女「私、幽霊なんです」 男「そうか」 (79)

更新頻度についてはどうしようか迷ってます


男「……で、誰を呪い殺すつもりなんだ?」

女「ちょっと、人を悪霊みたいに言わないでくださいよ!」

男「どっちも同じようなものじゃないかなー」

女「そんな、私は善良な一般霊ですよ」

男「一般霊とか言われてもこっちには何がなんだかサッパリだよ」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1437184018

男「……ふぅ」

女「どうしたんですか?」

男「いや、まだ早いけど突っ込み入れていいか?」

女「突っ込みとは」

男「いきなり見知らぬ女に幽霊と言われて、信じるはずがないだろう」

女「昔からの知り合いに言われるよりは信憑性があると思いますが」

男「そりゃそうだけど、どっちにしたって同じだろ」

女「そうですか。ならどのようなシチュエーションなら良かったのでしょうか」

男「そんなシチュエーションは存在しない」

女「えぇー」

男「なら話は変わるけど、幽霊だっていう証拠を見せてくれよ」

女「証拠、と言いますと」

男「幽霊なら色々出来るだろう? 壁をすり抜けたり、宙に浮いたり」

女「あはは、そんな都合のいい存在のはずないでしょう?」

男「なんでこっちが諭されてるんだ……」

女「しかし、信じてもらえないとなると困りますね…」

男「信じてもらえるの前提だったのか……」

女「幽霊といっても、出来ることは人間とほとんど同じなんですよ。さっきの壁をすり抜ける、とか、できっこないんです」

男「……そんなんじゃあ、いつまで経っても到底信じられないぞ」

女「あ、でも話は聞いてくれるんですね」

男「断っても勝手に続けるだろう……」

女「あはは、初対面なのによく分かりましたね」

男「そんな気がしただけだ」

男「うーん、お前の言う幽霊ってのがどんな存在かハッキリしないな。俺のよく聞く幽霊とは結構違うみたいだし」

女「あれ、協力的ですね」

男「確かに。なんでこんなに協力的なんだろうな」

男「……そうだ。これも俺のよく聞く幽霊の設定なんだけど、霊感の強い奴にしか見えないとか……ないか。俺、霊感あるとか言われたことないし」

女「あ、それはあります」

男「そうなのか?!」

女「はい。と言っても、視覚的には見えるんですが、存在感が薄く感じるとか」

男「俺にとっては存在感バリバリに見えるんだが、俺は霊感が強いってことか?」

女「そうなりますね」

男「はぁ……」

男「お、もうこんな時間か」

女「おや、何か用事ですか?」

男「ん、ああ。そろそろ家に帰らないとな」

女「…………」ジーッ

男「なんだその目は。俺は『一人で』帰るぞ」

女「そんな! 帰る場所もない女の子を独りで置いていくなんて!」

男「幽霊なら幽霊らしく、夜の公園にでも潜んでればいいじゃないか」

女「ちょっと! さっきも言いましたけど、普通の人にも私は見えるんですよ!」

男「そうかい。じゃあその人に泊めてもらえ」

女「そんな無茶な……」

男「……まあ着いてくる気はしてた」

女「あはは……でも入れてくれるなんて優しいんですね、男さんって」

男「呪い殺されるよりはマシだ」

女「だから私はそんな悪霊では……」

男「……おっと、じゃあ俺そろそろ風呂入るから」

女「あ、後で私も入らせてもらえませんか?」

男「……幽霊が?」

女「幽霊じゃ駄目ですか?」

男「はぁ……別にいいよ」

女「ありがとうございます」

ー風呂ー

男(幽霊か……信じるわけではないけど、ちょっと調べてみるか)

男(確か……小学生の頃、オカルト好きの女子が同じクラスにいたな)

男(小学生の頃の知識とはいえ、霊に詳しい知り合いなんてそういないし……)

男(連絡先は…友人を辿っていけばなんとかなるか?)

男(…………)

男(あいつ、変なことしてないだろうな?)

