少女「10年後も想い変わらず貴方を好きでいたなら」(67)

少女「私さ、明日、引っ越すんだ」

少女「え、知ってたの、どうして」

少女「そっか、うん、そうなんだ」

少女「うん、まあ、しょうがないよ、お父さんのお仕事の都合なんだから」

少女「寂しいよ、そりゃあ」

少女「でもさ……うん、しょうがないよ」

少女「どこって……大阪」

少女「遠いよ、うん」

少女「でもさ、10年経ったらさ、また帰ってくるから」

少女「絶対、絶対帰ってくるから」

少女「うん、だから、その時までさ」

少女「10年後も想い変わらず貴方を好きでいたなら」

少女「私のこと、見てくれるかな」



あいつがそう僕に告げたのは、小学校の卒業式の前日だった。
次の日、あいつの言った通り、あいつは僕の知らない街へ行ってしまった。
そして、僕らは10歳年をとった。

カランカラン

「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」

男「あ、えっと、待ち合わせで」

女「……」フリフリ

男「あ、わかりました」

「どうぞごゆっくり」

女「やほ、久しぶり!!」

男「……びっくりしたよ、いきなり連絡くれるんだもんな」

女「へへ、10年経ったら帰ってくるって、言ったじゃん」

男「ああ、もう10年経ったんだな」

女「早いよねえ」

男「ああ」

女「……」

男「……」

女「なんか、感想ないの」

男「感想って」

女「10年振りだぞ」

男「あ、ああ、ずいぶん綺麗になったな」

女「おっと、素直に褒められるとは思わなかった」

男「口は回る様になっただろ」

女「口下手だったのにねえ」

男「髪も伸びたな」

女「うん、今はずっと伸ばしてるの」

男「小学校の頃はショートカットのイメージが強かったけど」

女「……」

女「似合ってない??」

男「いや、すごく似合ってる」

女「っへへ」

男「おれ、長い方が好きだし」

女「でしょでしょ」

男「ちょっとアクセント、違うんじゃね」

女「あー、ちょっと関西弁混じってるかも」

男「だろうなあ」

女「微妙に、ね」

男「がっつり関西弁だったら面白かったのに」

女「それ、喋りにくくない??」

男「確かに」

女「やっぱこっちの言葉の方が、落ち着く」

男「そっか」

男「ていうか、どうやっておれの携帯……」

女「あ、それね、最初は小学校に連絡してみたんだよ」

男「おいおい、セキュリティ甘いな小学校」

男「個人情報漏らすなよ」

女「あーでもダメダメ、教えてくんなかったの」

男「あっそ、そりゃあ安心した」

女「でさ、どうしよっかなって思ったときにさ、名前聞かれてさ、何年卒の~って名乗ったの」

男「ああ」

女「そしたらさ、電話の相手がさ、びっくりしててさ」

女「あんときの同じクラスのミサキだったのよ」

男「ああ、そっかそっか、ミサキあの小学校の先生になったんだっけ」

女「そんで思い出話とかさあ、盛り上がってね」

男「でも、ミサキにもおれの携帯教えてないはず……」

女「最後まで聞いてよ」

女「でさ、ミサキの情報網ハンパなかったのよ」

女「あの子友だち多かったからねえ」

女「色んな人にメールしてみて、アドレス知ってる人を捕まえたわけ」

男「はっは、まあ、あいつはいつもクラスの中心にいたからな」

男「情景が目に浮かぶよ」

女「でしょ、私もなんか懐かしかったもん」

男「他のみんなには会ったのか??」

女「ううん、まだこれから」

女「だってこっちに帰って来たの、一昨日だもん」

男「そっか」

女「前と同じマンションだよ」

男「あそこ、社宅だったよな」

女「そうそう」

女「ま、当時の私は社宅って言われても意味わかってなかったけど」

男「ははは」

女「ねえ、学校辞めて、映画作ってるんだって??」

男「ああ、サークル活動なんかじゃない、本物の映画作りだ」

男「といっても、まだまだ素人レベルからちょっと抜け出したくらいだけどな」

女「ずっと映画作りたいんだって、言ってたもんねえ」

男「ああ」

女「夢、叶ったんだ」

男「ん、まあ、そうかな」

女「すごいなあ」

女「羨ましいなあ」

男「お前は、今はなにやってるんだ」

女「花嫁修業!!」

男「……ん??」

女「……つまり、就職浪人」

男「おいおいおい、大丈夫かよ」

女「大阪にいる間もね、こっちの会社受けたりしてたんだけど……」

女「全滅!!」

男「あー、そっか」

女「だから、まあ、バイトとかでいいからとりあえず探してるの」

男「ふうん、大変だねえ」

女「他人事ねえ」

