新田美波「せーんぱい♪」 モバP「ん?」 (40)

朝の事務所


P「………」スヤスヤ

美波「おはようございます……あっ」

P「zzz」

美波「また事務所に朝までいたのかな……」

美波「そんなところで寝ていたら、風邪引いちゃいますよ?」

美波「ほら、起きてください」

P「……んぅ? 誰……」

美波「私です」

P「新田ちゃん……ああ、もしかしてもう朝か」

美波「そうですよ、先輩♪」


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美波「はい。コーヒーです」

P「ありがとう……ところでさ」

美波「なんでしょう」

P「新田ちゃん、いつまで俺のこと先輩って呼ぶつもりなの?」

P「俺、もう大学卒業してるんだが」

美波「駄目ですか?」

P「駄目ってことはないけど」

美波「私が先輩と最初に会った時、先輩はラクロス部の3つ上の先輩でしたから。先輩が卒業した後も、やっぱり先輩という呼び方がしっくりくるんです」

P「先輩がゲシュタルト崩壊しそうだ」

美波「それに、人生の先輩でもありますからね」

P「なるほど。つまり年上として俺という人間に敬意を払っているということだな」

美波「………はい?」

P「そこで呆けた顔で俺を見るのやめてほしい」

美波「ふふ、冗談ですよ。先輩のことはちゃんと尊敬してますから」

P「果たして本当なのだろうか」

美波「今日は確か、朝からダンスレッスンでしたね」

P「ああ。体調とか、問題ないか」

美波「それ、毎日聞いてますよ。さすがに心配しすぎです」

P「そうは言っても、実際大学とアイドルの掛け持ちはしんどいだろ。しかもラクロスもまだやめてないし」

美波「大丈夫です。しんどい時はきちんと言いますから」

美波「それに、プロデューサーになって早々に私をスカウトしに来たのは先輩ですよ?」

美波「まさか、学業とアイドルを両立できないと思って誘ったわけじゃないんでしょう?」

P「そりゃそうだけど」

美波「なら、もっと私を信用してくださいね」

P「……ま、そうだな」

P「(3ヶ月ほど前。卒業と同時にここの事務所に就職した俺は、いきなりちひろさんからアイドルのスカウトに行けと命じられた)」

P「(アイドル映えしそうな逸材と聞いて最初に思い浮かんだのが、同じ部活に所属していた美人の後輩だった)」

P「(ダメもとで頼んでみたところ、思いのほかあっさりとOKしてくれて……それで、今にいたる)」

美波「ただいま戻りました」

P「レッスンお疲れ様。ほいっ」ポイ

美波「うわっとと。あ、これ私の好きなアイスクリームじゃないですか」

P「コンビニ行ったついでに買ってきた。ちゃんと冷えてるぞ」

美波「ありがとうございます、先輩。ちょうどアイス食べたいなって思ってたんです」


ちひろ「通じ合ってますねー。プロデューサーさんと美波ちゃんは」

P「あ、ちひろさん」

美波「通じ合ってますか? 私達」

ちひろ「相手の気持ちを察して好物を用意しておくくらいには」

P「付き合い長いですし、これくらい普通ですよ」

ちひろ「それだけじゃないです。美波ちゃんは、プロデューサーさんがアレとかソレとか言うだけで、いつもなんのことを言っているのかわかっちゃってますよね」

美波「それは先輩の思考パターンがわかりやすいので」

P「ちょっと馬鹿にしてる?」

美波「いえいえ、気のせいです」

ちひろ「いいですねえ。軽口言い合える仲というのは」

夕方


P「よし」

美波「お仕事終わりましたか」

P「おう。というか、待っててくれたのか」

美波「一緒に帰ろうと思って。家、近いですしね」

P「わかった。すぐ帰り支度する」



帰り道


P「そういえば、そろそろ新田ちゃんの誕生日だな」

美波「あ、覚えててくれたんだ」

P「7月27日で、いよいよ新田ちゃんも20歳か。なんか用意しておくよ、プレゼント」

美波「私、ネックレスとか欲しいなあ♪」

P「300円以内で頼む」

美波「遠足のおやつですかっ」

P「うそうそ。俺も新卒とはいえ社会人だから、それなりに期待しておいてくれ」

美波「ハードル上げますねー。では、楽しみにしておきます」

美波「ありがとうございます。わざわざ家の前まで送ってくれて」

P「たまの送迎くらいは、きっちり最後までやろうと思ったんだ」

P「じゃあ、俺はこれで」

美波「あ、先輩。よかったら上がって――」

??「お、兄ちゃんだ。久しぶり」

P「ん? ……ああ、弟くんじゃないか。元気にしてたか?」

新田弟「元気元気。それより、家に入らないの?」

弟「俺、兄ちゃんとゲームしたい」

美波「ゲームって、先輩も疲れているんだから」

P「いや、いいよ。久々に弟くんと対戦したいし」

弟「そうこなくちゃな!」

美波「いいんですか?」

