女の子に触れると電撃が走る体質の男の物語 (51)

初めまして。大昔にSSを作ったネタなんですが
リメイクを載せていきたいと思います。地の文なので苦手な方はすみません。
あと誤字脱字祭りなのでお願いします。
昔の酉を忘れたので、新しく作りました。よろしくお願いします

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1436623682

俺は女の子に触れると電撃が走る体質だ。
シンプルな設定だが、シンプル故に辛い設定だ。

産まれた記憶は無いが、常に女性関係に悩まされていた記憶がある。
俺は母親はいない。というのも、母親とは死別しているからだ。交通事故ということは知っている。
俺の記憶の中には母親は存在しない。ずっと父親と過ごしてきた。

最初から母親のいない悲しみだとか、そういうことよりも
何よりも辛いのは、女性に触れると電撃が走る体質。これは体質なのか呪いなのかはよくわからない。
ためしに、テスターを取り付けた状態で検証しても、うんともすんとも言わない。
電化製品が不具合を起こすこともない。肉眼から見ても超現象が起きる様子も見れない。
触った側には何の反応もない。もちろん医者や、オカルト研究家にも相談したが、それといった回答は無い。
つまるところは、俺しかわからないのである。この苦しみ。
この苦しみを文章に表すには辛いものがある。だって、オノマトペで表現しても「ビリビリ」なのである。
現象の大小はあるが、その場合の変化は「ビリビリ」と「ビリビリ!!」の違いぐらいである。
この感嘆符の数で事の深刻さは大きく変わるのだが、結局のところ震度の違いと比べれば全然わかってもらえない。
おそらく、この現象に対する指標に大きく理解してくれる人物は諸星あたるぐらいではないだろうか?

そんな俺はずっと女性を避けて生きてきた。小学校の時は男女混合の体育は率先して避けていた。
プールは常に電気風呂状態だった。小学校の時の手をつないで遠足とかあったじゃないか?
あれは常に俺は号泣していたらしい。当時の担任は今でも覚えているらしい。
「手を繋ぎたくない!」と叫びまくる俺に、そのことを言われた女子もショックで二人泣き叫んでいた。
彼女には本当に悪いことをしたと思う。名前は思い出せない。中学の時点で学校も違ってしまったから。

中学は思春期全盛ということもあり、男女の交流というのが大きく減る時期だ。
体育の時間は別競技で関わることもないし、何かと行事も男女別で関わることも少ない。
性の知識が深まるため、女子を神格化してしまい、全く触れることのできない草食男子ばかりで
ほんの一握り、女子に積極的にアプローチできる反逆者との大きく差が出来る時期でもある。
俺は草食男子という言葉に甘んじ、女子を触れることをほとんど行わず、無事に中学を卒業した。

そして高校。俺は東江矢川学園に入学した。ここは男子校だ。
見渡す限り、男、男、男。女は学園職員のおばちゃんしかいない天国。
中学時代の、突如女子にぶつかるという危険性が皆無なのだ。大成功と思った。
これで高校生活も平和に過ごし、大学も女子のいない理系に突っ走り、それとなく就職すればいいと思った。
それとなく女っ気の無い職場に就けるためであれば、勉強する覚悟は出来ていた。
一生女の子に触れれない人生でもいいと思った。それぐらい、電撃は辛いのだ。
わかってほしい。だが、誰にも伝わらない。「はいはい」と流されてしまう。

再度言うが、俺のこの設定なかなか辛いものなのである。

#1 学校併合

私立江矢川学園と、私立東江矢川学園が合併するという話が入った。
なんでも、学園法人が少子化と入学人数の少なさ云々かんぬんで急遽統合となり、今後は共学で運営されるということだ。
俺は頭が真っ白になった。入学時点で急な決定となり、超急ピッチに学園拡張が行わられ
絶えず行われる学校説明会を乗り越え、5月には完全に共学となってしまった。

