桃華「風評被害ですわ!」楓「そうでしょうか?」茄子「♪」 (28)


●00

※台本と地の文が混在しています。
※一部のキャラに風評被害があります。


※登場キャラ

・櫻井桃華
http://i.imgur.com/9KQNP7C.jpg
http://i.imgur.com/dnGWaB4.jpg


・高垣楓
http://i.imgur.com/urT34uM.jpg
http://i.imgur.com/cD9Bc9T.jpg


・鷹富士茄子
http://i.imgur.com/bdiG8HZ.jpg
http://i.imgur.com/N64w7Hf.jpg





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●01


――櫻井の娘は、殿方をスポイルする愛し方はしませんの!






●02


桃華(ん……事務所に、少し早く来過ぎてしまいましたわ)

桃華(あら? あの二人は……)



??「私、絶対そうだと思うんですよね」

??「あー、私も楓さん同感です♪」



桃華(楓さんと、茄子さんですか。珍しい組み合わせ……何を話してるんですの?)



楓「アレの素質は、桃華ちゃんがこの事務所で一番でしょうねぇ」

茄子「ええ。将来がとっても楽しみです♪」



桃華(え、“アレ”とは……?)




●03

桃華(え、えーい、桃華っ! 人の話を盗み聞きなんて、はしたない真似……やめるんですの!)



楓「へぇ。茄子さんもアレについてはかなりのものだと……それでも、桃華ちゃんが?」

茄子「楓さんこそ。桃華ちゃんは、私たちよりもっと自然にやってくれます。そこが違いますよ」



桃華(で……ですが、わたくしの話題となると気になってしまいますわ……)



楓「12歳にしてあの気配り、包容力。もっとも大事な要素は文句なしです」
茄子「桃華ちゃん一人居れば、年少組は安心して見ていられますものね」

楓「目線から人の内心を見抜く観察力。包容力とあいまって、すべてを打ち明けて委ねたくなります」
茄子「初対面でPさんの素質と目的を言い当てるとは、ただのお嬢様には真似できないことです」



桃華(よく分かりませんが……面映ゆくて、くすぐったいですわ)



楓「容姿と立ち居振る舞いから溢れ出る、モチベーターとしての才能」
茄子「にじみ出る気品が、指図を嫌味に感じさせませんよね」

楓「時折ほの見える独占欲、可愛らしいですよね」
茄子「桃華ちゃんからそばに居て欲しいと言われて、抗える人がどれだけいるでしょうか?」



桃華(今まで人から褒められることは、ありましたけれども……)



楓「プロデューサーを出会ってすぐにおうちへ招待する積極性」
茄子「主導権を握るのも重要です。おうちといえば、もちろん櫻井家のコネクションも軽視できませんよ」

楓「アイドル活動からほの見えてくる、健全な向上心」
茄子「ええ……アレには、自分への厳しさも必要となりますしね」



桃華(こうやって、わたくしの居ない場で話しているのを聞くというのは……)



桃華(それにしても、“アレ”とは何のことでしょう。
   話を聞く限り、とても素晴らしいことのようのようですが……)



楓「茄子さんと話してて、私、確信が深まりました」
茄子「ええ、楓さん。桃華ちゃんは、間違いなくこのプロダクショントップの――」





楓・茄子「――ダメP製造機、ですね」

桃華「ちょっと待ちなさい――異議あり! ですわっ!」





●04

桃華「わっ、わたくしがPちゃま――あっ、ぷ、プロデューサーをダメにする女だなんて……」

桃華「だ、断じて認めませんわっ! お二方は、何ゆえにそのようなことを……!」



楓「……『ダメPへの道は、善意が敷き詰められている』って格言がありますよ」

桃華「人を地獄の使者みたいに言わないでくださるっ!?」

茄子「えー、桃華ちゃんって、実はこんな感じだったりしませんか?」



●05

――
――――
――――――



……Pちゃま、Pちゃま。起きてくださいまし。
お顔を洗いに行ってくださいな。それが済む頃合いに、朝餉ができあがりますから……。



昨晩も遅かったようですね。ただでさえ疲れているところに、強いお酒など召して……。
本当なら、わたくしも起きて帰りを待っていたかったのですが。

きっと酔いが回っていると思いましたので、
夜食にしじみの味噌汁を用意しておいたのですが、召し上がってくださいました?

