にこ「……俺、μ's辞めるわ」 (310)


穂乃果「ちょ、どしたの? いきなり」

海未「矢澤先輩のことですからいつもの気まぐれでしょう」

にこ「気まぐれでも何でもねぇよ、てめぇらとはもうやってらんねー。それだけだ」

花陽「じょ、冗談だよね……?」

真姫「……」

穂乃果「そ、そうだよ! アイドルは矢澤の夢だったじゃん!」

海未「矢澤先輩にとってアイドルとはそんな簡単に投げ出せるような夢だったのですか?」

凛「そんなわけないよねー! だってニコくんはこの中の誰よりも真剣にアイドルを目指して」

にこ「おまえらなんか勘違いしてねーか? あと高坂、お前呼び捨てにしてんじゃねぇ」

穂乃果「勘違いってなんのことだよ、矢澤」

にこ「いいか? 俺はμ'sは辞めるがアイドルは辞めねぇ。つーか辞めるのはてめぇらだ」

海未「はい……?」

にこ「同じ学校にスクールアイドルは二つもいらねぇ……わかったら今日中に荷物持って帰っとけよ。じゃあな」

花陽「ま、待ってよ…! にこ兄っ!!」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1433848215


にこ「…あ、それとアイドル続けたかったらこの俺に勝つことだな」

穂乃果「矢澤に?」

にこ「まぁてめぇらじゃ100年練習積んだとしても俺には勝てねぇだろうが、もし万が一勝つことができたら……そん時は認めてやんよ、てめぇらを」

真姫「……」

にこ「おまえらにその気があるんだったらいつだって挑戦受けてやるぜ。かかってこいよ」

海未「…では」

にこ「は?」


ドゴッ!!!!


にこ「ぶほぉっ!?」
ドサッ

海未「弱い……」

にこ「痛ぇなっ……だ、誰が殴りかかってこいっつった……園田てめぇっ!!」

海未「違うのですか?」

にこ「勝負っつったらアイドルの勝負に決まってんだろーがっ、このボケナス!!」

穂乃果「海未くんずるーい! オレだって矢澤とタイマンしたかったのに!」

にこ「て、てめぇらなんかもう知るか! いいか!? 明日から来んなよっ、絶対だぞ!」

花陽「に、にこ兄……」


──屋上


にこ「……ぐすっ…、まだ痛ぇ……」
ヒリヒリ

にこ「あの馬鹿……俺の顔に痣でもできたらどうすんだよ、くそっ……」

真姫「……馬鹿はどっちだよ」

にこ「あン? なんだ、真姫か……」

真姫「ていうか、あんたどんだけ不器用なの…」

にこ「……うっせぇ、ほっとけ」

真姫「……心配してたよ、花陽も凛も」

にこ「あっそ……」

真姫「今頃校内走り回って先輩を捜してんじゃない?」

にこ「……なんでおまえはわかったんだよ、俺がここにいるって」

真姫「そんなの…」
カチッ

にこ「あ?」

真姫「そんなの簡単でしょ、あんたのことなんだから」
スパーッ

にこ「ば、馬鹿っ! 煙草やめろっつったろ!」


真姫「なんで?」

にこ「な、なんでってそりゃアイドルなんだから喉とか気遣えって!!」

真姫「あれ? 先輩、さっき俺らにアイドル辞めろとか言ってたじゃん」

にこ「そ、それは……」

真姫「先輩ちっちゃいんだからさ、なんでもかんでも一人で背負いこもうとすんなよ」

にこ「な、なんのことだよっ……」

真姫「もっと頼れって言ってんの。俺や、あいつらを」

にこ「あいつら……?」


ガチャ…


花陽「あっ! にこ兄ーっ!」

凛「こんな所にいたにゃー!」


にこ「小泉……星空……」

真姫「花陽はもちろん、凛だってなんだかんだあんたのこと慕ってるよ」

にこ「……お節介過ぎんだよ、てめぇら……」


穂乃果「あーっ、もーっ! 意味わかんねぇよ、矢澤のやつ!」

海未「何か気に障るようなことしましたっけ、私たち……。心当たりありますか? 穂乃果」

穂乃果「ない。……つーかありすぎてない」

海未「と、言いますと?」

穂乃果「アイツが大事にしてた伝説なんちゃらとかいうDVDで野球してたらすげぇへこんでた……箱も矢澤も」

海未「……他には?」

穂乃果「アイツの携帯の電話帳に入ってる女の子のメアド盗んで手当たり次第にコクったら全部フラれた……マジで矢澤ムカつく」

海未「……それは穂乃果に問題があるのでは?」

穂乃果「あとは、弁当の中にカエル突っ込んだり、廃墟に連れてって一晩閉じ込めたり、ヤクザの車に矢澤のサイン書いたり…」

海未「なるほど…」

穂乃果「でもそんな怒ることじゃなくねぇ!?」

海未「確かに、そうですね……」

穂乃果「ぶん殴って吐かせる?」

海未「それも一つの手ですが…」

ことり「あ、穂乃果くーん、海未くーん! お待たせー」
タッタッタ


穂乃果「あ、ことりちゃん」

ことり「ごめんね。待たせちゃって」

海未「いえ、全然気にしていませんよ」

ことり「それと、今日は部活に顔出せなくてごめんね」

海未「あぁ、何か用事があると言っていましたね」

穂乃果「何だったの?」

ことり「えっとね、お友達の恋愛相談に乗ってたの」

海未「そ、そうだったのですか…」

穂乃果「あれー? 海未くん、ちょっとホッとしてるでしょ?」

海未「な、なななな何がですか?」

ことり「??」

穂乃果「よかったね、ことりちゃんじゃなくてお友達で」

海未「ほ、穂乃果っ!! そういう穂乃果だって一瞬ドキッとしてたの私が気付いていないとでも?」

穂乃果「は? ち、ちちち違ーしっ!!」

ことり「どうかした? 穂乃果くん、海未くん」

海未「な、なんでもありませんよ」

穂乃果「そうそう、気にしないでねー。ことりちゃん」

ことり「それでね、その子の好きな人っていうのが矢澤先輩で」

穂乃果「は?」


海未「まぁ…、ああ見えて女子から人気ありますからね、矢澤先輩は」

穂乃果「ムカつく……」

ことり「矢澤先輩って付き合ってる人いるの?」

穂乃果「いないでしょ。もしいたらオレが全力を注いで別れさせるし」

ことり「あはは……せっかくカッコいいのに彼女作んないのもったいないよねぇ」

穂乃果「こ、ことりちゃんも矢澤のことが好きなの!?」

海未「なっ…、そうなのですか!? ことりっ」

ことり「え、えーと……ことりは、特に……」

穂乃果「だ、だよねー! あぶねぇ、もう少しで矢澤の息の音を止めるところだったぜ……」

海未「まったくです……」

ことり「……?」

穂乃果「ったく、みんな矢澤矢澤って……アイツのどこがそんなにいいんだか…」

ことり「女子からすごく人気があるのは本当だし、でもことりは穂乃果くんや海未くんの方がカッコいいと思うなぁ」

海未「!?」

穂乃果「ま、まじで!?」


──屋上


にこ「……いいか? この日本は今やアイドル戦国時代だ」

真姫「……」

にこ「関ヶ原と桶狭間が同時に襲ってきてるようなもんだ」

真姫「……は?」

凛「よくわかんないけど超ヤバいってこと?」

花陽「ふむふむ……さすがにこ兄です」

にこ「俺はそのアイドルの頂点を目指す男だ。だから誰にも負けるわけにはいかねぇ」

真姫「だからわざと内部分裂を謀って俺らをけしかけようとしたわけ」

にこ「……まぁな。特に高坂と園田、あの二人は駄目だ」

凛「そうなの? 別に歌や踊りが下手なわけじゃないと思うけど」

にこ「それ以前の話な。あいつらまるで集中できてねぇ…、アイドル舐めてやがる」

真姫「まぁなんとなくわかるけど」
スパーッ

にこ「とにかく、俺らμ'sが頂点を取るためには今のままのμ'sじゃ全然駄目なんだよ」

凛「ふーん」

にこ「……それと、あと二人も」


ガチャ…


絵里「こんな所で何をやってんだ? 矢澤」

にこ「げっ……絢瀬……」


絵里「屋上はたむろする為の場所ではないのだが」

にこ「…ミーティング中だ、ボケナス」

絵里「……西木野、その煙草は何だ?」

真姫「……」
スパーッ

絵里「答えろ」

真姫「……先輩に無理矢理吸わされましたー」

にこ「おいこら、てめぇ」

真姫「なんてね。ただの息抜きですよ。生徒会長もどうです? 一本」

絵里「結構。生徒会室に来い、西木野」

真姫「はいはい」


絵里「……矢澤」

にこ「…ンだよ?」

絵里「辞めたらしいな、アイドル」

にこ「バーカ、俺が辞めたのはアイドルじゃなくてμ'sだ」

絵里「……まぁどっちだっていいが、これでμ'sは俺の好きにしていいんだな?」

にこ「勝手にしろ……俺は、俺たちはもうμ'sじゃねぇ、Ja:μ'sだ」

絵里「……!?」

凛「まぁそういうことらしーんで」

花陽「ま、負けませんっ…!」

真姫「あははははっ、酷い名前だな……でもまぁ、面白そうかも」


──翌日


希「なぁ、にこっちー」

にこ「……」

希「にこっち? にこっちってばー!」

にこ「うっせぇ、にこっちゆーな…」

希「なんでー? 可愛くてにこっちにピッタリやと思うけどー」

にこ「次、可愛いっつったらぶっ殺す…」

希「とうとうエリチを敵に回してしもうたらしいやん?」

にこ「まぁな……」

希「前から仲悪いと思ってたけど、遂にかー」

にこ「……別に仲が悪いとかそんなガキみてぇな理由じゃねーよ」

希「ん?」

にこ「アイツは俺のことを心の底から嫌ってるし、認めたくなくて、受け入れたくもないんだろーよ」

にこ「だから俺もアイツのことはもう諦めてる。わかってもらおうなんてこれっぽちも考えてねーし」

希「……それって仲悪いってこととなにか違うん?」

にこ「あーうるせぇー! てかお前も絢瀬の味方だろーが! なら俺に馴れ馴れしく話し掛けてくんなよっ、うぜーなっ!」

希「えー! そんな寂しいこと言わんといてよー!」

にこ「うるせぇうるせぇっ! とにかくお前も俺の敵だ! 近いうちにぶっ潰してやるから覚悟しとけっ!」


ガチャ…


にこ「あン……?」

穂乃果「おー、矢澤じゃーん! 来んのおせーよっ、喉乾いてんだからさっさとコーラでも淹れてくれよ」

海未「私は熱い煎茶を」

にこ「……てめぇら……ここに来んなっつっといたよなぁ?」

穂乃果「なんで? ここアイドル研究部の部室じゃん」

にこ「だからだろーがっ! もうてめぇらはアイドル研究部でもなんでも」

絵里「辞めたのはお前の方だろ? 矢澤」

にこ「あ、絢瀬……」

海未「あぁ、珍しく絵里が部室に来てると思えば、そういうことでしたか」

絵里「部長が辞めたのなら早急にその代わりを立てなくてはならないだろ? それがこの俺」

にこ「……」

絵里「アイドル研究部の部長は、この俺……絢瀬絵里だ」

穂乃果「絵里くん、ズルくない? オレだって部長やってみたかったのに」

絵里「馬鹿のお前には無理だろ、穂乃果」

海未「ですね」

穂乃果「はぁー?」

にこ「……」

絵里「ほら、関係のない者はさっさとこの場所から立ち去れ」

にこ「……わかったよ」


──屋上


真姫「……で、またここってわけ?」

にこ「うっせ……」

真姫「まぁ開放的で俺はこっちの方が好きだからあんま気にすんなよ」
スパーッ

花陽「ま、また生徒会長に怒られちゃうよ…、真姫くん」

真姫「そうなったらそうなったで…」
スパーッ

にこ「……」

凛「ねぇ……すごいこと気付いちゃったんだけど言っていい?」

にこ「ムリ」

凛「やだ、言う」

真姫「……まぁ予想はついてるけど」

凛「今の状況ってさ、どっちかっていうと向こうの方が音ノ木の正式なスクールアイドルって感じになってない?」

花陽「そ、そんなことっ……!」

にこ「……」

真姫「そうだろうな。先輩が追い出されただけ。ついでに俺らもこの馬鹿な人についてきちゃっただけ」

花陽「ま、真姫くんっ、にこ兄にも何か考えがあって…」

にこ「……っ」

真姫「ないだろ。何も考えもしないで突っ走った結果がこれ。反論あるならどうぞ?」

にこ「……う、うっせぇよ! 真姫っ、てめぇはっ」

真姫「でも、後悔はしてねぇよ。あんなやつらといるより先輩といた方が楽しそうだし」

にこ「真姫……」

真姫「馬鹿な人って見てても飽きないからね。あ、向こうにも超が付くほど馬鹿な人いたっけ」

にこ「やっぱムカつくわ、コイツ…」


真姫「で、どうすんの? これから」

にこ「……今考えてるところだからちっとは黙っとけよ」

花陽「ぼ、僕はにこ兄についていくからねっ、何があっても! 信じてるからっ…」

にこ「……」

花陽「げ、元気出してよ、にこ兄っ…! にこ兄はすごいんだからなんだって出来るよっ! 生徒会長が相手でもにこ兄なら絶対に」

にこ「うるっせぇっ! 黙ってろって言ってんだろっ!」

花陽「ご、ごめんなさぃっ…!!」

真姫「でもまぁ、そんな悠長に考えてる暇はないだろ。ラブライブにもエントリーしなきゃいけないし、そのエントリーも各校一組まででしょ?」

凛「あ、そっか」

真姫「さて、どうするんでしょうね、にこ先輩は」

にこ「……お前絶対楽しんでんだろ、この状況…」

真姫「さぁ?」

凛「あ、そうだ! 向こうの連中を一人残らずボコるってのはどう?」

花陽「え、えぇー!?」

にこ「アホか、お前は…」

真姫「高坂に園田、おまけに生徒会長までいるんだし返り討ちに遇うのが目に浮かぶな」


にこ「俺らはアイドルだろが……そんな野蛮な手段に打って出るつもりなんかねぇよ」

凛「ニコくん激弱だし」

にこ「あぁ…?」

花陽「に、にこ兄は本気出したら超強いもんねっ、……見たことないけど」

にこ「……小泉、もうお前黙ってろ」

花陽「は、はぁい……」





にこ「……」

凛「もうすぐ陽が暮れそう…」

花陽「お腹空いた」

真姫「俺に相談も無しに勝手に事を起こすからこういうことになるの」

にこ「ぐぬっ……」

真姫「このまま何もなければどうなるかわかってんの?」

にこ「な、なんだよ…?」

真姫「正直、昨日から引っ掛かってたんだよね。にこ先輩が勝負しろとか言ってたこと」

にこ「はぁ…?」

真姫「勝負ってのはさ、相手がいなきゃ成り立たないのはわかる?」

にこ「な、舐めてんのかよっ…」

真姫「この状況で誰が勝負してくれると思ってんの?」


真姫「今の現状を馬鹿な人にでも分かりやすく例えると、アイドル研究部の方が音ノ木坂の公式スクールアイドル、そしてそこを追放された俺らが非公式のスクールアイドルってわけ」

真姫「まだこっちが公式の立場なら挑んでくる相手を潰すことも可能だったけど、今のような逆の場合は万が一にも向こうから挑んでくるわけがない」

真姫「だって挑む理由がないから」

にこ「……ムカつくほど説得力があるぜ」

凛「じゃ、じゃあこっちから仕掛けていけば」

真姫「簡単にかわされるだけだろ」

花陽「そんな……僕らはもう何も出来ないの……?」

真姫「まぁそういうわけじゃないけどな」

にこ「……?」

真姫「ふふっ」

凛「真姫くん?」

真姫「先輩が頼ってくれるなら知恵を貸してあげないわけでもないんだけど」

にこ「……っ」

真姫「俺ら仲間でしょ? にこ先輩」

にこ「真姫……」

真姫「あんたには俺が必要なんだよ。そこんとこちゃんと理解してくれなくちゃ」

にこ「いまいち信用できねぇんだけど、お前のこと……」


真姫「先輩一人でどうにか出来るんならどうぞご自由に」

にこ「…………頼むわ、真姫」

真姫「仕方ないなぁ、ただし俺の言ったことには従ってよ? 先輩」

凛「真姫くん、悪い顔してない?」

花陽「何か企んでる顔……」

にこ「……まぁコイツに頼んなきゃどうにもなんねぇんだから、何言われても乗ってやんよ」

真姫「偉い偉い」

にこ「……んで、良い案ってのさっさと言ってみろよ。くだんねーことだったらぶっ殺す」

真姫「向こうが挑んでこない、こっちから挑んでもかわされる……なら、向こうが俺らに挑まなければいけない状況にもっていけばいいだけの話。簡単でしょ?」

にこ「だからそれをどうすんのかって訊いてんだよっ!!」

真姫「ははっ、まぁ一番手っ取り早くて効果ありそうなのは、あれだろうな」

凛「あれって?」

花陽「どれ……?」

真姫「下、見てみろよ」

にこ「……」




穂乃果「ことりちゃん、帰りにクレープ寄っていこーぜ!」

ことり「うん♪」

海未「ことりは甘いものが本当に好きですね」

穂乃果「あれ? 海未くん苦手だっけ? なら残念だけど二人で行こっか、ことりちゃん」

海未「なっ……、誰も苦手などと言っていません! 当然、私も行きますよ。穂乃果と二人なんかにしたらことりが危険ですからね」

ことり「き、危険ってそんな…」


にこ「……」

真姫「南ことり……高坂と園田が好意を寄せてる女」

にこ「おい……てめぇ、まさか」

真姫「あの女を奪えば二人はどんな反応見せてくれんのかなぁ」

にこ「いや待てよっ、俺はアイドルなんだから特定の恋人を作るなんて出来るわけねぇだろ!!」

花陽「そ、そうだよっ…!! にこ兄に恋人だなんてそんなの僕が許さな」

凛「え?」

にこ「悪いがそっちも俺は勘弁だ……。と、とにかくっ、俺は恋人なんか作らねぇ! 俺にとっての恋人は応援してくれるファンなんだからな」

真姫「誰も南ことりと付き合えなんて言ってないでしょ、落ち着けよ」

にこ「あぁ?」

真姫「惚れさせるだけで充分に事足りる」

凛「その後は?」

真姫「さぁ? 好きにすればいいだろ、付き合うもよし、捨てるもよし。重要なのは高坂たちの感情、興味の意識をこちら側へ向けされること……それが恨みや嫉妬で薄汚れたものなら尚良し」

にこ「お前、最低なヤツだな……」

真姫「アイドルの頂点を目指してる人ならそこら辺の女一人惚れさせるなんて容易いことだろ? な? ナンバーワンアイドル様」

にこ「……っ」


にこ「と、とは言ってもよ……俺、そんな女と会話とかしたことないし…」

真姫「自信が無いならやらなくてもいいけどさ、あいつらにラブライブに出てもらうことになるけどいいの?」

にこ「ふざけんなっ! そんなの許さねぇよっ!」

真姫「なら頑張れよ、期待してっからさ」

凛「ニコくんは童貞だけどツラは良いからきっと大丈夫だにゃー」

花陽「むむむむむむむ……」

にこ「……ま、真姫っ、てめぇがやれよ!」

真姫「は? 嫌に決まってんでしょ。俺、そういうのじゃねーし」

にこ「ぐぬっ……」

真姫「その手でμ'sを取り戻そうぜ、部長」

凛「頑張れー、ニコくーん」

花陽「むむむむぅぅぅ……っ」

にこ「……チッ、やればいいんだろっ、やればっ!!」

真姫「あははははっ、そうそう」

にこ「最初に言っとくけど、俺ホントそういうのわかんねーから、……助けろよ」

真姫「任せろよ、にこ先輩。俺の言う通りに動けば間違いねぇから。ははははっ」

花陽「真姫くん、これは絶対…」

凛「楽しんでるよね」

にこ「……」


──数日後


にこ「はぁ……、やっぱこんなの性に合ってねぇだろ……あの真姫のヤツ……」

にこ「……でも、まぁ……仕方ねぇか」


ガチャ…


ことり「お待たせしましたっ、矢澤先輩」

にこ「……別にそんな待ってねぇよ。そっちも忙しいんだろ?」

ことり「は、はい……まぁ…」

にこ「……悪かったな、無理な頼みしちまって」

ことり「いえ、私は全然…」

にこ「……それと、」

ことり「??」

にこ「高坂たちに黙っててくれて助かってるよ」

ことり「穂乃果くんたちとケンカしたって……」

にこ「……まぁな、そのせいで今は敵同士だ。お前には気遣わせてわりぃ…」

ことり「そんな…、謝らないでください。一時的にアイドル研究部を離れたからって、みんなの衣装を作るのは私の仕事ですから」

ことり「勿論、矢澤先輩の分も」

にこ「……サンキュ」


ことり「じゃあさっそく今日の…」

にこ(コイツを……南を、俺に惚れさせるとか……)
ジーッ

ことり「……矢澤先輩?」

にこ「え?」

ことり「どうかしました?」

にこ「あ、いや……なんでもねぇ、ちょっと考え事してて」

ことり「大変だと思いますけど、頑張ってくださいね」

にこ「……何も訊かねぇんだな」

ことり「はい。矢澤先輩がμ's抜けたいって言い出すくらいだからきっとすごく大切な事情があってのことだと思うから」

にこ「……」

ことり「だから、ことりなんかが軽々しく訊いたりしちゃいけないんです」

にこ「……そんなこと、ねぇよ…」

ことり「矢澤先輩…」

にこ「俺は……」

にこ(あっ……)


