モバP「Y.Oちゃん談義」相葉夕美「岡崎泰葉ちゃんだよね?」 (165)

――2015年2月13日――

――事務所――

モバP(以下「P」)「夕美いいいいいいいいいいいいいいい――――――!!!」ムギュッ

相葉夕美「ひゃああああああああああっ!!??」

<ごちーん!

夕美「いっ、いっ、いきなりなんてびっくりするよっPさん!」

P「ぶたれた……夕美にぶたれた……」

夕美「ぶつよ! いきなり抱きつかれたらっ、そのっ、心の準備がっ――じゃなくて! わ、私がPさんをぶつなんて初めてじゃないんだから泣かないでよっ!」

P「……」ジッ

夕美「な、なにかなっ?」

P「……ご褒美です!」

<ごちーん!


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1436947284

――注意事項?――

モバマスSSです。
モバマス原作のセリフを引用する際は、三点リーダー「…」を「……」に変え、疑問符や感嘆符の後にはスペースを入れ、ユーザーネームが入るセリフを「P」に差し替えてさせてもらってます。

例――
「あっ、Pプロデューサー。アイドルとしての路線変更かと思ったけど、そんなことなくて安心しました。さすがですね……。私のアイドル生活もこのままもっともっと充実させていきたいな……」
([爛漫ひな娘]岡崎泰葉+)

P「うお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛……」

夕美「あ、ああっ、ごめんねPさんついっ! でも私も植木鉢を振りかぶりたくはないからそろそろ冗談はやめてほしいかな!?」

P「お゛お゛お゛お゛お゛…………おし」ムクッ

夕美「復活早っ! あー、えっと、Pさん? 今日は誰にちょっかいを出してきたのかなっ?」

P「信頼されてねえ! おかしいな、この前のお仕事で親愛度はMAXになった筈なのに……」ブツブツ

夕美「アイドルをプロデュースする為だーって言ってやってた、女の子とらぶらぶするゲームの置き場所なら泰葉ちゃんにバレてるよ?」

P「なぬ!?」

夕美「うんっ、私が教えた♪」

P「なんてことしてくれるん!? なんてことをしてくれるん!? 泰葉にバレたら、おまっ、そりゃお前! お前なぁ!」

夕美「泰葉ちゃんにバレたら何かな?」

P「せっかくこの前――」


『心が軽い気分で……Pさんがプロデュースしてくれたからですね……! これからも、もっと楽しいアイドルを続けたいです……!』
([小さな一歩]岡崎泰葉+)


P「とか言ってくれたのに! またハートマークのピンク色がまっくろくろすけになるだろうが! またお前――」


『大丈夫、一人で出来ますから』
(岡崎泰葉)


P「とか言われちゃうんだぞ! あの冷たい鉄みたいな目で! そこら辺のアリンコを見る目で!」

夕美「でもどうせ、Pさんはご褒美ですって言うんだよね?」

P「もちろんですとも! ……待て、待て、植木鉢は駄目だって夕美が今言ったばっかりだ!」

夕美「ふーっ、ふーっ……や、やだなぁPさん、冗談だよ?」

P「目が笑ってねェ」

夕美「ところでPさん、せっかくこの前に言われたっていうセリフって、今年に入って何回くらい聞いたかな?」

P「……」

夕美「……」ニコッ

P「……11回」

夕美「逆に安心したかな」

P「あのなぁ! 現実はギャルゲーと違うんだ! いったん親愛度がMAXになったからってほっといても維持できるほど世界は甘くねえんだよおおおおおおおっ!」

夕美「それでもちゃんと泰葉ちゃんに慕われてるから、Pさんってスゴイよね、いろいろと」

――夕美特製のハーブティーとカップケーキで心を落ち着かせました――

夕美「あっ、そういえば聞き忘れてたね」

P「ん?」

夕美「結局、Pさんは泰葉ちゃんと何かあったの? 喧嘩しちゃった?」

P「…………」

夕美「Pさんは太陽に真っ直ぐ伸びるお花みたいに素直な人だけど、たまに突っ走りすぎてやらかしちゃうから、駄目だと思ったら素直に謝らないと駄目だよっ? ……でもPさんは、やっぱり女の子に本当に酷いことはしないよね。大丈夫、きっとタイミングとかが悪かったんだよっ。私も一緒に行ってあげるから、謝ることがあるなら勇気を出して――」

P「……ガタガタガタガタ」

夕美「震えてるの!? Pさん、震えてるの!? そんなに恐かったの!?」

P「やすはが、やすはのめにひかりがなかったんだ、まるでへどろをみるようなめだったんだ」

夕美「ひゃっ!? Pさんこそ目に光がないよ!? あー、えっと、よ、よしよーし、よしよーし」

P「…………あぁ^~」

夕美「うん、分かった、Pさん実は元気でしょ」

P「ふぅ。いや、いやいや、ガチで死ぬと思ったのはマジなんだ。マジなんだって。いやもう実際、1時間くらい俺たぶん呼吸してなかったもん。1時間。きっと心優しい人がマウストゥマウスで人工呼吸をしてくれたに違いない! ああどこにいるんだ俺を助けてくれた天使よ! 見つけたらすぐにスカウトするというのに!」

夕美「……す、すごいポジティブ思考だね」

P「まあ聞いてくれ夕美。そうなんだ。その泰h――本人のプライバシーに考慮して、ここではY.Oちゃん以下Yとさせてもらうが」

夕美「泰葉ちゃんだよね?」

P「馬鹿お前、こういうのは暗黙の了解ってのがあるんだよ。テレビで『チ◯コ』とかフリップ出した時に◯に入る文字なんて誰でも知ってるから伏せ字なんてぶっちゃけ無駄だけどそこはほら暗黙の了解、」

<ごちーん!

P「げばぶっ!」

夕美「お、お、女の子になんてお話をするのかなぁっ!?」

P「あ、悪い、つい」

夕美「つい!? ついってどういうこと!? 私もしかして女の子として見られてなかったりする!? 夏にいっしょにビーチバレーしたよね!?」

P「それはともかく」

夕美「私の存在価値の話を"ともかく"で済ませないでぇっ!」

P「ともかくだ。Y……いいやメンドクセ。泰葉と言えば今や国民的アイドル、泰葉と言えばお茶の間のアイドルだ」

夕美「……言っても無駄だって分かってるけどぉ…………。泰葉ちゃん? うん、今年の始めにかくし芸をやってから、いろんなところで見るようになったよね。教育番組に出ていた時には私びっくりしちゃったよ」

P「ああ。収録を見た俺は危うくイk――じゃねえな、浄化されそうになった。ドス黒い何かがこう、口から、こう」

夕美「ドス黒い自覚はあったんだ……」

P「まあそれはさておき、そんな泰葉と言えばバレンタイン。2月14日と言えば?」

夕美「バレンタインだね!」

P「神様仏様夕美様、この哀れな男にチョコをください」

夕美「Pさん相手にロマンとか考えるだけ無駄なのかなぁ!? ……もー。いいよ。準備はしてるし、今のお話が終わったら渡してあげるから、続けて?」

P「おし。泰葉と言えばバレンタイン、バレンタインと言えば泰葉。当然、14日が空いている訳がない。今年もチョコの手渡し会だ。だが俺は確信していたんだ。今年も泰葉は俺にチョコをくれるって!」

夕美「やっぱその前向きっぷりは見習いたくなるねっ。それでそれで?」

P「もらえたんだ」

夕美「やったね♪」

P「2月10日にな。その日にしかまとまった時間は取れなかったんだ。いや不満はない。もらえると確信していてもやっぱり恐いからな」

夕美「うんうんっ」

P「泰葉がわざわざ待ち合わせまでしてくれてさ。スキップしつつ手の先を震わせて行ったら、泰葉、こう言って迎えてくれたんだ」


『Pさん!

