和「私は……病んでいる人間です」 (86)

初めてスレ建てます。なにか形式間違ってたら言ってください。

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私は……病んだ人間です……。

私は日記というものを生まれてこのかた一度も書いたことはありませんが、今回何を思ったのか書くことにしました。といっても、これは日記というよりは手記とよんだほうがいいですね。
この世間から遠ざかった薄暗い穴倉で蓄積された思想を吐露する……ということです。いずれ穴蔵から解放されることを望んで……。

さて皆さんは目の前に最大限の幸福が約束された道があるとしたら、その道を歩きますか?

その道は自然法則を完全に把握して導かれた合理的な道です。数字を代入すればたちまち解けてしまう数理的な道です。2 2は4というわけです。

この問題に関わる人間の特性に関して少し言及しましょう。

人間というものは間違っていると分かっていても、時に間違ったことをしてしまうものだということです。痛みを伴ったとしても……です。むしろそれがいい。
これは神経が鋭敏な、知能が高度に発達した人間にみられるものです。

私は一度ある人の胸を少しだけ触ってしまったことがあるのです。当然のことながら、私は蔑んだような目で見られました。私は平手打ちも覚悟したのですが、彼女は何もせずに私の目の前から去っていきました。

平手打ちをされたらどれだけよかったか……つまりされているほうが、体裁は整うのです。ですが結果として無視された……これは平手打ちよりも何倍もつらい。ですがその何倍にも増した精神的苦痛こそが私にとっては快楽となるのです。

この感覚は愚鈍な人には分からないと思います。

さて私はその人の姉と対面したことがあります。この姉というのは……もう隠しても意味がないから言いますが、この姉というのは宮永照といいます。その人といったのは妹の咲さんです。

この宮永照というのインターハイで大活躍し、プロになっても同じように活躍しているスーパースター……という人です。私のようにプロで通用しなかった、などとマスコミにこけおどされている人間とは大違いですね。(彼女のようなごり押しがいつまでも通用するわけありません。いづれ私のデジタルに徹したプレイスタイルが花を開くのは決定付けられていることです。)

この宮永照と出会うと私は何だか無性に憎たらしい気持ちが沸いてきました。咲さんを放って東京にでて好き放題やった挙げ句、仲直りして咲さんの愛情を強く受けているということにです。そもそも私は宮永照が咲さんが麻雀を始める要因になったというのも気に入らなかった。

私は宮永照の差し出す手を無視してあげました。そうすると宮永照は何事もないように手を下ろして笑顔をみせてきました。しかし私は知っているのです。彼女は内心では自尊心を傷つけられて気が気でないのです。宮永照は何か社交辞令じみたことを言ってから、踵を返し去ろうとしかけました 。

このときです。私はよせばいいのに、その背中に向けて悪口を言いました。確か、大星淡の成績不振のことです。宮永照は何も言い返しませんでした。そこで私は――何でそんなことを言ったんでしょう!――今度は咲さんと別居していたことから始まって、咲さんと宮永照の家族愛を踏みにじるようなことを言いました。すると宮永照は一発私に平手打ちをして去っていきました。

このときです。私はよせばいいのに、その背中に向けて悪口を言いました。確か、大星淡の成績不振のことです。宮永照は何も言い返しませんでした。

そこで私は――何でそんなことを言ったんでしょう!――今度は咲さんと別居していたことから始まって、咲さんと宮永照の家族愛を踏みにじるようなことを言いました。

すると宮永照は一発私に平手打ちをして去っていきました。

私は宮永照に平手打ちをされたことに屈辱を覚え、次に咲さんとの関係にも悪影響があるかもしれないということに気付きぞっとしました。

咲さんと絶縁――?

道で出会っても挨拶することもなくなり、咲さんが咲さんの友達と話しているのを、蚊帳の外から他人のように眺めるようになる――そんな恐ろしいビジョンが脳裏を掠めました。

ああ、なんていうことでしょう!

その絶望を想像すると……私は、私は……!

絶頂してしまいます。オルガスムに溺れて、死んでしまう(イってしまう)!

