秋津洲「あたしもっと皆の役に立ちたいかも!活躍したいかも!」 (170)


――廊下

秋津洲「という訳で、秘書艦の川内さん!提督に上申してあたしを第一艦隊に入れて欲しいかも!」

川内「ダメ」

秋津洲「即答かも!?……ひょっとして、川内さん知らないかも?今度解放された新海域には、水上機母艦が必要かも!」

川内「ウチの艦隊には高練度の千歳さんが居るから問題ないよ」

秋津洲「むー……ならしょうがないから鎮守府正面の対潜哨戒で我慢するかも!」

川内「それもダメ。もう対潜哨戒を安定して行うための艦隊編成は確立されてるから」

秋津洲「……どーしてぇ?あたしだって対潜出来るかも!あたしと大艇ちゃんの凄いところを皆に見せてやりたいかも!」


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川内「一言でいうなら練度が足りない。戦力になると思ったらこっちから声をかけるから、今は訓練に励みな?」

秋津洲「せっかくあたしがやる気出したんだから今、お仕事させてほしいかも!こういうやる気のある部下を活用出来るのがいい環境かも!!!」

川内「……あんまりこういう事言いたくないんだけどさぁ。秋津洲、どれだけ自分買い被ってんの?ちょっと度が過ぎてるよ」

秋津洲「……ぇ」

川内「世の中も艦隊も、別に秋津洲を中心に回ってるんじゃないんだよ」

川内「もうちょっと冷静になって、今自分が艦隊でどんな立ち位置なのか考えてみる事だね。話はそれから。それじゃね」

秋津洲「あ、ちょっと川内さん!待ってほしいかも!……行っちゃった」

秋津洲(いきなりあんな事言うなんて川内さんってば、ちょっと性格に難アリかも。夜うるさいし……あたしってば、いい上司に巡り合えなくて不幸かも)

秋津洲(でもめげても仕方ないかも!こうなったら、直接第一艦隊の人に話をつけて変わってもらうかも!)

秋津洲(実際に海域で活躍してみせれば、川内さんだってあの態度を改めてもっと誠実に接してくれるに違いないかも!)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『……危ない所だったかも。あたしと大艇ちゃんが居なかったら、仲間が沈んでたかも?まったくもう、慢心は駄目かも!』

『ごめん、秋津洲……助かった。あの時は酷い事言ってごめん。私、秋津洲がこんなに凄い艦だなんて知らなくて……』

『別にいいかも。誰にだって間違いはあるかも?』

『こんな私も許してくれるなんて……心も強いんだね、秋津洲って』

『やっとあたしと大艇ちゃんの力に気づいたかも?ならこれからは、しっかり艦隊編成に組み込んでMVPも取らせてほしいかも!』

『もちろん!これからの艦隊は秋津洲を中心に組み立てるようにって、今から提督に上申してくるよ!』

『ようやくあたしが艦隊に必要な存在だと川内さんに理解してもらえたかも!秋津洲流サクセスストーリーはここから始まるかも!』

『『『『『秋津洲万歳!大艇ちゃん万歳!万っ歳ぁぁぁぁぁぁいっ!』』』』』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

秋津洲「…………………………………えへへ」

秋津洲(でもあたしと代わってくれそうな艦娘……役割同じだし、千歳さんとか優しそうだしいけるかも?)

秋津洲「そうと決まったら善は急げだよ、大艇ちゃん!走って行くかも!」


――千歳の部屋

秋津洲「……という訳で、今度の新海域への出撃をあたしと代わって欲しいかも!」

千歳「うーん……意気込みは、いいと思うんだけどね……」

秋津洲「千歳さんとあたしは同じ艦種かも!なら千歳さんに出来る事は、あたしにも出来るかも!」

千歳「……」

秋津洲「急に頭抑えてどうかしたの?ひょっとして二日酔いかも!なら尚更出撃代わってあげるかも!」


千歳「……あなた、練度いくつだったかしら?」

秋津洲「35かも!」

千歳「私の練度知ってる?」

秋津洲「知らないかも?」

千歳「……悪いけど、やっぱりこの話はお断りさせてもらうわ。ごめんね」

秋津洲「そんなぁ!秋津洲、千歳さん以外に頼める人いないかもぉ!」

千歳「それじゃあ、千代田が演習場で待ってるから……」

秋津洲「……駆け足で行っちゃったかも。まったくもう、どの艦娘も大艇ちゃんとあたしを軽く見すぎかも!」

秋津洲(こうなったら……自分の活躍の場は自分の手で作り出す作戦、かも!)


――翌日・グアノ環礁沖海域『K作戦』

川内「邪魔だああああああああああああああああああああああああああああっ!」

千歳(川内ちゃん、あと一歩のところで何回も失敗した海域だから気合入ってるわね……私も頑張らなきゃ)

川内「よしっ、これで周りのはあらかた片付いたみたいだね!千歳さん、被害状況報告!」

千歳「小破一名、残りは微損傷のみ!行けます!」

川内(中大破艦は無し。士気も高い。羅針盤も想定通りに動いてくれてる。後は航空偵察を終えてから最奥の敵を叩くだけ……!)


川内「皆よく聞いて。今日、今、この瞬間、私達はこれまでで最高のコンディションを保ったままここまで来れた」

川内「それが出来ているのは、皆が毎日のきつい訓練を投げ出さずに地道に練度を上げ続けてきたから」

川内「遠征艦隊の艦娘達が休む間も惜しんで資源を運んで来てくれたから」

川内「工廠の明石さんや妖精たちが一日も欠かすことなく艤装を整備し続けてきてくれたから」

川内「提督が何十時間も机の前に張り付いて最善の編成と装備を整えてくれたから」

川内「……そして、鎮守府中の誰一人としてこの海域の攻略を諦めなかったから!」

川内「だから勝てるよ。皆で作ったこの大波に乗れば、今日の私達なら、必ず勝てる!」


川内「調子のいい今日だから、いつも以上に注意して。臆せず奢らず、味方のカバーも怠らず。全員で勝ちにいこう!」

艦娘達「「「「「了解!」」」」」

川内「よし!それじゃ、このまま海域の最奥に突っ込むよ!昼を堪えれば夜戦に入れるから、皆もうひと踏ん張り頑張ってね!」

川内(提督……今回こそ、最っ高の勝利を持ち帰って見せるからね!)