……顔色が少しだけ良くなっていますね。味わっていただけたようで幸いですわ。
酔っているときは、軽いものでも何か胃に入れるだけで、具合がよくなりますから。



パンが焼けましたわ。席にお座りになって……今、紅茶を入れて差し上げますから。
今朝はアッサムのセカンドフラッシュですの。
香りも味も濃厚ですから、ミルクと合わせていただきましょうね。

いかがかしら……夜食が和風だったので、朝食は洋風に致しましたの。
今、パンを――ああ、ジャムはそちらですわ。バターはこちらで……
そうですわ、たっぷり塗って味わってくださる? Pちゃま好みの味になっているはずですわ。

ほら、お野菜もしっかり召し上がって……
昼も夜もお付き合いが多くて、不規則で偏った食事になりがちなのですから。
でも、わたくしが用意する朝だけは別ですのよ。すべてPちゃまのためのものですの。



あら、Pちゃま。わたくしが腕によりをかけた食卓を前にしている割には、
少し気分が沈んでいるようですね……今日、何かございますの?
よろしければ、話していってくださいな。貴方の悩みはわたくしに分けてくださいまし。

……なるほど、伸び悩んでいる候補生を、どう支えてあげたら……ですか。
貴方、おうちにいる時から、お仕事のことを考えていらして……。
ふふ、わたくしをプロデュースしてくださっている時も、そのぐらい考えてくださっているかしら?

わたくしは、その方をよく存じません……
少なくとも、Pちゃまのほうがよくご存知でしょう。

わたくしに申し上げられることは、ただPちゃまが明るく楽しくお仕事へ向かってくだされば、
……そう、今わたくしに向けているような表情を、その方にも見せて差し上げれば、
きっとその方も、それまでより前向きになってくださるかと。

わたくしは、そう信じておりますの。

逆に、悩ましいことがあっても、その方――いえ、わたくし以外の方には、
おくびにも出してはいけません。Pちゃまのそういうところは、わたくしが受け止めますから……。
それでこそ、皆を導くプロデューサーとして、よきお仕事ができるというものです。




●06


あらためて考えますと、プロデューサーというのも厳しいお仕事ですわ。
そうですわ……今日、Pちゃまが帰ってきたときのために、何かご褒美を用意しておきます。

ご褒美が何かは、お仕事が終わって、帰ってきてからのお楽しみですわ。
楽しみにしていてくださいな。ただし、ご褒美に気を取られて、お仕事を疎かにしてはいけませんの。
ご褒美は、頑張った人のためのものですから……。

……ふふ、プロデューサーはたいへんなお仕事、と言ったばかりですが、
もしアイドルの皆がPちゃまと同じぐらい素直なら、プロデューサーは楽な仕事かも知れませんね♪




さて、朝餉が終わりまして身支度ですか。
ちゃんと整っていらっしゃるかしら……桃華に拝見させてくださいまし。
ほら、屈んでくださる? ネクタイを選んで差し上げますわ。

何ですの、ネクタイぐらい自分で……ですって。
Pちゃま、貴方は私が下ろしておいたスーツをお召しになるのでしょう。
そのスーツなら、こちらのネクタイを合わせてくださいまし。

ほら、こちらがいいですわ。
素敵になりましたよ。二日酔いとは思えないほどですわ!



お車の時間ですか。では、気をつけて……いってきますの、キス?
仕方ありませんね……また、屈んでくださる? さっきより少しで構いませんから……

いってらっしゃいませ。
遅くなる時は、連絡を忘れずに入れてくださいまし。
もし急用がございましたら、家の者を向かわせますので。



あと、できれば……今日は、朝だけではなく夜にも貴方のお顔が見たいですわ。
わたくしのために、早く帰ってきてくださいまし。では――



――――――
――――
――




●07

桃華「…………」

楓「桃華ちゃん。今、まんざらでもないと思ってました?」

桃華「なっ! そんなことは……心外ですわ! こんな、こんな……っ」



茄子「ほほう……『将来の心配はしなくてもいいですわ。わたくしがいますからね!』ってそういう……」
   桃華ちゃん分かってますねー♪ 私が居ないとダメな人、って響きがたまりません」

桃華「勝手な想像をしないでくださいな! これは風評被害ですわっ!
   櫻井の娘は、殿方をスポイルする愛し方はしませんの!」



楓「そうですよ茄子さん、これはいささか甘やかしの度が過ぎています」

桃華「楓さん、分かってくださいましたの……?」

楓「桃華ちゃんのタイプは確かに正統派ダメP製造機ですが、
  世の中なにも王道ばかりじゃないと思います」

桃華「全然分かってくださってませんのっ!?」



茄子「ほう……では、楓さんは……?」

楓「そうですね……例えば……」


●08


――
――――
――――――



うー、うふふ、あはは……あー、おかえりなさいプロデューサー♪
こんな夜遅くまでお仕事、お疲れ様ですー♪

え……? まだそんなに呑んではいませんよぉ。
ほら……私にしては大したことない、でしょう?

