東京喰種:re 第0.5話「轢」 (235)

東京喰種:reのssです。
0.5話とあるよう一話目までの時間を想像して書いたものです。
気分次第で最新話のネタバレが含まれるかも。
スポットをあてるキャラを変えつつポチポチ投下して、
本日3巻発売日~次回4巻発売日位に終わらせる予定です。
それではよろしくお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1434661284

[上下]



「真戸上等、喰種討伐の報告書できました」

「ご苦労、佐々木二等。後で目にするから、そこに置いておいてくれ」

「よろしくお願いします」そう言って笑顔を私に向け、席に戻る二等は愛嬌があり中々好感が持てる。
しかし佐々木を見ていると、自分が下位捜査官の時に『彼』に取ってしまった態度を思い出しむず痒くなる。
父への不満があった。『彼』への不信感もあった。
それでも、もう少しやりようはあったと今では思う。
最近佐々木二等を通して、昔の自分と『彼』を思い出すことが増えた。

佐々木が私の下について随分時間が経った。
当時一等捜査官だった私は、指導者という形で佐々木三等と組まされた。
自分で言うのもアレだが、私の性格は少し難がある。
そして佐々木は性格こそ人受けがいいが、身体の方に問題を持っている。
扱いが面倒な者は、まとめておいた方がいい。
元々CCGもその腹積もりだったのだろう。
上官と部下の関係はお互い階級が上がった今も続いている。

先日の喰種討伐か……。
私は佐々木の持ってきた報告書に目を移す。
世間の認知こそ低いが、多くの捜査官を返り討ちにしていたSレート喰種。
他チームとの合同捜査で奴追い詰めたまではよかったが、その力は我々の予想を超えていた。
殺しは極力せず逃走に徹するその姿勢から組まれたメンバーだったのだが、
逃げる事を許さない布陣が逆にまずかった。

私だって馬鹿ではない。
喰種側に我々の知らぬ力がある可能性も加味しての作戦だった。
予想外だったのは、味方の戦力。
前もって聞かされていた佐々木二等の能力を使わせた事が問題となった。
結果喰種討伐は成したものの、作戦立案者として私は出してしまった被害報告書を書かされている。

「……まったく、上に立つというのは難儀なものだ」

席に戻った佐々木二等を見てため息をつく。
先の失態で佐々木自身にも、思うところはあるだろうが見える部分に変化はない。
苦悩を背負い込むが、周囲には漏らさないタイプなのはもう知っている。
もっと分かりやすければ、こちらとしてもアプローチのしがいはあるのだが……。
そういえば『彼』とは、どうやって打ち解けたのだったか。

「佐々木は美味い珈琲の店を探すのが趣味だったな」

「はい。ただ、近隣の店はあらかた周ってしまったので、今は新規開拓に難航しているんですけど」

佐々木は先の身体の事情から、食にも大きな枷がはめられている。
だから“それ”を気にせず楽しめる珈琲が、彼にどれだけの支えになっているかは想像に難くない。
周囲の店を制覇してしまうのも、無理からぬ話だろう。

「それならいい店を知っている。今から一緒にどうだ?」

時間は20時18分だった。

「C・R・B(カフェ・レストラン・バー)ですか」

「そうだ。夜からの営業だからここは君も初めてだろう」

私が選んだ店はCCGから歩いて12分のビルにあるレストランバー。
ここはメニューも豊富だし、眺めもいい。そして、なにより―――

「本がたくさんありますね」

「夕食を兼ねてカフェとして利用する客が多いからな。その為の蔵書だそうだ」

様々な客が来る店だけあって、置いてあるジャンルも多種多様だ。
それでいて店の雰囲気を損なわずうまく纏められている棚は、店主の拘りが見受けられる。
反応を見る限り、彼も気に入ってくれたようだ。

「ラムペッパーフライとマカディア・カンパリを頼む」

「僕はこの特性ブレンドでお願いします」

お互いの注文を告げるとウェイターは一礼して厨房へ戻っていった。
店内には既に何人か先客がいるが、一人の時間を楽しみに来ている者ばかりの様で
決してうるさくはないBGMの音がやけに耳に響く。

「上等はカレーですか」

「辛みは代謝を良くする。体を温めておく事は大事なことだぞ」

「でもお昼もカレーを食べられてませんでした?」

「あれは牛だ。流石にラムは食堂では食べれんからな」

「それにしても驚きました」

「何がだ?」

「だって上等から定時後の誘いを受ける事って、初めてじゃないですか」

そう言われれば昼に一緒の卓を囲む事は有っても、夜に誘いをかけた事はなかったか。
(私は9時以降食事をとらないし)
先日の失態……参っていたのは私もかもしれん。

「本日はお誘いいただき、ありがとうございます」

「部下を労うのも上官の務めだ」

少々照れくさくなり、誤魔化すようにマカディアを口にする。
ストレートすぎる言葉は面と向かって言われるのは気恥ずかしい。

「―――で、有馬さんからお勧めの本はないかと聞かれたんですけど」

私の食事も終わり、他愛もないはらしがつづく。

「読んでた本は多そうなんですが、僕自身が覚えている有馬さん受けしそうな本って中々なくて」

仕事以外のわらいだと、お互いのしりわいがでてくるのは自然なながれだ。
二人とも特等の下についていたから今は彼の話になっていりゅ。

「しゃしゃ木が面白いと思ったものを勧めればいいさ」

「……しゃしゃ木?」

「有馬特等もめつにそこまで読む物に困っているわけじゃないらろう。『子』が何を考えていりゅのか知りたがる『親心』みたいなもんら」

「真戸上等?」

「だったら特等がにゃにを好むかより、君が気に入った本をわらしたほうがかりもよろこぶじゃろ」

「あ、ありがとうございます……参考になりました。後真戸上等これ、水飲んでください」

「なんれだ」

なんれそんな目でわらしを見る。

「いえ、呂律が回ってないですし……上等アルコール弱かったんですね」

その言葉、まえも聞いた気がすりゅ。

「わたしは酔ってなどい、な……い…………」

「上等!?」

気が付くと家のベッドで寝ていた。
どうやら“また”やらかしたらしい。
念のためにベランダを見てみたが、筋力トレーニングに励む佐々木の姿はない。
テーブルの上には水と薬に置手紙が一枚。

「薬と水を置いておくので、目が覚めたら飲んでください。カギはポストの中に入れておきます―――か」

今日会ったら、礼を言っておかないといけないな。
いや、その前に知らぬ間に着替えさせられている事を言及すべきか。
……まあいい、考えるのはシャワーを浴びてスッキリしてからだ。

「おはようございます、真戸上等」

「おはよう、佐々木二等。昨日は迷惑をかけたな」

いつも通りの朝、いつも通りの笑顔で佐々木は挨拶をしてくる。
昨日の飲食で、少しは彼の気持ちを晴らすことはできたのだろうか。

「いえ、こちらこそいい店を紹介していただきありがとうございます」

「かまわんさ。それより二等、私は今朝起きたら着ていた服が変わっていたのだが」

「ああ、寝苦しそうでしたのでお手伝いさせていただきました。大丈夫、見てませんから!」

にこやかな顔でとんでもない事を言う。
しかし、自分の失態が原因なので強く出るわけにもいかん。

「そうか、重ねてすまなかったな。だが―――」

真戸パンチを叩き込む。

「ッ!!?」

「女の服を気軽に脱がすな」

ここは教育的指導で済ましておくか。

「しかし介抱の件は助かった。ありがとう」

「ゲホッ……お役に立てて光栄です」

しゃがみ込む佐々木を置いて席へ着く。
そこまで強くはしていないので、程なく回復し佐々木がこちらへやってくる。
そう、佐々木がやってくる……佐々木ささきSASAKI。佐々木、か。

「真戸上等、今日から調査にはいる『アオギリ』なんですけど」

「その真戸上等というのは長いな」

「はい?」

「君と私はコンビだ。そうやって一々かしこまっていては時間と体力の消費だ」

「はあ?」

「公の場以外でならフランクでもいいだろ。これからは“アキラ”でいいぞ」

「……はい、“アキラ”さん!」

「うむ、それでは仕事へ移ろう。既に資料は読んでいるな“ハイセ”?」

過ぎ去った時間は戻らない。
ならば今を後悔せず進むしかない。
目指す母の背中はまだ遠い。
隣を歩きたいと思った父もいない。
たまに友のようにバカをする日もあるかもしれない。
だけどいつかは『君』のように誰かの心に残る人でありたい。
そう思うよ、亜門鋼太郎。

アキラちゃんとハイセくん編はこれで終わりです。
次また誰かの話が書けたら投下しに来ます。
目標は一週間後位までで……。

[坐苦]



店を開けて数刻、作業場で仕事をしていると本日最初のお客さんがやってきた。
正確には彼女は同業者なので、お客さんというのは語弊があるかもしれないけれど……。

「どうですかウタさん! 俺のマスクかなりイイ感じになったと思うんですけど」

意気揚々と自身が作ったマスクを渡してくる彼女―――アサはぼくと同じマスク屋を営んでいる。
うちののマスクに感化され、自分もこの道へ入ったらしい。
以前までは会いにくる度に弟子入り志願されていたけど、今はたまに作品を見せに来る程度。
彼女自身の目標も定まっているようだし、結果はどうあれツムギさんと会わせてよかったと思う。

「うん、縫い目もキレイだし、一目でよくなってるのがわかるよ」

前までは、形へ持っていく事を意識しすぎて粗雑さが目立っていたし……。
ただ仕事が丁寧になっただけでなく、マスクからは以前までのアサにない女の子らしさを感じる。

「この刺繍だけど……」

「ああ、特に理由はないんですけど……ま、まあ、ちょっと入れてみてもいいかなあ……なんて」

刺繍は可愛いくできていると思うけど、それを認めたくないのだろう。
彼女は顔を赤くしながら俯いていた。
自分の感性に正直になる事も大切なんだけど、まだアサには難しいのかもしれないなァ。

「さりげない紫苑が、マスクに色味を持たせてていいと思うよ」

「そ、そうですか? 自分じゃよく分かんないんですけど……」

マスクを返すとアサは少し不満そうな顔色をのぞかせる。
どうやら良しとしつつもこの刺繍に納得できず、今日はアドバイスをもらいに来たようだ。

「ぼくの助言より、ツムギさんの家でデザイン画を借りて見てた方が勉強になると思うけど」

「いえ、ばあさんのはもう何べんも見てて、自分なりのアレンジも加えてみた後なんです……」

なるほどね……その上で煮詰まっているのか。
改めて、アサの手の中にあるマスクを眺める。

「なんか見れば見るほど差を感じちゃって」

「ツムギさんのデザインはすごく綺麗だからね」

ぼくも何度か家にお邪魔して見せてもらったことがあるけど、シンプルながらも研ぎ澄まされた一品や、
美を突き詰めたような一品等、洗練されたデザイン画たちはどれも素晴らしいものだった。

「ほんと、うっとおしいババアですよ」

悪態をつきつつも笑うアサ。
その光景は、なんだか見ていて微笑ましい。

「ふふふ」

「なんですか急に」

「アサが楽しそうだなって」

「……な、何いってんですか! デザインもマスク作りもうまくいかないから、全然楽しくないですよ!!」

「楽しくない事続けられる性格でもないでしょ……だから、きっと今も楽しいんだよ」

「……うぅ」

楽しいから、面白いから、大丈夫。
ならば、ぼくはどうだろう。
作りかけの、着ける人がいなくなってしまったマスク。
なぜ、このマスクを再びつくっているのか。
今のぼくは、ちゃんと『楽しい事』をやれているのだろうか。

「ウタさん?」

「ごめん……ちょっと考え事してた」

「それってやっぱり、今作ってるこの新作の事ですか!? 超ぱねーっすよね!!」

「半分アタリで半分ハズレ、かな。これは、新作ではないから」

「リメイク案的な流れで、迷ってるって事ですか?」

リメイクではないけれど、確かに今ぼくは迷っている。

「このまま作っていていいのかな、って」

マスクを完成させたいとは思ってる。

「着ける人がいなくなっちゃったからね……」

でも、それは何のために?

