京介「別れよう」 黒猫「え……」 (535)



※ 性的な描写が含まれますのでご注意ください。



いつものように俺のベッドの上に寝転びながら、何かの文庫本を読んでいる黒猫。

そんな愛する彼女に、俺は勉強の手を休めて話しかけた。

京介「そういやさ、昨日偶然あやせに会ったよ」

黒猫「あら。京介とあの女が? 本当に偶然なのかしら」

京介「偶然だと思うぞ? 本屋でばったり出くわしたんだし」

黒猫「京介が本屋に行くと必ず立ち寄るコーナーがあるわよね」

京介「そうだな。きっとあやせも俺と同じ目的で雑誌を探してたんだと思う」

黒猫「……そう。では偶然と言う事にしておきましょう」

京介「だから偶然だってば。まあそんでさ、最近の桐乃の情報を交換したり、後は黒猫と上手くいってるか聞かれたりしたな」

黒猫「……何て答えたのかしら?」

京介「ああ、問題なくやってるってちゃんと伝えておいたぞ」

黒猫「……」

京介「どうした?」

黒猫「いえ、気にしないで頂戴。それよりも京介はあやせに会ってどうだったの?」

京介「どうって、相変わらずだったよ。高校生になってますます美人にはなってたかな。黒猫には及ばないけどな」

黒猫「きゅ、急に恥ずかしい事を言わないで。反応に困るわ……」

京介「ははは、黒猫は照れ屋さんだなあ。そんな所も可愛いぞ」

黒猫「あなた、わざと言っているでしょう。もういいわ、今は読書中なのだから話し掛けないで」

京介「はいはいっと」




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去年の十二月末、俺は黒猫と再び付き合いだした。

その直前にあやせから告白されたが、俺はその想いに応える事は出来なかった。そして黒猫はなぜか一連の出来事を把握していたので、先の彼女の不自然な態度はそこらに起因しているんだろうさ。


黒猫「――ん。読み終えたし丁度良い時間になったのでそろそろ帰るわ」

京介「お、そうか。んじゃ行こう」


二人で俺の部屋を出ると、黒猫はジッと寂しそうに隣室の扉を見つめた。

あの我が儘で生意気で口が悪くて騒々しい、でもとても友達思いだったあいつは、もうここには居ない。

かねてからの計画通り、中学卒業と同時に海外へまた留学してしまった。今はあっちの学校に通いながらモデルの仕事をして自分を磨いているようだ。

俺の心に抜けない棘を刺したまま、あいつは無責任に行っちまいやがった。



桐乃「あたしね、京介のコトが――ずっとずっと好きだった。ううん、今でも好き、超好き! 愛してるっ!」



ふざけんなっての。妹に告白されて嬉しくない兄がこの世に居る訳ないだろ!?

でも俺はもうその時には黒猫に新しい呪いをかけられた後だったから、どれだけ心躍ろうが応えるなんて無理だ。

沈黙していたら、桐乃はあやせにされたのとは反対側の頬にそっとキスをして、泣きながら、分かってたからいいよと言ってくれた。

そして三ヶ月後、桐乃は旅立った。

黒猫の落ち込み具合ったらそりゃもう俺より酷かったぜ。とある日なんか、彼氏の俺がどんだけ慰めてもただただ暗い表情だったのに、桐乃から元気を告げるメールが届いただけで喜色満面になったりね。あの時ほど妹に嫉妬した事は無かったな。

やがて夏が過ぎ、秋を迎えた現在。表面上はすっかり立ち直ったように見える黒猫と俺は、順調に交際を続けていた。




京介「親父、ちょっと車を借りて良いか?」

大介「何に使うつもりだ」

佳乃「お父さん、毎回同じことを聞かなくても分かってるでしょ? もちろん彼女さんを家まで送っていくために決まってるじゃない」

大介「それならば許可する。鍵はそこにあるから持っていけ。ただし、くれぐれも安全運転で行くんだ。あと初心者マークは忘れるな」

京介「分かってるって。んじゃ、借りてくよ」

大学の夏休みを利用して免許は既に取得済みだ。もっとも、まだ取り立ての初心者もいいとこなので運転はまだまだ怖いけどな。

それでも黒猫を家まで送るこの一時間程のドライブデートは、俺たちにとって、とても大事な二人きりの時間なんだ。

京介「お待たせ。それじゃ行こうぜ」

黒猫「ええ」



道中特に何事もなく、松戸市にある五更家に到着。

京介「ほい到着。お疲れさん」

黒猫「京介の方が疲れたでしょう。たまには家に上がっていったら? お茶くらい出すわ。それに妹もあなたと会いたいでしょうし」

京介「とても惹かれるお誘いだけど、今から帰っても晩飯に間に合うかどうかって時間だからな。またにするよ」

黒猫「その、晩御飯なら私が作るわよ? それでも駄目かしら?」

京介「あー、それは魅力的だな。だけど飯をご馳走になったら今度はおまえを食べたくなるから、またの機会にな」

黒猫「なっ。は、恥を知りなさい。こんな往来で何を口走っているのかしら、この発情した雄は」

京介「往来なのに別れの挨拶はいつもしてるけどな」

黒猫「……ん」

そっと口づけを交わす。家の前まで彼女を送り、そしてキスをする。それが俺にかけられた新たな呪いであり契約だった。

京介「……それじゃ帰るよ。また来週な」

黒猫「ええ、気を付けて帰ってね」

京介「大丈夫だって。またな!」

車を発進させる。バックミラーを確認するたび小さくなっていく彼女の姿が、いつまでもいつまでも俺を見送っていた。




そんなある日の事だ、唐突にあやせからメールが届いた。

その内容は「桐乃のことで相談があるので家まで来てください」となっていた。

先日、偶然出会った時に桐乃の情報を交換した際には元気で順調にやっていると確認し合ったのに、この僅かな間に何か問題でも起こったんだろうか。

かつては何度も通った家だ、道を忘れてるはずがない。俺は取るものも取りあえず新垣家へとダッシュした。



あやせ「こんにちは、お兄さん。もう夕方だからこんばんはですか」

京介「ああ、こんにち――こんばんは。どっちでも良いか。んで桐乃の相談って何だ? 何かあったのか!?」

あやせ「まずは落ち着いてください。お茶を用意してますのでどうぞ」

京介「あ、ああ。悪いな、いただくよ」

走って来たせいで喉が渇いていたので、とてもありがたい。

京介「ふぅ。……よし、落ち着いた。話してくれ」

あやせ「はい。その前に確認なんですけど、先日本屋でお会いした時に黒猫さんとの交際は問題ないって言ってましたよね?」

京介「ああ、言ったな。それが桐乃に何か関係あるのか?」

あやせ「あると言えばあります。だから正直に答えてください。お兄さんと黒猫さんは、もう済ませたんですか?」

京介「は? 何をだ?」

あやせ「わたしの口から言わせる気ですか? いやらしいですね、通報しますよ?」

京介「何でそうなるんだよ!? ってか、俺と黒猫で済ませてていやらしいって、アレって事か?」

あやせ「そうですね。今の言いぶりだともう済ませてたってことですか?」


京介「いや、ま……何でそんな事をあやせに答えなくちゃいけないんだよ。これが桐乃に本当に関係するのか?」

あやせ「はい、昨晩桐乃から届いたメールの内容に深く関わっています。だから、知りたくもないこんなことを、わざわざわたしが質問しているんです」

京介「んじゃ、疑う訳じゃないけどそのメールを見せてくれ」

あやせ「そんな、乙女の秘密を覗きたいなんて変態すぎます! 本当に通報しますよ!?」

京介「……はぁ、分かったよ。後で桐乃にメールの事を確認させて貰うからな」

あやせ「はい、後でいくらでもどうぞ。それでどうなんですか」

京介「黒猫とは――瑠璃とは、会うたびにキスをしている」

あやせ「っ」

京介「今はまだ、それだけだ」

あやせ「え」

京介「さあ答えたぞ。それで桐乃にどう繋がるんだ」

あやせ「待ってください。キスだけ、ですか?」

京介「……ああ、そうだな」

あやせ「え、だって。お二人は付き合い始めてもう十ヶ月以上経っていますよね?」

京介「仕方ねーだろ。黒猫は超奥手で初心なんだ。キスが出来るだけでも昔から考えるとすごい進歩なんだよ」

あやせ「つまり、お二人ともまだ清い身体なんですね?」

京介「黒猫がどうかは知らねーけど、まあ間違いなくそうだろうな。俺については黙秘させて貰う。なんでそんな事まで教えなきゃならん」

あやせ「そうですか。お二人ともまだ貞操を守っているんですね、安心しました。それならわたしも――」

京介「いや、俺は黙秘するとしか言ってないぞ」


あやせ「わたしが知る限り、お兄さんの周りにいる女性でそんなことができる相手は限られています。可能性が一番高いのはもちろん黒猫さんですけど、その次にあるのはわたしでしょう。そのわたしが無いんですから、お兄さんはまだ純潔を守っているということです」

京介「何だその理論、無茶苦茶だ。そもそもおまえ下ネタ嫌いだろうが。なんか今日おかしいぞ」

あやせ「これは桐乃のためにも必要なことですから。だからわたしはどんなことだってできるし、やります」

京介「そーかい。んじゃその桐乃の話をさっさと始めてくれ」

あやせ「はい。わたしはずっと考えてました。どうやったら桐乃は留学をやめて日本に戻ってきてくれるんだろうって」

京介「おまえ、まだそんな事を言ってるのかよ。桐乃が必死に頑張っている事くらい当然知ってるだろ? 親友のあやせがそれを壊すような真似をして良いのかよ!」

あやせ「あの日、お兄さんに振られたわたしに残っていたのは桐乃だけだったんです。その桐乃もわたしを捨てて海外に行ってしまいました。わたしにはもう何もありません。だったらどんな手を使ってでも、好きな人をつなぎ止めておきたいって考えるのは不思議でしょうか?」

京介「あやせが桐乃を大事に思う気持ちは分かってる。兄としてそれは凄く嬉しい。だけどな、そんなに好きならなぜ桐乃を応援してやれないんだ。あやせだって桐乃が成功したら嬉しいだろ? 一緒に雑誌の記事を確認してガッツポーズしたじゃないか!」

あやせ「桐乃は素敵な人です。だからわざわざ海の向こうじゃなくても、日本で活動してたって世界に通用する仕事はできます。ならここでわたしと一緒にいたって問題ありませんよね?」

こりゃ駄目だ、話にならねえ。桐乃の情報を引き出したらすたこら帰ろう。

京介「もういいあやせ、さっさと桐乃の話の続きをしてくれ」

あやせ「話の腰を折ったのはお兄さんなんですが。それはともかく、考えたわたしは一つの結論に辿り着きました」

京介「……ああ」

あやせ「桐乃が世界で一番大事にしているモノ、それを壊して、桐乃に教えるんです。そうすれば怒った桐乃はわたしに会いに戻ってくれます」

京介「おい待て、桐乃が大事にしてる物って何だ? 趣味のアレなら壊させないぞ。そんな事を聞かされてうちに入れるとでも思ってんのか!」

あやせ「いいえ、桐乃が世界で一番大事にしてるモノはあんないかがわしい物じゃありません。あの子にとって何よりも大事なのは――」



――京介さんですよ。




京介「はっ」

正体不明の焦燥感に駆られて跳ね起きると、そこは見知らぬ……いや、見知ったあやせの部屋だった。

室内は暗く、どうやらすっかり陽が落ちているようだけど、なぜこんな時間に俺はここに居るんだ?

あやせ「起きましたか? 身体は大丈夫ですか?」

と、電気が点き室内が明るく灯される。

俺はどうやらあやせのベッドに寝かされていたらしい。身体を起こすと、目の前にあやせが立っていた。

京介「なんでこんな時間に俺はここに居るんだ? どうも良く憶えてねーんだけど」

あやせ「身体は大丈夫ですか? どこかに違和感はありませんか?」

京介「いや、特に問題は無いと思うが。……なんか違和感はあるな。ちょっと全身がゴワゴワしてるような」

あやせ「そうですか。ちゃんとしっかり拭き取ったつもりなんですけど、やっぱり寝ている人が相手だと自分の身体のようには上手くできませんね」

京介「悪いな、なんか寝ちまってたみたいだ。もう遅いし帰るよ」

あやせ「待ってください」

京介「なんだ? あやせの親も遅くまで男が居たら心配するだろ」

あやせ「その点はご安心ください。今日は両親ともに遅くなるので、今はわたしたちだけしかこの家にいません」

京介「そっか。でもあんま男を遅い時間まで部屋に上げとくもんじゃねーぞ? 俺は紳士だから大丈夫だけど、あやせは魅力的だから他のヤツなら襲ってるかもな。もっと自分を大事にしてくれ」

あやせ「わたしは魅力的なんですね、ありがとうございます。だけど、もう手遅れですよ?」

京介「は? 何が手遅れなんだ?」


あやせ「……お兄さん、眠る前のことを憶えてますか?」

京介「いや、桐乃の事で呼び出されたはずだけど、どうも途中からハッキリしないな」

あやせ「なぜ記憶がハッキリしてないかと言いますと、わたしがお兄さんにそういう効果のある睡眠薬を飲ませたからです」

京介「はあ? 冗談にしちゃ笑えないぞ」

あやせ「お兄さんに振られ桐乃にも捨てられたわたしは不眠症に悩まされることになりました。だからお医者さんに診てもらって強めのお薬を出してもらってるんです」

京介「……俺にも責任の一端があると? だから徒に睡眠薬を飲ませたのか?」

あやせ「憶えてないならもう一度言いますね。わたしは、桐乃が世界で一番大事にしているお兄さんを壊しました。後は証拠を桐乃に送れば、必ず日本に帰ってきてくれます」

京介「待て、話が繋がっていない。もっとちゃんと説明してくれ。あと俺を壊すってどう言う意味だ」

あやせ「桐乃を日本に呼び戻すために、あの子が何よりも守りたかったモノをわたしは壊そうとしました。そのためにお兄さんに睡眠薬入りのお茶を飲ませて、お兄さんが昏睡してる間に、大事なモノを壊しました。だからもう手遅れなんです」

京介「話が抽象的過ぎてサッパリ理解できねーよ。おまえはいったい何を壊したんだ!?」

あやせ「これも憶えていないでしょうからもう一度言いますね。わたしはどんな手を使ってでも好きな人をつなぎ止める。わたしの好きな人は、もちろん桐乃と――京介さん、あなたです」

言いながらあやせが差し出したのはスマホ。その画面には。



俺にまたがる、全裸のあやせが写っていた。



京介「な、何だこれ!?」

あやせ「京介さんが寝ている間にわたしたちは結ばれました。わたしは京介さんに純潔を捧げ、京介さんもわたしに同じモノをくれました。これはその証拠です」

京介「おい、冗談だろ!? 冗談なんだよな、そう言ってくれよ!」

あやせ「最近のスマホってすごいんですよ。ちゃんと設定すれば動画を長時間録画してくれるんです。だから、わたしと京介さんの初めては全て記録に残してあります」

京介「……何で、何でこんな事をした! おまえ、自分が何をしたのか分かってるのか!?」

あやせ「わたしがなぜこんなことをしたのかについては、先ほど説明しましたよ?」

京介「……あやせ、スマホを貸せ」

あやせ「良いですよ。でも、既にデータは他の場所にバックアップしたので消しても無駄です」

京介「なんてこった……俺はどうすれば良いんだ……」

あやせ「あ、ほらここ、シーツに血の染みが残ってます。これもわたしが純潔を京介さんに捧げた証拠ですね」

京介「あやせ、おまえは平気なのかよ! こんなだまし討ちみたいな真似で無理やりセックスして!」

あやせ「京介さんと桐乃がわたしの傍にいてもらえるようになるためなら、どんな方法だって使います」

京介「くそっ! 黒猫になんて言えば良いんだよ……」

あやせ「京介さん、わたしの中には京介さんがいます。だから、もう黒猫さんとは会わないでください」

京介「はあ!? そんな事が出来る訳ない……おまえ、今なんつった」

あやせ「わたしの中には京介さんがいます。だから、もう二度と黒猫さんとは会わないでください」

京介「まさか……中で出したのか?」

あやせ「ええ、そのまさかです。わたしも経験が無いので本当に京介さんが絶頂に達したのか自信が無かったですけど、ちゃんと確認したらしっかり体内に精が残ってました。きっと妊娠してますね」

京介「…………マジかよ」

あやせ「黒猫さんに別れを告げるために会うことは許しましょう。だけどそれ以降はダメですよ? あなたはもうわたしのモノなんですから。ふふっ、ちゃんと責任取ってくださいね」




その週の土曜日。

今週もうちに来ると黒猫から事前に連絡があり、俺はそれを止めたかったのについに制止する言葉が出なかった。

黒猫「こんにちは、一週間ぶりね」

京介「……ああ」

黒猫「どうかしたのかしら? 随分表情が暗いわ」

京介「大丈夫だよ、ちょっと昨日夜更かししてさ。飲み物を用意するから先に俺の部屋に行っててくれ」

黒猫「分かったわ。お邪魔します」

静かに階段を上って行く彼女を見送りながら、俺は暗澹たる思いに支配されていた。



麦茶を入れたグラスを手に部屋に戻ると、彼女は定位置であるベッドに腰かけて俺を待っていた。

黒猫「ありがとう、頂くわ」

俺も腰を落ち着かせ、麦茶を一口飲む。くそ、全く味が分からねえよ。

黒猫「ねえ、本当に大丈夫なの? 体調が悪いのなら無理しないで」

京介「……いや、至って健康だよ。心配かけて済まない」

黒猫「謝る必要なんて無いわ。私は京介の、その、か、彼女なのだから」

たった一つの単語を口にするだけで赤くなる黒猫がとても愛おしい。愛おしかった。

しばらく俺たちはこの一週間で起こった小さな出来事を雑談しつつ報告し合った。


黒猫「そろそろ冬コミの予定を考え始めないといけないわね。今度沙織を交えて話をしようと思っているのだけれど、どうかしら?」

京介「……そうだな」

黒猫「なら明日、は沙織の都合を聞かないと分からないわね。来週に秋葉原で良い?」

京介「……」

黒猫「……ねえ京介、無理をしているのなら私にちゃんと話して。心配しなくてもあなたが休んでいる間に勝手に帰ったりはしないわ」

黒猫はこんなにも俺を想ってくれているのに、それをこれから壊さなきゃならないなんて、どんなクソッタレな現実だよ。

神経を摩耗させながら、それでも俺は俺の望まない言葉を発した。

京介「瑠璃」

黒猫「な、何かしら。急に我が仮初の名を呼ぶなんて、あなたには良くない兆候だわ」


京介「別れよう」

黒猫「え……」

ああ、言ってしまった。

黒猫「な、何を言っているのかしら? 私の耳に先程有り得ない言葉が飛び込んで来たような気がしたのだけれど」

京介「俺たち、別れよう」

黒猫「……ふ、ふふ。あなたにしては上手な冗談ね。全く笑えないわ」

京介「冗談で、こんな事が、言えるかよ」

黒猫「ふざけないで頂戴。いくらなんでも性質が悪すぎるわよ」

京介「俺はもうおまえとは付き合えない」

黒猫「……冗談なのよね? ねえ、今ならまだ笑えない笑い話として沙織にも披露出来るわ。だから、早く冗談だって言って」

京介「……」

黒猫「……」


京介「別れよう」

黒猫「厭よ」

京介「俺だって――いや、なんでもない。聞き入れてくれ」

黒猫「別れる理由が無いわ。あなたが急にこんな事を言い出すなんて、何かあったに決まっている。説明しなさい」

京介「……他に、好きな人が出来たんだよ」

相手は妹の親友。確かにあの子は俺の好みにドンピシャな美少女で、もしも交際出来たらなんて妄想をした事もあった。だけど今の俺は黒猫と付き合っているんだ。こいつが俺の一番なんだよ!

それでも、俺にはこんな下手な理由付けしか出来なかった。

黒猫「そう。京介に私よりも好きな人が出来たと言うのね」

京介「そうだ」

黒猫「嘘ね」

京介「嘘じゃない、本当だ」

黒猫「私にも、田村先輩程の精度は無いけれど真実を見抜く目が備わっているわ。あなたの嘘なんてすぐに看破出来る」

京介「……本当だ」

黒猫「では仮に真実だとしましょう。あなたが私よりも好きになる相手がこの地に居ると言うのかしら? 可能性があるのは桐乃だけよ。でもあの子は今ここに居ない」

京介「桐乃じゃない」

黒猫「ではやはり嘘ね。今ならまだ赦すから、先の発言を撤回して頂戴」

京介「あやせだ」

黒猫「っ」


京介「俺はあやせと付き合いたい。だから瑠璃、俺と別れてくれ」

黒猫「……なぜ今になってあやせと? あなたはキッパリとあの女を振ったのでしょう?」

京介「先日偶然出会った時に話が盛り上がって、前から憧れていた気持ちが再燃した。今では瑠璃、おまえよりも彼女の方が――」

黒猫「嘘よ!」

俺の台詞を遮る黒猫の叫び声は、滅多に聞けないものだった。同じレアなら良い場面で聞きたかったな。もう叶わないだろうけどさ。

黒猫「そんな浅薄な言葉をあなたの口から聞きたくないわ。はっ、私よりあやせの方が好きですって? 本当に……本当に笑えない冗談だわ」

俺だって今すぐに冗談だったと言いたいさ! だけど、もうそれは無理なんだよ!

黒猫「京介、あなたはあやせに騙されているか、何か強要されているのではないのかしら? でないと、あなたが簡単に心変わりをする訳がない」

京介「……瑠璃、これを見てくれ」

黒猫「!!」

彼女の眼前にあるのは、あやせから送り付けられてきた、あの時の写真の一枚。黒猫がごねた時に使ってくれとのメッセージに添えられていたが、本当にこんな使い方をするなんて考えてもいなかった。

黒猫「これは、これは一体どう言う事なの! 説明して!」

京介「見たまんまだ。俺はあやせを抱いた。だから、もう瑠璃とは付き合えないんだ、ごめん」

黒猫「謝らないで! なぜこんな事をしたのか説明して!」


ああ、言わなくちゃいけないのか。俺は用意していた決定的な言葉を口にする。

京介「瑠璃はいつまで経ってもセックスさせてくれそうになかったしな。だから俺は、俺を好きでいてくれてセックスも出来る新しい彼女と付き合う」

黒猫「そ、そんなの……」

茫然と呟く彼女からは、常に感じられていた妖気の如き生命力が失われていた。

京介「俺とあやせは相思相愛で、既に身体の関係も持った。だからさ瑠璃、分かってくれ」

黒猫「ク、ククク――良いわ。ならば、今世に顕現せし我が肉体を闇の伴侶たるあなたに差し出す事にしましょう。それなら条件は互角。現に付き合っている私の方が有利とも言えるわね」

京介「やめろ。おまえにそんな大それた真似は出来ない」

豪華なドレスを脱ぎだそうとしていた彼女の腕を取る。

黒猫「離して! 私たちは恋人同士なのだから、これこそが自然の成り行きでしょう! あなたが拒む理由などないわ!」

いくら俺を振りほどこうとしても、非力なこいつでは到底無理だ。

黒猫「離してよ……離して……」

艶やかな長い黒髪を乱し、悄然として俯く彼女の紅い瞳には涙が溢れている。一も二もなく拭き取ってやりたい衝動に駆られるが、もう俺にそんな資格などなかった。


……。

京介「不義理な男で済まない。せめてもの落とし前だ、いくらでも殴ってくれ」

黒猫「い、イヤ……イヤよ……。あなたが居なくなったら、桐乃も日本に居ない今、わたしにはもう何も無いのよ。何でもするから私を捨てないで……お願いだから……」

京介「瑠璃、おまえは強い女だ。俺たちと出会うまではちゃんと出来てたんだろ? それに沙織が居るし家族だって居る。おまえは一人じゃないんだ。だからもう俺の事は忘れて新しい次の出会いを――」

黒猫「やめて! 私は京介しか愛せない。あなたからならどの様な命令でも受け入れるわ。何でもする。今すぐ裸になって表に出ろって言うならそれすらも実行する。あやせよりもずっとあなたに尽くせる自信があるわ……だから、私を捨てないで。お願いします……」

京介「ごめん、俺はあやせを選んだんだ。だから瑠璃をもう恋人として見る事は出来ない」

黒猫「……」

京介「おまえが以前に言っていた『闇猫』だっけか? あれになって俺を怨んで呪ってくれていい。収まらないならどんな復讐に出たってそれは仕方ないと思ってる」

黒猫「そんな事、もう出来る訳ないじゃない……。私は京介と愛し合う事を知ってしまった。恋人同士に災いをもたらす復讐の天使に、今更クラスチェンジする力など、もう私には残ってない……」

京介「そうか」

あえて突き放すような口調で黒猫の精神を削る。あの強がりな彼女がかつて宣言していた闇猫への位階変更を放棄する程のショックを受けているんだ。後一押しで全てが終わるだろう。

ああ、俺は何て屑野郎なんだ。今すぐ自分を全力でぶん殴ってやりてえよ。

黒猫「……ねえ京介、もう無理なの? 今からやり直す事は出来ないの?」

京介「ああ、無理だ。出来ない」

黒猫「……………………そう」

今まで聞いてきた中で、最も空虚な「そう」だった。

これで俺と黒猫は完全に切れてしまった。みたび合わさる事は無い、そう確信出来る断裂。

黒猫「帰るわ。先輩、今までありがとう」

京介「ああ、楽しかったよ。俺こそありがとう」

黒猫「……さようなら」




『どうなりました?』

京介「ちゃんと別れたさ。これで満足かよ」

『そうですか、約束を果たしてくれたんですね。やっぱり京介さんはわたしが思っていた通りの、正しいことを為せる人です』

京介「俺を罠に嵌めた張本人が何を抜け抜けとぬかしてやがる」

『あまり乱暴な言葉を使わないでください。品位が落ちますよ?』

京介「睡眠薬を盛って眠らせた相手をレイプした女が言えた事じゃないな」

『ああするしか方法が無かったのであれは緊急避難に該当します。それに、どのような経緯であったとしても別れたという結果は結果です』

京介「あんな事をされて俺の気持ちがおまえに向くと思っているのか?」

『はい。京介さんは昔からわたしに入れ込んでましたから、今はちょっと拗ねてるだけでその内に前のようにわたしを愛してくれるようになります』

京介「随分と都合の良い世界に生きてるんだな。そんな簡単に人の気持ちが変わるかよ」

『ふふ、怒らないでください。京介さんはもうわたしのモノになったんですよ? もうすぐ桐乃も加わります。三人でならきっと楽しい毎日が送れます!』

京介「俺の心も身体も俺のものだ。唯一自由にできるはずだった人物は、誰かさんの奸計によって俺の手から永遠に失われてしまったけどな」

『なるべくしてなったんです。運命を受け入れてください』

京介「ふざけるなっ! 俺は女に手を上げない人間だと思ってたけど、いま目の前におまえが居たら躊躇なく殴ってしまいそうだ!」

『DVは犯罪ですからやっちゃダメですよ? 京介さんは父親になるんですから、産まれてくる子のためにも正しい人物でいてください』

京介「おまえと家庭を築くつもりなんてさらさら無い。だからそれはDVですらない、ただの暴力だ。暴行罪でも何でも適用されれば良いさ。それでも俺はおまえを選ばない」


『もう、強情な人ですね。あまりワガママばっかり言ってると……桐乃が大変なことになりますよ?』

京介「やめろっ! これ以上俺たちの周りの人間を不幸にするつもりかよ! 桐乃に何かあってみろ、俺はおまえを絶対に許さないぞ!!」

『わたしが桐乃に危害を加えるはずがありません。もちろん先程のは冗談ですよ。でも、京介さんがあまりにもわたしをないがしろにするのなら、うっかり手が滑るくらいは起こるかもしれませんね』

京介「……頼むからやめてくれ」

『あっ、良いことを思い付きました。桐乃の顔に傷でも付いたらもう二度とモデルのお仕事はできませんよね? ついでに足も怪我したら陸上で留学することもなくなります。これってずっと桐乃が日本に居てくれることになりますよね!?』

京介「やめろ! お願いだから、俺なら何でもするから桐乃には手を出さないでくれ!」

『ですから冗談です。わたしは桐乃が京介さんと同じくらい大事なんですから、美しい桐乃の肌に傷を付けることなんて絶対無理です。そう、わたしでは無理です』

京介「他の誰にだってやらせるな! 俺のことなら好きにして良いから、俺が桐乃の分までおまえの相手になるから、桐乃に何もしないでくれ……」

『分かりました。今の会話は全て録音していますので、編集して京介さんの決意を露わにしておきますね』

京介「そこまでやるかよ……」

『安心してください。それは、あくまで京介さんが自分で語った決意を見失った時に、それを思い出してもらいたい時にだけ使う物ですから』

京介「くそっ、好きにしろっ!」

『だから乱暴な言葉遣いはダメですよ? 京介さんがわたしのモノであるように、わたしは京介さんのモノなんです。どちらかが堕ちたらいずれ互いに貶め合うことになります』

京介「俺は俺だ、誰かの物になんてならない。だがな、今のおまえは物ですらない、ただの肉の塊に醜悪な精神が乗り移っているだけの存在だ」

『わたしはただ純粋に、一途に京介さんと桐乃を想っているだけですよ? こんなにも美しい感情があるなんて、自分でも驚いています』

京介「勝手に言ってろ。話をするだけ無駄だったみたいだな。桐乃に手を出さないって約束は守ってくれよ?」

『もちろん、京介さんが自分で言った決意を見失わない限りは大丈夫です』

京介「くっ」


『それでは、明日の午前十時までにうちに来てください。桐乃を迎えるための計画を練りましょう』

京介「はあ!? 俺が桐乃の分まで相手するって言っただろ! 桐乃には好きにやらせてやってくれ!」

『明日十時ですから、必ず守ってくださいね。それではお休みなさい』

俺の要請に応える事はなく、電話は一方的に切られた。

どうする、どうすれば良いんだ。このままだとあいつは本当に桐乃を日本に呼び戻すだろう。

今のあいつは危険過ぎる。いくら親友だからって桐乃を会わせる訳にはいかない!

こんな時に相談出来る相手なんて、沙織しか……。

京介「無理に決まってるだろ……」

黒猫が自ら破局した事を沙織に伝えるとは考えにくいが、聡いあのお嬢様の事だ、すぐに気付かれるだろう。

そして、展開を失敗すれば俺は大切な友人をまた一人失ってしまうかもしれない。それは嫌だ!

誰にも相談出来ないなら俺一人の力で何とかするんだ。

まともじゃないあの女に対抗するのに、俺がまともなままだと無理だ。

邪悪に対しては、善良であるかあるいは同質の邪悪でなければ呑まれるだけだ。俺は既に善ではないから、悪になるしかない。

なるほど、互いに貶め合うとはこんな具合なのか。上手い事を言いやがる。

京介「見てろよ! 絶対に桐乃だけは守り抜いてみせる!」

例え因果が逆だろうと、太陽が輝き続けるために、影となる。それが黒猫を捨てた俺の果たすべき贖罪だ。




翌日、俺は律儀に新垣家に赴きあやせの部屋へと通された。

そして今、俺とあやせは彼女のベッドの上で重なっている。

吐息と嬌声と性の匂いとあらゆる体液が混じり合った濃密な空間で、俺たちは絡み合い貪り合い、ただし求めるのは一方通行で、ただただ繋がっている。

俺の腕の下に想像の中で何度も犯したあやせの美しい裸体があるのに、身体は刺激に反応するが心はまるで満たされない。

あやせと初めて交わった時の記憶は勿論無い。云わば今日が俺にとっての初体験みたいなもんだけど、感慨などどこにも存在しなかった。

あやせ「ふっ……ぁ……京介、さん……んっ」

腰の動きに合わせてあやせの口から押し出される、劣情を催す息。なのに俺はそれを冷めた心でしか見られない。

もしもこの相手が黒猫だったら……俺はきっと正気では居られなかったんだろうな。

なぜ俺が今抱いているのはあやせなんだ。こんなにも愛している黒猫となぜ結ばれなかった。

そう、全てはこの女だ。こいつさえ、こいつさえ余計な事をしなければ俺は――

あやせ「……っ」

無意識に彼女の首に両手が掛かる。知らず力がこもる。腰の動きは止まらない。

あやせ「いい、ですよ……京介さんの、好きなように、してくださいっ」

下半身からせり上がってくる快感を抑制しようともせず、ガクガクと震える腰をそれでも暴力的にあやせの秘部に打ちつけ、両手は理性からの制御を離れ力を増す。それでも頭だけは冷静だった。

あやせ「ふふ、素敵っ、です……このまま……わたしを京介さんのモノに、して、くださいっ。永遠に……!」

そして俺は今日何度目になるか分からない、精の奔流を彼女の膣奥へと解き放った。


気が付いたら両手は彼女の首から離されていた。




あやせ「これだけ中に出されたら、間違いなく妊娠しますね」

首筋に赤く俺の手形を残しているのに、気にした風もなく楽しそうにあやせが言った。

あやせ「でも残念でした。あとちょっと京介さんが手の力を抜くのを遅くしてくれれば、わたしの魂を永久に京介さんに刻み付けられたのに」

彼女の感覚は未知のものなので俺にはまるで理解出来ない。

あやせ「とりあえずシャワーを浴びちゃいましょう。今日も両親は遅いので遠慮する必要はありませんよ」

言いながら床に降りるあやせ。その太ももを、つう、と白濁した液が伝い落ちる。

あやせ「あ、京介さんの子種がこぼれてしまいます。えっと……」

ティッシュを股間にあて、ショーツを履いて蓋をしたつもりなのだろう。AVなどでありそうなシチュエーションだけど、やはり俺の心に訴えるものは無かった。

あやせ「すみません、先にシャワー浴びてきますね。それとも一緒にお風呂にしますか?」

京介「一人で行ってくれ」

あやせ「はい。しばらく一人にしちゃいますけど、あまり部屋の中を物色しないでくださいね」

そして着替えを持って彼女は階下に降りて行った。




俺はぼんやりとしたままあやせの戻りを待ち、そして入れ替わって身体を清める。

たっぷり時間をかけ汚らわしい毒を綺麗に洗い流した後、彼女の部屋に戻ると掃除と換気とシーツの交換が済まされていた。

俺は無言で床に腰を下ろし、あやせの反応を待つ。

あやせ「ふぅ。一応これで痕跡は残ってないはずです。わたし的には問題ないんですけど、まだ両親に知られるのは早いと思いますから」

俺が浴室に入っている間に用意したのだろう、テーブルの上には澄んだ香りをたたえたカップが並んで置いてあった。

あやせ「喉が渇いてますよね? 遠慮なくどうぞ」

だが、先日の事があったのにあやせの出す物を口に入れられる訳がない。

あやせ「大丈夫ですよ? 今から桐乃を迎える計画を話し合うんですから、変な薬は入ってません」

京介「信用できない」

あやせ「そうですか? 残念です」

まるで残念がってない表情で言ってのけるあやせ。

あやせ「それではこれからのことですけど、まずは桐乃を日本に呼び戻さないといけません」

京介「その事だけどな、俺が居るなら桐乃は居なくても大丈夫だろ? 移動だけで負担になるし、わざわざ戻さなくても良いんじゃないか?」

あやせ「わたしはお二人と一緒に生きていくと決めましたから。だから京介さんだけでは足りません。桐乃がいて初めて完成するんです」

京介「俺が桐乃の分までカバーするとしてもか?」

あやせ「ダメです。京介さんが二人分の愛情をわたしに注いでくれるなら話は別ですけど、今の京介さんでは一人分にも届いてません」

京介「……」


あやせ「京介さんの心はまだ黒猫さんに向いたままです。その想いを全てわたしに与えてくれてようやく一人前ですから、現状では無理ですね」

京介「なら……黒猫の事は忘れる、ように努力する。そしておまえを黒猫より強く愛する。それじゃ駄目か?」

あやせ「わたしが欲しいのは二人分の愛情ですから、黒猫さんの分だけじゃ足りません。桐乃への愛まで全てわたしにくれますか?」

京介「桐乃は肉親だ。簡単に切り離せるもんじゃない」

あやせ「ですよね。なので諦めてください。京介さんだって桐乃が近くにいた方が嬉しいですよね」

そんなの言われるまでもない。でも桐乃は自分の意志で海外へと行ったんだ。俺は兄としてそれを応援すると決めた以上、そこを揺るがす訳にはいかない。

京介「俺が何でもするから、桐乃に迷惑をかけるのはやめてくれないか」

あやせ「わたしは桐乃のためを思って行動を起こすんです。桐乃がそれを迷惑に感じるなんてありえません」

京介「あやせ、おまえは桐乃のためと言いながら自分の事しか考えてない。それで桐乃の親友だなんてよく言えたもんだな」

あやせ「……いくら京介さんでも、わたしと桐乃の絆をバカにすることは許せません。今回は特別に見逃してあげますけど、次はありませんからね?」

京介「別に許して欲しいなんて言ってない」

あやせ「ふぅ、いいですか? わたしがその気になれば、簡単に京介さんを性犯罪者に仕立て上げることだってできるんですよ? ただそれをすると簡単には会えなくなるからやらないだけです」

京介「それは冤罪って言うんだ。絶対にやっちゃ駄目な事だ」

あやせ「でも、冤罪をかけられた方には多大な社会的損失が発生しますけど、かけた側には特に罰則はありませんから」

京介「おまえはもっと清廉潔白で公明正大なヤツだと思ってたんだけどな。失望したよ」

あやせ「京介さんと桐乃を失ったわたしは心の全てを壊したんです。わたしだけが不幸になるなんておかしいですよね? だったらみんな同じように不幸にならないと、それこそ不公平です」

こいつもう救いようがねえよ。あれだけ清く明るかったあやせの面影が、もうどこにも無い。


京介「俺を冤罪被害者にしたらおまえは桐乃に間違いなく嫌われるな。二度と会えないだろうが、それでも良いのか?」

あやせ「それは困りますね。どちらかだけならガマンもできますけど、二人ともと会えなくなるのなら、生きている意味がありません」

京介「おまえの偏執的な愛は、もはやただの狂気だな」

あやせ「そうですね、自分でもそう思います。わたしはもう正常じゃありませんから、京介さんも一緒に狂って、そんなわたしに付き合ってくださいね」

京介「……ああ、その覚悟はもう済ませたさ」

あやせ「あはは、ありがとうございますっ。ちょっとだけ心が通じ合った気がします!」

京介「さっきあやせは、どっちかだけ居ても我慢出来るって言ったよな」

あやせ「それは……確かに言いましたけど」

京介「じゃあ我慢してくれ。その代わり今の俺が出来る全力でおまえを愛する」

あやせ「分かりました、ではその言葉を先に証明してください。先程シャワーを浴びている間に少し精液がこぼれてしまったので、またわたしに注いでください。確実に妊娠できるまで、何度でもです」

京介「……ああ、分かった」

既に精力は限界近いんだが、ここで断って桐乃に何かをされるのだけは避けないといけない。

だから俺は、あやせを抱く。

あやせが狂っているのなら、俺も狂えばいい。ただそれだけだ。




あれから一ヶ月が経過した。

俺は、桐乃に危害が加えられないであろう事を盾に何度もあやせから呼び出しをくらい、そのたび請われるままにセックスした。

表面上は何も変えず、しかし裏では淫靡な爛れた生活を送り、俺の精神は日に日に摩耗していた。

麻奈実だけは俺の変化に何かを感じ取っていたようだけど、俺が言わないからか何も指摘せずに黙っていてくれた。

黒猫とは勿論会うのはおろか連絡も取ってない。沙織から何かしらのアクションがあるかもと身構えていた時期もあったけど、どうも黒猫は沙織にもひた隠しにしてるらしく、この一ヶ月で何も起こらなかった。



そして、あやせは生理が遅れているらしい。まあ、遅れているってか来ないんだろうな。あれだけ何度も生でやってて妊娠しない方がそりゃおかしいわ。

俺が父親になるのか? 何の覚悟もないままに? そして母はあやせ? 冗談キツイぜ。今のあやせにまともに子育てが出来るもんか。碌な事にならないに決まってる。

本当なら中絶手術を受けさせるべきなんだろう。産まれてくる子になんらの罪もないが、望まれてない子どもだと辛い未来しか見えない。

俺の身勝手な考えだってのは重々承知の上だ。そして母体にある程度の危険があり、また精神に失調をきたす可能性があると言われているのも調べて知っている。


それでもな、散々セックスをしておいてこんな事を言うのは最低最悪の卑劣な野郎だって分かってるけどさ、



俺は、あやせとの子どもなんて欲しくない。




そして転機を迎える。



その日、大学から帰った俺を待っていたのは、鬼の形相をした懐かしき我が妹だった。

会うのは七ヶ月ぶりくらいか?

元々群を抜いて可愛かったのに、さらに磨きをかけて前よりずっと魅力を増している……はずなんだけど、あまりにも面が般若すぎてよく分からねえよ。

京介「おまえ、なんでここに居るんだ?」

もしかしてあやせか? あいつ、約束を破って桐乃に何かしやがったのか!?

桐乃「場所変えるよ。あんたの部屋」

俺の質問に答えず桐乃はズンズンと重い足音を立てながら二階へ向かうので、後に続いた。

桐乃「……あんた、どーゆーコト?」

俺の部屋に勝手に入ると主の許可を得る事なく無断でベッドに腰かけ、足を組むと怒り心頭に聞いてくる。

京介「まずは久しぶりに再会したんだ、挨拶しようぜ。桐乃、おかえり」

桐乃「チッ――ただいま。これでいいでしょ。さっさとあたしの質問に答えて」

京介「何について聞かれてるのか分からん。あと、なんでおまえがそんなに怒ってるのかも分からない。そしてなぜおまえが日本に戻っているのかも分からないな」

桐乃「とぼけないで! あたしがここにいるのは、親友のピンチを救うために決まってるでしょ!」

親友……。桐乃がこう呼ぶ相手は、俺の知る限り黒猫とあやせだけだ。
そして今、桐乃が日本に戻ってまで何とかしようとしている相手となれば、それはきっと。


桐乃「沙織から連絡があったよ。あんた、また黒猫と別れたんだって? 頭おかしいんじゃないの!?」


桐乃が言うにはこんな感じだった。

沙織が黒猫と会っている時にその変調に気付いたが問うても理由を教えて貰えないので、原因は俺にあると見て電話をかけようとした。

そこを黒猫がやめて欲しいと泣きながら懇願し、一つだけ、と別れた事を告白した。

俺を直接問い質したい沙織だったが黒猫の必死な様子を見て踏みとどまり、桐乃に解決の糸口でいいから探って欲しいと連絡をした。

俺と黒猫が破局したと知った桐乃は、居ても立っても居られず直近のチケットを取って日本に最短で戻ってきた。

相変わらずの行動力だぜ。



京介「そうだな、俺は頭がおかしい」

桐乃「何を開き直ってるのよ! なんで!? あんたと黒猫、あんなに好き合ってたのにワケ分かんない!」

京介「……俺が悪いんだ。黒猫の他に好きな人が出来た」

言い終わった瞬間、見えない角度から強烈な平手打ちが飛んできた。

バチン、と狭い室内に音が響き、息を荒げた桐乃が俺を睨み付ける。

桐乃「サイテー。その好きになった人のために黒猫と別れたんだ」

京介「そうだ」

桐乃「そりゃ人を好きになるのなんて、自分じゃどうにもならないコトくらい分かってるよ。あたしがそうだったんだから!」

京介「ままならないよな」

桐乃「だから開き直るなっつーの! でも、あんたは黒猫と付き合ってたんだから、いくら好きな人ができたからって黒猫をもっと愛するように努力しなきゃダメだったのに!」


京介「俺だって、それが出来たらどんなにか良かったと思うよ」

桐乃「それはあんたの努力が足りてないだけよ!」

京介「それは違う。努力だけじゃどうにもならない状態に陥ってたんだ」

桐乃「はあ? じゃあその状態ってのを言ってみなさいよ。聞いてあたしが納得できる内容だったら沙織にも伝えとく」

京介「……あまり言いたくない」

桐乃「それが通ると思ってんの? わざわざ日本にまで戻ってきたのに、手ぶらで報告できるワケないっしょ。キリキリ白状しなさい!」

京介「……そうだな。黒猫には別れる時に教えてるし、おまえたちに知られても今さら変わらないか」

桐乃「どんな内容だって、あたしたちの関係は変わらないよ。そんなの分かってたコトでしょ」

京介「いや、これを聞いたら少なくとも俺とおまえの関係は前のままじゃ居られなくなる。どう転んでも悪化しかしないだろうな」

桐乃「え……ちょっと待って。そんな脅しでごまかすつもり?」

京介「いや真実だ。俺と、いま付き合ってる相手と、そして桐乃。全てがおかしくなるだろうよ」

桐乃「待って! なんであたしが関わってくるのよ。もう黒猫を苦しめてるのに、まだそれだけで終わらないっての!?」

京介「桐乃、おまえは気付かないのか? 俺が黒猫と別れてまで付き合おうとした相手に心当たりが無いか?」

桐乃「そ、そんなの分かるワケな…………まさか。まさか! あ、あ、あや――」

京介「ああ、俺はあやせとセックスをした。それが黒猫と別れなきゃいけなくなった理由だ」




怒りにより前後不覚に陥った桐乃だったが、時間の経過で多少の理性を取り戻せたようで、すぐさまあやせに電話をかけた。

桐乃が日本に帰っている事をまず伝えると、あやせはうちに来ると告げ、そして本当にあっという間にやって来た。

あやせ「はぁ、はぁ……桐乃、おかえり……はぁ、はぁ」

桐乃「……」

京介「とりあえず玄関じゃ何だし、俺の部屋に移動しよう」

……。

あやせ「――ふぅ、落ち着いた。桐乃、改めておかえりなさい。会いたかったよ」

桐乃「ん」

あやせ「桐乃? どうかしたの?」

京介「あやせ、実はな」

桐乃「兄貴は黙ってて。あたしから話す」

あやせ「もしかしてわたしに会いたくて日本に戻って来てくれたの? だったら嬉しい。わたしも桐乃に話したいことたくさんあるんだ」

桐乃「……あやせ、兄貴と付き合ってるのってほんと?」

あやせ「うん、そうだよ?」

桐乃「っ」

反射的に手を振り上げる桐乃の腕を、ガシッと掴む。

桐乃「なにすんのよ! 離して!」

京介「落ち着け。頭に血が上った状態じゃまともに話なんて出来ないぞ」


あやせ「桐乃、なんでそんなに怒ってるの? わたしと京介さんがお付き合いしてるのを祝福してくれないの?」

桐乃「できるワケないでしょっ! なんであやせが兄貴と付き合ってるのよ! あんた兄貴に振られたじゃん! なんで黒猫と別れさせて、人の恋人を奪ってそんなに平然としてるのよ!」

あやせ「それは、わたしが京介さんのことが大好きで、どんな手を使ってでも手に入れたかったからだよ」

桐乃「略奪愛なんてまともな人のするコトじゃないっ! あやせ、あんた身体を使って兄貴を落としただけでしょ! そんなの真実の愛じゃない!」

あやせ「何が真実かなんて、誰にも分からないよ。わたしはいま京介さんと一緒にいられてとても幸せ」

桐乃「あやせが割り込んだ結果、黒猫が毎日辛い思いをしてるのに、よくも幸せなんて言えるわね!」

あやせ「好きな人を奪い合うのは仕方がないことだし、それにわたしたちみんなで宣戦布告し合ったじゃない。だからこれはあくまであの時の戦争の結果。勝ったのはわたしで、負けたのが黒猫さん、それだけだよ」

桐乃「で、でも! あやせは振られてその後に黒猫が勝ったんだから、あやせのはルール違反じゃん! おかしいよ!」

あやせ「……ねえ桐乃。桐乃はわたしが京介さんと付き合うのに反対なの?」

桐乃「当たり前でしょ!」

あやせ「それって、わたしよりも黒猫さんの方が大事だから?」

桐乃「は? 何でそうなるの。あたしにとってはあやせも黒猫も、どちらも大事な親友。どっちにも本当は幸せになって欲しいケド、それが無理なら兄貴とちゃんと付き合ってた黒猫を応援するしかないじゃん」

あやせ「そう……。桐乃は黒猫さんの側に付くんだね」

京介「あやせ、勘違いするな。桐乃は勿論おまえだって大事だ」

あやせ「でも今回桐乃が帰ってきたのって、わたしでも京介さんのためでもなくて黒猫さんなんだよね? うーん、ちょっと計算間違えちゃったかなぁ」

桐乃「あやせ? 何を言ってるの?」

京介「おいあやせ、やめろ」


あやせ「まだ京介さんの心は完全にわたしに向いてないし、邪魔な黒猫さんには退場してもらわないとダメかなぁ」

京介「やめろ!! 下手な事をしてみろ、俺がおまえを殺すぞ!!」

桐乃「え……二人とも何言ってんの……」

あやせ「そうですか。いつだったか京介さんに殺され損ねましたから、それも良いかもしれませんね」

桐乃「あやせ……?」

あやせ「でもね桐乃。桐乃にはいつでもわたしの味方でいて欲しいんだ」

桐乃「さっきからなんなの? ワケ分かんない。二人であたしを騙そうとしてるの?」

あやせ「京介さんはまだ完全にわたしのモノにはなってないから、桐乃にはそのお手伝いをして欲しいの。だったら京介さんはわたしのモノになるし、桐乃はずっと日本にいてくれるし、黒猫さんに余計なことをする必要もない。これって一石三鳥だよね!」

京介「あやせ、俺はおまえとの約束を守って、ちゃんとおまえだけを愛したぞ。今さら黒猫に手を出すような真似はしないでくれ」

あやせ「でも桐乃が日本にいる間は京介さんがわたしに従う理由がないですから、やっぱりそれなりの保険はかけておかないと」

桐乃「従う? 保険?」

あやせ「京介さんがね、わたしと付き合うのが嫌だって言うから桐乃の安全を担保にわたしの言いなりになってもらってたんだ」

桐乃「……は?」

あやせ「でも桐乃は今京介さんの手が届く場所にいるから、そうなると別の担保が必要になるでしょ? だから、桐乃以外で一番京介さんの弱点になる黒猫さんを、新しい担保にするの」

京介「やめろ! お願いだからやめてくれ! 何でもするから、黒猫にだけは手を出さないでくれ!」


あやせ「何でもするって約束はもう何度目でしょうか。でも、今のわたしには間に合ってますから」

そっとお腹に手をあて優しく微笑むあやせ。これだけを見ると以前の正常な時のようだけど、実際はご覧の有様だ。

桐乃「なんなの、その、お腹に手をあてて……まるで……」

あやせ「うん、ここにいるよ、京介さんとわたしの赤ちゃん」

桐乃「!」

桐乃は腰が抜けたようにその場にへたり込んだ。

あやせ「ふふ、きっと元気な赤ちゃんだよ。無事に産んでみせるから桐乃もずっと傍で見守ってくれると嬉しいな」

京介「あやせ。黒猫の事を見逃してくれるなら赤ちゃんを産んでも良い。今すぐには無理だけど結婚しても良いし、認知もする」

あやせ「わたしたちの愛の結晶なんですから一緒に育てるのは当たり前です。もしかして京介さんは、わたしにこの子を堕ろしてもらいたかったんですか?」

京介「……黒猫に手を出さないでくれるなら、喜んで一緒に育てる」

あやせ「そうですか。京介さんはこの子を産むのに反対なんですね。でもそうなると困りました。せっかく授かった新しい生命をこの世界から消すのなら、それに見合っただけの代償が必要になると思うんですよ。例えば、黒い毛並の野良猫が一匹くらいは必要かもしれませんね」

京介「やめろ!! 俺は産むなら産んで良いから黒猫には関与しないで欲しいって言ってるだけだ!」

あやせ「産むかどうかを決めるのはわたしですから京介さんでもどうこうできる権利はありません。だから、その提案は意味がありません」

京介「じゃあどうすれば良いってんだよ……」

あやせ「ですから、担保には担保としての価値がありますので、桐乃さえ京介さんの気持ちを動かすお手伝いをしてくれれば全てが丸く収まります」

桐乃「あたしが……」


あやせ「京介さんがわたしを心から愛してくれて、桐乃が側にいて、赤ちゃんが産まれる。これでグチャグチャになってたわたしの人生でも、やっと人並みな幸せが送れるようになれます!」

桐乃「あたしが協力すれば誰も不幸にならないの?」

あやせ「うん、そうだよ。黒猫さんが今悲しんでるのはどうしようもないけど、それは時間が解決してくれる。だから桐乃さえわたしの傍にいてくれれば、もう大丈夫」

桐乃「そうなんだ。あたしが……」

京介「おい桐乃、しっかりしろ! そんな訳ないだろうが! この女は頭がおかしいんだ、そんなヤツの言う事を真に受けてどうするんだよ!」

桐乃「……あ。……今あたし何を……?」

あやせ「未来の妻にひどいことを言いますね。でも
わたしも京介さんも同じくらい狂ってますから、もう今さらです」

桐乃「チッ、しっかりしろあたし! ……待って、兄貴とあやせが同じなんて絶対無い。あやせはしばらく会わない内にずいぶん悪い方向に変わっちゃったみたいだケドね」

あやせ「桐乃まで何を言ってるの。わたしがおかしくなったのは本当だけど、それは桐乃のせいでもあるんだからね?」

桐乃「さっきあたしの安全を担保にして兄貴を言いなりにしてたって言ったよね。あたしの生活にどう干渉するつもりだったのかは知らないケド、それはもういい。ただ、あやせがおかしくなった原因があたしにあって、兄貴をおかしくした事由にもあたしがいる」

あやせ「うん。ついでに言うと、一番最初に京介さんと交わった時にも桐乃からメールが来たから、なんてウソをついて利用しちゃったかな」

桐乃「そんなコトまで……。結局、あたしの存在が全ての元凶ってコトなんだね」

あやせ「ううん、それは違うよ。桐乃はキッカケをくれただけ。わたしはそれを最大限に利用したにすぎない」

桐乃「今はそーゆーのいいから。元凶であるあたしは決めたよ。あたしがやらないといけない」

先程まで危うい部分が見えていた桐乃だったが、今は従前より力強く輝きを放っていた。

桐乃「兄貴を狂ってるって言ったあやせを許さない。ケド、あやせはあたしの大事な親友。黒猫も大事な親友。おかしくなったあやせには前みたく戻ってもらうから。そして黒猫には元気を取り戻してもらう」

あやせ「……ふーん」


桐乃「見てなさい! やると決めたらあたしはやるよ! あやせをまともな状態に戻して、全員に謝ってもらうかんね!」

あやせ「ふふ、桐乃はやっぱり素敵だね。でもわたしの心はもう壊れてしまったの。桐乃が一番大事にしてた京介さんを壊したのはわたし、京介さんと黒猫さんのつながりを壊したのもわたし。そんなわたしなのに桐乃は前みたいに戻してくれるって言うの?」

桐乃「えーそうよ。あたし一人じゃ無理でも、それならみんなの力を集めて何とかする。いい、覚悟してなさいあやせ! 絶対あやせを正気に戻して、全ての落とし前をつけてもらうよ!」

いつだったか誰かが言ってたっけな。桐乃はお日様、あやせはそれを受けて輝くお月様みたいだって。太陽の輝きが増す程に月もまた明るく輝く。俺は、こんなどん底の状態なのに、またお天道様の下を歩けるようになれると期待して良いんだろうか?

あやせ「分かった。そのために桐乃が日本にいてくれるなら、わたしはそれがどんな理由でも歓迎するよ。だってそれって、桐乃がわたしのために日本に戻ってきて、わたしのために動いてくれるってことだもんね!」

桐乃「あやせのためだけじゃないケド、そう思ってくれていいよ。だからあたしがあやせを見ている間は、黒猫を担保にするとか物騒なコトは言わないで」

あやせ「……うん、いいよ」

桐乃「よしっ。それじゃ悪いケドあやせはもう帰って。あたしは兄貴に相談があるから」

あやせ「せっかく久しぶりに会ったんだし、桐乃が向こうでどんなことをしてたか聞きたいな」

桐乃「それはまた時間を作るから。約束する。だから、今日はお願い、ね?」

あやせ「うん、約束してくれるなら分かった。今日は帰るね」

桐乃「うん、バイバイ」

あやせ「バイバイ、また今度。京介さんもまた今度です」

京介「あ、ああ。じゃあな」

あやせが部屋から出ていき、やがて玄関からも気配が消える。それを待って、さらにしばらく気持ちを落ち着けるための時間を作り、俺たちは対面した。

京介「桐乃、ありがとう……。俺さ、もうどうしていいか分からなくて、本当に、どうしたらいいのか分からなくてさ……」

桐乃「あたしが関わってたんだから相談なんてできなかったろうケド、それでもやっぱ頼って欲しかったかな」

京介「悪い」

桐乃「たーっぷり反省してよね! だけどこのパーフェクトな妹が帰国した以上はもう大丈夫よ! ありとあらゆる手段とコネを使って、兄貴の邪魔をするモノは全部排除してみせる!」

京介「へっ、さっきはもうちょっとであやせに呑み込まれる所だったくせに」

桐乃「ふん、それだけ言える元気があるなら問題ないね。明日は兄貴にもがんばってもらうから、今から気合い入れててよ!」

京介「明日は土曜だよな。何があるんだ?」

桐乃「そんなの決まってるでしょ! ――全員集合よっ!!」



こんばんは、今日は以上となります。


ここまでで全体の25%くらいになります。無駄に長くてごめんなさい。


それでは、また~。



秋葉原の集合場所に近付くと背の高い沙織の姿がすぐに確認出来た。そして、その横に居る人物を視界に入れ、俺の心臓は跳ね上がる。

黒猫「な、なんで……」

沙織「きりりん氏、お久しぶりでござる。ご健勝なようで何よりですな。そして京介氏にはたくさん言いたいことがありますので覚悟をしていてくだされ」

桐乃「うん、久しぶりだね。夏休みに沙織が会いに来てくれて以来だから三ヶ月くらいぶりになるのかな? んで、あんた」

黒猫「な、何かしら」

桐乃「あいさつもできないの? 会わない間にずいぶんと礼儀を忘れちゃったみたいね。あたしはちゃんと帰ってきたよ」

黒猫「――フッ。あなたこそ私に挨拶をしていないじゃない。私には礼節を守る心が正しく備わっているわ。傍若無人な誰かさんと一緒にしないで頂戴」

桐乃「どこでもゴスロリなあんたには言われたくないっつーの。でも、まあ――ただいま、かな」

黒猫「ええ、お帰りなさい。無事で健康で居てくれて良かったわ」

桐乃「ふふん、あたしクラスになると地球上のどこにいたって元気百倍よ!」

沙織「さすがはきりりん氏ですな」

桐乃「さって、あたしのターンは終わり。次は分かってるよね、兄貴、黒猫」

黒猫「ぁ……」

京介「……黒猫」

黒猫「っ」

反射的に顔を逸らす彼女だったが、なけなしの勇気を総動員したのだろう、ゆっくりと俺に向き直った。

黒猫「な、何かしら。別れた彼女にノコノコと会いにくるなんて、とんだ厚顔無恥な輩も居たものね」

京介「そうだな、俺はおまえを裏切って酷く傷付けた。会わせるツラなんてどこにもねえ。それでも俺は……ずっと、おまえに会いたかったよ」

黒猫「何を――今更! 今更になってそんなすがり付きたくなるような心地良い言葉を吐かないでっ!」

京介「……そうだな。おまえの気持ちも考えないで悪かった」

桐乃「はいはい、再会シーンなのに痴話ゲンカするなら一旦そこまでね~。ここじゃ詳しい話ができないし、場所変えるよ!」




他人に聞かれたくない話だったので、アキバのカラオケルームに移動した。

ここには良く来ている気がしたけど考えてみたら初めてだったな。これが既視感ってヤツか。

桐乃「よーし、そんじゃあたしが帰ってきてから得た情報を披露するわよ! で、まず大前提として、黒猫!」

黒猫「な、何よ」

桐乃「あんたは兄貴と別れる必要なんて無い」

黒猫「!」

沙織「それは一体どういうことでござろうか」

桐乃「全部全部あやせの策略だったってコトね。順番に説明していくよ――」



沙織「うーむ。あのあやせ殿がそのような卑劣な手段を用いるとは考えにくいのですが」

桐乃「つっても、現に被害者がここにいるし」

黒猫「あの女が……。許せない……」

沙織「しかし、今の情報が真実であるとして、既にあやせ殿は身籠っているのでござろう? 厳しいことを言いますが、そんな状況下で京介氏と黒猫氏がよりを戻すのは難しいのではないですかな」

桐乃「最大のネックはそこよね。後は、今のあやせは京介を手に入れるためにならどんな卑怯な方法だって選択できるから、それを止める策も欲しい所ね」

京介「あやせ的には俺だけじゃなくて桐乃も手に入れたい対象だけどな」

桐乃「あたしはいざとなったらまた日本を出るだけだから別にどーでもいいし。今あやせに絡め取られてるのは兄貴なんだから、そこを何とかしないと安心できないよ」


沙織「ふむ、現状は分かり申した。それで、京介氏はどのようにされたいのですかな」

京介「俺は……都合が良いとは分かってるけど、出来ればまた黒猫と付き合いたい。俺はまだ黒猫を愛しているんだ」

黒猫「京介……」

沙織「しかしその場合、あやせ殿とそのお子はどうするつもりでござるか? 経緯がどうであろうとも、産まれてくる子に罪は無いでござるよ」

京介「これを言ったらみんなには軽蔑されるだろうが、俺はあやせに子どもを産んで欲しくない。出来れば堕胎して欲しいと思っている」

桐乃「……ま、そーなるよね」

沙織「ううむ。中絶に関しては難しい部分が多すぎて何とも言えないでござるよ」

京介「現実的な話をするなら、まず俺とあやせの社会的地位を考えると結婚は早すぎる。そして金がない。親の許可が得られるとは思えない。今のまともじゃないあやせに子育てが出来るとは思えない。そして何より、俺は、あやせの子どもを愛せる自信がない」

桐乃「半分は自分の血が入ってるのに最後のそれは無責任じゃない?」

京介「あやせがどれだけ俺を求めてくれていても、俺からあやせを求めた事は一度もない。俺はあやせに対して憎しみしか持ってないんだよ」

桐乃「妊娠させるほどエッチをしといて、ほんっと男って都合が良い生き物だね」

沙織「そこの部分については、先のお話ですときりりん氏を人質に取られていたようなものですから、京介氏としては従わざるを得なかったのでしょう」

桐乃「むぅ。でもあたしは海外にいたんだし、人質としての確実性には欠けるよーな」

沙織「それについては何かしらの方法があったのかもしれませんが、それよりも、仮にきりりん氏が対象になり得なければ恐らく次に狙われたのは麻奈実殿であったと思われます」

京介「なんだとっ!?」

沙織「例え話ですから落ち着いてください。京介氏にとっては黒猫氏やきりりん氏が何にも代え難い大切な存在でありましょうが、麻奈実殿はそれに近しい存在でありますから可能性としては充分に考えられるでござるよ」

桐乃「なるほど。結果はどの道一緒だったってコトなのね」


京介「……ま、そんな訳でだ。俺は黒猫と一緒に生きていきたい。あやせとは縁を切りたい。あやせには子どもを産んで欲しくない。こんな所だ」

黒猫「先程から私の意志を無視して話を進めているわね」

桐乃「何あんた、京介のコトはもう好きじゃなくなったの? それだと全ての前提が崩れるんだケド」

黒猫「ふざけた事を言わないで頂戴。私は今も、そしてこれからも死ぬまでずっと、ただ京介だけを愛しているわ」

京介「黒猫……俺は身勝手な事ばっかりしてる最低なヤツなのに、そこまで言って貰えて嬉しいよ。ありがとう」

黒猫「ふん」

沙織「おやおや黒猫氏は相変わらずの恥ずかしがり屋さんですなあ。それでは、黒猫氏の意志とは何にあたるのでござるか?」

黒猫「私は、あやせの出産を止めるのは無理だと思っているわ」

桐乃「なんで!? あんたが一番怒って反対しなきゃいけないのよ!」

黒猫「狂おしい程に愛している人との間に出来た子どもを、あやせが手放す訳がないでしょう。あの女ならばそれこそどのような手段を使ってでも産もうとするでしょうね」

沙織「子どもが産まれましたら、今度はそれを盾に取って京介氏に関係を迫ってくると思われますが」

黒猫「そこについては難しいわね。当然認知を請求してくるでしょうし、拒めば裁判を起こされるでしょう。DNA鑑定の運びになれば逃れる事は不可能だわ」

桐乃「ダメじゃん」

黒猫「だから私は、京介が責任を放棄する事を望まない。究極的に、二人が結婚しても仕方がないと思っているわ」

京介「いや、それは」

黒猫「私は愛人で良い。それでも京介が私を一番に愛してくれるなら生きていける」

桐乃「そんなの悲しすぎるじゃん……」

黒猫「勿論あやせが正気に戻って認知を請求せずに、一人で子どもを育てていくのが一番望ましいわね」


桐乃「もうさ、こうなってるんだからいっそのコト黒猫も妊娠しちゃえば? それなら互角だし」

京介「おいおい」

黒猫「莫迦な事を言わないで。私達はまだ学生の身分なのよ、早すぎるわ。それに……」

沙織「それに?」

黒猫「は、恥ずかしいじゃない……」

桐乃「うっわー、なんつー純情。……ん? ちょっと待ったあ!」

黒猫「何かしら」

桐乃「いちおー確認なんだケド、恥ずかしいのって周囲から妊婦さんだと見られるから、なんだよね?」

黒猫「なぜそれを恥に思わなければいけないのかしら。次代を担う新しい生命を宿しているのよ、むしろ誇るべき事柄だわ」

桐乃「あちゃ~。ってコトはさ、あんたたちってまだエッチしてないんだね」

黒猫「……その様な見解が存在する可能性も無きにしも非ずだわね」

沙織「成程。拙者の中にあったぼんやりとした違和感の正体が判明しました」

桐乃「うん、あたしもずっとおかしいと思ってたんだ。今でこそ妊娠してるケド、最初にあやせと生エッチ決めたからってだけで黒猫と別れて付き合うなんていきすぎだって思ってた」

沙織「京介氏と黒猫氏は未だ性交渉を行っておらず、だからこそ京介氏は責任を取るべきであると判断したのでござるな」

桐乃「はぁ、大した責任感だよね。眠っててエッチした記憶なんて残ってないのにそこまでしようとするなんて」

京介「今でこそ軽はずみだったと思えるけど、あの時はそんな余裕なかったからな。いきなりセックスした事実だけを突き付けられて別れを強要されて、混乱した俺はそれに従うしかなかった」

桐乃「なっさけない。追い込まれたら後先考えない謎パワーで暴走する普段の兄貴はどこに行ったのよ」

沙織「京介氏が暴走するのは基本的に人のために行動する時ですからなあ。予測できない突発的なアクシデントに遭遇しパニック状態に陥るのはきりりん氏も同じでござるよ。さすが兄妹と見るべきですかな」

桐乃「あたしのコトはいいから。つまり、二人の間に確固たるつながりがないから簡単にグラつくのよ。付き合い始めてもうすぐ一年なのに、なんで何もしてないのかなあ」


京介「人にはそれぞれのペースってもんがあるんだ。俺は、黒猫が極端に性的な事に弱いと知っているから、こいつの想いが俺に追い付くのを待ってただけだ」

桐乃「それは違う。黒猫には勇気と覚悟が足りなかったのと、エッチしなくても大丈夫っていう慢心があった。兄貴は、嫌われたくないから思いやりとか優しさとかを言い訳に逃げてただけ。だからあやせにつけ込まれたのよ」

黒猫「耳が痛いわね」

京介「確かに桐乃の言う通りかもしれないが、それは恋人同士の問題なんだからさ」

沙織「しかし一般的に一年近く何も無しというのは、いかにも長すぎるでござるよ」

桐乃「うん。だからさ、今日の話し合いはここまでにしとこ? 続きは明日ね」

京介「おいおい、まだ何も決まってないぞ」

桐乃「あんたたちは今日エッチするコト。これは命令よ!」

京介・黒猫『はあ?』

桐乃「いくらお互いに愛し合っていたって、確かなものがなくちゃ、いざって時に拠り所が無くて分解するだけよ」

京介「俺たちの気持ちはガン無視かよ」

桐乃「じゃあ兄貴は黒猫とエッチしたくないってゆーの?」

京介「そんなのずっとしたかったに決まってるだろ。男なんてそんなもんだ」

桐乃「黒猫は?」

黒猫「……あなたたちが知らないだけで、私達は何度かその様なチャンスに恵まれていたわ。ただ、私が恥ずかしがって未遂に終わっていただけよ」

沙織「つまり黒猫氏も同じ気持ちであると」

桐乃「んじゃ問題ないじゃん? 後押しする存在があればオッケーなだけだったのよ。それがあたしの役目ね!」

京介「い、いや。しかし……」

桐乃「はいはい決まり決まり。んじゃ沙織行きましょ。久しぶりだからアキバで変化があった所を案内して」

沙織「承知仕りました。では早速参りましょう。お二人とも、また明日でござる」

桐乃「んじゃーねー」

手を振りながら桐乃と沙織は部屋から出て行く。後に残された俺たちは呆気にとられたままだ。


ふと黒猫を見ると目が合ってしまい、慌てて逸らされる。今度はこちらに向こうとしない。

全身を真っ赤にした黒猫は本当に可愛くて俺は今すぐどうにかしたい衝動に駆られるが、まだそれをしていい状態じゃない。

京介「黒猫」

黒猫「は、はいっ」

京介「まずは謝罪させてくれ。俺の迂闊な言動でおまえを強く傷付けてしまった事を後悔している。本当に済まなかった」

黒猫「もうそれについては良いわ。あなたの想いがずっと私に向いていたと分かったから、もう大丈夫。だから頭を上げて頂戴」

京介「ああ。……もう俺はおまえを裏切らないと誓うよ。そしてもう一つ、言っておかないといけない大事な用件がある」

黒猫「……」

京介「瑠璃、もう一度俺と付き合ってください! お願いします!」

黒猫「……」

京介「都合の良い事を言っているのは承知の上だ。あやせと関係が切れてないから二股になっちまう。それでも俺は――」

黒猫「はい、私もあなたを愛しています。だから気にしないで頂戴。全てを分かった上で、それでも私はもう一度あなたと一緒に居たい」

京介「瑠璃……ありがとう……」

二人同時に歩み寄り、抱き合う。

黒猫「ずっとこうしたかった。やっと私のもとに戻ってきてくれたのね」

京介「もう離さないからな」

黒猫「ええ、今度こそ大丈夫だと安心させて欲しいわね。だから、まずはいつもの契約を履行しましょう」

そして俺たちは一ヶ月ぶりになるキスをした。




そして翌日。

昨日と違い、今日は俺の部屋に総勢六名が集まっていた。実に狭い。

え、昨日あれからどうなったのかって?

