くびのはなし (26)

今日見た夢をSSにしただけ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1435607146

「とあるクラスメイトに渡されたお茶を飲んだ私は、気づくと校庭に埋められていた」

「埋めちゃった」

「なるほど、犯人は分かった」

「でも、埋められたのは貴方が悪いの」

「私は何かやってしまったのか」

「私のアプローチに全然気づいてくれなかったから」

「そうか、それは重大な罪だ、甘んじて罰を受けよう」

「じゃあ、一緒に私の部屋に来て」

「残念だけど、私は埋まっているからついていけないんだ、なので掘り返してくれると嬉しい」

「ごめんなさい、私腕力がないから掘り返せないの……それじゃあ諦めるわ、ばいばい」

「ああ、なら明日学校に来た時にでも腕力のある男の人をつれてきてくれ」

「覚えてたら考えるね」

「ぜひ覚えていてほしいな」

「おはよう」

「おはようございます」

「男の人はつれてきてくれなかったのか」

「だって、ここ女子校だもの」

「ふむ、もっともだ、しかし、家にでも帰れば君のご両親でもいるんではないかな?」

「私、寮生なの」

「あぁ、なるほど、それならどうしようもない」

「だから私、貴方をここで飼うことにしたの」

「おや、私はペット扱いかな?」

「私は貴方にぞっこん、貴方は私が世話しないと生きていけない、素敵な共依存だと思わない?」

「私の思う思わないに関わらず、君にとっては素敵なことなんだろう」

「えぇ、とっても、何日か前に貴方に渡したチョコレートのように蕩けてしまいそうなほどに素敵」

「あぁ、あのチョコレートは君からだったのか」

「気づいてくれないなんて酷いのね」

「名前を書いてくれないのが悪いんじゃないかな?」

「女心は複雑なの」

「失敬、私も女だったのだが、もしかすると私は光年の先に女心というものを忘れてきていたのかもしれない」

「そんなところも大好き」

「告白されてしまった」

「それじゃあ、どこかに逃げ出したりしないでね」

「埋められているのにどこかに動けるはずがないだろう」

「それもそうね」

「ふむ……動かせるところでも動かさないと、いざ地上に出られたときに体が鈍ってしまうな」

「とりあえず、首の運動でもしておこう」

ぐる、ぐる、きゅきゅきゅ、きゅっ、きゅぽん

「……ふむ、首が取れてしまった」

「なるほど、私の首はねじ式になっていたのか」

「これは、気づかせてくれたあの子にお礼をしなければならないな」

「しかし、良く考えると私はあの子の名前を知らない」

「誰か知らないか聞いてみよう」

ごろん、ごろん

「たいへん遠くまで来たようだ、ここはどこの町の路地裏だろう」

「おや、首だ」

「やあ、覆面にナイフを持っているということは、君は殺人鬼かい?ちょうどそのナイフも赤くてらてらと光っているみたいだ」

「さっき活きのいいのを二・三人クロッカスにしてきたところさ」

「おやおや、物騒なことだ」

「仕方がない、そういうものだからだ」

「ふむ、なら仕方がない」

「それで、首さんが何の用だい?」

「私についてきて、私の体を掘り返してはくれないだろうか?このまま体が動かせないと、地中の鉱石と反応してエンラトデュール症候群にかかってしまうんだ」

「残念だが、俺は死んでるのには興味がないんだ」

「すると、君は死体の首と話しているのだが、君と意思疎通が取れていてもそれは死体なのかい?」

「首が喋っていようといなかろうと、二つに分かれてしまえば俺の中では死体なのさ」

「なるほど、首が離れているという物理的な状態が君にとっては重要というわけだね?」

「良く分かっているじゃないか、それじゃあ俺はクロッカスをブロッサムにしなきゃいけないんだ、さよなら」

「ああ、一つだけ聞かせてくれ」

「なんだ」

「少女の名前を知らないか?」

「俺が少女の名前を教えたら、その少女のことを俺は知っていることになり、俺は少女を殺さないといけなくなるが、それでもいいか?」

「それは困るし、もしかすると君も私みたいに埋められてしまって、首で転がる一族の一員になってしまうかもしれない、君のためにも遠慮しておこう」

「そうか、それじゃあな」

「それでは」

「やあ」

「おはようございます」

「昨日はよく眠れたかい?」

「貴方の髪の毛を一本抱きしめて寝たら、とても気持ちよく寝られたわ」

「おや、いつのまに私の髪の毛をとったんだい」

「昨日の昼ごはんの時に、こっそりと……黙って取って、ごめんなさい」

「いやいや、いいのさ、ただ、今度からはきちんと言ってくれると嬉しいな」

「それじゃあ、今日も一本いただきたいの」

「お安い御用さ、私も随分と髪が長くなってしまったから、むしろ髪の量が減ってさっぱりしている」

「ふふっ」

「さて、今日はこの長くなってしまった髪の毛で、普段はいけない場所に行ってみよう」

