【モバマス】世界でイチバンの日【ナターリア誕生日SS】 (28)

初投稿です、ナターリア誕生日おめでとう!

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「「「ハッピーバースデイ!ナターリア!」」」

皆の祝いの言葉とともに、数発のクラッカーが鳴らされる。

「ミンナ、ありがとうナ!!」

その言葉に、まるで太陽のように眩しい笑顔で答える少女。
この誕生日パーティーの主役であるナターリアは大きめのソファの中央に座りながら
テーブルの周りに集まった友人たちに飾りのない感謝の言葉を伝える。

「ナターリアのお祝いしてくれてホントウに嬉しいヨ!
 今日はミンナで盛り上がってほしいナ!」
手元にあったジュース入りの紙コップを掲げるナターリア。

ある日の夕方のプロダクションの一室、ナターリアを囲む誕生日パーティーに集まった友人たちは
そのほとんどが彼女と同じアイドルである。

「さあ、遠慮しないでイッパイ食べるヨー!」
そう言ってテーブルの上に料理を並べているのは、
ナターリアと同じく海外生まれのアイドルである楊菲菲。

テーブルの上には菲菲の持ってきた飲茶の他にサラダやチキン、幾つかのお菓子が置かれている。
そしてその中央には、大きな丸い入れ物の中にカラフルな彩りを放つ料理、
ナターリアの大好物である『寿司』が置かれていた。

「スシ!ナターリアスシ大好き!ソレじゃあイタダキマスね!」
そう言って早速寿司に手を伸ばすナターリア。
周りの皆もそれが合図かのように思い思いに料理や飲物に手を伸ばす。

「ナターリアさんは本当にお寿司が大好きなのですね」
「ウン!トロケて美味しくて、イロンナ味が楽しめるナ!クラリスもイッパイ食べていいゾ!」
「ふふっ…それでは私もいただきますね」
ナターリアの隣に座り寿司に箸を伸ばすクラリス。

「ナターリアのオススメはその赤いノ、マグロっていうノ。ア、他のもオイシイけどナ?」
「鮪ですか…ふふ、ではそちらも頂きますね、
 それにしても、ナターリアさんは色々な日本語をご存知ですね」

「ニホンゴ、イッパイ覚えたからな!スシの名前だったラ他にも知ってるゾ」
「これがウニ、これがアナゴ、こっちはエビ!」
皿の上にある寿司の名前を次々と呼んでいくナターリア。

「それでコッチがイカ、これはエット…イカ…イカラ?」

「それはイクラでごぜーますよ、ナターリアお姉さん」
テーブル向かいにヒョイと顔を出した女の子がそう答える。

「オーそうだった、イクラ!ニナは物知りだな!」
「このくらいアサメシウメーです、ナターリアおねーさんの日本語もまだまだでごぜーますね!」
うさぎのキグルミを着たその少女…市原仁奈は笑顔で胸を張った。


「それを言うなら『朝飯前』だね、仁奈ちゃん」
そう言って後ろから仁奈の頭を撫でる、黒い髪をポニーテールで束ねた女性。
「あ!そ、そうだったですよ、アサメシめーの間違いでやがりました!」
「ニナは恥かくところでごぜーました、ありがとごぜーます海おねーさん!」

「まぁ間違えは誰にでもあるさ」
「そうダヨー、それに日本語は難しいからネー」
杉坂海は仁奈を抱きかかえソファに座った。
そしてその横に腰を下ろす菲菲。

「それにしても…この様な賑やかな誕生日会というものも、良きものですね」
周囲を見渡しながら微笑むクラリス。

様々な歓談の中、集まった皆は笑顔を浮かべて、彼女の誕生日を思い思いに祝っていた。


ガチャリと部屋のドアが開く。
その音に反応して、ナターリアが顔を向けると
そこには2人の少女が荷物を抱えてやって来たところだった。

「ごめん、遅くなっちゃったかな?ナターリア」
「こんにちはでございます。ナターリアさん、誕生日、おめでとうございますですよ」

「キョーコ!ライラ!」
席を立ち笑顔で2人を迎えるナターリア

「誕生日おめでとう、ナターリア」
持ってきた白い箱をテーブルの上に置くとその少女、五十嵐響子は祝いの言葉を送る。
「ありがとうネ!キョーコ。ライラも!」

「誕生日はとってもおめでたいものでございます、そんな席に招いて頂いてライラさんも嬉しいです」
「みなさまたくさんご飯を食べましたら、食後にはライラさんが買ってきたアイスもありますですよ」
持っていたビニール袋を持ち上げて、ナターリアと同じく褐色の肌を持つ少女、ライラも笑顔を見せる。