そんなの言える訳ねーだろ。当たり前だけどカラオケルールではヤらなかった、それだけだ。

桐乃「ね、ね、昨日あれからどうなったの?」

昨晩帰宅してからの桐乃の質問攻勢は実にしつこかったけど、俺がずっとだんまりを決め込んでいたから諦めて対象を黒猫にチェンジしたようだ。

黒猫「い、い、言える訳ないでしょう。常識で考えて頂戴」

沙織「どもっている所が如実に物語っているでござるよ。疑惑が確信に変わった瞬間とはこのことですかな」

黒猫「それはあなたが穿った目で見ているからに過ぎないわ」

加奈子「なんだー? まだ何もしてないならあたしが京介をもらっても問題なさそーだな」

麻奈実「もう加奈子ちゃん。二人は付き合っているんだから、変な事を言ったら駄目だよ?」

京介「ところで、なぜここに麻奈実と加奈子が居るんだ」

桐乃「そんなの兄貴とあやせの共通の知人だからに決まってるでしょ。今のあやせは強敵だから知恵を出せるのは少しでも多い方がいいし」

京介「それはそうかもしれないが……麻奈実はともかく、加奈子は大丈夫なのか? 口外しないって保証がなきゃ打ち明けられないぞ」


加奈子「なんだァ? あたしの評価って低いんだな。これでも口は固いほーだと思うぜ?」

京介「おまえは破天荒過ぎて何をされるか分からないからな」

加奈子「なんだヨ、まだライブ会場で告白したの気にしてんのか? あんなんフツーだってフツー」

京介「あんな普通があってたまるかっ!」

黒猫「待ちなさい。そこのメルルもどきが言った告白とは何の事かしら」

加奈子「あん? 加奈子には加奈子って立派な名前があるんだよ。オメーこそ何だ、野良猫だっけ?w」

黒猫「ふっ、以前にも名乗ったのに憶えていないとは矮小で愚かな存在。ならばとくと聞きなさい。我が名は黒猫、千葉(せんよう)の堕天聖よ」

加奈子「だwてんwせいwww」

黒猫「……そう。あなたには死すらも生ぬるいニヴルヘイムの暗黒の暴風雪と猛毒を与える必要があるわね」

沙織「まあまあ、ケンカはよすでござるよ。一度バーベキューで会っていますが、ここは改めて自己紹介すべきではないでしょうか」

麻奈実「うん、わたしは賛成」

加奈子「師匠がそーゆーなら、まあ加奈子もいいぜ」

桐乃「後で告白のコトはきっちり説明してもらうかんね!」




簡単な自己紹介を終え、流れで結局昨日と同じようにまた一連の騒動を説明した。

加奈子「へぇー。バーベキューのメンツにしちゃあやせがいないから不思議に思ってたけど、あやせがねえ。事務所で会ってもフツーだったから気付かなかったよ」

麻奈実「真面目で曲がった事が嫌いなあやせちゃんが、そんな犯罪行為を……」

加奈子「悪いことしてんなら、ケーサツに捕まえてもらえばいいじゃん?」

京介「友達を警察に、ってあっさり言えるおまえの精神力が怖いわ」

加奈子「だってヨー、あたしに禁煙を強制させた時のあやせってば、何がなんでも決まりは守らないとってめっちゃ怖かったんだぜ?」

まあ、それはそうな。以前のあやせは正義の執行者然とした立ち振る舞いで、しばしば周囲(主に俺)に自らのルールを押し付けていた。

そこには真に正しい事実に基づいた行動もあったし、中には思い込みによる暴走も含まれていた。

それでも、あやせは常に正しくあろうと頑張っていたんだ。

加奈子「そんなあやせが犯罪してるってんなら、やっぱちゃんとおしおきされなきゃな」

桐乃「実際にあやせが犯している罪って何になるのかな?」

沙織「ふむ。京介氏への強制わいせつ、脅迫、強要。すぐに思いつくのはこの辺でござろうか」

桐乃「強制わいせつ? 強姦罪にならないの?」

京介「それについては実は調べた事があるんだ。日本の法律では、女性が男性を無理やり犯したって強姦罪にならないんだよ。強制わいせつ罪は成立するな」

加奈子「違いが分かんねーよ」

京介「詳しい説明は省くけど、罰の重さが違う。強制わいせつは六ヶ月以上、強姦は三年以上の懲役だ」

麻奈実「結構違うんだねぇ」


桐乃「んじゃ強制わいせつとして、そこを突くにしても証拠がないとねー。兄貴、録音とかしてないの?」

黒猫「そう言えば、写真が……あんなおぞましい物は二度と見たくないけれど」

麻奈実「どんな写真なの?」

京介「眠っている俺を犯しているあやせが写っていた。だけど、あんなもんとっくに消してるよ」

加奈子「へー。どんなもんか見てみたかったな」

沙織「結果として残っているのはあやせ殿が妊娠したと言う事実だけでござるか。これでは犯罪行為を立証するのはほぼ不可能かと」

桐乃「警察に協力を要請して、通信記録からその写真を復活できないかな? そんで逆レイプされたって訴えるの」

黒猫「証拠を探す為に捜査して欲しいなどと言った理由で警察組織が動いてくれるかしら」

桐乃「お父さんに聞いてみよっか。何しろ本職だし」

京介「いや、それは最後の手段だな。親父に話した段階でもう止まれなくなってしまう。出来れば穏便に済ませたい」

加奈子「甘っちょろいこと言ってんなあ」

麻奈実「きょうちゃんは優しいから」

京介「そもそもあの写真一枚では逆レイプの証拠に成りえないだろうさ。通常は体液などを調べるらしいけど、もう一ヶ月も前の事なんだ。時間が経ち過ぎている」

加奈子「それに最初以外は京介も自分の意志でエッチしてんだろ? それってどうなんだろうなー」

沙織「強要罪の対象にはなるかもしれませんが、証拠がないことにはどうにもなりませんな……」

桐乃「もー、兄貴が頭を働かせてビデオとかレコーダーとかで撮っておけばこんなコトで困らないのに」

いや、待てよ。確かあやせが言ってたような……。


京介「証拠があるかもしれない」

黒猫「それは本当なの?」

京介「ああ。俺自身が目にした訳じゃないけど、あやせが言うには初体験の時の行為を録画していて、それが一つ目。桐乃を傷付けるって言うからそれなら俺が何でも言う事を聞くと宣言して、それを録音したってヤツが二つ目」

桐乃「あやせ……」

京介「一つ目の映像での立証はやっぱ難しいかもな。初回以外は普通にセックスしていて結果妊娠している以上、不起訴処分で終わりそうな気がする」

沙織「二つ目の録音については、きりりん氏への害意がはっきり収録されていれば充分な証拠になりますかな?」

加奈子「んじゃ、それを手に入れてあやせを脅し返せばいいのか?」

麻奈実「それじゃ言葉が悪いよ、加奈子ちゃん。訴えられたくないならもうみんなから手を引いて、ってお願いするの」

桐乃「今のあやせがそれでゆうコトを聞いてくれればいいケド」

沙織「まずは録音されたデータを入手して麻奈実殿の言う通りお願いしてみましょう。それでダメなら次の作戦を考えればよいのではないですかな」

加奈子「なーんかみんな甘いんだよなぁ。京介と桐乃の親父ってケーサツなんだろ? さっさと話して力を借りるのが一番だと思うんだけどなー」

京介「甘いのは言われなくたって分かってるよ。それでも俺は、可能性が低くたってあやせが元に戻ってくれる事を期待しているんだ」

桐乃「加奈子だってあやせが逮捕されたり刑務所に入れられたりとか、本当は嫌でしょ?」

加奈子「そりゃーまぁ。でもなー、悪いことしたんなら罰を受けないと世の中は回らないぜ?」

桐乃「加奈子が理知的なコトを言ってる……」

加奈子「どーゆー意味だよ。ま、いっちゃんの被害者の京介がそーゆーんなら、あたしは別にいいや」

京介「心配してくれてるんだよな、ありがとう加奈子」

加奈子「べ、べっつにー。そんなんじゃねーし!」


麻奈実「それで、あやせちゃんにお願いして駄目だったら次にどうするの?」

黒猫「昨日も言ったけれど、あやせが正気に戻って認知を請求せずに、一人で子どもを育てていくのが一番望ましいわ。だからその様な形になれれば良いわね」

加奈子「おかしくなったあやせは人の話を全然聞いてくれないし、ためこんでドカーンってするし、かなりやっかいだぜ?」

麻奈実「あやせちゃんのご両親に相談して、カウンセリングを受けてもらうのはどうかなぁ」

黒猫「いっそ精神病院に入院して貰うのも良いわね」

京介「それも警察に相談するのと共に最後の選択肢の一つだな」

桐乃「どんなにおかしくなってても、あやせは大事な親友だからやっぱり日の当たる場所にいて欲しいんだよね。加奈子のゆう通り甘いんだろうケド、それがあたしの思い」

沙織「で、あれば、可能な限り我々だけで動くしかありませんな。我々は未だ成人すらしていない未熟者の集まりでござる。理性的に事を進めて大局を見ながら物事を判断するなど到底無理でござるよ。ですから、未熟者は未熟者らしく感情に任せて無茶を通してみせましょうぞ」

黒猫「私達だけの力では無理だと分かった段階で大人を頼れば良いのね」

麻奈実「判断を誤って手遅れにならないようにしないといけないねぇ」

加奈子「まったく、あやせのせいでメンドクセーことになっちまったぜ。元に戻ったら何かで返してもらわねーとな」

桐乃「ん、そうだね。それじゃ元に戻すために必要なコトを考えましょ!」




とは言え、未熟者の集団である俺たちが甘い処置を目指しているんだ。決定的な意見が出る訳もなく、それぞれ持ち帰って後日再検討しようと言う流れになり本日は解散した。

桐乃は加奈子と積もる話があるみたいで一緒に家を出ていった。

だから残った俺と黒猫は、部屋で二人きりだ。

京介「やっぱ俺たちって思慮が足りてないよな」

黒猫「ええ、そうね。本当ならすぐにでも京介はお父さんに相談すべきだわ」

京介「そうなんだよなぁ……はぁ~」

黒猫「でも全員で知恵を出し合った結果、私達の力であやせを正道に戻す事こそが最重要だと確認出来たのだから、後はそれに向かって進むだけよ」

京介「その足がかりにするためにも、まずはデータを何とかして手に入れなきゃな」

録音データについては、あやせの部屋に入っても怪しまれない俺と桐乃に任された。

黒猫「無理はしないでね。京介にもしもの事があったら私も後を追うわよ」

京介「はいはい、溢れんばかりの愛が感じられて嬉しいよ」

黒猫「なんだかおざなりね。言っておくわよ、確かに私達はより深い契りを結んだけれども、それで私を自分のモノにしたと思っているのなら思い上がりも甚だしいわ。とんだ痴れ者ね」

京介「分かってるって、俺と黒猫は対等だ。どっちが上とか下とかない。強いて言うなら、互いが互いのモノだな」

黒猫「分かっているのなら良いわ」


京介「ああ。……それでだな、非常に言いにくいんだけど、あやせの部屋にデータを取りに行くなら桐乃よりも俺の方が向いてると思うんだよ。ただそのためには、あやせをもう一度抱かないといけない」

黒猫「……ええ、そうね」

京介「これを最後にするから、あやせの油断を誘うためにも許してくれないか?」

黒猫「京介が愛しているのは私だと既に身体に刻み付けられているから、それは構わないわ」

京介「そうか。済まない、そしてありがとう」

黒猫「勿論必要以上にベタベタしては駄目よ? キスは可能なら回避して。可及的簡素にお願いするわ」

京介「分かった。約束する」

さて、するべき会話は終わった。後は恋人同士のイチャイチャを楽しみたい所だけど、果たして黒猫は昨日の今日でオッケーしてくれるだろうか?

黒猫「何を考えているのか丸分かりだけれど、今日は駄目よ」

京介「う、そっか。残念だ……」

黒猫「一階には京介のご両親が居るでしょうし、何よりまだ、その、ちょっと痛むので……」

京介「えっ、まだ痛いのか? そっか、あやせの時は――あ、悪い。聞きたくなかったよな」

黒猫「あなたにデリカシーが欠けているのは今更だから気にしないわ。私も痛みと言うよりは違和感があると表現した方が正しいかしらね」

京介「何にせよ大事な彼女に無理はさせないさ。だったら今日は夕方までのんびりしようぜ」

黒猫「そうね。ただ、恋人同士のキスなら、その、何度でも出来るわ」

調子に乗って黒猫のあちこちにキスしまくった。

その後、帰宅した桐乃も交えて三人で談笑し、時間になったので以前のように黒猫を送り、彼女の家の前で別れの契約を果たした。




翌日、俺はあやせの部屋に居た。

昨晩の内にあやせにアポを取ろうと思っていたんだけど、今まで俺から誘った事なんて一度も無い。上手い言い訳が思い付かず悩んでいるとあやせの方から来て欲しいと連絡があったんだ。

後はいつもの様に愛の無いセックスをして、あやせがシャワーを浴びている間にパソコンを調べてデータを持ち帰れば良い。

あやせ「こんにちは京介さん。あれからどうなりましたか?」

京介「あれからとは?」

あやせ「とぼけないでください。桐乃が言ってたじゃないですか、わたしを戻すためにみんなの力を借りるって。みんなって、やっぱり沙織さんや黒猫さんですよね?」

京介「さあな。桐乃が何をしてようと俺は感知してない。だいたい別れた彼女と今さら会えるかよ」

あやせ「どうしてウソをつくんですか? 京介さんが桐乃を放置する訳ないじゃないですか」

京介「黒猫が居るかもしれない場所に俺が付いて行くと思うか? 有り得ないな」

あやせ「……そうですか。京介さんがそう言うのでしたら、今の所は信じてあげます」

京介「はいはい、ありがとよ」


あやせ「それでは――」

京介「ああ」

あやせ「なぜベッドに移動するんですか? わたしはエッチしようなんて言ってませんよ?」

京介「え」

あやせ「京介さんからその気になるのは珍しいので嬉しいですけど、妊娠初期段階ではエッチをしない方が良いらしいのでしばらくはお預けです」

京介「……マジで?」

あやせ「はい。元気な赤ちゃんを産むためにも、京介さんもガマンしてくださいね。あと一ヶ月くらいすれば大丈夫になるらしいので、それまで待っててください」

この展開は予想してなかったぞ、どうしよう。

あやせ「そんなに困った顔をしないでください。……分かりました。膣への挿入は駄目ですけど、ご奉仕で良ければ大丈夫ですから、京介さんがどうしても私を求めてくれると言うのならがんばります」

俺があやせを求める? ないない、それこそ有り得ないな。

と言いたいがそんな訳にはいかない。わざわざあやせからチャンスを作ってくれたんだから、これを活かすしか道はないだろ。

京介「じゃあさ、お願いしても良いか?」

あやせ「はい、分かりました。わたしも色々とエッチのことについて勉強したんですよ。男性が喜ぶご奉仕の種類に、手と口、胸を使ったものがあるみたいですけど、どれが良いですか?」

手だと狙い通りにはいかないだろうから、口か胸か……ってあやせはパイズリできるほど胸大きくねーだろ。

京介「フェラチオには大いに興味があるから、是非口で頼む」

あやせ「ふふ、京介さんは本当に変態なんですね。分かりました、初めてなので下手かもしれませんが一所懸命にご奉仕しますね」


ジーンズを脱ぎ捨てトランクス一丁になった俺はベッドに腰かける。そのまましゃがみ込んだあやせは俺の両足の間に割り入ってきた。

未知の刺激への期待感で、俺のペニスは若干だけ首をもたげるが本当に少しだけだ。そもそもあやせとのセックスに俺の愛は伴ってないので、直接的な刺激がなければ勃起しないんだよ。

あやせ「脱がしますね」

言いながら慣れた手つきで俺の下半身を完全に露出させるあやせ。かつては性的な雰囲気を匂わせなくてもセクハラだと過剰に反応していた子が、ここまで変わってしまうなんてな。

あやせ「京介さん、フニフニのままだとできませんよ? 硬くしてください」

京介「自分の意志では動かせないからな。あやせが何とかしてくれ」

あやせ「はぁ、本当にスケベで変態なんだから……んっ」

俺の股間に顔を近付けると舌を出し、そっとペニスに触れてきた。

チロチロと小さく動かされる舌から与えられる刺激に、俺の身体は少しだけ興奮し始めていた。

あやせ「えっと」

動きを止め困ったように俺を見るあやせ。どうもペニスが屹立していないとどうすれば良いのか分からないみたいだ。

京介「手も使ってくれ。優しく握って、ゆっくり上下に擦るんだ。弱い部分だから丁寧にな」

あやせ「はい。こうですか?」

怖々と言われたままにするあやせ。自分でするのと違って、いかにも圧が足りてない。

京介「もう少し強く握っていいぞ。……うん、そのくらいで頼む」

しばらく室内にあやせの漏らす息だけが響く。硬くなるにつれ、たまに摩擦で竿に痛みを感じるが、まあ仕方ないよな。

風呂場でならローション代わりにボディソープでも使えたかもしれないけど、風呂場でやると意味ねえし。

思い出したかのように時折舌の感触が加わり、あやせが懸命にしごき続けた結果ペニスはすっかり勃起した。


あやせ「これでもう大丈夫ですよね。では――」

そして本格的な口淫が始まった。

粘り気のある湿った音とあやせの苦しそうな声だけが聞こえる。

俺はより強い刺激を求めてあやせに指示を出し、あやせはそれに必死に応える。

何だろう、悪くはないんだけど、やっぱり違う。奉仕をして貰っているのに感謝の念は生まれず、自分の手でオナニーする時ほどの巧みさが無いのでイラつく部分がある。やっぱり俺は身勝手なままだな。

もしも今、俺のペニスを包み込んでいるのが黒猫の唇なら――

あやせ「んっ」

ちょっと黒猫にフェラチオをして貰っている場面を想像しただけで、マックス状態だと思っていたのに海綿体により血液が流れ込むのが分かった。

それを自分の成果だと勘違いしたのか、あやせは嬉しそうに微笑みながら口舌を使ってペニスを這い、舐め、吸う。

俺は股間に顔を埋めているあやせの姿に黒猫を重ね合わせ、一気に射精感を高めた。

あやせ「ん……ふっ……んぅ……」

一心不乱に顔を動かすあやせはとても妖艶であり、貞淑さの欠片も見えなかった。

そして、拙い技術でも効果はあるもんで、その後ほんの僅かの時間で絶頂を迎えた。

京介「くっ」

あやせに告げる事なくペニスを引き抜き、一気に射精する。


あやせ「えっ? あ……」

脈動に合わせて放出される精液をあやせの顔や髪、服装にかけてやる。それだけでは出尽くさないので手で擦って追い討ちを掛けた。

へっ、どうだ顔射してやったぜ!

いけ好かない女に一方的に精を吐きかけ俺は普段からの溜飲を下げる。実に余すところなく最低野郎だった。

あやせ「もう、いきなりひどいですよ。口の中に出してくれれば良かったのに。男の人はそっちの方が喜ぶんですよね?」

京介「悪いな、快感が凄くてつい腰を引いてしまったんだ」

あやせ「そうですか? たくさん感じてもらえたのなら嬉しいです」

京介「っと、拭いてやるから動かないでくれ」

ティッシュであやせの身体にまみれた精液をぬぐい取り、さり気なさを装って匂いを嗅ぐ。

京介「うーん、ちょっと臭うな。シャワー浴びてきた方が良いと思うぞ?」

あやせ「そうですね。髪にかかったし服も汚れちゃいましたからついでに着替えてきます」

京介「ああ、待ってるからゆっくり綺麗にしてきてくれ」

あやせ「はい」

着替えを取り出したあやせは俺を疑う事なく浴室へと向かった。




京介「んー、どこだ?」

持ち主に無断でパソコンを立ち上げるとすぐに探索を開始する。幸いアカウントにパスワードはかかっていなかった。

いつもなら行為後のあやせのシャワーは20分くらいかかるが、今日は本番をしてないから長くて10分て所か? 無駄に出来る時間は無かった。

エクスプローラを起動しライブラリフォルダを隅まで探すが、それらしいファイルは見付からない。

さて、どうする? やみくもに探したって発見は困難だろう。

こんな時は頼れるあの人の出番だ!

『Win7でござるか。そのパソコンにバックアップされているのが大前提となりますが、それでしたらまずエクスプローラを起動してください。そして右上にある検索ボックス内を――』

沙織大先生に指示されながら必死にマウスを操作する。

いくつかの行程を経て、検索結果がかなり絞り込まれてきた。

京介「やってみたら、数件ファイルが出てきた」

『数が少ないのでしたら、それらしい物を再生してみてください。総当たりですな』

順番に上から再生しようと一つ目のファイルをダブルクリックする。

するとパソコンから、薄っすらと聞き覚えのある会話内容が流れてきた。

京介「あった! これだ!」

『それは良かったでござる。では後はお任せしました』

京介「サンキュー! 礼はまた今度するからな!」

電話を切ると持参していたUSBメモリースティックを差し込みデータをコピーした。

あやせが戻ってくる気配は無い。何とか間に合ったな。



その後、五分程であやせは戻ってきたが、俺がパソコンを触ってた事には気付かなかったようだ。

ちなみにあやせが今日俺を呼び出した本来の用件は、親にいつ打ち明けるか、病院の候補選出、出産までの流れの確認などの相談だった。

さすがにそれを無碍には出来ないので、そこは真摯に考え、答えたさ。




次の日の夕方、平日だと言うのに前回のメンバーが全員集まってくれた。

『俺を罠に嵌めた張本人が何を抜け抜けとぬかしてやがる』

『睡眠薬を盛って眠らせた相手をレイプした女が言えた事じゃないな』

『ああするしか方法が無かったのであれは緊急避難に該当します』

『あまりワガママばっかり言ってると……桐乃が大変なことになりますよ?』

『京介さんがあまりにもわたしをないがしろにするのなら、うっかり手が滑るくらいは起こるかもしれませんね』

『良いことを思い付きました。桐乃の顔に傷でも付いたらもう二度とモデルのお仕事はできませんよね? ついでに足も怪我したら陸上で留学することもなくなります』

『やめろ! お願いだから、俺なら何でもするから桐乃には手を出さないでくれ!』

『わたしは桐乃が京介さんと同じくらい大事なんですから、美しい桐乃の肌に傷を付けることなんて絶対無理です。そう、わたしでは無理です』

『他の誰にだってやらせるな! 俺のことなら好きにして良いから、俺が桐乃の分までおまえの相手になるから、桐乃に何もしないでくれ……』

『分かりました。今の会話は全て録音していますので、編集して京介さんの決意を露わにしておきますね』

……。

加奈子「あやせ、ここまでやってたんかよ」

桐乃「兄貴……あたしのせいでごめんね」

沙織「これは京介氏を昏睡させて襲ったことと、きりりん氏を利用して京介氏を脅迫あるいは強要していた証明になりますな」

麻奈実「きょうちゃんをこんなに追い詰めるなんて、わたしも怒ってるよ」

黒猫「桐乃の命である顔や足まで狙っていたなんて、絶対に許せない」

京介「必死だったからその時の会話なんて憶えてなかったけど、酷いもんだよな」

沙織「京介氏のきりりん氏を想う心に拙者感動に打ち震えております。思わず惚れそうですな」

桐乃「なっ」

黒猫「だ、駄目よ! 京介は私のこい、恋人なのだから」

加奈子「あたしはまだ京介のこと好きだから、こーゆー時は惚れ直したって言えばいいのか?」

麻奈実「加奈子ちゃん、ちょっかいをかけたら駄目だよ~?」

沙織「はっはっは、ひとまず拙者の戯言は置いておきましょう」



桐乃「それにしても、よく兄貴の電話にすぐ対応できたよね。特定ファイルの検索くらいなら分かるケド、一から探し当てるのって大変じゃない?」

沙織「いやあ、電話がかかってくることはある程度予測しておりましたので、所有しておりますPCのOS毎にあらかじめ予習しておったのですよ」

加奈子「うっわ、メンドクセ」

麻奈実「きょうちゃんのためにそこまでやってくれてたんだねぇ。さっきの惚れるって発言も案外本気なのかな?」

黒猫「沙織、あなた……」

沙織「さて? 真実は神のみぞ知る、でござるよ」

京介「ともかく沙織のお陰で助かったのは間違いない。自力じゃ絶対無理だったよ。ありがとうな」

沙織「これも全てを元に戻すためでござるよ。お気に召されるな」

京介「気にするって。電話でも言ったろ、今度にでも何かお礼をするよ」

沙織「……わたくしの望みはただ一つです。今回の騒動が収束してきりりんさんがまた海外へ行かれましても、皆さんがずっと一緒であり続けることですわ」

桐乃「それは沙織だけの願いじゃないっての!」

京介「ああ、そうだな。言われるまでもないけど、その願いは必ず果たす」

加奈子「みんなの中にあたしと師匠って入ってないっすよねぇ」

麻奈実「ふふ、それはそれで良いんじゃないかな」

黒猫「この環に加わりたいのなら、まずはオタクになる事ね」

加奈子「うげえ」

桐乃「こら加奈子、うげえって何よ。うげえって」

加奈子「何で桐乃が怒るのさ」

桐乃「あ、あー。何となく、カナ?」

やれやれ。

その後、あやせをどの様に論破するか全員で流れをシミュレートした。




大まかなイメージが掴めた所で解散し、またも俺の部屋には黒猫と二人だけが残る。

黒猫「ねえ、やっぱり昨日はあやせと……したの?」

京介「んー。全部じゃないな、三分の一くらい」

黒猫「それでは分からないわ。きちんと説明して」

京介「そのさ、妊娠初期段階でセックスをするのは良くないらしくて、本番は無しって言われたんだ」

黒猫「そう」

あからさまにホッとする愛しの彼女はちょっぴりヤキモチ妬きだった。

京介「だから口で抜いて貰ったかな。風呂に入って貰わないと駄目だったから、わざとあやせの顔とか服にかけた」

黒猫「そう」

怒りを隠そうともしない愛しの彼女は結構ヤキモチ妬きだった。

京介「面白くない話だったろ、ごめんな。もうあやせを抱く事は無い、と良いなぁ」

黒猫「いいえ、聞き出したのは私なのだからあなたは気にしないで頂戴」

京介「めっちゃ怒ってるじゃないか」

黒猫「理性で納得しているからと言って、感情がそれに従うとは限らないわ」

京介「悪かったよ。俺が愛してるのはおまえだけだからもう怒るなって。黒猫は笑顔の方が可愛いんだからさ」

黒猫「ま、またそんな歯が浮くような台詞を臆面も無く。私を辱めて楽しんでいるのでしょう?」

京介「確かに赤くなった黒猫は可愛いけどさ、笑顔の方が良いってのは分かるだろ? むっつりと黙り込んでるよりずっと良い」


黒猫「……悪かったわね、無愛想な女で」

京介「いやいやそんなつもりじゃ無いって! ごめん、俺が軽率だった!」

黒猫「……」

京介「その、黒猫はどんな時でも可愛いぞ。本気でそう思っている。制服姿だろうが白猫だろうが神猫だろうが、全て愛してる!」

黒猫「……その言い方だと、まるで私の衣装しか見ていないようだわ」

京介「いやいや、中身大事! 中身がないと全く意味ないから!」

黒猫「――ふっ、冗談よ。あやせに常に先を行かれているようで気に入らなかっただけ」

京介「そこはまあ仕方ないよなぁ。でもこれからは黒猫としかエッチしないからさ、その内すぐに追い抜くって」

黒猫「たちまちは昨日の分を取り戻さないといけないわね」

京介「え、それって」

黒猫「……ええ、ここでは無理だから、帰りにでも、その、ホテルに寄りましょう?」

京介「昨日の分って事は?」

黒猫「言わせる気なの? なんていやらしい雄なのかしら……。分かるでしょう、その……ふぇ、ふぇら……口でする位なら私にだって出来るわ……多分」

フェラで切っても意味は通じるんだけど、まあ指摘する必要はないよな。

京介「よっしゃ! みなぎって来たぜ! 早速行こうな、親父から車借りてくる!」

黒猫「本当に分かり易い人」


五更家に送る途中にあるラブホテルでご休憩した。念のため丁寧に色々やって彼女に挿入したけどまだ痛がっていたな。女の子って大変だ。

彼女の家の前でいつもの契約を履行する。偶然出てきた珠希ちゃんに目撃されて色々質問されたけど、それはそれで楽しかったよ。




そして迎えるは決戦の日!!

最大目標は、あやせを改心させ俺たちから手を引いて貰う事だ。

桐乃が向こうでどんな事をしていたかあやせに話をすると約束していたので、それを利用して嘘のメールを送り我が家に来て貰った。



あやせ「桐乃、あっちではどんな生活なの? 学校は楽しい? お仕事は日本とどんな風に違うの?」

腰を下ろすなり一気に捲し立てるあやせ。かなり楽しみにしてたんだろうけど、生憎とおまえを楽しませるために用意した場じゃないんだよ。

桐乃「あやせ落ち着いて。今日は本当は別の用事があったから来てもらったんだ」

あやせ「?」

京介「あやせ、俺からおまえに要望がある」

あやせ「はい? 何でしょうか」

京介「別れよう」

あやせ「え……」

京介「もうあやせと付き合わない。これ以上おまえに合わせるのは無理だ」

あやせ「え、えと。何を言っているんですか? わたしと京介さんは愛し合ってるんですから、別れる必要なんてないですよね?」

京介「俺はおまえをこれっぽっちも愛していない」

あやせ「……え?」


京介「桐乃が人質に取られていたから仕方なく付き合っていただけだ。それはおまえだって分かってた事だろ?」

あやせ「でもそれって最初だけですよね? きっかけは強引だったかもしれませんけど、その後はわたしを妊娠させようと何度も何度も愛してくれたじゃないですか」

京介「俺が自主的におまえを抱いた事なんて一度として無い。俺は黒猫と別れた事を強く後悔していたから、全ての憎しみをおまえに向けていた。桐乃に危害を加えるなんて言うヤツをどうやって愛せるよ」

あやせ「そ、それは冗談だって言ったじゃないですか! わたしが桐乃を傷付けるなんて絶対ありません!」

京介「残念だけどな、俺はもうおまえの事を一ミクロンも信用してねえよ。信頼が無い所に愛情は存在しないんだ」

あやせ「それならこれから時間をかけて信頼を勝ち取ってみせますから、別れるなんて悲しいことを言わないでください」

京介「無理だな。もうそんな事が出来るレベルをとっくに超えてしまっているんだよ、おまえは」

あやせ「……本気で別れるつもりなんですか?」

京介「ああ」

あやせ「京介さんに処女を捧げて、たくさんエッチしてもらって、そしてお腹の中にはあなたとの赤ちゃんがいます。それなのにですか?」

京介「ああ」

あやせ「ふざけないでくださいっ! そんな無責任なことは許されません! 京介さんは父親として、この子を育てる義務があります!」

桐乃「ふざけてるのはあやせだよ。薬を使って無理やりレイプしたのに処女を捧げた? あたしを人質にして無理やりエッチをさせてたくせに、たくさんしてもらった? そんな理屈が通るワケないでしょ」

あやせ「桐乃は黙ってて! これはわたしと京介さんの問題なんだから!」

桐乃「思いきり人を巻き込んでおいて、よくもまあ言えたもんね」


あやせ「じゃあ桐乃は京介さんがわたしと別れようとしてることに賛成なんだ」

桐乃「あったりまえでしょ! あやせを改心させるのがあたしの今の目標だけど、それと無理やり兄貴に交際関係を強いているコトとは無関係だし」

あやせ「そっか……桐乃までそんなひどいことを言うんだ」

桐乃「ねえあやせ、前の優しいあやせに戻ってくれないかな? 今のままじゃダメだよ。元に戻って、それで改めて兄貴にアタックするならあたしは何も言わない」

あやせ「それは無理だよ。わたしの心はバラバラに壊れてしまったから、もう元には戻らない。それに、そのお陰で京介さんとの愛の結晶を授かることができたんだから、戻す必要も無い」

京介「だがな、おまえが今のままでいると言うのなら、俺はおまえを受け入れるつもりはないぞ。まずは壊れた心とやらを修復する挑戦をしてみないか?」

あやせ「そんなことをする必要はありませんし、そんな方法もありません」

京介「必要も方法もあるさ。効果があるかどうかは試してみないと分からないけど、まずはやってみようぜ? じゃないとおまえはこの先ずっと一人ぼっちだ」

あやせ「京介さんとつながりが持てて、やっと今の平穏を手に入れることができたんです。桐乃も帰ってきてくれた。それなのにお二人がまたわたしを捨てると言うのなら、もう治すことは不可能です」

京介「捨てるかどうかはあやせの返事次第だな。おまえが正常な状態に戻ろうと努力するなら、その協力はする。まともになってくれればあるいは新しい関係が築けるかもしれないけど、今のままじゃ絶対無理だ」

あやせ「じゃあ、わたしが元に戻る努力をするなら、京介さんはわたしと別れずに傍にいてくれるんですね?」

京介「側には居るさ」

あやせ「恋人として、夫として、ですよね?」

京介「……いや、それは無理だ」


あやせ「発言に整合性がありませんよ。京介さんはわたしに元に戻って欲しいから協力してくれるんですよね? なのに、傍にいるのに恋人じゃないなんて、おかしいです」

京介「恋愛関係じゃなくたって側に居る事は出来るだろ。別れた後も、あやせは俺の友達で桐乃の親友に変わりない」

あやせ「わたしと京介さんは桐乃を挟まなければ何のつながりも無かったんですよ。友達なんかじゃありません、ただの知人でしたから」

京介「なら今日から友達になってくれ。それなら別れてもずっとつながりが残るだろ?」

あやせ「京介さん、忘れたんですか? わたしのお腹の中には絶対的な絆が存在してるんです。どれだけ京介さんが拒否しても、それを否定することはできません」

京介「子どもの存在を否定する気なんて全く無いが、その話は後にしようぜ。まずはあやせが正気を取り戻すつもりになってくれないと先に進まない」

あやせ「恋人じゃなくなって友達として傍にいるから、心を正常に戻す努力をしろ、と言っているんですよね?」

京介「そうだな」

あやせ「ご自分が父親になるという重要なファクターを無視して、それでは筋が通りません。無理です」

京介「おまえが努力を放棄するなら、俺も桐乃もおまえから離れるだけだ」

あやせ「それも父親である京介さんには不可能な選択です。あなたには産まれた子どもを扶養する義務があるんですから」

くそ、厄介だな。あやせの手中には絶対的な切り札があり、彼女はそれを使う事をいとわない。

しかし今のあやせに、俺には結婚の意志は無く子どもと一緒に暮らすつもりも無い、と告げたらどんな暴挙に出るか分からない。

さて、ここからどうやって話を持っていこうか。


桐乃「あやせいい加減にして。あんたは黒猫と付き合ってた兄貴を自分勝手な思いだけで破局させて自分のモノにしようとしたんだよ。筋が通らないって言うのなら、そっちのがよっぽど通ってない」

あやせ「でも妊娠はわたし一人だけじゃできないんだよ? 男性がその気にならないとエッチはできないんだから、京介さんがどんな考えでわたしを抱いていたにせよ、そこには合意があったと見なされるもの」

桐乃「あやせがしたのは強制わいせつと脅迫とか強要だよ。犯罪を犯しながら罰を受けず、自分の利だけを要求するなんて間違ってる」

あやせ「自分が生きていく上で幸福を追求するのは憲法で認められた権利だし、それにわたしがしたのは例え話とお願いだから、犯罪なんて何もしてない」

桐乃「表情一つ変えずによくそんなコト言えるね。そんなに平然とウソをつくようじゃどうしたって信頼は得られないよ」

あやせ「どうして桐乃はそんなひどいことを言うの? わたしは桐乃に何もしてないよ?」

桐乃「あんたはあたしの一番大事な人たちをメチャクチャにしたじゃん! あたしに直接何かしたよりも、よっぽどそっちの方が許せない!」

あやせ「そっか。桐乃も京介さんと同じで、わたしを捨てるんだね」

桐乃「あやせが自分を取り戻して反省してくれるなら、あたしたちはずっと親友だよ」

あやせ「戻るのはもう無理だし反省することなんてないよ。そっかぁ、わたしを愛してくれるのはこの子だけなんだね……」


桐乃「――あのさあ、こんなコト本当は言いたくないんだケド」

あやせ「何?」

桐乃「それって、本当に兄貴の子どもなの?」

あやせ「……どういう意味?」

桐乃「行きがかり上兄貴の子どもにしてるだけで、本当はそこら辺を歩いてた行きずりの男とエッチしてできた子じゃないの?w」

京介「おい、桐乃」

いいから任せて、と振り向いた桐乃の目が語っていた。


桐乃「あ、自分から男にまたがって腰を振るような淫乱女だから、もしかしたら他にも何人かキープしてたりトカねw」

あやせ「……ふざけないで。いくら桐乃でもわたしの京介さんへの愛情を穢すことは許さない」

桐乃「そういえば母子手帳とか一切見せてもらってないしぃ、妊娠自体がウソだったりしてねw あ、想像妊娠の線もあるかな?w」

あやせ「うるさいっ!! わたしの中には京介さんの赤ちゃんがちゃんといる! ウソなんてついてないっ!」

桐乃「ウソついて兄貴を手に入れて、自分は悪いコトしてないってまたウソをついて、だったら赤ちゃんだってウソだよね~www」

あやせ「黙れえっ!!」

激高したあやせは制止する暇もなく桐乃に殴りかかるが、予測していたのだろう。そうでなくても桐乃の運動神経はあやせのそれの比ではない。悠々と回避していた。

桐乃「なぁに~? 反論できなくなったからって今度は暴力ぅ? うっわ、あやせってばサイテー」

あやせ「う、うるさあいっ! わたしはウソなんてついてないっ! 京介さんと愛し合ってできた子どもなんだからっ!」

桐乃「ウソ乙~w 兄貴はあやせのコトなんて好きじゃないってさっきゆってたじゃん? あやせのそれはただの思い込みだよ、妄想とか普通に引くのでやめてよね~w」

あやせ「そんなことない! そんなことないっ! 京介さんはわたしにたくさんの愛を注いでくれたんだから! 桐乃さえ帰って来なかったらずっとわたしのモノだったのにぃっ!」

桐乃「あれぇ? あやせは兄貴と同じくらいあたしが大事ってゆってたのに、そんなコトゆーんだ?」

あやせ「そうだよっ! 桐乃がいなければ京介さんはわたしを愛し続けてくれたんだから! 桐乃が、桐乃なんていなくなればいいんだっ!!」

京介「おいあやせ――」

桐乃「そんなコトできるワケないっしょ。兄貴はあたしが大好きなんだから、あたしがいなくなったらまともじゃいられなくなっちゃうよ」

あやせ「わたしがいるから大丈夫だよ! わたしが京介さんの支えになる!」


桐乃「ふん、あやせじゃ無理ね。以前のあやせならともかく、今のあやせじゃ兄貴の側に立つ資格なんてない」

あやせ「『ただの妹』の桐乃にこそ、そんなこと決める資格なんてない! わたしは京介さんの恋人なんだから邪魔しないで!」

桐乃「ただの妹ってゆーケド、『他人』のあやせじゃ入り込めない絆があたしたちの間にはあるんだから、あやせこそ邪魔しないで」

あやせ「他人じゃない! 京介さんからもらった命と一緒にいる!」

桐乃「そーね、子どもはそうだね。でもあやせはしょせん他人だよ。どうにもならない。仮に結婚しても離婚すればすぐ他人。でもあたしは死ぬまでずっと兄貴の妹。分かる?」

あやせ「分からないっ! さっきから桐乃は何が言いたいの!?」

桐乃「んじゃもう一度言うよ。以前のあやせならともかく、今のあやせじゃ兄貴の側に立つ資格なんてない。だから、自分を変えるつもりがないなら、ウソの赤ちゃんと一緒にどこかへ消えて二度と現れないで」

あやせ「なっ、なにを……!」

桐乃「先にあたしがいなければいいって言ったのはあやせなんだから、怒るのは筋違いよ。ウソつきのあやせはまた兄貴にウソをつく。だからもうあたしたちには関わらないで」

あやせ「きょ、京介さんっ、わたしは京介さんに全てをさらけ出してますよね、ウソなんてついてないですよね!?」

京介「それは」

桐乃「あやせ、いま話をしてるのはあたしなんだから兄貴に逃げないで。ウソつきで弱虫のあやせは兄貴に相応しくないから、大人しく黒猫に譲ってあげて」

あやせ「ダメぇっ!! 京介さんが愛してるのはわたしだけ! 抱いていいのもわたしだけだから、それはダメ!!」

桐乃はなぜこうまであやせを追い詰める真似をしているんだろう。先日みんなに協力して貰ってあやせの思考をトレースした上でシミュレートしてみたけど、既にその時に想定していたパターンから完全に逸脱している。

逆上したあやせが何かしでかさないように細心の注意を払っておかないとな。


桐乃「あやせがダメって言ったって、兄貴と黒猫は愛し合ってるんだから止められないよ。負け犬あやせはさっさとどっかに行ったらぁ~?」

あやせ「そんなの絶対許さない! 赤ちゃんができたのはわたしなんだから、あんな女なんかに渡さないっ! わたしたちは三人でずっと一緒に暮らすんだから!」

桐乃「無理ね。逆レイプや関係を強要してできた子どもなんて面倒みる必要はないもん」

あやせ「父親には必ず扶養義務が発生するのを知らないの!?」

桐乃「モチロン知ってるよ。でも今回みたいに犯罪行為で妊娠した場合なら、裁判を起こすコトになるでしょーね」

あやせ「裁判なんて必要ない! 義務は果たさないとダメって決まってる!」

桐乃「あやせが強硬手段に出たのがいけないんだから、こっちだってそれなりの対応はさせてもらうし。あたしたちには味方が大勢いるケドあやせは一人ぼっちだよね。がんばってw」

あやせ「証拠もないのにそんな無駄な裁判なんてする必要ない! わたしと京介さんは互いが望んで結ばれたんだから!」

桐乃「ふん――証拠ならあるよ。兄貴、アレやっちゃって」

あやせ「え……?」

あらかじめ準備しておいたので、桐乃に促されて即座に例の音声ファイルを流す。


あやせ「これは……いつの間にこんなの……」

桐乃「分かるでしょ? 兄貴とあやせのやり取りだよ。これだけでもあやせの不利は免れないでしょうね」

あやせ「……」

桐乃「あやせだって子どものためを思ったら裁判で揉めたくないでしょ? 大人しく身を引いて。あやせが自分を治そうと思うようになるまでは兄貴に会わせないよ」


あやせ「……わたしに何をしろって言うの」

桐乃「自己啓発でもカウンセリングを受けるのでも何でもいいよ。治すためにあたしたちの協力が必要なら、さっき兄貴も言ってたケドちゃんと力は貸すし」

あやせ「……今さらそんなの……。それに、わたしが自分を治そうと努力しても京介さんがただの友達でしかないなら、そんなの意味がない。京介さんがわたしを愛してくれないと全然意味がない!」

桐乃「以前の兄貴はあやせのコトが大好きだったよ? なのに今キライになってるのは全部あやせの自業自得だから、仕方ないね」

あやせ「だって! あんな強引な方法でも使わないと京介さんはわたしを抱いてくれなかった! 何度もセクハラされてプロポーズもしてくれて、それなのにわたしの方から告白しても受け入れてくれなかったんだから!」

桐乃「だからそれらも全てひっくるめてあやせのせいでしょ? 卑怯な方法で得たウソの幸せなんて長続きしないよ」

あやせ「全部……わたしのせい……」

桐乃「うん、あやせのせい。だけどもしもあやせが現状を受け入れて自分を治そうとするなら、兄貴は友達だってなんだって側にいてくれるってゆったじゃん? 何もしなければ永遠に失われるよ」

あやせ「京介さんと会えなくなるのは死んでも嫌だよ……でもわたしじゃない、別の人と付き合ってるのなんて見たくない……」

桐乃「しっかり治してから、改めて兄貴にアタックするならあたしは止めない。振られてもあきらめずに挑戦してたらいつか何とかなるかもね」

ならねーと思うが。

あやせ「そうなんだ……可能性はあるのかな……?」

桐乃「神様じゃないのにそんなの分かるワケないでしょー。今のままじゃ0%だケド、治せば0ではなくなる、くらいしか分かんない」

あやせ「そっか、ゼロじゃないんだ……」

桐乃「うん。ねっ、兄貴、そうだよね?」

京介「あ、ああ。そうだな、可能性は無い訳ではないな」

桐乃が顎をクイクイと動かしてあやせに攻勢をかけろと示している。


京介「あやせ、今ならまだ間に合う。おまえが心を入れ替えて元に戻ろうとしてくれるなら罪には問わない。だから挑戦してみないか? 試して駄目ならまた別の方法を考えるからさ」

あやせ「それって、ダメな時もわたしを見捨てずに一緒に考えてくれるってことですか?」

京介「そうだな。きちんと取り組んでいるなら俺も真摯に対応する」

あやせ「そうですか……」

京介「言っておくけど真面目に取り組んでいないと判断したら手を引くぞ? 手を抜いて中途半端な状態を維持して、俺を側に置いておこうと画策しても無駄だからな」

あやせ「もうひどいですね。やるからにはちゃんとやりますよ」

クスリと小さく笑うあやせには、かつての面影が確かにあった。良かった、まだ何とかなりそうだな。

京介「やる気になってくれたなら嬉しいよ」

桐乃「モチロンあたしもね」

あやせ「お二人が傍にいてくれるならがんばれそうです」

京介「あんまり頑張りすぎても駄目だからな? 適度に力を抜いて、ゆっくり確実に良くなっていけばいい」

桐乃「そーね。あやせはお腹の子に負担をかけちゃダメなんだから、ストレスは大敵だよ」

あやせ「今日一日だけですごくストレスを感じたけど、元々はわたしのせいだから仕方ないんだよね」

桐乃「あやせごめんね。途中であやせにひどいコト言っちゃった」

あやせ「いいの。それも元々はわたしのせいだから当然のことだったんだよ。わたしも桐乃に手を上げちゃったし」


京介「それが分かってるならもう大丈夫そうだな」

あやせ「わたしだって今の状態が良いだなんて思っていませんでしたから。心のどこかでは、やっぱり何とかしたかったんだと思います」

京介「んじゃ、何とかしねーとな!」

あやせ「はい。ただ、何とかと言ってもどうすればいいんでしょうか?」

京介「壊れた心をどうやって修復すれば良いのか、色々インターネットや本で調べたよ。それに基づいたアドバイスなら出来るけど所詮は素人だからな。やっぱプロに任せた方が良いと思う」

あやせ「プロ、ですか」

京介「いわゆるカウンセラーだな。沙織の伝手で信頼の出来る腕が良い人を紹介して貰える手筈になってる」

桐乃「一人で行くのが嫌なら、最初はあたしか兄貴が付いて行ってもいいし。あやせのお母さんとかに話をしてそっちに頼るのもアリだとは思うケド」

あやせ「両親には妊娠したことを打ち明けてないからやめておくよ。いつかバレるだろうから、その時に話すつもり。だから京介さんにお願いしてもいいですか?」

京介「おっけ。そうと決まれば沙織に予約を取り付けるように頼んでおくよ。あやせの都合はどうだ?」

あやせ「仕事がなければいつでも。平日は高校が終わった後、土日は終日大丈夫です」

京介「ん、じゃあそう頼んでおくな。あ、ただ、ちゃんとした専門のカウンセリングってかなり高いんだよ。そこは大丈夫か?」

あやせ「お仕事で高額の報酬をもらってますし、無駄遣いをせずに貯金しているのでかなり余裕があります」


京介「そこは桐乃と大違いだな。堅実なのはあやせらしい」

桐乃「ふんっ、趣味を取ったらあたしじゃなくなるからね。それにあたしはモデルの報酬よりも印税収入でガッポリだったから平気だし」

京介「はいはい、さすがベストセラー作家様は違いますね」

桐乃「なんかムカつく。妹空3を書くコトがあったらひどいかんね」

京介「おう。じゃあせいぜい酷くならないように良い兄貴でいるとしますかね」

桐乃「妹のコトが大好きで大好きでどーしようもない変態シスコン兄貴でもいい?w」

京介「親父やお袋がそれを読んだ時に俺が半殺しにされない程度でよろしくな!」

桐乃「うわ、それで良いんだ……キモすぎて引くわー」

京介「俺が桐乃の事を大好きなのは本当だしな。シスコンなんてそれこそ今更だ」

桐乃「…………あっそ」

あやせ「ふふふ、京介さんと桐乃は本当に仲良しですね。羨ましいです」

桐乃「これが血のつながりってやつよ! どんどん羨ましがっていいわよ!」

あやせ「こうなったらわたしも元気な子を産んで、桐乃が嫉妬するくらいイチャイチャしないと」

桐乃「女の子ならあやせに似た可愛い子になるんだろーなぁ」

あやせ「男の子なら京介さんに似た素敵な人に育つよ、きっと」


桐乃「素敵になるかはあやせ次第だケドね~。性別はまだ分からないの?」

あやせ「まだ六週目だから早くてもあと三ヶ月くらいかかるかな? 確実性を求めるなら五ヶ月くらいだって」

桐乃「ふーん、そんなもんなんだ。ね、ね、つわりって辛いってゆーケドどんな感じ?」

あやせ「時期的にそろそろだと思うけど、わたしはまだかなぁ? たぶん来週になったらウンウン苦しんでると思うよ。八、九週目辺りが辛さのピークなんだって」

桐乃「へーえ、ちゃんと調べてるんだね」

あやせ「そんなの当たり前だよ。京介さんとの間に授かった子どもなんだから、どれだけ気を遣ったって遣いすぎってことないから」

何だろうな、リアルな話をされていると、どこか遠くに感じていた妊娠の事実を嫌でも実感させられる。

それはともかく、今のあやせは良い感じだ。これなら何とかなりそうだ。


京介「なあ、あやせ。あまりストレスを与えたくはないんだが、ここはちゃんとしておかないといけない。……俺と、別れてくれ」

あやせ「あ……」

さっきまで楽しげだったのに一気に意気消沈した様子を見て申し訳ない気持ちが湧き出てくる。ただ、今の内に受け入れて貰わないと明日にはまたおかしくなってるかもしれないからな。

あやせ「あの……やっぱり別れないとダメ、ですか? わたしには京介さんが必要です。友達としてじゃなくて、恋人として傍で見守っていて欲しいんです」

京介「無理だな。さっきも言ったけど俺はおまえに対して愛情を抱いてない。信用については、これからのあやせの努力次第で回復する可能性はあるだろうけどさ」

あやせ「そう、ですか……」

しゅんと落ち込む彼女を見ていると情にほだされそうになる。だけどここで甘い顔をしたら駄目だ。あやせはそれに頼って前に進まなくなるかもしれない。


あやせ「そうなんですね……わたしが悪いことをしたから当然の結果なんですよね……」

京介「ああ、そうだな」

あやせ「…………分かりました……別れましょう」

京介「ああ。これで俺たちは恋人じゃなくなった。普通の友達だ」

あやせ「はい……。今日までたくさん愛してくれて、ありがとうございました」

俺はおまえを愛してなどいなかった。言わないけどさ。

あやせ「ただ、これだけは聞いておかないといけません。子どものことはどうするつもりですか?」

京介「あやせは産むつもりなんだよな?」

あやせ「はい。産む産まないを決めることができるのはわたしだけなので、誰になんと言われようとも絶対に産みます」

京介「……まず、当たり前だけど認知はする。ただしあやせと婚姻関係は結ばないし、養育費を払うつもりもない」

我ながらなんて酷い言い草だろうとは思う。とんだ人間の屑だぜ。ただそれでもな、俺はあやせとの子を自分の子どもとして扱うつもりにはなれない。

強制認知なんて制度がなけりゃ、認知だって拒否したいくらいに嫌だ。

あやせ「そうですか、認知はして頂けるんですね、安心しました。それと、今のわたしたちの関係で結婚できないのは仕方がないと思います。養育費についても、わたしの貯金と報酬だけで当面はやっていけるので問題ありません。親にも頼ることになるでしょうし」

京介「そうか……」

あやせ「あんまり気に病まないでください。確かに知らない人の目には無責任に映るでしょうけど、そもそもが不法行為によってできた子ですから京介さんの判断は正しいと思います」

京介「そう言ってもらえると助かるよ」

あやせ「はい。ただし、です。わたしが元に戻ることができたら京介さんに正しくアプローチしますからね。やっぱり子どもには父親のいる家庭で育って欲しいですから、わたしはあきらめないと思いますよ? 覚悟しててくださいね!」

正直それは勘弁して欲しい。俺は黒猫と一緒になりたいんだ。勿論これも言わないけどさ。




その後、沙織に連絡を取ってカウンセリングルームの予約をし、解散の運びとなった。

あやせを玄関まで見送ってから俺と桐乃は再び部屋に戻る。

桐乃「なんとか上手くいったね」

京介「途中でおまえが暴走した時はどうしようかと思ったけどな」

桐乃「ふっふん、そこはちゃんと勝算あったから! ああゆうタイプは精神力をゴリゴリ削って逆らう気力を奪ってから一気に攻めればイチコロよ!」

京介「割と綱渡りだった気がするが……。追い詰められたあやせは怖いぞ。刃物を持ち出してくる可能性もあると思ってた」

桐乃「兄貴は子どもの父親なんだから大丈夫っしょ。怒りの矛先をあたしに向けさせる思惑はあったケドね」

京介「おまえ、そんな事を考えてたのかよ。頼むから危険な真似だけはしないでくれ。桐乃に何かあったら俺も黒猫も生きていけないからさ」

桐乃「二人の愛が重すぎるわー」

京介「そんなにニヤニヤしながら言われても説得力ねーぞ」

桐乃「う、うっさい! キモい! 死ね!」



こんばんは、今日は以上となります。


エロシーンって難しいですね。なるべく直接的な描写は避けたつもりですけど、まだまだ修行が足りません。

一応前作は↓になります。前作と言っても全く? つながりはありません。


京介「別れよう」 あやせ「え……」

京介「別れよう」 あやせ「え……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1432/14322/1432221693.html)


それでは、また~。

乙でした。前作のtxtがあるならアップしてもらうことってできませんかね?

>>56
女性にも強姦罪が成立する可能性はある。
まあ相手が女性で、かつ間に道具を挟む必然性はあるが。

養育費は本当どうなんだろうなあ。
子の救済と法の安定性を取るなら、せいきゆは免れんと思うが


おはようございます。

>>92
前作(あやせ編)の全テキストを圧縮したファイルを下にあげておきました。


いくつか注意点があります。

・投下に際して結構書き直しているため、投下バージョンとは細部で違いが存在する

・投下後に判明したミスについて一切修正していない

・書いた順なので実際に投下した時と並びが違う

・没ネタも含まれている

以上です。

http://www1.axfc.net/u/3498342?key=ayase


それでは、また夜にでも~。



翌日、俺の部屋にはまたも六人が集まっていた。すげえ狭い。

黒猫「無事なのよね? 良かった……」

桐乃「昨日ちゃんと大丈夫だって伝えたじゃん。心配性だなー」

黒猫「自分の目で確認するまでは安心できないもの。仕方ないでしょう」

加奈子「なあ、昨日のやり取りって録音してんだろ? 聞かせてくれよー」

京介「ああ、ちゃんと録ってある。長いけど良いか? みんなも――うん、なら流すな」

……。

麻奈実「はあ~、桐乃ちゃんのりのりだねぇ」

沙織「事前に積み重ねた特訓がほとんど活かされていないようでござるが」

桐乃「あっはっは、ごめんねぇ。つい勢いに乗ってやっちゃった」

黒猫「結果が伴っているのならそれで良いわ。概ね理想としている形に着地できたのではないかしら」

加奈子「かなり京介に都合の良い感じだけどなー」

麻奈実「そうだね。認知はするけどそれ以外の責任は放棄してるんだもんね」

沙織「そもそも論になりますが、そもそもあやせ殿が京介氏を襲わなければ発生しなかった事件ですからなあ。どこまでが京介氏の果たすべき責任になるのか、素人では判断が難しいでござるよ」

桐乃「こーゆー時、男の人って不利だよね」

京介「俺の下半身が節操無いばかりに申し訳ない」


加奈子「お、セッソーナシならあたしも抱いてくれよ。京介が相手ならむしろ進んで処女あげるぜー」

黒猫「許す訳ないでしょう。あなた頭がおかしいんじゃないの? 一度死んだ方が良いわ」

麻奈実「加奈子ちゃん、駄目だよぉ? お付き合いしてる人がいるんだから、横恋慕は悲しい結果にしかならないよ」

加奈子「ちぇ~。んじゃ京介がこの猫と別れたらあたしと付き合おうぜ。予約したからな!」

黒猫「無駄な足掻きを……」

桐乃「あやせも治ったら兄貴にアタックするって宣言してるコトだし、これは面白いものが見られそうね! あっちに戻るタイミングを見極めないと」

加奈子「桐乃はいつまで日本にいるんだ?」

桐乃「実はあんまり長くはいられないんだよね。お仕事は美咲さんに適当な事情を話してOKもらったんだケド、学校の休学が認められなかったので今はずっと休んでる状態なんだ。だから長期になると単位がヤバいw」

沙織「あやせ殿の治療に付き合うおつもりでしたらかなり日数的に厳しいものがありそうですが、大丈夫なのでござるか?」

桐乃「まあ、それについてはどーとでもするかな。あたしはモデルの仕事をするためにあっちに行ってるんだから学校なんておまけよ、おまけ。そんなものより兄貴や黒猫の方がずっと大事だしね!」

加奈子「京介よりよっぽど男らしーなー」

京介「そこは否定できん」

麻奈実「後はあやせちゃん次第かなぁ。昨日は大人しく受け入れてくれたみたいだけど、いつ心変わりするか分からないもんね」

京介「それについては、なるべく俺が側について心の平穏を保てるようにしてやらないと駄目なんだろうな」

黒猫「……」


桐乃「あたしもいるし、兄貴だけには任せないから安心して」

京介「ああ、無理のない範囲で頼むな」

黒猫「私は協力しないわよ。あやせの顔を見たら何をしてしまうか分からないわ」

加奈子「しゃーねーから仕事中はあたしがフォローしてやんよ。ブリジットにもそれとなく手伝ってくれるよーにゆっておくからさ」

京介「悪いな。今度ブリジットちゃんもまとめてお礼するから、そう伝えておいてくれ」

加奈子「ブリジットは京介のこと憶えてっかなぁ? ま、ゆっとくよ」

麻奈実「きょうちゃんも桐乃ちゃんも手が取れない時はわたしがあやせちゃんをサポートするね」

沙織「拙者はあやせ殿とあまり面識がありませんので、直接的なサポートは難しいでござるな」

桐乃「みんなでできるコトをやれば結果は付いてくるって!」

京介「短期間でどうにかなる問題じゃないしな。カウンセリングを受けたからって良くなる保証もないし」

黒猫「特に妊娠中は多量のホルモンを生成する関係で情緒不安定になりやすいと言うから、今が安定していても明日にはどうなっているか分からないわ。充分に注意してね」

京介「ああ気を付けるよ。昨日の終わり際の様子だとそんなに危険は無さそうだったけどな」

桐乃「油断して襲われた当人がなにゆってんだかw」

京介「むぐ。だ、大丈夫だろ? あやせならきっと立ち直ってくれるって」

加奈子「京介ってあやせのこと憎んでるとか言ってた割になんだかんだでメンドー見るんだな」

京介「どれだけ言い繕ったって俺があやせを妊娠させてしまったのは変わらないしな。子どもの養育を放棄しようとしてる屑野郎だけど、それでも出来る範囲では手助けしてやるのが俺の責任ってもんだろ」


黒猫「京介は屑ではないわ。屑なのはあやせよ。あの女こそ凶悪犯罪者で血も涙も無い純粋悪の存在だわ」

京介「とまあ、俺の分まで黒猫が怒ってくれるみたいだしな」

麻奈実「こおゆうのって三角関係になるのかなぁ?」

沙織「愛憎でつながれたトライアングルと表現すれば、そこはかとない趣がありますな」

加奈子「ゼツミョーに桐乃が全員と関わってるからむしろ四角関係じゃねーの」

沙織「全員から愛されている京介氏ときりりん氏。真に恐るべきは高坂兄弟でござったか」

加奈子「もう京介と桐乃が付き合って他がみんな愛人になればヨケーな問題起きなくね?」

黒猫「それは駄目よ。京介と桐乃が肉体関係を持つ事は別に良いけれど、京介と結婚するのは私だと決まっているのだから、そこだけは譲れないわね」

麻奈実「ううん、どこから突っ込めばいいのかなぁ」

沙織「はっはっは、ラノベの主人公でもあるまいし現実でハーレムなどは起こり得ないでござるよ」

桐乃「じゃあ、もし兄貴が全員と付き合いたいって言ったらどーする?」

加奈子「あたしはモチ付き合うなー」

沙織「拙者だけ仲間外れは嫌でござるよ」

黒猫「正妻の座は誰にも渡さないわ」

麻奈実「……きょうちゃん、怒るよ?」

京介「俺は何も言ってねえ!!」




沙織「何はともあれ、これでひとまずの決着となりましたかな」

京介「終わった訳じゃなくて、これからが始まりだけどな」

桐乃「うっわ、なんつーありがちなセリフ」

加奈子「明日になってあやせがやっぱやめまーす、とかゆったらどーする?」

京介「無いとは言い切れないのがな……」

麻奈実「その時のために、次の作戦も考えておく?」

桐乃「じゃあ次は逆パターンで攻めてみる? たっぷりイチャイチャしてやるから治せってゆーの」

黒猫「断固として反対するわ」

加奈子「なら、ちょーすごいエッチするから大人しくなれってゆーのはどーよ?」

黒猫「酷くなっているじゃない。あなた莫迦じゃないの? そんなもの認める訳ないでしょう」

沙織「今日はずっと黒猫氏がやさぐれておりますな……」

桐乃「だいたいチョーすごいエッチってどんなのよ?」

加奈子「いやー、あたし経験ないから分かんねーし。京介ぇ、加奈子と一緒に特訓しようよぉ~?」

京介「しねーよ」

黒猫「むしろ地獄に堕ちなさい」

麻奈実「黒猫さん、加奈子ちゃんのは冗談? だからそんなに怒らないであげて」


加奈子「割とマジなんだけどなぁ。なあなあ京介、猫やあやせとやった一番過激なエロってどんな感じなんだ?」

京介「おまえは惚れ惚れするくらいにストレートだなあ」

加奈子「なんだヨ、そんなにほめても女の子の大事な初めてしかあげられるもんねーぞ?」

黒猫「桐乃、アレを黙らせる方法はないの?」

桐乃「怒ったあやせなら……」

沙織「面白い展開になりそうなので拙者は静観の姿勢を取るでござるよ」

麻奈実「加奈子ちゃんみたいな子がもう一人いたら誰も止められなくなるねぇ」

京介「こいつ程ぶっ飛んだヤツなんてそうそういねーだろ」



??「えっくち! う~、風邪かなぁ? ま、いいや! ゲーセンいこ!」



加奈子「なーなー教えてくれよー。あやせ対策のヒントになるかもしれないだろー?」

京介「つってもなぁ。あやせとは基本的に妊娠する事を目的としたセックスだったから、アブノーマルなプレイは殆どしてないぞ」

加奈子「それって、ちょっと変わったことすればあやせをイチコロにできそーだな」

黒猫「京介はもうあやせを抱かないわ。だからそんな事を検討するだけ無駄よ」


加奈子「んじゃあやせの代わりにあたしとかドーヨ?」

黒猫「ふざけないで。京介に抱かれて良いのは、か、彼女である私だけに許された権利よ。例外は桐乃だけね」

桐乃「え、あたし? ありがと――ってそんなワケあるかっ! なんであたしがこんなのとエッチしなきゃいけないのよ!」

沙織「京介氏を彷彿とさせる見事なノリツッコミ、さすがはきりりん氏です!」

桐乃「はいはい、さすきりさすきり。ともかく加奈子はエッチから離れて。全然話が進まないじゃん」

加奈子「ちぇ~」

麻奈実「えっと、それであやせちゃんとはいちゃいちゃする事になったの?」

京介「しないって。けどイチャイチャに近い何かってのは効果的かもな」

黒猫「何ですって?」

沙織「まあまあ、まずは聞いてみましょうぞ」

京介「図書館に行って色々調べたけどさ、専門的な本になると難解すぎて理解しにくいわ実践も難しいわで」

桐乃「その辺はプロに任せるべきよね」

京介「で、俺たちが出来そうな事つったら、たくさん話す、これに尽きる。やっぱ友達と家族の存在が要になるんだな」

麻奈実「どんな話をすればいいのかな」

京介「何でもいいんだよ。世間話から悩みから愚痴から夢から何でも。大事なのは、双方の幸せを増幅して辛さを分かち合う事」

加奈子「なんかメンドクセーなぁ」

京介「おまえ友達じゃないのかよ……」


沙織「森林浴なども良いみたいですな。1/fゆらぎが良いとかどうとか」

京介「そこら辺はオカルトの領域に入りかけてるみたいだけどな。でもみんなでピクニックに行ってたくさん話をするなんて、かなり良いんじゃないか?」

麻奈実「良さそうだねぇ。あやせちゃんとはめえるばっかりでしばらく会ってないし、今どんな状態なのか見ておきたいかなぁ」

黒猫「私は厭よ」

桐乃「えー、いいじゃん。せっかくだし黒猫も一緒にいこーよお」

黒猫「あやせと同じ空間に居たくないわ。そんな私が一緒ではリラックスなんて到底無理でしょう?」

桐乃「うーん。黒猫の気持ちも分かるケド、あたしは一緒に行きたいなぁ」

黒猫「桐乃の気持ちは嬉しいけれど、私が行けばそれだけであやせを刺激するわ。その上で京介と少しでも親しくすれば、どう考えても逆効果しか与えないでしょう」

加奈子「イヤだってんなら無理につれてくことはないだろー。猫がいない間はその分あたしが京介にベタベタするから安心してろって」

黒猫「む」

京介「黒猫があやせの事を嫌うのは勿論分かるけどさ、俺は黒猫が居ないと寂しいな。イチャイチャ出来ないのは残念だけど、きっと一緒の場所に居るだけで楽しいぞ?」

黒猫「うぅ」

麻奈実「きょうちゃんは黒猫さんが居なかったらきっと残念がると思うなぁ」

黒猫「……そう」


沙織「どうでござろうか。ここは全員でフォローしますので、黒猫氏にも参加して欲しいでござるよ」

桐乃「ね、ね、いーでしょ? 終わった後でならいくらでも兄貴を好きにしていいからさ!」

黒猫「はぁ、全くお節介な人達ばかりね。これも誰かさんの影響なのかしら」

京介「黒猫だって大概世話焼きだろ? みんなさ、みんなが大事なんだよ」

黒猫「……仕方ないわね。ここまで請われて断ったら私が義理を欠いた人間だと思われるから、参加するわよ」

桐乃「よーし言質取ったからね! 後でやっぱ無し、って言っても無効よ!」

麻奈実「ぴくにっくに行くのは良いけど、あやせちゃんが約束を反故にした場合じゃなくても行く流れになってる?」

京介「いつ行ったってマイナスにはならないんだ。それならあやせの状態いかんに関わらず早めに行こうぜ」

桐乃「近場にいくらでも自然があるしね。さっさと予定決めちゃいましょ」

加奈子「決まったんなら猫との一番すごかったエッチを教えてくれよー。あやせのしか聞いてねーぞ」

京介「おまえはほんっとブレないな」




そんなこんなでピクニックは無事に終わった。

黒猫とあやせの対面時にちょっとだけ緊迫した雰囲気になったけどそれも僅かで、大した問題にはならなかった。

主に桐乃が率先してあやせに話し掛け、他のみんな(黒猫を除く)も負担にならない程度に話題を提供しては会話を楽しんだ。

あやせのつわりを心配した麻奈実が食べられる物で弁当を作ろうとしてたみたいだけど、どうもあやせはつわりが無い体質らしく、結構何でも食べていたな。

なんだかんだで全員楽しめたみたいだし良かったよ。



現在は既に解散して、黒猫を車で送ってる最中だ。

京介「悪いな、あまり相手出来なくてつまんなかっただろ?」

黒猫「なぜ私が京介のデレデレした所を見せ付けられなければならなかったのか、是非ご教示願いたいわね」

京介「悪かったって。あやせを邪険に出来ないんだから仕方ないだろ。それに俺がデレデレするのはおまえだけだよ」

黒猫「はっ、口先だけなら何とでも言えるわ。態度で示して欲しい所ね」

京介「……今からホテル向かうか?」

黒猫「いいえ、今日はうちに泊まって頂戴」

京介「は?」

黒猫「今晩は久しぶりに私の手料理を食べて貰うわよ。田村先輩ばかりにあなたの胃袋を掴まれているのは面白くないわ」

京介「黒猫の作る飯は美味いから俺としては嬉しい限りだけど、家族がいるから泊まるのは無理じゃないか?」

黒猫「両親は夫婦水入らずで小旅行に行っているわ。今夜はか弱い姉妹だけで留守番をしないといけないのよ」

京介「そうか。なら大事な彼女とその妹たちをしっかり守らなきゃな」

黒猫「決まりね。ではまず食料を調達しましょう。道を指示するのでスーパーに向かって頂戴」

京介「りょーかい」

今夜は五更家に泊まる事と、車を明日まで借りても大丈夫かと家に確認した後、なぜか桐乃から「変態」との簡潔なメールが届いた。なぜ?