「すすす、すみません! 余計な事きいちゃったみたいで……!!」

楽しい事のため?

「構わないよ……自分でもちょっと整理したかったし」

面白い事のため?

「そのマスク―――」

笑える事のため?

「着けていた人は、ウタさんにとって特別なお客さんだったんですね」

「特別……」

彼の物語。
泥の中でもがき苦しむ、悲劇の物語。
『ぼくたち』が望んだ物語。

「そうかもしれないね」

でもきっと、ぼくはあの結末に納得していないのだろう。
泥にまみれて汚れてなお進もうとする彼。
見たいと願ったのは別の結末。
たとえそれが、『ぼくたち』の意に反しても。

「ねえ、アサ」

悲劇なんて流行らない。

「このマスク、何をイメージしてるか分かる?」

もっと楽しいことを。

「悪魔……いや、眼帯……ですか?」

カネキくんが再び姿を現す、その日の為に。

「うん、正解」

カネキくんが再びマスクを着ける、その時の為に。

メインはウタさん―――ですが、参考に買った小説版のキャラも出したくなりまして……。
興味を持ってくださった方は、是非とも公式の本を手に取ってみてください。
今回の話は14巻が割とショックだった分、自分の願望色が強めです。

次回 [贈物]

[贈物]



「相談がある」

“樹”のアジトへ顔を出すと、ミザが来ていた。
一緒にいたナキにも聞かせる事になるが、判断材料は多いに越したことはない。
構わず俺は話を進める。

「アヤトがわたしに? 珍しい事もあるもんだな」

「アヤトには泡になってんからな! なんでもきいてくれ!!」

少々不安になるところもあるが、二人はすんなり引き受けてくれた。
こうやってスムーズに話が進むと、普段からの接し方は大事だと再認識する。

「女ってのは、何をプレゼントされると嬉しいんだ?」

「…………」

「プレゼントォ?」

「あー、つまりだな……」

「オレは“神アニキ”からもらえたら、何でも嬉しい!」

「“女”相手だって言ってただろ、馬鹿ナキ!」

全くだ。しかし、貰う相手次第というのも大事なことだな。
まあ、俺は大丈夫だけど……多分。

「馬鹿っつったな!? 馬鹿って言った方が馬鹿なんだぞ!!」

「だったら、やっぱりお前は馬鹿なんだろ!」

「アレェ!? ホントだ!!」

「話を続けていいか?」

「そういうのは私たちよりも、ヒナミにきいた方がいいだろ」

「いや、それはマズイというか……」

サプライズの意味がなくなってしまう。

「どおしたアヤト、腹イテェのか?」

違う。

「……なるほどな」

ミザには感づかれてしまったようだ。
こうなったら下手に隠すのは逆効果か。

「そのヒナミに渡すもので迷っている」

「“樹”に慣れてきたとはいえ、元々外にいたヤツだからな……使いすぎて壊れちまっても困るし……」

「大事にしてんだねぇ」

「うっせぇ、笑うな」

くそ、こうなるからぼかして聞いてたってのに……。

「え? え?? どういう事??」

「このアヤトくんは愛しいヒナミちゃんに、プレゼントを贈りたいんだとさ」

「てめぇ! ミザ、それ以上適当言ってると―――」

ブッ飛ばす。その言葉も赫子も出せないまま、俺はナキに押し倒された。
なにしやがるこの野郎。

「アヤトォォ、お前イイやつだなあッ!!!!」

「は?」

「オレもよおおお、アニギがら『さいぎんづかれてないがい?』って嵌ってぐれた時はズゲーうれしくってざああ」

「あ、ああ」

「今でもがるく前歯へしおっでくれたごと思い出じて……うおおおおおアニキいいいい!!!!」

思い出に浸るのはいいが、ヤモリと俺の気遣いを一緒にするな。

「馬鹿は放っておくとして、アヤトは何かアテがあるのか?」

「本……とか。どんなの好きなのかまでは知らねーけど……」

読んでるところはよく見るし、隠れ家にもヒナミが来てから書物が増えた。
本が好きなのは間違いないだろう。

「私も進んで読むタイプじゃないからなあ……エトあたりにでも訊いてみたらいいんじゃないか?」

エト……か。
アイツは色々物を知ってるし、人間側の事も俺たちよりは明るい。
何より、ヒナミを連れてきた張本人だ。好みも俺たちよりは詳しい、か。

「そうだな。ちょっと会ってくるわ」

「ああ、そういえばヒナミは“タカツキ”とか言う作家が好きだったはずだ」

「タカツキ?」

「エトに訊くなら漠然と尋ねるより、タカツキ好きが好みそうな本を勧めてもらった方がいいだろう」

確かに好きな作家の本なら既に持っている可能性も高い。
ミザに相談してよかった。

「参考になった。ありがとよ」



「アニキいいいいいい!!!!!!」

「エト」

こいつも丁度アジトにいたらしい。幸い周りにタタラたちもいない。
最近なにかと突っかかってきて五月蠅いからな。

「どうしたのアヤトくん。一緒に珈琲飲む?」

「いや、いい。それよりもエトはタカツキって知ってるか?」

「ブホッ」

「エト!?」

「ご、ごめんよお……アヤトくんからあまりに意外な名前がでたもんで、ビックリしちゃって」

さっきの反応もだがエトがおかしいような……。
いや、それだけ俺から人間の作家の名がでたことに驚いたという事か。

「こほん、それでアヤトくんの言うタカツキは作家の高槻泉であってる?」

「ああ、知っているなら話が早い。そのタカツキの本を読んだ事はあるか?」

「あると言えば、ある……よ」

「はっきりしないな」

「ある! あるッスよ! ……じゃなくてあるよ、うん。あるある」

「……大丈夫か?」

「大丈夫だから、要件を早く済ませてくれると助かるかな」

「タカツキが好きな奴が、他に好みそうな本を教えてほしい」

「…………なるほど、そういうことね。うん、いいよ」

今のやり取りだけで誰への物なのか看破されたらしい。
様子がおかしい気もしたが、やはりエトはエトだ。

「既に勧めた事があるのを除くと、今のヒナミちゃんが読みたそうなのは―――」

普段どんな生活をしてるのか、エトは本のタイトルをスラスラと書いていく。
ただ読んでいるだけなら、こうはいかないんじゃないか?
素顔を見せないスタイルといい、やはりコイツは謎が多い。

「こんなところかな。上から順に喜びそうな物を書いておいたから、書店で探すといいよ」

「手間かけさせたな」

「ううん、アヤトくんの方こそヒナちゃんと仲良くしてくれてありがとね」

「ふん」

まったく、どいつもこいつも人を見透かしたような事を言う。

「せっかくプレゼントするなら、一緒に珈琲でも淹れてあげればいいんじゃないかな」

「珈琲を?」

「うん。豆の販売をしてる喫茶店もあるし、美味しそうな匂いのする店で訊いてみたらいいと思うよ」

「考えておく」

「おかえり、アヤトくん」

「……おう」

隠れ家に戻るとヒナミが出迎えてくれた。
こいつの“耳”は俺よりもずっと優れているから気配を殺していてもすぐバレる。
普段は助かっているが、今日ばかりは少し恨めしい。
戻ってきたのがバレたのだから、渡すなら今がベストだ。
エトの助言に従って、珈琲も用意した。
しかし、どうきり出せばいいのか。
切っ掛け……切っ掛けさえあれば……。

「……珈琲」

「あ?」

「珈琲の匂いがするけど、買って来たの?」

「お、おう! 帰りに寄った店のがうまかったからヒナミにもと思って」

よし!
このまま珈琲を淹れて一緒に本を渡せれば

「わざわざありがとう。じゃあ早速淹れて―――」

「いや! 俺が淹れる! ヒナミはそのままだッ」

「そう? じゃあお願いするね」

心臓に悪い。
さっさと渡して終わらせちまおう。

「こうやってアヤトくんに淹れてもらうと、“樹”に入ったばかりの頃を思い出すね」

「誰かが毎日ベソかいて、五月蠅かったからな」

しかも悪態をつく度に「お姉ちゃんみたい」とか笑いながら言われるんだ。
こっちとしては、たまったもんじゃなかったぞ。

「なんだか、もう随分昔の事みたい」

「……ほらよ。冷める前に飲んじまえ」

「うん」

「後…………」

「本?」

「任務でいつも世話になってるからな。その……感謝してる」

言った……言ったぞ。

「アヤトくん――――ありがとう」

「…………おう」

慣れない事は、しない方がいい。
普段と違うという事は、結果も違ったものが待っている。
それがいいものであろうとなかろうと、酷く疲れる。
全く、今日は散々な一日だった。

おまけ [姉弟]



『せっかくプレゼントするなら、一緒に珈琲でも淹れてあげればいいんじゃないかな』

エトの言葉に従うのも癪だが、本を渡すだけだとタイミングが難しい。
どこか適当な店で買っていくか。

   ・
   ・
   ・

この店……中から喰種の気配がするな。
良さそうな匂いもするし、ここにしとくか。

「…………」

俺が言えた立場じゃないが、不愛想な店員だ。
客が入ってきたら挨拶位…………四方!?

なんであいつが店員やってんだ!
なんで一言もしゃべらずにこっちを見続けてんだ!!
ていうか、あいつ珈琲淹れれたのかよ!?

「兄さん!」

兄さん……?

「お客さん来たら挨拶してって、いつも言ってるでしょ!」

いつから四方は、俺たちの『兄さん』になったんだああああ!!!!

「すみません、お客さん。こちらの席へどうぞ」

気づいてないのか?
俺は一目でトーカだって分かったのに……いや、俺背が伸びたからな。
前会った時みたいにガキじゃねーし、分からないのも無理ないな、うん。

「ご注文はどうなさいますか?」

「ブレンドと持ち帰り用の豆か何かあれば、それも」

「かしこまりました。少々お待ちください」

珈琲を飲みながらトーカ(+1)を見ていて、分かった事がある。
この店は『兄妹』二人で経営しているという事。
相変わらず人に紛れて、仲よしこよしやっているという事。
逆に喰種には知られていないのか、客の喰種は俺位らしいという事。
信じがたい事に四方の淹れる珈琲は味がよく、常連もいるらしいという事。
やっぱり最後のが一番信じらんねー。
土産用の豆も貰ったし、さっさと帰ろう……。
日常を捨て“樹”に入ったヒナミを連れてくるわけにもいかないし、俺がトーカに会いに来ることも無い。
だから、この店に来ることはもう無いだろう。

「……あばよ、馬鹿姉貴」

「……よかったのか?」

店内にいるお客さんに聞こえない程度に、四方さんが話しかけてきた。
相変わらず言葉足らずで、どう「よかったのか?」なのかは判りかねるけど。

「大丈夫ですよ」

とりあえず元気にやってるのが分かった。
背も伸びて、少しお父さんに似てきたかもしれない。
ちょっと落ち着いてきたようにも見えた。
でもきっと、今も無茶をし続けているんだろう。
そして、だからこそここへはもう来ない。
寂しくない、心配じゃないと言えば嘘になる。
けれど、私たちには今更だ。

「……バイバイ、馬鹿アヤト」

ト、いう感じでアヤトくん編。
乱心したエトとか、ナキとか書いてて楽しかったです。
プレゼント選びに四苦八苦するのは人も喰種同じ。
当りをつけたら物を選んで渡すだけ!
っていう風にストレートにいけば簡単なのですが……。
たわいない日常の一エピソード的話でした


次回 [巣立]

[巣立]



「任務でいつも世話になってるからな。その……感謝してる」

アヤトくんが珈琲と一緒にくれた本。

「アヤトくん――――ありがとう」

作者さんの名前は××××。

『はい、ヒナミちゃん。新しい本買って来たよ』

ずっと前にお兄ちゃんから貰った本と同じ作者。
お兄ちゃん…………。

お兄ちゃんが帰ってこなくなって二日目の昼、堀さんという人がやってきた。

『カネキくんはここには戻ってこないよ』

“あんていく”に白鳩の襲撃があった。
お兄ちゃんは店長さんたちを助けに行った。
喰種は『全殲滅』。
コクリア収監は“0”。
お兄ちゃんは戻ってこない。

使わせてもらっていたお家も、月山さんがつまらなくなっているから(?)近々ダメになると言われた。
荷物をまとめて万丈さんたちとお家を後にする。
お父さんがいなくなった。
お母さんもいなくなった。
お姉ちゃんとは自分からはなれた。
お兄ちゃんがいて、
月山さんがいて、
万丈さんたちがいた。
映画をみて、
お祭りへ行って、
楽しい事がいっぱいあった。
ヒナミは何もできなくて、
傷つくお兄ちゃんを見てる事しかできなくて、
辛い事もあった。
思い出がつまったお家を後にする。
手元にあるのは、鞄一個分の荷物と、
お兄ちゃんから貰った××××さんの本。
そして―――

『どうしようもなく行き詰っちゃうときがあると思う。そうなったときは気軽に連絡しておいで』

高槻さんの名刺。

「さて、ここからどうするかだが」

「このまま6区にいる訳にもいきませんしね」

「かと言って行くはずだった20区も……」

万丈さんたちはこれからの事を話してる。
その“これから”には、きっとヒナミも入ってる。
一緒にいるのがイヤなわけじゃない。
でも、保護されるだけの自分はもうイヤ。

「俺は11区がいいと思う」

「マジっすか、万丈さん……」

「マジだ。他の区より内情を知ってるし、何より今は俺たちを従えてたアオギリもいねえ……ハズだ」

「万丈さぁん、微妙に情けないっス」

「うっせえ! ヒナちゃんもしばらく大変かもしんねえけど―――」

「万丈さん」

「……ヒナちゃん?」

「ヒナミは、会いたい人がいます」

「人の作家さんである高槻さんと会いたい」という我儘に万丈さんたちを巻き込むわけいかないから、
相手の方とは一人で会いに行く旨を伝える。

「ヒナちゃんにまで何かあったら、俺はカネキに会わせる顔がねえ!」

返事は予想の範囲内だった。
そう言って心配してもらえる事は嬉しいとおもう。
でも、ここで万丈さんたちの行為に甘えるのはダメだから。
お兄ちゃんの事も知っている人という事で、何とか納得してもらう。
嘘は言っていないけど、少し後ろめたいかも……。
危ない場所へ行かない、後できちんと合流する事を条件に付け、万丈さんたちは一足先に11区へ。
ヒナミは初めて一人になった。

「ほうほう。それで“ちゃんヒナ”はその初めてをどう思ったのかね?」

「よくわかんない……です。辛くて寂しいハズなのに、ちょっとドキドキもしてて……」

連絡をいれると高槻さんは二つ返事で了承してくれた。
場所は前回会った喫茶店。
店内で一人は気まずいから、時間の少し前に着くように動く。
高槻さんは20分程遅れてやってきた。

『うひィ~、遅刻しちまった。ごめん、ネ』

注文を済ませ、軽く話を交える。
今はヒナミの近況のお話。

「辛くて寂しい―――ちょっとドキドキと、メモメモ」

メモを取りつつ高槻さんは話を進める。
そういえば、前も取材とか言ってたっけ。

「さて、それじゃあそろそろヒナミちゃんの悩みに移るわけだけど、カナキお兄さんの事であってるかい?」

「は……はい」

「それともカネキお兄さんの事でお悩みかな?」

「!?」

「あの……今なんて……」

「うん? だからカネキお兄さんの事でお悩みなのかいって」

高槻さんはほほ笑みながらこちらを見ている。
まるで、当たり前のことを当たり前に言うように“カネキ”お兄ちゃんの名前を口にした。
でも、いったいどうして……。

「実はだね、ヒナちゃんが前にお店に来た時お姉さんは既に店内にいたのだよ」

「え……それって」

「うん。伊達男のお兄さんとの会話も聞いちゃった。ゴメンね?」

だて……? 月山さんのことかな。

「ごめんなさい……騙すつもりはなかったんですけど……」

「いいのいいの、気にしてないし。カネキのお兄さんも事情があるみたいだし」

背中に汗が伝うのを感じる。
お兄ちゃんの事がバレた。でも、まだ名前だけ。名前“だけ”? 本当に?
隠し事は他にもある。これ以上は危険、切り上げないと……。

「あ……あの」

もしかすると、高槻さんに相談を持ち掛けたのは

「もし、喰種だなんてバレたら大変だもんね」

間違いだったのかもしれない。

なんで                       秘密
           お兄ちゃん
       早く       
                               バレた
                 高槻さん
    ダメ                    逃げ

「ヒ・ナ・ちゃ・ん!」

腕をつかまれていた。
無意識に席を立ち、逃げようとしたところを抑えられたらしい。

怖い。

振り払えない。

どうしたら……。

長い長い時間が経ったような気がする。。
我に返ったのは、頬をツンツンと突かれる感覚。
恐る恐る振り直ると、高槻さんは突いた指を唇へもって行き片目を閉じた。

「静かにね」

彼女の目が赤く色づく。
それは人と喰種を別つ、明確な証。

「赫……眼?」

「落ち着いてくれたかい?」

「……はい」

腕を離し、席に座り直す高槻さん。
その目は元に戻っていたけれど、さっきのは間違いなく赫眼。

「言いたい事もあるかもだけど、とりあえず今はヒナちゃんとカネキお兄さんの話に戻すね」

「……おねがいします」

「名前についてはさっき話した通り、ヒナちゃんたちの会話が聞こえたからね。それに、元々気になってたから」

高槻さんは持っていたメモのページをいくつかめくって、ヒナミに見せる。

「お兄ちゃんの……情報?」

「事故やら行方不明やらでお兄さん結構有名だったし、割と足跡辿るのは楽だったかな」

「眼帯っていう目印もあったしね」そう付け足しつつ、高槻さんはメモを戻した。

「で、色々調べた物と調べてあった物とを合わせて、ヒナちゃんで確認とったのがカネキお兄さんのお話」

つまりヒナミは切っ掛けと確証を高槻さんに渡してしまったらしい。
ヒナミは役立たずどころか、お兄ちゃんの足を引っ張ってばかりだ。

「そして、これからはヒナちゃんのお話」

「ヒナミのおはなし……?」

「なんにもできな『かった』ヒナちゃんのお話」

高槻さんの真っ直ぐな言葉は心は抉る。

「お兄さんがいなくなって、ヒナちゃんは悲しんだと思う」

それはヒナミ自身が思っていたことだから。

「でも、出来たのはそれだけ」

目を背けて、必死に見ないようにしていた現実。

「今のヒナちゃんには、お兄さんの為にできる事なんて何一つない」

「“今は”ね」

「……?」

「ねえ、ヒナちゃん。カネキお兄さんは死んじゃったと思う」

「それは……」

戻ってこないお兄ちゃん。
堀さんは、喰種は全滅したとも言っていた。
ヒナミは

「わからないです……でも、いきててほしい……」

「もし、カネキお兄さんがしんでないとしたら、ヒナちゃんはどうする?」

!?

「あの! それって、どういう―――」

「お姉さんの方でも追えたんだから、CCG側だってカネキお兄さんが人だった事を知ってると思うんだよね」

いきなりの話でうまく言葉が出てこない。

「人から無理矢理喰種にされた被害者のお兄さんを、人を守るCCGは殺したりしないかもしれない」

お兄ちゃんがいきてる。

「し、あっさり殺しちゃうかもしれない」

またお兄ちゃんに会える。

「可能性とも言えない都合のいい願望に、ヒナちゃんはこれからの全てをかける覚悟はあるかい?」

ヒナミは、お兄ちゃんに会いたい。

「……どうすればいいんですか?」

お兄ちゃんの傍にいたかった。
お兄ちゃんと一緒に歩きたかった。

もう一度この手で掴むために。
もう二度とその手を離さぬために。

今度はお兄ちゃんを守れるように。

雛鳥は巣から飛び立つ。

ヒナミちゃんはもうちょっと後にしたかったのですが、
アヤトくんの話を書いたら次はヒナミちゃんしかいない!と思い……
1的にアヤトくんはヒナミちゃんを『義』妹的な感じで見てると思います
高槻さんは書いてて楽しいけど、エトが入るとよく分からんッス!

次回 [名前]

[一人]



『20区は大規模な警戒網が張られ、現在は立ち入り禁止区域となって……』

「うっはぁッ、ニュースで大々的に流すとか気合入り過ぎじゃない?」

「ネットでも、すごい数の捜査官が投入されてるって噂になってるっぽいよー」

交差点の大型ビジョンからは特別警戒のニュースが流れている。
本来なら人の行き来が激しい往路は、皆立ち止まってニュースを見上げ、友人たちもざわめいていた。

喰種。
人間を“食糧”として捕食する存在。
基礎的な身体能力は人間のそれを遥かに上回り、体の中にはカグネという武器を隠し持っている。
そのくせ見た目はヒトと同じだから、実際に襲われるまで気づかないなんて事もザラ。
決して夜に一人で出歩くな。
おにぃが顔を合わせるたびに私に言ってくる言葉だ。

「喰種捜査官」

「え?」

「だから聖菜のお兄さんって、喰種捜査官なんでしょ? これヤバいんじゃないの?」

そう言って見せてきたのはスマホで検索していた先程の記事だ。
凶悪な喰種を殲滅する為に、かなりの数の捜査官が現場へ投入されていると言うけど―――

「ないない。うちのおにぃいつも前線に立たせてもらえないって愚痴ってるし、今回もどうせ留守番役だよ」

「ふーん……まあ危険な作戦らしいし、その方が聖菜も安心か」

「はあ!? 別におにぃが参加してようとしまいと、私には関係ないし!」

「またまた、ホント素直じゃないねこの子は」

「ねー」



私のおにぃは喰種捜査官だ。

滝澤政道。
私のおにぃ。
CCG―――喰種を駆逐し、治安維持に尽力する政府の特殊機関に務める二等捜査官。
一番下が三等らしいから、下から二番目。
仕事が忙しくほとんど帰ってこないくせに、その度に喰種は危険だとか、またあいつに負けたとか、
一々五月蠅いし最近では真面目に相手をしていない。
そういえば、この前も久々に家に帰ってきてた。
たまの休みらしいけど、家に帰るくらいなら彼女でも作ってデートでもすればいいと思う。

「ただいまー」

ニュースと友達のお蔭で、おにぃの事が頭にちらついてる。
最後に会った時に、「ケバくなった」等と失礼な事を言って来たバカおにぃ。
なんだかイライラするし、お風呂に入って忘れてやろっと。

「おかーさん、お風呂ってもう入れる?」

「……………………」

「……お母さん?」

「……お兄ちゃんが」

「おにぃがどうしたの?」

「死んだって……」

後日届けられたおにぃの遺書には、捜査官を志した理由や今の仕事への誇り、
実現してしまった“もしも”の事態への気遣い等が書かれていた。
大規模な討伐作戦メンバーへの抜擢……。
時期的にニュースでやっていた20区の件とみて、まず間違いないと思う。