P「うん。男同士の戦いだからな」

弟「そーそー。姉ちゃんにはわからないかもしれないけどな」

美波「むっ。だったら私も参加するから」

P「3人か。それも楽しそうだな」

新田弟の部屋


P「ふう、遊んだ遊んだ」

弟「兄ちゃんは相変わらず強いなあ」

P「ま、年季が違うからな……っと、もうこんな時間か」

美波「先輩。よかったら夕飯食べていきませんか? さっきお母さんとそういう話をしていたんですけど」

P「いいのか?」

美波「別に今日が初めてじゃないですから」

P「じゃあ、いただこうかな」

美波「わかりました。それでは、ご飯の準備をしてきますね」

ちょっと中断します

ガチャ、バタン

P「弟くんよ。俺は君がうらやましい」

弟「いきなりなんだよ」

P「あんなきれいなお姉さんがいたら、毎日楽しいだろう」

弟「いや、別に」

P「ぜいたくな奴だなー。学校のミスコンで優勝した子だぞ? しかも今はアイドルだ」

弟「美人なのは認めるけどさ、さすがに毎日見てると慣れるって」

弟「だいたい、兄ちゃんにも姉がいるんだろ?」

P「あれ、なんで知ってるんだ」

弟「姉ちゃんから聞いた」

P「へえ。にしてもよく覚えてたな」

弟「姉ちゃん、いっつも兄ちゃんの話してるからな。覚えもするよ」

P「ふうん。だが弟くん。俺の姉はゴリラみたいな女だから君のお姉ちゃんと一緒にしちゃだめだ」

弟「ゴリラみたいって、大げさだなあ」

P「いやホントだって。大学までスポーツやってた俺よりガタイいいもん」

弟「兄ちゃんより? ……それは、ちょっとすげーな」

P「それでも優しければいいんだがな……性格もキツイ」

弟「ワオ」

弟「俺、姉ちゃんがアイドルになるって聞いた時はびっくりしたよ。しかも兄ちゃんがプロデューサーだなんて」

P「でも、新田ちゃんはアイドル似合ってるだろ。俺の目に狂いはなかった」

弟「いや、そういうことじゃなくてさ」

P「?」

弟「俺、姉ちゃんは兄ちゃんと付き合うもんだとばっかり思ってたから。去年知り合ってから、とんとん拍子に仲良くなってたみたいだし」

P「ああ……まあ、同じラクロス部だったし」

弟「つっても、姉ちゃんが家に連れてきた男なんて、兄ちゃんくらいしかいないぞ」

P「仲が良かったのは事実だな。波長が合ったというか、なんというか」

弟「告ったりとかしなかったの?」

P「しなかった」

弟「美人美人って言っときながら、姉ちゃんのこと、恋愛対象には見てないと」

P「……まあ、多分」

弟「すげー中途半端な返事だな」

P「正直な話、あの子を見てときめいたことがないと言えば嘘になる。エロいし」

P「でも、そこから付き合いたいという気持ちになったかと聞かれたら……よくわからん」

弟「わかんないのか」

P「そう、わからん。気軽に話せる先輩後輩って立ち位置が一番いいような気もする」

P「それに、新田ちゃんのほうは多分俺のことそういう対象には見てないだろうから」

弟「そうなの?」

P「仲のいい男友達って感じで接してくるからな。わかるわかる」

弟「どーだろーなー。姉ちゃん、あれで結構気持ち隠すの上手なんだぜ?」

P「え?」

弟「ま、ヘタレ兄ちゃんには関係ない話かもね」

P「誰がヘタレだ、誰が」ワシャワシャ

弟「おわっ! 頭で遊ぶなよ!」

ガチャ


美波「ふたりとも、夕ご飯の準備できたから……くっついて何してるんですか?」

P「なんでもない。男同士のスキンシップだ」

弟「うん。姉ちゃんには関係ない」

美波「もう、またそうやって私を仲間外れにして」プンプン

P「いやいや、別にそういうわけじゃ」

美波「なんて、冗談ですよ。ごはんできてますから、下に降りてきてください」

P「よし、じゃあ行くか弟くん」

弟「久しぶりに兄ちゃんと遊んだから腹減ったよ」

美波「ふふっ、そうしていると本当の兄弟みたいですね」

弟「姉ちゃんが兄ちゃんと結婚すれば、本当に兄弟になるけど」

美波「何言ってるのかしら、この子は」

P「……(やっぱり脈アリには見えないけどなあ)」

後日


P「というわけで、20歳の誕生日おめでとう」

美波「ありがとうございます」

P「プレゼントその1として、居酒屋で初めての酒をおごってあげることにした」

美波「わあ、いいですね。なんだかわくわくします」

P「もうひとつのプレゼントは、まあ飲んだ後のお楽しみでいいか」

美波「もったいぶりますね……期待してもいいんですか?」

P「どうだろうな」

美波「その顔、結構自信ありと見ました」

P「ぼかしてるんだから正確に言い当てるなよ」

美波「先輩の考えていることはお見通しです♪」

そして、居酒屋


美波「あれ~~? しぇんぱいが、ふたり、さんにん、よにん~……?」

P「ここまで酔うほど飲ませた覚えはないんだが……」