真姫『いいか? 絶対に先輩がμ'sを辞めた理由は南ことりに話したりするなよ?』

真姫『あの人は高坂と園田の幼馴染み……てことは俺らの敵なんだよ。だから自分の口からこっちの情報を洩らすようなマヌケなことなんかするなよな』


にこ「……」

ことり「あ、あの…」

にこ「…衣装だよな。あんま時間ねぇからとっとと取り掛かるぞ」

ことり「え? あ、はいっ」




ことり「それで、矢澤先輩は次のステージ衣装についてどんなイメージを?」

にこ「あー、なんつーか……ダーク的な感じ……」

ことり「珍しいですね、矢澤先輩いつもはけっこう可愛い系な衣装を好んでたと思ってたんですけど」

にこ「……今回は、絶対に負けるわけにはいかねぇから」

ことり「わかりました。ことりも精一杯頑張りますね!」

にこ「あぁ、頼むな」

ことり「じゃあ矢澤先輩の中のイメージを出来るだけそのままの状態で製作したいと思うので簡単に絵とか描いてもらえますか?」

にこ「絵……? 俺、そういうのかなり苦手なんだけど…」

ことり「そんな上手くなくても全然大丈夫なので、お願いします」

にこ「あ、あぁ……」
カキカキ



にこ「こんな感じか……つーか自分で見てもかなりヤベぇ……なんだこれ」

ことり「ぷっ、くくっ、あははっ…」

にこ「わ、笑ってんじゃねぇーっ!! お前が描けって言ったから俺はっ」

ことり「す、すみませっ……ふふ、あははははっ……ご、ごめんなさ、あははっ…」

にこ「……」



にこ「……そろそろ外も暗くなってきたから今日はこの辺にするか」

ことり「あ、そうですね。じゃあ私、ここ片付けてから帰るので先輩は先に帰っててください」

にこ「あ、うん…」

ことり「お疲れ様でした」

にこ「……」


真姫『帰りは家の近くまで送っていくこと。これ重要な?』

真姫『一回断られても押していけよ。微妙な気遣いとか先輩には期待してねぇから、強引さでカバーしてみせろよ』


にこ「強引さって……簡単に言ってんじゃねぇよ、馬鹿……」






ことり「さて、と……ことりも早く帰ろうっと」


ことり「もうこんな薄暗い……いつもは穂乃果くんと海未くんと帰ってるから、一人で帰るの久しぶりかも」

ことり「やっぱりちょっと寂しいなぁ…………あれ?」

にこ「遅ぇよ……何分待たせんだ」
スッ

ことり「や、矢澤先輩……? 先に帰ったんじゃ」

にこ「家、どっちの方向?」

ことり「え、えっと……あっち、です」

にこ「あっそ、んじゃ行くぞ」

ことり「え…? あの…」

にこ「……ち、近くまで送ってってやるっつってんだから早くしろ! ノロマ!」

ことり「は、はいっ…」



真姫「へぇー、まぁまぁ様になってるな」

花陽「にこ兄なら当たり前だよっ、にこ兄はスーパーアイドルなんだから女の子の扱いだって」

凛「でもこうして尾行してるのニコくんにバレたらすっごい怒られそう」

真姫「何言ってんだよ、俺らはアイツがヘマしないようにこうやっていつでも助けに行ける距離にいるんだろ。寧ろ感謝してもらいたいくらいでしょ」

凛「ていうか真姫くんって結構優しいよねー。ニコくんもなんだかんだ言って真姫くんのこと頼りにしてるみたいだし」

真姫「だろー? あの先輩は俺がいなきゃ何も出来ないからな、ははっ」

花陽「……す、好きなの……?」

真姫「は?」

花陽「真姫くんはにこ兄のこと……好きなの……!?」

真姫「待て待て、俺はそういうのじゃねーから! あんま馬鹿なこと言ってたら本気で怒るぞ」

花陽「ご、ごめん…」

凛「かよちんはニコくんのことホント大好きだよねー!」

花陽「そ、そんなっ……大好きっていうか……まぁ大好きなのは本当なんだけど…////」

花陽「にこ兄は僕の憧れなんだ。僕が理想とするアイドルそのもので……カッコいいし、言葉遣いは乱暴だけど、仲間想いでやさしくて……」

花陽「でもいつかそんなにこ兄に乱暴に扱われたいなぁっていう気持ちもあって……強引に僕のことを」

真姫「やべっ、信号赤になりやがった。向こうの方へ回るぞ」

凛「先回りして鉢合わせになったりしない? 大丈夫?」

真姫「俺を誰だと思ってんだよ。この真姫様がそんなヘマするかよ」

凛「だよねだよねー! やっぱり真姫くんはすごいにゃー!」

真姫「おい、凛っ、あんま一人で先行くな!」

花陽「あぁ……にこ兄……//// 僕は一勝にこ兄に着いてい……って待ってよぉぉ…!!」

花陽「真姫くーんっ、凛くーんっ!!」

真姫「うるせぇっ、大声出すな!」

花陽「ご、ごめんなしゃぁぃ…!!」



にこ「……」

ことり「……」


スタスタ……


にこ「……」

ことり「……」


スタスタ……


にこ(何話せばいいんだよ……チッ、ライブのMCなら勝手に言葉が出てくんのによ……)

ことり「……」

にこ(いきなり惚れさせろなんて言われて意識しねぇ方が無理だっつーの!)

ことり「あの……矢澤先輩」

にこ「な、なにっ?」

ことり「ことりといても退屈ですよね…? この辺で大丈夫です。わざわざ送って頂いてありがとうございました」

にこ「そ、そうか……なら」

にこ(って違うだろっ!! 何やってんだ俺は!! 年下の……しかも女の子に気遣わせちまって……)

ことり「ではまた学校で」

にこ「……南っ!」

ことり「は、はい」

にこ「俺は……俺は、日本、いや世界で、違う、宇宙で一番……ナンバーワンのアイドルになる男だ!!」

にこ「だからこの俺が身に纏う衣装を作るお前も宇宙でナンバーワンじゃなきゃいけねぇんだ!!」

ことり「こ、ことりも…?」

にこ「そこら辺に転がってる平凡な衣装じゃ俺は満足しねぇぞ!! 俺だけの、この俺にしか着られねぇ衣装をお前は作らなきゃいけねーんだよ!!」

ことり「は、はい……」

にこ「だ、だから、その為にも……俺のことをもっと知れっ!!」

ことり「矢澤先輩の、ことを……」

にこ「明日の休み……一緒に出掛けるぞ。13時に駅前だ、いいな?」


──ファミレス


真姫「……で、返事は何て?」

にこ「……わかりました、って」

凛「すごいにゃー! ニコくん! さっそくデートの約束を取り付けるなんて」

花陽「にこ兄が女の子に人気があるのはうれしいけど…、でもなんか複雑で……うぅああぁぁっ……」

にこ「ってなんでてめぇら後着けてきてやがんだっ!!」

真姫「デートとか、少し早すぎる気もするけど、まぁいいだろ」

にこ「聞いてんのかよっ、真姫」

真姫「それより、先輩に一つ確認しておきたいことがあるんだけど」

にこ「な、なんだよいきなり改まって…」

真姫「……まさか南ことりに惚れたわけじゃないよな?」

花陽「は……はぁぁ…!?」

凛「そーなの? ニコくん」

にこ「んなわけねぇだろっ! 俺はアイドルだぞ!? 恋愛なんてするわけねぇ、しちゃいけねぇんだよ!!」

真姫「ははははっ、まぁそれならそれで面白いけど」

にこ「てめぇ……この件が済んだら覚悟しとけよ」

真姫「で、明日の話なんだけど」

花陽「に、にこ兄のデート……っ」

凛「ニコくんの童貞卒業するかもアニバーサリー!」

にこ「うっせぇー! てめぇら明日も着いてきたらぶっ殺すからな!」

真姫「あぁ、見付かるようなヘマはしないから安心しとけよ」

にこ「その心配をしてんじゃねぇーっ!!」

ここまでー
ラブライブ板でいじめられたから逃げてきました。ここではいじめないでくださいねー
ではではー


──翌日


にこ(あんなこと言うんじゃなかった……南と二人で出掛けるなんて、これってあれじゃねぇか……デート、みたいで……)

にこ(そもそも誰かに見られたらどうすんだよ、俺はアイドルなのに……ファンに見られたりしたら…)

「あのー」

にこ(そ、そもそもこれはデートじゃねぇだろ……ただ衣装担当の後輩と外で会って話すだけ)

「あ、あの……」

にこ(そう、アイドル活動の一貫なんだ……だから俺はファンを裏切ってなんか)

「あの、先輩……矢澤先輩」

にこ「うっせぇな! 俺は今大事な考え事の最中で」

ことり「ご、ごめんなさいっ…」

にこ「って、うぉっ!? み、南…!?」

ことり「は、はい……すみません、お待たせしちゃって」

にこ「い、いや全然……ぜんぜん……」

ことり「大丈夫、ですか……?」

にこ「何が……?」

ことり「その、なんていうか……シャツのボタン掛け違えてますよ?」

にこ「え? う、嘘!? あ……やっちまった……最悪……」

ことり「くすっ、ダメですよ? せっかくオシャレなんだから気を付けなきゃ」
スッ

にこ「ば、ばかっ……自分で出来るって!」

ことり「へ? あっ、これじゃことりが先輩を脱がしてるみたいに……」

にこ「…っ////」



ことり「す、すみません……変なことしちゃって……」

にこ「も、もういいから……思い出させんな……」

ことり「…でも、先輩って意外と可愛いとこあるんですね」

にこ「……可愛いはやめろ」

ことり「くすっ、はーい」

にこ(なんだこれ……、希に言われるのと比べて全然嫌じゃないっていうか……)


