モバP「ナナ先生のメルヘンデビュー」 (34)

前々作 モバP「なっちゃんという同級生」
モバP「なっちゃんという同級生」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1434111292/)
前作 モバP「なっちゃんという担当アイドル」
モバP「なっちゃんという担当アイドル」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1434292580/)

これの続きです。少なくとも前々作を読まないと登場人物の関係がよくわからないかもしれません。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1434535556

ある日の事務所


菜々「今時の若い子って、どういうことを趣味にしているんですか?」

凛「えっ? いきなりそんなこと言われても……うーん」

菜々「凛ちゃんの趣味でもいいので、教えてください」

凛「私? 私、趣味らしい趣味って実はなくて……犬の散歩くらいかな」

菜々「犬を飼ってるんですか?」

凛「うん。ハナコっていうんだ」

菜々「ハナコちゃんですかあ、かわいいお名前ですね。……ええっと、とりあえず犬の散歩をメモしておきましょう」

凛「もしかしてそれ、17歳って設定を通すための資料集め的な何かだったりするの」

菜々「……い、いえ。そんなことはないですよ? ナナはリアル17歳ですし」

凛「事情を知ってる私の前でも頑なな態度をとるのはすごいと思う」

凛「一応アドバイスしておくと、本当の17歳なら『今時の若い子』みたいな表現はあまり使わないよ」

菜々「あっ……確かにそうですね。ありがとうございます、凛ちゃん!」

凛「どういたしまして」

凛「(なんというか、演技が隙だらけなのが一周回ってかわいらしく思えてきたかも)」

P「ナナせんせーい。ちょっといいかな」

菜々「なんですかー? あと先生じゃないです」

P「この後、なっちゃんと一緒に撮影の仕事入ってるのは伝えたと思うんだけど」

菜々「はい。そのためにここに待機してるわけですし」

P「それなんだが、なっちゃんの大学の講義が長引いてるらしくてさ。時間ギリギリになりそうだから、大学で拾ってそのまま現場に向かうことにした」

P「当初の予定より少し出発が早くなっちゃったけど、一緒についてきてほしい」

菜々「なるほど、わかりました。もう出るんですか?」

P「うん」

菜々「了解です。準備はできてますから、行きましょう」

P・運転中


P「こうして、先生を助手席に乗せて車を走らせる日が来るなんてなあ」

菜々「あのやんちゃ学生だったPくんがって思うと、なんだか感慨深いですねー」

菜々「やんちゃなのは、今も変わっていないみたいですけど」ジロリ

P「ははは……昔は、先生の車に俺が乗せてもらったこともあったっけ」

菜々「ナナは未成年なので、車の免許は持っていません」

P「あれってどういう経緯で乗せてもらったんだったかな。先生、覚えてる?」

菜々「こっちの発言を無視して話を進めないでくださいよ~」

P「ごめんごめん。でも、昔話をする時くらいは、素直に設定とか忘れて話してもいいんじゃないですか」

P「元教師と元生徒が思い出を語り合うくらい、許してくれても」

菜々「……まあ、それはそうですね」

P「今この瞬間は、アイドルナナじゃなくて安部先生でよろしくお願いします」

菜々「わかりました……が」

菜々「その代わり、今後は普段ナナのことを先生と呼ぶのは控えるようにっ」ビシィッ

P「おっと、そうきたか」

菜々「ふふん、交換条件ですよ?」

P「りょーかい。今後はちゃんと菜々さんって呼ぶよ」

菜々「さん付けですか」

P「菜々ちゃんとか菜々たんのほうがよかった?」

菜々「いえ、それはなんだか照れくさいので……まあ、年下の子をさん付けすることは別におかしくないですよね」

菜々「それで、Pくんを車に乗せてあげた時のお話でしたよね」

菜々「何度かあったと思いますけど……確か、フィットネスクラブに一緒に行ってたんじゃなかったかと」

P「ああ! それだ!」

P「ナナ先生が仕事終わりにフィットネスクラブに寄ってるって聞いて、俺も行ってみたくなったんだった」

菜々「目的地が同じなら、というわけで、私がクラブまで乗せていくようになったんですよね」

P「俺が結構すぐに飽きちゃったから、結局その送迎は長続きしなかったんだよな」

菜々「でしたねー」

P「思えばさ」

P「あの頃フィットネスクラブで体を絞ってたのも、ひょっとして、アイドルになる夢をいつか叶えるためだったりしたの?」

菜々「え?」

P「アイドルって、身体が資本な部分が大きいしさ。必要になった時のために鍛えてたのかなーと。今になって思った」

菜々「うーん、当時はそういうつもりがあったわけじゃないんですけど」

菜々「でも……もしかしたら、心の底ではそんなことを考えていたのかもしれません」

菜々「子どものころから、アイドルに憧れていたのは事実ですから」

P「やっぱりそうなんだ。でなきゃ、わざわざ教師の仕事辞めてまでアイドルに挑戦なんてしないだろうし」

菜々「まあ、一度夢を諦めて教職に就いたのも事実ですけど」

菜々「学生時代にちょっと頑張ってみたんですけど、うまくいかなくて……」

P「で、結局諦めきれなかったと。再挑戦に踏み切ったきっかけとかあったの?」

菜々「きっかけですか……そうですねえ」

P「あ、ごめん先生。ちょっと話中断しよう。大学に着いた」

P「なっちゃんを迎えに行ってくるから、先生はここで待っててくれ」

菜々「あ、はい」

菜々「きっかけかあ。やっぱり、教師時代にいろいろ見たからかなあ」







菜々「おはようございます。みなさん、今日も一日元気に過ごしましょうね」

生徒A「せんせー今日もかわいいよ!」

生徒B「結婚してくれー」

菜々「こ、こら! 小さいからって先生をからかうんじゃありませんっ」

という感じのやり取りを幾度となく重ねた、高校での教師としての日々。

そこでナナは、いろんな生徒とコミュニケーションをとり、彼らが成長し、変わっていく姿を見守ってきました。

入学から卒業までの間に、びっくりするほど変わる子達が多くて。

その最たる例が、鷹富士茄子さんという女子生徒でした。

最初は誰ともほとんど話さないし、いつも面白くなさそうな顔をしている子で。


菜々「鷹富士さん。もう少し、お友達と話してみてはどうでしょうか」

茄子「はあ。考えておきます」


というやる気ゼロの返事ばかりしていたんですけど……ある日を境に、徐々にみんなと打ち解けられるようになってきて。

卒業する頃には、仲のいい子がたくさんいる、笑顔の絶えない子に変わっていました。


菜々「鷹富士さん。最近、楽しそうにしていますね。何かありました?」

ある日、ナナは廊下でそんな風に尋ねたことがあります。

そうすると、彼女は照れくささの混じった笑みを浮かべて。

茄子「バカな人と出会いました」

菜々「バカな人?」

茄子「はい。でも、彼のおかげでいろいろと吹っ切ることができました」

茄子「変わるということに、遅すぎるってことはないんだな、と。そう思えます」

うれしそうな顔で、そう語っていました。

彼女をはじめとする、変わっていく子達を見て……ナナもまだ、変われるんじゃないかと考えるようになって。

それで、思い切ってアイドルをもう一度目指すことにしたのでした。

だから、教師時代の出来事は決して無駄ではなかったのです。胸を張ってそう言えます。


菜々「そう考えると、Pくん達は間接的にナナのアイドルデビューのきっかけを作ったことに――」

P「菜々さん? どうしたの、ぼーっとして」

菜々「わわっ! Pくん、戻って来てたんですか!?」

P「たった今ね。なっちゃんも連れてきたよ」

茄子「ごめんなさい、菜々ちゃん。私の都合でスケジュールを狂わせてしまって」

菜々「いえいえ、このくらいどうってことありません」

ちょっと中断します
1時間ほどで戻ってきます

P・再び運転中


茄子「あ、P君。さっきの子達に褒められてますよ」

菜々「さっきの子達?」

茄子「私を迎えに来てくれた時、近くにいた私の友達がP君と会ったんです。今、その子達からメールが届きました」

P「ほう。それでなんだって? イケメンだねって書いてるのか?」

茄子「いい三枚目だねって」

P「それ褒めてるの?」

茄子「ホストクラブのナンバー4っぽいとも書いてあります」

P「それも微妙」

P「はあ……女子大生から見た俺のイメージはそんなもんか」

茄子「私も一応女子大生ですけど」

P「じゃあ、俺の見た目のイメージは?」

茄子「早乙女好雄くんっぽいです♪」

P「古っ。ときメモって……しかもやっぱり褒めてないじゃん」ハア

菜々「心配しないでください、Pくん」

菜々「ナナは、Pくんの見た目はそんなに悪くないと思いますよ?」

P「な、菜々さん……!」

菜々「ホストクラブのナンバー3っぽいです!」

P「だから微妙だって!」

別の日の朝


菜々「おはようございま……あっ」

P「ぐぅぐぅ」スピー

茄子「どうかしました……あら、P君寝てますね」

菜々「昨日、家に帰らなかったんでしょうか」

茄子「夜中までお仕事頑張っていたみたいですね。ぐっすり気持ちよさそうに眠っています」

菜々「ぐっすりというか、ぐったりにも見えますけど……白雪姫とか、こんな感じで眠ってたんでしょうか」

茄子「メルヘンですね♪」

菜々「ウサミン星はメルヘンチックな環境なので」キリッ

茄子「白雪姫ですか……じゃあP君も、お目覚めのキスをしたら目を覚ますでしょうか」

菜々「王子様からの愛のキス。ナナもあのシチュエーションには憧れちゃいます」

茄子「キス………」

菜々「茄子さん? どうかしましたか」

茄子「い、いえ、なんでも」

茄子「今はお目覚めのキスよりも、ギリギリまで寝かせてあげるほうがいいかなと思いまして」

茄子「毛布をかけてあげましょう」ファサッ

菜々「(お疲れのプロデューサーに慈愛の笑みを向け、そっと毛布をかけてあげるアイドル……なかなか絵になる光景ですね)」

茄子「それにしても」

菜々「それにしても?」

茄子「この寝顔、イタズラしたくなる顔ですね♪」フフフ

茄子「今のうちに顔に落書きしちゃいましょう」

菜々「ええ……?」

菜々「(さっきまでの雰囲気台無しですよー……)」

茄子「高校の頃、額にナスビ描かれたしかえしです。私は案外根に持つタイプです」

茄子「かわいいちょび髭でも描いてあげましょう♪」

菜々「チョイスが微妙に女の子らしいようなそうでないような」

菜々「というか、顔はやめておいたほうがいいんじゃないですか?」

茄子「うーん……まあ、落書きは冗談です。汚れを落とすのに一苦労ですし、万一落ちなかった場合は今日のP君の仕事に支障をきたしますから」

茄子「なので、髪にリボンをつけてあげるだけで我慢しましょう」

菜々「さっきからいちいちイタズラの趣味がかわいいですね……」

茄子「P君に似合うリボンは~♪」フンフフーン


P「………」パッチリ

菜々「(あ、起きた)」

茄子「………」

茄子「真っ赤なリボンを蝶結び~♪」

P「おい、強引に続行するな!」

ワイワイガヤガヤ


菜々「朝から仲のいいようで……」

凛「おはようございます……なに、あのいちゃいちゃ」

菜々「凛ちゃんのほうが大人ですねー」

凛「?」

P「まったく。朝から無駄に体力を使った」

菜々「大丈夫ですか? これ、Pくんがお手洗いに行ってる間にちひろさんが置いて行ったスタドリです」

P「ああ、ありがと先生……じゃなくて菜々さん」

P「凛となっちゃんは?」

菜々「二人とも、もうレッスンに向かいました」

菜々「ナナは、少しPくんとお話ししたいことが残っていたので」

P「お話?」

菜々「はい」

菜々「今まで、はっきりとした答えを聞いていなかったんですけど……ナナがトップアイドルを目指すこと、どう思っていますか」

P「どう、とは?」

菜々「Pくんは、ナナの本当の年齢を知っていますよね。何年もやっていた教師の仕事を捨てて、厳しい芸能界に夢だけ持って飛びこむ……そんなおばさんです」

P「おばさんってほどの年齢じゃないでしょ。まだ30いってないんだし」

菜々「アイドルという立場で考えれば、普通は陰りが見えてくる頃ですよ」

P「でも、この前の初ライブは結構うまくいったと俺は思ってる」

菜々「それはそうなんですけど……ライブをやったからこそ、見えてくる壁みたいなものもたくさんあって」

菜々「今までは、アイドルの仕事を外から見て、大変そうだなと思っていただけなんです。でも、曲がりなりにもデビューしたことで、アイドルの大変さを身をもって知ったというか」

菜々「体力の衰えも、痛感しました」

P「………」

P「でも、菜々さんは続けたいと思っている」

P「頭では厳しい道だとわかっていても、夢を追い続けたいと思っている」

P「そうですよね」

菜々「それは……はい、もちろん」

P「だったら、それで十分じゃないか」

P「俺はさ、菜々さんのことすごいと思ってるんだ」

P「菜々さんの選んでいる道は、確かに面白いだろうけど、それだけじゃすまないようなしんどい道だ。それを選べるんだから、本当にすごいよ」

菜々「そ、そうですか?」

P「うん。すごい面白い人だと思う」

菜々「それ、なんか違う意味に聞こえます」

P「いやいや、真面目に褒めてるだけだから」

P「俺の『面白い』という評価は最大級の賛辞だから」

菜々「面白いことが好きですもんね。昔から知ってます」

P「これから先、いろいろしんどいこともあると思う」

P「けど、そんな時こそ俺というプロデューサーの出番だ」

P「菜々さんが頑張れるように、全力でプロデュースしていくから」

菜々「Pくん……ふふ、なんだかちょっぴり感動です。かつての教え子に、そんな頼もしいこと言ってもらえるなんて」

菜々「しかも、あのPくんですからね」

P「『あの』って表現が気にかかるけど、まあいいや」

菜々「なんだか元気が出てきました! ありがとうございます!」

菜々「レッスンにライブに、やる気満々ですっ」

P「おう。疲れた身体に湿布貼る時は手伝うから、いつでも言ってくれ」

菜々「ああ、すみません。本当、この前のライブも終わったあとに身体が悲鳴を……」トオイメ

菜々「って、なんか締まらないですね。このやり取り。せっかくいい雰囲気だったのに」

P「俺達らしくていいと思う」

P「さ、そろそろレッスンに行かないと」

菜々「ああっ、そうでした」

菜々「それではナナ、いってきます!」

P「いってらっしゃい」

菜々「さあ、今日も一日頑張るぞー! キャハっ!」タタタッ


P「………」

P「うん。やっぱりあの人すげーや」


おしまい

あくまでこのシリーズはなっちゃんシリーズなのでナナ先生の話は短めで終わらせました
お付き合いいただきありがとうございます

次に書く内容は決まっていませんが、いくつかふわふわとした候補は一応あります

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