珠希「姉さま、おかえりなさい。おにぃちゃん、こんにちは」

京介「おう、今日は世話になるな」

珠希「おせわ、ですか?」

黒猫「今晩うちに泊まって貰うわ。行儀良くするのよ?」

珠希「分かりました。おにぃちゃん、よろしくおねがいします」

黒猫「日向はどこに居るか分かる?」

珠希「おねえちゃんならご自分のおへやにいます」

黒猫「そう。京介、悪いけれど日向を呼んできて貰えないかしら。私が声を掛けても無視される事が多いのよ」

京介「無視とは穏やかじゃないな」

黒猫「そうでもないわ、あれはただの反抗期よ。日向だってもう中一だもの」

京介「あー、もうそんな歳になるのか。月日が流れるのって早いよなぁ」

黒猫「反抗期だからと言って特別扱いする必要はないわ、あるがままを受け入れて対応して。私は夕食の準備をするから珠希は京介を日向の部屋に案内してあげて」

珠希「はい。おにぃちゃん、こちらです」

珠希ちゃんの先導で二階の一室の前に着く。扉には「日向 ノックすること!」と書かれたプレートが下げられていたので、コンコンと軽くノック。

……。

反応が無い。


京介「日向ちゃん、俺だ、京介だ。開けてくれないか?」

『えっ!?』

室内からバタバタと動く音が聞こえ、すぐに扉が開かれた。

日向「本当に高坂くんだ。どうしたの? 何でうちにいるのっ?」

京介「おいおい、まずは挨拶からだろ? こんにちは日向ちゃん。夏休みに会ったっきりだから三ヶ月ぶりくらいか?」

日向「こ、こんにちは……」

京介「おう。んで、なぜここに居るかと言えば、今日はここに泊まるからだ」

日向「ええっ!?」

驚き過ぎだろ。

京介「今日、五更の親父さんもお袋さんも留守なんだろ? だから俺がみんなを守ってみせるぜ!」

日向「お、おぉ~」

途端に嬉しそうな笑顔を見せてくれる日向ちゃん。やっぱ黒猫の妹だけあってかなり可愛いな。

珠希「おにぃちゃん、姉さまのごようじがありますよ?」

京介「おっとそうだった。日向ちゃん、黒猫が呼んでるぞ」

日向「…………ヤだ、行かない」

ありゃ、今度は拗ねて横を向いてしまった。はて、反抗期って普通は親や教師に逆らうもんじゃないっけ?


京介「どうした? 何か悩みがあるなら俺が相談に乗るぞ?」

日向「ほんとっ!?」

京介「あ、ああ、勿論だ。日向ちゃんの困りごとなら無条件で力を貸すぜ!」

日向「じゃあちょっと話したいことがあるから部屋に入って。あ、たまちゃんはダメだよ? ルリ姉に今は忙しいから後で、ってゆっておいて」

珠希「はい、分かりました」

そのまま日向ちゃんの部屋に通される。中は今時の女子中学生らしい小奇麗な感じのする洋風の装いで統一されていた。

差し出されたクマのクッションに腰を下ろす。

日向「あのねっ、最近お母さんとお父さんがすっごくウザくて、もー、ちょーウザいんだよっ!」

京介「お、おお。ちょっと落ち着いてくれ。近いって」

日向「わっ、ごめん! ――それでね、ルリ姉もお母さんたちほどじゃないけど、最近ちょっとうるさいんだよ~」

京介「そっか」

日向ちゃんも人並みに反抗期を迎えてるんだな。桐乃の時に比べたら可愛いもんだけど。

俺を部屋に入れてくれてこうして思ってる事を打ち明けてくれてるんだから、きっと信頼されてるんだよな。だったらいい加減な回答はしちゃいけないか。

京介「俺もさ、そんな風に親や妹がウザくてウザくて仕方がない時期ってあったよ」

日向「高坂くんも?」

京介「ああ。桐乃は今でも割とウザいけどな、はは」

日向「あー、キリ姉に会うことがあったら告げ口しちゃおうっと」

京介「別にいいぞ? どんな事があっても血の繋がりって言うのは切れないんだ。だから俺は桐乃を安心して海外に送ったんだし。兄妹や姉妹なんてそんなもんさ」

日向「そっか。姉妹なんてそんなもんなんだね」


京介「ああ。そして親をウザく思ってる日向ちゃんに一つ良い事を教えて進ぜよう」

日向「なになに?」

京介「いま日向ちゃんは思春期を迎えて心が成長してる途中なんだ。親の言う事がいちいち引っ掛かるのは自立心が芽生え始めている証拠だから、むしろ喜ばしい事なんだよ」

なぜ俺がこんな事を知ってるのかと言うと、単にあやせ絡みで調べた情報の中に入っていたからだ。こんな形で役に立つとは思わなかったけどな!

日向「身体だけじゃなくて心も一緒に成長してる途中ってこと?」

京介「ああ、そうだ。言ってしまえば今まで保護者の言いなりだったのが、親に指示されるまま動けば本当にそれで良いのか、自分の考えとは別なんじゃないか、とか色々考えられるようになってる感じかな?」

日向「何だか難しいんだね」

京介「大抵の人はみんなそうやって大人になるんだ。身体は放っといても勝手に大きくなるからな。心は自分と周りの人で正しく育てないと駄目だ」

日向「じゃあ先に大人になった高坂くん的には、あたしはどうすれば良いと思う? ウザく感じる理由が分かったって、やっぱりうっとうしいよ」

京介「俺は五更の親父さんやお袋さんの教育方針を知らないから何とも言えないけど、黒猫の素直に育った部分を見るに、恐らく今のままで大丈夫だと思うぞ。せいぜいウザく思ってやれば良い」

日向「ルリ姉は素直だけど素直じゃないから、あんまり参考にならないよ~。お母さんにこれからもずっと嫌な態度を取り続けてたら、その内嫌われて捨てられちゃわないかな、とか考えたりするもん」

京介「あの人たちがそんな酷い事をする訳ねーだろ。それに黒猫三姉妹をここまで真っ正直に育て上げた人たちなんだ、間違いなくおまえたちを愛してくれている」

日向「うん、まあそれはそうだね」

京介「それに万が一にも捨てられる事になったら俺の所に来れば良いさ」

日向「え……えっと、それって……」

京介「桐乃がいない間は隣の部屋が空いてるからな、俺も妹がいなくて寂しかったからむしろバッチ来いだぜ!」

日向「……高坂くんって天然だよね。期待させてガッカリさせる天才だよ……」


京介「ん、何か変な事を言っちまったか? まあ、もしもの話はいいだろ。日向ちゃんはこのまま心を育てていけばいい。だけど不良になるのは俺が悲しむからやめてくれな?」

日向「あはは、あたしにそんな大胆な行動は無理だよ~。家の中だけでちょっとだけ悪い子でいるよ」

京介「よしその意気だ! どうすればいいか困った時は遠慮なく俺に相談してくれ」

日向「あ、じゃあメアド教えてよ。やっと自分のスマホを買ってもらえたんだ。制限付きだけどねw」

京介「ほいほいっと」

日向ちゃんとパパッとアドレスを交換する。

日向「うん、オッケーだよ。――よしっ、それじゃルリ姉の手伝いでもしよっか!」

京介「美味い飯を期待してるぜ?」

日向「あたしはまだ修行中の身だけどね。でも高坂くんに美味しいご飯を食べて欲しいからがんばるよ!」

俺たちは仲良く台所へと移動する。

みんなちゃんと成長してるんだよな。あやせのような不安定な精神にならないように、周りでしっかりとサポートして健全な心の持ち主になって貰うとしよう。




用意された食事はさすがの美味しさだった。所々に日向ちゃんが介入した痕跡が見られたけど、それもまた味があって良い。

姉妹と遊びながら交代で風呂を済ませ、就寝時間になるまでまた遊ぶ。

小学三年の珠希ちゃんが当然真っ先に眠って、中学一年の日向ちゃんも粘っていたけどやがて落ちたので部屋に運んであげた。

京介「で、俺はどこで寝ればいいんだ? 客間か?」

黒猫「うちに客間は無いわ。全室埋まっているもの」

京介「んじゃ悪いけどリビングで寝させて貰うか。布団は俺が運ぶから場所を教えてくれ」

黒猫「あなた、わざと言っているの?」

京介「ん、何をだ?」

黒猫「うちに帰る時に車中で話をしたでしょう。デレデレするのは私にだけ。それを態度で証明するって」

京介「……いいのか? 日向ちゃんも珠希ちゃんも居るんだぞ?」

黒猫「あの子たちは一度眠ったら朝まで起きてこないから大丈夫よ。それに、その、そう言う事をする時に毎回ホテルを使っていては経済的に負担が大きいでしょう?」

京介「じゃあその言葉に甘えさせて貰うよ。それに壁一枚隔てた向こうに抱いてる相手の妹が居るとか、すげえ興奮するよな!」

黒猫「……あなた、本当はあやせに妙な性癖を開発されたのではないのよね?」

京介「だーいじょうぶだって、俺が変な事をしたいのはおまえだけだ! だから一緒に色々やろうな!」

黒猫「素直に喜べないのはなぜかしら……」

恥ずかしがり屋で感情表現が下手な黒猫は喘ぎ声もやはり相当控え目だ。いつかエロゲーみたいによがってくれるようになるんだろうか。いや、あれは無いな。

彼女の実家で、すぐ近くに妹たちが眠っているのにエッチをするのってかなりドキドキした。

壁の向こうを気にして必死に声を漏らすまいとする黒猫の姿が、そりゃもうどうしようもなく俺の劣情を刺激するもんだからさ、ちょっと意地悪して怒られたりしてさ。

何をしたかは秘密だけどな!

ま、そんなこんなで熱い夜は過ぎて行き、一緒に眠りに落ちてあっという間に朝になった。




珠希「おはようございます」

京介「おはよーさん」

黒猫「ええ、おはよう。珠希、ここに寝癖が付いているわよ」

珠希「なおしてきますね」

日向「……おはよ」

京介「ぼんやりしてるなあ。よく眠れなかったのか?」

日向「……誰のせいだと思ってるんだか」

黒猫の用意してくれた朝食を食べ終わった後も日向ちゃんの様子はおかしいままだった。





黒猫「人生相談があるの」

桐乃「え、兄貴じゃなくてあたしに?」

黒猫「ええ、日向の事でちょっと悩んでいるのよ。京介よりはあなたの方が彼女の思考に近い物を持っているでしょう?」

桐乃「そりゃま同性だし」

京介「俺は席を外しておこうか?」

黒猫「いえ、ここに居て。あなたにも関係あるかもしれない」


桐乃「そんで悩みってなに? ひなちゃんのコトなら全力で協力するわよ」

黒猫「その……日向はいま反抗期を迎えているのよ。それ自体は丁度そういった年齢になっているのだから問題ではないのだけれど……」

桐乃「中一よね。親や兄貴が死ぬほどウザくてどうしようもない時期だったかな~」

京介「おまえの俺への反抗? は少し特殊だった気がするけどな」

桐乃「うっさい」

黒猫「続けてもいいかしら? 本来第二反抗期と言うものは慣習や権威に対して反発するものだわ。だから日向に躾をする立場にある親に対して反抗するのなら分かるのだけれど、ずっと日向の味方で居た筈の私もなぜかその対象に入っているみたいなの」

京介「黒猫は決まり事に結構厳しいから、どこかで日向ちゃんにああしなさいこうしなさいって言ってたんじゃないか?」

黒猫「親の目が届かない部分に対してその様な事をしていたのは確かだわ。でも今までは私への反発は大したものではなかったのよ」

桐乃「ひどくなったってコト?」

黒猫「ええ。……一昨日の朝から急に私への態度がきついものになって、下手をすると親よりも私への当たりの方が強いわね」

桐乃「それって兄貴が泊まった翌朝だよね? 前の晩にナニかしたんじゃないのぉ~?」

黒猫「な、な、な、何もしてないわ」

桐乃「めっちゃキョドってるじゃん。はぁ~、それじゃひなちゃんが怒るのも無理ないよね」

京介「やっぱアレが原因か?」

桐乃「それしか考えられないっしょ! 例えばあんたらがここでエッチして、あたしが自分の部屋にいたとして」

黒猫「う……」

桐乃「どんな顔して会えばいいんだかって話だっての。それにひなちゃんはまだ中学生なんだよ? 何をしてるのか何となくでも分かり始めていて、それで大好きな姉とどっかの馬の骨がそんなコトしてたら――」

京介「俺は割と日向ちゃんに受け入れられてると思うんだけどなあ」

桐乃「――多感な時期だし、もう恥ずかしいやら気持ち悪いやらで、以前と同じ態度でいられるワケないじゃん」

黒猫「ど、どうすれば良いのかしら……? これでは余計に接しづらくなっただけだわ」

桐乃「扱いの難しい話題だし、どうがいいのかなぁ? 開き直るか放置しとくしかないんじゃない?」

黒猫「出来ればどちらも選択したくないわね」

京介「日向ちゃんが実際にはどう思っているのか分かれば、何か対策の取りようもありそうだけどな」

桐乃「あ、じゃあ歳の近い子に聞けばいいじゃん?」

京介「誰か心当たりが居るのか?」

桐乃「いるいる! じゃあ早速連絡しちゃおう!」




加奈子「いちおー連れてきたけどよー、こいつ役に立つのか?」

ブリジット「ひどいよかなかなちゃんっ。あ、こ、こんにちはー」

桐乃「うっひょおおおお、きたあああああああ!!」

京介「落ち着け桐乃。二人ともよく来てくれたな。ブリジットちゃんは俺の事を憶えてるか?」

ブリジット「えと、かなかなちゃんから教えてもらって思いだしました。セクハラマネージャーさんですよね」

京介「セクハラなんてしてねえよ!? 今はもうマネージャーやってないから普通に名前で良いって。高坂京介って言うんだ、好きに呼んでくれ」

ブリジット「はい! よろしくおねがいします、きょーすけさん」

桐乃「ブリジットちゃんはあたしのコト憶えてるよねっ!?」

ブリジット「……はい、おぼえてます。メルルがきらいな人でしたよね」

桐乃「え?」

京介「桐乃、随分前だから細部は忘れてても仕方ねーけど、前に俺たちが偽デートしてた時にそう誤解させたままだったろ?」

桐乃「んー? ……あ~~……」

加奈子「誤解ってなんだ?」

京介「そりゃ勿論、桐乃には実は大好きなものがあって、それを知られたくないからって嘘を吐いていた事だな」

桐乃「ばっ、京介あんた!」


黒猫「ふっ、いつまでも誤魔化しきれるものでは無いわ。今のあなたはそんなに弱い存在じゃない。この来栖加奈子なる女をここまで巻き込んで、ましてやあなたの友達の端くれならば、せめてその位は話せるようになりなさい」

桐乃「うぐぐ……! なんで協力してる立場のあたしがこんな目に……!」

ブリジット「あの、本当はメルルが好きなんですか?」

全員の目が桐乃に集中する。さあどう返す気だ? つっても加奈子がどう反応するかなんて「知ってる」からこそ差し向けたんだけどな。

桐乃「……そ、そーよ! あたしはメルルとか大好きだし!? ブリジットちゃんよりも愛してる自信があるわね!」

ブリジット「そうなんですか、実は同じファンだったんですね!」

加奈子「なんだ桐乃オタなのかよキメェwww」

桐乃「くっ。そ、そうよ? 悪かったわね隠してて。あと別にオタクだからってキモくないから!」

加奈子「どーりでよくメルルのライブに来てると思ったぜ。なるほどなぁ~」

桐乃「え、なんで知ってんの?」

加奈子「桐乃みたいな目立つヤツが会場にいて気づかない方がどーかしてるっての。いつかのウェディングドレス姿とかめっちゃ目立ってたじゃん」

京介「そんな事もあったなぁ」

加奈子「ま、いいや。どんな趣味でも桐乃は桐乃だしな」

桐乃「加奈子……」

加奈子「おっ、それなら今度やるメルルのライブチケットいるか?」

桐乃「えっ、マジで!? いる! チョー欲しい!」


加奈子「んじゃ今日はあたしがオッケー出すまで肩揉んでくれ」

桐乃「お金ならちゃんと払うよ?」

加奈子「せっかく桐乃をこき使えるチャンスがあるんだから、そりゃ使うしかねーべ?」

桐乃「加奈子の肩を揉む屈辱とライブのチケ……」

たかが友達の肩を揉むくらいで大袈裟なヤツだなぁ。そんくらいチャチャッとやってやればいいじゃねーか。

桐乃「じゃああんたが代わりにやってよ!」

京介「は? 何だそれ。自分の分だろ自分でやれ」

桐乃「チャチャッとできるんでしょ。あんたは兄貴なんだからあたしの身代わりでも問題ない! ね、加奈子?」

問題ありまくりだ!

加奈子「おー、京介なら全然オッケーだぜ」

黒猫「待ちなさい、京介は私と付き合っているのよ。か、彼女である私の許可無く勝手にそんな事をさせる訳にはいかないわね」

加奈子「べっつにいーじゃねーか。減るもんでもねーしよ」

ブリジット「あ、あの、ちょっといいですか?」


黒猫「何かしら。そう言えばまだ挨拶をしていなかったわね、私の事は黒猫と呼んで頂戴。今回は妹の件でわざわざ来て貰って悪かったわね」

ブリジット「あ、よろしくおねがいします、ブリジット・エヴァンスです。じゃなくて、あの……」

言いにくそうにチラチラ俺と桐乃に視線を向けるブリジット。どうかしたんだろうか?

京介「気になる事があるなら遠慮なく言ってくれ」

ブリジット「えと、以前きょーすけさんときりのさんはお付き合いしてるって言ってましたけど、今はくろねこさんが彼女さんなんですよね? なのにきりのさんがここにいるのがふしぎで」

加奈子「そりゃ京介と桐乃は兄妹だかんな。一緒の家にいてもおかしくねーべ?」

ブリジット「兄妹で、お付き合い……」

桐乃「ちっ、違う! なんでこんな冴えないヤツとあたしが付き合わなきゃいけないのよ! あれはスカウトを誤魔化すための演技! それだけ!」

その冴えないヤツに泣きながら告白してきた実の妹はどこのどいつだよ! って叫びたいのを堪える。

黒猫「そうよ。京介と交際しているのは私だけ。そこは間違えないで」

ブリジット「そうなんですか、安心しました」

加奈子「こいつらが別れたらあたしが京介をもらうんだけどなー」

ブリジット「えぇっ!?」

京介「加奈子、ややこしくなるから余計な事は言わなくていい」




京介「――とまあ、そんな訳で日向ちゃんに避けられて困っている、のが現状だ」

加奈子「家族がいるのにエッチするとか猫もなかなかやるじゃねーの」

ブリジット「あわわわ、大人のかんけいです」

黒猫「そこで、日向と同年代であるブリジットに意見を聞きたいのだけれど、どう思ったかしら?」

ブリジット「あ、あのあの、恋人同士で愛しあうのってすてきだと思います」

桐乃「それだけ? 恥ずかしいとか気持ち悪いとかない?」

ブリジット「わたしにはシスターがいないのでよく分かりません。おやくに立てなくてごめんなさい」

桐乃「じゃあ、仲の良い友達とブリジットちゃんの好きな人がエッチしてたらって想像してみたらどう?」

ブリジット「あの、好きな人ってよく分からなくて……やっぱりごめんなさい」

加奈子「へぇ~。イマドキの女子中学生にしちゃおっせーんだなぁ」

京介「そこは人それぞれだからな。気が付いたらその人を好きになってるんだ、自分で制御出来るもんじゃねーしな」

桐乃「……そーね」

黒猫「それは確かにそうだわ」

加奈子「ま、そんなもんかー」

ブリジット「すごいです、みなさん大人です!」


京介「ブリジットちゃんだって自然に好きな人が出来るさ。学校の友達に何となく良いなーって思えるヤツとか居るだろ? 最初はそんなぼんやりした気持ちなのが、段々大きくなっていくんだ」

ブリジット「男子は……あまり好きじゃありません。らんぼうでこわくて、いやなことを平気でやってきます」

桐乃「ブリジットちゃん可愛いし目立つから、変な男子とかたくさん言い寄ってきてるのかな」

加奈子「そこら辺は桐乃だって同じだったろー?」

桐乃「あ~……同世代だと相手にしたくない気持ち理解できるわー。やっぱ恋愛するなら年上じゃないとね! 少なくとも三歳上じゃないとダメよ!」

黒猫「そうね。二歳上でも良いけれど年上の方が色々と捗るわ」

加奈子「そーだな。あたしも三歳上が良いなー」

ブリジット「年上かぁ。あの、男の人もお付き合いするなら年上の人がいいんですか? 年下ですか?」

京介「あー、好きになった相手が年上でも年下でも気にしないな。女の子は比較的年上を好む傾向が強いらしいけど、男なんてそんなもんだ」

むしろ男子学生なんて、ヤらせてくれれば年齢は関係ないって思ってるヤツのが多そうだ。

桐乃「とかゆってるケド、兄貴はシスコンでロリコンだからやっぱ年下趣味だよね」

ブリジット「え、ロリコンさん、ですか……?」

うおーい、何言ってくれちゃってんの桐乃さんよ! ブリジットがあからさまに怯えて俺から距離取ろうとしてるじゃねーか!

京介「違う、誤解だ! 俺のタイプは黒髪ロングで大人っぽい子だ! だからロリコンじゃない、セーフ!」

ブリジット「黒髪ロングで大人っぽい……。あやせさんのような人ですか?」

京介「あー、それは何と申しましょうかー」


黒猫「私も髪にはそれなりに自信があるのだけれど、なぜ交際している私ではなくてあやせを例に出したのかしら?」

ブリジット「え、えっと……それは……」

加奈子「オイコラ、なにブリジットにガン付けてんだよ、あん?」

京介「こらこら、俺の大事な彼女に牙剥くなって」

加奈子「あいてててて! もちょっと優しくしてくれないとチケやんねーぞ!」

京介「はいはい。お姫様の仰せのままに」

実は会話をしながらずっと加奈子の細い肩を揉んでいたりする。

桐乃「仕方ないじゃん、黒猫は大人っぽい方向性のキャラじゃないんだし。あえて分類したらロリ系じゃん? クールロリ」

黒猫「桐乃あなた、ちょっと自分が背が高いからって人を勝手にロリにしないで頂戴。私は平均身長より少し低い程度だわ」

加奈子「まっ、こん中でクールロリだけが唯一大人なんだけどなー」

ブリジット「あう……」

黒猫「あなた達、後で覚えていなさいよ」

京介「まあまあ、俺は黒猫の可愛い所も綺麗な所も、大人っぽい部分も子どもっぽい部分も全部知ってる。それを含めて好きになったヤツがここに居るんだから気にすんなって」

黒猫「う……京介がそう言うのならもう良いわ」

ブリジット「すごいです、大人の恋愛です」

加奈子「ケッ」


桐乃「それはともかく、どうしよっか? ひなちゃんの機嫌を治す方法なんかない?」

ブリジット「わたしたちの年だとそういうことってやっぱりきょうみはあります。でも、もうすませてる子もいれば、マジメな子だとフケツに感じたり、色々あるのでむずかしいです」

加奈子「その日向ってヤツには好きな男いねーの? 恋人ができればいつかエッチするんだし、想像したことくらいあんだろ?」

桐乃「あー」

黒猫「変わってなければだけど、日向の初恋の相手は京介になるわね」

加奈子「京介おまえ、どんだけ女に惚れられたら気がすむんだっての」

京介「いやいや初耳なんだけど。俺日向ちゃんに好かれるような事を何もしてねーぞ。確かに懐かれてるとは思ってたけどさ」

桐乃「無自覚だから余計にタチ悪いよね」

ブリジット「あの、もしかして……ですけど。そのひなたさん? が怒ってるのって、大事なお姉さんが何かしてたからショックを受けたんじゃなくて、初恋の人がお姉さんと……してたからシットしてるんじゃないですか?」

加奈子「あー、好きな男が姉貴とヤってりゃ、そりゃグレるわ~」

黒猫「成程……。言われてみればあの日以降、日向が私を見る目には対抗心や敵対心に似たものが宿っている様に感じられるわね」

桐乃「それだと兄貴や黒猫が何かアクション起こすのって逆効果かな」

加奈子「分かんねーぜ? 好きな相手から秘密のメールでも来てみろよ、中学生なんて単純だし一発で落ちるんじゃね?」

ブリジット「もう、自分が高校生になったからって中学生をタンジュンあつかいするのはひどいよー」


桐乃「確かにひなちゃんはちょっと複雑かもね。先日まで姉と付き合ってた男を好きになって、その二人がまた付き合いだして、嬉しいのに悔しくて、祝福するしかないケド心の中では羨ましい気持ちが濁ってて、想いを打ち明けたくてもそんなのできるワケなくて」

加奈子「なんかミョーに実感こもってねーか?」

桐乃「うっさい。とにかく今のひなちゃんは一筋縄ではいかない相手ってワケよ!」

黒猫「桐乃、あなた……」

ブリジット「こういうのって時間がカイケツしてくれるのを待つのが一番じゃないですか?」

桐乃「そーなんだケド、人生相談を受けたからには何とかしてあげたいのよね~」

加奈子「おーげさなヤツだなぁ。人生がかかってるほどのことじゃねーだろ」

桐乃「いいのよ。あたしにとって『人生相談』ってのはすごく重要なものなんだから」

京介「……そうだな」

ブリジット「あの、きょーすけさんとくろねこさんのお知り合いで、他にきょーすけさんのことを好きな人っていないんですか? その人ならひなたさんの気持ちも少しは分かると思います」

黒猫「……そうね。一人、頭がおかしくなるくらいに京介を愛している女がいるわ」

桐乃「いや、でもさー。あの子はちょっとヤバ系だし?」

加奈子「こないだピクニック行った時は普通だったよな。話を聞くだけならダイジョーブだべ?」

京介「確かに誰よりも強烈でドロドロした感情は持っているだろうけど、どうしたもんかな……」

ブリジット「よく分かりませんけど、その人ならわたしたちでは出せない案を出してくれそうなんですか?」


桐乃「どー思う? 説明するには兄貴と黒猫がエッチしたコトをバラさないといけないよ?」

加奈子「それヤバくね? 切れたあいつは手が付けらんねーぞ」

黒猫「そもそも、私と京介が、その、ああいった行為をしてる事を余り人に言いたくないのだけれど。あなた達には恥と言う概念が存在しないのかしら」

京介「ならエッチした事は秘密にして適当に説明してみるか?」

加奈子「あいつ勘が鋭いからなー。すぐ気付かれそうな気がするぜ」

桐乃「それにウソをつかれるとめちゃくちゃ怒るしね」

黒猫「そこは場の雰囲気と流れで何とかするしかないわね。兄貴が」

京介「俺かよ!」

ブリジット「えっと。みなさんを困らせてるみたいですし、それなら別の方法を考えるのでもう少し時間をください」

京介「いや、やってみるのは良いんじゃないかな。それに悩みを打ち明けて頼ってみるのも、今のあいつには良い事かもしれない」

桐乃「悩みの大きさや種類にもよるでしょうケドね」

京介「ま、呼んでみようぜ――あやせを」



ちょっと離席します。

たんおつー
>>126で黒猫が京介を兄貴って呼んでるのはミスかにゃ



あやせ「はあ。黒猫さんの妹さんが、お二人がイチャイチャしてる所を目撃してしまって機嫌を悪くしてる、ですか。そして妹さんは京介さんを実は好きだったので黒猫さんは何も言えず困っていると」

ブリジット「あやせさんまできょーすけさんを……。もてもてなんですね」

あやせ「なるほど、事情は分かりました。京介さんからの人生相談ですから、わたしで良ければいくらでも力を貸します」

京介「助かるよ」

あやせ「ただ、それには一つ確認が必要です。イチャイチャって何をしてたんですか?」

加奈子「やっぱそこつっこまれるかー」

黒猫「と、と、特に何もしてない、わよ?」

あやせ「……目が泳ぎすぎてナニをしたって白状しているようなものですよ」

桐乃「あ、あやせ、あのね! 兄貴と黒猫はその、えっと」

あやせ「いいよ桐乃、ピクニックの時から何となく気付いてたから。お二人はまた付き合い始めたんですね、おめでとうございます」

京介「その、あやせにとっては聞きたくない話だったかもしれないけどさ」

あやせ「良いんです。わたしは京介さんにすごく迷惑をかけてしまったのに今もまだ助けてもらってますから、京介さんが困っているならどんなことでもしてあげたいんです」

京介「そっか、ありがとな。遠慮なく頼らせて貰うよ」

あやせ「はい、お任せください! それでわたしは何をすればいいんでしょうか?」


桐乃「ひなちゃんは兄貴が好き。でも兄貴は姉の黒猫とエッチしてた。悔しいからとりあえず姉に当たっちゃおう。ここからひなちゃんの感情を読み取り100字以内で解決策を提示しなさい。配点は20」

あやせ「殺してやる」

ブリジット「……え?」

京介「こえーよ! 何も解決してねーだろ!」

あやせ「やだなぁ、冗談ですよ」

加奈子「あやせのはジョーダンに聞こえねーんだよ」

黒猫「この場合、日向に刺されるのは私なのか京介になるのか、そこが問題ね」

京介「黒猫も何を平然と続けてるんだよ! そこは怒っとけよ!」

桐乃「回答が短すぎるのでギリ1点ね」

京介「そこは0点でいいだろ……」

ブリジット「あやせさんが急にこわいことを言うのでビックリしちゃいましたけど、みなさんふつうにお話してるのですごいです! これが大人の会話なんですね」

京介「ブリジットちゃんをこの場に置いたままにしてたのは失敗だったか……」

あやせ「こほん。――まず中学一年の女の子にエッチを見られることがもうアウトですよね。しかもそれが片想いしてる男性と実の姉なんて最悪です。ちょっと反発されてるだけで済んでるのって奇跡みたいなものです」

黒猫「……そうね。別に見られてはいないけれど」

あやせ「でも日向ちゃんは京介さんに告白した訳でもましてや付き合ってる訳でもない、ただの交際相手の妹でしかありません。そこで姉に怒りをぶつけるのは理不尽です」

加奈子「京介に告白したことがあるあたしなら怒ってもいいんか?」

ブリジット「えっ、かなかなちゃんきょーすけさんに告白したの!?」

加奈子「あれ、知らねーか? 正月すぎのライブ会場であっつい告白して、翌日ネットニュースで記事にもなったぜ?」

ブリジット「あー、あったねそんなこと。そっかあ、あの時のあいてがきょーすけさんなんだ」


あやせ「加奈子、後で詳しく聞かせてね。……それで、私が日向ちゃんと同じ立場なら、姉から彼氏を奪おうと作戦を練ります」

桐乃「そんなコトするのはあやせだけなんじゃないかなぁ。ひなちゃんの想いがそこまで強いとは思えないし」

あやせ「そう? じゃあ、急激に恋心を刺激された日向ちゃんはガマンできずに京介さんにアプローチを開始するの。せめて『交際相手の妹』じゃなく一人の女の子として見て欲しい、と思って」

黒猫「確かに京介の日向への態度はあくまで妹を扱うそれでしかないわね」

京介「だって実際妹みたいなもんだしなぁ。本物はこんなだし」

桐乃「ちょっとソレどーゆー意味よ!」

加奈子「桐乃は妹っても、何でも自分でできて手がかからねーだろ? 京介が欲しいのは、甘えてくれて自分がいないとダメだなって思わせるようなアニメに出てくる系の妹じゃね? ほれ、ブリジットこれ言ってやれ」

ブリジット「――ええっ、そんなのはずかしいよっ。……えー、本当に言うの? うぅ……」

何やらヒソヒソと耳打ちされていたブリジットが、上目遣いで俺に語りかける。

ブリジット「あ、あ、あの、お、お兄ちゃん……わたしじゃダメ? わたしじゃお姉ちゃんのかわりになれないかな? わたし、お兄ちゃんのこい、恋人になりたいよ……」

桐乃「よろこんでっ!!」

京介「よろこんでっ!!」

加奈子「ほら、一撃だろー?」

黒猫「兄妹揃って地獄に墜ちなさい」

あやせ「京介さんのシスコンは手遅れだからもう今さらだけど、なんで桐乃まで……」

ブリジット「恥ずかしかった……」



……。

京介「取り乱しました」

桐乃「あぁ~、さっきのブリジットちゃんチョー萌えだったわ~。くぅっ、録画しておけば良かった!」

対あやせ用に会話はしっかり録音してるので、後で桐乃には切り出した音声ファイルでも渡しておこう。きっと海外での厳しい生活を切り抜けるための切り札になるに違いない。それでいいのか我が妹よ。

あやせ「とりあえずですね、日向ちゃんを妹ではなくて女の子として見てあげるべきだと思います。そして優しい言葉でもかけてあげれば、しょせん男を知らない小娘ですからコロッとまいって、心の全てが好きな人に支配されて黒猫さんへの攻撃意志なんてどこかへ消えます」

加奈子「それって京介が猫の妹を口説いてたらしこむってことだろ? それで本気にされたらどーすんだよ」

京介「彼女の妹まで口説くって、俺どんだけ鬼畜なんだよ。だいたい中一の子なんて話題は合わないだろうし受ける要素ねーよ」

桐乃「そんなの目の前にバッチリな人物がいるんだから、試してみればいーじゃん」

ブリジット「え……、わたしですか?」

黒猫「なぜ私が他の女を口説いている所を見せられなければならないのかしら」

あやせ「同感です」

加奈子「面白そーじゃん、やってみよーぜ! ほら京介、練習だと思ってカッコイイの一発たのむぜー」

京介「なぜ俺が中学生を口説く前提になってるんだ。まあ練習なら良いか……良いのか?」


ブリジット「……ドキドキします」

桐乃「いーから早くやる! 凝った言い回しはダメよ、相手は中学生なんだからストレートにゴー!」

京介「――ブリジットちゃんはすごくチャーミングだよ。俺は君から見たらずっと年上だけど、できれば前よりももっと仲良くなりたいと思ってる。だからもっと君のことを教えて欲しいな。毎日メールしても良いか?」

ブリジット「う、あうぅ……はい、よろしくおねがいします……」

ブリジットのメアドをゲットした!

桐乃「やらせたのはあたしだけど、なんだかすごくムカついた」

加奈子「全然面白くなかったな」

黒猫「今私を支配しているこの感情は……、そう、これこそがあらゆるものを拒絶する盾舜六花の力なのね……」

あやせ「ブリジットちゃん、これはあくまで練習なんだから本気にしちゃダメよ? ダメだからね」

京介「焚き付けておいて勝手なヤツらだぜ。なあブリジットちゃん?」

ブリジット「は、はいっ。毎日メールします!」

京介「お、おう? ああ、よろしくな」

桐乃「こうして京介被害者の会が広がっていくのね」



あやせ「京介さんなら中学生でもメロメロにできると分かりましたから、早速日向ちゃんにメールを送ってみましょう」

ブリジット「め、メロメロになんてなってません、よ?」

黒猫「私が家に居ないタイミングでメールが届いたら、私の介入を疑われないかしら」

加奈子「猫がどこにいたって変わらねーだろー。好きな相手から期待を持たせるメールが届いたら、それだけで舞い上がっちまうんじゃねーの?」

桐乃「じゃあ文面を考えましょ! ひなちゃんをキュンキュンさせるの作るわよ~」

京介「そんなの、さっきブリジットちゃんに言った内容そのままで良いんじゃないか?」

ブリジット「そ、そんなのダメです!」

桐乃「デリカシー足りなさすぎるわー」

京介「なにゆえ」

あやせ「はあ。京介さんはほっておいてわたしたちだけで考えましょう」

黒猫「日向はサバサバしている様でいて、あれで結構乙女なのよ。以前、ピンチに颯爽と現れるヒーローがどうとか言っていた事があるわね」

桐乃「去年までは小学生だったんだし、そーゆー面がまだ残ってても不思議じゃないよね。んじゃ、やっぱドストレートに攻めるしかないかな?」

加奈子「直球もいいけどよー、変化球にして妄想させるのもアリじゃねえ? これってもしかして! みたいなさー」

あやせ「最近五更家に行く時は日向ちゃんに会えるかも、と期待してるんだー、的な?」

桐乃「ちょっとストレートじゃない? もうちょっと控え目にさ、例えば……『黒猫を抱いている時にふとひなちゃんの顔に見える時があってドキドキするんだ』トカ」

黒猫「あなた莫迦でしょう」

ブリジット「あの、きっかけがそういうことだから、そんなわだいはさけた方がいいと思うんです。毎日メールがとどくのをキタイして待っていたんだけど、なかなか来ないから自分から出しました、みたいなのが良いかなーって」

ああでもないこうでもないとサンプルメッセージをこねくり回す彼女たちを、俺は遠巻きに見るしかなかった。どうでもいいけど狭い。




『最近黒猫と喧嘩してるらしいじゃないか。俺は二人の仲が悪い所を見たくないよ。日向ちゃんは笑ってる方が可愛いから、ずっと笑顔を見せて欲しいな。不安に思う事があるならいつでも相談してくれ、俺は日向ちゃんのためなら何だって出来るからさ。これは日向ちゃんが黒猫の妹だから言ってるんじゃないぞ? 日向ちゃんは俺にとって、とても大切な女の子だよ。またメールする』

京介「これやり過ぎじゃないか?」

桐乃「情報源は黒猫であると明らかにして隠し事はないってオープンにしつつ、じっくりジワジワと口説く。そして『大切な女の子』って一文でキュン死させつつバッサリと終わらせて続く感情を全部こっちに向けさせる。カンペキじゃん!?」

加奈子「これ送ってダイジョーブなんか? ぜってー本気にしそーだぞ?」

黒猫「今になって良心の呵責に苛まれてきたわ……」

あやせ「でも日向ちゃんの心を京介さんでいっぱいにすれば、黒猫さんへの当たりは柔らかくなると思いますよ?」

加奈子「分っかんねーぞ? この女が愛しいあの人とイチャイチャしてやがるな! って思ったりしてさ」

ブリジット「でも、強い言葉を送ってしまうとウソをつくことになっちゃうし、弱いとこうかがないよ」

京介「確かにこの文面なら、別に嘘は書いてないんだよなぁ」

桐乃「ならいいじゃん。送ってみて、返事が届いたらそれに対応すればいいって!」

京介「んじゃ送信っと」


……。

三分も経たない内に返事が届いた。

『急になに きもいよ るりねえとはべつにけんかしてないから』

京介「キモいそうです」

桐乃「まだまだ女子中学生の心理を分かってないわね~。この場合のキモいってのは単なる照れ隠しだから本気に受け取っちゃダメだって」

京介「あー、そういやおまえも中学の頃、しょっちゅう俺に対してキモい連発してたもんなぁ」

桐乃「うっさい何でそんなコト憶えてんのよキモい死ね!」

京介「な、俺の妹って口が悪いだろ?」

ブリジット「あ、あははー」

京介「しかしこのメール平仮名ばっかだな。日向ちゃんって漢字あんま強くない?」

黒猫「あの子はちゃんと漢字を使ったメールを送ってくるわよ」

あやせ「それだけ余裕が無い状態で返事を書いたってことですね」

桐乃「こちらの真意を引き出そうと思ってるんじゃない? 今の内に次の送っちゃえ!」

『俺の日向ちゃんをおもう気持ちをきもいとか酷いな。本気だったけど分かってもらえなかったみたいだな』

女性陣の指示に従い、わざと素っ気ないメールを送る。


『ごめんなさい言いすぎました 信じるのでおこらないで』

京介「ところで、全員ぐるみで騙してるみたいですっげえ心が痛いんだが」

黒猫「姉公認だから良いのよ」

ブリジット「いいんだ……」

あやせ「それより早く返事してあげてください」

『怒ってないよ。俺が日向ちゃんを嫌いになる訳ないだろ? 日向ちゃんは俺にとって大切な人なんだ。だから、もっと俺を頼ってくれていい。その方が嬉しいよ』

京介「これもう完全に口説きに入ってるよね」

『あたしが大切な女の子って本当?』

勿論送られてきた内容を他の子に見せるようなマナー違反はしてない。何となくかいつまんで教えている程度だけど、それでもマナー違反だろうなぁ。ごめんよ日向ちゃん。

『本当だよ。日向ちゃんは大事な人だから、あまり家族と喧嘩して欲しくない。思っていることは全部俺にぶつけてくれていいからさ』

『いいの? 全部ぶつけてもいい?』

『勿論だ。どんな内容でも俺は受け止める』

『きいてほしいことがあるんだ メールじゃなくて直接あって話がしたいかな』

桐乃「ふぃーーーっしゅ!」

加奈子「まだ釣れたか分かんねーだろ」

ブリジット「でも告白だったらどうします?」

あやせ「ちょっと押しすぎたかなぁ」

京介「告白だとしたら断るしかねーけど、そうすると何も変わらないんだよなぁ」

黒猫「確実に前よりも悪くなりそうだけれど」


桐乃「早く返事出してあげないと、大胆すぎたかなーとか考えてそろそろ後悔し始める頃よ」

加奈子「それならさー、こんな感じでケンセーしつつ返事出せばいーんじゃねー?」

……。

あやせ「え、それを伝えるのはちょっとキツくない?」

黒猫「持ち上げて突き落すとか外道の所業ね」

ブリジット「わたしがそんなメールをもらったら泣いてしまうかもしれません……」

京介「形の上では了承した事になるか――って日向ちゃんからメールだ」

桐乃「あちゃ~」

『ごめんさっきのなしで あわなくていいよ ききたいことはまたメールするから』

京介「――ってさ」

加奈子「京介がモタモタしてっからだぜ」

京介「ったく、しょうがねーな。加奈子の案にちょっと付け加えて送っとくか」

『今から黒猫を家に送るので、その時に話を聞くよ。二人でドライブでもしながらだと話もしやすいだろ?』




まず日向ちゃんを天岩戸から誘き出すのに苦労した。

今回は俺が呼びかけても返事が無くて、粘り腰での交渉を余儀なくされた。

結局重い扉を開けて出て来てくれたけど、決め手は二人きりのドライブデート、という言葉だった。

京介「……」

日向「……」

く、空気が重いぞ……。

何とか車には乗ってくれたけど、殆ど口を聞いてくれない。

京介「適当に走らせてるけど、どっか行きたい所あるか? どこでも行くぞ」

日向「……どこでもいいし」

海は――もう冬だから心中しに行くみたいで駄目だな。

京介「んじゃ往復で二時間以上かかるけど俺の大学でも行ってみるか?」

日向「……うん」

しばらく無言で車を走らせる。車内には控え目な音量で黒猫持ち込みのゲームサントラがかかっていて、俺は音楽ジャンルの変更をするタイミングを計っていた。

日向「初心者マーク」

京介「ん?」

日向「初心者マーク貼ってる」

京介「ああ、まだ免許を取って三ヶ月だからな。日向ちゃんを乗せるのは初めてだよな?」

日向「うん。ルリ姉は毎回乗ってるみたいだけどね」

京介「あー、まあ、そうだな」


日向「……ねえ、高坂くんはあたしをルリ姉の妹じゃなくて一人の女の子として大切だって書いてくれたよね」

京介「そうだな」

日向「でも本当はルリ姉の妹だからなんでしょ?」

京介「そんな事はないさ。日向ちゃんはもう黒猫とか関係なく、俺にとって大事な人だよ」

日向「でも、こないだまでメアド知らなかったし、ルリ姉がいなかったらうちに来ないし、ルリ姉のことがなかったらあたしに連絡なんてしないし!」

京介「……それは今までの事だろ? これから――」

日向「先月、ずっとルリ姉がすっごく落ち込んでても高坂くんは何もしてくれなかったし! 前に二人が別れた時みたいにカッコよく登場してヒーローみたいに助けてくれるってずっと待ってたのに、あたしはずっと待ってたのに!」

京介「それは……」

黒猫と連絡を取ってはいけない状況に追い込まれていたからだ、なんて言い訳にしかならない。日向ちゃんから見たら、俺は黒猫を泣かせてばかりの酷いヤツだろう。

日向「それでまた仲直りしたかと思ったら、今度は隣の部屋で、あんな……ことをしてて! あたしがあの夜、どんな思いでいたかなんて高坂くんには分からないよ!」

京介「あの日の事は、本当に済まなかった」

日向「それで、今日だってルリ姉と一緒にいたんでしょ!? そしてルリ姉とイチャイチャしながらあたしにあんなメールを送ってたんでしょ! なんでそんなことするの!?」

京介「いや、確かに黒猫とは一緒に居たけど、あいつはメールには関与してない」

全力で嘘を吐いた。思えばあやせに騙された時からずっと何かにつけ嘘を吐いてるな。まともな死に方は出来そうにねえなこれ。

日向「そんなの信用できない。二人であたしのメール見ながらバカにしてたんじゃないの?」


京介「黒猫がそんな事をする人間じゃないって日向ちゃんが一番良く知ってるだろ?」

日向「そんなの言われなくたって知ってるよ! でも、じゃああたしはどうすれば良かったの? 姉の彼氏から急にフワフワするメールが送られてきて、本気にすれば良いのか分かんないし、こんなの誰にも相談できないし」

京介「俺の言いたい事は全部メールに書いたけどな。相談して欲しい、頼って欲しい、誰にも言えない悩みがあるなら全部ぶつけて欲しい」

日向「……高坂くんからメールが来るまでは、悩みはあの晩のことだったけど、それはもういいよ」

京介「そっか」

日向「今はもっと大きな悩みができたよ。高坂くんのせいでね」

京介「……」

日向「高坂くんがどーゆーつもりであんなメールを送ってきたのか知らないけどさ、あたし的にはかなり強烈だったんだよね。あれで期待持つなってのが無理だよね」

そりゃ期待させるように書いたからな。

日向「ねえ高坂くんはどうしたいの?」

京介「えっ、俺?」

日向「うん。あたしをその気にさせてエッチでもしたいの? ルリ姉とあたしに一緒にナニかしようと思ってるの?」

京介「お、思ってない! 思ってないから!」

日向「なんだ、思ってないんだ……」

なんで残念そうなんだよ! 驚いてちょっとだけハンドルがブレたじゃないか。


日向「じゃあ純粋にあたしが心配だったから相談して欲しいって言ったの?」

京介「ああ、そうだ。いま日向ちゃんは大事な時期を迎えている。そこを手助けしたいって思うのは当然だろ?」

日向「その大事な時期に、人を惑わせたり期待させて何でもなかったりした張本人が今ここにいるんだけど」

京介「誠に申し訳ございません」

日向「はぁ~~。もういいよ、高坂くんが悪意を持って人に何かをする人じゃないって知ってるし」

それは日向ちゃんの過大評価ってヤツだ。あやせに対抗するため悪に堕ちると決めたあの時から、俺は少しずつ狂ったままだ。

黒猫とまた付き合えるようになって彼女と愛を深めた今でも、俺の意思は歪んだまま変わらない。

日向「だからさ、あたしの今かかえている悩みを聞いてくれる?」

京介「おう、何でも相談してくれ」

日向「……これはあたしの友達の話なんだけどね」

そして日向ちゃんは語る。

その友達には好きな人がいるけど、実はその子の姉とその人が既に付き合っているのでどうにも出来ない。その友達の子は姉も相手の男も大好きなので二人の仲を壊すような真似は絶対に無理。二人を悲しませたくないけど、本当は自分を愛して欲しい。

日向「ねえ、どうすればいいと思う?」

京介「……難しいな。誰かと付き合っている以上、別の子を愛するのは無理だろう」

日向「うん、やっぱそーだよね」


京介「二人が別れればその友達の子と付き合う道もあるだろうけど、別れた相手の妹だと男も躊躇するだろうしな」

日向「そ、それはダメだよ! 別れるのは無しの方向で!」

京介「節操の無いヤツなら二股とかするんだろうけどな。その男が浮気性じゃないと無理だろうし」

日向「とてもマジメな人だから無理だと思うよ。……あ、そう友達から聞いたんだ」

京介「日向ちゃんの友達ってことはまだ中学生だろ? それなら年上なんて見ずに周りにいる男子で好きな相手を見付けた方が良いと思うけどな」

日向「男の人が年上なんて言ってないけどね」

京介「あー、あー、そうだったな。姉の交際相手って言うからてっきりな、ごめんごめん」

日向「でも同級生の男子なんてガキばっかだよ。バカなことしてスケベなことして、幼稚で相手になんてならないもん。付き合ってるカップルとか知ってるけど、やってることはおままごとだよ」

日向ちゃんが知らないだけで、みんなヤる事はヤってると思うんだが。

京介「みんな年上を狙うんだなぁ。なんでだろ?」

日向「落ち着いてて包容力があってエッチにがっついてなくて女の子を大事にしてくれる、やっぱそんな大人の雰囲気ある人がいいじゃん?」

いやいや、大人の男だってがっついてますよ。余裕と経験がある分だけ中高生よりはマシだろうけど。

日向「で、あたしとしては友達が上手くいけばいいなーと思ってるんだけどね。姉とは仲良しのまま、二人が別れることもなく、みんな幸せになれるルートとかないかな?」

京介「みんな幸せなルートか……そんなのがあれば良いよな」

日向「やっぱり無いかなぁ」


京介「なあ日向ちゃん、これは俺の友達の話なんだけどな」

日向「ん? うん」

京介「そいつはさ、付き合ってる彼女がいたのに、別の女性をつい抱いてしまった酷いヤツなんだ」

日向「え」

京介「そして浮気相手を妊娠させてしまった責任を取って、付き合ってた彼女とは別れて浮気相手を選んだ」

日向「……」

京介「でも男は元カノをずっと愛していたから、浮気相手を捨てて、元カノとよりを戻そうとした」

日向「そんなの最低じゃん」

京介「ああ、救えない最低野郎だ。で、当然浮気相手は怒るよな。どうなったと思う?」

日向「どうって……。怒った浮気相手の人に刺されたとか?」

京介「そうなってもおかしくなかったんだけどな。男は家族や周りの友達の力を借りて、浮気相手に絶縁状を叩き付けた。妊娠は女のせいだから自分は責任を取らない。どうしてもと言うなら裁判を起こすって」

日向「……いや、そいつ死んだ方がいいと思うよ。最低ってレベルじゃないよ」

京介「そうだな、男は人間じゃない、ただのゴミ屑だ。そして、普通ならそんな裁判起こす必要もなく男には責任が発生する。だけど実は、浮気相手には男の出した条件を飲まないといけない都合が悪い点があったんだ」

日向「そんなのあったの?」

京介「ああ。ちょっと女の子に聞かせられる内容じゃないから、そこは省かせてくれな。で、しぶしぶ条件を飲んだ浮気相手は男から身を引いて、晴れて男と元カノはカップルに戻りましたとさ」

日向「なんだか納得いかないんだけど……でも、本人たちがそれで良いなら、まあ。浮気相手の人は子どもをどうするの?」

京介「一人で産んで一人で育てるらしいぜ? 親や友達の力は借りるつもりみたいだけど」


日向「それって、そんなの悲しすぎるよ。その男の人が浮気なんかしなければ誰も不幸にならなかったのに!」

京介「そうだな。それでも、浮気相手の女はそんな最低男の子どもが欲しかったんだってさ。好きで好き過ぎてどうしようもなくて、頭がおかしくなるくらいに男を愛していて、だから妊娠を望んで抱かれた。本人は納得しているよ。今では落ち着いているように見えるな」

日向「……そうなんだ」

京介「ああ。んで俺が今の話から何を伝えたかったのかと言えば」

日向「みんなが幸せになれる道なんて存在しない?」

京介「そうだな。男が彼女と浮気相手を同時に愛せて、それらが許される世界なら何も問題はないんだけど、実際はそんな事ある訳がない」

日向「うん」

京介「それが悲しいけど現実なんだ。カレカノの関係までならモラルの問題はあっても、まあ無い話じゃない。だけど例えば結婚するとなれば話は別だ。日本の法律じゃ一人としか結婚できない」

日向「でも浮気相手の人は子どもを産むんだよね? どうなるの?」

京介「そのまま父親が居ない家庭で育つ事になるな。幸い、男は認知だけはするつもりらしいから、って認知が分からないか。ま、産まれる子どもは戸籍上はちゃんと父がいるようになる。だけど家には母しか居ない」

日向「母子家庭ってやつだね」

京介「そうなるな。男はその家庭に関与するつもりは全くない。そしてよりを戻した彼女は浮気相手が妊娠している事を承知しながら男と寄り添うと決めた」

日向「なんか……全員ダメな人たちだね?」

京介「日向ちゃんの言う通りだよ。そしてな、これからが重要なんだけど」

日向「え、まだ続きがあるの? もう聞きたくないなぁ」


京介「その男は自分が思ってるよりもモテるみたいで、他の女性からも想いを寄せられているみたいなんだ」

日向「はぁ~、スケコマシなんだね」

京介「想いを寄せてくれる相手の中には、実の妹や妹の友達、同級生や趣味で知り合った仲間とか居るみたいなんだけどさ」

日向「うん。うん? 妹?」

京介「そして付き合っている彼女には妹が居て、その妹もどうやら男の事が好きらしいんだよ」

日向「…………え?」

京介「その男は最低最悪の下劣な野郎だから、きっとみんなが抱いてる想いは勘違いだと思うんだよ。きっと関わったら不幸になる。だから俺は、その男に今以上に女の子が近付くのを良しとしない」

日向「……ねえ」

京介「日向ちゃんも、じゃなくて日向ちゃんの友達にも伝えておいてくれないか。人を好きになるのは仕方ないけど、相手はしっかり見極めないと駄目だ。じゃないと誰も幸せになれないってさ」

日向「ねえってば!」

京介「おう、どーした」

日向「その友達って高坂くんの大学の友達かなんかだよね? あたしの知ってる人じゃないよね!? もしかして作り話だったら良いなぁって思うんだけど」

京介「残念ながら実話だけど、安心してくれ、日向ちゃんの知ってる人物なんて今の話には一ミリだって登場してないよ」

日向「……そうなの? そっかあ、なら良かったよ」

京介「ああ。そんな屑野郎、そうそう居てたまるかってんだ」


日向「うん、高坂くんの話は分かったよ。だけどあたしの友達が好きな人はすっごく優しくて責任感が強い人だからダイジョーブだよ!」

京介「……そっか」

日向「うん! 責任感があるからきっとその子のことは相手にしてくれないけど、でも好きでいるのは自由だもんね。誰も不幸にならないでしょ?」

京介「俺としては、別の誰かを好きになって欲しいと思うんだが」

日向「いや~無理ムリ! だってその子にとってはピンチにさっそうとかけつけてくれたヒーローだもん、他の人なんてゴミみたいなもんで好きになんてなれないって!」

京介「そうか……。良いヤツを好きになったんだな。俺の友達とは大違いだよ」

日向「うん、すっごく素敵な人なんだ。好きになるのも仕方ないよねー。もしかしたら、その人ならみんなが幸せになれる道を見つけてくれるかもしれないし!」

京介「はは、そんなのがあれば俺も教えて欲しいな」

日向「あれあれ~? 高坂くんもルリ姉以外に気がある相手がいるのかな~?」

京介「いやいや、俺は黒猫一筋だぜ!」

日向「はいごちそう様。でもあたし――の友達はあきらめないから、みんなで仲良くできる未来を信じるよ! と思ってるよきっと!」

京介「そうか。なら俺もその友達にいつか幸せが訪れる事を祈っておくよ」

日向「うん!」




そのまますっかり機嫌を治した日向ちゃんとドライブを楽しみ五更家に帰還。

もう気にしないから泊まってっても良いよ、と言う日向ちゃんにチョップを喰らわしてからお茶だけご馳走になりお暇した。





そして週末。

ブリジット「えへへ、昨日はきょーすけさんの好きなお料理を教えてもらっちゃった」

麻奈実「そう言う事ならわたしに任せて。きょうちゃん好みの味付けまでバッチリ教えてあげるよぉ」

加奈子「師匠、あたしにもお願いしまっす」

桐乃「あれからひなちゃんとはどう?」

黒猫「ええ、かなり以前の状態に戻った感じがするわね。両親にはまだきつい態度のままだけれど、それでも多少は改善されたわ」

沙織「日々成長しているのですなあ」

あやせ「今の内にしっかり習慣を身につけてないと、背が伸びただけじゃ京介さん好みのバストにはなれないけどね」

日向「え、そうなんですか? そっか、じゃあしっかりやります」

あやせ「うん。ちゃんと大きくする方法はあるから教えてあげるね。まずは――」

黒猫「……」

加奈子「……」

ブリジット「……」


桐乃「なに急に無言になってんのよ。気になるなら一緒に聞けばいーじゃん?」

黒猫「何を勘違いしているのかしら。私は自分の胸の大きさに不満など抱いてないわ」

加奈子「あたしはもちょっとだけ欲しかったかなー。さすがにペッタンコすぎるぜ」

ブリジット「わ、わたしは何となく、です……」

沙織「実に微笑ましい光景でござるな」

麻奈実「そうだねぇ」

桐乃「あたしも含めてDカップ以上連合でも作る?w」

黒猫「はんっ、脂肪の塊がたまたま胸に多く付いてるだけの分際で良い気にならない事ね」

加奈子「ケッ。京介はロリ好きだからな、あたしでもヨユーでいけるはずだぜ。あいつ加奈子のこと大好きすぎるしぃ?」

黒猫「妄言はそこまでにしておきなさい、来栖加奈子。京介は私の胸を好きだと言っているのだから、あなたには万に一つの可能性も無いわ」

ブリジット「わ、わたしは……」

あやせ「ブリジットちゃんは大きくなると思うよ? 今でも平均以上あるんだし」

日向「くぅっ! あたしにも将来に希望が持てるだけの可能性が欲しかったあ!」

黒猫「日向、帰ったらニンジンとピーマンのフルコースが待っているわよ。覚悟しておきなさい」

加奈子「ぶはっ、中学生にもなってニンジンとピーマンが苦手って、そりゃガキすぎんだろ~w」


日向「も~、ひどいよルリ姉、高坂くんの前でそんな秘密バラすことないじゃん!」

麻奈実「大丈夫だよ、きょうちゃんはそんな事で人を嫌いになんてならないから。でも、何でも元気良く食べられる子の方が好きかなぁ? ね、きょうちゃん」

京介「……」

日向「そおかー。じゃあガマンして何でも食べられるようになろうっと」

あやせ「たくさんの栄養をバランス良く摂って、マッサージやバストアップ体操を欠かさず行って、規則正しい生活を送ることが大事だよ」

沙織「ふむふむ」

加奈子「特にオメーにそんな反応をされるとムカつくなー。なんだよこのでっけーおっぱい」

桐乃「沙織はどうか知らないケドあたしはモデルとして今のスタイルを維持するために日々努力してるかんね。加奈子にはおっぱいを大きくする努力が足りてないのよっ」

加奈子「あたしの身長でおっぱいだけおっきかったら異常すぎんだろ」

沙織「世の性的嗜好にはロリ巨乳なるジャンルもあるのでござるよ?」

黒猫「そんなニッチなジャンルなど滅びてしまえば良いのよ。京介が好きなのは私なのだから、私くらいの胸があればそれで充分だと証明されているわ」

あやせ「でも京介さんはわたしの胸で――あっ、これは黒猫さんには無理でしたね、ごめんなさい」

黒猫「……あやせ、良い度胸してるわね。彼女である私に対して抜けぬけとよくも言えたものだわ」

あやせ「元彼女として、黒猫さんより濃密な時間をすごしていた自負がありますから」

黒猫「……言ったわね」

あやせ「ふふ、わたしの中には何よりもその『証拠』が残ってますから」


桐乃「もー、ケンカしないの! せっかく仲良くなったんだからケンカしたら妹権限で追い出すよ!」

黒猫「なっ、先に喧嘩を仕掛けてきたのはこの女なのよ」

あやせ「わたしは事実を言ったまでですよ? でも追い出されたくないので大人しくしてますね」

沙織「いやあ、この二人もすっかり元の通りに仲良くなりましたな」

麻奈実「仲良く喧嘩してるよねぇ。あめりかの有名なかあとぅうんあにめに出てくる猫さんとネズミさんみたい」

日向「あたしとしては、あやせさんがメッチャ重要そうなキーワードをいくつか言ってたのがとても気になる」

ブリジット「わたしも知らない情報がいくつかあったかなあ」

日向「高坂くん、どーゆーことっ!?」

ブリジット「きょーすけさん、せつめいしてください!」

京介「……」

加奈子「さっきからずっと黙っててどーしたヨ? お腹痛いならさすってやろーか?」

京介「……狭い」

桐乃「ん?」

京介「なんで毎週俺の部屋にこんなに人が集まってるんだよ! 狭すぎるっての! 明らかにキャパ越えてるだろっ、おまえらおかしいと思わないのか!」


あやせ「えっと、別に違和感はありませんけど?」

麻奈実「逆にまだ足りない気がするんだよね~。何でかなぁ?」

沙織「京介氏を除いて女性が九名おりますな。あと一人加われば丁度十名になるのですが」

加奈子「なーんか、誰か足りない気がするんだよなー。張り合える相手がいないっつーかよー」



??「へっくち! う~、やっぱ風邪かなぁ? ま、いいやゲーセン行こ! 高坂に会えるかもしれないしね!」



京介「せめて桐乃の友達組は桐乃の部屋に行ってくれ。まともに勉強も出来やしねえ」

あやせ「嫌です」

加奈子「んなの聞く必要ねーしな」

沙織「拙者は中間ラインですかな」

麻奈実「わたしは安全だね」

黒猫「京介のベッドは私の場所と決まっているのだからここから動く必要は無いわね」

ブリジット「あわわわ、なんだかエッチです!」

日向「あたしは高坂くんの友達だからここにいても良いんだよね?」

桐乃「自分の家なんだからどこにいようがあたしの勝手だし~」


京介「誰も動く気無しとか、もう知らん! なら俺が出て行く!」

珠希「あの、わたしがいたらごめいわくでしたか?」

京介「ああいやいや、珠希ちゃんはコンパクトで場所取らずだし大人しくて静かだから迷惑なんて無いさ! むしろ珠希ちゃんだけで良い!」

桐乃「死ねっ!」

京介「おわっ。危ねえだろうが、何しやがる!」

あやせ「ロリコンは黙っててください」

京介「おいあやせ、その手錠いまどっから出した」

加奈子「はいはい、分担作業な。おいブリジット、京介を押さえるの手伝ってくれ」

ブリジット「ええ!? うぅ、分かったよぅ」

日向「それならあたしは高坂くんの足を押えるよ。たまちゃんも手伝って」

珠希「はい。こうですか?」

京介「やめろー! 狭いんだから無理に動こうとするな! あと手錠はやめてください、トラウマが刺激されてしまいます!」

沙織「いやはや、すっかり元通りですなあ」

黒猫「以前はこんなに人が集まる部屋では無かったのだけれど……」

麻奈実「きょうちゃんにも困ったよねぇ」



佳乃「桐乃が帰ってきてからすっかり二階が賑やかになったわよね」

大介「そうだな」




あやせの計略を発端とした一連のドタバタは、こうして収束を迎えた。

なぜか騒動前よりも俺を取り巻く女性たちが増えているような気がするんだけど、きっと気のせいだよな? うん、気のせい。


そして黒猫との平穏無事な毎日を希望する俺だったが、そうは問屋が卸さないってな。


この先も、桐乃が海外へ戻る時に一悶着あったり、

誰かさんと想定外の再会を果たしたり、

あやせの妊娠が親に発覚したり、

加奈子や日向ちゃんが強硬手段に出たり、


まあ俺の人生波乱万丈だよ、本当にさ。


愛する彼女との日常を送る中で、狂っていた俺の頭も少しずつ元に戻って行けば良い、と楽観視していたが……、

あやせ「わたしがまだ治ってないんですから、京介さんだってまだまだですよ」

だ、そうですよ。



黒猫「ふっ、京介には私が付いているのだから何も恐れる事など無いわ」

京介「はいはい、頼りにしてますよ彼女さん」

黒猫「もう少し情緒のある言い方は出来ないのかしら? 愛情が感じられないわよ」

京介「愛なら捨てる程あるさ。けどまあ、そうだな――」



京介「全てが片付いたら結婚するか。余所に子どもが居ても良いならさ」

黒猫「……外で作った女に産ませた子どもが居るなんて聞いていないわね。そんなだらしのない男と結婚なんて御免だわ」

京介「そこは素直にはい、って言ってくれよ!」

黒猫「ククク、連綿と培われてきた我が天邪鬼っぷりを軽く見ない事ね。そう易々と応じる訳がないでしょう?」

京介「そこを胸張って言われてもなぁ。分かったよ、ならあやせと結婚するからさ」

黒猫「まっ、待ちなさい。なぜそうなるのか分からないわね。あなたには既に私と言う闇の伴侶が居るのだから、後は人間界での規則に沿った契約を履行するだけで良いのではないかしら」

京介「ふっふっふ、俺のプロポーズを素直に受けなかった罰だ! 今すぐあやせにメールを送るのをやめて欲しかったら、心の底から俺を愛してると宣言するんだな!」

黒猫「愛してるわ! 誰よりもあなたを愛してる!!」

京介「……今までで一番大きな声だったぞ」

黒猫「そ、それだけ本気だったと言う事よ。これで伝わったでしょう?」


京介「いーや伝わらねーな。あんなのじゃ全然足りない」

黒猫「くっ、今以上を望むと言うの? どれだけ底なしなのかしらこの雄は」

京介「俺の愛は極大だからな。例えば十人くらいなら同時に愛せそうだぜ!」

黒猫「莫迦な事を言ってないで、早く先程の台詞をもう一度言って頂戴。そうすれば最大限の愛をもって応えてあげるわ」

京介「どの台詞だ?」

黒猫「どこまで私を辱めれば気が済むのかしら。その、私に、未来への約束を取り付けようとしたでしょう? あれを」

京介「全然分からん」

黒猫「そう……。考えてみればあなたは基本的に自分から動くタイプでは無かったわね。ならば私から、と言うのも時代に即した流れと言えるでしょう。良いわ、しかと聞きなさい!」

京介「結婚しよう」

黒猫「――ズルいわ。いつもいつもあなたはズルくて卑怯で姑息で、どうしようもない程に私の心をかき乱す」

京介「俺が大学を卒業したら必死に働いて金を稼ぐからさ、そしたらどこかのアパートでも借りて一緒に暮らそうぜ。そして黒猫が卒業したら結婚しよう。な?」

黒猫「……はい。不束者ですが、末永くよろしくお願いします」

京介「こちらこそよろしくお願いします。死が二人を分かつまでずっと一緒だ」

黒猫「ふっ、あなたの魂は既に我がモノとなっているのよ。死さえも私達を切り離す事は不可能だわ」

京介「そうか。じゃああの世でも一緒だな」

黒猫「ええそうね。でも、まずは現世に於ける人生を謳歌しましょう。後の世のために、私達にも、その、こ、子どもが必要だわ……」

京介「子作りの練習ならたくさんしたもんな。いつでも本番いけるぜ!」


黒猫「まだ日が高い内から、なんて破廉恥なのかしら。良識を疑うわ」

京介「そっちから言い出したんだろーが。たまには良いだろ? 予行演習を重ねるのだって大事だぞ。それに今日は親父もお袋も居ないしな」

黒猫「……まさか最初からそのつもりだったと言うの? 本当に駄目な人」

京介「俺が駄目人間だってのは今更だな。ほら、力を抜いてくれ」

黒猫「あっ……はい……」

優しく抱き締めると黒猫が微かに震えているのが伝わってくる。何度身体を重ねようといつまでも初心な彼女が愛おしくて堪らない。

だから俺はゆっくりと彼女にキスをして、その豪華なドレスを――


桐乃「うらっしゃーーー! 黒猫いるんでしょっ!!」

黒猫「……」

京介「……」

桐乃「……真昼間からナニしてんのあんたたち」

黒猫「え? ……え?」

京介「何って、そりゃナニを」

桐乃「し、し、し、死ねえっ!!」

京介「だから危ねえって! なんでおまえは頭に血が上ったらすぐ暴力を振るおうとするんだ!」

桐乃「うるっさい! 久しぶりに帰国したのに早々にバカなコトしてる兄貴が悪いっ!」

京介「馬鹿な事とは何だ。これは恋人同士の愛の営みだ」

桐乃「キリッとした顔でゆってもごまかされないわよっ! あーもーサイアク。涙を流しながらあたしに再会できたコトを喜ぶ兄貴の姿が見られると思ってウキウキしながら帰ってきたのに」


京介「それだ。おまえはなんでここに居る? 学校は? 仕事はどうした」

桐乃「そんなのクリスマス休みになったから帰ってきたに決まってるでしょ。あんま長くないけどさ、それでも日本にいたいんだからしょーがないじゃん?」

京介「そうか。桐乃、おかえり。元気なのは分かってたけど、こうして直接会えるのが一番嬉しいよ」

桐乃「……そ、そんなの、どこにいたって元気だしぃ? ま、会えて嬉しいってゆうなら特別に許してあげないコトもないケド?」

帰国してすぐの割に元気だよな。時差ボケとか無いのかよ。

黒猫「桐乃、おかえりなさい。今度はいつまで居るの?」

桐乃「ただいまっ。んーっと、一週間くらいかな?」

黒猫「そう、余り長くはないのね」

桐乃「その分たーーっぷり遊ぶわよ! あんたたちがイチャイチャする暇もない程、あっちこっちに連れ回すからね!」

黒猫「ふっ、望む所よ」

京介「俺は出来れば黒猫と二人だけでイチャイチャする方が良いんだが」

桐乃「うっさい、そんなのあたしがまたあっちへ行った後にたっぷりすればいいじゃん。――さーて、まずは全員を呼び出すわよ! この部屋に!」

京介「それはいい加減やめてくれ!!」




俺と黒猫の物語は、まだまだ終わらせて貰えそうにないな。

だったら与えられたイベントを全力でこなしてやろうじゃねーか!

