【艦これ】 葛城 「立派な正規空母になるんだからっ!」 (302)


※ 艦これに登場する艦娘、葛城が主役のSSになります。

※ 暴力表現や過度なエロはありません。

※ 長編になります。のんびり更新で2週間以上かかると思います。さらっと短編が読みたい方には向いていませんのでご注意下さい。

※ キャラの性格や口調などは、筆者なりの解釈です。自分の好みと違うようであれば、そっとスレを閉じていただけると幸いです。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1434466157





 ―――― なんだろう……誰かが呼んでる……

 
 
 
 ―――― わたし……眠っていた……? よく思い出せない

 
 
 
 ―――― 何も見えない……そっか、目を閉じてるんだ…………目……?

 
 
 
 ―――― そうだ、わたしは……

 
 
 
 
 




目を開けると……大勢の人が居た。みんな忙しそうにしているわ。彼女たちは……艦娘。わたしの仲間ね。不思議! ちゃんと分かるんだ。


目の前に立ってる男の人。この人は艦娘じゃないけど、わたしにとって特別な人だっていうのはわかる。そう、この人がわたしの提督なのね。


葛城「雲龍型空母三番艦、葛城よ! 」


提督「……葛城……待っていた……ようこそ」


すっ


手を出されたけどこれは……そっか、人間が喜び合う時にやっていた握手というやつね! 歓迎して喜んでくれてるんだ……。


ぎゅっ


葛城「よろしくね、提督! 」

提督「ああ、よろしく頼むよ」






大淀「葛城さん、着任おめでとうございます」

葛城「あなたは……大淀ね! 不思議ね、姿は変わってるのに、なんとなくわかるわ」

大淀「くすっ。そうですね、言われてみれば不思議です。すごく久しぶりですね」

葛城「ところで、すごく慌ただしいけれど、空襲なの? それならわたしも高射砲を準備しないと……」

大淀「いいえ、今は西方海域を打通する大作戦の真っ最中なんです。ですので、すごく慌ただしくて申し訳ありません」

葛城「ほえー、空襲警戒どころか、こちらから遠くの海域で攻勢をかけているなんて……すごいのね」

長門「提督、大淀、話し中に済まないが、二人が居ないと次の作戦準備が進まない。葛城の歓迎は作戦後にお願いできないだろうか? 」

大淀「そうでした、すみません。葛城さん、お話はまたあとで」

提督「ごめんな。そこのソファーでくつろいでいてくれ」

長門「すまないな」

葛城「はい、ではまたっ! 」






よいしょっ。うわ、ソファーってふかふかなんだ。これは良いわね。



ざわざわ ざわざわ



大淀「リランカ攻略のためには、まずは補給路を断つことが……」

提督「となると、攻略隊とは別の通商破壊部隊を……」

長門「ふむ、通商破壊なら足の速い船で揃える必要が……」



なんだか難しい話をしてるわね。考えてみたら、わたしは防空専門で、艦隊決戦とか敵基地攻略とかは全く縁がなかったから、わからなくて当然か。






それより、この体のほうが不思議ね。こんなに小さい、本当に人間みたいな体になっちゃって……。でも、違和感が何もない……。ちゃんと大淀さんも見分けられたし……。あ! あれは利根さんね。ちゃんとわかる……ほんとに不思議だわ~。



雲龍姉さんと天城姉は居ない……。鎮守府にすべての艦娘が居るわけじゃないのは知ってるけど……。雲龍型はわたし一人だけなんだ……。ちょっと心細いな……。



??「ワタシは基地攻略に参加するデース! 三式弾装備しなきゃネ!」

??「わたしは通商破壊かぁ。がんばるよー」

??「僕はどっちだろう……基地相手の夜戦だと僕の出番はないかな? 」



……話していることも全然分からないし、知っている人もほとんどいないし……。わたし、本当にここにいていいのかしら……。どうしよう、怖くなってきた……。






大淀「基地攻略は連合艦隊ですね。金剛さん、長門さん、加賀さんは決まりとして、残りのメンバーはどうしましょう? 」

提督「…………。そうだな、通商破壊との兼ね合いもあるし、希望もあるだろう。大淀、もう少しみんなと話して、大体の案をまとめておいてくれないか? 」

大淀「それは構いませんが……提督は? 」

提督「俺はちょっと葛城を案内してくる」

長門「提督、大事な作戦会議中だぞ」

提督「長い会議になるし、俺がどうしても必要なのは決定の時だけだ。大まかな方針はもう決まっている訳だし、メンバーの希望集めなんかは任せて大丈夫だろ? 」

長門「それはそうだが……」

提督「じゃあ、頼む」

大淀「分かりました。それでは後ほどまた戻ってきて下さい」

提督「ああ」






……ここにいる人達は、前世でも歴戦だったのかな。それに比べてわたしは……。どうしよう、笑われたり、失望されたり……。もういらないって言われちゃうかな……。


コツコツコツコツ ←足音


提督「葛城、ごめん、待たせた。さ、鎮守府を案内するよ」



びくっ



葛城「きゃっ! び、びっくりしたっ。あなた、突然声かけないでよっ」

提督「何か考え事してたのか? ごめんな、待たせて」

葛城「え……。だって、まだ会議中じゃないっ」

提督「あはは、優秀なメンバーがいるからな。俺は決定の時にOKするだけでいいのさ 」

葛城「あきれたっ」

提督「ま、そういうわけさ。さ、行こう」



全く、司令官なのにこんないい加減でいいのかしらっ。でも助かったから良いことにしましょうっ。


瑞加賀はありますか?(迫真)




提督「葛城、着任早々、殺気立った会議でびっくりしただろ? 」

葛城「え……。うん、そうね」

提督「こんな大規模な作戦は数ヶ月に一度ってところなんだ。それ以外の時は、のんびりと、訓練したり遠征したりって感じだから、作戦が終わるまではのんびり待っていてくれよ」

葛城「そんな……大事な作戦なんでしょ? わたしもすぐに参加するわっ! 」(しゅっしゅっ)←シャドーボクシング中

提督(苦笑)

提督「いや、なにせ敵地奥深くに侵入して、基地攻略、そして打通を目指す作戦だ。歴戦の艦娘たちでないと挑戦することすら難しい。葛城は転生したてで、練度は1だ。これからしっかりと練度を上げ、改装を受けて、それからだな」

葛城「練度が足りないかぁ。確かに、この体でどういう風に戦うのか、なんとなく分かるけど、あまり自信が無いわね」(ぺたぺた)

提督「最前線組は練度80以上が当たり前だからなぁ。猛訓練と、数百の実戦をくぐり抜けて、ようやくたどり着ける練度だよ」

葛城「うぇぇぇ。聞いただけで気が遠くなりそう」


ワイワイ






提督「ふふ……あははは…………」

葛城「な、なによ、突然」

提督「いやな、空母葛城が艦娘に転生したらどんな感じかって、俺がイメージしてたのは、母性たっぷりの包み込むような女性だったんだよ。鳳翔さんみたいな。それが、なんというか、こんな直情型のおてんば娘だから、そのギャップがおかしくて……あははは」

葛城「(むかっ) な、なによ! その評価っ。 そんなこと言ったら、あなただって、わたしのイメージする提督とは程遠いわ! 提督といえば、どっしり落ち着いた、威厳あふれる人って感じなのに、あなたときたら、ぼやっとしていて、軽いノリでっ! 」

提督「あはは。まー、そのへんは勘弁してくれ。俺もこんな歳で、突然提督なんてやらされてるんだ。威厳なんて持ってないよ。っと、着いたよ」

葛城「はぁはぁ……。ん? 着いたってどこに?」

提督「鳳翔さんのところだよ、おーい、鳳翔さーん」






スタスタスタスタ


鳳翔「あら提督。昼間から珍しいですね。おや……そちらの子は……葛城さんですか! 」

葛城「あ……鳳翔……さん……」

鳳翔「ふふっ。お久しぶりです。懐かしいですね」



鳳翔さん……わたしたち空母みんなのお母さんみたいな存在……。前世のことは、おぼろげであんまり思い出せないけど……ずっと一緒に居たような……そんな気がする……。



葛城「鳳翔……さん……。おひさしぶり……です……(ぼろぼろ)」

鳳翔「あらあら、どうしました、泣いてしまって」


ぎゅっ


葛城「あれ、どうしたんだろう……ぐすん……」






提督「葛城はつい先程着任したのですが……。ご存知の通り、今は殺気立った作戦中で……。それに、葛城は知り合いの艦が少ない上に、姉妹も当鎮守府には着任していません。それで……すごく不安なはずです。鳳翔さん、しばらく葛城をお任せ出来ませんか? 」



!!! 提督、わたしの事、ちゃんと考えてくれてるんだ……。



葛城「ふ、ふんっ。わたしは、こう見えても正規空母よっ。不安なんて、そんなことあるわけ無いじゃないっ(ごしごし)」

鳳翔「くすっ……。はい、葛城さんは、わたしとは縁がある仲良しさんですから。せっかく着任してくださったんです、最初ぐらいご一緒したいです。葛城さん、落ち着くまで、わたしと一緒に居て頂けますか? 」

葛城「え……? も、もちろんっ。鳳翔さんと一緒にいられるなんて、とっても嬉しいです」

提督「それなら良かった。葛城、慌てることは無いから、ゆっくり艦娘の生活に慣れてくれ」

葛城「あなた、さっきからわたしのことを子ども扱いしすぎよっ。平気に決まってるじゃない! いーーっだ! 」

鳳翔「葛城さん、提督相手にそんな態度はいけませんよ」

葛城「ぇー。だってこの人が……」

提督「あはは、いいんですよ、鳳翔さん。なにせじゃじゃ馬はいっぱい居ますからね。慣れてますよ」

葛城「また失礼なこと言って! もう、知らないんだからっ」






はぁはぁ。全く失礼な人ね!


……でも、先程までの不安な気持ちはすっかり消えて……。優しく微笑んでくれる鳳翔さんと、ここでの生活が始まりました。


一応、わたしのことを考えてくれたわけだし……ちょっとぐらいは……感謝してあげてもいいかなっ!



―――― これが、わたしのはじまり。艦娘としての……前世では想像もつかなかった、びっくりするような日々の……そして、前世も含めて、わたしの世界がひっくり返るような、そんな日々の……始まりでした。






というわけで、葛城を主役とした長編です。第一回はプロローグでした。
葛城は、アニメには未登場でしたし、最近実装されたばかりの艦娘ですので、よく知らない、ピンと来ない、という方も多いかと思います。
とってもかわいい子ですので、ボイス集とか聞いていただけると嬉しいです。

次は2~3日後の更新予定です。そこまで長くならない予定ですが、しばしの間、お付き合いいただけると幸いです(o_ _)oペコリ

>>9
瑞加賀は大好物なのですが、今回は葛城のお話なので、百合成分は期待しないでくださいませ……






――――― 一週間後 ―――――









 ―――― 敵機来襲! 対空砲全門斉射っ。守りぬくわよっ!

 
 
 
 ―――― 直撃っ! く、飛行甲板使用不能……でも、悔しいけど影響は無いわ。

 
 
 
 ―――― 敵機が来てるのに……直掩も出せなければ、動くことすら出来ないなんて……。

 
 
 
 ―――― これじゃあ、わたしは空母とは言えない……ただの浮き砲台よ……








がばっ


葛城「はぁはぁ……夢……? そっか、そうだった……わたしは前世で浮き砲台だったんだ……」



あれから一週間。鳳翔さんのお家(お店兼だけど)に一室をもらって、鳳翔さんと一緒に暮らしています。相変わらず作戦は続いていて、わたしは出撃も訓練も遠征も何もなく、鳳翔さんのお手伝いをするだけの生活……。うーん、これでいいのかしら。






葛城「おはようございます! 」

鳳翔「あら、おはようございます。ちょうどみなさん朝食中ですよ。葛城さんもご一緒にどうぞ♪ 」

葛城「毎日すみません、いただきますっ」


龍驤「おー、葛城、おはよー」

瑞鳳「葛城さん、おはようございま~す」

祥鳳「おはようございます!」

葛城「みなさん、おはようっ」


わたしの着任を聞きつけて、何日か前から、作戦への出動が無い軽空母の皆さんが遊びに来てくれてます。きっと鳳翔さんが声をかけてくれたのね。そのおかげもあって、少しずつ艦娘の生活にも馴染んできた気がする!






葛城「う~~ん、今日も鳳翔さんのご飯がおいしいっ。しあわせ~~」

瑞鳳「葛城さんは、ほんとに美味しそうに食べますね~」

龍驤「ご飯が美味しいのはええこっちゃ! 」

葛城「美味しいだけじゃなくて、毎日違うものが食べられるなんて……こんな贅沢していいのかなって感じ! 」

祥鳳「……ずいぶん質素な生活だったんですね……」

瑞鳳「ご飯だけじゃないですよー。デザートにみかんもあります! 」

葛城「でざ~と……砂漠? 」

龍驤「ちゃうちゃう! 食後に食べる甘いものや果物のことやっ。なんや、そんなこともしらんのかいな」

祥鳳「ケーキやパフェを食べたりすることもあるんですよ。とっても甘くて美味しいんです」

葛城「ほへー、お腹いっぱいになるだけでも幸せなのに……」

龍驤「うう、不憫な子や。ええんや、お腹いっぱい食べてええんやで……」






祥鳳「そうそう、今日は少し、艦載機を飛ばしてみませんか? わたしたちも訓練するつもりなので」

葛城「え、えっと、そうね、どうしようかなっ」



困ったわ! 艦載機って前世でも飛ばしたこと無いのに、まして艦娘になって、どうやって飛ばすのか、全然分からないっ。



瑞鳳「艦娘になった最初は、艦載機の飛ばし方が分からなくて戸惑いますから、一緒に練習しておくのがいいですよっ」

龍驤「せやせや。なんとなーくはわかるはずやから、あとは実際に何度もやってみるのがええよ」

葛城「……うん、実は飛ばし方、良くわからないの。そっか、わたしだけじゃ無いのね」

祥鳳「飛ばせないと実戦で困っちゃいますから。一緒に練習、いきましょう」

葛城「あ、ありがとう! 」



艦載機の飛ばし方がわからないなんて、恥ずかしくて言い出せなかったんだけど……。持つべきものは仲間ねっ。



龍驤「ほな、食べたら早速いこかー」

鳳翔「訓練ですか、気をつけて行ってきてくださいね」

葛城「はい、行ってきますっ」






――――― 少し後 訓練場


龍驤「でな、艦載機の飛ばし方は、人それぞれ違うんや」

祥鳳「例えば、わたしはこの弓矢です。矢を放つと、それが艦載機に姿を変えて敵に向かいます」

瑞鳳「わたしもそうだよ! 空母だと弓矢を使う人が多いかなっ」

葛城「ふむふむ」

龍驤「うちは式神やね。この人型に念を込めて放つと、艦載機になって飛んで行くっちゅーわけや」

瑞鳳「千歳さんと千代田さんは、カラクリですね。からくり人形を操る、糸がついた道具みたいなので艦載機を操ってます。あれはどうやってるんですかねー」

祥鳳「あとは、航空戦艦や航空巡洋艦の皆さんは……特に道具を使ってませんね」

龍驤「あれは、艦載機の模型みたいなのをカタパルトで飛ばしとるんやないかなー? 」

瑞鳳「そんな感じで人それぞれなんです。葛城さんは、艦載機を飛ばす道具の心当たりとかイメージってありますか? 」



い、いきなり難しいっ!







葛城「い、イメージ、イメージ……! うーん、艤装を捨てて、高射砲を立てて……いや、違った……対空砲火じゃなくて艦載機を飛ばす……飛ばす……回せー! うーん、うーん」



J(@_@)し



祥鳳「わわわ、葛城さん、目がぐるぐるになってますよ! 」

龍驤「慌て過ぎや! 敵が来とるわけやないし、ゆっくり落ち着いて考えればええんや」

瑞鳳「葛城さん、落ち着いて落ち着いて! はい、ひっひっふー、ひっひっふー……」

葛城「ひっひっふー……ひっひっふー……はぁ、ちょっと落ち着いたわ」







祥鳳「うーん……。困りましたね。わたしたちは、なんとなーく飛ばせましたよね? 」

龍驤「せやな。艦載機発艦のイメージをしたら、体が勝手に動いた感じや」

瑞鳳「わたしもそうだったなぁ。前世の、艦載機発艦手順をイメージしてたら、体が勝手に矢を弓につがえていたというか……」

葛城「あうう……わたしは前世で艦載機発艦したことがほとんど無いから、そのせいかも……」

祥鳳「ええっ! 正規空母なのにっ!? 」

葛城「うう……だって、艦載機が居なかったんだもん……」

瑞鳳「祥ちゃん、戦争の末期の頃はそうだったんだよ」

龍驤「そうなんか……。これは大変そうやなぁ」

葛城(しょんぼり)






鳳翔「あら、皆さんでどんよりして、どうしたのですか? 」

葛城「あ、鳳翔さんっ」

鳳翔「せっかくですから見学しようと思いまして」

祥鳳「鳳翔さん、実は……(祥鳳説明中)……という訳なんです」

葛城(しょんぼり)

鳳翔「そうでしたか。でも葛城さん、気にする必要はありませんよ。すぐに出来るようになりますから」

葛城「で、でも……」

鳳翔「そもそも、誰にでもはじめてはあります。ここにいるみなさんも、もちろんわたしも。あなたの尊敬する瑞鶴さんだって、最初に艦載機を飛ばすときは大変だったみたいですよ」

葛城「そ、そうなんですか……? 」

鳳翔「ええ。最初は上手く行かなかったり、戸惑うのは当たり前ですから。落ち着いて、まずは練習してみましょう」

葛城「は、はいっ! 」






鳳翔「良いですか、静かに立って、目を閉じて下さい」

葛城「は、はぃぃ。こ、高射砲はそのままでいいんですかっ!? 弾幕はっ!」

鳳翔「はいはい、静かに、心穏やかにしてください」

葛城「は、はいっ」



どきどきどきどき



鳳翔「前世では、本格的な艦載機発艦はしたことがなくても、発艦着艦テストはされましたよね。その時のことをよーく思い出して下さい」

葛城「そういえば……やったような……? 」

鳳翔「そうですね。では発艦を思い出して……。格納庫からエレベータで艦載機が出てきます。飛行甲板に上がってきました……」

葛城「…………」






鳳翔「プロペラを回して……発艦準備しています……。あなたは風上に向かって全力航行……」



そう……そうだ……発艦を助けるために風上に向かって……あとは……



鳳翔「さあ、発艦準備完了のようです。あとは指示を出すだけですよ」

葛城「…………」



手が……自然と、持っている弓を構えて…………



葛城「九十六式艦戦、発艦! 」



矢をつがえていないけれど、引き絞った弓から、見えない『何か』を放ちました。すると……



ぶぉぉぉぉぉん






龍驤「おお、出来たで!」

瑞鳳「やったぁー! 」

祥鳳「お見事です! 」



たった3機だけだけど……飛んでる……わたしから飛び立った艦載機……飛んでる……



鳳翔「ほら、ちゃんと出来たでしょ。あなたは立派な空母ですよ」

葛城「ぐす……ぐすっ……鳳翔さーーーん!」

鳳翔「あらあら、正規空母がそんなに泣いてしまって……軽空母の皆さんに笑われてしまいますよ」

葛城「だ、だって……艦載機……わたしの……ぐす……」

鳳翔「ふふ……。これからいくらでも飛ばせますよ。あなたは期待の正規空母なんですから」(なでなで)



できた! できたよ! わたしはちゃんとした空母なんだからっ! 砲台なんかじゃないんだからっ!







