JK「私が戦国時代に?」 (785)

友人「そそ、もし自分が戦国時代に行ったら…どうなると思う?」

あおい「うーん…戦国時代って織田信長とか豊臣秀吉とかいる時代で…なんか戦争ばっかりな時代だよね?」

友人「まあ戦争ってより紛争みたいなものかな、隣国や果ては自国内でのお家騒動…血を血で洗う下克上の世!」

あおい「なんか今日は熱いね佳奈…何かあったの?」

佳奈「いやー、あたし今ねこれにハマってんのよ!」スッ

あおい「…携帯ゲーム?新しいのでも買ったの?」

佳奈「そそ、これよこれ」

あおい「戦国乱舞ヒストリー?」

佳奈「双剣を使う女の子を操り戦国を駆け抜ける爽快アクションゲー、河越夜戦から大坂の陣まで敵を蹴散らすのだ!…って謳い文句なんだけどね。これが面白くって!」

あおい「そ、そうなんだ…」

佳奈「でね、この娘が可愛くってさそれでいて強いときた!乱舞ボタンを押すと…必殺の残影二連!かっこいー!」

あおい「よ、よかった…ね…」

佳奈「で!なんとこの娘、モデルになった人物がいるらしくってさ!見た目あたしらと同い年くらいに見えるから…」

あおい「あぁ、だから私に戦国時代にどうのって」

佳奈「ロマンだよねぇ、あたし戦国時代に行ったら無双しつつ武将とラブロマンスみたいな!」

あおい「佳奈は強そう、運動出来るし…私が戦国時代に行ったら…」

男子「無理無理、結城が戦国時代に行ったら即討死だって!」

男子B「結城あおい、戦死!わっはは!」

あおい「ひ、ひどい…実際そうだろうけど…」

佳奈「シッシッ!あっちいけあっち!…んでね、今日はコレを貸してあげよう」

あおい「あれ?戦国乱舞?今佳奈がプレイしているのに…」

佳奈「布教用って奴よ!それがあおいの宿題!」

あおい「あ…ありがとう…」

夕方
あおい(バイト終わったら佳奈のゲーム、やってみようかな)

中年男性「あのう」

あおい「わっ!?」

中年「お、大声出さないで下さい事案になっちゃう」

あおい「だ、誰か…」

中年「事案になってる!あ、ちょ、落ち着いて!落ち着いてくだされ!」

あおい「お、お金…あんまりないけどあげますから…だから…」

中年「お金いらない!ちょっと話を聞いて下さいってば!」

あおい「話…?」

中年「そうです、結城あおいさん。あなたにお伝えする事があります」

あおい「どうして名前…」

中年「あなたは選ばれたのです、おめでとうございます。ささ、行きましょう使命を果たすために!!」ササッ

あおい「い…いやああああああああああ!!!」ダダダダダ

中年「おっ!?待ってくだされ!!…ふう、急過ぎましたか…」


あおい「ありがとうございました~」

店長「あおいちゃんお疲れ、あがっていいよ!」

あおい「はーい、お先失礼しまーす!」


あおい「さて、と…」

あおい(夕方変な人に絡まれたから嫌だなぁ…早く帰らなきゃ)

中年「やあやあ」

あおい「いやあああああああああああああああああああああ!!!」ダダダダダ

中年「いきなりとは…まあいいでしょう。すり替えには成功しましたから、ね」

自宅

あおい(怖かったぁ…こういうのって警察に言った方がいいのかな…)

あおい「ただいまー」

あおい(そうだお母さんとお父さん今日は遅いんだった)

自室

あおい「あったあった、これで佳奈から借りたゲームが…」ゴソゴソ

あおい「?何か色がおかしいけど…まあいっか」ポチッ

ピカッ


あおい「え?…え?」キョロキョロ

あおい「部屋だったのに、なにここ…?めっちゃ田舎なんだけど…」

あおい「そうだスマホで…嘘、圏外って…」

あおい「…えっと…どうしよ…」

?「やあやあこんにちは」

あおい「ひっ!?」

中年の声「ようこそ、戦国の世へ。結城あおいさん」

あおい「さっきの怪しいおじさん…?」

中年の声「途方に暮れぬようわたくし、十三(じゅうぞう)が戦国時代を生き抜く為の知恵を言霊として録音させて頂きましたぞ」

あおい「戦国時代を生き抜くとかいきなり言われても…」

十三「まずはバッグを開けてみましょう」

あおい「中にあの変な人いたら嫌だな…」

十三「バッグの容量は見た目よりもはるかに多くなりかなりの量の荷物を持ち運び出来ますぞ、さらに重量もそこまで変わらぬ優れもの!どうです奥さん!」

あおい「誰だよ…」

十三「まずは着替え!あなたの通うおーぷん高校の制服を50着複製しました!下着類完備!以上!」

あおい「え…制服のみって事…?」

十三「次は小型翻訳機!戦国時代と現代では言語が異なりますからな、それを付ければ自動で翻訳してくれますぞ」

十三「そして次は戦国時代を生き抜くのに必須な武器!」

あおい「ぶ、武器!?」

十三「双剣炎氷牙です私が命名しました、格好いいでしょう!?」

あおい「お、おう」

??「おい姉ちゃん」

あおい「!?」

あおい「だ、誰!?」

山賊「へっへ…そんな格好で若い娘が一人でよ…」

山賊2「歩いてちゃ駄目だぜぇ」

あおい「あ…ぁ…」

十三「…という風に扱っていただければ炎氷牙はきっとあおいさんの力になりますぞ!そして次は…」

山賊「ん?お、高そうな得物持ってるじゃねえか…へっへ、ついてるぜ」

山賊2「色々楽しめるじゃねぇかぐへへ…」

十三「あおいさんの身体能力そのものはそこまで変化はありませんが…」

山賊「大人しくしてりゃ痛い目にはあわさねえ」ジリジリ

山賊2「ただ…別の意味で痛えかもな…」ジリジリ

あおい「い、嫌…」

山賊「捕まえた…へっへへ」ガシッ

あおい「は、離して!」パシッ

山賊2「てめぇ!よくも!」バキッ

あおい「あぐっ!」

十三「打たれ強さ、傷の治癒速度は格段に上昇し傷跡も残りにくくなっており」

あおい「いたた…」

山賊2「!?こ、こいつ倒れねえぞ!思いきり殴ったのに…!」

あおい「こうなったら…」スチャ

十三「まるで無敵の強さを手に入れたかのようでしょう」


山賊「くっ…」

山賊2「このアマ…調子にのるなよ!」チャキッ

山賊2「死ねえ!」ダダダ

あおい「やあああ!!」タタッ

カキーン

あおい「あれ…?」ポトッ

十三「決して剣術が上手くなるわけでも腕力が増すわけでもありません、最初は山賊等と遭遇した際は逃げるといいでしょう」

山賊「ぎゃははは!この女弱えぇ!!ちょっと刀かすっただけで武器落とすなんてよ!」

あおい「そ、そんな…これ夢だろうから私が無双出来るんじゃないの…!?」

山賊2「へっ、びっくりさせやがって。たーっぷり可愛がってやるからよ?ぐへへ…」
 
あおい「や、やだ…いくら夢だからって…誰か助けてよぉ…!」

十三「逃げなかったりうっかり戦った場合は諦めてくださいね、治癒早いとは言え致命傷受ければ死にますし、山賊に慰みものにされてあおいさんの心が折れた場合も元の世界へは二度と戻れなくなりますからね」

あおい「な、なに言っ…」

山賊「へっへへ!」ガシッ

山賊2「二人で抑え付けりゃ…もう逃げられねえぜ」ガシッ

あおい「あっ!?や、やだ!離してよ!」

山賊「この変な服いいなぁ、脱がす手間が殆ど無えしよ!」モゾ

あおい「いやああああ!誰か!誰か助けて!!」

山賊2「無駄無駄、ここは俺らの縄張り誰もいねえって」

十三「山賊におさえつけられたらほぼゲームオーバーなので十分注意するようにお願いしますね、いきなり戦国時代来て早々に山賊に襲われるとか歴史の綻びが…」

あおい「ちょ…さっきから説明してないで助けてよ!!」

十三「録音の容量の関係で次へいきますね次は…」

あおい「ああぁぁ…録音とか言ってた…きゃあああ!」ドサッ

山賊「よしとった!」

山賊2「いただきまーす」シュルシュル

あおい「うそ…こんな…こんな事って…」  

??「その娘から離れな」

山賊「な…」

山賊2「何だてめえは!?」

??「あたしの格好で…わからないの?」

山賊「!この紅い変な着物!それにその居合刀…」

山賊2「まさかこいつが…神速抜刀術の由佳!?」

由佳「変な着物は心外だけど…ご名答。で、どうするのゴロツキさん。今すぐ逃げれば見逃してあげるけど?」

山賊「へっ馬鹿かてめぇは」

山賊2「獲物が二匹に増えただけでしかねえんだよ!抜刀術だか知らねえが二人相手に勝てるわけねぇんだよ!」チャキッ

山賊「討ち取って頭の手土産にしてやんよ!」ダダッ

山賊2「おう!」ダダッ

由佳「二人に勝てるわけない、ね…」スッ

あおい「わっ…あ、危ない!!」

由佳「…二人で足りるのかな?」

山賊が紅い着物の女の子へと襲いかかる
女の子は舞うように身を翻し猛攻をかわす
刹那二人の大男は崩れ落ち地面へと突っ伏した

私は剣術だとか技術だとかそんなものはまるでわからない
でも

「強い…!」

それだけは理解出来た


今で言えばミニ浴衣なのだろうか、紅い着物の女の子が近付く
歳は同い年なはずなのに…独特の威圧感に押されてしまう 
反面、どこか親しみのある雰囲気もある様にも思えた
そうかこれって…

あおい「佳奈?」

由佳「かな?」

あおい「佳奈!あーよかった助かったよありがとー!私どうなるかと思ったよ夢とはいえさ!」

由佳「え…いや…」

あおい「さすが親友!よっ、桜木佳奈、日本一!!」

由佳「申し訳ないんだけど人違いだよそれ…あたし由佳だし」

あおい「え」

由佳「しかもあなたとは今初めて出会ったばかりで名前すら知らないし…変な格好だし…」

あおい「へ、変な格好っておーぷん高の制服じゃん!」

由佳「?お…おぷん?」

あおい「しかも結構可愛い制服何だよ!?それをいきなり変とか!」

由佳「あ…いやごめんなさい、気を悪くしてしまって。あたしの格好もよく変だって言われるから…」

あおい「ううん、佳奈のそれすっごく似合ってるよ!ミニでめちゃ可愛い!」

由佳「いや由佳だから…しかもみに?めちゃ?」

あおい「またまた謙遜を!可愛くて似合ってるよ!」

由佳「…」

あおい「?どうしたの佳奈」

由佳「…」ガシッ

あおい「わっ!いきなり何?!握手??」

由佳「初めて言われた…この服可愛いって、似合ってるって…」

あおい「え?え?だって普通に可愛いし」

由佳「これからは親友だ!君、名前は?」

あおい「結城…あおいだけど…」

由佳「あおい、よろしく!あたしは佳奈じゃなくて由佳ね、よろしく!」グイグイ

あおい「いたたた!う、うんよろしくね…か…由佳…」

十三「~であるからして…ここまで聞いてますよね?」

開戸村周辺
あおい「…という風にここに来たわけだけどわかる?」

由佳「うん、全然わからない!」

あおい「えぇ~!?だからバイト終わってから家帰ったらね!」

由佳「もうそのばい…と?がわからない!」

あおい「だからバイトってのはね…」

?「おっ、戻ったか由佳」

由佳「あぁ三崎(みさき)今下見終わったとこ」

あおい「?この男の人は?」

三崎「おや、この娘は?随分変わった格好だけど…」

由佳「わー、いっぺんに聞かないでって!ええとまずは三崎から紹介するね、こいつは旅人で風来坊な剣客…らしいんだけどね。実はあたしもこの村で初めて出会ったんだ」

三崎「何が風来坊だ、お前こそ好き放題やってるみたいじゃないか神速抜刀術なんて我流流派でよ?」

由佳「好き放題ってあたしはちゃんと目的がね…まあいいや次はこの娘、結城あおい!えっと…おぷんこからばいっとで乱舞しながらげえむに巻き込まれてここまで旅してきたみたい」

三崎「うん、全然わからないな」

あおい「ですからおーぷん市のおーぷん高校二年生でここに来たのはバイトが終わって家に帰ってゲームやろうとしたらいつの間にかここにいてですね…」

三崎「全くわからん」

由佳「でしょ?でも嘘ついてるようにも見えなくてさぁ」

三崎「まあな。でっち上げにしても意味不明過ぎるからな…とにかくよろしくな、あおい」

あおい「あ、よろしくお願いします三崎さん」

三崎「ところで由佳、首尾はどうだ?」

由佳「まあ陽動してくれればって感じかな?雑魚二人とやったけど問題なさそうだったし」

三崎「そうか…ならば予定通り俺が村の男衆を連れ奴らを釣り出そう。その隙に由佳は屋敷に潜入し村の娘を救ってくれるか?」

由佳「任せて。必ず救い出してみせるから」

あおい「あの…完全に置いてけぼりに…」

由佳「あ、ごめんごめん」

三崎「ちょうど村に着いたからあおいにも説明するぜ、この村と山に巣食う鬼山賊の事をな」

あおい「鬼山賊?」


開戸村

あおい「…何か人が全然いないね家はたくさんあるのに」

三崎「数ヶ月前東の山に山賊が住み着くようになった。それなりの規模である開戸村は領主から討伐軍の派遣を取り付け二千の兵を向かわせた。普通の山賊ならば十回は壊滅出来る兵力だ。だが…」

由佳「討伐軍が逆に壊滅、村の女子供を全て連れ去り、領主は討伐を断念。つまり開戸村を見捨てたの」

三崎「そこをちょうど流れ着いた俺と由佳は村を助けようと色々準備をしていたのさ」

あおい「ちょ、ちょっと待って。その2000の兵って物凄い数なんだよね?なんで山賊に負けちゃったの?」

三崎「…話では序盤はかなり優勢だったらしい、あっさり奴らの根城へと進軍出来た。だが…」

三崎「山賊の頭目ほぼ一人で討伐軍を壊滅させた…信じられん話だがな」

あおい「ひ、1人で!?」

由佳「逃げ延びた兵が言うには…一人ではないみたいなの」

あおい「だよね、そんないくらなんでも…」

由佳「一体の鬼…だそうよ。人間ではなく、ね」

あおい「え…」

三崎「人間をちぎり刀や槍をへし折る剛力だそうだ、それが本当ならば確かに鬼だが…」

あおい「…ぅ…」ガタガタ

由佳「あおい?」

あおい「恐い…恐いよ…そんなのに出会ったら…」

三崎「明日俺と由佳は先の策を実行する…あおい、お前は今日はここに泊まり明日の朝には村を出るんだ」

あおい「い、今からでも逃げるのは…」

由佳「…もう外は真っ暗よ。恐らくあなたが昼うろついていた時とは比べ物にならない程危険なはず。…確実に無事では済まないわよ」

あおい「いやだ…もうやだ…帰してよ!家に帰して!」

三崎「…すまんあおい、お前を護衛し家まで送り届けるのは難しい…せめてこの戦いが終わるまで待って欲しい」

あおい「勝てるわけないよ!そんな人間じゃない奴に勝てるわけない!」

由佳「あおい…」ギュッ

あおい「あ…」

由佳「大丈夫、あたしが必ず倒すから。無事にあおいをここから出してあげるから…信じて」

あおい「うぅ…」

由佳「今日は疲れたでしょ、部屋に案内するからゆっくり休んで、ね?」 

あおい「ひっぐ…えぐっ…ぅん…」

空き家

十三「質問を音声で認識できますよ!」

あおい「…元の家に帰りたい」

十三「おーう、核心来ましたな!ええとまずはですね鬼の魂を3つ!集めること!そうすればわかるはず!」

あおい「鬼の魂?」

十三「単純明快、鬼を倒せば勝手に炎氷牙へと封印されます!もちろん近くにいなければ封印はされませんが!」

あおい「鬼の倒し方は?」

十三「ズバリ!頼れる味方を作ること!または自分が倒せる技量を身につける!」

あおい「…そんなの出来たら苦労しないよ…」

十三「次は化粧品とお金についてですが…」

家屋
ガラッ

三崎「!…なんだあおいか」

由佳「どうしたの?眠れない?」

あおい「…由佳、明日私も連れて行って欲しいの」

三崎「な…」

由佳「何言ってんの!?絶対だめだめ!!大体さっき恐がっていたのになんでそんな…」

あおい「私、倒さなきゃいけないって…帰るには鬼を倒さなきゃいけないんだって、だから…」

由佳「…あおい、あなた昼間山賊二人に襲われてたよね」

あおい「…」コクリ

由佳「もちろんあなたが危なくなれば助ける…でも山賊二人にすら手も足も出なかった……あおいは足手まといにしかならない…」

三崎「お、おい…」

由佳「もし、あなたとさらわれた村人全員どちらかしか助けられない場合は…」

あおい「…迷わず村人を助けて」

由佳「あおい」ポン

あおい「え?」

由佳「あたしと一緒に行こう。あんたの覚悟受け取ったよ!」

あおい「由佳…ありがと…」

三崎「いいのか、由佳?」

由佳「いいんだって。あおい、さっきの質問…村人全員とあおいの命どちらかって質問の答えだけど…」

あおい「う、うん」

由佳「正解はどちらも助けてあげる、あたしの神速抜刀術ならそれが出来る。あたしもあおいの覚悟を信じるように、あおいもあたしを信じて、ね?」

あおい「うん!」



続きは明日へ

海沿いのとある村
そこに漁村とは不釣り合いに見える教会が建っていた
まだ日本へと宣教師が訪れる前…
漁村は難波した南蛮人を救い、彼らはお礼にと財宝の一部と教会を建てキリスト教を布教した。
それからは村人達は仏教を捨てキリスト教を信仰する様になった

そして小さな木の小屋に暮らす二人の姉妹もその一人であった


「 天にまします われらの父よ。あなたの栄光を賛美します。 」

修道服を纏い主へと祈るのは姉の真由。幼い頃死に別れた両親に代わり妹を養うため教会へ奉仕し援助を受けていた

「てんがましまろーあなたがえこー」

横で姉を真似ているのが由佳
甘えん坊で泣き虫な3つ下の妹である


「 イエス様の御名によって、この祈りをおささげします。アーメン 」

「うー、なんとかかんとかします、あめーん」



「…さて、お祈りも済ませたし行ってくるわね由佳」


「ぅう…おねえちゃんまたいっちゃうの?寂しいよぉ…」

真由は優しく微笑み、小さな頭にぽんと手を置いた

「大丈夫、なるべる早く帰ってくるから。それまでいい子にしてて、ね?」

だが由佳は納得がいかず泣き喚いた
ここ二週間は帰りが遅く、ひどく寂しい想いをしていたからだ

「やだやだやだ!!また夜まで待つのもこわい!一人でいるのもこわい!うわああああああん!!」

少し困った顔を見せた真由はしゃがみこみぎゅっと抱き寄せた

「ごめんなさい由佳…寂しい想いさせちゃってるよね。でも大丈夫、今日の奉仕が終わればしばらく家に居られるから…だから今日一日我慢して欲しいの」

「うっ…えぐっ…ほんとぉ…?ぐしっ…」

「本当よ。約束だから、ね?」

妹をなだめた真由は教会ではなく二つ先の山へと向かう
教会での奉仕は布教や洗礼などの手伝いの他に生業とするものがある
妖かしや霊などの退治
真由は退魔の素養、剣術の才覚を認められ援助と引き換えに請け負っていたのであった

「今日は山に現れる悪鬼の退治…か。鬼のってのがどんなものかわからないけれど、由佳の為にも早く終わらせないと、ね」

だがこの後真由は消息不明となってしまう
教徒からその旨を伝えられ、由佳を教会で預かると伝えられた時
由佳は家が大揺れする程泣いた
泣き疲れた後また思い出し泣いた

数日後
心配した教会の人間が訪れると
ただ一言「たびにでます」と書かれたボロ切れが置かれていた

由佳は息を切らしながら慣れない山を登っていた
「はぁ…はぁ…おねえちゃん…」
姉がいなくなったのは自分のせいだ
自分が甘えていたから無理をさせてしまった
自分が勝手だから姉の好きな事をさせてあげられなかった
そう思うと泣いてはいられなかった
「おねえちゃん…ぜったい…はぁ…はぁ…みつけるから!」
姉は死んではいない、自分が強くなって見つけ出してやる。鬼に捕まったのならそいつを斬り姉を救ってやる
小さな身体に堅く大きな信念が宿る
その為にはどんな事だってしてやる

「おねえちゃん…あたし、つよくなるから!!」

小さな少女が大きな声で叫んだ

数年後
とある小国の城下町にて決闘が始まろうとしていた
大勢の野次馬の先に待つのは松田流免許皆伝滝田信雄
100を超える門下生を持ちかつては数多の決闘に勝利した小国ではあるが国内最強と呼ばれる剣豪

「あっ、来たぞ!」

野次馬を割り反対側から相手がやって来た
紅の浴衣調の改造着物に身を包んだ10代半ばほどの少女に野次馬達はどよめいた

「…小娘じゃないか!」
「しかも変な格好しやがって、滝田先生をなめんな!」
「賭けってまだ終わってねえよな?滝田さんに500文!!」


「…5年ぶりに挑戦状を送られたと思えば、まさかかような娘とは…」

滝田はため息混じりに嘆く




「あはは、それよく言われるよ。で、次に剣術をなめるなって言われるんだよねぇ」

少女は軽い調子で続ける

「滝田大先生が道場で門下生教えてる間…数年間であたしは数え切れない程の死線を超えた。大先生と同じくらいに…」


「まあ話すのも何だし、実際にやってみようよ。本当にあたしが剣術をなめてるのかって…ね?」

滝田は剣を抜き正眼の構えを取る
相対する少女は腰を落とし左手で鞘を押さえ、右手は柄の手前で浮かせていた

空気がぴたりと凍りつき野次馬も一斉に黙りこくった
妙な着物の娘がとった構えはまるで見覚えがない、得体の知れなさにただただ黙るしかなかった

(抜刀術、か)

滝田のみが知っていたその構え
刀身を抜く勢いを利用した神速の剣技
太刀がまだ主流であった室町末期ではほぼ見る機会は無かったが文献を読み漁っていた時期の知識が役に立った

滝田は冷静に構えを切り替え下段へと刀を携えた

(下段に構えれば抜刀術は不利になり変えざるを得まい…だが…)

少女は変えなかった、変える素振りすら見せなかった

「娘…いや一介の剣客としてお前の名前を聞きたい…教えてくれ」

抜刀術の天敵である下段の構えをとろうとも揺るぐことない信念に感服しての滝田の問い
少女はふっと笑い名乗る

「…由佳」

「お前の目的は何だ?国内で名を轟かせる…否、日の本で一番の剣客になるためか?」


平安時代 陰陽師は魑魅魍魎を封印した
鎌倉時代 源氏の強者は化物を殺した

室町末期 一人の少女は…

「悪鬼羅刹を…斬る…!」

由佳が一歩目を踏み込む

「ふっ…来い!由佳!!」

この決闘の後彼女の強さは国内へ広がるのであった…

山賊の山 山道

あおい「ぜぇぜぇ…まってぇ~、由佳ぁ~!」

由佳「いやあおい…まだ半分あるのにそんなばてたらこの先どうすんの…」

あおい「だって!こんな道がでこぼこなんだもん!おーぷん市のハイキングコースはちゃんと整備してあるから安全安心なんだもん!」

由佳「そ、そうなの?山道なんてこんなもんじゃないかな…」

あおい「休憩しようよ~由佳ぁ~」

由佳「いや休憩ってあんまりあたし達ゆっくりしてられ…」

あおい「休憩休憩休憩!きゅーけー!」バタバタ

由佳「…あぁ昔の姉さんってこんな気持ちだったのかな…」

あおい「え?」

由佳「いや…何でもない…じゃあ少しだけ休みましょうか。ちょうどあそこに大木あるし」

あおい「えーと確か…」ゴソゴソ

あおい「じゃん!冷えたコーラ!」プシュッ

由佳「!?な、何それ…醤油??」

あおい「っはー!効くう~!はい由佳の分、一本どうぞ!」プシュッ

由佳「えっ…醤油飲むの…?しかも泡みたいなの出てるけど…」

あおい「女は度胸!なんでもやってみなって!」グイッ

由佳「んぐっ!…いたたたたた!な、なにこれ!?痛い!」

あおい「痛いってそりゃ炭酸だし」グビグビ

由佳「…やっぱり変わってるわ…あおい…」

山賊の山 山頂

あおい「うう…横腹いたい…」

由佳(しっ!静かに!)

あおい(ご、ごめん)

由佳(どうやら陽動は成功したみたいね。三崎がおびき寄せてくれたから雑魚はいないみたい)

あおい(じゃ、じゃあ…)

由佳(恐らくあの屋敷の中に、鬼がいるって事)

あおい(う…)

由佳(ねえあおい、もう一度聞くけど本当に来る?今ならまだ引き返せる…って)

あおい「うわあああああああ!」ダダダダダ

由佳「ちょ、ちょっと何屋敷に特攻してんのよー!?」

山賊の屋敷 大広間

あおい「鬼は外ー!!」バンッ

由佳「…この部屋、いやに広い天井も高いし…」

あおい「あっ、由佳!あのめっちゃ鍵が巻かれてる扉!あれが捕まった人がいる部屋じゃない?」

由佳「多分ね。ただおかしい…なんでここまで誰一人いないの?いくら陽動が成功したとはいえ雑魚一人いないだなんて…」

?「教えてやろうか?」ズシズシ

あおい「わ…わわわわ…で、でた…」

由佳「!…なるほど、確かに鬼だわ」

あおい(2メートルくらいある…見た目は太った人間なのに…ものすごく恐い…)

鬼「生きのいい小娘が二人いると聞いたからたっぷり楽しみたかったのさ。手下のゴミ共なんかにやるには惜しいからな」

由佳「はっ、言うことは人間と変わらないんだね?」

鬼「その物怖じしない顔を苦痛と恐怖に歪めながら喰うのもいいし」

あおい「あ…ぁぁ…ぁ…ぁ…」ガタガタ

鬼「恐怖に狂う娘を喰らうのもいい」

由佳「…一応聞くけど今すぐ村人を解放するなら半殺しくらいで許してあげるけど?」

鬼「非常食を?いいぜ。生きのいい小娘二人の踊り食いを楽しめるならなぁ!!」ガシッ

あおい「で…でかい柱を軽々と…!?」

由佳「なら…遠慮はいらないって事よねぇ!!」ダッ

由佳「でやああぁ!」シュッ

鬼「ふんっ!」カキン

由佳「甘いっ!!」ブン

鬼「ぐぅ!」

あおい「今の技は!…全然わからないや…ええと十三おじさんの言霊に聞いてみよう」

十三「今の技は二段抜刀術ですな初段を刀身拔かずに鞘で殴り、受け止めた場合はそのまま抜刀し二段目の斬撃を入れるというわけですな」

あおい「そ、そうなんだ」

十三「そして怯んだ隙に無数の斬撃を斬りつけているわけですな」


鬼「ぐうおおお!」ズサササ

由佳「ちっ…あんだけ斬りつけてやったのに…」

鬼「ほう、人間にしてはなかなかやるじゃないか…これは楽しめそうだ」

あおい「ぴ、ピンピンしてるよぉ!?」

十三「今鬼と戦っていますなこれは。単純に鬼と戦っている方との力の差は…おお、凄い6対4のやや不利に留めるとは!いやいや是非ともお会いしたい逸材ですなあうんうん」

あおい「す、凄いって不利なんじゃ…」

十三「ちっちっ、甘いですな古来日本は鬼と戦って来たわけですが殆どの記述には鬼一体につき複数人はては兵士で囲み討ち取る、または酒や罠で弱らせてからの不意討ちでの攻撃ばかりなのです」

十三「人間は鬼と真っ向から戦っても勝てないわけなのですが…この戦力比ならば一対一でも勝てる可能性はあるという事ですな」

あおい「由佳…強いとは思ってたけど…」


由佳「でぇやああああ!」シュッシュッ

鬼「ぬりゃああああ!!」ブオン

由佳「くう…!」

鬼「ほう、直撃は避けたか。まあ避けねば細切れになって食事を楽しめんからな」

十三「ですが不利には代わりありません、鬼は絶大な力だけではなく硬い皮や無限に近い体力も秘めていますからな。人間の体力…ましてや女性ならなおさら長期戦は危険になりますな」

由佳「負ける…もんか…あたしは決めたんだ、悪鬼羅刹を斬って…姉さんを探してみせるって!!」ダダッ

鬼「!ぐっ!?」ブシュッ

由佳「はあああああああっ!!」ザシュザシュザシュザシュザシュ


あおい「何か…何か出来ることは…」キョロキョロ

あおい「!あれは?!」

続きはまた明日

外伝
開戸山の鬼

小国の中心に位置する「開戸村」
食糧や資源が豊富なこの村には多くの人々が暮らしを営んでいた
しかし平穏な暮らしは突如として壊されてしまう

東の山に鬼と山賊が現れたのだ
はじめは自警団や屯所兵が退治に向かうが誰一人として帰っては来なかった
さらには村に対して略奪を行ない
血が流れない日は無いというくらい犠牲者は後をたたなかった

事態を重く見た国の主は2000もの兵に討伐を命じた


「おい、本当にこんな人数で山賊退治行くのか?」

兵士の一人は冗談混じりに笑う

「こうして行軍しているならそうなんだろうよ」

横の兵士が適当に返す
兵の誰しもが思っていた
山賊の討伐に自分達を派兵する事は過剰では無いのかと
それも2000人は小国としてはかなりの数、戦ではなく山賊退治…鬼もたかだか一匹のみ
いつしか兵たちの間に慢心が生まれていた

「うわあああああっ!!」

長蛇の先から悲鳴が聞こえる
にわかにどよめく兵達に動揺が広がる

「おい、何があった!?」

前から逃げてくる兵士を呼び止める

「お、おお…鬼…鬼が…わああああ」

そう答えると前列の兵士は再び逃げ出してしまった

鬼が来た?まさか山賊と鬼の奇襲では?
そう予想した足軽大将は声高らかに叫ぶ
「前列の伝令兵ー!!奇襲ならば敵の騎数を教えよ!!敵はいくつだ!?」

その答えを告げるべく前列の伝令兵が飛ぶような速さで駆けてくる

「はぁ…はぁ…ほ、報告!先鋒が敵の奇襲に遭いました!!そ、その数は…一人、巨漢の男のみです!!」

「な…」

足軽大将は絶句する。ありえない、いくら何でも2000の兵を相手に単騎などとは自殺以外の何者でもない
思考を巡らせ頭をぐるぐる回転させている間に先鋒から少しづつ悲鳴と何かが裂ける音が徐々に近づいていた

「うおおおおおおお!!」
「これ以上させん!」

八尺(約2メートル40センチ)の大男に兵たちが槍を突き立てる

それぞれ腹や背中、腕を無数に突き刺し手応えを感じた
だが

「ぐぇっ!」
「ぎゃぁ!」

短い断末魔と共に首をねじ切られ槍を突き立て討ち取ったはずの兵達はみるみるうちにくびり殺されてしまった


いつしか先鋒は壊滅し足軽大将のいる中隊が列の先頭になっていた

「や、槍が駄目なら弓だ!!後方の弓兵よ、放て!!」

味方に当たらぬよう上に向けて放つ弓兵達
その数は雨の如く降り注ぎ鬼へと襲いかかる

次々と全身に矢じりがささり矢の雨が止む頃にはヤマアラシの様になっていた

「やった!討ち取ったぞ!」
「何が鬼だ!弓に勝てるわけないだろ!!」
「やったぞー!」

勝鬨をあげる兵達
しかしその歓声は再び悲鳴へと変わる

鬼はそのまま走り出し人を殴り…殴るというよりは千切るかのようだった
腕を振るえば人の頭は西瓜割りの如く割れてしまい
拳で突けば内蔵ごと身体を貫く
掴めば絹の様に人を裂いた


「あ…うわあ…ぁ…」

小虫のように人が蹴散らされ部下が虐殺されて行く惨状に足軽大将はただただ絶望していた

間違いだったのだ。鬼の力を見誤っていた
こいつを止めるには更に倍の兵…それも鬼を討つ為の軍略を用いた軍が必要だ。それともう一人…あの剣客ならば…

鬼が足軽大将へと近づく
粗方の始末を終え最後の掃除に鬼は笑った

「ぐはは、残念だったな。人間如きが何匹群れようが無駄だ」

頭を掴む
死を覚悟した足軽大将は最後の叫び声をあげる

「神速の…神速抜刀術の由佳なら…由佳ー!!こいつを、鬼を討ち取ってくれー!!俺達の仇を、村の……」

ぐしゃっと潰れた音と共に再び山に沈黙が訪れた

本編

あおい「!あれは!?部屋の反対側に鍵が落ちてる…あれを使えば閉じ込められてる人を…」ソロソロ


由佳(横薙…!受け止めて…)

由佳「返すっ!!」ガキン

鬼「惜しい惜しい、いいぞ小娘!もっと抗え!!」ブオン

由佳「くっ…ぁぁっ!」ズザザザザ

由佳(完璧に受けた筈なのに…何て力…!このままじゃ、押し切られる…)

鬼「…?!」チラ

由佳「何よそ見…ってちょ!?」

あおい「そろーりそろーり…もう少しで鍵が…」ソロソロ

鬼「おいお嬢ちゃん、いけねえなあ。まだお前の出番じゃないんだぜぇ?」ドシン

あおい「えっ!?あっ…い、いつのまに…あはは…」

鬼「どうやらおしおきが必要らしいなぁ…片足潰してやるぜ!」ブン

あおい「きゃああああああああっ!?」

グシャッ

あおい「…?あれ…?無、事…?」

由佳「ぐっ…ちょっと…迂闊…過ぎじゃ、ない…?」

あおい「!!?あぁぁぁ…ゆ、由佳…その傷!!由佳ぁ!!」

由佳「逃げてあおい…もう…これ以…」グシャッ

あおい「…え?」

鬼「ちっ、せっかく楽しく遊んでたが脚が折れりゃいらねえからな」ブン

由佳「…」グシャッボキッ

あおい「な…なに…して…」

鬼「そーらよっと…おお、飛んだ飛んだ部屋の外まで行ったなゴミがよ」

あおい「ねえ…何して…るの…?」

鬼「壊れた玩具を処分しただけだ。ああなったら喰っても大してうまくはねえからなぁ。その分お前をたーっぷりと味わってやるから、よ?」


続きは後日

あおい「嘘…だよ、ね…?由佳、由佳あぁぁぁぁぁ!!!」

あおい「…」ゴソゴソ

あおい「許せない…よくも、よくも由佳を!!」

鬼「ほうなかなか立派な双剣じゃねえか。でもなあ…」ドシン

あおい「う…うわあぁぁぁぁぁ!」タッ

鬼「ぬんっ!」ブンッ

あおい「きゃあああああ!?あっぁ…」ズシャア

鬼「手が震えたままのへっぴり腰じゃ何も斬れやしねえよ!」ブオン

あおい「あがっああっ!あぁああ!」

鬼「へへ、なかなかいい声あげるじゃねぇか。それに頑丈ときたら…」ブンッブンッ

あおい「うああぁ!…ぅげぇぇ…」ビチャビチャ

鬼「人を美味しく喰らう為の味付けは恐怖に凍りつき絶望に満ちた顔と悶え苦しむ悲鳴よ!もっともっと美味しくなるようにわめけ!」ブオオオ

あおい「!!あああぁぁあああああぁぁぁぁぁぁああぁあっ!!!…ぁ…ぁ…」ピクピク

鬼「いい声だ。さあてそろそろ少しずついただくとするか。まずはそのむき出しの脚を…」ドシン

数時間前

あおい「これから私鬼退治に連れてってもらうんだけど、こう…なんだろうなあ、楽に武器を使いたいんだけど方法ないの?」

十三「楽に武器?…検索された内容は録音されておりません」

あおい「あーもー!じゃあこれは!?私がものすごく強くなる方法!」

十三「…それ聞いちゃいますか。まあ確かに心配ですよねあなたは今頼れる仲間を見つけましたか?見つけていないなら野盗か山賊あたりに肉壺ワッショイされてしまうでしょうね、はい」

あおい「何だよワッショイって…」

十三「あおいさん、貴方に渡した炎氷牙は強力な武器です。力を引き出す事が出来れば鬼にも通じるはずですぞ」

あおい「おー!で、その引き出し方は?」

十三「あなたね、そんな私は攻略本じゃないんですから何でも聞けばいいってもんじゃないでしょう」

あおい「何で怒られてんの私」

十三「まあいいでしょう、ただしこれは一度きりしか出来ない事ですから気をつけて下さいよ?」

あおい「うんうん、なになに?」

十三「ずばりあなたが瀕死になった時に一度だけ短時間炎氷牙の力を最大限引き出す事ができます」

あおい「なるほど瀕死に…っておい!何瀕死って!!」

十三「あなたは現代にいる時よりも打たれ強くなっているとお話したでしょう」

あおい「うん」

十三「ですが鬼の攻撃は強力、いくら今のあおいさんでも何度も受ければすぐに瀕死になります」

あおい「うん」

十三「だから大丈夫。比較的簡単に発動しますよ。ね?」

あおい「ね?じゃなーい!!」

十三「検索の結果見つけることは出来ませんでした」

あおい「こいつ…」

鬼はあおいの白く真っ直ぐ伸びた脚へと齧り付く為に腕を伸ばす
手が黒のハイソックスに近づいた時、彼は気づいた
瀕死で隙だらけなはずの小娘から一切の隙が無くなっている事を
気づいた時には手を蹴り上げられその勢いで立ち上がっていた

両手には先程握っていた双剣
右手の剣は燃え盛る炎をまとい
左手の剣には凍てつく冷気をまとう
鬼にもわかる業物ではあったが今は更に進化し、鬼にもその危険さがひしひしと伝わった
驚くのは持ち主、あおいに対してもである
今しがた自分が全身を殴り痛めつけ、嘔吐させ虫の息だったはずの小娘
ぶつぶつと独り言を喋ってはいるが一切の隙は相変わらず無い
「…残り152秒…目標…鎧型剛鬼…」

独り言が止むと鬼の視界からあおいが消えた
刹那に感じたのは左脇腹の熱さ

「な…!?」

消えた小娘は自分の腹を燃え盛る剣で切り裂いた
だがこの鬼には強力な再生能力がある
由佳も何度と傷をつけたが尽く再生されてしまった厄介な能力が

間髪入れずに左手の剣で凍てつく刃を突き立てる
鬼は攻撃が…この連撃が終わると同時に反撃する事を選んだ
今下手に反撃をすれば心臓への致命傷へと受けかねない
熱さと冷たさが痛みを増すが耐えれば勝ちが確定する
鬼はひたすら耐えた

あおいは構わず両手の双剣を交互に何度も何度も何度も斬りつける
刺すや斬るよりも削ぎ落とすように振り回す
返り血で白いブラウスが赤黒く染まってもひたすら斬りつけた

映画のような光景だった
自分の倍はある怪物がさらにでかい柱を振り回す
怪力から繰り出される重く、速い攻撃を全てかわしその隙に的確な斬撃を加える
漫画や映画のキャラかと見紛う動きを
普通の高校生である自分が動いているのを混濁した意識で感じていた
抵抗する鬼をいなし一撃、また一撃と斬撃
壊れた水道管のように吹き出す赤黒い血に気分を悪くするが
自分ではない自分は構わず斬り続ける

(これがおじさんの言っていた本当の剣の力…?たしかにこれなら…)

斬りつけた痕から炎で蒸発した血煙と氷のような血片が飛び散りながらあおいは確信した

(これで…由佳のかたきをとれる!!)

あおい「っ!…はあっ…はあっ…!?」フラッ

鬼「ぐぅぉおぉぉ…?」

あおい「…ぜぇ…はぁ…あ…れ?」

あおい「うそ…時間、切れ…?」

鬼「どうした?もう終わりか?ちょっとは効いたが…すぐに再生してやるからよ?」ジュルジュル

あおい「ぁ…あ…」ペタン

鬼「!?な、何だこりゃ!?再生が止まりやがった!!」

鬼(傷口から湯気と冷気。まさか壊死させられただと…!?)

十三「おや?鬼の弱点がむき出しですぞ、さすが炎氷牙。ささ、とどめの時間ですぞ」

あおい「はぁ…はぁ…も、もうだめだよ…なにも…うごけ、ない…」

十三「ううむ、なら詰みですなお疲れ様でした。遺体は戻せないので遺留品だけは何かご自宅へ…ブツブツ」

鬼「この…小娘があ!!許せねえ!!ぐしゃぐしゃにしてやる!!」ドシンドシン

あおい「ごめん…由佳…みんな…」

鬼「死ねぇええええええ!!!」


ザシュッ


あおい「~~?あ、あれ…?」

鬼「ぐぅうおアアアアアアアア!!!!」ブシュウウウウウ


由佳「…奥義…叢雲…きっついけど…何とか間に合った…」

あおい「ゆ、由佳!?良かった…生きてたぁ!」

由佳「まぁ…生きてると言っても…かろうじてだけど、ね…」

鬼「ウオガアアアア!ニンゲンガアアアアアアア!!」ブルンブルン

あおい「!ま、まだ生きて…」

由佳「…叢雲は夏の雲をも切り裂く…あたしが鬼と戦う時の切り札…」

鬼「!?ナ…ナン…ダ…」ブシャアアアアア

由佳「血の豪雨に流されな…!」

鬼「グゥオォ…バカ…ナ…」ドシャアア

パアアア

あおい「やっ、た…!って何あの光?わああっ!」

由佳「!?あ、あおい!?」

あおい「…大丈夫みたい…それよりも倒せたの…?鬼を、ほんとに…」

由佳「かろうじて、だけ…ど、ね」ドサッ

あおい「ゆ、由佳!?しっかりして!」ズルズル

あおい「いたた…体中痛くて…歩けないよぉ…」ズルズル

由佳「ぅう…」

あおい「ひどい傷…救急車を!!って圏外だし…」

十三「おやピンチですかな?」


あおい「お願い!由佳を、由佳を助けてよ!!」

十三「えーとどれどれ…うわこれは深手ですなあ右足なんて粉砕骨折していますし肋骨もバラバラ、内臓にもかなりの損傷が見えますなあ。2015年時点でも即緊急手術、今の医療では…」

あおい「うそ…ウソだよね!?だって今由佳、すごい技出したじゃん!!」

十三「言霊の私にはどのような方かは全く存じ上げませんが…鬼に対して尋常ではない執念、いえ信念を秘めていたのでしょう。いくら炎氷牙の手助けがあったとしても普通十代の女子二人で倒せませんからなあ鬼、しかも耐久特化の鎧剛鬼には」

あおい「そんなことはいい!由佳を助ける方法教えてよ!!」

十三「…これはあなたの今後にも関係することなのでよーく考えてから決断を。」

あおい「何!?早く言って!」

十三「バッグの中に私の秘薬が入っています、それを飲ませればどんな傷も全快まではいかずともかなりのレベルまで回復させますが副作…ってあー!」

あおい「由佳!今助けるからね!さ、飲んで!」

十三「ちょっと大事な話は最後まで…」

由佳「…!あれ…脚が治って?それに痛みもない…」ムクッ

あおい「ゆ、ゆかあぁ!よかった、よかったよ~!!」ガバッ

由佳「わっ!…あおいが助けてくれたの?」

あおい「ゆかあぁぁぁうわああああん!」

由佳「ちょ…そんな泣かなくても…」

あおい「よがっだ…よがっだぁぁぁ~!」

由佳「わああ、大泣きしないでって!」

3日後
開戸山に住む鬼は倒れたと同時に山賊は瓦解、三崎率いる陽動隊と国からの増援により壊滅した

三崎「もう行くのか?」

あおい「あ、はい。捜し物があるので早く行かないと」

由佳「怪我もう治ったの?あたしまだ少しかかりそうなくらいなのに…」

あおい「あ、あぁ~。私昔っから打たれ強いからさ!へーきへーき!」

由佳「ならいいけど…あおい、一人旅になるけどほんとにいいの?」

あおい「うん…あんまり由佳達に甘えっぱなしもいけないしさ…それに私ここの時代…いやなんでもない、行くね!」ザッザッ

三崎「元の世界に戻れるように祈っているぞあおい。気をつけろよ!」

由佳「あおいー!また会おうねー!」


あおい「ふたりともー!ばいばーい!げんきでねー!!」


街道

十三「一人旅ですかな?もしや」

あおい「…寂しいけど早く帰りたいしさ…一日も早く戻らないと」

十三「あぁ、ここにいる限り肉体年齢は食いませんから安心して下さいよ永遠の17歳でいられますから」

あおい「そういう問題じゃない!!」

街道

あおい「ねえおじさん」

十三「何でしょう」

あおい「私ね、名探偵かもしれない」

十三「結城あおいさんが探偵…検索しても出ませんな」

あおい「ちがーう!職業じゃなくって!私ね、気づいちゃったんだよ?」

十三「…気づいた?」

あおい「うん、おじさんの目的と何で私がここにいるかってね!凄くない?凄くない私?」

十三「…して、私の目的とは?」
 
あおい「ふっふふ、動揺してるぅー!すばり、私をゲームのモニターとしてスカウトした!これだよね!?」

十三「ほう」

あおい「あ、図星?図星だよね!?よーしさらに気づいた事があるんだけど、この戦国時代ってのはいわゆる私が佳奈から借りていた『戦国乱舞ヒストリー』の中身!!昔っから言われていたゲームの中の世界に入るゲーム…つまりはこれよ!」

あおい「だから私が心折れたり死ねばゲームオーバー=死、なんてわけわからないルールも通るし、怪我の治りが早くなる打たれ強くなるっていう力も納得出来るよね?」

あおい「どう?おじさん、参ったか!これが三日間あの村で出した答えよ!!」

十三「あなたなかなか名探偵ですねぇ、記述に加えておきましょう結城あおいは名探偵だって」

あおい「やった!で、クリア条件が鬼を三匹倒すってわけでいいよね?」

十三「まあ…そうはなりますな」

あおい「だよねだよね!だからこそこうして早く村を出たってわけ!…それとね」

野盗「おい姉ちゃんなかなか可愛らしいじゃねえか」

野盗2「ほぼ裸みたいな格好して脱ぎてえのか?俺らが手伝ってやるぜ」

あおい「三日間、あの双剣を振ってみて気付いた事があるんだ」ザッザッ

十三「?」

あおい「はい?何キモい事言ってんの?ばかなんじゃないのあんた達」

野盗「な、何!?」

野盗2「とりあえず馬鹿にされたのはわかった、なら無理矢理にでも脱がしてやらあ!」キャキッ

十三「おや、戦闘反応。あおいさんまさか一人で?」

あおい「ひとつ気付いた事…それはあの戦いの後…」チャッ

野盗「武器を出した?!このアマ!調子に乗るな!」ダダダ

ザシュッ ブシュッ


野盗2「あ…あ…?」ドサッ

野盗「な、に…」ドサッ

あおい「私は強くなった。…人を斬ったけど不思議と実感がない…やっぱりゲームなんだ、この世界」

十三「…お見事ですあおいさん。それなら安心、旅を続けましょう」

あおい「うん、そうだね…」ザッザッ

山賊「お、親分大変です!敵が殴り込みに!」

親分「なにぃ!?まさか兵が来やがったか?」

山賊「い、いえ…それが一人で…しかも脚むき出しの小娘でして…」

親分「馬鹿野郎!ふざけてんのか!?んな小娘が一人で殴り込みになんて…!?」

ガタン

あおい「あ、ここボス部屋?うわくっさい!どうして山賊ってみんな臭いの~!?」

親分「な、まさか…」

山賊「こいつ…十人はいた仲間を…」

あおい「うん、やっつけたよ。いい経験値にはなったかな~」

山賊「ひ、ひいいいい」ダダダ

ブシャア

山賊「ぎゃぁあ!!」ドシャッ

あおい「え?逃げちゃダメだって。佳奈が言ってたからね、経験値は雑魚で稼いでおかないと後が大変だって…ね」ザッザッ

親分(何だ…?こいつ…普通じゃねえ…)

親分「た、助け…」

あおい「無理無理、大丈夫大丈夫。ゲームの完成に1役買ったと思えばさ!」シュッ

親分「うっぎゃああああ!」ドス


あおい「あー、汚くなった!ゲームとはいえこういうのはどうにもならないんだなぁ…」

十三「これで小さいながらも山賊衆を2つ壊滅。なかなかですな」

あおい「ゲームとわかれば経験値は基本だからね!最初のは由佳付きの練習モードみたいなもんだったわけだし。…ただ殴られたら痛いからここで死ねばリアルの私も死ぬのはマジっぽいけどね…」

十三「…」

あおい「まあいいや、着替えて次次!」

あおい「さがしーにいくーんだせーつなとりーっぷ!」スタスタ

十三「歌歌いながら歩くほど上機嫌ですか」

あおい「いやー、正義の行いをしながら経験値とお金を稼ぐ!気持ちい~!」

十三「あの後2つの小規模強盗団を潰しあおいさんを襲った輩も6人返り討ちに。炎氷牙にも慣れて来ましたな」

あおい「最初持つのもやっとだったのにね~、やっぱり適性レベルって奴になったからかな?佳奈から聞いたことある、強い装備は自分のレベルが追いつかないと使いこなせないって!」

十三「なるほど、一理ありますな」

あおい「やばいやばい、なんか私すっごく頭良くなった気がする!?これも悪い奴狩ったおかげかな?」

十三「悪い奴限定、ですか?」

あおい「当たり前じゃん!この1週間で斬ったのは盗みとか悪い事している奴らだけだもん!いくらゲームの中でもいい人は殺せないよ!」
 
十三「では、その『いい人』と『悪い人』はどこで決めるのです?」

あおい「え…そ、それは…泥棒しないとか殺人したりしないとか…」

十三「倫理的に見るかあなたの世界の法的に見るか…またはあなたの独善で決めるのか…結城あおいさんの知識や精神年齢を鑑みれば3つめになる事は明白」

あおい「う、うるさいうるさい!とにかく!泥棒とか犯罪しなきゃ私は誰も斬らないよ!!それでいいじゃん!」

十三「少し意地悪しすぎましたか…ま、それならそれでいいでしょう」

名も無き集落

あおい「あれ…?人がいない?」

十三「…いえ、あの奥の家屋裏に5人程隠れていますな。」

あおい「ま、待ち伏せ…!?」

十三「はい、そしてもう囲まれています」

男「う、動くな!」

男2「お前…沼からの刺客だな!?」

あおい「え?ちょ、ちょっと待ってよ何、沼って!?」

男3「女だからって容赦はせん、やれ!」

男4「うおおおおおおおおおお!!」ダダダ

男5「死ねえええ!!!」ザザザ

男「一気にかかれ!この女を殺すんだ!!」

あおい「わ、わああああっ!?」

名も無き集落

あおい「はぁっ…はぁっ…」

あおい「何で急に…襲って来たの…?」

十三「さあ。少なくとも彼らは…いえ、やめておきましょう」

あおい「何?何か知ってるの!?」

十三「今更役に立たない事ですから。気にせずに」

あおい「…今のは私の荷物やお金目当ての野盗が待ち伏せていた、そうだよね?」

十三「…そうですね」

あおい「…行こう、次の村へ」

街道宿
あおい「ふー、朝朝」

十三「結局そそくさと街道の宿で泊まったわけですな」

あおい「当たり前じゃん!野宿なんて嫌だよ!…あんまりゲームの中の宿も泊まり心地は良くないけど…」

十三「まあ休息は必要ですからな、正しい判断でしょう」

あおい「えーと顔洗って…あれしてこれして…」

2時間後

あおい「靴下履いて…よしっ!出発」

十三「…仕度長…」

あおい「え?そう?」

十三「いや何でも…」


街道 

あおい「さあて、今日はどうしよっかなーっと」

?「おいそこの妙な娘」

あおい「え!?…きゃああ!い、いつの間に後ろに!?!」ザザザ

?「随分と変な格好をしているなッ。年頃の娘が脚を丸出しに歩いてはしなないぞッ!!」

あおい「な、何!?いいじゃんかわいい制服なんだし!脚丸だしってハイソ履いてるし!」

?「??わからん事を言うなッ!俺は貴様の為を想って言っているのだッ!!いいかッ!そもそも女子というものはだな…くどくど…」

あおい(な、何なのこの覆面男…何で学校でもないのに説教されなきゃ…)

覆面男「…大和撫子ッ!この魂よッ!わかるか?大和撫子ッ!さあ言え!」

あおい「あ、あのっ!」

覆面男「大和撫子ッ!!!」

あおい「うるさい!!」




覆面男「なんだとッ!?大和撫子ッ!!!」

あおい「もういいから!あの、何かあって私に声をかけたんじゃないの?」

覆面男「ああそうだった。貴様ッ!やるなッ!」

あおい(暑苦しいなあ…)

五木「俺の名前か?教えようッ!俺の名は五木ッ!最強の忍びよッ!!」

あおい「色々別に聞いてないんだけど…」

五木「大和撫子ッ!!!!」

あおい「うるさーい!」

五木「つまりはな、貴様の妙な格好、雰囲気…そしてお前の血の匂いが気がかりになったのだ。見た目はぼけた小娘の様だが…その妙な服ッ!妙な袋ッ!妙な化粧ッ!!全てが妙ッ!ぐえぇ!」バコッ

あおい「怒るよ!?何、結局私呼び止めたと思ったら私が変な奴だっていいたいだけじゃん!!」

五木「うむ」

あおい「否定しろ!!もういい先行くから!さよなら!」

五木「待て」

あおい「何!?」

五木「少し試させてくれ」

あおい「だからいきなり過ぎて意味が…」

五木「今から出す俺の技を受け切る、かわす事が出来れば貴様の勝ち、貴様は真剣を使うがいい。俺は…これでいい」スッ

あおい「な…木の枝…!?」


五木「俺の百ある技…そうだなあれをやるかッ!秘技ッ!変幻三段ッ!!」

あおい「へんげんさんだん?三回攻撃するの?」

五木「何ッ!?き、貴様何故わかったッ!?変幻三段は袈裟斬り、逆薙からの下段燕返しの流れるような連携技だと何故ッ!?」

あおい「ねえおじさん…この人わざとやってんのかな…」

十三「先程から検索データにない行動や発言ばかりでさっぱり…」

五木「くうぅ、だが逆境よッ!!行くぞッ!!」サッ

あおい「えっ…消え…」

五木「ぬうううん!」シャッ


あおい「!?…くうっ!」カンッ

あおい(次が逆側からの横斬り…)

あおい「っ!」カンッ

あおい(来る場所がわかっているのに…速い…!?)

