打ちしたため能力の掴めない田中星人。


穂乃果「西くんっ!」


一度撤退しよう。

そう言おうとした瞬間だった。

西と穂乃果のちょうど間の天井から、ミシミシと何かの軋むような音が聞こえてきた。

西が気づいた時にはもう遅かった。

見るからに脆い天井を破って、大きな質量を持った『何か』が落下、いや着地する。


全身を体毛で覆われた巨大な体躯と逞しい翼。

パイプのような物が繋がれている鋭い嘴。


要するに……



鳥人のようなクリーチャーだった。



相変わらず時間がとれないので少量ですが終了します。

次回は海未と北条を活躍させたいですね。
あと西君にもちゃんと戦闘をしてもらいます(断言

ーーーーーー


雪穂「お姉ちゃんレイカ出たよー!」


『宿題やるからレイカ出たら教えて!』
と言って部屋に引っ込んだ穂乃果を呼んだはいいが、来る気配がない。


雪穂「…宿題やるって言っといて。
寝ちゃったの?」


時計は既に0時近い。
あの姉のことだ。寝てもおかしくはないだろう。
ここで律儀に呼びに行くあたり、できた妹である。

2階に上がり、穂乃果の部屋の扉を開けた。


雪穂「ちょっとお姉ちゃん…ってあれ?」

確かに穂乃果は自室に戻った筈なのに、いない。
トイレには誰も入っていなかったと思うのだが…


雪穂「おかしいなあ。どこ行っちゃったんだろ…」


室内を見渡すと、テーブルの上には宿題らしきプリントやノートが置かれていた。
穂乃果は確かにここにいたらしい。

こんな深夜に外出したのだろうか。
テレビに夢中になっていたせいで気づかなかったのかもしれない。


雪穂「まったく…どこ行ったんだろ。最近物騒なのに」


居間に戻ってテレビの続きを見ようとしたが、その時欠伸が漏れた。

やっぱり寝よう。

雪穂は一応電気を消すと、穂乃果の部屋を去った。


ーーーーーー


まさか雪穂が、今現在姉が置かれている大ピンチを予測できる筈もない。

ベテランである西と行動を共にしてなお、絶対絶命とも言える状況だった。


アパートの2階から天井を突き破って降り立った巨大な鳥。
それに続き、何体もの田中星人が現れる。

その数、6体。


穂乃果と西を引き裂くように出現した彼らは、三体が穂乃果、もう三体が西に狙いを定めている。

巨大な鳥は西の方を向いていた。


穂乃果「に、西くん…」


せめて判断を仰ごうと穂乃果が声を絞り出す。
震えていて、とても聞き取れたものではなかった。

しかし辛うじて聞こえたのか、西は答えた。


西「はぁッ、はあッ、逃げンなよ……ここでやるッ!」


玄関側にいる穂乃果は、西を見捨てれば逃亡も可能だろう。
仮にそうすれば、西の生存は絶望的とはいかないまでもきついものになる。

もっとも、穂乃果には見捨てるなどという選択肢は元よりなかったのだが。


穂乃果は捕獲銃を、西はハンドガンを構えた。

この近距離で数も多いと来れば、どの個体かには当たるだろう。


西「撃てッ!!」


西が叫んだ。

ギョーンギョーン

ギョーンギョーン

ギョーンギョーン


どこか間の抜けた音が立て続けに鳴り、ハンドガンが発光し捕獲銃はワイヤーを射出する。

西に迫る三体の田中星人の中の一体が爆散した。


西「ちッくしょッ! 当たれッての!」


ギョーンギョーンギョーン


田中星人側も、ただ狩られる訳にはいかない。

足の裏からジェットエンジンかなにかのようにエネルギーを噴射して飛び回り、西の射線上から回避する。

この狭い室内だ。
田中星人達の容赦ない回避行動により、アパートの壁や天井は悉く穴が開いていった。

さらに、銃の光を浴びた箇所は次々と爆破されるため、アパートの倒壊は時間の問題である。


一方穂乃果は、一体の田中星人も捕獲できずにいた。

対して狙わずに撃ったワイヤーがそう簡単に目標を捉えてくれるはずがない。
壁でバウンドしたり、柱に巻きつくのが関の山だ。


穂乃果「お願いっ! 当たって!」


これで何発目だろうか。

目の前の田中星人には当たらなかったものの、その奥にいる巨大な鳥にワイヤーが巻きついた。


ーーやった!


穂乃果はすかさず転送しようとした。

しかしその指が再びトリガーを引く直前、田中星人の一体が穂乃果へと突撃した。

いつの間にか、田中星人達の機械的な顔が変化していた。

目を釣り上げ、その表情は明らかに怒りを示している。

足からのジェット噴射で一気に距離を詰めた田中星人は、減速することなく穂乃果に体当たりを食らわせる。


穂乃果「うっ…」


体がアパートの外にまで弾き飛ばされた。
捕獲銃が手から離れる。

スーツのお陰で痛みはない。
しかし、せっかく捕獲したボスを取り逃がしてしまった。

見ると、巨鳥はその嘴でワイヤーを引き剥がしにかかっていた。

穂乃果を攻撃した田中星人はそのままアパートの外に出ていた。
つまり、西は室内で五体の田中星人とボスに囲まれていることになる。

アパートに取り残された西が気掛かりではあるが、とても人の事を心配している場合ではなかった。

捕獲銃を失った穂乃果は、スーツを着用しているとはいえ丸腰だ。
格闘技の経験など体育で軽く触る柔道くらいだし、そんなものが目の前の異星人に通用するとは思えない。

逃げる以外手はなかった。
だが、そうすると西を見捨てることになる。
お世辞にも善人とは言い難いが、だからと言って見殺しにしていいという訳ではない。

しかし助けに行こうにも、田中星人がそれを許さないだろう。


穂乃果「西くんっ!! 無事っ!?」


穂乃果はありったけの声で叫んだ。

返って来たのは西からの返事ではなかった。


メリメリメリメリッ!!!


穂乃果が耳にしたのは、アパートの形が奇妙に歪む音だった。

僅かに間が空き、次はその屋根がゆっくりと沈み込む。

そして柱がバキリと折れた。


穂乃果「っ!?」


穂乃果は目の前の星人の事も忘れて息を呑んだ。

柱が折れてからはあっという間だった。

老朽化が進んだ木造建築のアパートは、破片を撒き散らしながらあっけなく崩れ落ちた。

ーーーーーー


穂乃果が外に飛ばされ、室内の田中星人全てが自分に狙いを定めた瞬間、西は最終手段に出る事を決意した。


西「うおおおおォォォッ!!」


ギョーンギョーンギョーンギョーン
ギョーンギョーンギョーンギョーン
ギョーンギョーンギョーンギョーン


天井、壁、扉、床、柱ーーーつまりはこのアパートそのものに、躊躇することなく銃撃を浴びせた。

西の狙いを理解したのかは知らないが、田中星人達は口内を一斉に発光させる。
彼の経験は、それが遠距離、かつ範囲攻撃の予兆であると悟った。


ーーー間に合えッ!


彼の願いが通じたのか、星人の攻撃より早くアパートが崩落を始めた。

天井が丸ごと落下し、早速田中星人一体が下敷きになる。

これは一種の賭けだった。


大質量に対し、星人とスーツ、どちらが耐えるかという事だ。


西は静かに目を瞑ると、けたたましい轟音と身に降りかかる木材の重量に必死で耐えた。

うまく行けば、田中星人達は一層できる。

あの巨鳥は生き残ってしまうかもしれないが、一体だけならまだ勝機はあるだろう。

銃だけは取り落とさないように固く握り締めた。

大きな瓦礫が西の頭上に落下した。
そのまま彼は下敷きになってしまう。

その時、スーツに所々取り付けられたボタンのようなパーツからドロリとジェルが溢れた。

西「あッ…!」


冷静沈着な西が思わず声を漏らした。


スーツがーーーー死んだのだ。


アパートが完全に倒壊し、いつの間にか音は止んでいた。

星人が全て死んでいれば勝ち、もし残っていれば……、


恐らく、死ぬのは自分だ。


いつの間にか、体がガタガタ震えていた。

駄目だ。穂乃果を追った星人が残っている……

即行でぶっ殺してやる!

恐る恐る顔を上げ、周りを見渡すと、そこには大量の瓦礫があるだけで星人の姿はなかった。

アパートから少し離れた所に、穂乃果と対峙している生き残りを見つけた。ちょうど後ろを向いていた。

こちらに気づいた穂乃果があっ、と声を上げる。

西はすかさず星人に狙いを定め、銃を撃った。

ギョーンという音に気づいて振り返ったときには既に遅く、星人が爆散する。


西「勝ったッ! 俺の勝ちだッ!
ははははッ! ざまぁみやがれッ!」


緊張が解け、思わず哄笑が漏れる。

ボスも含めてあれだけ倒したのだ。
間違いなく100点に達している。

追い詰められていた反動か、完全に敵は片付けたと思い込んでいる。
要するに、油断しているのだ。


故に彼は気づかなかった。


ーーー自らの頭上を飛ぶ、巨大な黒い影に。


ベテランの底力を見せつけられ、呆然としていた穂乃果だったが、『それ』に気づいたのは先だった。


穂乃果「上っ!!」


彼女が叫んだ時には手遅れだった。

アパートの崩落からからくも逃れたボスーー巨鳥は、その強靭な翼を羽ばたかせ、遥か上空から西へと特攻した。


ーーーーーー


海未「穂乃果っ、穂乃果ぁっ!」


何分こうして走り回ったでしょうか。
一向に穂乃果とも、他の人達とも合流できません。
そして、星人とも遭遇しませんでした。

転送が始まらない以上、ミッションは終わってなどいないはずです。
つまりはまだ星人がいるという事。
特に今回初めての人にとっては危険です。

曲がり角を直感で右に曲がりました。

すると、道路の中心に倒れている小柄な人影が見えました。


海未「大丈夫ですかっ!?」


駆け寄ると、部屋にいたお婆さんと男の子でした。

二人の顔は血で真っ赤でした。
私は思わず目を背けてしまいます。


海未「こんな……むごいことを…」


やはり星人はまだいるようです。
二人を助けられなかった事は悔しく、悲しいですが、後悔している暇は一切ありません。

こうしている間にも、穂乃果が危ない目に遭っているかもしれないのです。

私は刀を伸ばしました。
まだ近くにいる可能性があります。

抵抗する力のない者にも攻撃するような連中ならば、こちらも躊躇わずに戦わなければなりません。

ーーーーーー


あの女子高生達と合流するために動き出したはいいが、まさか数分でまた遭遇してしまうとは……


北条「おいっ! こいつやるしかねえぞ!」


北条は銃を構えるが、鉄男とゾクは逃げ腰だった。


鉄男「ざけんなっつの! 俺らはスーツねえんだぞッ!」

ゾク「逃げんぞ鉄ちゃん!」


スーツにどんな効果があるのかはわからないが、とにかく北条はしっかりと着込んでいた。
ちなみにサダコも着ている。

粋がっているくせにちっとも役にたたない珍走団の生き残り二人は、一目散に逃げ出した。

北条「あっ、おいお前らちょっと…」


残されたのは北条とサダコだった。

まさかストーカーと共闘する羽目になるとは…


ちなみに北条は、銃を一丁サダコに渡していた。
サダコも北条にならって田中星人に銃を向ける。

それを見た田中星人の顔が歪む。
見るからに硬そうなのに、どうやって表情を作っているのだろうか。

田中星人は先ほどのようにジェット噴射で飛び上がった。


北条「撃て撃てっ!」


ギョーンギョーンギョーン


二人の銃が発光する。

しかし飛び回る目標にそう簡単に当たるはずもなかった。


北条「おらぁっ!」


銃撃を諦めた北条は、田中星人が高度を下げたタイミングを見計らって飛びついた。


北条「落ちろってのッ!」


しがみついたまま、田中星人の頭を殴りつける。
不思議な事に、拳に痛みは感じない。

スーツの効果はこれか!

確かに、殴られた部分が少しづつ陥没していっている。

ついに田中星人が墜落した。

北条は田中星人に馬乗りになると、そのまま一方的に殴り続ける。

田中星人はなす術もない。
北条は口から放たれる超音波の事を知らないが、たまたま頭部を攻撃しているため放てないのだ。


北条「おおおおッ!」


田中星人の顔面にヒビが入った。
そこに北条の拳が叩き込まれ、仮面が剥がれて田中星人の素顔が明らかになる。

北条は驚愕した。

田中星人の正体は、グロテスクな色をした人間サイズの鳥だったのだ。

仮面を失った鳥は、苦しそうに喘いでいる。

北条「こいつ…地球の生物なのか?」


こんな鳥は見た事がないし、この様子だと呼吸が出来ていないようだ。

間もなく鳥は動かなくなった。
ひとまず脅威は去ったと考えていいだろう。

次にすべき事は……


サダコ「………」ジーッ


この女を振り切ることだ。

北条は図らずも共闘してしまったストーカーからどう逃れようか思案し始めた。

不幸にも、戦いはまだ終わらない。

ーーーーーー


ゴリッ、ゴリッ…

グチャッ…ブチッ…ブチッ…



穂乃果は眼前で繰り広げられている光景をただ眺めていることしか出来なかった。

骨の砕ける音、辺りに散らばる血肉、漂う鉄の匂いーーー


ねぎ星人の時に経験したモノとは段違いだった。

純粋な殺意による殺戮とは違い、惨たらしい死に様を晒す事で同胞への手向けとするつもりなのだ。

『彼』はとっくに事切れていた。
スーツが壊れている状態では抵抗など意味をなさず、最初の数秒で叫び声は消えた。

その後はただ死体を弄ばれ巨鳥の思うがままに蹂躙される玩具と化した。

それが、90点ーーーいや、既に100点への到達が確定していた少年、西丈一郎の最期だった。

いつの間にか、真っ黒い巨鳥の体躯は血飛沫で赤く染まっていた。


穂乃果は地面に膝をついたまま、ただただ震えていた。
もはや逃げようとすら思いつかず、西の次に殺されるのを待っているかのようだ。


西の体に飽きたのか、巨鳥がゆっくりと振り返る。

その嘴は赤黒いロープ状の物を咥えていた。
ソレは確かに西の死体、いや残骸と言うべきモノに繋がっていた。

巨鳥はそれをベッと吐き出し、穂乃果へと歩き出した。


自らが陵辱されるとなってなお、彼女はまともに反応することができなかった。

巨鳥は鋭い鉤爪のついた脚で穂乃果を踏み付け、拘束した。

穂乃果「い……やッ、やめて…ッ」


か細い声で哀願する穂乃果を嘲笑うかのように、巨鳥は咆哮した。

空間を震わせるような轟音が響き渡り、恐怖で穂乃果の涙腺が決壊する。


穂乃果「うッ、えぐッ、やだ……死にたく…な…」


ズンッ!!!


まずはスーツを壊そうと、巨鳥は脚に力を入れた。
地面に穂乃果の体がめり込み、スーツのボタン状のパーツから軋むような音が出る。


その時、穂乃果の精神は完全に崩壊した。

ーーーーーー


私はようやく、あの部屋にいた者と合流できました。

息を切らして走ってきた鉄男さんとその仲間が一人。


海未「他の人達はどうしたのですか?」

鉄男「仲間が2人死んじまったよ!
なんなんだよこの状況ッ!?」

ゾク「スーツ着た高坊とキモい女が田中と戦ってんぞ!」


結局、これで犠牲者は4人。
あの2人……確か北条さんとサダコさんが戦闘しているなら、すぐにでも救援に向かわねばなりません。

しかしその必要はなくなりました。

少し離れたところに、彼ららしい人影が見えます。

私はそちらに手を振りました。
向こうも手を振り返し、こちらに駆けてきます。


海未「北条さん、星人は?」

北条「…倒したよ。けどこのスーツ一体なんなんだ?」

海未「私も正直よくわかりません。
いくら日本でもこんな物作れるとは……」


とにかく、これで穂乃果と西以外の生き残り全員が集まりました。


海未「あの部屋に戻らないということは、まだ敵がいます。
穂乃果、西と合流しましょう」

鉄男「はぁ? 帰れんじゃねえのかよ?」

海未「敵を全て倒すまでは無理です。
もしここから逃げようとしたら……、あの黒い球に殺されます」

北条「なんつーか、ほんとに地獄みてーだな。死ぬまでこんな事続けさせられんのか?」

海未「私もこのミッションは一度しか経験してません。しかしあの中学生…西は、何度も繰り返しているみたいです」


ねぎ星人を倒した後、部屋で行われた『採点』がふと頭をよぎりました。

西は確か、90点。


海未「いえ……もしかしたら、星人を大量に倒せば解放されるかもしれません」

北条「は? それってどういう……」


北条さんが私に言いかけた瞬間。

前回のねぎ星人より遥かに大きな、耳をつんざくような咆哮が聞こえました。

鉄男「オイオイなんだよ」

ゾク「猛獣でもいやがんのか!?」

海未「いえ。これはたぶん…星人ですっ!!」


私は咆哮の聞こえた方に駆け出しました。


北条「おっ、おいちょっと!?」


背後から北条さんも着いてきました。
いつの間にか、北条に張り付くようにしてサダコさんもいました。


もし、西でも敵わないような敵がいたとしたら……


悪い予感を振り払い、私は速度を上げます。

穂乃果が傷つく事だけは、意地でも許しません!

予定より遅れた投下でしたが、これにて終了です。

次回で田中星人は終わると思います

投下します。

結局ミッション終わりませんでした。

ーーーーーー


寝ようとベッドに潜り込んだとき、電話が鳴った。

こんな夜中に誰からだろうと思って画面を見ると、絵里からだ。


絵里『もしもし、希?』

希「どうしたんやえりち、珍しいなあ。
こんな遅くに電話してくるなんて」

絵里『…ねえ、去年の今頃の事、覚えてる?』


絵里の言葉で、希はあまり思い出したくない事を思い出した。


希「あれやろ…? 神功明里さんの」


そう、この時期だった。
何の脈絡もなく唐突に、一人の生徒が行方不明となったのだ。

希「そして…神功さんは…」

絵里『ええ。にこが始めたアイドル研究部を最初に辞めた子よ』

希「部活辞める時も、ほんとに突然だったらしいなぁ。
……ところでえりち、どうしてうちの入部届けが出されてるん?」

絵里『うちで9人やで〜、とか言って不自然に入るよりはマシでしょ。ほんとは気になってたくせに』


ーーああ、一人で入るのが嫌だったんやね。


絵里『話を戻すわ。希、あのサイトの最初の方、読んだ?』

希「軽くなら読んだで。それがどうかしたんか?」

絵里『そこに出てくる、とある女子校の制服を着たモデルのような少女って、彼女じゃないかしら?』

希「んー、確かに似てるけど、考えすぎやって。そんな本気にすることでも……」

最近の絵里の、『黒い球体の部屋』への執着ぶりは、正直異常だった。

いくら実際に存在する破壊痕と符合しているからといって、まさか夜な夜な宇宙人との戦争紛いの出来事が行われているなど信じられない。
一部のオカルトマニアやルポライターといった人種の注目は確かに集めているし、希自身も面白いとは思っているのだがーー


絵里『じゃああなた、最新話にでてくるソノダウミはどう説明するのかしら?』

希「う……」


そう。それが一番気がかりなのだ。
女子校の生徒であることに加え、身体的特徴も一致している。

さらに小説における口調も、アイドル研究部の彼女そのものだった。

フィクションにしては、出来過ぎている。

絵里『それだけじゃないわ』


絵里は続けた。まだ何かあるのだろうか?


絵里『理事長の親戚も、半年くらい前に行方不明になっているの。…南隼人さんだったかしら?
彼も神功明里さん同様、一切前触れ無しに消息を絶っているわ』

希「ちょっ、えりち! そんな誰でも関係者扱いするのは…」

絵里『……この小説で、神功さんが死亡した後に参加者になる男性。
彼の外見と、ミッションで死亡する日と行方不明になる日が同じなの。
さらに、親戚の女性に教育関係者がいる事も台詞で語られてるわ』

希「っ…!」


希は絶句した。

絵里が語っているのは暴論だというのに、『黒い球体の部屋』が実在すると仮定すれば全て筋が通ってしまうのだ。

絵里『ソノダウミと一緒に参加した生徒も、きっとアイドル研究部の誰かよ。
たぶん穂乃果さんかことりさんね』

希「それで…今うちに電話してきたのはなんでなん…?」


普通に明日、学校で話せばすむ話だ。
なぜこんな時間なのかと疑問をぶつける。

絵里は、今までの話は前置きだ、とでも言わんばかりに『ふぅっ』と息を吐き、答えた。


絵里『たった今、石橋区の住宅街で破壊活動が行われているわ。
塀や道路が突然爆発…そしてアパートも一軒倒壊したの』

希「…なんやて?」


リアルタイムでそんな事が起こっていることも十分驚きだが、絵里はずっとネットのニュースに張りついていたのだろうか。

絵里『もしかしたら、明日の朝……』


希には、その台詞の先が予想できた。


希「えりち。あんまり変な話はやめよ?
そんなことよりオープンキャンパスのライブの話しよか?」


とりあえずこの話題を切る。

絵里は少し黙り込んだが、すぐに口を開いた。


絵里『そうね。じゃあ振り付けのことだけど……』


明日の朝といっても、厳密には今日なのだがともかく。


誰かが学校に来ないかもしれない。


絵里は、そう言いたかったのだろう。

ーーーーーー


ねぎ星人と同じだ、といまさら気づきました。

穂乃果は決して危ない目にあっている人をーー例え西のような者でも見捨てませんし、保身を第一に考えて行動するような人間でもありません。


ーーだから、私は彼女が好きなんです。


そんな彼女が、化け物のように巨大な怪鳥に蹂躙されている。


『それ』を見たとたん、私の理性は吹き飛びました。

ーーーーーー


咆哮が聞こえると同時に走り去った海未を追って来た北条達の目に、信じられない光景が飛び込んできた。


真っ黒な巨鳥もそうだが、なによりそいつと全力で殺し合っている彼女が、海未が異常だった。

怪鳥が屈強な翼を羽ばたかせ空を舞う。
すると海未は刀の刀身をあり得ない長さに(実際にどこから出てきているのかわからないのだが)伸ばし、飛ぶ怪鳥の翼に叩きつけた。

切断こそ仕損なったものの、傷を負いバランスを崩した怪鳥は高度を落とす。

そのタイミングを逃さず、海未はスーツのアシストを活かして跳躍した。
怪鳥の背中に軽やかに降り立つ。


そして。



ザクッ!