京介「とりあえず、みんなに婚約したって発表するか?」

黒猫「それは名案ね。全員に牽制しておかないと、いつまた誰が余計なちょっかいをかけてくるか分からないもの」

ポチポチとスマホを操作していた桐乃が手を止めてこちらを見上げる。

桐乃「……今なんつった?」

京介「いや別になんも言ってねえよ?」

黒猫「フッ、すぐに分かる事になるのだから、それまで大人しく待っていなさい」

桐乃「絶対に重大な単語を口にしてたっ! 隠さないで言いなさいよっ!」

京介「秘密だ」

黒猫「秘密よ」

桐乃「ぬがあっー! 全員いますぐ集合っ!!」

京介「相変わらず騒がしいヤツだ」

黒猫「ふ、またしばらく楽しい時間が過ごせそうね」



俺の隣に黒猫が居て、側には桐乃も居る。周囲を取り巻く友人たちだって見守ってくれている。

ここまでにたくさんの失敗を繰り返してきたけど、しっかりと全員で前に進めている。

だからこれからだって何とかなるさ! みんなが力を貸してくれるから何でも出来る!


黒猫「あら、私はみんなの一部でしかないのかしら?」

京介「そんな訳ないだろ。おまえが特別で一番なのは永遠に変わらない」

黒猫「勿論そんな当たり前の事は言われなくとも理解しているわ。それでもやはり言葉で表して欲しいものなのよ」

京介「なら何度でも言ってやる! 瑠璃、俺はおまえを愛してる、誰よりもだ!」

黒猫「私もよ。桐乃よりも、あやせよりも、あなたを心から愛しているわ。誰にも渡さない」

桐乃「ナニコレやってらんない……砂糖吐きそう」







    終


こんばんは、以上となります。


毎度のごとくダラダラのグダグダで申し訳ないです。

本編をなるべく長くしようと思ってたら、こんなに無駄に長くなってしまいました。もっと簡潔にまとめられるようにならねば。

ラスボス? はなぜか日向ちゃんですがあくまでメインは黒猫です。私はあやせスキーです。

ああ~、ボケ、ツッコミ、その他全ての役どころをこなせる秋美が欲しい……。いなくなって分かる重要ポジでした。


それでは、また~。

>>126

うおお、気付いてませんでした。

そこは本来黒猫じゃなくて桐乃の台詞です。流れがおかしいので適当に脳内補完でよろしくお願いします。


>>161

実際、あやせとの決着が付いた段階で終わらせようと思ってたました。

長くしてみよっかなーと軽い気持ちでやってみた結果がこれです……。


それでは今日はこの辺で~。


>>126じゃなくて>>128でした。

もうやだ、おうちかえるぅ……。


 おまけ あやせさん色々吹っ切れた 編



あやせ「京介さん、赤ちゃんの服とか小物とかのグッズを見に行ってみませんか?」

京介「なぜ俺が」

あやせ「それはもちろん、京介さんがこの子の父親だからです」

京介「それはそうなんだが……いや、確かにそうなんだけど」

あやせ「別に責任を取ってくださいって言ってる訳じゃないんですから、そのくらいしてくれても罰は当たらないと思うんですよ。ダメ、ですか?」

京介「あー、なんだ、うーん。まあその位なら……良いかなぁ?」

あやせ「やった! それじゃ早速行きましょう!」

京介「行く所はもう決まってるのか?」

あやせ「はい、少し距離は遠いですけど、赤ちゃん用品専門のお店があるんです」

京介「んじゃ車を借りる準備するから待っててくれ」

あやせ「あ、わたしが言い出したんですからレンタカーの手配ならわたしがしますよ」

京介「良いって。その位はさせてくれ」

あやせ「そうですか? ではお言葉に甘えさせてもらいます」


……。

京介「うっし、準備出来たから行こうぜ」

あやせ「はいっ」

黒猫「……あなた達、まさか二人だけで行くつもりではないでしょうね」

あやせ「あれ、黒猫さんいたんですか?」

黒猫「あやせがここに来る前からずっと居たのだけれど、あなたの脳は正常ではないから私を認識する事は不可能なのね」

あやせ「そうですね。認識できないので存在してないことになりますよね。だから付いてこないでください」

黒猫「ふっ、認識出来ない筈の存在と会話を交わす電波な女と京介を一緒にさせる訳ないでしょう。勿論私も同行するわ」

あやせ「でも妊娠する予定も無いような人が、そんなお店に一人でいても辛いだけですよ? お薦めしません」

黒猫「あらあら、あなたは現状から想定出来うる未来を予見する能力すら失ってしまったのね。可哀想な人」

あやせ「ふふ、あと半年とちょっとすればわたしは可愛い赤ちゃんを産むことになります。どれだけ可能性の薄い未来に賭けているのかは知りませんけど、わたしと京介さんの赤ちゃんを見て悔しがる姿が目に浮かぶようです」

黒猫「はっ、たかだか一人産む予定なだけで勝ち誇らない事ね。私なら最低でも二人は産むわよ」

あやせ「むっ。それならわたしは三人産みます!」

黒猫「それは不可能よ。最初の一人だけで満足して諦めなさい。京介の全ては最早私のモノなのだから」

あやせ「黒猫さんはわたしが赤ちゃんを産んだ後、京介さんの心がこちらに傾くのを恐れているんですね。だからそんな強がりばかり言っちゃって」

黒猫「可能性すら存在しない妄想に憑りつかれた哀れな女がいま目の前に居るわ、と桐乃にメールを送っておきましょう」

あやせ「ふ、ふふ。いつもいつも桐乃を引き合いに出せばわたしが動揺すると思ってるなら大間違いですよ。わたしは京介さんの子どもを産んで母になるんですから、既にそのための強い心を手に入れてます!」

黒猫「……毎回、京介の子ども、と言うキーワードを出せば私が退くと思わない事ね。それが通用するのはあくまでも今だけよ」

あやせ「むーっ」

黒猫「ふんっ」

京介「あー、加奈子か? ちょっと買い物に付き合ってくれよ。俺だけじゃこの空間に耐えられねえわ。おまえが必要だ」




加奈子「いやーまいったね! まさか京介からあんな熱烈な告白を受けるとは思わなかったぜ」

黒猫「……」

あやせ「……」

加奈子「わりーな二人とも。京介はあたしがもらうからさ、あきらめてくれ」

京介「加奈子おまえ、分かってて言ってるだろ?」

加奈子「ん? 何が?」

京介「分かってなかったのかよ!」

加奈子「何のことだか分かんねーけど、ま、これからよろしくな!」

京介「はいはい」

あやせ「なぜ誤解を解こうとしないんですか? このままでは加奈子が図に乗るだけです」

加奈子「何かひでーこと言われんなぁ。今のあたしはちょー機嫌がいいから許すけどな!」

黒猫「哀れな来栖加奈子の事はどうでもいいわ。私はあやせが助手席なのが納得出来ないわね」

あやせ「それは、わたしが提案者であり妊婦だからです。当然じゃないですか」


加奈子「つーか、オメーらなんでいるんだ? 召し使い?」

あやせ「わたしはメイドとしてでも京介さんのお傍に置いてもらえるなら、それで構いませんけど」

黒猫「家事は私一人居れば事足りるわ。メイドなど不要だから余計な願望は持たない事ね」

あやせ「では黒猫さんは家の用事だけお願いしますね。わたしは京介さんの身の回りと夜のお世話を担当しますので」

加奈子「おっ、それはゆずれねーな。夜の担当は加奈子って決まってるしぃ?」

黒猫「ふっ、生娘の分際で恥ずかしげもなくよくも言えたものね」

加奈子「いや、あたしもう処女じゃねーし」

京介「えっ!?」

あやせ「……なぜ京介さんがそんなに驚くんですか?」

加奈子「なんだヨ、京介ってあたしの処女欲しかったのか? 仕方ねーな、今からホテル行くか? あたしはいつでも準備できてるぜ」

黒猫「あなた言ってる事が支離滅裂よ。頭は大丈夫なのかしら」

加奈子「いやー、ジョーケンハンシャでついウソついちまった。京介が抱いてくれないとあたしはいつまでも処女のままなんだよなぁ」

京介「条件反射で嘘吐くなよ。どんだけ負けず嫌いなんだ」


あやせ「なら安心して、加奈子は一生未経験のままだから」

加奈子「そんなのズリーぞ。二人だけで楽しむ気かよ、あたしにも分けてくれよ~」

京介「加奈子、おまえはもう少し恥じらいを覚えてくれ」

加奈子「ぎゃはは、そんなん無理ムリ! あたしはあたしなんだから、それを受け入れてこそ男の株が上がるってもんだぜー」

黒猫「京介の愛情は余す所なく私に注がれているのだから、他の者が介在する余地など無いわ。諦めなさい」

あやせ「でもわたしが赤ちゃんを産めば、きっと京介さんは父性愛に目覚めてくれます」

京介「いやそれは――無いとは言い切れないけどさ」

黒猫「……百歩譲って自身の血を分けた子に愛情が向くのは仕方ないと認めましょう。でもそれはせいぜい5%位までね。残りの95%は私に向いていないと……末代まで祟るわよ」

加奈子「猫は欲しがりだなぁ。んなゼータクゆってっと、京介に飽きられて捨てられた時に生きていけねーぞ?」

黒猫「ふっ、私を甘く見ないで頂戴。もしも京介と別れる事になったら自ら命を絶つわ」

京介「こえーよ! そんな事は絶対起こらないから、冗談でも死ぬとか言わないでくれ!」

黒猫「私は本気よ?」

あやせ「くっ、やりますね……。わたしは産まれてくる子のためにも自殺なんて無理ですし」

加奈子「んじゃ、残された京介はあたしが頂くから、オメーらは安心してジョーブツしてくれ」

あやせ「勝手にわたしまで殺さないで。逝くのは黒猫さんだけよ」

京介「おーまーえーらー、いい加減にしろっ! これ以上命を軽んじるような発言をしたら向こう一ヶ月は口利いてやんねーぞ!?」

『ごめんなさい……』




千葉駅周辺でブラブラしていたらしい加奈子を回収し、そのまま車を走らせること約40分。俺たちは近隣市にある大型ショッピングセンターに到着した。

加奈子「小腹が空いたしアイスでも食わねー? 加奈子はチョコレートでいいよぉ~」

京介「寒いのによくアイスなんて食べる気になれるな。っておまえ奢って貰う気満々だな。ほら、今日の目的地は二階らしいから行くぞ」

加奈子「いきなり呼び出されたんだから、そのくらいごほーびがあってもいーだろ?」

京介「あー、確かにそうだな。んじゃチョコレートだけだからな、それ以上は駄目だぞ」

加奈子「ひひひ、モチロンあーん、だぜ?」

京介「誰がやるか。んでアイスは後な。まずはあやせの用事が先だ、ほらとっとと動く」

黒猫「あなた達、店先でじゃれ合ってないで早く移動するわよ」

あやせ「ここでの主役はわたしだということを忘れないでくださいねっ」



京介「へぇ、広いもんだな。これ全部ベビー用品なのか?」

あやせ「大体そうですね。ちょっと大きい子向けの商品もありますけど、基本は赤ちゃん用です」

黒猫「この手の店に来るのは初めてだから、少し新鮮ね」

あやせ「わたしも初めてです。同種のお店の中ではここの系列が一番品揃えが良いらしいですよ? ちょっとお高めですけど」

加奈子「ふーん? 何が必要なのかも分かんねーw」

あやせ「オムツとかの消耗品は安いお店で買っても良いみたいだけど、ひとまずは隅から隅まで全部見てみよ?」

加奈子「え、ヤだ。メンドクサイ」

あやせ「加奈子、こう考えてみたらどう? 将来京介さんの赤ちゃんを産む時のために備えてるって。今知っておいたらきっと役に立つよ」

加奈子「な~るほどぉ~~」

黒猫「何を感心しているのよ。あやせはもう出来てしまったから仕方がないとしても、それ以外を私が認める訳ないでしょう? 常識で考えて頂戴」

加奈子「ひっひっひ、そんなんどーなるか分からねーだろー? 京介が性欲のバケモンになってあたしを襲うかもしれないしなっ!」

あやせ「わたしも産後すぐにエッチできるようにがんばります」

黒猫「ふざけないで、京介に抱かれて良いのは私だけよ。あなた達に指一本でも触れさせないわ」

加奈子「ほれ、あたしの身体って柔らかいだろ~? しっかり鍛えてるから、きっとあそこの締まりはサイコーだぜ?」

黒猫「あっ。は、離れなさいっ」

京介「おまえらここが店内だって忘れてる訳じゃねーよな? さっきからものすごく注目されてるぞ。主に俺が冷たい目で見られているんだけどな……」

黒猫「ご、ごめんなさい」

京介「気を付けてくれるならそれで良い。ただ加奈子はもうちょっと恥じらいを覚えてくれって。さすがにあそこまで明け透けだと引くわ」

加奈子「え……ダメだった?」

京介「他人が居ない場所ならまだ多目に見るけどさ、さすがに外で大声でエロトークは無いな」

加奈子「っかしーなぁ。男はみんなエロトーク好きだって話だったのに」

京介「どこの情報かは知らないけど、少なくとも俺はもう少し控え目なエロの方が良いかな?」

加奈子「ちぇ。わーったよ、もう少しおさえてみるよ」


あやせ「では気を取り直して、色々見て回りましょう。まずはベビーフードからですっ」

黒猫「随分と楽しそうね」

あやせ「それはもちろんです! 加奈子や黒猫さんにはピンと来ないでしょうけど、お腹の子にどんなご飯を食べさせてあげよう、どんな服を着てもらおうかって考えるだけで幸せになれますから!」

加奈子「へェ~。そんなもんかヨ」

真剣にマタニティグッズを品定めするあやせと、それに口を挟む黒猫。ちょっとした意見の対立からすぐに口喧嘩に発展するけど、それでも酷かった時の事を思えば、現在の状況は奇跡が起きたと言っても過言ではない位に良好だった。

俺はと言えば、最近あやせに対する嫌悪や憎しみが明らかに薄れてきていた。あやせの精神状態が比較的落ち着いている事と、何よりお腹の子を語る時の幸せそうな表情を見せられてはマイナス感情も揮発するってもんだ。

こんな調子だと、あやせがいざ出産した折に、赤ん坊を目の前に出されて関係修復を迫られたら突っぱねる事が出来ないんじゃないかって、そこが不安だな。

加奈子「あに難しい顔してんだ? トイレならすぐそこにあるぜ?」

京介「ああ、ちょっと未来へと思いを馳せていたんだ」

加奈子「そんなしかめっツラじゃロクな未来はこねーな。ほら、そこの店であたしとアクセでも見て楽しもーぜ?」

京介「ここに居る間はあやせの付き添いだからそれは却下だ」

加奈子「っそ。んじゃあたし一人で行ってくる」

京介「迷子になんなよ?」

加奈子「ガキ扱いすんなっての! バァーーカ!」




店内をじっくりと見て回ったがあやせは結局何も買わなかった。今回は最初から下見だけのつもりだったらしい。

そしてあちこちをウロチョロしてた加奈子と合流し、約束通りアイスを奢った。

加奈子「あーんは?」

京介「だからしねーって」

黒猫「ふっ」

加奈子「あ、ちょっとカチンと来たなー。ほらこれ食えよー」

強引にアイスを口に突っ込まれてちょっとだけ大変な目にあった。

あやせ「わたしのアイスもどうですか? 今なら口移しでもオーケーですよ?」

京介「駄目に決まってんだろ!」

後は全員で本屋や百均、生活雑貨の店などを冷やかしたりショッピングを堪能しつつ、和気藹々とした雰囲気で帰宅した。




日付が変わって本日の面子。俺、あやせ、加奈子、ブリジット、日向ちゃんin俺の部屋。

京介「なぜ黒猫が居ない状態で女の子ばっかりこんなに……」

日向「え、いたらダメだった?」

ブリジット「もしかしてごめいわくでしたか?」

京介「ブリジットちゃんは問題ないけど、他がなぁ」

加奈子「なんだそれ、ひいきだぞー」

あやせ「そうですよ。せっかく京介さんを慕って集まってくれた子たちに何てことを言うんですか」

日向「べ、別に慕ってる訳じゃないよ? 高坂くんは友達だから、遊びに来たっておかしくないもんね!」

ブリジット「わたしはしょせんかなかなちゃんのおまけですから」

加奈子「ブリジットは遠慮しいだなぁ。好きならグイグイ押せばいーんだよ」

ブリジット「ち、ちがうよ! そんなのじゃないもん!」

あやせ「ブリジットちゃんは加奈子と違って奥ゆかしくて可愛いね」

加奈子「あん? 加奈子の方が可愛いっての。京介を襲ったヤツに奥ゆかしいとかゆわれてもなあ」

日向「はい! 質問があります!」

加奈子「おう、ゆってみ?」


日向「高坂くんを襲ったってどーゆー意味ですか?」

ブリジット「うんうん」

加奈子「あー」

あやせ「……」

京介「その、だな。ほら、あやせってセクハラ仕掛けたらすぐハイキックしてくるからさ。俺は何度それにやられた事か」

あやせ「純真だった女子中学生にひどいセクハラをしてきたんですから当然の処置です」

ブリジット「怒ったあやせさんは、とても……」

日向「へぇ~、こんなに優しそうなのに。でもそれはセクハラする高坂くんが悪いね」

よし何とか誤魔化せた。

京介「防犯ブザーを鳴らされた事もあったし、何もする気がないのに手錠をかけられたり、まあ色々やられたよ」

日向「相当警戒されてたんだね。高坂くんがそこまでひどいセクハラをする人だとは思えないんだけどなぁ」

加奈子「昔の京介はあやせのことを理性なくすくらい大好きだったらしーから、そのせいだろーな」

あやせ「勝手に過去形にしないで。確かに今は黒猫さんと付き合っているけど、まだわたしにも可能性は残ってるから」

京介「いやいや」


日向「でも好きだった子にセクハラするって、まるで小学生の男子みたいじゃん。高坂くんって案外子どもだね~」

ブリジット「そうだね。中学になってもエッチな男子はいるけど」

京介「ふっ、大人だってセクハラ位するさ。油断してると、いつか日向ちゃんに天元突破セクハラトークをお見舞いして超泣かせてやるからな」

日向「なにそれ意味分かんないよw」

加奈子「あたしならハラって受け取らないからセクでオッケーだぜ?」

ブリジット「セクって……」

日向「すごくエッチな言葉に聞こえる!」

加奈子「そりゃセックスを略してセクってゆーくらいだしなー」

あやせ「加奈子、ウソを教えちゃダメでしょ。セクシャルの頭を取ってセクだから」

加奈子「ほとんど一緒じゃねえ? エロワードには変わんねーって」

京介「実際にはエロくなくてもセクハラ扱いされてたけどな」

あやせ「いいえ、あれは京介さんの性欲が暴走した結果としてのセクハラでした」

京介「いつ俺がおまえに対して性欲を暴走させたよ! 濡れ衣だ!」

日向「どんなことされたんですか?」

あやせ「たくさんありすぎて全部は憶えてないけど……ほぼ全裸のコスプレをさせようとしたり、人のベッドに勝手に潜り込んだり、京介さんが一人暮らししてた頃に無理やり泊まらせようとしたり、いかがわしい本とわたしのグラビアが載ってる雑誌を一緒に隠してたり、知り合いの親戚の赤ちゃんを預かっている時におっぱい出せって言われたり」


日向「……」

ブリジット「……」

中学生組の目が超冷たいものになってる!

京介「待て! 誤解、じゃない部分もあるが、全て過去の話だ! 他意は……無い部分もあったりなかったり!」

加奈子「全然ダメじゃねーか、この変態」

あやせ「――あと、プロポーズされたかな!」

ブリジット・日向『えええええっ!?』

加奈子「へーーーえ」

京介「何を嬉しそうに語ってんだよ、その時のおまえの返事は『通報しました』だったじゃねーか! ブザー鳴らされて、あの時はある意味俺の人生で一番ピンチだったわ!」

あやせ「……そうでしたっけ?」

きょとんと首をかしげるあやせは、見た目だけならやはりずば抜けて可愛い。中身は悪魔だけどな!

あやせ「もう一度プロポーズしてくれたら、今度はきっと違う返事がもらえると思いますよ?」

京介「する訳ねえだろ」

あやせ「残念です……」

日向「高坂くん、ルリ姉がいるのにあやせさんにプロポーズしたの? それは最悪だよ~」

京介「黒猫と付き合う前の話だよ。それに本気じゃなかったしな」

ブリジット「じょうだんでプロポーズはやっちゃダメだと思います!」

加奈子「セクハラとは思わねーけど、どっちにしても京介が悪いな」

京介「申し訳ございません」


加奈子「まっ、相手があやせってのが失敗だったな。あたしならエロいコスプレするし泊まってくしおっぱいだって吸わせてやるぜ?」

京介「ちなみにその当時の、俺から見た加奈子の評価は努力する友達思いのクソガキだ。おまえに何かするなんて無いな」

加奈子「ふ~ん。んじゃ今は?」

京介「努力する友達思いのエロガキ」

加奈子「それって少しはマシになってるのか?」

日向「ねえねえ高坂くん、あたしはっ?」

京介「日向ちゃんは、く――気の合う小さな友達だな」

日向「今一瞬ルリ姉の名前を出しそうになったでしょ。ちゃんと聞こえたよ」

京介「ソンナコトナイデス」

日向「はぁ~、まあいいや。まだまだかー」

ブリジット「……あの、わたしは……」

京介「天使」

ブリジット「テンシ?」

京介「ああ。ブリジットちゃんは天使! 異論は認めない」

ブリジット「あの、それは恥ずかしいです……」


あやせ「では京介さん、わたしにも素敵なものをお願いします」

京介「あやせかー」

少し前なら、殺してやりたい程に憎い女と即答していたけど、最近はちょっとなぁ。

京介「うーん。なんか前よりも図々しくなってるよな? そんな感じかな」

あやせ「なぜわたしだけそんな扱いなんですか」

加奈子「そりゃしょうがねーだろ。自分のやったことを考えてみろって」

あやせ「む。確かに、それを言われると……」

日向「何かあったのかな?」

ブリジット「あったのかな?」

京介「ま、まあそれはともかくさ! 折角だから何かして遊ぼうぜ、な!?」

日向「大声でごまかそうとしてるのがあやしい……」




黒猫「昨日、私がバイトで来られなかった隙を狙ってあの女と仲良くしていたらしいじゃない」

情報源は日向ちゃんだろうな。

京介「やきもきさせたなら悪かった。けどなんにも無かったから安心してくれ」

黒猫「果たして本当にそうかしら? 随分とお楽しみだったと聞いているわよ」

京介「どんな感じに伝わってるのかは知らないけど、普通に友達として接してた程度だって。大丈夫だから心配すんな」

黒猫「……そう。京介を疑っている訳ではないのだけれど、私が不在の間にあやせが居ると聞かされたらどうしても不安になるのよ」

京介「最近のあやせはかなり落ち着いてるから、もうあの時のような早まった真似はしないだろ?」

黒猫「それはどうかしらね。元々私とあやせは京介を巡って対立関係にあったから、私の中の彼女は基本的に攻撃的なイメージが強いのよ」

京介「はは、俺に対しても極めて攻撃的だったけどな」

黒猫「セクハラをしたあなたが悪いのだからそれは仕方がないでしょう。私にさえ、付き合っていなかった時期には殆どセクハラをして来なかったというのに」

京介「付き合っていてセクハラってのも何だかな。嫌がらせと感じられていたのならやめるけど」

黒猫「そ、そんな事は言ってないわ。京介が私にしてくれる事なら、どんなものでも受け入れられるもの」

京介「ほっほ~う。それならちょっと試してみたかったプレイがあるんだが、勿論それも受け入れてくれるんだよな?」

黒猫「……………………ええ、良いわよ」

京介「えっ、マジで!?」


黒猫「私はあやせとは違うわ。京介を嫌だと感じる事なんて絶対に無い」

京介「ならさ……ほらこれ。今度これ買ってみようと思うんだ。着けてくれるか?」

黒猫「猫の尻尾? これ位なら普段でも別に……。……ねえ、これってどこに着ける物なのかしら?」

京介「ちゃんとここに書いてあるじゃないか、アナルプラグ付きって。ネコミミと鈴の付いた首輪もセットで、語尾はニャでよろしくな!」

黒猫「自ら死を選ぶのと、私の手によってジワジワと命を削られるのとどちらが好みかしら?」

京介「え? でも今さっき何でも受け入れるって」

黒猫「黙りなさい。私を望むのではなくて、これでは単に破廉恥な猫を抱きたいだけじゃない。到底許容出来ないわ」

京介「いやいや、愛する彼女がよりエロい格好してくれるんだから、それってもう最高だろ? 俺だっていつもより三割増しで頑張れるってもんだぜ!」

黒猫「……呆れた。変態だとは知っていたけれど、ここまでなんて」

京介「はっはっは、任せろ!」

黒猫「はぁ、本当に駄目な人。……分かったわ、ネコミミと首輪は用意しておくから、尻尾はお願いね」

京介「よっしゃ来た! それぽちっとな!」

黒猫「オプションで眼鏡も用意しておくわ」

京介「マジスか。あの、フル装備した所を写真に残しても良いッスか? モチ裸で」

黒猫「死になさい」




『京介ー、あやせちゃんが来てるわよー!』

黒猫「……京介?」

京介「いや、何も聞いてないな。放置しとく訳にもいかねえし、ちょっと行ってくるよ」

……。

あやせ「失礼しまーす」

黒猫「なぜあなたがここに居るのか説明しなさい」

あやせ「あれ、黒猫さんいたんですか?」

黒猫「彼女である私がここに居るのは当然でしょう。あなたは昨日も来ていたらしいわね、羞恥心が欠如しているのではないかしら?」

あやせ「好きな人に会いに来るのに恥ずべき事などないですから。黒猫さんは家が遠いから通うのは大変ですよね? ここは近いわたしに任せてみても良いとは思いませんか?」

黒猫「いけしゃあしゃあと言ってのけたわね、このビッチが」

あやせ「ビッチというのは、元々は雌の犬を指す言葉なんですよ? つまり黒猫さんはわたしが京介さんの従順なペットと同等の存在であると認めている訳ですよね」

黒猫「その様な所がビッチだと言っているのよ。恥を知りなさい」

あやせ「わたしは京介さんが相手なら雌犬でも平気で演じられます。犬耳と尻尾と首輪を着けて、ワンと言えば良いんですよね?」

黒猫「はんっ、その様な稚拙な行為など私にとっては児戯にも等しいわ。既に十年前に通り過ぎた道よ」

あやせ「十年前だと黒猫さんは小学校に上がりたてくらいじゃないですか、それは犯罪ですよ……。そもそも出会ってないくせに」

黒猫「私と京介は魂で結ばれているから、時の法則に縛られる様な脆弱な繋がりとはまさに次元が違うわ。あなたには理解出来ないでしょうけれど」

あやせ「はあ」


黒猫「分かったのならさっさと尻尾を巻いて逃げ帰りなさい。私と京介の間に入り込める余地など存在しないわ」

あやせ「でも桐乃だったら大丈夫なんですよね?」

黒猫「あの子だけは特別よ。例外として認められるのは桐乃だけ。あなたみたいな俗人では不可能だと知りなさい」

あやせ「桐乃が入るスペースがあるなら、ちょっとだけズレてもらえばもう一人分くらいは確保できますね!」

黒猫「無理ね。どれだけ見た目で空間があっても核シェルターには定員があるのよ。トキの様に見事に散りなさい」

あやせ「どこから核とか朱鷺が出てきたんですか……。とにかく、いざとなれば産まれてくる子どもを押し込みます! そのくらいのスペースなら余裕ですよね? それすらも無いと言うのなら京介さんに抱っこしてもらいます」

黒猫「くっ、確かにそれなら不可能ではない……何て事なの」

あやせ「ふふふ、今日はわたしの勝ちですね! では、遠慮なくお邪魔させてもらいます」

黒猫「本当に邪魔ね」

あやせ「もう本日の勝敗は決したんです、あきらめてください」

黒猫「いいえ、まだ前哨戦が終わったばかりよ。本戦と、場合によっては延長戦もあるわ」

あやせ「でしたらその全てで勝利を収めてみせます。そして黒猫さんの目の前で京介さんとイチャイチャしますね」

黒猫「あなたの切り札は既に切られたのよ、勝ち目は無いわ」

あやせ「そんなことはありません、まだわたしには武器があります。黒猫さんには無い、恵まれた肢体とか、京介さん好みの顔の造形とか」

黒猫「無駄なあがきだわ。京介が愛しているのは私。外見も含めた私の全てよ。ちょっと私より背が高くて胸が大きいからって勝ち誇らない事ね」

あやせ「ちょっと?」

黒猫「……何が言いたいのかしら?」


あやせ「いいえー、何でもありませんよ? ふふふ」

黒猫「この売女が……」

あやせ「なっ、わたしは京介さん以外に身体を許したことなんてありません!」

黒猫「どうかしらね。DNA鑑定をした訳でもないのに、どうやってそれを証明するのかしら?」

あやせ「ぬぬぬっ」

黒猫「ふんっ」

京介「おう麻奈実か、ちょっとうちに来てくれねえか? ……そっか、手伝いじゃしょうがねーな。ん、またな」



果たして俺は無事にこの部屋から生きて出られるのだろうか?

次回の生存報告まで待っててくれよな!







    終


こんばんは、以上となります。


やっぱり気楽に書けて読める方が良いですねー。


それでは、また~。


 おまけ 黒猫さん色々吹っ切れない 編



みなさんこんにちは、こんばんは。高坂京介、大学一年生です。

一切の救いが存在しない絶望の混沌からわたくしを救い上げてくださったのは、女神の化身である来栖加奈子様でした。


加奈子「なんだヨ、女神とか照れるじゃねーか。師匠からヘルプもらったから様子を見に来ただけなのにラッキーだったぜ」

黒猫「待ちなさい、絶望の混沌とは何を指しているのかしら? 返答次第では捻じ切るわよ」

京介「物理攻撃は黒猫の担当じゃないから、そこはあやせにでも任せておけって。な?」

あやせ「どういう意味ですか!」

京介「だってあやせって某所じゃ癒しと殺戮の女神って呼ばれているらしいんだぜ? 殺戮って何だよ、こえーよ」

あやせ「癒しとか女神とか素敵な単語が含まれているじゃないですか。ちょっと殺戮だけ目を瞑っておけば問題ありません」

京介「プラスの部分で補い切れない位、殺戮が酷いんだが」

あやせ「だいたい某所ってどこですか、そんな失礼な呼ばれ方は納得できません! ……まさか、筧さんがブログで!?」

京介「某所は某所だよ。別に良いだろ、実際のとこ殺戮キャラだしさ」

あやせ「せめて癒しの女神でお願いします。それなら素直に受け取れますから」

加奈子「あんだぁ? 京介の女神は加奈子って決まったんだから、あやせは引っ込んでろよ」

黒猫「そもそもあやせに癒し属性は備わっていないわ」

あやせ「母になるわたしは、つまり母性溢れる存在へと昇華されたんです。母性すなわち癒し。何か問題がありますか?」

加奈子「あやせのことだから、おっそろしい教育ママになるだけだろ~。どこにいやしがあるんだよ」

黒猫「まさかあなたと意見が一致する時が来るとは思わなかったわ」


あやせ「お二人とも、いくら京介さんの子どもを妊娠しているわたしが羨ましいからって、そう露骨に嫉妬しなくても良いんですよ?」

加奈子「ケッ。ちょっと自分が京介とエッチできたからっていー気になんなよ。あたしだってその内に京介の子どもを妊娠してやるもんね」

黒猫「来栖加奈子、それを私が許す筈ないでしょう。そろそろこの台詞も言い飽きてきたわ。戯言は終わりにして頂戴」

あやせ「それに加奈子は京介さんの子どもが欲しい程には愛してないでしょ? 勢いだけでそんなことを言ってたらいつか後悔するよ」

加奈子「そ、それはぁ~~。あ、あやせが悪いんだからな、いつもいつも京介の子どもがお腹の中にいるってジマンすっからよー」

あやせ「事実を言ったまでだし。負けず嫌いも良いけど、行きすぎないようにしてね」

黒猫「でもあやせは確かに子どもを交渉とかの材料に使い過ぎてるわね。まるでその価値を自分の意見を通すための道具としてしか見出していない様だわ」

あやせ「……今の言葉は許せません。これ程の侮辱はありません、すぐに訂正してください」

黒猫「事実を言ったまでよ。負けず嫌いも悪くはないけれど、やり過ぎには注意しないといけないわね」

あやせ「そうですか。訂正する気は無い、ということですね」

京介「おいおまえら。仲良く喧嘩してる内は笑って見ているけど、マジギレするなら今すぐ出てってくれ」

あやせ「え……。で、でも、さっきの黒猫さんの発言はいくらなんでもひどすぎます! あれを見逃せっていうんですか!?」

京介「いや、先程の黒猫の発言はあやせの誇りを踏みにじる酷いものだったな。あれは駄目だ」

黒猫「そ、そんなの……。私は事実を述べたまでよ。事ある毎に子ども子どもと口に出していたのはあやせの方じゃない。それを指摘しただけだわ」

京介「黒猫の言う通り、あやせはお腹の子を切り札として少々使い過ぎてるな。あれでは周りにプレッシャーを与えるだけだから、多少は自重した方が良いと思う」

あやせ「そんなつもりは……」

加奈子「加奈子は別に悪くないよね?」

京介「加奈子は普段から他者を煽り過ぎだ。あんなのいつ喧嘩に発展してもおかしくない。もう少し柔らかくなるべきだな」

加奈子「え~」


……。

京介「まとめると、黒猫6:あやせ3.5:加奈子0.5くらいで悪い」

黒猫「私の味方をしてくれないの?」

京介「今回の一連の流れでは黒猫が圧倒的に悪い。あれは言っちゃ駄目な台詞だ」

黒猫「……そう。京介はあやせの肩を持つのね」

京介「そんなつもりはないさ。そもそもを言えば、全ての発端は俺にある。だから誰が一番悪いかって話をするなら俺が最も悪人だ」

あやせ「そんなことありません! それならわたしが一番悪いことになります!」

黒猫「ええ、あやせが一番の悪なのは間違いないわ。最近京介が咎めないから随分と調子に乗っているし」

京介「黒猫、もう良いだろ? 俺を悪者にしてさ、みんなは仲直りしてくれよ」

黒猫「…………とても不愉快だわ。今日はもう帰ります」

京介「え? あ、ああ分かった。あやせと加奈子、悪いけど俺は黒猫を送るから今日はここまでに――」

黒猫「結構よ、子どもじゃあるまいし一人で帰宅出来るわ」

素っ気なくそう告げると彼女は部屋から静かに去って行った。

追いかければすぐにでも追い付けるだろうけど、俺は足を動かす事が出来なかった。

加奈子「あーあ、怒らせちまったな。どーすんよ?」

あやせ「あの……えっと、ごめんなさい。わたしのせいで……」

京介「いや気にしなくていい」

ただ俺が味方をしなかったと言う理由だけで黒猫があそこまで怒るだろうか? 他に何か理由があるのかもしれないな。




『ルリ姉が帰ってきてからメッチャ機嫌悪いんだけど 高坂くん何かしたの?』

『微妙な所だな。俺のせいで怒ってるのは確かだけど、その原因はハッキリしてない』

『何とかしてよ たまちゃんも怖がってるよ』

『逆に日向ちゃんが黒猫から怒ってる理由を聞きだす事は出来ないかな?』

『え~ すごくイヤなんだけど 彼氏なら自分で何とかして』

『それがさ、電話を掛けてもメールを送っても無視されるんだ。後は直接そっちに出向くしかないけど会ってくれそうにないしなぁ』

『もーしょうがないなあ 何とかヒントだけでもつかんでみるよ 今度しっかりお礼してもらうからね!』

『ありがとう。お礼は必ずする』

さて、日向ちゃんから何かしらの情報が届くまでに念のため桐乃と沙織にも尋ねておこう。もしかしたら黒猫が愚痴を零してるかもしれないしな。

『申し訳ござらん。特にこれといった情報は入ってないでござるよ』

『そっか、分かった。もしも黒猫から連絡があったら教えてくれ』

『拙者から探りを入れてみましょうか?』

『黒猫からアクションがあった時は頼むよ。それまでは俺が自力で何とかしなきゃいけないだろ?』

『了解しました。何か困りごとが発生した時には遠慮なく頼ってくだされ』

『ありがとう、その時は頼むよ』

桐乃からは返事が無かった。時差を考えると今はまだ授業中か? あっちの高校の時間割は分からん。




風呂から上がると日向ちゃんからメールが届いていた。

『ごめんね それとなく質問したけど教えてもらえなかった』

それへの返事を送った後、黒猫の事を考える。

ここ最近のあやせは以前に近い明るさを取り戻していたが、同時に挑発的な態度も散見されるようになっていた。

俺へのアプローチを行ったりお腹の赤ちゃんの存在を強調する等、黒猫としてはそりゃ面白くなかっただろうさ。

あやせを正常に戻す事を念頭に置いていたからこそ、その行動を甘めに見ていたけど、その分黒猫を蔑ろにしてたのかもしれない。

そして、沸々と溜まっていた不満がついに今日爆発した、のか? そこへ俺が黒猫を非難したから怒りの矛先が俺に向かった?

分からないな。推測ならいくらでも出来るけど、やっぱ聞いてみねーと駄目だ。

だから俺は黒猫に「明日家に行く」とメールを送った。読んでくれる事を祈りつつ。




京介「さて、明日に備えてそろそろ寝るかね」

そんなタイミングで電話がかかってきたので慌ててディスプレイを確認すると桐乃からだった。

京介「もう深夜なんだが」

『知るか! こっちは忙しい合間をぬってわざわざ電話をしてあげてるんだから感謝してよね!』

京介「はいはい、ありがとよ。用件は何だ? 黒猫の事か?」

『ふん、さっきまで黒猫と話しをしてたのよ。それで兄貴とケンカしたのかって聞いてみたんだけど』

京介「直球だな。おまえらしいけど。んで何か言ってたか?」

『ケンカはしてるけど理由を教えるつもりはないってさ。ケッコーおかんむりだったよ』

京介「そっか。桐乃でも聞き出せないとなると相当だな」

『それだけじゃ面白くないからなだめすかして何でも良いから教えてってお願いしたら、一つだけ教えてくれた。悔しい、ってさ』

悔しい? やはり俺があやせの肩ばかり持っているように思われているって事か?

『正直それだけじゃ何も分からないケド電話じゃそれ以上は無理だった。後は兄貴ががんばってね』

京介「ああ、わざわざありがとう。時間が無いだろうに助かったよ。サンキュー、愛してるぜ桐乃」

『ばっ、バカじゃないの!? キモいキモいキモい!!』

さらにキモいを連呼されつつ電話は一方的に切られた。兄の純粋な愛はキモくないと思うんだが、ほんと酷い妹だぜ。

礼儀として、さらにお礼の言葉とモデル頑張ってくれ応援してるとメールを送ったら即座に返事が届いた。

『キモ』

二文字かよ! 「死ね」よりはマシだと思っておくか……。っと、ファイルが添付されているな?

開くとそれは、バッチリおめかしをした桐乃がウインクしつつ片手ピースを決めている写メだった。あいつの考えている事はよー分からん。




明けて翌日。

大学で麻奈実にも黒猫の事を聞いてみたけど、当然何も知らなかった。

今日は黒猫のバイトが無い日なので時間を調整して五更家へと向かう。さーて、会ってくれるかね?

黒猫「いらっしゃい」

お袋さんに面会を頼んだら、あっさりと黒猫が出てきてくれた。絶対拒否られると思ってたから拍子抜けしたぜ。

京介「よっ。上がっても良いか? それともドライブにでも行くか?」

黒猫「外で話をする気にはなれないわね。私の部屋に行きましょう、どうぞ上がって」

京介「お邪魔しまーす」

日向「あ、やっぱり高坂くん来たんだ。ルリ姉が家の中でわざわざドレスを着てるからおかしいと思ったんだよね~」

京介「よっす、昨日はありがとな。後で顔を出すから、お礼はその時に改めてさせてくれ」

日向「分かったよ~。んじゃ待ってるからね~ん」

ひょこっと姿を現した日向ちゃんは、そのまま手をフリフリしながら奥に引っ込んで行った。

黒猫「……昨晩日向があやしい動きをしていたのは京介絡みだったのね」

京介「まあな」

黒猫「そう。では移動しましょう」


……。

通された彼女の部屋の中央に腰を下ろす。黒猫は静かな所作で俺の対面に座った。

黒猫「一応確認しておくわね。本日の用向きは何かしら?」

京介「勿論、昨日のおまえの態度についてだ」

黒猫「電話やメールなどを無視した事については謝るわ、ごめんなさい。でも――」

と、そのタイミングで部屋の扉がノックされた。

黒猫「どうぞ」

珠希「しつれいします」

姿を見せたのは珠希ちゃんだった。どうやら飲み物とお茶菓子を持って来てくれたらしい。

京介「ありがとな」

珠希「いいえ。どうぞごゆっくりしていってください」

そう言った珠希ちゃんは立ち去ろうとせず、お盆を両腕で抱えたままちょこんと正座している。

黒猫「珠希、私達はこれから大事な話をするの。用事が済んだのなら早く戻って」

珠希「わたしもおにぃちゃんとおはなしがしたいです。ここにいたらダメですか?」

京介「それなら後で会いに行くからさ、今は俺たちだけにしてくれると嬉しいかな」

珠希「はい分かりました、それではまってますね」

ペコリとお辞儀をして、珠希ちゃんは静かに出て行った。


黒猫「妹達にすっかり懐かれて、シスコンの京介としては悦ばしい限りかしら?」

京介「そうだな。将来俺の義妹になるんだし、慕って貰えてるならこれ程幸せな事はないよ」

黒猫「……そ、そうやって私の機嫌を取ろうとしても無駄よ。昨日のあなたの言葉をまだ赦す気になれないもの」

京介「やっぱり俺があやせを擁護したから怒ったのか? 黒猫があやせを疎ましく思うのは当然だと思うが、それにしたって昨日の発言は攻撃的に過ぎただろ?」

黒猫「確かに昨日は言い過ぎたわ。今度あやせに会う機会があればきちんと謝ります」

京介「そっか、それなら一安心だ。最近のおまえらは下手すると以前よりも仲が良いように見えるんだよな。口論はしてるけど、それを楽しんでる風な?」

黒猫「あやせとは割と本音で語り合えている気がするわね。だからと言って京介に粉をかけるのを見逃す事は出来ないけれど」

京介「はは、大丈夫だって。俺の目には黒猫しか映ってないよ」

黒猫「あら、何を笑っているのかしら? 私はまだあなたを赦していないわよ」

京介「えっ、じゃあどうすれば許してくれるんだ? 俺はおまえをずっと守ると決めているんだ。だからおまえが間違った事を言ったらそれを指摘して正しい位置に戻す。それも彼氏としての役割だと思っているぞ?」

黒猫「京介、私が不愉快だと断じたのは、あなたがあやせを庇って私を非難したからではないわ」

京介「えっ、そうなのか? でもそれなら一体何に対して怒ってるんだ?」

黒猫「あなたは何も考えずに口にしたのでしょうけれど、ただただあなたが直前に発した台詞だけに対して酷く腹立たしい思いをさせられたのよ」

直前に発した台詞……? 駄目だ、全くこれっぽっちも憶えてねえ。


京介「悪いが教えてくれ、俺はその時に何て言ったんだ?」

黒猫「あなたは、自分を悪者として扱う事で皆の仲を取り持とうとしたのよ。はっ、大した自己犠牲の精神ね」

え、それだけ?

京介「それは会話の流れとかで出した言葉であって、みんなが本気で俺を悪人に仕立て上げるとは思ってないぜ?」

黒猫「その場の雰囲気だけで適当な事を言わないでくれるかしら。京介は私の大事な人なのよ? あなたはそんな程度の事で、と思うかもしれないけれど、京介を貶めるなど私は絶対に認めない。あなたが私を正しくある様に守るのならば、私だってあなたに同じ事をするわ」

京介「……その、悪かったよ。軽い気持ちで言ったんだと思うけど、おまえがそんなに思い詰めるだなんて、そこまで考えが至ってなかった」

黒猫「どうも今一つ理解が足りていない様ね。では例えばよ、京介と桐乃が私を取り合って大喧嘩をしていたとしましょう」

京介「ふむ」

黒猫「二人に良い顔をしていたせいで喧嘩に発展してしまった事を知っている私は、仲直りさせるために全てを自分の責任にして両者に矛を収める様に告げるわ。果たして、あなたはそれを受け入れるかしら?」

京介「無理だろうな。それは別に黒猫だけの責任じゃない、責任を被るとしたら全員でだ」

黒猫「そうでしょうね。だけどあなたは自分だけのせいにして、尚且つギャグにして流そうとした。その時の私の気持ちが分かるかしら?」

京介「うーん。おまえの言う不愉快、までには届かないけど、モヤモヤとした嫌な気分にはなるよ」

黒猫「そこは実際に体験した訳ではないのだから仕方ないわね。でももっと考えて。将来私の夫になりたいと言うのなら、自らを卑下する事なく、産まれてくるであろう子ども達のためにも常に正しい夫で、父で居て欲しいものだわ」

京介「ああ、分かった。正直に言うとまだおまえが怒った一連の出来事についてピンと来てない部分があるけど、ちゃんと考えるよ。おまえが嫌がるなら、もう自分をオチにするような真似はやめる」

黒猫「是非そうして頂戴。あなたに取っては些末事かもしれないけれど、私にはそれは耐え難い屈辱なのよ。憶えていて」


京介「黒猫ありがとうな、ちゃんと憶えておく。それとおまえの愛情がしっかりと伝わってきた」

黒猫「それなら良いわ。私達は一心同体なのだから共に支え合っていきましょう。もしもどちらかが独善的な判断に走るようなら、それをまた残った方が正せば良いだけの話。そうして永遠の時を過ごして行きましょう」

京介「せいぜい見捨てられないように頑張るよ。……それで、今ので許してくれた事になるのか?」

黒猫「ええ、今回はこれで手打ちにしましょう。色々と失礼な態度を取ってしまってごめんなさい」

京介「いいさ、全部俺を想ってしてくれた事なんだろ? だったら逆に礼を言わないといけないくらいだよ。ありがとな」

黒猫「どういたしまして。それでは日向と珠希の所に行きましょう。義妹になるかもしれない子達なのだから丁重に相手をしてあげてね」


そのまま日向ちゃんや珠希ちゃんを交えて楽しくお喋りをしたんだけど、世話になった礼は何が良いか日向ちゃんに聞いてみたら、

日向「それじゃデートして!」

家族が居る目の前でなんつー大胆な子だよ、末恐ろしいわ。

京介「それなら今回色んな人に迷惑をかけたから、全員誘ってどっか遊びに行くか!」

日向「え~、どうせなら二人きりが良いよー」

黒猫「そう、なら日向は不参加で良いわね。そして永遠に訪れない次の機会を待ち続けなさい。私達はあなた抜きで楽しんでくるわ」

日向「ひどいよルリ姉、それならあたしも参加するよ~」

珠希「……あの」

京介「珠希ちゃんも一緒に行こうな?」

珠希「はいっ!」




大勢を引き連れて、しかも金のかかる場所に行くのは無理なので、遊び場所を選ぶのは難儀した。

本当はクリスマスが近いしイルミネーションでも観に行こうかと思ってたんだけど、珠希ちゃんをそんな遅くまで連れ歩くのは駄目だろうと判断して無しにした。

どこか良い場所がないもんかと探してたら、なんと比較的近くにある牧場で、クリスマスイベントとしてサンタやトナカイのコスプレをしたら入場料が半額または無料になるってのを発見したんだ。

こりゃもう全員でコスプレして参加するしかないだろ?

京介「ほれ、日向ちゃんと珠希ちゃん用の衣装はこれを使ってくれ」

珠希「トナカイのふくです」

日向「わー、こっちはサンタだ。これどーしたの?」

京介「ああ、俺の知り合いにさ、こんな感じで妙なファッションとかコスプレ? とか好きなヤツが居るから借りてきたんだ」

勿論タダと言う訳にはいかなかったけどな。あいつに要求された対価は――

沙織「拙者も珠希殿と同じく全身トナカイですぞ。さすがに拙者の身長でサンタの扮装では目立ちすぎてしまいますので断念しました」

あやせ「わたしはなんちゃってサンタです。お仕事でこれ系の格好をすることがありますから、あんまり違和感はないですね」

加奈子「あたしもだな。クリスマス時期のイベントなんてサンタコスが当たり前だしなー」

ブリジット「そうだね。事務所におねがいして服かりてきちゃった。だけど、わたしもさんかして本当に良かったのかなぁ?」

麻奈実「大丈夫だよぉ。みんな居るんだからブリジットちゃんだけ声をかけないのって寂しいでしょ? だから気にしないで」

黒猫「さすがにこの短期間では赤鼻の馴鹿の衣を作成するのは無理があったので一部再現のみにしたわ」

加奈子「ジュンロクってなんだ?」

黒猫「頭に『赤鼻の』と付けているのだからトナカイしかないでしょう? 少し考えれば分かる事だわ」

加奈子「だったら最初からトナカイってゆっとけっての」


京介「はいはい、いいからさっさと着替えろって。俺は外で待ってるから女性陣は先にどうぞ」

我らが団体は総勢九名からなるので、俺と麻奈実の操る車二台で移動していた。

後は桐乃が居れば良かったんだけど、あいつは海の向こうで頑張ってるからしょうがねーよな。

ところで、目隠しが張られた車がキシキシと揺れている様は、まるでカーセックスをしているみたいだと思わないか? 思わないか。

とか馬鹿っぽい妄想をしながら待つ事しばし、仮装を終えた子から順にゾロゾロと出てくる。

京介「みんなすげえ似合ってるよ」

加奈子「へっ、そんなにジロジロ見たって服は透けて見えねーぞ?」

日向「高坂くんのスケベ」

京介「酷い風評被害だ!」

俺もチャチャッと着替え(サンタは柄じゃないので勿論トナカイだ)全員で受け付けにチェックして貰う。

沙織、日向ちゃん、珠希ちゃんのフル装備組は目論見通り入場料無料として認定された。その他の者も半額だぜ、やったね!

あやせ「半額だから一人ひとりは大した金額じゃないですけど、全員分だと結構ですよ? せめて自分の分は自分で出しますから」

京介「いいって、これ位は俺に出させてくれ。中に入ってからは各自持ちだからさ」

黒猫「京介、今回は私が発端となっているのだから、私が出すべきだわ」

京介「それも大丈夫だよ。今日は俺がみんなにお礼をしたくて企画したんだから、おまえは気にすんな」

黒猫「私達は一心同体で互いに支え合う存在だと言うのをもう忘れてしまったのかしら? せめて半分ずつにしましょう」

京介「……そうだな、黒猫の言う通りだ。んじゃ半分任せるよ」

あやせ「むー」




牧場では動物と触れ合って乗馬体験をして乳搾りをして、小学生・中学生組がアスレチックで遊ぶのを見守ったり、麻奈実や黒猫たちが用意した弁当に舌鼓を打ったりお土産をワイワイと選んだり、様々な事をして楽しんだ。

なお、牧場のスタッフに集合写真を撮って貰ったので時差を見計らって帰宅時に桐乃に送付した所、大層お怒りの返事が頂けたぜ。許しを得るために車内で眠りこけているトナカイ珠希ちゃんのベストショットを追加送信しておいた。

その後千葉駅で解散し、五更姉妹は俺が、残りのうち比較的家が近い面子は麻奈実が送るため別れた。

日向「いや~楽しかったよ! また連れて行ってね」

黒猫「日向、あなた結局おやつを京介に奢って貰ってお土産も安いとは言え買って貰って、少しは遠慮を覚えなさい」

日向「だってこれってデートみたいなもんじゃん。男の子が女の子に奢るのなんて当たり前だよー」

黒猫「それは一部の歪んだ情報に哀れな雌豚共が踊らされているだけよ。対等な立場を望むのなら、特に金銭面では自立した考えを持っておかないと将来困るわよ?」

日向「メスブタって……。だってあたし中学生だからお小遣い少ないしー。ルリ姉みたいにバイトさせてもらえないし」

黒猫「締めるべき所では締める、使うべき所では使う、そんなものだわ」

京介「まあまあ、男だって女の子に奢りたいと思う事もあるからさ、今日はその位で勘弁してやってくれよ」

黒猫「京介がそう言うのなら……分かったわ」

日向「あ、この服どうすればいいの? 後で洗って返せばいいのかな」

京介「家に着いたら脱いで渡してくれればいいよ。後は俺がクリーニングに出しておく」

日向「え~、そんなこと言って、あたしの温もりが残った服をクンクンしたりしない?」

京介「するかっ!」


黒猫「無境の無い京介に渡すのは危険ね。私が処置しておくから、後で珠希の分と纏めて脱衣所に出しておいて頂戴」

日向「はあい」

京介「彼女からの信用が無さ過ぎて涙がちょちょぎれそうだぜ」


途中で目を覚ました珠希ちゃんとも似たような会話をしつつ、やがて車は五更家へと到着した。

黒猫「お疲れ様、京介。日向と珠希は先に家に入ってなさい」

珠希「はい。おにぃちゃん、今日はありがとうございました」

日向「高坂くん今日はありがと~、またデートしようねっ。あと、付き合ってるからってあんまり長い時間、家の前でチュッチュするのはダメだよ?」

黒猫「な、何を言っているのかしらねこの子は。私がそんな恥知らずな真似をする筈がないでしょう?」

日向「いや、お母さんもお父さんもみんな知ってるし」

京介「……マジで?」

日向「マジマジ。でも全然オッケーって言ってたから多少は良いんじゃないかな?」

黒猫「……珠希、それは本当なの?」

珠希「はい、わたしもきいてます」

黒猫「何て事かしら……」


日向「じゃあね~。ほらたまちゃん、邪魔しない内にあたしたちは帰ろ」

珠希「お休みなさい、またあそんでください」

二人がドアの向こうに消え、残された俺たちは黙ったまま見つめ合う。

京介「どうする?」

黒猫「まさか両親にまで知られていたとは思わなかったわ。でも契約は契約、果たさねばならないでしょう?」

京介「俺は勿論構わない」

黒猫「では、ここに身をかがめて」

指示されるまま車と門塀の隙間にしゃがみ込むと、顔を近付けてきた黒猫の唇が俺の頬に押し当てられた。

黒猫「今日はここまでよ。これ以上は無理だわ」

京介「はいはい、恥ずかしがり屋さんだなぁ。今度は人目の無い場所でガッツリやろうぜ?」

黒猫「ええ、また今度ね。それじゃ私も帰るわ、お休みなさい」

京介「ああお休み。後でメールするな」

とは言いつつ彼女はそこから動こうとはしない。いつもの事なので俺は気にせず車に乗り込むと発進させた。

バックミラーを確認すると、これもいつものように、俺を見送る黒猫の姿がいつまでもあった。




そして翌週末。黒猫に要請されてわざわざあやせを俺の部屋に呼び寄せた。

黒猫「あやせ、先日はごめんなさい。あの時は言い過ぎたわ」

あやせ「いえ、黒猫さんの指摘通り、確かにわたしが子どもを利用していた側面はありますから謝らないでください」

黒猫「そう? あなたがそう言うのならもう謝らないわ」

京介「いやいや、そこはもうちょっと食い下がれよ」

あやせ「大丈夫ですよ。ここはお互い様にしておきましょう、ね?」

黒猫「ええそうね」

そして片手を差し出すあやせ。おお、まさかあやせから握手をしようと行動するとは、感慨深いもんがあるぜ。

当然黒猫は応えるだろうと思っていたら……。

黒猫「あら、何を勘違いしているのかしら? 私はあなたが京介にした事を許していないわ。あくまでも現在は休戦しているだけで、あなたは私の敵に変わりないのだからそこは間違えないで頂戴」

あやせ「は、はあ……そうですか」

おずおずと出した手を引っ込めるあやせ。切ねえぇ。


黒猫「では先日の謝罪も済んだ事だし、あやせはもう帰って良いわよ」

あやせ「わざわざ人を呼びつけておいてその言い方はひどくありませんか? せっかくここまで来たんですから、わたしがいても問題ないですよね?」

黒猫「私達は今から人目が有っては出来ない事をするのよ。だから部外者は早々に立ち去りなさい」

あやせ「なっ! そ、それを聞かされてわたしが大人しく引き下がるとでも?」

黒猫「だってあなたは所詮京介のお友達、でしょう? 彼女の私とは立場が違うわ」

あやせ「そんなことはありません。お腹の中には――あ、いえ。……わたしだって京介さんと交際してた時期があるんですから、今でも干渉していい権利があります!」

黒猫「そんな権利は地球上のどこを探しても存在しないわ。あなたは精々思い出の中にある京介に抱かれる妄想をしながら、一人自慰に耽ると良いのではないかしら?」

あやせ「それは当然やってます!」

やってるのかよ。

黒猫「ククク、あなたが自分を慰めている間、私達は本物の愛を確認し合う。最早あなたが介在出来る可能性は無いのよ」

あやせ「くっ、ま、まだです! まだ勝負は終わってません! 最終回ツーアウトからでもホームランを打てば逆転できます!」

黒猫「たかが単発の本塁打を放った所で1点止まりよ。既に試合は256対0となっているのだから諦めなさい」

京介「それ野球のスコアじゃねえよ……」

あやせ「諦めなければ257点だって取れます!」

黒猫「その頃には私は65,536点取っているわね。カンストよ」

あやせ「言っている意味は分かりませんけど、それなら一試合目を捨てて次に賭けるのみです」

黒猫「無駄ね。例えペナントレースを最後までこなそうが、競技種目を変更しようが、あなたでは勝ち目が無い」


さて、このままだとまたいつものように延々と口喧嘩を繰り広げるのみだ。

たまには攻め方を変えてみようかね?