男「上がったぞー……おい、何してるんだ」

女「へ!? ああ、あはは、そうですか。早いですね……」

男「本棚を漁ったまま言っても、全然ごまかせないぞ」

女「い、いやー、こういう時、何かいけない物がないか探すのはお決まりじゃないですか」

男「いけない物を隠してるなら俺は家に入れん」

女「……意外です。てっきりたくさんあるのかと」

男「会ったばかりなのに失礼だな。今からでも追い出すぞ?」

女「呪い殺しますよ?」

男「やっぱり悪霊じゃないか」

女「と、とにかく、私も入りますね!」

男「逃げたか」

女「……上がりましたよー」

男「おう、布団は用意しておいたぞ」

女「おや、一緒な布団で寝ますか?」

男「そんなはずがないだろう、俺はこっちのソファで寝るよ」

女「え、そんな。悪いですよ」

男「こっちにもプライドがあるんだよ。それに本棚漁っておいて今更悪い、もないだろう」

女「あはは、そうですね……ありがとうございます」

男「……じゃあ、早いけど寝るか」


男(俺、いつの間にか幽霊って認めてるな…)

ー翌日ー

女「おはようございます」

男「ああ、おはよう。俺、朝食食うけど……」

女「…………」グゥー

男「その様子だと幽霊でも腹は減るようだな……仕方ない、お前の分も用意するよ」

女「え、いいですよ。そんな」

男「どうせ長い付き合いにはならないだろうし、別にいいよ」

女「…………」

男「……こんなこと聞くのもなんなんだが、お前、その……どんな風に死んだんだ?」

女「おや、認めてくれるんですか」

男「……もうそれでいいから、どうだったんだ?」

女「ええと……自殺ですよ、自殺」

男「自殺!? どうして?!」

女「よく覚えてないです。生前の記憶が曖昧なんです。だから今のこの姿も、生前の私と同じかどうか……」

男「……じゃあ、幽霊になった原因とかは?」

女「それは、死んだからじゃないですか?」

男「……あのな」

女「冗談です。私も分かりませんけど、何か、したいことがあったような……」

男「したいこと、か……」

女「男さんは今日どうするんです?」

男「俺は……幽霊とかに詳しい人とかにあたってみるよ」

女「そうですか……では、お気をつけて」

男「おう、漁っても何も出てこないぞ」

女「もうしませんよ」

男「……じゃあ行ってくる」

ーファミレスー

男「……というわけなんだ」

友「……あの子ねぇ。悪いけど、連絡先分からないんだ」

男「あのお前が?」

友「いや、俺達の小学校の連中、地区の関係でほとんど○○中に行っただろ? そこの奴らなら分かるんだけど……」

男「……そういや別の学校行ったんだっけ。困ったなぁ…」

友「小学校でもそんなに仲が良かったわけじゃないし…」

男「まあ、結構浮いてたからな」

友「それよりさ……」

男「ん?」

友「お前、その幽霊の言う話、信じてるの?」

男「……別に、信じちゃいねーさ」

友「なのに家に入れてやってるわけか。お前も変わってるよなぁ。それとも、なにか下心があったとか」

男「そんなんじゃねーよ……それじゃ俺そろそろ帰るよ。付き合わせて悪かったな」

友「俺も色々あたってみるよ」

ー帰宅ー

女「あ、お帰りなさい。何か分かりましたか?」

男「いや、そいつの連絡先分からなくてさ。友人にも聞いたんだけど、そいつも分からないみたいで」

女「そう……ですか」

男「まあ、色々と調べてみるよ。で、そっちは何か思い出したりしたか?」

女「いえ……特に思い出したことは……」

男「そうか……まあ友人も他をあたってくれてるみたいだし、もう少し気長に待つか」

女「あ、今日は一緒な布団で寝ますか?」

男「寝ない」

ー翌日ー

友「男ー、いるかー?」

男「……なんだ、こんな早くから」

友「いや、あの件の女子は見つからなかったけどさ。役に立つかもしれない人を連れてきたんだ」

男「役に立つかもしれない人?」

女B「……久しぶり。覚えてる?」

男「あ、ああ! 女Bか! 久しぶりだな」

女B「本当、久しぶりね」