男「だってさ、男は死活問題だけど、女は永久就職があるし」

女「あー男女差別だ」

男「はっは、苦しいのは男の方だっつーの」

女「でも結婚してもさ、専業主婦でやってけるほど、甘くないでしょ」

男「まあ、そうだな」

男「お前、彼氏はいるのか」

女「いたけどね、別れてきた」

男「ん」

女「大阪に置いてきたの」

男「どうして」

女「どうしてって……」

女「え、あのときの約束、覚えてないの??」

男「約束、約束……??」

女「うっそ、信じらんない!!」

男「あーはいはい、あれね、卒業式の前の日のね、思い出した思い出した!!」

女「うっわー乙女の純情弄ばれたー」

男「思い出した思い出した思い出した!!」

女「酷いわ本当、この男最低だわー」

男「いや、ちょっと、あの、御免」

女「嘘よ」

男「へ」

女「本気にしないでよ」

男「お、おう」

女「本当はね、ただ単に合わなくなって別れただけよ」

女「遠距離できるほど、お互い強くもなかったし」

男「……そっか」

女「焦りすぎー」

男「いや、だって、本気で、かと思って」

女「あーのーね、あんなの10年も前のことじゃん」

女「むしろ青春のいい思い出じゃん」

男「はは」

女「あんときのクラスのみんなはどうしてるかな、知ってる??」

男「んーと、そうだなあ」

男「あ、カイト、覚えてるか」

女「はいはい、野球やってた」

男「あいつな、甲子園出たぞ」

女「うっそ!! うっそ!! マジで!!」

男「2回戦までだったけどな、テレビで応援したよ」

女「うそー知らんかった……」

男「今は大学で野球やって、社会人野球に進んでるはず」

女「へえ」

男「やっぱ今でも、プロ目指してるみたいだよ」

女「そっかあ、プロになれるといいなあ」

男「それから……あ、ヨウコから結婚しましたって報告があったな」

女「ヨウコ!? 懐かしい!!」

男「去年だったな」

女「そっかあ、学生結婚??」

男「いや、どうなんだろ」

男「相手のことはよく知らない」

女「早いねえ」

男「まあ、女の方が結婚は早いからなあ」

女「同い年の可能性もあるよ??」

男「あ、そうか、そういやそうだな……」

こんばんわ
今日も貼っていきます

女「21歳で結婚かあ……」

男「どうやって生活すんだろな、ってちょっと思った」

女「バイトじゃ生きてけないよね」

男「生きてけないってことはないだろうけど……」

女「でも、そんなに焦らなくても……」

男「いや、別に焦ってたかどうかは知らないけど」

女「デキ婚かな」

男「さあ、どうかな」

女「ありうるよね」

男「大いにな」

男「お前は結婚願望とか、ないのか」

女「まーだまだ」

女「ていうか料理、できないし」

男「はっは」

女「なによ」

男「いや、6年の時の調理実習でも、そうだったなあと思ってな」

女「あ、覚えてるの!?」

男「おう、覚えてる覚えてる」

女「いや!! 忘れて!!」

男「確かオムライス作りで……」

女「ぎゃー!!」

男「酢が……」

女「ぎゃー!!」

男「掃除は」

女「苦手」

男「洗濯は」

女「たたむのが、苦手」

男「……」

女「こ、これから覚えるし!!」

男「どうやって、だよ」

女「お、お母さんに教えてもらいながら……」

男「……」

女「が、頑張るもん!!」

男「はいはい、頑張れ」

男「彼氏と別れない方が、よかったんじゃないの」

女「どうして」

男「だって、その彼氏、家事得意なんだろ」

女「……」

女「なんでわかるの??」

男「なんとなく」

女「ふうん」

男「一人暮らししてる大学生ってところか」

女「なんでわかるの!?」

男「なんとなく」

男「お前は甘えるタイプだったからなあ」

女「そ、そんなの、10年も前のことじゃん」

男「10年も前からそうなんだから、そんな簡単には変わらないんだよ」

女「う」

男「今も、甘えに来たんじゃないの、おれに」

女「……」

男「いや、御免、責めてるわけじゃないからな」

女「……」

男「久しぶりに会えて、本当に嬉しいんだから」

男「それは本音」

女「甘えてたのかなあ」

男「……」

女「甘えてるのかなあ」

男「ま、そういう要領のいいところも、お前のよさだよ」

女「そっか」

男「切り替えの早いとこも、な」

女「あはは」

女「そっちは??」

男「ん」

女「今、どうしてるの??」

男「あ、えーと、その」

女「ん??」

男「怒らないで、聞いてくれるか」

女「??」

男「去年、結婚したんだ」

女「……!!」

男「御免」

女「謝んないでよ」

女「おめでとう!!」

男「お、おう」