京介「おまえらだけでイチャイチャするなら俺はここに居なくてもいいよな? 麻奈実ん所にでも行ってくるかな~」

黒猫「堂々と浮気宣言とは良い度胸してるわね。どうやらお灸を据える必要があるのはあやせではなくて京介の様ね」

あやせ「協力します」

京介「待てあやせ、なんで手錠を持ってきているんだ。おい黒猫、その尻尾をどうするつもりだ……?」

黒猫・あやせ『問答無用!』

京介「アッーーーー!!」



空にこだまする俺の魂の叫びは、遠く桐乃のもとにまで届いたと一説にはあるらしい。

黒猫「結局自分をオチにしてるじゃない」







    終


こんばんは、以上となります。


宣言してから24時間以内に投下開始したのでセーフ! ですよね?


それでは、また~。


 おまけ とある世界の色欲魔人(ハーレムマスター) 編


※ あやせ編参照


秋美「ふと思ったんだけどさ! もしも京介があやせちゃんと付き合ってなかったら、あたしたちってどーなってたのかな?」

桐乃「ずいぶんいきなりだね。でも京介があやせと付き合ってなかったらかぁ」

あやせ「そんな可能性はどこにも存在しないから考えるだけ無駄だよ桐乃」

加奈子「分っかんねーぞー? 例えばあやせより先にあたしや猫が告白してたら今とは別のものになってたかもしれないじゃん?」

黒猫「実際、私とあやせ、そして桐乃が告白するつもりだった期間は極近いわ。どう転んでいてもおかしくなかったわね」

あやせ「それじゃまるで、わたしが先に告白したから付き合えたみたいじゃないですか」

秋美「いや~、それならあたしが告白したタイミングの方が早いからねっ。やっぱ最低でもその時に好きだった相手じゃないとダメなんじゃないかな?」

ブリジット「じゃあ、可能性があったのは、あやせさんと黒猫さんのお二人ですか?」

沙織「どうでしょうな。これまでの京介氏の言動から、かなりきりりん氏にラブだったのは判明しておりますから、実の妹も加えた三名が候補になるのではないでしょうか」

麻奈実「わたしは?」

あやせ「確かにお姉さんが長期戦を選択せずに京介さんにすぐ告白していたら、あっさり落ちていたかもしれませんね……」

日向「あたしは無理だろうなぁ。最低でもルリ姉が高坂くんと付き合ってないと会うこともできなかったよ、きっと」

珠希「それならわたしも同じですね」

ブリジット「わたしも日向と同じようなもんだよね。かなかなちゃんが京介さんと付き合ってなかったら、きっと今こうしてここにいないよ」


桐乃「京介とあやせの交際が順調だったら別れ話のゴタゴタは起きなかったから、あたしたちがこうやってここに住むコトにはならなかったろうしね」

加奈子「まさに、あやせサマサマだな。はは~っ」

ブリジット「えと、ありがとうございます」

珠希「ははー!」

あやせ「もう、頭を下げるのやめて。現に今こうなっているんだから、今が現実だよ」

黒猫「では仮定で話を進めてみましょう。あやせよりも私が先に告白をしていたら――」

麻奈実「やっぱり黒猫さんと付き合っていたのかなぁ?」

沙織「そしてあやせ殿が発狂するのですね。分かります」

あやせ「しません! まったく、人を何だと思っているんですか」

加奈子「だってあやせって癒しと殺戮の女神だもんなーw」

桐乃「なにそれ?」

加奈子「さあ? なんか急に頭に浮かんだ」

秋美「あやせちゃんが殺戮女神でも撲殺天使でも同じよーなもんだし問題ないね!」

あやせ「ありまくりです!」

日向「そうすると、切れたあやせさんが高坂くんをブスリ……ん? この場合はルリ姉が刺されるのかな?」

珠希「あやせさんなら物理攻撃に訴えなくても、闇の波動だけできっと人を死に至らしめることができますよ」

ブリジット「だ、ダメですよ!? 刺すのも謎のパワーでやっつけるのもダメです!」


あやせ「やりません! もうみんな、普段からわたしをどんな風に見ているのよ……」

麻奈実「大丈夫だよぉ、あやせちゃんがそんな暴力を振るう人じゃないってみんな知ってるから」

加奈子「いや~師匠、そんなことはないッスよ? あやせはかなりキョーボーだから怒らせるとこえーのなんのって」

あやせ「かぁ~~なぁ~~こぉ~~~~?」

加奈子「おーこわ」

黒猫「仮定だと言っているのに全然先に進まないじゃない。あやせは何もしない、こう決めておきましょう」

秋美「あやせちゃんが邪魔しないとして、次に立ちふさがるのはやっぱり桐乃ちゃんかな?」

桐乃「あたしが二人の邪魔するかなぁ? 初めて黒猫と付き合った時もあやせの時も、基本的に大人しく引き下がったじゃん?」

ブリジット「そうすると、京介さんと黒猫さんの交際は何も問題がないということですね」

黒猫「そこに桐乃も居る関係こそが理想として描いていた未来だったのに、実際はこんな感じになってしまったわね」

沙織「あの、黒猫氏、当時にも申しましたが、そこに拙者は含まれてないのですか?」

黒猫「あら、あなたはちゃんと居たでしょう? ――猫として」

沙織「あんな適当に付け加えられただけの存在では納得いたしかねます! またグレますよっ!?」

黒猫「……現在はこうなっているのだから問題無いでしょう?」

沙織「つまり仮定の世界においても、拙者の入り込む余地はあったと」

黒猫「……ええ、そうね…………多分」


日向「高坂くんとルリ姉が付き合ってるなら、あたしにもワンチャンあるよねっ?」

麻奈実「でも普通は浮気も二股もしないから、きょうちゃんが日向ちゃんに手を出す事は無いと思うよぉ?」

日向「どこの世界でもあたしは永遠に片想いかぁ~」

珠希「おねえちゃん元気出してください。ここにいる内はまだ可能性が残ってますよ」

日向「そりゃあきらめないけどさー。いつだったかリアが言ってたみたいに、寝込みを襲って妊娠でもすれば未来は変わるかな?」

加奈子「あたしはそんなでも気にしないけど、先に京介の赤ちゃんを作られたら猫の立場ねーなぁ」

あやせ「……できた者勝ちかな」

桐乃「なんかあやせが物騒なコト言ってるし。でも姉妹で京介を奪い合うドロドロの愛憎劇か……アリね!」

日向「ルリ姉とケンカはしたくないから、やっぱり高坂くんが懐の深い所を見せてくれるのが一番だよね」

沙織「脅威の近親相姦八又野郎ですからなあ。どのような世界線でもタガが外れたら今みたいになる可能性は充分あるでござるよ」

黒猫「なぜ私がその様な状況を受け入れる前提になっているのかしら」

加奈子「あやせでさえ受け入れたんだ、猫もあきらめろって」

秋美「桐乃ちゃんが加わるのは瑠璃ちゃん的に問題ないって言ってるし、さおりんでも入り込めるなら、他のみんなだっていくらでもチャンスはありそうだよね!」

沙織「でも、とはどのような意味でしょうか」

秋美「あ、あはは、気にしないで! んじゃまとめると、瑠璃ちゃんが京介と付き合っていても、今みんなでこうしてる感じにきっとなれるってことで! 次いこ次!」



あやせ「黒猫さんがダメだったとしたら、次は桐乃? 京介さんが桐乃と付き合い始めてた世界かぁ、う~ん」

桐乃「あたしと京介は内心で惹かれあっていたワケだし、付き合うのに何も障害ないよね!」

麻奈実「ありまくりだよぉ、桐乃ちゃん」

加奈子「ラスボスがこーゆってるし、やっぱ妹と付き合うのってフツーは無理だと思うぜ?」

桐乃「ふふん、そんなのコッソリしてればバレないわよ! そしてあたしには秘策があるっ!」

日向「どんな策なの?」

桐乃「それはねえ~、ふっふっふ、ドイツに移住するのよ!」

沙織「ふむ、成程」

黒猫「あなた、アレを本気で信じているの?」

桐乃「合法化間近って話じゃん? よゆーよゆー。何なら今からでも移住する気さえあるわよ。早めに行ってドイツ国籍を取得すれば、もうあたしたちを止められる存在などないっ!」

ブリジット「あの、何の話ですか?」

秋美「ネットで話題になってたんだよ。近々ドイツで近親婚が法的に認められる動きがあるって」

麻奈実「……どいつって凄いんだねぇ」

桐乃「ごめんねぇみんな、あたしと京介はドイツ人になって幸せな家庭を築くから!」

あやせ「いくら法で認められていても、間違いなく高坂のご両親は不幸せになりそうだけど……」


桐乃「だってコソコソと隠れて関係を維持する必要ないんだよ? それってあたしにはチョー重要なコトだし!」

日向「それなら一夫多妻も認めてくれないかな。そしてみんなでドイツに住むの!」

珠希「夢のあるお話です。ワクワクします」

桐乃「あ、ドイツじゃ同性婚もオッケーになるらしいから、たまちゃんはあたしのマジ嫁になれるよ?」

珠希「やっぱり行くのやめます」

麻奈実「どいつの倫理観ってすごいんだねぇ。でもさすがに重婚は無理だと思うよぉ?」

黒猫「――あの、桐乃」

沙織「水を差すようで非常に申し上げにくいのですが……近親婚の話は完全なるデマでござるよ」

桐乃「え……? またまたぁ~、まとめサイトにちゃんとそう書いてあったんだから本当だって!」

秋美「桐乃ちゃん、まとめサイトは確かに便利だけど鵜呑みにするのはヤバいと思うよ」

黒猫「自分に都合の良い記事だから信じたくなる気持ちも分かるけれど、さすがに事が事だからちゃんとソースも読みなさい」

桐乃「……」

あやせ「デマということはドイツに移住しても近親婚はできないんですか?」

沙織「それどころか、現在ドイツでは近親相姦が禁止されておりますので、下手をするとお二人は処罰される可能性すらあります」

加奈子「日本より厳しいじゃん」

黒猫「日本での近親相姦罪は撤廃されているけれど、実際にはそれ以外での法が適用される可能性はあるわね。いずれにせよ倫理的に問題が有るから、大手を振って、と言う訳にはいかないわ」


日向「キリ姉がすごい勢いで英語を読んでる。なんて書いてあるのかサッパリ分かんないけどw」

沙織「ソース記事でしょうか。その内容を簡単にまとめますと、ドイツ国内において近親相姦罪を無くそうとした動きがある、という感じですかな」

麻奈実「ふうん。世界では近親相姦が罪にならない様になる流れなのかなぁ?」

ブリジット「イギリスではどうなのかな」

沙織「英国では違法になる、とWikiには書いてあったでござるよ」

ブリジット「そうなんですか。それじゃ将来イギリスに移住することはなさそうですね」

加奈子「なんだぁ? ブリジットはイギリスに戻りたかったのか?」

ブリジット「そ、そんなことないよっ。ただそんな風に思っただけだから!」

加奈子「ひひひ、わぁってるって。ムキになんなヨー」

桐乃「……読み終わった。ナニコレ、完全にぬか喜びじゃん。はぁ~~~落ち込むわ~~~~~~」

秋美「あーあ、かわいそうなくらいガックリきてるよ」

あやせ「桐乃が単独で京介さんと付き合っていた場合の話ができる雰囲気じゃなくなりましたね」

沙織「しばし休憩いたしますか」

麻奈実「それじゃあお茶を淹れてくるね~」




……。

桐乃「ふぅ、落ち着いた。考えてみたらどこの国にいたってあたしと京介のつながりは変わらないんだし、気にするコトなかったよね」

加奈子「まっ、どこの国でも兄妹で結婚は無理ってこった。京介はあたしに任せとけ」

桐乃「高坂加奈子だと、『か』が二つ続いて読みにくいからダメ」

加奈子「なんだそりゃ、リユーになってねーぞ」

ブリジット「わたしだとブリジット・E・高坂になるのかな? ちょっとカッコイイかも」

秋美「日本の戸籍制度だとミドルネームを付けられないからブリジットちゃんだけの特権だね!」

黒猫「高坂瑠璃……ふっ、悪くないわね」

日向「ルリ姉は高坂黒猫にならないの?w」

加奈子「高坂くろねこwww」

黒猫「……あなた達、覚悟は出来ているのでしょうね」

日向「うひゃ、ルリ姉が怒った~!」

沙織「姉妹喧嘩は放っておきましょう。それはそうとして必ずしも高坂姓を名乗る必要は無いと思うのでござるよ。婿入りして槇島京介となり、我が家を継いでいくという選択もあるでござる」

珠希「わたしとおにぃちゃんが結婚すれば五更京介ですか?」

麻奈実「そうだね~。でもそれだと黒猫さんや日向ちゃんと結婚したかも区別が付かないかなぁ」

秋美「考えてみたら、みーんな一人っ子か姉妹しかいないもんね。男っ気が無い!」

麻奈実「うちにはちゃんと弟が居るよ? 出番無いけど……」

桐乃「うちは仮に京介が婿入りしたって問題ないかな。男の子も産む予定だからその子が高坂家を継ぐもんね!」

あやせ「桐乃は前から男の子を産むって宣言してるよね」

桐乃「モチロン女の子も産むよ! でも考えてみてよ、京介の血を引いた男の子だよ? 京介そっくりな子があたしにママ~って甘えてくるんだよ!? うっはあ、想像しただけで鼻血出そう!」

日向「キリ姉あいかわらずレベルたっけえ!」

珠希「おねえちゃん見てください、みなさんも想像してポワポワしてますよ?」

日向「……あ~、みんな似た者同士だったか~」



……。

秋美「こほん。京介似の子がベタベタ甘えてくる妄想はまたにしよー! 次は誰のターンかなっ?」

麻奈実「きょうちゃんがここまで誰とも付き合わなかったら、きっとわたしになるんじゃないかなぁ?」

沙織「実に順当でござるな」

加奈子「えー、師匠と何とかなる前にあたしが手を出すって」

ブリジット「でもかなかなちゃんは、あの日電話がかかってくるまで京介さんと特別に会おうとしてなかったよね?」

加奈子「そりゃあやせと付き合ってたからなァ。浮気の演技をする流れで偽デートをしたけど、あれでなんつーの? 恋心が燃え上がったっつーの?」

秋美「きっかけがなければ焼けぼっくいに火がつくことは無いと思うんだけどな~。あたしなんて会う度にアプローチしててもダメだったからね!」

あやせ「では加奈子のアピールもむなしく京介さんがお姉さんを選んだとしましょう」

加奈子「別にむなしくなんてねーし」

麻奈実「うん。でもきっと何も起こらずに、普通に卒業して就職して、結婚して仲良く一緒に暮らしてるだけだと思うよ?」

黒猫「限りなく平凡な日常が待ち受けていそうね。ある意味、かつての京介がずっと望んでいた未来だわ」

桐乃「それが今や泣く子も濡れるハーレムマスターだもんね。人生どうなるか分からないものよね」

沙織「濡れるかはさておきまして、麻奈実殿の仰る生活は理想の形の一つではありますな。人に誇れることであると思われます」

麻奈実「そおかな? えへへ、ありがとう~」


ブリジット「今の関係は人に言えませんけど、みんなが幸せだからきっとこれも理想の未来の一つですよね」

日向「あたしやたまちゃんが入ってれば、きっともっと幸せだと思うよ?」

あやせ「こればかりは京介さんが受け入れる気にならないと、ね?」

珠希「わたしが結婚できる年齢になる頃にはみなさん二十歳を超えてますから、わたしだけの優位性があるのできっと受け入れてもらえると思います」

秋美「最年長のあたしや麻奈実ちゃんはその頃アラサーだよ! それは卑怯だって!」

麻奈実「三十歳までには子どもを産んでおきたいよねぇ~」

あやせ「そもそも、その年齢までに京介さんが結婚してないなんて有り得ません。絶対に誰かと一緒になってますから」

桐乃「間違いなく独身なのはあたしだけか~。たまちゃん、やっぱドイツに移住しちゃう?w」

珠希「断固としてお断りします」

加奈子「桐乃もメゲナイよなー。そろそろチビ猫にちょっかい出すのやめりゃいーのによー」

黒猫「桐乃のこれは最早病気ですらない、ただの本能ね。新しい対象が見つかるまでは無理ではないかしら」

ブリジット「新しい対象……もっと若い子が加わる可能性が!?」

日向「いやいや、いくら高坂くんが変態でもそれは無いでしょ」

沙織「無難な所になりますが、それはやはり誰かが産んだ子になるのでしょう」

秋美「珠希ちゃんにされるような邪険な扱いを受けて落ち込む桐乃ちゃんの姿が見えるよ!」

桐乃「なんだかひどいコト言われてるな~。おっかしいなぁ、あたしメインヒロインじゃなかったっけ?」

黒猫「どこかの平行世界ではあなたが京介に選ばれた物語も存在するわよ、きっと」

桐乃「今でも選ばれてるっつーの!」


沙織「まあまあ、きりりん氏の人生の主役はきりりん氏なのですから、それで良いではござらんか」

日向「キリ姉はもう攻略終了してるからいいじゃん。あたしなんてまだボスのバリアを解除できてないんだよ~?」

桐乃「光の玉を貸してあげようか? って分かんないか。バリアを解除する特殊アイテムね」

日向「そんなのあるのっ!?」

黒猫「バリア貫通スキルすら所有していないなんて、これまでの教育を間違えたかしらね……」

沙織「バリア貫通は割とレアスキルだと思うでござるよ?」

ブリジット「あ、知ってます! ドリルと気合いがあれば何でも貫けるんですよね! 男のロマンです、空色でデイズです!」

加奈子「何の話題かは知らねーけど、ドリルに貫かれるのはこっちじゃねーの?」

麻奈実「加奈子ちゃん、下品だよ?」

秋美「なるほど! つまりこの場合のバリアとは、日向ちゃんのしょ――」

日向「わー! もういいですから、その話は禁止! 終了~!!」

あやせ「話題の転換でいつの間にか攻守逆転してるし」

珠希「おにぃちゃんを取り巻く真のバリアとはみなさんのことなんですね」


沙織「最終防衛ラインである所のきりりん氏とあやせ殿さえ何とかできれば、後は力押しでもあるいは」

秋美「でもバリアを突破しても、京介自身のHP(エッチパワー)が膨大だからどうかな~?」

桐乃「そんなの簡単よ。ボスにはパーティを組んで挑むものって相場は決まってるの。ひなちゃん、たまちゃん、あたしでパーフェクトね!」

加奈子「初めてが四人プレイとはなかなかやるじゃねーの。それならあたしも混ぜてくれよー」

秋美「良いこと思いついた! 全員でってのはどう?」

日向「嫌すぎるよ!?」

あやせ「後片付けが大変そうだもんね」

麻奈実「あやせちゃん、問題点はそこじゃないよ~」

黒猫「そうね。如何に京介が選ばれし性戦士だと言っても、さすがに十人を同時に相手にするのは無理があるわ」

麻奈実「そこも違うよぉ……」

珠希「わたしも数に入ってるみたいですけど良いんでしょうか?」

麻奈実「ううん。珠希ちゃんは絶対駄目だよ?」

ブリジット「京介さんがいないと圧倒的にツッコミ役が足りませんよね」

麻奈実「うぅ、きょうちゃん早く帰ってきてぇ~」




桐乃「妥協して、みんなでお風呂に入るコトに決まったから」

京介「却下だ」

加奈子「なんだよー、たまには良いだろー? 全員で風呂なんていつだったかの温泉以来だぜ?」

京介「うちの風呂はそんなに広くない。この辺に貸し切り出来る銭湯は多分無いし、金が勿体ない。あと倫理面でまずい。故に却下だ」

秋美「あっ、良いこと思いついた! お風呂がダメなら、全員下着ですごすのはどうかなっ?」

沙織「それなら代金は発生しない上に、着ている服を脱ぐだけなので誰にでもできますな」

麻奈実「うぅ、みんながえっちに緩くなってる……」

京介「みんな暑さで頭がやられたか。全ては夏の気候が悪いって事にしておこうぜ」

日向「高坂くんがさっさとあたしを抱いてくれたら事態は治まると思うよ? たくさんのバリアを貫いてきたんでしょ、だったらあたしのなんて余裕だって!」

京介「黙れひなビッチ。そんなはしたない事を言う小娘に何かしようとは思えないな!」

あやせ「こんなに一途に慕ってくれている子に対してビッチはひどいと思います。せめてひなニーちゃんにしましょう」

京介「なんだその某バスケラノベの登場人物を彷彿とさせる呼び名は。てかなぜあやせがそのネタを知っている」

あやせ「桐乃と一緒に観ましたから。ネタももちろん桐乃から教えてもらいました」

京介「ああ……」


黒猫「智花とひなたの組み合わせにはとても感じ入るものがあるわね」

京介「わざわざぼかしたのに台無しだ! あとおまえも観てるのかよ!」

黒猫「私も桐乃と一緒に観たのよ。観せられた、と言うべきかしら?」

京介「桐乃ェ……」

ブリジット「わたしはミミちゃんが良いと思います。海外からやって来た所とかもシンパシーを感じます!」

京介「はいはい、そこまでにしとこうぜ。水風呂でも用意してやるから茹だった頭と身体を適当に冷やしてくると良いんじゃないか? 俺は当然一緒には入らないが」

珠希「それなら一緒にプールはどうですか?」

京介「うーん。市民プールに全員で行くと、みんな綺麗だからめちゃくちゃ目立つだろ? だから折角提案して貰ったのに悪いな、それは難しいと思うよ」

珠希「いえ、わたしの学校のプールです」

京介「珠希ちゃん、それは無理なんだよ……。どれだけ入りたくても無理なんだ……」

麻奈実「きょうちゃん、そんなに小学校のぷうるに入りたかったんだ」

加奈子「ロリコンがひどくなってやがんなぁ」

桐乃「京介も頭沸いてるじゃん。ほらあ、さっさと服脱いで一緒にお風呂入ろ」

京介「大体こんな暑い日に、一室に人が集中し過ぎなんだよ。二酸化炭素が排出され過ぎてるんじゃないか?」

あやせ「これはクールシェアですから。少しでも地球温暖化防止に協力しておかないと」


黒猫「まさか全員気付かない内に……酸素欠乏症にかかっていたのね……」

沙織「では拙者がガンダムの戦闘力を数倍に跳ね上げる回路をジャンク品から作り上げますので、どなたかガンダムを調達してくだされ」

秋美「どうやってお台場からここまで、あのでっかいのを持ってくればいいのさ! 無理だって!」

ブリジット「ドラえもんにお願いしてザンダクロスを出してもらうのも良さそうですね」

日向「ドラえもんに来てもらう方がよっぽど大変だよ~」

京介「それ以前にザンダクロスは敵陣営のロボットだろうが。っていい加減に正気に戻れ!」

加奈子「京介が一緒にお風呂入ってくれなきゃ治らないかなー」

京介「ったく、しょうがねえヤツらだな。ああもう分かったよ、同時には無理だから何人かずつと順番に入る事にするよ。ただし日向ちゃんと珠希ちゃんは絶対に水着着用だぞ?」

日向「たまちゃん、水着持ってきてる?」

珠希「はい、ちゃんとあります」

日向「……どんな展開を予想してたら水着を準備できるんだろ。あたしは水着ないからバスタオルでいいかな? 前にもそれで一緒にお風呂入ったから平気だよね?」

京介「それなら諦めるんだな。ひなビッチちゃん改めひなニーちゃん」

日向「どっちのあだ名も嫌だなぁ」

黒猫「お風呂の間だけもてば良いのなら、私のお古で何とかならないかしら?」

麻奈実「黒猫さんの去年の水着は確かわんぴいすたいぷだったよね? さいずが合うかなぁ?」


秋美「ダイジョーブ、何とかなるって! 体型にそう差はないんだから、無理めでも強引に着ればオッケー!」

加奈子「ピッチピチだと逆にエロくなりそーだな」

沙織「これはいやが上にもポロリへの期待が高まりますな」

桐乃「よっしゃ、そうと決まれば組み合わせと順番を決めるわよ!」

『おー!!』

そしていつもの如くジャンケン大会が始まる。

ま、こんな感じでみんな仲良くやってるぜ?

きっとずっとこんな感じで毎日が続いて行くんだろうな!








    終


こんばんは、以上となります。


つい息抜きを兼ねて書いてしまいました。

それにしても、こっちのチームは全員の仲が良くて素敵ですね。


それでは、また~。


 黒猫編 if もしもあやせの妊娠が思い込みの結果のものだったら



あやせ「……」

加奈子「アレどーしたの? なんかすっげえ落ち込んでっけどよー」

京介「あー、なんと言えばいいのか……。どうも想像妊娠だったらしくて、今日産婦人科に行って診て貰ったら全くこれっぽっちも妊娠してなかったんだとさ」

加奈子「あ~そりゃゴシューショーサマだな」

黒猫「さすがにかける言葉が無いわね」

加奈子「あれ、猫ならてっきり『いい気味だわ』とかゆーと思ってたけど」

黒猫「幾ら何でも死人に鞭打つ様な真似は出来ないわ。あの姿を見せられてはね……」

麻奈実「あやせちゃん可哀想……」

沙織「しかし気を取り直して考えてみれば、これで種々の問題が全て解決したことになるのではござらんか?」

加奈子「散々騒がせておいてこのオチってなんだかなぁ。京介的には助かったってところか?」

京介「そうなんだけど、さすがに素直には喜べないよな」

ブリジット「わたしはあやせさんがニンシンしてたことにおどろきました。その、けっかはざんねんでしたけど」


日向「そだね、確かに驚いた。けど、それより気になったことがあるんだけど……あやせさんの相手って高坂くんなんだよね? それってつまり高坂くんは浮気してたってこと?」

京介「あー、その、それには複雑な事情があってだな――」

日向「言い訳なんか聞きたくないよ。高坂くんはルリ姉を裏切ったんだ?」

黒猫「日向、京介があやせと関係を持っていたのは私と別れていた時期だから何も問題は無いのよ。だから京介を責めるのはやめて頂戴」

日向「そんな、ルリ姉は甘いよ! 二人が別れてたのって一ヶ月くらいだったじゃん!? その間にすぐ次の人に手を出すなんて信じらんない!」

黒猫「良いのよ。先程京介が言った通りそれには複雑な事情があったの。あなたにそれを説明する事は出来ないけれど、私は全てを納得した上でまた京介と付き合い出したのだから、私に免じて矛を収めてくれないかしら?」

日向「う~~~、なんか納得いかない!」

沙織「まあまあ日向殿、少し落ち着くでござるよ。説明できないのは申し訳ないと思いますが、京介氏は自ら進んであやせ殿と身体を重ねた訳ではござらん。だから許してあげてはもらえませぬか?」

麻奈実「うん、きょうちゃんもいっぱい苦しんだんだ。だからあんまり怒らないでくれると嬉しいかなぁ」

日向「中途半端に情報を与えられても混乱するだけなんですけど……。はぁ、でも分かりました。みなさんがそういうのならもう言いません」

珠希「あやせさんの赤ちゃんが見られないのはざんねんです」

ブリジット「そうだね。きっとかわいい赤ちゃんだったんだろうなー」

良かった、どうにか誤魔化せたか? これで、あやせが本当に妊娠していたらどう落とし前を取るつもりだったのかと突っ込まれたら返事出来なかったよ。



加奈子「んで、あやせをどーするよ?」

麻奈実「気を紛らせるために、みんなでどこかに遊びに行っちゃう?」

黒猫「その程度でどうにか出来るとは到底思えないわね。今まであやせを何とか正常に繋ぎ止めていた唯一の拠り所が実は想像の産物だったと判明した今、彼女がどの様な思い切った行動に出るか予測も付かないわ」

沙織「再び京介氏がおそわ……あのような事態に陥ると、さすがにもう擁護するのは難しいですな」

京介「いやいや、いくらなんでも、もうあんな事は起こらねえだろ?」

加奈子「油断してっと足元すくわれるぜー? ほとんど桐乃に助けてもらったってのに、次に何か起こった時にまた日本に戻ってくるとは限らないしよー」

京介「あー、桐乃にもたくさん迷惑かけたし連絡しておかないとな。何て書けばいいんだか」

あやせ「……桐乃にはわたしから伝えておきます」

黒猫「あやせ……」

あやせ「あんなことは二度としませんから、黒猫さんも安心してください」

黒猫「そう、ならば信用するわ。この信頼を裏切らない様にして頂戴」

あやせ「ええ、大丈夫です。もし次にわたしが同じようなことをした時は、今度は容赦なく警察に突き出してください」

日向「何だか物騒なキーワードがぽんぽん飛び交ってるよーな気がする」

ブリジット「気にしちゃダメなんだよね、きっと」

京介「おっと、小中学生が居る所でする話じゃなかったな。ここまでにしとこうぜ」

珠希「はやく大人になりたいです……」




加奈子「それじゃあやせの残念会でも開くかー?」

麻奈実「加奈子ちゃん、もうちょっとやんわりとした言い方にした方が……」

沙織「ではあやせ殿を励ます会ではどうでござろうか」

加奈子「京介フリーになってよかったね会とか」

黒猫「待ちなさい、わたしが居るのだから京介がフリーになるなんて有る訳ないでしょう? 例えばそうね、あやせの呪縛から解き放たれた京介を労う会などはどうかしら」

あやせ「正体不明のダメージが心にビシビシとくるんですけど……」

京介「あんまりあやせにストレスを与えるなって。そうだなあ、みんなでどっかパーッと遊びにでも行くか?」

日向「あたしスキーに行きたい!」

ブリジット「からだをうごかすのってよさそうだよね」

珠希「ちょうど九人いますから野球ができそうですね」

沙織「そうするとチーム名はリトルバスターズでありましょうか?」

黒猫「誰が恭介役をやるのかが問題ね。京介では無理でしょうし」

沙織「そうでござるな。京介氏は恭介殿のような広い視野や明晰な頭脳、並外れた運動神経などは持ち合わせておりませんから、あそこまでのチームを作り上げるのは不可能ですかなあ」

麻奈実「何の話なんだろ?」

京介「どうやら元ネタにキョウスケって名前のキャラが居るらしい事しか分からねえな」


ブリジット「わたしはクドちゃんがいいです! わふー」

加奈子「ブリジットが知ってるってことは、まーたアニメか」

黒猫「ええ、アニメでも放映していたわね。原作はゲームになるけれど、生憎とわたしは未プレイだわ」

沙織「原作プレイ済みはここでは拙者のみですかな。きりりん氏なら嗜んでいると思われるのですが」

あやせ「桐乃が手を出すってことは、またその、いかがわしい系統のゲームなんですか?」

沙織「いわゆる18禁のバージョンもありますが、基本は全年齢対象のゲームですからそこは安心してくだされ。無論アニメは健全そのものでござるよ」

あやせ「そうなんですか」

黒猫「あやせには同じ会社のゲームを原作としたCLANNADと言うアニメの方がお薦め出来るわね。特に主人公の声が良いのよ。あやせなら聞けばきっと心奪われるに違いないわ」

あやせ「はあ、そうですか」

沙織「そのノリで行くのであれば劣等生などもお薦めですな。主人公とヒロインである妹の関係などにも要注目ですぞ」

あやせ「はあ、そうですか」

日向「たまちゃん分かる?」

珠希「アニメは姉さまといっしょにみてるので分かりますけど、魔法科高校の劣等生の原作小説はわたしには漢字がむずかしくてまだムリです」

日向「魔法科高校って、またルリ姉の好きそうなキーワードだね」

黒猫「録画したのがまだ残っているから、興味があるのならいつでも観る事が出来るわよ?」

日向「あはは、いらないw」


加奈子「アニメの話はもーいーだろ。そんでナニするんだ? ホントに野球?」

京介「野球は難易度高いからやめとこう。全員が参加出来て適度に身体を動かせて、後なるべく金がかからないものだと嬉しいけどな」

日向「高坂くんのカイショーなし」

麻奈実「確かにきょうちゃんには甲斐性が無いかもねぇ」

京介「おまえ、ふんわりと笑いながら結構キツイこと言うなあ」

加奈子「加奈子なら京介を一生養ってやれるぜ?」

京介「ヒモになる気なんざねえよ。とにかく今は何かネタを提供してくれ」

あやせ「あの、わたしのことを思って色々考えてもらえるのは嬉しいんですけど、あまり遊ぶ気分ではないので――」

京介「だからこそだよ。ストレスを吹き飛ばすためにも何かをした方が断然良いに決まってる。それに俺たちは友達なんだ。なら落ち込んでる友達を放置しておくなんて出来る訳ないだろ?」

あやせ「京介さん……ありがとう、ございます……」

京介「いいって、気にすんな。それよりも何かないかなっと」

ブラウザを立ち上げて千葉のアミューズメント施設を検索する。

室内をと見ると、スマホを持っている面子は自身のそれで検索している模様だ。スマホがあるけどインターネット接続が禁止されているらしい日向ちゃんと、キッズ携帯しか持ってない珠希ちゃんは黒猫の手元を覗きこんでいる。

京介「お、ボウリングとか良くないか? あんま高くないし、ここなら八人から団体予約が出来るってさ」

麻奈実「ぼおりんぐならわたしでも出来るかな~」


沙織「成程、そこならボウリングの他にもカラオケやスポーツ施設などもありますから、遊ぶにはもってこいですな」

加奈子「いーんじゃねーの? あたしの腕前を見せてやるぜ!」

あやせ「加奈子はパワフルだけど投げる球は小さいんだよね」

加奈子「しゃーねーだろ、あたしの身体に合わせた大きさになるんだからよ」

珠希「わたしでもだいじょうぶなんですか?」

黒猫「それは問題ないわ。ちゃんと小さな子ども用のボールも用意されているから安心しなさい」

沙織「ふっふっふ、作るだけ作っておいて使う機会の無かったマイボールの封印を解く時が来たようでござるな!」

麻奈実「沙織さんは何でも持っているんだねぇ」

沙織「いやいや、それ程でもあるでござるよ」

日向「ボウリングも楽しそうだけど、ここってダーツやビリヤードもあるんだね。高坂くんはビリヤードってできるの?」

京介「へっ、丁度大学の先輩からダグラスショットを伝授して貰ったばかりだぜ? 余裕だな!」

沙織「それは誠ですか。まさか伝説のショットをこの目で見ることができるとは、拙者期待に胸が膨らみますぞ」

京介「さすがにネタが古すぎて誰も分からないだろうと思ってたのに、沙織はさすがだな」

日向「ルリ姉?」

黒猫「私も知らない情報だわ。でも最近は便利になったからググれば何でも判明するものよ――ほら、元ネタはこれね」

日向「んと、ブレイクショット……漫画かぁ。……コレいくらなんでも古すぎない?」


京介「面白い作品だから興味を持ったら漫画喫茶にでも行って探してみたらどうだ? 読めばきっとダグラスショットを打ちたくなるぞ」

沙織「ではダグラスキューは京介氏が所有しているのですか? 是非拝見したいのですが」

京介「残念だけどダグラスキューは無いんだよなぁ。だから実はダグラスショットは無理だ! DHSなんて夢のまた夢だ!」

沙織「そうでしたか……これぞまさにぬか喜び。拙者ガックリでござるよ」

日向「よく分かんないけどビリヤードはできるんだよね? だったらあたしに教えてよ!」

京介「ああ、勿論良いぞ。でも日向ちゃんの身長で出来るのかな」

日向「大きくないと無理なの?」

沙織「そんなことはないでござるよ。体格が大きい方が有利な場面があるのは事実ですが、世界には車イスでのビリヤードプレイヤーも存在するくらいですから、問題ありません」

日向「そうなんですか? じゃあ高坂くん約束だからね!」

京介「はいよっと。あやせはここに行くので問題ないか?」

あやせ「ええ、もちろんです。わたしもボウリングは久しぶりなので楽しみにしてますね」

麻奈実「でも全部で九人だと、二つに分けたら四人と五人でげえむの進行に差が出ちゃうね。あと一人誰か誘っちゃう?」

京介「あー、そこは気が付かなかったな。赤城にでも声をかけてみようか。誰か誘いたい人とか居るか?」


あやせ「桐乃がいれば良かったんですけど」

京介「ボウリングをするためだけに桐乃を呼び戻す訳にはいかないしな。他に誰も居ないなら俺の友達に声をかけておくよ」

ブリジット「あの、ムリに人をふやさなくてもだいじょうぶじゃないですか?」

珠希「わたしもそう思います」

黒猫「そうね。折角コミュニティが形成されつつあるのだから、数合わせのためだけに外部から人を招へいする必要など無いでしょう」

京介「そっか、んじゃこのままで予約するな。えーと、空いてる日付はっと…………おっ、直近の土日が普通に空いてるな。みんな都合は付けられそうか?」

面々からOKの返事を貰ったのでそのまま予約を進める。ドリンクバーくらいは俺が全員分出そうかね。

京介「んー、シューズ代込みで小中学生は1,300円か。珠希ちゃんは大丈夫か?」

黒猫「問題無いわ。親に話せば出してくれるでしょうし、仮にそれが駄目だとしても私が日向と珠希の分を出すわ」

珠希「もうしわけありませんけど、お母さんがダメって言ったときは姉さまにおねがいします」

日向「あたしはダメだったら自分で出すよ。厳しいけど何とかなるかな」

ブリジット「わたしは自分でかせいだお金をママにあずけてる形なので、話せば出してくれるから平気です」

京介「じゃ予約っと」

移動は俺と麻奈実がそれぞれの家の車を借りれば問題ないだろうし、念のための軍資金を下ろしておけば後は当日が来るのを待つだけだな。




その後、細かいスケジュールを詰めて解散となり、いつものように黒猫三姉妹を送り届けてから帰宅し、自室でくつろいでいると桐乃からメールが届いた。

『あやせから聞いたよ。ビックリしたけど兄貴的には良かったんだよね?』

『そうだな。前以上にあやせをフォローしなくちゃいけないだろうけど、それでも俺としては肩の荷が下りた気分だ』

『ちょっとだけ、兄貴とあやせの子どもを見てみたかったかな』

『その内に黒猫との子どもを見せてやるさ』

『あたしが日本に戻るまでは待っててよねw』

『俺が就職して黒猫が大学に進学・卒業してからだから、当分先だな』

『ちゃんと避妊はしなさいよ?』

『うるせえ。話は変わるが、今週末あやせを元気付けるためにみんなでボウリングに行く事にした』

『あーいいなー。あたしも行きたい。日本に戻った時に絶対連れて行ってよね!』

『ああ任せとけ』

それから最近あった日常の出来事をやり取りしながら寝る時間まで過ごした。




そしてその日を迎え、俺たちは目一杯遊んだ。

ボウリング、ビリヤード、種々のスポーツ、カラオケなど。想定以上に金を使ってしまったけど、それはそれとして素敵な思い出になるだろうから良いよな。

あやせ「今日はとても楽しかったです」

麻奈実「あやせちゃんとっても楽しそうだったね」

京介「それに歌もすごい上手だったしな」

加奈子「あたしの歌唱力だってなかなかのもんだったろ? 現役アイドルなめんなよ」

京介「加奈子の歌が上手いのなんてとっくに知ってるから今更だな」

加奈子「そーだろ? ひひ、もっとほめてくれヨー」

沙織「それにしても京介氏のダグラスショットのフォームだけは完璧でござったな。あれでも球がちょっとだけ浮くものなのですな」

日向「ビリヤードは難しかったです。全然狙った所に球が飛んでいかないもん」

ブリジット「わたしはボウリングが思ってたよりも点を取れなくてざんねんだったかな」

珠希「いちばんかるいボールでもおもかったです」

黒猫「それでも私よりは点が上だったのだから良いでしょう?」

加奈子「猫の運動センスはちょっとチメー的だったな」

黒猫「私は文芸活動を主とするインドア派なのよ。あなたの様な脳筋と一緒にしないで頂戴」


京介「俺は麻奈実が案外ボウリングが上手だったのに驚いた」

麻奈実「えへへ、わたしだってやる時はやるんだよぉ?」

あやせ「マイボールを持っているだけあって沙織さんはさすがのトップでしたね」

沙織「拙者もそれ程嗜んでいる訳ではないので、今日のは調子が良かったのと幸運に助けられた結果でござるよ」

しばらくみんなでワイワイと今日の出来事で盛り上がる。

あ、桐乃に今日の写真を送っておこう。向こうは今は……朝か? もう起きてるよな。

『すげえ楽しかったぜ。あやせもとても楽しそうだった。今度はおまえも一緒に行こうな』

ややあって桐乃から返事が届く。

『もっとたまちゃんとブリジットちゃんの写真プリーズ』

ああ、海の向こうに居ると禁欲的な生活を強いられるんだろうな。ここは俺が一肌脱ぐとしようか。

京介「ブリジットちゃんと珠希ちゃん、ちょっとここに座ってくれ」

ブリジット「はい? こうですか?」

珠希「はい」

京介「そしたら二人で見つめ合って、こう手を絡めて」

ブリジット「あの、これって」

珠希「こうですか?」

京介「良いね、、実に良い! こっちを見なくていいからさ、お互いだけを見てもっと顔を近付けて……そう、良いね!」

ブリジット「……」

珠希「……」


沙織「なぜ唐突に百合なのでしょうか」

黒猫「そ、そうだわ。珠希、こんな汚らわしい男の言う事など一々聞く必要は無いのよ。すぐに離れなさい」

珠希「はい、分かりました」

京介「ああ、もうちょっとだったのに」

ブリジット「ほっ」

加奈子「京介は心底変態だなー」

あやせ「京介さん、ちょっとそこに正座してください」

京介「いやいや、今のは桐乃を喜ばせようとしただけであって、決して他意は無かった!」

麻奈実「言い訳無用だよ、きょうちゃん。いいから大人しく座る」

京介「……はい……」

そして黒猫あやせ麻奈実連合による俺への説教と折檻が始まった。

日向「高坂くんの情けない所を激写~」

沙織「おお良い写メが撮れましたな。どれ、拙者も一つ」

どうやら沙織から桐乃に写真が渡ったらしく、後になって

『ぷぎゃー m9(^Д^)』

と言う大変ムカつくメールが届いた。くそう、妹のために素晴らしい写真を撮ろうと身体を張った結果なのに。

もう知らん、絶対送ってやらねえからな! あの写真は俺一人だけで楽しむ!!




京介「ところで一つ疑問があるんだが」

黒猫「何かしら?」

京介「解散したはずなのに、なんで全員が俺の部屋に集合しているんだ?」

麻奈実「わたしは家がそこだから」

加奈子「黒猫三姉妹だけ京介の家に一緒に戻るって話してたじゃねーか。そんなのズルいだろー」

ブリジット「わたしはかなかなちゃんのおまけみたいなものですから……」

あやせ「黒猫さんも加奈子も行くのなら、わたしが行かない理由はありません」

沙織「拙者だけ仲間外れになるつもりはありませんので」

日向「だから最初から言ってたように、高坂くんがうちに来れば良かったんだよ」

京介「だって今日は土曜だから五更家に行ったら親父さんとお袋さんが居るだろ? ちょっと顔を会わせ辛いと言うか」

珠希「お父さんもお母さんもおにぃちゃんのことを気に入っていますからもんだいありませんよ?」

あやせ「でしたら今度は黒猫さんのご実家に乗り込むまでです」

黒猫「入れる訳ないでしょう。あなた莫迦じゃないの?」

あやせ「ふふ、今のわたしはあらゆるしがらみから解放された存在です。京介さんとの関係がリセットされた今、改めてアタックしたとして何の問題もありませんから、何でもできます!」

黒猫「私が居るのにいけしゃあしゃあとよくも言えたものね」


加奈子「そーだぞ、次に京介と付き合うのはあたしだって決まってんだからあやせは引っ込んでろって」

ブリジット「もしかしたらわたしにもチャンスが……?」

沙織「おや、ブリジット殿もついにその気になりましたか?」

ブリジット「あわわわ、な、なんにも言ってません!」

沙織「むふふ、バッチリ聴こえたでござるよ」

麻奈実「きょうちゃんもてもてだねぇ」

日向「やっぱ強引にでもうちに来てもらうべきだったかあ」

珠希「おにぃちゃんは姉さまとおつきあいをしているのですから、これからいくらでも機会はあると思います」

日向「うん、そーだね。まだチャンスはあるから、焦らないでゆっくりと進めていけばいいや」

珠希「はい、そう思います」

あやせ「黒猫さんは家が遠いですから、やはり普段のお世話役はわたしが適任だと思うんですよ」

黒猫「はんっ、恥知らずのビッチが何を言っているのかと思えば。検討する価値も無いわね」

加奈子「うちだってそんなに遠いワケじゃないから、あたしでも平気だよな。なー、京介?」

沙織「地の利を持ち出されると拙者が最も不利ですな……」

麻奈実「それだとわたしが一番向いている事になるんだけど、それでも良いのかなぁ」


ブリジット「あの、きょーすけさんはどう思っているんですか? たとえばほかの子が入りこめるかのうせいはあるんですか?」

黒猫「ブリジットまで何を言い出すのかしら。私が居る以上、あなた達に勝手な振る舞いは許さないわ。京介からもハッキリと言って頂戴」

京介「俺から言える事は一つだけだ――」

……。

京介「先日は言いそびれたけど、だからなんで俺の部屋に集まるんだよ! 狭いわ!!」



佳乃「桐乃がいなくなっても二階は騒がしいままね」

大介「そうだな」








   もしもあやせの妊娠が思い込みの結果のものだったら

   → 呪縛が解けて、みんな楽になれるよ






      終


こんばんは、以上となります。


みなさん様々なご意見をありがとうございます。

実際の所、黒猫編は話の展開がしづらくてなかなかストーリーが沸いてきません。この短い話を書くのにも五日以上かかってしまいました。

ネタありきになりますがあやせ編のハーレムルートが一番書きやすかったりします。

黒猫編の本編は既に終了していますが、こういった場合、余白は好きに使っても良いものなんでしょうか?


それでは、また~。


 あやせ編 おまけ 好みのタイプ



その日、自室で勉強をしてるとノックも無しにマイシスターが飛び込んで来た。

桐乃「京介っ! あたしたちの中で誰が一番タイプ!?」

京介「……いきなり過ぎて訳が分からん。あとノックくらいしてくれ」

桐乃「コンコン、これでいいでしょ? ほら、さっさと答えて!」

京介「口で言っただけじゃねーか! 説明しろ、説明を!」

黒猫「では私が説明しましょう」

桐乃「あれ、来たんだ」

黒猫「あなたがいきなり飛び出して行くから、私が代表として追いかけて来たまでよ」

京介「さっきから何なんだ。俺のタイプがどうとか言ってたけど」

黒猫「今リビングで女子会を開いているのだけれど、そこで出た話題が『誰が一番京介の好みのタイプなのか』よ」

女子会っつーから俺は参加しなかったんだが、若い女性ばかりだから恋バナ中心になるのはしょうがねーのか?

恋愛相手となるのが皆一緒の人物だから、似通った内容ばかりになってそうそうネタが続くとは思えないんだけどなあ。

桐乃「あたしが一番でしょ!? 当然そうよねっ!」

黒猫「――と、この様に、直接あなたから聞いてくると言って桐乃が暴走した結果がこれよ」

京介「全員等しく愛している。以上だ」


桐乃「愛情の深さじゃなくて、見た目とか性格の好みを聞いてるのよ。教えた所で何も変わらないからキリキリ白状しなさいっ」

京介「なぜそんな角が立ちそうな真似をしなきゃいけないんだよ。却下だ」

黒猫「角が立つ――つまり、京介の中にはれっきとした順位が存在するのね?」

京介「……全員可愛くて美人だ。ちょっと普通じゃない美少女集団だからそれで良いだろ?」

桐乃「もー、いいから早く答えてってば!」

京介「見ての通り俺は勉強中だ。邪魔すんならさっさと出て行け」

桐乃「うわヒド。それが妹にかける言葉? 兄で彼氏ならもっと優しく接するべきよ!」

黒猫「根を詰めても作業効率は上がらないわよ? 気分転換を兼ねて私達に情報を提示しても良いのではないかしら」

京介「そんな事を言われてもなぁ」

加奈子「んだよ、まだ京介から聞き出せてないのか?」

ブリジット「かなかなちゃん、いくら扉が開いててもノックをしなきゃダメだよー」

京介「おまえらまで来たのか」

加奈子「だってよー、待ってても全然戻ってくる気配ねーし。そりゃ呼びに来るだろ?」

この調子だと、じきに沙織たちもここに加わりそうだな。

京介「ったく、しょうがねーヤツらだ。分かったよ、休憩を兼ねてそちらにお邪魔させて貰うわ」

ブリジット「きっと京介さんが一緒の方が楽しいですよ! 先に戻ってお茶の準備をしておきますね」

桐乃「んじゃ行きましょ! ゴーゴー!」




秋美「今週も始まりました、お願いしちゃう! ランキングのコーナー! ドンドンパフパフ~」

日向「ひゅーひゅー」

珠希「おねえちゃん、口笛を吹けてませんよ?」

沙織「では拙者は紙吹雪でも」

あやせ「お掃除が大変なのでそれはダメです」

麻奈実「はいきょうちゃん、新作のお饅頭だよ」

京介「さんきゅ。……うん、こりゃ美味い。これ麻奈実が作ったのか? へぇ、増々腕を上げたなぁ。田村屋は安泰だ」

麻奈実「えへへ、ありがとお。うちが安泰かどうかはこれからのきょうちゃん次第だけどね~」

京介「へいへい、頑張りますよっと。麻奈実、おかわりあるか?」

麻奈実「うん、持ってくるねぇ」

秋美「ほらそこ、勝手に夫婦みたいな雰囲気出さないの! ――こほん、それではルールを説明しまーす!」

最近はネタ提供から進行まで秋美が担う事が多くなっていた。話に収拾が付かなくなったり横道に逸れた時は沙織の出番だ。

秋美「えー、京介には今から、主に外見による好みの順位を発表してもらいまーす! 性格を加味するのはギリセーフ、相性などを考慮してはダメです!」

京介「要するに、単純に見た目だけの俺の好みを出せば良いのか?」


秋美「そのと~~り! ランキング形式だからまずは十位からだよっ!」

京介「え、もしかして日向ちゃんと珠希ちゃんも含まれているのか?」

日向「もちろんそうに決まってるじゃん?」

珠希「ドキドキします」

桐乃「京介の好みの問題だから、年齢や付き合ってる付き合ってないは無関係でしょ? だから例えたまちゃんが一位でも怒ったりしないよ」

秋美「後は特殊ルールとして、眼鏡を常用している麻奈実ちゃんとさおりん以外は眼鏡オフの状態で査定してくださーい! はい、ブリジットちゃん外してー」

ブリジット「残念です……」

秋美「モチロン、京介の好みに合わせて普段しないスタイルに変えてくるのも禁止です! だから桐乃ちゃんもかなちゃんも髪の色はそのままだよ!」

加奈子「今からどーやって変えろってゆーんだよ。間に合うワケねーだろ」

沙織「要するに普段の我々の姿で評価して欲しいのでござるよ」

京介「んじゃ十位からだな。……言っておくけど、全員可愛くて美人なのは間違いないんだから、この結果を受けてもあんまり落ち込まないでくれよ?」

黒猫「それは承知の上よ」

あやせ「どんな結果でも受け止められるから大丈夫です」

桐乃「ほらほら、さっさと言いなさいって!」

日向「なんか、強気なのは上位を約束された人たちな気がする……」

沙織「まあまあ、所詮はお遊び企画ですからあまり本気に取らずに笑って流せば良いでござるよ」

日向「沙織さんもちょー美人だからって強気ですよね」

秋美「はいっ、では京介どーぞ!」


京介「んと、十位は……沙織・バジーナだな」

沙織「……はい? 今なんと仰られましたかな」

京介「だからおまえが十位だよ」

沙織「ほ、ほほう? このわたくしがまさかの十位ですか……。そうですか」

黒猫「いつぞやのバーベキューで来栖加奈子に容姿を莫迦にされた時にも結構切れていたわね」

珠希「沙織さんはとてもキレイですから、当然それだけの自信はあってしかるべきだと思います」

秋美「京介、さおりんが十位の理由は何かな?」

京介「いやだってさ、オタファッションに身を包んでグルグル眼鏡に高身長。トータル的に駄目だろ」

沙織「……確かに普段の姿を評価して欲しいと申しましたが、拙者のこれはあくまで外向けのコスプレですから、できれば槇島沙織としての順位をお願いしたいのでござるが」

黒猫「別衣装で再評価されると言うのなら、私は神猫や白ワンピを出しても良いのかしら?」

加奈子「それがオッケーなら加奈子だってメルルコスするしぃ?」

桐乃「あんたらのソレは単なるコスプレじゃない。沙織のとはまた違うでしょ」

麻奈実「評価を下すのはきょうちゃんだから、きょうちゃん次第かな?」

京介「んー、じゃあバジーナモードは欄外って事にしよう。槇島沙織だけは別カウントだ。他のコスプレは認められないな」

沙織「わたくし、京介さんを信じておりましたわ」

加奈子「あにナチュラルに眼鏡外してんだよ」

日向「何回見てもこの変わりっぷりってズルいよね~」


秋美「女は着飾ってなんぼ、化けるものなのです! はい、では改めて十位をどーぞ!」

京介「んじゃ、今度こそ十位だな。えっと、ごめんな? 珠希ちゃんで」

珠希「残念です……」

桐乃「ちょっとあんた、ナニふざけたコト言ってんのよ! たまちゃんメッチャかわいーじゃん!?」

京介「間違いなく将来美人になるけど、これはあくまで現在での評価だ。NOTロリコンの俺としては点数が厳しくならざるを得ないな。姉妹だから黒猫に当然似ているけど、だからって三人とも同じ順位にすれば済む話じゃないんだろ?」

あやせ「まだロリコンの部分は否定するんですね」

京介「黒髪で可愛いくて、性格も大人びている。成長すれば一気に順位が上がるポテンシャルは秘めているよ。だからあまり落ち込まないでくれ」

珠希「はい、分かりました。もう少し大きくなればおにぃちゃんを誘惑できるということですね?」

ブリジット「京介さんは中学の間は手を出してくれなかったから、まだ小学生の珠希ちゃんだと難しいのかな」

日向「既に高校生のあたしの立場は……」

沙織「わたくしの見立てでは、そろそろ京介さんは陥落するのではないかと。あともう少しの辛抱ですわ」

日向「うぅ、がんばります」

京介「ま、そんな日向ちゃんは九位なんだけどな」

日向「たまちゃんが十位だから予想は付いてたけど、いざ聞かされるとショックでかいよこれ~」


黒猫「日向や珠希がこの順位だと、常々似ていると言われている私も、もしかして……」

珠希「姉さまはきっと上位だと思います。わたしはしょせん姉さまの劣化コピーに過ぎない存在。おにぃちゃんからはただの代替物にしか見えないのでしょう」

麻奈実「珠希ちゃん、そんなに自分を卑下するのは駄目だよぉ? 珠希ちゃんは可愛いんだからもっと自信を持って。落ち込んでばかりだとメッだよ」

珠希「ありがとうございます、気を付けます」

日向「高坂くん、あたしはもう順位上がりそうにないの?」

京介「日向ちゃんはまだまだ綺麗になるだろ。後はもっと垢抜けてオシャレに磨きを掛ければグッと良くなるんじゃないか?」

日向「あたしの手持ち服がいまいちなのは、もうこれ運命なんだよ……」

京介「性格で言うと加奈子や秋美タイプで非常に付き合いやすいから、好みだけでは計り知れない何かがちゃんとあるよ」

あやせ「加奈子と秋美さんと日向ちゃんは確かに似ている部分がありますけど、それってつまりそれ以外の子は性格的に合わない……?」

桐乃「でも京介は大人びた性格の子がタイプなんだから、それこそあやせや黒猫やたまちゃんみたいな子が良いんじゃないのかな?」

ブリジット「うぅ、もっと大人っぽくならないと」

秋美「さてさて、日向ちゃんに希望を持たせた所で次だよ次! 八位をどーぞ!」

京介「麻奈実」

麻奈実「そっか」

秋美「おっと、眼鏡さおりんを除いて、彼女の中では麻奈実ちゃんが一番下ですか。これは予想外の展開キタ!」

京介「麻奈実も勿論綺麗なんだけど、他の子と比べたらどうしてもな」

麻奈実「ありがとう、きょうちゃんに綺麗って言って貰えたからもうそれだけで良いよぉ」

京介「相性は加点されないってルールみたいだしな。そこを入れると麻奈実が圧倒的一位になるぞ」

加奈子「それって実質の優勝者は師匠ってことになんのか?」

あやせ「京介さんとお姉さんの関係は特別だから、余人では割り込めない強い絆があるんだよね」

桐乃「ふん、そんなの血のつながりに勝るものなんてないっての」

麻奈実「わたしが実質優勝かぁ。やったあ」


秋美「今回は外見的なタイプのランキングだから麻奈実ちゃんはあくまで八位だよ! そこ忘れないでね! んじゃサクサクいきましょう、七位は誰かな~?」

京介「秋美かな」

秋美「おおう、ここであたしの出番かっ!?」

日向「秋美さんはアイドル系の顔立ちでとても可愛いと思うけど」

京介「性格を入れても良いってルールだったよな? 秋美は可愛いし性格も合うけど、ぐうたらな所でマイナスがでかいな」

秋美「え~、あたしは昔からこんなのなんだからいい加減慣れてよ~」

沙織「秋美さんは少々エキセントリックに過ぎるのではないかと。年齢の割に落ち着きが足りないと京介さんに思われているのではないでしょうか?」

桐乃「行動力のあるニートw」

秋美「ふっふっふ、あたしは働かずに済むためなら何だってするよ!」

京介「おまえ頭は良かったんだから家で出来る仕事でもしたらどうなんだ。インターネット関係とか色々あるだろ?」

秋美「親の脛をかじられる内は全力でかぶりつくっ! それがあたしのジャスティス!」

加奈子「しょーらい中猫やチビ猫の順位が上がった時、まっさきにこいつが落ちそーだな」

秋美「え~、それはヤだなぁ。それじゃパソコンの前でできる仕事でも何か探してみるかあ。あー、メンドクサイ」

麻奈実「やっとお仕事をやる気になったんだね……それならわたしもいんたあねっとを調べてみるね」

秋美「あ、株とかどうかなっ。上がりそうな銘柄を買って放置しておくだけとか最高じゃん?」

黒猫「これは駄目なパターンね」

京介「株やFXに手を出すならせめてしっかりと勉強してからにしてくれ。怖くて俺には無理だ」


秋美「勉強のことはまた後でね! 気を取り直して次行くよー! 六位をどーぞ!」

京介「六位か……うーん、加奈子かな」

加奈子「おいコラ、なんであたしが六位なんだよ。納得いかねー」

京介「じゃあ逆に聞くけど、残った子を相手におまえ勝てる自信あるか?」

加奈子「あん? そんなの当たり前だろ、加奈子様をなめんなっての! こちとらアイドルやってんだぜ、ファンの数なら絶対負けねーな!」

ブリジット「かなかなちゃんはステージの上で一番輝いてるよ」

加奈子「言われなくても知ってるしぃ。でも京介に一番だと思って欲しいからこの順位じゃなぁ」

京介「エロ部門の加点があったら断トツの一位だから安心してくれ」

加奈子「そっか? ならいいや」

日向「それで良いんだ……」

秋美「かなちゃんのエロパワーは留まるところを知らないね! ではいよいよ折り返しを越えて五位のはっぴょーだよ!」


京介「五位か。んー、ブリジットかな?」

ブリジット「はい、ありがとうございます」

麻奈実「現役の女優さんなのに厳しめだね」

ブリジット「残ってる方々はわたしじゃ太刀打ちできないくらいにキレイな方ばかりですから」

秋美「モデルが二人と、モデル顔負けの美少女が二人。なかなかこの山は越えられないかー」

加奈子「ま、世間への知名度って点ではそのうちブリジットの一人勝ちになるだろ? あたしは負けるつもりないけどさ」

ブリジット「かなかなちゃんも女優になっちゃう?」

加奈子「二十歳近いのに子ども役ばかりなんてイヤだぜー」

沙織「それはそれである種の固定ファンが付きそうですわね」

黒猫「いわゆる合法ロリと呼ばれる存在ね」

加奈子「うわ、うれしくねーな」

京介「合法ロリ……なるほど、そんな世界があるのか。奥が深いな……」

あやせ「なぜそこで珠希ちゃんを見るんですか。本当に通報しますよ?」

桐乃「たまちゃんだと違法だしね。あたしは同性だから何をしてもオッケーだけどね!」

黒猫「同性であっても違法に決まっているでしょう」

珠希「おにぃちゃん、助けてください」


京介「こら桐乃、珠希ちゃんを怖がらせてどうする。ほら珠希ちゃんこっちにおいで、俺の傍に居れば安全だぞ」

日向「あ、それならあたしも一緒にくっ付いてよっと」

麻奈実「きょうちゃん、どさくさ紛れに何て事を……」

秋美「事案が発生する前に水際でせき止めるのがあたしたちの役目だね!」

京介「おまえたちは日向ちゃんと珠希ちゃんをけしかけてるのか止めたいのかどっちなんだ」

加奈子「猫の妹たちくらいなら、まあ今さらだし別にかなぁ? でもこれ以上彼女が増えるのはカンベンだぜー」

桐乃「中東の石油王もビックリのハーレムだよね。石油王と違ってお金が全然無いのが困りものだけどw」

あやせ「お金はみんなが質素に暮らせるだけの金額を稼げればそれで大丈夫だよ」

ブリジット「女優なら歳を取っても続けられるので、いざとなればわたしがみなさんを養います!」

秋美「よろしくね、未来の大女優ブリジットちゃん! 目指せハリウッドスター!」

ブリジット「そこまでは無理ですよー。それに、もしハリウッドスターになれたとしても私生活とか暴かれて困ります。せめて日本国内がいいです」

京介「それ以前に秋美は自分の食い扶持くらい自分で稼げるようになれって」


秋美「だが断る。んじゃこれ以上突っ込まれる前に次いこー! 第四位だよ、はいどーぞ!」

京介「うーーん……黒猫かな」

黒猫「……そう」

加奈子「なにいっちょ前にガックリきてんだよ」

日向「そうだよー。あたしは九位、たまちゃんは十位なんだよ? 似た顔なのにルリ姉は四位なんだからもっと喜びなよ~」

黒猫「問題ないわ。所詮見てくれだけを評価した順位付けなど、私と京介の間にある絆に比べれば強風に晒された綿埃の様なもの。歯牙にも掛けないわね」

秋美「気にしないならあたしと瑠璃ちゃんの順位を交換して!」

黒猫「厭よ。大体そんな事が出来る訳ないでしょう? これは現時点に於ける京介の主観によるものなのだから、覆るなど有り得ないわね」

桐乃「しっかりと執着してるじゃん」

秋美「瑠璃ちゃんが素直じゃないのは今さらだしね~。んじゃいよいよトップスリーにいこう! ここまで来ると残りは粒ぞろいの美少女ばかり、うっはあ京介って贅沢者だね!」

麻奈実「桐乃ちゃん、あやせちゃん、沙織さん……凄く綺麗な人ばかりだねぇ」

加奈子「キャラの方向性が違うだけであたしだって負けてないっつーの」

珠希「わたしはこれから成長期を迎えますから、今からがんばればおにぃちゃん好みのおっきなおっぱいに育つかもしれません」

加奈子「おいチビ、今のはおっぱいが小さいヤツはダメだって意味にしか聞こえなかったぞ」

秋美「ドンマイかなちゃん!」

加奈子「うるせーよ。オメーがゆーな」

黒猫「人の妹を威嚇するのはやめて貰えるかしら? 第六位さん」

加奈子「ケッ、四位も六位もたいして変わんねーっての。ジュージツしたエロライフを含めたらあたしの余裕勝ちだっての」


秋美「確かにそこは大事かもしれないけど、今日のテーマじゃないからね~。それじゃ京介、三位をよろしく!」

京介「槇島沙織」

沙織「やはりわたくしになりましたか。きりりんさんとあやせさんには勝てる気がしませんわ」

麻奈実「多分世間一般の人に聞いたら、殆どの人が沙織さんが一番美人だって答えると思うよぉ?」

ブリジット「こればかりは京介さんの好みの問題ですから仕方がないですよね」

沙織「それでも第三位と言えば学園都市が誇る超電磁砲ですから、ある意味わたくしがメインヒロインと言っても過言ではないかと」

桐乃「過言あるに決まってんでしょ」

麻奈実「れえるがん、ってあめりかの軍隊が開発してるってにゅうすで言ってたやつだよね?」

黒猫「沙織が口にしたのは小説及びアニメに登場する人物の異名よ。確かに人気は高いけれど、果たしてメインヒロインであると言えるかしらね。むしろ主人公なのではないかしら」

