穂乃果「私、魔法少女になる」 (52)

もしもキュゥべえがμ'sに近づいたら。
若干救いの薄い内容かつ、かなり地の文があったりするので苦手な方はスレッドを閉じてください。
失踪しないように頑張ります。
第二次性徴期などは突っ込んだら負けです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1435421191

穂乃果「ねぇ、ことりちゃん!どうしたの?」
ことり「あ、穂乃果ちゃんだぁ…」

光を宿していない目で、いつもよりもゆっくりした声で、ことりちゃんは私の名前を呼んだ。
それは、私達が高校1年生の時。
ことりちゃんが、学校を休んで連絡もつかなくなって、それに家にもいないということになって。
私と海未ちゃんは必死になってことりちゃんを探した。
それで、やっと見つけたと思ったらことりちゃんの様子がおかしい。

ことり「あのね~…今からとっても幸せな場所に行くの。穂乃果ちゃんも幸せになれるよ?」

そう言ってことりちゃんは私の腕を掴んで、ふわふわとした足取りで私を連れて行く。
帰ろう、みんな心配してる、そんな言葉はことりちゃんには届かなかった。

連れて行かれたのは、古い倉庫のような。
そこには、いろんな人…スーツのお兄さんや、薄汚れた格好の人。穂乃果たちみたいな学生さんや…でも、みんな同じだったのは虚ろで、壊れたような笑顔が張り付いたような…そんな人達。

穂乃果「こ、ことりちゃん、なんか変だよ、帰ろう?」
ことり「だいじょうぶ、ここは救いの場所だから」

何を言っても通じないことりちゃん。その時、スーツを着たここにいる人たちの中では一番…偉そうな感じの人が立ち上がって、床に新聞をばらまき、そして、それに水をかける。

男「さぁ、この汚れた身を焼き払い幸せな世界へ」

その水は、嫌な匂いをしていて、ストーブのような…。

穂乃果「まさか…」

私はことりちゃんの手を掴んで外に逃げ出そうとすると、逆にことりちゃんがそれを阻んで私の腕をひいて、

ことり「穂乃果ちゃんも、幸せに、なろ?」
うつろな目。ことりちゃんは私を逃がすまいと腕にまとわりつく。

男の人が、ライターを取り出して、火をつけようとします。
焼け死んじゃう、このままじゃみんな死んでしまう。

穂乃果「やだ…」

なんで、どうして。
ことりちゃんは、この状況が当たり前のように、楽しそうに、嬉しそうに男の人が掲げるラーターを見ていて、
もう、駄目なのかな、どうしてこんなことになってるのかな、もう穂乃果にはわかんないや。
そう思ってぎゅっと目を閉じると。

「申し訳ありません」

聞き慣れた声。
その声と共に、私が目を開けると、

穂乃果「海未ちゃん…!…海未ちゃん?」

海未ちゃんがライターを持っていた人の手から、寸分狂わずライターだけを狙って弓を放った。

海未「説明は後です!」

空間がぐにゃりと歪んだ。
穂乃果が戸惑っていると、腕にかかっていた力がなくなって、ことりちゃんが気を失って私にもたれかかっている。

穂乃果「海未ちゃん……」
海未「大丈夫」

海未ちゃんが、弓を構えて微笑んで鋭く空を睨む。

海未「……私が守ります、ことりを見ていてください!」

そう言って、ぐにゃぐにゃと歪んでまるで夢の中のような世界の真ん中にいる、恐ろしい生物に向かって海未ちゃんは……

穂乃果「と、飛んだ……」

海未ちゃんは、弓を構えてその恐ろしい生物が放つ攻撃を打ち落としていって。
よく見たら、いや、海未ちゃんがおかしな格好をしていたのは気付いていたけど…鎧みたいな衣装。だけどお腹は出ていて海未ちゃんが嫌がりそうな水色のミニスカート。裾にはフリルがついていて、

穂乃果「……可愛い」

なんて、場違いなことを呟いてしまった。
海未ちゃんは弓道の弓とは違うような青い弓を構えて、

海未「ラブアローシュートっ!!!!」

そう叫ぶと、海未ちゃんが放った矢は光を帯びて、恐ろしい生物を消し去り……その瞬間、ぐにゃりと世界が歪んで元の倉庫に。

海未ちゃんは、あれだけ高く飛んでいたのに何もなかったかのように着地して、私の方へ駆け寄ってくる。

海未「穂乃果、怪我は?」
穂乃果「ううん、穂乃果は大丈夫だけど……」

意識を失っていることりちゃんを私が見ると、ことりちゃんは目を覚まして瞬きをする。
周りの人達も、同じように瞬きをして………

ことり「穂乃果、ちゃん?海未ちゃん?」

そして、しばらく戸惑ったようにした後、急に泣き出してしまって。

ことり「うわぁあああん!!なんで、なんでことりっ……」

ことりちゃんの目に光が戻って、元に戻ったのはいいけど、これ、どうなってるんだろう。
穂乃果も戸惑っていると、海未ちゃんが私たちをまとめて抱き締めました。
…………いつのまにか、制服に戻っていて、ちょっも残念だったけど。