女「やーそっかあ、結婚かあ」

男「はは」

女「10年経ってんだもんねえ、そっかあ」

男「恥ずかしくて、なあ」

男「みんなにはあんまり言ってないんだが」

女「なんでよ、言ったらいいじゃん、みんな喜んでくれるって」

男「そうかなあ」

女「そうだよう」

女「え、まさか、ヨウコと!?」

男「違う違う違う!! 偶然!!」

女「えーヨウコも去年なんでしょ??」

男「おれの、その、結婚相手は……」

女「誰なの??」

男「その、映画関係で知り合った人」

女「へえ」

男「女優さん」

女「え、すごい!! 美人なんじゃないの??」

男「う、うん、まあ」

女「え、いくつの人??」

男「28」

女「はー大人の女性だあ」

男「はは」

女「でも、歳の差感じない??」

男「うん、まあ、それはあるかもね」

女「えーっと、6歳差かあ」

男「一緒に小学校通わないレベル」

女「あ、ほんとだ」

男「成人式んときに中学校の制服着てるレベル」

女「うおー」

男「おれが食ってた駄菓子とか、知らないときもあるし」

女「駄菓子ねえ」

男「逆に向こうが、俺の知らない駄菓子食ってたりして」

女「あはは」

男「アニメもさあ、微妙に時期がずれてたりして」

女「でも男女なんだから好みとかも違うでしょ」

男「まあ、そうだけどさ、よく見てたバラエティとかもさあ」

女「そりゃあ流行りはすぐ入れ替わるからねえ」

女「子どもは??」

男「んん……それはまだ」

女「ほしい??」

男「そうだな、ほしいな」

女「何人??」

男「男と女、一人ずつ、かな」

女「計画的ですなあ」

男「ははは」

女「女の子が生まれたら、私の名前、つけてよね」

男「なんでだよ、恥ずかしいよ」

女「子どもかあ」

男「未来の話だよ」

女「でも、私も、子どもほしいなって思うときあるんだよ」

男「はっは」

男「10年前じゃあ考えられない会話だな」

女「ほんと」

男「お前の子どもは美人だろうなあ」

女「なにそれ、お世辞??」

男「いいや」

女「恥ずかしいこと、言わないでよう」

男「クラスで一番、可愛かったからな、お前は」

女「ちょちょちょ、マジで!?」

男「マジで」

女「え、なんで言ってくれなかったの」

男「言えるわけねーだろ、そんなこと」

女「えー」

男「今言ったんだから、いいだろ」

女「なに照れてんの」

男「うるさい」

女「そっかそっかあ、そんな風に思ってくれてたんだ」

男「……」

女「じゃあ、なんで私を置いて結婚したの??」

男「……ぐっ」

女「あはは、冗談」

男「……」

女「私もねえ、男の子と女の子、両方ほしいなあ」

女「それで、男の子にはサッカー、女の子にはピアノを習わせるの」

男「はは、ありがち」

女「いいでしょ」

男「おれは……一緒にキャッチボールがしたいな」

女「あ、男の人っぽい」

男「だろ」

女「男の人、みんなそう言うよね」

男「みんなの夢だよ」

女「でもさ、相手が女優さんじゃ、難しくない??」

男「そうだな、今撮ってる映画がひと段落して、引退を考えられたら、かな」

女「奥さん、引退するの??」

男「まあ、おれが養っていける収入を得ることが大事なんだけど」

女「ま、そりゃそうね」

男「今んとこ、向こうの方が多く稼いでるから」

女「うわ、そりゃあ長く働いてもらわないと」

男「俺も頑張ってんだけどなあ」

女「ねえ、どんな映画、撮ってるの??」

男「聞きたい??」

女「聞きたい。それに観たい」

男「今のやつはね、sfっつーか、なんつーか」

女「sf!? 特殊効果ズドーン!?」

男「いや、そんな派手なやつじゃなくて」

女「首がブシュー!?」

男「それじゃスプラッタだ」

男「演じるのは人だし、特に派手なメイキャップもしないんだけど、死神とか出てくる感じ」

女「ああ、はいはい」

男「低予算で、演技力と演出勝負!! みたいな」

男「お金ないからね、仕方ない」

女「そっかあ、でも面白そう」

男「できたら観てくれる??」

女「絶対観る!!」

明日で終わります
よろしく



男「さ、そろそろ出るか」

女「うん」

男「今日、このあとは??」

女「別に予定はないよ」

男「そっか」

女「なに、飲みにでも連れていってくれるの??」

男「んー、それもありだけど……」

女「奥さんが怒るか」

男「怒るってことはないけど、まあ、よくはないかなあ」

女「いいよ、別に」

男「また今度、予定立ててからなら……」

女「うん」

女「御馳走様」

男「ケーキセットくらい、奢るって」

女「ありがとう」

男「うん」