あおい「きゃあああっ!」カーン

ヒュンヒュンヒュン ドサッ

あおい「双剣が片方…飛ばされた…?」

続きは明日

五木「…」

あおい「そんな…木の枝に負けるなんてありえないよ…」

五木「いや、貴様の勝ちだな」ボロッ 

あおい「木の枝が粉々に…」

五木「ようしッ!褒美をやろうッ!!」

あおい「え?褒美?色々いきなりすぎるけどやったあ!」

五木「俺の二番目の弟子にしてやろうッ!!嬉しかろう、さぞ嬉しかろうッ!!」

あおい「…」スタスタ

五木「うおおいッ!待たんかッ!!」

沼田村周辺

あおい「…はあ、何だったんだろあのうざい覆面…」

十三「さあ…ん、近くに村があるようですぞ」

あおい「おっ、じゃあ立ち寄ってみようかな。今度は襲いかかる人達じゃありませんように…」


沼田村

あおい「あれ?なんか人があんまりいないね」

村人「お嬢ちゃん、見ない顔だがどこから来たのかい?」

あおい「え?ああ、おーぷん市…あぁあいや!開戸村からここまで来た旅人です」

村人「開戸村?おお、鬼が住む山がある…そこの山を越えてきたという事は…本当に鬼は退治されたのか…」

あおい「ふっふふ、なんと!退治したのは私(と友達の由佳)なのです!」エッヘン

村人「またまたそんな…そんな格好した若い娘が鬼を倒すだなんてありえないよ」

あおい「いやマジだから!私めちゃ強くなったんだよ?ほらほら、この双剣捌き!」シュッシュッシュッ

村人「確かに素早い刀捌きだけど…」


村人2「おーい、何話してんだ?」

村人「あ、今開戸村の方から旅の人が来たんだけどよ。この嬢ちゃんが鬼を倒したなんてほらふくからよ」

あおい「ほ、ほら?」

十三「嘘って事ですな」

あおい「ほらじゃないよ!倒したんだから!(由佳と一緒に)」

村人2「…いや、俺は信じるぜ」

村人「!?本気か?」

村人2「噂では紅い妙な着物を着た小娘と妙な髪型の妙な化粧と服を着た小娘の二人で開戸の鬼を倒したらしい。どうやらこの娘はその片割れなんじゃないか?」

あおい「へ、変な髪型って普通のボブじゃん…ひどいよ皆…」

村人「って事はもしかしたら沼の鬼も…」

村人2「ああ。旅の人、頼む!俺たちの村を助けてくれ!!」

あおい「え?え?」

村人「今この村は凶悪な鬼に脅かされてるんだ…もし倒せるならお願いしたい…」

外伝
対開戸村の鬼 由佳編

寒い

深い闇と寒さの中を
自分が何故こうなったのか?
ここはどこなのか?
どうなってしまうのか?
様々な意識がぐるぐると混濁している

やがてでかい釜をかき混ぜるかのようにそれらが混ざり、一つの過去…走馬灯を照らし出した


「おねえちゃん、またこわいもこもこがでたよぅ」

幼い由佳はまだらに集まった雲が嫌いだった
いぼいぼみたいで気持ちが悪い、雨がすぐ降るから
そして何より怖かったのだ。最初はただの小さい雲の集まりがいつしか密度を増し、陽の光を遮るのがひたすら怖かった

「あらあら、泣かない泣かない。秋になったという目印みたいなものだからね、あの雲は」

姉はよしよしと泣きべそをかく由佳を抱き寄せなだめる

「ひっく…だってあのもこもこ…あつまるとこわいんだもん…」

真由の修道服を引っ張り泣きすがる


「もこもこ…あの雲はね、叢雲って言うのよ」

「むら、くも?」

「小さな雲が同じように並ぶの。確かに陽が隠れたり雨が降る前兆だとも言われるけれど…私は好きだなぁ」

「叢雲の隙間から差す光、月なんかもそう。とても神秘的で…素敵なのよ?」

「で、でも…こわい…雨きらいだから…もこもこきらい…」

真由は優しく微笑みさらにぎゅっと抱きしめる

「じゃあ…お祈りをしましょうか?あの叢雲が吹き飛ぶようにって」

「…うん!」

由佳はにっこりと笑った

また釜がかき回される
次に照らされた走馬灯は半年前の国内最強の剣客、滝田との決闘であった

「ふうっ…」

由佳は大きな一息をつく
捌きの達人である滝田は神速抜刀術と呼ばれる高速居合斬りすらも見切ってみせた
そのため息からは少しの焦りと
いつか来るであろう鬼との戦いに備えた奥義を出さねば勝てない相手だという覚悟と喜び、不安が入り混じる複雑な一息であった

「流石だな、神速抜刀術」

滝田は惜しみない賞賛と共に構えを変える
今までは捌きに徹する下段の型から
猛烈な攻めを繰り出すと言われる『地』と呼ばれる上段の構えをとる

知識の野次馬達はざわめきたつ
滝田がこの型を出す時は必ず決着、滝田の勝利が決まる証
妙な格好の妙な剣技を使う娘もこの『地』に呑み込まれてしまう
野次馬達は確信した


「なるほど『地』だよね、それ」

由佳は必勝の型だと知りつつも笑う
野次馬は強がりの笑顔、やけくその悪あがきだと思った

「叢雲って、あるよね。秋の雲でさバーっと小さい雲が集まったやつ」

滝田は時間稼ぎだと思った
だがあえてそれに乗る、自分の『地』には隙も弱点もない
ここで悪あがきをして破れる技ではないと確信していたからだ

「あれ嫌いなんだよねえ、邪魔くさいしすぐ雨降るしさ。んで昔はいなくなれいなくなれなんて祈ったもんだけど…」

由佳は静かに左にさしていた居合刀を右側へとさし、先程とは真逆の構えを取った

「!?」

滝田は一瞬動揺する
普通居合は左にさし右足を踏み込みながら抜く
それは自分の足を斬らないためでもあり当時の人間はほぼ右利きだったからである
だがすぐに落ち着きを戻す。これは単なる撹乱『地』を止めて欲しい為の悪あがきだと

「でもね、今は違う…あたしは…叢雲をも斬る!!!」

そのまま突っ込む由佳に滝田は冷静であった
玉砕、自分が動揺する前提の分の悪い賭けを仕掛けてきただけだと
それを冷静に捌き『地』で斬り捨てる

二人が交錯する

逆側からの抜刀術は捌きにくかったがただそれだけ。少し遅れて捌き、『地』からの騎馬ごと叩き斬る大袈裟斬り『斬馬』を繰り出した

しかし手応えは浅く

「くっ…」

由佳の左腕を傷つけるに留まった

「浅いか…だが次で仕留める」

再び『地』

だが由佳は構えをとらずに喋り始めた

「あたしは普段は右手を使うけど本来は左手が自分の利き手なの」

「だから右からなら通常の抜刀術よりさらに素早い居合を出せるってわけ。そしてその速さは空を切り裂くほどで…」


「隙を見せるとは、覚悟せよ!!」

スキだらけの由佳へ滝田はしびれを切らして斬りかかる
その時何かが吹きすさぶ音が聴こえた
その音と共に全身から赤いモノが吹き出すのが見えた

「!?な…血…!?」

滝田は刀を落とし自分の異変に困惑する
斬られていないのに全身から血が止まらなくなるのだ
そんな技聞いたことすらない
狼狽するほかなかった

「空を切り裂き見えない刃で敵を斬る。一見当たらずともいずれは周りの空気によって全身を切り刻まれる…滝田大先生、いや滝田殿。鬼の前に…人との立会でこれを使うことが出来て、本当によかった。ありがとう…」

「どうやら…負け、のようだ…叢雲…お見…事」

血塗れの滝田はそのまま吹き出した血の池に倒れる

「…奥義、叢雲。これなら…」

由佳は身を翻し、勝利を噛み締めながら決闘の場を後にした


また混ざる

再び暗闇
どこか冷静な自分が教えてくれる
鬼と戦い、昨日初めて出来た異国の友人をかばい瀕死の重傷を負い

もうすぐ死を迎えると…

はっと思い出すが身体は既に言うことを聞かず頭の中はもう休めと言ってくるのみであった
だが休めば二度と起きれはしない
鬼を相手に
それも姉の仇でもない鬼を相手に
非力な友人を喰らおうとしていた鬼を相手に

負けるわけにはいかない
死ぬわけにはいかない

呪詛のように呟きながら由佳は身体を少しずつ動かし意識の覚醒を促す

目が醒めると先程の屋敷から4尺も離れた草むらで倒れている事に少し驚く
鬼に吹き飛ばされてここまで投げられるとは思いもしなかった
正直、鬼をなめていた節もあった
この怪我は代償
少しずつ少しずつ起き上がり膝を付くと右足に激痛が走る
全く言うことが聞かず折れているのだと認識する
だが休むわけにはいかない

ふるふると刀を杖のように支えやっとの思いで立ち上がる
右足はがたがた震え冷や汗は止まらない
呼吸も苦しく視界もぼやけてぐるぐると回っている
だが休むわけにはいかない

右足をずりずり無理矢理引きずり少しずつ歩き出す
自分が吹き飛ばされて空いた屋敷の穴
その向こうに鬼と友人の姿は見えなかったが必ず中にはいるはず
ゆっくりだが確実に前に進みながら刀を右へさす
屋敷に入ってから八歩いや五歩でいい全力で走り出す力をくれと祈る
悪鬼羅刹を斬る、姉の仇討ちの想いはやがて覚悟へ

屋敷の穴へ着くと友人は尻もちをつき追い込まれようとしている
初めて出来た友人の危機は覚悟は信念へと昇華し折れた右足をも動かした

走り出し左手を右鞘に置く

(姉さん…力を貸して…!!)

幼い頃の決意が鬼をも切り裂こうとしていた

沼田村
村長の家 

村長「我々の村は街道沿いの旅人が多くたちより賑わう場所でしたが、突然近くの底なし沼に鬼が現れまして村人や旅人を襲い…」

あおい「なんか似たような話じゃない?」

十三「…真面目に聞かないと…」

村人「腕利きの剣客にも頼んだが…誰も生きて帰ってこねえんだよ」

村人2「ただでさえ危険な底なし沼だから俺らは近づく事さえ…」

あおい「うんうんうん、大丈夫大丈夫!私にまっかせなさい!」

村長「ありがたい…だがいくら開戸の鬼を倒したとはいえそなたのような若い娘を行かせるのは…現に我が村の娘達も犠牲になっている無理はせずに…」

村人「…行っちゃいましたね」

村長「…」

村外れ
十三「あの、あおいさん」

あおい「なにおじさん?珍しいねそっちから声かけるなんて」

十三「あなた自分が死なないと思ってませんか?」

あおい「?いや死ぬんじゃないの?」

十三「…やはりわかっていませんな。ゲームのキャラの様に体力が尽きて死んだらまたセーブした場所からだとかでは出来ないのですぞ?」

あおい「え…」

十三「あなたが斬り殺されたら遺体はその後に獣に喰われようが弄られようがそのままで元の時代に戻るのは不可能になりますし」

十三「最初にお話した心が折れた場合、例えばあなたが山賊に陵辱され全てを諦めた場合は殺されるか死ぬまで犯され続けるのですよ?」

あおい「な、なんでそんな事先に言って…」

十三「いや言ったじゃないですか」

あおい「ふ…ふんだ!結局は死んだり捕まらなきゃいいんでしょ?!そんな鬼なんてやっつけりゃいいわけだし!」

十三「まあ…そう、ですな」

「ウゥゥゥ」ガサッ

あおい「!?だ、誰!?」

?「ウゥゥゥ」ズルズル

あおい「や、やだ…なにこれ…全身緑でドロドロしてて…」

十三「これは…寄生された人間ですなあ。生きている人間に吸い付いたり子種を植え付けたりする元人間、今怪物ですぞ」

あおい「いやだこんなキモいの相手になんて…」

怪物「ウゥゥゥ」
怪物「ウゥゥゥ」

あおい「いやあぁ!!増えた!?」ベチャッ

あおい「!く、靴が泥に!」

怪物「ウゥゥゥ」ズルズル
怪物「ウゥゥゥ」ズルズル
怪物「ウゥゥゥ」ズルズル

あおい「ぁ…ぁ…」

続きは明日

あおい「わ…わあああああ!」ブンブン

怪物「グェェェェ…」グシャア

あおい「…あれ、あっさり死んだ…?」

十三「まあ数で押すような怪物ですし雑魚もいいとこですからな。」

あおい「うぅ…でも最悪だよぉ…キモいし靴の中まで泥が入ってくるし…とりあえずバッグに替えのローファーと靴下あったから履き替えなきゃ…」ヌギヌギ

十三「…この先どの道沼地なら意味ないのでは?」

あおい「おじさん私にこのぬちゃぬちゃした足で歩けっていうの!?絶対嫌!別にいいじゃん、いっぱいあるんだし!」ヌギヌギ

十三「ううむ、年頃の女子は難しい…」


鬼の沼地

あおい「ここ…沼なの?確かに地面はドロドロしてるけどさ、ジャングルみたいに草とかボーボーで全然沼らしくないよ?」

十三「ああこれは…いややめときましょう」

あおい「えぇー!ちゃんと言ってよ!なになに!?」

十三「あおいさんが気分を悪くされたらいけないと思いまして。鬼の反応は草のジャングルを抜けた先にいるはずです、分析した所一本道ですから迷う事はないでしょう」

あおい「きーにーなーるー!言ってよ言ってよ!?」

十三「あぁ、後先に進むときにバッグは置いて下さい。私の言霊ごとここに」

あおい「えっ…な、何でよ?」

十三「このジャングルはかなり先が細く通学バッグですらひっかかる可能性があるのと、えー…まあとにかく置いていって下さい」

あおい「なんか引っかかるなあ…」

十三「盗まれる事はないですからご心配なく。炎氷牙の限界能力を引き出せるのはあおいさんが2メートル以内にいなければ起動しない事をゆめゆめお忘れなきよう」

あおい「私が瀕死になるって決めつけないでよ!もー怒った!いいよそれなら私一人で鬼倒すから!ばいばいおじさん!」ザッザッ

十三「お気をつけて、あおいさん」


十三「…さて、次に会う時はどうなっている事やら…」

鬼の沼
あおい「うぅぅ…」ズブッズブッ

あおい「せっかく新しい靴と靴下に履き替えたのにぃ…何なのここ…何なのって沼だったね…ブツブツ」ズブッズブッ

ガシッ

あおい「ひゃあ!?あ、脚掴まれ…!?…ってなにこれ?でっかい干物?…人、じゃないよねまさか」キョロキョロ

あおい「なんか周りの草の間にもたくさんでかい干物が転がって…」

あおい「う…やめよう!もう考えない!先に進もう、あおい!」ズブッズブッ


怪物「ゥゥゥゥ…」ズルズル

あおい「あーもう!」シュッ

怪物「グェェェェ」グシャ

怪物「ゥゥゥゥ」

あおい「数が多くて」シュッ

怪物「グェェェ」

怪物「ゥゥゥゥ」

あおい「邪魔だっての!」シュッシュッシュッ

怪物「グェェェェェェェ」

あおい「はぁ…もう20匹は倒したよこいつら…」

あおい「1回戻ろうかな…靴の中最悪な事になってるし何か周りも臭いし…」




あおい「…あれ?あれ!?」

あおい「うそ…来た道がふさがれてる…」

あおい「…うぅっ…」

あおい「だ、だめだめ!泣いたらダメだ!心が折れたら帰れなくなっちゃう、鬼を倒せばいいんだから!」ズブッズブッ

あおい「広い場所に出た…ここに鬼が…?」

?「やあこんにちは」

あおい「っ!?」

?「おや、若くて可愛らしい女の子じゃないか。どうしてここに来たんだい?」

あおい(あれ?何か中性的でイケメン…鬼…じゃないのかな?)

?「服装も身なりも変わってはいるけれど…そんな格好でいたら危ないよ?」

あおい「あ…えっと…は、はい…」

?「君の名前は?」

あおい「あ…あおい、です…」

?「そうか…いい名前だ…」

続きは明日

?「あおいさん、君は何故ここに?」

あおい「えっ…えっと、鬼がこの沼にいるからって聞いて…」

?「ふふ…なるほど。あそこに浮島があるだろう?そこに行けば鬼にあえるかもしれない」
 
あおい「は、はい…」ズブッズブッ

?「…」スッ

あおい「あのっ…!ってあれ?いない…??なんだったんだろあのかっこいい人?」ズブッズブッ

あおい「よいっしょ!あーやっと着いたぁ!靴下までぐちゃぐちゃで最悪だけど…おーい、鬼出てこいー!私早く帰りたいんだからねー!」

ズルッズルッズルッ

あおい「!?な、なにこの音!?」

ズルッズルッズルッ

「…」ズルッズルッ

あおい「じっ…地面から女の人が…」

女「…」スゥ


あおい(何?この人、様子が変…ってか大体地面から出てくる事が変だし…)

あおい「お、鬼…なの?」

女「殺す」チャキ

あおい「え…」

女「殺す」ダダダダ

あおい「わああ、いきなり斬り…」ガキン

女「…」グググ

あおい(す、すごい力、押し負けちゃう…)

女「…」グイッ バキッ

あおい「うぁっ!押…あぁぁっ!」ズザザザ

あおい「けほっ、けほっ…」

あおい(あ、あんなに山賊とか倒したのに…)

女「殺す」タタタタ ドムッ

あおい「げ…ぁ…あっ…」

あおい(お、お腹殴るのやめ…)

女「殺す」グシャァ

あおい「っああああああ!!」ザザザ

あおい「うぅ…ま、まだまだあ!!」グッ

「…の値がオーバーフローしましたこれより最大稼働致します、目標人間」

あおい「え?何…刀が喋…」

あの時と同じだった
自分であって自分ではない何かが自分の身体を動かしている感覚
違う事もある
開戸山の鬼との戦いでは虫の息、瀕死の際に起こったが
今回は違う、いくつかダメージは負ったが瀕死というわけでもない
「殺す」

軽鎧を纏う氷のような表情の女は日本刀を振りかざし襲いかかる

鋭い斬撃を「あおい」は紙一重でかわし
以前の鬼との戦いのように回避と同時に左の刀で斬り上げる

(う、うそ…!?)

意識のみのあおいが驚愕する
確実に決まったはずの「あおい」の斬撃が受け止められていたからだ


「あおい」は冷静に身体をひねり後方へと飛び退いた
軽鎧の女は追撃をせず刀を両手で握ったまま上に運び静止する

「分析…滝田一刀流 攻の型『地』と認識」

(えっちょ…しゃ、喋った!?)

再びあおいは驚く、自分でないのに自分の声で喋られると違和感しか感じない
それにいきなり滝田一刀流と言われても彼女にはただ刀を上に持っていってるだけにしか見えない事もありわけがわからない事だらけであった 

「『地』に対する戦術を思考中…完了、目標滝田一刀流を流派とする人間」

(人間…?肌の色緑だしコロスしか言わないのに?)

あおいは「あおい」に問うが答えは返ってこない

軽鎧の女は何一つ反応せず
「殺す」

そうつぶやき『地』のまま突進する

『地』から繰り出される強力な切り下ろしは女性の力でも人を切り裂くと言われていた
さらに速度も速く、ある程度山賊狩りをしてきたあおいでも全く剣線を捉える事が出来なかった

だか次にあおいが気づいた時には
「あおい」が峰の部分で回転しつつ殴り軽鎧の女を吹き飛ばしていた

「滝田一刀流 防の型『海』を使用。…残り時間全てを最大稼働へ」

機械的な「あおい」の説明が終わると双剣が炎と氷を纏い、そのまま体勢を崩した軽鎧の女へと踏み込み斬りつけた
すれ違いざまに放った炎の斬撃はかわされたものの、氷の斬撃は㊛の左肩ごと切り落とし
「あおい」が再び数メートルの距離を取ったと同時にぼとりと腕が浮島に落ちた

あおい「…っ!あ、あ…戻っちゃった」

㊛「…」ズルッ

あおい「い、痛くないの?全然表情変わってないけど…」

㊛「殺…」ズルッ

あおい「ま、まだやる気!?」

㊛「殺…して…」

あおい「え…?」

㊛「おね…がい…ころ、し…て…」ズルッ

あおい「な、何で…いきなり…」

㊛「せんせいの…かたきを…とれな…」ズルッ

あおい「先生…?も、もしかして本当に…人間…だったの?」

㊛「けんし…として…これいじょう…」ズルッ

あおい「…う…」

㊛「はじを…さら…」ズルッ

あおい「うわあああああっ!」ズバァッ

㊛「…あ…ありが…とう…先生に…あやま……」ドサッ

あおい「はぁっ…はぁっ…そんな…人間なのになんでこんな…」


?「聞きたいですか?それは僕が彼女を戦闘人形として生まれ変わらせたからですよ」スゥ 

あおい「!さ、さっきの…!」

?「結城あおいさん、開戸山の鬼を倒したのは聞いていますよ」

あおい「な、なんでしって…」

?「聞いたからですよ、そこらに転がってるでしょう?その人達にね」

あおい「これ…このでっかい干物…噓…もしかして…」

?「栄養を吸いつくしたり苗床が朽ちるとそうなるのですよ、人間というものは」

あおい「あ…ぁ…ぁ…」


?「さらにあなたが通った植物達も人間を苗床にし作ったいわば人工の植物」

あおい「うぅ…うっぷ…」

?「何をそんなに気持ち悪がるのですか?あなたもそうなるのですから、これからね」

あおい「うげ…っ…どうして、今の女の人はあんな目に…」

?「役に立ちそうだったからですよ、彼女は名のある武芸者で師匠の仇を取るために旅をしていたのですが、ここにおびき寄せて罠にかけ人形にした…僕が手を煩わせる事もなく人間を始末出来る存在として、ね」

あおい「酷い…」

鬼「酷い?僕は静かに沼で暮らしていたいのに鬼だからと殺しに来る人間の方がよっぽど酷いじゃないか」

あおい「許せ…ない!」チャキ

鬼「戦いますか。もう双剣は光っていないようですが…戦えるのですか?」

あおい(こいつ…もしかして炎氷牙の力を先に使わせて!?)

あおい「うるさいっ!あの時よりも私は強くなったんだから…今度こそ一人でも鬼退治…するんだから!!」ダダダ

外伝
武芸者「妙」編
開戸村から山を三つ越えた場所にある寒村
そこに妙(たえ)は生まれ育った
優しい母親、それなりに有名な絵師であった父親の安定した収入もあり
非常に恵まれた環境で育まれた彼女は真面目で正義感溢れる真っ直ぐな少女へ成長した
しかし10歳の時に惨劇が起こる
寒村故警備が薄く、山賊から守る手立てがない村はあっという間に10人ばかりの賊に蹂躙され村人や両親は殺されてしまう

「ガキか…こいつを売ればそこそこな値段になりそうだな」

にやける山賊の手から救ったのは

「…無事か?すまない、修行の途中に騒ぎが聞こえ駆けつけたのだが…」

一人の青年剣客であった

「なんだてめぇは!?殺すぞ!!」

獲物を邪魔された山賊は怒り狂い一斉に青年を囲んだ
だが青年は動揺もせずに怯える妙に大丈夫だと微笑んだ

そこからは一瞬だった
下段に構えた青年の剣は山賊のあらゆる攻撃を捌き全てを斬り捨てた

「…我が一刀流の『海』あの世で語り継ぐがいい」

血を払い一瞥し納刀する青年

「あっ…あの…」

妙は恐る恐る口を開く

「村人は弔おう、君は近くの村へ送り…ん?どうした?」

「私を…弟子に…弟子にして下さい!!」



青年は旅をしながら様々な武芸者と立ち会い、妙にも稽古をつけた
彼女は青年の脚をひっぱりたくない一心でついていくための努力を惜しまなかった
厳しい稽古もつらくはなかった。いつか自分が助けられた時のように…正義の為に戦えるのならどんな事も学び励んだ
女子ではあったが身長に恵まれ細身ながらも男にも負けない間合いを味方につけ、青年が歳を取り小国で最強の剣客となった時には
美しく成長した彼女もそれに次ぐ実力者となっていた

戦う相手が国に居なくなった彼は道場を構え多数の門下生を迎えた
一方一番弟子の妙は免許皆伝として印可を貰い旅に出た
それはかつての自分の様な困った人を剣で救う為
師匠もそれを理解していたからこそ道場の師範代に指名せず快く送り出した

「妙、お前の帰ってくる場所はここだ。旅に疲れたらいつでも来い」

救ってくれた時に見せた微笑みを見せた師にむずがゆくなりながら旅立つ妙、でもそれが嬉しくて涙も止まらなかった

旅に出た妙は国を越え様々な土地を転々とし、五年もの時が経つ頃には彼女は名のしれた武芸者「風神」として語り継がれていた

彼女は旅の報告をする為五年ぶりに国へと足を運び街道の茶屋にて休息を取っていた

「いたたた…」

肩を抑えながら腕や脚に包帯をまいた紅い変わった着物を身につけた少女が横に座り一息ついた

「あら?お怪我されたのですか?」

妙は少女へ声をかけるとどこか寂しげな笑みを浮かべ答えた

「あぁ…強敵と戦って来たからね。さすがにただじゃ勝たせてくれなかったよ、まだまだ修行が足りないんだなぁって思い知らされたよ。」
  
妙が微笑む

「ふふ…それは私もですわ」

「へえ、お姉さんおしとやかな美人なのに武芸者なんだ?」

少女は興味津々に妙の顔をのぞき込んだ


「ええ、剣術を学んでいるのですがなかなか奥が深くて。研鑽の毎日です」

「いやあ、なんか親近感わくねぇ。あたし以外に㊛の剣客なんて見たこと無いしさ!」

「私も同じです、また私よりも幼い女子でいるとは思いもよらず…」

「あはは、よく言われるよ。でも今なら大人にも負けないつもりでやってるからね!鬼を斬るまでは絶対負けない!」

気を良くした少女は立ち上がり気合を入れるようなしぐさをとった

「鬼、ですか。私はまだ出会った事はありませんが…あなたのように真っ直ぐな方ならばきっと果たせますよ」

「うん、ありがと。…でさ、お姉さんってこの国の人?」

「はい、私五年ぶりに師の元へと戻り土産話をと思いまして」

妙の言葉に先程まで上機嫌だった顔が曇る

「あ…そう、なんだ…」

「ええ、滝田信雄という元は松田流の使い手でしたが新流派滝田一刀流を立ち上げて…あら?顔色悪い様ですが、怪我が悪化したのですか?」

心配になった妙が少女へと寄るが彼女は席を立ち

「いや…何でも、ない。…あたしそろそろ行きますね、お姉さんもお元気で」

「あっ、怪我は大丈夫ですか?何ならいい薬を…」

「大丈夫大丈夫、あたし頑丈ですから。それじゃあ…」ザッザッザ


「…あの娘どうしたのかな…?」

道場前
妙「?門下生が集まってる…どうしたのかしら?」ザッザッ

門下生「あ、師範代…」

妙「久しぶり、で…どうしたの?何か……師匠…!?」

門下生「…先生は挑戦状を受け決闘にのぞんだのですが…」

妙「そんな…師匠が負けるだなんて…誰が、一体誰が!?」

門下生「紅い着物をきた小娘でした…名前は由佳という…あ、師範代!?」


街道

妙「ハァッ、ハァッ、ハァッ…流石にもういないか…」

妙(あの時の娘…恐らく彼女が…)

妙「先生……私は一度だけ人の為ではなく…自分の為に剣を振るいます…先生の仇を、取るために!!」

沼田村
村長「あなたが雷神の妙様ですな?」

妙「はい、この村に私宛への信書が届いたと近隣の村人から聞いたのですが」

村長「そうなのです、これを見てください」

妙「…私は由佳、お前の師をぶった斬り最強になった剣客だ。ついでに残党のお前も斬り刻み沼の肥やしにしてやる…人質に村の十歳になる娘を預かった。沼の中心にてお前を待つ」

村長「ですがおかしいのです、なぜなら村には現在十歳の……いない…」




妙「…この植物は…それにこの緑の生き物は…?」ズバッ

怪物「グェェェェ」

妙「とにかく中へ向かわねば!」ダダダダ


浮島
女の子「えーんえーん」

妙「あれは…」

女の子「えーんえーん」

妙「大丈夫?もう安心よ」

女の子「うっく…おねえちゃん…たすけてくれるの?」

妙「ええ。…あなたをさらった人はどこかにいるの?」

女の子「うん…あそこに…」スッ

妙「あそこ…?…!?」グサッ

妙「な…?」

㊛の子「作戦成功、やっぱり人間は馬鹿だね」ジュルジュル

妙「す、姿が…」

鬼「こんにちは、初めまして。あなたの噂はかねがね、風神さん?そして…あなたの甘さもね」

妙「罠…ということ…くっ、でもね…!」ググッ

鬼「無理だよ内臓を貫いた、もうすぐ歩けなくなってしまうよ。致命傷だ」

妙「はああぁぁあ!」ザシャアア

鬼「!何…!?」

妙「死ねない、師匠の仇を取るまでは…絶対に!!」ブンッ

鬼「ぐあああああ!!」ブシュッ

妙「でぇやあああ!!」

鬼「ぎゃああああっ!?ば、馬鹿な!に、人間なんぞに僕が!僕が!?」ブシュウウウ

妙「これで…とど…!?」シュルシュル

鬼「はい捕獲完了、どうだった?僕の演技」

妙「な、何!?このツルは…!?」

鬼「僕は植物型の鬼、自在に自分の植物を操る事が出来るんだ人間達を苗床にしてね…」

妙「くっ!は、離れない!?」

鬼「でも…君は強かったよ。人間極めればここまでやれるもんなんだね。だから敬意を表して…」

鬼「僕の戦闘人形になってよ」シュルシュルシュルシュル



一週間後

討伐隊「我々は鬼討伐精鋭!腕っこきの剣術隊よ!鬼、出てこい!」

妙「…」スゥ

討伐隊「なんだこの緑の㊛は?あの変な怪物と一緒の雑魚か!?」

討伐隊「叩き斬ってや…ぐわあああ!」グシャア

討伐隊「な、い、一撃!?」

討伐隊「構わん!かかれ!殺せ!!」

妙「殺す」



数刻後

妙「…」

鬼「素晴らしい、あっさりと全滅させるだなんて。これからも頼むよ、僕の人形さん?」

続きは明日

あおい「てえええやあ!!」シュッ

鬼「!?は、速、うぎゃあああ!」ブシュッ

あおい「まだまだ!」シュッ

鬼「ぐぅあああああ!」ブシュッ

あおい「そりゃ!!」シュッシュッ

鬼「ぎええああああああああああ!!」ブシャアアアア

あおい「やった!?」

鬼「ぐぅぅぅあ…」ブチュブチュ

?(まだです!そいつは再生します!)

あおい「はえ!?え?な、なに今の声?誰!?」

?(私の名は妙、先程貴女と戦った武芸者です)

あおい「????え、だって…死んだんじゃ…」

妙(私もそう思いました。ですが私の意識だけは貴女の右手にある刀に留まっているようなのです)

あおい「????????」

妙(不思議なのは私も同じ、ですが今は鬼を討つ事に専念して下さい!)

あおい「う、うん…よくわからないけど…あの鬼も少ししたら元通りになるって事…だよね?」

妙(そうです、ですが奴は演技し罠を張り近寄る時を待っているのです)

あおい「じゃあどうすれば…」

妙(まずは正面から追撃をして下さい、奴がぴくりと動いたら右に回り込み後ろから斬撃を)

あおい「ぴ、ぴくりとってわかるきあ…」

妙(貴女なら出来る筈です、どうかお気をつけて!)

あおい「…このイケメン鬼、トドメをさしてやるう!!」ダダダダ

鬼「…ニヤ」

あおい「でええええやあああ!!」

鬼「…今だ!」ピクリ

あおい「っ!…よっと」クイッ

鬼「な!?」

あおい「後ろがガラ空きだよ!!」シュッ

鬼「ぎゃああああぁああぁああああ!?」ボチャン

あおい「あ、沼の水ある所に落ちちゃった」

あおい「おーい、妙さんだっけ?倒したよー!」

あおい「?あれ?返事がない…」

あおい「んー…ま、いっか。鬼倒したって事で!…でも嫌だなぁ、人間だった足場通るの…」グチャグチャ

あおい「うぅ最悪…靴下までぬるぬるだし…」シュルシュル

あおい「?なに?脚に…わあああ!?」グイッ ボチャン

あおい「っ…ぺっ!ぺっ!…何これぇ…転んで泥だらけに…うぅ…」グイッ

あおい「え…?きゃあああああああ!?」グイッ ズザザザザザ

あおい(あ、脚に…まきつかれ…)

あおい「ぷはっ!…はぁっ…はぁっ…何なの…!?脚に…何、これ…植物のつる?」シュルシュルシュルシュル

あおい「!?!?身体に巻き……きゃああ!いやあ!?離してよ!!!」ジタジタ

外伝
五木の一番弟子編
由佳と滝田の決闘から10日後…

由佳「…ふう…結構歩いたし茶屋で一休…」

五木「そこの妙な娘ッ!まていッ!!」ヌウ

由佳「うわっ!?な、何?いきなり後ろから!?」

五木「まていッ!妙な娘よッ!妙な娘ッ!」

由佳「う、うるさい!急に人の後ろから話しかけてきて妙な娘なんて失礼じゃないの?!」

五木「ふ…ならば教えてやろうッ!その無駄に目立つ真紅の着物ッ!更に丈が短く脚を丸出しッ!年頃の娘なのに妙としか言えぬ格好ッ!妙と言わずして何と言おうッ!!」グッ

由佳「お、落ち着けあたし…斬っちゃいけない斬っちゃいけない…挑発に乗るな…」ブツブツ

五木「おっと、刀を抜くのか?自称神速の抜刀娘よ」

由佳「!?…あたしだとわかって最初から…?」

五木「…そりゃその格好見ればわかるだろう」

由佳「う、うるさい!で、あんたは何者?立ち会いたいの?…今はあんまりやる気ないけど」

五木「立ち会う?ふっははははははははははははははははははははははははははは!!」

由佳「な、何笑って…」

五木「貴様のような小娘などと手合わせとは笑止千万ッ!この最強の忍び五木ッ!貴様に名乗る名前はないッ!!」

由佳「名乗ってるし…」

五木「滝田の一番弟子から逃げるような小娘は山賊あたりに弱い者いじめでもしているがよかろうッ!ふはははははははははははは!!」

由佳「…」

五木「ふっ…論破してしまったか。敗北を知りたいものだな」

高笑いする五木とは対照的に表情を曇らせる由佳
静かに前かがみに沈めいつもの抜刀の構えをとり

「…なら、あんたも試してみる?」

由佳はあえて挑発に乗り買い言葉を言い放つと

「ふははは!いいだろうッ貴様の自称神…」

五木が言い終わる前に踏み込みあっという間に間合いへ詰める

基本的な左の鞘から右上へ斬り上げる最も速い抜刀術

いつものならば抜いた瞬間斬れた感触があるのだが

今日は違っていた
目の前の胡散臭いうるさい忍者はどこからともなく取り出した忍者刀で渾身の抜刀を受け止めていたのだった

何故受け止められたのか?刀はどこから取り出したのか?こいつは何者なのか?

由佳の思考にいくつもの疑問がグルグルと駆け巡る

由佳「くっ…」ザザッ

五木「思ったよりいい斬撃だ。なかなかやる」

五木「1つ聞きたい、滝田信雄の一番弟子…妙と戦わなかったのは何故だ?」

由佳「…」

五木「有名な武芸者であり師の滝田に心酔していた妙を傷つけたくなかったからか?」

由佳「随分と雰囲気違うけど…あんた何者なの?本当に忍び?」

五木「刀を抜くと少々人が変わるのさ、お前の姉のようにな」

由佳「な…あんた、姉さんの事知っているの?」

五木「モニカと言う修道服の女、旅先で一度会った」

由佳「姉さんの洗礼名…教えて、今どこにいるの!?」

五木「断る。俺は中途半端な奴は嫌いだからな」

由佳「はあ!?」

五木「俺もあの茶屋にいたが…あの場で妙と斬り合わなかったのが納得いかんのだ。故に貴様をここまで追ってきたのだが…」

由佳「百人の弟子を持つ滝田信雄…復讐に来る者や恨む者が出る事も覚悟していたし全て受けて立つつもりだった…でも…あの人の目を見たら…言えなかった」

五木「ほう?」

由佳「子供の頃のあたしを思い出したの、大好きな一番愛おしくて一番尊敬している人…あたしは姉、あの人の目には滝田信雄の姿があった…」

五木「逃げることで妙が救われるとでも?」

由佳「それは…」

五木「どの道逃げてもあの娘のためにはならん…現にならなかった、妙は死んだからな」

由佳「!?どういう事…!?」

五木「文字通りだ。雷神、妙は沼田村で貴様を騙る鬼に殺された…と聞いた」

由佳「…!」

五木「待て、どこへ行く」

由佳「そんなの決まってるでしょ、沼田村に…」

五木「ふ…ふっははははははははははははははは!!馬鹿娘めッ!馬鹿娘がッ!!」

由佳「こんな時に元に戻りやがって…」

五木「ここから沼田村へ向かえばぁ?開戸山を越えねばならぬッ!!そして開戸山にはぁ?鬼ッ!鬼が棲み着いているのだッ!!」

由佳「また別の鬼が…!?」

五木「俺が忍び込んで見てきたが…恐かったぞッ!でかくて恐いッ!だが…貴様、俺の一番弟子ならば倒せるやもしれんッ!!」

由佳「はあ?」

五木「俺に刀を抜かせるとはなかなかの腕前よッ!褒美に一番弟子にしてやろうぞッ!!嬉かろうッ!!まずはそうだな…かたもみをするがいいッ!!…む!おいッ!どこへ行く弟子よッ!?」


由佳「…開戸山と沼田村の鬼…必ずぶった切ってやる…!」

あおい「な、何これ…離してぇ!」ジタバタ

鬼「これが僕の力、植物のような柔軟な触手や人間を苗床にした自然の要塞にする事も出来る…開戸山のような馬鹿鬼とは違うのさ。そう、他にもある。例えば~…」

あおい「うっ…く…うねうねして気持ち悪い…離れてよぉ…」

(使用者の精神状態に異常を確認、このままでは危険です。現状の打破を試みて下さい)

あおい「そ、そんな事…ていうか…妙さん?って人じゃない…の?」

(彼女は貴方の右手に握られている擬似人格です、私は元から存在する形代…使用者の危機にのみ動く緊急用の擬似人格です)

あおい「全然わかんないけど…とにかく助けて…少しづつ力が抜けてきて…」

(その触手状の物体は人間の精気を吸い取っています、それからあなたの持つその武器……エラー発生 情報にロックがかけられています、マスターからの解除指示が無い為これ以上の情報は開示出来ません)

あおい「な、なんでもいいから…助け…」

妙(あおいさん!諦めないで!なんとかこの状態を抜け出しましょう!)

あおい「妙さん…でも、手も足も縛られたら…」

妙(まだ打つ手はあります、あの鬼は自尊心が高く自己愛の塊、見ればわかると思いますが)

あおい「う、うん…今も一人で自慢話してる…」

妙(奴は冷静なふりをしていますが自尊心を傷つけられればあっさりと挑発に乗るはず、そこに付け入れれば…!)

あおい「でも…挑発って私そんな事したこともないし…」

(使用者の結城あおいさん、私の言葉をそのまま鬼へと伝えていただければ挑発が成功する確率は増すとの計算結果が出ました。どうされますか?)

あおい「え…う、うん…私じゃ何言えばいいかわかんないから…お願い!」

鬼「…であるからして僕の目標はわかってくれたかな?」

あおい「ねえ、さっきから聞いてて思ったんだけどさぁ」

鬼「ん?何かな?囚われの姫君?」

あおい「くっそつまらないんだけど!アンタの話!しかもキモい!なに今の姫君って、ありえないし」

鬼「…何?」

あおい「大体そんな長く喋っても結局は自分の力を皆に見せ付けたいだけじゃん!開戸山のくっさい鬼と変わんないから、アンタなんて!」

鬼「おい…貴様…」

あおい「私をこんな風に捕まえて勝ったつもりなら大間違いだよ?勝つなら私をこ、殺してみなさいよ!……それとも出来ないの?変態鬼さん?」

鬼「そんな格好してる女に言われたくはない!!早く死にたいなら殺してやる!死ねぇ!!」シュルシュル

あおい「…!緩んだ、いまだ!!」グイッ

鬼「な!…まさか…!」

あおい「ありがとう擬似さん!!くらえぇぇぇぇ」ザバッザバッザバッ

鬼「うがああああああああああ!!!あぁっがああ…」

あおい「うぇ…真っ二つ……」

妙(まだです!あおいさん!奴は核を壊さねば再生してしまいます、早く破壊を!!)