刀を怪鳥の背中に突き立て、思い切り押し込んだ。


「ギエエエエエエエッッ!!!」


怪鳥が甲高い雄叫びを上げる。

鳥の感情など北条にはわからないが、間違いなく激痛に苦しんでいるはずだ。


北条「すげ……」


思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
自分の背後にはゾク達だけでなく、あのストーカー女がいることも忘れて。

怪鳥が墜落する。
海未はその背中から刀を引き抜いた。
それにより栓が外れ、怪鳥の体液が噴水のように噴出する。


海未「北条さんッ、穂乃果を頼みます!」


その声で、北条は海未と怪鳥から少し離れた所に横たわる少女に気がついた。気絶しているのだろう。

慌ててそちらに向かう。

彼女もスーツを着ているためか、辛うじてダメージは受けていないようだ。


北条「おいっ! しっかりしてくれ!」


揺さぶると、穂乃果と呼ばれた彼女は目を開いた。


穂乃果「え……? わたし、何して…?」

北条「いいから起きてくれ! 危ないからっ!」


北条が穂乃果を避難させる前に、彼女はあの恐ろしい巨鳥と戦う海未に気づいてしまった。


穂乃果「海未ちゃんッ!?」


穂乃果の脳裏に西の死に様が蘇る。

肉を裂かれ、骨を砕かれ、臓器を食い千切られ……


穂乃果「・ッ…!」


再び精神が悲鳴を上げる。
心優しい穂乃果には、あんな光景はなにより恐ろしいモノだったのだ。

しかしーーー


穂乃果「北条さん…銃持ってる?」

北条「はあっ!?」


彼は耳を疑った。
あんな戦闘に乱入するというのか?


穂乃果「……お願い」


その瞳は、今のいままで気絶していた者とは思えないほど、強い光を放っていた。

あの怪物と拮抗するあいつもアレだが、こいつも大概だ。

北条はため息をついた。
そして穂乃果に言う。


北条「…わかったよ。俺もやる」

穂乃果「えっ?」


北条は銃を穂乃果に渡すと、拳を固く握って怪鳥に向き直った。
海未が刀を振るっては怪鳥が避ける、といった攻防が続いている。

あそこにスーツを来た自分達が入れば……、いけるかもしれない。


北条「あいつを押さえつけられないか試す。
もしうまくいったら……頭を撃ってくれ。頼む」


つまり、穂乃果にトドメを刺すよう言っているのだ。

殺せるか、殺せないか。

全員の生存が、自分の覚悟にかかっている事を穂乃果は自覚した。


訳も分からず襲われた老婆と孫。

目の前で無惨に殺された西。

そして、目の前の怪物とたった一人で殺し合う親友。

穂乃果は決めた。


ーーやるしか、ないッ!


穂乃果「お願いします。…絶対、無茶はしないでください」

北条「お前こそ、あんまり無理すんなよ」


二人は怪鳥へと歩みを進めた。


海未「穂乃果ッ!? なにをしているんですか!」


それを見て海未が叫ぶ。


穂乃果「海未ちゃん! 一旦代わる!」


確かに、傷を負ってなお勢いが収まらない敵との攻防で、海未の疲労はあっという間に溜まってしまっていた。

海未がほんの一瞬の躊躇の後離脱する。

北条「うおおおおッ!」


海未の離脱とほぼ同時に、北条が飛びかかった。
怪鳥の首元にしがみ付き、思い切り締め上げる。

北条を引き剥がそうと滅茶苦茶に暴れ回る怪鳥に、穂乃果は一歩一歩近づいた。

チャンスは一瞬。
頭部を1発で破壊すれば事は済むが、下手にダメージを与えれば今のバーサーカー状態に拍車をかけるだけだ。

穂乃果と敵との距離はほぼ3m。

まだだ。
素人に当てられるかどうかわからない距離だと撃てない。

その時、怪鳥が体を激しく振り回し始めた。
遠心力で北条を吹き飛ばそうとしているのだろう。

北条「くうっ!? こンのぉッ!」


スーツの力があるとはいえ、怪物の怪力には勝てなかった。

抵抗虚しく北条の腕が剥がれ、その体が飛ばされる。

しかしその大きな動きにはスキも多かった。
少なくとも、穂乃果が怪鳥との距離を一気に詰められるくらいには。


穂乃果 (今だっ!)


怪鳥の目と鼻の先まで駆け、その頭に銃を突き付ける。

終わりだ。これで……

引き金を引けば、家に帰れる。
家族に、友達に、いつものように会えるーーー

しかし、穂乃果はほんの一瞬迷ってしまった。

今自分が撃とうとしているのは、さっき使った捕獲銃ではない。
ねぎ星人に、田中星人に対し存分にその過剰な威力を発揮した殺害専用の銃だ。

撃たなきゃいけないということはわかっている。しかしそれでも、ごく普通の女子高生がおいそれと受け入れられるものではなかった。


そしてその逡巡がーー文字通りではないにせよーー命取りとなった。


ギロリ。


怪鳥の眼光が穂乃果を射抜く。

接近は完璧だった。
それと同時に銃を撃っていれば、このミッションはクリアとなっていただろう。

穂乃果達の敗北が決まった訳ではないにせよ、少なくとも殺し合いはまだ続く。

穂乃果「ッ!」


ギョーン


反射的に引き金を引いていた。
ほんの一瞬前に考えていた事が全て消え去ったかのように、あっさりと。

しかし、怪鳥がその光を浴びる事はなかった。

くいっと頭を下げ、射線からなんなく回避する。
そのまま穂乃果に頭突きを食らわせた。


海未「穂乃果っ!!」


海未が穂乃果に駆け寄る。

自らに襲いかかっていた者達を排除した怪鳥には余裕ができた。
周囲を見渡すと、格好の獲物が二人。

ゾク達だ。

仲間を屠った連中の同類は皆殺しだとでも言わんばかりに、怪鳥は雄叫びを上げながらゾク達に突撃した。


鉄男「うおおっ! なんでこっちなんだよッ!?」

ゾク「鉄ちゃん! 撃て撃て撃てッ!」


そうだ。
自分達も銃を持っている。

こっちにまっすぐ向かってきているなら、当てるのは用意だ。


ギョーン

ギョーン


二つの銃が続けて発光する。

1発は命中したのか、怪鳥の翼が弾け飛んだ。

片翼を失った怪鳥が倒れ込んだ。


鉄男「おし!」

ゾク「やったぜっ!」


トドメを刺してやる。
鉄男達は怪鳥のもとに駆け寄った。


ゾク「コイツばっかじゃねーの!
銃持ってんのがあのガキだけのわけねーだろが!」


ゾクが怪鳥の頭を蹴り飛ばした。


鉄男「やめとけッての! 動き出すかもしんねーだろーが」

ゾク「へーきへーき。意外とただの鳥じゃんかよ。デカいだけだっ…」


ゾクが喋りながら再び頭を蹴ろうとした時だった。

振り下ろされたゾクの足を、怪鳥の鋭い嘴が捕らえる。

ゾク「うわッ、ちょっとやべえってッ!?」


あっけに取られるゾクの足を、怪鳥はそのまま食い千切った。


ゾク「ぎゃ、ぎゃああああああッ!!?」

鉄男「おい! 早く撃てッ!」


鉄男も銃を構えるが、下手すればゾクに当たってしまうだろうから撃てない。
早々に死んだ仲間の二の舞はごめんだった。

そして、ゾクが銃を向けた時はすでに手遅れだった。

立ち上がった怪鳥が、今度はゾクの上半身に食らいつく。


ゾク「鉄っ、鉄ちゃんッ! たすけーー」


ゴリッ!


鉄男に助けを求めるゾクの体を、怪鳥の顎が噛み砕いた。

ーーーーーー


穂乃果「え……嘘っ、なんでっ!」


攻撃を受けた時点では、穂乃果のスーツは健在でした。

しかし、鉄男さん達の銃撃で怪鳥の翼が弾けた時、なぜかリング状の部品からジェルのようなものが流れてきたのです。


海未「穂乃果…いったいこれは…」

穂乃果「……スーツが壊れた」


スーツが壊れる。
それは、このミッションに参加不能な状態となった事を意味します。


穂乃果「…遠くから見ただけだけど、西くんがやられる時もこんな風になってたの。このまま攻撃を受けたら……」


その先は、言わなくてもわかりました。それよりーー


海未「西が、死んだのですか…?」

私は震える声で言いました。

あの少年が死んでしまったということは、ベテランであるメンバー抜きでこれから戦わなくてはならないということを示しています。

穂乃果が暗い顔で頷きました。


「ぎゃ、ぎゃああああああッ!!?」


悲鳴が聞こえました。
そちらを向くと、鉄男さんの仲間の青年が怪鳥に食い千切られていました。

ーー間違いなくもう手遅れです。


海未「穂乃果、ここにいてください」

穂乃果「えっ? でも海未ちゃんーー」

一人じゃ危険だと言いたいのでしょう。

しかし私は、スーツが壊れた穂乃果をあの怪鳥に晒す訳にはいきません。


海未「大丈夫です。必ず勝ちます」


穂乃果はまた何か言いかけましたが、私は構わずに怪鳥へと進みました。


海未「穂乃果は絶対ーーー私が、守ります」


刀身を2mほどの長さに調節すると、あの怪鳥には丁度いいサイズになりました。

あとは、私がやれるかどうかです。

終了です。

絵里と希の会話に出てきた神功明里はガンツマイナスのヒロイン、南隼人は和泉が昔共闘してたメンバーの一人です。

勝手に設定つけてだしました


とりあえず頼れる男性陣が北条くらいしかいないな
鉄男は多少まともだけど頭軽いし

投下します。


>>239
そのうちアイツも出ますし、多少はね?

ーーーーーー


怪鳥へと駆けていく海未を見送ったものの、ただ見ている気は当然無かった。
穂乃果には一つ、スーツが壊れる原因に心当たりがある。

このミッションが始まり、転送される前。
新入りの青年が悪ふざけで穂乃果に引き金を引いた。
片方のトリガーしか引かなかったため発射はされなかったがーー


穂乃果 (そうだ。理由もなくトリガーが二つなんておかしいよ!)


おそらくガンツに支給される銃には、ロックオン機能が備わっているのではないか?

穂乃果は黒い銃を地面に向けた。
そして、人差し指に当たる上トリガーを引く。当然発射はされない。

しかし銃を動かしても、背部にあるディスプレイは変化しなかった。
上トリガーを引いた時同様、地面を映している。

穂乃果は銃を上に向け、次は下トリガーを引く。


ギョーン


今度は発射された。

もし予想が正しいなら……


バンッ!!


銃によって破壊されたのは地面だった。

土煙が舞い上がる。

穂乃果「使える!」


北条と共に怪鳥に攻撃を仕掛けた時、確かに勝機はあった。

しかし穂乃果は一瞬躊躇してそのチャンスを逃し、また1人犠牲者を出してしまったのだ。

これ以上、誰も死なせる訳にはいかない。


穂乃果は海未の方を見た。

傷を大量に負わせて尚、怪鳥から疲労は見られない。
海未の振るう刀を紙一重で躱し、反対に仕留めようと鋭い嘴を突き出す。

うまく隙を作る必要があった。

スーツが壊れている事も忘れ、穂乃果は飛び出した。

ーーーーーー


難易度が違いすぎます!


辛うじてスーツ無しで仕留めた田中星人一体でも、恐らくねぎ星人の時の大男と同じくらいの能力を持っているでしょう。

そして、目の前で暴れ回る怪鳥。

刀で貫いても、銃で翼を吹き飛ばしても未だに健在のボス。

ねぎ星人が、それこそゲームのチュートリアル並みのランクだった事を痛感しました。

攻めあぐねていると、穂乃果が私に叫びました。

穂乃果「こっちに来て海未ちゃん!」


一体何の意図があるかはわかりませんが、スーツの壊れた穂乃果の側に敵をおびき寄せるような事はできません。


海未「駄目ですっ! 私が倒しますから穂乃果は逃げて…」

穂乃果「いいから! 考えがあるのっ!」


その有無を言わせぬ口調は、今まで何度か聞いた事があるものでした。

彼女は本当に、策があるようです。
私には伝わります。

スーツの力を使って跳躍し、穂乃果のいる地点まで一気に移動しました。

怪鳥「グルオオオッ!!!」


当然、怪鳥も私を追って迫ってきます。

しかし隣にいる穂乃果は、一切動じる事なく真上に向けた銃を発射しました。


ギョーン


またあの間延びした音が響きます。


海未「一体何を…? それより敵が!」

穂乃果「大丈夫。きっと」


怪鳥が私たちの数メートル前まで迫りました。

私は穂乃果を抱きかかえて逃げようかと思いましたが、当の穂乃果は一切動じていません。
その時でした。


ババンッ!!


銃は何もない空中に向けて発射されたはずです。
それなのに、怪鳥の足下の地面が爆発しました。

バランスを崩して転倒した隙を逃さず、穂乃果は怪鳥の頭部に銃を向け、躊躇なくトリガーを引きました。


海未「穂乃果……あなたは何を…?」


バンッ!!


怪鳥の頭蓋が弾け飛び、ドロドロした体液が私と穂乃果の体に降りかかりました。


穂乃果「ロックオン機能だよ。海未ちゃん」


穂乃果が苦々しげに言います。

海未「ロックオン、ですか?」


あれほど苦戦した田中星人のボスがいとも簡単に倒された事には拍子抜けしてしまいました。


穂乃果「私、もう迷わない。
星人を殺しといてこんなこと言うのはエゴかもしれないけど、もう誰も死なせたくないの」


彼女の言葉には、長い付き合いの中でも滅多に見せなかった強い決意が宿っています。

しかし、やはり穂乃果は穂乃果でした。

どんな状況でも決して希望を捨てず、今やれる事に全力で立ち向かう。


昔から全く変わらない、高坂穂乃果でした。



ーーーーーー


北条「あーもうっ! ついてくんなっつーの!」


あの鳥の化物に吹っ飛ばされ、起き上がった瞬間、北条の目の前にストーカー女、サダコがいた。

結局それからずっと追いかけっこを続けているのだがーー


北条「あれ?」


唐突に視界が変わった。

白い壁に覆われた室内に鎮座する、黒い球体。

このミッションに駆り出される前いたあの部屋だ。

そこにはゾクのリーダーと、女子高生2人がいた。


北条「…あのバケモンは?」


女子高生の1人、確か穂乃果と呼ばれていた方が答える。


穂乃果「倒しました」


いともあっさり言われてしまった。


北条「おいおいマジかよ……」


女子高生にやれるもんなのか? と思ったところで、黒い球体が文章を映し出した。

『それぢはちいてんをはじぬる』


お粗末な日本語だった。


『海未ちゃん 5てん total 5てん
あと95てんでおわり』


もう1人は海未という名前らしい。
文章の横に映っている似顔絵でわかった。


北条「なんだよこれ」

穂乃果「星人を倒すと点数が入るんです」


『ちんそうだん 0てん
ヘタレすぎ』

鉄男「なんだとコラッ!?」


ゾクのリーダーが怒鳴る。

北条は思わず苦笑してしまった。
この黒球は人間の素性もある程度見透せるらしい。


海未「ちんそうだん……ですか?」

北条「暴走族の事だ」


どうやら、育ちの良さそうな海未には縁のない単語のようだ。

そこで北条は気づく。


この黒球には、自分に関する事もお見通しなのだ。

ーーーーーー


『サダコ 0てん
ホモにつきまといすぎ』


ホモ、とはなんでしょうか?


海未「穂乃果、この『ホモ』とはなんの事でしょう」

穂乃果「ホルモンのことじゃないかな?」


私たちの後ろでは、鉄男さんが素っ頓狂な声をあげていました。


鉄男「ホモって……お前まさかっ!?」

北条「いやお前の死んだ仲間の中にいるんだろ! ちげーって!」


北条さんも叫んでいます。

当のサダコさんは、玄関に続く出入り口からじっとこちらを、というより北条さんを見つめていました。

採点には興味がないようです。

次は北条さんの番でした。


『ホモ 5てん total 5てん
あと95てんでおわり』


鉄男「お前やっぱりホモじゃねーかッ!
こっち見んなこの野郎!!」

北条「違うっ! ホモじゃねえ!」

言い争っている男性陣2人を尻目に、私たちは穂乃果の採点を待ちました。

画面が切り替わります。


『穂乃果ちゃん 13てん total 13てん
あと87てんでおわり』


穂乃果「13点、か」

海未「これは……すごいのですか?」

穂乃果「わからない。でもたぶん西君は……」


穂乃果は何か言いかけましたが、結局口に出さず黙りました。

北条「なあ、一体この点数はなんなんだ?」

海未「わかりません。100点になったところで何かあるとは思いますが…」


この場にいる全員が感じているであろう疑問に答えたのは、穂乃果でした。


穂乃果「ガンツ、100点になったときの選択肢を見せて」


彼女に言われると、またガンツの画面が変わります。

『100てんめにゅ〜

1.記憶を消されて解放される
2.より強力な武器を得る
3.メモリーの中から人間を再生する』


そこに示されたのは、3つの選択肢でした。


海未「100点を取れば…自由になれるのですか?」


とは言っても、それまでに何回のミッションをこなせばいいのでしょうか。
そして回数を重ねれば、メンバー達に仲間意識も湧き、3番を選ぶ事も考えられます。

戦いに飲まれた者は2番を選んで戦い続けるでしょう。


北条「100点を取るまで何度も戦えってのかよ…」


北条さんがげんなりした様子でいいました。

しかし、解放される望みがないよりはずっといいです。

しばらくして、ガンツの画面が消えました。


穂乃果「もう玄関があいてます。帰っても大丈夫です。ただしーー

この部屋の事は絶対に口外しないでください」


それは、ねぎ星人のミッションが終わった後に西から言われた事でした。

鉄男さんがぴくりと震えました。

それを見た穂乃果が、彼に言いました。


穂乃果「銃も、たぶん人に見られたらダメです。持って帰らないでください」


鉄男さんは舌打ちをすると、服の下から銃を取り、放り捨てました。


北条「なんで駄目なんだ?」

穂乃果「私たちの頭の中に、爆弾が埋め込まれています」


北条さんは半信半疑、といった反応でした。

穂乃果「とにかく今日の事は黙っててください」


最後に強い口調で穂乃果は言いました。

鉄男さんが部屋を出て行きます。


北条「とりあえずこのスーツを着替えてから帰るよ。
そっちの部屋使うぞ?」


北条さんがガンツの隣にある部屋に入りました。
どうやらそちらも開いているようです。

海未「じゃあ私たちも着替えましょう」


私、穂乃果、サダコさんの3人も着替えを始めました。

終わると、北条さんを呼びます。


穂乃果「もうこっち来ていいですよ」


北条さんが隣の部屋から顔を覗かせつつ言いました。


北条「なあ、2人はこっちの部屋の事知ってるのか?」

海未「どうしたんですか?」

北条「とにかく入ってくれ」

北条さんに言われて部屋に入ると、そこには巨大な一つのホイールの中に操縦席のある、変わった形をしたバイクが2台置かれていました。


海未「これもガンツから支給された武器なのですか…?」


とは言っても、免許を持っていない私たちには使えない代物です。


北条「あのゾクなら乗れるんじゃないか?」


もしこれを使えれば、ミッション中の移動はかなり楽になるでしょう。
西が知らなかったはずはありませんが、好んで使う事は無かったようです。

床には、私が使っている刀と同じ物が何本も置かれていました。

ガンツの武器ラックになかったので不思議に思っていましたが、ここにあったようです。


穂乃果「次からはバイクも使う?」

海未「そうですね。時間制限がある以上、移動手段は必要です」


命懸けの戦いが続く中でも、100点メニューの存在は確かに私たちの希望となっていました。

しかし私はあと95点、穂乃果でも87点。

道のりはまだまだ遠いものです。



終了です。

正直田中星人編はあまり重要じゃないので、武器の使い方を学んだところでサラッと終わらせました。

次のミッションはとうとうアレですね

今夜投下します。

アイツらの登場です。短いですが日常回ですね

3・仏像星人


罰ゲームのはずだったのに、どうして未だに続いているんだろうか。
彼女のことは全くと言っていいほど知らなかったし、地味な子だと思っていた。

しかしまあ、付き合ってみるとなかなか離れられなくなるものだったのだ。


「計ちゃん! ここだよここ!」


やけにテンションの高い小島多恵に連れられ、玄野計もその建物へーーメイドカフェへと入る。

後ろからはもう1組の高校生カップル、和泉紫音と篠崎涼子が続く。

多恵と涼子が親しかったこともあり、涼子の彼氏である転校生の和泉ともよくつるむようになっていた。


玄野「つーか和泉、よくメイドカフェなんて来る気になったよな」

和泉「別に…。涼子が行きたいって言ってたからだ」


彼は寡黙だが、なんだかんだで付き合いのいい奴だった。


玄野「んで多恵ちゃん、その『ミナリンスキー』って何者なんだ?」

そもそもここに来た目的は、最近秋葉原で有名になっているという伝説のメイド(なぜ最近の話なのに伝説と言われているのかはわからないが)を見たいと多恵が言い出し、それに涼子が乗った為だった。

玄野個人としては、メイドカフェなどというぼったくりにも程がある飲食店に行くのはあまり気が乗らなかったのだが。


恋愛は金のかかるもの、と言われても玄野にはピンとこない。
中学時代はいわゆる暗黒というものだったし、高校1年の時に付き合っていた年上の彼女とのデートはドライブ中心で、あまり現金を必要としていなかったからだ。

多恵「うーん。謎のメイド、ってことで通ってるからよくわからないんだよね。
でもこの時間はシフト入ってるって話だよ」


下調べはしていたらしい。
なら無駄足を踏む事はないだろう。


涼子「みんな何食べる?」


涼子が入口の前にあるメニュー表を指していった。

和泉「普通にパスタとコーヒーでいいかな」

玄野「じゃ、俺はオムライスで」


それぞれ注文する物を決め、割と良心的な価格設定に感謝しながら入店する。


中に入った途端、自分達と同年代に見えるメイド服姿の少女3人が満面の笑顔(1人はやや引きつっているが)で出迎えに来た。


「「「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様!!」」」

ーーーーーー


ことり「ではお席にご案内します!」


4人組の客をことりが連れて行くのは見届けると、緊張の糸が切れて思わずふぅっ、と溜息を漏らしてしまいました。


穂乃果「あー! だめだよ勤務中にそんな表情しちゃ!
メイドさんは笑顔だよ!」


穂乃果は私のそんな様子を面白がっているようでした。
普段口うるさくしている事の仕返しのつもりでしょうが、あれは穂乃果の為を思ってしているのです!

