里志「え? 奉太郎が部活?」 (68)

夕闇迫る放課後の教室。中学時代からの友人、折木奉太郎からいきなりの告白をされた。

「どうしたんだい急に? 高校デビューってやつかい?」

「そんなんじゃなくって…ちがくて…」

奉太郎は顔を赤らめてかぶりを振る。その仕草はちょっと…かわいかった。

「うんうん」

僕は、頷いて続きを待つ。

「お姉ちゃんがどうしても入れっていったから、かな」

思わず頬が緩む。なるほどそういうことだったのか。あまり積極的に人と交わろうとせず

しおらしい性格をしたホータローが部活なんて。どうもおかしいと思ったんだ。

まさかお姉さんに命令されたとはね。

はっきり言ってしまうと、ホータローはお姉さんが大好きなんだ。それゆえ、お姉さんには逆らえない。

と、一応念のために言っておくと変な意味ではない。誤解を招くかもしれないので念のため。

「笑いごとじゃないと、思うよ」

そう抗議してきたものの、これもまた遠慮がちだった。

もっと自信もって言ったほうがいいとおもうけどなあ。

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僕は改めて目の前の友人を見る。

ゆるくパーマのかかった黒髪。長い睫にぱっちりとした瞳、薄い唇が中性的な雰囲気を醸し出している。

女子の一部には、ホータローのことを気になっている子がいることを僕は知っている。

クラスの女子からも時折話しかけられているけれど、ホータローは照れくさそうに相槌を打つだけで、会話は成立しているとは言い難い。

曰く「女の子と話すのは慣れてない」だそうだ。

それがまた、かわいい、と評判になったりするんだけど。

ホータローは窓の外を見ていた。夕暮れ時の陽に照らされて、表情が憂いをおびている。

三年後に地球が終わることを知っている人達の小説に出てきそうなシーンだ、と僕は思った。

「じゃあ、今日は一緒に帰れないね」

「うん。そう、かな」

ちょっとホータローには酷な場面かもしれない。けど仕方ない。

「僕も今日は手芸部に行くから。ホータローも頑張んなよ。部活」

「うん。頑張ろう、かな」

僕はホータローの肩を軽く叩いて、教室を去る。

一緒に帰れないのは正直さみしい。けれど。

これがいい結果をもたらすことになれば嬉しい。たとえば、ホータローが部活に打ち込んで

物おじせずに他人と交わることができるようになる、とか。

なんて。それは余計なお世話だね。ホータローだって好きで今の性格になったわけじゃないんだし。

それを責めたり、変化を求めるのは傲慢というものだ。

「里志っ」

教室の戸に手をかけた時、そんな声が聞こえた。声のした方を振り返ると

申し訳なさそうに、ひらひらと動かして、手招きをしている。

「なんだい」

「あ、あのね」

「うん」

「里志も、入らない? 部活」

僕は意味をくみ取るため、しばしの逡巡をする。

「ホータローが入る部活に僕も入らないかってこと?」

「そうそう」

うーん。そうか。そう来たか。

僕はたくさんのことを楽しみたいと思っている。それが今のところの人生観。

だからホータローの誘いを断る道理は全くない。
 
「どうしようかなあ。ぼく総務委員だってあるんだよね」
 
二つ返事で承諾しては面白くない。ここは少し意地悪してやろうかな。
 
「そう、なんだ。そうだよね」

俯いて、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。かわいい。

でもまあ、面白そうだし入るよ、と言おうとして止めた。一つ大事なことを聞き忘れている。
 
「ホータロー、ちなみにどんな部活に入ろうとしているんだい? 吹奏楽部かな?」
見かけどおりに、というか、彼はピアノが上手い。

昔はコンクールにも出場していたらしいけど大観衆の前で演奏するプレッシャーに勝てずにやめちゃったらしい。
 
「違う、よ」

両手をぶんぶんと振って否定する。
 
「違うんだ。ならどんな部活だい?」

 「古典部、っていうんだけど」
 
「コテンブ?」

聞いたことがない。が、あるのだろう。文化系部活動が盛んな神山高校だ。

生徒ですら知らない部活動があったってなんら不思議ではない。

「活動内容は知ってる?」

ホータローは困ったように笑う。
 「
知らないのかい…」

そう聞くと、ホータローは、片目をつむった。

かわい…違う。そんなこと今はどうでもいい。入部する部の活動内容を知らないってどういうことだ? 
 
「お姉さんは教えてくれなかったのかい?」

 
「行ってみればわかるよ、って言ってた、かな」
 
「なるほどね。お姉さんらしいや」

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