「……」

俺の教室は男女比率が5:5のバランスの良いクラスだ。
元々は女子校校舎ということもあり、部屋の香りはどこか爽やかである。
偏差値は同じぐらいだったため、統合による偏差値の影響は少ないみたいだが
そんなことはどうだっていい。俺の平和な学園生活が大きく崩壊してしまったことを何とかしてほしい。

もちろん学費を払うのは父親だ。その父親の期待を裏切りたくない為
父親には「大丈夫」と伝え、学校生活をきちんと過ごすと言ってしまった。

父親はその発言にかなり不安そうな顔をしていたが
その不安は初日から起きてしまうのだった。



「さて、今からクラス委員を決める。被った所は投票だからな」
担任は希望用紙を先頭の席の生徒に配り、後ろへ回すようにした。
俺の席の前は男子だ。受け取ることに何も問題はない。問題は後ろだ。
まだ顔も姿もきちんと見ていないが、女子ということは偵察済みだ。紙を渡す時は
ワンクッション置いて、手を絶対に触れることなく渡す技術を駆使して渡す。
その練習は中学時代に習得済みだ。

「……」

無言で俺は紙を渡した。目をもちろん合わせない。俺は君にとってモブだ。
間違っても、脇役じゃあない。主役でもない。モブだ。モブだモブだ……。

俺は自己暗示をかけながら渡した。

「ありがとうな」
彼女は笑顔で紙を受け取った。あれ? 俺何も言っていないのに笑顔になっとる。
何この子。愛想良すぎませんか?

と、とりあえず紙を渡したから あとは左右の女子と相談しておくれ。

だが、俺は176日ぶりに電撃を浴びることとなった。

ちょんちょん。

【ビリビリ!!!】

久しぶりの電撃に俺は思いっきり机ごとひっくり返った

「だ、だいじょうぶ?」
指先で人を呼び出す行為は普遍的な行為だが俺にとっては殺人行為にならぶことだ。

「だ、だいじょうぶ…び、びっくりしただけだから」
俺はかなり無理をして大丈夫なふりをしていた。弁慶の泣き所をぶつけても、エリカ様のように「別に」と振る舞う難しさを想像してくれたらいい。

「そ……そうなんや。えとな、高橋くん、何の委員会するんやろうなぁって。」

何故に俺に聞く。横の女子とかに聞けばいいじゃないか。
ただ、無視するのはさすがに酷いから、素っ気なくとも答えることにした。

「図書委員」

「図書委員にするんかぁ~。うちも図書委員にしようかな~」

なぜお前も図書委員にするんだ。やめろ。馴れ馴れしくしないでくれ。

「いや、体育委員をおすすめする」
「いやや、図書委員かっこええやん~なんか賢そうで」

どうやら、彼女は図書委員がいいらしい。俺はあくまでも平和で人とのふれあいが少なそうな委員だから選んだ。
ぶっちゃけ、それ以外なら会計委員だっていいんだ。ただ会計委員は数字のやりとりが多そうだから嫌なんだ。