男「とにかく、二人共上がってくれ」

女B「……そこにいるのが、話題の幽霊?」

女「はじめまして。幽霊です」

男「自称だけどな」

友「……なるほど。男が家に入れた理由も分かるな」

男「……どういうことだ」

友「いや、なんでも」

男「で、なんで女Bなんだ?」

友「女Bって、あのオカルト女子と小学校時代の友人だからさ」

男「そ、そうなのか?」

女B「そうよ。オカルトの話も少し聞いたことがあるわ」

男「へぇー。というか、それならオカルト女子にも連絡とれるんじゃないか?」

女B「卒業してすぐはよく遊んだんだけどね。受験とかで忙しくなってからは全く。今は何してるんだろうね…」

女「それで、何か分かりましたか?」

女B「ええ、そうね…」


女B「私が読ませてもらったオカルトの本にも、同じようなことが書いてあったわ。壁はすり抜けられない、とか」

友「へえ! じゃあ本当に幽霊なのか?」

女B「まだ断定はできないけどね。それで……」

女「それで……なんですか?」

女B「この子が本当に幽霊なら、その『したいこと』を成し遂げたら成仏できる。はず」

男「でも、『したいこと』が分からないんじゃなぁ」

女「…………」

男「どうした?」

女「出来れば、成仏なんてしたくないです」

女B「そうは言っても、死んだ人間がいつまでもこの世にいるのもいけないでしょ?」

女「そんなこと言われても……やっぱり私は成仏なんて…」

女B「でも、その『したいこと』は、貴女にとって、本当に成し遂げたいことなんでしょう」

女「……それでも、私は……」

女B「貴女は今、第二の人生を歩んでいる。前の人生で出来なかったことをするために」

女B「でもその出来なかったこと、『したいこと』をしないんじゃ、第二の人生を歩むことにはならない、死んでいるも同然」

女B「ずっと、死んだまま意味もなく生きていくか、喜びを味わって、きちんと生きてから死ぬ。どっちがいい?」

男「女……女B……」

女B「ごめんね。少し言いすぎちゃって」

女「…………」

男「それじゃあ、今日はありがとうな」

友「おう! …あれ、女ちゃんは?」

女「ここにいますよ?」

友「うわ! 気づかなかった!」

男(こいつは霊感無し、と)

女B「それじゃ。また何かあったら連絡して」

男「分かった」


女「…………」

男(女……)

ーその日の夜ー

男「どうする?」

女「……へ? 何がですか?」

男「したいこと、だよ……それが何か探すのか?」

女「あはは、そうでしたね……少し考えてみます」

男「ちゃんと考えろよ? あ、布団とか、また用意するよ」

女「今日は一緒な布団ですか?」

男「お前、こんな時でもそれだけは変わらないのな……」

ー夜中ー

男「……女か? どうした?」

女「あれ、起こしました? 少し眠れなかったんです」

男「それで、考えたのか?」

女「……私は、このままでいいです」

男「……いいのか? このままで」

女「はい。今の私、そんなに不満とか、心に穴が空いてるとか、そんな感じはないんです。ですから……」

男「……なぁ、明日どこか出かけないか?」

女「外出ですか? いいですよ、行きましょう!」

男(外出を通じて『したいこと』に少しでも触れれば、気が変わるかもしれないな)

女「デートですね」

男「な、何を言ってるんだ……」

ー翌日ー

女「今日はお出かけですね」

男「準備が早いな」

女「ここは男さんの家ですからそんなに準備もできないですしね」

男「じゃあどこから行くか。適当に駅前ブラブラしたりするか」

女「いいですね。と言っても何があるか私は分からないですけど」

男「俺が案内してやるよ」

女「ありがとうございます」

死に晒せ!の感じなのかと思ったら違った

>>26
読んでみたけど面白かった


男(というか、女Bも幽霊だと断定は出来ないって言ってたな…)

男(俺の考えてることは杞憂だったりするのか? 確かに友は影が薄く感じてたっぽいけど、あいつはあんな感じだし…)