海未「大丈夫です、悪い夢は終わりましたから」


ことり「……あのとき、何があったのか教えてほしいの」
穂乃果「そうだよ、海未ちゃん。あれはなんだったの?」
海未「な、なんのことですか……」

あの事件の次の日、穂乃果とことりちゃんは二人で海未ちゃんを問い詰めた。
昨日のこと、海未ちゃんが助けてくれたこと。
お礼を言っても、さぁ、なんのことやら。そんなことを返されては気になってしかたがない。
ことりちゃんは穂乃果よりも何があったのか知りたいみたいで、穂乃果よりも強く海未ちゃんを見つめる。
でも、海未ちゃんは答えてくれそうにない。

海未「そんなことより、穂乃果……」
穂乃果「……ラブアローシュート」

海未ちゃんの顔が真っ赤になって、そ、それは……!と慌てて真っ赤になって。
穂乃果はこれだーっ!って思ってことりちゃんの方を見る。
ことりちゃんは、ラブアローシュートと聞いても何かわからずにきょとんとしていた。

穂乃果「ねぇ、ことりちゃん。実は昨日ね……」
海未「言います、言いますからっ!」

穂乃果・ことり「魔法少女?」
海未「はい……私は実は魔法少女なんです」
穂乃果「魔法少女ってあれでしょー?朝に女の子がばーんって戦うやつ!」
海未「…えっと、それとは少し違いまして…」
「それは僕が説明するよ」

そう声が聞こえて、白い猫みたいな生き物が穂乃果達の前に現れた。

海未「きゅ、キュゥべえ……」

キュゥべえ「こんにちは、穂乃果、ことり!」
ことり「わ、猫がしゃべってる……!」
穂乃果「すごーい、これ海未ちゃんの猫?」
キュゥべえ「僕は猫じゃないんだよ。まぁ、この星じゃそれが一番近いかな……」

まぁ、それはいいとして。
そう言って、キュゥべえという猫は私達の方を向いて、座って尻尾を愛らしく揺らす。
そして、真っ直ぐな笑顔を浮かべてこう言った。

キュゥべえ「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

魔法少女。
ひとつのお願いを何でも叶えることと引き換えにこの世界の人達を脅かす「魔女」を倒す正義の女の子。
キュゥべえは、そう私たちに説明をした。 海未ちゃんも大方あっているとそれに頷く。

海未「昨日のことは全部魔女の仕業なんです」

そういうと、ことりちゃんはさっと青ざめて俯く。

ことり「ことりね、酷いこと思っちゃったの。だからあれは、別にそんなのとは……でも、ことりあんなにおかしくなっちゃうなんて」
海未「それが魔女です。魔女は人々の不安を煽り、命を絶たせ、それを糧にして生きますから」
穂乃果「…ことりちゃん、何か不安なことがあったの……?」
ことり「っ……」
穂乃果「あ、別に、話さなくても」
ことり「ううん、いいの。…あのね、ことりね、二人と一緒にいていいのかなぁって」

ことりちゃんは、ポツリと漏らすように話続けました。
穂乃果と海未ちゃんと友達でいていいのか、自分はこんなに引っ込み思案なのに二人の迷惑じゃないのかな。

ことり「…って、あはは……ごめんね、おかしいよね」
穂乃果「ことりちゃんは、穂乃果と海未ちゃんの大事な友達だよ」
海未「そうです、そんな、負い目なんて…そんなことを言ったら──」

そう、海未ちゃんは一瞬言葉に詰まって取り繕うように言う。

海未「私達はことりの大事な友人です、ことりだから友達なんですよ?」

その、詰まった言葉に穂乃果はほんの少し違和感を感じたけど、それはことりちゃんが私達にまとめて抱きついてきたことで飛んでいってしまった。

ことり「ありがとう、……ありがとう……」

そう言いながら泣くことりちゃんを、海未ちゃんと二人で抱き締めていたら、キュゥべえが言葉を挟む。

キュゥべえ「あのー…まだ話があるんだけどな」
海未「……キュゥべえ、空気を読んでください」

キュゥべえ「とにかく…穂乃果、ことり。君達は魔法少女になる資質があるんだ。どうかな、海未と一緒に戦ってみない?」
穂乃果「それって、何でも願いを叶えてもらって海未ちゃんみたいに戦えるってこと?」
ことり「ことり、あのね」
海未「………いけません」

冷たい声で、海未ちゃんが穂乃果たちを制した。

海未「穂乃果、魔法少女は忙しいんですよ?普段から課題が出来ていない穂乃果がやれるものではありません。
ことりも、……魔法少女にならなくったってことりは大丈夫ですから」

海未ちゃんは、毅然とした様子でキュゥべえに言う。

海未「二人を誘ったらもう私は戦いませんからね」
キュゥべえ「むぅ……それは困るなぁ」

それなら仕方ないのかもね。
そう言って、キュゥべえはまたね、と言って去っていく。

海未「本当に魔法少女になんてなってもいいことはありませんからね?キュゥべえはしつこいですから、気を付けてください。……もし契約するなら私に相談すること!」

そう、海未ちゃんは言って、この魔法少女のお話は終わった。

その話を思い出したのは………私達が、高校二年生に。
音ノ木坂学園の廃校が、発表された後だった。

魔法少女コスチューム参照:園田海未SR<端午の節句編>

今日はここまでにします、書きためたらまた来ます。

絵里「希…なんで止めるの?本当にどんな願いでも叶うんでしょう?」
希「駄目なものは駄目。…って、うちのカードが告げてるんよ」

私のところに、不思議な白い猫が現れたのは…本当はもっと前の話だった。
廃校が決まり、生徒会としてあがくことも許されない。
スクールアイドルなんてものに任せてられない、私が、私が廃校を阻止しなければいけない。
そのためならなんだってやる。
そう思って必死なのに、希は本気で私のことを止める。この前キュゥべえと本気で契約をかわそうとした時、割って入ってきて止められた。…絶交だと叫ばれて踏みとどまった私が悪かったのか。
何故魔法少女になってはいけないのか?
そう何度尋ねても希はこうやって「カードがうちに告げる」としか答えない。
…はぐらかしている。そのことくらいはわかっていた。
そのことが、更に私を苛々させる。
希もそれはわかっているみたいだった。…だけど、何も話さない。本当に。

