【オリキャラ安価5】魔法科高校の劣等生 (1000)

このスレは『魔法科高校の劣等生』の世界にオリキャラ(君影歩夢)が入ったストーリーです。

アニメ放送でやっていた分は終わったので、これからは原作の内容に入ってきます。

行動は安価で決めます。連続での安価の取得は構いません。
また、自由行動の安価で不自然な物は再安価とさせて頂きます。


ー今までの簡単な時系列ー
2095年
4月3日:国立魔法大学付属高校へ入学
4月下旬:歩夢と達也が付き合い始める
同日:人殺しの罪を擦りつけられ、警察に追われ、四葉本邸で使用人として働くことになる(※1)
8月3日:九校戦スタート
8月10日:歩夢が仮装行列で司波深雪となり、モノリス・コードに参戦(※2)
8月17日:雪乃と綾人(※3)を探しに京都へ
10月30日:全国高校生魔法学論文コンペディション開催
同日:大亜細亜連合による侵攻を受ける(※4)
10月31日:日本が大亜細亜連合の鎮海軍港へ戦略級魔法(※5)を撃ち消滅させた(※6)
11月1日:霜月関連が始まる
11月5日:霜月関連終了
同日:謎深き少女(※7)とお出掛け
11月6日:真夜からの出頭命令に従い四葉本邸へ
同日:道中で襲撃に遭う(※8)

※1 魔法科第一高等学校は退学
※2 学校の名誉のために世界を1つの閉鎖空間だと考えて流星群を使用する
※3 歩夢と隼人の両親。歩夢に何も告げずに別居していたのは雪乃の裏を抑えるため
※4 横浜事変。通っていた学校の先輩を助けるために※2と同じく流星群を使用
※5 達也の魔法『マテリアル・バースト』
※6 灼熱のハロウィン
※7 謎の少女

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真夜「そう緊張しないでもいいのよ。一緒に食べましょう。それだけでいいわ」

水波「か、畏まりました......」

おどおどと一礼し、私が居る場所を上流だとすると真夜さんが中流で、水波ちゃんが下流付近の配置に着く

歩夢「いきまーす」

さっきと同様に素麺を竹の上に流す

落ちていき、それを取ったのは水波ちゃんだった

真夜さんは水波ちゃんに譲った

使用人想いの良い女主人様です

水波ちゃんはその行為にむしろ罪悪感を感じたのかつゆが今にも器から溢れてしまうくらい手を振動させ、緊張している様子を隠しきれずにいる

水波「ん、....おいしい....です」

自分で作った物なのに、真夜さんに向けて言った

この歳だと緊張しても無理はないか、と真夜さんは水波ちゃんに笑顔を振りまいて、これから何度か繰り返される流し素麺を2人交互に食し、最後は真夜さんが食べて終わった


歩夢「どうでしたか?」

感想を聞くと、

真夜「まぁまぁだったわ」

真夜「ただし、歩夢さんと水波ちゃんは後で.....いえ、水波ちゃんはいいわ。歩夢さん、後で部屋に来なさい」

喜んで貰えて何より、と思った直後に私は絶望した

水波ちゃんは胸を撫で下ろしてホッとしてるし...

いくら年下といえども、一緒にやったことには変わりないんだから一緒に怒られよう、ね?

歩夢「み、水波ちゃんと一緒に準備したので.....」

真夜「水波ちゃん、お疲れ様。とても楽しかったわ」

水波「ご満足頂けたのなら何よりです」

真夜「水波ちゃん、この場はこのままで構いません。あとで歩夢さんに1人で片付けさせますから。ゆっくり部屋で休んで下さい」

水波「か、畏まりました」

そそくさと水波ちゃんは逃げるように、屋敷内へと逃げた

真夜「さて、詳しいお話を聞かせて貰えるかしら」

歩夢「あはは.....」

私はこのあと約1時間に渡り、叱られた

その後、1人で流し素麺のセットを偶然空いていた物置に厳重に、また使うかもしれないと大事に蔵い、結局私室に戻ったのは深夜と呼ばれる時間帯だった

ぶ、ブラックだ.....


ー回想終わりー



ということで、前回は嫌な思いをした

しかし、失敗は教訓となる

流し素麺という行為自体が地味だったのを理解した今なら、真夜さんの怒りが消えてしまうくらいの楽しい時間を過ごして貰えるように工夫をすればいい

それに、今回は甥と姪が一緒

楽しくないはずがない

最悪、水波ちゃんも入れて4人でやればまぁ楽しいんじゃないかな.....?

だって前回の2倍の人数だし

歩夢「やろう、流し素麺」

水波「.....」

歩夢「私が責任取るから」

水波「やります」

ここで即答をしてくる辺りが私と水波ちゃんの仲の良さを表している

半年前はもっと尊敬してくれていたのに.....



ー外ー

歩夢「場所は前と同じ裏庭でいいよね」

水波「はい。ここなら花壇もありますし、華やかかと」

歩夢「決まり。次は、」

水波「流し素麺のセットですね」

そのセットは物置に多分保管されているだろう

しっかりと隅々まで改めて洗って、この場まで持ってくるのにかかる時間は大きく見積もって1時間

今が15時だから夕食には十分に間に合う

歩夢「水波ちゃんは素麺とデザートとか用意してくれる? 私はセッティングをするから」

水波「畏まりました」

水波ちゃんは厨房へ

流石に今素麺を茹でたりはしないだろうから、デザートから作るのだろう

素麺の後のデザートって......まぁそこら辺は水波ちゃんに任せよう

さて、私もそろそろ本格的に働くかな



ー18時ー

秋から冬へ季節が移りゆく11月

陽も沈み、良い具合に暗くなってきた

そこで、裏庭に設置したライトの電源を付ける

これは急遽今さっき地味にしないために付けた物であったがその願いは通じたようだ

水波「一層に周りは華やかになりましたね」

歩夢「周りだけなんだよなぁ.....」

水波「流し素麺自体を華やかにする方法があればいいんですけど.....」

一瞬、素麺の麺に何か着色料やフルーツ、抹茶などを配合しようと思ったが危険なチャレンジはするべきでない

うーん....

歩夢「そもそも人数がなぁ.....」

流し素麺に参加するのは真夜さん、達也くん、深雪ちゃん、水波ちゃんの4人

やっぱり人数が問題だよね


水波「それでしたら、雪乃様を呼んでみては如何ですか?」

歩夢「お母さん、居るの?」

水波「お屋敷の何処かに居ると思いますよ。昨晩、奥様と一緒に目を覚ましていましたから」

歩夢「あー.....じゃあお母さん呼ぶか」

しかしこれでもまだ5人

できれば7、8人くらいでやりたいけど、無理か

この人数で我慢しよう

真夜さんの話し相手はお母さんが居るし、

達也くんと深雪ちゃんと水波ちゃんは仲睦まじく会話が途絶えないはずだし

水波「それでは、今すぐお連れしますか? それとも数時間後にしますか?

時刻は18時

まだ夜ご飯には早い時間だけど、達也くんや深雪ちゃんは明日からまた学校だ

日帰りだから....うん、今すぐにしよう

ゆっくりしていられる時間は短いだろうけど、楽しんで貰えればそれでいい

歩夢「呼ぼっか。今すぐ」

水波「はい」



ーサンルームー

達也くん達はサンルームで、叔母と甥と姪は談笑していた

あれ....思っていたよりもずっと仲良い.....?

真夜「歩夢さん、夕食の支度出来たかしら?」

歩夢「は、はい。出来ました」

真夜「それじゃあ達也さん、深雪さん、食堂へ行きましょうか」

歩夢「あ、そのことなんですけど、夕食は裏庭で.....」

真夜「裏庭.....?」

今まで笑顔だった表情は訝しげな表情へと変貌する

真夜「まさか、夏のアレをやる訳じゃないわよね?」

歩夢「......」

真夜「そうよね、歩夢さんは優秀ですものね。夏の恒例行事....今までやったことは2度でしたけれど。夏にやることを秋から冬へと季節が変わる境目にやるはずありませんよね」


歩夢「......」

真夜「.....ねぇ、歩夢さん。さっきから黙りっぱなしのようだけど、体調でも悪いのかしら?」

歩夢「......真夜さん、」

真夜「どうかしましたか、歩夢さん?」

そ、その笑みはやめて.....

私へ多大な緊張感と罪悪感が押し寄せられる

今すぐフルコース用意しようかな......

深雪「歩夢、裏庭で何をするの?」

歩夢「流し素麺」

深雪「流し素麺......? どうしてこの季節に....いえ、それよりも叔母様が.....」

そんな庶民の食事を取るはずがない、と深雪ちゃんは目で訴えてくる

私は目を反らせず、苦笑いをした

真夜「.....はぁ。まぁ用意したものは仕方がありません。歩夢さんにはこの後よく言い聞かせることにして、達也さん、深雪さん、行きましょうか」

前回以上のおもてなしをすれば真夜さんの怒りも収まるはず

そう信じて、ここからは水波ちゃんに案内をお願いし、私はお母さんを探しに行く


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:先生も参加
偶数:先生は参加しない

先生の名前はこの後安価で取ります。
安価下。】

ほい


>>1の簡単な時系列にミスがありました
※7 謎の少女

※7 謎の少女=那月。四葉と霜月に深く関係している
※8 葉月(8月)の人間。霜月に恨みを持っている

です。


>>11 2:参加しない】

深雪ちゃん達を(主に真夜さん)を待たせないように恐らく居るであろう書庫へと向かう


ー書庫ー

書庫の扉を開けると、読書をしているお母さんが目に入った

歩夢「お母さん、」

私の呼びかけにお母さんは敏感に反応する

雪乃「あ、歩夢っ? いつから居たの?」

珍しく、私のことを悟っていなかったようで、普段見られない30年前の雪乃さんのような雰囲気が出ている

これも裏表の件が関係しているのかな....?

歩夢「今さっきだよ」

雪乃「そ、そう。それで、何の用?」

歩夢「夜ご飯の準備出来たから裏庭行こ達也くんも深雪ちゃんも、真夜さんももう行ってるから」

雪乃「裏庭に真夜が? 珍しいこともあるのね。.....償いの意味も込めて了承したのかしら」

歩夢「償い?」

雪乃「あぁ、ううん。なんでもないわ。行きましょう、歩夢」

歩夢「.....うん」

償い.....ねぇ



ー裏庭ー

雪乃「流し素麺.....?」

お母さんはセットされた竹を見て、そう確信した

真夜「30年前に貴女がやっていたのと同じ」

雪乃「あの時はまぁ、私もまだ子供だったから」

真夜「今でもまだやりそうだけど....」

本当に真夜さんはお母さんと話している時、楽しそう

私も香夜として混ぜてくれないかなー?

少し羨ましい視線を送ったが無視されたので、嫉妬を流し素麺へと向ける

凄い勢いで素麺流してやろう

水波「集まったことですし、始めますか?

歩夢「そうだね。始めよっか」


流し素麺は真夜さんこそ不機嫌な顔をしていたが、楽しそうなことには変わりなかった

素麺を食べた後、水波ちゃんが作ったケーキを食べて、晩餐は平和的に終了した

この後は、


【安価です。
1.真夜の部屋へ(先生出ます)
2.達也・深雪が帰る

2を選んだ場合、達也と深雪が居ない状態で先生が出ます。
安価下。】


>>14 1.真夜の部屋へ】

真夜「1人、皆さんに紹介したい人が居ますので、食堂に来てください。歩夢さん、片付けは後回しにして達也さんと深雪さんを案内して頂戴」

歩夢「あ....はい」

紹介したい人って.....那月?

可能性がないとは言い切れない

いや、那月である可能性が5割以上を占めている

理由は那月が私たちの前に現れたタイミング

他の根拠は無い

真夜「雪乃は私と一緒に来て。水波ちゃんは紅茶を淹れて下さい」

水波「畏まりました」

水波ちゃんは一礼をして命令を承ったが、お母さんは軽く頷いただけだった

真夜「さて、移動しましょうか」

真夜さんのその一言で、一旦この場はお開きとなった



ー食堂ー

四葉本邸には食堂が2つある

1つはただ単純に大人数で食事をする際に使われる普通の食堂

もう1つは重要な要件を話す場として使われる特別な食堂

今回は、ただ単純に大人数で食事をする際に使われる食堂へと2人を案内する

もう1つの食堂は主に次期当主の任命の機会に使われるような、そういう格式高い食堂なので恐らくここではないだろう

そういった理由でなんとなく案内してしまったが、大丈夫....かな?


数分後、食堂の扉が開かれた

開いたのは「これくらい自分でやりなよ」というう表情をしているお母さん

お母さんが開き、真夜さんが入り、お母さんが入って扉を閉める

そして真夜さんが座り、お母さんが座った後、私たちは椅子に腰をかけた

私たちが腰をかけたとほぼ同時に使用人用の厨房へと繋がっているもう1つの扉から水波ちゃんが紅茶のセットを持って、丁寧に各自の前に置いていく

水波「......」

紅茶を淹れる仕事が終わった水波ちゃんはこれからどうすれば良いのか迷い、使用人用の扉の近くでオロオロと目を泳がせながら、突っ立ている

歩夢「水波ちゃん、私の隣座る?」

深雪「あ、歩夢.....」

真夜「いいのよ、深雪さん。水波ちゃん、どうぞ座って下さい」

私の勝手な判断を咎めようとした深雪ちゃんだったが、この場で最も権力を持っている真夜さんからの許しで、言葉を控えた

水波ちゃんが椅子に座り、1拍置いた後、真夜さんが口を開く


【安価です。
1.真夜「まずは紹介したい人についてです」
2.真夜「まずは深雪さん達がここに来る道中で出会った女性についてです」
安価下。】

1


>>17 1.真夜「まずは紹介したい人についてです」】

真夜「まずは紹介したい人についてです」

ここに集まる理由となった紹介したい人

正式に那月が達也くんと深雪ちゃんの妹として迎えられることになるのか、そもそも那月でないのか

はたまた、ここに来る途中で襲ってきて、私たちを完全敗北へと追いやった人が実は味方だった、みたいな展開なのか

それは、もう今すぐわかる

真夜「それでは、入って下さい」

真夜さんの掛け声で食堂の扉が開かれる

まるでフィクションのように、掛け声が来るまで扉の前で待機していたシュールな絵が想像に難くなく、しかしそれでも扉の先に居た女性を見れば、私は無意識に立ち上がり、真夜さんやお母さんがこの場に居ることを忘れて、声を大にして驚愕の言葉を口にした

歩夢「先生っ!?」

名前を呼んだだけだが、そこには2つの意味が込められている


1つ目はどうしてここに居るのか

これはそこまで深くなく、大きな疑問でもない

深夜さんや真夜さん、お母さんを担当していた教師ということもあって関係は少なからずある

今回、何か用事があってここを訪れたのだろう

2つ目は30年前の時点で18歳と言っていたので、現在48歳のはずなのに18歳の頃と変わらぬ容姿を保っていること

先生の生徒であった3人はあの時と比べて体の成長や精神面の成長が火を見るよりも明らか

しかし、先生は一切変わってない

体の成長具合もあの時とほぼ変わらないように見えるし、雰囲気もあの時のまま

どういうこと....?

真夜「とりあえず座って下さい、先生」

???(先生)「もう先生はやめて下さい」

そう言いながら、先生は控えめに椅子に座る

達也くんや深夜ちゃんはあの真夜さんが先生と呼ぶ女性のことをじっくりと観察している

水波ちゃんは知っていたのか、先生の分の紅茶を淹れ、テーブルの上に音を立てずに置いた

水波ちゃんが元の席に戻った後、真夜さんが先生の紹介を始める

真夜「歩夢さんは知っての通りですけれど、こちらは30年前に私や雪乃、姉さんがお世話になった先生です。自己紹介を」

???(先生)「はい。それでは歩夢さんにも改めて。私の名前は、


【安価です。先生の名前(苗字は決まっています)

『夜』を入れて頂けれると幸いです。

6月28日の20時までで、2つ以上あれば>>1が勝手に選ばせて頂きます。1つの場合はそれを採用にします。】

夜永(やえ)


>>20 夜永(やえ)】

???(先生)「夜永です」

また苗字だけ.....

最近、名前だけを名乗るの流行ってるの?

夜永「えっと...真夜さん、4年前のことや30年前のことも話した方が良いですか?」

真夜「ええ、そうね。このままだと歩夢さんが大きな勘違いをしそうだから」

夜永「わかりました」

夜永「今から4年前、つまり2091年に私は妹と街に出て遊んでいました」

この時、せんs...夜永さんの視線は何故か私だけに向いていた

しかし目があった直後、視線を私たちに向ける


夜永「そこは魔法による犯罪が極めて低い土地だったのですが、偶然出くわしてしまい、私は重症を負った」

夜永「怪我を負ってからは意識を失い、ほぼ仮死状態」

夜永「生か死かの狭間を彷徨っていると、私は助けられました」

夜永「時間を操る魔法師に」

時間を操る魔法師.....まさかね

夜永「その方に応急的にですが助けられ、次に私が目を覚ました時には2040年代に居ました」

夜永「それからは雪乃さんのお母様に色々とお世話になり、時は流れて2060年代には深夜さん、真夜さん、雪乃さん、そして歩夢さんと出会い、幸せな時間を過ごした」

夜永「ですが、始まりがあれば終わりがある。それが理です」

夜永「雪乃さん方が高校を卒業すると同時に20年以上に渡るタイムスリップは終わりを迎えた」

夜永「そして昨日、4年ぶりに目を覚まして今に至ります」

夜永「私については以上です」

私は感嘆を漏らした

隣に座る深雪ちゃんや水波ちゃんも私と同じく、感嘆を漏らしている

20年以上過去で過ごして、嫌な思いをしたことはなかったのだろうか

私だったら....多分無理だ

たったの2週間ですら2095年が恋しくなったのだから


真夜「先生について、」
夜永「もう先生じゃないです」

真夜「.....夜永さんについて話し終わったことですし、次は深雪さん達がここに来る途中で出会った人について話しましょうか」

先生についてだけでも重大な話だったが、ここからもかなり重大な話

私はあの人と戦う....カッコよく言えば、運命だ

あの人については知っておかなければならない

真夜「まず正体について。あの人は葉月の血を引く人間」

歩夢「葉月って....旧暦の、ですか?」

真夜「ええ、そうよ。霜月と同じ。そして、あの人は30年前に私たちが霜月さんの世界で共闘した葉月さんの先祖返り」

水波「先祖返り.....?」

ここで今まで黙っていた水波ちゃんが小さく発した

歩夢「先祖返りっていうのは直接の親ではなく、それより前の先祖の能力が自分に身についていること」

つまり、例えば私が霜月さんの先祖返りなら私も時間操作を使えた

ちなみに、霜月さんのご両親のどちらかが使えた特別な能力というのが兄さんが持っている

兄さんは霜月さんのご両親のどちらかの先祖返り

真夜「だから、深雪さん達が遭遇したあの人は霜月さん並みに強いわ。雪乃や先生が一緒になっても勝てるかどうか」

お母さん1人どころか、先生が一緒になっても勝てないかもしれないって....遠回しに私には絶対勝てないということを表している

真夜「そちらの問題はこれから考えるとして、先生、」

夜永「先生はもう......はぁ。歩夢さん、特化型CAD貸して貰える? あの魔法式入れないといけないから」

歩夢「あ....はい」

あの時限りで使えないと思っていた魔法を使えると知り、心が高揚する

あんなに良い出来の魔法を使えないというのは残念だったし

私は特化型CADを夜永さんに渡すと、


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:夜永「じゃあ歩夢さんと達也くん、一緒に来て」
偶数:夜永「じゃあ達也くん、一緒に来て」
安価下。】

ほい


>>24 5:夜永「じゃあ歩夢さんと達也くん、一緒に来て」】

夜永「じゃあ歩夢さんと達也くん、一緒に来て」

歩夢「でも....」

真夜「達也さん、先生から色々教えて貰いなさい。貴方の知らないことを先生は知っているわ」

達也「.....はい。歩夢、」

歩夢「.....うん」

この場で最も権力を持っている真夜さんに背中を押されてしまっては断れない

というか、話が全部終わってからの方が真夜さんに失礼しないと思っての行動だったんだけどね

ともかく、私と達也くんは退室した



ーCAD調整室ー

四葉家の所有するCAD調整室は司波家の地下室とは広さ的な意味では比較にならない程大きかった

しかし、環境は殆ど変わらないように見える

まるで水波ちゃんのように、普段見ない珍しい物を我を忘れて眺めていると夜永さんが30年前と変わらない、それこそ18歳らしい笑顔で一言発する

夜永「歩夢さん、脱いで」

CADを調整する時にこの工程は必要不可欠

魔法師としては断れない道

羞恥心を捨てなければならない

慣れなければならない

それは....だいたい克服したつもりだ

従って、この場で下着姿になるのに大きな抵抗感はない

だが、私は別の理由で躊躇った


その理由は、

歩夢「.....シャワー、浴びてきてもいいですか?」

CADを調整する直前には毎回入浴を欠かさずしている

それが一般的なのかどうかは分からないが、少なくとも私や深雪ちゃんにとってはそれが普通だ

今までやってきたことを否定するようなことはことは出来ないし、変化させるのには慣れが必要不可欠

今すぐ簡単に変えられることじゃない

そんな乙女らしい.....乙女?

こほん、そんな.....女の子っぽい、女の子らしい悩みを夜永さんにぶつけると自然な笑顔は失笑に変わった

夜永「んー、じゃあ達也くん、すぐ終わるから後ろ向いて貰ってもいいかな? あ、精霊の瞳を使うのもダメだからね?」

達也「承知しています」

出会って数十分の人が精霊の瞳について知っていることに驚いたりせず、冷静沈着に返答をし、後ろを向いた

夜永「はい、歩夢さん、これでいい?」

歩夢「これなら.....」

未だ他人に見られているのには変わりないが、その他人は同性

.....まぁ、信用出来る人だというのは証明されているし、いい....かな?


夜永「私が合図したらその検査台に寝てね。15秒くらいで終わるから」

歩夢「分かりました」

私の返事を聞いた夜永さんは軽い足取りで検査台やらCADの調整を行う機械の元へ行った

達也くんは以前変わらず後ろを向いてくれている

ずっとそうさせておくのは可哀想だから....早く終わらせよう


夜永「......歩夢さん、もういいよ。お疲れ様」

歩夢「ん.....」

起き上がり、検査台から降りて、女子らしく綺麗に畳んでおいた服を着る

改めて身嗜みを確認した後、この場の唯一の男性にお詫びを申し上げ....なんで敬語?

歩夢「達也くん、もういいよ。ありがと」

達也「いや、お礼を言われるようなことはしていない」

歩夢「ふふ、いつも通りだね。もっと馴れ馴れしくしてくれていいのに」

達也「本当、変わったな。半年前どころか、1週間前と比べても変わってる」

歩夢「そう? 淑女らしくなった?」

達也「淑女.....まあ、そう....だな」

歩夢「お世辞なのがバレバレなんだけど.....」

私がそう呆れた呟きをしたとほぼ同時に夜永さんが手を何回かパンパンと叩き、私たちの会話を遮る


夜永「お2人さん、独り身の前でそんなイチャイチャしないで。泣きたくなるから」

歩夢「イチャイチャなんてしてませんっ!」

夜永「みんなそう言うのよ。犯罪を犯した人だって、俺はやってない、ってね」

ニュースや雑誌のメディアではそういったフレーズをよく見かける

しかし、私はイチャイチャしていたつもりはなかったので、否定の意見は変わらない

夜永「本題だけど、達也くん、こっちに来て。これからの歩夢さんのCAD調整について注意というか、コツを教えないといけないから」

あのトーラス・シルバーの方役を担っている達也くんに夜永さんは先生らしく、指導をしようとしている

そんな夜永さんの態度に怒った様子を見せるどころか、あの真夜さんが先生と呼ぶ夜永さんの実力を知ろうと手招きに応じた

達也くんが椅子に座り、夜永さんが所々で指摘を入れていくような、理想的な先生と生徒の立ち位置についたところで指導が始まる

夜永「まずはいつも通りやってみて」

達也「はい」

返事をした後、キーボードが軽快な音を鳴らす

それが1分ほど続いたところで、まず最初の指摘がが入った

夜永「ああ、ううん、ここはこうやって・・・」

こちらもまた4年越しだというのに衰えを見せず、英語やら数字やらを素早く打ち込む

打ち込みが終わった後、生徒はそれを全部速読して、先生に質問をする


達也「確かに魔法の発動までにかかる時間が1000分の何秒単位で早くなりましたが、これでは全体のバランスが崩れます」

夜永「だから、ここをこうして・・・」

達也くんの質問を待っていましたと言わんばかりに、再びキーボードの軽快な音を鳴らし始める

数十秒もすれば達也くんの表情が疑惑から驚きへと変貌し、

夜永「・・・で、最後にこうやって、終わり」

夜永さんがエンターキーを気持ちよく叩いたと同時に達也くんが私に一言

達也「歩夢、夜永さんは正真正銘の──」

あの達也くんが認めるほど、夜永さんは、

達也「──天才だ」

そう認められた夜永さんは心の底から嬉しそうにし、私に近寄る

夜永「だってさ、歩夢さん」

歩夢「私は最初から先生は天才だと認めていました」

夜永「本当?」

歩夢「はい」

夜永「ふーん.....まぁいいや。はい、じゃあこれでCADの調整は終わり。早く真夜さんのところに戻ろ。達也くんと深雪ちゃんは明日からまた学校でしょ? 早く帰らないと」

調整室にあった時計は20時を指していた

たった今から帰るとしても司波家に着くのは22時を過ぎる

高校生にとってはそれほど遅くな時間だが、明日は学生にとって憂鬱な月曜日

早く帰ることに越したことはないだろう

夜永さんは部屋の電気を落とし、調整の終わったCADを私に手渡し、部屋を出た



ー食堂ー

真夜「さて、と。歩夢さん達も帰ってきたことですし、達也さんと深雪さんを見送りましょうか。明日からはまた学生の本業ですからね」

雪乃「学生は大変ね。でも、同時に遊べるのは学生の時しかないって考えると....どっちもどっちかしら」

真夜「貴女はずっと遊んでいるじゃない。学生の時も、今も。働きなさい、この無職」

雪乃「一応、30年前からずっとここの使用人として名を置いてあるはずだけど」

真夜「ああ、それなら高校卒業と同時に消したわ。だから無職ね」

雪乃「そうなの?」

真夜「ええ。ニートは早く働き場を見つけなさい」

雪乃「んー.....じゃあここで働く」

真夜「嫌」

雪乃「四葉家の長女に許可取るから次女の意思なんて関係ない」

真夜「.....この女は放っておきましょう。水波ちゃん、深雪さんの身仕度を手伝ってあげて。歩夢さんは達也さんのをお願い」

お母さんの相手が面倒だと思ったのか、話を戻した

深雪「仕度は兄共々終わっています。なので後は.....」

真夜「あら、そうなの? じゃあ車を用意させるから玄関で待っててくれる?」

深雪ちゃんは一言、返事をして見送りをするために室内に居た人間全員が部屋を出た


【安価です。先にどちらと話すか。
1.深雪と話す
2.達也と話す
安価下。】



>>32 2.達也と話す】

ー玄関ー

真夜「歩夢さん、水波ちゃん、お別れの挨拶をしておきなさい。今後一切会えなくなる、という訳ではないけど、別れは大切ですから」

別れの挨拶.....

何話せばいいんだろう

どうにも別れの挨拶は苦手だ

これは私がコミュ障ぼっちとかではなく、得意不得意の簡単な2択に分かれるはず

言うまでもなく、私は不得意な部類に入る

別れ....また近い内に会えるとは思うんだよなぁ

だから、そんな長ったらしく畏まった挨拶をするのも変だし、逆に「さようなら」の一言で片付けるのも相手に失礼だ

となると、普通の会話の中でさりげなく挨拶を済ませることが理想

しかし理想は幻想であって、必ず出来る訳じゃない

いや、今の私になら出来るはず

と、何処から湧き出て来るか不明な自信に慢心しながら、まずは達也くんと話すことにした


歩夢「達也くん、さようなら」

あれ、もう結論?

予定と大幅に違う.....

さりげなく、とは何だったのか

達也「あぁ、また近い内に。年明けは空いて....分からないか」

歩夢「慶春会? に出席させられるかもしれないから、どうかな」

慶春会というのは簡単に言ってしまえば、四葉関係者のみで行われる新年の会

本家の次期当主や次期当主の婚約者もこの慶春会で発表されるという噂

現当主の真夜さんが残り2ヶ月もない、近くに迫った慶春会で当主の発表をすると言えば、その時には深雪ちゃんの婚約者も同時に発表される

私にとって、深雪ちゃんにとってはそれが怖く、出来れば永遠と来てほしくないものだが、そういう訳にもいかない

それは上流階級の家の人間であれば、彼女のお母様である深夜さん同様に目を背けるのは絶対にしてはならないこと

従うしかないのだ

例え、相手がどんな男性、女性であろうとも

同性愛が認められた現在の日本だというのがまだ救いかもしれないが、婚約者が女性である線は薄い

それ相応の男性が婚約者となる

友達が、親友が、義理の妹が男性に抱かれると思うと胸の奥が痛くなるのは同じ立場だったら誰でもなるものなのだろうか

張り裂けそうに痛い胸を抑え、思考をリセットする


歩夢「出来ればそっちに行きたい、とは思ってる」

達也「そうか。楽しみにしてる」

歩夢「達也くん達はこっちに来ないの?」

達也「1月1日は慶春会だからな。参加出来ない訳じゃないが、同時に呼ばれている訳でもない。だから毎年俺たちは1月の3日か4日の落ち着いた頃に来ている。来年もそうなると思う」

歩夢「そっか。うん、わかった。お料理とか用意しておくね」

達也「あぁ」

達也くんの手は私の頭の上に置かれた

私のこと、子供扱いしてるのかな?

兄妹ならまだしも、彼氏彼女の関係でこういうのはあまり想像出来ないし、映画やドラマでこのようなシーンを見ることも極めて少ない

でも、嫌な気分じゃない

むしろ、安心する

兄としての包容力が兄さんに似ているのか、時間を忘れて幸せな気分に溺れる

しかしさっき夜永さんが言っていたことじゃないけど、始まりがあれば終わりがある

頭を撫でられる時間が終わりを迎えた

達也「また」

歩夢「うん」

最後は2文字の挨拶を交わし、達也くんは深雪ちゃんの荷物を持って先に車へと移動した


さて、次は深雪ちゃん、と

歩夢「水波ちゃんとの話は終わった?」

深雪「ええ、たった今。4ヶ月前の初めて会った時よりもずっと頼もしい顔立ちをしていたわ。これも歩夢の影響かしら」

歩夢「私は何もしてないよ」

むしろ私が水波ちゃんに体力作りとしてシゴかれたくらいのもの

本当に、私は無力な人間らしく、何もしてない

深雪「そう? 水波ちゃんは歩夢に色々な事を教えてもらったって感謝していたけど」

歩夢「色々って....例えば?」

深雪「叔母様に流し素麺を1度では足りず2度体験させる反抗心とか」

歩夢「それって感謝の枠に入るのかな......」

ダメな例として、だと思う

真似してはならない例が私

これで優秀な主人に仕えるサポート役になってくれればいいんだけどね

深雪「それは私も思ったけれど、本当に感謝しているみたいよ。歩夢、これからも水波ちゃんに色々と教えてあげてね」

歩夢「水波ちゃんが望むなら」

私なんかを頼りにしてくれるなら、拒めない

それに水波ちゃんは年相応の良い子だから一緒居て楽しいし

稀に見せる少女っぽさが可愛い

千夜さんと肩を並べるくらいの可愛さ

水波ちゃんをお嫁さんに貰う人を嫉妬してしまうくらい


そういえば深夜さんのガーディアンだった穂波さんも独身だったそうだ

ガーディアンって結婚する権利を剥奪されているの?

逆に考えれば水波ちゃんが結婚しなくて済むって話だけど.....どうだろう

そこらへんの事情も知っておきたいところ

ガーディアンがどのような扱いなのか

深雪「じゃあ私はこれで。お兄様をお待たせしているから」

歩夢「別れの挨拶っぽいことはしないの?」

深雪「別れの挨拶は苦手なのよ。それに、湿っぽいのも嫌いだし」

歩夢「か、かっこいい.....」

ドラマのような台詞に私は感嘆する

言うだけなら誰にでも出来るが、それをさりげなく言ってしまうところが私に出来ない

平然とやってのけるその姿に痺れて、憧れる

深雪「じゃあね、歩夢」

歩夢「じゃあね、深雪ちゃん」


達也くんと深雪ちゃんと別れ、私たちは玄関に残った

多分、ここからは流し素麺の竹などの片付けをさせられるのだろう

はぁ.....憂鬱だなぁ


【安価です。
1.真夜「歩夢さん、30分後に私の書斎に来て」
2.真夜「歩夢さん、部屋に戻っていいわよ」

1の場合はこれからの展開に関することを言われます(雪乃・夜永同席)
2の場合は夜永が部屋を訪れます
安価下。】

1


>>38 1.真夜「歩夢さん、30分後に私の書斎に来て」】

玄関で肩を落としていると、真夜さんから声がかかる

真夜「歩夢さん、30分後に私の書斎に来て下さる? 少し.....いえ、大きな話があるわ。今後の歩夢さんに関する大事な話が」

歩夢「え....あ....はい」

急に改まってどうしたんだろう

大きく、今後の私に関する大事な話

考えられる候補は2つ

1つ目は達也くんの恋人から降格

2つ目は使用人の中での序列降格

どちらも良い気分はしない

特に前者は、非常に辛い

真夜「じゃあ....待ってるから」

いつになく神妙で申し訳なさそうで、30年前の深夜さんと喧嘩していた時の表情と重なる今の真夜さんは悲哀に満ちていた

30分前行動なのか、真夜さんは書斎へと向かう

足取りも重く、「ついにこの時が来てしまったか」みたいな雰囲気を感じ取れる

本当に、恋人から愛人、もしくは友達まで落とされるかもしれない

もしそれで、深雪ちゃんの婚約者が達也くんになるのなら渋々でも了承出来るだろう


しかし、私と達也くんの関係を破綻させ、その上深雪ちゃんの婚約者が全く別のただ単純に優秀な子を作ろうとした政略的な結婚相手だったら私は怒るかもしれない

私が怒ったところで起こる影響はたかが知れれいるが、少しでも影響が生まれる希望があるなら私は叛逆する

一体、真夜さんは私に何を話すのか

それは、今の私にはどうやっても結論付けることが出来ない

婚約者やらも所詮はまだ仮定だ

仮定が真実とは限らない

しかし、仮定が真実でないとも言い切れない

歩夢「.......」

この時の私は玄関に立ち尽くしていた

30分後が怖く、恐く、怯えている

仮定が真実なのか

そうでないのか

全ては30分後に知らされる

人間としての幸せを失うのか、

職場での地位を失うのか、

はたまた全く別の何かを失うのか

それは、今の私にはわからない

私にできるのは、せいぜい予想することくらい

予想なんて、真実の前では無意味

そんな無意味な行動を取ってしまう辺りが、私らしい

私らしく、弱者らしく、怯えることしかできない


【安価です。
1.雪乃と話す
2.夜永と話す
3.水波と話す
4.書斎へ
安価下。】

3


>>41 3.水波と話す】

立ち尽くす私を気遣って話しかけてくれたのはこの場に居る唯一の歳下の女の子

水波「あの.....」

歩夢「ん? どうかした?」

水波「.....奥様の表情が重かったので何の話なのかな、と思いまして」

歩夢「やっぱり気づいてたんだ」

さっきの真夜さんは人間として思い詰めた表情をしていた

それには水波ちゃんだけでなくお母さんや夜永さんも気が付いている

この場に深夜さんが居れば「四葉家当主らしくない」と姉として叱っているかもしれない

思い悩んでいるその姿は30年前の深夜さんとの入れ違いの喧嘩の様子を彷彿とさせる


私が怯えるように、真夜さんは悩んでいる

そんな真夜さんを見ると、こちらの気が滅入ってしまう

いつも通りの真夜さんで居て欲しい

正義感がどうとかじゃなくて、お世話になっている身だからこそ真夜さんを苦しめられない

深夜さんとの喧嘩の時だって私がしたのは背中を押してあげたくらい

実質、何もしていない

日々積もる恩を返すには、真夜さんの話を受け止めるのが近道

受け止めてあげよう

真夜さんを苦しめる想いを

しかし、話を聞くまでが恩返し

そこからは恩返し云々ではなく、私の意思だ

私の意思で、物事を提示されれば決める

婚約について、とかは特に


水波「歩夢姉さま、受け止めてあげて下さい。奥様の気持ちを」

歩夢「水波ちゃん、」

水波「はい?」

歩夢「それだと....なんか、私が真夜さんから告白を受けるみたい.....」

水波「.....? ぁ、.....ち、違いますっ! 私は.....」

歩夢「わかってるよ。水波ちゃんが真夜さんを大事にしているのはわかったから、大丈夫」

そう言って、達也くんにやって貰ったように、水波ちゃんの頭を撫でてあげる

それに対して拒否反応を見せることなく、

水波「歩夢姉さま.....」

上目遣いで、霞んだ声で私の名前を呼んだ

.....反則だよ、可愛すぎる

私も今度やってみようかな、兄さんに

歩夢「じゃあ私は....1人で心の整理もしたいからいくね」

水波「お気をつけて」

歩夢「ふふ、どうして?」

私は至って真面目な表情をしていた水波ちゃんに疑問系で問うて、答えを聞かぬまま真夜さんの書斎へと向かった


【安価です。
1.心の整理をする
2.時間経過(心の整理)をし、書斎へ
安価下。】

1


>>45 1.心の整理をする】

水波ちゃんと別れ、真夜さんの書斎の前までやって来た

指定された時間まではまだ後5分ほどある

5分前行動は良いことだけれど、5分前に訪れるのは良いことではない

相手の都合もあるだろうし

まぁ、部屋の前に来た時点で真夜さんは私の存在に気が付いてるんだろうけど

あえてそれに気が付いていないと思い込み、これからに備えて心の整理をする

改めて、真夜さんから告げられる件について

予想できるのは2つ

1つ目は私が最も恐る君影歩夢と司波達也との婚約の解約

これは.....どうしようもなく、とにかくヘコむだろう

多分数ヶ月に渡って仕事に多大な影響を与えるくらい


2つ目は私が懲りずに行った真夜さんへの挑発的な行動に対しての処分について

最大で解雇

最低で減給(既に1年分くらい無給確定)

前者よりはこちらがいい

でも、解雇は嫌だなぁ

真夜さんや水波ちゃん、その他の方と話す機会が無くなっちゃうし

これで予想できる2つは終わり

次にもし解雇された場合、今後どうするか

学校には行けないだろうし、表に出ることも出来ない

それこそ真夜さんのところで働くのが最も私にとって好都合だった

しかしそれが出来なくなれば、それに似た職場を探さなければならない

何処か良い場所あるかなー?

求人募集とか事前に調べておけば良かった

今から調べるにしてももう予定の時間まで残り2分を切っている

さーて、どうしよっか

兄さんからニート扱いされるのは勘弁だし、.....あ、でももしそれで「俺が養ってやる」とか言ったら......いいかも

そうなれば私が家事やって兄さんが働くの?

ニートと言えば聞こえが悪いが、専業主婦と言えば聞こえは良い

兄さんと夫婦.....えへへ

もうそれでいいんじゃない?

確かに達也くんのことは好きだけど、兄さんのことも好きだし

中学の時に何度兄さんから妹ではなく女としての目で見られようと努力したことか

まぁ、結果はお察しの通り、華麗にスルーされっぱなしだった

.....ん、もう時間だ

最後は心の整理というより願望だったけど、リラックスできた

よしっ



ー真夜の書斎ー

真夜さんの書斎は30年前とほとんど変わっていない

唯一変わったといえば、時代の流れに沿った家具や本棚の中身くらい

真夜「歩夢さん、掛けて」

指定された席は真夜さんの向かいの席の2人掛け用のソファ

そこには先客が1人座っていた

歩夢「せんs.....夜永さん? それに、お母さんも.....」

真夜さんの隣にはお母さんが

私が座る席の隣には夜永さんが

察するに、この2人は真夜さんが思い悩んでいることについて事前に知らされている

何のための同席しているのかは知らないけど、何か理由があるのだろう

小さく息を吐き、夜永さんの隣に腰を下ろす


真夜「......」

一拍置いた後、話を始めると思ったが、そうはならなかった

真夜さんは「歩夢さん、掛けて」以降口を開かない

歩夢「.......」

夜永「.......」

雪乃「.......」

真夜さんが口を開かなければ私を含めた3人も口を閉じたままだ

んー、....居心地が悪い

無言の圧力とはこのことか

辛いなぁ.....帰りたいなぁ.....

だが、真夜さんの想いを受け止めることが真夜さんへの恩返し

しっかりとめげずに耐えないと

真夜「......」

私がこの部屋に入って体感で10分ほどが経過した

当然、ここまで口を開いた者はいない


しかし、ここでついに隣の席に座る夜永さんが痺れを切らした

夜永「真夜さん、黙っていても何も始まりませんよ。どうせ話すことになるのですし、話さなければ歩夢さんを苦しめるだけです。貴女自身のためにも話した方が良いと思いますけれど」

今までにない真面目な表情と口調、声色で先生らしく生徒を叱った

叱られた真夜さんは肩を落とし、深く息を吐く

そして、

真夜「歩夢さん、昨日目を覚ましてから何か違和感を感じることはありませんでしたか?」

真夜さんが本題に関することから話し始めた

まだ少しだけ本題とは言えない、微妙なラインの切り出し

歩夢「違和感.....ですか?」

真夜「えぇ。なんでもいいの。いつもと違うことを話してくれればいいわ」

歩夢「......あ、」


【安価です。答えは決まっているので、順番というか、1発で答えを選択すればもう片方のついではとりあえずこの機会では話題になりません。

1.歩夢「昨日、1人の女の子と会ったのですが.....」
2.歩夢「数時間前のことなのですが、CADを使わずにいつもやっていた体温調節の魔法が使えませんでした」
安価下。】

2


>>51 2.歩夢「数時間前のことなのですが、CADを使わずにいつもやっていた体温調節の魔法が使えませんでした」】

歩夢「数時間前のことなのですが、CADを使わずにいつもやっていた体温調節の魔法が使えませんでした」

真夜「数時間.....葉月と対面した時?」

歩夢「そうです」

真夜「......」

無言でソファの背もたれに体重をかけて、隣に座る友人と斜め向かいに座る恩師に問いかける

真夜「どう思う?」

雪乃「葉月は理想の空間を作れるから」

夜永「ですが、今の歩夢さんのことを考えると霜月さんの読み通りかと」

真夜「そうよね.....」

葉月が理想の空間を作れる?

私のことを考えると霜月さんの読み通り?

何の話.....?


夜永「葉月の件は置いておいて、とりあえず君影歩夢の状態について当人に教えてあげた方がいいじゃないですか?」

真夜「......歩夢さん、8月10日と10月30日。この2つに関係している1つの物事。何か分かりますか?」

遂に勘弁して本題について話し始める、と思ったらこれだ

もう.....

雪乃「また遠回しに......」

お母さんも私と同じく呆れている

はぁ.....そんなに言い難いことなの.....?

真夜「歩夢さん?」

歩夢「あぁ、はい....えっと.....」

10月30日はこの世界での約1週間前

完全に鮮明とまではいかないけど、大体のことは覚えている


論文コンペの日であり、横浜事変の日

あの日は確かに色々とあったけれど、8月10日......九校戦と何か関係があるかと言われると、うーん.....

夜永「九校戦の終盤といえば何の競技?」

九校戦の最終競技は確かモノリス・コード

8月11日は2、3年生が出場、8月10日は1年生のみの新人戦

司波深雪としてモノリス・コードに出て、一条将輝くんと戦って、見事勝利を収めて、元々通っていた学校に功績を挙げて.....

夜永「鈍感なんだから」

夜永さんから罵倒を受けてしまった

それでも口元が笑っている辺り、私の鈍感さに楽しんでいるようで何より

雪乃「じゃあ、一条将輝くんを歩夢はどうやって倒した?」

方法は一条くんの・に手を当てて、電気を流して気絶させた

魔法を扱える者なら誰でも使える初歩的な行為


雪乃「過程は?」

歩夢「一条くんが魔法の力加減を....あ、」

雪乃「やっとね」

一条くんの魔法が大会規定の殺傷能力を超え、反則とされる前に私が神座と天邪鬼で時を止めた

そして、一条くんが発動した魔法式を流星群で破壊して、最後は電気を流して倒す

ここまでの過程の中で10月30日と重なるのは、神座と天邪鬼で世界の時を止めることと、流星群

この2つで、8月10日と10月30日にのみ使用した魔法といえば、

歩夢「流星群.....ですか?」

真夜「そう、流星群。歩夢さんは今までに2回、世界を夜に変えているわ。閉鎖された空間というのを世界単位で見た、私が考えもしなかった発想に歩夢さんは気がついた」

歩夢「それが何か....?」

真夜「今更だけど単刀直入に言うわ。歩夢さん、無理な流星群を使った副作用でもうCAD無しでは魔法を使えない。そして、霜月さん曰く寿命も少ない。20歳まで生きられるかどうか」

「はぁ.....そうですか」というのが私の第一感想

もうCAD無しでは魔法が使えない?

寿命も残り3年、4年?

それが私?

私は、もう魔法を使えないの?

私は、20歳までに死ぬの?

自分のことなのに、自分のことでないように感じてしまう

現実味がないっていうか.....

余命宣告をされた人間というのはこういう感覚なのだろうか


真夜「これからは魔法の使用を禁じます。使えば、当然寿命を縮めることになるわ。ただでさえ少ない寿命を短く、更に短く」

真夜「あぁ、安心して。歩夢さんは魔法を使えなくなっても......」

雪乃「真夜」

真夜「.....歩夢さん、魔法を使えないからと言って達也さんのような扱いをすることはありません。今まで通り、過ごせることを約束します。絶対に」

真夜さんがそう言い終わった後、お母さんは夜永さんにアイコンタクトを送り、席を立った

まずお母さんが書斎を出て、続いて夜永さんが書斎を出る

書斎に残ったのは私と真夜さん

一気に空気が淀み、暗くなった気がする

真夜「歩夢さん、私のこと、恨んでる?」

歩夢「どうしてですか?」

真夜「だって.....私が流星群を教えなければ歩夢さんは少なくとも今の雪乃くらいまでは生きられたのよ?」

歩夢「流星群の使用は私の判断です。真夜さんは何も悪くありません」

真夜「そう言って貰えるのは嬉しいわ。けれど、元凶は私。私を恨んで頂戴」

歩夢「恨みません。ですが、1つお願いを聞いてください」

真夜「私は恨まれることを望んでいるのよ? それは合理的じゃないわ」

歩夢「私のお願いは質問です」

真夜「こういう話を聞かない辺りも雪乃そっくりね.....それで、質問って?」

歩夢「私は達也くんと結婚できますか?」

真夜「これから何もなければ」

歩夢「そうですか。わかりました。ありがとうございます」

私は席を立った

そして、書斎の扉のドアノブに手をかける


真夜「歩夢さん、ごめんなさい」

その言葉は私の耳には届いたけれど、意味が分からなかった

ただ単純な謝罪すら、私には理解ができない

それほど、頭の中はいっぱいだった

私は20歳になるまでに死ぬ

私はCAD無しではも魔法を使えない

この2つが、脳裏を駆け巡る

考えるだけでは問題は解決できない

そう知っていても、考えることしかできない

真夜さんはこの問題を解決する方法を口にしていなかった

小さな望みが叶えば晴れて私は元通り

しかし、大半を占めている最悪の結果は、死

小説なら佳境の現状況

私はエピローグで幸せになれるのか、

それとも病院で安静にしている姿が映っているのか

佳境の現時点では、どうしても分からない

歩夢「あと3、4年.....か」


【安価です。
1.雪乃と話す
2.夜永と話す
3.水波と話す
4.咲夜と話す
安価下。】

4


>>58 4.咲夜と話す】

ー自室・23時ー

「20歳まで生きられるかどうか」

真夜さんの言葉が耳に残っている

何度も何度も、その言葉が耳の中で響き、その度に耳を抑える

はぁ.....



ねぇ、どうしよっか

ーーーーーーーーーーーーーどうしよう、とは?

私たち、あと3、4年くらいしか生きられないようだけど、それについて貴女はどう思うかなって

ーーーーーーーーーーーーー歩夢が死ぬ時、私も死ぬだけだ。それ以外、私には何も無い

いつも通りね、貴女は相変わらず

ーーーーーーーーーーーーー私は歩夢の助けをするだけだ。今も昔も、これからも

んー、......じゃあ現状況を打開して、って言ったらどうにかしてくれる?

ーーーーーーーーーーーーー私には無理だ。だが、その助けを求める伝は私にはある。歩夢が望むなら助けを求めるが?

え....冗談で言ったんだけどなぁ.....

ーーーーーーーーーーーーーやめるか?

ううん、お願い.....したいけど、誰にお願いするの? 私の状態について知っている人、最低でも四葉関係者じゃないと事情を説明できないと思うけど

ーーーーーーーーーーーーー大丈夫だ、その人は四葉の関係者で、霜月の関係者だからな

四葉と霜月の......お母さん? それとも深夜さんとか?

ーーーーーーーーーーーーーここからは話せない。歩夢はやるかやらないかだけを決めてくれ

........


【安価です。
1.お願いする
2.遠慮する
安価下。】

1


>>61 1.お願いする】

じゃあ.....お願いしてもいい?

ーーーーーーーーーーーーーあぁ。ただし、あの人がなんて言うかは保証できない。断られたら、.....すまない

ううん、いいよ。貴女は私に出来ないことをやるんだから、それで。私は希望に賭けれる術があるならそれに頼ることしか出来ないから

ーーーーーーーーーーーーー......歩夢、代わってくれ

うん



歩夢(咲夜)「.....さて、何処にいるか」

あの人を探しに、私はまず第一歩として部屋を出た

部屋の中に閉じこもったままではいつまで経っても見つけられない、簡単な理由で使用人の私室が集まる一帯を抜け、スタート地点として定める玄関ホールへ


ー玄関ホールー

あ、.....居た

探していた女性は2階の手すりに腰をかけ、真っ白な天井を見つめていた

歩夢(咲夜)「まさか、これほど早く見つかるなんてな。待っててくれたのか?」

???「ふふ、何その口調。流行り?」

歩夢(咲夜)「......真面目な話」

???「歩夢さんのこと? だったら、頼まれなくてもやるよ。あの子は、私の大切な教え子であり、親戚の子であり、妹だから」

歩夢(咲夜)「妹.....ね」

???「貴女は今となっては君影歩夢の一部なんでしょう? だったら、歩夢さんは私の妹」


歩夢(咲夜)「4年を越しても変わらないな、姉さんは」

夜永「当然でしょう? 私は私なんだから」

歩夢(咲夜)「.......」

夜永「気に入らない? でも、私には瓊々木家の特徴とも呼べる能力を持って生まれなかった。でも、妹の貴女は持ってる。こうなるしかなかったんだよ、出来損ないは出来損ないらしくね」

歩夢(咲夜)「はぁ......。それで、本題だけれど、歩夢はどうしたら助かるの?」

夜永「とりあえず、そこら辺は主に君影歩夢である歩夢さんに私から伝えるよ。咲夜は一歩的に記憶を共有しているんだよね。だったら、咲夜は間接的に知って」

歩夢(咲夜)「任せてもいい?」

夜永「4年ぶりにお姉ちゃんらしいところを見せて」

歩夢(咲夜)「姉さん、」

夜永「お礼なら全てが終わった後に、ね」

歩夢(咲夜)「きっちりしすぎなんだから....もう」

夜永「じゃあ咲夜、一旦お別れ。また」

歩夢(咲夜)「......また」



歩夢、代わるぞ

ーーーーーーーーーーーーえ、もう? 早くない?

私が助けを求められる人とはもう会えた。そして、話もつけた。歩夢がその人から話を聞いてくれ

ーーーーーーーーーーーーうん.....わかった



何度やっても慣れない感覚と共に、私は現実へと戻った

入れ替わっている間は一種の睡眠状態のようなもので、あの子が話しかけてきた時のみ目を覚ますように、会話ができる

ここら辺は2人の人間だったからこそで、元々1人の2重人格であったお母さんに相談したところで謎を解明することは出来ないだろう

そして今、現実世界へと戻って、目の前に居た30年前と一切容姿が変わらない夜永さんと対面する

あの子の知り合いって夜永さん?

どういう関係があるのか、聞ける範囲で聞こうと思ったのだが、夜永さんの方が口を開くのが早かった

夜永「これから歩夢さんが気をつけることについて話すね。少しでも寿命を伸ばしたいなら、今から私が話す何点かを忘れないで」

歩夢「はい」

夜永「まずは食事について。食事は辛いかもしれないけれど、糖分や塩分はできる限り控えて。そこら辺は自分の判断でお願い」

糖分と塩分は控える.....?

これって昨日、那月が言っていたことと同じ?

那月は私が長くないことを知っていて、昨日の時点から私を少しでも長生きさせようとしていた?

考え過ぎ.....かな?

夜永「歩夢さん? どうかした?」


【安価です。
1.那月のことを話す
2.話さない
安価下。】

1


>>67 1.那月のことを話す】

う....夜永さんに気付かれてしまった

隠してもいいんだけど、夜永さんに嘘は通じないからなぁ

「な、なんでもないです」

「そう?」

「はい」

「ふーん、じゃあ話しを続けるね」

と、何か隠してることを悟りながら、気付かぬフリをする

ある意味では真夜さんのような問い詰めるタイプとは逆の意味で恐ろしい

歩夢「あの....実は昨日、那月という女の子と遊んだのですが、」

夜永「那月.....うん、続けて」

歩夢「その那月に今の夜永さんと同じことを言われました。糖分と塩分の過剰摂取には気をつけて、って」

夜永「.....その那月って子、他に何かなかった? 魔法とか、容姿とかについて」

歩夢「魔法は分かりませんけど、容姿は深雪ちゃんや深夜さん、真夜さんに似ていました」

夜永「四葉の関係者?」

歩夢「そこら辺は真夜さんに聞いてみないと。あと、深雪ちゃん曰く、私やお母さんにも似ているそうです」

夜永「四葉と霜月の.....ふーん、そっか。ありがと。参考になったよ」

この時点で鋭い夜永さんは那月の正体について知れたのだろうか

それとも先生ですらまだ分からないのか

どちらでもない雰囲気を醸し出す夜永さんは、本当に読めない

目を使えば分かるんだろうけど、表情が大きく変わることはまずないし、動揺を見せることもない

私のような人間からすればこういう人は仮面を被っていて、ズルい


夜永「歩夢さんが私のことをどうズルいって思っていても勝手だけれど、話戻してもいい?」

歩夢「は、はい.....」

先生の前で余計なことを考えるのは今後控えよう

夜永「食事制限は糖分や塩分の摂取を抑える。あと、食べ過ぎだとか食べ過ぎないだとかには気をつけて。お腹いっぱいの2歩手前くらいがベストだね」

お腹いっぱいの1歩手前は比較的楽だけど、2歩前となると....難しい

夜永「次に、運動について。歩夢さんは平日は夜に、休日は朝に水波さんと体力作りや魔法の練習をしているんだよね?」

歩夢「そう....ですけれど」

夜永「体力作りはいつも通りやって貰って構わない。でも、体温調節とかは水波さんにやって貰ってね。あぁ、当然だけど魔法の練習も禁止。魔法の練習の時間になったら私か雪乃さんを呼んで。水波ちゃんを一人前にするために一肌脱ぐから」

お母さんと夜永さんが水波ちゃんに魔法を教える

大丈夫かな.....水波ちゃん

プラス面は私とやる以上に、比べ物にならない程大きいんだろうけど、同時にマイナス面が大きい

具体的に言うと、圧倒的な力の差で魔法師としての人生を諦める....的な

そこら辺の加減は私が抑えろってこと?

夜永「んー、当面はこの2つに気をつけてくれればいいかな。また何か追加があれば直接言わせて貰うよ」

歩夢「分かりました。ありがとうございます」

夜永「これくらいいいよ。あの子の頼みっていうのもあるけど、何より貴女が歩夢さんだから」

歩夢「.....?」

夜永「じゃあね。また明日」

夜永さんは手をひらひらと振り、去って行ってしまった

夜永さんの最後の言葉は何だったのか

それは、私がどれだけ考えても、発言したのは夜永さんであり私でない

よって、その真意には辿り着けない

考えても無駄だということを知って、私は諦める

そして1人残った私は、これからについて考える


【安価です。
1.雪乃と話す
2.私室へ(寝ます)
安価下。】


>>70 1.雪乃と話す】

時刻は日付が変わる手前

一般的な女子高生なら肌が荒れてしまうとすぐにでも寝るような時刻...なのかもしれないが、生憎私は女子高生でもなければ肌荒れに悩まされたこともない

そういう意味では美人の家系(お母さんと霜月さんが現に美人だ)の生まれで良かったなぁ、とつくづく思う

私が美人の範疇に入るかどうかはともかく、これからどうするかを考えないと

このまま屋敷内を散歩するか、私室で就寝の準備をするか

腕を組み、首を傾げていると廊下の先から人がこちらにやって来るのが視界に入る

あれは.....お母さん?

一歩、また一歩とお母さんらしき人物は私に近付き、15m程離れた場所に来たところでお母さんらしき人物はお母さんだと証明される


雪乃「歩夢、真夜から話は聞いた?」

出会い頭、この話

私はどう反応していいか分からず、とりあえず苦笑いを浮かべて答える

歩夢「うん、聞いたよ」

雪乃「そう。......真夜を恨んでる? 歩夢の寿命を縮める原因を作った真夜を」

お母さんは真夜さんと同じ質問をしてきた

これに対しての返答は既に実践済みなのでスラスラと口から言葉が綴り出る

歩夢「全く。私の意思で使ったんだから、真夜さんを恨むことは出来ない」

真夜さんに答えたように、お母さんにも同じ答えを返す

するとお母さんは胸を撫で下ろした仕草を見せ、

雪乃「歩夢が優しい子に育ってくれてお母さんは嬉しいわ。けど、時には人を恨めるようにならないとね」


歩夢「真夜さんを恨むことをお母さんは望むの?」

雪乃「いいえ。私が望むのは、恨むなら私を恨んでってこと。私が止めなかったせいで歩夢は無茶をしたんだから、....母親失格だよ、本当に」

歩夢「それこそお母さんの思い込み。悪いのは私。私以外の人は悪くない。私だけが重荷を背負えばいい。だからお母さんは楽にして。まぁ少しだけ娘を思い遣ってくれると娘としては嬉しい....かな」

雪乃「歩夢......」

お母さんは静かに私を抱きしめる

お母さんの胸の中で私は抵抗せず、体重を預ける

雪乃「ごめんなさい。人生、これからが楽しいのにそれを奪ってしまって。達也くんとの結婚もあと少しで......」

歩夢「お母さん、謝らないで」

歩夢「悪いのは私。さっきそう言ったはずだけど?」

雪乃「......じゃあ、もう少しこのままで居させて。これが私にできる精一杯のことだから」

この言葉に私は返事を返さず、無言で抱きしめられ続けた

何秒も、何十秒も、何分も、ずっと


【安価です。
1.雪乃「ねぇ、歩夢。貴女は霜月の家系に生まれることが出来て良かったって思う?」
2.雪乃「......実はね、歩夢をこんな状態にしたのって真夜の流星群だけじゃないのよ」
3.その他
4.私室へ
安価下。】

2


>>74 2.雪乃「.....実はね、歩夢をこんな状態にしたのって真夜の流星群だけじゃないのよ」】


雪乃「......実はね、歩夢をこんな状態にしたのって真夜の流星群だけじゃないの」

歩夢「そうなの?」

雪乃「えぇ。霜月の魔法の内の1つ、天邪鬼も流星群ほどじゃないけど歩夢に影響を与えていたの。まぁ、逸脱した使い方をしているのが問題なだけなんだけどね。天邪鬼は個人や個体を対象にするのであって地球も1つだけれど、人と世界だったら明確な差があるでしょう? その差が害を与えたってこと」

歩夢「そう....なんだ」

思い返してみると、とりあえず世界の時を止めればいいと神座で自分を加速させ、自分以外の全てに対して天邪鬼で減速させていた

世界を対象にした魔法はどちらも危険だった、ということか

はぁ....なんで馬鹿やっちゃったんだろ

少し考えればノーリスクでハイリターンな美味しい話なんてあるはずないことくらい分かったはずなのに


雪乃「天邪鬼が与えた影響は20%くらい。流星群が与えた影響は2回合わせて60%。あと流星群を1回使えば即終わりね。体内の細胞が耐えれなくなって死んでしまうわ」

歩夢「もう使わないよ。.....多分」

雪乃「使わないんじゃなくて使わせないわ。これから歩夢に向かい来る刺客は私が倒す。母親らしいところを見させて」

歩夢「刺客.....そんなに日本って物騒だったっけ?」

雪乃「例え話よ。とにかく歩夢は守られる立場に居て。幸いなことに夜永もここに居るし、敵無しよ」

歩夢「もしも葉月が攻め込んで来たら?」

雪乃「その時はその時。なんとかなるわよ」

歩夢「....お願いね」

雪乃「お願いされなくてもやるわ。娘を守るのは母として当然だもの」

30年前の雪乃さんと比べると頼もしさが段違いだ

時間が人を変えるっていうのは本当なのかもしれない

真夜さんも今は貴婦人(未婚)って感じだけど、昔は感受性豊かな女の子らしかった

私も残りの3、4年で変わることは出来るのだろうか

達也くんがお世辞ではなく淑女と言ってくれるような良い女に

深雪ちゃんに一歩でも近づけるように、これからは魔法関係よりも短い結婚生活に向けて修行をしよう

俗に言う花嫁修行

小説などから得た知識によれば旦那さんのお母様の手料理を学ぶのがポピュラーらしいが、それはもうとっくに身につけている(深夜さんが達也くんに手料理を振舞ったことは1度しかないようだけど)

となると、何を学ぶのか

お掃除やお洗濯は一般常識として身についてるし.....あ、気品とか?

真夜さんや深夜さんのような、とまではいかなくともそれらしい気品を身に付けられるように頑張ろっと

雪乃「歩夢?」

歩夢「ん。ううん、なんでもないよ」

雪乃「そう? 何か考えているようだったけれど」

歩夢「なんでもないよ、お母さん」

私の返しにお母さんは優しい笑みを浮かべ、

雪乃「よかった」

と、小さく一言呟いた


安価です。
1.雪乃「ねぇ、歩夢。貴女は霜月の家系に生まれることが出来て良かったって思う?」
2.その他
3.私室へ
安価下。】

3


>>77 3.私室へ】

小さく呟いたのと同時に抱擁は解かれた

雪乃「夜更かしも体に悪いからね。今すぐ寝ろとは言わないけど、十分な睡眠は取るのよ」

歩夢「わかってる」

雪乃「良い子ね。じゃあね、歩夢。おやすみ」

最後に私の頭をポンポンと優しく叩いて廊下の奥へと消えていった

その姿が見えなくなるまで私はその場から動かず、見えなくなったと同時に踵を返した


ー私室ー

ーーーーーーーーーーーー歩夢、.....その.....

貴女のことも恨んでないから安心して

結果的に流星群を使えるようになったのは私にとってプラスだったはずだから、貴女は悪くない

ーーーーーーーーーーーープラス....そうか?

私が嘘をついていないのは貴女が1番よく知ってるはずだけど?

私の心をどうしてか一方的に読めるんだから

ーーーーーーーーーーーー.....そうだな。甘えさせて貰う

やっと図々しくなってくれたね

ありがとう

ーーーーーーーーーーーー早く寝ろっ!

もう.....素直じゃないんだから


歩夢「ふぅ.....」

よし、寝る支度をさっさと済ませて、眠くなくてもベッドに入ろう

寝転がるだけでも疲労回復だとかリフレッシュの効果はあるって聞いたことがあるし


【安価です。今後について
1.クリスマスまで飛ばす(何行かで11月6日から24日までの出来事をまとめます
2.大切な(?)場所だけのダイジェスト的なアレ(歩夢が体調を崩すところくらいだと思います)
安価下。】

>>79 2.大切な(?)場所だけのダイジェスト】

ー11月下旬ー

余命宣告をされて約3週間が経った

この3週間はろくに味付けが濃い物を食べさせて貰えず、お仕事の方も夜永さんが天才っぷりを発揮して私と真夜さんで6時間ほどかけて終わらせる仕事を1人で1時間で終わらせるなどという偉業を成し遂げた

おかげさまで私は実質水波ちゃんとの体力作りくらいしかしていない

魔法の練習は奇数の日は夜永さんが、偶数の日はお母さんが水波ちゃんに付きっきりになり、能力の飛躍的向上を計っている

真夜さん曰く、七草の双子より一歩勝るくらいだったはずが今では足元にも及ばなくなっているらしい

水波ちゃん自身は模擬戦で毎日負けているのでそれを実感していないが、魔法師に求められる一瞬の判断と魔法を発動するスピードも何百分の1秒で早くなっている(と、夜永さんは言っていた)

全てが順調に続いていた11月の下旬、私は気怠さを感じながら起床した

歩夢「うーん.....頭痛い.....」

ズキズキと締め付けられるような感覚

そして視界の歪み

これは風邪というやつだろうか

何年ぶりだろ、風邪引くの

......とにかく今日は安静にした方がいいっぽい

告げず雇い主である真夜さんに迷惑をかけるのも嫌だし、真夜さんだって「寝てなさい」と即答するだろう

と、とりあえず連絡を.....



携帯で隣の部屋の水波ちゃんにメールで連絡を入れると、数分後に扉がノックされた

歩夢「どうぞー」

水波「失礼します。歩夢姉さま、夜永様からお薬を預かってきました。これ以外は飲むな、と」

天才さんが調合した薬かぁ

適当な病院に行くよりかは信頼できる....かも

歩夢「ありがとう。そこに置いておいて貰える? あとで飲むから」

水波「畏まりました。....歩夢姉さま、あの.....」

歩夢「....あ、学校か。ごめんね、貴重な朝の時間を取らせちゃって」

水波「いえ。....それではお大事にして下さい」

歩夢「うん。ありがとね、水波ちゃん」

水波ちゃんはいつも以上に畏まった態度で一礼し、退室した

さて、忘れない内に薬飲んじゃおっと


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:真夜(補佐で夜永)が昼食を作る
偶数:雪乃が昼食を作る
安価下。】

ほい



>>82 5.真夜(補佐で夜永)が昼食を作る】

ー12時ー

歩夢「.....ん、」

腹時計が昼食の時間に反応したのか、ただ単になんとなく眠りが中断されたのか、どちらかの理由で私は目を覚ました

夜永さん特製の薬を飲んでからすぐに眠気に襲われて、約4時間くらい寝てた....らしい

もちろん朝食は食べていない

1日3食が健康の基本だと言っていた側からこれだ

せめて昼食は食べないと.....

ベッドから出て、立ち上がり一歩踏み出したところで体が揺れ、緊急回避として壁に寄りかかる

んー....これは部屋に備え付けられた簡易のキッチンにまですら行けなさそうだ

徐々に少ない体力は奪われ、もう今すぐにも寝転がりたいところ

仕方ない、昼食は諦めて夕食だけは水波ちゃんに用意して貰おう

これからに予定をかろうじて立てることに成功した私は一歩で行けるベッドまでを数歩かけて移動し、寝転がる


歩夢「はぁ.....」

つい出てしまったため息

何かに困っている訳でもないそのため息に込められた想いは自身からしても不明だ

しかし、何かしらの意味は込められている

それについて....も考えられない

考えれば考えるほど頭が締め付けられるように痛くなる

それに、今が11月でなかったら今以上に頭が回らなかっただろう

霜月の目が強制的に発動される今じゃなければ、何も考えれずに床に転んでいたかもしれない

想像するだけでも無様な姿に口元が緩む

歩夢「.....ん、」

コンコン、という2度のノックに口元の笑みは消え、自然と開く

歩夢「どうぞ」

入室の許可を出すと、扉は開かれた


扉を開いたのは夜永さん

室内に足を踏み入れたのはこのお屋敷の主人だ

そしてその主人の手にはお盆が握られている

普段では想像もつかないその光景に私は言葉を失う

夜永「真夜さんが体調を悪くした歩夢さんのために昼食を作りたいって言ってね。おかげさまで使用人共々は真夜さんこそが体調悪いんじゃないかって疑ったよ」

真夜「私をどんな目で見てるのよ.....もう」

夜永「それで真夜さんが1時間くらい厨房を貸し切りにして、出来たのがこれ。安心して、栄養バランスは計算してあるから」

歩夢「ありがとう....ございます」

使用人さんからの態度に不貞腐れた真夜さんが不機嫌そうな顔をしてベッドの傍に置いてある小さな机にお盆を置く

一般人がこの光景を見たらどう思うんだろう

畏怖された家の当主が使用人同然の働きをしているだなんて

少なくとも世間からの目は変わる

それが一体どう変わるかはともかく、せっかく作ってくれた昼食を冷めない内に食べないと

夜永「30分後に食器を片付けに来るね。真夜さん、行きましょう」

真夜「ええ。.....歩夢さん、安静にしててね」

真夜さんの優しい発言に夜永さんは小さく笑い、真夜さんはそれを軽く咎めながら部屋を出た



歩夢「.....ごちそうさまでした」

昼食は30分という量からしたら比較的長い時間で食べ終わった

そして見計らったかのように夜永さんが扉をノックし、宣言取り片付けに来た

しかし30分前とは一風変わっている

それは纏っている服が違う

まるで病院の先生にような、純白の白衣

胸ポケットにボールペンが入っているところに拘りを感じる

歩夢「.....それは?」

夜永「歩夢さんの状態を見ようと思って。大丈夫、私、この3週間くらいで医師免許とったから」

歩夢「はっ? ん、ごほっ、ごほっ....」

突然のことに声を大にして聞き返してしまった

その反動で2度咳をしたが、そんなこと以上に医師免許を取ったことの方が気になる

夜永「えへへ、やっぱり私はやれば出来る子。天才だった」

少女のような笑みを浮かべ、免許証をポケットから取り出し、見せびらかしてきた

やれば出来る子、って自分で言うことかはともかくとして、疑問は1つ

夜永さんのような天才さんには免許証自体を取ることは簡単なのかもしれない

しかし、試験がこの数週間であったのだろうか


夜永「あぁ、うん。それは真夜さんに手配してもらった。急な受験者に試験を担当する方々は驚いていたけど筆記試験と実技試験で満点とったら歓迎してくれたよ。天才名医ってね」

歩夢「.....そうですか。分かりました」

所詮凡人と天才が立つ土俵が違かったということで自分に中では一段落ついた

夜永「歩夢さん、少しそのままでジッとしてもらえる? 今、視るから」

歩夢「視る?」

夜永さんの、私やお母さんに似ている青い瞳から鋭い視線を浴びせられる

その瞳の奥に碧色の何かが見えたような気もするが、それを気にする前に診察は終わった

夜永「今日1日安静にしていれば大丈夫かな。あ、この後薬飲んでね。置いておくから。じゃあまた、お大事に」

ポケットから2錠の薬を置いた代わりに食器が乗せられたお盆を持ち、部屋を出た

1人きりの空間で私は目を閉じて心を落ち着けた後、薬へと手を伸ばす


【安価です。夕食。コンマ1桁
奇数・0:真夜・雪乃
偶数:水波・夜永
安価下。】


>>88 1:真夜・雪乃】

ー19時ー

歩夢「.....あ、もう19時.....」

お昼に薬を飲んでからは今朝同様に睡魔に襲われた感覚も無しに快眠していた

普通に寝て起きるよりも遥かに目覚めが良い

ここまでくると副作用があるんじゃないかと疑ってしまうが、あの天才が作った薬なのだから下手な副作用はない....と私は信じている

お昼寝は12時40分辺りから18時までの約5時間

そして今現在までの1時間は安静に読書をしていた

これで窓からは紅葉などが見えていれば少しありきたりな体調を崩した文学系の女性らしいが、生憎そうもいかなかった

葉は全て枯れ落ち、枝だけ

冬の到来を感じるこの季節、病院のベッドから見る景色も似たような物だろう

しかしまぁ、紅葉がもし咲いていたとしてもそれを眺めるのが私であればすぐに葉は落ちて、残り1枚となったところで人生の迫りを感じるあのシチュレーションに陥ってしまう

それだけは勘弁だと、既に落ちていたことを心から喜ばしく思う


さて、本題です

ずっとベッドの上で大半は寝ていたおかげてあまりお腹が空いていない訳ですが、夕食を頂けるのでしょうか

もし作ってくれるとしたら....水波ちゃんかな?

それともお母さん?

もしくは夜永さんかなぁ

真夜さんはお昼に作ってくれたから無い(はず)

夜ご飯っていつなのかなー?

この世で最も偉いのは政治家でも資産家でもなく病人だと昔読んだ本に書いてあった

それを今更思い出し、今現在置かれている状態と照らし合わせて行使する

しかし、行使する相手がこの場に居ないので不発に終わる

はぁ.....読書しよ

と、栞を挟んでいたページを開いたのとほぼ同時に、部屋の扉がノックも無しに開かれる


雪乃「歩夢、起きて...るね。真夜と夜ご飯作ったから食べて。栄養は天才医師さんに計算して貰ったから安心して」

今度は30年以上の友達 兼 家族の2人で作ったようだ

そこには再び夜永さんが絡んでいるが、あの人も30年前に関係していた人だし、そう考えると30年前からの知り合い以上の関係3人組で料理を作ったということになる

仲睦まじくて羨ましい

真夜「歩夢さん、食欲はある?」

歩夢「少し」

真夜「冷めない内に食べてね」

歩夢「はい」

少し前の真夜さんからは想像もつかない優しい面に私は顔を引きつらせる

何か裏があるんじゃないか、と怖れる

雪乃「ふふ、真夜がそんなことを言うから歩夢困ってるじゃない」

真夜「もう....皆して私を何だと思ってるの? 私だって人の子なのよ?」

雪乃「引きこもりのわがまま主人」

真夜「......」

雪乃「希望とあれば使用人を対象にしたアンケート取るけど」

真夜「.....やめて。嫌な予感がするわ。使用人が半分以下になるかもしれない」

雪乃「あらあら」

お母さんはクスッと笑い、真夜さんは新規採用の使用人の募集を考えているような表情をしている

その、今まで何度も目の前で見せられてきた光景に私は失笑を漏らす

雪乃「真夜、行こ。歩夢が食べれないでしょ」

真夜「貴女が話を長引かせるからいけないのよ」

雪乃「はいはい。分かったから」

真夜さんの手を引き、お母さんは私の部屋を出て行った

残された私は、1人黙々と料理上手な2人が作った見るからに美味しそうな料理に手をつける



それから30分後、お母さんが1人で食器を片付けに来た

暇潰しを思ってくれたのか少し雑談を交わし、「早く寝なさい」という優しい言葉を置いてお母さんは空いた食器を持って退室した

歩夢「ふぅ.....」

今日1日で周りの人に愛されていることに気付かされた

朝早くから看病に来てくれた水波ちゃん

私のため(?)に医師免許を取ってくれた夜永さん

優しく、周りの人からどう思われようと気にするけど気にしない真夜さん

そして、母親らしく、母親らしいお母さん

今回の件で人に愛されることの利点を知れた

風邪は嫌だけれど、たまにはこういうのも悪くない

明日からはまた頑張って働こう

そのためには風邪を治さなければならない

まだ寝るのには早い時間だが、病人は病人らしく安静を取ろう


【安価です。クリスマスイブの予定
1.水波・達也・深雪と過ごす
2.達也と過ごす
安価下。】


>>93 2.達也と過ごす】

真夜「私は用事があるから24日と25日は自由にしていいわよ」

そう雇い主から12月初旬から告げられており、水波ちゃんとクリスマスに東京に行く予定を立てていた

それについてなんとなく真夜さんに話すと、

真夜「歩夢さん、24日は四葉の息がかかったホテルのレストランを貸し切りにしておくから、達也さんと良い夜を過ごしなさい」

と言われ、私は半ば強制的にクリスマスイブに彼氏と過ごすこととなった

お母さん曰く、これも罪滅ぼしだそうだ

11月6日以来、何度か真夜さんから謝罪の言葉を聞いているが、私は全て謝罪を受け入れてこなかった

聞き入れて貰えないなら行動で姿勢を見せる

その結果が、これだ

この事を達也くんや深雪ちゃんに話すとあちら側は即答と呼ばれる速さで快諾した

よって、私は達也くんと、水波ちゃんは未来の女主である深雪ちゃんとクリスマスイブの夜を過ごす事となる



ー東京・12月24日 19時ー

水波ちゃんを深雪ちゃんのところに預け、私は達也くんとフォーマルとは呼べない格好のまま例のホテルへと向かった

格式高い、それこそドレスアップをしなければ足を踏み入れることすら断られるホテルの入り口には数人の使用人さんが待機しており、私と達也くんは別々に案内を受けた

私は左奥の部屋へ

達也くんは右奥の部屋へ

案内されるがままに辿り着いた部屋は30年前に深夜さんからのお仕事の依頼で訪れたようなドレスアップをするためだけの部屋

ここですることは、当然アレしかない


予め用意されていたサイズがぴったりな深紅のドレスにお化粧、そして髪を綺麗にアイロンしたりなどをし、出来上がったのは鏡に映る全くの別人

誰.....?

誰か、とは確かめるまでもないのだが、確かめる時間も貰えず、このホテルのレストランへと案内される

お化粧諸々にかかった時間はおよそ20分(一般的な所要時間と比べると短いらしい。やることが少なかった、とか。なんでだろう....)

男性のドレスアップにはどれほどの時間がかかったのかは知らないが、達也くんは既にタキシードに着替えて待っていた


達也「......! 歩夢......?」

私の姿を見るなり、別人かと疑った表情をする

歩夢「彼女の顔も忘れちゃたの? っていうかここまで一緒に来たよね?」

達也「いや、あまりにも綺麗だったから」

歩夢「〜っ! もう.....早く席座ろう。ヒールで立ち続けるのって苦手だから」

達也「あぁ」

達也くんは私の座る椅子を引いて、紳士らしいエスコートをしてくれた

それに対して私はこの2ヶ月ほどで学んだ淑女らしい行動を反映させて、「ありがとう」という言葉と共に軽く頭を下げる

私が座った後、達也くんが向かいの椅子に座り、舞台は整った

そういえば料理って何が出てくるんだろう

窓から見下ろせるクリスマスの景色(イルミネーションなど)やこのレストランには少量の明かりしかないことを考えるとフレンチ料理だとかそういう類のコースと見て間違いない

真夜さんから私が味付けの濃い食べ物はたべれない話は通ってると思うんだけどなぁ

まぁ、そこら辺もお楽しみということで、使用人さん側からの配慮として設けられた食事前のカップルの会話を楽しもう


【安価です。話題について
1.この1、2ヶ月で何か変わったことはあったか
2.このレストランについて
3.その他
安価下。】

1

>>97 1.この1、2ヶ月で変わったことはあったか】

達也「歩夢、この1,2ヶ月で変わったことはあったか?」

達也くんの質問は突然だった

突然だったが故に、ただ単純にこちら側で何があったのかを気にしているだけなのか、達也くんや深雪ちゃんがまだ知らない私の余命について勘付いているのか

後者は....多分、無いと思うけど念には念を入れて悟られないようにしないと

余計な心配はかけたくない

少なくとも今日は、2人きりの楽しい夜を過ごすつもりなのだから

歩夢「こっちでは夜永さんが真夜さんのお仕事を手伝って.....というよりは、1人で10人分くらいの作業効率を見せて真夜さんが次期当主指名をその場でしようとしたり、水波ちゃんが深雪ちゃんのガーディアンに相応しい能力を着々と身につけていたり、とかかな」

達也「楽しくやっているようだな」

達也くんは安心したように、珍しくホッと息をついた

そして、グラスに入った透き通った水を一口飲んだ後、東京ではこの1,2ヶ月の間に何があったかを話す


達也「こっちでは大きな変化はない。....が、雫が留学することになった。正確には交換留学だそうだが」

歩夢「雫ちゃんが留学? それも交換留学って....」

半年以上、十師族の1家の当主の近くで仕事をしていたのだからなんとなく想像はついてしまう

歩夢「灼熱のハロウィンの探りを入れてきた、ってこと?」

10月31日に起こった大亜細亜連合の鎮海軍港である対馬要塞の消滅

それは日本が世界へ公表していない戦略級魔法の仕業

それを調査するために、雫ちゃんと入れ替わりで来る生徒は日本に確固とした目的を持って来るのかもしれない

まだ仮定だが、その線は濃厚だ

達也「多分な。それに、その留学生はスターズの一員である可能性もある」

スターズとは簡単に言ってしまえばアメリカの魔法師部隊

そこからの刺客が来るとすれば、その留学生は優秀な魔法師と見て間違いない


歩夢「気をつけてね。何か困ったことがあれば真夜さんに言ってみるから」

こういう時、十師族の当主というのは情報を集めるのが早い

情報は武器になるとも言うし、達也くん達の助けになるだろう

幸いなことに今の私と真夜さんの関係は複雑で、私が言うことの殆どに真夜さんは答えてくれる

そういう便利な状況を使い、真夜さんを達也くんに協力させる

私の中での算段は整った

問題は、

歩夢「その留学っていつからなの?」

達也「休み明けだ」

歩夢「休み明け....あと2週間くらい、か」

一高に限らず大体の学校はお正月の余韻が薄れつつある時に長期休暇は終わり、学校があって、「もうお正月は終わった。切り替えろ」と叱られる

あと2週間でスターズからの刺客がやって来る

スターズと言えばアンジー・シリウスという戦略級魔法『ヘビィ・メタル・バースト』の使い手が所属している軍

そのアンジー・シリウスの正体が私たちと同年齢で、留学とかは....無いか、流石に

まぁともかく、私に出来ることは注意を促すことのみ

歩夢「慢心ダメ絶対、だからね。関わるな、とは言わないけど時には逃げるということを忘れないで」

達也「あぁ、わかってる。俺は慢心出来ない。そう出来ているからな」

歩夢「.....ならいいけど」

私に出来る役割は終えた

あとは問題が起これば真夜さんを伝って、知らされるだけ

達也くん達が戦っている間、私は何も出来ない

しかし、もうその感覚は受け入れた

悔やんだりしない

私は、もう魔法師の道を諦めている

私は、見守ることを選ぶ

手を出さずに、結果を知るだけ

卑怯だなぁ、私って


【安価です。食事後。
1.使用人「ご当主様よりお部屋に案内しろと仰せつかっております」
2.司波家へ

1の場合はホテルの1室で達也と2人きりで一晩過ごします
2の場合は司波家で一晩過ごします
安価下。】


>>101 1.使用人「ご当主様よりお部屋に案内しろと仰せつかっております」】

あれからすぐに料理が運ばれてきた

フルコースを出すような格式高いお店で出てきたのは、やはりフルコースだった

前菜1、前菜2、スープ、魚介のメイン料理、お口直しのためのシャーベット、肉類のメイン料理、デザート、コーヒー(私は紅茶)の順

久方ぶりの味付けの濃い料理に心を踊らせていたのだが、こちらもやはり味付けは薄く付けられていた

極力味を薄く、それでも本来の味から遠ざからず、栄養バランスはしっかりと計算されたような料理に私は脱力した

なお、味付けが薄いことについて触れない辺りから察するに、達也くんには通常の料理が出されているようだ

そんな私だけが一方的にテンションが下がるような(けれど美味しかった)料理を雑談を交えながら1時間ほどかけて楽しみ、最後に達也くんはコーヒーを、私は無糖の紅茶を飲んでいると使用人さんがやって来た

使用人「失礼致します」

片付けをしたいからもう帰れ、とか急かされるのかと思っていたのだが、

使用人「ご当主様よりお部屋に案内しろと仰せつかっております」

歩夢「部屋に?」

使用人「はい」

この使用人さんには「部屋に連れて行け」としか伝えられていないのだろう

そんな雰囲気が漂っている


達也「歩夢、どうする?」

歩夢「断る権利が私たちにある?」

達也「......そうだな」

真夜さんの策略に嵌められたような気もしない訳でもないが、私たちには権利がない

大人しく従い、都内でも五本の指に入ると言われているホテルの最上階の1室へと案内される

歩夢「相変わらずスイートルームなんだね」

九校戦の時、横浜の時に続いて3回目のスイートルーム

最初は広すぎる部屋に落ち着けなかったが、今ではこれが当たり前のようになっている

そんな中、いつもとは1つ違う点があった

歩夢「封筒?」

リビングと呼ばれる場所に置いてあるテーブルの上には1枚の封筒が置いてあった

前のお客様の物とは思えない不自然な封筒を開けるとそこには直筆で書かれた便箋が出てくる

それを書いた人物は1人しか居ないし、そこに書かれた一文の意味も嫌々ながら理解できてしまった

達也「なんて書いてあったんだ?」

歩夢「素敵な夜を過ごしなさい、って」

達也「.....叔母上か?」

歩夢「これを置ける人物は真夜さんしか居ないでしょう。字も真夜さんのものだし」

達也「あの人は何を考えて.....」

歩夢「まぁ、とりあえずゆっくりしようよ。達也くん、コーヒーでいい?」

達也「あぁ、...すまない」

歩夢「なんで謝るの」

私はクスッと笑いを漏らし、達也くんをソファに座らせて一般家庭を遥かに凌駕する高級そうなキッチンに立つ


歩夢「はい、どうぞ」

達也「ありがとう」

歩夢「どういたしまして」

コーヒーを淹れたカップをソーサーに載せて達也くんの前のテーブルに置き、私は向かいのソファに腰をかける

さて、.....一晩をここで過ごすことになった訳だけど、どうするべきか


【安価です。話題
1.那月について
2.水波について
3.明日について
4.その他
安価下。】

2


>>104 2.水波について】

達也「最近、水波はどうだ?」

このまま何も話さないのは雰囲気的に悪いと話題を考えていたら達也くんの方から話題を提供してくれた

フィクションの知識しかないロマンチックな思想を働かせれば、彼氏が彼女を気遣って話題を提供したこととなる

しかし現実は恐らく、ただ単に気になったから

歩夢「水波ちゃんは強くなったよ。達也くんと比べるのはアレだけど、魔法師として、ガーディアンとして十分な役割を果たせる子になったよ」

達也「歩夢が付きっ切りなのか?」

歩夢「ううん。最近はお母さんとか夜永さんが付きっ切りで実践の特訓をしてる。水波ちゃんが余計なことを考えなければもっと伸びるとは思うけど、」

達也「考えれば魔法師としての道を諦めかねない、か?」

歩夢「.....うん。大丈夫だとは思うけどね。水波ちゃんは忠実で良い子だから」

達也「そこまで水波に不安を与えるようなことを?」

歩夢「特訓のメニューが辛いというよりは、模擬戦での連戦連敗から来る敗北感の積み重ね。上には上がいるということをハッキリ伝えられちゃったから自分に深雪ちゃんのガーディアンは務まらないだろう、って」

達也「.....そうか」


歩夢「でも、お母さんや夜永さん以外との模擬戦は余裕の快勝だから一般的な人間相手なら常識の範疇では敵無しのはず。七草の姉妹も水波ちゃんには絶対に勝てないだろうって真夜さんは言ってたし」

達也「既に頼もしい限りなんだがな。水波は今以上に力を求めてるのか?」

歩夢「何せ比較対象が達也くんだからね。達也くんまでとはいかなくても、足元に....ううん、少しでも足止めが出来るくらいの能力は求めているはず」

達也「......」

歩夢「ねぇ、達也くん。もし良かったら、だけど.....水波ちゃんを労って貰えない? このままだと無理をして、」

この後の言葉は紡ぎ出されない

だって、私みたいに、なんて言えないでしょう

私が魔法師の道を諦めたことを知るのは私自身とお母さんと真夜さんと夜永さんと水波ちゃんの5人(霜月さんや深夜さんは除く)

急にこんなネガティヴなことを伝えられれば達也くんだって困惑するだろうし

達也「あぁ、分かってる。明日帰ったら少し話してみるか」

歩夢「傷つけないようにね」

達也「そうすれば困るのは俺の方だ。女性のガーディアンが必要な場で人材不足というのは痛手だからな」

歩夢「私も一応ガーディアンなんだけど」

正確に言えば、ガーディアンだった

11月までは深雪ちゃんの側にいる時に限りガーディアンとしての扱いだった

しかし11月の中旬くらいにはその扱いも深雪ちゃんには告げずに取り消された

真夜さんは「貴女が死んでしまっては元も子もないでしょう? だから、分かって頂戴」とこれまた私の寿命を縮めたきっかけを作った者として決断をした


達也「歩夢は頼りにはなるが、歩夢は俺の大事な人だ。怪我でもされたら困る」

紅茶を口に含んでなくて良かった

含んでいればはしたなく吹き出してしまうところだった

歩夢「それ、意識して言ってる? それとも天然?」

達也「さぁ、どうだろうな」

歩夢「もうっ! からかうのはやめてよ......」

達也「からかっているつもりはない。....本心だからな」

歩夢「.....今回だけだよ。許してあげる」

私の許しに、達也くんは笑うだけだった


【安価です。
1.那月について
2.歩夢「ねぇ達也くん、一緒にお風呂入ろっか」
3.その他
安価下。】


>>108 2.歩夢「ねぇ達也くん、一緒にお風呂入ろっか」】

それからはしばらく適当な雑談を続け、時計の短針が10を指したところで私はなんとなく呟いてみる

歩夢「ねぇ達也くん、一緒にお風呂入ろっか」

私の言葉に達也くんは少なからずの動揺を見せる

達也「.....冗談だよな?」

歩夢「今日はクリスマスイブだよ? 真夜さんがさせようとしていた道徳的に危ういことは出来なくても、これくらいのことならいいでしょ。イルミネーションで彩られた道を手を繋いで歩けない代わりだと思って」

私の半ば無理やりな説得に達也くんは少しの時間考え込み、

達也「.....そうだな」

と、小さく頷いた




ー浴室ー

スイートルームとだけあって、浴室には温泉(流石に観光地としての温泉よりは小さい)や傍には小さなサウナなどが設置されていて、十分すぎるサービスとなっていた

話し合いの結果、達也くんがまず入って、その次に私が入ることとなった

後を選択したのは少しでも湯船に浸かる時間を減らすため

寿命の関係もあって、逆上せるのは食事制限と同様に注意するように担当医から言われている

それを忠実に守るためには、後を選択するしかなかった

達也くんが入ってから約10分後、私はバスタオルを巻いて浴室に入った

肌に纏わり付いてくる熱気に耐え、バスタオルを取って体と髪を洗う

ここでどうしてかいつも以上に、念入りに洗ってしまったのは私が何かを意識しているからなのかもしれない

体の隅々まで綺麗に洗い終わり、再びバスタオルを巻いて湯船へ


歩夢「後ろ向いて.....ん」

タオルを持って湯船に浸かるのはマナー違反

それは1世紀以上前から続くルールだ

それに則り、タオルを取ろうと思ったら達也くんは既に後ろを向いてくれていた

こういうところは気を遣えるんだから

待たせないためにも早々とバスタオルを取り、綺麗に畳んでタオル掛けに掛ける

右足から湯船に足を入れ、十数秒かけて慣らすように肩まで浸かり、軽く息を吐く

歩夢「ふぅ.....。達也くん、もういいよ。こっち向いて」

その言葉が終わった後、少しに躊躇いを見せながら達也くんはこちらを向いた

歩夢「......」

達也「......」

お互い、話すことが見つからない

さっきは気を遣って話題提供をしてくれた達也くんも今の状況では話題を出せないようだった

仕方ない、ここは私が一肌脱ごう


歩夢「.....もうそろそろ片手分かな」

達也「一緒にお風呂に入った回数、か?」

歩夢「うん。最初は4月の下旬に行った温泉旅行で。2回目はその次の日にほのかちゃんも加えて」

達也「3回目は7月25日に深雪からの命令、だったか」

歩夢「そして4回目は九校戦が終わって京都の家」

達也「今回で片手が埋まったな」

歩夢「私たちみたいな付き合いをしてるのって一般的なのかな? 何度も一緒にお風呂に入るような仲って」

達也「どうだろうな。それを確かめられる人も居ないから分からない」

歩夢「それでも、」

私は達也くんの首に手を回した

そして、優しく抱きつく

歩夢「私にとってはこれが普通だよ」

大胆な行動に達也くんは動じず、目を閉じた

達也「俺だってこれが普通だ。歩夢としか恋愛経験がないんだからな」

歩夢「......達也くん、」

達也「.......歩夢、」

これ以上の会話も、行動もしなかった

しかしそれでも私は達也くんの想いを改めて知れたし、私の想いも知ってもらえた

会話を交わさずに通じ合えるというのは便利だ

それが双子であったりお互いに読心術を身につけている仲ではなく、男性と女性のカップルなら尚更

私は達也くんを愛し続けるし、愛して貰いたい

例え、寿命が迫っても、生きていられる最後の瞬間までずっと


【安価です。
・お風呂に入ったまま
1.歩夢「達也くん、背中洗ってあげるよ」
2.達也「1ヶ月と半月前は曖昧な返事しか出来なかったが歩夢、淑女らしくなったな」
3.その他

・お風呂から出て
4.歩夢「今日はもちろん一緒に寝てくれるよね? もちろん、変な意味じゃないよ?」
5.達也「そういえば那月のことなんだが」
6.その他

4以降を選択するとお風呂でのイベント(?)には戻れません。
安価下。】

4


>>113 4.歩夢「今日はもちろん一緒に寝てくれるよね? もちろん、変な意味じゃないよ?」】

5度目となる混浴は特にハプニングも無しに終わりを迎え、今はリビングのソファに対面し合う形で腰をかけている

ここに来た時のように私は紅茶を、達也くんはコーヒを口にし、時が過ぎるのを待つ

現時刻が23時手前なのであと1時間もすれば私は就寝の準備をしなければならない

健康を保つための基本、早寝早起きは厳守だ

と言ってもこれは独断でやっていることであり、担当医からは何も言われていないので健康を害する心配はないのかもしれない

用心に越したことない、ただそれだけでこの1ヶ月半を暮らしてきた

それは今日とて例外じゃない

何もなければ、だけど

歩夢「今日はもちろん一緒に寝てくれるよね? もちろん、変な意味じゃないよ?」

達也「変な意味?」

どうしてそこに食いつくのかな.....