ブリジット「でも美琴ちゃんは可愛いし強いですよ? わたしは第五位だからまだ誰か分かってないし」

黒猫「第五位ならとっくに判明してるわよ? ブリジットはアニメ派よね。アニメでは登場シーンが極端に少ないために憶えていなくて当然かもしれないけれど」

ブリジット「そうなんですか? 後でネットで調べてみますね」

加奈子「チャンスがあったらすぐにアニメのネタを放り込んできやがるなぁ」


秋美「みさきちも中々の人気キャラだから期待してて良いと思うよ! あたしなんて七位だからね、謎パワーで戦う削板くんだよ!」

沙織「最強キャラの一角ですわね。御坂美琴嬢も覚醒さえすれば絶対能力者に至れると明示された訳ですから、まだまだ戦闘にも恋にもがんばれますわ」

桐乃「美琴さんの恋は応援してるケド、それと沙織はまた別ものよ」

沙織「あら、応援しては頂けないのですか?」

桐乃「あたしたちは同士であると同時にライバルでもあるからね。モチロン仲良くするしみんな大好きだケド、京介にとっての一番を譲るつもりは無いわ!」

あやせ「そこは競わずに、みんなが別々に京介さんの一番になれば良いんじゃないかな?」

桐乃「ん? どゆコト?」

あやせ「一番愛されてるのはわたし、一番つながりが深いのは桐乃、一番理解し合えているのはお姉さん、みたいに」

加奈子「ナニさらっとみんなが一番欲しい称号を自分で持ってってんだよ」

珠希「わたしは順調にいけば一番年下の彼女になるんでしょうか」

日向「あたしには高坂くんとの一番なんて思い付かないよ~」

桐乃「ひなちゃんの一番……。元気、は加奈子や秋美さんがいるし、積極性も加奈子や秋美さんがいるし」

秋美「あたしが京介を落とすのに六ヶ月かかったから、それより長くなれば一番攻略に手こずったコになれるよ!」

日向「うれしくないなあ」


黒猫「一番チョップされてる、だとあんまりだから、一番京介に弄られている子と言うのはどうかしら?」

沙織「愛されキャラですわね。いわば、一番遠慮されていない心を許してくれている存在、でしょうか?」

ブリジット「それだとなんだか良い感じですね!」

麻奈実「確かにきょうちゃんは、日向ちゃん相手だと割と乱暴な事を言ってるよね」

加奈子「桐乃が何でも自分でやるヤツだから、こいつ相手に兄貴風を吹かしてるだけじゃねーの?」

日向「……高坂くん、そうなの?」

京介「んな訳あるか。そりゃ日向ちゃんは妹成分多目だけどさ、手間のかかる妹は桐乃だけで充分だ。代わりにしてるとか失礼な事をするもんかよ」

日向「そう? それなら良かったあ」

桐乃「そもそもあたしが京介の妹ポジを誰かに渡すなんてありえないし!」

珠希「でも姉さまがおにぃちゃんと結婚すれば、わたしとおねえちゃんは自動的に義妹になれますよ?」

桐乃「……その手があったか!! 京介あんた、黒猫と結婚しなさい!」

京介「おまえは何を言ってるんだ」

黒猫「京介と結婚するのはやぶさかではないけれども、日向と珠希があなたの妹になる訳ではないのよ?」

桐乃「いやいや。実妹あたし。義妹ひなちゃんとたまちゃん。もうこれってあたしの妹でもあるってコトじゃん!?」

秋美「桐乃ちゃん落ち着いて。いつか誰かと正式に結婚するだろうけど、まだ今の段階じゃ全員横並びで誰とも決まってないんだよ?」


桐乃「どーせあたしは結婚できないしぃ~。それなら一番あたしに利のある結婚が良いじゃん~?」

京介「なるほどな。誰も選べないならそんな考え方も有りなのか」

あやせ「それはどうかと思います。ちゃんと真面目に考えてください」

麻奈実「きょうちゃん、結婚は当人たちだけの問題じゃないんだよ? 両家の関係だって大事にしないといけないんだから適当な選び方したら、メッだよ」

京介「そうは言うが、実際のところ五更の親御さんは俺と黒猫が結婚するものと思い込んでるみたいだしなぁ。特に障害は無さそうだぞ?」

麻奈実「ぶぅ。それならわたしだって両家公認みたいなものなのに~」

京介「麻奈実と結婚したらロックが義弟になるのか」

桐乃「あ、それダメ。パス、却下、認められないから」

京介「――って事みたいだぜ?」

麻奈実「まさか、いわおが足を引っ張るなんて……」

加奈子「あたしと結婚すればロリな姉貴がもれなく付いてくるぜー?」

京介「なぜか彼方さんの俺への好感度って高いっぽいんだよなぁ。でもあの人はちょっと苦手なのでクーリングオフで」

加奈子「なんだよー、京介が上手くやれば夢の姉妹丼だって可能かも知れないんだぜ?」

日向「それならあたしの方が可能性高いよね。ルリ姉かたまちゃんと一緒、とか。あ、ひょっとして三人とも同時に? うわあ高坂くんケダモノすぎるよ~」

京介「勝手に人をケダモノ扱いするなっての。珠希ちゃんの情操教育に悪すぎるし、ひなビッチちゃんはちょっと黙っとこうな?」


桐乃「あっ! 黒猫が家族になれば、あたしも含めた実妹義妹での5Pとかできるじゃん! エロゲーでもこんなの無いよ!」

京介「やる訳ねえだろ」

沙織「きりりんさんが妙に黒猫さん推しになってしまわれましたね。これはマズイ流れですわ」

あやせ「むぅ~。本当ならわたしが京介さんと結婚してるはずなのに」

黒猫「ククク、時代は我に味方せり」

ブリジット「あの、わたしが相手だと国際結婚になるから箔が尽きますよ!」

麻奈実「ぶりじっとちゃんは帰化しないの?」

ブリジット「いずれはすることも選択の一つとして考えていますけど、自分で申請するには二十歳になっていないとダメみたいなんです」

秋美「そう簡単にはできなさそーだよね。誰でも帰化できたら大変なことになっちゃう」

ブリジット「今の時点で年齢以外の要件は全て満たしていますから、恐らく申請を出せば通るとは思います。でもまだ何年もありますからゆっくりと考えますね」

京介「そうだな。ブリジットの親の意向もあるだろうしさ」

日向「ねえねえ、帰化したらやっぱり日本風の名前にしないといけないの?」

ブリジット「ううん、それは大丈夫みたい。ただアルファベットは使えないからカタカナになるかな? わたしは本名で芸能活動してるから変えると都合悪いし、変更してもせいぜい高坂ブリジットにするくらい?」

加奈子「なに勝手に高坂姓を名乗ってるんだよ」

ブリジット「えへへ、実は好きに姓を選ぶことができるんだ。だからわたしが勝手に高坂って名乗っても誰にも怒られないんだよ」

日向「えー、ブリジットだけズルいよ~」


珠希「あの、結婚のお話も楽しいですけど、まだ一位と二位の発表が終わってませんよ?」

秋美「そうだった! いつもはさおりんが軌道修正してくれるからうっかりしちゃってたよ!」

沙織「今のわたくしはバジーナではありませんので」

あやせ「残っているのはわたしと」

桐乃「あたしねっ。いくらあやせが相手でもここで負けるつもりはないわよ!」

あやせ「わたしだって」

秋美「それじゃま、京介いっちゃって! 一気に一位と二位をドーンとよろしく!」

京介「あくまで見た目での俺の好みのランキングだからな」

加奈子「何度も言わなくたって分かってるっての」

京介「おっほん。――ん、一番俺のタイプなのは……」

あやせ「……」

桐乃「……」

京介「あー、桐乃、おまえだよ」

あやせ「え」

麻奈実「え」

日向「え」

桐乃「え」


京介「なんだよその反応は! おまえら驚きすぎだろ!?」

沙織「何と申しましょうか、普通に驚いてしまいました。てっきり一位はあやせさんだとばかり」

秋美「いくら似てない兄妹だからって、妹が一番タイプだってゆーのはちょっとビックリだね! 京介は根っからの変態さんだったんだ!」

黒猫「あやせは京介の好みのど真ん中だと聞いていたのに、実は私達全員をたばかっていた……?」

加奈子「だよなー。なんだかんだであやせが一位だとみんな思ってたんじゃね?」

ブリジット「うん」

桐乃「実はあたしもさっきあんなコト言ってたけど、自分が一位は無いって思ってたw」

珠希「やっぱりおっぱいの大きさが決め手なんでしょうか……」

あやせ「珠希ちゃん、わたしは決して小さくはないのよ? 普通なの、普通だからそこは注意してね?」

珠希「は、はい……ごめんなさい……」

黒猫「あやせ、悔しがる気持ちは分かるけれど、妹にあたるのはやめて頂戴」

あやせ「そ、そんなつもりはありませんっ」

日向「ねえ、キリ姉のどこが勝因になったの?」

京介「いやぁ別に? 何となく、かなぁ」


麻奈実「きょうちゃんは黒くて長い髪で巨乳で眼鏡で大人びた子が好きなんだよね? 桐乃ちゃんだと胸が大きい部分しか当てはまらないけど」

京介「記号化するとそうなるけど、それだけで量れるもんじゃねえだろ?」

秋美「パーツパーツを拾えば麻奈実ちゃんが一番適合してるもんね」

珠希「やはり眼鏡……」

桐乃「つまりあたしが黒髪に戻して眼鏡をかけたら、ただでさえパーフェクトなのにさらに上の存在になるのね」

沙織「完璧を越えた先、つまり究極ですな。これぞまさにアルティメットきりりん!」

桐乃「まどかちゃんでも悟飯くんでもない、第三のアルティメット、それがあたしなのね!」

黒猫「何て図々しい」

あやせ「桐乃は今のままの方が良いよ。無理に髪を戻したり眼鏡をかけたらダメだよ」

加奈子「だいたい桐乃がそのアルティメット? とかになったってどーせ京介とは結婚できないんだし」

桐乃「ふはは、未だ正体不明の第六位は黙っていなさい! 勝ったのはあたし! きりりん大勝利いえ~~い!」

京介「すげえ調子に乗ってんなあ」

日向「キリ姉を調子に乗らせたのは高坂くんだよ」

京介「それはそうなんだが……。で、この順位を決めて何があるんだ? 一位に賞品でも贈られるのか?」

沙織「ただの名誉でござるよ?」

京介「……そうかい。ま、名誉も大事だよな」




桐乃「あー楽しかった! またやろうね!」

日向「あたしは全然楽しくなかったよ~」

秋美「次はどんな部門にしよっか?」

加奈子「そりゃエロしかねーだろ」

黒猫「そんな結果の見えている勝負は面白くないわね」

麻奈実「加奈子ちゃんが一位になる姿しか見えないよぉ」

あやせ「今日は外見+性格でしたから、次は相性とかどうですか?」

沙織「それはそれで麻奈実殿一強で終わりそうですな」

珠希「闇の眷属としての素質はどうでしょう」

ブリジット「あはは、その力は黒猫さんと珠希ちゃんしか持ってないから無理かなーって」

京介「何でも良いけど俺は部屋に戻るぞ? また決まったら呼んでくれ」




自室に戻りしばらく勉強を進めていると、再びノックも無しにマイシスターが飛び込んで来た。

桐乃「京介っ! あたしたちの中で誰を一番奥さんにしたい!?」

京介「……ノーコメントで」

桐乃「え~、いいじゃん。ほらほら、妹で奥さんとか最高だと思わない?」

京介「無茶言うな。兄妹で結婚出来るのは創作物の世界の中だけだ」

あやせ「外見で順位を付けられたんですから、妻にしたい順だって発表できますよね」

桐乃「あれ、来たんだ」

あやせ「桐乃がいきなり飛び出して行ったから慌てて付いてきたんだよ」

京介「要は結婚したいランキングだろ? おまえらが本気になりそうだから答えない」

あやせ「答えない……つまり、京介さんの中には答えが存在するんですね?」

京介「……全員等しく愛しているから、誰か一人だけを特別に選ぶのは難しい。以上だ」

桐乃「そーゆーのいいから。ちゃんと答えて!」

京介「桐乃は断トツで最下位だ。残念だったな」

桐乃「な、なんでーーーー!?」

あやせ「当たり前だよ……」








    終


こんばんは、以上となります。


とりあえず書きたいように書いてみたらこんな感じになってしまいました。余白は好きなように使ってみようと思います。

ちなみに順位は某サイトの俺妹美少女ランキングを参考にさせて頂きました。というかそのまんまです。


それでは、また~。


 あやせ編 おまけ 五更日向の×××



日向「もうね、ちょー痛かったよ!!」

加奈子「きたえかたが足んねーんだよ」

秋美「回数を重ねればその内に良くなってくるからさ、がんばって!」

ブリジット「おめでとう、日向」

黒猫「とうとう日向まで……彼女の妹にも手を出すなんて、想像を遥かに凌駕する鬼畜だったのね」

桐乃「今さら何ゆってんの。ね、ね、ひなちゃん、もっと詳しく!」

日向「キリ姉ちょっとキモいよ……。詳しくって言われても、そんなのみなさんの方が先輩なのに」

沙織「拙者らは皆数年前に済ませており記憶も薄れております故、ここはフレッシュな感想が欲しい所ですな」

秋美「みんな最初はすっごく優しくしてもらってるから、きっと日向ちゃんもお姫様みたいに扱われたよね!」

日向「う~ん? とりあえずなんだか全身をムチャクチャにされて、もうワケ分かんなくなって、ぼおっとしてたらいきなり痛かったかな?」

珠希「ドキドキ」

加奈子「今の京介のテクニックはモンスター級だからなァ。初心者じゃ対抗できねーだろ。あたしでもたまにヤバいしw」

日向「血が出るって聞いてたけどあたしは出なかったですよ? でも高坂くんの、アレが入ってくるのがね。もうとにかく痛くて痛くて」

沙織「それまで閉じていた場所を無理やり押し広げるのですから当然痛みは伴いますが、それもまた喜びのうちでござるよ」


日向「いや~、痛いのは当分カンベンって思いました」

桐乃「でも、もう痛くないっしょ?」

日向「それは、まあ……。でもやっぱり恥ずかしいし、慣れるまで時間かかりそう」

秋美「慣れたらごっつい気持ち良くなれるよ!」

珠希「そうなんですか?」

黒猫「……珠希、あなたはあっちに行ってなさい」

桐乃「これも性教育の一環だから平気だって。生の感想も大事なのよ!」

加奈子「あー、生でヤると気持ちいーよなー」

ブリジット「え、かなかなちゃんそれはダメだよ! ちゃんと避妊しないと」

加奈子「ダイジョーブだって。外に出してるし、もしもできたらその時は産むだけだし」

沙織「外出ししたからと言って、カウパー腺液――いわゆるがまん汁は分泌されておりますから、それで妊娠する可能性は充分にあるでござるよ?」

珠希「勉強になります」

日向「たまちゃん意味分かるの?」

珠希「いえ、分かった振りをしているだけなので、後で教えてください」

日向「う……。良いのかなぁ?」


加奈子「がまん汁で妊娠することくらい当然知ってるって。あやせの次はあたしが子どもを産むんだし、別に構わねーだろー?」

黒猫「時期を見ながら、と言ったでしょう。今誰かが妊娠したとしても京介に負担を強いるだけだわ。もっとちゃんと計画的に行動して頂戴」

加奈子「え~」

桐乃「えー、じゃない。あやせの次はあたしの番なんだから、加奈子は後回しに決まってるでしょ」

秋美「妊活については京介が働きだしてからみんなでちゃんと考えよ! 日向ちゃんはそれまでにしっかり下半身を鍛えておこうね!」

日向「きたえないとダメなんですか?」

ブリジット「今は経験したばかりでまだ狭いからそれで充分だけど、次第にどうしても広がってしまうからね」

沙織「骨盤底筋を鍛えることで膣圧が上がるので、それだけで充実した性生活を送ることが可能となります」

桐乃「あたしたちみんな、ちゃんとその辺のトレーニング積んでるからね。若さだけじゃダメだよ」

日向「へぇ~。何をすればいいの?」

加奈子「んじゃ中猫もあたしらの勉強会に参加しろよ。そん時に教えてやるぜ」

珠希「勉強会ですか?」

黒猫「ええ、皆で情報を持ち寄って報告や相談、今後の計画などを立てているのよ。でも珠希にはまだ早いわ」

秋美「ちなみに男子禁制だから京介はこの会には参加できないんだよ!」

珠希「はやく大人になりたいです……」


ブリジット「骨盤底筋トレーニングはすぐにできるから、後でわたしの部屋で教えるね」

日向「ありがと、よろしく~」

桐乃「尿漏れ対策にもなるらしいから、今の内にきたえておけば将来きっと役に立つよ」

日向「バストアップ体操も是非お願いしまっす!」

黒猫「……果たしてあれは効果があるのかしらね」

秋美「無いと思うよ? だって全然おっきくならないもん!」

加奈子「あきらめろって。猫の妹じゃ大きくなりよーがねーだろ?」

日向「ええ~。そこはあきらめたくないですよ~」

桐乃「Dカップ以上連合に入れるようになるまでがんばれー」

沙織「メンバーが四名だけでは寂しいですからなあ」

秋美「半数いれば充分じゃん。贅沢ゆってるなぁ」

加奈子「中猫が加わったから貧乳同盟も四人だぜ? これで互角だな」

黒猫「だからそこに私を勝手に入れないでと言っているのに。私はあやせと同じ普通グループよ」

秋美「瑠璃ちゃん、それはさすがに無理があるよ……」


ブリジット「まあまあ、京介さんはおっぱいの大きさにこだわらない人だから大丈夫だよ」

加奈子「うっせ、でかチチ。裏切りもん」

ブリジット「かなかなちゃん酷いよ~」

珠希「おにぃちゃんを魅了するには胸の大きさよりもやはり眼鏡でしょうか?」

桐乃「どっちもあるのが理想カナ?」

沙織「つまり拙者でござるな!」

黒猫「五月蠅いわね。胸が抉り取られる呪いをかけるわよ」

沙織「それは怖すぎるでござるよ、黒猫氏」

秋美「あれ、そう言えば正統派巨乳眼鏡キャラの麻奈実ちゃんは?」

日向「さっきからずっとあっちで高坂くんを説教してますよ?」

……。

麻奈実「あやせちゃんがとてもお冠だから、わたしはどちらかと言うと仲裁役をしてたかな?」




あやせ「京介さん、わたしが出産を控えている今この時期に、どうしてさらに彼女を増やすんですか」

京介「面目次第もございません……」

あやせ「確かに他の子も同じように愛してくださいとは言いましたけど、新たに女性を増やすことを許可した覚えはありません」

京介「仰る通りでございます」

あやせ「なぜ妻であるわたしに黙って日向ちゃんを抱いたんですか。納得のいく説明をお願いします」

京介「あれ、あやせも結構後押ししてたよな?」

あやせ「してません」

京介「いやいや、バッチリしてたって。こんな感じ(↓)にさ」




……。

加奈子「ほー。ようやく京介がエッチしてくれる気になったんか」

日向「はい、ここまで苦労しましたよ~。あんなに難攻不落だとは思いませんでした」

秋美「日向ちゃんが京介の攻略を開始したのって五月頃だったよね? ってことは八ヶ月か~、やったね記録更新だよ!」

日向「うれしくないです……」

沙織「しかも既婚者であり妻のあやせ殿は出産間近という状況でござるよ。秋美殿の時よりも余程攻略難度は上でしたな」

桐乃「さんざんけしかけておいてなんだけど、よく京介に受け入れてもらえたよね?」

ブリジット「わたしたち全員のバックアップもあったけど、最後は日向の力だもんね」

麻奈実「えっとぉ、きょうちゃんが出してた条件っておっぱいを2せんち大きくする事だったっけ?」

日向「妥協させて妥協させて、最後には1cmでOKにまで緩和してもらいました」

珠希「ではおねえちゃんは1cmおっきくなったんですか?」

黒猫「学校での身体測定の時より0.7cm育っていたわね」

日向「うん、ルリ姉にも手伝ってもらって、四捨五入したら1cmだから問題ないでしょ、って認めてもらった。ちょおっと強引だったけどねw」

京介「確かに強引だったけど約束してたからな。それに俺の条件はクリアしても、彼女ーズ全員の承認を貰わないと駄目だって第二条件があるからさ」


桐乃「モチロンオッケー!」

黒猫「……複雑ではあるわね。でも日向の想いは確かなものよ、莫迦になんて出来ないわ。しっかりと受け止めてあげなさい」

沙織「了承でござる!」

加奈子「しょうがねーよなー、ここまでガッツを見せられたらよー」

麻奈実「人が増えればそれだけ円に近付くんだよ。だから日向ちゃんならわたしもおっけえ」

ブリジット「日向がんばったもんね。わたしとしても同い年の仲間ができてうれしいよ」

秋美「あたしが反対するワケないじゃーん? そんでさ! やっぱ正妻の意見が最も重要になるから、ここはあやせちゃん次第だよ!」

あやせ「外向けの地位としては確かにわたしが妻になりますけど、あくまでもみなさんと同等ですよ?」

加奈子「んなもん分かってるって。あやせばかり良い目に合わせるワケにはいかねーぜ? すぐにあたしも後を追うし」

あやせ「もう、加奈子ったら。――それでね、日向ちゃん」

日向「はいっ」

あやせ「京介さんはスケベで変態だけど優しい人だから、きっと日向ちゃんにも優しくしてくれるよ? だから一度しかない初めてを大事な想い出にしてね」

日向「はい、ありがとうございます!」

沙織「全員の許可が下りましたので、これで全ての関門を突破しましたかな?」


秋美「一つ心配があるとすれば、日向ちゃんが京介の攻めに耐えられるかな~、ってことくらい?」

日向「そんなにですか?」

桐乃「すごいから」

加奈子「昔はヘッタクソだったのによー。大勢を相手にしてるうちに上手になりやがって」

麻奈実「日向ちゃんが正気を保っていられるかが心配だねぇ」

日向「うぅ……。お手柔らかにお願いします」

京介「へっ、初心者相手でも遠慮なく俺の必殺テクニックをぶちかましてやるぜ! 覚悟しとけよ!」

珠希「おにぃちゃん、殺してはダメですよ?」

黒猫「この場合は女殺し、とかで使う方の意味になるのかしらね? いずれにせよ手加減はして頂戴。後で掃除をする者の身になって考えて欲しいものだわ」

日向「洗濯と掃除はあたしがするからっ。ルリ姉はやっちゃダメ!」

桐乃「フヒヒ、あたしなら良いよねぇ~?」

ブリジット「桐乃さん、そろそろ本当に自重を覚えないと、ちとせちゃんが産まれた後で大変ですよ……?」

京介「大丈夫だって。桐乃の魔の手からは俺とあやせで守ってみせるさ」

沙織「無論、拙者らも協力は惜しまないでござるよ」

あやせ「ありがとうございます。とにかく、日向ちゃんはしっかりと意識を保てるように気合いを入れて挑んでね。途中からグチャグチャになって憶えてないってなりそうだから」

日向「はいっ!」

……。




京介「――とまあ、こんな感じで」

あやせ「……むぅ」

京介「むくれるなって。他のみんなもその場に居たんだから、聞けば全員が証人になってくれるぞ?」

あやせ「た、確かに認める発言はしたかもしれませんけど、でも」

京介「大丈夫だ、俺の奥さんはおまえだけだよ。だからそんなにヤキモチを妬かないでくれって」

あやせ「京介さんがそう仰るのなら……分かりました……」

京介「納得して貰えたのならみんなの所に戻ろうぜ」




あやせ「一つだけ、これだけは京介さんと生計を一にする者として確認しておかないといけません」

京介「なんだ?」

あやせ「これまでの彼女たちは全員実家が裕福だったり自力でお金を稼ぐ手段があったりで、何とかなってました。でも日向ちゃんは普通の子でバイトはしてません」

日向「それは……」

あやせ「そうなると当然、金銭的な負担は京介さんに発生するわけですけど、そこはどう考えているんですか?」

加奈子「なんかあやせがマジメだ」

麻奈実「お金の問題は大事だからねぇ」

桐乃「足りない時はあたしが出してあげるよ?」

京介「そんな訳にはいかねーだろ。俺は来年社会人で日向ちゃんはまだ高校一年だ。普通に考えて俺が出すべきだろう」

桐乃「妹なんだからそこは頼ってもいいと思うんだケドなー」

京介「気持ちだけ貰っておくよ、ありがとな桐乃」

日向「それならバイトを始めます!」

秋美「考えてみたら、バイトしてればお給料で新作の服も買えてたと思うんだけど、何で今までやってなかったの?」

日向「その、お父さんがしなくてもいいって」


ブリジット「あれ、でも黒猫さんは中学生の頃からずっとアルバイトをしてたんですよね?」

黒猫「私がバイトを始めた頃は……あまり家が裕福ではなかったのよ。満足出来るだけの小遣いが貰える訳もなく、趣味にお金を使いたい私には到底足りなかったわ」

珠希「お父さんが新しいお仕事に変わって、かなり余裕ができたみたいです。おこづかいもたくさん増えました」

日向「お小遣いを増やしたからわざわざバイトする必要はないだろうって感じかな?」

黒猫「私のバイト先は母の知人が店長をやっている店だから見逃して貰えた、と言う所ね」

秋美「ふ~ん。色々あるんだね。じゃあさ、日向ちゃんはまずお父さんの説得から? がんばってね!」

日向「はい!」

加奈子「男ができたから金が足りねーって、親父ならゼッテー許してくれねーと思うけどなw」

日向「そのままゆうワケないじゃないですか~」

京介「日向ちゃん、あんまり無理しなくても良いんだぞ? あと数ヶ月もすれば俺も給料が貰える身分になるし、多少は頼ってくれても問題ないぜ」

日向「えー、だって、ようやく対等になれたのに頼ってばかりじゃつまんないよ。それにデートの時もだし、ほ、ホテルに入っても毎回高坂くん持ちじゃ気後れしちゃう」

加奈子「ヤる気マンマンじゃねーか」

日向「今すぐじゃないですから! そのうち、そのうちですからっ!」

麻奈実「でも働きたいって考える意志は大事にしたいよね。わたしは応援するよぉ。秋美さんもそう思うよね?」

秋美「ウン、ソーダネ」

沙織「本人がアルバイトを始めると申しておりますから、我々はそれを応援いたしましょう」

黒猫「ええそうね。説得が難しい時は私を呼びなさい。口添えするわ」

京介「場合によっちゃ俺もな」

珠希「もちろんわたしもですよ?」

日向「うん、みんなありがとう~」




あやせ「そういえば日向ちゃんは実家暮らしのままなの?」

日向「できればここに移りたいですけど、やっぱり親には反対されますよね」

ブリジット「高校生で実家が近くにあるのに親元を離れて暮らすのって、日本じゃ簡単には認めてもらえないですよね?」

麻奈実「そうだねぇ。ぶりじっとちゃんもそうだったけど、日向ちゃんも高校が遠くなっちゃうから、通学のためって理由は使えないし」

沙織「空き部屋の問題もありますな。あと一室しか空いておりませんから、そこを埋めてしまうと客間が無くなります」

黒猫「仮に両親の許可を得る事が出来た場合は私と同室になれば良いわ。そうすれば家賃の負担は無くなるでしょうし」

日向「え~、ルリ姉と一緒の部屋だと、夜な夜な創作活動で変な儀式するじゃん~」

黒猫「日向、あなたそんな事が言える立場なのかしら?」

日向「むぅ……。あっ、それなら高坂くんと一緒の部屋になるよ! これなら良いでしょ!?」

加奈子「ダメに決まってんだろ。あたしらでさえ許可されないんだ、オメーにそんな権利はねーな」

桐乃「あたしの部屋なら一番広いから問題ないよ?」

秋美「桐乃ちゃんの部屋はオタグッズだらけだから日向ちゃんが耐えられるとは思えないね!」

日向「それにキリ姉と一緒の部屋だと、なんか貞操の危機を感じる」

桐乃「……やだなぁ、あたしをどんな人間だと思ってるんだか」

ブリジット「今の間がとても気になります。日向、それならわたしの部屋に来る? 桐乃さんと比べたらちょっと狭いけどルームシェアと思えばできないことはないよ?」

日向「ブリジットなら平気かな~」


ブリジット「決まりだね! じゃあまずはルールを設定しないといけないかな」

京介「あのさ、盛り上がってる所に水を差すようで悪いが普通に親御さんは駄目だって言うと思うぞ?」

秋美「もー京介は夢が無いなぁ! 妄想くらい自由にさせてよ~!」

京介「今のは妄想か? ブリジットは割と本気だったように見えたけど」

ブリジット「……えへ」

麻奈実「実際の所は、あるばいとをさせて貰えるようにお願いして、さらに家を出るなんて言ったら絶対反対されるよね」

黒猫「下手をすれば、アルバイトの許可が出ていたとして、それも無かった事にされそうね」

加奈子「ブリジットと同じ扱いってワケにはいかねーか」

あやせ「やっぱり大学生くらいになってないとダメだよね」


桐乃「あやせと離婚してひなちゃんと婚約すれば、もしかして許し――」

あやせ「桐乃いま何か言った?」

桐乃「何も言ってないよ? 気のせいじゃないかな~」

京介「あやせ、目が怖いぞ」

沙織「今のはきりりん氏が悪いですな。ともあれ日向殿がこちらに移り住むのは現段階では無理があると思うのでござるよ」

黒猫「結局そうなるわよね。それに、日向がこちらに来ると……」

珠希「わたしは家で居残りですか?」

日向「あ」

麻奈実「万に一つの可能性で日向ちゃんが許可を貰えても、珠希ちゃんは絶対無理だよねぇ」

ブリジット「中学に上がっても……無理ですよね」

日向「そっか、たまちゃんを残してあたしだけ勝手なことできないよね。ごめんね、たまちゃん」

珠希「いえ、良いんです。もしもお父さんとお母さんが許してくれたら、おねえちゃんはわたしに遠慮しないで新しい生活を始めてください」

桐乃「たまちゃんマジ天使。ハァハァ」

京介「ま、ブリジットは例外中の例外だ。日向ちゃんは大人しく五更家で暮らすんだな」


日向「それは分かったけど、高坂くんなんだか冷たいよ~。せっかくカレカノになったんだから、もっとあたしに優しくしてよ」

京介「ふっ、調子に乗るなよ小娘。一回俺とセックス出来たからってもう彼女面とは片腹痛いわ!」

日向「……え」

加奈子「おい京介、今のはジョーダンになってねーぞ」

あやせ「京介さんには失望しました」

麻奈実「きょうちゃん、ちょっとあっちに行こうか?」

京介「マジ済みませんでした、調子に乗っていたのはわたくしの方です。日向ちゃんは立派なわたくしめの彼女ですので、どうかそのお怒りを鎮めてくださいませ」

桐乃「うーん、このモヤモヤとした感情をどうやって発散したらいいんだろ」

黒猫「日向、今ならまだ無かった事に出来るわ。こんな下衆の事など忘れて新しい恋を探した方があなたのためよ」

日向「い、いいよっ。ちゃんと彼女ってゆってくれたから気にしないよ!」

秋美「京介は日向ちゃん相手だと本当に容赦しないってゆーか」

沙織「何でしょうな。好きな子をついつい苛めてしまう男子の心理でござろうか?」

ブリジット「でも今のはちょっと無いかなーって思います」

珠希「おにぃちゃんは深く反省してください」

京介「御意」




後日、バイト許可が貰えたと日向ちゃんから報告があった。

黒猫と珠希ちゃんとお袋さんが味方に回ってくれたので親父さんはあっさり折れたそうだ。

京介「芸能活動的なのは俺の心労が増えるだけなので、出来れば勘弁して欲しい」

日向「あたしには無理だよー。でもそのくらいキレイだって思ってもらえてるなら嬉しいかなっ」

無邪気に抱き付いてくる日向ちゃんは、黒猫の妹だと言う贔屓目を抜きにしても大変可愛らしかった。

少女の瑞々しさが九割、性の悦びを知った妖艶さが一割。これぞまさに完全体ではないだろうか? おお、ブラボー!

桐乃「……ちょっと、あの発想マジキモいんですケド……」

麻奈実「すっかり駄目な人になっちゃったなぁ」

加奈子「ケッ、あんなん若いだけじゃねーか。エロい方がこの先もずっと安泰だっつーの」

秋美「それって、日向ちゃんと同い年で案外エッチが好きなブリジットちゃんのが有利じゃない?」

ブリジット「そ、そんなことないですよ? わたしはエッチが好きなんじゃなくて、京介さんとイチャイチャするのが好きなだけです」

沙織「同じことでござるよ?」

珠希「若さだけならわたしにも勝ちの目が……」

あやせ「もしも京介さんが珠希ちゃんに手を出した時は、三下り半を叩きつけるだけじゃ済まないですよね」

黒猫「そうね。その場合は末代まで続く永劫の呪いを魂の髄に刻み付けても到底足りないわ」

あやせ「それはちとせも巻き込まれるのでやめて欲しいです」


黒猫「では京介には黒髪ロングで左目の下にほくろがある女性しか愛せない身体になる呪いをかけましょう」

加奈子「なに勝手なことゆってんだよ。チビに手を出しても別にあたしは構わねーから、それでオメーらがどっか消えたら加奈子の一人勝ちになんべ?」

桐乃「あたしなんて京介と一緒にたまちゃんとエッチできるもんね!」

ブリジット「桐乃さん、それはどうかと思います」

珠希「……」

沙織「きりりん氏、そろそろ本当にやめておかないと、珠希殿のきりりん氏を見る目がまるで汚物を見るそれになっているでござるよ」

桐乃「ありがとうございますっ」

秋美「桐乃ちゃんはすっかり手遅れだね!」

麻奈実「困った兄妹だねぇ」

珠希「憂鬱です……」



こうして数年来に称号が更新され近親相姦九又野郎になってしまった俺だけど、きっとこの先も元気です。







    終


こんばんは、以上となります。


日向ちゃんは何とかなっても珠希ちゃんは無理かなぁ……。


それでは、また~。


 あやせ編 おまけ エロ禁止令



その日は朝から麻奈実、黒猫、あやせの三名が大層ご立腹だった。

と言うのも最近加奈子が増々エロに奔放になってしまっているからだ。

アダルトグッズをそこらに置き忘れるとか、シーツの替えが足りなくなるくらい毎日汚してるとか、珠希ちゃんが居ても平気で変態的なプレイの内容を語り出すとか。

加奈子「だってよー、性欲は三大欲求の一つなんだろ? そりゃ抑えられないっての」

あやせ「食べなければ餓えて死ぬし、眠らなくて平気な人間は存在しないけど、この二つと性欲は明らかに違うでしょ?」

黒猫「理性が有れば抑制出来るものよ」

加奈子「そんなの無理ムリ。好きな男と一緒に暮らしてたら毎日だってしたくなるって」

秋美「その気持ちは分かるけどさ! 最近のかなちゃんはちょっと限界突破しすぎてないかな?」

加奈子「彼女がまた一人増えたからさらに順番が回ってくるの遅くなったべ? 休みを挟んだら十日以上お預けなんてガマンできねーよ」

日向「う……ごめんなさい」

ブリジット「日向は悪くないよ。かなかなちゃん、当番のペースは今以上に早くならないんだし、そこはガマンしないとダメだよ」

加奈子「ヤだね。あたしは毎日でも京介とエッチしたいんだ。それが無理ならオナニーくらいしてないとやってられねーっての」

桐乃「あんた休みの日に何回一人エッチしてるんだって話よ。気が付いたらシャワー浴びてるじゃない」

加奈子「そりゃ汗でベタベタになるし、京介に変な匂いを嗅がせたくないし? シュクジョのたしなみってヤツだって」

麻奈実「全然淑女じゃないよぉ。加奈子ちゃんはもっと慎みを持たないと駄目だよ~」


珠希「でも我慢のしすぎは身体に毒だって言いますよ?」

加奈子「おっ、チビのくせに見どころあるじゃねーか!」

沙織「珠希殿に悪い影響が出始めているような気がするのは拙者だけでござろうか……」

桐乃「あたしだって毎日イチャイチャしたいのをガマンしてるんだし、加奈子がガマンできないハズないでしょ」

秋美「そうだよ! みーんなエッチしたいのを当番の日までジッと耐えて待ってるんだから!」

加奈子「別に順番を抜かしたワケでもないのに、なんであたしだけ怒られてるんだ? おかしくね?」

黒猫「程度の問題よ。あなたは倫理観がやや欠如しているから、それだけで周囲に悪影響を及ぼしていると自覚しなさい」

あやせ「黒猫さん、そこまで言わなくても……。えっと、加奈子はもうちょっと自分の言動に気を付けた方が良いと思うな、って話だよ」

ブリジット「かなかなちゃんはフリーダムな所も魅力的だけど、ちょっとエッチに関して暴走気味かなーって」

加奈子「ケッ、全員が敵かよ。あたしの味方は京介とモモだけか」

京介「まあまあ、そんなにやさぐれるなって。加奈子が俺を想ってくれるのは勿論嬉しいけど、みんなが言ってる事も一理あるからさ」

加奈子「京介までそんなことをゆーんかよ。エロに厳しい時代だぜ……」

京介「おっと勘違いして貰っちゃ困るな、俺はいつでも加奈子の味方だぜ? みんなの味方でもあるけどな。ただ最近の加奈子がやや暴走気味なのは実際そうだと思うので、ここは一つ俺と賭けをしないか?」

加奈子「賭けぇ?」

京介「ああ。そうだな……今から十日間、じゃ一サイクルだから短いか。二十日間、一切のエロを禁止だ」

加奈子「そりゃムリだって。京介とエッチできなかったら生きてけないし」

京介「そこを耐えてこそだよ。公序良俗を乱さない事が条件だから、みんなが居る場所や公共の場でのエロ発言は全面禁止だな」


加奈子「二人きりの時は?」

京介「外ではダメ。俺や加奈子の部屋ならソフトなものはオッケーにしよう。判定基準は俺の感覚だ」

加奈子「オーボーすぎねえ? 賭けってゆうからには、勝ったらちゃんとごほうびがあるんだろーな」

京介「まず、二十日間のエロ禁止を達成出来たら、次のデートの時にどんな事でもしてやる。人に危害を加えないのは絶対条件で、あと俺の懐事情に左右されるけどな」

加奈子「ほー。その時はエロいことしてもオッケーか?」

京介「公序良俗は守って貰うぞ? ホテル内とかなら何でも受けてやるし、してやる」

加奈子「でもエロ禁止をがんばった結果がエロってのも面白くねーなー。んで、『まず』って言うからには他にもあるんだろ?」

京介「ああ。首尾良く達成出来たら、そこから一週間、全てを加奈子最優先にしよう」

加奈子「あやせよりも?」

京介「あやせよりも」

あやせ「それはどうかと思います」

秋美「とりあえず面白そうだから、もうちょっと黙って見てようよ!」

加奈子「もう一声欲しいなー。二十日もガマンするんだし、なんかすごいごほうびくれヨ」

京介「もっとか? つってもなぁ、あと何が出来るかな……」

日向「今のでも充分だと思うんだけど、加奈子さんは欲しがりですね!」

桐乃「ある意味もっとも欲望に正直な子だからね~」

加奈子「それなら、京介ちょっと耳かしてくんね?」

京介「ん? 何か案があるのか? ほれ」


加奈子「あたし…………でいいからさ…………だろ?」

加奈子からの提案は、いかにも彼女らしい、真っ直ぐで逃げ道のないものだった。

京介「いやおまえ、それは駄目だろ。ルール違反だ」

加奈子「えー、誰にもメーワクかけないんだし別にいーじゃん」

京介「長い目で見たらみんなに迷惑がかかるかもしれないだろ?」

加奈子「京介は……迷惑なのか?」

京介「うっ。……いや、迷惑ではない、が……」

加奈子「んじゃ決まりなっ! よっしゃあ、ちょーやる気が出てきたぜ!」

黒猫「何やら不穏な気配がするわね」

ブリジット「かなかなちゃんのことだから、すっごいエッチなお願いをしたのかなぁ?」

珠希「すっごいエッチなお願い……」

秋美「かなちゃん、どんなお願いをしたの?」

加奈子「ヒミツー。ゆったら絶対反対されるし」

麻奈実「う~ん。きょうちゃん、どうなの?」

京介「……むぅ」

沙織「エロ系なら何でも受け入れてくれる京介氏が悩むとは、エロ以外の何かでござろうか」

桐乃「それであたしたちが反対するコト? 予想できない」

加奈子「もう決まったんだしグダグダゆーなって。見てろよ、あたしはやるぜー!」

こうして二十日間の加奈子チャレンジが開始された。




一日目。

加奈子「よゆーよゆー」

秋美「でも昨晩さっそく一人エッチしてたじゃん!」

加奈子「自分の部屋でヤるのくらい問題ねーだろ?」

ブリジット「もうちょっと声を抑えた方がいいと思うなー」

沙織「今から全室に防音対策を施すのは現実的ではありませんか……」

桐乃「回数が問題になったのを忘れたの? 全面禁止までいかなくても、一日一回とかにした方がいいんじゃないかな」

加奈子「後からのルール変更はヒキョーじゃねえ?」

黒猫「程度の問題だと言ったでしょう。自室であれば何をどれだけしてもOKと言う訳ではないわ」

加奈子「ケッ、みんなでよってたかって面白くねーなー」

あやせ「賭けをしているのは京介さんと加奈子だから、京介さんがどう判断するか、かな」

京介「うーん。俺が提示した達成条件は、二十日間『一切のエロ禁止』だからなあ」

加奈子「はァ、わぁったよ。確かに京介はそう言ってたしな。でも一日一回のオナニーはいいんだよな?」

麻奈実「そう言う事になるのかな?」

加奈子「こうなったら、ぜってー達成してみせるかんな! 後でほえづらかいてもしらねーぞ!」

ブリジット「どんなお願いしたんだろ?」




三日目。

加奈子「ヤバい、死ぬ。エロが足んなくて死ぬ」

秋美「早いよ!」

加奈子「全裸で家の中を歩くくらいならセーフ?」

麻奈実「それは公序良俗を乱しまくってるよ、加奈子ちゃん……」

加奈子「うぅぅ……がんばれ加奈子! 栄光の未来のためにっ!」

ブリジット「本当にどんなお願いをしたのかなぁ」



七日目。

加奈子「あーっ、思いっきりエロい言葉を叫びたい!」

桐乃「例えば?」

加奈子「たとえば――ってその手に乗るかよ! あっぶねえ、もうちょっとで本当に叫ぶとこだったぜ」

桐乃「チッ」

京介「おい桐乃、妨害工作はやめておけって」

加奈子「京介ぇ、ちょっと頭なでてくれヨー。全然パワーが足りねーよ」

京介「はいよ。ほら、お願いを叶えたいんだろ? 頑張ってくれ」

加奈子「……はふぅ。よし、ちょっと元気出た」




十二日目。

加奈子「……」

桐乃「目が死んでるね」

沙織「仕事中はどのような状態でござろうか」

ブリジット「ステージの上だと元気に見せているけど、裏に入るとグッタリしてます」

日向「加奈子さんはエッチが活力なんですね」

珠希「稀有な才能です」



十七日目。

あやせ「加奈子、ご飯食べないの?」

加奈子「いらない……」

あやせ「もう、ちゃんと食べないと倒れちゃうよ?」

加奈子「いらない……」

あやせ「おにぎりだけでも食べて。ここに置いておくから。いい、ちゃんと食べてよ?」

加奈子「……」


黒猫「どう?」

あやせ「ダメですね。手に取ろうともしません」

黒猫「そう。困ったわね……」

麻奈実「きょうちゃん、もう止めた方が良いんじゃないかな」

京介「とっくに言ってるよ。ここまできたんだから絶対やめないってさ」

桐乃「根性すごいからねぇ、あの子」

ブリジット「かなかなちゃん……」




二十日目。

加奈子「今日さえ乗り切れば……あたしの勝ちだぜ……」

桐乃「ただでさえ小柄な加奈子がさらに小さく見える……」

黒猫「京介、二十日は長すぎたのではないかしら?」

京介「安易に持ち掛けた事を後悔してるよ。でも今日が最終日だからな、後は見届けようぜ」

加奈子「なあ京介、何時までガマンすれば良いんだ?」

京介「二十四時にしとこう。日付をまたいだら、もう好きにしてくれ」

加奈子「……あと九時間か……よし」

京介「今日は俺の部屋に泊まって良いぞ。みんなもそれで良いよな?」

あやせ「それに異議を申し立てることはできませんよ」

ブリジット「かなかなちゃん、あとちょっとだよ、がんばって!」

加奈子「ちょっと部屋で一眠りしてくるよ。そんで時間がすぎるのを待つ」

京介「ああ、邪魔しないからゆっくりしてると良いさ」

加奈子「んじゃーなー。腹が減ったら起きると思うからほっといていいぜー」

自室に戻る加奈子を見送る面々。みんな心配そうな表情で、でもここまで頑張ったあいつに賞賛の念を送っていた。

秋美「ねえ京介、かなちゃんのお願いってまだ秘密?」

京介「そうだな。いつか言える時が来るかもしれないし、永遠に秘密のままかもしれないな」

沙織「まるで分からないでござるよ」

京介「ま、その内な、その内」




そして二十一日目になった瞬間、俺の部屋にて。

加奈子「よっしゃあ、あたしの勝ちだっ!」

京介「ああ、よく頑張ったな。偉いぞ加奈子。おまえは自慢の彼女だよ」

加奈子「だべ? それじゃ……もーガマンできねー、京介ぇーーーっ!!」

京介「おっと、まさに餓えた野獣だな」

身体ごと突進してきた加奈子を抱きとめる。

加奈子「ああ~~、京介の匂いだあー! これだよ、これがないとあたしは生きていけないって!」

京介「俺もおまえが居ないと無理だな」

加奈子「京介、賭けはあたしが勝ったんだから、約束は守ってもらうぜ?」

京介「ああ分かってる。この二十日間、おまえの頑張りを見て俺も決心したよ」

加奈子「うっし、気合い入れてヤるぞー!」

京介「お手柔らかに頼むよ」




そのまま加奈子をベッドへと誘う。

それから俺たちは、今までに一度もした事のなかった初めてのセックスをした。そこに想いと願いを込めて、だ。



細工は流々仕上げを御覧じろってな。

え、結局加奈子のお願いは何だったのかって?

そんなの、あいつが常に俺に望んでいるものを考えれば分かるだろ? 今言える事はそれだけだな。



さてさて、どうなる事やら。未来は神のみぞ知るってな。







    終


こんばんは、以上となります。


本当は昨晩の内に投下する予定だったのですが、

ドラクエ11発表の情報を得る→検索しまくる→桐乃たちがドラクエ11ではしゃぐ話を勢いで書いてしまう→冷静になる

という流れで時間を浪費してしまったので今日になりました。てへり。


それでは、また~。


 あやせ編 おまけ 未来への展望



二月のある土曜日。

朝からソワソワしていた加奈子は十時になると同時に家から飛び出して行き、しばらくして買い物袋をぶら下げた状態で帰宅した。

ブリジット「あ、かなかなちゃんおかえり。どこに行ってたの?」

加奈子「後でなっ」

そのまま、ただいまも言わずダッシュでリビングから出て行く。

桐乃「アレどしたの?」

京介「あー、ちょっとな」

昨晩、加奈子にインターネットで調べた情報を話したところ、それから今朝までずっと落ち着かない様子だったからな。

ま、無理もねえか。

秋美「ここしばらくずっと、かなちゃんウッキウキだったもんね。何か関係あるんじゃないの?」

あやせ「うーん……」




それから数分後、またもダッシュで加奈子がリビングに戻って来る。

加奈子「京介ぇーーーっ!!」

京介「……どうだった?」

加奈子「まだ見てない。一緒に見てくれねーか?」

京介「ああ、見るよ」

黒猫「先程からドタバタと、あなたは何をしているの」

俺たちは黒猫に目もくれず、加奈子が握り込んでいたその手の平の中の物体に注目する。

そこには体温計に似た形状の、白く細長い小さな棒が。

京介「……」

加奈子「……」

誘われるように覗き込んでいた他の彼女たちの内の幾人かがそれを見て身体を強張らせたのが伝わってきた。

桐乃「え、これって……」

麻奈実「これなあに?」

沙織「これは……どう見ても……妊娠検査薬でござるな……」

ブリジット「ええええええっ!?」

秋美「ちょっと京介、どーゆーこと!? どーゆーことさコレ!?」

黒猫「静かにして頂戴。見方が分からないわ。これはどの様な結果を示しているのかしら?」


長さ15cm程の検査キットの表面には小さな窓が二つあり、ここに線が現れるかどうかで妊娠しているか判定できるようになっている。

沙織「確か、線が出ている場合は陽性――つまり妊娠している、ということになったと記憶しております」

桐乃「線があるね……」

秋美「てことは」

ブリジット「かなかなちゃん妊娠したのっ!?」

たちまち周囲は大騒ぎだ。

黒猫「呆れたわ。無計画な妊娠はやめなさいと何度も提言していたのに、まるで聞いていなかったのね。せめて京介が働き出すまで待てなかったのかしら」

あやせ「加奈子のことだからもしかして、とは思ってたけど……」

麻奈実「あやせちゃんは気付いてたの?」

あやせ「何となく、ですけど。ただわたしはそのことについて偉そうに言える立場じゃありませんでしたから」

ブリジット「ど、ど、どうしよう!? 事務所に連絡して、ファンの人たちに説明して、お仕事をお休みして、ご家族にも挨拶しないとだしっ」

沙織「落ち着いてくだされブリジット殿。我々が慌ててもしょうがないでござるよ」

ブリジット「だってだって! ええぇ、どうしよう~~」

黒猫「だから落ち着きなさい。京介と来栖加奈子が静か過ぎるわ。どうも私達は何か勘違いをしているのではないかしら?」

盛り上がるみんなの中にいて、俺と加奈子はただひたすら凹んでいた。


桐乃「ちょっと、黙ったままじゃ分かんないからちゃんと説明して! これはどーゆーコトなの!?」

加奈子「わりぃ、あたしちょっと部屋に戻るわ……」

陰鬱な表情を浮かべ、加奈子は音も無くリビングから退出していった。


秋美「えっと……。あの、ダメだったのかな?」

加奈子が使用した妊娠検査薬には窓が二つあり、片方には検査が終了したことを報せるために線が表示され、もう片方には妊娠していた場合に線が表示される。

線は一本しかなかった。検査は確実に終了しているが、妊娠はしていない、という無慈悲な判定結果だ。

京介「結論から言うと、加奈子は妊娠していなかった」

ブリジット「そうなんですか……」

沙織「申し訳ありません。うろ覚えの知識をひけらかした拙者の落ち度でござる」

麻奈実「沙織さんが謝る必要はないよぉ。だけどきょうちゃん、これは一体どういう事なのかな?」

京介「その、だな。一回でいいから妊娠させるつもりで抱いてくれって頼まれてさ」

桐乃「はあ!? 普段から京介の子どもが欲しいって言ってるのはあたしだって同じなのに、なんで加奈子だけっ!?」

あやせ「例のエッチ禁止を達成したご褒美がそれだったんですね?」

京介「ああそうだ」

黒猫「無責任にも程があるわ。そんな一時の感情だけで抱いて、本当に妊娠していたらどうするつもりだったと言うの?」

京介「勿論責任は取るさ」


黒猫「口で言うのは簡単だわ。でも出産や育児には莫大なお金が必要になるのよ? あなたはちゃんと将来の事まで考えて行動を決めたのかしら」

京介「四月には俺も働き出すし、何とかなるかな、と」

黒猫「巫山戯ないで。そんな行き当たりばったりで妊娠させるつもりだったの? いくら彼女がそれを望んでいたからとは言え、京介には真剣さが足りないわ」

秋美「瑠璃ちゃん瑠璃ちゃん、結果としてかなちゃんは妊娠してなかったんだし、そのくらいでいいんじゃないかな」

黒猫「いいえ。共同生活を営む以上、規範は必ず必要となるわ。京介が無責任に種をばら撒いた結果全員が妊娠して、今の生活が維持出来なくなるのだけは阻止しないといけない。だから私は何度でも正論をぶつけるわよ」

京介「悪かった。黒猫には以前から何度も計画的にしろって言われてるのに、俺がそれを守れなきゃ意味ないよな」

黒猫「あなたはもうすぐ社会人となり、同時に父親にもなるのよ? 余りにも短絡的で思慮に欠けているわ。もっと様々な事柄に対しての自覚を持って頂戴」

桐乃「つっても、京介は社会での就労経験がゼロだから社会人としての自覚なんて働き出さないと身に付かないだろーし」

あやせ「お腹の中に赤ちゃんがいるわけではないので、父親としての自覚も言うほど簡単には身に付かないと思います」

京介「いいんだ二人とも。黒猫の言う通り俺には色んな覚悟が足りていない。学生気分に浸ったまま現実を見ていないただの馬鹿野郎だ」

黒猫「本当に、しっかりして。私達にはあなたしか居ないのだから、あなたが大黒柱として強固であり続けないと、簡単にこの繋がりは崩壊すると覚えておいて」

京介「分かった」

黒猫「……はぁ、私からは以上よ。田村先輩、何か補足部分があるのならお願いします」

麻奈実「ううん、全部黒猫さんが言ってくれたから大丈夫」



秋美「いや~、瑠璃ちゃん静かにガチギレだったね!」

桐乃「ふん。どうせ加奈子よりも自分が先に妊娠するつもりだったんでしょ?」

黒猫「確かに、来栖加奈子に先を越されたのかもしれないと言う焦りは生じたわね。そこは否定しないわ」

ブリジット「今回のかなかなちゃんは残念でしたけど、そろそろわたしたちも誰から赤ちゃんを産むのか順番を決めないといけませんよね」

あやせ「まだ高校生のブリジットちゃんは一番最後になるかな?」

ブリジット「やっぱり、そうですよね……」

麻奈実「普通に考えると、卒業するわたしと学生じゃない秋美さん、加奈子ちゃんが候補なのかなぁ」

桐乃「そんなの、あたしだって黒猫だって沙織だって、あやせみたく休学すれば済む話だし~」

沙織「ブリジット殿を除けばだいたい条件は変わらないですな。後はどれだけ世間に対してごまかしが効くか、でしょうか」

秋美「まだ未成年の桐乃ちゃんは難しいよね。親へのごまかしの難易度も最高レベルに高いし」

黒猫「沙織と来栖加奈子は親の理解を得るのが簡単ではないでしょうから、もう少し後に回した方が無難ではないかしら」

沙織「拙者の保護者は姉さんでござるよ。ただそれも昔のこと。既に成人した身である以上、全ては自らの手で決めます」

桐乃「でもみんな簡単には親とか保護者とかの後ろ盾を得られないでしょ? その点あたしは自分で稼いだお金があるから平気だし!」

ブリジット「麻奈実さんなら大丈夫そうですけど」

京介「麻奈実の場合はなぁ……。どれだけ違うって言い張っても絶対俺との子どもだって思われるぞ? いやまあ、実際はそうなんだろうけどな」

麻奈実「そのまま高坂のご両親にも伝わるだろうから、その後が大変だよねぇ。きょうちゃんが結婚してることをもう知ってる可能性は高いし」


黒猫「親の受けが良いのは私も同様ね。うちの親は京介があやせと結婚した事を知らないから、実家に戻るたびに孫はまだなのかと急かしてくるわ」

桐乃「両親公認ってズルいよね……」

秋美「あはは! 実は既に日向ちゃんも京介の毒牙にかかってるって知られたら、瑠璃ちゃんのお父さん憤死するかもしれないね!」

京介「笑えねーよ!」

沙織「ふむ。金銭面ではきりりん氏の一強。それ以外では麻奈実殿が総合的に有利な位置にいる、といったところでござろうか」

加奈子「なに勝手にあたし抜きで決めてんだよ」

ブリジット「かなかなちゃん」

あやせ「もういいの?」

加奈子「ケッ、考えてみたら一回ヤってダメだったからって落ち込むことねーもんな。一度でダメなら二度三度だっての」

秋美「それでこそかなちゃんだよ!」

桐乃「でも、もう勝手に生エッチするのはダメだかんね! 抜け駆け禁止よ!」

加奈子「はいはい分かりましたよー。つまり正当な手段で順番を勝ち取ればいいわけだろ?」

黒猫「それは確かにそうよ。ただ、あなた仕事はどうするつもりだったの? それにアイドルの仕事だけでは到底出産に関わる資金が足りないでしょう? 家族への説明も必要となるわ」

加奈子「アイドルは休むか、最悪辞める。金については、まぁ姉貴に借りることになるかなー。うちの姉貴めっちゃ金持ってんからな」

ブリジット「アイドルやめちゃうの……?」

加奈子「前にも言ったけどよ、あたしにとっては京介の子どもを産んで育てるのが何よりも大事なんだ。それとアイドルは比べもんにならねーな」


麻奈実「加奈子ちゃんはしっかりと覚悟が出来ていたんだね」

京介「俺の口だけ覚悟とは大違いだよな。頭が下がるよ」

ブリジット「そっかあ。かなかなちゃんはちゃんと考えてたんだね」

加奈子「金は姉貴頼りだけどなw」

桐乃「あんた親とはあんま上手くいってないんだよね? どう説明するつもりなの?」

加奈子「前よりはマシになってるけどな。でも、あたしが妊娠したって、そんなもんかって思われるだけだろー。だから姉貴にだけ話すつもり。親には子どもが産まれたら、こいつがあんたらの孫だ! って突き付けてやるぜ!」

秋美「その辺もかなちゃんらしいよね。あたしもその方法でいこっかな~」

黒猫「ちゃんと考えている様でいてその実は刹那的で無計画。らしいと言えば確かにらしいわね」

加奈子「うっせ。んで、あたしが一番で問題ないだろ?」

あやせ「う~ん……」

加奈子「なんかモンクあんのかよ」

あやせ「ううん、文句は無いよ。ただ、みんなそれぞれに問題点があって、わたしだけ正規の方法で子どもを産めることが申し訳ないなあって思って」

桐乃「あたし以外は誰が京介と結婚したって条件一緒だったでしょ。例えば黒猫が結婚してたら、今度はあやせが妊娠する時に悩むコトになるんだし」

ブリジット「その辺は法律がある以上どうしようもないですもんね」

沙織「金銭面さえクリアできれば後は勢いで何とかすることは可能かもしれませんが」

秋美「今の時代シングルマザーは少なくないから、あんまり不審がられることもないだろーしね!」

麻奈実「あやせちゃん以外は、みんなしんぐるまざあになるもんねぇ」



加奈子「とりあえずマンジョーイッチで決まりみたいだし、一番もーらい!」

黒猫「待ちなさい。一番は私でも問題ない筈よ、勝手に決めないでもらえるかしら?」

加奈子「あん? オメーは大学があんだろーが。それに親にゆわねーと金を出してもらえないんだろ? どーすんだよ」

黒猫「大学は休学すれば済む話だわ。費用については…………借りるわよ。桐乃から」

桐乃「あたしっ!?」

加奈子「人にはさんざん計画的にしろっつっといて、自分だって無計画じゃねーか」

黒猫「そ、それは……私だって京介との子どもが欲しいのだからしょうがないでしょう? この心の裡にある衝動は自分でも制御出来ないもの」

秋美「瑠璃ちゃんにしては珍しく支離滅裂だね。それに子どもが欲しいのはみんな一緒だよ!」

桐乃「そのとーり! そりゃ貸すのは構わないケド、それならあたしが先に産むし!」

沙織「出産一時金などの各種制度を正しく活用すればある程度は負担を減らせるでしょうが、黒猫氏の環境でスムーズに出産まで迎えるのは中々に困難かと」

黒猫「ク……。で、でも、そんな事を言っていてはいつまで経っても新しい命を授かる事など出来ないわ」

あやせ「元々倫理や道徳をどこかに蹴っ飛ばしてるような関係ですから今さらかもしれませんけど、何かしらの線引きは必要ですよね」

ブリジット「いっそ、親の支援をあてにせずに縁を切られることを前提に行動してしまうのも……」

麻奈実「それは最終手段かなぁ? きょうちゃんがその気にならないと駄目だから、わたしはきょうちゃんが順番を決めれば良いと思うな」

桐乃「それもそうね。京介はどう考えているの?」


京介「そうだな……。俺は全員の子どもが欲しい、これは絶対だ。ただ公表できない関係だから秘密裏に妊娠から出産まで進められるのが一番だとは思う」

秋美「それは現実的じゃないよ。長い間実家に帰らないのは不自然だよ」

京介「ああ。だから、みんなには申し訳ないけど、いざ妊娠した時には父親が誰かを言わずに家族に打ち明けてもらうしかないと思ってる」

桐乃「あたしは最初っから言えないし、そうするつもりだったケドね」

沙織「架空の交際相手をでっち上げて別れたことにするなど、現実に起こり得そうな設定を考えておかねばなりませんな」

京介「交際相手として既に俺がターゲットされている麻奈実と黒猫については、タイミングを慎重に計った方が良いだろうな」

黒猫「……」

京介「そして何度も問題にあがっているけど、同時に妊娠した場合に全てを補えるだけの給料はとてもじゃないけど貰えない」

ブリジット「ある程度は順番をずらさないといけませんよね」

京介「以上のことから、相当の負担をそれぞれに強いることになっちまう。だから本当に妊娠しても良いのか、しっかりと考えて欲しい」

加奈子「へっ、何を言ってるんだか。そんなの聞かれるまでもねーな」

麻奈実「そうだね。みんな本気で赤ちゃんが欲しいもん」

京介「わざわざ聞く必要はなかったか。となると、年齢、社会的地位、金銭的事情、家族関係、諸々の条件全てを加味して考えた場合――」


……。

桐乃「無駄に焦らさなくていいから早く言ってよ!」

京介「――秋美かな」

秋美「へ? あたし?」

あやせ「これは予想外の展開です」

秋美「お、おおう。自分でもビックリだよ!」

京介「成人していて実家は金持ち、ニートだからしがらみは無い。唯一の懸念材料は親が俺を嫌っていることだけど、どうせ秘密にするならそこは関係ないしな」

沙織「拙者も条件としては大差ないと思いますが」

京介「そうだな、沙織は次点だった。秋美とは学生かニートかの違いくらいしかないな」

加奈子「なんであたしじゃないんだよー」

京介「加奈子はその次くらいだよ。でも二十歳になるまでは待った方がいいかもな」

加奈子「まだ当分あるじゃねえか……」


桐乃「それってあたしも二十歳になるまでお預けってコト?」

京介「桐乃は特殊すぎて何とも言えん。金は自分でどうとでもするだろうけど親父が怒り狂うだろうからなあ。最低限の条件として、やっぱ成人してた方が良いとは思う」

桐乃「むぅ~」

京介「黒猫と麻奈実はさっき言った通りだ。タイミングを見ながら、だな」

麻奈実「まさか家が近い事が弱点になるとは思わなかったよぉ」

ブリジット「あの、わたしは?」

京介「ブリジットは問題外だ。絶対条件は高校を卒業することで、他の子と合わせるなら成人まで待ってもらわないとな」

ブリジット「それだとあと四年もあるんですよ……長すぎます……」

京介「おまけで日向ちゃんは論外だな。どこまで先のことを考えているかは知らないけど、年齢的にありえない」

黒猫「あの子はあの子なりに真剣に考えているとは思うけれど、さすがに中学生ではね……」

桐乃「たまちゃんは?」

京介「俺が社会的だけじゃなく物理的に抹殺されるわ!!」




京介「と、まあ。みんな思うところはあるだろうが、俺の考えは以上だ。繰り返すけどかなりの負担を強いることになるから、今のを受け入れる必要はないからな」

加奈子「ケッ、未成年でもいいじゃねーかよ、ケチー」

桐乃「そうだそうだー!」

ブリジット「そうだそうだー!」

黒猫「きちんと計画立ててやってくれるのなら私に異存は無いわ。あとブリジットは諦めなさい」

ブリジット「うぅ、残念です……」

秋美「あたしはもっちろんオッケーだよ! くぅっ、今度の当番の日が楽しみすぎる!」

京介「あっと。言い忘れてたけど、俺が働き始めて落ち着くまで待ってもらってもいいか?」

秋美「えぇ~、なんで~?」

京介「もうすぐちとせが産まれるし、同時期に社会人になるしでドタバタしそうだからな。多分余裕がなくなると思うんだよ」

秋美「そんなの、いま仕込まれても産まれてくるまで十ヶ月くらいかかるんだし、早い方がいいじゃん!」

沙織「そうとばかりも言えないでござるよ? 例えば近い日付で受精したとしましょう。その場合、子どもは十一月末から十二月頭にかかる時期に産まれることになります」

秋美「うん」

沙織「仮に七月頃に受精した場合、誕生日は四月から五月頃になります。一般的に遅生まれの子の方が有利と言われておりますので、学年は変われど子どもにとってはその方が後々楽な学生生活を送れるようになるやもしれませぬ」

黒猫「それはどうかしらね。幼児期では僅か数ヶ月で大きく成長するから知能や運動能力には顕著に差が現れるでしょうけれど、成長するにつれそれは解消されるものよ。心配には値しないわ」

ブリジット「女の子だと、誕生日が遅い方がそれだけ若くいられて有利かもしれませんしね」


あやせ「色んな考え方がありますから、そこは一概にこう、とは言えないと思います」

秋美「ぬぬぬ……。うがぁーっ、どうすればいいんだ~~!」

麻奈実「神様からの授かりものだから妊娠したくても出来ない時は出来ないし、いつ取りかかっても良いとは思うんだけどなぁ」

あやせ「そもそもみんな、ちゃんと基礎体温をつけてるんですか? 排卵日を把握してる?」

黒猫「当然でしょう」

沙織「無論でござる」

麻奈実「ちゃんとつけてるよぉ」

加奈子「あたしはなんもしてないぜ?」

桐乃「加奈子あんた、それで妊娠しようと思ってたの? あっきれた」

加奈子「メンドクサイ。ヤればできるだろー」

ブリジット「たぶん基礎体温をつけてないのはかなかなちゃんだけだと思うよ?」

秋美「彼氏がいるのにそこを怠っちゃダメだよ!」

あやせ「ねえ加奈子、妊娠しやすい日やエッチの方法っていうのがちゃんとあるんだから、そのつもりならしっかり調べておかないとダメだよ?」

京介「ほほー、そんなもんがあるんだな」

桐乃「……男って気楽でいいよね」

黒猫「はんっ、いい気なものだわ。本来は男性側の協力も不可欠なのに、これだから餓えた雄は」

京介「……ほんとごめんなさい」




秋美「でもそっか。次の当番の日が排卵日の二日前と重なる偶然なんてそうないから、誰かと変わってもらわないとダメかな」

加奈子「そんなに変わるもんなのか?」

沙織「統計によると、排卵日二日前に性交をした若いカップルであれば、妊娠確率は五割を超えるそうでござるよ」

加奈子「マジかよー。ちゃんと調べてりゃ良かった」

秋美「後でカレンダー見てくるから、誰か変わってね!」

京介「待て待て、俺は落ち着くまで待ってくれって言ったぞ?」

桐乃「秋美さんは早い方がいいって言ってるんだし、別にいいじゃん?」

京介「いいじゃん? じゃねえよ。何でみんな押せ押せなんだ」

ブリジット「それは、順番を早く回した方が自分の番が早く回ってくるからだと思います」

麻奈実「毎年誰かが妊娠したとして、最後の人が産むまでに八年はかかるんだよ? そんなに待てないよ~」

桐乃「一人だけじゃ足りないし。二人は絶対産むし」

ブリジット「わたしが最初の子どもを産む頃には、桐乃さんは三人くらい産んでそうですね」

桐乃「当然よ、任せて!」

黒猫「それなりに間隔を詰めないといけないわね。年一ではなく年三くらいが理想かしら?」

秋美「じゃあ、まずあたし。順調にいけば六月頃にさおりん、十月頃にかなちゃん、って感じ?」

沙織「それでしたら来春には拙者も母親になれそうですな。胸が高鳴るでござるよ」

ブリジット「わたしは当面サポートに徹しますね」


京介「……おまえら本気なんだな?」

加奈子「たりめーだろ? 冗談でこんなこと言えっかよ」

京介「はぁ~。ったく、やれやれ、しょうがねー彼女たちだぜ。みんながそのつもりなら、俺だって応えなきゃ男が廃るってもんだ!」

桐乃「よっ、がんばれ彼氏!」

麻奈実「精のつくご飯を作らないといけないね」

京介「あやせはそれで良いか?」

あやせ「みなさんを等しく愛してください、とお願いしたじゃないですか。わたしはもちろん構いません。あ、ただし、ちとせを産んだ後はしっかりとわたしも愛してくださいね」

加奈子「そーいやさ、出産後ってアソコはガバガバになんねーの?」

黒猫「あなた、もう少し言い方があるでしょう……」

あやせ「赤ちゃんが通るんだから当然緩くなるよ。でも産褥体操とかあるから努力して元に戻すようにがんばるから、京介さんは安心しててくださいね」

京介「ああ、あやせなら大丈夫だろ。心配なんてしないさ」

桐乃「あたしは加奈子がちゃんと出産できるかの方が心配。身体ちっさいから帝王切開になるのかな、とか考えたり」

黒猫「そこは問題無いと思うわよ。小柄な体躯でありながら自然分娩で出産している人など幾らでも居るのだから、今から心配する事ではないわね」

加奈子「それこそダイジョーブだろ? あたしの京介への愛があれば何だってできるっての」

秋美「かなちゃんはパワフルだから、きっと気合でポンッと産むよ!」

麻奈実「助産婦さんも驚きの安産だねぇ」




沙織「さて、たちまちの予定としては以上でござろうか。何はなくとも京介氏のがんばりにかかっておりますので、是非拙者らを孕ませて頂きたく存じます」

京介「任せとけ! 家族だけで野球の試合ができるレベルを目指してやるぜ!」

ブリジット「今が九人で、日向を含めたとして十人ですから、案外すぐに達成できそうですね」

秋美「じゃあさ! じゃあさ! サッカーで二チーム目指そうよ!」

桐乃「たまちゃんも入れて計算したらそれもすぐだね」

黒猫「珠希が成人する頃にはちとせが十歳になっているわね」

沙織「現在既に成人している組は全員三十路を過ぎておりますな……」

あやせ「わたしたちはギリギリ二十代だね」

桐乃「あんま考えたくないなー」

加奈子「あたしはあと八十年は京介と一緒だからな。たった十年じゃ何も変わってないだろ」

麻奈実「加奈子ちゃん、その考えは危険だよ?」

秋美「そーだよ! クリスマスをすぎたらお肌の曲がり角ってゆーじゃん? もう十年もすればブリジットちゃんだってダルダルのデブデブだよ!」

ブリジット「そ、そんなことにはなりません!」

加奈子「どっからクリスマスが出てきたんだ?」

沙織「元はクリスマスケーキが売れるのは二十五日まで、という使われ方だったように思います。適齢期がまだ二十代中盤だった頃の時代の名残りですな。女性の二十五歳前後をクリスマスになぞらえて、そのように言われておりました」

加奈子「へぇー、聞いたことねーや」

沙織「さもありなん。バブル期よりも以前に使われていた例えのはずでござるよ」

京介「沙織は博識だな」

沙織「いえいえ、拙者などのただの頭でっかちですから」


あやせ「ともかく、若くても年を取っても、京介さんに変わらず愛し続けてもらうためにはスキンケアが欠かせないですよね」

ブリジット「ダルダルのデブデブになんてならないもん……」

秋美「ごめんごめん、冗談だからそんなに落ち込まないで!」

黒猫「若さへの嫉妬は見苦しいわよ?」

秋美「そんなんじゃないもんね~。それにあたしは来年までには子どもを産んでるから若いママになるし!」

黒猫「あくまで予定の上でだけの話でしょう?」

秋美「ふっふっふ、何と言ってもあたしはあやせちゃんの次に選ばれたから、これって実質一位だよね!? だよね!」

加奈子「ケッ、今に見てろ」

京介「おまえら、喧嘩は程々になー」

あやせ「うーん。加奈子と秋美さんがどんな母親になるのか想像できないなあ」


加奈子・秋美『モチロン、素敵なママだぜ(よ)!』


そんな風に力強く宣言する二人ともが、未来への希望を抱いてキラキラと輝いていた。







    終


こんばんは、以上となります。


次はどうでもいいようなくだらない話を書こうと思いました。


それでは、また~。


おはようございます。ダラダラと書き流させてください。


近親相姦からの妊娠及び出産についてはリアルなら引くかもしれませんが、このルートの桐乃的には大好物じゃないかな、と。

年数の経過と共に周囲の、特に麻奈実の態度が徐々に軟化していってるので、生物ってその環境に馴染むと禁忌でも気にしなくなるんです。たぶん。恐らく。

なのでこのハーレムルートでは、特に葛藤もなく桐乃は妊娠する未来を迎えることになると思います。

親にしてみればたまったものじゃありませんね。



以下PSP版ゲームソフト 「俺の妹がこんなに可愛いわけがない ポータブルが続くわけがない」 のネタバレを含むため改行を挟みます――







産まれてくる子どもたちは全て俺妹P続の設定に準拠しています(続編での桐乃は義妹ですが)ので、名前も性別もそのままです。

唐突に「ちとせ」の名前が出てくるようになって、ナニコレ? と思われた方は申し訳ありませんでした。

設定が無いブリジットと秋美はどうしよっかなあ……そこまで話は続かないだろうし別にいいか。







――ネタバレ終わり。

未プレイの方は、とても面白いので是非遊んでみてください。今なら廉価版が出ていますので安価で購入できますね。本体を所有してない? 知らん!