貴方が居てくれないと、よく眠れないんですけど、
貴方が早く寝ろって言うから……寝酒で無理に寝ようとしたんですが……ほら。

察してください……ひとり酒なんてやったものだから、寂しさが倍増してしまって。
この私が、一合も飲まぬうちにこの有様ですよ。
だから、ほらほら、待ってたんです……付き合ってくださーい。



ほらほら、アイドルのお酌で、命の水ですよー。ささ、まずはこれから……。
おつまみは……ああ、炙った乾き物が冷めてしまってますねぇ。
お野菜は、まぁいいでしょう。あ、おみやげですか! 嬉しいですねーもーホントに。

では、プロデューサーさんの無事のご帰宅を祝して、かんぱーい。
ほら、かんぱーい、ですよっ。



もう少しお酒を控えてって、ですって……?
別にー、あなたが言うならしょうがありませんけどー。
我慢して欲しいっていうなら、私、見返りが欲しいですねぇ。

そうだ……ほら、今度、二人で温泉行きましょう!

私の地元、紀州は白浜とか、いい湯がいっぱいありますが、ちょっと遠いですか……
東京の近くだと……箱根! 箱根いいじゃないですか。
電車でも行けますからアルコールも飲めますし、今ぜったい空いてますよー。

え? 宿がちゃんとやってるのか? だいじょーぶですよ、たぶん、ほら。



あ、もう打ち止めですか。そうですよねー。
こんな夜遅くまで、お付き合いがあって、そのお帰りですもんねー。

……怒ってませんよ? 私、怒ってませんもん。
高垣楓、これでも世間では大人の女性で通ってますから。

貴方が打ち止めなら、私もやめておきますか。
ザルの目が詰まってしまったようです。

ただ、もっと眠くなるまで、少しお話してもいいですか……?



中断
続き、楓さんと茄子さんは夜までになんとか




●09

あ、この間の総選挙関係のお仕事の資料ですね、見せてくださーい。
ふふふっ、このユニット、まーた私が最年長ですかぁ?

年下相手ばかりなのは、別によろしいんですけど……第2回でもそうでしたし。
ただですね、これ、みんな18とか19とか、お店に連れていけない子たちじゃないですかー。

どうにかしてくださいプロデューサー。
責任とって、この子たちがいない私の寂しさを埋めてくださいね?



それにしても……3位、ですかぁ。
さすが、プロデューサーさんですねぇ。

モデルやめてアイドルになったときは、
こんなにたくさんお仕事がもらえるとは、正直思ってませんでしたよ。

プロデューサーさん、CDもいい曲いっぱいとってきてくれて、
おかげでライブでもセンターで歌わせてくれて。
10歳若かったらともかく、私がアイドルなんて、今更、できるのかな、って思ってたのに……。

本当、プロデューサーさんは魔法使いですねー。ふふふっ。



でも……3位、ですかぁ。
また、ガラスの靴には届きませんでした。

プロデューサーさん、こんなに頑張ってくださってるのに、何ででしょうかね。
私、やっぱりここまでが限界なんですかね……?




●10


だって、外では……プロデューサーさんは、勿論、スタッフの皆さんに支えてもらって、
なんとか、ファンの方々とか、いろんな人の前に出られて、
ホントに辛うじて、キレイだったり、カッコいいフリをしていられますけど……

お家に帰ったら、この有様ですよ、私なんて。

25だか26だかイイ年こいた女が、貴方がいないと、
眠れないどころか、自棄酒すらロクに飲めないんですもの。
……ダメなヒトなんです、ホントは、私って。

私が、あの子たちの年頃だった時は、まだ学生でした。
親元を離れて一人暮らしってだけで、それはもう、たいへんだと思ってました。
なのに、みんな……アイドルのお仕事まで、あんなに頑張ってて。

眩しいんです。
ステージのセンターで浴びるスポットよりも、ずっと。



……ごめんなさい。
アイドルが、こんな辛気臭いことを言ってたら、いけませんね。

でも、あなたには……あなただけには、私のこんなところを、分かって欲しい。

ワガママだったり、年甲斐がなかったり、ほかにもいろいろ……うふふ、何故でしょう。
恥ずかしいところを晒してしまってるのに、とっても安心できる……。



ねぇ、プロデューサーさん。
ちょっと、背中貸していただけません……?