一年で一度、大切な気持ちを伝える日ですから……、感謝の気持ちを……Pさんに贈ります。
私の未来を明るく照らしてくれたPさんだから……。私ももっと喜んでほしいって思います』
(2015年バレンタインイベント:岡崎泰葉1回目)


P「その笑顔が可憐すぎてほぼイキk――違う違う。俺はチョコをもらって1時間くらい立ち尽くしていたんだ」

夕美「……あ、もしかして事務所に警察の人から電話がかかってきた時って」

P「……あの時は助かりました。お礼を言っても言い切れません」

夕美「う、うん。バレンタイン直前なのに女の子の私がゴデ◯バを買ってもらうっていうよく分かんないことがあったよね」

P「だがしかし、可憐な女の子を見た後にムサイおっさん2人に囲まれてオラオラされ頭がすっかり冷えきった俺は、あれ、と思った」

夕美「何かおかしなところはあったかなっ? ……警察以外で」

P「泰葉だ」

夕美「うーん、聞いてる限りだと何もおかしくないと思うけど。あっ、もしかしていざこざがあってチョコが割れちゃったとか?」

P「いや。チョコは見事なハートマークだった。浄化されかけた」

夕美「Pさんそのうち雲の上に行きそうだよね……」

P「え? イキそう?」

夕美「そこ繰り返すのやめてくれない!? ……うーん、じゃあ、受け取ったのはホント手作りのチョコじゃなくて、泰葉ちゃんが間違って渡しちゃった!」

P「後から聞いてみたんだが間違いはなかったそうだ。それに泰葉は、手渡すチョコをぜんぶ手作りにしている」

夕美「……え? スタッフさんに配る分も?」

P「すげぇよな。自慢のアイドルだ」

夕美「でも、そうなるとホントに分からないなぁ……。ぎぶあっぷ! 答え、教えて」

P「ああ。それはな――」

夕美「それは――」

P「俺が"その他大勢"に含まれてるっぽいことだ!」

夕美「………………………………はい?」

P「去年のバレンタイン――そうだ、あの時は夕美もいただろ。去年のバレンタインを思い出してくれ。バレンタインイベントの帰り道、ああ、夕美も見ていた筈だ。やけに緊張した素振りで泰葉は俺にチョコを渡してくれた」

夕美「うんっ、見てたね。見てる私までドキドキしちゃいそうだったよ♪」

P「あの時、泰葉はこう言ったんだ」


『あの……バレンタイン、ですから……。ファンだけじゃなくて……これは……Pさんのためのチョコを……』
『別に……そういうのじゃないです……! でも……ちょっとだけ特別ですから……』
(「アイドルプロデュース チョコレートフォーユー!」岡崎泰葉:エンドレスプロデュース)


夕美「……え、なんで一言一句を覚えてるの?」

P「ばっかお前、アイドルの大切な言葉はぜんぶ覚えてるに決まってんだろ。ましてあんな真剣な顔で言われた言葉だぞ? あの世にまで持っていくぞ俺は」

夕美「そっか……」

夕美(はちゃめちゃなPさんがアイドルから好かれるのって、こういうところにあるんだろうなぁ……)

夕美「それで、それが今年のバレンタインとどう関係してるの?」

P「今年は特別って言ってくれなかった」

夕美「うん?」

P「感謝の気持ちだって言うんだ。チョコが感謝の気持ちだって。……それって俺の扱いがファンへのそれとぜんぜん変わらねえってことだよな!?」

夕美「……………………………………は?」

P「俺は考えたんだ。あの時は人通りの多い場所だった。いくら泰葉でも人前で特別だってぶっちゃけるのは難しい。そうだ、きっと泰葉はもう1つ、特別なチョコを用意してくれてるんだと。だから俺、昨日に泰葉を呼び出して言ったんだ。なあチョコまだ持ってんだろ? ホントはサプライズがあったりするんだろ? なぁ!? 自覚はしてる。たぶん涙をじょばじょば流してた。そうしたら泰葉の目からみるみる温度がなくなったんだ。そしてこう言ったんだ――」


『一年で一度って言ったじゃないですか。それとも、私ってその程度の存在だったんですか……?』
(2015年バレンタインイベント:岡崎泰葉2回目)


P「首吊りまで考えた」

<ごちーん!

P「ごえるっ!」

夕美「あ……っっっっっっっっっっったりまえだよ! 何してんのPさん!? ひどいよ! さすがにそれひどすぎないかなぁ!? ねえもう1発くらいげんこつしていいかな? いいよね!? だって花を枯らされた時だってこんなにぶちってならなかったもん私っ!」

P「やめて、その攻撃は俺に効く」

<ごちーん!

夕美「効くんだったらやらせてもらうね!」

P「や、やってから言うなや……」グオオオ

夕美「はーっ、はーっ、さ、さすがに今日というk今日は見損なったよPさん! せっかく泰葉ちゃんが勇気を振り絞ってチョコを渡してくれたのに! 何その、なんていうのかなっ、わがまま!」

P「だ……だってなぁ! 泰葉だぞ? あの泰葉がだぞ!? 出会ったばっかの頃なんて、

『今更私がPプロデューサーに教えて貰うことなんて……?』
(岡崎泰葉)

とか言われて近寄るのもできなかったんだぞ! それが去年は特別な物だって言ってくれて……男として……いや! 担当プロデューサーとして舞い上がってもいいだろうがちょっとくらい! ちょっとくらい! ちょっとくらい期待したっていいだろうが! 泰葉の特別になれてるんだって!」

夕美「……………………」

P「…………うぅ……やっぱ自意識過剰だったのかな。何回も親愛度はからっけつになるし、泰葉に信頼してもらえるのはまだまだ先のことなのかな……」グスッ

夕美「………………」


夕美(……や、恋愛経験なんてないから知らないんだけどねっ)

夕美(たぶん、この人は、他の男性とはぜんぜん違うんだと思う)

夕美(あくまで、自分が泰葉ちゃんに信頼されてるって思って――安心して? 話を進めてる)

夕美(下心なんて、きっとぜんぜんない。……や、セクハラ発言は酷いけどね?)

夕美(それがきっと、変なすれ違いがあって、落ち込んでるんだ)

夕美(自分の思い通りにいかなかったから、とは少し違って)

夕美(泰葉ちゃんに信じてもらえてない、ってことが)


夕美「はぁ……」

P「夕美が溜息をついている。きっと夕美にも信頼されてないんだ。次に顔を合わせたら初対面の時みたいにプロデューサーさんって呼ばれるんだ、Pさんって呼んでもらえるまでまた時間がかかるんだ」

夕美「そういうのはせめて心の中だけで言ってくれないかな? Pさん」

P「……」

夕美「……ね、"Pさん"?」ニコッ

P「――夕美いいいいいいいいいいいいいい!!!!」ガバッ

<ひょいっ

P「ぐぇ」ベシャ

P「なんなんだよ! なんなんだよ! 期待させないでくれよ! 俺、普通に純情ボーイなんだぞ!」

夕美「Pさん風に言うなら親愛度の問題かな。上限は40じゃなくて300だったって思えばいいんじゃないかなっ」

P「SRカード+版だった!?」

――なんだかんだ夕美が持ってきたチョコを2人で食べました。――

夕美「落ち着けた?」

P「ああ……うん、冷静に考えてみると、ねえわ。ねえわ俺。ギャルゲーでそんなことする主人公があったら即ディスク割るわ。いやそういうのよくねえよな、ゲームメーカーには誠意を示さないといけねえよな……」

夕美「Pさんがやるまでもなく、泰葉ちゃんが処分すると思うよ」

P「そうだったあああああああああああああああ!!!」

夕美「残念でした♪ そんなことしなくても、Pさんのプロデュースの腕はもう十分、ううん、凄腕なんだからっ。ほら、ここにもPさんのお陰で立派に咲き誇ったアイドルがいるんだよ?」ニコッ

P「……夕美……!」

夕美「Pさん……!」

P「夕美ぃ……!!」

夕美「Pさん……!!」

P「……悪い、プロデュースの為にギャルゲーっての、あれ建前」

夕美「…………………………はい?」

P「だって俺、高校生の頃からギャルゲー大好きだもん」

<ごちーん!

P「ぼろろっ!」

夕美「……1日でPさんをぶった回数、これで最高記録更新だね」

P「泰葉のみならず夕美まで……この事務所に俺の味方はいないのか……!」

夕美「仲間になってほしいなら、まず真剣にしてほしいかな?」

P「真剣……真剣……!」

夕美「うんうん、その調子だよ! そのキリッとした顔! スタッフさんからよく聞くんだ。Pさんの真剣な顔はあまりにも真剣すぎてこっちまで気が引き締まるって♪」

P「真剣……真剣……!!」

夕美「じゃ、その気持ちで泰葉ちゃんのことを考――」

P「――そうだ。次の夕美の衣装のアイディア思いついた」

夕美「……へ?」

P「ちょっと待っててくれ。すぐ済ますから」


――1時間くらい待ちました――

P「デザイン発注、っと。おし、夕美、お待たせ!」

夕美「う、うん」パチクリ

P「それじゃ早速――えーと、何してたんだっけ?」

夕美「もうっ……。泰葉ちゃんのことだよ。Pさん、泰葉ちゃんとケンカしちゃったんでしょ?」

P「そうだったな………………やすは…………やすはぁ…………」ガタガタ

夕美「私、なんでこんな人のところに押しかけてアイドルになっちゃったんだろ……」

――コーヒーを2人分淹れました――

夕美「Pさんって、ホントに泰葉ちゃんのこと大好きだよね♪」ズズズ

P「ああ。アイドルに転身した時からずっとついてるからな……どうしても、感慨深いっていうか、もうずっと嫁に出したくないな!」ズズズ

夕美「女の子相手にそれはどうだろ……」フゥ

P「なんなら俺が泰葉と結婚するまである」コーヒーウメェ

夕美「それ間違っても泰葉ちゃんに言わないでねPさん。きっと同じ目に遭うよ」

P「わ、わかっているとも。わわわわかっているとももも」

夕美「そう言いながらなんでスマホに手を伸ばすのかなっ!? もう! さっきまでの鋭い目のPさんに戻ってよ!」

P「だ、だよなぁ! 泰葉ってプロのアイドルだもんなぁ! ミス・プロ意識! プロの中のプロ!」

夕美「うんうんっ、分かってるならいいんだよ♪」

P「……もうこの際、夕美でいいや」

<ごちーん!