(使用者、結城あおいさん。私の名はギジサンではありません)

あおい「うぅ…ど、どこにあるの…ちょっと気持ち悪過ぎてちゃんと見れないよ…」

妙(…身体のどこかに必ずある筈ですが…どこにあるのかまでは…)

(植物型有機鬼の再生時間は損傷具合から120秒弱と推測されます。既に40秒過ぎていた為残り80秒に修正)

あおい「ど、どこにあるのぉ…!?」

グイッ

あおい「え?…わあああああぁ!!」ズルッ バチャン

あおい「う…ぺっぺっ!もー…なんなの?もう触手やっつけたのに…」

怪物「ウゥゥゥゥゥゥ」ズルッズルッ

あおい「こいつ…植物の…」

怪物「ウゥゥゥゥゥゥ」
怪物「ウゥゥゥゥゥゥ」
怪物「ウゥゥゥゥゥゥ」

あおい「!!ま、またたくさん…」

(結城あおいさん、焦らぬ様に目の前の敵を処理して下さい)

あおい「あ、うん!でやああ!」シュッ

怪物「グェェェ」ジュルジュル

あおい「たああああっ!!」シュッ シュッ

怪物「「「グゥオオ…」」」ジュルジュル

あおい「はぁっ、はぁっ…よっし今度こそ鬼の…」

鬼「もう遅いですよ」

あおい「え…きゃああああ!?」バチン

鬼「いやはやさっきのは効きましたよ精神的にも肉体的にも、ね」ビュン

あおい「あぐっあっ!!」バチン


鬼「人間の分際でこの私を」ビュン
バチン
あおい「ああぁっ!ぅ…」

鬼「コケにしてくれた罰は」ビュン ビュン
バチンバチン
あおい「あああああぁぁぁぁ!!」

鬼「たっぷり受けて貰いますからね?」シュッ シュッ

あおい「ぅ…うぅ…」シュルシュル

鬼「まずはその両手首を…」グググ
ボキッ グキッ

あおい「!!!あっ!ああぁっあぁあがあああぁああぁあぁあああぁああぁぁああぁぁ!!」

鬼「おやおや、両手首折られたくらいでそんな泣き叫ばないで下さいよ?こちらは真っ二つにされたのですから…もうその邪魔な刀はなくなりましたし、生意気な口もきけないでしょうが…ね!」ブオン

あおい「あっ…ぐ!」

あおい(痛いよ…こんなに…こんなに痛いなんて…)

ブオン

あおい「くあぁああ!!」

あおい(これじゃ…ほんとに…)

ブオン

あおい「っやああああっ!」

あおい(死…んじゃう…)

鬼「ははは、何とも無様な姿ですねぇ?服は破れ裸同然、顔も腫れ可愛い顔も台無し。これでもまだふざけた事が言えますか?んん?」

あおい「…たえ…さん…助け……」

鬼「…はははははははは!!これは滑稽だ、妙さんはあなたが殺したではないですかあの浮島でね」

あおい「お願い…返事…し…て…」

鬼「いやはや無様極まりないですねぇ、涙流しながら自分が殺した女に助けを乞うとは」シュルシュル

あおい「…!ぁっ…!ぐぇ…」バタバタ

鬼「ならばそろそろ引導を渡してあげましょう、首を絞め殺すという最後をね!」

あおい(…苦しい…頭がクラクラして……刀…刀ないと力も…入らないし…二人の声も……)

鬼「絞殺は醜く死ねますよ?糞尿やあらゆる液を垂れ流して白目剥きながら死ぬ…素晴らしい死に様じゃないですか」

あおい(おじさんの…言うとおり…死んじゃうの…わたし…?そんなの…嫌だ…よ…)

あおい「…かはっ…おね…がい…たす…け…」

鬼「んん?」

あおい「わた…しが…わるかった…です…だから…たすけ…て…」

鬼「はっははは!いい!実にいい!最後の最後に命乞い!僕はそれが聞きたかったんだ!」

あおい「しにたく…ないよ…だから…」

鬼「うんうんうん、これだよこれ!妙はこれが足りなかったんだ!最後まで諦めないあの瞳が気に入らなかった!でも君はいい…無様極まりなくていい!」

あおい「おねがい…しま…す…たすけて…」

鬼「半裸で涙を流しながら命乞い、いやあいいものを見せてもらった。すっかり先ほどの怒りは消え失せてしまった!それじゃあ…」

あおい「…たすけ…」

鬼「今力を緩めた…ほんの少しだけ断末魔を上げる時間だ、安心して泣き叫びたまえ」

あおい「かはっ……た、助けてくれるんじゃ…」

鬼「いいや、君の絶対の死というものは覆らない、早く泣き叫ぶがいい。どの道君の命はもう終わる」

あおい「い…嫌…嫌だ!嫌ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!佳奈!!由美!!助けて!!由佳!!ここにいるから!誰か助けてえぇぇぇぇ!!」

鬼「あぁ、うんうんそれだようん。よしじゃあ発狂しかけた所でくびり殺して上げようね」グイッ

鬼「…死んだかな?」

あおい「ぁ…ぁぁ…ぁ…」

鬼「!?な、何故生きてる!?今僕は力を入れ首をへし折ったはずだ!?」グイッグイッ

?「ふっ…」

鬼「浮島にいるのは…誰だ!?」

五木「俺は最強の忍び五木、勝手に二番弟子を殺されては困る。」

鬼「この小娘の師だと…!?ふん、ならば貴様も餌食となるがいい!!」

五木「残念だがそれは無理だ」

鬼「怖気づいたか?だが遅…ん?何だ周りにある血は…」

五木「奥義五拾八式…神魔滅殺。貴様の核のみを破壊したそこの血溜まりはお前の核から吹き出したモノだ」

鬼「くだらん嘘を!突き殺してくれる!!……何故だ?なぜ触手が…腕が溶けていくうぅううぅう?!!」

鬼「嫌だ…まだ死にたくない!お願いだ…助けて…助けてくれぇぇ!僕がせっかく手に入れた美しい顔が!素晴らしい力が…頼む!何でもするから助けてくれぇぇぇ」ビチャビチャ


五木「貴様はそう言ってきた人間を助けた事があったか?」

鬼「そ…それは…こ、これからは助けます!僕は心を入れ替えました!だ、だから…助けて…」

五木「…時間切れだ」

鬼「か、身体が…う…うぎぇえああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


五木「…漆黒の闇に散りゆくがいい」パチン

あおい「…けほっ…けほっ……」

五木「うおい!弟子ッ!!浅はか過ぎるッ!!単身で鬼を倒そうなどとは愚の骨頂ッ!!この最強の忍び五木が間に合ったから良かったものをッ!!この未熟者ッ!小娘ッ!大和撫子ッ!!」

あおい「…」ビチャビチャ

五木「うッ…切れるのかッ!?切れるのかッ!?」

ガバッ

あおい「うわあああああぁぁぁぁん!恐かった…恐かったよぉぉぉ!」

五木「うおッ!泣くなッ!しかも裸で抱きつくなッ!」

あおい「わああぁぁぁぁん!死ぬの…ぐしっ…こわくって…ぐしゅっ…」

五木「むう…」

あおい「助けに…ひぐっ…来てくれて…うわあああああああん!」

五木「だああッ!泣くなッ!ねーんねーんころーりよー…」

街道

あおい「すー…すー…」

五木「大泣きした挙句寝るとは…忍び装束がずぶ濡れになったぞッ…」

あおい「すー…すー…」

五木「全く外套があったから良かったもののあんな全裸同然ではとても大和撫子には…」

あおい「すー…すー…」

五木「……」

五木「ふん…」

宿屋

チュンチュン

あおい「…むにゃ……!あれ…ここは…!?」

仲居「おや、起きたのかい。おじょうちゃんもう四日は寝てたからねぇ…あんな怪我していたのに顔色も良さそうじゃないか」

あおい「え…あ、あの…四日って?」

仲居「最強の忍びって言う人がね、医者と一緒にここに来てねぇ。金はいくらでも出すから個室の静かでいい部屋で療養させてやれってねぇ。」

あおい「やっぱり…あの時のは…」

仲居「で…おじょうちゃん来て二日目だったかねぇ、お友達が来てねぇ」

ドタドタドタ

由佳「あーっ!!あおいー!!」ダダダ

ガバッ

あおい「わわわ!?」

由佳「良かったぁ~!無事で!…いや無事じゃないけど無事でよかった!」

あおい「く、くるひい…」

仲居「おやおや、それじゃ失礼するよ。宿代はいただいているからゆっくりしてきいなよ」スゥ

由佳「開戸村で怪我治してからすぐ沼田村行ったらびっくりしてさ、あおいが一人で沼の鬼倒しに行ってそれきり戻ってこないだなんて聞いたからさ」

由佳「急いで沼に来たら鬼もあおいもいないと来て…とりあえず情報聞こうとここの宿場に来たら」

あおい「私が寝てた?」

由佳「うん、しかも…あおいが鬼倒したんだってね!凄いよあおい!」

あおい「え…いや私じゃ…」

由佳「またまたぁ!あおい一人で行ったなら一人で倒したに決まってるじゃない!このこの!」

あおい「いやそんなグイグイされても…」

由佳「怪我もすり傷切り傷くらいだし完勝じゃない!あたしなんてもっとボロボロにされたわけだし?」

あおい「え…両手折られて顔パンパンになってたよ…最後目見えないくらい腫れてたし…」

由佳「またまたまたぁ!そんな怪我なら一生ものじゃない、四日で治るわけないから!」

あおい「は…はい…」

五木「ふぁふぁふぁ!目覚めたかッ!」

由佳「…!」シュッ

五木「ぬおッ!?いきなり斬りかかるなッ!!」

由佳「一体何しに来た変態仮面、答えによってはぶった斬…」

あおい「まっ、待ってよ由佳!師匠に斬りかからないでよぅ!」

由佳「えっ」

五木「そうだッ!妹弟子の言うとおりだッ!ちょっと驚いたぞッ!当たりそうでッ!」



あおい「へぇえ、由佳も師匠の弟子だったんだね!だから強いんだ」

由佳「いやこいつからは何も」

五木「ふぁふぁふぁ!そうだッ!俺はあらゆる技術や知識を由佳に授けたッ!だからこそ神速抜刀術までのし上がれたのだッ!」

由佳「あんたと会ったのそう呼ばれる前からだし技術や知識どころかあたしを挑発する事しか言ってないし!」

五木「まあそう謙遜するな弟子よッ!」

由佳「うるせえ!」

あおい「や、やめてよ由佳。とにかく私をあの変態鬼から助けてくれたのは師匠なんだから」

由佳「ふーーーん…」

五木「何だ貴様その目はッ!!」

由佳「まあ…強いのは確かだからね。あおい助けてくれた事だけは礼を言うよ」

五木「ふぁふぁふぁ!当たり前よッ!最強の忍びは伊達ではないのだッ!!」ピシィ

あおい「おおおお~」パチパチパチ

由佳「何この構図…」

続きは後日

宿
五木「よしッ!ならば俺はまた旅にでるぞッ!弟子共は精進せよッ!」クルッ

あおい「あ…はい、師匠…助けてくれてありがとうございました!」

五木「うむッ!そうだ貴様に鍛錬書と道具をくれてやろう、せいぜい鍛錬に励むがよいッ!」ゴソゴソ

あおい「えっ?なになに?たんれんしょ?」

由佳「修行用の道具じゃないの?」

あおい「わーい、ありがとう師匠!何かな何かな?」

五木「…あった、これだッ!!」ザザ


あおい「でっかい旗?棒がついてるけど…」

由佳「どこから出したんだよそんなの…」

五木「最強への道其の一ッ!これを上下左右に振るべしッ!!」

あおい「う、うん……うぅぅぅううう…っ!重!重すぎるよ!」

五木「軟弱者めッ!」

あおい「私筋肉とか体力ないし無理だよぉ…」

五木「へこたれるなッ!これは力のみで振るものにあらずッ!!それが最強への道其の一ッ!!」

あおい「って言っても…」

五木「言い訳無用ッ!ではさらばッ!」

由佳「待ちな」

五木「むッ!何だ一番弟子ッ!貴様も鍛錬かッ!」

由佳「姉さんの居場所…知ってんでしょ?何処にいるか教えな」

五木「断るッ!師匠に向かってその態度は何だッ!」

由佳「…あたし、本気で聞いてんだけど?答えられない理由…それ次第じゃ…」チャキッ

あおい「わっわっ!ゆ、由佳!」

五木「一番弟子め、いきり立ちおって。ならば表に出よッ!叩き直してくれるッ!」

あおい「し、師匠!由佳もやめてよ!何があったかさっぱりだけど喧嘩はいけないよ!」

由佳「…あおい…ごめんね。じゃあ表出な、あんたが答えたくなるまで斬り続けてやるからさ」クルッ

五木「よかろう………ふぁふぁふぁふぁ!!!隙あり!さーらばーッ!!!!」シタタタタタ

由佳「あっ!二階から飛びやがった!待てコラァ!!!」ダダダダダダ


あおい「……どうしよ」


あおい「忘れ物とりに来たのはいいけど…すっごい水が綺麗になってる」

村人「お、あなた様は…」

あおい「?」

村人「鬼を退治して下さった結城あおい様ですね、この度はなんとお礼を申したら…」

あおい「あ…あぁあ!あれはあの私は倒したわけでも…」

村人「お陰でこの沼も本来の美しい姿に戻りまして…西沼田村の住民にも見せてあげたかったですな」

あおい「西沼田村?」

村人「ええ、この沼の西に位置する村で開戸山から下りてすぐの場所にあったのですが、あおい様がこの沼に乗り込む数日前に生き残りの村人達も殺されてしまい…」

あおい「…!!そ、それって…」

村人「大人が五人ばかりのもはや名も無き集落のようなものでしたが…彼らは最期まで村に残り沼の怪物達と戦っていたのです。あおい様のお陰で報われるでしょう…」

あおい「……」

村人「村長がお礼をしたいと言っておりました、是非村に立ち寄って下さい。では…」ザッザッ


あおい「………」ダダダ


あおい「…」ガサッ

十三「…ん、おやお久しぶりですなあおいさん。沼の鬼退治見事!」

あおい「ねえ、知ってたの?」

十三「ん?何がですかな」

あおい「山からおりた時に襲ってきた人達…山賊や野党なんかじゃないって!知ってたんでしょ!?」

十三「…すぐそこに炎氷牙流れ着いてますなラッキーラッキー」

あおい「聞いてる!?何で言ってくれなかったの!?知ってたら私は…私は!」

十三「…いいじゃないですかゲームなのでしょう?たまたま野党や山賊じゃなくて村人をうっかり殺してしまった…ましてや自分の命の危機でもあったわけですしね」

あおい「だからって…」

十三「割り切らなければ…あなたの心が持ちませんよ?それよりも炎氷牙をいつまでも水に浸けておいては劣化の元になりますぞ」

あおい「……」ピチャピチャ パシッ


(…識別完了、結城あおいさんおはようございます)

妙(こんにちは!あおいさんお見事でした!鬼を倒せたようですね!)

あおい「あ…うん…倒したのは私じゃないけど…」

妙(またまた!知っていますから!ちゃんと倒した証もありますよ!)

(申し訳ありません機密コードに抵触する為これ以上の権限はマスターからの開示許可により閲覧、聴取出来ます)

あおい「…??」

(使用者、結城あおいさんあなたの目覚ましい活躍により鬼を二体倒すことに成功しました。残りは一体、成功を期待しております)

あおい「…」

十三「ほう、擬似人格を起動させる程使いこなせるようになったのですな」

あおい「うん…今更だけどすっごい変な感じするんだよねコレ…私刀と喋ってるんだもん…」

十三「まあいいじゃないですか擬似人格の声は握った本人、それも使用者にしか聴こえないですし」

あおい「そういう問題!?」

十三「しかも片側は野良の擬似人格ですな、いやあこれは珍しい。」

あおい「珍しい?」

十三「多くは話せませんが擬似人格というのは非常に難しい技術や精製法を用いられております。なのでまず今の持ち主であるあおいさんでは擬似人格を追加するのは無理、無駄、無謀ですな」

あおい「そ、そんな言わなくても…」

十三「ならば何故擬似人格が追加されたのか?それは擬似人格本人の精神力が極めて強いからであり、更に使用者との性別一致や年齢も近くなければいけないなどなどかなり難しい条件でありそして………であるわけです、わかりましたか?」

あおい「うん全然わからない」



十三「むう残念。まあとにかく良い事だということでひとつ」

あおい「…うん」

由佳「あおい、何してんの?」

あおい「わひゃあぁあ!?」

由佳「うわっ!どしたの!?」

あおい「あ…ゆ、由佳かぁびっくりした…」

由佳「どうしたの一体?」

あおい「あ…刀ここに落としたから取りに来てさ。由佳は師匠追いかけた後どうしたの?」

由佳「あんの馬鹿逃げ足早くてさ!逃げられちゃったんだよねぇ。ただ最後に意味深な事を言い残したの、北へ向かえって。多分そっちに鬼がいると思うんだけど…」

由佳「北へ行くと小規模ながら戦が起りそうなんだよね今、まあ鬼倒せるくらいのあおいなら戦出てもわけないと……ってあおい?顔真っ青だけど大丈夫?」

あおい「…あ、うん…ちょっと思い出しちゃって…」

由佳「…座って。あたしでよければ話、聞くよ?」スッ

あおい「由佳…」



あおい「…」スッ

あおい「私…怖くなっちゃった…戦うのが、誰かを斬るのが…例えゲームでも、もう…」

由佳「げえむ?」

あおい「あ、ごめんそこは気にしないで。……私がおーぷん市…ここから凄く遠い所から来たって話はしたよね、それと鬼を三体倒せば戻れるかもしれないって」

由佳「うん…あの時は信じられなかったけど、あおいは不思議な所あるし何より嘘ついてるようには見えないし、ね」

あおい「後一体倒せれば……でも…もう無理なの。この間の鬼にされた事を思い出すと震えが…とまらなくって…うっく…涙も…ひっく…」

由佳「あおい…」

あおい「ひぐっ…もう嫌だ…あんな目に……死にたくないって…泣き…わめいて…」

あおい「あの時は…えぐっ…助けてくれた…けど…ひっく…次また同じ目に…あったら私…私…」

由佳「…ごめんね…あおい」ヒシッ

あおい「……由佳…?」

由佳「あたし…聞いてたんだ宿で寝ている間、ずっとあおい…うなされてた」

あおい「……ぐすっ…」

由佳「嫌だ死にたくないって、助けて『カナ』ってずっと……うなされてた」

あおい「佳奈…」

由佳「カナって人、あおいの家族?友達…なのかな。あたしにも一回そう言ったよね?確か」

あおい「ご、ごめん…似てたから…」

由佳「あたしがカナさんに?」

あおい「うん…佳奈は私の幼馴染でね、小さい頃から泣き虫だった、弱かった私をいつも助けてくれたの…昔いじめられた時も、犬に追いかけられた時も…それに私が勝手に山に遊びに行って帰ってこれなくなった時も、大人や警察の人よりも先に見つけてくれた時だって」


あおい(うぅぅ……みんなぁ…どこぉ…ひっく…)
ザザザザ
あおい(ひゃああああ!?!)

佳奈(はぁ…はぁ…ははは、あおいみーつけた!さ、帰ろ?)


あおい「傷だらけになりながら疲れたり嫌な顔一つしないで…笑って……佳奈…佳奈ぁ…ひっく…」

由佳「……あおいがどういう場所にいたかはわからない、ただこの日の本にいる以上…あたしがカナさんのようにあおいを常に守りきれる事は出来ないかもしれない、けど…」

由佳「一緒に戦う事なら出来る、盾にはなれないけどあおいの敵を倒す刀にならなれる…あたしじゃ友達、なれないかな?あおい」

あおい「由佳……でも…巻き込んじゃって…何かあったら…」

由佳「…あたしね、行方不明の姉を探しているんだ。綺麗で修道服がよく似合う、強くて美人な姉…あたしの自慢だった」

由佳「あたし、昔は泣き虫で甘えん坊だったんだ。何かあればすぐお姉ちゃんお姉ちゃん、ってね」

由佳「姉さんは教会の化物退治を請け負っていたからあたしが犬に追いかけられたり果ては熊に襲われた時も追い払ってくれたりした。でも…」

由佳「鬼を退治に行ったきり…戻って来なかったの。だから…強くなる必要があった、戦う力…鬼を倒すほどの力を身につけて行方不明の姉を見つけてみせるって、この刀に誓った」

由佳「その為には他の犠牲も厭わない、そう思って多くの剣客を斬った。
仲間だっていらない、鬼を斬るためには邪魔になるだけ…そう思ってた…」

あおい「…」

由佳「あおい、開戸山の鬼と戦った事、覚えてるよね?子供を助けようとしたあおいを鬼から守った時…痛みも今まで感じたことのない痛さだったし死も覚悟した。その時はよくわからなかった、姉も探せず致命傷を負いぼろ切れのように外に捨てられた自分に…何故そんな事したんだって」

由佳「でもすぐに納得できた…その後すぐ逃げればいいのに…あおいはあたしの敵だと鬼に立ち向かっていった。山賊にすら怯えて襲われかけていた女の子が…他人の為に鬼に戦いを挑む。そのあおいの優しさにあたしは折れた足を引きずって屋敷へ戻る力を与えられたんだよ。」

あおい「…だって…あれは私のせいで…ついていくって無理言ったのも…」


由佳「あたしがあのまま鬼と戦っていたなら…殺されていたよ、あおいが助けてくれたからこそ叢雲を出すことが出来た…今度はあたしがあおいの力になる番、カナさんにはなれない…ただあおいを助ける友達にならなれる、だから…ね?」

あおい「由佳…由佳ぁぁぁぁぁぁ!うわあぁぁぁぁん!」ガバッ

由佳(ずっと震えてた…まるで戦い慣れていなかった娘がいきなり鬼と戦わされたら無理もないよね…だからあたしがこの娘の為に戦う、カナさん…あなたの代わりに、ね)


木陰

五木「むう、一番弟子め俺の出番を失くしおって…かくなるうえはッ!!」ビュッ

由佳「!?危ない!!」ガバッ

あおい「うっく、ひっく…ってわあああ!?」ドサッ


バスッ

由佳「矢?!一体どこから…」キョロキョロ

あおい「あ…あの、由佳…この体勢…」

由佳「…あ、ご、ごめん!…あっ!な、何か矢に紙がついてる!」バッ

あおい「紙?」

由佳「……なるほど、あの馬鹿忍あたし達を戦に…」

あおい「い、いくさ?」


由佳「あおい、3日後にここを出て北に向かおう!どうやらその方向に最後の鬼がいるらしいんだけど…」

あおい「…だけど?」

由佳「戦に参陣するよ、あおい!」

あおい「いくさって…合戦ってやつ、だよね…えぇぇぇぇえ!?」

由佳「よっし残り二日で戦の作戦を立てよう!さ、あおい、宿にもどろ?」グイッ

あおい「わっ、ちょ…由佳切り替え早すぎー!」ズルズル


十三(合戦…ですか)

おーぷん高校
体育館

あおい「ふぁぁ…眠いよぉ」

佳奈「あおいまた夜更かし?」

あおい「うん、スマホで色々やってたらいつの間にか夜中の3時でさ、あんま寝てないんだよねぇ…ふぁぁ…」

佳奈「はぁ…でもよく寝坊しなかったじゃん?今日の全体朝礼、いつもより始まるの早かったのに」

あおい「あったり前だよ、だって今日は…」


生徒会「…~次は生徒会副会長、小川由美さんより1学期の学校行事についての説明です」



佳奈「なるほど、由美が前出るから、だね?」

あおい「うんうん、親友として見届けないと!」



由美「みなさんおはようございます。生徒会副会長より今後の学校行事及び生活指導についての説明を致します、まず2週間後の球技大会ですが……」



他クラス男子(なああの副会長、めちゃくちゃ可愛いよな)

他クラス男子2(頭脳明晰、親も有名メーカーの社長、おまけに美人で清楚…しかも遠い祖先はフランス人らしいし…色々恵まれてていいよな~)

他クラス男子(きっと弱点なんて無いんだろうな、なんとかお付き合いできねぇかなあ…)


佳奈「弱点…ね…」

あおい「?」

佳奈「あ、いや。何でもないよほらほら、由美がまだ話してるから注目注目


あおい「??」


教室

あおい「1限目までまだ時間あるねぇ、寝よっかな~」

佳奈「ね、寝るの?」

あおい「うん~…こうぐて~っとしてるとぽかぽか陽気で…ねむーく…」


タタタタタタタ

佳奈「あー、今寝たらまた夜更かししちゃうじゃん!起きなって!」ユサユサ

あおい「ぐぅぐぅ…」

佳奈「ちょ、寝るの早いな!ほらあお…って…!」

由美「あおい!!佳奈ぁぁぁぁ!!!」タタタタタタタ ガシッ

佳奈「わっぷ!」

あおい「ひぁ?!な、なに!?」

由美「二人共見てくれた?わたしのお知らせ!見た?見てくれちゃった!?見た見た見た見た!?」グイグイ

あおい「ぅぅぅぅ~…」ギュウウ

佳奈「ちょっ…苦しいんだけど…離せって!」グイッ

由美「もう佳奈ったらいけずなんだから♪」

佳奈「いやいけずって何歳だよ…てかあおい完全に締め入ってたから危ないし…」

あおい「けほっ、けほっ…真っ白な光が見えた…」

由美「やだあおい!誰?誰にやられたの!?そんな苦しんで!言って頂戴、わたしがぶちのめしてあげるから!!」


クラスメイト(相変わらず凄いな…うちの委員長は)

クラスメイト2(結城と桜木絡まなきゃいい人なんだけどな…)

クラスメイト3(一年の頃、二人に助けてもらったみたいでそれからああなったみたいだし…仕方ないよ)

佳奈「いやそんな目にって自分がやったんじゃん…」

あおい「あ、いいって佳奈。それより由美、凄く良かったよ!出来るオンナみたいな感じでさ、超かっこよかった!」


由美「ぁ…ぁ…ぁ…あおいぃぃぃぃ!わたしの女神!女神!!ゴッデスぅぅぅぅぅ!!!」ガシッ

あおい「く、くるし…」

佳奈「あー!だからまた締めない!!」


夕方
教室

佳奈「さて帰ろっかあおい、由美は生徒会の用事あるらしいし、行こ?」

あおい「…」

佳奈「あおい?」

あおい「あ、うん…ごめん考え事してて…」

佳奈「?どうしたのいきなり、何か悩み事?…よかったら聞かせてよ」

あおい「ううん、悩み事なんてものじゃないよ。もっと贅沢な事」

佳奈「贅沢?喫茶綱成の生チョコ特盛パフェ食べたいとか?」

あおい「ち、ちがう!……今が幸せ過ぎて怖いなって思ってさ」

佳奈「幸せ…過ぎて?」

あおい「うん。今の私凄く幸せだと思うんだ、学校楽しいし佳奈や由美…色々な友達がいてくれて毎日学校に行きたいもん」

佳奈「あおい、人気者だからね」

あおい「人気者じゃないけど、でもみんな私と遊んでくれて楽しいよ…特に佳奈と由美といる時は」

佳奈「ありがと。それより考え事って?これじゃ何も悩むことすらないじゃない」

あおい「うん……逆に毎日が楽しいから日常が壊れた時、どうすればいいのかなって……なんてね!ちょっと変な事言っちゃった!帰ろ、佳奈!」

佳奈「…」

あおい「佳奈?」

佳奈「あおい」ポン

あおい「はぅ?」

佳奈「あおいに何かあったらあたしが必ず守るから、絶対に…!」

あおい「あ…うん…ありがと、佳奈…」

佳奈「さーて、長く話しちゃったから遅くなっちゃったね!かえろっ!」

あおい「うん!」

宿
チュンチュンチュン

あおい「むにゃ…かなぁ………ん?」

由佳「すぴーすぴー…」

あおい「!?佳奈!…じゃない由佳…」

由佳「すぴーすぴー…」

あおい「…似てるなあすぴーすぴーみたいな寝息とか…雰囲気とかも」

由佳「すぴーすぴー…」

あおい「まさか佳奈が変装してるのかな…ほっぺたとか…」サワ

由佳「…!!!」ババッ

あおい「わわわ!?」

ガッ チャキッ シュパッ

由佳「誰…?!………ってあおいじゃん」

あおい「わわわわわ……」

由佳「あ、あぁごめんごめん。寝ている時に触られたり殺気にあてられたりすると勝手に刀抜いちゃうからさ」

あおい「あわわわわ…」

由佳「そ、そんな怯えなくても…」

宿周辺

あおい「あれは夢…だったのか…よいしょ」ズイッ

佳奈「え、あの変態仮面からもらったでかい旗、今どこから出したの?」

あおい「え?通学用バッグから」

佳奈「え、いやその袋から馬鹿でかい旗入るわけ…」

あおい「え?入ったよ?」

佳奈「……もういい」


あおい「さて師匠に言われた通り…よっ!…旗を…んっ…振り……わあぁ!」ドシン

佳奈「だ、大丈夫?というかあんな馬鹿仮面の言うこと聞くこと無いんじゃない?」

あおい「ううん、きっとこれは何か必殺技の鍛錬に違いないよ!…だから…んぁ…やって……わぁああ!」ドシン

佳奈「…」

宿

あおい「戦国時代のご飯も案外美味しいよね、ヘルシーだしなんか痩せそう」

佳奈「へるしい?」

あおい「健康に良いってこと!ささ、作戦会議しよ!」

佳奈「あの、さ…あおい。出会ってから色々不思議な事知ってたり妙な服や持ち物持ってるけど……」

あおい「う、うん」

佳奈「昨日沼で話してた時からずっと気になってた事があるんだけど……」

あおい「う、うん」

佳奈「あおいの二刀…赤い方が…ずっと動いてるんだけど…かたかたかたかたって……」

あおい「う、うん…」

佳奈「あれって何か意味とかあったりするの?こう…侵入者防ぐ妖術みたいな」

あおい「う、うん…わかんない…」

佳奈「わかんないのか…」

あおい「う、うん」

佳奈「ちょっとあたし用事あるから、出かけていいかな、ちょっと、ちょっとだから!」スッ

あおい「え?どこ行くの?」

佳奈「あはは…まあちょっと…すぐ戻るから!」サササ


あおい「行っちゃった……」サッ

あおい「赤いのは妙さん…でしたよね?何でカタカタするの!?佳奈ちょっと怖がってたよ!?」

妙(あおいさん!私を使いあの女…由佳を斬り捨てて下さい!!)

あおい「え!?な、何言ってんのいきなり!?」

妙(あの女は…あの女は私の先生、師匠の仇なのです。沼田村まで流れたのも奴を追って来たからで…)

あおい「だっ、ダメだよダメダメ!由佳を斬るなんてできるわけないよ!!」

妙(安心して下さい、その際には私の滝田一刀流のすべてを出し尽くしますからあおいさんに必勝と言うなの結果を提供出来るはずです)

あおい「そういう問題じゃない!!もう!次そんな事言ったら怒るよ!?」

妙(…………申し訳ありませんでした……)

あおい「もう…」


バタン

由佳「戻ったよ!」

あおい「あ、おかえりって…なにその数珠とか御札…」

由佳「おっ!早速刀の震えが消えてる!除霊道具の効果てきめんね!!」グッ


あおい「は、はい…」

宿
由佳「あたし達はこれから北へ向う。ここから4日程街道伝いに歩くと越後へ出られる国境があるんだけど…問題は今起きている国境周辺の豪族同士の戦をやり過ごさなければいけない」

由佳「…ただ今は睨み合いでなかなか始まらない状態でね、無理に横切ろうとすれば…いらぬ疑いをかけられてしまう。」

あおい「じゃあ…」

由佳「適度に戦に参戦してその隙に抜け出すのがいいと思う。安心して、あたしと一緒に合戦出れば迷うことは無いはずだから」

あおい「うん…信じてる」


由佳「争っているのは同族だね『南里家』という地方豪族だけれど世継ぎや家臣の対立によって一触即発…さらに長年南里家を支えた国人衆『北海衆』が板挟みになっていて、どちらに味方するのか悩んでいるみたい」

あおい「こくじんしゅう?」

由佳「まあ豪族みたいなものだけど…この北海衆の場合は少し規模が小さく人数も少ないから…国というより集落や村規模の兵士だね」

あおい「なるほど…」

由佳「ただ北海衆は少数だけれど貴重な大筒を扱えるの。多分だけど彼らがついた方の南里家が勝利をおさめてしまうくらい戦力としては強大」

由佳「まあここは捨て置こう、あたし達はあくまで国境を越えること。どちらかの勝ちだとかは考えなくていい」

あおい「うん…それで、私達はどっちに行くの?」
由佳「そうだね…こちらの南里家長兄『一也』率いる二代目南里家に付こうと思う。相対する次男「二月(ふたつき)」率いる元祖南里家は家臣がほぼ山賊…あまりいい話は聞かないからね」


あおい「…わかった」

由佳「二代目南里家に味方する際の合言葉は『我ら南里家の為に』うん、簡単だね。あたしは1日早く出るからあおいはその翌日に北に向かってくれるかな?」

あおい「え?一緒には行かないの?」

由佳「あたしが先に行って根回ししようと思ってね、すぐ国境超えれるようにと二代目南里家にあおいがすんなり入れるように、ね。あおいちょっと変わった格好しているから…」


あおい「ふ、普通の制服なのに…」

由佳「と、いうわけで明日あたし出発、明後日あおい出発って作戦でいいかな?」

あおい「うん、頑張るよ!由佳も気をつけて!」

由佳「ありがと、あおいも十分気をつけてね」

続きは後日

5日後

街道

あおい「ふう、まだかなあ…」

十三「後20キロ弱ですから半日も歩けば着きますな」

あおい「えぇぇ~!?もう3日は歩いてるのに…」

十三「そりゃあおいさんが野宿嫌がって夕方になったらすぐ宿屋に寄るからですよ」

あおい「だって汚いし…夜怖いし…」

十三「まあいいじゃないですか、あなたは今疲れ知らずの不老不死な身体なのですから、筋肉痛等は一切無いはずですよ?」

あおい「そうだけどさぁ…ぶっちゃけ飽きるというかさ、ゲームなんかの移動時間って退屈じゃん?話し相手もよくわかんないおじさんだし」

十三「……」

あおい「あ、そうだこういう時に擬似さんに話しかければいいんだ!おーい、擬似さんいるー?」


(あおいさん、私の名前はギジサンではありません。)

あおい「まあまあいいじゃんいいじゃん!それよりさ暇だから話付き合ってよ」

(話を付き合う…?私の機能にはそのような回路は組まれておりません)

あおい「今話してるし大丈夫だって!擬似さんって何か好きな事とかあるの?趣味とかさ」

(ありません)

あおい「う…じゃ、じゃあ得意な事とかは?」

(ありません)

あおい「うぅ…好きな食べ物!」

(ありません)

あおい「うわああん!妙さん助けて!」

妙(…)

あおい「あれ?妙さん?」

(先日暴走して以来擬似人格妙は沈黙しております、恐らく呼びかけには反応しないと思われます)


あおい「うぅ……で、でも負けない!由佳が待ってるし…こんくらいじゃめげないっ!頑張れあおい!」ブンブン

?「なにを道のど真ん中で刀振り回しているのだッ!貴様ッ!」


あおい「わっひゃああああ!?…し、師匠、どうしてここに…?」

五木「驚き過ぎだろう…まあいい、2番弟子ッ!貴様に重要な話だッ!」

あおい「は、はい…」

五木「貴様は元祖南里家につけ、以上だッ!」

あおい「は、はい…ってえええ!?な…何でですか?いくら師匠でもそれは嫌ですよ!」

五木「貴様ッ!はむかうかッ!!」

あおい「はむかいますよ!だってそんな事したら由佳と離れ離れになっちゃうし、それにあっちは山賊みたいなもんだって由佳が…」

五木「馬鹿者ッ!!馬鹿者ッ!!」

あおい「に、2回言わなくても…」

五木「馬鹿者ッ!!馬鹿者ッ!!」

あおい「よ、4回言った!いくら師匠でも怒りますよ!?」

五木「もういいッ!貴様はその山賊共に斬り裂かれるのがお似合いだッ!野犬の餌になるがいいッ!!」ササッ

あおい「うぅ…し、師匠のばかぁー!!!」

十三「ううむ、やはりわからん…いやまさかな…いやいややはり…」

あおい「?どしたのおじさん」

十三「ああいや何でも…それより先を急ぎましょう、行くのでしょう二代目南里家へ」

あおい「あ、うん…そだね、先を急がないと由佳が待ちくたびれちゃうしね。よーし、れっつごー!」

十三(あの男…もしかすると…)

山道

あおい「うぅ、そろそろ太陽が…」

(日没予定時刻まで後36分)

あおい「急かさないでよ!擬似さん!」

(周辺の木陰から複数の動物が検知されました。夜行性の為現在は活発的ではありませんが日没と共に獲物を狩る習性だと思われます)

あおい「ちょ、ちょっと…何で今そんなこわい話を…」

(白骨化した人骨も散乱している事から人間を襲い食料とするタイプです、またこの様な動物は柔らかく弾力性に富む10代のじょ…)

あおい「あー!あー!きこえなーい!きこえなーい!なにもきこえないよー!しらないしらなーい!」

ガサッ


あおい「!!!!!!!!…聞いた?」

十三「まあ、物音ですな」

(あおいさん、獣はまず脚に攻撃を加えてきます剥き出しになっている太腿は彼らにはソーセージがぶら下がっているようにしか見えないでしょうから)

あおい「まだ言ってるよ……うぅ、でもどうしよう、逃げようかなそれとも…」

ガサササッ

あおい「!!!!」

男「うぃぃ、やっと出れたぜぇ。お、いたいた…貴殿が結城あおい殿か?」

あおい「え?え?」


男「もしそうなら、合言葉をお願いしますぜ」


あおい(見るからに山賊ぽいんだけど…でも私を知ってるんなら由佳から聞いたんだよね…)

あおい「あ、はい…我ら南里家の為に…ですよね?」

男「へっへ…どうぞこちらへ、獣と出会わない裏道をご案内いたしやす」

あおい「は…はい…」

十三「…」



男「さあここが俺達の根城です」

あおい「え、ここが…?どう見ても城ってより…」

十三「廃墟ですな」

あおい「あ、あの…こっちの南里家って…もしかして…」


男「へい。ようこそ結城あおい殿、元祖南里家へ!!」

あおい「あ、よかった……いやいやいや!間違ってるよ!私間違ってる!
!あのあの、私入る場所間違ったというか…帰りたいのですが…」

男「うん?帰ると申すのですか?」

あおい「えーとあの…由…」

十三「お待ちなさい」

あおい「ひっ!…は、はい?」

男「?」

十三「あおいさんあなた友達が敵側にいるから抜けますなんて言ったら殺されてしまいますよ?あなた」

あおい「う…た、確かに山賊の人達…たくさん寄ってきちゃった…」

山賊「おっ!このかわいこちゃんが新顔か!?」

山賊B「すっげぇ格好してんなおい」

山賊C「顔は純真そうなのによ、わかんねえもんだな!わはは!」


あおい「あ、はは…ど、ども…」


男「帰ると言っても…ここの山道は凶暴な獣が住んでおりますぜ?」

山賊「姉ちゃんのその格好じゃすぐひん剥かれちまうなぁ」

山賊B「そうそう、真っ裸ならまだしも骨まで剥かれっからなあいつら」

山賊C「いくら俺らも可愛らしい女が噛み殺される音を聴くのは趣味じゃねえ、まあ仲良くやろうや」

あおい「え…あ…うぅ…は…はい……」

?「皆、どうしたんだい?」

男「殿!」

あおい「え、殿…?…!!!?!」

殿「おや、そちらのお嬢さんは?迷子にでもなったのかな?」

あおい「な…な…なんで…生きて……」

男「いえ、当家に客将として迎え入れたんですぜ、なんでも鬼を倒すほどの実力者で…」

あおい「何で鬼がここにいるの!?!それも殿って!!」

男「ぬおっ!?」

山賊「な、なんだなんだぁ?」

殿「??僕に対して怒っているようだけれど…何か気に触ったのかな?だとしたらすまない」

あおい「怒る?怒るに決まってるよ!こっちはころされかけたんだからね!この変態鬼!」

殿「へ、変態鬼って…」

山賊C「殿って変態なのか?」

山賊B「さぁ…全くそうは見えねえがなあ…あのお人好しの人がよ」


殿「鬼…あぁ鬼か。思い出した、ええと君の名前は?僕は南里家の次男二月だ。」

あおい「……あおい…」

二月「あおいさんか、いい名前だ。君はもしかして植物を操る鬼と戦い、倒してくれたのかな?」

あおい「そうだけど…」


二月「なるほど、ね。立ち話もなんだしご飯でもいかがかな?この時間じゃお腹も空いたろうしね」

あおい「そ、そんなのいらな…」グゥゥ

あおい「うぅ…」

二月「ははは、遠慮する事はないよ。戸塚、用意を頼む」

戸塚「承知致しました。おいおめえらも散った散った!持ち場に戻れ!」

山賊A「へーい」

山賊B「へへ、じゃあな姉ちゃん、また明日な!」

山賊C「賭博賭博っと…」




二月邸
大広間

二月「?食べないのかい?お腹…空いてるだろう?」

あおい「…毒とか…ないよね…?」

二月「まだ鬼だと疑っているのかい?全く奴はしょうもないヤツだな…」

二月「今から一年前…山の麓に鬼が出没し僕は兄と討伐に向かった」


二月「全身が焼け爛れ顔も崩れた鬼だったんだ、奴は植物のような触手で人間の体液を吸いあたりは干からびた皮だらけだった…悲惨な光景だったよ」

あおい「…」

二月「鬼だけあってかなりの強さだったけれど兄との連携攻撃で何とか鬼を瀕死に追い込んだ」

二月「兄がとどめを刺そうとしたその時…鬼は泣きながら訴えた『人間の、普通の人間の顔さえあれば自分も静かに、穏やかに暮らせるのに』とね」

二月「兄は構わず刀を振り下ろそうとしたが僕は止めた。そして人間の顔を与えたんだ僕の血を使ってね」

あおい「な…何で…何でそんなことを?」

二月「兄さんは僕が甘いと言ったけれど……結果として君を傷つけたのなら…申し訳なかった」

二月「でも僕は賭けてみたかったんだ、もし鬼と人間が和解できるならばどんなに素晴らしい事か、わずかな希望を信じていたんだ」

あおい「…じゃあ…変態鬼とは別人なの?」

二月「ああ、あの鬼は僕の血の一部を使い手に入れた僕の見た目で凶行を働いてたみたいだ。…やはり人と鬼はわかりあえないのか…」

あおい「じゃあ…いっこ聞きたいんたまけど…」

二月「うん?」

あおい「確かに二月…さんは顔は変態鬼だけど何となく感じが違うし、今の話も信じられる気がする…でも…だからわかんないの」

二月「わからない?」

あおい「うん、そんなに優しい人ならどうして家族同士で争うの?…それに周りの人達は山賊だし…」

二月「そうだね、それはまた近いうちに話そう。それより早く食べた方がいい、冷めてしまうよ?」

あおい「……いただきます…」

翌朝

砦外

山賊A 「うーいぃ、いい朝だぜーっと!…ん?」

あおい「ええと…どこかな…」キョロキョロ

山賊A「おっす!!」

あおい「わひゃあぁああぁあ!?!」

山賊A「んな驚くなよ…」

あおい「だっ…だっていきなり後ろに…」

山賊A「ホントに鬼倒したんかねぇ、この嬢ちゃん」

あおい「うぅ…あれは師匠が…」

山賊A「??まぁいっか、それで何か探してたよな?」

あおい「あ、いや…その…」

山賊A「んん??」

あおい「えぇと…い、いいです、はい…」

山賊A「言えやコラ!!」

あおい「ひっ!ぅ…ええと…顔とか洗ったり…歯磨いたりする場所探してて…その、昨日のお風呂には何も水ある場所なかったから…」

山賊A「あぁ、そんな事か。んならついてきな」グイッ

あおい「わっ!ど、どこ行くの!?」

水源地

あおい「うわぁ…すっごい綺麗…」

山賊A「そりゃこっから湧き出てるからなぁ、綺麗そのものだぜ?」

あおい「冷たくて気持ち良さそう…」

山賊A「水浴びでもするかい?何なら終わるまで辺りを見回ってやるぜ」

あおい「え…い、いやそんな悪いし…」

山賊A「遠慮すんなよ、年頃の娘なら身体綺麗にしてえだろうしな」

あおい「あ…えっと…周り丸見えだから恥ずかしくって…」

山賊A「あー大丈夫大丈夫、俺ガキに興味ねえから覗かねえしよ。ただ獣やうちの奴らにゃ嬢ちゃんにも盛っちまう奴もいるだろうから、そいつらからは俺が守っといてやんよ」

あおい「うぅ…ガキって……」

山賊A「その着物物凄え格好なのにいまいちそそらねえというか…いや可愛いとは思うけどよ…あー!もういい!早く入れって!俺は見回るから、終わったら呼んでくれ!」ガサカサ

砦外

あおい(気持ちよかったぁ、ちょっと恥ずかしかったけどホントに誰もいなかったし…後でエーさんにもありがとって言わなきゃ)


山賊B「よう、姉ちゃん相変わらずそそる格好してんなぁオイ」

あおい「そ、そそる?」

山賊C「あぁこの女好きはほっといてよ、へへ…稽古お願いしたいんだがよ?」

あおい「稽古って…何かの練習って事…?」

山賊B「おうよ、この稽古用の木で作った武器で打ち合うのさ!」

山賊C「姉ちゃんこう見えても鬼って化物倒したみたいだしよ?胸貸してもらおうと思ってよう」

あおい「うぅ…貸すほど胸…ないよ私…」

山賊C「なんか勘違いしてねぇか…?」

山賊B「俺は無くても気にしねえぜ?そそる女なら…よ…じゅるり」

あおい「ひっ…」

山賊C「あーもううるせえ!どうよ?やるかい、姉ちゃんよう」

あおい「うーん…水浴びしたばっかりだしなぁ…」

山賊C「そういや髪の毛湿ってんな、まぁ汗かいたり汚れたりするし…またにすっか」

山賊B「いや待て!稽古をすべきだ!女、この中からお前の木製の持ち武器を持て!稽古すっぞ」ドサッ

あおい「え…あ…う、うん…」

山賊C(何やる気出してんだお前は?)

山賊B(見ろよあの変態な着物をよ、上に着てる白いやつなんて水で透けてやがるし…丸出しの太腿も水滴で光ってやがる…それがこう汚れたら…ぐっへへ…)

山賊C「駄目だこいつ…」

あおい「??」

山賊C「いや、何でもねぇよ。勝負は一本有効打を取った方が勝ち、急所の攻撃は無しだ。姉ちゃん、準備はいいか?」

あおい「うん…木の双剣、これ使うね」スッスッ

山賊B「ハァ…ハァ…何だ今の仕草…」

あおい「えっ?た、ただ木の剣のぞき込んだだけだよ?」

山賊B「か、可愛い…やべえ…可愛い…ハァハァ…」

山賊C「……一本勝負、はじめ…」

あおい「…何か寒気がするから、一瞬で決めるよっ!てやああ!」ザザッ

山賊B「ハァハァ…はっ!し、しまった出遅れちま…こうなりゃヤケだ!」ブオン

ゴツン!