「じゃあ、図書委員やればいいんじゃないかな。俺は会計委員に変更だ」
「意地悪やなぁ~こうなったら、高橋くんの委員に無理やりねじ込んだる」

「何故に俺に合わせる」
「ええやん。部活やないし。ちょっとしかないことやん」

一理ある。
一ヶ月に1か2ぐらいしか集まりがないことに深く悩むことは無いだろう。
そうであればクラス担当委員なんてなんだっていのである。

「好きにして…」
俺は素っ気なく前を向いたが、即座に振り返り

「あと、俺を呼ぶ時はボールペンノックでお願いします」

「はい? ボールペンノック?」
彼女はキョトンした様子で聞いてきた。

俺は身振り手振りでボールペンノックを説明した。
ようは手でちょんちょんじゃなく、ペンの尻(押すところ)で突いて呼んでほしいということだ。



「なんでなん~?」
「とにかくお願いします」

俺は真面目な顔で語った。そこには冗談は微塵も感じ取れない。

「わ……わかったわ。善処するわ……」

彼女は不気味な様子ではあったが、ボールペンノックを了承してくれた。
不穏な様子ではあったが、これで俺を変人扱いして避けてくれるのであれば大したことではない。

#2

放課後。俺は帰り支度を済ませ、今まさに帰るところであったが
刹那にボールペンノック。彼女の呼び出しだ。

「なんだ?」
「ボールペンノックしたやん。褒めてーな」

「なに?」
「ほめてーな」

「偉いっす。で、なに?」
「一緒にかえろーな」

「……なぜ?」
「あかんの?」

なぜ、出会った瞬間の男に一緒に帰ろうと言えるのか。さては尻軽女か? これは危険だぞ。

「……断ると?」
「泣く!」

なぜ泣かれるのかが分からない。初対面に近いやつにそんなこと言われたら俺が言うのもなんだが引いてしまう?
これ以上話がややこしくなると、教室で目立ってしまうため、仕方なく一緒に帰ることにした。

「よっしゃーかえろー」

一体あんたは俺の何なのさ。
こんなに女性に関わることは初めてだ。間違っても触れてはいけない。そのプレッシャーもあり
距離を置いて歩くことにした。普通の男子なら大喜びのイベントだ。
相手からアプローチが一方的に来るのだから。だが俺にとっては苦痛だ。彼女には悪いがプレッシャーでどうにかなりそうだ。

「♪~ ♪~」

何で彼女はこんなに元気なのだろうか。えっと……名前は、岩田さん。

「岩田さん、どこかでお会いしましたかねぇ……?」
他人行儀バリバリで質問した。

「んふ~覚えてへん? 小学校の時? あのあとすぐウチ引っ越ししてしまったから10年ぶりかな?」

「えっと、すみません教えてください」

「うちと、手つなごうとしたら、大号泣してたやん。おぼえてへん?」

「……あぁ!?」

淀さんは、小学校時代の遠足事件の被害者(加害者)であった。

「びっくりしてんで。ウチの席の前が高橋くんやったこと」

「そ……そうか」

「それでな、聞きたかってん。いろいろ」

俺は相変わらず彼女の接触範囲プラス一歩の距離を置きながら話を聞いていた。

「高橋くん、ウチのコト嫌いやったん?」

「違う。色々諸事情が……うん」

「ほんまに?」

ずいっと、俺の危険範囲に入り込み、すごい近い距離まで顔を近づけてきた。

「本当だ」
俺は目を逸らした。この距離は普通の男子でもヒートアップする距離だ。

「今は?」

「今!?」

話が早過ぎる。数年前にやりとりがあったとはいえ
ほぼ初対面だ。それは岩田さん含めたって同じだ。

「限りなく透明に近いブルー」
「なんやその表現」
「わからない」
「使わせてもらうわ」

俺は残念ながら限りなく透明に近いブルーを読んだことは無い。
だから、この返答は全く意味を持たないことを理解してほしい。

「じゃ、またあしたな~ 教科書忘れなや~」
電車通学の彼女は駅への分岐点で別れて帰って行った。

初日から不安要素しか無い。
今日ですでに1ビリだ。お願いします神様。平和な学園生活を下さい……。

あぁぁぁ……続くかも



#3

「お前は馬鹿じゃないのか?」
というお叱りの言葉を頂いた。

「ですよね」

彼は中学時代からの友人で友人と言う。
「ゆうと」だ。友人と書き「ゆうと」だ。素晴らしい名前だと思う。
彼は俺の良き理解者で、電撃を浴びる体質を良く理解してくれている。

