オーク「大根を持ってきたぜ」女騎士「くっ、おろせ!」(28)

女騎士の家──



オーク「よう!」

女騎士「オークか、なんの用だ?」

オーク「いい大根が手に入ったから、持ってきたんだ」

女騎士「おお、それはありがたい! 入ってくれ!」

女騎士「ほぉう、これはいい大根ではないか!」

女騎士「この色、この手触り、この太さ……どれをとっても素晴らしい」スリスリ…

オーク「へへっ、大根足さんは大根が好きかい?」

女騎士「失敬な!」

オーク「ジョークだ、ジョーク。キレイな足してるぜ、アンタはよ」

女騎士「バ、バカッ……! 褒めてもなにも出ないぞ!」

オーク「さぁて、なにを作るか……」

オーク「ふろふき大根もいいし、味噌汁にするのも悪くない……」

女騎士「うむ、どちらも好物だ」ジュルリ…

オーク「だが、手っ取り早く大根を味わいたいし……」

オーク「ここはあえて、大根おろしにしたいと思う!」

女騎士「おおっ!」

オーク「もちろん道具も持ってきてあるぜ」ガチャガチャ…

オーク「大根おろしのポイントはいくつかあるが──」

オーク「そのうちの一つは、大根のどの部分をおろすのか、だ」

女騎士「どの部分をおろすかだと?」

女騎士「あまり意識したことはなかったが、部分によってそんなに味が違うのか?」

オーク「大違いさ」

オーク「一般的に、大根の葉に近い部分は辛みが少なく、硬さがある」

オーク「逆に先っちょの方は辛みが強く、味噌汁の具や漬物にすることが多い」

オーク「んで、真ん中は甘みが強く、一番おいしい部位ともいわれる」

オーク「今回は、葉に近い部分を使おう」

女騎士「うむ」

オーク「んじゃ、大根を切って、と」ザクッ

オーク「さてと、さっそくおろすか」

女騎士「……」

オーク「やってみるか? 女騎士」

女騎士「やらせてくれ!」ワクワク…

オーク「じゃ、ほら」

女騎士「くっ……!」ゴリゴリ…

女騎士「ぐぐっ……!?」ゴリゴリ…

オーク「お、おいおい、あぶねえよ!」

オーク「そんな手つきじゃ、自分の指までおろしちまうよ!」

女騎士「くっ、おろせ!」サッ

オーク「ったく、しょうがねぇな。剣は一流なのになぁ」

女騎士「面目ない……」

オーク「さてと、このおろし方も重要なポイントなんだ」

オーク「上下におろすと、繊維が保たれて、ピリリと仕上がる」

オーク「逆に円を描くようにすれば、水気が増えて辛みが弱くなる」

オーク「どっちにする?」

女騎士「辛みがある方が、好みだな」

オーク「オーケイ!」

オーク「……」ジョリジョリ…

女騎士「おお、すごい!」

オーク「……」ジョリジョリ…

女騎士「次々に大根がおろされていく!」

オーク「……」ジョリジョリ…

女騎士「さすがオーク! 料理の達人だな!」

オーク(そんなベタ褒めされるほどのもんじゃないんだけどな……)ジョリジョリ…

オーク「さて、完成だ!」

女騎士「おおお……キレイだ!」

女騎士「まるで、小さな雪山が出来上がったかのようだ!」

オーク「ハハハ、なかなか詩人じゃねえか」

女騎士「昔はよく、剣の稽古をしながらポエムを詠んだものだ」

オーク「すげえ光景だな、それ……」

女騎士「いただきます」パクッ

女騎士「……」モグッ…

女騎士「くぅ~、舌の上でピリリとくる! 大根の風味がよく出ている!」

女騎士「たまらんな!」パクッ パクッ

女騎士「しかし……こうなると、オカズも欲しくなるな」

オーク「安心しな」ニヤッ

オーク「ちゃんと大根おろしにあう食いもんを持ってきてあるぜ!」

オーク「ほれ、出し巻き卵だ」

女騎士「おおっ、かたじけない!」

女騎士「では出し巻き卵と、大根おろしを……口に放り込む」パクッ

女騎士「!!!」ビビビッ

女騎士「くぅ~、たまらん!」

女騎士「大根おろしの辛さが、卵の甘さを引き立てる!」

女騎士「ニワトリに感謝!」ヒョイパクッ

オーク(あ、俺の分まで……)

オーク「お次は和風ハンバーグだ」

女騎士「おほっ!」

オーク(おほっ、て……)

女騎士「いただきます……」モグッ…

女騎士「んまいっ!」パァァ…

女騎士「ハンバーグの豪快な味を、大根おろしの鋭利さが引き締める!」

女騎士「まるで、筋肉質な魔物と女性の戦士が手を組んだかのようだ!」

オーク「なんか、どこかで聞いたことあるような組み合わせだな、それ」

オーク「メインはやっぱり……サンマの塩焼き! 切り身だがイケるはずだぜ!」

女騎士「おおっ、すばらしい!」

女騎士「サンマと大根おろし! もはや説明不要のコラボレーション!」

女騎士「たとえるなら……えぇと、たとえるなら……」

オーク「無理すんなって」

女騎士「いただきます」パクッ

オーク「いただきます」モグッ

女騎士「う、ま、いっ!!!」

オーク「!?」ビクッ

女騎士「サンマが大根おろしを、大根おろしがサンマを、高みへといざなう!」

女騎士「おおお、私には見える……」

女騎士「大根おろしに乗ったサンマが……空の彼方に飛翔する姿が!」

オーク「……そいつぁすげえや」

女騎士「いやぁ~、実においしかった!」

女騎士「ありがとう、オーク!」

オーク「どういたしまして」

オーク「俺も、わざわざ大根を持ってきたかいがあるってもんよ」

女騎士「ところで……」

オーク「ん?」

女騎士「できたら、もう一品ぐらい大根でなにか作ってくれないか?」

オーク「え、もう十分食ったろ? 出し巻き卵、ハンバーグ、サンマ……」

女騎士「あ、いや……近頃忙しくて、自分で料理するヒマもないから」

女騎士「もう一品ぐらい作っておいて欲しいな、と思ってな」

オーク「おお、そういうことか。かまわねえよ。じゃあ──」

女騎士「!」グゥ~…

オーク「……」

女騎士「……」

オーク「こぉ~の大根役者が。まだ食べたいのなら食べたい、って素直にいえっての」

女騎士「ごめんなさい」





~ おしまい ~

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