千歳「…………ちょっと待って!10時の方向に機影!この反応は……二式大艇!?」

川内「!?」


『待ってほしいかも~~~~~~~~~~~!』

千歳「無線通信、入ってきましたね……」

川内「……聞こえてるよ。総員、周辺を警戒しつつその場で待機して」

千歳(うわ川内ちゃん顔怖っ!目合わせないようにしよう……)




川内「……」

秋津洲「ひぃ、ひぃ……やっと追いついたかも!大艇ちゃんの長い航続距離を生かした秋津洲流連絡航海術が無ければ追いつけないままだったかも!」

川内「……編成に組み込んでないよね?なんで秋津洲がここに居るの?」

秋津洲「あたしだって役に立つって事を証明するために後ろからこっそり付いてきたかも!航空偵察は任せてほしいかも!」

川内「なんで大破してるの……?」

秋津洲「大艇ちゃん経由でさっきの戦闘を見物してたら横から轟沈寸前の駆逐艦に撃たれたかも!一応倒したけど、残敵掃討はしっかりやってほしいかも!」

秋津洲「あ、あたしはこんなんだけど大艇ちゃんは航続距離長いし自力で着水出来るから急いで海域最奥を突破すれば十分回収できるし、夕食にも間に合うかも!」

秋津洲「さぁ川内さん、一緒に敵の陣地に殴り込むかも!今こそ秋津洲流戦闘航海術、お披露目の時かも!」


川内「なんで……っ!」

秋津洲「痛っ!いきなり胸倉掴まないで欲しいかも!…………川内さん、なんで泣いてるの?」

千歳「秋津洲ちゃん……」

秋津洲「え?え?千歳さんが憐憫の目を向けてくる理由が分からないかも!?」

秋津洲「あたし、別に何も悪い事してないかも!?むしろ役立つかも!」

川内「……ッ!」ギリッ


川内(落ち着け、落ち着け、落ち着け……!)

川内(基礎訓練を思い出せ……味方艦隊内に大破艦が居て、ダメコンを装備していない場合はどんな状況だろうと……)

川内(即座に、撤退……)

川内「……全艦、K作戦は現時点をもって中止。直ちに母港に帰投するよ」

千歳「秋津洲ちゃん……聞いての通り撤退だから、大艇ちゃんに帰投命令出してね?」

秋津洲「なんで!?あたし今追いついたばっかりかも!これから活躍するつもりで来たのに!」

秋津洲「これじゃ無駄足かも!せっかく補給した燃料と弾薬がもったいないかも!」

秋津洲「他の艦だってほとんど無傷だし、そういう艦であたしと大艇ちゃんを守ってくれればきっと……」

川内「黙れッ!!!!!」

秋津洲「ヒッ!?」


川内「……ごめん千歳さん、それの護衛お願い。私は他の艦と一緒に帰り道の掃除してくる。たくさん寄ってきてるだろうから」

千歳「了解。……川内ちゃん、また来られるから」

川内「…………うん」

秋津洲(び、びっくりしたかも……)

秋津洲(急に怒鳴ったり帰るって言ったり、正直わけわかんないかも!ひょっとして軍隊特有の有望な新人を潰すためのいじめかも?)

秋津洲(やっぱり川内さんって、ちょっとアレな人かも……結局今回も活躍出来なかったし……はぁ……)

秋津洲(不幸かも……)


秋津洲「まったくもって残念かも……」

千歳「ねぇ、秋津洲ちゃん。帰ったらちょっと時間あるかしら?」

秋津洲「まずはお風呂入りたいかも。お昼抜いて来ちゃったからご飯も食べたいかも」

秋津洲「あと一応、大艇ちゃんの整備も早くしておきたいかも」

千歳「……じゃあその後でもいいから、私の部屋に来てくれる?ちょっとお話があるの」

秋津洲「分かったかも!」

秋津洲(これ、ひょっとして水上機母艦としての極意を教えてくれるとかそういう流れかも!?)

秋津洲(やっぱり千歳さんは話の分かる人かも!……千歳さんみたいな人が秘書艦だったらよかったかも)


――夜・千歳の部屋

秋津洲「お邪魔しますかも~」

千歳「いらっしゃい。……とりあえず、座って?」

秋津洲「それじゃ遠慮なく座らせてもらうかも。それで、お話って何?」

千歳「……どこから話せばいいのかしら」

千歳(あんまり直球投げ過ぎてもいじけちゃいそうな気がするし……)


千歳「秋津洲ちゃん、艦娘としての基礎訓練は受けてから着任したのよね?」

秋津洲「もちろんかも!新人扱いしないでほしいかも!」

千歳「それじゃあその基礎訓練の内容を思い出してみて。今日の秋津洲ちゃんの行動の中に、それと一致しない点はなかった?」

秋津洲(訓練の内容……?基礎訓練なんてきつかった事しか覚えてないかも)

秋津洲(でも質問の仕方を鑑みるに一応の反省を促してそうな気がするかも。ここは……)

秋津洲「あった……かも」

千歳「そうよね。あったわよね。……じゃあ、今日秋津洲ちゃんは、正しくはどうするべきだった?」


秋津洲「……」

秋津洲「え、と……大艇ちゃんを放って突撃……かも?」

千歳「…………」

秋津洲(な、なんかオーラが不機嫌になったかも!?)

秋津洲(……ひょっとして、大艇ちゃんはあたしにしか装備できないから千歳さんにはニュアンスが伝わってないのかも!)

秋津洲「ち、違ったかも!ほんとは特別な瑞雲を放って突撃かも!これかも!」


千歳「……質問の仕方が悪かったかな。秋津洲ちゃん、分からない時は分からないって言っていいのよ?」

千歳「それを踏まえて、もう一度聞くわね。あなた……基礎訓練の内容、覚えてる?」

秋津洲(見透かされてるかも……)

秋津洲「お、覚えて……ない、かも……しれないかも……かも……」

千歳「うん、なら今から最低限覚えておいてほしい事を教えるから、この紙にメモして?」

秋津洲(メモって……そのくらいの内容いちいち書かなくても覚えられるかも。素人とは違うかも)

秋津洲(でも体面上メモしておくフリだけでもしておくかも)


秋津洲「了解かも!」

千歳「それじゃあ一つ目ね。『艦隊は敵深海棲艦からの発見を防止するために、連合艦隊を除き常に六隻以下で構成するものとする』」

千歳「艦娘が七人以上同じ場所に集まっちゃうと、敵から発見されて先制攻撃を受ける確率が飛躍的に高まるの。これを防止するための方策ね」

秋津洲「……なるほどかも?」

秋津洲(……そういえば今日はあたし含めて七人だったかも?)

千歳「次、二つ目。『出撃を許可されていない艦娘が独断で艤装着用する事を固く禁ずる』」

千歳「一つ目と合わせて考えれば分かりやすいかな。六人で進軍してる時に後から一人増えちゃったりしたら……ね?」

秋津洲「ぅ……か、書けたかも……」


千歳「最後に三つ目。……これが一番大事だから、しっかり書き残してね?」

千歳「『味方艦隊内に大破艦が居て、ダメコンを装備していない場合は、どんなに有利な状況でも必ず即座に撤退する事』」

秋津洲(!)