「髪の毛は女の武器というからな、きっと色々なことに役立ってくれることだろう」

ぐるん、ぐるん

「ふむ、川にたどり着いた」

「首さん首さん、ごようですか」

「やぁ川蟹くん」

「首はひさしぶりです」

「おや、私は君に逢ったことがあったのか」

「いえ、あなたではありませんが」

「おや、どういうことだい?」

「この前とおりがかった人が『名前』を教えてくれたので、首を作ってしまったのです」

「なるほど、自殺願望のある人だったんだね」

「いえ、その人のかばんに『なまえ』が書いてあるのを見てしまいました」

「ふむ、それは用心が足りないなぁ、いや、もしかするとわざと書いたのかもしれない」

「ところで、あなたの『なまえ』はなんでしょう」

「なんだろうな、『首』と名乗っておこうか」

「『首』さん『首』さん、わたしはあなたを切らなければなりません」

「おや、うっかりしてしまった」

「どこをおきりしましょう」

「ふむ、痛くないところがいいな、それではこの髪を差し上げよう」

「わかりました、この髪をきります」

「髪は女の命という、大事にしてくれたまえ」

「それでは、いのちを切ってしまいましょう」

「おや、そういう考え方もあるのか」

「あ、髪が……」

「蟹に切られてしまったよ」

「蟹なら仕方ないけど、最近はこんなところにまで来るのね」

「月の満ち引きの関係だろう」

「それなら仕方ないわ」

「さて、今日も少女の名を探すとしよう」

ころころり

「うむ、髪が短いと転がりが速くなる」

「ここは図書館かな?」

ざわざわ

「ふむ、私は図書館は得意ではないのだが、これも少女の『名前』を知るためだ、行ってみよう」

「やあ、本の諸君」

「首よ、我が名は『ディータ家に伝わるアントレクホッズの活用』」
「我が名は『いしのあたがるこうし』」
「『勝負への第百八十七の序曲』」
「『あしたのおとといの辞典』」
「『ビオレーズのアントクルワネッフ』」
「『医刻惨列辞典』」
「『上の右』」

ぷしゅう
しーん

「ああ、全て入ってしまった」

「だから図書館は苦手なんだ、本は顕示欲が強い」

「しかし、名乗ってしまった本の中に人名事典でもあったのだろうか」

「私は少女の『名前』を知ってしまった」

「これは大きな進展だ、しかしそうなると、急いで事を進めなければ」

「ふむ、あの本たちの中には随分と物知りがいたようだ」

「見る物のほとんどの『名前』がわかってしまう」

「しかしこれでは私はパンクしてしまう、ここからは目を瞑って帰ろう」

「『首』さん、『首』さん」

「おや、この声は『川蟹』くんだ」

「あれ、わたしはあなたに『名前』をいってしまいましたか」

「すまないが、私は君の『名前』を知ってしまったのだ」

「おや、そうですか、それではみられる前に逃げなければ」

「それがいい」

「今日はどうして目を瞑ってるの?目でも痛いの?」

「それは、君の『名前』を知ってしまったからだ」

「あらまあ、どうして」

「探していたら知ってしまった」

「どうやって知ったの?」

「実は」

くるくる、きゅぽん

「首が取れるようになってしまったのだ、それで、私は君の『名前』を探して日々冒険をしていたのだよ」

「まあ、そんなことまでして私を独占したかったのね」

「何もしないのかい?」

「どうして?」

「君が私に独占されるのが嫌だというなら、私の目を今潰してしまえばいい」

「どうして?貴方に独占されるのなら、私は大歓迎」

「そうだったのか、私はてっきり君は独占されたくない型なのかと思っていた」

「私は、貴方のどんな愛でも受け入れるの」

「それはよかった、それじゃあ、これからよろしく、『少女』」

「あら、素敵なお部屋」

「君のために作ったのさ、『テーブル』に『椅子』、『ベッド』に『チェスト』、『パン入れ』に『フルーツかご』、まだまだたくさん取り込んだよ」

「こちらのお部屋は書斎かしら」

「『本』たちを手に入れてしまってね、どうしようもないからここにしまってあるのさ」

「読んでいい?」

「いいとも」

「ところで、貴方はここでも首だけなのね」

「うむ、私の体は『名前』を名乗ってくれなかった」

「本には書いていなかったの?」

「余りに新しすぎる出来事で、編集してくれる人がいなかったんだ」

「まあいいわ、首だけでも貴方と一緒にいられるんだもの」

「そうさ、それだけで十分だ、さあ『少女』、私の首を君の膝に乗っけて、私の短くなってしまった髪を優しく漉いてほしい」

「『名前』で呼ばれなくても、するに決まっているでしょ?」

「確かにそうだ、ははは」

「でも、貴方は外に出られて、私が外に出られないのは不公平ではないかしら」

「確かにそうだ、それなら、そこにある鏡に私を連れていって欲しい」

「うん、こう?」

「『首』」



【おしまい】

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