咲-saki- ちいさな恋のうた 【議×副】 (8)

その頃彼は眼鏡ではなく
彼女は竹井ではなかった

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♪ 広い宇宙の数あるひとつ 青い地球の広い世界で ♪
♪ 小さな恋の 想いは届く 小さな島の あなたのもとへ ♪

校庭に響く吹奏楽のメジャー楽曲をBGMに

生徒会室では学生議会長と副会長によって定例議会報告書の最終確認が行われていた


竹井「そういえば、副会長の初恋っていつ?」

内木「なんですか急に。脈絡もなく」

竹井「副会長の趣味嗜好を探りたいのよ」

内木「いやいや、正直にそんなこと言われても警戒するだけに決まってるでしょう」

かの議会長が突拍子もないことを言い出す光景はもはや日常であり

竹井「だってー。副会長ってば浮いた話のひとつもないじゃないの。モテるのに」

内木「モテてませんよ」

竹井「実は~副会長に告白したのに振られちゃった~っていう話を2,3回聞いたことはあるんだけどね?」

内木「……そんなの、プライバシーの問題じゃないですか」

竹井「甘いわ!思春期の多感な少女が失恋のショックで自殺したらどうするの!?私には学生議会長として生徒の不幸を未然に防ぐ義務があるわ!」

内木「えぇ……」

その副会長が強引に丸め込まれる光景もまた日常なのであった

内木「そうですね。あまりに小さすぎてよく覚えていないんですけど……」

内木「近くに住んでた女の子がいて、その子の親があんまり家にいない感じで、よく二人で遅くまで遊んでいたんですよ」

竹井「なんだか複雑な事情がありそうね」

内木「その子は僕より遥かに頭が良くて行動力があった……ような気がします。朧気ですけど」

内木「ある日急に質問されたんですよ。『わたしのこと、好き?』って」

竹井「へぇ~、マセてるわねぇ。いいじゃない。かわいいじゃな~い」ニヤニヤ

内木「その時はなんかただ恥ずかしくて、今思えば……って感じですけど」

竹井「なんて返事をしたの?」

内木「していませんよ。確か、結局すぐにその子が引っ越して、それっきりですね」

竹井「ふ~ん。それで、まだその子に片思いしてるとか?」

内木「えぇ?まさか……。」

竹井「きっとそうね!幼い恋心が消化されないまま成熟してしまったせいで、いつしかロリコンに……」

内木「ロリコンじゃないですってば。お願いですから変な噂立てるのやめて下さいよ……はい、これで終わりです」

竹井「どれどれ……うん。完璧ね。お疲れ様。」

♪ あなたと出会い 時は流れる 思いを込めた 手紙も増える ♪
♪ いつしかふたり 互いに響く 時に激しく 時に切なく ♪

傾く太陽が校舎を橙に染めても音楽部の熱心な練習は続いているようだ

仕事を片付け、他愛のない雑談をしながら帰り支度をする

毎日変わらぬローテーションの中

一瞬絡んだ視線に

「ぁ」 と。

小さく漏れたのはどちらの声か

人間の記憶は、ほんの些細な切欠で雪崩のように甦ることがある

何かの音であったり、微かな匂いであったり、何気ないフレーズであったり

あるいはこの日この時のように

部屋を染め上げお互いを照らす

夕焼けの色であったり



♪ 響くはとおく 遥か彼方へ やさしい歌は 世界を変える ♪

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『ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ』

建物も道も車も 全てがオレンジ色に染まる世界で

心臓が破れんばかりに追いかけて、走る

何度も転んで膝頭を擦りむいて

自分がボロボロになるのも意に介さず

小さくなるトラックに追いすがり、必死に叫ぶ男の子

顔を涙でくしゃくしゃにして、応えるように何かを叫ぶおさげの女の子

夕焼けを受けてひときわ輝いていたオレンジの……髪

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一太「……ひーちゃん?」

久「……いっくん?」



♪ ほら あなたにとって大事なひとほど すぐそばにいるの ♪
♪ ただ あなたにだけ届いて欲しい 響け恋の歌 ♪


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『ひーーちゃーーーん!すきだーー!』

『わたしも!わたしもー!またね……いつか、ぜったい……またねーー!』


ひびけ、 恋のうた


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