続、と付いていますけど前作も収録されているので持っていない人でも安心!

初回生産分はディスクのレーベルにプリントミスがあるので、そこだけ注意してください。



ふう、いらんことまで書いた気がしますが、それでは、また~。


 あやせ編 if 謎パワーがもたらした不条理な世界の話



唐突に謎の光が世界を包み込み、気が付けば重婚OKになっていた。

さらに本人たちに結婚する意志さえあれば十三歳から認められるようにもなった。

婚姻、出産、育児に関する費用は国からかなりの助成金がおりるようになり、少子化対策としても大いに期待されることとなった。


ただし近親婚は認められなかった。



桐乃「納得いかないぃーーーーーー!!」

黒猫「諦めなさい。不合理な世界になったとは言え、近親者同士の交配はそう易々と認められないものよ」

桐乃「だって昔の人たちはそれでバンバン子ども作ってたじゃん!?」

沙織「気持ちは分かりますが、時代が逆行したわけではありませんので」

秋美「まあいいじゃん! 今まではあやせちゃん以外の八人はコソコソと隠れて付き合ってなきゃいけなかったのに、堂々と奥さんですって言えるようになったんだよ? 桐乃ちゃん一人を匿うのなんて楽勝だって!」

ブリジット「わたしも大手を振ってブリジット・E・高坂と名乗れるようになりました!」

日向「あたしも京介くんと結婚するって報告したら、お父さん喜びながら悲しんでたけどね~」

黒猫「まさか姉妹全員が同じ人物を好きになっているなどとは想像も出来なかったでしょうね」

珠希「あと三年……三年もあります……」


加奈子「なーんか、姉貴が地味に京介を狙ってるっぽくて油断できねーんだよなァ」

あやせ「たとえ法とお金の問題がクリアできても、奥さんが増えると京介さんを占有できる時間は減るから、これ以上は増えないで欲しいかな」

京介「そういや先日フェイトさんから『私をお嫁にもらってくれない?』って電話があったな。もちろん断ったけどな!」

桐乃「あの人まだ独身なんだ?」

黒猫「誰でもいいから寄生出来る相手を探しているだけなのではないかしら。断って正解だわ」

秋美「これ以上奥さんが増えたら部屋が足りなくなるしね!」

ブリジット「でもこの前リアからメールが届いて、絶対京介さんと結婚するって息巻いてましたよ? 近い内に来日するつもりみたいです」

桐乃「あー、リアがいたかぁ……」

京介「大家族を構える人のために、巨大な邸宅を建築するのにも助成金が交付されるようになってるし、いっそのこと新しい家を建てるか?」

麻奈実「でも全額免除になるわけじゃないし、大きなお家だとかかる費用は物凄いことになるよ?」

沙織「ふっふっふ、拙者の存在を忘れてもらっては困りますな! 晴れて高坂姓を名乗れるようになったわけですから、親の資産を新居のために投入することに問題はありません!」

京介「いやあ、そこを頼るのはどうだろうなー」

黒猫「まだ妻が増えると決まった訳ではないのだし、当面はこの家で問題ないでしょう?」

日向「でも、そのうちみんなに子どもが産まれたらどうする?」

ブリジット「赤ちゃんの間は一緒の部屋で問題ないし、子どもが小学校高学年くらいになるまでなら今のままでやっていけないかな?」

加奈子「そんなのは先に妊娠してから考えよーぜ」

麻奈実「そうだねぇ。いま空前のべびいぶうむで産婦人科の予約を取るのが大変だから、状況が落ち着くまで簡単には妊娠できなくなっちゃったもんねぇ」

秋美「何にしたって全部が順調だよね! 謎の光さんありがとうっ!」




桐乃「あたしだけ順調じゃなあーーい! つまんないつまんないっ! どーなってんのよもう!!」

あやせ「桐乃は以前からの計画通り、父親不明のままで子どもを産むしかないんじゃないかなぁ?」

沙織「しかし世界の変革によってシングルマザーの数も相当減っていると聞きます。この情勢で相手が分からない、は中々通用しないのでは」

黒猫「そうは言っても桐乃の場合、子どもの父親は京介です、なんて絶対に公表できないわ」

加奈子「神様もケチだよな。どうせなら兄妹もオッケーにしてくれりゃ良かったのによー」

桐乃「神様お願いしますっ! 愛しあう兄妹でも結婚できるようにしてくださいっっ!!」


大いなる意志『いいよー』


その瞬間世界は再び謎の光に包まれ、近親者間での婚姻が解禁された! ついでにこれから産まれてくる赤子の遺伝子疾患のリスクが全て消え失せた!

加奈子「なんだそりゃ」

珠希「……今のは」

秋美「よく分かんないけど、世界中で近親婚が許可されるようになったってニュースで速報が流れてるよ!」

黒猫「カオス過ぎるわ」

桐乃「よっしゃあああああああ! きりりん大勝利エンドキターーーー!! うっきゃあああああああ!!」

日向「キリ姉の喜び具合がヤバいレベルになってる」


あやせ「桐乃、良かったね」

桐乃「ありがと! 京介、早速結婚するわよっ!」

京介「えー……」

桐乃「はあ!? 返事は『はい』でしょうが!」

京介「はいはい、分かってるって。んじゃ結婚すっか」

桐乃「うん!」



ブリジット「重婚も近親婚も許可されたなら、自分の親と結婚する人も出てくるんでしょうか?」

麻奈実「中にはそういう人たちもいるのかなぁ? でも世界がそれを認めたんだから止められないよね……」

沙織「そして人口が増え続けた結果、食糧難になりそうなのが何とも言えませんな」


大いなる意志『まかせてー』


その瞬間、みたび世界は謎の光に包まれ、乱れていた大気は修復され天候は安定し、干上がっていた湖は潤い砂漠では緑が育ち、毒が満ちた土地は豊穣なる大地へと作り変えられた!

加奈子「なんだそりゃ」

日向「神様パねえッス!」


黒猫「なぜ私達の声が謎の存在に届くのかを考えては駄目なのかしら……」

秋美「細かいことはいいじゃん! こうして世界は平和になって行くんだよ! でもお願いをしすぎたらダメな気がするからそろそろやめておこうね!」

沙織「それには拙者も同意するでござる。過ぎたるは猶及ばざるが如し、何事も程々が一番でござるよ」

ブリジット「とっくに程々レベルは超えている気がしますけど」

桐乃「あたしは京介の奥さんになれるだけで、もうゆーコトないし!」

あやせ「お義父さんは頭を抱えそうだね」

京介「親父は桐乃を溺愛してるからな。もしかしたら自分とも結婚してくれって言ってくるかもしれねーぞ?」

桐乃「……それはイヤ。あたしの身体を自由にして良いのは京介だけなんだからね!」

京介「おう、サンキューな」

黒猫「そもそもがお義父さんは何よりも規律を重んじる方。愛娘との婚姻を望むとは思えないわね」

麻奈実「その規律のもとになる法が変えられちゃったんだけどね」



桐乃「それはともかく、急いで市役所に行くよ! この世界で一番最初に許可された兄妹夫婦にならないとっ!」

京介「親父たちへの説明はどうするんだよ」

桐乃「後回しに決まってるでしょ! ゴーゴー!」




珠希「――大いなる力持つ存在よ、我が願いを聞き届けたまえ。願いとはすなわち十歳からでも婚姻が可能となること、です」


大いなる意志『それはだめー』


珠希「理不尽です……」

秋美「もうやめておこってゆったのに、珠希ちゃんは欲しがりさんだね!」

加奈子「残念だったなチビ」

黒猫「珠希、あなたはまだ子どもを産む事が出来る身体ではないのよ。諦めなさい」

ブリジット「十三歳から結婚できるとなってますけど、実際は初潮が始まってるかどうかが基準ですもんね」

珠希「理不尽です……」



ちなみに俺たちはスタートダッシュが遅れたので、世界で最初の兄妹夫婦にはなれなかった。

迷いなく役場に走ることができた人たちがいたんだなぁ。世界は広いぜ。

桐乃「せっかくの記念が、どこのどいつよ邪魔したのはっ!!」

京介「さあな。俺たちみたいな兄妹がどっかにいるんだろうさ」





    謎パワーがもたらした不条理な世界の話

    → 謎パワーでも自然の摂理だけは曲げられないのだ! 本当はできるけど! がんばれ珠希ちゃん!





       終


こんにちは、以上となります。


なんだこれ。


それでは、また~。


 あやせ編 おまけ エロゲーマスターあやせ


※ あやせがエロゲーにはまった世界の話の続きです

  経緯については→ 京介「別れよう」 あやせ「え……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1432221693/912-) ←をご参照ください



あやせ「桐乃が教えてくれたゲームをちょっとやってみたんだけど」

桐乃「どうだった!? アレちょー面白いよね! あやせはどの子が気に入った? みんな可愛いケド、あたしは――」

あやせ「あのね、桐乃。ヒロインが全員幼い女の子なのって異常だと思う。目を覚まして」

桐乃「ナニゆってんの? あの子たちはみーんな『十八歳以上』なんだから、全然問題ないし!」

あやせ「十八歳以上であんなに幼い容姿をしてる女性なんていないから」

桐乃「いるじゃん、そこに」


加奈子「ん? 呼んだ?」


あやせ「……まさかこんな身近に実在していたなんて」

京介「いやいやいや、加奈子みたいなレアキャラを引き合いに出すなよ!?」

加奈子「お、あたしが貴重でかけがえのない女だってやっと分かったか? おっせーぞ京介ぇ」

秋美「かなちゃんステイだよ!」

加奈子「なんだそりゃ」

桐乃「とーにーかーくー! みんなちょっと見た目が小さいだけでちゃんとした大人なんだから、あやせは気にしないでガンガン進めちゃってオッケーだから!」

あやせ「う、うん。分かった」




沙織「ところできりりん氏がお薦めしたゲームとは何でござろうか?」

桐乃「はじるすとはじいしゃ!」

沙織「……それはまた伝説級のタイトルをチョイスしましたな……」

京介「ここまでの会話の流れから察するに、伝説級のロリゲーってことか? へぇ」

麻奈実「きょうちゃん、すまほを取り出して何をするつもりなのかな?」

京介「いや、ちょっとメールの確認をさ。忘れないうちに検索しようと思ったわけじゃないぞ?」

麻奈実「ふぅーーーん」

珠希「小学生でもよろしければ、ここにいるわたしなんてどうでしょう?」

ブリジット「うぅ、今すぐに京介さんと出会った頃の姿に戻れないかなぁ」

秋美「おっぱいヒエラルキーのトップグループに在籍しているブリジットちゃんだから言える言葉だよそれは! あたしなんて中学の時からち~~っとも成長してないのに!」

黒猫「ふっ、高校生になった後でも階位を上げる事が出来た私は、やはりあなたたちとは違う存在だと証明されたわね」

桐乃「AがBになっただけじゃん」

黒猫「なっ。ち、違うわ。BからCになったのよ!」

桐乃「大声出してムキになってるところがちょー怪しい」


日向「そりゃキリ姉はDカップだし余裕あるだろうけど、無い人にとっては死活問題なんだよ~」

桐乃「気にしすぎだって。それに理想の体型は『ひくい、かるい、ぺったんこ、ほそい、うすい』なんだから。むしろ小さい方が色々はかどって良いのよ!」

黒猫「その理想とはあなたが欲望の対象としている存在への、一方的な押し付けじゃない」

桐乃「あたしだけじゃないしぃ~。世の中には同じ志を持つと書いて同志(トモ)と読む人たちがたくさんいるしぃ~。京介だってそうだしぃ~」

京介「勝手に仲間にすんな!」

加奈子「今さらごまかすなって。ロリ可愛い加奈子を大好きな時点で京介はロリコンなんだからヨー」

黒猫「珠希こちらに来なさい。あの男の側に居るのは危険だわ」

珠希「大丈夫です。わたしは危険だと認識していませんから、何をされても受け入れられます」

あやせ「京介さん……」

麻奈実「きょうちゃん……」

京介「おいやめろ、そんな鬼・畜生を目の当たりにしたような顔でこちらを見るな! 俺は潔白だー!」






数日後。

あやせ「とりあえず『はじめてのおるすばん』はコンプリートしたよ……」



通称はじるす。かなり昔のソフトで、今のレーティングでは販売許可が下りないんじゃないかと疑ってしまうような、小柄な双子の姉妹と愛を育む物語。

発売と同時に瞬く間に売り切れて、買えなかった当時のロリコンエロゲーマーたちは悲しみに泣き崩れたという。

可愛らしい絵柄と脳天直撃の萌え? ボイス。そしてロリコンの夢を凝縮した、これでもかとひたすら(体型が)幼いヒロインたちとイチャイチャエッチするだけの潔いゲームシステム。

他にもはじるす騒動というものがあったらしいけど、まあそっちは興味がある人だけ調べてくれ。



桐乃「乙~。どう? しおりちゃんもさおりちゃんもエロエロでちょーラブリーだったでしょ?」

あやせ「そうだけど……。その、エッチが多すぎじゃないかな? それしかしてなかったような」

桐乃「ジャンルとしては抜きゲーになるのかな? 女のあたしじゃ抜くってよく分かんないケドw そこら辺どうなの? 京介」

京介「真面目に回答すると、精巣に溜まった精子を体外に排出するからそんな表現になったんだろうな。空気を抜く、とか言うだろ? それと同じだよ」

秋美「桐乃ちゃんが聞いてるのは男性が一人エッチでイった時の感覚のことだと思うよ?」

京介「そんなのどうやって説明しろってんだよ。女のオナニーの絶頂についておまえは説明できるのか?」

秋美「……うわぁ、セクハラ大魔王だあ」

京介「理不尽すぎる」


あやせ「と、とにかく! わたしはもっと文学性の高い作品がやりたいから、その、エッチだけっていうのはちょっと敬遠したいかな」

沙織「ふむ。あやせ殿は評価の高い作品ばかりをプレイされておりますので、たまには逆に評価の低い物とかどうでござろう?」

あやせ「わざわざ点数の低い作品を探すんですか? その必要性は感じません」

黒猫「ピンばかりじゃ直に飽きるわよ。キリも知って初めてその世界の成り立ちが身に付くもの。それに、駄作を遊んでみたら名作が名作たる所以もより深く理解出来る様になるでしょう?」

あやせ「む……確かにそうかもしれません」

秋美「でもエロゲーの世界にクソゲーって存在するの? エッチな絵があればオールオッケーだと思ってたんだけど」

桐乃「秋美さん、その認識は激烈に間違ってる。エロCGだけあれば満足できるのは中高生くらいのもんよ!」

麻奈実「本当は中高生だとえっちなげえむをやっちゃ駄目なんだよ?」

京介「最近はネットで検索すれば何でも見付かるからなぁ。今時の少年は川原や山に捨てられてたエロ本を発見した時のドキドキなんて知らねえんだろうな、かわいそうに」

ブリジット「そこって悲しむポイントなんですね」

桐乃「ほとんどのエロゲーはアドベンチャーだから、CG、声、BGM、シナリオ、システム、値段、あと延期の度合いが評価の対象になってるのかな? 特に重要視されるのが原画家さんとシナリオライターで、ここに何か問題があると速攻クソゲー認定されるね」

沙織「他にも総括的なシステム環境についても、致命的なバグなどがあれば当然クソゲーだと評価されますな」

秋美「そこら辺はコンシューマーと変わらないんだね」

桐乃「当然! むしろ過激だったり残虐だったり、表現の幅が広い分エロゲーの方が上位互換になると言っても過言じゃないわね!」

黒猫「過言よ」



秋美「それは分かったけど、それじゃあわざわざあやせちゃんにクソゲーをやってもらうの?」

沙織「『euphoria』……」

桐乃「ゆーふぉりあ? それってタイトル? 聞いたコトないなぁ」

沙織「文字通りのクソゲーですが、間違いなく名作中の名作です。ただ、極めて人を選ぶゲームなので、拙者としては自己責任でどうぞとしか申せません」

あやせ「駄作なのか名作なのかはっきりしないんですね」

黒猫「恐らく沙織の言っているクソゲーとは、イコール駄作では無いと思うわ。本当にクソゲーなのでしょう」

あやせ「えっと、何を言ってるのか意味が分かりませんけど……」

黒猫「そうね。説明をするのは簡単だけれども敢えてやめておくわ。あやせにはまだ早過ぎる世界よ」

ブリジット「euphoriaって幸福感とかそういった意味ですけど、聞いているとひどい内容みたいですね」

沙織「そうですな。本当にひどく、そして幸せな……最高で最低な作品です」

あやせ「なんだか欲しくなってきますっ」

桐乃「…………あ、Amazonにあるコレがそうかな? うわ高っ」

沙織「購入するのであればHDリマスター版が出ていますのでそちらがお薦めでござるよ。ダウンロード販売もされております。ただ、この作品はきりりん氏には合わないと思われますな」

桐乃「妹がいないのかな? ならパス~」




黒猫「とりあえずそのユーフォリアとやらは置いておきましょう。それで、あやせには評価の低い作品をプレイしてもらうとして、何か候補はあるのかしら?」

桐乃「妹がいてクソゲー……妹はそれだけで大正義だしなぁ」

黒猫「兄ラブを全面に押し出していながら攻略不可、などはどう?」

桐乃「『1/2 summer』と無印版『鬼ごっこ!』を思い出した……」

秋美「最初から攻略できないって分かってるなら買わなきゃいいのにね!」

桐乃「だって、良い妹ゲーないかな~って情報漁ってたら、ちょー可愛い妹がお兄ちゃん好き好きゆってる画像とか発見するんだよ!? 見た瞬間注文するしかないじゃん!」

麻奈実「桐乃ちゃんは相変わらずだねぇ」

京介「だいたい妹が攻略できないからってクソクソ言うのは桐乃くらいのもんだろ? もっと普遍的なクソゲーの方が良いんじゃないか?」

桐乃「あんた妹スキーのユーザーがどんだけいるか分かってないでしょ。自分だって重度のシスコンのくせに」

京介「俺は確かにシスコンだけど、ゲームでまで妹とどうこうしたいとは思えないな。桐乃がいるからそれで充分だ」

桐乃「京介……」

加奈子「そりゃフツーは妹とエッチなんてしねーもんなァ。そんな夢をかなえたくてオタはゲームやるんじゃねーの?」

ブリジット「兄妹でエッチしたりハーレムを築いたりなんてフィクションの中だけだもんね」

日向「あたしの周りの友達だと、お兄ちゃんや弟がいても、みんな仲悪いって言ってるよ」

麻奈実「うちは仲が良い方だと思うけどなぁ」

沙織「その辺は個々の家庭環境に強く左右されますからなあ」



秋美「それはそーと、妹にこだわらなくてもいいんじゃないかな? クソゲーなんて色々あるんだし!」

沙織「クソゲーの定義も様々ですからな。ひどい物ですとアンインストール時にパソコンのHDDをフォーマットしてしまう罠が仕込まれているものなどが、かつて存在しました」

黒猫「それはまた凶悪ね……」

あやせ「何ていうタイトルなんですか?」

沙織「『みずいろ』です。古いゲームですが、上述したバグを除けば高水準にまとまった作品であり、かなりの人気があったと聞いております。エロゲ界を代表する淫妹や、どこかで聞いたことのある声をしたぽんこつ幼馴染などでも有名ですな」

桐乃「エロゲ界を代表する淫妹ですって!?」

加奈子「さっそく喰いついてやがる」

沙織「きりりん氏は聞いたことがありませんか? エロゲ三大淫妹――『みずいろ』の片瀬雪希嬢、『夜明け前より瑠璃色な』の朝霧麻衣嬢、『あまつみそらに!』の観崎美唯嬢――を」

桐乃「後ろ二つは当然プレイ済みよ! みずいろだけ知らない。……んー、ポチろうと思ったんだケド、これ今のパソコンで動くのかなぁ?」

沙織「みずいろは何度もリニューアルして販売されておりますが、拙者の知る限りではブランド初期作品をまとめて収録した物が存在しますので、購入するのであればそちらがよろしいかと」

桐乃「んと…………『ねこねこプレミアムBOX1 価格改定版』、これが一番新しいのかな?」

沙織「一応『ねこねこコンプリートBOX』なる物も発売されているのですが、かなりのプレミアが付いてますな。DMM.R18でダウンロード販売ならされているようですが」

桐乃「あたしは手元にパッケージを置いときたいからDL版は最後の選択よ。とりあえずこれを買っておこ」




京介「おまえら、あやせにゲームを紹介するんじゃなかったのか? さっきから桐乃ばっか反応してるぞ」

沙織「そうでござった。きりりん氏の嗜好はともかく、普通に完成度の低い、純粋なクソゲーを選べば良いのではないでしょうか」

あやせ「あの、無理にその手合いのはしなくても……」

麻奈実「あやせちゃん、控え目に言っただけじゃみんなの耳には届いてないみたいだよ?」

珠希「姉さま必死に検索しています」

ブリジット「何がそこまでかきたてるんでしょうか」

秋美「例えばブリジットちゃんが、他の人に京介のどこが良いのか聞かれたら必死になって説明しようとするでしょ? それと同じだよ。ベクトルは正反対だけどね!」

ブリジット「それなら分かります!」



京介「俺はそんなに詳しくねえから紹介できないな」

黒猫「無難ではあるけれどもクソゲーオブザイヤーに選出されている作品から候補を絞れば良いのではないかしら?」

京介「なんだそりゃ?」

桐乃「そのまんまよ。その年一番のクソゲーを選ぶ場……とゆーかスレがあんの」

あやせ「悪趣味だね」

沙織「いやいや、これがまた面白いのでござるよ。知らずに地雷を踏んでしまった英霊たちには黙祷をささげるしかありませんが、情報を掴み、あえて飛び込んでみるのもまた一興」

あやせ「それは、どうなんでしょう……」


黒猫「大賞から選べばいいのなら、魔法少女シリーズの三作目や前後で有名になったタイトルなどはどうかしら?」

沙織「大賞ではありませんが、拙者はこの、どこかで見たことのあるパッケージの妹ゲーが気になるのですが。きりりん氏的には如何でござろうか」

桐乃「そんなモノ存在しないから」

沙織「いえ、ですがここにこうして――」

桐乃「無いから。そんな妹ゲーは無いから、もう二度と口にしないで」

沙織「あ、はい。申し訳ございません……」

日向「キリ姉の顔が怖い」

秋美「桐乃ちゃんは京介か妹キャラが関わったら怒りっぽくなるからね~。しょうがないね!」

沙織「怒りと言えば通称怒りの日、すなわち『Dies irae』の無印をあえてアペンドを入れずにプレイするのは面白いかもしれませんな」

黒猫「怒りの日――最後の審判ね。内容が気になるわ」

沙織「実に黒猫氏好みの作品ですな。魔導兵器『聖遺物』を駆る者たちが繰り広げる死闘を描いた、伝奇バトルものの名作でござる。詠唱など抜群に震えますな!」


黒猫「……そう。私とした事が未チェックだったらしいわね」

桐乃「だってそれもエロゲーでしょ? あんたエロ無しじゃないとやらないじゃん」

沙織「全年齢版も発売されていますので多い日も安心でござるよ」

黒猫「……ディエスイレ……これね」

沙織「完全版発売までに複雑な経緯があったのとメーカーの売り方や対応に非難の声をあげるユーザーがおりましたので、完全版はその名に恥じぬ完成度に仕上がっているのですが、それとはそぐわぬ評価を受けていると言えるやもしれません」

あやせ「沙織さんは完全版があるのに無印版をわたしに薦めたんですか?」

沙織「ダメでしょうか?」

あやせ「どうせなら完成度の高い作品をやりたいに決まってます」

沙織「そうですか、残念でござる。当時のユーザーが感じた落胆を同様に体験して頂けるかもしれないと思ったのですが」

あやせ「駄目な作品なら駄目な作品で、それでもできれば文学性が高い物をやりたいんです」

沙織「それならば安心してくだされ。バリバリに厨二要素を満載した作品ですので、読みごたえはありまくりでござる」

あやせ「中二……? 『装甲悪鬼村正』みたいな作品ですか? だったらそれこそ完全版を買いますね」

京介「完全版があることを明かしてしまったのが失敗だったな。そりゃ誰だってそっちを買うに決まってる」


沙織「拙者としたことが……。分かりました、それならばあやせ殿には、究極の文学性を宿した作品を紹介いたしましょう」

あやせ「それは素敵ですね! 何ていうタイトルですか?」

沙織「先程の話にでも出てきましたクソゲーオブザイヤーで大賞を取ったことのある、輪廻転生ものでござる」

あやせ「くそ……って。それって結局駄目ってことじゃないですか」

沙織「キャラクターは可愛らしく声も合っており、大きなバグは無く、そこに重厚な世界観と複雑に絡み合った物語が花を添える作品となっております」

京介「それだけ聞くと悪くなさそうだけどな」

沙織「その、ただ一点だけ、どうしようもなく強烈な欠点がありまして。――あまりにもシナリオが難解で、理解不能なのでござるよ」

あやせ「ふむふむ。つまりシナリオを読み解くことができれば良いんですね?」

沙織「そうなのですが……。実は噂を聞きつけて拙者も挑戦したことがあるのですが……無理でした」

麻奈実「普段あれだけ察しの良い沙織さんが無理って、相当難しいお話なんだねぇ」

沙織「あまりに複雑怪奇な内容に、ヒエログラフの解読に例えている者もおりました」

珠希「聖刻文字ですね。心が躍ります」

あやせ「それを聞いて俄然興味が沸いてきました。やってみます!」

沙織「中古だと格安で購入できますが対応OSがVistaまでとなっておりますので、高くなりますが7に対応しているダウンロード版を購入された方が無難かと」

あやせ「分かりました。早速購入してきますね」






さて翌日。

あやせ「ごめんなさい、無理でした……。あれは無理です、絶対理解できません……」

沙織「あやせ殿でも無理でしたか」

桐乃「そんなに難しいの?」

あやせ「キャラはみんな桐乃が好きそうな幼い容姿をしているかな? 可愛いんだけど、その、全然ストーリーが頭に入ってこなかったの」

桐乃「ほっほう。妹は? 妹はいないのっ!?」

あやせ「いるよ。一応……あれは本当に妹なのかな」

沙織「拙者も最後までプレイできなかったので推測でしかものを申せませんが、恐らく妹君であろうとは思われます」

桐乃「そっかー。じゃあとうとうあたしの出番ってワケね! 沙織もあやせも無理だったのをクリアしてこそのメインヒロイン!」

秋美「無理っぽい雰囲気がプンプン」

加奈子「桐乃がちゃんとクリアできるか晩飯のおかずを一品賭けるか?」

ブリジット「たぶんみんなクリアできないって賭けるから、賭けが成立しないと思うよ?」

桐乃「しっつれいねー。見てなさい! 難関大に現役合格した天才的頭脳を持つ桐乃様の実力を見せてあげるわっ!」






さらに翌日。

桐乃「なんなのアレ!? あんなの分かるワケないじゃんっ!!」

京介「ま、こうなるよな」

黒猫「予想通りの展開ね」

桐乃「うっさい! あんたらもやってみなさいよ、尋常じゃなくストーリーに付いていけないから! キャラが可愛いだけに余計悔しいっ!」

京介「おまえや沙織が理解できないのを俺が分かるわけないだろ」

黒猫「私は『Dies irae ~Amantes amentes~』を進めないといけないから無理だわ」

秋美「なんだか長いタイトルだね。それが全年齢版? えと、あまんてーすあーめんてーす?」

黒猫「ええ。ラテン語で、恋する者は理性を失っている、と言う意味らしいわね。恋は盲目、とでも言い換えれば良いのかしら」

ブリジット「なんだかロマンチックですね」

黒猫「興味があるならブリジットもやってみてはどう? アニメ化の計画もあるみたいよ」

ブリジット「それならわたしはアニメだけで良いかなぁ」

桐乃「それはいいからっ! きぃ~っ、なんなのアレ! ムカつくムカつく!」

麻奈実「荒れてるねぇ」

京介「しばらくああだろうから放っておけばいいさ」


あやせ「そう言えばもう一本、沙織さんがお薦めしていた作品を買いました」

沙織「ほほう。どれでござろうか?」

あやせ「ユーフォリアです。まだ始めてませんけど」

沙織「……そうですか……」

不意に沙織が俺の肩をポンッと叩いた。

桐乃「京介氏、がんばって生き残ってくだされ」

京介「またこのオチかよ! だから不穏すぎるっての!」







    終


こんばんは、以上となります。


だらだらとエロゲーの話をするだけ 第二弾。

私もあのソフトは事前情報無しで購入してプレイしましたがクリアまで至りませんでした。


それでは、また~。


 あやせ編 おまけ ロマンとリアル



京介「V2アサルトバスターってロマンの塊だよな?」

沙織「それには拙者も同意するしかないでござるよ」

秋美「でもあれってゲームじゃ最終決戦用の機体として登場するけど、原作では一瞬しか使われなかったんでしょ?」

黒猫「京介の好みが良く分からないわね。ガンダムならばバンシィのデストロイモードが漆黒の機体に黄金が映えて、とても印象深いわ」

沙織「ロマンで語るのであれば、黒猫氏好みの黒いガンダムはマスターガンダムしかありえないと思うのですが如何でござるか」

秋美「自称死神くんのデスサイズもケッコーイケてない?」

あやせ「ガンダムって言ってるからアニメの話だと思うけど、何を喋ってるのかさっぱり……」

加奈子「ロマンってつまりロマンチックだろ? なんでガンダムになるんだ?」

ブリジット「ロマンチックでも間違ってないけど、今回のテーマだとロマンチシズムになると思うよ?」

麻奈実「浪漫主義を一言で説明するのは難しいけど、簡単に言うと感受性とかに重きを置いた精神運動の一種かな? 古典主義の反対だよ」

日向「えっと、全然分かりません!」

桐乃「男のロマンってヤツだよね。巨大ロボットはモロにそれだし恐竜やスーパーカーだってそう!」

沙織「やはり兵器やドリル、失われた古代の超技術や魔法の詠唱呪文などは心が震えるでござるな」


日向「つまりルリ姉は男のロマンの塊ってことですか?」

秋美「黒髪パッツンの姫カットに泣きぼくろの美少女で、やや小ぶりな身体つきをゴスロリドレスで覆っていて、普段は上から目線の意地っ張りなのに、実は泣き虫でとても友達思いの、家族思い」

京介「なるほど、ロマンを体現した者がここに居たのか」

黒猫「属性を羅列しただけじゃない。それをロマンと言われても困るわね」

ブリジット「かなかなちゃんも桐乃さんもあやせさんも、みんな属性大盛りですもんね」

加奈子「ブリジットもな。あたしらみたいな美少女軍団をハーレムで囲ってる京介はすごいロマンを実現したってことか」

日向「あたしに属性あったっけなぁ」

京介「日向ちゃんの属性なぁ。地味系美少女は麻奈実が元祖だし、ファッションがイマイチ系は秋美のがずば抜けてるし」

秋美「ちょっと京介、それどーゆー意味よ!」

桐乃「元気系妹キャラで、姉の彼氏に惚れたってだけでもジューブン濃いと思うケドね~」

日向「高坂くんのあたしへの評価がパッとしないのだけは理解したよ。彼女なのに。彼女なのに」

あやせ「京介さんは日向ちゃんにもう少し優しくなるべきです。猛省してください」

京介「申し訳ありませんでした」



珠希「一度でいいので大きなパフェをお腹いっぱい食べてみたいです。こんなのもロマンですか?」

秋美「良いね! 女の子らしくってポイント高いよ珠希ちゃん!」

加奈子「太るぜ?」

麻奈実「でも甘い物をお腹いっぱいって女の子の夢だよねぇ」

ブリジット「それなら、素敵な旦那さまと結婚して、小さくてもいいから可愛いお家を建てて」

沙織「庭は花でいっぱいにし、大きな犬を飼うのですな」

桐乃「そして休日は朝から子どもと一緒にアニメ鑑賞ね! ワクワクするわ~」

黒猫「年に二回、家族で世界最大の同人誌即売会に参加するのを忘れてはいけないわね」

秋美「桐乃ちゃんと瑠璃ちゃん、台無しだよ!」

京介「腹いっぱい系なら俺は分厚いステーキだな。丁寧にフォークとナイフで切り分けるなんてせずにガブッといきたい」

あやせ「ワイルドですね。たまにはそんな京介さんも良いかもしれません」

加奈子「エッチの時はいっつもワイルドじゃねーか」

日向「そうなんですか?」

ブリジット「日向はまだ不慣れだから、様子を見ながらゆっくり進めているんだと思うよ」

日向「先はまだまだ長いな~」


麻奈実「もう、加奈子ちゃんは油断したらすぐえっちの話にしちゃうんだから」

沙織「肉の話に戻しますと、ステーキを用意するのはそんなに難しくなさそうですな」

黒猫「厚さにもよるけれど家庭用の調理器具で果たして火を通せるかしら? ミディアムレアで良ければフライパンだけで可能そうだけど調べてみないと分からないわね」

麻奈実「お肉は常温で、ふらいぱんは熱さずに焼き始めると上手に焼けるはずだよ?」

あやせ「えっ、そうなんですか? 初めて聞きました」

麻奈実「うん。りあちゃんがほおむすていしてた時に調べたんだぁ。お肉を厚くすると時間がかかって大変みたいだけど」

京介「麻奈実がそう言うならそうなんだろうな。肉さえあればできるのか?」

麻奈実「うん、できるよ」

黒猫「ローストビーフは手間がかかるから、その方法が可能なのだとしたら試してみる価値はあるわね」

京介「俄然ワクワクしてきたぜ! でっかいの頼むな!」

麻奈実「任せて。美味しいの焼くよ~」

加奈子「あたしだってだいぶ料理の腕は上がったと思うんだけどなー。師匠には敵いそうにないぜ」


桐乃「料理と言えば、裸エプロンとかも男のロマンになるのかな?」

秋美「うちでは常に誰かがいるからキッチンでは無理だね!」

ブリジット「でも部屋でやってもあまり雰囲気が出なさそうですよね」

沙織「裸エプロンは情緒が大切ですから、我が家ではなかなか実行できないでしょうな」


加奈子「んじゃ今度あたしがやってみよっか? 京介が喜ぶなら何でもするぜー」

日向「他に人がいても平気とか加奈子さんレベルたっけえ!」

京介「俺が平気じゃねえよ」

加奈子「なんだよー、京介だって興味あんだろ? 見られるくらいどってことねーべ、一緒に初体験しようぜー」

京介「人に見られながらする趣味は無い。それに裸エプロンならやってもらったことあるしな」

桐乃「誰にっ!?」

京介「あやせと沙織と麻奈実」

黒猫「案外と多いわね」

秋美「さおりんと麻奈実ちゃんは何となく分かるけど、まさかのあやせちゃんとか!」

あやせ「アパート時代に、どうしてもってお願いされたので断りきれなくて……」

沙織「拙者だけかと思っていたのですが、他にもおられましたか」

麻奈実「あれは恥ずかしかったよねぇ」

加奈子「まさかあたしより先にヤってるヤツがいたなんて。こりゃもう実行するしかねーな!」

ブリジット「か、かなかなちゃん、いま服を脱いじゃダメだよっ」


京介「落ち着け加奈子。別に裸エプロンに拘る必要ないだろ? おまえとは色んなことをやったじゃねーか」

加奈子「世界中の全てのエッチを京介と試した上で、あたしだけのスペシャルエッチを見つけるって夢があるからな! やってないのは全部やるぜ!」

珠希「壮大な夢です」

沙織「それもまたロマンですかな」

日向「あの~、エッチの話はまだ付いていけないから、もっと普通のジャンルにしませんか?」

黒猫「では日向の思うロマンを語ってみてはどう?」

日向「うぇ? う~~ん……。森とか共和国的なアレ……」

秋美「そこは千葉県民しか知らないんじゃないかなっ?」

京介「怒られそうなことを言うな。全国放送のニュースでも何度も取り上げられてるスポットなんだし、きっと県外の人だって知ってるさ」

桐乃「あそこはただの名前だからロマンとはまた別ものだよね~」

麻奈実「でもみんなで遊びに行くのは楽しそう。日向ちゃんや珠希ちゃんと一緒にみんなでお泊りってしたことないもんねぇ」

ブリジット「もうちょっと暖かくなったら行ってみるのも良さそうですね」

京介「あまり悠長にしてたら、今度はちとせが大きくなってからじゃないと行けなくなるな」

あやせ「そうですね。もう妊娠後期に入ってますから、あまり余裕はありません」


加奈子「無事に産まれたらベビーカーにでも乗っけておけば問題ないだろ? どうせ次々にみんなで産む予定なんだしよー」

沙織「全員が赤子を連れた集団で外出……さぞや人目を引くでしょうなぁ」

京介「みんな綺麗なんだしママタレグループとでも思ってもらえればいいけどな」

日向「高坂くんがちょー目立つね」

黒猫「悪目立ちを極限まで煮詰めた存在になるわね」

京介「そこはお付きの者に徹すれば何とかならないかな?」

桐乃「普通に子どものお父さんとして扱いそーな気がする」

ブリジット「子どもと一緒にお出かけしてるのに、パパをないがしろになんてできませんよ」

あやせ「八組以上の母子が全員、唯一の男性を父と呼ぶ光景は……ちょっと世間体が悪すぎますよね」

麻奈実「そうなると、もう全員で遊びに行く機会ってあんまり無いのかなぁ」

秋美「あたしは家の中でみんなでゲームするのでも良いよ!」

沙織「それはいつでもできますから、やはり何かしらの対策は考えておくべきでしょうか」

加奈子「だいたいよー、みんなが子どもを産んだとして、そいつらが大きくなったら部屋がどー考えても足りねーよな」

京介「あー、そうなんだよなぁ。でもここ以上に大きな家なんて中々ないしな」

沙織「拙者のマンションに転居するのが良いのではないでしょうか」

桐乃「それだと一軒家じゃなくなるから今の生活スタイルとは変わっちゃうね」


黒猫「現実的な話をするのならば、子どもが成長するにつれて家族の形が不自然なものである事に気付くでしょうね。学校に通い始めたら周囲との差に戸惑うでしょうし、口止めをしていてもいつどこで秘密を漏らすか分からないわ」

ブリジット「本当にリアルな話ですね……」

黒猫「今が楽しいからと言って全てを楽観視するのは愚の骨頂よ。京介がどれだけ頑張ったとしても一人の稼ぎだけでは到底賄い切れないのだから、当然私達も働かなければならないわ。その場合、この歪な空間で誰が子どもの面倒を見るのかしらね」

秋美「硬い、瑠璃ちゃん硬すぎるよ! 全然ロマンを感じないよ!」

麻奈実「でも黒猫さんの心配はもっともだよね。例えば赤ちゃんを産むのはあやせちゃんだけにしておけば、そんなことにはならないだろうけど……」

加奈子「それは無理ッスよ。もう順番も取ったんだしあたしは絶対京介の子どもを産むもんね」

桐乃「そんなのトーゼンだしぃ。京介の子どもを産まない選択は存在しないね」

麻奈実「やっぱりそうなるよねぇ。わたしだってきょうちゃんとの赤ちゃんは欲しいもん」

日向「あたしはまだそこまでの覚悟はできてないけど、高坂くんがとても大変な立場にいるのは分かった」

京介「自分で選んだ道だからな。非常識なことは承知の上で、それでも何とかしないとなぁ。一番のネックはやっぱ金か」

珠希「宝くじでも買いますか?」

沙織「お金とロマンが合わさり埋蔵金に至るという未来を幻視したでござる」

あやせ「それは破滅への道なのでは……」

黒猫「さらに現実的な見方をすると、あやせ以外は誰が妊娠しても、以前に計画を立てた通り親に打ち明けた時点で実家に連れ戻される可能性が高いわ。黙ったまま出産するという選択もあるでしょうけれど、素直に金銭面、精神的肉体的な負担、育児などの全てを親世代に頼った方がスムーズに事が運ぶでしょうね」

桐乃「あんた、今日は随分とたたみかけてくるね。何か面白くないコトでもあったの?」


黒猫「無計画なままではいつかこの生活が破綻すると問題提起しているのよ」

加奈子「んじゃ猫は京介との生活をあきらめて実家に帰るってか?」

黒猫「冗談を言わないで、そんな訳ないでしょう? 例え親に絶縁されようとも私は京介の傍を離れないわ。私達は全員が親を騙してこの家で生活しているのだから、最期まで騙しきる覚悟と、そのための生活基盤を固める必要がある、と言う事よ」

あやせ「なんだかわたしだけ安泰で申し訳ないです……」

沙織「素直に親に頼ることができる立場というのはやはり有利ですな。しかしながら我々は軽い気持ちでここに集っているわけでも、ましてや安易に京介氏との子をもうけたいと口にしているわけではござらんよ」

秋美「あたしや桐乃ちゃんは割と行き当たりばったりだけどね!」

桐乃「あたしの場合はみんなと事情が違うからね~」

麻奈実「覚悟は気持ちの問題だから個々で何とかするしかないよね。お金はどうにかしないと駄目だけど」

ブリジット「基本は全員で働いて、計画通りにちゃんと考えながら子どもを産んで、その時に働いてない手が空いている人で面倒を見たりするしかないですよね」

加奈子「アイドル以外での仕事も探さないとダメかー?」

あやせ「事務所に相談してみる? わたしもお腹を出さないでいい仕事を増やしてもらってたし」

ブリジット「かなかなちゃんは歌が上手だから歌手に転向させてもらうとかどうかな? 歌手なら妊婦とか関係なく受け入れられてるよね」

加奈子「それも悪くないかもなァ」

秋美「あたしはプロゲーマーにでもなろうかなっ。ロマンあふれてるよね!」

沙織「日本でそれは茨の道にしかならないでござるよ? 世界では一般的な職業ですが、こと国内でとなると、それだけで生計を立てるのは無理があると思われます」


日向「プロのゲーマーって職業があることにビックリです」

沙織「世界のトッププロなら億は稼げるらしいですぞ? 拙者の姉さんはプロゲーマーをやっておりますが、そう甘い世界ではありません。世界中を飛び回る必要もあるとかどうとか」

秋美「え~っ、家でゴロゴロしながらできないの? ならパス!」

桐乃「あたしはどうしよっかな。モデルを続けてもいいし新しい小説を書くのも悪くないケド」

黒猫「桐乃ならば何でも出来るでしょう? 好きなものを続ければ良いと思うわ」

桐乃「黒猫……。ん? 黒猫……? ゴスロリ……?」

加奈子「猫がゴスロリなのは今に始まったこっちゃねーだろ? 急に考え込んでどしたー?」


桐乃「…………閃いたっ! あたしたちで会社を起ち上げるのよ! その名もファッションブランド『きりりん』!」

黒猫「何を言い出すのかと思えば」

沙織「いえ、案外悪くないかもしれないでござるよ?」

桐乃「モデルとしての経験抱負なあたしやあやせ、アイドルの加奈子、女優のブリジットちゃん、お嬢様の沙織、厨二系の黒猫、奇抜な秋美さん。これ完璧じゃない?」

秋美「オチはあたしか~」

桐乃「あ、アクセ担当で御鏡さんにも協力してもらおっか。やばっ、隙がなさすぎる」

京介「専属契約とかあるんじゃねえの?」

桐乃「さあ? そんなの何とかなるなる!」

麻奈実「桐乃ちゃんは前向きだねぇ。でもわたしはぁ?」

京介「麻奈実や日向ちゃんは一般人代表って所なんだろうな」

日向「う~、ファッションセンスはこれから磨くもん」


桐乃「あたしたちがデザインした服や小物を、あたしたち自身がモデルとなってwebに掲載するのよ。集客効果抜群だと思わない?」

黒猫「それは……かなり恥ずかしいわ……」

あやせ「面白そうだけど、起業するには色々と準備が必要だし、わたしたちには専門知識がないよ?」

桐乃「知識なんて後から身に付ければいいのよ! 今は0円からでも起業できる時代だし、費用ならあたしが出すから問題なしっ!」

沙織「インターネット上でバーチャルな店を構えるだけなら店舗代はかかりませんな」

桐乃「在庫を持たない受注生産型でもいいし、倉庫を借りてやりくりするのでもいいし。みんなのコネを利用すれば何とかなりそうじゃない?」

京介「俺たちで会社を作るのか。それもまたロマンだな」

加奈子「最近は現役女子大生社長なんてのもテレビで見かけるしなー。ひょっとしたら上手くいくんじゃね?」

桐乃「経営が軌道に乗り出したらコンサルとかを雇えばいいよね。その辺は美咲さんに相談すれば知恵を貸してくれそう」

秋美「会社の規模が大きくなって有名になったら、有名ゲームやアニメとコラボできるかな!?」

桐乃「最初は若い女性をメインターゲットに市場を広げていって、余裕ができたらとか? ブランドの方向性が違いすぎるとダメかもだから別ブランドを起ち上げればいっか」

黒猫「夢を持つのは素晴らしいし起業する事そのものには文句は無いけど、全てが上手くいく訳ではない事を念頭に置いておくべきね」

桐乃「失敗を恐れてたらスタートなんて踏めないわよ! それに困ったら京介が何とかしてくれるって。でしょ?」

京介「個人での問題ならともかく会社規模となるとなぁ。ま、桐乃に頼られたら頑張るしかねーか」

麻奈実「きょうちゃんはもう就職が決まっているんだから、事務仕事はわたしがすればいいのかな」

京介「麻奈実は和菓子職人としての修業を積まないといけないだろ」

麻奈実「どちらも頑張るよ~」


あやせ「桐乃がやる気になってるならわたしはもちろん協力するよ。でも勢いだけじゃなくて、ちゃんと調べる所は調べようね?」

桐乃「あたしがやるからには中途半端は無しよ。顧客のニーズをガッチリ把握して、きりりんブランドを世に浸透させてやるわっ!」

沙織「ネット起業ならリスクは極めて少ないですから、やるなら早めに着手するのが得策かと」

黒猫「では制度や技術に関しては私や沙織、京介が調べるから、あなたは代表者としての心構えや盗作への対策などを知人から教授してもらいなさい」

加奈子「あたしらは事務所で最近の流行でも教えてもらうか?」

ブリジット「どこまで教えてくれるかは分からないけど、聞くだけだけなら問題にならないよね」

日向「じゃああたしは学校の友達から最近の流行りを聞き出そうかな」

桐乃「いよっしゃ、盛り上がってキター! みんなで力を合わせて成功させるわよっ!」

『おーーっ!』



珠希「みなさんで協力して一つの大きな未来を目指す。これもまたロマンでしょうか」







    終


こんばんは、以上となります。


何となく桐乃ならこうするんじゃないかな、と漠然と思ってたりしました。

それはそうと、そろそろサザエさん時空に突入するしか……。


それでは、また~。


 あやせ編 おまけ 秋美さんはゲームがしたい



秋美「瑠璃ちゃん瑠璃ちゃん! なんか難しくておもろいゲームないかなっ?」

黒猫「あなたが脈絡もなく何かを言い出すのはいつもの事だけれど、本当に毎回いきなりね。それで、難しくて面白いゲームと言ったのかしら?」

秋美「うん! 手持ちのゲームはやり飽きちゃってさ! 手応えのあるやつをガッツリやりたいんだ!」

黒猫「ジャンルは?」

秋美「あんまり反射神経とか使わずマイペースにできるのがいいからアクションやシューティングはなしで。ロールプレイングとかシミュレーションとか?」

黒猫「最近は難易度が選択可能な作品が多く出ているけれどそれでは駄目なの?」

秋美「なんかさ、そーゆーのだとどうしても簡単か普通を選んじゃうんだよね~」

黒猫「ではRPGを縛りプレイするのも無理かしらね」

秋美「ダメだと思う。縛ってやったことないけど!」



加奈子「SM?」

ブリジット「違うよかなかなちゃん」

沙織「縛りプレイとは、自らに制約を課してそれに従ったままゲームを進める、一種のマゾ的挑戦でござるよ。その意味ではSMもあながち間違ってはいないかもしれませんな」

桐乃「決定ボタンを押さずにRPGをクリアしろ、とかね!」

京介「それは無理ゲーっつーんだ」




黒猫「外野が五月蠅いわね。では素で難易度の高いゲームを求めている、と言う認識で良いのね?」

秋美「それでオッケーだよ!」

黒猫「……すぐに思い付いたのは『世界樹の迷宮』シリーズだけど、あれも近年の作品では難易度選択が可能だから条件から外れる事になるのかしら」

秋美「そーだね。それに世界樹はとっくにプレイ済みだよ! 世界樹面白いよね~」

黒猫「昔懐かしいゲームブックを思い起こさせる文体と秀逸なBGM。シビアなゲームバランスと作り込まれた世界観。あれは非常に良く出来ているわ」



麻奈実「げーむぶっくってなあに?」

あやせ「確かわたしたちが産まれる以前に流行った本の形態の一種です。中身は小説なんですけど細かく番号が割り振られていて、読み進めるつど読者に行動を選択させて割り振られた番号に飛び、展開や結末が変化していくものだったと思います」

沙織「あやせ殿には興味のないジャンルだと思っておりましたがなかなかお詳しいですな」

あやせ「わたしはこれでも色んな本を読んでいますから。ゲームブックは存在だけ知っていて実物を見たことはありませんけど」

沙織「ゲームブックの元祖ともいえる『火吹山の魔法使い』は入門用としてお薦めですぞ。手に入れるのは困難だと思われますが……。読むだけでしたら国会図書館に収蔵されておりますのでそれで充分かと。ただマニアなら是非とも手元に置いておきたい逸品です」


京介「――君たちは貴重な情報を手に入れた。これをもとに古本屋で探し求めてもいいし、あるいは通販サイトでプレミアム価格を承知のうえ購入してもいい。すべては君たちの手に委ねられているのだ。さあすぐに行動を起こしたまえ!」

桐乃「とうとう頭おかしくなった?」

京介「折角ノリを合わせてやったのに失礼なことを言うヤツだな!」




黒猫「扶桑社版だけれど当然私は火吹山以降のシリーズも全巻所有しているわよ。興味があるのなら今度実家から持ってきましょう。――と、話が逸れてしまったわね」

秋美「ゲームブックは今度あたしも探してみよっと」

黒猫「遊び応えのあるRPGかSLG……。そうね、古い作品で良ければ『ファイアーエムブレム トラキア776』はどうかしら?」

秋美「FE? 『覚醒』ならやったよ。もちろん難易度はノーマル・カジュアルだけどね!」

黒猫「トラキアはシリーズ随一の鬼畜作として知られているわ。確か難易度設定などと言う温情措置は一切無かった筈よ」

秋美「ふーん? 今でも手に入るのかな」

沙織「WiiとWiiUのバーチャルコンソールで配信されているでござるよ」

秋美「あ、それなら大丈夫だね!」

黒猫「ただ、覚醒をノーマルでしかクリアしていない様な素人同然の者がいきなりトラキアをやって、果たして進める事が出来るのかしらね」

秋美「う、うーん。どうせやるならちゃんとクリアできるのがいいなぁ」

桐乃「難しいRPGつったらファミコン版の『ドラクエ2』じゃないの? それでもドラクエだしクリアしてる人はたっくさんいるでしょ」

黒猫「あれは突貫作業で作成されたための調整不足が難しさに直結しているだけで、面白さとはまた別のものよ」

秋美「ドラクエ2はWiiの『ドラゴンクエスト1・2・3』でスーファミ版をクリアしてるから別にいいかなー」

黒猫「はぁ……。もう『ウィザードリィ4』でもどこかから引っ張って来れば良いのでは? そして絶望の淵に沈みなさい」

秋美「ちょっと瑠璃ちゃん諦めるの早いって! もっとあたしを大切にしようよ!」

黒猫「どうせメジャー所は殆ど手を付けているのでしょう? マイナーで難易度が高いだけなら幾らでもあるでしょうけれど、そこに面白い、が加わると一気に条件が厳しくなるわ」

秋美「うー」




沙織「一口に難易度が高いと申しましてもその内容は様々ですからなあ。敵が強い、謎解きが難しい、初見殺しが多い、システムが難解、数え上げればきりがないでござるよ」

秋美「そこまで深くは考えてなかったなあ」

桐乃「難しいのを突破したときにちょー楽しいって感じるから、やっぱ基本はパズル系か強敵系じゃない?」

沙織「ふむ。日本を代表するパズル系RPGであればやはり『ゼルダ』シリーズでしょうか。ただあれはアクション色が強いですから秋美殿の要望とは多少ずれますかな」

黒猫「沙織、勘違いしては駄目よ。ゼルダはアクションアドベンチャーと銘打っているのだから断じてRPGではないわ」

沙織「おや、そうでござったか。拙者としたことがこれは失敬。で、あれば……ここは『エストポリス伝記2』しかありませんな!」

黒猫「知らないタイトルね」

沙織「それはそうでしょう。拙者や黒猫氏が生を受ける前にSFCで発売されたソフトですから」

秋美「古すぎない?」

沙織「現在でも語り継がれる傑作RPGの一本でござるよ。前作にあたる『エストポリス伝記』はエンカウント率こそ高いものの普通のRPGでしたが、2はパズル要素が追加され一気にやりごたえが増しております」



秋美「傑作ってゆうくらいだし面白いんだよね」

沙織「それはもう。ゲームシステムだけではなくストーリーも前作をプレイ済みだと感動が倍増し、また楽曲も非常にすばらしいものになっております。サントラは一時超高額で取り引きされるほどの人気っぷりだったと聞いておりますな」

秋美「へぇ~。いいねそれ! 3DSかWiiUがあればいいのかな?」

沙織「いえ、その。一つ難点がありまして、開発元が既に解散しているためにバーチャルコンソールなどでの配信がなく、現物を入手するしかないのですよ」

秋美「ってことはスーファミ本体も必要になるんだね。どーやって手に入れようかなあ」

沙織「本体は拙者のコレクションがありますのでそちらをお貸ししましょう。生憎とソフトは所有しておらず、実は先の評価もすべて人から聞いたものなのでござる」

ブリジット「えーっと……ゲームはAmazonで普通に取り扱っていますね。新品はものすごく高いですけど中古ならお手頃価格みたいです」

秋美「それじゃさおりん本体貸して! あたしは中古とか気にしないしサクッと注文しちゃおう――って、1も買ったほうがいいのかな?」

沙織「ストーリーにつながりがありますので、まずは1からプレイしてみるのも一興かと。ただし先ほども申しましたが1はオーソドックスなRPGでござるよ?」

秋美「あいあいりょーかい~」

沙織「それと一つだけ注意点が。近年になりリメイクされたDS版の『エストポリス』なるものも存在しますが、こちらはなぜかアクションゲームとなっておりますのでスルーしたほうが無難だと思われます」

秋美「そうなの? 分かったよ! みんなありがとね!」






それからしばらくして。

秋美「もんのすっっっごく面白かった!」

沙織「然様でござるか。それでは拙者も注文してみますかな」

黒猫「私は本体が無いわ……。ハードは出来れば新品が欲しいけれど、異様に高額だから私では手が届かないわ」

桐乃「パチもんじゃダメ?」

黒猫「巫山戯た事を言わないで。非正規品に手を出すなど愚か者のする行為よ」

沙織「しかしスーパーファミコンの特許権や意匠権は既に切れておりますので、いわゆる互換機は法的になんら問題ない扱いになるでござるよ」

黒猫「沙織あなた、分かっていて言っているでしょう? ゲーマーならば純正品が欲しいに決まっているわ」

沙織「それはもちろん承知しております。しかしそうなりますと、後は中古を買うか拙者がクリアするのを待っていただいてお貸しするしかありませんが」

黒猫「クッ」

秋美「あらら瑠璃ちゃんかなり悩んでるね。それはそれとしてさ、エストすっごい面白かったよ! いにしえの洞窟とか超はまるし! 音楽もすごくいいからサントラ注文しちゃった!」

京介「プレミアついてるんじゃなかったのかよ。これだから勝ち組ニートは」

秋美「新品が定価で買えたよん?」

沙織「それはそれは。うらやましいかぎりでござる」



秋美「ふっふっふ、京介と違ってあたしはちゃんと情報収集してるからね! 美少女フィギュアを定価の二倍出して買うとかバカなことしないもん!」

あやせ「……京介さん、ちょっと今のことについて詳しく説明してもらえますか?」

京介「結婚前の話だからセーフだっ! 俺は無実だあー!!」





ちなみにこの話のオチは、

秋美「届いたサントラをよく見たらDS版のやつだった! これはこれでいいんだけどさっ」

だったとさ。







    終


こんばんは、以上となります。


ネタに困ったらすぐにこの手の話にしてしまうのは、どうにかしないといけませんね……。

それはともかく、幼少期にゲームブックもどきを毎日書きまくってたのを思い出しました。

双六や迷路、方眼紙にドラクエ風地図を描くなどは誰しも通る道ではないでしょうか?


それでは、また~。


 あやせ編 おまけ 京介争奪戦!



その日の我が家は朝から修羅場だった。

加奈子「がるるるるる!」

桐乃「きしゃあああっ!」

秋美「がお~~~!」

肉食系の三人が牙を剥き、

あやせ「そもそもわたしが一番最初に付き合っていたんですから、わたしこそ優先されるべきです」

黒猫「ハッ――順番で言えば京介と最も早く付き合ったのが私なのは紛れもない事実。寝惚けた事を言わないで」

麻奈実「でも順番で言うなら、きょうちゃんを一番長く知ってて一番分かりあえてるわたしだって負けてないよ?」

理性的な三人が静かな口調で自分こそが相応しいと主張し、

ブリジット「これだけは負けるわけにはいきません! わたしの誇りにかけても絶対勝ち取ってみせます!」

沙織「本日の拙者は調停者ではありません。栄光の未来のためにも必ずや我を通して見せましょうぞ」

普段は自己主張をあまりしない二人だって主張しまくってる。

なんでこんな事態になっちまったかと言うと、遡ることほんの少し――




秋美「今週も始まりました、お願いしちゃう! ランキングのコーナー! ドンドンパフパフ~」

歓声が沸き起こり、紙吹雪が舞い、口笛が囃し立てる。

ごめん嘘ついた。掃除当番に怒られるので紙吹雪はないな。

秋美「今日のテーマは~っ」

言葉を溜めながら全員を見渡した秋美が、満足したように続きを叫ぶ。

秋美「京介への愛情値ランキングだああああああっっ! 誰が一番彼氏を愛してるのか決めちゃうよっ!」

いやいやいや。またそんな荒れそうなネタをチョイスするとか、こいつほんとチャレンジャーだな



ブリジット「あの、やっぱりずっとガマンしてた反動がある分だけ、わたしが一番じゃないかなって思うんですけど」

黒猫「身の程を弁えなさい。私を差し置いて一番を宣言するなど周囲が見えていない何よりの証拠よ」

麻奈実「でもぉ、黒猫さんは一度きょうちゃんを振ってるわけだから、少しだけ愛想を尽かされていてもおかしくないよね? 自信を持って一番って言えるかなぁ?」

沙織「おやおや麻奈実殿にしては珍しく毒がありますな。拙者ならば安定しておりますので、平均値を取れば間違いなくトップを狙える位置にいると思うのですが」

桐乃「ふんっ、沙織は達観しすぎててどっちかってゆうと植物よね。木よ、木! そこへいくとあたしなんて妹なのに兄貴とエッチしてるわけだし、みんなとは覚悟の度合いが違うわ! 比較になんないわね!」

あやせ「桐乃、京介さんとの関係で言うなら、みんなは恋人だけどわたしは妻なんだよ? 社会的地位が確立されている分だけ揺るぎないものがあるんだから」

秋美「いつもはみんなを平等にってゆってるくせに、こんなときだけ奥さん風を吹かすなんて卑怯だよ! あたしなんて三年間会えなくてもずっと京介を想い続けてたし、京介に告白したのが一番早いのもあたしだし!」

加奈子「あたしみたいにライブで告白するとかさー、そのくらいやらねーと告白だけじゃ一番なんて言えねーな」

桐乃「でも加奈子だって秋美さんだってそのときは振られたわけじゃん? そこで一度あきらめてるんだし、それってその程度の想いだったってコトだよね~」


加奈子「おうコラ、聞き捨てならねーな。チャンスを狙ってただけで、あきらめたとか勝手に決めんなよ」

秋美「そうだよ! あたしだって会うたびにアプローチしてたし!」

黒猫「実を結ばなかった以上、それはただの徒労でしかないわ。私の様にしっかりと告白して受け入れられてこそ、想いが成就したと言えるわね」

ブリジット「でも聞けば、黒猫さんは自分勝手な願いで京介さんを振り回して、桐乃さんまで巻き込んで一騒動起こしたんですよね?」

あやせ「そうだね。桐乃の本音を引き出したいから京介さんと付き合って別れた、なんて酷すぎる。そこに真の愛があったなんてとても思えない」

沙織「愛の形は人それぞれですからどれが真実かなど誰にも分からないでござるよ? あやせ殿こそ京介氏を嫌いだと公言し、罵倒し、暴力を振るい、一方的に悪人に仕立て上げるなど、我々の中でも彼にした悪行は群を抜いているでござるよ」

麻奈実「そうだねぇ。普段の大人しいあやせちゃんの様子を見てると、きょうちゃんにはいきっくをしたとか、愛情の裏返しって言葉では補いきれないよぉ」

あやせ「そ、それはっ。可愛さ余って憎さ百倍ってやつです! 京介さんへの愛が大きすぎて、限界を越えてしまった部分が暴走しただけです!」

黒猫「私と京介は永遠の絆で繋がっているのよ。来世でもまた結ばれる運命にあるのだから、外野がとやかく口を挟まないで頂戴」

桐乃「あんたらなんてしょせん他人だしぃ~? 唯一の血縁者であるあたしとは立ち位置が全然違うんだから勝負にならないっつーの!」

ブリジット「付き合っていてもずっとガマンしないといけなかったわたしの気持ちなんて誰にも分かりません。越えてきた障害の大きさが違います」

沙織「何もできなかった槇島沙織の状態でも京介氏と腕を組んでデートが可能になったほどに、拙者の愛情は深く強いのですよ。おっと、これを皆さんが理解するのはそれこそ不可能でしたかな?」

加奈子「ケッ。自分を慕ってくれる大勢のファンの前でオメーら告白できんのかよ。無理だろ? あたしにはそれができるんだな。あとのことなんてどーだっていい、ただ京介が欲しい、それだけなんだヨ」

麻奈実「今までに何度も言ってるけど、わたしときょうちゃんの関係はずうっと小さいころから始まってるんだよ。成長して思春期を過ごして、それでもわたしたちはずっと一緒だったんだよ? これがどういう意味かは、さすがにみんな分かるよね」

秋美「不登校児だったあたしを引っ張り出してくれた京介は紛れもないヒーローだったよ! あのとき見た、超いー景色と感動、最っっ高の気分なんて誰にも分かんないよね! あの原風景こそが、すべての始まりだったんだから!」




どうしたもんかねえ、これ。

こうなると俺が制止したって届かないのは今までの経験から分かってる。

みんな全力でいかに俺への愛が強いかを訴えてるんだけど、いつもの仲の良さが嘘みたいに険悪な空気に包まれているから、嬉しさよりも困惑のほうが強い。

最初に荒れそうって思ったのは俺の勘違いだった。ここまでくると完全に喧嘩だよ。

胃薬あったっけなぁ……。





そして冒頭に戻るわけだ。

こいつらスイッチが入ると際限なくエスカレートしていくからどっかで止めないといけないんだが……。

いつもなら仲裁役に回る沙織と麻奈実のツートップまで瞳の中に炎を宿らせてるし。

俺が一喝すればいったんこの場は収まるだろうけどさ、どうせなら思っていることを全部吐き出してもらうか?

そのほうが後々にまで良好な関係を続けていける気がする。

ふむ、いずれにしても、もう少しだけ様子を見てみよう。




あやせ「京介さん! 京介さんの主観で構いませんので、あなたへの愛情が一番多いと感じるのは誰か答えてもらえませんか!?」

京介「みんな同じだよ」

へっ、俺に質問してくるパターンはとっくに予測していたぜ!

うかつな返事をしたらまた言葉尻を捉えられて追及されるだけなので、簡潔に面白みのない回答をする。

沙織「そのようなおためごかしはいらないでござるよ。京介氏の想いを正直に教えて欲しいのです。でなければこのままでは収拾がつきません」

京介「だからみんな等しく俺を愛してくれている。俺にとってはな」

加奈子「ケッ、こんなフニャチンヤローはほっといてあたしらで決めればいいだろ?」

ブリジット「京介さんのはとっても硬くて立派だよ! ふにゃ……じゃないから! 訂正して!」

秋美「ブリジットちゃん、それはみんな知ってるからわざわざ指摘する必要ないって!」

桐乃「ヘタレた京介はもういいよ。それじゃ誰か一番こいつを愛しているか、みんなでとっておきのエピソードを披露しましょ!」

麻奈実「一番素敵な思い出を語ればいいんだね? うん、分かったよぉ」

黒猫「フ――あなたたちが無謀にも勝負を挑んだ相手がいかに強大で比類なき者であるか、魂の髄まで理解させてあげるわ」」

そして順番に俺の恥ずかしい過去を暴露する会が始まった。




みんなにとってのそれは、とても大事な想い出なんだろう。

ある子は自慢げに、ある子は勿体を付けて、またある子は楽しそうに、恥ずかしそうに話していく。

ああ、俺ってこんなにもみんなから愛されているんだなあ。マジで感涙もんだ。

さっきまでの緊迫した雰囲気はどこへ消えたのか、今はそれぞれが初めて聞くそれぞれの逸話にジッと耳を傾けている。

俺は少し離れた場所からそんな環を眺めつつ、静かに湯呑みを口に運んだ。

京介「ふう、今日もお茶がうまい」





んで、結局夜になるまで討論していたけど決着はつかなかったみたいで。

秋美「次は第二回! 誰が一番京介を愛しているかエピソードを発表する会、をやっちゃうよ!」

京介「趣旨が変わってんじゃねえか……」

二回目には日向ちゃんと珠希ちゃんも加わり、ますます混沌とした場になったという。







    終


おはようございます、以上となります。


あまり引っ張るネタでもないので短く切り上げました。

ところで、現在全く新しい話を書いているのですが、新スレを立ててもいいものなのか悩んでいます。

一人で複数のスレを立てることが問題になるようであれば、このスレは一応本編を終わらせていますのでhtml化依頼を出してその後に、という流れも検討しています。


それでは、また~。

2スレ同時進行とか普通に見るし今もいくつかあるはず

>>439,441
情報ありがとうございます。参考にさせていただきます


 あやせ編 おまけ 導かれない者たち



秋美「もしもの話でもしようよ!」

京介「テーマはなんだ?」

秋美「もしも京介と出会ってなかったら!」

桐乃「それってあたしの存在はどうなってるの」

麻奈実「わたしも同い年で家が近所だし無理があるよぉ」

黒猫「仮定の話なのだからそこは適当で良いのではないかしら? 例えばそう――桐乃は産まれていない、とか」

桐乃「ちょ」

ブリジット「黒猫さんが悪い顔をしてます……」

京介「なるほど、俺は一人っ子なのか」

加奈子「つーか、桐乃がいなかったらあたしもあやせも京介と接点がねーだろ」

沙織「拙者と黒猫氏もですな」

日向「ルリ姉が高坂くんと知り合いじゃないなら、あたしとたまちゃんなんて絶対無理だよー」

あやせ「そんな中で、家が近いわたしは京介さんと運命的な出会いを果たして、やがて結ばれるわけですね」

桐乃「んな都合のいい展開そうそうあるかっつーの!」


黒猫「家の近さで語るのならば、私だって松戸に引っ越す以前は結構近所だったわよ」

加奈子「ならあたしだって同じ学区内だったし、桐乃にカンケーなく京介と出会ってた可能性があんべ?」

沙織「拙者だけ遠いので不利でござるな」

麻奈実「だから、一番近いのはわたしなんだよ~?」

秋美「ちょっとちょっと、もしも京介と出会ってなかったら、だよ? どう出会うか、じゃないからね!」

ブリジット「それって、京介さんと会わないまま成長していたらどうなっていたか、というパターンを想像すればいいんですか?」

秋美「そんな感じ!」

加奈子「あたしが事務所に入るきっかけになったのは桐乃由来のあやせだけど、そこに京介が関与していたことを考えると、あたしは芸能活動ができていない可能性があるのか?」

ブリジット「それだとかなかなちゃんはメルルをやらないから、わたしとも面識を持たないままになっちゃうね」

加奈子「ブリジットは京介がいてもいなくても変わらずタレント活動を続けて、そのうちどっかの事務所に所属してるんだろーな」

あやせ「桐乃のことがなかったらわたしが加奈子を事務所に紹介する未来もなかったのかなぁ」

加奈子「ケッ、あたしほどの実力者を放っておくなんて見る目がない連中だぜ」

桐乃「あんたの場合は実力うんぬんよりも素行の悪さが問題でしょーが」

秋美「ふむふむ。ブリジットちゃんは特に変わらず。かなちゃんはアイドルになれてたかどうかの瀬戸際ってところかー」


ブリジット「特に変化なしというのは、それはそれで寂しいですね」

珠希「それだけ確かなものを備えている、ということなんですね」

京介「逆に言うと俺の存在はブリジットに大した影響を与えてない、と」

ブリジット「そんなことはありません! 影響ありまくりです!」

秋美「男を知ったブリジットちゃんは艶のある演技ができるようになったってことでひとつ!」

ブリジット「えっと……そ、そんな感じで……」

桐乃「それって相手が京介じゃなくてもいいような気がするんだケド」

ブリジット「京介さん以外の人に身体を許すことはありませんから、その時はずっと清いままです!」

秋美「まあまあ、もしもの話なんだし! キリがないから次いこう、次!」

沙織「ふむ。京介氏の後押しがなければきりりん氏が『オタクっ娘あつまれー』のオフ会に参加することはなかったでしょうな」

黒猫「オフ会の過程で私は沙織と知り合っていたでしょうけれども、今のような間柄になれていたかは疑問だわね」

沙織「それはつまり、きりりん氏あるいは京介氏がいなければ、拙者は黒猫氏の友達足りえないと?」

黒猫「そ、そんな事は言っていないわ。曲解しないで頂戴」

沙織「……日向殿、黒猫氏はご実家で拙者のことを口にされたことはありますかな?」

日向「うーん、あったかなあ。たまちゃん聞いたことある?」


珠希「ええと――」

黒猫「……」

珠希「――ある、はずです」

京介「黒猫、後ろから無言のプレッシャーを妹たちに与えるのはやめておけって」

黒猫「でも」

沙織「やはり拙者の存在は黒猫氏にとってその程度、ということなのですな。いつぞやの『理想の未来図』でも拙者だけハブられておりましたし」

桐乃「まだあのネタ気にしてたのね……」

沙織「それは当然でござるよ。拙者はこんなにも皆さんを大事にしているというのに、黒猫氏は京介氏ときりりん氏だけが大事だという。悲しいことです」

黒猫「フン、私はそこまで冷酷な者だと思われていたのかしら? ここの生活は私にとって何よりも大切なものよ。勿論あなたもそこに含まれている事を忘れてはいけないわ」

沙織「ほうほうっ。それはつまり、拙者も黒猫氏の家族であると認めてくださっているのですかな?」

黒猫「ええそうよ。あなたは大切な家族の一員であり、大切な……でもあるわ」

沙織「聞こえなかったので大きな声でもう一度!」

加奈子「なんかウゼー」

京介「そう言ってやるなって。沙織にだって不安に思う部分はあるんだろうからさ」


秋美「とりあえずイチャついてる瑠璃ちゃんとさおりんは放っておこうか! 次は誰かな~?」

桐乃「ねえ、秋美さん自身はどうなの?」

秋美「え、あたし? うーん……例えば中学の時に京介がうちに来ても会わないで、ゲーセンにも来てなかったら……」

麻奈実「あの頃のきょうちゃんはとってもしつこかったから、秋美さんと会えるまでお家に通ってたと思うよ?」

秋美「あ~、それもそうだね」

京介「誰が粘着質のストーカーだ」

あやせ「そこまでは言ってないのでは」

秋美「いやいや、ある意味ストーカー以上だったね! っとなるとクラスが違わないといずれ会ってしまうのかー」

桐乃「どうせ適当設定なんだし、会わない前提で考えればいいじゃん?」

秋美「確かにそうだね! だったらあたしは京介と会わないまま中学を卒業して、どっか別の高校に進みそのまま引きこもって終わりかな?」

珠希「なんの発展性もありません」

秋美「ふふーん! それがあたしだからね!」

京介「おまえは小学生相手に何を得意気に語っているんだ」


秋美「気にしない気にしない! じゃあ次は奥さんいってみよーか!」

あやせ「そうですね……。桐乃がいない、京介さんとも出会っていないとなれば――」

黒猫「病む要素がどこにも無いわね」

沙織「健全に成長して、普通に恋愛しているのでは?」

あやせ「うううん……。京介さんと出会っていない世界で、わたしが誰か別の人を好きになっていた可能性があるのかなぁ」

加奈子「最初からモデルやってたんだし、テキトーなイケメンに声をかけられてほいほい付いていくとか?」

あやせ「加奈子はわたしをそんな軽い女だと思っていたの?」

加奈子「思ってないけどよー。なんかだまされそうなイメージが」

桐乃「でもあやせが潔癖なのは元からだし、男なんて! って感じでバリアー張ってそう」

京介「桐乃にご執心だったことから考えても、あやせはレズっ気がなあ」

あやせ「なんですかそれっ。わたしから京介さんに告白したんですよ? 人を勝手に同性愛者にしないでください!」

ブリジット「つまりバイセクシャルだったんですね」

あやせ「ブリジットちゃんまで!」

ブリジット「ご、ごめんなさい」

加奈子「おいこら、ブリジットに当たるんじゃねーよ」


麻奈実「みんな落ち着いて~。あやせちゃんは真面目な子だから、きっと真面目な恋愛をしているよぉ」

桐乃「まー、あやせは京介が相手でも結婚するまでエッチはダメって言ってたくらいだし、誰が相手でも同じだよね」

加奈子「実際はデキ婚だけどなw」

京介「そうだなぁ。妊娠を報告した時はうちの親父とあやせの親父さんに殺されるかと思ったぜ」

桐乃「最初に妊娠したのがあたしだったらどうなってたのかな?」

日向「彼女が大勢いる中で妹を真っ先に妊娠させるなんて鬼畜すぎるよー」

京介「仮定の話なのに勝手に鬼畜扱いしないでくれませんかね……」

黒猫「実の妹に手を出している時点でもう手遅れだわ」

麻奈実「彼女が複数いるというだけでも駄目なんだけどね」

沙織「まあまあ、それについては今さら蒸し返すようなことでもないでしょう」

加奈子「今の関係に嫌気が差した時は出ていきゃいーんだよ。あたしは死ぬまで京介と一緒だけどな」

ブリジット「わたしだって二十歳になったら永住権を得る資格を満たすから、許可をもらってずっと一緒に暮らすもん! いざとなったら帰化だってするし!」

黒猫「私も田村先輩も、もはや今の状況を止めるつもりなど無いわ。先走らないで頂戴」

麻奈実「そうだねぇ。ぶりじっとちゃんが永住許可をもらうのはいいことだと思うけど、それはそれとして、みんな仲良く、だよ?」

加奈子「うっす」


秋美「話を戻すと、桐乃ちゃんが妊娠しても結婚は無理なんだし、当初の話し合い通り父親不明でシングルマザーになるのは変わらないかなっ」

桐乃「デスヨネー」


秋美「んじゃこの流れで桐乃ちゃんが京介と出会わなかったパターンいっちゃおう! ……どうなるの?」

桐乃「まずあたしはどこの家の子なのかって話よね」

あやせ「ドラマチックに攻めるのなら、幼い頃によその家に引き取られたまま互いの存在を知らずに育てられている、とか?」

麻奈実「いわおの代わりにうちの娘として産まれていた、とか~」

京介「ロックの存在が抹消された……」

黒猫「ふんわりとした設定で通すのならば、実際と似たような境遇で育って、陸上、モデル、小説などをこなす隠れオタクになっているのではないかしら?」

桐乃「それはどうかなぁ? あたしがあたしになったのはかなり京介の影響が強いし、京介がいなかったら全然違う高坂桐乃になっていたと思う」

加奈子「おしとやかな桐乃とかか? ありえねー」

沙織「そこを難しく考える必要はないでござるよ。あくまで今のきりりん氏として、京介氏がいない場合を想像してみれば良いのでは?」

あやせ「わたしや加奈子とクラスメートなのは変わらないだろうから、きっとどんな世界でも仲良しだよね!」

黒猫「逆に、私や沙織とは面識を持たないままの可能性が極めて高いわね」

麻奈実「わたしは近所のお姉さんかな~」

秋美「桐乃ちゃんがオタク趣味を隠したまま生きていくなら、あたしと会うことはなさそーだね!」

ブリジット「わたしとも会うことはなさそうですね」

珠希「わたしとおねえちゃんもですね」


日向「あれ、キリ姉って案外友達少ない?」

桐乃「なっ!? めっちゃ多いっての! 単にここにいるみんな京介絡みだからそう見えるだけだっての!」

あやせ「中学高校時代の桐乃はクラスの中心人物だったからいつも周りに友達が大勢いたよ? よこしまな輩はわたしが追い払っていたけど」

京介「やっぱレズっ気が」

あやせ「何か?」

京介「いえ、なんでもありません」

黒猫「高校まではあやせガードがあるので問題ないでしょうけれど、大学は離れるから、そうなると桐乃は適当な男に引っ掛かりそうね」

加奈子「いつまでも処女なんて恥ずかしい、とか思ってそうだよなー」

桐乃「ふん、あたしの理想は高いんだからそんじょそこらの男じゃ無理ね! だいたいあたしはそんな尻軽じゃないわよ!」

日向「理想を求めた結果が高坂くんなんだ……」

京介「日向ちゃん何気にひどいな」

日向「にゃはは、いつもあたしをいじめているお返しだもんね~」

沙織「実際問題として、兄妹でなければ京介氏がきりりん氏の目にとまることはなさそうですな」

桐乃「それは、まあ、うん。そうかも、ね?」

京介「そこは否定しとけよ! 俺は兄だからおまえの彼氏になれたのかよ!?」

桐乃「うん」

京介「あっさり認めやがって。俺泣くぞ!?」


ブリジット「それって、実の兄じゃないと恋人にはなれないってことですよね」

日向「キリ姉あいかわらずレベルたっけぇ!」

加奈子「あたしの京介への第一印象もあんま良くなかったしな。桐乃の兄貴にしちゃ冴えないやつって感じ?」

黒猫「私も……似たようなものかしら。正直に告白すると、初対面の時点では眼中に無かったわね」

日向「あたしもあたしも! ルリ姉がすっごい素敵な人だってゆーからさあ、期待してたら、あれ? って感じで!」

珠希「おにぃちゃんがリビングの隅っこで泣いてますよ」

麻奈実「そっかぁ。みんな桐乃ちゃんとの関係の中できょうちゃんのいい所を知っていった流れなんだねぇ」

秋美「違うのは自分だけって言いたげだね! でもあたしだって桐乃ちゃんはほとんど関与してないんだよ? とゆーわけで最後に麻奈実ちゃんどーぞ!」

麻奈実「う~ん。きょうちゃんと出会ってないわたしかぁ~」

あやせ「お姉さんはどちらかと言えば京介さんに影響を与えた側になるでしょうから、京介さんがいてもいなくても変わりはなさそうですよね」

桐乃「でも麻奈実さんがいなかったら京介の性格は今みたいになってないと思うから、あたしを含めたみんなとの関係は随分変わってたんだろうなー」

加奈子「へぇ、そーなんか?」

麻奈実「……」

京介「ま、まあ、俺は昔っから麻奈実の世話になりっぱなしだったからな! だから大なり小なり影響は受けてるさ! なあ!?」

麻奈実「……うん、そうだね」

黒猫「今でも世話してもらっているでしょう。全然変わっていないという事ね」


秋美「麻奈実ちゃんがいなかった場合の京介がどんなコだったかは気になるけど、今は逆だよ、逆! 京介がいない場合の麻奈実ちゃん!」

京介「のんびりと成長して、おっとりと家業を継いで、ふんわりと誰かと結婚して、ぼんやりと余生を過ごしてるんじゃないかな」

沙織「なるほど。麻奈実殿らしい」

京介「麻奈実は懐が深いから、どんな男が相手でも受け入れることができるだろうさ。反対に黒猫は誰が相手でも成り立たないような気がする」

黒猫「フッ、私とあなたは魂で結ばれているのよ? 例えどの様な世界線であろうとも必ず私たちは出会い、そして共に生きていく道を歩む事になるでしょう。それが運命なのだから」

桐乃「はいはい、言ってなさい」

沙織「拙者は親に逆らうことなく、適当にあてがわれた見合い相手と結婚しているのでしょうなあ」

日向「あたしは本当なら同じガッコの男子とかと付き合ってるんだろうな~」

秋美「あたしは親が手放してくれそうにないから、おばさんになってもスネかじってそう!」

あやせ「それはどうなんでしょう……」

加奈子「あたしはトーゼン金持ちの男をゲットして玉の輿だぜ!」

京介「甲斐性がなくて悪かったな」

加奈子「んだヨ、実際はこうして京介とラブラブなんだから気にすんなってー」

ブリジット「そうですよ、これはもしもの話なんですから。わたしは京介さんがいなければ男の人のエッチな視線が怖くて男性恐怖症になってたかもしれませんね」

日向「大丈夫じゃない? ブリジットってけっこう図太いし、たぶん気にしなくなってるよ」

ブリジット「ひ~な~た~?」

日向「うひゃ、高坂くんガードガード!」


京介「はいはい。……しかしあれだな、俺じゃない誰かと交際してたり結婚してるかもしれないって、例え話でもキツイもんがあるな」

あやせ「心配しないでください。わたしたちは運命によって導かれたんですから、きっとどんな世界であっても出会い、そして結ばれてます!」

桐乃「どうかなぁ。ヤンデレっぷりが爆発して京介にひどいコトをしてる世界だってあるかも?」

あやせ「もー、ひどいよ桐乃。わたしが京介さんにひどいことをするはずないでしょ?」

加奈子「おお、ぬけぬけと言い切りやがったぞこいつ」

珠希「自らの内に眠る強大な力に未だ気付いていないのですね」

麻奈実「ほら、あやせちゃんって本当はとても優しい子だから」

黒猫「そうね。京介と桐乃が関わらなければ、という条件付きだけれどもね」

秋美「ま、ま! たらればの話なんだからあんまり深刻にならないでいこーよ!」

桐乃「そーそー。現実はこうやって美少女を十人もはべらせてるハーレムマスターなんだから、もう人生勝ったも同然じゃない」

黒猫「勝ちと判断するには早すぎるわね。今際の際に『幸せな人生だった』と言い残したのならば、それを認めてあげましょう」

京介「へっ、随分と先の長い話だな」

黒猫「きちんと私が見届けてあげるから安心しなさい。今世での生を全うした後は、二人で霊体となり悠久の時を旅すると決定しているのだから」

沙織「京介氏と同時に臨終を迎えるというのは、ある種の理想でござるな」

加奈子「おいおい、あたしと京介はあと八十年一緒に生きるって約束してんだぜ? オメーら全員先にくたばってるって」

麻奈実「加奈子ちゃん、そこは対抗意識を出す場面じゃないと思うよぉ」


珠希「年齢を考えるとわたしが一番最後まで残っているのではないでしょうか」

桐乃「てゆーか、男女の平均寿命を考えると、どうやっても京介が先に逝っちゃうよねー」

ブリジット「だ、ダメですっ。せめてわたしより後にしてください!」

あやせ「わたしも未亡人にはなりたくないです」

京介「そうだな、頑張って長生きするよ。食事面では問題ないから、後は運動か?」

加奈子「エッチってすげー体力使うじゃん? だから京介の体力は問題ないと思うけどなー」

秋美「抱き上げられてる時とか大変そうだもんね! ゆっとくけどあたしが重いってわけじゃないよ!?」

沙織「むむぅ。拙者の体格ではあまり……できないでござるよ」

加奈子「ひひ、いっちゃん体重が軽いあたしのドクダンジョーだな!」

珠希「それでしたらわたしはどうでしょうか?」

黒猫「駄目に決まっているでしょう。最近急に色気づいた発言ばかりするようになって、とても教育に良くないわね」

麻奈実「珠希ちゃんのことは後で話し合うとして、えっちをたくさんする男性は長生きしやすいって話があるみたいだよ」

桐乃「へぇ、そうなんだ。だったら京介は安心だね!」

ブリジット「つまり遠慮せずに連続して求めてもいいってことですね!」

京介「……おまえらは日を置いてるからいいだろうけど、連日だと俺がもたんわ」


あやせ「そこは彼女を増やしすぎた京介さんが負うべき責務です。わたしたちは早くても九日に一回しかあなたを独占できないんですからね」

桐乃「そうそう。こっちはずっとガマンしてた分をドッカーンってぶつけてるんだから、彼氏はちゃんと受け止めてくんないとねっ」

京介「は、そうだな。せいぜい不満を抱かれないように頑張るよ」

麻奈実「きょうちゃんのご飯だけ、もっと精が付くような物に変えたほうがいいのかなぁ?」

黒猫「ええ。後でメニューを練り直しましょう」

沙織「実に至れり尽くせりですな」

日向「いや~、高坂くん下手に死ねないね」

京介「病気と事故だけはどうにもならないけどな」

あやせ「健全な精神と肉体を保っていれば病気になんてそうそうなりません。事故は考えるだけ無駄でしょう」

ブリジット「居眠り運転だけは絶対ダメですけどね」

京介「ブリジットが早く寝させてくれたら寝不足にはならないんだけどなあ」

ブリジット「そ、それはそれ! これはこれ! です!」

黒猫「……恵まれた身体と就労によって鍛えられた体力。侮れないわね、ブリジット」

桐乃「運動能力とスタミナならあたしが勝ってると思うんだケドなー」

加奈子「普段からダンスレッスンを欠かしてないあたしだって大したもんだと思うぜ?」

沙織「そう言えば、こちらに越してきてからサバゲーをやってないでござるな」

麻奈実「わたしも立ち仕事は多いけど体力にはあんまり自信ないかなぁ」

あやせ「わたしは今運動が制限されてますから……」


日向「あやせさんはしょうがないですよー。キリ姉やブリジットみたいな特殊な人を除けば、後はみなさん同じようなものじゃないかなぁ?」

黒猫「フ、一人だけ例外がいるわよ。普段から身体を動かすことなくゴロゴロとだらけきった生活を送っている誰かさんだけ、ね」

秋美「ぐ、なんだか雲行きが怪しくなってきた?」

麻奈実「秋美さん、運動不足は健康に良くないから、何かしたほうがいいと思うよ?」

秋美「か、考えておくっ! さーて、当初のテーマからズレまくってるからここらでまとめちゃおう!」

麻奈実「もぉ~」

秋美「結論! 京介と出会ってない場合なんて想像できないから、考えるだけ無駄っ!」

京介「長々と引っ張っておいてそれかよ!」

桐乃「いいじゃんいいじゃん。どんな運命のいたずらか、今こうしてここにみんな集まっているんだからそれが全てだって!」

あやせ「どんな仮定のお話であっても、わたしは京介さんのお傍にずっといますから問題ないです」

加奈子「まーたあやせが自分だけ売り込んでる」

沙織「あやせ殿のあれは、もはや本能のようなものではないかと」

黒猫「無駄な足掻きを。京介は私の半身だと何度も言っているのに、まだ理解出来ていないのね」

珠希「数多ある平行世界の中では、わたしとおにぃちゃんがお付き合いしている世界だってきっとあります」

日向「高坂くん小学生を恋人にするとかマジ鬼畜だね!」

京介「だから仮定の話を受けて人を鬼畜呼ばわりするなっての!」



とまあ、こんな感じで変わらない日々を過ごしているかな?







    終


こんばんは、以上となります。


少し時間が取れたので生存報告とリハビリを兼ねて書いてみました。

キャラの性格と口調を思い出しながらの作業だったんですけど、いかがだったでしょうか?

そう言えばねんどろいどあやせだけじゃ寂しかったので、この期間中に桐乃と黒猫を買い足して少しだけ賑やかになりました。


それでは、また~。


 あやせ編 おまけ あたしたちの彼氏がこんなに  なわけがない



月曜日:高坂桐乃の日

桐乃「今日はいつもと気分を変えてちょっと遠くまで出かけない? 実はもうホテルを取ってあるんだ」

京介「ああ、どこへでも付き合うぜ」

桐乃「前回は仕事が控えててあんま時間なかったし、今日は朝までヨロシクね!」

京介「へっ、任せとけ!」

桐乃「たっぷり溜めてきたし、何回ヤれるかギネスに挑戦よっ!」

京介「何を溜めてるんだろう?」



火曜日:五更瑠璃の日

黒猫「今日は……お願いしても良いかしら?」

京介「いいのか? おまえ最近コミケの原稿にかかりきりだったろ」

黒猫「コミケは年に二回もあるのよ? あなたとの逢瀬はどんなに多くても二週間に一度程度だわ。どちらを優先すべきかは明白でしょう?」

京介「そっか、ありがとな」

黒猫「その、実は眼鏡を持ってきたのよ。だから――」

京介「うおお! みなぎってきた!!」



水曜日:来栖加奈子の日

加奈子「京介ぇー! 新しいスペシャルエッチを考えたから試そうぜー!」

京介「これで第何弾だよ」

加奈子「なんだヨ、べっつにいいだろー? これだ、ってのが中々ないんだしよー」

京介「大抵は既に存在する体位だしな。そんな簡単に新しいものなんか開発できないって」

加奈子「へっへっ、今度のは一味違うかんな。まずあたしが逆立ちするから足を持ってくれ。そんでそのまま――」

京介「お、おう……」



木曜日:槇島沙織の日

沙織「今日は朝からお疲れのご様子ですな。さては昨晩加奈子殿と相当にハッスルされましたかな?」

京介「あー、大丈夫だって。ちょっと慣れない体勢を取らされてさ」

沙織「ほほう、それは何とも興味がそそられます。差し支えなければ参考までにどのような行為であったのかを事細かく教えてはくださいませんか」

京介「はは、あれは沙織じゃ無理だって。俺が潰れちまう」

沙織「…………そうでござるか。では拙者は拙者なりのやり方で京介氏を押し潰しましょう」

京介「あれ? えっと、沙織、さん?」



金曜日:田村麻奈実の日

麻奈実「きょうちゃん大丈夫~? 今晩はもう寝ちゃう?」

京介「正直ちょっと辛いが、おまえは前回もそう言って休ませてくれたろ」

麻奈実「それは、うん。でもわたしはきょうちゃんの身体を大事にしたいから」

京介「ありがとうな。ただ俺はそんな麻奈実だから抱きたい」

麻奈実「随分すとれーとだね。そう言ってもらえてとっても嬉しい。だけど無理はしないでね?」

京介「ああ、明日に影響が出ないように注意するよ」



土曜日

あやせ「京介さん、今日はうちの両親と一緒に夕食をとる約束でしたよね?」

京介「そうだな」

あやせ「お父さんは良く分からない名前のお酒を用意して待っているそうですよ?」

京介「そうか。あんまりお酒を飲みそうなイメージじゃないのにな」

あやせ「お母さんはPTAの奥様方に習ったようで、今の若い男性向けの料理を作るみたいです」

京介「それは期待できそうだ」

あやせ「だからもっとシャンとしてください。なんだか目が濁ってますよ」

京介「悪い、時間までには何とかするよ……」



日曜日

珠希「おにぃちゃんと二人きりでのデートって初めてじゃないでしょうか」

京介「あれ、そうだっけ? って、確かにいつもは黒猫か日向ちゃんがいるもんな」

珠希「はい。今日は姉さまもおねえちゃんも急用ができたので、わたしとしてはラッキーです」

京介「ははは、なら俺もラッキーだな。こんな可愛い子とデートできるチャンスなんて中々ないぞ」

珠希「……今日のうちにあわよくば……」

京介「ん? 悪い、人が多いから良く聞き取れなかったよ。公園だと騒がしいからどこか別の場所に移動するか?」

珠希「それでしたら」

??「ちょっと君たち、いいかな?」



月曜日:ブリジット・エヴァンスの日

ブリジット「昨日は災難でしたね。でも、もし京介さんに何かあっても事務所と大使館に相談して何とかしますから安心してください!」

京介「前者はともかく後者は大仰すぎるからやめて欲しいかな。ま、前科者になるのは免れたから結果オーライさ」

ブリジット「五更のご両親に事前の連絡をしておいて本当に正解でしたよね」

京介「マジで通報とかされるんだな。勉強になった。んでさ、そんな訳だから今日は――」

ブリジット「はい、任せてください! 昨日の疲れを吹き飛ばすくらいわたしがサービスしちゃいます!」

京介「いや、ちがっあーーれーー」



火曜日:櫻井秋美の日

秋美「あたし思ったんだけど、前回のあたしの番は先々週の水曜日。丸二週間待ったわけだよ」

京介「ああ、そうだな」

秋美「今さら彼女の数を減らすなんて無理だけどさ、二週間に一度って長すぎるからさ、ここは一つ!」

京介「却下だ」

秋美「午前と午後で……ってまだ言ってないのに! もーいいよ! 折角今日はセーブしようと思ってたのに、フルパワーでいくからね!」

京介「俺の彼女は肉食系ばかりだな……」



水曜日:五更日向の日

日向「やー、やっとあたしの日かぁ。めちゃくちゃ待ったよ、長すぎるよ!」

京介「ははは」

日向「さわやかに笑ったってごまかされないよ。はぁ~、なんでこんな変態を好きになっちゃったんだろ」

京介「本当になぁ。俺みたいな男のどこがいいのやら」

日向「そりゃ素敵なところもたくさんあるからじゃない? 優しくてカッコ良くてピンチを助けてくれて」

京介「日向ちゃん……」

日向「あと、その、エッチも上手? だし? 他の人を知らないから比較できないけど。だから、あの……」

京介「ははは、日向ちゃんは誘い方がまだまだ下手っぴだな。ほら、こっちにおいで」



木曜日:新垣あやせの日

あやせ「京介さん、今日はどうしますか? 既に妊娠後期に入ってますから挿入はダメですけど、その、他のことでしたら」





それから――

桐乃「今日はさ、ちょっといつもとは違う下着にしてみたんだ。どうこれイケてない? チョーかわいいっしょ?」

黒猫「その、濡れ場に真実味を持たせるためには筆者自身の体験が必要なのよ。だから、あの」

加奈子「前のはイマイチだったから、今日はもっと気持ち良くなれそうなやつを試そうぜ!」

沙織「おや、珠希殿をかどわかそうとしていたロリ介氏ではありませんか。え? いえ、別にもう怒ってはおりませんよ?」

麻奈実「ごめんねぇ、今日はどうしても実家のお手伝いをしないといけないんだ。帰ったら膝枕してあげるからそれまでいい子にしててね?」

ブリジット「え、今日はエッチなし、ですか? …………分かりました…………。え、やっぱりする? やったあ! 京介さん大好きです!」

秋美「京介の台も用意したから今日は朝までFPSだよ! あたしたち黄金コンビで全国の強豪をバッタバッタと薙ぎ倒すからね!」

日向「えっと、今日は前の続きがいいかな、なんて。あれさ、ちょっと、ちょっとだけね? その、良かったかも、なんて」

珠希「外は危険だと分かりましたので、今度からは屋内デートにしましょう。幸い近くに車で入れる素敵なお城があるみたいなので、そこなら――絶対ダメ? そうですか……」



そして土曜

あやせ「京介さん遅いね」

桐乃「そだね。あんま寝坊しないのに」

黒猫「たまの週末なのだからゆっくり寝かせてあげましょう。最近はずっと疲れ気味の様子だったもの」

加奈子「そー思うなら猫の日は休ませてやればいいじゃんかよー」

沙織「一番体力を消耗させてそうな加奈子殿がそれをおっしゃいますか」

麻奈実「結局膝枕できなかったから、今度はちゃんとしないと」

ブリジット「でしたらわたしはおっぱい枕でもしてあげようと思います」

秋美「くぅ、あたしにしかない武器が欲しい! できればおっきいおっぱいも欲しい!」

日向「ないものはしょうがないんですよ……。あたしだって……」

珠希「わたしにはまだ可能性がある、はずです」

黒猫「毎度の事だけれども私を見ながらそれを語るのはやめて頂戴」

桐乃「黒猫はいま以上の成長はありえないし、ひなちゃんも実際のとこギリだと思う。たまちゃんはまだまだ成長の余地があるから分かんないね」

沙織「そうでござるな。珠希殿はこれからの努力次第であるいは」

ブリジット「そうですね。珠希ちゃん大丈夫だよ、遺伝よりも本人の努力だからがんばって!」

麻奈実「それにきょうちゃんは小さいおっぱいも好きだから大丈夫だよぉ」

黒猫・加奈子・秋美・日向『……』

あやせ「わたしはボーダーラインかなぁ」

珠希「がんばります!」




加奈子「なーあやせ、妊娠したらおっぱいでかくなるってゆーじゃん? でかくなった?」

あやせ「妊娠前と比べたら1カップ大きくなってるよ。だから今はDだけど出産後は多分Eになってると思う」

秋美「えっ、本当!?」

あやせ「はい。個人差があるけど大体2カップ大きくなるんだそうです。EカップならGになる、みたいに」

黒猫「……そう。そうなのね」

桐乃「てか、一緒に暮らしてるのにあやせの体型の変化に気付いてなかったの? あんたら無頓着すぎんでしょ」

加奈子「つっても、京介のち……アレの大きさなら分かるけど、他の女のおっぱいなんてどうでもいいし」

桐乃「先に聞いたのは加奈子でしょーが。でもそうね、だったらあたしが妊娠したら産む頃にはFカップ? うひひ」

麻奈実「でも、それって永続的なものじゃないよ?」

沙織「でござるな。授乳が終わると普通は元の大きさに戻るでござる」

日向「えー。期待して損した」

あやせ「それどころか、元々胸が大きかった人は小さくなる場合もあるんだって」

桐乃「え゜」

麻奈実「そうなんだぁ。それは知らなかったよ」

ブリジット「わたしも初耳です」



秋美「今、Dカップ以上連合の全員に胸がしぼむ呪いをかけた。解きたければワッフルワッフルと書きこむよーに」

桐乃「ワッフルワッフル!!」

黒猫「クク……必死になって。惨めなものね」

日向「あー、ワッフル食べたくなってきちゃった。ねえたまちゃん、後で買いにいかない? あれ? たまちゃん?」

あやせ「はっ! またこっそりと京介さんの寝込みを襲いにいったんじゃ!?」

加奈子「あのガキ! 京介のアレはあたしのもんだ!」

沙織「いやいや、全員の共有財産でござるよ?」

桐乃「言ってないで止めにいくよ!」

ブリジット「あ、でも珠希ちゃん戻ってきましたよ」

黒猫「……珠希、京介の部屋に行っていたの?」

珠希「はい。でも」

加奈子「変なことしてねーだろうな? オメーにはまだ早いぞ」

珠希「それが……。部屋におにぃちゃんがいなくて、机の上にこれが……」

あやせ「メモ用紙? ええっと」




『精根尽き果てました。探さないでください。 高坂京介』



あやせ「……これって」

麻奈実「家出、かなぁ?」

桐乃「ちょっと読ませて! ……あたし部屋見てくるっ!」

麻奈実「あ、じゃあわたしも一緒に行くよ~」

黒猫「なぜ今更? 何年間も似たような生活を続けていたというのに」

沙織「ロリ介氏と呼んだのはやり過ぎだったのでしょうか……」

日向「もしかしてあたしが加わったから負担が増えて辛くなって、とか……?」

ブリジット「日向、それは考えすぎだよ。京介さんが日向を負担に思うわけないじゃない」

秋美「うーん、銃を乱射させすぎたかなぁ。徹夜はオーバーワークだったかも」

加奈子「だいじょーぶだろー? すぐ戻ってくるって。京介は性欲魔人だから、定期的に女を抱かないと落ち着かないだろーしな」

沙織「その場合、我慢の限界を越えた時に浮気をする可能性があるでござるよ」

あやせ「――もしも他の女に手を出そうものなら――」

珠希「姉さま、このままではあやせさんが覚醒してしまいます」

黒猫「心配いらないわ。京介の足取りを掴むのなんて大したことではないもの。すぐに連れ戻せるわよ」




桐乃「本当にいなくなってた!」

麻奈実「お財布と免許証とすまほは持ちだしてるみたい。後は服が一揃いだけ減ってたかったから替えは持ってないみたい」

日向「麻奈実さんって高坂くんの所持している服装まで把握してるんだ……」

加奈子「ある意味ストーカーよりもタチわりーよなぁ」

麻奈実「ん?」

加奈子「いえ、なんでもないッス!」

黒猫「電話は繋がるけれど出ないわね。非通知にはされていないみたいよ」

ブリジット「それだとメッセージを送っても見てくれなさそうですね」

あやせ「…………」

沙織「あやせ殿、そんなに連続して送っては逆効果でござるよ。少し落ち着きましょう」

あやせ「でもLINEなら読んでくれたかどうか分かりますから!」

桐乃「うーん、その方法はどうかなぁ。送ったメッセが全部既読無視されてるとなったら、かなりストレス溜まるじゃん?」

あやせ「京介さんがわたしのメッセージを無視するなんてありえないから! そんなこと言わないで!」

加奈子「もうヤバくなりかけてるし。耐性低すぎね?」

秋美「早くなんとかしないと危険っぽいね」

沙織「それでは皆さんで手分けしましょう。きりりん氏はご実家、黒猫氏は大学、麻奈実殿は高校のご友人、秋美殿は――」



桐乃「んじゃキリキリ探しましょ! ゴー!」

黒猫「日向、珠希、留守番も大事な役目よ。しっかりここを守って頂戴ね」

日向「うん、任せて。いってらっしゃーい」

珠希「いってらっしゃいませ」




しかし懸命な捜索の甲斐なく京介の行方が判明しないまま週末は過ぎ去り、月曜日を迎えた。

彼女たちが日に日に焦燥を募らせていく中、当の京介はと言うと――



京介「おまえって懐深いよな」

赤城「急になんだよ。気にすんな、困った時はお互い様だろ?」

京介「ありがとな。四月になって給料入ったら酒でも奢るからさ」

赤城「おまえそこは普通親を連れていくんじゃないのか……」

京介「それってボーナスで旅行に連れてくとかじゃないか?」

赤城「どっちでも変わらねーよ。それより奥さんほったらかしで本当に大丈夫なのか? ガンガン電話とメッセが来てるじゃないか」

京介「見てくれ、LINEの未読メッセが四桁になってるぜ。ここまで表示されるもんなんだな」

赤城「おわっ、すげえな。あやせちゃん相変わらずおまえにデレッデレだな。というか怖いな」

京介「はっはっは、早くおまえも結婚するといいぞ」

赤城「逃げてきたくせに偉そうに言うなよ」

京介「相手が一人だけなら逃げないんだろうけどさ……」

赤城「え、なんだって? 独り言なら心の中で呟いてくれ」

京介「おっと、悪い。まああれだ、男同士の友情っていいよな、ってシミジミ思ってた」

赤城「へっ、女はもちろんいいけど、男だっていいもんだろ?」

京介「……いや、その発言はちょっとどうだろう」


瀬菜「今あたしのアンテナが何かを受信したんですけどっ!? 禁断のアレですか? 奥さんよりも昔の彼を選んじゃったりしたんですか!?」

京介「選ばねーよ! おまえ急に人の部屋に入ってくんなよ! どんな精度のアンテナ持ってんだよ!?」

赤城「ここは俺の部屋だ」

瀬菜「そーですか、まだお兄ちゃんとヨリを戻す決心はつきませんか。ホント、高坂せんぱいってどうしよーもない人ですねー」

京介・赤城『戻すヨリなんか最初っからねえよ!』

瀬菜「わあ、息ぴったりとかさすがですね!」

京介「もういいから出てけおまえ」

瀬菜「と言われましてもー。今日も五更さんから来ていないか確認のメッセが届いてましたよ? 言われた通り知らないと返しておきましたけど」

京介「そっか。迷惑かけるな」

瀬菜「いえ、迷惑ではないんですけど。ただ、なぜ五更さんが高坂せんぱいの家出を知っているのか気にはなりますね」

京介「あやせが桐乃に聞いて、桐乃が黒猫に尋ねたんだろうさ。きっとそうに違いない、ああ違いない」

瀬菜「うーん、何か違和感が……。あたしの直感がこう、ズレを感知しているとゆーか……」

京介「気のせいだ」

瀬菜「そーですか? この手合いの勘が外れたことってないんですけど」

京介「いいから自分の部屋に戻れ。俺は赤城と友情を育むのに忙しい」

瀬菜「育むんですかっ!? どのようにして!? 抜いたり挿したりするんですかっ!!??」

京介「おまえの妹、相変わらずだな」

赤城「だろ?」




そんなドタバタした家出生活だったが、やはり長続きはしなかった。

赤城のお袋さんがうちの親に連絡して、そこからあやせに連絡が行き俺は強制送還された。



全員から優しく叱責された。すごく謝った。

しばらくセックスは抑え目にしよう、と誰かが提案し、それはすんなりと受諾された。

珠希ちゃんが実に巧妙に新しい計画表へ自分の名前を織り交ぜていたが、可決されるすんでの所で阻止された。

黒猫は、珠希ちゃんがどんどん耳年増――というか性に積極的――になっていることに強い危惧を抱いているようだ。

瀬菜に嘘をつかせたことに関しては俺から黒猫に謝罪しておいた。



さて、また明日から頑張りますかね!




後日

加奈子「あのさ、すごく物足りないんだけど」

桐乃「みんなガマンしてるんだからあんたもガマンしなさいって」

秋美「そーはゆっても二週に一度なんだよ? 身体がうずいてたまんないって!」

ブリジット「京介さんの体力を消耗させないプレイならいいのかなぁ」

沙織「ほほう、それは例えば?」

ブリジット「えっと……思いつきません」

桐乃「舐め回すくらいならオッケーよね?」

麻奈実「それは舐める場所によるんじゃないかなぁ」

日向「……そ、それって……ふぇ、ううんなんでもない」

黒猫「そう、日向はまだなのね。姉として安心したような、実際はそうでもないような複雑な心境だわ」

あやせ「わたしなんてもうずっと本番行為はしてないんですよ? それに比べたら大したことないでしょう」

秋美「あやせちゃんはしちゃいけない理由があるじゃん」

珠希「添い寝くらいなら許されますよね?」

麻奈実「そうだねぇ、添い寝なら問題ないかな~」

珠希「分かりました。では今晩は泊まっていきますね」

加奈子「だからダメに決まってんだろ、いー加減にしろこのガキ」

沙織「いやはや、珠希殿はすっかり仕上がっておりますな」

黒猫「どうしたものかしら……」

秋美「将来有望だねえ」




京介「ただいまー。おっ、全員集合だな」

あやせ「おかえりなさい。お疲れさまでした」

京介「んー、最近体調がいいからさ、そんなに疲れてないな」

桐乃「あたしらの犠牲の上に成り立ってる好調具合なんだからせいぜいありがたがってよね!」

京介「みんなに協力してもらって感謝してるって。だからさ――」

麻奈実「だから?」

京介「元気になったし元に戻しても大丈夫だぜ!」

黒猫「あら、そんな事を言っていいのかしら?」

加奈子「それって、全力出してもいいってことだよな」

秋美「ガマンしなくていいってことだよね!」

ブリジット「メチャクチャにしてもいいんですよね!?」

京介「……やっぱ無しで」

全員『却下!!』



酷いことになった。







    終


こんばんは、以上となります。


実にご無沙汰しており、本当に申し訳ございませんでした。

久々に時間が取れたので急いで書いてみましたが、完成させることを優先したため、口調や呼称、設定等にミスがあるかもしれません。その場合は指摘してもらえると助かります。

本当は「鬼畜戦士京介」というタイトルで書こうとしてたのですが、なぜか逆っぽい話になってしまったり?


それでは、また~。


 あやせ編 おまけ 結局こうなるか、という話



その日、俺たちはリビングで緊急会議を開いていた。

居揃った彼女たちの表情は(加奈子を除いて)一様に固く、思案に暮れている。

おっと、平日の夜なのでこの場に日向ちゃんと珠希ちゃんはいないことを付け加えておかなくちゃな。

黒猫「非常に由々しき事態だわ」

麻奈実「困ったねぇ」

秋美「興味のあるお年頃だし、ある程度はしょうがない……のかなあ?」

ブリジット「そうは言っても、最近の珠希ちゃんの行動は少々目に余ります」

あやせ「おませと表現するには、ちょっと直接的すぎるよね」

京介「元々日向ちゃんもおませな子だったし、やっぱ姉妹で似るもんかね?」

桐乃「一番上の姉は自分から行動するわりに超奥手だったケドね~w」

黒猫「それは過去の私でしょう? 今そこをつつく必要は無いわ。会話の流れを乱さないで頂戴」

桐乃「はいはいごめんごめん」

加奈子「多少エロくたって、実際に京介とヤらなきゃどーってことねーべ?」

沙織「おや? しかし先日珠希殿が京介氏と閨を共にしようとした時に、加奈子殿は制止しておられませんでしたか」

加奈子「あん時はあのチビ、京介にナニかするつもり満々だったしなー」


麻奈実「でもぉ、きょうちゃんから何もしなければ、珠希ちゃんは具体的なやり方とか分からないんじゃないかなぁ?」

桐乃「いやー、そこはホラ、京介ってロ――」

京介「言わせねえよ! そのネタもういいだろ!?」

あやせ「京介さん、忘れたんですか? あなたは日向ちゃんに手を出してるんですよ?」

黒猫「そうね、日向はまだ中三なのに。あら、そう考えると私たちの中で最も若くして経験した事になるのね」

ブリジット「わたしの時は高校生になるまで絶対ダメって言ってました……。言ってたのに……」

京介「まことに申し訳ございませんでしたあっ!」

沙織「まあまあ、日向殿については拙者らが焚き付けた部分もありますので、あまり京介氏だけを責められないでござるよ」

加奈子「確かにそこはなー。あたしらが散々エッチの良さを吹き込んだし?」

黒猫「それよ」

加奈子「え、どれ?」

黒猫「小中学生のいる場でああいった話題を取り上げすぎたのが、珠希が早熟化した原因だわ」

桐乃「まあねー。エッチは気持ちいい、素敵だよ、っていっつも話してた気がする」

秋美「そりゃ興味を持つし、やりたくもなるってもんだね!」

麻奈実「結局わたしたち全員に責任があるんだよね」


あやせ「全員と言ってもお姉さんや黒猫さんはどちらかと言うと制止する側ですよね。加奈子や秋美さんが特にひどいと思います」

加奈子「あん? なに加奈子らだけワルモンにしてんだよ。イチレンタクショーなんだろー?」

秋美「そーだそーだ! あたしやかなちゃんだけがエッチな話をしてたわけじゃないよっ」

京介「いやあ、加奈子と秋美は堂々としすぎだと思うぞ?」

秋美「京介までそんなことゆーなんて! 裏切り者っ!」

桐乃「でも実際二人がエロの二大巨頭だし?」

黒猫「桐乃、あなたも大概よ」

桐乃「えー? あたしはフツーじゃん。ちょっと妹で可愛くてスタイル良くて文武両道で妹ってだけで?」

沙織「相変わらずの妹推しですな。ところで拙者の見立てではブリジット殿のエロ度もかなりのレベルに位置するかと」

ブリジット「え」

京介「あー」

黒猫「確かにそうね。普段は恥ずかしがっているようでいて、機会があるとグイグイいっているわよね」

ブリジット「そ、そんなことは、ありません、よ?」

加奈子「そんなことあるよなー?」

秋美「あるね」

麻奈実「うん」

あやせ「わたしも、その、そこは否定できないかな」


ブリジット「……そんな……みなさんに淫乱だと思われていただなんて……」

桐乃「いやいやそこまで言ってないから」

京介「確かにセックスの時の激しさはある意味加奈子を上回っているからな、ブリジットは」

加奈子「お、負けちゃいらんねーな」

ブリジット「京介さんまで」

京介「ああ、別に悪いことだとは言ってないぞ? 俺としては嬉しい限りだよ」

ブリジット「……本当ですか?」

京介「嘘じゃないさ。ブリジットに愛されてることが実感できて、マジで幸せだと思ってる」

ブリジット「…………分かりました! 京介さんがそう言われるのなら、わたしはこれからも全身でラブを表現します!」

京介「はは、お手柔らかに頼むよ」

ブリジット「いいえ、常に全力です! 搾り取ります!」

麻奈実「お掃除が大変になるから程々にしてね~」

桐乃「やっぱエロいじゃん。ドエロじゃん」

秋美「※ただし相手は京介に限る!」

沙織「ではブリジット殿がエロいという共通認識を改めて持ったところで、話を進めるでござるよ」

ブリジット「ぁぅ」


黒猫「こほん。……小中学生のいる場でああいった話題を取り上げすぎたのが、珠希が早熟化した原因だわ」

桐乃「え、そこから? えーっと、エッチって気持ちいいしチョー最高! っていっつも話してたしねー」

秋美「そりゃ興味を持つし、ヤりたくなるよね!」

麻奈実「んーと。……わたしたち全員に責任があるんだよねぇ、だっけ?」

あやせ「珠希ちゃんがいる時に性的な話題を出すことは極力避けた方がいいですよね」

黒猫「ええそうね。と言うよりも、普通はこんな事を話し合わずとも自然と線引きが出来るものだわ」

沙織「ゾーニングは大事でござる」

秋美「ちょっとエッチに大らかな空気だったからね! てへっ」

加奈子「前みたいにエッチ禁止とかじゃないなら別にどーでもいいや。チビ猫がいない時なら問題ないんだよな?」

黒猫「珠希がいる時にだけ気を払ってもらえばいいわ」

桐乃「オッケー」

黒猫「ただし無意識に風紀を乱す言動を取っている誰かさんが、それを意識して抑えられるのか疑問は残るわね」

加奈子「それってあたしのことか? ……ん? もしかしてバカにされてる?」

黒猫「別にあなたの事だとは言っていないわ。気にしないで頂戴」

加奈子「あっそ。とりあえず土日以外であいつらが来ることはメッタにないし、今日はエロトークしても問題ないよなー」

黒猫「……あなたじゃないとも言っていないけれど」

沙織「まあまあ」

ブリジット「では日向にはわたしから伝えておきますね」

京介「ああ、頼むよ」




さて、そんな感じで週末を迎えた。

今日は俺も黒猫も午前中に用事があったので、桐乃が五更家まで二人を迎えにいっていた。

桐乃「たっだいまー!」

日向「たっだいま~!」

珠希「お邪魔します。えっと、ただいま帰りました」

京介「おうお帰り。ちゃんと手を洗ってうがいをしたか?」

珠希「はい、しました」

日向「高坂くんお母さんみたいだよ? 子どもじゃないんだから言われなくたってちゃんとやってるよー」

黒猫「中学生はまだまだ子どもだわ」

日向「そんなことないもんねー。クラスの女子の中でもあたしが一番大人だし!」

加奈子「そーなんか? こんなにチンチクリンなのに」

日向「もー、加奈子さんひどいですよ~。あたしがどれだけ魅力的な女性なのかは高坂くんがよっく知ってるもん」

加奈子「へっ、あたしに言わせりゃチューボーなんてただのガキだね。まだまだ男を分かってない……あっ」

日向「あ」

珠希ちゃんの視線外から加奈子と日向ちゃんに向けて会話停止のジェスチャーを送る麻奈実。

黒猫からは静かだが深い怒りのオーラが伝わってくる。


珠希「なにやら不穏な気配を感じます」

そして珠希ちゃんが振り返ると同時にあちこちへ顔を背ける俺たち。ああ、大人って。

ブリジット「え、えっと、外から帰ったらキチンと手を洗いましょう!」

桐乃「異議なし!」

珠希「……? はい」

麻奈実「そうだねぇ。風邪やいんふるえんざは怖いからしっかりやらないといけないんだよ~」

加奈子「あやせがインフルにかかったらヤバいしなー」

あやせ「気を遣わせちゃってごめんね。ありがとう」

加奈子「な、なんだヨ。気なんてつかってねーよ。その代わりあたしが妊娠した時は大事にしろよー?」

あやせ「ふふふ。うん、お姫様みたいに扱うね」

秋美「おっとお! あやせちゃんの次に赤ちゃんを産むのはあたしって決まったんだからお姫様抱っこはあたしにね! よろしく京介!」

京介「姫の仰せのままに」

日向「え、秋美さんも赤ちゃんを産むんですか?」

秋美「秋美さん『も』ってなんだい! あたしだって京介との赤ちゃんが欲しいんだから当然だよ!」

日向「そっかあ、高坂くんとの赤ちゃんかあ。……うひゃ、照れるな~」

加奈子「なんでオメーが照れるんだよ。十年早いっての」


桐乃「ひなちゃんの順番は当分先だね。あたしが二人産んだ後でなら認めてあげないコトもないかな? ってレベル」

日向「ええぇ~」

黒猫「日向、弁えなさい。自分がまだ高校にも上がってない年齢だという事を忘れてはいけないわ」

ブリジット「日向は少なくともわたしより後になるんだから、飛ばしちゃダメだよ?」

日向「ちぇー」

沙織「ふふふ、日向殿は我ら十傑集の中で最も新参であり若輩。まだまだ席を譲るわけにはいかないでござるよ」

珠希「おねえちゃんが一番の若輩ということは、わたしは十人の中に含まれていないんですね」

麻奈実「あれ、それだと一人足りないよ? きょうちゃんを入れて十人?」

桐乃「すっかり忘れられてるリアの存在」

麻奈実「あ……。あめりかのりあちゃんごめんねぇ」

京介「いやいや、リアは彼女じゃねえし」

沙織「ならば十傑集ではなく九大天王としましょう」

黒猫「聞き覚えのない言葉ね。元ネタは何かしら?」

沙織「おや、黒猫氏は『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』をご覧になったことはないのですか?」

黒猫「ニコニコにMADが投稿されていた事くらいならば」

秋美「スパロボに出てたから名前だけは知ってるよ!」

沙織「とても熱い作品なので視聴されることをお薦めするでござる」

黒猫「そう。記憶に留めておくわ」


麻奈実「お話が一段落したならそろそろお昼ご飯にする?」

京介「おう、頼むよ」

麻奈実「うん、それじゃあ準備してくるね~」

秋美「あたしも当番だから行ってくる!」

桐乃「あーお腹空いたー」

日向「麻奈実さんのご飯はすっごく美味しいから食べすぎて困っちゃうね」

ブリジット「そこは食べすぎないように注意するか、しっかり運動すればいいんじゃない?」

日向「あたし受験生なんだよ? 運動する時間があるなら勉強してるって」

黒猫「良い心掛けね。体重を心配するのは高校に入学してからでも遅くないわ」

桐乃「幸いここには優秀な教師が大勢いるしね!」

日向「うん。バイトを始める条件が成績を落とさないことだったから、逆に上がってお父さんもお母さんもすっごく感謝してるって言ってた」

加奈子「つーか体重なんて気にしたことねーな」

あやせ「加奈子は軽すぎるくらいだからね。モデルをやってるとどれだけ注意を払っても足りないよ」

沙織「京介氏よりも重い拙者の立場は……」

京介「沙織は背が高い上にそれだけスタイルがいいからな。しょうがねーだろ?」


ブリジット「京介さん、あの。わたしは重くないですか?」

京介「全然平気さ。小柄な子を軽いと感じたことはあってもその逆はないな」

ブリジット「そうですか。良かった、安心しました」

加奈子「ま、軽いほーが色んな体位を試せて有利だけどな。ブリジットや沙織じゃ京介に抱っこしてもらいながらって難しいだろー?」

沙織「その通りですが、逆ならできますよ?」

ブリジット「うん。かなかなちゃんにしかできないことがあるみたいに、わたしたちにしかできないことだってあるんだからね」

加奈子「ケッ、その気になればあたしにだってパイズリくらいできるっての。なあ京介?」

京介「そうだなあ。あれをパイズリと呼んでいいのか疑問だけど、一応な」

黒猫「ちょっとあなた達――」

桐乃「加奈子だとナイズリになるんじゃない?w あたしなら大小兼ねた色んなプレイできるしぃー」

あやせ「桐乃は大きい側になるから、それならわたしみたいな平均サイズのほうが良くないかな?」

桐乃「あやせはあんまり激しいプレイとかしそうにないじゃん? その点あたしはすっごいコトしてるし!」

あやせ「むぅ……。京介さん! 今は無理だけど、ちとせを産んだ後わたしにも桐乃と同じすっっごいことをしてください!」

京介「いやあ、あやせには無理じゃないかな。なんて思ったりして」

あやせ「なぜですか」


日向「どんなすごいことをやるつもりなんだろ……。あたしもその内されるのかな」

加奈子「おっ、そんなら飯食いながら教えてやんよ。今までやってきた中で一番とんでもないヤツをさー」

ブリジット「食欲がなくなりそう」

黒猫「いい加減にして。もう約束を忘れ――」

桐乃「ブリジットちゃんはバリバリの肉食系だから大丈夫っしょ。むしろ京介を食べたくなるカモ?」

珠希「カニバリズムですか?」

沙織「おや、難しい言葉をご存じですな。この場合は意味合いが変わってきますので、決して京介氏を本当に食べるわけではござらんよ」

珠希「そうなんですか?」

桐乃「うん。今のは性的な意味でって頭に付くからね。あたしもたまちゃんを食べちゃいたい。モチロン性的な意味で!」

珠希「……」

加奈子「桐乃のアプローチはいつまで続くんだろーな」

ブリジット「わたしはされなくなったから、大きくなるまで?」

珠希「早く大人になりたいです……」

日向「たまちゃんはもうちょっとお料理ができるようになってからかなー」


加奈子「オメーだってまだまだガキのくせに、いっちょまえに大人のつもりかよ」

日向「あたしはもう大人だもん!」

桐乃「エッチしただけで大人になれるなら苦労しないっての」

京介「成人しても俺みたいに中身がガキのままじゃな。大人ってなんだろうな」

沙織「法的には二十歳以上、あるいは婚姻している者。社会通念上では精神的に成熟している者、といったところでしょうか」

あやせ「わたしは未成年ですが民法上では成年者であるとみなされていますね」

加奈子「社会に出て働いてりゃ大人だろ。つまりあたしは立派な大人ってわけだ」

ブリジット「だったらわたしも大人だね!」

桐乃「社会人の中にも子どもみたいな性格の人はたくさんいるし、それはどうかなー」

京介「精神年齢が高ければいいのか? それだと珠希ちゃんは俺たちの中で比較的上位にきそうだな」

日向「高坂くんよりは上だよね」

京介「ぐっ。言い返せない……」

珠希「つまり、わたしは大人ということですか?」

沙織「落ち着いた性格イコール大人、とは言い切れませんが、あながち間違っているとも言えませんな」

珠希「そうなんですね。……でしたら、もう性交渉をしても問題ないですよね?」

加奈子「問題あるに決まってんだろ」

黒猫「珠希、ふざけた事を言わないで。それとあなた達、先程からの流れはわざとやっているの?」

桐乃「どしたの黒猫? 随分おかんむりだね」

加奈子「そりゃ妹が京介とエッチしたいってゆったら怒るよな」

黒猫「いえ、そこではないわ。そこも問題だけれど、そうではなくて」


麻奈実「みんな~」

日向「あ、麻奈実さん。もうお腹ペコペコですよ~」

秋美「お待たせしちゃってごめんね! だ・け・ど、その前に!」

麻奈実「うん。珠希ちゃんは先に食べていて。他の人はちょっと正座」

加奈子「なんでー。あたしだって腹減ってるッスよー」

麻奈実「正座して」

京介「あの、麻奈実さん? もしかして怒っておられます、か……?」

麻奈実「うん。だから正座して」

珠希「あの」

秋美「珠希ちゃんは気にしないでいいからさ! どうぞ温かい内に食べちゃって!」

珠希「……分かりました。お先に頂いておきますね」

麻奈実は珠希ちゃんが食卓に座るのを見届けると、俺たちをリビングの隅っこに正座させた。

黒猫「なぜ私まで」

麻奈実「その場にいたのに止められなかったから連帯責任かな?」

秋美「まあまあ! あたしも麻奈実ちゃんも正座してるんだから文句言わないの!」



その後、全員こってりと怒れる魔王のお説教を受けた。

なお珠希ちゃんは俺たちが釈放されるまで箸を付けずに待っていてくれた。本当にできた子だ。





今回の結論:エロトークはほぼ全員が無意識に行っているので止めるのは難しい







    終


こんばんは、以上となります。


京介の性欲から全てが始まったわけですが、あまりにもエッチがどうたらセックスがどうたらな内容に偏っていたため反省した次第です。

それを踏まえ今回のような話になり……あれ?


話は変わりますがニコニコ動画で俺妹とエロマンガ先生のコラボドラマが配信されましたね。

エロマンガ先生は未読なのでスルーしましたが、電撃オンラインサイトにて水着姿のあやせが巨乳に描かれているビジュアルはしっかりと拝見しました。

巨乳のあやせ……巨乳あやせか……。なるほど!


それでは、また~。


 あやせ編 おまけ バレンタイン? なにそれおいしいの?



麻奈実「はい、きょうちゃん。ちょこれーとだよぉ」

京介「毎年ありがとうな。おまえの作る和菓子は絶品だけど、たまには洋菓子もいいもんだ」

麻奈実「きょうちゃんが喜ぶと思ってがんばって練習しました~」



あやせ「はい京介さん。愛情たっぷり込めて作りました」

京介「ありがとう。大事に食べるよ」

あやせ「ふふ、なんでしたら『あーん』しましょうか?」

京介「おっ、いいねぇ」



日向「おっと次はこっち! はいっ、あたしとたまちゃんで一緒に作ったんだよ~」

珠希「ちゃんと味見したので大丈夫だと思います」

京介「はは、二人が作った物なら安心して食べられるよ。ありがとう」

黒猫「……」

日向「ルリ姉、なに照れてんの? 毎年渡してるんでしょ?」

黒猫「なっ。て、照れてなどいないわ」

桐乃「毎年のコトだけど往生際が悪いよね。バレバレなんだし、パパッと渡しちゃえばいいのにw」

黒猫「あら、何か勘違いをしているようね。私が手に持っているこれはカカオマスと砂糖、ココアバターなどを練り固めた物体よ。決してチョコレートを用意していた訳ではないわ。そもそもバレンタインデーとはお菓子業界の――」

秋美「長い、長いよ瑠璃ちゃん!」

珠希「姉さまの手にあるそれがチョコレートだとは誰も言っていませんよ?」

黒猫「……謀ったわね……」



加奈子「テンパってんなぁ。ほらよ京介、今年はちゃんとしたのを買ってきたぜ」

京介「サンキュ。普通のチョコなら問題なさそうだ」

珠希「以前に何かあったんですか?」

加奈子「あー。去年、溶かしたチョコをあたしの身体に塗ってさ、あたしを食べてーってやったんだよ」

日向「さすが加奈子さんパねえ!」

加奈子「それがめちゃくちゃ熱くてさー。名案だと思ったんだけど、ありゃダメだね」

麻奈実「お掃除大変だったんだよ? それに綺麗な身体に火傷ができたらきっと後悔しちゃうし、もうやったら駄目だからね」

加奈子「ぅいーッス」



ブリジット「わたしはオーソドックスに溶かしたチョコを固めただけの簡単な物です」

京介「ありがとう。謙遜しなくてもいいって、ブリジットの作ったチョコなんてファン垂涎物だよな」

ブリジット「お口に合えばいいんですけど。ラブだけは誰よりも大きなものを注入しておきましたっ」

あやせ「むっ。京介さん、わたしのほうがたくさん込めてますから!」

ブリジット「いいえ、これだけはあやせさんにもきっと勝ってます!」

日向「あたしも負けてないと思うんだけどなー」

京介「喧嘩すんなって。大丈夫、みんなから計り知れないほどの愛を感じてるし、俺も同じだけみんなを愛してる」

桐乃「あたしの兄貴がこんなにプレイボーイなわけがない」

秋美「実妹兼彼女が何か言ってる!」

珠希「……今のおにぃちゃんの台詞は告白ですよね。嬉しいです」

沙織「さらっと既成事実を構築しつつある小学生の姿がそこにあった、でござる」

黒猫「まったく、誰に似たのかしら」

加奈子「ケッ。あたしも来年は手作りチョコに挑戦してみるかなー」




秋美「あたしは料理がへたっぴだから既製品になっちゃうけど許してね!」

京介「もらう立場で許すも何もないだろ、ありがたく頂戴するよ。それに秋美は毎年面白いチョコをくれるから楽しみなんだ」

秋美「そろそろネタ切れだけどね~。でも来年も期待してて!」

京介「ああ、またよろしくな!」



沙織「ふっふっふ。拙者のチョコはこれでござる!」

京介「随分でっかい箱だな。開けてもいいか?」

沙織「無論。ささ、どうぞどうぞ」

京介「どれどれ……。ぶほっ」

麻奈実「どうしたの~?」

黒猫「怪しいわね、私にも見せなさい」

日向「なんだろう? ……うわっ、すごっ」

あやせ「これってまさか」

沙織「左様、拙者の胸型チョコでござる。当然実物大!」

加奈子「でけぇ……」

ブリジット「うぅ、わたしだってかなり大きいのに」

珠希「これを全部食べるのは大変そうです」

沙織「ははは、いつも拙者にしてくださるように優しく先端から舐めて――」

麻奈実「沙織さん?」

沙織「おっと。失礼しました」



京介「この量だから時間かかりそうだけど、他の誰かに分けることはできないな。沙織のおっぱいは俺だけのもんだ!」

沙織「京介氏……」

秋美「え、今のってムード出すところ?」

加奈子「なーなー、これどうやって作ったのか教えてくれよ。あたしもやってみたい」

沙織「では手順を説明しましょう。まず――」

あやせ「……」

日向「あやせさんの目が真剣なんだけど」

黒猫「……」

珠希「姉さまもです」





桐乃「あれ、オチを持っていかれた? あたしは? メシマズネタは定番じゃないの?」







    終



こんばんは、以上となります。

間隔を開けすぎるのは良くないと思い、短い話を即興で書いてみました。バレンタインには間に合いませんでしたが……。


ところで先日総務省が何やら大胆なことをしていましたね。小冊子の内容が気になるところです。


それでは、また~。

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