女「何か考え事ですか?」

男「いや、ここら辺に除霊の道具が売ってる場所があったと思ってな」

女「あはは、皆が知ってる幽霊とは違うんですよ? 効くはずないじゃないですか」

男「ほう、試してみるか?」

女「臨むところですよ」

女「うぇえー……」

男「バッチリ効いてるみたいだな」

女「塩をそのまま口に放り込んだだけじゃないですか! うぅ、気分が悪い……」

男「悪かった悪かった。お詫びに何か食い物でも奢るよ」

女「じゃあ、あそこのお店なんてどうです?」

男「新しく出来た喫茶店か。いいぞ」

女「それじゃあ行きましょうか」

男「…なぁ」

女「なんですか?」

男「こうして街中歩いてると、何か『したいこと』について分からないか?」

女「いえ…分かりません」

男「成仏したくない口実じゃないだろうな?」

女「そんなことないですよ! それに…そんなにしたいことなら、真っ先にしていると思います」

男「…つまり、見つかって欲しくないわけか」

女「分かってしまうと、抑えられるかどうか分かりませんから」

男「そうか、なら俺は強制はしない。それが見つかるのを祈るだけだ」

女「…男さんは、私のこと邪魔ですか?」

男「そんな事はない。俺はただ、幸せを感じないまま生きるより、幸せを味わって死ぬ方が幸せだと思ってるんだ」

女「…死ぬことで、永遠に幸せが味わえなくても、ですか?」

男「…ああ」

女「…そう、ですか」

男「あれ、結構時間経っちゃったな。もうそろそろ帰るか」

女「そうですね」

男「あ、俺買い物があるから先帰っててくれないか? 鍵は渡すから」

女「はい、分かりました」


男「……まさかこんな所でバイト中のお前に会うとは」

女B「私も少しも思わなかったわよ……それで、何かあれからあった?」

男「……女は、『したいこと』を見つけるつもりはないらしい」

女B「……説得しなかったの?」

男「少しはしたさ。でもあいつ…今でも不満とかはないって言ってたし……」

女B「そう……なんだ。じゃあ私、バイト中だから」

男「ああ、じゃあな」


女B「……やっぱり、そうなのかしら……」

男「帰ったぞー」

女「おかえりなさい、男さん。夕飯とか作っておきました」

男「おお、悪いな」

女「私も居候の身ですし…これぐらいはしないと、ですし。早いですけどお布団も準備しました」

男「断る」

女「まだ何も言ってませんよ!?」

男「言わなくても分かったから問題ない」

女「読心術…?」

男「読めるのはお前のその言葉くらいだ」

男「なぁ、お前って本当に幽霊なのか?」

女「あれ、今更疑うんですか」

男「よく考えてみれば証拠なんて一つもないしな…」

女「ですから、幽霊といっても出来る事は普通の人間と大差ないって言ったじゃないですか」

男「いやーしかしだな……生前の事が分かればまだいいんだけどな…何か思い出せないか?」

女「いえ、特に何も。でも、自殺するような人間ですからよほど酷い目にあってたんでしょうね」

男「笑顔で言うな、笑顔で。自分のことだろうが」

女「そんなろくでもない人生もわざわざ思い出したくないですしね」

男「確かにそうか…」

男「で、結局証拠になってないじゃないか」

女「証拠がなくて困ってるのはこっちもです」

男「はぁ……」

女「というか、なんで急に疑ったんですか?」

男「ここで「実は普通の人間です」とか言われたらお前のことについて考えてた俺が馬鹿馬鹿しくなるしな」

女「あはは、意外と私のこと心配してくれてたんですか?」

男「俺が呪い殺されないかが心配なんだよ」

女「まだそんな事言うんですか……」

男「……まあ、どうせ俺が信じなくてもお前は本当だって言い続けるんだろうけど」

女「あはは、その通りですよ」

男「……それより、明日もどっか出かけるか?」

女「明日もですか?」

男「なんだ、嫌か?」

女「まさか。地獄の底までもお付き合いしますよ」

男「お前はもう死んでいる」

ー翌日ー

男「……どうしたんだ、その挙動不審な態度は」

女「あはは……あのですね……」

男「どうした?」

女「手、繋いでいいですか?」

男「は、はぁ? いきなりどうしたんだよ」

女「あれ、恥ずかしいんですか?」

男「お前は恥ずかしくないのか……」

女「私、普通の人にとっては影が薄いですから、もしかしたら気づかれないかもしれませんよ?」

男「無理があるだろ……」

女「で、どうなんですか?」

男「……いいよ」

女「本当ですか!?」

男「言っても聞かないだろう……」

女「ふぅー、今日も楽しかったですね」

男「楽しそうで何よりだよ」

女「……あの、これからも二人で出かけませんか?」

男「考えておくよ。さ、もうすぐ家だ」

女「今日も布団の準備しますよ」

男「またそれか……」

女「別にいいじゃないですか」

男「準備するだけならな」

女「じゃあ、おやすみなさい」

男「ああ、おやすみ……っと、電話か。誰からだ?」

女「私、先に寝ますね」

男「分かった」


男「……はい」

女B『もしもし、男君?』

男「女B? どうしたんだ?」

女B『いえ、ちょっと分かったことがあるから』

男「本当か?」

女B『ええ、実は……』

ー翌日ー

女「おはようございます。今日もどこか出かけますか?」

男「いや、俺ちょっと用事があるんだ。遅くなると思う」

女「そう……ですか。出来るだけ早く帰ってきてくださいね」

男「ああ、そうする」


男(本当は用事なんてないんだけどな……)

