らくごモザイク「シノ髪」 (17)

キエルヨ……アア、キエタ……

アリス「わー」パチパチパチ

忍「アリス、何を見てるんですか?」

アリス「落語のDVDだよ、イサミに頼んで借りてきてもらったんだ」

忍「そうですか、アリスはすっかり落語に夢中ですね」

アリス「うん、シノも一緒に見ようよ」

忍「私はおじいさんを見てるよりも可愛いアリスを見てる方がいいです」

アリス「それはさすがに失礼だよ!嬉しいけど!」///

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忍「それにしても、落語にDVDなんてあるんですね。この間はCDだったのに」

アリス「うん、これは『死神』って噺なんだけどね」

アリス「サゲが特殊だからどうしても映像で見たかったんだ」

忍「さげ?」

アリス(シノが何も理解してない顔してる……)

アリス「じゃあ、この間みたいに、シノにも分かりやすく説明すると……」

えー、黒髪でこけしみたいに可愛いシノっていう女の子が通訳者を目指して単身イギリスに渡ってきたんだけど、
一人だから心細いし、何よりシノは英語が全然喋れない。帰るにしたって飛行機のチケットの買い方も分からないし、
どうしたものかとロンドンで途方に暮れてたのね。

「どうしましょう……通訳者になりたくてイギリスに来てみたはいいものの、全然言葉が分かりません」

「はぁ……せめてどこかに言葉の通じる金髪少女がいてくれたら……」

「そうですね、まずは髪の毛を1本貰ってお守りにしましょう」

「その後は……私の家に連れて帰ってホームステイしてもらいましょうか」

「ちょっとシノ!通訳者になる夢はどうしたの!?」

「あれ、金髪少女!金髪少女がいます!!」

「夢にまで見たイギリス人の金髪少女が目の前に!」

「金髪が美しすぎます……!も、もしかして天使ですか!?」

「うーんと、元の噺では死神だけど、まあ天使ってことでもいいよ。わたしのことはアリスと呼んで」

「はい、アリス。……あれ?なんで言葉が通じてるのでしょう」

「それはわたしが頑張って日本語を覚えたからだよ」

「そうだったんですか、とりあえず、金髪1本貰えませんか?」

「ひぃー!!Japanese girls are so scary!」

「天使ってことは、不思議な力を持ってたりするのでしょうか?」

「ちょっとはね、例えば見ず知らずのシノの名前が分かったりとか」

「凄いです!じゃあもしかして、願いを叶えてくれたりするのでしょうか?」

「うーん、内容によるけど……」

「アリス、私は通訳者になるためにイギリスに来たんですが、全然言葉が通じなくて困ってるんです」

「そりゃあ当たり前だよ、英語ができないんじゃ」

「だからお願いです!イギリスの人たちにも日本語が通じるようにしてください!」

「それじゃあ通訳者の意味ないよ!」

「あ、あと、私の家にホームステイしに来ませんか?」

「だから通訳者どこ行ったの!?」

「どっちもダメですか……私でも金髪少女とお話しできるチャンスかと思ったんですが」

「じゃあせめて、私の髪を金髪に……」

「えっと、つまりシノは、金髪になりたいし、金髪少女とお話ししたいんだね」

「はい!」

「じゃあ……アジャラカモザイク、テケレッツのパ!」

そう呪文を唱えると、シノの頭のあたりが輝きだして、まばゆいばかりの金髪に早変わり!

「ほら、これで金髪になったよ!」

「私、自分じゃ見れないんですが」

「あとは英語ですね」

「それはもう大丈夫。シノが金髪でいるかぎり、たった一言『ハロー』で全部通じるよ」

「本当ですか!?」

「うん、ただし効果は金髪少女相手限定だけどね」

「夢のようです……ありがとうございます、アリス」

「ううん、シノが喜んでくれたのならわたしも嬉しいよ」

「それじゃあ私、素敵な金髪少女を探しに行ってきます!!」

そうしてシノが街を歩いていると、長いさらさらの金髪にグレーの瞳、
ユニオンジャックのパーカーを来た女の子を見つけて、

「はっ!あれはまぎれもなく金髪少女!」

「でも、本当に『ハロー』だけで話が通じるんでしょうか……」

「いえいえ、ここは勇気を出して……ハロー!」

「Hello! 何か用デス?」

「ハロー」

「Oh, シノブっていうデスカ。私はカレンと申しマース」

「つ、通じてる……!」

「ハロー」

「私のパパは日本人デスガ、ずっとイギリスに住んでるので私は日本語喋れないデス」

「ハロー」

「え、私の髪の毛が欲しいデスカ?」

「ハロー」

「HAHAHA、お守りになんかならないデスヨ。かみが役に立つのはトイレだけデス!」

「それじゃ、私はもう行くデス。See you!」

「ハロー」

去っていくカレンに見とれながらも、シノは感動しっぱなし。

「はあ……金髪になって金髪少女とお喋りできるなんて、天使のアリスが天国に案内してくれたようです」

「そう言えば、アリスはどこへ行ってしまったんでしょう」

金髪少女がいなければ言葉も通じない、途方に暮れてシノはあてもなくアリスを探し始めたの。
でもそんなに簡単に見つかるわけもなく、それにイギリスでは金髪じゃない人のほうが多いくらいだから、
話を聞いてくれそうな金髪少女だってなかなかいない。

困り果てたシノだったんだけど、何となく聞き覚えのある声が聞こえて、

「あれ、この声は……」

「あ、やっぱしのだ」

「こんなところで会うなんて偶然ね」

「よ、陽子ちゃん!?それに綾ちゃんまで!どうしてここに?」

「って、そんな事言ってる場合ではありません!」

「金髪少女じゃないと話ができないんでした!陽子ちゃんも綾ちゃんも金髪ではありません!」

「どうしましょう、どうしましょう……」

「おーい、しの?どうした?」

「そうです!あれを使いましょう!」

そう言って鞄から2つの金髪のかつらを取り出すと、ヨーコとアヤの頭にポンと被せて、

「ハロー!」

「シノ、ちょっとこっちに来て」

「あ、アリス、いたんですか!今ちょうど陽子ちゃんと綾ちゃんに会って、ってアリス、そんなに引っ張らないでください~」

そういってシノが連れてこられたのは、ロンドン郊外にある一軒のおうち。
広いお庭を通って玄関に入ると、

「アリス、ここは?」

「わたしの家だよ」

「そうだったんですか!とっても素敵です!……でも、ちょっと薄暗いですね」

「うん、電気付けてないからね」

「それでも私の金髪が光り輝いているので大丈夫です!あっ、もちろんアリスの金髪も輝いてますよ」

「それで、どうして私を家に呼んでくれたんですか?」

「わたしね、気づいたことがあるんだ……」

「さっき、かつらを被ったヨーコとアヤを見てて思ったの。やっぱり元の色の方が似合ってたって」

「そうですか……私は金髪の陽子ちゃんも、金髪の綾ちゃんも良いと思いましたが」

「シノも、やっぱり髪は似合う色にした方がいいよ」

「そうですよね!やっぱり私はアリスに金髪にしてもらって正解でした!」

「ってアリス、その手に持ってるのは何でしょう?ゴミですか?」

「これはね、黒染めのスプレーだよ」

「く、黒染め……!?」

「うん、やっぱりシノは黒髪の方が可愛いと思うんだ。だから、ほら……」

「やめてください!アリス!せっかくの金髪がっ!!」

「いくよ」

シュー……

「ああ、黒髪に戻ってしまいます……戻ってしまいます……戻ってしまい……」

バチン!

忍「!?」

忍「ア、アリス、大丈夫ですか!?停電です!」

忍「どうしましょう、真っ暗です」

忍「アリス、いたら返事を……」

勇「もういいかしら?」パチン

忍「あ、点きました」

アリス「イサミに協力してもらって、電気を消してもらったんだよ」

アリス「『死神』は最後に照明を消したり噺家が倒れたりして、死んだってことを表現するのが特徴なの」

忍「もう、びっくりさせないでください」

忍「でもアリスのおかげでちょっと落語について分かった気がします」

アリス「本当!?」

忍「はい、私も金髪にすればきっと通訳者になれる、ということですよね?」

アリス「違うよ!シノは黒髪が一番っていう噺なの!!」

勇「……そういう問題なのかしら」



「シノ髪」お後がよろしいようで。

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