希「…というわけなんよ」
にこ「だったらもう、やらせてあげればいいじゃない」

ここは、魔女の結界の中。
うちと、にこっち。二人の魔法少女が魔女の結界で戦っていた。

希「あはは…本気で言ってる?」
にこ「……冗談!」

にこっちがステッキを使って敵を薙ぎ払っていく。
あはは、いつ見ても、あの可愛いステッキで薙ぎ払うなんて、合わなくて笑えるなぁ…。
なんて、言ってたらうちにも使い魔が襲ってきたからそれを魔力を帯びた御札で撃退する。御札で戦うなんてスピリチュアルじゃない?…なーんて。

希「えりちが魔法少女になったら…どんなのになるのかなぁ…」
にこ「きっと、すぐ!駄目になるわよ、あいつメンタル弱そうだもの」
希「ふふ、まぁ、本当になっちゃったらうちが守るんだけどね?」
にこ「ちょっとー、あんた、一応にこの相棒じゃないの?」
希「もちろん、にこっちも守るよ?」

そういうと、にこっちは深く、深く、大きく溜息をつく。
そして、飛び上がった。

にこ「いくわよー!にこのステージ、楽しんでくれたよね?」

にこっちは、ステッキを魔法で大きくして一気に魔女の本体に魔力を叩きつけた。
そして崩れる。魔女の結界。

にこ「……相棒って、そんなのじゃないと思うけど」
希「あはは、期待しとるよ?」

にこっちは、グリーフシードを取るとうちの方に歩いてきて、グリーフシードを無理やりうちのソウルジェムに押し付ける。

希「にこっちのほうが、今日いっぱい戦ってたのに、ええの?」
にこ「この前も。その前もそういって私に使わせたでしょうが!まったく…」

そういってにこっちは、魔法少女の姿からもとの姿に戻った。

にこ「…私がなんとかできたらいいのにね、ごめんね、希。頑張って止めるのよ?」

そう言って、にこっちは走って去って行ってしまった。
そんなつもりじゃなかったのになぁ、でも、にこっちには確かに負い目が出来てしまうかも。
…でも。

希「カードは、大丈夫って、言ってる」

そう、きっと大丈夫。「私」達が9人になった時…きっとみんな幸せになれるから。
にこっちのお願いも、きっとその時に叶うはずなんよ。
えりちのお願いだって、その時に叶うはず。
…だから、魔法少女にならないで。うちは…幸せだけど、この力は、間違ってると思うから。

魔法少女コスチューム参照:矢澤にこSR<お花編>
東條希SR<8月 チャイナドレス編>

次回、真姫ちゃんです。短いですがここまでで。

間違えて下げてました、指摘ありがとうございます。
真姫ちゃん編からは原作をなぞりますので自己解釈等苦手な方は避けてください。夜投稿します。

私は、音楽が大好きで、ピアノが大好き。
最初は、練習が嫌いだったけど、それでも、私が弾けば応えてくれるピアノがだんだん大好きになった。
私の世界を作ることができる作曲も…本当は大好きだった。
一杯一杯、譜面に書き溜めて、私なりの素敵な曲を作っていく。
それに、歌詞をつけたのはいつからだろう?もっと、メロディだけじゃ伝えられない私の気持ちを乗せ始めたのは、いつだっただろう。

私は、音楽室のピアノの前に座って息をつく。

今となってはここだけが、私がピアノを弾ける場所だった。

私が音楽を続けることを、パパは反対していた。
それの理由は、わかる。…私は医者にならないといけない。医者になるための勉強をしないといけない。
音楽なんて、やっている暇があったら勉強しろって。
…だけど、私にはこの音の世界を手放すことが出来なかった。

真姫「…愛してる、ばんざーい」

ここでよかった。私達のいまがここにある。
…これは、私が送ってみたかった学校生活への憧れの歌だった。
最初は、成長や期待、希望、そんなことを伝える歌にしたかったのに。
なんて曲を作ってしまったのだろう、自分の今の状況を皮肉るような歌だった。

そんなとき、私は二年生の高坂穂乃果先輩に出会った。
明るくて、誰でも引きこまれてしまいそうな彼女。
私がピアノを引いて、この曲を歌っているところに話しかけられた。…そして、作曲を依頼された。
…私には、彼女達の歌を作る権利はあるのだろうか。音楽…そう、音楽をしたいのに離れている私と、はじめたばかりで、まだまだだけど、輝いているμ’sにの音楽を作っていいのだろうか。
そんなことを、悩んでいたら、こっそりでいいと、生徒会の副会長に助言された。
そうか、音楽を頑張る貴女を応援するスーパーヒーロー、ニシキノ。そんな感じでいいのかな。
そう思って曲を作り始めた。でも胸を揉まれたのはイミワカンナイ。必要だったのかしら。そんなわけないとは思うけど。