千歳「これはね……艦娘が大破した状態で無理に進撃した場合、轟沈する可能性が極めて高くなる事に由来するんだけど」

千歳「自分と仲間の命を守るための、一番大切な決まり事だから。……これだけは、どうしても覚えておいてほしいの」

秋津洲「分かった、かも…………あの、千歳さん」

千歳「何かしら?」


秋津洲「じゃあ、あの時川内さんが撤退したのは……もしかして……あたしのせい、かも……?」

千歳「……そうよ。あの状態で撤退したのは、あなたが大破していたから」

秋津洲「…………そんな」

秋津洲(あたし、役に立つどころか、思いっきり足引っ張ってただけかも……)

千歳「私の話はこれで終わり。これからどうするべきかは、秋津洲ちゃん自身の判断に任せるわ」

秋津洲(……)


――執務室

秋津洲「失礼します、かも……」

川内「……何?」

秋津洲「あの、川内……さん。今日は、迷惑かけてごめんなさいかも」

川内「……」

秋津洲(謝ってるんだから返事くらいしてほしいかも……)


秋津洲「あたし、自分の無力さを思い知ったかも。これからは、勝手に出撃したりしないかも……」

川内「……で?」

秋津洲「……?」

川内「それで、これからどうすんの?鎮守府で何して過ごすつもりなの?」

秋津洲「それは……とりあえず、迷惑かけた分下働きとかする……かも?」

川内「……ふーん。ま、他の艦の邪魔はしないようにね」

秋津洲(うわ、酷い嫌味かも!態度も素っ気ないし……もう少し暖かく許してくれるものだと思ってたかも。なんかちょっと想像と違うかも!)

秋津洲(やっぱりあたし、川内さんとは相性悪いかも)

秋津洲「それじゃあ、失礼するかも……」

川内「…………」


――廊下

秋津洲(謝ってきた部下相手にあの態度はないかも!あれじゃ下の者はついてこないかも!)

秋津洲(ってあたしまでイライラしてもしょうがないかも。これからの事を考える方が建設的かも)

秋津洲「さて、下働きといえば……掃除洗濯炊事かも?」

秋津洲「戦闘はアレだけど、後方支援なら大得意かも!どれでも出来ちゃうかもかも!?」

秋津洲「う~ん……とりあえず炊事が一番時間かからないし、成果も目に見えて出しやすいかも!大艇ちゃんもそう思うよね?」

秋津洲「そうして美味しいごはんを作って……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『川内さん、今晩は特製ロールキャベツにしてみたかも。たっぷりつかった馬鈴薯と玉ねぎが、味のポイントなの!』

『ふん、料理なら間宮さんの方がずっと……あ、あれ?』

『味はコロッケ風味で美味しいでしょ?』

『……うん、美味しい。ありがとね、秋津洲』

『うんうん。良かったかも!カレーもあるよ!わたしね、意外と料理やるんだー!』

『カレーも美味しい……正直見直したよ。ごめんね、私がもっと早く適正に気づいてあげれば……』

『あたしこそ勝手に出撃して悪かったかも。これからは厨房で週3くらい働いて鎮守府の皆のお役に立つかも!』

『ホント!?こっちからお願いしたいくらいだよ!これからもよろしくね、秋津洲!』

『ようやくあたしも鎮守府に欠かせない存在として認めてもらえて嬉しいかも!』

『『『『『後方支援が得意な秋津洲万歳!大艇ちゃん万歳!万っ歳ぁぁぁぁぁぁいっ!』』』』』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

秋津洲「………………んひひっ」

秋津洲「それじゃ、さっそく明日から間宮さんのところで調理のお手伝いするかも!」


――翌日・食事処『間宮』厨房

秋津洲「お手伝いさせてほしいかも!ロールキャベツとか得意かも!」

間宮「ちょっと!染めた長髪で厨房に入らないでください!」

秋津洲「えっ」

間宮「えっじゃない!せめて束ねて……ああもうお鍋が!」

間宮「とにかく、ここから先は入っちゃダメです!絶対ですからね!」




秋津洲「即座に追い出されたかも……取り付く島もなかったかも」

秋津洲「ちょっとカワイイ髪の毛してるくらいで門前払いは酷いかも。失礼しちゃうかも!」

秋津洲「掃除でもやろうかと思ったけどよくよく確認したらここの掃除当番制で鎮守府はいつも隅々まで清潔だったかも……」

秋津洲「こうなったら……ちょっと大変だけど洗濯を手伝う他ないかも!」

秋津洲「戦闘と潮風で汚れちゃった服をピカピカに洗ってみせれば、皆喜んでくれるかも!」

秋津洲(そうすれば川内さんも、態度を改めてくれるかも……?)


――鎮守府中庭

秋津洲「という訳で、洗濯物干すのお手伝いするかも!大鯨さんいつも一人で大変だよね?心中察するかも!」

大鯨「はぁ……」

大鯨(正直別に大変だと思ったことはないんだけど……)

秋津洲「とりあえずこれから干していくかも!」

大鯨「あ!ちょっとすみません、それは干し方があって……」

秋津洲「そ、そうなの!?じゃあこっちをやるかも!向こうに干してくるかも!」

大鯨「それも生地の都合上ちょっと工夫が必要……待って!勝手に持っていかないでぇ~!」

伊58(あの水上機母艦、大鯨さんの横でちょろちょろと何やってるでち……?)





大鯨「ぜぇ、ぜぇ……」

大鯨(いつもの三倍くらい疲れた……時間もかかっちゃったし、急いで次の準備しなきゃ)

伊58「……」

秋津洲「よ、ようやく終わったかも……どっと疲れたかも……」

秋津洲「でも、秋津洲大鯨さんの役に立てたかも?」

大鯨「え、えーと…………はい、とても助かりましたよ」

秋津洲「なら良かったかも!これからもお手伝いするかも!」

大鯨「え!?」


秋津洲「これからは洗濯で身を立てていくかも!」

伊58「……おいそこの水上機母艦。ちょっとツラ貸すでち」

秋津洲「あたし?」

伊58「この場にはお前以外水上機母艦なんていないでち」

秋津洲「なんか呼ばれたかも?それじゃ大鯨さん、また後でね!」

大鯨「は、はぁ」


――工廠

伊58「提督からの指令で、これをお前に渡すように言われたでち。制作はゴーヤも協力するでち」

秋津洲(何これ……『組み立て式インスタント瑞雲』?このくらい一人でも余裕で作れるかも!あたし、ひょっとしてバカにされてるかも!?)

秋津洲(でもこの潜水艦には何ともいえない『凄み』があるかも……従わなかったら即雷撃処分かも……)

秋津洲(ここは大人しく協力しておくかも)

カチャカチャ・・・

伊58「……」

秋津洲(こ、この潜水艦とんでもなく不器用かも!瑞雲の翼一つまともに嵌め込めてないかも!あぁあんなにプラプラして……イライラするかも!)