山賊A「全く…水浴び終わったら言えっての…ブツブツ…」

「うわああああああん!」

山賊A「!?何だ?砦から聴こえたぞ!?」ダダダダ

砦外

山賊A「おい!どうした!?」ダダダ

あおい「痛いよぉ…きゅーしょに当てないって言ったのにぃ…」

山賊B「い、いやだってよ…まさか当たるなんて…」

山賊C「あーあー、ガキ泣かせやがって大人気ねえなあ」

山賊A「…何やってんだ?」

山賊C「いやあよ、コイツが姉ちゃん泣かしちまってよ」

山賊B「馬鹿!おめぇが言い出したんだろうが!あの姉ちゃん本当に鬼倒せたか試してみてえよなあってよ!」

あおい「ぐすっ…たんこぶできてる…」

山賊A「うるせえ!下らねえ言い争いしてんなら戸塚さんのとこ行って薬草もらってこい!!」

山賊C「お、おう。ほら行くぞ!」

山賊B「…泣き顔も悪くねぇな…ブツブツ…」

居間

山賊A「これでよし、と。どうだ?少しは楽になったか?」

あおい「う、うん…ありがとう…」

山賊A「わりぃな、アイツうちの中でも五本の指に入るくらい強えからよ、加減が効かなかったみてえでな」

あおい「ううん…気にしてないよ…」

山賊A「もうすぐ朝飯だから少し休んだら大広間に来な、まあゆっくりしててくれや」

パタン


あおい「…ねえおじさん、私弱くなってない?」

十三「あなたアホですか?別にこれまでの戦いであおいさん自身が強くなったわけではないのですよ?」

あおい「あ、あほって…ひどっ!」

十三「アホじゃないですか、模擬戦だからいいようなものを調子のって実践でも似たような事されたらあなたその場で討死ですからね」

あおい「うぅ…ほんとの戦いならそんな事しないもん!」

十三「本当ですか?アホなあなたの事ですから格好つけてハンデをつけてあげるわよ、来なさいとか言いそうじゃないですかアホだから」

あおい「あほあほ言うなー!!!」


山賊A「…?あいつ誰と喋ってんだ?」

戸塚「どうだ?彼女は」

山賊A「あぁ、戸塚さん。俺のダチと模擬ったらしいですけどね、どうやら完敗だったようで」

戸塚「ふむ……『あのお方』から結城あおいは鬼を倒す程の剣客だと聞いたのだがな…」

山賊A「あのお方?」

戸塚「あぁ…まあそれはいい。そろそろ戦も近い、それまであおい殿の面倒を見てさしあげろ」

山賊A「はい、まあ他の連中ともそれなりにやってるみたいですし…ぼちぼち面倒見てやりますよ」

戸塚「頼むぞ」



大広間

あおい「いただきまーす」カチャカチャ

山賊B「…」コソコソ

あおい「わっ!」

山賊B「へっへ、さっきはすまなかったな…ほれ、お詫びの印だ」ポン

あおい「?饅頭?」

山賊B「ただの饅頭じゃねえ、とっておきの特製饅頭さ。滅茶苦茶うめえぞ?特に中の餡子がとろけてよう…」

あおい「わあ、私あんこ大好き!ありがと、ビーさん!」

山賊B「へっへ…こちらこそすまねえな…それじゃな」コソコソ


山賊C「よう、姉ちゃんは機嫌治ったか?」

山賊B「なあ……」

山賊C「あ?何だよ真面目な顔しやがって」

山賊B「守りたい笑顔って……あるんだな」

山賊C「はあ??」


砦裏庭

あおい「よーし朝ごはん食べたし…師匠の修行、やらなきゃねっ!」ゴゾゴソ

あおい「よい……しょっ…と…うわ…やっ…重……わああ!」ドテン

あおい「いたたた…」

二月「何をしているんだい?」

あおい「わひゃあああ?!」

二月「いやまたそんな驚かなくても…」

あおい「あっ…二月、さん…」

二月「ははは、僕にさんだなんてつけなくてもいいよ君は客人だからね」

あおい「う…でも…」

二月「見たところ僕らは大して歳は変わらないみたいだし二月とでも読んでくれて構わないよ」

あおい「でっ、でも殿って呼ばれてるんだし呼び捨てにするのは気が引けるかなって…」

二月「ははは、そんなに堅苦しいの好きじゃないんだ。それじゃ僕もあおいって呼ばせてもらってもいいかな?それでおあいこだ」

あおい「えっ…?」ドキッ

二月「ん?ダメかい?」

あおい「あっ……ううん、あの…同い年の男の子から名前で呼ばれたこと…なかったから…しかも呼び捨てで…」

二月「迷惑かい?」

あおい「う…ううん!」ブンブン

あおい「ちょっと恥ずかしいかもだけど、改めてよろしくね二月……くん」

二月「はは、よろしくあおい。ところで今時間あるかい?よければ一緒に散策に行きたいなと思ってね」

あおい「ぁ…うん、大丈夫…いけるよ」

二月「よしなら善は急げだ、行こう」スッ

あおい「……うん」ギュッ

山道

二月「足元気をつけて、怪我しないようにね」

あおい「は、はひ…」

あおい(な、何だろうこれ…この人見るとすごくドキドキする…)

二月「おや、いちじくだね。」モギッ

二月「ほら、君も食べるかい?美味しいよいちじく」サッ

あおい「は、はひ…」モシャモシャ

二月「い、いや…皮ごと食べるものじゃないけどそれ…」

あおい「は、はひ…」モシャモシャ

あおい(もしかして…もしかして…これ…)

高台

二月「さあ着いたよ、みてごらんここから南里家の領地が見渡せるんだ」

あおい(これって…これって…)

二月「話を…聞いてくれるかい?僕と兄がどうして袂を分かったのかを…」

あおい(恋……ってヤツ?…まさかそんな…)

二月「僕の父、源一郎は良き領主でね…僕ら兄弟の誇りであり目標だった。だが…父は潔癖だったんだ、どんな小さな罪でも犯したものは重い罰を課したんだ」

二月「表向きな犯罪は減ったが…同時に反発も起こった。この山に大規模な賊を生み出してしまった、君も知っている…戸塚率いる山賊だ」

二月「しかし彼らは義賊だった、父の名を笠に着て罪のない領民を虐げていた役人のみを襲っていた」


二月「僕と兄は父に進言した、義賊である彼らと一度話し合う場を設けるべきだと。…その時もう…僕が尊敬していた父の姿は無かった…」

二月「父はすぐさま討伐の兵をおこした、山に巣食う賊軍を滅ぼせとね…」

あおい(…)チラッ

あおい「ぅ…」

あおい(だ、ダメ…見るとやっぱダメ……)


二月「父は武芸に長けていた事もあり先陣をきって兵を率いた……それが仇となったんだ、何者かが放った矢に貫かれ…父は討死したんだ…」

あおい(ど、どうしよう…なんで私…ゲームのキャラなんかに…ウソでしょ……)

二月「僕と兄は嘆き悲しんだ。だが現実は非常だ、父の死と共に領民の意見は真っ二つに割れてしまった…山側の義賊に味方する領民、平野の南里家を支持する領民とね…」

二月「兄は平野の領民をまとめ上げ二代目南里家を名乗った…」

二月「そして僕は戸塚達と接触し…元祖南里家として担ぎ上げられた…」

あおい(はっ!?ま、待って!待って待って待って!!まずい…これ私……)

あおい(ビッ…チになってない!?!)

回想
放課後
おーぷん高教室

あおい「由美ー、この間かりた恋愛小説すっごくよかったぁ!この主人公ルナの甘くせつないけど、健気な恋愛にキュンってきちゃってさ!」

由美「…読んだのね?コレ」パシッ

あおい「…?うん、読んだよ?どうしたのこわい顔しちゃって…」

由美「こんなモノはね…」ポイッ ゴンッ

あおい「え…?ゴミ箱…に…」

由美「ゴミよ」

あおい「な、何で捨てちゃうの!?ひどいよ由美!」ユサユサ

由美「うるさいっ!!!!」

あおい「ひぃっ!」

由美「いい?この主人公セナ…この女はね…とんでもないビッチなのよっ!!!!」ビシッ

あおい「びっ……ち………?!」

あおい(何その凄くえっちで不名誉な気がする言葉…なに、何なの…びっちって…)

由美「例えば好きな男タツヤに惚れたルナは友達から貰ったクッキーすら喉を通らず苦しんだ、はいコレビッチ!!」

あおい「ひっ!」

由美「なぁーにが好きな男が出来て友達のクッキー食べれないよぉだボケが!!親友の女友達のクッキーだろうが!クソッ!クソッ!」ガンッガンッ

あおい「ろ、ロッカー蹴っちゃダメだよ…」


由美「はい次ぃ!!ルナは友達の誘いを断り塾から抜け出したタツヤと遊園地に!!はいコレビッチ!もうビッチビッチよこれは!!」

あおい「び…びっちびっち…!?」

由美「何女友達の誘いを断ってんだよ!?男がそんなに大事か?そんなに好きか!?ああ!?大体な男なんてクズしかいないんだよ!だからルナはビッチです!ビッチ確定!ビッチ決定!!!」

あおい「びっち……ダメなんだ」

由美「ダメよ!!あおい!あなたはビッチになっちゃダメ!!女よ、女の友情を大切になさい!!!」

あおい「う、うん!ごめん由美…私間違ってたんだ…恋なんていらないんだね?」

由美「半分正解、よ…あおい…」スウ

あおい「わっ…由美…近い……」

由美「恋はいいのよ……女…同士は……むがっ!!」ガシッ

佳奈「はーいストップストップ。えーとあおい無事?」

あおい「え?佳奈…?うん…何もないけど…」

佳奈「そう、ならよかった」

由美「むがががががが…」ジタバタ


佳奈「ええと、あたし由美とちょーっとお話するから先帰っていいよ!」グイグイ

あおい「え?」

佳奈「まあまあ、よく言って聞かせとくからさ!それじゃね!」ズルズル

由美「むががががががかー!」ズルズル


あおい「なんだかよくわかんないけど……私、ビッチにならないよ!由美!!」

高台

二月「…だが戸塚をはじめ彼らは本当は心根の優しい人なんだ…だからこそ迷っている、僕は一体何のために戦えば……って…何…してるんだい…?」

あおい「友情…友情…友情…友情…」ガンッガンッガンッガンッガンッガンッ

二月「そ…そんな木に頭ぶつけたら怪我を…」ガシッ

あおい「うっわあああああああ!!!ビッチに!ビッチになるううううううう!助けて佳奈ぁあああああああ!!!」ジタバタジタバタ

二月「う、うわっ!凄い力だ…ぐわっ!」グラッ

あおい「はえ?」グラッ


ドサッ

二月邸
居間

あおい「ぅ…ん…」

山賊A「お、目が覚めたかい嬢ちゃん」

あおい「あれ…ここ…は?」

山賊A「お前さんの寝泊まりしてる部屋じゃねえか…大丈夫かよ頭そんなぶつけてよ?」

あおい「頭?…いった…何これ…?」

山賊A「何これって…お前本当に大丈夫か??なんでも殿と散策出たらいきなり木に頭ぶつけたらしいじゃねえか」

あおい「木に頭…?」

山賊A「ああ、何かに取り憑かれたかと思ったぜ、その話を聞いた時にゃよ」

ズサ

二月「やああおい、怪我は平気かい?心配したよいきなり頭ぶつけはじ…」


あおい「友情…友情…友情…友情…」ガンッガンッガンッガンッ

山賊A「やってる!!しかも柱かよ!おい嬢ちゃん、やめねえか!」グイッ

あおい「はーなーしーてー!邪念を!邪念を払うのよ!!」ジタバタ

二月「まて、待つんだあおい!どうしたんだ!?何か気に入らない事でもあったのか?」グイッ

あおい「あ……近………」フラッ


ドサッ


山賊A「殿……何したんですかい…今…」

二月「い、いやただ彼女の両肩を掴んだだけだが……」

二月邸
居間 夜

あおい(まずいよ…こんな事している間に由佳を待たせちゃってる…私がすぐあっちに入れるようにって言ってくれたからもうふ、ふたつ…)

あおい「あー!名前すら考えらんない!!」


砦外

山賊B「うおっ!」ビクッ


居間

あおい(……こうなったら…こうなったら…あれしかない…………)


あおい「南里二月を……暗殺する…!!」

あおい「ハァ…ハァ…」コソコソ

あおい(もう…この気持ちが消えないなら…こ、殺すしか…ない…!!)

あおい「ハァ…ハァ…ハァ…」コソコソ


山賊B「待ちな」

あおい「!!!!!~~~~~!!!」ドテン ゴロゴロゴロ ガツン!

あおい「っっっっっっっっ!!!」ゴロゴロゴロ

山賊B「へっ、落ち着きな(俺の)あおい!お前が何をしにいくかはわかってるぜ?」ニヤリ

あおい「えっ…な、何でわかったの…!?」

山賊B「いくつもりだったんだろ…(俺の)部屋によう」

あおい「!!!ど、どうして(二月の)部屋に行くって…」

山賊B「ふっ、おめぇの考える事はお見通しよ……す、好き…なんだろ…?(俺の事が)」

あおい「………」コクリ


山賊B(う…うおおおおおおおおおお本当だ!本当じゃねえか!!俺は今!妻を!若くて可愛い色気あふれる着物を纏う女を!!妻として!!!)

山賊B「よしよしよしよしよし…じゃあ早速よ…夫婦の契を……って…何泣いてんだ?」

あおい「ぐすっ…最低だよ…私…由佳になんていえば…ひっく…こんなんじゃ…びっちに…びっち確定だよぉ…ぐすっ」

山賊B(か、考えろ俺、頭悪いなりに考えろ俺!なぜかわからんが涙を流している俺の妻!この状況でいきなり契を~なんて言うのは不味い、流石の俺でもそれはわかる)

山賊B(だから…俺は…!)

山賊B「あおい」ポン

あおい「ひっく……え…?」

山賊B「俺に出来ることなら何でもする、言ってみな…もちろん他言もしねえ」

山賊B(何故ならお前は俺の妻だからなとは言う勇気は無かった…だが…)

あおい「…ほんとに…?ほんとに聞いてくれるの…!?」

山賊B(うっひょその濡れた目で見られたら我慢出来なくなるが…我慢だ…溜めに溜めた方が…後で気持ちいいはずだ、俺も…あおいも…)

山賊B「おう、何でも言ってみな!力になるぜ」

あおい「……私を向こうの南里家に行かせて」

山賊B「え」

あおい「私の友達が…こっちで出来た唯一の親友が…あっちにいるの。最初から2人で二代目?南里家にいくって…約束したのに…こっちの人も…いい人ばっかりだから…わけわかんなくなっちゃって……うぅぅ…」


山賊B(…アレ?ナニイッテンダコノコ…オレノヨメカクテイシタンジャナイノ……)

あおい「でも…ぐすっ…友達を裏切りたくない…だから私…ここから出ていく事にしたの、本当はふた…ふたつ……あぁもう!とにかく出ていくつもりで…」

山賊B「…」

あおい「戦になっても私は参加しないからこっちの人を傷付けたりしない、だから…ビーさん協力して欲しいの!!」ガシッ

山賊B(ん…まてまて、これは好機か?俺もいっそ向こうに行…いやさすがにできねえ、戸塚の兄貴や仲間を裏切るのはできねえ!だが…今のあおいの目)

あおい「…」ジッ

山賊B(本気だ…さっきまでぐずったり今までみたいにガキくさい顔しかしなかった小娘の顔じゃねえ…仮に妻確定したわけじゃなくてもよ…味方してやりたくなるじゃねぇかよ!!)

山賊B「あおい、俺にまかせな!」グッ

あおい「!ビーさん

山賊B「だが知っていると思うが夜の山道は獣だらけだ、それに…警備も堅いしあっちも警戒しているはずだ。山道から降りてきたあおいを歓迎するとは思えねえ」

あおい「…」

山賊B「だからよ、俺が矢文で伝えといてやる!あおいは無事だと!そちらに送るってよ!もし向こうにあおいの友達がいるなら反応あるはずだからな」

あおい「うん…ありがとう…ほんとにありがとう…」

山賊B「へっ、泣くな泣くなお前は俺の……(嫁)…だからな!!」

あおい「えっ…?」

山賊B「あぁあ!いいからいいから!ようし早速手紙を書いて夜が明けたら矢文を放つからよ!じゃな!ゆっくり寝とけよ!後俺の名前は佐吉な!」


あおい「……ありがと、ビーさん…」

小屋

山賊B(しまった…俺…字なんて書けねえ…)

山賊B「お、おい」

山賊C「んあ?何だよ」

山賊B「おめえ、字書けるよな?」

山賊C「ああ、まあな…俺元々文官だったしよ」

山賊B「だよな!ならよ手紙書いてくれよ!な、な!?」

山賊C「まあいいけど…何に使うんだよ?」

山賊B(しまった…!他言出来ねえ内容じゃねえか…こうなったら、コイツに言っていい内容で書かせるしかねぇ…!)

山賊B「いやいやいいじゃねえか、ほれおめえが欲しがってたなんかどっかの国の銀貨、やるからよ?」

山賊C「はは、いやに太っ腹じゃあないか。それだけお前も本気って事か、じゃあ詮索は無しにしてやる…内容、言いな」

山賊B「恩に切るぜ!じゃあよ……」

翌日

南里一也邸

一也「…すまない由佳殿、依然君の友人の行方はわからぬままだ。あの日、使いを送った時には既に街道には居なかった…」

由佳「ありがとう一也殿、あたしが迂闊でした…はじめから一緒に仕官していればと…」グッ

一也「すまない…だが信じてほしい、仮に弟…二月達に捕らわれたとしても乱暴は働かないだろう」

由佳「ええ、一也殿を見ればそれはわかります…でも、それでも心配で…もしあの娘に何かあればあたしは…あたしは…!」


一也「…由佳殿…」

兵士「た、大変です!殿!」バタ

一也「どうした騒々しい」

兵士「矢文です!山からなので恐らくは賊軍からの矢文!そして宛名は……客将の由佳殿になっております」

由佳「!!」

一也「何…!見せてみろ」ガサッ

一也「!!これは…!馬鹿な…二月、お前は…!!」

由佳「な、何…!?一也殿、見せて下さい!!」ガサッ

【婚約のお知らせ 一月後 この度私山賊隊槍兵隊長佐吉と結城あおいは夫婦の契を交わし是非親友の由佳殿にはご参加いただきたく(以下略)】

由佳「……」ワナワナワナ

一也「ま、待て由佳殿。これは挑発かもしれん」

由佳「夫婦の…契…あおい……あおい…!!!」ワナワナワナ

一也「…だが私も決心がついた、一月後…討伐軍を組み…弟を討つ…!由佳殿、参陣していただけるか?」

由佳「…ええ、当然です。力の限りを尽くしますわ…」タッタッタッタッ


一也「…」

兵士「ひぃ…由佳殿…お怒りに…」ガタガタ

一也(二月…)


由佳(…元祖南里家…山賊軍…槍兵隊長佐吉……そして南里二月……)

由佳「…殺す…!!!」ギリッ

砦外

山賊B「おーう、あおい。よく寝れたか?」

あおい「あ…ビーさん昨日はありがと…色々聞いて貰っちゃって」

山賊B「礼には及ばねえ…俺らの仲…わかってんだろ?」

あおい「?仲?」

山賊B「あおい、一ヶ月待ってくれ。そういった内容の矢文をあっちの砦に送った、お前の親友とやらにな」

あおい「あ、もう送ってくれたんだ」

山賊B「おう!だからよその間はゆっくりしていきな…そして一ヶ月後……」

あおい「ほんとにありがとう…ビーさんって優しいんだね。最初に棒で殴られた時はひどい人だと思ったけど…」

山賊B「おいおいひでえ言い草だな!あれは鍛錬だからよ鍛錬!」

あおい「あははっ、わかってるって!それじゃ私ちょっと出かけてくるねっ」タタタ


山賊B「うーん…抱きしめてぇ…」


山賊C「何朝っぱらから気持ち悪い事言ってんだよ」スタスタ

山賊B「ふん、俺の妻の魅力を語って何が悪い」

山賊C「…お前本気であのガキに惚れたのかよ……ん…まさかお前あの手紙本当に一也のとこに…!?」

山賊B「あ?あったり前よ!一ヶ月までに俺とあおいは結ばれるだろう、その時に友達も来てくれれば皆幸せ!素晴らしい作戦だろ?」


山賊C「………お前…ぶった斬られるかもな…」

山賊B「?なんでだよ?」


山賊C「一応殿に報告するか…くそっ、面倒くせえ事になりそうだな…」スタスタ

山賊B「???何なんだあいつ…?」

水源

あおい「ぷはーっ!気持ちいい~!水も綺麗でこれだけで肌もすべすべになっちゃいそ」


山賊A「おーい!殿が呼んでるってよ!」

あおい「!!!……どうしよ…」

山賊A「うおーい!返事しろって!お前さんの裸見ないように近寄れねんだからよ!」

あおい「…行くしかないか…うんー!エーさん今いくー!」バシャバシャ


山賊A「エーサンって何だよだから…」


二月邸
領主の間

二月「あおい、急に呼び出してすまない……どうしたんだい何故そんな端に…?」

あおい「……おかまいなく」

二月「し、しかも怒ってないかい?」

あおい「おかまいなく!!」

二月「そ…そうか…まあいい、戸塚説明を頼む」

戸塚「はっ。二代目南里家を名乗る賊軍が戦支度を始めたとの情報が入り斥候を送りましたが…南里一也は兵や兵糧及び武器の準備を開始しており、恐らく一ヶ月後には進軍を開始するとの事」

あおい「!」

二月「聞いての通りだ。一月で戦が始まる、兄が動いた以上こちらも動かねばならない…だから君は今日中にここから去るんだ」

あおい「えっ…?」

二月「時期的に山の獣達は繁殖期に入ってしまうこれから一月は昼間も山道は危険になる、だからこそすぐにでもここから出るべきだ」

あおい「で、でも私…」

二月「君は元々ここの者ではない、身内同士の内乱に巻き込むのは本意ではないからね」

戸塚「お待ちください、この結城あおいは『あのお方』から紹介された貴重な客将、ここで手放すのは得策ではありません」


二月「彼…か。しかし彼女はか弱い少女だ、とても戦いに向いているとは思えないんだ」

あおい「か、か弱い…?いやそんな……あぁぁ…友情友情友情友情友情友情友情友情…」ブツブツ

二月「今から責任を持って僕が送ろう、それでいいね戸塚」


戸塚「…御意に…」

山道

二月「…すまないあおい、こんな事になってしまい。ここの道ならば兄の兵とも会わずに済むはずだ……距離離れ過ぎだろう…」

あおい「おかまいなく!おかまいなく!」

二月「いや、それじゃダメだ僕は君を下山まで安全に送る義務がある」ザッザッ

あおい「い、嫌…近寄らないで…」

二月「あおい…涙を…」

あおい「ごめん…ごめんね…二月くん……私…私…」

二月「…すまない、だが君を先導する事はさせてくれ。…いいね?」

あおい「…」コクリ


二月「!!!あおい!危ない!!」ダダダ

あおい「え?えっ?」

グサッ

あおい「きゃあああああ!!」

二月「ふふ…間に合った…ようだね」

あおい「あ…ぁ…二月、くんに矢が…矢が…!」

忍び「コロス…」ザッ

二月「どうやら…狙われてたようだ…迂闊だった…!」

忍び「コロス…」チャキッ

二月「あおい、逃げるんだ…!そこを下れば人里までもうすぐ、走るんだ!」

あおい「だ、ダメ…だよ…そんな事したら二月くんどうなっちゃうの…!?」

二月「君は…命をかけても守る…!!僕がそう思うくらいの女性なんだ、君は!」

あおい「!それって…」

二月「だから生きてくれ!あおい…頼む…!!」

忍び「コロス…!」ダダダ

あおい「う…」

二月「さあ…来い!」カチャッ

あおい「うわああああああっ!!」

ザンッ


忍び「コ…ロ……」ドサッ シュウゥウ

二月「!?な…あおい…?今のはあおいが…!?」

あおい「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」シュッ

パシン!

二月「!…あおい…」

あおい「ダメだよ…私なんかの為に命をかけるなんてそんなのダメ!」

忍び「コロス」ザッザッ

あおい「また来た…!てやあああっ!」シュッシュッ

忍び「コ…ロ……」ドサッ シュウゥウ

忍び「コロス」
忍び「コロス」
忍び「コロス」

あおい「うぁ…たくさん来た…」

シャシャシャシャシャ ズバン!

ドサッドサッドサッ

あおい「え?」

二月「…奥義天狼刃。あおい、一度砦に…」

戸塚「殿!!無事ですか!?」

山賊A「うおっ!矢が刺さってやがる!今すぐ砦に!」

あおい「た、助かった…のかな…」

二月邸

戸塚「獣が山道で不自然に殺されていたとの報告があり急ぎ精鋭を連れお二方を追いましたが…そのまさかの様でしたな」

二月「あぁ、すまない戸塚。助かったよ」

山賊A「幸い矢傷も浅くてよかった、一月あれば治るみたいですぜ」

戸塚「では私共はこれで、失礼致します」サッ

山賊A「嬢ちゃんもお疲れな、殿守ってくれてありがとよ!」タッタッタッ


あおい「…」

二月「あの忍び、人ではなかった…斬っても血が出ずに消え去った、一体誰が…?兄は妖魔の類は受け入れないはずだが…」

あおい「ねえ、二月、くん」

二月「?あぁ、あおいすまない…仲間を殺された獣が怒り狂い山道に散らばってしまった……このままでは戦まで…」

あおい「うん、わかってる。」

二月「すまない…」

あおい「私、私も二月君の事好きになっちゃった…かもしれない…一目惚れ、なのかな?」

二月「え…?」

あおい「でもね…ダメなの………私……友達を裏切るわけにはいかないから…」

あおい「正直に…言うね。ほんとは私、友達とあっちの南里家に行こうって話だった、由佳…親友が先に仕官して私がすんなり入れるようにって…」

二月「…」


あおい「…二月君が私を守りたい人だって言ってくれて嬉しかった…でも…ごめんね…私…友達を…裏切れないから…ごめん」

二月「あぁ、それでいい。僕も君がここに来た時から頭から離れなかった…初めての事だった。まだ出会って1週程だが…一生をかけてもいい女性だとさえ思った。だが今のあおいの言葉で…僕も覚悟が決まった」

二月「兄と正面から戦う!あおい、君はその時に親友と合流しこの国を出るんだ」

あおい「二月君…」

二月「あおい、一つだけ約束してくれ。決してその友人を、親友を裏切る事はしないで欲しい。約束…できるかい?」

あおい「うん、もちろんだよ!」

二月「ありがとう…あおい」

あおい「こっちこそ……ごめんなさい…」

二月「よし、なら後一月はゆっくりしていってくれ。周りの戦支度でなかなか出来ないかもしれないが…最大限のおもてなしはするつもりだ。話が長くなってしまった…部屋に戻って休んでくれ」

あおい「うん…わかった…」パタン

二月邸
居間

あおい「…」パタン

ドサッ

あおい「うぅぅ……」

あおい「うわああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

あおい「うぐっ…ごめんね…えぐっ…ごめんね…ひぐっ……」



砦外

二月「…」

山賊B「お、珍しいっすね殿。なに黄昏てんすか?」

二月「佐吉か……守るべき者の為に自分は何をしてやれるかってね、考えてたんだ」

山賊B「おっ!奇遇すね、俺もそれ考えてましたよ!好きな女に何をしてやれっかってね!」

二月「ははは、そうか佐吉にもいるのだな」

山賊B「はい!いつか殿に紹介しますから!楽しみにしててくださいよ!」

それから…


あおい「旗を……うぅん…振る…つぉっ…重っ!」ドテン

二月「あおい、それは力でなく瞬発力や手首の柔軟性を生かすんだ、きっとコツを掴めば振るのは可能になるはずだ」


あおい「瞬発力…えっと…ぬんっ!……ふんっ!…あっ!」ドテン

あおい「今…ちょっと振れた!振れたよ!」

二月「ああ、その調子だあおい!」


あおいの元祖南里家での一ヶ月は…

戸塚「よし次の模擬相手はどいつだ!?」

山賊A 「おー、張り切ってんな戸塚の旦那は」

山賊C「ついに決戦だし張り切らねえ方がおかしいからなぁ」

あおい「え、えと…ども」

戸塚「…結城殿か、よし、いざ勝負!」ブオン ガツン

あおい「うわああああああん!頭痛いよぉ~!!」

山賊A「誰か薬草持ってこーい!」

戸塚「むう……」

山賊B「見ろ、これが星空だぜ!」

あおい「うわぁぁ…すごい綺麗…私こんなたくさんの星見るの初めてだよ」

山賊B「お前の方が綺麗だぜ…!!」

あおい「?何か言った?」

山賊B「い、いや……」

瞬く間に過ぎて行った…


一也邸
道場

一也「ぬううぅん!!」ブオン

由佳「…!」パシン スゥ

一也「はは、参った…私の負けだ。驚いたな君がここに来たばかりの頃は私の方が実力は上回っていたはず…この一ヶ月足らずで君は南里家の中でも最強になったと言う事だ」

由佳「…あおいを、親友を助けるまで…止まるわけにはいきませんから…!!」


そして決戦の日がやって来た……

続きは後日

おーぷん高
教室

教師「という訳で彼は本当に犯罪者になりたかったわけではない、深層心理に沈んでいた願望が彼を連続殺人犯として歩んでしまった…」

教師「てなわけで結城、お前にはあるか?深層心理に眠る、願望って奴が!?」

あおい「ふぇ!?わ、私!?」ガタッ

佳奈(深層心理に眠るってんだから自覚無いんじゃないの…?)

由美「あおいが立つ…録画…録画しないと…」ブツブツ


あおい「なりたいもの、なのかな?えぇと、クールビューティになりたいですっ!」

男子A「わはは、結城には似合わねえ単語だな」

男子B「ドジっ子だからなあ、真逆…だよな~はっははは」

教師「そうだ、深層心理とは自分の理想を常に思い浮かべているわけだ。結城の場合は普段は居眠りしたりずっこけたりとマヌケな一面ばかりだが…」

ドゴン!!

教師「うおっ!?」

由美「あっ、すみません机の下に消しゴム落としちゃって…」

佳奈「机の下に消しゴム落として机ひび割れるわけ……」

由美「先生、授業を続けて下さい消しゴム落としただけなので。後で笑ってた奴粛清してやる粛清してやる粛清してやる粛清してやる粛清粛清粛清粛清粛清……」


教師「……よし、今日の授業はここまでだ!後10分は」昼休みまで自習!終わり!」タタタ

あおい「うぅ…」


昼休み

佳奈「あおい~、食べよ~」

あおい「あ、うん…由美は?」

佳奈「えっ!?あぁなんか粛せ…いや生徒会の仕事あるみたいでさ!あはは…」

あおい「そっかぁ…」

佳奈「さっきの事、気にしてるの?あおい」

あおい「えへへ、だっておかしいもんね。私が由美みたいに生徒会のお仕事とかクールに格好良く出来るわけないし、佳奈みたいに絡まれてる人を助けたりも出来ない…ビューティーでもないし、ね」

佳奈「おかしくなんかない」

あおい「え?」

佳奈「あおい…あたしや由美だってあおいに救われた事は何度もあるんだよ?そんなに自分を卑下しちゃ駄目」

あおい「佳奈…」

佳奈「それに格好いいじゃんクールビューティ!なれるよ、優しいもんあおいは。だからあたしは絶対に笑わないよ」

あおい「……ありがと、佳奈」

佳奈「ほらほら、食べよ?それにさっきの由美の話後で本人にしたら凄く喜ぶと思うよ?」

由美「はぁ~粛清完了~、あおい、佳奈一緒に食べましょう」パンパン

あおい「あ、由美おかえり~。早かったね!」

由美「勿論。あおいの敵はわたしの敵、あおいを笑えばわたしが怒る。世の真理よ」

佳奈「…」

あおい「?なんだかわかんないけど、ありがとう由美!…あれ?なんか赤い点々ついてるよ?どうしたの?」

由美「あぁこれは粛清した時の醜い愚か者の血……」

佳奈「わー!わー!この話おしまい!やめよう!ほら二人共あたしが作ったサンドイッチでも食べてさ!」ササッ

あおい「??…じゃあ貰おっかな、佳奈料理うまいからなぁ」

由美「佳奈…佳奈の手作り…ハァハァ…」

あおい(佳奈、本当に…ありがと…)

二月邸
居間

あおい(…むにゃ…ん…?夢?)

あおい「ええとこれは確かこう履いて…」グイグイ

あおい(はぁ、最近学校の夢見る事多いなあ…佳奈、由美…どうしてるのかな)

あおい「よし…履けましたね予習しておいて良かった…次は化粧を…」

あおい(確か今日は…戦って言ってたよね皆バタバタしてたし。よし、顔洗って着替えなきゃ!)

あおい「ええと…これは顔に…」パンパン

あおい(????あれ?私化粧してない?いや私がなんでこの位置から見えるの!?これじゃまるで…)

(はい、あおいさんあなたの精神は追い出されました)

あおい(えっ!?ままま、待って待って!何で擬似さんの声が真横から聞こえるの!?)

(答えが必要ですか?)

あおい(……一応)

(了解。あおいさん、あなたは今私と共に双剣炎氷牙の片側に封じられています)

あおい(………)

(そしてあおいさんから身体の支配を奪ったのは、今まで沈黙していた擬似人格妙です)

あおい(…………)

(奪った理由はわかりませんが前代未聞、緊急事態です。早急に現状の打破が求められます)

あおい(…………)

(反応無し、待機モードに入ります)


あおい(………いやこれ)


あおい「ふう、こんなものですね。あおいさんは不思議な物ばかりお持ちで面白い方だ…」

あおい(…………どうすんの)

砦外
戸塚「全兵500、出陣整いました」

二月「ああ。皆、これより我々は兄率いる二代目南里家を迎え撃つ!これは……」



あおい「…」

あおい(あ、あの…妙…さん?)

あおい「あおいさん、おはようございます。…申し訳ありません少しだけ身体をお貸しいただきたいのです。用が済めばすぐお返し致します……お願いします」

あおい(あ…え…ぅ…か、返してくれるなら…はい)

あおい「ありがとうございます、傷ひとつつけずに必ず返しますから」

あおい(うぅ…こう言われたら何も言い返せない)

(当たり前ですが今のあおいさんが討死すればあおいさんの精神も消え去りますのでご注意を)

あおい(ご注意ってどうしようもないよぅ…)


二月「……よし、では出陣!!」バッ!


山賊「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」


二代目南里家
本陣

一也「進軍の合図を出せ、弓兵隊は掃射を始めよ」

兵士「はっ!」


由佳「始まりましたね、戦」

一也「ああ。…由佳殿は友人を救い出せたら戦場を離脱してくれ、この戦に命を賭ける必要は…」

由佳「それは出来ないです一也殿、あたしはこの戦の行方を見届ける、そして奴らを討ち取る…親友を危険に巻き込んだからには…あたしも命を賭けて戦います」

一也「…ありがとう、ならば遊軍として薄い箇所への援護に回って欲しい。…死ぬなよ」

由佳「はい…」



山道

二月「あおい、やはり君も戦場に行くのか…」

あおい「はい、足は引っ張りません。滝田一刀流の力を存分に発揮致します、南里二月殿」

二月「??殿って…しかも滝田一刀流って…?」

山賊B「あおいぃ!俺の後ろに隠れてな!敵は一人も通さねえからよぉ!」

あおい「結構です、私は遊軍として押されている箇所の援護に回りたいと思います、いいですね?」

山賊B「えっ…お、おう…」

二月「??…必ず生きて帰ってくるんだ、あおい。君は大切な……行ってしまったか」

山賊B「し、知ってるあおいと違う…」

山賊「紅い着物女?ふざけた格好しやがって!」

山賊「串刺しにしてやらぁ!」ビュッ

由佳「…」シュッ シュッ

山賊「ぎゃああ!」ドサッ
山賊「ぐぇえ…」ドサッ

由佳「こんなモンなの元祖南里ってのは!?もっと骨のある奴はいないの!?」

山賊「あの女!」ザッ
山賊「殺せ殺せ!!」ザザッ

由佳(あおい、どこにいるの?)


兵士「!?なんだあの格好??」
兵士「怪しげな小娘だ、討ち取れ!」

あおい「…」シュッ

兵士「「ぐわあああ!
!」」

あおい(うわ凄い…ひと振りで二人も倒した…)

あおい「二代目南里家!!佳奈を呼びなさい!私の相手がつとまるのはあの剣客のみ!斬り伏せられたくなければどきなさい!!」

あおい(え…由佳を…呼んでる…?)


兵士「あの女を殺せ!」
兵士「鎧もない、突けば討てるはずだ!」


あおい「…さすがにすんなりは通してくれませんか…」

兵士「死ね…ぐああああ!」ドサッ


あおい「待ってて下さい…由佳…」


山賊「ぎえええ!!」ドシャ

由佳「待ってて!あおい!」


あおい「必ず…」
由佳「必ず…」


あおい「殺してあげますから!」
由佳「助けるから!」

南里家領地 南ケ原
東に広い平野が広がり三方を険しい山に囲まれた中心に位置する南ケ原
遮蔽物のない平地であるここは二つの兵が相対するには最適の場所であった

西の山から下った元祖南里家、二月は佐吉ら山賊の中でも精鋭三人を中央に置き、正面突破を図る
対して東の二代目南里家一也は、精鋭はいないものの正規兵の統制を活かし左右からそれを包囲しようと布陣する

現在の時刻で午前8時を回る頃、二つの南里家は激突する


「おらおらぁ!!俺が槍使いの佐吉様よ!貫かれてえ奴は前に出なぁ!!」

背丈よりも長い槍を振り回し中央を駆け回る佐吉達の活躍により中央帯はやや元祖南里家が押し始める

だが左翼からは神速抜刀術の由佳が出陣


「…次ぃ!あたしに斬られるかそこをどくか選びなぁ!!」

鬼気迫る剣技で右翼に位置する山賊を圧倒する由佳

「ひぃぃ…なんだあの女…」
「あいつ開戸山の鬼を倒した…由佳って奴だろ…!?」
「勝てるわけねえ、逃げろー!」

脱兎し始める山賊に二代目南里家の兵達は突撃を始める

「…右翼が崩れかけている?なるほど…」


中央陣のやや南側で二代目南里家の兵士を斬り捨て続けていた少女が動く
結城あおいの身体を借りた武芸者妙はにやりと呟き最後の一人を斬り真っ白なブラウスを真紅に染めた

「そこにいるんですね!?由佳!!今行きますから!先生の!師匠の仇を今!!」

短いスカートをはためかせながら狂気にも似た笑いを浮かべ走り出す姿に最早純真な少女の面影は無かった


元祖南里家 右翼

「くっそ、逃げるな逃げるな!!」
「やべえよ…こっちにゃ佐吉や戸塚の兄貴がいねぇ!誰もあいつらを止めらんねぇ!」


「こんにちは皆さん、只今援軍として馳せ参じました……結城あおいです」


「お、お前かよ…大丈夫か小娘がこんな所に来てよ…」
「佐吉と模擬試合して泣かされたり毎日旗振ってただけの奴が来てもなぁ…」

ためいきまじりに山賊は嘆く
いつも佐吉や二月達と与太話しかしておらず、まるで鬼を倒したとは思えない風貌や雰囲気も相まって彼らのあおいに対する戦闘での信頼は皆無であった

だがそんな事はおかまいなしににこりと笑って話を遮り彼女は彼らに質問した

「一つ伺いたいのですが、敵側に真紅の着物を着た少女はいましたか?」

獲物を狙う獣のような眼光に山賊はやや萎縮しながらも答えを返す

「あ…あぁ、神速なんたらのって小娘が暴れているらしい、こっちに佐吉や強い人がいねえから好き放題でな…」

「ありがとうございます、ではこれより私が押し返し…その女性を討ち取りましょう」


「えっ!?」

山賊達は目を丸くする、この劣勢を一人で押し返し更には誰も手がつけられない紅い着物の女を討ち取るとまで言ってのける、何かの聞き間違いかと思ったが
既に彼女は狂気の笑い声をあげ敵の集団へと走り出していた

「な、なんだこい…ぐぇっ!」
「ん?う、うわぁぁ!」

左右に差す双剣のうち右側の赤い刀のみを巧みに操り兵士を斬り捨てる

滝田一刀流の先の先をとる「地」の構えから繰り出される斬撃は足軽程度では止めることも出来ず

「覚悟!!…ぐああぁ!!」

攻撃も後の先を主体とする「海」の構えで無力化する


元来「一対多数」で戦う為に編み出された滝田一刀流は戦場で無類の強さをみせ、赤い刀に擬似人格として内在していたせいか刀との相性も抜群であった

次次に群がる二代目南里家の兵を斬り捨て、ブラウスだけでなくブレザーやスカート、顔にまでも返り血を浴び狂気に満ちた笑いはさらに畏怖を招く


「ふふふ…あっははは!だからどきなさいと言ったでしょぉ?私と先生で完成させた滝田一刀流に死角はないのですからねぇぇ!!あはっあはははははははは!!」

笑いながら鎧ごと斬り伏せる姿に敵も味方も恐怖する

「や、やばすぎるだろあの女…一体誰なんだ!?」

「ひぃ、あの小娘…とんでもねぇ…い、今までのおとぼけは芝居だったのか…!?」

(ひぃぃ…恐いよぉ…助けてぇぇ…)

自分の姿をした女が笑いながら映画や漫画のような動きで人を斬り捨てて行く
妙に身体を奪われ青い刀に精神を移された本来の結城あおいもひたすら恐怖するしか無かった

そんな彼女を見かねたのか無機質な声で双剣の擬似人格が声をかけた

(あおいさん、恐怖心が勝っていては冷静な判断を下せません。それに妙さんの本来の目的は、恐らく仇討ち自身の師を斬った由佳さんを討つ事です)

傷ひとつつけずに目的が終われば身体を返す

あおいは早くその目的を終わることのみを祈っていた

ハッとするあおい

恐怖心に覆われ妙が何を言っているのかを聴こうともしなかった
だが思い起こせば植物型の鬼に操られた妙は「師匠の仇を取れず無念だ」と嘆き、宿屋では由佳を斬らせろと本来擬似人格だけでは動けないはずの刀をカタカタと震えさせていた

(!!そ、そんな!ダメだよ!止めさせなきゃ…!妙さん、聞こえる!?妙さん!!)


あおいは必死に呼びかける

妙の手が止まる

(ねえ妙さん!お願い、由佳を…由佳を殺そうとしないで!!いや違う、これ以上人を、むやみに殺したらダメだよ!!)


「ふふふ…はははは…」

妙は乾いた笑いを漏らす



「!!まさか…こんだけ斬り殺していた化物ってのが…あおいだなんてね」


「由佳ぁぁ…みぃつけましたよぉぉ…!!」

もはやあおいの訴えはから届いていない、目の前にある獲物、由佳だけを狩る…それだけだった

「…」

ついに探していた親友に出会えたのに一歩も動けずにいる由佳
本来ならば今すぐにも小さな身体を抱きしめて詫びたかった、先に行くなんて言ってゴメン、一緒に行けばこんな目に合わさずに済んだのに…

そう言いたいのに、駆け出したいのに動けない矛盾
剣客としての勘がそれを許さなかった
今目の前にいるのは親友なはずなのに「勘」はこの戦で…否、今までの中でも最強の敵だと知らせていた


「あおい……だよね?」

ありえない事だが別人であってほしい、そんな願いにも似た質問を投げかける


「いいえ、あおいさんは…ここにいます」

すぅっとあおいの姿をした女は左側に差す青い刀を抜き不敵に笑う


「由佳…お久しぶりですね、私の事…覚えてますか?」

由佳は混乱する、まさかの返答の連続に脳がついて行けなかった

「……覚えているもなにも、あなたは結城あおい…違うの?」


つい先程まであおいだよね?と問いただした自分に矛盾を抱きながらも返す由佳

「なるほど…覚えていない、と…まあ仕方ない事です。」


あおいの姿をした女はふっと笑うと青い刀を地面に突き刺し、赤い刀を両手で構える


「!!!その構えは…『地』!?まさか…」

あおいは知らないはずだ、自分が滝田信雄と戦った事、滝田一刀流の存在を…

全てが嫌な方向で繋がる
滝田一刀流を完璧に使いこなせる一番弟子の存在、そして彼女が死亡したと思われる場所、あおいの足跡、不自然に動いていた赤い刀…


「あんた…あおいに乗り移ったって訳…?」


「いいえ、お借りしているだけです。あなたを斬り殺せばお返ししますよ?」

妙は悪びれずに答える

「あぁ、言い訳されたら嫌ですから教えますが一定の傷や意識を断ち切る攻撃を与えればあおいさんは元に戻るそうですよ?」


「…それを信じろっていうの?」


「信じるしかないでしょう?戦わなければ死ぬだけですから…ね」

由佳に迷っている時間は無かった

歪んだ笑み、激しい憎悪をはらんだ顔
仮に自分を斬っても…とてもあおいに身体を返すとは思えない

「ごめん、あおい…ちょっと痛いかもしれないけど…」

刀を返す由佳はそのまま腰を落とし抜刀術の構えをとる
あおいは今までも驚異的な回復力を見せた、腕の一本は折れてもすぐ治るはず。由佳はあおいの不思議な力に賭ける事にしたのだった

「ふふふ……さあ…最高の一騎討ちを!!そして先生に捧げるの!あなたの首をねぇぇぇ!!!」

続きは後日

「由佳…妙さん……どうして…!!なんでこんな事に……」

納得出来なかった
植物型の鬼に操られ、最後は人を斬るくらいなら自分を殺してくれと懇願し、擬似人格として刀に憑依した時も優しく導いてくれた
いくら自分の師匠が殺されたからといえ今の妙の姿はあまりにも異常に見えていた

「あおいさん、炎氷牙は魔剣です。登録された使用者以外が使用すれば大抵の人間は即死します」

擬似人格が淡々と説明を始める

「え…!?」


「ですが妙さんの強靭な精神力で死には至りませんでしたが、彼女が抱える師の仇討ちを果たすという使命が増幅され危険な精神状態に陥っています」


「じゃあ…それを治す事ってできないの!?」


「制御するのが私の役割ですが彼女は一刀流でほぼこちらを使わず地面に突き刺しました。後は妙さんが意識を失うか、死ぬまで殺戮を繰り返すのみです。」

「そ、そんな……」

「由佳さんの選択は正しいはずです、恐らく彼女を斬ったとしても暴走は止まらないでしょう」


「…!」

「咎人には死を!!死ね由佳ぁぁ!!!」

狂気をはらんだ叫びと共に「地」の構えから上段の切り下ろしを仕掛ける


「…!」

半身を反らし辛うじてかわす
滝田信雄との戦いで一度「地」を見たお陰でかわせた一撃だった
だが妙の攻撃はまだ終わってはいない


「まだまだぁぁ!!」

あれだけ速い切り下ろしから斜めの切り上げを切り返す

「くっ…」

予想外の攻撃に半身を反らしきれず右肩を刃が掠めた
そのままくるりと回転しその勢いを利用した抜刀術を繰り返す由佳



「無駄ですよぉ!」


二連撃の隙を一瞬で立て直し、由佳の反撃をも防ぐ
だが彼女の本命は回転斬りでは無く…


「甘い!」

鉄製の鞘が妙の脇腹に深く突き刺さっていた


「ぐ…あ…」

驚きと肋骨の痛みに顔を歪める妙
普通ならばこの時点で決着が付く…しかし


「しぇああああ!!」

無理矢理刀を左右に振り斬りつけ距離を取る妙


「今ので肋骨折れたはずなのに…まだそんな力が…」

由佳の額に嫌な汗が吹き出る
もしかしたら…倒せないかもしれない
そんな不安がよぎる


「肩と腕に傷…まだですよぉ、まだまだまだ斬り足りない!!先生が受けた傷と痛みはまだまだまだまだこんなもんじゃない!!!」

再び「地」からの激しい連続攻撃
斜めの袈裟斬りからの逆袈裟、右横斬り、切り上げの後の突き
五連撃は由佳の右腕や右肩に再び傷をつけ鮮血が飛び散った


「う…あぁっ!」

苦し紛れに抜刀するもあっさりとかわされ妙の蹴りを受け吹き飛ばされてしまう
自分よりも小柄なあおいの身体でもこれだけの蹴りを出せるという事実と滝田信雄を超える「地」からの激しい攻撃に由佳は追い詰められていた


「……」


カチャと刀を鳴らす


「おやぁ?逆刃でお遊びは終わりですか?由佳さん」

歪んだ笑みで嘲笑する妙、友人の身体を傷つけたくない故に構えた逆刃での戦法
それを自らの圧倒的な斬撃で諦めさせたと思うと笑わずにはいられなかった

由佳がぼそりと呟く

「ごめん、あおい……この敵は…本気でやらなきゃいけないみたい」


「あははは!いいですねぇ、言い訳。いいですよぉ?さあ早く見せて下さいよ、本気とやら……!!なっ!?」


妙の笑いは由佳の神速抜刀術で途切れる
先程とはまるで違う踏み込みと抜刀速度で自らと同じ右肩と右腕に傷を付けた

「こ、この…!」

鞘の打撃から距離を取った時と同じく左右に刀を振る
しかし今度は鉄の鞘で横なぎを払いのけ、峰で再び肋骨を殴りつける

「がっは…!?」

殴りつけた衝撃と共に由佳の右肩にまた痛みが襲う
払いのけた筈の刀は振り抜きは出来なかったが由佳の右肩に食い込み、深い傷を負わせた

だが由佳は止まることなく蹴りからの逆袈裟を繰り出し、妙はそれに応じて袈裟斬りを返す
一進一退の死闘は混迷を極めていた

中央陣

山賊「…おい、聞いたか?あっちですげぇ一騎討ちやってるらしいぜ?」

山賊「だから向こうの兵どもも少なくなってんのか?」

山賊「おう、皆行ってるみたいだからな。俺らも行こうぜ!」ダダダダ


山賊B「おいてめぇらどこいきやがる!?」

二月「なんだ…?なにが起こっている…!?」



兵士「なにやら左翼陣で凄まじい戦いが起きているとか聞いたんだが…」

兵士「山賊共、急に戦わなくなったと思ったら…俺らも見に行ってみるか?」ダダダダ


一也「!?これは…どうしたというのだ…!?」

「ぜぇああああ!!」

「しゃああああ!!!」

凄絶な攻防だった
至近距離での斬撃の差し合い
由佳の抜刀術が妙の身体を掠めたと思えば妙の斬撃が由佳の髪を数本切り裂いた
そしてお互いの渾身撃は刀同士が激しくぶつかり鍔迫り合いへと移り…

超至近距離では分が悪い由佳が鞘で距離を取る


彼女達の周りには
二代目南里家兵士402名
元祖南里家山賊366名
が囲み

「す、すげえ…」
「強い、何て強さだ! 」

二人の力量を褒める者


「ひぇっ…化物かあいつら…」
「次元が違いすぎる…」

二人に畏怖する者


「結城ー!そこだー!いけいけ!」
「由佳殿、勝てますぞ!我らがついておりまする!」

二人どちらかを応援する者

全てがこの戦いに魅力されていた

戸塚「浩介」

山賊C「うわすげぇ…本当にありゃ鬼倒したんだな…凄すぎんだろ」

戸塚「浩介」

山賊C「あ、あぁすません。見とれちまってましたよ」

戸塚「弓を用意せよ浩介」

山賊C「えっ…?」

戸塚「お前の率いる弓隊に射撃準備をさせよと言っている。」

山賊C「そ、それは…つまり…」

戸塚「あの一騎討ちが決着が付く寸前に斉射せよ。どちらが優勢でも、だ」

山賊C「………」

戸塚「聞こえなかったのか?それとも…俺を裏切るつもりか?浩介」


山賊C「……いえ、承りました。…弓隊に準備させておきます」

山賊A「まさかあの嬢ちゃんがあんな強いとはな…驚いたぜ」

山賊B「ば、馬鹿野郎!なに冷静になってやがる!?助けねぇと…」

山賊A「わかってるだろ?これは一騎討ちだ、少なくとも決着がつくまでは手出しは無用……見てみろよ二代目も元祖も関係ねぇ、ここで殺しあっていた奴らが雁首揃えてこの戦いを見ている」

山賊B「…」

山賊A「本当に…戸塚の兄貴はやるのか?あの策略を…」

戸塚「本当だ、孫六、佐吉。お前達は準備を始めろ」


山賊A「…本当…ですかい」

山賊B「…」

戸塚「前から決まっていた事だ、変更はしない。行くぞ」


山賊A「……了解」

山賊「な、なあ…この斬り合いいつまで続くんだ…?」

山賊「わかんねぇよ、俺に聞くなっての!」

山賊「いやなんつーかずっと見ていたくなるっていうかよ…そんな感じがしてさ…」

山賊「…まあ…な」



兵士「由佳殿の鬼気迫る剣技見事、だが敵の小娘もなかなかやる」

兵士「俺左翼陣にいたからわかるんだが、由佳殿と戦っている小娘…さっきと顔つきが全然違うんだけど…」

兵士「??なにをわけのわからん事を」

兵士「いや、由佳殿と戦う前や一騎討ちを始めた時は化物のような顔つきだったのに…今じゃ…そこらの町娘みたいな顔になってるからよ、笑ってるし…」

一進一退の攻防は10分にも及んだ
その激しさは二人の身体に刻まれた傷を見れば明白であった

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「…ふぅぅ~…」

一度距離を取り呼吸を整える


「妙さん…まだ続けるの?」

由佳が深呼吸をした後に発した言葉
それは斬り合いのうちに武芸者として弱者を守ってきた本当の妙としての姿に戻りつつあった事を察しての発言だった


「由佳…さん。どの道私からあおいさんを取り戻すには倒す他ありません、私の心が乱れたのも自らの至らなさ故。遠慮は入りません、私も…全力を出しますから」

再び「地」の構え
しかし普段の地とは違い半身になり刀の位置もさらに上段に位置しより攻撃に特化したまさに決着をつける為の捨て身の「地」


「…」

由佳は腰を落とし抜刀術の構えをとる


「奥義、叢雲…ですか」

妙は続けて呟く

「雲では…地に勝てないですよ」

一度は滝田信雄の「地」を破り鬼をも斬った奥義叢雲
だが師匠を超えた完璧な「地」には叢雲は通用しない、邪気が抜けた妙はそれを証明したかったのだ


「そうだね、打ち合ってみて思ったけど…叢雲は通用しないと思う」
「逆側から居合を繰り出す事で真空を生み出し敵を空気で切り裂くのが叢雲。ただ妙さんならば真空が起こるよりも速くあたしを斬れちゃうだろうしね」

由佳は自嘲気味に笑う


「分かっていましたか…ですが私も、滝田先生の流派を受け継ぐ者として叢雲に負けるわけにはいきません」

「…行きますよ」


妙の雰囲気が一変する
先程の狂気に満ちた威圧感ではなく
昂ぶる剣気に溢れた純粋な強さから来る重圧
その背後にある絶対の死を前に
由佳は静かに目を瞑り…

「そう、雲では地を倒すことは出来ない…だから…」


「はああああああ!!」

素早く駆け出す妙
しかし由佳は動かない、叢雲を出すには逆鞘や充分な助走が必要であるが…
由佳は順鞘のまま動かずにいた

だが妙が数メートルにまで近付くと同時に
突然由佳は抜刀し素早い三連斬りを放つ

構わず「地」からの斬撃「斬馬」を繰り出す妙
しかしその瞬間、目の前に優しい風が掠め…

「な…!?」

振り下ろそうとした刀は目の前に現れた小型の竜巻に弾かれ宙を舞った


「叢雲を進化させた奥義、天津風…勝負、ありよ」


赤い刀がカランと落ちると妙も脱力し、その場へと座り込み


「…お見事…私の…負けです」


20分もの長き一騎討ちの決着がここに決まった

妙「さて……」グッ カシャッ

妙「あおいさん…申し訳ありませんでした、傷ひとつつけないという約束も果たせずにお返しすること…お許しください」

由佳「妙…さん」

妙「奥義天津風、見事でした。…それでは…」


あおい「……あれ?戻っ…た?」

由佳「あおい、あおいだよ、ね?」

あおい「いたたたたっ!すごく体中痛いけど…うん、私だよ。由佳、久しぶり」

由佳「あおいぃぃ!」ガバッ

あおい「いったたたた…痛いって由佳…」

由佳「ごめんね、ごめんね…!痛い思いさせて、恐い思いも…ごめん…!!」

あおい「あはは…ごめんはこっちだよ、色々遠回りしちゃってさ。ただいま、由佳」

由佳「……おかえり…あおい…」ギュッ

山賊C 「だ、駄目だ…うてねぇよ…うてるわけがねぇ…親友と再会しといて討死させるだなんてよ…」


戸塚「やはり情が移っていたか…仕方のない奴だ」

山賊C 「と、戸塚さん…」

戸塚「もういい俺が命じる!弓隊、あの小娘二人を射ち殺せ!!!」

山賊「へい!」サッ
山賊「おお!」サッ


山賊C 「くっ…」




由佳「…!!あれは…あおい、弓が!!」

あおい「えっ?」


戸塚「うてぇぇ!!!」

続きは明日

ヒュルルルルルル

ドッゴオオオオオオオン!