P「すみませんでした、いまのはまじですみませんでした」

夕美「……もしかしてPさん、私にぶたれたくてやってない?」

P「何を言っているんだ、あるに決まっているじゃないか」キリッ

夕美「……ちょっと事務所の移籍を真剣に検討させて。それかプロデューサー交代か」

P「夕美いいいいいいいいいいいいい――!!!」ダキッ

夕美「ひゃっ。も、もうっ、冗談だよっ冗談! でもあんまり酷かったらホントに考えるからね!」

――今はたぶん16時くらい――

P「おっと。それよりも泰葉だ。何度か言ってるけど、最初の頃はもうホントにな、ホントだった」

夕美「うんうんっ」

P「取り付く島もない、触らぬ神に祟りなし、君子危うきに近寄らず。そんなことわざは、まさにあの頃の泰葉の為にあるようなものだ」

夕美(後ろ2つは違うんじゃ……)

P「あの時の俺は意地になっていたんだ。冷たい目で見られる? 上等だ! 例え焼き土下座をしてでも信頼されるところまで行ってやる! ってな。その甲斐あってか、2ヶ月くらい経ち、もうやめて! 俺のライフポイントはもうゼロよ! と叫びたくなっていた頃、やっと笑ってくれたんだ」


『私にとっての幸せって、アイドルのお仕事を楽しめる今の環境なのかなって……Pさんのおかげ、です』
(岡崎泰葉+)


P「俺、布団入る、泣く」

夕美「カタコトになるくらい嬉しかったんだね……。私はやわらかい泰葉ちゃんの方が印象に残ってるけど、Pさんの気持ちもなんだか分かるな♪」

P「負けず嫌い。何事も全力で。それで楽しい。それを知った時、決めた、俺はこの子をトップアイドルにしてやる! と思った。徹夜上等スタドリバンザイ、あ、でも最近のちひろさんはぼったくりすぎだと思うの」

夕美「前からじゃない?」

P「やめろばかレアメダルにされたくなければ黙ってろ。いいな? で、次に泰葉に持ってこれたのはひな祭りの仕事だった。いきなりSRランクの仕事。当然だな! だって泰葉だもんな!」

夕美「うんうんっ♪」

P「俺はあの時、衝撃的な言葉を聞いたんだ――」


『私は人形じゃない…!』
(「アイドルサバイバル ひな祭り2013」岡崎泰葉:イベントLIVEバトル)


P「実は泰葉は、芸能界で大人の言いなりになる自分に嫌気がさしていたのだ!」

夕美「うんうん」

P「その日の晩、俺は頭を下げた。今まで俺の都合で振り回してごめんって。泰葉は笑ってくれたんだ。俺なら信頼できるって言ってくれたんだ。しかも――」


『Pさん……私の手を取って……これからも導いて下さい』
([爛漫ひな娘]岡崎泰葉+)


P「不死の薬を探しに富士山に登る衝動を抑えるので精一杯だった」

夕美「Pさんって歴史が好きだよね。私の知らない花の歴史とかもよく教えてくれるもん」

P「…………俺の話、楽しい? いや昔、男友達からも『お前の話は意味が分からん』って引かれたことがあって」

夕美「私は楽しいよ?」

P「ふぅ。いや、それより泰葉だ。夕美よりも泰葉だ」

夕美「なんか今日の私の扱い酷すぎない!?」

P「どうしたらいいかずっと悩んだ。どうしたら泰葉は心の底からの笑顔を見せてくれるだろう。そうだ、芸能界にいる限り子供は大人の操り人形になってしまうのだから、芸能界を辞めればいいじゃないか。それを提案した時が、最初に親愛度を真っ黒にした日だった」

夕美「だめだよっ。泰葉ちゃん、アイドルのことになるとすっごく真面目だもん。誰よりもプロのアイドルなんだから!」

P「つくづく思い知ったな……。悩んで悩んで悩み続けてたある時、泰葉に演劇の主役が回ってきたんだ。スペースワールドツアーカーニバルの主役。アンドロイド人形が歌で人の心を震わせるって内容のな」

夕美「アンドロイド……って、スマホのことじゃないよね。えっと、機械人形、だったかなっ?」

P「ああ。当然、俺は拒否した。ブチ切れた。人形をやらせる? 冗談じゃない! ちょっと提案してきたスタッフ全員正座しろや! 俺のこの秘蔵の『岡崎泰葉ライブDVD集』を貸してやるから最低でも3周しろ、それで岡崎泰葉の何たるかを知れや! ……って言おうとしたら部長にどつかれた」

夕美「Pさんってたまに熱血になるよね」

P「『ドラゴ◯ボール』は少年たちのバイブルだ。あと『北◯の拳』がなければ今の俺はいないな。でも結局、泰葉は当然のように主役を引き受けた。本番当日まで俺の胃は大宇宙の如く収縮し続けていた」

夕美「つまり、まだまだ余裕があった、と」

P「なにせ練習風景すら見せてくれないからな。大丈夫です、プロは結果で見せますから、って。まあスタッフも報告を上げてくれたから信じることはできたが、やっぱり俺は生の泰葉を見たかったんだ」

夕美「Pさんが言うとなんだかやらしく聞こえるんだけど」

P「本番当日。俺は死んで、転生した」

夕美「死んじゃったの!?」

P「ああ。それくらいにヤバかったんだ。

やつを語る前に言っておくッ!
おれは今やつの“アイドルぢから”をほんのちょっぴりだが体験した
い……いや……体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが……
あ……ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
『おれは泰葉の演技を見ていたらいつの間にか天国にいた』
な…… 何を言ってるのか わからねーと思うが
おれも何をされたのかわからなかった……
頭がどうにかなりそうだった……
クーデレとか無知シチュとか
そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

あ、ちなみに天国には髭面のムサイおっさんがいてまだこっちに来るのは早いって言われて叩き落とされた」

夕美「天国については冗談ってことにするけど、そんなにすごかったんだ、泰葉ちゃん……」

P「DVDを見てみるといい。いや見ろ。今すぐ見ろ。俺はもう100回は見た。100回見て100回とも髭面の親父に門前払いされた」

夕美「う、うん。そんなに言われたら、興味が湧いてきちゃった♪」

――何の話かって? 2013年10月のイベント「LIVEツアーカーニバル in スペースワールド」だよ!――

泰葉『地球エリア……。長い宇宙の旅を終えて、帰ってきましたね。この母なる星で……私がお迎えします』
泰葉『私は歌うためだけにつくられたアンドロイド。音階はわかっても、人の心はわからない……』
泰葉『私は、もうアンドロイドじゃない……自分から、歌えるから! ふふっ!』

P「」

夕美「う、っわ……すごい……これがプロのアイドルなんだ……」

P「」

夕美「私ももうずっとアイドルを続けてるけど、これはちょっと……あ、あはは、自信、失っちゃいそうだな……」チラッ

夕美「って、わー!?」

P「」

夕美「Pさんが真っ白になってるー! Pさん、Pさーん!」

――てんごく――

P『……はっ! こ、ここは!』

髭面『……』ビキビキ

P『おおそこの方! ちょっと俺の話を聞いてくれ、俺の担当に岡崎泰葉ってアイドルがいるんだがこの子がまたすごいんだ、何がすごいってまずは――』

髭面『知っておるわ』ビキビキ

P『そうだったか! そうだよな、そうだよな! 泰葉だもんな! ああそうだ、だったらもう1人の話も聞いてくれ。俺の担当に相葉夕美ってアイドルが――』

髭面『そっちも知っておるわ』ビキビキ

P『そうだったか! そうだったか!! くうぅ、プロデュースやっててよかっ――』

髭面『いや、お前がこっち来る度に口うるさく言っとるからだぞ?』

P『……』

髭面『……』ビキビキ

P『(・ω<)』

<いいからはよ下界に戻れ!
<アッーーーーーーーー!

――下界――

P「はっ!」

夕美「あ、おかえりPさん! 大丈夫かなっ!? びっくりしたよ、泰葉ちゃんのDVDを見てたら真っ白になってるもん!」

P「お、恐ろしい幻を見た……。髭面の親父がこんくらいの図太い棒を持っていてそれを俺のケツに、ケツに! ずぶって! ああ、今思い出しても尻が痛ぇ」

<ごちーん!

P「今度は頭が痛ぇ!」

夕美「うん、セクハラ発言するくらいの元気はあるんだね?」

P「マジだし! 冗談じゃねえし!」

――ここまで読んで下さった皆様方にフリトレで[プラネットスター]岡崎泰葉を交換する権利をやろう――

P「ケツは治った」

夕美「…………」ジトー

P「やめて! 頭はまだ痛いの!」

夕美「はぁ……。それで、泰葉ちゃんの話だよねっ?」

P「ああ――演技だってことは分かってる。でもあの時、泰葉は確かに言ったんだ」


『私は、もうアンドロイドじゃない……自分から、歌えるから! ふふっ!』
(「LIVEツアーカーニバル in スペースワールド」岡崎泰葉:アースエリアボス)


P「忌まわしい『人形』から解放されたんだ」

夕美「……」

P「もし、そうすることができた理由の1つに俺がいるなら、もう俺はそれだけでいい。俺がちょっとでも泰葉の――プロのアイドル、岡崎泰葉の役に立てたのなら、それ以上、言うことはないんだ……」

夕美「…………でもチョコはせがんだよね?」

P「そうでした!」テヘペロ

夕美「もーっ。Pさんはデリカシーがなさすぎだよっ」

P「んなモン母さんの腹の中に置いてきた」

夕美「それでよくプロデューサーになれたね……」

P「コネだ」

夕美「堂々と言うことかなぁ!?」

P「使える物はなんでも使う主義」

夕美「もうっ……。泰葉ちゃんには、それから連絡したの?」

P「…………………………」

夕美「謝ってもないんだね!? もうっ、駄目だよPさん! 泰葉ちゃんだってきっと今頃は言い過ぎたって反省しているだろうし、Pさんの方から連絡してあげないと!」

P「…………いや、夕美、お前、泰葉だぞ? ちょっと想像してみろ。泰葉だぞ? 目に光がない泰葉だぞ? 無理だって。無理!」

夕美「……うーん。私、泰葉ちゃんが怒ったところってあんまり見たことがないんだ。そんなに恐いのかな……」

P「さっきのDVDが演技じゃなくてダイレクトに来るって考えてみろ」

夕美「……………………」アハ

P「そういうことだ。ガラスハートな俺はもう部屋で夕美相手に酒を呑むしかないのさ……」

夕美「割と最低なことをへーきで言うよねPさんって……。私が振り払って帰っちゃったらどうしようって考えないの?」

P「最悪の結果を考えてばかりじゃ何も行動できない、常に理想を追うべきだ」キリッ

夕美「…………」

P「って高校の時の担任が言ってた」

夕美「受け売りなんだ……」

P「それに、夕美はそんな酷いことをしないって信じてるからな!」

夕美「ふふっ、ありがと♪ ……分かった。Pさんの気持ちもよく分かったよっ。反省はちゃんとしてるんだよね?」

P「はい、すみませんでした、わたしのようなにんげんがぷろでゅーさーでごめんなさい」

夕美「誰もそこまでは言ってないからね!? ああもうめんどくっ……」ブンブン

夕美「えーっと、今日のところは私から泰葉ちゃんに連絡しておくね? Pさんが反省してるってことと、ちょっと怖がってて連絡できないってことも、ちゃんとメールするから♪ もちろんPさんに頼まれたなんて絶対に言わないよっ」

P「ありがとなぁ……夕美ぃ……」

夕美「でも、落ち着いたらちゃんと仲直りしてね? そうしないと泰葉ちゃん、ずっとそのままだよ」

P「分かってる。ギャルゲーだってシリアスシーンがあってこそのハッピーエンドだもんな!」

夕美「……泰葉ちゃんに謝る時はふざけないでね、お願いだから。もうホント」

夕美「さて、っと。私、まだここにいた方がいいかなっ? 何かお話でもしますか?」

P「おう。あと5時間」

夕美「……晩ご飯、おごってね?」

P「俺が男を見せてやろう! あ、ここで言う男を見せるっていうのはただしイケメンに限る的な話であって決して下半身を露出するとかそういう意味では」

<ごちーん!

P「おううううおうう……」

夕美「でっ、できればっ、そういうこと言うのはやめてほしいんだけど!」



ひとまずはここまで。続きを書いて参ります。

書いて参りました。

――同日夕方 女子寮:岡崎泰葉の部屋――

岡崎泰葉「………………」


相葉夕美のメール『Pさんも反省してたみたいだよっ。Pさんのやったことはサイテーだと思うし、すぐに許してほしいって言うつもりはないけど、落ち着いたらちゃんと話してあげてね? じゃあ、また明日っ♪』


泰葉「……」

泰葉(……どんなに怒りが湧いたことでも、数時間も経てば頭が冷える)

泰葉(恨み事が一生続いて、事件にまで発展するということを、よくテレビは報道するけれど、私にはその気持ちが分からない)

泰葉(正しく言うならば、私の頭は「そう感じない」ように、とっくの昔に作り替えられている)

泰葉(怒り、憎しみ。1つ1つのことにいちいち反応していたら、芸能界で生き延びるなんて到底ムリだから)

泰葉「……夕美さん……」

泰葉(けれど今回のことは……ああ、今になって思い出しても、お腹のここのところが熱くなってしまう)

泰葉(身体を突き破って刃物が出てきそうなくらいに、胸が痛い)

泰葉(Pさんのこと、信じていたのに)

泰葉(テンションが高くて、たまに女性が相手とも思わないことを平気で言うけれど、プロデュースに向ける情熱は、誰が見ても本物だから)

泰葉(この世界が華やかなだけじゃないってことを知っている私でも、ああ、この人は大丈夫だ、って思う人だったから)

泰葉「……」

『私も言い過ぎました。Pさんのこと、今日はよろしくお願いします――』

泰葉(……ちがうな……)

泰葉(今の私は、何が言いたいんだろ)

泰葉「ううん……」

『Pさんには正座でもさせておいてください』

泰葉(……演技でも言えることじゃない)

『大丈夫です。今日中に私がPさんと話します。今どこに――』

泰葉(今、あの人の前に顔を見せて、冷静に話ができるとは思えない……)

泰葉(……)

泰葉(業務連絡のメールでも、たまに通う学校での級友へのメールでも、こんなに書き換えたことはなかった)

泰葉(本当は分かっている。私もPさんも悪くて、2人で頭を下げるべきなんだって)

泰葉(分かっているなら、そうすればいい)

泰葉(そうするべきだ)

泰葉(そうやって生きてきた)

泰葉(私は私に指示を出して生きてきた)

泰葉(……私が、私の指示に、嫌だ、と言ったことなんて)

泰葉(今まで、あったかな?)


泰葉――すまんっ! その、ずっと俺の都合で仕事させちまって……人形みたいになってしまってて!
なあ、俺、どうしたらいい! どうしたら泰葉は人間になれるんだっ!
……そ、そうだ。ちょっと芸能界から離れてみないか? ほら、普通の女の子って感じで高校に通うとか――


泰葉(胸が、いたい)

泰葉(……何よりタチが悪いのは、それでも私はPさんの行動に失望してしまっているのだ)

泰葉(Pさんに返した言葉)

泰葉(私なんてその程度の存在だったんですか……って言葉は、嘘じゃない)

泰葉(今も、心の中に、黒色の絵の具みたいに残っている)

泰葉(……)


泰葉! 泰葉あああああああああああああ!
お前、お前、すごい舞台だったぞ……! すげえ、ああ、すげえよ!
……ははっ……あのさ、俺、泰葉の役に立ててるか? 泰葉に、ちょっとでも前向きになれるプロデューサーになれてるか?


泰葉(Pさんは、これまで出会った大人の誰よりも、必死で、直情で、熱情だった)

泰葉(私の肩を掴んで、ぶんぶん振り回して)

泰葉(スタドリの瓶を机にいっぱい並べてでも、私の仕事を選んでくれて)

泰葉(――きっと、たいせつにされている)

泰葉(そう思ったのにな……)

泰葉(……)

泰葉(…………)

泰葉(思い上がり)

泰葉(自意識過剰)

泰葉(私の中の私が、そう嘯く)

泰葉(首を振っても、首を振っても、声は無くならない)

泰葉(……ふと、気付いた)

泰葉「あれ? ……このメール、続きがある……?」


夕美のメール『

PS
Pさんに◯◯ホテルのディナーをおごってもらっちゃった♪』

泰葉(スマホの画面に、私の引き攣り顔が映った)

泰葉(いつかドラマで見た、プライドの高い男性が浮かべていたような顔だった)

泰葉(天真爛漫なヒロインに振り回され、悔しそうな、信じられないような引き攣り顔を浮かべる主人公)

泰葉(そんな顔をしていた)

泰葉(…………)


『明日、Pさんと話します。9時に事務所で待っててください、と伝えてください』

泰葉(今度は、1文字も消去することなく、メールを送ることができた)

泰葉(5分も待たなかった)ピロピロリン♪


夕美のメール『伝えておいたよっ。あの、私もいていいかな! 邪魔はしないから!(お願いの絵文字)』


泰葉(……)


『嫌です。2人で話をさせてください』


泰葉(…………)


夕美のメール『えーっ!!
私もPさんが心配なんだけど!』


泰葉(……………………)

『私の問題です。私がPさんと2人で話をしますので、夕美さんは退席をしていてください』

『泰葉ちゃんに任せると、また酷いことを言ったりしない?』

『大丈夫です。私はプロですから』

『私だってプロのアイドルだよ!』

『プロのアイドルとして、面倒を見てもらっているプロデューサーさんと、1対1で話をしたいんですが』

『うーん……ごめんっ! Pさん、ホントに気持ち悪いくらい落ち込んでるから、ちょっと任せられない!』

『大丈夫です。気持ち悪いという言い方はやめてくださいね』

『見たら分かるよ! あっ、でも今日は見に来ちゃ駄目だよ!』

『知っています。なぜ、今、わざわざ言うんですか?』

『………………………………ちょっぴり自慢したかったから?』

『夕美さん、4日後にLIVEを控えているそうですね。乱入しますので、よろしくお願いします』

『ごめんなさいっ!』

『それなら、Pさんと1対1で話をさせてください』

『ごめんなさいっ!』

泰葉「…………………………………………」ビキビキ

――事務所――

夕美「…………………………………………」ビキビキ

P「ゆ、夕美!? それ相手って泰葉だよな!? なんでそんな顔してるの? なんでそんな顔してるの!? ねえ!?」

――2015年7月4日――

――事務所――

P「ふーむ、『StudyS』はなかなか好評か……
『長崎親善大使』は、お、「泰葉ちゃんが教えてもらうって役回りが可愛かったです!」へぇ、分かっているヤツもいるもんだな。
「泰葉ちゃんにいろいろ教えてあげたい」それは俺の役割だ譲ってやるもんか。
「長崎の親善大使なのに長崎を知らない奴がいるとか意味が分からん」よしコイツは長崎湾に沈めよう。
あとは、ああ、やっぱ『リトルチェリーブロッサム』に再登場してほしいって声が多いよな。いいよなリトチェリ。お姉さん泰葉。あねやす……ふぅ」

(解説)
『StudyS』……岡崎泰葉、冴島清美のユニット
『長崎親善大使』……木場真奈美、有浦柑奈、岡崎泰葉のユニット
『リトルチェリーブロッサム』……龍崎薫、岡崎泰葉、櫻井桃華のユニット

P「次はどんなユニットがいいかな……子供と組んでもらって優しい目の泰葉を、いやここは向上心ある子と一緒に負けず嫌いな泰葉……いやいや大人とのユニットで子供として愛でられる泰葉……ふぅ……どれもいいな……」

岡崎泰葉「おはようございます……」

P「ああ、おはよう泰葉。今日はレッスンだけだが調子はどうだ?」

泰葉「大丈夫です。いつも通りのレッスンですよね。もちろん、気は抜きません」

P「ははっ、さすが泰葉だな。信頼できる」

泰葉「ふふっ」



泰葉(一応、これでもプロの端くれだ。私情があっても仕事には影響させるつもりはない)

泰葉(あの後のことは……解決、と言っていいような、悪いような)

泰葉(どうも有耶無耶になってしまった感じで、思い出さない方がいいと自分の中で決めた)

――回想 2015年2月14日――

泰葉『おはようございま――』

P『すみませんでしたーっ!!』ジュー

相葉夕美『きゃあああああああっ!? 何してるのPさん、何してるのPさん!? その鉄板どこから持ってきたの!? 調理室? だめだよそんなことしたら火傷になっちゃうよ!?』

P『罪の意があるならば、例え焼けた鉄板の上でも土下座できるはず』ジュー

夕美『やっちゃダメええええええ! あっ、泰葉ちゃん! あのねっちょっと待っててねっPさんがそのっ、も、もう! いいから顔を上げて!』

P『岡崎泰葉さん! 泰葉様! すみませんでしたあああああああああ――!!』ジュー

夕美『ぶつよ! 顔を上げないとぶつよ!?』

P『例え夕美に1000回殴られても、俺は顔を上げない! 泰葉が許してくれるまで!』ジュー

夕美『もおおおおおおお――!!』

泰葉『…………』パチクリ

――回想終了――

泰葉(……あれで怒りを抱き続けろっていう方が無理だよね?)

P「……? どうした泰葉。も、もしかして米粒とかついてるかな!? うわっ俺カッコ悪いなぁ!? ち、違うんだ、今朝は急いでて、決して仕事を馬鹿にしてるとかじゃなくて!」

泰葉「大丈夫ですよ、Pさん。少し、ぼうっとしてしまっただけです」

P「そ、そうか」

泰葉(……何かが気に入らないとしたら、なんだかPさんが私のことを怖がっているように見えること)

泰葉「レッスン、行ってきますね」

P「おう――あ、待て泰葉!」

泰葉「……?」

P「大事なことを伝え忘れていた。事務所のシャワールームだが、ちょっと故障してて動かないらしい。ほら、こんな時期だから汗とか気になるだろ? レッスンが終わったら、1度、女子寮に戻ってシャワーを浴びてきていいからな?」

泰葉「分かりました。お言葉に甘えちゃいますね?」

P「まあ俺としては汗で濡れ透けで恥ずかしがってる泰葉――おっと、違う違う」

泰葉「…………」ジトー

P「違うんです!」

泰葉「大丈夫、分かっていますから」

泰葉(……変に遠慮される方が、苛立ちを覚えてしまう)スタスタ


<Pさん、おはようっ♪
<おう、夕美……お? そのノースリーブ、久々に見るなぁ
<お月見の時のを持って来ちゃった♪ どう? 涼しそうに見える?
<うすぎ! わき! むね!
<もっと他に見るところあるよね!? ねえっ!?
<担当アイドルで欲情させることがプロデューサーの仕事だろ!
<(ごちーん!)
<もうそれでいいからせめて隠す努力くらいしてみない!?


泰葉(いや、ああなりたい訳ではないですよ?)

――2015年7月5日――

――収録帰りの車内――

P(運転中)「今日も完璧だったぞ泰葉! 見ていたか、あの監督のポカーンとした顔! いやぁ俺も担当として嬉しいよ!」

泰葉「ふふっ、ありがとうございます」

P「泰葉の演技力ってホントにヤバイよな~。警察より先に犯人を見つけてしまった時のシーンとか俺もう漏れそうだったもんよ。あの時さ、一瞬だけ目が合ったじゃん。思わず、殺される! ってビクってなって、隣のスタッフさんに笑われたんだぞ?」

泰葉「大げさですよ……。私がPさんを、その、殺してしまう訳がないじゃないですか」

P「はは。ん~~、ちょっと高速道路が混んでるな……。泰葉、疲れたりしてないか? サービスエリアに止まろうか」

泰葉「私は大丈夫です。いつもの収録でしたから……一仕事だけでへとへとになっていたら、プロ失格だって笑われちゃいます」

P「そうかなぁ。ああ、じゃあほら、俺が腹が減ったから寄っていい?」

泰葉「……もうっ。気を遣わなくてもいいのに……」

P「俺が腹減ったの! 何食うかなぁ、あんこもちとかどうだ、あんこもち。疲れてるから甘い物食べたいだろ」

泰葉「……Pさんの本音は?」

P「あーんしたい。つい指まではむはむして恥ずかしそうな泰h……ハッ!」

泰葉「ふふっ……。分かりました。Pさん、私、ちょっと疲れてるみたいなので、実は手を動かすのも面倒なんです」

P「泰葉……!」ウズウズ

泰葉「Pさん、運転中ですよ?」

P「おっといけねえ」

――サービスエリア――

P「……」(あんこもちを買って来ました)

泰葉「……?」

P「…………」

泰葉「…………」

P「…………ほ、ほら、あんこもち。食べたら出るぞ?」

泰葉「……」

泰葉(目が、泳いでいる)

泰葉(その奥に、私もよく見た気持ちがある)

泰葉("分からない")

泰葉(どうしたらいいのか分からない、って顔)

泰葉(どうして分かるのかって? 鏡の向こうで見慣れているから)


泰葉「……いただきますね?」

P「おお、おう。……ブツブツ……ブツブツ……」

泰葉「……」ハムッ

泰葉「……」アマイ

泰葉「……」ングヌグ

泰葉「……」ノドカワイタ

泰葉「Pさん。私、飲み物を――」

P「――決めた」

泰葉「え?」

P「今から俺は黒歴史の発表をする!」

泰葉「???」ハイ?

P「いいか泰葉。スマホデジカメレコーダーその他諸々の録音ができる機器をすべて出せ! 全部だ、いいな! もし録音されるようなことがあったら俺は長崎の湾岸にセメントまみれになって沈むからな!」

泰葉「はあ……録音できるのは、スマホくらいですけど」ハイ

P「隠してないだろうな?」ウケトリ

泰葉「隠してないですよ……」

P「本当か? 本当だろうな!」

泰葉「本当です!」

P「いいか泰葉。スマホデジカメレコーダーその他諸々の録音ができる機器をすべて出せ! 全部だ、いいな! もし録音されるようなことがあったら俺は長崎の湾岸にセメントまみれになって沈むからな!」

泰葉「はあ……録音できるのは、スマホくらいですけど」ハイ

P「隠してないだろうな?」ウケトリ

泰葉「隠してないですよ……」

P「本当か? 本当だろうな!」

泰葉「本当です!」

P「いーや。泰葉。脱g」メルメルメル

P「ん? メール?」


相葉夕美『今日はセクハラ発言禁止だよっ!』


P「カメラだ! カメラを探せぇーっ!」

泰葉「!?」ビクッ

重複失礼……。




P「いや盗聴器かもしれん! 泰葉ァ! 盗聴器チェッカーを出してくれ!」

泰葉「持っていませんよ?」

P「ぐぬぬ、録音されていると考えるとおちおち話も……ん? 追記があるな」


夕美『PS
盗聴器とかじゃなくて、今思い出したからメールしただけだよ?』


P「泰葉。夕美がこわい。夕美がこわい」

泰葉「そうですか?」

P「夕美がこわいよぅ、夕美がこわいよぅ……」

P「……」

P「…………」スッスッ

泰葉「……」ハァ

泰葉「Pさん。あからさまに気を遣われると、逆に傷つくんですよ?」

P「あー……」ボリボリ

泰葉「まあ……言いたいことは、分かりますけど……」

P「……」ボリボリ

泰葉「……」メソラシ

P「……」

泰葉「……」

P「中学の時だ」

泰葉「?」

P「俺はある女子に一目惚れをしたんだ。俺、今でこそこんなんだけど、当時はもうビビリもビビリでさ。告白しようと思ったけど、顔を見て好きですなんて言える訳もなかった。どうしたと思う?」

泰葉「……ラブレターとかですか?」

P「暗号文だ」

泰葉「暗号?」

P「解いたら『あなたのことが好きです』って出てくる暗号。そいつを一目惚れした女子に渡してな。数日後、クラス全体に行き渡って俺は笑いものにされた」

泰葉「……」

P「さらに滑稽なのは、笑いものにされたって気付いたのはかなり後になってからだ。暗号は解いてくれたかな、好きだって伝わったかな、って毎日ワクワクしてた。馬鹿だろ?」

泰葉「……もしかしたら、Pさんらしいかもしれない、って思います」

P「つまり今の俺も馬鹿だと言いてえの? その通りだけどな。まあその他諸々、色々とやってて、俺はずっと陰で笑われてたんだ。気付いたのは中3の時。一気に人間不信になった。俺はギャルゲーに没頭した。あ、そうだ泰葉。没収したギャルゲー返してくれね?」

泰葉「…………」ウーン

泰葉「夕美さんと話し合って考えますね」ニコッ

P「死刑宣告にしか聞こえねえよ!?」

泰葉「ぎゃるげー……っていうものが、どういうものかぜんぜん分かりませんけど、そんなにお好きなんですか?」

P「ギャルゲーはいいぞ。夢が詰まってる。人間不信ルート一直線の俺には癒やしだった。天国だった。現実の女なんてクソだってずっと思ってたからな。ヒロインが主人公にデレるってだけで小躍りして喜んだよ」

泰葉「…………」ムスー

P「……今は違うよ? ちゃんと、ほら、俺、泰葉のことも信じてる」

泰葉「最近のPさん……前みたいに、接してくれなくなりましたよね」

P「……ぁー」

泰葉「バレンタインの時、私があんなことを言ってしまったからですか……?」

P「……」

泰葉「……」

P「……ぶっちゃけた話」

泰葉「!」ビクッ

P「エラソーだけど、超エラソーだけど……泰葉もたぶん、後悔したんじゃないかって思う。……え、だよね? ちょっとくらい、あの、3割、いや、1割くらい後悔してたりするよね? まだ俺のこと絶対許さないとかじゃないよね!? 違うよね!?」

泰葉「……やっぱりまだ、許せないって気持ちはありますけど……次の日のあれを見たら、思い出さない方がいいのかなって」

P「ああ、うん、夕美にぶっ叩かれまくったぞあの後。えーとだな、つまり、その、泰葉も……言いにくいこと、しっかり言ってくれてありがとな、って……」

泰葉「……」

P「いやほら、陰口を叩かれるくらいならビシッと言ってくれた方が……ビシッと、言ってくれた方が……」ハイライトオフ

泰葉「はぁ……。Pさん」

P「はいっ!」

泰葉「すみませんでした」

P「……えっ……いや、いやいや、泰葉が謝ることなんて何もないんだよ!? お前あの後どんだけデリカシーないって怒られたと思う!? いや俺だって怒ったし! 自分のこと、ねえわって思うくらいで、」

泰葉「いえ。私、Pさんに変な信頼を持っていたんだと思います。……信頼じゃなくて、思い込み。自分に都合の良い思い込みです」

P「思い込み……?」

泰葉「この人は他の人と違う、自分の思い通りに動いてくれる。私が何も言わなくても、きっと分かってくれる……なんて。声を出さない都合の良い存在なんて、人形と変わりませんよね。変なの……私、自分が人形でありたくないのに、Pさんのことを自分の人形みたいに見てた」

P「泰葉……」

泰葉「……」

P「……泰葉の操り人形なら本望です。――ハッ!

泰葉「……えっ」

P「ああもう俺のバカ! 俺のバカ! ちょっとは加減しろよ俺のバカ!」

泰葉「……くすっ」

泰葉「あははっ」

P「……泰葉?」

泰葉「いえ。Pさんと話していたら、悩みこんでしまう自分がおかしくなっちゃった。でもはっきりさせるところははっきりさせましょう。
Pさんは――あの時のPさんは、私にどうしてほしかったんですか?」

P「……なあ、俺の黒歴史発表コーナーってもう終わったんじゃないのか?」

泰葉「終わってません」フフッ

P「逃して! 俺をこの車の外に逃して! あっ泰葉そこは触っちゃダメ! そこはダメ!」

泰葉「くすくす……」

P「ああっやめろ! 身体が、身体が勝手に」メルメルメル

P「は、離せ泰葉。な? メール来たからな? 仕事のかもしれないからな?」

泰葉「はい」

P「よ、よし」


夕美『繰り返すけど今日は変態発言NGだからね!』


P「あいつ絶対なんか監視してるだろ俺たちのこと!」

泰葉「夕美さんですか?」

P「ああ! くそっ、あいつ、どこかでキュートグループのヤンデレ娘と共演したっけか……してねえよな……? 誰だアイツにいらんこと教えたの! 夏の時の和久井さんか! 桜の時のキツネか! 泰葉! お前、夕美にいらんこと教えてないだろうな!?」

泰葉「夕美さんとは……よく、夕美さんの他愛のないお話を聞くことが多いですから」

P「くそぅ……こえぇよ、こえぇよフラワーガール……!」

泰葉「それで、Pさん。バレンタインの時、私にどうして欲しかったんですか?」

P「…………………………」

泰葉「Pさん?」

P「…………泰葉から特別なチョコが欲しかったです、感謝じゃなくて特別なチョコが」

泰葉「そうですか……」

P「うあああもおおおなんであの時の俺はあんなこと思ったんだよ馬鹿じゃねえの馬鹿じゃねえの……!」

泰葉「……。Pさん。お仕事帰りに、ちょっと寄り道をしてもらってもいいですか?」

P「うあああ……ん? 寄り道?」

泰葉「はい。どこでもいいので、ちょっとお話ができる場所で」

P「そうだなー。あ、それなら確か、このサービスエリアに広めの広場がある筈だから、そこでいいか?」

泰葉「そうですね。それで大丈夫です」



――広めの広場 ベンチ――

泰葉「……」

P「……」

泰葉「…………」

P「…………泰葉サン?」

泰葉「あ、いえっ。ちょっとぼうっとしてしまっていて……こうしてPさんと、その、で……デートみたいに、ゆっくりする時間は、好きです」

P「お、おう」モジモジ

泰葉「でも、今の私は、きっと……それよりも……アイドルとしていたいのかなって、思って」

P「アイドルとして?」

泰葉「アイドルがプロデューサーと、そういうことをするのは厳禁です。プロのアイドルですからね」

P「だな……」

泰葉「……去年のバレンタインの時は……それでもいいかなって思っていたんです。Pさんとならいいかな、なんて」

P「…………」

泰葉「でも、やっぱり私は、アイドルになりたい。ただのアイドルじゃなくて、プロのアイドルになりたいんです」

P「……せっかくずっと芸能界にいて、アイドルへの転身もしたもんな」

泰葉「はい。縛られている……って考えたらそうなのかもしれません。けれど、これは私の意志です。私はもう、」


――人形では、ありませんから


P「泰葉……」

泰葉「Pさんとの距離感がちょっと分からないんです。どこに立てばいいのか、分からなくて……」

泰葉「バレンタインの時も。それもいいのかな、って思いました。でも、それよりも強く――」

泰葉「私は、Pさんの特別になりたいんじゃなくて、Pさんに感謝を贈るアイドルになりたいと。そう思うと、ついあんなことを……」

P「……さすがにあの目はご褒美ですって言えなかったなぁ」

泰葉「Pさん」

泰葉「ごめんなさい」

泰葉「私は、あなたの好きな……ぎゃるげー? の、ヒロイン? には、なれません」

泰葉「主人公の都合の良い存在にも、特別な存在にもなれません」

泰葉「私は」


あなたの、アイドルでいたいんです。


P「……」

P「…………」

P「………………」

P「……………………おし」

P「分かった」

P「泰葉がそう言うなら、俺もそうしよう」

P「俺も、プロデューサーでい続けよう」

泰葉「……今、すっごく悩んでいませんでしたか?」

P「いや、その、ほら……ね?」

泰葉「はぁ……。分かりましたよ、もう。あと何年、何十年か経って、それでも想いが変わらないならまた、」

P「おっしゃー! 泰葉の婚約宣言いただきましたーっ!」

泰葉「こんやく……っ!? ちょっと待ってくださいPさん違いますっ! そうじゃなくて、だって私、これからもずっとアイドルを続けて……いつかまた転身することになっても、芸能界にい続けると思いますよ?」

P「その時は俺もついてく」

泰葉「もうっ、また真顔でそんなことを……!」

P「女優になったら結婚しても許されるよね」

泰葉「私はアイドルですっ……!」

P「あ、そうだ。いいこと思いついた」

P「泰葉」キリッ

泰葉「は、はい」

P「泰葉がどう思おうと……残念なことに、世の中には泰葉の意に沿わないアイドルがいっぱいいる。裏で隠れて男と付き合っているような奴もいる。それは分かるな?」

泰葉「はあ……そうですね」

P「けれどそういう奴でも、ランクの高いところにいたりするんだ。つまり――」

泰葉「つまり?」

P「真に完璧なアイドルは、ちゃんと表裏の顔を使い分けてるってことだ!」

泰葉「…………」ポカーン

P「ってことで、さあ!」バッ

泰葉「私はそういうアイドルにはなりたくありません!」

――車内 帰り道――

泰葉「そういえばPさん。その……過去に女性関係で酷い目にあったのに、どうして今は……ええと……その……そ、そういうテンションの方になったんですか?」

P「軽薄って言ってくれていいよ? これはなー……社長命令なんだ」

泰葉「は?」

P「高校を出て、なお人間不信が加速し引きこもりギャルゲーばっかやってた俺は、ある時、社長に拾われたんだ」

P「なんか遠い親戚だって。親が見咎めて紹介したんだろうなぁ。で、話をして」

P「ギャルゲーいっぱいやってますって言ったら、じゃあアイドルのプロデュースをやってみないかって言われたんだ」

泰葉「……それはまた、唐突ですね」

P「ギャルゲーをやり尽くしているなら、どういう"偶像"が理想の女の子なのか分かっている筈だから、ってさ」

泰葉「ああ……場慣れしている人が、どういう風に振る舞えばカメラに良く写れるか、みたいな話ですね」

P「そこまで立派じゃねえよ? 当然、俺は無理だって言ったんだがな。社長が言ったんだ。ギャルゲーの主人公みたいに振る舞えって」

泰葉「それで」

P「参考にしたギャルゲーの主人公がこんな奴だった」

泰葉「…………」

P「いやもう逆にさ。吹っ切れた方が楽だった。ほら、夕美とか、ばしばしぶっ叩いてくれるからもう楽で楽でしょうがないんだよ」

P「つってもそれは夕美が陰口を叩くような子じゃない、偶像も実像もまさしく理想的な子だからなんだろうけれど」

泰葉「…………」ムスー

P「あ、でも夕美も泰葉も大好きだよ? それは主人公ごっこじゃなくてマジの――――」

P「や、泰葉サン? あの、どうしてそんなにほっぺたぷくーってしてるのでしょうか? 可愛いからいいけど」

泰葉「……別にいいですよ?」

P「なにが」

泰葉「夕美さんと話す時みたいに、私にやってくれても」

P「夕美と話す時みたい…………あ、うん、ごめん、それはさすがに俺の経験値が足りないわ」

泰葉「なんでですかっ!」

P「泰葉、ちょっと鏡見てみ? 無理だから。俺、泰葉に対して夕美みたいに接しろとか無理だから。絶対無理」

泰葉「…………たまにそれっぽいこと言ってるのに」

P「あれはまあ、俺だし」

泰葉「それと、夕美さんから聞いています。夕美さんと話している時は、その……わ、私の言葉をぜんぶ覚えてるとか、結婚したいとか…………」

泰葉「わ……私の収録を見て、その、あの……って言ってるって。聞いていますから!」

P「夕美イイイイイイイ! アイツ俺に何の恨みが!? あっ、恨まれる覚えなら腐るほどあるわ」

泰葉「やっぱり、変に遠慮される方が嫌です」

P「えー……んー……そうだなー……」

P「よし泰葉。今日の俺の話は他の人に聞かれたら社会的かつ精神的に死ぬ。死ねる」

P「よって本当に録音していなかったを確かめる権利が俺にはある! スマホは借りたが……あ、これ返しとく」

P「スマホは借りたが泰葉が服のポケットとかに隠している可能性もあるからな! だから泰葉、脱、脱…………」

泰葉「……」ジー

P「やっぱ無理イイイイイイイ!」グアー!

泰葉「……」ハァ

泰葉「…………」

ぺちっ

P「え?」

泰葉「そ……そういうセクハラ発言ばっかりしてたら、だめ、ですよ……?」

P「泰葉……」

泰葉「……」アウゥ

P「……」ハハッ

P「おっしゃー! これからはもっと泰葉にもセクハラするぞーっ!」

泰葉「なんてことを宣言しているんですか!? い、いえっ、それでいいんですけれど……いいんです…………やっぱりよくないです!」

P「ハッハッハッハ! 無理! 担当アイドルに欲望も向けられないで何がプロデューサーかー!」

泰葉「Pさんはもっとプロのプロデューサーっぽくなるべきです! ……だって、」


(だって……プロのアイドルの、プロデューサーなんですから)


ブオオオオ....

――2015年7月7日――

泰葉「大きな笹の葉ですね」

夕美「これ、Pさんが持ってきたのかなっ?」

P「ホムセンでなー。持って帰ってくるのすげえ苦労したわ。褒めてくれていいよ? ちらちら」

夕美「短冊まで買ってある。泰葉ちゃん、願い事を書いちゃおうっ」

泰葉「そうですね。たまには、こういうのも……」

P「……あー、うん、知ってた」

夕美「よしっ! 書いたっ! じゃあ私、レッスン行ってきまーす♪」ガチャ

泰葉「行ってらっしゃい」フリフリ

泰葉「……」


泰葉(七夕)

泰葉(子供の頃は……どれだけ記憶を辿っても、キャンペーンに子役として仕事したことしか思い出せない)


泰葉(短冊に何かを書いたことはあるけれど、そんなのはぜんぶ、外向きの嘘)

泰葉(少なくとも、普通の女の子みたいに、織姫に心からのお祈りなんてしていない)

泰葉(もし子供っぽく短冊を書くなら……)チラッ

泰葉(ううん、やっぱり、私は)


泰葉「私はこれで……。Pさん? いつまでメソメソしているんですか?」

P「構われないのって意外にキツイんだよ? ほら泰葉だって、いちばん辛いのって仕事が来ないことだって思わね?」

泰葉「そうですね……。必要とされるのは、嬉しいです」

P「だろ? だろ!?」

泰葉「ハァ。もう。私も夕美さんも、ちゃんと、Pさんを必要としていますよ」

P「うぅぅ……泰葉ぁ……」グスグス

泰葉「よしよし」

泰葉(……飛びついてきたりは、しないんですね)