秋津洲「ッ……ちょっと貸してほしいかも!出来てないかも!」

伊58「それじゃゴーヤはこっちのパーツをやるでち」

カチャカチャ・・・

伊58「車輪がとれちゃったでち」

秋津洲「そっちも貸してほしいかも!……もう」

秋津洲(あああああ!もう!もう!どうして車輪もまともにつけられないの!?意味わかんないかも!)


伊58「それじゃゴーヤはこっちのパーツをやるでち。協力して早く終わらせるでち」

秋津洲(正直もう何もしないでほしいかも……でも協力っていう建前上無碍にも出来ないかも)

カチャカチャ・・・

伊58「……」

秋津洲(そこはそういう順序だと失敗する可能性が高いかも……)

伊58「あ……力入れたらプロペラひん曲がっちゃったでち」

秋津洲「ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」ブチッ


秋津洲「いい加減にしてほしいかも!あなたの瑞雲作りは適当すぎるかも!」

秋津洲「やればやるだけあたしが手直しする箇所が増えるだけかも!」

伊58「ゴーヤは善意で協力してやってるんでち。一人じゃ大変でち」

秋津洲「余計なお世話かも!これなら一人でやる方がずっとずっと時間も手間もかけずに出来るかも!」

伊58「……水上機母艦。お前はこれを大鯨さんにやらせたんでち」

秋津洲「………………へっ?」


伊58「ゴーヤは今お前が一人で出来る作業に”手伝い”の名の元に、無理やり割って入ってかき回した挙句に仕事の効率と精度を下げたでち」

伊58「『やればやるだけ手直しする箇所が増える』『一人でやる方がずっとずっと楽』……まさにその通りでち」

伊58「じゃあ聞くでち。さっきお前が洗濯物干しを手伝った時、大鯨さんは同じ気持ちにならなかったと思う?」

秋津洲「……それ、は」

伊58「一人で余裕をもって出来る仕事をわざわざ複数人でやって得する事なんて一つもないでち」

伊58「自己満足が欲しいがために他人の仕事に余計な手間を増やした。それで人のためになる行為をしました、頑張って手伝いました?」

伊58「……冗談じゃないでち。そんなの、クソみたいな自己顕示欲で他人の足引っ張ってるだけでち」

伊58「お前は自分がこれだけ迷惑に感じる事を大鯨さんにやったんでち」


秋津洲「……で、でも、大鯨さんは助かったって、いってくれたかも……」

伊58「そこは大鯨さんも反省すべきところでち。あの人は優しすぎる、というより他人に甘すぎるでち」

伊58「たとえどれだけ自分が不利益を被っても、あの場で『迷惑だった』なんて口が裂けても言えないでち」

伊58「だから水上機母艦、ゴーヤはお前自身に聞きたいでち。さっきの自分を省みて、大鯨さんの邪魔になっていなかったと言えるでち?」

秋津洲(じゃあ……)

伊58「……」

秋津洲(まさか…………)

伊58「……」


秋津洲「あたし……ずっと、大鯨さんの……邪魔を、してただけ…………?」

伊58「……それが分かったならもういいでち。今後はもう少し仲間の気持ちを考えて動くようにするでち」

伊58「それと、この瑞雲はゴーヤがクリスマスに押し付けられた車輪付の特別な瑞雲で、別に提督からの開発指令も受けてないでち」

伊58「作るのに失敗したからって処罰はないから、安心してくだち。……ゴミ箱に捨ててもらっても結構でち」

伊58「それじゃ、ゴーヤはオリョクル行ってくるでち」

秋津洲「……」


――廊下

秋津洲「……」

ドンッ!

秋津洲「……ぁ、ごめんなさいかも……」

霞「ちょっとアンタ……ってなんだ。昨日の出撃を台無しにしてくれた役立たずじゃないの」

秋津洲「……」


霞「ちょうどいいから、今ハッキリ言っておくわ」

霞「アンタ艦娘に向いてない。今すぐ解体してもらいなさい」

霞「このまま艦隊に居座られても、アンタには出来る事もやってほしい事も何一つもないわ」

霞「穀潰しの為にいちいち米を炊いてたら戦争になんて勝てやしないのよ」

秋津洲「……」

霞「さっさと銃後に下がって、新しい自分でも次の仕事でも勝手に見つけてなさい。いいわね?……ったく」


――夜・秋津洲の部屋

カチャカチャ・・・

秋津洲「……ねぇ、大艇ちゃん」

大艇「……」

カチャカチャ・・・

秋津洲「あたし、迷惑かけてばっかりだよ」

秋津洲「出来る仕事なんてほとんどなくて……出来そうな仕事は、あたしよりも上手な人がもうやってるよ……」


秋津洲「手伝おうとしたら、手伝う分だけ邪魔になるって……もう、何もしない方がマシな扱いかも……」

大艇「……」

カチャカチャ・・・

秋津洲「駆逐艦の子には、早く除隊しろって言われちゃった……」

秋津洲「実際、何一つ鎮守府の役立ってないもんね、あたし……」

秋津洲「川内さんの邪魔して、間宮さんの邪魔して、大鯨さんの邪魔して……」


カチャ・・・

秋津洲「……わたし、きえちゃったほうがいいのかなぁ?」

秋津洲「いないほうが、皆の役に立てるのかな……世の中、うまく回るのかな……!?」

秋津洲「どうして、こんなに、だめにうまれちゃったのかなぁ……!?」

大艇「……」

秋津洲「もう分かんないかも……どうしたらいいの……何をすればいいの……?」

秋津洲「うぅ、うぅぅぅぅぅうぅぅっ……うぅぅぅ……!」


コン、コン

『入りますよ』

秋津洲「……っど、どちら様かも!?」

ガチャッ

神通「軽巡洋艦、神通です。秋津洲さんですね?……昨日の独断出撃を受けて、提督があなたに下した処分を連絡しに来ました」

秋津洲(……!!)

神通「秋津洲さん。あなたには、今後私の元で再教育を受けてもらいます」

今日はここまで、ですって!