「あれっ?あっ、あの子まだ…」
「どうしタ?キョーコ」
「ちょっと待ってて!」
そう言って響子は部屋の外にでると、すぐに一人の少女を連れて戻ってきた。


「あの…すみません」
響子に手を引かれ、暗色の服を着たその少女は、申し訳無さそうに言葉を紡ぐ。

「ホタル!ホタルも来てくれんダナ!」
「この子、私達が来た時に部屋の前で立ち尽くしてて。
 ねぇ、ほたるちゃん…も、ナターリアのお祝いに来たんでしょ?」

「はい…ナターリアさんからメールを頂いて…でも」
「私なんかがお祝いに来たら、きっとまた何か悪い事が起こるような気がして…」
目を伏せてその少女、白菊ほたるは言葉を続ける

「そんなコト!」
そんな言葉を遮るように、ナターリアはほたるの肩に両腕をかける。

「誕生日パーティ、ウレシクてタノシイものだヨ?」
「ナターリア、ホタルがナターリアのパーティに来てくれてとっても嬉しいゾ!」

ありったけの笑顔でほたるを抱きしめるナターリア。
そんなナターリアにほたるは、少し照れながらもはにかむような表情をすると
「…うん、ありがとうナターリア…誕生日おめでとう」
そういって微笑んだ。


「さぁパーティもここからダヨ!」
「ミンナで楽しく踊って歌って、シアワセになるヨ!」
ほたるの手を取り部屋の中央にくると、ナターリアは両手を上げて高らかに宣言する。

「おいおい、この部屋で歌うのならともかく、踊るのはどうなんだ?」
「ふふっ、まぁ少しくらいならいいじゃありませんか。せっかくの誕生日パーティーなんですから」
少し呆れながらも、そんなナターリアを見守る海とクラリス。

「甘いモノが欲しい人は、お気に入りのお店で買ってきたお菓子もありますよ!」
持ってきた白い箱を開けて、中からチョコレートのようなお菓子を取り出す響子。

「ん…おお!ブリガディロ!!キョーコ!それブリガデイロカ!?」
「うん!ナターリアならやっぱり知ってるよね。
 ブラジルのお誕生日では定番の菓子って聞いたから」
「ありがとうナ!キョーコ、アイシテルゾ!」
響子に抱きつくナターリア

「ナターリア、幸せだナ!ミンナにイッパイお祝いシテもらって」

「だから、ナターリアもミンナのためにイッパイお祝いするヨ!」

そう言ってナターリアは、その場でくるりと一回転する。
白いワンピースがふわりと舞い、その後に一瞬の静寂が訪れる。

「ミンナに聞いて欲しいナ!Thank you!」

軽やかなステップを刻み、そして歌い出すナターリア。

♪Thank you for つくろう
♪数えきれないステージ この場所カラ...


「あら…この歌は…」
「TVで聞いたことアルヨー!」

踊りながらアカペラで歌うナターリア。
それに合わせて、数人のアイドル達もその歌を口ずさみ始める。

「知ってルか?もし歌えるならミンナも歌って欲しいな!」
歌の前半を歌い終えたナターリアは、皆にそう呼びかける。
大きく息を吸い込み、後半を歌い出すナターリア。

――そして、いつの間にかその歌声は
――その部屋にいた全てのアイドルたちの声の重なる合唱となっていた。

♪...きらめく出会いを ありがとう


――その後も、ナターリアとそれを囲む友人たちは
――たくさんの歌を歌い、たくさんの踊りを踊って
――たくさんの料理とお菓子を囲んで、楽しいパーティーの時間を過ごしていった。



「さて、名残惜しいがもうこんな時間だ、そろそろパーティーもお開きとしよう」
誕生会に参加者の中でも最年長であるアイドル、木場真奈美は手を叩き、皆に声をかける。

皆で歌い、踊り終わったあとに、各々がナターリアに誕生日プレゼントを渡し終わった頃には
すでに日はすっかり沈みきり、時計の針は20時を回っていた。

「ああ、もうそんな時間か…それじゃあ皆、片付けをしておしまいにしよう」
「そうですね…あまり遅いと心配する親御さんたちもいらっしゃるでしょうし」
クラリスと海も席を立ち、片付け作業に加わる。
「ナターリアも手伝うよ!」