素直で素敵な歌詞、彼女達が初めに歌うにきっと相応しい曲。
きっと未来を、切り開くはずよ。ほんとにね。

…そう思っていたのに、やっぱりうまくはいかないみたいで…、講堂はがら空きだった。
彼女たちが歌った私の音楽は、思っていたより数倍完璧だったのに。
それでも、決して誰もいないわけではなかった。同じクラスの…といっても、同じ学年なら絶対に同じクラスになるんだけど。
小泉さん。彼女と、その友達の星空さんがライブを…とても、とても楽しんでくれてた。
だから私は、まだμ’sの応援がしたいって…彼女たちが作る音楽を見ていたいって、そう思った。

【番外編】

穂乃果「そうだ、海未ちゃん!私、思ったんだ」
海未「…何を、ですか?」
穂乃果「魔法少女だよっ!魔法少女になったら廃校を阻止できるんじゃない?」
海未「…!まだ、覚えて…!」
穂乃果「駄目、かな?」
海未「ダメに決まってます!そんな理由で魔法少女なんて聞いたことがありません!」
穂乃果「えー…いいアイデアだと思ったんだけどなぁ…」



海未「言ったはずです!スカートは最低膝下でないとはかないと!」
穂乃果「…だって、成功させたいって思ったんだもん…それに、海未ちゃんスカート似合うんだよ」
海未「私が!いつ!スカートを履いたと言うのですか!」
穂乃果「ラブアローシュート…」
海未「穂乃果!!」
ことり「ことりも、海未ちゃんがスカートはいて戦ってるの見てみたいなぁ…」
海未「ことりまで…!」
ことり「ねぇ、おねがぁい♡海未ちゃんの魔法少女、見てみたいな」
海未「う…、い、いくら頼まれたって駄目です!!!」

【終わり】

今日はここまでです、書き溜めが少なくなってきたので頻度落ちますが、頑張って書きます。

花陽「西木野さんの歌が聞きたくて、…ずっと聞いていたいくらい好きで」

ついうっかり、生徒手帳をμ’sのチラシがはられた掲示板の前に落としてしまったことで、小泉さんが私の家に来てしまった。
ママははしゃいでるし、もう、なんでこうなるのかしら。
それで、彼女から私がスクールアイドルをやってみたらどうかと、勧められた。
私が?アイドル?
たしかに私は下手なアイドルなんて目じゃないくらい可愛いかもしれない。…冗談。
でも、歌だって、音楽のことだってわかってる。
そう、小さな声で語る小泉さんに私の音楽を認められた気がして、とても、とても嬉しかった。
…でも。

真姫「大学は、医学部って決めてるの。…だから、私の音楽は終わったの」

そう、私の発表する音楽は終わった。だから、私は影で…そう、私じゃない、スーパーヒーロー、ニシキノとしてμ’sの応援をする。
そう、決めてしまっていた。私が前に立ってアイドルをするなんて、ありえない。

真姫「…それは、ともかく…あなた、アイドルやりたいんじゃないの?」

でも、きっと彼女は、一生懸命に歌ってくれると思った。
そして、やりたいのだって、講堂で見ていてはっきりわかっていた。だから、影で応援していてあげるなんて…そう、素直になりきれない言葉を、送った。

私も、アイドルをやれたらどんな風になるだろう。
彼女たちの歌を作業用BGMに勉強をしてみたら、どうしても彼女たちの踊りも見たくなって勉強の手が止まった。
表現は、曲だけじゃない。踊りも衣装も表情も、一生懸命さも、人に伝える手段となることを知った。
…あ、私、憧れてる。アイドルに、私もステージ立ちたいって思ってる。
そんなことに、気付いても…今日あの子に話したこと。それが、私の全て。
西木野真姫の音楽は…終わってるの。
私は、薄暗い部屋の中、机に伏せて、画面から目を逸らした。。

次の日、私は気になってずっと小泉さんのことを見ていた。
国語の時間、当てられてうまく教科書を読むことが出来ずに…落ち込んでいるのがわかった。放課後、一人で中庭で座ってうつむいている。
……引っ込み思案なのはわかってたけど、ここまでとは。…こうなったら、私が手助けしてあげないと。

真姫「あなた、声は綺麗なんだから…」

…そう、言葉だけで言ってわかるものなのだろうか?
きっと、こう言っても私なんて…と言ってしまうのが目に見えていた。

真姫「あーあーあーあーあー♪」

音階をつけて、声を出す。大きく響くように。放課後で、人が周りにいることは気にならなかった。
私がいきなり発声練習を始めて驚く花陽。
私は、彼女に呼びかけた。

真姫「やって」
花陽「…あーあーあーあーあ♪」

戸惑ったようにしながらも声を出す。だけど、まだ小さい。
もっと大きく、立ってと指示をしてもう一回。すると、さっきよりも大きできれいな声が響いた。
一緒に、そう告げて二人の声を合わせる。
綺麗に、それが混ざって…小泉さんが笑った。

真姫「ね?声出すって気持ちいいでしょ」

だから、大丈夫。声なんか、練習したらでるようになるのよ。わかったでしょ?
自信がつくまで一緒に練習してあげる、出来そうじゃない?
そう、言葉をかけようとした瞬間…彼女の友達の星空さんが走ってきた。

凛「かーよーちん!」

そして、無理やり彼女を先輩たちのところに連れて行ってしまいそうになる。
未だ、迷っている彼女に焦りは禁物なのに!