泰葉(……)

泰葉(…………)

泰葉(…………なんだか夕美さんに負けているみたいで、悔しい)グヌヌ

泰葉(ううん、違う、違う)ブンブン

泰葉(今は、まだ――)

泰葉(――――)

泰葉(――短冊に、書くことは)


泰葉「私は……これで、いいです」

P「書き終わったか? おー…………泰葉」

泰葉「何ですか?」

P「…………俺への最速?」

泰葉「ふふっ、そうかもしれませんね」ニコッ

P「俺、仕事するぅ! すっげえ仕事するぅ! 私めは岡崎泰葉様の操り人形ですぅぅぅぅぅ!」

泰葉「いや、あの、人形はやめて欲しいな……?」

P「ってことで、ほい、もう1枚」

泰葉「え?」

P「これは泰葉だけじゃないんだけどな。アイドルとしてのお願いごとと、女の子としてのお願いごと。2つ書いてもらってるみたいなんだ」

泰葉「そうなんですか……あれ、でも、夕美さんは」

P「……知ってるか泰葉。夕美ってパッショングループなんだぜ?」

泰葉「知っていますよ」

P「アイツは帰ってきたら書かせるってことで……よし! 泰葉ちゃんの女の子、見てみたいなー!」

泰葉「……」カキカキ

泰葉「はい」

P「いやっほおおお……ぅぅぅ!? 違う! 同じ物を2つ書けってボケじゃない!」

泰葉「やはり天丼は基本ですよね」

P「バラエティ慣れしたなぁ泰葉! 残念だが今は撮影中じゃないんだ!」

泰葉「私はやっぱり、どこまで行ってもアイドルなんです。……Pさんに、偉そうなことを言ってしまいましたからね」

P「偉そうな泰葉、ご褒美です」

泰葉「どういう意味ですか……。短冊は、これでよしっ。Pさん。コーヒーでも淹れましょうか」

P「泰葉のコーヒー!」

泰葉「……もうなんでもいいんじゃないですか」ハァ

P「書き換えるならいつでも歓迎だぞ?」

泰葉「簡単に前言撤回するプロなんて、笑われてしまいますよ……」アハハ




『ファンのみなさんと、交流できるお仕事をしていきたいです 岡崎泰葉』
(2015年七夕キャンペーン:岡崎泰葉)

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http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira082133.jpg
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira082134.jpg

――2015年7月16日――

<(ごちーん!)
<だからどうして女の子にそういう話を振るのかなぁっ!?
<何を言うか夕美! 好きな女の子のニオイを嗅ぎたいと思うのは全世界の野郎どもの共通願望
<もういいから話題変えてよ! そろそろセクハラで訴えるよ!?

泰葉「おはようございます……」

夕美「あっ、おはよう泰葉ちゃん!」

P「泰葉! 聞いてくれよ、夕美が酷いんだよ。思いっきり頭のここんところを、こう、ぶっ叩いて」

夕美「酷いのはPさんの方だよね!?」

P「えー。俺はプロデューサーとしてあくまで一般的な男性の理想像を」

夕美「さっきPさんの趣味嗜好を聞かされた気がするんだけど!?」

P「なあ、泰葉もそう思うよな!? 男の性癖ってもんはアイドルを売り出す上で考慮すべき――」

夕美「もおおおおおお――っ!!」

P「泰葉! 聞いてくれよ、夕美が酷いんだよ。思いっきり頭のここんところを、こう、ぶっ叩いて」

夕美「酷いのはPさんの方だよね!?」

P「えー。俺はプロデューサーとしてあくまで一般的な男性の理想像を」

夕美「さっきPさんの趣味嗜好を聞かされた気がするんだけど!?」

P「なあ、泰葉もそう思うよな!? 男の性癖ってもんはアイドルを売り出す上で考慮すべき――」

夕美「もおおおおおお――っ!!」

泰葉「……」アハハ

泰葉「ええと……そういうことは、思っても口にしちゃ、ダメですよ」ペチッ

P「泰葉……」

P「……ご褒美です!」

<ごちーん!


泰葉(敷居が高いという言葉を間違った意味で使う場合、私には悪い意味でイメージさせてしまうって、Pさんに言われたことがあります)

泰葉(今の私は、どうなのかな……)

泰葉(少しは、やりやすくなっていればいいんですが)


P「ぐおおお……夕美、お前、打撃力が上がってきてないか……?」

夕美「Pさんをぶってたらこうなったんだよ!」

P「ってか最近のお前、俺をぶん殴るの毎日の楽しみにしてねえか!? なんかすっげー楽しそうなんだけど」

夕美「……」

夕美「どうせやるなら、楽しくやろうっ♪」

P「ヒイイイィィィィ――! ……あ、でもSの夕美もちょっと見てみたいかも」

<ごちーん!


泰葉(うん、これでいいや)

泰葉(ああなりたい訳ではないので)

泰葉(本当に)


P「ぬおおおおお……ああそうだ。泰葉!」

泰葉「あ、はい。何ですか?」

P「泰葉、今日は誕生日だろ。ささやかだがプレゼントを作ってきたぞ!」

泰葉「………………」エヘヘ

泰葉「…………」エヘ

泰葉「……ああ、そういえば、誕生日でしたね」

夕美「毎日カレンダーを見てそわそわしてたことは、私もPさんも知っているんだよっ?」

泰葉「!?」

P「たぶん隠してるつもりなんだろうなーって思ったから、ニヤニヤを抑えるのが大変だったぜ」

夕美「……うん、Pさんがニヤニヤしてたのも私知ってるけど」

P「えっ。なにこのフラワーガール、こわい」

泰葉「えっ、えっ……そう、ですか……ふふっ、バレてるなら、もういいですよね」

泰葉「Pさん、夕美さん」

泰葉「ええと……浮ついてしまってはいけないって、分かってますけど」

泰葉「……分かってますけど……え、えへへ」

泰葉「今日が、すごく待ち遠しかったです。だから……ありがとうございます!」

P「おっしゃあ!」

夕美「ふふっ♪ おめでとうっ、泰葉ちゃん!」

P「さあ! さあ!」カモンカモン!

泰葉「えいっ」ヒシッ

夕美「わあっ♪ そんなに嬉しかったんだねっ、私も嬉しくなっちゃうよ!」

P「…………別にいーし」

夕美「はいっ、これ誕生日プレゼント! 去年はフラワーアレジメントだったから、今年はアメ細工を用意してみたんだ♪」

泰葉「これって……マーガレットの花、でしたっけ?」

夕美「うんっ。花言葉は「誠実」なんだ♪」

泰葉「綺麗……あ、ありがとうございます、夕美さん!」

夕美「喜んでもらえてよかったよ♪」

夕美「それで、Pさんは何を作ってきたの?」

P「ふふん……見ろ! 泰葉の衣装アイディア100選だ!」

夕美「……えー」

P「これは泰葉らしい清涼感をイメージした物で、こっちは敢えて素朴にした感じで親近感を湧かせる物、こっちはスペースワールドの時を意識した物だな」

P「知的っぽいのにロリっぽいの、大人びたドレス、幼なじみシチュができそうな部屋着」

P「あとは月をイメージしたのと、夏らしくちょっとパッションが入ったヤツと」

P「新しいアニマルシリーズ、浴衣、ゴスロリ、もちろん水着もあるぞ!」

夕美「誕生日の時までアイドルの話だなんて……って、わっ、ホントにたくさんある、すg」

泰葉「凄いです! Pさん、これ……ありがとうございます! 嬉しいっ……!」

夕美「あ、こういうのがいいんだね」

P「これからもいっぱい衣装を着て、いっぱいアイドルやろうな! 泰葉!」

泰葉「はいっ!」

P「そしてあわよくばこの辺の露出高めなのとかパジャマパーティーとかを着て俺を満足させてく」

<ごちーん!

夕美「なんで最後にそういうこと言うかな!? 台無しだよ!?」

P「おっ、俺は泰葉の担当なんだぞ!?」

夕美「ならなおさらじゃないのかな!? 百歩……千歩……一万歩くらい譲っても、せめて口に出さないとかさぁっ!」

P「言わずに終わるなんて虚しいだけだろ!」

夕美「Pさんはちょっと我慢することを覚えようよ!」

泰葉「……」ポカーン

泰葉「……」チラッ パラッ

泰葉「……」フフッ

泰葉「……」チラッ

泰葉「……」ジー

泰葉「……」スゴイ

泰葉「ありがとうございます、Pさん、夕美さん♪」

おしまい。岡崎泰葉、お誕生日おめでとう!

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