らくごモザイク「アヤヤ家事」 (27)

アリス「ただいまー!」

忍「おかえりなさい、アリス」

忍「ひとりでお出かけして大丈夫でしたか?迷子になりませんでしたか?」

アリス「迷子になってたら帰ってこれないよ」

忍「ですが小さいアリスひとりでは心配で心配で……」

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忍「それで、落語は面白かったですか?」

アリス「うん、とっても!」

アリス「夜の部までずっと聞いてたかったよ」

アリス「それにわたし、寄席で桟敷に座って落語を聞くのが夢だったんだ」

忍「……落語を聞くのが夢だったんですね」

アリス「だいぶ省略されたね……」

アリス「それでね、新作もあったし色物も面白かったし、でもわたしは古典落語のほうがやっぱり好きかなぁ」

忍「?」

忍「さっきからアリスが何を言ってるのか全然わかりません」

アリス「今度はシノも一緒に行こうよ!ヨーコとアヤとカレンも誘ってみんなで行こう!」

忍「うーん、皆さん落語はあまり聞かないかもしれません」

アリス「そうなの?」

忍「はい、陽子ちゃんなんてきっと寝ちゃいます」

アリス「大丈夫だよ、ヨーコは食べ物があれば元気だから」

アリス「カレンはきっと誘ったら来てくれると思うし、あとは……」

アリス「ねえシノ、アヤは何が好きなの?」

忍「そうですね……綾ちゃんは恋愛小説をよく読んでます」

アリス「そっか、じゃあ恋愛がテーマの落語なら大丈夫だね」

忍「そんなのがあるんですか?」

アリス「結構いろいろあるよ。今日わたしが聞いた中にも、『厩火事』っていう噺があって」

アリス「どういう噺かっていうとね……」

えー、昔から悋気は女の七つ道具なんて言って、シノも女の子なら分かると思うんだけど、
やっぱり女の子だったらヤキモチを焼いたり素直じゃないことを言ったり、そういうこともあると思うんだ。
そんな風にしてると、だんだん相手の気持ちっていうのも分からなくなってくるもので、

「カレン、ちょっと聞いて!」

「アヤ、どうしたデス?」

「えっと、陽子のことなんだけど……」

「それは聞かなくても分かりマス」

「陽子ったらひどいのよ、土曜日に陽子の家に行く約束をしたんだけど」

「宿題が全然終わりそうにないから見て欲しい、って」

「そういえば私も宿題ありマシタ。アヤ、写させてくれるデス?」

「写すのはだめよ、教えるのならいいけど……」

「えー、宿題やりたくないデス」

「それはいいとして、陽子、部屋が散らかってるから片付けを手伝ってほしい、って」

「なるほど、掃除に便乗してヨーコの部屋を捜索するデスネ。面白そうデス!」

「なによそれ」

「……それでね、手伝ってもいいって言ったら『綾はお姉ちゃんみたいだなー』なんて言うの」

「ほほう、皆まで言わずとも分かりマシタ、ラブコメでよくあるパターンデス」

「ラ、ラブ!?」

「アヤはヨーコに姉妹としてではなく異性として見られたい……そういう感情デスネ」

「全然違うわよ!」

「え、そうなんデスカ?」

「そもそも陽子とは姉妹じゃないし、それに陽子はああ見えても女よ!?私と陽子は同性じゃない」

「ああ見えて、って……アヤ、相当失礼なこと言ってるデス」

「それでさっき皆で話してるとき、ほら、兄弟が欲しいかって話してたじゃない」

「そうデスネ、アリスが『わたし、シノだったらお姉ちゃんでも妹でもいいよ』って言って」

「そしたらシノが『私も金髪だったらアリスでもカレンでもいいです』って言ったデス」

「それでアリスが……」

「今は陽子の話!そのとき陽子が『私は美月と空太がいるし、姉も勇姉がいるから、兄弟が欲しいとは思わないな』って言ったの」

「んー、全然覚えてないデス」

「ひどいわよね!?」

「何がデス?」

「だって私は陽子にとって姉みたいな存在なのよ?」

「それで兄弟はいらないってことは、私がいらないってことじゃない!」

「ヨーコがそこまで考えてるわけないデス」

「つまり陽子は無意識で私のことをいらないと思ってるのね!」

「それにこの間だって、遊びに行くときに私がお弁当持ってくって言ったら」

「陽子も『綾のお弁当かー、楽しみにしてるよ』なんて言うから朝の4時半に起きて作ったの」

「それで待ち合わせ場所に行ったら、珍しく陽子が先に来てたんだけど」

「コンビニで買ったパンを食べてたのよ!」

「もういいわ、私も陽子のことなんて知らないんだから」

「アヤ、そんなに言うならお弁当作ったりしなくてもいいじゃないデスカ」

「食べてくれない相手にお弁当作ったってムダなだけデス」

「何言ってるのよ、陽子が食べないわけないじゃない」

「は?」

「あの後普通に、お昼に一緒にお弁当食べたわ」

「え、だったら何に怒ってるデス?お腹空かせた状態でおいしく食べて欲しいってことデス?」

「陽子はいつだって美味しそうに食べるわよ。私の作った料理をあんなに美味しそうに食べてくれる人、他にはいないわ」

「わけがわからないデース……」

「まあ確かにヨーコはデリカシーに欠けるところもありマス」

「カレン、陽子をそんなふうに悪く言わないで。陽子はいつだって優しいんだから」

「ほら、カレンだって前、陽子の半分は優しさでできてるって言ってたじゃない」

「それはそうデスガ、今日のアヤはどうしちゃったデス?ヨーコのこと、ノロけてばっかデス」

「の、のろけてなんかないわよ」

「で、結局、何が言いたいデス?別にヨーコを嫌いになったわけじゃないデスヨネ?」

「ま、まあ、それはそうだけど……なんていうか……」

「アヤがヨーコのことを好きなのはみんな知ってマス」

「す、好きって、何言ってるのよカレン!別に陽子のことなんてこれっぽっちも想ってなんかないんだから!」

「それに陽子だって、私のことをどう思ってるかなんて分からないし」

「フフフ」

「何よ、その意味深な笑いかたは」

「つまりアヤは、ヨーコが自分のことをどう思っているか知りたいんデスネ」

「何とも思ってないのか、それともヨーコもアヤと同じように……」

「そんなの簡単デース、本人に聞いてみればいいデス」

「そんなこと聞けるわけないじゃない」

「えー、そうデスカ?じゃあ、こういうのはどうデス?」

「これはさるイギリス人少女の話なんデスガ」

「アリスね」

「Non, そこは『イギリスの猿なの?』ってボケるところデス。アリスがサルじゃリスザルみたいデス!HAHAHA!」

「何かしら、ちょっとイラッとするわ」

「で、アリスがどうかしたの?」

「ちょっと前に、シノがぼーっと部屋を歩いてたら、タンスにドシーン!ってぶつかったデス」

「ぼーっと歩いてたって音じゃない気がするんだけど……」

「細かいところを気にしちゃダメデス、それでタンスの上に置いてあったこけしが床に落っこちて」

「運悪くちょうどシノがそれを踏んでしまったデス。こけしの首がボキッと折れて……」

「怖い話しないでよ、カレン」

「その音を聞きつけたアリスが部屋に飛び込んできて」

『シノ!どうしたの!?凄い音したよ!』

『アリス、ごごごめんなさい!私、今タンスにぶつかってアリスのこけしを落としてしまいまして……』

『シノ、けがはない?』

『私ですか?私は平気ですが、こけしがこの通り……』

『シノが無事なら良かったよ、だってわたしの一番大切なこけしはシノだもん!』

『アリスー!!』

「とまあこんな感じで丸く収まったそうデス」

「でも逆のケースもあるデス」

「逆?」

「はい、アリスが夕飯の支度を手伝ってる時にフライパンの油が頭に跳ねて、それを見たシノが」

『金髪は大丈夫ですか!?金髪はくすんでませんか!?金髪は大丈夫ですか!?金髪はくすんでませんか!?』

「って、金髪金髪と36回言ったらしいデス」

「しのらしいわ」

「それでアリスが『シノはわたしよりわたしの髪の方が大事なの?』ってヘソを曲げてしまったデス」

「ヨーコが好きなものって何デショウ?」

「陽子は……食べることが好きね」

「フム……だったらアヤ、ヨーコの前で食べ物を持ったまま転んできてクダサイ」

「え、なんでそんなことを?」

「ヨーコが本当にアヤを思ってるなら真っ先にアヤの心配をするはずデス」

「逆になんとも思ってなかったら一言目に出るのは食べ物のことデス」

「それもそうね……やってみるわ」

ヨーコの家に行く日になって、アヤは早起きしてお弁当を3人分、自分用とヨーコ用とぶちまける用を作って、
ドキドキしながらヨーコの家に行ったの。玄関の前でチャイムを押そうか、やっぱり止めようか、
30分迷った末に意を決してチャイムを鳴らすとすぐにヨーコが出てきて、

「あ、綾。早いね」

「そそそうかしら?」

「まあでも綾に来てもらえて助かるよ。掃除も宿題も私一人じゃ終わんなさそうだったから」

「まったく、だらしないわね」

「私も自分で片付けようとは思ったんだけど、家事は苦手でさー」

「確かに散らかってるわね……」

「そ、そうだ、おべ、お、お弁当作ってきたんだけど食べるわよね!?」

「綾?まだ10時前だよ」

「食べるわよね!?陽子だもの!」

「どういう意味だーそれ」

「いいいつも早弁してるじゃない!」

「まあそれもそうだけどさ……綾も食べるの?」

「私は昼に食べるわ、ほらこれ」

「え、でも私一人でこれ食べちゃったら昼は綾一人で食べるってこと?」

「大丈夫よ、3つ作ってきたから」

「用意周到だな……」

「ほら陽子、これがお弁当よ。陽子の好きな」

「それは見ればわかるけど」

「ね、いくわよ……ハァ……ハァ……」

「行くって何が?ていうか何で息荒いの?」

「陽子……」

「いやそこ置いといてくれればいいから!何で迫ってくるの!?」

「きゃあ!」

「だ、大丈夫!?何もないところで転んだけど……立てる?足ひねってない?」

「よ、陽子……グスッ……」

「泣いてる!?どっか痛いの?」

「ううん……そうじゃないけど……」

「よかった、綾が無事で」

「陽子、お弁当より私の心配してくれて……そんなに私のことが大事なのね」

「そりゃそうだよ、ただでさえ散らかってるのにお弁当までこぼしちゃったんだから……」

「綾にケガでもされたら掃除が終わらないよ」

アリス「元は夫婦の噺だけど、アヤはそういうのも好きそうでしょ?」

忍「4時半に起きられるなんて、綾ちゃんは朝が強いんですね」

アリス「そこ!?それは全然重要じゃないところだよ!」

アリス「それに最初の方だし、もしかしてシノ、ちゃんと聞いてくれてなかった……?」

忍「そんなことありませんよ、ずっとアリスのお話しを聞いてました」

アリス「本当かなぁ……」

忍「本当ですよ、アリスが料理をしてるところなんてドキドキしてしまいました」

アリス「それも本筋じゃないんだけど……」

忍「分かってますよ、綾ちゃんが家事をするところが重要なんですよね」

アリス「えっと、そんなシーンはなかったよ……」

忍「綾ちゃんはお料理もお掃除も上手で凄いですから」

アリス「うん、そうだね、わたしも見習わなきゃ」

忍「アリスだっていつもお母さんのお手伝いをしてるじゃないですか」

アリス「わたしはまだまだだよ」

アリス「前にシノのハンカチにアイロンを掛けようとして失敗しちゃったし……」

忍「うーん、アリスはアイロン掛けが苦手なのかもしれませんし、無理してやることはありませんよ」

忍「もし火事にでもなってしまったら大変ですから」



「アヤヤ家事」お後がよろしいようで。

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