女「11回裏のストレート」(54)


―女の部屋―

女「はぁー……」

女友「ん、どうしたの? ため息なんかついちゃって」

女「……んー」

女友「なんだよー言えよー」

女「んー……んふふ。実はねぇ」

女友「うんうん」


女「……私ねぇ、好きな人ができちゃった」

女友「……えー!」

女「んふふ。……中学生にして初恋だぁ。えへへへ」ポワポワ

女友「うわぁ……。で、誰なの?」

女「え~」

女友「言えよう」


女「もう……。女友ちゃんだから言うんだからね」

女友「うんうん!」

女「他の人には言っちゃダメだよぉ」

女友「わーかってるって」

女「……男くん」

女友「おぉ、野球部のあいつか!」


女「うん。……んふふ、言っちゃったぁ」ポワーン

女友「ふんふん、なるほどねー」

女「応援してくれる?」

女友「うんうん任せて!」

女「えへへ、ナイショだからね」

女友「うんうん!」


―女友の部屋―

女友「しかし、応援するとは言ったものの、どうしたらいいんだろう」

女友「ナイショって言われた手前、相談もできないしなぁ」

女友「や、待てよ。あいつなら……。電話電話」ピポパ

後輩『はい、もしもし』

女友「あ、後輩ちゃん。まだ起きてた?」

後輩『はい、お風呂に入ってました』


女友「電話だいじょうぶ?」

後輩『はい。どうしました?』

女友「……落ち着いて聞いてね」

後輩『はい』

女友「なんと、女に好きな人ができたんです!」

後輩『はぁ、めでたいですね』

女友「うんうん。それでね、やっぱ応援してあげたいじゃん?」


後輩『はぁ、そうですね』

女友「でも、私もあんまりそういう経験なくってー」シナッ

後輩『はいはい』

女友「どうしたらいいのかな、って」

後輩『アドバイスってことですか?』

女友「うんうん、なにかないかね?」

後輩『うーん……。ところで、女さんの好きな人って?』


女友「むむ、ナイショだぞ?」

後輩『もちろんです』

女友「野球部のエースで、男くんっていうの」

後輩『あぁ、あの練習熱心で有名な』

女友「そうそう!」

後輩『まずはどんな人かわからないと、アドバイスのしようがないですね』

女友「だよねー。私もあんまり知らないからさ」


後輩『じゃあ、明日あたり野球部の知り合いに聞いてみます』

女友「頼んでいいの?」

後輩『任せてください』

女友「あ、念を押すけどナイショの話だからね? 後輩ちゃんだから話したけどさ」

後輩『わかってますよ。それじゃあ、お休みなさい』プツ

女友「……いやー、持つべきものは友だねー」

女友「女、がんばれよう!」


―後輩の教室―

委員長「後輩さん、おはようございます」

後輩「おはよう、委員長」

委員長「あら、なんだか眠そうですね」

後輩「中学生になってから、生活リズムが崩れちゃって」

委員長「それはよくないです」

後輩「だいじょうぶだよ。……ところで今日、男子少ないね。遅刻かな?」

委員長「聞いてませんでした? 今日、野球部は公欠ですよ」


後輩「えっ、公欠? なんでこのタイミングで……」

委員長「なにかあったんですか?」

後輩「いや、別になんでも……」

委員長「……そうですか」シュン

後輩「……」

委員長「……」

後輩「別に、委員長ならだいじょうぶだよね」ボソ


委員長「……?」

後輩「実はさ、2年の女友さんって人に相談を受けてて」

委員長「はい」

後輩「その内容が、恋愛についてでね」

委員長「まぁ、素敵ですね」

後輩「そう? 私はどうでもいいんだけど、先輩からの頼みだからさ」

委員長「誰に恋してるんですか?」ワクワク


後輩「興味津々だね……」ハァ

委員長「私、少女漫画をいっぱい読んでますから、何か役に立てるかもしれません」

後輩「あ、でも恋してるのは女友さんじゃないんだ」

委員長「誰なんです?」

後輩「……いい? これは委員長だから言うんだよ。他言無用だよ?」

委員長「もちろんです。委員長の肩書きに誓って」

後輩「……」


委員長「……」

後輩「……うん、わかった。じゃあ話すね」

委員長「はいっ」ワクワク

後輩「二年生の女さんっていう人が、野球部の男さんのこと好きなんだって」

委員長「むう、二人とも知らないです……」

後輩「だろうね。まあ、いいよ」

委員長「それで、野球部の方から何か情報を得ようと?」

後輩「うん、そういうことかな」


委員長「なるほど」

後輩「明日でも遅くないし」

委員長「わかりました。そういうことなら、私の方でも考えておきますね」

後輩「助かるよ。正直私もよくわかんなくてさ」

委員長「貸しましょうか、少女漫画」

後輩「たぶんその知識は当てにならないから」

委員長「漫画は小説よりも奇なり、ですよ」

後輩「ダメじゃんそれ」


―生徒会室―

会長「とまぁ、今日の議題は以上だね。お疲れ様」フゥ

委員長「お疲れ様です、会長」

会長「あぁ、委員長さん。どうだい、慣れたかな?」

委員長「はい。皆さんとてもお優しいので」

会長「うん、いいことだ」

委員長「ありがたいです」


会長「しかし、それにしては浮かない顔をしてるね」

委員長「そうでしょうか……」

会長「僕でよかったら力になるよ」キリッ

委員長「会長……」キュン

会長「話してごらん」

委員長「実は――」


会長「――なるほどね。女さんと男くんをくっつけたいと」

委員長「はい。しかし私の知識では役に立たないと友人が言うので……」

会長「ふむ。確かに、漫画と現実は違うからね」

委員長「やっぱり、そうですよね」

会長「安心したまえ。僕が力を貸すと言ったろう」

委員長「会長の手をわずらわせるわけには」


会長「そんな寂しいことを言わないでくれ。僕は君のことが……」チュッ

委員長「あぁ、いけません会長……」チュッ

会長「ふふふ、僕に任せておくといい」キリッ

委員長「あ、そういえば、これはナイショの話だそうです」

会長「そうか。ナイショだったのか」チュッ

委員長「あぁ、会長……」チュッ


―三年の教室―

会長「というわけで、何かいい案はないかい?」

先輩「知るかよ。なんで俺に聞くんだよ」

会長「君は女好きだったろう?」

先輩「いや、お前に言われたくねーし」

会長「そのくせ、男友達も多いじゃないか」

先輩「ん、まーな」


会長「女さんと男くんと言うんだが、何か知らないかい?」

先輩「俺は知らねーけど、俺の友達に聞きゃ何かわかるかもな」

会長「だったら聞いておいてくれ」

先輩「やだよ! お前が引き受けたんだろ」

会長「実務をこなすのは部下の仕事だろ?」

先輩「誰が部下だよ!」


会長「この学校の生徒全員さ。僕は会長だからな」

先輩「お前に友達いない理由がよくわかったわ」

会長「使える部下と美しいワイフがいれば十分だ」

先輩「お前マジで中学生か?」

会長「なにはともあれ頼んだよ。友情に、乾杯」キリッ

先輩「つーかなに、それ。他のヤツに聞いていいことなのか?」


会長「……ナイショで頼む」

先輩「お前遅くね、それ」

会長「いいんだ。君さえ黙っていればな」

先輩「はぁーっ、なんだよそれ」

会長「じゃあな」キラッ

先輩「いちいちウザイなお前」


―廊下―

先輩「あぁもう、めんどくせーな」

先輩「でも無視したらもっとウザイことになりそうだし」

先輩「適当にやっとくか。先ずはメールだな」

先輩「『男ってやつ知ってる?』、一斉送信っと」

先輩「……お、早速返ってきた。『そいつがどうかしたの?』か」


先輩「……あー、ナイショだったっけ。でもまぁ、こいつは信頼がおけるからな」

先輩「言ってもだいじょうぶだろ。『実は……』っと」

先輩「……お、別のやつからも返ってきた。『知ってるけどどうしたの?』か」

先輩「……あー、ナイショなんだよなぁ。でもまぁ、こいつも信頼がおけるからな!」

先輩「言ってもだいじょうぶだろ。『実は……』っと」

先輩「……あ、また別のやつから返ってきた――」


―二日後―

女「おかっぱ頭の
トイレの花子さんに
殺された女友」ルンルン

女「んふふ。すごぉい、男くんでアイウエオ作文ができちゃった」

三年生a「あ、もしかしてあなたが噂の女さん?」

女「えっ?」

三年生a「うわぁ、かわいいわね!」

女「は、はぁ」


三年生a「応援してるから、がんばるのよ?」

女「あ、あのぉ、なんの話でしょうか」

三年生a「え、なんの話って、男くんのことだけど」

女「!」

三年生a「狙ってるんでしょ? 付き合えるといいわね」