また私のことをからかっているのでしょうか


歩夢「言わせないでよ、女の子に」

達也「ずいぶんと意味ありげな発言をするんだな」

歩夢「.....」

私の人生は残り3,4年

今この瞬間に子供が生まれたとしても一緒に暮らせる時間は余命と同じく3,4年

真夜さんから急かされたっていうのもあるけど、私だって自分の子供を一目でもいいから見てみたい

そして、自分の息子、娘を抱いてあげたい

その一心が最近になって強くなってきた

これが余命宣告されたからなのか、子供を産む歳が近づいてきたからなのかは知り得ない

歩夢「.....達也くんは、したいの?」

達也「いずれはすることになるんだろうが、別に今じゃなくてもいいだろう」

歩夢「誰も今するとは言ってないんだけど.....」

私の冷静なツッコミに達也くんは言葉を失った

失言を掻き消すように咳払いを1度し、話を戻す


達也「逆に聞くが歩夢はしたいのか?」

女の子に聞くような質問でない、って言いたいところだけどそうもいかない

私には本当に時間が無い

妊娠から出産までが10ヶ月....まぁ約1年だと見積もって、無事出産したとしても子供が3歳くらいの頃に私は短い人生を終える

お母さんの顔を薄っすらと覚えているか覚えていないかの狭間くらいの時期

だったら最初から養子として誰かに子供を預け、子供が自立する歳になったら私が実の母であることを告げる、などの選択肢もあり得ない話ではない

その時に子供が得る感覚とはどんなものなのか

それを考えると頭が痛くなる

子供を辛い目に合わせずに、子供を救う方法

それは、.....私だけでは判断に苦しむ

それこそ達也くんに相談すべき事なのだが、せかっくの楽しい雰囲気を崩すのは気が乗らない

つまり話す機会が来るまで、この件は保留という事になる

出来るだけ早くに打ち明けたほうがいいよね

そうでもしないと相談できる時間が無くなっちゃうし


達也「歩夢?」

歩夢「え、あぁ、うん。.....私はどっちでも。達也くんがしたいならするし、したくないならしない」

達也「人任せなんだな」

歩夢「達也くんだって私の意見を尊重して、私の意見を反映させるんでしょう? だったら私と同じ。人の事言えないよ」

達也「まぁ、そうかもしれない」

歩夢「それで、達也くんはどうしたいの? 私を抱いてくれるの?」

達也「......抱きたい」

歩夢「.....!」

達也「が、やはり道徳的にそうもいかないだろう」

後半の言葉が無ければ今夜中に私は晴れて大人の階段を登っていた

しかし、やはり達也くんは一般的なモラルを持ち合わせているようだった

歩夢「.....そっか。そうだよね」

達也「だが、歩夢がしたいと言えば道徳なんて関係ない。歩夢はどうなんだ?」

歩夢「私は.....」


【安価です。
1.歩夢「私だって達也くんの意思を尊重したい。......けど、.....抱いて欲しい、かな」
2.歩夢「.....私もまだ早いと思う」
安価下。】



>>118 1.歩夢「私だって達也くんの意思を尊重したい。......けど、.....抱いて欲しい、かな」】

歩夢「私だって達也くんの意思を尊したい。....けど、.....抱いて欲しい、かな」

達也「.....冗談じゃなく、本気なんだな?」

歩夢「うん」

達也「.....わかった」

達也くんはふぅ、と息を吐き覚悟を決めた

私の覚悟は、もうとっくの昔に出来ている

8月の中旬頃には、心に決めていた

この人になら、いつでも抱かれていい、と

それが抱擁とかではなく、道徳に反する性的な意味でも私は受け入れる

その機会が、このような形で出来上がった

悪く言ってしまえば真夜さんの望みが叶ったわけだが、それは真夜さんだけでなく四葉家や君影家、霜月家にとっても同じこと

この2095年になっても理論上では否定されている時を操ることを可能にしていた魔法師、霜月さんと同じ血を引く私は期待されている

その期待の結果、達也くんのような制御しなければならない子供が生まれるのは母親として避けたい道だが、そうなっても私が子供に向ける愛は変わらない

たとえ3年ほどしか一緒に居られなくても、精一杯出来る限りの愛情を注ぐことの覚悟も出来ている


歩夢「達也くん、引いちゃった? 私たち、まだ15,6歳なのにこんな道徳を否定するようなことを.....これからしようとして」

達也「歩夢」

歩夢「.....そうだね」

目を見て、名前を呼ばれるだけで達也くんが今どんな想いなのか分かってしまった

霜月の目も使っていないのに、心が読めてしまった

これは私が、ある意味特別な立場に居るからだ

達也くんの彼女であるという、特別な立場だから、察することが出来た

歩夢「.....ねぇ達也くん、」

達也「.....?」

歩夢「寝室(洋室)、行こっか。それとも和室がいい?」

この質問に達也くんは、

達也「歩夢に任せる」
歩夢「歩夢に任せる、って言うよね」

達也「.....お見通しなんだな、歩夢は」

歩夢「貴方の彼女ですから」

私の態度に向かいに座っている彼は失笑を漏らした

達也「じゃあ寝室(洋室)で」

私は無言で頷き、目の目に手を伸ばした

それを受け取った達也くんは、失笑ではなく、安心させてくれるような、それでかつ不自然じゃない自然な、とても感情を失ったとは思えない表情で、笑ってくれた


【この後はお察しの通りです。
このスレはR-18じゃないのでカットします。

安価です。コンマ1桁
4:体調を崩す
4以外:いつも通り(?)な朝を迎える
安価下。】

ほい


>>121 7:いつも通り(?)な朝を迎える

歩夢の方をやる前に1つ間話的なものを入れさせて下さい】


ー12月24日 京都内某所ー

真夜「ここはいつ来ても雨ね。30年前からずっとそう」

雪乃「そうだね.....。ずっと、そう」

夜永「......」

真夜と雪乃、夜永の視線の先には墓石が1つ

そこには『霜月』と『瓊々木』の2つの姓が彫られている

雪乃「12月24日にお墓参りだなんて皮肉よね。それに、街は綺麗に彩られた道で活気に溢れているのに、ここにはこれしかない」

真夜「桜の木でも置いてみる?」

雪乃「綺麗にはなると思うけど、こんな雨だとすぐに花びらも落ちちゃうでしょ。それに、12月だと桜も咲かないし」

真夜「.....そうね。でも、貴女の先祖様方は喜んでくれるんじゃなくて?」

雪乃「まぁ....そうかも。お母さん、桜好きだったし。夜永のお母さんも好きだったよね、桜」

夜永「.....」

雪乃に問い掛けに夜永は頷いた

その青色の左目には霞みがかった悲しみを、

その碧色の右目には心からの悲しみを浮かべている


雪乃「.......」

真夜「.......」

夜永「.......」

3人は無言で雨に打たれながら墓石を眺め続ける

そんな静寂を破ったのは、背後から迫る足音だった

???「私も、いいですか?」

雪乃「ええ、どうぞ。貴女にはその権利があるもの」

少女は墓石の前で膝をつき、目を閉じる

???「.....それでは」

15秒ほどの合掌を終え、その場を立ち去ろうとする少女を止めたのは、夜永だった

夜永「貴女、歩夢さんを助けたいの?」

???「君影歩夢を助けるのは不可能です」

夜永「.....そう」

???「ただ、少しでも寿命を伸ばす....いえ、縮めないためにする努力なら可能です」


夜永「魔法を使わせない、なら心得ているわよ」

???「第一高校に北山雫さんと入れ替わりで来る留学生のことはご存知ですか?」

夜永「アンジェリーナ・クドウ・シールズ。スターズの総隊長、アンジー・シリウスのことでしょう?」

???「彼女が歩夢さんを救ってくれるかもしれません。正確には葉月に立ち向かう仲間になる訳ですが」

夜永「私や雪乃さんでは葉月に勝てないの?」

???「私が話せるのはここまでです」

夜永「.....最後に1つ」

???「.....どうぞ」

夜永「貴女は何者?」

???「それくらい分かっているはずです。夜永さんは自他共に認める天才ですから」

夜永「答えが分からない仮定の状態よ」

???「夜永さんは必ず答えを見つける。もしその答えが間違っていても、それが正しくなるように修正されます」

夜永「買い被りすぎよ」

???「母も父も、周りの方々もそう仰っていました」

夜永「.....私からの話は終わり。引き止めちゃったわね」

???「いえ。それでは失礼します」

夜永「.....ありがとう、那月」

那月「......」

夜永だけでなく無言を貫き通していた雪乃や真夜も那月の背中を追っていた

彼女が一体何者なのか、それは夜永のみが真実に辿り着いた

雪乃と真夜は真実の一歩手前の仮定の状態

しかし雪乃と真夜は答え合わせをしようとせずに、墓石へと視線を移す


【間話終了です。
アンジェリーナ・クドウ・シールズについてはこれから出てくるので気長にお待ち頂ければ。

次からは歩夢側の話です。】



歩夢「ん.....」

今朝も整えられた体内時計によって起こされた

いつもよりかなり遅くに寝たのにも関わらず、いつもと同じ時間に起床したということはつまり、睡眠時間が少ないということ

風邪とは違った気怠さに耐えつつ、隣で未だに寝る彼の姿を目に焼き付ける

特殊な魔法の技能を持ち、CAD関連の知識を豊富に持つ彼は、普段の姿からは想像もつかない高校生らしい、というより中学生の男の子らしかった

十分に目に焼き付けた後、物音を立てないようにベッドから降りて、洗面台へ



朝すべき事は大体終わった

しかし、達也くんは起きてこない

もう....しょうがないなぁ

歩夢「達也くん、朝だよ」

達也「......」

歩夢「......起きないと、キスするよ?」

達也「......」

歩夢「寝たフリ....ね。呼吸とか心拍数とか、目を使えば手に取るように分かるんだから」

達也「その目は反則すぎないか? 隠し事ができない」

歩夢「達也くんだって私の心を読めるんだから、お互い様だよ」

達也「読心術はどちらかと言えば苦手なんだがな.....。母さんや叔母上、雪乃さんには到底敵わ.....すまん」

歩夢「どうして謝るの?」

達也「いや、....他の女性の話はしない方がいいと思ってな」


歩夢「それは数時間前の話でしょ」

達也「....そうか」

歩夢「.......わ、私、リビング行ってるね」

思い出した途端恥ずかしくなり、私はリビングへ

寝室の扉を閉めたところで扉に寄りかかり、深く息を吐く

歩夢「......そういえば妊娠とかってしてないよね?」

立ち込める不安

しかし、その結果はまだまだ分からない

少なくともあと2,3週間はかかる

.....どうなんだろう

もしかしたら、の希望を胸の内に収め、リビングに備え付けられているキッチンへ




コーヒーと紅茶を1杯ずつ淹れ、私はソファに腰をかけて携帯端末で読書をする

25ページくらいまで読んだところで、リビングにあるいくつかの扉のうちの1つが開かれる

歩夢「コーヒー、冷めないうちにどうぞ」

達也「あぁ」

達也くんが向かいに座り、コーヒーを一口飲んだ後、気まずさを逸らすために話を切り出す


【安価です。
1.朝食について
2.今日の予定について
3.その他
安価下。】

2



>>129 2.今日の予定について】

歩夢「今日はこの後どうするの?」

達也「家に帰って、....そこからは特に何もないな」

歩夢「ほのかちゃん達とクリスマスパーティとかは?」

達也「それは昨日やった」

歩夢「昨日.....?」

昨日、私と水波ちゃんが東京に着いたのは18時

その時には既に終わっていたということは、もう少し早く来ていれば参加出来ていた

ケーキとかは食べれないにしても、2ヶ月ぶりの再会の機会を無駄にしてしまった

勿体無いことしちゃったかなぁ.....

歩夢「.....じゃあ、遊びに出掛けるとか」

達也「歩夢がそうしたいなら」

歩夢「人任せなんだから.....。達也くんは何をしたい?」

達也「水波とは話しておきたいな。今後について、直接話しておかなければならないことがある」

歩夢「あぁ...そうだね、それは大事。他には?」


歩夢「私と? 何について?」

達也「なんだと思う?」

歩夢「.....子供の名前とか?」

達也「それはまだ早いだろう。それに、妊娠したと確定した訳でもないし」

歩夢「もし出来てたらどうするの? 責任、取ってよね」

達也「もちろんだ」

歩夢「なっ.....」

私の強気な発言に達也くんは私以上に強気に即答した

責任....高校生に取れるのでしょうか

達也「だが、もし本当に出来ていたら学校は....」

歩夢「やめないでね。そうでないと深雪ちゃんの近くに居れないでしょ。父親としての役割と守るべき者の側を離れるのだったらどっちの方が大切か、分かるよね」

達也「どっちも同じくらい大切だと思うんだがな」

歩夢「それに、子育てをする人材だったらお屋敷にたくさん居るし、なんとかなるよ。問題は....」

達也「問題?」

歩夢「え、あぁ、ううん。なんでもない」

達也「......そうか」


問題は、私が無事に出産できるかどうか

夜永さんの話によれば、これから私の体力は落ちる一方だそうだ

出産には体力が必要不可欠

体力がある今の内に子供を産むのがベストだということで、それこそ今回で妊娠した場合私が生存できる可能性は高い

今ならほぼ100%の確率で無事に産めるそうだ

しかし、寿命が迫った3年後ぐらいに出産するとなれば私が生き残れる確率は1%にも満たないという

つまり、最良は今回で妊娠すること

私は無事に出産出来るのか

それとも、不妊症とかでそもそも子供を作れないまま終わるのか

子供欲しいなぁ.....

歩夢「.....妊娠とかそういう話はまた今度にするとして、私と何を話しておきたいの?」

達也「雑談と呼ばれる程度の、どうでもいい話だ」

歩夢「それくらいいつでも出来るんじゃない?」

達也「.....歩夢と2人きりの時間を楽しみたい、と言えば分かるか?」

歩夢「ん、....そう。わかった」

達也くんは私と話している時間を楽しいと思ってくれている

もちろん、私だって達也くんと話している時間はかけがえのない思い出となるほど楽しい

それはいつでも同じ

話せれば、楽しいのだ

これから約2時間に渡って、時間を忘れると共に食欲さえも忘れてしまうぐらい、楽しい時間を過ごすことができた


【安価です。
1.朝食
2.司波家へ
3.その他
安価下。】

1

>>133 1.朝食】

あっという間に2時間が経過し、時刻は9時30分

朝食のタイミングを大きく逃してしまった

健康を気にする私にとっては大事であり、すかさずキッチンへと向かう

達也「手伝うぞ」

歩夢「あ....うん。お願い」

自分の分だけでなく、達也くんの分まで作るとなると、極端に健康を意識した味付けの薄い料理は作れない

少し手抜きになっちゃうけど、トーストとサラダでいいかな

あまり量はないけど昼食までの時間もそこまでないし、今日は日曜日だからそこまで動かないだろうし


台所に彼氏彼女(夫婦)の2人で立つという夢の体験を終えるのに伴い手抜きな朝食があっという間に出来上がった

しかし食材だけでなく食器を含めた全てが高級ホテルの物なので、テーブルの上に並べられた料理はそれなりに様になっていた

四葉本邸で扱っている物よりも品質が高いまである

歩夢「じゃあ食べよっか。いただきます」

達也「いただきます」



かなり遅めな朝食を終え、達也くんは相変わらずブラックコーヒーを、私は無糖のあまり美味しいとは言えない紅茶を飲んで、一服する

達也「もうそろそろ帰るか?」

歩夢「そうだね。深雪ちゃんも心配しているはずだから」

達也「心配?」

歩夢「達也くんが深雪ちゃんの側から12時間以上離れたことってある?」

達也「.....子供の時以来無いな」

歩夢「そういうことだよ」

達也「納得には欠けるが、....まぁいい。帰るか、歩夢」

歩夢「うん」


ー司波家ー

深雪「おかえりなさいませ、お兄様。それに歩夢」

水波「.....おかえりなさいませ、達也兄さま、歩夢姉さま」

前者のメイドさんのような出迎えに対して、後者の実のメイドさんはため息混じりに私たちの帰宅を出迎えた

連絡を入れていなかったにも関わらず生体認証のドアを開けたと同時に出迎えられたのは深雪ちゃんが達也くんの存在を50m圏内に捉えたから

この兄妹は繋がり過ぎているほどに、繋がっていることを改めて認識させられた

ちょっとだけ怖いなぁって思ったのは内緒


【安価です。誰と話すか
1.深雪
2.水波
3.達也
4.時間経過(夕食まで)
5.時間経過(お別れ)
安価下。】

2


>>136 2.水波】

歩夢「水波ちゃん?」

水波「....ぁ、はいっ? どうされましたか?」

歩夢「.....疲れてるようだけど、大丈夫?」

水波「大丈夫、です」

大丈夫 と です の間に小さな間があったところから察するに、疲れている

肉体的な疲労よりも、精神的な疲労

深雪ちゃんと2人きりで過ごした12時間に何があったのか

それについて問うと、小声で一言答えた

水波「一晩中お話を聞かされまして」

半年以上の付き合いのおかげか、説明不足な一言の割には理解するのに苦労はしなかった

ガーディアン(になる身)としては例え眠くても疲れていても使える主人の話を聞かなければならない

敬愛する兄の話をずっと聞かされれば水波ちゃんとてうんざりする

その結果が、気怠そうに、ため息を吐くのを我慢している彼女の姿


歩夢「4月からこの家で居候することになったら....どんまい」

水波「.....近くのマンションの部屋を借りるとか.....」

歩夢「真夜さんにお願いしてみる?」

水波「......お願いします」

歩夢「断られたらごめんね」

水波「いえ、私のわがままなので」

初対面時のシーンを彷彿とさせる畏まった態度で深々とその場で頭を下げた

歩夢「どうしたの、急にそんな態度取って」

水波「.....歩夢姉さまには助けられてばっかりだなぁ、と」

歩夢「私も水波ちゃんに助けられてばかりだよ。体力作り、私が風邪を引いたとき、それから毎日の食事も私に合わせてくれているし。多分、私の方が助けられてる」

水波「歩夢姉さまはずるいです。そうやっていつも感謝されることを受け入れないで......。なので、今回だけでもいいので素直に受け取って下さい、私の気持ちを」

今回きりのキスでもされるんじゃないか、という期待が膨らんだが、実際にされたことは抱きつかれる、ただそれだけだった

ただそれだけなのに、とても安心する

平常ではない異常な事態もすぐに受け入れられた


歩夢「......ねぇ水波ちゃん」

水波「なんでしょうか」

歩夢「前に一緒に水族館に行ったときみたいに、お姉ちゃんって呼んで」

この場の流れに乗った提案は、

水波「調子乗りすぎです」

間もなく断られた

歩夢「ごめんなさい」

水波「もう.....。半年前と何も変わりませんね、歩夢姉さまは」

歩夢「そこは歩夢姉さまじゃなくてお姉ちゃんって呼んでデレを見せようよ」

水波「そのようなサービス精神は持ち合わせていないので」

歩夢「相変わらず私に対してキツイなぁ、水波ちゃんは」

水波「嫌ですか?」

歩夢「全然」


水波「奥様や深雪姉さま、同僚やクラスメイトに見せたことのない、本来の私を見せられるのは歩夢姉さまだけです」

歩夢「それって.....」

水波「歩夢姉さまだけの、私ってことです」

耳もとで小さく囁かれた一言に、私はゾクッと体を震えさせられる

達也くんとか水波ちゃんにかかればイチコロなんじゃない?

水波「それでは失礼します、お姉ちゃん」

抱いていた手を放し、水波ちゃんは2階へと足音を立てない小走りで行ってしまった

未だ耳には「お姉ちゃん」の一言が反響している

それが、側に水波ちゃんが居るような擬似的な感覚を生み出して、私は水波ちゃんに惹かれる

学校とかであの技使って男子だけじゃなく女子まで手玉に取ってそう

昼間は女王に君臨し、夜間は使用人として地味な時を過ごす

そんな妄想が容易にできる

深雪ちゃんやほのかちゃん以上に、私が警戒しなければならないのは水波ちゃんなのかもしれない


【安価です。
1.深雪
2.達也
3.時間経過(夕食)
4.時間経過(帰宅)
安価下。】

3



>>141 3.時間経過(夕食)】

小悪魔を超えた悪魔の囁きが消えかかってきた頃、

深雪「それでは夕食の準備をしますので、お部屋でお寛ぎ下さい」

これはリビングに居る深雪ちゃんを含めた4人のうち、達也くんただ1人に対しての発言

私や水波ちゃんはそれを承知できていたし、当人の達也くんだって理解できていた

逆らうことなく、達也くんは2階の私室へ

リビングに残った女性3人は夕食の献立を考える

深雪「水波ちゃんは何を食べたい?」

水波「深雪姉さまがお決め下さい」

深雪「水波ちゃん、何を食べたい?」

命令に変わった質問にあくm...じゃなくて、水波ちゃんは断りきれず、私にチラリと視線を送る

言葉を交わさずに、水波ちゃんの意見は察せた

私に合わせた味付けの薄い料理を作るか、未来のご主人様に失礼のない料理を作るかの2択

それに私は「いつも通りで」と念を込めて頷いた

いつも通りとは、私の健康を第一に考えた献立

しかし、同時に味付けの薄さを然程感じさせない程度の料理でもある

健康でかつ、違和感を感じない料理

それを水波ちゃんは深雪ちゃんに提案した


当然、私の健康について悟られない形で、自然に

深雪「健康....ね。歩夢、何がいい?」

歩夢「お蕎麦」

深雪「クリスマスにお蕎麦....まぁいいわ。じゃあ早速作りましょうか。歩夢、手順教えてくれる? お母様の技術を知ってるのってこの場では歩夢しか居ないから」

今すぐ深夜さんのもとへ行き、作り方教えて貰おうと思えば可能なことについてはあえて話さず、私は頷いた



クリスマスの夕食といえばターキーとか....ターキーとかそういうアレ

しかし、このクリスマスの夜、司波家のテーブルの上には殺風景にもお蕎麦だけだった

提案した身がこんなことを言うのもなんだけど、地味極まりない

深雪「これはちょっと.....」

水波「.....寂しい、ですね」

歩夢「の、飲み物とかで彩ったり」

深雪「紅茶とコーヒーしかないわよ?」

歩夢「ジュースとかは.....」

深雪「私もお兄様もあまりジュースとかは飲まないタイプだから」

歩夢「じゃあ...雑談で夕食を盛り上げて、食卓の上を誤魔化す、とか」

深雪「盛り上がれるような話題があるの?」

歩夢「水波ちゃんが高校で友達を作れるかどうか」

深雪「そうよね....今通ってる学校から一高はかなり離れているから一高に進学する人なんて水波ちゃんくらいでしょうし....」

水波「歩夢姉さまほどコミュニケーション能力が低いわけではないので大丈夫かと」

ダイレクトにディスられた

数時間前の一件以来、水波ちゃんがある意味でのラスボスに見えて、私は言い返せずに体をビクビクと震えさせるだけだった

こんなにも情けない年上が未だかつて居ただろうか

歩夢「と、とにかくそういう話を夕食に時にしようよ。あとは流れでなんとかなるでしょう」

深雪「そうね。じゃあお兄様を呼んでくるわ」


結果的に、クリスマスの夕食という一大イベントは大成功だった

水波ちゃんには高いコミュニケーション能力が秘められていることも発覚したわけだし、


【安価です。
1.深雪と話す
2.達也と話す
3.帰る
安価下。】

3



>>145 3.帰る】

夕食後、昨晩の私のドレス姿を撮った写真を深雪ちゃんと水波ちゃんに見せると、

深雪「この画像、何処で拾ってきたの?」

とか、

水波「フォトショ.....?」

などという酷い扱いを受けた

念のためというか、昨晩の姿なら似合うんじゃないかと撮っておいた霜月の目を発動させたもう1枚を見せると、

深雪「あぁ、雪乃さんだったのね」

水波「雪乃様でしたか。失礼いたしました」

どうやっても私のことを認めないつもりでいることが把握できた

しかし、

達也「これは歩夢だぞ」

その場に居合わせた唯一の彼が、証明したことによって彼女らの意見は一転する

深雪「歩夢だったの.....? 随分と大人っぽいわね」

水波「......」

前者は感嘆に似たものを漏らし、後者は3次元の私と2次元の私を見比べて言葉を失っていた

ふふん、としたり顔で見下すことに成功した私は気分を高揚させる


だが、そんな楽しい時間も終わりが近づく

四葉から支給された携帯端末に入った連絡によれば、あと10分ほどで司波家の前に迎えの車が来るそうだ

運転手さんもそれなりに大人なので少しくらい遅れても咎められることはないはずだが、人を待たせるということは人の唯一無二の時間を奪うということ

時間はお金で買えない

その言葉に習い、お別れの挨拶を玄関で行う

水波ちゃんは近い未来の主人と話しているので、必然的に私は彼と話すこととなった

歩夢「じゃあね、達也くん」

達也「次は年明けだな」

歩夢「私が慶春会に出席しろと命令されない限りはね」

達也「もし出席しろと言われても、俺たちが1月3日に本家へ出向く。1月3日だってまだ年明けだろう」

歩夢「じゃあ臼とか用意しておく」

達也「臼.....今度は餅つきか?」

歩夢「真夜さん怒るかなぁ.....」

達也「俺たちで勝手にやる分には構わないんだろうが、叔母上も混ぜるとなると叱責されるだろうな」

歩夢「私達だけでやろっか。まぁ、臼があれば、だけど」

流し素麺のセットは作れても、臼までは.....ね

業者に注文するにしても本日は12月25日

既に1週間後に迫るイベントに向けての発注と輸送は終了しているはずだ

それに、年末とだけあって業者も休みだろうし

歩夢「もし無かったらごめんね。その時はまた別のおもてなしをするから」

達也「あぁ、楽しみにしてる」

ここで、達也くんとの2095年最後の会話が終了した


次に、ちょうど水波ちゃんとの話を終えた深雪ちゃんと対面する

深雪「じゃあね、歩夢。また1週間後くらいに会いましょう」

歩夢「うん。またね」

11月6日の時のように、お別れらしい会話はとても短く終わった

ここからは雑談に近い、別れの挨拶

深雪「歩夢。その.....妊娠とか、したら連絡頂戴ね」

歩夢「.....な、なんのことでしょうか」

深雪「あら、違うの? てっきりクリスマスイブに年頃の男女が2人でホテルに泊まるのだから.....私の思い過ごしだったようね。それならそれでいいわ」

ごめんなさい、全部当たってます

深雪「お兄様を支えてげてね、歩夢」

歩夢「私が支えて貰う、の間違いだよ」

彼女が笑い、私が笑う

形は違えど、お母さんや深夜さんと真夜さんの仲を連想させるやり取りに世代は関係なく、私達は四葉と霜月で繋がっていることに気付かされる

歩夢「じゃあまた。水波ちゃん、行こ」

水波「はい、歩夢姉さま」

玄関で揃って頭を小さく下げて、踵を返してたった今来たであろう四葉の車に乗り込む


2095年の12月24日と12月25日はかけがえのない思い出となった

それを忘れないように胸の内側にしまい、来年もこのような思い出が作れるように祈る

───来年はまだ、大丈夫だよね

私の寿命は、着々と終わりに近づいている

その恐怖が、思い出を霞ませる

水波「歩夢姉さま?」

水波ちゃんに手を握られて、私はハッと我に帰った

歩夢「ん、どうしたの?」

水波「手が震えていたようなので....何か発作のようなものが、と」

歩夢「ううん、私は大丈夫だよ。.....まだ、ね」


【安価です。
1.真夜「歩夢さん、1月1日は自由にしていいわよ」
2.真夜「歩夢さん、1月1日は慶春会に参加しろとは言わないけれど、屋敷に居なさい」
安価下。】


>>150 1.真夜「歩夢さん、1月1日は自由にしていいわよ」】

12月も残り僅かとなったある日、使用人の私は四葉家当主の真夜さんに呼ばれ、応接室に来ていた

歩夢「ご用件は」

真夜「年明けについて」

私が使用人として慶春会を成功させる側に着くのか、霜月家の人間として参加する側なのか

少なくともどちらでもない、ということはないはずだとここ数日ずっと考えていた

真夜「歩夢さん、1月1日は自由にしていいわよ」

しかし、現実は優しく、かつ疑惑を向けられるものだった

歩夢「......」

真夜「裏なんてないし、恩返しでもないわ」

真夜「理由は、貴女が出るのはまだ早い、ってことよ」

歩夢「では来年、再来年辺りには.....」

真夜「出席して貰うことになるでしょうね。四葉の上家、霜月家の人間として。あぁ、まだ知らない歩夢さんのために言っておくけれど、緊張はしなくていいのよ。重大な発表が終わればただただお酒を飲んだりするだけの楽しい集まりだから」

歩夢「重大な発表.....?」

真夜「四葉、分家の次期当主発表。あとは次期当主の婚約者の発表ね」


歩夢「来年、深雪ちゃんは.....」

真夜「まだ分からないわよ。今のところは先生がリードしてるわね。あの子は天才だから、当主の仕事も軽々とやってのけてしまうわ」

夜永さんは教師でなくなり、先生と呼ばれることを嫌っていた

だが、医師免許を取ったことにより、職種は違えど先生と呼ばれても文句は言えなくなった

余談ここまでにして、今のところは夜永さんが次期当主に近いそうだ

最有力候補は夜永さんか深雪ちゃん

当主の座に着くと同時に付いてくる婚約者の存在が、私や深雪ちゃんを揺るがす

嫌なことを人に押し付ける行為は最低だ

.....でも、私にとって夜永さん以上に深雪ちゃんが大切

私の希望は、夜永さんにやって貰いたい

あの人の性格からして、やってと言えば笑顔でやると言ってくれるだろう

その優しさが、夜永さんの良くて悪い場所

はぁ.....もう

真夜「.....話は終わり。じゃあね」

真夜さんは部屋を後にした

取り残された私は、大きなため息と共に肩を落とした


【安価です。
1.1月1日
2.12月31日(文弥や亜夜子などと会います。ここで会わなくても1月3日に強制で会います)
安価下。】

1


>>153 1.1月1日】

ー1月1日ー

歩夢「ん、」

光沢のある赤い生地に白と薄紅で図案化したボタンを描いた振袖を見にまとい、深雪ちゃんが淑やかに一段ずつゆっくりと階段を下りてきた

深夜さんに似て、白粉など必要のない白皙の面に、ただ1箇所、色鮮やかな紅を差した唇

縫い上げた髪に揺れる枝垂れかんざしが良く似合い、年相応の可愛らしさを醸し出している

達也「うん、とても綺麗だ」

達也くんが深雪ちゃんを称賛をすると、白皙の面に朱みがかかる

深雪「もう、お兄様ったら.....からかわないでください」

恥じらいながらも視線を外さず、上目遣いで抗議する彼女の様は美少女の慣れていない男性なら新年早々寝込むことになっていたかもしれない

達也「からかってなどいないんだが.....じゃあ、行こうか。深雪、歩夢」



司波家の門の前には無人運転のコミューターが停まっていた

ただ、無人運転であっても無人ではない

コミューターの後部座席には半年以上ぶりな九重さんと小野先生が座っていた

九重さんは達也くんの体術の師匠

小野先生は私がまだ一高に通っていた時に少しだけ話した経験のある先生

達也「明けましておめでとうございます、師匠」

深雪「明けましておめでとうございます、九重先生。本年もよろしくお願い致します」

歩夢「よ、よろしくお願いします」

達也くんや深雪ちゃんは九重さんと関わりがある

だが、私はほとんどない

少しだけ、話したことのある顔見知りに部類される関係

九重「いやぁ、今日はまた一段と艶やかだねぇ。吉祥天もかくやの麗しさだ。今日の深雪くんを目にしたならば、須弥山の天女も羞恥に身を隠してしまうかもしれないね」

小野「先生.....もっと他に言うべきことがお有りなのでは?」

小野先生が九重さんに的確なツッコミを入れたが、そのツッコミに応える前に達也くんが小野先生に頭を下げる


達也「小野先生、明けましておめでとうございます。しかしよろしいのですか。師匠と一緒のところを見られて」

小野「おめでとう、司波くん。新年早々、嫌なことを聞くのね。先生と会ったのは偶然よ。今日、私は貴方達の引率に来たの」

達也「なるほど、そういう設定ですか。高校生に引率というのは、いささか苦しいと思いますが。.....しかしそれなら『先生』という敬称はまずいのでは?」

深雪「それは道々考えることにして、そろそろ参りませんか?」

九重さんと小野先生の関係についても教えて貰えるのだろうか

まぁ、聞けないなら聞けないでいいんだけど

そこまで興味ある話でもないし



無人運転の車から電車に乗り換え、数分歩いたところにはロングワンピースの上からケープコートを羽織った柴田さんと振袖姿のほのかちゃん、ジャケット姿の西城くんが待っていた

美月「わっ、深雪さん、綺麗ですね!」

柴田さんは深雪ちゃんを褒め称え、

ほのか「明けましておめでとうございます、達也さん。よくお似合いです。少し意外ですけど」

ほのかちゃんは達也くんにのみ、新年の挨拶をする

私には気付いてないのかな....?

それとも、恋敵だとかで無視されているのでしょうか

達也「明けましておめでとう。ほのかも良く似合ってるよ」

達也くんの本音に、ほのかちゃんは嬉しそうに、笑みをこぼした

達也「でも意外ってことは、やっぱり少し違和感があるのだろうか」

レオ「そんなこたぁないんじゃねえの? 達也、よく似合ってるぜ。何処かの若頭って貫禄だ」

達也「俺はヤクザか」

男性同士のノリで、私や深雪ちゃんに見せない笑顔を西城くんに見せる

少しだけ、羨ましい....少しだけね


小野「別に、ヤクザには見えないけど、羽織袴がそこまで様になる高校生は珍しい、っていうのは確かだと思うわ」

九重「ヤクザ者というより、与力か同心のイメージだね」

一歩遅れてついて来た小野先生と九重さんが言うように、本日の達也くんの格好は羽織袴に雪駄の純和風

他のみんなが言うように、似合っている

それこそ何処かの若頭っぽい

レオ「あれっ、遥ちゃん(小野)。明けましておめでとうございます」

ほのか「明けましておめでとうございます、小野先生。.....達也さん、こちらの方は?」

達也「九重寺住職、八雲和尚。俺たちにはもしかしたら、忍術使い・九重八雲師の方が通りが良いかな? 俺の体術の先生だ」

紹介を聞いたほのかちゃんと柴田さんは目を丸くする

意外なことにも、西城くんは納得したような表情で、

レオ「なるほど、だから日枝神社にしようって話になったんだな」

そう淡々と述べた

ちなみに私はほのかちゃんや柴田さんと同じく、目を丸くしているだけだった

九重さんの正体についても、西城くんの納得したような態度を取る様子も


小野「だから、って?」

九重さんとは何かの縁があるらしい小野先生にも分からないことを、西城くんは知っている

人は見かけによらないって言うけれど、まさにその通り

レオ「んっ? 和尚ってことは天台宗の坊さんなんだろ? 山王信仰と台密は切っても切れない関係じゃんか」

何故そんな当たり前のことを聞くんだ? と言わんばかりの顔で簡潔に語った西城くんの説明に、小野先生の頭上に浮かぶ疑問符はかえってその数を増していた

九重「君、若いのに博識だねぇ」

レオ「常識だと思っていましたが」

達也「常識かどうかはともかく、行こうか」

一旦この話を止め、達也くんと深雪ちゃんをを筆頭に本殿へ向けて歩き出す

参道の両側にズラッと露店が並んでいる光景は1世紀ほど前と何も変わっていない

だがこれも、世界的な食糧危機が深刻化した時代には姿を消していた光景

当時のことを知っている人からすれば、感慨深い景色だろう


寄り道をすることなく、長い階段を上って神門をくぐり、拝殿前の中庭に入る

そこで私を含めた数人は艶姿に惹かれるようなものでなく、監視されているような視線に気がつく

小野「司波くん、心当たりは?」

達也「ありません」

九重「異人さんには達也くんの格好が珍しいのかねぇ」

九重さんが言った通り、その人は外国の方

金髪に碧眼の女性

しかし、外国籍だとは決まったわけでなく、どことなく日本人的な面影が見られる

年齢は見たところ、私たちとあまり変わらないくらい

深雪「お兄様、何をご覧になっているのですか?」

達也くんが向けていた視線を追うと、そこには例の女性の姿がある

それに深雪ちゃんは「まぁっ!」と言わんばかりにまなじりを吊り上げた

深雪「綺麗な子ですね」

深雪ちゃんがそう言っても嫌味にならないほど、彼女は美しく、目立っていた

彼女自身の姿もあるが、それ以上の服装が際立っている

明るいベージュのハーフコートに裾がフリルになったスカート。柄物タイツとロングブーツ

それだけ聞けば何もおかしい場所などないのだが、ハーフコートとスカートの丈が膝上15cmくらいであったり、靴底がやたらと分厚い膝上までのストレッチブーツ、レース模様で素肌が所々透けて見えるタイツに、決めつけはアニマル柄のソフト帽

まるで、戦前前のギャル系ファッションを適当に合わせたような格好をしていた

深雪「.....お兄様」

深雪ちゃんはついさっきとは異なる、強い意志のこもった視線を少女に向けた

それに察知したのか、例の女性は何事もなかったかのように私たちの方へ歩き始めた

そして、何もなく、ただすれ違う

ただ、すれ違いざまに意味ありげな眼差しを投げてきたように見えたのは、私の勘違いでないはず


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:那月「アンジェリーナ・クドウ・シールズさん、少しお時間よろしいでしょうか」
偶数:司波家へ
安価下。】

てい



>>161 3:那月「アンジェリーナ・クドウ・シールズさん、少しお時間よろしいでしょうか」】

リーナ「(あれが監視対象のシバタツヤとシバミユキ....ね)」

アンジェリーナ・クドウ・シールズは任務により、灼熱のハロウィンを起こした日本の秘匿戦略級魔法師の候補を監視しに来ていた

候補の内の2人が、司波達也と司波深雪

こちら側の視線に気付かれることくらいは想定済みだったが、まさか同行者の大人2人にまでは流石に予想外だった

しかし、それでもUSNAスターズの総隊長、アンジー・シリウスとしての役割は忘れない

今回は一目見る程度だったが、あと数日もすれば北山雫との交換留学で監視すべき2人が通う学校に自然と通えるようになる

その時に、ゆっくり監視できれば上も満足するだろうと、リーナは考えて日本に来てから止まない注目の視線を潜り抜けて駅へと向かった

リーナ「〜♪」

街は祖国と同様に新年らしい活気に溢れている

その中を鼻歌を歌いながら歩くことくらい、誰も気にしないと思って安心していた


だが、その安心はすぐに緊張や切迫感へと切り替わる

リーナ「......ん?」

全身を隙間なく見られるような、鋭い視線にリーナは感づいた

一般人では到底できないような、強い魔法師の視線

リーナ「(シバタツヤ.....? それともシバミユキ.....? いいえ、この視線は....昔のアレに似ている。昔、あの人に見られた時と同じ.....)」

リーナ「──っ」

突然、何者かが目の前に現れる

今ままでずっと気配を消したまま側に居た、とでも言えそうな現れ方

肩を越すくらいまで艶やかな黒髪を伸ばし、何処となく四葉や霜月の顔立ちをしていて、両眼を碧色へと変えている少女

リーナ自身が持つ碧眼とは明らかに違う、直系の歩夢や雪乃、分家の夜永が持つ特殊な碧眼を両眼に持つ彼女を目に捉えたリーナは、

リーナ「.....私に何か用かしら」

冷徹に、突き付けるような声色で彼女に問いかける

すると彼女は動じるどころかクスッと笑い、

那月「アンジェリーナ・クドウ・シールズさん、少しお時間よろしいでしょうか」

リーナ「.....えぇ」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:那月「.....その前に、その格好は何ですか?」
偶数:司波家へ(歩夢側)
安価下。】



>>164 9:那月「.....その前に、その格好は何ですか?」】

訝しげな目を向けながら、リーナは了承した

この少女が何者であろうと、自分には魔法がある

ペンタゴンが運営する年少者士官向けの教育プログラムでは、代数と生物学で結局Cしか取れなかった

格闘術の訓練では、同じグループの中にどうしても勝てない化け物じみた身体能力を持つ同い年の少女兵がいた

乗用機械の操縦訓練は、ハッキリ言って苦手だった

だが、魔法では殆ど負けたことがない

スターズ総隊長、アンジー・シリウス

世界最強の魔法師の1人

皆が彼女のことを褒め称え、自分でも魔法技能に絶対の自信を持っている

だから、こんな罠だと捉えるのが普通な誘いに乗った

少女の目がリーナに嫌な思い出を蘇らせていたが、あの時と比べてリーナ自身も成長した

今ならあの人にも負けない、と言い切れるほどに



那月がリーナより半歩ほど前を歩き、日枝神社から15分ほど経ったところで、那月がようやく口を開く

那月「リーナさん」

本名どころでは済まず、愛称まで知られていた

それにはリーナも動揺せざるを得なかったが、取り乱すような真似はしなかった

リーナ「な、なにかしら」

那月「.....その格好は何ですか?」

リーナ「格好?」

リーナは視線を下げて、靴から首下辺りまでを一通り視界に入れた後、首を傾げる

リーナ「何かヘンなところがあるの?」

那月「自覚ないとか......あり得ないです」

リーナ「はぁっ? それってどういうコトよ!」

那月「リーナさんのような格好をしていた人を来日後1人でも見かけましたか?」

リーナ「そういえば居なかったような.....。これが日本ではポピュラーだって聞いていたけれど.....」

那月「はぁ....。話に聞いていた以上のポンコツですね」

リーナ「ポンコツ? ....ラーメン?」

那月「はぁ.....。もう説明するのも面倒なので、とりあえず 個室 のある喫茶店に入りましょうか」

リーナ「どうして個室を強調したのかはともかく、アナタって嫌な人ね」

那月「リーナさんよりはマシです。あ、あそこに入りましょうか」

リーナは不機嫌そうな顔をし、那月はそれに気づかぬフリをしていくつかの個室に区分けされている喫茶店を指をさした


ー喫茶店ー

適当に注文を済ませた後、まず最初に口を開いたのは


【安価です。
1.リーナ「まず、アナタの名前を教えて。一方的に知られているというのは少し心地が悪いわ」
2.那月「本題ですが、リーナさんに1つお願いしたいことがあります」
安価下。】

1


>>167 1.リーナ「まず、アナタの名前を教えて。一方的に知られているというのは少し心地が悪いわ」】

最初に口を開いたのはリーナだった

リーナ「まず、アナタの名前を教えて。一方的に知られているというのは少し心地が悪いわ」

那月「那月です」

即答を受けたリーナは躊躇うことなく、次なる質問をぶつける

リーナ「苗字は?」

那月「.....」

この質問には即答どころか、答えなかった

しかし、知られて都合の悪いということだけは察することが出来た

リーナ「.....質問を変えるわ。アナタの目、あの人と同じものでしょ。イエスかノーかで答えて。アナタの苗字は君影?」

那月「そう捉えられないこともない、とだけ言っておきます」

リーナ「イエスかノーかの2択よ。それ以外の答えは受け付けないわ」

那月「.....イエス」

那月の答えを聞いたリーナは椅子の背もたれに体重を預けた

キシッと少しだけ軋む音が個室に小さく響いた


その後、リーナは向かいに座る少女のとても人のものとは思えない美しすぎる碧眼から目をそらす

リーナ「アナタのせいで嫌なこと思い出しちゃったじゃない。ワタシが魔法勝負で、唯一敗北を知らされた相手のことを」

那月「.....雪乃さんですか?」

リーナ「えぇ、そうよ。彼女は化け物じみていたわ。ワタシには九島の血が4分の1流れているけれど、ユキノは十師族の直系.....いいえ、それ以上の力を持っていた。今なら勝てるとは思うけど、できれば戦いたくない相手ね」

かつて世界最功とも謳われた九島烈の弟がアメリカに渡り、そこで家庭を築き上げ、リーナは九島烈の弟の孫という位置に当たる

だから九島家の秘術・パレードだって使えるし、その他の魔法も含めて世界最高のランクに属している

しかし、それでも数年前に九島の知り合いということで出会った君影雪乃に手も足も出せずに敗北した

今なら勝てるかもしれないが、彼女だってまだ大きな衰えを感じさせる年頃ではないので、むしろ力をつけているかもしれない

今回の日本への交換留学を機に宿敵と会えれば夢にも見た雪辱戦が実現する

シリウスとしての任務だけでなく、そういう個人的な思いもリーナにはあった

那月「リーナさんはもし雪乃さんと再戦できたら、勝てる自信はありますか?」

リーナ「当然じゃない。今なら勝てるわ。この数年でワタシは.....」

戦略級魔法師にも任命されるほど強くなった、とリーナは心の中で唱えた

どうして目の前の少女が自分の名前を知っているのかは詮索すべきでない雰囲気が漂っている

もしかしたら彼女はリーナが軍に所属し、シリウスの称号を手に入れていることだって知っているかもしれない

だが、だからと言って自分から墓穴を掘るような真似はしなかった

那月に出会って早々ポンコツと言われたものの(リーナは未だポンコツの言葉の意味を知らない)、リーナは適応力は高く頭が良かった

那月「月並みなことしか言えませんが、頑張って下さい」

リーナ「棒読みだったような気もするけれど、まぁいいわ。ありがとう」

リーナは今のやり取りで少し、少女と仲良くなれたような気がした

謎多き不思議な女の子だけど、警戒するような相手でないと軍人として培ってきた警戒心を最小限まで抑える


【安価です。
1.那月「本題ですが、リーナさんに1つお願いしたいことがあります」
2.リーナ「アナタ、ワタシのこと何処まで知っているの?」
安価下。】

2


>>170 2.リーナ「アナタ、ワタシのこと何処まで知っているの?」】

最小限でも未だに警戒を解かない那月は意図的なのか、結果的に口走ることとなったのか、リーナを煽るような発言をする

那月「やっぱり軍人さんは警戒深いのかしら」

リーナ「っ! ....アナタ、どこまで知っているの.....?」

リーナは反射的に愛用しているCADを手にし、那月に向ける

既に引き金を模したスイッチには指がかかっている

その気になれば1秒に満たない時間で那月は絶命するだろう

しかし、その反応に対して那月がしたことは手持ちのCADをリーナに向けて差し出す行動だった

特化型CADが1つと、汎用型CADが1つの合計2つ

リーナ「....なんのつもり?」

那月「敵意がないことを示すにはこれが1番なんじゃないかなって」

リーナ「.....さっきのワタシの質問に答えて。ナツキはどこまで知っているの?」

那月「全部です。リーナさんが戦略級魔法師アンジー・シリウスであることも、これから立て続けに負けることも、達也さんに助けて貰うことになるのも」

リーナ「どういうこと? アナタの目、少なくとも同じ目を持つユキノには未来を予知するような能力は無かったはずだけど」


那月「私にも未来はせいぜい一瞬先しか見えません。母ならもう少し先まで見えたかもしれませんが」

リーナ「母って....それがユキノじゃないの?」

那月「ふふ、どうでしょう。というより、私がリーナさんの称号を知っていたことには触れないんですか?」

リーナ「アナタたちの目は誤魔化せないことくらい知っているし、言いふらすような真似をすればナツキを殺すだけよ」

那月「リーナさんが私に勝てるかどうかはともかく、」

リーナ「かて....」

「勝てるわよ!」とリーナは言い切れなかったのと同時に向けていたCADを下ろす

那月「.....信用して頂けたようですね」

リーナ「まだ信用はしていないわ。とりあえず、話しなさい。ワタシに何か用があるんでしょう?」

那月にとって、リーナがここまで警戒心を解いてくれるのは意外なことだった

那月「(最悪の場合は実力行使を考えていたんですけどね)」

ふぅ、と安堵し、那月がリーナに接触した理由を、ゆっくりと綴り始める

那月「リーナさんに協力して頂きたいことがあります」

リーナ「協力? 言っておくけど、....アナタも知っての通りワタシは軍に所属しているからナツキの都合で動けるわけじゃないわよ?」

那月「それで構いません」

リーナ「....ワタシに何をさせたいの?」

那月「それは、」


【歩夢側に戻ります。
安価です。
1.帰宅後(1月1日 初詣後)
2.1月3日(四葉本邸へ)
安価下。】


>>173 2.1月3日(四葉本邸へ)】

ー1月3日・四葉本家ー

今回は2ヶ月前と違い、葉月に襲撃されることもなく四葉のお屋敷まで辿り着いた

今回の目的は私は第2の家への帰宅、達也くんと深雪ちゃんにとっては年賀の挨拶のため

ほぼ毎年、1月1日に行われる慶春会の余韻が落ち着いてきた頃に挨拶に来るらしく、それを知っている分家の方々も深雪ちゃんや達也くんに会おうと日程を合わせる人まで居るらしい

なんやかんやでお屋敷の中に入ると、使用人一同の大迎を受ける

3人へ、ではなく、1人へ

もちろんその1人とは、次期当主候補の彼女

彼女は「毎年大袈裟なんだから....」という表情をし、顔を引きつらせながらとりあえず部屋に荷物を置こうと、部屋まで案内して貰うように促す

深雪ちゃんは2人のメイドさんに案内され、達也くんは1人のメイドさんに案内され、私は1人で使用人用の私室へと一時的に戻る



荷物を置き、あらかじめ合わせていた待ち合わせ場所へと行くと、そこには見慣れない2つの顔があった

1人は女の子っぽいけど、男の子であろうと予想出来る大人しそうな子

もう1人はフリルやらリボンを大量にあしらった豪奢なワンピースを着た真夜さんに若干似ている子

深雪「あぁ、歩夢は初対面だったわね。紹介するわ。彼は黒羽文弥くん」

文弥「お話は伺っております、君影さん」

歩夢「あ...えっと....」

急に頭の中が真っ白となり、数年前までのコミュ障っぷりを存分に発揮してしまう

そんな窮地に立たされた私を救ってくれた(?)のはもう1人の女の子だった

???「この人が達也さんの? .....地味じゃない?」

文弥「ね、姉さん! 失礼だろ!」

次期当主候補の1人、黒羽文弥...様? が姉さんと呼ぶ彼女の名前は確か、

深雪「こちらは文弥くんの双子の姉に当たる、黒羽亜夜子ちゃんよ」

亜夜子「よろしくお願いしますわ、君影歩夢さん。唐突で申し訳ないのですが、少しお話したいことがあるのですが少々お時間よろしいでしょうか?」

歩夢「は、はい」

今の私は使用人

当主候補の1人の親子よりも血の繋がりが深い双子の姉にそう言われては断ることが出来ない

引きづられるような形で、連れてこられたのは対人戦闘を行う本邸から少し離れた1室

天井は相当高く、横幅もかなり広い

普通に魔法を使って戦うだけなら不便は全く感じられない部屋となっている


亜夜子「君影歩夢さん、達也さんの彼女....それどころか、婚約者の立場だそうですね」

歩夢「そう、....ですが」

亜夜子「単刀直入に言います。その座を降りて下さい」

亜夜子さんも達也くんのこと好きなんだ、と今の発言からなんとなく察せた

これは女同士の酷い争いになる展開?

そんな面倒なことは嫌なので、要件によっては即降りていただろう

しかし、今回の要件は達也くんの彼女の座から降りろ、というもの

降りられないに決まっている

その強い意志を持ったまま、使用人からしたら到底手の届かない当主候補の姉に強気で返答する

歩夢「嫌です」

まさかそんな直で断られることを想定していなかったのか、亜夜子さんの表情が一瞬だけ驚愕へと変わった

亜夜子「私達は魔法師。やることはただ1つですよね」

魔法師はその名の通り魔法師を名乗る限り魔法を使える

やることと言えば、亜夜子さんの言う通りただ1つ


歩夢「模擬戦ですか」

亜夜子「えぇ。命までは取りませんから安心して下さいませ」

私が抱えている問題のことを知らない彼女に悪気は無い

もし私が打ち明ければ彼女も納得して模擬戦から話し合いに変えてくれるかもしれないが、そういう訳にもいかない

達也くんや深雪ちゃんの2人に加えて数人が見守るこの場で話せば一気にお葬式のような空気へと変貌してしまう

それを避けるためには、模擬戦を行うしかない

夜永「じゃあ私が審判をやるね」

審判を買って出たのは夜永さん

口元に笑みを浮かべ、非常に楽しそう

ちなみに達也くんと深雪ちゃん以外の数人とは、夜永さんとお母さん、文弥様、それからもう1人の当主候補の津久葉夕歌様

夕歌様は既に成人を迎えているらしく、その年齢に見合った容姿をしている

身長は私と然程変わらず、肩に少し掛かる程度のストレートの黒髪ワンレングスを6:4で分けていて、耳にはピアスを付けている

優しいお姉さんっぽい雰囲気が醸し出されている

それがわざとなら、なかなかあざとい女性だ

夕歌「あの子が霜月の?」

深雪「....えぇ」

夕歌「ふーん、そう。面白そうね」

ニコニコと笑みを向けてくるその視線を無視し、亜夜子さんだけに目を向ける

魔法.....少しだけなら構わない....? でもその少しが多大な影響を及ぼしそうだし....

焦燥に駆られていると、夜永さんがギャラリーに背を向ける形で、亜夜子さんに見えないようにほぼ0距離の位置から私に耳打ちする

夜永「制限時間は10分だから」

その言葉と共に、お腹に特化型CADを避けられない距離で当てられ、引き金を引かれる

歩夢「ーーっ!」

目をギュッと瞑り、痛みに備えた

しかし、痛みは全くなかった

恐る恐る目を開けて、夜永さんに目で問うと、すぐに返答が返ってくる

夜永「10分間だけなら魔法を好きに使ってもいいよ。ただし、世界を流星群で夜に変えたり、天邪鬼で世界の動きを0に近づけるようなことはしないでね」

歩夢「何を....したんですか?」

夜永「私の魔法で歩夢さんの肉体を10月30日まで戻した。効果の持続時間が10分....もう9分30秒くらいしか残っていないけど、その時間いっぱいなら歩夢さんは好きに魔法を使える」

肉体だけを2ヶ月と少し前まで戻す魔法.....?

夜永さんの魔法とは一体どういうものなのか、それについては聞けないまま、亜夜子さんとの勝負が始まる


【夜永の魔法については以前頂いた下記の魔法です。
ー再幻 ー
エイドスの変更履歴を遡り変化する前のエイドスを魔法式として現在のエイドスに上書きする
再成と違いどんな過去のことでも上書きできるが、最大10分間しか再現できない。
物理的に存在しないものも対象にできる(例:精神、知識etc...)

これで歩夢の肉体を10月30日(2度目の流星群使用前)まで戻し、自由に魔法を使えるといった感じです。1度目の流星群使用時(モノリス・コード)まで戻してしまうと目が使えないので、こういう形にさせて頂きました。


安価です。コンマ1桁
1・2・4・5・7・8・9・0:歩夢の勝利
3・6:亜夜子の勝利
ゾロ目(数字問わず):歩夢の圧勝
安価下。】

うりゃ


>>178 3:亜夜子の勝利
なんとなく第3者の視点でやります(一部除く)
亜夜子の極致拡散は使いにくいというか、よく意味がわからないので使用しません。】

夜永の勝負開始合図と同時に魔法を発動したのは亜夜子だった

彼女の得意とする魔法は大きく分けて2つ

1つ目は擬似瞬間移動

これは物体の慣性を消し、その周りに空気の筒を作り、筒よりも一回り大きい真空のチューブを作ってその中を移動する、というもの

一見弱点の無い魔法に思えるが、チューブを作る工程で周囲の空気を押しのける気流が発生するため、移動先が事前に察知されてしまう欠点がある

そして2つ目は極致拡散

これは指定領域内における任意の気体、液体、物理的なエネルギーの分布を平均化し、識別できなくする、というもの

どちらも強力な魔法で、この2つが大きく黒羽家にとっての黒羽亜夜子の地位を確固としている

特に影響が強かったのが極致拡散

小学生の頃に自分の魔法の特性が分からず悩んでいた時に達也だけが亜夜子の魔法特性を理解し、極致拡散のやり方の助言を貰った

その時から父や使用人が冷遇する達也に惹かれるようになり、今現在では、

亜夜子「(君影歩夢はご当主様が仲良くされている方の娘さん。きっと....いいえ、絶対強いはず)」

....私だって心の何処かではこの人に勝てないってことぐらい承知している

けど、私は自分の望む未来のために奮闘する

今回の模擬戦は君影歩夢の実力を知るためのもの

例え私が負けても達也さんのことは諦めないし、私が勝ったとしても2人の仲を引き裂くような真似をするつもりはない

私があの女以上の良い女になればいい

ただ、それだけのこと

そうすれば達也さんが振り向いてくれるかもしれない

横取りではなく、正当な方法

きっと私のこの気持ちだって達也さんや深雪お姉さまは察しているんでしょうけど、

亜夜子「(私は私のために負けない.....!)」


亜夜子がまず使った魔法は擬似瞬間移動

10mほど離れた位置に居た歩夢の後ろへと周り、背後から単純な魔法で倒そうとした

歩夢「(亜夜子さんが消え....風....? )」

欠点の気流の察知をされたが、実質距離が短ければそこまでの欠点ではない瞬間移動は成功し、亜夜子は背後から想子の塊を打ち出す

これに致死性はない

せいぜい銃で撃たれたような感覚を感じさせるだけ

想子の塊は歩夢をーーー

亜夜子「な...んで....?」

ーーーすり抜けた

打ち出された想子の塊はついさっきまで亜夜子の居た地点あたりで消滅する

亜夜子「.....」

まるでそこに実態が無かったような光景に亜夜子は頭を働かせる

亜夜子「(幻術....? そういえばご当主様と仲良くされている歩夢さんのお母様は幻術魔法が得意だとお父様が....)」

魔法は遺伝する

そう考えるのが普通だ

雪乃同様に歩夢も幻術魔法に特化し、今の攻撃を逃れたのだと、亜夜子は確信する


一方でギャラリーの反応は、

夕歌「歩夢さん、面白い魔法を使うのね」

深雪「九島家の秘術ですけど」

夕歌「だから面白いんじゃない。九島の血を引いていないにも関わらず、仮装行列(パレード)を使えるだなんて」

夕歌が口元に笑みを浮かべている頃、審判を務める夜永の側では、

雪乃「歩夢に仮装行列の使い方を教えたのって夜永?」

夜永「私は何もしていません。あれは歩夢さんが魔法を使えない期間で考えた、仮装行列本来の使い方です」

雪乃「説明書を読まなくても時間をかけて覚える、ね。確かにそういうタイプだったような気がするわ」

夜永も雪乃も、笑っていた

そんな中でも模擬戦は止まることなく、時間の経過に従って経過する

歩夢「(仮装行列.....これは『色』『形』『音』『熱』、そして『位置』まで偽装できるから、私本体の位置をバレないように全演算能力を回して座標を掴まれない内にさっきの瞬間移動のような魔法のカラクリを解けば私の勝ち....!)」

でもどうやって瞬間移動を....

さっきの瞬間移動前に感じた風が何かのヒントになるはずなんだけど.....ああもう!

時間制限がある中でまどろっこしく考えるのは非効率的

仮装行列で新たな幻影が作り出される前に私本体を倒せば私を倒せるように、瞬間移動される前に倒せばいいんだよね


歩夢「本気でいきます」

亜夜子「っ!」

亜夜子を襲ったのは恐怖心と圧迫感

突如歩夢の目が青から碧へと変わったかと思えば、逃げることに専念していた歩夢が一転して攻めることに専念しようとする意思を感じ取れた

まともに戦っては勝てない

勝つには、さっきみたいな幻影はもう使わないであろう歩夢の背後を取り、一瞬で落とす

これしかない、と再度、擬似瞬間移動の魔法を発動させる

亜夜子の意識の切り替えが早かったことに歩夢は少なからず驚き、その反動で一歩出遅れた

視線の先にいたはずの亜夜子が消えた

これで歩夢は不利な身となる

しかし、今の歩夢には全てが見えていた

風のスピードに勝つために自分を最大限に神座で加速させ、特化型CADを右斜め上に向けて引き金を引く

すると亜夜子が通るはずだった空気のチューブは破壊され、亜夜子は何もない場所から現れる

咄嗟なことだったにも関わらず亜夜子は見事に着地し、とりあえずこの場をどうにかする適当かつ効果的な魔法を発動させようと汎用型CADを操作する


が、魔法は発動しなかった

歩夢「......」

亜夜子に向けられた特化型CAD

その引き金は既に引かれている

亜夜子「はぁ....はぁ....」

今、亜夜子を襲っているのは碧色の目で見られた時とは違う、大きすぎる恐怖心

恐怖のあまりにその場に膝を崩して倒れ、呼吸を乱す

本来ならこの時点で審判が止めにかかるシーン

だが、夜永は見守ったまま、動かなかった

亜夜子の弟の文弥は姉の危険な状態を見て勝負に割り込もうとしたが達也に止められている

夕歌や深雪、雪乃は無言で勝負がついたと思われる勝負に目を逸らさないまま、動かない

亜夜子「(なに....この感覚.....。文弥のことを思っても、達也さんのことを思っても、楽しかった思い出を思い出しても.....消えない.....)」

亜夜子が陥るこの状態を作り出したのは歩夢

歩夢は霜月家の魔法の1つ、精神摩耗を使っていた

この魔法は自由に感情の操作が可能な便利な魔法

そして、引き続き歩夢は特化型CADの引き金に指をかけた

この2ヶ月で考えた精神摩耗とあの魔法の組み合わせ

これさえ使えれば大切な人を守れる、と思い続けていた

魔法師としての人生が断たれた結果、もう出来ない確信していた魔法の試行が可能なこの機会

このもう1度与えて貰った機会に感謝をし、引き金を引く


その直後、大きな反応を見せたのは亜夜子でもギャラリーでもなく、歩夢だった

歩夢「うっ.....」

CADを落とし、両手で口を塞ぎ、その場に膝をついて俯く

歩夢の状態が不安定になったことで精神摩耗は解除され、亜夜子は呆然とその歩夢の姿を見つめた

夜永「まだ時間が..... ! 神座か....。亜夜子さん、この勝負は中止。歩夢さん、大丈夫?」

夜永は歩夢をゆっくりと立ち上がらせ、別室へと連れて行く


ー別室ー

歩夢「こほっ、こほっ....はぁ....はぁ....」

夜永「......」

歩夢「や...え...さん....私は.....」

夜永「10分は経ってなかった。けど、神座で歩夢さん自身の肉体を加速させちゃったから10分というタイムリミットも8分足らずで訪れた」

歩夢「そう....ですか」

無様だなぁ....変に魔法を試行とかした結果がこれだよ

神座の効果も考慮するべきだった

そこに配慮が行き届いていなかった時点で、私は魔法師として亜夜子さんに負けた

潔く達也くんの彼女、妻の座から降りる....のが大人の対応なのかな

....って、大人も何も約束を守るのは当たり前、か

夜永「落ち着いた?」

歩夢「.....はい」

夜永「早速で悪いけど、一旦戻ろ。心配しているだろうし、怪しんでもいるだろし。これが終わったら休憩していいから」

歩夢「わかり...ました」



ー模擬戦室ー

深雪「歩夢、大丈夫っ?」

さっきの部屋に戻るなり、深雪ちゃんに心配の言葉をかけられた

歩夢「うん、大丈夫だよ」

深雪「でもさっきかなり苦しそうに.....」

歩夢「少し体調を崩しちゃっただけだから心配しないで」

深雪「.....それなら....よくないけど、重い病気じゃないなら良かったわ」

深雪ちゃんをひとまずは安心させることが出来た

今のやり取りで大体の人が納得してくれているようだし、亜夜子さんと話してみるか

歩夢「さっきのって....」

亜夜子「私の勝ちです」

歩夢「.....」

亜夜子「.....ですが、歩夢さんの体調に助けられた部分が大きいので、歩夢さんのことを認めます」

歩夢「認めるってことは.....」

亜夜子「ただし、何もしないようでは私が取っちゃいますからね」

初対面の時とは大きく違い、亜夜子さんが年頃の女の子なんだなぁと実感させられた

水波ちゃんもそうだけど、最近の女子中学生って怖い

亜夜子「行こ、文弥」

文弥「う、うん....」

2人は仲良く、四葉本邸の方向へと歩き出した

その姿が見えなくなりかけたところで、

雪乃「歩夢は部屋で休んでなさい」

と、お母さんからの命で私は軟禁されることとなった


【安価です。コンマ1桁
1・5・9:深雪
2・6:達也
3・7:雪乃
4・8:夜永
0:真夜
安価下。】

ほい


>>186 8:夜永】

私室に軟禁されて30分が経った

この30分間は何度も咳き込み、もうそろそろ吐血してもおかしくないんじゃないかと嫌な想像が堅くなくなってきた頃、ノック音で活字に向けていた視線を扉の方へと移す

歩夢「どうぞ」

応答後に扉が開かれる

扉の先に居た人物は、担当医だった

相変わらず白衣を着ていて、形から入るスタイルを初期から貫き通している

夜永「調子はどう?」

歩夢「芳しくない感じです」

夜永「そっか。じゃあ私の目、じっと見てくれる?」

定期的(今回は臨時)に行われる検診は毎回同じ

それは聴診器等の小さい機械どころか、全身を検診出来るような大きな機械も使わず、ただただ目をじっと見て、見つめられるだけ

それだけの行為で心身状況を全てを悟られてしまう

夜永さんって本当に何者なの....?


夜永「.....うん、もういいよ。大体知れたから」

歩夢「......」

夜永「どうやって私が歩夢さんを診察しているか知りたい?」

歩夢「教えて頂けるなら」

夜永「内緒」

歩夢「からかわないでください.....」

夜永「話し相手になってあげるから許して。ずっと読書してるのも暇でしょ?」

正直なところ今読んでいる本は哲学系ではなく小説なので暇はしていなかった

しかし好意を無下にするのもアレだったので、私は小さく頷く

夜永「まずは何から...あ、そういえばさっきの亜夜子さんとの模擬戦、真夜さんが観てて楽しかったって言ってたよ」

あの部屋に監視カメラらしい物は見当たらなかったけれど、見られてたんだ

超小型のカメラとかが何処かにあったのかもしれない

夜永「歩夢さんは九島の仮装行列とか使えるからね。夕歌さんも面白いって言ってたし」

歩夢「私だけの力じゃないんですけどね....」

夜永「あの子は2人合わせて君影歩夢だと認めてくれた貴女に感謝しているようだから、そこは誇ってもいいんじゃないかな。むしろ歩夢さんがそう認めてあげないとあの子が可哀想だよ」

あの子....あぁ、私の....

歩夢「あの人と夜永さんは知り合いなんですか? 以前、あの人が知り合いに頼るって言ってその知り合いが夜永さんでしたが」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:夜永「あの子は私の妹だけど?」
偶数:夜永「どういう関係だろうね」
安価下。】

うりゃ


>>189 6:夜永「どういう関係だろうね」】

夜永「どういう関係だろうね」

ふふっと口元に笑みを浮かべ、首を傾げてどういう応答が返ってくるのか楽しみそうにしている

またからかわれてる.....

歩夢「姉妹の関係とか」

夜永「.....どうしてそう思ったの?」

歩夢「妹さんいらっしゃるって言っていましたし、妹には夜永さんが持っていない能力があるって30年前に言っていたのでそうなんじゃないかなぁ、って」

夜永「ふーん」

どうでもよさそうに、目をそらす

意外と良い線を突いていて、誤魔化すためにこのような反応をしているのかもしれない

そらされた目を見てみると、目が泳いでるし

案外嘘とかつけないタイプなのかもしれない

夜永「ま、まぁ、そういう話はまた今度するとして....あ、いや、歩夢さんの裏人格の子が私の妹だと認めた訳じゃないよ?」

慌てて手をブンブンと振り、分かりやすい否定をする

誰にでも得意不得意はあるんだなぁ、と改めて思い知らされた

なんでも出来る天才にも嘘はつけないようだ

夜永「.....こほん。歩夢さん、薬置いておきますから飲んでくださいね」

1度咳払いをし、医者の設定を思い出したかのようにスタンドライトが置いてある小さい机の上に薬の入った袋を置いて、逃げるように部屋を出た


ーーーーーーーーーーーーーはぁ.....


そして、なんとなくあの人のため息が聞こえてきたような気がするのは気の所為.....?



【安価です。コンマ1桁
奇数・0:夕食(食堂へ)
偶数:私室で1人で食事をとる
安価下。】

うげ


>>191 5:夕食(食堂へ)】

歩夢「寒いなぁ.....」

日もとっくに暮れ、寒さが一層に増してきた頃、私は食堂へと向かっていた

何やら大事な話も兼ねた食事会があるらしい

真夜さんはもちろん、お母さんや夜永さん、達也くんと深雪ちゃんまでもが同席するようなので味付けが薄いであろう料理を食べる際には気をつけなければならない

2つある内の指定された1つの食堂の入り口には水波ちゃんが立っていた

水波「歩夢姉さま、時間ギリギリですね.....。どうぞお入りください」

余計な二言目ではなく、この場合は余計な一言目

二言目だけなら良い待遇だったのに

水波ちゃんが扉を開け、私が同等の使用人らしかぬ態度であたかも当然のように食堂へと足を踏み入れる

食堂には既に真夜さんとお母さん以外のメンバーが揃っていた

私は何処に座ればいいのかと1秒に満たない時間を使い考え、深雪ちゃんの隣の席の腰を下ろす

深雪「大丈夫?」

歩夢「うん、もうすっかり」

深雪「そう。ならいいのだけれど」

短い会話を交わし終わる直後に食堂内に19時の鐘が鳴り響く


そしてそれと同時にこの部屋にある私が入って来た扉以外の2つの内の1つが開かれる

見慣れた母が「もう....」という顔をしながら開けて、見慣れた主人が貞淑優雅に歩き進み、当主専用(?)だと思われる椅子に腰をかけた

その隣にお母さんが座り、そのまた隣には既に夜永さんが座っている

全員の準備が整ったところで更にもう1つの扉、使用人専用の扉が開かれ、6人それぞれの料理が次々と運ばれてくる

一見どれも同じ物だが、私のやつだけはいつも通り味付けが薄いはず

真夜「詳しいお話はこの後にするとして、まずはいただきましょうか」

この中で最も権力を持つ真夜さんが食事に手をつけて1拍か2拍ほど空いた後、私たちも料理に手をつける

.....薄っすい


夕食もデザートまで食べ終わり、全員に紅茶が行き届いたところで本題

真夜「まずは....そうね、」


【安価です。
1.真夜「昨年の4月の終わり、歩夢さんは何があったか覚えていますか?」
2.真夜「歩夢さんを第一高校に冬休み明けから通わせることになりました」
安価下。】

1


>>194 1.真夜「昨年の4月の終わり、歩夢さんは何があったか覚えていますか?」】

真夜「昨年の4月の終わり、歩夢さんは何があったか覚えていますか?」

昨年の4月?

中学3年生になって、3年目にも関わらず誰も私に話しかけてくれることなく、ただただ時間だけが過ぎていったあの虚しい──

雪乃「もう年変わってるからね」

.....高校1年生の4月の終わりかぁ

温泉旅行行って、達也くんと付き合うことになって、リア充として学園生活を謳歌しようと思った矢先に殺人の容疑をかけられて、学校退学になって、就職して

齢15,6年の中で最も人生の転機が訪れた2095年の4月

で、何が問題なの?

問題だらけでどれが真夜さんの求める答えなのかは定かでない


真夜「警察に追われることになった件」

歩夢「あぁ....あれですか」

真夜「歩夢さんは殺人容疑で指名手配されたわけだけれど、問題は歩夢さんが殺したとされている人。その人間には外傷が無かったのよ」

真夜「でも、確かに死んでいた。解剖に通してもどうして死んでいるかが分からない。死因が分からない以上どうにも出来ず死体はずっと保管されていたんだけど、先日その死体は跡形もなく姿を消したらしいわ」

歩夢「誰かが持ち運んだ....?」

達也「それか証拠が残らない処理をしたか」

その中、深雪ちゃんは小さな声でポツリと独り言を前提とした呟きをする

深雪「......葉月」

真夜「勘?」

深雪「はい」

真夜「.....深雪さんに言う通り、葉月が半年間に渡り現実味のありすぎる幻術で死体を作ったと私も考えているわ。こんなことが出来るのは雪乃を除いたら葉月しかいないから」

雪乃「私はやってないからね」

真夜「誰も疑ってないわよ」

雪乃「真夜が素直になった.....」

真夜「...話を戻すけど、歩夢さんに殺人容疑をかけたのは葉月でほぼ間違いないわ。葉月を捕まえれば歩夢さんの容疑も晴れるし、捕まえられなければ一生社会的に生きていくことも出来ない」

一生社会的に、って言ってもそもそも私の人生が3,4年なのでそこまでパッとしない

社会から追放されて困ること....ねぇ


真夜「まぁ葉月についてはこれから考えればいいわ。それで次の話だけれど、休み明けから国立魔法大学付属第一高校に歩夢さんを通わせようと思っています」

歩夢「....うん?」

深雪「歩夢は退学扱いにされていますけれども」

真夜「歩夢さんには香夜さんの姿があるじゃない」

深雪「.....可能かもしれませんが、編入を想定していない魔法科高校では結城という姓は.....」

真夜「結城じゃなくて四葉にすれば問題ないでしょう」

問題大有りだよ.....

第一に私は魔法を使えない

第二に四葉姓で学校に通うこととなった際に向けられる軽蔑の視線

とてつもなく苦痛な学園生活が待っていそう

深雪「そこまでして歩夢を編入させたい理由があるのですか?」

真夜「それは答えられないわ」

深雪「.....」

威圧を受け、深雪ちゃんは声を殺して少し俯いた

真夜「歩夢さんに聞きます。編入してみる気はありますか?」

真夜さんが真剣な顔で言うことだから大事なことなんだろうけど、寿命を自ら縮めに行くのは....

真夜「遠慮はいりませんよ。駄目なら駄目で、構いません」

メンタリズム的なアレで了承を誘導されているような気がしないでもないけど、私は私の意思を貫く


【安価です。多数決。23時30分まで
1.四葉香夜として通う
2.断る

2の場合でも東京に行くことになります(学校には通いません)。
安価下。】

2

1

>>198>>199で1:1だったので、安価下を採用したいと思います。

1.四葉香夜として一高に通う
2.断る
安価下。]

1


>>201 1.四葉香夜として一高に通う】

歩夢「条件があります」

真夜「いいわよ」

歩夢「.....まだ言ってませんが」

真夜「私が歩夢さんを....いえ、香夜さんを学校に通わせる訳を聞きたいのでしょう?」

歩夢「...はい」

真夜「北山雫さんと交換留学で来るアンジェリーナ・クドウ・シールズが達也さんと深雪さんの監視を目的として接近するはずよ。灼熱のハロウィンの容疑者でね」

日本が秘匿している戦略級魔法の使い手を探りに来た、っていうことね

でもそこに私関係ある?

真夜「そのアンジェリーナ・クドウ・シールズはスターズの総隊長、アンジー・シリウスなのだけれど、」

深雪「シリウスっ!? .....失礼致しました」

あのスターズの総隊長自らが監視に来ることに驚き、深雪ちゃんは声を大きくして聞き返し、大声をあげたことを恥じて詫びる


真夜「えぇ、そのシリウスよ。まさかアメリカの戦略級魔法師が出てくるなんてねぇ」

雪乃「まぁ、リーナは抜けたところがあるから達也くんや深雪ちゃんなら簡単に誤魔化せると思うよ。バレる時は紐を解くように次々と暴かれるけど」

歩夢「知り合いなの?」

雪乃「彼女が九島烈の弟の孫ということもあって数年前にね」

真夜「そして大人気なくボコボコにしたのよね」

雪乃「う....だってあれはリーナが正々堂々と、って言ってたから手加減するのも.....」

模擬戦でそのアンジェリーナさんを言葉の通り年季の差を見せて敗北させたの?

今後母親を見る目が変わるかもしれない

真夜「話を戻すけど、シリウスは葉月を倒すための味方になってくれるはずよ」

歩夢「協力してくれる....と?」

真夜「.....」

夜永「占いとか」

真夜「そう、占い。占いでそういう暗示が出たの。眉唾だから確証はないけど、信じることから始まることも世の中にはあるのよ」

取って付けたような嘘に私だけじゃなく達也くんや深雪ちゃんまでもが微妙な表情をしている

でも、隠すつもりがないようにわざと嘘をついて仕向けているようにも捉えられる

真意については後で教えてくれるのかな

私の寿命を大幅に縮めたことの罪悪感を誰よりも持っているのだから、更に寿命を縮ませるような行動を取らせるにはそれなりの理由があるはず


真夜「あとは....CADね。事務室に預ける校則でしたよね?」

深雪「生徒会役員と風紀委員以外はそうなっております」

真夜「面倒ねぇ....。昔はそんなことなかったのに」

真夜さんの視線は30年前の高校を知っているお母さんと夜永さん、そして私に向けられる

雪乃「たかが喧嘩で魔法を使って大惨事、っていうのも困るから仕方ないんじゃない?」

夜永「30年前も何件かありましたからね」

そういえば確かにCADの携帯は許可されている、なんてものではなく魔法師としてCADの携帯は当たり前みたいなところがあった

むしろ持ってないと怒られるくらいの意識の高さ

昔と比べて防犯の技術が発達したから今のような事務室に預ける制度が実施されたのかもしれない

真夜「本当に異常な事態でなければCADを使う機会なんてほとんど無いんでしょうけど、念のために達也さんと深雪さんの権利を乱用しましょうか」

達也くんと深雪ちゃんはそれぞれ、自身のCADに加えて1つずつ携帯することとなった

真夜「名前、CAD、戸籍は適当にどうにかするとして、問題なのは人物像ね。先生、出来ていますか?」

夜永「はい」

夜永さんは1枚の紙を机の上に差し出した

そこには名前であったり誕生日、血液型、両親の名前などが綴られていた


名前はもちろん四葉香夜

誕生日は7月7日。....七夕? 何かの伏線?

血液型はAB型。そういえばAB型って10人に1人らしいけど本当なのかな

そして最大の問題、両親の名前

母:四葉真夜
父:君影綾人

これにより最も変化が及ぼされたのはお母さん

雪乃「これは一体どういうことかしら、真夜」

裏表が一緒になってからはお嬢様口調も程々に、私のよく知るお母さんになったのだがこれでは逆戻りだ

真夜「相思相愛なのだし、構わないでしょう」

雪乃「例えそうであっても君影綾人は既婚者なのだけれど」

真夜「離婚させることくらい容易いわよ」

雪乃「......」

真夜「......貴女らしくないわね。父親を綾人さんにすれば在学中の隼人さんとの繋がりがバレてしまうことに気付かないだなんて」

雪乃「.....あ、そっか」

真夜「はぁ....心配して損した」

一触即発な雰囲気から一転して、お母さんは心配してくれた真夜さんに笑みを向ける

真夜「父親のところは適当に変えておくわ。そっちも架空の人物にしておくから安心して頂戴」

両親の問題も解消(?)され、

真夜「詳しい事は後で歩夢さんに説明するとして、達也さんと深雪さんが居るこの場で話すことはこれくらいね」

留学生に細心の注意を払い、四葉香夜の存在を認める

その2つさえ気をつければどうにでもなるらしい

真夜「歩夢さんはこの後応接室に来て下さい。お話は以上です」

そしてこの後、どうして四葉香夜を一高に入学させようとしたのか、その真意を訊けるようだ

アンジー・シリウスが大きく関係してるんだろうなぁ



ー応接室ー

真夜「まずは....ごめんなさい。貴女に魔法を使わせることになってしまって」

歩夢「授業で使う魔法程度だったら影響は少ない、とかないんですか? 模擬戦とかはともかく、授業から逃れることは出来ませんので」

真夜「先生曰く、授業で使う魔法程度なら身体に全く影響は無いみたい。万が一魔法を使って戦うようなことがあれば先生から再幻をかけて貰って」

歩夢「再幻....」

昼間の模擬戦で10分間に限り10月30日まで私の身体を戻した魔法のこと...なのかな

真夜「それで、さっき話していた人物像ですけれど、追加で考えてある設定があります。それは、病弱です」

歩夢「病弱?」

真夜「えぇ。もし体調を崩した時の理由や急な編入の理由もそれでどうにかなるはずです」

確かに病弱であれば病院暮らしが長かった、とかで体調を崩した際や急な編入の理由は皆が納得する可能性の方が断然に高い

真夜「学校での暮らしはお任せしますが、四葉姓を名乗っている時点で友人が出来ることはほぼ無いでしょうね」

歩夢「友人無しでも中学卒業出来ましたから大丈夫です」

ついに経験が物を言う時がやってきた

まずは本と携帯端末とイヤホンは必須

イヤホン何処やったっけ.....実家かな?

真夜「私から話すべきことはこれくらい。何か訊きたいことはありますか?」

歩夢「香夜が一高に編入する真の理由について」

真夜「それはさっき話した通り、シリウスを味方に引き入れることです」

歩夢「....わかりました」

真夜「もう訊きたいことはない?」

歩夢「はい」

真夜「.....歩夢さんには苦労をかけるわね」

歩夢「いえ、私は別に.....」

真夜「何かあったらすぐに仰って下さい。協力は惜しみませんから」

そう言って、真夜さんは応接室から退室した

3度目となる高校生活

1度目は1ヶ月に満たず退学にされ、

2度目は30年前に2週間、

そして今回

3ヶ月....持つかなぁ


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:リーナの暮らすマンションに住む
偶数:高級マンション
安価下。】

そらっ


>>207 2:高級マンション】

ー1月9日ー

香夜「ふぅ.....」

鏡に映るのは君影歩夢でもなければ結城香夜でもない美人な女の子

メイクしたのではなく、仮装行列で容姿や声を変えている

一時的な変身なら光学系の魔法で憂い無しなのだが、私が編入する学校のA組には深雪ちゃんにも負けない光に強い光井ほのかちゃんが在籍している

変身がバレて一大事は御免だ

ということで夜永さんがささっと作り上げた魔法による身体への影響を可能な限り抑え、なおかつ副作用が小さな睡眠を誘うだけの薬を飲んで仮装行列を発動させた

バッチリ四葉の人間の容姿に恥じない美しい姿を目に焼き付け、時計を確認するともうそろそろ家を出なければならない時間となっていた

無駄に広いマンションの一室を早足で歩き、予め玄関に置いてあった鞄を持って外に出る



ー職員室前ー

冬休み明けからこの学校に編入する人間は2人

1人、四葉香夜

1人、アンジェリーナ・クドウ・シールズ

2人は始業式前に職員室で顔を合わせていた

リーナ「.....貴女がヨツバカヤ?」

香夜「そう...です」

リーナ「ふーん、そう」

香夜「.....」

まさかアンジェリーナ・クドウ・シールズが元旦に日枝神社に居た変な格好をしている金髪碧眼さんだとは予想しておらず、私は焦りを感じていた

このギスギスとした空気をどうしようかと悩んでいると、スーツ姿が似合う女性が近づいて来た

すると隣の彼女が「げっ」という表情をする

リーナ「どうして貴女が.....」

???「どうしてだろうね。あ、時間ないんだった。リーナ、話はまた後でね」

???「貴女が香夜さんね。初めまして、教育実習生の結城夜永です」

まさか苗字を結城香夜から借りて、既に3年以上の教師を務めている夜永さんが教育実習生として一高に潜入するとは.....

香夜「.....初めまして」

控えめに挨拶を返すと、教育実習生の夜永さんは私たちを応接室に通した

夜永「2,30分くらいここに居て。朝のホームルームの時に貴女達を紹介するから」

リーナ「ちょっとヤエ! 説明を.....」

彼女の発言の最中でパタリと扉が開く音と共に夜永さんの姿は消えた

リーナ「もうっ....。っていうかヤエってワタシの2つ上だから3年生だったはずだけど....。実習生になるのって普通大学に行ってからじゃないの?」

納得いかない! という雰囲気を醸し出しながら独り言を呟くどころでなく、多分私にぶつけている

いつもの私ならここで何かしらの反応を見せていたはずだが、今の私は四葉香夜


鞄に入れてあった1冊の文庫本を取り出し、本の世界に逃げる

リーナ「.......」

そして彼女は私の読書している姿を見つめる

.....なかなかの不快感

香夜「何か....?」

リーナ「...いえ、読書をする姿が様になっていたから.....」

香夜「はぁ....」

ため息ではなく「はぁ、そうですか」という声を漏らす

リーナ「ヨツバさんは、」

香夜「香夜でいいですよ」

リーナ「じゃあカヤ、ワタシのこともリーナって呼び捨てにしてくれて構わないわ」

香夜「分かりました」

リーナ「あと敬語もなくしてくれると嬉しいわ」

香夜「.....分かったわ。よろしくね、リーナ」

リーナ「えぇ」

香夜「......」

リーナ「.......」

自己紹介後の話題がなく、応接室には沈黙が訪れる

うーん....


【安価です。
1.香夜が編入してきたことについて
2.リーナが留学してきたことについて
3.その他
4.省略
安価下。】

1


>>211 1.香夜が編入してきたことについて】

リーナ「ねぇカヤ、ワタシが言うのもなんだけど貴女はどうしてこんな微妙なタイミングで編入してきたの?」

まさかリーナの方から話題を振ってくれるとは...

なかなか気の利く子なのかもしれない

リーナ「あ、いえ、答えられないことだったらいいのよ? 貴女はヨツバだし....」

香夜「私たちの素性を知ることは危険ってことかしら?」

リーナ「....正直なことを言ってしまえばね。それで、教えてくれるの?」

香夜「詳しいことは言えないけど少しなら」

リーナ「えっ、いいの? 冗談で言ったんだけど....」

香夜「構わないわ。....私は、病気なの」

リーナ「病気....それはヨツバの医療技術を持ってしても治らないの?」

香夜「えぇ」

リーナ「....そう。悪いことを聞いちゃったわね」

香夜「これで魔法の実習授業をサボれるなら安いものよ」

リーナ「ふふっ、カヤって意外とズボラなの?」

リーナの質問に私は言葉ではなく表情で返事をする

深窓の令嬢を意識して、と夜永さんから言われていたけどリーナと話しているとかなり君影歩夢の素が出てしまう

コミュニケーション能力の高い彼女にリードされているおかげなのかな

リーナ「ヨツバの人間だから噂通り怖い人かと思っていたけれど、そうでもないのね」

香夜「噂....やっぱりそういう目で見られてるのね。それも、外国の方にまで」

リーナ「あ....ご、ごめんなさい」

香夜「いえ、そういう意見を聞ける機会も今までなかったし、私は気にしてないわ。....意見を聞いたところで私にはどうしようも出来ないんだけどね」

リーナ「.....そう」

目の前の彼女は申し訳ない気持ちを拭いきれないような表情をし、俯いた

それに対して私は何もできず、その姿から目をそらす


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:夜永も混ざって会話
偶数:ホームルーム
安価下。】

ほい



>>213 1:夜永も混ざって会話】

悪い空気が立ち込め、どうしようかと悩んでいると応接室の扉が開かれた

その先の居たのは教師でもなければ医者でもない、教育実習生を名乗る18歳

ごく自然な流れで私の隣に座り、「ふぅ」と息を吐く

夜永「香夜さん、リーナとは話した?」

香夜「少し」

夜永「そう。リーナ、香夜さんと話してみてどうだった?」

リーナ「そんなことよりなんで貴女がここに居るのよっ! まずはそっちを説明して!」

夜永「先生になりたいなぁ、って思ったから。ダメ?」

リーナ「ぅ....い、いえ....人の人生に口出しするつもりはないけれど....。あ、そうだ。ユキノの娘、アユメ...だっけ? 殺人容疑で指名手配されてるって本当?」

そういえばお母さんと知り合いなんだっけ

大人気なくリーナをボコボコにしたらしいけど


夜永「殺人容疑を掛けられたっていうのは本当。でも、歩夢さんは殺してないよ」

リーナ「ハメられたってこと?」

夜永「そうなるね」

リーナ「アユメに恨みがあるなら正々堂々戦えばいいのに。情けないわね」

夜永「リーナは今も昔も変わらないわね」

リーナ「.....? それってどういうこと?」

夜永「ん、もうそろそろ良い時間になったから行こっか」

リーナ「....やっぱりヤエは気に入らないわ」



ー1-A教室ー

半年以上ぶりとなる私が元々通っていた教室は新鮮で、見覚えのある...というか記憶に残っている顔も幾つかあった

深雪ちゃんやほのかちゃん、あと....も、森...森崎くんだっけ? 入学早々に二科生を馬鹿にしたからあの人が瞬殺した人

懐かしいなぁ.....

担任教師「教育実習生の結城夜永さんです」

担任の先生がまず教育実習生として潜入した夜永さんを紹介し、ありきたりな挨拶をすると男子だけでなく女子の間でも美人やらスタイル良いなどの高評価の声が上がる

そしてその次、

担任教師「北山雫さんと交換留学でアメリカから来たアンジェリーナ・クドウ・シールズさんです」

こちらもまた流暢な日本語で挨拶をすると、夜永さんにも負けない声が上がった

しかし、問題は次

担任教師「こちらは...四葉香夜さんです」

担任の先生ですら四葉の名前を告げるのに躊躇っている

それだけ悪印象があるってことか....

結構ショックを受けながらも、1度30年前に経験済みな当たり障りのない普通の挨拶をする

すると、聞こえてきた声は「四葉の....」であったり「噂、本当だったんだ」みたいなあまり歓迎されているとは捉えにくい声

この声を聞いた後ろの方の席に座る深雪ちゃんは俯いている

ほのかちゃんはこのクラスの雰囲気に居心地の悪さを感じているような表情でアタフタとしている

そんな中でもホームルームの時間には限りがあるということで担任の先生は席を指差して指定した

私、四葉香夜は君影歩夢が元々座っていた席

リーナは...確か、雫ちゃんの席

私はため息混じりの息を吐いて、席に座る


【安価です。魔法実習の授業があるかどうか。コンマ1桁
奇数・0:ある
偶数:なし(お昼休みになります)
安価下。】


>>217 3:ある】

国立魔法大学付属高校のカリキュラムは午前3時間、午後2時間の合計5時間の週6日制(土曜日は午前のみ)

一般高等教育科目に加えて魔法科高校らしく魔法教育に関する教科・科目があるおかげで修学旅行などの行事もなく、勉強尽くしのハードな学生生活

また、授業中の私語や居眠りなんて物は特に一科生には見られない

これは競争心というより、置いていかれることを恐れた結果のようだ

だが、睡魔に襲われる人が居ないわけではない

例えば、私とか

香夜「.....ん、.......ん」

何度も舟を漕ぎ、今にも眠りそうな私の様子を視界にとらえた隣の席の首席は元次席に対して小さなため息を吐く

だって退屈だから仕方ないよね

1番後ろの席なのを利用して読書でもしてやろうかと思った直後、授業終了の鐘が鳴り響く

やったぁ! 待ちに待った休み時間だ!

と、中学時代を思い出す心境の変化に自身でも驚きを隠せないまま鞄の中から1冊の本とルーズリーフを取り出す

表紙に書いてある活字は英語

表紙に描かれている絵は洋画

そして、中身は全部英語

この人離れが激しい姓を利用した私にしか出来ない楽しみを行使する


リーナ「な、何してるの.....?」

香夜「翻訳」

リーナ「....それ、全部?」

香夜「そうだけど....何か問題あるかしら?」

リーナ「い、いえ....」

30年前に深夜さんに向けられたような視線を感じながら1単語ずつ翻訳していく

1人ぼっちで読書をすると周りからは「あっ、話す人居ないんだな」や、清い心を持った人でも「あの子、あの本にハマってるんだな」などと思われがちだが、これは違う

作業に忙しいと思わせることで孤独であることを思わせない

ミスディレクションを自然な流れで発動させるこの技術

完璧な出来に自画自賛をしていると、

深雪「楽しんでいるところ申し訳ないけれど次、魔法実習よ?」

.....私からどれだけ楽しみを奪えば気が済むのか



ー実習室ー

久しぶりに訪れる実習室も何も変わっていなかった

置かれている器具も数ヶ月前と同じ、というよりは偶然体験したことのある器具を使った実習をするようだった

夜永「リーナと香夜さんに手本を見せるね。この中で1番上手な人は深雪さんでいいのかな?」

暗黙の了解の如く、実習室に居る全員が深雪ちゃんに視線を送る

夜永「じゃあ深雪ちゃん、私の相手をして貰える?」

深雪「私でよければ」

2人は3メートルほどのポールを挟んで向かい合う

ポールの上には直径30センチの金属球が載っている

実習の内容は同時にCADを操作して中間地点に置かれた金属球を先に支配する、という魔法実習の中でもシンプル且つゲーム性の高いもの

シンプルだからこそ、勝負をする2人の単純な力量差が露わになる

これは30年前に深夜さんとやった物と同じ物で、当時担当教師だった夜永さんは当然ルールを知ってるし、私も知ってる

つまりこの場で知らないのはリーナだけ

リーナに向けたルール説明を兼ねた実演は一瞬で勝敗が決した


ほのか「嘘.....」

目の前の出来事が信じられない呟きとほぼ同時に同じような声が続々と上がる

これまで深雪ちゃんは同級生をまるで寄せ付けず、新旧生徒会役員に加えて風紀委員長が交互に相手を買って出たが彼女は勝利した

しかし、今この瞬間彼女は敗北した

夜永「リーナ、わかった?」

リーナ「えぇ」

夜永「よかった。ありがとね、深雪ちゃん」

深雪「.....はい」

深雪ちゃん自身も過自信を持っていた訳ではないんだろうけど、初めての敗北に驚いてる様子は隠しきれていない

夜永「じゃあ何か分からないことがあったら私に声かけて」

パンパンと手を叩いて、演習の開始を合図する

この演習はペアで行う物

続々と2人組が作られている

や、やばい....人離れが激しい姓は時にメリットをもたらし、デメリットをもたらす

んー....マズイことになったなぁ


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:リーナが相手
偶数:深雪が相手
安価下。】

とぉ


>>222 9:リーナが相手】

リーナ「カヤ、ワタシとやらない?」

唯一四葉姓を持つ私に近づいてきてくれる雰囲気の明るい留学生に助けられた

香夜「それはいいけれど....私、そこまで強くないわよ?」

リーナ「今朝言ってたアレのせいで?」

香夜「えぇ」

リーナ「別にいいわよ。ただし、勝ちは勝ち、負けは負け、だけどね」

リーナの了承も得たところで私とリーナは中心に金属球が載ったポールを挟んで向かい合う

香夜「カウントは任せるわ」

リーナ「わかったわ。....スリー、ツー、ワン」

実習用のCADは据え置き型・パネルインターフェイス

リーナの「ワン」のカウントと同時に私と彼女は揃ってパネルの上に手をかざす

リーナ「GO!」

スタートの合図と共に私は「無理をしない範囲」を意識しながら指をパネルに当てる

対して、リーナは力強く掌をパネルに叩きつける

対称のスタートだったが、決着はすぐに、あっさりと着く

金属球はゆっくりと、私の方へと転がる

予想出来ていた事態に私は肩をすくめた

しかしリーナは満足のいかない不機嫌そうな表情をしている

リーナ「......」

「相手は病気だからいくら名家の生まれであっても高望みは出来ない」という念が彼女自身を抑えている

嘘ではない病弱という設定が便利に、働いている

香夜「リーナ、ごめんなさいね。私はこれくらいの実力しか出せないの」

今出した実力は言うてもこの学校の1年生の中でもトップ2,30くらいに入るだろう

だが、リーナは首席の深雪ちゃんに匹敵する実力を持っている

1位と2位にはかなりの差があるのに、1位と2,30位となると天と地の差と評しても大袈裟でない

怒られることも覚悟してリーナの発言を待っていると、

リーナ「.....もう1回、やりましょう」

予想外の申し出にため息を吐きそうになったが堪えて、頷いた

次はさっき以上の力を出すために、四葉香夜という変装具の下に居る君影歩夢の目の色を碧色へと変える

これによりさっきとは比べ物にならないほどの力を出せるし、これでリーナも満足してくれるだろうと確信してリーナの向かいに立つ


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:香夜の勝ち
偶数:リーナの勝ち
安価下。】

よい


>>224 9:香夜の勝ち】

先ほどと同じく、リーナがカウントを始める

この間に私がしたことは、何度かの深呼吸

勝てなくても、拮抗出来れば彼女は満足してくれる

その一心で、挑む

リーナ「GO!」

スタートの合図と共に私は身体を傷つけない範囲、かつ目を使った状況下でありったけの力を振り絞った

1戦目で勝利したリーナも決して慢心せず、真剣に望んでくれている

眩い想子の光輝が対象となった金属球の座標で重なり、爆ぜる

そして、

リーナ「.....」

彼女は沈黙の後、「ふぅ」と息を吐いた

コロコロとゆっくりあちら側へと転がる金属球の姿を確認もままならず、私は何度か咳き込む

リーナ「無理させちゃったようね」

香夜「これくらいなら大丈夫よ。....多分」

リーナ「そう。安心したわ」

その字の通りホッと胸を撫で下ろし、安堵をつく

そしてこの後何度か勝負をし、最後にはリーナが2回勝ち越した形で、実習の時間は終了した


ーお昼休みー

リーナ「カヤ、ミユキから食堂で昼食を誘われてるんだけど一緒に行かない?」

退屈な授業が終わるのとほぼ同時にリーナから嬉しい申し出があったが、

香夜「私は遠慮しておくわ。私が行くと....美味しいご飯も美味しく食べられないかもしれないし」

四葉姓を盾に、重りにして断った

リーナ「考えすぎだと思うけど....。それじゃあカヤは何処で食べるの?」

香夜「誰も居ないところよ」

リーナ「?」

首を傾げるリーナを置いて、いくつかの荷物を持って教室を出る


ー屋上ー

第一高校の屋上はちょっとした空中庭園となっていて、瀟洒なベンチも置かれている人気スポット

だがこんな真冬に屋外に来るような人間は余程の物好きでない限り居ない

寒気にだけ耐えれれば、私だけの屋上

しかしその寒気もかなり強いもので、ベンチに辿り着くまでの数十歩の間ですら身体の芯まで冷やす事を免れない

香夜「っ.....」

恐る恐るベンチに腰を下ろして、膝掛けを膝に被せてその上に今朝作ったお弁当を広げる

......30年前ならもうそろそろ雪乃さん達が....