美波「いやですねせんぱい。みなみはー、よってなんていませんよお?」

P「新田ちゃんはアルコールダメ、と」

美波「むう~、むしされました。うったえます、きそします」

P「物騒なこと言うなよ……ほら、もう出るぞ」

美波「うう……からあげ、からあげをひとつ……!」

P「結局背負って帰ることになってしまった」

美波「………」

P「やっと落ち着いたか……今後、酒を飲ませる時は気をつけないとな」

美波「ん、ふぅ……」

P「ひうっ!」

P「(く、首元に吐息が! しかも声がやたらエロい!)」

美波「……せんぱい?」

P「お、おう。起きたか」

美波「なんだか、頭がふわふわしています……私、酔ってるんでしょうか」

P「そうだ。さっきまで盛大に酔っぱらってた」

美波「……変なこと、言っちゃいましたかね?」

P「そこまで危ない発言はなかったから、とりあえず安心していい」

美波「ほっ」

美波「先輩……前にも、こうして背負ってもらったことがありましたよね」

P「そうだったっけ」

美波「はい。私が足をくじいた時、その場にいた先輩が医務室まで運んでくれました」

P「ああ! あったなあ、そんなこと」

美波「二回目ですね……ありがとうございます」

P「今となっては、大学時代が妙に懐かしく思えるから困る」

美波「そうなんですか。……大学時代といえば、先輩」



美波「あの時の1年生、つまり今の2年生の女子の中に、先輩のことが好きだって子がいたんですよ?」

P「えっ」

美波「びっくりしちゃいました?」

P「あ、ああ……それって、誰のことなんだ」

美波「それは秘密です」

美波「当ててみますか?」

P「………」

P「(姉ちゃんは気持ちを隠すのが上手い、と弟くんは言っていた)」

P「(まさか)」

美波「先輩?」

P「もしかしてさ。俺のこと好きな子って……新田ちゃん、だったりする?」

美波「………」

P「………」

美波「………」



美波「いえ、違いますけど」

美波「というか、話の流れからして私は選択肢に入らなくないですか」

P「Oh……」

P「(やばい、超死ぬほど恥ずかしい)」

P「い、いや、なんでもないぞ、なんでもない。今のやり取りはなかった」

美波「はあ……」

P「酔いの影響で明日になったら忘れてくれてることを祈るしかない」

美波「………」

美波「でもですね」

美波「その子が、先輩に告白しようかなーって私達に相談してきた時」

美波「私、ちょっとだけ寂しい気持ちになりました」

P「………うん?」

P「新田ちゃん、それどういう」

美波「……すぅ」スヤスヤ

P「………」

弟「それでわざわざここまでおぶってきてくれたんだ。ありがとう兄ちゃん」

P「いや、もともと俺が飲もうって誘ったんだし、当然だよ」

美波「………」スヤスヤ

P「弟くん」

弟「なに?」

P「君の姉ちゃん、魔性の女だ」

弟「はい?」

翌日


美波「昨日はご迷惑をおかけしました!」

美波「どうも記憶があやふやなんですけど、弟に聞いたら先輩が家まで運んでくれたって」

P「いや、別に大丈夫だよ。べろんべろんに酔うことくらい誰にでもあるから」

美波「は、はい……それと、プレゼント、ありがとうございました。昨日の夜、一緒に渡してくれてたんですよね」

美波「本当にネックレスを買ってもらえるなんて思ってませんでした」

P「早速つけてきてくれたんだな」

美波「贈り主である先輩に見てもらいたかったので。似合っていますか?」

P「もちろん。俺の美的センスもなかなかのもんだ」

美波「ふふ、そうですね」

美波「それでは、今日もレッスン頑張ります!」

P「うん。頑張れよ、美波ちゃん」

美波「はい!」

美波「……って、ええっ!?」

P「どうした」

美波「い、いえ。私の聞き間違いだったのかもしれないので」

P「そうか。じゃあいってらっしゃい。美波ちゃん」

美波「聞き間違いじゃなかったです!」

美波「どうして急に、名前で……」

P「なんとなく。駄目だったか」

美波「だ、ダメじゃないですけど、てれ……レッスン行ってきます!」

P「あ、おい……行ってしまった」


P「(もしかしたら、今後俺と彼女の関係になんらかの変化が生じるのかもしれない)」

P「(その変化は、彼女がアイドルを続けるとしたら問題になる類のものかもしれない)」

P「だけど……その時は、その時だよな」

P「とりあえず言えるのは」


P「さっきの照れ顔は、やばかった」


おわり

アニメ直前なのでせっかくだから美波メインで書いてみました
彼女に「先輩」って呼ばれるシチュエーションは相当萌えると個人的には思います
まあ私は飛鳥P兼梨沙Pなわけですが

お付き合いいただきありがとうございました

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