男「なにで来た??」

女「歩き」

男「そっか、おれもだ」

男「送ってく」

女「うん、ありがと」



男「この辺歩いてると、誰かに会うかもしれねえなあ」

女「誰かって、卒業生??」

男「うん、卒業生とか、他の先生とか」

女「懐かしい??」

男「ああ、おれもずっと会ってないからな」

女「気付いてないだけで、すれ違ったりしてるかもよ」

男「ありうる」

女「さっきの喫茶店にバイトでいるかもよ」

男「……ありうる」

男「この時間になると、静かだな」

女「子どももいないね」

男「昔はさ、暗くなって怒られるまで遊んでても平気だったろうけどさ、今は……」

女「不審者とか、多いもんね」

男「そうそう、下手に外で一人にさせられないんだろうな」

女「怖いね」

男「今は、おれがいるから大丈夫」

女「それは心配してません」

男「バッカ、若い女性も同じくらい危ないんだぞ」

女「若い女性って」クスクス

女「それにここ、住宅街だよ」

男「それでも危ないの」

女「そうかなあ」

男「そうだよ、お前はもっと危機感持つべき」

女「うーん」

男「なんだよ」

女「なんかねえ、小学校時代に戻った気分なの」

男「はあ」

女「ああ、こんなんだったなーって思いだしちゃって……」

男「戻ってこい、22歳の現実に戻ってこい」

女「小学生気分だから、危機感がないのかな」

男「……」

男「小学生気分に戻ったのは、おれといるから??」

女「うん、多分そう」

男「……」

女「あっは、やっぱ、吹っ切れないや」

男「……」

女「私ね、恋とかよくわかってなかったけどさ、やっぱ、好きだったんだ」

女「大好きだったんだ」

男「ん……」

女「結婚したって聞いたとき、おめでとうって、自然に言えたけど」

男「うん」

女「やっぱ、辛いや」

男「……うん」

女「あ、や、だからどうこうってわけじゃないんだよ」

女「10年振りに顔が見れて、声が聞けて、それで満足っていうか……」

男「嘘吐け」

女「んっ」

男「それが満足してるやつの顔かよ」

女「……」

男「勝手に結婚して、悪かった」

女「そんな、勝手だなんて」

男「お前が俺のこと好きでいてくれてるのも、知ってて」

女「やめてやめて、優しくしないで」

男「今日、会うのは楽しみだったけど、責められるのも、覚悟してた」

女「責めるつもりなんかないんだって、あれは冗談だってば」

男「だけど……」

女「いいの、勝手なのは、私の方なの」

女「勝手に好きになって、勝手にずっと好きでいただけ」

女「勝手に約束なんか、した気でいただけ」

男「そんなこと……」

女「だから……」

男「え??」

女「……んっ」チュ

男「……」

女「っへへ……」

男「お前……」

女「キス、ひとつだけ貰っていくね」

男「……」

女「御免ね、奥さんいるのに、御免ね」

男「いや、その」

女「もう、私のことは、忘れてくれて、いいから」

男「馬鹿、忘れられるか」

女「忘れて」グス

男「……」

女「今までありがとう」グス

女「小学生のときも、今も、好きでいれて幸せだったよ」グス

男「……」

女「送ってくれて、ありがとう」

男「ん」

女「今度会うときは、映画ができた時か、私が結婚した時、ね」

男「あ、ああ……」

男「あ、あのさ」

女「ん??」

男「おれも、本当は、お前が大きくなっておれのところに帰ってくることを期待してた」

女「……」

男「お前はクラスで一番、可愛かった」

女「……」

男「お前はいつもおれのそばに寄ってきてくれた」

女「……」

男「好きだった。本当は、好きだったんだ」

男「これもさ、恋とは、違う感情なのかもしれないけど……」

女「あほ、遅いよ」

男「うん、御免」

女「あーあ、こんな若い子と結婚するチャンスなんて、なかなかないのになあ」

男「……はは、それは確かに」

女「いい思い出にできるよう、私、これから頑張るよ」

男「ああ」

女「奥さんと、幸せにね」

男「……ああ」

女「今日が、本当の卒業の日、だね」

男「そんな歌、あったなあ」

女「10年越しの、卒業……か」

男「証書は、ないけどな」

女「っへへ、じゃあね、ばいばい、先生」

男「……ああ、さよなら」

★おしまい★

ありがとうございました
よければこちらもどうぞ
http://hamham278.blog76.fc2.com/

現在 男(34) 女(22)です


やっぱり盛り上がりに欠けたかな
残念だ

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom