塩見周子「ガラスの仮面」 (52)




 「四代目シンデレラガール」



 「誰が?」

 「塩見周子」

 「何に?」

 「シンデレラガール」

 「誰が」

 「シューコ」

 「何に」

 「あと三往復までな」

 「じゃあもっかいだけ」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1436069185




 「――お前が四代目シンデレラガールだ。おめでとう、周子」



うーむ、何度聞いても良い響きだねぇ。


四代目シンデレラガールこと塩見周子ちゃんのSSです


前作とか

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こっちはあんま関係無い

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こっちの半年ほど後のお話


おめでとう周子


 「シンデレラガールかー。シンデレラガールねー」

 「おう」

 「…………シンデレラガールって美味しいの?」

 「そこら辺は大変に汚い話になるな」

Pさんがシャンパンをぐいと一息に飲み干す。
グラスを掲げると、すかさずウェイターさんが歩み寄って来た。

 「いや、よく考えたらシンデレラガールって何なんだろうと思って」

 「気持ちは分からんでもない。『シンデレラ』とはまた違うんだなこれが」

 「なら何なのさ」

 「定義としては事務所の人気総選挙第一位のアイドル。まぁ要するに」

注がれたばかりの二杯目を、ウェイターさんの目の前で飲み干して。



 「――誇るべき栄誉だ、周子」



 「じゃあ誇っとこうかな」

 「おー、誇っとけ誇っとけ。すんませんもう一杯」

大変良い事を言ってるとは思うんだけれども。
この人が言うと、どうも酔っぱらいの戯れ言に聞こえていけない。


 「それにしてはさ」

 「ん?」

 「Pさんは平常運転だね。あたしは浮かれてる自覚あるけど」

 「いや滅茶苦茶喜んでるぞ、表に出さないだけでな」

 「素直に喜びゃええやん」

何なら胴上げでもしてほしいくらいだ。
Pさんの豪腕ならシンデレラガールの一人や二人余裕だろうし。

 「プロデューサーたる者、アイドルを慢心させん為に鉄面皮を被らにゃいかん時があるのさ」

 「あぁ、どーりで面の皮が厚いと思ったよ。鉄面皮にしちゃふにゃふにゃだけど」

 「どういう意味だオイ」

 「あたし的には前の面のが良かったなって」

 「その心は?」


 「二枚目が良かった」

 「誰が三枚目だやかましい」


頬をつねろうと迫る豪腕を避ける。
実に中身の無い、お手本のような酔っぱらい共の会話だった。


 「可愛い顔した女狐め……まぁ良い。記念だ」

 「記念?」

 「何でも好きなモンを用意してやる。何がいい」

 「そう急に言われてもねぇ……あ、ご飯連れてって」

 「今まさに真っ最中だろが」

いつからかCGプロ御用達になってしまったらしいレストラン。
肇の担当さんの紹介らしいけど、一体何者なんだろあの人。

 「もーーっとイイ所か、もしくは楽しいお店を探してよ」

 「ここ二つ星なんだが……楽しい方面で当たってみるか」

 「よろしくー」

パイ包みを頬張って、二つ星の味に舌鼓とゆーやつを打ってみる。
ガラスの向こうの夜景を眺めながら、Pさんが苦笑した。

 ― = ― ≡ ― = ―

 「俗に言う」

 「ん?」

 「周子にも衣装ってやつだな」

 「蹴っていい? この靴で」

ドレスの裾を持ち上げると、Pさんが笑って階段を駆け下りる。
この靴で追い掛ける訳にもいかず、スイパラの奢りで勘弁してやろうと鼻を鳴らした。
あぁ、シューコちゃんの何と優しい事か。