秋津洲「ど、どういう事!?まるで意味が分からないかも!」

神通(聞いていた通り、いい目をしていますね)

神通(自分への失望と世の中への絶望で真っ暗……腐りきったドブ川のようです、叩き直し甲斐があります)

秋津洲「……放っておいてほしいかも。もう全部どうでもいいかも……どうせあたしは役立たずの艦娘かも」

神通「ふふっ……餓鬼そのものですね」

秋津洲「!?」


神通「理想と現実の差異も受け入れないまま、欲しい欲しいと喚き散らせばそれで貰えると思っている」

神通「それが通らないとなれば一転拗ねて、じゃあ何もしたくないと床に座り込む」

神通「ねだるものが菓子と玩具から仕事と居場所に変わっただけで、幼稚な行為そのものからはまったく卒業できていない」

神通「無力にして無価値、無様の極みです。これを餓鬼と言わずに何と言いますか?」

秋津洲「……そんな事っ!!!!!」

秋津洲「そんな事、あたしだって分かってるかも……でも、もう……どうしたらいいのかわからないの……!」


神通「簡単なことです。勝ち取ればいい」

神通「欲しいものがあるのなら、心底手に入れたいものがあるのなら」

神通「行く手を遮るものあれば殴って砕き、茨の道だろうとその脚で踏み抜けばいい」

神通「当然、手足は痛むでしょう。心も体もすり減るでしょう。ですが、それが前に進むという事」

神通「命とは、傷ついて初めて内面の光を晒すものです。あなただって、その内側には必ず光るものを持っています」

神通「私に、それを輝かせるお手伝いをさせてもらえませんか?」


秋津洲「ダメ……やっぱり、あたしには出来ないかも。自分の内側に光るものがあるなんて……到底信じられないかも」

神通「……そうですか。では、こう言い換えましょう」

秋津洲「……」

神通「ゴミ屑そのものである今のあなたと迎合したまま、一生を終えたいのならこの部屋に留まってください」

神通「その時は私から提督に解体するよう進言してあげます」

神通「しかし、もしも……」

神通「もしも今の自分が、その無力が、無価値が殺したいほど憎くて憎くて仕方ないのなら……」

秋津洲(……!!)


神通「私の部屋に来てください。私が、今のあなたを殺してあげます」

神通「秋津洲さん。選ぶのは、あなた自身です」

神通「これで、私が伝えるべきことは全て伝えました。それでは」

バタン・・・

秋津洲「…………大艇ちゃん……」

大艇「……」

秋津洲「あたしは…………あたし自身のために頑張る事は、もうできないかも……大事なものが、とれちゃったから……」

秋津洲「でも……」

秋津洲「あたしにも、皆のために出来る事が……出来るかもしれない事が、あるなら」

秋津洲「せめて、そのために頑張ってから沈みたいかも……!」


――深夜・神通の部屋

秋津洲「失礼するかもっ!」

神通「秋津洲さん……きっと来てくれると信じていましたよ」

秋津洲「そ、それで!あたしは何をすればいいかも!?」

神通「やる気十分ですね、それじゃあ早速海へ出ましょう。夜間訓練の許可はとってあります」

秋津洲「夜間訓練……って今深夜かも!?」

神通「……それが、どうかしましたか?」

秋津洲「ひぃっ!?……な、何でもないかも。頑張るかも」


――鎮守府正面海域

秋津洲(大荒れかも……浮いてるだけで酔いそうかも……うぷっ)

神通「さて。始める前に言っておきますが、これから行う訓練はあなたを生かすためのものではありません」

神通「長生きしたいだけなら銃後に下がり、国民放送で合点していれば十分ですからね」

神通「私が教えるのは戦場において、命という消耗品を最大限に有効活用する方法です。あなたにはそれを体で覚えてもらいます」

秋津洲(命の、活用方法……)

神通「では機動訓練を始めます。周辺の海域を50周回してください。私も並走します」

秋津洲「了解!飛行艇母艦秋津洲、抜錨するかも!ぃじゃぁなかった、抜錨!」






秋津洲(も、もう……限界かも……体中が悲鳴あげてるかも……!)

秋津洲「じ、神通さん、今何周目?」

神通「11周目です。あと39周ですね」

秋津洲「あ、あと、さんじゅうきゅう……!?」

秋津洲「も、もう駄目かも……気が遠くなってきたかも……」


神通「……何を座り込んでるんですか?まだまだこれからですよ。立ってください」

秋津洲「こっ、これ以上やったら足が砕けちゃう!ホントに限界かも!」

神通「あなたが限界な事くらい見ていればわかります。分かった上で、立てと言っているんです」

神通「それ以上座り込むようなら主砲を背中に打ち込んででも無理やり進ませます」

秋津洲(この人……本気で背中に狙いつけてるかも……!?)

秋津洲「分かったかも!走るかも!……うぅ」




秋津洲「あ゛ぁ……う……」

秋津洲(う…………あ…………もう、なにが、なんだか?)

神通「今33周目です。後17周です」

神通「しかしこれ以上ペースを落とすようなら、その分追加の周回を考えなければなりませんね」

秋津洲「う、う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!」

神通「そうです。あなたはまだ走れるはずです」





秋津洲「…………」

秋津洲(                               )

神通「後5周です。もうひと踏ん張りですよ」

秋津洲「……」

神通「……少し、ペース落ちましたね?では」

秋津洲「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」





神通「……これで50周達成。お疲れ様です」

秋津洲「……っはぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ、はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

秋津洲(と、途中から完全に意識飛んでたかもっ……!?)

神通「では次の訓練。動きながら私の撃つ弾と魚雷を避けてもらいます。当然ですが動かなければ当たりますからしっかり避けてくださいね」

秋津洲「ぢょ、ま゛っ……!今ぞんなごどざれだら、ホントに、沈む……!」

神通「一回目、行きます」

秋津洲「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

ドゴォォォォォォォォンッ!






秋津洲「痛っ!……がふっ!ごほっ、……げえええええええええええええええええっ!」

神通「お魚さんへのエサやりは終わりましたか?後15セット残っています。立ってください」

秋津洲「た、てない……も、……体中、いたい……よぉ……」

神通「ではそのまま受けてください」

秋津洲「な、んで……死んじゃうかも、しれないのに……」

神通「秋津洲さん。……あなたの命は、死なないためにあるんですか?」

秋津洲(え……?)


神通「そうではないはずです。舟はいつか沈み、命あるものはいつか死にます」

神通「ならば、その中でいつまで生き残ったかよりも……何を為して生きたかの方が、価値ある事だと思いませんか」

神通「思い出してください。私達艦娘の使命は、奴らのように何の甲斐もなくぷかぷかと海にのさばることではありません」

秋津洲(あたし達の、使命は……)

神通「自分が為したいと思った事のために、全力で命を燃やすことです。……だから」

神通「いつか私が沈むとしても、その時全ての敵を道連れに出来るのなら、それは私にとって理想の結末です」

神通「それが私が決めた、私の命の使い方だから」

秋津洲「……」


神通「何も全て私の真似をしろと言うつもりはありません」

神通「ですが一時的にでもあなたを教え導くものとして、これだけは伝えておきます」

神通「秋津洲さん。あなたも艦娘なら、生きているのなら……」

神通「自分の命くらい、自分の意思で使い果たしてみせなさい!!!」

秋津洲「……」



秋津洲「いい加減、うるさいかも………!」

神通「!」


秋津洲「黙って聞いてれば……さっきから……上から目線でガミガミガミガミ……時代遅れの格言もどきみたいな事をっ!」

秋津洲「もう無駄口はいいかも……ほら、立ったから!黙って、次の、撃って来いっ!!!」

神通「……では、15回目。始めます」

神通(これが終わったら射撃訓練、艦載機運用訓練、最後にもう一度機動訓練……)