戸塚「な!?」


山賊「う、うわあああ!?」



あおい「きゃあああ!?な…何!?何なの!?」

由佳「これは…大筒…!?あおい、危ない!!」ドン

ドッゴオオオオオオオ


あおい「わああああああ!!」ズザザ

由佳「何でこんな…あおい!!そこから逃げて!北にある寺で落ち合おう!」

ドッゴオオオオオオ!!
由佳「くっ…あおい!必ず逃げて!!」


あおい「ゆ、由佳ぁ!」

ドガァァァァァ

あおい「わあぁぁぁぁ!に、逃げなきゃ…!」タタタタタ


戸塚「くそっ!もういい、おい孫六、佐吉、浩介…お前らはあれを運び出せ。そして伝令は二代目にこの書状を送れ!!」


山賊A「こ、この大筒の中…仲間を見捨てるんですかい?」

戸塚「ふん、助けるほど価値があるとは思えんがな…貴様ら三人は俺が目にかけ命を救った、だからこそこの計画に加えた」

山賊B「あおいが…あおいだけでも…救わせて下さい、お願い…します」

戸塚「ふん、まだ勘違いしていたか。あの小娘が惚れているのは二月だ、お前じゃない」

山賊B「え…」


戸塚「わかったのならさっさと運び出せ!あの小娘は好きにさせておけ……どの道、二月は死ぬのだからな」


ドッグァァァァァァン

あおい「ひゃああああ!?」ズザザ

あおい「ぅ…い、痛いよ…お腹もずっと痛いし…脚だって……」

二月「あおい、無事かい!?」ダダダ

あおい「ふ、二月君…!」

二月「一度本陣まで退く、逃げよう!」ガシッ


元祖南里家
本陣

二月「すまないあおい…君をこんなに傷つけてしまって…」

あおい「ううん…気にしないで…いたた!」

二月「駄目だ、肋骨が折れている。動かずに医者を待つんだ」

あおい「…みんなは?」

二月「わからない……あの大筒は国人衆の北海衆…何が起こっているのかもさっぱりなんだ…すまない」


あおい「ねぇ、二月…君」

二月「?どうした、あおい?」

あおい「由佳に、親友に会えたから…私…行かなきゃダメなんだ…」ググッ

二月「…あの一騎討ちの女性か…何故親友と戦ったのかは聞くまい…だが…君を、君を…」グイッ

あおい「あっ…」



山賊「ほ、ほほ報告ー!!!」ザザザ


二月「!!」
あおい「!!」バッ

二月「どうした、何があった!?」


あおい(いま…めちゃくちゃ近かったけど…何…しようとしたんだろ…)


山賊「わ、我が軍は全面降伏したとの知らせが出回り兵は投降、または潰走し…瓦解しています、ど、どうすれば…」


あおい「え…!?」


二月「馬鹿な…一体誰がそんな…」


一也「勝負あった。…久しぶりだな二月」バサッ


二月「あ、兄上…!?」


一也「お前は…裏切られたのだ。腹心に、売られた…それがこの書状だ」パサッ

二月「南里二月の身柄と引き換えに戸塚柾木をはじめとする山賊衆の命の保証、ならびに金品の自由化を……」

一也「既に我が陣に届いた時には山賊達は逃げ出す者や投降する者ばかりであった。恐らく戸塚が流したのだろう」

二月「……僕の、僕の負けです兄上」

一也「そう、だな。裏切られたのはお前の甘さ故、致し方ない事だ。」

二月「…はい」

一也「約束通り…負けた側は賊軍となり、首魁の首は長尾家への手土産に…いいな」

二月「…はい」


あおい「!?!」

あおい「ちょ、ちょっと待ってよ!?何が何だかさっぱりだけど…首って…どうするの!?」

一也「君はあの一騎討ちの…?」

あおい「結城あおいです!二月君のお兄さんですよね!?首を手土産ってどういう意味なんですか!?」

一也「文字通りだ。元々南里家が二つに別れる際に決めていた事。来る決戦に勝ち、負けた側は首を差し出し北海衆と共に隣国の長尾家へ属する…その為に内乱をおさめた証が必要となるからだ」

二月「あおい…そういう事だ。どんな形にせよ僕が負けたからには…死を受け入れなければならないんだ」


あおい「何で!?どうして!?わからない、わからないよっ!仲直りしてそれでおしまいにならないの!?ねえ!」

二月「……すまない」

一也「二月…行くぞ」ザッ


あおい「~!!!!!」ダッ


二月「あおい…」

林道

戸塚「あの若造の首のみで俺達はこうして南里家のお宝半分を奪えた…割のいい報酬じゃねえか」

山賊A「…」

山賊B「…」

戸塚「何だ何だ、辛気臭え顔しやがって!南里二月を持ち上げてわざと戦に負けた後お宝を奪うって計画だったろ?」

山賊C「…」


戸塚「まったくあのお人好しと言ったら馬鹿そのものだな、俺達は義賊ですなんて言えばあっさり信じやがってよ!!がはははは!」


ガササッ

あおい「……」


戸塚「!!」

山賊B「あ、あおい…!」


戸塚(さっきの一騎討ちの実力なら四人がかりなら殺せるはずだ、隙を伺って袋叩きにしてやる)


あおい「…せない…」

戸塚「聞いていたのか?今の話を、そうだ俺が南里二月を売り宝を奪ったのさ」

あおい「許せない!!!」ダダダダ

あおい「てえええやあ!」シュッ

戸塚「?…ふんっ!」バキッ


あおい「うあああああっ!!」ゴロゴロゴロ


戸塚「へへ…何だこいつ…弱えじゃねえか…素手でも殴り殺せちまうぜ、これじゃあよ」


あおい「うぅぅ…」グッ

妙(ごめんなさい……あおいさん…)

(先の妙さんの一騎討ちにより炎氷牙の力を使い果たしてしまっています、現状の作戦は逃走あるのみです。撤退して下さい)


あおい「い…やだ…」ググッ


戸塚「お?逃げれば見逃してやるぞ?かかってくるなら、小娘でも容赦はせんぞ」


あおい「でやあああ」ダダダダ


戸塚「ぬんっ」バキャッ

あおい「あっ…ぐ…ぁ…」

戸塚「ぬんぬんぬんぬんぬんぬん!!」バキッドガッグジャメキッボゴッ


あおい「あああぁぁぁぁぁぁ!!!」

山賊A「くっ……」

山賊C「ひでぇ…」


山賊B「……」

戸塚「はぁはぁ…へへ…可愛らしい顔が台無しだなぁ?お嬢ちゃんよ…」

あおい「…ぁ……ぅ……」

山賊A「戸塚さん…もういいでしょう…これ以上は死んじまう」


戸塚「だ、そうだ。上手くたぶらかしたものだな、小娘。謝って命乞いすれば助けてやらんでもないが…」


あおい「あやま…る…のは……そっ…ち……」


戸塚「がはははは!よく言ったな、大した娘だ!!…死ねぇ!!クソガキが!!!」グシャッバキャッグシャッグシャッグシャッ


あおい「…ふた…つ……き…くん……ごめ……」



ザクッ


戸塚「死ね!死ね!!死ね!!!……あ?」ドロッ


山賊A「さ、佐吉…お前…!」


佐吉「はぁっ…!はぁっ…!と、戸塚さん…あんたには命を助けられた、それは感謝している…だが…」シュッ

ザクッ


戸塚「ぐあああぁぁ!!」

佐吉「これ以上…あおいが傷つくとこは見たくねぇ!!」シュッ

戸塚「ぐぎゃああ!お、おのれ、裏切る気か!?孫六、浩介ぇ!この裏切り者を斬れぇぇぇ!!」

孫六「…」シュッ

ザシュッ


戸塚「があああ!ば、馬鹿共が……」

浩介「あぁ…俺達は馬鹿だよ…こんな事になるまで…間違った事に目を背けてたんだから…よ!!」シュッ


グチャッ


戸塚「うぎゃああああぁああ!!!」バタッ

孫六「…死んだか」

佐吉「あおい!おい、無事か!?」ダダッ


あおい「……」

浩介「あの一騎討ちのすぐ後に大男に何度も殴られりゃ…な。おい、返事しろって!」


あおい「み…んな……助けて…くれたの…?」

孫六「いや…逆だ…おめぇが俺達を助けてくれたんだ」

佐吉「あおい、すまねぇ…痛かったよな…」

浩介「すぐに医者に連れて行ってやる、少し我慢し……うおっ!?」ドサッ

孫六「!?」ドサッ

佐吉「な…ん……?」ドサッ


あおい「……え……?」


戸塚「ふへへへ…『あのお方』から頂いた蘇生薬と一瞬で意識を失う霧…効果は抜群だな」ググ


あおい「ぁ…あ…」

戸塚「忘れていたよ結城あおい、お前の首を持ち帰れば『あのお方』から特別報酬を貰えるのだった…だが」バキッ


あおい「ぁぁぁ!!が…ぁ…」ゴロゴロゴロ


戸塚「楽には殺さん、たっぷりいたぶり…三人が目を覚ました瞬間にとどめを刺してやる!!」バコッベキッメキッ


あおい(あれ…なんか…身体が軽くなってきた…?)

(あおいさん、このままでは死にます。しかし逃げることもままなりません)

あおい(私…死ぬの…?)

(はい、身体の再生機能を向上させても治癒する前に死亡する限界点まで来ています)

あおい(…悔しい…)

(悔しい…?)

あおい(だって…二月君を身代わりに泥棒しようとした犯人に殺されちゃうのも…由佳にも、佳奈や由美にも会えないまま殺されちゃうなんて…悔しいじゃん)

(…あなたは植物型の鬼と戦った際は命乞いしていました、ですが何をあなたをそこまで…わからない…理解出来ません、あなたは死ぬのですよ?)

あおい(私だって…わからないよ、ただ…決めたんだ…由佳と約束した、絶対諦めないって。 この世界に出来た仲間の為に力になりたいって、そう決めたから……でも、もう死んじゃうなら…嫌だけど…悔しいけど……)

(………一度だけの提案です、二度目はありません)


あおい(え?)


(炎氷牙のマスターとして…全ての力を開放する権限を45秒のみ与えます。本来はあらゆる条件を満たさねば開放されませんが……特別です、命令して下さい)


あおい(ますたあ…?)


(今まで生命の危機に達した際に発動する自動防衛システムはほんの一部、使いこなせばあなたの『なりたいもの』になれるはずです)

あおい(なりたいもの…)

回想
おーぷん高
3年女子「いったぁーい!骨おれたぁ~!」

3年女子「ちょっとミキ平気~!?謝れよ2年のガキ!」

あおい「うぅ…そ、そっちがぶつかって…」

3年女子「あぁ!?」

あおい「うぅ……」

由美「今結城さんにぶつかってきたのは先輩からでしたよ、わたしハッキリと見ました」

3年女子「なにアンタ!?文句あんの?」

由美「文句?文句なんて人聞きの悪い事言わないで下さい、わたしは見たままの状況を話しているのですから。あおい、行きましょう」グイッ

あおい「う…うん…」


3年男子「おいてめえら、俺のカノジョにいちゃもんつけてんじゃねえぞ?おう」


由美「いちゃもんはだからそちらがつけているのでしょう?それに結城さんはこの階にいる近藤先生に用事があったから通りがかっただけの事、先輩方に用があったわけではありません」

3年女子「コイツせーとかいだからってカッコつけてんじゃねーよ!」

3年女子「二人まとめてやっちゃえやっちゃえ!」

3年男子「へっへ…だ、そうだからよ?恨むなよ、副会長さんよ!」


あおい「ゆ、由美!!!」

パシッ

3年男子「な…」

佳奈「はーい、そこまでそこまで。ねぇセンパイ達、もう勘弁してくれないかな?ねっ?」

3年男子「…お、おう…見逃してやる…」ガラッ


3年女子「えっ、ちょ、ちょっとぉー!」ガラッ


3年男子(一年前に一人で二年上の極悪なグループを潰した桜木佳奈…か、勝てるわけねぇ…)

教室

佳奈「ふーあぶないあぶない」

あおい「こわかったよぉ…ありがとう二人とも…」

由美「えーん、わたしもこわかったよぉ佳奈ぁぁぁぁ」ヒシッ

佳奈「どさくさに抱きつくな!あと絶対あたし止めなきゃあの先輩血祭りに上げてたでしょうが!」

由美「えーん、わからないよぅわからないよぅ」ヒシッ

佳奈「だから抱きつくなって!!」

あおい(私のなりたいもの……決まってるよ)


あおい(佳奈と由美…私は、私はあの二人に…!!)



戸塚「さて、と」ドサッ

戸塚「次は刀で徐々に身体を切り裂いていってやるとするか…」チャキッ


あおい「…」スクッ


戸塚「!?!?」

信じられない光景だった
痙攣し血まみれの小娘が何も無かったかのように立ち上がった
あまりの驚きに二歩下がり刀を構える戸塚
無意識の防衛本能、刀を構えたのは目の前にいる敵に怯えての反射的なものであった
(俺が…怯えている…だと!?)

戸塚の剣術は非凡な才を秘めており
あの一騎討ちを見ても、一対一であればあおいに負けない自信がある程の実力者である

だがその戸塚が恐れていた
目の前の、満身創痍な小娘に


「て、てめぇ!二月の事を逆恨みか!?あいつは自業自得だ、あいつの甘さ故なんだよ!俺は賢く立ち回っただけだ!!」

逆切れのような命乞いを繰り返す戸塚


「言いたいことは…それだけ?」


あおいはふらりと踏み込みとたったの三歩で数メートルの距離を縮め

「あなたを楽には死なせない…後悔しながら…朽ちていくがいい…!」


両手の刀で一気に六つの傷を刻む

「ぎゃああ!!」

南里二月の使う奥義「天狼刃」である

あおいは流れるような速さで双剣を振り抜き縦に十数回斬りつける、その技は…

「五拾八式、神魔滅殺…心臓は貫かないであげる」

五木が植物型の鬼を倒した技であった


「ぐえぇ…や、やめてくれ…これ以上やられたら死んじまう…!!」

戸塚は血だるまになりながらもふらふらと背を向け、あおいから逃げようとする
だがあおいは追わずに静かに目を瞑った

「…残り時間は?」

(稼働可能時間、残り12秒。終了次第一週間の強制冷却に入ります)

「…なら、決めるよ…!!」


あおいは青の刀を地面に突き刺し、右側に赤い刀をまるで抜刀術の構えの様に腰を落とした

(残り7秒)

擬似人格のカウントが始まると同時にあおいは抜刀術の構えのまま走り出す

「う、うわああ…たすけ…」

ほんの一瞬だった
逃げる戸塚に一息に追いつき
すれ違い様に斬りつける


「……?斬られない…?助か…」

戸塚が安堵したのもほんの一瞬、周りには風が吹き荒び全身を少しずつ斬り刻み始めた


「う…あああああ!?助けて!助けてくれぇ!もう蘇生薬がないんだ!!助けてぇぇぇ!!」


あおいは全く耳を傾けけずに青い刀を抜き取り納刀した

「奥義、叢雲……あなたの犯した過ちと共に切り裂かれるがいい」


「うっ…うぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!」

林に断末魔と肉が刻まれる音が響き渡った

あおい「はぁっ!はぁっ!はぁっ…!はぁっ…!お…わったの…?」ドサッ


男「娘が賊に襲われていたかと思えば…大したものだ。」


あおい「だ、誰…?!」

長尾景虎「越後守護代、長尾景虎。近くの村に立ち寄った所…南里家の内乱が終息したとの知らせを聞き様子を見に来た」


(ガガ……長尾景虎……ガガ…後の上杉謙信……ガガ…勝てる見込みは……ありません……ガガ……決して手出しを……)


あおい「この人…二月くんのお兄さんが言ってた…」


あおい「お願いします!二月くんを、二月くんを殺させないでください!!」

景虎「?二月くん…?」

あおい「南里家の二人は喧嘩したかもしれません…げほっ…でも、仲直りすれば…長尾さんの所に首なんか持っていく必要は…」


景虎「…あるのだ、臣従するという事は相応の覚悟が必要となる。私だけでない、家臣達にも示しがつくよう、信頼に足るモノが必要なのだ」

あおい「ぅ…ぅ……」

あおい「うわああああああ!!」ダダダダ

景虎「…」パシッ


あおい「あっぐ…」ドサッ


景虎「…そなたは優しすぎる、戦いから離れ…静かに暮らせ」

あおい「うっ…ぅ…えぐっ…」

景虎「…さらばだ」ザッ

続きは明日

>>393
制服JK「ゾンビだらけの学校から安価で逃げなきゃ…」
制服JK「ゾンビだらけの学校から安価で逃げなきゃ…」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1419188202/)

これかな?

??

(擬似人格をアンインストールする方法ですか?)

妙(あ、あんい…?何かはわかりませんが、私は去ろうと思うのです。…あおいさんに多くのご迷惑をおかけし、命の危機にまで陥らせてしまった…その責を負いたいのです)

(了解しました、では妙さんの戦闘データのみを残し人格は全てデリートし魂はエネルギーを吸収した後アンインストールという形で如何でしょうか?)


妙(ま…全くわからないのですが…でも擬似さんならばお任せ出来ます)

(では早速開始致します、準備はよろしいでしょうか?)

妙(……一つだけ、いいですか?)

(はい、できる範囲であればお申し付け下さい)

妙(不思議な力を秘めていると見込んでの頼みです、私を……)

南里領地 南善寺
深夜

由佳「すぴーすぴー…」


妙(……)

由佳「すぴーすぴー…」

妙(…)ソッ

由佳(…?わああ!?)

妙(こうして会うのは久方ぶりですね、由佳さん)

由佳(え?え!?えっと…)

妙(話せば長くなるので多くは語れませんが、今私はあなたの夢の中に侵入しこうして直接会話が出来ているのです)

由佳(う、うん…なんもわからない…)

妙(ふふ…私もですわ。今のも完全に受け売りですから)

由佳(まあ…いっか。あたしの所にわざわざ来たって事は、何か用があるからだよね?)

妙(ええ。私はこれからあおいさんのもとを去り輪廻の輪へと戻る所存です)

由佳(昨日の事があったから?)

妙(それもそうですが…)

妙(先生があなたに斬られたと知った時、私は由佳さんをただ強さを求める辻斬りのような方だと思い込んでいました。そして必ず仇を討つと決心したのですが…)

妙(あおいさんに親身となって話を聞き、本気で彼女を想う姿を見て…私の決意は鈍りました。いえ、ほぼ薄れていたのかしら…滝田一刀流は弱者を虐げる者から守る流派、私怨の仇討ちは先生の本意ではないと…)


由佳(あおいの身体を乗っ取ってまであたしと立ち会った理由は仇討ちじゃなかった、の?)


妙(半分は…もう半分は……嫉妬、だったのでしょうね…羨ましかった、同性の同年齢の友人がいる事が…)

由佳(なら…簡単じゃん!妙さんいや妙もあたし達の友達になってよ!そうすれば…)


妙(ありがとう…その言葉、気持ちだけでもありがたいです。ですが私はあおいさんの身体を奪い、由佳さんを斬ろうとし…さらには無闇に兵を斬り…刀のせいではなく私の弱さ故の失態です)

由佳(人間過ちの一つや二つあるじゃない!妙、あなたは一度死んだかもしれないけど…ええとよくわかんないけどあの赤い刀の中に居れるんでしょ!?だったらそのまま残っていればいつか戻れるかもしれないんだし…!)

妙(…本当にありがとう、私…そろそろ行かねばなりません……また決心が鈍ってしまいますから…)

由佳(妙…)

妙(あおいさんを、よろしくお願いします。あの純真な笑顔を…守ってあげてください)

由佳(待って!)

妙(?)

由佳(正直…今のこの夢が本当かもわからないし大体刀の中に人が存在するだなんて信じられない…)

妙(ふふ…でしょうね。私自身信じられない出来事ばかりですから)

由佳(でもこれがもし本当なら…約束して!妙、いつか…いつかどこかで、この夢の中でもいい!また…あたしと手合わせしてよ!今度は…命を奪い合う事なく…)

妙(……はい、それまで鍛錬を続けますよ、次は…負けませんから!)

由佳(うん…!)

南善寺

佐吉「お、いたいた…若え女が寺で野宿たぁよ…」スタスタ

由佳「すぴー…すぴー…」

佐吉「おーい、アンタが暴れまわってた由佳だろ?起きろって!」ツンツン

由佳「すぴー…!!!」ガバッ チャキッ

佐吉「おわっ!?」

由佳「誰…!?」

佐吉「あ、怪しいモノじゃねえ!俺の名前は佐吉、元祖南里の元配下だが…」

由佳「佐吉…?佐吉ってアンタ…!あおいをさらった山賊!?」チャッ

佐吉「うおっ!ま、待て!構えるな!あの手紙か?あの手紙なら嘘だ!俺はまだあおいと婚姻してねえ!」

由佳「あおいとか気安く呼ぶなよ、なあ?」チャッ

佐吉「ま、まま待て!えーとあいつの姓はなんだっけか…あぁ、結城だ!結城がだな!」

由佳「…結城?」

佐吉「結城、ちゃんがだな!」

由佳「…ちゃん?」

佐吉「あーめんどくせえ!とにかく来てくれ!あおいが大怪我しちまってよ、あんたを探してたんだ!」

由佳「!!馬鹿、何で早く言わないんだよ!!」ダダダダ

佐吉「いやだってよ…」タタタ

??

(?妙さん、泣いているのですか?)

妙(…擬似さん、お待たせしました。私は思い残す事はありません…お願いします)

(了解。それではアンインストールの準備を開始します)

妙(擬似さん…私が輪廻の輪に還ったら、先生の所へ行けるのでしょうか?)

(死後の世界については私にもわかりません。ですが仮に行けたとしても妙さんの戦闘の記憶および記録データはこちらが吸い出しますので滝田信雄と対峙出来ても記憶を失っている為、師と認識出来ないでしょう)

妙(そう……残念です)

(アンインストールの準備完了、これより開始します、最期に何かありますか?)

妙(由佳にも伝えましたが…擬似さんも、あおいちゃんの事を…お願いします)

(了解、使用者をナビゲートする責任を果たすようプログラムされている為その要望には応える事が出来ます。)


妙(ふふ…最後まで不思議な人ね…)

どこかの遠い場所
綺麗な空がひろがり綺麗な川が流る静かな静かな河川敷

小さな小屋から中年の男性が伸びをしつつ河原へと進む

無精髭を一度触り河原に刺した木刀を抜き、一心不乱に素振りを行う

それが彼の一日の、いや彼の全てだった

今日もまた起きて素振り、日が沈めば寝る

「ここ」に来てからひたすらその繰り返しであった


「ここ」には空腹も無ければ病気や怪我もない…老いもないここは彼にとっては絶好の修行場所であった


どのくらい振り続けたのか、熱くない太陽が南中に動いた時

彼は気配に気付く

「ここ」に来てからは他人に出会った事は無い。彼は警戒混じりに気配の方向へ振り向く

「!!」


「お前は…」


気配の正体は「ここ」に来る前の知り合い、血の繋がりが無くとも親子の絆が存在するという事を教えてくれた少女であった

「何でここに…」

「ここ」に来た理由はわかっていたが聞かずにはいられなかった


「えっと…私…」

少女はおずおずとして答えようとしなかった

十年共に過ごした絆からか、彼はすぐ違和感に気付いた


「記憶が…無いのか?」


「…」

少女は不安げにあたりを見回した後静かに頷いた


「悪いことは言わん、他の場所へ行け。ここなら悪い輩も現れんだろうからな」

彼は振り返り素振りを再開しようと引き返した


共に過ごした十年、絆は深まったが教えてきたものは剣術、弱者を救う流派でも殺人術…彼は記憶を無くしているならば少女には静かに暮らして欲しい
「ここ」ならばそれも容易いはずだ

彼は木刀を掴み上段の構えからの振り下ろしを繰り返した

再び時が進む…
少女はまだ素振りを見つめていた


「去れと言ったはずだが?」

彼は冷たく言い放つ
その裏には剣ともう関わって欲しくないという優しさの裏返しでもあった

「いやです…」

少女は目を逸らさず言い返す


「…ならば何故興味を持つ?」

「ここ」に来ても、記憶を失っても家族を殺された怨みから悪を許せず剣術を求めるのだろうか?
彼は悩んだ、納得のいく答えが欲しかったのだ

「…友達と約束してるんです、命のやりとりではない…死合ではなく、試合で勝負しようって、約束したんです」

驚いた、少女に友人がいない事は彼が一番知っていたからだ
19歳ながらも大人びた物腰や男勝りの剣術、実直過ぎる正義感故に同年代の友人は一人として居なかった

「だから…剣を教えて下さい、友達はすごく強くて格好よくて…優しいんです。記憶は無いけど…それは覚えているんです、あの抜刀術を超えたい…だから!」


彼は察する
何があったのか何故「ここ」に来たのかはわからないが少女の親友は…自分を斬ったあの娘だという事

嫌な気分はしなかった、むしろ感謝気持ちでそのまま彼は少女の頭をぽんと撫でた


「なら…一緒にやるか!はじめはひたすら素振りだが…ついてこれるか!?」

彼はニコリと笑い少女にハッパをかける

「うん…いや…はい!先生!」

少女は目を輝かせ彼の木刀を受け取った


「じゃあお前がこの俺…滝田信雄の一番弟子だな。名前を教えてくれ」


「はい!私の…私の名前は…滝田妙、滝田妙です!」

南里家 旧城

由佳「あおい!!」ガタタッ

孫六「!…うお!」

佐吉「はぁはぁ…速すぎだろねえちゃんよ…」

浩介「うるせえよお前ら!やっとあおいの様子が落ち着いたんだからよ」

あおい「すー…すー…」

由佳「あおい…よかった、無事で…」

佐吉「あれ??顔の腫れ無くなってねぇか!?」

孫六「あぁ、水布で拭いたり傷薬を塗っただけだったが…うまくひいてくれて良かった」

浩介「…だな、少しひっかかる所もあったが…身体の怪我もかなり良くなっているそうだ。医者が言うから間違いないだろう」

由佳「…二人は?」

孫六「俺は孫六。元祖の南里家に仕えてたが…さっき二代目へ投降した」

浩介「浩介。同じく元祖からで投降したんだが…一也殿直々に医者と薬を渡すから結城あおいの看護及びあんた…由佳を探しあおいと会わせろってお達しでな」

由佳「孫六と浩介…元祖南里家の中核を担う家臣ね……あおいを救ってくれた事はありがとう。でも…」

由佳「南里二月は明後日にも処断されてしまう、あんた達…どうするつもり?」

孫六「そりゃ決まってるだろうよ」

浩介「俺ら中核の家臣三人の首で二月殿の処断を中止するように頼むつもりだ、それが一度裏切った償いだ」

由佳「死ぬつもり…?」

孫六「俺たちは二月殿を裏切り逃げようとした、腹心の戸塚に俺らはかつて助けられた恩があるとはいえ、言いなりになって…な」

浩介「夜が明けたら俺らは一也殿の元へ赴く、あんたはあおいの側にいてやってくれ」

由佳「……まだ出会ったばかりだけど。あんた達が死ぬのは…いい気分しないね」

浩介「ありがとよ、俺もあんたがあおいの親友ってのお似合いだと思うぜ?」


由佳「…」

続きは明日

>>418
このスレからは名前と設定の一部のみを引き継いで使用していますが
今回とは全く繋がり無いのでご了承下さい

翌朝
南里家旧城

浩介「よう、よく眠れたかい?」

由佳「ん……あぁ、寝ちゃったのかあたし…」

浩介「そりゃ昨日あれだけ暴れ回りゃ疲れるだろうよ。ほら飲み薬だ、少しは傷が癒えるぜ?」シュッ

由佳「あぁ…ありがと」パシッ

浩介「昼頃にまた医者が来るからあんたも診てもらうといい、女の先生だしな」

由佳「ははは…」

浩介「?どうした?」

由佳「いや…昨日までは敵でさ、元祖の奴らは全員斬り殺してやろうかと思ってたんだけど…こうも気を回してもらうと、さ」

浩介「逆に足りないくらいだろ、俺が…俺らが二月殿を裏切らなければあおいもこんな目に遭わなかったろうしな…」

由佳「そういえば、その戸塚って男はどうなったの?」

浩介「……俺が二人を先に行かせたのは、それも含めて…あんたに話さないとと思って残ったんだ」スッ

由佳「何かあったの?」

浩介「戸塚は俺たち三人と元祖南里家の金品を奪い、降伏の使者を送りその隙に国を去ろうとした」

浩介「意気揚々と計画が成った事を喋る戸塚の前に、あおいが現れたんだ」

由佳「話を聞いていたあおいは怒って戸塚に斬り掛かった、と」

浩介「ああ。だが様子がおかしかったんだ、あんたとやった一騎討ち時とは別人みたいでよ、動きが素人そのもの。戸塚に当てることも出来ずに素手の奴に叩きのめされたんだ」

由佳「…妙だからなぁ…」

浩介「うん?」

由佳「ああいや何でも」

浩介「あんたには怒られるかもしれねえが、俺らは戸塚を止められなかった。三人は奴に一度命を助けられている…それを裏切るのは自らの命を否定するも同然、そう思うと…あおいを助けられなかったんだ」

由佳「…」

浩介「だが佐吉、あいつはあおいの事が好きだからな。想いが上回ったみたいで戸塚の背を突いたんだ」

由佳「あいつが?」


浩介「ああ。おっと安心してくれあいつの片想いであおいとは何もないはずだぜ?あの適当な手紙書かされたのも俺だしな」

由佳「ふぅん…」

浩介「俺と孫六も…佐吉を見たら止まらなかった、結局…戸塚を裏切ってしまったんだ」

由佳「裏切った…というよりも目を覚ましたって方だと思うけどね。でもそれで戸塚は死んだわけで、話は終わりじゃないの?」

浩介「いや…ここからなんだ…」

由佳「?」

浩介「三人であおいを助けようとした瞬間、突然霧に包まれて俺達は気を失った……が俺だけは完璧に吸い込まなかったせいか意識だけはかろうじて残っていたんだ」

浩介「ここから先はあり得ない事だらけだった、俺らが滅多斬りした戸塚が立ち上がり笑っていたんだ、平然な顔をして」

由佳「!生き返ったって事…!?」

浩介「「あのお方」から貰った蘇生薬で生き返れたと話していた」

由佳「あのお方?」

浩介「戸塚の主人らしい。俺らは見たこともないからよくわからないが……多分だが、あおいの命を狙っているはずだ。結城あおいの首には報奨金がかかっているとも話していたからな」

由佳「あおいの素性を知る者…」

浩介「情けねえが俺は声も出せずにあおいがまた殴られる様を見ることしか出来なかった。だが…これもおかしいんだ」

浩介「俺はかつて文官だったが何度も処刑や私刑で殴り殺された人間を見た事がある」

浩介「……あおいは生きていたんだ、確かに苦痛な悲鳴や涙を流していたが…大柄な戸塚に何度も、この華奢な小娘が殴られれば…とっくに死んでいる筈なんだ」

由佳「…そこは思い当たる節はあるね。最初に出会って鬼を一緒に倒しに行った時にね」

浩介「あぁ、やはり鬼を倒したのは本当だったのか。まぁあれだけ強けりゃ当然か」

由佳「あおいは8尺大はあるでかい鬼に…建物の化粧柱で腹を殴られていたの」

浩介「んなっ…あんなので殴られたら…!」

由佳「ええ。即死よ、あたしも刀で受けた筈の攻撃で致命傷を負ってしまったくらいだし…」

浩介「まさか…」

由佳「嘔吐しながら…立ったの、由佳の仇を取らなきゃって叫びながら、ね」

浩介「??あんたも死んだのか!?」

由佳「い、いや…思い切り吹き飛ばされて全身の骨が折れたくらいだったし…」

浩介「死にかけじゃねーか!よく勝てたな…」

由佳「あおいのお陰だよ、本当はあたしはあそこで死ぬ所だったしね。あの娘がくれた飲み薬で回復してね…」

浩介「…ん、あおいがくれた飲み薬で回復した?いやいやあり得ないだろ、飲み薬で死にかけから回…復……」

由佳「?ま、まぁ…あおいは不思議な物たくさん持ってるしさ、服もそもそも…」

浩介「…この話は後にしよう、あおいの容態含めてまとめて話す」

由佳「あ、うん…」

浩介「戸塚が一度手を休めた時にはあおいの小さな顔は倍に膨らみ脚や腕の剥き出しの肌はボロボロに擦れて肉がドロリと剥けていた……でもあおいは生きていた、涙を流しながら、悔しいって呟いて…」

由佳「…」

浩介「戸塚があおいを離し首を斬ろうとした時……またあり得ない事が起きた。死にかけ、いやもう死んでいるであろうあおいは攻撃をかわし、平然と立ち上がり双剣を構えたんだ」

由佳「…妙…?」

浩介「全てが違うんだ、あんたと一騎討ちしていた時よりも遥かに隙がなく…構えを見ただけでわかった、あおいが勝つと…」

由佳「妙じゃない…構えは一刀流じゃなかったの?」

浩介「いや、右の剣を左にひきつけ、左の剣を右側に寄せた構えだった。あおいは俺らと出会った一ヶ月、一度もそんな構えを見せたことはなかったんだが…」

由佳「いや…あたしも見たことないよ、そんなあおいの構え…」


浩介「そこからは一人でぼそぼそと呟きながら圧倒するばかりだった。戸塚はあんたと一騎討ちしていたあおいくらいの腕前なはずだが…」

浩介「 格が違った、二月殿が苦労して会得した奥義や…シンマメッサツとかいう凄まじい斬撃、とどめにはムラクモ…確かあんたの奥義だよな?アレをいとも簡単に出して…戸塚を切り刻んだんだ 」


由佳「え…!?叢雲を…!?しかも神魔滅殺って五木の……」

浩介「その後に長尾景虎が現れたが…元?に戻ったあおいががむしゃらに飛びかかるが頬をはたかれて、景虎は去り…あおいはそこで倒れたんだ」

由佳「で、今に至るわけね」

浩介「まあな。…ここまでの話を聞いておかしいと思ったよな?」

由佳「え…そりゃあたしの叢雲をいつの間にか出せる事が一番驚いたというか衝撃的というか…」

浩介「……今のあおいを見てくれ」

由佳「ん…すやすや可愛い寝顔で寝てるけど……あ…顔の腫れが…無い!?」

浩介「腕や脚の深い傷も無くなっているらしい、医者が言うに…今日の夜には目を覚ますんだそうだ」

由佳「…」

浩介「先程の話に戻るが、由佳。あんたが貰った飲み薬…俺の憶測だが戸塚が貰った蘇生薬、あれと同じような物ではないのか…?」

由佳「…」

浩介「正直夢みたいな出来事の連続でにわかには信じられないが…あおいや…いや…あおいの背後にいる何者か、そいつと「あのお方」とは何かしらの関係があるかもしれん」

由佳「ねえ、あなたあおいが…独り言言っている姿を…見たことない?」

浩介「あるぜ、あおいが持ち運んでいる不思議な袋に向かって話していたり双剣にもたまに声かけてたな…」

由佳「やはり…」

浩介「俺はあおいが何か企んでいたりするとは思えん、だが……利用されている可能性は大いにある。俺が言わずともだろうが、あおいの身の回りには気をつけてみてくれ」

由佳「ありがとう、正直に話してくれて…あたし自身も引っかかっていた部分あったから、これで腹は決まったよ」

由佳「あたしがいる限りは…あおいを好きにはさせない…!!」

浩介「ああ、すまないが頼んだぜ。さて…俺はそろそろ行くからよ、じゃあな…あんたとはもうちょい話したりしたかったがよ、さよならだ」


由佳「……あおいはあんた達が死んでも悲しむと思うけど、ね…」

浩介「…仕方ない事さ、俺らが二月殿を売らなきゃ良かった話だからな。それじゃ、達者でな」ガタッ


由佳「……」

二代目南里家
地下牢

佐吉「…二月…さん」

二月「佐吉か、無事で良かった。孫六や浩介も無事か?」


佐吉「…浩介はあとから、孫六は一也さんと話しています…」

二月「そうかそうか。三人は若輩者の僕を支えてくれた…もう一つの兄の様な存在だったからな。あの砲撃や混乱で死なれたらと思うと心配でな」

佐吉「どうして責めないんすか!?」ガタタッ

二月「…」

佐吉「俺らは裏切ったんすよ!?いや最初っから戸塚の片棒を担いでいた!!」

二月「だが…こうして戻ってきたじゃないか、それだけでも…」


佐吉「駄目だ!!」

二月「!?」

佐吉「それじゃ…駄目なんだよ…なんでアンタはそんなに…優しいんだよ……」

佐吉「正直に話します…俺、あおいの事が好きなんです…」

二月「…知っていたよ」

佐吉「戸塚から計画の内容を聞かされたのは戦の十日前でした」

佐吉「二月さんを差し出せば一也さんは兵に手出しをしない、降伏の使者を送れば真っ先に二月さん捕らえに行き首を斬るだろう。その隙に俺達は国外へ宝を盗んで逃走」

二月「…」

佐吉「俺…俺…!俺!!それを聞いた時!!………一瞬…良かったって思っちまった!!あおいがあんたの事が好きだってのも本当は気付いていた……だから…だから…」


佐吉「死ぬべきなのは俺なんだ…俺らがあんたのかわりに首を差し出す…だから二月さんはあおいと……!」


二月「それは出来ない」

佐吉「な?!」

二月「そもそも…僕ではあおいを幸せには出来ない。あの娘にはもっと相応しい人がいる…そう思っているからだ」

佐吉「なんで…なんでだよ…なんでそんな…」

二月「元々兄と決めていた事、長尾景虎は義理堅い故に約束を反故にすればそれを良しとはしない、南里家の兄弟…敗将となった賊軍大将の首を差し出すと決めたからには…わかるだろう?」

佐吉「くそっ!かっこ…つけすぎだろ!!なんでそこまで言っちまうんだよ!!」

二月「…一つだけ頼みたい事がある、聞いてくれないか?」

佐吉「頼み…?」

二月「彼女…結城あおいは日の本でも名を残す存在になるかもしれない。どんな事でもいい、彼女の噂を聞いたら墓前に…僕に教えてくれないか?」

佐吉「…」

二月「約束してくれれば…僕も安心して逝ける、南里家は兄上なら問題なく取り仕切れるだろうしね」

佐吉「…くそ……あんた…戸塚以上に鬼…だな…!
!そんなの言われたら断われねぇし、殉死も出来ねえじゃねえか!!」

二月「孫六、浩介にもよろしく伝えてくれ…君たちと過ごした半年間…楽しかったよ」

佐吉「くっ…そっ……くっそ……」

夕方
一也邸
中庭

一也「…南里二月、我が弟…お前は賊軍大将として今から打ち首とする…何か言い残す事は無いか?」

二月「わが命 残すは塵の風なれど 心に宿る 三つ巴と葵花」

一也(あおい花…あの娘、か…)

一也「安心しろ、結城あおいは無事だ。怪我も完治に向かっている、思い残す事はないな…?」

二月「はい。…兄上…いえ一也殿…南里の民を…導いて下さい」


一也「あぁ……」シュッ


ズバァッ

南里家旧城


由佳「雨…降ってきたか…」

あおい「ん…あれ…?」

由佳「あ!良かった起きたぁ!」ガバッ

あおい「由佳…!こっちこそ良かった、由佳が…無事で…」ギュッ

由佳「…あおい、怪我はどう?どこも痛くない?」

あおい「うん…ちょっと頭がぼーっとするけどね…」


由佳「浩介達から聞いたけどまた無茶したんだって?ダメだよ突っ走ったら…」

あおい「ごめんごめん…で、こーすけって誰?」

由佳「ええぇ…あの山賊達!三人組の!!」

あおい「え?あぁ、Aさん達かぁ」

由佳「エーサン…??」

あおい「そういえば三人は?それに………!!!そうだ…行かなきゃ!!」ガバッ

由佳「えっ!?ど、どうしたのあおい!」

バタン!

