岡崎泰葉「星に囲まれて。」 (20)


みなさんから見て私はどう思われているのでしょうか?

真面目と思われてるのでしょうか?固いと思われているのでしょうか?

それも確かに私の一面であるとは思います。

確かにみなに冗談で先輩といわれているほどにはまっすぐに生きていきました。

ただ私だってわがまま言いたくなるときだってあるんです。

例えば誕生日の前後ぐらい少しわがまま言ってもいいですよね?


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仕事が終わって迎えに来たPさんと二人車の中。どきどきしています。

私はPさんを慕っています。なんてミスプロ意識とまで言われた私にはあるまじき行為だと思います。

しかし好意を持つことはやめられません。

…ふふ、楓さんの影響を受けていますね。

そういえばアイドルになる前に楓さんとは面識あったんですが、あの人も変わりました。お互い様。

少し話がずれましたね。私がPさんを好きって話ですよね。

私はこの気持ちが恋であるとははっきりはいえません。



なんせ今まで恋というものをしたことがなかったもんですから。

初めて心を開けた異性がPさんだから慕っているのでしょうか?

これはいわゆる恋に恋してる状態なのでしょうか?

だけどこれだけはいえます。Pさんといると心があったかくなります。

多分Pさんは私の好意に気がついています。その上で気がつかないふりをしていてくれます。

私はPさんがひどい人だとは思いません。むしろ感謝しているぐらいです。

Pさんが私の気持ちを無視してくれているから私はちゃんとアイドルを続けられるんです。


叶わない片思いはずっとその人を好きでいられるから幸せ。

そんなことをまゆちゃんが言っていました。

あの子は昔と変わりませんね。少し安心したような、でも少し複雑な気分です。

私もそうなんですかね?やっぱり経験にはないことなのでしっかりと確証は持てません。

多分好き。それでいいです。

手のかからない子だとPさんは言ってくれます。それはそれで嬉しいです。

でも少しかまってほしいです。だからわがまま言います。これぐらいは許してくれるよね?



「そういえばさ、女の子ってプレゼントされて嬉しいものとかある?」

「どうしたんですか急に?」

「いや、泰葉の意見でいいんだ。今、泰葉がほしいものとかある?」


不自然なPさんの質問。意図はわかります。

だってそろそろ私の誕生日。プレゼントを考えていると他の子から教えてもらいました。

少しいじわるしてみようかな?いいや、私が素直にほしいものを答えよう。

変なこといって変なものプレゼントされるのも嫌だしね。



「この前お仕事でプラネタリウムに行ったじゃないですか。あれを忘れられなくて、調べてみたら家用のプラネタリウムってあるらしいし、それがほしいですね。」

「それがほしいのか?」

「はい。女の子のプレゼントとしてはわかりませんけど、私だったらそれがほしいです。」

「いや、泰葉の意見でいいよ。ありがとな。」



ふふ、Pさんのプレゼント。何が渡されるかは多分わかってしまったけどそれでも楽しみです。

そのとき車のラジオから流れている曲。英語の歌詞で意味はところどことしかわかりません。

さらには歌っている方が非常に癖のある歌い方をするので単語も上手く拾えません。

ジュピターやマーズ、さらにはスターやムーンと言っているので宇宙に関する曲でしょうか?

今してた会話とリンクしていた気がして興味を持ちました。


「この曲、いい曲ですね。」

「お、いい趣味しているじゃないか。俺も好きなんだよ。」

「宇宙に関する曲なんですか?」

「うん、まあそうともいえるし違うともいえるかな。」

「どういう意味ですか?」

「確かに宇宙の話はしているけど本題は違うんだよ。」

「そうなんですか?なんの話をしているのですか?」

「それは自分で調べてみな。泰葉ならどう言いかえるかな?」

「言い換える?この曲の題名は?」

「Fly me to the moonだよ。」

「わかりました。調べてみます。」


送ってもらったPさんにしっかりとお礼を言ってわかれます。

明日からは誕生日まではあえません。

だからPさんとしては私のほしいものを聞く最後のチャンスだったのでしょう。

少し強引でもちゃんと言えてよかったです。

それはそうと早速調べてみましょう。

フライミートゥザムーンでしたっけ?

ふむふむ、なるほど。だから言い換える。

私は一人で納得しました。Pさんからの課題、どう答えましょうか?