海未「そもそもなぜ全員でバイトを始めたんですか!」

穂乃果「だってアキバでライブすることになったでしょ?
それならここの事をもっと知った方がいいかなーって」

海未「なにもメイドカフェじゃなくても…」


言いかけたところで、厨房にいる絵里先輩がこちらに手招きをしている事に気付きました。

接客を交替してくれるようです。

絵里「園田さんはまだ表情が硬いわね。もっとリラックスしていいのよ?」

海未「…はい。頑張ります」


彼女は入部した当初やや不自然なところもありましたが、今ではすっかり良き先輩となっています。

一緒に入った希先輩が、からかうようにして言いました。


希「あんまり動きが悪いとわしわしするで〜?」


その『わしわし』をするほどの物は私は持っていないのですが……?

にこ「とにかく接客代わるわよ。皿洗いの方お願いね」


3年生の中で一番早く入部したにこ先輩が言うと、彼女達は客席に向かいました。


穂乃果「あ、そんなに残ってないね」

海未「そうですね。先輩たちがほとんど済ませたのでしょう」


残っているものを手分けして洗っていると、ふいに穂乃果が口を開きました。

穂乃果「…次は、いつ来るのかな」


私は思わず作業の手を止めました。


海未「穂乃果…その話はこっちではしないと……」

穂乃果「ごめん」


そう言うと、穂乃果は皿洗いを続けました。

ガンツのミッションにおける難易度にはばらつきがあると、私達は2回の戦いで思い知らされていました。

もし、次のミッションが田中星人を超えるものだったら……

穂乃果「絶対出ようね、ラブライブ!」


その唐突な言葉で、私の後ろ向きな思考は止まりました。


海未「穂乃果…?」


彼女は私を真っ直ぐに見つめます。


穂乃果「守られてばかりじゃいられないよね。
今度は私も海未ちゃんを守る! そして……」


穂乃果はそこで一息つくと、強い声で続けました。


穂乃果「1人も死なせずに帰ってこよう!」

ーーーーーー


結構レベル高いな!

というのが玄野の感想だった。

申し訳ないが料理に対するものではない。そちらも全然悪くなかったが。


流石に「にっこにっこにー!」は少し引いた。
小悪魔を露骨に押し出しすぎだ。


多恵「やっぱりみんな可愛いね」

涼子「高校生かな?」

玄野「なあ和泉、お前あの金髪の子タイプなのか?」


玄野の冗談に、和泉はピクリと反応したが、すぐに笑みを作って返した。


和泉「おいおい、彼女の前でそんな事言うなよ。
お前こそあの巨乳の子に釘づけだったぜ?」

玄野「なっ…?」


多恵の冷たい視線を肌で感じ、玄野は固まった。

和泉「単に見た事がある気がしただけだよ。ひょっとすると中学の時の同級生かな…?」

涼子「聞いてみたら?」

和泉「やめとくよ。仕事中だし、勘違いだったら恥ずいだろ」


とにかく、多恵もミナリンスキーのサイン貰って満足しているし、そろそろ出よう。


玄野「午後はどうするかな」

多恵「カラオケは?」

他に思いつくところもないので、カラオケにすることにした。

会計を済ませ、外に出ようとすると短髪のメイドがチラシを渡してきた。


「アキバでライブやります! よろしくにゃっ!」


『にゃっ!』なんていう語尾を現実で使う人に会えるとはまさか思わなかった。


多恵「えーと、μ's…?」

どうやら今流行りのスクールアイドルらしい。


和泉「この日も休みだな。来てみるか?」

多恵「そうだね。せっかくだし見てみようよ」


本当にこの面子で遊ぶようになってから暇な休日がない気がする。

自分の生活も変わったものだ。
感慨深い。


ーーーーーー


希「えりち、あの髪長い人知り合いなん?」


あの4人組が退店した直後、希が絵里に尋ねた。


絵里「えっ? どうして?」

希「ご注文聞いてるときずっと見てたやん。向こうも同じやったしな」


にこが会話に割り込んだ。


にこ「ちょっと! アイドルは恋愛禁止!
わかってるわよね?」

ややきつい口調にたじろぎながらも、絵里は否定する。


絵里「違うわよ。だいたいあの人彼女と来てたじゃない。
…ただ、なんとなく見たことあるような気がしたのよね」

希「オープンキャンパスでのライブに来た人やない?」

絵里「ああ、確かに父兄の人も来てたわね」


正直違うと思ったが、他に心当たりがある訳でもなかった。

にこ「しかしまあ、よくチラシ配り許可してくれたわねぇ」


μ'sのライブは、当然このメイドカフェとは関係がない。


希「ミナリンスキーの力やね」

絵里「ねえ、バイト代入ったら合宿とかどうかしら?」

にこ「いつ入るんだったっけ?」

希「ライブの後くらいやない?」


それなら、学校祭の前に合宿に行けるだろう。
ちょうどいい。

にこ「そんじゃ、気合いれていくわよ!」

絵里・希「おー!」


まだシフトは残っているので、それぞれ仕事に取り掛かった。


絵里 (ほんと、どこであったのかしらね)


なんというか、ただの知り合いという感じがしないのだ。

だが、それ以上何かを思い出す事はなかった。


終了です。

次はミッションいけるかな……

何人見てくれてるのかな…
とにかく今夜も投下します。

どうでもいいけど玄野ってスーツ無しの方が得点力高い

ーーーーーー


穂乃果「ライブ大成功だったねー。
ことりちゃんのおかげだよ!」

ことり「そ、そんなことないよ。みんなの協力があってこそだったし…」


秋葉原での路上ライブを終えた私達は穂乃果の家にやってきていました。

雪穂と穂乃果のお母さんがいます。

私とことりは会釈をし、2階にある穂乃果の部屋へ上がろうとしました。

穂乃果母「隣のクラスで行方不明者ねぇ…。物騒になったものだわ」

雪穂「しかも前から家に帰らないことがよくあったらしくて、届けを出すのが遅れたんだって」


なにやら不穏な話をしているようです。

お茶の用意をしていた穂乃果が口を挟みました。


穂乃果「なにか事件があったの?」

雪穂「ううん。事件どころか、目撃証言もないんだって」

雪穂や亜里沙には、そんな風になって欲しくないものです。

私は他人事のように聞いていました。


穂乃果「ひょっとして、雪穂の友達だったりするの?」

雪穂「男子だったし、あまり知らないなぁ。
よくわからないとこあったんだよね

ーーー西くんって」


雪穂がその名前を出した瞬間、私は凍りつきました。
もちろん、穂乃果も同様です。

穂乃果「ね、ねえ。その西くんって……西丈一郎くん?」

雪穂「えっ? 知ってるの?」


図星のようです。

私の反応に気づいたことりが不思議そうに顔を覗き込みました。


ことり「海未ちゃんどうしたの? 顔真っ青だよ」

海未「い、いえ! 平気です。
さあ上に行きましょう!」

誤魔化すようにしてことりの背中を押し、階段を上りました。

ことりは怪訝そうな顔をしましたが、特にそれ以上なにかを言うことはありませんでした。


穂乃果「あっ、すぐ行くから待っててね!」


穂乃果の声も心なしか動揺しています。

まさか西が雪穂と同じ中学、つまり近所の住人だったとは思いもよりませんでした。

あのミッションに敗れた者の末路。

それは誰にも気づかれずにこの世界から消失し、そのままいずれ忘れ去られるという残酷なものでした。

死体もなにも見つかる訳がないのです。


海未 (そういえば、西も中学生なのでしたね…)


なんといいますか、彼が同じ人間である事を今更実感した気がします。

彼も、ただの少年であった事に。

ーーーーーー


妹が自分を呼んでいた。

絵里は荷物を部屋に置くと、声のした方へ向かう。
亜里沙は居間にいた。


亜里沙「これお姉ちゃんの?」


亜里沙はごくごくありふれたノートパソコンを見せてきた。

見覚えがある。恐らく自分のだ。
確か去年あたりは使っていたと思う。

絵里「どこにあったの?」

亜里沙「クローゼットの奥にあったの」


見たところそこまで古い物ではない。
十分使えるのに、なぜそんなところにあったのだろうか。


絵里「持っていくわね」


とりあえず回収して部屋に戻った。

デスクトップは簡素なものだった。

Word、Excel等はあるが、他には画像ファイルとよくわからないソフトが一つあるだけだ。


絵里「何のソフトかしら?」


そもそもこのパソコンをどんな目的で使っていたのだろう。
全く思い出せない。

ソフトを起動させた。

その名称が画面に大きく映し出される。

絵里は眉をひそめた。


絵里「BETA…Counter?」


英語圏のソフトらしい。
BETAとはなんだろうか。


絵里「X-gunを接続? 訳がわからないわね」


埒があかないのでソフトを閉じた。
次に画像ファイルを開く。

一昨年の半ばから昨年にかけての物だ。

絵里「全く覚えがないわね」


一番古い物を開く。

そこに写っていたのは、理科室でよく見かける人体模型だった。
しかしそれは不気味なほどリアルで、生々しく感じられた。

割と遠くから撮られたものらしい。
場所はーーーどこかの学校か?

その人体模型に向かって矢印が伸びている。
『40points』と示されていた。


絵里「何よこれ……」

もしかすると、さっきのソフトを用いて撮られた物かもしれない。

あの『Counter』という名称の説明がつく。
だとすると、この人体模型がBETAなのだろうか。

他の画像も流し見していく。

明らかに地球の生物でないような魑魅魍魎の数々が写っていた。

その全てに得点があるようだ。
しかし、こんなゲームをやった記憶はない。
なんだか面白いが、妙だ。

絵里「最初の以外高得点はないみたいね」


1点、3点、5点のものが多く、時々8点や10点が混じってくる感じだ。

何枚か見ていくうちに、16点を見つけた。
黒いスーツを身にまとい、煙草を咥えたホスト風の男だ。一見人間のようだが、奇妙に青白い髪と異常なまでに冷たい目がそれを否定している。

彼は電柱の上に日本刀を携えて佇んでいた。新宿のようだ。

絵里「ハラショー。まるで映画みたいだわ」


ついに最後の一枚がきた。
そこには、黄金に輝く千手観音像がいた。
得点は、なんと70点。

無数の腕すべてに長剣が握られており、その点数にも納得がいく程の威圧感を放っている。

それを見たとき、また懐かしいような感覚にとらわれた。


絵里 (なによこの感じ……あのサイトを見た時と…あと、あの長髪の高校生に接客した時の……)

ーーーまさかとは思うが。


自分は、あの黒い球体の部屋のメンバーだったのか?

そしてこのパソコンはミッションで使っていた物で、あの高校生は当時の仲間?


それはほとんど確信に近かった。

その時、絵里は決定的なワードを思い出す。


絵里「100点メニュー!!」

そうだ。自分はこの千手観音を倒したのだ。

自由になって記憶を消された。そうに違いない。


絵里は千手観音の写真を食い入るように見つめた。

すると、その背景にも見覚えがあることに気づく。
いや、それどころか今でも良く目にしている。


神田明神だ。


絵里「まったく……。自分を褒めてやりたいわね。
下手すりゃ希のバイト先潰してたわよ、物理的に」


さて、あの部屋がやっぱり実在するという事は驚きだが、もはや自分には関係ない。

ならば。


絵里「これ、海未さんに渡してしまいましょう。それがいいわね」


絵里はパソコンを閉じると、スクールバッグに入れた。

ーーーーーー


穂乃果「ぬわーん! あつーい!!」

海未「夏ですからね」


アイドル研究部が練習場所として使っている屋上は、真夏の日差しのおかげでサウナのような状態でした。


凛「どっか……涼しいところに行きたいにゃ…」

花陽「さすがにもうダメかも…」


花陽はともかく、いつも元気のいい凛がへばっているのを見ると今日の暑さを思い知らされます。

ことり「やっぱり、屋上だとこういう時大変だよね」

希「そうやね。でも学校祭の前やし、練習しない訳には……」


穂乃果が何かを思い立ったらしく、みんなに向かっていいました。


穂乃果「そうだ! 合宿に行こうよ!」

海未「合宿…ですか?」

穂乃果「涼しい場所にいったら、きっと練習もはかどるよ!」

にこ「いいんじゃない? ねえ絵里」

絵里「そうね。前からやった方がいいとは思ってたのよ」

海未「そうは言っても、どこへ行くのですか?」


私がそう言うと、全員の視線がある一点に集まりました。
それを追うと、今まで会話加わらなかった真姫がいます。


真姫「えっ? ちょっとなによ…」


穂乃果が前に出ました。

穂乃果「真姫ちゃん、別荘ある?」

真姫「あ、あるにはあるけど…」

穂乃果「お願い! 別荘貸して!」


まあ、こうなる気はしていました。

図々しい感じは拭えませんが、他に当てもありません。
それは真姫も理解しているのか、一応首を縦に振ってくれました。

今日の活動は合宿の日程決めとなり、私達は部室へ移動することにします。

階段を降りていると、絵里先輩が思いついたように提案しました。


絵里「ねえ、これからは先輩も後輩もないんだから、先輩付け禁止にしない?」

希「いいんやない?」


早速希先輩が乗り、そうする流れになりました。

確かに、仲の深まる感じがして良い気がします。

とは言っても、すぐその日に慣れる訳もなく、特に私は何回も訂正されてしまいました。

………………
…………
……


夜になり帰宅するとき、絵里先輩……いえ、絵里が私を呼び止めました。


海未「どうしたのですか?」

絵里「ちょっと渡したい物があるのよ」


絵里はスクールバッグからノートパソコンを取り出しました。


絵里「はいこれ。私にはもう必要ないからあげるわ」

ノートパソコンといったら、結構な値段のする物です。


海未「いえ、受け取れません。
こんな高価な……」

絵里「なら貸しておくわ。とにかく持っていて欲しいのよ。
……あの部屋に行く時にね」


入部した日の放課後、私に西の作ったサイトを見せた時と同じ表情をしていました。


海未「絵里…あなたは一体……?」

絵里「これ以上話すことはないわ。
あなたもあまり追及されたら困るでしょう?」


そう言うと、絵里はノートパソコンを私に押しつけると帰っていきました。

どんな用途なのかはわかりませんが、持っておくべきでしょう。
あの時も、もしかしたらとは思いましたが、たった今確信しました。


ーーー恐らく絵里は、『ガンツ』の卒業生です。

ーーーーーー


首筋に寒気を感じたと思ったら、北条はまたこの部屋に来ていた。

すでに鉄男がいた。


鉄男「あっ、ホ……」


鉄男はこちらを見て何か言いかけたが、すぐに目をそらす。

腹がたった。誤解だ。

いや、誤解……だよな?

玄関に続く廊下の影にはサダコがいた。
北条はげんなりした。


鉄男「おい、新入りが来たぜ」


見知らぬ男女が3名転送されてきた。

迷彩服を来た小太りの青年、ガタイの良い鋭い目つきの男、そして若い長身の女だ。

転送が終わると、不思議そうにあたりを見回している。

女が北条に話しかけた。

「ねえ、ここってどこなの?」

北条「たぶん信じらんないと思うけど…すぐにわかるよ」


女が怪訝そうな顔をした。


鉄男「まだあのJK2人が来てないな」


恐らく新入りの召還はこれだけだろう。

海未と穂乃果が来れば8人。
その面子でミッションを行うらしい。

さほど間を開けずに2人が転送されてきた。

穂乃果は空のペットボトルを、海未はノートパソコンを持っている。
ペットボトルは銃の説明に使うとして、ノートパソコンはどういうことだろうか。


ほどなく黒い球体がラジオ体操の歌を流し、ミッションの発動を告げる。

困惑した様子の新入り3人に、穂乃果が歩み寄った。


穂乃果「みなさん……私の話を、聞いてください」


終了です。
この段階で花紀くんのアレ出しちゃいました。どうやら100点武器じゃないっぽいんで

では投下しますか

ーーーーーー


今回のターゲットとされた『あばれんぼう星人』と『おこりんぼう星人』は、一言で言い表すならば金剛力士像でした。

新しく転送されてきた3人と軽く自己紹介をすると、私達は銃の使い方を実演し、スーツを着るよう彼らに言います。
最初はやや抵抗があったようですが、北条さんが岡崎さん(迷彩服姿の青年です)を片手で軽々と持ち上げて見せると着用してくれました。


穂乃果「えーと、他に質問とかありますか?」


東郷さんという男性が長柄の方の銃を持ち、穂乃果に訊きました。

東郷「これは……ショットガンなのか?」


その問いかけに、その手の物に詳しくない穂乃果はたじろぎました。


穂乃果「た、たぶんですけど…そうだと思います」

東郷「実弾銃でないなら、この下部に付いているスライドは必要ないはずだが……」

岡崎「なんだ、おたくも銃好きなのか?」


岡崎さんが口を挟みました。
格好からしてそういう趣味のようです。

東郷「自分は自衛官だ。銃の扱いには慣れている」


本職の人がいるなら、戦力として申し分ありません。
私達が説明できないのを見ると、彼は「自分で調べる」と言ってそっぽを向きました。

桜丘さんという若い女性が身にまとったスーツを見て不審そうに言います。


桜丘「なんでこんなにぴったりなの…?
まるであつらえたみたい」


それはガンツの能力としか言いようがありません。

海未「正直、私達にもわからない事の方が多いんです。戦ってきた星人が本当に宇宙人だったのかすらはっきりしません」

岡崎「とにかく撃っていんだろ?」


岡崎さんは両手に長柄の銃を持ち、昂揚した様子です。

あとは転送を待つだけとなった時、北条さんが思い出したように「あっ」と声をあげました。


北条「バイクどうする?」

鉄男「はぁ? バイクなんてあんのかよ」


やはり鉄男さんが反応しました。

北条さんがガンツの隣にあるドアを開けました。
鉄男さんと岡崎さんが興味深そうに入っていきます。


北条「せっかくだし刀も持っていくか」


確かに、タイムラグの存在する銃だけでは少し不安です。もっとも、私は元から刀しか使っていませんが。

穂乃果は3つに分かれた銃口をした物を手にしています。


海未「それはなんですか?」

穂乃果「これは捕獲銃だよ。…あまり、殺したくはないしね」

気持ちはわかりますが、それにこだわって死んでしまっては元も子もありません。
私はガンツの中から銃を取り出すと、穂乃果に渡しました。


海未「一応持っていてください。お願いします」


穂乃果は躊躇しましたが、受け取ってくれました。


北条「にしても8人か…。前回より少ないな」


不安げに北条が言いました。
しかし人数が少ないとしても、8人中経験者が5人。
さらに初めての人も全員スーツを着用しています。決して戦力として小さい訳ではないでしょう。

それぞれが銃を持ったところで、ついに転送が始まります。

岡崎さんと桜丘さんは動揺していますが、東郷さんは動じていません。
色々と場慣れしているようです。


穂乃果「みなさん! 転送されても動かないでくださいっ!」


恐らく穂乃果が言わなくても、今回のメンバーは比較的冷静です。あまり心配はないでしょう。

私の転送が目の部分に到達しました。
一瞬で風景が変わります。

目の前に大きな観音開きの門が見えました。
どこかの寺院のようです。

桜丘「ここは……確か羅鼎院ね。見たことあるわ」


穂乃果はじっと西の使っていた端末を見つめています。
私も覗き込みました。
そこには結構な数の敵を示す光点があります。


海未「多いですね…」

穂乃果「うん。時間制限もあるし、早くしないと」


バイクにまたがった鉄男さんが最後に転送されて来ました。
全員が揃ったところで、穂乃果が言いました。

穂乃果「ここの両サイドに一体ずついます。まずは門を開けましょう」


まだ気づかれていないようです。
それを聞き、岡崎さんが前に出てきました。


岡崎「俺に撃たせてくれよ」


返事を待たずに両手に持った銃を門に向けると、彼は何発も撃ちました。

もはや聞きなれた、あの間延びした発射音が響きます。


その時でした。



バキバキバキバキィッ!!!