良き相談役とでもあり、常識人といった観点もあり、女性関係の悩みといったものもいつも助言頂いている。

「初日であそこまで女子と喋ってるやつ、学年にお前だけだと思うんだが」

「話したのは俺ではない。岩田からだ」

「岩田さんを呼び捨てで呼んでいる時点でお前はそこらの草食男子から一歩抜きん出ている」

「えーあー……てか笑えないよ。女子と仲良くするとか」

「だがな、女性が興味無いわけじゃあ無いんだろ? 高橋」

「そらそうですが」


「だから、乗り越えていけよ。女子を触れろ、そして退学になれ」

「いや、何一つ解決出来てないし。触って退学になるレベルってそれ犯罪じゃないですか」

相談というよりかは、どちらかと言うと冗談のぶつけ合いみたいなことになっている。

「とりあえず俺は本当にどうすればいいんだろうか……」

「高橋。分かるか? 急がばまわれという言葉を」

「わかるが、この場合関係ない言葉じゃないか?」

「急がばはお前にとって、女性と触れずに済む生活のこと。だが、それでは何も解決しない。女性と接することと触れないことは同意義ではない。しかし、女性を理解者とすることも大事だ」

「つまるところ、仲良くなれと?」

「あぁ。仲良い女性関係をあえて作り、それを壁としてもらうことだ。もちろん肉体的接触を触れ合わない関係だから健全だ」

「無理難題じゃねぇか! というより女性と仲良くなるという技術がわからない」

そもそも、女性とまともに関わったことがない俺にとって、その方法は一番絶望的に近い。
ヤンキーを更生しろと言われ、熱血指導で解決しようとする、数学の先生ぐらい無茶な話だ。
この場合の数学の先生は、学生時代から運動はまるっきしダメで、声も小さい、弱っちい先生の部類だ。
もちろん、喧嘩がクソ強い数学の先生とかそういう部類ではない。ヤンキー先生とかでは無いことは予め言っておこう。

「何の話しているん~?」

教室の片隅の談話に首を突っ込んできた岩田だ。

「くだらない話」

「ウチも無駄な話いれてーな」

クラスの人間関係がちっとも形成されていない状況、教室の人々は過去の友人を基に再構成しようとしている。
要は、保守的なものである。新しい人間関係を描こうとする野心が大いにかけている。
出来ることなら、昔ながらの友人をもとに平和に人間関係を築いていく段階で、岩田は大きく首を突っ込んでいる。
もちろん俺だけに絡んでいるわけではない、他の連中にも分け隔てなく話しかけており、彼女の基礎コミュニティ能力は、大企業が求める営業力にもつながるものを感じれる。
その能力が俺にとって脅威となっている。

「無駄な話をしている暇があれば、本を読めばいい。教養は大事だぞ図書委員」
「あんたも図書委員やがな」バシッ

「いっつ!!!ンギュビィ……!!」【ビリビリ】

彼女にとっては大阪のおばちゃんのツッコミのようなビンタを行っているつもりだが
俺にとっては、プロレスラーのフルスイングビンタよりも酷い痛みを感じる。
思わず悶てしまう。

「なんや、そのリアクション痛かったんか? ごめんな」

「大丈夫だから! うん大丈夫」

俺は、猛スピードで岩田から距離を置く。その避けっぷりに驚く。無理もない
(関西人的には)普通のツッコミをしただけで、急に生まれる見えない壁には困惑は不可避だろう。

やっぱり俺は変人と思われたほうが、話は早いのだ。
友人。悪いが、女子を壁にすることは言語道断だ……。
壁は俺を押し殺すことになるだろう。

#4

さて、その後のリカバリには苦労した。
ちょっと涙目の岩田に「関西的なツッコミを予想してなかっただけだから」と
「いやぁ、嫌ってないから。うん。できれば関東的な冷たいツッコミが理想的だから」とかむちゃくちゃな理論で埋め合わせた。
その後、岩田に一緒に帰ろうと言われたが、今日は提出物があるから、無理だと言い
先に帰らせた。残念ながら本当に提出物があったからだ。奨学金の申請の用紙だ。
世の常の学生どもよ。提出物はしっかりしろ。今後の人生後悔したくなかったらな。
宿題はしらんが、提出物ってのはシャレにならない。これは誰の声かって? そんなことはどうだっていい。