「ナターリア、今日は誕生日会に招待してくれたありがとう、とっても楽しかった…」
「ニナも楽しかったでやがりますよ!また誘ってくだせー!」
「二人は私が送っていこう。ナターリアも寮まで近いとはいえ気をつけて帰るんだぞ」

そう言って真奈美は仁奈とほたるを連れ、部屋を後にした。

「それでは、私もこれでお暇させて頂きますわ」
「ウチも帰るよ、…ナターリアは帰らないのか?」

「うん、ナターリアはもうチョットだけここにいるヨ」
プレゼントに囲まれながらソファに座るナターリアは海の問いかけにそう答えた。

「…そういえば。結局来なかったね、ナターリアのプロデューサーさん…」

「ウン、今日は色々イソガシーって聞いてたカラな」

「デモ、オシゴト終わったら必ず来てくれるッテ言ってタカラ!」
少しだけ心配そうに言う響子に、ナターリアは笑顔で返す。

「だから、もうチョットだけ待ってみるヨ」

「ゴメンねナターリア、ふぇいふぇいも一緒に待っててあげたいけど
 明日の仕事、少しだけ早いヨー」
「私もなんだ…ごめんねナターリア、また明日ね」

「ウン、また明日ナ!オヤスミ!フェイフェイ、キョーコ!今日はアリガトナ!!」
そうして響子と菲菲、クラリスと海を見送るナターリア。


「…ライラは帰らないノカ?」
ソファに座り自ら入れたお茶をすすりながら、ライラは穏やかな微笑みを見せる。

「そうですねー、ライラさんは明日のお仕事早くないですから、
 もう少し、ここでお話ししていたい気分でございますよ」
「そっカ、じゃあお話しようナ!」

そうしてしばし他愛のない会話を交わしていたライラとナターリアだったが、
いつの間にか、ナターリアはソファに座ったまま、小さな寝息を立てていた。


「…あれだけたくさん歌って踊りましたから、眠くなるのも当たり前でございますね」

ライラは部屋の隅から一枚の薄い毛布を持ってくると、眠りに落ちたナターリアにそっと被せる。
そしてもう一度ソファに座ると、飲みかけのお茶と共に僅かに残ったお菓子を口にした。


それから、また少しの時間が流れた頃
部屋の外の廊下の向こうから、ひとつの足音が聞こえてきた。


扉が開き、一人の男性が息を切らしながら部屋に入ってくる。


「…とっくに帰っているかと思ったんだが…まだ残っていたなんて」
「ナターリア」

時間はもう10時を回っている。
扉から入ってきた男、ナターリアのPは
申し訳無さそうな顔をしながら、ナターリアに声をかける。

その姿を見たライラは、人差し指を口に当てて
彼女が眠っていることを彼に伝える。

「ライラも残ってたのか…そうか、俺を待っている間に、寝ちゃったのか」

Pの姿を見たあと、おもむろに席を立ち、荷物をまとめるライラ。

「ライラさんも今帰るところでございます、プロデューサー殿もお疲れ様でございます」

部屋を出ようとするライラにPは声をかける。
「あ、ライラ。待って、ナターリアと一緒に送っていくよ」
「大丈夫ですよ、ライラさんは一人で帰れますです。それに…」

「…それにナターリアは、ずっとプロデューサー殿のことを待っていたのですよ」
「あ…」

「それでは、おやすみなさいませ。プロデューサー殿」
ペコリとおじぎをすると、ライラは足早に部屋を後にした。


「…」
眠るナターリアを前に、Pは彼女の頭を撫でる。
「遅くなってゴメンな…ナターリア」

「ン…」
その手の感触に、ナターリアは目を覚まし、その目をこすった。

「プロデューサー?……アレ?ナターリア眠ってたノカ?」
「本当はもっと早く来れるはずだったんだけど、色々なトラブルが起きてしまって…」
「そっカ…」

「ごめんなナターリア、さぁ帰ろう。ナターリアの寮まで送っていくよ」
「ン…」

Pの手を取り立ち上がるナターリア。
Pは彼女の側に置かれたプレゼントが入った紙袋を持ち
もう片方の手にナターリアの手を握って、プロダクションを後にした。


完全に夜の帳が降りた街を歩く、ナターリアとそのプロデューサー。
すっかり目を覚ましたナターリアはプロデューサーに
今日あったパーティーのことを、楽しそうに伝えていた。

「それでナ!ホタルがトランプで負けテ、罰ゲームとしてナナの歌を歌ったんだケド、
 すっごくウマくて、みんなビックリしてたんだヨ」
そんなナターリアの話を相槌を打ちながら聞くプロデューサー。