真姫「ちょっと、まだ自信をつけさせてからじゃないと…」
凛「かよちんは、いっつも好きなことでも迷っちゃうから凛が背中を押してあげるの!どうして西木野さんが入ってくるの?」

…まるで、私は小泉さんには関係ないのだから…と言われそうな雰囲気。でも、私が小泉さんがμ’sに入って欲しいと思っている。この、私が作曲をしたあの一生懸命に頑張るグループに。

真姫「…なら、私が連れて行くわ。音楽のことなら私のほうが詳しいし、μ’sの曲は私が作ったんだから!」


……………………。
小泉さんと、星空さんが、とても驚いたような顔をしている。
私は、今、何を言った?
…μ’sの作曲をしたのは、私だ。
しまった、私は秘密でμ’sの協力をするはずだったのに。こうして話しちゃうなんて信じらんない。
ほんっとうに、なんで話してしまったのか。
でも、話してしまったからには仕方がない。私はごまかすように小泉さんの腕を引いた。
もう片方の腕は、星空さんが。自分が連れて行くと行って聞かない。
もう、なんでこんなに頑固なのかしら!

凛「かよちんは、ずっとずっと前からアイドルやりたいって言ってて!」
真姫「そんなことはどうでもいいの!このこは結構歌唱力があって…」
凛「ちょっと、どうでもいいってどういうこと!」

こんなところでも星空さんとまだ口論。星空さんに引きずられたせいか、ぐったりしている小泉さんが顔をあげる。

花陽「私は、まだ…」

……あ、このまま逃したら多分やっぱり向いてないって言い出しそう。

凛「もう!絶対やったほうがいいって!」
真姫「それには賛成、やりたいならやってもいいと思う、違うの?…それに、さっきも言ったでしょ?声は出せるの、出せるようになるの。だから、出来ないわけないの」
凛「凛、知ってるよ、かよちんがずっとアイドルやりたいって思ってたこと!」

私と、星空さんの二人がかりの説得で、小泉さんが少しだけ、前に進めたような、そんな気がした。
そして、迷うように、未だ緊張しているように、俯きながら、先輩たちに話す。

花陽「えっと、私、小泉花陽は…」

まだ、自信なさげな彼女。星空さんと、目が合った。応援しているのは、同じというわけ。
なら、私が頷くと彼女も頷いた。二人で、優しく小泉さんの背中を押す。
私達、応援してるから、あなたに歌ってほしいから。

そんな思いが届いたのか、小泉さんは、意を決し、

花陽「私、小泉花陽といいます。声も小さくて、背も小さくて、人見知りもします、でも、アイドルへの思いは…誰にも負けません!」

そして、今までで聞いた一番大きな声で、

花陽「私を、μ’sのメンバーにしてください!」

そう言って、頭を下げた。
そんな彼女に、高坂先輩が…手を差し出し、笑顔を向ける。

穂乃果「こちらこそ、よろしく!」

小泉さんが、その手を取る。…夕陽と相まって、ほんとうに綺麗で、綺麗だったのは、決意を固めて思いを口にした小泉さんと、それを受け止めた高坂先輩だと思う。
本当に良かった、と泣く小泉さんを何泣いてるの、とからかうと私が涙ぐんでいるのに、彼女も気付いたのかそれを指摘する。
私は、ふいっと顔をそむけそれを否定した。

ことり「それで、二人は?」

…え、二人?星空さんと顔を見合わせる。

海未「まだまだ、メンバーは募集中ですよ」

そういって、手を差し出される。
園田先輩と、南先輩。…これは、つまり。

…目だけで、星空さんを見てみると、また目があった。

凛「凛は…」
真姫「私は…」

終わっていると、思っていたのにこうして手を差し伸べられた。
まだ、私、音楽やっていいんだ。そう思うと、いてもたってもいられなくなった。

私は、園田先輩の手をとった。それと同時に、星空さんが、南先輩の手を。
それを見て、小泉さんが本当に嬉しそうに笑って、高坂先輩も、笑ってくれて。

こうして、私は、音楽を…取り戻した。…筈だった。

次の日、練習を終え…家に帰ると、私の譜面と、PCの音楽ソフトと……ピアノが、

――――――――無くなっていた。

今日はこれで終わりです、ありがとうございました。

ミス訂正です。
>>27 私がいきなり発声練習を始めて驚く花陽。 →私がいきなり発声練習を始めて驚く小泉さん。
>>30 本当に良かった、と泣く小泉さんを何泣いてるの →本当に良かった、と泣く星空さんを何泣いてるの
その他、点の位置がおかしく読みにくいところがたくさんありますね…ごめんなさい、気をつけます。