 「どうだシューコ。ガラスの靴の履き心地は」

 「正直最悪の履き心地だけど、最高の履き心地だねこりゃ」

 「だろ?」

階段の途中に腰掛けて、自慢の鴨のような脚をすっと伸ばす。
……あれ、鹿だっけ? まぁいいや。

 「似合ってる?」

 「ああ。やっぱガラスの靴はシンデレラが履くもんだな」

 「シンデレラじゃなくてシンデレラガールじゃなかったっけ?」


 「まぁ将来は……おっと、来年以降の話をするとちひろさんが笑うって言」

Pさんの懐から着信音が鳴り響いた。
祈るような表情で画面を確認して、冷や汗をかきながらPさんが電話に出る。
どうでもいいけど撮影中はマナーモードにしときなよ。

 「はいPですいえ違うんですよ……え? あぁいえ違うならいいんですお気になさらず本当にはい」

見てるこっちがいたたまれなくなるような、切ない光景だった。
稼ぐ男は大変だ。

 「失礼します…………早速新しい仕事が2件入ったそうだ」

 「おー、流石シンデレラガールのタイトルバリューは違うね」

 「これからが大変だぞシューコ。何せガラスの靴履いたまま駆け回らなきゃならん」

 「そんじゃ、このピンナップ撮影もちゃっちゃと終わらせようか」

 「……珍しく本気モードだな」

 「浮かれてるからね」

 「次の現場もある。二時間で終わらせるぞ」

 「がってん」


撮影は、一時間と少しで終わった。

 ― = ― ≡ ― = ―

 「いやぁ、よーやく手に入ったよ」

次の現場へ向かう車内で一息つく。
膝の上に載せた黒い箱をぽんと叩いて呟いた。

 「PV第二弾まで待ちきれなくってさぁ」

 「アイツを攻めんでやってくれ。一弾の時は奏ちゃんとシューコで手一杯だったんだ」

 「もー、Pさんも何で長期出張なんてしちゃうかね」

 「しょーがあんめぇ、元々管理畑の人間なんだからオレはよ」

そういやそうだった。

 「神様も何でこんな人に才能を与えちゃうかねぇ」

 「そりゃあお前あれだ、日頃の行いが良いからよ」

 「茄子さーん、ここに人間の善行を愚弄する不届き者がおりますよー」

 「おい茄子ちゃんはマジでやめろ何か起きる」

大丈夫、茄子さんめっちゃ優しいし。
Pさんならバチの百個か二百個で許してくれるよきっと。


 「そういや店、決まったぞ」

 「お。たのしーお店?」

 「ああ。舞踏会開くわ」

唐突な、聞き慣れない言葉が耳を抜けた。


…………舞踏会?


 「え、みんな呼ぶん?」

 「流石に全員は無理だが、都合の付く限りはな」

 「いやいや舞踏会て」

 「詳細はお楽しみに、ってやつだ。オレの口は固いぞ」

 「水素より軽いけどね」

 「歯の浮くような素材だなそりゃ」

こうなったPさんは貝の口だ。
何を聞こうが自慢の三枚目でニヤつくだけ。

 「ま、それじゃ楽しみにしとくよ」

 「おう。サプライズ仕込んどくからな」

 「それ今言っちゃう?」

みくにゃん辺りも招待しておこう。
いや特に深い意味は無いけど、念の為。


 「…………拾い物だったな」

ひとしきり笑った後に。
Pさんにしては珍しい、囁くような呟きだった。
どっちかって言うと拾い者かな?

 「交番に届けなくてよかったん?」

 「一割じゃ勿体無いだろ」

 「業突く張りだね」

 「シューコこそあん時手ぶらに千円札一枚でどうするつもりだったんだ」

 「んー……聞きたい?」

 「話さなくていい。誰にも、ずっとな」

 「うん」

あの時あたしは、それこそ茄子さんにだって負けないぐらいの幸運を手繰り寄せたんだと思う。
ひょっとしたら来世や来々世の分まで先払いしちゃったのかもしれない。
まぁ、その時は神様に何とかしてもらおう。お稲荷さんなら贔屓してくんないかな?

 「あの時は手ぶらだったけどさ」

 「ん?」

 「今は。良いもん、足に履いてるよ」

 「そうだな」

冗談のつもりに。
Pさんがまた、囁くように。


……調子、狂うなぁ。


 「周子」

 「ん?」



 「その靴、落っことすなよ。交番は好きじゃないんだ」

 「うん」

 「突っ込めよ。そこは落とし所だろって」



調子が狂うっつーに。


そうPさんが呟いて。


あたし達は調子狂いで、けれど調子外れじゃないみたいだった。

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