男(ただ、女Bが言ってたことが本当かどうか確かめるだけだ)

友「なんだ? 連絡もなしに押しかけて」

男「いや、ちょっとな……夜までここにいさせてくれないか?」

友「はぁ? なんで急に……」

男「どうせすることもないんだろ?」

友「それが人に頼む態度かよ……ま、確かに用事はないけどさ」

男「いさせてくれるのか?」

友「まあ、別にいいよ」

男「助かる」

ー夜ー

友「なぁ、もう夜遅いぞ。女ちゃんも心配してるんじゃないか?」

男「ああ、もうこんな時間か。邪魔して悪かったな」

友「それにしてもなんで急に来たんだ? 特に用があったわけでもなさそうだし」

男「いや、それは……」

友「……まあ、無理には聞かねえよ」

男「そうか……サンキュ」

友「おう、早く帰ってやれよ」

男(さて、どうなるか……)

ー昨晩ー

女B『あの子のしたいことは、多分貴方と一緒にいることだと思う』

男「はぁ? 見ず知らずの俺とか?」

女B『いえ、貴方と一緒にいることが、あの子のしたいことの一つだと思う』

男「どういうことだ?」

女B『多分、あの子のしたいことは、普通の人間のように楽しく暮らすこと、だと思う。そしてその中でも、普通の女の子のように恋愛することが特にそうだと思う』

男「なんでそんな……いや、確かに、あいつも生前はろくな目にあってないだろう、って言ってたな」

女B『あの子は多分そのことに気づいていない。だから、あの子を成仏させるかどうかは貴方次第なの』

男「そう、か……それにしても、なんで分かったんだ?」

女B『確証はないけど……いえ、この話は、あなたがあの子を成仏させると決めた時に言うわ』

男「なんでまた……」

男(女Bの言ってたことが本当なら、帰ったら多分あいつは過剰に反応する……はずだ)

男(あの事が真実かどうかは確かめないとな……)


男「帰ったぞー……あれ、女?」

男「寝てるのか? じゃあやっぱりあの事は……あれ、いないな……」

男「鍵も開けっ放しで……どこ行ったんだ?」

男「……仕方ない、辺りを探すか」

ーしばらくしてー

男(あれは……女か?)

男「おーい、どこほっつき歩いてたんだ!」

女「…男さん? 男さんですか…?」

男「どうした? 泣いてるのか?」

女「どこ行ってたんですか! 私、心配で……今、探してたところなんですよ?」

男「遅くなるって言ったじゃないか。それに探さなくたってちゃんと帰ってくる」

女「でも、男さんがいないって思うと、何故かどうしようもなく不安になって、いてもたってもいられなくなって……」

男「そうか、悪かったな……もう遅いし、家に帰るか」

女「はい……」

男(やっぱり女Bの言ってたことは正しいのか……)

女「男さん、今日は一緒な」

男「やめておく」

女「えぇー、中々帰ってくれなかったお詫びに、一回くらいいいじゃないですか。」

男「良くないから断ってるんだ」

女「……分かりました。おやすみなさい」

男「ああ、おやすみ」

男(あいつがどうなるかは俺次第、か……)

男(あいつは成仏したくないと言っているが……そういうわけにもいかないだろう)

男(あいつがなんと言おうが、それは変わらない)

男(……そしてなにより、あいつの泣いてる姿はもう見たくないからな)

男(だが、そうすると一生のお別れか……)

男(いや……今更悩んでいられるか)

男(明日は、女と一緒に出かけるか)

男(そういえば、女Bは、決めたら話の続きを言うと言っていたな……)

男(夜も遅いけど、電話するか)


女B『もしもし?』

男「ああ、男だ。悪いな、こんな遅くに」

女B『……決めたの?』

男「俺は……あいつの傍にいてやるよ」

女B『そう……じゃあ、話さないといけないわね』

ー翌日ー

男「なあ女。今日はどこか一緒に出かけるか?」

女「本当ですか!? 嬉しいです。昨日は一緒にいれなかったから……」

男「悪い悪い。じゃあ、早速準備するか」

女「今日はどこに行くんですか?」

男「そうだな……なるべく色んな所に行きたいな」

女「どこまでもついていきますよ」

男「もう何日も憑いて来られてるけどな」

女「あの、男さん?」

男「ん? なんだ?」

女「手、勝手に繋いでますよ。いいんですか?」

男「あ、ああー。俺霊感ないから気づかなかったわー」

女「凄く棒読みですよ……」

男「冗談だ、冗談」

女「それで、いいんですか」

男「構わないぞ」

女「あ、ありがとうございます」

女「あ、あれ凄く美味しそうですよ!」

男「さっきも同じようなの食っただろう……それにでか!」

女「大丈夫ですよ。男さんと一緒に食べれば全部食べれます。って、冗談で……」

男「いいよ。一緒に食べるか」

女「えっ、いいんですか……?」

男「俺も小腹が空いてきたんでな。しかし一人一つだと高すぎる。俺はケチだからな」

女「今日は大胆に色々買ってくれますけどね」

男「そのせいで財布が薄くなってケチになったんだよ」

女「諭吉さんが見えます」

男「人の財布を覗くな!」

男「おーい」

女「どこ行ってたんですか? また置いてかれるのかと思いましたよ……」

男「悪い悪い。それよりこれ」

女「……なんですかこれ?」

男「アクセサリーだよ。似合うと思ってさ」

女「病気ですか?」

男「ああ、最近後ろに誰かの気配を感じたり、急に手を掴まれてる感触がするな。これって何の病気だ?」

女「そんな病気ないです!」

男「それなら正常ってことだ」

ー帰り道ー

女「今日は今までで一番楽しかったですよ」

男「顔に出てるな」

女「顔に出るほど嬉しいんですよ……もうすっかり夜ですね」

男「ああ、月が綺麗だな」

女「……なな、何言ってるんですか!」

男「なんだそんなに慌てて。俺は感想を言っただけだ」

女「そ、そんなこと言われたら、そういう意味に感じるじゃないですか!」

男「ん? どういう意味だ?」

女「そ、それは……も、もういいです!」

男「もうすぐ家に着くぞー」

女「……月が綺麗ですね」

男「ほう、お前もそう思うか」

女「I love youの訳ですよ」

男「違うだろう」

女「……意訳ですよ。あの、男さん……」


女「私の彼氏になってくれませんか?」

男「…………」ギュウ

女「な、なんですか急に抱きついて!」

男「抱きしめてるんだよ……これが俺の返事だ」

女「……OKってことですか?」

男「……ああ」

女「ありがとう……ございます。あと、それと……」

女「……キス、していいですか?」

男「……大胆だな。……いいぞ」

女「はい…………ん……」

ー帰宅ー

女「今日は色々ありましたね。疲れちゃいました」

男「でも、夕飯ももう食べたから特にやることもないな」

女「ありますよ。布団の準備です」

男「一緒に寝ませんか、か」

女「あはは、決まってるじゃないですか。でもやっぱり駄目ですよね」

男「いいよ」

女「えっ……どうして急に、ですか?」

男「お前の頼みだからだよ。一緒にいたいなら一緒にいてやる」

女「……ありがとう、ございます。さ、じゃあ早速一緒に寝ましょうか」

男「ああ」

男「……朝、か」

男「女? ……やっぱりもういないのか」

男「先に起きてるわけでもなさそうだな」

男「女…………」

男「……じゃあ、あの場所に行くか」

ー回想ー

男「ああ、なんだ?」

女B『……オカルト好きだった、あの子について』

女B『どこから話せばいいか分からないけど……』

男「……何かあったのか?」

女B『あの子ね、家庭の事で問題があったの。父親には暴力を振るわれ、母親は彼女を捨てて逃げた』

男「そんな、聞いたこともなかった……」

女B『でも彼女は生きた。小学校でも、少し浮いてたけど友達もいたし。でも……』

女B『別の中学。小学生の頃の友達は一人もいない。友達を失ったショックで、彼女は学校で孤立していた』

女B『私と遊んでいたときは笑っていたけど、その私も、年を経て付き合いがなくなった』

男「…………」

女B『それからのことはよく分からないけど、多分もっと酷い目に……あっていたんじゃないかしら……』

男「……何が言いたい。まさか……」

女B『そのまさか。あの幽霊は、多分あのオカルト好きの子。顔は違うみたいだけど』

男「そういえば……」

[だから今のこの姿も、生前の私と同じかどうか……]

女B『昔彼女に言われたの。「今は友達すらいないけど、いつかは彼氏も作りたい」って』

女B『もちろん確証はないわ。でも……喋り方とか、雰囲気とかが、彼女と似ていたの。それに』

女B『幽霊のあの子の正体が私の知識にピッタリ当てはまったのも、彼女の魂が産み出したもの、と言えば説明がつく』

男「……そんな、あいつがそんな目にあって、しかも死んでいたなんて……」

女B『死んでないわよ』

男「え?」

女B『彼女は死んでない。意識は戻らないみたいだけど……』

男「な、なんで分かるんだ?」

女B『私もずっと探してたの……独りにさせたことを謝るために。』

女B『……そして、最近やっと見つけた。ちょうどあの幽霊と会った日に』

女B『聞いた話では、あなたがあの幽霊に出会った日の前の日に、飛び降りたそうよ……命は、助かったみたいだけど』

男「……あいつ……幽霊が成仏したら、意識が戻るのか?」

女B『ええ、おそらく』

男「そう、だったのか……」

女B『あと一つ、伝えたいことがあるの』

男「なんだ?」

女B『……全部終わったら、あの子に会ってほしい』

男「言われなくてもそのつもりだ」

女B『ええ、場所は△△病院。そこに彼女がいる』

男「分かった。絶対に行く」

女B『……でも、その時にあなたとの思い出を覚えているかどうかは……分からない』

男「それでも、会わなきゃいけない……だろ」

女B『そう……ね』


男(居候して、しかも本棚まで漁って……そんなこと、忘れるなよ……)

男「この部屋か…………」コンコン

『どうぞー』

男(ちゃんと目は覚めてるのか……)