「あ、プロデューサー!コッチ!こっち行こ!」
ふと、街の曲がり角で足を止めるナターリア。

「こっちって、ナターリアの寮はそっちじゃないだろう?」

「イイからコッチ!ナターリアのお願いだよ、今日はナターリアの誕生日なんだカラ!」
そんなナターリアに手を引かれ、辿り着いた先は
都会の喧騒の中を少しだけ離れた、人気のない公園だった。



「ナターリア、遅れた俺が言うのもなんだけど…もう随分と遅い時間だ
 あんまり寄り道をする訳にはいかないぞ?」

そんな言葉を聞いてか聞かずか、ナターリは公園の中央付近まで歩いていくと、
そこで立ち止まって、くるりとPの正面を向いた。

暗い公園の中、僅かな街灯の光を浴びたナターリアは
まるで暗いステージの上でスポットライトを浴びて立っている歌姫のような
そんな厳かな雰囲気を漂わせていた。

「…プロデューサー。ナターリア、まだプロデューサーに大切なコトバ、貰ってないナ」

「あ…」
Pは持っていた紙袋を地面に下ろすと、申し訳無さそうに頭を掻いた。

「ズット待ってたンダヨ。…プロデューサーにイチバン、お祝いシテ欲しかったカラ…」

いつになく真剣な表情のナターリアはPを正面から見据えて、彼の言葉を待っていた。

Pはそんなナターリアに近づくと、笑顔を作って言葉を伝えた。

「誕生日おめでとう…ナターリア」


「………」

その言葉にすぐに笑顔になってくれると思っていたプロデューサー。
しかし、予想に反してナターリアは真剣な表情を崩さないまま、

「…ソレダケ、カ?」

と、そう答えた。


「ほ、本当に済まない!ナターリアのパーティーに参加できなかったことは俺も本当に心残りで…!」
ナターリアが約束を破ってしまったことに怒っていると感じたPは
精一杯に謝罪と共に、彼女に頭を下げた。


「違うヨ…」
そんなPの姿を見て、ナターリアは少しだけ微笑みを浮かべて言った。

「ナターリア、別に怒ってないヨ。プロデューサーがいつもお仕事ガンバってルのは
 ナターリアが一番知ってルカラ」

「それに、プロデューサーはチャント約束、守ってくれたダロ?」
 …『オシゴト終わったら必ず来てくれる』ッテ」

「あ…」

「ナターリアがホシイのは"ゴメンナサイ"じゃないヨ」

両手を後ろに回し、上半身を少し屈めながら、いたずらっぽく彼女は微笑んだ。


「それじゃあ…えっと…何を言えばいいのか…」

「ワカンナイ?」
ナターリアは自らの耳を指で摘むと、しばらく目を瞑ったあとに
少しだけ顔を赤らめて、

『アイシテル とか』
『ケッコンしてクレ とか』
『カナラズシアワセニスル とカ!』

「そんなコトバをクレたら、ナターリアウレシイな!」

そんな言葉を、口にした。


「そ!それは…」

「ンー?プロデューサー、ドウシタの?顔赤いゾ?」
もうすっかり笑顔になっているナターリア。

(こりゃまたナターリアに一杯食わされたな…)

Pは頭を掻きながら、小悪魔っぽく微笑むナターリアに同じように笑顔を送った。



「今日はナターリアの誕生日ダゾ!ソンナコトバをくれたって、イイんじゃナイか?」

両手を横に大きく広げると、ダンスのようにその場で回ってみせるナターリア。

Pは小さなため息をつくと、街頭のスポットライトの下で踊る担当アイドルに声をかける。

「…いいか?ナターリアはもう、立派なアイドルだ」
「でも、まだまだアイドルとして、積み重ねていかなきゃならないことは山ほどある」

「俺はプロデューサーとして約束した、ナターリアを必ず、トップアイドルにしてやるってな」
自らの担当アイドルに、今の自分のありのままの思いを伝えるプロデューサー。

「街灯の光じゃない、本当のスポットライトの下に、輝く舞台にお前を連れて行く」

「それが今の、俺の一番の夢だから」

その言葉にダンスを止めるナターリア。
Pに背を向けたまま。少しだけ空を見上げた。

「…帰ろう、ナターリア。また明日から、よろしく頼む」

Pは後ろを向いたままのナターリアの返事を待った。


「プロデューサー、最後にヒトツだけ聞いてもイイか?」
「ああ…」

「ナターリアのこと、スキか?」

ナターリアのその言葉には、先程までの茶化した雰囲気は微塵も含まれていなかった。
Pはその思いを読み取り、自らも決して茶化さずにそれに答えた。

「…当たり前だろう?ナターリアは俺の大切なアイドルだ、好きでないわけがない」

「言い方がチガウよ…スキナラ、スキってだけ、言ってホシイ…」

「……」
一瞬の躊躇いがPを襲った。アイドルとPとしての立場を考えれば
たとえそれが、男女の恋愛に満たない、親愛の情に近いそれであったとしても
今この場で、誰にも聞かれてはいけない言葉だった。