鳳翔「さ、いつまでも泣いていては、あなたの艦載機が帰って来られませんよ。ちゃんと着艦させてあげて下さい」

葛城「は、はいっ。着艦は……イメージ……イメージ……」



ぶぉぉぉん



わたしの艦載機が帰ってくる……飛行甲板を構えて……誘導して……そう、ここだよ……



龍驤「おお、着艦動作はスムーズやな」

葛城「へっへー。そうですよ、なにせ正規空母ですからっ」

鳳翔「ほら、よそ見しちゃダメです。着艦はデリケートな作業なんですから」

葛城「大丈夫ですよ……って、あ、あれ、止まって、止まってー!」



着艦しようとしていた艦載機……飛行甲板で止まれなくて……わたしの顔に向かって…………



葛城「へぶっ! 」



お星様が……いっぱい……飛んだ……



葛城「きゅぅぅぅ~~~」






瑞鳳「大変! 着艦事故ですっ」

祥鳳「艦橋に直撃っ。大変ですっ」

龍驤「あーあ、目まわしとるで。こりゃ当分は猛練習やな」

鳳翔「くすくす。そうですね。でも、この子はがんばり屋さんですから、すぐにできるようになりますよ」



顔が痛くて……お星様いっぱい飛んで……意識が遠くなる中…………それでも、念願の艦載機を飛ばせたことが嬉しくて嬉しくて……きっと立派な空母に……なるんだから…………。





本日分は以上となります。次回は日曜日になると思います。


あ、ありのままに今起こったことを話すぜ
「俺は葛城SSを始めたと思ったら、レスがずいずいだらけだった……」
な、何を言っているか分からねーと思うが(略

今回は瑞鶴先輩が登場せず申し訳ない。第3話から登場しますのでお待ちくださいませ。
それでは、また次回も是非お越しください。


今回も過去作と同じ世界観ずい?


わた...瑞鶴さんの登場を楽しみにしてるずい

貴殿のSSは安心して読めるので
楽しみです。
どぢっ娘葛城かわいい~

おつー
瑞鶴さんの人気が高いのは仕方がないずい






――――― 5日後 ―――――








 ―――― くっ……だめ、敵が多すぎる。対空砲なんて焼け石に水だわっ

 
 
 
 ―――― ああ、天城姉っ! よ、よくもやってくれたわね!

 
 
 
 ―――― 鳳翔さんは無事……良かった……

 

 
 ―――― でも……姉さんも、伊勢さんも、青葉さんも……逝ってしまったの……?








ちゅんちゅんちゅん


葛城「また……前世の夢……。やっぱり……仲間が逝ってしまうのは本当に嫌だよね……」



空母としての第一歩を踏み出したわたしは、毎日毎日訓練訓練! まだまだ数も少ないし、時間もかかってしまうけど、とりあえず発艦・着艦はできるようになったわ! 実戦に向けて、少しでも練度をあげないとねっ



葛城「おはようございまーす! 」

鳳翔「おはようございます。今朝も元気ですね」

龍驤「おはよ。ほんま、元気やなぁ。毎日あんなに訓練しとったら、ぐったり疲れそうやのに」



へっへー! だって、空母として……艦載機訓練してるんですよ! それがどれだけ嬉しい事か……それをどれほど夢見たことかっ!



葛城「艦載機を飛ばすことが、嬉しくてしょうが無いんですよ! ああ、幸せ~~」


??「ふふ……その心、見習わないといけないですね」







葛城「えっ? 」



隣の机で食事をしていたのは、見たことのない、とっても綺麗な白い髪の人です。



翔鶴「はじめまして、正規空母 翔鶴です。あなたが葛城さんね。先日は、作戦中でちゃんとしたご挨拶ができなくてごめんなさいね」



この人が……瑞鶴さんのお姉さん! 瑞鶴さんと一緒に一航戦として戦い続けていた……!



葛城「はじっ、はじっ、はじめましてっ! 雲龍型空母三番艦 葛城です! 」


??「葛城、懐かしいわね。一度だけ会ったことがあったわね」



この声……あの姿……間違いない……ついに会えた……







葛城「覚えていてくださったんですね……瑞鶴さん! 」

瑞鶴「もちろんっ。大事な後輩だものね。わたしは、あの後すぐに沈んじゃったから、それっきりだったけど……」

葛城「そんな……」



わたしは、建造されているころから、ずっと話を聞いていた……。敵がどんどん優勢になる厳しい戦いの中……機動部隊の中心として、一航戦として、常に最前線で戦い続けていた勇姿を……。そして覚えている……。最後に沈むと分かっている戦いに挑む後ろ姿を……



葛城「機動部隊旗艦、一航戦の瑞鶴さんっ! ずっと尊敬していました! 瑞鶴さんはわたしの憧れなんです!」 ← 大声

瑞鶴「ええええ! 」


加賀(ぴくっ)

赤城(ぴくっ)


龍驤(あちゃー、こりゃあかんで……)







瑞鶴「あは……あはは……。いやまぁ、ここではほら、先輩方が健在だから、わたしは五航戦のままというか……」

葛城「いえっ! わたしにとっては瑞鶴さんが一航戦です! 」


加賀(がたっ)

赤城(がたっ)

飛龍「ま、まぁまぁ、お二人共」

蒼龍「言っていることが間違っている訳では無いですから、ね? 」



な、なんだろう……あの人達からただならぬ殺気のようなものが……






加賀「葛城さんと言ったかしら? 」

葛城「は、はいっ」

加賀「わたしが『一航戦』の加賀です」

赤城「同じく一航戦の赤城です。はじめまして」

飛龍「わたしは二航戦の飛龍です」

蒼龍「同じく蒼龍です。よろしくね! 」

加賀「あなたの記憶がどうかは知りませんが、この鎮守府では、一航戦といえば、わたし加賀と、赤城さんです。間違えないように」

葛城「加賀さん……赤城さん…………。ああああ! 」

加賀(びくっ)「な、なんですか? 」


葛城「加賀さんと赤城さんと言えば、ずっと前の一航戦で、わたしが生まれるずっと前に沈んでしまった……伝説の先輩ですよね! はじめまして! お会いできて光栄です!!」(ぺこぺこ)


翔鶴「か、葛城さん……あの……それはちょっと……」

葛城「へ?」







加賀「ずっと前の一航戦……」(ずーーん)

赤城「ずっと前に沈んだ……伝説……」(ずーーん)

加賀「赤城さん、わたし、急に歳を取ったような気分です……」

赤城「奇遇ですね、わたしもです……食欲も無くなってしまいました……」

飛龍「そんな! まだどんぶり3杯しか食べていないのに……」

蒼龍「いつもの半分じゃないですか! 作戦の疲れも癒えていないのに」

加賀「とりあえず帰ります……」

赤城「ええ、一度帰りましょう」

飛龍「えええ! とりあえずお送りします。葛城さん、また今度! 」

蒼龍「葛城さんとはなんだか近い感じがします。良かったらまたゆっくりお話しましょっ」

葛城「は、はい、是非……」


ばたばたばたばた






龍驤「あーあ、やってしもうたなぁ……」

葛城「あの……、何かまずかったですか……?」

瑞鶴「ぷぷ……ぷぷぷぷ……あははははは! ううん、全然まずくないわよ。一航戦の二人をへこませるなんて、葛城、なかなかやるわねー! 」

翔鶴「瑞鶴、悪ふざけはいけませんよ」

瑞鶴「あははは……だって、あんなにへこんだ加賀さんと赤城さん、はじめて見たよ! 特に、いつもツーンってしてる加賀さんがあんなの、おかしくって! 」

翔鶴「もう。瑞鶴、子どもみたいにはしゃがないの」

葛城「えっと、わたし、何か落ち込むようなこと言っちゃったですか……? 」

翔鶴「ちょっと説明が難しいですけど……。葛城さんのように、戦争後期に建造された艦から見たら、自分たちがとっくに沈んだ艦なんだ……っていうのが、ショックだったわけです」

龍驤「あの二人は一航戦のプライドちゅーのを大事にしとるからな」






瑞鶴「わたしの知ってる一航戦はあなた達じゃありません、みたいなのがショックだったんでしょ! いいのいいの、わたしも言いたかったことだもん! はっきり言って、えらいえらい! 」


わしゃわしゃ


葛城「え、えへへ……よ、良かったですか……えへへ」



憧れの瑞鶴さんにナデナデ(というかわしゃわしゃ?)されちゃった!



翔鶴「もう、瑞鶴ったら悪ノリして……」


瑞鶴「そうそう、葛城は訓練中なんだって? 作戦も無事終わったし、よかったらわたしも手伝うよ」

葛城「ほ、ほんとですか! 嬉しいですっ! 」



失望されないように、がんばらないと!






――――― 少し後 訓練場


最初みたいな失敗をしたら笑われちゃう! 慎重に……慎重に……


葛城「ふうっ。全機着艦完了。こ、こんな感じです」

瑞鶴「へー。ちゃんとできてるじゃない! 前世で艦載機運用の経験が無いから、すごく苦労するかもって聞いてたのに」

葛城「はいっ! 最初は、飛ばし方が全然イメージ出来なくて……。でも、鳳翔さんが助けてくれて、何とかできるようになりましたっ! 」

瑞鶴「そっか。わたしも最初は鳳翔さんに習ったんだよ。空母みんなの先生であり、お母さんみたいだよね」

葛城「はいっ! 」






瑞鶴「とりあえず手順は大丈夫ね。あとは、発艦着艦の速度を上げること、より多くの艦載機を制御できるようになること、ちゃんと敵に攻撃を当てられるようになること……。つまりは、全体の練度を上げていかないとね」

葛城「はいっ……でも、わたしでもできるでしょうか……? 」

瑞鶴「ちゃんと努力すれば大丈夫よ! いい、見ててね」



瑞鶴さんが、静かに弓矢を構えて……すごい、一分の隙も無い感じ……。かっこいい!!



瑞鶴「全機発艦……彗星と流星は目標に向かって一直線……紫電改二は上空で援護……! 」



すごい数の艦載機が一斉に! 60…70…もっと!? 一糸乱れぬ隊形で……



瑞鶴「目標補足……雷撃開始……続いて爆撃開始!」



どかーん どかーん



瑞鶴「目標破壊確認……全機帰還! 」



一撃で目標撃破! そして、もう次々と着艦! すごい、流れるような……






瑞鶴「はい、こんな感じよ! 」

葛城「す、すごいです! わたしも……わたしも頑張って、瑞鶴さんみたいになりたいっ! 」


瑞鶴「/// えへへ、照れるわね……。さ、じゃあ練習しましょ! 敵艦隊への開幕攻撃をイメージして、艦攻で目標を攻撃、艦戦で護衛。ゆっくりでいいから、できるだけたくさん発艦させてみて」

葛城「は、はい! 」



葛城「やった、目標撃破っ! やった、瑞鶴さん、出来ました! 」

瑞鶴「はい、良く出来ました! でも、攻撃成功だけではしゃいじゃダメよ。ちゃんと帰還するまで気を抜かないようにしなきゃ。葛城はどうも落ち着きが足りないわねー」

翔鶴「ぷっ」

瑞鶴「……翔鶴姉、何か言いたそうね? 」

翔鶴「いいえ、あの瑞鶴が立派になったなって思ってね」(にっこり)

瑞鶴「ふーんだ。確かにわたしも落ち着きが無いって良く怒られましたよーだ! 」



ふふふ……瑞鶴さんでも、お姉さんの前ではやっぱりこうなるのね。あーあ、わたしも雲龍姉さんや天城姉が来てくれたらなー。







瑞鶴「葛城、さ、ぼんやりしてないで着艦よ」

葛城「は、はいっ!」



実は着艦が一番苦手……今でも、顔に良く激突されてます……おでこ痛い……



瑞鶴「あなたは母艦なの。艦載機の家でありお母さんなんだよ。だから、どっしり構えて、動かず、落ち着いて迎え入れる……。そう、手はこの角度で……」



!!! ず、瑞鶴さんが後ろからわたしを抱きしめるような格好で……手の位置とか直してくれて……あわ、あわわ………体が動かない……



瑞鶴「そうそう、そうやって甲板位置を固定して……いい感じ……」

葛城「は、はいっ」



緊張して動けないのが良かったのかな。これまでで一番スムーズな着艦が出来たっ! そっか、しっかり固定して、安心して着艦してもらうようにするのかぁ。







葛城「ありがとうございます! 苦手だった着艦、少しできるようになれそうです! 」

瑞鶴「えへへー、わたしも人に教えるのははじめてなんだけどね! 覚えが早い、良い後輩を持ってうれしいわっ」


わしゃわしゃわしゃ


葛城「良い後輩ですか……えへへー」





前世では見送った後ろ姿……次々と沈んでいく仲間……。もうそれは夢みたい。今は、空母として戦う喜びも、一緒に戦ってくれる仲間も、追いかけるべき先輩も……すべてがある……。幸せ……ほんとに幸せ!!






本日分は以上で終了です。次回は明後日火曜日の投下予定です。


>>48
はい、過去作と同じ世界観・時間軸で書いてあります。ただ、過去作の登場人物とのつながりはなく、鎮守府の所在地も、南の島ののどかな場所になっております。


>>49 >>52
瑞鶴さん……なにしてはるんですか?


>>50
光栄です。葛城かわいいですよね!






――――― 2日後 ―――――







――――― お昼前 訓練場


隼鷹「へー、弓なのに矢を使わずに艦載機を飛ばすのかぁ。他に居ないタイプだねぇ」

龍驤「そうなんや。でな、弓をきっかけにしとるだけで、実際は式神使いのうちらに近いんやないか!って思ってな」



龍驤さんのアドバイスの元、今日は式神を使った艦載機運用のお話を聞いています。式神と聞いて、隼鷹さんが応援に来てくれました



葛城「よろしくお願いします」(ぺこり)

隼鷹「んな、堅苦しくしなくていいって。んじゃ、まずは一回飛ばしてみてよ!」

葛城「はいっ」



猛練習のおかげで、わたわたせずにできるようになった発艦~着艦! 先輩方に比べたら、遅いし数は少ないしでトホホだけどね……。





葛城「こ、こんな感じです。どうでしょうか」

隼鷹「ホントだ。確かに式神の気配を感じるね。こりゃ龍驤のあたりだね」

龍驤「せやろ!」

隼鷹「式札を使わないだけで基本は同じみたいだね。となると陣は……」

龍驤「甲板やろうなぁ。うちらみたいに巻物じゃなくて常設なんやね」

葛城「え、えっと……」



何の話か全然わかんにゃい……にゃしぃ(見かけたかわいい駆逐艦の子の真似)





隼鷹「えっとね、あたしらみたいな式神使いは、特殊な陣から力を借りて、触媒を式神に変えて使役するんだよ。わかるかい? 」

葛城「えっと……なんとなく……」

龍驤「でな、葛城も『陣から力を借りて式神を呼び出す』っていうやりかたで、式神=艦載機を呼び出しとる、っちゅーわけや」

葛城「…………」

隼鷹「あたしらは式札を使ってるけど、葛城は弓を使う……多分、儀式なんだね。その儀式で式神を呼び出してるんだ。ほんとは式札を使ったほうが多くの艦載機を制御できるはずなんだけどね」

葛城「………………」(ぷすぷす)

龍驤「……? わーー、葛城、耳から煙がでとるで! タービンの異常加熱や! 」

隼鷹「機関緊急停止! 急いで冷やさないとっ! 水っ水っ」

葛城「ぷすぷす…………」





龍驤「葛城に難しい話をしたらあかん、っていうのは、よーくわかったわ」

隼鷹「あっはっは、漫画みたいだったね! 」

葛城「す、すみません……」

龍驤「理屈じゃなく実践でやったほうが良さそうやね。じゃあ葛城、これ持って」

葛城「これが式札……ですか」

龍驤「せや。ええか、葛城の陣は飛行甲板に書いてある。飛行甲板から力が湧きだして、それがこの式札に流れこむ……そういうイメージを持つんや」

葛城「は、はいっ」



イメージ……イメージ……この甲板から力が湧き出て……わたしの体を伝って式札に力が……



葛城「むむむむ…………」


ぽんっ!





龍驤「お、出来たな。飛びはしとらんが、ちゃんと零戦になったで」

隼鷹「やっぱり力の質が同じっていうのは当たりだね」

葛城「ほ、ほんとだ……ちゃんと零戦の妖精さんが乗ってる……プロペラもちゃんと回ってる……」
龍驤「ただ、葛城の作法とちゃうから、見ての通り発艦しとらんけどな。でも力の質がわかったのはめっけもんや」

葛城「というと……」

隼鷹「葛城は考えちゃだめだよ! また煙でちゃうから」



むー! なんか、頭の残念な子って言われてる気がしちゃうっ





龍驤「考える必要ないわ。葛城は言われたことがすぐできとるからセンスは十分や。難しく考えず、やってみればええんや」

葛城「え、天才肌ですかっ。そこまででもぉ……(くねくね)」

龍驤(そこまで言うとらんけど……まあ、ええか)

龍驤「じゃあ、実践いくで。ええか、さっきは飛行甲板の陣から力が出て、式札に力を集めたやろ? 」

葛城「はいっ」

龍驤「今度はその力を、弓の方に集めるんや。それで発艦してみ? 」

葛城「な、なるほど! やってみます! 」



まずは落ち着いて心を静かにして……さっきと同じように……甲板から湧いてくる力を……わたしの体を伝って……弓に……さ、艦載機のみんな……行くわよ……



葛城「全機発艦! 」



ぶおおおぉぉぉぉぉん



うわ、すごいすごいすごい! これまで多くても20ぐらいだったのに……ひのふのみの……たくさん飛ばせた! やった! やった!





隼鷹「おお、50機ぐらい飛ばせてるね。いけるじゃんっ」

龍驤「これでコツを掴んだみたいやな。うちも肩の荷が降りたわぁ」

葛城「龍驤さん、隼鷹さん、ありがとう! 龍驤さんはずっと教えてくれて、教え上手で……わたしの先生ですっ」

龍驤「あ、あはは。まぁ、提督から頼まれとったからな。提督にもお礼言っといてや」

葛城「提督から……? 」

龍驤「せや。葛城は知り合いが居なくて寂しいだろうから仲良くして欲しい!ってのと、艦載機を飛ばすの、えらい苦労するはずやから、先輩として教えてあげて欲しいってな。そのために、うちを作戦から外したんやで」

隼鷹「なんだ、それで居なかったんだ。きつい作戦なのに龍驤が外れてるのはなんでかなって思ってたんだよ。葛城、提督から大事にされてるじゃん」

龍驤「そうなんよ。提督にも、過保護やなーって言ったんやけどな。葛城は特別なんだ~なんて、珍しく真面目な顔で言っとったで」

葛城「そう……なんですか…………」



あれから全然会ってないけど……。そうなんだ、いろいろ気を使ってくれてるんだ。
わたしは今、とっても充実していて幸せだけど……この環境を用意してくれてるのは提督なんだ……。





飛龍「あ、いたいた。おーい」

隼鷹「おや、二航戦のお二人揃ってどしたの? 」

蒼龍「まだ全然お話出来てないから、後輩と親交を深めようかと思って! 」

龍驤「そか。ええ機会や、葛城、親交ふかめときー」

葛城「は、はいっ。よろしくお願いしますっ」

飛龍「あはは、固くならないでっ。外出許可取ってきてあるから、さ、行こう行こう! 」

蒼龍「行こう行こう♪ 」

葛城「え、あ、あの、どこへ……」

龍驤「ほな、うちらは鳳翔さんとこ行こか。訓練の様子も報告したいしな」

隼鷹「あたしもそうするか。じゃあ、葛城、またなー」

葛城「は、はい、ありがとうございましたっ」



偉大な先輩方に……どこに連れて行かれちゃうの……!?





――――― 午後 泊地の街 ブティック


飛龍「うん、葛城はちょっとラフな感じのが似合ってるね」

蒼龍「活発な感じだし、ショートキュロットがいいよね」



何故かわたしは……着せ替え人形になっていた!!



飛龍「色の好みはどんな感じ? 」

葛城「え、えっと……瑞鶴先輩みたいな迷彩が……」

蒼龍「ふむふむ、イメージカラーはグリーンね。じゃあ、ちょっとワイルドな白地のTシャツに……グリーンのラフなショートジャケットと……こんなもんかな! 」

飛龍「うん、いいね! 葛城、どう? 」

葛城「えっと、なんか自分じゃ無いみたいで……不思議です」

蒼龍「よし、じゃあまとめて買っちゃって、そのまま着て帰ろう! 」

葛城「えええ! そんな贅沢なっ」

飛龍「お姉さんたちにまかせなさーい! ていうかね、お給料の使い道なんて無いからさ、どうせ……」

蒼龍「よし、じゃあ次は甘味処に行こう行こう♪ 」





――――― 1500 甘味処 間宮


間宮「お待たせしました、ジャンボパフェ3つです」

蒼龍「きたきた~~、待ってました! 」

飛龍「間宮さん、ありがとうございます」

間宮「はい、間宮券確かに頂きました。ごゆっくりどうぞ~」

葛城「こんな……こんな夢の様な甘味……本当にわたしの……? 」

蒼龍「そうだよー。立派な戦果を上げると、提督がご褒美に間宮券をくれるからね。それがあればいつでも食べられるんだよ」

葛城「そうなんですか……では頂きます……」(ぱくっ)



ああ……頭のなかにお花畑が……天使が飛び回って……これが……天国!



飛龍「おーい、意識飛ばしてるとアイスが溶けちゃうぞ~」

葛城「はっ! こ、これ、夢みたいに甘くて美味しいです! 」

蒼龍「でしょー! おもいっきり食べよ♪」





――――― 1515 完食


葛城「はふぅ……夢みたいでした……」

飛龍「喜んでもらえて良かった良かった♪」

蒼龍「わたしたちは親戚みたいなものだからね。これからも一緒にお出かけとかしようね」

葛城「そっか、雲龍型は改飛龍型って言われてるから……」

飛龍「そうそう、最初に蒼龍、改良型のわたし、その改良型があなたね。お姉さん二人が居ないのが残念だけど……そのうち仲間に加わってくれるわ」

葛城「はい、楽しみにしてます! 」



こんな楽しい生活……雲龍姉さんと天城姉にも……





葛城「でも、街があって、お買い物ができるなんて……びっくりしました」

飛龍「まーねー。本土の鎮守府だと、艦娘は外出禁止で隔離されてるらしいけど、ここみたいな南国の島だと、人目なんて無いから、そのへんもゆるいみたいだよ」

葛城「でも、店員さんとかいっぱい居ましたよね……? 」

蒼龍「あの子達もみんな艦娘だよ。商船とか、輸送船とか、客船とか……そういう船の」

葛城「そうだったんですか……」



あ、そっか。だからみんな同年代の女性ばっかりなんだ。





飛龍「街と言ってもささやかなものだけど、せっかく艦娘に転生したんだから、お買い物とか甘いものとか、いろいろ楽しみましょ♪ 」

葛城「はい……なんか楽しくて美味しくて、ちょっと戸惑ってますけど……。でも、すごく嬉しいです。その……わたしなんかを誘ってくれて、ありがとうございました」(ぺこり)

蒼龍「もー、親戚だって言ったのに、そんな他人行儀はしないでっ」

葛城「で、でも、お金とか間宮券とか使ってもらって……」

飛龍「あー、それは気にしなくていいよ。実は、そのへんは提督から出てるから」

葛城「え……? 」

蒼龍「葛城に街の楽しさとか案内して欲しいって頼まれたの。わたしたちにとっても願ったりかなったりだったから、喜んでね、こうしてご一緒してるの」

飛龍「提督は、あなたのことをずいぶん気にしてるみたいね。心配してるみたいだから、よかったら顔を見せてあげてね」

葛城「は、はい……」



また……提督……。新人の面倒見が良い人なのかな。一人ひとりにこんなに気を配って、大丈夫なのかな。とは言え、ちゃんとお礼は言いたいな!





――――― 1800 提督執務室


コンコンコン


提督「ん? はーい、あいてるよー」


ガチャ


葛城「お、おじゃまします……」

提督「今日はもう大淀帰っちゃったから、遠征報告は明日に……って、葛城か!ひさしぶりだな。 そっか、街の服屋に行ったのか」

葛城「う、うん……」



あう……普段の服だと気にならないけど……違う服を着てると、どう評価されるのか、すごく気になる……



提督「ちょっとかっこいい系の、可愛い服だな。飛龍と蒼龍が選んでくれたのか。いいな、似合ってるぞ」

葛城「そ、そう? ふふん、当然よ、なんといっても正規空母だものっ 」(意味不明)



なるほど、飛龍さんと蒼龍さんがあれこれ悩んで選んでいた理由がちょっとわかったかも。こうやって褒めてもらいたくて頑張るんだね。





提督「雲龍と天城が居なくて寂しいだろうが、飛龍と蒼龍は、葛城に一番近い親族艦?だからな。かわりと言っては何だが、仲良く出来るといいな」

葛城「もちろんよ! もうばっちり仲良くなったわ! 」

提督「はは、それなら良かったよ」



違う違う……龍驤さんや飛龍さんや蒼龍さんの事、きっと他にもいろいろ気を配ってくれていることのお礼を言いに来たんだ……。わたしは礼儀知らずじゃ無いんだから! しっかりお礼は言わないとねっ



葛城「あ、あの……」

提督「でもなー、親族の割にはなぁ……」

葛城「えっ! な、何かまずい? 」

提督「いや、なんというか……出るところが出てないなと……Tシャツなんか着てるから、ぺったんこなのがすごくわかるというか……」



!!!





提督「ちゃんと美味しいもの食べて来たか? しっかり栄養を取ってないせいかもしれないから、ちゃんと食べたほうがいいぞ」


葛城「あ、あ、あ、あ………あなたねぇ! どこ見てるのっ。空母としての性能は……そんなところ関係無いんだからっ! 龍驤さんだって、瑞鶴さんだって……控えめだけど立派な空母だものっ! 」

提督「あ、ああ……(この発言は俺の胸のうちにしまって置かないとな……) 」

葛城「もう、どういうつもりなのよっ。ばかぁぁ! 」


だっだっだっだっだ





もうっ! もうっ! お礼を……心からの感謝を伝えるつもりだったのにっ。ばかばかばかばかばかぁ


本日分は以上となります。

蒼龍から続く、蒼龍~飛龍~雲龍型 の流れの中で、葛城だけが…無常にも……。でもしょうが無いよね。それが魅力だよね。

さて、次回は明後日木曜日の投下となります。また是非お越しいただけると嬉しいですっ。






――――― 3日後 ―――――







――――― 提督執務室


提督「そうですかー。龍驤からも聞いてますが、とりあえず空母としての出撃は大丈夫そうですね」

鳳翔「ええ、毎日毎日猛練習してますからね。コツも掴んだようですし、もう戦いも大丈夫だと思いますよ」

提督「でもなぁ。あの性格ですから、実戦ではさぞかしバタバタするでしょうねぇ……」

鳳翔「くすっ。それは否定しません」

提督「まずは演習で慣れてもらって……できればしっかりしとたベテランと組んで……ブツブツ」

鳳翔「くすくす。みんなが『提督は葛城に過保護だ』って口を揃えて言っていますけれど、これは言われても仕方がないですね、提督」

提督「ぐっ……。か、過保護でしょうか……? 」

鳳翔「そうですね。ちょっと過保護かもしれません。でも、わたしのかわいい末の妹を大切にしてくださって、とっても感謝しています」

提督「あはは……本人がどう思っているかはわかりませんけど。なんだかツンツンされてますよ」

鳳翔「ええ、提督のデリカシーの無さは、葛城さんから良く聞いてますよ。もうちょっと女の子としても大切に扱ってあげて欲しいですけれど」

提督「あはは……良くわからないけど、がんばって大事にしますよ」





提督「それじゃあ、近々演習に参加してもらうことにします。どうでしょう、その時、鳳翔さんもご一緒頂けませんか? 」

鳳翔「いえ、わたしよりも、最前線で今後共に戦うことになるベテランと組むのが良いと思います。加賀さん、赤城さんが良いですね」

提督「うむむ……大丈夫でしょうか? 」

鳳翔「大丈夫ですよ。ちょっとしたジェネレーションギャップはあるでしょうけれど……」

提督「葛城の言葉で、二人がずいぶん落ち込んでましたね。なだめるのに苦労しましたよ」

鳳翔「うふふ、そうですね。でも大丈夫、きっとお互い、良い刺激になると思います」

提督「鳳翔さんがそう言うなら間違い無いですね。では、葛城の初演習は、加賀・赤城両名と組ませましょう。しかし……葛城が赤くなったり青くなったりドタバタするのが目に見えるようですね」

鳳翔「くすくす……そうですね、ちゃんとフォローしておきます」

提督「お手数をお掛けします」





――――― 午後 提督執務室


うう、急に呼び出されたけどなんだろう……。先日のアレ以来、事あるごとに提督に冷たくしてたから、それで怒られちゃうのかな……。ううん、あれは提督がいけないんだもん! わたしは悪くないわっ。で、でもっ。提督はあんなだけどここの司令官……偉い人だし……お前は生意気だから解体だー! なんて言われたら……ど、どうしよう……。



大淀「あら葛城さん、もう来ていたのですね。どうしました? 扉の外で」

葛城「ふぁっ! お、お、大淀さん、わ、わたし……解体されるのはイヤだよぉ」

大淀「…………え? 」

葛城「だ、だって急に呼び出されたから……」

大淀「…………ぷっ。いえ、失礼。大丈夫ですよ。明日の出撃に関する通達と相談ですから」

葛城「へ……出撃!? 」

大淀「とはいえ演習ですけどね。葛城さんにもそろそろ実戦を経験していただこうと思うって、提督がおっしゃってましたから。詳しくは中で提督から直接お聞きください」



出撃……出撃!?





提督「おう、大淀、お帰り。葛城も来てくれたか、入ってくれ」

大淀「ただいま戻りました。葛城さんは、提督に解体されちゃうんじゃないかって、扉の外で怯えていましたよ」

提督「へ? 」

大淀「提督、普段から葛城さんにセクハラばかりしてるから、そんな誤解されちゃうんじゃないですか? 」(くすくす)

提督「しとらんわっ! 」

葛城「あ、あははは……急に呼び出されたからなんだろうって不安になっただけだよっ」

提督「……? ああ、そうか。日常的に出撃や遠征に出るようになると、その説明で度々、呼び出させてもらうことになるから。そっか、葛城を呼び出すのははじめてだったからな。緊張させてすまんな」

葛城「あ、謝らないでよっ。わたしが勝手に誤解しただけなんだからっ。あなた、すぐそうやってわたしのこと甘やかすからっ」

提督「そうかなぁ。別に甘やかしてるとは思わないんだけど……」



そんなだから……『あの堅物提督は、葛城に一目惚れでもしたんじゃないの?』なんて、からかわれちゃうんだから……。





大淀「提督、説明説明」

提督「おお、そうだった。葛城、呼び出したのは他でもない。明日の演習には葛城も参加してもらう。今日中に明石のところで装備換装を受けておいてくれ。実戦の練習だから、艦戦、艦攻、艦爆、偵察機、と万遍なく積んで、いろいろやってもらうからな」

葛城「は、はいっ! 」



出撃……ほんとに……演習とはいえ…………出撃して、空母として戦うんだ…………!



大淀「葛城さん、演習ですから攻撃はすべてペイント弾を使います。とは言え、相手がいる戦い……実戦です。はじめてですよね。頑張ってください」

葛城「不安ですけど……がんばりますっ」

提督「大丈夫だよ、しっかりした先輩空母と一緒の艦隊だから、気楽に、自分のやるべきことをすればいい」

葛城「それなら安心です。瑞鶴さんですかっ! 」

提督「いや、加賀と赤城」



葛城「………………え゛? 」

提督「加賀と赤城だ。まぁ、ちょーーっと最初は怖いかもしれないけど、がんばれよ!」(いい笑顔)

葛城「…………えーーーーーーーー! 」





――――― 翌日 午前 演習海域


…………葛城です。艦隊の空気が最高に冷たいです……



長門「全艦停止! 演習時間までここで待機する」

加賀「……了解」

赤城「了解です」

那智「了解した」

不知火「了解」

葛城「りょ、りょ、了解ですっ! 」



うう、誰も何も喋らないし……一航戦のお二人とは話しにくいし……他の皆さんも怖そうな人ばかりだし……

き、緊張して……歯がカタカタいってる……こんなことで戦えるの、わたし……?





赤城「葛城さん」

葛城「ひゃ、ひゃい!!!」

那智「ぷっ。なんて返事だ。貴様、緊張しすぎだぞ。演習なんだ、もっと気楽にしろ」

長門「? なんだ、葛城は緊張していたのか。雪風並に賑やかな空母だと聞いていたのに、おかしいと思った」

不知火「……」

葛城「す、す、すみませんっ! 」

長門「む、そろそろ時間だな。索敵開始だ。葛城も彩雲を」

葛城「は、はいっ! 」



偵察ね偵察。あ、あれ……? まだ偵察なのに……手が震えて……





加賀「葛城、緊張していては実力を発揮できないわ。訓練は十分に積んでいるのだから、落ち着いてやりなさい」

葛城「えっ? 」

赤城「毎日毎日、あれだけ訓練を繰り返していたんですもの。落ち着けば何の問題も無いですよ。さ、深呼吸して、まずは彩雲を飛ばしてあげなさい」(にこっ)

葛城「はいっ! 」



一航戦のお二人……怒ってて口を聞いてくれないのかと思った……。言われたとおり、深呼吸して……すーはーすーはー……。落ち着いて、いつも通り……。



葛城「彩雲発進っ。敵を見つけてきて! 」

那智「よし、落ち着いたようだな。演習とはいえ負けるわけにはいかない。頼むぞ」

不知火「わたしがしっかりと護衛を務めさせて頂きます。どうぞ安心して戦ってください」





葛城「!!! 彩雲より入電。敵艦隊発見! 」

長門「でかしたっ。では、航空戦開始! その後速やかに砲撃戦に移るっ」



航空戦! いよいよ、わたしの艦載機で敵を攻撃する時が……。この時がっ!



葛城「了解、全機発艦します! 」



落ち着いて……練習したとおり……そう、みんな良い子だね……



葛城「よし、全機発艦完了っ……って……えええっ! 」



ようやく発艦を終えた頃……上空には、無数の航空機が……一糸乱れぬ隊形で、わたしの発艦を待ちわびていました……。これほどの艦載機を、とっくに発艦終えていたの!?





赤城「赤城航空隊が先行、続いて加賀さん、最後が葛城さんです。続いてください」

加賀「了解」

葛城「りょ、了解っ! 」



言われなくても……ついていくのがやっとで前になんて出られない……。なんて練度なのっ!



赤城「敵艦隊見ゆ。攻撃開始っ! 」

葛城「こ、攻撃開始っっ!!」


……







――――― 正午 港


葛城「は、はぁぁ、お、おわったぁ……」

へたりっ


初の実戦(演習だけど)で、何とか戦って……そしたら、補給して次、補給して次、で5連戦! し、死ぬかと思った~



長門「こら葛城。演習完了の挨拶がまだだ。ちゃんと立って敬礼するまでが演習だぞ」

葛城「は、はいぃぃっ! 」


直立!


長門「では、午前中の演習を終わる。結果は5連勝と、とてもよい成果だ。皆の奮闘に感謝する。では、解散っ」


敬礼っ


葛城「はぁぁ、今度こそ終わったぁ……」

へたりっ





赤城「ふふっ、お疲れ様。やっぱり初実戦は大変ね」

加賀「まだまだですが、初実戦にしてはよく頑張りました」

葛城「赤城さん、加賀さん……。いえ、お二人の練度の凄さにびっくりして……自分の未熟さを思い知らされました……(しょぼん)」



ほんとうに……あらゆる意味でレベルが違いすぎて……



赤城「ふふっ。葛城さんはまだ艦娘になったばかりじゃないですか。練度が上がるのはこれからですよ。それに、あなたは前世で艦載機の運用経験がほとんど無いのでしょう? 」

葛城「は、はい……ずっと対空砲ばっかりで……」

加賀「わたしたちには前世の蓄積がありましたから。それ無しでここまで戦えるのは立派なことです」

那智「ふふっ。加賀さんがこんなに人を褒めるのははじめて聞いたな。いつもは瑞鶴にきついことを言ってるのにな」

長門「そうだな。わたしもこんな加賀ははじめてだ」

加賀「/// べ、別にそんなことは……」





赤城「うふふ。葛城さんは、毎日毎日、朝から晩までずっと訓練してるんですよ。そのがんばりを見て、わたしたちも感心してたんです。加賀さんは、地道な努力を欠かさない子が好きですから」



……そっか……頑張ってるのを見て、認めて……くれた? 偉大な大先輩に……?



葛城「ありっ……ありっ……ありがとうございます(ぺこぺこ)」

赤城「堅苦しいのは抜きにして、初出撃のお祝いに甘味処でも行きましょう。さ、加賀さんもっ」

加賀「……甘味ですか……それは拒否できません。ご一緒します」

葛城「は、はいっ!」





――――― 少し後 甘味処 間宮


葛城「ふわぁぁぁ、美味しそう~~」(並盛り)

加賀「さすがに気分が高揚します……いただきます」(大盛り)

赤城「もぐもぐ、あ、お先に頂いてます」(特盛り)

間宮「はい、ごゆっくり~♪」



葛城「あ、あのっ! 先日は、お二人に不快な発言をしてしまって……本当にすみませんでしたっ! 」

赤城「あはは、いいんですよ。あれはわたしたちが大人げ無い……というか、うーん、ジェネレーションギャップというんでしょうか? 」

加賀「あの後、提督から詳しくあなたのことを説明されました。わずか数年で、そんなにも状況が変わっていたなんて知りませんでした」

葛城「そ、そうなんですか……? 」

赤城「そうなんです。良かったら、あなたが生まれた頃の様子とか、戦いのことを教えて頂けますか? 」

葛城「は、はい。えっとですね……」





加賀「本当に艦載機がゼロだったのですか……」

葛城「はい、最後の大きな海戦で、圧倒的な敵戦力と、航空機迎撃の新兵器なんかにやられてしまったそうで……。新編成の予定はあったのですが、それも実現せず……」

赤城「空母として生まれたのに……それは辛かったですね……」


……


赤城「では、対空砲満載で出撃されたのですか? 」

葛城「それが出撃するための重油すらなくて……。残った艦はみんな、港で防空の浮き砲台として……」

加賀「そこまで……追い詰められていたのですね……」


……


葛城「逆に、お二人の時代はどんな……? 」

加賀「わたしの頃は、まだ世界に空母という船が誕生したばかりで、どのように活用するか、手探りの状況でした。鳳翔さんや龍驤と一緒に、基地攻撃をしたり……」

赤城「零戦や97艦攻、99艦爆が登場して、戦闘力が一気に向上したころで……」

葛城「そっか……前例のない中、手探りだったんですね……」


……






加賀「なるほど、今日はよい勉強になりました。大戦前期に沈んでしまったわたしたちからは想像もできないような状態だったのですね」

葛城「その発言は、本当にゴメンナサイ……」

赤城「うふふ、嫌味で言っているわけではありませんよ」

葛城「でもっ。転生したら、艦載機をいっぱい積んで、今日はついに実戦もできて……。もう、本当に幸せですっ! 転生して良かった~~」

加賀「艦載機で戦える幸せですか……。そうですね、とても幸せなことです」

赤城「ふふ、素敵な気持ちですね。わたしも大事にしないと。あ、そうそう、艦載機を載せて実戦したのは、今日がはじめてなのですね? 」

葛城「? は、はい。はじめてです! 」

赤城「ということは……『これ』を食べるのもはじめてですね……」(すっ)



なんだろう……パンみたいな石みたいな……?





赤城「どうぞ、とっても美味しいですよ? 」

葛城「え、は、はいっ……。かぷっ……」



何これ……! 不思議な甘さが体中に広がるみたいな……



葛城「すごく……不思議な美味しさです。これは一体……?」

赤城「それが……ボーキサイトですよ! 」

葛城「!!! そ、そんな、幻の食材を……食べちゃいましたっ! 」

加賀「あなたの時代では幻の食材かもしれませんが、ここでは、消耗した艦載機の補充のために、日常的に補給することになりますよ」

葛城「ほ、補給のたびに……こんなに美味しい物を食べられるなんて……空母に生まれて良かった!」(じ~ん)


赤城(キラリ)「葛城さん、あなたは同志になる資格がありそうです。たとえ銀蠅と呼ばれることとなっても、ボーキサイトをたくさん補給するために、ともに戦いましょうっ! 」

葛城「は、はぁ……? 」



わたしの初実戦も何とか無事終わり……怒らせてしまったと思っていた大先輩たちも、とっても良い人達で……。今日もまた、とっても幸せな一日でした。とは言え、練度の差がすごくてびっくりしたなぁ~。うう、もっともっともっと訓練して、いつか立派な……加賀さんや赤城さんや……なにより、瑞鶴さんみたいな、立派な正規空母になるんだっ!



