提督「なに? LUNYだと?」 (58)

他スレから影響うけた。好感度測定器系

提督「こんなもので本当にどれくらい好かれているのかが分かるのか?」

浜風「こんなものとは失礼な。要望にお答えして本部から取り寄せたものです。一見少し変わったデザインのメガネですが、性能は信頼してもらって構いません」

提督「その割に君の好感度が見えないのだが」

憲兵「当然だ。好感度が測定できる相手は君の鎮守府の艦娘だけと制限がある」

提督「なぜ、そんな制限を? 悪用でもすると思っているのか」

浜風「貴方たち提督は己への猜疑に過剰反応する傾向が強い。この制限はあなたの利益のためを思って本部が善意でつけたものです。くれぐれも誤解のないように」

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提督「本部の善意とは信用ならん言葉もあったものだ」

憲兵「その本部を頼ったのはどこのどいつだ。いいか、好感度測定に制限のない状況を考えてみろ。君は好奇心から街中で使用するだろう。そして、余りの好感度の低さに絶望するんだ」

提督「なぜだ。別に初対面の相手ばかりなのだから、好感度はなくて当たり前だ」

浜風「しかし、貴方は自信がないのですよ」

提督「なんだと」

浜風「こんなものに頼っているのが何よりの証拠でしょう。あなたは好かれる自信がない。それだからこそ嫌悪を認めることもできない。だってそれを認めたら改善の余地がないように感じるのですから。だから、如何に口先では「好感なくて当たり前」と言おうが、その裏腹では「無条件に好かれているんじゃないか」という期待に強くしがみつくのです」

提督「俺がまるで周りを見ることができないみたいな言い草だな」

憲兵「事実だ。お前は好感がなくて当たり前と理解している状況においても、いざ本当に相手にとって自分はどうでもいい存在だと知るやいなや不機嫌になり、顔を赤くして怒りを隠せなくなる」

提督「お前らが俺をどう思っているのか、このメガネを使わずとも手に取るように分かる。糞どもが」

浜風「おや? それは素晴らしいことです。いくら目が悪いとはいえ、流石に象か蟻かの区別はつくようで安心しました」

憲兵「お前みたいな「俺は好かれるようなものじゃない」と謙遜しつつも、裏では好かれているという確信を手放せない奴は好かん。乞食だ。この世でもっとも哀れな生き物であると自分でも納得しているように見せて、その目には施しの強要という傲慢な色合いがある」

提督「本部連中の礼儀知らずは深刻な問題らしいな! 不愉快な者共よ! ここはお前らがいて良い場所ではない! 早急に立ち去れ!」

提督「胸糞悪い連中もいたものだ。ああいうのは、人の休日の過ごし方に何か気に入らない点があると、さも大げさに最大の間違いのように騒ぎ立てる。自分たちは人生の答えを知っていると言わんばかりの虚栄心。決してああはなりたくないものだ」

(ノック音)

提督「入れ」

霧島「失礼します。あの会談は終わったのですか」

提督「なに? 怪談だと? どうして俺が修学旅行よろしく枕を囲んで、奴らと怖い話をせねばならんのだ。あいつらが幽霊になればいい」

霧島「いえ、そっちの怪談ではなく」

提督「ああ、分かっているとも。少し気が立っていてな。君に意地悪をしてしまったようだ。悪い」

霧島「提督が謝ることでは。………あの声、外まで響いてきました。何かあったのですか?」

提督「いや、何もなかった。汚い鼠にぎょっとして驚きの声をあげただけだ」

霧島「怒声のようでしたけど」

提督「ああ。驚きの後には大体怒りがやってくるものだ。部屋の隅にある蛇と間違えた縄に向かって「お前はどうしてそこにとぐろを巻いているんだ!」ってな具合だ。ところで、霧島お前もメガネを変えたのか」

霧島「ええ。少し度が合わなくなったので買い換えました。提督もそれ新しいメガネですよね」

提督「いかにも。少し変わったデザインだろ? 長く使うものだからオーソドックスなものでも良かったんだが、シックなものに挑戦してみたんだ」

霧島「とてもよく似合っています」

提督「ああ。君もとても綺麗だよ」

霧島「あら、提督はそんなお世辞が言えたのですか」

提督「いやいや、お世辞ではなく紛れもない本心だよ」

霧島「今さっきまで虫の居所が悪かったのに、急に愉快な感情が芽生えたようですね。声音が跳ねていますよ」

提督「え、そう思うか?」

霧島「ええ。感情が昂ぶると胸は締め付けられ、そこから出る声にも調子がつきますから。同じ震え声でも怒りと喜びのどちらが喉を叩いているのかはすぐに分かります」

提督「いや、それは済まない。笑みが抑えられなくてにやにやしているかもしれんが、これは何も霧島に邪な感情を抱いたからではないと信じてくれ」

霧島「大丈夫です。提督が女体を見て下品な笑みを浮かべる人とは思いませんから」

提督「俺はポーカーが弱いから、霧島とやったら全敗しそうだ」

霧島「ポーカーですか? 運が関係するゲームですから勝敗が偏ることはないはずです」

提督「あー、比喩表現だ。霧島の姉たちは基本的に感情がすぐに表に出るタイプばかりなのに、霧島は毛色が違うなと思ったんだ」

霧島「………そんなに何を考えているか分かりませんか?」

提督「なにも嫌味で言ったわけじゃない。金剛たちとはまた違った魅力があるということだ」

霧島「そうですね。お姉さまがたは魅力的です」

提督「待て。なんだか優劣関係をつけたみたいになっているじゃないか」

霧島「実際、霧島よりお姉さまたちの方が優れていますから」

提督「どうしてそんな語調になるんだ。俺は霧島も魅力的、いや、金剛型のなかでは一番………」

霧島「一番、何ですか?」

提督「ふむ。何がその後に続くべきだったのだろう」

霧島「あの、そこで言葉が出てこないと………」

提督「ああ、霧島の期待を裏切ってしまう。フォロー待ちとは乙女なところもあるじゃないか。一番乙女だと思う」

霧島「提督、私のことをからかってます?」

提督「そんな意図はない。ただ何か良い言葉が出なかっただけだ」

霧島「それはつまり私には一番なところがないという解釈でよろしいのですか?」

提督「誰もそんなことは言っていない。俺は霧島の一番を感じている。ただそう言葉が出ないだけだ」

霧島「そうですか。ふふふ、まあ仕事をしましょうか」

提督「ふむ。君も機嫌は良いみたいだね」

霧島「そ、そんなことありません。えーと、確かこの後出撃任務がありましたね。では、霧島、出撃します!」

提督「あ、おい! ………急いで出て行ってしまった」

提督「まあ、良い頃合であったか。笑うことを抑えるのに苦労した」

提督「今まで優秀だからというだけで秘書艦を担当させていた霧島だったが、こうも好感度が高いとはな。嫌われていないとは思っていたが、実際に数値化されると中々嬉しいものだ」

提督「今まで恋人関係なんて考えたことがない女でも、こう恋情を知るに至ると随分と愛おしく思えてくる。不思議なことだ」

提督「世界の中心が霧島となり異世界に迷い込んだ心地よさだ。まだこの感覚は味わっておきたい。取り敢えず、今このレンズに映るのは霧島だけだ。それで良い」

提督「最後には他の艦娘と結ばれるにせよ、一度女を攻略しておけば、その求める女の心を射止めることも容易になるだろう」

提督「今はこのメガネもある。女がどんな行為に惹かれるか答え合わせができる。霧島は俺の女神を射止めるための練習問題になってもらおう」

後日

霧島「最近はなんだかこうしてあなたと食事を取ることが多くなった気がするわ」

提督「そうだな。食事の相手は気兼ねのない者ほど面白くなるから、ついこうなってしまうんだ」

霧島「それは喜んで良いのかしら?」

提督「それは俺の許可を必要とするのか? 君はまさに相好を崩さんとすといった様子だ」

霧島「あなたの口から私の推測を確実にしてくれてもいいじゃない。私は今でも喜んでいるかもしれないけれど、もしあなたが今の言葉の真意を裏付けてくれるなら喜びもひとしおよ」