―――久々に食べた家の食事は、とても美味しかったです―――



多分最後に会ったあの時、既に作戦の参加は決定していたんだ。
一緒にご飯くらい食べとけばよかった。
もっと色々話しておけばよかった。
顔くらいきちんと見ておけばよかった。

私たち家族はおにぃの遺体すら、見る事は叶わなかった。

「いってきまーす」

おにぃが死んで一ヶ月。
お母さんは相当堪えているらしく、お父さんも支えるために最近は帰宅を早めている。
私は私でなんとなくスッキリしなくて情報をかき集め、今日ようやく20区へ向かう予定。
今のご時世はネットで情報が溢れているので、隠しきることは不可能だし。
胡散臭いのもあったけど、いくつか場所を周れば“本物”の場所もあると思う。
おにぃの痕跡が見つかるとは思ってないけど、おにぃが最期にいた場所くらいは見ておきたかったし。
とりあえず、まずは“あんていく”という喫茶店跡地へ行ってみよう。

「広すぎ……」

いくら場所を絞ったとはいえ、総面積48.08平方キロメートルは広すぎだし!
周ってみて見れたものも、血の跡がついた街路樹だとか、一部新しくなったタイルとかそんなのばっかり。
疲れたし時間も遅いし、次の路地裏を見たら今日は帰ろう……。

「そこの君」

訂正、すぐにでも帰ろう。

「な、なんでしょうか?」

「何をしている? ここは女子供がうろつくには、少々似つかわしくない場所だ」

あなたも女じゃないですか―――その言葉は彼女の鋭い眼光を前に飲み込まれた。
白いコートにアタッシュケース。
恐らく彼女はおにぃと同じ喰種捜査官だ。
何も疚しい事をしていないのだから、堂々としていればいいのだけれど、その威圧感に萎縮してしまう。

「……喰種捜査官が消えたって噂がある、路地裏を見に来ました」

嘘をついても直ぐに見破られる気がしたし、私は正直に話すことにする。

「かなりの喰種が殲滅されたとはいえ、ここ20区は未だ特別警戒区だ。その好奇心は君の身を亡ぼすぞ」

「そう、ですね。気を付けます……」

彼女の言うとおりだ。
今更何をしようとおにぃは戻って来ないし、自分の身を危険にさらすだけ。
それは分かってる。
でも「はい、そうですか」と、簡単に納得できるものでもない。

「はあ……今日“は”もう遅い。駅までなら送っていこう」

彼女から威圧感が消える。
それでも少々突き刺してくる様な物腰は、元々の性格なんだろうなぁと思う。

「……ありがとうございます」

私は、そう答えるので精いっぱいだった。

「ここまで来れば大丈夫だろう」

捜査官の女性は立ち止まり私に話しかける。駅はもう目の前だ。

「あの……一つ聞いてもいいですか?」

「答えれる事ならば答えよう」

「滝澤政道って捜査官の名前に覚えはありますか?」

「………………級友だ」

おにぃを覚えている人がいる。

「ありがとうございました」

それだけでも、今日来たかいはあった。

随分遅くなった。
おにぃの事もあるから、帰ったら怒られるかもしれない。
一応の成果はあったとはいえ、この後の事を考えるとマジ憂鬱だし……。
こっそり部屋まであがっておくとか? いやいや、流石にバレるから。
連絡くらいいれておくんだったなぁ。

「ただいまー……」

昨夜、東京都○○区の滝澤さん宅が荒らされているのを、帰宅した娘の聖奈さんが発見しました。

現場では喰種の痕跡が見つかり、現在聖奈さんの両親共に行方がつかめない事から
警察は喰種に襲われたものと判断し、CCGに協力要請が依頼されています。

CCGは喰種捜査官だった長男の政道さんに対する恨みを持つ喰種の犯行とみて、
犯人の行方を―――

本当はそのままたきじゃわでやりたかったのですが、
話の想像はつきますし、石田先生がそのうち書いてくれそうな気もしたので、
需要はないだろうと思いつつ滝澤妹・聖奈ちゃんのss
本編には1Pも出てこないので、キャラ像とか好き勝手やってます
純粋な人間サイドの話
今後のネタ切れ次第では兄貴sideの話もするかも……?
因みに今回のタイトルは『一人』と書いて『ヒト』と読むイメージっス

次回 [二課]

長期的に書くのはこれが初めてなもので、何が正しいのかわからんのです…

おつ
じゃわの壊れっぷりを見ると実際にあったとしてもおかしくないんだよなあ

トリップは半角#の後に適当な文字列←忘れないようどっかに保存しておく
設定するなら念のためにIDが変わらないうちにした方がいい
当然だけど今名前欄に入れてる文字列以外で

こうかな?

>>112
説明ありがとうございました
次回から気を付けます

[特別]



「また瓜江が一番だって」

「やっぱり瓜江か」

馬鹿たちが張り出された試験結果を見て騒いでいる。
わざわざ説明された範囲の問題を解くだけなのだから、俺にとっては当たり前の結果だ。
“当たり前”を出来ないお前たちと俺、同一で比べるべくもない。
一々囀るな。

「おめでとう、瓜江くん! 瓜江くんって本当にすごいよね」

「ありがとう (当前だ)」

俺は特別なんだ。

人より何でもうまく出来た。

「瓜江久生です」

だから目指すものは、自然と先に設定される。

「(する必要は全くないが) よろしくお願いします」

相手にならない同世代ども。

「それでは次は―――」

使えない大人たち。
(見捨てやがった) それらをしり目に俺は上を目指す。
父を殺した隻眼の梟 (人殺しどもめ)。
(だったら) まずは「S3班」まで駆け上がる。
少しでも奴に近ける場所へ (俺が討つ)。

「次、黒磐」

「黒磐武臣です」

「…… (!)」

「…………それだけか?」

「はい」

「……次」

俺と同じ特等の息子が入っていると聞いたが、アイツがそうか。
黒磐武臣。
父を見殺しにした男の息子……。
俺の引き立て役に丁度いい。
まずは、身体能力検査だ。
そこで格の違いを見せつけてやる。
精々 (無様に) 頑張ってくれ。

な  ん  だ  こ  れ  は



身体能力検査結果
検査項目……瓜江久生/黒磐武臣



な  ん  だ  こ  れ  は



握力(右―左)……62―51/123―107







上体起し……37回/62回








長座体前屈……52cm/74cm








反復横跳び……83点/91点







持久走(1500m)……4’32”/3’52”







50m走……6.1秒/5.5秒







立ち幅跳び……287cm/336cm







ハンドボール投げ……32m/78m


「黒磐スゲー」

(黙れ)

「ぶっちぎりだな」

(黙れ)

「流石親父さんが特等」

(黙れ)

「お腹すいたナリぃ…」

(黙れ)

「うむ、精進」

黒磐武臣……何故そんなに「普通」にしている (ムカツク)
それとも、この結果がお前の「普通」だとでも言うつもりか、
少しは喜んだりしたらどうだ (それはそれでイラつくが……)

「…………チッ」

黒磐黒磐黒磐黒磐黒磐…………
クラスどころかアカデミー全体が黑磐の話で持ち切りだ (ウンザリする)
たかだか身体能力が高いだけだろ、騒ぎ過ぎだ。
演習の内容なんて俺とほとんど変わらなかったくせに (なんで黒磐なんだ)
だが、この騒ぎも今日で終わる。
今日は座学の試験結果の発表日だからだ。
平時のヤツを見る限り、ソコソコはできるらしいが今回は俺の方に圧倒的分がある。
(確実に叩き潰して) どちらが上か教えてやる。

「それじゃあ、先日の試験結果を発表する」

ようやくだ (早く言え)
お前のすまし顔もここまでだ黒磐。

「トップは瓜江だ」



    キ



    タ



    !


周りからの視線も感じる (どうだ黒磐)
みなが俺を認めている (最高だ)
もっと俺を見ろ (俺すぎる!!)

「続いて黒磐」

(………………………………ファ?)
なぜそこで黒磐の名をだす (意味が解らない)

「二人とも流石だな、皆も見習うように」

(                      )

「黒磐身体能力トップで座学も2位かよ」

(                      )

「元々の出来が違うって感じだな」

(                      )

「黒磐くん惜しかったね」

(                      )

「いや、まだまだだ。瓜江は流石だな」

(   嫌      味      か   )

「米林は赤点だから後で補修だ」

「なんですと――(;´Д`)――ッ!!!」

常人離れした筋力。
(俺ほどではないが) 座学演習ともに優秀な成績。
決して劣っていない (寧ろ勝っている) 俺ではなくヤツが注目されるのは、
最初のインパクトとあの身体能力があるからだ (イライラする)
どこかでこの差を覆すものがあれば……。

「お、瓜江か。ちょうどよかった」

なんだいきなり (邪魔だ)

「今度やる適正テストの案内を先に教室まで持って行ってもらいたいんだが、頼めるか?」

「(パシリ扱いか) 大丈夫です」

「助かる。コレを皆に渡しておいてくれ」

そう言って用紙を渡すと、講師A (お前などモブで十分だ) はさっさと行ってしまった。
ここの奴らはつくづく俺をイラつかせるのが上手い。
別の細事に絡まれない様、さっさと案件を済ませて退避するとしよう。

「Qs施術適正テスト……か」

「クインクス施術……別称『赫包インプラント法』はクインケの製造を応用したものであり―――」

テスト前に地行とかいうラボの研究員が、壇上で説明を行っている。
集められたのは第7の生徒全員。
他でもこのテストはやっているらしいが、果たして何人が選ばれるだろう。
話も聞かず隠れてゲーム機で遊ぶあの女など、きっと論外だ (クズが)
このテストをパスすれば、喰種の能力が手に入る。
唯一無二の喰種捜査官。
俺が求めていたモノ。

「それでは早速検査の方へ移りたいと思います。渡された検査票に書かれている列へ並んでください」

ここからが始まりだ。

選ばれて見せる。

俺が特別なんだ。

今週はYJが休みなので瓜江くんに八つ当たり
この後瓜江くんはQs能力を手にいれ一旦落ち着いたものの、
オロチ戦をキッカケに再び暴走気味になったイメージ
武臣に対しては、親の事よりも自分との対比のほうが強いんじゃないかな
因みにss中のスポーツテストの記録は一応人が出せるレベル
ただ何種目もとんでも記録を出せる人はいないので、武臣は十分人外スペックです
Qsメンバーが出ると0.5というより0.8話位に感じるなぁ……

次回 [先生]

[先生]



わt…俺たちQsが上官と顔合わせの為に通された部屋での事だ。

「佐々木一等ってどんな人なんだろうな」

「才子はしらんすなあ」

「……」

佐々木一等―――先生は俺が第二アカデミーにいた頃、臨時講師として教官を務めに来てくれていた。
温かい感じがする優しい先生。
周りにいた生徒たちたちから、ちゃんと目線を合わせて接してくれると評判だった。
でも不知くんたちは第七にいたらしいから、面識がないっぽい。

「最初からオメェには期待してねぇよ」

「ひどス!」

不知くんと米林さん……このままじゃ口論になっちゃうかな?
俺は会った事あるし、ここは仲裁を兼ねて先生の説明をした方がいい……よね。

「あ、あの」

「(うるさい) 佐々木一等は真戸上等のパートナーだ」

あ……。

「本来下位捜査官は部下は持てないから、今回は指導者という形で俺たちQsと関わり合いになる。
だが、一等とは言え金木犀・白単翼章を受勲されている……実力は申し分ないのだろう (これ位調べておけ)」

先越されちゃったな……。
でも、これで矛が収まるならいいか。

「ふーん……で、どんな人なんだ?」

「(こいつ……) 人の話を聞いていなかったのか」

「オレが聞いてんのは性格とか中身の方なんスよォ」

あれ? なんだか雲行きが……。

「つか、それぐらい察しろっての」

「(無知のくせに) いちいち噛みつくな」

「ァアッ!?」

「うおお、やっちまえ班長!」

ダメだダメだダメだ。
先生がいつ来るか分からない状況でコレはマズイよ。
私がなんとかしないと……!