本日投下分は以上となります。次回は日曜日夜に投下予定です。

葛城は改装すると「ばかぁ」って言ってくれなくなるんですよね。早く2隻目をゲット出来るようになって、嫁用とばかぁ用の二人に囲まれる生活を送りたいです。



【おまけ】

葛城「ぐすっ……ひっく……ひっく……」



網に捕まって、天井近くまで吊るしあげられて……痛いよー、辛いよぉ



明石「大きな鼠がかかりましたが……本命は逃しましたね」

鳳翔「ええ、影すらも見えない……見事なものです」

間宮「彼女は手ぶらのようですし……オトリに引っかかったわけですね」

提督「はぁ……なんでこんな技術ばかり磨くのか……。十分な補給はしてるのになぁ」



鳳翔「それで、葛城さんはどうしてこんな真似をしたんですか」

葛城「ひっく……ひっく……だって……赤城さんが……『正規空母の大事なお勤め』だって」

提督「やっぱり同じパターンか。二航戦も五航戦も一度はこうやって捕まってるわけだから……葛城は新たな犠牲者ということでいいでしょう」

鳳翔「そうですね。でも、銀蝿の片棒を担いだのは間違いありませんから。おそらく、作戦成功の暁には、ボーキサイトをいくらでも食べられる、なんていう甘い言葉に誘惑されたんですよね? 」

葛城「ぎくっ! 」





鳳翔「では、反省を促すためにも、朝までこのままですね」(にっこり)

葛城「えええ! うう、ごめんなさい、もうしません! だから、降ろしてくださいー」

提督「鳳翔さん、そんなに厳しくしなくても……」



提督……がんばれ!



鳳翔「駄目です。提督は甘すぎます。朝までこのままです」

提督「……はい」

葛城「提督~、もっとがんばってよー。うわーん」



おまけ終わり








――――― 1か月後 ―――――







――――― 早朝 訓練場


葛城「よしっ、彩雲帰還っ。じゃあ、全機発進して上空で編隊を……」



今日も頑張って訓練中! 演習と実戦には普通に参加できるようになってきたけど、先輩方との練度差を少しでも埋めないとっ。わたしの発艦を待ってもらってる時間がほんとに申し訳ないし……とほほー。



加賀「あら葛城。早いのね」

赤城「葛城さん、おはようございます。早朝から訓練とは、熱心ですね」

葛城「加賀さん、赤城さん、おはようございます! いやー、今日はまた秘書艦の指名を受けてて、お昼に訓練できそうにないから、せめて早朝に訓練しようかなって」

赤城「あら、またですか? 最近多いですね」

加賀「お陰で、わたしは秘書艦になる機会が減って楽になりました」

赤城「ふふ……でも、本当に、提督は葛城さんびいきですね。これは本当に噂通り……」

葛城「ち、違いますっ。わたしは、艦隊運用とか出撃とか遠征とか、みなさんが普通に知っていることをあんまり知らないから、見ておいたほうがいいって……勉強なんです勉強! 」



実際、わたしは秘書艦になってもあまり役に立たなくて、実際は、大淀さんや青葉さんが仕事してるのを横で勉強させてもらってる感じだもの。覚えることが多くて大変っ!





加賀「でも、戦いは艦載機が飛ばせれば良いというものではありません。艦隊のこと、陣形の事、補給のこと、勉強するのはとても良いことです」

赤城「そうですね、慣れないことで大変だと思いますけど、がんばってくださいね」

葛城「はいっ! 」


加賀「それから……あなたの訓練を見ていて思ったのだけど」

葛城「は、はいっ。何でしょう! 」



加賀さんは厳しい先輩です。何かダメな点のお叱りかな……ドキドキ



加賀「偵察から編隊飛行の訓練は良いと思うのですが、不測の事態への対応をもっと学ぶべきですね」





葛城「不測の事態……? 」

加賀「そうです。敵の奇襲、それに伴う味方の損失。そういう危機的状況でも戦えるように。例えば、仲間の空母が全滅した時にでも冷静に反撃ができるように」

葛城「そんな……」

加賀「実際にそういう状況で、飛龍は冷静に反撃して敵に一矢報いたそうよ。あなたも飛龍の改良型。そういう力も身につけて」



なんだろう……確かに必要な訓練だと思うし、重要な事なんだけど……。これまで教えてもらったことと違う……なんというか、心が納得しないような……。でも、大先輩のアドバイス。大事にしないとだよね。



葛城「はい、がんばってみます……」

赤城「あら、話し込んでいるうちにもう時間ですね。葛城さん、そろそろ提督のところに行かないと」

葛城「ほんとだ! そ、それじゃあお先に失礼しますっ。急がなきゃっ」





――――― 午前 工廠


葛城「うう、開発ってドキドキする~。やだよー」

提督「わははっ。まぁ、レシピさえあっていれば、あとは運頼みのくじ引きだからな。葛城の運が試される時だ! 」

葛城「うー、それならわたしじゃ無くてもいいじゃない」

提督「逆に、経験も練度も不足している葛城でも、他のみんなと同じようにできる仕事でもあるわけだ。ほら、一番良い艦載機が欲しいんだろ。ならば自分で作る作るっ」

葛城「わかったわよ。えーっと、燃料20の弾薬60の……ぶつぶつ」


……


提督「うん、失敗ペンギン可愛いよな」

葛城「うう……慰めなんていらないわよっ。おかしいなぁ」

提督「毎回うまくいくわけじゃないし、ペンギンが出るなんてしょっちゅうさ。気長にやろうぜ」

葛城「うう、でも、3回ペンギンと1回九九式艦爆って、残念すぎる~」

提督「こらこら、九九式艦爆を外れ扱いすると、瑞鳳に怒られるぞ~」

葛城「はっ! い、いえ、九九式艦爆の足はほんとにかわいいです!」←調教済み

提督「ま、どっちにしろデイリー終了だ。おつかれさん、昼飯でも行こうぜ」





――――― 午後 提督執務室


葛城「ふわ~、洋食屋さん美味しかった~」

提督「鳳翔さんの和食は絶品だけど、たまには洋食もいいよな。ほい、お茶」

葛城「ちょ、ちょっと……お茶を入れるのは秘書艦の仕事でしょっ。なんであなたがお茶いれてるのよっ」

提督「うーん……葛城が満腹の幸福感をにじませながら、ソファーで溶けてるからかな? 」

葛城「ぐぬぬ……えーえー、悪かったですよっ。気が利かない秘書でっ」

提督「あはは、別に秘書艦に雑用させたい訳じゃない。お茶くらい入れるさ」

葛城「ふんっ。まぁ……ありがと(ずずー)」





葛城「そうそう、今朝訓練場で加賀さんと赤城さんに会ってね」

提督「朝練してたのか。偉いなぁ。それで? 」

葛城「う、うん……。それで、加賀さんにこんなこと言われて……(葛城説明中)……。なんだろう、せっかくのアドバイスなのに、なんだかしっくり来なかったの」

提督「うーん……。その辺は相変わらずだなぁ。となると、加賀と瑞鶴はまだ和解してないんだろうなぁ」

葛城「へ? 何の関係があるの? 」

提督「んー。加賀と瑞鶴。葛城も多分瑞鶴側だな。そこには、ちょっとした意識の差というか溝があるんだよ。ちゃんとお互いの本音をぶつけ合えば簡単に埋まると思うんだけど……。お互いに意地っ張りだから、ずっと冷戦してるんだよなー」

葛城「そういえば、加賀さんと瑞鶴さんは、仲が悪いよね」





提督「意固地にならず、二人ともちゃんと話せばいいのにな。葛城ならわかるだろ? 」

葛城「え……? ううん、全然わかんない」

提督「そうか……葛城は残念な頭の子だったな……」

葛城「むきーー! なんてこと言うのよっ。瑞鶴さんみたいに爆撃するわよっ! 」

提督「うおっ。変なとこばかり先輩の真似するなっ。じゃあ、簡単に言うと、加賀は残されるものの気持ちを知らないんだよ」



葛城「……残される……残された瑞鶴さん……そっか……」

提督「……葛城なら良く分かる気持ちだろ。葛城にとっての瑞鶴が、瑞鶴にとっての加賀なんだよ」

葛城「うん……わかる。瑞鶴さんが怒る気持ちもすごく分かる気がする。そっか……」





――――― 夜 鳳翔さんのお店


葛城「もぐもぐ……はぁ……」

鳳翔「どうしました、ため息なんて? 」

葛城「あ、鳳翔さん」

鳳翔「珍しく一人で食べていると思ったら、元気がありませんね。よいしょっと。良かったらお話して頂けませんか? 」

葛城「……えっとね……(葛城説明中)……という感じで……。加賀さんの気持ちも分かるけど、瑞鶴さんの気持ちがもっとわかるし……。なんだか難しくて……」

鳳翔「そうですか……」

葛城「はぁー。わたしはどうしたらいいのかなー」

鳳翔「ふふっ。葛城さん、あなたは、どうなって欲しいんですか? 」

葛城「えっ? そ、そうですね……やっぱりケンカは嫌ですから、加賀さんと瑞鶴さんが仲良くできたらいいなって思います 」

鳳翔「そうですね。あなたがそのために何かしたいのであれば、思いついたことを頑張ってみると良いと思います。あなたは良いきっかけになるかもしれません」





葛城「きっかけ……ですか? 」

鳳翔「ええ。加賀さんと瑞鶴さん。お二人の問題は、やっぱり当人同士で解決するしかありません。それも、提督の仰るとおり、実は簡単に埋まる程度の溝なのに、お互い意地をはっていて前に進んでいないだけの状態です」

葛城「は、はい……」

鳳翔「わたしを含め、みんなは、当人同士の問題だし、お二人共やるべきことはしっかりとやっているので、特に介入してきませんでした。でも、あなたは何とかしたいのでしょう? 」

葛城「……はいっ。二人とも尊敬すべき先輩ですし。それになにより……瑞鶴さんはきっと、自分の気持ちを加賀さんに分かってもらいたいんです。わたし、瑞鶴さんが大好きですから、やっぱり応援したいですっ」

鳳翔「ふふふ……あなたの、その真っ直ぐな行動力は……とっても眩しいです。……人によっては若いとか子どもっぽいなんて言うかもしれませんけれど。応援していますから、自分の信ずるままにがんばってくださいね 」

葛城「は、はいっ。鳳翔さんの応援があれば百人力です! 何ができるかはわからないけど……頑張りますっ」



ほんとに……わたしが何ができるかわからないけど……。瑞鶴さんのために頑張るんだっ。




本日分は以上となります。加賀さんと瑞鶴のお話、前編でした。
とか言いつつ、加賀さんも瑞鶴もほとんど登場しないという……。うーむ。次回は思いっきりずいずいかがかがしたいです。

次回は明後日、火曜日の投下予定です。よろしければまた是非お越しください



――――― 翌日午前 提督執務室


コンコンコン


大淀「どうぞ」

葛城「お、おはようございます。提督いますか? 」

提督「いるぞー。おはよう葛城。おまえ、今日は秘書艦じゃないぞ。勘違いか? 」

葛城「そんなのわかってるわよっ! えっと、ちょっと提督に相談があってさ」

提督「ふむ。空母のことなら鳳翔さんや瑞鶴に聞いたほうがいいと思うけどな」

葛城「う、ううん。えっと、戦いのこととかじゃなくて……なんというか……」



大淀「……提督、明石との打ち合わせがあるので、工廠に行ってきてよろしいですか? 」

提督「ああ、そうか。じゃあ行ってきてくれ。……ありがとな」

大淀「くすっ。はい、それでは行ってまいります。葛城さん、少し提督をお願いしますね」

葛城「は、はいっ」





提督「じゃあ聞こうか。どうしたんだ? 」

葛城「えっと、昨日話したことの続きなんだけどさ。瑞鶴さんと加賀さんのこと」

提督「あはは、やっぱりその件か。じっとしてられない性格だなぁ、ほんと」

葛城「う、うるさいわねっ、いいでしょ! 鳳翔さんだって、自分の信ずるままがんばれって言ってくれたんだから! 」

提督「俺もそう思うよ。葛城の良い所は、素直で真っ直ぐなことだと思う。周りがうらやましく思うような……な。そんな葛城には、やっぱ行動するのが似合うよ」

葛城「なっ……!! ///」



なによっ。きゅ、急に褒めないでよ!



提督「それで、具体的に何をするつもりなんだ? 」

葛城「そ、そうそう、それよそれ。一晩考えたんだけど……考えようとしてたらすぐ寝ちゃったんだけど……具体的にどうしたら良いか、思いつかなかったから……その、相談に……」

提督「ぶっ。ほんと、考えるのは苦手なのなー」

葛城「そんなことないんだからっ。ちょ、ちょっと経験が足りないだけだもんっ」





提督「そうだなぁ……じゃあ状況を整理しよう。葛城は、どういう問題を解決して、どんな結果を出したいんだ? 」

葛城「え……! うーん、うーん……問題は、加賀さんと瑞鶴さんがケンカしてることで……二人が仲良くなれればいいなって」

提督「じゃあ次だ。加賀と瑞鶴はどうしてケンカしてるんだ? 」

葛城「そ、それは……えっと……加賀さんが…………」


……



葛城「よし、なんとなくわかった! 頑張ってみるわっ」

提督「それなら良かったよ」

葛城「でもさ。あなた、全部答えがわかっているような感じじゃない! それなら、どうして今まで何もしてなかったよっ」

提督「ん? 別に何もしてなかった訳じゃないぞ」





葛城「だって、二人がどうすれば仲直りできるか、詳しくアドバイスしてくれたじゃないっ。なんで今まで、それを自分でしなかったのか?って聞いてるよのっ」

提督「だってお前、俺は司令官だぞ? 個人的な好き嫌いに介入するのは立場上できないよ。命令されて嫌いな奴と仲良くするなんて嫌だろ? 」

葛城「そ、それはそうだけど……」

提督「さっきのアドバイスは、仲間が行動してこそ意味があるのさ。それもさ、葛城、お前がすごく瑞鶴に近い立ち位置だから、なおさら意味がある。そうだろ」

葛城「……そっか…………」

提督「それにな……俺は、加賀の気持ちもよく分かるから、葛城みたいに、一方的に瑞鶴の味方をできないさ」





葛城「なによそれ……加賀さんの気持ち……? 」

提督「うん。今回、お前が頑張って、瑞鶴と加賀を仲直りさせられたら、きっと聞くことができるさ」

葛城「そっか……うん、迷わず頑張る! きっとうまくいくっ」



そう……なんか作戦は全部提督が考えたわけだけど……うまくいくよ!



提督「しかしまぁ……仲間を少し仲良くさせるために、そんなに熱心に頑張るっていうのは……」

葛城「……? 」

提督「すごく素敵なことだと思うぞ。俺は、葛城のそういうところ、すごく好きだ。ちゃんと骨は拾ってやるから、玉砕覚悟で頑張ってこい」


わしゃわしゃ


葛城「もうっ! もう少し言い方ってものが……あるじゃない…………」



うう、好きだって何よ……なんでそんな優しい目で見るのよ……。調子狂っちゃうじゃない……。





――――― 午後 訓練場


葛城「こ、こんにちは」

瑞鶴「あら葛城、今日は遅かったのね」

翔鶴「葛城さん、こんにちは」

加賀「こんにちは」

赤城「葛城さん、こんにちは。はい、またボーキですよー」

葛城「だ、だめですっ。それを食べると、また共犯にされちゃいますからっ」(がくがく)

赤城「おいしいのに……(もぐもぐ)」



共犯になって……ひどい目にあったからね……



葛城「さ、さてっ。午前中は訓練できなかったので、がんばって訓練しますね! 」

瑞鶴「お、今日もやる気じゃないっ。じゃあ早速やりますか! 」



ドキドキ……ちょうどみんな揃ってる……。提督がはからってくれた結果だから当然だけど……。頑張らなきゃ!





葛城「……ふうっ。全機帰還」

瑞鶴「よしよし、ずいぶん早くできるようになったわね。艦攻で両舷から同時に雷撃も上手くいったし」

葛城「は、はいっ。でも、まだまだ一つ一つが遅くて、瑞鶴さんに待ってもらうことが多いのが気になります……」

瑞鶴「あはは、まあ、経験の差はまだ大きいからね。でも大丈夫。飛ばすのにも苦労してたあの頃と比べたら十分成長してるよ。出撃時にはちゃんとフォローしてくれる仲間もいるんだから、一つ一つをしっかりやれば良いわっ」

翔鶴「そうね。艦ごとの差があるのは当然ですから。お互いフォローしあって、得意を活かすのは良いことだと思います」

葛城「は、はいっ。わたしも、誰かをフォローできるくらいに頑張らないと……」





加賀「五航戦の二人。後輩を指導するのは良いけれど、甘やかしてばかりではダメです」

翔鶴「甘いでしょうか? 」

加賀「甘いですね。昨日、葛城にも言いましたが……不測の事態や、仲間が先に沈んでしまう場合もあります。いつも仲間がいる前提ではなく、何でも一人で乗り切れるように鍛えるべきです」

瑞鶴「そういうのは、一人で訓練するときにできるでしょっ。仲間がいて、連携して最高の戦果をあげられるように鍛えるべきだわっ」

加賀「……あなたとは、この件では以前も相容れなかった覚えがあります。経験を積んでも、あなたはまだ変わっていないのね」

瑞鶴「ええ、これは絶対に譲れないわっ。仲間と一緒に最高の戦果を上げるのが最優先! 」

加賀「練度は上がっても、甘いところは変わらずですか。これは、葛城の指導はわたしがついたほうが良さそうね」

赤城「加賀さん……」

瑞鶴「いいえ! あなたは間違ってる。葛城はわたしがしっかり指導するわ! 」

翔鶴「瑞鶴、熱くなりすぎよ……」



うう、怖いよぉ。そっか、ほんとにこの話題はタブーで……こういうケンカになるから、誰も触れないようにしてたんだ……で、でもっ……。





葛城「か、加賀さん! わたしは瑞鶴先輩を尊敬してますっ。ですから、瑞鶴先輩に指導していただくつもりですっ! 」



い、言っちゃった! 怖い怖い怖いよ~~~



加賀(ジロッ)「…………はぁ……。そうですか、あなたは見込みがあると思っていたけど残念ね。いいわ、二人で仲良くなさい。わたしはこれで失礼します」

赤城「加賀さん、そんな言い方は……」


スタスタスタ



ダメ、加賀さんが行っちゃう! 止めないと……聞いてもらわないと!



葛城「加賀さん、待ってください、話を聞いてくださいっ!!」



がしっ←加賀にしがみついた





加賀「な、何ですかうっとおしい! 放しなさいっ」

葛城「放しませんっ。お願いです、少しだけ聞いてくださいっ」(ぎゅー)

加賀「はぁ、もう何なのですか……」

赤城「ふふっ。加賀さんの負けですよ。さ、葛城さん、加賀さんはちゃんと聞いてくれますから、落ち着いてお話してください」



うう、赤城さんありがとう!