私は誕生日までずっと答えを探しました。でも自分のしっくりと来るものがありません。

そんなことしているうちに誕生日当日です。

今まで誕生日なんて気にしたことなかったのにこの事務所は軽いパーティもやってくれるしみんな祝ってくれる。

楽しみなイベントに変わりました。待ち遠しい、待ち遠しい。

そんなことを思うたびに時間はよりゆっくり進んでいく感じがしました。

うーん、晶葉ちゃん辺りが時間の流れをゆっくりにするロボでも作っているのでしょうか?

一人で考えて一人で笑ってしまいます。以前の私ではこんな発想出てくるはずがなかったんですけど。

やっぱり私は変われました。たくさんの人に感謝しないといけませんね。



パーティも終わり人が帰っていきます。私は主役だったのでまだ事務所に残っています。

Pさんからのプレゼントもまだもらってないですから。

最後にちひろさんが帰って事務所の中に私とPさんの二人きりになりました。

やっぱり二人きりはいつでもどこでも緊張するものですね。

Pさんはいたずらっ子のような表情、それでいて子供みたいな素直な表情。

そんな顔で私に「ちょっと待ってろ。」といい一人応接室に入っていきます。

なにがおこるのでしょうか?半分くらいわかっています。でも楽しみです。



「もういいぞ。」


楽しそうなPさんの声が聞こえます。私は「はい。」短く返事して応接室に向かいます。

扉を開けると…、そこには確かに宇宙が広がっていました。


「綺麗…。」


思わず声が漏れます。家庭用プラネタリウムってここまで綺麗なんですね。

思ってた以上の光景に私はただただ目を奪われました。

感動、今の私の感情を表す言葉は見つかりません。一番近い言葉を選ぶとしたら感動です。


「そうだろ。すごいだろ。」


Pさんが私の反応に満足した様子で答えます。

確かにこの顔はいたずらが成功した子供です。


「昔俺も一時期はまってさ、家にちょうどいいのがあったから持ってきたよ。」

「でもこれいいやつだから高いんじゃないですか?」

「いや、いいんだよ。俺の家でほこりかぶっているよりは泰葉に使われていたほうがこいつも幸せだろう。」

「ありがとうございます。」

「よろこんでもらえてよかったよ。」


しかし、こうも満足気な顔をしていると私も反撃したくなります。

これが私のいたずらで、わがままです。


「綺麗な星たちに囲まれて、遊んでみたいですね。」

「どうした急に?」

「今は地球は夏ですね。木星や火星にはどんな夏が訪れるのでしょうか?」

「うん?」

「私を月へ連れて行ってください!」

「なるほど。」


Pさんは苦虫を噛み潰したような顔をしています。

それもそのはず、これはダイレクトな告白ですから。

そのときの私はPさん以上にいたずらが成功した子供のような表情をしていたでしょう。

多分、いや絶対そうです。


「泰葉をトップアイドルという星に連れて行くよ。」


ふふ…、予想通りの答えです。

しかし、これで満足です。

なら私はそれと同じ星を見るだけです。


「なら私も、言い換えるならトップアイドルという星に連れて行ってください。」

「ああ、約束する。」

「月に行くのはそのあとでいいです。」


あくまで私は諦めません。

また困ってますね。少しいじめすぎたかな?


流石にみんなからもプレゼントをもらっているし、さらにプラネタリウムを持って帰るのは大変なのでPさんが送ってくれることになりました。

次はまた二人きりの車内。どきどき。


「雲ひとつない空だな。」

「そうですね。だけど星の数はさっきのには負けますね。」

「そうだな。でも今日の月は綺麗だな。」

「え?」

「俺だって思うところがあるんだよ。」

「じゃあ私だって、死んでもいいです。」

「それは俺が困るな。」

「私もまだ死にたくないです。」



「トップアイドルになったあとな。」

「はい。」


互いに好きって言葉は言いません。

それはなんだか無粋な気がします。

だから色々な言葉に言い換えます。


「Pさん、今いい言いかえが思いつきました。」

「なんだ?」

「私のわがままに付き合ってください。」


この気持ちに気づいたから手放したくありません。

アピールがきいてたみたいですね。

私だってわがまま言いたくなるときぐらいあるんです。

以上で短いけど終わりです。

泰葉誕生日おめでとう。

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