女「それ、それ誰から聞いたんですか!」クワッ


三年生a「ちょっ、どうしたのいきなり」

女「誰から聞いたんですかぁ!」グイッ

三年生a「え、え~っと、たしか、三年生bからだったかな?」

女「どこにいるんです、その人!」

三年生a「今は、教室じゃないかな? ……三年二組」アセアセ

女「……」ゴゴゴ


――――


三年生b「誰から聞いたっけなぁ。……あ、担任からだ!」

担任「職員会議の時に校長が……」

校長「儂は卒業生のobくんから……」

ob「小学生の弟に……」

小学生の弟「おかーさんから……」

おかーさん「不倫相手が……」

不倫相手「パートの娘が……」

パートの娘「ツイッターで拡散されてて……」

………

……




女「――!」ハァハァ

女友「おー、どったの、女?」

女「お前かぁ!」パンチ

女友「べぶっ!」ボコ

女「お前が元凶かぁ!」ジャブ

女友「ちょまっ! 何の話よー!」

女「……ナイショって、言ったのに」プルプル

女友(なに、なんで怒ってるの?)


女「私、信じてたのに……」プルプル

女友(……ま、まさか)

女友「ちょっと待って女! 今確認するから!」ピポパ

女「なにをよぉ……。もう世界中の人にバレバレなんだよ!?」

女友「それは大げさでしょ! ……っと、後輩?」

後輩『はい、なんでしょう』

女友「しゃべった!?」


後輩『……あの事ですか?』

女友「うんうん!」

後輩『……すいません、よかれと思って』

女友(私終わったー!)

後輩『もしかして、女さんに……?』

女友「うんうん……。とりあえず、今すぐこっちきて。一組の教室」

女「やっぱり、犯人は女友ちゃんだったんだね」


女友「……許されざることをしてしまいました」

女「……」

女友「でもね、女を応援したいって思ってたのは本当なの」

女「そんなのっ」

女友「これだけは、信じて」

女「……」

女友「今、もう一人の原因がくるから……」


――――

後輩「すみませんでした!」

委員長「申し訳ございません」

会長「すまんね」キリッ

先輩「マジごめん!」

女友「なんでこんなにいんのよ!」

女「もうダメだあぁ!」ビエーン


先輩「もとはと言えば会長がよ……」

会長「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろう」キリッ

委員長「なんて謝ったらいいか……」

後輩「本当にすみません……」

女友「男二人はマジメに謝れよう!」

女「……もう、いいよ」

女友「女?」


女「もう、いい。もうダメだもん、私」

後輩「そ、そんなこと」

委員長「そうです。諦めるにはまだ……」

女「だって、みんな知ってるんだよ? これでフられたりしたら、笑い者じゃん」

先輩「まーな」

女友「お前は黙ってろ」

女「せっかくの、初恋だったのに……」


委員長「女さん……」

会長「……諦めるのは、まだ早いんじゃないか?」キリッ

女「えっ……?」

後輩「会長……?」

会長「常に三手先を読んでこその生徒会長。さぁ、窓の外を見たまえ」


女友「窓の、外……?」

先輩「おいおい、あいつって……!」



男「女ぁ!」

女友「えぇー!?」

男「女ー! お前の気持ちは伝わったぞ!」

女「あ、あれは……男くん!」

男「多くの人の言葉に乗って、それでも褪せることなく伝わった!」


女「……」グス

男「それはさながらぁ、延長11回での渾身のストレート!」

女「……うぅ」ポロポロ

男「球威が落ちることなく、俺の心のミットに収まった! ナイスピッチ!」

女「……ふぇ」ポロポロ

男「……俺も、俺もお前が好きだぁー!」

女「私も、男くんが大好きだよぉ!」


会長「まったく、世話を焼かせる後輩たちだ」ヤレヤレ

女友「なんとか試合終了。無四球完封勝利だねっ」

後輩「まぁ、決勝点は私ですかね」

会長「素晴らしい試合だった。さぁ、ヒーローインタビューといこうか」キラッ

先輩「胴上げが先だろ!」

委員長「いいんでしょうか、これで……」




おわり

読んでくれた人乙

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