穂乃果が星人がいると言っていた門の両サイド。

そこの柵を突き破り、体長5mはあるであろう金剛力士像が飛び出してきました。


北条「やべえッ! こいつらターゲットのッ…」

岡崎「おいどうすんだよッ!?」


こいつらが、『あばれんぼう星人』と『おこりんぼう星人』のようです。

敵の出現とほぼ同時に岡崎さんが撃った門が爆散し、全員が一目散に羅鼎院の内部に駆け込みます。
鉄男さんもバイクから飛び降りて続きました。

2体の星人が私達を追って門をくぐり、その神々しさすら感じさせる威圧的な姿を晒します。

田中星人のボスである怪鳥よりも遥かに巨大でした。


桜丘「ねえっ! こんなのどうやって倒すのよ!?」

海未「ひとまず距離を取りましょう!」


正面に見える本殿の境内を指差し、そこまで走るよう伝えます。

そこで私は、メンバーが1人足りないことに気づきました。
東郷さんです。

海未「穂乃果っ! 東郷さんが……」

穂乃果「たぶん大丈夫! どっちも私たちを狙ってる!」


振り返ると、確かに2体ともこちらのみを見据えています。
しかしそれはそれで危ない展開です。
どちらかだけでも引き離さなければなりません。

私は絵里から渡され、脇に抱えているパソコンを見下ろしました。
家で確認したところ、星人の点数を計測するソフトが入っていましたが……、とても使っている余裕はないですね。

隣を走っている桜丘さんにパソコンを差し出しました。


海未「桜丘さん、これを預かっていて下さい!」

そう言って星人に向き直る私を彼女は制止します。


桜丘「無茶よ! やめなさいっ!」

海未「2体が同時に来たら終わりですっ!」


私はそう叫ぶと、使い慣れたと言ってもいい刀を伸ばします。


海未「穂乃果っ! 奥の方は私が引きつけます!」

穂乃果「わかった、でも無理しないでね!」


頷くと、私は手前側の星人の股を掻い潜り、槌か棍のような物を持った奥側の星人へ突撃します。
あばれんぼう星人の方でしょうか。

あばれんぼう星人も私を認識したようです。
おこりんぼう星人の後に続くのをやめ、私一人に狙いを絞ります。

このサイズの敵にはどう対処するべきでしょうか。
正直、スーツの力で一気に頭まで突っ込むしかなさそうです。


海未「はあああッ!」


助走をつけると、あばれんぼう星人の数メートル手前で思い切り踏み切ります。
足元の地面が抉れるのを感じながら、私は星人へと跳躍しました。

星人は一切動じません。
しかし私が眼前まで迫ったとき、ついにアクションを起こしました。

『ぬんっ!』


あばれんぼう星人は武器を持っていない左手を強く振ります。

すると、凄まじい突風が私に直撃しました。


海未「ぐぅッ!?」


一瞬にして体が風に攫われ、なす術もなく吹き飛ばされてしまいます。
そのまま羅鼎院を取り囲む塀の壁に激突しました。

スーツのお陰で外傷はありませんが、痛覚までは防ぎ切れなかったのか背中に鈍い痛みが走ります。

塀はボロボロになっていました。

海未「くっ…」


あばれんぼう星人が私を見据え、ゆっくりと歩いて来ました。

いつでも殺せる、とでも言わんばかりです。


海未「まだです!」


痛みを堪えて立ち上がります。
そう簡単に殺されてたまるものですか!

空中から攻めたとしたら、突風を防ぐ術はありません。
ならば地上からです。

私はスーツのアシストをフルに使って疾走します。

あばれんぼう星人が再び突風を起こすモーションをしました。

すかさず私は刀を左手に持ち替え、右腕で地面を殴りつけてめり込ませます。

突風が巻き起こったときには、私の体は固定されていました。


海未「やあああッ!」


右腕を抜き、心なしか狼狽した様子のあばれんぼう星人に迫ると、私は刀を3mほどに伸ばしました。

ーーまず、その両足を斬り飛ばしてやります。


しかし、敵も無抵抗ではありません。

やはりただの飾りではなかったのか、あばれんぼう星人は右手の武器を振りかぶり、私の刀に鍔迫り合いを仕掛けました。

金属と金属の擦れ合う不快な音が響きます。


海未「こんッ、のッ!」


いくらスーツを着ているといっても、そもそもサイズが桁違いの相手と力比べをするのは無謀でした。

僅かずつ。
着実に押されていきます。

しかしあばれんぼう星人の武器は、何の前兆も無く内部から爆発しました。

間違いなく銃撃です。


海未「誰がっ…?」


近くには誰もいません。
もっとも、そんな事は後にすべきでしょう。

私は武器を失って面食らっているあばれんぼう星人の両足目掛け刀を振るいます。
多少鈍い衝撃を感じましたが、簡単に切断できました。

断面から体液がドバドバと噴出し、そこら中を真っ赤に染め上げます。


海未「う…」


やはりこればかりは慣れないものです。

両腕を着き、無防備に頭部を晒しながら呻いているあばれんぼう星人を見上げました。

いくら仏像の姿をしているとはいえ、それは間違いなく生き物でした。


海未「そうです! 穂乃果に捕獲銃を……」


その考えが浮かび、私は後ろを向きーーーあばれんぼう星人の雄叫びを聞きました。


海未「え……?」


視線を戻すと、口をあんぐりと開けた星人の顔が鼻先に迫っています。



ババンッ!!


唐突にそれは破裂します。
私は星人の体液を至近距離で浴びました。

まだ足りないとでも言わんばかりに、両腕、そして胴体も弾け飛んでバラバラになります。

呆然とする私を、遠くから聞こえる男性の声が叱咤します。


「なぜ背中を見せたっ!!」


私はようやく、正門付近の塀の屋根にいる人物ーーー東郷さんに気づきました。

さっきサポートしてくれたのもあの人でしょう。

私はとにかく礼を言おうと駆け寄りました。


海未「東郷さん! 助かりました!」

東郷「礼はいい。それよりも、すぐに斬らなかったのは何故だ」


彼は静かな、かつ厳格な声で私を問い詰めます。

やや気圧されながらも答えました。


海未「申し訳ありません。てっきり動けないと…」

東郷「敵は常にこちらの意表を突いてくると思っておけ。あんなようでは、命がいくつあっても足りない」

その言葉の持っている重みは、本職の自衛官である彼だからこそ出せるものでした。


海未「…本当にありがとうございます」


最後に頭を下げると、私は穂乃果達の元に戻ります。
あちらは6人いるので倒せなくはないと思いますが、急ぐに越した事はないでしょう。

東郷さんはこれからも狙撃をしていくつもりらしく、私との会話を終えるとすぐにスコープへと目を戻しました。



ーーーーーー


鉄男「やべえっ! やべーぞっ!」

北条「固まらないで広がれっ! 囲んで撃つぞ!」


海未のおかげで一体になったとはいえ、この星人が前のものと比べ遥かに強大である事に変わりはない。


穂乃果「初めての2人は下がっててください!」


スーツを着用していても、新入りはあまり前に出したくはない。

穂乃果の指示で桜丘と岡崎が後退したのを見て、穂乃果、北条、サダコ、鉄男の4人で星人を取り囲む。

今まではただメンバーを追いかけてきただけだった星人だが、こちらが散開したのを見て止まった。
そしてググググと膝を曲げると、勢いよく跳ね上がる。

あっけに取られる穂乃果達は、5メートルの巨体が空高く跳んでいくのをただ見ている事しかできなかった。


穂乃果「まっ、まずい! みんな離れてっ……」


穂乃果が星人の意図に気づいた時はすでに手遅れだ。

星人は重力に従い、その巨体相応の質量を大地に叩きつける。



ズドオオオォォォンッッ!!!



目の前の空間全てが激しく震動しているように見えたと思うと、メンバー4人の体はいとも簡単に放り上げられた。


北条「うおッ!?」


たまたま落下地点の一番近くにいた北条は、星人の起こす次の動作の標的となった。

星人は屈強な拳を振りかぶり、空中で身動きの取れない彼を殴りつける。

北条は攻撃を食らう瞬間、黒い影が自分飛びつくのを見た。

その異常に長い黒髪の持ち主はーーー


北条「サダコ!」


ズドンッ!!


星人の拳が命中する。
北条とサダコは一緒くたになって吹き飛ばされた。

うっ、と呻いて体を起こすと、北条の上にサダコが乗っかっていた。
衝撃の所為か、普段なら顔面をおおい隠している前髪が流れて素顔を晒している。

北条「っ……!」


正直、サダコの素顔は北条が絶句するほど美形だった。

数秒の思考停止の後、ようやく我に返って「ありがと」と礼を言った。
サダコは何も言わず、また前髪を前に寄せて顔を隠してしまった。


ギョーン ギョーン


銃の発射音がして、2人は戦闘中であることを思い出す。

見ると、鉄男が銃を乱射していた。
巨体に似合わず俊敏な動きをする星人は見事に射線から逃げ回っている。
穂乃果はいなかった。

見回すと、新入りの岡崎と桜丘が退避している境内に彼女の姿を発見した。
岡崎からショットガンを一丁受け取ると、穂乃果はスコープを数秒間覗き込んだ。
そして、星人へと向かっていく。


穂乃果「はああああっ!!」


ギョーン


雄叫びと表現するにはやや物足りないくらいの声を上げて、穂乃果は突撃した。
銃の発射音がしたが、あの距離では当たらないだろう。

星人がギロリと穂乃果を睨み、体を向ける。


北条「馬鹿! 無茶すんな!」


あいつはあんな化物に接近戦を仕掛ける気だ。
北条は確信した。

星人が右腕を振り下ろす。

しかしその拳が穂乃果を打つ事はなかった。


バンッ!


穂乃果の鼻先数十センチ手前で拳が破裂する。

星人が目を剥くのが遠目に見えた。

その隙を穂乃果は逃さず、星人の股下に潜り込んで両足に銃撃を浴びせる。
ゼロ距離。当然命中だ。

タイムラグの後、両足も同じように破裂して星人が倒れる。

穂乃果が叫んだ。


穂乃果「桜丘さん!」


境内にいる桜丘が銃を撃つ。
すると逆三角形の光るワイヤーが射出された。

それは身動きの取れない星人の頭部に巻きつくと、ロケットの様な部分が地面に突き刺さる事で星人を完全に拘束する。


穂乃果「もう一回撃ってください!」


穂乃果の指示で桜丘が再び引き金を引く。

星人が頭から消えていった。
メンバーが経験した転送と同じようなものらしい。

やがて星人は完全に消えた。

メンバーが穂乃果のもとに集まる。


鉄男「おいおい、一体なにしたんだよ」


初めに口を開いたのは鉄男だ。


穂乃果「えっと……田中星人の時に見てませんでした?」


鉄男が首を振る。
前回はスーツ未着用だった事もあり、全く周りに気を配る余裕はなかったらしい。

穂乃果が説明する。

穂乃果「えっと、さっきは時間がなくて言い切れなかったんですけど、銃にはロックオン機能がついているんです。
上トリガーだけを引くと使えます。攻撃したい時は下を引いてください」


相変わらずのトンデモ技術だった。


桜丘「こっちは捕獲銃なのね」


桜丘は銃口が3つ付いた銃を穂乃果に返した。
つい先ほどの様子を見るに、こちらにもロックオン機能はあるようだ。

穂乃果がそれを受け取り、彼女もショットガンを岡崎に返した。

「穂乃果! みなさん!」


その時、もう一体の星人を引きつけた海未が戻ってきた。


海未「そっちの星人は?」

穂乃果「倒したよ。そっちは?」

海未「東郷さんが助けてくれて、なんとかできました」


海未が正門付近の塀を指差した。

男がショットガンを構えている。
もはやライフルだ。

思い出した様に、桜丘がパソコンを海未に差し出す。

桜丘「そういえば、これ…」

海未「あ、どうも」

穂乃果「海未ちゃん、これなに?」


見たところ普通のパソコンだ。
だが、この場に持ち込むということはそれなりの理由があるのだろう。


海未「話せば長くなりますが、とにかくそれには星人の点数を計るソフトが入っています」

穂乃果「点数が?」


スリープモードになっていたらしく、画面を開くとすでにデスクトップが映っていた。

そこにあった英字のソフトを起動する。


海未「穂乃果、銃を貸してください」


穂乃果が腰にマウントしてある銃を渡した。


海未「どこかに繋げる物が…」


海未は銃をためつすがめつしていたが、グリップの下に小さなツマミを見つけるとそれを引っ張り出す。

USBケーブルの様な物が出てきた。

海未「これを差し込むのでしょうか」


ケーブルの先をパソコンに接続すると、銃のディスプレイに映っているものがそのままパソコンの画面に出た。


穂乃果「なにこれ……」

北条「ふつーの技術と互換性があるって事か?」


本当に点数が計測できるなら便利だが、ガンツの謎はむしろ深まった。

あれもまた異星人による技術というならまだ納得はいくのだが、これでは地球産とも言えてしまう。

桜丘「本当に使えるの?」


桜丘の疑問に、海未は首を横に振った。


海未「試してみないことにはわかりません。
他の星人を早く探しましょう」


さっきから興味無さげだった鉄男が言った。


鉄男「俺バイク取ってきていいか?」

岡崎「おっ。後ろ乗っけてくれよ」


岡崎も鉄男について行く。
バイクは正門の外に置きっ放しだった。

穂乃果「まだ45分もあるけど、早めに探そう。
まだボスがいるかもしれなっ……!」


タブレットのような物を見た穂乃果が唐突に言葉を切った。

ガバッと後ろを振り返る。
そこには相当な高さのある寺院が建っていた。

その屋根の上。


5体の仏像がこちらを見下ろしていた。



終了です。

なんか銃の設定いじっちゃいましたが、実はこれから設定改変は結構あります。
あと他作品のものを星人として出しちゃったりもします

申し訳ありませんが諸事情により投下できませんでした。

今夜はできると思います

ーーーーーー


東郷「……」


ババンッ!


彼のいる塀の下の地面が、二箇所同時に破裂した。


東郷「なるほど……だから散弾銃(ショットガン)なのか」


トリガーが二つあるのを見て、ロックオン機能が付いている事は予想できたが、ここまでとは思わなかった。


「バイク無事だぜ!」

「けっこーイカすフォルムだなおい」


正門のあたりから声がした。
鉄男と岡崎だ。彼らも無事だったようだ。

他のメンバーは境内に集まっていた。

見ると、人間とそう変わらないサイズの仏像が5体出現している。


ーーーここからやれるか?


スコープに目を当てる。
恐らく狙えるだろう。

しかし、東郷が介入する必要は無いようだ。

刀を構えた少女、確か海未と名乗っていたか?
ともかく彼女が真っ先に仏像の一体に斬りかかり、躊躇なく真っ二つにした。

それを見た他のメンバーも行動を起こす。

まとめ役の様なポジションの高坂という少女がワイヤーを射出し、仏像を拘束する。

高校生くらいの少年と髪の長い女も銃を撃ち始めた。


東郷「あっちは……大丈夫か」


正直、最初に戦った金剛力士像に比べれば明らかに弱い。
瞬く間に仏像達は屠られていった。

東郷は溜息をついた。


東郷「…いまどきの若者もなかなかやるな」


現代人は平和ボケしているとよく聞くが、捨てたものではないようだ。


ーーーーーー


すれ違いざまに二匹目の仏像の胴体を両断し、私は息をつきました。


海未「桜丘さん、こいつらは何点ですか?」

桜丘「全部1点ね」

穂乃果「まあ、仕方ないね…」


解放を目指す以上、高得点の星人を倒す必要はありますが、絶対とはいかずとも点数に比例して星人のランクは上がるはずです。
1点だろうと文句は言えません。

これで今回私は2点を獲得したことになります。

北条「次はどうする?」


北条の発言で、私達は穂乃果の端末に目を落としました。


穂乃果「正門にまた5体集まってる……、鉄男さんと岡崎さんがいるところだ」

北条「今のと同じレベルなら余裕だろ」


初めての岡崎さんを含み、さらに2人だけとはいえ、あまり手強い相手とは言えませんでした。

一応心配といえば心配ですが……

どうしたものでしょうか。

海未「そういえば、あちらには東郷さんもいますね」

穂乃果「あ、そっか。なら大丈夫かも」


ミッション上の経験がいくら上でも、本職の彼を心配するのはむしろ失礼に値するでしょう。


海未「なら、私達は…」


穂乃果が頷きます。
そして、画面の一点を指して言いました。
5体分の光点が重なっています。


穂乃果「うん。ここにいるのを倒しに行こう。
……たぶん、ボスがいる」

やや気の緩みかけたメンバーに緊張が走りました。


桜丘「ボスって…、そんなのがいるの?」

穂乃果「はい。前のミッションでは、90点に到達していたベテランが殺されました」

桜丘「うそ……」


桜丘さんは連れて行くべきではないかもしれません。
ミッションへの適応力はなかなかあるようですが、実戦経験も重要です。


海未「桜丘さん、あなたはここにいてください」


しかし、返答は意外なものでした。

桜丘「いえ、私も行くわ。
…足手まといになったら見捨てて」


私と穂乃果は顔を見合わせました。
それを見た桜丘さんが笑って続けます。


桜丘「だって、自分より若い子ばっかりに頼ってなんかいれないわよ。
あと私、実はキックボクシングやってるからけっこう強いわよ?」


そう言った彼女の雰囲気は、何故か希先輩…いえ、希と似ているように感じられました。


海未「本当にいいんですか?」


桜丘さんが首肯します。

北条「まあ、敵も5体いるしな。
数は必要だろ」


北条さんは特に止めませんでした。

穂乃果が少し離れた所にある建物を指さします。


穂乃果「たぶん…あそこ」


何棟か建っている寺院の一つでした。
平屋建てで、少し小ぶりです。

私はパソコンを持ちました。


海未「では……、行きましょう」




ーーーーーー


鉄男の駆る近未来的なデザインのバイクが疾走する。

背部備え付けられた腰掛けから、岡崎は二丁のショットガンを乱射した。


バイクを回収して再び正門から羅鼎院に入った2人は、早速仏像五体の襲撃を受けたのだ。


バンッ バンッ バンッ


仏像の内1体の四肢が破裂し、胴体が無様に転がった。

岡崎はニヤリと笑う。


ーーーザコめ。

岡崎「うらぁッ!!」


ギョーンギョーンギョーン


一切容赦する事なく銃撃を叩き込み、瀕死の標的を血肉の塊と変えた。


鉄男「てめッ、俺の分残しとけや!」


まだ四体残っているとはいえ、運転している鉄男にはあまり攻撃の機会はない。

このままでは岡崎に全て取られてしまうだろう。

なら仕方ない。
鉄男はハンドルを左手のみで操作し、空いた右手で銃を抜いた。

ガガガガガガガガッッ!!!