私、こんな有様ですけど、それでも、ヒトには見せたくない顔があります……。
でも、あなたと離れるのも寂しいから……もう少しでいいです、お願いします……。



――――――
――――
――





●11


桃華「……これって」

茄子「なるほど。プロデューサーさんをダメ男に誘導するため、
   敢えて自分もダメ女になる共依存型とは! 目からウロコが落ちました♪」

楓「ふふ……この女性(ひと)は俺がいないとダメ……って思わせたら、勝ちです」

桃華「いったい何の勝負ですの……得意顔したって誤魔化されませんわ」

茄子「割れ鍋に綴じ蓋ということですね♪」

桃華「ことわざの意味を履き違えないでくださる!?」



茄子「そうだ♪ 楓さんと桃華ちゃん、一緒に暮らしたらどうでしょう。きっと上手くいきますよ♪」

楓「桃華ちゃん、私に毎朝味噌汁を作ってください」

桃華「神妙な面持ちでも、言ってる台詞は情けないままですわ……」



桃華「確かに楓さんは、そういうお姿が似合わないこともないと思いますが」

楓「やった、あの桃華ちゃんにお墨付きをもらいました!」

桃華「そこはわたくしの台詞に憤慨しなきゃいけないところですのよっ!?」

茄子「まぁまぁ、落ち着いてください桃華ちゃん」



桃華「それにしても、茄子さんのような女性が、殿方を駄目にするなど……
   わたくしにはピンと来ませんわ。むしろ上手く操縦していきそうなイメージがあります」

茄子「……ダメなほうに操縦していくの、楽しいと思いませんか?」

桃華「何ゆえそんな酔狂を……」

茄子「私は、桃華ちゃんや楓さんと違って、
   まともなやり口は使えませんが、例えば――」




●12


――
――――
――――――




ああ、プロデューサーさんですか。お疲れ様です。
そろそろいい時間ですけれど、ご帰宅されないんですか?

……まぁ、ここならわざわざ家に帰らなくても、全て揃っていますけどね。



摩天楼の最上階、高級家具を整然と並べた部屋。
水族館と同じくらい大きなガラスの向こうからは、東京の夜景が一番上から見られる……。

最初にプロデューサーさんとこの部屋へ入った時は、
ハリウッド映画か何かかと思いましたが、案外すぐ慣れてしまうものなんですね。

私とあなたで作らせた、そのオートクチュールも、最初はあなたの方が着られてましたのに。
よく馴染んだもので……お似合いですよ。



本当に、あなたはあっという間にここまで上り詰めました。
私と出会った頃のあなたは、プロデューサーなのに、
ここから遥か下のアスファルトを這いつくばって、汗だくでスカウトに走り回っていて。
隔世の感がありますね。



本当に、あなたは変わった。変わってしまった。



そんな煙たそうな顔をしないでください……別に、思い当たらないのであれば構いません。
私も、今更説教をしに来たのはございませんから。
あなたも、もう聞き飽きてますでしょう? 私もなんですよ。

今のあなたは、もうたくさんかな……と思ってます。

ただ、今夜だけは……私があなたに送る、最後かもしれない言葉なので、
どうか心の片隅にでも置いてくだされば、と思います。

それが叶うなら、今までの私の言葉は、全て忘れても構いませんから。



あなたは目覚ましい勢いでこの世界を駆け上がりました。
一度、二度、三度ぐらいなら、ただのまぐれと片付けられる大成功も、
ここまでくれば誰もが見上げる実績です。

ただ、世の中には、何をやっても上手くいく時期と、
何をやっても上手くいかない時期があります。

それが糾(あざな)える縄ぐらい平等に訪れるかは、私も知りませんが……
何をやっても上手くいく時期、というものは、いつか終わります。
あなたはまだ若い……その『いつか』は、きっと死より先にやって来ます。

その時までに、あなたに『思い出して』いただければなぁ、と思います。



ふふ、もうよろしいのですか、私のお話。
そうですね。幸運の女神だなんて呼ばれたこともある私が、
不吉なカッサンドラーの真似事なんて似合いませんよね。


では、私はお暇いたしますプロデューサー。
私がこの摩天楼の敷居をまたぐことは、もうないでしょう。

願わくば、あなたもご壮健で……


●13


……ああ、お久しぶりですね、プロデューサーさん。
随分とご無沙汰でしたが……何年ぶりでしょうか?