神通(日が出ている間は当然別メニューの訓練をやってもらうとして、睡眠は三日に一回取らせれば十分でしょう)

神通(しかし、それを何日繰り返せば他の艦に追いつけるか……)


神通(まったく、このレベルの艦娘を使えるように再教育とは……実に無茶な指令です)

秋津洲「ほら、全部、避けたやったかもっ!……次ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!」

神通(と、思っていましたが……この様子なら、少しだけ彼女の行く末に期待してもよさそうですね)

神通「良い気迫です。では16回目、始めますよ……!」












――翌月早朝・鎮守府中庭

秋津洲「ハッ、ハッ、ハッ……」

伊58「……」

大鯨「……あの、ゴーヤちゃん」

伊58「なんでち?」

大鯨「秋津洲ちゃん、いつからあんな風に……艤装背負ってランニングしてるの?」


伊58「……ゴーヤが起きてからずっとでち」

大鯨「え!?……って事は、午前5時から、ずっと!?」

伊58「あんまり同じところを同じスピードでグルグル回ってるもんだから、ついにゴーヤの頭がおかしくなったのかと思ったでち」

伊58「ていうかあいつ、ここんところ三日に一度しか寝てないでち。完全にヒロポンかなんかやってるとしか思えないでち」

大鯨「どうしてそんな……」

伊58「……昔の仲間が、あんな目をしてたでち」


伊58「あれは一度完全に止まった後に、”これの為なら死んでもいい”って思えるものを見つけちまったバカの目でち」

伊58「自分が弱い事を知ってるから、もう一度止まったら今度こそ心が死ぬ事を知ってるから、生きてる間は血ヘド吐いてでもマラソンし続けるんでち」

大鯨「死んでもいいって思えるものに、報いるために……?」

伊58「そうでち。もうあの手のバカが止まるのは死ぬ時だけでち。誰が止めても止まらないでち」

大鯨「なんだか……哀しい生き方ね」

伊58「……そうかなぁ?」

大鯨「え?」


伊58「本当に哀しい生き方をしている奴は……あんなにスッキリした顔出来ないと思うでち。ドン引きする反面、ちょっと羨ましくもあるでち」

大鯨「……」

伊58「確かに、今のあいつはまったく狂ってるとしか言いようがないでち」

伊58「真っ白な灰どころか塵も残らないレベルの訓練を毎日とか正気の沙汰じゃないでち」

伊58「でもまぁ……本人がそうやって生きると決めたんなら好きにすればいい、とゴーヤは思うでち」

大鯨「そう、なのかな……」

伊58「そういうもんでちよ、たぶん」


秋津洲(大鯨さん、あの時はごめんなさいかも……)

秋津洲(あたしは自分の都合しか考えてなくて……大鯨さんの気持ちなんて、少しも理解しようとしてなかったかも)

秋津洲(でも今になっても……大鯨さんの役に立てるほど、あたしは強くなれてないから……)

秋津洲(だから、もう少しだけ……迷惑をかけ続ける事を、許してほしいかも……!)

大鯨「秋津洲さーん!」

秋津洲「!」

大鯨「お洋服は、私がきちんと洗濯しておきますからー!訓練、頑張ってくださいねー!」

秋津洲「……ありがとうございます、かもー!」


――昼・食堂

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『食事はめいっぱい食べて下さい。強い体は食事からです』

『でも、私そんなにご飯は食べる方じゃないかも。それに……今の私は、穀潰しだし……』

『では食事の量を減らせば穀潰しでなくなりますか?』

『う……』

『今は食べてください。そうしていつか、頂いた米に利子をつけて返せるほど役立つ艦娘になればいいんです』

『り……了解かも……』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

秋津洲「……ご飯、特盛で。他も全部マシマシにしてほしいかも!」

間宮「はい、マシマシ扶桑盛りね!崩さないようにね!」


秋津洲(間宮さんはいつ来ても美味しい料理を作ってくれて……この人の真似も、私には出来ないかも。週3だなんて、甘すぎたかも)

秋津洲(あの時怒ってくれたのも、皆のご飯を第一に考える事が出来てるからだったかも)

秋津洲(なのに、私は……あんな半端な気持ちで、間宮さんの仕事場に踏み入っちゃった……)

秋津洲(……いつか、絶対にお返ししなきゃいけないかも!)

秋津洲「間宮さん。いつも変な時間に食堂に来てるのに作ってくれてありがとうございます、かも」

間宮「いいのよ。貴方たちに美味しいごはんを食べてもらうのが私の役目なんだから!」

秋津洲「役目……」

間宮「あなたは……自分の役目、見つかった?」

秋津洲「まだかも。だから、今は訓練に励むしかないかも……でも、絶対見つけてみせるかも!」

間宮「……うん、いい顔になったわね!お姉さん感動しちゃった!よーし、特別にもっとマシマシにしちゃうわね!」

秋津洲「ちょっ、くずっ、崩れるかもーーーーーーーーーーーーーーっ!?」


――鎮守府正面海域・演習場

吹雪「ここに居たんですか神通さんっ!お願いします、どうにかしてください!」

神通「どうしました?」

吹雪「秋津洲さんですよ!あの人艤装が限界まで大破してもまだ突っ込んでくるんですよ!?砕けた艤装の欠片で殴ってきたり……」

吹雪「そのせいで皆委縮しちゃって、その隙に他の艦娘にやられて……もうめちゃくちゃです!」

吹雪「あんなの演習の光景じゃないです!本物の戦場になっちゃってます!」


神通「本物の戦場さながらになっているのなら、普段よりも良い訓練になりますね。何か問題でも?」

吹雪「え、演習には『限界大破したら退場』っていうルールがあるじゃないですか!」

神通「吹雪さん、そのルールは退場『してもよい』であって、退場『しなければならない』ではありません」

神通「限界大破を迎えて、それでも残る選択を彼女がしたのなら躊躇する必要はありません。存分に撃ってあげてください」

吹雪「そんな……これ以上撃ったら本当に沈んじゃいますよ!?」

神通「結構です。それで沈むなら、その程度だったという事ですから」


吹雪(血まみれになりながら突っ込んでくる秋津洲さんも鬼に見えたけど……)

神通「それにしても、限界大破しても突撃して、相手を委縮させるほど暴れまわるなんて……秋津洲さんったら。ふふっ」

神通「本当に、良い子に育ってくれましたね……!」

吹雪(この人はそれ以上の鬼だ、悪鬼そのものだ……!)