ことり「さて、そろそろ行きましょうか」

にこ「え? 何処に?」

ことり「何処にって……デートですよね?」

にこ「で、でーとじゃねーから!! 絶対でーとなんかじゃねぇからっ!!」

ことり「そんなに否定しなくても…」

にこ「……お前、俺のことナメてんだろ……それと、わりぃけど行き先とかまったく考えてなかった」

ことり「うーん、じゃあどうしましょうか?」

にこ「南はどっか行きたい所あんの?」

ことり「行きたい所……うーん……」

にこ「最初に言っとくけど、お前と違って俺こういうのあんま経験ねぇから期待すんなよ…」

ことり「ことりだって男の人と遊びに行くのなんて穂乃果くんや海未くんくらいだし…」


にこ「……やっぱアイツらと仲良いんだな」

ことり「そうですね。幼馴染みですし、今までも三人でずっと一緒にいましたし」

にこ「これからも?」

ことり「え? あ、はい。そうなったらいいなぁって」

にこ「ふーん、俺そういう幼馴染みとかいねぇからよくわかんねぇや」

ことり「先輩は西木野くんと仲良しですよね。凛ちゃんやかよちゃんとも」

にこ「別にそういうんじゃねーよ。アイツらが勝手に付きまとってくるだけだし」

ことり「でも女子からは先輩のそういう面倒見が良いところ素敵って声よく聞きますよ」

にこ「……あっそ」

ことり「前から気になってたんですけど…」

にこ「なに?」

ことり「先輩って、もしかして女の子に興味無かったりします……?」

にこ「……どういう意味だよ、それ」

ことり「え、えっと……怒らないで聞いてくれます?」

にこ「保証はしねぇが話してみろ」

ことり「先輩ってすごく綺麗な顔してるし、西木野くんと二人でいると美男カップルみたいでお似合いだなぁ、って」

にこ「……て、てめぇ…」

ことり「アイドル研究部はみんなカッコいい人多いし、ついそういう想像しちゃって……えへへ」

にこ「思ってても口にすることじゃねーだろ……」

ことり「他にも穂乃果くんと海未くんや、凛ちゃんやかよちゃん、絵里くんや希さんとか。みんな素敵で…」

にこ「そ、その話はもういいっ!」



真姫「なんでアイツら動きもしないでずっと喋ってんだ?」
スパーッ

凛「ニコくんが何も考えず無計画で来ちゃったから何処に行くか話し合ってるとか?」

真姫「…いや、デートに行くのわかってて何も考えてこない男なんていねーだろ」

凛「まぁそーだよねー」

花陽「真姫くん…、街中で煙草吸ってると補導されちゃうよ…」

真姫「それなら平気。成人用の身分証明書偽造してるから。一応お前らの分もあるけど」

花陽「なんでそんなもの…?」

凛「真姫くんって結構無駄なことに頑張るよねー。いつも暇なの?」

真姫「世の中には無駄なことなんて何一つねーの。いつか役立つ時が来るぞ、ははっ」

花陽「そのお世話にだけはなりたくない……」

真姫「あー、それより凛」

凛「なーに?」

真姫「お前ちょっとあの二人の様子見てこいよ。バレないようにな」

凛「えー! なんで凛なのー?」

真姫「だって花陽だとやらかしちゃいそうだろ」

凛「そっかー」

花陽「や、やらかすってなにを…!? 僕はにこ兄のことを想って、にこ兄の為になんでもするからっ……だからそんな変なことなんて」

真姫「…な?」

凛「んじゃ、行ってくるにゃー」

真姫「頼んだぞー」

花陽「ってまた聞いてない!?」



にこ「つーか星空は何考えてんのかよくわかんねぇけど、小泉は多分そっちの気あるぞ…」

ことり「それは誰でも気付いてますよー。かよちゃん、先輩のこと大好きですもんね」

にこ「気付いてんのならなんとかしてくれ…」

ことり「あはは、でも先輩ってファンを大切にしてるでしょ?」

にこ「まぁな」

ことり「だったらかよちゃんは一番のファンじゃないですか?」

にこ「普通のファンならあんなにベタベタしてきたりしねーよっ!」

ことり「かよちゃんと先輩も捨てがたいかぁ……でもやっぱり先輩は西木野くんと……うーん…」

にこ「……お前って変なやつだな」

ことり「そうですか?」

にこ「…あぁ、かなりな」






真姫「はぁ? BL談義に花咲かせてた?」

凛「うん」

真姫「なわけないだろ……ちゃんと聞いてきたのかよ」

花陽「び、びぃえる……」

凛「ニコくんは真姫くんとお似合いなんだってー」

真姫「なんだそりゃ……気持ち悪……」

花陽「あ、あの女ぁぁっ…!! 何をふざけたこと言ってっ…、にこ兄は僕とっ…」

真姫「落ち着けって! 花陽」

凛「かよちんはニコくんのことになると性格変わるよねー」

真姫「な? 花陽を行かせなくて良かっただろ?」



ことり「じゃあ衣装の材料とか見に行ってもいいですか?」

にこ「あぁ、……でも、いいのか?」

ことり「??」

にこ「せっかくの休みの日なのにそんな仕事のこと考えて。もっと他に気晴らしとかさ」

ことり「くすっ」

にこ「何か変なこと言った?」

ことり「昨日私に宇宙でナンバーワンの衣装を作れなんて言ってたのに。優しいんですね」

にこ「あ、あれは別に、その…」

ことり「それに、私自身が好きなんです。みんなの衣装考えたり作ったり、どういうのがみんなに似合うかなぁなんて考えるの」

にこ「へぇ…」

ことり「もしかして嫌々作ってると思ってました?」

にこ「そんなことねーよっ! 嫌々作って毎回あんな良い衣装が完成するわけねーだろ」

ことり「えへへ、先輩に褒めてもらえたぁ」

にこ「俺は頑張ってるやつはちゃんと評価するし、……逆になにも頑張らねぇやつはすげぇムカつく……」

ことり「先輩……?」

にこ「なんでもねーよ、行くとこ決まったんならさっさと行くぞ」

ことり「は、はーい」



ことり「あ、これとか衣装に使えるかも」

にこ「へぇ、安いのに意外としっかりしてるんだな」

ことり「まぁ店に依りますけどね。ここはコストと質のバランスがとれててお気に入りなんです」

にこ「ふーん」

ことり「あっ、可愛いー♪ これも衣装に使おっと」

にこ「待て待てっ、そんなでけぇリボンなんかどう使おうってんだよっ!」

ことり「先輩……女装とか」

にこ「しねーよっ!!」

ことり「残念…」

にこ「ていうかお前って、お……男同士が好きなんだろ…? だったら女装なんて…」

ことり「可愛く女装した先輩が西木野くんに乱暴に犯されるとか」

にこ「やめろばかっ!! それに犯すとか女が使ってんじゃねーよ!!」

ことり「せ、先輩……声大きいです」

にこ「あ……」





ことり「いっぱい買っちゃったぁ♪」

にこ「半分出すっつってんのに……衣装代だろ、それ」

ことり「まだ衣装に使うかわかんないですし、使わなかったらことりの私物になるから」

にこ「いや、でもよ…」

ことり「もし衣装に使うことになったら、その時は先輩に高いレストランにでも連れていってもらおうかなぁ?」

にこ「……いいぞ」

ことり「え? そんな、冗談ですよー」

にこ「…こっちは冗談じゃねーんだよ」

ことり「先輩…」

にこ「ほら、荷物よこせ」

ことり「あ、ありがとうございます」



ことり「これとこれどっちがいいと思います? 先輩」

にこ「…どっちでもいいんじゃね?」

ことり「もー、こういう時はどっちか決めてくれないと…」

にこ「……ていうかさっきも買ってただろ」

ことり「さっきのは生地とかでしょ? ああいうの見てるとお洋服欲しくなってきちゃって」

にこ「なるほどな…」

ことり「ことりばっかりじゃあれだから、先輩のお洋服も見ましょうか」

にこ「俺のは別にいい…」

ことり「えー、いつも何処で買ってるんですか?」

にこ「自分で買ったのなんて数えるくらいしかねーよ」

ことり「え、嘘だぁ。そんなにオシャレなのに?」

にこ「……真姫がくれるんだよ。頼んでもねーのに」

ことり「でも、サイズとかぴったりだし……あ、ごめんなさい」

にこ「……どういうわけかアイツのサイズじゃねーものもいっぱい持ってんだよな」

ことり「変なのー」

にこ「まぁアイツは金持ちだし、飽きっぽいし、自分が着もしねーものまで手当たり次第に買ってんじゃねぇの」






真姫「やっとデートらしくなってきたな」

凛「真姫くん、もう帰らない? 飽きちゃったよー」

花陽「うん、こうして盗み見てるのやっぱりちょっと悪い気がするしね…」

真姫「……洋服店に入って30分、そろそろか」

凛「なにが?」

花陽「そろそろって?」

真姫「お前らが退屈してるだろうと思ってな。これから面白いもの見せてやるよ、はははっ」

凛「??」

花陽「真姫くんがこの笑い方する時は嫌な予感しかしない…」



穂乃果「あれ? まだアイツ来てねーのか」

海未「まったく……先輩を待たせるとは後輩の風上にも置けません」

穂乃果「だよなー。来たら何か奢ってもらおっと」

海未「真姫のことですから、もしかしたら穂乃果が遅刻してくるであろうと踏んだ上でのことかもしれませんね」

穂乃果「それはそれでムカつくな」

海未「否定はしないんですね…」

穂乃果「待ってる間、ナンパでもしてる?」

海未「勝手にどうぞ。そろそろ彼女の一人でも作ればいいじゃないですか」

穂乃果「……海未くんさ、しれっとライバル減らそうとしてるよね」

海未「なんのことやらさっぱり」

穂乃果「オレに女作らせて、自分はことりちゃんと……なんて考えてんだろ、どうせ」

海未「……そういえばことりの今日の用事って何か聞きました?」

穂乃果「…いや、なんかはぐらかされた」

海未「しっかりしてくださいよ」

穂乃果「自分で聞けばいいじゃん。なんでオレにやらせんだよ」

海未「ウザい担当は穂乃果でしょう?」

穂乃果「んなもん勝手に決めんなよなー!」




穂乃果「ったく……出ねぇ……」

海未「……!」

穂乃果「海未くん、西木野のやつ全然電話に出ないんだけどー……って、どしたの?」

海未「こ、ことり……?」

穂乃果「えっ、どこどこ!?」

海未「……」

穂乃果「……は? なんで、矢澤と?」



ことり「すみません、持ってもらっちゃって」

にこ「別にいいよ、全然重くねーし」

ことり「先輩って頼りになりますね。さすが男の子ー」

にこ「…今どうせ心の中で“ちっちゃいくせに”って思ったろ?」

ことり「あ、バレちゃいました? あはは、…って冗談ですよ?」

にこ「今更気にしてねーよ、言われ慣れてっから」

ことり「もー怒んないでくださいよー」

にこ「怒ってねーよ」


穂乃果「ことりちゃんっ!!」

海未「ほ、穂乃果っ! 待ってください!」

ことり「あ、穂乃果くん、海未くん」

にこ「……」






花陽「はわわわっ…、なんで高坂先輩と園田先輩が!?」

真姫「ふふっ」

凛「まさか真姫くんが言ってた面白いものって…」

真姫「この状況より面白いものが果たして他にあるのかな、はははっ」

花陽「あ、悪魔だ……悪魔がいる……」

凛「で、でもこの遠目から見ても穂乃果くん相当怒ってるし、このままじゃニコくんが…」

真姫「まぁとりあえず二、三発殴られればいいんじゃない? あははははっ!」


真姫「まぁ本音を言えば、ここは見てみぬふりしてモヤモヤを抱えてくれたままの方がこっちとしては理想だったんだけどな」

凛「穂乃果くんの性格からしてそれは無理だって…」

真姫「あと園田がブレーキかけてくれることに薄い期待をしてたけど、それも間に合わなかったのが残念で仕方無い」

花陽「そんなこと言って、真姫くん今すごい嬉しそうな顔してる…」

真姫「これはこれで想定通りの展開だ。まぁ見てろって」






穂乃果「ど、どういうこと? ことりちゃん」

ことり「へ?」

穂乃果「…なんで矢澤といるの?」

にこ「……」

海未「ことりが言っていた用事というのは矢澤先輩と会うことだったのですね…」

ことり「う、うん、そうだよ」

穂乃果「……なんで?」

ことり「なんでって言われても…」

にこ「俺が誘ったからに決まってんだろ」

穂乃果「や、矢澤……」

にこ「なんか文句でもあんの? コイツと出掛けるのにお前の許可が必要なわけ?」

穂乃果「てめぇっ…」

にこ「……」


ことり「ね、ねぇ海未くんっ、なんで穂乃果くんあんなに怒ってるの…? ケンカ中ってのは知ってるけど」

海未「そ、それは……」


ドゴッ…!!


にこ「ぐぁっ…!!」
ドサッ

ことり「え……や、矢澤先輩!?」

海未「ほ、穂乃果っ!!」

穂乃果「おい、立てよ」
グイッ

にこ「げほっ…、げほっ……」

ことり「ほ、穂乃果くん! なんで!?」

穂乃果「気に入らねーから殴った、そんだけ」


ドゴッ…!!


にこ「あぐっ…!! げほっ……げほっ…!!」

穂乃果「ははは、相変わらず弱ぇー」

ことり「穂乃果くんっ!! やめてよっ!!」

穂乃果「ことりちゃん、そこ退いてよ」

ことり「ひどい……なんで、こんなことするの……?」

海未「……穂乃果、もうやめましょう」

穂乃果「やだ」

ことり「……きらい」

穂乃果「え?」

ことり「穂乃果くんなんかだいっきらい……!!」

穂乃果「こ、ことりちゃ…」

海未「穂乃果、頭を冷やしましょう」

穂乃果「……うん」

海未「……ことり、矢澤先輩、すみませんでした」

ことり「……」

海未「さぁ行きますよ、穂乃果」

穂乃果「…ん」





花陽「に、にこ兄ぃ……っ」

凛「穂乃果くんマジでキレてたよね」

真姫「…100点満点だな。やるなぁ、にこ先輩」

凛「いや、ただ殴られてただけでしょ」

真姫「あそこで殴り返してたら南ことりに与える効果は半減したからな。あそこはただ殴られるままに殴られる情けないサンドバッグ男を演じて正解、大正解」

花陽「僕、真姫くんと友達としてやっていける自信なくなってきたよ…」

真姫「花陽、男ってのはな、大きい野望を成し遂げる為には挫折や後悔、あらゆる失態を繰り返していくものなんだよ」

真姫「お前はそういう先輩に惚れたんだろ?」

花陽「う、うんっ…」

真姫「だったら先輩のカッコいいところだけ見てるんじゃなくて、情けないところまで全てを引っ括めて好きになってやるべき……そうじゃないの?」

花陽「そ、そうだよね…! あぁ…なんだか倒れてるにこ兄が誇らしく思えてきたよ…!」

凛「……」



ことり「ごめんなさい…」

にこ「……なんでお前が謝んだよ」

ことり「だって……ことりのせいで……」

にこ「高坂は俺のことが気に食わなかっただけだろ、お前は関係ねーよ」

ことり「で、でも…」

にこ「……腹減った」

ことり「……?」

にこ「今日は散々お前の買い物に付き合ってやったんだから、ファミレスくらい付き合えよ」

ことり「そ、それはもちろんですけど……本当に、大丈夫ですか?」

にこ「口の中がちょっと切れただけだ、全然なんともねーよ」

ことり「あ、待っててください。ハンカチを」

にこ「いいって、そんなの」

ことり「ダメです。ことりの言うこと聞いてください」

にこ「……っ」

ことり「……よし、これでオッケー」

にこ「……気が済んだか?」

ことり「はーい」

にこ「なら行くぞ」

ことり「……はい」


にこ「……ありがとな」

ことり「…へ? 何か言いました?」

にこ「……何も」



ことり「うーんっ、おいしー♪」

にこ「そりゃよかったな。連れてきた甲斐があるってもんだ……ファミレスだけど」

ことり「……先輩」

にこ「ん…?」

ことり「口の中ケガしてるのにそんなハンバーグとか食べて平気ですか?」

にこ「んー……はむっ、あちぃっ!! いてぇっ!!」

ことり「くすっ、あははっ」



にこ「まぁ…、その、あれだ……」

ことり「??」

にこ「蒸し返すようでなんだけどよ、あんま高坂のこと悪く思ってやんなよ」

ことり「へ?」

にこ「俺が言うのもすげぇおかしいけどさ…」

にこ「ずっと一緒にいた幼馴染みがこんな男と歩いてたら誰だって不愉快になるってもんだ……要するにガキなんだよ、アイツは」

ことり「……」

にこ「だから気に入らねーから殴ったっていうアイツの言い分もわかる。俺とアイツの間じゃ殴った殴られたなんつーのは日常茶飯事だから」

にこ「お前が思ってるような大袈裟なことじゃねぇ。……今日の件が原因でアイツを嫌ったりなんかしてほしくない」

ことり「先輩……」

にこ「まぁこれも俺が言うのも変だけど、決めるのはお前だし……頭の片隅にでも入れておいてくれると俺としては有り難いよ」

ことり「……うん」



ことり「今日はありがとうございました」

にこ「いや、誘ったの俺の方だし……ありがとな」

ことり「途中で色々あったけど…、すごく楽しかったです」

にこ「まぁ確かに酷い一日だったな……ははっ、でも……俺もなかなか楽しめたよ」

ことり「あっ…」

にこ「なに?」

ことり「矢澤先輩、笑ってくれた」

にこ「…そりゃ笑うだろ、俺だって人間だし」

ことり「だって……矢澤先輩はステージの上では笑顔が素敵な完璧なアイドルだけど、それ以外だとあまり笑わないじゃないですか?」

にこ「そ、そう…?」

ことり「そうです。だから今日も、ことりと一緒にいてつまらないのかなって心配してたけど…」

ことり「最後に笑った顔が見られて安心しました」

にこ「わ、わりぃ……全然気にしてなかった……」

ことり「くすっ、でも逆に本当の笑顔をことりだけに見せてくれたのかなって思うと、……なんだかうれしい」

にこ「……」

ことり「ありがとうございます、って言うのも変ですけど……また矢澤先輩が笑った表情を見せてくれたら、ことりはすごく幸せな気持ちになれます」

にこ「お、おう、頑張るよ……。あと、“にこ”でいいから」

ことり「なら私のことも、“ことり”でお願いします」

にこ「え……」

ことり「どうしました? にこ先輩」

にこ「なんでもねぇよ、……こ、こと……り…」

ことり「さようなら、気を付けて帰ってくださいね。にこ先輩」

にこ「……お前もな、……ことり」

とりあえずここまでー
家に帰ったら今日のうちに書くかも、書かないかも
ではではー


──数日後


穂乃果「……」

海未「……いい加減元気出してください、穂乃果」

穂乃果「嫌われた……ことりちゃんに嫌われた……」

海未「穂乃果の自業自得でしょう? 謝ればきっと許してくれますよ、ことりなら」

穂乃果「……オレが殴んなかったら海未くんが殴ってただろ」

海未「……そう、ですね…。もしかしたら、そうなっていたのかもしれません」

穂乃果「……」

海未「ですので、穂乃果一人を悪者にするのは私の本意ではありません。きちんと謝りにいきましょう」

穂乃果「……やだ」

海未「はい? 嫌われたままでよいのですか?」

穂乃果「それもやだ」

海未「子供ですか……」

穂乃果「だ、だってっ! 怖いんだもん! またことりちゃんに、きらいなんて言われたらオレは……っ」

海未「はぁ……まったく、ことりのこととなるといつもの威勢の良さが消えてしまうのですから」

穂乃果「うっせぇ……」

海未「あ…」

穂乃果「…ん?」

ことり「……穂乃果くん」

穂乃果「こ、ことり、ちゃ…」
ササッ

海未「私の後ろに隠れないでください」

穂乃果「……っ」


ことり「……」

海未「……ことりも部室へ向かうところですか?」

ことり「ううん、今日はちょっと別の用事があって」

海未「もしかして、矢澤先輩のところへ…?」

ことり「……うん」

穂乃果「……部活休んでまで行くほどのことなの?」

海未「穂乃果」

穂乃果「だってさ、ことりちゃんは俺らアイドル研究部の一員なんだぜ……それをほったらかしにして…」

ことり「……同じだよ」

穂乃果「え?」

ことり「にこ先輩だって今はアイドル研究部じゃないかもしれない、だけど……穂乃果くんたちと同じスクールアイドルには変わりないから、ことりは応援したいって思うよ」

ことり「それにね、にこ先輩は私を必要としてくれてる。だから、ことりもその期待に応えたいって」

穂乃果「そんなの……っ、そんなのオレらだって同じだよ!! オレだってことりちゃんのこと…」

ことり「ごめんね、明日はちゃんと行くから…」

海未「……わかりました。絵里には私から伝えておきますので」

ことり「うん、じゃあことりはこれで」

穂乃果「こ、ことりちゃんっ!」

ことり「穂乃果くん…」

穂乃果「…………この前は、……ごめん」

ことり「ん……、にこ先輩にも謝っておいてね」

穂乃果「……うん」


──屋上


ことり「一応ざっくりと衣装のデザイン考えてみたんですけど、どうでしょうか?」

凛「おぉっ、カッコいいー!」

花陽「ほぇー、絵上手ですねぇ」

ことり「あ、後ろはこんな感じになってて」

にこ「…いいんじゃねーの」

凛「うん、文句なし」

花陽「にこ兄に似合いそうだから僕も賛成、かなぁ」

ことり「えへへ、よかったぁ。あ、西木野くんは」

にこ「おい、真姫! そんな所いねーでお前もこっち来て見ろよ」

真姫「あー、俺は別に意見とかないから。特別ダサくなかったらちゃんと着るし、南先輩が作るのだったらある程度は信用してるよ」
スパーッ

にこ「ったく…」

ことり「……」
ジーッ

真姫「……なに?」

ことり「ううん、衣装の方を先に考えちゃったけど曲のイメージとか大丈夫かなぁ…って。もし西木野くんが作った曲と掛け離れてたら…」

真姫「ん、あぁ……そのことなら心配いらねーよ。曲のストックなら腐るほどあるし」

ことり「へぇ、すごーい」

にこ「……まぁコイツは大口叩くだけの仕事はするからな」


凛「相変わらず真姫くんはなんでも出来て完璧だねー」

真姫「ははっ、まぁな」

凛「…性格以外は」

花陽「うん、性格以外は」

にこ「そうだな、性格以外は」

真姫「おい、お前ら……」

ことり「あはははっ、西木野くんは彼女とかいるの?」

真姫「いるよ」

凛「え? ホントに?」

花陽「初めて聞いた…」

ことり「こんなにカッコいいんだから、そりゃあ女の子が放っておかないよね」

真姫「だって言ってねーもん。ていうかわざわざ言うことでもないでしょ」

にこ「……」

真姫「どしたの? 先輩。まさかマジで俺にそっちの方期待してたとか?」

にこ「…ちげーよ、バーカ……なんつーか、…恋人作るなとは言わねーけどよ、お前も一応アイドルなんだから節度を保った交際しろよ」

真姫「はいはい」

にこ「ホントにわかってんのかよ……お前の普段からの適当っぷりを見てるこっちとしては心配になんだよ」

真姫「なら四六時中監視してる? 勿論、ベッドの中まで」

ことり「わぁぁ…////」

にこ「ば、ばかっ!! 何言ってっ」

真姫「ははははっ、冗談に決まってるでしょ。じゃあ俺ちょっと用事あるから帰るわ」

にこ「お、おいっ、真姫っ」



穂乃果「はぁぁ……」

海未「……」

穂乃果「はぁぁぁぁ……」

希「……?」

穂乃果「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


絵里「……おい、海未」

海未「はい?」

絵里「はい、じゃなくてだな……コイツ、どうしたんだ? そろそろ手が出そうなんだが」

海未「え、えぇ……実は」




希「ことりちゃんにフラれた?」

海未「いえ、フラれたわけではないのですが……“きらい”、と」

穂乃果「うぅっ…」

絵里「…というか、俺はお前らのうちのどちらかともう付き合っているとばかり思ったいたが」

海未「なかなかタイミングというものを掴めなくて…」

穂乃果「海未くんの場合、ビビってるだけでしょ」

海未「穂乃果だって同じじゃないですか!」

絵里「……なんていうか、お前ら情けないな。矢澤なんかに女奪られて」

穂乃果「ま、まだとられたわけじゃねーよ! 絵里くんっ」

海未「そ、そうです! ことりは優しいから矢澤先輩の道楽に付き合ってあげてるだけです、きっと…」

希「ふーん…」


海未「…希先輩?」

希「いやぁ、にこっちの方からことりちゃんを誘ったなんかすごい珍しいなぁって。ていうかそんなのあり得るんやなーって」

絵里「……確かに妙だな。あのアイドルバカが自分から女に近付いていくなんか」

穂乃果「そう? ことりちゃん可愛いし誰だって好きになるでしょ。アイツも三年だし、そろそろ童貞捨てたくなったんじゃねーの?」

海未「こ、ことりと、矢澤先輩が……」

穂乃果「うわあああっ!! 自分で言っててめちゃくちゃムカついてきた!!」

海未「馬鹿なこと言わないでくださいっ!! 想像したくなくても勝手に脳がっ……くぅっ……!!」

絵里「……コイツら本物の馬鹿だな」

希「ふふっ」


穂乃果「よしっ、ぶん殴りに行くぞ」

海未「またことりに嫌われますよ……そもそもきちんと謝る約束してたじゃないですか」

穂乃果「で、でもよぉ……ことりちゃんが、あんなヤツにぃぃぃっ……」

海未「まずは謝ってからです。話はそれからでしょう」

穂乃果「……だな、うん……謝る」

海未「私も付き添って差し上げますので」

穂乃果「ありがと、海未くん」


絵里「……もうお前ら同士付き合えばいいじゃないのか?」



ことり「にこ先輩、すみませんが明日はアイドル研究部の方に参加する約束しちゃったので…」

にこ「まぁそうだろうな、お前からしてみれば向こうの方が本業なのは当然だし。俺もそれは理解してる、だから全然気にしてねーよ」

ことり「……少しくらい気にしてくれてもいいのに」

にこ「ん、何か言った?」

ことり「……」

にこ「あれ…?」

ことり「……別に片手間で先輩のお手伝いしてたわけじゃないです! 私は真剣に」

にこ「それもちゃんとわかってるよ。お前がいてくれてすげぇ助かってる、ありがとな。ことり」

ことり「……っ」

にこ「なんで怒ってんの…? 俺、まずいこと言ったっけ…」

ことり「……私は、」

ことり「私は……先輩が望むなら、今すぐにでもアイドル研究部辞めて先輩たちのところへ行きます」

にこ「……え?」

ことり「だから、言ってください……私のこと必要ってちょっとでも思ってくれてるのなら…」

にこ「……」

ことり「にこ先輩……」

にこ「何言ってんの、お前?」

ことり「え……?」


にこ「俺はお前が向こうを辞めてまでこっちに来て欲しいなんて全然思ってねーよ」

ことり「先輩……?」

にこ「辞めるってことは向こうの仕事を途中でほっぽりだすってことだろ。お前のことを必要としてるやつなんて俺一人じゃねーんだよ! 高坂だって園田だって希も絢瀬も、みんなお前が必要なんだよ!」

にこ「……俺は一度失敗した。その結果が現状だ……後悔なんかしてねぇけど、それでも、お前のいるべき場所は向こうであってほしいと思ってる」

にこ「衣装担当がいきなりいなくなって、それで俺らがどんなに素晴らしい衣装を着てアイツらに勝ったとしても……俺は喜べねーし、μ'sは何も変わらない」

にこ「勝手に辞めちまった俺の言葉なんて薄っぺらいのかもしれねぇ……ただの自己満足に溺れたみっともない男だ、俺は……でも」

にこ「俺は正々堂々アイツらを打ち負かせたい」

ことり「ぐすっ……す、すみません……でしたっ……ことりっ、ことり……っ」

にこ「わ、わりぃ……つい……そんな泣かせるつもりはなかったんだけど…」

ことり「うぅ……ひぐっ……」

にこ「な、泣くなよ……悪かったよ……お前は俺の為を思って言ってくれたのに……ごめん…」

ことり「せんぱい……」

にこ「な、なに……?」

ことり「あの……」



穂乃果「……」

海未「……っ」

穂乃果「……わりぃ、海未くん」

海未「……はい」

穂乃果「やっぱオレ……謝れそうにないよ……」

海未「……はい」

穂乃果「……なんで、どうして……アイツ……矢澤がことりちゃんのこと抱きしめてんのかな……?」

海未「……っ」

穂乃果「意味わかんねぇよ……マジで」

海未「……」

穂乃果「助けに、いったほうがいいのかな……また、殴っちゃいそうだけど…」

海未「止めはしませんよ……」

穂乃果「……っ」

海未「……帰りましょう」

穂乃果「……」

海未「穂乃果…」

穂乃果「……うん」



にこ「……」

ことり「……」


にこ「……もう、いいか?」

ことり「……はい」

にこ「……ごめん。お前のことすげぇ傷付けちまったみたいで…」

ことり「…もう大丈夫です。ことり、バカだから考えなしでわがまま言っちゃって……えへへ…」

にこ「……とは言ったものの、俺が決めていいことじゃねぇしな……。お前がもしどうしてもこっちへ来たいのなら、それは…」

ことり「ううん、私……辞めません。アイドル研究部にいて、待ってます」

ことり「先輩が戻ってくるのを……またみんなが一つになるのを」

にこ「……あぁ」

ことり「……でも、たまには先輩たちのところに遊びにいっていいですか?」

にこ「それは勿論……つーか、こっちから頼みたいくらいだ」

ことり「えへへ…、ありがとうございます」

にこ「……ことり」

ことり「…はい」

にこ「……ありがとな」


──???