葛城「は、はいっ。お話したいのは、わたしの……それから、尊敬する瑞鶴さんの話ですっ! 」

瑞鶴「ぇ、わたしの話!? 」





葛城「わたしの一番最初の記憶は……おぼろげですけど……建造されている途中ぐらいからです。当然まだ動けないんですけど……働いている人とか、チェックに来てる人たちのお話を聞いてました」

葛城「たくさんの話の中で……やっぱり空母の先輩の話は良く覚えています。機動部隊旗艦、一航戦のお二人……瑞鶴さん、翔鶴さんのお話です」

葛城「ミッドウェーで沈んだ先輩方に代わって、獅子奮迅の働き! 先輩のカタキをとった! そんな話を聞いて……すごく憧れた……」



瑞鶴(そう……ミッドウェーで先輩がみんないなくなってしまって……翔鶴姉と二人で、絶対カタキを取ろう!って……何隻かはやっつけることができて……)



葛城「でも……だんだん戦局は悪化して……。一つの海戦に敵空母が15隻とか出てくるほどの戦力差になって……。でも、絶望的な戦いでも、奮闘して、沈まず帰ってくる瑞鶴さんは、みんなの希望のように話されていました」



瑞鶴(あの海戦で……翔鶴姉も大鳳も飛鷹も逝ってしまって……。艦載機の子たちもほとんど……。そうね、わたしが本当に絶望したのはあの時だった……。でも、唯一生き残った正規空母として……一航戦として……下を向くわけにはいかなかった……)





葛城「わたしがようやく竣工したときには……。もう艦載機もほとんど残っていませんでした。そんなひどい状況のなか……瑞鶴さん、瑞鳳さん、千歳さん、千代田さんの出撃を見送りました。でも、その出撃は……艦載機がなくて戦えない空母を……敵を呼び寄せるオトリにするために……沈むための出撃だったそうです」



瑞鶴(うん、出撃前から、わたしは沈みに行くんだって分かってた。でもしょうが無い。命令だし……機動部隊旗艦として、それがなすべきことなら果たすのみ……。でも……それでも、何とか生きて帰ってやろうって思ってたよ……)



葛城「みんなは……瑞鶴さんは……帰ってきませんでした。雲龍姉さんも任務中に沈んでしまって……残された天城姉とわたしで……がんばって機動部隊を支えよう!って励まし合いました……もう艦載機も、出撃するための重油もないのに……あはは……ぐす……」



瑞鶴(ごめんね……生きて帰れなくて……)





加賀「……五航戦の戦いや、あなたのことは分かりました。それで、わたしに何を? 」

葛城「え、えっと! その……どう言えばいいんだろう……」


瑞鶴「葛城、ありがとう。あとはわたしが話すわ」

葛城「瑞鶴さん……」

瑞鶴「わたしもずっと加賀さんに言いたいことがあったの。どうしても言い出せなくてね。でも、あなたのアシストで、今なら言えそうだわ」

加賀「ほう……。何かしら? 」


瑞鶴「加賀さん……。今、葛城が話してくれた通り、わたしはね、あなたが沈んだ後、一航戦として、機動部隊を支えてきたつもりよ。絶望的な戦いでも、決して諦めずに」

加賀「……」

瑞鶴「先立たれてしまったら! 残されてしまったら! やるしかないっ。だから……頑張った。歯を食いしばって頑張ったわ! 」

加賀「……」

瑞鶴「だからね、あなたの気持ちもちゃんとわかってるつもり! 常に最前線の過酷な戦いに出て、自分がいつ沈んでしまうか……。そしたら残った子たちは……。そう考えたら、後輩たちを、自分がいなくなっても戦えるように鍛える。そういうことでしょっ」

加賀「そうよ……それなら、どうして? 」





瑞鶴「でもねっ……わたしたちは転生したの! 今はわたしも練度が上がって、あなた達と肩を並べて戦えるようになった。提督の指揮のお陰で、誰も沈むこと無く戦えるようになってる! 」

加賀「そうね……練度が上がっているのは認めるわ」

瑞鶴「大事なのはそこじゃないっ。わたしたちは誰も沈んでいない……沈むような危機があったら、作戦より生き残ることを大事にしてもらってる。そうよね! 」

加賀「…………そうね……そのとおりね」


瑞鶴「だったら!!」


ぎゅっ ←加賀にしがみついた


瑞鶴「どうして……どうして自分が先に逝く前提で物事を考えるの……どうして……誰も沈まない前提で生きてくれないの……」

加賀「え……あ、あの……(おろおろ)」

瑞鶴「お願いよ……もう先に逝ったりしないでよ…………ぐす…………いつまでも……目標の……憧れの……先輩でいてよ……ぐすぐす……もう……置いて行かないでよ……」



そう、そういうことを言いたかったの!(多分) もう先に逝ったりしないで欲しい。ずっと一緒に居て欲しい。それだけのことなのよねっ。





加賀(おろおろ)……ちらっ(あなた姉でしょ、何とかしなさい! のアイコンタクト)

翔鶴「にこっ」(瑞鶴をよろしくおねがいしますね、のアイコンタクト)


瑞鶴「ぐす……ぐすぐす…………」(ぎゅっ)


加賀「くっ……ちらっ(赤城さん、助けて! のアイコンタクト)」

赤城「にこっ」(仲良く出来て良かったですね、のアイコンタクト)


瑞鶴「うぇーん……ぐすぐす……」(ぎゅー)


加賀「くっ……」


葛城(おろおろ)

翔鶴(にこにこ)

赤城(にこにこ)





加賀「えー……その……瑞鶴? 」

瑞鶴「(はっ!) ぐす……う、うん……」

加賀「あなたの話はよく分かりました。でも……わたしの考えは変わりません」

瑞鶴「!!!」

加賀「それは……あなたもまた、わたしの気持ちを分かっていないからです」

瑞鶴「……え……? 」

加賀「あのとき……わたしが沈んだあの時……。わたしは、あの戦いで自分が沈むなんて思っていなかった……危機的な状況で、みんなを……赤城さんを……残して沈むなんて、絶対に嫌だった……。でもね、いくらそう思っても、沈んでしまった……。あなたは残されたものの悲しさを教えてくれた。でもね……大切な人を残して先に逝く悲しさもあるのよ……翔鶴なら、きっとわかると思うけれど」

翔鶴「……はい……よくわかります」

瑞鶴「翔鶴姉……」

加賀「どれだけ嫌でも、先に沈んでしまうことはある。だからこそ、自分が沈んでも、残った大切な人が生き残れるように……ついつい口うるさくなってしまうものなのよ」

翔鶴「くすくす……はい、そうですね。わたしも、瑞鶴を残してしまったら、ちゃんと生活できるか心配ですから」

瑞鶴「ちょ、ちょっと翔鶴姉」





加賀「でもね……。わたしもまた、あなたの言う、残されたものの気持ちは分かっていなかったわ。ごめんなさいね」

瑞鶴「加賀……さん……」

加賀「あなたの言うとおりよ。転生して……今は、誰も逝くことなく、にぎやかな毎日を送っている……とても幸せなことです。そして今度は……今度こそ……沈むことがないように……赤城さんや……その……瑞鶴を残して沈まないようにがんばるわ。それで……どうかしら……? 」

瑞鶴「(ぼろぼろ) それで……それで十分……ぐす……ずっとみんなで一緒に居られれば……それでもう……ぼろぼろ」


加賀(ぎゅっ)


加賀「つまらないことで仲違いしていたわね。ごめんなさいね。ありがとう、瑞鶴」

瑞鶴「うぇーん……うん……うん……」



良かった……ほんとに……。





――――― 夜 提督執務室


葛城「という感じだったの……なんだか思ったより大きな話になっちゃって、わたしは最初にタンカきったけど、途中からもう空気になっちゃって……」

提督「そうかぁ。でも、葛城はきっかけとして十分に役割を発揮したじゃないか。それに、結果は良かったんだろ? 」

葛城「うん……お互いの意見に差はあるけれど、お互いの気持ちは伝えて、仲直りは出来たのかなって」

提督「それなら、目標達成だ。勇気をだしてよく頑張ったな。ツンツンモードの加賀に反発するのは、すごい怖かったろ? がんばったがんばった」


わしゃわしゃ


葛城「なによっ。子どもみたいな扱いしないでっ。わたしは正規空母なんだからっ」

提督「あはは。ま、練度も上がってきて、確かに立派な正規空母になってきたよな。中身と胸は幼いままだけど」

葛城「むきぃー! 」





提督「……おそらくだけどさ。加賀は、戦いの序盤で……多くの仲間を残して先に沈んでしまったこと。それを、ずっと自責してたんだよ」

葛城「! う、うん……」

提督「沈んだ自分を、訓練不足で無責任だったと責めたのかもしれない。それで、あんなにも張り詰めて、いつも高みを目指してたのかもな」

葛城「……」

提督「今回の件で……多分、気持ちも少し変わるだろう。俺が話しても全然伝わらなくてな……。お前のおかげだよ。ありがとう、葛城」(にこっ)

葛城「あ、あう……///」



前世の苦い記憶が、今もみんなの中にある。それで、悩んだり、衝突したり……。でも、生きていれば……こうやって話しあったり、分かり合ったり、気持ちを切り替えたり、良いことがあるよね。瑞鶴さん、加賀さん……仲直りできて、ほんとに良かった!


それから……最近は、何でもついつい提督に相談しちゃうけど……。憎まれ口ばっかり叩く人だけど、いつも優しい目でわたしを見てて……なんだか、わたしも……。はっ! だめだめ、わたしは立派な正規空母になるために忙しいんだからっ。他のことなんて考えない考えない!






本日分は以上となります。瑞加賀の後編でした。
僕が考える瑞加賀って、今回のお話みたいなのがスタートなんですよね。ですから、この世界では瑞加賀ルートが確定しました。瑞葛ルートを愛する皆さんにはごめんなさい。

次回の投下は金曜日の予定です。よろしければまた是非お越しください(o_ _)oペコリ

おつです。
葛城は提督とくっつくのかな?
大鳳は出てくるのだろうか・・・

乙ありがとうです。

>>162
大鳳は出したい……出したいのです……そう思って、思い切って大型回しましたが……加賀×2という結果で敗北……!
ごめんなさい、なので多分今回は出てこないのです。






――――― 一週間後 ―――――







――――― 夕方 提督執務室


瑞鶴「以上、報告終わりっ。あー、疲れた! 」

提督「ほい、おつかれさん 」

葛城「うー、寒かった! 」

瑞鶴「ひさしぶりに一緒に出撃して思ったけど、葛城もすっかり戦闘慣れしたよねー」

提督「まぁ、そろそろ2ヶ月だしな。結構な頻度で出撃してるし」

葛城「えへへー、そ、そうですか? 」



確かに、もう慌てることも少なくなったし、前は一人だけ明らかに遅かった発艦着艦も、スムーズにできるようになったし……。





瑞鶴「あ、でも、結構な練度なのに、まだ改装できないの? 」

提督「葛城は、結構な規模の改装になるから、必要練度が高かったんだよ。でも、もうそろそろだぞ」

葛城「え! わたしの大規模改装!? 」

提督「ああ、おそらく数日中には目標練度到達するから、そしたらすぐに大規模改装するからなー。今のうちに心構えだけしておけよ」

瑞鶴「やったじゃない、葛城! 」

葛城「はいっ! そっか、わたしもついに大規模改装かぁ……」



わたしは対空砲満載の浮き砲台状態で転生してるから……改装で、しっかり空母らしくしてもらえるのかな……。でも、それよりも何よりも、ここで提督を見返してやらなきゃ……!





――――― 夜 二航戦の部屋


コンコンコン

飛龍「はーい、どなたー? 」

葛城「あの……葛城です! 今ちょっとよろしいでしょうかっ! 」

蒼龍「あら、こんな時間に珍しいわね。いらっしゃい、どうぞー」

葛城「おじゃましますっ」



お二人は同室なんだけど……。和室でこたつで、なんか良い感じのお部屋なんだよね!



飛龍「お茶入れるね、おこたにどうぞー」

葛城「すみませんっ」

蒼龍「それで、どうしたの? 」

葛城「あ、あの……実は、近日中に大規模改装を受けることになりました! 」





飛龍「おー! もうそんな練度なんだ。がんばったね、おめでとうっ」

蒼龍「うわぁ、楽しみだねっ」

葛城「ありがとうございます! そ、それで、お二人にお聞きしたいことが」

飛龍「なあに? 」

葛城「その……わたしはお二人の親族艦です。なのに……その……胸部装甲にすごく差があって……お二人もきっと改装を重ねて大きくなったのかなって思うので……わたしもちゃんとボリュームアップしてもらえるようにしたくて……。それで、お二人はどうだったかなって……」

飛龍「……」

蒼龍「……」



あ、あれ……お二人の目からハイライトが消えた……?





飛龍「その……なんて言ったら良いか……」

蒼龍「すごく言いにくいんだけど……わたしたちは……改装前からこのサイズだったから……」

葛城「!!!」


葛城「うそ……そんな……だって…………改飛龍型なのに……どうして……」

飛龍「ほ、ほら! 雲龍型は戦争後期だから、物資がきっと足りなくてね! 」

蒼龍「そ、そうそう! だからきっと、お姉さん二人も同じサイズだよ、きっと! 」

飛龍「それにほら、こんなの戦いでは邪魔なだけだからっ。ね、艦娘にバストサイズなんて必要ないんだよ! 」

蒼龍「そうだよね、空母はフラットなフォルムのほうが美しいよ、うんうん、そうそう! 」





葛城「……提督が…………」

飛龍「?」

葛城「提督が……ことあるごとに、ぺったんことか、発育が悪いとか、胸が幼いとか、意地悪言うから! 改装で見返してやろうって思ったのに! 思ったのに! う、う、う、うわぁっぁあん」


飛龍「あ、で、でも! 改装でボリュームアップした子もたくさんいるよ! 五十鈴とか夕立とかね! 」

蒼龍「だ、だから、ほら、後は神頼みで……」

葛城「ほ、ほんとに……? 」

飛龍「そうだよ、夕立なんて、ほんとにぺったんこだったのに、今ではあれでしょ? 」

葛城「そ、そっか、じゃあきっとわたしも……! 」

蒼龍「龍驤さんみたいに、2回改装しても変わらない人も居るけど、大丈夫だよ、きっと! 」

葛城「そっか……龍驤さんはすでに2回改装して…………きっとわたしも……ふふ……ふふふ………」

飛龍「蒼龍、余計なこと言っちゃダメだよっ」

蒼龍「ごめんなさーい」





――――― 3日後 提督執務室


コンコンコン

葛城「かつらぎ……はいります……」

大淀「葛城さん、元気が無いですが……改装、上手く行かなかったんですか……? 」

提督「まさか!? 大丈夫だよな? 」

葛城「はい、改装は完了しました……これ、明石さんから、改装結果です……」



えーえー! 予想通りですよ、予想通りっ。どうせわたしは、瑞鶴さんと龍驤さんの忠実な弟子ですよ!



提督「どれどれ……おお、すごい改装じゃないか、おめでとう、葛城! 」

大淀「確かに……おめでとうございます! それなのに、どうしてまたそんなに落ち込んでるんですか? 」

葛城「え! い、いえ、落ち込んでないですよ。ほら、元気っ元気っ! 」



そ、そうだ……。別に身体の特徴だけが改装じゃない。ちゃんと、空母として成長したか見ないと……





提督「まず、搭載機数の大幅増加。これまでは軽空母並だったけど……立派な正規空母の数字になったな! 」

葛城「えっ……、ほ、ほんとだ! 」

大淀「なにより……装備が素晴らしいですね」

葛城「え……? 」

提督「六〇一空の零戦と流星だよ……。前世で、お前が搭載する予定だった艦載機だよ」

大淀「精鋭ですね。見事な性能です。ふふ……葛城さん、「一番良い艦載機」といえる部隊ですよ」


……わたしの艦載機……わたしの…………立派な……



葛城「大事に……大事にする……この子たちを最高に活かせるように…………がんばる……ぐす……」





――――― 1900 提督執務室


コンコンコン

提督「開いてるよー」

葛城「お、おじゃまします……」

提督「最近、葛城が遊びに来るのがすっかり日課になったな。よし、仕事は終わりにするか」

葛城「あ、ご、ごめん。お仕事の邪魔するつもりは無かったんだけど」

提督「いいんだよ、どうせ、やってもやっても書類は湧いてくるから。今日はここまでにするさ」

葛城「あ、じゃあコーヒー入れるからっ」

提督「ふむふむ……葛城も気が利くようになったものだ……」

葛城「ふんっ、わたしは最初から気が利くんだから」

提督「はいはい。ま、コーヒーは頂こうかね」





提督「んじゃ、改めて、改装おめでとう。かんぱーい」

葛城「ええっ! コーヒーで!? か、かんぱいっ」

……

提督「でも、ほんとに良い改装だったな」

葛城「うん! 浮き砲台だった状態から、機動部隊として外洋に打って出るための正規空母に改装されたんだって。今度こそ『立派な正規空母』よ! 」

提督「そうだよな、偽装用の迷彩服? も外されて、立派な正規空母だな」

葛城「ちょ、ちょっと、あんまりジロジロ見ないでよ……」



そうなのよね……偽装服が外されたから、露出が多くなって……提督に見られるとちょっと恥ずかしくて!



提督「でもまぁ……胸部装甲は変わらなかったな……改飛龍型なのにな……」



ほら、やっぱり言われた!





葛城「ふーんだ。大きなおっぱい大好きな提督からジロジロ見られなくて済むから、よかったなー! 」

提督「へ? いや、別に巨乳好きじゃないぞ、俺」

葛城「え? だって、いつもおっぱいちっさいって……」

提督「いや、事実を言ってただけだよ。俺はおっぱい大好きだけど、おっぱいに貴賎なし! ちっぱいも巨乳もすばらしいっていう宗派だから」

葛城「……宗派って……なによそれ……」

提督「男はみんな、おっぱいに関しては宗派を持ってるの! 」

葛城「そっか、別に小さくてもいいんだ……」

提督「ああ。活発な女の子はちっぱいがよく似合う。お前なんかまさにそうだよな。からかったの気にしてたのなら悪かったけど、俺としては逆に、お前が巨乳にならなくてホッとしたよ。イメージ変わっちゃうからな」

葛城「あなたねぇ。改装は、艦娘として立派に戦うためのものなのっ。一体どこを見てるのよ、もうっ! 」

提督「あはは、すまんすまん」




そっか……別に大きいのが好きな訳じゃないんだ……。あはは、心配して損しちゃった。

って、何を心配するっていうの! 別に……提督の好みなんて、わたしには関係ないんだからっ!



本日分は以上となります。葛城が無事改装を受けるお話でした。
胸部装甲以外はどんどん立派な正規空母になっていく葛城さんです。我が鎮守府では設計図不足と「ばかぁ」維持のため、まだ改装できてませんが……。

次回は月曜日の投下予定です。よろしければ是非またお越しくださいっ。


レスの多さに笑った! みなさん、葛城パイ大好きなんですねぇ。はい、僕も大好物です。
さて、今日更新の予定と言っていましたが、体調を崩してしまって今日中には無理そうであります。明日火曜日夜更新予定です。
遅れてしまって申し訳ありませんが、また是非お越しください。






――――― 一ヶ月後 ―――――







――――― 信じられないような閃光と衝撃。人々の絶望と混乱。



――――― そして戦いは終わった。わたしは……生き残った。鳳翔さんも。



――――― でも、わたしは輸送船に改造された。



――――― そう……「空母」葛城の艦生は終わったのだ。一度も空母として戦うことなく……





チュンチュンチュン


葛城「また夢……。大丈夫……! その分、今は立派に、正規空母になったんだもん」



そう、大規模改装を受け、練度も上がってきたわたしは、もう

「わたしは立派な正規空母なんだから! 」

なんて叫ぶ必要なんて無い。そんなことをしなくても、誰もがわたしを正規空母だって認めてくれている。





――――― 葛城の回想 少し前の某海域


吹雪「敵航空隊が向かってきます! 防空戦用意! 」

赤城「みんな、直掩あげますよっ」

葛城「了解! 葛城の零戦隊、緊急発進! 先に上がって足を止めておきます! 」

瑞鶴「了解、お願いねっ」



改装を受けたわたしの得意技。弓矢と式神を使った緊急発艦・急上昇で、直掩を目標高度まで上げるのは、わたしが一番速い! だから、今では迎撃時に先行隊を出すのがわたしの仕事……



葛城「零戦隊、発艦! 艦隊を守って! 」


……






瑞鶴「葛城、おつかれさま。敵攻撃隊の足止め、ありがとね」

葛城「えへへー、間に合って良かったです! 」

赤城「やっぱり練度だけでは補えないわね。葛城さんの緊急発艦技術は羨ましいわ。わたしもそのうち大規模改装で強化してもらえるかしら」

葛城「わたしは、その分練度が低いですから……。練度あげ頑張らないと! 」

瑞鶴「なににせよ、葛城も、もう立派な正規空母ね。ちょっと前までは艦載機すら飛ばせなかったのに……不思議」

赤城「くすくす……ほんと、あっという間でしたね」

瑞鶴「着艦失敗で気絶した葛城をおぶって帰ったのが、昨日のことみたい。あーあ、わたしも歳とっちゃうわけだ」

葛城「わーわー、もう失敗は忘れてくださいっっ! 」



――――― 回想終わり





葛城「もちろん嬉しいんだけど……なんだろう、燃え尽き症候群? 」



でもなー、そうは言っても、先輩方には練度では全然かなわないんだもん。これからも地道に練度を上げていかないとね。



葛城「うん、もっと練度を上げていく! 全然迷いなんか無いっ。なのに、なのに、どうしてもモヤモヤして……」





――――― 少し後 鳳翔さんのお店


葛城「はぁ~~」

蒼龍「なんだか元気ないね。どうしたの? 」

葛城「うーん……なんていうか……艦娘になって『今度こそ立派な正規空母になるんだ!』ってがむしゃらに頑張ってきて……。それで、無事練度も上がって、改装もできて、先輩方にも認めてもらって……」