さて、相変わらず俺は廊下の角を気にする。
もし、女の子とぶつかったら、生命の危機だからだ。
そして、転んだ先……それが階段だったとしたら? もちろん俺も危険だし、女の子も危ない。
もちろん俺が苦しむことは自業自得ではあるが、それに人様の迷惑を付け加えるとなるとお天道様に申し訳がつかなくなる。

提出物を渡し、安堵した俺はそっと職員室を出た。俺は気を抜いていた。
ようは、自分の抱いていた不安要素がひとつ抜けると、他の不安要素が見えなくなる。

要は、俺は女の子を触れると電撃が走る体質を忘れていたのだ。

案の定俺は、女の子にぶつかった。しかも階段付近で。
女の子の甘い香りはおそらく新装の制服の香りだろう。俺はおそらく、女性の胸が顔に当たっていたのだろう。
その、ビリビリは感嘆符が4つ以上付くだろう。マチャアキが大声で星4つと叫ぶ土曜の深夜のようなテンション
俺は久しぶりに失神し、階段を転げ落ちた。
女性の胸というのは居心地がいいものだが、俺はそのコンマ数秒後には物凄い衝撃が襲う。
天国が一瞬で反転され地獄へと変わっていく世界、堕ちる、落ちる。

気が失う前、大丈夫ですか? とこえをかけてくれている。こえがきこえる

だが、それ以前に、触らないで……

ビリビリ、グラグラ、ビリとグラである。

…………
……


さて、目が覚めると俺は保健室のベッドで仰向けになっていた。
想像以上に視界はうまく定まらず、視力が低い人はこういった感じで悩んでいるのだろうかと
くだらないことを考えるぐらいにまでは意識は回復してきたみたいだ。

「よ……よかったぁぁぁ……」

目が覚めたのを確認したとともに、可愛い……えっと年上の学年の女の子に抱きしめれる

非常に嬉しい状態のはずだが、もちろんそういうわけにはならない

「アギャアアアアアアアア!!」




「だ……大丈夫ですか?まだいたいですか? えっとすごい勢いで階段から転げ落ちて……いたいところは?」

「いたいたいたいたいたいたいた! さわんなぁぁぁ」

正直、さわらないで下さいと言う余裕はない。
若手芸人でも無茶苦茶な罰ゲームを受けると先輩芸人に無礼講を働くことがある。
まさにそれの上位互換だ

「ご……ごめんなさい! で、でも痛いところは触らないと…」

「触る必要ない。ほんと、いいです」

「ごめんなさい。でも、責任は私にあるから、頭は大丈夫? 多分ぶつけてないと思うけど……私の見た限り」

「もう大丈夫です。こちらこそご迷惑をおかけしました」

「体育の先生がいて、ここまで運んでくれたので、保険室まで連れてこれれたんです。よかった……でも無事で……病院行きましょうか。も、もちろんお医者さんの費用は出しますから」