「あ、あの!!」

「「「!?」」」

「せ……先生は優しくていい人でしゅ!!」

「(    ) …………」

「DESYU?」

「…ほぉ (`L_` )」

噛んだ……。

「じゃなくて、いい人です!」

「むっちゃんこは指揮官殿に会った事あるん?」

むっちゃんこ?

「俺のいた第二にクインケの臨時講師で来られてたから……」

「あー、アレな! オレたちんとこは誰が来たっけ?」

「くらもっちゃん!」

「(鳥頭共め) 伊藤一等だ」

何とか収まってくれたみたい。
本当によかった……。

「それで、六月三等」

「な、何かな瓜江くん」

「他に佐々木一等の情報はないのか」

「あれ? 班長もしかしてオレの真似っこ??」

またケンカ!?

「(違う) 講師に来てたならクインケの腕前も知っているだろ。俺が知りたいのはそこだ」

この二人の絡みはドキドキするなあ。

「なんというか綺麗だったよ」

「綺麗?」

「流れるように動きが繋がっててね、戦闘演習中だったんだけどちょっと見惚れちゃった」

「それって強いうちに入んのか?」

「(馬鹿が) 流れるような動きという事は、無駄が少ないという事だ。弱いハズがない」

「うん、実際数人がかりで立ち向かって、手も足も出なかったよ」

やる気のある子や、クラスでもトップレベルで動ける子たちは真っ先に先生に挑んでいった。
結果は見事というしかない程の返り討ち。
俺も一応向かっていったけど、初動で抑えられちゃったんだっけ……。

「うむむ……自分の中で動作を確立させ、0フレコンボを確立させているというのか!」

「米林さん?」

「ゲームの話だからほっといてやってくれ」

「そんな感じで強いし気さくな人だしで、皆からは人気があったよ」

「ふーん……それならオレたちの心配もしなくて良さそうだな」

「そうだな (うまく利用できそうだ)」

「楽しみすなあ」

みんなにはこう言ったものの、多分俺自身はすこし気負い気味になっていると思う。
先生とは久しぶりに会うし、演習中もなるべる前に出ないようにしていたから……。
もしかしたら先生おぼえてないかもしれないな。
うぅ、考えてたら余計に緊張してきたかも。

「――瓜江久生二等捜査官です」

「不知吟士っす」

端にいた瓜江くん先に始めて隣の不知くんが続けちゃったから、次は俺が言わなきゃ不自然だ。
でも何を言えばいいんだろう。
階級はつけた方がいいよね。
「お久しぶりです」とかは、ちょっと馴れ馴れしいかな。
改めて「よろしくお願いします」とかつけるべき?
あー、もう時間が……

「む…六月透三等捜査官です」



ヨネバヤシサイコッスシュミハゲームトアニメマンガフィギュアシュウシュウニネットサーフィントカモスキデスネ
ドウガヲミテタライチニチガシュウリョウシテルコトハショッシュウアリマスソレトエヲカクノモスキデスネ…アア
エッテイッテモシャジツテキナヤツジャナクテニジゲンデスネマンガトカゲームトカアニメトカスキナキャラヲ
カクンデスサイキナイドルニモハマッテマストクニチカアイ……

タイトルは[先生]だけど、なんとサッサン 出番無し!
先週の構想次点では第二の話がメインだったんだけどなぁ
むっちゃんも大人し目なので、メイン回って感じがあまりしません
……メンバー四人の絡みが書けたから良しとしよう

次回 [鍛練]

[補講]



眠ィ。
昼飯の後ってのは、どうしてこうも眠気をよぶんだ。
次の時間は、本局から現役の捜査官を呼んでいるとか言ってたが、
こんな状態じゃ真面目に講義なんざ受ける気にならねーな。
いや、まあ……もともとちゃんと聞いてはいねーけどさ。
どーせまた倉元さんだろぉし、そこまで気張らなくてもいいだろ。
隣を見ると、才子のヤツも次の準備をしないでスマホをイジってた。

「今日はなんのゲームやってんだ?」

「ゲームチガウ、キョウハライン」

なんで片言なんだよ…。

「くらもっちゃんに何するか聞こうと思って」

「どうだって?」

「『今日俺そっちいかないよ (`∀´ )』って言っておりますな」

「は? じゃぁ誰が来んだよ」

「ん~、『スゲー綺麗で、スゲーおっかない人が行くことになった (`□´|||)』とな?」

「なんじゃそりゃ」

「えーっと、『多分あとで―――――』」

スゲー綺麗で、スゲーおっかない、男の倉本さんが言うんだから女……だよな?
スゲー綺麗な人か……。

「シラギン顔がエロい事になってるぜ ☆(ゝω・ )」

「ゲッ、マジか!」

「ほい」と、才子が鏡アプリを起動させたスマホを見せてくる。
……確かに顔が緩んでんな。
自分で言いたかないが、若干いつもよりアホっぽく見える。

たるんだ顔をどうにか戻せたかという頃、教室のドアが開いた。
入ってきたのは、もちろん例の綺麗でおっかない人なのだが……

「ふむ、皆もう揃っているようだな」


   ・


「伊藤一等捜査官の代わりに派遣された真戸暁上等捜査官だ」


   ・


「今日の座学は、クインケ構造とその実用の話になるので私が呼ばれた」


   ・


「短い時間ではあるが、その分しっかり励むように」

タイプだ。

「――――――わけだが」

あわい色の髪に白い肌。
あの外見に少し低めの声とか反則クセぇ。
いつもはクソだりぃ講義も前に立つ人が変わるだけで、ここまで違うとはな。

「――――――となり」

あの切れ長の鋭い目つきで睨んでくるところなんて―――

「…………」

ところなんて……

「ノートもとらず人の顔を眺め続けるとは、いい度胸だ不知訓練生」

アレ……いつの間に上等は真正面まで来たんだ?

「その様子なら最後の時間にやるテストでは、さぞいい点数をとってくれるのだろうな」

テス…? え? え!?

「基準点に達しなかった者は補講を受けてもらう。皆も心してかかるように」



「シラギン…… (´Θ`;)」

「ふん (マヌケめ)」

ヤベー。

「さて、結局補講を受けるのは不知訓練生一人だったワケだが……何かいう事は有るか?」

「ス、スミマセンっした……」

上等の視線がめっちゃイテぇ。
普段ならこんな時もう一人戦友がいるが、なぜか今日に限って才子は切り抜けやがった。

「このまま説教をしてもいいが、更に時間を無駄にするだけだ。補講を始める」

ま、まあ補講とはいえ二人っきりだと思えば悪くはねぇ……な、うん。
前向きだ。前向きでいこう。

「うす、よろしくお願いします」




『やっぱりテストやったんだ (`□´ )』

『才子は助かったけど、隣のヒヨコヘッドが餌食に…… (ノд`) 』

上等の講義はちゃんと聞いてさえいれば、分かりやすかった。
こうやって人に教えれるほど頭も良くて、実戦も前にでて活躍してんだからスゲー人なんだろうなぁ。

「どうやら君は集中力に難があるようだな」

「…そうっスか?」

「合間合間に隙があるから話を聞き逃す。現にさっきも少し上の空だっただろう」

一応手は動かしてたけど、別の事を考えていたのはバレてたっぽいな。

「常に気を張り続けろとは言わないないが、今の様に散漫だと命に関わってくるぞ」

指導の言葉と合わせて上等の目も呆れ返っている気がする。
このままじゃマズいし、どうにか話をそらさねぇと。

「こ、この『キメラクインケ』って項目で気になる事があって……!」

オレの口から咄嗟に出たのは、今日の講義のメインテーマの一つだった。

「ふむ、座学で探求心を持つのはいい事だ。だが、不知訓練生」

「うす」

「もしただの引き伸ばしのような質問なら、そろそろ教育的指導が飛びだすぞ」

怖ェー!
なんか雰囲気はドス黒いのに、口が笑ってるから更に怖ェー!!
何か、何か意識を逸らさせるような言葉はねぇのか……!?

「こ、この『人工的に掛け合わされた』って部分なんスけど、もしかして『天然物』とかもあるんスか?」

「…………」

ダメだったか…?

「……流石に赫包が、通常一体の喰種から一つずつ取れるのは知っているな?」

「う、うす」

助かった……どうやら気を引ける程度にはいい質問だったぽいな。

「が、たまに『複数持ち』の個体が現れる時がある」

「『複数持ち』……」

「しかしそのような喰種はめったにおらず、またレートも高い」

「Aとかスか?」

「物によるだろうがS~と考えていいだろう」

Sって……上から三つめだよな? マジどんだけだよ。

「『複数持ち』は存在が貴重な上捕獲も難しい」

上等は説明しながら、オレの机のプリントに目をやる。

「そしてキメラクインケ自体まだ試行錯誤の段階だ」

説明を続けながら、幾つか載っているキメラクインケの参考項目を指していく。
既存のキメラクインケらしいが、その数は決して多いものではなかった。

「この『人工』の言葉も、『天然物』で作れる可能性があるという事で入っているだけだろう」

「じゃあ、実現は不可能って事スか?」

「いや、もう少し技術が固まれば実現は可能な筈だ。問題は喰種の調達の方だな」

そう言って上等は黙り込んだ。
頭の中で考えてんのは技術の確立か、喰種の捕獲か……もしかしたら両方か。
キメラクインケ。
咄嗟に口から出た話題逸らしだったが、けっこう興味深いところはあるのかもな。
まあ三等スタートだろうオレが、関わることはねぇだろうけど。

「さて、では補講はここまでにしよう」

あれから本筋に戻り、なんとかオレは走り切った。
色々絞りつくして、もう頭を上げる気力もねぇ……。

「ア、アリガトウゴザイマシタ」

「最初から今くらい出来ていれば、君も私も無駄な時間を過ごさずにすんだのだがな」

「ホントスミマセン」

「そう思うのなら次に活かすことだな。後、これを」

オレは渡された紙を見る。
コイツは…。

「レポート用紙だ。今日の内容をまとめ明日中に提出するように」

その言葉を最後に上等はさっさと部屋から出て行った。
手元には今日の講義内容とレポート用紙。
オレの補講はもうちょい続きそうだ。

色々ワケ有りそうだけど、内容は明かされていない不知
掘り下げようにも下が見えず、どうにかアキラと絡んだ話をと
教官として来て練度不足の指摘でもしてもらうか等と、ぼんやり考えていたら
前の話でくらもっちゃんを教官で出してたぞ……となりまして座学での [補講] です
ナッツクインケの件もあるから、そのうちメイン回は来るハズですが
今メインにするにはちょっと時期尚早気味か
Qs全員のメイン回をしようと決めちゃったから仕方がなかったんや……

次回 [母親]

補足
因みに才子ちゃんがテスト突破できたのは
>>153でくらもっちゃんから、『多分あとで(テストするっぽいから講義ちゃんと聞いておいた方がいいよ)』」
との警告をもらい、一応真面目に講義を受けていたからです

[母親]



米林才子にはママンがいない。

母親っぽいのはいるけど、ママンはいない。
こんな事をリアルに親がいないクラスメイツたちに聞かれたら、叉焼にでもされかねねーんスけど……
それでも才子が、あの人をママンと思えなくなったのは事実だし勘弁しちくりって話っすね。
(元)父と別れた後すぐに恋人のところへ行ったり、我が兄共々放任気味だった事とかは別にいい。
お金のため才子らに言えないような事をしてたり、ご飯がコンビニ弁当だったのも捨ておこう。
アカデミーで無理矢理喰種について学ばされたのだって、才子はサボってたから構わんわけよ。
でも―――

『それで、補償金っていうのはいくらでるの!?』

あれはアウトっす。

『Qs施術適正テスト』

ザックリとしか理解できんかったが、喰種の赫包を体内にブチ込み喰種の能力を使える者たちを選ぶテスト。
ぶっちゃけ人を喰種に変える適正テストとやらで、才子はぶっちぎりで一番をとっちまったのSA。
どの位ぶっちぎりかと言うと、成績オール1のゲーム機片手で授業を受けるニート予備軍を、
大枚はたいて買い取る位ぶっちぎり。
私の腹は脂肪ではなく、Rc細胞が詰まっていたのだよ!