強引なアクションでバイクを急旋回させる。

あやうく振り落とされそうになった岡崎が叫んだ。


岡崎「何しやがんだよ!」


それを無視し、鉄男は正面に捉えた仏像の群れにバイクを突っ込ませた。


岡崎「撃てねーじゃんか!」

鉄男「うっせぇ! 次は俺だ!」


鉄男が銃を構える。
距離はほぼゼロになった。

鉄男「もらったぜ!」


ギョーンギョーンギョーンギョーン


横切り様に近くの1体を撃ちまくった。
反撃の隙を与えず、スピードを上げて離脱する。

後方から聞こえる爆発音に、鉄男は満足げな表情を浮かべた。


鉄男「ぎゃはははっ、これけっこー楽しーじゃんか!」

岡崎「今度は俺撃つかんな!」


2人の頭からは緊張と恐怖が消え失せ、昂揚と嗜虐のみに支配されていた。

側から見れば異常だ。
しかし、そうさせるだけの力を、彼らは手にしている。

鉄男「とりま降りんぞ。なんならどっちが多く殺れるか競争しよーぜ」

岡崎「つってもあと3体しかいねーけどな」


バイクから降りた2人に、生き残りの仏像が迫る。

鉄男は銃をホルスターに戻した。


鉄男「よし! 俺は素手でヤってやる」


指をポキポキと鳴らして粋がる鉄男を、岡崎が嘲笑する。


岡崎「バッカじゃねーの? 調子乗ってると死ぬぜ」

鉄男「タイマンしたことねーデブは黙ってろ!」

その発言を聞き流し、岡崎は両手のショットガンを撃ちながら突撃した。


岡崎「オラオラオラァッ!!」


避け切れる筈もなく、仏像は体液を撒き散らしながら木っ端微塵になる。

岡崎に襲いかかろうとする別の仏像に、鉄男は飛びかかった。


鉄男「テメェの相手は俺だコラ!」


スーツのアシストもあり、パンチ一発で仏像は吹っ飛んだ。
すかさず馬乗りになり、頭部を何発も殴りつける。

グシャリと不快な音がしたと思うと、拳が仏像の顔面にめり込んでいた。

鉄男「ハッ! やっぱ弱えーよコイツら」

岡崎「でけーのもっかい来ねえかな」


瞬く間に1体ずつ倒した彼らは、最後の個体に向き直る。
他の2体と戦っている時も微動だにしなかったものだ。


岡崎「なんかこいつ、俺らのこと舐めてね?」

鉄男「おいコラ! なんか言ってみろや!」


それでも反応は無かった。
鉄男は舌打ちをし、提案する。


鉄男「コイツ腹立つな。
…勝負は止めだ。2人がかりでボコボコにしてやる」

岡崎は頷いた。

それを見た鉄男はホルスターから銃を抜く。


鉄男「いくぞ!」


しかし、彼らが銃撃しようとした瞬間。


バンッ!!


地面を蹴る音と共に、仏像が空高く舞い上がった。


岡崎「おわっ!? なんだよ!」


呆然と空を見上げる岡崎を、鉄男が叱咤する。

鉄男「ボーッとしてないで撃て!
逃げられんぞっ!」


思い出したように真上に銃口を向ける岡崎だったが、敵は空中でただ静止している訳ではない。

攻撃しようとする2人を見ると、本殿の方へ高速で飛んでいく。


岡崎「逃げんじゃねえ!!」


ギョーンギョーン


仏像の飛ぶ方へ銃を撃つ岡崎だったが、当たる筈もなかった。


鉄男「畜生! あのヤローぜってえ殺すっ!!」


鉄男は銃撃を諦め、仏像へと走り出す。

距離自体はすぐに縮まったが、どうしたものか。


鉄男「このスーツなら跳べるか?」


そう思いつくとすぐに実践する。

利き足が地面に着くと同時に、全体重を乗せて踏み込む。
そのまま思い切り地面を蹴った。


鉄男「うおおお!!」


一瞬で仏像の飛んでいる高度に達する。

鉄男は手を伸ばし、仏像の足を右手で掴んだ。


鉄男「やったぜ!」

流石に鉄男の体重までは支えきれず、仏像が落下する。

鉄男は銃を手にした。


ギョーン


頭部に一発だけ撃つ。

発砲と同時に岡崎が追いついてきた。


岡崎「おっ、やったのかよ」


ババンッ!


その問いへの回答は、タイムラグの後に必ず訪れる爆発音だった。




投下終了。

雑魚は一掃しましたね

また機器の不具合でできませんでしたすみません。

様子見ながらやります

ーーーーーー


穂乃果「そういえばさ」


光点の示すポイントに向かう途中、穂乃果が思い出したように言いました。


穂乃果「結局そのパソコンって誰にもらったの?」


絵里にもらったことをまだ言っていませんでした。
話しておくべきでしょうか。

私は口を開こうとしましたが、そこで桜丘さんの声に阻まれました。


桜丘「見て! 向こうの光点が消えたわよ」

北条「あいつらがやったのか?」


会話を中断し、私と穂乃果もディスプレイを覗きます。

穂乃果「ほんとだ。全部倒されてる」

海未「今回は、本当に犠牲者無しでいけそうですね!」

穂乃果「うん!」


ボスらしい光点の位置に近づき、私達は全員武器を構えました。

桜丘さんにはパソコンと銃を持ってもらい、点数の把握を任せます。


北条「やっぱりこの建物の中だな」

海未「どうしましょうか。扉を開けた瞬間にやられるかも…」

穂乃果「なら下がって建物ごと撃とう。うまくいけば下敷きにできるかもしれない」


特に代案がある訳でもないので、そうする事にしました。
建物の正面に並び、私以外の全員で屋根に照準を合わせます。

刀を伸ばし、銃撃と同時に飛び出せるようにしておきましょう。

穂乃果「みんな、いい?」


全員が無言で頷くと、穂乃果はカウントを始めました。


穂乃果「いち…にの…、さんっ!」


ギョーンギョーンギョーンギョーン
ギョーンギョーンギョーンギョーン
ギョーンギョーンギョーンギョーン


4つの銃口が何度も発光し、星人のいる建物を照らします。

私が脚に力を込めると、黒いスーツの表面に血管の様なものが浮き出ました。


穂乃果「来るよ!」


タイムラグが終わりました。

銃撃を食らった箇所が次々と破裂していきます。
耐え切れずに屋根も崩落し、激しく土煙が巻き起こりました。

そしてその中に、私は黄金に輝く何かを見つけます。
ボスだと直感しました。


海未「はあああああああッ!!」


地面を蹴り、弾丸のように飛び込みました。
そのまま刀を振りかぶり、突進の運動エネルギーを思い切り使ってボスを両断します。

左肩から右脇腹にかけて、確かに切断しました。


海未「やりましたか!?」


振り返ると、そこには体を真っ二つに分かたれた千手観音像と、崩落した木材の下敷きとなった仏像が4体。
仏像は先ほど戦ったものと同じサイズでした。

よく見ると、まだ死んではいないようです。


海未「皆さん! 仏像は生きています!
今のうちにとどめを……」

北条さんとサダコさんが動けない仏像に銃を向けます。

その時、点数を見ようとパソコンを確認した桜丘さんが叫びました。


桜丘「待って!」


メンバーの動きが止まります。


穂乃果「どうかしたんですか?」

桜丘「あなたも見て!」


桜丘さんに画面を見せられた瞬間、穂乃果の顔から血の気が引きました。


穂乃果「みんな下がって! そのボスも絶対死んでない!
そいつ………75点だからっ!!」


その言葉に呼応するかのように。


千手観音の切断面から肉が伸びて。


私の眼の前で無傷の状態に再生していきました。

千手観音が起き上がると同時に、無数の腕の二本が持っている小さな灯籠から光線が伸びました。

それは仏像達を押し潰している木材を瞬く間に切り刻んでいきます。


私も、穂乃果も、北条さんもサダコさんも桜丘さんも。


仕留めたはずの星人達が苦もなく態勢を立て直すのを見ている事しかできませんでした。


『くゆつる おるぐくるす おるぐくるす』

『ぶるぶるぬすつくるゆふ』

『くゆつるぶつくるす』

『いむくるすつゆるむつうる』


自由になった仏像達が私達に向き直り、何か言語のようなものを発しました。

北条「こいつら…なに言ってんだよ」

穂乃果「わからない。でも……、私達を殺す気だ」


殺気のこもった目で私達を睥睨する仏像達とは対称的に、中心に立つ千手観音は、こちらのことなど見えてないかのようでした。


桜丘「この4体も3点よ。気を抜かないで」


そう、まるで。


海未「私たちなど、敵でもないという事ですか……?」


全員で生き残る。


その目標が、遠のくのを感じました。






ーーーーーー


東郷は一部始終を見ていた。

星人達のボスであろう千手観音像が、一刀両断されたにも関わらず再生してみせた光景を。

そして。


東郷 (レーザーか……厄介だな)


このスーツで耐えられるものなのだろうか?
もしそうでなかった場合、最悪あれだけで全滅する可能性すらある。

武装は当然他にもあるだろう。
その全てが必殺級の威力を持っていると考えてもいい。

この状況があの黒い球の主催するゲームだとしたら、千手観音の難易度がおこりんぼう星人、あばれんぼう星人以下という事は決してないのだから。

そういうものだ。

比較的近くに、仏像5体を倒した鉄男と岡崎が見える。
加勢するなら彼らも参加させるべきだろう。

東郷は屋根から飛び降りた。

2人がこちらに気づく。


鉄男「なんだ、お前も生きてたのか」

岡崎「何体倒した? 本職さんよぉ」


まるで緊張の見られない彼らの態度には呆れたが、文句を言っている暇はない。


東郷「まだラスボスがいる。あっちの5人が危ない。加勢しよう」

鉄男「ラスボスだぁ?」


鉄男が面倒くさそうに言った。
反対に、岡崎のテンションは上がっている。


岡崎「おっしゃあ! まだいるってんならぶっ殺してやるぜえ!」

東郷「そう簡単に倒せそうな相手ではない。自分がやるから牽制を頼む」

東郷の提案に、岡崎は不満げだ。


岡崎「お前さぁ、獲物独り占めする気かよ」

東郷「そんなつもりはない。そもそも、倒せるかすら怪しい」


東郷の言葉に耳を貸すことなく、岡崎は走り出した。
残った鉄男は、すでにやる気を失っているらしい。


鉄男「やべー奴なんだろ、お前も行かなくていーのか?」


ーーー戦闘能力自体は悪くないのに、当てにならない連中だ。


東郷は連携を諦め、岡崎の後を追った。






ーーーーーー


桜丘「やあああっ!」


まず動いたのは桜丘さんでした。

そばにいた仏像に回し蹴りを叩き込み、吹き飛んだところで銃を撃ち込みます。

タイムラグを経て、仏像の全身が爆散しました。ちゃんと攻撃は通るようです。


海未「大丈夫、倒せます!
私が千手観音を引きつけますから、この4体を!」

穂乃果「わかった! すぐ終わらせるから!」


穂乃果が捕獲銃を撃ちました。

やはり外にいた仏像よりは強力なのか、ワイヤーを跳躍して躱されます。

しかし通り過ぎたワイヤーは、すぐに進路を変えて再び仏像に迫りました。
ロックオンしていたようです。

私は千手観音に視線を戻しました。

千手観音は私を見ていませんでした。

また灯籠が光ります。
反射的に身構えますが、狙いは私ではないようです。

放たれた光線は、仏像の1体を拘束しているワイヤーに向かって伸びていました。

穂乃果が「あっ」と声を上げます。

転送される前に解放された仏像は、穂乃果との距離を一気に詰め、彼女の腹を蹴り飛ばします。


穂乃果「うっ!?」

海未「穂乃果!」


つい穂乃果に目を向けてしまいましたが、視界の端での千手観音の動きは見逃しませんでした。

千手は左手に持った水瓶の中身を私の方に飛ばします。

後方に跳んで避けました。

私のいた位置に液体がかかると、床があっという間に溶けて穴を穿ちました。

あんなものを食らったらーー、間違いなく死にます!


海未「はあっ!」


目標は敵の武装です。

光線を出す灯籠や、強酸のような液体の入った水瓶。
それらに対処しなければ話になりません。

千手の左肩から斬り込みます。
ひとまず、即死を免れない水瓶を破壊する事にしました。

苦もなく左腕を切断。

やはり、すぐに再生がスタートし、落ちた左腕が体に戻ろうとします。

千手は一歩も動きませんでした。

余裕があるとか、そういう次元ではなく、本当に私など敵ではないと認識しているのでしょう。


ーーーそうはいくものですか!!


左腕が胴体と繋がった瞬間、私は斬りおろした刀の刃を回転させ、今度は斬り上げで左腕を切断します。

千手の目がピクリと動きました。

また再生が始まります。
同時に私の顔に灯籠が向けられます。

光線の発射より一瞬早く、私は体を伏せました。
そして灯籠にも刀を突き立てます。

再生の終わった左腕、もう片方の灯籠、再生の終わった最初の灯籠、別の腕、また別の腕、またまた別の腕。


海未「再生などっ、させません!!」


私は雄叫びを上げ、千手観音を斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬ってーーー、


海未「はあああああッッ!!!」


最後の一太刀で首を斬り飛ばしました。

荒い息をしている私を、仏像を片付けたメンバーが見つめていました。


北条「す、すげえ…」

桜丘「引きつけるどころか、倒しちゃったじゃない」


穂乃果が私に駆け寄りました。


穂乃果「海未ちゃん……」


そこで私は、ようやく自分の姿を意識します。

頭から爪先までが、千手の返り血で真っ赤になっていました。


海未「穂乃果……、あまり見ないでください。こんなの…」


ぎゅっ。

私の話を聞いたのか聞いていないのか、私は穂乃果に抱きしめられていました。


海未「ほっ、穂乃果!?」

穂乃果「ありがとう。でも、無茶、しないでっ」


穂乃果が嗚咽します。
返り血が移ることも気にせず、穂乃果は私の胸の中で泣き出しました。


海未「……決めていたんです。あの部屋に来た時から。
何が起ころうと、あなたを守るって」

穂乃果「海未ちゃんっ!」


穂乃果が顔を上げました。

こんな状況でも変わらない、昔から変わらない、穂乃果の泣き顔でした。


北条「いや、えっと……あのさ」

北条さんがおずおずと口を開きました。

私はハッとしました。
転送が始まっていないのです。


北条「まだ、終わってないみたいだぜ?」


彼が言い終えた瞬間、異変が起こりました。

私の体から、返り血が意思を持っているかのように蠢き始めたのです。


海未「まさか……!」


返り血はある一箇所に飛んでいきます。

そう。


腕を全て失った千手観音の下へ。


穂乃果「あんなにやっても……ダメだっていうの…!?」

五体満足となった千手観音が、私達を見下ろします。

もう油断はしてくれないようです。

二本の剣、二個の灯籠、そして左手の水瓶。


その全てを、いつでも使えるように前に突き出していました。


海未「一体……どうすれ…ば……」


再生より早く斬っても駄目。

そうなると……。


穂乃果「これなら!」


穂乃果が捕獲銃を撃ったとき、全員が同じように淡い期待を抱いたでしょう。

しかしすぐに思い出しました。
仏像を拘束したワイヤーが、光線一発で切断された光景を。

千手は向かってくるワイヤーを光線で撃ち墜とし、流れで穂乃果の持つ捕獲銃を溶断しました。

逃げるしかない。

私は確信しました。

他のメンバーに伝えようと視線を動かすと、誰かがこちらに走ってくるのに気づきました。


海未「あれは……岡崎さん?」


その後ろには東郷さんも見えます。

岡崎さんは千手を見つけると、獰猛な笑みを浮かべ、さらに加速しました。


岡崎「俺がやる! 殺すッ!!」


ろくに狙いもつけずに両腕のショットガンを乱射します。


穂乃果「巻き込まれます! 逃げてっ!」


穂乃果が叫び、私達は千手から離れました。

北条「あのデブ! 考えなしに突っ込みやがって!」

桜丘「で、でも不意打ちにはなったんじゃない?」


私達が千手らと激闘を繰り広げた建物(の残骸)を、岡崎さんの銃撃がさらに破壊していきます。

ついに千手の顔に命中しました。


岡崎「おっしゃ!」

北条「再生するぞ! 気ぃ抜くな!」


バラバラになった顔があっさりと再生し、岡崎さんが呆然としました。

千手は2つの灯籠を突き出します。

しかし光線を放つ事なく、2つとも銃撃を受けて破裂しました。

岡崎さんの背後に東郷さんが見えました。

千手の両足、腹部、胸部と次々に爆散していきます。

東郷さんが叫びました。


東郷「一度逃げるぞ! 走れるな!?」


幸い、スーツが壊れた者も怪我をした者もいません。

私達は東郷さんと岡崎さんの来た方へ走り出しました。


穂乃果「海未ちゃん! あいつどうすれば!」

海未「わかりません!」


私と穂乃果は一瞬振り返りました。


千手観音は既に再生を終え、こちらを冷たい目で見つめていました。







千手戦スタート。

今のところほのうみです。あくまで今のところは

GANTZ作品にしては死ななすぎる、訴訟

>>432

みんなで帰る物語だからね、仕方ないね(適当

投下します

ーーーーーー


鉄男がボスとの戦闘に参加しなかった理由は単純だ。


飽きたし、疲れた。あとバイクいじりたい。


この程度である。

故に、彼の目の前に千手観音が現れた時、「やっぱり倒してみよう」と軽く考えた。考えてしまった。


鉄男「こいつがボスか? ちっちぇーな」


サイズは雑魚の仏像と変わらない。

しかし、無数の腕それぞれに携えた武装といい、金色のフォルムといい、なんとなく格の違いを感じさせる。

こちらを捕捉した千手観音が剣をジャキリと突き出す。


やる気だ。

鉄男はバイクにまたがった。
勢いよくアクセルを踏み込む。


鉄男「ついてこいやァッ!!」


挑発するように叫びながら中指を突き立て、本殿の方へ全速力で突っ走る。

当然敵も追ってきたが、この速度には追いつけないらしい。


鉄男はバイクを本殿と隣の棟との間に滑り込ませた。
ギリギリ通れなくもない。

振り返ると、なにやらレーザーのようなものを二本の手から発射しているが、狙いが定まらないようだ。


鉄男「当たらなきゃどーってこたぁないってなァッ!」


千手観音は追撃を諦めたようだ。


ーーー狙い通りだぜ。


鉄男は本殿の建物に沿ってバイクを走らせる。

すぐに一周し、敵を撒いた箇所とは反対側から飛び出す。

すると、やはり。

鉄男を見失った千手観音が、無防備に突っ立っていた。


それ目掛けて、鉄男は躊躇なくスピードを全開にした。


怒涛のエンジン音を千手観音が察知した時には、もう遅い。

鉄男の駆るバイクは、千手観音の目前まで迫っていた。


鉄男「死ねやああァァッ!!」


彼は獣の様に獰猛な笑みを浮かべ、特攻する。


ついに車体が千手観音を捕らえた。


鉄男を勝利を確信する。

あの自衛官や、ミリオタのデブ、そしてやけにデカいツラしてやがる女子高生どもが逃げ出したラスボスを、自分は単騎でぶっ殺すのだ。

これほど愉快なコトはない。


しかし千手観音は、超速で迫るバイクに対し、極めて冷静に対処する。

千手観音は、握った剣の一本をバイクへと突き出した。


鉄男「へっ?」


その雑な反応に、鉄男は思わず目を丸くした。


だがたった一本の剣は、確かにバイクが持つエネルギー全てを受け止めていた。


ーーーところでこういった場合、車体の上にいる人間はどうなるだろうか。



鉄男「うおおおおお!!?」



慣性とは、いかなる状況でも馬鹿正直に働くものだ。

アクセル全開でバイクを突撃させた鉄男は、バイクが止められてもなお運動を続ける羽目になる。

ようするに。





そのまま吹っ飛ぶのだ。




叫び声を上げて飛んでいく鉄男を、千手観音は冷たい目で見つめていた。


そして、雑にレーザーを撃ち出す。


その光線は確かに鉄男の片腕を空中で切り飛ばした。

放っておけば死ぬだろう。


落下する鉄男には目もくれず、千手観音は他のメンバーの探索を再開した。









ーーーーーー


ここはどこでしょうか。


千手からからくも逃げ延びた私達は、羅鼎院のいくつかある建物の一つの裏に隠れていました。

私の疑問に答えるように、東郷さんが口を開きます。


東郷「おそらく、正門とは反対側だ。脱出は難しいな」

穂乃果「…まあ、爆弾がある以上逃げられないけどね」


結局のところ、私達にはあの千手を倒すしか生きて帰る方法はない訳です。


北条「んで、どうすんだよリーダー」


北条さんが穂乃果に言いました。


穂乃果「へ? リ、リーダー?」


いつの間にかそういう扱いになっていた彼女は戸惑いましたが、すぐ冷静に話し始めました。

穂乃果「えっと、あと残り時間は20分ちょっとしかない。倒せなかったとしたらガンツに殺されるかもしれないから、とにかく攻撃するしかないね…」

海未「しかし……何をしても再生されてしまいます」

穂乃果「問題はそこなんだけど、あの千手観音の再生能力ってどのくらいのレベルなんだろう?」

北条「レベル?」


北条さんが怪訝な顔をしました。
穂乃果が続けます。


穂乃果「敵が生物だとしても、ガンツが作り出したゲーム用のキャラクターだとしても、能力には絶対限界があるはずだよ」


確かに、その考えは合っているでしょう。

いくら地球外生命体だろうと、再生は無限ではないはずですし、ゲームの敵役だとすれば尚更、『絶対倒せない』という事はありません。


海未「それで、どう対処すれば良いのですか?」

穂乃果「…全身を一度に吹き飛ばす」


穂乃果の言葉に、全員が絶句しました。

それは不可能ではありません。
しかしーーー


桜丘「あの攻撃を回避しながら?」

岡崎「細かそーな作戦だなオイ」


相当困難な方法でした。


北条「あいつに殺られないようにしながら全員でロックオン……、無謀だな」

穂乃果「でも他に方法はないと思う。あの、東郷さんはどう思いますか?」


そこで穂乃果は、東郷さんに意見を求めました。


東郷「……敵の気を引いてさえくれれば、狙撃は自分が一人でやれる」


またメンバーが唖然とします。

岡崎「はあ? 一人でやれんのかよ」

東郷「ショットガンの方は、複数箇所を同時にロックオンできる」


東郷さんは一人でいる間、ずっと銃を調べていたようです。


東郷「あとこれは推測だが、銃身下部のスライドはリロード用ではない。試してはいないが、エネルギーを調節するものだろう」


言い終えると、彼は立ち上がって歩き出しました。
狙撃できる場所を探すようです。


北条「あいつ、一人でやる気か?」

岡崎「囮役押し付けやがって、ったくよぉ」


岡崎さんが悪態をつきますが、私はむしろ危険なのは東郷さんだと考えました。

千手が遠距離用の光線を使える以上、負傷した時カバーしてもらえない単独行動が一番危険です。

穂乃果「じゃあ皆、なるべく広い所に行きましょう。
敵を一箇所にとどめて、東郷さんが狙撃をする隙を作る必要があります」


穂乃果に続き、私達は建物の裏から出ました。
ある程度立ち回れる場所となると、やはり本殿の前あたりでしょう。


海未「穂乃果、最初の金剛力士像と戦ったところにしましょう」

穂乃果「うん、いいと思う」


私は刀を抜きました。

岡崎さんは二丁のショットガンを、桜丘さんとサダコさんも銃を持ちます。

穂乃果は右手に捕獲銃を持ったままですが、左手にも普通の銃を持っていました。
不殺傷を諦めざるを得ない状況だということです。

一方北条さんは、銃ではなく私同様に刀を構えていました。

海未「北条さん、接近戦になりますが大丈夫ですか?」


私の心配を他所に、北条さんは笑って言いました。


北条「最前衛を一人に押しつける訳にはいかないからな」


その申し出は素直にありがたく、私は彼と並んで前に出ました。


すでに本殿は目の前でした。
私達は迂回し、金剛力士像二体と激闘を繰り広げた広場に着きます。

障害物もなく、狙撃する標的を呼び込むには好都合です。


そして幸運にも。


すでに正門付近に、千手観音が待ち構えていました。


海未「穂乃果っ!」


すぐさま穂乃果に呼びかけます。

彼女も、他のメンバーもすぐに気づきました。

ここ逃がさないとでも言いたげに、正門を塞ぐ最強の敵。


決戦が始まります。


穂乃果「みんな散らばって!
固まってたら光線で一気にやられる!」


全員が左右に捌ける中、私だけは千手に向かって真っ直ぐ突き進みました。

すぐに千手が反応します。


ーー来る!


