一方通行「鬼隠しだァ?」 (632)

初スレ立てです。
禁書×ひぐらしのssです。
アイデア自体は既出のものです。
オリジナル設定が多量に含まれます。
今更禁書orひぐらしかよ。という人はごめんなさい。
基本>>1の自己満足ですが、皆様に少しでも楽しんでいただければ幸いです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1434462935

それでは今日はプロローグだけ。
投下します。

地の文が含まれますのでご注意を。

プロローグ


カナカナカナカナカナカナカナ。

窓の外からはひぐらしの鳴き声が聞こえてくる。

「それじゃあ、今日の授業はここまでです。みなさん、気をつけて帰ってくださいね」

そう言って青い髪に白いワンピースを纏った、まだあどけなさの残る女性は教室を後にした。

「……」

窓の外を眺めていた少年は黙って立ち上がる。
ガタ、とイスが揺れる音に他の生徒たちが目を向けるが少年はこれといって気にした様子はない。

隣の席に座る少女は立ち上がった少年を眺め
夕日に照らされたその様子をただ

白い

そう思った。

「……くっだらねェ」

少年は教室を後にする。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

時は少し戻って。
学園都市。東京都西部に位置する独立教育機関であるこの都市には280万人の人口が生活しており、その役8割が学生である。
つまるところ、外と隔離された巨大な学校の集まりの街。
この街では科学技術が大変発達しており、科学技術を使って超能力の開発が学園都市に在住する生徒たちを対象に行われている。
手から炎を出したり、念じるだけでものを動かせる。そんな超常現象がこの街では当然のことなのだ。

超能力はその強度により分類分けされる。
無能力者(レベル0)から学園都市に7人しか存在しない最大の超能力者(レベル5)まで。
学生なら誰もが体験したことのあるように順位付けがされているのだ。
そしてさらにレベル5にも第一位から第七位までの順位が付けられている。
つまるところこの街はどこまでいっても学校であるというわけだ。

そしてそんなレベル5第一位。
学園都市において最強最大とされている超能力者、一方通行(アクセラレータ)は。
缶コーヒーがいっぱいにつまったコンビニ袋を下げて歩いていた。

学園都市第一位といっても、決して有名人ではない。多くのレベル5の素性は隠されており-第三位御坂美琴の様な例は除くが-多くの人物はレベル5のことを知らない。
そうは言っても一方通行が歩いている、それだけで多くの人が振り返る。
それはレベル5であるから、ではない。
男とは思えない透き通った白い肌。
真っ白な頭髪。
赤い目。
アルビノ、と巷では呼ばれる様な彼の特徴的な外見のためである。
そのため彼、一方通行は表通りを歩くことを避ける。奇異の目に晒されるのはあまり良い気分ではない。

そんなわけで今日も今日とて一方通行は買い出しを終えて路地裏を歩いていたわけだが。

「ーーはァ」

ため息が漏れる。

「いつもいつも……よくもまァ飽きねェよなァ?」

少年一方通行は振り返る。
彼の前にはナイフ、鉄パイプなど、様々な武器を手にした不良集団ー学園都市ではスキルアウトと呼ばれるがーが5人ほど。

「スクラップの時間だぜェ、ぎゃは」



何事もなかったかのように歩く一方通行の背後には不自然な方向に手足が曲がった先ほどのスキルアウト達が倒れていた。
学園都市第一位とはこういうことなのだ。
彼の超能力はベクトル変換。この世のあらゆるものに存在するベクトルを操る能力である。
普段の彼には反射という絶対防御が存在していて。
彼の体に触れたもののベクトルを反転させ反射する。
先ほどのスキルアウト達に一方通行は指一本たりとも触れていない。
ただ直立していただけなのである。それでもスキルアウト達は倒れていく。彼の反射の力によって自分たちの攻撃を自身がくらいながら。

彼はその力で幼い頃から学園都市第一位に君臨し続ける。何人たりとも寄せ付けないその力は、少年の心を閉ざしてしまった。
普通の友達が欲しかった。みんなと同じ様に遊んでみたかった。
しかし彼の能力がそれを許さない。自分に近づくものは彼すら気づかないうちに傷ついてしまう。
それならいっそ。
誰とも関わらない様にしよう。
そうやって出来たのが一方通行という少年だった。
友人はいない。知り合いといえば自分の能力を研究して金儲けをしようという薄汚い研究者だけ。
自分の本名すらも忘れ去ってしまった。

そんな少年の学生寮に一通の手紙が届いていた。

「ンだ?こりゃァ」

またしようのない実験への誘いか。
そう思っていた一方通行であったがそこに書いてあった内容は彼の予想から外れたものであった。


××県鹿骨市雛見沢村への林間学校を命じる。

学園都市統括理事会


「ふ、なンだ?意味わかンねェ」

「……ご丁寧に外出手続きまでしてあるっつーのか」

結局のところ。
一方通行にはどうでもよかった。
今の生活に未練も無ければ希望もない。それならば人の少ないシケた集落で生活したほうが楽かもしれない。
その程度のことなのだった。
そうして少年は向かう。
運命の地へ。

これは報われない物語。少年と少女たちはこの物語の先に何を見るのか。

科学と魔法が交差する時。
物語は、始まる。

行間1

学園都市に存在する窓のないビル。
黒い壁に覆われて入り口も窓も一切がない不自然なビル。
誰も知り得ないことだが、その中には1人の人間が存在していた。
生活しているのではなく、存在している。
いや、正確には存在しているのかどうかも分からないし、人間という表現も正しくはないのかもしれない。
とにかくそんな存在の彼は、巨大なビーカーのような装置に逆さまに浮かんだまま言葉を発する。

「さあ、一方通行。イレギュラーの起こったこの世界で、君はどのように成長するのかな」

その人物の表情は全くと言っていいほど読み取れない。
しかし。
少しだけ楽しそうに見えた。

少ないですが今日はこれだけで。
一週間以内にまた来たいと思います。

余談ですが、なんというか
緊張しますね。

ではみなさまおやすみなさい。

垣根はでるのか垣根は

みなさまこんにちは。
書き溜めが結構いい感じに進むので予定より早く投下しに来ました。
レスありがとうございます、頑張ります。

>>10
今のところ垣根の登場予定はないのですが、とあるキャラも上手い具合に織り交ぜていきたいので、うむむ………

あ、それと言い忘れていたのですが。
実はひぐらしはアニメ版しか見ていないクソにわかです許して下さい。
いつかゲーム版をプレイしたい所存です。
では本日分投下いたします。

時は現在に戻ってここは雛見沢村。
××県鹿骨市の山奥人口2000人ほどで周りを森に囲まれた、まさに陸の孤島である村で。
小学生ほどの少女が窓辺に座ってワインを煽っていた。
時は夜。

少女はワイングラスを口から離すとくるくると注がれているワインを回す。

「やはり圭一は来ないのね」

虚空へと視線を向けて少女は呟いた。
するとどこからか声が響いてくる。

「そうみたいなのです。仕方のないことです。今までも何回かあったことなのですよ」

「……」

少女は目を伏せる。

「元気を出してください梨花。その代わりにこの世界にはあの白い少年がやって来たのですよ。今までに一度もこんなことはありませんでした」

「……そうね。彼。……鈴科進一だったかしら。彼は一体何者なのかしら」

「それは僕にも分からないのです。でも彼からは何か不思議な力を感じるのですよ」

「そう、羽入がそう言うのならばそうなのでしょうね」

梨花と呼ばれた少女はそう言って顔を少し上げた。しかしその顔には諦めの表情が見える。

「そんな顔をしないでください梨花。それにこの世界は今までの世界とは何か違います、不思議な力であふれているのです」

「そうね。神社に私が見たこともない本があったし、そこから得られた知識は力になるわ」

「そうなのですよ。それにこの村全体も不思議な力で覆われています。この世界は何かあるのですよ」

「……少しだけ、期待してみましょうか」

「そのいきなのですよ、梨花」

もぞもぞと、梨花のいる部屋に敷かれた二枚の布団のうち片方が動いた。

「梨花ー?なにをしてらっしゃいますの、こんな時間に」

金髪の小学生程度の少女が上半身を起こし、瞼をこすりながら梨花に尋ねた。

「少し、夜風に当たっていたのですよ。沙都子、起こしてしまいましたか?」

先ほどとは打って変わって子供っぽい様子で梨花は返事をした。
沙都子は欠伸を咬み殺す。

「いえ、そんなことはございませんの、大丈夫ですわ。それより、まだあの人は帰ってませんの?」

「そうみたいなのです、今日は帰らないかもしれませんね」

「そうですの。全く、心配させないでほしいですわ」

「まあまあ、そう言ってはかわいそうなのです。もとはるもぼくたちのために頑張ってくれているのですよ」

「そうですわね。それより梨花、もう寝ましょう?明日学校に寝坊しますわよ?」

「はいなのです」

梨花は敷かれた二枚の布団のうち誰も寝ていない方の布団へと入っていく。

「おやすみなさいませ、梨花」

「おやすみなさいなのですよ、沙都子」

そう言うと梨花は、ちらっと部屋の隅に置かれた自分たちのものよりも大きい布団へと目を向けた。

ーーー本当に不思議な世界だわ、ここは。

目を瞑るとゆっくりと梨花の意識は沈んでいくのだった。

六月某日。
キーンコーンカーンコーン。
決して大きくはない昔ながらの板張りの雛見沢分校の教室に夕日が指す。
終礼のチャイムが一日の終わりを告げている。

窓際の席で肘をついていた一方通行は軽く伸びをすると欠伸をした。

ったく、なンで俺は律儀に学校なンて来てンですかねェ?

彼にしては珍しくまだ席を立たない。
いつもならば学校が終わればすぐさま帰宅するのだが。
この日はなんとなく席を立つ気分にならなかった。
帰り支度をする生徒たちでガヤガヤと教室が音を立てている。
田舎であるため生徒の数は決して多くはないものの、小さい子供が多いためか放課後は騒がしかった。

期待でもしてるってのかァ?
自分の事を知らない土地に来れば受け入れて貰えるンじゃァないかってかァ?
……はっ。
くっだらねェ

一方通行が席を立とうとすると。

「あの……鈴科、君?」

隣の席に座っていた少女が一方通行に声をかけた。

「あァ?」

鈴科?
あァ、そうか、こっちでは偽名だったっけかァ?

「うっ、あ、あの、嫌だったら構わないんだけど、明日土曜日って予定はないかな?かな?」

なンだ、コイツ。確か名前は竜宮礼奈。
ビクビクしてンじゃねェよ。
……まァ、当然か。

「だったら何なンだ?」

「あ、あの、私竜宮レナって言うんだけど、あのね!私の友達と相談して、鈴科君に雛見沢を案内してあげようって話になって……」

「鈴科君、その、あんまり仲よさそうな人とかいなかったから、まだ村に慣れてないんじゃないかなって思って。それで、それで……」

「ダメ……かな?」

オレンジががった茶色の頭髪を揺らして竜宮レナは小首を傾げる。
一方通行は驚いていた。
自分に声をかけてきて、それどころか善意を向けてきている。
慣れない。
それが彼の感想だった。

「……勝手にしろ」

パッとレナの顔が明るくなる。

「じゃあ、明日来てくれるってことだよね!じゃ、明日学校に11時に集合ね!」

そう言うとレナは彼女の言う友達の方へ逃げるように駆けて行った。

……マジかよ。オイ。

一方通行は驚きに半ば呆然としながら帰宅するのだった。

翌日。
土曜日だというのに一方通行は10時に40分には雛見沢分校の前に待機していた。
昨日の約束のためだ。

オイオイオイオイ。ほンとになンだってンですかァ?
一方通行、いつものお前ならあンなの無視して終わりだろォがよ。
いつもみてェに家で寝てりゃよかったのによ。
……期待、してる……?
ハッ、馬鹿馬鹿しィ。単なる暇つぶしだ。

一方通行は自分に言い聞かせていることに気付かない。
ガシガシと頭を掻いて邪念を振り払うように頭を振っていた。

「にゃー、ずいぶんとせっかちさんみたいだにゃー今日の主役さんはー」

俯いて考えていた一方通行に声がかかる。
声のした方に視線を向けると金髪にアロハシャツを羽織ってグラサンをかけるという、今時こんなに典型的なチンピラはいないだろうというような格好をした長身の少年が立っていた。

「ちょっと待ってよう元春君、歩くの早いよー」

「にゃはははー、すまんすまん。俺としたことがちょっぴりはしゃいでたみたいですたい」

コイツは確か、土御門元春。俺と同じ雛見沢唯一の高校生だったか。
後ろについてきてるのは竜宮礼奈だな。

レナは土御門に追いつき、息を整えると一方通行の方へ視線を向けた。

「鈴科君、おはよう。来てくれたんだね」

「お、おォ」

レナの顔には一片の悪意も疑いもない。
一方通行にはとても不慣れなもので、戸惑ってしまう。

「ありゃりゃー、どうしちまったのかなーコイツは。レナに見つめられて照れてるのかにゃー?」

一方土御門は一方通行にからかいの表情を向ける。
まだこちらの方がやりようがあるな、と一方通行は思うのであった。

「そう人を睨むんじゃないにゃー」

「元々こォいう顔なンだよ」

そんなやりとりをしていると

「おーーーい!」

と、一際元気良い声が聞こえてきた。
土御門とレナの後方からもう一人少女が駆けてくる。

「ごめんごめん、おじさんちょっと野暮用で遅くなっちゃった!」

「もー、みぃちゃん遅いよー」

「まぁ魅音が遅れてくるのは想定内だぜい」

少女はぜえぜえと肩で息をする。

「はー、まいったまいった。お、鈴科ちゃんと来てくれたんだ!いやーおじさんは嬉しいよー!」

そう言うと遅れてきた少女、園崎魅音はバシバシと一方通行の肩を馴れ馴れしく叩く。

あァ?なンで反射がーー
そうか、確か学園都市を出るときに能力を制限するチョーカーなンてェのを付けられたンだったなァ。

一方通行は学園都市のレベル5序列第一位である。
言い換えればつまり、彼は学園都市の科学技術を集結作った宝ということだ。
学園都市としてはそんな宝である彼をただで外に出すわけにはいかず、能力制限をさせるチョーカー型電極の着用を一方通行は義務付けられた。
首から脳に電気信号を送り、能力使用を制限するというものである。
このチョーカー型電極のスイッチを能力使用モードにすれば彼の能力を全開で使用できるのだが、それも30分とごく短い時間に限られている。
そんなわけで現在の彼には反射が使えないのだった。

とにかく。
これで雛見沢分校に在学する中学生以上の生徒が全員揃ったことになる。

「つっちー、沙都子と梨花ちゃんは?」

魅音は土御門の方を向き直ると頭の後ろで手を組みながらたずねる。

「あいつらとは神社で落ち合うことになってるぜい。既に場所をとって待っててくれてるはずだにゃー」

「そっか、じゃあしゅっぱーつ!」

魅音の掛け声で各々は歩き始めた。

なンつーかまァ………

「くっだらねェ」

そう言い残すと一方通行も魅音、土御門、レナの後を追ってゆっくりと歩き出した。

「……やっぱりあんまり話できないね」

「そうだにゃー、どうやら随分人見知りみたいだにゃー。レナ、ここは思い切って話しかけるんだにゃー」

「そうやって元春君はなんでもかんでもレナにやらせようとするんだから」

土御門とレナは道すがらひそひそ話を始めた。
雛見沢の案内というだけあって目的地はいくつかあるようなのだが、移動時間の無言が気にかかるようだ。
特に一方通行の無言が。

……聞こえてンぞ。

そう思いはするものの、一方通行は言葉を発さない。

「……んー、鈴科ってさ、なんでそんな白い頭してんの?」

ちらちらと土御門とレナの方を伺っていた魅音が彼らの会話に見かねたのか言葉を発した。

「……こりゃァ能力の弊害だ。別に染めたりしてるワケじゃねェよ」

無視しても良いか、と考えていた一方通行ではあるが、別にそれほどのことでもないと考え直したようだ。

「あ、そういえば鈴科君は学園都市から来たんだっけ。どんなところなのかな?学園都市って」

チャンスとばかりに目を光らせたレナが会話に入ってくる。

「別に……フツウだ。変わったもンはねェよ。」

「つってもまァ、こんなド田舎に住ンでりゃァ都会自体が珍しいかもなァ」

彼は辺りを見渡しながら言葉を放つ。

「レナだって、東京にいたことあるんだよ?」

レナなりに一方通行が失礼なことを言ったと感づいたのか、少しムッとしながら言い返した。

「そうかよ」

一方通行は特に興味なさげな様子である。

はぅ、とレナはがっくりうなだれる。
にゃー、レナは悪くないんだぜいとレナを慰める土御門の声が聞こえてくる。

面倒臭ェ。
一般人ってのはこンなにコミュニケーションに気を使ってンのかよ。

「あ!そういえばさー、鈴科の能力ってどんなのなの?」

助け舟だレナ!と言わんばかりに魅音が言葉を発する。

なるほど、コイツらのコミュニティでは園崎魅音がムードメーカー的役割なンか。

「大した能力じゃねェよ。話してもなンの面白みもねェ」

「えー、そんなことないっしょー!だって学園都市の能力者って、ぶわーって火を吹いたりとか、バーン!ってドラゴン召喚したりするんでしょ?」

「いや、ドラゴンの召喚はねェよ。そうなるともう超能力じゃなくて魔法の域じゃねェか。ゲームじゃあるまいしよ。」

「でもでも、あの雷を出す女の子は有名だよね?なんて言うんだって、確か」

「御坂美琴、かにゃ?」

「そうそうその子だよ!あの子かぁいいよねぇ〜〜」

そう言ったレナはいつもと違ってくねくねと動き出す。

「まァ可愛いかどうかはさて置いて、あの御坂美琴っつーのは学園都市にも7人しかいないレベル5っつー能力者の頂点に立ってるヤツだ。みンながみンなあんなに派手な能力が使えるワケじゃねェし、学園都市っつっても大半はレベル0、無能力者が占めてるからな」

「えーなんで!かわいいよー!」

「そっちかよ。俺の解説は何だったンだよクソアマ」

つい思わずといった様子でつっこむ一方通行。それを魅音は見逃さない。

「お!鈴科の初ツッコミ!いやーやるなぁレナー。」

「えへへーそれほどでもないよー」

「いやいや褒めてねェだろ別にそれは。なンだったらからかわれてンだろ」

「へっ!そうなのかな!?かな!?」

「それにしても、鈴科って見かけによらず結構喋るんだにゃー」

土御門は独り言のようにこぼした。

「ほんとほんと!おじさん鈴科のこともっと怖い人だと思ってたよ!」

「なンなンですかァ?寄ってたかってよォ。俺がそンなにコミュ障に見えンですかァ?」

「まァ少なくともコミュニケーションが上手い様には全く見えなかったにゃー?」

土御門がニヤニヤとしながら言う。
一同は笑った。
一方通行自身もほんの少しだけ頬を緩ませた。

ったく、なンだってンだ、ホントによォ。

そんなことを考える彼だったが、どこか楽しげに見えた。



「みぃ、みんな、こっちなのですよー」

あれから暫くすると坂道になり、そこを延々と歩くと目の前に神社が見えてきた。
鳥居をくぐると直ぐに少女の声が聞こえてきた。

「梨花、場所取りはちゃんとできたかにゃー?」

「バカにしないでくださいなのです。僕にかかればそれぐらい造作もないことなのですよ」

古手梨花だ。
梨花は土御門の言葉に頬を膨らませていたようだが、一方通行が目に入るとくるっと一方通行の方を振り返ってぺこりと音が聞こえてきそうなほど綺麗なおじぎをする。

「僕は古手梨花なのですよ、よろしくなのです」

「おォ。鈴科進一だ」

一方通行はどこか照れ臭そうにそう返す。
学校で見ているため別に初対面というわけではないのだが、礼儀正しい少女のようだ。

「梨花ちゃんはこの古手神社の神主さんなんなんだよ?鈴科君」

「なるほどな」

それでやけに礼儀正しかったわけだ。

「みなさん遅いですわよ。レディを待たせるとはどういうおつもりですの?」

梨花の後ろからもう一人の少女が覗いていた。
北条沙都子だ。

「ごめんねー沙都子ちゃん、みぃちゃんが遅れちゃったから」

「苦情ならもれなく魅音にってことだにゃー」

「ま、ここはひとつレディのたしなみとして何も言わないことにしますわ。それくらいの寛大な心がないといけませんもの」

沙都子はふんと鼻を高くして腕を組む。

ガキのくせにと思わなくないこともないが、一方通行には関係のないことだ。

「それよりもみんな、早くお昼にしようなのですよー。僕はもうお腹ペコペコなのです」

「そうだにゃー、もうじき一時になろうって時間だからにゃー。俺も早くかわいい義妹たちの手料理が食べたいですたい」

土御門は誇らしげに梨花と沙都子の頭を撫でる。
ふと、一方通行の頭に疑問が浮かんだ。

「妹?」

一方通行がいぶかしげにするとレナは合点がいったようではっとした表情を見せた。

「そっか、鈴科君は知らないよね。元春君は梨花ちゃんと沙都子ちゃんと一緒に住んでるんだよ」

「僕たちには両親も姉妹も兄妹もいないのです。だからもとはるが僕たちのお兄さん代わりをしてくれているのですよ」

「俺としてもこんなにかわいい義妹が二人もできて嬉しい限りなんだにゃー」

いうが早いか二人を撫でる手を更に早める土御門。
梨花は嬉しそうにニコニコとしているが沙都子は俯いているため、表情は伺いしれない。

「……そォか、悪かったな変なコト聞いてよ」

その言葉にみんなはぎょっとした様子で一方通行の方を見つめる。

「……なンだよ?」

「いや、鈴科って意外と気とか使えるんだなーと思って」

「このアマトコトン失礼なヤツだなオイ」

「ご、ごめんね!みぃちゃんも悪気があって言ってるわけじゃないんだよ?」

「つゥかオマエらなンだ?全員で俺の方マジマジと見やがってよォ。てことは全員そう思ってるっつゥことだろォがよコラ」

「まあ、だってそりゃあ今まで喋ったこともかなったしにゃー。お前はいつも学校が終われば一目散に帰っちまうから愛想が悪いヤツだと思われても仕方ないってもんぜよ」

「チッ……まァどォでもイイけどよォ」

にゃー、一方通行に打ち勝ったぜーなどと言って土御門は早速一方通行をからかいはじめる。
土御門のイジリにイライラしはじめた一方通行は発散させるようにトントンと片足を鳴らしていた。

「あーはいはい!とにかくお昼でしょ!早く食べよう」

パンパンと手を叩くと魅音が言い放つ。
一向はぞろぞろと神社の裏手へと回っていった。

神社の裏手には開けた空間がありそこにレジャーシートが一枚広げられていた。
レジャーシートの上には何重にも重ねられた弁当箱がここだ!と主張するようにドンと置かれている。
レジャーシートが飛ばないように重しの役目も兼ねているのかもしれない。
一方通行、土御門、レナ、魅音、梨花、沙都子の面々はそれぞれ好きな場所に陣取り始める。
結果的に時計回りに、12時の場所から一方通行、土御門、梨花、沙都子、魅音、レナという順番になった。
現在座っている広場は山道を登った甲斐あって高台になっており雛見沢を一望できる場所にあった。
ふわっと初夏の風が通り過ぎていった。

「それじゃあさっそくいただきますだぜい!」

言葉を放った瞬間から水を得た魚のように土御門は弁当箱をバラし、我先にと箸を動かしはじめる。

「もー、元春君がっついたら危ないよ」

少し呆れた様子のレナも注意しながらいただきますと箸を動かし始めた。

「俺も食ってイイってことか?」

一方通行は尋ねる。

「とうぜんなのですよ、むしろすずしなのために作ったようなものなのですからね」

梨花はにぱーと一方通行に笑いかける。
人の笑顔に慣れていない彼はというと、少し恥ずかしそうにそっぽを向いて頬を書いていた。

「それにしたって、凄い量だねえ」

肉じゃがを摘んだ魅音がそうこぼした。

「新しい仲間を迎え入れるとういことで少々張り切りすぎたところはあるかもしれませんわ」

「沙都子はじゃがいもの皮を向いただけではないですか」

「もう!梨花!どうしてそういうことを言いますの!私だって料理はできるんですからね!」

沙都子はキッ!と梨花の方を睨みつける。
梨花の方は特に気にしていないようだ。
こういう事が日常茶飯事なのかもしれない。

「そういや、オマエは料理しねェのかよ?一緒に住ンでるンだろ?」

一方通行は自分と同い年であろう土御門に問いかける。
彼がこの二人の面倒を見ているならば当然彼が食事を用意しているはずだ。

「それが俺はぜんぜんダメなんですたい。まあそれでも梨花や沙都子が作ってくれるからなー」

「小学生に食わしてもらってる高校生っつーのはどォなンだっつゥ話だけどな」

「いやー、そう言われると弱いにゃー」

「ちっとは楽させてやろうとは思わねェのかよ。二人は小学生だろォが」

「俺だって全く何もしてないわけじゃないんだぜい?食事の用意以外の家事はほとんど俺がやってるんだし」

「まァ当然だろォな。兄貴っつーぐらいならな」

「思ってたんだけど」

「あン?」

一方通行と土御門の会話に割って入ってきたのは魅音だった。

「鈴科って意外とイイヤツだなーって」

「はっ、頭がどうかしてるンですかァ?ロクにコミュニケーションも取らねェ俺がイイヤツなワケねェだろォがよ」

「でも、私もそう思うよ?鈴科君最初は怖い人なのかなって思ってたけど、今日もちゃんと来てくれたし、さっきの話でも沙都子ちゃんと梨花ちゃんのことを気遣ってたし」

「……今日は単に暇だっただけだ。それにさっきのはガキどもに気を遣ったンじゃなくて、このグラサンヤローが気に食わなかっただけだ」

「どうやらすずしなには素直さが足りないみたいなのです」

「あはは、違いないね!」

そうやってみんなは笑った。
一方通行は驚いていた。
自分のことを怖がらずに接してくるレナたち。
そしてこんなに普通になんでもないことに自分がいられること。
実際にいることに。
誰かの輪の中に自分が入って一緒に笑顔を共有していることが信じられなかった。
朝待ち合わせに来た時から昼食を取るまで、彼は自分の言葉数が自然と多くなっていることにも気づいてなかった。



それからも色々な場所を回って時刻はすっかり夕暮れとなっていた。

梨花と沙都子、土御門は夕飯の買い出しということで一足先に帰っていった。

集合した学校で解散ということになっていたが、帰り道が途中までは一緒ということでレナ、魅音、一方通行の三人は一緒に帰っていた。

「いやーそれにしてもこういうのもいいもんだねー。ピクニックじゃないけどさ、なんか遠足みたいで!おじさん昔に戻ったみたいだよ」

「雛見沢で遠足なんてやってないでしょ、みぃちゃん」

「いやーそうだけどさー」

あははは、と魅音は朗らかに笑う。
魅音はガシッと一方通行に肩を回すと

「進ちゃんもそう思うでしょ?」

一方通行にそう笑いかけた。

「あン?」

一方通行は眉間に皺を寄せて怪訝そうな顔をする。

「だって進一君は学園都市にいたんだから遠足にも行ってるよ、みぃちゃんとは違うと思うけど、けど」

レナもにこやかに笑いかけてくる。

「オイオイ、待てよ、なンだその、しんちゃン、しんいちくンってのは?」

一方通行は不思議そうな様子でそう尋ねた。

すると二人はキョトンとした顔を見せる。

「へ?だって、鈴科進一君だから、進一君でしょ?」

「そっから進ちゃんじゃん」

「なっ!」

一方通行の顔がかあっと赤くなる。
物心ついた頃から人を避けてきた一方通行はあだ名なんてものを付けられたことがなかった。

「あれー?もしかして進ちゃん照れてるの?」

「っ!ば、馬鹿言ってンじゃねェよ、ンなコトねェ!」

「じゃ、進ちゃんで決まりだね!」

一方通行はそっぽを向きながらも。

「……か、勝手にしろ」

そう呟いた。

ここにあったのだ。

彼が追い求めて、最終的には諦めてしまった。
普通という名の幸せは。
確かに今彼の周りに存在している。

一方通行が彼女たちに心を開くまで、そう時間はかからなかった。

今日はここまでです。

1スレとかを埋める人は凄いですね。結構書いたつもりがたった10レスかそこらで消化されてしまいます。

とにかくまた一週間以内に来ようと思います。
それではみなさま、次の投下までおやすみなさい。

みなさまこんばんわ、>>1です。
今日も投下していきます。
他の作者様の素晴らしいssと見比べるとどうやら私の物は見にくいと思いましたので、以前より改行を追加しています。

それでは投下していきます。

「そんじゃ、アタシはこの辺で、またねー」



「みぃちゃん、まったねー」



「じゃ、私たちも帰ろ」



ある日の帰り道。
一方通行とレナは歩き出す。



雛見沢の案内としてみんなで雛見沢を回った日から一ヶ月近くが経っていた。



「それでね進一君、この前お父さんがね?お豆腐を大量に貰ってきたんだけどね?そのせいで最近はずっとお豆腐メインの料理になっちゃってるの。余ってるから貰ってくれないかな?かな?」



「構わねェけどよ。俺は料理なンてロクにできねェぞ?」



「じゃあレナが今度ご飯作りに行ってあげるよ!」



「レナがか?オマエ料理得意だったか。なら少しは期待できそォだな。」



「少しはって何かな?かな?」



「そォやって怒ってっと小ジワが増えンぞ。その年で老け顔なンて笑えねェなァ?竜宮さァン??」



「もー、進一君のせいでしょ~」



「カッカッカッ、悪かった悪かった、期待してンぜ」



「ホント!?よーし、それじゃあレナ頑張っちゃうよー!」

一ヶ月という月日は人を変えるのに足るもので、一方通行は学園都市にいた頃からは考えられないような笑顔を見せていた。
元来の彼とはこういうものなのかもしれない。



「あ!そうだ、進一君この後時間あるかな?かな?」



レナは嬉しそうな顔で歩みを止めて一方通行を見上げる。



「この後だァ?別になンもねェけど、何すンだよ」



「ちょっと付き合って欲しい所があるの!」



「付き合って欲しい所?まァ別にいいけどよォ」



「ほんと!?ありがと!それじゃ行こう!」



レナはそう言うとよっぽど楽しみなのかスキップ気味で駆け出す。



元気なヤツだ。



そう思った一方通行の顔には微笑みが浮かんでいた。

「ここだよここ!!」



「オイオイ冗談だろ?コイツはゴミの山だぞ?」



「進一君にとってはゴミの山でもレナにとっては宝の山だもん!」



あれから暫く歩くと開けた場所に出た。
開けた場所といっても、粗大ゴミが大量に投棄されており、開放感は全くといっていいほどなかったが。
なにがあるかな、なにがあるかな、と鼻歌混じりにレナはゴミ山を駆けていく。



「オイ待てよレナ!」



「進一君はそこで待ってて、すぐ済むから!」



足場の悪いゴミの上を追いかけようとしたところでレナから声がかかる。
万が一の場合には能力があるし、本人がそう言うなら大丈夫だろうと一方通行は投棄されている本棚のようなものの上に寝転がる。



最近はここの空気も好きになったかもしれない。澄んだ空気というのはおそらくこういうものなのだろう。
一方通行は目を閉じて夕暮れを楽しむ。



すると、パシャっというカメラの音が響いた。



一方通行は片目だけ開けると音源を睨みつける。



「いくら田舎っつっても肖像権が適用されねェってコトはねェんじゃねェか?盗撮魔クン?」

「進一くーん!大丈夫ー?もうちょっとだから待っててねー!」



一方通行の後方から声がかかる。



「おや、連れがいたのかい」



富竹はハッとしたような顔をしてそう言った。



「彼女はあんな所で何をしてるんだい?」



不思議そうな表情を見せる富竹。
まあそりゃそうだと一方通行は思う。



「さァな。死体の隠し場所でも探してンじゃねェか?」



瞬間、富竹は俯いて暗い顔を見せる。



「嫌な事件だったね」

「あ?」



「腕がまだ一本、見つかってないんだろ?」



……。
一方通行は少し考えた後数年前にネットで見たニュースの記事を思い出した。



陸の孤島でバラバラ殺人事件。
犯人の一人が未だ逃走中。



……、なるほどなァ。ありゃ雛見沢の話だったっつーワケか。



「進一くーん!おまたせー!」



一方通行が言葉を発しようとすると後ろからレナの軽快な声が聞こえてきた。



「おっと、邪魔しても悪いね、そろそろ失礼するよ」



そう言って富竹はゴミ山を後にしていった。
入れ違うようにレナが一方通行の元に戻ってくる。

「?進一君?どうかしたの?」



眉間に皺を寄せて考え混んでいる一方通行を疑問に思ったのか、レナが声をかける。



「……なァ、昔この辺りってなンかあったのか?」



一方通行は。
別に殺人事件がどうということを気にしてはいなかった。
殺人事件があったとしても自分の友人たちはその当時は幼い子供であり、何の関係もない。
だから本当になんとなく、少し気になったから話題に出してみた。
それだけだった。



「えっとね、昔ダム工事の計画があったんだって」



レナはいつもの調子で答える。
何とはなく一方通行は少しホッとした。



「ふゥン、なるほどな。じゃァそン時に事件があったっつーワケか。」



レナは顔を逸らした。



一方通行はハッとする。
見覚えがある。
レナのこの表情に見覚えが。
学園都市で様々な悪意、利害に晒されてきた一方通行には馴染み深い顔だった。



"コイツは何かを隠している"



一方通行の中で静かにくすぶっていた不信感が確信となって現れてきた。
現にレナはさっきの一方通行の言葉を聞こえないフリをしているのだ。

「……。それより、お宝は見つかったか?」



そう聞かれるとかげっていたレナの表情が一転する。



「そう!あったんだよ!ケンタ君人形!」



「ケンタ君人形だァ?ンだよそりゃ」



「進一君知らない?ケンタクンフライドチキンのお店に置いてある人形のことだよ!」



「あァ、そういや何度か学園都市でも見たことあるかもなァ」



一方通行の頭を全身真っ白の髭面の中年男性がよぎる。



「でもね、ケンタ君ゴミに埋まっちゃってて、お持ち帰りできないんだ」



レナは両手の人差し指をツンツンと合わせながら落ち込んだ表情を見せる。
そんなレナを見ていると、一方通行は先程まで事件のことを考えていたのが馬鹿らしくなってきた。



「そォかよ。しゃあねェな。明日俺が手伝ってやるよ」



「ホント??」



「おう。ただし今日はもう遅いからダメだ。帰るぞ」



「うーん、わかった」



レナはどこか寂し気にしている。
一方通行は帰るぞと声をかけて先に歩き始めた。



さっきの表情。
死ぬほど見覚えがあるが……。
まァだからといってコイツが何か関係してるとは限らねェ。
単に村人たちの間ではあの事件がタブー視されてるだけかもしれねェしな。
というかそう考えるのが妥当だ。
…………。



微妙にすっきりしない夏のあぜ道を、一方通行はヒグラシの鳴き声と共に歩くのだった。

「あ!進ちゃんちょっと待って!」



翌日一方通行は教室を出ようとしたところを魅音に引き止められた。



「一体なンだァ?」



一方通行が腕を組んで首を傾げているとあれよあれよと言うまに土御門、レナ、魅音、沙都子、梨花の五人は教室の机を並べ替えていく。
最終的に四角く配置された机の一つに一方通行は座らさせられる。



「本日諸君に集まってもらったのは他でもない!我が部に新たな風を迎え入れようと思うのだ!」



「部活だァ?」



「はっはっはっ、鈴科に俺の相手がつとまるかにゃー?」



「そうですの、進一さん程度では勝負にならないかもしれませんの」



一方通行以外の者たちはわらわらと部活の話題で盛り上がっていく。



「待てよコラ。オマエらの部活ってのは主役を置いてけぼりにすンですかァ?趣旨を説明しやがれ趣旨をよ」



「我が部はだなー。複雑化する社会に対応するために、いかなる状況下においても様々な手を駆使して不利をーー」



「つまり、みんなでゲームして遊ぶ部活ってことだよ、進一君」



魅音の長ったらしく回りくどい説明にレナが割って入る。



「なるほどな、要は放課後にみんなで遊ぼォってワケだな」



「そんなに甘く考えてると痛い目みるよー?」



魅音はニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべる。

ひぐらしのクロスものはシュタゲがスゴすぎてあれを超えられるのを見たことないな

「会則第一条!狙うは一位のみ!」



ビシ!と指を突き立てて魅音は声を張り上げる。



「会則第二条!そのためにはあらゆる努力が義務付けられる!ですわ!」



続いて沙都子が指を二本突き出して魅音に続く。



一方の一方通行はというと。



「クックックッ、上等だァ!それぐらいじゃなきゃ面白くねェよなァ!俺が頂点だってことを思い知らせてやるよォ!」



乗り気のようだ。



魅音は教室の後ろまで歩いて行くとロッカーを開いてガサゴソと物色しはじめる。

どうでもいいけど富竹の自己紹介が飛ばされてるな

「んじゃ、難しいゲームは進ちゃんに不利だから、今回はシンプルにジジ抜きでどうー?」



魅音はロッカーからトランプの束を取り出して頭の横で軽く振る。



「にゃー、トランプは俺の得意分野だぜい」



土御門は意気揚々と唸るが、



「……オイ、ジジ抜きってなンだ?」



一方通行の一言に他の全員が驚きの声を上げる。



「進ちゃんジジ抜き知らないの!?」



「お、おォ」



「んじゃあ大富豪は?」



「?金持ちのことか?」



「じ、じゃあババ抜き!」



「???」



「うっそ、全然ゲーム知らないじゃん、驚いたなーこりゃ」



魅音は八方塞がりだと言わんばかりに手を挙げる。



「まあでも、ジジ抜きくらいならすぐにルール覚えられると思うからやってみようよ、ね?」



レナがそう言って一方通行の顔を覗き込んできた。



「おォ。すまねェな」



こうして一方通行を参加してのジジ抜きが始まった。

ルール説明が終わり手札を整理した6人。
順番は時計回りに
魅音、一方通行、レナ、梨花、土御門、沙都子となっていた。



一方通行が魅音から一枚カードを引き抜く。
手札揃わず。



レナが一方通行から一枚カードを引き抜く。
一組のカードを捨てる。



梨花がレナから一枚カードを引き抜く。
一組のカードを捨てる。



土御門が梨花からカードを引き抜く。
一組のカードを捨てる。



沙都子が土御門からカードを引き抜く。
手札揃わず。



一周回ったところで一方通行は不信感を覚える。



俺と沙都子以外の全員がカードを捨てた。
6人が手札を確認した時点で全員の手札を合計して40程度だったハズだ。
確率的に言えばペアのカードを引く確率はそこまで低くはねェが。
どうもおかしい。
沙都子以外は迷いなくカードを引いてやがる。
まるでどれがどのカードか分かってるよォにな。

「さ、進ちゃん、手札を見せなよ」



魅音がニヤニヤとしながら一方通行に手を伸ばしてくる。



「待てよ魅音。ちとシャッフルさせろ」



そう言うと一方通行は机の上にカードを伏せて並べると一枚ずつ交換する形でカードをシャッフルしていった。



すっと一方通行の手札が魅音の前に差し出される。
一方通行の残りの手札はまだ6枚。
魅音はニヤリと笑うと一方通行の手札からトランプを一枚引き抜いた。



スペードの4とクローバーの4が捨てられる。



しかしそこで笑ったのは一方通行の方だった。



「やっぱりなァ。オマエら、トランプを見分けてンだろ。この様子じゃあトランプについてる傷でも見てンのか?」



「おー、さすが進ちゃん鋭いねー。どうしてわかったの?」



魅音は待ってましたと言わんばかりに目を爛々と輝かせながら尋ねてくる。



「簡単なコトだ。さっき俺の手札をシャッフルした時にオマエらの目線を観察してたンだよ。おもしれェぐらいにお目当のカードを追っかけてたぜ?」



「なるほどなー。流石だねぇ進ちゃん。ま、トリックが分かっただけではアタシ達には勝てないけどね!」



コイツは何か手を考えねェとなァ……。

一方通行がそう考えていると



「ああ!またですわ!どうしても土御門さんの手札は読めませんの!一体どんな手で偽装しているんですの?」



沙都子の悲鳴が聞こえてきた。



「にゃはははー、偽装なんて言い方は良くないにゃー。俺は普通にトランプをしてるだけだぜい?」



土御門はいつもの飄々とした態度を崩さずにそう答える。



「つっちーも流石だねー、いつも奇想天外な手で勝負してくるからね」



「にっしっしっしっ、俺はウソツキだからにゃー?」



こうして戦いはヒートアップしていく。



土御門が上がり、梨花が二番手に上がった。
順番は魅音が一方通行からカードを引く番。
魅音の手札はあと一枚。対する一方通行の手札はあと二枚。



「なかなか善戦してる方だけどねー、残念ながらここで勝負は終わりだね進ちゃん。いい戦いだったと思うよ」



すっと魅音は一方通行の手札に手を伸ばす。



魅音はもう負けるしかない一方通行の屈辱の表情を拝もうと一方通行の顔を伺った。



が。

一方通行は、笑っていた。
心底楽しそうに笑っていた。
その笑みは今までに見たどんな笑みよりも猟奇的に見えた。



「待てよ、魅音」



静かに告げられる声に魅音はたじろぐ。



「な、なにさ?今更悪あがきしようっての?」



「まァ聞けよ。俺は最初に言ったよなァ?俺が頂点であることを証明してやるってよォ。なのに俺は一位抜けしていない。なンでか分かるか?」



「な、なに言ってんのさ、なんか思惑があったとでも言うのかい?」



クツクツと一方通行は笑う。



「なかなか賢いじゃねェか。そう。俺の狙いは最初っからオマエなんだよ。園崎魅音」



一方通行は高らかに宣言すると首筋にてをやる。
正確には、首のチョーカー型電極に。



「コレが学園都市の能力(チカラ)ってヤツだ、よォく見とくんだなァ」



カチリ。
電極のスイッチが通常モードから能力使用モードへと切り替えられる。
その瞬間。
見た目には一切の変化はないが一方通行は学園都市の頂点として君臨する。



彼はゆっくりと左手で持った自分の手札に右手を添えると、二枚のカードを一枚ずつゆっくりと指で弾いていった。

最初は誰もが何をしているのか分からなかった。
しかし魅音だけは動揺していた。



「き、傷と汚れが消えた!?!?」



「カッカッカッ、どォだよ園崎魅音。コレでも自分の欲しいカードがどれか分かるか?ちなみにオマエが狙ってるカードはハートの1だよなァ?」



「くっ、ず、ずるいぞ!能力使うなんて!」



「オイオイそりゃァねェよなァ?会則第二条、一位を狙うためにはいかなる手でも使用すること、だろォ?」



「さあ、初めよォじゃねェか、ジジ抜きをよォ」



魅音は一方通行の手札から悩んだ挙句一枚を引き抜いた。
しかしそれはハートのエースではなかった。



「あ!そっか!」



魅音がトランプを手札に加えた瞬間にレナが声をあげた。



「進一君にはどっちがどっちのカードか見分けられるんだね、だね」



「どうしてですの?」



沙都子が不思議そうに声を上げる。

「だって、見て見て、沙都子ちゃん」



そう言ってレナは魅音の手札を指差す。



「あっ!」



沙都子は驚いた声を出した。



「進一さんの持っていたカードがキレイになっているのでどちらがどちらか一目瞭然ですわ!」



「でもでも進一君、そんなことができるならなんでもっと早くしなかったのかな?かな?」



レナは不思議そうに小首を傾げて一方通行に尋ねる。



「そりゃあ後半にやった方が有利だからだにゃー」



一方通行が答える前に土御門が割って入った。



「確かに一方通行がもっと早い段階でこの戦法を取っていればビリは免れたかもしれないにゃー。
でもさっきも言ったように一方通行は確実に魅音を打ち倒すことを選んだ、そうなると手札が減ってから能力を使った方が有利になるんだぜい」

「その通りだ」



一方通行が後を引き継ぐ。



「手札が多い状態で能力を使ってカードをキレイにしたところで、相手がカードを外す確率は増えるが、俺が正解のカードを引く確率はそこまで上がらねェ。
だが相手の手札が一枚になりゃァ話は別だ。俺は二分の一で正解のカードを引ける上に、汚れたカードと綺麗なカードでどっちを引くべきか一目瞭然だからなァ」



そう言って一方通行は魅音から汚れたカードを引き抜く。
一方通行がクローバーの1とハートの1をペアにして捨てる。



「ゲームセットってなァ。運にも見放されてついてねェなァ魅音さァン?」



おおーと他の者たちから歓声が上がる。



「だーくそー!完全に一杯食わされたねー!でもアタシは嬉しいよ、流石アタシが見込んだだけのことはあるね!」



「お褒めに預かり光栄だってところかァ?」



そうやって会話していると、さっと沙都子が手を挙げた。



「そういえば、元春さんはどのような手を使ってましたの?」



圧倒的に早い段階で一位上がりしたのは土御門だったのだ。
果たしてどんなトリックを使ったのか。



「んー、土御門さんのタネ明かしタイムかにゃー。
いいぜい、教えてやるぜよ」

そう言うと土御門はバサッと羽織っていたアロハシャツを広げた。
すると、バラバラバラっと沢山のトランプが落ちてきた。



「にゃははー、今日はトランプゲームな気がして家にあったトランプセットを仕込んでおいたんだぜい」



つまり土御門はその都度手札を入れ替えながら戦っていたのだ。
傷を覚えて場のトランプを把握した上でジジを入れ替えてゲームを行っていたのだ。
誰も勝てるわけがない。



「こんなのズルですわ!卑怯ですわよ!」



「今更何言ってるのかにゃー?俺はただ全力で部活に参加しただけぜよ。
ちなみ元々のジジはまさに最後の決め手になったハートの1だったにゃー」



「どおりでおかしいと思ったんだよねーいやー流石だよ。絶対王者つっちーの名は伊達じゃないねー」



魅音が天晴れといわんばかりに冷やかす。



にゃははー、崇め奉るがいいぜよーと土御門も調子に乗っている。



そんな様子でゲームはつづいていった。

そう言うと土御門はバサッと羽織っていたアロハシャツを広げた。
すると、バラバラバラっと沢山のトランプが落ちてきた。



「にゃははー、今日はトランプゲームな気がして家にあったトランプセットを仕込んでおいたんだぜい」



つまり土御門はその都度手札を入れ替えながら戦っていたのだ。
傷を覚えて場のトランプを把握した上でジジを入れ替えてゲームを行っていたのだ。
誰も勝てるわけがない。



「こんなのズルですわ!卑怯ですわよ!」



「今更何言ってるのかにゃー?俺はただ全力で部活に参加しただけぜよ。
ちなみ元々のジジはまさに最後の決め手になったハートの1だったにゃー」



「どおりでおかしいと思ったんだよねーいやー流石だよ。絶対王者つっちーの名は伊達じゃないねー」



魅音が天晴れといわんばかりに冷やかす。



にゃははー、崇め奉るがいいぜよーと土御門も調子に乗っている。



そんな様子でゲームはつづいていった。

今日はこの辺りにしておきます。
どしでしょうか。少しは見やすくなったでしょうかね。



>>36
私の乏しい発想力では到底及びまないとは思いますが、頑張って考えるのでよろしければ今後も見てやってください。



>>38
う、うろ覚えで(小声)
矛盾点はいっぱい出てくると思うのでガンガン指摘してやってください。




また一週間以内には来たいと思います。
それではみなさま、次までおやすみなさい。

今日はこの辺りにしておきます。
どしでしょうか。少しは見やすくなったでしょうかね。



>>36
私の乏しい発想力では到底及びまないとは思いますが、頑張って考えるのでよろしければ今後も見てやってください。



>>38
う、うろ覚えで(小声)
矛盾点はいっぱい出てくると思うのでガンガン指摘してやってください。




また一週間以内には来たいと思います。
それではみなさま、次までおやすみなさい。

連投に誤字……
めちゃくちゃやん……


今度こそおやすみなさいませ。

どうもこんばんは>>1です。
今日も投下していきます。

結果としては必勝法にならない一方通行が最下位となった。
罰ゲームとして一方通行はマジックペンで顔に落書きをされたままの下校を命じられた。
レナなどはパンダのようでかわいいなどとはしゃいでいたが。



一方通行と魅音は通学ルートを二人で歩いていた。
もちろん一方通行はパンダの状態で。



「宝探しか、なるほどねー。それでレナのやつ一目散に帰ってったのか」



「みてェだな。余程楽しみなンだろォ。ケンタくんなンつー人形如きでドコにそンなはしゃぐ要素があるンかは知らねェがな。」



そう。今日は昨日約束したケンタ君を掘り起こす日だ。
一方通行はこの後早急に家に帰り顔を洗ってあのゴミ山へと向かわなければならない。
能力を使えば顔の汚れを弾き飛ばすことなど容易いのだが、罰ゲームは家まで帰ること。能力使用は許されない。
そんなルールに馬鹿正直に付き合っている自分も丸くなったものだな、と一方通行は思う。



あのゴミ山。
思い出すのはバラバラ殺人とレナの表情。



……どォでもイインだけどなァ。気にならねェっつったらウソになる。



ちっ、くだらねェ。何をビビってンだか。

「オイ、魅音」



「ん?なに?」



意を決した一方通行は口を開く。



「あの辺りって昔なンかあったンだろ?確かダム工事が」



魅音は少し嫌そうな顔をする。



「うん、あったよ。雛見沢を丸ごと飲み込んでもっと上流の方までダムを作ろうって計画が」



「ほォ。思ってた規模とちげェが、そうなンか。よく計画が止まったもンだな」



「戦ったんだよ、村のみんなでね。ダム工事反対のストライキだとか、官僚に知り合いのいる人のコネとかを使ってね」



「そうこうしてるウチに手回しの甲斐もあったのか、ダム工事を主導してた官僚の汚職がバレたりして、計画は止まったんだよ」



「ふゥン」



……やっぱ大筋は隠してやがンな。



「あれはアタシたちの完全勝利だったね」

「……そンだけ大規模なストライキ運動だったンなら、過激派みてェなヤツはいなかったンか?工事現場の役員を襲ったりとかよ?」



「なかった」



「っ」



即答。
まさに即答だった。
流石の一方通行も少したじろぐ。
あまりにもキッパリとした否定の言葉。
それ以前に文脈としても少しぶっきらぼう過ぎる。



こりゃァやっぱりなンかあるな。
コイツらの中ではダム工事にまつわる事件はタブーになってやがる。



「……そォかい。変なこと聞いて悪かったな。じゃァまたな。魅音」



「いいよ気にしなくて!じゃね進ちゃん!それ帰るまで落としちゃダメだかんね!」



一方通行は後手に手を振りながら歩く。



アイツらが何も語らねェ以上はムダな詮索はしねェ方がいいのかもしれねェな……。



その日の夕光は少しだけ怪しく映った。

「んしょ、んしょ」



一方通行が顔を洗ってゴミ山へに来ると、レナはすでにゴミをかき分けていた。
おそらくレナのいる位置がケンタくんの埋まっている場所なのだろう。



「よォレナ。待たせたな」



一方通行は後ろから声をかける。



「あ、進一君、わざわざありがとう来てくれて」



レナは少しだけ所在無さげにする。



「それで?そのケンタくん人形っつゥのはドコだ?」



レナはとてとてと少しだけ歩いて下を指差す。



「ここなんだけど……」



一方通行も歩み寄ってレナの指差した場所を覗き込んだ。



「ふゥん、なるほど、こりゃァ確かに生き埋めって感じだなァ」



当のケンタくん人形は、瓦礫やゴミの隙間からほんの少しメガネが見えるだけ、というような状態になっていた。

「まァ、ちょっとどいてろ」



一方通行はそう言って右手でレナを下がらせる。



首のチョーカー型電極のスイッチを入れ替える。
一方通行は能力発動を確認するとニヤリと笑って、ケンタくんの上にかぶさっている大量のゴミの一つを標的に定めると。
軽く蹴った。



豪!ガシャンガシャン!



派手な音を立てて今までそこにあったゴミ達は四方へ散らばり、綺麗な状態でケンタくんは救出された。



レナは言葉も出ない様子で小さく口を開けて唖然としている。



「ほらよ」



一方通行は人形をがしゃんとレナの目の前に置く。



未だにレナは復活してこない。



……ちィとやり過ぎたか?
引かれたか、こりゃァ。



「、す」



「あン?」



「すっっっごいよ!!!!進一君!!!!」

突然レナは子犬が主人と戯れるように飛び跳ねる。



「進一君凄いんだね!超能力ってかっこいいんだね!」



「お、おォ」



レナにとっては珍しいことかも知れないが、一方通行にとっては当たり前のことだ。
ここまで驚かれるとは思わなかったため逆に自分が一歩引いてしまう。



その後もレナはかぁいい〜ケンタくんかぁいいよ〜、進一君がとってくれたし、はぅはぅ〜!
とそんな感じだった。



……勘ぐり過ぎだったかもな、コイツらが何かマズイコトを隠してるかもなンてェのは。
この馬鹿がそンな器用なマネできるヤツだとは思えねェ。



彼はすっかり彼女たちを信頼していることには気づいていない。



一方通行は彼の担ぐケンタくんを見てはにへにへと笑ってスキップする少女を、ただ微笑みながら見つめるのだった。

「よしっと。コレでオッケーだね〜」



レナは楽しそうに机の上にカードを並べる。
三枚のカードにはマジックでそれぞれ
一方通行、能力、学園都市
と書かれていた。



魅音達が行っている犯人探しゲーム、それに新しいカードが追加されたのだ。



「これで今度からは進一君も参加できるね!」



レナは嬉しそうに笑う。



「みぃ、僕たちはそろそろ帰るのですよ」



カードを片付けようとした時に梨花から声がかかった。



「今日は帰るのが早ェンだな」



「梨花は綿流しの練習があるからにゃー」



「綿流し??」



一方通行は聞き覚えのない言葉に眉をしかめる。



「そっか、進ちゃんは初めてだもんね、もうすぐ綿流しのお祭りっていう夏祭りみたいなもんがあるんだよ」



「梨花ちゃんはその実行委員なんだよ」



「ふゥン。巫女さンも大変だな」

「進ちゃン、綿流しのお祭り行くでしょ?」



「あン?なんだよ急に」



「部活があるから絶対参加だにゃー?」



「??夏祭りで部活ってなにすンだよ」



「今年もやるぞー!五強爆闘!」



「だから説明をしろってンだよオマエはいつもよォ。
語彙力が足りねェンだっつの」



「要するにみんなで遊びながら一緒にお祭りを回るんだよ」



「年下のレナの方がよっぽど分かりやすいじゃねェかよ」



「今年は進一さんもいますので六強爆闘ですわね」



「ったく。行きゃァいいンだろ行きゃァ」



頬杖をついてめんどくさそうにつぶやく彼だが、確かに笑っていた。

ひぐらしの鳴き声が響くあぜ道をいつものように魅音、一方通行、レナの三人で歩く。
とりとめのない話をしながら歩いていると視界の先に見覚えのある人影が映った。



「やあ、進一君、また会ったね」



人の良さそうな少し暑苦しい笑みで微笑みかけてくるのは、富竹ジロウだ。



「……富竹、だったか」



「覚えててくれたんだね」



「そりゃァ盗撮魔を野放しにはできねェからなァ?」



一方通行は挑発的に言い放つ。



「いやいやまいったな、許しておくれよ」



富竹は頭を掻きながら例の困った笑顔を浮かべる。



「まァ、気にしてねェがな」

「それにしても進一君も隅に置けないね、両手に花なんて」



富竹は魅音とレナに挟まれる形の一方通行をからかう。
レナと魅音は言われて照れたのかもじもじとしている。



「コイツらが花になるンだったらその辺の雑草でも相当の価値がつくっつゥの」



一方通行はいつものように皮肉を言うが、これがいけなかった。



「ちょっ!進ちゃんそれどういう意味よー!」



「そうだよ進一君!今のは聞き捨てならないよ!どういうことかな!?かな!?」



「だァァうっせェ!言葉のあやだっつーの!イチイチ気にしてンじゃねェよ!」



一方通行は自分の失言をものともせず両脇からの猛攻撃に対応する。
そんな様子を見て富竹は、
あはははは、仲がいいんだねぇ
などと言って笑っている。

「もう!……。富竹のおじさまは、今年は綿流しまで滞在ですか?」



魅音は一方通行への怒りを露わにしながらも、これ以上の水掛け論は意味がないと判断したのか富竹に話しかける。



「そうだね、綿流しの写真を撮ったら次の朝に東京に帰る予定だよ。ホントはもっとこっちにいたいんだけどね」



「雛見沢はいつでもウェルカムですよ!」



魅音は富竹に向けて親指をあげてサムズアップをする。



「ははは、魅音ちゃんにそう言われると心強いよ。それじゃ、また綿流しの日にね」



そう言って富竹は三人とすれ違って去っていく。



「知り合いだったンか」



「進ちゃんこそ富竹さんと知り合いだったんだね」



「フリーのカメラマンをしてて、よく雛見沢に野鳥とかを撮りに来てるんだよ」



魅音とレナは各々の感想と説明を口にする。



「フリーカメラマンねェ」



なンとなくつかみ所がねェ男なンだよな。
悪意はなさそォだけどよ。



一方通行は富竹のことを信用しきっていない様子だった。

週末。
既に時間は夕暮れとなっており、街は赤い日に照らされていた。



「ほォー、賑わってンじゃねェか。雛見沢にこンなに人がいたとはな」



一方通行達六人は綿流しの祭りに来ていた。
村の北部に位置する古手神社を中心に様々な屋台が店を並べており、遊びに来た子供達やのちに行われる演武の準備でドタバタしている大人達で溢れかえっていた。



「村一番のイベントだからねー、村中の人が参加してるんだよ」



魅音が一方通行に説明をする。



一方通行、魅音、土御門、レナ、沙都子の五人は演武の衣装として巫女衣装に着替えに行った梨花を待っていた。

「梨花の衣装が巫女服じゃなくてメイド服なら尚良かったんだがにゃー」



いつもの調子で土御門がぼやく。



「アホか。メイド服で神社で演武なンかしちまったらワケわかンねェだろォが。
伝統文化とポップカルチャーを混同すンじゃねェよ」



一方通行は土御門の言葉に一括する。



「つれない男だにゃー。お前もメイド服の良さぐらい分かるだろ?」



「分かンねェよ。分かってたまるかっつゥの。」



「みぃ、なんの話なのですか?」



そうこうしているうちに梨花が戻ってきた様で、一方通行と土御門の会話に割って入る。



「はぅぅ〜、梨花ちゃん、かぁいいねぇ〜!おー持ち帰りー!」



ダダッ!とレナは梨花の姿を見るや否や梨花の方に駆け出す。
巫女服に着替えた梨花がレナの心をがっちりと掴んだようだ。

が。



「義妹は渡さないにゃー!」



一足先に土御門が梨花をさらって走り出してしまう。



「あ!待ってよー!レナの梨花ちゃんー!!」



負けじとレナもスピードアップして土御門を追い始める。



「ありゃりゃ、みんなもうやる気満々みたいだねえ」



魅音は呆れたように軽く頭を掻く。



「ま、イインじゃねェか?元気なことはよ」



一方通行も苦笑しつつ魅音に同意する。



「なにしてますの、魅音さん、一方通行さん、早く行きますわよ」



一足先に土御門とレナを追って出発していた沙都子から声がかかる。

「さァ、さっさとあの馬鹿どもに追いつくとすっか。
なァ、魅音?」



一方通行は魅音の方を振り返るとニヤリと笑ってみせる。



「えっ!う、うん!さ、先行ってて!すぐ追いつくから!」



魅音は何故かそっぽを向いて両手を頬に当てている。
不思議に思った一方通行だが気にしないことにした。



やっとの思いで土御門に追いつき、なんとかレナを正気に戻した一同は、金魚すくいの屋台の前にやって来ていた。



「よーし、それじゃ今年もやるよ!六強爆闘!」



「「「「「おー!」」」」」



魅音の掛け声にみんなが一斉に声を上げる。



真剣な顔持ちで目の前のビニールプールを見つめる一同。
金魚すくいの屋台にいたために第一戦はそのまま金魚すくいとなったようだ。

「ほっ!」



魅音は子供の頃から祭に出ていたのか上手い具合に金魚をすくっていく。
既に魅音の手にする器には3匹の金魚が泳いでいた。



「なははは、らくしょーなのですたい!」



こちらは土御門。
部活で様々なトリックを駆使することもあってか手先は器用なようだ。
土御門の器はあふれんばかりの金魚が泳いでいた。



「負けませんわよ、まだまだこれからですわ!」



半分ムキになっている様子の沙都子。
どうやら一匹目をすくったところでポイが半分破けてしまったようだ。
器には金魚が一匹。



「沙都子、諦めてはいけないのです、ふぁいと、おーなのです」



沙都子の頭を撫でて慰めるのは梨花。
沙都子にかまって自分の器には一匹も金魚が入っていない。



「はぅ、はぅ〜。金魚さんもかぁいいよー」



こちらはレナ。
完全にかわいいモード発動である。
先ほどの梨花の件でどこかのネジが飛んでしまったのかもしれない。
しかしかわいいものに対する執着は流石のレナである。
器の中には6匹の金魚が泳いでいる。



そして我らが主人公一方通行はというと。

「ほっ!」



魅音は子供の頃から祭に出ていたのか上手い具合に金魚をすくっていく。
既に魅音の手にする器には3匹の金魚が泳いでいた。



「なははは、らくしょーなのですたい!」



こちらは土御門。
部活で様々なトリックを駆使することもあってか手先は器用なようだ。
土御門の器はあふれんばかりの金魚が泳いでいた。



「負けませんわよ、まだまだこれからですわ!」



半分ムキになっている様子の沙都子。
どうやら一匹目をすくったところでポイが半分破けてしまったようだ。
器には金魚が一匹。



「沙都子、諦めてはいけないのです、ふぁいと、おーなのです」



沙都子の頭を撫でて慰めるのは梨花。
沙都子にかまって自分の器には一匹も金魚が入っていない。



「はぅ、はぅ〜。金魚さんもかぁいいよー」



こちらはレナ。
完全にかわいいモード発動である。
先ほどの梨花の件でどこかのネジが飛んでしまったのかもしれない。
しかしかわいいものに対する執着は流石のレナである。
器の中には6匹の金魚が泳いでいる。



そして我らが主人公一方通行はというと。

「………」



全く一匹も捕まえることが出来ないままにポイを完全に破いてしまったようだ。



なンだなンだよなンですかァ!?
一体全体どういうことなンですかこりゃァ!
水の抵抗も金魚の重さもコイツらが泳ぐことで出来る水の流れも全部計算した!
ポイの強度も大方予想通りのはずだ!
なのになンで金魚が取れないンですかァ!?



一方通行は混乱しているようだった。
こういうゲームというのは計算よりも慣れが大事ということが、彼には理解できないようだ。



結果的に一位に輝いたのはほいほいと余裕綽々で金魚をすくっていた土御門。18匹。
続いて二位には8匹の魅音が並ぶ。
かわいいものということでかわいいモードで奮闘したレナが三位の5匹。
沙都子を慰めつつもしっかりと後半で巻き返した梨花が三匹。
そして最下位はというと………。



な、なン……だって………。



沙都子は二匹をゲット。
最後の最後で能力使用するも、一方通行は一匹しか救えず最下位は一方通行となった。



「あっれれー進ちゃん、今日はダメダメだねー?」



魅音はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながらうずくまっている一方通行の背中をつつく。



「コイツは頭を使うゲーム以外はてんでダメみたいだにゃー」



土御門はそんな様子の一方通行を見て、修行が足りないにゃー!と笑う。

「確かに進一さんはどこからどう見てもひょろひょろですもの、体力を使うこの綿流し六強爆闘では勝ち目がないんじゃありませんの?
おーほっほっほっ!」



沙都子は口に手を当てて優雅にかつ高慢に高笑いしている。



「進一君大丈夫だよ、そこまで落ち込まなくても次があるから」



「そうなのです。まだまだ今日は始まったばかりなのですよ、進一」



レナと梨花は落ち込んだ一方通行を慰めていた。



金魚すくィ……まさかまだ世の中にこンなに難しいことが広がってるとはなァ。
学園都市で研究に値するかもしれねェなァこりゃァ。



ばっ!と一方通行は突然立ち上がる。
その様子に一同は一方通行に注目した。



「上ォ等ォじゃねェかよォ!こうなったら何がなンでも勝利をもぎ取ってやンよォ!」



一方通行はびしっ!と何故か神社に人差し指を突き立てて啖呵を切る。



「おー!いいねえ進ちゃんそのいきそのいき!」



と魅音を筆頭にみんなは一方通行を囃し立てた。

今日はこの辺りで。

……やっと70レスか。
鬼隠しが終わる時点ではかなり板があまりそうですね。
続きも書く予定ではありますが。

また一週間以内には来ます。

それではまなさま、次の投下までおやすみなさい。

奉納演武……? 拳と蹴りで布団を割く儀式かな?

みなさまこんにちは>>1でございます。
書き溜めの方ではやっとこさ鬼隠し編が終わりました。
そんなわけで今日も元気に投下していきます。
レスありがとうございます、励みになります。

>>75
完全なる誤字ですね。全く気づいておりませんでした。
失礼いたしました。

それでは投下します。

それからもゲームは続いていた。
戦績は圧倒的に一方通行が最下位であったが、イメージに合わず土御門が少食であったり、逆にレナが大食いであったりとランキングの変動は激しかった。



そして次のゲームは射的である。



各々がコルク銃にコルクを詰めて飛ばすも、なかなか当たる様子がない。
魅音はかろうじてキャラメルをゲットしたが、沙都子、梨花、レナの三人は全く的に当てられずにいた。



土御門と一方通行の番が回ってくる。



「「……」」



二人の間に緊張感が走る。



「……わかってンだろォなァ、土御門」



「もちろんぜよ。土御門元春さんをナメてもらっちゃぁ困るぜい」



「これは俺とお前という真のガンマン二人の勝負だ。今までのは前座と言ってもいい」



土御門はサングラスの奥の眼光を鋭くさせるといつになく真剣な様子で語る。



「そォだな。ココが実質の頂上決戦だ」



今までの戦績的に全くそんなことはないのだが、一方通行も目を細めて同意する。

「お願い!二人とも、私をかけて争うのはやめて!」



魅音はそう言って心配そうな様子で二人を見つめる。



「すまねェなァ魅音。もうちょっとだけ待ってなァ、すぐ迎えに行ってやるからよォ」



一方通行は土御門から視線を背けずに言い放つ。
それはさながら土御門への挑発のようにも見えた。



「魅音、お前は俺が救い出す。いいか、絶対だ。こいつを片付けてな」



対する土御門も真剣な趣で一方通行に答える。



静かに二人はコルク銃を構える。
今、漢と漢の戦いが始まる。



「みぃ、進一がボケ出すとツッコミ役がいなくなるのですよ」



正常なのは梨花だけかもしれない。

二人は見事に次々と商品を打ち倒していった。
それはもう見事に百発百中でだ。
いつまで経っても勝負が付かず、テキ屋のオヤジからクレームが出たため、レナが欲しがった最も大きいクマのぬいぐるみをどちらが撃ち落とすかということに勝負は預けられた。



しかし。



「どォなってやがる……」



「……」



一方通行と土御門は厳しい表情を浮かべる。
先ほどから何発クマに当てても全くといっていいほどクマが動かないからだ。



一方通行は完璧な計算による弾道でクマのぬいぐるみが最も転ぶ可能性の高い場所を的確に打ち抜いていた。
それでもビクもしない。
一方通行は計算ミスをしているわけではない。
一方通行が把握していない何かが存在しているのだ。



一方の土御門も慣れた手つきでクマのぬいぐるみの至る所を撃ち抜くがピクリともしない。



一方通行は能力を使わない。
これは意地の勝負なのだ。
能力を使えば勝てるかもしれない。
しかしそうやって手にした勝利は真の勝利ではない。
相手とフェアな状態で戦ってこそ真の勝利なのだ。

「おい、鈴科」



「なンだ」



「あのクマだが。テープで固定してある可能性がある」



「っ!………そォいうことかよ」



そしてこの勝負は。
既に一方通行と土御門の勝負ではなくなっていた。
一方通行、土御門対テキ屋のクマという勝負に変わっていたのだ。



「作戦は」



「俺の合図で正確に俺の打った場所を狙え。できるな?」



土御門はコルク銃にコルクを詰めながらそう指示する。



「俺を誰だと思ってやがンだァ?」



一方通行はニヤリと笑う。



「ふ、頼りにしてるぞ」

そう言うと土御門は自分の前にコルク銃を集め始めた。
この射的屋に置いてある銃の数は全部で五丁。
一方通行と土御門の戦いが凄まじすぎて既に客が観戦に回っていたこの状況。
他の客は快く土御門に銃を渡した。



一発は一方通行が持っているため、土御門の前にはコルクが装填された銃が四丁。
土御門は両手に一丁ずつ銃を構える。
残るは二丁。



「いくぞ、一方通行」



「おォ、いつでもイイぜ」



二人は笑みを交わす。



そして。

パン!
土御門は右手に構えた一発目のコルク銃を発射する。
パン!
続いて左手に持ったコルク銃。
パン!
左手の銃の引き金を引いている間に新しい銃に持ち替えて続けざまに三発目。
パン!
同じ要領で四発目を放つ。



コルクは。
全く同じ弾道を辿る。
まず二発目に撃ち出されたコルクが一発目に発射したコルクに追いつき、追突する。
連鎖的に三発目、四発目が一発目のコルクに追突する。
追突が起こるたびに一発目のコルクが加速され、普通にコルクを発射した時では到達しない速度になっていた。



コルクがクマのぬいぐるみの額に当たる。



「今だ!鈴科!」



「分かってンだよォ!」



パン!
一方通行がコルクを発射する。



土御門の射撃によりクマが揺らぐ。



そこに一方通行の打ち出したコルクが重なる。



クマは



ベリバリと接着されていたテープを剥がして
倒れた。



おおおおおおおおおおおおお!!!!



射的屋の周りから歓声が上がる。

土御門と一方通行の二人は言葉を交わさず、静かにアイコンタクトを取るとハイタッチを交わす。



「ほら、景品を寄越せよ」



「くっ!」



テキ屋のオヤジは悔しそうにクマのぬいぐるみを差し出す。
それを受け取った一方通行はレナにぬいぐるみを放り投げた。



「二人とも凄いよ!ありがとう!」



レナは歓喜と感動でクマを抱きしめる。



「それにしても、土御門さんはどうやってコルクの速度を調節しましたの?
普通に撃ったとしたら全弾同じ速度で発車されるのではないでしょうか?」



「なに、簡単なことぜよ」



よう言って土御門はコルク銃を取り出す。

>>84
最後の行は
よう言って→そう言って
です

「まずこれが一発目だぜい」



言うと土御門はコルクを銃にセットする。



「続いて二発目だにゃー」



土御門は先ほどセットしたコルクを、上から指でぐっと押し込んだ。



「なるほどねー、コルクの詰まる強さを調節して空気圧を変更。
それで速度を上げてたってわけか」



「この二人が組むとこれは最強かもしれないねぇ」



魅音は顎に手を当ててしげしげとそう言った。



一方通行と土御門の二人は充実感に楽しそうに笑っていたのだった。

ドッ!
机の上に置かれたふとんの綿に鍬が祭儀用に装飾され鍬が振り下ろされる。



鍬を振り下ろす少女、梨花の表情は真剣そのものだ。
つたい落ちる汗も気にしていない様子だった。



少し間を置くとずずっと鍬を滑らせたのちに、鍬を振り上げる。
小学生である梨花にとっては鍬はまだ重いのだろう。
少し腕が震えている。



ドッ!
再び鍬がふとんの綿に振り下ろされ、祭儀用に取り付けられていた鈴がシャランと音を立てた。

「綿流しねェ……」



演舞が終わった古手神社では川に流す綿を村人たちに配っていた。
一方通行も綿を貰って川べりまで来ていた。



「体についてる悪いものを布団の綿が吸い取ってくれて、一年間ありがとうございましたってお祈りするの。それから、綿を竿に流して終わり」



レナの説明が脳内で再生される。
みな別々の場所に綿を流しに行ったため今は一方通行一人だ。



「ふゥン」



一方通行は手にした綿の玉をひよっと川に放り投げる。



分からねェな、文化ってヤツはよ。



一方通行はぼうっとそんなことを考えていた。

「お祭りは楽しめたかしら?鈴科くん?」



綿を流すために屈んでいた姿勢を元に戻して川から神社の方に戻ろうとしていると声をかけられた。
そちらに目を向けると見知らぬ女性が立っている。
暗くてよく分からないが肩を過ぎる金髪の女性だ。
隣に立っている男は富竹か。



「知らねェヤツに声を掛けられたと思えば盗撮魔のツレかよ。失礼なのも納得がいくってもンだな」



憎まれ口を叩く一方通行。
レナや魅音といった部活メンバー以外への態度は相変わらずのようだ。



「あらあ?怒っちゃったかしら?気を悪くしたなら謝るわ、ごめんね、鈴科進一くん」



女は女で若干の挑発を込めてそう返してくる。
隣に立っている富竹は仲裁しようか迷っている様子で苦笑いを浮かべていた。



一方通行は肩をすくめる。

「別に構わねェけどな。ンで、オマエは一体誰なンだよ」



「進一くんって思ってたより怖い子なのねえ。私の名前は鷹野三四よ。よろしくね」



「チッ」



鷹野の態度が気に入らないのか一方通行は舌打ちを返す。



「と、とにかく!これで進一君も雛見沢の一員だね、なんて……」



富竹が少々強引に話題を反らす。
一方通行は富竹に一瞥し少し目を伏せる。
が、結局は乗ることにしたようだ。



「はっ、どォだかな。まだまだ俺が知らねェこともあるみてェだしな」



「雛見沢の事でかい?」



富竹は不思議そうな表情を向けてくる。

「ダム工事の事だってついこの間まで知らなかったワケだしな」



「……ダムの計画が始まったのは今から七、八年前の事で、この雛見沢からずーっと上流までが全部沈む事になったんだ」



「ンで、反対運動が起きて、イロイロあったのちに計画は中止になったンだろ?」



「概要自体は知ってっけどよ。ココのヤツらはダムの事について語ろうとしやがらねェ」



「オヤシロ様の祟り、よ」



一方通行の言葉を遮るようにして鷹野は楽しそうに呟く。



「オヤシロ様の祟り?ンだよそりゃ」

「四年前に雛見沢でバラバラ殺人があったのは知ってるわよね?」



「あァ」



一方通行はあのゴミ山と昔見たニュースを思い出す。



「アレもちょうど綿流しの日で、雛見沢を水没させようとする悪いヤツに、守り神様がバチを当てた。つまり祟り。
雛見沢に住む老人達はみんなそう思ってるのよ」



「なンだそりゃ。くっだらねェ。祟りなんかで人が死ぬなら誰も人殺しなンかしねェっつうの」



「そうかもしれないわね」



ふふふ、と鷹野は笑う。
常に余裕の態度を崩さない鷹野に、一方通行は妙な圧迫感を覚える。



「でも、それが毎年起こったらどうかしら?」

「あァ?どういうことだよ」



「毎年、綿流しの日に誰か死ぬんだよ」



富竹が鋭い顔つきでそう告げた。



「……」



一方通行の顔に表情の変化は伺えない。



「バラバラ殺人があった翌年の綿流しの日。
雛見沢の人間であったにも関わらず、ダムの誘致派だった男が旅行先で崖から濁流に落ちて死亡した。
奥さんに至っては、死体も上がってない」



富竹が語り始めた。
一方通行はただ静かにそれを聞いている。

「さらに翌年、綿流しの晩。
神社の神主が原因不明の奇病で急死したの。
奥さんはその晩のうちに沼に入水自殺」



鷹野が後を継ぐ。



「さらに翌年。これもまた綿流しの晩。近所の主婦が撲殺体で発見された。」



「被害者の一家はね?二年前に死んだダム誘致派の男の弟一家にあたるのよ」



「そして、5年目の綿流しってのがつまり……」



富竹は帽子のツバを軽く掴んで顔を伏せて言葉を濁す。



「今日ってワケか」



最後は一方通行にも察しがついた。



「今年は何が起こるのかしらね?」



鷹野は笑みを崩さない。

「まァ確かに世間が好きそうな話ではあるわなァ」



一方通行は馬鹿馬鹿しいといった様子だ。
どうやらこの話をそこまで真に受けていないようだ。



「楽しみね、進一君」



そう言って鷹野と富竹は去って行ってしまう。



なンだったンだ?



そう思いつつも、鷹野に会った時から感じていた胸の圧迫感はいくらか薄らいでいた。



ビビってるワケじゃねェが……。



結局謎の圧迫感はその日一方通行から晴れなかった。

「犯人は梨花ちゃん!場所は理科室!凶器は毒物!」



魅音は勢い良く叫ぶ。



にゃー!先を越されたにゃー!
毒物でじわりじわりがいいのですよ♪
と、各人がそれぞれの反応を漏らす。



綿流しの翌日。
一方通行達部活メンバー一行は昼休みの時間を使って犯人探しゲームを行っていた。
人物、場所、凶器が書かれたカードを複数セット用意し、それらから無造作に一枚ずつ引いたカードを推理するというゲームだ。



「んじゃあ次のゲームいくよ!」



そう言って魅音はカードをシャッフルすると一枚引き抜く。

「ちょっと待て」



一方通行は席を立つと、そのまま教室の扉の方へ歩いていく。



「あれ、進一君どうしたの?」



レナは不思議そうな顔をして首をかしげた。



「察しろよ、鷹狩りに行くんだよ、鷹狩りによ」



「鷹狩り……?なんのことかな?かな?」



レナは未だに理解できないようで頭の上にハテナマークをたくさん浮かべている。
そんなレナを尻目に見つつ一方通行は教室を後にした。



「鈴科君、ちょっといいかしら?」



全く他意はなく用を足した一方通行が教室に戻ろうとすると、この学校唯一の教師である知恵先生から声がかかった。

「あン?なンだよ」



一方通行は成績優秀であり落ち着いていて、時には先生の代わりを取って代わることもある。
一方通行には呼び止められるような心当たりはなかった。



「鈴科君にお客さんが来ていますよ、玄関でお待ちです」



知恵はそれだけ言うと職員室に戻って行ってしまった。



客だァ?一体何モンだ。



思わず身構える一方通行だったが、ここであれこれ考えても仕方がないのでとにかくその客とやらに会ってみる事にする。
廊下の突き当たりを曲がると玄関の下駄箱に寄りかかるようにしてその人物は立っていた。
どうにも暑いのかパタパタと手で顔を仰いでいる。
見た目は二十代後半の女性で、長い髪を頭の後ろで一つくくりにしている。
いわゆるポニーテールというやつだ。
十二分に発達した身体は通常の健全な男子が見ればよだれものだろうが、だらしなく着られたジャージが色気を打ち消していた。

「おっ」



女は一方通行に気づくと軽く手を挙げた。



「悪いじゃん、わざわざ休み時間を邪魔しちゃって」



女は気さくな眩しい笑みで一方通行にそう告げる。



「……」



一方通行が黙っていると、女はハッとしたようにジャージのポケットから何かを取り出すと、それを一方通行に見せる。



それはヨレヨレになった警察手帳だった。



「興宮署の黄泉川じゃん。ちょっと時間いいじゃん?」



「警察ってェのか」



一方通行にはすぐにピンとこなかった。
というのも、学園都市には警察が存在しない。
その代わりにアンチスキルという教職員で構成された自警団のようなものが存在しているだけだ。
とはいえ、治安の悪い学園都市では並みの警察よりは能力が高いのであるが、そんなことは一方通行の知ることではない。



「私の車の中ならクーラーも効いてるし、茶ぐらい出すじゃん。と言ってもまぁペットボトルじゃんけど、いいか?」



「……好きにしろよ」



一方通行は面倒ごとを避ける性格だ。
だから今回もこの警察の話など無視しようかと考えた。
しかし頭をよぎったのだ。



「毎年、綿流しの日に誰か死ぬんだよ」



昨日聞いた富竹の声が。

黄泉川は運転席に、一方通行は後部座席に乗り込む。
黄泉川の車は少し寒いくらいにクーラーで冷やされていた。
送風口に取り付けられた芳香剤が計算され尽くした良い匂いを放っている。
タバコの匂いを消すためだろうが、その二つが混ざり合ってあまり心地よいとは言えない空間になっていた。



「ほら。麦茶じゃん」



黄泉川はぐっ、と一方通行にペットボトルの麦茶を差し出す。



「別にいらねェよ。それよりなンの用だ」



一方通行は受け取らない。
これを受け取ったことにより因縁を付けられる可能性があると考えたためだ。
麦茶をダシにセコイことをするような公務員がいるのかは謎だが、治安維持組織にあまり良い印象を一方通行は抱いていなかった。



「ふぅ、それじゃ、早速だけど。この写真の男性に見覚えはあるかじゃん?」



黄泉川は諦めて助手席に麦茶を放り投げると、封筒から一枚の写真を取り出して一方通行に見せた。

そこには富竹の姿が映っていた。



ビンゴ、か。



「……知らねェな」



一方通行は平然と嘘をつく。
黄泉川な一方通行の言葉にピクリと眉を動かした。



「……。質問が悪かったじゃん。もう一度聞く。この男を知ってるじゃんね?」



一拍開けて黄泉川が続ける。



「保身は大事じゃん。ただ、警察相手に嘘をつくもんじゃないじゃん。
別に私らはお前を疑ってるわけじゃないじゃん。ただ話が聞きたいんじゃん」



「……チッ。面倒臭ェ」



一方通行は心底だるそうに首を振る。



「それで、何が聞きてェンだよ。ソイツとは別に知り合いって程の仲じゃねェぞ」

無視や誤魔化しを決め込んでもよかったのだが、どうやらこの女は強情そうだ。
下手をするといっこうに教室に戻れないという可能性が頭に浮かんだのだ。



「じゃあこの男……富竹ジロウと最後に話をしたのはいつじゃん?」



「昨日の晩。綿流しの晩だ」



「何時頃じゃん?」



「さァな。あン時時計は持ってなかったからな」



「……。じゃあこっちの女には見覚えあるかじゃん?」



黄泉川は少し考えるような仕草をすると、もう一枚写真を取り出して同じように一方通行へと見せる。
今度は金髪の女性が写っていた。



「富竹と一緒にいた女だな」



「……この女に最後にあったのも?」



「あァ。綿流しの晩。初めて会ったのもそん時だな」



黄泉川は二枚の写真を封筒に戻すとため息をついた。
そしてぐいっと後部座席に身を乗り出す。
意を決したような表情が見えた。

「非常に言いにくいことじゃんけど、富竹ジロウさんは昨夜亡くなった」



「……」



「驚かないじゃん?」



眉ひとつ動かさない一方通行に、黄泉川が逆に驚いたようだ。



「元々こォいう顔なンだよ」



実際一方通行は驚いていなかったが、適当に受け流す。



「そうか、それは悪かったじゃん。話を続けても?」



黄泉川はチラ、と一方通行にアイコンタクトする。



「あァ」



一方通行が短く返すと、黄泉川は運転座席に座りなおしダッシュボードから手帳を取り出すとペラペラとめくった。

「第一発見者はウチの警備用のトラックだったじゃん。綿流しには警備として警官を派遣してるから。
雛見沢から興宮へ向かう山道の中程で既に死体で発見されたじゃん」



「死因は?」



一方通行は相変わらず動じない様子で尋ねる。
今まで暗い世界を歩いてきた彼には予感のようなものがあったのかもしれない。



「それが奇妙なんじゃん。被害者富竹ジロウは、自分で喉を掻きむしって死んでるじゃん」



黄泉川は苦い顔をする。



「当然だが、自殺とは考えにくいじゃん」



「薬物投与の可能性は?」



黄泉川は一方通行の冷静さと頭の回転に再度驚いた様な顔をする。



「……、今検死が進んでるとろこだから、それはまだ何とも言えないじゃん」



「……」



一方通行は頬杖をついて窓の外を眺める。
何か考えているようだ。

「で?結局俺に何の用だ。まさかわざわざ死亡事件を親切心で伝えに来たってワケじゃねェだろォな」



「それはモチロンじゃん」



黄泉川は再度後部座席に身を乗り出す。
ぐっとより一段一方通行の方に近づくと



「お前に協力して欲しいじゃん、鈴科」



と言った。



「どォして俺なンだ?それなら富竹と関係の深かった魅音やレナの方が適任じゃねェのか」



黄泉川は少し視線を外す。



「お前は連続怪死事件の話はしってるかじゃん?」



「あァ。オヤシロ様の祟りとかってェやつだろ。笑える冗談だ」



「ウチでは、村ぐるみの犯行だと考えてるじゃん」



「……」



黄泉川は一方通行の顔色を確認する。
動じていない様子ではあるが、それでもなお黄泉川は苦い顔をしていた。

「子供たちを疑ってるワケじゃないじゃん。ただ、そうは言っても調査が園崎の耳に入るのはマズイじゃん」



一方通行は少しだけ不思議な顔をする。
この車内で初めて感情の変化を見せたかもしれない。



「園崎?そこでなンで魅音が出てくる」



「園崎家は、この辺り一帯を取り仕切ってる暴力団じゃん」



「魅音の実家がか」



「そうじゃん」



初めて一方通行も表情に影が映る。



キナ臭いことになって来やがったな。



「もちろん、さっきも言った通り子供たちのことは疑ってないじゃん」



黄泉川はそう言って一方通行の肩に手を置く。



「ただ、念には念を入れておきたいじゃん。だから誰にも秘密に村人の影響を受けないお前に協力してほしいじゃん」



一方通行は黄泉川を一べつする。



「もし俺がオマエを裏切って魅音達にこの話をしたらどォすンだ」



「そん時はそん時じゃん、私は信用に足らなかった、それだけの話じゃん」



「じゃあ逆にだ。逆にそんなにヤバい奴らなら俺が命を狙われることになるかもしれねェ。
そン時はどォ責任取るんだ」

「私が全力をかけて守るじゃん。命に代えても」



黄泉川は全くもって真剣な眼差しでそう告げた。
一方通行はじっと黄泉川の目を睨みつける。
黄泉川に表情の変化はない。
ただ、自分を信じてくれと目で訴えている。



「チッ、わァったよ」



一方通行は忌々しげに舌打ちをする。
おそらくこの黄泉川という女はこういう人間だ。
あくまでも自分たちのことを護るつもりでいる。



「本当か、よれはよかったじゃん!なら、もし何かあったらすぐに話してくれじゃん。どんな些細なことでもいいから」



「わかったよ、連絡先を教えろ」



一方通行がそう言うと、黄泉川はキョトンとした顔になった。



「なんでじゃん?」



「はァ?連絡先知らねェと連絡できねェだろォが」



一方通行は極当然の事を口にする。
すると黄泉川は納得したのか、あー!と声を上げる。

「それなら心配ないじゃんよ!」



「あァ?何言ってンだオマエ」



「なぜなら、私は今日からお前の家に住むからじゃんよ」



「はァっ!?」



一方通行は素っ頓狂な声を上げる。



「だって、それが一番手っ取り早いじゃん?」



黄泉川は何がおかしいのか理解できないといった様子だ。



「イヤイヤ、冷静に考えてみろよオマエ。俺の家にオマエが出入りしてちゃァアイツらにすぐバレンだろォが。
言わばこれは囮調査ってこったろ?じゃあ秘密裏に事を進めるのが普通だろォが」



「あー……」



どうやら黄泉川はそこまで考えていなかったらしい。
一方通行を最も安全に保護するにはどうすればいいかだけを考えていたのだろう。



「あっ、わかったじゃん!じゃあお前が私の家に住むじゃん!」



「馬鹿かオマエは」



その後どうしても一方通行を近くに置きたい(こういえば違う意味合いに取れなくもない)と言い張る黄泉川をなんとか説得させ、電話番号を聞き出して追い返した。

それでは今日はこの辺りで。
綿流しのお祭りが終わり、ここから本格的に彼らの生活は狂い出します。

黄泉川も出てきましたしね。


それでは次の投下まで、おやすみなさい

また一週間以内に。

あ、>>108の酉間違ってますが気にしないで下さいw

みなさまこんばんわ。
今日も投下していきます。

みなさまこんばんわ、本日も投下していきたいと思います。

>111

黄泉川「私もSS出たいじゃんよ!」


大石「仕方ありませんよお、黄泉川さあん。
あなたの出番は用意されていないのですからね」


黄泉川「大石、お前ちょっと代わるじゃん!」


大石「(´・_・`)」


というわけで大石さんにはお留守番していただいております。
申し訳ございません。

そうして次の日のとある休み時間。
一方通行はいつものように授業中もそうでなくとも関係なく眠りこけていた。
今日は珍しく誰も一方通行に構ってこない。
いつもなら土御門や魅音が、いつまで寝てんのさー!進ちゃーん!
などとヘッドロックをしかけてくるところだというのに。
それどころか今日はやけに静かだ。
雨のせいでみんなのテンションも上がらないのだろうか。
いや、ヤツらはそんなことを考えるようなヤツではない。
雨なら雨ならではの遊びをしようというのが彼女らなのだ。



「昨日富……さんが。山……」



「どうして?だって……」



「鬼……はどうな……にゃー」



かすかに話し声が聞こえてくる。
どうやら富竹の話のようだ。
なるほど、それなりにもうこの村には広まっているということのようだ。



一方通行は詳しく話を聞こうとしたが、始業のチャイムがそれを許さなかった。

放課後。
一方通行達はいつものように部活の用意をはじめる。
最近のブームは犯人探しゲームで、今日もまたその続きをしようということだった。
しかし。



「ごめん!今日はちょっとおじさんの手伝いがあって!ごめんねみんな!今日は部活なしで!」



そう言って魅音はそそくさと帰って行ってしまう。



「おじさんの手伝いってのはなンだよ」



「にゃー、アイツは興宮にあるアイツの叔父の店でバイトをしてるんだぜい」



「バイトだァ?似合わねェこったな」



そんなわけで仕方なく、机の位置などを片付ける一方通行とレナ。
土御門や沙都子、梨花などは買い出しに行かなければいけないとのことで先に帰ってしまった。
よく考えれば土御門の口車に乗せられているような気もするが、気にするほどのことではない。

一方通行がカードを直すために手とると。



悟史



一枚のカードが眼に入った。



「なァ、レナ。この悟史っつうのは誰だ?」



「よく知らないの」



どこかよそよそしい態度でレナは答える。



「レナが引っ越してきたときに入れ違いになって転校して行っちゃったから。レナはあんまりお話したことないの」



「……そォかよ」



何か隠してるな。
一方通行はそう思った。ダム工事の時と同じだ。
つまりこの悟史というヤツはオヤシロ様の祟りに何かしら関係があるということだろう。

帰り道。
他のみんなが先に帰ってしまったため一方通行とレナは二人であぜ道を歩いている。



「なァ、レナ」



「なあに?進一君」



一方通行はしっかりとレナを観察しつつ話しかける。



「今日の昼、富竹の話をしてなかったか?」



「あ……うん、それがどうしたの?」



レナは一瞬表情を曇らせた。
がそれもすぐに元に戻る。



「なンの話をしてたンだ?」



「えっと……大した話はしてないよ、どうしてかな?かな?」



レナは一方通行から視線を外す。
一方通行は数秒考えると続けた。

「単なる興味本位だ。話してくれ」



「と、富竹さんが早く写真の賞を取れるといいねって話をしてたんだよ……」



一方通行はキッとレナを睨みつける。
少しひるんだのか肩をすくめる。



どォにも釈然としねェな。
ウジウジしてるのもしょうにあわねェか。



「嘘だろ、それ」



「どっ、どうしてそんな……」



「オマエらは俺に何か隠してやがる。何を隠してンだ?吐けよ」



一方通行はさらに凄む。



「し、進一君……。そ、それは……」

「オイ、いい加減に……っ」



今度は言い淀んだのは一方通行の方だった。
ある感情が一方通行に流れ込んで来たからだ。
以前はよく知った感情だった。こっちに来てからはめっきり受ける機会が減っていたため忘れていたものだ。



それは殺気だった。



わずかではあるが、レナから一方通行へ向けて殺気が放たれている。
一方通行を睨みつけるレナ。その目はこの少女には似つかわしくないもので、餌を狙う鷹を連想させた。



「進一君こそ、レナたちに隠し事してないかな?……かな?」



「……オイ。話を挿げ替えるんじゃねェよ。今はオマエの……!」



一瞬ひるんだ一方通行だったが、そこは彼である。
もう一度優位に立とうとしたのだが、ずいっ!とレナが間近に迫ったため言葉を途切れさせてしまう。

「レナ達に隠し事、してないかな?かな?」



「……だったらどォする」



「昨日進一君がトイレに行った時、進一君先生に呼ばれて知らない女の人と話してたよね?あれは誰かな?」



「っ」



一瞬一方通行は息を飲む。



どォして知ってやがる。
教室からあの場所は見えねェはずだ。
遅いと思って様子を見に来やがったのか?
……いや、考えにくい。



「……悪いか」

「ふふ、あの人と何の話をしたのかな?かな?」



「オマエらには関係のない話だ。アイツは学園都市からのーー」



一方通行が続けようとした時。
かすかな呟きが耳に入った。



「……そだ」



「……あン?なンだよ」

「嘘だ。嘘だ嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!」



「お、おい!」



「嘘だッ!!!!!!!!!!!!」

「ーーっ」



あまりの剣幕と様子の異常性に一方通行が怯んでしまう。
急に首筋のチョーカーが気になる。
もし襲われたとすれば電極はまだ30分残りがある。絶対に負けることはない。
一方通行は恐怖とまではいかないにしろ、レナを脅威として見ていた。



レナは一方通行に一歩近づく。



「進一君にあるように、レナ達にだってあるんだよ、隠し事」



ささやくような小さな声だったが、一方通行にははっきりと聞き取れた。



「さっ、帰ろ?だいぶ涼しくなってきたよ」



レナはそう言うといつもの様子に戻り、先に歩いていってしまった。

夜。
一方通行はもちろん一人暮らしである。
家自体は学園都市が手配したもので、二階建てでかなりの広さを誇るわけだが、彼一人でそれを使い切ることはないので普段はリビングしか使っていない。
そんなわけで帰宅してもモチロン誰も待っていないわけなのだが。



その日は少し違っていた。



ガチャリと玄関を開ける一方通行。
するとまず不思議に思うことは、明かりが点いている。
そして見覚えのない靴が二足。



「ーー」



一方通行は黙って電極のスイッチを入れる。
リビングに足を踏み入れると今度は不思議な匂いがした。
一瞬毒物かと警戒するが、違う。
これは料理の匂いだ。



デミグラスソースか?

「お、おかえりじゃん!鈴科!」



考えていた彼にリビングから勢いよく声がかかる。
一方通行はわなわなと震えている。
侵入者の正体に気がついたのだ。



「どォしてテメエがココにいンだよォ!黄泉川ァ!」



「どォしてって……一緒に住むって言ったじゃん?」



黄泉川はキョトンとしている。
さながら、お前は何を言っているという顔を一方通行は向けられていた。
そうしたいのは一方通行の方だった。



「その話は昨日解決しただろォが!オマエがいたら邪魔だっつっただろォが!」

「いやー、そうは言ってもやっぱり近くにいた方が護りやすいじゃん?」



語尾に音符でも付きそうな上機嫌で黄泉川は返す。



「じゃン♪、じゃねェンだよストーカー女がァ!大体オマエどォやって家を調べやがった!鍵はどォしやがったンだよ!」



「それは警察をナメてもらっちゃ困るじゃん?」



えっへんと言わんばかりに腰に手を当て胸を張る黄泉川。
豊満な胸がジャージの下で窮屈してそうにしていた。



「あァ、クソ、もうどうでもよくなって来やがった。真面目に話してる俺が馬鹿なのか?俺が悪いのか?
頭が痛くなってきやがったぞクソ……」



一方通行は頭を抑えると観念したのかソファに倒れこんだ。

少しして。
完全にもう日は落ち、天井に設置された照明だけが部屋を照らしていた。
リビングには良い匂いが立ち込めていた。
テーブルの上に二人分の料理が並べられているからだ。
そう、二人分の。



「どうした、鈴科。ほら、いただきますじゃん」



「お、おォ。いただきますゥ」



何だこれは?何なンだこれは?



混乱気味に一方通行は食事に手をつける。
というかこの家に食器があったことを知らなかった。
今まで一度も使ったことがなかった。



ちなみに本日の献立は煮込みハンバーグのようで、黄泉川の得意料理らしい。

「旨いじゃん?」



黄泉川はニコニコしながら聞いてくる。



「……まァ、悪くはねェな」



素直じゃないじゃんねー、などと言いつつ、彼女も満足なようだ。



「オイ、黄泉川」



「何じゃん?」



「オヤシロ様の祟りについて、なンか言ってない事ってあるか?」



「……。その話は食べ終わってからにするじゃんよ、飯を食いながらする話じゃないじゃん」



一方通行は注意されると素直にそれもそうかもしれないと思い、黙って箸を進めた。

「それで?何か気になる事があったじゃん?」



「あァ。今日たまたまレナ達が話してるのを聞いたんだが、鬼がどうとかっつゥ話をしてたンだよ」



「あぁ、それならたぶん鬼隠しじゃん」



「鬼隠しだァ?」



一方通行は額のシワを深くする。



「そ、まぁ世間一般で言う神隠しってやつじゃん」



「ンで?その鬼隠しっつゥのはどう関係あンだ?」



黄泉川は少し頭を掻く。
本当にこういう話が嫌いなようだ。
よく刑事をやってるな。
と一方通行は思わなくもない。



「このオヤシロ様の祟りっていうのは、毎年行方不明者が出てるじゃん」



「あァ?」



聞いていなかった情報だ。
一方通行は眉を上げる。

「一年目のバラバラ殺人に関しては、犯人の一人がまだ見つかってないことがこれに当たるじゃん。
続いて二年目のダム誘致派の男の死。この男の妻は現在も行方不明になってるじゃん。
三年目の神主の妻は入水自殺ということになれてるけど、死体は上がってないじゃん。
四年目の主婦の死亡に関してはその親戚に当たる少年が行方不明になってるじゃん」



「……なるほどなァ。そンで今年の鬼隠しはあの鷹野とかっつゥいけ好かない女だってワケか」



黄泉川はハッとした顔をする。



「お前、意外と鋭いじゃんね、その通りじゃん」



「意外とは余計だっつゥの。後何点か確かめたいことがある。良いか?」



「ああ。解る範囲なら答えるじゃん」



「まず」



一方通行は人差し指を立てる。

「三年目に死んだ神主と失踪したその妻。この二人は古手梨花の両親だな?」



黄泉川は息を飲む。
友人の両親の死を確認するという行為におどろいた様だ。



「そうじゃん」



「次に去年。失踪した少年の名前は悟史、だな?」



「そうじゃん」



「性は?」



「……、北条、じゃん」



黄泉川は重々しく吐き出す。

「なるほどなァ。となると二年目に死んだ夫婦は沙都子の両親ってことになンのか。他に俺らに関わってる事件はないのかよ」



「……、まず一年目じゃんけど」



黄泉川は額に手を当てる。
冷静になろうとしているのだろうか。



「殺された現場監督。その監督は当時10歳の園崎魅音と取っ組み合いのケンカをしてるじゃん」



「なるほど。これで魅音は消えたってワケか」



「続いて竜宮礼奈じゃん。この子は事件とは直接の関係はないじゃん」



「去年引っ越して来たっつゥ話だったしな」



黄泉川はこくりと頷く。



「ただ、その引っ越してくる原因じゃん。竜宮は以前在籍してた学校で傷害事件を起こしてるじゃん」

「傷害事件……」



あのレナがか?
一瞬そう思った一方通行だが、今日の帰り道の様子を思い出す。
鷹のようなするどい目つきをしたレナを。



"あの"レナならなくは無いか



「学校中の窓を割って回り、当時仲の良かった男子学生を怪我させてるじゃん」



「……」



一方通行は表情を変えない。



「その後精神科に通院。そこで出てるんじゃん」



「もったいぶるンじゃねェよ。何がだ」



「オヤシロ様って言葉を竜宮が口にしてるじゃん。オヤシロ様が毎晩枕元に立って、何かを囁いてくるって」

「どォいう事だ?なンでそれをレナが知ってンだ?」



「元々竜宮家は雛見沢に住んでたんじゃんよ。竜宮レナが小学生に上がる頃に引っ越して、事件の後雛見沢に戻ってきたってわけじゃん」



「だからオヤシロ様のことを知ってたってワケか。なるほどな」



「つまりじゃん。今上げた人物が事件に関わっているとしたら、今一番危険なのは、鈴科、お前になるわけじゃん」



「ちょっと待てよ、土御門はどォなる」



「?」



黄泉川はぽかんとして首をかしげる。



「つちみかど?」



「あァ、土御門元春」



「誰じゃん、それ」



「あン?俺らと一緒にいる金髪グラサンアロハシャツの野郎がいるだろォが。俺と同い年くらいのよォ」

それを聞いた黄泉川はちょっと待ってろと言い、鞄をごそごそと物色する。
やがてファイルを一つ取り出すとペラペラとめくる。



「雛見沢分校に在籍してる生徒でお前と歳が近いのは竜宮礼奈と園崎魅音だけじゃん。なんだ?その土御門ってやつは」



「……それ見せろ」



一方通行は身を乗り出してファイルを奪おうとするが、これは警察権限じゃないとダメじゃん、と制された。
恐らく個人情報がわんさか詰まっているのだろう。



……今の話を聞く限りだと、沙都子と梨花の危険度は低いな。おそらくただの被害者だろォ。
問題はレナ、魅音、土御門の三人か。
中でも土御門は群を抜いて怪しい……。



「俺はウソツキだからにゃー」



頭の中に土御門の声が反芻される。



土御門……オマエは一体何モンなンだよ。

今日はこの辺りで。

押掛け女房黄泉川ということで、羨ましい限りですね。

物語は駆け足ながらいよいよクライマックスへと向かっていきます。

また一週間以内に。

実は隔日更新が目標だったりします。


それではみなさま、次回の投下までおやすみなさいませ。

みなさまおひさしぶりです。
>>1です。
私情ながら少々忙しく来れていませんでした。

投下していきます。

翌日。
一方通行はバスに揺られていた。



「次は興宮駅前。興宮駅前。お降りの方はボタンを押して下さい」



一方通行は細い腕を伸ばして壁に取り付けられたボタンを押す。



やがてバスは停車すると、一方通行は駅前に降り立った。



今日は通常の登校日なのだが、一方通行は学校には行っていない。
休む事は特に伝えていないが、適当に風邪か何かだと判断するだろう。

しばらく歩いて見つけたネットカフェに入っていく一方通行。



受付をすませると自分の個室に入り、pcを立ち上げる。
検索サイトを表示させるととあるキーワードを打ち込んだ。



土御門 元春



まァ、ネットで検索をかけたぐらいじゃァ大した情報は得られねェだろォがな。



表示された検索結果を流し読みしていく。

ふと、一方通行がマウスを操作する手を止めた。
短くダブルクリックをするとページを表示させる。
それはロンドンで開かれたミサ、日本風にいうとお参りに関する記録であった。
そこに一方通行の探していた名前が刻まれていたのだ。



Motoharu Tsutcimikado



土御門が参列者ってことか?
これは……7年ほど前の記事だから、アイツが9歳くれェの頃か。
イギリスに住んでやがったのか……?



その後も一方通行は様々な手段で土御門のことを調べようとしたが、めぼしい情報は得られなかった。



結局分かったことはイギリスにアイツが住んでたってコトだけだな。
今度直接問いただすのが一番手っ取り早い方法か?

一方通行は自身のチョーカーに手を当てる。



大丈夫だ。能力があるから危険はねェ。



……。



一方通行はついでに調べた他の四人の情報も整理する。

魅音の実家が暴力団っつゥのは本当みてェだな。この辺りではかなり幅を利かしてるらしい。
魅音本人も一人娘の後継として厳格に育てられてるっつゥコトか。



レナが転校した事件に関しては地元の新聞なんかではちょっとしたニュースになったみてェだ。
そりゃあ住みにくいわ娘にオヤシロ様が取り付いてるわで転校もしてくるっつゥモンだな。



次に沙都子。
沙都子はどォやら死んだ叔母に虐待を受けてたみてェだな。
自動相談所にそういう話がいってる。
だがまァ、めでたく叔母は死んで自由にってワケだ。
こうなると兄の悟史の失踪も怪しくなってくるな。



最後に梨花だが。こちらは土御門と同じく大した情報は得られなかった。
ただ、古手家っつゥのはどうやら雛見沢では一種信仰の対象になってるみてェだな。
オヤシロ様ってのを祭ってるのが古手家だからだろォな。
そしてどォやら梨花はオヤシロ様の生まれ変わりと呼ばれてるらしィ。
一部の奴らだけだろォが、特設ページなンつーストーカーチックなモンも出てきやがった。

雛見沢で通信技術が発達してねェのが救いかもな。
ネットが普及してたとしたら俺が探りを入れたのが一発でバレてたろォからな。

ピンポーン。
一方通行の家の呼び鈴が鳴る。



昼過ぎには家に戻っていた一方通行はしばらくオヤシロ様の祟りについて考えていたのだが、そんなことをしていても拉致があかないということで。
一眠りして今しがた目覚め、目覚めの一杯のコーヒーを啜っていたところだ。
知られていないが、彼の好物はコーヒーである。
(ちなみに黄泉川は朝のうちに丁重に退散させた)



「どちら様ですかァ?」



一方通行は気だるそうに玄関まで歩いていくと、これまた気だるそうにガチャリとドアを開ける。



「よっ!元気か進ちゃん!」



「急に休むから心配しちゃったよ」



玄関の前に立っていたのはレナと魅音だった。
一瞬ゾクリと背中に冷たいものが走る。

「あれ?進ちゃんどしたの?ぼーっとして」



「ン?いや、なんでもねェ……」



「あちゃー、こりゃやっぱ具合悪そうだねー」



魅音が話している間にも一方通行はキョロキョロと辺りを見回す。



どォやら土御門の野郎はいねェみたいだな。



土御門を警戒しているようだ。



まァレナと魅音だけなら大丈夫だろォ。

「まぁ進ちゃんヒョロヒョロだしねーすぐ体も壊しそうだもん」



魅音がいつもの調子でおどける。



「うっせェな、こりゃ能力の副作用みてェなモンなンだよ。それとこれとは関係ねェっつゥの」



一方通行は特に気兼ねもなく答える。
やはり彼にこの二人を敵視することはできないようだ。



「んじゃはいこれ!お見舞い品!」



「見舞い品?一体なンだよ」



魅音は風呂敷に包まれた大き目の四角い箱を突き出す。

「みぃちゃんのお婆ちゃんが、おはぎ作ってくれたんだよ」



「おはぎだァ?俺ァ甘いもんは……」



一方通行が訝しげに目を細める。



「はーい!女の子からの見舞い品に文句は言わない!
ちなみに、この中にレナが作ったのも入ってるから、どれか当ててね」



「あァ?」



一方通行の表情はさらに険しいものに変化した。



「おはぎにそれぞれ記号が付いてるから、明日どれがレナの作ったのか教えてね、部活欠席した進ちゃんへの宿題!」



「はァ、オマエらな、見舞いなのか部活なのかどっちかにしやがれっつゥの」



「あはは、この分なら明日は大丈夫そうだねー」



魅音は軽快に笑う。

「まァ、とりあえずありがたく貰っとく」



一方通行が踵を返したところ。



「ところで進ちゃん。お昼は何処に行ってたの?」



レナが問いかけた。



「あァ?どこにってーーーっ」



一方通行が振り返る。
そこには猟奇的な眼で一方通行を見つめるレナと魅音がいた。



っ!コイツら……!!



「お昼。何処かに行ってたのかな?……かな?」



「外で飯を食った」



一方通行は素っ気なく答える。
こちらも先ほどとは打って変わって警戒態勢に入ったようだ。

「ご飯食べたんだ。ふぅん。でも、それだけじゃないよね?」



今度は魅音が感情のこもらない声で尋ねる。



「……」



どォしてそこまで掴んでやがる?
やっぱり園崎の警戒網みてェなモンが敷かれてるっつゥことか?



「ちと学園都市の事で調べ物があったンでな」



一方通行は口からでまかせを言った。



「ふぅん。そうなんだ」



「ダメだよ?ちゃんと寝てないと」



セリフだけなら単に一方通行を気遣う心優しい少女二人の会話である。
しかし現状はそうではない。
陰鬱とした殺気とお互いの警戒が入り混じった、ライオンでも逃げ出しそうな異様な緊張感が立ち込めていた。

「どォもアリガトウよ」



一方通行は玄関を閉めようとする。



「明日学校休んじゃ、イヤだよ」



最後に玄関先から聞こえたのはそんな魅音の言葉だった。

一方通行はリビングに戻る。



一体何なンだ?アイツらの豹変ぶりは。
操られでもしてンのか?



一方通行はしばし可能性を考慮する。



いや、考え難い。
人を操る薬品がもしあったとしてもあそこまでおかしな自体にはならねェハズだ。
もっと単純命令しか出せねェだろォ。
まァ最も、この村にそンなモンがあるとも考え難いが。



一方通行は何とはなく風呂敷を広げて箱を開ける。
ABCDEFと紙の貼られたおはぎが並べられていた。



……とすると、やっぱりアイツらの意思……か?



一方通行は眉間のシワを深くする。



だったとしたら何でだ?
俺はヤツらに何をしたンだ?

このおはぎ………。



キッチンから皿を出してくると、一方通行はおはぎの一つを手に取る。
ペラっと紙を剥がすと皿の上におはぎを置いた。



カチリ。と。
一方通行はチョーカーのスイッチを入れる。



すっとおはぎに手を触れる。
能力行使。



ばらばらと一方通行の能力によっておはぎは八等分ほどに分割された。

「あは」



一方通行はその中に見つける。



キラリと輝く裁縫針のようなもの。

半端ではありますが、今日はここまでです。

また一週間以内に来ようと思います。


それではみなさま、次回投下までおやすみなさい。

乙です
チョーカー外せば無用な警戒なんじゃ…

乙です
あの針って本当は入ってなかったんじゃなかったっけ?

おひさしぶりです。
>>1です。
レスの数々ありがとうございます、いつもジロジロ読んでます。
いくつかにお返事を。


>>157
このssでの一方通行は根本的には人と関わりたい、認められたいと思っています。
それを阻害しているのが自身の能力だと考えているので、ほとんどの素性はみんなに明かしていません。
そんな彼にとってチョーカーを外すというのは最終手段なのです。雛見沢の人々との繋がりを断ち切るということなのです。
だから彼はチョーカーを簡単に外そうとはしません。
まぁ、学園都市からつけ続けろと命じられていて簡単に外せない、というのも理由の一つではありますが。


>>159-161
さあ果たして雛見沢症候群なのか何なのか。
真相はまたいつかですね。

それでは投下していきます。

「あはっ、ぎゃははっ、ぎゃはははははっ」



一方通行は笑い出す。
狂ったように。



「なァンだそっかァ……そォだよなァ」



ガシャアン!と、窓が割れる音が響く。
おはぎをベクトル操作で外へ放り出した。



「結局そォいう事なンじゃねェかよォ、あはっ。
俺に平和だとか青春だとか、そンなモン似合うわきゃねェよなァ」



一方通行は静かにうつむく。



「分かりやすくてこっちの方がいいよなァオイ!!!!」



ベクトルを操作した拳をテーブルに叩きつける。
テーブルはバラバラと部屋に飛び散った。



これはれっきとした敵意であり、攻撃だ。
針程度で人は死なないが、毒を塗ってあったかもしれない。



その夜一方通行は、鈴科進一であることを辞めた。

オヤシロ様の祟りだァ?
そンなクソみてェなモンにヤられるかよ。




翌朝。
一方通行は珍しく朝早くに起床していた。
いつもよりは一時間は早い時間である。
震えている携帯電話を手に取る。



「黄泉川か」



液晶画面に表示されていた名前は黄泉川愛穂。
昨日の晩から既に5つの着信が来ている。



「あの野郎ォ、エラく早起きなンだな」



一方通行はそんなことを呟いて携帯を放る。

顔を洗うために洗面所に立つ。
鏡を見るといつもと変わらない自分の顔が写った。
ふと首筋のチョーカーに目がいく。



コイツももォいらねェな。



バチッ!と革紐が切れる音を立ててチョーカーが引きちぎられる。
ここに学園都市第一位の一方通行が舞い戻る。



学園都市の方からなンかの通達があるかもしれねェが。
ンなことはどォでもいいか。



リビングに座りコーヒーを飲む。
テーブルは昨日破壊してしまったためコーヒーを下ろす場所がない。
仕方なく左手でコーヒーを持ったまま考える。



さァ、どォするか。
こうなっちまった以上学校になンて行っても意味はねェ。
昨日のコトを考えると、放っておいてもヤツらはウチに来やがるだろォ。



……ソコを狙うか。



ただ、アイツらのどこまでが仲間なのかが分からねェが……。



関係ねェな。俺の能力の前じゃァ。



……まァとりあえず、机を新調するか。
そう思った一方通行は家を後にした。

ピンポーン。



「ァン?」



呼び鈴の音で目を覚ます。
時間は午後5時。
窓からは夕日が差している。



あれから一週間ほどが経過していた。
誰かが訪ねてくることもなく、学園都市からの連絡もなかった。



ピンポーン。
再度呼び鈴が鳴る。



ニヤリと一方通行は笑う。
獲物がかかった。

ガチャリと玄関が開く。
ドアからはいつもと変わらぬ様子の一方通行が顔を覗かせた。



「あ、進一君……大丈夫かな?かな?今日も学校休んだみたいだったから、レナ心配で」



「あァ。もう熱は下がった」



「ほんと?それなら良かった」



「オマエらのおはぎが効いたのかもなァ?」



一方通行は笑みを浮かべる。
ゾクリと、レナの首筋に寒気が走った。
そんな表情だった。

「あ、あの、それでね?進一君、一人暮らしでしょ?
だからレナ、ご飯作ってあげようと思って……。
ほ、ほら、この前お豆腐の話したでしょ?それで……」



レナは恐る恐るといった様子だ。



「そォか、すまねェな、助かる」



一方通行はあっさりとレナの申し出を受け入れる。
レナはほっとしたという様子で肩を下ろす。



「まァとりあえず上がれよ」

リビングのテーブルに二人用の食事が配膳される。
こんな風景を前も何処かで見たなと一方通行はなんとなく思った。



今のところレナに不自然な様子はない。
ただどことなく一方通行に怯えている様子が見て取れる。



一方通行は差し出された麻婆豆腐に口をつけていない。
これは好き嫌いなどではなく、用心のためだ。
レナが口をつける。
普通だな。



「し、進一君、辛いもの苦手だったかな?……かな?」



「いやァ?むしろ好きな方だぜ?刺激的な味がしてよォ。あん時のおはぎみてェになァ?」



ニヤリと一方通行が猟奇的な笑みを見せる。

「おはぎ……美味しくなかったのかな?、かな?」



レナは上目遣いに一方通行を見る。
やはり怯えているようだ。



「しらばっくれてるつもりか?それとも単にオマエじゃねェのかどっちだ?」



一方通行はさらに凄む。



「ど、どういうこと……?」



「……めンどくせェ。忘れろ」



一方通行は気にくわない様子で眉間にしわを寄せる。



カチャリと、レナがスプーンを置く。

「進一君?」



「なンだよ」



「聞いてもいいかな?」



「……だから、なンだよ」



「ぁ……」



レナは喉を詰まらせる。



「どうして……同じ顔をするの……?」



「あァ?何言ってやがンだ」



「だから、どうして同じ顔するのかなって……」



「ワケ分かンねェンだよ。ハッキリ言いやがーー」



「だから!」



レナが一方通行の言葉を遮る怒声を上げる。

「どうして悟史君と同じ顔をするの!」



「あァ?………悟史だ?」



一方通行は不思議そうな顔をする。



「悟史君も、突然学校に来なくなった……。
悟史君も、食欲がないと言って何も食べないようになった……!
悟史君も、進一君みたいに笑うようになった!そして!」



レナはそこまで言って黙り込む。



「そして、なンだよ」



次の出方を疑っていた一方通行だが、痺れを切らしたのか逆にレナに質問する。



「言ったよね、悟史君は、転校。したんだよ」



すっと顔を上げたレナの顔はあの顔だった。
緩やかだが確かな殺気が一方通行に降りかかる。

レナは身を乗り出して一方通行に近づく。



「進一君はしないよね?転校」



レナは耳元でそう囁いた。



決まった。
竜宮礼奈、コイツはクロだ。



ガッ!と一方通行はレナの首筋を掴む。



「うあっ!」



レナから軽い嗚咽のようなモノが漏れる。



「安心しろよ、レナ」



ぐいっと首を持ち上げてレナの視線を自分の視線に合わせる。



「しん、いち……くん?」



「転校すンのはよォ……オマエかもしれねェぞ?」


… …… ………

「……」



すっかり静かになってしまった教室。
園崎魅音はぼーっと宙を眺める。



進ちゃんが学校に来なくなってから一週間と少し。
進ちゃんのお見舞いに行くと言っていたレナまでも学校に来なくなった。
何か、あったのだ。



ふわっと、頭の上に何かの感触を感じる。
それはさらさらと髪を撫でた。
見ると、梨花が魅音を撫でていた。



「みぃ、元気をだして下さいです。
みぃがそんな顔をしていると、みんなの元気が無くなりますです」



梨花はそう言って魅音を心配そうに撫でる。

ふっと魅音は息を吐く。



「そうだね、ありがと、梨花ちゃん。
アタシが塞ぎ込んでちゃダメだよね」



お礼を言うと魅音は梨花を撫で返し、ガタッと席を立つ。
その顔には強い意志のようなものが伺えた。

「魅音か」



玄関扉から一方通行は顔を出す。



「進ちゃん」



一方通行は玄関先に出るとガシガシと頭を掻く。



「なンだ?どうかしたのかよ」



事もなさげに一方通行は質問する。



「進ちゃん、学校来てないよね、どうしたの?」



魅音もそれなりに警戒しているようで、いつものおどけるような調子は伺えない。

「行っても意味ねェからな。分かってンだろ?それぐらい」



魅音は一方通行の目を見て少し沈黙する。
一方通行の言葉を吟味しているのだろう。



「わかった。じゃあそれはいいよ。レナのこと、何か知らない?」



「……レナだ?」



一方通行の表情は全く変わらない。
魅音は相変わらず疑いの目を向けている。



「レナ、進ちゃんのお見舞いに来たでしょ?」



「あァ、来てたが……なンかあったのか?」



一方通行は片眉を上げる。



「……レナが、いなくなったんだよ」



「いなくなった……?」



「進ちゃん、本当に何も知らない?」



「あァ、とにかく詳しく聞かせろよ。
上がれ」



一方通行は玄関を開けて魅音を手招きする。



「……うん」



魅音が一歩足を出した時。
ふわっと夏特有の生ぬるい風が吹いた。

「紅茶かなンかでいいか?」



一方通行はキッチンでがたごと言わせながら魅音に尋ねる。



「あ、うん、ありがとう」



今のところ一方通行に怪しい様子はない。



「ン」



コト、と魅音の前に紅茶の注がれたカップが置かれる。

「そンで?レナがいなくなったってのは一体何なンだ?」



一方通行は静かに口にする。



「……。進ちゃんの見舞いに行った日からレナ、帰ってきてないんだよ。
だから、進ちゃん何か知ってるかなって」



「もう数日経ってンな。警察に届けは出したンかよ」



「いや、それが……」



魅音はギリリと歯ぎしりをする。



「鬼隠し……とかってやつか?」



「えっ、」



「オヤシロ様がバチを当ててレナが鬼隠しにあった。
違ェのか」



魅音は愕然とした顔をしている。



「し、進ちゃんが何でそんなこと……」



「悟史ってヤツと同じなんじゃねぇのか」



「っ」



またしても魅音は息を詰まらせる。

「オマエらが隠そうとも分かってンだよ。で?どォなンだ」



「……ごめん」



魅音はバツが悪そうに頭を下げる。
一方通行は魅音に見えないようにニヤリと笑う。



「別に進ちゃんを騙そうと思ってたわけじゃないんだ。ただ、怖がらせたくなくて……」



「それはもォイインだよ。で?レナは鬼隠しにあったんじゃねェのか」



「いや……レナは何も悪いことしてないから、それはないと……思う」



「だったら悟史は何なンだ?」



一方通行はギロリと魅音を睨む。

「悟史君は……」



魅音は言葉を濁す。



「ダム誘致派の一家だったから。たったそれだけの理由で関係ねェ子供まで巻き添えになるモンなのかよ?
そのオヤシロ様の祟りっつゥヤツはよォ?」



一方通行の言葉に攻撃性が出てくる。
魅音を責めるような口調だ。



「進ちゃん、どこまで知って……」



「じゃあよ」



一方通行は魅音の言葉を遮る。



「俺はどォなンだよ」



一方通行は更に鋭い目つきで魅音を睨む。

「え?」



魅音はどういうことか分からないという顔をしている。



「なンで俺は祟りの標的なンだよ?」



「……進ちゃん、何言ってるの……?アタシ、何のことか」



「しらばっくれンじゃねェよ!!」



ガン!と一方通行がテーブルを拳で打ち付ける。
ビクリと魅音は肩を震わせた。

「レナを使って俺を消そうとしたンだろォがよ!
レナが戻ってこないから俺の様子を確認しに来たンだろォが!」



「し、進ちゃん……?」



魅音は一方通行の様子に怯えているようだ。
構わず一方通行は魅音の方に魅を乗り出す。



「違うンですかァ!?
園崎家次期当主、園崎魅音サンよォ!!」



「っ!そ、それ……」



魅音は驚愕と悲壮の入り混じったなんとも言えない顔をしていた。



「全部分かってンだよ。全部オマエンとこが決めてることだろ。園崎」



一方通行は姿勢を戻すと静かに告げる。



「ち、ちがうよ……アタシ達は何もしてない」



魅音は小さな声でそう言った。

「まァそう言うだろォな。自白なンてするワケがねェ。
だがもう諦めろ。全部分かってンだ。俺はただオマエと話がしてェ。理由が聞きてェだけなンだよ」



「アタシ達……進ちゃんに何かした……?」



魅音は目に涙を溜めながら一方通行にそう尋ねた。



「ククク、カッカッカッ」



一方通行は笑い出した。
ふつふつと。かたかたと。



「随分な言い様ですねェ園崎魅音さァン?
命を狙ってたヤツがそりゃねェンじゃないですかねェ?」



「そ、そんなことしてないでしょ!」



魅音はぐっと一方通行に言い返す。



「だったらあのおはぎはどォなンだよ!
やったのはオマエだろォが!」



一方通行は更に怒声を浴びせる。



「あ、あんなのただの冗談!ちょっとした出来心でしょ!」



魅音も遂に怒りをあらわにし出す。



「……はァ。もォイイわ。オマエらには罪悪感もなンもねェって事だな」



そう言うと一方通行は席を立つ。

「ついて来いよ、魅音」



一方通行は背中越しに魅音に声をかける。



「レナを見せてやるよ」



ぞっと。
魅音の首筋から背中にかけて寒いものが走った。
恐怖に体が震える。
しかし。
魅音にはついて行くしかなかった。

一方通行の自室は階段を上がった先にある。
扉の前には既に悪臭が立ち込めていた。



「………」



魅音は何も言う事ができない。
ただ、この扉の向こうに自分が想像しているのと違う光景が広がっている事を願うだけだった。



ギイっと音を立てて扉が開かれる。



「っ」



息を飲む魅音。



赤い



感想はただそんなものだった。

「ど、どうして……」



魅音は目の前の光景に耐え切れず嗚咽を漏らして泣き出してしまう。



「この俺を肉弾戦で倒そうなンて、馬鹿だよなァ?
首を締めようとしたみてェだったが、俺に触れた時点で終わりだっつーのになァ?」



「進ちゃん、もう辞めよう……?アタシが悪かった、アタシ達が悪かったから……」



魅音は泣きながらそう言って一方通行の脚にすがりつく。



「今さら命乞いかよ。小せェな」



一方通行はポンと魅音の頭に手をのせる。
ビクリと体を震わせた魅音だったが、何も起こらない。



「?」



不思議に思った魅音は泣き顔を一方通行の方へ向けた。



一方通行は。
悪魔のような笑みをたたえて。



「さっき言ったハズだよなァ?俺に触ったら終わりだってよォ?」



心底楽しそうにそう言った。

「はぁ」



デスクワークを終えた黄泉川は息抜きにとタバコを咥えると火をつける。



「ふぅーっ」



すぅっと紫煙を口から吐き出した。



携帯のティスプレイを見る。
時刻は午後8時を回ったところだ。



一方通行の家に訪れてから2週間ほどが経過していた。
しばらくはこちらからコールしていたのだが、着信拒否に設定されたのか、いつからか全く電話がかからなくなった。



一方通行の住む家を訪れようと思ったのだが、勝手に黄泉川が押しかけたことを一方通行が興宮署にバラしたため、黄泉川は上司から大目玉をくらっていた。
その後は外出にも上司が付いてくるという始末だ。

「はぁ」



デスクワークを終えた黄泉川は息抜きにとタバコを咥えると火をつける。



「ふぅーっ」



すぅっと紫煙を口から吐き出した。



携帯のティスプレイを見る。
時刻は午後8時を回ったところだ。



一方通行の家に訪れてから2週間ほどが経過していた。
しばらくはこちらからコールしていたのだが、着信拒否に設定されたのか、いつからか全く電話がかからなくなった。



一方通行の住む家を訪れようと思ったのだが、勝手に黄泉川が押しかけたことを一方通行が興宮署にバラしたため、黄泉川は上司から大目玉をくらっていた。
その後は外出にも上司が付いてくるという始末だ。

どうなったんじゃん、鈴科。



黄泉川は携帯を手に取る。



「わっ!」



黄泉川は驚いて携帯をデスクに取り落としてしまう。
職場のみんなが黄泉川の方をギロリと睨んだ。



「あ、あははー、失礼したじゃん」



笑ってごまかす。
携帯のディスプレイには
着信:鈴科進一
と表情されていた。

「はァ、はァ……」



一方通行はボロボロの体で夜の山道を歩いていた。
魅音を処分した後、土御門の元へむかったのだが、これが曲者だった。
自分の反射が適応されない不思議な攻撃を受けて苦戦したのだった。
辛うじて土御門を倒したのだが……



『鈴科か!?』



携帯電話の向こうから黄泉川の声が聞こえる。
電話の向こうはオフィスか何かなのか、ガヤガヤとかすかな喧騒が聞こえる。



「黄泉川かァ……」



一方通行は少しむせながら読み川に返事を返す。



『大丈夫かじゃん!?お前、具合悪そうだけど』

「あれからよォ……」



一方通行は黄泉川と会話をするつもりはないらしい。
ずるずると脚を進めると休憩ように設置してある自動販売機とベンチが目に入った。



「俺は俺なりにやってみたンだよ。だけどなァ……。ダメだった、みてェだ……」



げほげほと咳き込む。
ばしゃっと吐血する。



一方通行はベンチに腰掛ける。
その間にも電話の向こうからは、何がじゃん!どうしたじゃん!という声が聞こえてきている。



「俺は、オヤシロ様の祟りっつゥのはよ……誰かがやって、るモンだとお、思ってたンだけどよ……」



ガリガリ。
痒いな。



「どうやら違うみてェなンだよ……オヤシロ様は、いるみてェなンだ……」



痒い。どうにも痒みが治らねェ。
これはいっちょ能力を使ってみるァか?
バリバリ。

「ずっとなァ、つけてくンだよ、俺の、後ろをよォ……。
ごめ、ン、ナサイって、言いながらよォ……」



カヒュッカヒュッ。
ドタっ。



一方通行は数時間後GPSで位置を調べた黄泉川によって発見された。
死因は自分の爪で喉を掻きむしっての死亡。
ただ不思議なのは、彼の指には一切の血が付いていなかったことであった。
暫くは他殺として調査が進んだが、すぐに他の事件によって迷宮入りした。



これは報われない物語。
死の直前に、彼らは一体何を思ったのだろうか。

と、いうわけで。
駆け足ながら鬼隠し編は収束を迎えました。

かなりのシーンを飛ばしていますが、一方通行なら守りより攻めだろうなと考えた>>1の結果です。

これよりちょびっとだけオマケを投下します。

一方「何を思ったのか?とか言われたってなァ?」



魅音「いやぁー、最後はほんっとに怖かったねー、それこそ死ぬほどね!」



レナ「とにかく!ここまで読んでいただいたみなさん、お疲れ様でした!」



つっちー「俺たちの最初のストーリーはどうだったかにゃー?」



沙都子「ゲームを意識してのこのお疲れ様会なのですが、実際>>1はゲーム版をプレイしたことがないですわ」



梨花「だから、勝手に独自に僕たちが進めていっちゃいますです」



一方「イインかよそンなンで?」

梨花「実際にはあり得ない様々な可能性がSSの醍醐味だと思いますです」



レナ「ちなみに、今回の鬼隠しでは表記されていないれど、梨花ちゃん以外の全員が殺されるバットエンドになってるの」



つっちー「最後に俺を殺しに来た一方通行が、沙都子も手にかけてしまってるんだぜい」



一方「悪かったっつーの。仕方ねェだろォが。
疑心暗鬼って言うンか?こういうの」



レナ「原作でもそうだったけど、やっぱりそれがこのお話でも鍵になってくるね」



魅音「それに超能力と魔術!果たしてどう絡むのか!」



梨花「一方通行は最後にハッピーエンドにたどり着けるのか〜」



沙都子「土御門さんは一体どんな動きを見せるのか!」



つっちー「乞うご期待!だぜい!」

一方「だァァ!止めやがれオマエら!>>1はまだちっともエンディングを考えてねェンだっつゥの!」



土御門「にゃー、これを投下する時には綿流し編が半分ほど終わってればいいんだがにゃー」



一方「ま、それは>>1の力量次第だわな」



レナ「とにかくみなさん、また次のお話も見に来てくれるかな?かな?」



魅音「おじさんたちはいつまでもみなさんを待ってるからねー!」



一方「オイオマエら。そろそろ次に行くぞ」



魅音「じゃあ最後にせーのっ」



「おつかれさまでした!!」

というわけで、ここまで読んでいただいたみなさま本当にありがとうございました。
もうほんとペラペラなssですが、とにかくここで一区切りつきました。

スレがかなり余ってるのでこのスレで続けて綿流しも書いていきますので、よろしければご覧ください。

次の投下はまた一週間以内に。
何か質問があればお答えいたします。

それではみなさま、次の投下までおやすみなさいませ。


このあとがきってお疲れ様会みたいなもんでしょ?

>>202
ゲームやったことないにわか乙

みなさまこんにちは>>1です。
レスの数々ありがとうございます。
今日から綿流し編に入っていきたいと思います。


>>203
そうです。
お疲れ様会をやりたくて夏。
しかしうまいこといきませんね笑


>>205
私もゲーム未プレイのクソにわかなので……。
お許し下さい。

それでは投下していきます。

ピロリンピロリン♪
ピロリンピロリン♪



「ン……」



ピッ



「なァンですかァ?ンな朝早くからァ?」



現在時刻は9時30分。
決して早いというほどの時間ではない。



普段は昼過ぎまで熟睡している少年、一方通行は自分の携帯電話の着信音で起こされた。



ぼーっとした頭を片手で支えながら布団から半分だけ体を起こし携帯電話に耳を当てる。

電話越しには聞き慣れた声。



ピッ
ポス。



一方通行は通話が終わると携帯電話を放り投げて、チラリと時計を確認する。



ボスっ
そのまま一方通行は布団に倒れこみ、目を閉じる。
もう一眠りしてしまおうということのようだ。



窓の外にはこれからどんどん温度をあげようと張り切っているかのような太陽が輝き、蝉の鳴き声が響いていた。

「おーい!進ちゃん、こっちこっちー!」



一方通行が興宮でバスを降りて暫く歩くと道路沿いにおもちゃ屋が見えてきた。
その店の前で魅音が手を振っている。



「はァ」



一方通行はいつものようにため息をつくと魅音に軽く手をかざして挨拶した。



「おはよう、進一君」



「場所分かったみたいでよかったよ!」



「これぐらい余裕だっつゥの」



レナと魅音と挨拶を交わす。

「みんなおはよーなんだぜい」



「おはようございますです」



「ごきげんようですわ」



先ほど一方通行が歩いてきた方から土御門、梨花、沙都子の姿が見える。



「そンで?街で部活ってェのはどォいうワケだ?」



一方通行は土御門たちがおもちゃ屋に到着し、全員揃ったのを確認するとそう切り出した。



「今日の部活の会場はここだよ!」



ビシ!と魅音はおもちゃ屋を指差す。

「そらァ大体予想が付いてっけどよ」



「今日は大人数での部活なんだよ?」



レナはにこやかな声で一方通行にそう伝える。



「つまりはどォいうことだ??」



一方通行はいまだ容量を得ないようだ。



「ここのおもちゃ屋のおじさんとアタシ知り合いで、たまに客寄せを兼ねてゲーム大会を開かせてもらってるんだよ」



「それで今日は競おうっつゥワケか」



一方通行達は話しながら店の中に足を踏み入れていった。
イベントスペースのような場所なのか、開けた場所に大きめの机が一つ置いてあり、入り口の向かいの壁には壁掛け時計が設置されていた。

店の中は既に大勢の子供たちが集まっており、魅音たちの登場を待っていた。
さながら英雄が入ってきたかのように拍手が起こる。



コイツら相当暴れてンだろォなァ……



一方通行はぼうっとそんなようなコトを思った。



「今日の部活で買った者は負けた人全員を好きにしてよし!」



魅音は声を張り上げる。



「そして更に賞金5万円が授与される!」



この一言には店の中にいた多くから歓声が上がる。



「それじゃあ早速いってみようか!」



魅音の開会宣言と共に部活が開始された。

今回のゲームはかるた大会のようだ。
これも例によって一方通行は一度もやったことがない。
絶対的不利な状況である。



部活メンバーは自分の持てる力を駆使して何が何でもといった様子でかるたを手に入れていく。



レナはかわいい絵柄のかるたであれば他を圧倒する速度で取り上げる。



沙都子は得意のトラップでどういう仕掛けかいつの間にかかるたを手にしている。



梨花は泣き落とし作戦に出ているようだ。
梨花の困った顔に勝てない他の子どもたちはかるたを取ろうとした手を止めてしまう。



土御門はかるたが読み上げられる瞬間に手を伸ばす。
焦った他の子どももつられて手を伸ばすが、これは土御門のフェイント。
子どもがお手つき判定となっている間に悠々とかるたを手に入れる。



魅音に至っては単純に子どもを睨みつけて脅すという始末だ。
これが一番始末が悪いかもしれない。

「ったくよォ、大人気ねェったらねェわな」



一方通行はそう呟きつつも楽しそうだ。



するとその呟きが耳に入ったのか、魅音が腕を組んで首を振る。



「失望したよ、進ちゃん」



その声にはガッカリという様子が確かに溶け込んでいた。



「あン?なンだよ魅音」



一方通行は身に覚えのない言われように身音の方をジロリと見やる。



「もっと本気でやってくれないとつまらないよ」



そう言って魅音は目を瞑るとため息をついた。

「俺だって真剣にやってるっつゥの。ただ、かるたなンてやったことねェからどォしよォもねェンだよ。
コイツは要は記憶力勝負のゲームだろォが」



「いーや!」



魅音は一方通行を否定するように声を上げる。



「進ちゃんが真剣ならまだ一枚もカードを取ってないなんてことありえないね!」



魅音はキッと一方通行を睨みつける。
その眼差しにはライバルとしての期待が見えた。
……気がした。



「ほォ……言ってくれンじゃねェかよ。たったら本気の本気で相手してやろォじゃねェか」



一方通行は能力使用モードに切り替える。
そして机にすっと手を添えた。

ゲームが再開される。
一方通行が行ったのは机に手を当てただけ。
たったそれだけで弾いたかるたは一方通行の方へ飛んでいく。
どう押さえつけようとも手の中から抜け出していくのだ。



「なるほどにゃー、鈴科の能力、ベクトル操作で机に伝わる力のベクトルを操作してかるたを一方通行の方へ飛ばしてるわけだにゃー」



一方通行はグラサンを光らせた。



「自分はかるたが分からないから、他の人にとってもらおうというわけですわね!」



沙都子も土御門の後に続く。



まだ一枚かるたが一方通行の方へ飛んでいく。
そのかるたは自然と一方通行が取ったかるたの山に積まれる。



一方通行はニヤリと笑った。

その後もかるたは続き、ほぼ一方通行のワンサイドゲームとなっていた。
ときたま一方通行が机から手を離す瞬間を狙って他のメンバーはかるたを取っていった。



「やるねぇ、流石進ちゃん。どうやら今のところ進ちゃんとアタシが同点みたいだね」



魅音は腕を組んで一方通行に目配せをする。



一方通行の魅音の前には山のように積まれたかるたの束があった。



「そろそろバッテリーが切れる。どォやら最後は実力勝負になりそォだなァ?」



そう言って一方通行はチョーカーの電極を通常モードに戻す。



残るかるたは後一枚。



「さァ、店長サンよォ。最後の一枚を読み上げてくれ」



人知れずかるたを読み上げ続けていた魅音の知り合いという店長に一方通行は声をかける。



「う、うん。それじゃあいくよ……?」

店長がかるたを読み上げようとしたその時。



ゴーンゴーンと、壁掛け時計の金が鳴った。



「ちょーっと待ったぁ!!」



魅音はバッと手を挙げるとそのまま席を立って店の出入り口へと走っていってしまう。



「今日はここまで!この勝負は園崎魅音に預からせてもらうよ!」



「オイオイ待てよ魅音、そンなンアリかァ?」



納得のいかない一方通行はじめ部活メンバーは魅音を追いかける。



「いっやーごめん、実はアタシこの後バイトがあってさー、もう行かなきゃなんないんだよね」



魅音は顔の前で手を合わせると申し訳なさそうに笑った。

「オマエバイトなンかしてたンかよ」



「そうなんだよ、ちょっとおじさんの手伝いでさ」



「それじゃ、賞金はまた今度にするとして、今日のところはこれで」



そう言って後ろから紙袋が差し出される。
一方通行が後ろを振り返ってみればそこにはおもちゃ屋の店長が紙袋を差し出していた。



とりあえず一方通行はそれを受け取る。



「なンだよったく、せっかく能力まで使ったっつーのによ」



一方通行はがさごそと紙袋を開く。



すると中からは綺麗なフランス人形が出てきた。



「あらあら、かわいいのが出てきましたわよ?」



沙都子は頬に両手を当てながらそうこぼした。

「隠れたかわいいもの好きの鈴科にはぴったりの景品だにゃー?」



土御門は一方通行の肩を組む。



「そうなの進一君!?進一君もレナの仲間なのかな?かな?」



レナは目を輝かせながら一方通行の顔を見つめた。



「ンなわけねェだろォがよ!かわいいモンなンかこれっぽっちも好きじゃねェっつゥの!」



「あと肩を組むンじゃねェようっとォしい!」



一方通行はぶっきらぼうに答えると土御門を引き剥がしてべしゃっと地面に放る。



「僕は進一がかわいいもの好きでも悪いことではないと思いますですよ、にぱ〜」



梨花は一方通行を見て仏のような笑顔だ。

「まぁ確かに進ちゃん女の子みたいな見た目してるもんね!それもアリじゃない!?」



魅音は手でフレームを作って、フランス人形を片手に持った一方通行に向ける。



「あらあら、進一さんにも意外とかわいいところがありますのね、照れてらっしゃいますわ」



やれやれといった様子で首を振る沙都子。



プルプルと黙って震えていた一方通行が



「だァれが女だってェ!?」



ついに爆発した。



「俺が女みてェなのは能力の弊害なンだよォ!なンど説明したら分かンだオマエらァ!
あとかわいいもの好きじゃねェってさっきから言ってンだろォが!
寄ってたかってボケをかまして来るンじゃねェ!捌き切れねェだろォが!!」



怒涛のツッコミに一方通行は肩で息をする。



「はァ、はァ……。とにかくだ」

呼吸を整えると一方通行はフランス人形をぐっとレナの方へ差し出した。



「やるよ。俺が持っててもしゃァねェからな」



そう言いつつも進一は名残惜しそうにフランス人形を眺めていた。



「なァに勝手にナレーション入れてくれてンですかァ!?土御門クゥン!!
メタなボケしてンじゃねェよ話が進まねェだろォが!」



ビシッと土御門にチョップをかます一方通行。
能力が使用されていたのか相当痛い様子で土御門はぴょんぴょんと飛び跳ねている。



「進一君、いいの?」



レナは土御門などには目もくれず一方通行の差し出すフランス人形に目を輝かせていた。



「かわいいモンっつったらレナだろォよ。魅音は……」



一方通行は魅音の方へ顔を向ける。



「キャラじゃねェわな」



じっと一方通行とレナのやり取りを見やっていた魅音。

「……。っ、そ、そうなんだよねー!時々アタシもなンで男に産まれなかったのかなって思うときあるよ〜。あはははー!」



ハッと何かに気づいたように一瞬遅れて返事をする魅音。



「はっ、違いねェなァ」



一方通行は特に気づかなかったようだ。



「それじゃ、アタシバイトあるから、またね!」



「バイバイみぃちゃん」



「ごきげんようですわ」



「バイト頑張るんだにゃー」



「ふぁいと、おー!なのです」



魅音は逃げるように自転車に乗って去っていってしまう。



「つゥワケで、オマエらこの後どォすンだ?
俺は適当に飯食って帰るが」



「ごめん、レナお夕飯の準備しなくちゃいけないから」



レナは申し訳なさそうに眉を上げる。

「僕たちも買い物をして帰らないといけないのですよ」



沙都子、梨花、土御門の三人も昼食を取っていくことはないようだ。



「そォかい。ンじゃ、また明日な」



一方通行は他の四人の挨拶を背中に受けながら歩き出す。
興宮の地理はイマイチ分かっていないが、確か駅の近くに新しく開店したファミリーレストランがあったはずだ。

綺麗なところじゃねェか。



一方通行は件の新開店したファミリーレストラン、エンジェルモートに来ていた。



店自体は二階部分に位置し、一階部分は駐車場になっている典型的なレストランだった。
一方通行は窓際の席に通され、ウェイトレスの到着を待っていた。



「ご注文はお決まりでしょうか」



どうやらウェイトレスが注文を取りに来たようだ。



このファミリーレストランは制服がかわいいとネットでもっぱらの噂になっており、情報収集元の大部分がインターネットである一方通行の耳にも噂入っていた。



一方通行はついつい制服を下から観察してしまう。

全体像としては胸の部分までのレオタード。コルセットに似た形状だな。
それにフロントが開いたスカートが付いていて首輪、ニーソックス、アームタイツがセットになってンな。
基調としてる色は黒と赤。
まァ確かに女性的なフォルムを強調する制服ではあるわなァ。



そうやって下から上まで眺めていると。
ふと顔に目が行った時に思考が停止した。



「あ?」



……この顔、どっかで……?



「あァ?魅音か?」



そう。
一方通行に注文を取りに来たウェイトレスは園崎魅音、先ほどまで一緒に遊んでいて、バイトがあると言って去っていった少女だった。



「し、進ちゃん……?」



魅音もおそるおそる確認というような言動で言葉を返す。

「バイトってこれのことかよ」



「あ、いや……その……」



魅音は何かに照れた様にもじもじとしている。



「まァそりゃァ恥ずかしいわなァ?
ンな格好してよォ?」



「こ、これは好きでやってるんじゃなくって……」



やはり魅音の言葉にはいつもの覇気がない。
その普段と違うしおらしい様子が一方通行に火をつけた。
一方通行のサド心に。



「よく言うぜ、ゴマンとあるアルバイトの中からわざわざこンな変態な制服の店を選ンだっつゥことだろォ?」



「いや、あの……」



「魅音にもそォいうトコがあンだなァ?
まァ確かにオマエは中学生とは思えないよォなカラダしてっからなァ?」



「ううう、だから……っ」



「それにそンな股間部分だけ露出するよォなスカートでよォ?
トレーで胸を隠してケツ降りやがって、誘ってンですかァ!???」



「いいかげんにしてー!」

ついソファから立ち上がっていた一方通行は魅音に押し戻される。



「カッカッカッ、冗談だっつゥの。
でもまァ制服似合ってンぜ?」



「うぇっ!?」



魅音は素っ頓狂な声を上げた。



「さっき言ったコトも半分くれェは本当のことだしな。
オマエはいいカラダしてっからな。それに面もいいときてる」



「///」



魅音の顔がみるみるうちに赤くなっていく。



「そんなヤツがこんな格好してりゃ、魅力的じゃねェワケねェよな」



一方通行はそう言って何か納得した様に目を閉じる。



「あう……えっと……」



魅音は頭から湯気を出して言葉に詰まっている。オーバーヒート寸前の様だ。



そして一方通行は。



コイツからかい甲斐ありすぎだろォ!
ぎゃはっ、死ぬほど照れてやがンじゃねェかよォ!!



ドSだった。



彼がジゴロな筈がないのだ。
一方通行はただ単に魅音をからかうために全ての言葉を放っていた。
本心かどうかは神のみぞ知る……。

今日はこの辺りで。
また一週間以内には来ます。

それではみなさま、次の投下までおやすみなさい。

つっちーも梨花ちゃまみたいに裏表ある人物だからね

つっちーは本当にただの独り言になっちゃうけど

ひぐらしは複雑すぎてよく知らないんだけど、取り合えず一方通行がたくさん死ぬってことだけは分かる。

みなさまおはようございます>>1です。
今日も投下していきます。
レスありがとうございます。いくつかお返事をば。


>>231
裏のある人物だからこそ、混ぜると面白いかなと思いまして。


>>234
どちらかしか分からないという人にも楽しんでいただけるように頑張っていきたい所存です。

それでは投下していきます。

「と、とにかくそうじゃなくて!違うんです!」



しばらくすると立ち直った魅音は意を決したように勢いよく言葉を発した。



「あン?違う?違うって何がだよ」



一方通行は何を言っているのかわからない。



「私、魅音じゃないんです」



魅音は胸の前でトレーを抱えてキュッと両の手を結んで言う。

「魅音じゃねェって……オマエ話通じてたじゃねェか」



「そ、それは、お姉がいつも話してる人だったから……」



一方通行はさらにいぶかしげな顔になる。



「お姉だァ?」



「そ、そうなんです。
私、魅音の双子の妹の詩音です」



「詩音だァ?」



一方通行は未だに信じられない様子で、目を細めて詩音(?)を見やる。



「お姉がよく話してくれる噂の進ちゃんだって思って、ちょっとはしゃいじゃって。……あ、呼び方進ちゃんでいいですよね?」



「構わねェけどよォ。
それにしたって魅音に妹がいたなンてなァ」



一方通行は腕を組んでソファに座りなおす。

「園崎さん、休憩入っていいよー」



店の奥から声がする。
詩音ははーいと返事をすると一方通行の方をもう一度見る。



「それじゃ、私はこれで。
噂の進ちゃんとお話できて楽しかったです」



そう言うと詩音は店の奥へと去っていってしまった。



一方通行はエンジェルモートから出てくる。
後ろではいらっしゃいませーと声がする。



それにしたって魅音の妹とはなァ。



一方通行はエンジェルモートの方をチラリと振り返る。



ンなベタなウソつくかよ?普通。
魅音のヤツもまだまだガキっつゥことか。



どうやら一方通行は詩音の話を信じていないようだ。



とりあえず、買い出しだけして帰るとするか。



アルバイトをする魅音を見れたことが面白かったのかどこか浮かれた様子で家路につく一方通行であった。

翌日。
学校を終えた一方通行、魅音、レナはいつものように三人で下校する。
舗装もされていない道路を砂利を踏みながら歩く。



「じゃあ、いつも進一君は何食べてるのかな?かな?」



レナは顎に指を当てると可愛らしく小首を傾げる。



「主にはカップラーメンとかのインスタント食品だな。後は外食か」



「そりゃあそんな偏った食生活してたら変な見た目になるわ」



魅音は呆れたように一方通行にそう告げる。



「だァれが変な見た目なンですかァ!?そこまで言うンならオマエが弁当でも作ってくれっつゥの」



「あはは!まぁ考えといてもいいよ!」



魅音は一瞬だけ驚いたような顔を見せたが、いつもと同じようにニカっと笑う。

「それじゃ、アタシバイトがあるからこれで!」



水車小屋のあるT字路まで来ると、魅音は手を頭の上に添えて敬礼のポーズを取る。
一方通行とレナは同じ方向であるが、魅音とはいつもここで別れる。
しばらく立ち話をすることも多々あるのだが、今日はそういうわけにはいかないようだ。



「今日もバイトか」



最近は毎日魅音はバイトということでいつもより早く帰っている。



「そぉなんだよ〜、慣れないうちは早く来いって言われててさー」



魅音は頭をかきながら少し申し訳なさそうにする。



「ウェイトレスもそれなりに大変だっつゥことか」



一方通行は昨日の光景を思い出す。

「へ、みぃちゃんウェイトレスさんしてるの?」



何も知らないレナが再び首を傾げて一方通行と魅音の二人を見やる。



「いや違うって!それは詩音の方!アタシはおもちゃ屋!!」



魅音は焦って訂正する。



「あァ、そうだったな。そォだそォだ、詩音詩音」



一方通行はそんな話などすっかり忘れていたが、魅音が恥ずかしがって嘘をついてることを思い出して話を合わせる。



「えと、詩音って誰かな?かな?」



レナはというと再三首を傾げて困った様子だ。話についていけていないようだ。



「魅音の双子の妹で、ファミレスてバイトしてンだよ。
見た目は似てンだけどな、性格がどォも全然違ェンだな」



一方通行は魅音に目配せしてニヤリと笑う。

「そ、そーなんだよねー!
アタシはほら?可憐で純粋な乙女じゃん?」



胸の前で手を組んで目をキラキラと輝かせる魅音。



「ところが詩音のやつは全然血も涙もないようなヤツなんだよねー!」



あははは!と魅音は笑っている。



「へぇ、みぃちゃんに妹さんがいるなんて全然知らなかったよ。
みぃちゃんのお家に行った時も会ったことなかったし」



「あー、それはあれだよ!ほら!
ばっちゃと住んでるのアタシだけだからさ!詩音は興宮の実家の方に住んでるから!」



魅音はわたわたと何かを隠すように慌てる。



「と、とにかく!アタシバイトがあるから!これで!」



だっと魅音は駆けて行ってしまった。



「完全に逃げたな、ありゃァ」



「変なみぃちゃん……」



それぞれの感想を述べる二人。

「でもなんだかみぃちゃん楽しそうだったね。なんでかな?なんでかな?」



楽しそうな魅音を見てレナもつられて楽しくなったのか言葉が弾んでいた。



一方通行は魅音の去っていった方を見ていた。



アイツにも可愛らしいところがあるのかもなァ?

ピンポーン。



一方通行が家に帰ってコーヒーを啜っていると呼び鈴の音が響いた。
普段は来客など来ないのだが、珍しいこともあるものだ。



リビングを後にすると玄関まで行き、扉を開く。



「どちら様ですかァ?」



一方通行はぬっと玄関扉から頭だけ出して確認する。



「あ、進ちゃん!」



玄関を見やると魅音らしき人物が立っていた。
しかしいつもはブラウスにベスト、ポニーテールが目印の魅音だが、今日はたたずまいが違う。



ノースリーブのニットセーターに黒いタイトスカート。
大きな金のネックレスに、髪型もサイドを頭の後ろで結んで後ろはそのまま流すというアレンジポニーテールになっている。



「オマエは、詩音……か?」

ピンポーン。



一方通行が家に帰ってコーヒーを啜っていると呼び鈴の音が響いた。
普段は来客など来ないのだが、珍しいこともあるものだ。



リビングを後にすると玄関まで行き、扉を開く。



「どちら様ですかァ?」



一方通行はぬっと玄関扉から頭だけ出して確認する。



「あ、進ちゃん!」



玄関を見やると魅音らしき人物が立っていた。
しかしいつもはブラウスにベスト、ポニーテールが目印の魅音だが、今日はたたずまいが違う。



ノースリーブのニットセーターに黒いタイトスカート。
大きな金のネックレスに、髪型もサイドを頭の後ろで結んで後ろはそのまま流すというアレンジポニーテールになっている。



「オマエは、詩音……か?」

「あ、そ、そうです!」



なぜかおどおどとした様子を見せる詩音。



一方通行はひとまず詩音を家にあげることにした。



玄関先に上がった詩音はきょろきょろとせわしなく視線を動かしている。
一方通行は何か珍しいものでもあるのかと、しばらく眺めていたが。



「……」



今度はチラチラと一方通行の顔を伺い出すようになっただけだった。



「はァ……。ンで?なンか用か??」



一方通行はみかねて尋ねた。



「あ、そうだ……はい、これ!」



詩音は鞄から何かをごそごそと取り出すとすっと差し出した。

それは何か布に包まれた四角いもので……


「弁当ォ……か?
どォしてこンなモン……」



一方通行はひとまず弁当を受け取る。



「あの、さっきお姉から電話があって、進ちゃんがひもじい思いしてるからなんか差し入れでもしてやれって言われて!」



詩音はマシンガンのように言葉を吐き出す。



魅音のヤツ……、先に帰ったと思ったらこォいうことか。
随分しおらしいマネしてくれンじゃねェか……。



一方通行はしばらくするとふっと笑った。



「そォか、アリガトよ、詩音。
魅音の方にも十二分に礼言っといてくれ」

「あ、うん、伝えておきますね!」



詩音はほのかに頬を上気させながら、嬉しそうにニコニコとしている。



そんな様子を見て一方通行は静かに笑う。



父性愛……とでも言うンか?
こォいうのはよ……。



「あ!そ、それじゃ、私バイトがあるんでこれで!」



一方通行が似合わないことを考えているとはっとしたように詩音はそう言い残して去っていった。



「ったく。騒がしいやろォだ」



一方通行は誰もいなくなった玄関をしばらく眺めていた。




リビングに座って弁当箱を開ける。
するとそこにはよりどりみどりの料理が詰め込まれていた。



一方通行はひとつ箸でつまむと口に放り投げる。



むしゃむしゃと咀嚼して飲み込む。



「そォいやァ、弁当なンて食ったことなかったな……」



ふとそんな言葉が口をついた。



魅音のヤツ、意外と料理できンだな。
……悪くねェ。



一方通行は素直でない自身の最高評価を弁当に下すと、箸を進めていったのだった。

「さあ!今日も部活だよ!今日の罰ゲームは何かな、何かな」



翌日の放課後。



授業を終えたレナはうきうきと部活が待ちきれない様子である。



「今日はこの俺に勝てるやつが出てくるかにゃー?」



最近王者の名を欲しいままにしている土御門が挑発をかける。



「それじゃ行くよーー!!」



そう言って魅音が今日のゲームを発表しようとしたところ。



「みぃ、僕は少しやりたいことがあるのですよ」



梨花が申し訳なさそうに割って入る。

「あー、そうだったぜい。俺としたことがすっかり忘れてたにゃー」



にゃはははと土御門は笑う。



「そっか、今週末は綿流しのお祭りだもんね」



「そうですわよ、梨花はその練習をしないといけませんの」



「あー、それじゃ仕方ないねー」



土御門に続いてレナ、沙都子、魅音が同意する。



「オイ、何の話だよ」



何のことか分かっていないのは一方通行だけのようだった。

「進ちゃん知らないのー!?綿流しだよ!」



「あァ?」



一方通行には聞き覚えのないワードだ。



「今度の日曜日に綿流しのお祭りがあって、梨花ちゃんはそのお祭りで巫女さんとして演舞をするんだよ」



「進ちゃん家には回覧板とか行ってないわけ??」



魅音はありえないといった様子で声を上げる。



「かいらンばン……???」



学園都市に回覧板などといった文化はない。
従って当然一方通行は回覧板など見ておらず、そもそも手紙など届かないと思っているためポストの確認すら碌にしたことがなかった。
そんなわけで現在彼の家のポストには回覧板が5枚ほど眠っており、見かねた近隣住民は一方通行の家を避けて回覧板を回すようになったのだった。
彼が知る由はないが……。

「それじゃ、俺たちは先に帰るにゃー」



そう言い残して土御門、沙都子、梨花の三人は先に帰って行ってしまった。



残されたレナ、魅音、一方通行の三人は教室で少しお喋りをする。



「梨花ちゃんがお祭りで演舞の時に大っきな鍬を使うんだけど、それがすっごく重いんだって。
だから梨花ちゃん、お餅つきようの杵で練習してるらしいの」



「あァ見えて意外と大変なンだな、梨花のヤツも」



「目に見えている逆が誠かもしれないよ?」



レナはニコリと笑ってそうこぼす。



「あっ!いっけね、アタシも今日バイトだった!」



時計を見てはと顔を上げる魅音。



「それじゃね!レナ!進ちゃん!」



魅音は慌てて教室を後にした。

「逆が誠ねェ……。あの騒がしい魅音にもおしとやかな部分があるっつゥコトか?」



「みぃちゃんはとってもいい子だよ。
いつもみんなのことを考えてリーダーをしてくれて頑張ってるけど、ホントは凄くかわいい女の子なんだよ?」



レナは優しい顔つきで一方通行にそう言った。



昨日の弁当が頭をよぎる。



「ま、そォかもしれねェな」



レナにつられてか一方通行も何処と無く優しい顔をしていたかもしれない。




その後、一方通行は再びエンジェルモートへと足を運んでいた。
というのも昨日の弁当箱を返すためだ。

弁当箱は綺麗に掃除して彼が下げている斜めがけ鞄の中に入れてある。
後はこれを詩音(魅音)に返すだけだ。



一方通行は詩音という妹を信じていない。
魅音が照れ隠しのために嘘をついている設定だと思っているからだ。



一方通行がエンジェルモートのあたりに差し掛かった時、前方からこれまた古風な不良の三人組が歩いてきた。



リーゼントにパンチパーマにありえねェレベルの剃り込み……。
いつの時代のヤンキーだよコイツら。



知らぬ間に一方通行は彼らを見ていたのか、彼らも一方通行を思いっきり睨んでいる。



すっと一方通行は静かに電極のスイッチを入れた。



そしてそれから2秒後。
すれ違う瞬間。



ドッ!バタッ!
と、連続で衝突音がなった。
一つ目はリーゼントが一方通行にぶつかった音。
そして二つ目はリーゼントが一方通行の反射により床にぶつかった音だった。

「うぉぉぉぉ………」



弱々しい悲鳴をあげるリーゼント。



「おんどれなにしてくれとんじゃわれこら!?いてこましたろかぁ!?」



一方通行にズケズケとメンチを切ってくるパンチパーマ。



「おんどりゃリーゼントのやつが怪我でもしとりくさっとったらどないなさるおつもりでおますんじゃぁぁぁ!!」



リーゼントの様子を見ながら怒鳴り散らす剃り込み。



「ぶつかって来たのはソッチだろォがよ、あァ?」



一方通行も一方通行で挑発を返す。



……っつーかソイツリーゼントって呼ばれてンのかよ……。

「てんめふざけ倒すなよどらぁ!お見舞いするぞぉぉ??」



「よ……せ…、ソイツヤベ……」



「オドレコラリーゼントめっちゃ痛がっとるやんけこら!」



おそらくリーゼントはマジで痛がっているのだろうが、演技だと思い込んでいるパンチパーマと剃り込み。



「ソイツが貧弱なのが悪ィンだろォがよ。
っつゥか、俺みてェなガリガリにぶつかって怪我するって恥ずかしくないンですかァ??」



一方通行は相変わらず挑発を続ける。



「んじゃごらぁ……!?」



すると見るからに沸点の低そうなパンチパーマは一方通行に掴みかかろうとした。そこで。

「見苦しいんだよお前ら!!
よってたかって一人に絡みやがってよ!!
とっととうせろ!!」



エンジェルモートの方から怒声がふりかかる。



「あぁ!?なんじゃこのアマぁ!!」



パンチパーマの叫びとともに一方通行もそちらに目を向ける。



そこには腰に両手を当ててキッと不良たちを睨む詩音の姿があった。



「詩音か」



正直驚いた。
それが一方通行の素直な感想であった。
これまで詩音は女の子らしい様子を見せていたので、こんな風に啖呵をきるとは思わなかったのだ。



詩音にふんしてる時は気がデカくなンのか?



一方通行がそんなことを考えているうちにパンチパーマは詩音に掴みかかろうとする。
すると……。

ぞろ。
ぞろ。
ぞろぞろ。



そこら中から人が集まってきている。
集まった人たちはみな無表情に不良の方を見ていた。
さながらリンチのような……。



なンだ……一体?



「な、何みとんねんお前ら!どっか行けや!!」



一方通行が不自然に感じたのと同じように、パンチパーマも不気味に感じているようだった。



「お、おい!なんかやべえよ!行くぞ!」



復活していたリーゼントはパンチパーマと剃り込みの腕を掴むと、集まってきた人だかりを縫って逃げていく。



後に残った人々はみな暖かい親のような目で一方通行と詩音を見ていた。

「はぁー、怖かったですね、進ちゃん!」



詩音はとたとたとエンジェルモートの入り口につながる階段を降りてきて一方通行に話しかける。



いつの間にか集まっていた人々は消えていた。



「何が怖かった、だよ。怖がってるやつの目じゃなかったぜ、アレはよ」



一方通行はカラカラと笑いながらそう告げる。



「もう、私は進ちゃんを助けようと思って精一杯勇気出して頑張ったんですから!」



膨れたような顔をしてプイっとそっぽを向いてしまう詩音。



「悪かったよ、助かった」



一方通行は素直にそう言うと、どちらともなく雛見沢行きのバスが止まるバス停の方へと歩き出した。

「アレは全部雛見沢の人かよ?」



「さっきの人たちですか?そうですよ?」



道すがら一方通行が尋ねると詩音はなんのことはなく答える。



「雛見沢の人たちは繋がっているんです。
誰か一人でも困っている人がいたら団結してみんなで助けるのがしきたりなんですよ」



「そうかよ。聞こえはイイがヤクザみてェだな」



「そんなこと言っちゃいけませんよ、ありがたいことなんですから」



詩音はめっと人差し指を立てて一方通行の顔に近づける。



「はいはい。それは良いとしてだ……」



一方通行は適当に流すと鞄から弁当箱を取り出す。



「ほらよ。コレ。アリガトな、弁当よ」

「へっ……??」



弁当箱を受け取った詩音はキョトンとする。



「私お弁当なんて……」



はっと詩音は言いかけて言葉を詰まらせる。



「あー、そ、そうですね、美味しかったですか?」



詩音は先ほどとはうって変わってニコニコとしながら一方通行にそう尋ねる。



「まァ、悪くはなかったな」



「もう、せっかく女の子にお弁当を作ってもらってるんだからもっと素直にならないとダメですよ??」



「だから素直に悪くないっつってンだろォがよ」



「ふふふ」



詩音は口元に手を当ててくすくすと笑う。

「なンだよ?」



一方通行が尋ねると詩音は軽く首を降ってさらりと長い髪を揺らした。
一方通行の方へと向き直るとじっと目を見る。



「私、どうしてお姉が進ちゃんのこと好きなのか少し分かった気がします」



「あァ?何言って……」



一方通行の言葉をさえぎるように、詩音はぐっと一方通行を自分の方に引き寄せる。



むにっと一方通行の二の腕あたりに感触が伝わる。



「オイ、歩きにくいだろォが」



一方通行はチラリと詩音の方を見やるとそれだけ言った。
詩音は思ったほどの反応を得られず満足いかないようだ。



「ちぇ、いいじゃないですかちょっとくらい」



詩音は一方通行の腕にしがみついたまま一方通行の顔を見上げる。

「私、ちょっとだけ進ちゃんのことを好きになってもいいですか?」



その眼差しは真剣に見えた。



詩音の様子は確かに可憐で。
一方通行には輝いて見えた。



「っ」



一瞬息を飲む。



キレイだ。
そう思った。



「……ったく。ハイハイ、分かった負けたっつゥの」



一方通行は片手をスッとあげると降参のポーズをとる。



「もォなンでもいいから好きにしてくれや。ただよ」

「オマエも女らしいところがあるっつゥのは分かったから、もう詩音だとか魅音だとか、双子の妹だとかっつーウソはやめろ。な?」



そう言ってポンと魅音の頭に手を乗せる一方通行。



「えっ」



詩音は驚き半分恥ずかしさ半分といった様子で頬を染める。



「ありがとーっ!」



ふとすぐ目の前の商店から子供が駆け出してくる。
子供は飛行機の模型を片手に走り去っていく。
よく見ればここは先日のゲーム大会を開いた場所の近くだ。



「ありがと、また来てね!」



子供が出て行ったのとワンテンポ遅れて少女が商店から出てくる。



「なっ!?」



一方通行は素っ頓狂な声をあげる。



「ん?あーーーーっ!?!?」



一方通行の声に反応してこちらを見やった少女も同じように驚きの声を上げた。

「み、魅音か!?」



「進ちゃん!!それに、詩音!」



そう。
普段と異なりエプロンこそしているものの、その少女は確かに園崎魅音そのものだった。
今自分の腕にはりついているはずの。



「ま、まさか!オマエら本当に双子だったンか!!」



一方通行は引き続き驚愕の声をあげる。



「だから言ったじゃないですかー」



詩音はからかうようにそう言うとより一層一方通行に身を寄せる。



その後しばらく場は混沌を極めた。

翌日、一方通行はいつものように学校で授業を受けていた。
いや、正確には机につっぷして寝ているだけのため受けてはいないのだが。



チャイムの音が響く。
授業終了と同時に教室がざわつき、一方通行は眼を覚ます。



ぐっと一方通行は伸びをして体を広げる。



するとチラッと魅音と眼があった。



「ひぇっ」



魅音は短く言葉を漏らすとぼっと赤くなってしまう。
頭から湯気が上がりそうだった。



「ト、トイレ!」



「あ!待ってみぃちゃん!」



魅音は逃げるように席を立つと教室外に出て行ってしまう。
後を追ってレナも教室から出て行く。

「にゃははー、アレは相当壊れてるなー」



土御門はそんな魅音を見て笑う。



「今日11回目のトイレですわ」



沙都子はいつからカウントしていたのかそう呟くとやれやれと両手を振る。



「ったく……俺のせいだっつゥのか?」



一方通行は軽く頭を抱えながらこの問題の答えを探しでもするかのように黒板を睨みつけた。
もちろん黒板に答えなど載っていない。
あるのは授業が終わって消し残されたチョークの粉だけだ。
じっと睨みつけられた黒板はまるで少し緊張しているかのように見えた。



ガラガラと音を立てて教室の扉が開く。
そこには手招きするレナがいた。

「とンだ災難だったっつゥの」



一方通行は廊下の壁に寄りかかりながら口を開いた。



「まさか園崎詩音が実在して、しかも俺に弁当を渡してきたのは変装した魅音だったなンてな」



「ふふ」



レナはくすりと笑う。



「今なんとかみぃちゃんを直したところなんだけども」



「治したって、病気じゃねェンだから」



「いやもっとテレビ的な意味でね!ナナメ45度くらいの角度でえい!えい!って」



レナはチョップの素振りをする。
なんとなくチョップの動作には懐かしさを感じた一方通行であったが、レナには看病をさせないでおこうと失礼なことを思った。

「それでね、みぃちゃんは、今までのことを全部なかったことにするから、進一君もなかったことにしてくれないかな?かな?」



「まァ、別に構わねェけどよ」



「これで進一君も分かったでしょ?みぃちゃんも女の子なんだって」



レナは優しい笑顔で一方通行に語りかける。



「逆が誠とかってヤツか。ま、あながち間違っちゃねェンかもな」



「進一はいっぱいお勉強しましたです」



梨花と沙都子が教室から出てくる。



「お勉強?」



一方通行はイマイチ梨花の言葉が理解できてない様子だ。

「そう、お勉強なのです。人は見た目によらないということなのですよ」



そうやって梨花は一方通行の方まを撫でようとするが梨花の身長では届かない。
背伸びをする梨花の頭を押さえつける一方通行。



「勉強したぶんいい大人になれるっつーことだにゃー!」



突然土御門が後ろからヘッドロックをかましてくる。



「オマエっ!離しやがれオイ!」



「にゃはははー」



廊下にはいつもの笑い声が響いていた。

今日はこのあたりで。
次回は綿流しのお祭りからですね。


それではまた一週間以内に。
次の投下までおやすみなさいませ。

おはようございます。
少し遅くなってしまいましたが投下していきます。

ジワジワジワと蝉の鳴き声が響いている。



もう夕方とは言え夏の日差しは強く梅雨独特の湿気もあって蒸し焼きにするかのような熱気が雛見沢には満ちていた。



「よっ……と」



一方通行は担いでいた木材をごろっと床に転がすと額の汗を拭った。



ここは古手神社の境内。
明日開催される綿流しのお祭りの事前準備として一方通行も町内会で呼び出されたのだった。
彼としては無視して居眠りを決め込むつもりであったが、魅音やレナなどが家におしかけて来て、しぶしぶ準備を手伝っている次第であった。



「鈴科君はもういいよ、ありがとね!」



野太い声が一方通行にかかる。
一方通行が準備を行っていた辺りを取り締まる町内会の何らかの係りを当てられている男だ。

「はい、進ちゃん」



すっと一方通行の目の前に紙コップに注がれた麦茶が差し出される。
力仕事のできない女性陣が事務作業と共に、屋台の準備を行っている男たちへと用意されたものだ。



「おォ、すまねェな……えっと……」



差し出してきたのは、詩音か??



「詩音ですよ、進ちゃん」



「やっぱりオマエか詩音!この前はオマエのせいで面倒なことに!!」



「それは進ちゃんが勝手に間違ったんじゃないですかー」



詩音は口に手をやってふふふと笑う。



「チッ、たくよォ。ややこしィンだよオマエらはよ」



一方通行は頭を掻きながらも渡された麦茶を口に含んだ。
喉を通ると同時にあのなんとも言えない爽やかな匂いが広がる。

うめェ。



全くと言っていいほど運動をしてこなかった一方通行にとっては、雛見沢に来て知ったことの一つだった。



「あーーーっ!!!」



そんな詩音と一方通行の後ろから叫び声。



「し、詩音!アンタなんでこんなとこに!!」



声の主は魅音だった。
その手には二つの紙コップが甲斐甲斐しくも握られており、顔を真っ赤にしてわなわなと震えている。

「あらお姉、私は頑張ってくれた進ちゃんを労ってたところですよ?
お姉こそどうしたんですか?コップ二つも持っちゃって」



詩音は楽しそうに目を細めると魅音をからかいはじめる。



「こっ、これは……!」



「まさかあの男勝りなお姉がしおらしくもクラスの男子にお茶を持ってきたなんてことないですよね〜??
二人分飲むくらいのものですよねお姉は??」



「そ、そうそう!なんか頑張ったら喉かわいちゃったなーなんて!」



ごくごくと喉を鳴らして麦茶二杯を空にする魅音。



「おおー!いい飲みっぷり、さすがお姉!!」



詩音はそんな様子の魅音にパチパチと拍手を送る。



「もー!アタシ詩音嫌いーー!!」



魅音は完全に詩音に踊らされていた。
やれやれといった様子で首を振る一方通行。
興宮のおもちゃ屋で魅音に遭遇した際にも、このように魅音が詩音に言いくるめられていた。

パシャリとシャッターの音が聞こえる。



音がした方にはガタイのいい男性と綺麗な長い金髪をなびかせる女性のペアが立っていた。



「富竹のおじさん!」



二人を見た詩音が声をあげる。



「やあみんな、今日は暑いね」



富竹と呼ばれた男はぱたぱたと顔を手で扇ぐ。



「君が鈴科君だね、僕は富竹、よろしくね」



富竹は一方通行の方を見つめるとニカっと人の良い笑みを浮かべてそう言った。



「おォ」



なンで俺の事知ってやがンだ?

「どうして自分の事を知ってるのか、そんな顔してるわね」



一方通行が考えているとニコリと柔和な、そしてどこか怪しげな笑みを浮かべた女性の方がそう言った。



「こっちは鷹野さん。入江診療所のナースさんだよ」



魅音がそう言って女性を紹介する。



「よろしくね」



鷹野という女性はひらひらと一方通行に手を振った。



「誰だっていいけどよ。なンで写真なンか撮ってやがンだ?」



一方通行の態度には少しトゲがある。
が、彼は初対面の相手にはいつもこうなのだ。
それを理解している魅音は補足をいれる。



「富竹さんはフリーのカメラマンでね。毎年綿流しの写真を撮ってくれてるんだよ」



「ふゥン、なるほどね」



一方通行はそう言いつつ富竹をジロジロと見回す。



フリーのカメラマンだなンて素性になンねェっつゥの。
コイツの筋肉は無駄に鍛えてやがる筋肉バカなのか、それとも何なのかっつゥ話だな。



勝手に値踏みを始める一方通行。

「おー、お前らやってるかじゃん?」



今度は富竹と鷹野の後ろから女性が歩いてくる。
かなりのナイスバディなのだろうがだらしなく着崩されたスーツと女っ気など関係ないと言わんばかりのポニーテールが色気を感じさせない。



「黄泉川さん」



魅音がにこりと笑って挨拶をする。
詩音や富竹、鷹野もそれに続く。
ついていけていないのは一方通行だけのようだ。



「黄泉川さんは明日の警備の下見ですか??」



詩音が黄泉川にたずねる。



「そうじゃんよ、毎年毎年いい加減にしろって言いたいじゃんよ」



「警備?」



一方通行はいぶかしげな顔をする。

「おー、お前らやってるかじゃん?」



今度は富竹と鷹野の後ろから女性が歩いてくる。
かなりのナイスバディなのだろうがだらしなく着崩されたスーツと女っ気など関係ないと言わんばかりのポニーテールが色気を感じさせない。



「黄泉川さん」



魅音がにこりと笑って挨拶をする。
詩音や富竹、鷹野もそれに続く。
ついていけていないのは一方通行だけのようだ。



「黄泉川さんは明日の警備の下見ですか??」



詩音が黄泉川にたずねる。



「そうじゃんよ、毎年毎年いい加減にしろって言いたいじゃんよ」



「警備?」



一方通行はいぶかしげな顔をする。

「この黄泉川さんは警察の方なのよぉ」



鷹野が一方通行に笑いかける。



警察ってェと、学園都市の警備員みてェなもンか。



「警察が警備するようなコトがあンのかよ?こんなちっさい村でよ」



一方通行の質問は最もだった。
しかしその場にいた中で魅音だけは気まずそうな顔をする。



「進ちゃん、アタシお腹空いちゃった。町内会の人たちが焼きそば作ってくれてるからそれ食べに行こうよ」



魅音はそう言って一方通行の手を取る。



歩き出そうとしたところに



「お姉、進ちゃんに言ってないんですか?」



声がかかった。

「……何の話だ?」



一方通行も立ち止まる。



「そういう話は……しない主義なんだよ」



魅音は珍しく覇気のない声でそう答えた。



「だから、何の話なンだよ。俺だけ除けモンかァ?」



「私は進ちゃんにも知る権利があると思います」



詩音が魅音を責めるかのように言い放つ。



「っ」



「じゃあ、アタシ先に言ってるね!早くこないと進ちゃんの分なくなっちゃうよ!」



魅音はパッと手を離すと一方通行にそう言い残してその場を去っていった。

「……それで。何の話なンだよ」



一方通行は釈然としない。



「雛見沢でダム工事があった話は知ってるかい?」



富竹が話し始める。



「おォ。確か雛見沢全部が水没するよォな計画が立ったンだか。
だがそれは無くなったンだろ」



「そう。住人たちの反対運動によってね。
じゃあ、その時にバラバラ殺人があったのは知ってるかい?」



「……」



「陸の孤島でバラバラ殺人事件。容疑者一人が未だ逃亡中……だったか。
昔ニュースで読んだがありゃァ雛見沢の話だったっつゥことか」



「そこまで知っているなら、かなり話しは早いね」



「あー、タンマ。私もこういう話は苦手じゃん。ちょっと先に失礼するじゃんよ」



そう言って話を遮ったのは黄泉川だった。
黄泉川は後手に手を振るとそのまま去って行ってしまう。

「変わった刑事さんよねぇ。事件の話が苦手なんて。そういう所が好かれているのかもしれないけど」



鷹野は黄泉川の後ろ姿を見つめながらくすくすと笑う。



「それでね。その事件の後から、毎年起こるんだよ」



富竹が話を戻す。



「オイオイ待てよ、まさか毎年殺人事件が起こるなンて言うンじゃァねェだろォな。
警察っつー組織はそこまで無能なンかよ」



一方通行は呆れたといわんばかりだ。



「鈴科君は、オヤシロ様の祟りって、聞いたことあるかしら?」



「あァ?ンだよそりゃァ」



「オヤシロ様っていうのは雛見沢の守り神様のことなんだけど……」



富竹は話を止めると腕を組む。



「一年目は凄く分かりやすいね。雛見沢にダムを建てようとする悪い奴らにオヤシロ様がバチを当てた」



「バチっつゥのは随分悪趣味なモンだな。バラバラ殺人なンつゥのが神様のすることかよ」



一方通行はくだらないといった様子で吐き捨てる。

「その翌年、雛見沢の住民であったにもかかわらずダム誘致派だった男が崖から落ちて転落死」



鷹野が話を続ける。



「そして更にその翌年。この古手神社の神主が原因不明の奇病により急死」



富竹が後を継ぐ。



「そしてその翌年。今度は二年目に死んだダム誘致派の男の親戚にあたる主婦が撲殺体で発見されたのよ」



「……」



一通り聞かされた一方通行は。



「だとしても、それだけじゃァオヤシロ様の祟りだなンて決めつけンのは早ェンじゃねェか?」



こともなげにそう言った。



「もちろん、それだけじゃないんです」



黙って話を聞いていた詩音が口を開く。



「これらの事件全てが、綿流しの晩に起こってるんですよ」

「……なるほどな、それで警備っつゥワケか」



一方通行は合点がいったようだ。



「まだそれだけじゃないわぁ。この一連の事件には、鬼隠しと言われる別の被害者が伴うのよ」



「あン?なンだよそりゃ」



「世間一般で言う神隠しってやつだね。一年目はダム工事グループの一人が失踪」



「二年目は男の妻が失踪しているわぁ」



「三年目は神主の妻が失踪しています」



「そして四年目は主婦の甥が失踪している」



「これらは全て綿流しが行われて間もない期間の話なんだよ」



最後は富竹がそう締めくくる。



「だからってオヤシロ様の祟りだなンつゥのはぶっ飛び過ぎだろ。俺は集団犯行にしか思えねェ」



「やっぱり、鈴科君もそう思う?」



一方通行の言葉を聞いた鷹野は嬉しそうに笑った。

「鷹野さんは、このオヤシロ様の祟りが人の手によるものだと考えて研究しているんです。さっきの黄泉川さんもそう。
ただ、オヤシロ様信仰が根強く広まっているこの雛見沢ではあまり大々的には言えないんですけど」



「他のみんなに言うのはやめてねぇ?今度は私が祟りの標的にされちゃうわ」



そう言って鷹野は笑って見せた。
常に余裕を崩さない女だなと一方通行は思った。

今日はこのあたりで。
次はもう少し早く来れればと。
とにかく一週間以内に来ます。

いやーまた放置してしまいました。
もし待っていてくれた方がいらっしゃれば申し訳ございません。
投下していきます。

翌日。



「意外と賑わってンだな」



一方通行、魅音、レナの三人は綿流しの祭りにやって来ていた。



時刻的には昨日と変わらず午後4時といったところだ。
気温的には昨日より涼しいはずだが、祭りに来ている人の熱気がそれを感じさせなかった。



「おはようございますです」



「もう、皆さん遅いですわ、遅刻ですわよ?」



「にゃー、三人だけでお楽しみとは鈴科も隅に置けないぜい」



梨花、沙都子、土御門の三人と合流する。
土御門に一方通行がベクトルヘッドロックをかましたことは言うまでもない。



「よし!全員揃ったところで、早速いってみようかー!!」



魅音の掛け声とともに屋台周りが始まった。

学園都市で遊ぶということを全くしてこなかった一方通行にとっては、何もかもが見たことのないものだった。



「オイ魅音。コイツは何だ?」



一方通行が魅音を呼び止める。



「ん?ああ、それはピンボールだよ。ボールを弾いて高得点を狙うゲーム。やってみる?」



魅音は説明を終えると小銭を取り出す。
かちゃんと軽い音を立てて小銭はピンボールの筐体に吸い込まれていった。



「ええー!そんなのありかにゃー!」



一同がピンボールをはじめて数分。
持ち玉は一人三つまでで、部活メンバーのほとんどは既にボールを使い果たしていた。



「こンなモン何が面白ェンだ?」



彼、一方通行を除いては。

最初の一級目は全くと言って良いほど点数の入らない酷いプレイだったが、二球目からは面白いように点数を取っていく。
全くボールを落とすことなく。



そんなことで彼は二球目のボールでゆうに5分は遊び続けていた。
彼のスーパープレーに人だかりができている。



やがて一方通行は点数をカンストするとプレイを止め、ボールをやっと手放した。
あたりの客から拍手が起こる。



「ど、どうやったらあんなことになりますの?
この私でもあそこまでのイカサマはできませんわ」



沙都子が眉間にしわをよせながら一方通行に尋ねる。



「別にイカサマなンかしねェっつゥの。単に俺の能力があのゲーム向きだったっつゥだけだ」



一方通行は沙都子の頭を手を乗せながら答える。

「能力使用はれっきとしたイカサマではございませんこと!?」



「アホか、能力なンか使ってねェっつゥの」



一方通行は沙都子から手を離すとコンコンとピンボールの筐体を叩く。



「コイツはボールを弾いて点数を競うモンだろ?
俺の能力はベトクトル、つまり力の向きを操る能力だ。
俺は能力を使うときは常に頭ン中で操るベクトルの量とか向きを計算してる」



「そンな俺からすりゃァよ」



一方通行が小銭を筐体に入れる。



「どォいう強さで」



ボールが発射される。
発射されたボールは様々な場所に当たって真ん中のポストに向かって落ちてくる。



「弾けばいいンかっつゥのは」



一方通行が一回だけレバーを弾く。
ボールはレバーに弾かれて上へと向かう。



「赤子の手を捻るより簡単に計算できンだよ」



ボールは一直線に最高得点のポストへと見事収まった。

再度周囲からおおーっと歓声が上がる。



「すごいね、進一君の能力!」



レナは何故か自分のことのように喜んでいる。



「流石アタシが見込んだだけのことはあるね〜」



魅音は何故か誇らしげにしている。



賑やかな奴らだ。
一方通行はそう思った。

クソ、見えねェなこりゃァ。
いっそ飛ぶか?
……いや、梨花より目立つのはマズイ。



あれから2時間ほどが経過した。
梨花は演舞の準備のために先に別れたのだが、いつの間にやら一方通行は他の四人と別れてしまっていた。
そんなワケで一方通行は現在一人人だかりの最後列で梨花の演舞を見ているのだ。



ただどうも一方通行の場所は見通しが悪いようでキョロキョロと辺りを見回している。
以前の彼ならこんな人の波など割っていってしまっていただろう。
いや、そもそも演舞を見になど来ていなかったか。
どちらにしろこんな普通の行動は彼の成長を表していた。



そんな一方通行に近寄る影が一つ。
その人物はぱっと一方通行の手を取って引っ張った。



「進ちゃん、こっちです」

詩音だ。
一方通行が言うよりも早く詩音は手を引いてぐんぐんと進んでいってしまう。



「オイオイ、随分強引な女だな。意外と自分から責めるのが趣味ってか?」



「何言ってるんですか、一人でキョロキョロしてたくせに」



詩音と一方通行は言い合いながら山道を進んでいく。



しばらく歩いたところでふと一方通行が足を止めた。
手を引いていた詩音も仕方なく足を止める。



「待て、どこ行くンだ?舞台の方からは明らかに遠ざかってンぞ」



「進ちゃん、梨花ちゃまの演舞なんか見たかったんですか??」



詩音は一方通行の反応が予想外だったようで目を丸くする。

「もしかして進ちゃんって、ストライクゾーンものすごく低くありません?」



詩音は一方通行をからかう。



「よォし分かった、今すぐスクラップになりてェっつゥコトだなァ??」



一方通行が電極に手をかけて詩音にせまろうとしたところ……



「進ちゃん!隠れて!」



詩音が一方通行の手を引いて草むらへ押し込める。



「お、オイ、一体……」



「そこに、誰かいるのかな?」



一方通行が尋ねようとしたところで別の男の声が聞こえてきた。

この声は……



「富竹さん」



一方通行が判断するのとほぼ同タイミングで詩音が立ち上がって声をかける。



一方通行も同じように立ち上がってそちらを見やると倉庫のような建物の前に富竹と鷹野が立っていた。



「詩音ちゃんかい。それに鈴科君も。
こんな所で逢引なんて、意外とませてるんだね」



富竹は苦笑いを浮かべながらそう言った。



「ごまかさないでください。富竹さん、今錠に手をかけてましたよね?」

「あ、あはは、まいったな、バレちゃ仕方ない」



詩音の刺すような視線に気圧されてか、富竹は言い訳などはせずそう言って頭を掻く。



「でも私」



詩音は言葉を切ると一方通行を引っ張ったままたたたと建物の側までいってしまう。
一方通行はこけないようにするのが精一杯だった。



田舎娘って怖ェ……。



「一度入ってみたかったんですよね、開かずの祭具殿」



「ふふふ、詩音ちゃんはそう言い出すと思ってたわぁ」



鷹野は相変わらず妖艶な笑みを浮かべている。

「空いたよ」



ガチャリと音を立てて錠前が外れる。
鷹野がドアを開けて詩音を手招きした。



「それじゃ、行ってみましょう、進ちゃん」



ぐいっと一方通行の手を引っ張る詩音。



「オイオイ待てよ、誰も入るとは言ってねェぞ」



一方通行はピタリと止まって拒否する姿勢を見せる。



「もしかして怖いんですか?進ちゃん?」



詩音は一方通行をからかう。



「ハイハイそうだよ。だから俺は知らねェ。入るンならオマエらだけで入るンだな」



一方通行にとってはこの中に何があるかなんてことは関係がなかった。
ただ今の生活が何事もなく続くのならばそれで良いのだ。

「……進ちゃんにも、この中を見て欲しいんです。おそらく雛見沢のみんなに関わることが隠されてますから」



「……」



見透かされたような詩音の言葉に少し考える一方通行。



「行っておいでよ、僕がここで誰か来ないか見張ってるから」



「進ちゃんは女の子だけにこんな怖そうな場所に入らせるんですか?」



富竹は石畳に腰掛ける。
詩音が一方通行のことを見上げて甘えてくる。



「チッ、クソ、分かったっつゥの」

一方通行、詩音、鷹野の三人は祭具殿の中に足を踏み入れる。
外が夜にさしかかっていることもあり、祭具殿の中は明かりが見えないと全く何も見えないという状態だった。



カチリと鷹野が懐中電灯の明かりを点ける。



ぼうっと浮かび上がったのは鷹野の三倍ほどはあろうかという大きな仏像だった。



「これがいわゆるオヤシロ様ね」



鷹野は嬉しそうだ。



「それで?何なンだよここは?単なる倉庫か?」



「ここは祭具殿と言って、本楽は祭りに使う道具なんかを仕舞っておく場所なんですよ」



「ンなモンの中に面白ェモンなンかあンのかよ?」



一方通行は辺りを見渡すがやはり暗くてよく見えない。

「それがね、この祭具殿は通称開かずの祭具殿と言って、古手家以外の人間はごく限られた人間しか入っちゃいけないのよ」



「汚れを持ち込むからってことらしいですけど」



鷹野と詩音が説明する。



「じゃァ俺ら三人は絶賛汚れ持ち込み中っつゥコトだな」



「鈴科君、ここに置いてあるのは本当にお祭りの道具だと思う??」



鷹野はふふふと笑ってあたりを照らす。



一方通行には赤錆びた金属類がチラッと見えただけでイマイチ何が置いてあるかは把握できない。



「どォしてこの村のヤツらは勿体振るのが好きなンですかねェ?
さっさと言いやがれよ」

「オヤシロ様っていうのはね、元々村人を鎮めるためにあったのよ」



「村人を鎮めるだァ?それじゃァ村人が暴れまわってたみてェじゃねェかよ」



「そう、実はその通りなのよ」



鷹野は自分の顔を照らすと語り出す。



「もともとこの雛見沢村は鬼ヶ淵村って呼ばれていたのだけど、その鬼ヶ淵村に住む人々の中には鬼の血が混じっていると言われていたのよ」



鷹野は片手を頭に当てて角のようにするとおどけてみせる。



「村人たちに混じった鬼の血は、時折暴走した。そしてそれを納めるために山を降りて人を攫ったらしいわ。
美味しくいただく為にね」



「ほら、進ちゃん、わたって言いません?人の臓物のこと」



詩音の発言を聞いて鷹野はニヤッといやらしく笑う。

「人のお腹を割くなんて、聞いただけでもすぐに死んじゃいそうだけど、丁重に扱えばね?
生きたまま人の腸をひっぱりだすことも可能らしいわよ」



ぼうっと照らされる辺り。
見れば先ほどの赤錆は、血の跡のようにも見えた。



「それは痛いよりももっと恐ろしい体験なんでしょうねぇ」



鷹野はそう言って話を締めくくった。



「つまるところここに保管されてンのはいわば"調理道具"だっつゥことか」



一方通行は皮肉交じりに鼻で笑う。



「今の話を聞いても顔色一つ変えない鈴科君って、やっぱりタダモノじゃないわねえ」



鷹野はそう言って一方通行に触れようとする。
その手をさっとかわす一方通行。

「生憎と大昔の骨董品にゃァ別に興味ねェンでね」



この女はいけ好かない。
一方通行の脳がそう言っていた。



「鷹野さんは、綿流しの儀式を疑ってるんですよ、オヤシロ様の祟りも」



「今もこの道具を使って人肉シチューを作ってンじゃないかってか?
カニバリズムなンて今更流行らねェだろォな」



詩音の言わんとしたことを続ける一方通行。
流石に肝が座っている。



「それもあるんだけどねえ、詩音ちゃん」



鷹野は少し奥まで行くとオヤシロ様の仏像のすぐ手前をライトアップする。



「私が今日見たかったのは、これなのよ」



鷹野はゆっくりとそう告げる。
それはまるで犯人に決定的な証拠を叩きつけるかのように。

「ボロボロの本じゃねェか」



一方通行と詩音が鷹野の懐中電灯の先を見ると、そこには何百年も経とうかという和紙の束があった。
表紙は日焼けや風化でボロボロになっており、タイトルなどは一切伺えない。



「うふふ、まあこれは貴方たちにはなんの価値もないものよ、気にしなくていいわ」



「鷹野さん、それは何なんですか?」



詩音が食いついた。



「ふふ、知りたいかしらあ?じゃあ……」



鷹野は静かに本に手をかけると。



パラと表紙を一枚めくった。



すると。



「うっ!?」



思わず詩音から声が漏れる。



なンだ、コイツは……観測したことのねェベクトル……?