あおい「二月くんが…!二月くんが!!」パチャパチャパチャ

一也邸前
夜 大雨

あおい「はぁっ…はぁっ…はぁっ…Aさん!BさんCさん!」バシャバシャバシャ

孫六「!?あおい……」

佐吉「あっあおい…う…うおおおおおおおおおおん!すまねぇ…すまねぇぇ…」

浩介「馬鹿野郎…いい大人が…泣く…んじゃ……ねぇ……」


あおい「ど、どうしたの?そんな大泣きしちゃって…何かあったみたいじゃん…」

孫六「…」スッ

あおい「これ……」

孫六「二月殿の使われていた刀だ。…あおいに渡してくれと言われた」

あおい「あ…はは…Aさん…そんな言い方紛らわしいじゃん…それじゃまるで……」

孫六「…夕刻…処断された…二月殿はもう……」

あおい「…うそ…ウソだよね?ドッキリ、ドッキリだよね!?私をまたおちょくったりしてさ、もー人が悪いんだか…ら…」


佐吉「うぐ……すまねえ…あおい…」

浩介「…」

あおいが旧城を飛び出してから二十分程遅れて由佳は一也邸へと到着した
遅れは行きにずぶ濡れとなっているあおいの為に帰りは少しでも濡れぬよう離れた人里で傘を買いに出かけた為でもあった

あおいは一也邸から少し離れた小高い丘に背を向け佇んでいた
近寄るごとに彼女の肩は小刻みに震え、すすり泣く声も由佳の耳へと入る
一歩一歩心が痛む
由佳もまた後悔していた
もし自分が中央にいれば、戸塚を斬ればこの結末は無かったのかもしれない
あおいの小さな背中はもう近くにある

自分がさしていた傘を捨て、由佳は優しくあおいを抱きしめる

「うっく…ひくっ…?!…由…佳?」

目を真っ赤にしながら由佳の顔を見つめ再び泣き始める

「ふた…ふたつき…うぐ…ふたつきくんが…えぐっ…死んだって…死んだって…うぅぅぅ…」

由佳はそのままよしよしと頭を撫でぎゅっと抱き寄せる

「…あおい、好き…だったんだね。南里二月の事が」

あおいは由佳に顔をうずめ、小さく頷いた

「これから…この日の本は争いが絶えなくなると思う。幕府の威光なんて全くないし、小さな国の小競り合いだけでなく大きな国も動き出そうとする」

「そうすれば…こういう身内同士の戦や…一揆のような民と領主の争いが増え…あおいのように悲しむ人がもっともっと増えていく」

あおいは小さく頷く
勉強が苦手な彼女でも「戦国時代」は知っている、これからはこの裏切りが渦巻き身内すらも斬らねばならない血みどろの時代がやってくる…

「あおい…あたしが側にいる。もうどこにも行かないから…ずっと一緒…だから…」

由佳の瞳からも涙が溢れる
だが抱きしめる力は緩めることなく、離さないように優しく力強く包む


「うぅぅぅ…うああああああああああああああああああああああああん!!!」


あおいの、少女の慟哭が南ケ原に響き渡った




数日後
南里家は国人衆北海衆と共に長尾家の傘下へと降り併合する

南里一也は領地をそのまま任され善政を敷き二度と領内の争いは起こる事が無かったという



南里家旧城

あおい「AさんBさんCさん、お世話になりました」ペコ

孫六「へっ、最後までよくわかんねぇ名前のままでなあ」

浩介「まあ…あおいらしいっちゃあおいらしいな。ちょっとお馬鹿なくらいがちょうどいいってな」

あおい「あー、今バカって言ったー!聞いた由佳!?今バカって言われた!」

由佳「いやまあ「お」がついてたしさ…少しはいい意味なんじゃない?」

あおい「おぉ、それはそうかもってよくなーい!!」

浩介「わはは、怒った怒った」

佐吉「……」

孫六(おい、最期なんだから湿っぽくしてねえで送ってやれよ)

佐吉「…」

浩介「じゃあよ、お馬鹿さんとかどうだ?さんがついてかしこさが上がった気がするだろ?」

あおい「ううむ…って全然しない!全然しないから!!バカにしてるでしょさっきからー!」

由佳「おーおー、元気だねぇ」

由佳(まぁ三日も泣きっぱなしだったし…立ち直ろうと頑張ってるのかな…)

由佳「じゃあそろそろ…三人とも色々ありがとう、また来るからさこの南里の地に!」

孫六「おう、いつでも来な。うちの殿も歓迎するはずだしな」

浩介「次会うときはぴーぴー泣く泣き虫直しとけよ?あおい?」

あおい「ぴ、ぴーぴー泣いてない!もうたくさん泣いたからしばらく泣かないし泣けないもんねー!」

由佳「そういうもんでも…まぁいいや、それじゃあおい…行こう?」

あおい「うん…それじゃ、またね!」

佐吉「あおい!!」

あおい「わっ!ど、どうしたのビーさん?」

佐吉「おれ、お前の事ずっと見てるから!そんで、必ず二月さんに伝えっからよ!!だから絶対死んだり諦めたりすんじゃねえぞ!!だから…だから…うおおおおおおおおおおおおおおお」

孫六「また泣きやがった…しかもうるせえ」

浩介「泣き虫はここにもいやがったか…」

あおい「ビーさん…ありがと、色々わがまま言ったりした時も…手伝ってくれてありがとう。そうだ、私に何かお礼出来る事あれば何でも言ってよ、ビーさんには特にお世話になったし…ね?」

佐吉「……何でも…?」

由佳(嫌な予感が…)

佐吉(何でもっていうからにはもうあれかあおい俺に抱かれろ!俺が慰めてやる!これしかねえ!!)

浩介(って滅茶苦茶顔に出てやがる……そしてこの状況をあおいだけが読めていねぇ)

あおい「んー、あっ、お金!お金はゴメン無理なんだよね…持ち合わせないからさ!他なら何でもいいから!」

由佳(いやいや…それじゃほんとにコイツそっち方面に走るって……)


佐吉(あおいどういう風に脱がせばいいんだろうか…白い上の着物は?脚に巻いてる布とかあれどうなってんだ??いやむしろ自分のやり方で脱がせば……)

孫六(おい浩介…)

浩介(わかってる、言ったら強制的に止める…まかせとけ)

佐吉「あ、あおい!じゃあ決まったんだが…」

あおい「うん、うん」

佐吉「さっきも言ったが…お前の無事、それが一番のお礼だ。結城あおいの武名を聞く事…それだけでいいんだ」

由佳「!?!」

孫六「な…」

浩介「…なんだと…!?」

あおい「ぐすっ、それ反則だよぉビーさんそんなこと言われたら…また泣きそうになっちゃう…」

由佳「あーあー!じゃああたし達は出まーす!それじゃ、それじゃ!」グイッ

あおい「いたたた、えーと、じゃあねー!またくるからねー!!」



孫六「…行ったか」

浩介「やるじゃねえか下半身獣男佐吉、よくやった!」

佐吉「胸くらいは……触っておけばよかった……」

孫六「…」
浩介「…」

続きは明日

街道
あおい「ふぅ、もうすぐ日が落ちそうだね」

由佳「ちょうど宿あるし今日はあそこに泊まろっか。お金はあたし出すから安心しなよ」

あおい「あ…ごめん由佳…お金あるはずなんだけど在り処がわかんなくってさ」

あおい(この間から十三さんの反応ないからバッグから出せないんだよね…)

由佳「あーいいって、気にしないで!結構野試合とかで見物客多いとおひねり凄くってさ、あおいもやってみなよ野試合!」

あおい「あ、あはは…私は弱いから無理だよ…」


宿屋

由佳「ふぅさっぱりしたぁ!」

あおい「ご飯も美味しかったしお風呂も綺麗だったね、お腹いっぱいだよ」

由佳「まだこれから七日くらいは歩くからね、あおいもゆっくり休んでまた明日から頑張って歩こう、ね?」

あおい「うん…そだね」

由佳「なんか眠くなっちゃったし…あたし寝るからあおいは気にせずやりたい事やってていいよ!おやすみ~」ガバッ

あおい「え、もう寝るの??」

由佳「すぴー…すぴー…」

あおい「早っ!寝るの早っ!!…どうしよっかな…」

あおい「十三…さん?」

あおい「………擬似さん…も反応しないよね……」

あおい「…」

あおい「…二月…くん…」

あおい「うぅ…ひっく…ぐすっ…」


由佳(…あおい…)


一也邸

孫六「浩介、まだ起きてんのか?」ガラッ

浩介「あぁ。長尾家への書状を任されたからな、この間の佐吉に書かされたあんなのとは力の入れようが違うからよ」

孫六「そうか…」

浩介「あの二人は今頃寝てやがんのかね?」

孫六「あおいと由佳か?いつも斜に構えてるお前が他人の心配とは珍しいな、わっはは!」

浩介「うるせえよ。一つ…引っかかる事がな」

孫六「引っかかる事?」

浩介「俺が文官として仕えていた国は精強な四天王と呼ばれる将が居て、それに従う親衛隊が複数組まれていた」

孫六「ん…ああ、西に位置する西原家だったな」

浩介「だが…四天王は親衛隊もろともに一人の人間…それも女に全滅させられた…って話もしたよな」

孫六「小川もになんたらか?」

浩介「小川=モニカ=真由、だ。あれはまさに鬼神…まるで…」

浩介(戸塚を斬った時のあおいのようだった…)

孫六「で?その作り話みてぇなもになんたらがどうしたんだよ」

浩介「あの特徴的な服装…噂を聞いたんだ。……奴は今、北陸にいると」

孫六「北陸ってぇと……あいつらが向かった先か!」

浩介「ああ、万が一出会う事があれば…あいつらは確実に殺される」

孫六「もになんたらは辻斬りなのか?」

浩介「辻斬り…それならまだいいさ」

孫六「何…!?」

浩介「あれは…人間そのものを全て滅しようとしている…由佳も確かに強いがあの恐るべき力には敵わない。…だから逢わない事を祈るしかない」

孫六「…」

翌日
宿屋外

あおい「よっ…はっ…と……」ブンブン

由佳「ふぁ…ぁ…おはよあおい…頑張るねぇ朝から」

あおい「由佳…よっ…おは…ようっと!」ブンブンブンブン

由佳「おぉ、すごいすごい!振り回してるじゃんあおい!」

あおい「う…んっ…コツを…掴めば…はっ!」ブンブンブンブン

あおい「よいしょ……コツをね、二月くんが…教えてくれたんだ」

由佳(うっ…しまった…)

由佳「よ、よし朝ごはん食べよ!出来てるみたいだからさ、さあさあ!」グイッ

あおい「あ、うん。いくいく」


街道

由佳「よーっし!出発!あおい、元気出していこう!!」バッ

あおい「うん、いこいこ!って…由佳?どんどん先行っちゃって…」

由佳「あおいと~手を繋ぎ~あたし達は~行くの~ほ~くり~くへ~」

あおい「ちょ、ちょっと由佳!待ってよ!てかその横の変な紙の人形は何!?!」


五木「あれは俺の式神よッ!」


あおい「ひゃああああああああああ!!!?」

五木「えーいうるさいッ!静まれッ!静まれッ!」

あおい「ひゃいっ!…なんだ師匠か…」

五木「何だとはなんだッ!静まれッ!!」

あおい「し、静かにしてるよぉ…」

五木「あの間抜けな歌を歌う女は放っておけい、貴様は俺と来るのだッ!」

あおい「え…い、いやです…由佳と一緒に行きたいし…」

五木「静まれッ!!!」

あおい「うぅ…」

五木「貴様ッ!!貴様に拒否権はないッ!!来いッ!!」グイッ

あおい「い、いやだぁぁ!由佳ぁ~助けてえぇぇ~!! 」ズルズル


五木「わははははははははははッ!泣き喚いても無駄よッ!!あの馬鹿みたいな歌を歌う女は紙式神を貴様と思い込んでいるッ!!三週間は暗示は解けぬッ!!絶望せよッ!!」

あおい「いゃあああああああ~!!!」ジタバタ


山中

あおい「ふぅ…ふぅ…疲れた…もう歩けないよぉ…」

五木「貴様ッ!何をへばっているッ!!ここに来た理由は一つッ!修行ッ!修行なのだッ!!」

あおい「しゅぎょう…? 」

五木「そうだッ!!貴様の南里家における一連の行動は見たッ!!結果…貴様は不合格ッ!今のままで最後の鬼を倒すなど…愚の骨頂ッ!!!」バババッ

あおい「だ…だって…由佳と同じとこじゃなかったから…」

五木「ほう?もしそうだとしたら…貴様は二月を斬り、あの山賊三人衆も斬る所だったのだぞ?」

あおい「う……」

五木「それどころか戸塚を止める者はおらずに南里家は共倒れになり…貴様らは奴の弓伏兵となる。それが貴様の理想だと?」

あおい「…」

五木「だから俺が言うように貴様は元祖南里家で良かったのだッ!だが…一番弟子と一騎討ちするとは何事かッ!!滝田妙みたいな流派を使いおってッ!!」

あおい「た、妙さんだし……」

五木「静まれッ!」

あおい「うぅぅ…」

五木「まったく…俺が天才的精度で北海衆の大筒で援護したから良かったものを…」

あおい「えっ…あれ、師匠なの…!?」

五木「うむう、我ながら見事な砲撃だった。感謝しとけよ弟子ッ!?…ぐわっ!何故叩くッ!」パチン


あおい「ひどい…ひどい!!あの大砲のせいで……二月君は…!!」

五木「ほう?俺の大筒のせいで奴は首を斬られたと?」

あおい「…だって…」

五木「俺が大砲撃たずにいれば貴様ら小娘二人は戸塚の弓で踊り死んでいた、二月はそのまま降伏され首を落とされる…違うか?」

あおい「…」

五木「貴様があの男に入れ込むのは勝手だが…甘ったれるなッ!!南里二月が死んだのは運命ッ!!恨むのならば…それを覆せなかった自分と抗おうとしなかった二月を恨むがいいッ!!馬鹿弟子めッ!!!」


あおい「う…うわあああああああああああああん!!!!」ダダダダ

五木「…」

街道
由佳「あおい!団子団子!団子食べよ?」

式神「ウレシーウレシー」

由佳「ふふふ、じゃあここ座ってて。おばさーん三色四本とお茶ねー」

式神「ウレシーウレシー」

客「おい…なんだよあれ…」
客「目ェ合わせるな…やべえって…」

由佳「美味しいねっ!あおい!」

式神「オイシーオイシー」


山中

ドシャッ

あおい「うぅ…いたた…」

五木(甘ったれるなッ!恨むならば覆せなかった自分と抗おうとしなかった二月を恨めッ!!)


あおい「ぐすっ……わかってるよ…わかってるよぉ…私が…私がもっと…」

五木「そうだッ!!強くなれッ!強くなければ物語は追えぬッ!!貴様は成すべきこと、それがあるのだッ!!」

あおい「…ん…?わああああああああ!?」

五木「何を驚いている」

あおい「だ、だって途中まで師匠の声頭の中の声だったし…」

五木「?まあいい。とにかくだ、一ヶ月しか時間がない…貴様には時間がないのだッ!くよくよしたり腐っているなら強くなれッ!!いいなッ!!」

あおい「……」

五木「ふん…まあいい。今から夕刻の一晩時間をやる、この先に野営を作ってある…好きに、大いに悩むがいいッ!!」

おーぷん高
教室
あおい「ねぇ、佳奈。もしさ、もし私が死んじゃったり…いなくなったりしたら悲しんだりするの?」

由美「死ぬ!私あおい死んだら死ぬ!!いなくなっても死ぬ!!だからそんな事言わないで!死ぬから!ほんとに死ぬから!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅうああぁあああぁぁああ!!!」

あおい「ゆ、由美どこから…」

佳奈「あー…ちょっと黙っててね。由美さん」ペタペタ

あおい「ガムテープだ…」

由美「むががががか……」

佳奈「どうした?ん?あおい。そんな急に聞いたりしてさ」

あおい「昨日テレビでやってたんだけどね、死神っていうのは実在して…突然命を奪ってしまうって…」

佳奈「あぁ…あのオカルト番組の…大丈夫だってあおい、死神なんて居やしないって」

あおい「でっでも…人がいきなり死んだりするのは不自然じゃん!なんか最近道端で死ぬ人多いって言うし…」

佳奈「…あおい、もし死神って奴が目の前に出たら…あたしを呼びな。絶対助けに行くからさ」

由美「むがが……」ベリベリ

由美「あおいを殺す死神ならわたしが粛清してやる!!来い死神!!わたしとあおいが結ばれるその時まで!!あおいの処女と貞操はわたしが守る!!!」

あおい「??」

佳奈「大声で叫ぶなって……」

山中
野営地 夜

あおい「佳奈…由美………由佳…」

ヒラッ

あおい「?紙?」

あおい「…三体目最後の鬼の特別情報…?」ガサガサ

あおい「名前…小川=モニカ=真由。モニカは洗礼名、修道服を身に纏う見た目は清楚なシスター。だが本体は鬼であり凶悪な強さを誇る………え…!?」

あおい「真由は神速抜刀術を使う小川…由佳の姉…!?」


あおい「……」


山中

あおい「よっ…はっ… 」ブンブン

五木「む、心は決まったようだなッ!」

あおい「ふっ…やっ……あ、師匠おはようございます!私、頑張りますから!三体目の鬼を止めてみせます!」

五木(まさかあんな単純な方法で発奮するとはな)

五木「うむ、真由を倒すには一筋縄ではいかんッ!びしびしいくぞッ!!」

あおい「師匠、違います」

五木「む 」

あおい「真由さん…由佳のお姉さんを救うんです!私、一生懸命頑張りますから!!」

五木「ほう…小川=モニカ=真由の剣技は俺ですらも手を焼く領域…貴様は倒すのではなく、それでも救うと?」

あおい「はい、私は…もうあんな気持ちになりたくないし、友達を悲しませたくない!!だから…だから止める為に修行を頑張ります、師匠…私に修行をおしえてください!」

五木「ふはははははははは!後悔するなよッ!!ならば予定していた倍の鍛練を積む必要があるッ!!覚悟せよッ!!」

あおい「は、はいっ!!」

続きは明日

それから五木による厳しい修行の日々が始まった
初日
あおい「あの、師匠…私を縄でぶら下げて何を…」

五木「これをだな…ぐるぐるぐるぐるぐるぐる…」グルグルグル

あおい「わ、わ!こ、こんなに縄ねじったら…」
五木「離すッ!!」バッ
あおい「わあぁあぁあああああぁぁぁぁぁあ!!!??」ギュルギュルギュル

五木「次ッ!!川だッ!」

あおい「うぅ…気持ち悪いよぅ…」

五木「泳げッ!!」ドン

あおい「わっ!!…がぼっ!げほっ!わた…泳げ…がぼぼ…」


五木「次ッ!飯だッ!」

あおい「ひどい目にあった…」

五木「次ッ!!狼と戦えッ!!」

狼「グルルルル…」

あおい「え…?ちょ、冗談だよね?師匠!?」

狼「グオオオオ!」ダダダダ

あおい「わあああああああ!!助けてぇぇぇぇぇ!!」

五木「次ッ!勉強だッ!!えーとこの漢字は何だッ!?」

あおい「ふ、ふな…?」

五木「鱒ッ!!マスだ馬鹿者ッ!!」バシッ

あおい「い、いたいよぉ…」

五木「晩飯ッ!食ったら寝ろッ!!」

あおい「あの…お風呂は…?」
五木「そんなものは無いッ!!朝水浴びでもしていろッ!!」
あおい「うぅ…あの川流れ速いし…」

五木「黙れッ!なら我慢しろッ!!」

あおい「うぅぅ…」

七日目


五木「よし就寝ッ!明日も早いぞッ!では俺も寝るッ!!」シュッ

あおい「…」フラフラ

あおい「……身体くさくないかな…」

あおい「佳奈……由美……」

あおい「由佳…二月君…」

あおい「ひっく……寂しいよぉ…」

(再起動完了、回路に異常なし)

あおい「…!?ぎ、擬似さん?」

(お久しぶりです、あおいさん。二日前から再起動していましたがデータのバックアップを取っていたため通常起動が出来ませんでした)

あおい「よ、よくわかんないけど…あの…十三さんの言霊だっけ?あれが反応しなくなっちゃって…」

(電波障害と思われます。私に質問していただければお答えしますが)

あおい「えっと…楽な修行のやり方!」

(…検索の結果、見つかりませんでした)

あおい「うぅ……」

十二日目

あおい「もう嫌あああああ!!」

五木「ぬッ!?何だッ!?」

あおい「もうやだよぉ!お風呂も入れなくって毎日ぐるぐる回されたり溺れたり狼においかけられたり…もうやだあ!!」ジタバタ

五木「でえーい、駄々をこねるなッ!!貴様真由を救うと言っていたろうッ!!」

あおい「やだやだやだやだぁぁぁ!!」ジタバタ

五木「むうぅ…」

ドドドドドドド

五木「む?何だこの足音はッ!?」

ドドドドドドド

「クソ忍者ああああああああああああ!!!!」ドカン!

五木「ぎえええ!」ゴロゴロ

あおい「…?あ、由佳!!」

由佳「あおい…!良かった無事…でもないね…凄いボロボロじゃない」

あおい「…」

由佳「あたしが来たからには大丈夫、帰ろあおい!」グイッ


五木「まていッ!貴様よくぞ式神を見破ったなッ!」

由佳「この野郎!あおいをあんな紙っ切れでだましやがって!!」

五木「ふんッ!貴様はそれに十日も騙されてたではないかッ!馬鹿女がッ!馬鹿女がッ!!」

由佳「殺す!!!」ダダダダ


あおい「わわ、由佳、やめ…」

カキン!

五木「ふっ…俺を斬るつもりか?」

由佳「ちっ!」シュッ

カキン!

五木「無駄だ、今の貴様では俺も…鬼すらも斬れん。せいぜい奴の第二段階止まりだろう」

由佳「くっ!」カチャッ

ガシッ

五木「無駄だ…と言った。そして…終わりだ」ドッ

由佳「な…!?…ぁ…」バタッ

あおい「由佳!」

五木「…」チャッ

五木「見たかッ!修練を積まねばこの馬鹿女のように無様に倒れる事になるッ!!覚えておけッ!!!今日の修行は終わりにしてやるッ!」ササッ



あおい「由佳…大丈夫?」

由佳「あぁ…ごめんあおい…助けようとしたのに…あたし、かっこ悪いね」

あおい「ううん、そんな事ないよ!こっちこそゴメンね…由佳も修行に巻き込んじゃって…」

由佳「あの馬鹿忍もそうならそう言えっての…!滅茶苦茶恥かいたんだからね、茶店や宿や町で紙にあおいあおい言ったりしてさぁ!」

あおい「あはは…」

由佳「まぁ明日からあたしも手伝うからさ…ついでにあたし自身もやろうかな、修行って奴を。」

あおい「由佳も?もう強いのに?」

由佳「強くなんかないよ…今日思い知った、まだまだ上は居るってことがね。悔しいけど…あの馬鹿忍はあたしを殺そうと思えばいつでも殺せたんだ…逆にあたしは本気で斬るつもりで飛びかかった…」

由佳「結果は見ての通り、あと二週くらいしかないけど出来るだけの事はやってみるから…一緒にがんばろ、ね?」

あおい「うん!」

十四日目

五木「来いッ!!小娘共ッ!かしまし娘共ッ!!」

あおい「かしまし?」

由佳「あいつ意味わかって言ってんのかな」

五木「来いッ!!!」

由佳「よし、行くよあおい!」ダッ

あおい「う、うん!」

由佳「挟み撃ちで奴を叩く!」

あおい「うん!」

由佳「でやああああああ」

あおい「えーい!」

ガツン!

あおい「うわあああああああああああん!痛い、いたいよ~!!わあああああん!」

由佳「ご、ごめ…あおい…」

五木「ふぁふぁふぁふぁ!!かしまし娘共ッ!甘いぞッ!!」

由佳「こ…の野郎!!ぶち殺す!!!」ダダダダ

五木「ふ…来るか!!由佳!!」チャキッ


由佳「くっそ…腹立つけど強いわあいつ…」

あおい「ぐすっ…由佳、ボコボコ殴られてたけど大丈夫?」

由佳「あたしはいいけど、そのたんこぶ…ごめん。何かあたしが逆に足引っ張ってるみたいで…」

あおい「ううん!そんな事ない!明日こそ勝てるよ!!だから頑張ろ?由佳!」

由佳「…うん、頑張ろう」

十八日目 夜

由佳「…」

あおい「…」

由佳「あの……ほんとごめん…当たると…思わなくって…」

あおい「…気にして…ないから…」

由佳「ごめん…」

あおい「…」

由佳「…」

十九日目 昼

あおい「痛ったぁ……うぅ…」

由佳「ぁ…ごめん…あおい…また…」

五木「ふぁふぁふぁふぁ!貴様らは毎日毎日馬鹿だなッ!!」

由佳「うるせぇ…殺すぞ?」

五木「ぐっ…怖い目をしても屈しないッ!屈しないぞッ!!」

五木「ならばあおいッ!貴様の怠慢だッ!二月なんぞという男にたぶらかされおってッ!!」

あおい「!」

五木「接吻すらしておらんのに無駄に意識しおってッ!貴様の餓鬼の様な恋物語をいつまでも引きずられては迷惑ッ!迷惑なのだッ!!」

五木「それになるべくして首を斬られただけではないか、犬死もいいところッ!無様な死に方をした男にしがみつくのはみっともないぞッ!!」

あおい「…っ!!!」ダッ

ガシッ

由佳「あおい駄目!あいつの挑発に乗ったら!!」

あおい「離して!離してよ!!!いくらなんでもひどすぎるよ!!」

由佳「確かに腹立つけど、明らかにわざとあおいを怒らせようとしてるんだよ!落ち着いて、またボコボコにされちゃうよ!?」

あおい「……さいな…」

由佳「え…?」

あおい「うるさいなぁ!!ほっといてよ!!由佳だって二月君の事知らないじゃん!!だから…だからそんな落ち着いてられるんだよ!」

由佳「…あおい…」

あおい「大体由佳は関係ないのに首を突っ込むから、だから修行で私を殴ったり先走ってはぐれたりしちゃうんだよ!?…危険な目に遭ったのだって由佳がちゃんと守ってくれなかったからじゃん!!怖い目にも…痛い目にもあって……辛い目にも……」

由佳「…」

あおい「もういい!!もう全部やだ!!修行もなにもやりたくない!!」


由佳「……ごめん…やっぱり逆効果だったみたい…だね。あたし、消えるわ」ザッ

五木「え…ええと…」

五木(ハッパをかけるつもりが大惨事にッ…!!)

五木「由佳、さーん戻っておいでよー、ほらあおいさんも呼んで呼んで」


あおい「……」

由佳「……」ザッザッザッ


五木「…………」
五木(どうしよう…)



あおい「…」

(脳波にかなりの乱れが見えます、疲労回復に努めましょう)

あおい「…うるさい」

(私にあたっても、由佳さんにあたっても二月さんは黄泉がえりません)

あおい「うるさい!!ほっといてよ!!みんなみんな二月君二月君うるさいんだよっ!!」

(…)


深夜

五木(貴様の餓鬼の様な恋物語をいつまでも引きずられては迷惑なのだッ!)

由佳(…ごめん、やっぱり逆効果だったみたい…だね。あたし、消えるわ)

(私にあたっても、由佳さんにあたっても二月さんは黄泉がえりません)

あおい「うっ…うっ…ひぐっ…ぅぅぅ…うぁぁぁ…ぁぁぁ…」


(ご覧の通りです、あおいさんの思考や情緒は正常からかけ離れ始めました。それでもまだ表に出ないのですか?…南里二月さん)

二月(ああ…。というより、今更どの面下げて声をかければいいのかってね)

(面は下げる必要はありません、擬似人格ですから)

二月(はは…そこ突っ込む所?僕が今どんな状況になっているかは…滝田妙さんから聞いたよ)

(正確には滝田妙さんの残留思念です。妙さんの後に擬似人格がインストールされた場合自動的に説明されます)

二月(うーん、君の説明はたまにわからなくなる時があるね)

(テンプレートに沿った回答をしているまでです)

二月(……擬似さん、一つ頼みがあるんだ)

(何でしょうか)

二月(君やあおいが不思議な力を持っているのはわかった、だからこそ頼みたいんだ)

二月(あおいの記憶から…僕の事を全て消し去るのは可能か?)

(…可能ではあります)

二月(引っかかる言い方だね、出来るのだろう?)

(あおいさんの、だけでなく南里二月の存在を抹消する事が条件付きで出来ます)

二月(つまり…どういう事だい?)

(あなたは南里家次男としてこの世に生を受け18年という人生を歩みました。それが全て無かった事になります)

(肉親やあなたを知るものから存在を消され文字通り南里二月は無かったモノにされます)

二月(…)

(勿論あおいさんからも南里二月は無かったモノにされ今の苦しみは無くなるでしょう。由佳さんに当たった事はなくなりませんが)

(更に輪廻を廻れず全て消え去ります。はっきり言ってこれで二月さんにメリット…得をする事は皆無です)

二月(よし、存在を消してくれ)

(…感情に任せた即答は危険です、よくよくお考えになり…)

二月(頼む、僕は冷静だ。…これ以上あおいが苦しむ姿を見たくはない)

(…わからない)

二月(?)

(人間、人間の思考がわからない。最善手ではない行動を…自らの命や存在すら軽んじ他人の為に注げる…わからない…わからない…)

二月(安心したよ、君はわかっているはずだ。その意味が)

(わかりません、いくら思考しても回答が検索出来ません)

二月(いつか…必ずわかるさ。妙さんからの説明ならば…僕の残留思念やらと技は君に吸い取られるそうだね)

(…はい)

二月(…よし、なら早速頼む。)

(本当に…よろしいのですか?)

二月(彼女は…修行をしなくてはならないのだろう?成すべきこと、鬼を倒すために。今のままではとても修行などは出来ないだろう…由佳さんの事なら、あの二人なら乗り越えてくれるはずだ!)

(了解。最終確認を完了、これより歴史干渉を行います。……南里二月、歴史干渉による大幅な改変…無し。正常に消去する事が出来ます。最後に…何かありますか?二月さん)

二月(凄く短かったが…擬似さん、だったかな。あおいをよろしく頼んだ)

(妙さんと同じ事を仰るのですね)

二月(あぁ。あの娘の人を惹きつける力なら誰でも入れ込みたくなるもんさ)

(…)

二月(僕の力、擬似さんも役立ててくれ。そして…答えを見つけて…………)


(消去完了。…歴史改変は一切見られず。………さようなら、二月さん)

二十日目 朝

五木(ううむ…野営地にいくべきか…だが昨日の調子では気まずい…どうするか…)

あおい「おはようございまーす」

五木「うおおッ!?なんだ貴様ッ!!」

あおい「なんだって…修行を…」

五木「だが貴様昨日は俺の……ん?何だ!?何で貴様は怒ったのだッ!?」

あおい「え?そりゃあ…あれ?なんだっけ…?」

あおい「うぅ…でも由佳には修行うまくいかないからめちゃ八つ当たりしちゃった…それは覚えてるのに…」

五木(ぬッ!好機ッ!!)

五木「ふはははははははは!!ならば修行あるのみよッ!!後十日ッ!!やり遂げてみせよッ!!!」

あおい「由佳……は、はい!!」

二十九日
五木「ようしッ!!ならば総仕上げよッ!!最後の鬼を分析するッ!!」

あおい「はい!」

五木「よし出せ!!」

あおい「な、何を…?」

五木「でーい出さんか!!」グイグイ

あおい「いやあぁ!スカート引っ張らないでよぉ!」

五木「はぁはぁ…むぅ…突っ込み役がいなければ俺はただの変態よッ」

あおい「うぅ…変態だよ…」

五木「まあいい、貴様の刀!それを出せいッ!!」

あおい「え?何で?私その鬼、真由さんと会ってないのに…?」

五木「貴様はな、だがこの間の戦で滝田妙の魂が垣間見えた。その残留思念から記憶の断片を読み込めるのだッ!!」

あおい「わ~すごい師匠!私全然わかんないけどすごい!」

(何故この刀の機能を知って…!?)

五木「ようしでは刀よッ!!滝田妙の記憶、一年前に真由と対峙した記憶を呼び起こせッ!!」


あおい「わっ、いきなり飛んだ!?」

五木「ふむ、これは妙の記憶の中だな。見ろッ」


妙(あれは…何?人が…磔に!?)

五木「どうやら妙はこの村に流れ着いたばかりらしい」

あおい「妙さん超美人だねぇ、羨ましい…」

五木「あの磔の女、奴が小川=モニカ=真由だ」

あおい「うわあこれまた清楚な超美人!いいなー、いいなー!」

五木「…」

妙(貴方達!一体何をしているのですか!?)

村人(何だお前は?)
村人(よそ者は黙ってろ!コイツは鬼なんだ!)

妙(鬼!?そんなバカな…)

真由(うう…)

村人(め、目覚めやがった!先生方お願いします!)

用心棒A(縛られた女を殺す趣味は無えが…鬼なら仕方ねえ)
用心棒B(俺ら鬼退治を生業とした四人に任せな!)

真由(お願い!殺して!はやく、はやくしないと!!)ガチャガチャ

用心棒C「無駄だ、鉄で縛られれば鬼でも抜けられん」
用心棒D「さあ覚悟なさい、鬼さん」

真由(うあああああっ!あぁあぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁああああ!!!)ガチャガチャ

村人(へへ、びびってやがる)
村人(ざまあみろ!死ね死ね!!)

五木「ほう、鬼退治専門の討鬼隊を雇ったか、懸命な判断だ」

あおい「??とーきたい?」

五木「貴様が戦った鎧型剛鬼ならば容易く倒せる鬼退治の精鋭よッ」

あおい「おおお!ってそんな強い人たちならここで真由さん死んじゃうんじゃ…」

妙(…?様子がおかしい…?)

真由( AVE MARIA si ambulem in medio umbroe mortis
『アヴェマリア、貴方が私と共にいてくださるので 』)

用心棒A「?歌?」

用心棒B「へっ、辞世の句か?」

真由( non timebo mala quoniam tu mecum es domine
『たとえ死の陰の中を歩もうとも私は災いを恐れません』 )

ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!

用心棒D「な…!?」

用心棒A「鉄を…引きちぎっただと!?馬鹿な!」

真由( Acest cuvintla piept cu cruce acum mergem palat diavol lui
『この言葉を胸に今向かう悪魔の巣』)

村人(ま、まずい…刀を…)
村人(逃げ…ひぃっ!)ピシィ

あおい「ど、どうしたの!?なんでみんな逃げないの?」

五木「真由の圧力で動けんのだッ蛇に睨まれた蛙の如くなッ…!」

あおい「…!」

妙(くっ…これは一体…!?それにあの刀…でか過ぎる!?)

(あれは…五身刀フィフスバスター。160センチの刀身を持つ変形型の大剣出す)

あおい「…」

真由( In cer dornic voce fa la nimics bletra domnezeu
『天から聞こえてくる神の声 力尽きても魂がある限り戦い続ける 』)

用心棒A(行くぞ!四身一体で仕留める!全力でいく!)

三人「おお!!」ダダッ

真由( Hai sa mergi ! 『さぁ、突き進め!』 )


グシャッ

用心棒D「…ぁ…」ドシャ
用心棒B「!?」バタッ


あおい「ひっ…!!」


真由(あぁぁ…いい…いい!!その死に際の顔!!まさに神に捧げる最高の顔ですよ!…絶望と言う名の、ね…ふふふ…あはははははははは!あぁ、心臓が高鳴る!!そうドクドクと!!!)

ブオン!

用心棒C「げ……え…」バタ

用心棒A「い、一瞬で三人を…ありえん…」

真由( Acest cuvint la piept cu cruce Trainic victoris sbuletura viata
『十字架を突きつけたら  お前は倒れ戦いは私の勝ちだろう』 )ブオン!

カッキン!

真由(!?)

妙(くっ…)

用心棒(あんた…!?滝田一刀流の滝田妙か!?)

妙(早く!村人達を避難させて!!!)

用心棒(す、すまねえ。たのむ!村人は任せろ!)

真由(うぅん?邪魔しないでほしいのですが~?神の裁きの時間なのですからねェ!?)

妙(神?何を意味のわからないことを。あなたが本当に鬼ならば…止めねばなりません!弱者を守るのが私の、先生の使命!)チャキッ


続きは明日

今北
どんな話か教えろ

>>509
謎のおっさんに普通のJK「結城あおい」が戦国時代(又はゲームの中?)に飛ばされる

おっさんからこの時代に潜む三体の鬼を倒せと言われ、武器の双剣とその他物資を貰う

高校の親友佳奈にそっくりな剣客「由佳」と知り合い、助けられながら最初の鬼を倒す

旅の途中謎の忍者「五木」に勝手に弟子にされる

新たな鬼に触手プレイで殺されかけるあおいだが五木に救われ二体を撃破

再び旅を始めるが戦に巻き込まれその最中「南里二月」という当主に惚れてしまうあおい

色々あって戦負けて首を斬られる二月

戦終わりに五木に拉致られ一ヶ月の修行させられるあおい←いまここ

勝手にまとめた登場人物
結城あおい
主人公
天然でアホの娘
すぐ泣く

佳奈
高校の親友
あおい大好き
突っ込み役

由美
高校の親友
あおい大好き
ガチレズ


由佳
戦国時代の剣客
抜刀術使う
佳奈と似てるらしい

十三
謎のおっさん
あおいをサポートしたりしてた

擬似人格
双剣の人格
冷たい

二月
イケメン
いい人
死んじゃった

妙(…)ジリ

真由(神よ!ご照覧下さい!!この私が、悪を滅する様を!!)

あおい「うぅ…どうしよう」

五木「む?」

あおい「妙さん応援したいけど真由さん死なれたら…でも鬼?を応援するのも…でもでもあれは真由さんで…」

五木「うるさいッ!!どの道これは過去の記憶ッ!貴様がどちらの味方をしようと同じよッ!!」

あおい「ぅ…」


真由(罪深き人間に裁きを!!愚かな人間に罰を!!…はい、主の名のもとに…)


妙(あれだけ隙を見せているはずなのに…隙が見つからない…)

真由(…さて、神からの声が届きましたのであなたの処罰をお伝えしましょう)ガシャ

あおい「うわ、あんなでっかい剣片手で持ち上げた!?」

真由(死刑です、そして執行日は今ここ…ひなびた村で執り行ってあげますよ)ニコッ

妙(…)スゥ

あおい「妙さんが下に構えた、あ、あの構えは……なんだっけ」

五木「馬鹿者ッ!!滝田一刀流の『海』だッ!!防御を主体とした後の先を取る構え、得体の知れぬ相手故様子を見るのだろうッ」

あおい「な、なるほど…」


真由(では…)トンッ

あおい「わっ!?」

五木「速いッ!」

真由(行きますよォォ!!!)ブオン!

妙(っ!!くぅぅ!!)ガシャァァン

真由(!?)

妙(そこっ!)シャッ

真由(まだまだァ!!)クルッ ブオン!

妙(!)サッ

真由(あはっあっハハハははハハハ!!!)ブンッ ブンッブンッブンッブンッ

あおい「わわわ、なんであんな軽々振り回せるの!?」

五木「む…妙、それを避ければ…」



村人(ぎゃああああ!!)ブシャァ
村人(ぐぇっ!!)グシャッ
村人(!?)ブチッ

妙(え…!?)

真由(あぁ)スタッ

真由(気にしないで下さい、ついでに執行しているだけですから。愚かな人間を処刑し…断罪しているだけ…ですからねェ……ふフふふふふふ…)

妙(避難し逃げている人々を背後から…)

あおい「ね、ねえ師匠何で離れた人があんな斬られちゃったの…!?」

五木「刀を振り回す速度が尋常ではない、その速さは真空の刃を生み出し離れた村人を切り裂いたのだッ」

あおい「そんな…」

妙(許せない…!あなたを、斬ります!!)スッ

五木「『地』に切り替えたか。弟子よッよく見ておけッ!」

あおい「え?妙さんを?美人だから?」

五木「馬鹿者ッ!!貴様は本当の滝田妙を見たことがなかろうッ」

あおい「うん…だって最初に会った時にはもう……」

五木「貴様の身体を妙が支配した時もあったが…あれは奴の本来の力を発揮出来ておらぬのだ」

あおい「ウソ…!?ものすごく強かったのに!?」

五木「およそ半分も出ていないだろうッ!奴が死ぬ前…否ッ!師匠の滝田信雄が死ぬ前か、妙の心技体が全て整っていたこの時期がまさに最盛期『風神』と呼ばれていたのだッ!」

あおい「ふうじん…か、かっこいい…」


真由(ほ~う?なかなか楽しめそうじゃァないですか)

妙(行きますよ…今度はこちらの、番です!)ダダッ

真由(!!)

妙(はぁぁぁぁ!!)ブンッ

五木「『地』からの高速斬撃、斬馬かッ!」

真由(あぁぁぁァぁぁ!!)ズバッ

あおい「あ、当たった!?」

五木「まだ浅い、が!」

妙(…)シュッシュッ

真由(ぐぁぁぁ!?…調子に…のるなァァァ!!)ブオン!

五木(あの体勢から反撃ッ、真由めッ!!)

妙(…)カンッ

あおい「受け止め…」

妙(…はぁっ!!)シュバァッ

真由(ああああぁぁぁぁぁぁ…)ブシュゥゥゥ

妙(奥義、竜跳虎臥…終わりです)

真由(あ…ぁ…ぁ…)フラフラ

あおい「す、すごい…妙さんが受け止めてからいつのまにか真由さんが血まみれに…」

五木「『地』を得意とする妙が編み出した独自の奥義よッ!相手の攻撃を受け流しつつその力を利用し一撃必殺の斬撃をお見舞いする。敵の腕前や力が強いほど威力を増す、攻防一体の技ッ!だが…」


妙(再生するのでしょう?何度でも切り裂いてあげますから、芝居は止めて構えなさい)

真由(ふふふ……あっはっはぁはははハははは!!あぁ怖い怖い、でも…嫌いじゃあないですよぉ…その顔)ジュルジュル

あおい「うわ、傷が一瞬で!」

五木「貴様散々鬼と戦ったろうッ!!」

妙(…)

真由(あなたは…真っ白…純白の雪のような純粋な人間…うぅん…珍しいですねェ、今のご時世そんな人間はいませんから…)

真由(でも……心の奥には…闇が見えます…あなたの正義が、そして愛する人に依存する心が!!…と~ても深い深い闇を抱えているのです)

妙(…くだらない事を…あなたの剣は最早見切りました、再生しても何度でも切り裂くだけです)チャキッ

真由(あなたのとても大切なあの人…大切ですよねェ?私にはね、そういったモノが見えるのですよ…人間の弱点が、ね)

妙(…)

五木「むッ、いかん敵の術中にはまるぞッ!!妙ッ!!ふんばれッふんばるのだッ!!」

あおい「めちゃくちゃ応援してるじゃん…」


真由(あなたの様な純白な心を……大切な人の血で染めたら…大切な『センセイ』が死んだら…あなたは面白いくらいに壊れそうねェ……)

妙(黙れ…)

真由(あっ!)ポン

真由(今から『センセイ』を殺しに行こうかしらぁ!?きっとさぞ楽しい顔が見られるはずでしょうしねェ…ひゃひゃひゃひゃひゃ!!!)

妙(黙れぇっ!!)ダダダダ

真由(…あなたは第一段階を超えました)

五木「ここからが…本番よッ!」

あおい「え…?」

真由(剣よ!!)ガシャッガシャッ

妙(はぁぁぁあああ!!)シュバァッ

ガッキン!

あおい「え!?剣が…」

(フィフスバスターは5つの大小様々な刀剣で作られた大剣、分離や複雑な合体機構で用途に合った形態を選べます。)

(最初の形態は五身刀そのもののフィフスバスター、現在は刀身の両端付け根から取り外した小回りを重視した小型双剣ツインテールです)


妙(刀が…!)

真由(受け流せますかァァァ!?)シュッシュッシュッシュッ

妙(く…ぁ…)カンッカンッカンッ

妙(そこっ!)カキン!

真由(はい、ハ~ズレ♪)グサッ

妙(あぁっ…!!)グラッ

真由(うぅん…武器変わっていきなり決着なんてェ…あっけなさすぎませんか~??)

妙(…油断…大敵ですよ!!)シュバッ

ザシュッ

真由(!?な…)

妙(もう一度受けなさい)

真由(こ…の!!)シュッシュッ

カンッカンッ

妙(奥義…竜跳虎臥!!!)ザンッ

真由(ぎぃやぁァァァあっ!あぁ…ぁ…)フラフラ

妙(はあぁっ!!)シュッ

真由(うげぇぁぁぁぁ!!)ブシュッ

あおい「わ、わ、妙さんキレた!?」

五木「うむッ見事よッ!行けッ!!妙ッ!!!」

妙(まだ…まだです!!)シュシュシュシュシュ

真由(………)グシャッブチャァァァ

五木「うおおおおおおおおおおッ!!そこだッ!斬れ斬れッ!!」グイグイ

あおい「く…苦し……絞め……」ギュウウウ


妙(これで…終わりです!!)

真由(…)サッ

妙(なっ…かわした!?)ザザッ

真由(うん、うん。…あぁ。やっぱり。はい、はい)ジュルジュル

五木「むッ…あれを躱すかッ!?」

あおい「げほっ…げほっ…死ぬかと思った…」




真由(う~ん、やめましょうか。これ以上は無駄になりますし…なんといいますか興が削がれました)カチャッ

妙(は!?)

真由(なんか違うんですよねェ…あなたは殺しても今ひとつといいますか…つまらなさそうでそそらないんですよ。これ以上強い技も出なさそうですしぃ?)

妙(!!)ダダッ

カンッ

真由「うん。もういいですから、お疲れ様でした」

妙(くっ!)シュッ

カキン

真由(はぁぁ、しつこいですねェ…ならば諦めさせてあげましょう。剣よ!!)ガチャガチャ

あおい「ま、また変わるの!?ってか何でいきなり攻撃が効かなくなったの!?」

五木「…品定め、か」

あおい「え…!?」

五木「鬼は人間の血肉をくらい力を増す…だがもはやこいつは喰らい過ぎ強い剣客のモノですら成長をしないのだろうッ」

真由(第三段階を飛ばして…第四の姿を見せてあげましょう)


(第四の形態、フォースイーターと呼ばれる西洋剣です)

五木「むッ!両刃かッ!」

真由(では…)シッ

カキィィン

妙(な…)

あおい「う、うそ…あっさり刀を…」

五木「むうッ」

真由(まあ…あなたは強かった…それに面白そうな闇も抱えていましたが……それだけでした)

妙(…)

真由(探しものを…しているのですよ、極上の餌を…ね…)

妙(…殺しなさい…)

真由(ふふ…見逃してあげますよ、興が削がれたとはいえ…私に第四段階まで引き出したのはあなたが初めてですから。ご褒美です)

妙(今…見逃せば…私は必ずあなたを討ちます…必ず!)

真由(えぇ、どうぞご自由に~?神よ!この者はもはや震える子羊同然、ご慈悲をあたえたまへ!!……あぁ、見逃してくれたようなので…私はこれで、ご機嫌よう…正義の味方さん)フッ

あおい「き、消えた!?」


妙(くっ!)バンッ

妙(更なる鍛練を積み…いつか…必ず…!!)

山中

あおい「わっ!」

五木「元に戻っただけだッ!ううむ…」

あおい「妙さん…あんなに強い人が負けちゃうなんて…」

五木「よしッ!修行を延長するッ!!」

あおい「ええええ!?そ、そんな一ヶ月って言ったじゃん!」

五木「よく考えたらそれはあれだ。由佳が追いかけてくるから一ヶ月しか時間がないという話ではないかッ!というわけで十日間の延期を命ずるッ!!」

あおい「由佳……」

それからは対真由を想定した修行が行われた

五木「ようし蜂の巣をつついて…」ツンツン

ブゥゥウウウウウン

あおい「わっひゃあああああああああああ!?いやああああああああ!!」ダダダダダダダダ

五木「逃げろ逃げろッ!!そして蜂をかわしきれッ!!」



ドバババババババ

あおい「あの…」

五木「なんだッ!!」

あおい「まさか…飛び込めとか…」

五木「うむッ」ガシッ

あおい「いやあぁぁぁ!!死んじゃうよこんなの!!やだあぁぁ!!」ジタバタ

五木「鳥になれいッ!!」ポイッ

あおい「わあぁぁぁ!ごぼっ!ごぼぼ……」



五木「でえええい!!」ブンッ

あおい「ぎゃふん!!…ぅぅぅ…」ドガッ ズザザザザ

五木「でーい!丸太くらったくらいでのびるなッ!あとがに股で倒れるなはしたないッ!!」

あおい「うぅ、だって…だって…」

五木「でええええええい!!」ブンッ

あおい「ふぎゃぅっ!!」ドガッ

最終日
五木「よし最終日だッ!よくぞ厳しい鍛練に耐え抜いたッ!!」

(延長三日目の蜂に36箇所刺された時は通常の結城あおいさんならばショック死していました)

あおい「蜂どころか…十日間滝に投げられたのだって死んでるよアレ…」

五木「独り言言わないッ!そしてッ貴様に奥義を伝授するッ!!」

あおい「お、おうぎ?」

五木「うむッ!!この最強の忍び最強の技を教えようッ!!」

あおい「なんかようやく修行っぽくなってきた、なになに?どんなの??」

五木「よしッこうして双剣をだな、こう構えて…」サッ

あおい「…?あれ、この構え方」

(以前あおいさんがマスターとして戸塚を斬った…あの時の構えです)

あおい「なるほど…双剣ってこう構えるんだ」

五木「右の双剣を振りッ!」シュッ

五木「左の双剣!そして右ッ!最期はこうして両手で…大気を裂くッ!!」シュッシュッ シュバァァァァ

あおい「うわ…凄い…遠くの木が何本も倒れた…」

五木「近距離は小回りを効かせた振りをすれば衝撃波は出ないが貫通力のある素早く重い斬撃が出来るぞッ」

あおい「これが…」

五木「残影二連…やってみせよッ!」

あおい「は、はい!」


夕方

あおい「はあっ、はあっ…」

(あおいさん、もう少しで残影二連が完成するはずです。脚の開きを短く取りコンパクトに振るうことを心がけて下さい)

あおい「脚を短く開いて…コンパクトに……振る!!」シュッシュッシュッ シュバァァァァ


あおい「できた…できたよ!!残影二連!」

五木「うむッ!!見事よッ!」

あおい「師匠!やったよ!私できた!!」ガバッ

五木「うおッ!急に抱きつくなッ!?」

あおい「色々…あったけど…良かった…私、こんなふうに…練習して何か上手く出来た事、なかったから…本当に…良かった…」

五木「…」

あおい「ぐすっ…ま、また泣いちゃった…ごめんね、師匠…ううんありがとう、師匠!」

五木「…ん?貴様勘違いしてないか?」

あおい「え?」

五木「奥義ではないのだが残影二連は」

あおい「え」

五木「残影二連は奥義の断片ッ!貴様が覚える技はこれのみではないッ!!」

あおい「え…」

五木「いまから奥義を見せるッ!!よく見ておけッ!!!」

あおい「えぇぇ………」

翌朝

あおい「じゃあ…いくよ…」

五木「うむッ」

あおい「奥義……わひゃああああ!!」ズテン

五木「…」

あおい「いたたた…」

五木「うむ、やはり失敗したか。ご苦労、修行は終わりだッ」

あおい「ひ、ひどい!一回失敗しただけなのにぃ!うぅ…」

五木「でえい涙ぐむなッ!!貴様はまだ旗振りが足りんからだッ!完成された平衡感覚や柔軟な体捌きが出来なければ無理なのだッ!!」

あおい「ひどいひどい!あんだけ私を殺そうとして、由佳とも喧嘩しちゃってさ…」

五木「残影二連があるだろうッ!あと一番弟子との喧嘩は知らんッ!!俺のせいではないッ!!」

あおい「もおぉ…もういい!帰る!さよなら!」プンスカ

五木「まていッ!こいつを持っていけいッ!」シュッ

あおい「粉の入った瓶?」

五木「魔封じの粉ッ!真由を助けたいのならばこいつは必須ッ!!」

あおい「え…?これかけたら真由さん元に戻るとか?」

五木「甘いッ!甘納豆ッ!!それだけを振りかけてもせいぜい咽るだけよッ!」

あおい「じゃどうすれば…」

五木「真由と鬼の繋りに綻びを作るのだッ!」

あおい「ほころび?どうやって…」

五木「知らんッ!!自分で考えろッ!!」

あおい「役に立たないなぁ…」

五木「むッ!むッ!?貴様反抗的なッ!グレたか?グレたかッ!?」

あおい「まあいいや、もらってくね。それじゃ」ザッザッザ

五木「おーいッ!知らぬ男についていくなッ!生水には気をつけるのだッ!」

五木「…ううむ、昨日は可愛らしく抱きついてきたくせに…女心はわからんッ…」

南里領 街道

由佳「はぁ…」

由佳(このまま…南に向かおう、ほとぼりがさめたらまた姉さんを探しに…)

浩介「お、由佳じゃねえか。まだこの辺うろついてんのか?」

由佳「うわっ!?」

浩介「うわって何だよ…」

由佳「あ。いや…考え事しててさ…」

浩介「?そういやあおいはいねえのか?」

由佳「…ちょっと別行動、でね」


浩介「…うーん、てことはあいつ一人で北へ向かったのか?」

由佳「多分…」

浩介「多分って煮えきらねえ返事だなあ…もし向かってたらやべえぞあおい」

由佳「…鬼がいるから?だったらもう大丈夫だよ、あおいなら一人で倒せるだろうしあたしなんかいなくっても…」

浩介「いや、普通の鬼ならまだ何とかなるかもしれねぇが…」

由佳「ははは、大丈夫大丈夫!それじゃね!」タタタ

浩介「??…だが小川=モニカ=真由相手ならお前も行ってやらなきゃって言おうとしたのによ…」

続きは明日

街道

妙(あおいさんを…よろしくお願いします。あの純真な笑顔を…守ってあげてください)

浩介(恐らくあおいは何者かに利用されているかもしれん…親友のあんたになら任せられる、あいつを守ってやってくれ)



由佳「はぁ…」


あおい(もういい!!もう全部やだ!!修行もなにもやりたくない!!)


由佳「そう…だよね。あたしは守れなかった…いつでもあおいを守る…それが出来ないなら、去るしかない。」

由佳(南へ向かおう。……さよなら、そしてごめん…あおい…)

風呂屋

あおい「ぁぁぁああ~…さいっこうだよぉ…でもよっぽど汚かったんだ…バッグにあったいつものボディソープ何も泡立たなかったし…」

あおい「でもでも新しい技も覚えたし、よーし、一人でも頑張るぞー!」

五木「その意気よッ!!」

あおい「い…いやあぁああああぁあぁ!?!」

五木「まてッ!叫ぶなッ!俺は外にいるッ!!見ていないから安心しろッ!」

あおい「……なんだ師匠か…ホント変態だね、師匠って」

五木「貴様ッ!ふざけるなッ!!貴様のようなちんちくりんな身体には色気もなにも感じぬわッ!!」

あおい「…この…出てけー!!!」ブンブン

五木「お、桶を外に投げるなッ!まて、俺はいい忘れた事をだなッ」

あおい「…なに?」

五木「一番弟子由佳の事だッ。貴様、あの娘に何かしたか?喧嘩以外にだ」

あおい「え…?喧嘩以外にって…他は守ってくれたりとか…」

五木「いや違うそういう事ではなくてなッ」シュタッ

あおい「わあああああ!?何で中に入ってくるの!?」バシャン

五木「いや、今見廻りの役人がだな…どうせ湯けむりで見えんし俺も背を向けた、それにちんちくりんな…」

あおい「…」

五木「い、いや…まぁいい。小川由佳と貴様、否、妙との一騎討ちを見ていた感想だが…」

五木「強くなり過ぎているのだッ。更に山篭りで何度か鍛練したが…強さが異常な速さで上達しているのだッ」

あおい「え…そうなの?由佳いつも強いから別に変わらないのかと…てか別に強い事にはいいんじゃないの?」

五木「貴様が出会った頃、鎧剛鬼と戦った時の由佳であれば先の貴様を乗っ取った妙に斬り殺されていた、故に滝田妙の半分以下の実力だったのだッ」

五木「見たところ奴は特別な鍛練を積んでいるわけでもない…何かひっかかるのだッ」

あおい「……でも、さ。私に出来ることなんもないよ…あんな事言っちゃったら…もう……ぐすっ…」

五木「くッ!泣くなッ!後ついでだッ、俺は暫く海外へ赴くッ!!もうこうして援助を受けられると思うなッ!!」

あおい「あ、そうなんだ。気をつけてね」

五木「ぐっ……逆境、逆境よッ!!さらばあおい、見事師の教えを守り真由を止め…さらにその向こう側にある真実に辿りつけッ!!さらばだッ!!」

あおい「……何だったんだろ…」

越後

あおい「う~、ちょっと肌寒いなぁ…カーディガンとか入れてくれれば良かったのに…」

(名も無き国から越後へ入りました、まずは拠点となる街を探しましょう)

あおい「え?名も無き国って?」

(その名の通りです、開戸山から南里家まであなたが歩いたのは名前すらない小さな小国でしたから)

あおい「えええ!?結構歩いたよ!?」

(それは徒歩のみで移動したからです。あなたの時代のように乗り物を使えば二時間程で縦断出来ます)

あおい「そ、そうなんだ…」

(直近の街を検索……村や街道を使いながら北へ向かえば春日山城へ行けます、そこで鬼に関する情報収集をしましょう)

あおい「かすがやま…なんか可愛い名前!いこいこ、レッツゴー!」

5日後

春日山城下

あおい「擬似さん…」

(何でしょうか?)

あおい「全然可愛くないよ!?春日山城!しかも城なのにほら、城っぽい建物ないし!」

(今現在の時代では天守閣を建造するのは不可能と思われます。そもそも春日山城は天然の要害として知られておりわざわざ天守を設けるのは…)

あおい「なんもわかんない…もういいよ擬似さん、それより真由さんの情報、集めないとだよね!」

(はい、まずは街の人間から話を…)

あおい「よーっし!あの山のてっぺんに行ってみよう!きっと一番いい情報があるよ!」

(あおいさん、そこは城主の屋敷恐らく門で叩き斬られるか門前払いだと思われます)

あおい「大丈夫大丈夫、女は度胸!」ザッザッザ

長尾屋敷

武将「殿」

長尾景虎「景家か」

柿崎景家
長尾家に仕える武将、家中1、2を争う猛将であり景虎からの信頼も厚い

柿崎「門番から怪しげな格好をし怪しげな言動を吐く怪しげな小娘を捕らえたとの事。叩き斬ってもよろしいでしょうか?」

景虎「怪しげな小娘…?」

柿崎「ぎゃあぎゃあ煩くわめいております。…甲斐武田の喇叭かもしれませぬ」

景虎「…」

柿崎「殿?」

景虎「連れてくるのだ、その怪しげな小娘とやらを」

柿崎「な…何を!あんな怪しげな者を殿に近付けるなどと…」

景虎「毘沙門天の化身が小娘に首を取られるとでも言うか?景家」

柿崎「申し訳ございませぬ、直ちに引っ立てて参ります」ザッ

景虎「…」

あおい「やだぁぁ!縄解いてよ~!私なにも悪いことしてないのにー!!」ジタバタ

柿崎「黙れ!殿の前で騒ぐな!!」

あおい「ひっ!」

景虎「…久方ぶりだな」

あおい「…?おじさん、誰だっけ」

柿崎「この無礼者が!叩き斬ってくれる!」カチャッ

あおい「わああああ!!」

景虎「よい、景家。」

柿崎「…はっ」

あおい「ふう…あ、思い出した!何でかわかんないけど私のほっぺた引っ叩いた人!」

柿崎「俺は叩き斬ってやりてぇ…」ボソ

景虎「本題に入るが、わざわざ春日まで来た理由は何だ?」

あおい「えーと…うん、言っていいなら言うよ」

柿崎(誰と話してるんだ??)

あおい「鬼を探してるんです、私その人と会いたくって」

景虎「悪鬼真由か」

あおい「あっきまゆ?」

柿崎「お前…探してる癖に知らんのか…大体そうならそうと言え!何が偉い人だしてよ~偉い人~だ!馬鹿娘が!」

あおい「ば、馬鹿娘!?ちょっと恐いおじさんだからって馬鹿娘はないでしょ!?」

柿崎「おじ…俺はまだ若い!この餓鬼こうなったら…」カチャッ

景虎「景家、落ち着け」

柿崎「…はっ」

景虎「最近になり越後だけでなく北陸全域に出没する人型の鬼、それが悪鬼真由」

柿崎「何度か兵達も襲われ、討伐隊も尽く返り討ちにされている。本来は俺が出向ければいいのだが…近隣国の小競り合いが多くてな。……貴様!何を情報を盗んでいる!?」

あおい「えっえっ?ぬ、盗んでないよ!」

景虎「…お前の剣技は南里領で見せて貰った。が、あえて試させて貰う。柿崎、この娘と手合わせしてみせろ」

柿崎「俺が…ですか」

景虎「不服そうだな」

柿崎「いえ…ですが小娘相手といえど加減は出来ませぬ。俺は不器用ですから」

景虎「構わぬ。お互い布木刀にての模擬試合だ、よいな…結城あおい」

あおい「望むところだよ!おじさん!」

二の丸
兵「柿崎殿とわけのわからん小娘が模擬試合するらしいぜ」
兵「そりゃ見えてる試合じゃねぇか、柿崎殿が勝つに決まってら」
兵「だがあの小娘…鬼を倒したとかなんとか…」


景虎「一本勝負だ、よいな」

あおい「うん!」
柿崎「…はっ」

景虎「では…はじめ!」


あおい「行くよ、おじさん!でえやああああああああああ!!」ダダダダ

柿崎(速い!)




宿場

あおい「ひっく…痛いよぉ…」

(だからこの双剣が無ければ弱いとあれほど)

あおい「うっぐ…だって…だってぇぇ…」

(まあ叩き切られないだけ良しとしましょう)


長尾屋敷

景虎「圧勝、か。相変わらず鈍ってないな景家」

柿崎「もったいなきお言葉。ですがあの小娘、いい根性の持ち主ですな。腕はからっきりでしたが覚悟は伝わりました、そして喇叭などではなく純粋に鬼を止めたいのだと」

景虎「ふ…一度手合わせし気に入れば認める…景家らしいな。ならば悪鬼真由に関する情報が集まり次第結城あおいに逐一伝えよ」

柿崎「はっ!」

糸魚川

柿崎(最近東に妙な装束に身を包んだ女がうろついているとの報告を受けた、糸魚川へ向かうがいい)

あおい「って言われて来たけど…この辺なんもないなぁ…何か静かだし、向こうの海荒れてるしで…」

(この時代は護岸技術に乏しい為日本海側は特に波が高く、非常に危険です)

あおい「こ、怖いこと言わないでよ…」

(さらにこの時代は船幽霊や妖怪もおり、海に引きずり込み獲物を喰らう者も少なくなく…)

あおい「やだやだやだ!やめてよぉ!怖い話無理、嫌い!!」

ポン

あおい「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

?「わっ」

あおい「……ってなんだぁ人間だった、普通のシスター服に……ん?シスター服?」

真由「あの、大丈夫ですか?」

あおい「ぎゃあぁああぁあああああああああああああああああああああああああ」ダダダダ

ボチャン!

あおい「ぶあっ!ごぼっ!お、溺れ……」バチャバチャ

真由(…)


滝田一刀流道場前

由佳(…南に向かったからとはいえ…なんでここに来ちゃったんだろ…)

師範代「掛かり稽古、始めっ!」
門下生「やあやあやあ!!」
門下生「うおおおおおおおお」

由佳「……」

由佳(長居は無用…だよね)スッ

師範代「由佳殿、お久しぶりです」

由佳「!!…あ、あたしは…」

師範代「稽古を見に来られたのでは?」

由佳「たまたま…だよ。たまたま…」

師範代「確かに門下生には未だに師の敵と恨む者も少なくなくない。…もし宜しければお話したい事があるのですが」

由佳「……」

墓地

師範代「…」スッ

師範代「ふう。先生が亡くなって九か月…早いものですね」

由佳「あなたは…あたしを恨んでないの?いえ、恨んでいるはず。決闘に敗れた彼に真っ先に駆けつけ、涙を流していたのは…あなただったから」

師範代「…全く遺恨はありません、というのは嘘になりますが…。自分は先生や妙さんに及びませんし、何より滝田先生自身仇討ちを望んでおられませんでしたから」

由佳「……妙は…」

師範代「…先日沼田村の方から鬼と戦い死亡されたと、遺品の刀を持ってこられました」

由佳「……ごめんなさい」

師範代「何故謝られるのですか、妙さんも武芸者として流れていた以上…死は覚悟していたはずです」

師範代「それよりも、由佳殿は妙さんをご存知だったのですね?」

由佳「…信じて貰えないかもしれないけれど……」

師範代「はは、確かににわかには信じられませんが…でも妙さんを知らねばわからない話ばかりですし…信じますよ、由佳殿」

師範代「そして…感謝致します。妙さんは…道場でも孤高な存在でした、自分にひたすら厳しく…門下生から教えを乞われても」

妙(ごめんなさい、私自身まだまだ至らない部分ばかり…他人に剣を教えるなどとても)


師範代「更に各地を流れて帰って来ても直ぐにまた旅立ってしまう為…いつしか道場で妙さんに声をかける者は。滝田先生と自分のみになっていました」

由佳「…」

師範代「でも、それは妙さんの優しさだったと思うのです。先生が亡くなる直前に妙さんと会った際…稽古をつけてあげてほしいとお願いしたのですが」

妙(…滝田一刀流は弱者を守る為の剣術。ですが私は…私の剣は殺人剣としての滝田一刀流。斬らずとも相手を制すれば…殺す必要は無い筈)

妙(だから…門下生の子達には教えたくない。私のように…鬼を倒す事を目指した剣は…)

門下生「と、話されておりました」

由佳「鬼…?」

門下生「ええ、旅から戻った妙さんは怪我をしていたのです。二ヶ月前に鬼と戦い重傷を負ったと」

由佳「それ、初めて聞いた…妙が植物の鬼以外と戦っただなんて」

師範代「先生にすら、話していませんでしたからね…余計な心配かけたくなかったのでしょう。友人の由佳さんにも」

由佳「あたしも鬼を斬った…何か教えてくれれば、あたしが仇を討つ。」

師範代「…」

由佳「仇討ちで妙は喜ばないかもしれない…でも、あたしの罪滅ぼしとして…せめて無念をはらしてあげたい」


師範代「…あなたもお優しい人ですね。自分の僅かに残る遺恨の念すら消えてしまいましたよ…由佳殿、いえ由佳さん」

師範代「あれは酒を飲み珍しく酔った妙さんが事の顛末を話してくれました」

由佳「妙ってお酒飲むんだ…」

師範代「ええ、好きですよ純米酒が特に」

由佳(あたし飲めないんだよなぁ…酒臭いし…)

師範代「あの妙さんが、滝田先生に心酔するあの人が…先生よりも強い、と断言し」

師範代「変わった黒の装束に同じ基調の布を頭から被り、カミといった言葉を連呼した鬼で…」

由佳「それ…修道服…カミは神…?」

師範代「自らの背丈より高い大剣を振り回しさらにそれを分解し、双剣など様々な武器を使いこなす女性」

由佳「ねえ……まさか…その人…」

師範代「マユ…と名乗る女性の姿をした鬼、だそうです。何でも北国で遭遇したと…」

由佳「!
!!」

由佳(あおいが倒すべき三体の鬼、北陸にいるという情報……そして五木があたしに紙切れを使いあおいを離した理由…)

由佳(でも…今から行って間に合うのだろうか…また…また…守れないかもしれない、あおいを…姉さんを…)

師範代「…」スッ

由佳「刀…しかも綺麗な業物、打ちたてみたい…」

師範代「これが妙さんが愛用していた刀『桜花』です。決して散ることのない桜の如く、一切劣化しないと言われる幻の名刀です」

由佳「妙も数々の死線をくぐり抜けたはず…なのに傷一つついていない」

師範代「…由佳さん、あなたにお譲りします。…そして先生の教えに反するかもしれませんが……」

師範代「妙さんの仇を…お願いします。…彼女は…自分にとってかけがいのない存在でした。どうか…その刀で、鬼を必ず…!!」

由佳「……」

由佳「…わかった。必ず、鬼を倒してみせる…!」スッ


師範代「…ありがとう…」

由佳「滝田殿…」スッ

由佳(妙と見ていて下さい、あたし…必ず…守ってみせますから。もう逃げたりなんかしない、あおいからも……姉の運命からも!!)


由佳「さて、と…そろそろ行くよ。色々…ありがとう」サッ

由佳「あたしが言うのも変だけど…滝田一刀流、人を守る流派として次代にも引き継いでいって欲しいの」

師範代「勿論です。由佳さん…どうかお気をつけて」

由佳「ええ、また伺うよ。鬼を……真由を討った時に、ね」ザッザッザ

由佳(……北へ…!!)



あおい「ぅ…ん…?」ガバッ

真由「お目覚めになられましたか、身体の具合は大丈夫ですか?」

あおい「あわ!わわわわ…わああ!」ズリズリ ドテン!

真由「ご、ごめんなさい…私が懐に入れている聖灰と聖水瓶が…」

あおい「いたた…お、鬼…あ、いや…真由……さん」

真由「私を…鬼と知っているのですね。それにあの双剣、討伐に来られた剣客とお見受けします」

あおい「え、えぇとあの…あう…」

あおい(どーしよどーしよ!?いきなりすぎてわけわかんないよ!?)

真由「なら…私を斬っていただけませんか?」

あおい「へ?」

真由「…私は十年前、とある鬼と戦い討ちました。ですがその鬼は私に憑依し、眠っている隙に殺人を犯す悪霊と化したのです」

あおい「あ、あくりょう?」

真由「朝…起きると体中血塗れになっているのです。宿の部屋から出ると…客や店主達が全て…惨殺されて…」

真由「私は自害しようと自らに刃を向けましたが…最早身体の主導権は鬼に乗っ取られていたのです。刺そうとしても急所を外し、傷は瞬く間に塞がってしまう…」


真由「それから人目を避け、隠れるように暮らしを続けていきましたが…徐々に蝕まれ、いつしか私が私として動けるのは月に三日程…それも陽の当たる間だけとなってしまいました」

あおい「え…い、今夕日って事は…」

真由「はい、今日もあと僅かで私は鬼と化してしまう事でしょう、ですから私を…」

あおい「真由…さん。確かに私は真由さんに会いに来たんだ。でも…斬るためじゃないの」

真由「…?」


あおい「真由さんを救うためなんだよ、私…鬼を3体倒す為に色々歩いてるんだけど…最後が真由さん」

真由「ならば…」

あおい「旅の途中でね、友達が出来たんだ。今ちょっと喧嘩中だけど…由佳っていう私と同い年の娘」

真由「!!由佳…あの子が…」

あおい「由佳は真由さんを探すためにずっと旅をしているの、色々な人と闘いながら…なんとかばっとうじゅつみたいな強い剣を使うんだよ?」

真由「……」

あおい「だから私、真由さんを斬れない!絶対に助けてあげるから!!」

真由「………」

あおい「真由さん?」

真由「あぁ…いえごめんなさい。…ですが、どうやって私と鬼を分離させるのですか?」

あおい「このね…」ゴソゴソ

あおい「なんとか封じの粉を、真由さんと鬼の繋がりが薄くなった時にかけると効き目があるみたい!」

真由「…なるほど」

あおい「でね、繋がりが薄くなる方法さえわかれば…これをかけるだけで斬る必要はなくなるの、真由さん何か方法ない?」

真由「……でしたら二日後の夕刻にいらして下さい、鬼の魔力が弱まる新月のその時間…きっと効果がある筈です」

あおい「おお、じゃあ二日後の夕方にまた来ればいいのかな!?」

真由「ええ、きっと成功すると思いますわ。神のご加護もある事でしょうし」

あおい「よーし!じゃあまた二日後ね!えーと、春日山はどこに帰れば…」

真由「あの先を真っ直ぐ行けば街道に出られますわ、さあもう陽が沈みます今日はそろそろ…」

あおい「あ、うん。真由さん、またねー!」タッタッタ


真由「…」

真由「うふふ…あはははは…残念、もうあなたの意識は三日間…それも『日没』までしか持たないのよ?真由さん」

真由「…ようやく見つけた…あれが…あれが「あのお方」の仰る…神に昇華出来る最高の餌!!!」

真由「二日後……楽しみですねェ…ふふ…ふふふふふ……」

春日山城

あおい「柿崎のおじさーん、いるー?」

門番「こら馬鹿!お前また捕えられたいのか!」
門番2「柿崎殿におじさんなどと!」
門番「まあ老け顔っちゃ老け顔だよな、あの人まだ若いのに風格が…」

柿崎「呼んだのは誰だ?…あぁなんだ小娘か」

あおい「小娘じゃないよぅ、あおいだよおじさん」

門番「こ、こら!」

柿崎「ああ、いいから気にすんな。餓鬼の言うことに目くじらたてる事はねぇだろ」

門番「は、はい申し訳ありません」

柿崎「殿がお呼びだ、あおい。屋敷まで来てくれ」ザッザッザ

あおい「ぶー、ガキじゃないってば!って待ってよー!」ダダダ


門番「この間目くじら立ててなかったっけ」
門番2「しっ!こ、殺されるぞ…!」

長尾屋敷

景虎「単刀直入にいう、討伐隊を組み悪鬼を討ち滅ぼす」

あおい「え…?」

景虎「鬼が糸魚川に潜伏しているなら話は早い…そして次は私自らが出向き討ち滅ぼさん」

柿崎「なっ!?お、お待ちくだされ殿!殿が出向く事もありません、俺にお任せいただければ…」

景虎「景家、お前は朝信の越中攻めに援軍として向かわねばならぬ…違うか?」
  
柿崎「……はい」

景虎「破邪顕正、毘沙門天の化身として世を乱す悪鬼は打ち砕かねばならぬ」

??「よくぞ言いました、景虎」スッ

景虎「姉上…」

あおい「だ、誰?綺麗な人だけど…」

綾「あら、あなたも可愛らしいですよ?初めまして、結城あおいさん。私は景虎の姉…綾です、以後お見知りおきを」

あおい「あ、よろしく…お願いします」

あおい(なんだろう…物凄く優しくて笑顔なのに…怖いというか…)

綾「景家、あなたはまさか私の景虎が鬼に遅れを取ると申すのですか?」グイ

柿崎「あ…い、いえ!めっそうも…」

パチン!

あおい「うわっ!」

あおい(おじさんのほっぺた思い切り…)

綾「…これは薫陶です、あなたは忠義深いですが…過ぎれば不義となりえる…心得なさい」

柿崎「は…ははっ!有り難きお言葉!」

景虎「明日討伐隊を率い糸魚川へ向かう」

あおい「あ、あのっ」

景虎「?」

あおい「それ…少しだけ待ってくれませんか?一週間、いえ三日で構いません!」

景虎「…正直に話そう、お前には鬼の居場所を突き止めて貰う事で充分であった」

景虎「もし奴が狙われていると知れば再び姿を消す、気取られる前に出向き打ち払いたいのだ」

あおい「でも!私は彼女を救いたいんです!!ちゃんと方法もある、だから…」

景虎「駄目だ、明日討伐する事には変わらぬ」

綾「良いではいですか景虎、三日間…待ってあげるのです」

景虎「姉上、しかし…」

綾「こんな可愛い顔をしながら…景虎や景家に睨まれながらもこれだけの事を言うからには…相応な覚悟があるのでしょう…」スゥ

あおい「あっ…」

綾「貴女の不思議な目…綾は嫌いではありませんよ。しかし…」

綾「貴女が鬼に討たれる、逃げても戦っていても…三日後に変更はありません、それまでに鬼を止めてみせなさい…結城あおい」ソッ

あおい「は、はい!!頑張ります!」

綾「よろしいですね、景虎?」


景虎「…三日後の未明に出陣する。あおい…毘沙門天の加護があらんことを」

あおい「ありがとう、謙信さん!それじゃ頑張るね!」スッ

景虎「謙信…?」

綾「ふふ…面白い娘ですね、不思議と彼女とは長い付き合いになりそうな気がしますよ…」

二日後…

糸魚川

あおい「いま何時?擬似さん」

(現在16時22分、夕暮れ時です)

あおい「あっ、きたきた!おーい真由さーんこっちこっちー!」ブンブン

真由「AVE MARIA si ambulem in medio umbroe mortis
non timebo mala quoniam tu mecum es domine
Acest cuvintla piept cu cruce acum mergem palat diavol lui…」

真由「会いたかったですよぉ…結城あおいさん…会いたくて会いたくて会いたくて…仕方がなかった…」

(あおいさん、双剣を抜き構えて下さい)

あおい「えっ?」

(時間がありません、戦闘態勢を取ってください。あおいさんあなたにも見えているはずです、彼女の左手にフィフスバスターが握られているのが)

あおい「…だよ、ね…やっぱりそうだよね…」スゥ

真由「あぁああ!いい!やはりあなたが私の求めていた究極の餌っ!否…触媒!!あぁ…今すぐその可愛い顔を絶望に染め…齧り付きたいぃ……」

あおい「…凄く逃げたくなるような事言われちゃってるけど…逃げれば謙信さんと真由さんが戦い…鬼を斬ってしまう」

あおい「私は、逃げない!そして…必ず救ってみせるっ!!いくよ、擬似さん!」ダッ

真由「ふっふひひはあは…来なさい…喰らい尽くしてあげるからぁぁァ!!!」グワッ

五木(丸太を貴様にぶつける理由ッ!即ち真由の初撃を見切る為にあるッ!大刀を使用する奴は一手目に突きを多様していた…つまり…)

真由「ゆぅぅきぃあおいぃィい!串刺しにしてあげぇますからねェぇぇえ!!」グワァッ


あおい「突きをさばけば…」クイッ

真由「!?」


あおい「今だ!」シュッ

真由「あっが…ぁ…!?」

(まだです、連撃を叩き込みましょう)


あおい「でえやぁぁぁ!!」

五木(狼との戦いにて小回りの効く斬撃を心掛けよッ!重い一撃よりも手数で圧倒した方が有効な時もあるからだッ!!)

真由「ぐぁぇああ!がぁぁあぁ…!!」グシュグシブシュウゥゥゥ

五木(そして止めに双剣を同時に振り抜く十字斬をお見舞いだッ!)

あおい「たぁぁ!!」


真由「おっぐぅ…あ…ぁぁ……」


あおい「…」ザザッ

あおい「…どうしたの?その程度じゃないんでしょ、悪鬼真由さん?」

五木(なるべく余裕をみせながら戦うのだッ。何?なにを言えばいいのかわからん!?でえーい、いくつか台詞を考えてやるから覚えろッ!!)

真由「…ヒッ!グヒッ…ヒャへへ…いい、いい!いいですよォ…あおいさん…もっともっともっと抵抗してくださァいねェェ…」ガシャガシャ

あおい(双剣モードが…来る!!)

続きは明日

真由「いぃ…ぃきますよォ…斬り刻んでぇ…あげますからァァ!!」ダダッ


あおい「来る…」

五木(真由の小型双剣ッ!こいつは素早い動きで非常に厄介ッ!大刀状態の比ではないッ!ならどうすればいいか…)

あおい「近寄る前に…倒す!!」シュッシュッ ビュオオオ

真由「!?ぐぁあっ!?な…何が…」

(残影二連の衝撃波、命中)

あおい「よっし、成功!」タタタ

あおい「真由さん…少し痛いかもしれないけど、ごめんなさいっ!!」ビュオッ

ザシュッ

真由「な…何故…!?わ、私が…手も足も…出ないなど…!!」

あおい「…何度やっても無駄だよ、鬼の攻撃なんて簡単に見切れちゃうんだから」

あおい(…で、よかったよね師匠が考えた挑発)

真由「いぃ~でしょう…あなたには第三段階のコイツを特別に、見せてあげましょう!!」ジュルジュル

あおい「えっとえっと…確か次がせーよーけんだよね」

(いえ)

あおい「え…あれ…?」

(三番目の武器は棍です、リーチの長い鈍器ですが…)

あおい「ま、まずいよ…」

あおい「師匠と私…そんなの忘れてたよ……」

真由「傷も完治…では…私の攻撃を再び見切れるか…たぁのしみですねぇぇ!!!」ダダダダ

あおい「うぅ…で、でも…大剣の時みたいに突きを…」

ドムッ

あおい「あ……げぇ……」

真由「おやぁぁ?」ブンッ

ドガッ

あおい「あぁああっ!」


真由「おやおやおやおやぁぁぁあ??!!」シュッ シュッ

ドムッ ドムッ

あおい「うぐ…ぇ…ぇ…ぁ…」

真由「おやぁァ?どうしたんですかぁ?お腹抑えて吐いちゃったりしてぇ…見切った、のでしょう?」シュッ

ドムッ

あおい「げ…ぇ…ぁぁぁ~~…!」

真由「ああいい声…形勢が逆転してしまいましたねェ、結城あおいさん」

シュパッ

真由「ぐっ!?」

あおい「…はぁっ…はぁっ…げほっ…真由さんは…必ず救うん…だから…」

真由「ふふ…」ニコッ

シュッ ドムッ!

あおい「きゃあぁぁぁぁ!?!」クルクル

真由「なぁにが…」シュッ

ドムッ

あおい「あああああぁぁ!!」クルクル

真由「救うだァ!?」シュッシュッシュッ

ドムッドムッドムッ

あおい「嫌ぁああああああああ!!」クルクル

真由「棍に突かれて無様に回されてる餌がァ!生意気な口をきかないで欲しいですねェェ!?」

あおい「ぁ…ぅ…」フラフラ

あおい(苦しい…痛いよ…くるくる回って…吐いちゃっ…て…気持ち悪いし…)

あおい(でも…絶対に…絶対に諦めない!)

あおい「その…為に…師匠とあんなに特訓…したんだから!!」シュバァァァ

ザシュッ

真由「この餌…まだ抵抗を…」

あおい「どんな事があっても…げほっ…諦めな…い!必ず真由さんを助けて…必ず帰ってや……」ドムッ

あおい「…か…かはっ…!?…ヒュー…ヒュー…」



真由「喉元にきつ~いきつ~い一撃…喋り過ぎは厳禁、ですよォ?…今日一日は呼吸困難でまともに喋れないでしょう」

あおい「………ぁ……ぁ……?!」パクパク

真由「それでも驚きですがねェ、アレを食らっても気絶しないとは……まぁ…苦しむ時間が増えるだけとも言えますが」シュッ

ドムッ

あおい「っ~~…~~~~~~!!」

真由「安心してくぅださいねぇ??可愛らしい顔は傷付けずにおきますからァ!!」ブンッブンッ

バコッバキッ

あおい「~~!?!」

真由「そうすれば…あなたを生きながら食べる時…た~っぷり恐怖と絶望に満ちた顔を見れますからねェ?その二つは食事における…最っ高の添え物ですからぁ!!」ブンッブンッブンッブンッブンッ

あおい「ぁ……っ!!!~~~~!」

(腹部や脚に深刻なダメージを確認、肋骨を2本骨折。重度の打撲により身体能力は大幅に低下しています)

あおい(あんなに…練習したのに…せーよーけん…かわせるようにって…このまま…食べられちゃうの…!?)

真由「さぁて…いい感じに痛めつけた所でそろそろいただくとしましょうかねェ…」ザッザッザ

あおい「っ………!!」ズルズル

真由「ああぁ…いいっ!いいですよォ!涙浮かべながらのその顔!!ぁあ~たまらないぃ…」

真由「あなたの身体に流れる…正確にはその武器に宿る魂の力…今は双剣から媒介し全身へ巡らせ見た目以上の身体能力を得る…「あのお方」が言うとおりせでしたねェ… 」

真由「まぁ…お話はこのくらいにして、そろそろいただきましょうか。さっきから…食べたくて食べたくて食べたくて…たぁまらないんですよぉ…?」ザッザッザ

あおい「っっ~~~~~!!!」ズルズル


真由「ぁぁぁ…そんなに…刺激しないで…食べたくて食べたくて食べたくて食べたくて食べたくて食べたくて食べたくて…仕方ないんだからぁぁぁ…そんなに逃げたり…ヒャへへへ…」ザッザッザ

ガシッ

真由「あぁ…つ~かまえた…神よ……私はこれで…あなたになれる、鬼を超えた!!神の存在へと!!!!!」

あおい(いや…そんな…こんな事って…嫌だ、嫌だぁあああああ!!!)


真由「では…いただきます………」グワッ



「待ちな」

続きは明日

真由「……」クルッ

真由「誰かと思えば…愛しの妹ではないですかァ…これも神の導きと言えるでしょう」パッ

あおい「…っ!」ドサッ

由佳「…久しぶり、だね。…姉さん」

真由「えぇ、とぉっても…さあ、私の胸に飛び込んできなさい…由佳…」

由佳「…」ザッザッ

ズバッ

真由「!?な…何故……姉に対して…斬るだなん…て…」ブシュウゥゥゥ

由佳「…成りすますならもっと上手くやりな。…姉さんはもう死んだ、その仇と親友二人が受けた傷の借り…返させてもらうよ」

あおい「…っ!…!!」

由佳「あおい…ごめん、また…遅れちゃってさ。」

あおい「……!」ブンブン

由佳「まさか喉を…!?」

真由「ふふ…仕方ない妹…ですねェ…きっちりお仕置きをする必要があるようですし…第四段階と行きましょうかァァ!!」ガシャガシャ

由佳「あおい…ちょっと待っててね」チャキッ

由佳「すぐ、終わりにしてやるから!!」ダッ

十年前

由佳「よいしょ、よいしょ…」ズリズリ

由佳「こうやっ…て!」ズルッ

由佳「いたい…うわあぁぁ~ん!!」

真由「ど、どうしたの由佳!?」タタタ

真由「よしよし、泣かない泣かない」ナデナデ

由佳「うっ…うっ…いたかったよぉ…」ヒシッ

真由「それにしても私の刀を引っ張って来て、どうするつもりだったの?」

由佳「ぐすっ…おねえちゃんみたいに、つよくなりたかったから…わたし、なきむしだから…だから…」

真由「由佳…」

真由「刀を振るえる事が強さではないの、大事なのは…誰かを守れるかと言うこと。毎日祈っているでしょう?あの言葉にはそういった意味も込められているのよ」

由佳「うん…わたし、おねえちゃんまもれるくらい、つよくなる!」

真由「ふふ、ありがとう由佳。でもね…いつか現れる大切な人を守れるようになってくれた方が、お姉ちゃんはもっと嬉しいかな」

由佳「たいせつなひと?」

真由「友人や好きな人…いいえ関係なんてなんでもいい、守りたい人が出来て…困った時には助け合える、困っていたら手を差し伸べる。」

真由「そんな関係を築いて守っていける方が、強いって言えると思うな!」

由佳「あう…よくわかんないよ…」

真由「ふふ…今はわからないかもしれないけどね、その内にわかる時がくるから」

真由「自分の全てを賭けてでも守りたい人が出来た時…人はどこまでも強くなれるってね」

由佳「…」

真由「さ、お腹も空いただろうし、昼のお祈りをしてからご飯にしましょう。今日は由佳の好きな焼き魚もあるから」

由佳「うん!おねえちゃんだいすき!」

「でやあああああああ!!」

由佳は走り出す
大切な友を守るために


綺麗な修道服に綺麗な顔、優しい笑顔
その面影は欠片もなく
血に染まり赤黒く変色したボロボロの修道服に歪んだ笑みと血走った目を浮かべた「鬼」だった

それでも大切な姉には違いなかった
だが由佳は止まれなかった、友人を、一度は離れた親友を助ける為…約束を果たす為に戻ってきた
退くわけにはいかない

ぐるぐると頭の中を過ぎらせながら初撃の抜刀術を放つ

ゆらゆらと立ち尽くす真由はひらりと交わし、瞬時に西洋剣を小さく振り反撃を試みる

神速抜刀術はただの抜刀術ではない、すかさず鞘の二撃目で真由の反撃を受け止め、三撃目の返す刀で左肩を狙った

「あっははひゃはひゃひゃ!!」

狂った笑いをあげながら左半身を反らしつつ右の西洋剣を振り下ろす

巨大な槌の如き一撃が由佳の脳天に襲いかかる

「っ!!」

冷静に剣閃を見極めくるりと回り、強烈な一撃を回避し…

「はぁぁぁっ!」

回転を生かしての峰の打撃
あおいに憑依した妙との戦いでも使ったこの技は真由にも通じた

ただあの時よりも由佳の反応速度や柔軟さ、剣技は遥かに冴え渡り

妙の刀は刀身だけでなく鞘も頑丈
真由の反撃を受け止めすぐさま返せたのもそのお陰であった

「ぐぅぅっ!?」

大きくよろめき歪んだ笑みは苦痛の表情へと変わる


「まだまだぁ!!」

姉への情を振り払うように叫び、追撃の左振り下しを放つ

「ふふ…」

だが真由は一瞬で体勢を直し、追撃をいなし…

「くっ…あぁっ!」

お返しと言わんばかりに左拳で顔面を殴り飛ばす

鬼の驚異的な力は素手でも十分過ぎる威力を誇る

由佳の脳は揺れ、僅かだが意識が飛ぶほどの拳打
高笑いをあげながらさらに追撃する真由の一撃をなんとかかわし飛び退く

(す、すごすぎる…私も修行して強くなったと思ったのに、由佳も…真由さんも…強すぎるよ…)

上半身を起こし座り込むあおいはただただあっけに取られるばかりであった

(やはり五木さんの言う通り、由佳さんの成長力は常軌を逸しているようです)

あおい(え…?)

(17歳の少女一人でこのクラスの鬼と互角に渡り合うのは不可能です、あおいさんは炎氷牙とそのエネルギーで補正を得ているのですが…)

(妙さんも一瞬で敗北した第四段階に互角…これはもしや…)

あおい(ね、ねえ…擬似さん、私声出ないんだけど何とかならないかな?身体が動かなくても、私由佳に伝えないと!真由さんを助けるって、助けたいって…!)

(炎氷牙のエネルギーを声帯の治癒へ回します、これで10分後には発声出来るはずです)

あおい(あ、ありがとう!擬似さん!)

「やっぱり、強いね」

溜息混じりに呟く
妙との戦いでの経験値や彼女の形見を活かしても簡単に一太刀も浴びせられない
これが悪魔祓いという名の妖怪退治を生業としてきた神の従者、小川=モニカ=真由だと改めて実感する


「ぐっ…ぐひっ!ぐひゃひゃ…切り刻ん…切り刻刻刻刻きざきざんで…あげますょォォ…!!」

南里家の内乱の際に戦った、あの妙よりも狂気に満ち禍々しい気を振りまく悪鬼

「あっヒャヒャヒャヒャヒャひゃ!!死ね死ね死ね死ね死ねェェェ!!ヒャヘヘヘ」

抑えきれないかのように西洋剣を振りかぶりながら猛進する


「…」

由佳は目を閉じ落ち着きを払う

(妙…力を、借りるよ!)

居合ではなく抜き身の刀で悪鬼を迎え撃つ

「ぶったぁギレロァァァあぁァああああぁああぁ!!!!」

激烈な一撃、狂気をはらんだ斬撃が由佳を襲う

だが由佳は刀を動かさず右手て持ったまま

(だめぇ!!避けて由佳ぁぁあ!!!)

あおいが声にならぬ声で必死に叫ぶ

狂気の斬撃が由佳を切り裂いた


のはすが…手応えは堅い物体に遮られた

名刀「桜花」の鞘は極めて頑丈で軽量。その堅さは悪鬼の一撃すらも受け止め…捌いた

「!!??!」

わけもわからずよろめく真由

「滝田一刀流『海』…そしてこれが…」

鞘を手放し素早く刀を両手で握り直し、上段に振りかぶる

「これが…『地』…終わりだよ!!姉さんっ!!」

上段の構えからの前傾気味の振り下ろし滝田一刀流『地』からの斬馬

「いぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

悪鬼…真由は肩口から真下にほぼ真っ二つになるかのように身を割かれた

由佳「…妙…敵はとったよ。さよなら……姉さん…」パチン

あおい(あ…ぁ…由佳…真由さんを……)

(いえ、残念ながらまだ真由さんは死んではいません)

あおい(え?う、嘘!?あんな事になってるのに…!?)

真由「…」ジュルジュルジュル

由佳「!?」

真由「…由佳、強く…なったね」ガシャン

(むしろここからが真骨頂、真由さんは…フィフスバスターは最終形態を残していますから)

由佳「姉さん…?正気に…!?」

真由「様々な物の怪を滅し、様々な剣客や武芸者を葬って来た…でも今…初めて出会えた…」

あおい(さ、さいしゅうけいたい??)

由佳「姉さん、何を言ってるの…?正気に戻ったなら…もう…!」

(大剣、双剣、棍、西洋剣…これはプリセットの武器。誰が使ってもこの4つは変わりません、ですが…)

真由「敵と言える相手に出会えた……十数年ぶりにあの刀を使う事が出来る…!!」ガシャンガシャンガシャン

(最後の武器はフィフスバスターのコアが自在に変形し使用者の最も得意な武器に変わり…)


由佳「その刀は…!!」


真由「数多の物の怪を滅した居合刀「椛」さあ…殺し合おう?由佳…」チャキッ

回想

由佳「おねえちゃん、このかたなかっこいいね!おもたいけど…すっごくきれい!」

真由「こらこら、危ないから近寄ったら駄目よ。刃に触っただけで切れちゃうんですからね、この刀は」

由佳「へぇ~、すっごくきれいでかっこよくて、つよいんだね!」

真由「…そうね、この刀で人を襲う魔を浄化し在るべき所へ戻す。この刀には不思議な力があって決して刃こぼれもしなければどんな武器にも打ち負ける事も無い…父さんと母さんが遺してくれた…家宝みたいなものよ」

由佳「おとうさん、おかあさんの…?」

真由「ええ、だからこの『椛』を振るう限りは絶対に負けられないの、例えどんな強い敵であっても、ね」

由佳「やめてよ…」

真由「…」

由佳「鬼が姉さんになりすましてるんでしょ!?そのふざけた芝居はやめて!姉さんが、姉さんがどんな気持ちでその刀を…」

真由「由佳、聞いて。確かに私は今まで悪鬼に身体を乗っ取られ殺戮を繰り返していた、でも…」

真由「あおいさんやあなたとの戦いで…完全に同化し、覚醒したの。真なる鬼として…あおいさんの血肉を喰らい、神と成る為の存在として」

由佳「やめて…」

真由「私を止める方法は…心臓を抜き取るか首を斬ること。……まだ戦う前ならあなたは逃げても追いはしない、あおいさんは殺されるでしょうけど…私も…大切な妹を斬りたくはない」

由佳「やめて!!それ以上姉さんの声で喋らないで!!」

真由「十数える間に退けば見逃します、十、九、八…」


由佳「ねえ、どうして…どうして今になって…あたし、辛かったんだよ…?どんなに狂っても…殺意をぶつけられても…姉さんを斬ることが…!!」

真由「…七、六、五…」

由佳「帰ろう?あの桜が綺麗な故郷にさ、父さんと母さんのお墓だって…姉さんしばらく行ってないしさ…」

真由「四、三、二…」

由佳「……本当に……戻れないんだね……」チャキ

真由「一……選んだみたいね、昔の思い出よりも…今の友を」グッ

由佳「……」

真由「始めましょう、私の神速抜刀術とあなたの神速抜刀術、どちらが上回るのか!!」

あおい(あ…ぁ…嘘…由佳!?由佳!!)

(由佳さんの右目を鬼はくり抜き引き千切りました)

あおい(やめてよ!そんな事いうの!!擬似さん、まだ動けないの?!このままじゃ由佳が、由佳が!)

(緊急治癒の目処がたつのは後3分です )

あおい(後…3分…!!)

真由「これが私の覚悟。…あなたも覚悟なさい、由佳。迷いがまだあるからこそ…あなたの右目は奪われたのよ

由佳「うっ…あああっ!!あああぁぁああ!!」

真由「痛いでしょう?苦しいでしょう?ただ…もう解き放ってあげましょう。すべての苦しみから、ね?」チャキッ

由佳「っ…はぁぁあぁぁ!!」シュッ

真由「!?」サッ

真由「右目を失ったのにまだこれだけの…」

由佳「はぁっ…はぁっ…はぁっ……くっ…」フラフラ

真由(いや…また切れ味が上がっている、やはり早急に殺さねば…)

真由「由佳…あなたなら知っているでしょう?私が最も得意とする技…」

由佳「はぁっ…はぁっ……超高速の抜刀術…神閃刃…」

真由「回避も防御も不可能なこの技で…終わりにしましょう」スッ

由佳(…来る…右目が見えないこの状況で見切るのは無理…なら、それよりも先に攻撃を差し込むしかない)


真由「行きますよ、由佳」スゥ

由佳「…」チャキッ

あおい「ぁ……あ…由……佳、由佳…!ダメ…!!」

あおい「由佳ぁぁぁあ!!逃げてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

由佳「…奥義…天津風…」

ザシュッ


あおい「い……」

あおい「いやぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」タタタ

由佳「あは、は…あおい…声が…戻って…よかっ…た…」

あおい「なんで…どうして……」

由佳「…最後に…何も…しなかった事…?」

あおい「…逃げれば、逃げれば…真由さんは追わないって言ったのに…!!」

由佳「あおいを……見捨てて逃げる…なんて出来ないよ…でもね…」

由佳「…姉さんを殺す事も…出来なかった…そう思ったら、身体が動かなくてね……やっぱり、友達失格…だよ…ね。また守れずに……」

あおい「ううん…ごめん…ごめんね…あんな事言って……由佳は私の親友…だよ…だから…」

由佳「…よか……っ……た…」ガクッ

あおい「…由…佳…?」

あおい「…」ゴソゴソ

あおい「あった、由佳これを飲んで!前にも飲んだ怪我がすぐ治る薬!ささ、飲んで飲んで!」クイッ

あおい「あれ?ダメだよ由佳、ちゃんと飲み込まないと効果ないんだから!」

(あおいさん、由佳さんは死亡しました。それよりも真由さんとの戦いに備えるべきかと)

あおい「死……んだ?変な、変な事いわないでよ…由佳が、あんな強い由佳が死ぬわけ…」

真由「これで…私は完全に悪鬼と成る為の、儀式は終わりました。さあ、次はあなたの番です…結城あおいさん」ザッ

あおい「由佳…ねえ、そうだよね?死ぬわけない…よね?だって由佳は……」

(あまり死体を揺らせば由佳さんが安らかに眠れません、あおいさん…由佳さんは殺されたのです。)

あおい「ユカガ…コロサレタ…??」

真由「そうよ、そこに転がった死体は私の妹…由佳。そしてこの私が斬り殺したのよ」

あおい「…………」スッ

(??)

あおい「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

続きは後日

真由「それだけ悲しんでくれたら妹も喜ぶ…でしょうね。でも、大丈夫…すぐに連れて行ってあげるから…」チャキッ

あおい「あぁぁぁぁぁあぁあああああぁぁあぁぁああああああ!!!!」ダッ


真由(真正面からの突撃、いや特攻…その怒りと共に消えなさい)

カキン

あおい「…」

真由「な!?う、受け止め…それに…」

パキパキパキ

真由「か、刀がっ!?腕が凍って!?」


あおい「よくも…よくもぉぉぉお!!! 」ボワ
ジュバァァ

真由「がっあっ…!?」

真由(右の刀から冷気が出たと思ったら左の刀からは炎を纏う斬撃…?!一体…何が!?)

あおい「よくも!よくも!よくも!!よくも!!!!」シュバパキンシュバパキンシュバパキン
(あおいさん、冷静になって下さい。怒りで無理矢理炎氷牙の性能を引き出しても制御出来無ければ妙さんの様に、いえ精神崩壊を起こし二度と元には戻れなくなります)

あおい「許せない…絶対に許せない!!!」シュバパキンシュバパキンシュバパキン

真由(ぐ…まずい、身体の再生が思うようにいか…ない…!冷気と熱の…せいだというの…!?)

あおい「でああああああああ!!!!」シュッ

真由「隙あり!!」ブンッ

ボキッ

あおい「…!」

真由「効いたでしょう?折れた肋に鬼の蹴りは?もうバラバラに折れ…」シュバ

真由「なっ!?反撃など…!!」

あおい「があああああああああ!!!」シュバパキンシュバパキンシュバパキン

真由「ぐ…は……馬鹿な…こんな…あっさり…」

あおい「…とどめ…」グワッ

プスン プスン

あおい「!?あれ……!?何で…刀が…」


(緊急停止完了。無理矢理炎氷牙の力を絶つ事に成功しました)


あおい「な…なんでそんな…」

(停止した理由は3つです)

(1つはあおいさんの精神に致命的な損傷の危険性が極めて高かった為)

(2つ目は炎氷牙の力消費を抑える為)

(3つ目は真由さんを救いたいというあおいさんの目的を考慮した為)

(以上が停止した理由です、それでも続けると言うのならば止めはしませんが)

あおい「…あ…ぅ……」

真由「ぐ……が………」ジュルジュル

あおい「そう…だった…私……真由さんを…救うんだったのに…私…私…!」

あおい「擬似さん…ごめん。ううん、ありがとう…私取り返しのつかない事を…する所だった。…わかった、由佳の仇は…真由さんじゃない…中にいる鬼だってコト…!」

(戦闘継続可能時間、4分38秒)

真由「はぁ…はぁ…危ない所だった…」ジュルジュル

真由「少し、油断していたみたい…ですね。次はこうは行きませんよ?」チャキッ

あおい「…必ず、必ず助けてみせる!いくよ、擬似さん!」

(了解、力の供給を再開します)

「はあああああっ!」

あおいは走り出す
大きく気合の入った叫びをあげ
親友の姉、最愛の人を助ける為の覚悟
叫びはその現れだっあ

その気合を乗せ右手の刀を振り下ろす


「!!あっ…ぅう! 」

瞬間、右手が熱くなり激しい痛みが襲った

(あおいさん、後退を右手首に深い斬撃を受けています)

擬似人格の説明の間にも真由の激しい攻撃は続いていた

「あうっ!きゃあぁ!ああぁっ!!」

炎氷牙の力により辛うじて致命傷を避けるが脚や肩、腹を斬られ防戦一方となってしまうあおい

(あおいさん、申し訳ありません。どんなに気合を入れても覚悟を決めても如何ともし難い差がある事…わかってはいた事ですがあおいさんが勝つ可能性は最初から…)

「あ…はは…」

珍しい擬似人格の謝罪にあおいは小さく笑った

あおい(そう…だよ…ね…いくら刀の力って言っても…真由さんに…勝てるわけない…)

あおい「でも…ね、擬似さん…勝つ必要は…ないんだ…よ?」

真由「なかなかしぶとい…ならばっ!」チャキッ

あおい(刀を戻した…)

あおい「いまだ!!!残影…二連!!」シャッシャッ

真由「!?…残念、ハズレですよ。」

あおい「ううん、大当たりだよ」

真由「…!
?」ポタポタ

真由「な…に…この液は…この粉は!
?」

あおい「知らなかったって事はやっぱり鬼なんだね…それは真由さんがいつも懐に入れている聖水と聖灰。よくわかんないけど…擬似さんが魔除けや浄化に使うって教えてくれたんだ」

真由「あ、熱い!!痛い!!あぁあ…あああああああああ!!!」

(お見事です、あおいさん。ですがこれだけで真由さんを救うには至りません)

あおい「だよね…だからね…」ゴソゴソ


あおい「師匠から貰った…なんたら封じの粉を!!」ババッ

真由「ぎえゃああぁぁあぁ!?な…ん…ダ…コレ…ウッギャアアアアアアア!!馬鹿ナ……我ガ……身体ガ…………」パアアアアアアア

あおい「すごい、ホントに効いちゃった…」

(真由さんの左側に黒い影がある筈です、それが鬼の本体。直ちに撃破して下さい)

あおい「よーし、いっくよー!」ダダダ

ザムッ

鬼「ギャアアアアアア…」ジュルジュルジュル


あおい「やった…倒した、倒したよ!!」

シュルシュルシュル ガシッ


あおい「!?な、なに!?きゃああああああ!」

鬼「上半身サエ無事ナラバ…貴様ノ身体ヲ奪ウマデヨ…」

あおい「は、離してよ!!」ジタジタ

鬼「無駄ダ…後ハ身体ニ侵食スルダケ…」ジュルジュルジュル

あおい「こんな…とこで…由佳があんな事になったのに……諦め…ない!」シュッ
ズバッ

鬼「無駄無駄…液状化シタ我ヲ斬ルノハ無明…大人シク…同化セヨ」ジュルジュルジュル

あおい「あ…ぁぁぁ…!!」

バッ

真由「させない!」ジュルジュルジュル

あおい「ま、真由さん!?」

真由「うっ…ぐ……ぁ……」ジュルジュルジュル

鬼「マタ貴様ニ戻ルダケダトイウノニ…マアヨイ、左手カラ再ビ同化ヲ初メ…」

真由「それは出来ないわね…何故なら…」スッ

あおい「え…刀…!?」

真由「あなたはここで滅びるのですから!!」シュッ ドスッ

あおい「!!?!?……う…そ…」

(自らの左腕を斬り落として無理矢理鬼を実体化させた…あおいさん、直ちにあの鬼を斬って下さい)

あおい「…ぁ…ぁ……」

(…)

真由「っ…ぐ……今まで私が重ねた罪と比べれば……」

鬼「オノレエエエエ!許サンゾ!!神ニナレバ貴様モ信仰シテイタ存在ソノモノニ!ナレルノダゾ!!」

真由「鬼よ…覚えておきなさい、主は唯一無二の尊き存在。ましてや神そのものになるなど…愚かな事はあってはならないのです……時間ですね」

鬼「ナニ!?」

タタタタタ

ズバッ


鬼「グアアアアアアアア!!?ナ…何故…貴様ガ……」

由佳「……消えな」カチン

鬼「ナンダ…コノ風ハ……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……」ズバッズバッズバッズバッズバッ


あおい「え…あ…え…!?ゆ、由佳…」

由佳「わからない…もしかしたらあおいがくれた薬が効いたのかも…起きたら姉さんが腕を……斬っ……」ドサッ

あおい「由佳!!」

真由「あおい…さん。ありがとう、鬼を滅ぼし…妹も救っていただいて」

あおい「ま、真由さんも!何で!?どうして腕斬っちゃうの!?血が凄いよ!?」

真由「いいんです…私はこの数年の間に数え切れない人々を殺めて来ました。ここで果てるのがせめてもの罪滅ぼし…これでよいのです」ガシッ

あおい「死なせない…」

真由「な、何を…!」

あおい「由佳も、真由さんも死なせないよ!!私が二人を運ぶから!絶対に、死なせないっ!!」ズルズル

真由「あおいさん…」

数ヶ月前
おーぷん高校 中庭

あおい「わぁ、桜が綺麗だね~」

佳奈「ここの桜の木はものすごく綺麗に咲くから有名なんだってさ、去年は入学したばっかで見る余裕もあんま無かったけど…いいもんだね」

由美「あおいと佳奈の方が美しいよ…なんてっ!きゃっ!きゃっ!」ドンッ

あおい「わあぁ!」ヨロヨロ ドシン

佳奈「ちょ、何あおい吹っ飛ばしてんの!!」

由美「あぁぁぁ、あおいごめんなさい!つい恥じらいが力にこもってつい…」

あおい「あ、うん…へーきへーき…あれ?何だろこの大きな箱は?」

佳奈「あぁ、なんか大昔から飾られてる御神体?らしいよ、桜の木はその時に植えたんだって」

あおい「ふーん…そなんだ」

由美「あ!そうそう!御神体といえば…じゃーん!」サッ

あおい「どしたの由美?…それお守り?」

佳奈「あぁ、それね。あたし達も2年生になったし…あおいも色々危なっかしいから由美と二人でお守り作ったんだ、御利益あるかはわかんないけどさ」

由美「愛!愛が込められているからね!愛よ愛!ラブよラヴ!!さあさあ、受け取ってあおい!私達の愛を!!」

佳奈「何だよそれ…」

あおい「わぁ、可愛いお守り…ありがとう、由美、佳奈!」

佳奈「いいっていいって」

由美「よしじゃあ次は桃園の誓いやりましょ!私関羽で佳奈張飛、あおいが劉備ね!!」

佳奈「だから何だよそれ…しかも桃じゃなくて桜だし…」

春日山城

あおい「っ!!」ガバッ


あおい「夢…か…」

あおい「そうだ、由佳は…真由さんは!?」ダダダ


長尾屋敷

あおい「謙信さん!」ガラッ


景虎「…あおいか、悪鬼の捕縛大義であった」

あおい「真由さんは無事なの!?」

景虎「…手当を施し今は安静にしている」

あおい「よかった…ありがとう謙信さん」

景虎「明朝に悪鬼小川真由の首を斬る、それまでに死なれては困るゆえ」

あおい「え…」



景虎「悪鬼は民を無差別に襲い殺戮を繰り返して来た、斬るのは必定」

あおい「待ってよ!あれは真由さんに悪い鬼が取り憑いてたからで、もうそいつは倒したから安心だよ!?殺すだなんて…!」

景虎「…変更はない、不満があるならば私に一太刀でも浴びせてみせろ」スクッ

あおい「うぅ……」カシン

(あおいさん、まだ若年ですが長尾景虎は後に軍神と呼ばれる程の名将。今のあおいさんでは到底勝てません、大人しく退くべきです)

あおい「やああああああ!!」ダダッ

景虎「…」ガッ

あおい「ウソ…手で止め…」

ゴンッ

あおい「いやあああああああああ!!」ゴロゴロゴロ

あおい「うっ…ぅぅ……」

景虎「…」ザッザッ

あおい「まだ…まだ…!」ググッ

景虎「…」

ドカッ バキッ

あおい「ぁぁ……ぁ…」ドサッ

足軽「殿!?今の音は!?」

景虎「…その娘を牢に入れておけ」

足軽「は…はっ!」

牢屋

あおい「うぅ…ん…」

あおい「あれ、ここは…?」

綾「起きましたか、あおい」

あおい「わっ!?…あ…えっと、綾さん…?」

綾「ここは春日山城の牢、弟…景虎が気絶したあなたを一日閉じ込めておくよう兵に命じ、今に至るのです」

あおい「一日…それって…」

綾「ええ、悪鬼を斬るまでの間…昼までは大人しくしているよう…」

あおい「お願い!真由さんと由佳を助けてあげてください!」

綾「由佳…あの右目を潰された少女は意識が戻り次第解放しましょう」

あおい「それじゃ真由さんは…」

綾「あおい、聞きなさい。取り憑いていた鬼のみを討ち果たし、元の小川真由に戻ったとしても…この北陸、いえ全国で数多の罪無き民を斬った事実は消えないのです」

あおい「うぅ…」

綾「景虎も領主として当然の判断、死罪が妥当…」

あおい「…」

綾「ですが…あなたは見事私や景虎の前で言ったように彼女を救い、さらには傷ついた友人をも糸魚川から春日山まで運んだ…」ガチャ

あおい「え、か…鍵開け…」

綾「誓いなさい、必ず友を裏切らないと…そして強く生きて行く事を。誓えるのならば、あなた達三人を解放しましょう」

あおい「綾さん…ありがとう…ほんとにありがとう…ぐすっ」

綾「礼を言う必要はありません、これは「貸し」ですから」

綾「いつか貴女が強くなり…景虎とも肩を並べ戦える戦士になるまでの猶予…愛を持って戦える強いもののふになる為…今は解放するだけの事、泣くことも…礼を言う必要もないのですから」

あおい「私…絶対に由佳を裏切らないよ!一回喧嘩しちゃってひどい事言ったけど…誓うよ!綾さん!」

綾「ふふ…本当にいい目をしていること…愛でてあげたくなるような…」スゥ

あおい「あっ……ぅ…」

綾「ふふふ…行きなさい、結城あおい。表に富山までの馬車と二人を乗せた荷台車を用意してあります。そこにあなたの荷物も…」

綾「行ってしまいましたか…ふふ、次はどんな形で現れてくれるのでしょう…」

薬の街富山に着いたあおいは二人を医療所に連れ、綾の紹介という旨を伝え治療を受けた

三日後


富山


医療所

医者「ふむ、腕を失った娘はまだ意識が戻らぬな…とりあえずの処置は済ませたが…」

あおい「あの、命が危ないとかそういうのは…?」

医者「長尾家での応急処置が完璧なお陰ですぐに生き死にの話にはならなかった、恐らく極度の疲労からのものだろう」

由佳「…入るよ」ガラッ

あおい「由佳!!」バッ

由佳「あおい…あはは、片目…無くなっちゃったけど…眼帯、似合う?」

あおい「…」ガバッ

由佳「わ、いきなり抱きついて…」

あおい「生きててくれれば…生きててくれてよかった…それだけでも…ぐしっ…うわぁぁぁぁぁん!」

由佳「…ありがとね、あおい。また助けて貰っちゃって」

医者「あー…ゴホン…」

由佳「あぁ、ごめんごめん先生。姉さんが意識を戻すまであたし達もこの街にいるからさ、よろしくね」

医者「ああ、勿論だ。責任をもって診よう」

富山

あおい「うぅぅ…ぐすっ……ぅ…」

由佳「ほーら泣かない泣かない!もういいって!あたしだって本当なら…違うな、あたしや姉さんもあおいがいなきゃ死んでたんだから!」

あおい「でも…由佳は目が…真由さんは……う…うぅぅぅ…」

由佳「…あおいのせいじゃないよ、姉さんの意思でやった事だから…ね」

あおい「…」

由佳「それにさ、今は喜ばしい事じゃないの!あおいは鬼を三体倒す事が旅の目的だったんでしょ?」

あおい「……うん…」ゴシゴシ

あおい(ただ…何にも知らないんだよね…これからどうするのかすら…)

由佳「だからさ、姉さんが目を覚ますまでちょっとお祝いしない?もちろん起きたらまた盛大にやるって事で!」

あおい「あ…う、うん…でも真由さん大丈夫、かな」

由佳「大丈夫だよ、あのおじさん有名な名医みたいだからね。あたしの目も化膿とかせずに済んだのは処置が手早かったからだし」

あおい「…じゃあ…」

由佳「うんうん、決まりって事で!じゃあお腹空いたし団子でも食べにいこっか!」

あおい「…うん!」


茶店

由佳「うまうま…ほらあおい食べなよ」モグモグ

あおい「由佳めちゃ食べるね…」

由佳「なんかすっごくお腹減ってさぁ、ほっとしたからかな?うまうま…」モグモグ


小物屋

あおい「へー、この時代にも可愛いアクセ売ってるんだねぇ」

由佳「この花の髪飾り、あおいに似合うかも。試しにつけてみてよ!」

あおい「うん…どうかな?」

由佳「あ~、いいよ、いい!可愛いよあおい!よっし…おばちゃんこれ買うからいくらー?」ジャラシャラ

あおい「えっ!いいって由佳、悪いよ」

由佳「命二回も救ってもらったんだからこれじゃ足りなさすぎるくらいだって!じゃあこれで…」ジャラ

「まいどー」

由佳「ホントあおいのおかっぱに似合うよねぇ、買って良かった良かった」

あおい「いや…これボブヘアーで……」



あおい「ふぅ、楽しかったね~私鶴とか初めてみたよ~」

由佳「うん…楽しかった、ありがと…あおい」

あおい「ううん!それはこっちのセリフだよ!」

由佳「ねえ、あおい」

あおい「ん?」

由佳「あたし…大陸へ渡ろうと思うの。姉さんと一緒に」

あおい「え…?大陸??」

由佳「日の本から海を越えた先にある大きな大陸…明って所なんだけどね…ううん、違うな。さらに遠くの南蛮を目指して…」

由佳「姉さんの腕は元には戻らない…医者の先生から聞いたんだ、意識を取り戻しても感染症の危険が極めて高いって…だから…もっと医療の発展した南蛮へ行けばもしかしたら…」

あおい「うん、そうだよね…真由さんも由佳と一緒にいたいだろうし、健康に暮らせるようになる為に…外国に行くのはいいと思うよ!」

由佳「あおい…ごめんね…助けてくれたのに、友達だって言ってくれたのに…」

あおい「そんな…気にしないでよ!むしろ由佳のお陰で鬼を三体倒せたんだから、こっちこそごめんねだよ!」

由佳「…ごめん」

あおい「あっ、そうだ!」ゴソゴソ

由佳「?綺麗な虹色…これは?」

あおい「この水晶の欠片…2つに割れちゃったんだけどね、由佳に片方あげる!」

由佳「あおい…うん…大事にする、絶対…大事にする。ありがと…」

あおい「よーし!じゃあ真由さんが目覚めたらパーッとお祝いしようよ!ちょっと私快気祝いの贈り物買ってくるね、由佳は宿に戻っててよ!」

由佳「あ…うん、気をつけてね」

あおい「大丈夫大丈夫!行ってきまーすっ!」タタタ


由佳「……ホントに…ごめん…」

路地裏

(あおいさん)

あおい「?珍しいね擬似さんから話しかけるだなんて」

(脳波に異常な乱れが見えます、大丈夫ですか?)

あおい「え…だ、大丈夫だよ!元気元気!」

(今までのあおいさんの行動や感情パターンを鑑みるに親友との別れを割り切れるとは思いません)

あおい「…!」

あおい「…だって…最後まで…迷惑かけたくないじゃん…私が嫌だって言っても……由佳が困る…だけ」

あおい「でも…大丈夫なわけ…ない!…嫌だよ、あんなに仲良くなったのだって佳奈や由美くらい…別れるのだって平気なわけない!ぅ…うわああああああああああ…」

(…)

数時間後

裏路地

(落ち着きましたかあおいさん。既に19時を回りましたが)

あおい「…ぅん……また…たくさん泣いちゃった…」

サガシーニイクーンダセーツナトリップ

あおい「!?え…何…嘘でしょ…なんでスマホに着信が…??」ゴソゴソ

あおい「Death13…なに…この番号……」スッ

あおい「……もしもし?」

十三「やあやあ、結城あおいさん。私です十三ですよ!見事に三体の鬼を倒し目的を果たせたようですなあ!」

あおい「え?え?十三さん?ちょ、ちょっと待って…いろいろよくわかんないんだけど…」

十三「まあ特殊な電波でスマホを介して会話しているだけですからなあ、気にせず気にせず。で…本題ですが」

あおい「う、うん…もしかして元の世界に…?」

十三「…ええ、誘いましょう…我が空間に、ね」

あおい「??な、何この光!?きゃああああああああああ…!!」パアアアアアアアア

??

十三「やあやあ、お久しぶりです。直にお会いしたのは2015年でしたな」

あおい「うん…そだね。…で、ここは?そろそろ宿に戻らないと由佳が心配しちゃうから…」

十三「…三体の鬼の魂…回収お疲れ様でした。見事見事…私の見立てでは最初の鎧型剛鬼あたりで死亡するとたかをくくってましたが…いやはやわからぬものですなあ」

あおい「あの、聞いてる…?」

十三「炎氷牙には私の能力を一部与えているのです、魂を吸い取り使い手を強化する魔剣…まぁ自作の錬金武器なんですがね」

十三「あなたの役目は鬼の魂を集め…炎氷牙の力に馴染んだその純潔の血を頂く…つまりあなたの血を吸い取り我が力とする…」

あおい「え…な、何言ってるの…?意味わかんないよ…」

十三「候補として三人の高校生が挙がりました。桜木佳奈、小川由美…そして…あなたです」

十三「清らかで最も力の変換率が良いのは16歳の処女と言われていましてな。全国模試でもトップクラスの才女の由美さん、運動神経抜群で勇気や器量を兼ね備え数々の武勇伝を持つ佳奈さん」

十三「ですがあなたを選びました、それは何故か?」

十三「あなたが何も持たないからです、強いて言えばそんな二人が親友になっているという運だけ…ですかな」

あおい「うぅ…う、運なんかじゃないもん!佳奈は幼馴染で由美だって…」

十三「まあいいでしょう。仮に二人に私の正体…あぁ私はあなた達の世界で言う水先案内人、死神というヤツなのですが…」

あおい「し…死…神!?」

十三「ちなみにあなたはあの世界をゲームの中だと宣っていましたな…実は気づいていたのでしょう?」

あおい「!!や、やめ…」

十三「タイムスリップ…正真正銘室町末期へ飛ばされたのですよ、あなたは。」

十三「あなたが殺した山賊や野盗…あの村の村人もこの時代に暮らす人間そのもの…人数は延べで…」

あおい「いやぁぁ!もうやめてぇ!!」

十三「…人を殺した感想はいかがですかな?結城あおいさん?」

あおい「ち、ちが…ちがう…私は…」

十三「ゲームだと思ったから?おやおや、立派な猟奇殺人犯の供述ですなぁ」

あおい「ぅ…ぅぅ…」

十三「もう聞きたい事もありませんな?では大人しくしていて下さいよ」ザッザッ

あおい「あ…ぁ…わあぁああああああ!!」ダダッ

十三「おや?逃げるのですかな?」シュン

あおい「!!っ!?!」

十三「無駄ですよ、ここから逃げる事も…あなたが大量に人を殺めた事も、ね」

あおい「やめ…て…お願い…」

十三「まああなたが死んだならばそれをダシにすれば佳奈さんと由美さんは立派な戦士になってくれるかもしれませんな、後は……」

あおい「やめてぇぇぇぇぇ!!」シュッ

ピタッ

あおい「え…な、なんで……」

十三「無駄ですなあ、炎氷牙は私が錬成したと話したでしょう?造物主を攻撃せぬように刻み込んでいるわけです」

(…)

あおい「うそ…擬似さん…うそ…だよね…」

(申し訳ありません、造物主たるマスターに刃を向ける事は出来ないのです)

あおい「あ…ぅ…」ペタン

十三「ふう、やっと諦めましたか。人間諦めも肝心ですからなぁ…」

由佳「あおい!!」シュッ

パシッ

あおい「えっ…!ゆ、由佳!?」

十三「!?なんと…!何故ここに…」

由佳「あおいがくれたコイツが光輝いてさ」スッ

十三「それは…私の言霊?…なるほど…」

由佳「何か声も聞こえてたから耳をすましてみればあおいが襲われそうになってたからね…助けにいかなきゃと念じたらここまで来れたのさ」

十三「しかしここに人間は……あぁなるほどなるほど…由佳さん、あなたはあの薬をまた服用したのですな?」

由佳「何であたしの名前を…あの薬がなんだかわかんないけど、あおいに手を出すなら許さないよ!」チャキッ

十三「いやあ友情ですなあ、見事見事。まあ、あなたを目の前で殺せばあおいさんも諦めがつくでしょうし…遊んであげましょう、神速抜刀術の由佳さん?」

由佳「後悔…するなよ!!」ダッ

十三「死神は鎌を使うイメージが持たれていますが…」パチン

ザシュッ

由佳「!?ぐぁっ!」

十三「こうしたカマイタチを利用した攻撃が得意でしてね」パチン

ザシュッザシュッ

由佳「あぁっ!がっ!」

あおい「ゆ、由佳!」

十三「残念ながら人間では手も足も出ないでしょうなぁ…せっかく格好良く登場したのに申し訳ない」パチン

ザシュッザシュッ

由佳「う…ぐっ…!あおいは…守…る!!」シュッ

十三「ぬっ!?」サッ

由佳「今だっ!!」シュッシュッ

あおい「由佳…由佳…!!」


(現在マスターの資格をほぼ満たしております。鬼の撃破や様々な魂の吸収等の条件…あと一つ満たせばマスターとしてあおいさんに仕える事が可能です)

あおい「えっ…?あの時…みたいに?」

(あなたのなりたいものになれます、勝てる確率は低いですが神の造物主とも戦えるレベルには達する筈です)

あおい「お願い、そのマスターってのになる!なるから教えて!どうやったらなれるのかを!」

(あなたの親友の魂が最後の条件、です)

あおい「……え」

(現代ならば佳奈さんと由美さん、この時代ならば由佳さんが該当する魂です)

あおい「な、何言ってるのか全然…」

(今戦っている由佳さんが死亡し、魂を吸収すればマスターとしての資格を得ることが出来ます)

あおい「……そんなの…そんな事…出来るわけ無い!!何でそんなふざけた事言うの!?」

(ふざけてなどいません、ならばもう一つ手段があります。炎氷牙の回路を犠牲にし擬似人格を破壊、それで造物主に対する攻撃防止は無効化するはずです)

あおい「…それも嫌だ…!絶対イヤ!!」

(発言の意図不明、何が不満なのですか?)

あおい「絶対、絶対三人でここから抜け出さなきゃ…」

(三人?)

あおい「私と由佳と、擬似さんだよ!誰か一人が欠けても嫌だ!」

(え…)

あおい「それなら私は…素手でも戦うよ!!」ダダッ


(あおいさん…)

由佳「っ…でやあああっ!」シュパッ

十三「残念残念…またハズレです」サッ

十三「小川由佳さん…確かに女性にしては強いかもしれません…が。全国に名を馳せた猛将や剣豪と比べればまだまだ…彼らをスポーツで例えれば全国大会レベル…あなたはせいぜい地元の祭りで優勝、くらいなものでしょう」パチン

由佳「うっ…ぁ…!


十三「まあ痛ぶるつもりもないので…そろそろ楽に…」

あおい「このおおおおお!」ガシッ

十三「!」

由佳「あ、あおい!?」

あおい「由佳、逃げて!今のうちに!」

由佳「何言って…」

十三「はぁ、丸腰で何を仕掛けてくるかと思えば特に考えず私を掴むだけ…下策中の下策ですなぁ」スッ

ドン

あおい「!?うわああああっ!」ズザザ

あおい(な…なんも触られなかったのに…)

十三「由佳さんを始末した後に相手してあげますから…大人しくしていて下さ…」

あおい「てえやああああああ!」タタタ ドムッ

十三「…」スッ


あおい「きゃああああああ!」ズザザ

由佳「あおい!…この…!」ダダッ

(…)

?(わかってるんじゃないですか?擬似さん)

(!妙…さん?何故?あなたは残留思念のみで人格は消えたはず…)

妙(心配…だったんでしょうね。あの二人の事もそうですが、あなたの事も)

(私の?)

妙(感情が無いように見えて…あおいさんにはかなり入れ込んでいたり、あなたは揺れ動いていた…本来の使命と彼女への情が)

(情?ありえない、私はただの擬似人格。妙さんや二月さんのような人間ではなく無から生み出されたもの…)

二月(嘘だね、君はもう覚悟しているはずだ)

(理解…不能、二月さん…あなたは存在を…)

二月(妙さんと同じ…なのかな。とはいえ僕らもやがて消え去ってしまう…だから…)

妙(最期に…三人の為に、私達の力を使い…あおいさんに力を貸して下さい)

(…私は十三様より生み出されし錬金武具…造物主に反するなど…)

妙(…)
二月(…)

(消えた…?幻聴…幻覚?)

あおい「いやああああぁ!!」ゴロゴロゴロ

あおい「うぅ…痛い…痛いよぉ…」

(あおいさん…)

あおい「立た、なきゃ…立たない…と…」ググッ ガクッ

(…)

由佳「うあああああっ!」ブシュッ

十三「後一撃死で、死にますな…由佳さんあなたはよく頑張りました、先程地元の祭りレベルとは言いましたが…その根性は立派なものです」

由佳「ま…だ…」ズルッ

十三「あーあー、もう着物や身体もボロボロだと言うのにまだ諦めないのですか」

あおい「由…佳、由佳ぁ…」ググッ

(……)

あおい「ごめん…私が…私がもっと…佳奈や由美みたいに……しっかりしてたら…うぅぅ…」

(あおいさん)

あおい「ぐすっ…なに…?擬似さん…」

(力があれば、もし力があるならばあなたは戦国時代を生き抜く覚悟はありますか?)

あおい「えっ…?」

(最後の条件…由佳さんの魂の他にもう一つだけ……あなたの親友の想いが込められたお守り…それを握りしめ、あなたがなりたいものを願って下さい。そうすればあなたに力を…)

あおい「!ブレザーに入れてる…このお守り…?」ギュッ

あおい「私の…私がなりたいもの…それは……!!」

続きは夕方

由美(全校生徒の皆さんおはようございます、生徒会より一学期の行事について…)

由美のような聡明で冷静な女性に


佳奈(あんたら…いい加減にしときなよ?それ以上その娘らに手を出すんなら…潰す!)

佳奈のように勇気と強さを兼ね備えた女性に


あおい「私は…私はなりたい!!!」

(…契約は果たされました…なんなりとご命令を…マスター)

「さあ…これで消えてください」

十三の手に光が徐々に集まると、そっと満身創痍の由佳に向けた

集った光は凝縮され放たれようとした瞬間

「!?」

二人の間に割り込む影…そのまま影は視認される事なく十三の右手首を切り落とした

「ヌゥ…!?なんと…まさか…」

初めて見せる十三の狼狽した姿

「…え…?あ、あお…い…なの?」

親友の由佳ですらも驚いた、一瞬で十三の目の前に現れ何の迷いもなく手首を切り落としたのは…紛れもない結城あおい

だがその雰囲気は全くの別人
澄んだ瞳には決意と覚悟が滲み、双剣を握り直立する姿に隙は無く不安定な感情の起伏は消え失せた冷静な立ち振る舞い

二人の知る結城あおいの姿は最早無かった

「くく…まさか…ついに…覚醒しましたか…!」

意味深に笑いを浮かべる十三

あおいの未来を賭けた戦いが今始まろうとしていた

(目標の右手首を切断、完全再生までおよそ15秒)

あおい「擬似人格KS-17型、あなたはこれから妙月…サツキの名を与えるわ」

妙月(承知しました、これより私の識別名は妙月と登録されます)

あおい「さて、と。一撃は決められたけれど…死神相手に正面切って勝つ方法は…」

妙月(彼は死神の中でも上位の存在です、とある事故により力を七割程失っておりますが人間が勝利出来る確率は極めて低いです)

あおい「そう…そうよね…でも私は由佳に誓った、絶対に諦めないってね。妙月、見せてあげる…奇跡って奴をね!」ダッ


「来ますか…どうれまずは様子見」

手首を再生した十三はすぐさま指を鳴らす

狙う部位は両足、どんなにフットワークが軽くとも脚を潰せば無力化する
さらに素早く駆け出したのならば急に現れる空気の刃は避けきれない、覚醒したあおいの出鼻をくじく最も効果的な狙い

十三との距離が2メートルを切ると彼女の太もも辺りにカマイタチが発生しズタズタに切り裂く…

肉の切れる音、鈍い斬撃音が響いた

「な……!?」

ズタズタに引き裂かれていたのは十三の腹部であった
あおいはカマイタチが発生する直前に右足を軸にくるりと回り、勢いのついた回転斬りを見舞い…零距離からの二段斬り、残影二連を叩き込んでいた

(まぐれ…?たまたまかわせただけ…ならばもう一度…)

死神故腹を引き裂かれても血や臓物は出ない
痛みを伴いながらも十三は再び指を鳴らす
覚醒しようが生身の女子高生、カマイタチに飲まれれば糸が切れた操り人形のように踊り死ぬ
今度は背後と右腕に発生させ確実なダメージを与える…

しかしあおいは上半身を屈ませ、再び傷ついた腹部を斬りつけた

「ぐむぅぅ!」

深い裂傷は十三の顔を歪ませ着実なダメージを与えることに成功した

あおい「…」ザッ

十三「…カマイタチは通じませんか」

あおい「ほんの一瞬、大気が震える…そこがカマイタチの出処と解ればかわす事は不可能じゃない…」

十三「はっはっは、いやぁ見事見事!完全に炎氷牙に宿る魂をコントロールしているではありませんか!」

十三「ならば…私もこいつでお相手しましょうか!」ブンッ

あおい「何もない空間から剣を…?」

妙月(死神十三が作り上げた錬金武具の最高傑作『雷光』あらゆる武具に変化が可能ですが、恐らくマスターと切り結ぶ為刀剣の形状に変化させたと思われます)

十三「あなたの持つ炎氷牙はこいつの力の一部から生み出した武具…親子対決みたいなものですな」

妙月(単純な武器の精度はこちらが劣ります、防御主体で…)

あおい「…あくまで攻める。サツキ…私を…いえ、自分を…自分の可能性を信じるのよ」

妙月(承知しました、炎氷牙のリミッターを解除…全魂を攻撃補助に回します)


あおい「…いくよ、妙月!」ダッ

ローファーで踏み込んだとは思えぬ程の電光石火
10メートルあまりの距離をわずか1秒で縮め、流水の如き一連の動きで双剣を振り十三を捉える

しかし居たはずの彼はそこにはおらず…

「ここですよ」

余裕の笑みを含ませながらあおいの背後より現れ、強烈な横薙を放つ

「!?」

不意を付かれたが辛うじて右手の炎剣で受け止めるが…

「くっ!」

右だけでは勢いは止まらず、左の氷剣で押さえつけるように防御

あおいの中では右で受け止め左で反撃
頭に描いた攻防の流れをも崩され、十三もその隙を見逃すはずもなく…

気付いた時には遅かった、自分は両手十三は片手で剣を使っている

ニヤリと死神は笑い左手を高らかに弾く

「きゃぁあ!」

カマイタチは背中を切り裂き
悲鳴と肉が裂ける音が響き渡る

「ぬんっ!」

十三の絶え間ない追撃
再び左からの横薙は小柄な身体を生かしてかがんで回避
上体を起こすと同時に炎剣を振り上げ反撃
数秒足らずの攻防は十三の優位に終わる

あおい「っ…」

十三「なるほどなるほど、なかなかやるようで…」

妙月「背中に深い裂傷、右肩と右腕にも深い切り傷、出血量中。戦闘に若干の影響あり」

あおい「そんなに甘くはない、か」スウ

十三「…」

あおい「私がこの時代に来て見てきたもの…全てをぶつけなければ勝てない…」

十三「ほっほう、ソイツは楽しみですなぁ…ならば今度はこちらから」グッ

シュン

再び目の前に突如現れる十三
高速の移動などではなく瞬間移動とも言うべき疾さで懐に潜り込み…左からの切り下ろし
織り込み済みだった、懐に瞬間移動する事、傷を負う右肩を狙う事も
全てこの一撃の為に…

「残影…二連!!」

超至近距離のカウンターを十三は一撃目を回避

「危ない危ない」

余裕を残しながら虎の子の二撃目すらも回避

言霊のデータをフィードバックした十三には今まで使用した技は筒抜けになっている

特に真由との戦いでも効果的だった残影二連には細心の注意を払っていた
十三は読み勝った…そう確信した

だがあおいの表情は驚きや動揺が見えない
ただの強がり、負け惜しみか…?
刹那、十三の周りを激しい風…疾風が吹き荒れた

「な…この風は…」

風は荒れ狂い死神の身体をバラバラに解体するかのように斬り刻む

「これが残影二連の完成形…」

遠距離では剣撃での衝撃波を飛ばし至近距離では強烈な二連撃を与える
あおいは二連撃は囮、本命は佳奈も使用した天津風…疾風で斬り刻む二段構えの技へと昇華させた

「…疾風の檻に飲み込まれなさい…」

物言わず斬り刻まれる死神に背を向け呟いた

あおい「由佳!!」ザッ タタタ

由佳「あは…は…凄い、ね…あおい…あたしなんか…じゃ…敵わないくらい…強く…」

あおい「…そんな事、ないよ。今の私があるのは由佳や五木さん、南里家の皆や真由さんがいたから…特に由佳がいなけれ……」ザクッ

十三「よそ見はいけませんなぁ…あおいさん?」

由佳「あお…い…!!」

あおい「かはっ…」ブシュゥゥ

十三「炎氷牙を地面に刺したせいで擬似人格からの忠告を聞けなかったのは…ミスですなあ」シュッ

由佳「あぶ…ない!」ドンッ

あおい「っ!」ザザザ

十三「おやしぶとい、あおいさん…あなた達は詰んでいるのですよ。今のが最強の技でしょうし…あの程度なら私を殺すまでは至りませんからなあ」

あおい「…」ガシッ

妙月(マスター、申し訳ありません。重傷を負わせ…)

あおい「気にしないで。私が油断しただけだから…それよりも、ダメージが皆無なのが問題…ね」

妙月(鬼と違い再生能力が根本的に違う為、いくら強力でも単発の技では倒し切る事は不可能です)

あおい「そう…よね。サツキ、私は後何分戦えるのかしら?」

妙月(およそ1分58秒、最大稼働していられるのはこれだけです)

あおい「…なら、ぶっつけだけど…五木さんの奥義…使うよ…!」

妙月(成功確率5%、非常に危険です)

あおい「サツキ…奇跡は手繰り寄せるモノ、どの道真っ当に切り結んでも勝てる見込みは低い…ならば…全力で賭けに出る!!」

十三「ほう、まだやりますか?」スチャ

あおい「ええ…最後まで諦めないよ…絶対に勝つ…勝って佳奈達の所へ戻るんだから…!!」サッ

十三「ならばみせていただきましょうか、あなたの覚悟を!力を!!」

あおい「…夢幻自在…!」スッ

あおい(むげんじざい?)

五木(うむッ!!この最強の俺が考案し100ある技の中でも最強の技よッ!!決まればどんな相手も倒せる無敵最強の技ッ!どうだッ!!)

あおい(ふーん…よくわかんないけどすごそーだねぇ)

五木(馬鹿者ッ!!すごそーではないッ!凄いのだッ!!いいかッ!夢幻自在は複数の技を組み合わせ状況や相手に合わせて適した技を出すのだッ!!)

あおい(ほうほう)

五木(まずは最初だッ!これが起点となる技ッ!その名も零佳風車ッ!!)

あおい(れーかふーしゃ?)

五木(うむッ!!こう右回転しながら前に進みッ!下から掬うように何度も何度も斬り上げだッ!!)


あおい「零佳風車!!」

十三「ふ…回転斬りですか…その程度簡単に受け止められますよ」カキンカキン

あおい(はーい師匠~、クルクル回って斬っても止められたらどうするの~?)

五木(馬鹿者ッ!!止められぬように素早くッ!双剣で時間差をつけッ!力強く出せばいいッ!六割はそれで死ぬッ!!)

あおい(他の四割は~?)

五木(ふッ…零佳風車には弱点があるッ!!防御されるのはいいッ!隙はないから反撃される事はないし時間差等を突けば防御を崩すのも可能ッ!!)


五木(問題はだな…)


十三「横に避ければこんな技…」サッ

あおい「妙牙…一閃!!」ズバッ

十三「ぐ!むぅ…」ザシュッ

あおい(みょうげついっせん?)

五木(零佳風車をどの状態で出しても必ずこいつをどこからでも出せるようにしろッ!!左右の剣や剣閃、峰や刃…全てだッ!)

あおい(ふぅん、ただ横に斬るだけなんだぁ)

五木(馬鹿者馬鹿者ッ!!ただ横に斬るだけじゃないッ!!零佳風車にはあえて弱点を設けているッ!だがそれを利用した技が妙牙一閃よッ!!)

五木(こいつが決まったならば今度は無数に妙牙一閃をお見舞いだッ!!これで三割は死ぬッ!!)

十三「ぐぅう……なんです…かこれは…止まらない…!」

あおい(残りの一割は~?)

五木(うむッこやつらは特殊な場合よッ!一つは夢幻自在を知る者ッ!何度か対峙すれば零佳風車も妙牙一閃も読める手練がいるかもしれんッ!!)

五木(二つ目は人外が相手の場合、何度斬っても死なぬ相手の時もそこらの鬼ならば屠れるだろうが…貴様は恐らくそれ以上の連中と戦わねばならないッ!故に三つめのこいつを怠るなッ!!)

五木(ここまでの夢幻自在でもあえて弱点を残してあるッ!後ろに下がれば楽にかわせる…そう思わせるのだッ!)

十三「まだ止まらない…ならば後ろに…」

五木(相手が後ろに飛び退くと同時に踏み込み…すれ違いざまに激烈な二刀での斬撃ッ!!これが…)

あおい「三散月華…!!」

十三「ぐあああああぁあ…」

あおい(さざんげっか~、ってやれば…)

五木(うむッ!貴様も最強の一角よッ!!)

あおい「っはぁっ…はぁっ…はぁっ…」

妙月(効果的なダメージを確認……稼働限界を迎えました…強…制…冷却に…入ります…)

あおい「はぁ…はぁ…今度…こそ……」

十三「ふふふ…ははははは!まだまだぁ!まだですよ!見事な技ですがねぇ…私を、死神を殺そうとは…無駄な事なのですよ!」ズルッズルッ

あおい「く…まだ…立つの!?…もう力は残ってない…けど、諦めない…絶対に…!!」

十三「むぅう、脚の再生具合が思わしくありませんが…まずはあなたの血を…」

あおい「…!」スチャ


ヒュッ

パリン パシャッ


十三「!…うん…?水…??」

由佳「待って…たよ、動きが遅くなるのを…待ってた…姉さんが愛用していた聖灰入りの特製聖水……よーく効くよ…?」

十三「ぐぅおああああああああ!?し、しまっ…があああああ!!」ジュウジュウ

あおい「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」ザッ

十三「!?ま、待…!!」

あおい「終わりよ!!」シュパッ


十三「ぐわああああぁぁ…」シュウウウ

10日後



あおい「由佳、真由さん…元気でね」

真由「あおいさん、本当にありがとうございました…そして申し訳ありませんでした」

あおい「ううんううん!私なんかより真由さんは腕、由佳は目を…」

真由「腕でも安いくらいです…私が犯した過ちは。自己満足かも知れませんが私は贖罪の旅に出、再び救える命を救いながら南蛮を目指そうと思います」

由佳「あたし達はあおいに助けられたって言ったじゃん、そんな暗いことはいいっこなしだよ?」

あおい「由佳…真由さん……」

由佳「あおい、いつになるかはわからないけどさ。またこの国に帰ったら…また買い物したりお団子、食べよ?ね!」

あおい「ぐすっ…う、ぅん!」

ブオッオー

真由「出港の合図…あおいさん、それでは…あなたの旅に主の加護があらん事を」スッ

あおい「うじゅっ…がごが…ぐしゅ…あらんごとぉぉ…」

由佳「さよならは言わないよ、…逢えるからね!!だから…またね!!」

あおい「ゆかぁぁ…うわあああああん!まだぁ…まだねぇぇぇ…!!」ブンブン


十三(はぁ、何ともブサイクな泣きっ面ですなあ。元が可愛いのに勿体無い)

妙月(泣くという行為は人間に備え付けられた喜怒哀楽のうちの一つ、主だつのは仕方のないことです)


あおい「えっぐ…ぐす………てかさ…ずるっ…」

十三(はい?)

あおい「なんでおじさんが炎氷牙にいるのぉ!?倒したじゃん!倒したじゃん!」

十三(あぁ、倒されましたなうっかりうっかり。危うかったですよまさか聖水なんてかけられると思わず、危うく本当に殺されるかと)

あおい「このこの!また倒してやる!」ポカポカ

十三(いやいや、あなたがやり過ぎたせいで自分が現代に帰れなくなったんですよ、あおいさん)

あおい「え」

十三(私が何故あなたをこの時代に送ったか?)

あおい「…私を殺して血を吸い尽くす…」

十三「あー、そこからして間違いですな。別にあなたを殺すつもりありませんし、血も献血程度で良かったのですから」

あおい「え」

十三「三崎という男…言霊のフィードバックの結果こいつが私の探していたターゲット。私は三崎を始末する為に失われた力を全て取り戻す必要があったのです」


あおい「え」


十三(死神は複数おりましてな、それぞれが国や時代などで管轄があるのです。まぁ無駄な話は省きますがその中でこの時代を担当していた…人間名の三崎という死神が我々の世界に捧げられた神具…アーティファクトを奪い、さらに歴史の改変を企てていたのです)


あおい「え」

十三「アーティファクトを奪われたら大変大変、私は2000年代を担当していたのですが力失ってそらもう大変で大変で…」

十三「なのでなけなしの力を使いあおいさんをこの時代に送り頑張ってもらい、献血してもらい…あおいさんにはこの件の記憶を消し現代へ…これが本来の計画だったのです」

あおい「さ、先に言ってよ!!なんで言わないのぉぉ~!!」

十三「いやだってまさかマスターとして覚醒してあんなカッコよく振る舞っていたからてっきり三崎を倒してくれるのかと」

あおい「うわああああああん!!帰れないんじゃどうすんのよぉぉ~!!」

十三「いやまあ手はありますぞ1615年に強力な次元嵐が起きますからそれに乗れれば帰れますよ多分」

あおい「えっえっ、それ乗ろう!乗ろう!」

十三(まあ今から100年後くらいですが…)

あおい「うわあああああん!!やだやだやだぁ~!!帰りたいよぉ~!!」

十三(この間のクールさが台無しですなぁ…まあ安心して下さい、私が魂のみになっても多少ならば時間を跳躍できますから。かなり限定的ですが)

あおい「えっ、ホント!?乗ろう乗ろう!」

十三「いやそんな電車とかじゃないんですから…だからあおいさん、あなたには私がしなくてはならない事をしていただきたいのです」

あおい「はえ?」

戦場

十三(相模の北条家は長尾景虎率いる兵に苛烈な攻撃を浴びております、本来ならば北条の当主氏康が獅子奮迅の活躍を見せて勝利したのですが…)

あおい「…」ガサガサ

十三「三崎の手が回っているのかかなり不利になっておりますな…なのであおいさん!あなたにはこうして歴史の綻びを直して欲しいのです、様々な戦場を駆け抜け、元の世界を取り戻せ!どうです?」

あおい「うるさーい!!なんで私が制服なのにこんな草ばっかのとこ歩くのよぉ…脚とかめちゃ傷ついてるよ!?最悪…」

十三「まあ治るからいいじゃないですか不老不死ですし」

あおい「よくなーい!蚊も多いしなんでこんな…」

十三(そらまああなたそんな格好で戦場に出たら真っ先に狙われますし、不老不死とはいえ討死するわけですから
。制服なんて珍しいからいい戦利品になるんじゃないですかね)

あおい「うぅ…わかったよ、進むよ!進むから!」

長尾家本陣

景虎「首尾は上々か」

綾「見事です景虎、義と愛の戦…存分に発揮していますね」

景虎「……姉上、なぜ戦場に…」

綾「あら、私が居ては駄目だなんて…優しい景虎なら言うはずもない…そうでしょう?」

景虎「……」

ガサガサガサガサ

あおい「いたたた…あーもー靴下破けたじゃん…もぅ…」グイッ

兵士「て、敵!?奇襲だー!!」
兵士「まずい…本陣には殿のみ…誰か救援…」

ドスッドスッドスッドスッ

あおい「さっちゃん、結界はおっけー?」

妙月(はい、本陣の周りに防壁を形成。十五分は出入り出来ません)

景虎「お前は数年前の…」

綾「久しぶりですね、あおい。壮健そうで何よりです」


あおい「あっどもー、お久しぶりっていっても私はまだ一ヶ月ぶりくらいで…」

十三(…妙月、あおいさんに魂を貸し与えなさい)

妙月(了解)

あおい「…お久しぶりです、単刀直入ですが…長尾景虎殿、あなたに一騎討ちを挑みたい…」

景虎「…姉上、太刀を」

兵士「と、殿!?」

兵士「くそっ、なんだこの光は!?動けん!」

綾「はい景虎…ご武運を…」

景虎「はっ」

妙月(ミッションは長尾景虎との一騎討ちを15分切り結ぶ、今回はそれで達成です)

あおい「了解、さあ景虎殿…行きますよ?」

景虎「ふっ、いい目つきになったな…来い!」

綾「景虎が笑った…ふふふ…この一騎討ち…楽しみ、ですね」


あおい「はああああああっ!!」ダッ

景虎「ぬん!」ブオ



第一部 完

後日 第二部予定

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