灯籠が光ると同時に、私はスライディングの要領で地面を滑りました。

光線は頭上を通過。
うまく避けられました。

当然、発射と着弾の差はゼロでしょう。
狙われた瞬間に回避行動を取らなければ、簡単に餌食となってしまいます。

次も同じ手が通じるとは思えません。


1秒間のブランクもなく、また灯籠が発光しました。

海未「はああああ!!」


もはや反射的に跳躍します。

スーツの力により、軽く2メートルは飛び上がったでしょう。

下を通過する光線を視界の端に捉えながら、私は刀身を思い切り伸ばしました。

少なくとも、千手までは届く位に。


海未「ふっ!」


着地に合わせ、私は渾身の力を込めて刀を叩きつけました。

千手も剣で受け止めようとしましたが間に合わず、体を左右に両断されました。


すかさず穂乃果が叫びます。


穂乃果「みんな撃って!!」


またも再生しだした千手を、穂乃果、岡崎さん、桜丘さん、サダコさんの4人が容赦なく銃撃します。

再生が完了した途端にタイムラグが終わり、千手の体を次々に弾き飛ばします。


それでも、まだ足りないようです。

北条「うおおおッ!!」


散った肉片を取り込み再生していく千手に、いつの間にか距離を詰めていた北条さんが斬りかかりました。

再生が止まります。


桜丘「やれるっ! やれるんじゃないの!?」

穂乃果「北条さんに当てないように撃ってください!」


間髪入れず攻撃され、千手は見るからにボロボロでした。


岡崎「らぁっ! 死ね死ねぇっ!」


特に射撃のペースが早い岡崎さんの銃撃で、再生したそばから爆発する、といったことを繰り返しています。

しかし、そう簡単に攻略できるほど甘くはありません。

灯籠が再生された瞬間、そこら中に無差別に撃ち始めました。

北条「くっ…!」


私達の攻撃が止んだ途端、千手が五体満足になってしまいました。
至近距離にいた北条さんが離脱します。


岡崎「やっ、やべえ! 元に戻っちまったぞ!」

穂乃果「大丈夫!
……そろそろ、来るよ」



そうです。


私達の目的は、あくまで陽動。

千手が水瓶を勢いよく振り上げた時も、私は冷静でした。

戦闘を始めてから、私達は何度も何度も攻撃し続け、千手に一切移動をさせていません。


それなら、もう終わっているはずでした。



ボコッ!



千手の全身にヒビが入り、膨張します。

次の瞬間には、頭も胴体も、無数にある腕も、全てが寸分違わず同じタイミングで爆発しました。

千手がバラバラになるのは何度か見ましたが、今回は決定的に違います。

千手が今までいた所には、真っ赤な水たまりだけが残っていました。


肉片の一欠片も存在しません。



北条「終わった…のか?」

穂乃果「た、たぶん」

桜丘「これでまた再生したら心折れちゃうわね…」



私は赤く染まった地面を見ました。


そこには、使用者を失った武装の数々だけが、無造作に転がっていました。










少なめですがゴメンナサイ、終了します。

仏像編も終盤戦へ

それぢわ投下をはじぬる


温かい応援感謝します

ーーーーーー


100メートルほど先にある千手観音の残骸を、東郷は静かに見つめていた。


ーーー終わったか?


これ以上の再生能力は……ないと信じたい。

だが、肉体のごく小さな一部分でも残っていれば、そこからまた再生される可能性もある。


東郷は再びスコープを覗き、残骸の周辺をくまなく確認し始めた。

地面に落ちている二本の剣には血が付着していたが、再生する気配はない。

他にも水瓶と灯籠が落ちていた。


東郷「どうやら…、倒したようだな」


形を保っているのは武器や装飾のみだった。


千手観音と立ち回りを繰り広げたメンバー達が彼を見つけて手を振るのが見える。

しかし、妙だ。


なぜ、転送が始まらない?

まさかと思い、またスコープに目をやる。


ーーー千手観音の使用していた武器と一緒に、ゆっくりと回転する円盤を発見した。


しまった!


敵の再生は生物としての力ではなかったのだ。


引き金を引いた時にはもう遅かった。



地面に染み込んでいた星人だったモノが、またしても完全な千手観音を作り出した。





ーーーーーー


鉄男「ちくしょっ! スーツ意味ねえとかふざけてんのかよっ!」


レーザーのようなものに切り飛ばされた腕の断面は、スーツを伸ばして止血した。

ちなみにスーツの効果は健在だ。


彼は、施設内で最も高い、屋根がいくつか重なった塔の上に登っていた。


眼下では他のメンバーが千手観音を倒したかに見えたが、どうやら幾らでも再生できるタイプの敵らしい。


戸惑うメンバーをあざ笑うかの様に、千手が灯籠からレーザーを発射した。

照準は下にいる者に向けていない。

どこか遠くを撃ったようだ。


鉄男「スナイパーのおっさんか?」


下にいないのはあの自衛官のみだった。

また狙撃だろう。

岡崎「あああああっ! こんなん無理だぁっ!?」


岡崎がパニックを起こし、背を向けて逃走する。


がら空きの背中を千手は逃さず、またレーザーを放った。

岡崎の両足が切断される。


鉄男「死んだな、あのデブ」


そう思ったが、千手が岡崎にとどめを刺すより一瞬早く、女子高生の銃を持った方が動いた。

光るワイヤーが彼女の銃から2発続けて撃ち出され、灯籠のレーザーは2本ともそれの迎撃に割かれる。

その背後に刀を持った女子高生と男子高生が飛びかかった。


鉄男「あいつら……ほんとに素人か?」


ゾクとして生きている鉄男が目を丸くするほど、彼女らは戦い慣れているように見えた。




ーーーーーー


海未「はあああっ!!」

北条「おおおおっ!!」


穂乃果が作ってくれた隙を逃さず、私と北条さんは千手に突撃しました。

もはや戦略も何もあったものではありません。


ただーーーどうにかしなければ!


千手のいくつもある頭のうち一つが、私と北条さんをギロリと睨みました。


海未「えっ?」

北条「園田ッ!?」


私は、斬り上げられる剣に反応する事が叶わず……

容易く右腕を斬り飛ばされました。


海未「え……、あっ…」


殺虫スプレーを使う時と、同じでした。
霧のように液体が溢れ出るプシャーという音と共に、私の体から血が噴水のように飛び出します。

穂乃果「海未ちゃんっ!!」


穂乃果が叫び、駆け寄ってきます。

呆然とする私を抱き抱えると、スーツを活かして跳び上がりました。


穂乃果「みんな離脱してっ! もうこれ以上は戦えなっ…!?」


指示を出す穂乃果の言葉がふいに止まります。


海未「ほ、のか…?」


意識が朦朧とする中で、私はどうにか千手の方を見て……戦慄しました。


千手が剣を突き出し、北条さんと、彼を庇うようにしているサダコさんをまとめて貫いていました。


海未「こんなの……、もう…」


勝てない。


誰でもそう思うでしょう。
すでに戦える人間は半分以下、にも関わらず敵は健在。

どうしようもありません。

海未「…逃げてっ、ください。
ほのか……」


手負いの私がいれば、彼女の生存率も下がります。

なら、せめて。


私は穂乃果の腕を解き、近くに私の右腕が落ちているのを確認しました。


穂乃果「海未ちゃんダメ!」


穂乃果が私にしがみつきます。


穂乃果「落ち着いて! まだみんな死んだ訳じゃない!
……とにかく、あいつをここから引き離すよ」


その言葉で、私は北条さんとサダコさんを見ました。

腹部を貫かれていますが、確かに呼吸をしています。

そして岡崎さんは、いつの間にか近づいていた桜丘さんに背負われ、運ばれていました。

穂乃果「一度引くよ。海未ちゃんは隠れてて。私が桜丘さんと…あと鉄男さんと合流してなんとかする」


穂乃果は私を、俗に言う『お姫様抱っこ』の要領で持ち上げました。


千手がこちらを見据えます。


穂乃果「しっかり掴まって」


小声でそう言うと走り出しました。

光線に捉えられないよう、左右に寄りながら距離を広げていきます。


千手は足下の北条さん、サダコさんにとどめを刺す事なく、私達を追って来ました。


私は穂乃果が端末を見ている事に気付き、覗きました。


ミッションの残り時間は、7分と表示されていました。




ーーーーーー


桜丘は岡崎を背負いながら、東郷のいた位置に向かった。

彼の安否を確かめるべきだと判断したのだ。


しばらくすると、塀に腰掛けて荒い息をしている男が視界に入った。


桜丘「無事…なの?」


よく見ると、彼の左腕が肩の部分から無くなっていた。
さっきのレーザーだろう。

止血はしているらしいので、ひとまず安心した。


苦悶の表情を浮かべながらも、東郷が口を開く。


東郷「あの……円盤だ」

桜丘「円盤?」


東郷は頷いた。

東郷「武器として…、使われていないから目立たないが、それが再生能力の正体だ……。
あれを、破壊しろ…」


あの千手観音は、武装の他に装飾品のような物も複数持っていた。
その中の一つだろう。


桜丘「…この人置いていくわよ」


桜丘は岡崎を横たえた。
切断された両足の断面からスーツを伸ばし、きつく結んで止血する。

素人の彼女にはこれで合っているのかはわからなかったが、東郷が何も言わないあたり間違ってはいないだろう。


まず、腰のホルスターに銃があるのを確認した。

そして踵を返し、千手観音へと向かって行った。






ーーーーーー


穂乃果「海未ちゃん大丈夫?
うまくまいたみたいだよ」


そう言って彼女は寝かせた私のスーツを伸ばして止血を始めました。
平静を装ってはいますが、明らかに焦っています。

無理もありません。
あと7分もないのですから。

止血を終えると、穂乃果は立ち上がりました。


穂乃果「海未ちゃんはここにいて。私は千手をなんとかするから」

海未「いえ、私も……」


重傷といっても、腕の一本です。
歩行に支障はないでしょう。

しかし、いくら足に力を入れても、起き上がる事は出来ません。

まるで何かに拘束されているような……

自分の両足を見ると、光るワイヤーが巻きついていました。


海未「穂乃果っ!? 一体なぜ…」

穂乃果「…気づいてた?」


驚く私に、穂乃果は静かに話し出しました。


穂乃果「右腕を斬られてから、海未ちゃんずっと泣いてたんだよ?
すごく痛そうな顔して、涙を流して、泣いてたの」

海未「わ、私が…ですか?」


私は無事な左手を目もとに当てました。
確かに濡れています。


穂乃果「ごめんねっ…!」


穂乃果が嗚咽しました。


穂乃果「いくら凄いからって…、海未ちゃんだって普通の子なのに、ずっと危険な事を押し付けてたっ!」

海未「穂乃果っ! 私はそんな…」

穂乃果「…次は私が守るから。
私が……みんなを生きて帰すの」


意を決したように、穂乃果は銃、捕獲銃、そして端末を持って駆け出しました。

身動きの取れない私は、ただその背中を見ていることしかできませんでした。


海未「穂乃果! 早まらないでくださいっ!」


私の視界から穂乃果が消えました。

何か、胸にぽっかり穴があいてしまったような、そんな感じがしました。


海未「どうか…無事で…」


このミッションで祈りなど意味なくとも、今はそうするしかありませんでした。




ーーーーーー


やれる。

私なら、やれる。


穂乃果は自分に言い聞かせた。

そして端末を操作し、とある機能を探す。


あのベテランが駆使していた、あの機能を。


穂乃果「これだ!」


行き当たりばったりにいじっていただけだが、起動してくれたようだ。

『周波数変動中』と、液晶が示している。


だが透明になったところで、あのレベルの星人ならすぐに見破ってしまうかもしれない。

ならば極力動かず、待ち伏せをするべきだろう。

本殿の屋根に跳び乗った。


穂乃果「いた!」


千手観音は、まだここに残っていたようだ。

しかし、様子がおかしい。


穂乃果「溶けてる…の?」


どうやら再生不可能なダメージを負っているらしい。

丁度、海未との戦いで見せた溶解液を自分で被ったように。


ーーー誰がやったの?


穂乃果が見回すと、本殿の柱の影に黒いスーツが見える。

恐らく、桜丘だ。

彼女は屋根から降りた。
そして桜丘のもとに駆け寄る。

桜丘は満身創痍だった。

体の所々に切り傷があり、スーツの耐久力も限界を迎え、ジェルが漏れている。

気を失っていた。


穂乃果「桜丘さん……ありがとう」


今ならやれる、今しかない。


穂乃果は銃を構え、千手観音の頭をロックオンした。

引き金を引くのに、抵抗は一切存在しない。


あの間延びした発射音が響いた。


ーーーーーー


私はなんとか、地面に体を縫い付けていたワイヤーのロケット部分を抜き終えました。

心なしか痛みも和らいだ気がします。

立ち上がり、穂乃果の向かった先へ行こうとしました。

その時、微かに地面が揺れているように感じました。


海未「地震…ですか?」


その揺れは、だんだんと大きくなっていきました。


そして私は、信じられない物を目にします。


本殿のある方でしょうか。

周囲の建物全てを蹂躙し、巨大な像が出現しました。

海未「あれは……まさかっ!」


残っていた痛みも忘れ、私は駆け出していました。

一体、何があったと言うのですか!


二体の金剛力士像、そして千手観音と戦った広場に、私はまた足を踏み入れました。

同時に、『それ』の正体を確認します。


紛れもなく、大仏でした。


しかし、何やら様子が変です。

顔を奇妙に歪めたと思うと、頭から破片を散らし、バラバラと崩落していきました。


海未「誰が…!?」


いえ、本当はわかっています。
戦っているのは……

体が足から消えていくのに気付きました。
転送です。

私は出せるだけの声で叫びました。


海未「穂乃果ぁぁぁ! 先に行って待ってます!

あの部屋で会いましょう!

…絶対、生きて帰っ」



最後まで言い終える前に、転送が口にまで達しました。

それでも視界が完全に変わるまで、私は叫び続けました。


穂乃果と帰る。
それだけを信じて。





投下終了です。

次回、採点

キリのいいところまでいきたいので投下しちゃいます。少なめです

ーーーーーー


戻ってきたのか?


最初に視界に入ってきたのはあの黒球だった。

北条は自分の腹を見下ろした。
刺し傷は綺麗に消えている。

部屋には、鉄男、サダコ、岡崎、桜丘がいた。

つい、サダコの腹部も見てしまう。


いや、別に心配してたとかじゃない。たぶん。


鉄男「なんだ、お前も無事だったのかよ」

北条「まあ、一応な」

桜丘「本当に無傷に戻るのね。今の今まで重傷だったのに…」


桜丘が不思議そうに自らの体を見回した。

北条「まあ、一度死んだ俺らを再生して戦わせてんだし、変な話じゃないよな」

桜丘「あ、また戻ってきたわよ」


男が頭から出てくる。東郷だ。


東郷「腕が…戻っているな」

鉄男「俺も片腕やられたが、完全に元通りだぜ」


もっとも再生するとはいえ、何度も経験したいものでは当然ない。


桜丘「あとは、あの二人ね」


そういえば、なんだかんだで彼女らが一番活躍していた気がする。

無事でいて欲しいものだ。


東郷の転送からそう間を空けずに、黒いブーツの先が見えた。


鉄男「おっ、どっちだ?」

転送が上半身にまで達し、長い髪が見えた。

園田の方だ。


転送をおえると、彼女は不安げにあたりを見回す。


海未「穂乃果…、穂乃果は!?」

北条「あいつはまだだ」


ところで、あの千手観音は誰が倒したのだろうか。

今のところ、誰も名乗り出ていない。


北条「なあ、千手はどうなったんだ?」

桜丘「なんとかダメージは与えたけど、倒せなかったわ」

北条「知ってる奴いるか?」


北条の問いかけに、鉄男が手を上げた。

鉄男「ケガした後、建物の屋根に隠れてたんだよ。一応、全部見てたぜ」

東郷「どうだったんだ?」

鉄男「まず、そこのねえちゃんが千手と戦った。ンでいいとこいって敗北、それはいーな?」


桜丘が頷く。

鉄男は海未の方を一瞥し、やや歯切れ悪く続けた。


鉄男「そんで、逃げたねえちゃんをヤツが探してたワケだ。
そんとき急に千手の頭が吹っ飛んだ」

北条「倒したのか?」


それは重要な質問だったが、鉄男はわからないとでも言いたげに首を横に振った。


鉄男「千手は消えちまったよ。
…ただ、小せえ仏像を落っことしてった。それがまあ、大仏になってよ」

海未「それで、穂乃果は?」


海未が口を挟んだ。

どうやら、千手観音を銃撃したのは彼女らしい。


全員が、薄々この後の展開を悟った。


鉄男「高坂だっけか? あいつが急に出てきたんだよ。
助走をつけて、大仏の脳天に飛び込んで……そこで転送が始まった」


彼が話し終えるのと、黒球が採点開始を告げたのは、ほぼ同時だった。

海未がその場に崩れ落ちる。

かける言葉は見つからなかった。


北条は仕方なしに黒球に目を向け、採点を待った。
気まずい雰囲気ではあるが、全員が浮かび上がる似顔絵を見つめていた。

最初は北条だ。

『ばい -5てん
また最初からやってくだちい』


そして文章を見て、海未以外の全員が驚愕した。

北条自身も、あだ名が変わっている事など頭に入らなかった。


北条「点数…没収?」


その言葉に海未が顔を上げた。

まるで幽霊かなにかのような目をしていたが、しっかりと画面を見つめ、悟る。


海未「こ…これが、ペナルティ…だったんですか……?」


次は海未の番だった。


『ほのキチ -5てん
また最初からやってくだちい』


画面が暗くなる。

もう採点は無いらしい。

乾いた笑い声が響く。

今まで黙っていた岡崎だ。


岡崎「はっ、ははっ……なんだよ何でもねーじゃんかよおい!
ビビってて損したぞコラ! あははっ…」


奇妙に引きつった表情で、岡崎はまくし立てた。


岡崎「どうせ初めての俺は0点だしよ、やべーの来たら逃げてりゃ良かったんだッ!
必死こいてバカみてーだぜ!」


流石に言わせておく訳にはいかなかった。

北条は岡崎へと近づいた。一発殴らなければならない。

スーツを着ているんだ。
死ぬ訳ではない。


しかしそれより先に海未が動いた。



ダンッ!!