一方通行も静かに動揺を見せていたようだ。



それは一瞬であったのか、しばらくの間だったのか、どちらかは不明であるが本が閉じられると同時に異様な空気は収束される。



「これが古くから雛見沢を護ってきたものの力よ。オヤシロ様が書き記したものだと言われているけれど、名前は失われているらしいわ」



鷹野だけは唯一先ほどの本の影響を受けていないかのように見える。



狼狽する一方通行と詩音。



「ちょっと刺激的だったかしらあ?
詩音ちゃんと鈴科君は先に出ておいていいわよお?」



「……」



顔を見合わせる詩音と一方通行。

一方通行から見た詩音の顔は、青白く、脂汗をかいているように見えた。



「オイ、出るぞ」



一方通行は詩音の手を引っ張り外へと連れ出した。




一方通行と詩音が外へ出てからしばらくすると、鷹野も姿を現した。
どれくらいの時間中にいたのだろうか。
まだ日が落ちきっていないところを見るとそこまで時間は経っていないように思える。



「よし、終わったよ。それじゃあ行こう」



富竹は鍵をかけ終えるとそう言った。



一方通行たちは境内の方へと戻ってくる。
演武は終わっているようで人の姿はなかった。

「今日のことは秘密ね。じゃないと私たち、オヤシロ様の祟りに会っちゃうから」



笑みを崩さない鷹野。



「現時点で私たちが最有力候補ですもんね」



苦い顔をした詩音が続く。



「今頃さおの方で綿を流してる頃だと思うから、僕たちはそっちに行ってみるよ、じゃあね」



富竹は最後まで笑顔を崩さずそう言って去っていった。
鷹野もそれに続く。



一方通行と詩音は鷹野と富竹の後ろ姿を見送りながら石畳に腰掛ける。

「いやー、それにしても、ちょっぴり怖かったですね進ちゃん!」



詩音が一方通行へ話しかける。
しかし。



「……」



一方通行は俯いたまま黙り込んでいた。



「進ちゃん……?」



詩音の呼びかけも耳に入っていない様子だ。
よっぽど何かを考えているのだろうか。



「進ちゃん!」



「!」



詩音が声を張り上げてようやく一方通行は詩音に意識を向ける。



「すまねェ、なンだ?」



「もう、しっかりしてくださいよ。オヤシロ様にとりつかれちゃったんですか?」

詩音はおどけてそう言った。



「ハッ、ンなことあるワケねェだろ」



「そうですね、そうだとしたら今頃私は進ちゃんに殺されちゃってますね」



「縁起でもねェな」



詩音はふふふっと笑っている。



「それにしても、本当にあの音は何だったんですかね?」



ふと詩音は考え込むような表情を見せると一方通行にそう尋ねた。



「……何のことだ?」



一方通行には心当たりがない。

「何って……音ですよ音!ドタンバタンって煩かったじゃないですか!」



「……」



一方通行は記憶を辿るがやはり一切音を聞いた覚えはない。



「ぷっ、あはは!」



「あ?」



突然笑い出した詩音に困惑する一方通行。



「冗談ですよ、冗談!そんな真剣な顔しちゃって!」



「冗談だァ!?オマエタイミングっつゥモンを……はァ、もうイイわ」



一方通行は呆れたというように首を振る。



「それじゃ!私もそろそろ行きますね、進ちゃん、またいつか!」

石畳から腰をあげるとビシっと敬礼をして詩音は階段を駆け下りていった。



一方通行は顎に手をやるとそのまましばし考え込む。



あの本は……何だったンだ。
それに詩音のあの顔。明らかに害のあるモンだった。



「……」



「みぃ!見つけたのですよ」



突然一方通行は後ろから抱きつかれる。



「ったく、危ねェだろォがクソガキ!」



振り返って叱責すると、それは梨花だった。



「進ちゃん探したよ、ふらっといなくなっちゃうんだから」

詩音、ではなく魅音が困ったように苦笑いして一方通行に声をかける。
見ると自分以外の全員が揃っているようだった。



「僕の演技はちゃんと見てくれましたですか?」



梨花がニコッとはじけるように笑いながら尋ねる。



「おォ、見てたぜ。ミスもなかったしな」



条件反射のように口をつく言葉。



ふっと梨花が暗い顔を見せる。



「そうだよ梨花ちゃん、あんなのミスのウチに入らないよ」



レナが梨花に声をかける。
どうやら梨花は演武中に軽いミスをしたようだ。



チッ、墓穴だったか。

幸い一方通行が言及されることはなかった。



「進ちゃんはもう綿流した??」



魅音が一方通行の横に腰掛けながら質問してくる。



「いや、まだだけどよ」



「え、そりゃもったいないよ!今からでも間に合うだろうからほら!行こ!」



魅音は一方通行の手を取ると歩き始めてしまう。



「あっ」



しばらく歩いて他の四人が見えなくなったころ。
魅音は突然足を止めた。
一方通行の方を振り返りはしない。

「そいえばさ進ちゃん、詩音に会わなかった?」



「っ!」



それは懐疑的であり、かつ断定的で見透かしたような言葉だった。
単なる質問のように見えるかもしれない。
しかしその声色には確かな自信のようなものが感じられた。
低く強い声。



「……会ってねェよ」



多少たじろいだ一方通行。
しかしここは嘘をつくことにする。



「……ふーん、そっか!あーのバカ妹はどこほっつき歩いてんだかねー」



既に魅音から先ほどな様子は消え去り、いつものお調子者に戻っていた。
ふたたび一方通行の手を引いて歩き出す。



一方通行にはその手が、自分を逃さすまいと掴んでいるかのように思えた。

と、いうことで今回はここまで。
私は後半になるにつれて描写が雑になってしまう癖があるようなので。
これ以降気をつけたいところですね。

それではまた一週間以内に。
みなさまおやすみなさい。


仮に皆殺し編までやるとしたら一方通行が皆殺しにしそう
能力使えば山犬なんざ敵じゃないだろうし

みなさまこんばんわ、投下しに来ました。
夏は暑くて敵わないですね。


>>324
パワーバランスを均等にする方法も一応は考えておりますゆえ、ごゆるりとお付き合いしていただければ幸いです。


それでは投下します

翌日一方通行はいつも通り登校していた。



「お、進ちゃんおはよー」



一方通行が下駄箱で靴を履き替えていると魅音が挨拶をしてくる。



「……どォした、顔色悪ィぞ?」



「あはは、昨日おじさま達の付き合いでちょいっと」



一方通行の指摘に魅音は右手でひょいっとおちょこを煽る仕草を見せる。

「まァどォしよォと勝手だけどよ。身体悪くすンぞ」



「勘弁してよー、体調悪いのは本当なんだからさ」



バツが悪そうに頭を掻く魅音。



「あ、そうだ進ちゃんさ」



「あン?」



「昨日、富竹のおじさんと鷹野さんに会わなかった?」

ふっと空気が冷たくなる気がした。



コイツ、カマかけてやがるンか?



「会ってねェよ。」



「んじゃあ、昨日詩音に会わなかった?」



「……それは昨日も答えたろォが」

「……あれ?そうだっけ?いやー改めて聞くとまた違った答えが返って来るかなーってさー」



あはははーと笑いながら教室の方に向き直る魅音。



「んじゃ、アタシ言っとくね。進ちゃんは悪いことには何にも関わってないって」



「あ?」



一方通行は心臓が止まるかと思った。



「ちゃんとみんなに言っとくから」



魅音は一方通行を置いてさっさと教室に入っていってしまう。



……アイツ、知ってやがるのか……?

なかなか教室に入ろうという気にならなかった。
教室中のみんなが自分のことを悪い目で見るような気がして。



ガラガラとドアを開けて教室に入る。



「あ、進一君おはよー」



「あら、今日は遅刻しなかったのですわね」



「おはようなのです」



「おはようだにゃー」



みんなが一方通行に挨拶をする。
そこには変わった様子は何もなかった。
一方通行は密かに胸をなでおろした。

「鈴科、ちょっといいかにゃー」



午前の授業が終わると土御門に声をかけられた。



「何だ?」



「男の話し合いってやつだにゃー」



うさんくさい笑みを浮かべる土御門。
しかしサングラスの奥に隠されたその眼光は真剣そのものだった。
一方通行はこの男のこんな様子を見たことがない。
黙って付いていくことに決めた。

「そンで?話っつゥのは何なンだ?」



二人は校舎の裏に来ていた。
校舎の裏には花壇が設置されており、ひまわりが空に向かって伸びている。



「まあ別にそんな大したことじゃないんだけどにゃー」



土御門はニカっと一方通行へ笑ってみせる。



「園崎詩音に注意しろ」



そのセリフはすっと一方通行の心の隙間に滑り込むように響いた。

土御門の顔を伺う。
土御門はひまわりの方を見ているが、表情は笑っていない。
何かどこか必死であるかのように見えた。



「どォいうことだ?」



「……詳しくは説明できない。今はな。
お前がどの程度関わってくるのか分からない以上は滅多なことは言えないが」



土御門は一呼吸間を置く。



「何かが始まっている。そしてそれは俺たちの生活を危険にさらすことだ」

……やっぱりコイツも昨日の事を知ってやがる。



「その上でだ。鈴科。園崎詩音に注意するんだ。
いいか、選択を迫られた場合は俺たちを信じろ。いいな」



土御門の口調には有無を言わせないものがあった。



「それだけ分かってもらえればいいんだぜい」



土御門はいつもの調子に戻ると後手に手を振って去っていってしまった。



……魅音といい土御門といい、どォいう意図だ。
俺を……護ろうとしてンのか?



「……」



一方通行はふと空を見やる。
少ない雲がゆっくりと流れ、太陽が爛々と輝いている。



「祟り……か」



一方通行は静かに呟いた。

一方通行はきれいに掃除されたカーペットを踏みしめて歩く。
あたりは静まり返っておりさも声をあげてはいけないかのような空気を放っていた。



「よォ」



「あ、進ちゃん。ごめんなさい、急に呼び出してしまって」



「構わねェよ」



ここは興宮にある市立図書館だ。
学校が終わった後家に帰ると詩音から電話があり、話したい事があるとここに呼び出されたのだ。

一方通行と詩音は窓際の4人掛けのテーブルに隣り合わせに座る。



「それで、話っつ」



「お、鈴科に園崎じゃん!」



一方通行が口を開いたところに別の声が割って入る。



この軽快な声、どっかで……。



「黄泉川さん……」



先に気づいたのは詩音の方だった。

「今日はあっついじゃんねー。お前は詩音の方じゃん?」



そうだ。
確か警察官の女。雛見沢の警備がどうとかって祭りの前日に話したか。



「それにしても鈴科、二股は良くないじゃんよ?それも姉妹だなんてちょっとおいたが過ぎるじゃん?」



「進ちゃん、私バイトがあるんで、ちょっと失礼しますね」



詩音は突然そう言うと席を立ってどこかへ行ってしまう。

「あれ?邪魔しちまったじゃん?」



そう言うと今度は黄泉川が入れ替わるように一方通行の向かいの席に座った。



「……で?アンタは何の要なンだ」



一方通行は頬杖をつきながらそうたずねる。
なんだかだんだん面倒臭くなってきた。



「まずその前に。鈴科、園崎には気をつけた方がいいじゃんよ?」



一方通行の眉がピクリと動く。
土御門の言葉が頭をよぎる。

「……どォいう意味だ」



「別に付き合いをやめろとか、そういうことを言ってるんじゃないじゃん。
ただ、お前が知ってるかどうかはわからないが、園崎家ってのはこの辺り一帯を取り仕切ってるじゃん」



黄泉川はさっと前髪をかきあげると一方通行の方をすっと見つめる。



「園崎魅音はその正当な後継。その意味はお前が考えるよりは思いじゃん」



……今度は魅音と来やがった。
園崎家っつゥのは敵が多いンかもな。



「それじゃ、本題に入るじゃん」

「昨日富竹ジロウと鷹野三四に会わなかったかじゃん?」



「……プライバシーの侵害ってヤツじゃねェのか?」



まただ。
またこの質問。
コイツらはやはり昨日の事を知ってやがる。



「まあまあ、そう警戒するなじゃん。単なる質問じゃん」



「それじゃあ園崎詩音に、昨日会わなかったかじゃん?」



「……会ってねェよ」



「……ふーん、そっか、それならいいじゃん」



しばし考えた後黄泉川はそう言って去っていってしまう。



一人残された一方通行は何かを考えるようにしばらく机をトントンと指で叩いていた。

ピッ。



『あ、もしもし、進ちゃんですか?』



「あァ」



『さっきはごめんなさい。ちょっと私つい……』



「別に構わねェよ。気にしてねェ」



その日の夜。
一方通行は詩音からの電話に応じていた。

「ンで?要件はそンだけか?」



『いえ、そうじゃなくて、今日話せなかったことなんですけど』



「あァ」



『……』



向こうの様子は分からないがどうやら詩音は何か言い淀んでいるようだ。
一方通行は面倒臭そうに自室の布団に倒れこむ。

『昨日、綿流しの後に富竹さんと鷹野さんに会いましたか?』



「あァ?またその話かよ」



一方通行は不機嫌そうな声を出す。
今日一日中徹頭徹尾その質問だ。
いい加減に飽き飽きする。



「会ってねェっつゥの」



『……実は。富竹さんと鷹野さん……』



『……』



なかなか言葉を紡がない詩音。



「だから、なンだよ」



一方通行はじれったくなって先を促す。

『死んだ……そうです』



それは非常にか細い声だった。



「あァ??なンだと」



『鷹野さんは焼死体で。富竹さんは自分の喉を掻きむしって死んでいたそうです。昨日の深夜に山奥で発見されたって』



「……オヤシロ様の祟りとかっていうやつか」



面倒臭ェことになってきやがったな。

『進ちゃん、どうしましょう。私……』



「……」



一方通行にはかける言葉が見つからない。



『でもね、おかしいんですよ』



「何がだ」



『今年の祟りは二人死んでいる』



『だから、生贄も二人必要なはずなんですよ』



『オヤシロ様を鎮めるための生贄も』

「それが俺たちだって言いてェのか」



『……』



詩音は黙り込んでしまった。
一方通行の頭に土御門の言葉がうかぶ。



「悪ィがな、詩音。お前の話には信憑性や裏付けがねェ。二人が死んだ理由もオヤシロ様の祟りだなンて到底信じれるモンじゃねェ」



『……』



詩音は言葉を返さない。

「それに加えて死因に関しても訳が分からねェときてやがる。いったいそれは何のーー」



プッ。
ピーピーピー。



突如として電話が切られる。



……俺に慰めて欲しかったンか?
気休めでも言って欲しかったのか?
……訳が分からねェ。



一方通行は邪念を振り払うかのように携帯を放り投げた。

本日はこの辺りまで。
また次回一週間以内に来ます。


それではみなさま次回までおやすみなさい。、

本ってなんだよおい…オリジナル要素入れんなよ気になって眠れねえじゃねえか…

みなさまおはようございます。
レスありがとうございます。

>>350
そういって頂けますと嬉しいです。
頑張ってまいります。


それでは今日も投下していきます。

「結局見つからなかったんだって」



いつもの教室。
いつもの風景。
外では嫌という程セミが鳴き、夏真っ最中を主張している。
太陽はこれでもかというほどの光線を地球に向かって浴びせているし、時折吹く風も生温かった。



「……」



しかし教室の空気はどこかひんやりとしていた。



「じいさんなんだろ?その村長っつゥのはよ。ボケて帰らずにその辺フラついてンじゃねェのかよ?」



机に肘をついて眉間にしわを寄せているのは一方通行。

「それはないですわ。村長さんはとても元気な方でいらっしゃって、今でも町内会の中心の人物ですもの」



「だったら何だ?鬼隠しにでも会ったっつゥンかよ」



しんっと教室が静まり返る。



知ったことかといった様子で一方通行は教室の中から窓の外へと目を向けた。



昨日この雛見沢の村長が行方不明になった。
村長は昼過ぎに神社で行われた集会に出ていた。
集会は日が暮れてからお開きとなったらしいが、それ以降村長の姿を見たものはいない。
夜通し捜索が行われたが結局見つからなかった。

つまり。
これが5年目のオヤシロ様の祟り。



………



一方通行は眉間のしわをさらに濃くして考え込む。



犯人はどうして村長を狙った?
最有力候補は俺と詩音のはずだ。
なんの意図がある。



こればかりは考えていても分からない。
一方通行はため息をつくと目をふせた。

「どォして俺がこンなこと……」



言いながら一方通行は校庭を歩く。
ブツブツと嫌そうな顔を見せるその手にはジョウロが握られていた。
雛見沢分校にて平等に与えられる委員会。
今日は一方通行が緑化委員の日であった。



クソ、アッチィな……。



頭の中で文句を言いながら花に水をやる一方通行。
さらさらと花びらの表面を撫でる水を見て



……水浴びってのは気持ちいいモンなンかね?



ぼうっとそんなことを考えていた。



そうして花に水をやってしばらく。
とさりと校庭の端の方で物音がした。

「あン?」



そちらに目をやると梨花がしゃがみこむようにして座っていた。



「どォした、転びでもしたか?」



何かあったかと近寄ってみると梨花は涙目になっている。
こんななりをしていて意外と心配性な一方通行。



「いいえ、そうではないのです……」



梨花はそう言うと目元を両手で拭いながら立ち上がる。
なんとなくだがその顔にはうれいが見えたような気がした。

「進一……」



なんだ?というふうに黙って眉をあげる一方通行。
梨花は続きを話すか話すまいか決めあぐねているようだ。



「進一は、綿流しの晩に何か悪いことをしましたですか?」



「っ」



梨花のぱっちりとした目が一方通行の方を見つめる。
ふわっと風が吹いた。
その目は一方通行を心配しているようにも見えた。



「……何もないのです、忘れてください」



ふっと視線を外すと梨花は一方通行の横をすり抜けて校舎の方へと歩いて行く。
一方通行がその背中を追っていると数歩ほど歩いたところでぴたりと梨花は歩みを止めた。

「お祭りの晩に、祭具殿に猫さんが迷い込んでしまったのです」



「っ」



一方通行は心臓が止まるかと思った。
今更誰が知っていても驚くことではないが、先ほどの質問と立て続けにこうだ。



「猫さんは中にあった強い道具を見てがたがたぶるぶるにゃーにゃーなのです」



梨花はこっちを見ない。



「……猫をどうするべきだ」



「……?」

「猫を見つけた犬は、どうするべきだと思う。猫は犬にやられちまうのか」



「猫さんは僕が守るのですよ」



「犬さんたちは勘違いをしているだけなのです。だから僕が猫さんを守ってあげるのですよ」



梨花はくるりと振り返ると一方通行に向けてそういった。
そう、一方通行に向けて。
その瞳はどこまでも澄んで、かつ強い意志を感じさせた。



「でも……」



一瞬前とは変わって弱々しい言葉を吐き出す梨花。

「姉猫はとても怒っています。妹猫が悪いことをしたので……」



姉猫……。魅音のことか。



「今日から部活はなしにしましょう。姉猫をそっしておいて欲しいのです」



「こし強い犬さんが猫さんに噛みつきそうになったら、教えてくださいね」



それだけ言うと梨花はさらりと前髪を揺らして校舎の方へと去って行ってしまった。

「……」



テーブルに置かれた缶コーヒーを手にとって一口すする。
目をつむって顔を天井に向けると一方通行はため息をついた。
自宅に帰ってからしばらくの間彼はこうしている。



例え話とは言え梨花に話をしたのは失敗だった。誰がどォ関わってて誰が狙われるか分かったモンじゃねェっつゥのに……。



ピビピピッピピピピッ



思考の海に潜っているとふと携帯が着信を告げる。



「もしもし」



『あっ、進ちゃん……』



「……詩音か」

このタイミングで電話をかけてくる人物は確認しなくとも分かる。
園崎詩音だ。



「昨日は……すまなかった、オマエは怯えてただけなのに酷いこと言っちまったな」



「いえ、それはいいんです、それより……」



詩音はそこで一度間を空ける。



『聞きました、公由のおじいちゃんが行方不明になったって……』



「公由……村長のことか」



『はい……それで、見つかったんですか?』



詩音の声色は悲痛な色を帯びている。
どうやら親しい間柄だったようだ。

「……いや。見つかってねェ」



『そんな……私……』



詩音の声色が上がっていく。



『私のせいです、私のせいなんです。私が公由のおじいちゃんに話したから……!!』



「どォいうことだ?」



『私、昨日話したんです、公由のおじいちゃんに。祭具殿のこと。ごめんなさい、ダメだって分かってたんですけど、耐えられなくって』



……村長は関係者だったっつゥことか。犯人は俺らを追い詰めて楽しんでる……?

『私が話したから殺されてしまったんだ、きっとそうに違いない!私が喋ったから!私のせいだ!』



……待てよ。待てよ!
そォなると……!!!



一方通行は携帯電話を一方的に切ると懐にしまって急いで玄関から出る。
首元の電極を能力使用モードに切り替えると地面を蹴って爆発的なスピードを得ながらある場所へ向かう。



喋ったヤツは消されるだと……っ!
ザケンじゃねェぞっっっ!!!

「進一君!大丈夫!?」



「進ちゃん!?」



「……」



一方通行はもぬけの殻となったリビングで座っていた。
その目はぼうっと一点を見つめている。
魅音とレナが駆けつけたころにはすでに一方通行はこの状態だった。
場所は古手家の離れ。
沙都子、梨花、土御門が暮らしていた場所だ。
モチロン鍵はかかっていただろうがそんなものは一方通行の前には関係ない。
ドアは引きちぎられて外に捨てられていた。

「進一君、大丈夫だから……」



レナは一方通行の頭を撫でながらなだめる。
彼女は魅音からの電話で駆けつけた。
魅音によると、詩音から一方通行と話している最中に急に電話が切れ、掛け直しても繋がらないと連絡があったらしい。
それから彼女たちは一方通行の自宅に向かったが、玄関が開きっぱなしの状態の一方通行の家を見てそのあとここへ来たというわけだ。



「……ンなよ」



ぴくっと一方通行の肩が動いたかと思うと、次の瞬間には既に一方通行は家の外に出ていた。



「ふざけてンじゃねェぞォ!!!オマエらの相手は俺だろォがよォォ!!!」



夜に向かって。空に向かって。
咆哮した。
この近隣にいるかもしれない犯人の誰かへの宣戦布告であったのかもしれない。

「はァ……はァ……」



そのまま一方通行は地面に倒れこむ。
それを優しく抱き上げたのはレナだった。



「大丈夫だよ、進一君。レナはいなくなったりしないから。絶対に」



レナはそう言うと一方通行を優しく包んだ。
その後ろでいつもと違ってパジャマなのか長袖のシャツを着た魅音はどこか虚空を睨むように見ていた。

翌日。
一方通行はかなり整理がついたようで今は普通に学校へ通っていた。
隣にはいつもと同じくレナが歩いている。



二人は水車小屋のある十字路まで来ると自然と足を止める。
考えたいことが山ほどあるのだ。



「みぃちゃん、今日は起きられないんじゃないかな……」



「そうか、魅音のやつ。一昨日は村長の操作をしてたンだもンな」



そう言う一方通行とレナ自身にもしっかりと深いクマが刻まれていた。



「昨日ね、お豆腐屋さんに聞いたんだけど、沙都子ちゃんと梨花ちゃん、お豆腐を買いに来たんだって」

「……?」



「昨日鍋の中を見てみたんだけど、お味噌汁が作ってあったんだよ。その中にはお豆腐も入ってた」



「それがどォしたンだ?」



「お豆腐ってね、普通は最後に入れるものなの」



一方通行とレナは歩調を少しだけゆるめる。

「炊飯器にはご飯が焚かれてて」



「冷蔵庫の中も見てみたんだけど、そこには作ったおかずがラップをかけていれられてた」



「……つまり、昨日あの三人は夕食を食べる直前に出かけでもしたっつゥことか」



「ちゃぶ台の上に、お醤油刺しの小瓶があったでしょ」



「それが?」



「空になってたの。お醤油の大瓶を置いてある場所も見てみたんだけど、瓶ごと無くなってた」



「醤油を買いにでも言ったっつゥンか?」



レナはふるふるとゆるく首を振る。

「あの時間に開いてるお店は雛見沢にはほとんど無いから、それは考えられないかな。でも、お醤油をどこかのお家に貰いに行ったんだと思う」



「そこで攫われたとでも?」



「そう考えるのが妥当かな」



一方通行は眉間にしわを寄せる。



「あの土御門がそんなことでヤられるタマか?考えられねェ」

「きっと、お醤油を貰いに行ったのは梨花ちゃんなんだよ」



「あン?どォいうことだ?」



レナは一方通行の質問を聞くと苦虫を潰したような顔を見せた。



「きっと、梨花ちゃんを人質に取られたんじゃないかな。梨花を傷つけられたくなかったら、沙都子と一緒にこっちまで来い。
そんなような事を言われたんじゃないかな」



「……」



沈黙する二人。
一方通行は素直に感心していた。
推理にもそれなりに筋が通っているし、なによりレナは昨日冷静に現場検証を行っていた。
自分には思いつかなかった。



「あくまでレナの推理だから、どこまで当たっているかはわからないけど」

そうやって歩いていると前方に車が見えてくる。
その白いセダンは一方通行達が近づいてくるのを確認すると運転席から一人の女が顔を出した。



「よ、鈴科。元気か?」



黄泉川。たしか警察の女だったか。



「悪いけど竜宮には席を外してもらうじゃん」



手を顔の前にやりかるく謝ると黄泉川は後部座席のドアを開ける。



乗れってことか。

「それじゃ、進一君、レナは先に行ってるね」



バタン。
ドアを閉めた一方通行はシートに座ってじっと運転席を睨んだ。



「そうピリピリすんなじゃん。別にどこに連れてこうってわけでもないし」



「操作はどうなってんだ?」



無駄話はいいという意思表明。



「ええっと……どれのことじゃん?」



「全部だ」

「全部、なぁ……」



黄泉川は静かに頭を掻くと話し始める。



「まず富竹と鷹野。この二人には進展が見られない」



「……」



「次に公由さんだが、公由さんは事件当日の朝早くに鹿骨市にある肛門科に通っていたことが分かったじゃん」



「肛門科だ?」



「誰にも知られたくなかったんだろうな。ずっとお忍びで通ってたみたいで、その日のことも誰にも話してなかったみたいじゃん」

「……」



「そのあと公由さんは神社での会合に出ているが、どうやら鹿骨市からの電車に遅延があったみたいで。
会合には遅れて出席しているじゃん」



「……?」



一瞬一方通行が不思議な顔を見せる。



「つまり公由さんはその日会合まで誰にもあっていなかったことになるじゃん。攫われたのはもちろんそのあとってことじゃん」



……待てよ。
どォいうことだそりゃ。

一方通行は一通り黄泉川の話を聞いた後静かに顎に手を当て思考にふける。



確か詩音が言ってたな。
一昨日の朝公由のおじいちゃんから富竹と鷹野の話を聞き、祭具殿のことを打ち明けたと。
しかし当の公由は一昨日の朝一でお忍びで肛門科に行っており、誰にも会っていない。



……いつだ。園崎詩音はいつ公由に会った。



「……しな?」



「鈴科!聞いてるか!?」

黄泉川の声ではっと現実に引き戻される。
黄泉川ははあとため息をつくと



「要はどうしてお前だけが無事なのかっていうのが知りたいんじゃん。
綿流しの番にお前ら四人が祭具殿に忍び込んだことは分かってる、その中でどうして鈴科だけが標的になっていないのか」



黄泉川の言葉は、一方通行の注意を引くに十分に足るものだった。



俺"だけ"が……??



「待てよ、どォいうことだ。俺だけっつゥのは」



「今さら何言ってるじゃん、富竹と鷹野が死に、園崎は行方不明。今まで無事に生活してるのはお前だけじゃん」



「!!」



園崎は行方不明。



その言葉は一方通行の生活を崩す言葉だった。

今日はこの辺りで。
そろそろ綿流しも終盤に差し掛かってきました。
また一週間以内に来ようと思います。


それにしても最近暑すぎではないでしょうか?


それではまた次の投下まで、みなさまおやすみなさい。

みなさまこんばんわ。
今日も投下していきます。

ペースを上げていきたいですね。

「梨花ちゃんと沙都子までいなくなってしまうなんて……私たち、これからどうしたらいいんでしょう」



その夜。
いつも通り状況報告といって詩音から電話がかかってきた。
受話器の向こうからはいつも通りとは言わないが、怯えと悲しみで嗚咽をもらす詩音の声が聞こえる。



……だが。



「なァ、詩音。一昨日、村長に会って相談したんだよな」



「うっ……え……はい。そうですけど……それがどうかしたんですか?」



つまり詰まりになりながらも詩音は言葉を返している。

「それは、いつだ?」



「うぅ……どうして、そんなこと聞くんですか?」



「公由のじいさんが病院に通ってたことは知ってたか?場所は?」



「病院に行ってたことはしってますけど、場所までは……」



詩音はそんなことは頭に入らないといった様子だ。

「……オマエは、誰だ」



一方通行はすぐさま核心を突く。



「公由のじいさんは一昨日、朝早くから病院に出かけていた。誰にも会わずにだ。
そしてそのまま会合へ出たらしい」



受話器の向こうからは相変わらずか細い鳴き声が聞こえている。



「そしてオマエはさっき言ったな。病院の場所は知らないと。
つまり園崎詩音が公由のじいさんに会うことはできないわけだ」

「第一」



一方通行はそこでいったんすうっと息を吸い込む。



「園崎詩音は既に疾走している」



言い切る。
受話器の向こうに変化はない。泣き声だけが聞こえてくる。
それが逆に不気味でもあるが。



「オマエは一体誰だ。ただ間違いのないことは、オマエがこの事件のかなり真相に近い場所にいるということだ」



「オマエは梨花と沙都子、土御門を巻き込んだ。例えオマエが誰であっても。詩音自身であったとしても」



「俺はそれを許さない」

「うっ……うぅ……」



明らかな宣戦布告だった。
しかし相変わらず電話の向こうからは泣き声だけ。
……だったが。



「う………あ……あっ……あはは、あははは」



それは次第に違う感情を帯びていく。



「あ、あはは!あははははははははははははは!!!!」



狂ったような笑い声だった。人を内側から壊そうとするかのような。
しばらく笑い声が響いていたが、やがて遮るようにぶつっと電話は切られた。

「しばらく学校は休むコトにする」



「……はい、これ回覧板」



レナは少しだけ寂しそうな顔をすると一方通行に回覧板を差し出した。



ここは一方通行の家の玄関。沙都子と梨花のことがやはり聞いているのか、一方通行にはいつものような威厳は見られなかった。



「大丈夫だよ、警察の人たちも探してくれてる。きっと見つかるよ」



レナはあくまで一方通行に優しく笑いかける。

「……」



一方通行の顔が晴れることはない。



「責めねェのか」



ぽろっとこぼれ落ちたような声だった。



「知ってンだろ、祭りの晩、俺が」



「祭具殿に忍び込んだこと?」



「……」



きっとこの村でこの話を知らねェヤツはいねェンだろォな。

「みーちゃんは、凄く怒ってたよ」



「魅音のヤツが……」



しばらく黙っていたレナだが、きっとその表情を変える。



バチっ!と音が響く。



自分の頬が叩かれた音だと一方通行が気づいたのは一瞬後のことだった。



「誰も進一君を叱らなかったと思う。だから。私が代わりに進一君を叱るね」

その顔には厳しさがあり、優しさがあり、母性があった。
その声には一方通行への優しい思いが詰まっていた。



「……俺が、悪かった……」



一方通行はこの行動にどれだけ救われたことか。
どれだけ楽になったことか。



ビンタされた時に取り落としてしまった回覧板を静かに拾う一方通行。
ふとある手書きチラシが目に入る。



「……秋田の親戚から届いた本場仕込みのお醤油をお分けします。お気軽に園崎までどうぞ」



一方通行はレナの顔を見る。



レナは静かに頷いた。

梨花と沙都子、土御門は醤油の瓶を無くして消えた。
そしてこのチラシ。
レナは知っていたのだ。



一方通行はすっと立ち上がる。



「行ってくる」



「進一君……」



「俺が元凶の一人だ。俺が魅音に謝って、もう終わりにしてもらう。
後は俺の身だけだしな」



「……」



話しているとどこからか車のエンジン音が聞こえてくる。
それはやがて一方通行の家の前まで来るとブレーキをかけて家の前で車を止めた。

車の中から一人の女性が降りてくる。



黄泉川だ。



「なるほどじゃん。どうだ?正直に話してちょっとはすっきりしたか?」



一方通行とレナを後部座席に座らせて、一方通行の話を聞いた黄泉川はそう言った。



一方通行達は何も答えない。



『愛穂?聞こえているかしら?』



ノイズ混じりに車内無線から女性の声が聞こえてくる。
警察の連絡用の無線であろう。

『先ほど学校に休むと連絡があったみたい。今の所標的に動きは無し。引き続き園崎家の監視に当たるわ』



それだけ伝えると無線はプツッと切れた。



「今のって……」



レナがはじめて口を開く。



「あー、聞こえたじゃん?ま、警察はご覧の通り。捜査令状が出てないから手出しできない状態じゃん。現行犯以外では」

「もしかして、黄泉川さん。進一君を園崎家に突入させるように焚きつけるつもりだったんですか」



「それで俺に何かあれば現行犯逮捕。ってわけか」



「……私だってこんなことはしたくない。だからこうやって時間稼ぎしてるんじゃん」



「……酷い。それが警察のやり方なの!?恥知らず!」



レナは怒声を上げて車から降りて行ってしまう。



一方通行はしばらく考えた後。



「俺たちはこれから園崎家へ行く。さっきの作戦で了解だ。怪しい動きがあれば突入しろ」



そう言い残すとレナを追って車を降りていった。

「この山が丸ごと敷地内なンか。死体の処理には困らなさそォだ」



ブラックジョークを飛ばす一方通行。



レナと一方通行の二人は園崎家へ向かって歩いていた。
しばらくするとこれはまた大きい純和風の木で出来た玄関が見えてくる。



レナは歩み寄るとインターホンを押した。
1分ほど間があってから観音開きの大扉ではなくその脇に付けられた勝手口のような扉から、白い着物を着た魅音が顔をのぞかせる。

邸内を歩き客間へと通された一方通行とレナは魅音と向かい合うようにして座っていた。
上等なものを使っているのだろう。畳の匂いがどことなく落ち着く雰囲気を出していたが、部屋はそれ以上の緊張感で包まれていた。



「魅音。詫びることがある」



まず口を開いたのは一方通行だ。ここで臆しないのは彼らしい。



「何を?」



魅音の様子に変化はない。
先ほどから氷のように無表情を張り付かせている。
普段の魅音からは考えられない様子だ。



「綿流しの祭りの晩、オレは祭具殿に入った。あそこが入っちゃいけねェ場所だっつゥコトも知ってた」

一方通行はすっと腰を引くと頭を深く下げた。
日本古来から伝わる謝罪の意。
簡単に言うなら土下座だ。



「今さら遅ェとは思うが、すまなかった」



「……。進ちゃんが悪いと思うなら、それでいいんじゃないの?」



魅音は少し呆れたような表情で視線を流す。

「みーちゃん、進一君は真剣に謝ってるんだよ。みーちゃんも真剣に応えてあげて」



今まで静かに見守っていたレナが口を挟む。
その目にはキッと強い意思が刻まれていた。



「レナにはアタシが不真面目そうに見えるの?」



「見えるよ」



即答するレナ。



この女にはほとほと驚かさせることが多い。

「いや、もうイイ、レナ。許してもらおうとは元々思ってねェ」



「……じゃあアンタらは何しに来たわけ?」



「まどろっこしいのはなし。単刀直入に言うね」



レナと一方通行はすっと魅音を見つめる。



「魅音。一昨日、オマエは沙都子と梨花ちゃんを呼んだな」



「夕方のお夕食過ぎの時間、梨花ちゃんが来たはずだよ。お醤油の大瓶を持って、おすそ分けしてもらいに」

魅音に特に変わった様子はない。
この二人がある程度のことを知っていると踏んでいるようだ。



「そしてみーちゃんは梨花ちゃんを隠してしまった」



「それで本当は終わりだったんだよね、みーちゃんにとっては」



「っ」



「……どういう意味かな?」



はじめて魅音の表情に焦りのようなものが見えた。
引きつった笑みを浮かべる魅音。

「誤算だったのは、沙都子か?土御門か?それとも両方か」



「冷蔵庫の中に沙都子ちゃんが作った夕食が手付かずで残ってたから。それがみーちゃんが沙都子ちゃんと元春君を呼び出した内容を如実に物語っちゃってるの」



「これは………ふふふ、まいった。まいった降参だよ」



苦々しい顔をした魅音だが、すぐにそれは笑い顔へと変わる。



「あはははははは、……あー、もう!」



「村長さんも、みーちゃんが?」



「富竹と鷹野もか」



レナと一方通行の質問は、魅音にとっては追い討ちのように感じられたかもしれない。

魅音はすっと立ち上がると姿勢を正して座り直す。
組んだ足の前にそっと手をつくと軽くお辞儀をした。



「はじめまして。ご挨拶申し上げます」



凛々しい視線が一方通行とレナを射抜く。



「園崎家本家、頭首後継、魅音でございます」



その言葉には重みがあった。
一方通行とレナはつい息を飲む。



「私にお話しできることなら、包み隠さずお話ししたいと存じ上げます」



そこまで言うと魅音はすっと背筋を伸ばす。

「雛見沢がかつて、鬼ヶ淵村と呼ばれていたことをご存知でしょうか」



「うん」



「鬼ヶ淵村のご先祖様たちは、鬼の血を引く誇り高き先人たちでした」



「でもふもとの村の人々は私たちを鬼だと罵り、石を投げました」



「雛見沢の人々はそんな理不尽な相手と戦うために、徒党を組んで立ち向かうようになりました」



「進ちゃんも街で不良に絡まれたとき、たくさんの人々が助けてくれたのを思い出しませんか?」



すっと魅音が視線を一方通行へとやる。

「……」



一方通行は特に何も答えない。



「雛見沢を再び鬼ヶ淵村のように崇められるに足る神聖な存在に。それが我ら鬼ヶ淵村の末裔の悲願であり、園崎の鬼を継ぐものの宿命なのです」



「鬼を継ぐものっつゥのはどォいう意味だ」



「園崎家は代々頭首の名に鬼の一文字を加える習慣があるのです」



……魅音の魅か。



「そして、この体にも」



魅音は立ち上がって着物の帯に手をかける。

「いいよ、みーちゃん。見せる必要なんて、全然ない」



「……ありがと」



魅音は一瞬だけ柔らかい表情を見せた。
静かに縁側の方へと歩いていく魅音。
障子に寄りかかると庭を見つめる。



「ここ五年の連続事件ね、私が直接関わったものもあるし、間接的に関わったものもある」



「園崎家だけじゃなく、他の御三家が関わったものもあるけど、その全ての中心にアタシがいたと思う」

「みーちゃんは、梨花ちゃんと沙都子ちゃんを殺したんだよね」



再度核心を突くレナ。



「弁解はしないよ。アタシには鬼が宿ってる」



「名前にも、身体にも、心にも」



後悔、しているのだろうか。
表情は伺えないが、そう思わせる声色と背中であった。



「だけどみーちゃんは、自分の意思で一人だけ救ったんだね」

「……」



ここで何の話か分からないほど一方通行も鈍くはない。
自分のことなのだ。



「さあて、どうして殺さなかったのかね? 鬼のアタシにゃ、検討もつかないや。魅音の方にでも殺したくない理由でもあったんじゃないの?」



一方通行はその言葉を聞いて静かに目を瞑る。
改めて自覚する。
この全ての元凶は自分なのだと。



「黄泉川は外にいるんでしょ」



「うん、たぶん……」



「逃げ場は?」



「ない……と思う」

モチロンこんなことは魅音も分かっていて聞いているのだろう。
なんと言われても魅音に変わった様子はなかった。



「じ、自主しよう、私たちも一緒に行くよ。親友を一人きりになんてさせない」



「あはは、まっことレナには勝てないわ」



「その前に、30分でいいから、進ちゃんと二人きりにして欲しい」



そう言って振り返った魅音の顔は優しかった。

今日はこの辺りで。
魅音が罪を認め、一方通行と二人きりに。
ここから物語はまた違った側面を見せていきます。

それではまた一週間以内に。
次の投下までみなさま、おやすみなさい。

みなさまこんばんわ。
今日も元気に投下していきます。

山一つを所有しているだけあって庭もちょっとした学校のグラウンド程度はゆうに超えていた。
池まである始末。おそらく鯉を勝っていて、それにエサをやる使用人がいるのだろう。



そんな広い庭を一方通行と魅音は歩く。



「腕、組んでもいいかな?」



正直魅音のことを信用しきった訳ではない。
しかし彼女はどこからどう見ても、今まで自分たちと過ごしてきた魅音そのものだった。
一連の事件。一方通行の中の魅音の像とは似ても似つかない犯人。
それが今こうして横を歩いている園崎魅音だというのか。



鬼か……。



「構わねェ」



一方通行はぶっきらぼうに短く答える。

ひしと魅音は一方通行の腕を組む。
彼に寄りかかるように体重を預ける。
見た目はヒョロヒョロの一方通行ではあるが、その程度は耐えられるようでしっかりと歩いている。
一方通行は魅音の温かみと柔らかさを感じていた。



「詩音も、進ちゃんのこと好きだったみたい」



「……そうかよ」



詩音のことは解決していない。
一方通行へ電話してきていた相手は一体誰だったのか。
やはりこの魅音だったのだろうか。



「詩音のやつは、どォしたンだ」

思い切った質問だったのかもしれない。
だが一方通行には、今の魅音は全てを話してくれるであろうという不思議な確信があった。
信頼、とでも言うのだろうか。



「まだ生きてるよ、詩音は」



一方通行の腕を掴む魅音の力がぐっと強くなる。



「……そうか」



迂闊なことは言えない。
そう判断する。



「来て。アタシの罪を全て見て欲しいから。既に起こり、終わってしまった事実だけど」

「……例え何があっても、オマエはオマエだ。俺の中で園崎魅音は変わらねェ」



「アンタもレナも、どうしてこんな時ばっかりカッコよくなるんだろうね」



そうやって笑う顔は、やはり園崎魅音だった。
しかし何か………。



何かがひっかかンだよ。

2人が歩いて行くと大きな鉄製の両扉が見えてくる。
ちょうど本館の裏、山のあたりに見えないように隠されている。



2人は扉の前で立ち止まった。



コリャ大層なモンだ。祭具殿なンかよりよっぽど秘密が眠ってンじゃねェか?詩音よ。



一方通行はこの扉の奥に、どんな状態かは分からないが、いるであろう詩音に頭の中で皮肉を言う。



「引き返すなら今だよ」



魅音は扉に手をかけると一方通行の方を振り返る。

「だからよ、どォしてこの村の連中はこうも勿体振るのが好きなンだよ。さっさと開けろ。何を見たってオマエを見限ったり、軽蔑したりなンかしねェ」



「ふ、そういえば前もそんなこと言ってたっけ。魅音がアンタを好きになったの、分かる気がするよ」



寂しそうに笑うと魅音は腕に力を込め始める。
ギギギと重々しい音を立てて扉は開いていった。
そこには階段が下へと続いている。
その階段を降りると今度は一回り小さい勝手口の様な扉。といってもコレも金属でできており簡単には開きそうにないが。



ガチャリと音を立てて扉が開かれる。



「祭具殿の中、見たよね?あの拷問道具は全て、鬼ヶ淵村の厳しい戒律を守らせるためのものだった」



中には祭具殿の時と同じ様に、用途も分からない様々な道具が整列していた。
ただ違う点は、こちらには比較的新しい血と錆の跡があることだ。

「戒律を破ったものを見せしめに惨たらしく殺して見せる、そのためのものだった」



魅音は入り口から向かって右側部屋の5分の一ほどを埋める畳のスペースに腰掛ける。



「つまるところ、ココは昔の儀式場のレプリカっつゥワケか」



「そう。ここが鑑賞席」



魅音はポンポンと畳を叩く。



「みんなここでアタシが殺した」



「アタシは綿流しを上手くやってのけた」



魅音の声色に狂気が帯びる。

やはりこの少女が……。



「奥が牢獄になってンのか?」



「そう」



「沙都子と梨花はどォした?」



「虫が沸くと嫌だったから、井戸に捨てちゃったよ。ゴメンね」



一方通行は確認を取ると奥へと歩いて行く。
やはり沙都子と梨花は手遅れだった。

奥には岩肌丸出しの縦穴があった。
そこに点々と鉄格子がはめ込まれている。



ガチャリという金属音と、かすかに感じる人の気配。
近づくとそこには見覚えのある少女が。



「詩音か?」



呼びかけられて少女はふっと視線を上げる。
薄いワンピース姿でボロボロになった少女からは恐怖が見て取れたが、一方通行を見つけるとその瞳にかすかな光が宿る。



「進……ちゃん…?」

かすかな声だった。
震えた声だった。
恐ろしかったのだろう。
自分のしたことが。自分の引き起こしたことが。
自分自身が、姉妹が。
後悔して後悔して、もう自分には幸福は許されないと覚悟したのだろう。
しかしそれは来てしまった。
一方通行という名の希望が目の前に現れてしまった。
たった14歳の小さな少女にはそれは奇跡のような出来事で、それに縋るしか無かったのだろう。



「進ちゃん!」



詩音はずるずると四つん這いではって鉄格子の側まで来る。



「進ちゃん……進ちゃん!進ちゃん!」


ガチャガチャと鉄格子を揺らす。
全くもって余裕を感じられないその姿は、酷く一方通行の心を打った。



「はっ!」



檻の中で詩音はビクリと肩を揺らす。



一方通行の後ろに魅音の姿を見たのだ。

「いやああ!!もう嫌ぁぁぁぁ!!!」



両手で耳を塞ぎ後ずさる詩音。



「アタシが憎いなら、アタシを殺してよ!!早く殺してぇぇぇ!!!」



悲痛に叫ぶ声。
きっと詩音はここでずっと聞いてきたのだろう。
親しい人が苦しむ声を。



「ひひ、そんなに死にたければ……」



後ろから魅音の声がする。

「ゆっくり殺してやるよ」



魅音の声が近づく。
詩音は相変わらず叫び続けている。



「この男を殺した後でねっ!!!」



その声とともに一方通行のすぐ後ろまで近づいていた魅音は大きな石を一方通行の後頭部目がけて振り下ろす。



一方通行は動かない。



一方通行は。

バキャッ!!!



派手な音が洞穴内に響く。
まるで岩が砕けたような音。



「なァ、俺ァ言ったよな。俺の中で園崎魅音は変わらねェってよォ」



一方通行は静かに立ち上がる。
魅音の方をギラリと見やる。
チリ一つ着かぬその姿は、現在進行形で学園都市最強を歌っていた。



能力が、解放された。



「それはつまりよォ、魅音。どンな手を使ってでもオマエを引っ張り上げるっつゥ意味だ。コッチの世界によォ!」

少し短いですが今日はこのあたりで。
ここからオリジナル要素満載で突き進んでいきますが、果たして受け入れてもらえるのでしょうか。
次回更新は一週間以内に。

それではみなさま、おやすみなさいませ。

遅くなりました皆さま。
投下していきます。

一方通行はズンっと地面を踏む。
それだけで、先ほど一方通行の頭に接触する寸前で一方通行のベクトル変換によって粉々に粉砕された石の破片が魅音の方へと飛ぶ。



しかし魅音も動じない。



魅音は懐からスタンガンを取り出すとそれを横に一線する。



スタンガン本来の使い方は密着してスイッチを入れるというものだが、何故かそれだけの動作でバチバチと火花が飛び、一方通行の放った石が吹き飛ばされる。



「あァ?」



これには少し予想外であった一方通行。
思わず声を漏らしてしまう。

ンだ?今のは。明らかに物理法則を無視してやがる。
まさかコイツ……。



「そおだ、忘れてたわ。アンタ学園都市の能力者なんだっけ」



魅音はニヤリと笑うと今度は右手に拳銃を構える。



「でもダメ。それだけじゃアタシには敵わないよ。アンタらの法則が全てじゃないってこと教えてあげるよ!!」



魅音は大きく後ろへと飛んだ。
同時に右手に構えた銃の引き金を引く。



不味い。

直感的に感じ取った一方通行は先ほどと同じように地面を蹴る。
しかし今度は小石が散るようなものではなく、一方通行の足元の地面がごっそりめくれ上がり、一方通行の盾になるような形で静止する。



ほぼ同タイミングで魅音の構えた銃口からは大きな炎が噴出される。



間一髪。
炎はぐわっと一方通行によって作られた岩を飲み込んで消し去ってしまう。



「ふーん。意外とイケるんだね進ちゃん」



感情のこもらない声で魅音は一方通行へと言葉を投げかける。

「俺もビックリだなァ、まさかこンなトコロに天然の能力者がいやがるなンてよ?」



「オカシイと思ったンだ。いくら梨花を人質に取られたからといって、あの土御門が簡単にヤられるタマかってな」



一方通行は消し炭になった地面を見やる。



「なるほどこォいう……」



「コトかっっ!!」



今度は背にした鉄格子を叩く。
ベキベキと鉄格子は独りでに壊れ剥がれ、魅音の方へと迫る。

しかし魅音はやはり動じない。
すっと銃を構えて引き金を引く。



ドドド!と、連続で火の玉が発射される。
鉄格子も先ほどの岩と同じように簡単に溶かされてしまう。



「芸がないねえ、進ちゃん」



魅音はスタンガンを一方通行の方へ向ける。



「おもしろくないよ」



バチバチバチと凄まじい音を立てて紫電が空を割く。
音速よりもなお早いスピードのそれはあっというまに一方通行の元まで到達する。

しかし一方通行の寸前であらぬ方向へと飛んで行ってしまう。



「ふうん。遠距離戦は五分五分、お互い無駄って訳か」



「じゃあ趣向を変えようじゃない!!」



スタンガンを投げ捨てた詩音は、今度はコンバットナイフを取り出す。
そのまま前に倒れるように前傾姿勢になり、クラウチングスタートのように一方通行へと突撃する。

一気に距離をつめた魅音は一方通行へと左手に握ったコンバットナイフを突き出す。
一方通行は体をひねってやすやすと突きを躱す。
攻撃を躱されて隙ができた魅音を捕まえようと腕を伸ばす一方通行。



触りさえすりゃァコッチのモンだ。一気に意識を奪い取る。



しかし魅音も突きはフェイク。
伸びきった左腕の下から銃口が覗く。



認識。
噴出。



ゴッ!と一方通行が立っていた地点が炎に包まれる。
一方通行はすんでのところで地面を蹴り上げて回避していた。

「ちっ、ちょこまかとみっともない男だね」



距離を空けられた魅音は体制を立て直す。



「俺だってこォいうのは得意じゃねェンだがな」



本来ならば。
この戦いは魅音が一方通行へと攻撃を仕掛けた時点で終了している。
なぜなら彼には絶対無敵の反射があるからだ。
自らの攻撃が跳ね返り魅音は黒焦げにされるはずである。



ではなぜ一方通行は反射を使わずに戦っているのか。
魅音の身を案じているのか、それもあるかもしれない。
自分で放った攻撃が跳ね返ってきても対処できるからか、可能性としてはなくはない。

しかしどれも正確な答えではない。



再度魅音は一方通行へと距離を詰める。
今度は半分ほど二人の距離が縮んだ所で魅音は一方通行へとナイフを投げ飛ばす。
当然一方通行は危なげなく躱す。
しかしそれだけでは終わらない。魅音はナイフを投げた左腕を一方通行が避けた方へと薙ぐ。



ナイフが方向転換をする。
ぐんっと一気に一方通行の方へと襲い来るナイフ。
一方通行はまたしても大きく距離を取ることでナイフを避ける。



「逃げ回ってばっかりだね進ちゃん?」



「……」

問題は二撃目だ。
魅音のヤツが放ったスタンガンでの攻撃。コレがどォしてもオカシイ。



再び魅音が攻撃を再開する。
一方通行はベクトル変換を駆使して攻撃を避けつつ思考を続ける。



そもそも魅音の能力には不可解な点が多い。
最初は炎を操るパイロキネシスのよォなモンかと思ったが、それだとスタンガンが説明できねェ。
ただまァ、能力がどういうモンかを初見で解読するのはほぼ不可能に近ェ、コレは大して意味がない。



魅音は左右の手から3本づつ小型のスローイングナイフを一方通行へ向かって投げ飛ばす。
一方通行は触らない。幸いながら盾になるものはそこら中にある。
壁から岩を抜き出してナイフへと当ててやる。
しかし打ち落とせたナイフは2本だけ。
残り4本のナイフは先ほどと同じように一方通行の追跡を開始する。

問題はスタンガンを俺に使った時の事だ。
魅音の攻撃はどこかへ弾け飛んで行きやがった。
"俺はスタンガンを真上に逃がすように"演算したのに、だ。



一方通行の能力、ベクトル変換とはつまり、世の中に存在するあらゆる事象のベクトルを観測し、変化させる能力に他ならない。
つまり一方通行にとって雷を曲げるという事は造作もないことなのだ。



しかし。
魅音が放った電撃は一方通行の意に反して明後日の方向へ向かってしまった。
こんなことは通常ありえないのだ。
これが表すことは一つ。



魅音の攻撃には俺が観測したことのねェベクトルが含まれてやがる。

絶対無敵の反射もアテにならない。
一方通行は反射によって守られているため、一方通行という人間自身はむしろ打たれ弱い傾向にあるのだ。
一撃でも食らえば致命傷となりかねない。



ただまァ、だから何だっつゥ話だ。



宙を舞っていたナイフの最後の一本が岩山へと刺さる。



攻撃に当たらなきゃァイイだけの話だ。



一方通行は魅音の方へと向き直る。



俺がやるコトは変わらねェ。

魅音は激しい追撃戦でバランスを崩している。



アイツに触れば終わり。



一方通行は魅音の方へと突進する。
腕を伸ばす。



コレで、終わりっ!!!



ザクっと。
はっきり音が響いた。



「……ァ?」

一方通行には状況が理解できない。
一方通行の手は魅音の頭に触れている。しかし演算が上手くできない。



なン、だ……?



ボッと、腹に熱を感じた。
見やるとそこには銀に光るモノが。



「アンタ、戦い慣れしてないでしょ」



手の下にある魅音の頭から声が発せられる。



なンだ、こりゃァ……頭がグラグラしやがる……。



「能力に頼りきりで頭を使ってないね」



歌うように言う魅音の手には短刀が握られていた。

「反……射が……」



一方通行の意識が消える前。
反射は?
という疑問が頭に浮かんだ。
これは明らかな物理攻撃。なれば自分の反射が適応されないはずはない。



一方通行の腹には、確かに短刀は"刺さっていなかった"。
しかし腹には深々と刺し傷が広がっていた。



「ただまあ、アンタと言い土御門といい、高位霊装まで使わされるハメになるとは思ってなかったけどね。よく頑張った方じゃない?って……あ?」



既にその声は一方通行へと届いていなかった。
意識を失ってぐったりとしなだれる一方通行。

「……ふっ」



魅音は虚しそうに笑いを漏らすと一方通行を投げ捨てる。
先ほどからガンガンと扉を打つ音が聞こえる。
大方レナがアタシと進ちゃんの帰りが遅いんで黄泉川を呼んだってところか。



自分も逃げる算段を取らなければ。



魅音は静かに洞窟の中で気を失っている詩音の方へと近づいていった。

窓の外を見つめる。
そこにはのどかな田園風景が広がっていた。



胸に熱いものがこみ上げる。
ぐっと瞼を閉じることでなんとかそれをやり過ごした。



あの日から2日が経過した。
進一君は結局……、助からなかった。
突入した時既に失血が酷く、病院で治療を施したにも関わらず出血が止まらなかった。
そのまま手術が終わる頃には息を引き取ったという。



詩音ちゃんは洞穴の中から気を失った状態で発見された。
療養を受けて興宮のアパートに戻って暮らしていたが、昨日突然転落死したらしい。



他のみんなは、まだ見つかっていない。
捜索は続いているけれど……。

キーンコーンカーン。



終業を伝えるチャイムが響く。



私より小さい子たちは元気に走り回っている。



窓の外にはさんさんと焼きつくような太陽がグラウンドを照らしていた。



「……私一人になっちゃったね」



竜宮レナは、最後にそう呟いた。

と、いうわけで、これにて綿流し編は幕を下ろします。
今回で少し新要素が出てきて、このとある×ひぐらしの世界観が分かっていただけたかと。

次回から祟殺し編に入っていきます。
よければまた読んでやって下さい。


それではまた一週間以内に。

みなさまそれまでおやすみなさい。

申し訳ございません。
またしても更新遅れました。

投下していきます。

「そういえば、進一君は一人暮らしだよね?ご飯ってどうしてるのかな?かな?」



ちょうど授業が4つ終わって昼休み。
生徒たちは各々持参した弁当を広げて食べ始めていた。



それは一方通行達も例外ではなく。



土御門をと一方通行を除いた女子メンバーは可愛らしい弁当を広げて箸をのばす。



土御門はみんなより一回りも二回りも大きい弁当箱を広げて我先にと中身を咀嚼していた。

一方通行はというと。



これまたいつもの光景なのだが、缶コーヒー。



静かにブラックの缶コーヒーをすすっていた。



「そういえばそうでしたわね。いつも進一さんは缶コーヒーだけでお昼をすませていますわ」



沙都子が便乗して一方通行を箸でさす。



「行儀悪ィっつゥンだよ」



一方通行は手をふらふらと振って見せる。

「俺が自炊なンてキャラに見えンか?」



なぜか胸を張る一方通行。



「育ち盛りの優良健康男子がメシを食わないとは由々しき事態だにゃー」



とてつもなく今更なのだが土御門はそう指摘する。
言っている間もコロッケを箸から離さない。



「何も食ってねェワケじゃねェよ。定期的に街に行って保存食を買いだめしてある」



「えっ、じゃあ進ちゃんいっつも冷凍食品ばっか食べてるわけ??」



目を丸くして食いついたのは魅音。

「まァそうなるな」



何か問題が?という風に一方通行は眉を吊り上げた。



「あちゃ〜」



魅音は大袈裟に額に手を当てて見せる。



「冷凍食品ばかりでは栄養が偏ってしまいますですよ」

小さな目をキラキラとさせて小動物のようにこちらを見上げるのは梨花。



……あン?こりゃ、俺は心配されてンのか?



今更ながらに気がつく一方通行。
むしろ今まで何だと思っていたのか。



「よろしいですわ」



ガタッと音を立てて椅子から立ち上がる沙都子。



「偏食家の進一さんのために、私がお夕食を作って差し上げますわ。感謝なさい?」



おーっほっほと高笑いを始める沙都子。



「みぃ、それはいいことなのです、にぱ〜」



梨花は沙都子の意見に賛成し笑顔を輝かせる。



まァ、別に構うことたァねェか。



かくして、本日の一方通行の夕食は久方ぶりに人の手料理に決定した。

本当に短いですが今日はここまで。
次回更新までにはなんとか書き溜めを増やしたいと思います。

それではまた一週間!一週間以内に!

みなさんこんばんわ。
投下していきます。


お疲れさま会ですが、何を書こうか悩んでしまって前回はなしということにしました。
もし書き足したいことがあればやっていくという感じになりますかね。


それでは投下していきます。

その日の夜。
一方通行が雛見沢に一人暮らししている、1人で住むにしてはやたらと広い家では着々と夕食の準備が進んでいた。



「オマエいい加減にしやがれ!!」



元気に怒号が飛び交っている。



一方通行は飛ばされた皿の一枚を能力を使用してなんとかキャッチすると、続けて飛んでくる鮭の切り身をベクトル変換し沙都子が火にかけるフライパンへと飛ばす。

しかし攻撃は終わらない。



一方通行が油断した隙にペットボトル入りの水が飛んできた。
蓋の空い状態で。



バシャッ!と音を立てるとあっという間に一方通行は水浸しになる。



「にゃはははー!甘いぜ鈴科!戦闘中に敵以外に意識を向けるとは何事かにゃー?」



水が飛んできた方向から金髪グラサンアロハシャツの悪魔の声が聞こえる。

「………………………はァ」



しばしの沈黙の上一方通行はどっかりとリビングのテーブルに腰を下ろした。



クソッタレ。沙都子と梨花が来るってこたァコイツも来るってコトを忘れてた。



「いい加減にして下さいませ!お料理の邪魔ですわ!」



暴れ回る一方通行と土御門に叱責を浴びせる沙都子。

「ったく。オマエのせいで沙都子に怒られちまったじゃねェか」



「ノリノリだったくせに自分だけ責任逃れかにゃー?」



机に座り直した一方通行は愚痴をこぼす。



「アホか。ココは俺んちだぞ。ノリノリなワケねェだろォが。せっかく来てくれた沙都子を怒らせちまってるしな」



「沙都子は怒ってなどいないのですよ」



「あン?」

一方通行の言葉に梨花が反応した。



「オマエさっきの仏頂面が怒ってねェって言うンかよ?」



「はいです」



梨花の顔はあくまで楽しそうだ。



「沙都子はすごく楽しそうにしていますです。まるで悟史が居た頃のように」



「悟史……?」



「さあ、みなさん配膳を手伝って下さいませ?」

一方通行が聞き慣れない名前に反応しようとしたところに沙都子から声がかかった。
どうやら夕飯の準備が出来たらしく、台所からは湯気とともに良い匂いが立ち込めている。



三人は空腹もあっておとなしく指示に従っていった。



「人の家で食っても美味い!沙都子の料理は最高だぜい!」



「飯食ってる時ぐらい静かにできねェのかよオマエは」



まあいつものことではあるのだが。
土御門という男から元気を抜けば何も残らないような気がする。

「そンで?悟史っつゥのは誰なンだ?」



一方通行は鯖を突きながら先ほどの会話を思い出す。



「それは私のにぃ……兄のことですわ」



「沙都子に兄貴がいたンか」



「おいおい待つぜよ。兄貴ならココにもいるぜい?」



土御門は胸を張って鼻を鳴らす。

「ンで?悟史っつゥのは雛見沢にはいねェのか」



一方通行は取り合わない。



「そうですわね。もう一年も前のことになりますわ。あんなに生活力のない人に家出なんて甲斐性があるとは思いませんでしたわ」



沙都子はどこか遠い顔をしながらそう言って微笑んだ。



「家出ねェ……」



「もう昔のことですわ」

一方通行が難しい顔をしたのに気付いたのか、沙都子はそう言って笑った。



「今じゃあ自慢の我が妹たちですたい!」



そう言って沙都子と梨花を撫でる土御門。
梨花と沙都子は照れ隠しか多少の抵抗を見せていたが、その顔は嬉しそうなものだった。



「今日はありがとォよ」



玄関先で一方通行は軽く挨拶をする。
社交辞令というわけではなく本当に感謝をしていた。

「この程度でしたらお安い御用ですわ」



沙都子は優しく笑った。



「それじゃあ、また明日ぜよ」



「おやすみなさいですわ」



沙都子と土御門はそう言うと自転車を走らせる。



沙都子と土御門を追おうとペダルに足をかけた梨花だったが、ふと思い出したように一方通行の方を振り返る。

「進一、今日はありがとうございましたです。また今日みたいにみんなでお食事ができれば僕は嬉しいのです」



「そンなモンいつだってできンだろ?」



一方通行はぶっきらぼうに言い返した。



梨花は最後に少し大人びた笑みを残すと沙都子と土御門を追って帰っていった。

と、いうわけで今回は沙都子たちとの食事シーン。
悟史が出てくるわけですね。

次回投下は遅れずにできればいいな……(遠い目)


それではみなさままた次回まで、おやすみなさいませ。

さあ。
投下します。
二週間もほったらかしにして大変申し訳ないです。

翌日の正午。
一方通行は空を飛んでいた。



ギラギラと照りつける太陽の光も、田舎特有の殺人級の傾斜を誇る坂道も一方通行の前では意味をなさない。



能力を使用し日光を反射、背中に複数本の竜巻を接続して空中を滑空する一方通行には。



しばらくして一方通行は目的地を捕捉する。



「あはっ」



軽快に楽しそうに笑うと一方通行はその地点に向かって一直線に降下した。

地面が割れるような音を立てる。



「さァて、俺とヤりあおうって馬鹿はドコのドイツだ?」



「えっ、進ちゃん……何してんの?」



意気揚々と啖呵をきった一方通行だったが、彼を取り囲むのはぽかんと口を開けた野球少年達と、顔を抑えて呆れているよく知った部活メンバーだった。

パキーン!



心地よい音を立てて白球が弧を描く。



バッターボックスからだっと駆け出したのは沙都子。
危なげなく塁に出た。



ことの顛末は簡単だった。
一方通行は携帯電話の着信音で目を覚ました。
電話に出てみると街で部活メンバーが危機に晒されているという。



その一報を聞いた一方通行はすぐさま家を飛び出して文字通り音速で指定されたばしょまで飛んできたのだが。



危機というのは野球の危機だったらしい。

むっつりとした顔で頬杖をつく一方通行はベンチに黙って座っている。



一方通行はグラウンドをえぐって着地した罰として結局ゲームには参加させてもらえなかったのだ。



まァ、かったりィ子供の遊びをさせられるよりァマシか。



そんなことを考えつつゲームを見ている一方通行だったが、これが強がりであることは言うまでもない。

書き溜めがなくなってきたのでこの辺りで。
短いですね。精進します。

さあ!頑張って次からも更新していきますよ。

いやあ一ヶ月以上間が空いてしまいましたね。
投下していきます。

「それにしても沙都子のヤツァ運動神経イインだな」



「本当に沙都子ちゃんはいつも頼りになりますねえ!」



ずいっと一方通行を押しやりながらベンチに相席してくる男性。



「……」



一方通行はギロリと睨みを効かせることにしたようだ。



「あ、あはは、結構怖い顔するんですねぇ……いやいや、すみません、あなたが噂の進一君ですよね?」



「ったく……普通に話しかけろっつーの」



悪態を吐く一方通行。

「ンで?アンタは?」



「これはこれは申し遅れました。私は雛見沢で診療所を営んでおります入江と申します。みなさんは監督って呼んでますがね。良ければ進一君もそう呼んでくれると嬉しいです」



「ふーン。ンで?その"入江さン"は一体何の要なンだ?」



「もー、いつもイヤミばっかりなんですから進ちゃんは」



ベンチの後ろから声がかかる。
そちらを振り返ってみると。

「……オマエか。……詩音」



一方通行は頭に手を当てて項垂れる。



「あれれー?何ですかその反応は?まるで逢いたくない人に会ったような」



詩音はベンチの背もたれに手を置くと一方通行の顔を横から覗き込む。
ベンチにたわわな胸がのしかかる。



「その通りだっつゥの」



「いやーん!なんてこと言うんですかこんな美少女にー!」



一方通行は小さな声で呟いたがどうやら詩音にはしっかりと聞こえていたようだ。
一方通行の頭を後ろから抱きついてかかる。
ぐにゅっと後頭部に感覚が広がる。

「だから……そォいうトコだっつゥの!」



一方通行は電極のスイッチを入れると反射で詩音を軽く弾き飛ばした。



「あははは、ずいぶん仲が良いんですねぇ」



入江は笑いながら二人の様子を見守っていた。



「ったく……そもそも何でオマエがココに居ンだ?」



「そりゃあ当たり前じゃないですか。私は雛見沢ファイターズのマネージャーなんですから」



「オイオイマジかよ。もう一生野球なンてしねェ」

「また前のように詩音さんも試合に来てくださいよ。そうすればチームに花が戻ります」



入江はそう言ってにこやかに笑った。



カキン!とまたしても乾いた音が響く。



グラウンドを見やるとそこにはにゃーっと叫びながら塁間を疾走する土御門の姿があった。



「アイツ子供相手にも容赦ねェンかよ」



一方通行は呆れた様子だ。

「彼もすっかり今ではこのチームの主力ですねぇ。悟史君とは大違いですね」



「あン?」



入江の何気ない一言に一方通行がピクリと反応する。



「悟史のコト、知ってンのか?」



「ええもちろん。悟史君も雛見沢ファイターズの元メンバーですから」



「あまり運動は得意ではないようでしたけどね」



入江は昔を懐かしむように笑った。
そんな入江を見て一方通行は、うまく言い表せない奇妙な思いになった。

「進ちゃん、コレで最後ですよ」



「オウ」



詩音は一方通行へと鉄板を差し出す。



一方通行はものの2、3秒で鉄板をピカピカに磨き上げた。



試合の後に打ち上げのような形でバーベキューが行われた。
一方通行達年長組はその後片付けを任されたというわけだ。



夕日に透き通って見える一方通行の白い姿に詩音は少しはっとさせられた。

「そ、それにしても凄いですね、進ちゃんの能力っ!」



見とれたことを誤魔化すようにワタワタと詩音は話しかける。



「……別に大した事ァねェよ」



一方通行は特に気にしない様子で立ち上がった。



「なァ、悟史ってなァどンなヤツだったンだ?」



「んー、悟史君ですか?」



「そうですねえ、土御門君よりはどちらかというと、進ちゃんみたいなタイプでしたね」

「?」



イマイチ要領を得ない一方通行。



「あーでも、性格は全然進ちゃんとは違うかもしれませんね!」



「結局何なンだよ……」



詩音は上機嫌でグラウンドの方へ戻って行ってしまった。



ま、イイヤツだったンだろォな。



悟史の話をする時の詩音の顔。
その笑顔を思い浮かべて一方通行はそう結論した。

時刻は深夜2時を回っていた。
山奥の変電施設に少年が1人と地面に倒れた男が2人。



「………」



少年は倒れている男の片方へと近づくと、首元に指を立てた。



「………口封じか」



思わずボソリと呟く。



あまりにも露骨だ。尋問対策としてはこの上ない効果だが、こうもあっさり部下を見殺しにするとは。



「一体黒幕は誰なんだ」



それだけ言い残すと少年、土御門元春は静かにその場所を立ち去った。

ということで今回はここまで。
とあるの新約14巻を読みましたが、やはりおもしろいですね。
我らが一方通行はいつになれば出てくるのでしょう。

次回更新がなるべく早くできるように祈りつつ。
それではこのあたりで。

いやーすっかり年末になってしまいましたね。
また一月以上放置してしまいました。
今回はお詫びとして本編では起こりえないノープランのクリスマス、およびお正月の話をやっていきたいと思います。

「……い、…きろ」



「起きやがれクソ女!」



ドスッと鈍い音が響く。



「んぁ?……なんだじゃん……?」



興宮警察署に勤務する刑事、黄泉川愛穂は怒号と腰あたりに受けた衝撃、および落下により目を覚ました。



「なンだはこっちのセリフですよォ黄泉川さァン?」



自分の上方から声がする。



「あぁ、なんだお前か、進一。おはようじゃん」



地面にうつぶせになっていた黄泉川が顔を上げるとそこにはよく知った白い少年、鈴科進一が腕を組んでたたずんでいた。



「なンだじゃねェだろォがなンだじゃ。ココは俺ンちだって何度言やァ分かンだオマエは」



鈴科進一。という偽名を使って雛見沢で暮らす少年一方通行は頭を掻きながらキッチンの方へ歩いていってしまった。



しばらくすると良い匂いが立ち込めてくる。



両手に皿とマグカップを抱えた一方通行はリビングに戻ってくると、未だ床につっぷして寝ている黄泉川愛穂をつま先ですこし蹴飛ばした。



すると黄泉川はふわりと一度中に浮きストンと綺麗にテーブルとセットになっているイスに着地した。

一方通行は皿とカップを静かに配膳する。



「オイ、いい加減起きやがれ呑んだくれデカ。飯だ」



黄泉川が再び目を開けると目の前には2人分の朝食の用意が広がっていた。



「あン?何笑ってやがンだテメェ」



一方通行は何かに気づいた様子で黄泉川の方を見る。



「ふふっ、別に何でもないじゃん!」



笑みがこぼれてしまっていたか。
黄泉川はその顔を隠そうともせずそう思った。

あのそっけなかった少年がここまでになるとはじゃん……。



「だから何見てやがンだよ」



黄泉川の視線を感じた一方通行は再び黄泉川を睨む。



まぁ、態度は相変わらずだけど。
黄泉川の顔は再びほころぶ。



「あァ、そういやァオマエはバターはダメだったな。待ってろ、マーガリンを取ってきてやる」



すっと席を立つとキッチンの方へ消えていく一方通行。
自分がバターを食べられないと言ったのはいつのことだったか。
自分自身でも覚えていない些細なことを彼はしっかりと覚えていたようだ。



変わったんじゃないのかもな。元々コイツはそういう奴だったのかもしれないじゃん。



「だから何なンだよそのニタニタ顔はよ。気味悪くなってきたぜ……」



訝しげな顔をしてイスに座る一方通行。
手にしたマーガリンを開くとさっと黄泉川の前に置かれた食パンに綺麗に塗り広げる。



ふふっ、きっとそうじゃん。



そんな一方通行を見てやはり顔を緩めてしまう黄泉川愛穂なのであった。

ひとまずオープニングということで。
また夜頃に続きを書きにきます。
それでは。

亀更新ですが投下していきます。

「クリスマスパーティだァ?」



緩やかに時間の流れる冬の午後。
12月ともなれば豪雪地帯である雛見沢は町一面が雪景色と化す。
各家々から雪かきをするために男女様々な人影がスコップを手に出てくる中、一方通行は能力を使用して自分の家と加えて周囲一帯の家の雪を吹き飛ばし終わり、今はコーヒーを片手にすっくりと時間を楽しんでいた。



「そう。お前だってクリスマス知らないわけじゃないじゃん?」



サクッと子君良い音を立てて綺麗に切り分けられたリンゴにフォークを差し込む黄泉川。
その表情はいかにそれが自然な行為かを物語るように冷静であった。



「なンで俺がそンなこと……めンどくせェ……」



対面する一方通行の顔は晴れない。

「だってお前んちが一番広いじゃん。それに、そうじゃなくともあの子達はパーティーくらいすると思うけど?」



「……」



しばしの沈黙がその場を支配した。



「ったく……しゃあねェな……」



「お前あの子達が関わると本当に甘いじゃん」



がこっ!と、鈍い音が響いた。



一方通行のチョップが黄泉川の脳天をめがけて落下したのだ。
しかしここは流石刑事と言うべきか。
黄泉川はしっかりと右腕で一方通行のチョップを防いでいた。
その下からは黄泉川の顔がニヤリと覗いている。



「チッ……ったく……」



小さく舌打ちをした一方通行は席に座りなおす。



「ンで?結局俺ァ何をすりゃァイインだ?」



「それはモチロンお前がみんなをパーティーに誘うんじゃん!」



むふふと言わんばかりに黄泉川は身を乗り出して顔を輝かせる。
机の上に乗った豊満な胸が切り分けられたリンゴ達に迫る。



「何で俺が?コッチは家を貸すンだからオマエで準備はしやがれよ」



「わーかってないなーお前はー!鈴科進一主催のパーティーだから意味があるんじゃん!」



「ワケ分かんねェ……」



そんなわけで。彼一方通行はみんなの家を回ってパーティーの勧誘をするハメになった。

みなさまあけましておめでとうございます。
もう2月も終わりに差し掛かってしまいましたね。
少しバタバタしておりまして、更新が出来ずにいましたが、やっと落ち着いてきたので生存報告です。
まだまだ長くかかるでしょうが、この作品は完結させる所存ですので。
よろしければお付き合い頂けると幸いです。
現在遅筆ながら書き溜めをしておりますので、更新再開までもうしばらくお待ちください。

皆様お久しぶりです。
すっかり季節も変わり春になりましたね。
新生活が始まった方が多いと思われます。御調子はいかがでしょうか。

まだこのスレではクリスマスイベントが進行中でございますので、季節感はすっかり無視ではありますが、投下していきたいと思います。

「はーい、ちょっと待ってねお父さん!」



元気よく返事をすると屋根裏から緑の物体を抱えて階段を降りて来る少女。



竜宮レナは我が家のクリスマスの準備をしていた。



「よっ……と」



リビングの隅にツリーを設置すると電飾の飾り付けに取り掛かる。
段ボールに詰められた電飾を一つ一つ丁寧に位置を考えながらツリーに取り付けていく。



その姿はなんとなくだが子を育てる母親の姿を連想させた。



どことなくツリーが照れているように見えなくもない。

「これでよしっと!」



最後に星の飾りをツリーの頂上に設置するとレナは満足気に微笑んだ。



「レナー、お客さんだよー」



「はーい」



玄関から聞こえてくる父の声に反応して反射的に返事をすると、ぱたぱたとスリッパの音を立てながら玄関の方へ向かうレナ。



こんな時間に私にお客さんなんて、誰かな、誰かな?サンタさんかな?



「よォ」



ガチャっとレナが扉を開けるとそこにはよく知った白い少年が立っていた。

「進一君!おはよ~。どうしたの?宿題でも分からなくなった?」



「アホか。分からなくなるのはいつもオマエの方だろォが」



「えへへ、そうだね」



レナは外が寒いからか、さっきの言葉の照れ隠しか、はたまた別の理由からか。
顔を赤くした。



「あ、こんなとこじゃ何だし上がってよ」



そう言ってレナは玄関のドアをあけ放つ。



「いや、構わねェよ。まだ行く所もあるンでな」



「あ、そうなんだ……?それで、どうしたのかな?かな?」

「いや、……実はよ」



突然言い淀む一方通行。



?どうしたのかな進一君……わざわざクリスマスイブに……。



そんな様子を見たレナは不思議そうに首をかしげた。



はっ!!!!!



「……?」



一方通行はふいに周囲の気温が上がった気がした。



「そそそそ、それで!どうしたのかな!?かな!?」



いつになくたどたどしい様子のレナ。

一体何だってンだ?



「いや、実はよ……」



「う、うん」



ゴクリと喉を鳴らすレナ。



「今日はクリスマスイブだろ?」



「そ、そ、そうだね」



徐々に赤くなっていくレナ。
外に出ているから寒いのかもしれないと一方通行は考えていた。

「実はウチでパーティーをすることになったンだよ。面倒くせェがな」



「よろこんで!……っえ?」



「あン?何がだ?」



脈絡のない返事が返ってきて眉を釣り上げる一方通行。
一方見当違いの話でより一層顔を赤くするレナ。



「い、いやいやいや!なんでもないよ!そ、それで、もしかしてそのパーティーにレナも行っていいってことなのかな!?かな!?」



「?……おォ、そうだけどよ」



一方通行は勢いに驚くが、レナは取り繕うのに必死だ。

「じゃあ、私準備ができたら進一君の家に行くね!それじゃ!」



バタン!とドアが閉められる。



あァ?なンだこりゃ……。俺なンか悪いコトしたンか……?



「分かンねェ……」



一人首を捻る一方通行だった。



「レナ、話は何だったんだい?」



レナが家へと戻ると昼食の支度を始めていた父が顔をのぞかせた。

「後で進一君の家に行くことになった、パーティーをするんだって」



「そうなのか、よかったじゃないか!……あれ?あんまり嬉しそうじゃないな?」



「えへ、いいのお父さん、気にしないで」



スタスタと自分の部屋へと向かうレナ。



クリスマスイブに一人で訪ねて来たらそういうことかと思っちゃうよ!



「はぁ、恥ずかしいなぁ」



とは言いつつも、何を着て行こうかしっかり考え始めるレナであった。

と、いうわけで、本日はこの辺りまで。
少しずつ動き出したクリスマスパーティー。
ここからはゲスト達の勧誘の様子を紹介していきたいと思っております。
次回は例の姉妹の登場です。

それではまた次の投下まで。
おやすみなさいませ。

さあみなさまおひさしぶりです。
徐々に更新ペースを上げていきたい所存であります。
それでは投下していきます。

「いつ来ても広ェ家だな……」



続いて一方通行はパーティー招待者の2人目、園崎魅音の邸宅の前に佇んでいた。



観音開きになっている門は一方通行2人分はあろうかという高さを持ち、その外観からだけでも奥ゆかしい日本庭園を想像させた。

そんな門の勝手口に立つ。
一方通行が呼び出し用のチャイムを押そうとしたその瞬間。



「あーーー!進ちゃんじゃないですか!」



後ろから聞き覚えのある声がかかった。



「……詩音か」



「おひさしぶりです!」



シュタッと敬礼を決める魅音と瓜二つの少女。双子の妹である園崎詩音であった。

「ったく……めんどくせェのにつかまっちまった……」



一方通行は頭を掻く。



「なんですかー?その言い草は!」



詩音は頬を膨らませてみせた。



「ところでお姉に何か用なんですか?あ!もしかしてクリスマスデートですか!?」



「ンなワケねェだろ」



ほぼ即答でツッコミをいれる一方通行。

「えぇー!お姉だけズルくありませんか!私だって進ちゃんとデートしたいです!」



「オイ!人の話聞きやがれコイツは!」



「あ、じゃあちょうどいいんで3人で遊びに行きましょうよ!お姉ー!」



マイペースに話を展開すると、詩音はインターホンを鳴らして声を上げた。



「進ちゃんが来てますよー!」

その途端、扉の向こうからドタドタと音がする。
ダダダダっと足音が聞こえるとバタ!っと物凄い勢いで勝手口の扉が開け放たれた。



「どーして詩音と進ちゃんが一緒にいるの!」



血相を変えて魅音が叫ぶ。



「……そろそろ飽きれてきたぞオイ」



一方通行はどうどでもなれと思い始めた。
どの道今日は朝から黄泉川が侵入していたりと普通ではないのだ。



「今から進ちゃんとデートなんです。お姉も一緒に行きますか?」



ケロっとした顔の詩音。

「なっ……」



しばし言葉を失った魅音。
俯いてプルプルと震え始める。



「お、オイみお……」



「あ、姉としての監視責任があるからね!進ちゃんとデートしたいんじゃなくて、そう!これはそう!詩音が変なことしないか監視するためについていくだけだから!!」



意を決して魅音は叫んだ。
自分に言い聞かせた。

「じゃあ決まりですね!早速向かいましょう!葛西!」



詩音が声をかけるとどこからともなく車がやってくる。
こうして一方通行に街でデート(?)の予定が追加された。

短いですが今日はこの辺りで。
また次回更新時にお会いしましょう。
それではみなさま、おやすみなさいませ

おはようございます。
梅雨が近ずいて私の地方では雨が続きますがみなさんはどうでしょうか。
それでは投下していきます。

「ほらほら進ちゃん、そんなに縮こまってないでこっちにもっと来てくださいよ!」



「あー!だっ、ダメだかんね!進ちゃんは必要以上に詩音にくっつかないこと!」



「オマエらなァ!この状態からどっちに寄るとかねェだろォが!!!いい加減に腕離しやがれ!」



場面は変わってここは車内。
詩音の呼びかけにより車が雛見沢を出発してからまだおおよそ3分ほどしか経っておらず、外の景色は未だに山中真っ最中である。
気をぬくと鹿や猪が飛び出して来そうなぐらいだ。
まだ舗装された道路にさえ到達していない。

それだというのに一方通行は早くも脅威に晒されていた。



黒塗りの見るからに高級車のこれまた黒いもちろん本革の後部座席に座るのは、一方通行、詩音、魅音の三人。
前から見て左から詩音、一方通行、魅音の順である。
そして現在進行形で一方通行は二人に片腕ずつを引っ張られていた。
具体的には肘が柔らかい母性の塊に埋まる形で引き寄せられていた。



「あー!詩音アンタ今引っ張ったでしょ!」



「そういうお姉だってそうじゃないですか!」



「だーっ!寄ってくるンじゃねェっ!!!」

訂正しよう。より正確には一方通行の腕が引かれているというよりは、詩音と魅音の二人がそれぞれ一方通行の腕に抱きついているのだった。
もちろん体重は自ずと一方通行の方へ傾くこととなる。
つまり現在一方通行は左右両方から程よく筋肉のついた若い脂肪の壁で押しつぶされようとしているのだった。



足や腰も徐々に密着を始める。



なンだ?俺はわざわざ学園都市第1位まで登り詰めといて死因は圧死だってェのか??



そんなことを考えつつ一方通行は自嘲気味な笑みを浮かべていた。



再三訂正しよう。



これはもはや脅威ではない。
完全なるご褒美状態であった。
まさに両手に花、それも姉妹丼ときている。



しかしそれをどう感じるかは本人次第なのであった……。

「それじゃあこうしましょう!」



パッと胸の前で手を合わせると詩音はそう声を上げた。



あれから高級車に15分ほど揺られ、強制膝枕や両側から肩にもたれかかられたり、終いには上に座られたりと様々な攻撃を受けボロボロの状態ではあるが、一方通行はなんとか興宮にたどり着いた。



「どっちが進ちゃんを満足させられるかデート勝負をしましょう!」



ニコニコ笑顔で詩音はそんなことを言う。

「うぇえ!?そ、そんなの聞いてないって!それに第一、アタシは見張りとしているだけでっ……」



「そーですか?じゃあお姉は私と進ちゃんのデートを後ろから葛西と一緒に眺める係りですね?」



「ううう……わーかった!やるよ!やればいいんでしょ!!」



「そーこなくっちゃあ!」



何処かで。具体的にはつい15分ほど前に園崎家の正門前で見たのと同じようなやり取りが繰り広げられる。

一方通行は上空を見上げた。



あァ……どンどン面倒臭ェコトになりやがる……。



その姿はまるで見えない上空の神を睨みつけるかのようであった。



「と、いうことでまずはエンジェルモートに来ていただきました!」



「まずは腹ごしらえってことか。それは悪くねェ」

時刻は確かにお昼時である。
一方通行も流石に彼女たちのと付き合いが長い。
言い出せば聞かない事を理解してすでに観念した様子だった。



「ふ、ふんっ!ただのファミレスでしょ!ありきたりじゃない!」



腕を組んで鼻を鳴らすのは魅音だ。



「まーまーお姉。た・だ・の、ファミレスかどうかはこのあとのお楽しみって事で。それじゃあ私はちょっと準備がありますので。」



シュタッと敬礼をかますと厨房の方へと消えていく詩音。

残された一方通行と魅音は机を挟んで対面に座っていた。
じっと二人の視線が真正面からぶつかる。



アン?何だコイツ。やけにジロジロ見てきやがる。



一方通行は視線を外すが魅音の目はじーーーーーーっと一方通行を捉えたまま話さない。
穴が空くほど見つめられるというのを実体験している一方通行としては非常に居心地が悪いわけだが。



「オイ」



「っ、な、なに、進ちゃん」

「何ジロジロ見てンだ」



「っ!べべべ、別に見てなんか……」



そう言いつつも魅音は視線を外さない。



チッ、こりゃァ気にするだけ無駄だな。



……進ちゃんが、詩音とデート。



詩音と……デート……。



デート……。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーー
ーー

「進一君!ごめんなさい、待ちましたか?」



「いや、ンなコトねェよ。時間ぴったりじゃねェか」



ここは興宮駅の前に広がる噴水広場だ。
バスのロータリーがぐるっと囲む形の噴水広場は連日恋人たちの待ち合わせ場所となっている。



「それじゃあ行きましょうか!」



元気よくそう言うといつも通り詩音は歩きだした。
手を後ろに回して腰のあたりで組むのは彼女のくせである。
後ろに立つ一方通行からは揺れるポニーテールが見えた。まるで彼女の心情を表すかのように上下に揺れている。

「オイ」



声がしたかと思うと振り向く間もないうちに詩音はグイッと後ろに引っ張られる。



すとっと背中に感じるぬくもりは慣れたものであり、嗅ぎ慣れた柔軟剤の香りが彼女の鼻をくすぐった。



「……手、忘れてンぞ」



視線を合わせようとしない一方通行であったが、その左手にはしっかりと詩音の右手が握られていた。

「ふふふっ、そうですね、ごめんね、進ちゃんっ」



そのまま二人は熱いベーぜを…………



「そんなの絶対嫌ーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!」



ハッと我に帰ると戻ってきた詩音と向かいに座る一方通行が、急に大声を上げた魅音へとぎょっとした視線を向けているところであった。



「えっと……お姉、何がですか?」



「えっ!?い、いや!?なんでもない、なんでもない!はははは!!」



言えるわけがなかろう。
乙女心の暴走により己が妹と目の前の少年のデートシーンを、さらに言えばキスシーンを想像してしまったことなど。
もっと言ってしまえば自分と瓜二つの妹ゆえそのシーンがそっくりそのまま自分に当てはまっている、いや、当てはめたいという願望がある……か、どうかまでは正直魅音本人にも分からないところであった。

ということで本日はこの辺りで。
もうすぐこのスレを始めて一年が経とうとしていますね。
時の流れは早いものです。
どれがけかかるか分かりませんがこのssを書ききるつもりですので、楽しんでいただける方がいらっしゃいましたらお付き合いください。
それでは次回更新まで、おやすみなさい。

乙です

おひさしぶりです。
もうすぐ夏ですね。ひぐらしの季節が近づいております。
夏本番には本編に戻れるように張り切って投下していきます。
>>560〜562
いつもありがとうございます。
これからも地道に続けていきますゆえ、お楽しみいただけたら幸いです。

「と、とにかく気を取り直して、ジャジャーン!」



詩音は強引に話を戻すと手を大きく広げてポーズを取る。



「エンジェルモートの制服に着替えてきました!どうですか、進ちゃん!」



「どうって……」



自慢するように制服姿を堂々と披露する詩音。
きわどい制服ゆえに一方通行は目のやり場に困り頭を掻いた。



「まァ、似合っちゃァいるがよ、いつものバイトン時と同じだろォが」

「っ!」



一方通行が少しでも詩音を褒めたことにムッとする魅音。
しかし彼本人は知る由もない様子だが。



「そうですよね、このままじゃあそこまで特別じゃないですよね。だ!か!ら!」



一緒に持ってきていた料理をテーブルの上に並べると一方通行の横にずいっと座り込む詩音。



「私が料理を食べさせてあげます!はい、あ〜〜ん」



親子やカップル、親しい特別な間柄で使い古されたその擬音とともに一方通行の前にフォークに刺さったチキンが差し出される。

「何でそォなンだよ!!コレじゃァ罰ゲームじゃねェか!」



ドンっ!とテーブルを叩いて抗議する一方通行。



「何言ってるんですか進ちゃん!こんなのもしウチの常連さんなら泣いて喜ぶサービスですよ!」



「そもそもソイツらと俺を同列にすンじゃねェ!」



「そーですか!食べてくれないっていうんならこっちにも考えがあります!えいっ!」



「ふあっ!?」



むぎゅ!っと柔らかい擬音がテーブルに響いた気がした。

「ちょちょちょ、アンタ何してんの詩音!」



「ふっふーん、このままお姉がどうなってもいいんですかー?うら若き乙女が陵辱されちゃいますよ〜?」



さあ、状況を説明しよう。



あーんを頑なに拒む一方通行。
詩音は一方通行に対して対策を講じるといいフォークを持っていない方の手をスッと前に伸ばしたのだ。
そしてそのまま鷲掴みにした。
向かいに座る姉である魅音の胸を。



「ほれほれほれ〜〜」



「あっ!いやっ!……やめっ//」



容赦なく魅音の胸を揉みしだく詩音。

一方通行はというと呆れかえっていた。状況が全く理解できない。
いったいここはどういった地獄だ???



「はぁ……」



「わかったわかった、あーんでも何でもしやがれよ。クソッタレ」



大きくため息をついた一方通行は若干の諦めとともに両手を大きく広げ、降参のポーズを取ったのであった。



「はい、あーん、です」



「……」



不貞腐れながらも差し出された料理を咀嚼する一方通行。

「どうですか進ちゃん、美味しいですか?このハンバーグも私が作ったんですよ。コツはできるだけひき肉を冷やして作ることですかね!」



「まァ、悪くはねェな」



聞いてもいないウンチクを述べられながらハンバーグを飲み込んだ一方通行は小さくそう呟いた。



「ふふふ、そうでしょう?お姉にはこんな料理はできないでしょうからね〜」



チラリと魅音の方を見やると詩音はそんな嫌味をこぼす。



「っ!」

魅音はというと完全に詩音に対して敵対意識剥き出しである。



「……ンなこたァねェよ。魅音だって料理はできるだろ」



「えっ」



一方通行の言葉に驚いて声を上げたのは魅音の方だった。



「たまにウチに来て飯を作ってくれンだけどよ。なかなかにイケてる。中学生とは思えねェ料理を作りやがる」



みるみるうちに魅音の顔が真っ赤になっていく。
対して詩音はというとクスリと笑うと

「意外ですね、お姉がそんなにお料理上手になってるなんて!それじゃあ私も頑張らないとですね!」



そう言って魅音へパチリとウインクをした。



「さあ次はどこに行きましょうか!」



そうこうして昼食を終えた一同はエンジェルモートから出ると次の目的地を探していた。



「それじゃあお姉、次はお姉の番ですよ」



「ええ、何がどういうこと?」



詩音の言葉に少々混乱した様子を見せる魅音。

「ほらほら言ったじゃないですか、これはデート対決ですよ、次はお姉がアピールする番です」



詩音はさも楽しそうに一方通行と腕を組むと魅音にそう言い放った。



「待ってよ!なんでアタシの番なのに詩音が腕組んでるのさ!はいはい離れる離れる!」



魅音はぐっと一方通行と詩音の間に割って入ると、今度は自分が一方通行と腕を組む。



「そ、それじゃあ行くよ!」



威勢良く一方通行と腕を組んで歩き出す魅音であったが、その様子にはやはり抑えきれない緊張が見て取れるのであった……。

「映画ねェ……」



「何進ちゃん、気に食わなかった?」



「いや、ンなコトねェけどよ……」



オイオイ、コイツ俺にまで噛み付いてきやがるぞ……。



かくして魅音が続いてのデートスポットに選んだのは映画館である。鼻息荒くチケットを買いに行った魅音であるが、一方通行には魅音がどうやら詩音への対抗心のみで動いてるように思えてならない。



「進ちゃんも大変ですねぇ、お姉に振り回されて」

「振り回してるのはどっちかっつゥとオマエの方だけどな」



「嫌ですか?」



「……面倒臭ェ」



「ふふふ、素直じゃないですね、ホント」



詩音は一方通行をからかって笑う。



「いい加減慣れちまってるっつゥの……」



ぼそっと一方通行は呟いた。

魅音がチケットを購入し終わり戻ってくると、ざっ!と一方通行の前にチケットを差し出した。



「よし!行くよ進ちゃん!」



「……リング ザ・ラストテープねェ……」



そこには映画館でひときわ大きなポスターの貼ってある新作ホラー映画のタイトルが。
ただしポスターを見る限りでは銃器を携えた軍隊が髪の長い幽霊の軍団と戦闘している様子。
果たしてこれはホラー映画なのだろうか……?



一方通行はため息をつきながら魅音に続いて劇場へと入っていった。



「イヤァァァァァーーーーーーッ!!!」



それから一時間ほど経ったであろうか。
劇場内ではガラスさえ割れそうなほどの最上級の悲鳴がスクリーンから木霊していた。
そう、スクリーンから。

「……………」



うって変わって劇場内はシン……と静まり返っている。



「い、いやあ〜、怖い〜〜」



違う意味で声を震わせながらピトッと一方通行にくっつく魅音。



「ったく……テレビCM視聴者に媚び媚びのキャスティング、中身もクソもねェ"何が怖いのか"をこれっぽっちも理解しねェ脚本。オマケにどこの層を狙ってか前編特撮映像と来たもンだ」



「こンなモンを天下の園崎魅音が怖がるはずねェだろ」

「ひぇっ!?」



そう言うと一方通行は魅音の腕をガシッと両手で押さえ、隣同士の席から対面するように体を向けた。



「いい加減にしよォぜ魅音。詩音の挑発に乗ってやってンのかマジで悔しいのかは知らねェが、オマエが空回りしてンのは分かる。別にいつも通りでいいじゃねェか」



「え……う、うん」



魅音は状況も相まってか若干頬を赤くする。一方通行がそこまで自分のことを考えているとも思っていなかった。



「ンでよ、モチロンだが俺は詩音とデートしに来たワケじゃねェ。オマエン家の前で詩音に捕まっただけだ」



「へ、アタシんちに何の用だったの?」

衝撃の事実を知らされてふっと素に戻る魅音。むしろ今まで詩音の戯言を信じていたのだろうかと、一方通行は頭を悩ます。



「オマエと詩音をクリスマスパーティーに誘うためだ」



「く、クリスマスパーティー!?」



「お……おォ」



「し、進ちゃんが?」



「だから……そうだってンだろ」



「あ、あはははは!何それ似合わない!」

静まり返った劇場のほんの一点で笑い声が響いた。普通なら他の客に睨まれもしようところだが、B級中のB級展開の映画を見せられている客たちは大して気にとめる様子はない。
若干名から舌打ちが漏れているような気がしないでもないが。



「オイ魅音、一応映画館だっつうの」



一方通行は横目で舌打ちが聞こえた方を確認すると魅音にそう告げた。
微妙に白いセーターが見えた気がした。



「ごめんごめん、だってあんまりにも似合わないんだもん。とにかく出よっか、進ちゃん」



「……それもそォだな」



一方通行と魅音は一応他の客に気を使いながらシアタールームを後にした。
ロビーに出ると詩音は詩音で別の映画を鑑賞しているようで、誰も待っていることはなかった。



「ふふ、なんだかごめんね進ちゃん。アタシも悪ノリだったかも」

「全くだ、勘弁してくれ」



「まぁまぁ!いつもの罰ゲームと比べりゃ軽いもんでしょ!」



一方通行は静かに笑った。



どォやらいつもの調子を取り戻したみてェだな。



「ンじゃあ後は頼んだ。俺はまださそわなきゃいけねェヤツがいるんでな」



「分かった、詩音にも伝えとくよ」



一方通行は大して返事もせずに映画館から出ると、電極のスイッチを入れてあっという間に飛び去っていった。
その様はかなり人の目を引いてはいたが。



魅音はその姿を静かに手を振って見送っていた。



「さーー詩音のやつはどうしてくれようか!」



勢いよくそう言うとまた映画館の中へと戻っていくのだった。

>>576
×前編特撮 ○全編特撮
ですね。失礼しました。

それでは今日はこのあたりで。次回の投下までおやすみなさい。

それでは本日も投下していきます。

一方通行は古手家の前に立っていた。
時刻は午後3時過ぎ。12月ということもあってすでに夕日が差している。
パーティーの開始時刻は午後7時であるため時間的には余裕があるといったところか。
しかしウチの準備をしているのはあの黄泉川である。一刻も早く家に戻って様子を見ないと家中を散らかされること間違いない。



ピンポーンとインターホンを鳴らす。



「はいはーい、少々お待ちくださいなのです」



インターホンの音に少し遅れて梨花が返事をする。
それから数秒、ドタドタと階段を降りる音が響くと、ガラガラと滑りの悪そうな音を立てて扉が開き、梨花が顔を出す。



「みぃ、進一、こんばんわなのです。どうしたのですか?」

「あァ。実は話があってよ。今日ウチでクリスマスパーティーを開くことになったから、オマエらもどうだ?」



「クリスマスパーティー……なのですか?」



梨花は少しだけ顔を曇らせた。
一方通行はそれを見逃さない。



「都合悪かったか」



「いえ、そういうわけではないのですが……。一応僕は雛見沢に古くから伝わる神社の巫女さんなので、そういった宗教儀礼に関与することは……」



「……」

申し訳なさそうな梨花。これには一方通行も頭を悩ませる。
モチロンパーティーを開催する上では梨花を呼びたいのであるが、こういった信条に関することとなるとどうしようもないのだが……。



「はいはい、はーい!ちょっと待つのです!僕も行くのですよ!」



ガタガタと騒々しい音を立てて奥からもう一人の少女が顔を出す。
こちらも梨花と同じように巫女装束を身にまとった少女。



「クリスマスパーティー!僕もやってみたかったのですよ!」



羽入である。

「ちょ、ちょっと待ってくださいなのです、一方通行!」



梨花はそう言うとがしっ!と羽入の首根っこを掴み二人して後ろを向いてしまう。



「ちょっと羽入!そういうのは大丈夫なの!?私はあなたのためを思って言ってるのよ!」



ひそひそ話が開始された。



「きっと大丈夫なのですよ。クリスマスパーティー程度になると宗教儀礼としての側面は著しく薄くなっていますし、それにキリスト様はきっと心の広いお方なのですよ」



「一神であるあなたがそんなこと言っていいの!?」



「それに、梨花も行きたいのではありませんか?」



「っ、それは……」

「沙都子も喜びます。土御門だってきっと。みんなで笑いあうことができる。こんなに幸せなことが他にあるのでしょうか」



羽入は柔らかい笑みを梨花に向ける。



「……わかったわよ」



梨花はしばし悩んだ後そう答えた。



「それじゃあ僕たちも行かせてもらうのですよ!」



クルリと振り返った羽入は元気よく一方通行にそう告げる。



「ふ、ああ。楽しみにしてンぜ」



それだけ言うと一方通行はふらふらと手を振って帰っていく。



ゼンブ聞こえてるっつーの。



帰路につく一方通行の口元には確かな笑みがあった。

短いですが本日はこのあたりで。
また一週間を目処に投下しに来たいと思います。
それではみなさま、次回投下までおやすみなさい。

おはようございます。
それでは投下していきます。

「お、オイオイ……」



そんな訳で紆余曲折あり午前中に出かけたはずだが夕方に帰ってきた一方通行は自宅で信じられない物を目にする。



「コレ、全部オマエがやったのかよ……」



一方通行の目の前には綺麗に飾り付けられた部屋が広がっていたのだ。



色紙を輪っか状にして繋げた定番の飾り付けが壁や天井のところどころに施され、壁紙にはクリスマスの絵が描かれている。
もちろん本来の壁紙を汚すことなく新たに絵を描く用の紙を上から貼り付けてあるのだ。
その他にも一体どこから取ってきたのかという本格的なクリスマスツリーや、一方通行の身長ほどもあろうかという巨大なクリスマスケーキが用意されている。



「業者でも呼ンだのかよ」



「お前はアタシを何だと思ってんじゃん?これぐらいのことは誰だってできるっつーの」



「誰だって……ねェ」



一方通行はふと目を向けた台所の片隅に炊飯器からこぼれ落ちているクリスマスの飾りを目にしてしまった。
よもやこの飾り付けの大半を炊飯器でこなしたとでも言うのだろうか。
ほぼ全ての料理を炊飯器でこなしてしまう黄泉川ではあるが、ここまで来ると最早魔法であると言われても信じてしまいそうだ。
学園都市でもこの謎は解けないだろうと一方通行は思った。

「っく〜〜、進ちゃんホント強いよね」



「当たり前だろォが。俺を誰だと思ってやがる」



「あのトラップを回避するとはなかなかやりますわね」



「沙都子は強がっていながらも一度も勝っていないのです」



「り、梨花!?」



一方通行の家に集まった一同はテレビゲームで盛り上がっていた。
四人で対戦して敵キャラクターをステージから落とすという対戦ゲームだ。
戦況としては一方通行が無敗で圧勝している。



「それにしても、土御門は何をしているのでしょう」



心配そうな声を上げたのは羽入だ。

時刻は既に20時になろうかというところであり、集合時間から1時間近くが経過していた。
しかし彼らはまだゲームをしただけで、夕食もクリスマスケーキも食べていない。
というのも、一方通行、レナ、魅音、詩音、梨花、沙都子、羽入とほぼ全員揃っているのだがまだ土御門が来ていない。



「アイツは集合時間には間に合うって出てったンじゃなかったのか?」



「その質問はもう3回目ですわ。確かに土御門さんはそう言って夕方出て行きましたわ」



「ったくよ……」



梨花と沙都子、羽入が土御門にクリスマスパーティーの話を伝えた際、彼は至極真面目な顔をして出かけていったらしいのだ。



「まさか、やっかいなことに巻き込まれてるんじゃ……」

詩音がそう言ったとき。
一方通行の家のチャイムが鳴った。



「……」



しばしの沈黙が場を支配する。



「お前らはここで待機してるじゃん。私が出る」



テーブルに肘をついていた黄泉川が立ち上がると、そのまま玄関の方へスタスタと歩いていってしまった。



「大丈夫だよ、きっと土御門君が来ただけだよ」



「うわあっ!!」



レナの声は玄関からの叫び声にかき消される形となった。

「チッ!」



一方通行はチョーカーのスイッチをオンにするとドアをぶち破る勢いで玄関へ向かう。
するとそこには……。



「にゃはははは、作戦は大成功だぜい」



「お前……おどかすなじゃん」



そこには。
ケラケラと大笑いするグラサンアロハの土御門と、どういうわけかサンタ衣装に着替えた黄泉川が立っていた。



ドタドタと一方通行の後を追って他のみんなが集まってくる。



「ありゃ?これは一体どういう状況?」



「はう!サンタな黄泉川さんかあいいな〜」

魅音が素っ頓狂な声をあげ、レナは黄泉川を見るや否やかあいいモードが発動してしまった。



「スキありだぜい!」



土御門がおもむろに叫ぶと手元から何かを取り出す。
ほぼ音速に近い速度で放たれたそれは一方通行の後ろに控えていた女性陣たちにクリーンヒットし……。



「うぇぇぇ!?どういうこと!?」



驚いてまず声を上げたの魅音だった。



それからざわざわと各々の感想を口に出しはじめる。



それもそのはず。どういうトリックかは理解できないが全員がサンタ姿になっているのだ。



「いやあ〜調達するのが大変だったぜよ。それでもクリスマスといえばサンタだよにゃー」



「オマエ……それで遅れたンかよ」

「おおっと!見くびってもらっちゃ困るぜ鈴科!モチロン男性陣用にトナカイも用意してあるぜい!」



「……付き合いきれねェ」



静かにため息を吐くとそそくさと家の中に戻っていく一方通行。



「ま!ここじゃなんだしみんなも中に入ろうぜい!」



どういうわけか遅れてきて主導権を握ってしまった土御門に先導されて、クリスマスパーティー御一行は部屋の中へと戻っていくのだった。

本日も短いですがこの辺りで。
また一週間程度で投下しにきます。
もう少しお話を進めたいところ。
それではみなさま、おやすみなさい。

ここまで一気に読んじまったぜよ

乙乙

先生!サンタ服はミニスカで妄想してよろしいですか?

みなさまこんばんは。
投下していきます。

>>598
ありがとうございます。よろしければお楽しみください。

>>599
後ほどご説明を。

「それにしても絶景ってヤツだにゃ~~」



土御門は一方通行の家のリビングに入ると腕を組んでそう呟いた。



それもそのはず、女性陣は全員サンタコスチュームなのである。



「まず黄泉川刑事。その豊満な肢体を強調するためにトップスとボトムスが分かれたミニスカサンタ衣装をご用意したぜい。ヘソ出しサンタさんだにゃ~~。モチロンチューブトップアンドミニスカ使用だぜい。これで下着が緑色なんて事があったら最高なんだがにゃー」



「はいはい。こんな私でも役に立つんならコスプレぐらいしてやるじゃんよ」



ひらひらと手を振って返す黄泉川は特に気に留めていない様子である。

「続いて沙都子アンド梨花!この二人にはかわいらしいワンピースタイプのサンタをご用意したぜい!正に天使!!」



「みぃ、みんな良い子にしていれば僕がプレゼントをあげるのですよー」



「ま、まぁ、わたくしのサンタ姿なんて魅了されても仕方ありませんものね、おーっほっほっほ!」



梨花はコスプレを楽しんでいるのだろう、くるりと回って見せた。
一方の沙都子は強がってはいるものの恥ずかしがっているようだ。

「お次は羽入!羽入はミニスカートにコートタイプのサンタ衣装だぜい!」



「ふおお、なんだか楽しくなるのですよ!キリスト様は信者にはコスプレさせ放題なんて素晴らしい事この上ないのですよ!」



見慣れない自分の格好を見回しながら見当違いの感想を述べる羽入。

「そして園崎姉妹!チャイナドレスを改造してサンタ姿にしてみたぜい。胸元に入ったハートのくりぬきとロングスカートのスリットはかかせないにゃ~。加えて魅音には左腕にスリーブ、詩音には右腕にスリーブとペアで映える使用だにゃー」



「ふふふ、たまにはこういうのも良いですね、どうです?似合ってますか?」



「あ、アタシはこういうの似合わないって!服は一体どこ行ったの!」



詩音はニヤニヤと胸を強調するポーズを取る。反対に魅音は珍しく照れているようだ。

「レナにはケープコートタイプのものだぜい。清純感がより一層映えるにゃ~~」



「はぅ~~みんなかあいいよ~~ここは天国かな?かな?」



自分の様子は気にしていないのか他のサンタ一同を見てダラダラとよだれを垂らすレナ。



「そして最後に!登場するのはこちら!」



土御門は叫ぶと廊下に通じるリビングのドアをがチャリと開く。
するとそこから姿を見せたのは、全身をトナカイの着ぐるみに身を包んだ一方通行だった。

「……っ!進ちゃんっ!に、似合ってるよ……!」



「かあいいな~進一君も~」



「それで、進ちゃんは誰のトナカイになりたいんですか?」



「みんなおそろいなのです~」



「ツノが少し曲がっているのが気になるのですよ」



「さあ進一さん、みなさんのためにソリを用意してきなさい!」



「……最悪だ」



一方通行が小さく呟いた後、部屋に爆笑が起こった。

それからしばらくして。
学園都市にすら存在しない方法で作られた夕食(非常に美味であった模様)を堪能した一同は、ゲームをしたり会話に華を咲かせたりと思い思いの時間を過ごしていた。



一方通行はというとテレビの前のソファーに腰掛け、小学生組が奮闘しているゲーム画面をコーヒー片手にぼうっと眺めていた。



どかっと隣の席に土御門が座る。
衝撃でマグカップが少し揺れたが、コーヒーがこぼれる心配はなさそうだ。



「これは大いなる成長だな、一方通行」



神妙な顔つきの土御門。



「……オマエこンな時もサングラス外さねェのかよ」



「にゃははー、これは俺のアイデンティティーだにゃー」

「それはどォでもいいンだがよ。一体何だ?」



「ふふ、いや。学園都市第1位ともあろう者がクリスマスパーティーとはな」



「……ケンカ売ってンのか?」



「お前は俺に勝てないぜい?」



土御門はニヤリと笑う。



「……興味ねェな」



「それは親愛と受け取っておくよ。それに俺はお前をからかってるつもりはない。単純に良いことだと思っている」



「良いことだ?」

「お前が人間性を取り戻すこと。それ自体がこのグループ全体に良い影響を与えているってことだ」



「……買いかぶり過ぎだ。俺は何にもしゃいねェ」



「まあ、そう思うのは自由だがな」



「……」



一方通行は俯いてしばし考え込んでいる様子だ。
そんな一方通行を見て土御門はニヤリと笑う。



「そこで本題だ、一方通行」



「あン?」

「お前好きな人は誰なんだにゃー?」



ぶっ!と。
一方通行は口に含んだコーヒーを噴射した。
幸い前方に座っていた梨花、沙都子、羽入が被害を受けることはなかったようだがフローリングは悲惨な状態である。



「どォいう繋がりなンですかァ!?」



「だからさっきもいったぜい、お前の人間性を広げるためだにゃー?」



「だからってオマエ唐突すぎるだろォしこういうコトはもっとひっそりと聞くモンじゃねェのか!!」



「ひっそりなら良いのかにゃー?第一こんなパーティーを開いてるぐらいなんだからこの中に意中の人がいるってことだにゃー?」



「話が飛躍してンだよ!大体このパーティーも黄泉川に言われてのことだっつーの!」

「ほう?つまりお前のターゲットは黄泉川愛穂だと?」



「ンなコトは一言も言ってねェだろォが!」



「アタシは遠慮しとくじゃんよー。かなりの競争率だろうから」



テーブルとソファで大きく二つに分かれたリビングの、テーブル側から黄泉川の声が飛んでくる。



「オマエも余計なコトを言うンじゃねェ!」



「みぃ、進一は黄泉川の事が好きなのですか、僕は祝福するのですよ」



「なに、そうなのですか!?それは僕としても神のご加護があるのですよ!」



「あらあらお粗末な事ですわね。進一さん、そういうのはもっと隠れて水面下でアタックすべきでしてよ?」

「聞き捨てならないなー」



ゆらりと。
一つの影があった。

本日はここまで。
この後もお約束展開ですがお付き合いいただければと思います。
それではまた次回投下までおやすみなさい。

乙です

みなさまこんにちは。
遅くなりましたが投下します。
>>614
ありがとうございます。

「進ちゃんはアタシのもんだー!」



「うォっ!」



どぉっ!と突撃してきた正体は園崎魅音である。



「進ちゃんは渡さないかんねー!ウチの後継になってもらうんだから!」



わめき散らしながら一方通行にヘッドロックをかましブンブンと頭を振り回す魅音。



「どォしやがった突然!らしくねェ!」



「えへへー今日はなんだかいい気分だから何でもいいんだー」



若干の呂律が回っていない。



「オマエまさか!」

「おっと。コイツは酒じゃんよ」



「黄泉川ァァァァァ!!!お約束展開過ぎンだろォがァ!!!」



ぽろっと零した黄泉川に対して盛大につっこみをいれる一方通行だが、既にスイッチの入った魅音にとっては関係ない。



「ねー進ちゃん?こんどばあちゃんに挨拶しに行こっか?」



「その甘えた声を止めやがれ!!大体どォいう理屈で婿養子なンですかァ!?」



「そりゃあ園崎家の長女だからねーアタシはさー?」



言いながらぎゅっと一方通行に抱きつく魅音。



「ぐォっ……オマエ、力加減っ……」



「もーかわいいなー進ちゃんはー!」



「ちょーっと待ってください!お姉には渡しませんよ!」



「オイ!」



突然ぐいっと腕を引っ張られ、魅音もろともソファから転げ落ちる一方通行。
しかし転落した先には柔らかいクッションが存在していた。

「オイオイまさかだろォ。幾ら何でもお約束過ぎやァしませンかァ?」



「進ちゃんには私の執事になってもらいますからね、本家に渡すことはできません」



「なンだか愛情がねじ曲がってませンかねェ詩音さァン!?」



「もう進ちゃんたら照れちゃって!」



「待て待て待て!近づいてくるンじゃねェ!」



「んまっ!んまっ!マーキングですね!」



一方通行のほほにキスの嵐をぶつける詩音。
これには魅音も黙っていなかった。



「待った待った、当然それには姉であるアタシの方が権利があるわけでしょ!」



詩音の顔をぐーっと押しのけようとする魅音。
一方通行は魅音と詩音の間でもみくちゃにされている。



「コレは昼に通過した地獄のはずだがなァ……」



一方通行は半分トランス状態である。

「生まれてきたのが早いからってなんでも決定権があると思ってるんですか!?愛は強いんですよ、お!ね!え!」



「うるさいうるさいうるさーい!進ちゃんはアタシのもんだからね!」



「何でも良いから離してくれェ……気分悪くなってきたぞ……」



一方通行がグロッキーに耐えていると、突然両脇の柔らかい感触から解放される。



「ァ?」



何が起こったのかと顔をあげれば、ほど近くに見知ったレナの顔が見える。
それに何だか体が浮いているような……?



「進一君……大丈夫だった…?」



いつになく真剣な顔つきで一方通行に尋ねるレナ。
レナは一方通行の顔を見下ろしている。一方通行より身長が低いレナが見下ろして会話しているのはおかしい。
それにやはり体に感じる浮遊感は偽物ではない。これは……。



「神ってヤツはどこまで俺を辱めれば気がすむンですかァ!?」



一方通行はレナにいわゆるお姫様抱っこをされていたのだ。

「進ちゃん返してよーレナ!」



「そうですよ!いくらレナさんとは言え進ちゃんを渡すことはできません!」



「進一君。みーちゃんとしーちゃんが進一君を虐めたんだね。大丈夫だよ、レナが守ってあげるから。そこに座ってて」



そっと一方通行を部屋の端に降ろすレナ。



「それじゃあ、レナ、行ってくるよ」



神妙な顔つきでそう言ったレナは魅音と詩音の方へと向き直る。



「しーちゃん、みーちゃん。こんな結果になっちゃってゴメンね、でも、進一君を脅かす人は許さない……!」



「オイオイオイオイ勘弁してくれよ……レナはもしかしたらマトモなのかもと思ったオレがバカだった。それは認める。ただ酔ったからって戦闘モードなのはどォなンですかレナさァン!?いつの間にピザを切り分けたロールカッターを持ってきたンですかァ!?俺の家でソレを構えるの止めてくれませンかァ!?」



レナと魅音、詩音の戦闘が始まる。



「すごい、すごい攻防戦なのですよ……!ゲームの何倍もの迫力がありますです!」



「いけいけー!どっちも負けるなー!なのです」



「やはりレナさんの身体能力はかなりのものですわね」



「オマエらはバトルを楽しンでンじゃねェ!大体黄泉川ァ!保護者なら止めやがれェ!」



一方通行は叫んで黄泉川の方へ顔を向けるが、そこには机につっぷして寝息を立てる肉塊があるだけだった。



「元凶であるオマエが一番に寝てどォすンだよォォォ!!!小学生より先に寝る教師があるかってンだァ!!」

「土御門!もう頼れるのはオマエしかいねェ!どォにかしやがれ!」



「一方通行……」



振り向いて土御門に助けを求める一方通行。
以外にも土御門は真剣な眼差し(グラサンの奥のため確証はないが)でこちらを見つめる。



「俺がこんなに面白そうなこと止めるわけないにゃー?」



「ですよね分かってましたよチクショォがァ!」



にゃはははと笑う土御門。
一方通行は一発ベクトルパンチをかましてやりたいところだったが、それどころではない。
今は自体を収集しなくては。



「分かったオマエら覚悟しやがれ!第1位を怒らせるってコトがどォいうコトか教えてやるよォ!」



土御門からレナたちの方へ向き直った一方通行は、あっけない舞台の幕切れを目にすることになった。



「……はァ」



三人はお互いに絡み合いながら床で眠っていた。
まあ、暴れに暴れた結果サンタ衣装はめちゃくちゃにはだけていたが。



「……ったく。散々遊んで幸せそうに寝やがってよ」



「みぃ、僕たちも眠くなってきたのです」



瞼をこすって放った梨花の言葉によって、クリスマスイブのパーティーは御開きとなったのだ。

今回はこの辺りで。
次回でクリスマスイブは終了となりますが、まだクリスマスそのものが残っていますので……。
お付き合いいただければと。
それでは次回までおやすみなさい。

みなさまあけましておめでとうございます。>>1です。
2017年もよろしくお願いします。
続きは必ず書きますので、もうしばらくお待ち下さい。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年12月15日 (火) 16:55:02   ID: _WxGNOpT

色々と穴が多いな。
まず、鬼隠し編の一方通行の雛見沢症候群とか。一方通行が感染って無理だろ、チョーカーで能力制限あるにしても、スイッチ入れた瞬異物は排除去れるし。ましてや制限外れたら尚の事だし、一方通行が自分で取り込まない限り事実上物理的な干渉は不可能な訳だし。

2 :  SS好きの774さん   2016年03月04日 (金) 20:17:32   ID: GaLbZY6o

凸、楽しみに待ってるよ

3 :  SS好きの774さん   2017年08月29日 (火) 18:47:54   ID: oEAM_Dax

おもしろかった。続き期待。

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