飛龍「うんうん。もう立派な正規空母だよね」

葛城「はい……。すごく嬉しいんだけど……。急に目標がなくなっちゃったなーっていうのと」

鳳翔「ふふ……燃え尽き症候群には、まだ早いと思いますけど」

葛城「う、うん、もちろん! 先輩方との練度の差はまだまだあるから、頑張るんだけど……」

蒼龍「うんうん。相変わらずがんばってるよね。じゃあ、他に悩みがあるの?」





葛城「悩みっていうかですね。うーん……。立派な正規空母になれたのって、応援してくれたみんなのおかげだと思ってて……」

鳳翔「ええ、感謝の気持ちはとても素敵ですね」

葛城「うん、すごく感謝してるの。でね……、その……、みんなに、わたしを頑張って応援するようにって手を尽くしてくれたのって……提督だから、提督にもね、その……」

飛龍「そうだよー。『提督、葛城を甘やかし過ぎ!』って、さんざんからかわれながら、あっちこっちで頭を下げてたからねー。あんな提督、見たことなかったもん」

蒼龍「そもそも初日からいきなり、会議を抜けて葛城を案内したりしてたよね。提督が会議を抜け出すなんて、後にも先にもあの時だけだもん。みんなびっくりしたんだよ」

葛城「そ、そうなんですかっ。提督、あの時は『みんな優秀だから俺はいなくても大丈夫なんだよ』みたいにふざけた感じで言ってたのに……」

鳳翔「ふふ……。提督はどちらかと言うと堅物という評価でしたからね。葛城さんの前では、ずいぶん砕けた感じみたいですけど(くすくす)」

飛龍「そ・れ・で・? 提督がどうしたの」

葛城「えっと、その……。提督にもすごく感謝してるから……どうしたらいいかなって……」



ほんとにね、ほんとに感謝してるんだよ! だから、だから……。





蒼龍「ふっふっふ……。提督にお礼したいならねぇ……葛城にしかできないお礼があるよねー」

飛龍「にゅっふっふ……。だよねー、葛城だけが提督を喜ばせられるよねぇ」

鳳翔「お二人共、そんなに煽っては、葛城さんは逆にへそを曲げてしまいますよ(くすくす)」

葛城「ほ、ほんとに誤解ですからっ。提督はダメ空母をがんばって育てなきゃって思っただけで、別にそんな……///」


蒼龍「あ、じゃあ、こういうのはどうかな? 長い、かわいいリボンを用意するの」

葛城「えー、提督にリボンなんて、全然似合わないですし、付けてくれないですよ」

蒼龍「ううん、そうじゃなくて、そのリボンを葛城まいてさ。それで提督の前に行って『感謝の気持ちを込めて、わたしをプレゼントします』って! 」

葛城「なっ!!!」

飛龍「きゃーーー! それいいっ。隠れて見物しなきゃっ」

葛城「しませんっ、絶対しませんっ!!」





蒼龍「えー、良いアイディアだと思ったのになー(にやにや)」

飛龍「提督、絶対大喜びだよね(にやにや)」

葛城「うう、からかわないでくださいよぉ。本気で悩んでるんですから」

鳳翔「じゃあ、葛城さんは、どうすれば提督に喜んでもらえたり、感謝の気持ちを伝えられると思いますか?(にこにこ)」

葛城「それがわからないから悩んでるんです~」

鳳翔「だって、最近は秘書艦として一緒にいることが多いでしょ? どんな時に嬉しそうに、楽しそうにしてますか? 」

葛城「それは……その……。一緒にお出かけしたり、一緒にご飯食べたり、わたしの話を聞いたり、わたしをからかったり……そういう時は楽しそうですけど……」

飛龍「聞きましたか、解説の蒼龍さん。これはもう完全にノロケてますよ」

蒼龍「そうですね飛龍さん。これは間違いなくノロケです」

葛城「/// もうっ! 」





鳳翔「ふふふ……それなら、話は早いじゃないですか。なるべく一緒にいて、なるべく沢山お話してあげれば、喜んでもらえますよ」

蒼龍「そして夜になったらリボンを巻いて」

飛龍「わたしをもらって下さいって……」

葛城「/// もうっ! 飛龍さん!蒼龍さん!」

飛龍「きゃー、怒られた! にっげろ~」

蒼龍「葛城、がんばってね~」



ぜぇぜぇ。最近、お二人共、すぐからかうんだからっ。





鳳翔「ふふふ。葛城さん、わたしは以前から提督にいろいろ相談されていたので、いろいろ知ってしまっています。具体的な内容はお話できませんが……」

葛城「は、はいっ」

鳳翔「その経験から見ても、あなたが元気で、訓練をがんばって、提督と仲良くさえしてくれれば、提督はそれで十分喜んでおられると思いますよ。難しく考えず、自分の心に素直に行動してくださいね」



提督……鳳翔さんにどんなお話してたんだろ……気になるっ!



鳳翔「それはそうと……。葛城さんは、提督のことがお好きなのですか?(にこにこ) 」

葛城「/// なっ! ほ、鳳翔さんまで、何をっ」

鳳翔「あらあら。わたしも女ですから、恋話は大好物ですよ。さ、どうなんですか? 」

葛城「そ、そんな……どうって……もごもご……」





鳳翔「ふふふ。別にわたしに言う必要は無いですけれど……。まず自分の気持ちを理解しないと、提督とも上手くお話出来ませんよ。ですから、ちゃーんと考えて下さいね(にこにこ)」



あう、二航戦ズと違ってまじめなお話だった……。



葛城「その……よく分からないんです。好きなのかどうかとか……」

鳳翔「あら、簡単ですよ。提督が、他の女性と仲良くなって、ケッコンして、その相手とラブラブする……」

葛城「……」

鳳翔「そうなっても平気ですか? 」



提督が……他の誰かとラブラブ…………。もちろん、あの人のことだから、そうなっても、わたしや他のみんなにも優しくしてくれる。それは変わらないけど……でも……



鳳翔「ふふ、よく考えて見て下さいね」

葛城「……はい」





――――― 午後 提督執務室


提督(カリカリカリ)←書類を書いている

葛城(ひいふうみい)←書類を数えている



秘書艦仕事もすっかり覚えてきて、今では大淀さんのサポートが無くても、大体はこなせるようになった……と思う。



提督「ふぅ。今日締め切りの提出書類は終わった」

葛城「おつかれさまっ。お茶入れるね」

提督「葛城もすっかり秘書らしくなったなぁ。絶対無理だと思ってたんだが」

葛城「あなたねぇ。見る目がないのよ見る目がっ。わたし、いかにもできる女っぽいでしょ! 」

提督「ぇー」



こうやって軽口を叩くのもすっかり日常なんだけど……なんか、調子が狂っちゃって、最近はちょっとぎくしゃくしちゃってる気がする。





提督「うーん……。葛城、最近元気ないよな? どうしたんだ? 」

葛城「えっ!! う、ううん、元気だよ、ほら、元気元気! 」

提督「カラ元気だよなぁ。どうなのさ~葛城、おとなしいじゃんっ」

葛城「ぷっ。伊勢さんの真似してもダメっ。似てないからっ! 」

提督「まぁ……そうなるな」

葛城「そっちも似てないからっ! 」



そう、提督はこうやって楽しませたり笑わせたりしてくれる……。こんな提督に、わたしはちゃんとお返しできてるのかな。



提督「そうなんだよなー。前は笑って元気になってくれたのに、最近は、笑った後、ため息になるんだよなぁ。本当にどうしたんだ? 俺には言えない悩みなのか? 」



うぐ……そんな、本気で心配した声で……目でみないでよぉ……





葛城「あ、あははっ。困ったなぁ。悩みっていうほどでも無いんだけどねっ!!」

提督「ふむふむ」

葛城「あ、あはは……あなたってほら、わたしのこと大事に甘やかすでしょっ。もう、わたしが可愛いのが悪いんだけどね、あはははっ! 」



ああ、混乱してわたしは何を言ってるの!



提督「ああ、かわいいかわいい(棒)」

葛城「心がこもってないっ! そ、それでね、みんながさ、提督がわたしに一目惚れしたから、そうやって甘やかしてるんだってからかうんだよねー 」



ど、どうしよう、こんな話して、わたしどうするの……どうなるの……!





葛城「もう、そんなわけないじゃん!って言ってるのに分かってもらえなくてさ……あはは、困っちゃうよねー」


提督「ぶははは、なんだ、そんな話になってたのか。そんな訳ないのに、やっぱ女の子が集まるとすぐ恋愛の話になっちゃうなぁ」

葛城「えっ……? 」

提督「そっか、それで贔屓だとか言われちゃってるのか。大丈夫、誤解だってちゃんと俺の方から話しておくから、気にすんな! な? 」

葛城「あ、あはは……ほんとにもう、頼むわよ~」



そっか……そうだよね。だから誤解だって言ってたのに、みんなが、自信満々で、提督の一目惚れだっていうから……わたしだって……もしかしてって……





提督「お、おい、葛城。どうした、そんなに深刻な問題になってたのか? 」

葛城「え? 」

提督「いや、そんな泣くほどだったのかって」

葛城「泣く……? 」



あれ……わたし、泣いてる……?



葛城「こ、これは違うの! ほ、ほんとに違うから! 」

提督「いや、みんなにいじめられてたとか、そういうことなのかと……」

葛城「ひっく……そんな訳ないでしょ! みんな素敵な……ひっく……先輩たちだから……ぐす……」

提督「じゃあ……? 」

葛城「そんなの……あなたのせいに……ぐす……決まってるじゃない…………ばかばかばかぁぁぁ! 」

提督「えええええ! 」

葛城「うわぁぁぁぁぁん」



ダダダ


バタン



どうして……なんでこんなに……悲しいの…………なんで…………




投下が1日遅れましてごめんなさい。本日分はここまでとなります。
考えるのが苦手で、すぐにドタバタしちゃう葛城は、大人の恋愛とか超苦手そうですよね。そういうところが可愛いのですが。
無事幸せになってくれるといいですね。

さて、次の投下は金曜日予定です。多分、あと2回くらいで終わりますので、もう少しだけお付き合い下さいっ。



――――― 1900 葛城の自室


葛城「zzz……zzz……」


コンコンコン


鳳翔「葛城さん、ちょっといいですか? 」

葛城「zzz……zzz……」

鳳翔「葛城さん……? 失礼、開けますよ」


ガチャ


葛城「zzz……zzz……」

鳳翔「あらあら、泣き疲れて寝てしまったのね。ふふっ……この子らしいですね」


葛城「zzz……zzz……」

鳳翔「葛城さん、起きて下さい。もう夜ですよ」

葛城「zzz…………ふぁ……? 鳳翔さん……? おふぁようございます」

鳳翔「はい、おはようございます。ですが、もう夜ですよ」

葛城「ふぇ……夜……? 」


そうだ……提督の部屋から逃げ帰って、なんだか泣けちゃって、わんわん泣いて……そのまま寝ちゃった……?





鳳翔「先程、提督がお見えになりましたよ。秘書艦執務中に、泣いて飛び出してしまったとか。とても心配しておられました」

葛城「え、て、提督いるの!? 」

鳳翔「いえ、わたしがお話を聞いておきますと言ってお帰り頂きました。葛城の部屋まで案内してほしいって言われたんですけどね」



よ、良かった……。こんな泣きはらした顔で会いたくないし……どんな話したらいいか分からないし……。



鳳翔「でもっ! わたしが責任をもってお話しておきますと約束してしまいましたから。一体何があったのですか? 提督からも大体の話は聞いていますが、多分、葛城さんからは全然違う話が聞けそうですね」

葛城「はう…………。えっと、なんと言いますか……」

鳳翔「今朝、二航戦のお二人やわたしとお話をしましたよね。それで、思い切って提督に話したんでしょう? 」



お見通し!?





葛城「うぐ……。はい、提督がね、わたしが最近元気がないって、すごく心配したり、元気づけようとしてくれて……」

鳳翔「ええ、素敵ですね」

葛城「そ、それでね。元気がない理由っていうので……。その……提督が、わたしに一目惚れしたんじゃないかってからかわれてるんだーって……」


鳳翔「くすくす……。なるほど、葛城さんは、それで提督の反応を見たかったんですね」

葛城「う゛……。ちゃんと考えてた訳じゃないですけど、そうかも……」

鳳翔「提督はわたしに『葛城が、俺に特別扱いされて、それで他の艦娘からいじめられてる感じなんです』なんて言ってましたよ」

葛城「ぁぁぁぁぁぁ! あの人はっ! あの人はっ! 違うって言ったのにににに!! 」

鳳翔「くすくす……小学生の娘を持つお父さんって感じの心配の仕方でしたよ」





鳳翔「それで……? 提督とは全く噛み合わなかったのは分かりましたが、どうしてまた泣いて帰ってきたんですか? 」

葛城「えっと……」



わたし……なんであんなに泣いてたんだろう……なんであんなに悲しかったんだろう……。ううん、とぼけてもダメだよね。分かってるんだよ、もう……。



葛城「提督がね……『一目惚れなんて、そんな訳ないのにな!』って、すっごいはっきりと否定してたんです。照れ隠しとかじゃなく。……わたし、みんなにからかわれて、否定しながらも、ほんとは……提督がわたしのこと好きなんだって……きっとそうなんだって……思ってたんです。でも、違うって……ぐす……そうじゃないって……ぐす……」



そう、わたしは提督が好きなんだ……。でも、提督はわたしのことを好きなわけじゃなかった。だから、わたしは……。



葛城「う、う、う、うぇぇぇん」

鳳翔「よしよし、辛かったですね 」





鳳翔「さ、落ち着いたところで、まずは食事にしましょう。お腹が空いていては元気が出ませんよ」

葛城「……はい」

鳳翔「食事はお店の方で、みなさんが心配してますから」

葛城「へ……? 」



――――― すぐ後 鳳翔さんのお店


瑞鶴「あ、葛城、大丈夫? 心配したんだからっ。事と次第によっては、本気で提督さんを爆撃するけど、何があったの? 」

赤城「思ったより元気そうでよかったわ」

飛龍「うん、中破とかもしてないし」


葛城「あ、あの、みなさんどうして……? 」

蒼龍「どうもこうも無いよ。葛城が提督室から泣きながら飛び出してきて、走って帰ったって、すごい噂になってるよ」



うわぁ……やばい!



加賀「提督は、あまりにも皆が事情を聞きに来るものだから、提督執務室に籠城中」

翔鶴「実際は、騒いでいたのはほんの少数だから、その数名はすでに監禁済みですけど」(にっこり)





瑞鶴「それで、一体何があったの!? 」

葛城「あ、あの……ほんとに大したことじゃなくて……まさかそんな騒ぎになってるなんて……」

赤城「まぁまぁ、まずは事情をお話下さい」

葛城「は、はい……(葛城説明中)……という感じで……別に提督が悪いわけじゃ……」



ざわ……ざわ……



蒼龍「うそ……一目惚れじゃない……!? ほんとにっ? 照れ隠しとかじゃなくて? 」

葛城「は、はいっ。ほんとに自然に、笑い飛ばして否定してましたから……」

加賀「これは……事件ですね」

赤城「ええ、前提が覆りました」

瑞鶴「ほっ……。血迷った提督がケダモノになった訳じゃなかったのね」

翔鶴「瑞鶴、はしたないことを言わないの」





飛龍「うーん……。でも変だよね。だって、提督が葛城を特別扱いしてるのは間違いないって、みんなもそう思うでしょ? 」

一同「こくこく」


加賀「葛城はとても頑張っているし、立派な正規空母だけど……戦力として特別扱いを受けるほどの秘密兵器ではないわね」

瑞鶴「空母としての戦闘に不慣れだから、っていう点を特別扱いするのは良いとしても、毎日秘書艦にしたり……」

蒼龍「私生活のケアをしたり」

赤城「美味しい昼食をごちそうしたり……わたしにはごちそうしてくれないのに……」

翔鶴「どう見ても……好きな女性に対する態度ですよね……」





蒼龍「あ、じゃあ、こういう考えはどうかな。葛城はさ、さっきやっと、自分が提督を好きなんだって自覚したわけでしょ? 」」

葛城「/// あ……ぅ……そうです……」

瑞鶴「ずっと前から、あんなに提督ラブラブオーラ出してたのに、自覚がなかったっていうのもすごいわねぇ」

葛城「そ、そんなオーラ出てませんからっ! 」

赤城「くすくす……いいえ、わたしでも分かるくらい出ていましたよ」

加賀「どんな時でも、提督のお話ばかりですものね。この子は本当に提督のことが好きなんだって、わたしも思っていました」

飛龍「これが周りの評価ってやつよ、葛城! 」

葛城「ぐぬぬ……」



蒼龍「でね、提督も同じで、葛城大好きなんだけど、自覚してないっていうのは? 」

翔鶴「そうですね……。もしくは、司令官と艦娘の恋愛はイカン! みたいにブレーキをかけているのかもしれません」

蒼龍「そんなの誰も気にしないのにね。それどころか、文字通りケッコンしちゃったりもするのに」
赤城「ああ見えて、意外と堅物ですからね、提督は」





瑞鶴「じゃあ、提督が、恋愛に鈍かったり、堅物で恋愛に否定的だったとして……。似たタイプの加賀さんなら……どんなアプローチを受けたら、心が動きそう……? 」

赤城「そうですね、わたしも聞いてみたいです」

加賀「わたしですか!? その評価は許せません……確かに、細かな心の機微を捉えるのは苦手ですし、立場を無視した行動も好きではありませんが……。そうですね、わたしなら……やはり、遠回しにされても気がつけません。好きという意思をはっきり分かる形で出してもらったほうが助かります」

翔鶴「なるほど……。提督も同じですね。葛城さんの『一目惚れ~』の下りを、遠回しな告白ではなく、真面目なトラブルだって捉えてしまったのですね」

蒼龍「やっぱり、自分にリボンを巻いて、わたしをプレゼント作戦しかないよ! 」

葛城「/// やりませんっ!」

飛龍「でも、それはともかくとして、はっきりアプローチすれば、提督も自分の気持ちに気がつくんじゃないかな? 」



うう、みんな、「提督は実は葛城が好き! 」っていう前提で話してるけど……。大丈夫なのかなぁ。





蒼龍「葛城、ここは頑張りどころだよ! 好きなら迷わずアタックしないと! 」

赤城「そうですね……。提督は、葛城さんに泣いて飛び出されて、すっかり動揺している様子。これはチャンスです」

翔鶴「相手が動揺している時に、一気に先制して叩きのめす。基本ですね」

葛城「え、あ、あの……? 」

飛龍「今こそ告白の時ってことだよ! 」



うぐ……そんな、まだ自覚したばっかりなのに、心の準備が……



加賀「チャンスはいつでもあるわけではありません。よく分かりませんが、今が攻撃のポイントであるなら、逃す理由はありません」

蒼龍「提督のあの様子なら、今夜にでも絶対、話をしようとするはず。いい、葛城。それまでに覚悟を決めておいて、しっかり告白するんだよ! 」

葛城「え、あ、あの…………はい……」



でも確かに、提督はきっと話をしようとして……なんで泣いてたのか絶対聞かれるし……やるしか……ないの……?


でも……尊敬する先輩方のアドバイスだもん……そうだね、がんばる! 正直自信ないけど、がんばる!





【おまけ】

赤城「葛城さん、大丈夫でしょうか」

翔鶴「あの子は、がむしゃらに突撃する力がありますから、きっと大丈夫ですよ」

飛龍「でも、あんだけラブラブしてて、まだこんなやりとりなんて、ちょっとイライラするよね! 」

蒼龍「まぁまぁ、そういう初々しいのも素敵だよ」

加賀「さて、では解散にしましょう。葛城に大事なくて安心しました」


瑞鶴「あ、あの、加賀さん!? 」

加賀「なに? 」

瑞鶴「この後、デザートに甘味処に行きませんか……二人で、ちょっとお話したくて……! 」

加賀「……いいけれど」

瑞鶴「は、はいっ。じゃあ、行きましょうっ! 」

加賀「手を引かなくても大丈夫よ。……別にいいけれど」


翔鶴「くすくす……。似たタイプの瑞鶴がこんな風に頑張れるんですもの、葛城さんだってきっと大丈夫ですよ」

赤城「あーあ、わたしも甘味食べたかったなぁ……」




本日分は以上となります。次回は月曜日の更新予定です。
終わりまであと2~3回投下ぐらいかと思います。ですので、来週いっぱいで終わり予定です。
よろしければ最後までお付き合い下さいませ。



――――― 少し後 鳳翔さんのお店


鳳翔「お食事とお話は終わりましたか? 」

葛城「あ、鳳翔さん。はい、ごちそうさまでした」

鳳翔「それでは提督から伝言です。提督執務室で、何時まででも待っているから、落ち着いたら来て欲しい、とのことです」

葛城「ぇぇぇ……」



うう、心の準備がまだなのにー



鳳翔「葛城さん」


ぎゅっ


葛城「あ、あの、鳳翔……さん? 」

鳳翔「大丈夫よ。あなたはみんなから愛されてる……もちろん、提督にも。だから、自信を持ってお話してきなさいな。正面からぶつかれば、提督はちゃんと、逃げずに答えてくれますから」

葛城「鳳翔……さん……はいっ……ありがとう……ございます……ぐす」



みんなが応援してくれてる……大丈夫……きっと大丈夫!