男「入るぞ……」

女「…………」

男「……なぁ……俺のこと、ちゃんと覚えてるか?」

女「もちろんですよ。男さん」

男「俺と最後にあったのは?」

女「昨日、男さんの家で、ですよね」

男「……良かった」

女「……会いに、来てくれたんですね」

女B「……もう来てたんだ」

男「いてもたってもいられなくなってさ」

友「……まさかこんな所にあの子がいるとはなぁ」

男「お前も来たのか」

友「俺も関係者だぞ? 蚊帳の外にしないでくれよ」

女「みんな……来てくれて、ありがとうございます」

友「当然だよ。俺の活躍があったからここまで来れたんだからな」

女B「もう……大丈夫なの?」

女「はい。さすがにすぐに退院は無理ですけどね……」

女B「あの……謝らなきゃいけない事があるの。貴女を独りにしちゃって……」

女「分かってます。いいんですよ。私も、もう少し待てば会えたかもしれないのに、無責任なことしてしまって……」

女B「そんな、貴女が謝ることない……」

男「…………」

友「……そんな暗い話じゃなくてさ、俺の武勇伝でも聞いてくれよ! な!」

女B「……そんなことより、ここから出るわよ」ボソボソ

友「あ? なんでだよ?」

女B「空気読みなさいよ!」ボソボソ

友「……しゃーねーなぁ」

男「…………」

女「…………」

男「……す、凄い偶然だよな。最初に会ったのが俺じゃなかったら、女Bの話も聞けなかったし」

男「ここを見つけて、お前と再会することも出来なかった」

女「あはは、こういうのは、偶然じゃなくて運命っていうんですよ」

男「そんな小っ恥ずかしいこと言えるかよ」

女「男さん……本当に、ありがとうございます」

女「感謝してもしきれません」

男「別に、そんな……」

女「あの、一つ聞いていいですか?」

男「なんだ?」

女「幽霊だった私の彼氏になってくれたのって、ただ単に私を成仏させるためだけだったんですか?」

男「そうじゃない。俺もちゃんとお前のこと好きだったぞ」

女「そうですか。なら……男さん。今はもう顔も幽霊の私とも違いますし、こんなに弱い現実の私ですけど……」

女「また、私の彼氏になってくれませんか?」

男「OKに決まってるだろ」


男「……彼氏にならないと呪い殺されそうだ」


終わり

書き溜めとかないんで更新は遅くなると思いますけど後日談書いてみます

ー後日談ー

男「女ー、調子はどうだー?」

女「全然大丈夫ですよ。お医者さんもビックリするくらい治りが早いそうです」

男「そうか。良かったな……それよりさ、退院した後だけど、どうするんだ?」

女「どうするって、何がですか?」

男「なんか、お前の親父、ひでえ奴だったんだろ? そいつの所に戻るのか?」

女「……いませんよ。あの人なら」

男「え?」

女「交通事故です。飲酒運転をしてて……それで、もう死にました」

男「そ、そうか……なら、自殺する理由なんてなかったんじゃないか?」

女「私はですね、あの人に怒鳴られたり殴られたりする度に、一人で不幸自慢してたんですよ。自分を悲劇のヒロインとか言ってですね」

男「マゾか?」

女「そんなんじゃないですよ……あの人が死んでからは、そうやって心を満たすこともできなくて。引き取ってくれた親戚の言葉にも何も感じてませんでした」

男「そう、だったのか」

女「出来れば話したくなかったんですよ。殴られて一人で不幸自慢だなんて、変人みたいじゃないですか」

男「お前が変人なのはもう分かりきってる」

女「あはは、言うと思いました」

男「それで、結局どうするんだ? その親戚の所にも戻りたくないのか?」

女「……今は落ち着いてて、言葉を聞く余裕が出来ました。でも……」

女「今はそれよりも……男さんと一緒にいたい気持ちの方が強いです」

男「そ、そうか……」

女「照れてますか?」

男「お前は言ってて恥ずかしくないのか……」

女「キスもしたんですから、恥ずかしくないですよ」

男「なんか顔が赤いような……」

女「これはその、あの時のこと思い出して……」

女「しかし病院生活というのも不便ですね」

男「しょうがないだろう……」

女「本当はあの幽霊の姿のまま男さんといられるのが一番良かったんですけど」

男「そういうわけにもいかないだろ」

女「あはは、そうでしたね」

男「そうでしたね、じゃないだろ。つい最近のことだ」

女「それより男さんは、幽霊の私と今の私、どっちが好きなんですか?」

男「な、何を聞くんだよ……」

女「いえ、気になったので」

男「どっちもお前で、俺はお前が好きだ。だから俺はどっちも好きだ」

女「そんな都合のいい回答……」

男「満更でもなさそうだな」

男「あ、そうだ。今日はプレゼントを持ってきたぞ」

女「え? プレゼントですか?」

男「ああ、これだ」

女「あ……これって……」

男「お前にあげたアクセサリーだよ。お前が消えると同時になくなっちゃってさ」

女「ありがとうございます……でも、これって幽霊の私に買ったものですよね? 私に似合うかどうか……」

男「きっと似合うぞ」

女「……大事にしますね」

女「私からもいつかプレゼントを返さないといけませんね」

男「ほう、何をくれるんだ?」

女「……オカルト系統のものですかね、やっぱり」

男「まだその趣味あったのか」

女「おや。この趣味を持ち続けていたから幽霊として蘇られたのかもしれませんよ?」

男「あー、確かに。一理あるな……でも、プレゼントにそういうのは勘弁な」

男「おっと、俺そろそろ帰らないと」

女「あ、もう帰っちゃうんですか……?」

男「なんだ、そんなに寂しいのか」

女「そりゃ寂しいですよ」

男「……まぁ、俺もだ」

女「あの晩ほどじゃないですけどね。本当に寂しかったんですよ、あの時」

男「ちゃんとまた来るから安心しろよ」

女「はい、分かってますよ」

男「あれ、女Bも来てたのか」

女B「まあ、友達だしね。男君は今帰るところ?」

男「ああ……調子はいいらしいよ。治りも早いみたいだ」

女B「そう、良かった……」

男「あいつも話したがってると思うから話してやってくれよ?」

女B「そのつもりよ……やっと、会えたんだから」

男「……じゃあ、俺はこれで」

男(あいつが退院した後、か……)

友「よっ! 女ちゃんの見舞いの帰りか?」

男「お前か……ま、そんなところだ」

友「……で、どうしたんだこんな所で。どっか寄るのか?」

男「まあ、少し買い物をな……」

友「何買うんだ?」


男(毎日一緒にあの狭い布団で寝るのもなんだしな……)

男「布団、だよ」


本当に終わり

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