(; ・`д・´) ナ、ナンダッテー !! (`・д´・ (`・д´・ ;)

位で済めばよかったんすけど現実は甘くなく、あの人は才子が喰種になるのを喜んで受け入れた。
まるでお金を見るように私を見ていた目。
腹のお肉をつまみつつ、才子は思ったね。
あれもある種の“養豚場のブタを見る目”なのかもしれない。

「って事でQsは集められ共同生活をするってのは、家から離れたかった才子には有り難かったんすな」

「……才子、オメエさっきからなにブツブツ言ってんだ」

は!
脳内モノローグがまさかの音漏れ!?
う~~~~、あんま人に話す内容でないし……どうするお (・ω・;)

「いやの、これからの生活にむけてのな、心の整理とかのな……」

「ああ、確かに周りが男だけだから米林さん不安に感じちゃうかもしれないね」

「いや、コイツがそんなタマかよ」

運転中の指導者(メンター)殿が勘違いをしてくれたっぽく、なんかこのままスルーぽい?
ならば才子もヤブ蛇しないのが吉ですな ∩(´∀`)∩
あー、しかしそうかそうか……女は才子だけなのか。
別にかまわんけど。

「そ、そそ、そうだよね! 女の子は米林さん一人だから大変だよね!!」

「?? どおした、トオル」

「なんでもないよッ」

「お前たち少しは静かにしろ (耳に響く)」

「一応今向かっている“シャトー”は広くて開放的だし、個室もあるから米林さんも安心してね」

「それは大変よいですな~ ヽ(  ´  ∇  `  )ノ 」

気兼ねなくダラダラできそうだし、指導者殿は優しそうだし、中々の良環境。
これで仕事がなければのぉ (´へ`;
元々まじめに働く気はないけど、それはそれで居心地が悪いことになりそうやし……。
もう何個か魅惑あるオプション追加されないカナー (○´3`)
あ、居心地が悪いといえば―――

「あのっすね、シラギン以外にお願いがあるんスけど」

「うん?」 「え?」 「 ? 」 「なんでオレだけはぶられてんだよ」

「才子のことは、苗字じゃなくて名前の方で呼んでもらいたいんす」

「名前で?」

「ですです。米林って呼ばれると、叱られるみたいで身構えちゃうの (;´Д`)」

「オメエはしょっちゅう怒鳴られてたもんな」

「怒声と説教のおもひでしかないわ (*´ー`*)フフッ」

「あはは……それじゃあ呼び方は“才子ちゃん”でいい?」

「あいっす (*´∀`*)」

「じゃあ、俺も才子ちゃんで……」

うんうん、やっぱり名前呼びのほうがええの。



「瓜江くんは呼んであげないの?」

「今更ですから (呼べるか)」

「ここが才子ちゃんの部屋だよ」

“シャトー”に到着し、ざっくりと各設備や自分たちの部屋を教えてもらったわけだけど……
なんというかこの家、すごく…大きいです…。

「案内はこの位だね……後は晩ご飯まで各自自由に過ごしてもらって大丈夫だから」

ゴハン!

「時間は何時からでしょうか?」

「えっと、今からだと7時ごろになるかな。時間になったらリビングまで降りてきてね」

時間になったら―――って事はお家で食べれるものかー。
シースー? 中華? そういえば下にピザのチラシがあったかもかも (=´∀`=)

「じゃあ、解散!」

「…荷解きでもするか」 「部屋片づけっかな」 「それじゃあみんな、また後で」

「ゴハン~ゴハン~  (*´¬`*)」

「UMR! UMR! UMAじゃないよ! う・ま・る!」

解散してから30分。
部屋に引きこもった才子は、一応届いていた荷物の片づけなんかをしてみたり。
つっ込むだけだったのと予想以上に収納タップリだったもんで、鼻歌交じりですんじゃいやした。
しかし家もでかいけど、この部屋もかなりでけえ。
空いたスペースもったいないから、アマでフィギュア棚注文したったわ (゙ε゙*)

「よしよし、ついでにシラギン名義でギャルゲーも注文しておくか」

ジャンルはお姉さん系で……確定と。
そう言えば、むっちゃんや班長はどんなジャンルに反応するんやろ。

(〃´`)゚゚゚

「こちらスネーク、只今よりQsメンバーの部屋へ潜入を試みる 壁|^・ω・)」

   ◇

「帰れ」

「ジャマすんな」

「ゴ、ゴメン、今手が離せなくって…ッ」

   ◇

うむ、見事なまでの門前払い。
むっちゃんにいたってはドアすら開けてもらえないとは……どんなエロを隠してたんだ。
3戦3敗の結果に終わったけども、米林捜査官はこの程度では諦めぬ。
指導者殿のお部屋を拝見して、有終の美を飾ってくれるわ!

「オジャマシマー……ありゃ? ('д')」

部屋には入れたけど、宿主がいない。
さすがにリアルスネークはOUTだし、今回はお流れか。
指導者殿は何処へ消えたのやら。
……なんだか下からいい匂いが (*´ェ`*)

リビングへの降りると、ママンが料理しておりました。
実際はママンじゃなくて指導者殿なわけだけどさ……。
手際のよさとか雰囲気でついママン呼びになっちゃったね。

「あれ? 才子ちゃん降りてくるの早いね」

「いやー、ご飯の匂いに誘われまして……これぜんぶ指導者殿が?」

「まだ途中なんだけどね」

そう言いつつ指導者殿はエビフライを鍋から取り出してゆきます。
揚げたてのエビフライ……美味しそうすなぁ (*´¬`*)

「よかったら味見してみる?」

「ええの!? ('∀'* )」

「熱いからきをつけてね」

おお、揚げたて、サクサクッ……いざッ!

「…………」

「どうかな?」

「ウ…………」

「う?」

「ウマー♪☆彡(ノ゚▽゚)ノ☆彡ヘ(゚▽゚ヘ)☆彡(ノ゚▽゚)ノ☆彡ウマー♪」

「美味しく出来てるみたいだね」

「もう一本! o(・∇・o) もう一本! o(・∇・o)」

「あんまり食べるとみんなの分がなくなっちゃうから」

orz……才子のお腹は既に臨戦態勢に入ってしまったというのに、ここでおあずけですかい。
ご飯までまだ時間あるし、ゲームしながらお菓子でもつまんでこようかな…… (´Д`|||)

「エビフライはもうあげられないけど―――」

「ん? ( ´_つ`)」

「お手伝いしてくれてたら、また味見をたのんだりするかも……ね?」

「指導者殿、才子はなにをすればよいのでしょうか!」

「おいっす! 降りてくるの早いねえ、むっちゃん (〃 ´  ▽  `  )ノ」

つまみ喰―――ママンのお手伝いしてたら時間は既に7時10分前。
まずはむっちゃんがご到着だね!

「才子ちゃんはお手伝い中? 俺も手伝います」

「じゃあ、一緒に食器出して並べてもらおうかな」

「全部先生が作ったんですか?」

「才子も色々手伝った (´∀`)」

「そうだね、頑張ってくれたよね」

「才子ちゃんそんなに早く降りてきてたんだ」

「まあの」

この“佐々木メシ”の匂いをかいだらじっとしてられんですよ。

「これは…… (なんだこの状況は)」

「お、三番手は班長すか (/・ω・)」

「(まさか) 一等自ら作っているんですか?」

「みんなそれ聞いてくるね。もうすぐできるから座って待っててよ」

ゴハン~ゴハン~まだかな~まだかな~  (*´¬`*)

「おわっ、なにコレ!? 全部サッサンが作ったのかッ??」

「あはは……」

「いっただきま~~すっ ヽ(´▽`)ノ」 「いただきます」 「いただきまス」 「…イタダキマス」

「はい、めしあがれ」

よしよし、才子はまずエビフライからいかせてもらいますZE (☆・´ω・`)
いざッ! (再び)

「ウマー∩(´∀`∩) ワッショーイ ワッシ ∩( ´∀` )∩ ョーイ ワッショーイ (∩´∀`)∩ウマー」

「ホントだ、すごく美味しいです!」

ウマーイ♪♪\(^ω^\)( /^ω^)/♪♪ウマーイ

「確かに、コレはヤベエな」

:*.;".*・;・^;・:\(*^▽^*)/:・;^・;・*.";.*: ウマー

「(…美味い!) 不味くはない」

v('ω'*v)ウマウマ(v*'ω')v

「喜んでもらえてなによりかな。ただ、才子ちゃんはもう少し落ち着こうね」

「あ、飲み物が切れてるね……ちょっと取って来るよ」

((*´~`*))

「それ位なら俺が―――」

((*´~`*))

「いいからいいから、みんなで食べてて」

((*´~`*))

「………………サッサン全然食べてねーよな」

((*´~`*))

「そうだよね。飲んでるのも水だけみたいだし」

((((*´~`*))))

「噂ではあるが……」

「Qs計画が施行された要因の一つに、『喰種化』被害者の影があるらしい」

((*´~`*))

「『喰種化』って……『半喰種』じゃなくて?」

((*´~`*))

「そうだ。そしてその被害者はCCGで子飼いされているというものだったが……」

(((*´~`*)))

「それがサッサンだってのか?」

((*´~`*))

「あくまで噂話だ。しかし、俺たちの身体と班の事を考えると、ありえない話ではない」

((*´~`*))

「でも、もしそれが本当だとしても直接聞くわけにはいかないよ」

((*´~`*))

「だよな」

((*´~`*))

「なに、確かめる方法はあるさ (今すぐな)」

「おまたせ! 皆なんの話をしてたの?」

((*´~`*))

「ア、アー、サッサンメシクッテネーナッテ」

((*´~`*))

「あー……実は作ってる時に味見で結構食べちゃっててね」

ん?

「…… (いまだ六月)」

「せ、先生も少しは食べましょうよ! このから揚げとかすごく美味しかったですよ」

「あー…………」

ママンが困った顔しとる。
才子は食べてたのが嘘って知ってるし、多分班長たちが話してた噂本当なんやろな。
まー、別にバレても困らんだろうし才子は何もしなくていいか (=´、`=)

「じゃあ、食べてみようかな」

「「「「 !? 」」」」

「うん、うん」

「……どうですか?」

「中々美味しくできてるね」

「そ、そうですか……よかった」

((*´~`*)) …………

「サッサン、これとこれとこれもウメーから食べようぜ!」

「そ、そんなに一気には食べられないよ」

「男だったらこれくらいは食わねえとな!」

「えー!?」

「…………フン」

うーむ

「それでアキラさんがね―――って、いけない……スープこぼしちゃった」

「才子拭くものもってくるよ (ω・`)」

「あーうん、ありがとう……でもこれは着替えた方がよさそうかな」

「続き聞きてーから、サッサン早く戻ってきてくれよ」

「うん、それじゃあちょっと行ってくるね」

「……ふう、先生大丈夫だったみたいだね」

「班長も割とアテになんねーな」

「(うるさい) あくまで噂話だといっただろ」

そこそこママンが食べてたから、皆の中の疑惑は晴れたみたいすな。
ただ才子的にはまだ不安だし、様子みてこよっかな。

「ちょっとトイレいってくるお (ミ ̄エ ̄ミ)」

「おー」 「行ってらっしゃい」 「さっさと行け (いちいち口にするな)」

さてさて、着替えと言ってたし部屋の方かなー、でも脱いだ服の始末もあるしなー。

「―――――ッ」

ん? これはトイレの方か?? ('_'?)