私は咲さんとの呆気ない破局を想像すると、この上ない悦びを見出だしたのでした。

皆さんはこの気持ちが分かりますか?もしも分からないなら私はそれが羨ましいです。

そう、私はたまに愚鈍な人たちへ羨望の気持ちを覚えてしまうのです。

ご飯食べます。

30分から一時間ほどで一回戻ります

ところで私は皆さん、皆さんと言っていますが、これは……これは誰かに読ませることは想定していないのです。

この皆さんというのは……いえ、やめましょう、これは滑稽で……そう、滑稽ですが、消さないでおきます!

あえてです、あえて残すのです。

話は元に戻りますが、人間は非合理なことをすることもあるのです。

そもそもお前は何々産の豚だから何処何処の国でこの額で売られるのだ、と言われて皆さんは望み通りに出荷されたいですか……?

私はされたくないのです。

ときには2 2=4ではなくて2 2=5も魅力的なものです。

そういえば私はこの薄暗い穴倉にこもって半年になりますが……それは例の宮永照のことがあってすぐ後のことになります。

元々人との付き合いも少なかったのですが、それはよりひどいことになったのでした。

親友であったはずの優希との関係は最も顕著な例です。

優希はプロになって物凄い活躍をしています。東風で稼ぐのは昔と変わりませんが、後半で逃げ切るしたたかさを得たのです。

新人王こそ取れませんでしたが、候補に名があがる程度には活躍していました。

それから私はどうにも昔のように優希と接することが出来なくなりました。理由は分かりませんが、ふと仲良くしようという気持ちが薄れたのです。

私がソープランドに通いつめるようになったのもその時期からでした。女性との接触は私の心を癒してくれました。

しかしそのソープランドで思いがけない再会をしたのが……最近のことです。

私は突然思い立って、マホの家へ行きました。

マホとの付き合いはプロになってからは比較的減ってしまいましたが、話してみたい気持ちが沸いてきたのです。

部屋に入ると、マホの他に二人……私の後輩がいました。

しかし顔は分かりましたが、名前は分かりませんでした。きっとあちらも同様でしょう。

私は帰ろうかとも思いましたが、だからこそそこに残ることに決めました。

三人は私が部屋に入ったことに気付いたようですが、話を続けました。

後輩A「では優希先輩のお別れ会は〇〇〇で決まりですね?」

後輩B「一人……二万円?」

後輩A「三万でいいんじゃないですか?」

どうやら優希のお別れ会をやるそうです。確か……他のリーグのチームに移籍するとか。

マホ「じゃあ三人で九万ですね!九万あれば結構美味しくいただけますよー」

和「私を入れたら十二万になりますね」

私はそんなことを言ってしまい、少し後悔しました。なんだってこんなことを言ったんでしょう。

そもそもそんなお金など持っていませんでした!

マホ「……では先輩も来ていただけるんですね?」

マホがそう言う横で後輩の二人は何やらニヤニヤと笑ってこちらを見ています。

和「はい」

そのあとは三人は少し談笑して、二人の名も知らない後輩は部屋を出ていきました。

マホは二人を見送ったあと、部屋をとことこと歩き回っています。どうみてもどこかに行きたがっているようでした。

和「何か用事があるなら遠慮しなくてもいいですよ」

マホ「そ……そうですか。でも先輩も何か用事があったんじゃないですか?」

和「いえ、特別何かあるというわけではないんです」

マホ「あ、私先輩から七万円借りてるんでした。えーと、言いにくいんですけどいつ頃返していただけるんでしょう?」

和「それならすぐにでも返しますよ。耳を祖揃えてしっかりとです。私は卑劣な人間じゃないですからね」

マホ「そ、そうですか。それなら安心です。では私は〇〇〇さんのところへ用事があるので」

和「はい。どうぞ、遠慮しないでください」

マホ「本当はもっと話したいんですけど、すみません」

私は慌ただしく去っていくマホを見送り、自分も家へ帰りました。

道中私はこのことがとてつもなく面倒で陰鬱な結果になることを予見しました。

行くか、行かないか。

しかしどれだけそれが陰鬱になろうと、私はどういう選択をしてしまうのか、自分でもわかるのです。

翌日目から覚めるとと私は約束を思いだし、深い後悔に襲われました。

何故あんなことを言ったんでしょうか?

再三そんな問い掛けが頭に浮かびます。

行かなくてもいいんじゃないでしょうか……?

でもいっそのこと、行ってしまっても……。

結局私は行くことに決めました。

マホたちは服などは比較的気にしない方ですから、適当な服でも大丈夫かと思いましたが、マホも、優希もプロになってからは大人らしくなってしまったのでした。

私は服を選ぼうと、クローゼットを開けましたが、どれも着崩したものばかりでした。

その中でも一番ましのものを選びましたが、それも黒いシミがわずかについていました。

でも仕方ないですよね……。

そうして時間が過ぎ約束の時間が近づくと、私は重大な問題に気がつきました。

お金がないのです。

親からの支援もなく、プロでの稼ぎも大したものではなかったので、貯金に尽きてしまったのです。

マホに借りようかとも思いましたが、マホからは既に7万もお金を借りていたのです。更にお金を借りるなど出来るでしょうか?

でも今更どうしようもありません。なるようになります。私は決心して家を出ました。

お店に着き、店の中に入りましたがマホたちはまだいませんでした。店の人に聞いてみると……。

ウェイター「はあ……あと一時間で来ることになっていますが」

約束の時間は間違えていないはずですが、これは……どういうことでしょう。

もう帰りましょうか?

でも帰りません。

私は店の人のちらちらと私を見る目に耐えながら、一時間待ちました。

するとマホたちは店の中に入ってきました。

どうやら店の人の言うことは本当だったようです。

マホ達、とりわけ優希は私を見るとひどく驚きました。

後輩たちの表情には困惑と嘲笑の色が浮かんでいました。

マホ「あ、あれ、和先輩、ずっといたんですか?でも誰か知らせなかったんですか」

優希「待ち合わせの時間が変わったの誰も教えなかったんだぁぁぁぁぁじぇ?それじゃ、のどちゃんはずっと待ってたってこと……かぁぁぁぁぁじぇ?」

後輩A「おかしいなあ、伝えなかったっけ」

マホたちは困惑した様子でした。

マホ「それにしても何か頼んで食べるなり……」

優希「まあ何にせよ、のどちゃんがきてくれてうれしぃぃぃぃぃじぇ」

そう言って優希は私に握手を求めてきました。

私は何だかしゃくに触ったので、握手を拒否しました。

優希は苦笑いしながら腕を下ろし、席に座りました。

マホたちも同じように席に座ります。

後輩B「では優希先輩の門出を祝って、乾杯!」

声とともにグラスの鳴る音が響く。私は胸の奥がむかむかして、グラスをあげませんでした。

そうすると、マホが冷ややかな眼差しで私を見ているのに気がつきました。後輩たちは私のことを薄ら笑いを浮かべて見ています。優希は気にしていないように振る舞っています――振る舞っている!きっとそうです――。

優希は私がこんなことをしも放っておくということですか……そうですか、私のことを下にみているというわけですか、そうですか……。

優希「のどちゃんは最近どうだぁぁぁぁぁじぇ?」

後輩A「プロは大変ですよねー?」

優希はプロになってから語尾を妙に伸ばす気取ったしゃべり方をします。

和「なんてことはなぁぁぁぁぁいじぇ」

優希の真似をすると、後輩たちがクスクスと笑います。

優希「勝率はどんなもんだぁぁぁぁぁじぇ?
私はここ二年は運が良くて27%を越えてるけど……のどちゃんはデジタルだからきっとトータルは凄いことになってるはずだぁぁぁぁぁじぇ」