彼女は岡崎の体を白い壁に叩きつける。

壁にはなぜか傷一つつかないが、衝撃は部屋中を震わせた。


岡崎「なっ、なんだよ! 文句あんのか!?」


海未は何も言葉を発しない。

ただ静かに、刀を伸ばした。


北条「やめろ園田っ!!」


北条は海未の背後から組み付き、岡崎から引き剥がした。

海未が離れると、岡崎は逃げるように部屋を飛び出す。


海未もやがておとなしくなった。

海未「……穂乃果を…、返して下さいっ…」


弱々しく黒球に懇願する。
ガンツは何も反応しなかった。

どうしたものかと北条は悩んだが、前回のミッションの最後にガンツが示した事を思い出す。


北条「ガンツ、100点メニューを出してくれ」


ガンツが再び文章を映した。


『100てんめにゅ〜

1.記憶を消されて解放される
2.より強力な武器を得る
3.メモリーの中から人間を再生する』


桜丘「解放だけじゃなかったのね」

北条「ああ。さっきは説明不足だったな」

海未の視線は一点に注がれていた。


海未「穂乃果を…、再生……」


少しだけではあるが、彼女の瞳に光が戻った気がした。


鉄男「俺もう帰るわ」


鉄男が私服を持って隣の部屋に入った。
東郷も続く。


桜丘「そういえば、あの人着替えずに帰っちゃったけどいいの?」


岡崎の事だろう。


北条「関係ない人間に秘密がバレるとガンツに殺されるらしいけど、ぱっと見コスプレだし大丈夫じゃないか?」


北条も着替えに向かう。

海未の事が気掛かりではあったが、桜丘とサダコがいるので大丈夫だろう。

部屋にあったバイクは戻っていた。


鉄男「なあおい」


不意に鉄男が話しかけてきた。


北条「なんだ?」


脱ぎ辛いスーツを強引に外しながら答える。


鉄男「あの高坂ってガキ、前のミッションが終わった時に武器を持ってくなって言ってたろ」

北条「ああ、そうだな」

鉄男「んで今回のミッションで、俺らは星人を全部は倒し損ねた」


そう。あの点数の没収は明らかに、時間内に星人を倒せなかった故のものだろう。


北条「いや、時間オーバーしただけで、一応全部やったんじゃないか?」

東郷が目線を北条と鉄男の方に向けた。
やはり気になるところなのだろう。


鉄男「いやそーだろーがよ、これからもあるかもしんねーだろ?
そんとき、ミッションと関係ないときに襲ってくるとか考えられねーか?」


北条「それは…」


ないと信じたい。だが……


東郷「それは、星人が一体なんなのかという問題に直結するな。
もし本当に地球に潜伏している宇宙人だとしたら、ミッション以外でも確かに存在している連中だ」


東郷が口を挟んできた。


鉄男「おっさん自衛官だろ? なんか聞いてねーか?」


東郷「いや、少なくとも自分は知らない」

結局、星人の正体についてはいくら議論しても仕方のない事だった。

着替えを終え、居間にいるであろう女性陣に声をかける。


北条「そっち終わったか?」

桜丘「大丈夫よ」


桜丘の返事を聞き、三人は居間に戻る。

サダコもいたが、海未はいなかった。


東郷「あの娘は大丈夫なのか?」

桜丘「なんとも言えないわね」


もうこの部屋に用はない。

残されたメンバーも、それぞれ帰路についた。




ーーーーーー


これでいつでも決行できる。

いよいよ、あの部屋に戻る事が叶うのだ。


「絢瀬絵里…まさか秋葉原のメイド喫茶で会うとは思わなかったな」


しかしその後のライブで、彼女の個人情報をいとも簡単に入手できたのだから僥倖だ。

予想通り音ノ木坂の生徒で、ついでに三年生で生徒会長である事、交友関係まである程度把握できた。


「銃はいらないか? でも手に入れた以上はな…」


絢瀬絵里の顔写真を眺めながら悩んでいると、携帯がなった。

「ん? 玄野か」


友人からだ。彼は電話に出た。


『ああ、和泉? 今日出された数学の課題っていつまでだっけ』

「明後日までだな」

『わかった。ありがとう』


たった二言三言会話し、通話を終える。

電話を切ると、彼は再び計画の確認に入った。


「まずは人質をここで攫って……呼び出すのはこの廃工場だな。騒いだところでまず気づかれない」


彼は『人質』として利用する少女の写真を手に取った。

彼女もまた、音ノ木坂学院の生徒だった。




投下終了。次からは新章スタートですね

4・卒業生



「……みちゃん! 海未ちゃん!」


私はハッと顔を上げました。

ことりが私を心配そうに覗き込んでいます。


ことり「ご飯いいの? もう午後の授業始まっちゃうよ」

海未「…いえ、今日は食欲がないので大丈夫です」

ことり「あまり良くないよ、そういうの。それにしても…」


ことりの視線が、とある席に移りました。


ことり「穂乃果ちゃん、どうしたんだろうね。電話も出ないし。
海未ちゃん、何か聞いてない?」

海未「いえ、何も……」


そう答える他ありませんでした。

ことり「学校祭のライブも近いから、練習が心配だよね」

海未「ええ全くです。連絡くらい欲しいものですね」

ことり「帰りに家寄ってみる?」


それには答えに窮しました。

いないのですから、間違いなく。


海未「…やめておきましょう。もし電話も出られないほどの症状なら、返って迷惑です」

ことり「それもそうだね…」


チャイムが鳴り、ことりが自分の席に戻りました。


穂乃果がいないという事実。

その波紋の広がりは、どうやっても止められません。




ーーーーーー


ことり (困ったなあ……)


ことりはことりで、タイミングの悪い穂乃果の欠席に困らされていた。

いつもの3人で、どうしても話さなければならない事があるのだ。


彼女は身に入らない授業を諦め、ファイルから封筒を取り出した。


ことり (…紹介状かぁ)


アイドル研究部で衣装製作を引き受けていることりは、あるデザイナー(確かイナバという名前だった)から海外留学を薦められている。

μ'sの一員としてやってきた事が評価されたのは嬉しい。しかし…


ことり (留学したら、μ'sもやめなきゃいけないよね…)


海外へ行くのだから当然だった。

故に、まずは付き合いの長い穂乃果と海未に打ち明けようと思っていたのだ。

もし穂乃果の欠席が長引くようなら、いっそ海未にだけでも先に話してしまおうか。


ことり (あ、もう授業終わっちゃう)


部活の帰りに話そう。

とりあえずそう決定し、板書を大急ぎで写し始めた。


どっちみち、学校祭のライブの衣装作りに手を抜くつもりはない。

6時間目が終わったら、すぐさま部室に向かうつもりだ。

いずれ、他のメンバーにも話す時が来るだろう。




ーーーーーー


海未と一緒にガンツに召還され、昨夜命を落としたのは穂乃果だ。


絵里は今日の部活で妙に元気のない海未を見て悟った。

これからの活動をどうするかとか、事件として問題になってしまうのかとか、色々と考えなければいけない事は多かったが、まず心配なのは……


絵里「海未の精神面よね…」


学校の帰り道、コーヒーショップで買ったやたらと甘い飲み物を啜りながら、絵里は溜息をついた。


海未の事だから、間違いなく100点を取って穂乃果を再生しようとするだろう。


それは構わないし、むしろ応援したいのだが、無茶をしたら海未までが星人の餌食となるだろう。

二つの意味で先輩である絵里に出来ることは、正直一つしか思い浮かばなかった。


絵里「また、あの部屋に……」


それは恐ろしい考えだ。


まさか、死んだ人間全てがあの部屋に行く訳ではない。

ミッションを行う前後にしか募集しないだろうし、地理的な範囲も決まっているだろう。


いや、もしかしたらまだ家にアイテムが残っているかもしれない。

意外とガンツは適当なのだ。
探せば便利な物があるかもしれない。


そこまで考えたところで、後ろから肩を叩かれた。

振り返ると、長髪の青年が立っている。

「絢瀬絵里だな?」


青年が言った。


絵里「貴方…」


この人間には見覚えがある。

最近の記憶でも、かすかに存在する昔の記憶でも。


「覚えているのか?
…まあそんな事はどうでもいい、これを見ろ」


青年が携帯を突き出す。
そこには、絵里の親友が映っていた。


ーーーロープで拘束され、気絶した状態で。



絵里「希っ…!?」


声を上げる彼女を、青年が指を口に当て制止する。

絵里「どういうつもり!? 彼女を解放しなさい」

「なら、ここに行け」


彼は携帯の画面を操作し、地図を出した。

郊外の工場跡に印が付けられている。


絵里「……何が目的なの」


絵里の問いかけに、青年は一言で答えた。


「俺は、あの部屋に戻る」


そしてポケットから黒いボールを取り出した。

そこには、絵里の顔写真が映っている。


「ガンツは、俺達の復帰を望んでいるらしい」

絵里「ならいいわ。望むところよ」


絵里の言葉に、青年はやや驚いたような反応をした。

「…意外だな。思い出したとしても、まさかもう一度やりたい人間が俺以外にいるとは思っていなかった」

絵里「こっちにも事情があるのよ」


青年が手招きする。

人気のない所に向かうらしい。


絵里「貴方の要求はこの通りのんだわ。早く希を解放して!」


彼に続きながら、絵里は強い口調で迫った。


「ああ、頼んだ相手に言っておくよ」

絵里「大丈夫なんでしょうね?」


この青年の言うことを聞かず、希を解放しないかもしれない。

もしかしたら、そのまま……


そう思うと、とても安心できない。

「今電話をかける」


青年が携帯を耳に当てる。
相手はすぐに出た。

彼が口を開く前に、男の声が携帯から漏れた。


『てめッ! 和泉! 人こねーっての嘘じゃねーかよ!』


どうやら相当緊迫した状況のようだ。

絵里と青年は目を見合わせた。


『すげえ身長高いオールバックの奴が来て…、やべッ!
チクショウこっち来んな!
ぎゃああああっ!!?』


青年は通話を切った。


「どうやら、指示するまでもないみたいだな」


絵里は、ひとまず安心した。




ーーーーーー


話があると言われ、片付けをしていたことりを待っていると、また首筋をあの寒気が襲いました。


ことり「ごめん、待った?」


ことりが部室から出てきましたが、とても付き合っている暇などありません。


海未「すみません。今日は急ぎの用事ができました」


そう告げて、私は走り出しました。


ことり「えっ、ちょっと海未ちゃん!?」


ことりが戸惑いますが、構っている訳にはいきません。

まさか二日連続とは、とてもーーー


好都合です!

私は、自分がいつの間にか笑っている事に気付きました。

いえ、穂乃果が殺された以上、当然です。
ミッションは、多ければ多いほど助かります。


海未「穂乃果を再生ッ! 敵は全部私が殺りますッ!!」


ローファーを無造作に履き、学校を飛び出すと人気のない場所へ直行。

転送を待ちました。


海未「どんな相手だろうと、私なら…!」


体が硬直したと思うと、部屋への転送が始まりました。




ーーーーーー


鉄男は眠る赤子を見つめた。

台所では妻が洗い物をしている。


鉄男「ちょっと散歩してくるわ」


ミッションの開始を告げる『あの感覚』を感じると、鉄男は適当な言い訳をして靴を履いた。


「帰りまた牛乳頼むわよー」


その声を聞きながらドアを閉める。

妻は母乳が出なかった。


鉄男「もし俺が死んだら……誰が買ってくんだろうな、牛乳」


彼の脳裏に、あの千手観音が浮かんだ。

あんな奴を相手取って、毎回生きて帰れるとは当然思えなかった。




ーーーーーー


青年が選んだのは、通勤電車の音がけたたましく鳴り響く高架下だった。

驚くほど人気もない。


絵里「それで、私をどう殺す気?」

「こうするんだよ」


青年は懐から黒い物を取り出した。
銃だ。


絵里「もしかして日本って、治安悪いの?」

「少なくともロシアよりマシだ」


銃口を絵里の頭に向け、躊躇なく引き金を引いた。

乾いた音が響き渡ったが、上を走る電車が全てかき消す。


銃弾が絵里の脳を抉ると同時に、彼女の体が一瞬にして消失した。

「なるほど。本当にこれで行けるんだな」


予想よりもトントン拍子に進んでくれている。

ただ、廃工場に乱入して人質を助け出したのは誰なのだろう。
彼が話を持ちかけた先輩達のその後も気になる話ではあるが、それは後回しだ。


「さて…、自殺しろってコトか?」


黒いボールを見るが、何も変化はなかった。


「…仕方ないな」


次は自らのこめかみに銃口を当て、撃った。


二度目の銃声も、別の電車がしっかりと消してくれた。




ーーーーーー


東郷「…どうしたものか」

桜丘「本当ね」


またしても呼び出された東郷と桜丘が目にしたのは、妙に浮ついた感じでスーツを纏い、刀の刃をしきりと伸縮させている海未の姿だった。

黒球の後ろでは、新入りらしいスーツ姿の男性4人と、帽子を目深にかぶって顔の見えない少女がその様子を怯えた目で見つめている。

海未の呼吸は、相当荒かった。


「とりあえず、俺らもスーツ着ねえとな」


背後から声がした。

鉄男だ。


桜丘「新しく来た人にも説明しなきゃ…」


もっとも新人へのスーツ支給は、黒球が開いた後だが。

彼らからやや遅れて、北条とサダコ、そして岡崎も転送されて来る。

岡崎は、海未の姿を見た途端青ざめた。


北条「新しい参加者は5人か?」

東郷「いや、まだ来るな」


東郷が指を向ける。
2人来るようだ。

長髪の青年と、海未と同じ制服を着た金髪の少女が現れた。


北条「園田の知り合い…かもな」


北条が呟くと、案の定金髪の少女の目線は海未に釘付けになった。

しかし、その様子を見て声をかけるのは諦めたようだ。


これで参加者は集まったらしく、黒球がラジオ体操の歌を鳴らす。

男性4人と未だに顔の見えない少女は混乱しているが、後から来た2人は何故か冷静だった。

新しい命をどうこうというお決まりのメッセージが表示され、今回戦う敵が映し出される。


『ゴキブリ星人

・特徴
つよい、油っぽい、人間が嫌い

・好きなもの
むれること

・口ぐせ
じょうじ』


外見は、そのままゴキブリを人っぽくしたような感じだった。


鉄男「『むれること』って…、いっぱいいんのかよ」

桜丘「あり得るわね」

北条「それよりガンツが開いたな。あいつらにスーツを着せよう」


北条が新入り達に寄り、説明を始めた。

長髪と金髪は自らケースを手に取る。

東郷「そろそろまた転送だな」


画面が変わる。

カウントが始まるかと思ったが、違った。
また文章だ。


『きのうもやった方は15てん以上とらないと死でち』


東郷「!」

桜丘「これって…」


それが示すのは、ペナルティの継続だけではない。


前回の生存者は7人。

つまり最低でも105点分の敵が、今回のミッションでは出現するのだ。

そうなると、当然。


海未「ガンツ!」


海未が叫んだ。

海未「このルールは取り消しなさい!
私に全部やらせてくださいッ!」


東郷「…無茶をしないように、見ててやらないとな」


「いえ、その役回りは私が引き受けるわ」


すでにスーツに着替え終えた金髪の少女が東郷に言った。


東郷「やはり知り合いか?」

「ええ。私の後輩よ」

東郷「それにしてもやけに冷静だな」

「だって、前もやってたもの。同じこと」


さらりと言ったその台詞は、ミッションを経験しているメンバーの注目を集めるには十分すぎる威力を持っていた。


鉄男「おっ、おい!」


始めに口を開いたのは鉄男だ。

鉄男「本当に解放されんのかよ!?」

「100点を取れば、だけどね」

桜丘「でも残念ね。また死んでしまって」


桜丘の言葉に少女は首を振った。


「あいつに付き合ってやっただけよ」


少女の目線を追う。

そこには、彼女と同時に転送されてきた長髪の青年がいた。


鉄男「ん…? いずみ、か」


彼が持っているケースには、そう書かれていた。


「色々聞きたいことはあるだろうけど、とりあえずミッションをクリアしないとね」


そう言った少女の体が、頭から転送されていった。




終わります。レスされた星人はここで出すことにしました。

新メンバーのリーマン達はオニ星人のあいつらです

ーーーーーー


青年ーー和泉は周辺を見回した。


ここは新宿だ。間違いない。

記憶があやふやな今でも、鮮明に浮かび上がるイメージ。


和泉 (俺は……昔もここで駆け回ったんだ)


行き交う群衆は、コスプレのような格好の和泉に気づきもしない。

これも前と同じだと思う。


さて、存分に暴れさせて貰おうか。


彼は端末(確かコントローラと言われていた)の液晶を見た。

近くにいる。


彼が選んだの武器は、長柄の銃と刀だった。

まずは感覚を取り戻す。

躊躇なく星人のいる側へと近づいた。

少し進むと、彼は人混みの中に混ざる異物の存在を感知する。


ガンツ部屋で紹介されたゴキブリ星人そのものが、そこにいた。

なるほど、ゴキブリを擬人化すればあのようになるのか。

その星人は、見事にゴキブリの特徴を捉えていた。
触覚といい、体色といい、油の所為であろう光沢といい……。


和泉 (いや、そんな事はどうでもいいか)