「ぅおえええええええッッ」

「…………ママン?」

「ハァッ……ハァ…………才子ちゃ……ん」

「や、やっぱり、ご飯食べれんかったん?」

「『やっぱり』って事は、皆にはバレてたんだ……」

「バレてたと言うか、試してたって感じだったス (´△`)」

「あー……それなら正直に言っちゃえばよかったなぁ」

「今からじゃあかんの?」

「それだと、無理してたのがバレて気を使わせちゃうからね」

「話すのはまた折を見てにするよ。才子ちゃんもそれまで内緒にしててくれる?」

「あい (´Д`)/」

「うん、ありがと」

「!?」

「また後でね」

頭なでられてしまった……。
いったいいつぶりやろうね。

『うん、ありがと』

(*'-')

せっかくなのでホントにトイレを済ませ部屋へ戻ると、ママンは既に帰ってきておりました。

「おかえり、才子ちゃん」

「ただいまっス~ (((。´ェ`)」

皿の料理はほとんどなし。
むっちゃんたちもお茶飲んでまったりしてるし、今日はもうお開きかなー。

「残ったヤツどうすんだ?」

「あまり食べてませんし、先s―― 「才子、食べまーす ====((((´ー`)」

秘密を知った手前放置することもできず、犠牲になる天使(ぽっちゃり)
まったく、佐々木メシは最高だぜ!! ♪v(*'-^*)ゞ^;*・'゚☆

「さ、才子ちゃん……せめて先生に聞いてからにした方が……」

「いいんだよ六月くん。それに美味しそうに食べてくれる顔を見られたら、僕はそれだけで幸せだから」

「サッサンまるで母親だな」

「せめて父親っていってよ……」

「ママンはママンです (´ω`)ノ」

「確かに父親よりしっくりくるかも」

「ノーコメントで (((…………)))」

「え~!?」

YONE@腹十一分目 さっき
ママンができたお (*´▽`*)

本日9月4日は才子ちゃんの誕生日!
ヽ(*゚▽゚)ノ~▽▼▽[祝]▼▽▼~ヾ(゚▽゚*)ノ
今回の話用に:re読み返しててたまたま見つけたので、
スゲーびっくりしました
今週のメインをシラタマにしてたらもう少し内面いじれたんでしょうけど、
才子ちゃんめっさ好きだし誕生日に合わせれた方が良かったかな
不知にはゴメンやけど……

次回 [安定区]

[安定区]



『トーカちゃんには、いつかウチの看板娘として働いてもらおうかな』



学校にも慣れ、店長との約束通りあんていくで働き始めた最初の日。
まず私に任された仕事は掃除だった。

「ったく! こんな仕事っ! どうしてっ! 私がっ! しなくちゃなんないだっつーのッ!!」

喫茶店の仕事と言うから珈琲を淹れたり、配膳とかを想像していた。
『まあ、面倒だけど楽そうだし』そう思い、安請け合いした自分を殴り飛ばしたい。
そんなイライラをモップ越しに床へぶつける。
だいたい私は看板娘ってガラじゃないし、寧ろいると客が逃げていくと思う。

「案外欲しかったのは、ただの雑用とかじゃないの……?」

なんだか芳村のジ―――店長に上手くダマされてんじゃないかって気がしてきた。

「あー、もうッ……こんな感じでいいや」

あいにく店長からは、どこまでやれという指示は貰ってない。
だったらここは適当に切り上げるのが一番だ。
道具を片付けてしまえば、苦言はあっても再びモップを手にすることもないだろう。

「そうと決まれば、早速……」

「掃除っていうのはね、自分の中で完結させちゃダメなんだよ」

「ゲっ」

「ましてやあんていくは、お客さんが立ち寄る喫茶店だ。なら誰の為の掃除かは分かるよね?」

「……古間さん」

「言ってみれば、トーカちゃんは大事な店の顔を任されているんだよ」

「いや、店長からは掃除しろとしか言われてませんし……」

「確かに芳村さんからは言われてないね」

「そうですよ」

「でも、その裏に隠された『頼まれた』って意図を感じない?」

いえ、全然。
危ない……思ったことをそのまま返すところだった。

「……よく分かりません」

「ふむ、まあ仕事一日目じゃ仕方がないのかもね」

「仕方がない、あんていくエグゼクティブ・スタッフ、この“魔猿”が一肌脱ぐとしよう!」

「トーカちゃんのためにね☆」と、ウィンクしつつ古間さんは言う。
決してかっこよくないけど、古間さんのウィンクは妙に似合っている気がする。

「古間さんが代わりにやってくれるんですか?」

「違う違う。あくまで俺は掃除の範囲・やり方を教えるだけだよ」

なんだ……結局私がしなきゃなんないのか。

「芳村さんに任されたのはトーカちゃんだ。その期待にはしっかり応えないとね」

はー……メンドくさ。

「猿男との掃除はどうなの、トーカ?」

「まァまァです……」

古間さん説明は分かりやすいし、短気な私に合わせてちゃんと教えてくれてると思う。
でも―――

『トーカちゃんには魔猿スペシャルクリーニングサービスの神髄をお見せしよう』

あのノリにはどうもついていけないんだよね……。
因みに今日は入見さんとのシフト。
古間さんには悪いけど、入見さんとの方がやりやすくて私は好き。

「まあ、アレも悪いヤツではないからちゃんと付き合ってあげなさい」

「はあ」

入見さんって古間さんとは古いみたいなんだけど、どういった知り合いなんだろう。
遠慮がないというか、微妙にトゲがあるような、ないような……。

「―――カ、トーカ」

「あぇッ、す、すみません。なんでしょうか」

「お客さん」

「客……?」

言われて店内を見まわしていると、入口のドアが開いた。

「bon soir あんていくの諸君」

「……キザ野郎」

「久しぶりだね、霧島さん。まさか本当にあんていくで働いているとは……Tiens!」

いつかアヤトとぼこった月山……だったけ?
英語交じりで話しかけてくるし、ウザいし、キモイし、とにかくメンドーな変態野郎。
こいつもあんていくの客だったのかよ。

「相変わらずねェ、月山くん」

「入見さんもお変りないようで」

しかもなんか顔見知りっぽいし。

「今席はカウンター側しか空いてないんだけど、いいかしら?」

「Don't worry......友人と待ち合わせをしていてね。 そちらで座らせていただくよ」

そう言ってキザ野郎改め月山は、既に客がいるデーブル席へ向かっていく。
って、あれ? あの席のお客さんって……。

「あれー、月山君なんで私のとこきてるの? 友達と待ち合わせしてるんでしょ?」

「ハハッ、相変わらず掘はジョークがスパイシーだな」

人間……だよね。

「君が霧島さんを撮りに通っていると言った時、僕も見に行くと言ったじゃないか」

「そうだっけ? どーでもいいけど、そこ邪魔だからもうちょっと端に寄ってよ」

私を―――撮りに……?

「い、入見さん、私注文取ってきます!」

入見さんの返事も待たず、カウンターから飛び出す。
私を撮りに―――カメラも持ってるし、写真ってことだよな。
グルメ野郎の知り合いらしいし、もしもの時は……。

「おいっ」

「oh......いきなり誰かと思えば、随分乱暴な店員さんもいたものだ」

「うっさい。それよりそいつ何なんだよ」

「ホリチエ」

「あ゛?」

「“ホリチエ”って呼んでいいよ」

……わけわかんない。

「トーカちゃんこの前月山君とバトッてたでしょ」

「!?」

あの夜の事まで知ってんのか。
やっぱコイツ今すぐ殺した方が……。

「それでね、あの時も何枚か撮ったんだけど、どれもピンと来なくてさー」

いや、でも店には他の客もいるし……。

「全部消しっちゃった」

そう、全部消して―――え?

「What a waste......僕は霧島姉弟の羽赫は、見応えある絵だと思ったのだがね」

「あ、でもコレは残してるよ」

「C'est vrai? ……僕じゃないかっ!」

「血まみれの月山君ってレアだよねー」

アホくさ。
変な写真も残ってないっぽいし、注文とってさっさと戻ろ。

「……それで、アンタは注文何にするのさ」

「hum......そうだね、せっかくだから霧島さんが淹れた珈琲でもいただこうか」

ゲッ…。

「どうしたんだい霧島さん?」

「店で……」

「?」

「……」

「店で珈琲まだ出したことない……」

「Pardon me?」

「……ふむ」

「だーかーら、店でまだ珈琲出したことがないって言ってんだろーがッ!」

なんで注文取っただけなのに、こんな赤っ恥かかされてんだ。

「すまなかった、霧島さん。まさか君が、店でそんなにもお荷物的存在だったとは……」

コイツ今すぐブッ飛ばしてー。

「無理に出させ、この“美食家”月山習の口を粗雑な珈琲で汚すわけにもいかない」

あー、んーー、うーーーん……。

「押しかけてきてすまないが、今日は失礼させていただくとしよう」

よし、殺そう。

「それは残念ね」

「入見さん!?」

「トーカの珈琲は“まだ”出してないだけで、ちゃんと出せるレベルにはなっているのにね」

いやいや、練習はしてるけど、店長たちに追いついていないのは自分が知ってる。
一体、入見さんはどういうつもりなんだろう……。

「hum......それはこの“美食家”の口を満足させるものである……とでも?」

「どうかしらね。ただ私は、“美”を語るなら、原点の味くらいは知っておいてもいいと思ったんだけど」

入見さん……なんか怖い。

「……Pas mal! その言葉、僕の探求心を燃え上がらせるには十分です」

そしてこいつはいちいちうっせぇー。

「さあ霧島さん、君の珈琲で僕を魅せておくれッ!」



「うんうん」

「あの、入見さん。私が珈琲淹れるってマジですか?」

カウンターへ戻り、入見さんにさっきした会話の確認をとる。
月山の手前引くに引けなかったが、実際淹れれるかと聞かれたら「無理」としか言えない。

「ええ。トーカも月山くんを見返したいんでしょう?」

「それはそうですけど……」

「大丈夫、私も手伝うわ」

「…………」

「それにね、あなたの珈琲がお店に出せるレベルってのもあながち嘘じゃないのよ?」

「……わかりました! やります! やってやりますよ!」

チクショー、こうなったらもうヤケクソだ。



「んーっ……よし!」

「掘よ、君はさっきから何を撮っているんだい?」

「お待たせしました」

どうにか淹れた珈琲をテーブルまで持って行く。
なんとなく、普段感じている溢さないように気を付けている緊張とは違うものを感じる。

「Oui......では、いただくとしようか」

店長や入見さん、古間さんたちに色々教えてもらった。
自分でも練習はしてきた。
失敗して、学んで、助けてもらって。
今できる事はすべて注ぎ込んだ一杯。

「……悪くない」

月山の口からでた言葉は一言だけ。

もっと感想があってもいいと思う。
でも、自分の珈琲を評価してくれたっていう気持ちの方が大きく感じる。
私コイツの事キライなんだけど。
けど、自分が淹れた珈琲と向き合ってもらえて、評価を勝ち取った事の方がずっと嬉しい。
まー、あまりいい評価とは言えないのかもしれないんだけどさ。

「しかし、まだまだ粗削りな部分があるようだね」

うん?