秋津洲「はぁっ、はぁっ……!」

霞「ハッ、頑張るわね訓練バカ!アンタ今日だけで何回死んだの!?」

秋津洲「うるさい……!まだ……浮かんでるから……死んでない!弾除けくらいには、なる、かもっ……!」

霞「……上等。それじゃあお望み通り弾除けに使ってあげるわ!ついてらっしゃい!」

秋津洲「……かもッ!」


――執務室

神通「報告します。私が再教育を担当した秋津洲の練度は、千歳さんと同等まで並びました」

提督「ん。それじゃあ君を教育担当から外します。今までご苦労だったね」

川内「で、どうなの神通。使えるの?演習と実戦は違うよ?」

神通「使ってみればいいと思いますよ?」

川内「……」

神通「あの子は私のお墨付きです。もう教えることは何もありません」

神通「これから先何度転ぼうと……鍛えに鍛えた心と体で、必ず立ち上がってくれる事でしょう。胸を張って誇れる教え子になってくれました」

神通「艦種は違えど……今や彼女の内にも立派な水雷魂が宿っていますよ」

川内「……ふぅん」




秋津洲「水上機母艦、秋津洲。招集に応じて参上かも!」

提督「ようこそ秋津洲ちゃん。突然で悪いんだけど……君、明日の新海域突破用の艦隊に編入ね。千歳は急に別の任務が入っちゃってねぇ」

提督「でもど~~~~~しても海域突破したいって川内が言うから……君に白羽の矢が立ったわけなんだけど。どう?頼めるかな?」

秋津洲「……了解!」

提督「……ほぉ。喜びも驚きもしないか、サプライズのつもりだったんだけどねぇ」

秋津洲「第一艦隊に選ばれたからにはこの秋津洲、必ず提督に最高の勝利を届けてみせるかも!」

提督「ほほぉ。それじゃあ、期待させてもらおうかなぁ……あ、もう下がっていいよ。訓練の邪魔してごめんねぇ」

秋津洲「それじゃあお言葉に甘えて訓練に戻らせていただくかも!失礼しますっ!」

バタンッ!


提督「……ぷ、くくく……!」

川内「……一人で何笑ってんのさ?」

提督「だってさぁ、一月前は見るも無残な子だったのがだよ?よくこんなにもまぁ……って思ったらつい笑顔になっちゃってねぇ。いやぁ神通サマサマだ」

川内「別に不思議じゃないよ。秋津洲はこの一か月、誰よりも頑張ってたんだから」

提督「お。川内もちゃんと見る所は見てるんだねぇ」

川内「……別に、夜戦の帰りとかに目についてただけだよ」

提督(なんだかんだ言ってもかわいい後輩、か)

提督(……青春だねぇ)


――翌日・グアノ環礁沖海域

川内「……秋津洲。状況は?」

秋津洲「中破3、小破1。他微損傷。今は少し離れてるけど、最深部の敵艦隊は健在かも」

川内(辛いなぁ……夜戦要員が誰か一隻でも大破になったらもう負けが見えてくる。正面からやりあったんじゃとても……)

秋津洲「川内さん。海域突破まであと少しかも」

川内「分かってる。でも……」

秋津洲「あたしが囮になって、他の艦への攻撃を全部引き付ける。そうすれば、ガラ空きの背後から最大の攻撃を敵艦隊に叩き込めるかも」

秋津洲「敵を全員おびき寄せたら、大艇ちゃんで合図を送るかも。その時に突っ込んでほしいかも」

川内「……大破状態で進撃しないからって、沈まないとは限らないんだよ?ましてや敵の全艦から集中砲火を受け続けるなんて」


秋津洲「出来ます」

秋津洲「今のあたしなら、出来ます。……川内さん、任せてほしいかも!」

川内「……」

川内「……知らないかもしれないけど、私は夜戦バカなんだ。夜戦が出来れば他には何にもいらない」

秋津洲「知ってるかも」

川内「秋津洲が夜戦させるために囮になるっていうなら、これ以上止める気はないよ。……本気なんだね?」

秋津洲「もちろんかも!」

川内「……分かった。任せてやるから、迎えに行くまで沈んじゃ駄目だからね!」

秋津洲「了解!」

川内「それじゃあ……行って来い!」

秋津洲「秋津洲、突撃するかもーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


――グアノ環礁沖海域最深部

秋津洲「両舷錨、右舷方向に最大伸長!」

秋津洲「よし……探照灯、照射かもっ!」

深海棲艦『敵艦発見!!コチラに探照灯ヲ向ケテイル!』

深海棲艦『……一人デ来ルトハナ……仲間ハ全滅カ、見捨テラレタカ?』

深海棲艦『ナラアイツモ沈メル……サァ……何モ為セヌママ……沈ンデシマエッ!』

秋津洲(全艦から一点集中の放火……!そう来ると、信じてたかもっ!)

秋津洲「前進、一杯あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああいっ!」


深海棲艦『ナ……ニ……!?』

深海棲艦『アレダケノ砲火を、全テ回避シタノカ……!』

深海棲艦『ナンダ今ノ機動ハ!舟ガ真横ニ動クダト!?ドリフトダトデモ言ウノカッ!』

深海棲艦『敵ハ一隻ダ、ウロタエルナッ!次弾装填急ゲ!』

秋津洲「……両舷抜錨、全速突破行動開始!」

秋津洲(あたしの命は……あたしの、意思で!)

深海棲艦『突撃シテクル!?』

深海棲艦『奴ハ武装ヲ持ってナイ!バンザイダ!』

深海棲艦『撃テッ、撃テッ!奴を近ヅケサセルナァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!』


ドゴォォォォォォォォンッ!

秋津洲「怖……く、ないっ!」

秋津洲(……川内さんを怒らせた時の方が、ずっと怖かった!)

秋津洲「痛くも、ないっ!」

秋津洲(……神通さんの訓練の方が、ずっと痛かった!)

秋津洲「辛くなんて……ないっ!」

秋津洲(皆の邪魔しかできずに……ただ生きていた時の方が、ずっとずっと辛かった!)

秋津洲「だからっ…………!」

秋津洲(今……この瞬間は、前だけを向いてっ!)


秋津洲「大艇ちゃん、飛んでっ!」

大艇「!!」

深海棲艦『水上機!?撃チ落トセ!』

深海棲艦『ヤッテイル!ダガ……速スギルシ硬スギル!落トセナイ!……雲ノ中ニ隠レタ!?』

秋津洲(何発撃とうが落とせるもんか……!二式大艇ちゃんは、最高の……水上機なんだから!)

深海棲艦『忌々シイ……!ドコマデモ癇ニ障ル舟ダ……全艦、集中砲火アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』








ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

秋津洲「があ゛っ……!」

秋津洲(艤装の機関部に直撃っ……!)