真姫「私ね、スクールアイドルのクラブに入ったの、また音楽するわ。ほら、前に来たでしょ?小泉さん。あの子と、あの子の友達の星空さんと…」

こんなに、学校のことを話したのは久しぶりかもしれない。
私は、今日のことがほんとうに嬉しくて嬉しくて、二人でいたママとパパに話した。

真姫「小泉さんは、引っ込み思案だけど声が綺麗で、星空さんは…体育見てる感じだと、すごく運動神経がいいわ」

こんなに、誰かのことを話したのはいつぶりだろう。

真姫「それで、それでね…本当は、小泉さんをμ’sに入れてあげたらそれでいいかなぁって思ってたんだけど、私も誘ってもらって、それで、嬉しくて」

ママは、熱っぽく話す私の言葉を本当に楽しそうに聞いてくれていた。
でも、パパは少し…不満気にしている。あぁ、そうか。私、やめなさいって言われていたのに。

真姫「勝手に始めちゃってごめんなさい。でも、私、やっぱり音楽がやりたいの。…ちゃんと一番をとって医学部に行くわ。だから…やらせて?」

そう、言ってもパパは頷いてはくれなかった。
活動を続けて、成績も残せば、文句言わなくなるかしら。認めてくれるかしら?きっとそうよね…なら、真姫ちゃん頑張っちゃうんだから。絶対2つとも成し遂げてみせるわ。

……この時、もっと真面目に、パパを説得しておけばよかったのかもしれない。


私は、本当にうかれていた。
小泉さんと、星空さん…いえ、もう違う、こう呼ぶんじゃない。
花陽と、凛。
朝練の時、どうしても西木野さんって他人行儀に呼ばれるのが嫌で…言い出してしまった。
切り出し方は、変だったけど二人とも、おかしいと思わずに「真姫ちゃん」って呼んでくれた。

お互いに、名前を呼び合うなんて初めてだった。

凛「真姫ちゃんの玉子焼き、もーらい!」
真姫「あ、凛!ちょっと!」
凛「あ、これおいしいよ!真姫ちゃんも凛のおべんとたべていーよ?あ、たこさんウインナーは駄目だからね!」
花陽「あ、真姫ちゃん、私もちょっともらっていいかな…?」
真姫「あぁ、もう、ご飯なのに騒がしいのね」

ふと漏れた感想に、二人が不安げにする。

花陽「ごめんね、駄目…だったかな?」
真姫「!そ、そうは言ってないじゃない!ほーら、貰っていいっていったんだから覚悟しなさい!」

凛からは、たこさんウインナー。花陽からはミニトマトを貰って口に運ぶ。
凛はだめって言ったのにー!とむくれてたけど私だって玉子焼き食べる気分だったんだから。

…こんなに楽しいお弁当は初めてだった。

海未「発声練習、ですか?」
真姫「えぇ、こうしてしっかり声を出してからのほうがもっと歌が響くようになるわ」

ピアノの前に座って、私は音階を鳴らす。それに合わせて、声も出した。

真姫「こんな風に…ね」
穂乃果「おぉ、真姫ちゃんさすが!やってみようよ!」
ことり「やっぱり、音楽知ってる人にアドバイスを貰うと違うよね、もっと上手になれそう」
真姫「もう、やってなかったの?なら私がもっと、その…綺麗に歌えるようにしてあげるから」
穂乃果「お願いします!真姫先生っ!」

こんなに、一生懸命練習をしたのも初めてで、誰かと音楽が出来るのも初めてで…。
本当に、生まれてきた中で、一番楽しい日だった。

…筈なのに。


真姫「なんで、どうして…?」

譜面だったら、どこか別の場所に置いてしまったのか、とも思えた。
音楽ソフトなら、PCがおかしくなったのか、と苦しいながらも自分に言い聞かせられた。
……それでも、グランドピアノが無くなるなんて、有り得ない。

あまりにも広くなってしまった部屋に呆然としていると、開けっ放しになっていた部屋の扉をパパが叩いて入ってくる。

真姫父「…真姫」
真姫「…パパ?私の、ピアノは?」
真姫父「お前は、医者にならないといけないだろう?今日だって帰るのが遅くなった。勉強時間は足りるのか?」
真姫「わ、私、両方頑張るって!」

そう言っても、パパの厳しい表情は変わらなかった。

真姫父「…二兎を追うものは一兎も得ず、という言葉があるだろう。音楽なら、大学に入って、医者になれたら好きなだけやればいい。その時は、またグランドピアノでも何でも、また買ってやる」

取り付く島もなかった。
私は、私は、作曲して、みんなで歌いたいのに。

凛「まーきちゃーん!」
真姫「……、あ、うん…おはよう、凛」
凛「真姫ちゃん暗いにゃー……何かあった?」

ピアノが消えた次の日、きっと辞めると言わないといけないかもしれない。
そんな事を考えながら歩いていると凛と道で出会い…声をかけられ、いつも通り振る舞えなかった。

真姫「べっ、別に、ちょっと眠たかっただけ!」
凛「あー…朝練って時間早いよね―…」

……よかった。凛に怪しく思われなかった。

神社につくと、みんな集まっていた。
海未先輩が練習の指揮をとる。走るのも、あんまり得意じゃないし、体力がある方なんて言わない。
でも、本当に、すごく楽しくて。


……奏でられるピアノの音、ピアノを弾けるとしたらここだけになってしまったかも、しれない。
授業間の休み時間、私は一人音楽室に来ていた。
一人、ピアノの鍵盤に指を乗せてたった一音だけ音を響かせる。