――――― 2000 提督執務室


コンコンコン

提督「青葉はお断りだぞー」

葛城「あ、あの……」



ダダダダ ガチャ



葛城「うわっ、びっくりした! 」

提督「葛城、待ってた。さ、入ってくれ」



ぐいっ バタン



葛城「きゃっ……」



ちょっ! 強引に……って、抱きしめられるわけじゃないのね……焦らせないでよ、もう!





提督「さて、本日終了の看板も出したし、これでもう邪魔は入らないぞ」

葛城「えっ……」



ま、待って! そんな、心の準備がっ



葛城「え、え、ま、待って! ほ、ほら! 物事には順序というものがねっ」

提督「?? いや、葛城からちゃんと話を聞きたいんだけど、さっきから青葉だの龍田だの、好奇心組が代わる代わる来てたからさ。邪魔されないようにな」



…………ふんだっ



葛城「話ね。ふーん」

提督「……なんか機嫌悪くなったな。やっぱ、いじめなのかっ! 我が鎮守府に限っては、絶対にそんなことなど無いと思っていたのに……」

葛城「校長先生みたいなコメントしないの! いじめなんかじゃないって言ってるでしょ! 」





提督「じゃあ、ちゃんと分かるように説明してくれよ……。いきなり泣いて飛び出されて、理由も分からないって、俺としては死ぬほど落ち着かないんだが」

葛城「……あなたが悪いのよ」



……だんだん腹が立ってきた!



提督「だからー、何が悪いんだよ!」

葛城「あなたが鈍いのが悪いの!!」

提督「は? 」

葛城「……」



ぐぬぬ……この人はどうして分かってくれないの!

……って無理だよね……わたし、全然ちゃんと話してないんだもん……





葛城(しょぼーん)

提督「葛城……何か俺に言いたいことがあるのは分かったが、申し訳ないが心当たりがない。分かるようにはっきり教えて欲しいんだが……」

葛城(しょぼーん)

提督「困ったな……。ほら、あめちゃんあげるから、ちょっと元気出せ。な? 」



……また子ども扱い……。ふふっ、でも、ほんとに困った顔……。ちょっとおもしろい



葛城「ミルク飴……もごもご……甘い……」

提督「俺は飴はあんまり好きじゃないんだけど、ミルク飴と紅茶飴だけは好きなんだよ」

葛城「ふふっ……なにそれ、子どもみたい」

提督「好きなものは好きなんだから良いのだ」





提督「なぁ、葛城。ほんとに、俺に特別扱いされて、それで、いじめとはいかなくても、みんなと軋轢が、みたいな話じゃないのか? 」

葛城「だからー、違うって言ってるでしょ! ていうか、そんなことしそうな人、誰もいないじゃないっ」

提督「いやー、女社会は怖いって聞くからさ……」

葛城「なによそれ。本当に、そんなことは1ミリもないからね! 」

提督「うーん、となると、本当に葛城が泣いたり落ち込んだりする理由がわからないんだよなぁ」

葛城「……」



うう、理由ぐらい気づいてよ! ……って理由……。そうだ、わたしを特別扱いする理由が……一目惚れじゃなかったのなら、何なのかしら……?



葛城「理由といえば……その、さ。わたしを特別扱いする理由って……。この間、一目惚れなんかじゃないって笑い飛ばしてたよね……? じゃあ、本当はどういう理由なの? 」

提督「おおう、そう来たか! こっちが理由聞いてるのに……」

葛城「関係あるのよ! いいから聞かせてっ」





提督「そりゃまぁ……葛城は前世での経験が少ないから苦労するだろうなって思ってたし」

葛城「それだと、秘書艦にしたり、私生活まで気にしたりする理由にはならないでしょっ 」

提督「ぐぬぬ……葛城のくせにごまかされないとは……」

葛城「葛城のくせにって何よ!(先輩方の意見があったからだけどさ)」


提督「わかったよ、ちゃんと理由言うけど……。引くなよ? 」

葛城「な、なによ……そんなに変な理由なの? 」


提督「いやー、ほんと、恥ずかしい理由なんだけどさ。俺、お前のこと好きなんだよ、多分。それでほっとけなくて、ついついな」


葛城「は……? 」


提督「俺は恋愛とか経験ないから良くわからんのだ。ただ、お前と一緒にいるのは楽しくてな。鳳翔さんが言うには、これが恋愛というものらしい」


葛城「…………は? 」


提督「いや、だからさ。一緒にいると楽しくて、だから一緒にいる時間を増やしたりとかしてたけど、それがどうやら好きだかららしいって」


葛城「…………はぁぁぁぁぁぁぁ!? 」





提督「な、なんだよその反応。傷つくなぁ……」



な、な、な、何を言ってるのこの人は!!



葛城「だ、だって、一目惚れなんかじゃ無いって笑い飛ばしてたじゃない!! 」

提督「お、おう。別に一目惚れした訳じゃないからな。一緒に居るうちに、それが楽しくなってきてって感じでな。俺も未だによく分かってないし」

葛城「そんな……だって…………」

提督「いや、別に気にしないでいてくれよ? 俺も分別ある大人だからさ。部下に手をだしたりしないから」

葛城「そういう話じゃないっ!! 」


バンッ





葛城「ほんとなの? わたしをからかってるんじゃなくて? 」

提督「……せっかく冗談に紛らわしてたのに、そんな真剣な目で見ないでくれよ……」

葛城「……(じっ)」

提督「本当だよ。俺は多分、お前のことが好きなんだと思う。お前と居ると楽しい。もっと一緒に居たいと思うし、もっといろんな面が見たいと思う」

葛城「提督……」

提督「もっといじわるしたり、困らせたり、きー!って怒らせたり、からかったりしたいと思う……」

葛城「あなたねぇ!」

提督「まぁ、本音なんだよ。でもさ、そんな風に、もっともっと深く付き合いたいって思う相手、お前がはじめてなんだよ。だからまぁ、俺も手探りなんだ。勘弁してくれ」



……提督、真剣だ。本当に……そう思ってくれてるんだ……





葛城「その割には、あなた、わたしのこと全然わかってないわね! 」

提督「そうなのか……? 」


葛城「そうよ! わたしだって……わたしのほうが……あなたのこと大好きなのに……全然気がついてくれなかったじゃない! 」


提督「……そう……なのか?」


葛城「そうだよ、この鈍感!! 」



ダダダダ ぎゅっ



葛城「ずっと……ずっと好きだったんだから……転生して不安だったわたしを、最初からずっと応援して励まして、楽しませて喜ばせて……。好きにならない訳ないじゃない……。それなのに……ぐす……うわぁっぁぁあん」


提督「そっか……そうだったのか……ごめんな、俺、ほんと鈍くて……」

葛城「そうだよ……ばかっ……ぐす……」


提督「俺も……うん、多分じゃなく……、お前のこと、大好きだ」(ぎゅっ)


葛城「うん……うん……ぐす……大好き……わたしも…………」




嘘みたいだけど……わたしたちは……両想いだった。わたしも恋愛っていうのはまだ良く分からなくて……でも、全てが満たされたような……ただただ心がいっぱいで……そんな、不思議な経験だった。提督はどうだったんだろう……。同じように……幸せな気持ちだといいな。




本日分は以上となります。ロマンとかムードとか何もないけど、こういうのが葛城らしいかなと。
これでハッピーエンド!ではなく、あと2~3回くらい続きます。次回は木曜日更新の予定です。元気があれば水曜日に……。

残り僅かとなりましたが、よろしければ是非最後までお付き合い下さいませ。



――――― 少し後 提督執務室


提督「ほい、紅茶」

葛城「ありがと……。あれ、なんか黒いけど、紅茶? ……すごく甘い 」

提督「はちみつ入りなんだよ。甘いの好きだろ? 」

葛城「うん……ありがと……」



告白されて抱き合って、わんわん泣いて……。うう、落ち着いたら、恥ずかしくて顔見れないよ!



提督「なんだよ、急におとなしくなったな 」

葛城「だ、だって……その……どんな顔していいか、わかんないんだもん」

提督「そんなもん、普通にしていればいいと思うけどなぁ」

葛城「あなたがあっさりしすぎなのよ! だって、わたしたちは、その……こ、こ、こ、恋人になったのよ! 」

提督「まぁ、そうだな。イマイチ実感わかないけどなー」

葛城「そうなのよね……実感わかないよね……」





提督「ほんじゃあ、実感が湧きそうなことでもしてみるか」

葛城「へ? 」



うわ、顔が近いっ! 近い! これ、もしかしてキスなの!? キスしちゃうの!?

目!目! 目を閉じないと!!



ちゅっ



葛城「あれ……おでこ……? 」

提督「ぷっ……くくっ……だってさ、そんな、これから注射される子どもみたいな、ぎゅって目を閉じて、歯をカタカタ鳴らして……」

葛城「!!! しょ、しょうがないでしょ! こんなの……その……はじめてなんだから……」

提督「俺だってそうだよ。だからまぁ、慌てず、ゆっくりでな。今日は、おでこにしておくさ」



おでこに……あったかい感触だった……そうだね、これで十分かな……えへへ



葛城「まあ、でも、ちょっと恋人っぽかったから、許してあげる! 」

提督「へいへい、お許し頂いて光栄です」





……

葛城「加賀さんは和菓子が好きで、赤城さんはいつも懐にボーキサイトを持ち歩いておやつにしてて……」

提督「ボーキサイト……アレを食べるのはほんとに謎だよ……」



なんか、このふわふわした空気が心地よくて、離れがたくて……なんとなくお話続けてるわけだけど……。



提督「むむ、もう遅いな。さすがにそろそろ解散するか」



まだ離れたくないなぁ……



葛城「あ、まって、まだ聞きたいことがあった」

提督「ん? なんだ? 」

葛城「えーっと、えっと……そうだ! ほら、提督、一目惚れじゃないって言ってたでしょ? 」

提督「ああ、ひと目で心を奪われる美人って感じじゃないしなぁ」

葛城「むきぃー! って、そうじゃなくて……。それなのに、わたしの着任初日から、特別に目をかけてくれてたでしょ? 」

提督「そうだったか? 」

葛城「とぼけてもダメ! みんなから、大事な作戦会議をすっぽかしてわたしを案内してた、ってさんざん聞かされたもん! それが一目惚れ説の根拠だったんだから」

提督「なるほどなぁ。うわさ話っていうのが発生した瞬間ってやつか。なかなか貴重だ」

葛城「ごまかさないでよっ。言えないことならいいけれど……やっぱり気になるよ。できれば教えてほしいな」




提督「う~~~ん」



あ、難しい顔してる。そんなに特別な理由なのかな?



提督「それはさ、葛城自身が、空母としての自分に満足できたら話そうと思ってたんだけど……。どうだろう、葛城はもう、空母として充実した生活できてるか? 」

葛城「え……!? えっと……うん、わたしは多分、立派かどうかは自信ないけど……正規空母として充実してると思うケド……」



改めて聞かれると自信が……



提督「そっか。いや、葛城自身が満足できているならいいんだ。せっかく転生したんだから、今度こそ空母として充実した艦生を送ってもらいたかったのさ」

葛城「う、うん。ありがとう。おかげさまで……。って、ちが~~う! その理由を知りたいのっ」


提督「理由なぁ……それは、お前が俺の恩人だからだよ」


葛城「ええ!? ちょっと待ってよ、わたし、別に提督とは……。まさか! わたし、二人目の葛城なの!? 以前転生したわたしが沈んだの!? 」



そ、そんな……じゃあ、提督は以前の葛城の影を追いかけて……それはわたしじゃないのに……



提督「ぷっ……。おまえはホント、慌てすぎ。違うって、お前の前世。船だった頃の葛城だよ」

葛城「え……? 全然覚えが無いんだけど……」

提督「おれの爺さんがな、お前に命を救われたんだ。だから、お前がいなかったら、俺はこの世に居ないんだよ」

葛城「へ……? 」





提督「俺の爺さんな。先の大戦で、兵隊として南の島に配属されてたんだよ。うちの鎮守府みたいな、南の島に大きな基地を作ってたような場所だな」

葛城「……うん」

提督「運良く生き残って、戦争は終わった。だけど、ひどい病気を患ってな。もう国に帰ることは出来ないんだ、このまま死ぬんだって覚悟してたそうだ」

提督「だがある日、巨大な船が、その基地に残された人々を迎えに来てくれた。生きて帰ることができる喜びと……負けはしたものの、こんなに立派な空母を作れる国なんだから、きっとまた立ち直れる。そういう希望を持って、無事に国に帰ることが出来た。と言っていた」

提督「それがお前だよ葛城。終戦後、輸送船として、兵員の帰国に奔走したお前だ」

葛城「……そっか…………」


提督「今でもよく覚えてる。爺さんの部屋に、空母だったころの葛城の写真。それから、無事帰国できたときに撮った、復員輸送船としての葛城の写真。2枚が額縁に入れて飾ってあった。俺は子どもの頃から、その、空母葛城・復員輸送船葛城の話を聞いて育ったんだ」

葛城「……」



うん……おぼろげにだけど覚えてる……。輸送船になって、人をぎゅうぎゅう詰めにして、何度も行き来した……。そっか……ちゃんと……意味があったんだ……。





提督「でもな、爺さんの命を助けてくれたことへの感謝と同時にさ。せっかく空母として生まれたのに、空母として戦うこと無く輸送船になったこと……きっと残念だったんじゃないかなって、子供心に思ってたのさ」

葛城「うん……」


提督「で、何の因果か、俺は提督になり、艦娘の指揮を取ることになった。それで、頑張って鎮守府運営していれば、きっとそのうち、艦娘に転生した葛城がきてくれると思った。ずっと待ってた……」



そうだ……! 最初の挨拶の時、すごく感慨深げに『ずっと待ってた』って……。そっか……ほんとに、わたしのことをずっと待っててくれたんだ……。



提督「俺なりの恩返しにさ。葛城が着任したら、前世で出来なかったこと……空母として縦横無尽に活躍することを応援しようと思ってた。ハラハラしたけど……なんとか実現できたみたいで良かったよ……ほんとに良かった。これで爺さんにも胸を張って報告できる」

葛城「……ぐすん…………。うん、わたし、幸せだよ。あんなに夢見ていた、艦載機と一緒に……先輩たちと一緒に……空母として立派に戦ってるよ……みんなを守ってるよ…………ぐす……」


ぎゅっ


葛城「ありがとう……ほんとにありがとう……わたし、ほんとに幸せだよ…………」

提督「良かった……ほんとに良かった……」(なでなで)





提督「でもな。爺さんをはじめ、多くの人を救った船だ。きっと、包み込むような母性をもった艦娘だろうと思ってたんだ。同じように復員輸送船として活躍した鳳翔さんがあんな感じだしな。それがなぁ……蓋を開けてみたら……」


葛城「な、なによっ! 仕方ないでしょっ。わたし末っ子だし……経験も浅いんだし! 」


提督「いやぁ。慌て者のじゃじゃ馬でびっくりしたけど……ま、結果的には良かったよ」

葛城「良くないわよ! なんでよっ! 」

提督「いや、どうやら俺はそういう女性が好みらしい……。ずっと待ってた葛城が、俺好みの女性で……恋人になれて……良かったなと」


葛城「……そうね、ちょっと不本意だけど、結果オーライ……かな」


ぎゅっ


ちゅっ



……またおでこ……。今はちゃんとしたキスの雰囲気だったのに! もうっ








その夜、また夢をみた







――――― ??? 葛城の夢


ガヤガヤ ガヤガヤ


大勢の人たちが、わたしから降りていく。そっか、この人達を運んで来たんだ。


長い航海だったけど……みんな無事にたどり着けて良かった。



???「ありがとう、君のお陰で僕は命を救われた、帰ってこれた」



壁に向かって……ううん、わたしに向かって語りかけている人がいる。



???「一時は死を覚悟したけど、こうして無事帰ってこられた。これからまた希望を持って生きるよ。すべて君のおかげだ。本当にありがとう」



ふふ……船に向かって大まじめにお礼を言うなんて、変な人



???「君のことは忘れない。それじゃあ、さようなら」



そうして、下船していった人は……提督とそっくりだった。





チュンチュンチュン


葛城「……」

鳳翔「おはようございます、葛城さん。……なんだか元気ないですか? 」

葛城「……元気が無いというか、真面目モード? 」

鳳翔「ふふっ……それも珍しいですね。どうしたんです? 」


葛城「鳳翔さん……。前世で、戦争が終わった後、復員輸送船になったの、覚えていますか? 」

鳳翔「ええ、もちろん覚えていますよ」

葛城「わたしは、あんまり良く覚えていなかったんですけど……。提督の……提督のお爺さんが、わたしに運ばれて帰国したそうなんです」

鳳翔「ええ、存じていますよ。そうですか、提督はついにお話になったんですね」

葛城「うん、昨夜聞きました」





鳳翔「ということは、提督とは無事恋人になったんですね。おめでとうございます! 」


葛城「うぇぇぇぇ! ど、どうしてそれを! 」

鳳翔「葛城さんが着任される前も後も、提督からはずっと、葛城さんのことを相談されていましたから。どうすれば空母として活躍できるようになるか、どんなことを喜んでくれるか……。そんなことを色々ね」

葛城「/// もうっ。あの人はほんとに過保護なんだからっ」

鳳翔「ふふふ……愛されているんですよ。羨ましいことです」


葛城「あうう……そ、それでですね! わたし、前世は、空母として活躍出来ず、その後は輸送船に改造されて……。本当に、生まれた意味なんて無い、ひどい艦生だったって……そんなふうに思ってたんです」

鳳翔「あらあら……」

葛城「でも……。空母としては活躍出来なかったけど、輸送船になって、頑張ったことで、実はちゃんと、多くの人を守ることが出来た……国を、人々を守るために生まれた意味がちゃんとあった……そういうことを……提督のお話で、知ることが出来ました」


鳳翔「そうですか……良かったですね」(なでなで)





葛城「うん……。なんだかね……世界がひっくり返ったような気分なの。無事空母として活躍できるようになっただけでも幸せなのに……前世まで救われたような……」


鳳翔「ふふ、素敵なことですね」


葛城「しかも、その……こ、こ、恋まで満たされちゃって……。鳳翔さん、わたし、これでいいのかな? なんだか、幸せがいっぱいで不安なの……」


鳳翔「ふふふ……。幸せが怖いなんて、不幸慣れしすぎですね。あなたの今の幸せは、提督が一生懸命頑張って下さったからですよね? 」

葛城「うん……そうなの……あの人が一生懸命……」

鳳翔「じゃあ! その分、提督を沢山幸せにして差し上げるのが良いでしょうね」

葛城「……わたしにできるかな? 」

鳳翔「大丈夫ですよ。提督が喜ぶことをして差し上げればいいんですから」



提督が……喜ぶことを…………するっ!?





葛城「/// そ、それはっ」


鳳翔「あらあら、ここで真っ先にエッチな事が思い浮かぶなんて、葛城さんも大人になりましたね」

葛城「/// ち、違います! エッチなことなんて考えてません! ホントです! 」


鳳翔「ふふ……そういうことにしておきましょうか。でも大丈夫ですよ。あなたが元気に、一生懸命に、幸せに、そういう風に生きているだけで、提督は十分幸せだと思います。まぁ、葛城さんが思い浮かべたような『提督が喜びそうなこと』をして差し上げれば、もっと幸せだとは思いますけど♪」

葛城「/// もうっ、鳳翔さん!」


鳳翔「うふふ……。どうかお幸せにね。提督を幸せにしたいのであれば、それが一番ですよ」


葛城「はい……ありがとう、鳳翔さん」



わたしの艦娘としての艦生は……提督の情熱や努力で……もちろん、仲間たちみんなの優しさもあって……本当に、本当に幸せなものになった。

そうだね、鳳翔さんの言うとおり……提督は、それを心から喜んでくれている。これからも、いっぱいいっぱい幸せに生きよう……提督と一緒に……そうすればきっと、提督も幸せでいてくれる。

これが……わたしの恩返し。わたしの世界をひっくり返してくれた提督への、せめてもの恩返し……。提督、わたし、死ぬまでそばにいるからね!




本日分は以上となります。予定より一日早い投下となりました。
雰囲気的に幸薄そうな葛城ですが、せめてお話の中でぐらいは幸せいっぱいにしてあげたいですね。

さて、次回エピローグで終了です。長々とお付き合い頂きましたが、あと1回、よろしければまた是非お越しください。

投下は金曜日の予定です。



――――― 1か月後 北方海域からの帰り


瑞鳳「葛城さん、MVPおめでとうっ」

葛城「ありがとっ。いやー、もう北方はすっかり慣れたものよっ」

龍驤「練度上げの定番やね。うちも長いこと通い続けてるわ」


比叡「わたしは久しぶりに来たけど、ここは比較的安全でいいねっ! 」

電「わたしも久しぶりなのです」


龍驤「電も遠征はずれての出撃はひさびさやな。急にどうしたんやろ」

電「なんでも、第六駆逐隊は全員練度70を目指すことになったそうなのです。暁ちゃんの改二もできるようになったので! 」

比叡「そっかー、姉妹全員で練度揃えてくれるんだね。わたしたち姉妹の時は、榛名だけ改二がちょっと必要練度が高かったんだけど、ちゃんと姉妹全員、その練度まで上げてくれましたっ」

電「はい、練度を揃えてくれるのは嬉しいのです」

葛城「うん、提督はその辺ちゃんと揃えないと! って計画立ててたよー」



提督が考えてること、ちゃんとみんなわかってくれてるよ。良かったね、提督





比叡「さっすが固定秘書艦! 提督のことは何でも知ってますねっ! 」

葛城「そんなこと無いですよっ! ///」

電「ラブラブ羨ましいのです」

比叡「羨ましいよねっ。どう、毎日ラブラブしてる? 」


龍驤「あかんっ、聞いたらあかんっ! 」


葛城「ぇー。ラブラブなんてそんな……。最近はごはん食べるときに手を繋いだりするようになったぐらいで…… 」


葛城「そうそう、この間、すごくいい雰囲気になった時、またキスがおでこだったから、思い切ってわたしの方からほっぺにチューしちゃって、そしたら提督真っ赤になってて! 」


葛城「それでですね、他には……」


……



比叡「…………うわぁ」

電「…………これはひどい」


葛城「あ、あれ? ひえーって言わないのっ? なのですがついてないよっ? 」





龍驤「言わんこっちゃない……。空母たちの間ではもはや常識になっとるけどな、葛城にノロケ話を聞くのは地雷なんやで……」

瑞鳳「提督から、恋愛の話は気軽にしないこと。ただし聞かれた時には無理に隠す必要は無いから。って言われてるらしくて……」

電「うっかり地雷を踏んでしまったのです……海の上なのに……」


葛城「地雷ってそんな……あはは……ごめんなさい、普段話せない分、ついつい……(しょぼん)」

比叡「仲良く出来てるのはよーく、わっかりました! わたしももっと金剛お姉さまと仲良くしよっと」

瑞鳳「でも、ほんとに仲良しですね。羨ましいですっ。それでそれで、ケッコンももうすぐですよね! 」

龍驤「提督とケッコンカッコカリしとる子は多いけど、葛城とのケッコンは、なんや特別な感じになりそうやね」

葛城「/// そ、そっかな……。あはは……」

電「……やっぱりうらやましいのです! 帰ったら雷ちゃんと夫婦ごっこするのです……」





――――― 翌日 ブティック


飛龍「あーあ、せっかく秋物の季節なのに、品揃え全然変わんないね」

蒼龍「常夏の島だもん、常時夏物だよ~」

葛城「北方に出撃の時は……さすがに私服着ていくわけに行かないし、そもそも真冬ですよね……」

蒼龍「それでも、いつもTシャツだとつまんないしねー。わたしも可愛いキャミとか着たいなぁ」

葛城「……? 着ないんですか? 」

蒼龍「う、うん、わたしだと似合わなくてね……あはは」

飛龍「あ、それはそうと! 葛城は、まだちゃんと採寸したこと無いよね? 」

葛城「そうですねー、ラフな服しか買ってないから必要なくて」

蒼龍「着こなすためには、一度ちゃんと採寸したほうがいいね。よし、ちゃちゃっと測っちゃおう! 」

葛城「ぇー! 」

飛龍「さ、こっちこっち! さ、脱ぎ脱ぎしましょうね~ 」

葛城「ぎゃー! 飛龍さん、手つきがなんかやらしいですっ 」





葛城「ふー、ひどい目にあいました……」

飛龍「葛城は、おっぱい小さいって嘆いてるけど、手足も長いし、スレンダーでスタイル良かったね。これはまた服装を考えないとね」

蒼龍「羨ましい……」

葛城「……羨ましいのはこっちです…………」

飛龍(よし、採寸任務完了)

蒼龍(良かった、自然に採寸できたね)





――――― 数日後 鳳翔さんのお店


瑞鶴「お、葛城おはよ。今日も出撃? 」

葛城「瑞鶴先輩っ。おはようございますっ! はい、今日も北方でっす! 」

瑞鶴「連日の出撃なのに元気だねぇ。ははぁ……もうちょっとだから? 」

葛城「え? えへへ……はい、もう一息です」

瑞鶴「いやー、あの葛城が練度99かぁ。はやいもんだねー」

葛城「あはは、みなさんのお陰です。それに、それでも瑞鶴さんや、他の空母の皆さんには全然かなわないし……」

瑞鶴「なーに、今のペースで頑張っていればすぐだよっ」

葛城「うーん……。練度は確かに追い付いてきていると思うんですけど……。なんというか、心構えというか、ピンチに負けない強さとか、そういうのが全然だなって」

瑞鶴「その気持ち……うん、わかるよ。わたしもさ、前世で、先輩方がみんな居なくなってからはじめて、そういうものが自分に欠けてるって気がついて……。必死に戦っているうちに、少しずつ身についたような気がする。それでもね、今でもまだ、先輩にはかなわないなって思うもん」

葛城「瑞鶴さんですらそうなんだぁ。わたしは、まだまだ先が長いなぁ~」

瑞鶴「まぁいいじゃない! 目標になる先輩が居てくれるのはいいことだもん。わたしもさ、葛城のお陰で、少しだけ素直になって、目標となる先輩を見れるようになったから……。意地悪な先輩だから、なかなか上手くいかないけどね! 」





加賀「では、その意地悪な先輩が鍛えてあげます。さ、訓練場に行く時間ですよ」

瑞鶴「うひゃっ! 加賀さん、聞いてたの!? 」

加賀「そんな大きな声では、聞いてくれと言っているようなものです。さ、お望み通り意地悪して差し上げますよ」

瑞鶴「あはは……。じゃあ、ちょっといじめられてくるね。出撃がんばって! 」

加賀「瑞鶴、もたもたしないっ。葛城は出撃いってらっしゃい」

瑞鶴(小声で)「でもまぁ、こうやって名前を呼んでもらえるようになったから、実は結構嬉しいんだ」

葛城「あは♪ 良かったですね! 」



そうだよね、憧れの先輩がいつまでも目標で居てくれるっていうのは、本当に素敵。わたしにもそのうち、『葛城先輩!』って憧れてくれる子ができるのかなー。





――――― 数日後 南方海域からの帰り


赤城「ふふっ……おめでたいことなのに、何を難しい顔をしているんです? 」

葛城「あ……えっと……」

翔鶴「頑張って目標達成したのに、悩み事ですか? 」

葛城「いえ、その……考えてみたら、空母の皆さんは、全員提督とケッコンカッコカリしてるんだなって……。それで、その……ケッコンする時って、どんな感じだったんだろうって」

赤城「きゃあ、翔鶴さん、ヤキモチ焼かれてますよ、わたしたち」

翔鶴「うふふ、困りましたね」

葛城「/// 違いますっ! ただその……どんな風なのかなって」

赤城「わたしたちの時のは、葛城さんの参考にならないと思いますよ」

翔鶴「赤城さんもですか。わたしの時のもそうですね」

葛城「……っていうと? 」





赤城「わたしの時は、一航戦、二航戦の四人まとめて執務室に呼ばれて、『皆にはもっと練度を高めてもらうことになったから、大変だけどよろしく頼む』みたいな感じで全員に指輪を」

翔鶴「わたしの時は、瑞鶴と二人ででしたけど、全く同じ感じでしたね」

葛城「はぁ……提督らしいけど、ほんとに事務的ですねー」

翔鶴「わたしもね、カリとはいえケッコンという言葉に、少しドキドキしてたんですけどね。もうガッカリでした」

赤城「わたしはそうでもなかったですけど、二航戦の二人はすごく怒ってましたねー。加賀さんもかな」

葛城「そうですよね、ケッコンなのに……。やっぱり、練度を上げるための方便でしかないのかなぁ」

赤城「わたしたちはそうでしたけど……ねぇ(チラ)」

翔鶴「そうですね、わたしたちは所詮そういう扱いでしたけどねぇ(チラ)」

葛城「/// な、なんですかっ! 」

赤城「あの提督が、葛城さん相手の時は、どんなケッコンカッコカリするか、楽しみですね」

翔鶴「ええ、楽しみです! 」



うう、どうしよう、なんか緊張してきた……





――――― 数日後 訓練場


葛城「はぁ……」

隼鷹「どうしたのさ、葛城、元気ないじゃんか 」

飛鷹「ため息ばかりで……どうしたの? 」

祥鳳「ふふ……きっと提督のことで悩んでるんですね」

隼鷹「おっと、ノロケなら聞かないぜ! もうお腹いっぱいだからなっ」

葛城「ノロケなんてしませんよー。うー……」

飛鷹「本格的に悩んでるわね。ほんと、どうしたの? 」

葛城「うう、実はですねー。先日、練度99になったんですよー」

祥鳳「やりましたね! ということは、いよいよケッコンですね! 」

隼鷹「ひょー。やっぱりノロケかぁ」





葛城「違うんです~。せっかく練度99になったのに、ケッコンの話が全然出ないです~」

飛鷹「あれ、おかしいわね? 最近がんばって練度上げしてたの、ケッコンのためよね? それなのにどうして」

葛城「……ケッコンのため、みたいな話をしていたわけじゃないし……もしかしたら違う目的のためだったのかも……」

祥鳳「えー! でも、あれだけラブラブしてるのに、ケッコンしない理由がわからないですよ」

葛城「練度99になってから、提督もなーんかギクシャクしててラブラブもしてないし……うう、もう飽きられちゃったのかな」

隼鷹「ぶはっ。飽きるってなんだよ! 葛城さ、変な心配する必要無いって! プロポーズを楽しみにしてればいいんだよっ」

飛鷹「そうそう、提督はあなたにべた惚れじゃない。自信もちなさいな」

葛城「うう……ありがとうございます……」



でも、やっぱり不安だよぉぉ。提督、なんでちゃんとお話してくれないんだろ……





――――― 夜 葛城の部屋


葛城「はぁ……」


コンコンコン


蒼龍「葛城、いるー? 」

葛城「あ、はーい! どうぞー! 」


ガチャ


飛龍「おじゃましまーす」

鳳翔「わたしもおじゃましますね」

蒼龍「葛城、ほら、見てみてこれ! 練度99には間に合わなかったけど、さっき届いたの! 」

葛城「どうしたんですか、みんなで、何事…………って……これ……」



白い……ドレス……? もしかして……ウエディング……!



飛龍「女の子の憧れだよ! わたしも着てみたいなぁー」

鳳翔「明日の朝、わたしのお店で、ささやかですが結婚式をしようということになっています。楽しみですね」

蒼龍「サイズはちゃんとあってるはずだけど、早速着てみようっ! 」

葛城「あの……は、はい!! 」





鳳翔「結婚式といえば白無垢だと思っていましたが、ドレスも素敵ですねえ」

蒼龍「時間も無くて、すごくシンプルなのになっちゃったけど……でも、すごく綺麗だよ」

飛龍「うん、すごく素敵! これならバッチリだよ! 」

葛城「は、はい……」



戸惑いつつ鏡をみると……お嫁さんが立ってる……。これがわたしなんだ……。



葛城「う、嬉しいです。でも、でも、提督は……結婚式なんて嫌がるんじゃ……」

鳳翔「嫌がるもなにも、提督の発案なんですよ」

蒼龍「そうそう、ドレスも、提督に相談されて用意したんだよー」

飛龍「ついでにわたしたちのドレスも買っちゃおうと思ったんだけど、さすがに怒られてだめだった! 」

葛城「提督が……」





鳳翔「提督はね。練度のために他の子ともケッコンカッコカリをしてるし、これからもしないといけない。だけど、葛城とのケッコンは特別だからちゃんとしたい。そう言っていましたよ」

飛龍「うわぁ……わたしも、とっっっっっても事務的に提督とケッコンカッコカリしたけど……扱い違いすぎ~」

蒼龍「まぁまぁ、提督は葛城のことずっと待ってたんでしょ。一途で素敵じゃない」

飛龍「そうだけどさー。うらやましい~~」

葛城「///」



そっか……あはは、悩んでたのが馬鹿みたい……。そうだよ、提督はわたしを誰よりも大事にしてくれてる……。

そして……わたし、明日には……提督のお嫁さんになるんだ……



葛城「うう、泣きそう……あと、すごく緊張してきました……」

鳳翔「あらあら、泣くのはドレスを脱いでからにしてくださいね」

葛城「うう……がんばります……ぐす……」





――――― 翌日 鳳翔さんのお店


提督「ぐぬぬ……ここまで冷やかされるとは……」

長門「まぁ、諦めることだ。わたしとて、わたしのケッコンカッコカリのときとはえらい違いだなと思わずにはいられん」

提督「ぐぬっ。そ、それはその……」

長門「ふふ、冗談だ。ちゃんと祝福しているさ。ただ、ちょっと提督をいじめたくなる、皆の気持ちも分かるのさ」

提督「うう……」



金剛「それでは、新婦入場デース! みなさん、温かい拍手でお迎えしてネー! 」


パチパチパチパチ


提督「…………」

葛城「///」


提督「……見違えた。すごく綺麗だ。これなら、一目惚れしちゃうよ、俺」

葛城「な、何言ってるのよ、もうっ! ///」

……






金剛「はーい、それではここで、誓いのキスを! 」

長門「こ、こら、金剛。公衆の門前でキスなど、駆逐艦の教育に悪いっ」

金剛「結婚式なら、当然のことデース! 」

葛城「そ、そんな、わたし、まだキスしたこと無いのに……みんなの前でなんて……えっ……!? 」


抱きっ

ちゅっ


提督「あはは、隙ありっ」

葛城「…………」

葛城「///」

葛城「きゃーーー! 」(バチーン)

提督「おうふっ」

金剛「OH! 早速夫婦ケンカデース! 」

長門「うむ! 亭主を図に乗らせてはいかんからな。しっかり教育するのがよい」

葛城「あああ、びっくりして反射的に! だ、大丈夫!? 」

提督「ぶははは、大丈夫大丈夫」

葛城「でも、あなたが悪いんだからね! そんな、突然……」


ワーワー
ワイワイ





――――― 夜 提督執務室


提督「すまんなぁ。残業でさ」

葛城「しょうが無いよ。結婚式だからって、執務が無くなるわけじゃないもんね」


提督(カリカリ)

葛城(カリカリ)


提督「結婚式……ささやかだったけど、あれで良かったか? 」

葛城「……恥ずかしくて、さんざん冷やかされて、大変だったね」

提督「いやもう、ほんとな……」


葛城「でも、でもね……。これまでで一番幸せな日だったよ。ドレス着て、祝福されて……もうね、思い出すだけで泣いちゃうから、思い出さないようにしてたのに……ぐすん」


提督「そっか……。うん、俺も幸せだ。良かったよ、喜んでもらえるか自信なかったからさ」


葛城「まったく、わたしのこと全然分かってないのね! 本当に嬉しかったんだから。ご褒美に、何でも言うこと聞いてあげてもいいくらいよ♪ 」

提督「ほんとか! じゃあ、是非お願いがあるんだけど」

葛城「え……! な、なにっ? 」



ま、まさか……あんなこととか、こんなこととか…………





葛城「え、あの、そうは言っても、心の準備が必要というか……お風呂だってまだだし……」

提督「あははは、まぁ、そういうことはおいおいな。そうじゃなくてさ」

葛城「や、やる気満々!? ……そうじゃなくて、なに? 」



真面目な顔になった。なんだろう



提督「お願いだから、死なないでくれ。戦場に出る以上、何が起こるかわからん。俺も、何があっても誰も沈まないよう頑張るけど……。だけど、約束してくれ。必ず生きて帰ってくると。俺はもう、お前のいない人生なんて考えられないからな……」


葛城「……ぐす…………。もちろんよ、あなたを残して逝けるわけ無いじゃない……。ぐすん……どんな戦場からも、必ず生きて帰ってくるよ……そして……死ぬまで一緒にいるよ……」


提督「ありがとう、約束だ」(にっこり)


ぎゅっ



あなたは……わたしに……あらゆる幸せをくれた。どれだけ感謝してもしたりないのに……それなのにあなたは、わたしが居るだけで幸せだと言ってくれる……。だからせめて、その望みを全力で叶えるね。ずっとずっとそばにいるから。それは、わたしの望みでもあるんだもん。


これから一生よろしくね……あなた♪





艦!





【おまけ】


――――― しばらく後


雲龍「正規空母雲龍、推参しました。提督、よろしくお願いしますね」

提督「よろしく頼む。葛城、良かったな。姉さん来てくれたぞ」

葛城「雲龍姉さん、待ってたよ~~」

雲龍「葛城はもう着任していたのね。これから色々教えてね」


抱きっ

むぎゅ


葛城「…………」



――――― またまたしばらく後


天城「天城と申します。提督、どうぞよろしくお願いいたします」

提督「よく来てくれた! これで雲龍型勢揃いだ」

葛城「天城姉! ひさしぶりだよーー! 」

天城「葛城! ふふ、先に転生していたのね。会えて嬉しいわ」


抱きっ

むぎゅ


葛城「…………」



葛城「なんでわたしだけーーーー!!!!」



艦!




以上で完結となります。長々とお付き合い頂きまして、読んでくださった方には、本当に感謝です。

葛城は最近実装された艦ですが、個人的にはドストライクな女の子です。早く嫁にしたいけど練度が……ぐぬぬ。

また、その数奇な運命というか、艦生がとても魅力的です。艦娘としての知名度はまだまだかと思いますが、葛城ファンが増えてくれるといいなぁと思っております。


さてさて、恒例の過去作品リンクです。よろしければ是非おこしください。

【艦これ】俺の鎮守府が修羅場…?
【艦これ】俺の鎮守府が修羅場…? - SSまとめ速報
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【艦これ】俺の鎮守府が修羅場…? 龍驤END
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大淀「駆逐艦の子たちはわたしが守ります!」
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書き忘れました。

次作品は誰で書こうか、とても悩んでいます。書きたい子は結構いるけど、具体的なストーリーまではまだ……。と言った感じで。

筆者はゆるいラブコメしか書けませんが、それでもよろしければ、ご希望の艦娘をリクエストいただければ参考になります。


みなさん、レスありがとうございます。
リクエスト見渡してみますと、みなさんご贔屓艦娘が全然違うなーっていう感じで、艦これの層の広さというか奥深さを感じますね。

参考にさせていただきます(o_ _)oペコリ ありがとう。

以前、五月雨さんのお話を書いた時に痛感したんですが、時報ボイスとか限定ボイスが全然無い艦娘は、ものすごく書きにくいです。もちろん自分なりの解釈で書くわけですが、読み手の印象が一人ひとり全然違うでしょうから、そこが難しい。

でも、それはどの書き手さんも同じでしょうから、できればあまりスポットが当たらない子も登場させたいですよね。


それでは、ありがとうございました!


おお、間があいてしまったのに、まだスレが残っていた!

新作はじめましたので、せっかくなので誘導を貼らせていただきます。

【艦これ】 青葉 「あなたを取材しちゃいます! 」
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リクエスト頂いた中から、陸奥さんのお話を書いていたのですが、どうにも難産で、まだ時間がかかりそうです。
なので、まずは元から考えていた青葉のお話を。陸奥さんのお話は、おそらく次か次の次ぐらいに。

それでは、よろしければまた新作もお楽しみ下さいっ。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年07月23日 (土) 22:33:45   ID: aPq0_MYo

泣いた

2 :  SS好きの774さん   2016年08月12日 (金) 21:29:04   ID: PKqu03b-

いやぁ 空母好きー勢で気になって一気に読みました。
面白かったです!
葛城をイベントでゲットしてから育てていなかったのですが、これを機に育ててみようと思います。

3 :  SS好きの774さん   2018年04月25日 (水) 22:00:12   ID: ENlhkBqQ

提督のじーさんの話が泣けるわ。

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