ガチャ…


真姫「……相変わらずうるせぇな…」


あんじゅ「あっ、真姫ー♪」

真姫「見てくれはクソ真面目でお堅そうなUTX様が、裏ではこんな如何わしいパーティーを毎週開いてるなんか、とんでもない不良校だな」

あんじゅ「毎週楽しみにしてるくせにー! それと、如何わしいじゃなくてちゃんと情報交換の場って呼んでくれなきゃ」

真姫「はいはい、そうだったな」

あんじゅ「ねぇねぇ、真姫ー」

真姫「ん?」

あんじゅ「チューして?」

真姫「は?」

あんじゅ「もー! 久しぶりに会ったんだからいいでしょー?」

真姫「……お前、もう酔ってんの?」

英玲奈「来てたのか、真姫」

真姫「あぁ、英玲奈さん」

英玲奈「こんなやつが彼女だとお前も大変だろう?」

あんじゅ「こんなやつって誰のことー?」

真姫「あぁそれはご心配なく。ちゃんと愛してるんで」

あんじゅ「真姫ー♪」

英玲奈「ははっ」


英玲奈「何か注いでこようか?」

真姫「んー、いらない。外で買ってきたから。こんな所で他人に作らせるなんか何入れられるかわかったもんじゃないでしょ」

英玲奈「いつになったら信用してもらえるのやら…」

真姫「ははっ、悪いね。別にあんたのこと嫌いなわけじゃないんだけど、俺ってこういう人間だからさ」

あんじゅ「真姫。はい、火」
カチッ

真姫「ん、サンキュ」
スパーッ


真姫「初めて見るやつ結構増えたな……この街にこんな悪者がいたなんか、あー怖い怖い」

あんじゅ「あはっ、心配しなくても真姫のことは私がちゃんと守ってあげるから」

真姫「お前に守られるほど俺は落ちぶれてねーよ」

あんじゅ「あーん、ひどーいっ」


ガチャ…


真姫「お、来た来た」


スタスタ…


スタスタ…


真姫「こっち来てよ、話そうぜ」


真姫「エリー」

絵里「そうだな、真姫」

休憩
あー身長ね、一番低いにこで163cmくらいで一番高い絵里で179cmくらいのイメージ。体重は知らんです



絵里「お前さ、もっと学校で大人しくしてくれないか?」

真姫「んー、何かしたっけ? 俺」
スパーッ

絵里「煙草とか……ここでは構わないが、俺だってこの先守りきれるかわからないからな?」

真姫「まぁ大丈夫でしょ」

絵里「……授業にも出てないらしいな」

真姫「成績、順位はトップ取ってるから。出席日数もちゃんと計算してるし、心配すんなよ」

絵里「仮にも俺は生徒会長なんだが…」

真姫「ていうかさ、そんな説教されに来たわけじゃないんだけど」

絵里「なら何だ?」

真姫「はい、これ」

絵里「これは?」

真姫「新曲のデモ。必要だろ? そこそこ良い感じの出来たから使っていいよ」

絵里「まぁ…、なんというか律儀なやつだな、辞めた身でありながら」

真姫「俺はどっちでもよかったんだけど、にこ先輩があんたらの分も作れって言うからさ」

絵里「恩を売ろうってことか…」

真姫「別に、そんなんじゃないんじゃない? あの人、馬鹿だし」

絵里「……」

真姫「いらないの?」

絵里「…いや、受け取ろう」

真姫「まぁノイズとか入ってたら言ってよ、修整するから」



絵里「……お前の差し金か?」

真姫「何が?」

絵里「ことりと矢澤の件」

真姫「あぁ、それね…」

絵里「……どうなんだ?」

真姫「さぁ?」

絵里「おい…」

真姫「あ、もしかしてエリーも狙ってたとか? 南ことりのこと」

絵里「茶化すな」

真姫「ははっ、俺の見た感じアイツら二人ともマジになりかけてんじゃない?」

絵里「……何を企んでる?」

真姫「エリーならとっくに気付いてるでしょ? わざわざ俺の口から言うことじゃ」

絵里「俺が訊きたいのはその裏だ」

真姫「……」

絵里「まさか本当に矢澤のことを気に入って肩入れしてるわけではないだろ? お前はそういうやつじゃないことくらい俺は知ってる」

真姫「……ははっ」

絵里「おい、真姫」

真姫「どうだろうね? あ、そろそろ帰らなきゃ」

絵里「まだ話は終わってない」

真姫「門限くらい守らせてよ、生徒会長様。俺まだ高校一年生だぜ?」

絵里「……」

真姫「じゃあな」


あんじゅ「真姫、もう帰るの?」

真姫「やっぱあの人苦手だわ。……俺の邪魔するようなら本気で…」

あんじゅ「真姫…?」

真姫「またな、あんじゅ」

あんじゅ「帰ったら電話して?」

真姫「起きてたらなー」


──翌日


絵里「曲が完成した。ラブライブ予選で歌う曲だ」

希「え? どうやって…」

絵里「当然、西木野が作った楽曲だ。昨日渡された」

海未「真姫が? もう辞めた筈では……?」

絵里「さぁな、アイツの考えてることはよくわからないから。さっそく今日から予選に向けての練習に取り掛かるぞ」

穂乃果「……」

絵里「……その前に」

希「エリチ?」

絵里「ことり」

ことり「は、はい…」

絵里「昨日は部活を休んで何をしていた?」

ことり「そ、それは…」

海未「絵里、それについては昨日私が伝えたでしょう?」

絵里「黙っていろ、海未。俺はことりに訊いている」

ことり「……っ」

絵里「ことり」

ことり「……や、矢澤先輩たちのところに行ってました」

絵里「何故だ?」

ことり「……」

絵里「質問に答えろ、ことり」

海未「絵里っ!」

ことり「……新しい衣装についての意見とか話し合ってて…」

絵里「そうか、それで意見は纏まったのか?」

ことり「え? あ、はい……一通りは…」

絵里「ならもう行く必要はないな」

ことり「え…?」

絵里「纏まったのなら後はお前が一人で製作するだけだろ? ならわざわざアイツらの所へ行く必要もない」

ことり「で、でも……」


絵里「お前はアイドル研究部、スクールアイドルμ'sの衣装製作担当だ。違うか?」

ことり「……そうです」

絵里「ならここで俺たちの為に衣装を作るんだ」

ことり「矢澤先輩たちだって、同じμ'sの仲間だったじゃないですか…! だから私は矢澤先輩たちの分も…」

絵里「だからそれには俺は反対はしていないだろ? 作りたければ作ればいい、ただしお前の居場所はここなんだよ」

絵里「お前がふらふらしてるとこの場にいる全員が不安になる。お前は矢澤に俺たちの妨害でも頼まれたのか?」

ことり「そ、そんなことにこ先輩は言いませんっ!!」

絵里「だったら俺の言ってること、わかってくれるな? ことり」

ことり「……もうここを休んで矢澤先輩のところへ行くなってことですか……?」

絵里「そうだ」

ことり「……」

穂乃果「絵里くんの言う通りだよ」

ことり「穂乃果くん……」

穂乃果「ここにいてよ、ことりちゃん……オレ、ことりちゃんがいなきゃダメなんだよ…」

海未「……私からも、お願いします。ことり」

ことり「海未くん……」

穂乃果「ことりちゃんっ…」


ことり「私は……、」

今日はここまで
叩かれることもなく埋め立てられることもなく、速報の人たちは優しいですねー
ではではー


──1週間後


にこ「星空、お前ちゃんとリズム聴いてんのか? 全然合ってない!」

凛「むー! もっと早い曲の方がオレには合ってるのにー!」

真姫「俺の曲に文句付けんなよ」

にこ「小泉は全体的に振りが小さすぎる、もっと自信持てっていつも言ってんだろ!」

花陽「はいっ!」

にこ「返事は良いんだけどな、コイツ……歌の方もその調子で頼むぞ」

花陽「任せてよ、にこ兄!」

にこ「それと、真姫!」

真姫「ん? なに?」
スパーッ

にこ「てめぇやる気あんのかよ……さっきからずっと日陰で一人だけ涼みやがって」

真姫「あー、俺って見て覚えるタイプだから。俺の為にもさっさと完璧に踊れるようになれよ、お前ら」

凛「真姫くんずるーい! じゃあオレだって見て覚える!」

花陽「いやいや、凛くんはどう考えたって身体動かした方がいいでしょ……真姫くんみたいに頭良くないんだから」

凛「かよちんさりげなく酷くない? んー、でもそっか! 運動神経ならオレ、真姫くんにだって負けてないもんねー」

真姫「はいはい、そうだな」

にこ「……真姫」

真姫「なに? 先輩。まだ何か言い足りないことある?」

にこ「お前、俺が踊ってんのも当然見てんだろ? なら踊ってみせてみろよ。当然出来んだろ?」

真姫「……めんどくせぇけど、まぁいいや。やってやるよ」

にこ「……」




真姫「こんな感じ? 合ってたでしょ?」


花陽「す、すごいっ…! とても今まで練習に参加してなかったとは思えない動きだ…」

凛「ちぇっ、やっぱ真姫くんには勝てないかー」

真姫「凛、お前さっき運動神経がどうとか言ってたけど」

凛「うん?」

真姫「重要なのは正しいリズムに合わせて正しく身体を、腕や足を動かすことだ。その動きだって人間には出来ない動作が、組み込まれてることはない、ていうか極端な話、そこまで頑張らなくても……充分可能な動作の繋ぎ合わせ。この曲の振りだって、同じだ」

真姫「だからダンスについての肝は、正しい動作を行う…為に、正しい信号を脳から送れるかってこと……。結論、お前じゃどう足掻いても俺には勝てねーよ…」

凛「だよねー、あー、オレももっと頭が良かったらなー」

花陽「ちょっと真姫くんっ、僕らの士気を下げてどうするの…!?」

真姫「まぁ俺が言いたいのはお前らは馬鹿なんだから反復練習で身体に覚えさせるしかないでしょ、その為にももっと頑張れってことだ…っ」

にこ「ていうかお前……息上がってねぇ?」

真姫「……え、なわけないでしょ……げほげほっ……」

にこ「……そんなんで歌いながら踊るとか大丈夫かよ」

真姫「平気、余裕」

にこ「その自信はどっからきてんだ……」



にこ「おしっ、休憩終わり。んじゃまた頭から通しで」

凛「ねー、ニコくん」

にこ「あ?」

凛「ことりちゃん、今日も来ないの?」

にこ「……」

花陽「そういえばここ一週間、来てくれてないよね…?」

凛「何かあったの?」

にこ「……知らねぇよ」

凛「なんだかちょっと寂しいよね…」

花陽「う、うん…」

真姫「……別にいなくてもいいでしょ。衣装は作ってもらえるんだから、実際あの人いてもいなくても練習には全然支障ないし」

凛「真姫くん、冷たっ!」

花陽「いきなり来なくなって心配じゃないの…?」

真姫「ん、全然」

にこ「……真姫の言う通り。アイツにもアイツの事情があんだろ……つーか、アイツは向こうの、アイドル研究部の部員だ。今まで来てくれてた方が異例なんだよ」

真姫「……」

花陽「……にこ兄、無理してない…?」

凛「あんなに仲良しだったのにー」

にこ「くだんねーこと言ってねーでさっさと準備しろ」

凛、花陽「「はーい…」」


にこ「ったく……」

真姫「……」



真姫「……いいの? 本当に」

にこ「何がだよ」

真姫「南ことり」

にこ「お前まで……つーか、お前さっき来なくていいみたいに言ってたじゃねーか」

真姫「…それは先輩の反応が見たかったから」

にこ「なんか、試されたみてーでムカつく……」

真姫「試された、じゃなくて試したんだけど」

にこ「余計ムカつく!」

真姫「南を向こうに取られたままだと、俺の作戦殺されちゃうよ? それだと先輩も困るでしょ」

にこ「……その作戦つーのはもうなしだ」

真姫「……」

にこ「……アイツを、そんな道具みたいに扱うなんざ……嫌なんだよ」

真姫「へぇ……マジで惚れちゃうとはなぁ…」

にこ「そんなんじゃねーよ、最初から俺は、乗り気じゃなかったし……」

真姫「まぁいいけど……どうすんの? 諦める? ラブライブ」

にこ「諦めねぇよ……何も考えなんてねーけど、諦めてたまるか!」

真姫「……はははっ、いいね。先輩のそういうとこ結構好きだよ」

にこ「うるせっ…」


──


にこ「アイドルってのは偶像なんだ……だから、決して誰かのものになっちゃいけねぇ」


にこ「俺は自分でこの道を選んだ。それについては後悔なんてしてねーし、これからも変えるつもりはねーよ」


希「ふーん、相変わらずにこっちはにこっちやね」

にこ「にこっちゆーなって何度も言わせんな」

希「……でも、ひとを好きになるのは自由やろ? それを自分にまで隠してる人が果たして多くのファンの前で輝いていられるんやろうか?」

希「にこっちが今度ステージに立つ時、その輝きは本物?」

にこ「……俺は自分が間違ってるなんて思ってねーよ」

希「うんうん、それには僕も否定するつもりはない」

にこ「……敵だって、前に言ったろ」

希「そうやったっけ? 残念ながら僕はにこっちのこと敵だなんてまったく思ってないけど」

にこ「マジで残念だ……お前のことは嫌いじゃねーけど、すっげぇ苦手……。お前と話してると、なんか自分の心の奥底にある見られたくない何かを掬い取られて目の前に突き付けられる感覚になんだよ…」

にこ「……だから、敵であってほしいと願ってんだろうな。……それが俺にとって一番優しいから」

希「ははは、今がまさにそれやね」

にこ「……お前は俺をどうしたいんだよ、希」


希「どうしてほしい?」

にこ「……ことりは」

希「ん?」

にこ「ことりはどうしてる…? 最近はずっとそっちにいんだろ?」

希「そうやね…… 毎日来てるよ。毎日毎日、誰よりも早く部室に来て、みんなの為に一生懸命に」

にこ「……そっか。まぁこの前チラッと見掛けた時笑ってたから少し安心したよ。アイツがそう決めたのなら……楽しそうにしてるのなら、それで俺は」

希「楽しそうに、か……」

にこ「……?」

希「笑ってたから楽しそうっていうのはちょっと安直すぎるんやないか?」

にこ「どういう意味だよ…」

希「それは僕の口からは言えんかなぁ」

にこ「おいっ!」

希「だって敵なんやろ? 僕とにこっちは」

にこ「さっき自分で敵とは思ってないっつってたろーが」

希「そんな気になるんやったら直接聞けばいーやん」

にこ「お前さぁ……いつもいつもそうやって」

希「僕はにこっちの気持ちを掬ってあげることはできても、にこっちを救ってあげることはできん。肝心な事を他人に委ねようとするなんて、弱いね……にこっちは」

にこ「……お前それあんま上手くねーぞ」

希「ははは、そう? 結構自信あったんやけどなー」


──


穂乃果「あー、今日も疲れたー……死にそー……」

海未「大袈裟ですよ」

穂乃果「さーてっ、帰ろーぜ! ことりちゃん」

ことり「うん、ちょっと待ってて。ここ片付けなきゃ」

穂乃果「オレも手伝うよ」

ことり「ありがと、穂乃果くん」

海未「……」

穂乃果「ん? どしたの? 海未くん」

海未「…いえ、何気無い日常の一コマですが、このような穏やかな時を愛しく感じてしまい……つい嬉しくなって」

ことり「海未くん…」

穂乃果「くくっ、あははははっ! さすがポエマーは言うことが違うな、すげーよ海未くん! あははははっ」

海未「ほ、穂乃果っ!!」

ことり「くすっ、海未くんってたまに面白いこと言うよね」

海未「こ、ことりまで……っ」



穂乃果「今日は何処寄ってく?」

海未「また寄り道ですか…」

ことり「あ、今日は早く家に帰って衣装の製作進めたいかな」

穂乃果「えー、明日部活の時やればいいじゃん」

ことり「家じゃないと出来ないことあるの。その箇所が終わらないと学校に持ってきて続きできないから…」

穂乃果「そっか、なら手伝おっか?」

海未「穂乃果が手伝っても反って邪魔になるだけでしょう」

穂乃果「はぁー?」

ことり「気持ちだけ受け取っておくね、穂乃果くん。ありがと」

穂乃果「んー」

ことり「えへへ……」


にこ「……」


海未「……!」

穂乃果「海未くん?」

海未「……申し訳ありません、少し用事を思い出して」

ことり「こんな時間から?」

海未「二人で先に帰っててください」

穂乃果「う、うん」


海未「……」



にこ「……」


海未「……」

にこ「園田……?」

海未「……ことりに、何か用ですか?」

にこ「……」

海未「もう、ことりを惑わすのは止めてもらえますか? 私は、穂乃果とことり……三人の空間が好きなんです。それを壊そうとするなら、私が貴方を許しません」

にこ「それはお前の言い分だろ。ことりがそう言ってんの…?」

海未「……」

にこ「俺がことりと話したいと思って、それをお前が邪魔する権利なんかねーだろ」

海未「……っ」

にこ「お前の気持ちはわかるよ……でもさ、俺とアイツの問題、それと俺の気持ちだってここにはあるんだよ。それが気に入らねーなら殴ってでも止めればいい…」

海未「……貴方を殴って解決するならとっくに殴ってますよ。それをしてしまったら、ことりがまた悲しんでしまう……悔しいです……」

海未「矢澤先輩だって気付いているでしょう……? ことりの気持ちは、今貴方に向かっている……」

にこ「……」

海未「わかっているから……、それがわかっているからっ、ことりを惑わせるなと言っているんですっ!!」

海未「……前に言っていましたよね? 自分はアイドルだから恋人なんか作らない、と」

海未「そんな貴方がことりに近付いて何が出来るというのですか……何をしてやれるというのですか!? そんなの……」

海未「そんなの……ことりに辛い想いをさせるだけじゃないですか……っ」

にこ「……そう、だな…」

海未「アイドルを辞めますか……? それくらいの覚悟を持って、その気持ちを持ったまま……ことりを抱きしめたのですか!? その手でっ……」

にこ「……」

短いですけどここまでですー
明日早起きなんでね。そう、映画初日。なので明日は更新出来ないと思われ
日曜は頑張って書くから読んでくれてる人たちよろしくねー
ではではー



──


ことり「海未くん、どうしちゃったんだろうね。忘れ物かなぁ? ついてってあげた方がよかったかも…」

穂乃果「……」

ことり「穂乃果くん?」

穂乃果「……」

ことり「……穂乃果くん」

穂乃果「え? あ、うんっ、だねー」

ことり「……」

穂乃果「なんだか、こうして二人だけったいうのも変な感じするよね。いつもは海未くんもいるから」

ことり「…ん、そうだね」

穂乃果「……あ、荷物持とうか?」

ことり「ううん、平気だよ」

穂乃果「ごめんね、気が利かなくて」

ことり「…そんなこと、ないよ」

穂乃果「そっか」

ことり「…うん」


穂乃果「……海未くん……ごめん」



穂乃果「……ねぇ、ことりちゃん」

ことり「…ん」

穂乃果「ちょっと、寄り道していかない?」

ことり「……でも、今日は」

穂乃果「少しだけ、遠回りするだけだから。そんくらいいいでしょ?」

ことり「……うん、わかった」

穂乃果「へへっ、ありがと」

ことり「……」



──


にこ「……わかんねぇよ、そんなの」

海未「は? ふざけているのですか…?」

にこ「ふざけてなんかいねーよ。わかんねーもんはわかんねーんだからしょーがねぇじゃねーか」

にこ「……けど、多分……好きなんだと思う」

海未「許しませんよ、そんなこと」

にこ「……俺はずっとアイドルになりたかった。今までそれだけを考えて生きてきた。だからそれ以外のことなんてよくわかんねー……興味なんか湧かなかったからな」

にこ「すげぇわがままでさ、自分のやりたいことだけをやりたいように。そんな感じだから、恋愛なんか一生しねーんだろーなぁ、って…」

海未「……」

にこ「そりゃ好意を持たれることは嬉しいよ。でもな、俺はすげぇ小さい人間だから、他人のことまで考える余裕なんかねーんだよ。ことりが俺のことをどう思ってようと、俺がそれに応えられるかなんて正直どうでもいい」

にこ「俺がアイツに会いたいから……それだけだ。その後どうするか、どうなるかなんて今の俺にはわかんねーよ」

にこ「邪魔すんだよ、ことりが……俺の中にあるアイドル像を壊してくるのか、それとも……。わかんねぇから会って確かめなきゃならねぇ、俺自身の為にも。俺がアイドルである為にもな」

海未「馬鹿げているっ! そんなの、ことりのことなんか、ことりの気持ちを丸きり無視しているじゃないですかっ!」

にこ「そうだって何度も言ってんだろ。俺はアイドルだ、アイドルは自分が輝く為なら何だってすんだよ」

海未「……」

にこ「……まぁ、お前は怒るだろうけどな」


海未「……そんなこと聴かされて私がここを通すと思ったのですか?」

にこ「だからって俺が止まると思ってんの?」

海未「……覚悟は出来ているのですね?」

にこ「お前、さっき俺を殴れないとか言ってたろ」

海未「私がことりを守るのです……あの子を辛い想いにさせることがわかっているのなら、私が嫌われた方が何倍もマシです…」

にこ「……そうか、まぁ構わねぇが……顔以外にしろよ」



穂乃果「……」

ことり「……穂乃果くん、もう帰ろ? 暗くなってきちゃったし」

穂乃果「……ことりちゃん、あのさ」

ことり「ホントに早く帰らなきゃ明日に間に合わなくなっちゃうよ」

穂乃果「ことりちゃ」

ことり「今日は送ってくれなくて大丈夫だからっ、一人で平気だから、穂乃果くんも気を付けて」

穂乃果「ことりちゃんっ!!」

ことり「……っ」

穂乃果「……聴いてくれる? オレの話」

ことり「…………うん」




穂乃果「オレさ、ことりちゃんのこと好きなんだ」


穂乃果「好きすぎて、好きすぎて、おかしくなるくらいに……だから、オレと付き合ってよ。オレだけのことりちゃんになってよ」

ことり「……」

穂乃果「ことりちゃん、大好きだよ。ずっとずっと前から」

ことり「……」

穂乃果「……ことりちゃん」

ことり「……知ってたよ。だから今日伝えられるんだろうなって、思ってた……だって海未くんがいなくなってから穂乃果くん変だったんだもん」

穂乃果「……うん」


ことり「……海未くんは」

穂乃果「海未くんも知ってるよ。オレがことりちゃんのこと好きだってこと、それに海未くんもことりちゃんのこと好きだってこと」

ことり「…はは、それ言っちゃうんだ……」

穂乃果「さすがにこうして抜け駆けしちゃったのは、知らないんだろうけど……でも、海未くんなら許してくれると思う」

ことり「…優しいもんね、海未くん」

穂乃果「すぐ怒るけどね」

ことり「……穂乃果くん」

穂乃果「…うん」

ことり「……ごめんね。……ごめんなさい」

穂乃果「……そっか」

ことり「……」

穂乃果「……一つ訊いていい?」

ことり「……うん」

穂乃果「ことりちゃんは……矢澤のことが好きなの?」

ことり「うん、私はにこ先輩のことが好き」

穂乃果「……だと思った」

ことり「……ごめんなさい。穂乃果くんの気持ちはすごく嬉しかったよ」

穂乃果「……」

穂乃果「……あー、やっぱフラれちまった……辛い、悲しい、死にそう……っ」

ことり「……穂乃果くん」

穂乃果「でも、諦めねーから。だって十年以上も想ってたから……そんな簡単に諦められねーよ」


穂乃果「ことりちゃんなら知ってると思うけど……、オレって超ワガママだからさ! それにすげぇ馬鹿だし!」

ことり「へ…?」

穂乃果「一回フラれたからって納得できるくらいの賢さや素直さなんて持ち合わせてねーの!」

穂乃果「だから……だからっ、絶対にオレに惚れさせてみせるっ! 矢澤なんかよりもずっとずっと……っ」

ことり「穂乃果くん…」

穂乃果「矢澤よりもずっとカッコいいアイドルになってやるからっ!!」

ことり「うん…、見てるよ、応援してるよ」

穂乃果「おうっ!」

ことり「くすっ…」

穂乃果「え? なに?」

ことり「今の穂乃果くん、ちょっとかっこよかったかも」

穂乃果「そ、そう…?」

ことり「……正直言うとね、最近の穂乃果くん……なんだかカッコ悪かったから」

穂乃果「うぐっ…」

ことり「あ、違うのっ、そのっ、えっと……なんていうかっ…」

穂乃果「大丈夫、わかってるから……自分でも思ってたし。オレ、すげーダせぇって……」

穂乃果「……でも、絶対見返してやる。矢澤を倒して、ぜったいにことりちゃんの心を奪ってやるから! 覚悟しとけよ、ことりちゃん!」

ことり「うん!」



──


花陽「うぅ……あぁぁ……っ」


凛「もー、忘れ物くらい一人で取りにいってよー」

花陽「だ、だって夜の学校ってなんか怖いじゃんっ!」

凛「かよちんさー、そのビビり癖そろそろ直そうよー……それに宿題なんかやんなくって別にいいって」

花陽「だ、駄目だよっ、文武両道っていってね、いくら部活頑張ってても肝心の学業を疎かにしたら」

凛「にゃ? あれ、なんだろ…?」

花陽「って聞いてるの!? 凛くん!」

凛「あれ見てよ。あの校庭の真ん中に何か…」

花陽「も、もうっ、そんなこと言って僕を驚かせようと…」

凛「んー……人かなぁ? 暗くてよく見えないけど」

花陽「はぁ……どこ…? どうせ凛くんの嘘でしょ……って、ひいぃぃぃっ!? ほ、ほほほんとに何かいるぅぅぅっ!!!!」

花陽「はわわわわぁぁぁっ!!!! 助けてっ、助けてっ、誰か助けてぇぇぇぇ!!!!」

凛「落ち着いてよ、かよちん! 近く行ってみよ」

花陽「え、ええぇぇぇ……」


凛「あっ!」

花陽「ぎゃああぁぁぁぁ!!!!」


にこ「……」


凛「ニコくん……?」

花陽「に、にににににこ兄が死んでるぅぅぅぅっ!!!!」



「──ニコくんっ!」「──にこ兄ぃぃっ!!」


凛「ニコくんっ!」

花陽「にこ兄ぁぁぁぁ!!!!」

にこ「……んっ……ぁ……痛っ……あ? なんだ、お前ら……か」

花陽「よかったぁ…」

凛「やっと生き返ったにゃ」

にこ「……あー、気失ってたのか……。……俺、すげーダセぇ……」

にこ「うぐっ……全身が痛ぇ……あの野郎……っ」



にこ『知ってっか? アイドル同士のケンカってのは絶対に顔は殴らねぇんだ』

海未『……恐いのなら逃げたらどうです?』

にこ『そういやお前、この前俺の顔面思いっきり殴ってくれたよな? あの時点でお前はもう俺のなかでアイドルじゃねーんだよ』

海未『……』

にこ『でも、まぁ……お前に少しでもアイドルとしての誇りが残ってるなら……頼むわ、はははっ』

海未『矢澤先輩はアイドルの神様か何かなんですか? そんな戯言を私が聞き入れる必要がどこにあるのか…』

にこ『……だな』



にこ「……綺麗に顔以外を派手にやってくれてんじゃねぇか…」


花陽「だ、大丈夫……にこ兄っ……?」

にこ「……手加減しやがって、何様のつもりだアイツ……今はすげぇ痛いけど後には引かねぇように筋や骨はまったく傷付けねーとか」

にこ「あー……そういや、アイツ武道とかやってるっつってたな……ったく、ふざけやがって……ははっ……」

凛「??」

花陽「……?」

凛「やられすぎて頭おかしくなっちゃったのかな?」



花陽「えへへぇ……」

にこ「……おい小泉、気持ち悪い笑い方すんな」

花陽「そんなのしてないですよぉ……やっぱりにこ兄って軽いねぇ…、ふぇへへ…」

にこ「……やっぱ星空におぶってもらった方が良かったかも」

凛「やーだー」

にこ「はぁ……」

花陽「ふぇへへへへ……////」




花陽「よいしょ、よいしょ…」

にこ「ここら辺でいいぞ、サンキュ」

花陽「へ…? でもまだ家じゃ…」

凛「あ、そういえばニコくんの家行ったことないかも」

にこ「そんな見せるような家じゃねーから」

花陽「どうせなら家の前まで…」

にこ「お前らに教えたくねーからここでいいっつってんだろーが。さっさと降ろせ」

花陽「はぁい…」

にこ「助かったよ、小泉、星空」

凛「で、結局ニコくんは誰にボコられたの?」

花陽「そうだよ、それを聞いてこれから凛くんと敵討ちにっ…」

にこ「…バーカ、これはやられたんじゃねぇ、やられてやったんだよ……アイツの顔を立てるっていうのも変な話だけど…」

凛「??」

にこ「……とにかく、このことは誰にも言うんじゃねーぞ。わかったか?」

花陽「は、はい!」

凛「なんで? すぐやられちゃうのはいつものこと」

にこ「うっせー!」
ビシッ

凛「ふぎゃっ!」


──翌日


穂乃果「ここさ、もうちょっと全体の間隔空けた方が迫力出るんじゃない?」

絵里「……確かに、そうだな」


穂乃果「おいおい、いつまで休憩してんだよ! もっと練習しようぜ! こんなんじゃ勝てねぇよ!!」

海未「まだ休憩に入って一分も経ってないのですが……」


穂乃果「希くん、さっきのとこのステップさ、ちょっと見てくんない? なんかしっくりこなくて」

希「ん、いいよ」


絵里「……おい、海未、アイツどうしたんだ? 頭でも打ったか? 昨日までと別人だぞ」

海未「私にもさっぱりで……」

穂乃果「二人ともー!! サボってんじゃねーよ!! やる気あんのかよ!?」

絵里「コイツうぜぇ…」

海未「ま、まぁまぁ……落ち着いてください、絵里」

穂乃果「んじゃ、通しで合わせるぞ! ミスったやつ腕立て三百回な!」




穂乃果「うっ……くぅっ……にゃくななじゅうにっ、にゃくななじゅうさんっ……!」

海未「……」

絵里「今日はここまで。穂乃果はそれが終わってから帰れよ」

希「お疲れさーん」


ことり「くすっ、穂乃果くん張り切ってたねー」

海未「ことりは何か知ってるのですか?」

ことり「んー…」


穂乃果「にひゃくっ…はちじゅういちっ……はぁっ、はぁっ……にひゃく」


ことり「……内緒かな」

海未「……?」



コンコン…


海未「……? はい、どうぞ」


ガチャ…


にこ「……」

海未「……!?」

ことり「にこ先輩……?」

海未「何の用ですか……?」

にこ「お前にじゃねーよ…、ことり!」

ことり「は、はいっ」

にこ「…練習終わりだろ? ちょっと付き合えよ」

ことり「…はい、今すぐ準備するので少し待っててください」


海未「……矢澤先輩、あの」

穂乃果「海未くん!」

海未「穂乃果…?」

穂乃果「いいから」

海未「はい…?」

穂乃果「んなことより海未くんも一緒に筋トレしよーぜ! ほらほら、オレばっか最強になってもバランス取れねーだろ」

海未「いや、それは穂乃果が大口叩いてミスをしたから……ってそんなことよりっ!」

穂乃果「……いいんだよ、マジで」

海未「穂乃果……?」

穂乃果「おい、矢澤」

にこ「先輩って言えねーのか、てめーは」

穂乃果「この前は悪かったな、いきなり殴ったりして。ちょっとはわりーと思ってるよ」

にこ「あ……?」

穂乃果「あと、お前には絶対に負けねーから!! オレがμ'sのセンター、高坂穂乃果だ!!」

にこ「……ははっ、おもしれー。μ'sのセンターごときが宇宙ナンバーワンのこの俺に勝つつもりかよ」

穂乃果「勝つどころか圧勝してやんよ」

にこ「それは楽しみだな、高坂穂乃果」

海未「……」


ことり「にこ先輩、お待たせしました」

にこ「おう、んじゃ行くか」

海未「あ、ことり…」

穂乃果「じゃあねー、ことりちゃん。それと、矢澤死ねっ!」



海未「は……? こ、ことりに告白した……?」

穂乃果「うん、バッサリフラれちゃっけど」

海未「馬鹿ですか、貴方は…」

穂乃果「海未くんもことりちゃんのこと好きだよって言ったら笑ってた」

海未「なるほど、死にたいのですか? ふふっ」

穂乃果「だからさ、フラれた者同士傷を慰め合うんじゃなくて、見せつけてやろーぜ。オレらの凄さを」

海未「何もしてないのにフラれたこっちの身にもなってください!!」

穂乃果「まぁまぁ…、とにかく……負けらんねーよ、矢澤には」

海未「……私は反対です。ことりが悲しい想いをするのは……嫌だ……っ」

穂乃果「気に入らねーからブッ飛ばすんじゃなくてさ、オレら自身がめちゃくちゃカッコよくなったら……ことりちゃんだって惚れ直してくれるよ」

穂乃果「気付いてた? ダセぇんだよ、オレら……それに比べて矢澤はカッコいいよ、アイツ」

海未「……」

穂乃果「ンだよ、まだ怒ってんの?」

海未「……十年近くも隠してた想いをよくわからないうちに勝手に伝えられて怒らない人間などいるのでしょうか」

穂乃果「……海未くん、……オレは好きだぜ」

海未「さて、そろそろ帰りますか」

穂乃果「スルーかよ!」

海未「駄菓子屋に寄って帰りますよ。自棄コーラです! 無性に体内を虐めたい気分です」

穂乃果「それ駄菓子屋じゃなくてもよくね…?」

海未「当然、穂乃果の奢りですよ」

穂乃果「えぇー!!」


──


凛「ニコくん、練習終わったら速攻どっか行っちゃったね」

花陽「南先輩のところじゃない…?」

真姫「……あの身体でよく頑張るなぁ」

花陽「だよね、昨日はあんなに痛がってたのに……無理してるんだろうなぁ、にこ兄……あれ?」

凛「ってなんで真姫くんがニコくんがボコられて校庭に倒れてたこと知ってるのー?」

花陽「凛くんが喋ったんじゃ…!」

凛「オレ、内緒にしろって言われたこと喋んないよ!」

真姫「ふーん……先輩、昨日ボコられて校庭で倒れてたのか」

凛「まさか……」

花陽「ゆ、誘導尋問……!?」

真姫「お前ら馬鹿だろ……まぁ知ってたけど」

真姫「…で、誰にやられたって?」

凛「それだけは教えてくんなかった」

花陽「……も、もしかして、南先輩に……?」

真姫「それはないだろ…」

凛「ニコくんを殴ることに定評があるといったら、穂乃果くんだけど」

花陽「あぁ…、あり得そう…」

真姫「……あのやり方は高坂じゃないだろ、てことは恐らく……」

花陽「……?」

真姫「なるほどね、そういうことになってんのか…」

凛「一人で納得してないでオレらにも教えてよー」

真姫「お前らは知らなくていーの」



ことり「えへへ…////」

にこ「……なにさっきからニヤニヤしてんだよ、気持ちわりぃな」

ことり「もー、女の子にそんなこと言っちゃダメなんですよー?」

にこ「……そっちは順調か?」

ことり「…はい、穂乃果くんなんかにこ先輩に負けないって頑張ってますよ」

にこ「そういやさっきも言ってたな、どしたの? アイツ」

ことり「内緒です、くすっ」

にこ「……まぁいいや、アイツがなんだろうと倒すだけだし。高坂も、他の三人も」

ことり「……敵、なんですか? 穂乃果くんたちは」

にこ「あぁ、そうだよ」

ことり「先輩が勝ったら、またみんなでアイドルするんですよね……?」

にこ「……それはわかんねぇ」

ことり「そ、そんなっ…」

にこ「いいか? 男の世界っていうのはな、勝った方が正しいんだ……だからもし俺たちが負けたら、きっと終わらせられる……今度こそ、俺たちはこの学校でアイドルは出来ねぇんだ」

にこ「逆に俺たちが勝ったとしても、アイツらからアイドルとしての誇り、また仲間としてやっていけるだけの価値がなかったら……その時は俺がアイツらのアイドルを終わらせてやる」

ことり「……っ」

にこ「そんな心配そうな顔すんな。男同士、ぶつかり合わねぇとわかんないことだってある。だから、お前は見守ってろ……俺を、高坂を、みんなを」

ことり「……はい」

にこ「前にも言ったが、俺に肩入れとか絶対すんなよ」

ことり「わかってます。最高の衣装を完成ます……穂乃果くんたちのも、にこ先輩たちのも」

にこ「…楽しみにしてるぜ」

ことり「私は、アイドル研究部の衣装製作担当、南ことりですよ。安心してください」

にこ「まぁ信用はしてるけど……」

ことり「けど…?」

にこ「お前、俺のこと好きだろ?」

ことり「へ……? あっ、あぅ……////」

にこ「あ……、わりぃ……」

ことり「……ホントにデリカシーないんだから……」



ことり「……」

にこ「こ、ことり……その……」

ことり「……はい、好きですよ。先輩のこと」

にこ「……う、うん」

ことり「気付いたら、好きになってた……先輩のことを考えただけで、ドキドキするくらい……今だって」

ことり「私、隠すの下手だから……もう気付かれてるんだろうなぁって思ってたけど、まさか言ってくるなんて…」

にこ「マジでごめん…」

ことり「……先輩の気持ちも、聞かせてもらっても、いいですか……?」

にこ「……俺も、好きなんだと思う。こんな気持ちなんて初めてだから、正直確信じゃねーけど……お前のことは、ことりは特別だって、そう思えるから……それは多分」

ことり「にこ、先輩……」

にこ「……でもさ、俺は」

ことり「俺はアイドルだから恋人は作らない」

にこ「え?」

ことり「でしょ? 先輩、前にそう言ってた」

にこ「……」

ことり「……だから、ことりの恋は絶対に叶わないものなんです。決して叶わないけど、にこ先輩をこんな風に想えたのは私にとってすごく幸せで…」

にこ「…園田に言われたんだ」

ことり「海未くんに…?」

にこ「アイドル辞める覚悟はあるのか、って……そんくらいの気持ちでことりのこと考えてるのかって…」

にこ「正直そんなのねーよ。俺がアイドル辞めるなんて考えられねーし、だからってお前のこと好きなのにそれを押し殺したままステージに立つのも違うと思う」

にこ「全然わかんねー、考える時間が足りないってのも考える為の頭が足りないってのもあるし、いくら考えても答が出るかなんて保証なんてどこにもねぇ」

ことり「先輩……」

にこ「わがままなんだよ、俺は……だから今から我が儘言ってお前を困らせる。泣かせるかもしれねぇ……」

ことり「……うん」

にこ「俺のなかでやっぱり一番はアイドルだ。今、考えられることはラブライブのことだけ……それだけ考えてねぇとアイツらには勝てねぇ。お前のことは二の次だ……でも、」

にこ「待っててくれねぇか? 俺のことを好きなまま……いつになるか全然わかんねぇけど……それでもっ、俺はことりが好きだから」

ことり「……」

にこ「……」

ことり「……わかんないですよ」

ことり「いつになるかわからないのにずっと好きなままでいろだなんて……そんなの、わかりました、って言えるわけないじゃないですか……」

にこ「そう、だよな……それが普通だ」

ことり「でもね、先輩の言葉を聞いてからも私の気持ちは変わってないから……とりあえずは好きですよ、にこ先輩」



ことり「ありがとうございます。先輩の気持ちが聴けてうれしかった」

にこ「うん、俺も……嬉しかったよ」

ことり「ホントですかぁ?」

にこ「なんだその顔は…」

ことり「好きな女の子に好きって言われたならもうちょっとうれしそうな顔してくれてもいいのに……」

にこ「こ、こういう顔なんだから仕方ねぇだろ!」

ことり「ほら、笑って笑って」

にこ「んみゅっ、頬を引っ張るなっ……先輩だぞ、俺は…」

ことり「くすっ、まぁこの変な顔で今日のところは許してあげようかな」

にこ「ありがとよ……つーかそろそろ離せ」

ことり「……ん、じゃあ先輩、また明日学校で」

にこ「何言ってんだ、家まで送るよ」

ことり「……はぁ、やっぱり女の子の気持ちわかってくれてない」

にこ「え…?」

ことり「私、フラれちゃったんですよ?」

にこ「いや、それは…」

ことり「……もしかしたら帰り道泣いちゃうかもしれないし、好きって言ってもらえたからニヤニヤしながら歩いてるかもしれない。そんな姿見せられませんよ」

にこ「そ、そうだな……マジで配慮不足でごめん。なら、気を付けて帰れよ」

ことり「はい、さよなら。にこ先輩」





ことり「……ホント、いきなりすぎだよ……にこ先輩も、穂乃果くんも」

ことり「……でも、よかった……好きって言ってもらえて……」


「──先輩。ねぇねぇ、先輩」

ことり「……?」

真姫「今帰り? 南先輩」

ことり「西木野くん…?」

昨日ここまで書きたかった
続きは夕方が夜にでも



──???