キュゥべえ「やぁ」
真姫「……!?」

その音にか、白い猫みたいな、そんな生き物がピアノの上に座っていた。
キュゥべえ「何か悩みがあるようだね」

最初は幻聴だと思っていた。けど、二回目。
その生き物から声が聞こえた。

私は椅子から立ってその生き物から離れる。なにこれ、怖い、逃げないと…そう思い音楽室のドアに手をかけた時だった。

キュゥべえ「待ってよ、僕ならキミの悩みを簡単に解決できるんだ」
真姫「はぁ!?意味わからないこと言わないで!」
キュゥべえ「例えば、ピアノを弾けるかもしれないよ。……真姫」

どうして私の名前を、そんなことを聞き返すよりも前に、ピアノの話をどうしてこの生き物が知っているのか。
……そうか、これは、

真姫「……聞いてあげる、どうせ夢なんでしょ」
キュゥべえ「いやぁ…夢じゃないんだけどね」

私は、ピアノの椅子に座り直した。

真姫「ピアノから降りて、そこは座る場所じゃないわ」
キュゥべえ「それはすまなかったよ」

白い生き物は、聞き分けよくピアノから降りた。
そして、私に向き直る。……そして

キュゥべえ「僕はキュゥべえ。…僕は魔法少女になれる素質をもった少女を探しているんだ」
真姫「……へぇ」

夢の中だと思ったら、こんなに意味わかんない話が聞けるなんて。
私追い詰められてるのかしら。…そうだけど。

キュゥべえ「キミが戦ってくれたら、僕はどんな願いだって叶えられる」

怪しい宗教の勧誘みたい。…そう、笑おうとしたら、

キュゥべえ「例えば、僕と契約した少女には両親と仲直りしたりして、夢を追ったり出来たりしたんだよ」

………全てを、見透かしたような、そんな言葉を。私が固まっていると、笑顔で。
とても楽しそうな、疑いを持つことも忘れさせるような笑顔で、こう、告げられた。

キュゥべえ「僕と契約して、魔法少女になってよ!」



今日はここまでです。久しぶりの投稿になりました。8月の上旬まで予定に振り回されるので次の更新はその辺りになると思います。

訂正です
>>37
その音にか、白い猫みたいな、そんな生き物がピアノの上に座っていた。 →白い猫みたいな、そんな生き物がピアノの上に座っていた。

馬鹿じゃないの。そう一蹴出来なかったのは夢を追えるなんて言われたから。
音楽を続けること、もちろん、医者になることだって夢だ。
私は、沢山の人を救うのが夢だし、使命だと思っている。それでも、今、今やりたいことは。

だけど、胡散臭い。魔法少女なんてどこの世界の話なんだろう。
未だ笑顔を貼り付けたマスコットみたいな白い生き物、願いを叶えるだけでなく…戦うとも言った。
……なんて、どうせ夢なのに私は何を考えているんだろう。
願いを一つだけ叶えるなんて、非現実的すぎる。

非現実的ならもう少し聞いていてもいいだろうか。急に、そんな考えが頭を過った。
そうだ、どうせ夢で、非現実的で、夢だというのなら聞いていてもいいかもしれない。
きっと、今の私に…幸せな夢の妄想はきっと、楽しくて仕方ないだろうから。

真姫「…詳しく聞かせて?魔法少女になったらどうなるのか」
キュゥべえ「他の子なら二つ返事なのに、キミは慎重なんだね」

わかったよ、と白い生き物は…魔法少女について話し始めた。

この白い生き物の名前はキュゥべえ。魔法少女になる素質を持った女の子を探している。
魔法少女は…魔女と戦う存在。
この世に起こる自殺や、不可解な殺人事件の多くは魔女に取り付かれた人間が引き起こす。

そんな魔女を倒すのが、魔法少女。
魔法少女は、希望の象徴で魔女は絶望の象徴。
もちろん戦うだけなら魔法少女に何のメリットもない。そこで、重要なのが最初の願い事だ。
魔法少女になる前の願い事、それが魔法少女のメリット。
神様になりたい、全人類を支配したい。
そんなバカみたいな願い事でなければなんだって願いを叶えることが出来る。
…願いを叶えた以上、戦い続けないといけないというのがネックとなるか。
それでも、物理法則さえ無視した願い事を叶えられるというのは大きい。

そして、興味深い話がもう一つ。

真姫「病院に?」
キュゥべえ「そうさ、病院に魔女がとりつくと弱った人たちが危険にさらされるんだ」
真姫「病院…ね、わかって言ってる?」
キュゥべえ「もちろんさ、キミは将来お医者さんになるんだろう?」

……本当に、変な夢ね。夢だからこそ、私の事情をキュウべえが知っているのかしら。夢って興味深いのね。

魔法少女…そう、魔法少女。
イメージが少しずつ、少しずつ膨らんできた。

真姫「……私は…願い事で、魔法少女になるの。それで…音楽をして、勉強をして…お医者様になる前にも、病院の人たちを助ける…それ以外の人だって助けられるわ。…ふふ、素敵ね」
キュゥべえ「そうだね、それはとても素敵な夢だと思うよ」
真姫「こんな夢が、現実になったらきっと…」
キュゥべえ「そう、そんな夢を現実に出来るんだよ、真姫」

私は、ピアノを鳴らして、大きく息を吐いて……メロディを奏でた。思うまま、そう奏でると…酷く、酷く暗い音がなった。
これが、私の今の現状。さっき語った夢とは、希望の魔法少女とはかけ離れている。

真姫「いい夢を、ちょっとだけ見れたわ。ありがとう」

そう言った瞬間、チャイムが鳴り響く。
…しまった、授業間の休み時間に長居してしまうなんて。
……夢ならいいのかしら?そう思いながらも、サボってしてしまうのは嫌だから、私は、音楽室を出て教室に向かう。