「いや、大丈夫です。頭は打ってないし……」

「でも、失神していたんですよ!? 何か分からない病気があって……」

「……えっと、失神の理由はきちんとあって」

「持病があるんですか?」

こうなれば言うしかないだろうか。初対面にこういうことを言うとドン引きされるのが関の山だが
埒が明かない以上は話すしか無いだろう。

…………
………
……

「と、ということは、私を触れたことで電撃を浴びたということですか」

「にわかには信じてもらえないと思いますが」

「……」

「……はは」

「ごめんなさい。それを知らずに私は、痛いところをさわろうとしていたんですね……」

「え? 信じてもらえるんですか」

「信じないなんておかしいですよ。本当に気を失っていたんですから」

相当素直な方だ。今後悪い人に騙されないように気をつけてほしいと思う。
俺の事柄は本当なのですが、この信じっぷりは常軌を逸したものである。

「というわけなんで、病院は大丈夫です。どうやら肘に痣ができたぐらいですから」

「……それでは示しが……」

「いえ、こちらも不注意だったので。歩行者同士の衝突なので不注意な方が悪いんですし。できればこのことはひみつにしていただければそれで幸いです」

「ひみつですか……ふふっ。わかりました。私、きみの体質に関しては絶対に誰にも話さないと誓います。男の人と秘密を持ったのは初めてかも」

「あはは」

「何か困ったことがあったら何でも言ってね。協力するから。私2年B組の井川です。ボディーガートでもなんでも…ね?」

「触れちゃまずいですよ」

「ふふっ、でも、私は高橋くんの味方だから……ね?」

その後も雑談を少し続け、彼女は別の方向の帰路へと向かっていった。

世の中、あんなにも素直でほんわかした可愛い女の子がいたのかと思った。
小学生並みの感想だが、世の中捨てたものでないと
思った。だが、まだ相変わらず肘辺りが痛い。そして体中ヒリヒリする。
2日連続は正直しんどい

きょーは以上です。続くかも

ぶつからないように無難に過ごす日常というのは存在しないのかもしれない。

「おっはよ~! たかはしく~ん」

背後から聞こえる不穏な声。このクラスには高橋というやつは俺しか無い。
昔の巨人みたいに、由伸や尚成はいない。
反射神経を研ぎ澄まし、大阪のおばちゃんばりの迅速なボディタッチから急回避を決める。

「なんで避けるんっ!?」
露骨な避け方に不信を抱く岩田だ。このことを話すべきなのかはまだ決めていない。
だが、いずれは話さないといけないだろうな。

「避けるというよりかは、攻撃を受けるとチェインが消えるだろうが」

「意味がわからん!」

俺自身もわけがわからないいいわけだが、よくあるアクションゲームは攻撃を連続で当てていくと
どんどんチェインが貯まり、威力が増大していったりする。そのチェインが続く中敵のダメージを受けるとチェインがリセットされる。だからこそ、アクションゲームでは敵の攻撃をあたってはいけないタイミングというのが存在するのだ。
だからなんなんだと言われるが、相手を嫌っている訳でも無いのに露骨に人を避けるための理由を考えるのは結構大変なんですよ。

「この後、移動教室やで? 行かへんの?」

「悪いが、先に行ってくれ。俺はギリギリに行く」

「ほら行くで!」

引っ張りだそうとするが、俺は逃げる空間を持っていなかった。
見事に触れられ電撃を浴びた。
あまりにも彼女は危険だ。幼なじみかと勘違いするぐらいの馴れ馴れしさだ。
おもいっきりふんぞり返ってしまった姿は毛利のおっちゃんみたいだ。
ほぼ気を失ってしまった為、友人に介護してもらいながら移動教室へと運んでもらった。
頭を打ってしまったとか適当に理由を付けてもらったが、いくらなんでも無理がありすぎる。
設定も、体力もだ。


無気力な状態のまま午前の授業は終わった。
早く席替えをして、最後尾の席で平和な日常を獲得したいものである。

昼休憩になり、弁当タイムだ。俺は父親の仕事もあり弁当を作る担当を請け負っている。
もちろん凝ったものは作らないが、必要最低限の揚げ物や玉子焼き、ウインナーぐらいなら問題ない。
弁当は確かに大変だが、学食なんかの人混みなんかとてもじゃないが行けたものではない。
ましてやここの学食は、限定物があるらしく値段も安くとても盛況している。
そんなこともあり、必ず俺は弁当を作る。
ちなみに、スーパーでは買い物をしない。基本は男の人が営業している個人商店。
コンビニも男性店員かどうかを把握してから入店する。あと最近はネットで買い物も活用してる。
ただ油断ならないのは荷物受け取りだ。それですら神経を擦り減らすから俺は間違いなく早死する。