和泉は刀の刃を1メートルほど伸ばした。

そして、待つ。

邪魔な群衆が去り、星人まで一直線に駆け抜けられる瞬間を。


その瞬間は、思ったよりも早く来た。


和泉「おおおおおおおおッ!!!」


雄叫びを上げて星人へと突っ込む。

流石はゴキブリと言ったところか、敵はすぐさま和泉に気づいた。

横薙ぎに振るわれる刀を避けようと、リーチの外へとステップで退避する。


和泉「甘いッ!」


和泉は覚えている。

この刀の真骨頂は、リーチの操作にこそ発揮されるのだ。


星人の回避行動と同時に、彼は刃渡りを2メートルにまで延長した。

それを星人が認識した時にはもう遅い。

ゴキブリ星人の頭部は、何の抵抗も無く斬り飛ばされた。


和泉「よし!!」


まずは一体目だ。
どうやら自分の腕は一切なまってなどいないらしい。

和泉「まだまだいるな。絢瀬に取られる前に倒してしまおう」


今回は相当数がいる。
素人ではまず捌ききれない。


和泉「生き残るのは俺と絢瀬か……いや、あいつはだいぶ弛んでそうだ。
俺1人かもな…」


和泉は倒れ伏すゴキブリ星人に背を向け、別の敵が存在するポイントへ移動を始めた。

他に実力のありそうな面子は、転送前に絢瀬と会話していた壮年の男と若い女くらいか。
絢瀬の知り合いらしい女子高生は危なっかしい。


ぼんやりと部屋にいた人間の事を思い浮かべていると、後ろから接近する足音に気が付いた。


和泉「おっと、俺の事は見えていないんだ。よけてやらないと…」


そう思って和泉が振り返った瞬間、黒い塊が彼の視界を覆い尽くす。

和泉「なにッ!?」


防御する間も無く、彼はあっさりと吹き飛ばされた。
道路沿いの公衆電話に突っ込み、その壁を粉砕してしまう。

近くの通行人が悲鳴を上げて逃げ出した。


顔を上げた和泉の目に、頭部を丸々失ったゴキブリ星人が見えた。


和泉「…なるほど。確かに『ゴキブリ』だな」


どこかで聞いた事がある。

ゴキブリは、頭部を切断されたくらいでは死なない。


倒すにはーーー



和泉「こうしなきゃなッ!!」


和泉は、攻撃を食らった瞬間も決して手放さなかった長柄の銃を星人に向け、乱射した。

やはり既視感を感じさせる間延びした発射音が響く。

星人も逃れようとするが、手数には敵わない。

まず右脚の先が爆ぜたかと思うと、次の瞬間には胸部が内容物をぶち撒ける。


和泉「はははッ! 見たかッ!」


今度こそ、星人は死んだようだ。

星人の死体のそばには、誤射したらしい通行人の死体もいくつかあったが、和泉は気にも留めずに再び歩き出した。


ーーー早速、楽しめそうなミッションじゃないか。


彼は、興奮を隠せなかった。




ーーーーーー


初参加の男性4人は、ミッションについてある程度理解してくれたようだった。


東郷「いいか? とにかく自分達から離れないでくれ。それと、頭から音が聞こえたらそれ以上進むな」

桜丘「一応銃は持っててもらうけど、誤射しないよう気をつけて」


2回目の参加である東郷と桜丘が前回のミッション開始時に穂乃果から説明された内容を彼らに話していた。


一方北条は、少し離れた所に転送されてきた少女へと近づく。
案の定サダコも付いてきた。

少女の服装は部屋から変わっていないが、スーツは服の下に着てくれたらしい。
帽子はそのままだった。


北条「えーと、君。とりあえず俺達の指示に従ってくれ。
スーツがあれば、雑魚相手ならそう簡単に殺されないから安心……」


とりあえず不安をどうにかしてやろうと、小柄な彼女に目線を合わせて話したのだが、そこで帽子に隠された素顔が見えた。

北条「えっ、綺羅先輩!?」


彼女は、見覚えのある人物だった。
北条の声に少女も目線を上げ、彼と同じように驚きの声をあげる。


「……北条くん!?」


北条は、彼女が顔を隠していた理由がわかった。

結構な有名人なのだ。


スクールアイドル『A-RISE』のリーダー、綺羅ツバサという少女は。


北条「いや、顔隠してたからわかんなかったよ…」

ツバサ「私もずっと伏せてたから…、一応はトップアイドルだものね」


ツバサは笑って話したが、北条の背後に陣取る女の姿を見て凍りついた。

それに気づかない北条は、構わず会話を続行する。

北条「先輩はなんで死んだんだ?」

ツバサ「えっと、衣装の打ち合わせで稲葉さんと車で移動してたら急に…」


どうやら詳しくは思い出せないらしい。


北条「交通事故か…、災難だったな。でも、このミッションを生き残れば帰れるんだ。
…また何回も呼ばれるけど」


その時、東郷達の方から声がした。


鉄男「おい! そろそろやんねーとまたタイムオーバーだぞ!」


そうだ。北条達ら15点以上取る必要があるのだ。
まだ5分しか経過していないが、無駄にはできない。


東郷「討ち漏らしがあれば駄目だ。
二手に分かれ、早めに倒そう」


東郷、桜丘、岡崎に男性4人。
北条、サダコ、鉄男、ツバサといったように分かれた。

桜丘「じゃあ気をつけてね」

北条「そっちもな」


北条は東郷から手渡された端末を確認する。
やはり、相当な数がいるようだ。


鉄男「ちっ、そりゃあ15点も取れるぜ。生き残れんならな」


鉄男が皮肉っぽく文句を言った。


北条「やるしかないさ。行くぞ」


近くの敵に向かうが、その光点は相当大きかった。

一体何体いるのだろう。


逃げの許されない緊張感に襲われながらも、北条は銃を握りしめた。




ーーーーーー


海未「……なんのつもりですか」


私が転送されたのはビルの屋上でした。

下には他のメンバーがいて、何故かと思いましたが、理由はすぐにはっきりしました。


絵里「行かせないわよ。あんなの、私でも絶対死ぬわ」


私は道路を挟んで反対側のビルに、4体の星人を発見したのです。

下に何体か見えた『ゴキブリ星人』とは、やや異なった外観をしています。

そして、点数も。


海未「33点に、27点、そして24点が二体!
あいつらを倒せば穂乃果を再生できるんですよ!?」

絵里「あなたはボス級を4体もやれると思ってるの!?」

海未「穂乃果はやったんです!
75点もある千手観音をッ!!」


向こうのビルへと飛び移ろうとする私を、絵里は強引に止めました。


絵里「穂乃果が死んで悲しいのは判るわ。でも落ち着きなさい。
海未まで死んだら、私が来た意味がないじゃないの!」


なんというか、絵里は奇妙なほど冷静で、それは余計私を苛立たせました。


海未「…慣れているんですね」

絵里「…!」


自分でも驚くほど、冷ややかな声が出ました。
私を引き止める力が弱まります。


海未「絵里にとって、周りの人間が死んでいくのは日常茶飯事だったんですよね?
通りでそんなに冷静に…」

絵里「違うわ! 私だって穂乃果の事を…!」

私は絵里を振りほどくと、屋上の柵に飛び乗りました。

例のビルでは、腕の異様に発達した個体を残してボス級が散っていくところでした。

各個撃破の方が確実でしょうから、別に構いません。


まだ何か言おうとする絵里を無視し、跳躍。

かろうじて向こうまで届き、ボスの前に躍り出ました。


改めて星人の外観を見ると、本当にゴキブリの印象が強いものでした。

しかしこの個体の腕は、甲殻類か何かの物に見えます。


海未「これは……シャコ、ですか?」


私を見据えた星人は、笑っているように感じられました。




ーーーーーー


東郷「なんだ……、この…数は…」


冷静沈着な東郷が目を見開いていた。

桜丘の頬を冷や汗が伝い、岡崎も震えている。

新入りの4人に至っては目の前の光景を信じる事すらできないだろう。


「お、おい! なんだよあれ!?」

「ちくしょう、悪い夢でも見てるみたいだ…」

「やばいって…」

「なんで誰も気づかねえんだよ!」


そこには、10体以上もの『ゴキブリ星人』がいた。

周囲の人々は、一切その存在に気づかない。
そういえば、海未が言っていた。

桜丘「一般の人には本当に見えてないのね…」

東郷「いっそ見えていれば、逃げてくれたのだがな」


この状況では、銃を下手に撃つと関係ない者を巻き込みかねない。


「な、なあ……こいつらを撃てばいいのか?」


新入りの1人がおずおずと訊いてきた。
東郷は待てと制止する。


岡崎「お、おいお前! まさか撃つなって言う気じゃねーだろうな!?」


岡崎が目を剥いて東郷に噛み付く。


岡崎「15点取らねーとこっちが殺されんだ!
関係ない奴のコト構ってられるほど余裕ないだろ!」


彼の顔は恐怖に引きつっていた。

言い返せないでいる東郷から離れ、両手に持ったショットガンを星人達の方に向ける。

岡崎「撃っちまえばいいじゃンかよ!
どーせ見えてねえんだろッ!」

東郷「馬鹿ッ…やめろ!」


岡崎は止まらなかった。

ロクに狙いもつけず、銃を乱射する。

その瞬間、ゴキブリ星人達も動いた。


「じょうじ」

「じょうじ」

「じょうじじじじょう」


ガンツが伝えた口癖と同じ声を発し、岡崎に飛びかかる。


岡崎「おおおおッ! 死ね死ね死ねぇッ!!」


その内の何体かは、岡崎に触れる事なく爆散した。
銃撃を食らっていたのだろう。

しかし同時に、流れ弾で通行人の何人かも絶命する。

群衆が悲鳴を上げて逃げ出し、パニックが起こった。

桜丘「あいつ! 余計に被害を増やして…」


逃げ惑う人々にも、ゴキブリ星人は容赦なかった。

人間が嫌いだという特徴は本当だったのだ。

どこで拾ったのか、鉄パイプや金属バットを持った何体かが、無差別に殺戮を始める。


東郷「くっ、早く倒すぞ! このままじゃ手遅れになる!」

桜丘「あなた達は隠れてて!」


新入りが退避するのを見届けると、東郷と桜丘は星人に向かっていった。

ちょうど、何体ものゴキブリ星人に袋叩きにされていた岡崎のスーツが破壊されるところだった。


岡崎「あッ、あああッ!? ぶっ壊れた! ぶっ壊れちまった!」


腰が抜けてへたり込む岡崎を、ゴキブリ星人の拳が襲う。

岡崎の頭蓋骨が、水風船を破裂させたように弾け飛んだ。

そのあまりにも凄惨な様に桜丘は目をそらすが、正直岡崎の行為は擁護できなかった。


東郷「おおおッ!」


東郷の銃撃が、岡崎を蹂躙していた星人達を正確に吹き飛ばす。

次は人々を襲う連中に向かった。

銃を持つ東郷と桜丘を見ると、すぐさま身構えてきた。


桜丘「こいつら、あたし達の方が危険だってわかってるの?」

東郷「そこそこ知能もあるみたいだな」


ミッション開始から約10分。

すでに、一名の死亡者が出てしまった。




終了します。

次回は海未vsボス級で潰れそうですが格闘戦書くの辛いなー

なんとか今夜は投下したいと思っています

ーーーーーー


私が仕掛ける前に、ゴキブリ星人が動きました。



バンッ!!



弾丸のように打ち出される星人の拳。
私は咄嗟に刀で受けようとします。


それは、失策でした。



海未「うぐッ…!?」



巨大な仏像すら両断できるガンツの刀ですが、ゴキブリ星人の拳の強度はそれを上回っていたのです。

衝撃は刀を通って私の体に伝わりました。

足に力を入れ耐えようとしましたが、スーツのアシストをもってしても受け止め切れませんでした。




ドンッッ!!!!



私の体は宙を舞い、柵に激突します。

下手をすれば、柵を突き破って落下してしまっていたでしょう。


でも、このくらい!



海未「ああああああぁぁ!!!」



いちいち考えている余裕なんてありません!

絵里だけでなく、他のメンバーもいます。
早くこの個体を倒し、次のボスに向かわなければ、誰かが先に仕留めてしまうかもしれないのです。



海未「…穂乃果ッ! 私はッ、絶対!」



刀を振りかぶって突っ込む私に、ゴキブリ星人はまたパンチを叩き込もうとします。

海未「同じ手などッ!」



その瞬間、私は突進の勢いをそのままに体を後ろに倒します。

スライディングの要領で滑り、真上に見える星人の右腕に刀を突き立てました。



海未「…やあッ!!」



渾身の力を込めて切断します。


飛び起きた私に、星人は残った左腕で再び攻撃してきました。

星人のパンチは、音速に近いのではないかと思わせるスピードです。

しかし……



海未「見えますッ!!」



私は、その軌道をしっかりと捉えていました。

狙いは頭部。

私は頭を最小限逸らして回避し、今度は左腕を切断しました。

その流れで回し蹴りに移行し、星人の胸板を蹴り飛ばします。


吹っ飛ぶ事はありませんでしたが、星人は体勢を崩しました。



海未「……とどめッ!!」



星人の首は、なんなく斬れました。

自慢の拳と、頭を失った星人が膝をつきます。



海未「…終わりですか。あっけないものですね」



狩られた星人に用はありません。
この個体の点数は、確か27点。

穂乃果の再生には、まだまだ届かないのです。

一度下に降りましょう。

雑魚の星人でも、倒さないよりはマシです。


私は屋上の端へ向かいました。

さっきまで私がいたビルの屋上に、絵里が見えます。

口を開き、何か言葉を発しているようです。



海未「絵里?」



妙に焦っているようでした。

私は彼女の口の動きに注目します。



海未「ええと…、う…し…ろ?」



私は振り返りました。
そこには、星人の死体しか……



ないはず、でした。

海未「…ッ! なぜ……」



頭はそのままです。しかし、腕が完全に再生していました。

勢いよく踏み切った星人は、私にタックルを仕掛けてきました。


防御も回避も、間に合いません。


私と星人は、一緒にビルの屋上から落下しました。



海未「こんッ、のぉッ!」



車の行き交う道路が猛スピード迫る中、私はせめてもの抵抗として星人を殴りつけます。

しかし、びくともしませんでした。


私は道路横に停車しているタクシーに背中から激突します。
走行中の車両でなかったぶん、まだ良い結果でしょう。

車外で煙草を吸っていた運転手が悲鳴を上げて走り去ります。
やはり見えてないようです。


星人は街路樹に突っ込んでいました。
すぐにボクシングのファイティングポーズの様な姿勢を取ります。

海未「不気味ですね。それ、見えてるんですか?」



口もないのに答えるはずがありませんでした。
そういえば、まだ口癖の『じょうじ』を聞いてませんね。

とにかく星人には、頭のない事で支障をきたしている様子がありません。



海未「なるほど。ゴキブリ…ですか」



全身が感覚器官。

そして、頭を切ろうが平気で生きる程の生命力。


それでも。



海未「何度だって……殺してやりますよ」



私と星人は、同時に飛びかかりました。

私の突き技と、星人の右ストレートが激突します。

勝ったのは星人でした。

刀にヒビが入ったかと思うと、刀身がばらばらになります。



海未「くっ…」



再び刃を伸ばして立て直そうとしますが、星人の攻撃は止んでくれません。

右、左と交互に拳を繰り出し、執拗に狙ってきます。

私は何度も跳躍を繰り返し、狂ったように放たれるパンチから逃れようとしました。



バゴンッッ!!



運の悪い車が星人の餌食になりました。

凹んだ車体があっさりと吹き飛び、走行中の別の車両と衝突します。

そこそこ交通量もあったため、次々とクラッシュが起こっていきました。

そして、爆発。


恐らく車のどれかからガソリンが漏れていたのでしょう。

火だるまになった人々がそこら中で転げ回ります。


私と星人は、炎の壁で分断されました。

こちらに向かってくる気配はありません。



海未「そういえばゴキブリなら……火に弱いですよね?」



私の脳裏に、ある考えが浮かびます。

私は近くにあった軽自動車を持ち上げました。



海未「このスーツの力なら…!」



そしてそれを、星人のいる方向に投擲します。

軽自動車も炎にまかれ、爆発しました。

スーツがあれば、車だろうと簡単に投げられました。

さらに何台か投げ込み、火を広げます。

星人の動きは鈍っているようでした。



海未「やれる!」



私は刀を伸ばし、炎に構わず星人へと駆けました。

パチパチと火花が散り、数ヶ所でまた爆発が起こります。


星人は、私が接近するとまたパンチを繰り出してきました。

さっきほどの勢いがありません。


海未「今度こそ、終わりですね」


私は刀を振りかざします。

胴体を縦に両断すれば、流石に死ぬはずでしょう。

しかしその時、私の目に何か飛ぶものが見えました。



海未「あれは……?」



サイズは人間位で、羽根が生えています。
そして、その体は黒光りしていました。


ゴキブリ星人の、別のボスです。



海未「まさかっ!?」



私がそいつの目的に気づき、目の前の個体にとどめを刺そうとした時には手遅れでした。

高速で飛行する個体は、こちらに近づいてきたかと思うと仲間を掴み、離脱していきます。


仲間を助けに来たようです。



海未「厄介な…!」

私は2体を追いました。

せっかくあそこまでダメージを与えたのに、逃げられた挙句取られてしまっては元も子もありません。

炎上している場所から少し離れた路上に、2体とも発見しました。



「じょうじ じょじょうじじじ」



私を見て、大きな4枚の羽根が生えた方の個体が何かを発します。

意味などわかりませんが、少なくとも私と戦う気はあるようです。


私は今まで戦っていた個体に目を向けました。

多少回復してしまっているでしょうが、大した事ではありません。



海未「2体……同時ですか」



危険は百も承知ですが、やめる気はありません。


50点は固い勝負です。



驚くほど筆が進まない…


にしても民間人死にまくるようになってからインフレ激しい気がする

もうそろそろ30レスくらいまとめて投下したいけど無理でした

ーーーーーー


ーーーまさかこんな事にっ…!


眼下に広がる光景に、絵里は息を飲んだ。

関係の無い人々に攻撃し出す星人は前にも相当いたとは思うが、こんなハリウッド映画さながらの大爆発にまではなっただろうか?



絵里「海未…あなたは何も思わないの!?」



すぐにでも飛び出したいが、流石にこの高さは危険がすぎるか。
しかし長い方の銃は持ってきていないので狙撃もできない。

躊躇っていると、近接戦を繰り広げる海未と星人に近づく、飛行する何かが目に入る。

別のボスだった。



絵里「戻ってきた…」

こうなれば仕方がない。

乱戦は避けたいと思っていたが、強引に介入させてもらう。


しかしそう決断したものの、結局叶わなかった。

なぜなら。



「じょうじじ」


「じょうじ」


「じじょうじじじじ」



いつの間に接近を許したのだろうか。

彼女の背後に10体近くの星人が集まっていた。
バットやバールを振り回し威嚇してくる。

やるしかないようだ。




絵里「まったく……早いとこ片付けるしかないようね」



海未への加勢はひとまず諦めるしかない。

いくら冷静さを失っていようと、そう簡単に殺られるとは思っていなかった。


絵里は両手に刀を持ち、刃を伸ばす。

日本刀より少し短いくらいに調節した。



絵里「うーん…。1分くらいはかかるかしら」



記憶は曖昧でも、何故か体ははっきりと覚えていてくれた。

そして、自分がかつて戦っていた時のイメージが鮮明に蘇る。


彼女は、星人の群れへと突撃した。







ーーーーーー


鉄男「なんだ、お前ら同じ高校なのかよ」

北条「ああ。まあ先輩は芸能科だからあまり接点はないけどな」



すでに彼らは、合わせて10数体の星人を倒していた。
耐久力は馬鹿にできないが、ある程度の距離を維持して戦えばそこまで危険でもない。



鉄男「UTXだっけか? 共学だったのかよ」

ツバサ「女子校って思われがちですよね」

北条「まあ男女比的に仕方ないけどな」



ちなみにサダコは会話こそしないものの、しっかりと北条の横にくっついている。

北条「それにしても……、さっきの爆発が気掛かりだな」



どこかからサイレンも聞こえてくる。
大事になってしまったのだろう。



鉄男「星人じゃねえの?」

北条「そうだろーけど、結構な人数が巻き込まれてそうだ。
さっきも見ただろ?」



先ほど人間の撲殺死体をいくつか見かけた。
ゴキブリ星人は鈍器を好んで使用するので、恐らく連中にやられたのだ。

ツバサが顔をしかめる。



ツバサ「ね、ねえ北条くん…。今までも関係ない人が巻き込まれていたの?」

北条「いや、2回ミッションをやったけど初めてだ。
そもそも、こんな大規模な戦い自体が」

田中星人や仏像の時より、圧倒的に数が多かった。

千手観音のような異常に強い個体が今のところ出てきていないのが救いだ。

だが、ボスはいるのだろう。



鉄男「なあ、あそこ見えるか?」



ふいに鉄男が険しい声で言った。
北条とサダコが彼の目線を追う。


ビルに取り付けられた看板の上に、一体のゴキブリ星人が見える。

微妙に形状が違った。



北条「おい…あいつ…」

鉄男「ボス、だな」



その個体は、彼ら4人をじっと見下ろしている。
多数いる個体より脚部が発達していた。

北条「サダコ……綺羅先輩を頼む」

ツバサ「え…、北条くん?」



北条が一歩前に出る。

点数は渡さないとばかりに鉄男も続いた。



鉄男「どっちが仕留めても文句ナシだぜ」

北条「…わかってるっつの」



星人が看板から飛び降りる。

着地した箇所のアスファルトに亀裂が走った。



「じょうじ」



星人が2人を指差し声を上げた。

やる気十分なようだ。




ーーーーーー


東郷「スーツは大丈夫か?」

桜丘「ええ。攻撃はあまり受けてないわ」



彼らの前には星人の亡骸が20体分は転がっている。

そして、ほぼ同数の通行人達の死体も。



東郷「…犠牲は避けられなかったか」



そう呟いた時、初参加の男性4人が戻ってきた。



「うおっ!? なんだこれ!」

「しっ…死んでるぞおい!」



当然と言えば当然だが、相当ショッキングな光景だ。
普通に暮らしていればまず、この数の死体を目にする事などない。

桜丘「もう……このあたりにはいないわよね?」

東郷「ああ、移動しよう。40分残っているが油断できん」


「どうなってんだよチクショウ…、あっちこっちから悲鳴聞こえてくるし、ほんとにここ日本かよ!?」

「向こうの通りがなんか燃えてるぞ!」



爆発音が散発的に聞こえてきたのは、最も人通りの多い所からだった。

下手をすると、3桁近くの人間がミッションの巻き添えを食らっている可能性もある。



桜丘「行ってみる…?」

東郷「無論だ。これ以上犠牲者を出したくはない」



彼らは移動を始めた。




ーーーーーー


和泉「なかなかやるじゃないか……絢瀬」



彼の前には、星人の体液でずぶ濡れになった絵里がいた。

足下にはバラバラになったゴキブリ星人達が転がっている。



和泉「コレを1人でやったのか?
…なんだ、鈍ってなどいなかったな」


絵里「ふん…あなたに加勢を期待した私が馬鹿だったわ」



絵里の背後で、辛うじて生き残っていた星人の一体が音もなく立ち上がる。
和泉には見えていたが、何も言わない。

その星人が金属バットを拾い絵里に殴りかかった瞬間、彼女は振り向きもせずに刀を伸ばし、星人の胸を貫く。

今度こそ絶命したようだ。

和泉「これ、借りたぞ」



和泉は銃が接続されたパソコンを絵里に投げて寄越した。

海未が置いて行ったのを回収したらしい。



絵里「こいつら、1体何点?」

和泉「3点だ。馬鹿にできんな」



この数で1体あたり3点なのは破格だ。
もっとも、ミッションの難易度そのものが高いのだが。



絵里「ミッションのランク的には……そうね。上の下ってとこかしら」

和泉「興味無いな。どんな相手だろうと殺すだけだ」


和泉が回れ右をして去っていく。
絵里の戦いを見に来ただけらしい。

絵里「さてと……海未の様子を見に行かないとね」


隣のビルはここより低い。
少しずつ下に降りよう。

その気になれば一気に飛び降りられるが、スーツの耐久力を無駄にするのは絶対駄目だ。
その心掛けはガンツのミッションを生き残る上で基本中の基本である。

軽く助走をつけ、隣のビルの屋上へ飛び移る。


そこにも星人がいた。数は3体。



絵里「邪魔よ」



星人が動くより、絵里の刀が早かった。
すれ違いざまに1体目の胴を水平に分断し、残る2体の間に入り、両手の刀をそれぞれの胸板に差し込み、そのまま頭部まで斬り上げる。

音も無く屠ってみせた。

絵里「これが3点ね…」



今のガンツはサービスがいいのだろうか?


…いやまさか。
自分達を苦しませる事に愉悦を感じているようにしか見えない。

あのふざけた文章に従わされて殺し合いをしているこっちの身にもなって欲しい。


そして和泉の例がある。


彼が持っていた手の平サイズのガンツ。
100点メニューで1番を選んでも、結局戻ってくる羽目になるのだ。

解放など、メンバーのモチベーションを上げる為の方便に違い無い。


そう考えながら、彼女はまた別のビルへと移動する。

このビルは5階建てで、ここからならスーツに大した負荷を掛けずに下に降りられるだろう。

絵里「いた…」



海未とボス2体が立ち回っていた。
意外な事に海未が押している。



絵里「ちょっとは懲りてくれると思ったのだけどね…」



ビルから飛び降り、海未のもとへと進む。

両手の刀はジョイントに戻して銃を持った。



絵里「…先輩の実力、見せてあげる」



彼女は、不敵に笑った。




次回、再び海未視点

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