『お元気でしたか』――なんて白々しい洒落は言いませんよ。



あれから、あなたは財産、名誉、地位、人脈、信用、健康……色々なものを失ったようですね。

なのに、そのオートクチュールは手放さないんですか。

え、ぜんぜん似合ってませんよ。
だって、あの上り調子だった頃の恰幅に合わせてオーダーメイドしたのに、
今の痩せてしまった有様では……見られたものではありません。

……そんなものを着ておらずとも、あなたのことは覚えてますよ。



それより、私のところに来るのが、思ったより遅かったですね。
どんなことを言われるか、不安でしたか。

それとも、『思い出す』のに時間がかかったのかしら。



プロデューサーさん、ほかに顔を合わせる人はいないのですか。
アスファルトから見上げる摩天楼の頂点に未練はありませんか。

それらが残っているなら、ここは、あなたのいるべき場所ではありません。

あなたを狂わせるほどの幸運は、何かの間違いだったんです。
それが分からないうちは、私、あなたのことなんて知りません。

あなたがまだ自分を信じられるなら、ほかに頼れる人がいるなら、
私がいなくたって、あなたはどこかでどうにかやっていける筈です。

まぁ、そのオートクチュールに見合った地位に返り咲けるかどうかは、私の知らぬことですが。



え? ムリ、ですか。随分と弱気になったものですね。
何があなたとそうさせたのですか。



……『もう茄子以外信じられない』ですか。

ふふっ、うふふっ。いえ、馬鹿にするつもりは毛頭ありません。むしろ……



プロデューサーさん、この私の手が、見えますか?

もし、あなたが……望むなら、この手にあなたの手を伸ばしてください。

ただしこの手をとったら、あなたの希望も、絶望も、
栄枯盛衰も喜怒哀楽も、すべて私のものにしちゃいます。



ふふっ、うふふっ。
そうですか。それがあなたの答え……

プロデューサーさんの笑顔を見るのは、本当に久しぶりですね。




――――――
――――
――


●14


楓「身の丈以上の幸運を分け与えて、ハシゴを掛けて、おだてて、登らせて、
  その絶頂でハシゴを外して、あとは落ちるところまで落ちてくるのを待つ……」



楓「なるほど、ファム・ファタール型のダメP製造機ですか。これは邪道です」

茄子「わぁ、にべもありませんね♪」

桃華「こんなのってありませんの! プロデューサーの人生をオモチャにしないでくださいな!」

茄子「まぁ、ダメPさんにプロデューサー辞めさせたら、本当におしまいですものね」



楓「そう、やり口が悪辣だから……確かに邪道は邪道です。けれど……」

桃華「……『けれど……』?」



楓「この『もう茄子以外信じられない』って響き、とってもグッと来ますね!」

茄子「そこさえご理解いただければ十分です♪」

桃華「そこは、一番通じちゃいけないところでしょう!?」

茄子「あのヒトはダメなヤツだって、みんなにそう言われて、それで……
   世界で私だけがあの人を好きなんです。とてもステキではありませんか?」



楓「まぁ、私たち以外にも、この事務所は強者揃いですけどね。
  体臭で何もかもお見通しなのをいいことに、一挙手一投足を支配してくる子とか」

茄子「『私の味がしないと物足りなく感じる、そんな舌にしてあげます』なんて料理を食べさせる子とか、
   廃人と書いて『ダメ』と読ませるところに追い込む某アシスタントさんとか……」



楓「ですが私たちは所詮……そうなると知っててそうする『悪意』を含んだやり方。
  そこを勘案すると、やはり『善意』の桃華ちゃんには叶いません」

茄子「だから、一番のダメP製造機は桃華ちゃん、という結論に至りました♪」

楓「おめでとうございます桃華ちゃん。
  ということで、ダメな私に毎朝味噌汁を――」

桃華「もうダメなのは、このプロダクションの方ですわ……
   わたくしがしっかりしないと、プロデューサーがダメにされてしまいますの……」



楓「――あ、誰かの携帯が鳴ってますね」

桃華「これは、わたくしですわ……失礼致します――もしもし、Pちゃまですね?
   今……? わたくしは事務所におりますが」





●15

桃華「――はい……はい、分かりましたわ。今、向かわせますの。
   すぐには無理ですが、わたくしも参りますから……何、水臭いことを言わないでくださいな。
   Pちゃまは、わたくしの……い、いえ、何でもありませんわ。それでは切りますよ――」



茄子「……桃華ちゃん、慌ただしいですね。何かあったんですか?」

桃華「ええ、少しだけ……それよりも!」



桃華「わたくしは失礼させていただきますけれど、お二方にこれだけ言わせていただきますの。
   プロデューサーの人生をオモチャにしないでくださいな! では、ごきげんよう」





茄子「桃華ちゃん……行ってしまいましたね」

楓「……ホントに風評被害なんでしょうかねぇ」

茄子「さぁ、どうでしょう♪」



(おしまい)


読んでくれてどうも

風評被害ごめんなさい


>>25
アンライト?

>>26
たぶんだけど、コレットの『シェリ』じゃねえかなぁ

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