というか同校出身なのに私の成績を知らないってどういうことなんですか。

和「私は23%です」

後輩B「うーん、でもプロの世界だし高卒でその成績って凄いですよねー。
しかもアリーグのレベルって高いし」

そういいながらも口許はいやしく弛んでいました。明らかに馬鹿にされています。

「もう帰ります!」

と、怒って帰ってしまう方がきまりがいいでしょうか?
ああ……しかしこんなことを考えても結局帰ることなんて出来ないんです。私はなんて――

和「でも優希が移籍するチームってナの西部地区ですよね?そこってインターハイでやられた――あえてこう表現しておきます!――玄さんがいますよね。大丈夫なんですか?」

私はいっそやってしまえ、とばかりに早口で捲し上げた。
言っている最中にマホの軽蔑の眼差しを強く感じましたが、止めることはできませんでした。

優希「まあ、私も多少は強くなってるし、そもそも再挑戦の意味合いもあるんだじょ」

和「でも玄さんも強くなってますからね……あちらは新人の中で打点一位に輝きましたし」

後輩B「虎の威を借りる、ですね」ボソッ

後輩の一人が馬鹿にしたような目でそんなことを言っているのが視界に入りました。

和「それはあなたのことでしょう」

後輩B「えー?なんですか?」ニヤニヤ

後輩A「後輩Bちゃんって今tototoの社員さんだもんねー」

優希「もうやめるじょ!仲良く食べるじょ!」

優希が叫ぶと後輩たちはみんな黙りました。

それからはひたすら飲み食いしました。麻雀の話や昔話、世間話を四人はしていました。

後輩Bが私の服のシミに気付いているようで、薄ら笑いを浮かべているのが気になりましたが、私は何も言いませんでした。

話が盛り上がると四人は席を離れてソファーに座ります。

優希「今日はありがとうだじぇ。お礼にシャンパンをおごるじょ」

それから四人は更に話に花を咲かせました。

それから四人は更に話に花を咲かせました。

私は立ち上がり部屋のあちこちを歩き始めました。何かを考えているようにです。

四人はそんな私に気付いているようでしたが、見ようとはしませんでした。

食器を片付けにテーブルの近くへ来た店の人は私のことを怪訝そうに見ていました。

そうして時刻が10時を上回ると、四人は帰り支度を始めました。

そのとき一度だけ四人が部屋の隅を歩き回る私を無言で無表情で眺めました。

私は気付かないふりをしました。

四人はそんな私を放ってソファーから立ち上がり、店から出ていこうとしかけました。

和「ちょっと待ってください、どこ行くんですか?」

後輩A「二次会ですよー」

和「あの、実はお金がなくて、貸していただけませんか?一万と五千でいいですから」

後輩B「はあ?どいてくださいよ、邪魔ですよ」

そう言って歩いていこうとする四人ですが、私はそれでもひこうとはしませんでした。そうすると優希が三万円を私に握らせます。

マホ「見損ないました……」

四人はもう私を見ようともしないで去っていきました。

私はその場で棒立ちになり俯きました。そんな私を店の人たちが不思議そうに眺めていました。

私は胸の奥に何かが蠢くのを感じました。

ああ、今すぐ優希のところへ行って一万と五千……いえ、持ち金を全部渡してやります!

行くところは分かっています。

私は思い立ってすぐに店をでて、タクシーに乗り込みました。

しばらく経ち、目的の場所まで来ましたが、先ほどの気持ちが薄れ、やめようかという気持ちが沸いてきました。

こんなことは……でも、やりましょうか。
やってしまったほうがいい。いえ、結局同じことかもしれませんが、でもいいでしょう。

私は建物の中へ入っていきました。

どうやらロビーにはもういないようです。もう部屋へ行ってしまったのでしょうか。

どうしたものか、と考えようとしたところで、視界の端に見知った顔が入りました。

和「あ、憧……」

それは幼馴染みの新子憧でした。

暗い部屋の中、私は憧と一緒にベッドに腰掛けていました。

憧の容姿は前と変わらず可愛らしいもので、この職業特有の化粧の濃さや肌荒れというものは見受けられませんでした。

インターハイ以来でしょうか。何をしているのかおとさらもなかったのですが……。

しかしこの状態はお互いにとって気まずい状態でした。咄嗟のことだったので、つい流れで指名してしまいましたが。

憧「まさか和に会うとは思わなかったなあ」

憧は気を使っているようで、そう切り出しました。

ええ、そうですね、はい、と相槌が思い浮かびましたが、何だか全部変なような気がして、結局なにも言えませんでした。

和「憧は……どうしてここに?」

言ったあとにこれは直球すぎると気がつきました。

憧「うーん……プロは行けないし、大学も行く気がしない。巫女さんっていう気分でもないしね。
って、これじゃ怠惰な人だね。っま、やる気がなくなったのには原因があるんだけどね」