深海棲艦『ヨウヤク命中シタカ……!手間ヲカケサセテ!』

深海棲艦『ダガ脚ハ止メタ……浮力モ無クナッテ来タヨウダナ……』

秋津洲「……!」


深海棲艦『貴様ノ負ケダ。アノ逃ゲタ水上機ガドンナニ強力ダロウト、母艦デアル貴様ヲ失エバドウシヨウモアルマイ』

深海棲艦『跪ケ。惨メニ命乞イヲシロ。モットモ、楽ニハ殺サンガナ……!』

秋津洲「げほっ…………あたし一隻に、ここまで陣形かき乱されるなんて、ここの深海棲艦は無能揃いかも……!」

深海棲艦『貴様……言イタイ事ハソレダケカ……!?』

秋津洲「……じゃあ、最後に……一つだけ、言わせて、ほしいかも……」

秋津洲「あと………………………………………………………………よろしく、かも」






川内「水雷戦隊!待ちに待った夜戦だよっ!!!突撃ーーーーーーーーーーーーーっ!」


深海棲艦『増援ダトッ……!?』

深海棲艦『馬鹿ナ、背後カラ……イヤ、我々ガ背後ヲ向カサレテ……!?』

深海棲艦『迎撃シロ!急ゲ!』

深海棲艦『駄目ダ……弾ガ無イ!奴ニ使イ過ギタ!』

川内「一隻も逃がすな!全員ぶっ殺せええええええええええええええええええええええええっ!」

秋津洲「アハハ……」

秋津洲(川内さん……元気、あり過ぎかも……ホント、夜戦バカかも……)

秋津洲(なんだか……ほっとしたら……きゅうに……)

秋津洲(……)







秋津洲(なんだか、あったかい……あたし、背負われてる、かも……?)

秋津洲「ん……」

川内「秋津洲!目が覚めたの!?良かった……!いくら呼んでも目を覚まさないから、もう駄目かと……」

秋津洲「……?」

川内「あぁ、えっと、今海の上で!沈まないように私が背負ってるから!」

川内「何でもいいから喋って、意識切らすな!帰ってこれなくなるよ!」

秋津洲「……かい、いきは」

川内「突破できたよ。秋津洲のおかげ!……ホント、よく頑張ったね」


秋津洲「……え、へへ」

秋津洲「……わたし、せんだいさんの、やくに、たてた、かも……?」

川内「うん、うん……!私から見ても今日の秋津洲は、最っ高の艦だったよ!」

秋津洲「……そっか」

秋津洲「……うれしいな。うれしいなぁ……」

秋津洲「……」


川内「待って!落ちるな!他にもあるでしょ!?喋りたいこと、愚痴でも悪口でも何でもいいから!」

秋津洲「……わたし……ずっと……せんだい、さんに……あやまりたくて……」

川内「謝るって……何を」

秋津洲「……でも、あやまるだけじゃ……なんにも、かわらないから……」

秋津洲「い、つか……せんだい、さんのやくに……たてるときが、きたら……そのときに、もういちど、あやまろうって……」

秋津洲「……あのときは、ごめん、なさい……」

秋津洲「……」

川内「気にしてない!そんな事もう気にしてないよ!……だから、ねぇ!目を覚まして!」

秋津洲「……」

川内「秋津洲!秋津洲ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


吹雪「あの、川内さん……」

川内「何!今それどころじゃ……!」

吹雪「なんか雰囲気的にすごーく言いづらいんですけど……それ、普通に寝てるだけですよね?」

川内「………………えっ」

秋津洲「Zzz……えへ、にしきたいて~、へんけ~かも~……」

川内「」

霞「……そこのバカ、神通のフルコースに真面目に付き合ってたもんだから三日に一度しか寝てなかったのよ。その疲れが今来たんじゃない?」

霞「極限状態を超えた後に誰かさんに背負われたせいで安心しきっちゃったんでしょ……いいご身分だこと」

霞「ま、今回は特別に許してあげるけどね」

川内「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!」

吹雪「……川内さん、大丈夫ですか?顔真っ赤ですけど」

川内「うるさいよ特型駆逐艦!さっさと帰る!後神通は一発シメる!」


――深夜・入渠ドック

秋津洲「……ん」

川内「起きた?」

秋津洲「……って川内さん!?ここどこかもかも!?天国!?」

川内「鎮守府の入渠ドック。深夜だから、あんまりでっかい声出すなー?」

秋津洲「あ、ごめんなさいかも……」

川内「飯食いに行くよ」

秋津洲「へ?」

川内「夜食。間宮さんとこ」

秋津洲「あ、え?り、了解かも?」


――食堂

川内「川内スペシャル二つ」

秋津洲(……川内すぺしゃる?)

間宮「二つ?……あぁ、そういう」

川内「……こっちは夜戦明けでお腹空いてるんだからね?」

間宮「はいはい。すぐに作りますよ」




間宮「完成!これが……川内スペシャルですよっ!」

ゴトッ!

秋津洲「す、すごいボリュームかも……!」

川内「とにかく目にいいものを片っ端から混ぜ込んで作ったものだからね、量は多くなるよ」

秋津洲「……これ、あたしが貰っていいかも?」

川内「いいよ。そのために頼んだんだから」

秋津洲「……い、頂きます、かも!」

川内「頂きます」


モグモグ・・・

秋津洲「……」

川内「……」

秋津洲「……美味しい」

川内「間宮さんが作ったものだからね」

秋津洲「あれ……?なんか、……涙が……!」ポロポロ

川内「いや確かに美味しいけどさ……そんなに泣くほど?」

秋津洲「わかんない、かも……なんか、おいしくて、川内さんと一緒に食べてるのが、すごく、幸せで……!」

川内「……夜は長いよ。ゆっくり食べな」

秋津洲「……うんっ」


モグモグ・・・

秋津洲「……」

川内「……ねぇ、もっと本格的に夜戦の技術学ぶ気ない?」

秋津洲「ふぁふぇん……?」

川内「今日出撃した時の艤装の機動記録見て思ったんだけどさ。……秋津洲、夜戦の才能あるよ」

秋津洲(!)

川内「それに……夜戦なら、私が教えられるし」

秋津洲「……!」


川内「どうかな?神通よりは、厳しくないつもりだけど……」

秋津洲「ふぁる!ふぁるふぁふぉ!」

川内「あー分かった分かった。分かったから口の中のもの飲み込んでから話して」

秋津洲「んぐっ……やるかも!あたしもっともっと頑張るかも!」

川内「そっか。……じゃあ、改めて」




川内「これからもよろしくね、秋津洲!」

秋津洲「こちらこそ、まだまだ未熟だけど……これからも、よろしくお願いしますかもっ!」

終わりですって

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年07月02日 (木) 20:52:20   ID: 7WU3uZk8

いい話だ…

2 :  SS好きの774さん   2015年07月03日 (金) 03:17:41   ID: 16Z1y-CU

これはひどい

3 :  SS好きの774さん   2015年08月01日 (土) 00:02:42   ID: f37CLY4n

いい話やん

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