「香りも少ないし、無駄な苦味がある様に感じられる」

…………。

「あくまで及第点といったところか」

やっぱ、コイツ殺そう。

「それじゃあ私帰るねー」

襲い掛かるタイミングは、再び別方向からの声にかき消されてしまった。
声の主―――ホリチエを見ると荷物をカバンへしまい立ち上がっている。

「もう帰るのかい?」

「うん。撮りたかったものは、撮れたからねー」

「えっと、じゃあお勘定を……」

「ほい、月山君」

「うん?」

当たり前のように月山に勘定を押し付けて、ホリチエは出口へ向かっていく。
だけど、まあ、

「まったく、相変わらず自由なリトルマウスだ」

この二人にとってはいつも通りの光景なのかもしれない。

「あ、トーカちゃん」

ドアの前で振り返り彼女は続ける。

「後で写真渡すから」

そう言うと、今度こそホリチエは店から出て行った。

   ・
   ・
   ・

「それじゃあ、そろそろ僕も失礼しようかな。代金は―――」

「八千七百二十円」

「…………」

「さっさと払え」

「お疲れ様です」

あのちょっとした事件から数日。
一応私も時間がある時は、珈琲を淹れさせてもらえる様になった。

「トーカちゃん、丁度良かった」

「はい?」

すでにカウンターで仕事をしていた店長が、一通の封筒を取り出した。

「掘ちゃんから」

「!?」

「『いいもの撮らせてくれたお礼』だって、さっき置いていったよ」

「店長はあの子の事知ってたんですね」

「なかなか目立つ子だからね」

そう言いつつ、店長は封筒を渡してきた。

『後で写真渡すから』

たぶん中身は礼の写真なんだろうけど、あの時は赫子とかだしてなかったし大丈夫……だよね?
悩んでても仕方ない、ええいっ。

「……あれ? これって……」

「おや、これは……」

「おら! サボってねーで仕事しろや、クソ店長」

「いちいち蹴んな! 口で言えばすむだろーがクソ錦」

開店前の掃除中。
確かに手が止まってたのは私だけど、コイツの態度は問題ありだ。
本当に私が店長って事を、理解してるのか疑問に思える。

「……ったく」

これ以上文句を言われるのも癪なので、見ていた写真を置き手を動かすことにする。
しかし、あんていくから離れる時に無くしたと思っていたけど、本に挟んでいたとはね……。

「今見ると初々しいというか、ぎこちないというか……」

写真に写る私―――あの日初めて客の前で珈琲を淹れている自分。
見てるだけでいっぱいいっぱいなのが、そして一生懸命なのが伝わってくる。
あの普通な写真が、赫子を出した喰種よりも写真的価値があるとは到底思えない。
けどホリチエという少女は、戦っている私より珈琲を淹れている私を選んだ。

「また手ぇ止まってんぞ、クソ店長ッ」

……うっさいなぁ。
でも、時計を見ると確かに悠長にしていられる時間ではないっぽい。
それじゃあ古間さん直伝、スペシャルクリーニングサービスで一気に綺麗にするとしよう。



私たちの『:re』を―――。


実のところ最初(2話目時点)考えていたトーカちゃんの話は
アヤトくんの [贈物] でついでにやった、 [姉弟] の話だったり。
なので気分的には順番が終わってしまい、だったらもう回想話にして
あんていく組入れちゃおうか的な事になりました。
仕方がないとはいえ、店長たちがいないのは寂しいですし……。
「:re?」的な内容になのはお流しください。
余談ですが、月山さんは最初出る予定はなかったのだけれど、
隙を見つけたらここぞとばかりにでてきました。
お蔭で倍近い長さになった気がするZE!

そして来週はついに最終回。
メインキャラクターは一体誰が務めるのでしょうか!?

次回 [琲世]

[琲世]



……セ



…イセ



こっちを向いて



どうして逃げるの



『僕』を見て



『僕』を××××



『僕』を×××××



ねえ



ハイセ

「…………ッ」

「目覚めの気分はどうだ、佐々木二等殿」

「……真戸上等」

「上官に運転させ、自分は惰眠を貪るというのはさぞ気持ちがいいのだろうな?」

一瞬だけ自分へと移した上等の視線が突き刺さる。
現在は“とある場所”にむかっている途中。
移動中とはいえ、向かう先の相手が相手なだけに車中でも打ち合わせをする予定だった。
そう、打ち合わせをする予定『だった』んだけど……。

「す、すみません。仕事中に、しかも上等の手を煩わせていると―――」

「クック……」

「へ?」

「いや、うなされていたから気分転換にでもと思ったのだがな」

「はあ」

「こうも馬鹿真面目に返されるとは予想していなかった。なかなか面白かったぞ……ハハハ」

どうやら先程のは上等なりの気遣いだったらしい。
なんて解りづらい……“マッド・ジョーク”と名付けよう。

「ですが、打ち合わせをする予定でしたのに……」

「聴取での君の役割は付き添いだ。資料をなぞる位でも構わん……ただ、注意するならば―――」

「ならば?」

「奴のペースに惑わされない事だ」

運転に集中する事にしたのか、それっきり上等は口を開かれなかった。
「後は自分で確認をしろ」と、いう事なのかな。
暗黙の指示に従い、資料に目を通す事にする。
夢の事は気がかりだけど、今は仕事が優先。
今日会う予定の喰種は……

23区/喰種収容所“コクリア”。
CCGにとって有益な喰種を一時的に収容する施設。
物のように命を扱われる場所で、彼らは己が存在価値を証明し続ける。
いつか自分たちが「処分」されてしまうその日まで―――。



「コクリア……久しぶりだなあ」

「君もここで収監されていたんだったな」

実際は処遇が決まるまでの一時的な処置だったんだけど……。
頼めば本を持ってきてもらえる生活は、割と快適だった事は黙っておこう。

「あの時は今の様な状況になるだなんて、思いもしませんでした」

「“中”を経験した喰種捜査官などそうはいないぞ」

「はは……」

「ようこそ真戸上等、佐々木一等。既に準備はできている」

監獄長に案内され、SS層へと足を踏み込む。
名前の通りSSレートを収容しているエリアなだけに、壁が厚く中の音が聞こえない。
静まり返った通路に足音だけが響くから、監獄長のお顔によりパンチが効いて見えるかも……。

「この先にいる。では、気を付けて」

扉が占められ部屋の奥から喰種が出てきた。

「やれやれ…」

今、目の前にいるこの人が―――

「ようやく私の出番か」

SSレート喰種 ドナート・ポルポラ。

「随分と知ったような口をきくのだな“神父”よ」

「ここに来る者は他にもいる。情報を手にするのには困らんからな」

邂逅早々に二人の間に火花が散っている。
上等はあんな性格だし、この二人、仲は悪いのか。

「前にきた男には『尋問する側がペラペラと喋るな』と、言っておく事だ」

「マヌケめ……その忠告は有り難く受け取っておくとしよう」

いや、仲がいいのかな?

「今日は新人も一緒か。なかなかにウマそうだ」

「それって、褒められてるんですかね」

まるで値踏みされるように、全身を見てくるポルポラさん。
ガラス越しとはいえ、結構怖いな。

「佐々木排世一等捜査官です」

「ほう……面白そうな部下がついたな、真戸アキラ」

「無駄口に付き合うつもりはない。早速だが本題に移らせてもらう」

「からかいがいが無いのは、相変わらずだな」

「……逃走に徹する喰種か」

資料を出し、今回訪れた案件―――標的の喰種の説明へ移る。
と言っても、僕は資料出し位で、ほぼ上等が仕事をしているんだけど。

「捕食現場、目撃情報は複数の区をまたいで報告されている。現在は奴の―――」

「くだらん探りは止せ……こちらを試しているのだろうが、面倒極まりない」

「ならばズバリ聞くが、この喰種貴様から見てどの程度の“モノ”だ?」

「……逃げるくせに隠そうとしない、という点に奴の本質が見えてくる」

「逃げるというのは戦いを避けるための行為であるが、この喰種は―――」

ポルポラさんは僕を見て言葉を止める。
これは、試されているのかな?
上等に目で許可をとり、続きを答える事にする。

「戦いを呼び込む原因を隠さない……」

「正解だ。つまり奴にとって捜査官との遭遇は、隠蔽工作以下の位置づけだ」

「そして今出ているマップだが―――」言葉を続けつつポルポラさんはマップに目を移す。

「これらの区は統治している喰種がいる」

確かにいくつか指された区は、他の班が対策に当たっている喰種がいる。
当然のように言ってくるけど、これって今回渡した資料には書いてない筈なんだけど。
上等も知ってて当然みたいな反応だし、ここはスルー……で、いいのかな。

「それらを無視しての行動は、余程自分に自信があるのか、バカでもない限りできん」

「推定レートAと書かれているが、S~とみておいた方がいいだろう……これで満足か?」

「結構だ。つまらん話なら、そろそろ貴様もクインケにしてやれたのだがな」

「クックッ、父親の方にも同じ事をいわれたよ。お前たちは、どんどん似てきているな」

「それは私にとって最高の褒め言葉だ」

お互い軽口を叩きつつも、聴取は幕を閉じる。
今回の僕の役目って、本当に付き添い以外の何者でもなかったなあ……。

「そろそろでるぞ、佐々木」

「あ、はい。今行きま――― 「佐々木琲世」

「なんでしょうかポルポラさん」

「お前は一体何者だ?」

「え……」

今日来るときに見た夢のせいか。
コクリアという、何も分からない自分が入れられていた場所へ来たせいか。
会って間もない彼に、何かが伝わってしまったようだ。

「それは、どういう……」

「別段深い意味はない。喰種相手にそこまで普通に話す者が興味深かっただけだ」

「『普通』……ですか」

「ああ、『普通』だ。しかし、ここではそれが何より異端に映る」

胸中の不安を言い当てられたきがして、黒いものがどんどん重くなっている気がする。

「また来るといい。お前はいい暇つぶしの相手になりそうだ」

「遅いぞ佐々木」

「すみません真戸上等」

「奴に何を言われた」

「暇つぶしの相手に丁度いいからまた来いと、言われてしまいました」

何もなかった様にふるまいつつ、一部だけを上等には報告する事にした。

「いちいち相手をするから舐められるんだ。来る前に惑わされるなと忠告しただろう」

「あはは……スミマセン」

ポルポラさんが言った言葉。

『お前は一体何者だ?』

あの言葉にうまく答える事が出来なかった。
僕は人間で、
僕は喰種で、
僕は『彼』で……
僕は『佐々木琲世』という殻を被ったナニカ。



だけど僕は、



僕は、佐々木琲世でいたい。

これにて [琲世] 、そして東京喰種:re 第0.5話「轢」完結です。
>>1の次点では「4巻8月位には出るやろ」と思ってたのに、9月発売とは……。
しかし、お蔭で主要キャラは大体出せた気がしますし、
なんとか無事完走もできたのでよかったです。
>>232の部分からは「季節は次々死んでいく」を流しつつ
脳内edを補完していただければと思います。


因みに作中時間軸は↓な感じです

東京喰種 #143[研 ]
  ↓
[一人]  聖菜ちゃん
[巣立]  ヒナミちゃん
  ↓
  ↓
  ↓
[坐苦]  ウタさん
[名前]  四方さん
  ↓
  ↓
[琲世]  ハイセ
[上下]  アキラ
[手紙]  什造
  ↓
[二課]  丸手さん
  ↓
[安定区] トーカちゃん
[贈物]  アヤトくん
[特別]  瓜江
[補講]  不知
  ↓
[先生]  むっちゃん
[母親]  才子ちゃん
  ↓
東京喰種:re 骨:1


ここまで拙い文にお付き合いいただきありがとうございました!
無印で謎の部分が明るみになってきたら、東京喰種:D.C.とか書いてみたいです。



東京喰種:re 4巻 9月18日発売
東京喰種 [JAIL] 10月1日発売
東京喰種コミックカレンダー 2016 12月1日発売

[JAIL]予約したけど、謎解きもの苦手だからちょい困っとります。

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