和「原因……?」

憧「うん、実はシズにね……告白したんだけど、振られちゃってさ。なんでも今は麻雀で頭がいっぱいで恋愛どころじゃないって」

麻雀で頭がいっぱいですか。うらやましい限りですね。私は……。

麻雀で頭がいっぱいですか。うらやましい限りですね。私は……。

憧「それで惰性に任せてこの仕事にね。あ、勘違いしないでよ!
別にエッチ大好きでこんなことやってるわけじゃないから」

和「いつまでもそうしていられませんよ」

憧「うん、分かってるんだけどねー」

分かっているという憧の表情は達観、のようなものでした。

和「いいえ、分かっていません。

こういう仕事は、ちやほやされるのは華があるときだけ……役立たずになったらゴミクズ扱いです。

私はそうなった人を何度も見てきました。若くて綺麗なうちはお客さんはいなくなったら困るとばかりに扱います。

しかし歳がとって見栄えが悪くなるにつれ、客からもオーナーから、同僚からも悪口や暴言をはかれるようになるんです。こうなるともう邪魔物扱いです。
そして挙げ句には店から追い立てられて、どんどんと格の小さい店へと移ってゆき、最後には誰も知らないところで仕事も奪われるんです。

お客に聞いてみると、ああ、そんな人もいたね、という具合に存在も消えていくのです。どうです?これが現実なんですよ、憧」

言い終わると、過ぎたことをぺらぺらと言ってしまったことに気付いて、途端に恥ずかしさで俯いてしまいました。

そもそもどうして私のような人間がそんなことを――?

呆れや羞恥、怒りを通り越して笑えてきます。

憧の方を見ると憧が切なそうな表情をしていることに気づきました。

そうすると、これは悪いことにはなっていなかったのでしょうか。つまり心を打ったということに……?

憧「何だか……何だかその話は」

憧は言いかけて、やめます。

和「何ですか?」

私は聞きますが、憧は何も答えません。

しばらくお互いに無言でいました。私は帰ろうと思い、立ち上がりました。当然情事にふける雰囲気ではありません。憧を汚すのは……自分の本当に楽しかったときの思い出を壊してしまうようで……。

和「帰りますね」

憧は何も答えないので、私はそのまま帰ろうとしかけますが、私はふと思い立って財布から紙を取り出します。

和「これ私の連絡先が書いてあるんです。気が向いたら……」

私は名刺をベッドに置いて、いよいよ帰ろうと、ドアのところへ歩いていきました。

憧「和、ありがとね」

ノブに手をかけると後ろからそんな声が聞こえてきました。

それから3日目になりましたが、憧はまだ私の家へ訪れてはいませんでした。

あるいは来ることはないのかもしれません。私は憧が来ないことに安心していました。

というのも、このみすぼらしい穴蔵はとても見せられたものではありませんでしたし、あの弁舌は思い返すと滑稽そのものだったからです。

だから私は憧が来ないことに安心していたのです。

夕刻になっても、憧はまだ訪れませんでした。

憧はメモなんて破ってしまい、私のことを嘲笑しているかもしれない。そう思うと憎しみの念が沸いてきました。

ああ!私はなんてことをしてしまったのでしょうか。恥さらしもいいところです。

そのときです。

ベッドの上で悶えていると、コンコンとドアが叩かれる音がしたのです(チャイムがあっても友人は来ないし、大抵訪れるのはセールスか、詐欺か、宗教関連だったので、チャイムはなくしたのです)。

私はドアを開けました。するとそこには憧が立っていました。

憧は来てくれたのです。

でも喜んでいいのでしょうか?プロである私がこんな薄暗い家に住んでいるなんて……。

私は何も言わず憧を部屋の中に入れました。憧は緊張した面持ちです。

私は憧を椅子に座らせ、自分はベッドに腰掛けます。飲み物をだそうかと思いましたが、コーヒーも、ジュースも買うお金がないので何も置いていないことに気づきました。水をだすわけにも、いきませんよね。

憧「あはは……来ようか迷ったけど来ちゃった」

和「貧しい暮らしを見せたくはありませんでした」

憧「そう?別に気にしないよ」

憧はそう言いますが、私としては屈辱的なのもいいところです。

憧「でも麻雀のプロって儲からないんだね。シズのことがあってから余り麻雀見ないんだけど……」

和「私は一軍と二軍を行ったり来たりですから年俸も低いんです。上の人たちはそれこそ桁が違いますよ」

憧「ふーん」

なんでこんなことを言っているんでしょう。自分で自分の傷を広げるようなまねを……。

憧「そういえば、咲とはどうなったの?」

和「……咲さんとは疎遠です」

卒業間際に告白して玉砕して、襲ってしまうような形になり……それから段々と壁ができてきて、宮永照への挑発以来、私は話しかけることが出来なくなったのです。

憧「そっか……」

和「何もかも壊れてしまったんです。始まりは咲さんとの一件、次はプロで散々叩かれて、父からは『やはり大学に行くべきだった』と言われて……全部全部、屈辱です」

涙が溢れるのを感じましたが、私は続けました。

和「私が殻に閉じ籠ると、友人もみんな私のもとから去っていったんです。
そしてこのどうしようもない生活……私はみんな憎い。私を嘲る声が何よりも憎いのです。
憧も私のことを軽蔑するんでしょう?
いえ、してもしなくても関係ないんです。私自身が貴方を憎むんです。この家、この身なりの私を見る憧が、憎いんです」

独白する私をふと、憧は抱き締めました。

憧「かわいそうにね……誰も助けてくれなかったんだ」

その言葉を聞くと涙がとどめんばかりに流れてきました。

なんて惨めなんでしょうか!

私たちは数分そうしていました。ですが私の心にまた悪魔がさえずります。

今の私は滑稽そのものじゃないかと!

そうするとまた憧が私を冷笑しているのではないかという気がしてきました。

和「帰ってください!私は……」

私は憧の手を引きドアのところまで連れていきました。憧は黙って連れられていきました。

私は憧を外へ出し、扉を閉めてしまいました。

それからのことは私もうろ覚えです。

私は憧を外へ出してからしばらくドアに寄りかかり、ぼーとしていたのですが、突然深い後悔の念で胸が掴まれる気持ちがしたのです。

私は憧を探しに外へ出ていきました。

あちこちを探したのですが、憧は見つかりませんでした。私は家へ帰り一晩中泣いて過ごしました。

私は翌日憧のいたソープランドを訪れました。

しかし憧はどうやら私がそこへ行った日にやめていることがわかりました。

憧の所在地も分からず私は途方に暮れ、家へ帰りました。

それが今までのことです。

憧は私を憐れんでいた。それは純粋な気持ちでした。

私にまとわりつく猜疑心という悪魔が私を騙した。もう私は抜け出すことはできないんでしょうか?

全ては強がりのようなものなんです。

苦痛は、やはり痛い。

もしかしたら憧がまた戻ってくるかもしれない、そう思って待って3日になります。

憧もみんなと一緒で私を見捨てたんでしょうか?

シーズンが始まるまであと一月です。あの日から1日遠ざかり、シーズンが1日近づく。

もう諦めましょうか。私は延々とシーズンの終わりにこの手記を書くのです。

ずっと憧のことを考えています。もう疲れました。でももう一度憧にあったら、私は憧に一緒にいてほしいと言いたいです。告白ではなく、ただ純粋にです。

それで憧に微笑を浮かべてうなずいてもらうんです。あえて黙ってもらわないと、黙ってです。

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