提督「余りはっきり言うと俺が恥ずかしくなってな。男が顔を赤らめるさまなんて見ても面白くないだろう」

霧島「いえ。提督がそうなるところは是非見てみたい気持ちです」

提督「そうか。ならば改めて。俺にとって食事は霧島と行うことが一番好きなんだ。霧島とならなんでも話せるからな」

霧島「それは素敵。私もよ、提督」

提督「霧島も俺と同じ気持ちで嬉しいよ」

霧島「ちょっと前まではこうして夜にナイチンゲールの鳴き声に静かに耳を傾けながら盃を交わすなんて思いもしなかった」

提督「同じだよ。悪戯に俺たちを引き合わせた運命でさえも、恐らくこの状況は予測出来ていなかったに違いない」

霧島「運命でさえも偶然に左右されてあたふたすることがあるのね」

提督「そうとも。でも、運命は抜け目ない奴だからな。俺たちが二人きりの至福の時間を過ごせることは奇跡と言っても過言じゃない」

霧島「奇跡。私はそういった数学的じゃない表現は好きじゃないわ」

提督「………それは」

霧島「でも、あなたとならば、そういった理解できない神秘の渦に飲み込まれていいわ。むしろ、それを望みます」

提督「よし、霧島、こっちにおいで」

霧島「暖かいわ。胸の奥から熱が溢れてくるよう。あなたの腕の中にいるからよ。決してお酒のためじゃないわ。もしお酒がこの暖かみになれるというなら、中毒者になって死んでもいいわ」

提督「それはよしてくれ。霧島の体に何かあったら、俺は身投げし悲嘆の酒で溺死してしまうことだろう」

霧島「それは嫌! あなたがいなくなるなんて考えるだけでも恐ろしいわ! そんなこと言わないで!」

提督「ごめんよ、不安にさせて」

霧島「言葉だけの謝罪は許しません」

提督「じゃあ、どうすれば?」

霧島「キス」

提督「え?」

霧島「キスしてくれるなら許してあげる」

提督「分かった。顔に触れるよ?――――」

霧島「………ん」

提督「これで満足した?」

霧島「提督の優しいキスは好きよ」

提督「それは良かった」

霧島「でも、足りない。気を使って割れ物のように撫でられるだけじゃ私の疼きは止められないの」

提督「………いいのか、霧島?」

霧島「ええ。今夜は霧島を提督だけのものにして」

提督「分かった。よいしょと。抱えてベッドまで運んでやろう。そう恥ずかしがるな。俺のものになるのだろう?」

提督「―――――うん? 目が覚めてしまった。男というのは行為の後に疲れて寝てしまっても、早くに起きてしまうものらしい」

提督「霧島は、まだ眠りこけているな。はだけて肌が見えてしまっている。毛布をかけ直そう。さて、喉が渇くな。水を」

提督「霧島との仲は急速に深まった。メガネを持っているからというのもあるが、大きかったのは霧島との趣味の一致だった」

提督「デート中にメガネで見てある選択によって好感度が下がるようならそれを変更していくという予定だったが、霧島の好みが綺麗に俺の好みに軌を一にしていた。だから、メガネによる後出しも必要とするところが少なかった」

提督「俺も霧島も相手が何を望んでいるか分かり合っており、そこには長年連れ添った仲のような気楽さがあった」

提督「一夜を過ごす頃には俺はまったく霧島に首ったけ。メガネは女遊びのためで、結婚なんて考えていなかったが、今や霧島との家庭を切望している」

提督「指輪を懐にいれて、俺は生死をこれに預けてしまっている次第だ。霧島がこれを薬指につけるなら望外の喜びであり、もし指輪を箱にパタンと封じるならば、俺はこの世から消えてしまえ。霧島の愛に値しない提督に存在価値なんてないんだからな」

§

曙「いい加減にしてくれない!? クソ提督!」

提督「うお! びっくりした。何を怒っているんだ?」

曙「さっきから執務の手が止まっているのよ!」

提督「すまない。ぼーっとしていた」

曙「ここのところ隙あらば上の空状態じゃない!? 新婚で舞い上がっているのかもしれないけど、執務室の空を見つめても霧島さんがいるわけじゃないのよ!」

提督「いやね、このレンズを通してみると霧島が今も俺のことを想っていることがわかって楽しくなってしまうんだ」

曙「何を言っているのかわかんないんだけど。メガネが原因ならそれを外しなさいよ!」

提督「おい! 曙! 取るな!」

曙「………怒鳴らなくていいじゃない。返すわよ。でも執務の妨げになるなら外しなさい」

提督「そうだな。外すよ。………ぐへへ」

曙「ダメだわ。今度は空想の中で遊びだしたわ。ちょっとクソ提督ちゃんと集中しなさい! 何のために私が秘書艦になったと思っているのよ!?」

提督「………え? なんでだ? 俺は霧島を秘書に任命していたのだが」

曙「霧島さんが秘書艦のままだと勤務中にイチャイチャして仕事が滞るからよ!」

提督「霧島は優秀だ」

曙「そうね! 私よりよっぽど事務処理能力は高いわ! でも、それは普段のことよ。今は風船に穴があいたようにどこかにすぐ飛んでっちゃうんだから」

提督「はあ、霧島」

曙「おい」

提督「おっと、定時だ! さっさと帰ろうか。曙、今日の執務は終了だ。外していいぞ!」

曙「はあ」

霧島「あなた、おかえりなさい」

提督「ただいま! 霧島、君に会えなくて寂しかったよ」

霧島「私もよ! でも、私のことを想っていてくれたんでしょ?」

提督「勿論だとも。それで曙に怒られてしまったよ。はっはっは」

霧島「私も金剛お姉さまたちに呆れられてしまいました」

提督「俺たちは距離こそ離れども想いは繋がっているんだ!」

霧島「そうね。全くだわ!」

§

提督「なあ、曙、見てくれよ。このハンカチは霧島が選んだものなんだぜ。赤とグレーのアーガイル柄だ。俺の好みだ。霧島はまったくすさまじいセンスの持ち主だな」

曙「そうね。だから、書類を片付けましょうね」

提督「なんだ。ノリの悪い。この柄はな、霧島の新しいニーソックスと同じ柄なんだ。見たか? あいつの脚線にとてもよく映えるんだ」

曙「そうね。だから、ここの判断を早くしてね」

提督「ああ。余りに良く似合うのでオーラが違うんだ。もとから霧島にはカリスマがあるのだが、より強くなったというか。今の霧島なら二百メートル離れていようが、簡単に霧島だと判断できるだろうよ」

曙「はあ、ダメか」

提督「ダメって何がだ」

曙「否定の言葉だけには耳聡いんだから。全部よ」

提督「全部だと」

曙「正直、霧島さんが骨抜きになることは予想できた。姉がフェミニンな扱いを受けてきた一方で霧島さんは男みたいな扱いが多かったから、その反動か妙に乙女趣味なところがあったし、いざ恋愛に熱中しだすと周りが見えなくなるタイプだとは思っていたわ」

提督「曙が霧島をわかったふうに言うな」

曙「私に嫉妬なんてやめてよね。はいはい、提督が霧島さんの一番の理解者よ。問題は提督、あなたよ。少し前まで女慣れしており恋愛に対しても冷笑的で淡白なクール気取りだったくせに、今のありさまか!」

提督「曙も本当に人を好きになったら分かるときがくるだろう」

曙「怠惰の原因となるような好きという感情は理解したくないわ」

提督「恋愛にうつつを抜かしているように見えるかもしれないが、これが人類の情熱の源だ。生への意志なんだ。どれだけ火消しをしようとも、不死鳥のように蘇ってくるものだ」

曙「その情熱を夢の中での逢瀬に注ぐのではなく、目の前にある仕事を終わらすことに向けてくれないかしら。いくらあなたが炎のように熱くても書類の一枚も焼き消せないんだから」

提督「ああ、ああ。分かっているとも」

曙「………はあ。その生への情熱が己を殺す炎にならなければいいけどね」

霧島「あなた、今日はお疲れみたいね」

提督「曙の奴がノルマを達成するまで返してくれなくてな。すぐに会いたかったよ」

霧島「ノルマってでもそんなに多くなかったように記憶しているけれど」

提督「ああ! 誤解しないでくれ。家に帰るのを遅らせるために手を抜いたわけではないんだ。曙が意地悪くも定時後にそれを言い出したんだ。その後は狐でさえ目を回す処理速度で終わらせたんだ」

霧島「そう。あんまり仕事をおろそかにしては」

提督「今は仕事後のリビングだ。つまらない話題は忘れよう。君のガラス細工より精巧な瞳を見て絹より滑らかな肌を抱いて愛を確認する時間だ。愛している、霧島」

霧島「そうね。私も愛しています」

§

曙「ついにやってくれたわね! このクソ提督!」

提督「なんだなんだ、いつもよりひときわ騒がしいな」

曙「騒がしいな、じゃないわよ! どうすんのよ!? 鎮守府の危急存亡の秋よ!」

提督「一体何があったというんだ?」

曙「あんた、遠征部隊の航路指示を適当にしたでしょ!?」

提督「いや、そんなことはないはずだが」

曙「最近ノルマを課したから、その分だけは早く終わらせようとしてたでしょ! そこにおざなりな仕事もあったんでしょうよ!」

提督「それで、一体何があったんだ」

曙「あんたがふざけた航路を指示したから、他の鎮守府の遠征部隊と接触事故があったのよ!」

提督「事故だと? 被害は?」

曙「幸い駆逐艦二隻が中破という事故にしては比較的小さい被害だったわ」

提督「そうか」

曙「待ちなさい! 安心して椅子に体を沈めるのは早いわよ」

提督「他にも何かあったのか?」

曙「あんたって新婚気分から抜けきれず、最近は戦果をあげていなかったでしょ? 本部も結婚に浮かれているあんたの態度にある程度は寛容的だったのよ。戦果をあげてきたからね」

提督「それで」

曙「でも、あんたの評価は下がっていたわけ。そこで今回の事故の一件で流石に本部も動かざるを得なくなったのよ。接触事故を起こす提督なんて無能もいいところだからよ。そりゃあ人事の生贄にもなるわ」

提督「まずいな」

曙「まずいな、じゃないわよ! あんたが馘首されたりしたら、私たちの生活にまで響くんだから! 本当にクソ提督!」

提督「本部から何かなかったか?」

曙「とりあえず出頭命令が下っているわ。せいぜい自己弁明を頑張りなさい」

提督「しばらくは家に帰れそうにないな」

曙「自業自得よ! 最初から分別をもって執務をこなせばこんなことにならなかったわよ!」

提督「本部の連中はせっかちでモラルもくそもない。面倒は早々と欠席裁判でもして終わらそうとするだろう。俺は今すぐに出向いてくるよ」

§

霧島「あの、あなたは最近帰りが遅いのね」

提督「ああ。知っているだろ? 本部から戦果を一定以上あげないと俺の首の保障はないと脅されているんだ」

霧島「ええ、知っているわ。でも、寂しいわ」

提督「もし提督の席を空けなければならなくなると、もう霧島と一緒にいることもできなくなるんだ。分かってくれるね?」

霧島「ええ、ええ。それは分かっていますとも。それでも、本末転倒じゃないかしら」

提督「なにがだ」

霧島「だって私達の関係を守るために努力しているはずなのに、その関係がそれで冷めてしまうなんてことがあったら」

提督「霧島、君は心配性だ。俺の霧島への愛は変わらないよ」

霧島「それは口だけじゃない」

提督「なに? どういうことだ?」

霧島「私には分かります。最近、あなたは私のことを想ってくれることが少なくなったということ」

提督「それは仕事に集中せねばならないからであってな」

霧島「でも、想われなくなったわ。きっと何か良い娘でもできたのだわ。曙かしら」

提督「待て待て。曙はそんな浮気相手なんて柄じゃないだろ」

霧島「では、金剛お姉さまかしら」

提督「どうして俺が浮気していることになっているのか教えてくれないか」

霧島「だって、提督の好意が日に日に目に見えて下がっているのだもの」

提督「なに?………まさか霧島、そのメガネは」

霧島「………本部の娘がくれたんです」

提督「なるほどな。俺の好感度を見ていたわけか」

霧島「こんな隠れて提督の本心を探ろうとしてごめんなさい」

提督「いや、いいんだ。謝るのは霧島だけじゃない」

霧島「………では提督も?」

提督「そうだ。霧島の好感度を見ていた」

霧島「………えっとでは最初から、私のその、それに、気付いていたの」

提督「今更恥ずかしがることでもない」

霧島「それはそうかもしれませんけど、やっぱり恥ずかしい」

提督「しかし、霧島もこのメガネを使っていたとはな」

霧島「それは、自信がなかったから」

提督「自信がない」

霧島「ほら、お姉さまたちは魅力的な人ばかりでしょ。その割に私はそのなんというか野暮ったいというか。だから、恋に負けても当然だと思っていたんです。でも、諦めたくない気持ちはあって」

提督「それでも玉砕の覚悟は出来なかった」

霧島「そう。恋愛敗北主義者を自負しても、それでも、告白して振られることはとても恐ろしいことだったわ。金剛お姉さまなら一度や二度の失敗程度で挫けることはないのでしょうが、霧島の精神はそこまで強靭でもなく自信に溢れているわけでもありません。失敗の溝に足を取られたら最後きっと二度と起き上がれない」

提督「それだから、現実での敗北を避けるためにメガネをかけたということか」

霧島「たとい好感度が低くてもそれは確かに敗北かもしれませんが、行動する前です、頭の中でやっぱりこうなったか私もそこまで提督のことは好きでもなかったし当然かなと精神的に余裕が生まれますから」

提督「一旦告白という形で好意を言葉にすると訂正ができなくなるからな」

霧島「武勇の誉れ高い艦娘と言われてきた霧島だけれど、その実態は怖くて感情も吐露できない臆病者よ」

提督「それは自虐することでもない。人間はみなついつい沈黙をしてしまう。それが一番良いことのように思われるからな。何か口を開いてみろ、それがたとい正論でどこも推論に綻びのないものだったとしても、相手は逆上するかもしれない。そうなるともはや理性に意味はなく、ただ自分が攻撃される羽目になる。だから、正しいと思うことさえ言わないし、また指摘した方が良いと思っていることも言わないのが処世術になっている」

霧島「でも、我を押し通せる人もいるわ」

提督「そうだな。でも、それは一部の才能ある人だけだし、それが良いとも限らない。臆病者の牽制合戦で社会は成り立つんだ。弱者が正義のときも多い。胸を張れ」

霧島「でも私はこんな弱気な私を嫌うわ。不安なのよ。ずっと」

提督「不安?」

霧島「自分を信じる強さがないから、提督の好感度の僅かな上下に胸を詰まらせたりして一喜一憂しているのよ。自分でも惨めだと思うわ」

提督「俺は霧島を愛している。ならば好感度は高いままだろ」

霧島「そうよ。でもね、日によって数値がちょっと変わるのよ。数値が1上がれば喜ぶわ、でもね数値が1下がったりするともうダメなの。大きな喪失感があって、夜も目が冴えて今日一日の行いを何が悪かったのだろうと振り返るの」

提督「それで不安になって浮気を疑ったのか? でも、1や2なんてそれは誤差の範囲だ」

霧島「違うのよ! 確かに最初はその悲しさも誤差の生み出したものと考えていたのだけど、最近、あなたのお勤め中の数値の下がり幅は10や20を超えているのよ!」

提督「それは霧島への愛がなくなったのではなく、執務に集中するためだ。霧島への想いは俺にとってひどく心安らぐものだ。しかし、それは別の側面からは油断となる。狩人は荒野の獅子ではなく寝床の獅子を狙うものだ。安息は牙や爪を親愛なる甘噛み道具にするからな」

霧島「ええ、ええ! 提督が執務のために私を忘れるというのは理解できるわ。そして、私もそれを望むべきことと知っている。でもね、いざ、好感度の数値が下がるのを見るとね、執務のためと言いながらも実は金剛お姉さまと密会して愛を囁きあっているのではないかという不安が次から次へとやってくるの! 私の立ち入ることができない世界が生じて提督をそこに連れ去っていくのではないかとね!」

提督「霧島」

霧島「自分が不合理なことを言うのは分かっている! 私自身も驚きよ! 戦争において提督は私を忘れるべき、そうそれこそ最も良いこと! でも、でも、私は心の底から望んでしまう! 戦争でも私のことを想っていて欲しいと! 忘れないで欲しいと!」

提督「霧島、聞け!」

霧島「っ! すみません。なんでしょうか?」

提督「俺たちには不幸があった」

霧島「不幸、そう不幸ね。どこぞの戦艦の専売特許というならば、彼女が全て買い占めてくれたらいいのに」

提督「俺たちの結婚の立役者はこのメガネだ。新時代的で正直者の測定器だ。それだからこそ、私達の仲も急速に深まった」

霧島「そうよ。だから、私も提督に歩み寄ることができた」

提督「でも、これは余りによくできたもので、よくできるものほど口さがないのはいつの時代でも同じだ。どうやら彼は結婚への良き導き手のみならず、結婚後の良き導き手たろうともしているらしい。しかし、何かに優秀だからといって全てに優秀なわけでもない。ちょっと霧島、メガネを借りるね」

霧島「どうして」

提督「ふむ。やはり俺と同様に見る対象を固定して、離れていても数値だけは示せるようになってるな。さて、霧島、君のメガネのレンズと俺のメガネのレンズを見比べてみろ」

霧島「………私のメガネの方が少し高い数値ね」

提督「そうかーそれは残念だなー。俺は霧島を愛しているし霧島も愛してくれていると思ったんだが、俺よりかは愛してくれてなかっただなー、ショックだなー」

霧島「そ、それは誤差の範囲でしょう!? 私は世界で一番あなたを愛しているのよ! 信じて!」

提督「でも、メガネは」

霧島「それは所詮機械でしょ!? 私のことを信じてよ!」

提督「私のことを信じてよ、か。ならば、霧島も俺のことを信じてくれ。こんな機械よりもな」

霧島「っそうね、そうだったわね………」

提督「俺たちの不幸はこのメガネの能力を過信したことだ。確かにこのメガネによって結ばれたのかもしれない、だからといってその後の結婚の努力までこれに任せていたのは間違いだ」

霧島「でも、それがなければ」

提督「そうだな。不安になるかもしれない。でもな、俺たちはもう一人じゃないんだ。俺と霧島二人いる。何を恐れることがある」

霧島「………」

提督「数値を信頼するんじゃない。俺は霧島を霧島は俺を信頼するんだ」

霧島「………なんでこんな馬鹿げたことに気づかなかったのかしらね。そうね。愛情の順位なんて馬鹿らしい。私はあなたを愛しているのよ。世界で一番ね」

§

浜風「あの。かの鎮守府から好感度測定器が返ってきました」

憲兵「そこに置いとけ。どうせすぐにこうなるとはわかっていた。………ところで、なんで二つあるんだ?」

浜風「はい。密かな劣等感で臆病になっていた娘がいたので、少しお手伝いをと思いまして善意で渡していたんです」

憲兵「………善意ねえ。それで一つしかなかったはずだが?」

浜風「複製しました。構造は簡単ですね。こんなものを本部は世紀の発明と騒いでいたのですか」

憲兵「好き勝手やりやがって」

浜風「いいのです。良かれと思ってしたことなのですから」

憲兵「恋のキューピットは盲目というが、やはり的外れなことをしでかすときもあるか。恋の仲介人は舞台を整えるが台無しにすることもある」

浜風「何を言いたいのですか」

憲兵「あいつらは未来で離婚だな」

浜風「あの結婚の未来形は離婚ではありませんよ」

憲兵「………お前は好感度計なんてものを手にした人間のやることを考えたことがあるのか」

浜風「前もって好意を知ることにより告白をすべきかの検査です」

憲兵「それだけじゃ足りない。ギャルゲーみたいに選択肢をトライアンドエラーして最善手を選ぼうとするんだ」

浜風「それがどうしたのですか。相手に合わせた選択肢は嘘を含むからいずれ限界が来るということですか」

憲兵「まあ、嘘は良くない。それがバレたら正直に趣味が合わないと言った時より嫌悪されるかもしれないからな。しかし、今回の問題は視点の数だ」

浜風「視点?」

憲兵「ああ。ギャルゲーなら好感度をセーブロードで測定するのは主人公ただ一人だ。しかし、あの鎮守府で起こったことはヒロインも主人公の好感を上げるためにセーブロードしているような状態だ」

浜風「それは良いことでは? 互いに好感を得ようと歩み寄っています」

憲兵「それをお互いに知っていたらな。でも、あの提督が装置のことを知らせるとも思えんし、どうせ浜風のことだ、その臆病な艦娘に提督も使用していることを教えなかったんだろう?」

浜風「もちろんです。こういう装置の使用はプライベートなものですから」

憲兵「ふん。自分には他者へのプライバシーの侵害を許すくせに他人からの侵害は許さないってか。さて、考えてもみろ。お互いにその事情を知らない者同士が好感を上げるために試行錯誤する事態を」

浜風「メガネによって選択肢のトライアンドエラーが可能になるから、相手が一番好む選択肢を選べるのですよね。それを知らず知らずにお互いがするとなると」

憲兵「トライアンドエラーって言っても、やはり最初は自分が一番好きなものから選んでいく。相手にとってはそれが自分の選ぶべき選択肢だと分かってしまう。だから、それを喜んで受け入れる。受け入れられた側は拒絶されても良いと考えていたのに、すんなり受け入れられて驚くだろうよ。互いに自分好みの提案が最も良い選択として現れるという、奇妙なまでにうまくいく恋愛だ」

浜風「そうなると、自分は相手と実はとんでもなく相性が良いのだと勘違いするわけですか。流れを切るエラーが全く生じない順風満帆な恋愛をしている心地よさ。これぞ運命の相手だと思ってしまうかもしれませんね」

憲兵「お互いは生来の相手に合わせていると思っているから、その一致が運命のように見える。だが、その実態は自分の好みに合わせた偶像を恍惚の表情で見ているだけなんだ」

浜風「偶像ですか。しかし、恋愛なんて多かれ少なかれ、そういった自分の好みを相手に投影しているところがあるはずですが」

憲兵「その程度が過剰なんだよ。相手がその偶像造りに意図せずして積極的なんだ。オーダーメイドの偶像への恋愛なんて相手をほとんど見れないだろうよ」

浜風「しかし、それはお互いが無知のままでのことでしょう? こうして仲良く二つ返ってきたのです。彼らも気づいているはずですよ」

憲兵「あいつらがこのメガネを手放した理由はそんな現実から乖離しすぎた偶像への危機感ではなく、ただの不便からだ。頼ってきたものを切り捨てるのは高尚な未来設計ではなく、それに対する現在の不満だ」

浜風「不満ですか」

憲兵「例えば、自分の給金を同僚と比較して「俺の方があいつより有能なのに、給料は少ない」と言う連中がいるだろ?」

浜風「そうですね。あなたもよく言っていますよ」

憲兵「俺はいいんだよ。事実だからな。………まあ、そんな愚痴を聞いた神様かなんかが、ある日「ならば、その人の有能さに応じて給金を決めよう。むろん神の前では人類みな平等。ただその能力によって決まるのじゃ」と言って、能力主義の完全なる形態で財を平等に分配する世界に作り替えたとしよう」

浜風「良い世界です。その世界なら私は大陸の土地全てを買い占めても有り余るほどの財産を得れたのに」

憲兵「お前みたいな自信家を俺は知らないな。………愚痴を言った人はただちに嫌気がするはずだ。というのも、完璧に正しい分配というならば、もし隣りの奴が自分より一万円高く給金を貰っていた場合、ただちにそいつと比べて自分の価値は一万円分下回ることを認めなければいけないのだからな」

浜風「曖昧さがないと角が立つということですか」

憲兵「あいつらがメガネを返した理由はこれと同じことだろうよ。余りの明確さは精神衛生上良くないんだから」

浜風「それでは、これから彼らは」

憲兵「離婚だろうな。あいつらはお互いに事実として何が好きかなんて知らないんだから。好みが合っていたと思ったら全然違ったというところが散見しだす。結婚は互いの誤解から成り立つとは言うが、まさにそのままの意味だ。まだ赤の他人と結婚したほうがうまくいくかもしれない状況だろうよ」

浜風「随分と断言するのですね」

憲兵「お? なんだ、珍しい。お前は人の不幸が大好きなんだろ? 喜んで肯定するかと思っていたぞ」

浜風「あなたはレンズを通していないのに、随分と私に対して偶像を、それもひどいものを創ったものですね」

憲兵「お前らはもともと偶像みたいなものだろうが。なんだ。反対するのか? ならば、賭けでもするか? 離縁かどうか。オッズはそちらが三倍ぐらいあると思うが」

浜風「三倍ですか」

憲兵「いや、まて二倍にしておこう」

浜風「………あなたは妙にせこいところがありますよね」

憲兵「何を賭ける」

浜風「そちらが決めて良いです」

憲兵「そうだな。じゃあ、俺が勝ったら、一晩ベッドでお前は俺の玩具だ」

浜風「そうですか。ならば、私が勝ったらあなたの魂を貰います」

憲兵「………重すぎない?」

浜風「自信ありげでしたけど、やめるのですか?」

憲兵「………ならば、やろうか! おうとも! やってやるさ!」

浜風「そうですか。しかし、私がしないのですけど」

憲兵「なんでだよ! 今のは完全に乗り気の流れだったろ」

浜風「嫌ですよ。負けたら言わずもがな、勝ってもあなたの魂なんてゴミクズを景品にもらっても仕方ありません」

憲兵「お前が言い出したことだぞ」

浜風「それに、別に彼らが円満になるかどうかなんてどうでもいいです」

憲兵「じゃあ、なんで突っかかってきたんだよ」

浜風「突っかかる? ただ私は思ったのです。彼らもあなたも自分たちは人生の答えを知っていると言わんばかりの虚栄心。決してああはなりたくないものだなと」


おわり

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