……一度だけ、幸せな想像が惜しくなり、振り返ってみたけど…キュゥべえは、もう音楽室にいなかった。

書きためのストックもなかったため短くなってしまいましたが、今日からまたゆっくり進めていきます。よろしくお願いします。

練習して、でも、少し集中力がなかったのか何回も海未先輩に注意を受けた。
最終的に、体調が悪いのか?と心配されたけれどそんなことはない。
…やっぱり言い出せなかった、やめないといけない、なんて。

ただ、暗い気持ちで…家に帰り着いた。
やっぱり広くなってしまった私の部屋。…ただ、笑ってしまった。
今まであったものが、ない。

真姫「…馬鹿みたい」

もし、アイドルになりたいなんて思わなかったらピアノが奪われることはなかったのか、そう過って…考えるのをやめた。
ほんの一瞬、夢を見れただけでよかった。
そう、呟いて、携帯を開く。事情を説明して諦めなきゃ。

携帯を開くと、…あぁ、なんでこんなことしてしまったんだろう。

凛「まーきちゃーん!」
真姫「ちょっと、大きな声出さないで。どうしたのよ」
凛「えっとねー…」

私達が、μ’sに入って、初めての朝練の後。
凛が私の方に走ってくる。

真姫「かーよちん!ほら、こっちこっち!」

花陽も、凛に呼ばれて近づいてきた。彼女も、凛の意図はわかっていないみたい。

凛「えっとねー、かよちん、ちょっとしゃがんで?」
花陽「こ、こうかな?」
凛「うん、そうそう!それで、真姫ちゃんはここに立って…」

凛が私の腕を引っ張る。腕を引かれるまま、言われたとおりに立った。
そして、凛がいきなり私と花陽の間に入って携帯を上に掲げる。
そして、ピロリン♪と音がなる。……写真を取られたようだ。

凛「二人共ちゃんと笑わないと―」
花陽「いきなりすぎて笑えなかったよ…」
真姫「そうよ、あれで笑えたら反応よすぎでしょ」
凛「えー?凛なら笑えたけどなぁ。なら、もう一回!」

凛が携帯を掲げる。私は、携帯の方に顔を向けた。

凛「真姫ちゃん、もうちょっと下!かよちんは左によって!」
真姫「もう、注文が多いんだから!」
花陽「えっと…こう、かな?」
凛「うん!大丈夫にゃ!じゃ、いっくにゃー!はい、チーズ!」

また、ピロリンと音が鳴る。その写真を見て、凛はとても満足そうだった。
その写真を、見せてもらうと…さっきとは違って、ちゃんと笑えて写った私達。

凛「よし、なら次は、真姫ちゃん!携帯!」
真姫「え…私の?」
凛「この写真を送るから、早く!」

……携帯に、友達のアドレスが入ったのは…初めてかもしれない。
そして、次に、花陽のアドレスも。

メールには、写真と「μ’s一年生組にゃ!まきりんぱな、結成にゃ!(≡>ω<≡)」と書かれていた。

……それを、待受にしてしまうなんて、なんてトラップ。
やめたら、この繋がりもなくなってしまう。

……涙が、落ちた。

真姫「いや、私、アイドルやりたい、花陽と、凛と、もっと…」

ずっと一人でいた、音楽だけが私の世界だった。
言ってしまうと、ただただ、涙が落ちた。
止めることは出来ずに、ピアノがあった場所に座り込む。

キュゥべえ「真姫」

どこから入ってきたのか、どこから現れたのか、キュゥべえは私の前に座っていた。
……まだ、夢が続いているのだろうかとも思ったけれど、それでも。

真姫「……本当に、何でも、一つだけ、願いが叶えられるの?」
キュゥべえ「あぁ、もちろんさ。願い事は見つかったのかい?」

私は、涙を拭った。
何があっても構わない、夢だって構わない。やっと見つかった音楽を諦めたくない。

真姫「私、音楽がやりたいの。もう一度、音楽がしたい」

私が、そう言った瞬間…辺りが光に包まれる。
痛い、ような、苦しい、ような、なにこれ、何が起こるの。
そう、思った瞬間……私の目の前に、赤色の宝石…何か、装飾されたような宝石が浮かぶ。

キュゥべえ「キミの願いはエントロピーを凌駕した。さぁ、解き放ってごらん。キミの力を」

黒いレースのベール、黒の小さな帽子の髪飾り。黒をベースにした、レースやフリルがたくさんついた服。さらに黒の手袋。
そんな服に濃い赤い薔薇が、髪飾りに、胸元に、スカートのウエストに飾られている。

……先ほどの宝石は…どこかへ消えたかと思ったけれど、胸を飾る薔薇だけがキラリと光る。
あぁ、これなのかしら。
……窓に映る自分の姿、確かに、これは、魔法少女と言っても…いいのかもしれない。

西木野真姫SR<怪談編>

【補足】
衣装は全て覚醒後のものと思ってください。また、○○編が今のところ重複していませんが、今後すると思います。
また、呉キリカの衣装のように「魔法少女の衣装はその魔法少女の本質(性格?)を表す」という解釈(これ公式なんですかね?)がありますが、完全無視です。趣味です。

今回は以上です、ありがとうございました。

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