屋上にある唯一の扉に視線をやるが、開かれる気配は全くない

私は孤独に、冷たい空気と風に耐えながら食事を摂る


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:1人
偶数:リーナが来る
安価下。】

o


>>228 5:1人】

生徒会役員や風紀委員なら校内でのCAD携帯は認められているので真冬の屋上でも過ごせるだろう

しかし私は名家生まれという設定ではあるものの、一般生徒に変わりない

従って、魔法で冷気の遮断が出来ない

寒気を防げないまま冷たくなったお弁当を食べて、読書をする

.....なかなかキツイなぁ

これから毎日こんな生活が続くと考えただけで憂鬱

何処か室内で誰にも見られない場所を探すべき....かな

そうでもしないと体調も頻繁に崩すことになりそうだし

ひとまず今日のお昼休み、残り20分間は必死に耐えるしか私に道はない



ーお昼休み終了後ー

ようやくお昼休みも終わり、教室に戻るなり美しい金髪を靡かせる留学生が私のもとに駆け寄ってきた

リーナ「カヤっ!? 何処で食べて....こんなに冷たくなって....もしかして屋上で食べてたの....?」

カヤ「そう...だけど?」

リーナ「.....っ! 病気なのに寒い外でわざわざ食べるだなんて.....」

信じられない、という顔をし、後退る

香夜「1人きりになれる場所なんて屋上くらいしかないから。でも、明日からは何処か部屋を.....いっ....」

強く、感情的に・を叩かれる

叩かれた場所はジンジンと痛み、熱い

クラスメイトの皆は私たちに注目している

深雪ちゃんやほのかちゃんも含めて

リーナ「今後そんなバカなことをしたら次は本気で怒るわよ。もう、自分を傷つけないで」

香夜「.....でも、」

リーナ「貴女がヨツバの生まれであろうと、ワタシは気にしない。もし明日、また屋上で昼食を食べるならせめてワタシに一声かけて。ワタシも一緒に屋上で食べるから」

香夜「リーナ.....」

リーナ「話は終わりよ」

言いたいことを全て言い切った顔をして、一歩一歩強く、席へと戻った


深雪「か、香夜....」

深雪ちゃんの言葉を振り切って、私も席に着く

本を開いて、読んでいるフリをして、リーナに言われたことを思い出す

.....私にあんな感情強く言ってくれる人なんてそうそう、ううん、全く居なかった

彼女は私に無意識かどうかは知らないけど、君影歩夢のままでは一生気付けなかったことを教えてくれた

リーナ....

チラリと彼女の方を見ると、一瞬だけ目が合う

リーナ「!」

すぐに彼女は伏せてしまったが、何を考えていたかは大体把握出来た

明日のお昼に向けて今日の放課後からでも空き教室を探した方がいいみたい

リーナをこれ以上心配させないためにも


【安価です。放課後。コンマ1桁
奇数・0:七草真由美に呼ばれる
偶数:校内を歩く
安価下。】

ほい


>>232 2:校内を歩く】

まるで恋をしているかのようにリーナのことを考え続け、ハッと我に戻ったのは5時限目の終了の鐘と同時だった

教材が入った端末は1時間前の科目の物を表示している

私、休み時間もずっとこうしてたんだ.....

周りの人に「さっきからあの人一切動かないけど何考えてるんだろう」とか思われていたに違いない

まぁいいか。どうせ私に話しかける勇気は彼ら彼女らには無いだろうし

さてさて、リーナに怒られないためにも空き教室を探しますか


放課後の廊下は友達と帰宅しようとする人や部活の待ち合わせをしている人で溢れかえっていた

そんな青春を満喫している人達を避けて通ろうとしたのだが、逆に道を開けられてしまった

廊下の中央だけ人口密度が0で、端の人口密度はとてつもない事になっている

.....凄く気分が悪い

ここまで畏怖されるような存在だったの....?

香夜「あの.....普通にして頂いて.....」

咄嗟に出てしまった小さな呟きは私の存在によってピタリと止まった静かな廊下中に行き届いていたはずなのだが、何も起こらなかった

もう....散々だ


【安価です。コンマ1桁
1・5・8・:リーナ
2・6・9:深雪
3・4・0:空き教室を見つけた後、図書館に寄って帰宅
7:達也・幹比古・エリカ・レオ・美月とすれ違う
安価下。】


>>224 6:深雪】

急ぎ足であの廊下を抜け、空き教室を探そうと計画的にクラス部屋はもちろん実習室のような部屋が密集していない階へとやって来た

見渡す限り、この階に人は居ない

つまり手当たり次第に部屋に入っても怪しむ人が居ないということ

少し面倒だけど明日から快適なお昼休みを過ごすための先行投資として、時間を割く


十数分後、ここ数ヶ月どころか数年ほど全く使われていない部屋を見つけた

床には埃が被っていて、今入ってきた私以外の足跡はない

うん、ここでいいかな

雨風は当然防げるし、多分暖房器具も作動するはずだし

床や机、椅子の掃除は....

部屋を見渡すが自動で掃除してくれそうな機械は見当たらない

どうせ誰も見ていないんだし、一肌脱ぎますか

機械任せではなく人間の手で、細かく掃除を始めようとした時、背後に人の気配を感じた

私も良く知る、深雪ちゃんの気配を

彼女は空き教室に入り、扉に次いで鍵も閉める

深雪「お昼休み、本当に屋上で食べていたの?」

香夜「.....うん」

深雪「....本当、馬鹿なことをするんだから。リーナと同じことを言うけれど、もうそんなことは絶対にしないで」

香夜「明日からはこの部屋を使うから大丈夫だよ。室内だから暖かいし」

深雪「....」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:深雪「明日から私も一緒にここで食べるわ」
偶数:深雪「....ごめんなさい。悲しい思いをさせてしまって」
安価下。】


>>236 3:深雪「明日からは私も一緒にここで食べるわ」】

深雪「明日からは私も一緒にここで食べるわ」

香夜「....気持ちは嬉しいけど、達也くんとかほのかちゃん達が怪しむんじゃない?」

深雪「少し用事があるって言えば大丈夫よ」

香夜「これから3ヶ月、毎日用事があるって言うの?」

深雪「....歩夢、明日からここで食べるわ」

香夜「真剣に言い直してもダメなものはダメ。深雪ちゃんは今ある環境を維持して。友達を大切に、ね?」

説得力のある筋の通った説得に深雪ちゃんは何も言い返せないようだったが、代わりに私を優しく抱きしめた

そして、言葉を紡いだ

深雪「歩夢、ハッキリ言うわね」

深雪「私の中で最も大切なのはお兄様を除けば歩夢、貴女なの。だから....歩夢が苦しむ姿は見れない。例え香夜の姿であったとしても」

香夜「.....後悔しない?」

深雪「歩夢を守れるなら後悔は無いわ」

真っ直ぐな目で見つめられては、断れない


香夜「わかった」

深雪「じゃあ.....!」

香夜「でも、1日置きね。それが妥協出来るライン」

深雪「.....わかったわ。1日置きでいい」

1日置きでも怪しまれそうだが、毎日よりはマシなはず

しかしだからと言って2日置きと言えば彼女はこの妥協案を受け入れなかった

絶妙な加減。私も深雪ちゃんの扱いに慣れてきた

深雪「今から掃除するの?」

契約が成立したところで深雪ちゃんは私を離し、三歩ほど後ろへと下がり、話し易い位置関係になり訊いてきた

香夜「流石にこのままだと美味しくご飯を食べれそうにないから」

深雪「パパッと片付けちゃいましょうか」

香夜「生徒会の仕事は?」

深雪「....なんとかなるわよ」

香夜「掃除くらい私1人でも出来るから。生徒会に行ってあげて」

深雪「.....お願いしてもいい?」

香夜「これくらいいいよ」

深雪「じゃあ....お願い。香夜、また明日ね」

そう言って、この部屋の付近に誰も居ないのを確認した後に駆け足で廊下を駆けて行った

よっぽど生徒会に遅れそうだったのか、既に遅れていたか

さて、私は掃除を、っと


【安価です。帰宅後。コンマ1桁
奇数・0:真夜から連絡
偶数:数日経過
安価下。】

ui


>>240 6:数日経過】

アンジェリーナ・クドウ・シールズと結城夜永はセンセーショナルなデビューを飾った

リーナは容姿はもちろんのこと、魔法の面でも深雪ちゃんと似た者として評され、益々A組の人達が他のクラスの者から恨まれる対象となった

そして教育実習を称してやって来た夜永さんは容姿と魔法の技術を評価されるだけでなく有能かつ話し易い人として生徒だけでなく先生方からも絶大な信頼をあっという間に得た

生徒からは魔法科高校らしく魔法の相談、それから高校生らしく恋愛の相談や勉強の相談を

先生方からはお仕事の手伝いを夜永さんにお願いする人まで出てきて、軽く問題になったらしい(ちなみにお願いした仕事は全て完璧にこなされていたとのこと)

そんな中で冬休み明けから加わった一高の生徒の1人、四葉香夜については「意外」という単語が定着するようになった

意外に弱気

意外に庶民っぽいところがある

意外に流行りに敏感(本に限る)

意外に魔法がそこまで上手な訳でもない(学年トップと比べると)

など

貶されているような気がしないわけではないが、編入初日と比べれば大分落ち着いてきた

普通に廊下も歩けるようになったし、「あれが噂の....」という陰口も一切聞かなくなった


少しだけだが過ごし易い環境となり、落ち着いてきた頃、世間を悪い意味で賑わせる1つのニュースが嫌でも目に留まるようになる

それは、猟奇殺人事件

被害者は既に7人も出ており、全員がかすり傷以上の傷はなく、そして血がそれぞれ約1割ほど抜かれている

メディアではこれを『吸血鬼』の仕業と題して、朝のニュースは何処を見ても吸血鬼騒動の話で持ちきりだった

吸血鬼....か

治癒能力を持っていたり太陽の光に弱かったり鏡に映らない、などの特徴を持ちフィクションでよく敵として現れるが、そんな非現実的な妖魔の存在は居るのだろうか

倒す方法は太陽の光に当てるか、太陽と同等のエネルギー持った何かで倒すかの2択に限られてくる

.....まぁ、私には関係ないこと

吸血鬼事件の騒動は全て深夜帯の出来事

まず夜に外に出ることなんて早々ないし、このようにメディアに取り上げられればより一層外に出る気が失せる

私には全く関係の無い事だと、願う


【安価です。学校で。コンマ1桁
奇数・0:真由美・克人に呼ばれる
偶数:特段何もないまま放課後
安価下。】

とぉ


>>243 3:真由美・克人に呼ばれる】

ー1月15日(日)ー

日曜日は唯一の休日だというのに私は学校に来ていた

その理由は、七草真由美と十文字克人の両名に例の吸血鬼について話し合いたいとのことで連絡を受けたから

七草真由美は七草家の代表として

十文字克人は十文字家の代表として

そして私、四葉香夜は四葉家の代表として指定された他に誰もいない部室にやって来た

両名は既に待っており、後輩の自分が最後の1名として入室した

香夜「お待たせしてしまい申し訳ありません」

真由美「いいのよ。私たちの都合で呼んだんだから」

これ以上の言葉は紡がず、小さく頭を下げる

真由美「さて、メンバーも集まったことだし話し始めますか。まず四葉香夜さん、吸血鬼騒動については?」

香夜「メディアに取り上げられている程度なら」

真由美「.....メディアに取り上げられている程度? えっと...貴女のお母様、四葉家の当主からは....」

香夜「特にそういうのは....」

真由美「放任主義なのかしら.....」


訊けば教えてくれるんだろうけど、訊かなければ教えて貰えないまま

夜遅くに外に出るな、という連絡すら来ていない

最も最近であった連絡といえば学校生活について聞かれたり、最近のあちら側の夕食が毎日パンだという愚痴だけ

私のことを心配していないのか、能力を買って安心しているのかのどちらか

真由美「まぁいいわ。四葉香夜さん、もし宜しければ、なんだけど....お母様に吸血鬼騒動の件で我々七草家と十文字家の共闘の加入をお願いして貰いたいのだけれど.....」

香夜「訊くだけなら。どう答えるかはちょっと」

真由美「えぇ、それでいいわ。そうして貰えるだけでありがたい」

香夜「....お話は以上でしょうか?」

真由美「はい。四葉香夜さん、本日は急なお呼び出し失礼致しました」

香夜「いえ」

深々とお辞儀をして、部室を出る

それと同時に大きな息を吐いて、吸う

十文字克人先輩は一言も話さなかった代わりにずっと私のことを見ていた

呼吸もままならない環境下で自分はよくやったと褒めてやりたい

さてさて、帰りますか

学校に長居して部活で学校に来ている生徒に見つかるのも嫌だし


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:真夜に連絡
偶数:次の日(真夜に連絡は省略となります)
安価下。】

a


>>246 3:真夜に連絡】

ー同日・夜ー

真夜『それで、七草と十文字の共闘に加入しろと?』

歩夢「はい」

真夜『そうねぇ....』

紅唇を三日月型にして嗤う姿は若々しく、妖しい

真夜『本来、東京は私たち四葉の管轄ではありませんし、先々月の一件もあるので断って下さい」

歩夢「先々月の一件?」

真夜『七草が四葉が干渉している国防軍のセレクションに割り込みを掛けてね。何ともならなかったからいいんだけど、そのせいで言わば冷戦のような状態が続いてるのよ』

現時点で十師族それぞれが抱える戦力のトップは七草と四葉が並び立っていると噂されている

だが実際には十二師族の1つ、霜月の血を引く(旧姓)霜月雪乃の存在や、

出身・生い立ちがまるで不明な若き天才、夜永さんの存在により四葉がトップだと2人を知る者は考える

無論、私もそう

冷静が熱戦になったところで勝敗は見えているような気もするが、何も起こらなければどちらもマイナスになることはない

熱戦になれば、被害は甚大な物となる

七草にとっても四葉にとっても、日本にとっても

最初に仕掛けてきた七草からの謝罪が無ければ許せないという真夜さんの気持ちは殆どの人間が同意見なはず

何か大きな仕返しをしていなければ、の話だけど


真夜『もし歩夢さんが断り辛いなら私から断っておきますけれど、どうなさいますか?』

歩夢「ご当主様のお手を煩わせるような事は一切致しません」

真夜『.....歩夢さん、2つだけ言わせて』

歩夢「はい?」

真夜『そういう畏まったキャラは似合わないわよ』

歩夢「....もう1つは?」

真夜『いつでもいいから帰ってきて。水波ちゃんが寂しそうにしているっていうのもあるけれど、それ以上に最近の夕食が毎日パンなの。貴女のお母さんのせいで気が狂いそうになるわ。夜永さんは毎日でも食べれるって言っていたけれど....やっぱり血は争えないようね』

歩夢「血?」

真夜『夜永さんのお母様が雪乃のパンを好き好んでずっと食べれるタイプだったってことよ。あぁ、ちなみに言っておくけれどその方はもう既に亡くなられているわ。彼女らが子供の頃にね』

歩夢「そう...ですか」

夜永さんのお母様....

妹さんについてもだけど、なかなか気になる

どっちも夜永さんに似て天才なのかなぁ

真夜『話はお終い。歩夢さん、ここからは注意ではなく言い残す言葉として伝えておくわ。最近話題の吸血鬼騒動だけれど、歩夢さんが首を突っ込みたければ突っ込んでもいいし、突っ込みたくなければ一切関わらないようにしなさい。貴女にはそれを選択する義務があるから』

私が反応するよりも早く無駄に大きい部屋に比例して無駄に大きいテレビは暗くなり、自分が反射して映る

暗闇に映る自分は、興味を持っているように見えなくもなかった


【安価です。1月16日の夜に外に出るかどうか。出た場合は吸血鬼に遭遇します。
1.出る
2.出ない
安価下。】

1


>>249 1.出る】

好奇心に掻き立てられ、私は深夜と呼ばれる時間帯に結城香夜の姿で渋谷を歩いていた

魔法や魔術でなく、妖魔

そんな存在はこれまで確固とした確証もなく噂として報じられることはあったが、人の噂も75日が如く消えていった

しかし今回は、実例の被害が出ている

吸血鬼と呼ばれる者は臓器売買ならぬ血液売買のためなのか、享楽的な愉快犯を成りすましているのか

フィクションの世界を好む者にとっては、非常に興味深い件

もし私が作家なら本のネタにするためにこうして危険を冒してまでも取材をしていたかもしれない

妖魔と呼ばれる類の一種、吸血鬼

どんな形であろうと、一目見てみたいという高揚した気分が私を働かせた

路地の先、深夜の公園に不自然な人の気配を直感的に悟り、人混みを分けて公園へと向かう



ー公園ー

探すまでもなく2人と2つの妖魔を見つけた

1人は公園のベンチで意識を失っている女性

もう1人は.....西城くん!?

駆け寄ろうとしたが2つの妖魔が禍々しく向かい合っていて仲介できる雰囲気でない

だがこのまま友達を傷つけたどちらかを逃がすわけにはいかない

果敢に、一歩踏みよったのが合図だったかのように瞬間に2つの影がほぼ同時に跳躍魔法で夜空に消える

逃すつもりはなく2つの影を碧色の目で追いながら西城くんの元へ駆け寄る

香夜(結城)「大丈夫っ?」

レオ「あ...あんたは....君影さん....だったか?」

10月30日の論文コンペの際に用意した結城香夜の姿は一部に割れている

その一部の1人が、西城くん

レオ「俺は大丈夫....だ。早く追いかけるなら追いかけたほうがいいぜ.....。追いかけないなら.....この場を去ったほうが......俺が呼んだ警察が来る、からな」

香夜(結城)「っ.....ごめん!」

私は迷わず2つの妖魔を追いかけた

警察から逃げるのではなく、追尾

こうでもしないと西城くんに申し訳ない

未だにロングコートを着て丸いつばのついた帽子を深く被っている人型の生物が前を走り、その後ろを金色の目をした赤い髪のこちらも同じく人型の生物が追いかける

少し急いだ方がよさそう

前を走る者のスピードは持続して早いが、後ろを走る者は少しずつ遅れて差が少しずつ生まれてしまっている

西城くんをやったのはこの2人の状況から見て前の方

なんとしてでも捕まえてやる.....!



繁華街から住宅街の坂を登ると、緑が増えて人の気配が減った

気配が減った分2つの気配は掴みやすく、より鮮明に視える

しかし私が坂を登りきったとほぼ同時に後ろを走っていた赤髪の方が公園で止まった

追い詰めたのかと思ったが、未だに前を走っていた者は逃亡を続けている

諦めた....?

そう考えるのが普通

しかしその考えは公園に入ったところで打ち消される

香夜(結城)「っ.....」

公園に足を踏み入れたと同時に気分が悪くなった

これは2年前にも経験したキャスト・ジャミング

想子のノイズで満たされる公園で、私は立ち止まる

赤髪「.......」

香夜(結城)「......」

赤髪「......見失ってしまいました。移動基地へ帰投します」

沈黙は赤髪が何者かとの通信によって砕かれた

そして赤髪は目に結城香夜の姿を焼き付けるようにジッと見つめて、踵を返す

アレは.....誰?

考える暇もなく、病弱の君影歩夢は結城香夜の姿であっても病気に苦しまされる

香夜(結城)「こほっ....うぅ....」

何度か咳き込み、胸を抑える

香夜(結城)「はぁ....はぁ...」

どっと湧き出てきた疲労に頭痛を感じながら、徒歩で家へと、軍人っぽく言うと帰投する

早速あの赤髪に影響されちゃった


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:達也に連絡
偶数:次の日
安価下。】

てい


>>253 3:達也に連絡】

歩夢「うっ.....ん...はぁ.....はぁ....」

帰宅するなり私は広い玄関の壁に寄りかかり、目を閉じて心身ともに落ち着かせる

何度か深呼吸をし、呼吸を整えた後、携帯端末を起動させて司波達也をコールする

幸いなことに10秒も待たずに通話は始まる

歩夢「ごめんね、こんな時間に」

達也『それはいいんだが、どうかしたのか?』

歩夢「さっき、◯◯公園で西城くんが吸血鬼だと思う人に襲われた」

達也『.....居合わせたのか?』

歩夢「私が行った時にはもう....うん」

達也『そうか.....わかった。歩夢は怪我しなかったか?』

歩夢「私は大丈夫。それよりも西城くんだけど、多分警察病院に搬送されたと思うからお見舞い行ってあげて」

達也『あぁ、わかってる』

歩夢「っ....じゃ、じゃあね。また今度」

私は返事も待たずに失礼ながら通話を切った

そして反射的に携帯を落とし、口元を手で押さえる

歩夢「こほっ、こほっ....うっ.....はぁ.....はぁ...」

再び落ち着いてきたところで口元を押さえていた手を退かすと、

歩夢「......え?」

肌色の掌は真っ赤に染まっていた


【安価です。1月28日。
1.達也・シリウスの戦いに割り込む
2.割り込まない
安価下。】

1


>>255 1.達也・シリウスの戦いに割り込む】

ー1月28日ー

吸血鬼と赤髪

2つの生物と遭遇した日から2週間弱が経った週末の夜、

歩夢「それで、こんな時間にどうされました?」

私は来客をリビングへ通していた

夜だと言うのにレディーススーツをビシッと決め、教育実習生よりも先生らしく、先生よりも先生らしい彼女は一呼吸着いた後、口を開く

夜永「歩夢さん、1月16日に吸血鬼と赤髪の何かに会った?」

歩夢「会いましたけど....それが何か?」

夜永「あらら....。完全に顔覚えられちゃったね、シリウスに」

歩夢「シリウス? スターズの?」

夜永「うん。歩夢さんが見た赤髪の何かはアンジー・シリウス。そして、アンジェリーナ・クドウ・シールズが仮装行列で変装した姿だよ」

歩夢「.....ほぇー」

アレがシリウスで、リーナなんだ

夜永「関係にない話かと思うかもしれないけど、ここからは真面目に聞いて。多分、あと数十分後にそのシリウスと達也くんは戦うことになる」

歩夢「.....負ける可能性は?」

夜永「ほぼ0」

歩夢「じゃあ行きます」

負ける可能性が1000分の1%でもあるのなら迷う余地はない

彼女として、ではなく友達として

歩夢「夜永さんは?」

夜永「着いて行こうかな。歩夢さんが無理しないように見張らないといけないし」

歩夢「.....その姿で行くんですか?」

夜永「私は戦うことにならないと思うけど....用心に越したことはない、か。服貸して貰える?」

歩夢「はい」


ー公園ー

夜永さんに案内されるがままに着いたのは公園。また公園か

シリウスやら吸血鬼はそんなに公園が好きなんですかね

と、適当なことを考えていると達也くんがリーナを押さえている様子が夜目にも対応している霜月の目で遠目に視ることが出来た

夜永「私たちの出番は無かったみたいだね」

その言葉に安心し、脱力するとほぼ同時に綺麗なソプラノの声が公園に響き渡る

声を発したのは達也くんに拘束されているリーナ

夜永「リーナにしては考えたわね」

歩夢「感心してる場合ですか.....。警察が来る前になんとかしないと.....」

これでは達也くんが強姦魔として捕まってしまう

木影から出ようとした私は夜永さんに止められ

夜永「まぁまぁ。ほら、今出ると”偶然”駆けつけた警察と鉢合わせしちゃうじゃない」

夜永さんの視線を追うと、

「両手を挙げて後ろを向け!」

拳銃を突きつけながら叫ぶ警官の姿が4つ見えた

歩夢「ど、どうすれば....」

夜永「安心して。もう終わったから」

歩夢「?」

バタリと4回倒れる音が小さく耳に届いた

夜永さんから警官の方へ目を向けると4つの影はその場で突然気絶をしたかのように倒れていた

魔法を使った形跡は全く見られなかった

まるで私やお母さんと同じ、霜月の目で気絶させたかのような倒し方に疑惑を込めた感嘆を漏らす

夜永「歩夢さん、それでどうするの? 君影歩夢の姿で出るか、結城香夜の姿で出るか。それとも四葉香夜で出る?」

歩夢「......」


【安価です。コンマ1桁
1・5・9:君影歩夢
2・6・8・0:結城香夜
3・4・7:四葉香夜
安価下。】

てい


>>258 6:結城香夜】

四葉香夜の姿で夜永さんと共にリーナの前に出れば実は繋がりがあったと気づかれてしまう

君影歩夢の姿で出れば「なんで雪乃の娘がここに居るのよ!」と言われてしまう

となると、1つしかない

これでも「あの時のっ!?」とか言われるんだろうけど、これが最良で無難な選択

仮装行列で結城香夜となり、夜永さんと肩を並べてリーナの前へ

リーナ「あの時のっ!?」

案の定、想定していた反応をされた

リーナ「それにヤエも.....」

夜永「警察を装ってたスターダストの4人は私が倒させて貰ったよ。あの2人が待機していたところ、申し訳ないけどね」

スターダストというのはスターズの正規軍員になれなかった言わば出来損ないの存在

しかしそれでも肉体強化をされているらしく、日本の軍人と比べれば強いと真夜さんは以前仰っていた

そんな警官を装ったスターダストの正体を見抜いた上に、反応する間も無く気絶させる夜永さんはいつもと変わらず笑顔を振りまくだけ

で、待機していた2人って.....


深雪「......リーナ」

冷徹モードになった深雪ちゃんがリーナの元へ寄り、見下げる

九重「いやぁ、さすがだね。4年前に重傷を負ったって聞いていたけど後遺症は無いようで安心したよ」

夜永「ご無沙汰しております」

夜永さんと九重さんは知り合いだったらしく、少し離れた場所で歓談を繰り広げ始めた

リーナ「くっ....」

達也くん、深雪ちゃん、私、そして少し距離を置きながらもリーナに逃がす隙を与えていない夜永さんと九重さんに囲まれ、リーナは観念する

リーナ「力尽くで訊問するつもり?」

達也「訊問というのは大概、力尽くなものだと思うが?」

リーナ「一対五なんてずるいじゃない! アンフェアよ!」

口惜しさを全開にした非難に深雪ちゃんが呆気に取られた声で突っ込む

深雪「アンフェアって....貴女たち、何人でお兄様を取り囲んでいたのよ」

全くの正論にリーナはシュンとする

夜永「落ちついて」

夜永「フェアという言葉は自分が有利な立場にある時に有利な条件を維持する為に使われる建前」

夜永「逆に、アンフェアという言葉は自分が不利な状況にある時に相手から譲歩を引き出す方便」

夜永「腕力で勝てそうにないなら口先で争いを回避するというのは、戦術的に間違ってない。本気にしたら負けだよ、深雪さん」

リーナ「はぁ? 建前? 方便?」

建前と方便の違いが分からないところが外国の方っぽい

リーナ「本音と建前を使い分けて恥じない貴女たち日本人に言われたくないわ!」

達也「君だって四分の一は日本人じゃないか」

リーナ「っ.....」

達也「....っと、そろそろ他のグループが駆け付けそうだな。わかった。リーナ、フェアに取引をしよう。一対五がずるいというなら一対一で勝負だ。君が勝ったら今日のところは見逃す。その代わり俺たちが勝ったら訊かれたことに正直に答える。これでどうだ?」

リーナ「.....わかった。けど、その相手というのはワタシが決めてもいいのよね?」

達也「あぁ」

リーナ「じゃあ.....」


【安価です。リーナと戦う人
1.結城香夜(歩夢)
2.深雪
3.夜永

達也と九重は無しにさせて下さい。
なお、原作では深雪が戦っています。
安価下。】

1 てめぇなんか怖かねぇ!


>>261 1.結城香夜(歩夢)】

リーナ「そこの彼女」

視線は私、結城香夜へと向けられた

学校で競い合ってるライバルでもなく

昔馴染みの夜永さんでもない

先日1度顔を合わせただけの私を対戦相手に選ぶということは堅実に解放されることを望んでいるのが伺える

達也「だそうだが、香夜。いいか?」

香夜「私は構いません」

リーナ「.....カヤ?」

今この場で最も立場が危ういアメリカが誇る戦略級魔法師は頭の上に疑問符を浮かべている

十中八九、彼女が知るクラスメイトの香夜と今この場に居る香夜を比べているのだろう

深雪「貴女の知る香夜とは別人よ」

仮の姿としては別人だから嘘は言ってない

この指摘に美少女留学生の表情は明るくなり、モヤモヤが取れたような反応をする

リーナ「同名ってやつね。同姓同名....は流石に無いか。あっちはヨツバだし」

同時に今置かれている状況についても少し忘れてしまったようで、非常に無邪気な笑顔が眩しい

夜永「早速移動しよっか。早く動かないと他のチームが駆けつけちゃうから」

十師族の七草と十文字が結託したチーム

それと、千葉エリカさん率いる門下生(西城くん)を病院送りにしたことに怒りを胸にする吸血鬼の捜索チーム

この2つのチームの到着が近いということで、何処か人気の無い場所への移動を促す



訪れたのは東京在住を長く続けてきた私でも「ここ何処?」と思ってしまう河川敷

移動時間的にも東京都内または隣接県なのは間違いない

リーナとは十分に距離取り、いつでも戦えるような配置に着く

達也「リーナは不満かもしれんが、審判は師匠に務めてもらう。審判といっても勝ち負けを判定するだけで、勝負を仕切ったり途中で手出しをするような真似はしないから安心してくれ」

リーナ「ここに居るのは敵ばかりだと最初から分かっているから、不満なんて無いわ」

達也「潔くて結構だ」

達也くんは九重さんにアイコンタクトを送ると、九重さんは一度頷いた

九重「じゃあ、不肖ながらこの九重八雲が審判役を務めさせてもらうよ。勝敗の条件はどちらかが降参するか、戦闘不能になること。殺すのは無しだよ。遺恨を残してしまうからね」

香夜「分かりました」

リーナ「......」

リーナの目はずっと私を捉えて、動かない

USNA軍統合参謀本部直属の魔法師部隊

スターズの総隊長アンジー・シリウスとしての覚悟が垣間見える

その覚悟に相応しい、私の覚悟

夜永さんの魔法のタイムリミットがもう8分も残っていない訳だし、本気で短時間で終わらせる

手を抜かず真剣に挑むのが、私の覚悟


【安価です。どちらにせよ勝つ展開にさせて下さい。
コンマ1桁
奇数・0:一瞬で終わる
偶数:苦戦しながらも勝利
安価下。】

てい


>>264 5:一瞬で終わる】

リーナ「(一撃で終わらせる!)」

まだ開始の合図は無いが、そんなものを待つつもりはリーナには無かった

合図をしてから、などという取り決めは最初からしていない

自己加速で間合いを詰めて、情報強化で相手の魔法を無力化して、香夜が苦手そうな格闘術で無力化する

そして香夜の敗北に達也たちが気を取られている隙に、高速移動の魔法でこの場を逃げ延びる

それがリーナのプランだった

しかしそのプランは一瞬にして崩され去った

自己加速をし、香夜との間合いを詰める途中で急な激しい脱力感に襲われ、倒れ込む

リーナ「(な、なに.....これ)」

現在リーナを襲っているのは恐怖

10代にして軍の総隊長になった彼女が人生で2度目となる、激しい感覚に数年前の出来事が無意識に脳裏を過る

勝負開始の合図と共に全身はボロボロとなり、その傷を見たことで痛みを感じる奇妙な対人専用の魔法を使う女性

擬似的な痛みに耐え切れず倒れ込んだ今よりずっと若い頃の彼女を見下ろす碧色の目

あれからその出来事を思い出す度に屈辱を味わい、自分の階級が上がれば上がるほどたったの1回の敗北が自分のキャリアを傷つけ、彼女を苦しませていた

そして総隊長の証”シリウス”の称号を得て、少し経った先月

その1度の敗北を帳消しに出来るチャンスが彼女の元へ運良く舞い降りる

任務ではあったが、日本へ行けるとのこと

このご時世、国外に行く機会はめっきり何処の国でも減っている

それが魔法師なら尚更

今のワタシ、アンジェリーナ・クドウ・シールズならあっさりと敗北を知らされたあのユキノを倒すことが出来ると確信していた

昔感じたあの恐怖を克服したと錯覚していた

自分に自信を持っていた

しかし、カヤによって思い出された



香夜「.......」

香夜は急速で向かい来るリーナの姿をしっかりと碧色の目に収めていた

落ち着いて、今まで通り、達也から一時的に返してもらった特化型CADのスイッチを模した引き金を引く

使用した魔法は精神摩耗

これにより1月3日の亜夜子同様にリーナには強力な恐怖が重く募る

バタリと倒れたリーナの元へとゆっくりと歩いた香夜はもう1度、引き金を引く

リーナにはそれなりの覚悟があった

香夜にはその覚悟に応える覚悟があった

正々堂々と、本気の勝負

ここでこの魔法を使わなかったら誠意を見せられないと思い、十分を超えて、やり過ぎなまでにリーナを苦しめる



カヤに思い出された恐怖は次第に強くなり、碧色の目への恐怖が寿命を縮める程の緊張感を発揮し始めた頃、

リーナ「(っ....ここで.....! ここで負けたら.....っ)」

目をギュッと瞑り、意識のリセットを試みる

とてつもない恐怖を感じながらもこれだけの思考が出来るのは彼女を含めてもそうそう居ない

よっぽど特別な精神を改造された者くらいだろう

しかし、リーナは強い精神力を持ち、屈辱を克服しようとした強い気持ちでその域に達する

だが、その思いは叶わなかった

続いてリーナを襲った魔法の効果により、彼女の精神は苦しむ一方

何も考えられず、恐怖という感情を飲み込み続けるだけ

一体何が起きているのか、すらも考えられないまま、勝負の決着がついた



リーナ「う....」

頭を抱え、足元をおぼつかせながら立ち上がるリーナに私は手を差し出す

香夜「大丈夫ですか?」

リーナ「大丈夫.....よ.....っ」

香夜「っと」

軸が定まらず、再び倒れそうになったリーナを支える

.....もしかしてやりすぎた?

メンタルケアとか必要?

カウンセリング.....夜永さんなら出来る!....多分

リーナ「アナタ、なかなか容赦無いのね.....」

香夜「リーナが本気で向かってくるならそれに応えないと、って思って」

リーナ「.....そう。その気持ちは嬉しいけれど、やり過ぎよ。ワタシじゃなかったら魔法師の道を諦めていたわ」

香夜「ごめんなさい」

私は謝ることしか出来なかった

私にはリーナが感じ続けていたのが”恐怖”だということしか分からない

恐怖とは人それぞれ

私にとっての恐怖は2年前の事件だけれど、リーナにとっての恐怖はどのような物なのか皆目見当もつかない

リーナ「タツヤ、いいわ。負けを認める。質問は?」

達也「随分と潔いんだな」

リーナ「これで答えずにまたカヤにあんなことされるのは勘弁よ」

達也「.....そうか。じゃあ質問をさせて貰う」


【歩夢がどれだけ強いのかがかなりハッキリしたと思います。
精神摩耗で感情を生み出し、固定感念でその感情を固定する2つでリーナを倒しました。
あと、雪乃がおとなげないということも。

原作では質問のシーンはカットされているので、カットします。

安価です。
1.リーナを駅まで送っていく
2.1月30日(吸血鬼と戦います。香夜(四葉)が参戦するかどうかは安価で決めます)
安価下。】

1


>>269 1.リーナを駅まで送っていく】

現在、アンジー・シリウスに課せられている任務はパラサイトの撃破

パラサイトというのはparanormal parasite(超常的な寄生物)の略称

私の知らないところでパラサイトという呼称、及びその吸血鬼がパラサイトであることは私以外の全員が知っていた

夜永さんは「え? 知らなかったの?」とキョトンとした顔で訊いてきた

だって情報源が無いんだもん。仕方ない

私1人が俯き気味になっている間にも達也くんや夜永さんからの質問は続き、勝負が終了してから10分程度が経った頃、

達也「質問は以上だ。リーナ、帰っていいぞ」

何気なく放たれた台詞にリーナは呆気に取られた表情をする

リーナ「ここ何処か知らないんだけど....携帯端末も無いし」

夜永「私が案内しようかー?」

リーナ「ヤエが? .....いいわ。カヤ、駅まで案内してくれる?」

香夜「え」

リーナ「駅までの道、わからないの?」

香夜「け、携帯があるから.....」

リーナ「.....まぁいいわ。カヤ、行きましょう」

腕を掴まれ、リーナの歩くペースに強制的に合わされ、あっという間に達也くん達とある程度の距離が出来た

その時間に携帯で最寄りを検索し、ルートを表示する

ここから徒歩で20分....少し遠いなぁ

それに、話題らしい物も特になさそうだし


【安価です。
1.リーナ「アナタ、ヨツバカヤなんでしょう?」
2.リーナ「アナタって何者?」
3.香夜「さっきはごめんね」
4.その他
安価下。】

1


>>271 1.リーナ「アナタ、ヨツバカヤなんでしょう?」】

自然に恵まれた河川敷付近から住宅街へと差し掛かってきたところで隣の少女が口を開く

リーナ「アナタ、ヨツバカヤなんでしょう?」

痛いところを突く発言に私は躊躇ってしまう

香夜「な、なんの話? 四葉香夜? 私は香夜は香夜でも四葉じゃないよ」

リーナ「本当? なんか雰囲気が似ているのだけれど」

香夜「雰囲気くらい装えるし、似ている人なんていくらでも居る....から」

リーナ「ふーん。じゃあ香夜の苗字は?」

君影と答えるのは選択肢は無い

当然、四葉とも答えられない

となると、私に与えられた苗字は結城か霜月のみ

リーナが十二師族の存在を知っている可能性もなきにしもあらず

消去法で、結城と答えるしかない

しかし結城の姓を名乗るリーナの知り合いが1人居る

偶然同姓だと解釈してくれることを祈り、応える

香夜「結城...だけど」

リーナ「夜永と同じね。....これも偶然? もしかしてアナタ、夜永の妹とか? あ、でもヤエの妹の名前はサクヤだっけ」

香夜「ん、夜永さんの妹さんの名前ってサクヤっていうの?」

リーナ「えぇ。数年前に....カヤに話しても分からないと思うけど、キミカゲユキノって人と会った時にその側に居たの。ヤエとサクヤが」

香夜「.....そう」

サクヤ....漢字は分からないけど、夜永さんの名前に夜が入っていることからして、咲夜とかかな

綺麗な名前。かっこいい


香夜「その咲夜さんってどういう人だった?」

リーナ「え、うーん...よく覚えていないけれど、ずっとヤエと一緒に居たわよ。まぁ、姉妹だから当然なのかもしれないけど」

香夜「話したことは?」

リーナ「無いわ。ワタシが話したのはユキノとヤエだけ。サクヤは多分人見知り....ってヤツだと思うわ」

香夜「そう。ありがと」

咲夜さんねぇ....

機会があれば夜永さんとかお母さんに訊いてみようかな

今どこで何をしてるのか、とか


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:リーナが苗字について踏み込んでくる
偶数:駅に到着
安価下。】

そらっ


>>274 1:リーナが苗字について踏み込んでくる】

リーナ「それにしてもただの同姓ねぇ.....」

彼女は一歩私の前に回り、顔を覗き込んでくる

リーナ「なんかヤエに似てるし、ユキノにも似てるし、ヨツバの方のカヤにも似てるのよね」

お母さんと四葉香夜に似ていることは否定できないけど、夜永さんに似ているというのは理解に苦しむ

まだ私の知らないことがある、とか?

香夜「わ、私は別に....」

リーナ「.....まぁ、カヤがそう言うなら信じるわ。同姓とか同名はそこまでステイツでは珍しくないしね」

今度こそ納得してくれたリーナに、私は安堵をつく

本当に鋭い子だなぁ

この子の前では気を抜けない

リーナ「あ、駅。ここまででいいわ。ありがと、カヤ」

香夜「いえ」

リーナ「じゃあね。また機会があればその時はよろしく」

眩しい笑顔を最後に見せて、個別電車へと乗り込んだところで初めての2人きりの時間は終わった


ー1月30日・お昼休みー


【安価です。パラサイト(吸血鬼)と戦います
1.戦う
2.戦わない

戦わなくても原作通り、何か被害がある訳でもありません。
安価下。】

1


>>276 1.戦う】

ー1月30日(月)・お昼休みー


ーーーーーーーーーーーーー歩夢、あとで代わって貰えるか?

え、なに、どうしたの? 急に....

ーーーーーーーーーーーーー少し話したい人が居る

それはいいけど...うん、いいよ。わかった

ーーーーーーーーーーーーー具体的なことは訊かないんだな

んー、別にいいかな。ただし、変なことはやらないでね

ーーーーーーーーーーーーーあぁ、わかってる

で、いつ代わればいい?

ーーーーーーーーーーーーー放課後すぐ

了解。じゃあね



香夜「......」

精神上でもう1つの人格の子との短い会話も終わり、再び集中して活字に視線を向ける

今日は深雪ちゃんが隣に居ないので話し相手は彼女のみ

本当に用がある時くらいしか話しかけてくれないっていうのは寂しいけど、彼女がそれを望むなら口出しすることはない

誰にも気を遣うことなく、暖房の力を借りて快適な読書をしていると第六感のような直感が働く

何か、不穏な気配を校内に感じる

第六感という確証のない中途半端な存在を信頼するのには躊躇したが、その直感は自身のもの

信じることで始まるなんとかもあるって真夜さんが前に言っていたし、何もなければちょっとした散歩だったということで自分を励ませる

よし、行ってみるか



不穏な気配を感じたのは実験棟の資材搬入口付近

私は様子見も兼ねて、空き教室から現場を監視しようと思ったのだが、

香夜「あ」

達也「.....」

深雪「.....香夜。驚かせないでよ」

香夜「ごめんなさい」

今はただの同じ学校に通う生徒同士

あくまで他人を装う

香夜「司波くん、貴方達が居るってことは」

達也「吸血鬼。パラサイトだ」

香夜「.....パラサイト」

2週間弱前に顔見知り以上友達未満くらいの関係な西城くんを病院送りにした存在

仮にも吸血鬼なんだから日中に行動するのは避ければいいのに

太陽の光を克服した吸血鬼ってことなのかなぁ

深雪「リーナ?」

不意に深雪ちゃんが声に出して呟いた

その声を聞いて窓から現場を見下ろすと、そこにはトレーラーの脇に立ち止まったリーナに技術者であろう若い女性が踏みよる

そして、リーナの口が「ミア」と動いた

日本に来てからの友人の線も捨てきれないが、大半の確率で彼女もまたUSNAが送り込んだエージェント

また面倒なことをーーーーーって、吸血鬼はじゃあ.....

リーナは吸血鬼と敵対しているフリではなく、本当に敵対している

まさか気付いてない、とか?

達也「あれはただ単純にリーナが気付いていないだけのようだな。そこまで吸血鬼は人間の世界に浸透していたとなると.....」

深雪「ここで逃せばまた、厄介なことになりますね」

達也「深雪、行くぞ」

深雪「はい」

達也くんと深雪ちゃんは私を置いて、現場へと急行してしまった

あくまえ他人

それはそうだけど、疎外感を感じざるを得ない

だが落ち込むよりも早く、私も2人の後を追いかける


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:夜永「待って」
偶数:現場へ
安価下。】

ほい


>>280 6:現場へ】

私が駆けつけた時には全てが終わっていた

リーナがミアと呼んでいた女性は凍りついていて、ピクリとも動いてない

その場に居た全員が氷漬けとなった吸血鬼から決して目を逸らさずに、視界に含めたまま会話を始める

達也「リーナ、どうやら知り合いらしいが、彼女は貰っていくぞ」

リーナ「マクシミリアンの人たちは....殺したの?」

マクシミリアンというのは最大手CADメーカー企業の名前

たしか今日はマクシミリアンの社員が授業で扱う新型測定装置のデモの検査に来る予定だったはず

ミアという女性はその企業の日本支部の社員として潜入し、正式に魔法科高校に足を踏み入れた、ということのようだ

そして今リーナが問題にしていることは彼女の知り合いよりも、無関係な社員のこと

達也「人聞きの悪いことを。少し眠ってもらっただけだ」

単に巻き込まれただけの民間人の安否を知れたリーナはここで大人しく引き下がった


しかし、

エリカ「ちょっと待ってよ。勝手に持ってかれちゃ困るんだけど」

エリカ「達也くんにはバカバカしく見えるかもしれないけど、あたしたちには面子ってものがあるの。その女がレオをやったヤツなら、いくら達也くんでもくれてやるわけには行かないわよ」

構えこそ取っていないものの、小太刀を握り直した手は無駄な力が少しもなく、必要な力が余すところなく込められている

即座に戦闘態勢へと移行出来る状態だった

達也「落ち着けエリカ。俺は調べた結果だけを教えてくれれば、それでいい」

エリカ「.....そう」

克人「俺の方から連絡をしておく」

達也くんは十文字先輩の言葉に会釈で返事をする

達也くんは十文字先輩と千葉さんを見ていて、

深雪ちゃんは達也くんと千葉さんを見ていて、

十文字先輩は達也くんとリーナを見ていて、

千葉さんは達也くんと深雪ちゃんを見ていた


その場を俯瞰的に見ていたのは私と吉田くんの2人だけで、異常に気がつくのも2人だけだった

香夜「っ!」

幹比古「危ないっ!」

吉田くんは警告を

私は出来る範囲で障壁を張った

放出系の魔法により引き起こされた空中放電は私の張った不完全な障壁を破った

しかしそれでも大きな意味は果たせた

効力の弱い障壁が稼いだ時間を使って十文字先輩が完全な障壁を張って、同時に達也くんの放った対抗魔法によってかき消される

安堵をつく暇なく、電撃を放った女性へと視線をやる

彼女は未だ、凍りついたまま

生身の人間じゃないにしても、この状態では意識はもちろんのこと魔法を使えるような状況でない

その常識が覆される

氷の彫像が電光に包まれた

リーナ「自爆っ!?」

克人「伏せろ!」

十文字先輩の発言よりも少し早く、全員が防御姿勢を取る

深雪ちゃんの氷を突き破って、ミアと呼ばれる女性の身体が炎を発する

その身体は乾いた紙のように一瞬で燃え尽き、そして舞い散る灰の消え失せた何もないところから魔法の雷が達也くん、深雪ちゃん、リーナ、千葉さん、十文字先輩、私の6名に襲いかかる


今にも雨が降りそうなどんよりと曇った空

だが電撃は雲の中からではなく何もない空中から降り注いでいる

その速度は秒速十万キロメートルには遠く及ばず、目に視認できる程度

深雪ちゃんの背後に生じた閃光を達也くんが消し去り、

千葉さんの頭上に生じた球電は深雪ちゃんが作り出した氷の粒子群を帯電させて消え、

十文字先輩が障壁で電光を阻み、リーナがプラズマで電撃を蹴散らす

私は私で仲間に入れて貰えなかったことを考える暇もなく、自身に降り注ごうとしている閃光を消失させる

休憩の時間も与えて貰えず次々と不規則な地点に発生する閃光をそれぞれで対処するが、このままではこちら側の体力が無くなって負けてしまう

恐らくパラサイトには限界がない

長引けばこちらが不利になる一方の戦況に、


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:夜永登場
偶数:どうにかする
安価下。】


>>285 5:夜永登場】

突如カツンと1つのヒールの足が響き渡る

夜永「なんで私がこんな面倒なことを.....」

そうボヤきながらこちらに歩み寄ってきた実習生はCADを操作する動作を一切見せず、

次々と現れる事象改変の前兆を無かったことにしている

前兆が無ければ事象が改変されることはない

彼女は不規則に現れるポイントを完全に読みきっていた

夜永「リーナ、パラサイトは憑依するのよね?」

リーナ「え、えぇ。多分ここに居る誰かの体を乗っ取るつもりよ」

夜永「....念には念を入れた方がいいか。十文字さん、千葉さんを守ってあげて。彼女は唯一この場で対抗する手段を持ってないから」

千葉さんは基本的に武術、刀で戦う

実体化されていない霊体に対して刀は通るのか

それは考えるまでもなく、通らないだろう

対抗方法を持たない千葉さんを確実に守れるのは障壁魔法にこの場で最も特化した能力を持つ十文字先輩のみ

無言でそれを了承した十文字先輩は千葉さんを守る形となったところで次の段階へと進む


夜永さんが達也くんの腕を掴んで引っ張り、倉庫の壁を背にして顔を近づける

深雪「夜永さんっ!?」

リーナ「何をしてるのこんな時に!」

女性2人からの声を無視して夜永さんは達也くんだけを視界に入れる

夜永「少しだけだよ」

達也「っ!」

一体何が起こったのか、達也くんはおもむろに視点を変えて何も存在しない空中へと視線をやる

そして左手を前に突き出し、凝縮した想子の塊を打ち出した


達也「.....すみません」

夜永「まぁこっちにも被害は無かったわけだし、また機会はあちらが用意してくれるだろうから悔やむことはないよ」

一体何が起こったのか理解できなかったが、ひとまず危機は去ったようだ

達也くんが夜永さんから何かのヒントを貰い、打ち出した想子の塊が実体化されていないパラサイトを滅ぼしかけた

滅ぼしたのではなく、滅ぼしかけた

惜しいところで逃げられてしまったようで、それについて達也くんは悔やんでいる

実体化していないパラサイトを倒す手段

霜月の目で狙いを定めればいけるかな.....?


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:吐血
偶数:放課後
安価下。】

うりゃ


>>288 9:吐血】

暗い雰囲気が立ち込めるこの場で最初に行動を見せたのは紛れもなく、私

深雪「か、香夜っ?」

何かがこみ上げてくる衝動を感じて

駆け足でその場から離れた


少し離れた倉庫裏で私は咄嗟に口元を押さえて何度か咳き込む

荒い呼吸が落ち着いてきた頃、恐る恐る口を押さえていた掌を見ると、

真っ赤に血で染まっていた

口の中にも鉄分を多く含んでいる血の味が大きく残っている

障壁魔法と数回の術式解体だけでこのザマ

これは不味いことになってきたかな....?

使えば使うほど体に負担をかけ、寿命を縮める

3,4年だった寿命も今では2,3年になっているかもしれない

最低でもあと1年と少し

あと2回、4月24日が訪れるその時までは生き続けたい

達也くんが18歳になり、結婚が出来る年齢になる

その日まで


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:放課後
偶数:リーナに何をしていたか聞かれる
安価下。】

てい


>>290 7:放課後】

ー放課後ー

家の場所はわかるよね?

ーーーーーーーーーーーーーあぁ

じゃああとはよろしく。くれぐれも変なことに首突っ込まないでね


四葉香夜の鎧を被った君影歩夢の意識は歩夢から咲夜へと移り変わる

香夜(咲夜)「......」

咲夜が君影歩夢の身体を独占するにあたって心得るべきことは2つ

1つ、魔法を使わない

1つ、夜遅くまで外出しない

この2つさえ守れば大抵のことは許して貰えるはずだと、咲夜は思った

香夜(咲夜)「(さて、あいつは.....もう帰ったのか)」

教室に居ないのを確認した後、咲夜は教室を出る




リーナは昼間にあった一件を思い出していた

ミアと呼ばれていた女性は同じ軍に所属し、日本が秘匿している戦略級魔法師を探るために派遣された数少ない仲間

その仲間が自分の知らない間にパラサイトに憑依されて吸血鬼と成っており、

2度戦ったあの吸血鬼の正体だとは思いもしなかった

リーナ「......っ」

リーナは奥歯を噛み締める

友人を殺す羽目になった原因のパラサイト

それだけは絶対に許さない

アンジー・シリウスではなく、

アンジェリーナ・クドウ・シールズとして

改めて心に誓った



魔法科高校から最寄りの駅までは一本道なので迷う余地がない

だが、魔法科高校の生徒といえども高校生には変わりないので企業もそこを見計らって飲食店や雑貨屋などが軒並み並んでいる

ある意味、迷う道

そう認知されている一本道を歩いていたリーナは何者かにつけられている気配を察知した

リーナ「(また.....? 元旦のナツキもだけど、そこまでワタシに付き纏いたいの?)」

無視したくても無視出来ず、リーナは都合よく見つけた路地裏へと自然に入る



薄暗い路地奥でリーナはCADを構えて尾行者を待っていた

その姿を確認して、危険か危険じゃないかを判断する冷静さも残している

危険だと判断されればその尾行者は一瞬にして気を失うこととなる

果たして危険な人物なのか安全な人物なのか

外見での判断になってしまうがつけてくるような真似をする相手が悪い

用があるなら正々堂々と面を向かい合って話してくれれば聞く耳を持った

相手が悪い

そう思い込み、どんな結果になろうと自分を正当化し、口を開く

リーナ「出て来なさい!」

リーナは路地裏の奥へと入った

後ろは壁

左右も10メートルほど続く壁

尾行者の気配は右側の壁の後ろで、ちょうどリーナから見えない場所で止まっている

煽るような発言をしてもその姿は見えなかった


だが、言葉は返ってきた

???「これ以上余計なことを話すな」

リーナ「.....余計なことって何についてよ」

???「1月28日、結城香夜に話したことだ」

リーナ「(カヤに話したこと.....ヤエとサクヤがユキノの近くに....いえ、サクヤについて? でもどうしてサクヤのことを隠そうとするの.....?)」

???「これ以上余計なことを香夜に吹き込んだらその時は....」

リーナ「っ!」

リーナ「(今の寒気....。ユキノに睨まれた時に似てる。っていうことはやっぱりサクヤ?)」

リーナ「.....?」

短い思考の時間が仇となり、我に返った時には既に咲夜と思わしき人物の気配は跡形もなく消えていた



リーナが立ち竦んでいる路地裏とはまた別の人目につかないところでは、

夜永「どうにかならないの? その口調」

咲夜「......」

夜永「あらあら....反抗期?」

右目を碧色にしたスーツ姿の女性は笑い、

仮装行列によって姿を変えたスーツ姿の女性にそっくりなもう1人は左目を碧色にしながら俯いて悩んでいた

咲夜「絶対リーナ変なこと喋る.....」

夜永「信頼してないんだね、リーナのこと」

咲夜「だって....リーナ、ポンコツだから」

夜永「昔はああだったけど、もうすっかり大人になってるよ」

咲夜「数年前、お米を洗うのに洗剤使おうとしたリーナがしっかりしてるって姉さんは思うの?」

夜永「あ、あれは....そう、リーナがお米よりパンを好むタイプの人だったから。それに外人さんだし」

咲夜「....姉さんがそう言うなら信じる...けど」

夜永「あら意外。ありがとね、咲夜」

夜永の素直なお礼に咲夜はプイッとそっぽを向く

咲夜「もう私帰る」

夜永「歩夢さんの身体、そこまで危険なの?」

咲夜「お昼休みに血吐いてた」

夜永「あれだけで血をね.....。うん、わかった。折角の機会だけど歩夢さんを大事にしないとね。家まで送ってくよ」

咲夜「だから子供じゃないって.....」

夜永「いいからいいから。ほら、行こ」

咲夜「......」

夜永の差し出した手を躊躇いながらも咲夜は取り、歩き始める


【咲夜は姉(夜永)の前ではこのような感じにしようかなって思っています。

安価です。
1.バレンタインデー(原作での次のイベントらしいイベントまで省略)
2.2月4日(日曜日)外に出かける
安価下。】

1


>>298 1.バレンタインデー】

ー2月14日ー

四葉香夜として魔法科高校に入学してから1ヶ月と少しが経過した

この時点で過去2回の高校生活の日数を越している

1回目は殺人容疑で1ヶ月満たずに退学

2回目は30年前に2週間きりの短い緊迫感のあった生活

感慨深いものがある

そして今日は私が体験してきた高校生活の中でも珍しい全国的なイベントの日

2月14日。バレンタインデー

女子が男子にチョコレートを渡す日

勉強熱心な生徒たちも今日に限っては落ち着きがなく、浮ついていた

男子はそわそわして、女子はもじもじとしている

魔法師の卵もこういう時は高校生らしく、青春をしている

青春ねぇ....


放課後、女子が顔を紅くして男子に例の物を渡す時間

教室でも幾つかそういう絵は見れたし、廊下でも嫌というほど見られた

浮ついてますねーっ!

甘い景色から目を背け、私が向かった場所は図書館

国立の高校とだけあって本の品揃えは良い

今日は....甘すぎて胸焼けするような恋愛小説でも読もうかな

甘いのはフィクションだけでいい

作り話でいいの!

....あ、達也くんにいつチョコレート渡そう


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:達也・深雪・ほのか・リーナの下校に偶然出くわす
偶数:1人で帰宅
安価下。】


>>302 0:達也・深雪・ほのか・リーナの下校に偶然出くわす】

日もとっくに暮れ、良い時間になった頃私は図書館を出た

はぁー、なんか胸のあたりがモヤモヤする

さっき読んだ本がまさかあそこまで甘いとは

う....気持ち悪くなってきた

早足で校門へと向かうと、

リーナ「あ、カヤ。また図書館?」

香夜「えぇ」

リーナ「ふーん、そう」

会話を交わしたのはリーナとだけだが達也くんや深雪ちゃん、ほのかちゃんの生徒会メンバーが同行している

そういえばリーナは留学が終わるまで生徒会に所属しているんだっけ

才色兼備なリーナを一時的にでも部活に加入させようとした各部活の沈静化のために生徒会に入れたとかなんとか

ちなみに私に勧誘の声は一切なかった

リーナ「これから帰るところ?」

香夜「そう....だけど」

リーナ「よかったら一緒に帰らない?」

香夜「.....私がいると雰囲気を悪くしちゃいそうだから遠慮しておくよ」

リーナ「誰も気にしないわよ。ねっ?」

香夜「.....じゃあ」

渋りながらも了承する

リーナは笑顔を見せ、私の手を引いた

本当、良い子だなぁ


かなり久しぶりとなる複数人での下校

一番新しい記憶では....30年前に真夜さんと?

あの時はまずまずな会話が繰り広げられた

しかし今は、

リーナ「タツヤの方ではどうだった?」

達也「2科生の方でもそういう雰囲気だったよ」

やはりこちらでもバレンタインデーに関する会話

外国暮らしが主なリーナも知っている日本の文化

そこまで2月14日って特別な日だったんだ

さぞかし各お菓子会社は儲け時だと力を入れてたんだろうなぁ

どれくらいお金が動くんだろう

などと、綺麗な会話が交わされている裏では汚いことを考えていた私はやっぱり汚れている


現代の電車には時刻表がない

停泊していた個別電車に乗り、目的の場所に行く形式となっている

その中は上りと下りが存在していて、

達也くんの家とリーナの家、私の家は上り方向

ほのかちゃんだけが下りの方向ということで駅に残ったのは4人

ブラッドフォームに表示された時間は約3分

3分後には個別の電車が訪れて、それぞれの家の最寄り駅まで移動する

そういう形式が定着し、常識となった現代

電車というか技術の粋は凄いものだと感心していると隣のリーナがそわそわとし始めた

.....?

香夜「リーナ? どうかしたの?」

リーナ「い、いえ....なんでもないわ」

香夜「......チョコレート渡し損ねた、とか?」

リーナ「まだ渡し損ね.....っ!」

深雪「まだ?」

リーナ「うっ....」

これから会う男性に渡すのか

もう残り少ない時間内に達也くんに渡すのか

私の勘は後者


香夜「2月14日は1年に1回しかないんだから、後悔しないようにね」

リーナ「.....ああもう!」

彼女は鞄に手を入れて、綺麗にラッピングされた箱を取り出して達也くんに向けて差し出した

リーナ「義理だから! 勘違いしないでよねっ!」

ツンデレの台詞をそのままに言い切り、見計らったかのように訪れた個別電車に乗り込み颯爽と消えていった

リーナが義理ね

サバサバとした性格の彼女が本命以外のチョコレートを渡すとは考えにくい

香夜「よかったね、本命を貰えて」

深雪「お兄様、あとでお話があります」

私と深雪ちゃんの言葉に達也くんの視線はリーナに手渡された箱へと向いた


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:帰宅後、司波家へ(チョコレートを渡しに行きます)
偶数:帰宅後、君影家へ(一家団欒)
安価下。】


>>306 1:帰宅後、司波家へ】

深雪「上がって」

歩夢「チョコレート渡しに来ただけなんだけど....」

四葉香夜は達也くんと深雪ちゃんと別れた後帰宅し、着替えてチョコレートを3つ持って家を出た

1つは本命で達也くんへ

残りの2つはお父さんと兄さん用

彼女としての役目を終えたらすぐに実家へと帰省をしようと計画していたのだがそうもいかなかった

まぁ少しくらいならいいか

歩夢「お邪魔します」

深雪ちゃんに通されてリビングへと入ると壮絶な香りが鼻孔をくすぐった

歩夢「何これ.....」

紛れもないチョコレートの甘い香り

キッチンには湯煎されたチョコレートがたっぷりと入ったボウルが2つ

明らか2人で消費出来る量じゃない


歩夢「何を作ろうとしてるの.....?」

深雪「メインは牛フィレ肉のチョコレートソースがけ」

お肉にチョコレートソース!?

深雪「付け合わせはナッツを入れたクッキーのチョコレートフォンデュ」

......はい?

深雪「そしてデザートにはフルーツのブランデーを加えたホワイトチョコレートフォンデュにするつもりよ」

こんな糖分に満ちた夕食を私がとれば寿命をどれだけ縮めるのやら

というか怖いよ!

確かに今日中に達也くんの口に深雪ちゃんのバレンタインデーの気持ちは入るけれども!

うわぁ.....可哀想

深雪「歩夢、味見してみる?」

歩夢「わ、私はこの後用事あるので遠慮しておきます」

深雪「用事....あ、家に戻るんだっけ?」

歩夢「うん。お母さんも戻ってくるって言ってたし都合いいかなーって」

家族4人が揃う機会なんて3,4年ぶり?

夏に京都行った時を除いて、しっかり元ある家に集まるのはそれくらいぶりだ

深雪「.....そうよね。もう少し話したかったけど家族で居られるせっかくの機会を邪魔するのは駄目よね」

これは深夜さんのところに連れて行った方がいいのかなー

霜月さんに時間を調節して貰えば現実世界の数分=あちら側の世界の数時間とかで私の予定も狂わない


【安価です。
1.歩夢「もしよければ深夜さんのところ、行ってみる?」
2.達也にチョコレートを渡しに行く
安価下。】


>>309 1.歩夢「もしよければ深夜さんのところ、行ってみる?】

歩夢「もしよければ深夜さんのところ、行ってみる?」

深雪「いいのっ!?」

歩夢「い、いいけど.....」

目を輝かせて食いつく深雪ちゃんに思わずたじろいでしまう

歩夢「火、大丈夫?」

深雪「えぇ。全部消してあるわ」

歩夢「なら早速行こっか」

リビングを出て向かった場所は2階の一室

歩夢「せっかくだから一緒にどう?」

達也「俺は精神干渉魔法を使えないんだが.....」

歩夢「精神干渉使えない真夜さんだって行けてるんだし行けるんじゃない?」

達也「.....じゃあ行かせてもらう」

歩夢「意外と乗る気だね」

達也「噂の霜月さんと少し話してみたいからな」

歩夢「まぁいいや。....」

そういえばあちら側の世界に行く方法を知らない

肝心なことを把握出来ていなかった

.....なんとかなるでしょ。多分


椅子に腰をかけ、

「深夜さんのところに....霜月さんのところに....」

と心の中で念じ、次に目を開けるとそこはお屋敷の書庫だった

凄いなぁ....このシステム

今頃現実世界の司波家では椅子に座ったまま意識を失った人間が3人居ると考えると少しシュールだ

まぁ何はともあれこの世界に来れたことだし、えっと深雪ちゃんと達也くんは.....あれ?

私だけが書庫に運ばれたのかな.....?

とりあえず.....


【安価です。
1.ピアノが置いてある部屋(霜月・深雪)
2.キッチン(深夜と千夜)
3.沙夜の部屋(沙夜と達也)
安価下。】


>>311 2.キッチン(深夜と千夜)】

とりあえず.....適当に探してみるか


深夜「千夜さん、チョコレートの作り方を教えるのはいいけれど、それ誰にあげるの?」

千夜「い、言わないとダメ....?」

深夜「.....学校の人?」

千夜「......」

深夜「まぁいいわ。じゃあまずはチョコレートを湯煎して・・・」


適当に屋敷を回っていたらほのぼのとする現場を見かけてしまった

こっちの世界でも今日はバレンタインデーなのかな?


【安価です。
1.他の場所を探しに行く(沙夜の部屋)
2.他の場所を探しに行く(ピアノのある部屋)
3.キッチンへと入る
安価下。】

3


>>313 3.キッチンへと入る】

達也くんと深雪ちゃんは....放っておいても大丈夫だよね

敵がお屋敷に潜んでいるわけでもないし

問題な点を挙げるとすれば男性を嫌う沙夜さんが達也くんに出会うこと

今は学校に通っているようだけど、沙夜さんの意思で女子校に通っている可能性も捨てきれない

なんとかして男性嫌いを改善させなければ

四葉家の未来のためにも

そんな思いを胸に、キッチンというか厨房へ

深夜「あら」

歩夢「ご無沙汰しております」

深夜「まだ3ヶ月しか経ってないじゃない」

歩夢「社交辞令です」

深夜「可愛くないわね。そこは嘘でも何かしら言い繕いなさい。そうならないと大人になれないわよ」

つまり大人は嘘を言う生き物

そういうことらしい。深夜さんの持論では


千夜「深夜、ここからどうすれば....って、歩夢? どうしたのー?」

歩夢「ちょっと深夜さんの娘さんがお母様に会いたいっていったから」

千夜「ふーん。そっか。で、深夜。ここからは?」

深夜「グラニュー糖入れて」

千夜「何グラム?」

深夜「勘」

千夜「......」

歩夢「その量だったら50グラムくらいじゃないかな。多分だけど」

千夜「深夜より歩夢の方が頼りになる」

千夜さんの素直な意見を耳にした深夜さんは私を冷たい眼差しで見つめる

深夜「だそうなので、千夜さんはグラニュー糖を入れてしっかりと混ぜてて。その間に歩夢さんと少しお話ししておくから」

千夜「.....?」

首を傾げながらも作業に戻る


そしてお話の時間

深夜「千夜さんは私の物よ」

歩夢「物....」

深夜「はぁ....あんな無邪気な娘が欲しかった」

笑い話では済まない発言を軽々とした

というか30年前と比べてすごく丸くなってる

昔はもう尖った氷を擬人化させたような人だったのに

歩夢「そんなこと言うと深雪ちゃんが傷つきますよ」

深夜「言葉を選ぶ事に関しては深雪さんのような子に育てて後悔はしていません。ですが、言葉を選びすぎて会話が堅苦しいというのは距離を感じてしまいます」

歩夢「........」

深夜「何が言いたいのかっていうと、」

歩夢「千夜さんみたいな娘が欲しかった?」

深夜「それもあるけど違うわ」

深夜「私が言いたいのは後悔をしないような育て方をしろってこと。歩夢さんにいつ子供が出来るかは知らないし、そもそも子供を作れるのかも分からない。けれど、志すことはいつだって可能でしょう? せいぜい私の孫を捻くれた子に育てないようして下さいね」

しょうもない話かと思えば為になるお話しだった

綺麗な区切りの付け方

さすがは義母様です


千夜「歩夢、この後は?」

深夜「......ふん」

深夜さんは頼られなかったことを根に持ち、プイッと顔を背けてしまった

歩夢「えっと....」

千夜「あ、でも深夜から教えて貰ってるレシピだからやっぱり深夜に教えて貰うね。 人それぞれで食い違いとか出て来ちゃったら面倒だし。ね、深夜。教えて」

深夜「......」

思いがけない頼られ方に深夜さんはうっとりと千夜さんに釘付けになる

お歳の割には若々しい仕草

それが何も違和感を生み出していないところが妙

見た目も20代前半くらいだし

しかも現実世界では亡くなっているからこの世界では歳を取らないんだっけ?

もう既に妹であるはずの真夜さんが深夜さんの年齢を追い越している

不思議なこともあるもんだなぁ

ぼーっとそんなことを考えている間に何があったのか、深夜さんは千夜さんを優しく抱きしめていた

千夜「み、深夜.....」

深夜「千夜さんは可愛いわね.....。学校で誰かに邪険に扱われたりしてない? いじめに遭ってない? もし何かあったらすぐに言うのよ。私がすぐなんとかしてあげるから」

まるで千夜さんが実の娘かのように、親バカを見せる

親どころか子孫のはずなのに

千夜「そういうことは全く。みんな良くしてくれてるよ。深夜は心配性なんだよ。深夜が心配するのは真夜と雪乃と達也と深雪だけでいいの」

深夜「そういうわけにはいかないわ。千夜さんは私にとって大切な───」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:深雪「大切な、なんでしょうか」
偶数:深夜「娘のような存在ですもの」
安価下。】


>>318 4:深夜「娘のような存在ですもの」】

深夜「娘のような存在ですもの」

あーあ、ついに言っちゃったよ

深雪ちゃんが可哀想

千夜「深夜には深雪が居るでしょ。それに、私が娘なら姉さんも深夜の娘ってことになるけど?」

深夜「千夜さんが娘になってくれるなら本望よ」

あくまで沙夜さんはおまけ

千夜さん愛しすぎでしょ....

千夜「ん....ねぇ、お菓子作りたいから早く教えてよー」

深夜「あぁ、そうだったわね。次は・・・」

話題を逸らすことに成功した千夜さんは小さくガッツポーズをし、深夜さんの指導のもと作業に戻る

.....なんか時間を無駄にした気分

この間にささっと達也くんと深雪ちゃんを探しちゃおう


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:沙夜・達也
偶数:霜月・深雪
安価下。】

たあっ


>>320 6:霜月・深雪】

んー、深雪ちゃんは.....達也くんは.....

お屋敷の中を片っ端から探し続けて数分

なんでこんなに広い造りになってるの!

四葉本邸(この世界では霜月家)は七草とか九島と違って人を招くことが少ないから十師族の中でも小さい方だと噂で聞いたことがあるけれど私みたいな庶民からすれば破格の大きさ

もう歩き疲れたよ、と思い始めたとき綺麗なピアノの音が耳に入った

ピアノが置いてあるあの部屋に4人の内の誰かが居る

.....霜月さんかな?

音楽好きそうだったし


深雪「あ、歩夢」

霜月「深夜さんと千夜さんには会ったようですね」

出会い頭この2人の台詞の格差

深雪ちゃんは予期せぬ私の訪問に「あ、来たんだ」みたいな反応を

霜月さんは全てを悟った反応を

実力差が現れているのだとしたら相当なもの

霜月「深雪さん、ピアノはまた今度ね」

霜月「歩夢さん、達也さんは沙夜さんのところに居るので早めに行ってあげて下さい」

深雪「はい」

歩夢「分かり...ました」

沙夜さんのところに達也くん

1番最悪な組み合わせ

はぁ....なんでこうなっちゃうかなぁ

歩夢「深雪ちゃん、行こ」

深雪「えぇ。それでは霜月さん失礼します」

深雪ちゃんは丁寧に腰を折ってお辞儀をし

私は少しだけ頭を下げた

一応血の繋がりがあるんだし、これくらいの砕けた関係でもいいよね


沙夜さんが居るであろう沙夜さんの部屋の近くに行くと悲鳴が聞こえた

歩夢「嫌な予感しかしないよ.....」

深雪「もう遅かったかしら.....」

奇遇なことに沙夜さんの部屋の鍵は開いていたので簡単に部屋に入れた

部屋の中では沙夜さんがベッドの上でクッションを壁にして達也くんとの距離を取っている

肝心な達也くんはそんな沙夜さんの姿に呆れて呆然と立ち尽くしていた

沙夜「あ、歩夢っ! 深雪! グスッ...早く....達也を連れて帰って....」

涙目で訴える沙夜さんにいつもの威勢の良さはない

ここまで男性恐怖症だったの.....?

過去に何があったし

歩夢「大丈夫?」

達也「ここまで距離を取られると少し落ち込んでしまうな」

達也くんの台詞に深雪ちゃんは冷めた

部屋の空気は冷却され、机の上に置いてあった紅茶はホットからアイスになっている

深雪「沙夜さん、少しお話があります」

沙夜「ひぃ.....」

お母様に似て冷徹になった深雪ちゃんは沙夜さんに詰め寄る

歩夢「外出てよっか」

達也「....そうだな」


歩夢「.....ん、終わった?」

深雪「少し話し合っただけよ。歩夢が考えているような物騒なことはしてないわ」

本当にそれだけならいいんですけどねぇ....

百合本とか破いてないかな

歩夢「じゃあ深夜さんのところ行こっか」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:深夜と千夜がいちゃいちゃしてるシーンに遭遇
偶数:お菓子作りが終わった後
安価下。】

とうっ


>>324 9:深夜と千夜がいちゃいちゃしてるシーンに遭遇】

深夜「・・・で、そのフォンダンショコラは誰に渡す物なのか教えて貰える?」

千夜「.....お世話になってる人に」

深夜「3つ.....。学校で仲良くしている男の子は3人....ねぇ」

千夜「み、深夜.....違うの」

深夜「どう苦しめてあげましょうか」

千夜「ねっ、深夜? 今作ったのは姉さんと霜月さんと深夜の分だから.....」

深夜「久しぶりに精神干渉を....って、え? 千夜さん、今なんて?」

千夜「うぅ.....だから....姉さんと霜月さんと深夜の分....なんだけど.....」

深夜「......!」


深夜さんは千夜さんを強く抱きしめて謝罪の言葉を口にした

そんな母娘のようなシーンを目撃した実の息子は、

達也「......」

意外というかそういうスキンシップを取れる母を珍しそうに見つめている

問題の娘といえば、

深雪「お母様....私にもあんなことしたことないのに.....」

怒りを超えて落ち込んでいた

この親子は.....

歩夢「深夜さん」

深夜「歩夢さん? 悪いけど後にして頂戴。今は千夜さんと......深雪さん? それに達也も.....」

深夜さんの顔が青ざめた

見られたことを恥ずかしがるよりも早く、どう威厳を保つための対処をするべきかを考えついたようだ

深夜「達也、深雪さん、貴方達は何も見ていない。いいですね?」

さすがにそれは無理があるだろうと他人は思う

しかし、

達也「.....はい」

深雪「.....分かりました」

深夜さんの恐ろしさを知る身近な人間は承諾した

やっぱり世の中権力なんだなぁ、と改めて思い知らされる


【安価です。深夜・達也・深雪が話している間。
1.沙夜と話す
2.千夜と話す
3.霜月(さん)と話す
4.深夜・達也・深雪の会話に混ざる
安価下。】

4


>>327 4.深夜・達也・深雪の会話に混ざる】

深夜「それで、用件は何でしょうか。もしかして最近そちらで問題になっているパラサイトの件について?」

深雪「パラサイトを知っておられるのですか?」

深夜「数日前に雪乃がこっちに来た時に相談を受けただけよ。吸血鬼を倒す方法についてね」

深雪「吸血鬼.....パラサイトを倒すにはどうすればよろしいのでしょうか.....」

深夜「倒すというよりは精神的に殺すのが手っ取り早いでしょうね。宿者となっている人間を殺してもパラサイトは死なずにまた他の宿者を探し彷徨うそうですから」

深雪「では、」

深夜「深雪さんには精神を凍りつかせるコキュートスがあるじゃない」

深雪「......私にはパラサイトは視認できませんので狙いを定めるのは不可能です」

深夜「歩夢さんの目を使ってみては如何ですか? それで成功した例もあるようですし」

深夜さんの視線は達也くんへと向いた

まるでその例を経験した体験者のようだ

しかしすぐに視線は話し相手、深雪ちゃんへと戻る


深夜「他の手段としては.....歩夢さんの固定感念(ドリーミーステイツ)でパラサイトの感情や思考を固定して動けなくしたり」

歩夢「固定感念?」

深夜「30年前に夜永さんが作った魔法のこと」

あの魔法、名前付いてたんだ

固定感念ね

あとは固定感念に因んだ2つ名が定着されれば完璧

生きてるうちにやりたいことの1つが達成される日も近い

深夜「あとは霜月さんが時間を操作してパラサイトの存在を消す、とか」

深雪「時間操作で消せるのですか?」

深夜「そうねぇ....人に例えてみましょうか。胎内でしか生きられない胎児が胎外に出たらどうなると思いますか?」

深雪「.....亡くなると思います」

深夜「亡くなるって言っても少し時間がかかるのだけれどね。じゃあ次、受精卵」

深雪「そもそも生命として確固とされて....あ」

深夜「少しヒントを与えすぎてしまったかしら」

受精卵の状態ではまだ人じゃない

生命を与えられる前の存在

パラサイトも生命を与えられる前の状態まで戻してしまえば消滅を免れない

つまり霜月さんは人間であろうとそれ以外の生命体であろうと敵無しということになる


深夜「ただ、私の勘だと深雪さん。貴女がこのパラサイトの一件の終止符を打つことになります」

深雪「私が、ですか.....」

深夜「ついては達也、しっかりとサポートしてあげて下さいね。信頼してますよ。失敗した時は貴方の役割に加え私の信頼を裏切ったということになるので油断はしないように」

深夜さんは達也くんのことを息子として見ていない

みたいな噂を以前聞いたけど今ではそうでもないようで安心した

深雪ちゃんも心なしか嬉しそうだし

深夜「もし何かあれば先生に相談して下さいね。彼女は必ず力になってくれるはずですから」

深雪「お母様に頼るのは.....」

深夜「気持ちは嬉しいし、娘に会えるのも今となっては貴重だから喜ばしいことなのだけれど、それは数少ないでしょうね。今はまだしもあと少しすれば切羽詰まった状況に陥るでしょうから」

深雪「....はい」

深夜「別に今すぐじゃなくてもいいじゃない。パラサイトの一件が落着した後でもいいし、貴女達が2年生になる時でも結構よ」

深雪「お母様.....」

深夜「深雪さんだけじゃなく達也、貴方もよ。今まで聞いてあげられなかった話をたくさん聞かせて下さいね」

達也「.......」

深夜「ふふっ、思春期かしら」

達也「いや....」

深夜「その時は歩夢さんも是非。あと真夜も.....雪乃も」

歩夢「戻ったら言っておきます」

深夜「お願いね」

深夜「話は終わり。この後は.....」


【安価です。
1.現実世界に戻る
2.深夜と話す
3.沙夜と話す
4.千夜と話す
5.霜月(さん)と話す
安価下。】

1


>>331 1.現実世界に戻る】

深夜「この後はどうするの?」

歩夢「特に」

深雪ちゃんと達也くんは並んで首を振った

深夜「帰るのね。じゃあせめて、沙夜さん以外には少しでもいいから挨拶しておきなさい」

深雪「沙夜さん以外.....ですか?」

深夜「もし彼女に挨拶するなら達也は控えて。あの子、かなりの男性恐怖症だから」

男性恐怖症ねぇ

真夜さんのような境遇であれば男性恐怖症になるのも....って、

もしかして強姦された過去を......

深雪「男性恐怖症になった経緯をお母様はご存知ですか?」

深夜「私が話せるようなことではないわ。ただ、歩夢さんの考えているようなことではない、とだけ」

深雪「歩夢、何を考えていたの?」

歩夢「.....」

非常に言いにくいことで言葉を紡ぐのに戸惑ったのだが、

深夜「それはともかく、早く挨拶をしてきなさい」

深夜さんが気を遣ってくれたおかげで紡ぐ手間が省けた

沙夜さんが男性恐怖症になったきっかけ

....気になる



深夜さんの話によれば霜月さんも千夜さんも霜月さんの部屋に居るということで寄り道せずに霜月さんの部屋を訪れた

霜月「もう帰るのですね」

歩夢「時間があるときにまたゆっくり来ます」

霜月「そうですね。そちらは今大変だと聞きますし。全てが落ち着いたらまた来てください」

千夜「また来てね」

千夜さんは小さく手を振った。可愛い

霜月「近いうちに.....また」

最後の最後で意味ありげな笑みを浮かべる霜月さん

こういう笑い方をするときは必ず何かあるんだよなぁ

これ以上にややこしいことにはならないよね.....?

【安価です。コンマ1桁
奇数・0:沙夜のもとへ
偶数:現実世界へ
安価下。】

はあっ


>>334 7:沙夜のもとへ」】

霜月さんの部屋を出た私たちは少しだけドアの前で話しあう

達也「俺は他の場所で待ってるが?」

歩夢「.....お言葉に甘えさせて頂きます」

深雪「あれでも一応先祖、だから....そうね。お兄様、少々お待ち下さい」

”あれでも”.....か

皆して沙夜さんに対する態度が冷たい

愛されている妹とは何処でこんなにも差がついたのか

やっぱり百合が好きってそこまで異常な性癖の持ち主として認知されているのかな.....?


沙夜『.....達也は?』

歩夢「他のところに居るから入れて」

沙夜『本当?』

さっきのことがよっぽどトラウマだったのか疑い深い

歩夢「本当だから。ね?」

直後、カチャリと扉の鍵が解錠された

深雪「やっと信用してくれたのね」

深雪ちゃんにしては珍しく、少し面倒そうな表情をしている

それもそのはず

この交渉には5分もの時間をかけているのだから

沙夜さんの部屋はさっき見たときと違い、大きく変わっている部分があった

それはベッドの上に積み重ねてある本の数々

いずれも題名と表紙から察するに女の子同士が仲良くする本のようだ

さっきのトラウマを忘れようと努力した形跡だとしたら賞賛に値する程


沙夜「で、何の用?」

歩夢「別れの挨拶をしようかなって」

沙夜「ふーん、そう。じゃあ次は達也を連れずに....ひっ....連れてきてもいいけどここには近づけないで」

部屋の気温が低下すると共に沙夜さんの顔は真っ青になり言い直した

さっきの説教がよっぽど効いているようだ

沙夜「ま、また今度....。じゃあね」

トラウマが再び蘇ったのか頭を抱える

さすがに可哀想に思えてきた

顔色も悪く、体調が悪そうだし

歩夢「沙夜さん」

沙夜「ん、なに? わっ.....」

私は沙夜さんを抱きしめた

少しだけ、少しだけ

歩夢「......落ち着いた?」

沙夜「ううん。ベッド行こ」

歩夢「落ち着いたみたいだね」

沙夜さんを放し、2歩下がる

沙夜「むぅー」

頬をぷくっと膨らませて典型的な怒った仕草を見せている

いや、それ古いから

歩夢「今度こそじゃあね」

深雪「また」

軽く頭を下げ、沙夜さんの部屋を出た


歩夢「......ん」

深雪「ん....」

沙夜さんの部屋を出ると同時に現実世界へと引き戻される

目的が達成されたから、なのかな

深雪「.....これ、不思議ね。どういう原理になっているのかしら」

歩夢「体はここに残っているようだから精神とか記憶だけが向こうに行く、のかな」

深雪「不思議ねぇ....」

この原理についても機会があれば知っていそうな人に聞いてみようかな

こちら側の世界に居る人だと....お母さんとか真夜さんに

あぁ、あと何でも知ってる先生とか


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:君影家へ
偶数:夕食作りのお手伝い
安価下。】

ほい


>>339 6:夕食作りのお手伝い】

深雪「夕食作りに戻らないと」

歩夢「手伝うよ」

深雪「家に戻らないでいいの?」

歩夢「まだ時間はあるから」

深雪「じゃあお願いするわね」

意外なことに快諾だった

てっきり「私個人からのお兄様への気持ちなのだけれど」とか言って断られると思っていたのに

2人からのバレンタインデーになることに抵抗がないのか気付いてないのか

....聞かぬが仏かな。無理に気付かせるようなことじゃないし


ーキッチンー

うっ....やっぱりこの甘すぎる匂い....キツい

キッチンどころかリビングまでに漂う濃厚なチョコレートの香りは強大なもので息苦しくなる

口に含んでないからセーフだよね?

香りとして味わうだけなら寿命に影響ないはず

歩夢「私は何すればいい?」

深雪「そうね....」

顎に手を当てて天井を仰ぐ仕草を見て察する

歩夢「もしかしてない、とか?」

深雪「.....あ、ワークシェアリングをしましょう」

歩夢「ワークシェアリング.....。何の仕事を分けて貰えるの?」

深雪「やっぱり最後にインテグレーションするのが理想よね。時間の効率も良いし。それに2人でやることでシナジー効果も生まれるはずよ」

歩夢「.....は?」

え....なに? どうしたの急に横文字使い始めて

意識高い系を意識してるの?

フラペチーノを過剰摂取しに某コーヒーショップに行くのかな

歩夢「最終的に2人の作業を合わせることで時間の効率化を図り、ついでに相乗効果が生まれることを理想にしてるってことね」

深雪「えぇ。じゃあまずプライマリーにすべきことから決めましょう」

歩夢「最初にすべきことって言えばいいのに.....」

深雪「プライマリーはグランドデザインを.....歩夢、どうしたの?」

歩夢「次、横文字使ったら怒るから」

深雪「......今日、生徒会室で話題になったのよ」

あ、あれ? 急に回想.....?


ー回想ー

リーナ「ミユキ、日本では横文字が流行ってるって聞いたけれど本当?」

深雪「横文字を使うのは一部の人だけよ。俗に言う意識が高い人、ね」

リーナ「意識が高い人? 例えば?」

深雪「全国に展開してるとあるコーヒーを主に扱うチェーン店でわざわざ仕事をしたり」

リーナ「居座り続けられるのはお店側からしたら迷惑ね.....」

深雪「あとはやたら変に場を取り仕切ろうとしたり」

リーナ「つまり露骨なアピールをする人が意識高いってこと?」

深雪「一概にそうとは言えないけれど、間違ってはいないと思うわ」

ほのか「意識高い系....あ、昨夜ニュースで、

甘いの食べたい → 某コーヒーショップ行こう
喉乾いた → 某コーヒーショップ行こう
なんか疲れた → 某コーヒーショップ行こう

みたいな特集をしてました」

リーナ「そのコーヒーショップ大儲けじゃない。経済も回るし良い傾向なのかもしれないわね」

深雪「そういう問題じゃないでしょう......」

ー回想終了ー


深雪「っていうことがあって」

歩夢「そこからどう横文字を使い始めたのか理解に苦しみます」

深雪「必ず一言に横文字を入れるっていうゲームをしたのよ」

そういえば下校の時にもバレンタインデーの話題に加えていくつか横文字が飛び交っていたような気がする

そういう流行に敏感なところはやはり青春を謳歌している女子高生

私のような流行に疎い女子高生とは住む世界が違う

ちょっとだけ羨ましい.....。ちょっとだけね

歩夢「そのゲーム、リーナが有利だったんじゃない? 英語が母国語みたいな土地で育ってるんだし」

深雪「案外そうでもなかったわよ。リーナ、単語のボキャブラリーは多いのだけれどほとんど意味を間違って覚えていたから」

歩夢「あぁー、リーナっぽい」

深雪「......やりましょうか」

歩夢「......そうだね」

リーナをお母さんが言うところのポンコツ扱いしてしまったことを忘れるために深雪ちゃんからの指示を仰ぐ


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:君影家へ
偶数:達也のところへ
安価下。】


>>344 6:達也のところへ】

深雪「歩夢、もういいわよ? あとは盛り付けだけだから」

歩夢「あ....うん。時間もアレだしそろそろお暇するね」

19時を少し過ぎたくらい

少し時間やばいかな.....

深雪「手伝ってくれてありがとう。また今度埋め合わせするわ」

歩夢「いいよ、これくらい。.....帰る前に達也くんにチョコレートの感想聞いてくるね」

達也くんと話したいことはいくつかあるけど感想だけ聞いたら早く家に帰ろう

多分お母さんも帰ってきて、私待ちだと思うし

私が帰らなければ永遠に夕食に辿り着けないというのは心が痛む

その相手がいくら家族でも、人を待たせるのは流儀に反する


ー達也の部屋ー

歩夢「どうだった? 美味しかった?」

達也「美味しかったぞ」

歩夢「もっと具体的に」

達也「.....ホワイトデーのお返しは期待してくれていい」

噂ではホワイトデーのお返しは3倍返しにして貰えるらしい

3月14日に頂けるお返しで判断しろってことか

歩夢「じゃあお言葉に甘えて期待しておくね。なにくれるのかなー?」

ハードルを上げておいたから4倍返しくらいにしてくれるだろう

4倍って.....何貰えるんだろう.....?


ー君影家ー

雪乃「遅かったわね」

歩夢「バレンタインデーだから」

雪乃「あぁ....」

その一言で察してくれたらしい

まぁ実際はチョコレートをあげるよりも司波家の夕食の手伝いでこんなに遅れたんだけど

お母さんが先導し、リビングに入ると、


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:夜永が居る
偶数:家族のみ
安価下。】

てい


>>346 3:夜永が居る】

夜永「えー、それほんとー?」

隼人「あぁ、本当だ」

夜永「私が寝ている4年の間にまさかそんなことがあったなんて.....いいなー、面白そうで」

隼人「でも夜永は母さんや父さんが高校生の時代に居たんだろ? それはそれで楽しそうだが」

夜永「あ、そう! 雪乃さん達が高校2年生の時の2月14日は修羅場でしたよね、綾人さん」

綾人「.....あの時か」

夜永さんと兄さんが対面する形で座り、兄さんの隣にお父さんが座って歓談していた

兄さん、すごく楽しそう.....

雪乃「歩夢、夜ご飯はもう出来てるから」

歩夢「あ、....うん」

なんで夜永さん居るんですかね....

そんな疑問を胸に空いてる席に腰をかけ、視線を机の上にやる


歩夢「......!」

パンがない.....だと....

お母さんがお母さんでない可能性が浮上した

10日に1日くらいでやってくるパンがない日っていうのが偶然今日なのかもしれないけど

私と兄さんが心の中で喜ぶ中、夜永さんは、

夜永「雪乃さんのパン美味しいのに」

媚を売っているのではない

夜永さんはお父さん同様に毎日パンを食べても愚痴一つ漏らさないタイプの人間なのだ

この台詞にお母さんは「ごめんね。隼人と歩夢が嫌がるから」と私たちを悪者にして謝罪した

毎日パンが出てくればトラウマにならない方が稀有な存在だと思うのは私だけ?

雪乃「食べましょうか」

久しく集まった家族に加え1人

しかしその1人が当たり前のように馴染み、何処か懐かしいような.....

歩夢「っ....」

一瞬、1つの情景が脳裏に浮かんだ

お母さんとお父さん、兄さん、私、そしてもう2人居た気がした

1人は夜永さん....?

じゃあもう1人は.....


夜永「歩夢さん、大丈夫?」

歩夢「ん....大丈夫です」

夜永「そう? ならいいんだけど」

全てを見透かしているかのように口元を三日月型に吊り上げ、仮の納得をした

.....卑怯だ。すぐに否定してくれればいいのに

その後、君影家でのヒエラルキーを基にお母さんが号令を取り、生物ないし野菜を育てた人に向けて感謝の挨拶を済ませる

夕食の時間、おかずを口へと運んだ時ふと違和感を覚えた

歩夢「.....これ」

雪乃「歩夢、気にしなくてもいいのよ」

歩夢「......」

私にとって今食べた物は普通だった

しかし客観的にみれば味付けが薄い

いくら家族とはいえ気を遣わせてしまったことに心苦しさを感じる

口止めがされている今、私ができることはただ1つ

歩夢「.....ありがとう、ございます」


【安価です。夕食後
1.隼人と話す
2.綾人と話す
3.雪乃と話す
4.夜永と話す
安価下。】

4


>>350 4.夜永と話す】

夕食後、真っ先に夜永さんを捕まえた

捕らわれた立場にも関わらず彼女は冷静に場所の変更を提案し、懐かしき私の部屋へ

去年の7月に水波ちゃんを連れて来ているので実に6,7ヶ月、つまり約半年ぶりということになる

しかし埃は一切積もっておらず、綺麗なまま

この家に住んでいるのは兄さんとお父さんだけなのでどちらかが掃除してくれたのだろう

あとでお礼言っておかないと

夜永「年頃の女の子の部屋を勝手に掃除.....いえ、入室されても何も思わないの?」

歩夢「やましい物は置いてありませんから」

夜永「確かに....うん、そうみたいだね」

一周部屋を見渡して察してくれた


夜永「入りきらなくて積んであるし.....」

歩夢「本棚置くスペースがなくて」

夜永「.....部屋のバランス的にもせいぜい本棚は2つが限界か。それでも十分多いと思うけど」

歩夢「夜永さんは読書しないんですか?」

夜永「読書だったら知識を得るために昔いっぱいしたよ。読まされたっていうのもあるけど」

歩夢「読まされた.....。どんなジャンルを読んでいましたか?」

夜永「基本的には勉強目的のもの。たまに恋愛とかミステリーとか、百合とか」

勉強、恋愛、ミステリーまではいいとして、

歩夢「百合ですか.....」

はっきり言って意外だった

男女問わず信頼、もしくは信仰されるカリスマを持つ夜永さんが一歩女性側に踏み込んだジャンルを好むとは

しかしここまでくると逆のジャンルを好む人が居ないというのも疑問に思えてきた

恥ずかしいから他言していないだけで実は近くにそういう趣味を持った人が.....?


夜永「歩夢さんは百合は好き?」

歩夢「一度読ませて頂いた時はまぁまぁ面白いかなって思ったくらいです」

夜永「ふーん、そっか」

納得したような返答をし一拍置いた後、

夜永「今度貸してあげるよ。何冊でも」

歩夢「ん....はい。でもまだ私が未成年であることは忘れないで下さいね」

夜永「私だって未成年だよ。まぁ18禁の本が買えないって訳でもないけど、そこら辺は弁えてるから。だって妹と....」

そこで夜永さんの顔は紅みを帯び、言葉が途切れた

妹....姉妹系の百合を読んでるのか

もしかして重度のシスコン.....?

ここでタイミングが良いと、前々から疑問に思っていた質問をぶつけてみる

歩夢「妹さん....咲夜さんは今どちらに?」

夜永「遠いようで近いところに居るよ」

すぐに帰ってきた返事に私は首を傾げた

遠いようで近い? なぞなぞ?


夜永「まぁ私にとって君影歩夢という存在自体も妹みたいな物なんだけどね」

歩夢「どういう、意味でしょうか」

夜永「.....歩夢さん、しっかり昔のことは忘れられているみたいね」

歩夢「昔?」

夜永「貴女が四葉家で育てられたって話は聞いた?」

深夜さんや真夜さんから料理を教わり、その他の様々な知識をある程度身につけた期間

しかしその工程の記憶は殆どなく、ずっと一緒に居たという深雪ちゃんの姿すら思い出せない

残ったのは感覚と教えられたことだけ

近辺に居た人物の記憶は完全に失われている

歩夢「記憶喪失.....」

私の真面目な憶測に夜永さんは笑った

夜永「正しく言うなら記憶操作ね。あの時の人間関係の記憶は深夜さんが封じたわ」

歩夢「人間関係で何かあったんですか? 大喧嘩をした、とか.....」

夜永「ううん、喧嘩とかじゃなくて.....」

夜永さんは肩をすくめ、息を吐いた

ここで小さな間を空けることで心の整理がついたようだ

夜永「でも、もういいのかもしれないわね。あの子の許可を取る必要はあるけど、歩夢さんはもう名前まで辿り着いちゃったから」

歩夢「名前.....? そういえば何で夜永さんは私の子供の頃を....」

夜永「ねぇ歩夢さん、知りたい? 夕食の時に思い出しかけたもう1人について。私の、妹について」


【安価です。
1.歩夢「.....教えてください」
2.歩夢「.....今はまだ....いいです」
安価下。]

1


>>355 1.歩夢「......教えてください」】

夜永さんが隠してきたことはいくつかある

一つ、家柄を象徴する姓

一つ、夜永さんの霜月家と四葉家との関係

一つ、妹は持っているけど自分は持っていない能力

大まかに考えると以上の3点

しかし、ハッキリ言うと全てが不確か

年齢や名前、はたまた存在自体が魔法なんてことも時間操作やら世界を創る魔法師を見て想像に難くなくなった

夜永さんのことを全てを把握しているのはお母さんや真夜さん、深夜さん辺りのいつもの3人

そして、夜永さんは彼女らの高校時代を見守った普通では考えられない偉業を成し遂げている

これは時間操作が可能な魔法師の仕業って言っていたけどそんな事が出来るのは世代を超えてもあの人しか居ない

夜永さんは霜月と関係が深い

それがどんな形であるかは皆目検討もつかないけれど、

どんな形であっても夜永さんへの信頼は変わらない


歩夢「......教えてください」

夜永「ふぅ.....もういいよね、咲夜」

夜永さんは私から視線を逸らさず、言い放った

当然、背後には誰も居ない

言葉は君影歩夢へと向けられた

君影歩夢を構成している2人の内の1人へ

君影歩夢であり、君影歩夢でない、君影歩夢

つまり、もう2年と半年以上付き合ってきた”私”が咲夜

これならあの人が夜永さんに助けを求めたのも納得がいく

咲夜さんだけが持っていて、夜永さんだけが持っていないない能力

それは人の魔法をコピーする力

大方、合点がいった

あの人、咲夜って名前なんだ

心の何処かで捨てきれていなかった好奇心が払われた

彼女の名前は咲夜。夜永さんの妹


ここで私がするべきことは1つ

数少ない、気付いてあげられなかった姉妹の時間を作り出してあげること

歩夢「代わりましょうか?」

夜永「それは魅力的な提案ではあるけど、」

歩夢「けど?」

夜永「まだ話は終わってない。次に話すのは私と咲夜の姓について」

霜月と四葉とは無関係でないはずの姓

何処かの代で恩を売買した仲、というのが私の中では最も有力な説だった

間違っても血の繋がりなどなく、ただ協力的な関係にあるのだと思い込んでいただけ反動は大きい

夜永「姓は瓊々木。霜月の唯一の分家だよ」

右目だけを碧色に変え、そう私に告げた

夜永「ちなみに咲夜は左目だけ。いくら直系の歩夢さんの身体でも精神面が強く影響するのか分家らしく片目だけだったよ」

歩夢「そう....ですか」

片目がどうとかはどうでも良かった

重大なのは私とお母さん以外に霜月の血を継ぐ者が居た現実

お母さんは天涯孤独でなかった

30年前には夜永さんと咲夜さんのご両親が何処かに居たはず

知らないだけで繋がっていた

それがどうしてか凄く嬉しく、自分を安心させる


夜永「ねぇ歩夢さん、過去の記憶取り戻したい? 深夜さんに言えば戻して貰えるよ。ただし、深雪さんや達也さんの記憶も連帯的に戻ることをしっかり考えて」

歩夢「何か関係が壊れそうな過去....ありましたか?」

夜永「過去じゃなくて未来が問題なの。幼馴染であったときの記憶を取り戻したらより一層全員が苦しむことになる」

記憶を取り戻せば幼馴染みの関係を実感するだろう

しかし誰か1人が欠けたときの代償は大きい

それが何十年ならまだしも、あと数年しかない

この制限された身体に鞭を打って新しい思い出を作るか、

過去の出来事を全て思い出し新鮮味のある思い出を思い出すか

夜永「もう1度聞くけど歩夢さん、貴女はどちらを望むの?」

私は.....


【安価です。
1.思い出す
2.思い出さない
安価下。】

1


>>360 1.思い出す】

達也くんや深雪ちゃん以上に咲夜さんは身近な存在

婚約者から夫、親友から義理の妹に彼らの立場が昇格しても咲夜さんには届かない

血縁的にも、肉体的にも

2人で1人だと決めたのだから、君影歩夢には君影歩夢を知る権利がある

一方的に知られるのはここまで

こちらからも図々しく踏み寄ろう

彼女が半歩進んでいるなら私も半歩進む

これでようやく対等の関係になれる

歩夢「私は....思い出したいです。彼女のことを」

夜永「深雪さんや達也さんについては?」

歩夢「咲夜さんが最優先です」

夜永「....そう。じゃあ記憶を戻す2つの選択肢のうち1つを選んで」

夜永「1つ目、深夜さんのもとに行く」

夜永「2つ目、合言葉を使って深夜さんと会わずに記憶を戻す」

どっちでもいいけど2つ目の合言葉は少し気になるなぁ.....

いや、でも深夜さんと直接会った方が確実で楽かもしれない

さて....どうしよう


【安価です。
1.深夜のもとへ
2.合言葉
安価下。】

1


>>362 1.深夜のもとへ】

.....時間はかかるかもしれないけど深夜さんのところに行くのが確実かな

少し訊きたい話も出来たし

歩夢「深夜さんに解いて貰います」

夜永「了解。じゃあ早速行こっか」

その言葉を耳に入れる頃には意識は薄れ、もう何度目になるか分からない気絶をした


歩夢「ん.....」

数時間前とはまた違い今回目を覚ました場所はサンルームだった

正確に言えば夜だからムーンルームなんだけど

本題である深夜さんに話しを訊く前に夜永さんと合流しようと思ったのだがその手間は省かれる

深夜「何か御用でしょうか、先生」

左の席に夜永さんの姿が

正面の席には深夜さんとその膝に乗る千夜さんの姿があった

なお深夜さんは邪魔者の出現に不機嫌そうな顔を、

千夜さんは恥ずかしそうに顔色を朱に変え、

千夜「み、深夜っ! また今度....ね」

目に涙を浮かべて走り去っていった


なんか申し訳ないことをしちゃった...かな?

深夜「ぁ.....はぁ....それで、どうされましたか?」

夜永「十数年前に封印した歩夢さん達の記憶を戻して貰いに来ました」

深夜「ということは話したのですね。咲夜さんについて」

夜永「3ヶ月ほど見てきましたが皆さんはもう大人です。深夜さんが思っている以上に」

深夜「.....そうですか。わかりました。先生がそう判断されたのなら、私から申し上げることはありません」

お母さんも真夜さんも、深夜さんも夜永さんのことを心底信頼している

先生の立場ってここまで有利なんだ

持ち前のコミュニケーション能力も関係しているんだろうけど

深夜「それでは歩夢さん」

目の前には深夜さんの細い人差し指が

そして自然に、流れるような動きで私の額に触れる


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

雪乃「歩夢、この中だと誰が好き?」

歩夢「好き?」

雪乃「分かりやすく言うと、誰と一緒に居たいか」

歩夢「んー......穂波さん」

深夜「穂波、あとで私の部屋に来なさい」

穂波「えぇっ!? お、奥様.....」

深夜「.......」

穂波「うぅ.....」

真夜「歩夢さん、穂波さん以外だと誰?」

歩夢「真夜さん」

雪乃「......ぇ」

深夜「その次は?」

歩夢「深夜さん」

雪乃「......私、部屋戻る」

真夜「さすがに同情してしまうわね.....」

深夜「いくら無邪気な年頃とはいえ娘からここまで邪険にされてはね.....」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

深雪「夜永姉さま、こんなに遠くまで来てしまうとお叱りを受けるのでは.....?」

夜永「いいのいいの。お屋敷の中だけだと飽きちゃうでしょ?」

深雪「それはそうですが.....」

夜永「咲夜も歩夢さんも、たまには外に出ないと」

咲夜「帰りたい」

歩夢「本持ってくればよかった」

夜永「もう.....」


深夜「それで、何か言い訳は?」

夜永「すみませんでした」

深夜「謝罪は言い訳じゃないのだけれど」

夜永「.....言い訳する余地もありません」

深夜「歩夢さんや咲夜さんだけでなく深雪さんを連れてあんなに遠くまで。何もなかったからいいものの、何かあったらどうするつもりだったの?」

夜永「私が命をかけて守っていました」

深夜「.....そう。話は終わりよ。これからはくれぐれも私達の目の届く範囲で深雪さん達と遊んであげて下さいね」

夜永「.....! はいっ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

歩夢「深雪ちゃん、この漢字読める?」

深雪「.....わからないわ、ごめんなさい」

歩夢「咲夜は?」

咲夜「私にもちょっと....。姉さんなら分かると思うけど」

歩夢「夜永姉さん、どこ?」

深雪「さっきまたお母様に連行されていたわ」

咲夜「また......。ごめんなさい、姉さんが迷惑をかけて」

深雪「私に謝られても困るのだけれど.....」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

深夜「料理を教えて欲しい? どうして急に?」

歩夢「花嫁修業」

深夜「何の本を読んだのよ......。まぁいいわ、教えてあげる。ただし私が教えてあげられるのは和食だけ。洋食なら真夜を頼って。それ以外だと貴女のお母さんに」

歩夢「うんっ!」

深夜「......可愛い」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

まだ全部じゃなけど様々な事を思い出した

夜永さんのことを夜永姉さんと呼んでいたこと

咲夜さんのことを咲夜と呼び捨てにしていたこと

いつも夜永さんに引っ張られて深雪ちゃんや咲夜さんと遊んでいたこと

達也くんのことはまだ思い出せないけど、それなりに日常のことを思い出せた

深夜「昔の歩夢さんは可愛かったのよ。今はあの女に似て捻くれ者になってきてるけど」

たしかに私は捻くれてると思うけどお母さんはそうでもないような......

深夜さんや真夜さんだけが知るお母さんが居るのかもしれない

深夜「これで私がしてあげられることはお終い。達也や深雪さんの記憶の方も同時に戻しておいたから昔話に花を咲かせてくるといいわ」

歩夢「ありがとうございました」


【安価です。
1.現実世界へ
2.どうして記憶を封印したのか
3.その他(深夜へ質問など)
安価下。】

2


>>370 2.どうして記憶を封印したのか】

思い出せた記憶はまだほんの一部

しかしそのたったの一部でも良い思い出だったと断言できる

ではなぜ過去の記憶を封印したのか

それ相応の何かがあったはず

歩夢「どうして記憶を封印したのか教えて頂けますか?」

深夜「それを知ってどうするの?」

歩夢「どうもしません。知りたいだけです」

深夜「.....大したことないわよ?」

彼女にとっての”大したことない”は何処までなのだろうか

他人が亡くなる

他人を殺す

この2つは興味すら持ちそうにない


それこそ冷たく、記憶を取り戻す前の第一印象のように

深夜「それでも知りたいというのなら、構いませんけれど」

続けて発せられた言葉には圧が込められていた

精神を擦り減らせるような方法を取るのは姉妹とだけあって真夜さんと同じ

30年前はまだ優しくて可愛かったのに

だがこの手口はもう私には効かない

歩夢「教えて下さい」

深夜「.....瓊々木の存在は機密だったからよ」

歩夢「はい?」

深夜「だから、瓊々木は人の魔法をコピーする能力を持っているだけあって一族を知る者からしたら喉から手が出るほど欲しい存在だったの」

歩夢「瓊々木の存在がどれほど大切かを理解しないで他言することを恐れた、ってことですか?」

深夜「えぇ、そう。特別な事情があったから夜永さんと咲夜さんは四葉家で育てられたの。本当なら2人の存在は貴女達が成人するまで教えるつもりはなかったのよ」

魔法師は国の兵器と言われる時代

人の魔法をコピー出来る魔法師が居るのなら、何処の国もそれを欲しがる


うっかりその事を他言してしまう可能性が無かったとは一概に言えない

深夜「瓊々木の存在を他言されることは本当に困るの。歩夢さんが1番よく知っているでしょう?」

咲夜さんの能力で私は七草家の秘術・魔弾の射手を使える

咲夜さんの能力で私は九島家の秘術・仮装行列を使える

咲夜さんの能力で私は四葉家現当主である四葉真夜の流星群を使える

私にとって瓊々木の能力は有益なものばかり

ただ一点、寿命を縮めたのは痛かった

しかしそれは私が間違った使い方をしたからであって、咲夜さんや真夜さんを責められるようなことではない

深夜「これは歩夢さんを信頼した結果です。くれぐれも内密にお願いします」

歩夢「はい」

深夜「じゃあ私は霜月さんに呼ばれているからもう行くわね」

歩夢「ありがとうございました」

深夜「それでは先生、あとはお願いします」

そう言って深夜さんはサンルームを後にした

夜永「どうだった?」

歩夢「気を遣ってくれていたんだな、って思いました」

夜永「小学生並みの感想ね」

歩夢「すみません」

夜永「咎めてる訳ではないんだけど.....。まぁいいや。帰ろっか」

歩夢「はい」


【安価です。
1.夜永と話す
2.雪乃と話す
3.綾人と話す
4.隼人と話す
安価下。】

3


>>374 3.綾人と話す】

次に目を覚ました時には案の定、現実世界に居た

いまいち理解のしにくい”あちら側の世界”と”こちら側の世界”の行き来の仕組み

全てを把握しているのは”あちら側の世界”を知る者の中でも極少人数だろう

しかしそれを知ったところでどうこうある訳でもないので気にしないことにした

どうせ私には理解できるような話じゃないだろうし

夜永「じゃあ私は隼人くんと話しておきたい事があるから」

と、右手を軽く振って部屋を出て行った

歩夢「.....後でね」

私であって私でない私である咲夜さんにそう伝え、後を追うように1階へと降りる


ーリビングー

リビングを一度見渡すと暇そうにしているお父さんの姿が視界に入った

そういえばアレについて白黒はっきりとした意見を聞いていない

今は誰を愛しているか

娘として、もちろんお母さんでないと困る

確認するためにもお父さんの前の椅子に腰をかけ話を切り出す

歩夢「今は誰が好きなの?」

綾人「急だな」

歩夢「お母さん? 真夜さん? それとも別の人!?」

綾人「落ち着け。歩夢が思っているようなことはない」

歩夢「......お母さんのことが好きなの?」

綾人「あぁ」

歩夢「その割には心拍数が上がっているようだけど」

霜月の目は君影綾人のすべてを捉えている

本心すら読めるのにも関わらず面倒な手段を取っているのはお父さんの口から本心を聞き出すため

なので心臓の音や焦りは手に取るように視える


しかし、あくまでお父さんが動揺したのは今好きな人について

指摘については一切の動揺を見せなかった

綾人「.....歩夢は雪乃に似たな。容姿も手段も」

歩夢「話逸らそうとしてるの?」

綾人「いや、感慨深いだけだ。30年前の結城香夜が娘だと認識するのは」

歩夢「だーかーらー」

綾人「そういえば30年前、歩夢は1人でカラオケに行ったようだが、歌えたのか?」

歩夢「どうしてそれを.....」

綾人「あのとき近くに居たからだが」

歩夢「っ〜〜〜!」

あれは私にとって黒歴史の1つ

誰にも見られてないと思っていたのに

目を使って確認しておくんだった

歩夢「忘れて」

綾人「歌えなかったのか.....。まぁ歩夢はそうだよな」

歩夢「もうぼっちじゃないからっ!」

綾人「歩夢は人間関係については捻くれていたからな」

歩夢「うぅ.....」

気がつけば立場が逆転されている

私ってそんな口下手なのかな.....


だがここで項垂れる私を気の毒に思ったのか、

綾人「.....歩夢、真夜さんのことが好きだったのはもう昔の話だ。今は雪乃のことを1番に思ってる」

素直に本心を話してくれた

歩夢「嘘じゃないよね?」

綾人「本当だ」

歩夢「.....浮気はダメだからね!」

今のところはお父さんを信用することにした

これから浮気しないことを念入りにし、その場を離れる

次は.....


【安価です。
1.夜永と話す
2.雪乃と話す
3.隼人と話す
4.四葉香夜の家へと帰る
安価下。】


>>379 1.夜永と話す】

次は....もう少し夜永さんと話しておくか

ちょうど兄さんとの話も終わったようだし

歩夢「夜永さん、少しお時間よろしいですか?」

夜永「うん、いいよ。さっき話し損ねちゃった話も1つあるし」

話し損ねた話.....?

夜永「話し損ねた話っていうのはもう3年近く前になる歩夢さんと咲夜が1人になった時の話」

歩夢「あの時の?」

夜永「えぇ。歩夢さんは咲夜以外の人とペアになってたらどうなっていたと思う?」

実験の内容は1人の肉体にもう1つの人格を取り入れ、人工的な2重人格を作ること

その実験の唯一の成功例が私と咲夜さん

他の人達とは違い、私達だけの共通点

それは血の繋がり

血が繋がっていたからこそ成功した


血が繋がっていなかった場合は、

歩夢「死んでました」

夜永「そう。確率が云々ではなく、確実に、100%死んでいた」

もし私のペアが咲夜さんでなかった場合、私と咲夜さんは抗う余地無しに死んでいた

ならどうして私と咲夜さんが.....

夜永「それじゃあ施設に送り込まれた中だと何百通り分の1、日本という国の中だとほぼ無に等しい歩夢さんと咲夜がペアになったか、だけど」

歩夢「.....!」

ちょうど疑問に思った話だ

偶然? それとも必然だろうか

無に等しい1つの組み合わせが選ばれたのは、

夜永「それは運。かっこよく言えば、運命」

十分過ぎるほどに不確かだった

しかし納得せざるを得ない

運や運命以外、どうやってあの場所で選べたのか

直感でこの人とペアになることを進言できた訳でもない

夜永「これについては他の事では片付けられない。歩夢さんと咲夜は偶然引かれあった」

歩夢「.....そうですか。わかりました」

信じられないけど信じるしかない

そもそも考えたところでどうも出来ないし、むしろ最善な結果に感謝するところだ

霜月の人間は運が良いと聞いたことがあるけどまさかここまでとは


【安価です。
1.隼人と話す
2.雪乃と話す
3.帰る
安価下。】

2


>>382 2.雪乃と話す】

夜永さんからのほぼ一方的な情報伝達を受けた後、向かったのはお母さんの部屋

数ヶ月空けていた家でも何処が誰の部屋かくらいは鮮明に覚えている

記憶を頼りに歩き、目的の部屋はここを左に曲がった場所、というシーンで異常な光景を目の当たりにする

お母さんがお母さんの部屋の前で不自然に立ち尽くしていたのだ

おや? と思い近づくと容易に全てを悟った

昨年の7月に真夜さんが君影家を訪れた際に残した器物消失の証拠

それをお母さんは唖然と見つめていたが私の存在に気付いたようだ

雪乃「歩夢、どうしたの?」

歩夢「どうしてるかなって」

雪乃「....中で話しましょうか。扉はこうだけど中は荒らされてないようだし」

お母さんの提案に私は頷いたが、

お母さんはその姿を確認することなく部屋に入る

相変わらず姿を見なくても見通してる、ってことか

全てを把握されているのは嫌悪感が否めないけど、

これくらいのことなら、むしろ昔通りで日常を思い出す

そう気持ちの良い納得をし、後に続いた


【安価です。
1.雪乃「12月24日は楽しかった?」
2.雪乃「昔の記憶、戻してもらったみたいね」
3.雪乃「自分の身体に衰えは感じてる?」
4.その他
安価下。】


>>384 1.雪乃「12月24日は楽しかった?」】

私がベッドに腰をかけるとほぼ同時にレベルの高い質問が突如としてぶつけられる

雪乃「歩夢、12月24日は楽しかった?」

昨年の12月24日

初めて彼氏と2人きりの夜を過ごした日

人間関係なんて不必要だと唱え続けてきた私が初めて好きになれた人との貴重な時間

単に楽しかったのかと訊かれているのなら答えはすぐに出る

しかしお母さんの訊く”楽しかった”は人間としてではなく、女性として

嫌でもその真意は理解できた

歩夢「ノーコメント、は駄目?」

雪乃「歩夢がそう答えたいならそれでいいよ」

歩夢「.....ノーコメントで」

雪乃「安心したわ。歩夢にも心の底から好きになれる相手が出来て」

歩夢「何も言ってないんだけど」

雪乃「何も言わなくても分かるわよ。貴女のことも、隼人のことも」

歩夢「そういうものなの? 母親って」

雪乃「えぇ。歩夢にも運が良ければ来るかもね」

運が良ければ、か

ほぼ無に等しい可能性で生き残ることを指しているのではなく、

早いうちに妊娠して無事出産を終えること

急激に感じ始めてきた身体の衰えを考慮するとやはり運が絡む

夜永さんの言う運の良さがここで生かされればいいんだけど


雪乃「それで、達也くんは優しくしてくれた?」

歩夢「ななな、なにが....?」

雪乃「ふふっ、可愛いわね。その反応」

歩夢「からかわないでよっ!」

雪乃「からかってはないよ。気になっただけ。で、どうだったの?」

歩夢「.......」

雪乃「あらあら、またノーコメント?」

歩夢「......うん」

雪乃「まぁいいわ。歩夢の反応を見れば大体分かるし、勘弁してあげる」

歩夢「もう....だったら聞かないでよ」

雪乃「歩夢があまりにも可愛かったからついね。今度1冊本買ってあげるからそれで許して」

歩夢「約束だからね」

雪乃「えぇ。もちろん」


【安価です。
1.雪乃「そういえば昔の記憶は戻ったようね」
2.隼人と話す
3.帰る
安価下。】

1


>>387 1.雪乃「そういえば昔の記憶は戻ったようね」】

雪乃「そういえば急に話は変わるけれど、」

歩夢「ん、なに?」

雪乃「昔の記憶は戻ったようね」

歩夢「あぁ....うん」

雪乃「今の段階で思い出せてるかどうかはともかく、歩夢は深夜と真夜に懐いてたわね。母親であるはずの私以上に」

思い出せた記憶の中の1つでは第一に穂波さんを選んでいた

その次に真夜さん、そして深夜さんの順で

物心がついてなかったとはいえ罪悪感を感じざるを得ない

雪乃「だからかどうかは分からないけど、今の歩夢は深夜にも真夜にも似ている気がするわ」

歩夢「具体的にはどこらへんが?」

雪乃「優しいところ」

歩夢「それは遺伝でお母さんに似たと思うけど」

雪乃「私は歩夢の思うような優しい人間じゃないわよ」

歩夢「雪乃さんは優しいです。30年前も、今も」

雪乃「香夜....」

歩夢「娘を偽名で呼ぶんですか?」


雪乃「嫌なら敬語をやめなさい。敬語で話されると今この瞬間より30年前を見てしまうわ」

歩夢「嫌ですか?」

雪乃「.....別に。2週間という短い期間とはいえ香夜とは同級生だったことに変わりないし。たまには深夜、真夜、綾人くん以外と話すのも一興ね」

それから雪乃さんは少し黙り、次に口を開いた時には昔話を始めた

私に関係のある、昔話を

雪乃「香夜、私の娘の好きな食べ物がお蕎麦になった理由だけれど、どうしてだと思う?」

歩夢「1度食べて美味しいと思ったから」

雪乃「誰の作った料理に胸を打たれたのかは知ってる?」

歩夢「.....深夜さん」

雪乃「って思うわよね。でも違うの。歩夢がお蕎麦を好きなったきっかけを作ったのは真夜」

歩夢「真夜さんは洋食専門と聞いていますが」

雪乃「えぇ、そう。真夜は洋食専門。しかしだからと言って和食が作れない訳じゃないのよ。真夜が探り探りで作ったお蕎麦に歩夢は心を惹かれ、打たれた。私としてはパン好きになって欲しかったけれど仕方ないわね」

まさか私の好きな食べ物欄を埋めるきっかけを作ったのが真夜さんだったなんて

ずっと深夜さんだと思っていた

今度機会があれば、今の私の立場を利用して真夜さんにお蕎麦を作らせてみようかな

あの時の味を再現できればいいんだけど

雪乃「それでね、あと歩夢が・・・」

楽しそうに深夜さんや真夜さん、そして30年前に存在していた結城香夜にのみ見せる霜月雪乃の笑顔は30年越しに結城香夜の心を揺るがす

自分の昔話であるはずなのに

次第に同級生目線となり

君影歩夢の成長が垣間見えた


【安価です。
1.隼人と話す
2.雪乃と話す(話題があれば書いて下さい)
3.帰る
安価下。】

1


>>390 1.隼人と話す】

霜月雪乃の同級生”結城香夜”として話を聞くこと約15分

好きな食べ物や趣味、ぼっち属性までもが幼少期に身についたとのこと

趣味は遺伝子的なもの以上に深夜さんの影響が強かったり、

ぼっち属性は天性的なもので、コミュニケーション能力の欠如にはみんなが頭を抱えていたり

しかしそんな中で雪乃さんが残念に思ったのは全体的なことだった

雪乃「私の影響ってなにも無いのよね」

雪乃「料理も読書も音楽も全部深夜と真夜の影響」

雪乃「君影歩夢は深夜と真夜に育てられた。そう言ってもおかしくないほどに」

うーん....私がお母さんに受けた影響ねぇ

もともと少ない3つの趣味も深夜さんと真夜さんの影響だって言うし

雪乃「.....話はお終い。歩夢、隼人と話しておきなさい。もうこんな時間だからあまり話せないかもしれないけど」

歩夢「うん、最初からそのつもりだから大丈夫」

雪乃「そう。じゃあ行きなさい」

なんだか不完全燃焼で終わってしまった

次会うときには影響について答えれるように考えておこう


現時刻は22時を越した辺り

兄さんと話す時間は15分くらいが限界

明日学校がなければ泊まったのに

学校休むまである。いや、休むか?

そう真面目に考え始めると同時にリビングの敷居を跨ぐと兄さんは夜永さんと 楽しそうに お話をしている光景を目の当たりにする

むぅー.....楽しそう

夜永「ん。じゃあね、隼人くん。またあとで」

私の視線に気が付いた夜永さんが兄さんのもとを離れ、かつての教え子であるお父さんのもとへと動いた

改めて思い知らされるコミュ力の高さ

私が持ち合わせている物から持ち合わせていない物までの全てをあの天才は持ち合わせている

仮にも血が繋がってるんだから私にもその才能分けてくれれば良かったのに

心の中で叶わない文句を言いながら兄さんの隣に腰をかける

隼人「隣....」

歩夢「なにか問題でも?」

隼人「いや、なんでもない」

歩夢「......?」

まるで1対1で話すのだから正面に座るのが常識だろうとでも訴えたそうな表情をしている

2人きりだった3年間では見たことのない表情だ


【安価です。
1.歩夢「高校卒業したらどうするの?」
2.歩夢「夜永さんとはどんな関係?」
3.隼人「大人っぽくなったな、歩夢」
4.その他
安価下。】


>>393 1.歩夢「高校卒業したらどうするの?」】

今日は2月14日

2096年は始まったばかりだが年度は終わりを迎えようとしている

あと2ヶ月もすれば今の3年生は大学に行くか就職するかのほぼ2択

夜永さんは既に手に職なのでいいとして、

歩夢「兄さんは高校卒業したらどうするの?」

隼人「魔法大学は無理だから一般の大学か就職かだな」

歩夢「え.....まだ決まってないの?」

隼人「いや、決まってる。就職だ」

歩夢「どこ? しっかり残業代出る?」

隼人「残業代が出るかどうかは分からないが信頼出来るところだ」

歩夢「うん。で、どこなの?」

隼人「四葉」

霜月と四葉は切っても切れない関係

おそらく雇われるだろうし、歓迎もされるだろう

しかも当主の親友 兼 家族の息子なので待遇も良し

人間関係の方も出来損ないの妹と違って心配する必要はない

それに4月からは私も四葉本邸に戻るから毎日会える

歩夢「うん、いいと思う」

隼人「これで毎日会えるな」

歩夢「うんっ!」

兄さんと毎日会えるだなんて夢のようだ

はやく4月にならないかなー?

兄さんの執事服.....えへへ


【安価です。
1.歩夢「そういえば夜永さんとはどんな関係?」
2.隼人「少し見ないうちに大人っぽくなったな」
3.その他
4.帰る
安価下。】

4


>>395 4.帰る】

兄に対する心配の念は綺麗さっぱりと消え、

それからは実のない歓談に興じていた

しかしそれを良しとしないのが時間

あっという間にタイムリミットの15分を過ぎてしまった

歩夢「また今度ね」

隼人「あぁ、また近いうちに」

あと2ヶ月もすれば毎日兄さんと会える

その事実が私のモチベーションを上げた

学校でいじめられない限りは頑張れる.....かな?


君影家から四葉香夜宅までは24時間稼働している交通機関を使っても1時間と少しかかる

まぁ、お散歩気分でまったりと帰ろう

魔法が使えなくても目を使えば身の安全は保障されているようなものだし

歩夢「〜♪」

夜空を見上げ、夜風に当たりながら歩くこと10分

駅には見知った人間が椅子に座っていた

まるで私のことを待っていたかのように

余らせたカーディガンの裾を握って手を振るのは謎多き少女

那月「歩夢さん、お久しぶりです」

歩夢「.....22時過ぎだよ?」

那月「自分の命は自分で守れるので大丈夫です」

歩夢「それでも、....はぁ。送ってくよ。何処まで?」

那月「歩夢さんは優しいですね。では◯◯駅までご一緒できますか?」

◯◯駅....四葉香夜の家までに途中か

那月が滞在しているホテルまで送っても、なんとか0時までには帰れそうだ


【安価です。
1.歩夢「どうしてこんな時間に駅に居たの?」
2.那月「今日はバレンタインですけれど、誰かにあげましたか?」
3.その他
安価下。】


>>398 2.那月「今日はバレンタインですけれど、誰かにあげましたか?」】

空調の効いた個別電車内で先に話を切り出したのは那月

那月「今日はバレンタインですけれど、誰かにあげましたか?」

歩夢「達也くんとお父さんと兄さんの3人」

那月「仲睦まじくて羨ましいです」

歩夢「那月は誰かにあげたりしなかったの?」

彼女の容姿なら惹く目数多で彼氏の1人や2人居てもなんら不思議はない

那月「私は深雪さんに近い立場ですから彼氏は作れません。唯一あげられる相手はお父さんくらいですかねー」

深雪ちゃんがそれなりの上流階級層の人間だということを那月は知っている

.....まぁ、今は普通に返答しておくか

1度に大きく踏み込むより少しずつが重要


歩夢「後悔しないようにね」

那月「父も母も同じことを言ってました。悲哀の目をしてないだけ差はありますけど」

今の言葉から察するに、お父様とお母様は経験上なんらかの後悔をしている

それについて那月が知ってるかどうかはともかくとして、聞き出すべきではない

それは至極当然の如く、簡単に人として理解できた

那月「それで達也さんには何をあげましたか?」

歩夢「フォンダンショコラ」

那月「....あぁ、そういえば1度評価を頂いてるんでしたっけ」

10月31日に深雪ちゃんと予行練習を行った時にも私はフォンダンショコラを作っている

その際にあげる相手に絶賛されたということもあり、迷わず今回も無難に選択した

っていうか達也くんはどうしてこんなことまで那月に話してるの.....?

そこまで信頼に足る人物だとは思えないのだけれど

那月「では私も歩夢さんを見習ってフォンダンショコラを作って父に渡すことにします」

歩夢「あ...うん。喜んで貰えると思うよ」

那月「ふふ、また帰ってからの楽しみが1つ増えました」

年相応の笑う姿を見せる那月

しかしそれは私を安心させない

謎は一歩的に深まり、沈んでいく

1つ重大なことが分かれば紐を解くように次々と分かりそうなものだけど、どうなのかな


【安価です。
1.歩夢「那月、どうしてこんな時間に外出歩いていたの?」
2.那月「私について知りたいですか?」
3.その他
安価下。】


>>401 1.歩夢「那月、どうしてこんな時間に外出歩いていたの?」】

歩夢「那月、どうしてこんな時間に外を出歩いていたの?」

那月「夜のお散歩です」

そもそも何故駅に居たのか、という質問に対してこの返答

表情から察するに、嘘はついてない。真実だ

しかしそれでも、やはり疑心暗鬼になってしまう

歩夢「自分の身を自分で守れる自信があるのはいいことだけれど、万が一ってこともあるから」

那月「....歩夢さんがそう仰るのなら今後は控えることにします。明後日から」

歩夢「明日はなにか用事があるの?」

那月「えぇ、結構重大な。歩夢さんも無関係じゃ済まないかもしれませんよ?」

歩夢「私も? えー、やだなぁ」

私の勘がややこしいことになると言っている

それに那月が絡んでいるとなれば、更に確実に


那月「ですが、歩夢さんは結果だけに依存して頂ければ十分です。過程に依存する必要はありません」

歩夢「私は過程に関わらなくてもいい、ってこと?」

那月「はい。人員は十分に足りていますから」

歩夢「....そう。わかった」

最悪、私は家から一歩も出ずとも私の周りで何かが起こって良い方に転ぶ

寿命を縮めるような真似はしなくても済むようだ

歩夢「一応訊いておくけれど、どうして予知みたいなことが出来るの?」

那月「全部嘘だとは疑わないんですね」

歩夢「那月の表情は真剣だったから」

那月「.....私は大まかですけど予知が出来ます」

魔法は事象改変であって、予知は魔術の類

魔法の次は魔術の時代が来るのかしら

”予知能力”ねぇ....

那月「あ、着きましたね」

そうこうしているうちに那月が滞在しているホテルの最寄駅に到着した

歩夢「降りよう」

那月「はい」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:不良に絡まれる
偶数:ホテルへ着く
安価下。】

いよっ


>>404 7:不良に絡まれる】

電車を降りてからは那月が半歩先を歩き、彼女が滞在してるホテルへと向かう

彼女いわくホテルまでは徒歩で約15分

その間に1言も話さないというのは居心地が悪かったので2つ尋ねた

歩夢「予知って強制力とかあるの?」

那月「ありません」

歩夢「どれくらいまで未来が視える?」

那月「調子良い時だと48時間くらいですかね」

話に聞く限り欠点らしい欠点が見当たらない

完全無欠の予知能力

公に晒されれば数多の手が那月に伸びること間違いなし

歩夢「何かあったら声かけてね。助けるから」

那月「助けて下さい」

歩夢「......うん?」

那月に向けていた視線を周囲にやるとそこは街灯の光が行き届かない細い路地

そしてガラの悪そうな男性が4人ずつ前後方に待機している

左右は高い壁がそびえ立っていて逃げ道はない


那月「どうしますかー?」

歩夢「正面突破」

那月「ふふっ、期待してます」

期待されるような芸は残念ながら持ち合わせてない

私に出来るのは、

不良A「こんな時間に出歩いている上に薄暗い道に来ちゃ....うっ....」

つまらなく、対象を気絶させていくだけ

第一声を発した男性を皮切りに前後方に居た合計8人の男性の意識を奪う

使用したのは残された唯一の頼りになる武器

歩夢「那月、」

那月「行きましょうか、歩夢さん」

何事もなかったかのように私の手を引き、先へ

もし私が敗北しても那月がどうにかしたのだろう

彼女の軽い足取りはそれを物語っていた


細い路地を抜け、人気のある道に出たところで那月は50mほど先にある1つの建物を指差した

那月「あそこです」

歩夢「ぇ......あのホテル?」

那月「はい」

1泊するだけでも数万取られそうなホテルに3ヶ月近く泊まってるの.....?

普通に家買ったほうが安上がりな可能性すらある

那月「ここまでで大丈夫です。ありがとうございました」

歩夢「ど、どういたしまして....です」

那月が下手したら深雪ちゃんと同等のお嬢様だという現実に怯み、焦燥が言葉に出てしまう

しかし那月は一切気にせず、駅で会った時のようにカーディガンの余らせた裾を掴んで手を振った

私も表情を固くしながら手を振り返し、踵を返す


姿が視認できなくなるまで歩夢の背中を見続け、

視認できなくなったと同時に夜空を見上げて独り言を漏らす

那月「5人.....私も含めて6人」

那月「後悔しないように、か」

仕方ない、と那月は1つ志してホテルへと戻った

【安価です。コンマ1桁
奇数・0:???
偶数:次の日
安価下。】

てい


>>408 8:次の日】

ー2月15日(水)ー

何かが起こると予言された2月15日

誰か身近な人間が危機に晒されるのか

それとも国単位の大事件が起こるのか

様々な脳内シミュレーションを行っていたのだが、1つの噂によってそれはすべて掻き消された

噂とは給仕用の(女性型)ロボットが人間の精神を得たかのように微笑んだ、というもの

現代の科学技術ではより現実味を求めてそういう仕様のロボットは試作されている

だが、例のロボットには表情を変えるプログラムが入力されていない

従って見間違いの線が有力であると一般生徒の間では話題になっているのだが、深雪ちゃんをはじめとした生徒会役員は強制召集されている

これが那月の言う重大なことなのかしら


放課後、深雪ちゃんからメールが送られてきた

内容はロボット関連

要約してしまうと、

1.給仕用のロボットにパラサイトが宿った
2.しかし敵意はなく、むしろ協力的
3.その理由は光井ほのかの残留思念に近いものがロボットに宿ったパラサイトに念写されたから

こういうことに極端に弱い私は「はぁ....?」という感想の後、携帯の電源を落とす

とにかく害は無いって解釈で良いようだ

裏を返せば那月の言う重大な事件がこの件じゃなかった、っていうことになるけど


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:深雪のガーディアンに復帰
偶数:帰宅後、咲夜と話す
安価下。】


>>410 2:帰宅後、咲夜と話す】

帰宅後、完全に閉め切った真っ暗な閉鎖空間で私は精神に呼びかける


もういいでしょう?

昨晩は遅い時間だったから話せなかったけど、今なら

ーーーーーーーーーーーーーー那月の予知には備えなくてもいいのか?

こんな真昼間から事件はそうそう起こらないよ

ーーーーーーーーーーーーーー歩夢がそう言うなら....いいけど。警戒は怠らないでね

ふふ、少しだけ口調戻ったね

というか、どうしてこれまで強気な口調でいたの?

ーーーーーーーーーーーーーー2年半前の歩夢が思っていた以上に頼りなかったから

そんなに....いえ、その時と比べたら私は成長したって解釈でいい?

ーーーーーーーーーーーーーーお好きにどうぞ。解釈の仕方は人それぞれであり、勝手よ

......本題だけど、これからはどうしたい?

1日ごと交代しようか?

ーーーーーーーーーーーーーー姉さんとは話せる時に一気に話せれば十分だから今まで通りで私は構わないわ

......わかった。今まで通りね

ーーーーーーーーーーーーーー1点変わるところは呼び方。私のことは呼び捨てで呼んで頂戴

うん、そうさせて貰うね。咲夜


歩夢「......ふぅ」

やはり人は時間に比例して成長している

姿こそは見えなくても話しただけで彼女の、咲夜のことが鮮明に視えた

これから3,4年という短い期間でどれだけ咲夜と共に....ん、

歩夢「誰.....こんな時に」

綺麗にまとめようとしたところで携帯にメールが届いた

送り主は1時間前と同じく、司波深雪

内容は今夜のピアノとマナーのお稽古に付き添って欲しいとのこと

深雪ちゃんは現在進行形でハイクラスのお嬢様

嗜みごととしてのお稽古を欠かせない

そしておそらく上流階級御用達の教室は男子禁制なのだろう

どうして突然今日を指名してきたのかは不明だが、断る理由はなかった

返事を返したところで、


ーーーーーーーーーーーーーー家でおとなしくしていれば巻き込まれずに済んだかもしれないのに


咲夜によって気付かされた

那月の言う重大な事は深雪ちゃんに付き添っている間に起こる可能性が高い

しかし違う考え方をすると私が居なければ誰が護るのか

厄介ごとに巻き込まれることを前提にすれば、本望だ


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:お稽古手前まで省略
偶数:咲夜と話す
安価下。】

ほい


>>413 1:お稽古前まで省略】

フォーマルな格好に着替えて司波家を訪れるなり、車に乗せられた

どうして半世紀前のバスくらい安価に利用できるコミューターがあるにも関わらず私物の車を持っているのかを問うと、

達也「保安対策と箔付けのため」

とても凡人には理解し難い返答が返ってくる

四葉の特殊な事情のおかげで七草家のように社交の場に顔を出す機会こそないものの、

上流階級御用達の教室に通う際にはそれが個人レッスン形式であったとしてもそれなりの体裁を整えなければならない

ほぇー.....よかった、今は無名な一族の生まれで

深雪「昔は歩夢もさく....ぁ」

歩夢「私と咲夜が?」

深雪「歩夢も思い出したのっ? 昔のこと.....」

歩夢「うん、思い出したよ」

深雪「そう....。昔は歩夢も咲夜も一緒に躾けを受けてたっていう話」

躾けねぇ....

咲夜は覚えてる?

ーーーーーーーーーーーーーー覚えてる。歩夢は寝てたから覚えてなくて当然だけど

.....うぅ

歩夢「覚えてるよ!」

深雪「本当に?」

歩夢「.....咲夜が」

深雪「そんなことだろうと思ったわ.....」

ため息を吐き、呆れた仕草を見せる

だって多分、退屈だったはずだから.....


深雪「この話はまた後じっくりと、話しましょうね」

深雪ちゃんの言葉と共に自動運転車は止まった

窓から見える建物はそれこそ上流階級の人間が通いそうな瀟洒な洋館の手前

達也「じゃあ深雪、いつもの時間に迎えに来るから」

深雪「はい。お待ちしております」

達也「歩夢、あとはよろしくな」

歩夢「う、うん....気合、入れて、頑張ります!」

達也「怒られるぞ、その台詞は」

歩夢「あはは....」

深雪「歩夢、行きましょう」

歩夢「うん」



やはりここの教室というか学校は男子禁制

男性であればボディーガードですら入れない敷居の高さ

裏を返せば防犯に穴はないって言ってるようなものだけど

万が一に備えて霜月の目を発動させ、周辺の状況を視界に入れると気になる物を見つけた

あれは.....リーナ?

少し離れた公園に1人、アンジー・シリウス

ただの任務だったら....ううん、絶対那月の言ってたことと関係ある

でも今は深雪ちゃんの側に居ないといけないし....


【安価です。
1.見に行く
2.この場に居残る

1の場合は色々と巻き込まれます
2の場合は歩夢が居ないパターンです
安価下。】

2


>>416 2.この場に残る。
ここからは第3者視点となります。】

深雪のお迎えの時間は2時間後

家に帰るには中途半端な時間なので、近所の飲食店で時間を潰すのが常となっている

達也はナビで適当に選んだ家族向けのレストランに入った

アルコールメインのお店でもそれなりの格好うぃるして行けば追い出されることはないが、今日はそういう気分ではなかった

夕食は済ませているので飲み物だけを注文する

ドリンクのみで2時間近く粘るのはお店側に迷惑だが、深雪を待つ際には毎回どのお店でも値段の高い物を注文することにしている

これで意図せぬ嫌がらせになってしまう心配はしなくてもいいはずだ

窓際の席に陣取った達也は、書籍サイトを開くこともせず頬杖をついて窓の外を眺めた

周りからはボンヤリしているように見える

達也自身も、何かに集中しているという意識はない

だが、普通の意味で「ボンヤリしている」という状態とは、正反対だった

彼は意識を集中するのではなく、意識を拡散させている

広く、広く、自分と深雪を2つの焦点とするエリアに、知覚を隈なく敷き詰める

空の上から俯瞰するのではなく、情報の次元から俯瞰する


深雪に害のあるものを何一つ見逃さないように

彼にはこの眼があるから性別の制限を超えて妹の護衛を1人で可能としている

しかし歩夢や水波なら1人にこだわる必要はない

生活面と魔法面と、なにより信頼

彼女らはいずれも申し分のない能力を兼ね備えている

ガーディアンにとって主人は護るべき相手

これについては一般的にボディーガードと呼ばれる存在のように、周知の事実

四葉家のしきたりに疎い歩夢でも、使用人として働いている水波にも理解できた

間違ってもガーディアンの方が狙われるだなんてことはあってならない

自分自身がターゲットになれば護衛対象をかえって危険に晒すこととなる

達也「(護衛失格だな、俺は)」

深雪でも歩夢でもない

自分へと向けられる敵意を達也は視界に捉えた



達也は戦闘愛好者ではない

少なくとも自分ではそう思っているし、また自分から喧嘩を売るのは深雪の安全や名誉を守る為に必要な場合のみである

しかしだからといって、無抵抗主義者でもない

平和を守るためには戦って勝ち取ることも必要だという考えも持ち合わせている

達也「(5人か.....)」

道路の向こう側に停車したボックスワゴンの中で、今にも飛び出そうと構えている敵の数を確認して達也はわずかに逡巡した

この場は逃げようと思えば逃げられる

車は後にリモートデスクトップ呼べばいい

結論は一瞬で出た

テーブルの端末で勘定を済ませて立ち上がる

それを見ていたのか、慌ただしくボックスワゴンの扉が開く


達也は足早にエントランスへ向かった

お店に玄関はワゴンの正面

スキー用の目出し帽のような覆面をつけた5人が路上に立つのと、達也がお店を出たのは、ほとんど同時だった

先回りするように自分たちの前に立った達也に、襲撃者は戸惑っている様子

ただ、その睨み合いは長く続かなかった

達也が進むでもなく、退くでもなく、男達から視線を外して道なりに動き出したのだ

呆気にとられている雰囲気が伝わってくる

達也は足取りを崩さず、彼らから遠ざかる

5メートルの距離が10メートルになったところで、襲撃者は我を取り戻した

小さくガチャリと銃を構える音が達也の耳に届いた

短機関銃形態の大型CADではなく、サブマシンガンにCADを組み込んだ武装デバイス

この装備だけで自分たちがUSNAの魔法師だと白状しているようなものだった

西欧諸国も東欧諸国も新ソ連も、こんな複雑な機構の武器は使わない

アメリカ軍以外でこんな武器を使うのは日本の独立魔装大隊くらいのもの


展開された起動式からケイ素化合物の軟性弾丸に、射出時帯電、着弾によって放電する効果が付与されていることが分かる

一種のテイザーガンなのだろう

彼らはどうやら達也を生け捕りにする命令を受けているようだ

達也は既に右手を懐に突っ込んでCADのグリップを握っていた

その指は引き金を模したスイッチに掛かっている

覆面の男たちに背を向けたまま、達也はCADの引き金を引いた

素早く振り返り、路面を蹴る

短機関銃の部品が舗装路面に散らばる乾いた音は、達也が駆け出した後に聞こえた

敵が驚愕に固まっている内に間合いを詰める

達也が無手の間合いに入ったところで、ようやく敵の硬直は解けた


しかしその時には既に遅く、お腹に向かって掌底が突き出される

そして掌底と同時に振動系の魔法を発動し、吹っ飛ばすつもりだった

手の感触ではなく「眼」で視て、魔法が跳ね返されることを悟る

達也は即座に横へ飛んだ

下から巻き上がる風を感じる

彼の残像を黒光りするナックルダスターをはめた敵の拳が突き上げていた

その脇をすり抜けて背中に回り、もう1度振動波を叩き込む

死角から放たれた一撃に男の身体が地に落ちた

それにしても驚くべき魔法抵抗力

身体的接触により情報強化の鎧が弱体化した部分に魔法を打ち込んだというのに、それを反射的に発揮した干渉力で打ち消したのだ

いくら出力に劣る仮想魔法領域から放った魔法とはいえ、普通ならあり得ない事だ

達也「(調整体.....いや、強化人間か)」

体勢を立て直した敵の攻撃を後方に飛んで躱しながら、敵の身体情報にアクセスしてその正体を探る


単に遺伝子改造されただけに止まらない歪な構造情報は、後天的に無理な改造を重ねた結果に違いなかった

達也「(こいつら、こんな状態でどうして動ける?)」

何百人という死にかけの人間を視てきた達也には彼らがいつ倒れてもおかしくない状態だと分かった

銃やナイフを振り回すより、病院のベッドで点滴を受けている方が、よほど相応しかった

それなのにこの活力

まるで燃え尽きる直前の流星だ

このレベルなら自分が負けるとは思わないが、こういうイレギュラーな相手はどんな無茶をしてくるか分からない

多少のリスクを冒してでも、早めに決着をつけるべきだ

達也はそう、方針を変えた

意識の中で素早くプランを描き上げる

さらに後方へと跳躍して距離を取り、懐のCADに手を伸ばす

抜くと同時に、部分分解を四重発動

それで確実に、相手を停止させる

達也がそのイメージを固めたのと、それは偶然にも同時だった

彼がその場に、乱入してきたのは




自分を監視している目があることは、達也も把握していた

だが、これほどの短期間で介入してくるとは予想外だった

傍観に徹すると達也は予想していたのだ

自分に背中を向けているということは、少なくともこの場においては、自分にとって敵ではないということだろう

割り込んできたときの横顔で、この人物が誰なのかも分かっていた

エリカの次兄だ

しかし、何故自分に助太刀するのか、その理由が分からない

修次「司波くん。僕の名前は千葉修次。君のクラスメイトの、千葉エリカの兄だ」

話しかけてきたことも予想外ながら、自ら素性を明かしたのも予想外だ

修次「この場は僕が引き受ける。君は後ろに下がってなさい」

さすがに事情説明はなかったが、そんな場合でもない

達也「ありがとうございます」

任せろ、と言うのなら達也に否やはなかった

突然の乱入に相手が戸惑ったのは数秒のこと


既にダウンしている1人を除いた覆面の4人は、何処からか拳銃を取り出して修次に向けて突き出した

現代魔法はスピードを重視する技術体系で、CADはその要請に対する答え

それでも起動式を処理して魔法式を構築しなければならない魔法より、安全装置を外して引き金を引く方が速い

この距離ならば照準に時間をかける必要もない

だがそれは常識の範疇の敵なら、の話である

千葉修次は普通の相手ではなかった

男たちが引き金を引くよりも早く、修次は間合いを詰めていた

詰め寄られた当人以外には修次が消えたように見えたに違いない

達也でも意識を集中していなければ見失いそうな速度だ

すれ違いざまに小太刀を一閃する

その刃先は黒い線に縁取られていた

拳銃を握る手の、手首から先が落ちる

小太刀の刃先に生じた左右方向の斥力場が皮膚を裂き肉を押し開き骨を割ったのだ


斬撃の一瞬、加重系魔法「圧斬り」が発動していたことに男たちは気付いただろうか

仲間の苦鳴に構わず、3人は修次に銃口を向け直した

銃弾は修次の残像を貫く

一瞬と呼ばれる速さで前人と同じく間合いを詰め、躊躇なく容赦のない攻撃で1人、また1人と無力化し、修次が乱入してから1分にも満たない間に覆面の男たちは全員地に伏せた

修次が小太刀を持つ手を下ろす

警戒を解く様子はなかったが、多少、緊張を緩めた感はあった

それは達也も同じだった

助太刀の礼を言うべく、修次に向かって足を進めた3歩目で、

強烈な危機感が達也を襲った

修次もそれを感じ取ったのか、達也が身を伏せるのと修次が小太刀を立てたのはほとんど同時だった


その直後、煌めく光条が修次ぬ襲いかかる

小太刀が光条───高エネルギープラズマのビームを迎え撃つ

刀身に当たる直前でビームが左右に分かれている

刃先に形成された圧斬りの斥力場でプラズマの激流を曲げているのだろう

だが電磁波の影響を遮断するには不十分だった

光条は消える

不思議なことにプラズマのビームは道沿いに並ぶ建物へ届く前に消えていた

小太刀を立てた姿勢で立ち尽くす修次の身体が細かく震えているのは、至近距離で浴びた電磁波に筋肉が痙攣しているのだろう

高出力のスタンガンを全身に喰らったようなものだ

達也は光条の推定射出地点へ目を向けた

遠く、闇に霞む車道の中央

街灯にボンヤリと浮かび上がる

深紅の髪と金色の瞳

杖のような物をこちらに向けて、仮面の魔法師”アンジー・シリウス”が誘う眼差しで達也を見ていた


【一旦ここまでで切らせて頂きます。
これで原作10巻が終了となります。
この後は少し原作に沿い、その後はオリジナルの那月の言う重大なことをします。
寝落ちしなければ数時間後に更新するかもです。

千葉修次は横浜で歩夢を捕まえた方じゃないエリカの兄です。渡辺摩利と付き合っててアニメでも2回ぐらい出てきたような.....。

あと、苗字だけで登場しているキャラがこの後出てくるので名前の方も後々安価したいと思います。】


深紅の髪に金色の瞳

全て見掛けの上でのこととはいえ顔立ちも背丈も変わっていて、到底リーナと同一人物には見えない

これならば仮面で顔を隠さなくても、そうと知らない限り『アンジー・シリウス』と『アンジェリーナ・シールズ』を結びつける者はいないだろう

仮装行列は大きく分けると2つの効果がある

1つ目は現在リーナがしている外装の変化

2つ目は座標情報の書き換え

しかし今のリーナは外装の変化しかしておらず、座標を誤魔化していない

これは余裕や油断の故ではなく、座標情報の書き換えへと向ける魔法力の確保が出来ないからだった

達也「(つまり今の魔法はそれだけのキャパシティを要するということか)」

USNA軍最精鋭魔法師部隊『スターズ』のトップに与えられるコード”シリウス”

それは即ちUSNA最強の魔法力を持つということ


その彼女が、それ程までに魔法にリソースを集中しなければならない魔法

闇を裂いて達也と千葉修次に襲いかかった煌めく光条

あの攻撃の正体はおそらく、高エネルギープラズマのビームだ

ならばそれを作り出した魔法の名は───

達也「(多分、間違いない。あれは『ヘビィ・メタル・バースト』)」

十三使徒アンジー・シリウスの戦略級魔法『ヘビィ・メタル・バースト』

重金属を高エネルギープラズマに変化させ、気体化を経てプラズマ化する際の圧力上昇と陽イオン感の電磁的斥力を更に増幅して広範囲にばらまく魔法

火を見るよりも明らかな脅威に達也は怖気ず、リーナを睨みつけた

闇を隔てた街灯の下、リーナは達也の視線からついと目を逸らし、クルリと踵を返してチラリと振り返って、薄く笑った

罠であることは間違いないが、罠というなら既に達也はその顎門の内にある

誘いに乗らなかったからといって、無事に返してくれるとは思わない

相手の狙いを外すためであっても、こんな所で撃ち合うのは論外だ

どうすべきか決めかねている達也の視線の先で、リーナの足が軽やかに路面を蹴った

それが達也にとって迷いを断ち切るきっかけとなる

走るというよりは跳び、高速で遠ざかっていく深紅の髪

全身を痙攣させた状態で立ち住生している修次をその場に残し、リーナと同じように重力制御をして達也はその背中を追いかけた


【これ以降からは大体オリジナルとなります。(今から書きます.....)

この機会に葉月の名前の方を決めたいと思います。
8月21日の22時までで何かありましたらお願い致します。】


明かりが隈なく街を照らしているように見えて、フッと光が途切れている箇所がある

東京という名の不夜城に生まれた黒い空白地帯

リーナはアンジー・シリウスとして司波達也の捕獲任務を全うしようと人気のない空き地に連れ込むつもりだった

しかし、そこには先客がいた

リーナ「......!」

視線の先には顔見知り以上の関係の3人が

1人は何度も悪夢で蘇る自分の戦歴を傷つけた雪乃

もう1人は数年前に日本を訪れた時に何度か話し、現在では生徒と教育実習生の関係を築いている夜永

そして最後は1月1日に会ったきりの謎の少女、那月

この3人が集まることで異様な空気を生み出し、リーナは思わず立ち竦んでしまう


続けて後を追いかけてきた達也も同様に、3人の姿を視界に捉えるなり、リーナと少し距離を置いたところで立ち止まった

夜永「これで5人....。那月、どうするの?」

那月「リーナさんと達也さんの事情説明を。それが終わる頃にはあの人も仕掛けてくるかと」

リーナ「ワタシに事情説明ってどういうことよ。こっちは任務中なんだけど」

自分の立場を守るために任務遂行をしているのにも関わらず、急に現れた3人に任務を邪魔されてはリーナが苛立つのも不思議ではない

逆に達也はただ事ではないことを察知し、リーナに向けていた敵意を押し殺して彼女のもとへ

達也「リーナ、殺し合いはまた今度だ」

リーナ「だから馴れ合うつもりは.....っ!」

思わず背筋を伸ばしてしまうような悪寒と紙一重の威圧を感じてリーナは考えを改める

リーナ「.....話だけなら聞いてあげるわ」

夜永「大人になったね、リーナ」

リーナ「褒めても任務はやめないわよ?」

夜永「お好きにどうぞ。じゃあ説明するわね」

「好きにしてもいいの.....?」というリーナの小さな呟きは誰の耳にも届かないまま消えた

しかし小さな呟きがターニングポイントになったのか、夜永の話に真面目に耳を傾ける


夜永「この後、達也くんはご存知の通り葉月の姓を持つ人間がこの場に現れるわ」

リーナ「ハヅキって....聞いたことのない姓だけど強いの?」

夜永「雪乃さん以上に強いって言えば分かる?」

リーナ「......流石にそれは」

夜永「本当よ。ここからは能力についてだけれど、葉月の最大の強みは感覚と記憶を現実世界に引き継ぐ創造の世界。例えばリーナ、任務対象の達也くんを手も足も出させずに陥れる環境ってどんなもの? なんでもいいわよ。想像だから」

リーナ「...タツヤだけが魔法を使えない、とか」

魔法師にとって魔法とは最大の武器

いくら体術を極めている者でも、それなりに体術を鍛えていて魔法も不自由なく使用できる人間には敵わない

夜永「葉月はそういう環境を自由に作れるの」

リーナ「そんなの勝ち目がないじゃない! 卑怯よ!」

夜永「でもそれは別世界での話。現実世界に戻って来れば想像の世界で受けたダメージ等は消えるわ」

リーナ「.....現実世界に戻る方法は?」

夜永「葉月が解除するか、葉月以外の生物の生命が絶たれるか、葉月の意識を奪うかの3つ」

達也「その内のどれか1つの条件が達成されれば感覚と記憶を引き継いで現実世界に戻れる、ということでしょうか」

夜永「えぇ、そうよ」


リーナ「.....勝算はどれくらいあるの?」

夜永「那月によると、」

リーナだけでなく達也までもが息を呑んだ

いくら葉月がチート的な能力を持ってるとはいえ、このメンバーなら大方勝てるだろう

そうリーナは考えたが、現実はそう甘くなかった

夜永「1%あるかないか」

予想の約80ないし90分の1%

信用には十分過ぎるほどに足らなかったが、もしそれが本当ならほぼ負け戦だ

リーナ「ワタシは降りるわ。そもそも加わるだなんて言ってないし」

夜永「結果はどうであれ無事で帰れたら雪乃さんが貴女の雪辱戦を受けてもいいって言ってるけど?」

リーナ「ん、」

普通の人間ならば負け戦に参加してまでも雪辱戦に参加しようとは思わない

だが、リーナは人一倍戦闘についてのプライドが高かった

結城香夜との戦闘は仕方ないとして、雪乃に思い知らされた敗北を帳消しに出来るチャンスが訪れるならアンジェリーナ・シールズとしてこの提案を受けてもいいと思ってしまうほどに


リーナ「.....タツヤはどうするの?」

達也「少しでも勝率が上がるなら参加する」

リーナ「どうして? 命を懸けてまでもすることではないでしょう? 貴方にメリットがある訳でもないし」

達也「葉月とは少し事情があっていつか必ず戦うことになる。その時にまだこれだけの戦力が残ってるとは限らないからだ」

リーナ「.....そう。ならワタシも参加するわ」

達也「俺の判断で決めるのか?」

リーナ「勘違いしないで。ワタシは自分の生存率を上げたいだけ。タツヤは....心強いし」

達也「ついさっきまで標的にしていたやつに言う台詞とは思えないな」

リーナ「それだけアナタが危険な、」

リーナの発言は1度の手拍子に遮られる

音のした方に視線をやると那月が既に特化型CADを構えていた

那月「来ます」

その短い一言が終わる頃には5人が全員、

いつでも魔法を発動させる手前まで準備をし、

一部は目を碧色に変えている

夜風の音が響き、相変わらずこの空き地を照らすのは月と星と申し訳程度に設置された街灯

なんともない景色に、変化は一瞬で訪れた

全くの違和感もなく突如として、世界は一転する


【安価です。スピンオフ的な
1.達也
2.リーナ
3.雪乃
4.夜永
5.那月

最終的には全員やるので、誰か1人を選んで下さい。
安価下。】

2


>>435 2.リーナ】

リーナ「......これが想像の世界?」

視界いっぱいに入ったのは荒れ果てた地

軍の訓練で何度か目にしたことのある光景だ

ヒステリーになることなく、リーナは冷静に自分が不利になる状況を模索し始める

まずCADと『杖』の確認

これほど現実味のある世界を作れるのなら通常の魔法も相当な手練だと予想される

もし魔法が使えない世界を設定にされたのなら、リーナに残されたのは体術での勝負のみ

訓練での勝率は優秀程度

魔法を使った模擬戦では負け知らずな評価には及ばない

率直なことを言ってしまうと、体術には自信がないのだ


リーナ「(頼むわよ....)」

そう心で願いながら2機のCADでそれぞれ簡単な魔法を使用する

数秒後、リーナは言葉の通り胸をなで下ろすことになった

メインで扱うCADと予備で持っていたCADのどちらも不具合のようなものは見られない

魔法が使える世界というのは魔法師にとっては大きい

ではリーナにとってのマイナスな点は何処か

見慣れてはいるけど足場が不自由な荒野での戦闘を強いられること

まとまった戦力が分散させられた可能性

パッと思いついたのはこの2点

訓練でもやはり荒野は作戦が重要で不用心な者は真っ先にやられていくのがセオリーだ

上手に崖やらマイナス点である自由の効かない足場を利用することこそが勝利への布石となる


後者の戦力の分散はもしかしたらリーナだけが単独で他の4人は固まっているかもしれないが、リーナだけを1人にする理由がどうしても思いつかない

国籍の問題程度は些細なこと

5人がそれぞれ全員単独で配置されたと考えるのが一般的である

リーナ「(1対1....いえ、でもヤエの話から察する限りは葉月は1人。1人づつ潰していくために戦力を分散させた? それとも───)」

思考はそこで強制的に中断させられる

20mはあるであろう崖の上に在る1つの人影

リーナ「(あれが....)」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:リーナの分身
偶数:雪乃の分身

分身というのは葉月が作り出した存在で、もちろん敵意があります。
安価下。】

でやっ


>>439 7:リーナの分身】

リーナ「(あれは.....ワタシ?)」

この世界に来た時と同じく、取り乱すような真似はしなかった

想像の世界なのだから分身くらい作れても何の不思議もない

だが、気持ちの変化は多少もたらした

リーナ「(自分が目の前にいるって不思議ね.....)」

鏡像とは違い自分の意思に関係なくアレは動くだろうし、攻撃もしてくるだろう

しかしリーナに迷いは一切なかった

例え相手が自分の容姿をしていても、敵であることに変わりない

襲いかかる火の粉は自分で払う

もう、魔法勝負で負けるわけにはいかない

そんな確固とした覚悟が、彼女自身の足を動かした


重力制御の魔法で何度か跳躍し、距離を取る

リーナ「(もしアレがまったくワタシと同じだったら.....)」

自意識過剰ではなく、事実として自分は強い

そう認めているからこそ自分が敵に回った場合は脅威となる

アレがどれほど自分を模しているのか

それを調べるために、想子の塊を数発撃ちこむ

リーナ「(.....まぁ当然よね、これくらい)」

分身は遠距離魔法を難なく避け、お返しとばかりに倍の数の想子の塊をリーナの近くにあった数メートルはある崖の七分目を狙う

退避しなければ岩の下敷きになる

しかしリーナは微動だに動かなかった

攻撃手数は関係ない

近辺にあった崖も関係ない

ここで動いたら分身に心で負けると、

そう思った

崩れ落ちる岩を視界に入れず、CADを操作する

タイムラグもほとんどなく岩は電気の音を伴って細かい砂となり、リーナに降りかかった


その様子を見ていた分身のリーナは唇を三日月のように歪ませ、重力制御の魔法を使用して20メートルほどの崖から躊躇なく降りる

スタッと小さな音を立てて地上に降り立った分身に向け、

リーナは慈悲の気持ちも無しに近くに転がっていた手のひらサイズの石に加速系の魔法を帯びさせて投げる

いくら魔法師部隊の総隊長であっても、彼女は16歳の女の子

普通に投げれば分身に届くことなく勢いを失って地面に落ちるだろう

だが、加速系の魔法を使えば理論は通じない

時速150kmは優に越している石は勢いを失うことなく分身との距離を詰め、

分身を通り過ぎて数十メートル先の岩にめり込む

分身の本体はリーナの狙った地点のすぐ右斜め前に居た

リーナ「(仮装行列も使えるのね....ってことはヘビィ・メタル・バーストも.....)」

雪乃や結城香夜以上に、厄介かもしれない

勝率が確実に5割あるだけ、面倒だ

でも、勝たなければならない

何よりも自分自身のために

リーナ「(どうしましょう。もう少し様子見するか、攻めるか)」


【安価です。
1.様子見する
2.攻める
安価下。】

1


>>443 1.様子見する】

リーナ「(.....もう少し調べた方が良さそうね。魔法力はほぼ確実にワタシと同等あるとして、知能の方を)」

幻術は世界的に見てもそれほど珍しくない

しかし、これほど現実味があって精神を持つ人間を自由に作れる幻術使いはおそらく葉月のみ

リーナにとって決定的に足りない経験を補うには絶好の場だった

最高峰の幻術についても知れるし、

もし知能の方も同等ならば自分の弱点も知れる

これ以上ない絶好の機会を無駄にしないよう、距離をとりながら思索する

魔法力については同等だと分かったので考えうるパターンは3つ

魔法力も知能も同等な完全模倣分身

魔法力は同等だが知能は下な下位互換

魔法力は同等だが知能は上な上位互換

リーナにとって最も嬉しいのは完全模倣分身

これなら正確に自分を客観的に観測できる

自分の実力を試す意味も兼ねて、視線の先の”アンジェリーナ・シールズ”を試す


リーナ「(まずは.....)」

手当たり次第に岩や地面に想子の塊をぶつけ、破壊し始める

想子の塊に当たった岩は小石となり本物と偽物の間に転がり、

想子の塊に当たった地面はそこを中心点として隆起したように地形を悪くする

あっという間に本物と偽物までの直線の道は悪くなり、心なしか偽物が「面倒なことをしてくれた」とでも言いたそうな表情をしている

リーナ「(次は....アレを探しましょうか。岩石があるってことは無い可能性の方が低いでしょうし)」

CADを操作して偽物の上空にいくつかのポイントを作ると、容赦なくそこから雷が落ちる

これはほとんどの意識を集中させる弱点を代わりに自動で対象を狙い続ける魔法

「出来れば使いたくなかったのよね」と小さく声を漏らしてリーナは薄い意識の中、重力制御による跳躍を使いながらある物を探す

リーナ「(....!)」

探し物は案外簡単に、近くにあった

しかし、歓喜に浸る時間も無しにプラズマのビームがリーナのすぐ左を通る

一瞬の判断が遅れていればちょうど服部がごっそりと持ってかれていた


今までは持っていく側だったのが今回は持ってかれる側

流石のリーナもこれにはゾッとし、肝を冷やす

リーナ「(なかなかえげつないことをするのね....。ヘビィ・メタル・バーストを出し惜しみせずに使ってくるだなんて.....)」

早期決着を志しているのなら、最善手

あの偽物はそこそこの知能を持ち合わせているのかもしれない

逆に、攻撃こそが最大の防御だと意識しているのなら単純で本物のリーナの勝率が若干上がるところだ

もう少し調べてみる勝ちがあると分かったところで、探し物を手に取り、偽物に向けて魔法を帯びさせて投げる

魔法だけでなく身体能力も本物と同等なのか偽物は軽く右に一歩動き、余裕な表情を浮かべながら軽々と避けた

だがリーナは煽りに逆立てられるほど熱くなっておらず、むしろ冷静で笑っていた

リーナ「アナタ、磁鉄鉱って知ってるかしら?」

問いかけに偽物は答えない

喋れない造りになっているだけで知っているのか

知りながらも喋らないのか

それとも知らないだけなのか

本物は偽物の表情でどれかを察した


リーナ「どうやら知能の方はまずまず、と言ったところのようね。じゃあ教えてあげるけど、磁鉄鉱っていうのは.....電気を通すのよ」

偽物は本物の言葉に敏感に反応し、真上を見上げる

視線の先には一筋の電気を帯びながら浮遊している石

この石こそが磁鉄鉱

そして一筋の電気はリーナの右手の人差し指から伸びていた

リーナ「少し、痛い目に遭って貰うわね」

右手の人差し指を少し動かすと磁鉄鉱は内部から破裂し、砂鉄となる

偽物に降り注ぐ砂鉄

そこに電気を通されれば逃げ道はなく、電圧によっては真っ黒になるだろう

偽物は本物とは真逆の方向に退避しようとした

しかし電気のスピードには敵わず、全身を麻痺状態にするくらいの致死には至らない電流が襲う


リーナ「(これで大人しくなってくれればいいのだけれど、そうもいかないわよね。電気による麻痺が存在しない世界な可能性もある訳だし)」

じっくり地に伏せる自分の姿を見ている場合でないと、磁鉄鉱をいくつか拝借して偽物の姿が確認出来る少し高い崖の上へと退避する

移動は十数秒だったが、その時間で偽物は身体を痙攣させながらも立ち上がり、呼吸を整えていた

リーナ「(電気にはそれなりの抵抗があるようね。だったら...)」

左手に握り締められている『杖』へと視線をやる

杖の名前はブリオネイク

円筒状の80cmの細い部分と40cmの太い部分で出来ており、

大小の境目に十字に取り付けられた箱状の棒で構成される全長1.2mの携行兵器

これがリーナの最大の強み『ヘビィ・メタル・バースト』に使用する武器

リーナ「(これで...)」


【安価です。コンマ1桁
2・7・0:命中
1・3・4・5・6・8・9:外れる
安価下。】

そらっ


>>449 2:命中】

リーナは杖から水平に突き出している横木の片側を握る

このパーツはグリップの役目を果たしている

二重螺旋の想子光がブリオネイクの下部3分の2、長さ80cmの細い棒の中を走り、

太さが増した上部3分の1、グリップの先40cmの円筒の中で魔法式が瞬時に構築される

戦略級魔法の1つ、”ヘビィ・メタル・バースト”の発動一歩手前で偽物のリーナは本物のリーナに向かって口を動かす

リーナ「(アナタ、タツヤのこと好きで....っ!)」

最後の最後で嫌がらせをしてくる分身に嫌気がさし、リーナは自分の姿をした分身に向けて戦略級魔法を使用した

細く絞り込まれた光条がアンジェリーナ・シールズの姿をした偽物の服部に命中する

戦闘不能と判定されたのか分身の姿は霧散され、その場から消えた

リーナ「ふぅ.....」

思ったよりも苦戦しなかったと拍子抜けなため息を吐きながら、空を見上げる

リーナ「.....で、いつ帰れるの?」


【安価です。
1.雪乃
2.夜永
3.那月
4.達也
安価下。】

2


>>451 2.夜永】


「.....さん!」

「....姉さんっ!」


夜永「.....! ここは....」

薄暗い空き地に居たはずが、気がつけば真昼間の街中に居た

なんとなくこの通りに見覚えがある

そして、右手に握られている華奢な手

これにも覚えがあり、確認するまでもなく予想がついた

???「ここは、って....もう! せっかくのお出かけなのに」

見間違えるはずのない、妹の咲夜の姿に夜永は頭を痛める

夜永が4年間の眠りにつく発端となった日の世界

夜永「(想像....だから過去もあり得るのね)」

厄介なことをしてくれた、と愚痴を心の中で漏らしながら妹に応じる

夜永「冗談だよ。お詫びに甘い物食べさせてあげるから許して」

咲夜「.....うん」

疑い深いところはやはり自分の妹だと、想像で造られた人間ながら夜永は感心せざるを得なかった


ー甘味処ー

夜永「お金は私が払うから咲夜は気にしないで食べていいよ」

咲夜「んー、じゃあこれとこれとこれ」

夜永「3つ...まぁいいけど」

この時の私ってそんなにお金持ってたっけ? と思いながら自分のも含めて注文を済ます


【安価です。
1.咲夜「姉さん、面白い話聞かせて」
2.夜永「この後はどうしたい?」
3.その他
安価下。】

2


>>453 2.夜永「この後はどうしたい?」】

注文した料理が運ばれて来るまでの時間を有効活用しようと

表では咲夜と姉妹らしい会話をし、

裏ではこの世界について考えていた

夜永「咲夜、この後はどうしたい?」

───居心地が良いって思ってしまう前に現実世界に戻らないといけないのよね....

咲夜「私は姉さんと一緒なら何処でも」

夜永「んー、じゃあ....適当に歩いて面白そうなところ見つけたらそこに行く。これでいい?」

咲夜「うん。でも姉さんも楽しめるところね。私だけじゃなくって」

夜永「もちろん、そうするつもりよ。咲夜とのお出掛けは久しぶりだからね」

───もし私たちが全員バラバラな位置に配置されたとしたら、1人ひとりが何かの条件を達した時に出られるって考えるのが普通.....なのかなぁ

表では姉らしく振舞い、裏ではこの世界について考察を進めていると注文した料理が運ばれてきた


夜永は飲み物の抹茶のみ

咲夜はわらび餅とあんみつ、そして抹茶の3品

目を輝かせる年頃の少女らしい妹を前にして、咲夜はフッと微笑み、1つ疑問に思う

夜永「今さらだけど咲夜って抹茶飲めたっけ?」

咲夜「姉さんが飲めるなら飲めるよ」

夜永「なによそれ....。これでも2つ離れてるんだからね? 私が飲めて咲夜が飲めないってことも考えられると思うけど」

咲夜「.....姉さんは飲めるの?」

夜永「もちろんよ。......ぅ」

抹茶を一口飲んだ瞬間、夜永は苦い顔をする

───感覚まで14歳の頃の私に戻ってるのね.....

咲夜「姉さん? やっぱり飲めないの?」

夜永「の、飲めるよ! 私はもう大人なんだから」

咲夜「ふふっ、姉さんったら....はい、口開けて」

夜永「ん、わらび餅....ありがとね、咲夜」

咲夜「どういたしまして」

───.....もう少しだけ、この世界に居てもいいかもしれないわね


【安価です。
1.咲夜と話す
2.お店を出る
安価下。】

1


>>456 1.咲夜と話す】

心が揺れ動く夜永の表情は、何かを思い詰めているようで咲夜に不安を与えた

咲夜「(また隠し事......)」

瓊々木の特性である他人の魔法をコピーする能力は妹の咲夜にあって、姉の夜永にはない

しかしそれで姉妹の関係がギクシャクすることはなく、咲夜は夜永を慕っている

想像の世界でもそれは変わらない

だが、夜永は咲夜のことを想うがあまり隠し事が多くなってしまう

咲夜「姉さん、」

夜永「ん、どうしたの? 注文?」

咲夜「ううん、そうじゃなくって....えっと....なんでもいいからお話聞かせて」

夜永「話....ねぇ。じゃあ、私の知り合いの話でもしようかしら」

咲夜「知り合い? 誰?」

夜永「教え子よ。問題児の」

咲夜「......?」

夜永の年齢は14歳

飛び級をしたとしても教員免許は取得できないはずだ

しかし夜永の表情は嘘を語っておらず、咲夜は首を傾げることしか出来なかった


夜永「数年前にとある姉妹が喧嘩しました」

咲夜「喧嘩...姉妹で.....」

夜永「その姉妹はそれから3年くらい冷戦のような状態が続いたんだけど、高校1年生で転機が訪れます」

咲夜「転機?」

夜永「完全無欠のなんでも出来る人と同じクラスになったの」

咲夜「姉さんよりも凄いの? その人」

夜永「どうだろうね。で、その完全無欠のなんでも出来る人は中学生になる前に両親を失って天涯孤独だと思い続けてきました」

咲夜「思い続けてきたってことは違かったの?」

夜永「結論を言っちゃえばそうなるかな。まぁその話はまた今度ね」

夜永は一拍はさみ、間を作った

聴き手を話に引き込む一種の技法だ

夜永「それから色々あり、姉妹の仲はその完全無欠の女の子によって少しは話せる関係になったの」

咲夜「それでも少しなんだ.....。深夜と真夜っぽいね」

夜永「ぁ....う、うん....そうだね」

時折、鋭い面を見せるのもやはり良く出来ていると想像の世界に感心せざるを得なかった

咲夜「今はその姉妹どうしてるの?」

夜永「仲良くしてるよ。ただ、お姉ちゃんの方はもう亡くなってるから滅多に会えないんだけどね」

咲夜「滅多に会えないって?」

夜永「世の中、亡くなった人と会う手段は幾つかあるんだよ」

こうして咲夜の姿を見るのもその手段の1つ

これが敵の魔法による出会いでなければ、心地良く過ごせたかもしれない

咲夜は「ふーん」とあまりよく納得していない声を漏らしながら、苦そうに抹茶を飲み干す

咲夜「面白かったよ、姉さんの話」

夜永「ただの昔話だし、そんなに面白い要素あったかな.....」

咲夜「姉さんが話すことは大抵面白いから。自信持って」

夜永「.....行こっか。遅くならない内に街を見回りたいし」

咲夜「そうだね」

そっぽを向いた夜永の姿に咲夜は微笑んだ


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:街を見回る
偶数:異変
安価下。】

とぉ


>>459 6:異変】

甘味処を出た2人は予定通り目的を探すことを目的とし、適当に街を歩いていた

条件は妹が楽しめて かつ 自分も楽しめる場所

咲夜はともかく、夜永が楽しめる場所となると本当に限られてしまう

その点は姉妹らしくなく、

いや、夜永がタイムスリップも含めて様々な経験をし過ぎたせいで興味を唆る物が変わっているのだ

夜永は1回り半ほど年上な雪乃や真夜以上に年を過ごした

40年から50年の時間の間で夜永は、

人を見て、人に出会って、物を見た

とても18歳とは思えない異例な経験を積んでいる

だから自然と、咲夜と趣向に差が出てしまう

───楽しいフリ、は.....

迷いが通じたのか、咲夜が夜永の手を強く握った

隠し事は全て見抜かれてしまう

夜永「安心して、咲夜」

この一言で夜永の右手への負荷が抑えられる

とは言っても少しだけ強く握られた程度なので痛みなどは一切なかったのだが

body


───.....困ったわね。水族館とか美術館とかはここら辺に無いし.....

何より妹を心配させないためにと模索していると、夜永は異変に遭遇する

特段前には注意を向けず、とりあえず道なりに歩いていたはずだ

しかしどうしてか急に夜永は森林に居た

さっきまであった手を繋いでいる感触も無い

そして、最も気になったのは”いつも通りの身体”へと戻っていたということ

───これも幻術.....?

想像の世界に来てしまった以上、幻術魔法の上限が分からない

だが、これもまた幻術ならどうしてこのタイミングで夜永を1人にしたのか

その理由が見つからず、それより、

───指定された範囲があるのかしら?

と、考えるようになった

全ては1度現在向いている方向の逆方向に一歩踏み出し、咲夜のもとへ戻れれば範囲があるのだと確証が持てる

夜永は一歩、躊躇なく下がった

すると、


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:咲夜のもとへ
偶数:戻れない
安価下。】

てい


>>462 1:咲夜のもとへ】

自然に溢れる土地から人工的に、人が住みやすい環境の活気のある街へと景色が変貌した

きちんと隣には首を傾げる妹の姿もある

夜永「.....咲夜、今私どうしてた?」

咲夜「どう、って.....急に立ち止まって何か考えているようだったけど」

夜永「......」

話を聞く限り、指定された範囲を越えたら自分だけが別の場所に転送されるというわけでもないらしい

考えれば考えるほど分からない世界に、

夜永は単純な答えだけを見つけ、

ややこしい設定はもう考えないことにした

───とにかく私がするべきことを見つけましょう

敵対している葉月が夜永にとって有益な時間を無償で提供するとは思えない

それに何より、この日付は夜永にとっても咲夜にとっても意味のある日

───事件に巻き込ませたいっていう意味で範囲を指定しているのかもしれないわね。この後起こることを知っている私が巻き込まれることを前提で、どう対処するか

そう考えた夜永は、踵を返す

夜永「咲夜、来た道を戻るけどいい?」

咲夜「え...あ、うん。大丈夫」

このまま道なりに進んでしまえば目的を達することはできない

夜永の目的とは咲夜と遊ぶことではなく、

想像の世界であったとしても、未来を変えること

───この後起こる”あの事件”で私は......!


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:事件に遭遇
偶数:咲夜「姉さん、何処に向かってるの?」
安価下。】


>>464 7:事件に遭遇】

来た道を引き返しながら、夜永は4年前の事件を思い出していた

金銭目的で10名の魔法師が銀行を襲撃した事から全てが始まった


ー回想(前スレの964の続きです。この1レス分は964のコピーとなります)ー

2095年 11月5日

真夜「.......」

四葉真夜の視線の先には彼女の友人である君影雪乃、そしてその娘の君影歩夢と容姿、雰囲気が似ている女性がベッドで4年間もの長い歳月、ずっと目を覚まさない

しかし真夜は彼女が目を覚ますことを知っている

単なる予想や勘でなく、それが答えなのだ

人々から畏怖された一族の当主が畏怖する上家の何代も前の、現在の日本を作ったと言っても過言でない霜月家当主が仕組んだことなのだから

4年前、彼女は事故に遭い、命を落としかけた

本当の意味で生死の境を彷徨っていたところを霜月に助けられた

真夜にとって彼女は恩師

真夜だけじゃない

深夜や雪乃、綾人の恩師でもある

???「......ん」

彼女が小さく目を開けると同時に30年前を改めて思い出す

真夜「っ.....そういうこと....」

彼女は雪乃の裏表を固定する魔法を作り上げた天才

彼女は、

真夜「お久しぶりです、先生」

本来、自分が居るべき場所に戻ってきた


夜永「.....ここは.....?」

真夜「四葉の医療施設です」

夜永「ぁ....4年前の....」

まだ覚醒しきっていない頭を回し、4年前の事件や時間を操る魔法師によって過去に送られたことなどを次第に理解していく

夜永「......! 咲夜は....」

事件を境に会ってない妹が現在どうしているかを尋ねる

それは姉として、至極当然な発想だった

真夜「亡くなりました。2年前に、肉体だけ」

夜永「肉体だけ......?」

真夜「今から約2年前に1つの組織が・・・」

真夜は夜永に2年前、何があったのかを説明した

夜永が意識不明になってからの2年間、君影歩夢と瓊々木咲夜がどうしていたか

実験の内容

2人で1人となった、その後について

事細かく、夜永が納得しきるまで、時間をかけた

真夜「当時は少し問題ありましたが、現在では良好な関係を築いているようなので心配はいらないかと思われます」

夜永「.....そうですか。分かりました」

形は違うにしろ、咲夜は生きている

その事実が夜永に安心を与え、彼女は涙を流した


真夜「......」

姉が妹へ向ける愛は妹である真夜には分からない

しかし逆に妹が姉に向ける愛が分かるかと言われたら、答えれず無言を貫くだろう

深夜と真夜は数十年に渡って気を遣い合い、すれ違ってきた

真夜にとって、あるいは深夜にとっても夜永と咲夜のような姉妹は理想だった

姉は妹を心の底から大事にし、妹は素直に姉を慕う

もしこんな関係だったら、と考えるだけで妄想が膨らむ

真夜「(また少ししたら雪乃に頼んで姉さんのところに.....)」

そう考えた直後、真夜は心の中でため息を吐いた

真夜「(ダメね、こんなに甘えるのは。それこそ姉さんに笑われてしまうわ)」

真夜は深夜のことをずっと尊敬し続けている

関係を修復した今でも、全ての元凶である真夜の拉致・強姦事件前も、事件後でも向ける敬意は変わらない

真夜は深夜の妹、それも血の繋がりが更に強い双子の妹であることに誇りを感じている

だから深夜が亡くなった時には涙を流したし、

それから数週間、あるいは数ヶ月ずっと胸の奥が苦しかった

姉が妹へ向ける愛、妹が本来姉に向ける愛は真夜には分からない

しかし姉が妹、妹が姉のために流せる涙の理由を真夜は知っていた

だから何も言わなかった

真夜は夜永が泣き止むまで、同情し続けた


夜永「っ....すみません....」

10分後、夜永は泣き止んだ

いくら教え子でも人の目があるところで泣くという行為に抵抗があった夜永は謝罪の言葉を口にし、深呼吸をして感情をリセットする

夜永「.....それで、お話とは何でしょうか」

真夜「4年前の事件について教えて欲しいの。目の当たりにした光景、貴女と咲夜さんが取った行動の全てを」

夜永「あの時は....久しぶりに咲夜とお出掛けをしていました」

夜永「お寺を見たり、甘い物を食べたりして幸せな時間を過ごして.....」

夜永「日が沈みかけた頃、私たちがちょうど通りかかった銀行で銃声に加えて道具を使わない発火、つまり魔法が防犯システムに向けて使われました」

夜永「そこの銀行は完全無人ではなく、機械の力を借りて職員が10名ほど働いている最近....いえ、少なくとも4年前では比較的珍しかったです」

夜永「職員全員に加えてお客さんを数人、人質に取られて3人の覆面の男性が銃を構えて銀行の外に出てきました」

夜永「周りの人間が余計なことをしないようにと見張っていたんでしょうね」

夜永「その間に中に残った強盗が2グループに分かれて、一方は人質の監視。もう一方は銀行にあるだけのお金を全て原始的な方法で大きなバッグにでも詰めようとしていたんじゃないかと思います。この目で確かに見たわけではないので、確証はありませんが」


夜永「外では3名の強盗が見張っていたせいで咲夜と話し合うことも出来ず、逃げ出すことも出来ませんでした」

夜永「CADを取り出す余裕もありませんでしたし、その時は右目も使えませんでしたから」

夜永「アイコンタクトで咲夜に余計なことをしないようにと命令し、その場でジッとしたてたのですが、強盗が犯罪を起こせば警察が来ます」

夜永「警察は大人しく抵抗しろと言いましたが、強盗は聞く耳を持たずに警察を目掛けて発砲」

夜永「銀行周辺に居た私と咲夜を含めた数十名がそこに居るのに、警察は反撃とばかりに反抗」

夜永「目先のことしか考えず、功績を挙げたかったのかと思われます」

夜永「銃撃戦が魔法戦へと移行した時、銀行内部から銃声が何十回か聞こえてきました」

夜永「銃撃が聞こえ始めて1分後、返り血を浴びた覆面の男性が出てきました」

夜永「2人は大きなバッグを抱え、5名は銃またはCADを構え、もともと外に居た3名と合流して合計10名」

夜永「魔法を使った戦闘に慣れていた強盗は警察を圧倒し、1つの要望を出しました」

夜永「それは逃走経路の確保」

夜永「何人もの被害者を出している警察はこの要望を拒否」

夜永「.....すると、強盗グループのリーダーらしき人は警察に対して有効な効果を持つ人質を取りました」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:夜永「その人質は....私でした」
偶数:夜永「その人質は魔法にも銃器にも怯える本当の一般人でした」
安価下。】

てい


>>470 8:夜永「その人質は魔法にも銃器にも怯える本当の一般人でした」】

夜永「その人質は魔法にも銃器にも怯える本当の一般人でした」

夜永「人質を取った強盗には警察も折れ、人質を含めた一般人の身を保証する代わりに要望を受け入れました」

夜永「準備が出来るまでの時間、強盗の1人は人質の頭に銃口を当て、残りの9人は360度死角が無いように円状に並んで銃を構えて待機」

夜永「このまま警察が強盗に従えば私たちは後味の悪さを残しながらも帰れたのですが、無事に終わりませんでした」

夜永「まず警察は遠距離からの射撃で人質をとっているリーダーを撃ちました」

夜永「撃たれたことを実感したリーダーは身体から力が抜ける前に人質を撃ち殺し、それとほぼ同時に残りの9人は一般人に向けて無差別に発砲」

夜永「私は障壁を張りました。スピード重視の私と咲夜だけを守れるくらいの小さな障壁を」

夜永「周りの人が次々と撃たれていく中、私は咲夜の手を引っ張って走りました」


夜永「しかし私は障壁外に出たところで腹部を撃たれ、身体からじんわりと力が抜けていくのを実感し、咲夜だけでも逃がそうと咲夜の背中を押しました」

夜永「咲夜が遠ざかるのを見届けた後、私は自分の身体に再幻をかけて10分間という制限時間で報復」

夜永「銃撃にも魔法の戦闘にもどうしてか慣れていた9人には手こずりましたが、10分という時間を全て使って強盗は全員殺害」

夜永「フラフラになりながらも咲夜の無事が保証されたところで再幻が解け、私はその場に倒れました」

夜永「この解けた直後にこの10分間で受けるはずだった痛みを一瞬にして感じ、」

夜永「それからは手を差し伸べられました」


???『貴女をここで失うのは惜しいわ。どうしてか分家であるはずの貴女が私に最も近いようですしね』


夜永「あの方とは違うにしろ一時的に時間を戻す”再幻”という魔法を評価され、気がつけば全く知らない土地に」

夜永「それからは雪乃さんのお母様に助けられて、十数年後には問題児3人の面倒を見たり、歩夢さんの魔法を作ったり」

夜永「咲夜を1人にさせてしまったのは心苦しいですけれど、私は楽しめました」

夜永「可愛い頃の真夜さんも見れましたし、深夜さんと真夜さんのお互いに気を遣ってる感も微笑ましかったですし」

真夜「もういいわ。聞きたいことは聞けたから」

ふふっと笑いを漏らし、ここからは黒歴史に近い話が開始されるというところで真夜が止めに入った


真夜「ありがとうございます。非常に興味深い内容でした」

夜永「興味深い....ですか? あの件は全部終わったはずですけれど」

真夜「えぇ、先生は強盗の9人を殺した。これは事実です。私が興味を持ったのは先生が咲夜さんへ向ける想い」

夜永「.....シスコン」

真夜「何か?」

夜永「いえ、なんでも」

真夜「.....食事や飲み物を持って来させますので、くれぐれも安静にしていて下さいね」

そう言い残して、真夜は夜永の居る病室を出た

成長した教え子の背中を見て、夜永は1人きりになった真っ白な病室で呟く

夜永「.....昔は可愛かったんだけどなぁ」


ー回想終わりー


過去のことを思い出しているうちに例の銀行付近へとやって来た夜永と咲夜

咲夜「何処に向かってるの?」

夜永「....私がやるべきことよ」

自分が何をするべきなのかを夜永は見つけた

咲夜と遊ぶことでも、咲夜だけを守ることでもない

あの時の事件を無害で済ませること

被害者を出さずに、強盗を無力化するには....


【安価です。
1.銀行内で無力化に試みる
2.銀行外で無力化に試みる
安価下。】


>>474 1.銀行内で無力化に試みる】

少しの時間とはいえ、強盗犯の全員が最初に集まる銀行内で迎え討つのが最善

その際に多少、施設を破壊したって文句は言われないだろう

修繕費と大金、どちらが銀行にとって大切かと問えば渋い顔をしながら後者と答えるはず

それどころか感謝の気持ちとしてお金を貰える可能性だって捨てきれない

ただし、お金は現実世界に持ち帰れないので意味はないのだが

そんな大雑把なプランを立てていると、例の銀行が見えてきた

夜永「咲夜、私は少し銀行に用があるからここで待ってて」

咲夜「銀行に?」

夜永「すぐ終わるから。あと、何が起きてもこの場から動かないで」

咲夜「.....うん」

咲夜の頭を撫で、夜永は銀行に向かって歩み始める

今は嵐の前の静けさとでも言えるほど、ここらは静かで平和だ

しかしあと5分もすれば悲鳴が響き渡る一帯になることを夜永だけが知っている

葉月からの挑戦に勝利するためにも、夜永は4年前の二の舞にならないようCADをギュッと握りしめた


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:過去通り
偶数:過去通りじゃない
安価下。】

おりゃ


>>476 9:過去通り】

ー銀行ー

銀行内を見渡す限り事件が起こってないのはもちろんのこと、客に化けた強盗犯も居ないようだ

夜永「(あと3分.....)」

魔法の戦闘は何度もしたことあるが、夜永にとってこの事件はトラウマに近い

本来在るべき100%の能力を引き出せないかもしれない

だが、本領を発揮出来なくても夜永は負ける気がしなかった

夜永「(咲夜との約束を守るためにも、....姉さん、少し頑張っちゃおうかな)」

自分はあの人に才能を買われた身

これくらいの事件で躓いているようでは瓊々木にも本家の霜月にも恥ずかしくて顔出しが出来ない

汚名を背負うのはもう御免だと、特化型のCADを取り出した

直後、CADを構えた夜永を視界に捉えた客や職員がざわめきだす


事件も何も起こっていないにも関わらず魔法を公共の場で使うのは立派な犯罪とされている現代のルールにより銀行内で警報が鳴り響く

専属の警備員がすぐに駆けつけ、夜永に銃を向けた

警備員「CADを捨てーーー!」

台詞は銃声により掻き消される

警備員よりも早く、躊躇なく撃ったのはまだ外に居る覆面のグループの内の1人

そして立て続けに何もない場所から炎が現れると、防犯システムへと目掛けて飛んでいく

夜永は炎には目もくれず引き金を何度も引いた

使用した魔法は雲散霧消

解体魔法の中でもトップクラスの魔法であり、絶大な効力を持つこの魔法によって『強盗』は次々と姿を塵へと変えていく

強盗A「......! 撃て!」

一瞬驚きながらも、何処か戦闘に慣れている強盗犯のリーダーが15に満たない少女へと発砲許可を出した

夜永が消したのは2人

リーダー以外の7人が夜永へと銃口を向け、引き金を引く

発砲音を伴い発弾された弾は超高速で夜永を目掛けたが、着弾する一歩手前で夜永の魔法が発動した


加速魔法よりもずっと高い効果を持つ天邪鬼

減速魔法よりもずっと高い効果を持つ神座

天邪鬼は自身へとかけられ、

神座は自分以外の全てに効果を発揮した

夜永「(歩夢さんや雪乃さん、先輩と違って私には最大5秒しか止められないけど.....!)」

身の安全の確保のために銃弾の軌道から避けた場所へと移動し、魔法で鋭いナイフの形をした氷を精製する

ナイフ状の氷は全部で16本

1人につき2本、頭と心臓に当たる直前でナイフの動きを止めて時間を待つ

夜永「(2.....1....、)」

夜永に当たるはずだった銃弾は誰も居ない床に穴を開け、

強盗犯の8人は無残にも悲鳴をあげる暇なく、2箇所から血を流してその場に倒れこんだ

しかしその代わりに、客や職員が悲鳴をあげた

正義の立場であったはずの夜永のことを人殺しだとか、殺戮者だという声も聞こえる

夜永は声を発した人間へ一瞥をくれてやり、銀行を出た


未だに聞こえてくる悲鳴を鬱陶しいと思いながらも、咲夜のもとへと向かう

咲夜「......! 姉さん!」

咲夜は夜永に勢いよく抱きついた

夜永「約束は守ったよ」

咲夜「良かった....無事で.....」

強盗のことはもう噂になっていたのだろうか

それとも咲夜が勘で夜永の身に危機が迫っていると知っていたのか

どちらにせよ、無事で帰ってこれたのだからそれでいい

そう判断した夜永は咲夜の頭を撫でた後、放すようにと指示した

不服そうにしながら離れた妹の顔を改めて目に焼き付けた後、口を開いた

夜永「ねぇ咲夜、私のこと好き?」

咲夜「う、うん....? どういうこと?」

夜永「私が貴女の姉さんで良かったかどうか、ってこと」

咲夜「あぁ....うん、好きだよ」

夜永「ありがと。じゃあ続けて質問するけれど、1人の女性としては?」

咲夜「ぇ....それって女性同士.....?」

夜永「私はね、咲夜のこと好きなの。貴女を妹としても、1人の女性としても」

咲夜「そういう趣味あったんだ....」

夜永「真面目に引かないで!でも今言ったことは事実だからアレなんだけど.....」

咲夜「趣味とか価値観は人それぞれだから否定はしないけど、それってわざわざ私に言うこと?」

夜永「想いを伝えるのは大事なことだよ。それで、咲夜は私のことどう想ってくれているの?」

咲夜「好き....だけど、恋愛対象としてはやっぱり見れないかな」

夜永「.....ふふっ、そうだよね」

夜永は一歩、また一歩と咲夜から離れる

その度に咲夜は夜永のことを追いかけるように近付くのだが、追いつくことはない


夜永「本当にありがとう、咲夜」

最後に感謝の気持ちを述べ、夜永は振り返って走った

範囲外まで、止まることなく

後ろを追いかけてきた足跡も途中で消え、気が付けば夜永は範囲を越えて森林に居た

夜永「はぁ....っ.....はぁ....」

久方ぶりな運動に夜永は呼吸のリズムを崩し、その場で大粒の涙を流しながら膝をついて崩れる

そして、それとほぼ同時に聞き覚えのある声が夜永の耳に入った

???「......! ヤエっ!?」

美しい金髪を靡かせながら夜永のもとに駆け寄ったのは自分との戦いを終え、その後あまりにも暇でこの世界を歩き回っていたリーナ

どうして膝をついて涙を流しているのかを問うと、夜永は震えた声で答えた

夜永「わたし....フラれた....」

リーナ「えっ、はぁっ!? フラれた? 遊んでたの?」

夜永「っ....初恋....だったのに....」

リーナ「は、初恋....?」

現在進行形である男性に恋をしているリーナにはタイムリーな話で、それ以上の言及はしなかった

リーナ「(ヤエの初恋って.....やっぱりサクヤなのかしら)」


【事件がどうこうより、夜永の失恋がメインになってしまいましたね....。

安価です。
1.達也
2.雪乃
3.那月
安価下。】


>>482 3.那月】

那月「.....」

薄暗い空き地から一転、那月が居た場所はすぐに病院だと分かる施設だった

病院特有の消毒液のにおいや、ナースセンター、順番待ち用の大きいソファだってある

しかしこの施設に居るのは那月を含めて2人

もう1人は病室に居た

それも一般棟ではなく、表上ではもう使われていないとされている棟の一室

ここが病院だと認識した時点で、もう1人が誰であるかは予想がついている

もし魔法の戦闘になれば”ほとんど”勝ち目がない

勝機は那月が魔法師として非常に優秀な存在からではなく、血の繋がりから来るものだった

那月の両親は世界最高レベルの魔法師

その2人の血を継いでいるとだけあって基礎能力が異常なまでに高く、”異能”も持ち合わせている

特別な相手でない限り敗北を経験したことのない那月だが、あの人は特別中の特別

弱冠15歳にして既に両親と同じく世界最高レベルの魔法師として数えられている那月でも、彼女に対しては消極的だった

那月「(.....でも、勝たないといけないのよね)」

気がつけば例の病室の前で、立ち止まっていた

お守りのシルバーのネックレスをギュッと掴み、

心を落ち着けてから病室の扉を開ける


そこはありふれた病院の個室

特別な装置もなく、特別広いわけでもない

しかしベッドの背もたれに寄りかかって読書をしていた彼女は美しく、そこだけが異常だと思えた

彼女は那月の入室と共に読んでいた本に栞を挟んで閉じ、机の上に置いて第一声を放つ

???「.....お父さん似ね」

予想だにしていなかった第一声に那月は少し怯みながらも、返答を返す

那月「私はよく母親似だと言われますが」

那月の返答に彼女はクスッと笑いながら、椅子に腰掛けるように促す

こんなところで罠を仕掛ける人間じゃないことを知っていた那月は従い、椅子に座った


【安価です。
1.???「ご両親は元気?」
2.那月「私の両親のこと、どう思っていますか?」
安価下。】


>>485 2.那月「私の両親のこと、どう思っていますか?」】

那月「私の両親のこと、どう思っていますか?」

???「あの子達がどう思っているかは知らないけれど、私は友達だと思っているわ。貴女が私の娘だという事実があっても」

那月「友達....親友じゃなくて、ですか? 母と父は貴女のことを親友だと仰っていましたけれど」

???「私と2人の間には貴女の存在があるから仕方ないのよ。もっと言ってしまうと私と”私”と2人の間に貴女、だけれどね」

那月「”私”はなんと?」

???「私と同じ。友達だって」

那月「.....親友と友達の定義をご存知ですか?」

???「友達は裏切る。親友は裏切らない。私と”私”が2人にしたことは裏切りだから友達っていう関係」

あまりにも殺伐とした持論に那月は呆気を取られながら、

那月「母のこと、どう思っていますか?」

次に両親まとめてではなく個人単位の質問をする


???「人間関係が不得意な私にも積極的に話しかけてくれた良い子」

那月「....娘を取られたことは?」

???「取られたって....。もう聞いていると思うけれど、取られたんじゃなくて私は卵子を提供しただけよ」

那月「霜月の血を絶やさないためにですか?」

???「貴女のお母さんが望んだから。これ以上の理由はないわ」

那月「.....次。お父さんのことは?」

???「まだ好きだよ。....多分これからもずっと、私の寿命が終えるまで」

那月「だったら....!」

???「私とあの人が結婚したところで国の求める利益は出せないわ。私にはもう出産が成功するほどの体力は残っていないし、今の私の状態が自らの卵子に影響を与えて生まれてくる子が何らかの障害を持つ可能性がある」

那月「だからお母さんに....?」

???「えぇ。私はあの子のことを信じて、卵子を渡した。読み通りあの子の胎内で育てられた貴女に障害は無いようだし安心したわ」

那月「子供を引き取るだけっていう選択肢は....」

???「どちらにせよ私の命は短かったし、何よりあの子の立場上婚約者があの歳になって居ないというのは少し問題があったのよ。遺伝子上の母として謝っておくけれど、貴女は優秀。だから....あの子と同じように自由な恋愛はさせてあげられないかもしれない。恨むならお母さんではなく、私を恨んで頂戴」


那月「.....話を戻します。お父さんのことをまだ愛しているのなら───」

???「それはダメ。さっきも言った通り、あの子を苦しませることになるから」

那月「お母さんのこと、そんなに大事なんですか.....?」

???「人それぞれの価値観の中で、私にとって友達というのはこれくらいしてあげられる関係だから」

那月「.....では、その未練は?」

那月の視線はベッド傍の机の上に乗ったシルバーのネックレスへと向けられた

???「これは....」

ここでようやく、ベッドに座る女性は言葉を紡ぐのに時間をかけた

3秒ほどネックレスを見つめた後、右手でネックレスを手にとって首につける

???「これでお揃いね」

那月「お揃いではありません。.....私が付けているのは本来、貴女の物ですから」

???「私の形見ってことかしら」

那月「私が貴女の存在を知った時に頂きました」

???「.....私、居なかったことにされていたのね。貴女が自立するまでは教えるつもりなかったけれど、貴女は1人で私のことに辿り着いたってとこかしら。全てを疑ったきかっけは?」

那月「娘の誕生日に悲しい顔をする両親の姿を見れば嫌でも何かあったのかと疑います」


???「それで?」

那月「ここからは内緒です」

???「あらあら....。結構気になっていたのだけれど、愛する娘がそう言うなら言及は止めることにします」

那月「お心遣い感謝致します、お母様」

???「あの子との使い分けのつもり? ふふっ、じゃあ”私”のことはなんて呼ぶのかしら」

那月「貴女は1人です。だから、お母様と」

???「良い性格してるわね。やっぱりあの人の娘だわ」

今まで言われたことのない父親似だと実母に言われ、那月は頬を少し赤らめて俯いた

思っていた以上に、話に聞いていた以上に扱いが上手にいかない

あちら側のペースのまま続くのは好ましくない

この後に控えている戦闘で不利となる可能性があるからだ

なんとかしてこちら側のペースにと那月は考え、


【安価です。
1.???「次、私からの質問ね。貴女のお父さん、毎日幸せに過ごしてる?」
2.那月「.....お腹空きませんか?」
3.那月「昔の話、聞かせて下さい」
4.戦闘へ
安価下。】

1


>>490 1.???「次、私からの質問ね。貴女のお父さん、毎日幸せに過ごしてる?」】

自分のペースに引き込む質問をしようとしたのだが、

???「次、私からの質問ね。貴女のお父さんは貴女から見て幸せそう?」

質問の主導権を握られてしまった

だがこれまで一方的に質問し続けてきたことから、質問に答える以外の選択肢は那月には無かった

那月「幸せにしていると思います。あくまで予想ですけれど」

???「予想? ....あぁ、娘の前では正直にならないってことかしら」

那月「まぁ...はい」

???「曖昧な返事ね。別に構わないけど」

那月「......」

今までずっと話に聞くだけだった遺伝子上の母との会話は、歯車が噛み合ってないかのように那月に不安を与えた

時間が経過すればするほど那月の精神状況は不安定となり、息苦しさすら感じつつある

はたして那月の考えている通り彼女が全く話したことのない自分の肉親だからなのか、

それとも、彼女の強さの所以が絡んでいるからなのか

那月は彼女のことを情報でしか知らないので、どちらなのか見当もつかない


血の繋がりとは皮肉なものだな、と那月は思った

???「那月は幸せ?」

那月「....はい。支えてくれる方がたくさんいらっしゃるので」

???「そう。安心したわ、遺伝子上の母親として。あの子も安心しているでしょうね。私と同じにならなくて」

那月「友達は作らない主義だとお聞きしましたが」

???「作らないというよりは作れない。人が怖くて話しかけれなかったから」

那月「人が怖い?」

???「だって、人って何を考えているか分からないし、私のように長い付き合いの中で裏切ることだってあり得る。人は信用できないよ。それこそ親友じゃない限り」

那月「.....」

捻くれた彼女の思想に何処か共感出来ているのは自分が彼女と血が繋がっているからだろうか

那月「お母様にとって”ぼっち”とはなんでしょうか」

???「”ぼっち”? 独特な質問をするのね......。まぁ答えるとすれば、.....」

饒舌だった口はそこで止まり、小さく「なんだろう....」と呟いた

那月「母は貴女の言葉を借りて、尊い存在だと答えていました」

???「尊い? そんなこと言ったっけ.....?」

那月「本当に言ったかどうかは知りませんが、お母様は”ぼっちは尊い存在”だと思われますか?」

???「尊い...ねぇ。コミュニケーション能力に欠け、青春を謳歌出来なかった者が尊い。....ごめんなさい、今の私には分からないわ」

那月「.....分かりました」

ここでもまた、予想外な返事に那月が喋ったのは一言だけだった


【安価です。
1.???「話を戻すけれど、具体的にはどう幸せなの?」
2.那月「外、行きましょう」
3.那月「この世界についてどう思いますか?
安価下。】


>>493 1.???「話を戻すけれど、具体的にはどう幸せなの?」】

???「話を戻すけれど、具体的にはどう幸せなの?」

具体的に、と問われて那月は「また答えにくい質問を.....」という顔をした

那月は俗に言うリア充ではない

友達は多くもなく、少なくもない中間辺り

恋人は居ないし、許婚の話も噂すら聞かない

那月が人生を楽しんでいる時と言えば、

親しい人間と話すとき

ご飯を食べているとき

趣味に没頭としているときの3つ

その中でも特に食べることが好きで、よく夕食前にご飯を食べては育ての母に叱責されている

今目の前に居る実の母に「幸せな瞬間は?」と問われて、

「ご飯を食べているとき」と答えるのはなんだか地味でつまらない

ここは思い切って大胆な、実の母に無かった物で驚かせようと企んだ

那月「友達と遊んでいる時です」

???「....そう。楽しんでいるのなら何よりだわ。貴女の幸せは私の幸せも同然よ。あ、今の母親っぽかったかしら?」

ようやく母親らしい台詞を言えたと、ベッドに座る女性は笑った

那月はというと、罪悪感を感じてうな垂れていた

那月「(嘘じゃないんだけど、....嘘なのかなぁ)」

こうなるなら変に強がらなければ良かったと那月は後悔し、後悔の念を断ち切るために新しい話題を提供する


【安価です。
1.那月「私たちって....戦わないといけないんですか?」
2.那月「外、行きましょうか」
3.その他
安価下。】

2


>>495 2.那月「外、行きましょうか」】

那月「外行きませんか?」

話題というよりは提案だったが、閉鎖された空間から抜け出すことで何かが変わると考えた

外出を申し込まれた女性は首を傾げ、理由を問う

???「外に出るのは構わないけれど、どうしてか聞かせて貰ってもいいかしら?」

那月「気分転換です。それに、たまには外に出ないと健康に悪いですし」

???「.....そうね。じゃあ着替えをしたいから部屋の外で待っててくれる?」

那月「大丈夫ですか? お話に聞く限り、1人で着替えすらままならないと.....」

???「大丈夫よ。裏技を使えば」

那月「.....わかりました。それではお待ちしております」

裏技に心当たりがあった那月はおとなしく病室を出た後、何mか離れた場所に位置しているソファに腰をかける

そして、それとほぼ同時に背筋が凍りつくような感覚に襲われた

あの女性が裏技を使ったのだろう

那月は両目を手のひらで覆い、天井を仰ぐ

そして深い息を吐き、意識した


那月「(.....使う、使わないだけじゃないのね)」

一瞬だけ遺伝子上の母と同じ裏技を使ってみたが、到底先ほどのような使うだけで周囲の人間を威圧することは出来ない

那月「(練度....? それとも年季の差?)」

今のあの女性の年齢は19辺りのはず

那月が15になったばかりなので、それほど差がある訳でもない

練度のような使い続けて極めていくシステムなのか

年季のような時間が経つにつれて能力が向上していくのか

それとも、また何か別のものがあの女性を強くしたのか

考えれば考えるほど、自分が実の母について何も知らないことを実感させられた

人間性については聞いていても、魔法師としての彼女を全く知らない

那月「(魔法師としてのあの人について聞いておけば良かった.....)」

そう後悔した時、病室の扉が開いた

部屋から出てくる例の女性はレディーススーツに着替え、腰一歩手前まである黒髪を結っている

なかなか様になる姿ではあったが、足元が不安定だ

今すぐにも倒れそうな光景に、那月は親孝行とかではなく善意で肩を貸した

???「そういうところもお父さん似ね」

那月「......」

???「ありがとう、那月」

那月「いえ....」

感謝の気持ちには素っ気ない返答を返したが、「お父さん似」という台詞には触れなかった

事ある度に「(実の)お母さんに似てるわね」と言われ続けてきた身なので、こう言われるのは新鮮だった


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:中庭
偶数:病院の敷地内から出る
安価下。】


>>498 4:病院の敷地内から出る】

この病院の中庭はちょっとした庭園になっている

カフェテラスもあり、風通しの良い絶好のスポットで知られているのだが、

???「せっかくだし病院の敷地内から出てみたいわ」

という発言から中庭ではなく、病院外へ行くことになった

那月はこの病院についても話は聞いてた

しかし病院周辺となると話は変わり、初めての土地に困惑する

その姿を見兼ねたのか、女性は那月に一声かけた

???「那月、これは散歩だから」

目的がない外出を言い換え、目的がない散歩

そう意識するだけで肩の重荷が取れたように気が楽になった

困惑した表情から楽そうにする表情へと変わった娘の姿に女性はクスッと笑い、話を始める

???「それにしても人、いないわね。葉月なら今の私のような精神を持ったNPCを作ることだって容易なはずなのに」

那月「作られた本人がそれ言っちゃうの.....?」

夢を崩すようなメタ発言に那月は愚痴に近いものを漏らす

その発言はしっかり耳に届いていたはずだが、女性はそれを無視して話を続ける


???「葉月が作れる世界は1つ。今貴女がいるここは想像の世界の一部分でしかない」

???「探せば夜永さんやリーナと合流出来るし、ルールとして葉月本人も想像の世界の中に居続けなければならないから葉月と遭える可能性だってあるわ」

想像によって造られた人間が、想像をした当事者の手の内を明かしている

それは精神を持つNPCを作る利点と不利な面を強調しているようだった

現実味を持たせるなら精神を持った人間を

現実味を持たせないなら精神を持たない人間を

精神を持った人間は予期せぬことで想像した葉月の邪魔をするかもしれない

精神を持たない人間はゲームでお馴染み、話しかける度に同じ台詞が返ってくるアレだ

もっとも、この事は教えて貰うまでなく那月は知っていた

従って反応は至って平凡な素っ気ないものだった

那月「この世界での葉月さんってどんな方ですか?」

???「想像の世界は彼女を中心に回る世界。意識しただけで何でも起こせるわよ。例えばこの世界を水で満たすことだって出来るし、地殻変動だって意識するだけで可能」

那月「.....勝つためには?」

???「それは貴女が昨夜にやったことで解決されるわ。この世界に平等に与えられた物を操れば想像に勝てる。あの方に任せておきなさい」

あの方とは那月が昨晩歩夢と別れた後、保険のためにと協力を要請しておいた魔法師にとっての”魔法”を扱う人物

彼女が負けるなんてことは天地がひっくり返ってもあり得ない

そう信じてもおかしくないほど、あの方は絶対的な力を持っていた

那月「分かりました。あの方にお任せします」

???「えぇ、そうしなさい」

また1つ、抱えていた重荷を下ろしたように心の何処かで那月は安心した


【安価です。
1.那月「お母様は高校受験の際に何かしましたか?」
2.那月「葉月さんが私たちと敵対している理由をご存知ですか?」
3.???「そこのお店に入りましょう」
4.???「那月って好きな人とか居るの?」
5.その他
安価下。】

4


>>501 4.???「那月って好きな人とか居るの?」】

過ごしやすい気候と気温のもと、たわいの無い雑談を繰り広げること十数分

ここで唐突に女性が那月を動揺させるような疑問を呈した

???「那月って好きな人とか居るの?」

唐突で突然な質問に那月は一瞬顔をしかめ、

那月「ど、どうして急に.....」

女性が予想していた通りの動揺を見せる

???「居るのなら、きちんと貴女のお母さんとお父さんに話した方が良いわよ。叶う可能性が無きにしも非ずだから」

那月「.....私に選ぶ権利なんてありません」

???「貴女が一族の当主になるから?」

那月「多分、ですが」

政略結婚をさせられると思い込んでいる那月の心の傷はそれなりに深く、大きかった

その姿を見た実母は誤解を解こうと、説明を始める


???「一族の当主になる条件はその世代で最も優秀な魔法師。私は他の子達を知らないから確かなことは言えないけれど、次期当主に相応しいのは貴女」

那月「....」

???「そのとき貴女の婚約者を決めるのは現当主。つまり貴女のお母さん」

那月「.....はい」

???「これは昔貴女にとっての叔母から言われたことなんだけど、貴女は人よ。そして貴女のお母さんも人。人は話し合えるわ。必死になって懇願すれば、折れてくれるかもしれないわね」

那月「お母さんに....」

???「えぇ。人は通じ合えるわ。貴女が思っているよりも簡単に。私だってお母さんを助けるために青春したしね」

那月「青春?」

???「雨の中、お母さんを押し倒して説得した」

那月「う、うん....?」

???「とにかく、お母さんに言ってみて。それでも無理なら叔母に頼りなさい。きっと力になってくれるわ。彼女は天才だから」

那月「わかり....ました」

???「それで聞くけれど、好きな人って居るの?」

那月「今は特に」

娘の即答に実母は「流れからして嘘でも居るって言おうよ.....」と小さく声を漏らしたが、娘には届かなかった


【安価です。
1.那月「お母様は高校受験の際に何かしましたか?」
2.那月「葉月さんが私たちと敵対している理由をご存知ですか?」
3.???「そこのお店に入りましょう」
4.???「それでは本題に入りましょうか」
5.その他
安価下。】

4

>>504 4.???「それでは本題に入りましょうか」】

病院を出ておよそ25分が経ったところで女性が咳込んだ

顔色も悪く、足元が不安定

体力の限界を迎えようとしているのが目に見えて分かった

那月「休憩されますか?」

???「.....お願い」

著しい体力の低下にうんざりした声色で娘の厚意に甘え、偶然近くにあった公園の日陰にあるベンチに腰をかける

???「はぁ.....」

身体に溜まった疲れを吐くようについた溜め息は、実の娘であるはずの那月ですら一瞬見惚れてしまう艶かしさを感じられた

???「どうせ私を創り出すくらいなら病気も治してくれればいいのに」

那月「寝返った時の保険だと思いますが」

???「寝返るもなにも、私はもとより貴女達側よ」

那月「私たち側....?」

てっきり戦わされるのかと思っていたのだが、どうやらそうでもないようだ

予想外の展開に何か裏があるのではないかと細心の注意の表れとして、いつでも退避が可能なように足に力を込める


???「えぇ、そうよ。ついては貴女に課せられた目的を遂げずに、ここから出る方法でアプローチをかけましょう」

課せられたのは実の母の撃破だろう

しかし、それ以外の方法でこの世界を出る方法と言ったら、

那月「葉月さんを倒すおつもりですか?」

???「それが最善の手。貴女を含めた5人は確かに強い。けれど、負ける可能性だってあるわ。リーナと夜永さん、そして貴女はいい。残りの2人が問題よ。例えここが想像の世界だと分かっていても、厳しいんじゃないかしら」

雪乃と達也が葉月からの挑戦を達成出来る確証がない

その予想に、那月は共感した

彼に彼女は倒せなく、彼女に彼女らは倒せないだろう

特に彼女は2人に対して最上級の友好的な感情を抱いている

娘や息子、夫よりも大事だとハッキリ言ってしまう程に

???「葉月が潜伏しているのはそう遠くない。そして私が”視れる”場所に居たってことは私が行ける場所。問題は戦力なのだけれど、」


【安価です。
1.???「自信はある?」
2.???「少し試させて貰うわね」
3.???「霜月の特性については知ってる?」
安価下。】


>>507 1.???「自信はある?」】

???「自信はある?」

”一線を越えれば進むのも戻るのも命懸け”

実母の言葉をそう捉えた那月は、意識した

那月「はい」

短い返答だったが碧色の両眼に宿る意志を感じ取ったのか、女性は納得するように微笑んだ

???「そういう決断力に長けているところもお父さん似ね」

那月「.....」

3度目となるやり取りだがこの展開には対処し難く、口ごもってしまう

???「ふふっ、じゃあ行きましょうか。あちら側も私たちが攻め込むことを想定しているはずでしょうし」

娘の初心な反応に女性は苦笑を漏らした後、立ち上がって那月へ手を差し伸べた

那月「.....はいっ!」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:手先が襲ってくる
偶数:葉月の潜伏場所に到着
安価下。】

とぉ


>>509 9:手先が襲ってくる】

方針が固まったところで、標的である葉月が潜む場所へと歩み始めた

現在地である公園からは徒歩でおよそ15分の距離

しかし、そう簡単にもいかないことを2人に伝えるかのように2人の周囲では異変が発生する

何処からともなく突如として現れる人の気配

その数はあっという間に100を超え、その全員が何かしらの重火器を構えている

集中砲火されればひとたまりもない状況で、

???「那月、貴女ならどうする?」

那月「私たちが1人ずつ相手にする理由はありません」

???「ふふっ、そうよね。じゃあ....!」

女性が口を三日月型に吊り上げるとほぼ同時に忠誠心だけで構成されたであろう人々は次々に倒れ、戦闘不能だとこの世界に解釈されたのか霧散して消えた

那月「....急ぎましょう」

???「えぇ」

那月は女性の碧色の瞳を目に焼き付けた後、走り出す


街はもうすっかり葉月の手によって刺客ばかりの休息を取る暇の無い街へと変えられていた

しかし、刺客だらけと言っても全員が一般人程度の強さであり、2人(今のところ敵を倒しているのは女性のみ)の足止めにもなっていない

これなら案外楽に葉月のもとに辿り着きそう、というところで第一の壁が立ちはだかった

2人の視線の先には一般人ではなく、誰もが見惚れる美貌を持つ女性の姿が

その女性は魔法科高校の制服を着ていて右手には携帯端末型のCADを持っている

これまでの一般人とは比べ物にならない強みが感じられたことから、那月の隣に居る女性と同様に本来あるべき能力を与えられていることが分かる

???「.....貴女が選びなさい」

ここでするべき選択はどちらが彼女を倒すか

逃げるという選択肢は無い

世界トップクラスの実力を持つ彼女を倒すのは、


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:???が倒す
偶数:那月が倒す
安価下。】

せいや


>>512 8:那月が倒す】

那月「私がやります」

???「.....そう。頑張ってね」

励ましの台詞をを那月の耳元で囁いた後、女性は数歩下がって娘がどれだけ魔法師として育っているのかを”青色の瞳”で観察し始める

初手は制服を着た女性だった

那月へと向けて吹き溢れる霰交じりのブリザード

彼女の得意とする冷却魔法の1つだ

まともにくらえば全身の体温が奪われ、CADを操作することもままならない

しかし、那月は避けずに特化型CADを果敢に女性へと向けた

標準は女性の手元から出ているブリザードの原点

そこに向けて引き金を模したスイッチを引く

ガラスを割った音をもう少し高く、凝縮した音が鳴り響いた

吹き荒れていたブリザードは無かったことにされ、過冷却されようとしていたここら一帯は熱を取り戻す

女性は自分の魔法が強制的に破壊されたことを悔やむ暇なく、また新たな魔法を発動した

彼女を中心として広がる領域干渉

これよりこの領域内に居るものは彼女、もしくは彼女を上回る魔法力を持つ者でないと魔法を発動出来なくなった


那月は少し顔をしかめ、再び特化型CADの引き金を引いた

発動した魔法はブリザードなんかよりずっと周囲に被害が及ぶ戦略級魔法と言い換えてもおかしくない竜巻の広範囲魔法

女性「!?」

自分の領域干渉をもろともせず発動された強力な魔法に女性は驚愕の表情を一瞬だけ見せ、すぐに冷静に自分の周りに耐衝撃用の障壁を張るが、竜巻によってすぐに壊され、飲み込まれ、霧散する

数百mに渡って家が瓦礫と化したこの地で無事なのは”摩天楼”を発動した那月とその姿を見守っていた女性のみ

那月「どうでしたか?」

???「.....やり過ぎよ、いくら想像の世界とはいえ。現実ではやってないでしょうね.....?」

那月「ぁ.....」

自慢気にしている表情から一転、那月の表情は暗くなった

女性は深いため息を吐き、その事を忘れようと目標の葉月のもとへと足を進めた


【敵で出てきたのは深雪っぽい敵です。
まともにやろうとすると先が長いので、これからはもう少し長くなると思いますが今回は短く終わらせました。

安価です。コンマ1桁
1・5・9:雪乃っぽい敵
2・7・0:達也っぽい敵
3・6:夜永っぽい敵
4:葉月のもとへ到着
安価下。】

てい


>>515 6:夜永っぽい敵】

???「(短期かつ火力勝負、ね)」

先ほどの戦闘は良い情報となった

限りなく本物に近いであろう司波深雪を圧倒できた理由は長期戦に持ち込まなかったことと戦略級の魔法を惜しみなく使ったからだろう

長期戦になれば司波深雪の切り札、精神をも凍りつかせる魔法”コキュートス”を使われていたかもしれない

そうなれば那月にはもう勝ち目は無かった

短期戦かつ火力で押し切ることが鍵となる

相手は想像で作られた存在なので慈悲はいらない

情を捨てる事こそが、この世界で生き残る術だということを同じく創られた女性は知っていた

これから誰が刺客として来ようと、冷たく当たるつもりで那月の作り出した更地を進むこと10分

瓦礫の山だった景色が段々と摩天楼の被害が及ばなかった住宅街へと移り変わる

那月「あぁ、そうだ。これから何が起こるか分からないので先に言っておきます」

話を切り出した那月に女性は首を傾げた

このタイミングで話さなければならないことが一切思いつかなかったからだ

那月「私は手を伸ばしても届かない”月”を求めました」

???「.....そう、月ね。わかったわ」

側から聞けば意味の分からない会話だったが、女性は那月の伝えたいことを全て理解した

???「(月....随分と綺麗な物を選んだわね)」


住宅街を進んでいくうちに、司波深雪以来となる人の気配が突如として現れた

2人はその気配が誰だかすぐに分かったし、相手が抜かりのない天才だと知っていたことからすぐに警戒を最大まで引き上げた

彼女のことだから2人の死角から攻撃してくるかもしれない

彼女のことだから2人の気付かぬ間に罠を張り巡らせているかもしれない

2人にとって嫌な妄想が2人の脳内を埋め尽くす

???「那月、今度は私がやりましょうか?」

またしても選択を迫られたが、那月は即答する


【安価です。
1.那月「お願いします」
2.那月「いえ、ここも私にやらせて下さい」
安価下。】

1


>>518 1.那月「お願いします」】

那月「お願いします」

娘の選択に実母は「任せなさい」という意味も込めて那月の頭を撫でてやり、数歩前へ出る

敵は姿こそ表さないものの、女性は経験から来る勘と碧色の目によってその位置を掴んでいた

位置は右斜め向かい2軒先の家の中

相手も出方を伺っているのだろう

女性は1秒に満たない時間で決断し、行動に移した

シルバーカラーの高級な特化型CADを右斜め向かいの家へと向け、1度引き金を引く

タイムラグ無しに家は霧散して消え、敵の潜む家が直視出来るようになる

そのことを察知し、正々堂々と勝負を望んだのか家の扉が開いた

そこから出てきたのは、こちらもレディーススーツを着こなした美しい女性


若い女教師の雰囲気を漂わせる彼女に対し、女性は躊躇無しに魔法を発動する

一瞬と呼ばれる時間で敵を中心とし全方位に魔法陣が何十個,何百個も隙間なく出現し、

0.3秒後には何百というドライアイスの塊が敵に向けて降り注いだ

強力な衝撃を生んだことで必然的に敵の周りに砂煙が舞い、敵の死体が確認出来ない

???「(攻撃は当たった。けれど、)」

砂煙は人工的に作られた突風に乗せられ、消えた

死体が転がっている、もしくは戦闘不能とみなされて霧散して消えているはずの場所には人間らしく二本足で立っている人の影があった

???「(再幻....)」

敵の得意とする魔法”再幻”

この魔法はエイドスの変更履歴を遡って変化する前のエイドスを魔法式として現在のエイドスに上書きすることが可能な魔法

効果が10分に限るのがネックだが、十分強力な魔法であることに変わりない

今のようにこの10分間で女性を倒せば敵としては相打ちということで存在意義を全う出来るのだから

女性は一か八かの賭けになるが、という運に身を任せた不確定要素の多いことを懸念する表情をしながら敵に向けて引き金を引いた


それにより、目に見える変化は無かった

しかし女性はもちろん、傍観している那月にも変化は察知出来た

精巧に創られた敵の動きが異常に早くなっている

瞬きや呼吸、心臓の動く音も含めた全てが

???「(15倍だから.....40秒。あと30秒ね)」

相手の動きは通常時の15倍

従って魔法をかけられた瞬間からは40秒

そして敵が自分に異変があると気付いて、今に至るまでが約10秒

30秒後には敵はドライアイスによって身体中を貫かれた状態へと戻り、戦闘不能となる

だが、敵は忠誠心のみで構成されている

無理だと分かっていても自分の命を惜しまず主人である葉月のために果敢に女性に挑むだろう

???「(あと25秒....。何もせずには終われないか)」

牽制だけでは終わらないと判断し、敵の動きを封じるべく今度は携帯端末型の汎用型CADを操作した

女性を中心とし、狭く高く作り上げられた円筒状の領域は拡大していき、女性の周囲10m円状に拡がったところで止まった

夜永(っぽい敵)「っ!」

現在、青色の瞳から碧色の瞳へと変わった女性の領域干渉を敵は破れない

魔法で作り出した殺傷能力の無いせいぜいエアーガンの弾に当たった痛みを伴うくらいの空気弾や、女性の直上に作られた魔法陣から降り注ぐはずであった雷も領域に触れた時点で消えた

???「3、2、1.....0」

カウントダウンが0になると同時に敵は血を吐き、ジャケットの下に着ていた真っ白なブラウスが赤く染まる

身体中に出来た風穴の多さに想像の世界が審判を下した

致命傷だらけの女性は霧散し、消えた

???「ふぅ....。先を急ぎましょう、那月」

安堵する暇もなく、目的遂行のためにと先を急ぐことを促す

この時、女性の目はすっかり青色へと戻っていた


住宅街を抜けると、一転してそこは霧に包まれた怪しげな洋館

女性は「またここか....」という声を漏らし、門の前へ

那月は首を傾げながら門の前へと行くと、門は自動で開かれる

荒れ果てた庭に、濁水の溜まった噴水

霊でも出そうな長い玄関通りを越えると、正面玄関へと着いた

???「ここからが本番よ。気をつけてね」

那月「はい、分かっています」

???「じゃあ入りましょうか」

重い扉に指先を触れると扉は自動で開いた

家の中は電気が通っていないのか薄暗く、不気味の一言に尽きる

警戒と緊張を解かないまま足を踏み入れたところで、


【今回も結構あっけなく終わってしまいましたね.....。
葉月と戦う時こそは.....!

安価です。コンマ1桁
奇数・0:床にすっぽり穴が出現した
偶数:屋敷内へ

奇数・0:の場合は女性と那月が別行動します
安価下。】


>>523 2:屋敷内へ】

特段何か罠があるわけでもなく、むしろ2人を歓迎するかのように真っ暗な玄関ホールにロウソクの火が灯った

おびただしい量のロウソクに不気味さを感じながらも2人は周囲に警戒しながら奥へと進む

このとき那月は女性の半歩後ろを歩いており、ジャケットの裾を右手で掴んでいることから怯えているのが伺えた

???「怖い?」

那月「い、いえ....怖いっていうか.....霊的な物が出たらアレかなって.....」

???「そっちに怯えていたのね」

てっきり葉月が恐怖を抱く対象だと思っていたわ、と女性は苦笑した

しかし誤解されたままというのは気分が悪かったのかすぐに那月は訂正の台詞を挟む

那月「怖くはないです! 魔法が通用するかどうかが不安なだけで.....」

???「魔法頼りなところは典型的な魔法師ね」

那月「怖くないんですか....? 霊とか、そういう類のもの」

???「私は魔法が通用するって考えているから。ただ、実際にどうなのかは知らないし、もし通用しなければその時点で終わり。簡単なことよ」

那月「.....そう、ですか」

私も数年後にはお母様みたいに割り切れるのかな....、と那月は期待に胸を膨らませた

割り切れれば「夜更かしをすると霊が寄ってくる」などの妄言から解放される

育ての母や実父、母のボディーガード 兼 秘書に一泡吹かせる日もそう遠くないのかもしれない


それからも那月は突如として灯されるロウソクにピクッと可愛らしい反応を見せ続け、

那月「.....もう帰りたい」

肉体的にも精神的にも疲労が積み重なったところで半歩前を歩いていた女性の足が止まる

自然と那月の足も止まり、女性の視線の先へと目を向ける

そこには大きな扉

明らか道中にあった部屋とは格が違うのだと雰囲気から察することが出来た

???「ここからが本番よ」

那月「.....はい」

那月は女性のジャケットを掴んでいた手を放し、愛用のCADを手にする

余程そのCADに信頼を寄せているのか怯えていた様子はすっかり消え、真剣な眼差しを扉へ向けていた

???「じゃあ、行くわよ」

女性が一歩前に出ると、大きな扉は開いた

部屋の中は横に広く、しかしそれ以上に奥行きが長い

人影は見えず、ロウソクによって薄汚れた床や家具だけが照らされている

那月「.....仕掛けらしい物は無いようですが」

碧色の瞳で室内を隈なく視察した那月が、そう女性に言い切ったとほぼ同時にヒールの音が響く

音は室内から

だが、人影は見えない


ヒールの音は遠ざかり、また遠ざかる

まるで誘導しているようだった

女性と那月は互いに碧色の目でアイコンタクトを取り、室内に足を踏み入れた

仕草として室内を見渡すのではなく、俯瞰的に室内を視界に捉えながら奥へと進む

一歩、また一歩と進み、ある程度経ったところで女性が足を止めた

???「那月、多分だけれどコレは終わりがないわ」

那月「どうしますか?」

???「まどろっこしい事は止めて、相手の方から出てきて貰いましょう」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:流星群で威嚇
偶数:摩天楼で威嚇
安価下。】


>>574 8:摩天楼で威嚇】

那月「具体的にはどのようになさいますか?」

???「そうねぇ.....うん、決めた。派手にやりましょう」

短い時間の思考の末、派手にやると決めた女性の笑みに那月は嫌な予感が故に距離を取った

その予感を裏切ることなく、女性は特化型CADの引き金を引くことで広範囲に強力な事象改変を生んだ

室内に出現した気流は異常なペースで膨らみ、家具や天井、床を破壊して巨大な竜巻へと変貌する

那月「....現実世界ではやってないですよね?」

???「この魔法の存在について教えて貰った時が最初で最後だから安心して」

自分のことを棚に上げ、実母を咎めようとしたのだが失敗に終わり、那月は不貞腐れた表情を表に出したがそれもすぐに消えることとなる


威嚇にしてはやり過ぎな魔法には粛清が下された

大きな竜巻は強制的に霧散して消え、一瞬のうちに摩天楼によって及ぼされた被害が修復したのだ

結果は「何も無かった」だが、2人の目的は達成される

カツンと耳に残るヒールの音が今度は近づいて来た

女性と那月は改めてCADを音のする方へと向ける

葉月「はぁ....もう、面倒なことをしてくれたわね」

綺麗な高音が2人の耳に届いた時には第三者の姿は見えていた

ロウソクに灯に照らされるプラチナブロンドの髪

身長はヒールを込みで165cm程度

顔立ちも、スタイルも整った人形のような女性

靄のない翡翠色の瞳が雰囲気を醸し出し、人の目を惹く

しかし2人は彼女がお姫様のような容姿をしていることを知っていたので見惚れて隙を見せることは無かった


葉月「.....裏切り者は置いておくとして、」

創り者である女性のことは一先ず置き、葉月の視線は那月へと注がれる

葉月「貴女の記憶は面白かったわ。5人の中でも突出していた」

那月「.....」

葉月「まさか、....ねぇ」

想像の世界に引きずり込んだ相手の記憶を覗く事が可能な葉月は那月の事情を知る数少ない人物

クスッと小さく笑った後、隣に居る女性と顔を見比べる

葉月「やっぱり似てるわ。憎いほどに」

霜月という血筋を憎む葉月にとって、第一印象である容姿が酷似していることは火に油を注ぐも同然だった

葉月は右手を掲げると、何処からともなく出現した一本の鞘に収まった刀を掴んだ

葉月「だから殺すわ。貴女も、そこの裏切り者も」

顔から笑みは一切消えていた

復讐に生きる彼女の想いは並大抵のものではなく、彼女を形成しているアイデンティティーの1つにも数えられるほどその念は強い

向けられる敵意は強烈なもので、憎しみが混じった想いに2人は一歩下がった

既に精神的な面では負けているが、正々堂々な勝負で負ける気は2人ともしていなかった

特に葉月によって創り出されたはずの女性の碧色の目には「娘の前でかっこ悪いところを見せられない」という念を込めた力が宿っている

葉月が鞘から刀を抜こうとしたのとほぼ同時だった


【安価です。
1.???「那月、私がやるわ」
2.那月「.....私がやります」
3.2人で戦う
安価下。】


>>531 1.???「那月、私がやるわ」】

那月と横に並んでいた女性が2歩前へ出て、

???「私がやるわ」

と、冷たい声色で言い放つ

その台詞は葉月の口元を綻びさせ、那月を反射的に3歩ほど後退せる効果を発揮した

葉月「貴女が1人で? ふふっ、やめておいたら? 連戦に持ち込むことで私を倒そうとしているのならそれは無駄よ。私だけが体力を切らさない世界だって創れるんだから」

???「そんなつもりは無いわ。2対1で貴女が負けた時にアンフェアなんて言われたら困るだけよ」

葉月「.....わかったわ。貴女がそこまで言うなら1人でいい。ただし、手加減はしないわよ?」

???「えぇ、それで構わないわ。フェアな勝負をしましょう」

鞘から抜いた日本刀を構える葉月に対して、女性は特化型CADではなく汎用型CADを構える

誰一人として声を出さず、物音を立てない静寂の時間がおよそ10秒経ったところで2人は全く同じタイミングで切り出した


刀を一閃し、鎌鼬を引き起こす葉月

女性は向かい来る鎌鼬を”眼”で視ながら、汎用型CADを操作して魔弾の射手を発動する

一瞬で葉月を囲うように作り出された魔法陣が0.5秒に満たない短い時間で時速五百〜六百kmのドライアイスを打ち出す

葉月は突発的な判断で今度は円を描くように身体を捻った

刀を振り回すことにより、円状に出現した鎌鼬が数百ものドライアイスを一刀両断ではなく崩壊させ、難を逃れる

???「(崩壊....振動のようね)」

向かい来る鎌鼬を優雅に身体を翻すことにより避けた女性は葉月がどのようにしてドライアイスの大群から避けたのかを碧色の目で捉えていた

鎌鼬がドライアイスに当たるとほぼ同時に細かな振動を起こし、崩壊を引き起こしている

もし人体にあの鎌鼬が当たるようなことがあれば、その時点で敗北を認識せずに終わりだ

さっきは簡単に避けられたが、次からはそうも行かないだろう


???「(術式解体....でもアレって魔法なのかしら.....?)」

不確定要素ばかりなこの世界で起こる現象は一概に魔法だけとは言えない

よって、避ける、防ぐ、同等の威力を持つ魔法で対抗するかの3択となる

???「(あの刀をどうにか出来てしまえば楽なのだけれど)」

女性は問題の鎌鼬を引き起こす源である日本刀に注目した

壊す方法なら幾つかある

刀自体を消す方法も無いわけではない

しかし、想像により刀を壊してもまた創り出されては手の内を晒すだけの無駄手間となってしまう

いっそのこと、葉月の自我を奪うことで.....

そう女性が考えるのと葉月が動き出すのはほぼ同時

考えることに意識を分散させていたのが裏目に出る


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:気が付いたら葉月は女性の真後ろに居た
偶数:3つの鎌鼬が女性を襲った
安価下。】


【>535 2:3つの鎌鼬が女性を襲った】

3つの鎌鼬が女性を襲う

回避という選択肢は考える余地も無いほど、それは女性に迫っていた

迎え撃つ対抗策として女性が取った行動は、

???「(....っ! お願い!)」

”自分”に助けを求めることだった

その直後、まるで人が変わったかのように女性の雰囲気は変貌を遂げる

何が変わったのかを問われれば答えれない

しかし、1つだけ明確に誰でも気がつく事があった

それは目の色の変化

両眼とも碧色だったはずが、今となっては碧色なのは左目だけ

右目は元の青色へと戻っている

助けを求めるのとほぼ同時に碧色の左目だけが一層に輝きを増す

女性は何処にも標準を定めず、携帯端末型のCADを操作した


那月「──!」

大人しく傍観していた那月だったが、実母の危機的状況には頭で考えるよりも先に手が出ていた

使用したのは術式解体

3つの鎌鼬を消すために3発撃ったのだが、それは全て不発に終わる

那月「......?」

葉月「......?」

本人である女性以外の2人は一体何が起こったのかを理解するのに時間を要する

那月「(お母様は考え事をなさってて、そこに葉月さんが3つ鎌鼬を作って.....)」

葉月「(回避は不可能だったはず。それなのに今は平然と無傷でいるってことは....別人の....あぁ、そういうことね、貴女が....)」

数秒の時間を使うことによって2人は何が起こったのかを察した

しかし、どのような手で鎌鼬を消したのかには至っていない

あくまで分かったのは消した人

左目だけを碧色へと変えれる、分家の1人の仕業だ


葉月「.....結局のところ2対1じゃない」

???「私は1人よ。そういう約束だから」

葉月「納得いかないわ。アンフェアよ」

???「リーナみたいなことを言うのね」

葉月「リーナ? あぁ、シリウスの....」

ついさっきまで殺し合いをしていた関係とは思えない2人の余裕のある会話のやり取りに那月は毒気を抜かれた

葉月「と、とにかく卑怯よ! 貴女が戦うかもう1人の貴女が戦うかのどちらかにしなさい!」

???「言うことを聞かなければ想像で私と”私”を別々にするのかしら」

葉月「お望みならやってあげ....って、私は貴女と話している暇なんて無いし、霜月の貴女と話すことなんてないわ!」

気を緩めた那月も再び警戒するような敵意が葉月から放たれた

???「先に言っておくけれど、鎌鼬はもう効かないわよ。極致拡散の前では」

極致拡散は黒羽亜夜子の得意とする魔法の1つ

指定領域内の任意の気体、液体、物理的なエネルギーを平均化して識別できなくする、というもの

この部屋に突如として起きた物理的エネルギーである鎌鼬はこの魔法によって無効化された

しかしその魔法について知識のない葉月は那月に視線をやり、記憶を覗く

葉月「なんで貴女が知らないのよ.....。それでも娘なの?」

那月「ぁ...すみませ...あれ?」

どうして敵対している相手に謝ってしまったのかと、那月は自分に問い掛けたが答えは出ない

葉月「ふん、まぁいいわ。裏切りの霜月に葉月は負けない」

闘気を露わにする葉月に対して、女性は特化型CADを構えた

???「(2手で終わらせる....!)」

彼女は自分の得意とする魔法で葉月を一瞬で落とそうと、ついさっきまでの甘さを捨て、冷たい想いを志した


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:女性の勝ち
偶数:葉月が優勢
安価下。】

しゃあ


>>539 9:女性の勝ち】

先に動いたのは女性だった

特化型CADを標的である葉月に向け、2度連続で別々の魔法を撃ち込む

1度目は精神摩耗で葉月の抱く霜月家への憎悪を恐怖に変え、

2度目は固定感念で恐怖という感情を固定する

要する時間は1秒に満たない

葉月「!」

女性の物理的ではない魔法を逸早く覚った葉月は創造を使用した

2つの魔法は葉月の前に突如として出現した女性にかけられ、対象となった彼女はバタりと地に伏せる

葉月「(これが記憶にあった精神的な戦闘不能に追い込む精神摩耗と固定感念.....。厄介ね、あのスピードは)」

創造で新たな対象を作り、そちらに2つの魔法を向けていなければ危なかったと葉月は安堵をつく

対して、女性は葉月の創造に改めて厄介さを感じていた


???「(一瞬だけでも隙を見せてくれればいいのだけれど)」

たった1秒あれば勝利したも同然

そう思うことに何の違和感を感じないほど、彼女が向ける固定感念への思い入れは強かった

安心から来る絶対的な自信からか、女性は余裕のある状態を保っている

???「葉月、もう手加減はしないから」

葉月「今まで手加減してくれていたの? ふふっ、余計なお世話よ」

直後、薄暗い洋館が縦横に大きく揺れる

これは葉月が創造で起こした地震だ

火が灯っているシャンデリラは揺れに耐え切れず落ち、絨毯を引火させる

火は時間が経つにつれ大きくなり、あっという間に火柱が2人を囲んだ

葉月「1つ聞きたいのだけれど、貴女は何を求めたのかしら。娘のあの子でも知らないのだからよっぽどなのでしょう?」

???「......私に勝てたら教えてあげるわ」

葉月「そう。なら、勝つまでよ」

翡翠の瞳に光が宿るのと同時に何百本というナイフが女性を囲むように出現する


葉月「もし死んでも生き返らせるから安心して」

???「もし私を殺せたら、の話ね」

女性が汎用型CADを操作すると、何百本というナイフが幾つもの光条によって気化されていく

光条の発信源は不明だが、部屋の天井が月の無い星が燦然と輝く夜空になっていることから流星群の仕業だと分かる

葉月「(鎌鼬も飛び道具も効かない。だったら....!)」

葉月は刀で女性に斬りかかった

もちろん、ただ斬りかかるだけではない

創造で限りなく自分を加速させている

葉月「──っ」

0.5秒後には一族の恨みが一部達成される

かつて葉月と如月を裏切った霜月の1人をこの手で殺せる

しかし、那月の記憶を覗いた時に偶然見てしまった”未来の自分の姿”が彼女の強い意志を削いだ

本当にこれでいいのかと疑心暗鬼になった表れとして彼女は目を瞑り、そのまま斬りかかる

女性はその隙を見逃さなかった

相手が神速で来るならこちらも神速の域に達すれば迎え撃つことは十分に可能

神座を自身に使用した女性は葉月へと特化型CADの照準を合わせ、1度だけ引き金を引く


使用したのは固定感念

疑心暗鬼から来る不安は葉月の精神に定着され、着地することさえも考えられずに落下した

???「ん、っと」

重力制御で落下時に付加されるエネルギーを全て無にし、女性は葉月を受け止め、床に下ろす

絨毯に燃え移った火は依然変わらず、進行もしていなければ退行もしていない

おそらくこのままでも火の方は心配いらないだろうと、既に精神的に戦闘不能となった葉月にかけられた固定感念を解除する

葉月「.....ん.....負けたのね、私は」

???「えぇ、お陰様で」

葉月「少し前なら逆の立場だったのに....」

???「そうね、確かに数年前の私は貴女を恐れていたわ。でも、戦う度に貴女の優しさに助けられ、今回も助けられた」

葉月「.....私は優しくなんて.....」

???「だったら、どうしてもっと私が不利になるような世界にしなかったの?」

葉月「世の中は等価交換。それはこの世界でも変わらない。知りたければさっきの質問に答えて」

???「急に饒舌になっちゃって.....。いいわ、さっきの質問に答えてあげる。でも、そっちが先よ」

葉月「.....そっちの子の記憶に私が居たからよ。霜月の人間と馴れ合う私が」

???「馴れ合うのは嫌い?」

葉月「私はお母さんに十二師族について子供の頃から聞かされてきた。お母さんが亡くなる最期の一瞬までずっと。だから....私は終戦間際に霜月が葉月と如月を裏切ったことが許せなかった」

???「......そう。辛かったわね」

葉月「同情なんていらないわ。....貴女だって霜月の人間な訳だし」


???「余計なお世話だったかしら。じゃあ質問に答える前の1つだけ。貴女は....いえ、貴女達は大きな勘違いをしているわ」

葉月「勘違い?」

???「私が伝えれるのはここまで。あとは現実世界で知れるはずよ、全部ね」

葉月「.....さっきの私の質問は?」

???「私が求めた物、だったわね。”私”が求めた物については知ってる?」

葉月「えぇ、貴女の娘の記憶にあったから知ってるわ」

???「なら話は早いわ。私が求めたのは──」

葉月「.....!」

???「この事は他言無用でお願いね。私は貴女を信頼している。だから貴女も私の事を信頼して」

葉月「.....霜月への、貴女が言う誤解が解けたら信用するわ」

???「それで構わない。....さて、もう貴女に敵意は無いと見ていいのよね?」

葉月「全ては現実世界で話を聞いてからよ。でも少なくとも今は....貴女のことだけは信用してる」

???「良かった。時間ってあとどれくらいあるのか教えて貰える?」

葉月「15分程度」

???「その時間、那月と話してもいい?」

葉月「.....勝手にしなさい」

2人を囲っていた火柱は葉月の創造によって消化される


???「ありがと、機会を作ってくれて」

葉月「.....別に」

???「素直じゃないわね」

葉月「裏切り者の霜月の人間に対して素直になる理由なんて無いわ」

俯き気味の台詞には説得力が無かったが、女性は肩を竦めて納得したフリをして傍観者だった那月の元へと駆け寄る


【安価です。
1.???「那月は葉月のこと、どう思ってる?」
2.那月「お母様....その.....」
3.終わり(那月編お終い)
安価下。】


>>546 1.???「那月は葉月のこと、どう思ってる?」】

それまで心配そうにしていた那月は無事に戻ってきた実母の姿に安心して胸を撫で下ろす

母の奥にはこちらをじっと見つめる葉月の姿があるが、もう敵意は見られない

那月「あの.....」

???「大丈夫よ。葉月に敵意はもう無い」

那月「信用しているんですか?」

???「私はもともと彼女のことを信用しているわ。貴女もそれは知ってるでしょう?」

那月「.....はい」

育ての母や父から聞いた話によれば、誤解が解けてからというもの2人の関係は極めて良好だったらしい

彼女の言うことにその場しのぎの嘘は無いと判断した那月は、葉月へと向けていた警戒を解く

???「那月は葉月のことをどう思ってるの? 信用出来ない?」

那月「いえ、信用はしています。.....未来のあの人には」

???「今の彼女は信用に値しない、ってことね」

那月「2095年の11月6日。あの人は想像の世界でお父さんとお母さんを殺し、貴女を怒らせました。どんな理由でも両親を殺されて良い思いはしません」


???「....質問を変えるわ。貴女の知る葉月はどんな人?」

那月「葉月さんは優しい人です。私が数年前に遺伝子上の母親を探すときにもヒントをくれましたし、」

???「.....」

那月「お母様が最期に、.....お父さんとお揃いのネックレスを預けたのも葉月さんでした」

???「.....そうね。そうだったわ」

遠い記憶を思い出すように女性は天井を仰ぎ、目を閉じた

???「あの時は貴女のお母さんがここぞとばかりに、私とあの人を家から追い出してデートの機会を作ってくれたのよ。想像できないでしょ?」

那月「お母さんが? .....よっぽど貴女を許していたんですね。大人になった今でも周りに蔓延る女性を遠ざけているのに」

???「あの子がそうしているのなら浮気の方は心配しなくてもいいみたいね」

那月「浮気ではありませんが、未だに貴女には想いを寄せているようです。感情の多くを制限された彼が唯一好きになれた君影歩夢を」

歩夢「......帰ったら伝えておいて。女の子と仲良くするのはいいけど、それが本気になったら私は怒るって。処罰は司波那月、貴女に任せるわ」

那月「元よりそのつもりです。.....まぁ、お母さんの目を憚って浮気なんて出来ないでしょうけど」


歩夢「深雪ちゃんが居ればそこら辺は心配しなくてもいいのかしら。でも念には念を入れてね。今は2人で暮らしてるの?」

那月「はい、今はお父さんと2人で。母や水波さんと会うのは2週間に1度です」

歩夢「寂しくない? 達也くん、お仕事で忙しいでしょう?」

那月「君影家の1室にあった本を読みきるまでは寂しくありません。偶然なことに趣味は同じようですし」

歩夢「私の部屋の本を全部読んでるの? あらあら.....かなりの時間を削ぎそうね。読書もいいけど、遊べるうちに遊んでおきなさいよ。深雪ちゃんの跡を継ぐってなると遊ぶ機会もそうそう無いでしょうから」

那月「遊ぶって....例えば?」

歩夢「トランプ。1人でソリティアとかやってると時間潰せるわよ。楽しいし」

那月「....他には?」

歩夢「通信のできるゲームを2台買って対戦とか。咲夜とよくやったものだわ。全部負けたけど」

那月「それは一方的に心を読まれているから当然なんじゃ.....」

歩夢「......!」

那月の呆れた声色に歩夢は重大な事に気が付いたような表情を見せる

歩夢「だから私は負け続けていたのね.....。2分の1の勝負も15連続で負けたのにも納得がいくわ」

那月「.....一応、聞いておきますけど他になにか遊びはありますか?」

歩夢「折り紙。病室で9連鶴を極めたわ」

那月「.....もういいです。話を変えましょう」

歩夢「ここからが本題なのに.....」

ぷくっと頬を膨らませる若々しい母を無視し、話題を作る


【女性(???)は君影歩夢の未来の姿です。
那月は歩夢の卵子と達也の精子で出来た受精卵を完全調整体である深雪の胎内で育てられ、生まれた子供です。
原作が完結していないのでまだアレですが、達也と深雪は結婚したということで。
結構あっさりとネタばらししてしまいましたが、固定感念やら私と”私”などの言い回しででおおよその見当がついている方が多かったと思います。
求めたもの(那月の場合”月”)などについては後々。

安価です。
1.那月「お母様は後悔していませんか? 流星群の使用で寿命を大きく縮めてしまったことに」
2.那月「両親と水波さんから伝言です」
3.那月「真夜さんと雪乃さんから伝言です」
安価下。】


【>550 1.那月「お母様は後悔していませんか? 流星群の使用で寿命を大きく縮めてしまったことに」】

那月「寿命を大きく縮めてしまったことに後悔ってされていますか?」

まず最初に出てきた質問がこれだった

15歳になって、初めて会う実母にどうしてこの質問をしたのかは分からない

しかし憶測では、

───流星群を使っていなければお母様はお父さんと結婚して幸せな日々を過ごせてた

そう思ったからだろう

その場合は今の母がどうなっていたかは不明だが、今気にするようなことではない

君影歩夢が遺伝子上の母親で、

司波深雪と司波達也が彼女の両親である事実は確立してしまっている

那月はこの現実を受け止めている

ただ、知りたいだけなのだ

歩夢が後悔しているか、後悔していないか

この質問に歩夢は少しの間を置いた後、「ふぅ」と息を吐いて言葉を紡いだ


歩夢「後悔してないわ。私が流星群を使った場面ではいずれも意味があったから」

那月「1度目は学校の名誉のために、そして2度目は先輩を救うために。自分よりも他人を優先させることに意味があると? その結果、悲しむ人が居ました。特に母と父が」

歩夢「2人には本当に迷惑を掛けてしまったわね。2096年の12月31日。私は2人に自分の寿命が残り少ないことを伝えた。そうしたら2人はなんて言ったか知ってる?」

那月「.....突き放したとしか聞いてません」

歩夢「えぇ、そう。私は突き放された」

「嘘つき」

歩夢「今でも耳に残ってるよ。あの一言は」

1度言及された時に全部話していれば、と歩夢は悲痛な目をし、それを隠すように目を閉じる

歩夢「嘘つき。裏切り者。少し前なら考えられないような単語が私に飛んできた」

歩夢「深夜さんの協力もあって私たちは友達には戻れたけれど、親友には戻れなかった」

歩夢「これが病室で言った事の顛末。私は2人を裏切った。だから、私と2人の関係は友達止まり」

思っていた以上に、本人から話を聞いてみると心が痛むと、那月は胸を押さえて顔をしかめる

那月「.....もしお父さんと結婚出来ていたら、どうなっていたと思いますか?」

歩夢「達也くんと.....ね。私が15歳の頃にはいっぱい妄想したわ。エリートサラリーマンであろう夫の仕事で溜まった疲れを取るために妻が出来ること。少しありきたりだけど、夫の帰宅時にご飯にするかお風呂にするかくらいは聞いてみたかった」

那月「おかあさ....深雪さんとは?」

歩夢「私が彼女の義理の姉で、彼女は私の義理の妹。そして、親友。寿命を縮めるようなことが無ければ親友のまま、家族になってたわね」

那月「.....参考になりました。ありがとうございます」

歩夢「参考? 未来に使うの? それとも達也くんと深雪ちゃんに報告?」

那月「ご想像にお任せします」

良い性格してるわね、と歩夢は小さく呟いた

その言葉は那月には薄っすらと届く程度で、気になったりもせず聞き返さなかった


【安価です。
1.歩夢「未来の2人について教えて貰えるかしら?」
2.那月「両親と水波さんから伝言です」
3.那月「真夜さんと雪乃さんから伝言です」
安価下。】

3


>>553 3.那月「真夜さんと雪乃さんから伝言です」 】

15分という短い時間の中、那月が次にしたのは伝言を伝えることだった

那月「真夜さんと雪乃さんから伝言です」

歩夢「それは2096年の私に対して?」

那月「いえ、今の貴女にです」

死んだ身である自分に伝言? と歩夢は首を傾げる

歩夢「誰から?」

那月「真夜さんと雪乃さんから」

歩夢「......」

人物名を聞くだけでおおよその見当がつく

真夜は依然変わらない謝罪の言葉を

雪乃は母親より先に亡くなった娘への言葉なのだろう

小さく頷いた歩夢は、

歩夢「真夜さんからの謝罪は受け取らないわよ」

那月「謝罪ではなく感謝の言葉です」

歩夢「ん....感謝?」

感謝されるようなことがあっただろうか、と記憶を探るが出てこない

自分の判断で自分の寿命を縮め、その元凶となった魔法の使い手である四葉真夜を精神的に苦しめた

加えて、療養期間の援助等は全て真夜から出ている

むしろ謝罪の要求をされてもおかしくないはずが、謝罪をされるのだから好奇心を惹かれてしまう

那月「まず、真夜さんから」


『君影歩夢さん、まずはお礼を言わせて下さい。

私が12歳の時に負った深い傷。

それは姉さんが解決してくれましたけれど、あの日以来私と姉さんの間には溝が生まれ、とても姉妹とは呼べない戸籍上での姉妹となりました。

高校にて出会った霜月雪乃の存在は私たちにとって大きいものでしたが、私たち姉妹が仲直りをするには至りませんでした。

彼女によって引き起こされたのは仲直りをしたいと心の底から思える感情。

あくまで感情だけでした。

しかし結城香夜───君影歩夢さんによってその気持ちは行動に移せるようになり、夜永さんの何気ないサポートも含めて私と姉さんは一時的に事実上の姉妹となれました。

それは歩夢さんが元の時代に戻るまでの短い間でしたが、姉さんの妹で本当に良かったと思えた貴重な時間です。

ありがとうございました。

そして、ごめんなさい。

貴女を幸せにしてあげられなくて。

私の思い込みですが、歩夢さんは私の娘同然だと認識してきました。

ずっと昔に人間違えとはいえ、私のことを”お母さん”と呼んでくれた時には胸が張り裂けそうになった程です。

娘のわがまま───貴女はわがままを言うような子ではありませんでしたけれど、歩夢さんの想いを叶えてあげられなかったのは深く後悔しています。

そればかりか私は貴女の遺伝子まで奪って、霜月と四葉のために司波那月という存在を作った。

私は歩夢さんに謝っても謝りきれないことを数多くしました。

謝罪の言葉は受け取らないと重々承知しておりますので、私の都合良くお礼だけを言わせて下さい。

本当にありがとうございました。

もし恨むなら、私を恨んで下さい。』


那月「以上です」

歩夢「.....謝罪してるけど?」

那月「お礼の言葉2つに対して、謝罪1つなのでお礼が勝ると仰っていました」

歩夢「....じゃあ、間違いの修正だけ。私の遺伝子は深雪ちゃんが望んで、私が善意で提供しただけ。真夜さんに一切の責任は無いってことと、私は貴女を恨まない。そう伝えといて」

那月「分かりました。では、次に雪乃さん」

『母より先に息を引き取った親不孝な娘へ。

生まれてきてくれて、ありがとう。

そして、ごめんなさい。

私が一方的に歩夢に迷惑を掛けて、母親らしいことを出来なかった。

母親としてこんなに辛くて、後悔したことは無いわ。

本当に、.....本当に......』

那月「.....以上です」

歩夢「言ってることは真夜さんに似てたけど、お母さんは変わらずお母さんだった。私からの伝言は.....家族を大切にしてあげて」

那月「分かり....ました」

真夜の時とは違い、那月の目は潤っていて、今にも涙が溢れ出しそうだ

歩夢はというと、真夜の時も雪乃の時も俯いていて顔は見えない

しかし目元は何度か拭っていることから予想はついた

歩夢「.....次は?」


【安価です。安価です。
奇数・0:那月「お母さんとお父さん、水波さんと夜永さんから」
偶数:葉月「もう時間よ」
安価下。】

てい


>>557 3:那月「お母さんとお父さん、水波さんと夜永さんから」】

那月「お母さんとお父さん、水波さんと夜永さんから」

歩夢「え、そんなに?」

ほんの少しの時間、歩夢は不意を突かれたような表情をしたが、それはすぐに今まで写真でしか見たことのない初対面の那月ですら照れていると分かるものへと変貌した

那月「その中でも夜永さんだけ、歩夢さんと咲夜さんの2人に」

歩夢「あぁ....うん。順番にお願い」

那月「はい。では、お母さんから」

『まずは那月について話させて頂戴。

那月は貴女に似て、正直で良い子に育ってるわ。

私たちが重視する魔法や人格、そして容姿。

いずれも彼女は完璧よ。

問題視していた歩夢の病の遺伝は夜永さんの読み通り、私の胎内で育てられることによって解決したようで、那月は歴とした健康体。

ただ、問題を挙げるとすれば、彼女はかなり食べるの。

それですくすくと育ってくれているのは本当にこの上ない喜ばしいことなのだけれど、体に害が出ないか本当に不安だわ。

誰に似たのでしょうね。

那月の話はここまでにしておくとして.....

歩夢、もう聞き飽きたかもしれないけどもう1度だけ謝らせて。

あの日、私は親友の貴女に対して突き放すような言葉を綴った。

全てが間違っていたとは思ってない。

けれど、あれは私が歩夢のことを心の底から信頼していた結果なの。

もしお母様が私を叱って下さらなかったら、私たちはどうなっていたのか想像するだけでも胸が痛くなります。

ごめんなさい。

私の発言で貴女を傷つけてしまった。

親友なら相手の気持ちも考えないといけないのに───』


那月「....雪乃さん同様に、ここで泣き崩れてしまいました。ですが、辛うじて最後に、」

「こんな愚かな友達を許して」

那月「そう、聞き取れました」

娘から”友達”の伝言を聞いた歩夢は1度、大きく息を吸って、吐いた

俯いて拭っていた涙は零れている

大粒の涙が何滴も落ちるのを那月は見て見ぬフリをする

深呼吸後は呼吸を整えていた歩夢だったが、呼吸が安定するのはすぐにやって来た

歩夢「那月が大人になって、自立出来るまで見送ったら”例の場所”に。その時に、そこ質問には答える。.....そう伝えておいて」

那月「......はい。他には?」

歩夢「.....那月にいっぱい食べさせてあげて、って」

那月「ありがとうございます! ....はっ、違う違う。分かりました」

雰囲気を壊す那月の陽気な声色に歩夢は涙を流しながら苦笑した

歩夢「そんなに食べることが好きなの?」

那月「だって美味しい、から.....」

頬を赤らめて視線を外す少女の姿は実母に安心を与えた

歩夢「いっぱい食べさせて貰いなさい。お母様がそう言ってた、って言えば珍しい料理も作って貰えるかも。水波ちゃんが大変になるかもだけど」

那月「ほうとう食べてみたいです! まだ葉月さんの想像の中でしか食べたことないので」

歩夢「ほうとう....は、水波ちゃんが作れたような....? もし作れなければ夜永さんに頼めば確実よ」

那月「はいっ!」

歩夢「(本当に食べることが好きなのね.....)」

歩夢「次は誰?」

このままではキリがないと、歩夢は那月に伝言の続きを促した

那月は「もう少しご飯の話したかった」という表情をしたが、すぐに真剣な眼差しに変わる


【安価です。
1.達也からの伝言
2.水波からの伝言
3.夜永からの伝言(歩夢 咲夜へ)
安価下。】


>>560 1.達也からの伝言】

那月「次はお父さんです」

『俺はいつも失ってから気が付く。

母さんを失った時も、歩夢を失った時も。

枷のこともあって母さんの葬儀の際には”悲しい”としか思わなかった。

だが、歩夢は違う。

心の底から”哀しい”と思えた。

悲しくて、哀しいことに変わりないが、決定的な何かが違った。

おそらくそれは母さんの言っていた、

「君影歩夢の前では制限していたはずの感情の枷が外れる」

このことだろう。

実際に枷が外れているのかどうかはともかく、俺は本気で歩夢のことが好きだった。

妹を愛する感情以外を失った俺が初めて、唯一、大切だと思えた存在だ。

もし那月からこの伝言を聞いているのなら、歩夢の考えを聞かせれくれ。

この15年間俺が探している答えを。』

那月「以上ですが、質問については....」

達也からの伝言の中に答えを求める台詞はあったが、質問の内容については触れられていない

那月は疑問に思い、この内容でいいのかと父に尋ねた

しかし、

「あぁ、これでいい」

そうとしか応えなかった

君影歩夢なら父の真意に気付くのだろうか

その期待も込め、返事を一言一句聞き逃さないよう、耳をすませる

歩夢「那月、達也くんにはこう伝えて。身近な場所に答えはある、って」

那月「身近に....?」

歩夢「えぇ、そうよ」

那月「....分かり、ました」

結果は期待がモヤモヤへと変わるだけだった

父の伝言から実母は何を捉えたのか

そして、父は実母の返事から何を捉えられるのか

父の近くにある物を連想するが、那月は達也ではいので少なくともこの場では答えに辿り着かなかった


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:水波からの伝言
偶数:夜永からの伝言
安価下。】

てい


>>562 1:水波からの伝言】

モヤモヤした気持ちを断ち切る意図も込め、次の伝言に入る

那月「水波さんから」

『歩夢様、お礼を言わせて下さい。

私の青春は歩夢様が居なければ満足のいかないものになっていたでしょう。

達也様と深雪様のお世話係として東京に行くまでの約1年。

歩夢様は色々なことを教えてくれました。

勉強や趣味、主人を怒らせることを承知でした一興。

1人では絶対にしなかったような体験は貴重な思い出です。

私が司波家に居候し、第一高校に通い始めて挫けそうになった時にも歩夢様には支えていただき、本当に感謝しております。

過去に未練が無いと言えば嘘になりますが、

「過ぎた時間は取り戻せない。過去の経験を生かして未来に生きる」

そう教えて下さったおかげで私は深雪様の側で全うにお仕事が出来ています。

私の役目は深雪様の手伝いと那月様の監視。

深雪様のサポートは真夜様のときと然程変わりはありません。

なので、那月様について話させて下さい。

那月様は至って健康体で無事、成長されております。

お食事についてはもう少し控えた方がよろしいかと思いますが、那月様の食べている姿はどうしてか安心させられ、言い出せずにいるのが最近の悩みです。

私だけでなく、深雪様も。

逆に達也様は協力的で、好きな物を好きなだけ食べさせることを望んでおられます。

考えられている以上に親バカですよ、達也様は。

私が司波家で居候をしたときに目の当たりにした、達也兄さまと深雪姉さまが仲良くされている姿と被ってしまうほどに。

歩夢様と同じく那月様には達也様の枷を外す力を持っているのかもしれません。

.....少し長くなってしまいましたが、

達也様のことも深雪様のことも、那月様のことも、

全て私にお任せください。

なので、歩夢様は安心して眠って下さい。

歩夢”姉さま”今まで大変お世話になりました。』


那月「以上です。何か伝えることはありますか?」

歩夢「信頼してるよ、って伝えて。水波ちゃんはきっとこの一言で報われるから」

那月「分かりました」

話に聞いていた以上にこの2人の間には信頼関係があったんだな、と那月は思った

水波の言う青春とは一体なんだったのか

そしてそれを支えた歩夢は何をしたのか

帰ったら、たとえどんなに長い話でも聞いてみたいという意欲が湧き上がってくるのを那月は感じた

口元を綻ばせながら、夜永からの伝言を話す前に1つ質問をする

那月「君影歩夢 宛と、瓊々木咲夜 宛。どちらを先にしますか?」

順番の選択に歩夢は一瞬悩んだ素振りをしたが、すぐに決断はつく

歩夢「私からで。咲夜への伝言が終わったら、”最後”にして貰いたいことがあるから」

那月「....して貰いたいこと?」

歩夢「すぐに分かるわよ」

「はぁ.....?」と小さく首を捻り、よく理解できていない那月の姿に歩夢は苦笑を漏らす

歩夢「ほら、早く。時間無いんだから」

那月「ぁ....はい」


『私は3人の”姉さん”をやって、高校の先生をやって、病院の先生になりました。

印象強いのはやはり高校の先生でしょうか。

今でも鮮明に思い出されます。

雪乃さんとの勝負で実習室を破壊した恨みは未だ晴れることはありません。

ここだけの話、減給じゃなくて無給だったんだからね。

あのときは本当に教師を辞めようかと思った。

そもそも人に物事を教えるのは苦手だったから。

でも、結局私は辞めれなかった。

理由は先輩──雪乃さんのお母様が私に3人の面倒を見てやってと、最初で最後のお願いをされたから。

歩夢さんも知っての通り、雪乃さんのお母様は”知”を求めた人間。

先輩の目には全てが見えていた。

私が誰なのか。

孫である歩夢さんの名前。

そして孫の彼氏の名前まで全て。

”千里眼”と呼ばれる目を持っていた彼女は私を助けてくれた。

だからその恩を返すためにも私は教師という道を選び、みんなの面倒を見るつもりだった。

でも、実際は私が面倒を見るまでもなく3人は仲良く支え合っていて、そこに歩夢さんが加わっても問題は生じない。

雪乃さんの裏さえも、あの2人は受け入れていたからね。

結果、私は面倒を見るのではなく、傍観するだけとなった。

そして3年間、彼女達を見届けて私は本来あるべき時代へと戻ったわけだけど、

私が戻ってみれば愛する妹が妹のような存在だった君影歩夢の一部になっていたりで驚いたのよ?

歩夢さんにはお礼を言わなければならないわね。

咲夜は歩夢さんと一緒に居ることで退屈はしなかったみたい。

楽しい人生を過ごせたようで、姉さんは満足だわ。

ありがとう、歩夢さん。

咲夜をよろしくね。』


夜永が歩夢へと向けた伝言が終わると同時に、君影歩夢の雰囲気が少し変わる

碧眼だった両目は雰囲気の変化に合わせて、左目だけとなっている

歩夢(咲夜)「那月、お願い」

那月「はい」

『私は本気で咲夜に恋をしていたわ。

ただの姉妹愛ではなく、男女がするような恋愛感情を抱いてた。

私にとってかけがえのない貴女は私の命よりもずっと大切な存在で、この身を投げ出しても守るべき存在だった。

でも、咲夜が大変なときに私は四葉家のベッドの上で悠長に寝ていた。

ごめんなさい、頼り甲斐のない姉さんで。

それに妹に恋する姉なんておかしいわよね。

はぁ....どうしてかしら。

どうして、私は妹に恋をしたのかしら。

それについては今でもずっと考えているわ。

可愛い妹だから。

たった1人の妹だから。

唯一、直接血の繋がった妹だから。

色んなことをいっぱい考えたわ。

でも、答えは出ない。

周りの人は私のことを、

「瓊々木夜永の出した答えは必ず合っている。もし間違っていたとしても、世間,世界,理が彼女の答えを正しくする」

なんて言うけれど、馬鹿らしいわ。

私にだって限界はある。

この問題のようにね。

私は1度タイムスリップをしたことがあるのだけれど、その時だって自分が誰なのかも分からず、今自分が居る場所が何処なのかも分からなかった。

その時に助けてくれたのが雪乃さんのお母様。

私は誰かの力を借りないと駄目なの。

私は人間として不完全な存在。

だから咲夜、私に力を貸してくれる?

私に、答えを教えて。

長きに渡り見つけられなかった私の全てを。』


夜永からの伝言を聞いた咲夜は目を閉じ、息を吐いた

那月「あ、あの....」

歩夢の時とは違い、那月は咲夜に対しての接し方を知らない

これは2095,96年でも体験していないことだ

オドオドとする那月に咲夜は、

咲夜「那月、姉さんにはこう伝えて。私はいつでも姉さんの側にいる。答えなんて見つけなくてもいい、って」

那月「は、はいっ。分かりました」

思っていたよりも普通な人なのだろうか

那月は一言交わして、そう感じた

表情は柔らかく、包容力もありそう

もしかしたら君影歩夢や司波深雪より母性能力が高いんじゃないかと疑う

咲夜「伝言はこれで終わりね。ここからは歩夢が望んだこと。那月、私に貴女の”月”を見せてくれる?」

那月「それは....構いませんけれど、ここでですか?」

咲夜「いえ、ここじゃないわ」

君影歩夢の左目に一瞬、葉月との戦闘時でも見せた光が灯った

黒羽亜夜子の極致拡散を使った時と同じだ


葉月「......」

巻き込まれた葉月は今、自分の身に何が起きたのかを全て把握しているおかげで冷静を保っている

そこから少し離れた場所に居る2人も同じく、当たり前であるかのようにこの現象を受け入れている

那月「これが....お母様の求めた”偽”ですか」

那月の言葉に、咲夜は反応しない

答える気はないと判断した那月は特化型CADを取り出し、虚空へと向けて引き金を引く

灰色の雲に満ちていた空は夜空へと一瞬で変貌した

空に輝くのは数多の星と”月”

四葉真夜、そして君影歩夢とは一味違う流星群であって流星群でない那月だけの魔法に”歩夢”は満足したように笑い、那月を抱き寄せた

歩夢「綺麗よ、貴女の月は」

那月「......」

歩夢「私のよりもずっと綺麗」

那月「......」

歩夢「咲夜も褒めてるわ。一瞬とはいえ見惚れてしまったって」

那月「......」

歩夢「ありがとう、那月」

那月「お母様.....」

歩夢「これからみんなに迷惑かけないようにね」

那月「......お母さん」

歩夢「私はいつでも貴女たちのことを見守っているから」

那月「お母さん....もう少し.....もう少しだけ....!」

歩夢「.....葉月。ありがとう、”18分”もくれて」

歩夢の台詞を聞き終わると同時に、葉月は右手の人差し指をピクリと小さく動かす

すると那月を抱き締めていた女性の姿は霧散して消え、そこには氷の結晶を模した綺麗な髪飾りだけが残った


【那月編お終いです。

那月は”月”を求めましたが、流星群で月が現れるだけではありません。もう1つ”月”があります。

雪乃にとっての母、歩夢にとっての祖母は”知”を求めて千里眼を手に入れました。
夜永が記憶喪失にもかかわらず歩夢や達也の名前を知っていたのは千里眼を持つ彼女に聞いていたからです(後付け設定)。

未来の歩夢の強さは相当なものです。
葉月との戦闘ではあまり生かされませんでしたが....。すみません。

咲夜の求めた”偽”は瓊々木のコピー能力の上位互換のようなもので、一度見ればコピー出来るとかそんな感じです。
上位互換というところまでしか決まっていないので、1度見たらコピー出来るかどうかはまたこれから。


安価です。
1.達也編
2.雪乃編
安価下。】

雪乃「...葉月は私を精神的に殺したいのかしら」

雪乃は自身の少し縮んだ背丈と現在進行形で女性らしくなりつつある身体を30年ぶりに身をもって体験し、そうポツリと皮肉げに小さく呟いた

彼女が着ている服にも見覚えがある

黒を基調としたブレザータイプの高校生らしい制服は彼女らの今は亡き母校のものだ

雪乃「さて、」

懐かしい自分の姿を目に焼き付けるのも程々に、雪乃は席を立った

現在地はあの双子の姉妹と朝食,夕食を共にしていた3人で使うには広すぎる食堂

窓から覗く赤紅色の空を見る限り時刻は16時から17時辺りだと予測される

おおよそ学校から帰ってすぐに食堂で眠ってしまい、起きたところからスタートといったところだろう

雪乃「(ドヤされる前に夕食の準備をしないとね)」

着替えという予定を後に回し、雪乃はわがまま女主人2名のためにと使用人専用の扉を開く


夕食の支度を終えた頃にはもう既に外は闇に包まれていた

空には数多の星が輝き、その中でも一際目立っているのが月という存在

夜空を見上げ、雪乃はあの那月という少女のことを思い出していた

関係者以外は絶対に辿り着くことが出来ないよう隠形された霜月と瓊々木の墓場に足を踏みいれるばかりか、まるで予知能力を持っているかのように未来のことを告げた謎の霜月の“直系”

彼女は一体、何者なのか

それを知るのは彼女自身と瓊々木夜永

そして他人の記憶を探れるであろうこの世界の創造者、葉月を合わせた3人のみ

もしかして、というところまではある程度目処は立っている

雪乃だけでなく、真夜もだ

しかしそれが答えだという保証はどこにもない

中途半端に結果を導き出した結果、嫌な目に遭うことは体験済みだ

雪乃「(そのせいで、私は深夜と真夜を心配させることになった)」

結城香夜を名乗る君影歩夢がタイムスリップしたルートでは温泉にて

結城香夜を名乗る君影歩夢がタイムスリップしてこないルートでは不慮の事故により2人の前で水を被ってしまい、透けた服越しに多くの痛々しい傷が露見してしまった

全ては中学生の頃に、自分の完璧な能力を善意で世界に役立てようとした中途半端な考えが甘かったのだ

それ以降、雪乃はハッキリとした意見を出してきた

だから今回も中途半端な考えは捨てる

那月のことはキッパリと忘れ、制服から普段着へと着替えるためにクローゼットの戸に手を掛けた


【安価です。
1.深夜の部屋へ
2.真夜の部屋へ
3.自室で待機
4.外へ
5.屋敷を見回る
安価した。】

3

>>572 3.自室で待機】

雪乃「.....なにもかも昔通り、ね」

この世界に来てから約1時間半

厨房にあった調理器具から自室の家具、クローゼットの中身などの全てが遠い昔の記憶通りだった

まだ確認していないのはあの姉妹くらいだが、ここまで正確に記憶を模倣しているのなら彼女達も一緒なはず

そう雪乃が考えるのとほぼ同時に、タイミング良く着替えが終了した

着替えを終えた雪乃は一瞬部屋を見渡し、特段優先してするべき事が無いと判断したのかベッドに倒れ込んだ

雪乃「っ.....うぅ」

思い返せばこの部屋は所詮、使用人の部屋

備え付けの家具もそれほど上質な物ではない

衝撃をほぼ100%丸々くらった雪乃は涙目になりながら枕に顔を沈める


雪乃「(痛覚を含めた感覚もキッチリ再現されてるのね。先祖返り.....あの人と同じ魔法)」

雪乃は過去に1度この魔法を体験している

彼女が15歳の頃に初めて霜月や沙夜、千夜の居る世界に足を踏み入れた時だ

あの時は十二師族の戦争前で、同盟を結んだ如月と葉月とも少し話したことがある

霜月、如月、葉月の3人と話して雪乃はそれぞれに全く違う感情を抱いた

彼女の先祖である霜月には忠誠を誓う恐怖を

如月には基本的に人間不信である雪乃が自ら寄れるような包容力があることから来る安心を

そして葉月には憧れを抱いた

想像することにより創造される葉月の特別な魔法は当時の雪乃の心を掴み、その憧れは雪乃に与えられた“1度きりの願い事”にも発展する

雪乃「(私がアレを求めたのは貴女の影響なんですからね)」

クスリと笑みを零した少女はそのまま目を閉じ、目を閉じた

>>574
修正:クスリと笑みを零した少女はそのまま目を閉じ、眠りについた です。】


雪乃「ん....うん....ぁ....っ!?」

時計が指す時刻は既に20時を回っていた

毎日夜ご飯は例外を除いて19時と決まっている

1時間の遅刻に雪乃は身嗜みの確認後、部屋を飛び出した

まず最初に向かったのは食堂

単純に2人が居る可能性として最も高い場所を訪れたのだが、

雪乃「.....もう食べ終わった、のかな?」

2人の姿は何処にも見当たらない

ならば残るはあそこしかないと、雪乃は深夜の部屋へと向かった

部屋の扉をノックし、何度か呼びかける


【安価です。コンマ1桁
奇数:深夜が部屋の扉を開いた
偶数:扉が開かれる様子はない
0・ゾロ目:「鍵は開いてるわ」と、小さな声が雪乃に届いた

0・ゾロ目の場合は深夜と真夜が仲良いルートです。
安価下。】

てい


>>576 7:深夜が部屋の扉を開いた】

雪乃「み、深夜....!」

ゆっくりと開かれる扉に雪乃は情状酌量の余地ありと判断し、必死な言い訳を始める

雪乃「今日の夜ご飯はいつもより気合入れたから! 多分....ううん、きっと美味しいはず!」

深夜「.....そう。じゃあ15分後に食堂に行くわね」

雪乃の返事も待たずに、扉は閉じた

対面した時間は僅か10秒にも満たない

しかしその短い時間で雪乃は深夜の心理状況を十分に察した

雪乃「(怒ってるなぁ....。機嫌取りは後で考えるとして、次は真夜ね)」

真夜にも夕食の準備が出来ていることを伝えるべく、隣の部屋の扉をノックする

扉はすぐに主である真夜によって開かれた

雪乃「ごめんね、少し準備に手間取っちゃって。今さっき出来たから15分後に食堂に来てくれる?」

真夜「....ふん」

もう知らない! と言わんばかりにプイッと顔を背ける真夜の姿に「こんな仕草を見せるときも昔にはあったのよね」と雪乃は感慨深く、心に刺さる何かを感じた

雪乃「じゃあ待ってるね」

表面上ではあのような態度を取っていても結局15分後には約束通り来てくれることを知っている雪乃は何も心配することなく、盛り付け等をするために一足早く食堂へと向かう


ー食後ー

結局、2人は15分後きっかりに食堂にやって来た

雪乃の「やっぱり2人は優しいね」という台詞には姉妹揃ってツンとした様子を見せたが、雪乃を軸とした会話のコミュニケーションの中で1時間遅れな夕食も有意義に楽しく過ごすことに成功する

食器の片付けはHARに任せ、ここからは2人の機嫌取りの時間

雪乃「何かして欲しいことがあれば....。お菓子作りとか勉強とか、添い寝とか」

「最後のは貴女の願望じゃない」という深夜の小さな呟きは雪乃には届かなかったが、しかしこれは良い機会だと口元が淀む


【安価です。
1.深夜「お菓子作って。少し休憩してからでいいから」
2.深夜「私が寝るまで貴女は文字通り使用人ね。主人の言うことは絶対だから」
3.深夜「別にいいわよ。面倒だし」
4.その他

2の場合は雪乃が深夜にコキ使われます。
安価下。】


>>579 1.深夜「お菓子作って。少し休憩してからでいいから」】

人の悪い笑みを浮かべる深夜に対し、失敗したなと数秒前の自分を恨む雪乃

そして真夜はというと、2人のいつも通りなやり取りに呆れた様子で小さくため息をつく

牽制し合う状況で最初に口を開いたのは雪乃だった

雪乃「なんでもとは言ってないからね? 無理なものは無理だから」

過去に深夜からの命令で学校へ忘れ物を取りに行かされた経験を持つ雪乃は先手で多くの選択肢を潰す

すると深夜は雪乃の必死に訴える姿を珍しく思ったのかクスッと笑みをこぼし、

深夜「べつに変なことをさせようだなんて思ってないわよ。そうね、お菓子でも作ってくれれば私はいいわ」

最悪のパターンと比べて、かなりかけ離れた良心的な提案に雪乃の表情は明るくなる

深夜「ただし私は、だからね。貴女が迷惑をかけた人はもう1人居るでしょう?」

雪乃「ま、真夜.....?」

ゆっくり真夜へと視線を向けると、そこにはにっこりと微笑む真夜の姿があった

悪い意味での笑みとはいえ、かれこれ数十年見ていない表情に雪乃は怯んでしまう

しかし内面的に怯んだだけで、外面には出していないため真夜はもちろん深夜も雪乃の異常に気がつくことはなかった

真夜「私は....」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:真夜「私もお菓子でいいわ」
偶数:真夜「夜、話し相手になって。私が寝るまで」
安価下。】

ほい


>>581 6:真夜「夜、話し相手になって。私が寝るまで」】

真夜「夜、話し相手になって。私が寝るまで」

深夜とは一味違った要望だったが、これも無理難題ではない

それどころかむしろ、素直に自分の存在を求めてくれていることに嬉しさを感じた

雪乃「それくらいならお安い御用よ」

当然、雪乃は真夜のお願いに快諾する

真夜「時間は....今が20時50分だから23時までに私の部屋に来て」

深夜のためのお菓子作りも含めた、雪乃に優しい時間配分だ

とは言ってもお菓子作りだけでほとんどの時間を要してしまうため、学校の課題などに手をつけられないが


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:雪乃「深夜はどうする?」
偶数:雪乃「えぇ、分かったわ」

奇数の場合は3人で話すことになります。
偶数の場合は真夜と2人きりです。
安価下。】

それっ


>>583 2:雪乃「えぇ、分かったわ」】

雪乃「えぇ、分かったわ」

真夜の要望を細かく受け入れると、この場は自然と締められる

まず最初に深夜が足早に出て行き、少し間隔をあけて真夜が食堂を出る

そして残された雪乃は改めて時間を確認し、脳内で今後の予定を立てたのち、食堂を出た

雪乃「(お菓子作りは.....21時30分からね。1時間半もあればそこそこ良いものが出来るはず)」

それまでは文学“少女”として本でも読むのが有効的な時間の使い方だろう

学生としてやるべき課題という概念は今の雪乃には生憎存在しない

そもそも出されているかすら怪しいし、持って帰ってきているかすら微妙なところだ

雪乃「(いえ、でも私のことだから学校で済ませているのかしら? .....まぁどうでもいいわ。想像の世界でそこまで気を使うことも無いでしょう)」

彼女にとって大事だったのは、かつて優秀だった自分の素行よりも深夜と真夜の存在の方が圧倒的に大きい

従って、勉学云々よりも友好関係(深夜と真夜に限る)の方がずっと鮮明に脳裏に思い浮かべるのに苦労はしなかった

そんなこんなで気が付けばもう自室の前まで来ていた


あとは扉を開き、本棚やら机の上に積んである本、もしくは書庫に置いてある私物の本を手に取って開けば40分はあっという間だと思われたのだが、

雪乃「......」

ドアノブに手を掛けたところで誰も居ないはずの自室から人の気配を覚った

訝しげな表情は数秒の沈黙後、打って変わって安堵した息を吐く

雪乃の表情は柔らかいものとなり、口元も淀んでいる

扉を開けるのに躊躇した時間は一瞬

次の瞬間には扉を開けていた

部屋の中には例の気配が実体としてそこに“居る”

木製の椅子に腰を掛けて本を開く姿は美しく、結われた艶やかで真っ直ぐな黒髪から覗けるうなじに艶めかしさを感じる彼女には当然見覚えがあった

雪乃「....想像の世界じゃなくて現実世界に時間旅行すればいいものを」

???「時間旅行のつもりなんて無いわよ。私はただ、弱くて情けない貴女の手助けをしようと思っただけ」

雪乃「見返りは?」

???「この時代の私は求めたかもしれないけれど、今の私は家族に見返りなんて求めない。でもそうね....もし求めるとすれば、この本の続きを読みたいわ」

女性は1度読み終えていたのか栞も挟まずに本を閉じ、雪乃に本の題名を見せつける

本の題名から昔の記憶を辿り、行き着いたのが、

雪乃「そこに無いってことは真夜の部屋よ。たしかあの子にそのシリーズの本を貸していたと思うから」

???「取ってきて。今すぐ」

雪乃「家族には見返りを求めないんじゃないの?」

???「等価交換は覆せないわ。それが例え、家族でも」


雪乃「等価交換というルールの例外の1つが家族だと私は思うけれど.....。とにかく、今は無理。昔の貴女のためにお菓子も作らないといけないし、何より今この瞬間には私に用があるんでしょう? 深夜」

深夜「....じゃあ後ででいいわ。その時にはもう私は居ないかもしれないけど」

不機嫌そうにする表情を隠すことなく、露わにしているのは深夜が雪乃のことを信頼しているからだろうか

それとも、そんなことは意識せず単純に不機嫌なだけなのか

しかしその表情は何か重大なことを思い出したかのようにころっと変わった

深夜「年上には敬語を使いなさい。敬語を」

精神年齢はともかく、16歳の容姿をしている雪乃に対して深夜は20歳そこそこの若々しい姿

誰がどう見てもどちらが年上かはハッキリしていた

雪乃「.....私が敬語を使う前に1つ」

だが、こんな状況でも雪乃は表情を崩さず交渉という名の脅迫を持ちかけた

雪乃「深夜が高校2年生の秋に───」

深夜「いつも通りでいいわ」

雪乃「ふふ、じゃあそうさせて貰うね」

昔の話を掘り返されたくない深夜にとって、雪乃が持ちかけた交渉は効果覿面だった

雪乃「それで、話って?」

椅子は使われているのでベッドに腰を掛けた雪乃が深夜に問いかける


【安価です。
1.深夜「この世界から出る方法について」
2.深夜「代わりに私が貴女のするべきことをやってあげようと思って」
3.深夜「あの那月という少女について」
安価下。】

>>587 2.深夜「代わりに私が貴女のするべきことをやってあげようと思って」

大人の(もう亡くなっている方)深夜は 深夜(大)と表記します。
子供の(創造の方)深夜は 深夜(子)と表記します。】

深夜(大)「代わりに私が貴女のするべきことをやってあげようと思って」

雪乃「私がするべきことを深夜が....?」

深夜(大)「えぇ。貴女に出来ないことを私がやってあげるわ」

雪乃「......」

葉月は霜月の血筋の人間のことを恨んでいる

このことから精神的、もしくは肉体的な苦行を強いられると踏んでいたのだが、目を覚ましてみると雪乃にとって幸せな世界そのものだった

これでは苦行ではなく、幸せな時間の提供

恨むべき相手にする事ではない

しかし、その人にとって最も辛いことに必要な環境なら話も変わってくる

雪乃にとって1番辛いのは家族を傷つけること

中でも深夜と真夜は血を分けた息子や娘以上に大切な存在

彼女らの存在はそれまでの雪乃を変えた

何十年という付き合いでその仲は深まり、かけがえのない唯一無二の存在となった

そして葉月が雪乃への追い込みとして用意したのが今居る世界

勝利条件は深夜と真夜を殺すこと

精神的な苦痛を伴う避けては通れぬ道に雪乃が頭を悩ませていたところで登場したのが大人の深夜

彼女が代わりに過去の自分と妹を殺そうと言っているのだ


雪乃「.....深夜は自分を殺せる?」

深夜(大)「ここは想像の世界よ。躊躇する必要なんてないわ」

雪乃「真夜は?」

深夜(大)「.....だから、躊躇する必要なんて.....」

自分のことを聞かれた時とは違い、真夜を殺せるかと問われた深夜は渋々といった返答をした

悪い空気を薙ぎ払うかのように1度咳払いをし、話を続ける

深夜(大)「とにかく、貴女がやらないなら私がやるわ。今すぐ決めろとは言わないけれど、出来るだけ早く決断して。貴女はこのままだとこの世界に呑まれる」

幸せな時間を再び手に入れる事によって雪乃はこの世界で過ごすことに何の違和感も感じなくなってしまう恐れがある

そのことを危険視した深夜は時を操る霜月の力を借りて、雪乃の精神を伝ってこの世界に来たのだった


【安価です。
1.雪乃「.....お願い」
2.雪乃「私がやるわ。.....私が、2人を殺す」
3.雪乃「.....少し考える時間を頂戴」
安価下。】


>>590 2.雪乃「私がやるわ。....私が、2人を殺す」】

深夜の好意的な申し出に雪乃はしばらく考える素振りを見せる

しかしそれは表面上だけの動作であり、深夜の目には既に決意をし終えた雪乃の姿だけが映っていた

深夜(大)「それで、どうするの?」

このまま“考えるフリ”を続けられるのも厄介だと考えた深夜は手間を省くためにも率直に再び同じ問いをする

すると雪乃は1度深いため息を吐き、

雪乃「私がやるわ。.....私が2人を殺す」

深夜(大)「....そう。なら任せるけれど、一瞬でも躊躇ったら私が殺すから覚悟しておいて」

雪乃「えぇ。その時はお願いね」

非情に冷淡な声色の深夜に対して、雪乃は暖かい感情を込めた返事を返した

思っていたよりも陽気な雪乃に深夜は不信感を覚え、具体的にどうやって過去の自分と妹を殺すのかを問う

深夜(大)「一筋縄じゃいかないわよ。昔とはいえ私は私、真夜は真夜なんだから。中途半端な考えで挑めば貴女は確実に返り討ちにされる」

深夜の具体的な質問に雪乃は、深夜の座る椅子の近くに位置する机の2段目の引き出しの奥をゴソゴソと漁り、1つの小瓶を取り出した

雪乃「これを使うわ」

小瓶の中の入っていたのは水のように透明な液体

ラベルの無い小瓶だったが、その中身が何なのか深夜はすぐに察した

深夜(大)「それを使って、どうするの?」

雪乃「簡単なことよ。この創られた世界を騙す。たったそれだけ」


ー22時45分ー

深夜(小)「.....これは?」

雪乃「パンケーキのフルーツ添え」

深夜(小)「もっとマカロンとかケーキとか無かったのかしら....」

真夜との約束の15分前、雪乃は深夜の部屋を訪れた

用件は約束のお菓子を届けるために他ならない

作りたてのパンケーキと添えられたフルーツにはシロップがたっぷりと掛かっており、灯りに照らされて輝いている

しかし深夜が向ける視線は怪訝そうなもので、納得のいかなかったようだ

深夜(小)「いただきます」

雪乃「どうぞ」

深夜(小)「.....ん、」

ナイフとフォークで一口サイズに切り分けたパンケーキを口に運ぼうとしたところで、深夜の手の動きがぴたりと静止する


雪乃「(気付かれた....?)」

深夜(小)「一口だけ」

雪乃「え、あ...うん。ありがとう....」

思いがけない深夜の行動に困惑しながらも、パンケーキを食べさせてもらう形で口にする

雪乃「自分で言うのもなんだけど美味しいと思う」

深夜(小)「別に感想は求めてないわ」

素っ気なく雪乃をぞんざいに扱いながら、深夜は彼女にとって最初の一口分を口に含む

深夜(小)「....甘いわ。もう少し控えて欲しかったわね。時間帯的なことも考慮して」

雪乃「次からは善処致します」

深夜(小)「そうして頂戴。使用人さ...ん」

カラン、とナイフとフォークが机の上に落ちた

深夜が意図したものではなく、突発的なものだ

深夜(小)「ぅ...雪乃.....」

深夜が雪乃へと向けた視線は冗談交じりの強い眼差しではなく、敵を見るような強く冷たいものだった


雪乃「安心して。即効性の睡眠薬だから」

深夜(小)「安心もなにも、....睡眠薬を入れられて良い気分になるひとなんていない....わ」

睡魔に耐えている様子は消え、深夜は小さく寝息を立てる少女らしい眠りについた

雪乃「やっと...眠ってくれたわね....」

まさかパンケーキを分けて貰えるとは考慮していなかった雪乃は深夜同様に強烈な眠気に襲われていた

雪乃「(裏の私を抑えるために買った睡眠薬だけれど、まさかこんな形で使うことになるなんて)」

本来の目的とは使用目的は違えど、睡眠薬があったのは雪乃にとって好都合だった

これで抵抗されることなく、創られた世界を騙すことが可能となった

雪乃「ごめんなさい....深夜」

雪乃は特化型CADの引き金を1度引く

すると、深夜の身体は雪乃によって作られた情報に纏われた

腹部にはナイフの跡

首には手で絞めたであろう跡

口からは血が流れ、服にも多量の血が滲んでいる

これは雪乃の“幻”

現状を作り出した葉月や、彼女が敬う葉月には劣るが、十分に世界は騙せた

深夜は戦闘不能だと判定され、細かい粒子となって霧散した

雪乃「(次は....真夜....)」

ここまでに要した時間こそ短いものの、大きなハンデを負うこととなった

霜月の目を発動させたままでもこの強烈な眠気は、一瞬でも気を抜いたらバタリとその場で倒れてしまいそうだ

雪乃「(真夜もすぐ済ませて....)」


【安価です。コンマ1桁
奇数:深夜(大)が助けてくれる
偶数:このまま真夜の部屋へ
0:眠ってしまう
安価下。】

てい


>>595 8:このまま真夜の部屋へ】

彼女は何をやらせても完璧だった

それらしい勉強をせずとも、空いた時間に教科書を1度読んでしまえばテストでは満点

運動神経も良く、考え事を優先しながらの運動でも体育の成績は変わりなく5だった

性格や容姿も申し分なく、勝手に人が集まってくるタイプで将来は安泰だと思われた

しかし、中学1年生の頃に全てが破綻する

彼女の天性の才能が仇となったのだ

努力をせずとも努力してる人に勝つ

それはどの分野でも同じで、勉強に自信のあった人、スポーツに自信のあった人を次々と打ち負かしていった

もっとも彼女にはその自覚はなく、なんとなくでやって勝ったという事実だけが彼女に伝えられた

どんな人間でも極端に謙虚に、善良になれるわけではない

どんな人間にもプライドというものは存在する


彼女が負かした将来に期待される子供たちはいつしか、完璧である彼女を敬う気持ちを忘れるどころか、それは憎しみの類へと変貌した

気が付けば周りには誰も居らず、彼女に残されたのは非の打ち所がない才能のみ

少女はこの才能を自分ものだけでなく、世の中のために役立てようと考えるようになるのに時間はかからなかった

自分の能力が世間のためになるのなら、少なくとも悪い感情を抱かれることはない

そうすれば再び敬われる存在となり、自然と人に囲まれ、若くして失った人の温かみを実感できる

そう信じていた矢先、彼女は担任の教師を初めとして、暴力を振るわれるようになった

殴る、蹴る、切る、叩く、陰湿、陰口

様々な痛みが毎日、休むことなく彼女を襲う

だが彼女は後に家族となる主人が“おかしい”と言うように、常識を外れておかしかった

性的暴行以外は全て抵抗することなく受け続けたのだ

殴られても、蹴られても、水をかけられても、カッターナイフで肌の傷をつけられても

もちろん彼女に同情する者も現れた

しかし同情すれば、同じ目にあう

それが怖くていじめに嫌々加担する者は数多く居たが、結果的に彼女をいじめているのだから愉快に暴力を振るう人間と変わりない


少女からすれば滑稽な存在

非凡な才能を持つ人間共が有能な自分を寄ってたかっていじめる姿は実に滑稽だった

人数で勝負しなければ自分に勝つことが出来ない

それが面白く、面白く、面白くて

大人がいちいち子供の粗相に腹を立てないように、彼女は抵抗をするということはつまり腹を立てているということで、性的暴行以外では抵抗をしなかった

自分が大人で、彼ら彼女らは子供

年齢ではなく、意識の違い

そう考えるようになった時、少女は熱を出した

結果的に1週間ほど学校を休むことになったわけだが、彼女の中では彼女自身が気付かぬうちに心の支えが出来ていた

それこそが自分であって自分でない“裏”の存在

彼女を構成する2つの1つから出来上がった人格

後にそれは家族である姉妹を心配させ、本当の家族さえも心配させることとなる

しかしこの時の少女に家族という希望はなく、1人で生きていくしかなかった


避けては通れぬ人殺しという道を、世界を騙すことによって通った雪乃はもう1人の部屋へと向かっていた

真夜の部屋は深夜の部屋の隣

姉妹なら全くおかしくない至極当然の部屋配置であったが、この時ばかりは感謝してもいいのか恨んでもいいのか分からなかった

強烈な眠気の耐えながらの部屋の移動は過酷そのもの

隣同士の部屋で感謝するべきなのか、

雪乃「(姉妹なんだから2人で1つの部屋使いなさいよ....)」

といった妄信から来る恨み

雪乃のコンタクトの下はもちろん碧色の瞳となっている

身体能力を一時的に飛躍させるなどの効果を持つこの状態でも辛いと言わざるを得ない状況を作り出した睡眠薬

効き目は抜群を通り越してやり過ぎなくらいだった

法で定められている基準を超える効き度だ

そういう定めがあるのかどうかはともかく、の話だが

呼吸を整えつつ、壁伝いに時間をかけてやってきた真夜の部屋

雪乃はノックをし、今すぐにでも閉じそうな瞼を開きながら、何度か声をかける


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:真夜「雪乃?」
偶数:応答なし
安価下。】

はあっ


>>600 0:真夜「雪乃?」】

幸いなことに扉はすぐに、不安や心配を表現するようにゆっくりと開かれた

真夜「雪乃....?」

霞みがかった声

家族,使用人に接する際の表情でない

2つの感情を募らせ、柄に合わずおどおどと何かに恐怖を抱いている姿は眠気で頭の回らない雪乃を悩ませる

いつもの雪乃ならばこのとき真夜が何に恐れ、不安を抱いているのかすぐに察しただろう

しかし今は悪い言い方をすれば自分で仕掛けた罠に自分で引っかかった訳なので、責めるべき相手は自分他ならない

かつて完璧な存在として敬われていたとは思えない自業自得な状況に雪乃は自身に失望した

一方で、壁に寄りかかり今にも眠りにつきそうな家族の姿を目にした真夜はホッと一息つく

真夜「.....雪乃ね。よかった....って、眠いの? これから朝方まで私の話し相手をして貰うのに?」

学生にとっての午後の授業とは比べものにならない睡魔に襲われている雪乃にとって今の発言は戯言として片付けたかった

朝方まで約6〜7時間は優にある

裏の自分を抑える以上の苦行だと考えた雪乃は、


【安価です。
1.実力行使
2.隙をうかがう
安価下。】


>>602 1.実力行使】

雪乃「ごめんね、真夜」

真夜「ぇ───っ」

部屋の入り口で雪乃は真夜を優しく押し倒した

支えがなくなった扉は自然に閉じて、2人きりの密室が出来上がる

雪乃は彼女と30年の付き合いの中で最も大胆な行動に眠気が若干吹き飛び、

真夜は何が何だか分からずに困惑している

真夜「ちょ、ちょっと...沙夜さんじゃないんだから....」

雪乃「すぐ終わるから我慢して」

真夜「我慢するもなにも突然こんなことされて抵抗しない人間なんて居ないわよ!」

真夜は抵抗する

身体を使った抵抗ではなく、魔法を使った抵抗

室内が四葉真夜の夜に包まれた

それは脅すには十分過ぎる程で、大抵の人間なら今すぐにでも謝罪へとシフトしていただろう

しかし雪乃は真夜の抵抗が脅し止まりであることを知っていた

絶対に殺されはしない

あくまで脅して、話を聞こうとしているのだ


真夜「....話を聞かせて。それからよ。貴女にその趣味があるのなら答えなくてもいいけど」

至極真っ当な事情聴取に、雪乃は素直に言葉を綴る

嘘偽りのない本当のことを

雪乃「貴女を殺し、私は元の世界に戻る」

真夜「私を...殺して元の世界に戻る?」

真夜の抵抗は止まった

星が浮かぶ夜空は真っ白な天井となり、星の明かりではなく照明が2人を照らす

真夜「葉月さんの魔法でこの世界に来たの?」

雪乃「葉月“さん”じゃなくて、葉月。私より2回りくらい年下のね」

真夜「15の2回り下....いえ、未来の、と考える方が自然....。そう、分かったわ。葉月“さん”ではなく葉月の魔法で貴女は過去に来たのね」

雪乃「....察しがいいわね、真夜。流石は未来の当主様」

真夜「私が当主...ねぇ。てっきり姉さんがやるものだとおもっていたけれど。まぁそんなことはどうでもいいわ。どうせ私も姉さんも貴女にとっては偽りの存在なわけだし」

この世界が、今の自分が葉月の創造によって作られたと知った真夜にはもう抵抗する余地は残っていなかった

むしろ今すぐにでも私を殺し、元の世界に戻ることを促しているようだった


真夜「....さっき、私は何か大切な人を失った気がして不安で、怖くて、恐かったの。今になってその理由が分かったわ。雪乃、あなたが姉さんを殺したのね」

雪乃「えぇ、そうよ。私が殺した。正確には世界を騙して、だけど」

真夜「葉月さんの創造に憧れて求めた限りなく現実に近い“幻”を使って?」

雪乃「そう。葉月さんや葉月ほどではないけれど、私の求めた“幻”は世界を騙せた。真夜も知っての通り、葉月によって作られた世界で戦闘不能になった者は細かい粒子になって消えたわ」

真夜「おおかた、約束のお菓子に睡眠薬を入れたってところかしら。でも今のあなたの様子を見る限りドジを踏んだようね。笑ってあげましょうか?」

雪乃「笑えないくらい今、辛いんだよ? だから笑わないで。悲しくなってくるから」

真夜「ふふっ、じゃあたまには使用人さんの要求を呑んであげましょうか。それも主人の努めだし」

「いや、今笑ったよね....?」と雪乃は口に出しかけたが、やめて本題へ


雪乃「真夜が嫌なら抵抗して貰っても構わないけど?」

真夜「馬鹿を言わないで。私を殺さないと雪乃が困るのでしょう? なら、殺して。これは主人と使用人の関係でもなく親友としてでもなく、家族としてのお願い。ね?」

目を閉じて殺される準備の整っている真夜へ雪乃は特化型CADの銃口を向けた

雪乃「....ごめんね、真夜」

創られた真夜へと謝り、引き金を引く

真夜の姿は外装だけが無残で酷い画へと情報が変貌し、創造の世界のルールに則って四葉真夜は戦闘不能と見なされ消えた

雪乃「はぁ....」

深いため息ののち、「疲れた」と呟いて雪乃はその場に倒れる

少女は小さな寝息を立て、深い深い眠りへと落ちていった


ー外ー

この時代に在らざる旧姓:四葉深夜は天を仰ぎ、満月を眺めていた

この世界の何処かで誰かが四葉真夜の流星群をアレンジした全く別の流星群を使用している

誰がやったのかはすぐに想像がついた

昨晩、もしものためにと協力を仰いできた司波那月という少女

彼女の仕業であろうと深夜は確信している

そして、

深夜「輝夜、と言ったところかしら」

深夜は女孫の本質を見抜き、口元を歪めた


【雪乃編は以上となります。
次からは達也編です。


安価です。コンマ1桁
奇数・0:達也・深雪のデート
偶数:達也・深雪・歩夢のお出掛け
ゾロ目:達也・歩夢のデート

ゾロ目の場合のみ達也の敵が歩夢となります。
奇数・0・偶数の場合はいずれも深雪が敵です。
安価下。】

ほい


>>608 7:達也・深雪のデート】

???「お兄様? どうかなさいましたか?」

達也「.....!」

視線を送るまでもなく

声を聞くまでもなく

隣で不思議そうに首を傾げる美少女が誰であるか、直感的に理解した

視界を広げてみればネクタイを少し緩めたサラリーマン、人生を謳歌している学生、カップルなどのそこにあって普通な光景が目に見える

それに加えてただそこに居るのではなく、一人ひとりがしっかりと自立した精神を持っている

幻術とはかけ離れた現実味のある特殊な幻術に達也はこの16年間の経験上、気持ち悪いとまで感じた

彼にとって、いや、普通の人にとっての幻術という魔法は主に目眩しや恐怖を与えることに使われる

しかし葉月の創造は、一般論が全く通用しない幻術を超えた幻術

現実世界だと言われても何の違和感も持たない美しき世界だった


???「....お兄様? えっと....お疲れでしたら何処か休憩できる場所に....」

不思議そうに首を傾げていた隣の少女は敬愛する兄が何の反応を見せなかったことを違和感として捉え、心配そうな表情で尋ねる

いくら幻術で創られた存在とはいえ妹からそんな顔で問われれば無下にできず、

達也「あぁ...いや、大丈夫だよ、深雪」

深雪「それなら....はい」

兄に宥められた深雪は悲しげに肩に入れていた力を抜き、シュンとうなだれる

どうして妹はうなだれたのか

その理由ですら考えるまでもなく、達也にはいつもの深雪を見ているようで気持ち悪く察することができた

達也「(とりあえずは情報収集だな。現実世界と異なる部分を探そう)」

達也「深雪、どこか行きたい場所はないか?」

見慣れた街並みや深雪の言動に異なる部分があるかもしれない

妹に違和感を与えず、この世界を経験をする

そのためにはいつも深雪と出掛けている時のように、恒例の問いをする


【安価です。
1.映画
2.喫茶店
3.本屋
4.服屋
5.家
安価下。】


>>611 2.喫茶店】

すると深雪は少し辺りを見渡し、1つのお店を指差した

そこは入り口付近に置かれた小さな黒板にチョークで本日のおすすめメニューが書いてある小洒落た喫茶店

達也には「え、なにこのお店...無理しすぎだよ....」などと引き気味の表情で呟く歩夢の姿が目に浮かんだ

しかしそれはあくまでも歩夢の場合であり、深雪とはまるで異なる価値観

対照的に深雪はこのようなお店を好んでいるようだった

おそらくこの世界でも、現実でも

深雪「少し歩き疲れましたし、あそこで休憩しましょう」

達也「あぁ」


ー喫茶店ー

幸いなことにお店はそれほど混んでいなかった

しかし、絶世の美貌を持つ深雪が入店するのをきっかけにして席は一瞬で埋まった

お店側はこの事態に驚きを隠しきれなかったが、逆に達也や深雪はこれが普通であるかのように一切の動揺を見せない

深雪「お兄様はどうなさいますか?」

達也「深雪が先に決めていいよ」

深雪「いえ、私は後で結構です。先にお兄様がお決めください」

変なところで頑固になる妹の性格は現実でもこの世界でも同じ

達也は情報収集の1つとして、深雪の性格にほぼ違いはないと判断する

達也「じゃあ....俺はコーヒーで」

深雪「ぁ....そうですか。それでは私はミルクティーにします」

本当は好物のケーキを食べたかったが、兄を差し置いて1人だけがお菓子を食べるだなんてポリシーに反する

なので急遽ケーキをやめ、達也に合わせてドリンクのみにした

などと深雪が考えていることも達也には十分に見通せた

性格は確実に同一と判断しても良いようだ

達也「いや、やっぱりクッキーも頼もうかな」

深雪「....! そ、それではショートケーキも追加で....」

喜びの音を抑え、深雪は平静を装って願望であったケーキを追加することに成功した

達也がまとめて注文をし、料理が運ばれてくるまでの時間、


【安価です。
1.達也「深雪、今日って何月何日だ?」
2.達也「このあとは何をしたい?」
3.深雪「お兄様、このあとはどうなさいますか?」
4.深雪「なにか気にかかることでも....?」
5.その他
安価下。】


>>614 1.達也「深雪、今日って何月何日だ?」】

確認しておくべきことが幾つかある

質問の内容はいずれも一般常識

知ってて当たり前のことばかりだ

問題なのはその常識を今更になって質問することだが、訊く相手が深雪なので達也にはいくらでも不信を抱かれずに返答を求めることが出来る

妹を利用するのは気が引けたが、これも現実世界に戻るため

それに、本物の深雪は現在ピアノとマナーの教室で勉強しているはずだ

目の前に居るのはあくまで偽物

創造によって模倣された、本物よりも厄介な偽物

深雪に注がれている視線の元を辿るよりもずっと、達也は深雪に警戒していた

精神を凍りつかせる“コキュートス”を突発的に発動されれば達也には抵抗も出来ないまま凍ってしまう

もしノルマを達成することでこの世界を出られるのなら、達也にとって最も敵らしい敵といえば深雪だった

達也「深雪、今日って何月何日だ?」

深雪「え...ぁ、」

まさか常識的な質問をされるとは思いもよらず、深雪は一瞬困惑するがすぐに答えを出す


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:深雪「11月4日....ですが?」
偶数:深雪「10月31日ですが....」
安価下。】

てい


>>616 5.深雪「11月4日....ですが?」】

深雪「11月4日....ですが?」

知ってて当たり前なことを訊かれた深雪はやっぱり体の具合が悪いのではないかという視線を送るが、

達也「....あぁ、そうか。わかった、ありがとう」

深雪「.....はい」

達也の素直な返事に体調を尋ねる機会を逃し、気勢も削がれてしまう

達也「(11月4日....体格的なことも考えると2095年の11月4日と考えるのが妥当なところか)」

2095年の11月4日

本来この日、深雪は自宅のベッドの上で寝ていたはずだ

11月1日から意識不明な歩夢の精神を伝って精神だけが過去に飛ばされたはずだった

しかし今ここで親友である歩夢のことを一切心配せず、呑気にお出掛けをしていることから察するに、

達也「(歩夢はこの世界に居ない、か)」


君影歩夢がこの世界において存在していないというのは早計かもしれないが、居ない可能性は高い

となると、達也には様々な疑問が思い浮かぶ

歩夢を通じて七草真由美から貰った温泉旅行のチケットはどうしたのか

九校戦のモノリス・コードでは誰が深雪を装った歩夢の代わりを務めたのか

そして、この世界の自分は本気で人を愛したことがあるのか

今の達也にとって、君影歩夢という存在は無くてはならない物へと昇格している

4月の頭に約10年もの時を経て出会ったときは、なにか不思議なものを感じる程度

今思うと、司波深夜によって封印しきれていなかった記憶の欠片が反応したのかもしれない

しかしそれ以上にあったのは、君影歩夢の影響力だろう

彼の母や叔母がそうだったように霜月の人間は周囲に影響を与える

影響力に惹かれ、深雪の交友関係や風紀委員という役職も手伝ってコミュニケーションを取る機会も徐々に増えていった

かつては身内以外と一言も喋れなかった彼女とも自然に話せるようになったし、それと同時に自分には無いはずの恋愛感情が芽生えるのも実感した

4月の下旬にもなるとその感情は事実となり、一生で経験することが無いと思っていた告白をすることになる

そしてなにより、12月の24日と25日にかけては2つの意味で初めての経験をし、本気で女性を愛した

盲目の恋愛感情

必要最低限な性欲

この2つだけでなく、全ての枷が外れたような気がしたのは気のせいだったのか


事実を知るのはおそらく彼の感情を封じ込めた彼の母、司波深夜のみ

パラサイトの一件が終わったら話し合いの場を設けることは既に決定している

もしかしたらこの件について話すために場を設けたのかもしれない

全てを見通しているところは生前も変わらない

深雪「.....? お兄様、どうかなさいましたか?」

達也「いや、なんでもないよ」

この返しだけではもう少し言及されるかな、と思ったのもつかの間で、タイミング良く注文した物が運ばれてきた

深雪の意識はケーキと紅茶へと行き、難を逃れた

心の中で安堵をつき、コーヒーを飲んだ後、もう少しだけ自分だけの世界に浸かる


達也「(もし俺は歩夢以外の女性を愛せと言われたら愛せるのか)」

──例えば、ほのかはどうだ?

──こういう言い方は嫌いだが、彼女は俺のことを好きでいてくれている。今もなおずっと

──.....答えはNOだな

──ほのかとは半年以上の付き合いになるが、歩夢と一緒に居るとき以上の感情は動かない

──なら、リーナはどうだろうか

──歩夢や深雪に言わせれば、彼女は俺のことを気にかけているようだ

──軍人にならざるを得なかったという共通点もあるし、彼女と話すのは悪い気持ちはしない

──....答えは、NOだ

──やはり、どうしても感情が動かない

──12月24日のシチュレーションが特別だったからだろうか。ほのかやリーナともあのような状況になれば枷は外れるのか

──.....そう、ならば俺が唯一、歩夢以外で魅力的だと思える深雪はどうだ?

──人当たりも良く、誰もが認める美人で、俺が釣り合うかどうかはこの際どうでもいい

──深雪と婚約することなったら、俺の心はどう動くのだろうか

──しっかり深雪を愛すことが出来るか

──深雪を護り通すことが出来るか

──答えは、─────だ


【某アニメ(小説)の自問自答シーンっぽくなってしまいましたが、ご容赦下さい。

安価です。コンマ1桁
奇数・0:もう少し続く
偶数:終わる
安価下。】

ていっ


>>621 4:終わる】

自惚れは達也がコーヒーをもう一口飲むまで続いた

彼にとってはとても長かったが、理的にはほんの少しの時間だ

何よりも誰よりも率先して兄のことを気遣う深雪ですらケーキに注意が惹かれている

達也は深雪にゆっくり食べるよう指示してから、彼は付け合わせに頼んだ小さなクッキーを口に放る

達也「(紅茶味だったか.....。失敗したな)」

これからは無闇に選ばず、しっかりメニュー表に書いてある味の考慮もしておくべきだと、想像の世界にて良い教訓となった

この教訓は消えることなく、記憶として残る

現実世界に持ち帰れないものといえば.....そう、

達也「深雪、もし自分の想像もしくは理想の世界を創れる魔法があったらお前ならどうする?」

美味しそうにケーキを頬張る妹が良い例だ

この世界の深雪を現実世界に持ち帰ることは出来ない

もし出来たとしても、ドッペルゲンガーという都市伝説の証明になるだけで、彼は大切な妹を失うこととなるだけ


突然の問い掛けに深雪は考える時間を稼ぐことも含め、聞き返した

深雪「想像や理想の世界を創る...ですか?」

達也「あぁ、そうだ。理想が全て手に入る。その世界においては、だけどな」

深雪「.....それはつまり現実世界とは違う世界をもう1つ創るということでしょうか?」

達也「もう1つ“並行”的に創ると言った方が正しいかな。この世界をXとして、深雪の理想をYとしたら、深雪がYの世界に居る間はXの世界でも動くものは動く。12時間も過ごせば昼が夜になるし、世界の何処かでは戦争が起こっているかもしれない」

深雪「はぁ....」

一応は納得がいっているようで、深雪は疑問の音を交えた相槌を打つ

達也「まぁ、詳しい話はどうでもいいんだ。深雪はもしその魔法を手に入れたら、どうする?」

深雪「.....その理想の世界にXに居る人は連れて行けるんですか?」

達也「連れて行ける。おそらく....いや、何人でも」

想定の話をすれば深雪がまた新たな疑問を抱いてしまう

言及されることを怖れた達也は言い直し、もしもの話であることを貫き通した

深雪「そうですね.....。まずは意思統制でしょうか。X世界に居た人々の意識に争いという文字を消し、平和な世界を作る。そうすることにより、競争は必要であっても人が怪我をすることは無くなります」

企業同士、学生同士の互いに切磋琢磨し合う競争は必要だ

しかしそれが暴力に至らないよう意思統制をするという深雪の考えはいかにも平和主義者という印象だった

もちろん達也に反論するような余地もなければ、指摘するような隙もなかった

達也「そうか....深雪は優しいな」

頭を撫でてやると、深雪の頬はたちまち朱に染まる

こういうところも、気持ちが悪いほど同じだ

深雪「....でも、どうしてこんな質問を? 現実的ではない話をお兄様がされるだなんて....やっぱり何かあったんじゃ....!」

感情的に熱くなった深雪は兄の心配をするが、

達也「大丈夫だ。なにもない」

そう当人が告げるので深く掘り下げることも出来ず、シュンと項垂れてしまう

達也「(性格はまるっきり同じようだから、正直に話せば協力してくれるんだろうが....)」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:正直に話す
偶数:黙秘を貫き通す
安価下。】

ほい


>>624 9:正直に話す】

この世界における司波深雪が現実世界の司波深雪を完全に模造しているとわかった今、思いつく最善な策は相談することだった

他の4人の行方がわからないのでは無闇な行動も制限されてしまう

ならば、いっそのこと葉月によって造られた深雪を仲間に引き入れることで現状を打開することが可能だという結論に至る

達也「(問題は深雪が俺の話を信じてくれなかった場合だが.....いや、俺が疑っているようでは到底信頼なんてして貰えないか)」

まずは自分が彼女を信頼することにより、そこで初めて交渉のテーブルにつくというもの

それからは彼女次第だ

彼女の判断によっては早期決着が見込めるかもしれないし、長期戦になるかもしれない

覚悟を決めた達也は神妙な面立ちで話を切り出す

達也「....深雪、さっき言った理想やら想像の世界を創る話なんだが・・・」

達也は真剣に深雪と向かい合い、全てを吐露した

最初は訝しげな目をしていた深雪も話を聞くにつれ、その話が事実であることを受け入れていれていく様が達也の心に傷として刺さる


達也「・・・ということなんだが....」

大まかな説明が終わるのに10分かかった

その10分間はずっと1人喋り

深雪は達也の話を真摯に受け止め、表情を変えるだけだった

深雪「.....1つ、訊かせて下さい」

かなり久しぶりに感じた妹の声色は神妙な表情に比例して震えた掠れ声

今にも泣崩れそうな造り物に達也は更なる精神的な傷を負う

深雪「お兄様はその...君影歩夢さんという方を心の底から愛していますか?」

達也「愛してるよ。心の底から」

深雪「感情的に、私以上に?」

達也「.....そうだ」

深雪「そう...ですか。お兄様が大切だと思える方がいらっしゃったのですね。深雪はそれだけで満足です」

大きな感情を失ったことをきっかけに、ずっと心掛だった兄の恋愛

それが命令されたものではなく、自分から好きだと思える相手と結婚を前提にした関係であることに深雪は安心し、大粒の涙を流した

深雪「本当に...よかったです...お兄様が....」

この世界で深雪がこのような感情を抱き、自分のために涙を流してくれているのだとしたら、

達也「(深雪は俺の知らないところでこうして泣いてくれていたのかもな)」

自分の知らぬ場所で自分のために涙を流してくれたであろう現実の深雪にも感謝の意を伝えるために、なおさら現実に帰らなければならなくなった

その第一歩としては、まず目の前の妹を宥めよう



深雪「っ...すみません...」

それから更に5分後、深雪は泣き止んだ

まだ若干泣いている範疇にいると思われるが、涙を流すことはなくなった

深雪「現実世界に戻る方法、でしたね」

達也「あぁ、そうだ。....本当は深雪に相談するべきじゃないんだが....すまない」

深雪「いえ、少なくとも私は相談していただいて嬉しかったです。それで本題ですが、おそらくお兄様が現実に戻るためには私を殺すのが手っ取り早いと思われます」

達也「深雪を....?」

深雪「はい。推測でしかないのですが、お兄様にとって最も辛いことを葉月は強要しました。他の4名も同じく、大切な人を殺すなどしてノルマを設置したんだと思います」

達也「.....」

聞く話によれば葉月は霜月の血を引く人間とその近くに居る人間を恨んでいるらしい

大切な人を殺すのは精神的な苦痛

この感覚は現実世界に持ち帰れる物だ

達也「だが、俺は深雪を殺すことなんて出来ない。他の方法で...」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:深雪「お兄様がお手を汚すまでもありません」
偶数:深雪「.....それでは別の方法を探しましょうか」
安価下。】

はち


>>628 4:深雪「.....それでは別の方法を探しましょうか」】

深雪「.....それでは別の方法を探しましょうか」

達也「葉月を倒す、か」

魔法の発見・研究から約1世紀

時が進むにつれその時代の大発見はしょせん過去の物となり、定義は幾度となく書き換えられてきた

これまでの幻術の定義を覆した葉月の創造もまた、現代の幻術魔法の定義を書き換える魔法である

しかしこの1世紀もの間、1つだけ変わっていない定義がある

それは、術者の意識が失われると同時に幻術が解かれること

達也が創られた深雪を殺せないのなら、定義に則って術者である葉月を倒すほかない

だがそれに先立つ物として、

達也「葉月の潜伏場所を探すのがな....」

歩夢や雪乃ならば所在地を突き止めることが可能かもしれないが、達也が兼ね備えているのは精霊の瞳という眼であり、彼女らの万能な眼とは全く異なるもの

残念なことに達也と深雪には葉月の所在地を把握することは不可能だった


深雪「少し考えたのですが、それって私たちが倒す必要ありますか? お兄様以外の4人の誰かが葉月を倒す可能性を信じるほうが闇雲に探すよりずっと効率的です」

達也は深雪の提案を聞いて「なるほど」と素直に感心した

自分の手で倒すことだけを考えていた彼には辿り着かなかった別解だ

問題なのはリーナ、夜永、那月、雪乃のうちの誰かが葉月を倒しに行こうとするかどうかだが、そこは信じるしかないだろう

携帯電話という連絡手段もこの世界には電波があるはずなのに電波を受信せず、使用可能なのはカメラ機能やメモ帳くらいのもの

自分に出来ることは一切ない、八方ふさがりの状況に達也は自分だけが何もせず葉月が倒れるのを待ってもいいのか自身に疑問を覚える

それが顔に出たのか、深雪はもう1度、改めて提案をした

深雪「私はお兄様の味方です。お兄様が望むのなら、私は自殺だってします。ふふっ、そう心配なさらないで下さい、私は現実世界に居ますから」

達也「....いや、そういう問題では....!」

深雪「そういう問題です。お兄様には私に自殺させる許可を下すか、気ままに仲間のことを信じて待つの2つしか道はありません」

断固として揺るがず、信念が強い妹は達也にとってなんとなく新鮮なものだった

完全に一致すると思われていた妹の姿に戸惑いを隠しきれないまま、らしくなく回らない頭を使い、答えを出す


【安価です。
1.達也「....すまない、深雪」
2.達也「....俺は4人を信じる。だから、待とう」

1の場合は深雪が自殺します。
安価下。】

>>631 2.達也「....俺は4人を信じる。だから、待とう」】

達也「....俺は4人を信じる。だから、待とう」

自分にとってデメリットのない選択をした達也の表情から迷いの念は消えていた

深雪が死ぬ姿は、沖縄で起きた3年前の一件で懲り懲りしている

厳密に言えば死にかける姿だが、もうあと一瞬遅れていれば再生は間に合わず、その場に居た妹だけでなく母や姉のような存在だった人もその場で亡くしていたかもしれない

もし間に合っていなければ達也は激情に我を忘れて、事件の発端となった大亜細亜連合の侵攻を阻止するばかりか徹底的に叩きのめしていただろう

しかし、その後には何も残らない

家族と呼べる存在は消え、彼は身内に引き取られるか、危険な存在として認められ殺されるか

もしくは、四葉の情報網をかいくぐって放浪生活を送るかの3択である


彼にとって司波深雪という存在は全てだった

彼女を守る役目があって、彼には四葉での居場所が出来たのだから

従って、たとえ想像の世界であろうと、夢の中であろうと達也は深雪という存在を失うわけにはいかない

ゲームなどの現実性のない世界ならまだしも、この世界は忌々しいことに現実味があり過ぎている

コーヒーは苦いし、クッキーは甘い

太陽の光は眩しいし、11月の風は冷たい

妹はいつもの妹だし、妹は注目される存在

葉月がこの世界を展開し続けるのなら、それはそれで第二の人生というか世界を歩む機会なのかもしれない

君影歩夢という存在が居ない世界で、自分はどう生きていくのだろうか

人生何があるか、誰にも見当がつかない

自分に恋愛感情というものが芽生えるときはやってくるのか

あの女性以外で自分を動かしてくれる人なんて居るのか


彼女の存在がどれだけ大きいのかを知れる絶好の機会を、達也は───

深雪「お兄様が、お兄様の仰る現実世界でも信頼できる方がいらっしゃるようで安心しました。こちらの世界でもお兄様は周りの方々に愛されているんですよ?」

達也「...あぁ、嬉しいよ。少し前までは大切だと思える存在が深雪だけだったけど、今はもっと多くの人のために労力を費やせる」

深雪「ご友人を大切にされて下さい。でもそれ以上に、君影歩夢さんのことも」

達也「いや、お前のことも大切にし続けるよ。歩夢と同じくらいに」

「だから、俺は歩夢の居る世界へと戻らなければならない」

───絶好の機会を無駄にした



結論も出たところで達也と深雪は信頼する4人の内の誰かが術者である葉月を倒してくれることを押し付け、楽しくショッピングをすることにした

東京都内には服屋やらジュエリーショップなんて物は無数と言っていいほどある

そして、見る場所はその2つに限らず、お店が軒並み連なる大通りを歩いて通るだけでも十分に楽しかった

現実と寸分違わぬ世界に違和感を持つことなく、楽劇的な時間は過ぎ去ってゆく

最上位がいれば最下位がいるように、始まりがあれば終わりがある

深雪「....どうやら終わりのようですね」

深雪がそう発するまでもなく、達也には分かっていた

世界は崩壊し始めている

空は崩れ、お店は崩れ、人間は次々に霧散して消えていく

誰かが達也の希望を受け取ったのかどうかはともかく、倒してくれたのだ

術者であり、元凶の葉月を


深雪「お兄様、本日はとても楽しかったです。これからも私をよろしくお願い致しますね。くれぐれも私と歩夢さん以外の女性と仲良くし過ぎないように」

達也「分かってる。....何をされるか分かったもんじゃないからな」

冗談交じり、ではない別れの挨拶も終わりを迎えようとしている

もうこの辺りで残っているのは達也と深雪のみ

周りは深い闇に覆われている

気を遣ってくれたかのように、2人だけが残っていた

達也「深雪、俺はお前を愛し続ける」

深雪「.....意味は違うとはいえ、そう言って頂けて良かったです。最後に思いがけないプレゼントを頂いてしまいましたね....」

「あ、そうだ」と、深雪は達也に駆け寄った

深雪「私が望んでいたのは、こういう意味です」

背伸びをし、達也の肩に手をかけ、顔を近づけた

達也「み、深雪....?」

キスでもするんじゃないかという状況に達也は戸惑いを見せ、深雪はそんな様子の達也を見て微笑を浮かべた

深雪「期待しましたか? お兄様」

次の瞬間、達也は1人になった

肩にかかっていた重みは消え、妹の姿も何処にも見当たらない

ふと、既に闇に染まった上を見上げれば、そこには細かい粒子となった光が昇っていくのが見えた

達也「....ありがとう、深雪」


【達也編終了です。
沖縄での事件については原作の8巻をご覧下さい。

次からは現実世界に戻ります(今から書くので少々お時間を....)。】

気がつけばそこは見覚えのあるというか、記憶にある薄暗い空き地だった

彼女らは突発的にそこで消え、数十分後に再びそこに現れたのだ

誰一人として動揺を見せる者は居なかったが、1人だけはそれどころではなくグッタリとしていた

雪乃「身体が重い....」

自業自得にも眠気を持ち帰ってしまった雪乃だ

しかしそんな雪乃の眠気でさえ吹き飛んでしまうほど見惚れてしまう少女の出現に、その場に居た全員が例の少女に注意を向けた

身長や体型こそ珍しくないが、夜風になびかせるそのプラチナブロンドの髪が特徴的であった

人形のような、という表現が出来るほどに


徐々に近づいてくる少女に4人は警戒を向けたが、那月だけは異なり、逆に近付いた

葉月「....霜月は?」

那月「後ろです」

葉月「ん....」

そんな馬鹿な、と振り返った葉月から数メートル離れた場所に、シックなドレスを纏ったこちらも人形のような美貌を兼ね備えた美女が居た

霜月「ここでは話の裏付けも取れませんし、移動しましょうか。ついては....」

霜月は大地を踏みしめ、2人の横を通ってリーナのもとへと寄った

未知の力量の差に圧倒されたのか、リーナは無意識に一歩だけ後ずさってしまう

リーナ「な、なに....? だれ....?」

文字通り、怯えたリーナは彼女にとっての最高火力を出せる“杖”を握りしめる

しかし近寄ってくる女性は狼狽えることなく必要十分にリーナに近づき、しなやかで美しい指先がリーナの額に触れる

霜月「私からのお礼です」

リーナ「ぇ....」

直後、意識を失ったかのようにリーナは物理的法則に従って前方へと倒れた

それを難なく受け止めた霜月は、今度は達也へと視線をやる


霜月「この後はお願いしてもよろしいですか?」

達也「はい」

この後とは、霜月や葉月について全く知識のないリーナの後処理

後処理と言っても殺したりはせず、少し手荒にリーナの所属する軍隊に引き渡すだけだ

気絶したリーナを受け取った達也はこれ何も突っ込まず、闇へと消えていく

彼はほぼ初対面でありながらも、彼女のことを信頼していた

いや、信頼せざるをえなかったと言うべきか

霜月には信頼するしないではなく、するしかない強制力のような、カリスマを越えた支配力があり、達也はそれに毒された

だから何も言わず、従った

リーナと達也の退場により、空き地に残ったのは雪乃と夜永と那月と霜月と、そして葉月の5名

この後はどうするか

それは誰からの口から発せられることもなく、問うまでもなかった

どうするか、ではなくもう既にその頃には事象として起こっていたのだから


街灯だけに照らされる空き地から、洋館の玄関ホールへと5人は一瞬の間に移動していた

葉月「.....ここは?」

霜月「誤解の始まりの地」

葉月「う、うん...?」

首を傾げた葉月だったが、霜月の台詞の意味はすぐに察することになる

玄関ホールにある扉の幾つかの内の1つが開いたのだ

雪乃「あ...」

扉の先に居た2人を知っていた雪乃は30年来となる出会いに再び感銘を受ける

1人は葉月を名乗る少女をそのまま大人にしたような、霜月とは対照的な白髪が特徴的な20代そこそこにしか見えない美女

もう1人は黒い髪を肩を越す辺りまでのばし、他の2人と比べても突出して若いと決めつけられる夜永と同い年くらいの女性

夜永「あの2人は?」

夜永の小さな問いかけに、雪乃は変に言い回したりせず直結に答えた

雪乃「この時代の葉月家と如月家の当主」



こんな場所で長話も、ということでこの時代の葉月家当主の創った想像の世界へと移動した

そこは四葉本邸にあるような(この時代では霜月本邸)食堂だったが、何より違うのは利便性

葉月家当主が空想するだけで、それが出現するのだ

現に、葉月(当主)が1度確認を取ってから、7つの紅茶が淹れられたカップがそれぞれのもとに置かれている

葉月(当主)が一歩も動かず、魔法のように紅茶を用意してみせたのだった

葉月(当主)「話に支障をきたさない範囲でしたら軽食をご用意しますが?」

霜月「適当にお願い」

葉月(当主)「畏まりました」

霜月に仕える待女のように葉月家の当主は霜月に従順な素行を見せる

次の瞬間には、それぞれのティーカップの隣に2種類のクッキーとショートケーキが出現していて、周到なまでの気の遣いように霜月は呆れ気味なため息を漏らす

霜月「では本題ですが、2096年における葉月さんは1つ大きな勘違いをしています」

葉月「霜月は裏切ってない?」

霜月「.....私にはそのつもりはありません。その辺りは裏切られた側であると考えられている葉月、如月から聞いてください」

霜月がそう促すと、葉月は自分と瓜二つな先祖と、全てを見透かされているような目を持つ如月へと向けて口を開いた


葉月「霜月側だったっていうのは本当?」

その質問に対し、2人は即答する

葉月(当主)「えぇ」

如月「そうよ」

肯定の言葉を受け取った葉月は、次なる質問を繰り出した

葉月「もし、霜月に裏切られるようなことがあれば2人は霜月を憎む?」

十二師族の戦争で霜月と葉月と如月は同盟を結び、他の9家を滅ぼした

そこまでは歩夢や達也、深雪も聞かされている昔話だ

他ならぬ葉月も、既に故人となった母からそのような話を聞いていた

食い違いが起きたのはここからだ

歩夢や達也、深雪は十二師族の戦争に参加した真夜から、

「その後は戦争の後遺症を負った葉月と如月は病にかかって死んだ」

と聞かされているが、葉月は、

「その後は戦争集結後ということもあって弱体化していた私たちの先祖と如月は同盟を結んでいたはずの霜月に殺された」

そう聞かされている

この点が食い違い、異なって、誤解を生んでいるところなのだろう

葉月にとって本当に裏切られたかどうかは二の次だ


大事なのは、霜月に裏切られてどう感じるか

どんな仲でも裏切られるというのは心が痛むものだ

2人は絶対に肯定、憎まないわけがなかった

しかし、

葉月(当主)「私はべつに」

如月「私もいいかな、それでも」

裏切られても良いと答える2人の台詞に葉月は耳を疑い、もう1度聞き返すが聞き間違えではなかったようだ

では、どうして憎しみを持たないのか

それについて問うと、

葉月(当主)「よくある話なんだけど、私は何度も霜月さんに助けられた。私はもうとっくに死んでいるの。死んだ身が憎しみなんて感情、持つわけがないでしょう?」

如月「私もそんな感じかな。霜月さんは私に手を差し伸べてくれた。それだけが私の生き甲斐」

信頼関係というのは隠匿されてきた葉月の血を引く彼女には縁遠いもの

生まれてこのかた自分を大切にしてくれたのは母親だけで、母親とは信頼関係以上に母娘という前提があった

信頼関係を築けるような友人を作れる環境になく、彼女は母が亡くなってからは1人で、母が亡くなる最後の一瞬まで口にしていた霜月への報復を達成するために孤独で生き続けてきた

しかしそれが、母が霜月を恨み続けた時間も含めて全てが無駄になってしまうと思うと、彼女は憤りを感じざるを得なかった

それでは、裏切りの行為があったかどうか

この答え次第によっては、葉月は目的を失い、路頭に暮れることとなる


葉月「し....霜月は....葉月と如月を....裏切ったの?」

2人の答えは、葉月だけでなく霜月を除いて全員が予想だにしない、3択目だった

葉月(当主)・如月「分からないわ」

知らない、という第3の答えに葉月は一瞬困惑したが、すぐに我に返ってそれについて問う

葉月「分からないって....」

葉月(当主)「分からないものは分からない。だって、霜月さんが裏切るか裏切らないかの話なんて未来のことだもの」

葉月「.....!」

今更になって、葉月は気がついた

先祖だけでなく、如月も怪我をしている様子は見られない

魔法を行使した大規模な戦争なら切り傷だけでは済まず、腕や足をなくす人は稀ではないはずだ

3家で9家を倒したとはいえ、曲がりなりにも他の9家は霜月や葉月,如月と並ぶ十二師族だったはず

無傷で終結させるなんて不可能だ

それこそ時間を操作して今の自分を怪我を負う前の自分に情報を書き換えたりしない限りは

如月「まぁそれでも、霜月さんは私たちを裏切ってないと思うよ。証拠は無いけれど、少なくとも私や葉月(当主)はそう信じてる」

如月からの後押しもあって、葉月が長年苦しめられてきた虚言からは解放される

結局、葉月家は何代にも渡って伝言ゲームに失敗したドジな一族という結論がついてしまった

あまりにも馬鹿馬鹿しい結果に、葉月は笑うしかなかった


その後は各自で好きなように時間を過ごし、その時間は今回の主役である葉月が葉月(当主)とのコミュニケーションを全て終えるまで続く

全てを終えた5人は2人に別れを切り出し、そして次の瞬間には全てが夢だったかのように、三度空き地に5人は存在していた

霜月「この後は....そうですね、私は真夜さんのところに行くことにします。雪乃さん、お付き合い頂けますか?」

霜月の申し出に、雪乃は短く肯定の返事を返した

霜月「ありがとうございます。あとは葉月さんですが、もう彼女には敵意が無いようなので、無理に引き止める理由もありません。お好きにどうぞ。那月さんも夜永さんも彼女を監視するような真似はしないであげて下さい」

霜月はそう言い残して、雪乃を伴って闇の奥底へと消えるように、闇へと浸透した

夜永「.....じゃあ私も明日早いし、帰るね。ばいばい、那月さんに葉月さん」

手を振り、足取りを軽くして夜永はこの場を速やかに去った

打ち上げの解散を連想させるほど素早い人数の減りかたに那月は、

那月「葉月さんはどうされますか? 私は少し遊んでからホテルに帰りますけれど」

葉月「私は....」


【安価です。
1.葉月「....君影歩夢と話してから帰る」
2.葉月「....お腹すいたから夜ご飯買ってから帰ろうかな」

1の場合は那月と共に歩夢のもとへ行きます。
2の場合は那月と共に夜ご飯食べに行きます。
安価下。】

2

>>647 2.葉月「....お腹すいたから夜ご飯買ってから帰ろうかな」】

霜月への怨念が虚実だと分かったいま、葉月は歩夢や深雪に対して謝罪しなければならない

歩夢には度々と迷惑をかけ、深雪には11月の初めに死ぬ痛みを思い知らせている

自分がしてきた数々の悪行を水に流して貰えるほど都合の良い展開の見込みは薄い

具体的に何で責任を取ればいいのかと問われれば、

葉月「(日本人らしく切腹かしら....?)」

自分はおそらく、純粋な日本人ではない

その理由はプラチナブロンドの麗しい髪

どこかで外国人の血が入っているのだと思われる

ちなみに彼女の母親の髪の色は黒

彼女が十二師族時代の葉月の先祖返りだからこそ、創造という異能な魔法に加えて容姿も似ているのだろう

ただ、彼女にとってそんなことは気にする価値もない興味のない問題

自分が日本人であるかどうか

それだけが問題なのだが、2月中旬の外で黙考し続けるのはなかなかハードだ

葉月「....お腹すいたから夜ご飯買ってから帰る」

さっさと那月に今後の予定を話して帰ろうと思ったのだが、

【安価です。コンマ1桁
奇数・0:那月「私も行きます!」
偶数:那月「ではまた今度」
安価下。】

ほい


>>649 2:那月「ではまた今度」】

那月「ではまた今度」

余らせたカーディガンの袖を掴みながら、那月は手を振ってフラフラと放浪するかのように闇へと紛れた

あの食いしん坊な司波那月のことだからてっきり「ご飯!? 私も行きます!」などと言ったところを突き返そうと思ったらこの始末

せっかく突き返す台詞まで考えていたのが台無しになってしまった

止まぬ敗北感に葉月は、腹いせとして美味しいものを1人占めしようと、目立つ白髪を隠すために幻術で一般人の情報の鎧をまとい、大地を踏みしめる

霜月と違って葉月は廃れた一族

端的に言ってしまえば、貧乏なのだ

それもかなり極端な

加えて、彼女には一風変わった趣味がある

誰しも趣味にはお金を使ってしまう

彼女とて例外ではなく、早足だった足を1つのお店の前で止め、ショーウィンドウに飾られた万年筆に視線が奪われた

彼女は極度の万年筆フェチ

飾られた万年筆をガラス越しに眺め、値段表に目をやるが、あいにく手の届かない代物に葉月はガックリと項垂れる

ため息混じりの呼吸をしながら、本来の目的であるスーパーへ

ここでも残念ながらタイムセールはもうとっくに終わっている時間で、葉月は今夜の夕食用の食材だけを購入してお店を出た

葉月「(はぁ....もう、ほんと私って運が悪いんだから)」

霜月の血を引く人間は運が良いと噂で聞いたことがある

金銭面でも、運でも葉月は霜月に劣っている

劣等感に彼女は絶望しながら、そして君影歩夢と司波深雪にどう謝ろうかを黙考しながら帰路につくのであった


【安価です。この後について
1.葉月視点(謝罪について考えながら夕食)
2.那月視点(歩夢のもとへ)
3.歩夢視点(深雪のガーディアン役を終えたのち)
安価下。】


>>651 2.那月視点(歩夢のもとへ)】

葉月と空き地で平和的に別れた那月は足早に駅へと向かった

空き地最寄りの駅から、司波家の最寄駅へ

昨日同様にここで待っていれば、司波深雪のガーディアン役を務め終えた彼女の未来の実母がやってくるだろうと予測したのだ

待合室で空腹に耐えながらジッと待つこと20分

遂に、君影歩夢が姿を現した

昨日とは全く異なり、真面目な表情である

ここで会えたことを都合良く思っているようだ

那月は歩夢の言いたいことを聞かずもがな理解し、駅を出て歩夢をゆっくり話の出来る個室の飲食店へと連れ込む

いつも通り注文を済ませ(このとき歩夢は「ぇ...それ1人で食べるの?」と聞いてきたが那月は平然と端的に肯定した)、歩夢に質問の提示を促す


那月「教えられる範囲なら答えます」

歩夢「.....葉月と戦ったって本当?」

那月「本当です。正確に言うと私は対峙しただけですが」

歩夢「じゃあ誰が倒したの?」

那月「私が戦わされるはずだった女性です」

倒したのは紛れもなく未来の貴女だなんて言えるはずもなく、那月は言葉を濁した

ただそれだけでは歩夢が引き退るはずもなく、言及を続ける

歩夢「達也くんにとっての深雪ちゃん的なポジションの人ってこと?」

那月「おそらく」

歩夢「....そう」

これ以上は問い質せないと歩夢が引き下がったところで、注文した料理が運ばれてきた

那月の真剣そのものだった表情は一転し、年相応の女の子らしい反応を見せる

歩夢「....食べれるの? 私、食べないよ?」

那月「食べれますよー! これくらい」

歩夢「これ....くらい?」

いったい何処の世界にパスタ、お蕎麦、サンドイッチ、クロワッサンを「これくらい」と言える女子が居るのだろうかと歩夢は引き気味に首を傾げた

那月「これでも抑えてるんですけどねー? 本当はハンバーグとかも食べたいんですよ?」

歩夢「そ、そう....」

引き気味の相槌もそこそこに、

歩夢「(食べ合わせとか大丈夫なの....? 量も凄いけど、料理のチョイスも....ねぇ)」

心の中では那月の健康状態を心配していた

1人前のパスタに、1人前のざる蕎麦

そして1人前のカフェとかで出されるサンドイッチに、同じくオシャレな喫茶店で出されるようなクロワッサン

加えてハンバーグも食べたいと言っているのだから、歩夢はもう素直に関心した

歩夢「(よく食べる女の子は素敵だって言うけれど、これは....うーん....)」

素敵を通り越して病気でないかと疑ってしまうほど

しかし当人である那月は歩夢の心配なんて露知らず、行儀良く挨拶をしてからもぐもぐと美味しそうにハイペースで食していく

十数分後には4つのお皿の上に綺麗に盛られていた料理は跡形もなく姿を消し、那月は満足そうに微笑む


【安価です。
1.歩夢「いつもこれくらい食べるの?」
2.歩夢「....次の質問だけど、葉月とはどんな関係?」
3.歩夢「改めて聞くけれど、貴女は何者なの?」
4.那月「次はデザートですね」
5.その他
安価下。】

>>654 2.歩夢「....次の質問だけど、葉月とはどんな関係?」】

麺系とパン系を2つずつという偏った食事を終え、上機嫌が故な眩しい笑顔を見せられても歩夢は挫けず、真摯に尋ねる

歩夢「....次の質問だけど、葉月とはどんな関係?」

那月「公的には家柄の関係....だっけ」

歩夢「う...うん? 家柄の関係?」

那月「はい」

歩夢「それは.....」

それは十二師族絡みか、と言いかけたところで歩夢は自制した

十二師族という十師族の元となった組織は公に公開されておらず、存在を知っているのは極一部

身元不明な少女に無用心にも尋ね、好奇心を持たれてはたまったもんじゃないとギリギリのところで自主規制に成功したのだが、

那月「十二師族絡みです」

歩夢「.....!」

何食わぬ顔で秘匿情報を口にした少女に歩夢は咄嗟に立ち上がってしまうほど衝撃を受ける

歩夢「那月....どこまで知ってるの.....?」

那月「少なくとも歩夢さん以上のことは」

歩夢「何者、っていう質問には答えてくれないのよね?」


【安価です。
1.那月「それは....すみません」
2.那月「....もう隠す必要もありませんね」
1の場合は回答拒否、2の場合はある程度(那月が歩夢と達也の娘であること程度まで。産んでくれた母が深雪であること辺りは伏せます)
安価下。】


>>656 1.那月「それは....すみません」】

改まった質問に那月は俯き気味に、

那月「それは....すみません」

と、那月は沈痛な面持ちをして謝った

その理由は、那月が霜月と交わした約束

司波那月という存在が2095,6年で関与した人の記憶を操作しない代わりに、歩夢に自分の正体を知られてはならないというもの

娘であることは実母にのみ知られてはならない

達也や深雪,水波にはバレてもいいと解釈出来るが、那月がそもそもこの時代にやって来た目的が話にのみ聞いていた君影歩夢を知るためなので彼女の心境は複雑だった

本当は娘であると打ち明けて、甘えたい


これまで母である深雪も、父である達也も仕事で那月が満足するほど構ってくれなかった

那月が自力で君影家には娘が居て、その娘が実の母であることを突き止めてからは2人に甘えられるようになったが、歩夢に甘えたいという感情もまた抱くようになる

この15年間で様々な経験をした

とても一晩では話きれない

だが、那月は少しでも自分が歩んできた人生について知って貰えれば充分だった

一晩もいらない

1時間どころか、15分もあればいい

しかし那月は過去に行く代わりの条件で、那月は歩夢に娘として甘えることは出来ない

正体不明な少女として、訝しげな目を向けられながらでしか話すことが出来ないのだ

もしここで「貴女の娘です」と言ってしまえば、そこでタイムスリップも終わり、那月は2095,6年に存在していなかったこととされてしまう

絶対に自分の正体は明かせない

その意思の表れが、現在の那月である


那月「肝心なことばかり話せなくてすみません」

歩夢「....誰にでも知られたくないことはあるからね。確かに気になるけれど、今は気にしないでおくよ」

那月「ありがとう....ございます」

見えない壁のある会話に再び意気消沈した那月だったが、

歩夢「あ、デザート来たよ。これ食べてさっきみたいに笑って」

那月「.....はい」

フルーツをふんだんに使った2枚のパンケーキ、バニラとチョコのアイス、抹茶パフェの3品

これらも全て那月のものだ

一口、また一口と甘いものを食べると那月の顔色も良くなり、「えへへ」と笑うようになる

食べものを与えれば上機嫌になることを確信した歩夢は先ほどの引き気味な表情から打って変わって暖かいものだった


【安価です。
1.那月「歩夢....さん。この後って空いてますか?」
2.那月「それではまた今度」
3.歩夢「もう1つ聞きたいんだけど、貴女は私たちの味方?」
4.その他
安価下。】

>>660 1.那月「歩夢....さん。この後って空いてますか?」】

計7食をお腹に入れてもなお、那月はメニュー表に目を奪われていた

声にこそ出してないが、口は「おいしそう....」と動いている

あんなにも華奢な体の何処に料理が入るのか歩夢は疑問に思う

歩夢「(毎日このくらい食べてるのかな.....)」

だとしたら、どうして太らないのだろうか

女子が女子へと向ける妬みではなく、理論的な話で不思議に感じてしまう

歩夢「(女性の身体は神秘って本で見たけど、那月の場合は神秘を通り越して謎....だよね)」

また1つ謎が深まった那月に歩夢はいつか正体を見破ってやるという視線を送ったが、残念なことに当人はメニュー表に釘付けになっていてそれに気がつくことはなかった


それから5分後、那月は苦渋の決断をしたかのようにメニュー表を閉じ、元の場所へと戻した

歩夢「....まだ食べたいんだったら頼んでもいいよ?」

那月「い、いえ、大丈夫ですっ」

恐縮そうに両手を顔の前で振って、拒否反応を見せる那月には思わず歩夢もクスッときてしまった

歩夢「遠慮しなくてもいいんだよ? 私の時間くらいあげるから。あとここのお代もね」

那月「それは私のポリシーに反するのでダメです! .....でも、時間を頂けると言うなら」

歩夢「?」

那月「この後って空いてますか?」

可愛らしく、歩夢の反応を伺いながらそう尋ねる那月に歩夢は首を振ることは出来ず、縦に振った



結局、お代は年上である歩夢が払った

最後の最後まで、

「ほとんど私の飲食費じゃないですか! だから私が払いますっ」

と、熱く伝票を歩夢から奪おうとした那月も歩夢が頭を撫でて宥めれば大人しくなる

アイスティーだけを注文していた歩夢にとっては思ってもみなかった痛い出費だが、年上としてのプライドを守るには願ったり叶ったりだ

お店を出た2人は、

歩夢「それで、どうするの?」

那月「えっと....」


【安価です。
1.那月「歩夢さんの家....行ってもいいですか?」
2.那月「すぐ近くの公園で少しお話しましょう」
3.那月「適当に歩きながらお話しましょう」
安価下。】

>>664 2.那月「すぐ近くの公園で少しお話しましょう」】

那月「そこの公園で少しお話しましょう」

偶然お店の近くにあった公園を指差した那月に歩夢は首を縦に振り、付き添う形で公園を歩く

しかし、2月中旬とだけあって夜風が吹かずとも空気が2人の体温を奪う

そこで那月は、近くにあったベンチに座ることを提案した

那月「歩きながら障壁を張るのは難しいですが、座ったままなら障壁を張れます」

移動を伴い、外気を遮断する障壁を展開し続けるのは“通常時”の那月でも困難を極める

そこで那月は移動を伴わない状態での障壁展開を望んだのだった

この提案に歩夢は快諾し、十数mの位置にあった3人掛けのベンチに2人は1人分空けて腰をかけた

その直後、2人の周りに音と外気をシャットアウトされる障壁が那月によって開かれる


盗聴を心配する必要がなくなった途端、歩夢は腹を割った話を切り出した

歩夢「私が魔法の使用を制限されてることも知ってる....んだよね」

那月「はい」

突然な話にも那月は動揺を見せず端的に、神妙な表情で答えた

すると歩夢は「はぁ」と一息つき、

歩夢「....そっか。那月はなんでも知ってるんだね」

見透かされていることを前提として、那月に微笑みを向けた

だがそんな歩夢に対して、未だ神妙な面立ちの那月は否定の言葉を返す

那月「私が知ってるのは.....聞いた話だけです。実際には何も知りません」

歩夢「聞いた話....ねぇ」

流星群の酷使による寿命の短縮について知っているのは極一部

思い当たるのは両手で収まる程度だ

そしてその全員が歩夢と深い関わりのある者

簡単に口を開くとは思えない

那月の正体にまた一歩近づいた歩夢は経験上、それ以上の言及はしなかった


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:那月「あの....歩夢さん」
偶数:那月「....少し見せたいものがあります」
安価下。】

てい


>>667 3:那月「あの....歩夢さん」】

口を滑らせたつもりはない

だから後悔もしていない

ここで歩夢がもう少し踏み込んでいたのなら、それもまた運命で受け入れる覚悟は出来ていた

これ以上、私に

これ以上、自分に

これ以上、司波那月という人間に

霞をかけるのは一生の後悔に繋がる

後悔する選択をしてしまえば、そこで終わり

過ぎ去ってしまった時は戻せない

たった1人を除いて

幸運なことに、その1人が先祖であった

たまたまその人は、自分を哀れんでくれた

その結果、一生に一度の機会を得ることとなる

チャンスを無駄にすることは誰だって望まない

那月とて、例外ではない

後悔をしない選択


それは、強い信念を持って臨む目的の達成

那月「あの...歩夢....さん」

歩夢「なに?」

那月「....もう少し、寄ってもいいですか?」

歩夢「寄るだけとは言わず、膝枕だってしてあげるよ。タイツの上からになっちゃうのが申し訳ないけどね」

那月「.....! いえ、十分すぎるほどです」

歩夢「はい、どうぞ。お好きなまでに寛いで」

那月「し、失礼します」

緊張を表情に出しながら、ゆっくりと那月は歩夢の膝の上に頭を乗せた

タイツ越しではあったが、太ももの柔らかな感触と、何より相手が歩夢であることに那月は安心感を覚えた

歩夢「どう....かな? 膝枕とか初めてするんだけど....」

那月「誇っていいと思います。お金を取れるほどに」

歩夢「お金を取るって.....生々しいなぁ」

那月「それだけ良いってことです」

歩夢「うーん....もっと具体的にお願い」

那月「15分で5000千円」

歩夢「そっちの意味での具体的に、ではなく」

那月「あとはオプションで頭を撫でたり....」

歩夢「つまり撫でろってことね」


仕方ないなぁ、という微笑ましげな表情をしながら歩夢は那月の頭を撫でた

優しく、ゆっくりと

那月「ん....」

幸せそうに口元を歪ませる少女を見て、歩夢は無意識に呟く

歩夢「私に....もし未来があれば、娘にもこんなことをしてあげたいな」

思わず声を漏らしてしまった程度の声量だったとはいえ、その台詞は那月にしっかりと届く

那月は小さく、また別の意味がこもった笑みを浮かべて、

那月「私が保証します」

歩夢には届かない程度の声量で、返答をした


【安価です。
1.那月「....ありがとうございました」
2.那月「....もう少しこのままでいいですか?」
3.歩夢「ねぇ、那月」
安価下。】

1


>>671 1.那月「....ありがとうございました」】

それからしばらくの間、那月は謎の少女として、歩夢の膝の上に頭を置いて歓談を続けた

それは日付が変わる手前まで続き、その甲斐あってか、

歩夢の表情からは那月に対する不信感は消え、

那月の表情からは遠慮が無くなっていた

ちょうど話の区切りも良いところで那月は歩夢の膝の上から離れ、歩夢の真正面に立つ

那月「今日はありがとうございました。ささやかですが、私からのお礼です」

歩夢「お礼....?」

那月「はい。あそこの池に行きましょうか」

那月が歩夢を誘導したのはベンチからそう遠く離れていない少し大きめな池

深夜とだけあって池の水面は深い闇だが、那月の魔法により水面はガラリと景色を変えた


闇に浮かぶ燦然な星々

その中でも一際目立つのが満月

夜空のような景色を魅せる水面を見た歩夢は、

歩夢「....反射、じゃないよね?」

那月「反射ではこんなくっきりと星も月も映りませんよ。それに、今日は満月ではありませんし」

恐る恐ると尋ねてみたが、返ってくる言葉は予期していたものだった

歩夢「なら、この魔法は?」

那月「私です。この月が、司波那月です」

歩夢「司波....? やっぱり達也くんと深雪ちゃんの....うっ....」

突如として訪れた胸の奥の表現できないような苦しみに歩夢はその場で膝をついた

歩夢「な、那月....これは....」

那月「輝かしい夜で、カグヤです」

歩夢「かぐ....や...」

魔法名を復唱した時点で、歩夢はその場で意識を失った

歩夢が地に伏せるのを見届けた那月は、

那月「....ごめんなさい、お母さん」

慈悲深く、歩夢に謝罪を述べた


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:翌日
偶数:???
安価下。】

てい


>>674 7:翌日】

歩夢「ん....あれ....朝....」

カーテンの隙間から差し込む日の光で目を覚ますこともなく、体内時計が機能した

デジタル時計は6時30分を表示していて、あと1時間と少しもしたら学校に行かなければならないという学生特有の感覚に狂いはない

しかし、何かが違う

自分は何か、重大な違和感を見逃している

ベッドも、カーテンも、絨毯も

サイドテーブルも、ライトスタンドも

見える物に違和感らしい違和感は見当たらない

とすれば、違和感があるのは自分自身でないかと歩夢は自分を疑う

髪の色、長さは変わらない

寝間着も変わらない

身長も体重も、他の場所も違和感と言えるほど変化しているようには見えない


歩夢「(何処が違うの....?)」

目を覚ましてから約10分

景色と容姿の確認は済ませた

だが、違和感は見つからなかった

歩夢「(昨日の朝はこんな違和感はなかった....。ということは、昨日からの行動を思い出せば.....)」

自分が何をしたかを振り返ることによって違和感の正体に気がつくかもしれない

そんな望みに託して、歩夢は鮮明に記憶を思い浮かべる

───昨朝はいつも通りの時間に起きて、準備して、学校に行った

───学校では特に...いや、給仕用の女性型ロボットにパラサイトが乗り移ったんだっけ

───まぁでもそれに敵意はなく、極めて安全な物であるそうだからいいとして、

───学校から帰ってきて、咲夜と少し話して、深雪ちゃんのガーディアンをやって欲しいって言われて....

───ピアノとマナーのレッスンをしてる間に達也くんやお母さんは葉月と闘ったんだよね

───それで、そのあとは....あ、那月とご飯に行ったんだ

───そしてその次に公園で膝枕をしてあげて、.....別れて、帰ってきた

歩夢「(かなり異常な1日ではあったけど、今の違和感に繋がることはない....かな?)」

1日の行動を振り返っても違和感の正体に気がつくことはなかった

今出来る全てのことを試したが、何よりも手掛かりが少なすぎる

八方塞がりの状況で、


【安価です。
1.学校へ
2.学校を休んで違和感の正体を探しに行く
安価下。】

2

>>677 2.学校を休んで違和感の正体を探しに行く】

セオリーな状況打開策と言えば、昨日訪れた場所を再び見て回ることだろう

現地に足を運べば何か発見があるかもしれない

そんな希望を胸に、私は携帯端末を操作する

歩夢「ん、んん」

電話を掛けたのは学校の事務室

声を調整し、事務員に適当な理由を言い繕う

香夜(歩夢)「1-Aの四葉香夜です。本日は少し体調が優れないので....あ、はい....そうです。病気の方が......はい、ではお願いします。失礼します」

よし、完璧だ

四葉香夜の病弱設定を活用できた

事務員さんも納得してくれたようだし、当面は大丈夫

学校を休んでまで違和感の正体を探しに行動するのはともかく

まぁ、結果的に調査に全力を注ぐという方向ね

方針も決まったところで、私はようやくベッドから降りた

学生諸君とばったり鉢合わせないためにも、家を出る時間は....9時かな

今朝はゆっくりと優雅な朝が過ごせそうだ



歩夢「よし」

8時50分

私は全ての準備を終えた

特に食事はゆっくりと、わざわざバルコニーで、優雅に食した

お陰様で私の身体は完全に冷え切っており、暖房器具をフル活用する羽目になっている

あと10分で体温が平熱まで戻るかと言われると微妙なところであり、準備が終わっていないと言われればそれまでなのはご愛嬌

ともかく、それ以外は準備を終えたのだ

あとは予定時刻を待つのみなのだが、

歩夢「10分かぁ....」

何をしても微妙な時間

読書をしても、勉強をしても、ゲームをしても

私の数少ない趣味の1つである料理さえ、10分という時間制限の中では無力である


何もしないをして10分を茫然と待つ

そんな矛盾した行動をするのが得策だと思われたが、今朝はまだ例の薬を服用していないことを思い出す

あの現代に生きる天才、瓊々木夜永さんの作った君影歩夢専用の薬

魔法の使用による身体への負担を激減するというもの

ただ、この薬はあくまで私専用であって、深雪ちゃんや達也くんは服用したところで効果が見られないそうだ

受験者に個体差がある。そんなことらしい

なお、私と二心同体である一蓮托生の身、瓊々木咲夜が服用しても効果が見られる

霜月の目に関しては精神が左右する(私が使えば両目、咲夜が使えば左目)のに対して、薬は身体を選ぶようだ

まぁ、精神に効く薬なんて聞いたことがないし、当たり前といえば当たり前なのかもしれないけど

さて、そんなことをしていると時間はあっという間に過ぎていき、時計は8時59分を表示した

今から玄関に行き、靴を履き終えた頃には9時を過ぎている

学生なら、遅刻をしていた


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:昨日の行動を辿る
偶数:歩夢「ん....?」
安価下。】

いよっ

>>681 0:昨日の行動を辿る】

家を出た私は、洋館へと向かった

ただの洋館ではなく、昨晩に深雪ちゃんがピアノとマナーのレッスンをした場所だ

お嬢様の嗜みとしてかかせない習い事

今思えば、私は習い事をしたことがない

ピアノも、マナーも、水泳も、習字も、塾も

霜月は今や陰の影の存在

私の立場はお嬢様でなく、善良なる一般市民

それでも習い事をしたことないって言うのは、

よほど私が習い事を嫌ったか

両親が私を甘やかしすぎたのか

習い事をするまでもなく出来てしまうからなのか

考えるまでもなく、1か2の二択に絞られた

最後のだけはあり得ない

夜永さんじゃないんだから

で、答えはおそらく1と2の両方

私が嫌がり、両親はその意見を取り入れた


...私が言うのもなんだけど、甘すぎませんかねぇ

確かに習い事の時間を読書に向けられたのは感謝しても仕切れないほど嬉しいけれど、なんだか腑に落ちない

深雪ちゃんがやってるんだったら、今からでも習い事しようかなぁ

昨日、ガーディアンとして訪れたこの洋館で何故か私がピアノを弾いていたり、マナーの試験をやったりして楽しかったし

深雪ちゃんは「歩夢にこんな特技が....」と驚いていたけれど

教室の先生も歓迎してくれそうな雰囲気を───

って、こんなことしてる場合じゃないんだった

私は習い事よりも今は優先してすべき事がある

違和感の正体について探らなければ

深雪ちゃんの通う教室は夜営業

いやらしい意味は無く、そういう物なのだろう

なので中に這入ることも出来ず、私は外観だけを脳裏に焼き付け、踵を返した


【安価です。
1.飲食店へ
2.公園へ
安価下。】

>>684 2.公園へ】

歩夢はそのまま昨晩、那月と別れた公園へと足を運んだ

街頭に仕掛けられた監視カメラを欺きながらの移動は流石に一苦労したが、何も対処しないで警察に追われるよりはマシだろう

そうしてたどり着いた公園は至って普通だった

何の違和感も無い、普通の公園

最後に別れたこの場所に“違和感”のヒントがあると踏んでいたのだが、この有様ではアテは外れたようだ

歩夢「(ここにも無いとなると、....やっぱり私の思い過ごし? )」

どれだけ見渡しても、俯瞰的に見ても、違和感に繋がるような物は見られない

今度こそ本当に八方塞がりとなった歩夢は“違和感”の正体を精神的な病だと一時的に断定し、公園を散歩することにした

東京都内とはいえ、ここは自然に恵まれている

気分晴らしをすることにより、違和感という憑き物が落ちてスッキリする可能性に賭けたのだ


【安価です。コンマ1桁
2・6・0:歩夢「あれは....外国人.....?」
1・5・9:歩夢「ど、どうしてここに....」
3・4・8:歩夢「ん、あれ....」
7:歩夢「メール....?」

上3つはそれぞれ別の人に会います。
安価下。】

てい

>>686 7:歩夢「メール.....?」】

空気が澄んでいる

その意味は東京育ちの歩夢にもよく理解できた

しかし、空気が美味しい

それは一体どういう意味なのか

四葉本邸のような自然に囲まれた地で吸う空気は確かに澄んでいたが、味は変わらない

あれでは物足りなかったのか

更に、もっと自然に溢れる場所へと行けば理解できる日は来るのだろうか

残り少ない2,3年という余命宣告でまた1つ、やるべき事が見つかった

携帯端末のメモ帳に

『空気 美味しい 探す』

と、単語を綴ってまた1行加える

これで4行になった

他の3行は面白さで言えば全く面白くない

至って真面目な内容だ

『達也くんともう一度デートしたい』

『深雪ちゃんや水波ちゃんと遊びに行きたい』

『家族で遊びに行きたい』

そんな、つまらないことだ

残り少ない寿命をどう有効的に使うか

それについても考えて行かなければならない


メモ帳に書かれた4行を目にし、そんなことに思いふけているとメールが届いた

差出人は誰だろうか

大方、大手の通販会社からのメールだろう

今まで私が購入してきた商品の傾向からして、

我が社はお客様にこの商品をお勧めします!

と、言った内容

ちなみに私の着信履歴のほとんどはこれだ

たまに兄さんや達也くん、深雪ちゃんから来る程度

水波ちゃんからは主にSNSアプリでの着信

うーん、なんだろうこの差は

たった1年の差で相当な差を感じてしまう

なお、私のSNSアプリの『友達』という欄には水波ちゃんしか居ない

みんなやってるのかなぁ....

機会があれば連絡先の交換も考慮しながらメールボックスを開くと、新着に『司波 深雪』の文字があった

なんだろう、と思いながらメールを開く

歩夢「.....」

内容は簡潔に言ってしまえば、

四葉香夜の設定を使ったズル休みなのか

本当に風邪をひいてしまったのか

このどちらであるか。そういう問い尋ねだった

私は一切迷わず前者の設定であることを強調して、心配させたことへの謝罪と共にメールを送信した

.....嘘は言ってない

今回の場合、私の罪は関係無いんだから


【安価です。
1.もう少し公園を歩く
2.他の場所へ
安価下。】

1


>>689 1.もう少し公園を歩く

安価です。コンマ
01〜20:歩夢「外国人....?」
21〜35:歩夢「ど、どうしてここに...」
36〜45:歩夢「外国人....?」
46〜60:池
61〜80:歩夢「ん、あれ....」
81〜98:咲夜と話す
ゾロ目:真夜から連絡】

てい


>>691 04::歩夢「外国人....?」】

その後も変わらず、私は公園の敷地内を歩いた

庭園を見て回ったり、遊具で遊ぶ子供を見たり

大きな人口芝生の広場では、

父と息子でキャッチボールをしている姿

そして母と娘はその2人を日陰で見守る

そんな光景が見られた

実に楽しそうで、微笑ましい

ついつい傍観する側である私も高揚してしまう

しかし、世の中には現在進行形で落ち込んでいる人もまた存在するのだ

???「はぁ....」

あの家族とは対照的に、ベンチで項垂れる女性


身長は私と同じくらい

体型も比較的....いや、かなり良い方だ

腰手前まである長い髪は真っ白で、見え隠れしている肌も雪のように白い

その女性は、なんかもう色々と白かった

外国のモデルだろうか

なんかの雑誌の収録で日本に来てるのかな

それにしてもあの落ち込みようは相当だ

慣れない日本で失敗したとか?

しばらくその女性を観察していると、

歩夢「(ん....?)」

手には小さく細い高級感漂う箱が握られていることに気がつく

アレが原因で落ち込んでいるのだろうか

それとも別のこと?

うわぁ....すごく気になる

けど、私のようなコミュ障が話しかけても相手が迷惑になるだけだよね

でもせっかく日本に来たのなら楽しんで行って貰いたいし.....


【安価です。
1.話しかける
2.その場を立ち去る
3.観察を続ける
安価下。】

1

>>694 1.話しかける】

つい1年前の私なら同情後、見捨てていただろう

しかし、私はこの1年で劇的に変化を遂げた

友達だって出来たし、親友だって出来た

そして何より、ステータス、もしくは肩書き的に私は1人の男の“彼女”なのだ

もう人妻と言ってもいい。婚約したわけだし

まぁまぁ、その辺は謙虚に彼女と言っておこう

今の私はコミュニケーション能力に溢れている

人助けくらい、お茶の子さいさいである

近い将来へと大きなフラグを立てた私は、例の女性のもとへ一歩踏み出した


未だ彼女は落ち込んでいる

私は勇気を持って、話しかけた

歩夢「は、ハロー。Very cold everyday」

....おかしいな、私、英語できるはずなのに

急に「とても寒い毎日」なんて言われたら変人だと思われてしまう

やはり自分はコミュニケーション能力に欠けている存在だったようだ

そう改めて実感したところで、

歩夢「(.....さて、どうしたものか)」

自分から話しかけてしまった以上、相手せずにこの場から逃げるというのは人間としてどうかと疑われてしまう

自らの過ちの結果、自分が苦しむ

自業自得とはよく言ったものだ

なお、女性はこちらに視線さえ向けようとしない

もし英語圏外の人だったとしても視線くらい合わせてくれるはずなのに


もしかして私の声が小さく、風に流されてしまったのだろうか

と、この場から逃げ出す理由を見出した直後、

???「はぁ....」

深いため息

私が変に絡んだことによる呆れたため息なのか

それとも、彼女の個人的な理由なのか

私が話しかける前にも同様のため息をしていたことからして、後者であると考えるのが普通

しかし世の中はそう甘くない

いつだって悪い方へと転ぶのだ

???「誰...ですか.....。.......あ」

深いため息は、しっかり私のことを認知した上での前者であることを意味していた

失礼だとかは置いておくとして

外国人だと思わしき彼女は問い尋ねと共に顔を上げた

日本人らしい顔立ちからして、ハーフかクォーターだと思われる

純粋な外国の方ではないようだ


次に、問い尋ねの台詞

訛りのない日本語であった

日本人が英語を話し、外国人(?)が日本語を話す

とても奇妙な会話のキャッチボールである

そして、問題の「.....あ」について

彼女は私の顔を見た瞬間、無意識にそう漏らした

まるで私のことを知っているかのように

しかし生憎、私は彼女のことを知らない

小学校の時も、中学校の時にも出会っていない

つまり彼女は一方的に私のことを知っている

「誰ですか」という問い尋ねに私は名乗る必要がないのだ

歩夢「私のこと、知ってるんですか?」

万が一に備えて質問を質問で返してみたが、

???「......」

彼女は黙秘を貫き通した

沈黙は肯定と解釈し、続けて問う

歩夢「どうされたんですか? 落ち込んでいるようですけれど」

どうして彼女は私のことを知っていのか

それ以上に私は、彼女が落ち込んでいる理由が気になった

???「......」

この質問に対しても彼女は黙秘か

それなら───

と次の質問を口に出しかけたところで、

???「.....君影歩夢」

彼女は弱々しい声音で私の名前を表に出す

やはり彼女は私のことを知っている

そう確信したのと、ほぼ同時だった

彼女が私の想像もしない台詞を口にしたのだ

???「学校は?」

彼女は君影歩夢=四葉香夜であることさえも

知られていた


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:正直に話す
偶数:はぐらかして答える
安価下。】

てい

>>699 3:正直に話す】

現在私が彼女へと向けるのは同情の念ではない

疑いの念だ

私が君影歩夢であること

君影歩夢=四葉香夜であること

この2つを知っている者は極身内に限られる

いや、那月も知ってるんだっけ

まぁそれはともかくとして、

歩夢「ちょっと事情がね」

???「事情?」

歩夢「....何か違和感を感じて、それの調査」

???「違和感.....あぁ、カグヤか」

カグヤ.....?

何処かで聞いたことある気がする

竹取物語とかではなく、魔法名として


うーん....何処だったかなぁ

私が生真面目に1人で悩んでいると、

???「君影歩夢、深追いはしないで。.....貴女が知ることで悲しむ人も居るのよ」

歩夢「?」

???「....どうしても知りたいって言うのなら、瓊々木咲夜に訊くといいわ」

歩夢「咲夜のことまで....」

???「私はお勧めしないけどね」

そう言いながら、彼女は立ち上がった

???「また今度、....私から謝りに行くわ」

謝る?

私が彼女に謝られることなんてあっただろうか

私が謝る、なら分かるけど

急に変な英語で話かけてごめんなさい、って

歩夢「最後に1つ」

立ち去ろうとする彼女を私は引き止めた

歩夢「貴女、名前は?」

私の問いに、彼女は一言で答える

葉月「8月よ」

1年数ヶ月前と全く同じ台詞を言い残して、葉月は去って行った

歩夢「......」

あれが葉月か、と私は認識を改めた

普通に良い人かよ


【安価です。
1.葉月の後を追う(一緒に行動)
2.咲夜と話す
3.外を歩き回る
4.家へ

安価下。】

1

>>701 1.葉月の後を追う(一緒に行動)】

話に聞いていた通り、葉月にはもう敵意がない

中3の修学旅行や昨年の11月初旬とは大違いだ

あの時はもっと因縁深い復讐の執念を感じた

しかしもうそれは、憑き物が取れたかのように綺麗さっぱりと無くなっている

今度改めて謝罪もしてくれるようだ

律儀に詫びまで入れてくれる性格から、彼女がそれなりの環境で育ってきたことが伺える

つい昨日まで危険視していた彼女も普通の人間であると分かった以上、

達也くんや深雪ちゃんが創造の世界で1度殺されている件について私はどう彼女を責めるべきなのか

創造の世界とはいえ、人殺しは人殺しだ

全てを水に流せるほど私は寛容ではない

まぁ、被害者である2人が謝罪を受け入れれば私が口を出すこともないんだけど

......もう少し葉月と話しておくか

出来る限り穏便に事を済ませたいのは私も同じ

穏便に、かつ納得出来る手段で和解を望む


私は葉月の背中を追った

幸いなことに彼女はかなり目立つ

加えて、葉月はまだ視える範囲に居た

少し駆け足で追えば、すぐに追いつく

歩夢「はぁ....はぁ....」

約100m

私は6割ほどの力を使い、走った

しかしそれでも私のような純文系には辛く、すぐに呼吸を乱してしまう

でも、目的は達成できた

葉月に、追いついた

葉月「.....謝罪ならまた今度にしたいんだけど」

歩夢「その件も...含めて、今から少し話せない?」

葉月「無理。私、貴女ほど暇じゃないから」

歩夢「......」

葉月「.....はぁ。少しだけよ」

あら、ちょろい

ちょっとだけツンデレなのかな?

葉月「先に言っておくけれど、出来れば....お金を使わないところにして」

歩夢「ぁ...うん」

人にはそれぞれ事情がある

ここは踏み込むべきではない

そう察した私は、


【安価です。
1.喫茶店(歩夢が奢ります)
2.歩夢の家(四葉香夜の家)
3.葉月の家
4.公園
安価下。】

>>702 2.歩夢の家(四葉香夜の家)】

歩夢「私の、四葉香夜の方の家はダメ?」

寒空の下で話すのは気が散って仕方がない

適当な喫茶店に入る選択肢も、彼女がお金を使いたくないと言っている以上、無理強いは出来ない

お茶代くらい私が出してもいいんだけどね

でも、葉月は人に恩を売られるのが嫌いなようだから

他に落ち着いて話せる場所といえば

四葉香夜の方の、住まいに限られる

私の提案を葉月は端的に、

葉月「.....それでいいわ」

と、了承した

少しの間は恩について考えていたのだろう

迷惑になるんじゃないか、と

きっちりしてる人だなぁ

私とは正反対だ

歩夢「じゃあ、行こっか」

葉月「.....」

葉月は言葉ではなく、行動で返事をした

ー四葉香夜 家ー

一等地に建つ大きなマンションを下から眺め、

葉月「....税金の無駄遣いだ」

そう葉月は小さく忌々しげに呟いた

歩夢「十師族に税金は入ってないよ?」

多分だけど、と私は心の中で付け足す

いや、でも魔法科高校が国立である以上、やはり国は魔法師の存在を大切にしている

つまり、日本の魔法師を総統する十師族にはそれなりにお金が入ってるのかも

.....闇が深そうだな

これ以上の詮索は止め、葉月を部屋に通した

マンションの最上階

東京の景色が一望でき、天気が良ければ富士山だって見える

歩夢「適当に掛けて」

葉月「う、うん.....」

とても緊張しているご様子

私はキッチンにて紅茶を淹れ、お茶菓子と共に葉月に差し出した

葉月「あ、ありがとうございます.....」

歩夢「緊張しないで。別に何もしないから」

というか、たぶん私は葉月に勝てない

何もできない、が正しい

歩夢「じゃあまずは.....」


【安価です。
1.歩夢「さっきから気になっていたんだけど、その箱って何が入ってるの?」
2.歩夢「謝罪、についてだけれど....」
3.その他
安価下。】


>>708 1.歩夢「さっきから気になっていたんだけど、その箱って何が入ってるの?」】

本題の謝罪について、と言おうとしたのだが、

歩夢「さっきから気になっていたんだけど、その箱って何が入ってるの?」

と、無意識に訊いてしまった

私は気に留めることすら出来ないようだ

自制に乏しい私のことはさておき

箱というのは、他でもない葉月の持っている箱

それからは高級感が漂い、気品さが感じられる

加えて、銀髪の美しい少女の所有物なのだから、何処かの国宝だと勘違いしても不思議ではない

葉月「あぁ....これは....私の趣味、みたいな物」

ここに来て初めて、葉月は例の箱を手放した

机の上にて、丁重に箱が開かれる


歩夢「ん.....ペン?」

箱の中身は1本のペン

当然それは、箱以上に高級感のある代物

素人目から見ても、一目瞭然である

そこら辺の文房具屋さんには売っていない

専門店で取り扱うような、万年筆だ

このような物を趣味として収集するだなんて

さすがお金持ちはやることが違う

葉月「勘違いしているようだから言っておくけれど、私はお金持ちなんかじゃないわ」

歩夢「いや、でも....この万年筆、明らか高い物だよ?」

葉月「えぇ、これは高いわ。.....だから、これから食費を削る」

一国の姫と言われても不思議に思わない彼女から発せられた言葉に私は耳を疑った

まさか食費を削るだなんて言葉が出るとは.....

お嬢様・お姫様のは縁のない言葉だと思っていたのに

ある意味、幻滅である


しかし当人がそう言うのだから、信じるしかあるまい

葉月「バイトもやらないと」

歩夢「ばい....と....?」

葉月「銀行強盗でもすると思っていたの?」

歩夢「.....ううん、なんでも....ない」

十二師族の1つであった葉月がバイトを?

これまで豪遊をして、その報いだろうか

葉月「豪遊なんてしてないわ。....するお金も無かったし。毎日カツカツの見苦しい生活よ」

歩夢「で、でも...十二師族の1つなんだからそれなりに....」

葉月「それはもう昔の話。今ではすっかり堕ちるところまで堕ちてる。霜月とは違ってね」

歩夢「......」

返す言葉に悩んでいると、

葉月「まぁ、別にいいのよ。これも人生だし」

そうやって葉月は笑ってみせた

思ってたよりも彼女はずっと前向きである

前を、大きく寛大に見据えている


葉月「万年筆はあげられないけれど、司波達也、並びに司波深雪にもそれ相応のお礼はさせて貰うつもり。期待して待ってて、って伝えてくれる?」

歩夢「あ...うん。それくらいなら....」

でも2人が喜ぶようなお礼とは一体何だろうか

夜景の綺麗な場所でディナーとか?

食べ物で喜ぶのかな、あの2人

那月だったら喜びそうだけど

あとは、うーん....やっぱり2人きりの時間こそが、彼らにとって最大のプレゼントだろう

迫る3月25日

この日は司波深雪の16歳の誕生日

2人きりの時間を提供するべきだろうか

あとでフレンチ料理やらのお店を探しておこう

歩夢「ちなみにだけど、この万年筆ってどれくらいするの?」

葉月「20万くらい」

歩夢「はっ....!?」

万年筆1本が20万!?

せいぜい1万くらいだと思っていました

ボールペンなら100円くらいで買えるのに

専門店ではなく、文房具屋さんやコンビニで

葉月「本当は100万ちょっとするのが欲しいんだけどね。.....どうしてもそれは手が届かなくて」

この万年筆5本分以上の万年筆がこの世に存在しているのか.....

一体全体、何が違うの?

漆とか?

葉月「それはコツコツとバイトしてお金を貯めるからいいとして、もうこの話はお終い。次は?」


【安価です。
1.謝罪について
2.バイトについて
3.創造について
4.昼食
5.その他
安価下。】

>>713 4.昼食】

歩夢「本題の、葉月がどうやって達也くんと深雪ちゃんに許して貰えるか」

葉月「許して貰えるか、ねぇ」

意味ありげに復唱し、彼女は口元を歪ませる

葉月「随分と協力してくれるのね。私はつい昨晩まで、貴女のことを殺そうと動いていたのに」

歩夢「それは勘違いだったんでしょう? 仕方がないとは一概に言えないけれど、こうやって話してみて分かった」

貴女は悪い人じゃない

そう伝えると、彼女は怪訝そうな目で私を見る

翡翠色の瞳で、強く、睨むように

葉月「後悔するわよ?」

歩夢「良い意味で後悔させて。どうして私は今まで貴女に出会わなかったのか、って」

葉月「友達になれた、とでも言いたいの?」

歩夢「多分だけどね」

葉月「.....お人好しね。馬鹿みたい」

はぁ、と息を吐いて葉月は目を閉じた

至って真剣だった表情はもう消えている

代わりに、彼女は笑みを浮かべていた

安心を表現したような、笑みを


葉月「これから貴女がどうやって“アレになる”のか。近くで見せて貰うわ。それまで、せいぜい死なないことね、君影歩夢」

あぁ、でもその前に司波達也と司波深雪に許して貰わないといけないわね

と、葉月は意味深げな台詞を口にした

アレになるって.....?

創造という魔法は未来まで観えるのだろうか

こんなことなら那月からもう少し詳しく聞いておくんだった

“創造”という世界を創る魔法について

これでは気になって夜もまともに寝れない

今日はズル休みだが、明日は本当に休むことになる

それは一大事だ

というか、たぶん怒られる

「学生は学生らしく学校行きなさい」

などと言われることは目に見えている

2年くらいのタダ働きに、更に上乗せ

ほぼ私の推定寿命と同等である

これではサービス精神旺盛な働き手だったのか

それとも四葉家がブラック企業なのか

悪い噂が立ってしまう


まぁ、どこでそんな噂が立つのかはともかく

つまり私は「気になって眠れない!」

といった、ありがちな理由を取り除くために、

歩夢「アレになる、のアレって...なに?」

将来への第一歩を踏み出した

全ては良い方向へと傾けるためだ

恥や苦労は惜しまない

葉月「それは言えない。けど、お腹を満たせばうっかり話しちゃうかも」

良い性格してるなぁ、この人も

那月みたいなことを言う

最近はよく食べる女の子が流行りなのだろうか

よく食べる女の子は素敵だとは、確かに思う

男性へのアピールでお茶碗半分くらいのご飯でお腹いっぱいだという女性よりはずっと印象が良い

でもね、限度ってあるんだよ

ね、那月

もう少し控えよう?




葉月「さっきはああ言ったけれど、昼食代は私が払う。君影歩夢の分も含めて」

歩夢「え、食べに行くの?」

葉月「作ってくれるの?」

歩夢「そのつもりだったけど.....」

葉月「.....なら、私も作る」

お客様にそのようなことをさせるのは気が引けたが、葉月という女性は非常に義理深い

何を言っても無駄だろう

なら、手っ取り早く2人で調理をして昼食を迎えるべきだ

そう考えた私は了承し、葉月をキッチンへと連れ込む


ここでまたもや、

葉月「....税金の無駄遣いね」

と、葉月は不機嫌そうに言った

お金のやりくりに頭を抱える身にとって、税金とはやはり敵のようだ

歩夢「一応訊くけれど、どこら辺が?」

葉月「冷蔵庫。2つも要らないでしょう?」

歩夢「確かに1つしか使っていないけれど....」

1つでも手に余る状態である

だって大きいんだもん

業務用とかっていうレベル

ここは何処のレストランだ

葉月「あと、ここの面積。広すぎない?」

キッチンという名の調理場の面積はおよそ一般家庭の3倍近く

確かに無駄遣いもいいところだ

台所から冷蔵庫までの距離も遠いから手間だし


歩夢「ま、まぁ....その辺はともかく、ご飯作ろうか」

葉月「.....えぇ」

未だ納得のいっていないご様子

なんか....リーナに似てない?

納得いかないことに真っ直ぐ文句を言う姿とか

対照的なのは髪の色くらいかな

あちらは金髪で、こちらは銀髪

二人が並んだら凄い絵が撮れそう

なんてことを考えながら、調理を開始する




歩夢「ご馳走様でした」

葉月「ご馳走様....でした」

初めての共同作業はなかなか上手にいった

息もピッタリ、という感じで調理もスムーズに進んだし、味付けも似ていた

満足できる昼食を終えた私は、

歩夢「で、さっきの“アレ”についてなんだけど....」

葉月「君影歩夢の未来の姿。これ以上のことは言えないわ。あの子のためにも」

1つ謎が解明されたと思いきや、また謎が

あの子って誰だよ.....

葉月「はい、この話はお終い。これ以上は現実世界に支障を来すわ」

歩夢「現実世界に支障?」

葉月「タイムパラドックス、みたいな」

歩夢「ふーん....」

なんだか難しい話に進展しそうだったので、私もこれ以上は訊かなかった


【安価です。
1.謝罪について
2.バイトについて
3.創造について
4.解散
5.その他
安価下。】

1

>>721 1.謝罪について】

お腹も満たしたことなので、ようやく本題へ

歩夢「葉月がどうやって達也くんと深雪ちゃんに謝るか、だけど」

葉月「誠意を持って謝る」

歩夢「.....誠意を持って、ね」

実に誠実で、率直な志であった

遠回しに謝るよりは断然いいだろう

葉月「あと、2人に特別な時間を提供する」

歩夢「特別な時間を....? 具体的には?」

と、私が訊き返した直後、景色が一変する

もう見慣れたリビングの景色から

自然豊かで石畳の綺麗な平和な街へ


歩夢「....アニメで見たやつだ」

無意識に、そう言ってしまった

半年ほど前に水波ちゃんから勧められたアニメの世界と酷似している

それに、これは単なる幻想ではなく、一応現実として捉えることが可能

建物だって触れるし、水は冷たい

そして何より、道行く人々がそれぞれ精神を持って動いている

この“現実”に、私は感嘆した

アニメの世界に入ってみたい、という願望が叶ったのだから

葉月「少し歩いてみる?」

歩夢「う、うん....」

創造....か

ちょっとどころではなく、面白そうだ



ねぇ、咲夜。これって.....

────────────頑張れば可能

本当? なら、

────────────時間と体力をかなり使うことになるけど

....もうちょっと具体的にお願い

────────────約1週間と、流星群の使用を外で1回分くらい

確か私の身体って、あと流星群を外で1回でも使ったら即死なんだよね.....

────────────会得した瞬間に死ぬから、私はお勧めできないかな

いや、全力で止めてよ.....。まぁ、命と引き換えって分かっただけ諦めがついたよ。ありがと



あーあ、使ってみたかったんだけどなぁ

この上なく夢のある魔法なのに

葉月「無理だったようね」

歩夢「だから心を読まないで」

さっきから幾度となく心を読まれている

プライバシーっていうものを知らないのかな?

誠実ではあるけど、常識は守らない

前代未聞だな、この子

葉月「で、どこ行くの?」

この世界的には....やっぱり喫茶店?

それか甘味処とか、公園広場とか


【安価です。
1.喫茶店
2.甘味処
3.公園広場
4.散歩
安価下。】

>>726 1.喫茶店】

散々悩んだ挙句、喫茶店を選択した

理由は、主人公である5人の内の3人を一目見れるかもしれないと微かな希望を抱いたから

そんな欲まみれな理由で、私たちは足を進める

この街について右も左もわからないまま適当に

葉月「....で、その喫茶店って何処にあるの?」

歩夢「さぁ?」

葉月「それくらい把握しておきなさいよ」

歩夢「だってアニメでは街全体を描写してるシーンとか無かったし」

葉月「なら、目を使って俯瞰的に視ればいいじゃない」

そう言われて、遅ればせながら気が付いた

確かにそっちの方が早そうだな


木組みの家と石畳の道を満喫するのはここまでにして、目的地に向けて最短距離で向かおう

私は一瞬だけ目を手で覆い、その短い時間でこの街を俯瞰的に視る

歩夢「....よし。見つけた」

葉月「何処にあったの?」

歩夢「あっち」

私が指差したのは、来た道の方向

つまり、引き返さなければならない

葉月は「えー、じゃあ他のところ行こうよ」と、面倒がっていたが、私は葉月の手を引いて道を引き返す

目的地の、喫茶店へと向けて



歩夢「やっと着いた....」

この世界に来て40分弱

ようやく、目的地に辿り着いた

看板やお店の外観はアニメで観た通りである

葉月「んーもう疲れた。早く入ろう」

歩夢「ま、待って....心の準備が....」

画面の向こうにいたキャラクターがこの中に居ると思うと、緊張感を拭えない

しかし今度は葉月に引っ張られ、お店の中へ

そしてまず第一に、

店員R「いらっしゃいませー!」

紫色の髪をツインテールにした綺麗な店員さんが出迎えてくれた

私と葉月は丁重に案内され、テーブルに着く

店員C(1)「こちらメニュー表です!」

次に、メニュー表を差し出してくれたのは亜麻色の髪をした店員さん

記憶通り、非常に元気が良い

笑顔も太陽のように眩しい


お決まりになりましたらお呼び下さい、と言い残して2人の店員さんはカウンター付近へ

そしてすぐに、亜麻色の髪をした店員さんは銀髪の少女に抱き着く

嫌そうな表情をしながらも拒まないところも含めて、アニメで観たまま

驚くべき再現率である

葉月「私、紅茶とクッキー」

歩夢「じゃあ私は.....」

確かこのお店ってコーヒーに力入れてるんだっけ

なら、ここはコーヒーを頼むべきか?

でも、私はコーヒーが大の苦手

飲みきれずに残してしまうことこそが、最も恐れるべき結末

従って、私は美味しく飲める紅茶に決めた

葉月「決まった?」

歩夢「うん」

葉月「じゃあ....」

葉月は店員さんの方へ視線をやった


それにすぐ敏感に気が付いたのは、紫色の髪をツインテールにした店員さん

店員R「お決まりになられたでしょうか?」

葉月「アイスティーとクッキーを」

歩夢「私も同じので」

店員R「畏まりました」

店員さんが注文の内容を他の2人に伝えに行くのを確認したのち、私たちは小声で話し始める

葉月「ここで口にした物はお腹に残らないから注意して。紅茶の後味とかは口の中に残るけどね」

歩夢「うん、分かってる」

ここら辺についても那月から聞いている

創造の世界から持ち帰れるのは大まかに言ってしまえば、感覚と記憶の2つ

直接的な殺傷能力は無いものの、性能としては抜群である

霜月さんの時間操作と同等に

今私の目の前にいる葉月は、霜月さんの世代の葉月の先祖返りであるそうだ

つまり、十二師族内の争いにもこの魔法は何らかの形で使われた

協定を結んでいたという霜月と葉月と如月

残りの如月も時間と創造と同等の魔法なのか

創造の世界だけに、じゃないけれど、想像が膨らんでしまう


【店員Rや店員C(1)は店員の名前の頭文字です。
(1)というのはCから始める人が複数人いるからです。

安価です。
1.この世界について
2.適当に過ごす → 現実世界へ帰る
3.適当に過ごす → この世界を歩き回る
4.店員に話しかける
安価下。】

1


>>732 1.この世界について】

葉月の創造は別世界の構築

言い換えると、空間の構築

霜月さんの“時間”と葉月の“空間”

この2つは、相対性理論とやらの要素

前に本で読んだ。読まされた。真夜さんに

内容はよく覚えてないけどね

で、本題はここから

単なる偶然で相対性理論の要素である

“時間”と“空間”

を操れる魔法師が同世代に存在するのだろうか

神様の悪戯にしては手が込んでいる

偶然というよりは必然、もしくは運命

時間と空間が協定を結んだのも必然だった


そう考えると、妄想は次々に広がって行く

やはり『運命』という単語の響きが素敵だ

私と咲夜が人体実験で一緒になったこと

高校にて達也くんや深雪ちゃんと再会したこと

全てが運命であった

そう考えると、自然と笑みも溢れる

若いなぁ、私

不確かなことで喜んじゃうところとか特に

そろそろ話を戻し、改めて如月の魔法について

相対性理論は確か、この2つだけだった

他の要素は無かったはずだ

ならば、如月はどのような魔法を使ったのか

相対性理論とは全く関係のない魔法が濃厚だ


宇宙的な規模で光とか面白そう

「時間と空間と光が協定を結んだ」

前言撤回。笑い話では済まされない

この3人を敵に回した日こそ終焉を迎えるだろう

まぁ、あくまで妄想だけどね

如月の魔法が“光”という点だけは

思い詰めていたことに一段落ついたところで、

葉月「あぁ、創造についてもう少し」

と、葉月がタイミングを見計らったかのように切り出した

葉月「この世界の時間=現実世界の時間だから」

歩夢「うん、それは知ってる」

那月から聞いた話の1つに、その話があった

葉月「注意事項はさっきのも含めて2つ」

1つ目はこの世界で食した物が云々

2つ目が今の経過時間について


葉月「ここからはこの世界についてだけれど」

歩夢「ん?」

葉月「主人公の3人は....アレなのよね?」

葉月の視線はカウンターでせっせと働く3人へ

いずれもテレビ越しに見ていたウェイトレスだ

葉月「残りの2人には会いに行くの?」

このアニメ世界の主人公は5人

残りの2人はこの喫茶店とは別の場所で働いている

1人は実家の甘味処

もう1人はハーブを使った喫茶店である

さすがにここも含めて3件を回るのは辛い

なので苦渋の決断として、

歩夢「偶然出会えればいいかな」

葉月「会いにはいかないのね」

歩夢「....うん。心残りだけど」

贅沢は言えない


そもそもこのような機会そのものが奇跡に近い

これ以上の贅沢を望むと罰があたってしまう

人間、謙虚に貧しくだ

高望みはせず、低い目線で生きることが重要

喜ばしいことがあれば、その時は精一杯喜ぶ

.....大人になったなぁ

しみじみと感じてしまう

昔の私なんてそれはもう、捻くれていたから

他人の喜ぶ姿ほど妬ましいものはない、って

しかしこの1年で色々な人と出会って、話した

経験が物を言う世界だと実感できた

残り2,3年で私はどんな経験をするのか

そしてどんな大人になるのか

乞うご期待!

と、自分にプレッシャーもかけたところで、


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:アクシデント
偶数:特に何もない
安価下。】

どうだ

>>739 3:アクシデント】

「だ、大丈夫ですか....?」

「これくらい大丈夫だよー! 」

「.....くれぐれも躓いたりはしないで下さいね」

「はーい」

そんな会話が聞こえてきた

他ならぬ店員さん2人のやり取りだ

店員C(1)は笑って受け答えを

店員C(2)はとても心配そうにしている

「じゃあこれ、よろしくな」

「任せて!」

店員Rがアイスティーとクッキーを2つずつ載せたおぼんを店員C(1)に手渡す

店員C(1)はそれを受け取り、歩き始めた


私たちの方へと向かって、ヨロヨロと

「そーっと.....そーっと....」

小さく呟きながら慎重に歩く

店員さん2人と私たちはその姿を見守る

もし無事に運べたら拍手喝采は約束された未来

席を立って拍手をしよう

おめでとう、と言う覚悟も出来ている

しかしそんな志も直後に裏切られることになる

いや、知ってたけどね。こうなるって

私自身が心の何処かで彼女のことを信用していなかったからなのか

案の定、彼女は、店員C(1)は躓いた

特に何もない場所で、前へと向かって

空中に放り出される紅茶とクッキー

店員さん2人は大きな一歩を踏み出した

間に合わないと分かっているはずなのに、だ

その店員としての務めは賞賛に値する


でも、この距離は無理があった

7,8mを1秒に満たない時間で走るなど、魔法の助けを借りても不可能に近い

根本的な話、彼女らは魔法を使えないけど

私を目掛けてカップから溢れる液体

魔法での回避は可能であった

私はこれでも魔法師である

それもかなり優秀な血筋の

回避する魔法に心当たりは幾つかあった

しかし、私は出来ない

この世界にとって魔法とは魔法なのだから

急に紅茶が消えたとなれば言及されてしまう

それだけは避けようとして

私は向い来る紅茶を避けなかった

体を捻ることもせず、真正面から堂々と浴びる

「あ.....」

「ぁ.....」

「痛たたた....ん、ぁ.....」

葉月「......」

店内にて、4人の視線も浴びた

注がれた、と言ってもいい

紅茶だけに.....こほん、なんでもない

で、どうなるの? これ




結果から言うと、すごく謝られた

そしてお風呂を借りることになった

どうしてか、店員C(1)と一緒に

ある意味で念願叶い、ココア風呂を体験

店員C(1)「......」

いつも太陽のような笑顔を振りまく彼女も、今回に限りシュンと落ち込んでいた

これはこれで可愛いけれど、私が見たいのは明るい彼女

励ますのは水波ちゃんで練習済みだ

歩夢「私は気にしていませんから」

店員C(1)「で、でも....」

歩夢「ね?」

店員C(1)「.....はい」

思っていたよりも簡単に納得してくれた

あくまで外面は、だけど

内面までのメンタルケアは骨が折れるので省略



ー10分後ー

被害者と加害者

被害を受けた者と被害を加えた者

なかなかその関係は改善しないものである

しかし店員C(1)は驚くべきコミュニケーション能力を保持しており、たちまち私たちの関係は『友達』にシフトチェンジした

仲良く髪を洗いっこして、身体を洗いっこして

そして現在、一緒に湯船に浸かっている

店員C(1)「それで店員C(2)は私のことをお姉ちゃんって呼んでくれないの!」

歩夢「んー、それは店員C(1)がお姉ちゃんらしいことをしてないからじゃない?」

店員C(1)「お姉ちゃんらしいこと?」

歩夢「やっぱり包容力じゃないかな」

私にとってのお姉ちゃん的存在は夜永さん

子供の頃にお世話になって、振り回された

どれも良い経験だったけどね

勉強とか音楽とか色々なことを教えてくれた

そういう点も包容力だよね

母性なのかもしれないけど

成人の半分以下の人生で母性に目覚める少女

やっぱり夜永お姉ちゃんは完璧超人だ

店員C(1)「包容力かぁ.....うん、わかった!」

元気にバシャッと音をたて、立ち上がった

店員C(1)「わたし、頑張るよ!」

歩夢「あ...うん。頑張って」

これ以上は口出しできない

だって私に“包容力”は微塵もないのだから


【安価です。用意された服。コンマ1桁
奇数・0:制服(喫茶店の)
偶数:私服
安価下。】

てい

>>745 6:私服】

店員C(1)「乾くまで私の服を着て!」

ということで、私は店員C(1)の私服を借りた

画面向こうの人間から私服を借りて至福の瞬間

夢のような体験の連続だ

まぁ、葉月の創造は夢のようなものだけど

そんなこんなで幸せな時間を過ごし、喫茶店の方へと戻ると葉月が店員C(2)および店員Rと歓談している姿が目に入った

コミュニケーション能力高いやつだ

葉月「ん、....もういいの?」

歩夢「服が乾くまでは無理っぽい」

葉月「なら、街で遊ぶしかないみたいね」

歩夢「ここで時間潰してもいいけど?」

葉月「あわよくばあの2人にも会いたいんでしょう? なら、外に出ないと」

歩夢「.....うん。そうする」

優しいかよー

憎しみを向けられていた時とは大違いだ

私は葉月に引っ張られる形で、喫茶店を出た


【安価です。
1.公園広場
2.甘味処
3.喫茶店2
安価下。】

>>747 1.公園広場】

ー公園広場ー

そもそもの目的は甘味処もしくはハーブを主に使った喫茶店に行くはずだった

しかしその道中で、

葉月「あ、野良うさぎ」

と葉月が言ったことにより、予定は淀んだ

現在、私たちは公園広場にて呑気にうさぎを観察している

3人掛け用のベンチに仲良く並んで

歩夢「うさぎ、好きなの?」

葉月「うん」

歩夢「うなぎ、好きなの?」

葉月「食べたことないから分からない」

可愛いな、葉月


今度うなぎを買ってあげよう

そして私はうなぎのタレでご飯を頂く

うなぎは....苦手なんだよなぁ

骨とか、食感とか

歩夢「猫とうさぎならどっちが好き?」

葉月「猫」

歩夢「猫以上に好きな動物は?」

葉月「人間。面白いから」

歩夢「ふーん」

趣味は人間観察、みたいなものか

私は人が嫌いとまではいかないが、苦手だ

だって何を考えているか分からないんだもん

歩夢「......」

私は愛くるしいうさぎをジッと見つめる

葉月「.....ぁ」

葉月は興味津々にうさぎを見つめ、目を逸らされる度にシュンと項垂れる

.....可愛いな、この子

憎しみの念を持つ持たないでこんなにも変わるものなのか

やはり人は解りえないな


【安価です。コンマ1桁
1・7・0:作家A登場
2・5・8:店員C(3)登場
3・6・9:店員S登場
4:店員C(3) 店員S登場
安価下。】

ほい

>>750 2:店員C(3)登場】

すっかり打ち解けた(?)会話をしていると、

歩夢「あ」

見間違えるはずもない

画面の向こう側に居た主人公の1人と目があった

彼女は私たちがこれから向かおうとしていた甘味処で働いている店員さん

若女将というよりは看板娘だ

目があった瞬間、

「あぁ、この人が」

という表情をし、私たちの方へと何の警戒心もなく近づいて来た

店員C(3)「店員C(1)ちゃんから話は聞いているわ。貴女が歩夢ちゃんね」

ほんわかとした声

何処かで.....あ、柴田さんに声が似てる


まぁそれはともかく、店員C(1)は私たちの情報を許可なしに発信したのか

いいんだけどね、別に

おかげさまで話しかけて貰えた訳だし

歩夢「ど、どうも。店員C(3)さんについてもお話は伺っております」

伺うじゃなくて観ていた、が正しいけどご愛嬌

店員C(3)「敬語はやめて。同級生でしょう?」

同級“生”.....か

四葉香夜としてはそうだけれど

君影歩夢としては同い年が正しい

今現在、隣でうさぎを観察している人のせいだ

私が冤罪だってことはいつ証明されるのだろう

ともかくひとまずは、

歩夢「えぇ、じゃあ敬語は無しにさせてもらうわね」

こういう状況で普段語を出すのって難しいな

ついつい真夜さんに矯正されるつある言葉遣いが出てしまった

もうそろそろ上品な姿勢を保つために頭の上に水の入ったコップを乗せて歩くなんてことさせられるのかな


.....あ、また関係ない話に

店員C(3)「隣、座ってもいいかしら?」

歩夢「どうぞ」

3人掛け用のベンチに店員C(3)は腰をかけた

私と葉月の間に

少し窮屈じゃないかなぁ

歩夢「窮屈なようだったら場所変えてもいいけど?」

店員C(3)「大丈夫よ」

そう、としか私は言えなかった

この状況で頷く以外の選択肢は無い

歩夢「......」

店員C(3)「......」

葉月「.....!」

ここでようやく葉月は隣に座る少女に気付いた

だが言葉は発さず「誰?」と首を傾げるのみ

私は本人越しに、主人公の内の1人である旨を暗号文っぽく伝えた

絶対に本人には伝わらないよう

葉月「あぁ....貴女が店員C(3)ね。話には聞いているわ。店員C(2)とか店員Rからは特に」

店員C(3)「.....! 貴女が葉月さんね。店員C(1)ちゃんからのメールで聞いてるわ」

2人共、お互いのことを認識するまでが長かった

天然.....?


【安価です。
1.店員C(3)「もし良ければ私のお店に来ない?」
2.店員C(3)「私の幼馴染がやっているお店に行かない?」
3.この場で話す
安価下。】

1


>>754 1.店員C(3)「もし良ければ私のお店に来ない?」】

店員C(3)はともかく、葉月って普通なのかな

狂気に満ちているイメージがあったんだけど

現に2度襲われてるし

修学旅行の時と去年の11月初旬に

本気で殺しにかかってたよなぁ、あの頃は

でも今はうさぎに目を惹かれるような、ただの女の子

これをどうやればああなるのか

謎は深まるばかりだ

人って神秘

肉体面でも、精神面でも

などと、私が葉月に興味を傾けていると、

店員C(3)「ちょっと肌寒いわね。あ、もしよかったら私のお店に来ない? 近くの甘味屋なんだけど」

ほんわかと、おっとりとした声で店員C(3)はそう私たちに提案した


どうせ向かう予定だったしいいよね

葉月の意向を伺わず、私は首を縦に振った

歩夢「葉月、行くよ」

葉月「私、ここに居る」

歩夢「.....寒くない?」

葉月「外気ぐらいどうにでもなるし、なんならこの世界を冬から初秋にすればいいだけ」

つまり魔法さえあればどうにでもなる、と

力主義だなぁ

権力と言えば権力だけど、こういう力任せなのは嫌いじゃない

私だって人のことは言えず、力任せな節がある

8月の九校戦で一条くんと戦ったとき、私は流星群を使わずとも、別の方法があったはず

なのに私は所持している能力を使い切るように、四葉真夜の魔法を行使した


どんな相手にも全力で

聞こえはいいが寿命を削るほどでもない

そんな中途半端な志だったから、私は現在寿命に苦しめられている

残り2,3年という現実

最近になってようやく感じてきた

残り寿命の少なさを

でも今はまだ、希望を失っていない

心の支えである、司波達也との結婚

私が初めて実兄以外で好きになった男性

この人との結婚さえ出来てしまえば、目の前の目標は達成される

当然、その後に現れる目標は子供

だが、そこまでの贅沢は言わない

言えない

なぜなら、言える資格が無いから

私の遺伝子はハッキリ言ってしまえば、優秀

そこらの家系の遺伝子よりずっと優秀だろう

しかし私が見切り発車で

その場の都合で良く考えずに

行動した結果、私の遺伝子には病が刻まれた

産まれてくるであろう子供が病を持ったら


そう考えるだけで胸が痛くなる

子供は病で苦しむ

そして、私を恨む

この未来は見据えられている

運命には逆らえない

今からどう頑張っても、どうにも出来ない

ならば、子供は作らないのが最大の愛情

私がしてやれること

12月24日,25日は本気で子供が欲しいと思った

でも今は違う

魔法を使って、血を吐いて分かった

私の肉体は私の思っている以上に傷だらけだと

四葉香夜としての役目が終われば、私は本格的に療養を強いられる

自由に過ごせるのも残り1ヶ月

真夜さんは葉月関連だけでなく、この想いも込めて私を編入させたのかもしれない

少し気付くのが遅かったようだけど

私が愚か者だとしみじみ思い知らされる

じゃあ残りの1ヶ月

まずは葉月関連でなく、パラサイトだ

あの件を解決させて、私は思い切り楽しむ

最後の学生生活を

そうと決まればパラサイトの問題を解決するためにも、今は葉月の厚意で創ってくれた創造の世界でやる事を済ませてしまおう

歩夢「1時間後にここ集合ね」

葉月「うん」

可愛らしい返事をした葉月ともここでお別れ

店員C(3)「行きましょう、歩夢ちゃん」

歩夢「えぇ」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:店員Sと遭遇
偶数:作家Aと遭遇
安価下。】

ほい

>>759 2:作家Aと遭遇】

歩夢「おー」

私は感嘆の音をあげた

店構えから何まで観たまんま

聖地巡礼どころの話ではない

100%再現されている

よくもまぁここまで再現出来たものだ

これはお店の中も期待していいのかもしれない

店内C(3)に促され、私は入店する

夢にも見た甘味処へ

第一感想はやはり「おー」だった

言葉が思いつかないとは、まさにこのこと


キョロキョロと店内を見渡す不審な動きを見せる私を制止したのは店内C(3)

店員C(3)「私は制服に着替えてくるからちょっと待っててね」

と、学校の制服からお店の制服へ着替えに行ってしまった

お店の入り口で呆然と立ち尽くす私

その姿を眺めるお客様

......適当な席に座ろう

幸いなことに席は幾つか空いていた

私は適当な席に腰を下ろし、テーブルの上に置かれていたメニュー表を開く

2096年ではテーブル毎に置かれた端末での注文になるため、メニュー表というのはなかなか珍しい

気分を高揚させながら開いたメニュー表には、

歩夢「.....!」

なんと驚くべきことか、メニューが3つだった

そういえば私が観たアニメの中だと描写的に映ったメニューは3つだけだったような.....


この世界が私の記憶に依存していると分かったところで、

???「独特の“色”をお持ちですね」

そう声を掛けられた

私はキョロキョロと辺りを見回したが声の主は見受けられない

.....ん? この声って.....

冷静になって考えてみると、この声の主に思い当たる節があった

とても深雪ちゃんに声が似ている作家Aさんだ

歩夢「独特な“色”....とは?」

私が質問で返事をしたのは後ろの席

作家Aさんは後ろに座っていたのだ

作家A「多くの人間はハッキリとした1色で表現されます。しかし貴女は3色。内に何かを潜めているように見えます」

3色....?

まず1色は他ならぬ君影歩夢

2色目は瓊々木咲夜

そして、3色目

まさか私が知らない間に私の中にもう1人が....!

なーんてことはなく、恐らく深夜さんだろう

私の精神を伝って霜月さんの世界というか時代に寄生したって言ってたし


作家A「1色目は白。純粋で綺麗な心」

これが誰の色なのだろうか

私? 咲夜? 深夜さんは....ないかな

作家A「2色目は銀。カリスマ性を表します」

カリスマといったら夜永さん

つまり銀色は夜永さんの実妹である咲夜ということになる

じゃあ私が白か

純粋で綺麗な心...言われて嫌な思いはしないよね

作家A「最後は“無”です。無色という色」

無色って単語があるくらいだから、無色は色の1つとして認められているのだろう

しかし無色は何を表現するのか

とても気になるところだ

作家A「無は何にでも染まります。黒はもちろん、白でも赤でも青でも」

作家A「ですが、貴女の無色は弱くて脆い」

作家A「まるでガラスのように」

作家A「“心の支え”がなくなったとき、貴女のガラスは砕け散るでしょう」

作家A「そして砕けたガラスはもう戻らない」

作家A「儚い色です。無色は」

ここで作家Aさんの色占いは終わった

深夜さんが無色.....?

まぁ、確かに真夜さんとの長きに渡った“喧嘩”のことを考えると無色なのかもしれない


ほんと辛い経験してるよなぁ、みんな

深夜さんだけでなく、真夜さんも然り

お母さんも然りだ

歩夢「ありがとうございました」

無料で占いのようなことをして貰った私は作家Aさんにお礼を申し上げた

今後の参考になるかもしれない

信じることから始まる出来事

真夜さんは事ある度にこう言っている

信じてみよう、たまには

朝のテレビ番組でやってる占いは信じないけどね

チャンネル毎で違うんだもん

統一してよ

などと心の中で愚痴を言ってると、

店内C(3)「お待たせ」

このお店の制服に着替えた店員C(3)が現れた

緑色の和服

うーん.....いいなぁ


和服を着る経験なんてないから、こういうのは素直に羨ましいと思ってしまう

お化粧とか覚えたら和服を着よう

そして兄さんに大人になった私を見せる

.....達也くんの方がいいかな?

いや、でも達也くんは私が大人になった事を知っているはず

3サイズとか定期的に計られているし

身体の成長=大人になる

そう私は定義付けている

成人を迎えたら大人になるとかそういう話もあるけど、1度話し始めたら長くなりそうなので割愛

歩夢「黄金の鯱鉾スペシャルをお願いします」

急に私が厨二病になったとかではない

このお店の料理の名前が独特なだけ

他にも、輝く三宝珠(三色団子)や雪原の赤宝石(苺大福)などがある

私が頼んだ黄金の鯱鉾スペシャルは あんみつの抹茶クリームパフェたい焼き乗せ だ

水波ちゃんと食べたいねっていう話を常日頃からしていた

店員C(3)は畏まりました、と店員としてのプロ意識を持ってか席を後にした

お話しようと思ったけど、仕事なら仕方ない

それくらいは心得ている

私だって社会人だから

今は学生の面が大きいけど

さて、待ち時間は.....


【作家Aが言ったことは伏線です!(ダイレクト)


安価です。コンマ1桁
奇数・0:色々やって帰る
偶数:作家Aと話す
安価下。】

ほい

>>766 9:色々やって帰る】

木造りと石畳の可愛らしい街を窓から眺めることで、時間を有意義に使うことが出来た

2096年には見られない貴重な光景だ

何処もかしこも平らなコンクリートだもんなぁ

もう少しアニメの影響で町興しとか起こすべき

まずは私の家周辺の地面を石畳にして・・・

そんな下らない妄想を膨らませていると、

店員C(3)「黄金の鯱鉾スペシャルです」

と、注文した料理が運ばれてきた

一見何の変哲もないパフェなのだが、

歩夢「鯛焼き.....合うのかな?」

抹茶アイスの上に鯛焼きが乗っていた

中身は粒餡だろうか? それともカスタード?

ちなみに私はカスタード派

粒餡は粒が口の中に残るから苦手なんだよね

こし餡ならいいんだけど


歩夢「いただきます」

まずは一番上に乗っている鯛焼きを一口

歩夢「うん....うん.....ん、」

もぐもぐと噛み、喉を通す

うん、普通

一般的な鯛焼きそのものだ

創造の世界でも鯛焼きは共通

万国共通ならぬ万世共通である

なお、中身はこし餡だった

初めて食べたな、こし餡の鯛焼き

なかなかいける。美味しい

それから私は和菓子の盛り合わせを楽しんだ

鯛焼きから始まり抹茶アイス、粒餡、わらび餅

久々に食した甘味料理に私は大満足

夜永さんからキツく言われている糖分や塩分の取り過ぎは創造の世界では関係ない


謎深い少女・那月 曰く、

那月「例えば現実世界で葉月さんが高級な焼き肉を1枚食べたとします」

歩夢「や、焼き肉.....うん、わかった」

那月「食べ終わると同時に“創造”を発動させ、歩夢さんの分の焼き肉を幻術として創り出します」

歩夢「.....それで?」

那月「歩夢さんの分として創り出された焼き肉は葉月さんが食べた焼き肉そのもの。そして今居るのは創造の世界」

歩夢「本物を食べれて、尚且つ身体に支障をきたさない.....!」

那月「十分に焼き肉を味わった後、葉月さんが“創造”を解除します。すると、残るのは食べた記憶と感覚。歩夢さんの口の中には焼き肉の味が広がっています」

歩夢「ご飯食べる!」

那月「幸せですよねっ!」

などという会話を昨晩した

つまり葉月が創造を解除しても、これから何も口に含まなければ現実世界でも口の中には抹茶の味が残るということ

もちろん、お腹の中には何も溜まっていない

あくまで感覚だけだ


それでも凄いよね、焼き肉食べ放題だよ

葉月に一切れでも食べさせればいいんだから

.....ん?

じゃあ今私が食べたパフェって.....

このお店の味を再現したのではなく、記憶をあり合わせた結果ってこと?

本物の黄金の鯱鉾スペシャルは食べられないんですね.....

まぁそれは仕方がない

ここまで夢を体験させて貰ってるんだから

これ以上の我儘はバチが当たってしまう

良いことがあった後には悪いことがある

等価交換なんだよね、結局は

そんなことを思いながら私は黙々と食べた

久しぶりの糖分に心もぴょんぴょんする


そして時は流れて10分後、

歩夢「ご馳走様でした」

無事見事に完食

食べ終えての感想は、

「抹茶の風味があって美味しかった」

......小学生みたいな感想だなぁ

もう少し食レポを学ぼう

味を相手に伝えるというのは重要なこと

あれ? 私って芸人さんだっけ?

善良なる一般市民じゃなかったっけ?

......何してんだろ、私

自分で言ったことに対して、自分でツッコミを入れるなんて

やめやめ、もうやめよう

私は立ち上がり、店員C(3)を呼ぶ

歩夢「お勘定を───ぁ!」

あれ、お金.....どれ?

この世界の通貨って円なの?

っていうか、円だとしてもお財布が無い

お皿洗いで許して貰えればいいけど


不安に満ちた表情で店員C(3)に交渉しようと思ったその時、

店員C(3)「あぁ、お勘定は結構よ。店員C(1)ちゃんがお詫びにって」

店員C(1)が代わりに払ってくれるの?

なら、紅茶を被せられた甲斐があった

ん、もう葉月との約束の時間じゃないか

待ち合わせに遅れて嫌味を言われたら困る

税金がどうの、とか

歩夢「じゃあ、私はこれで」

店員C(3)「ありがとうございました」

おっとりとした声で送られ、私はお店を出た

えっと....公園広場は.....あっちだっけ?



待ち合わせの時刻から約10分後、私は苦労の末に辿り着く

そして、探し人である銀髪はすぐに見つかった

この世界ならともかく、現実世界だと目立つんだよなぁ、アレ

何処かのモデルやらお姫様だと間違えるくらい

ナンパされた経験も───いや、葉月も日常では私みたいに別人の情報を纏っているのか

君影歩夢が結城香夜や四葉香夜に化けるように

まぁ、そうでもしないと目立っちゃうからね

私だって、表立って街を歩けない身だし

呑気に日向ぼっこをしている銀髪のせいで

さて、そろそろ話しかけるか

気持ちも切り替えて、っと

歩夢「ごめんね、待った?」

葉月「うん、待った」

歩夢「.....今度、鰻でも食べに行こっか」

葉月「鰻....私、秋刀魚が食べたい」

妙に庶民派だなぁ

いや、時期的な話で私を困らせようとしたのか


秋刀魚とは漢字が如く、秋の魚

冬でも獲れない訳じゃあないんだろうけど、ね

どうせだったら秋に食べたい

七輪だって買ってやる

.....あれ、七輪って家にあったような

東京の家か、京都の家か、四葉本邸のどれか

もう分かんないや、家が多過ぎて

でも何処かで見掛けたのは確かだ

秋に向けて探しておこう

そして、予行練習として鮭でも焼いてみるか

夢が広がるなぁ、料理って

歩夢「じゃあ秋になったら秋刀魚ね」

葉月「うん。楽しみにしてる」

那月に続く食事キャラと判明した葉月との会話が一段落着いたところで、

葉月「さっきの喫茶店に戻る? そろそろ乾いてるだろうし」

歩夢「あぁ、それなんだけど....いいや」

葉月「.....?」

歩夢「別れは苦手だし、またこの世界に来たときにあの喫茶店に行くきっかけが欲しいし」

ここらで一旦セーブをしよう

セーブをして、また次の機会にロードする

続きから始める、が可能なはずだ

葉月の創造は記憶に依存するのだから


歩夢「ダメ....かな?」

葉月「....君影歩夢がそれでいいなら、私は構わないけど」

歩夢「よかった。じゃあ帰ろう」

直後、私の視界は歪んだ

ぐにゃぐにゃと揺れて、霞がかかる

しかしそれも一瞬の出来事

すぐに視界は回復し、次第に見慣れたリビングが目に映った

戻ってきた.....のか

創造の世界に入るときは何の違和感がないのに対して、戻るときは視界が歪む

つくづく便利な魔法だなぁ

欠点らしい欠点というのが今のところ、創造の世界から現実世界へと戻る際の視界の歪みのみ

さすがは十二師族時代の葉月の先祖返り

時を操る霜月さんに負けず劣らずの魔法だ

心の内で“創造”をベタ褒めしていると、

葉月「欠点くらいあるわよ」

と、すっかり口調に戻った葉月が一言

......心を読むの、やめて貰えませんか?

心が読めるなら今の願いも伝わるはずだ


しかし葉月はそれを無視し、

葉月「クールタイムって知ってる?」

歩夢「くーるたいむ?」

つい咄嗟のことで片仮名を平仮名で返してしまったが、私は『クールタイム』を知っている

強い技を連続では出せず、ある程度の時間を置かなければ発動出来ないとかそういうアレ

ゲームでよくあるやつだ

葉月「私の“創造”のクールタイムは10秒」

.....は? 10秒? たったの?

欠点は欠点でも、些細な欠点である

てっきり1日に3回の制限で、8時間がクールタイムだと思ったのに

8時間だと葉月としても相性が良いし

嘘でもいいから8時間って言って欲しかった

10秒って.....出し惜しみする必要ないよね

これからは葉月に恩を売って、もっとたくさん良い目に遭わせて貰おう

次は金髪金眼の吸血鬼に襲われた高校生の居る世界に行きたいな

戦艦や空母等を擬人化した世界でも可


葉月「私の気が変わったらね」

葉月の創造があれば、私は死ぬまでにやりたかったことを難なく遂げられるかもしれない

理想のシチュレーションを創り出し、実際に体験出来るのだから

葉月「創造についてはもうお終い」

疲れた訳じゃないけど、面倒だから

と、葉月はこれ以上の踏み込みにストップをかけた

このまま図々しく世界を創って貰うのは虫が良すぎる、か

仕方ない、彼女がそう言うのなら

まだ時間はある

ゆっくりと葉月と親睦を深めよう

もちろん目的は友好的な関係を築くこと

彼女はなかなか面白く、興味深い

私は彼女に対して、半歩だけ歩み寄る

あとは葉月がこちらに半歩来てくれるかどうか

期待に応えてくれれば、私たちは友達になれる

“友達”、もしくは“親友”

何を定義して親友なのかは分からないが、私と深雪ちゃんのような関係になれるだろう

現代の霜月と葉月

彼女と良い関係が築けることを、私は願う


【ここ数日更新できなくてすみませんでした。
忙しくないはずなのに、どうしてか眠気が....。

魔法科高校の劣等生18巻が11月10日に発売しました。
そちらの方で敵をしているジード・ヘイグ(顧傑)についても歩夢視点では厳しいかもしれませんが、敵として達也側ではない視点でやりたいと思っています。
具体的にはおそらく夜永が主人公なんじゃないかな、と。

パラサイト編が終わった後はサブストーリーをやります。
霜月云々が始まる前にやろうと思っていて、結局先延ばしにしていたサブストーリー。
前回は隼人のサブストーリーをやることになっていましたが、登場人物が増えたので隼人に2票(以前安価を取ったときに確か2票入った)を入れたまま再安価しようと思います。
歩夢・咲夜・雪乃・夜永・深雪・葉月・沙夜・千夜・那月・リーナ・達也・隼人の12人(追加あるかも)の内から多数決で安価をとります。
この安価はパラサイト編が終わったら取りたいと思います。

今月中にパラサイト終わらせます!
マジで、そろそろ終わらせないと。


安価です。この後。
1.葉月と話す
2.達也に電話
3.深雪に電話
4.葉月と解散
5.真夜からの連絡
安価下。】

>>778 2.達也に電話】

ー17時ー

創造の世界から戻ってきて約4時間が経過した

この間で私と葉月の関係はより親密となる

何があったのかと言うと、

私は葉月に本の話を

葉月は私に万年筆の話を

各自の専門分野についてプレゼンをした

その結果として私は万年筆に興味を持った

葉月も、少なくとも表面上では本に興味を持ってくれたようだ

気兼ねなく話せる関係になったところで、

歩夢「ん、.....そろそろかな」

もうそろそろ、達也くんと深雪ちゃんが帰宅する時間

一刻も早く葉月に害がないことを伝えたい

そして、仲良くなって貰いたい


時間を見計らって達也くんに連絡を入れると、すぐに出た

まるで連絡が来るのを知っていたかのように

待機してたのかな.....?

そんな疑心を抱きながらも、達也くんと前置きの話をする

今日はどうして休んだのか、とかそういう話

四葉香夜の病弱設定について納得して貰えたところで、本題

音声通話をテレビ通話に変え、私の隣に居る銀髪の少女を見て達也くんは驚きに満ちた表情を見せる

達也『......和解したのか?」

歩夢「和解.....まぁ、うん。そうだね」

和解と言うと少し語弊がある

そもそも葉月は勘違いを理由に私を殺そうとしていた

誤解が解けた、が正しいのかもしれない

私は一歩身を引き、葉月を前に押し出す

歩夢「ほら、ね?」

葉月「.....司波達也」

葉月は俯いたまま相手の名前を口にし、

葉月「その.....ご、....ごめんな....さい」

途切れ台詞ながらも謝罪をした

葉月は未だ達也くんと目を合わせようとしない

罪悪感が故だろう

彼女は1度、創造の世界で達也くんを殺している


そのため、彼女は恐れる

許して貰えないかもしれない結果に

しかし、

達也『俺はもう気にしていない。昨晩のアレもあるからな』

と、謝罪を受け入れずに葉月を許した

......昨晩のアレってなに?

いかがわしいことでもしたの?

だとしたら詳しく話を聞く必要がある

質問が拷問に変わるかもしれない

まぁその辺はあとでみっちりと聞こう

夜通し、時間をたっぷりかけて

葉月「それで...司波深雪だけど.....」

最大の問題である深雪ちゃん

彼女は葉月に対してどう思っているのか

それを兄である達也くんに問うと、

達也『深雪には俺から言い聞かせておく。心配しないでくれ』

.....なんか達也くん、葉月に甘くない?

私なんかより銀髪美少女の方が好みなのかな

それとも二股的な話だろうか

これは一刻も早くにきちんと話し合いの場を設けなければ、と思った矢先、

達也『すまないが、この後は少し予定がある。積もる話はまた今度でいいか?』

逃げるのか、と思ったが、達也くんの表情は真剣そのものだった


ただ事ではない

そして自然と連想されるのは、現在彼が直面している、

歩夢「.....パラサイト関連?」

達也「あぁ。この後少し、な」

歩夢「手伝おうか?」

達也「いや、大丈夫だ。深雪とほのかが居る」

歩夢「ほのかちゃんが?」

確かに魔法師として彼女は優秀だ

しかしそこまでどっぷりとパラサイトの問題に関わってもいいのか

そう聞こうと思ったが、答えは聞くまでもなく直感で分かってしまった

ほのかちゃんは達也くんのことが好き

likeではなくloveで

彼氏彼女の関係の彼女が居るのにも関わらず、ほのかちゃんは達也くんにアピールを続けている

きっと役に立ちたいのだろう

伴侶として自分が役に立つということを知らせるために、ほのかちゃんはパラサイトの件に足を踏み入れた

だとしたら尚更、私は行くべき

行って、達也くんの手助けをしたい

自分がほのかちゃんより役に立つということを教えるために

そんな女の嫉妬に目覚め始めたところで、


【サブストーリーですが、水波の選択肢もあるので13択(追加あるかもです)の中からになりそうです。


安価です。
1.達也「.....お願いしてもいいか?」
2.達也「いや、今はまだ歩夢の出る幕ではない」

1の場合は行きます。
2の場合は行きません。
安価下。】

2

>>783 2.達也「いや、まだ歩夢の出る幕ではない」】

達也「いや、まだ歩夢の出る幕ではない」

と、私を高く買ってくれている返事が

君影歩夢は優秀な魔法師

あの達也くんに、そう想われている

少し妄想が過ぎるかもしれないけど、ニュアンス的な意味では大差ないはずだ

歩夢「.....わかった。今回はおとなしくしてる」

あっさりと引き下がる私

最大の理由はやっぱり達也くんの台詞だけど、

葉月「.....」

葉月からの鋭い視線も理由の1つ

彼女は私の寿命について知っている

パラサイトの件に首を突っ込んだ場合、魔法を使用することはほぼ確実

だって私は魔法師だから


魔法を使えば寿命は縮まる一方

頼みの綱である夜永さんの再幻も、まず夜永さんに事情を説明して、着いて来て貰わなければならない

事情を説明した時点で止められるだろう

これ以上、悪化させないための葉月の善意

ちょっと前まで私の死を望んでいた彼女のその志を重んじて、私は引き下がった

達也『今日、これから起こることは報告する』

歩夢「あ、うん」

正直なところ、パラサイト云々よりも、どうして達也くんが葉月に甘いのかを訊きたい

銀髪に翡翠色の瞳に一目惚れしたのか

彼の彼女として、訊いておかなければならない

歩夢「一段落ついたら連絡して」

達也『あぁ、わかった』

その台詞を境に、無駄に大きいテレビ画面はブラックアウトした

それは達也くんとの通話が切れたことを意味する


盗聴も傍聴も、恐れる必要のなくなったリビングで私は、

歩夢「....どうしよっか」

そう訊いた

もちろん、葉月に

葉月「行くなら止める。行かないなら止めない」

私<葉月 という不等式が成り立っている以上、反論は出来なかった

.....葉月の場合、“創造”があるからなぁ

痛い目(死ぬ)に遭わされるかもしれない

感覚として、苦痛を味わう

陰湿な殺人にはもってこいの魔法

本来の使い方はそうであって欲しくないものだ

人を楽しませるために使って頂きたい

さっきの体験が良い例となった

楽しい思い出に霞をかけないためにも、

歩夢「じゃあ、なんかしよっか」

遊ぶことを提案した。しかし、

葉月「用事あるから無理」

と、否定の一言

『無理』ってダメの最上級だよね


歩夢「何するの?」

葉月「お買い物」

金銭面で苦しい生活を送る葉月にとって、タイムセールは生命の手綱

私が思っている以上に重要なことらしい

いや、わかるよ。私だってスーパー行くし

ちなみに少し話は逸れるが、四葉香夜の姿で買い物しているのを一高の生徒に目撃されてる

1度や2度では足りず、かなり頻繁に

「あの四葉がスーパーで買い物を」

「野菜の値段を見て躊躇していた」

などなど、嫌でも噂が耳に入ってくる

もっと小声で話せよー

辛いんだぞ、こっちは

四葉の人間だってスーパーくらい行くよ

ね? と、夜永さんに訊いてみたところ、

夜永「雪乃さんが何度か学校帰りに、深夜さんと真夜さんを連れてスーパーとか行ってたよ」

ほらね、と全校生徒に証明したいところだが、それこそ大問題に発展してしまう

四葉真夜へのイメージが悪い意味でガタ落ち

叱咤されてしまう、本気で


話をまとめると、四葉香夜について色々と噂が広まってるということだ

雑談終了。話を戻そう

夕食もこの家で食べていかないか?

そう訊いてみたのだが、

葉月「これ以上、迷惑はかけられない」

とのことで、葉月はスーパーへ

無駄に広いリビングにて、1人ぼっちとなってしまった

これが日常なはずなのに、違和感を覚える

今朝感じていた違和感ではなく、虚しさ

早くも葉月の存在が私の中で大きくなっている

必要不可欠になる日も近い

深雪ちゃんのように、親友になる日が近い

さて、このあとは....


【安価です。
1.時間経過(達也との連絡)
2.時間経過(達也との連絡は省略。まとめのみ)
3.外に出る
4.真夜から連絡

安価下。】

4


>>789 4.真夜から連絡】

突然なことで、唐突であった

何の前触れもなく、何の事前の連絡もなく

四葉香夜の母親からコールが室内に鳴り響いた

気を抜いていた私は少しの間動けなかったが、それでもすぐに、できる範囲で受話器を取った

直後、テレビに美しい女性が映る

色で表すなら『黒』。漆黒の闇。

作家Aさんは彼女を何色で表現するのか

それはとても気になる永遠の疑問

しかし今は、少なくともそんなことを塾考できないほど、私は焦っていた

テレビに映るのは深紅のドレスを纏った“お母様”

私はスーツでもなくドレスでもなく、私服

些か失礼だと自認してしまう


というか、突然なんだもん

叱責されても、私には仕方がない理由がある

お母様からの叱責から無事に逃げ延びたら、その時は祝杯をあげよう

もちろんお酒ではなく、炭酸麦茶で

読んでその字の通り、麦茶の炭酸割りである

決してアルコールの含まれたビールではない

.....美味しいのかな、麦茶の炭酸割りって

そんな変な妄想を繰り広げていると、

真夜『突然ごめんなさいね、歩夢さん』

と、真夜さんから話を切り出してきた

あくまで前置きに過ぎないけど、幾らかやり易くなった

第一声で服についても触れられなかったし

歩夢「いえ、大丈夫です。だいたい暇してるので」

後から思えば、二言目が余計だった

いや、言ってる最中に気付いてたんだけどね

真夜『暇をしてる、ねぇ』

立場の弱い者を蔑む冷たい視線

これだけで直感の冴える私は気付いてしまった

本題とは、ズル休みしたことについて

小1時間は覚悟しておいたほうが良さそうだ


真夜『まぁ、学生に時間があるのも確かよね。暇してるかどうかはともかく』

歩夢「......」

真夜『良い意味でも悪い意味でも、時間があるのは良いことよ。恥じることはないわ』

そろそろこの辺で、私は「前置き長いな」と心の中で呟いてしまう

しかし今の私に形勢逆転の機会はなく、ただただお説教をありがたく聞くのみ

真夜『ここで少し話は変わるのだけれど、歩夢さんには“覚悟”ってある?』

歩夢「覚悟.....?」

怒られる覚悟だろうか

それとも減給される覚悟?

思い当たり節がいくつかある

ダメ人間すぎるでしょ、私

真夜『これは雪乃から借りた本に書いてあったんだけど、「人を始末しようとするって事は、逆に始末をされるかもしれないという危険を常に覚悟している人」っていう台詞があったの』

本は本でも漫画である

読んだよ、私もそこ

四葉本邸の書庫にそれのシリーズが全巻揃って置いてあったからもしやと思っていたけれども

真夜さんが読んでるってことは深夜さんも読んでるのかなぁ


真夜『だから、私は歩夢さんを叱るのと同時に、突然な連絡について叱られるのも当然だと思います』

歩夢「.....?」

真夜『だからこの件は不問にしましょう。お互いに」

漫画の影響受けすぎでしょ.....

もっと別の言い回しあったと思うけどなぁ

歩夢「私はそれで、大丈夫です」

真夜『交渉成立、ですね』

案外、真夜さんは交渉下手なのかもしれない

高校時代の担任の先生に何を教わったんだか

真夜『それでここからは本題です』

随分と長い前置き(交渉)を終え、遂に真夜さんは本題について話し始める


【安価です。
1.真夜『葉月さんとは仲良くなれたようですね』
2.真夜『霜月さんから伝言です』
3.真夜『パラサイトの件で少し』
安価下。】

1

>>795 1.真夜『葉月さんとは仲良くなれたようですね」】

真夜『葉月さんとは仲良くなれたようですね』

歩夢「.....うん?」

どうして真夜さんはそのことを知っているのか

考えられる推測はただ1つ

それは小型カメラ及び盗聴器の設置

プライバシーの侵害等の人権を無視した行為だ

これはいくら十師族の当主でも....ねぇ

もしこれが事実なら、私のあんな姿やこんな姿を含めて四六時中監視されていることになる

.....普通に恥ずかしくて怒る気にもなれない

真夜さんの言葉を借りる、のではなく漫画の台詞を借りるのなら、

「人のプライベートを覗いたって事は、逆に覗かれているかもしれないという危険を常に覚悟している」

ということでいいのだろうか

今度、防犯用の小型カメラを買いに行こう

真夜『一応言っておきますけれど、カメラや盗聴器の類は設置していませんからね』

また思い過ごしかよ!

なんでそれ先に説明してくれなかったのっ!

私のキャラが疑い深く、思い込みが激しい最低な人間へとシフトしつつある


どこかで挽回しないと

真夜『歩夢さんと葉月さんのことは街頭やマンションの入り口に設置してある監視カメラで把握しました』

つまり、娘の四葉香夜が学校を休むという話を聞いた真夜さんが街頭にある監視カメラをハッキングして情報を得た、ということか

普通に連絡くれればいいのに

どうしてややこしいことするかなー?

私のキャラを貶めたいのだろうか

真夜『.....念のために聞いておきますけど、疑っていませんよね? 私が歩夢さんのプライバシーを尊重しなかった、とか』

歩夢「親しき仲にも礼儀あり、です」

真夜『疑ってない、ということでいいのね?』

歩夢「はい」

真夜『友人の娘を。使用人を。私の娘を。かつての同級生を───信じますよ?』

言葉の暴力

言葉の圧力

言葉の言霊

なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいだ

しかしここまで来たら、貫き通す

貫き通す覚悟くらい、出来ている

私は1度だけ頷いた

言葉に対して行動での返事

これが真夜さんには有効であった

どんな言葉よりも納得してくれている


どこかで挽回しないと

真夜『話を戻します』

真夜『葉月さんとはこれから、少なくとも歩夢さんの寿命が尽きるまでの付き合いになるはずです』

歩夢「少なくとも....とは?」

真夜『例えば歩夢さんに子供が出来た場合』

もし私が私の遺伝子を引き継いだ子供を産めば、その子供は霜月の人間ということになる

葉月は四葉と同様に切っても切れない関係

従って、少なからず関係を持つことは明らか

もしかしたら産んで間もなく故人となった私の代わりにお母さんをやってくれるかもしれない

歩夢「確かに....その可能性はありますが....」

真夜『もう無事に子供を産めるような体ではないから子供を作らずに終わる、と?」

歩夢「.....はい」

控えめな私の返事に、真夜さんはしばらく間を置いた

考えているのではなく、機会を伺っている

機会───タイミングを計った


真夜『歩夢さんにはまだ希望があります』

真夜『私は12歳の頃に希望を失いました』

真夜『完全に』

真夜『四葉香夜という娘も所詮、人の娘の仮の姿』

真夜『本物ではなく、偽物です』

真夜『私に娘は居ませんし、息子も居ません』

真夜『もし以前話したように達也さんを私の息子として迎え入れるとしても、それは偽物です』

真夜『これは体験談として』

真夜『体験者を憐れんで、哀れんで、慮って』

真夜『歩夢さんは希望を持ち続けて下さい』

真夜『それが図々しい私の──細やかな幸せを失った女の願いです』

......なんか、.....うん

普通に説教されてしまった

優しい形で、思いがけない形で

言葉も出ない

まるで論破されたように、ぐうの音も出ない

私は俯いていた

まともに顔も合わせられない

真夜さんとの境遇を比べてしまうと、私の問題なんて些細なことだ

あくまで1人の女として、の話だけど

真夜『少し話過ぎてしまいましたね」

真夜『話を戻しましょう』

真夜『葉月さんについてはこのくらいです。歩夢さんと達也さんの愛の営みについては今後も期待するとして───いえ、そういえばそれについて聞いてなかったわね」

真夜さんの表情が再びガラリと変わった

高校生時代のような自然で柔らかい笑み

好奇心で聞いているようだ


しかし、それについて話すことは一切ない

あれは私と達也くんだけの思い出

汚されるって言うと表現が悪いけど、2人だけの思い出だと心に決めてしまった

他言禁止。秘密。内緒。この3つのいずれか

歩夢「それについては....触れないで下さい」

私の至って真面目で真剣な表情に真夜さんは眉を顰めた

真夜『ふぅん....まぁいいわ。随分と楽しめたようですし。12月24日の営みで子供が出来なかったのは残念ですが、今後を期待します。必要とあらばすぐにホテルを手配するので言ってくださいね』

歩夢「余計なお世話です!」

貴女は私のお母さんか、という決して的を外していないツッコミもほどほどに、真夜さんはクスッと笑みを零した

真夜『では、そろそろ次の話に移りましょうか』

【安価です。
1.真夜『霜月さんから伝言です』
2.真夜『パラサイトについて少し』
安価下。】

1


>>801 1.真夜『霜月さんから伝言です』】

真夜『霜月さんから伝言です』

歩夢「霜月さんから?」

真夜『「前に私の部屋で言ったことを覚えていますか?」と、この一言だけでした』

前に霜月さんの部屋で言われたこと.....?

30年前にお母さん達がどんな活躍をしたか

そんな雰囲気の話だった気がする

で、今になってその話は関係あるの?

30年前の話のはずなんだけど

いや、もっと別の話か....

霜月さんと話したのはこれ以外にも幾つかある

では、それは何か

全く思い出せない

しかし外面上で考えるフリをすれば、何かの拍子に思い出すかもしれない

うーん、うーん、と唸ること5秒

うん、まぁ....思い出せなかったよね


霜月さんは昨晩にこの時代に来て、お母さんと一緒に真夜さんのところに行ったって聞いたけど、まだ居るのかな?

歩夢「霜月さんは....帰りましたか?」

真夜『いえ、まだいらっしゃいます。少しの間こちらで遊んで行く、と」

霜月さんが外に....?

多くのメディアが報道しかねない

多くの衆人の目を奪いかねない

調整体である深雪ちゃんよりも

有名人の四葉家当主よりも

霜月さんはずっと目立つ

朝テレビをつけたら霜月さんが映っていた

なんてことだけはやめて頂きたい

世間を引っかき回すのは....やめて下さい

真夜『遊ぶと言っても、霜月さんや雪乃にとってはかなり重要なことですけどね。お墓参り、みたいな』

歩夢「お墓参り? .....霜月の?」

真夜『本家の霜月と分家の瓊々木の両家です』

歩夢「そんなところが....」

完全に初耳である

微塵もそんな話は聞いたことがない

咲夜とか兄さんは知ってるのかな....


真夜『その後は観光するようですけどね』

歩夢「観光....? どこをですか?」

真夜『清水寺とか金閣寺とか』

歩夢「止めて下さい! 今すぐ!」

ネットで話題になってしまう

某検索エンジンのニュースであったり

某匿名掲示板であったり

いや、ほんと笑い話じゃないって....

真夜『なんとかなりますよ。彼女らなら」

時間を操れる魔法師

幻術に特化した魔法師

この両名で何が出来るというのか

極端な話、なんでも出来るだろう

しかし衆人の目を欺くという点では、時間の操作は何の役にも立たない

人の記憶の時間を遡らせるとかしない限りは

お母さんの幻術だって、そんな広範囲に長時間持続して効力を発揮できるとは限らないし

不安な要素を取り除くことは出来ない

しかし信じるしかあるまい

今から駆けつけても色々と遅いのだから


何より、参拝時間が終わってる

どうせだったら金閣寺とか見たい

私利私欲の念も含めて、今から京都に行くのは気が進まない

真夜『その話についてはまた後日、直接聞いてみて下さい。私が知っているのもこのくらいですし』

歩夢「わかりました」

身近なお母さんに聞こう

また霜月さんと話して、圧迫されるのは嫌だ

また気絶かよー、とか言われてしまう

真夜『また少し話が逸れてしまいましたが、霜月さんからの伝言、しっかり 伝えました からね』

『伝えた』と強調しているところから察するに、霜月さんを恐れているのは深夜さんだけではないようだ

うん、まぁ....恐いもんね

真夜『それでは次に、』


【安価です。
1.真夜『パラサイトの件です』
2.真夜『私の方から話しておくべきことはこのくらいです。歩夢さんは何かありますか?』

1のパラサイトについてですが、そこまで重要性がないので2を選ぶと終わりの方向に進みます。
安価下。】


>>806 1.真夜『パラサイトの件です』】

真夜『パラサイトについてです』

ここでようやく、本当の意味で本題

真夜さんの表情も十師族の当主らしく真剣で、ひしひしと緊張感が伝わってくる

真夜『そもそもパラサイトとはどのようなものなのか、歩夢さんはご存知ですか?

真夜『.....英名でparanormalparasite

真夜『訳すと、超常的な寄生物

真夜『その名の通り、パラサイトは寄生します

真夜『どこかの姉さんのように精神に寄生するのではなく、人間に。ここがポイントです

真夜『とは言っても、歩夢さんに寄生云々の話をしても無駄でしょう

真夜『相手も馬鹿ではありません。それくらいは分かっているはずです


真夜『君影歩夢という宿主を見つけ、入り込もうとしたとき。それは自身の滅を意味すると

真夜『当然、達也さんや深雪さんは情に身を任せたパラサイト退治に本腰が入る

真夜『ですがその程度の───

真夜『それくらいの行動は霜月さんや雪乃、そして夜永さんと比べると些細なものです

真夜『ある人は過剰なまでに時を巻き戻すかもしれません

真夜『ある人は奥の手を使うかもしれません

真夜『.....ある人は妹のような存在と妹を失ったことにより、冷徹になるかもしれません

真夜『あぁ、だからと言ってパラサイトには未来が視えている、という訳ではありませんよ?

真夜『彼らにも人間同様“精神”があります

真夜『歩夢さんの体を乗っ取るのは駄目だ

真夜『この女を宿主にするのはリスクが大きい

真夜『そんな“勘”が働くはずです


真夜『話の意味を理解していただく必要はありません

真夜『とにかく、もしパラサイトが宿主を探しているのなら歩夢さんに這入ることはない

真夜『そう理解して頂ければ十分です

真夜『個人に限らない話に戻しますね

真夜『パラサイトは悪霊もしくは妖魔

真夜『実体はなく、情報体としての存在

真夜『一般人に視認は不可能です

真夜『ではこの場合、一般人でないのは誰か

真夜『歩夢さん、夜永さん、雪乃、葉月さん

真夜『そしてギリギリ、達也さん

真夜『その他の方々は皆、無力です

真夜『深雪さんも、アンジー・シリウスも

真夜『しかし聞くところによると───

真夜『姉さんの直感だと、この件の鍵は深雪さんのようですね

真夜『姉さんがそう言うのだから、そうなのでしょう


真夜『.....何十年も喧嘩していた姉妹の妹がそれを言うか、みたいな表情をしてますね

真夜『私はたったの1回も姉さんの直感を疑ったことありませんよ?

真夜『それは30年前に貴女も見ているはずですけれど、もう忘れてしまったのかしら?

真夜『私は心の底から姉さんを信頼して、尊敬しています

真夜『代わりは務まりません。雪乃でさえも

真夜『ん.....私の話はどうでもいいです

真夜『深雪さんがどうやって決着をつけるか

真夜『それについては達也さんに任せて問題ないと思います

真夜『歩夢さんは一貫してこの件に関わる必要はありません

真夜『結城香夜としても、四葉香夜としても同じです

真夜『手駒は既に揃っている

真夜『歩夢さんが加わっても無意味

真夜『これ以上歩夢さんには関わる必要がないと忠告しておきます

真夜『───むしろ逆に、重要なシーンで病気が悪化して倒れる可能性も捨て切れません

真夜『役立たずになりかねない

真夜『足を引っ張ることになるかもしれない

真夜『.....私からのパラサイトについての概要説明 及び 忠告は以上です

真夜『あとは、歩夢さんが判断して下さい


【真夜の説明には組み込めませんでしたが、そもそもパラサイトはどうやって生まれたのか。

それは10月31日の灼熱のハロウィン(マテリアル・バースト)の対抗手段として、アメリカがマイクロブラックホールの実験をしました。
結果、実験が失敗だか中途半端な成功だかで終わり、同時にこの世の在らざる悪霊・妖魔を呼び寄せてしまいます。
これの悪霊・妖魔がパラサイトです。

その後、パラサイトはスターズのメンバーの体を乗っ取り、アメリカから脱走します。

リーナに当初与えられていた任務はマテリアル・バーストの術者だと考えられている達也と深雪の監視でしたが、途中から脱走兵の始末。
パラサイトに体を乗っ取られたスターズのメンバーを殺すことになります。

こんな感じだった気がします(うろ覚え)。
パラサイトを倒す方法は想子の塊を当てるだけの簡単なお仕事。
ですが、視認できるかできないかで難易度がアレなようです。
なので歩夢や雪乃、夜永、葉月、を使うとかなりあっさりと倒せちゃうんですよね。
本編中では紹介しませんでしたが、那月にもパラサイトを倒すことは容易です。


安価です。
1.通話を終える
2.まだ話す
安価下。】

2

>>811 2.まだ話す】

真夜『そういえば唐突に話は変わりますけど』

と、優しく柔らかい声色で真夜さんは尋ねる

真夜『学校の方はどうですか? いじめられていませんか?』

歩夢「我が校に暴力はありません」

真夜『陰湿ないじめはあるの?』

歩夢「陰湿というか、表立った囁きのような」

真夜『.......?』

歩夢「四葉の令嬢が野菜の値段を見て躊躇してた、とかそういう噂です」

真夜『あぁ、なるほど』

歩夢「.....怒りましたか?」

真夜『いえ、全く。構いませんよ、その程度の噂なら。歩夢さんの何気ない奮闘で四葉のイメージ回復も夢ではないかもしれませんし』

歩夢「イメージ回復.....」

は、無理なんじゃないかなぁ

悪名高きあの四葉だもん

これが庶民派で噂の、あの四葉になるだろうか


ハッキリ言って、難易度高い

夜永さんなら世論操作くらい出来そうだけど

催眠術とか、宗教レベルでの催眠さえも可能

天才という肩書きは夜永さんのために作られたまである

......いや、流石にないか

真夜『今後も引き続き、自然体でよろしくお願いします。無理にお嬢様のフリをしなくてもいいですよ』

という、案外無茶でもないフリ

お嬢様の仮面を被れ、ということね

歩夢「分かりました、お母様。善処致します」

深雪ちゃんを倣って、私は頭を下げた

母である四葉真夜へと向けて

真夜『ん.....も、もう、切りますね。歩夢さんも忙しいでしょうし』

プツリ、とテレビがブラックアウトした

突然掛けられてきた電話は、突然終わりを迎える

挨拶もなく、終わった

.....今度からピンチなとき、真夜さんのことをお母様って呼ぼう

そして、許して貰おう

思いがけない戦利品である

たまには唐突な電話も悪くない


【安価です。
1.夜(達也からの連絡)
2.朝(次の日の朝)
3.パラサイト関連の決戦日までスキップ(明後日)
安価下。】

>>814 2.朝(次の日の朝)】

ー2月17日・朝ー

結果から言えば、達也くんらは勝った

青山霊園にて対峙した3体のパラサイトを無力化したという

ただ、無力化したのは達也くんでもなければ深雪ちゃんでも、ほのかちゃんでもない

4人目。もしくは1体目

ロボット(通称ピクシー)に宿ったパラサイトが『サイコキネシス』で同胞のパラサイトを退治した

どうしてロボットにパラサイトが宿ったのか

どうしてそのパラサイトはこちら側なのか

その理由というか原因はほのかちゃんにある

光井ほのかの強烈な感情に、ピクシーは覚醒した

性格....とかを模写したらしい

よく分かんないけど、なんか....従順だってさ

とにかくそれに害はないということ

で、3体のパラサイトを無力化した後は、その場に駆けつけた千葉さんと吉田くんと西城くんに後処理を任せましたとさ、お終い

うーん....?

達也くんからの説明をまとめてみたけれど、なかなか上手くいかなかった

難しいなー、小説家さんって凄いなー

......あ、こんなことしてる場合じゃない

学生らしく、学校に行かないと


【この日が2月17日なのですが、思ったよりやる事がないというか、原作的にもあまりやる事がないので、パラサイト一連の決着日の前日である2月18日にします。

次から2月18日です。】


ー2月18日(土曜日)・朝ー

朝一番で真夜さんから連絡があった

内容は、明日がパラサイトを退治する日だと

この世に出現したパラサイトは全部で12体

内1体はピクシーに憑依している

残りの11体をまとめて倒す機会が明日

随分と唐突な話である

一昨日の連絡も加味して、真夜さんは気まぐれな性格をしてるんじゃないかと疑う

そんな真夜さんから教えて貰った情報は、

場所は第一高校の野外演習場

時間は明日の夜

場所はともかく、時間が.....ね

もう少し限定して頂けると助かるんだけどなぁ

夜って何時から何時までだよー

21時...いや、20時か

私が駆けつけたときにはもう既に戦闘は終わっていて、そこはもぬけの殻だった

なんてことは嫌だから、....19時ぐらいから待機してよう

あとは達也くんと相談して、っと


ー学校ー

現在、私は保健室のベッドの上にいる

1時間目の実習で私は倒れた

ペアを組んでいたのは、もちろんリーナ

一時的な編入・留学生同士で魔法の実習も体育も彼女とペアを組んできた

そして私は毎回のように本気でぶつかっている

軍の所属しているだけあって、リーナは運動神経が並外れて良い

凡人程度の運動能力しか持たない私が彼女に迷惑をかけないよう、目を使ってまでも相手をしている

これでほとんど同じくらい(少しだけ私の方が上)である

恐ろしや、軍人さん

なお、リーナからは

リーナ「本当に病気....? 運動神経とかワタシ以上だし、息切れも全然しないし....」

普通に怪しまれてしまっている

彼女に迷惑をかけないように取り組んできた実習および体育だったが、今日の1時間目の実習にて倒れた


これは演技ではなく、本当に

魔法を使った瞬間に視界がグラグラとし、意識を失ったのだ

ペアのリーナによって保健室に運ばれ、私はついさっきまでベッドの上で寝ていた

時間は....2時間目の最中か

.....このまま寝てようかな

どうせ今日は午前中で授業終わりなんだし

と、目を閉じた瞬間

ガラッと、扉の開く音がした

保健の先生が戻ってきてしまった

香夜(歩夢)「あ....も、もう大丈夫です。ご迷惑おかけしました」

私はペコペコと頭を下げて、その場から逃げた

寝てるフリを一貫することくらい簡単だったはずなのに、私はそうしなかった

その理由は────なんだろう?


【この後。
1.教室に戻る途中で1組の男女のペアと遭遇(達也とリーナ)
2.明日(パラサイト決戦日)

安価下。】

2

>>820 2.明日】

ー2月19日(日)ー

普通科高校は一部を除いて、完全週休2日制を採用している

対して魔法科高校は一般科目に加えて魔法科があるため、日曜日だけが休日とされている

そして今日は数少ない休日

1日中、君影歩夢で居られる貴重な日

本来ならば家でゴロゴロしたり、気になっていた映画を家で観たりするする日だ

しかし今日は、別

娯楽に時間を費やすことは叶わない

私は正義のヒーローとして悪者を退治しに行かなければならない

悪者というのはもちろんパラサイトの連中

私が行かずとも事は足りるんだろうけど、念のためだ

なにより、私の目は退治に役立つらしい

魔法はともかく、目を貸すくらいなら身体に影響はないはず

まぁ、そんなこんなで私は行くと決めた

真夜さんの忠告を無下にして

真夜さんからの情報を頼りに動く


達也くんとの打ち合わせの結果、集合は19時に現地

深雪ちゃん以外にも千葉さんであったり、西城くんも来るらしい

あと柴田さんと吉田くんはサポートに徹する、とか言ってたっけ?

柴田さんの目は霜月や葉月の目と比べると劣るが、パラサイトは視認できるらしい

彼女が達也くんら一行を指揮する形となる

吉田くんは無防備な柴田さんのボディーガード

ますます私の存在意義が無くなりかけているけれど、現地にも1人くらい視認できる人が必要だろう

現時刻が朝の10時

予定時刻まで、まだまだ時間はある

.....映画とか観ようかな、暇だし


【安価です。コンマ1桁
1・7・0:那月訪問
2・5・9:葉月訪問
3・4・8:那月と葉月訪問
6:予定時刻
安価下。】

ほい


>>823 4:那月と葉月訪問】

テレビの画面をリモコンで操作し、適当な映画を購入しようと思った、まさにその時だった

ピンポーン、というインターホンの音が響く

来客のようだ

でも、あれ、....なんか通販で買ったっけ?

ゲームとか本はつい先日に届いたし.....

宅配便でなければ、知り合い?

夜永さんか? それとも....リーナ?

どうしてここでリーナである可能性が浮上したのかはともかく、私はモニターをチェックした

モニターというのはもちろん、玄関ドア前に設置してあるカメラが観ている風景を映し出しているモニター

歩夢「.....?」

そして大した時間を要する暇もなく、私は首を傾げることになる


そこに映し出された2人の姿を見ては

1人目は、端的に言ってしまえば“白い”葉月

2人目は、私曰く深夜さんや深雪ちゃんに似ていて、深雪ちゃん曰く私やお母さんに似ている、謎深い少女那月

この2人の組み合わせは異質であった

居留守を使おうにも使えない、妙な圧迫感もある

姿だけで圧迫、脅迫、恐喝をされた

私は俊敏な動きで玄関のドアを開扉

そして葉月、あるいは那月の第一声は───

那月「ご一緒にお食事でもしませんか?」

という誘いだった

......いつもお腹空いてるよね、那月

別にいいけどさ。ご飯に付き合うくらい



というわけで、私たちが訪れたのは東京都内

鯛飯で有名な和食専門のお店

リーズナブルな価格ながら、満足度の高い実績を誇ることで有名らしい(那月 談)

入店した私たちはとりあえず注文を済ませる

有名な鯛飯を2つと、あとは何か適当に

なお、鯛飯は1つ3人前と書いてあった

歩夢「.....食べきれるの?」

那月「何処のお店でもこういうのは多めに見積もってあるものですし」

そういえばそうだったような....気がする

うん、確かにそうかもしれない

お鍋屋さんとかのお鍋って4人前とか表示してあるけど、2人くらいで食べれそうだもんね

はっはっは、と高を括る私たち

注文した料理が運ばれてくるまでは、幸せでいられた


ー25分後ー

個室内は静まり返っていた

注文した料理が運ばれてきてから約3分

ここまで誰も口を割ろうとしない

気まずささえ感じさせてしまう雰囲気

そんな空気を作り出したのは、もちろん鯛飯である

机の上に置かれた大きめな土鍋

その中には、このお店の自慢の鯛飯が所狭しと敷き詰められている

目でも鼻でも、とても美味しそうだと思える

茶碗1杯は余裕だろう

もしかしたら少食の私でも3杯は軽々といけるかもしれない

しかし、土鍋2つに対して3杯はちょっとしたダメージにしかならない

HPバーがあったとしたら10%程度しか削れない

RPGならレベリングに徹するところだ

もしここがRPGの世界なら、よかった

レベリングも出来ない現実

これだから現実は


歩夢「......で、どうするの?」

葉月「......」

葉月の視線は那月へ

那月「.....いけます」

震えた声で、那月はそう言った

那月「何事も精神の持ちようが肝心です」

那月「つまり、簡単に言うと歩夢さんが咲夜さんに代わればいい。それだけです」


鯛飯とか好きなの?

─────────どちらかと言えば好きかな

.....この量、食べれる?

─────────無理。いくら美味しく食べれても、胃袋は歩夢のだし.....。まぁ、本来の私の身体でも無理なんだけど

......わかりました。私も出来る限り頑張ってみるから、私が無理になったらお願い

─────────待って。私も美味しく食べれる間に食べたい。歩夢がお腹いっぱいになるということは、精神はともかく身体が受け付けなくなっちゃうから

えー、.....じゃあ精神的に満足したら代わってね

─────────うん、わかった


歩夢の精神と入れ代わった咲夜は、既にほぐされている鯛飯の土鍋に手をつけた

しゃもじでお茶碗1杯分を、まず自分のぶんだけ

歩夢(咲夜)「よそいましょうか?」

それから、咲夜は恐縮そうにする2人から茶碗を受け取って、並々によそう

準備の整ったところで咲夜は手を合わせて挨拶をした

歩夢(咲夜)「いただきます」

何処か笑みが込められている声色で、那月は鯛飯を口に運んだ

歩夢(咲夜)「ん.....美味しい」

君影歩夢の口元が綻ぶ

見ている側の2人は、咲夜がどれだけ鯛飯が好きなのかを理解するのに苦労はしなかった

那月「(夜永さんの言ってたこと、本当だったんだ)」

この時代よりも少し先の未来で、那月が夜永に訊いたことの1つに咲夜の好物についても含まれていた

「咲夜は魚介類とか好きだったかな。お肉とかよりは魚を食べる子だったよ」

と、美味しそうに魚介類を食べる妹の姿を見て喜ぶ姉の姿は想像に難くない

葉月「(......)」

那月が夜永としたやり取りの記憶も覗いている葉月は、ただただ呆れるだけ

咲夜が、ではなく、依然変わりなくこの状況に

那月「いただきます」

葉月「いただきます」

この状況を打破するためにも、2人は未来のことは考えずに鯛飯を口に運ぶ


【安価です。食事後
1.咲夜「那月、少し話があるんだけど」
2.歩夢「それで、今日は何のご用でしょうか?」
3.その他
安価下。】

1


>>830 1.咲夜「那月、少し話があるんだけど」】

小柄な女性3人の協力の末、土鍋2つを空にした

しかしその代償として、彼女らは皆ぎこちない表情でグッタリとしている

最も酷いのが君影歩夢だ

精神的な満足を得るために身体は必要不可欠

だが、君影歩夢は身体1つに対して精神が2つ

まともに精神的な満足を得ることは両者とも出来ず、中途半端な形で終わりを遂げた

意気消沈しているかのように静寂に包まれていた個室で、口を開いたのは歩夢の身体

歩夢(咲夜)「那月、話がある」

真剣な声色で、歩夢の身体を借りた咲夜は那月に話を切り出した

若干、辛そうな表情をしているのはご愛嬌


そして返事も待たずに、本題へ

歩夢(咲夜)「2月15日の夜。どうして貴女は──司波那月は歩夢に“月”を見せたの?」

那月「......」

君影歩夢と瓊々木咲夜が同一人物であると主張されるのなら、咲夜は那月にとって母親も同然

司波深雪は産んでくれた母

君影歩夢は遺伝子上の母

瓊々木咲夜は遺伝子上の母の精神の一部

と、那月には母親は3人いる

しかし母親として接したことのあるのは深雪くらいのもの

歩夢も咲夜も創造の世界で少し話したくらいだ

歩夢はともかく、咲夜とはほぼこの機会がファーストコンタクト

母親としてではなくとも、緊張感は否めない

那月「その方が都合が良いと思ったからです。私の“月”は精神を魅せる」

コキュートスさながら凍りつかせることも

祖母のように精神構造を作り変えることも

母のように感情を固定することだって

────私には出来る

と、那月は自信ありげに言い放った


すると咲夜はパズルのピースが全てうまったかのように納得した表情で、

歩夢(咲夜)「.....そう」

たったそれだけの一言

だが、たったそれだけで、どれだけ咲夜が自分のことを理解したのかを那月は感じ取った

那月「歩夢さんには言わないで下さい」

歩夢(咲夜)「言わない。でも、理由を教えて」

那月「.....あまり未来のことを喋りすぎるのはタイムパラドックスが起こるというか、過去改変を大きなものにしてしまうので言いたくないのですが」

歩夢(咲夜)「過去改変? 決まっていた未来──運命でこの時代に来たんじゃないの?」

那月「いえ、運命ではありません。私が私を犠牲にして、魔法師にとっての魔法を頼りにした結果です」

歩夢(咲夜)「.....? ごめんなさい、私は姉さんほど頭が良くないから理解が.....」

那月「ええと....簡単に言ってしまうと、私がこの時代に来るのは運命ではありません。運命に縛られずに、私は此処にいます」

具体的な回答を要求した咲夜だったが、その想いは娘には通用しなかった


これ以上の説明は時間を無駄にするだけだと考えた咲夜は、

歩夢(咲夜)「運命とかはいいから、さっきの質問に答えて。言えない部分は伏せて貰っても構わないし、ノーコメントでもいいから」

那月「.....私が歩夢さんに、君影歩夢の娘だと認識された時点で私がこの時代で暮らした記憶は抹消されるからです」

歩夢(咲夜)「それは貴女も含められているの?」

那月「いえ、私は例外です。.....元の時代に戻ったときにお父さんやお母さん....あ、達也さんと深雪さんに昔話として話しても作り話だと思われてしまいます」

歩夢(咲夜)「.....分かったわ。このことは歩夢に内緒にしておく。まぁ、貴女の月は記憶の操作まで可能なようだから安心してもいいと思うけれど」

那月「ありがとうございます」

会話に一段落がついたところで、咲夜はまた別の話題を切り出す


歩夢(咲夜)「歩夢を止めにきたの?」

那月「魔法を使って欲しくありませんから」

歩夢(咲夜)「でも、達也や深雪と打ち合わせも済ませてしまったわ。急に行けないと言えば、怪しまれる。ただでさえ....昨日も深雪の前で倒れてるんだし」

那月「.....私が代わりに行きます。私は仮装行列も使えますし、お父さんの枷も外せます」

那月は歩夢の遺伝を強く受け継いでいる

魔法面はもちろんのこと、特性もだ

歩夢(咲夜)「.....確かに那月が行けば怪しまれないかもしれない。でも、パラサイトの件は世間的にはかなり大きい事件。そんなものに関わって大丈夫なの?」

那月「私はサポートをするだけです。戦力でしたらお父さんやお母さん、リーナさんも居ますし」

歩夢(咲夜)「......」

大きな過去改変は起こらずに済みそうだ

もっともイレギュラーな事態に見舞われなければ、だが

那月「咲夜さんがお決め下さい。予定通り歩夢さんが行くのか、歩夢さんの代わりに私が行くのか」


【安価です。
1.歩夢が行く
2.那月が行く
安価下。】

2


>>830 1.咲夜「那月、少し話があるんだけど」】

小柄な女性3人の協力の末、土鍋2つを空にした

しかしその代償として、彼女らは皆ぎこちない表情でグッタリとしている

最も酷いのが君影歩夢だ

精神的な満足を得るために身体は必要不可欠

だが、君影歩夢は身体1つに対して精神が2つ

まともに精神的な満足を得ることは両者とも出来ず、中途半端な形で終わりを遂げた

意気消沈しているかのように静寂に包まれていた個室で、口を開いたのは歩夢の身体

歩夢(咲夜)「那月、話がある」

真剣な声色で、歩夢の身体を借りた咲夜は那月に話を切り出した

若干、辛そうな表情をしているのはご愛嬌


そして返事も待たずに、本題へ

歩夢(咲夜)「2月15日の夜。どうして貴女は──司波那月は歩夢に“月”を見せたの?」

那月「......」

君影歩夢と瓊々木咲夜が同一人物であると主張されるのなら、咲夜は那月にとって母親も同然

司波深雪は産んでくれた母

君影歩夢は遺伝子上の母

瓊々木咲夜は遺伝子上の母の精神の一部

と、那月には母親は3人いる

しかし母親として接したことのあるのは深雪くらいのもの

歩夢も咲夜も創造の世界で少し話したくらいだ

歩夢はともかく、咲夜とはほぼこの機会がファーストコンタクト

母親としてではなくとも、緊張感は否めない


那月「その方が都合が良いと思ったからです。私の“月”は精神を魅せる」

コキュートスさながら凍りつかせることも

祖母のように精神構造を作り変えることも

母のように感情を固定することだって

────私には出来る

と、那月は自信ありげに言い放った

すると咲夜はパズルのピースが全てうまったかのように納得した表情で、

歩夢(咲夜)「.....そう」

たったそれだけの一言

だが、たったそれだけで、どれだけ咲夜が自分のことを理解したのかを那月は感じ取った

那月「歩夢さんには言わないで下さい」

歩夢(咲夜)「言わない。でも、理由を教えて」

那月「.....あまり未来のことを喋りすぎるのはタイムパラドックスが起こるというか、過去改変を大きなものにしてしまうので言いたくないのですが」

歩夢(咲夜)「過去改変? 決まっていた未来──運命でこの時代に来たんじゃないの?」

那月「いえ、運命ではありません。私が私を犠牲にして、魔法師にとっての魔法を頼りにした結果です」

歩夢(咲夜)「.....? ごめんなさい、私は姉さんほど頭が良くないから理解が.....」

那月「ええと....簡単に言ってしまうと、私がこの時代に来るのは運命ではありません。運命に縛られずに、私は此処にいます」

具体的な回答を要求した咲夜だったが、その想いは娘には通用しなかった

>>836 2.那月が行く

すみません、同じところを投稿してしまいました。】

那月の申し出は厚意のみで構成されている

母親への親孝行といったところだろうか

もし首を横に振れば無下にすることになる

もし首を縦に振ればこれ以上の悪化を防げる

考える必要はなかった

迷う余地はなかった

咲夜にとって大事なものを護るためには──

咲夜「お願い」

と、咲夜は台詞に合わせて頭を下げた

一方で那月は、

那月「わかりました」

そう目を逸らしながら返事をした


集合時間は19時

集合場所は現地(第一高校 野外演習場)

その情報だけを咲夜から聞き、あとはその場の流れでパラサイトの問題を済ませてしまおうという気楽な考えのもと、時間を待った

ちなみに歩夢は創造の世界に幽閉している

万が一、鉢合わせになることを防ぐためだ

全てが終わった後、また歩夢に“月”を見せて、精神を魅せる

そうすれば記憶は書き換えられる

自分は予定通りに待ち合わせ場所に行き、魔法を使わずに目だけを役立てた、と

完全に辻褄を合わせることは不可能でも、大体はそれで解決される

残る問題は那月の両親

つまり達也と深雪に正体を隠し通せるかどうか

達也は文句なしに鋭い。達観している

深雪は母親譲りで直感が冴える


1度疑われれば、同様に“月”を見せることになる

霜月との約束は守れても、今後に支障を来す恐れがある

自分の正体を知っているのは最小限に留めたい

それに彼らの隙をつくのは困難である

バレないように、母親に成りきる

これまで話だけで聞いてきた母親像を

この3ヶ月間見てきた同い年程度の母親の姿を

那月はイメージする

葉月さながらに、想像する

次の瞬間には、那月は歩夢に成っていた

外見は誰がどう見ても君影歩夢そのもの

仮装行列で完全模倣している

ただ一点、違うところを挙げるとすれば目付き

やはり何処か不安を抱えている目だ


歩夢(那月)「(.....上手に演じれればいいけど)」

つい弱音を吐いてしまう

待ち合わせまで残り3時間

それまでに───

歩夢(那月)「(.....ダメ、気楽にやろう)」

心の整理の手間を薙ぎ払い、残りの3時間はリフレッシュのために遊ぶことにした

歩夢(那月)「図書館....近くだっけ」

ふと思い出した図書館の存在

こちらに来て間もない頃に歩夢と行った図書館

ただ淡々と本を読むだけだったが、鮮明に思い出せるほど楽しかったと記憶している

本を読むことに加えて、母と読んでいるからだろうか

相乗効果。シナジー効果というやつだ

一般人には理解されないかもしれない楽しみ

少なくとも那月にとっては至福の瞬間

歩夢はどうだったのだろうか?

そんな疑問を胸に、那月は足を進めた

ー19時ー

第一高校の背後に広がる人口森林

そこは自然の森林と見分けがつかないほど、精巧に作られている

演習場の周りは高いフェンスで囲まれており、部外者の侵入を基本的には許さない

とは言っても、演習場に足を踏み入れようとする部外者はおそらく──極めて少ないだろう

そもそもこの地域に魔法科高校と無関係の民家は無い

この場所に魔法科高校が建てられる時に、魔法とは無関係の市民および関係を持ちたくない市民は相応の補償金と共に自ら立ち退いた

この地域に残った人々は、この演習場に足を踏み入れることの危険性を弁えている

大きな警備システムが無いのも、このためだ

演習場といっても単なる人口森林なので盗まれるような物は無いし、わざわざコストを掛けて侵入者を防ぐ必要が無い

そして侵入を計ろうとすると、やはりルートはフェンスを越えることに限られる

真正面からは、まぁ多少な警備が敷かれている


フェンスは3メートル程度

並みの魔法師なら十分に跳べる高さだ

達也「跳べるか?」

達也の問いに、

深雪「もちろんです、お兄様」

エリカ「あたしも大丈夫」

レオ「この程度なら問題ないぜ」

ピクシー「問題ありません」

と、3名プラス1体が返答した

歩夢(那月)「私も、大丈夫.....です」

踏み止まることが出来ずに、つい余計な言葉を付け足してしまう

だが全員の注意は人口森林へと向いていたため、怪しまれることはなかった

CADで跳躍の術式を呼び出し、那月は最後にフェンスを越えた


ー野外演習場ー

広い人工の森林を5人と1体は一塊になって進む

散開して標的を探る手段は採らなかった

この広さ、この暗さの中に、たった5人と1体

別行動をしてもリスクを高めるだけでメリットは見込めない

ならば、まとまって行動した方が合理的だ

効率とかではなく、リスクを恐れて

森林を駆けている最中、那月は俯瞰的にこの森林を視た

まず最初に捉えたのは自分たちの姿

そして少し離れたところにアンジー・シリウスと成ったアンジェリーナ・シールズとパラサイト3体の姿

既に交戦中

起動式を必要とせず、念じるだけで攻撃魔法を繰り出すパラサイトに対し、リーナは一歩も引いていない


攻守の割合はリーナが7

パラサイトが3といったところ

ただ、パラサイトの中に1体だけ厄介な能力を所持している者がいて、止めを刺せずにいる

厄介な能力とは“擬似瞬間移動”

リーナの力を持ってすれば、そのパラサイトだけをまず倒してから他の2体を倒すことは容易い

しかし、まず倒すの段階で他の2体からの集中砲火を喰らってしまってはいけない

完全に敵の能力と数が物を言っていた

歩夢(那月)「(まだ少し距離はあるのよね.....)」

今すぐ魔法でリーナを援護すれば達也らに気付かれることなく、3体の殲滅が可能となる

私たちが駆けつけた時にはもう既にアンジー・シリウスが3体のパラサイトを倒していた、で話が済む

右手に収まっている携帯端末型CADを強く握る

那月のよく知る時代ではこれよりも高性能なCADは幾つも販売されている

しかし那月はそれらを使おうとはせず、何世代か前のCAD2機を愛用している

遺伝子上の母・君影歩夢の存在を告白された際に受け取った遺品だ


それを握り締めて、心を落ち着ける

那月「(.....ううん、私は何もしない。魔法は使わない)」

当初に決めていた約束を自分に言い聞かせて、目を戻す

直後、ぷつりとリーナの姿は視えなくなった

代わりに見えるのは森林と何人か

那月「(お父さんもお母さんも、エリカさんもレオさんも居るし大丈夫だよね)」

なんて考えている那月はまだ知る由もなかった

よりにもよって、自分が狙われることを


ー野外演習場付近のビルの屋上ー

???1「.....」

広大な人工森林を文字通り俯瞰しているシックなドレスに身を纏った女性は口元に笑みを浮かべた

そしてその姿を見るもう1人の女性

こちらは前の女性とは立場──階級が違うのか何歩か下がったところで演習場を視ていた

???2「(.....帰りたいなぁ。ここ寒いし)」

現場に集まった戦力には信頼を置いている

特に達也や深雪、リーナには

なので他人事のようにただ傍観している


???1「(この世に非ざるパラサイト。少し、観させて頂きましょうか。那月さんの魔法にも興味がありますし)」


ー野外演習場ー

未だに戦況は変わらず、リーナは苦戦していた

それを直接肉眼で視野に収めた達也は擬似瞬間移動を使うパラサイトに向けて分解の照準を合わせる

しかし、それよりも早く武装一体型のCADを携えたエリカが速く、一直線に加速する

類稀な動体視力

完成中和術式でも体勢を崩さないボディコントロール

不要に身体を浮かせることなく地面をつかんで前に進む足さばき

そして相手が擬似瞬間移動で着地する瞬間をピンポイントに捉える洞察力

魔法の力はパラサイトの方が上

だがエリカの武芸者としての実力がその差を覆していた

エリカが武装一体型CADを一閃する

研ぎ澄まされた刃は一切の躊躇なく、パラサイトの胴を薙ぐ

獲物を横取りされた、と言うと聞こえは悪いが、狙っていた標的を奪われた達也はもう2人の内の1人へと向けて想子の塊をぶつける

すると、そちらのパラサイトはのたうち回るように地面を這った


達也「幹比古!」

学校の屋上に待機している幹比古に事前に繋いでおいたグループ電話で要件を伝える

しかし実際には手間はなく、名前を呼んだ時点で事象は引き起こされた

パラサイトの本体である情報体は天より降りし雷によって消滅する

達也とエリカの分のどちらもだ

ふぅ、と安堵するエリカだったが、達也の視線はリーナの方へと向けられている

電光がスパークした

幹比古の古式魔法ではなく、リーナの現代魔法

これにより黒焦げになったパラサイトの宿主

もうこちらは抜け殻となっている

本体は宿主の身体を捨てて、逃げた

達也「一匹逃げた。美月、分かるか?」

美月『すみません。ここからだと詳しいところまでは.....』

反射的に通信機へと問いかけてみるものの、返ってきたのは申し訳なさそうな声

達也「そうか。いや、無理を言った。気にするな」

そうフォローを入れて、達也はシリウスと成ったリーナと対面する


達也「封印が済むまで殺さないでくれないか。後始末が面倒だ」

シリウス「ワタシには関係ない。ワタシは脱走兵を処理するだけだ」

達也のお願いの一線を超えた脅迫は通用せず、あくまでシリウスは任務を全うするだけ

パラサイトが宿主としたスターズのメンバーを総隊長であるシリウスの称号を持つ者が殺す

少なくともスターズのルールに則って、いかなる理由も脱走兵はそういう末路だった

シリウス「ワタシはワタシの任務、シリウスとしての役目を果たすだけ」

そう言い捨てて、リーナは森の中に姿を消す

肩を竦めたくなる気持ちを抑えて、達也はエリカに向き直る

エリカ「出て来たね、シリウス」

達也「.....厄介だな」

エリカ「でもアレ、リーナなんでしょう? 手足の運びや首の振り方、目付きとかそっくりだけど」

達也「流石だな」

感心せざるを得なかった

エリカの洞察力は並外れている、と


エリカ「案外、簡単に転ぶかもね。任務より彼女自身に影響のあることをすれば」

達也「どういう意味だ?」

エリカ「おっと、あたしはあのバカのところに行ってやらないと。その理由は良く考えれば....いや、分からないか。達也くんには歩夢が居るもんね」

と、エリカは言い残して来た道を戻った

この少し手前でレオと深雪は別行動をしていた

とは言ってもそれほど離れた距離ではなく、十分にフォローし合えるような距離だ

結局、達也にもとに残ったのは歩夢の姿をした那月だけ

歩夢(那月)「.....行きましょうか」

達也「あぁ、....そうだな」

2人はリーナの後を追った


ー野外演習場付近ー

???1「.....パラサイト本体の“時間を遡らせる”べきだったようですね」

野外演習場にて対峙した1体のパラサイト

とりあえず様子見としてシックなドレスに身を纏った女性は宿主の時間を戻した

大人から子供、生命として確立する前まで

存在が死ぬというよりは消滅

死体すらも残っていない

ただ、パラサイト本体だけは宿主から抜け出し、逃げてしまった

宿主退治には成功

パラサイト退治は失敗

可もなく不可もない結果に付き人であるもう1人の女性は溜め息をついた


ー野外演習場ー

達也は深雪を自分の許へと呼んだ

すぐに彼女の力が必要になると判断したようだ

彼らの母の直感によると、深雪が今回のパラサイトの件の締め括りに必要な鍵となる

意外なことに、もう決着が近いのかと達也は思った

しかしそんな考えも目の前に広がる惨状を見ては一瞬で吹き飛んでしまう

三々五々、地面に倒れ伏した国防軍の士卒

達也たちは知らないが、彼らは九島家の息が掛かった部隊の戦闘員

その10名中8名が死体。残る2体も重傷

つまり全滅だった

今、リーナと交戦しているパラサイトによるものだ

達也「リーナ、下がれ!」

シリウス「余計なお世話よ!」

敵の頭数は5

脱走魔法師の処理を中心的な任務とするリーナにとって5という数字は大した脅威ではない


しかし相手はパラサイト

想っただけで魔法が発動する相手

いかに魔法発動までの速さが自慢のリーナとはいえ、先ほど同様に苦戦を強いられることは当然だった

シリウス「っ.....」

攻撃こそ受けていないものの、かなりギリギリな防御魔法の展開

紙一重な攻防を続けるリーナを救ったのは“時間”

予定していた時間が来た訳ではない

理論上不可能とされいる“時間操作”の魔法だ

リーナを目掛けて魔法を放とうとしていたパラサイトの1体が突如として消滅する

そしてそれは立て続けに

1体、また1体と姿を消していく

歩夢(那月)「嘘.....」

信じられない、という顔をしたのは那月

続けて、深雪や達也も驚愕に満ちた表情になる


リーナ「.....あ、貴女はあの時の.....!」

リーナにも見覚えがあった

葉月との一件に巻き込まれたあの夜

お礼という形で記憶の“時間”を遡らされ、過去に圧倒的な大差で敗北した雪乃との再戦を精神の中でした

結果は敗北に終わったが、それでも満足のいく形での敗北となった

ただの夢かと疑っていたが、女性の姿を目にして理解した

その魔法の本質までは気付いていないものの、かなり稀少な魔法を持ち合わせていると

見たことも想像したこともない事態に困惑し、つい仮装行列も解けて考えることに更けてしまう

霜月「達也さん、あとはお願いします。宿主を失ったパラサイトは9体。お考えになっている“あの手”で倒せるかと」

雪乃「より確実性を求めるなら、貴方が目になるのではなく、歩夢の目を使った方が良いと思うわ。.....ただ、見過ぎないように」

霜月「それでは失礼致します」

場を荒らすだけ荒らして

霜月と雪乃は去っていった

4人は呆然と立ち尽くしていた

リーナは訳が分からずに

達也は見透かされていたことに

深雪は達也の“あの手”について

那月は霜月が自ら手を下すような異例の状況に


しかしそんな彼らもすぐに意識を現実に戻されることになる

『ソレ』の唐突な出現によって

宿主を無くしたパラサイトは1つの塊となり、まるで九頭龍のような形をしている

だがそれは視認できるような物でなく、なんとなくそこに在るのが分かる存在

例外は那月のみ

彼女にはハッキリと視えていた

那月「(あれが.....)」

この事についても話に聞いている

多少のアクシデントはあったものの、ここまでは彼女の両親が体験した通り

そしてアレを封印するのは司波深雪

精神をも凍りつかせる魔法『コキュートス』

にて、アレを封印するのが歴史に逆らわない解決方法

しかしなんと言っても9体のパラサイトが一体化したとだけあって、魔法の発動ペースが常軌を逸している

術式解体も間に合わず、避けるという選択をしている

歩夢(那月)「(幹比古さんの結界を待ってられない.....!)」

と、考えた瞬間に今まで分散していた魔法は那月に集中する

同時に9個もの術式が展開され、術式解体も避けることも可能とせず、攻撃を受ける


深雪「歩夢っ!」

深雪が叫び、達也は“再生”のために特化型CADを砂煙の中心へと向ける

引き金を引こうとした瞬間、砂煙は強い風に吹き散らされる

風は自然なものでなく、人為的なもの

他ならぬ那月が起こしたものだった

歩夢(那月)「いったぁ....。うぅ.....」

服こそ所々裂かれているが、身体には一切傷が無い

腹部に手を当てているのは、そこが最も重傷だったからだろうか

歩夢(那月)「治る....けど、痛いものは痛いんですからね。.....普通にお腹に穴空いてたし....」

もう怒った、と言わんばかりに

右手には特化型CAD

左手には汎用型CADが握られる

直後、九頭龍の周囲にドライアイスの塊が何百個と出現し、降りかかる

だが、大きなダメージにはならなかったらしく、那月へと向けて魔法が放たれる

しかしその魔法全ては那月に命中しない

術式解体が全て間に合ったのだ

そして次に那月は一時的な少量の雨を降らせた

九頭龍を囲うように

九頭龍の目に水滴が映るように


狙いは的中し、燦然と輝く夜空に浮かぶ“月”が反射した水滴が九頭龍の視界いっぱいに入る

それだけで済まされた

九頭龍は魅せられた

那月の精神干渉魔法に

歩夢(那月)「今のうちです」

那月の促しに、達也は深雪を強引に抱き寄せた

深雪に、自分の目に映る九頭龍を視せた

深雪「視えます、お兄様!」

精神を凍りつかせる魔法『コキュートス』

精神そのものに作用する深雪の魔法は九頭龍を凍りつかせ、砕いた

氷の破片は虚空へと舞い散った



月の魔法

ルーナ・マジック

それは英語圏の魔法師が精神干渉系統の中でも特に精神を攻撃する、精神に直接ダメージを与える魔法を指して言う名称

系統外魔法の中で最も有名な魔法の1つである精神攻撃魔法『ルナ・ストライク』に由来する

那月の“月”も深雪の“コキュートス”

どちらもルーナ・マジックである

単純なルナ・ストライクならまだしも、高等魔法と思われるこの2つの魔法を見てリーナは困惑していた

彼女らは一体何者なのか

リーナ「そういえば....アユメって.....」

深雪が叫んだ「歩夢」という名前

その名前に心当たりのあったリーナは偽物の歩夢と雪乃の顔を思い出して見比べる

リーナ「.....あっ! アナタがアユメね。ユキノの娘の」

彼女にとって精神干渉魔法よりもずっと大切なことがあったらしい

しかしそんなやり取りも偽物の歩夢には難しいものだったので、逃げた

達也と深雪には「仮装行列」と一言

攻撃をくらったにも関わらず、まるで“再生”の如く怪我を完治させた魔法の正体についての探りを防ぐためだ

仮装行列で位置座標を変えたと嘘を言えば全て済まされる

来た時と同様に、那月はフェンスを越えて演習場を出た

ここに来る最中で黒服の2つのグループが何やら話し合っている様子も見られたが、スルーした

フェンスを越えたところで次元に歪みが生じる

葉月「終わったようね」

出現したのは葉月と寝ている歩夢

那月「はい。何の問題のなく。.....早速ですが、歩夢さんに“月”を見せましょう。私の記憶を与えます」

都合の良いように編集して、そのまま歩夢の記憶に植え付ける

こうすることにより大体の辻褄が合い、本当に歩夢が戦場に赴いたと偽れるはずだ

歩夢「ん.....」

そしてタイミング良く、歩夢が目を覚ました

那月「おはようございます、歩夢さん」


【名シーン(達也が深雪を抱き寄せて、コキュートスを発動する)を詳しく読まれたい方は原作の方をご覧下さい。挿絵もあります。

黒服の2つのグループですが、これは亜夜子と九島烈を筆頭にしたグループです。
パラサイトという実験対象に興味を持った真夜が亜夜子に仕事を任せ、パラサイトが封印された宿主を回収しようとしました。
偶然、パラサイトが封印された宿主は2つあったので仲良く1つづつということで収まりました。

安価です。この後。
1.翌日(2月20日)
2.国立魔法大学付属第一高校の入試試験日(水波が試験を受けるために東京に来ます。2月25日)
3.リーナの帰国を見送る(3月某日)】

3

>>862 3.リーナの帰国を見送る】

ー3月22日(頃)ー

世間で大問題となった吸血鬼の存在

その正体はこの世に非ざるパラサイトだった

“寄生虫”の名は伊達ではなく

宿主が殺されればまた次の宿主へと棲みつく

人類が滅びるのが先か

存在を封印するのが先か

極論、このどちらかだったのかもしれない

しかし今現在、私がこうして空港内のカフェで優雅にお茶をしているところから察して貰える通り、人間側は勝利を収めた

最終決戦があったのは2月19日

あれから約1ヶ月の月日が経過した

メディア界隈で話題にしていた『吸血鬼特集』も落ち着き、今ではもう懐かしく思えるほど

私や達也くん、深雪ちゃんがどのような活躍をしたのかは置いておいて


それよりも重大なことがその後日に起きた

2月末に行われた期末試験にて

一般科目ではほぼ満点の1位

魔法科目では深雪ちゃんに僅差で負ける2位

総合すると、四葉香夜はこれまで不動であった主席を下して主席の座につく

庶民派で名を馳せていた四葉香夜のイメージも翻され、お高くまとまった箱入り娘とまで噂されるようになる

いやぁ....まぁ、本気出せばこれくらい出来ます

もちろんカンニング等の不正行為は行ってない

咲夜の力も借りていない

ただ、目は使った

30年前と同様、有効に活用した

そしてその結果、お母様──四葉真夜は

真夜「あら、そう」

と、当たり前のような反応をされた

......褒めてほしかったなぁ

結構、.....うん、ほんとに頑張ったのに

四葉ではこういうのが当たり前なのだろうか


深雪ちゃんも中学生の頃とか、試験で1位を取って深夜さんに褒めて貰ったりしていないのかな

ちなみに、君影家では褒めて貰えた

うちはうち。よそはよそ。

この歳になって衝撃的な現実を知ってしまった

正直な話、幻滅です

試験終了後は3年生の卒業式

七草先輩や渡辺先輩、兄さんも卒業

はぁー、もうあれから3年か

2人との付き合いも4年目を迎えようとしている

これからも──少なくとも私の寿命が終わりを遂げるまで、良い関係を保ちたい

卒業式が終わると、2つの体育館で1科生と2科生が別れてパーティーを行ったらしい

卒業式の日にも差別があるのかと不安を胸に抱えた人も居たそうだが、本人たちにとってはこっちの方が気楽で良いとのこと

なお、兄さんはどちらにも親しい友人が居るため、2つの体育館を往々していたとか

出来損ないの私と違って友達いっぱいだもんね

全校生徒の連絡先を知ってるまである

ほんと顔広いよね、兄さん


1回外に出れば平均10人には声を掛けられる

そしてその平均分の友達すら居ない愚妹

一体全体、何処でこんな差がついたし

ため息しか出ないよ、ほんと

私も楽しいしたい

卒業式が終わると、....あぁ、そうだ

水波ちゃん、無事見事に一高に受かりました

勉強は夜永さんに教えて貰ったとか

試験予想問題が数字まで的中していたのは内緒

で、回想はこのくらいにして

私は空港内の喫茶店でお茶をしている訳だけど

香夜(歩夢)「......」

リーナはいつ来るの?

帰国するって話を聞いたから待ってるのに

もう朝から待ってるんだけどー

5時間ぐらい、こうしてるよ?

店員さんからの視線も痛くなってきた

うぅ....あと1時間待ったら帰りますからね!


ー1時間後ー

リーナ「あ」

香夜(歩夢)「ん」

待つこと6時間

見間違えるはずもない、彼女の姿

ようやく金髪碧眼の美少女が視界に映った

リーナ「見送りに来てくれたの?」

香夜(歩夢)「一時的なクラスメイト同士として」

リーナ「ワタシは友達だと思っていたのに」

香夜(歩夢)「......」

性格を理解されている

振る舞いは飾れても、性格は隠しきれなかった

そういう反省も今後に活かすとして

香夜(歩夢)「はい、これ」

リーナ「プレゼント?」

香夜(歩夢)「つまらない物ですが」

そこそこ大きめな箱の入った袋を渡す


リーナ「やつ...はし。八つ橋。京都ね」

香夜(歩夢)「そこで買ったものだけど」

空港内にはたくさんお店が入っている

北から南。あろうことか外国のお店も

旅行する気を削ぐ親切設計だ

その内に、京都名物を中心としたお店があった

八つ橋とか漬物とか、着物も売っている

1番人気はやはり八つ橋

そして意外なことに着物もそこそこ売れているようだ

リーナ「ありがとう。お礼は....」

香夜(歩夢)「いいわよ、これくらい。むしろ恩返し足らずで申し訳ないくらいよ」

体育や魔法実習でペアを組む際、リーナは率先して私と組んでくれた

あと、葉月の件とか私が気絶した時とか

助けられっぱなしだ

八つ橋くらい何個でも買ってあげたくなる

着物も一緒に買ってあげるまである


リーナ「....恩返し足らずね」

ふふっ、とリーナは笑う

嫌な予感がするのと、嫌な予感を的中させる一言がリーナの口から発せられるのは同時だった

リーナ「ワタシにしてる隠し事を全部教えて」

香夜(歩夢)「....踏み込むことになるわよ?」

リーナ「もう踏み込んでいるわ。アナタと友達になった以上はね」

話が違う

お母さんはリーナをポンコツだと言っていた

しかし、実際に会って、話してみて分かった

彼女は真摯な心を持っている

正義感というか、生真面目というか

香夜(歩夢)「リーナを負かした結城香夜は私」

リーナ「......! やっぱり....」

香夜(歩夢)「そして、.....リーナを過去に1度負かし、つい最近、再び精神の中で対峙した君影雪乃は私の母」

リーナ「ぇ.....? それって.....」

香夜(歩夢)「この事は口外しないでね。私はリーナを信頼したんだから。友達として」

リーナ「え、えぇ...わかったわ.....」

心の中で整理がついていないのか、リーナは弱々しく返事をした

んー、もうちょっと考えて話すべきだったかな

もしリーナがこのことを口外してしまえば大変なことになる訳だし


まぁいいか。なんとかなるよ、友達だもん

香夜(歩夢)「じゃあね、リーナ。私はもう行かないと。リーナもそうでしょう?」

リーナ「そ、そうだけど.....」

香夜(歩夢)「たまにでもいいから連絡頂戴。私はこれからつまらない生活を強いられることになるから、気分転換が欲しいの」

リーナ「っ.....そう。アナタも大変なのね」

香夜(歩夢)「自業自得だから文句は言えないよ」

リーナ「ミユキは知ってるの? このこと」

香夜(歩夢)「あくまで設定だと認識しているはず。深雪ちゃんだけじゃなくて、達也くんも同様に」

リーナ「....そう。後悔しないうちに、ね」

香夜(歩夢)「......」

リーナ「もう行かないと。なかなか楽しかったわ、日本も。アユメもステイツに来なさい。案内するわよ」

香夜(歩夢)「そのときはお願いね」

リーナは私へと、右手を差し出してきた

なかなかこのような体験をしたことがないので数秒を要したが、理解した

私は左手でリーナの右手を取る

リーナ「病気、良くしなさいよ」

歩夢「アメリカのパンケーキも食べてみたいし、病気を治すのも有りかもしれないわ」

リーナ「素直じゃないわね」

彼女は気さくに笑った

【安価です。原作11巻はこれで終了です。

で、今更になって思い出しましたが3月20日は歩夢の誕生日でした。
まぁ.....ご想像にお任せします。
ケーキとか食べたのかな....
(達也や深雪に違和感を感じさせずに何を食べたか、とかが非常にやり難くい)


これからについて。
番外編です。オリキャラ(一部)の中から多数決
1.歩夢
2.雪乃
3.隼人 (2)
4.那月
5.夜永
6.咲夜

以前、番外編をやる際に安価を取ったとき、隼人に2票が入っていたので隼人は2票からスタートです。
12月7日の24時までで1番多かったキャラでやります。

歩夢:誕生日とか....かな?(未定)
雪乃:高校生時代のお話
隼人:未定
那月:どうやって遺伝子上の母が歩夢であることを突き止めたか(未来編)
夜永:自称してしまう天才の日常生活
咲夜:咲夜の1日社会人生活(歩夢に代わって咲夜が1日だけ四葉家で働きます)

何かリクエストのお話があれば、キャラクターの安価に加えて書いて頂けると助かります。
それ面白そう、と>>1が思ったらそっちをやるかもです。】

【番外編は隼人の話に決まりました。
※あまり長くするつもりはありません。


安価です。コンマ1桁
1・7・0:歩夢とデート
2・8・9:夜永と何か
3・4・5:高校の入学式(隼人の)
6:まったり適当に
安価下。】

てい

>>873 8:夜永となにか】

ー11月末ー

夜永「あ、隼人くん」

3,4年ぶりに見る幼馴染の顔は大人びていた

とても同い年とは思えない聡明な雰囲気

極端な話をしてしまうと、不釣り合いだった

彼女はまだそこそこ幼い顔立ちをしているのに

全てを悟ったようなオーラを纏っている

隼人の知る同世代の友人の中には1人もいない

七草真由美であっても、十文字克人であっても

彼女ほどの雰囲気を醸し出すことは叶わない

存在を身近な人物で例えると、雪乃に似ている

単純に親戚だからという理由だけでなく

話に聞くところの時間旅行をしたからだろう

約25年。自分の年齢以上の経験を過去で積んだ

とても18歳の少女がするような経験ではない

だが、そのおかげもあってか彼女は成長した

厳しい環境が彼女を高めた

自称ではなく、本来あるべき意味として天才

欠点のない、完全無欠な人間


ただ一点を除けば絵の描いたような存在

たった一つの問題が彼女の評価を低めていた

夜永「で、早速本題だけど」

隼人「咲夜のことか?」

夜永「うん、もちろん」

とある兄妹の兄妹愛を凌駕する姉妹愛

しかし実際のところは姉による一方的な愛

妹を1人の女性と見て、恋をしている

2人暮らしを始める前から

子供の頃からずっと長きに渡って

隼人「俺は歩夢の身体に咲夜の精神が入ってからのことしか知らないが、それでもいいのか?」

夜永「知ってることは全部教えて。ちゃんと食事を摂ってた? 家の中に引きこもってゲームとかしてない? ストレスを溜めるようなことは───」

幾つもの質問が止まることなくぶつけられる

しかし動じることなく、隼人は全ての質問に対して丁寧に答えていった

数分もすれば夜永の質問も落ち着きを取り戻す


夜永「あとは.....うん、やっぱり歩夢さんと上手くやれてるか、とか」

隼人「元々、姉妹のように育ってきた2人だ。記憶は封印されていても、自然と会話は噛み合っているようだった」

夜永「そっか。.....良かった」

心の底から安心したように、夜永は一息つく

夜永「隼人くん、歩夢さんのことよく見てるんだね。咲夜のことも」

隼人「歩夢は妹だからな」

夜永「ふふ、そうだね。隼人くんはお兄さんでした」

隼人「お前もお姉さんだろ?」

夜永「どっちかっていうと先生のイメージの方が強いんじゃないかな? 真夜さんも未だに先生って呼んでくるし」

隼人「ん、でも医師免許とったんだろ? 先生じゃないか」

夜永「あれは.....教え子のために仕方なくだよ。私、妹と教え子には優しいから」

隼人「母さんや父さんにもか?」

夜永「もちろん。あ、雪乃さんと綾人さんの話する? 面白い話、いっぱいあるよ?」

夜永は隼人に雪乃と綾人の高校生活の様子を脚色なしで伝えた

母の雪乃からはとても想像のできない姿

父の綾人からは想像に難くない姿

それから、深夜や真夜についても話に聞いた

3年間見守ってきた教え子たちの様子

とても1,2時間で済むような話ではなく

夜永の話は夜まで続いた


【夜永がメインっぽいのは気のせいです。
思ったよりも早く終わってしまったので、安価とります。多数決ではありません。

安価です。
1.歩夢の番外編(誕生日.....とか)
2.雪乃の番外編(過去)
3.夜永の番外編(天才の日常生活)
4.咲夜の番外編(歩夢に代わって働きます)
5.那月の番外編(歩夢の存在を知る経緯。未来)
6.先に進める(1〜5は選択出来なくなります)
安価下。】

『天才』

その賛辞的形容詞は世間から認められた時

ようやく定着し、そう呼ばれるようになる

芸術の天才 数学の天才 スポーツの天才...etc

数多くの分野が存在する中

瓊々木夜永とはどの分野で天才なのか

彼女は自称「何でも出来るタイプの天才」

誰もが最初は疑惑の目を向ける

しかし、気が付けば認めてしまっている

───認めざるを得ない

彼女は本物なのだから

偽物ではなく、本物

どうしようもなく彼女は天才なのだ

魔法師にとっての魔法が時間操作であるように

瓊々木夜永は天才にとっての天才

分野に縛られず、全てに対応する

芸術でも数学でも、スポーツでも

完全無欠な18歳

瓊々木夜永は今日もまた世の中に貢献する

表の世界にも、裏の世界にも


ー1月ー

夜永「結城夜永です。お勉強のため、お世話になることになりました。年齢は18です。彼氏はいません。趣味は......料理?」

適当な自己紹介を終えると、拍手喝采が起こる

この前に自己紹介をした四葉香夜とは大違いである

そのまた前のリーナと同じくらいだろうか

なんにせよ、結城夜永は生徒たちに歓迎された

歳が近くて、美人で、優しそうで、頭が良さそう

生徒1人1人の様々な思惑を夜永は見透す

夜永「(雪乃さん達を生徒に持ったときと同じ)」

ついつい笑みが溢れてしまう

あのときも同じようなことを思われた

しかし雪乃や深夜、真夜は違う

彼女らは夜永がただの教師でないことを見破っていた

そして現代の例外は香夜、深雪、リーナである

この3人は夜永を普通に歓迎した

邪な思惑もなく、ただ冷淡に

夜永「(ふふ、可愛くないわね)」


魔法科高校に限らず、座学は端末による個別講義が現代の主流

この点だけが30年前と大きく異なっている

よって、夜永は煌びやかな授業風景が殺風景となったことに胸を痛めていた

夜永「(これじゃあ何のために授業風景を見学しているのやら)」

現在、夜永は1番後ろから生徒達が端末に視線を向けて授業を受けている風景を傍観している

教科ごとに担当の先生は居ない

全てアーカイブとして残されたデータを見ているだけ

やはり魔法科高校らしく魔法実習がメインなのか

すっかり常識が過去の物となっている夜永にとって、この状況は異常であった

本当につまらない

授業はやはり担当に先生が前に出て教えるべき

そんな理想は叶うはずもなく、夜永は思いにふけた




ようやく訪れた魔法実習の時間

担当の教師は夜永に授業を丸投げした

曰く、これも教育実習生としての勉強の一環らしい

見るより、実際にやってみて覚える

夜永は流石に1時間目から丸投げするのには賛成できないまま、とりあえず30年前と同じ要領で授業を始める

今回使うのは偶然にも夜永が勤務していた学校にも設置してあった装置

使い方の説明はほとんど必要なかった

四葉香夜───結城香夜でもある君影歩夢はこの装置を使ったことがある

リーナだけがこの装置の使い方を知らない

だが、説明はいらない

リーナは実戦で覚えることを夜永は知っていたからだ

ただ1人へと向けて行う使用例に選んだ相手は、

夜永「んーと、このクラスで1番の人って深雪さんでいいんだよね?」

クラスメイトは皆、頷く

誰一人として首を横に振る者は居なかった

絶対王政に近いものを感じとった夜永は深追いはせずに、深雪を相手に選ぶ


リーナと香夜以外が深雪の勝利は確実だと信じ込む

実際のところ、深雪は今まで負けなしだ

新旧生徒会に加えて風紀委員でも深雪には及ばなかった

深雪が負けるとすれば留学生のリーナ

もしくは“四”を持つ編入生のどちらか

いや、もしかしたらこの2人でも深雪には及ばないかもしれない

そんな思い込みのせいか、クラスメイトのほとんどはその勝負に注目していなかった

終わってから、一瞬の間を置いて気がついた

教育実習生が勝利し、負けなしの深雪が敗北する姿を

夜永「(ほんとに深雪さんって負けなしだったんだ....)」

生徒達の反応を見て、夜永は迷信を確信に変える

夜永「(まぁでも歩夢さんが退学になっていなければ深雪さんは負けていた訳だし、ここもやっぱり雪乃さんと深夜さんと同じか)」

雪乃と深夜が魔法実習で勝負した頃を思い出す

そしてその姿が今、香夜と深雪に重なる

それぞれがあの2人の娘であることを知らせてくれる

母娘の成長を見守れる教師という仕事は良い役職だと、改めて気付かされた


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:真夜から電話
偶数:教育実習生 → 社会人(放課後)へ
安価下。】

ほい!

>>883 2:教育実習生 → 社会人(放課後)へ
真夜と電話しますが、奇数の場合とは違った内容の話をします。】

放課後、夜永は教職員に挨拶をしながら学校を出た

教師としてではなく、教師志望の女子大学生としての潜入1日目は無事見事に完遂

生徒の信頼もそこそこ勝ち取れたので御の字だろう

ただ、1点だけ

四葉香夜が学校に馴染めるかどうかだけが気にかかる

名前と容姿は違っていても、彼女はかつての教え子

加えて妹でもある

放っておく訳にはいかない

夜永「(この問題は早め早めに対処するとして)」

夜永は携帯端末を取り出した

そしてコールしたのは四葉真夜直通の番号

ここからは教育実習生としてではなく、社会人として

表から裏への境界線であった

裏で暗躍する天才へのターニングポイント


幸いかどうか、真夜はすぐに出た

真夜『現代の学校が如何でしたか、先生?』

挨拶諸々を省き、わざとらしく問うてみせた

この程度で腹を立てるような真似はしない

というよりはそこまで深く考えずに、あるがままに夜永はその言葉を受け取った

夜永「座学は少し残念でした。ご存知ですか? もう昔のディスカッション形式の授業は撤廃されたって」

真夜『あら、そうなの? まぁ、もう私には関係のないことですからその情報は必要ありません。知る分に損はありませんけれど』

夜永「娘さん。香夜さんは今日から第一高校の生徒です。お母様にも決して無関係という訳ではないはずですが」

真夜『関節的なものでしょ。そんなことを言い始めたらキリがないわ。......ただ、娘との会話の話題に組み込むことが出来るかもしれません。覚えておきます』

夜永「是非、仲良くされ───あ、そうだ。歩夢さんを誘惑するのは構いませんが、咲夜を誘惑するのは止めて下さいね。咲夜が頼れるのは私だけですから」

真夜『心得ております。先生を怒らせたら怖いというのは私たちが1番よく知っていますから』

夜永「.....妄想は程々に」

真夜『でも事実です。貴女は如月さんの魔法に届き得る才能を持っている』

夜永「......」

真夜『才能を発揮するのは構いませんが、自分を“軸にする”ようなことは控えて下さいね』

夜永「買いかぶりすぎです。私にはそんな才能はありません。天才なのは間違いないですが」

真夜『ご謙遜を』

その一言を最後に、しばらく時間が空いた

両者、一言も口にしなかったのだ

そして気まずい時間も3分も経てば終わりを迎える


真夜『お仕事です。敵は海外の密輸組織。数は10。潜伏場所は位置情報を後で送ります。何か質問は?』

夜永「見返りについて」

真夜『情報とお金を言い値でご用意させて頂きます』

夜永「.....約束を破った場合、真夜さんの秘密をバラしますから」

真夜『秘密.....?』

夜永「バレンタインデーの」

真夜『っ.....! 約束は守ります。絶対です』

夜永「それではご連絡、お待ちしております」

電話が切れた

真夜は焦った様子を隠しきれていなかった

十師族の当主という重い看板を背負っていてもなお、動揺を見せるほどの秘密

この内容を知っている者は数少ない

本人と深夜と雪乃、そして夜永だけだ

夜永「(本当にバラすからね、アレ)」

だから、どうしても夜永は知りたい

この世で愛せるたった1つの存在

それが何処にあるのかを


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:お仕事
偶数:リーナ
安価下。】

てい

>>887 0:お仕事】

日は落ち、満天の星々が輝く夜

1つの影が雑居ビルの中に這入った

このビルは現在テナント募集中の貼り紙が付いている

無人であるはずのところに、夜永は用があって来た

かつての教え子であり、今は十師族の当主を職務としている四葉真夜のお使いとして

夜永「(敵は10.....。全員居るわね)」

右目だけを碧色へと変えた夜永はそう心の中で呟く

情報通り、敵の数は10人

1つの部屋に7人が固まっていて、残りの3人は見回り

見回りの3人を7人にバレないよう無力化するのがセオリー

しかしそれでは面白くない、と

夜永は特化型CADを壁へ向ける


壁の質はコンクリート

夜永「......」

ゆっくりと、壁を見つめながら引き金を引いた

情報が改変されるのはほぼ同時

コンクリートからセメントへ

部屋と部屋を区切る壁は一瞬にして存在意義を失った

夜永の魔法“再幻”による事象改変だ

エイドスの変更履歴を遡り変化する前のエイドスを魔法式として現在のエイドスに上書きする、というもの

ただし、効力は10分しか持たず、10分後には元通りに戻ってしまう

達也の“再生”より利便性に優れ、実用性が低い

しかしそれでも『時間を戻せる』という点が雪乃や深夜、そして真夜の関心を引いた

遺伝的な才能は持たずに産まれたものの

特殊な魔法と特別な才能を持って産まれた

瓊々木家に何所を作ったのはこの2点による功績

もしも無能として産まれていたらどうなっていたのか

一般的な魔法を使いこなせない達也と同然の扱い

はたまた、産まれて間も無く殺されていたか

考えるだけでゾッとする

夜永は自分が死ぬことを恐れている

夜永は自分が咲夜の側から離れることを怖れている

もう2度と、咲夜の側を離れない


愛する妹を護るために────

夜永「そういうことは東京以外でやって下さいな」

扉以外の場所からの侵入者に7人は慌てて銃を構えた

あまりにも唐突で、予期せぬ場所からの襲撃

敵は目視する限り女1人

しかしこんなにも華奢な女が1人で堂々と攻め込んでくるのはおかしい

この女は陽動だ

しっかりと武装した兵は他の場所に居るはず

などと、考えることが出来たのはたった1人だった

部屋に集まっていた7人のうちの1人

他の6人は消えた

最初からそこに存在していなかったように、消失した

1「......!」

残った1人は息を飲み込む

脂汗が滲み出てきたのを感じる

直感的に、夜永が危ないことを悟ったのだ

夜永「見回りの3人が死ぬか、貴方が死ぬか」

酷く冷たい声色

男は選ぶことを強制された

どちらにせよ地獄である選択を

1「.....前者だ」

夜永「そう。じゃあ大人しくこの部屋で待ってて」

出たら殺す、とは言われるまでもなく理解した

誰だってこの考えに至る

女子供だって、例外でない

男は出逢って10秒も経たずに敗北を認めた


夜永の行動は迅速そのもの

廊下で鉢合わせた組織の人間の銃を再幻で部品段階まで戻し、敵が動揺している間に確実に殺す

それを3回

1人当たり5秒もかからなかった

床に崩れ落ちた男と再会するまで30秒程度

逃げ出しもせず、銃を構えたりもせず

男はじっとして待っていた

夜永「.....質問、いい?」

1「.....拒否権はないんだろ?」

夜永「拒否してもいいわよ。言ってくれるまで拷問するだけだから」

1「拷問.....!」

夜永「そう、拷問。ギャングみたいに」

この女ならやりかねない

そう思った男は、ため息に似た重い息を吐いた

1「何が聞きたい」

夜永「1、貴方達が過去にしたことについて」

1「密輸専門だ」

夜永「2、貴方達の上に居る人。1番上ね」

1「.....それは言えない」

夜永「あら、そう」

ふふっ、と夜永は笑って見せた

随分と可愛らしい少女のような笑み

男は心の底で少しだけ安心した

この女は話のわかる奴だ、と


夜永「3、名前は聞かない。でも、何をやったかだけ教えて」

1「......密輸の指揮を取ったり」

夜永「うん、それで?」

1「実験の指揮を取ったりだ」

夜永「実験.....?」

ここで突然、夜永は神妙な面持ちをした

何か思い当たる節があるようだ

夜永「その実験の内容、教えてくれる?」

1「それは無理だ。.....すまないが、言えない」

夜永「.....ほんと、頭が悪い」

夜永は小さく呟いて、男の手をとった

そして、何の前置きも無しに、何の躊躇も無しに

小指を折った

1「ぐぅっ.....! う.....」

男はその場で崩れる

悶えるように、苦しんで

夜永「あと19本。それまでには全部聞かせて頂戴」

夜永はもう1度笑って見せた

今度は不敵な笑みだ

人を殺すのにどうして躊躇いをする必要があるのか

そんな思想を持った、危険な人物

瓊々木夜永とは冷酷で残酷な天才

表の世界と裏の世界

2つの顔を持ち合わせている

しかし雪乃のような解離性同一性障害ではない

夜永の精神は1つ、人格も1つ

歩夢や雪乃と違うところは、1人で使い分けている

表と裏で、ハッキリと

自分をコントロール出来る

そこが───彼女が天才と呼ばれる源なのかもしれない



密輸組織の上に居るのは顧傑(グ・ジー)という大物

夜永も名前だけは聞いたことがあった

しかしその名が知れ渡っているのはほんの1部

十師族の当主の内でも四葉真夜のみ

知っているのは夜永の身の回りだと真夜、雪乃だけ

腹心であるところの葉山にですら話していないことだ

真夜の中に特別な一線があるのだろう

夜永「.......」

時刻は午前1時

思ったよりも拷問で手間をかけてしまった

報告の必要はいらない筈だが、聞きたいことが出来た

もともと聞きたかった情報とは別件だ

顧傑が行った実験について

組織の男は口を割らなかった

指を全部折り、銃で風穴を開けたにも関わらず

無理だと判断すると、夜永は再幻で男を生まれる前まで時間を戻す

他の組織のメンバーにも同じことをした

生まれる前まで戻してしまえば10分という枷は外れる

人や物の証拠は消し、建物は元通りにする

まるで職人の如くの仕事っぷりには満足のいくものがあった


ただ、やはり実験の内容は放っておけない

夜永は携帯端末を取り出し、四葉真夜をコールする

真夜『顧傑。ブランシュの総裁。大漢軍法術士部隊の生き残り。詰まる所、私を傷つけた加害者の同類、といったところかしら』

顧傑は真夜が拉致および強姦をされる前に国を追放されている

よって、加害者の同類

直接的な恨みはなくとも、同類というだけで悪い印象が生まれてしまう

夜永も無関係ではない

教え子の夢を奪った人間の同類だ

恨みを買う理由はある

それに、

夜永「.....顧傑は実験の指揮をしていたと」

真夜『えぇ。歩夢さんと咲夜さんの一件。人為的な二重人格を作る実験は顧傑の発案よ』

疑念が確信に変わった

qやはり実験というのは、妹達が絡んだ事件

教え子だけでなく妹までも

夜永の怒りへと繋がるポイントを的確に押さえてくる

夜永「殺します。絶対に」

真夜『落ち着きなさい。もう少しだけ泳がせてみましょう。行動に移すのはそれからでも遅くないわ』

夜永「でも、」

真夜『夜永さんが知りたがっていた情報』

夜永「......!」

急に熱が冷めたように夜永は黙る

真夜『咲夜さんの身体はきちんと火葬させて頂きました。“あの場所”に入れてあります』

夜永「......分かりました。ありがとうございます」

真夜『構いませんよ』


真夜『先生』



【夜永編は終わりです。
顧傑は現在原作で暗躍している人物です。
今後、歩夢が動けなくなってくるので夜永の仕返しがメインになってくるんじゃないかな、と思います。

咲夜の死体ですが、最初は保管されていてそれを夜永が愛でるみたいなことをしようと考えました。
ですが流石にそれは.....と思い、辞めました。

夜永は強いです。霜月の次くらいです。
生まれる前まで戻すのはズルい。


安価です。
1.歩夢の番外編(誕生日とか)
2.咲夜の番外編(歩夢に代わって働きます)
3.雪乃の番外編(過去)
4.那月の番外編(歩夢の存在を知るまで)
5.先に進む
安価下。】

4

>>895 4.那月の番外編(歩夢の存在を知るまで)】

────私は親に愛されていない

那月がそう確信したのは物心がついて間もない頃

わずか5歳にも満たずして、理解した

魔法に関することでは興味を持たれるが

その他については気にも留めてくれない

学校のテストで良い点数を取っても、表彰をされても

返ってくるのは素っ気ない祝福の言葉だった

「おめでとう」とか「頑張ったわね」など

努力の経緯や学校での評判をもっと聞いて欲しい

一言二言で終わりにするのではなく、喋り疲れるまで一緒に居たい

そんな願望は願望止まりで、決して口には出せない

母は十師族の当主。父は大手CADメーカーの柱だ

多忙なのは重々承知だが、少しくらいは構って欲しい

そう思い続けて、約10年の時が経った

中学生2年生の秋

那月はいつも通り学校から帰宅した

家の場所も場所で、通学には徒歩で2時間ほどかかる

よって、車での送迎を利用しているのだが、今日に限っては徒歩で帰ってきた


目的はただの気分転換。特別深い意味はない

那月「ただいま」

返事はない。いつも通りだ

もう違和感を持つことさえ忘れてしまった

いや、実際のところ違和感を持ったことは1度もない

生まれてこのかた、これが普通なのだから

小さなため息を吐いて、自室へと向かう

その道中で、

「お嬢様、おかえりなさいませ」

などと、使用人から業務的な挨拶が飛んでくる

あくまで主人の娘という立場が尊重された結果だ

もうこんな生活は嫌だ

貧しくてもいいから、愛のある生活を送りたい

何度そう思ったかは数え切れない

1日に1回以上は考えている

もしも父と母が自分に関心を持ってくれていたら、と

朝と晩は一緒にご飯を食べて

空いた時間はお話をして

夜は一緒のベッドに入る

考えただけでも幸せそうな家族だ


那月「っ......!」

そして、そのあとは決まって虚しくなる

想像は所詮、妄想なのだ

妄想を現実にするために行動を取らなければ────

と、思った直後に人影を目にして我に返る

例の人影は正面からやってくる

那月「夜永さん」

人影は瓊々木夜永のものだった

彼女は現在、四葉家の柱となっている

当主ほどではないにしても、限りなくそれに近い

実務こそ深雪の仕事だが、四葉家の息が掛かった飲食店やホテルなどのお店の指揮は全て夜永が執っている

そのおかげか経営状態は非常に安定し、四葉家の活動資金へ大幅な献上を続けている

夜永「那月。帰ってきたのね。おかえりなさい」

令嬢としてではなく、1人の人間として接してくれる

そして心の底から甘えらえる存在でもあった

夜永「最近学校はどう? 楽しい?」

那月「はい。楽しいです。友達も出来ましたし」

夜永「ふふ、良かった。友達は大切にね。勉強の方は大丈夫? もし分からないところがあれば教えてあげるから」

那月「あ....学校の先生やっていたんでしたっけ?」

夜永「中学じゃなくて高校の、だけどね。問題児ばっかりで困ったよ。こう見えて、深雪ちゃんや達也くんにも教えたことあるんだよ?」

那月「お母様とお父様にも.....?」

夜永「うん。2人の話、聞きたい?」

距離を縮めるきっかけになれば幸いだと、夜永は那月に提案した

もちろん那月はその意図に気付いていたし、同時に知ることで距離が開く可能性を危惧していた

余計なことを知ってしまい、叱られたら

そう考えるだけで、魅力的な提案を断る選択肢も有りだと考えてしまう

那月は親に対して神経質になっている

どちらが良いか決めるのに時間がかかった


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:聞く
偶数:聞かない
安価下。】

はあっ


>>899 8:聞かない】

聞くか、聞かないか

散々あれこれ悩んだ挙句、

那月「またの機会にさせて下さい。今は....学校の宿題とかがあるので」

と、魅力的な申し出を断った

理由は、やはり両親との関係が悪化するのを防ぎたい

その一心で、泣く泣くこのような選択をした

夜永「そう? じゃあまた今度ね」

那月「はい!」

那月は子供らしく、元気良く返事をした

父や母、使用人には見せたこともない姿だ

そんな一面を見せた那月の頭を夜永は撫でてやり、

夜永「お母さんにもその笑顔を見せてあげて」

那月「.....見せたところで何も反応してくれません。お母さんは私に興味がない....ですから」

夜永「.......」

こうして那月の口から本音を聞くのは初めてだった


やはりそう思っていたのか、と夜永は確信し、

夜永「お母さんやお父さんと仲良くなりたい?」

那月「....はい」

夜永「そっか。....私から1つだけヒントを」

那月「ヒント?」

夜永「うん。2096年について調べてみて」

那月「2096年......」

2096年は那月の両親が共に高校1年生

しかしそれが一体全体なんだというのか

頭の良い那月ですら、理解に苦しんだ

何か重大な功績を残すような事でもしたのか

それとも名誉ある功績ではなく、事件の引き金にでもなっただろうか

夜永「ただ、ちょっと調べるだけじゃダメだよ? 仲良くなりたいならそれなりの覚悟を決めないと」

那月「.....わかりました。頑張ってみます」

夜永「えぇ。もし何も分からなかったら.....葉月さんとかを頼るといいかも。彼女は優しいから、更なるヒントをくれるよ」

那月「はい、ありがとうございます。色々と」

夜永「私は生徒と妹には優しいんだよ。......特に妹にはね」

この台詞を那月が聞くのは片手では収まらない程度

立派な口癖とまではいかないにしても、それなりにこの台詞は夜永が気に入っているようだった

夜永「じゃ、私は深雪ちゃんと少しお話があるから、また今度ね。ばいばい」

見た目と共に精神も若々しく、夜永は那月の横を過ぎ去っていった

夜永「(....少し調べるだけじゃダメ、かぁ)」

違法行為に触れるようなことをしなければならない

その勇気および覚悟は那月にはあった

なにせ、もう10年もの歳月

ずっと夢に思っていたことを叶えるチャンスだ

是が非でもこの機会は無駄には出来ない

学校の宿題を後回しにし、計画を練るために自室で具体的な計画を練ることにした


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:夕食
偶数:翌日
安価下。】

てい

>>902 9:夕食】

ある程度計画がまとまってきた

しかしやはり、最大の難点は屋敷を出ること

那月の休日は季節を問わず家で読書

家から出ることは殆どない

たまに、水波や夜永、葉月と外に出るくらいだ

どうやって外に出るか

かれこれ2時間ほど考え、行き詰まっている

屋敷を抜け出すこと自体は可能かもしれないが、四葉の情報網を掻い潜ることは困難を極める

それこそ夜永の知恵を借りようとも思った

しかしヒントを貰ってしまった以上、1人で答えに辿り着くのが筋というもの

那月「んー」

机に突っ伏して思考のリセットを試みるが、なかなか上手くいかない

ペンを置き、机に伏せたまま目を閉じる

すると、身体が休憩可能と判断したせいか、強烈な睡魔が那月を襲う

あと一歩で眠ってしまう那月を起こしたのは、

侍女『那月様、ご夕食の準備が整いました』

と、聞き慣れた声の主が夕食の時間を報せに来た

那月「ん....はーい」

弱々しく寝起きのような返事をして、那月は席を立つ


ー食堂ー

食堂内は静寂に包まれていた

食器の音ととても小さな咀嚼音だけが響いている

現在、この食堂で食事をとっているのは2人

1人はこの屋敷の女主人である司波深雪

そしてもう1人は娘の司波那月

両者ともに、一言も喋ろうとしない

これは非日常ではなく、日常

日々常々行われていることである

食事中に限らず、喋らないのが普通

会話を交わす方が非日常的と言っても過言ではない

席の並びは斜め向かい同士

自分のことを嫌っている母親の視界に極力入ろうとしないよう、那月が気を遣った結果である

会話を交わさないとだけあって、食事のペースは速い

15分足らずでデザートへと移行する


【安価です。
1.那月「あの、....お母様。1つお願いがあるのですが」
2.食事を終える
3.その他(那月→深雪 深雪→那月への質問等。あまりにもおかしな質問などですと、再安価になるかもしれません。ご了承ください。)
安価下。】

1

>>905 1.那月「あの、....お母様。1つお願いがあるのですが」】

デザートが運ばれてくるまでの時間

那月は思い切って話しかけた

那月「あの、....お母様」

深雪「.....! な、なに?」

那月「明日、外に出ても構わないでしょうか?」

深雪「外に.....? 何か用事?」

滅多に外に出ない那月へ深雪は訝しげな視線を向ける

那月「少し遠くの本屋まで行こうかと」

深雪「......そう。まぁいいわ、好きにしなさい」

那月「ありがとうございます」

那月はほっと心の中で安堵した

これで明日は合法的に外に出られる

残る問題は2096年についてどれだけ調べられるか

那月「(.....なんとかなるよね、うん)」


ー翌日ー

今日は土曜日

那月の通う中学校は完全週休二日制を採用している

よって、学生という身分をある程度忘れて動ける

午前10時。那月は屋敷を出た

まず最初に最初に向かったのは最寄り駅

母が出しているであろう監視役を振り切るためだ

自分のことを注意深く見ているのは5人

魔法で無力化するのは厳しい

単純な戦闘能力なら那月に分があるが、監視カメラのある環境下で正当防衛でない魔法を使用するのは立派な犯罪

四葉だけでなく国家権力まで敵に回すことになってしまう

それだけは避けなければならない、と

定番だが、人混みを使って逃げるのが最良

那月は個別車両に乗り込んだ

田舎の駅には休日とはいえ、人は少ない

まずは大都会の駅へと、那月は初めての遠出をする


【クリスマスイブ......? 美味しいの?

安価です。
1.東京(達也と会うかもです)
2.京都(君影・葉月と会うかもです)
安価下。】

2


>>908 2.京都】

那月は京都駅へと向かった

見張りを撒くためでもあるが、本当の狙いはまた別にある

2096年に起きた物事────主に事件について

街で起きた小さな事件から

単純に調べただけでは出てこないような大事件まで

それらを専門家に依頼し、リストにまとめてもらった

受け取りは13時に梅小路公園

何度か対面した経験もあるので、スムーズにやり取りは行われると思われる

ただ一点、問題を挙げるとすれば見張りが自分を見失うのにどれだけの時間がかかるか

もし深雪が夜永に那月の見張りを命じていれば、撒くことは不可能

那月の知るところだと葉月や水波でも同様だ

それだけは祈るしかない

母親がどれだけ自分のことを信頼してくれているか

ろくに目も合わせたこともない母親からの信頼を求める方が誤りであることくらい、那月自身が一番良く分かっている


自分だって母親を信頼していないから

母親のことを知らな過ぎる

何分、情報が少ないのだ

名前と性別と誕生日、既婚者であるかどうか

その程度のことしか知らない

だからこそ、今回には期待を寄せている

十数年生きてきてようやく訪れたチャンス

何がなんでも2096年について調べ上げる

那月にとって、ここが人生のターニングポイントとなる

良い方に転ぶか、悪い方に転ぶか

今後の人生はこの機会に掛かっている

そんな意気込みを込めて、那月は京都へと向かう


【安価です。見張り役について。コンマ1桁
4:夜永
8:水波
0:葉月(見張り役ではなく、偶然遭遇)
1・2・3・5・6・7・9:普通の部下
安価下。】

ほい


>>911 2:普通の部下】

那月は小さな声を漏らす

特別何かがあったという訳ではないが、目の前に広がる光景を見てしまっては平常を保てなくなるのは無理もない

端的に言ってしまうと、那月は都会に驚いた

この施設には自分の通う学校の全生徒以上の人数が存在していて、同時に出入りも激しい

休日は所詮、相乗効果の一部であることくらい考えるまでもない

地元の駅よりずっと貴重価値があり、日本の交通機関として立派な役目を果たしている

前々から自分の住む町は比較的田舎であることには薄々と気が付いていたが、今ようやく確信した

那月「私の町.....田舎だ」




那月「ここどこ....」

携帯端末を片手にし、那月は涙目になっていた

人には幾度となくぶつかるし、謝ろうとしても次の瞬間にはその人は人混みに紛れている

そして何より、駅の出口が分からない

一般の人に訊くことはもちろん、駅員さんに尋ねるのも憚られてしまう

そこで、携帯端末を使って駅の構造を調べてみたのだが、解ったのはこの駅が地上3階,地下2階の計5階建てだということだけ

自分の位置までは解らなかった

藁にもすがる思いで見張りの人に訊くという選択肢も視野に入れてきた頃、那月は1つのお店を見つける

大手チェーン展開をしているドーナツ店

これだけは那月も知っていた

水波と外出した際に、何度かお茶をしたところである

京都に訪れてようやく知っている物に出会えた

その喜びからか、那月はつい衝動買いをしてしまう

依頼をした専門家への差し入れも含めて、15個ほど

5個が自分ので、10個が差し入れという名のお土産

意気揚々にお店を出ると、視界に白い光が映った

ようやく見つけた出口である

ここが待ち合わせ場所に最も近い出口なのかどうかはともかく、出口まで来ればどうにでもなる

那月は待ち合わせ場所である梅小路公園へと向けて、陽気な一歩を踏み出した



見張り役『お嬢様は喫茶店でドーナツを購入した後、中央口から外へ』

深雪「そう。.....もう那月の監視はいいわ。ご苦労様。あなた達の業務は以上です。明日の仕事に支障を来さない限りでしたら、そのまま京都に残って頂いても構いません」

深雪はおずおずと電話を切った

本当に那月の監視を解いてしまっても良かったのか

友人との約束を守るための最良の選択であったのか

数々の不安が募る中、水波が紅茶を運んできた

水波「那月様はどちらへ?」

深雪「よりにもよって京都」

水波「......! 不味いのでは?」

深雪「大丈夫よ。京都には葉月さんも居るし、魔法が絡んでくれば隼人さんが居るわ」

水波「いえ、そういう意味ではなく.....。“あの場所”に立ち寄るんじゃないか、と」

水波は那月が“あの場所”に立ち寄ることを危惧していた

最悪の場合、那月は全てを知ることになってしまう

自分にはもう2人────母親が居ることを

精神的にもまだ育っていない那月にこの事実を教えるのは時期尚早である

そう杞憂していた水波だったが、深雪は、

深雪「大丈夫よ、安心して。那月は目を使えない。水波ちゃんも知っての通り、あそこへは目を使わないと行けないわ。今の那月が行っても人払いの術にかかるだけよ」

水波「.....そうだといいんですが」

余裕を見せる深雪に対して、水波は杞憂で終わって欲しいと想いを募らせる表情をしていた

那月は四葉家にとって大切な『モノ』だが

水波にとっては、個人として大切な存在である

かつては実の姉のように慕った女性の残した遺産

ぞんざいに扱う訳にはいかない

彼女を傷つけないためにも────

水波「(今はまだ、.....教えられません)」


ー京都・梅小路公園ー

道中は携帯端末のGPSに頼り切った

おかげで1度たりとも迷うことなく、待ち合わせ時間の10分前には到着することが出来た

しかしそれよりも早く、依頼人は到着していた

那月「藤林さん」

藤林「迷わずに来れたのね、偉いわ」

那月が依頼した相手は『電子の魔女』の二つ名を持つ藤林響子

彼女は二つ名の通りコンピュータ関連に長けている

だからこそ、彼女なら隠蔽されているような事件でも調べられると踏んだ算段だった

藤林「依頼は2096年にあった事件よね。はい」

藤林はショルダーバッグから取り出したUSBメモリを那月に手渡す

そして、代わりに那月は厚い茶封筒を取り出した

那月「あの.....これくらいで大丈夫ですか? 足りなければ仰ってください」

藤林「えーっと.....ううん、お金はいいの。あなたのお父さんやお母さんには昔からお世話になってるし、お礼はお父さんからふんだくるから」

さすがに子供からお金は受け取れない、と藤林は茶封筒を鞄に蔵わせた

藤林「パソコンはあるの?」

那月「今から買いに行こうかと」

藤林「完全にノープランなのね.....。じゃあこれ使って。サービスよ」

USBメモリに続いて、藤林は少し小さめなノートパソコンをショルダーバッグから取り出し、那月に渡す


那月「ぇ...いえ、こんなにお世話になる訳には.....」

藤林「いいのいいの。安物だし、そろそろ買い換えようと思ってたやつだから」

那月「......じゃあせめて、このパソコン分のお金だけでも払わせて下さい」

藤林「だからいいって....って言っても聞かないわよね。そうでした、あなたは達也くんの娘さんでした」

那月「いくらくらい....ですか?」

藤林「十万円」

藤林は遠慮なくキッパリと言い張った

少し困った表情が見れると期待したが、那月は先ほどの茶封筒の3分の2を鞄に残し、3分の1を茶封筒に入れたまま藤林に渡す

ここまでの作業に躊躇いは一切なかった

藤林「(私の家も大概だけど、流石は四葉の令嬢ね。金銭感覚が麻痺してるわ。ていうか、中学生の手持ちが三十万を超えてるって.....。どういう教育をしてるのやら)」

逆に藤林が躊躇いつつも、十万円を受け取る

那月「あとこれもどうぞ」

藤林「ドーナツ? ふふ、ありがと。気が利くわね。そこはお母さん似かしら」

那月「お母様に似ている....?」

藤林「えぇ、そっくり。......達也くんが那月さんと距離を置いてる理由は単純に仕事の都合だけじゃないかもね」

那月「?」

藤林「今はまだ分からなくてもいいわ。いずれ教えて貰えるはずだから。お父さんの初恋の相手を」

意味ありげな台詞と「じゃあね」という短い別れの挨拶を残して、藤林は去っていった

那月「......?」

取り残された那月は藤林の台詞の意味を理解出来ないまま、その場で数十秒ほど立ち尽くした


2016年の事件について片っ端から目を通す

骨の折れる作業どころか、骨が溶けるような作業であることに那月は10分も経たずに気がついた

インターネット上に掲載された小さな事件から大きな事件まで、全国で約百万件ほど

魔法犯罪によるものが大半であったが、一般市民による事件も多数見られる

一件ずつ着実に目を通せば年が明けてしまう

だからと言って、無理をして調べ続ければ体力の消耗が激しく、京都という見知らぬ地に伏せることになる

作業と息抜きの分配が大切だという結論に至った那月は、

那月「(......遊ぼっか。せっかくだし)」

初めての1人での遠出

こんな機会は今後含めてそうそう無い

ならば、今という時間がどれだけ重要かは考えるまでもない

藤林からデータの受け取りまでが本日のノルマ

両親について知るのは一刻も早いほうが良いが、こういう時くらいは自分に甘えたくなってしまう

遊ぼう、と固く決意を決めた少女は、


【近頃、更新できなくてすみませんでした。
今後は再び頑張っていきたい所存です。

安価です。コンマ1桁
4・7・9・0:葉月と遭遇
1・2・3・4・5・6・8:1人で観光
安価下。】

ほい

>>918 2:1人で観光】

清水寺前の産寧坂を訪れた

そこは観光地らしく、人が所狭しと密集している

人混みが苦手な那月にとっては悪夢のような光景だ

しかし同時に、良い意味での夢のある地でもあった

お店は軒を連ねて無数に存在しており

背伸びをすれば垣間見える仁王門には興味が注がれる

観光雑誌で幾度となく拝見した地に高揚を隠しきれないまま、夢にも見た観光地に足を踏み入れた


十数分後、那月は先入観を消し去った

実際に産寧坂を体験して感想を持ったからだ

第一感想が夢に溢れている坂だったとすれば

第二感想としては、

那月「(もう....いいかな。1回体験できたし)」

端的に言ってしまえば、散々であった

とにかく人の流れが激しすぎるのだ

よって、気になったお店にも寄れず終い

抹茶ソフトクリームとやらも食べれていない

那月のテンションは下がる一方だ

那月「(....お腹空いたな)」

立て続けに、空腹までもが敵に回ってしまう

癪だが、清水寺を見て回るのは後

まずは何か食べよう、と

那月は来た道を戻る

今度は拝観時間の終了間際に来よう

そう段取りを決め

携帯端末で近辺で有名な飲食店を捜す


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:すき焼き
偶数:普通の飲食店
安価下。】


>>940 2:普通の飲食店】

那月は洋食屋に這入った

和の京にて洋の食を嗜む

というのは後付けの理由であり

本当の理由は空腹に耐えきれなかったから

とりあえず目に付いた飲食店が洋食屋だったのだ

入店した那月は席に着き、一通りの注文を済ませ、

那月「(よし、やるか)」

そう意気込んで、小型のノートパソコンを開く

単にネットサーフィンをするためではない

藤林から貰ったデータに目を通すためだ

何事も効率を重視する人間にとって

今のような待ち時間を無駄には出来ない

那月「......!」

データは思っていた以上に綺麗にまとめられていた

日付順や各県順にもソート可能である

北海道から順に目を通すのは苦行であるため、

両親がかつて通っていたという魔法科第一高校のある東京を中心とした関東に絞ることにした


ー三十分後ー

食事を終えてしまった

今は食後のティータイム

それに伴って、2096年の事件に目を通している

しかし成果はゼロに等しく、やる気が削がれるばかり

小さな溜め息を吐き、那月はインターネットを開く

検索したのは 【2096年 九校戦】

おそらく出場しているであろう両親の晴れ姿でも観ようと、直感的に行動した結果である

公式のページには各校の出場選手

並びに試合の録画が掲載されていた

他の高校はともかくとして、第一高校の出場選手の殆どは今でも付き合いのある選手ばかり

特に北山雫や光井ほのかの両名は深雪の親友とも呼べる存在であることを那月は知っていた

那月「(んーと.....うん?)」

一つだけ、知っている情報と違う試合が行われていた

それは新人戦のモノリス・コード

男子のみの競技のはずが、第一高校に限って女子も混ざっている

おかしいな、と思った那月は別タブでこの理由を調べると、すぐに答えは分かった

那月「(競技の行われる建物で事故.....)」

運営側の用意した建物で事故が起こったため、

特別処置として女子も交えて再選出した三人組で競技を行う、とのこと


それで再選出されたメンバーは

司波達也
司波深雪
吉田幹比古

この三名で、結果は優勝している

特に熱戦だと話題になっていたのは決勝戦

九校戦史上初の盛り上がりを見せたとか

両親が共に参加しているこの競技は両親のことを知る何かのきっかけになるかもしれない、と

那月はこの試合を視聴することにした

那月「.......」

遠距離の射撃魔法を達也が術式解体で打ち消す

熱戦と言えば熱戦だが、想像していた熱戦とは違う

四葉家の人間二人に対して、相手に一条将輝

フィールドが更地から荒地になることくらい覚悟していた側としては、少し期待損してしまう

戦況は司波深雪が動き始めたところから始まる

達也とお揃いの特化型CADを携え、第三高校側へと近づいて行く

威嚇や煽りを目的として放たれていた射撃魔法は総じて深雪へと狙いが定まるが、深雪は動じることなく術式解体で攻撃を無力化する

一方、深雪に攻撃が集中したことによって安堵が訪れた達也と幹比古は少し会話を交わして、直後に達也が右大回りに走り出した

必然的に攻撃は分散する

深雪を狙う者は一条将輝だけとなった

一騎打ち、ということで将殿も直進

深雪との距離が約50mとなり、

攻防が激戦と化してきた瞬間、

那月「────!」

突如として、深雪が将輝に急接近していた

距離は数十センチメートル程度

疲れ切った表情をする深雪が驚愕に満ちている将輝の頬に手を当てて、何らかの魔法で将輝が戦闘不能とする

そしてそれとほぼ同時に、大きなブザーが鳴り響く

深雪と将輝の戦闘に集中している間に、達也が残りの二人を倒していたのだ


どちらが勝ったのかはともかくとして

熱戦と称されていた理由が分かった

現代においても不可能だと言われている瞬間移動は

数十年前に、母によって実現されていた

魔法師として優秀であることは度々と耳にしていたが、この事実は衝撃的であった

那月「(瞬間移動....お母様、使えるんだ.....)」

使えるからと言って、どうこうする訳ではないが

母への評価は少しだけ変わった

凄い魔法師? から 凄い魔法師へ

しかしその評価はまた改めてすぐに変わることになる

もう一度、瞬間移動のシーンをコマ送りで見返した時に気がつく

深雪が瞬間移動をする直前に、将輝が競技規定を違反する魔法を使っていることを

これまで深雪の術式解体が打ち消していた射撃魔法よりもずっと魔法式が多く、それでいて威力も比べ物にならない

だが、その次のコマではその魔法式全てが打ち消された上で、深雪は瞬間移動を終えている

術式解体の上位互換の魔法を使いながらも

瞬間移動という夢のような魔法を扱う母

凄い魔法師 から 憧れの魔法師へと

那月の中で司波深雪への評価がシフトした


【この時の深雪は歩夢が仮装行列で化けた姿です。
那月は瞬間移動だと思い込んでいますが、神座と天邪鬼で時を止めた(実際には自分を極端に加速させ、他のもの全てを極端に減速させる魔法)ので、瞬間移動ではないです。

安価です。コンマ1桁
0・1・4・6:事件について調べる
2・3・5・8・9:観光
7:???
安価下。】

ほい!

>>925 9:観光】

母のことを少し知れたような気がして

那月は意気揚々としていた

京都という未踏の地に足を踏み入れた時より

幾らか楽しそうで、足取りも軽い

会計を済ませた那月が次に向かったのは近所の土産屋

清水寺には絶対に行きたい、という意思があるので、遠出をせずに楽しんで時間を潰す方法を模索した結果である

当初は飽きっぽい性格からして、すぐに飽きて何処か別の観光地に行ってしまうのではと懸念していたが、どうやらそうはならないと確信して安堵する

日頃お世話になっている人へのお土産を選ぶのに飽きることはない

各々の好みを推測して、商品を棚から手に取る

例えば、桜井水波

彼女の嗜好は紅茶よりも抹茶

名産である抹茶を使ったクッキー、茶葉などが喜ばれると予測される

ただ、注意しなければならないのは値段

性格からして、値段を抑えなければならない


一方、瓊々木夜永は水波とは異なる

嗜好については未知であるが値段は気にしなくても良い

夜永は『頂き物』としての価値を見出すからだ

二人へのお土産は比較的すぐに決まった

しかしやはり、最大の問題は司波深雪

娘として何をあげれば良いのかまるで目処が立たない

フィクションから得た情報によると

「自分の子供からのプレゼントなら」

「なにを貰っても嬉しい」

だそうだが、娘として見られている確証がない

いつだって冷たく接され、育児は水波に任せきり

自分の母親の好みなど────知らなくて当然だ

司波深雪への『贈り物』は保留にし

那月は水波と夜永へのお土産を購入して外に出た


【安価です。コンマ1桁
1・9:土産屋
2・8:清水寺
3・4:葉月
5・6:休憩(2096年について調べます)
7・0:???
安価下。】

てい!

>>928 1:土産屋】

以降、何店か土産屋を廻った

しかしこれと言った物はなく、彷徨い続けて一時間

ここでようやく飲食物の断念を志した

決め手となったのは『京扇子』

個人的な思惑だが、美しさに惹かれたのである

飾られていた扇子に吸い寄せられるように

那月は『京扇子』の専門店を尋ねる



内装は非常に美しかった

気品漂う扇子が幾つも展示されていて

無関心であるはずの扇子に見惚れてしまう

那月「(商品名....というよりは題名....?)」

『清良』であったり『綾華』であったりと

扇子そのものに名前が付けられている

とてもただの商品名とは思えず

職人が手掛けた芸術の題名だと感じられた


このお店に展示されている扇子は数百を越える

母に似合う代物を捜すのは困難かと思われたが、

那月「────!」

直感的に2つで1セットの京扇子に目を奪われた

題名は『夢の月』

おそらく一方が『夢』で

もう一方が『月』を模しているのだと那月は悟る

扇子に描かれているのはどちらも『満月』

ただ、違うのは左右対称であること

『夢』は左に満月が描かれているのに対して

『月』は右に満月が描かれている

2つで1つのペアであることの印

那月はこの扇子に一目惚れをしたものの

購入するのを躊躇った

理由は母親への遠慮

那月「(お母様に1つ渡すとして....残りの1つは....)」

必然的に自分の物となる

愛してもいない娘とペアの代物を貰って嬉しいのか

その考えが那月を悪い意味で踏み止まらせた



【安価です。コンマ1桁
1・6・0:保留
2・7・9:店員さんに話しかけられる
3・4・5・8:購入
安価下。】

とうっ

>>931 5:購入】

何分────いや、何十分か

那月はその場に立ち尽くした

立ち尽くして、例の扇子を眺めている

店側からしたら良い迷惑な客だろう

しかし店員は話しかけてこない

少女が真剣そのものだったからだ

身体の軸を微動だにさせない、綺麗な佇まい

確かめるまでもなく、この少女は上流階級の人間

無意識に発せられる緊張感に店内は毒されていた

那月よりも前に来店していた客も

那月の後に来店した客も

足早に店を去って行った

営業妨害で訴えようにも、少女は上流階級の人間

圧力や世間体がそれを許さなかった

店側も馬鹿ではない

おとなしく、迷惑な客の買い物が終わるのを見届ける



店側が客に屈してから五分後

ようやく少女は決心したのか、商品を会計に出した

商品名────題名は『夢の月』

値段は其れなり

とても中学生が買えるような代物ではない

────ここまで来て

冷やかしだったのかと若い店員が狼狽えていると

裏方から年老いた老婆が若い店員に声をかけた

明らかな業務連絡

しかし現状に必要な業務連絡であった

若い店員は老婆と入れ替わりに裏へ引っ込み

老婆は若い店員と入れ替わりに表へ出た

那月は咎めない

特段、失礼をされた気にもならなかったし

叱責する勇気を持ち合わせてもいなかったからだ

若い店員とは違い、老婆は那月を疑わなかった

素早く会計を済ませ、包装をする

老婆「お嬢さん、これは誰方に?」

那月「ぇ...ぁ、はい。えっと、.....母に」

突然な問いに動揺を隠しきれず、言葉が詰まる


老婆「.....昔。といっても、ほんの十五年ほど前」

那月「......?」

老婆「同じ商品を買ったお客さんが居た。そのお嬢さんは今のお嬢さんに、非常に良く似ていたよ」

那月「はぁ....?」

老婆「名前は.....なんて言ったかな。...あぁ、そう。『夢』だ。この商品名と同じ『夢』」

那月「.....」

老婆「そのお客さんはこう言ったよ」

「題名が気に入りました。私の名前に『夢』って字があるんですけど、この夢を────扇子という形にして親友に贈ろうかなって」

老婆「その後のことは知らないが、扇子屋を営んでいる者としては.....甲斐があるというもんだよ」

人と人との絆の一役を担えて、嬉しい

そう老婆はきょとんとする那月に昔話を聞かせた

老婆「老人の昔話を聞かせてしまって済まなかったね。こう長生きしていると話を聞かせたくなるものなのさ」

那月「.....いえ、お陰様で決心が付きました」

老婆「若人の力になれたなら、嬉しいよ」

包装し終えた扇子を紙袋に入れて、那月に手渡す

那月「ありがとうございました」

那月は老婆へと一礼をする

売り手と買い手の関係ではなく

話し手と聴き手の関係として、感謝をした


【安価です。コンマ1桁
1・4・9:清水寺
2・6・8:事件について調べる
3・5:葉月
7・0:???
安価下。】

ほい

>>935 9:清水寺】

日が暮れ始める夕方17時

那月は改めて、産寧坂を訪れた

見上げるだけで人の多さを計り知れたが

数時間前よりは格段に人数が減っている

窮屈だった通り道に幾分かの隙間が垣間見える

これなら完全に思い通りとまではいかなくとも

ある程度の融通は利く、と那月は歩み始めた

坂の両脇には土産屋が軒並んでいる

京都らしい飲食物を主に取り扱う店

京都らしいグッズを主に取り扱う店

大まかに区別してしまえば、この2つだった

場違いな店は1つ足りともなく、統一感を感じさせる

────流石は観光地。

那月は素直に感心して

それと同時に気分を高揚させた


少し歩くと『抹茶ソフトクリーム』の看板が目に入る

一度、横目に見ているとだけあって

吸い寄せられるように那月の足が動いた

店内には木製の椅子が幾つかある

そこで食べろ、ということだろう

間違っても、歩きながら食べることは許されない

那月はシンプルに抹茶

もしくは抹茶とバニラのミックスにするか

はたまた、チョコレートにするか

優柔不断な那月は思考錯誤をした

何味が自分にとって有益な効果をもたらすか

数年前の自分ならチョコレートにしていただろう

しかし、ここ数年で那月の味覚は急速に成長した

───正確に言えば抹茶に対しての耐性がついた

お嬢様の『嗜み』として茶道を習ったからである

せっかくだし、と考えた時点でチョコレートは消えた

抹茶にするか、抹茶とバニラのミックスにするか

無難なのは後者

もし抹茶が苦くてもバニラで苦味を抑えられるからだ


あれこれと考えること、約30秒

那月は無難な道を選択した

ミックスを受け取った少女は椅子に腰をかける

そして、ソフトクリームを一口

那月「ん」

第一感想は、思っていたより甘い、だった

スイーツに苦味はいらない、と誰かが唱えたのか

抹茶はそれなりに甘く、バニラとの相性は完璧である

文字通り、至福の瞬間であった

抹茶の甘さと風味

文句のつけようがない

ソフトクリーム製造機の購入を視野に入れながら

那月は数分かけて充分に堪能した

店を出ると、陽は落ちていた

携帯の時計を確認すると17時15分を指している

少しまずいか、と懸念しながら

人がまばらになってきた坂を足早に上る

仁王門にはすぐに辿り着いた

そして、大きな門くぐって内部へと進む


数分後、本堂へとようやく辿り着く

まず第一に向かったのは『清水の舞台』

身を乗り出せばすぐに落ちてしまいそうだった

下を眺めて、決して油断しないようにと心掛けてから

先を見据える

森、もしくは林が一面に広がっていた

暗闇により、はっきりとは見えなかったが

それでも迫力はあった

我を忘れて、ただただ圧巻し続けた


気がつけば参拝終了時間が迫っていた

他にも観たいところは幾つかあったが

那月は目もくれず、地主神社へと向かった

この神社は『恋』の神社

那月には無縁の地である

四葉家の当主ともなれば自分の意思で恋人は選べない

次期当主最有力候補として、もう諦めがついている

しかし自分で恋人を選べないと知っていても

一縷の望みに懸けて、神に頼ることはできる

その第一歩として、おみくじを引いてみることにした


【安価です。コンマ1桁。天か地獄か。
奇数・0:大吉
偶数:大凶

(歩夢は大凶でした)
安価下。】

てい

【一点、修正です。
>>934

「気に入りました。私の名前に『夢』って字があるんですけど、この夢を────扇子という形にして親友に贈ろうかなって」

の親友の部分を“友達”に変更です。


>>941 9:大吉】

恐る恐る引き、開くと、そこには大吉と書かれていた

その時点で那月の不安は解消され

代わりに好奇心が芽生える

どんな良い事が書かれているのか、と目を通す

那月「......」

とにかく褒めちぎるようなことばかり書いてあった

次期当主候補としても

一人の女としても

将来には期待しても良い、とのこと

今の悩みは恋愛よりも家庭の問題だが

このおみくじの結果は那月の鬱憤を晴らした

占いは基本的に信じないタイプであるが、こうも良い結果が出てしまっては信じざるを得ない

意気揚々として、那月は地主神社を一通り回ったあと

地主神社および清水寺、産寧坂より退散した


【安価です。コンマ1桁
1・5・8:事件について調べる
3・6・9:夕食
2・4:葉月
7・0:???
安価下。】

ほい

>>943 6:夕食】

時刻は18時を回り、陽は完全に落ちた

地元では疎らな街灯も

この都会では満遍なく設置されている

そのうえ、今夜は満月だった

雲ひとつない夜空に浮かぶ、圧倒的な存在感

星よりも図々しく

それでいて美しく

唯一無二の魅力を感じる

名前に『月』が入っているせいで親近感が湧き

昔から天体観測を趣味の一つとしている

きっかけは解らない

しかしおそらく、明確なきっかけは存在しない

たまたま夜空を見上げたら月が綺麗だった

そんな、ふとした事がきっかけになったのだろう

そして同様に

ふとした事がきっかけで那月は空腹を感じた

ちょうど通りかかった居酒屋から漂う焼き鳥の匂い

現物を見ずとも、想像しただけでお腹は空いてくる

だが、那月は外見も内面も未成年

直ちにこの場を離れて、飲食店を探す


家にはもう連絡を済ませている

要件は、帰宅するのが遅くなること

同時に夕食も食べてくると伝えた

自分が今どこでなにをしているのかが筒抜けのせいか

許可はあっさりと下りた

そして、家の最寄り駅まで迎えを出す、と

こんな経験は初めてであった

意見が肯定されるのは、生まれて初めて

それも中学生の勝手な我儘を聞き入れて貰ったのだ

帰ったら、母にお礼を言おう

そう心に決めて、那月は一段落つけた


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:すき焼き
偶数:蕎麦屋
安価下。】

いよっ

>>946 4:蕎麦屋】

お嬢様の嗜みの一つとして茶道を習ったことにより

那月は抹茶を飲めるようになった

人間としての───成長

新たな境地が開けた

先ほどのソフトクリーム同様に

これまで距離を置いてきた『抹茶そば』に挑戦する

それも京都の名産品の一つとして挙げられる

宇治抹茶を使用した蕎麦

気品のある風味がさぞ感じられることであろう

那月は気分を高揚させて、店構えが立派な蕎麦屋へ


注文を済ませた那月はノートパソコンを開いた

用途はもちろん2096年にあった事件に目を通すこと

洋食屋で調べた時は失敗に終わったが

そもそもこの行為は失敗を前提としている

成果に期待する方が間違っているのだ

しかしだからと言って、期待をしない訳ではない

見つかればいいな、程度の想いで

藤林にまとめて貰ったデータに目を通していく


【安価です。コンマ1桁
7・0:大当たり
1・5・9:当たり
2・4・8:まぁまぁ当たり
3・6:はずれ

安価下。】

ほい

>>948 5:当たり】

東京を中心に調べてみたものの

出てくるのは小さないざこざばかり

魔法科高校に関する事件は一向に出てこない

いや、それでいいのか

秩序が護られている、と考えれば世間的には幸いだ

そして『魔法』への風評被害を抑えられると思えば

一人の魔法師として、那月もまた幸いする

だが結果的に、今の目的とは相容れない

この問題はこの問題であり

両親の情報には繋がらない

もやもやとした気持ちを晴らすため

思いっきりスクロールしてみた

適当なところで止め、そのページを開く

那月「......!」

偶然か

那月もよく知る事件が出てきた

10月30日────『横浜事変』

そしてその次の日には────『灼熱のハロウィン』

どちらも“魔法”が絡んでいて

世界を震撼させた事件


戦争兵器よりも魔法が優越であることを明らかにし

軍事史だけでなく歴史の転換点とされている

那月は授業で習っただけで、これまで一切の興味を示してこなかった

しかし、これを機に少しだけ調べてみることにした

灼熱のハロウィンではなく、横浜事変を

確か那月の記憶が正しければ────

那月「(あった....!)」」

横浜事変が起きた10月30日は

全国高校生魔法学論文コンペディションの日

略して論文コンペは、魔法科高校が関係している

それだけでなく、参加グループの第一高校枠には司波達也の名前も記されていた

那月「(夜永さんの言っていたことは、これ....?)」

小さないざこざを越えた争い────戦争

死傷者も多数出たと書いてある

しかし、

那月「(少し調べる程度ではダメ、なんだよね....)」

夜永は少し調べる程度ではダメ、と言っていた

横浜事変は比較的簡単に検索が可能である

もう少しだけ

横浜事変について踏み込まなければならない


そう、具体的には路上に設置された防犯カメラとか

魔法が絡んでいるとだけあって

その記録は日本魔法協会に保管されているだろう

直談判はもちろんのこと

システムに侵入する、なんてことは以ての外

だが、せっかく見つけた手掛かりを無駄にするのは

意志に────覚悟に反する

無理を承知で、那月は危うい道を選択をした



店内で犯罪行為をするのは法律は無視して、モラル的にどうなのか

そう思った那月はひとまず食事を済ませて

人気の少ない何処かで行動を起こすことにした

まず、とりあえず今は食事の時間

パソコンを閉じて、蕎麦を食す

那月「ん」

ほのかに香る抹茶の風味

蕎麦屋ならではの専門的な喉越しの実現

初体験の宇治抹茶そばに感動の念を抱いた

十数分後には食べ終え、家でもお店の味を堪能したい、と乾燥麺を自分のための土産として購入する

想像以上に満足のいく夕食となった

ふぅ、と長く息を吐いて気持ちを切り替える

お遊び抜きの、真面目モード

真剣な眼差しとなった那月は人気のない場所を探しに

夜の都会へと繰り出した



結局、梅小路公園まで戻ってきてしまった

しかし都合が良いことに人気は全くない

ここでなら落ち着いて作業ができる、と───

那月「よしっ!」

意気込んでノートパソコンと向き合った

ハッキングは藤林から少しだけ習ったことがある

単純な好奇心がまさかこんな機会に役立つとは

学は身につけておくべきだな、と那月は思った


【安価です。コンマ1桁
1・2・3・5・6・8・0:成功
4・7・9:失敗
安価下。】

ほい

>>954 2:成功】

結果から言えば、少女は目的を達することが出来た

無事見事に、魔法協会からデータを盗んだ

勝因として、スペックの高いパソコンを起用したのは大きかっただろう

しかし、それだけじゃない

焦燥に駆られていてもなお───いや、違う

駆られているからこそ、頭が良く回ったのだ

頭が真っ白になるのではなく、鮮明に見据えれた

スポーツないし音楽での才能の開花のように

人間としての『覚醒』に那月は触れた

そして、彼女は気が付かない

自分が今までどれだけの“傷み”を味わってきたか

日々蓄積された傷が───彼女を覚醒させたことに


事件が起こったのは2096年10月30日の15時30分

論文コンペが終了に差し掛かった辺りである

15時30分───大きな物音がして

15時37分───会場に兵が侵入してきた

この敵兵を無力化したのは氷のナイフ

会場内にいる戦闘経験豊富な魔法師の仕業だろう

しかし、誰がやったのかは何度見返しても分からない

何人かの兵が会場に侵入してきて

おとなしくCADを床に置けと命令して

その次の瞬間には氷のナイフが兵に刺さっている

一人や二人ではなく、敵兵全員に

まるで時を止め、その間に氷のナイフを製造したかのような偉業に那月は一人の魔法師として感嘆の念を抱いた

それから紆余曲折あって

というか、那月自身もまとめきれていない

母および両親の友人の姿は監視カメラが捉えていた

そして各々、非常に戦闘能力が高いことも分かった


しかし注目するべきはそちらではない

まぁまぁ見知った女性が、敵軍を異常なペースで叩いている方に那月は目を奪われた

四葉家前当主 四葉真夜の友人である君影雪乃

どんな兵よりも人を地に伏させ、兵器を破壊していた

一人で国家戦力にまで及びそうな勢いである

今後は彼女との接し方を考え直した方が良い

そんな恐怖も身に染みて分かったところで───

急に、唐突に、予兆なしに

監視カメラの映像がが真っ暗になった

眼を凝らすと、数多の小さな星が見える

那月「(流星群......真夜さん?)」

流星群は閉鎖された空間での使用を推奨している

推奨というか、注意書き

しかしこの映像では無茶をしている

世界を一つの閉鎖空間だと考え

世界を対象にした流星群

身体にかかる負担は言うまでもないだろう

魔法科高校の生徒を助けるために

当時の四葉家の当主が寿命を削った

那月の中で真夜への大まかな評価は変わらず

好感度が上昇するばかりである


それからしばらくして

那月「(......うん?)」

一人の男性が一人の女性にプレゼントを渡していた

銀色に輝く、美しい腕輪

紛れもなく手錠であった

唐突なことで那月は困惑したが、それよりも

女性の『眼』に目を奪われた

どちらも綺麗で透き通った碧色の瞳を持っている

那月「(......)」

思い当たる節は二つほどあった

一つ目はリーナの存在

碧眼といえば、彼女である

しかしリーナは金髪碧眼

カメラに映っていた黒髪碧眼ではない

二つ目は雪乃と夜永の存在

彼女らは確か碧眼を持っていたはずだ

夜永は右目だけだったが、色は非常に似ている

こんな碧眼はそうそう見れるものではない

カメラに映っていた女性は二人の関係者───

それも血の繋がるような関係者

かと思ったが、君影家は三人家族と聞いている


そして夜永の素性は知れない

いつもはぐらかされて、有耶無耶に終わってる

妹の存在も聞き出せないままでいる

那月「.....妹?」

いや、違う

夜永の眼は右目だけが碧眼となる

やはり両眼を碧色にできる雪乃

彼女と何らかの関係があるのでは?

そう一応、心に留めて

那月はカメラの映像を引き続き視聴した



その後、例の女性は深雪と接触している

とても仲良さそうに、親しげな表情での会話

母の友人関係については知っているつもりではあったが、親友のような存在は把握できていなかったようだ

那月が例の女性へと向ける眼差しは一層に強くなり

同時に、踏み込むことへの恐怖を改めて感じた


【安価です。コンマ1桁
1・5・9:もう少し調べてみる
2・4・6・8:葉月
3・7・0:???
安価下。】

てい

>>960 2:葉月】

パソコンを閉じて、那月は「ふぅ」と息を吐いた

成果としては可もなく不可もなく

まずまず、と言ったところであった

依然変わりなく両親は魔法師として優秀

しかし親としては───微妙なところである

ただ自分が鈍感で、親からの愛情に気が付いてないのかもしれない

もしそうだったら、幾許か報われる

親を疑ってしまった罪悪感は、また別の話だ

一呼吸つき、そろそろ帰ろうかと思った

もう夜も遅い

今から交通機関を使ったとしても

家に着くのは日付が変わった頃だろう

そして説教をされて、自室に戻るのは午前2時頃

後先が思いやられる


一度、意識せずに溜め息を吐こうとしたとき

???「やっと見つけた」

背後から声が掛かった

先ほどの行為が警察にバレたのかと思って肝を冷やしたが、振り返ってみるとすぐに声の主が誰か分かった

腰手前まで伸ばした銀髪に、透き通るような白い肌

日本人離れした容姿は見間違うはずもない

那月「葉月....さん」

恐る恐る、彼女の名前を呼ぶ

こんな夜中に中学生が一人で居たのだ

常識的に考えて、怒られるだろう

しかし葉月は、

葉月「夜ご飯、もう食べた?」

と、全く怒った様子を見せずに問い掛けてきた


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:君影家(京都の)へ
偶数:???
安価下。】

そぉい


>>963 1:君影家(京都の)へ】

那月はとある戸建ての家の前で突っ立っていた

表札には『君影』の文字

ついさっき話題に挙がった君影雪乃の家である

これから遭うのか遭わないのかはともかく

言動には細心の注意をはらった方が良い

いくらあれから年が経って、歳を重ねたとはいえ

そう簡単に衰えるような人ではないはず

少なくとも───今の自分が勝てる相手ではない

などと、自分に何度も言い聞かせる

ちょっとした誤ちすら、引き起こさないために

具体的には、両眼を碧眼にする女性のこと

彼女は雪乃のみならず関係者の間で、触れてはいけない話題の筆頭な気がしてならない

もちろん確証はなく

あくまで信用の出来ない“直感”であるが

しかし事が起こってから後悔するのは遅い

ならば予め自分に言い聞かせて、誤ちを引き起こさないのがお互いにとっての安全な道である

いつも通りを演じればいいだけだ

本を読んで欲しいとお願いしてみたり

昔話をして貰ったり

平和的な道を歩むことを胸に刻むと同時に、

葉月「いいよ、入って」

時間にして約五分

ようやく葉月が家の扉を開けた

那月はこの間、寒空の下で待たされていた

家主に許可を取ったり、部屋の片付けに要した時間

身体は冷えたが、もともとだ

ちょっと寒い時間が長引いただけである

那月「お邪魔します」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:雪乃らが居る
偶数:雪乃らは居ない(隼人がいます)
安価下。】

いよっ

>>965 6:雪乃らは居ない】

葉月に案内されるがまま、通されたのはリビング

そこには一人の見知った男性がいた

那月「ぁ....隼人さん....。お邪魔します」

隼人「.....あぁ。葉月、那月に部屋を」

葉月「....えぇ」

家主の反応はあまりにも素っ気なかった

迷惑しているのではないか、と

那月は安直に考えるが、思い違いである

ただ隼人は那月に対して素直になれないだけ

あまりにも似すぎているからだ

那月と入れ違いに亡くなった、たった一人の妹に

深雪や達也が距離を置いているのと同じように

隼人もまた、那月とは距離を置いている

彼自身、気持ちを入れ替えようとは何度もした

しかしそれが出来ずに

今の今まで、ダラダラと引っ張ってしまっている


葉月「那月、今日は泊まっていきなさい。もう夜も遅いわ。深雪には私が伝えておくから」

那月が変に思い込む前に

葉月は那月を二階の部屋へと案内した

葉月「貴女の“お母さん”が使っていた部屋。お掃除はしてあるから、心配しないで」

那月「お母様の.....」

葉月「......いい?」

那月「はい。ありがとうございます」

葉月「ふふ、じゃあ私は下に居るから、何かあったら声をかけて」

那月の頭を撫でて、葉月は階段を下った

“お母様”が使っていた部屋

恐れ多いところだが、断れる状況でもなかった

ごめんなさい、と心の中で謝り

那月は部屋の戸を開く


部屋の中はしっかり整理整頓されていて

掃除の手入れが隅から隅まで行き届いている

とても綺麗な部屋であった

特に那月の興味を惹いたのは大きな本棚

そこには十数年前に発刊された本が揃っている

ベストセラー系の本もあれば、マイナーなものまで

その多くは那月の嗜好に一致していた

荷物を机の上に置いて、早速本棚を漁り始める


【安価です。
1.部屋の探索
2.葉月と話す
3.隼人と話す
4.事件について調べる
安価下。】

1

>>968 1.部屋の探索】

今現在では『名作』と名高い本が何冊かあった

いずれもプレミア価格が付けられるほど

お嬢様である那月に買えないことはなかったが、それでも躊躇せざるをえない値段での取引

令嬢が購入を躊躇した本が目の前に揃っている

普段なら一目散に本を手に取り、徹夜をしてまでも読破していただろう

しかしここは“あの”お母様の部屋

頭は酷く冷静であった

感情───欲求を抑えて

那月はひとまず部屋の探索を試みる

本棚は最後に回して、まずは部屋の全貌を

部屋の大きさは平均より少し大きい程度

平均と言ってもフィクション上でのイメージとの比較になってしまっているが、大差はないだろう


机と椅子、ベッド、クローゼット、本棚

家具はこの程度だった

いずれも那月の自室と比べると小さい

ベッドに至っては、天蓋が付いていない

しかしそれがマイナスポイントにはならなかった

那月自身、あれは鬱陶しいと前々から思っている

ベッドから目を背け、次は机

机の上にも何冊か本は並んでいた

特にお気に入りの本を取りやすい位置に置くのは那月も同じだったので、意図はすぐに理解できた

机の引き出しは三つ

内の一つはそこそこ大きい物が入りそうだった

そして、鍵のようなものは付けられていない

プライベートを漁るようで罪悪感を感じないわけでもなかったが、勇気を振り絞って開ける

まず一つ目は筆記用具が入っていた

ノートやボールペン、それからレターセット

違和感を感じるようなところは一切なかった

強いて言えば、レターセットの消費が程々にされていたころだろうか

───いや、おかしくない

いくら電子メールが普及している時代とはいえ、手書きの手紙から伝わる相手の感情は唯一無二である

決して、今後も電子メールにはない魅力だろう

総じて、特別おかしなところは無かった

閉じて、次の引き出しへ


二つ目には観光誌やパンフレットが入っていた

京都観光の名残だろう

所々、印がされている

ここにもおかしな点は無かった

次の───最後の引き出しに移る

三つ目は、

那月「.......?」

何も入っていなかった

雑貨一つなく、奥まで覗き込んでもすっからかん

余計な買い物はしないタイプだったのだろうか

それとも何処かに隠した、とか

いくつかそれらしい事は思い浮かんだが、パッとした答えには辿り着けない

だが、どんな答えであれ、別に捜し物をしている訳ではない

余計な詮索は終いにし

次はクローゼットでも開けようかと思って

投げやり気味に三つ目の引き出しを閉じようとした瞬間、高さが合わないことに気が付いた

目測では20cmほどの高さがある引き出しに対して

実際に開けて、中の高さを測ってみると10cm少々

すぐに思い浮かんだ

那月「.....二重底」

木の板で隠し物を隠してあるのだ

その証拠に、底の端を指で押してみると対角線上にある端が浮いた


大した手間ではないが、『隠し物』をしているのは一目瞭然であった

那月「........」

一体、この下には何があるのか

気のせずにはいられなかった

勇気を出し、仮の底の木の板を取る

すると、そこにあった品は二つ

一つ目は扇子

偶然か、ついさっき那月が購入したものと同じである

題名は『夢の月』

二つで一つのセット扇子である

そして、描かれた絵から察するに、これは『月』

那月があのお店で聞いた話の影響を受け、決めた片方と同じだった

十五年前の客が名前に『夢』が入っているから、という理由で友達に『夢』をあげたのだとしたら

那月は母に『月』を渡そうと考えていた

しかしその母の部屋に渡そうと考えていた『月』があったのだ

自然と、『月』の選択肢は消える

当初の予定こそ台無しになったが、プレゼントという点ではまだ『夢』の贈り物が出来る

代用は充分に効く

ただ、少しだけ気を落とすのは違いなかった

自分が母に寄り添えない代わりに、『月』の扇子が母に寄り添う

そんな想いを込める予定だったが、失敗に終わる


少しだけ気を落として、もう一つの品物を手に取る

二つ目は本

裏表紙が表になっていたため分からなかったが、

那月「......!」

表にした瞬間、那月の背筋が凍る

表紙は姉妹と思しき二人が仲良くしている絵だった

那月「(おおおおお、お母様はこのような趣味が....)」

自称は出来ないにしても、那月は読書家の端くれ

少しだけだがそういう知識もあった

好奇心で本を開き、パラパラと捲っていく

漫画ではなく小説であったが不幸中の幸いか

適当に目を通す程度では内容は頭に入ってこない

そして、7割ほど捲ったところで一枚の紙が落ちた

本に挟まっていたのだろう

神様の配慮なのか、紙は裏返しになっている

なんの恐れもなく、那月は拾い上げ、裏返しに

那月「あ」

表になった紙──写真には一組の男女が写っていた

一人は親子以上話し相手未満の関係である達也

もう一人は一方的な顔見知り以上未出会い関係の女性

浮気かと疑う前に、二人の首元に目を奪われた

お揃いのネックレス

那月の記憶にも微かにある

ただのお洒落かと思っていた

しかしあのネックレスは

両眼を碧眼にする例の女性とお揃いの物

ここに来てようやく那月は気付く

那月「.....浮気?」


【安価です。
1.達也に電話(コンマ安価を後に取ります)
2.部屋の探索
3.葉月と話す
4.隼人と話す
5.事件について調べる
安価下。】

>>974 1.達也に電話】

お揃いのネックレスに加えて、近い

兄妹のような関係でないとすれば、答えはただ一つ

例の女性と達也は恋人同士だった

きっかけ───おそらく四葉の事情でその関係は切り離され、結果的に達也は深雪と結婚し、現在は例の女性と距離を取っている、と

那月は妄想半分で推測した

政略結婚による被害

この場合の被害者は他の誰でもなく例の女性だろう

何も報われず、距離を取らされたのだから

───嫌でも同情してしまう

一人の女として

一人の関係者として

那月「.....」

写真を手に取ってから、身動きがとれない

文字通り、その写真に釘付けになっていた

妄想は所詮、妄想

真実を確かめるには本人確認が手っ取り早い

この写真が司波深雪の部屋にあったということは

司波深雪もこの二人の関係を知っている

父か母か

決断はすぐに着いた


【安価です。コンマ1桁
1・4・7・9・0:電話に出る
2・3・5・6・8:電話に出ない
安価下。】

てい

>>976 8:電話に出ない】

写真を机の上に置き、代わりに携帯端末を手に取った

そして、躊躇しながらも『司波達也』をコールする

彼は大手CADメーカーの頭脳の役割

毎日、仕事が山積みで忙しいはずだ

屋敷に帰って来たのはつい最近だと2ヶ月ほど前

少し遅れた夏休み、との名目だった

しかしながら滞在時間は約2日

その多くの時間は深雪や夜永、葉月に割り振られた

那月は全くと言っていいほど会話を交わしていない

せいぜい近況報告である

それもたどたどしく、他人行儀な報告

達也も那月が察する限り、素っ気ない反応ばかり

「私と話してても楽しくなさそう」

「父と娘の関係でなければ話さなかった」

「だったら、他の人と話して、時間を有意義に使って貰いたい」

ネガティヴな思考続きで、那月は逃げるように父親の前を去って、部屋にこもった


まともな会話は出来ず終いで

またすぐに仕事で東京へと戻ってしまった

今までは此方側から距離を取ってきたが

そんな父へ、初めて電話をした

しかし電話に出る気配はない

やはり仕事が忙しいのか、と

十コールを越えた辺りで思い始め

二十コール辺りでは電話を切っていた

はぁ、と項垂れる那月

着信拒否にされていないだけありがたい話であるが、決死の覚悟で電話をしたのに出なかったというのだから、せっかくの勇気が無駄になってしまった

あと数時間もすれば折り返し電話が来るだろうか

もうその時には勇気が残っていない

どうしよう、と頭を抱え込む那月であった


【安価です。この類の安価はあと2回(予定)です。
1.葉月と話す
2.隼人と話す
3.事件について調べる
4.部屋の探索
5.電話(水波・夜永のどちらか)
安価下。】

1で

>>979 1.葉月と話す】

頭を抱えることになってしまったのは自業自得

間違った方向に踏み込み過ぎたからなのだろうか

それとも、この苦難を乗り越えた先に希望があるのか

何れにせよ、先を見据えるのではなく、前を向く

すると見えたのは

やはり達也と前向きに話し合うことだった

挫けてばかりでは何も起こらない

そう思って、手掛かりを捜しに出た次第である

せっかく見つけた父の元彼女と思しき情報

これを有効に活用する事こそが目的への近道

ここで挫けてはいられない、と

強い意志を持った那月が起こした行動は───

那月「助けて下さい」

葉月「.....うん?」

数少ない理解者への協力願い

夜永か葉月かで迷ったが

直接話せる相手はこの状況で葉月しかいない

結果から言えば消去法になってしまったが、那月はどちらも同じくらいに信頼している

直接話せる相手、という理由は後付けだった


葉月「魔法関係かしら?」

那月「いえ、お父様との話し方を...教えて頂きたくて」

葉月「......1つだけ訊かせて」

那月は何のために動いてるの、と

葉月は那月を見透かすような翡翠色の瞳で睨む

那月は身震いをし、同時に例の女性の碧色の瞳と似た何かを感じ取った

那月「.....私はただ、お母様とお父様の本音を知りたいだけです。結果には....あまり興味はありません」

私のことを───娘のことをどう思っているのか

もし目障りだと思われているのならば、引き下がる

極力、両親の視界に入らない努力だってする

逆に、普段の行いからこの線は非常に低いと思われるが、もし大切に思われているのなら、恩返しをしたい

母も父も愛情表現に苦しむ不器用者だったと決めつけて、娘としての親孝行を考える

そんな事を口下手にだが、葉月に旨を伝える

すると葉月は「もういいよね」と小さな声で呟き、

葉月「私に出来ることなら、出来る範囲で協力するわ。ただし、あまり期待しないでね」

那月「はいっ!」

葉月は頼りになる人間だということを知っていた

だからこそ余計に、嬉々の感情が湧き上がってきた


葉月「じゃあまずは....達也との話し方ね。決して難しいことではないわ。ただ、普通に話せばいいだけ。娘の貴女なら、尚更のことね」

那月「普通に.....」

葉月「緊張するかもしれないし、口下手になるかもしれない。けど、伝えたいことを伝えきるのが大切よ。途中で挫折したりせず、全て伝えて。貴女が伝えたいことの、全てを」

那月「はい....!」

葉月「あとは.....そうね、少しハードルが高いかもしれないけれど、他人行儀な呼び方を辞める、とか」

母のことをお母様と呼び

父のことをお父様と呼ぶ

これは他人行儀から来る呼び方ではなく、しきたり

このように教えられ、躾けられてきた

そう簡単に言い換えれる訳ではない

葉月「.....難しいみたいね。まぁ、そこまで気を詰める必要はないわ。ゆっくりと段階を踏んでいくことが大切。今はまず達也に全て伝えることを意識して」

那月「分かりました」

やっぱり葉月さんは頼りになる、と那月は思った

適切な意見を述べてくれる上に、勇気も付けられる

もし相談相手が葉月ではなく夜永だったら───

どうなっていたのかは考えるまでもない


【安価です。残り1回(予定)です。
1.葉月との会話を続ける
2.隼人と話す
3.部屋の探索
4.事件について調べる
5.電話(水波・夜永のどちらか)
安価下。】

>>983 4.事件について調べる】

葉月に土下座をするような勢いで感謝の旨を伝えた後

少女は軽い足取りで自室に戻った

携帯端末に着信はない

まだ折り返しの電話はきていないようだ

ならば、と

那月はパソコンを机の上に出し、電源を入れる

目的は更なる情報の取得

今この瞬間の時間を有意義に使い

少しでも自分を有利にすることこそが最善の一手

今のままではいくらなんでも分が悪い

写真の女性について尋ねたところで、親の特権を使って、はぐらかされるかもしれない

そうなってしまえば、全てが水の泡となってしまう

両親が口裏を合わせるかもしれないからだ


あの親に限って無理矢理な説明はしないだろう

筋の通った嘘で、納得させられる

写真は没収され、今後の行動も制限されるはずだ

軟禁状態まで那月は予想しているほどに

この機会により一層の重みがかかる

なにがなんでも成功させなければならない

そのためには例の女性の情報が必要となる

例えば氏名とか、住所とか

最も単純で、最も効果的なのは氏名

一言で父親のみならず、母親ですら動揺させることが可能になるはずだ

武器としては上等

氏名の取得を目標に掲げ

那月は『偶然』を祈った

運良く、両親および例の女性が関わる事件を見つけられることを


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:成功
偶数:失敗
安価下。】

てい

>>986 1:成功

全体的に訂正です。
2096年について調べる、ではなく2095年について調べるでした。
2096年はパラサイトや今後の事件です。
2095年が横浜事変とか灼熱のハロウィンでした。
すみませんでした。】

───私は運がいい

そう自覚したのはつい先日のこと

街というよりは町へ、水波と出掛けた際に気付いた

ほんの出来心で購入した宝くじ

最大で六億円が当たるというキャッチフレーズに文字通り心を掴まれ、

那月「一回だけ」

水波「ダメです」

那月「私が後悔するだけ、ですから」

水波「.....これは私がお世話になった人の台詞の引用ですが、宝くじを買う前に那月様は現実を購入なさって下さい」

随分と捻くれた考え方であったが、那月は言い返せなかった

実際のところ、現実から目を背けているのだから

是非とも、『現実』の売店に行きたいところである

と、ここで一つ閃いた

那月「現実の購入資金を宝くじで集めます」

水波「.....お好きなさって下さい」

目には目を、歯には歯を

そして捻くれた考え方には捻くれた考え方を

水波は折れ、那月は夢を購入した


後日、当選番号の発表が行われた

那月は十分前から待機し、発表時刻になった瞬間にホームページをリロードした

券と画面を見比べ、期待に胸を膨らませる

結果、三百円の出費で一千万円

九百九十九万九千七百円の利益

水波に報告したが、彼女は茫然としていて反応は伺えなかった

その後、那月はプレミア価格のついた本やゲーム、趣味の一環である最新の調理機器に費やした

しかしなかなか簡単に使いきれる額ではなく

今では大半を残して、持て余している

───ということがあった

家庭内の愛情には恵まれなかったものの

運には常軌を逸して恵まれている

今回も運に任せて良いだろう

というか、それ以外に手段がない

横浜事変を見つけた時さながらに

運任せに事件表をスクロールした


2095年 4月末──千葉県で起きたテロ事件

観光地各所に爆弾が仕掛けられていて、未然に防げた事件も幾つかあるそうだが、逆に被害に遭った観光地も存在する

詳しく調べてみると、那月も行きたい気持ちを胸に秘める某テーマパークが被害に遭っていた

死人こそ出ていないものの、騒ぎになったとか

那月「(偶然近くに居た魔法師によって被害が最小限で済んだ....ね)」

都合の良いときばかり魔法師を煽てる

今でも変わらない風潮の一種である

那月はむすっとしながらも、興味のあるテーマパークで起きた事件とだけあって、詳しいところまで調べた

犯罪行為こそ起こしていないものの、かなり深いところまで調べると、とあるSNSの呟きがヒットした

なんでも、その魔法師というのは人間離れした美貌を持つ女子高生ぐらいの二人組、と

人間離れした美貌を持つ当時女子高生であった魔法師に心当たりがある那月は「もしや.....」と思い、キーボードを軽快に叩く


数分後、那月は唖然としていた

監視カメラの記録には例の女子高生二人組

一方は母の若い頃

もう一方は、またもや例の女性であった

災難に巻き込まれ続きの二人に、那月は苦笑いを浮かべた

そして、それから少し遅れて気がつく

当時は東京在住であった深雪───のみならず、おそらく別行動を取っているであろう達也が千葉に居た理由

ちょうど日付的にもゴールデンウィークである

日帰りで遊びに来たとは考えにくい

例の女性も含めて、近所の旅館もしくはホテルにでも宿を取っているのではないかと推測する

可能性はゼロではない

しかし、観光地とだけあって宿泊施設は多数

時間と結果を天秤にかけた結果、結果が勝利した

時間を惜しまず、結果を優先する

調べてみる価値は十分にあると判断した


約一時間が経過したところで、那月の手が止まった

しらみ潰しに捜した宿泊施設の名簿

ようやく、知り合いの名前を見つけた

七草真由美と渡辺摩利

北山雫と光井ほのか

司波達也と司波深雪

そして───

那月「君影歩夢.....!」


【千葉県でのテロは当時の思いつきでしたけれど、まさかこんな形で役立つとは.....。

安価です。コンマ1桁
奇数・0:達也から折り返しの電話
偶数:葉月が尋ねてくる
安価下。】

ほい

>>992 5:達也から折り返しの電話】

───君影歩夢

彼女が君影雪乃の娘であることは間違いない

そして、君影隼人の娘でもある

そこまではいい

容姿や瞳の色が特別であることから

充分に推測ができた

那月が衝撃を受けたのは別のところにあった

───どうして三人家族だなんて嘘をついたのか

こちらはまったくの想像も推測も良しとしない

考えられる可能性が見当たらない

ここに来て、四方八方を塞がれてしまった

パソコンを使ってもこの謎には辿り着けないだろう

答えに辿り着くには隼人に問うか、葉月に問うか

もしくは水波、夜永

それから───

那月「お母様.....」

事情を知ってそうな人間は周りに幾らでもいる


だが、那月は訊けない

この十四年間で

君影歩夢という名は一度たりとも聞いたことがない

───揃って情報を隠蔽していた

そう考えるのが常識的で、一般的だろう

ここで、那月の「どうして」は変移を遂げる

───どうして、たった一人の女性をここまで徹底して隠す必要があるのか

こちらの疑問の答えも相変わらず見つからない

俯いて、熱くなった頭で考える

しかし依然として、解らない

どうして

どうして

どうして──────と

唐突に、携帯端末に着信が掛かってきた

他でもなく、電話を掛けてきたのは司波達也


自らが招いた結果である

那月は深呼吸をしたのちに、電話に出た

那月「....お父様、突然なご連絡をお許し下さい。今、.....お時間よろしいでしょうか?」

達也『あぁ、さっきはバタバタとしていたが、今なら大丈夫だ。それで、用件はなんだ? 那月から電話を掛けて来るだなんて、珍しいな』

達也の声色は穏やかなものだった

しかしその中には、普段───ではなく、これまでたったの一度も連絡を寄こして来なかった娘からの電話により、不信感の念も込められていた

那月「その....お父様が昔、仲良くされていた方について、なんですけれど....」

達也『幹比古か? それともレオか?』

那月「女性の方です」

達也『エリカか?』

那月「ぁ....いえ、君影歩夢さんです」

と、那月が言った瞬間

達也『っ』

心苦しそうにする声とは形容し難い音が聴こえた

那月「お、お父様....? 大丈夫ですか?」

達也『あ、あぁ.....。なんでもない。.....那月、その女性の名前は何処で知った?』

達也の声色は冷たく、鋭いものへと変貌していた

付き合っていた、もしくはそれに近い関係であったと判断しても良さそうだ

那月「内緒....と言ったらどうしますか?」

達也『.....いや、それならそれでいい。で、那月は君影歩夢のなにを訊きたいんだ?』

那月「彼女がお父様にとっての何者か、です」

達也『......』

空白の間が空いた

どちらも一言も喋らない

状況的には、那月に分があった


【安価です。コンマ一桁
奇数・0:達也『.....友達だ。昔のな』
偶数:達也『.....俺から深雪に話しておく。全部、深雪から話を聞くといい』
安価下。】

はい

>>996 3:達也『.....友達だ。昔のな』】

達也は慎重に言葉を選び

那月は無言の圧力で追い詰める

電話越しとはいえ、お互いの表情が思い浮かんだ

達也『.....友達だ。昔のな』

那月「昔の....友達」

本当にその程度の関係なのだろうか

親しい友と書く、親友

もしくは一組の男女としてのお付き合い

そう考えていたのにも関わらず

達也は『ただの友達』と何処か儚げな声色で云った

失礼を承知で、訊くか訊かないか

もう迷う余地はなかった

諦めることを選択すれば、後々になって例の写真やパソコンに入った情報は全て没収されてしまう


それは人生の後悔を意味する

なんであのとき、ああしなかったのか

どうしてあのとき、四葉家の令嬢としての意識を優先し、本来の自分を優先しなかったのか

などと絶対に後悔する、と思った那月は、

那月「.....親しい友でもなく、一組の男女としてお付き合いをしていた訳でもなく、ただの友達とお父様は仰るのでしょうか?」

達也『そうだ。....それ以上の関係はない』

那月「私には経験がないので分かりませんが、ただの友達で同じジュエリーを身に付けるものなのですね。銀色のネックレス。とてもお似合いです」

達也『っ.....。那月、もうこれ以上の詮索はやめておけ。なにがきかっけでここまでの情報を集めたのかは知らないが、これ以上は後悔することになる』

那月「後悔ならもうしていますし、これからもするかもしれません。ですが、ここでお父様から君影歩夢さんについて聞き出せなければ、もっと後悔します。私とお母様、そしてお父様の間にこの方は関係あるのでしょうか....?」

達也『.......』

娘の弱々しい声

ただそれだけなら達也はどうか出来たかもしれない

だが、声色こそ少し違うものの、那月の今の表情を思い浮かべたら達也も反応せざるをえなかった

【オリキャラ安価6】魔法科高校の劣等生
【オリキャラ安価6】魔法科高校の劣等生 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1453727208/)

次スレです。

うめ

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