それでも。



「…好きだよ、ナターリア」


その時、ナターリアに掛けるべき最も正しい言葉は、それ以外には存在しなかった。

振り返ったナターリアの瞳に、ほんの僅かに光の粒が見えたのは
夜の街灯が見せた、一瞬の幻だったのかもしれない。

「……ワタシも、ダイスキだよ…!プロデューサー!!」

そう言ってナターリアは、Pの胸に飛び込んできた。
首筋に頭を寄せ、力いっぱいにPの体を抱きしめるナターリア

「お、おい!ナターリア!?」
「こんなこと!誰かに見られでも…!」
その言葉をPが言い切る前に、Pの体からパッと離れるナターリア


そして何事もなかったかのように、地面に置かれた紙袋の1つを手に取ると
「サ!帰ろ!プロデューサー♪」

――眩しいほどの笑顔で、彼女はそう言った。


夜道をナターリアと共に歩く。
ナターリアの住む寮まではあと僅かな距離だ。

「…ナターリア」
寮に続く最後の曲がり角の前で、Pは少し前を行くナターリアを呼び止める。
「ン?ドウシタ?」

Pは懐から小さな箱を取り出す。紫のリボンがあしらわれた白い箱。

「俺からの誕生日プレゼントだ、すっかり渡すのが遅くなって、ゴメンな」

「プロデューサーの…プレゼント…エット、今、あけてもイイか?」
ナターリアはその箱を受け取ると、目を輝かせてPに問いかける。
Pの了承を得た彼女は、その箱の丁寧に開け中身を確認する。

その中に入っていたのは。

「花の…髪飾り…だナ?」

「ああ、アイリス…日本ではアヤメとも言われてる、花の髪飾りだ」

紫色に光るその髪飾りを手にとって、ナターリアはすぐさま自分の髪につけると、

「どうカナ?似合ってル?プロデューサー」
そのままもう一度くるりと回って、プレゼントの贈り主にその姿を見せる

「ああ、とっても似合ってるよ、ナターリア」
「えへへ…嬉しいナ。ありがとう、プロデューサー」

「改めて、誕生日おめでとう。ナターリア」
「うン!ドウいたしまして!ダナ」



そうして、寮の前までたどり着いた二人。

「それじゃプロデューサー。また明日、ナ」
「うん。おやすみ、ナターリア」

一日の終わり、明日の再会の挨拶を交わして
ナターリアはPに手を振り、自らの部屋へと入っていった。



ナターリアを寮の送り届けた彼は、その帰り道、
首筋に残る彼女、ナターリアの温かい肌の感触と残り香を思い出し
そして小さく笑った。

(…俺もプロデューサーとして、まだまだ未熟なのかもしれないな…)

まだまだ小さな子供だと思っていた担当アイドルは
いつの間にか、彼の心を惑わせるまでの存在になっていた。

公園の街灯の下で微笑むナターリアの姿、そしてその笑顔に
彼は一瞬、完全に心を奪われていたのだった。

(いや、惑わされるようになったなんて、今更の話…か)

(たぶん俺は…最初から、最初にナターリアに出会った時から)

―――彼女の太陽のようなその笑顔に、惹かれ続けているのかもしれない。



自らの部屋で、プロダクションの皆にもらったプレゼントを机の上に置いていくナターリア
そしてその最後に、頭につけたままの髪飾りを手に取り、机の上に置く。

(ワカッテルよ…プロデューサー、今はマダ)
(ナターリアはみんなのアイドルだかラ…)

(でも…)


(ナターリアがアイドルの、ホントウのイチバンになれたら…)
(その時にはワタシは、プロデューサーのホントウのイチバンに)

(プロデューサーのイチバンに、ナってみせるカラ!)


楽しかった誕生日の思い出を、机の中にしまい込み。
昨日より、少しだけ大人になったナターリアは
また新しい日々への思いと、世界で一番ダイスキなPへの思いを胸に抱いて

その未来を、描き始めていた。

おわりです。

誕生日おめでとう!ナターリア

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