「そういえば、高橋。お前部活入んないのか?」

「部活?」

「まぁお前のことだから何も入らないとは思うが、部活は強制だぞ」

「あぁ、そういえば部活は最低限入らないといけないんだったよな」

「吹奏楽部とか、おすすめだぞ高橋」

「やめろ! 吹奏楽部とか確実にダメなやつだろ」

吹奏楽部といえば、文化部最大の運動系部活だ。しかも男女混合で
いい意味でも悪い意味でも男女のふれあいが激しい部活だ。人間関係での触れ合いが一番面倒らしいが
俺の場合は言うまでもなく、肉体的触れ合いが激しいことだ。

わが校の部活一覧表を眺めた。まず運動部は除外。運動部は一見異性の触れ合いが皆無に思えるが
ジャーマネという伏兵が潜んでいる。考え過ぎかもしれないが、俺は全く触れない勢いで行きたい。
そう考えれば確実に文化系の部活を選ばざるを得ないのだ。

その中でも、文芸部というのが大穴だと思った。
まず、そこにいる女性は奥手だろう。もしくは男なんて興味のない生物
次元の裏の男性同士のやりとりに夢を見る女性という可能性もある。
それに、まず席を向かい合うはずだろうから、オールシーズン積極的に参加しても
物理的に触れ合うことは皆無だろう。

「友人、俺文芸部入るわ」
「がんばれ。悪い予感しかしないが」

俺は友人の不安を気にすること無く、入部届を書き、放課後に早速提出することとした。


これが俺の学園生活の計画を木っ端微塵にするバズーカ砲の弾になることは
この時全く思っていなかった。思うはずがなかった。

#2 地獄入部


既に部活は始動しているらしく、顧問は今日は非番らしく後日入部届を提出することとなった。
だが、部室に行けば部員が活動しているので顔だけでも出して行ったらどうだと言われ
文芸室へと向かった。教室は本館の4階。1年生の1組の教室から近く、俺は7組だ
最遠じゃねぇか……。

いずれにせよ、この学校という空間で危険しか無い。
そこで安全地帯を作らないといけない。教室はまず論外だし、中庭は暑い。屋上は閉鎖。
ならば、人のいない過疎教室だ。そう考えれば文芸室というのは悪くない選択肢だ。

人混みを避け、文芸室の前へと立った。そしてノックをした。

「……誰?」

ドアを少しだけ開け、髪の長い女の子が現れた。
女性だということなので、警戒レベルMAX。俺はノックしたにも関わらずドア前から1m離れている。

「えっと、文芸部に入部したいんですが……」

「好きな本は?」

「少年チャンプ」

「……帰って」

「……好きな作家は?」

「サッカーより野球派」

「……二度と来ないで」

「ストーップ! そこをなんとか! 俺はこの部活が一番向いているんだ。運動は駄目だし、こういうおとなしい平和な部活に入りたいんです……」

「漫研部に行ったら?」

「それは勘弁願いたい」

漫研部へ入るのはさすがに嫌だ。一応見に行ったんだが、変なしゃべり方をする奴らが
アニメを見たり漫画を見たり、一向に創作活動をしていなかった。そんな部活はさすがに厳しい。

「どうしても入りたいなら、テストを受けて? 4択テスト。常識的文芸問題」

「残念ながら、入部を断る権限は生徒は持ち併せていないんだぜ?」

「そう。それもそうね。でもテストの点数が低いにも関わらず入部したなら、私は貴方を迫害する」

「怖いこと言いますね」

「村八分。知ってる? あれって日本の黒い所が縮図されている文化なのよ。それを再現しようかしら」


村八分は少なからず、この一対一では成立しない。

「迫害しようとも、俺はここを去る気持ちは微塵とも無い」

「そう。わかった負けたわ。入部すればいいわ。ただし、半径一m入ったら叫ぶわ」

「OK!」

「……そう」

「というわけで、本ありませんか、なにかおすすめ」

「そこのひらがなのおべんきょうをどうぞ」

「喧嘩売ってるのか?」


とりあえず、彼女は男性嫌いな様子だ。少なからず俺のことは良くは思っていないみたいだ。
ならば都合がいい。相手の壁が高いならそれを有効に使わせてもらおう。
そこで大人しく部活動に励むとしよう。本を読むなり、感想文を書くなり、なにか短文を書いたり。
人間なんだから文化的な生活を行うことも大事だよね。うん。

「平和を求める……。なぜ、文芸部が平和なの?」

「肉体的接触が無いからです。誰とも」

「……」

「なので、1m半径に入らないといけないという縛りは素晴らしいんですよ個人的に」

「そう、なら半径一m以内に入っても構わないわ」

「いえ、その制度は継続しましょう。ところで、他に誰か部員は?」

「まだ、貴方を含めて二人。あと二人必要だわ」

「じゃあ都合が良かったんじゃないか」

「焦らずとも、部員なんて集まるわ。寧ろ貴方がいることで入部を躊躇う人が増えそうなことが不安」

「余計なお世話っす。部屋の隅で大人しくするから放っておいて下さい」

「……」

「本当に放って置かれちまった」

彼女は冷たい人間そうだが、割りかし言葉を投げかけてくる。
完全に他人行儀かと思えば、少しばかり隙を見せてくる。
これは間違いない。うかつに近づいてはいけない。
心のなかの何者かがそう語りかけている。どういったことになるかまでは教えてくれない。
冷たいぜ 心のなかの何者さん。

月曜以降から頑張ります



俺が思うには、平和な世界というのは簡単には築けないということ。
これは国際社会でも、ラノベの世界でも、現実の家庭内でも同じことである。
俺のこの背負う運命に簡単な平和はありやしない。
女の子と触れること無く、学校を卒業することは不可能に近いことだ。
だからこそ、安住の地を求め俺は戦う。

「何を呟いているのかしら?」

「何も言ってないぞ」

この文芸部の部長の三浦さん。同じ学年でありながら部長。
合併してから、クラブが全てリセットされ、もともと存在しなかった部が新たに発足されるようになった。
二年、三年からある部活は既に統合されたりしているが、無い部活は新規発足
部員が揃えば正式な部活として部費も下りるようになる。それまでは同好会立ち位置だが
学校側も半年間は同好会も部と同じ待遇を部費以外受けられる。
だから、そこまでは焦ることはないのだ。

とはいえ部員を集めないままだと部としては完成されない。結局は勧誘は必要なのである。
できれば、男子生徒をかき集めたい所ではある。

「三浦、勧誘しないのか?」

「勧誘活動は、ポスターを出しているわ。校門前で勧誘活動なんて面倒なことしたくないわ」

「そうか。万里ある」

「……」

彼女は所謂ダウナーの立ち位置にあるのだろうか。
何事でも消極的だ。どこぞの岩田とは大きく違った性格だろうな。

「高橋くん、部員の勧誘をしてきてください」
「さっきと言ってることが違う気がするんだが」

「私はしたくないと言っただけ。部活の方針ではないから。部長命令」

「……勧誘はお断りします」

残念ながら、ビラ配りだとか、校内放送とかリスクの高いことはしたくない。
校内活動は俺にとっては、ゾンビ街を歩き回るようなもの。スコップを持っていけば誰も近づいてこない点はゾンビとは違うのだが。

「今日中に部員を一人確保しなければ、貴方を追い出します」

「スタート地点に戻るだけじゃないですか」

「貴方は果たして部員として有能かどうかを見極める為のテストです。結果が出なければ戦力外」

「トライアウト制度か何かですか、ここの部活」

「むしろ、育成枠というところかしら」

「とりあえず、勧誘は一回置いておこう。何の部活も入っていない帰宅部を誘えばそれで済むだろうし」

「……私、本が読みたいんだけど」

「失礼しやした」

三浦さんはダウナーだがよく喋る。
それに気づくと、急に話を終わらせる。多分、しゃべることは好きなのだが、それを認めたくないのだろう。


その後の部活に何があったかなんて言われても断じて言える「何もなかった」
週刊誌のゴシップ記事で返答する芸能人の「何もなかった」とは真逆の意味である。
何もなかったのである。

きょうはここまで

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