ことり「わぁ……こんな所、初めて来た…」

真姫「そんな緊張しなくていいよ。みんな良い人たちだから、さ」

ことり「や、やっぱり私……」

真姫「待ってよ、まだ先輩の相談なにも聴いてないじゃん」

ことり「……大丈夫だよ、一人で解決出来そうだし。それに、私お酒とか全然でこういう雰囲気も……」

真姫「あぁ、俺だって酒なんか飲まないから。先輩さ、俺のこと不良少年とか思ってない?」

ことり「だ、だって……」

真姫「まぁいいや。あ、英玲奈さん」

英玲奈「……なんだ?」

真姫「この人、南さんっていって学校の先輩なんだ。俺の大事なお客さん。でさ、彼女にあまーいグァバジュース作ってきてもらえる?」

英玲奈「真姫、お前……いいのか?」

真姫「だって飲み物もなしじゃ話も出来ないでしょ」

ことり「わ、私帰りますので、結構ですっ…」

真姫「……俺から離れない方がいいと思うよ? たまに気性の荒いやつもいるしさ、安全は保証できないんだよね」

ことり「……っ」

真姫「英玲奈さん、よろしくね」

英玲奈「…うむ、わかった」




英玲奈「あんじゅ、真姫が来てるぞ。……初めて見る女を連れて」

あんじゅ「うん、聞いてるよ」

英玲奈「あまーいグァバジュースを頼んできたが…」

あんじゅ「それも聞いてる」

英玲奈「……ならいいが」

あんじゅ「あ、もしかして心配してくれてるの? 真姫が浮気してるんじゃないかって」

英玲奈「いや、誰でもそう思うだろ……心配とかの以前に」

あんじゅ「真姫は浮気なんかしないと思うし、大丈夫。あの子は賢いから……、堂々と連れてると逆に安心するかなぁ」



英玲奈「ほら、あまーいグァバジュースだ」

真姫「ありがと、英玲奈さん」

ことり「あれ? 西木野くんは何も飲まないの…?」

真姫「俺さ、甘いのも炭酸も苦手だからここだと飲めるのないんだ。だからいつも外から持ってきてんの」

ことり「へぇ、そうなんだ、初めて聞いたかも」

真姫「ほら、炭酸飲めないとかカッコ悪いでしょ? だからみんなには秘密にしといてね」

ことり「ん、わかった」

真姫「……んわけないでしょ……簡単だな、この人」

ことり「へ? 何か言った?」

真姫「いや、何も。んじゃ、かんぱーい」

ことり「…うん、かんぱい」


真姫「…で、先輩の悩み事ってなに?」

ことり「だからホントになんでもないよ。さっきからそう言ってるのに、西木野くんが強引に…」

真姫「だってあんな表情で歩いてたら気になるでしょ。それとも俺なんかには話せないってわけー?」

ことり「そういうわけじゃないけど……普段あんまり話したことないし、今日だってここに誘ってくれたこともすごい意外っていうか…」

ことり「西木野くんって他人にあまり興味ない人なのかなぁ、って」

真姫「そんなことないって、俺と先輩は同じ部活で一緒だったしね。また九人で仲良く戻れるといいな」

ことり「うん、そうだよね! よかった、西木野くんもそう思ってくれてたんだ」

真姫「そんなの当たり前でしょ」



真姫「にこ先輩さぁ、練習の時よくあんたの話してるよ」

ことり「ホントに…?」

真姫「うん、ことりのことが好きで好きで仕方ないからこのままアイドル続けるかマジで悩むー、とか」

ことり「嘘だぁ。にこ先輩はそんなこと言わないもん」

真姫「ははっ、勿論嘘だよ。でもそんなにこ先輩だから、あんたは惚れちゃったんでしょ? カッコいいもんな、あの人」

ことり「……うんっ」

真姫「高坂先輩や園田先輩は何て言ってんの? あの人たちのことだから、穏やかじゃいられてないでしょ」

ことり「そんなことまで知ってるんだ……?」

真姫「そんくらい俺じゃなくても誰でもわかるよ、はははっ」

ことり「……ん、」

真姫「どしたの? 先輩ー」

ことり「ん……ちょっと、眠くなってきた……かも……ふわぁ……」

真姫「慣れない場所だし緊張して疲れちゃったのかな、大丈夫ー? せんぱーい」

ことり「……ん、すぅ……すぅ……」

真姫「……」


真姫「英玲奈さん、部屋とっといてくれてるよね?」

英玲奈「鍵だ」

真姫「サンキュ」

英玲奈「……何するつもりだ?」

真姫「ははっ、そんな、やることっていったら一つしかないでしょ」

英玲奈「……いいのか? あんじゅ」

あんじゅ「私は真姫を信じてるからー」

真姫「愛してるよ、あんじゅ」

あんじゅ「うん♪」

英玲奈「……」


ことり「すぅ……すぅ……」

真姫「……さて、と」



──翌朝


ことり「すぅ……すぅ……」

真姫「──先輩、南先輩」

ことり「んんっ……ふぁ……ぁ……? にしきの……くん……?」

真姫「早く起きて準備しないと遅刻するよ? それとも俺と一緒にサボる?」

ことり「え……? えっ、なんで……私、裸……ちょっと、えっ……?」

真姫「あれ? 覚えてないの?」

ことり「な、なにを……?」

真姫「先輩って意外と激しいんだね? まぁ俺は嫌いじゃないけど。でもすごかったなぁ、見る? 背中の引っ掻き傷」

ことり「うそ……だよね……? 冗談なんだよね……」

真姫「一夜の過ちってやつ? 覚えてないならその方が優しいんじゃない? 大丈夫、にこ先輩には黙っててやるから」

ことり「ひ、ひどぃ……っ、なんで、こんな……っ」

真姫「おいおい、何言ってんの……誘ってきたの先輩の方じゃん。それすらも忘れてんのかよ…」

ことり「そ、そんなっ……わたしが……?」

真姫「そんな大袈裟に考えんなよ。処女じゃないからって嫌ったりしないよ、にこ先輩は」

ことり「……っ、ひぐっ……うぁっ……ぐすっ……」

真姫「あらら……泣いちゃった」

ことり「ううっ、うぅああぁぁぁんっ……!!」

真姫「……まぁ俺も彼女いる身だし、昨夜のことはお互い秘密にしようぜ」



──数日後


海未「あ、貴方という人はっ…!!」

にこ「あ…?」

穂乃果「待て待て、落ち着けよ、海未くん」

海未「これが落ち着いていられますかっ!! 矢澤先輩、貴方はことりに一体何をしたのですか!?」

にこ「……」

穂乃果「矢澤、お前なんか知ってんの?」

にこ「……ことりがここ数日学校休んでる件か…」

穂乃果「電話もメールも反応なし……何かあったと思う方が普通だろ。で、最後に会ったのお前だろ? 矢澤」

にこ「……あの日か」

海未「これだから私は反対したじゃないですかっ! なのにっ、穂乃果が」

穂乃果「……お前、マジで何したんだよ? その答え次第では……、殺すっ」

にこ「……わかったよ、全部話す」




にこ「……で、俺もアイツも互いの想い話して、」

海未「……無責任なことを言い、ことりの気持ちを踏みにじったわけですね…」

にこ「……そんな落ち込んだ素振りなんか全然見せてなかったから……いや、でも……俺のせいなんだろうな…」

にこ「俺からしてみれば、そんな学校を何日も休むほどのことじゃねーだろって思うけど……それも…」

穂乃果「それをお前が言っちゃいけねーだろ、矢澤」

にこ「あぁ、お前の言う通りだ」


にこ「……家には行ったのか?」

海未「当然でしょう。しかし、会わせてはもらえませんでした」

にこ「……」

海未「何処へ?」

にこ「決まってんだろ、ことりの家に」


ドゴッ!!


穂乃果「……」

にこ「ぐぁっ…! げほっ、げほっ……高坂てめぇ…、顔を……」

海未「好意を持ってくれてる人の気持ちを踏みにじり、傷付けるのがアイドルとしての振る舞いですか…? ならもう私はアイドルじゃなくても構いません」


ドゴッ!!


にこ「あぐぅっ…!! はぁっ……はぁっ……」


穂乃果「……っ」

海未「……もうよいのですか?」

穂乃果「あぁ、こんなヤツのことちょっとでもライバルと思ったオレが馬鹿だった」

海未「……放課後、またことりの家を訪ねてみましょう」

穂乃果「……うん」




にこ「……俺の、せいか……だよな……」


にこ「そっか……俺、いつの間にか……アイドルじゃなくなってたのか……」

そうにゃそうにゃ



にこ「…………アイドル、か…………アイドルって……なんなんだろな……」


真姫「お、にこ先輩」

にこ「……真姫」

真姫「何してんの? 昼寝だったら保健室か屋上をオススメするけど」

にこ「……うるせぇ、……ちょっと肩貸せ」

真姫「え、そんなダメージでかいの? ボコられてんのはいつものことじゃん」

にこ「……別に、ただ……結構、精神的にキテて……」

真姫「…珍しいな、先輩がそういうこと口にするの。……訊いてあげましょうか? 何があったの、って」

にこ「バーカ、誰がお前なんかに」

真姫「ははっ、だよな。ほら、さっさと起き上がれよ」

にこ「…わりぃな」

真姫「んで、保健室と屋上、どっちにする?」

にこ「…教室」

真姫「は?」

にこ「当たり前だろ、もうすぐ午後の授業始まんだろが!」

真姫「はいはい、真面目だねぇ、にこ先輩は」

にこ「お前もちゃんと授業出ろよ」

真姫「ん、考えとく」

にこ「ったく……あ、真姫」

真姫「んー?」

にこ「……俺、今日練習休むわ」

真姫「あっそ、凛と花陽に伝えとけばいいのね?」

にこ「……訊かねーの?」

真姫「訊いてほしいの?」

にこ「……言わねぇけど」

真姫「良いこと教えといてやるよ。俺が訊かないってことは、もう既に知ってるから訊かないのか、ただ単に興味がないから訊かないのかの二つだけだ」

真姫「だから先輩の気持ちを察して、みたいなのは全然頭のなかにないからね。さて、この場合どっちでしょう?」

にこ「……どっちにしろムカつくからノーコメントで」

真姫「はははっ」



──


穂乃果「……なぁ、海未くん」

海未「…はい」

穂乃果「さっきはオレ、カッとなっちゃったけどさ……ホントに矢澤のせいだと思ってる…?」

海未「それ以外他に思い当たることがあるのですか?」

穂乃果「いや、ないけどさ……冷静に考えたら矢澤がそんな酷いことするとは思えないし、今日聴いた内容だって…」

海未「……」

穂乃果「やっぱり他に何か…」

海未「矢澤先輩の言ってたことが本当だとは限らないでしょう? 真に疚しい事があれば私たちに喋るわけがありませんから」

穂乃果「……オレにはアイツが嘘ついてるとは」

海未「……やけにあの人の肩をもつのですね」

穂乃果「海未くんだってそうだろ」

海未「はい…?」

穂乃果「ホントはアイツが悪いやつじゃないことくらいわかってるけど、他にこの怒りをぶつける相手がいないから……全部矢澤のせいにして楽になろうとしてるんだろ」

海未「……」

海未「……はぁ…、私より大人にならないでください、穂乃果」

穂乃果「ははっ、まぁ海未くん童貞だから仕方ないか」

海未「穂乃果だって同じでしょうっ!」






海未「……っ」

穂乃果「あ……」



ピンポーン……ピンポーン……


にこ「……やっぱ出てくれねぇか」

穂乃果「……おい、矢澤」

海未「誰がことりの家を訪ねることを許可しました…?」

にこ「謝りてぇんだよ……アイツに、ちゃんと」


海未「こ、このっ……」

穂乃果「落ち着けって、海未くん。なぁ、矢澤」

にこ「……」

穂乃果「マジで大人しくしといてくれねぇか? お前が原因でも原因じゃなくても、お前は来ない方がいいんだよ」

にこ「……ならお前らでなんとか出来るわけ? もう四日だろ、これ以上は待てねぇよ」

海未「ですからっ、ことりの気持ちを考えようとしない貴方なんかいても反って迷惑になるだけ! どうしてわからないのですか!?」

穂乃果「あー、オレもなんだかムカついてきたわ」

にこ「どんだけ殴られようと俺は諦めるつもりねーぞ」

海未「ならばまた意識を飛ばして近くの川にでも捨てて差し上げましょう」

にこ「勝手にしろ、ボケナス。今回はちょっとこっちだって譲れねーから返り討ちにしてやんよ」

穂乃果「ははっ、弱いくせに言うことだけはいっちょまえだな」

海未「手加減しませんよ、二度と踊れない身体になっても責任は取れませんから」

にこ「御託はいいからさっさとかかってこいよ」

穂乃果「おう、なら望み通りに」


「おいコラっ、クソガキ共!! ひとんちの前で騒いでんじゃねぇぞ!!」


にこ「……!?」

海未「り、理事長……」

穂乃果「ビビったー……なんだオッサンか、相変わらずヤクザみてぇな顔してんな」

理事長(♂)「高坂のガキに園田のガキか……あ? お前誰?」

にこ「……三年の矢澤です」



──


絵里「……」

希「……機嫌悪そうやね」

絵里「ことりが来なくなったと思ったら、穂乃果と海未までこう連日練習を休むなど…」

希「二人ともことりちゃんのことが心配で心配でしょうがないんやろ。エリチは心配じゃないん?」

絵里「別に。衣装さえ作ってくれれば文句はない……だというのに、あの二人ときたら」

希「あー冷たー。こんな非情な人が部長だったらそりゃみんな来たくなくなるわー」

絵里「何を言っている。矢澤が原因だろ?」

希「…それね。穂乃果くんと海未くんはそう言ってたけど、僕はとてもそうとは思えんかなぁ」

絵里「……」

希「今までずっと一緒にいたからわかるやろ? ことりちゃんはそんな弱い子じゃないって」

絵里「……だったら何だ? 希は何か知ってるのか?」

希「んー…、電話にも出ない、メールも返信がない、まぁみんなが思ってるように精神的なもんやろうね」

希「女の子が何日も学校に来られんようになるほどの精神的ダメージの理由…」

絵里「恋、か……?」

希「え? くっ、あはははっ! まさかエリチからそんな言葉が出てくるなんて。一生聞けんものかと思ってた、ラッキーラッキー」

絵里「……っ、おい、怒るぞ……」

希「ごめんごめん。でも……恋とか…、そんなキレイなものとは違うんじゃないかな」

絵里「……汚ない、何か……」



絵里『……何を企んでる?』

真姫『エリーならとっくに気付いてるでしょ? わざわざ俺の口から言うことじゃ』

絵里『俺が訊きたいのはその裏だ』

真姫『……』

絵里『まさか本当に矢澤のことを気に入って肩入れしてるわけではないだろ? お前はそういうやつじゃないことくらい俺は知ってる』

真姫『……ははっ』

絵里『おい、真姫』

真姫『どうだろうね? あ、そろそろ帰らなきゃ』



絵里「……まさか、アイツが……?」

希「ん? エリチ…?」



──


花陽「はぁっ……はぁっ……疲れたぁ……」

凛「そろそろ休憩しようよー」

花陽「うんっ、そうだね!」

凛「かよちんは頑張るねー…」

花陽「凛くんは頑張ってないの?」

凛「いや、オレだって頑張ってるけどさー、いくら頑張ってもニコくんや真姫くんに勝てないってわかってるから、なんか…」

花陽「勝ち負けとかそんなこだわる必要あるのかなぁ…? アイドルっていうのは歌やダンスの上手さとかだとあの二人には敵わないかもしれないけど、凛くんにはもっと他に」


ガチャ…


凛「……?」

花陽「あ、絢瀬先輩…!?」

凛「希くん、久しぶりー! どしたのどしたのー?」

希「んー、ちょっとよくわからんけど、いきなりエリチが」

絵里「真姫……いや、西木野はいるか?」

凛「真姫くんに用事?」

花陽「きょ、今日はここには来てないですっ…」

絵里「……チッ」

花陽「ひぃっ…!」

希「エリチ、怖がらせないの」

絵里「……希、悪いが今日は俺も帰る」

希「え? ちょ、ちょっと…」



希「あらら……行っちゃった」

花陽「何かあったんでしょうか…」

希「今日は二人だけ? にこっちは?」

凛「ニコくんもなんか休むって真姫くんが。その真姫くんも来ないし」

希「ふーん……あ、ごめん。練習中だったよね?」

花陽「ううん、休憩してたところだったから」

希「でもこれからまた練習やろ? 邪魔者は消えまーす」

凛「えー! もう行っちゃうのー?」

花陽「絢瀬先輩も帰っちゃったんでしょ? だったらもう少しゆっくりしていっても……希くんと話すのも久しぶりだし」

凛「練習でも見てってよ! ねぇ!」

希「いいの? 一応、僕、二人の敵側の人間だし…」

凛「希くんなら、ねー?」

花陽「うんっ、全然問題ないよ」

希「…ん、なら久しぶりに二人の踊ってるとこ見させてもらおうかなー」

凛「うん! やっぱ見てもらう人がいると気合入るよね!」

花陽「だね!」

希「そういえば今、何の練習してるん?」

凛「真姫くんが新曲作ってくれたからそれの練習!」

花陽「すごく良い曲なんだけど、その分振り付けも難しくて……希くんに何かアドバイス貰いたいなぁ…って」

凛「見てて見てて! オレは結構踊れるようになったんだ!」

花陽「あ、じゃあ希くん、そこのスイッチ押してもらえる?」

希「ん、これね。オッケー」
カチッ


~♪



希「え……? これって……」


希「僕らが練習してるのと、同じ曲……?」



──


あんじゅ「あら?」

英玲奈「こんな所で会うとは珍しいな……絢瀬絵里くん」

絵里「真姫は今何処にいる?」

あんじゅ「……さぁ? 彼って自由な人だから。私が知りたいくらいよ」

絵里「…ならば質問を変えよう。四日前、真姫はあの場所に来たか?」

あんじゅ「……」

英玲奈「秘密厳守の決まりだろう? お前に答える必要はないな」

絵里「……南ことり、という人間を知っているか?」

英玲奈「知らないな」

絵里「……そうか、ならば力付くで聞き出すしか方法はないか」

あんじゅ「え……ちょっと……」

絵里「俺は女相手だからといって加減は出来ないぞ」

英玲奈「どうしてお前がそこまで真姫に固執する?」

絵里「答える必要はない。さぁ痛め付けられるのが嫌ならさっさと俺の問いに答えた方が身の為だが?」

あんじゅ「来てないわ、真姫はあの日は来なかった」

絵里「嘘をつくなよ。入っていくのをうちの生徒が目撃している」

あんじゅ「……っ」

絵里「そうか、やはり来ていたのか」

英玲奈「貴様……」

絵里「これだから馬鹿な女は御しやすい。さぁ話せ」

あんじゅ「……」

絵里「……仕方ない」


真姫「絢瀬先輩、俺の女にちょっかいかけるのやめてもらえますー?」

絵里「……」

あんじゅ「真姫っ……」

英玲奈「お前…」

真姫「そんな恐い顔してどうしたの? エリー」


絵里「……意外だな、いつもコソコソしているお前がこうして姿を現すなんか」

真姫「ははっ、狙ってたくせに。あんたの思惑通り、誘い出されてやったんだよ」

絵里「……なら話は早い。お前の仕業だろ?」

真姫「何が?」

絵里「惚けるな。ことりの件だ」

真姫「あー、それね。最近学校休んでるらしいじゃん。何かあったのかな、心配だよねー」

絵里「……今日の俺はいつもと違ってあまり気は長くないぞ」

真姫「柄にもなく気になっちゃってんだ? 南先輩もモテるねぇ、まぁ気持ちわかるよ。あの人可愛いからね」

絵里「アイツがいないと困ることは確かだな。馬鹿二人まで練習に身が入らないから部長としては頭を抱える」

絵里「…そしてなにより、お前の掌で転がされているというのは……何より不愉快だ」

真姫「……」

絵里「……答える気は無いようだな。意外にもお前を殴るのは初めてか」

真姫「……」
スッ


ズドッ!!


真姫「ぐっ……あっ……いってぇー……っ」


カランッ……


絵里「ナイフか……まぁお前が考えそうなことだ」

真姫「いきなりは……卑怯だろ……げほっ、げほっ……」

あんじゅ「真姫っ…!!」


絵里「はは、お前にだけは卑怯とは言われたくないな……さて、次は何が飛び出してくるのかな」

真姫「……もうねーよ」

絵里「お前の言葉など誰が信じるか」

真姫「……一つ、忠告しておいてやるよ」

絵里「……」

真姫「本気で俺とやり合うつもりなら、ここで俺を殺しとけよ。……でなきゃ後で後悔するぞ、……させてやるよ」

絵里「…ふっ、忠告ありがとう。真姫」



──


穂乃果「オッサン! ことりちゃんは今…」

理事長「部屋にいるんだろうよ」

海未「会わせてはもらえないのですか…!?」

理事長「ことりが誰にも会いたくねぇって言ってっからな」

海未「そんな……」

理事長「……で、俺の大事な大事なことりをあんなになるまで傷付けやがったのは何処のどいつだ? あぁ?」

穂乃果、海未「「コイツです!」」

にこ「えっ……?」


理事長「お前か……」

にこ「……あぁ、そうだよ……俺のせいだ……」

穂乃果「……死んだな、矢澤」

海未「天罰です」



にこ「……ことりの気持ちに俺は応えてやれなかった。それどころか無責任なことを言ってアイツを知らず知らずのうちに傷付けちまって…」

理事長「……」

にこ(あれ……? なんで俺、ことりの親父にこんな話してんだ……?)

理事長「……はぁ? 何言ってんだ、お前」

にこ「だから俺は一言アイツに会って謝らなきゃいけねーんだ! 会わせてください、ことりに…」

理事長「……俺のことりがお前みたいなチビを好きになるわけないだろ。頭大丈夫か?」

にこ「……」

ここまでー
最近ちょっとずつしか書けないなぁ……まぁ気長にちょくちょく読んでやってくださいな
ではではー



──


にこ「……よくもひとのこと売りやがったな、お前ら」

穂乃果「いや、だってお前のせいだろ」

海未「そもそも自分が原因だと認めていたではありませんか」

にこ「…まぁ、そうだけど……よ。つーか理事長って、ことりの親父だったんだな……しかも顔、超こえーし」

穂乃果「オレらはガキの頃から知ってるけど…、あのオッサン最近また一段とイカちくなったよなー」

海未「あれくらい厳格な父上であってくれた方が私としても安心できます」

にこ「あれ、厳格っていうのか……?」

穂乃果「どうみたってゲンカクだろ」

海未「穂乃果はちゃんと意味わかってます……?」

にこ「お前こそわかってんのかよ……」




にこ「はぁ……あんだけ恥ずかしいこと喋らさせられたあげく、結局会わせてもらえねーとか……」

穂乃果「はははっ! ざまぁー!」

海未「笑っている場合ではありませんよ、穂乃果。今はそんな人に構っているよりも、ことりのことをきちんと考えなくては」

穂乃果「そうだな……って! なにさっきからしれっとついてきてんだてめぇー!」

にこ「あ…? 帰る方向が同じなんだから仕方ねぇだろ。嫌なら歩く速度落としたらいいじゃねーか」

穂乃果「はー? ならてめぇーが落としやがれ!」

にこ「先輩に指図してんじゃねぇっ!」

穂乃果「誰もお前のことなんか先輩なんて思ってねーんだよっ!」

にこ「うるせぇな、んじゃ速度上げてやるからお前らはのんびり歩いて帰ってろ」

穂乃果「あ、てめっ! オレより前歩いてんじゃねーぞコラ!」


海未「ちょっと、二人とも……」





穂乃果「はぁ……はぁ……っ」

にこ「ぜぇっ……ぜぇっ……」

穂乃果「…って何でまた街中に戻ってきてんだ!」

にこ「お前がずっと話しかけてくるせいで全然周り見てなかった…」

海未「馬鹿ですか…」



絵里「期待に応えて、殺してやろう……真姫」

真姫「……ははっ、あんたにそんな度胸あるのかな? どうせその金髪は飾りなんでしょ?」

絵里「これからお前は金髪を目にする度に、回れ右することになるな」

真姫「あれー? 殺してくれるんじゃないのー? やっぱヒヨっちゃった? はははっ」

絵里「死ね……」


あんじゅ「やめてっ!!」

真姫「馬鹿っ…、出てくんな」

絵里「…そこを退け」

あんじゅ「話すから……知ってること全部話すから、真姫を見逃してあげて」

絵里「……」

真姫「おい、余計なことするなよ…」

あんじゅ「でも、このままじゃ真姫が…」

真姫「うるせぇ、邪魔だ。英玲奈さん、さっさとコイツ連れて帰ってよ」

英玲奈「……あぁ、わかった。行くぞ、あんじゅ」

あんじゅ「やだ、行かない。真姫を置いてなんて…」

英玲奈「真姫なら一人でなんとかするだろう。私たちがいては邪魔になるだけ。……だな? 真姫」

真姫「さっきからそうだって言ってるでしょ」

英玲奈「聞いただろう? あんじゅ」

あんじゅ「……」

英玲奈「おい…」

あんじゅ「……帰ったら、電話してね。真姫」

真姫「……起きてたらな」



絵里「随分とかっこつけだな。情けなく女に頼れば痛い思いせずに済んだというのに」

真姫「女に手を上げようとするクズ男が何言ってんだか」

絵里「……くくっ、さっきからやけに挑発してくると思ったら、そんな程度で俺が冷静さを欠くとでも期待したか?」

真姫「そうなれば簡単だったんだけどね」

絵里「そろそろ、お前と話してるのも飽きてきたな。答える気には……なっていないようだな」

真姫「何も知らない、俺は全然関係無い……って言ったとして、それでもエリーが俺を殴る理由は?」

絵里「昔からお前のことは嫌いだったから」

真姫「ははっ……なるほどね、まっとうすぎる理由だ」

絵里「……はぁ…、何故こうもタイミングが悪いのか…」

真姫「……?」


穂乃果「絵里くん? と、西木野?」

海未「珍しい組合わせですね…」

にこ「……こんな所で何してんだ? お前ら」


真姫「……マジでタイミングわりぃ…」


穂乃果「ねぇ、これどういう状況? 絵里くん」

絵里「お前らこそ、三人揃ってことりの様子でも窺いに行っていたんだろ?」

穂乃果「コイツは勝手についてきただけだ。つーかオレが質問してんだけどー」

絵里「それで、顔は見せてもらえたのか?」

海未「……いいえ」

絵里「だろうな」


真姫「……」

にこ「……真姫、お前顔色悪くね? 絢瀬と何かあったのか?」

真姫「まぁ…、ちょっとね」

絵里「……こちらとしては都合が良いか」

海未「絵里?」

絵里「穂乃果、海未、……矢澤、お前らに良いことを教えてやろう」

にこ「……?」

穂乃果「良いこと、って…」


絵里「お前らが気にしていることりの件だが……全ての元凶はコイツだ」


穂乃果「コイツって……西木野が?」

海未「矢澤先輩ではなく…、真姫がことりに……?」

にこ「……真姫?」

真姫「……」

絵里「どうやら西木野はどうしても口を割るつもりはないようだ。だから俺はこれから力付くで吐かせようと思っているのだが、お前らも加わるか?」

穂乃果「リンチってこと…?」

海未「根拠はあるのですか……?」

絵里「俺が今までに間違ったことを一度でも言ったことがあるか?」

にこ「ま、待てよっ! 真姫がことりに…ってあり得ねぇだろ!」


絵里「何故?」

にこ「いや…、何故って……真姫はそんなことしねーだろ」

絵里「よくそんな無責任なことが言えるな、矢澤。真姫と知り合ってまだ一年にも満たないお前に」

にこ「……お前だって同じだろ」

絵里「俺と真姫は親同士交流があってな、幼少の頃からそれなりにまぁ知っている間柄だ。だから俺にはわかる……コイツの人間性、平気で人を傷付けることが出来るか否か」

真姫「…俺はけっこうあんたのこと気に入ってたんだけどね、エリー」

にこ「……真姫」

穂乃果「……おい、西木野……お前」

海未「本当なのですか……?」

真姫「……」

にこ「真姫」

真姫「……知らないって言っても殴ってくるんだもん、この人。怖い怖い」

真姫「だから、もう降参するわ」


真姫「そうだよ、俺がやっちゃった」


にこ「……!?」

穂乃果「おい、西木野…」

海未「や、やった……とは……」

真姫「そんなもん決まってるでしょ。あ、童貞のあんたらには刺激が強すぎたかな?」

にこ「嘘、だろ……お前……」

穂乃果「…ふ、ふざけんなっ!!」

絵里「待て、穂乃果」

穂乃果「離せよっ、絵里くんっ!!」

絵里「まだコイツには訊くことがある。殺すには少し早いな」

海未「……」

絵里「真姫、何故やった? それなりの理由があるんだろう?」

真姫「理由、ねぇ……まぁそんな大層なものじゃないけど」

真姫「高坂や園田、それににこ先輩までが惚れちゃう女でしょ。どんな味がするのか気になっちゃうでしょ、ははっ」


真姫「なかなか美味かったよ。あ、一応言っとくけど付き合ってるとかじゃないから安心して」

真姫「俺は一回で満足したからさ、あんたらにもチャンスあるから頑張れよ。俺が食い散らかした残りカスでよかったらな」


絵里「そこまで落ちぶれていたか、お前……ガッカリだ」

海未「……穂乃果、私初めて本気で人を殺してしまいたい気分です」

穂乃果「あぁ、オレもだ……」

絵里「おい、矢澤、お前はこのクズをどう」


ドゴッ!!


真姫「……っ! いっ、てぇー……っ」

にこ「なんでだよ……真姫っ……」

真姫「……あんたがとっととヤんないのが悪いんでしょ……俺に先越されたからって嫉妬すんなよ」

穂乃果「もういい、てめぇはもう喋んな、西木野」

海未「……死ね、殺してやる」

真姫「はは……園田先輩、目がやべぇ……こりゃ死んじゃうな……俺」

絵里「死刑は延期だな……今日はとことんタイミングが悪い。天はどうしてお前なんかに味方するんだろうな、真姫」

真姫「え…?」

絵里「誰かが通報したのだろう。警官が向かってきている」

真姫「おぉー…、ラッキー」

絵里「行くぞ、お前たち」

穂乃果「次会ったら、殺すから」

海未「……」


にこ「……」

真姫「にこ先輩……」

にこ「…もう、お前なんか仲間でもなんでもねぇよ…」



──同日、深夜


ことり「……アイスクリーム食べたい。食べる……。……ない。買いに行こう」


ガチャ…


ことり「静かに静かに……」
ソーッ




ことり「アイスクリーム屋さん発見♪ すみませーん! ……あ、閉まっちゃってる……」

ことり「……コンビニにしよ、っと」


「何してんの?」

ことり「ひぃっ……、あ……」

真姫「……」

ことり「……」
サササッ

真姫「ちょっと、シカトしないでよ」

ことり「……キミと話すことはありません」
プイッ

真姫「まーだ怒ってんのかよ。いい加減機嫌直せって」

ことり「つーん……」

真姫「はぁ……何もしてないって説明したでしょ? そんな気にするなよ」

ことり「…………裸見た」

真姫「脱がしたのは俺じゃなくて、俺の女。これも何回も言ってんじゃん」

ことり「キミはウソつきだから信じません」

真姫「…なんだ、俺に見てほしかったの? なら悪いことしたな……んじゃ見てやるからここで脱いでよ」

ことり「そ、そういうことじゃなくてっ!」

真姫「いちいち冗談を真に受けんなよ」

ことり「……西木野くん、きらい」
プイッ



ことり「……それより、今日で四日だよね? まだダメなの……?」

真姫「あー、それね……もういいや。明日から普段通り学校行っていいよ」

ことり「そう…」

真姫「家から出るな、誰とも連絡取るな、なんてムチャクチャなお願い聞いてくれるなんて先輩ってホント良い人だよね」

ことり「そ、それは西木野くんがあの時の写真ばらまくなんて脅してくるからっ!」

真姫「まぁ最初から写真なんて撮ってなかったんだけど…」

ことり「このウソつきー! もうキミのことなんか知らないもん!」

真姫「ははっ、でも俺のおかげで衣装作り捗ったでしょ? 四日も籠ってたんだから」

ことり「……うん、今週中にはちゃんと八着完成すると思う」

真姫「……あ、それ七着でいいや」

ことり「へ? なんで?」


真姫「俺、アイドル辞めるから」


ことり「……え、」

真姫「なにその顔? 俺なんていない方が先輩だって嬉しいでしょ? それとも、寂しいとか思ってくれてるの?」

ことり「どうして……?」

真姫「そんなの俺の勝手でしょ」

ことり「ダメ! ちゃんと言いなさい!」

真姫「……言ってもいいけどさ、俺みたいなウソつきの言うこと信じてくれるの?」

ことり「わかんない」

真姫「わかんないって……はははっ」

ことり「早く言って」

真姫「…………俺さ、」

ここまででっす
次かその次でラストになるようなならないような。せっかくだから最後まで読んでってよ
ではではー



──数日後


穂乃果「クソッ! 今日も登校してきてねぇのかよアイツ!」

花陽「ひぃっ…! ご、ごめんなさいっ…」

凛「かよちんが謝ることじゃないでしょ」

絵里「そっちには何も連絡はないのか? 矢澤」

にこ「……あぁ、何も反応はない。まぁ今更出てこられるわけねぇんだろうけどよ」

絵里「それもそうだな」

ことり「……」

海未「安心してください、ことり。真姫は私たちに任せて……その身をもって罪を償わせてやります」

穂乃果「ことりちゃんはオレたちが守るから」

ことり「……うん」

希「……」


絵里「…さて、ここにいてもアイツが姿を現すことはない。何処か西木野が行きそうな所は知らないか?」

穂乃果「凛、小泉、お前らなら心当たりの一つでもあるんじゃねーの?」

花陽「うーん……そう言われても……」

凛「真姫くんと遊びにいったこととかほとんどないし、正直オレたちも学校での真姫くんしか知らないんだよね」

海未「矢澤先輩は…?」

にこ「……わりぃが力になれそうもねぇな」

海未「…そうですか」

絵里「仕方ない、何の手掛かりもない以上またUTXの女から聞き出すか…」

にこ「UTXの…?」

絵里「西木野の女だ」


穂乃果「UTXで西木野狩りってわけね。面白そうじゃん」

にこ「女に手上げるってこと…?」

絵里「場合によってはな。向こうが賢い選択をしてくれることを期待しよう」

穂乃果「あー、さすがに女殴んのはちょっとなぁ…」

海未「そうでしょうか? ことりを傷付けた真姫に荷担した女など暴力の的にしてもなんの問題もないですよ」

穂乃果「そう、だよな……うん」

ことり「み、みんな……ちょっと待ってよ……」

海未「大丈夫ですよ、ことり。真姫はちゃんと殺してさしあげますから」

にこ「…ことり、口出ししてくるな。ケジメは俺たちがしっかりとつけてきてやるから」

ことり「ち、違うのっ……、そうじゃないの……」

穂乃果「ことりちゃん…?」

ことり「……西木野くんは、」


ガチャ…


絵里「……!?」

真姫「あらあら、物騒な話が外まで聴こえてましたよ。皆さんお揃いで仲良いねぇ」

にこ「真姫…!」

ことり「西木野くん……」

海未「……よくここに顔を出せましたね。それだけは褒めてさしあげましょう」

穂乃果「わざわざお前の方から殺されにきてくれるとはなぁ…」

真姫「ははっ、あんたら凶悪なツラしすぎでしょ。入る場所間違えたかな? あ、でもアイドル研究部って書いてある」


真姫「…まぁ、アイドルには見えねぇよな。女のことで怒ったり落ち込んだり、カッコいいねぇ、にこ先輩」

にこ「あ…?」

絵里「何しにきた? 真姫。まさか謝って許してもらおうなんて考えてないよな?」

真姫「謝る? 許してもらう? 何かしたっけ、俺。あー、この人のことか」

ことり「……」

穂乃果「汚ねー眼でことりちゃんのこと見んじゃねぇよ」

海未「それ以上ことりに一歩でも近付いたら命はないと思え……なんなら今すぐにでも」

真姫「ははっ、そう焦んなって。ここに来たんだから逃げも隠れもしねーっての」

絵里「……で、何の用だ?」

真姫「これをね、渡しにきたわけ」

凛「退部届……?」

花陽「真姫くん……」

真姫「もうこんな所にいる理由もないし、元々アイドルとかどうでもよかったしね」

希「そんなものを出す為だけに、わざわざここに来たの? 当然、エリチや穂乃果くんたちがいるのに…、どうなるか想像できん真姫くんやないやろ?」

真姫「ははっ、それもそうだ。なら全員いることだし思出話でもする? 俺たちμ'sの」

にこ「ふざけんな。お前はもう仲間じゃない、俺たちμ'sの一員でもねーよ」

真姫「ははっ、ははははっ!」

にこ「何がおかしい」

真姫「だってそりゃそうでしょ。一番最初にμ's辞めたあんたがそんなこと言うなんて、はははっ」


真姫「つーか何でこんな所にいるの? あんだけ偉そうなこと言ってたくせにあんたのプライドって案外安いよな」

にこ「……っ」

絵里「…矢澤を貶して随分と楽しんでいるようだが、お前自身も恋しくなっているんじゃないか? この場所が」

真姫「ははっ、冗談やめろよ。エリー。言ったろ? 俺はアイドルとかどうでもいいって」

真姫「ていうか俺から言わせてもらえば、あんたらだってμ'sどころかアイドルでもないじゃん」

穂乃果「あ?」

真姫「久々に集まって何をしてんのかと思いきや、俺をボコる相談? 何処にそんなアイドルがいるんだよ、ホントおもしれぇなあんたら」

海未「お前っ!」
ガシッ

真姫「あれ? あんたが怒るんだ? ことりことりって馬鹿みたいにそれしか考えられない、一番アイドルからかけ離れてるあんたが」

海未「お前なんかに言われたくないっ、それだけだ」

ことり「やめてっ! 海未くん!」

海未「ことり……?」

ことり「やめて……おねがい……」

真姫「ほら、あんたの愛しのことりちゃんがああ言ってるよ。さっさと離してよ」

海未「……どうして、このような男を庇うようなこと…」

ことり「……」


真姫「ちっとは凛や花陽を見習えよ。コイツら、あんたらなんかよりちゃんとアイドルやってるぜ」

凛「真姫くん…」

花陽「そ、そんなこと……」

絵里「……随分と饒舌だな、真姫」

真姫「そう? やっぱり名残惜しいのかな、あんたらのこと。……なんてね」

にこ「……で、結局お前は何が言いてぇんだよ」


真姫「さぁなんだろ、忘れちゃった」

にこ「……」

真姫「うそうそ。そんな恐い顔すんなよ」


真姫「アイドルってなんなんだろね」

にこ「は?」

真姫「μ'sとかいうアイドル集団……良いのは見てくれだけじゃん。蓋を開けてみればどうしようもないやつらばっか。それを俺が証明してやったろ?」

穂乃果「どうしようもないのはてめぇだけだろ、西木野」

絵里「お前なんかと俺たちを同列に並べるな」

真姫「へぇー、んじゃあんたもアイドルなんだ? にこ先輩」

にこ「……俺は、アイドルだ」

真姫「あっそ、まぁ精々頑張ってよ、自称アイドルさん」

にこ「……」

海未「言いたいことは済みましたか? なら殺しますが、構いませんよね?」

真姫「えぇ……殺されるの嫌だからもうちょっと喋ってようかな」

海未「…見苦しいですね」

真姫「まぁ、あれだ……あんたら解散すれば? みっともねぇよ、全員」

絵里「断る。お前に言われる筋合いなどない」

真姫「あ、やっぱり?」

穂乃果「勝手に決めてんじゃねーよ! オレはアイドルだ、ことりちゃんが作ってくれた衣装を着て誰よりもカッコよくなってやんだよ!」

海未「ここにいる誰一人としてお前の言葉を聞く者などいないでしょう、真姫」

真姫「随分と嫌われたものだね、俺も」


真姫「ふーん、なら続けるんだ。無駄だと思うけど」

にこ「それを決めるのはお前じゃねぇ、俺たちだ」

絵里「……そろそろ目障りだな」

真姫「はいはい、じゃあ邪魔者は消えますよ」

穂乃果「…おい、待てよ」

海未「はいそうですか、と易々帰すわけがないでしょう」

真姫「……」

穂乃果「待てっつってんのが聞こえねぇのかっ!」

ことり「穂乃果くんっ!!」

穂乃果「ことりちゃん…?」

ことり「……いいの」

海未「ことり…、何を言って……あの男は」

ことり「私がいいって言ってるの」

穂乃果「いや、でもっ…!」

ことり「やめて……穂乃果くん」

穂乃果「……チッ」

真姫「…助かったよ、南先輩。やっぱ良い女だね、あんた」

海未「二度と私たちの前に姿を見せるな」

真姫「はいはい、んじゃな……けっこう楽しめたよ」



穂乃果「……ことりちゃん、ちょっと意味わかんねぇんだけど」

海未「どうして……私たちはことりの為を想って」

ことり「……穂乃果くんたちが西木野くんを憎む必要なんかないよ」

にこ「……?」

絵里「説明しろ、ことり」

ことり「だって私、何もされてないから……黙っててごめんなさい」

穂乃果「は…?」

海未「真姫に何が弱味を握られているのですか……そうなのですね!?」

絵里「アイツは確かに自分の口で言っていたが、それは」

ことり「あの子、ウソつきだから…」

穂乃果「ほんとに……? ホントなの? ことりちゃんっ」

ことり「うん……だから、西木野くんのこと悪く思わないであげてほしい」

海未「そんなの……全然、納得がいきませんよっ!」

にこ「……あぁ、なら何でアイツはそんなデマ言って俺らを敵に回す必要があんだよ」

ことり「それは……」

希「それは多分……理由はどうあれもう一度このカタチを作りたかったんじゃないかな」

にこ「このカタチ……?」

希「ここにアイドル研究部のみんなが集まってる、このカタチを」

絵里「……あり得ないだろ、そんなくだらないことの為に」

希「そう? 僕にはなんとなくわかる気がするけど。だって真姫くんってみんなのこと大好きやん」

にこ「え……?」


希「意地っ張りでめんどくさい頑固者が多いからね。相当苦労したんやろうなぁ」

絵里「誰のことだ…」

希「さぁ?」

にこ「…なんでこっちも見んだよ」

にこ「つーかそんなわけねぇんだよ! だってアイツは俺にっ…」

希「??」

にこ「いや……なんていうか、その……俺はことりのことが好きだ」

ことり「へっ? えっ、あ、あ……」

穂乃果「てめぇっ、なにいきなり告白してんだコラっ!」

海未「ぶっ殺しますよ…?」

にこ「そ、そうじゃなくて……それは本当のことで……今の俺の気持ちはそれなんだよ……だから、そのことをわかった上で言うんだけど……」



穂乃果「はぁ? ことりちゃんに近付いてオレと海未くんの嫉妬心を煽るだと……?」

花陽「全部言っちゃうんだ……そんな素直なにこ兄も素敵だなぁ……////」

にこ「だからっ、真姫がそういうことを考えてるわけは」

凛「ねぇ、ニコくん……最初から思ってたこと言っていい?」

にこ「……んだよ?」

凛「多分ね、この場に真姫くんがいたらさ……『は? そんな不確実で不安要素だらけの作戦を俺が本気で考えるわけないでしょ』っていうと思うんだ」

花陽「あぁ……確かに」

にこ「……」


にこ「な、なら俺は最初からあてにされてなかったのか……すげぇムカつく、あの野郎……」

希「はは、まぁ真姫くんのことだからホントににこっちがことりちゃんのことを射止めてくれる可能性も充分考えてたと思うけど……真姫くんが選んだのはこれやったんやね」

にこ「……ことり、マジでごめん……でも、俺は本気だから……今は本気でお前のことを」

ことり「平気です、過程がどうあれにこ先輩が私を好きって言ってくれたのがなにより嬉しかったから…」

にこ「……うん」

絵里「…おい、希。お前は西木野のことを聖人か何かに仕立てあげようとしているが、そんなもの全部お前の空想だろ」

希「……」

絵里「俺は断じて認めたりはしない」

希「……エリチに、ううん、みんなに聴いてもらいたいものがあるんだ」

絵里「……?」

希「……これ」

絵里「真姫が作った俺たちの曲……それがどうした」

希「それと、もう一つ」

凛「オレたちが練習してた曲…?」

花陽「え、えっと……?」

希「じゃあ聴いてみようか」


~♪



穂乃果「え…?」

にこ「これはっ…」

絵里「同じ、曲……?」


絵里「……どうして」

希「そんなの一つしかないやろ。また僕ら全員で一つの歌を歌ってほしい、それだけ」

穂乃果「馬鹿かよ、アイツ……」

ことり「……衣装もね、完成してるんだ」

海未「そうなの、ですか…」

ことり「ていうかあそこに掛けてるのに、誰も気付いてくれないんだもん……西木野くんの話ばっかりして」

海未「あ……衣装も同じものが八つ……?」

希「まぁ僕はここに来た時から気付いてたけど」

穂乃果「ははは、なんだよ、そういうことかよ。ことりちゃんまで」

海未「本当に……呆れて何も言えません」

希「ふふ、ここまでお膳立てされたらまた一緒に歌うしかないんやない?」

絵里「……」

希「エリチ」

絵里「……はぁ…、仕方ないな」

希「にこっちも」

にこ「…しょうがねーな、わかったよ。その代わりふぬけたパフォーマンスしたら速攻蹴り飛ばすぞ!」

穂乃果「あぁ? 誰に言ってんだ矢澤」


凛「ねぇ、でもそれじゃなんで真姫くんは辞めちゃったの?」

海未「それは…、私たちに責め立てられて、居場所を」

にこ「それじゃ本末転倒だろ、アイツがいなきゃ」

ことり「あの…」

にこ「……?」

ことり「……っ」

海未「ことり?」

ことり「……西木野くんは、ウソつきだよね……そうだよね……?」


絵里「あぁ、そうだ。そのせいで俺たちは振り回されて酷い目に」

ことり「そうだよね……うん……」

穂乃果「何かあったの……?」

ことり「……」

にこ「ことり……?」

ことり「……この前ね、西木野くんと話したの」

ことり「その時にね、西木野くんが変なこと言ってたの……」

にこ「変なこと……?」

ことり「自分はアイドルを辞める、って……何でって訊いたら……、きいたら……っ」


ことり「──もうすぐ死んじゃうから、って」


絵里「……!?」

穂乃果「死ぬ……?」

海未「そんな…、冗談でしょう…?」

ことり「うん……西木野くんいつもウソばっかりつくから、……これもウソに決まってるのにね……」

にこ「……っ!」




にこ『ていうかお前……息上がってねぇ?』

真姫『……え、なわけないでしょ……げほげほっ……』

にこ『……そんなんで歌いながら踊るとか大丈夫かよ』

真姫『平気、余裕』



真姫『……』

にこ『……真姫、お前顔色悪くね? 絢瀬と何かあったのか?』

真姫『まぁ…、ちょっとね』




にこ「嘘、だろ……おい……」

ことり「にこ先輩…?」


にこ「……っ!!」

穂乃果「お、おいっ! 何処行くんだよ、矢澤!」

絵里「……」










──


真姫「…………」
スパーッ

真姫「んっ……けほっ、けほっ……噎せるとか、ダセぇ……」

「おいっ!」

真姫「ん……なんだ、あんたか……」

にこ「お前……っ」

真姫「なんでわかったの? 俺がここにいるって」

にこ「そんなの……簡単だろっ、お前のことなんだから……っ」

真姫「……カッコつけんなよ……汗ダラダラじゃん」

にこ「はぁ……はぁ……っ、うるせぇ……っ」


真姫「……何しにきたの? もう一発くらいぶん殴っとくか、って?」

にこ「……それも、いいかもしれねぇな」

真姫「……うん」

にこ「……」

今日の分終わり! 次で最後!
りんぱなが空気すぎるやばい真姫くん好きキレて敬語が消える海未くん恐い
ではまた明日か明後日

そうにゃそうにゃ



にこ「……」

真姫「……黙ってないで何か言ってよ。俺、帰っちゃうよ?」

にこ「……まぁ、なんていうか……何て言えばいいのかよくわからねぇし、とりあえず」

真姫「え?」


ドゴッ!!


真姫「うぁぐっ…!?」

にこ「……お前、死ぬってホントか?」

真姫「……ったく、殴った後に言うセリフかよ……あー、いてぇー……」

にこ「真姫……」

真姫「つーか病人だと思ってんなら、普通殴る?」

にこ「……答えろよ」

真姫「あんたには、関係ないでしょ」

にこ「あるよ。俺はアイドル研究部の部長だ。そしてお前はその部員だろ」

真姫「俺はもうちげーよ。さっき辞めてやったろ?」

にこ「……これのことか?」


ビリビリッ……


にこ「俺の許可なく勝手に辞めさせねーよ」

真姫「……それさぁ、漫画やドラマで何度も見たことあるシーンだけど、マジでやるやついるんだ、はははっ」

にこ「俺はいつだってマジだ。……だから全力で怒るし、全力で落ち込んだりする。それがアイドルである矢澤にこの姿だ」

にこ「何か文句あるか?」

真姫「……ねーよ。やっぱカッコいいよ、にこ先輩」



真姫「……嘘に決まってるでしょ、あんなの。何で俺が死ななきゃいけねーの」

真姫「南先輩から聞いたんでしょ? あの人なんでもすぐ信じちゃうからね、……だからすぐ悪いやつに騙されるんだよ。俺みたいなやつに」

真姫「先輩からもキツく教育してやらないと…、守ってもらうだけの人間なんて所詮…」

にこ「……っ」

真姫「……無言で泣くなよ、気持ち悪い……」

にこ「…………うるせ……っ」

真姫「……何の涙だよ、それ……俺が死ななくてよかったーって? 俺、愛されてるなぁ、はははっ」


真姫「……やめろよ」


真姫「そんな顔されたら、嘘つけないじゃん……。ちょっとは俺のことも考えろよ……馬鹿……」


真姫「……うん、そうだよ」


真姫「俺、死ぬわ」


にこ「……そう、か…」

真姫「……別に、怖いとかそういうのはもうないから、そこまで…」

にこ「ごめん、真姫…」

真姫「はぁ……?」

にこ「俺、知らなかったから……全然、お前のこと……っ」

真姫「……そんなの言ってないから当たり前でしょ」



にこ「……」

真姫「うぜぇな……いつまでしけたツラしてんの? あんた俺より二つも歳上なんだからさ、こういう時、せめて励ますとかできないわけ?」

にこ「…死ぬなよ」

真姫「なんだそれ、ガキかよ……」

にこ「ガキだよ、俺も……お前も。まだガキなんだよっ、だから……っ、こういうのって、ねぇだろ……っ」

真姫「……俺さ、今までずっと好き勝手生きてきたから他のくだんねぇ奴等の十倍くらい人生楽しんできた自信あるんだよね」

真姫「だから真っ当に生きてジジイになって死ぬよりも価値あったからさ、全然未練なんてねーのよ」

にこ「嘘つけ……あんだろ、未練なら」

真姫「は…?」

にこ「お前がやってきた超くだんねーことだよ! 散々迷惑かけた落とし前くらいしっかりつけてから死ね!」

真姫「何言ってんの……ちょっと意味わかんね」

絵里「……アイドルなら」

真姫「エリー? なんで…」

絵里「アイドルなら、ステージの上で死ね」

にこ「俺らが……俺たちが見届けてやるよ、お前の生き様を」

真姫「……ははっ、あははははっ!」


真姫「もうすぐ死ぬって言ってる人間に、正気かよ、あんたら」



──翌日


真姫「……」
スッ


凛「かよちん!」

花陽「うんっ!」

真姫「な、なんだお前ら…」

凛「真姫くん、捕まえたー!」
ガシッ

真姫「……ホモは花陽だけにしてくれよ」

花陽「ぼ、僕はホモじゃないよっ…! にこ兄のことが好きなだけでっ、あ……好きって言っちゃった……//// 最近ね、にこ兄のちょっと弱いところも見えて、でもそこがますます魅力的で……僕がにこ兄の支えになれたらなぁって…」

真姫「…どうせあの人らに俺を連れてこいって言われてるんだろ?」

凛「おぉー、さすが真姫くん、正解!」

真姫「逃げねぇからあんまくっつくなって」

凛「無理。もし逃がしちゃったら絵里くんたちにオレがシメられるから」

真姫「ったく……んじゃさっさと行くぞ」

凛「うぃー」


花陽「前に真姫くんが言ってたようににこ兄の情けない部分も見てより一層僕は……ってまたいない!? ま、待ってよぉっ…!!」



──


ことり「はい、西木野くんの衣装だよ」

真姫「……作んなくていいって言ったのに」

穂乃果「おい」
ビシッ

真姫「いってぇっ!」

穂乃果「なにことりちゃんが作ってくれた衣装に文句言ってんだ」

海未「ありがとうございます、でしょう?」

真姫「……相変わらずだな、あんたら」

海未「ありがとうございます、は?」

真姫「……ありがとーございまーす」

ことり「くすっ、どういたしまして」



絵里「曲と衣装は整っているから、あとは詩と振りつけだが」

にこ「あぁ、振りなら俺らが練習してたのがあるから」

絵里「……まぁ振りは俺が考えたものを使うとして」

にこ「おいコラ、ひとの話聞いてんのかよ!」

絵里「ん? あぁいたのか……小さすぎて視界に入らなかった、悪いな」

にこ「て、てめぇ……」

絵里「そもそもお前の振り付けのセンスはダサすぎるからな……どうせ今回のも」

にこ「はぁぁ!? お前のだってつまんねぇどっかで見たことのある動作の繋ぎ合わせじゃねぇか!!」

絵里「なんだと…?」

にこ「やんのか?」

希「まぁまぁ二人とも、仲良くしようや」

絵里、にこ「「希は黙ってろ!!」」

希「おぉ、こわいこわい」



真姫「……ねぇ、あのさ」

にこ「なんだよ?」

真姫「俺も踊るの?」

ことり「……」

「「「…………」」」


真姫「俺一人の為に気遣わせたくないしさ、やっぱり…」

絵里「馬鹿か、お前は」

海未「馬鹿ですね…」

にこ「お前の体力じゃ一曲分も持たねぇだろ」

凛「真姫くん体力ないからねー」

真姫「……」

穂乃果「お前はメインボーカルだろ。なら歌だけ歌ってろ」

真姫「え?」

希「うん、それが一番やね」

花陽「歌も踊りも上手なのに、その上体力まであったら僕たちが全然目立てなくなっちゃうよ」

穂乃果「だな。お前より何倍も目立ってやるから覚悟しとけよ」

にこ「まぁセンターは譲らねぇけど」

穂乃果「はぁー? センターはオレに決まってんだろ、何言ってんだ」

にこ「お前こそ何言ってんだコラ!」

穂乃果「チビがセンターだとカッコ悪いだろーが!」

にこ「んなっ…!? お前の馬鹿そうなツラが真ん中にあると全体がしまんねーんだよっ!!」

穂乃果「あーマジでキレそう」

にこ「それはこっちのセリフだ!」


真姫「……つーか全員馬鹿じゃん」

ことり「そうだね、くすっ」

真姫「……」



「あぁ楽しいなぁ」


真姫「……そう?」

ことり「西木野くんの心の声を代弁してあげたんだけど」

真姫「



「あぁ楽しいなぁ」


真姫「……そう?」

ことり「西木野くんの心の声を代弁してあげたんだけど」

真姫「……あんたってそういう人だったっけ?」

ことり「外れてた?」

真姫「……俺にばっか構ってると、またあいつらが妬いちゃうぞ」

ことり「大丈夫。みんななら、もう……ね?」

真姫「……あぁ」



ホントに、こっちが呆れるほど……馬鹿の集まりだよな

でも俺は、楽しんでたんだな

この人たちのことが好きだったんだな、ムカつくくらいに



にこ「なににやついてんだ、気持ちわりぃ…」

真姫「にこ先輩…」

にこ「あ?」

真姫「ありがとな」

にこ「……気持ち悪いからマジでやめろ」

真姫「ははっ、自分でも思った」

にこ「ったく、お前は」


穂乃果「おい、矢澤、西木野! お前らもこっち来て意見出せ!」

真姫「はいはい」

にこ「……アイツはいつになったら俺のことを先輩って呼ぶんだか」



ラブライブ予選の日、俺は歌った

こんなに本気で歌ったのは生まれて初めてかもしれない

最中に何度もぶっ倒れそうになった

でも、倒れることはなかった

多分、俺一人じゃとっくに諦めていたと思う

でも、この人たちがいたから

俺の周りにはこんなにも頼もしい仲間がいる

凛、花陽、高坂、園田、東條、エリー、にこ先輩

それと、南先輩も

こんな性格だから、言葉にするには躊躇いがある

だから、想いを声に乗せ、歌に変えて、

歌った

歌いきった

ステージを降りた後、軽く目眩がした




一次予選を通過し、最終予選


俺たちμ'sは、負けた



──


真姫「……最後くらい花持たせるとか考えなかったのかよ」

あんじゅ「あ、拗ねてるの? 可愛いー」

真姫「べつにー、言ってみただけ」

あんじゅ「よしよし…、ごめんねー、つい勝っちゃって」
ナデナデ

真姫「…ん、膝枕気持ちいいから……許してやる」

あんじゅ「あら、真姫が甘えてくれるなんて珍しいよね」

真姫「あー……うん…」

あんじゅ「みんなとは仲直りできた?」

真姫「……まぁ……多分……」

あんじゅ「あの女の子にもちゃんと謝った?」

真姫「……どうだったっけ……忘れた」

あんじゅ「あの金髪の人は……、真姫がよく話してくれた先輩は……」

真姫「……うん」


あんじゅ「ねぇ、真姫……楽しかった?」

真姫「あぁ、楽しかったよ……マジで」

あんじゅ「そう…、それはよかったわね」


真姫「……あんじゅ」

あんじゅ「…なに? 真姫」

真姫「……眠いから、ちょっと寝ていい……?」

あんじゅ「……うん、いいよ」

真姫「……じゃあ、ちょっとだけ、寝るわ……おやすみ……」

あんじゅ「……うん」


真姫「……そんな心配すんなよ、……ちゃんと愛してるから」


真姫「……ありがとな」




━━fin━━

ごめんなさい実は終わりなのです
話の設定考えるのは好きなんですけど終盤の展開、終わらせ方はいつまでたっても苦手みたい……永遠の課題。
こんなぶっ飛んだSSだけど最後まで読んでくれた人ありがとうぃっしゅ
ラブライブ板で虐められたらまたここ来るかも。よかったら読んでねー
ではではー

虐められたとか言ってるけどそういうキモい自分語りが叩かれる原因じゃねえの

>>297
違うねぇ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年06月22日 (月) 11:01:41   ID: uT-A1BUZ

チャンピオン連載したラブライブみたいな感じやな、ええやん

2 :  SS好きの774さん   2016年07月06日 (水) 15:57:20   ID: ECbJfQbs

元スレの嫉妬ss作者達キモすぎて草

3 :  SS好きの774さん   2021年12月17日 (金) 08:53:54   ID: S:iQjQJI

個人的にすごく好き

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom