恭介「理樹が朱鷺戸の一件からずっと腑が抜けてる」 (37)

食堂

真人「いっただっきまーすっ」

理樹「………いただきます…」

真人「うめっうめっ」

理樹「………もぐ…」

真人「おかわりいいか!?」

謙吾「好きにしろ」

小毬「…うーん?」

鈴「どうした小毬ちゃん」

小毬「理樹くん大丈夫?困ったさんオーラ出ちゃってますよ」

鈴「理樹、困ってるのか?」

理樹「…え?あ、うん…」

恭介「…………こいつは重症だな…」

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………
……………


恭介「闇の執行部が所有していたタイムマシンが無くなった…俺がそう言ったら信じるか?」

理樹「えっ…」

恭介「何者かが乗って逃げた痕跡があったらしい」

理樹「……!」


……………
………




夕方

恭介部屋


恭介「って感じにうまく説明したつもりだったんだが」

謙吾「さすがに抽象的過ぎたな」

恭介「いや、説明はそれで充分だったらしい。理樹が俺の言葉をどう受け取ったのかは分からないがそれ以上聞いてこないということはそういうことなんだろう」

真人「まあ俺は理樹がしょぼくれるのも分かるぜ」

恭介「うん?」

真人「だって結局は好きだった奴と離ればなれになっちまったんだぜ?俺だって理樹と二度と会えないなんて思いはもう味わいたくねえ……っ!!」

恭介「…方向性だけは会ってるから突っ込まんでおこう」

謙吾「やれしかし、このまま理樹を放っておくのも可哀想だ。あんな姿は見るに耐えん」

恭介「そう…だな」

次の日

食堂

「「いただきます!」」

恭介「……小毬っ…」

小毬「はいっ」

理樹「…もぐもぐ…」

小毬「ね、理樹くん」

理樹「なに?」

小毬「ちょっと放課後に付き合ってほしいところがあるのです」

理樹「放課後?」

放課後

キーンコーン

理樹「よいしょっと…行こっか真人」

真人「え?お前小毬と今日予定あるんだろ?」

理樹「あっ…そうだった。ってなんで真人知ってるの!?」

真人「あー…えーっと…」

小毬「理樹くーんっ」

理樹「小毬さん」

真人「と、とりあえず先帰ってるからなー!」

理樹「ちょっ…」

小毬「それじゃあ理樹くん行ましょ~」

理樹「う、うん…」



理樹「結局さっきの真人はなんだったんだろう…」

理樹(何か僕に隠し事をしているようなうろたえ振りだったけど…)

小毬「どうしたの?」

理樹「いや、こっちの話だよ。ところでこれからどこに行くの?」

小毬「ケーキ屋さんなのですっ」

理樹「へっ?」



ケーキ屋

小毬「ほわぁ~どれにしようかなぁ…」

理樹(色とりどりのケーキ達がショーケース越しに小毬さんを待ち構えていた)

小毬「それじゃあ、この野いちごのショートケーキと、ベリーが乗ったレアチーズケーキをくださいっ」

理樹「じゃあ僕はこのマロンケーキにしようかな」

店員「940円です」

理樹「お小遣いもちょうど入ったところだし僕が…」

小毬「お願いします!」

理樹(たしっとお札を店員さんに渡す小毬さん)

理樹「ええーっ」

店員「お買い上げありがとうございます。1000円から頂きます、60円のお釣りです。店内でお召し上がりですか?」

小毬「はい」

理樹「わ、悪いよ!僕ならともかく女の子の君に奢らせるなんてっ」

小毬「ダメです!絶対これは私が払うの」

理樹「ええー…」

理樹(普段優柔不断でどこか落ち着かない小毬さんにそこまではっきりを言われてしまうと何も言えなくなる。恭介達に奢ってもらったことを知られたら…)



理樹(テーブルに着いた)

理樹「いったいどうしたの?今日は別に僕の誕生日でもないけど…」

小毬「まあ、細かいことは置いといてとにかく食べましょー」

パクッ

小毬「うん、おいしっ。ここのケーキ屋さんのフルーツは特に気を使っててねぇ…」

理樹(何故ここに連れてきたかではなく、何故ここのケーキ屋さんなのかを説明されても…まあ、美味しいのは確かだけど)

小毬「……という訳なのです!」

理樹「それでなんでケーキ屋さんに?」

小毬「うんっ。それは恭介さ……あ」

理樹「恭介?恭介がいったいどうしたの?」

小毬「ほわぁぁあ!やっぱ今のなし!」

理樹「ダメです」

小毬「ふぇぇ…」







理樹「なるほど…だから小毬さんはここへ連れてきたんだね」

小毬「うん…」

理樹(恭介は、最近僕の元気がないことを気がかりにしていたらしい。そこで小毬さん達は僕を励ますために色々と催しを考えたとのこと)

小毬「私あんまり頭良くないし、これぐらいしか思いつかないから…とりあえず甘いものを食べたらちょっぴり幸せになるでしょ?だから理樹くんにその中でもとびきりの幸せをプレゼントしたかったのです」

理樹「なるほど。ありがとう小毬さん。気遣ってくれたんだね」

小毬「えへへ~…君が幸せになると、私も幸せ。だから理樹くんにも幸せになってほしいのです」

理樹(小毬さんの幸せスパイラル理論。確かに僕はあれから相当落ち込んでいたかもしれない。でも小毬さんの甘いものを食べる顔を見ると確かに暗い気持ちから少しだけ幸せになれた気がする)

チリンチリン

店員「ありがとうございました~」



理樹「そういえば小毬さん達ってことは他のみんなもここへ来てるの?」

小毬「うんっ。みんなひとりひとり理樹くんに元気になってもらうプランを練ってたよ~」

理樹(嫌な予感…)

「お?理樹じゃないか!偶然だな!」

理樹(その声は…)

謙吾「お!神北もいたのか。全然知らなかった!」

理樹「や、やあ謙吾…」

謙吾「ここで会ったのも何かの縁。ちょっと俺と遊んでいかないか?」

小毬「あーごめん理樹くんー私用事が出来ちゃったー」

理樹(棒読み…)

謙吾「よし…ナイスだ神北っ…」

理樹(聞こえてるし。でも一応乗っとかないと2人が気の毒だな。小毬さんはバレてるの知ってるはずだけど)

理樹「それもそうだね。それじゃあどこ行く謙吾?」

謙吾「どこへ行くかだと?そんなの決まってるだろっ!」

カッキーン!

謙吾「いよっしゃあ!またホームランだぞ理樹!」

理樹(僕らはバッティングセンターに来ていた。僕や真人ならともかく剣道部のはずの謙吾がここへ来るのが当たり前なのもおかしいはずなんだけどな…。ちなみに当の本人はホームラン賞で着々と賞品の缶ジュースを積み上げていた)

……………
………




公園のベンチ

カシュッ

謙吾「んぐ…んぐ……ぷはっ!やはり汗をかいたあとのジンジャーエールは最高だなっ」

理樹「凄いね…こんなにたくさんゲットしたら逆に持ち帰るのが大変なほどだよ…」

謙吾「何を言う。理樹だって一本打ったじゃないか!あ、別にこのジュースは飲みたかったら好きなだけ飲んでいいぞ」

理樹「あはは…ありがとう」

理樹(でも、確かに疲れたあとの冷たいものが喉を通りお腹へ溜まっていく感覚は極上だ)

謙吾「……理樹。学校は楽しいか」

理樹「え?」

謙吾「俺は楽しい。失うことの辛さを経験はした。今でも後悔していることもある。しかしそれでもこれだけは胸を張って言えるだろう」

理樹「……」

謙吾「理樹、学校は楽しいか」

理樹「うん…楽しいよ」

謙吾「その割には最近、魂を失ったようにしょぼくれていたな…お前が何を失ったのかは知らない。しかし、俺はこの通り失ってからもここまで来た」

理樹(そうだ…謙吾と僕の境遇は似ている…。謙吾も大切な人をなくしたんだ。それでも僕と違うのはそこから這い上がってきたことだ)

理樹「謙吾は強いよね。それに引き換え僕は…」

謙吾「お前だって俺以上に強い。それどころか将来恭介にだって負けない男になれるぞ!」

理樹「あはは…」

謙吾「冗談じゃない。本当にそう思っている…なんせ俺たち全員を救ったヒーローなんだからな」

理樹「それは鈴やみんなのお陰だよ。恭介がいなかったら今頃…」

謙吾「それでもお前が俺たちを助けたんだ。少しは胸を張れ……大丈夫、お前は必ず立ち直れる。この俺が言うんだ、間違いあるまいっ」

理樹(謙吾の言葉は力強くて勇気が湧いてくる)

理樹「うん。頑張るよ」

「おや、おやおや。奇遇だな理樹くん、それと謙吾少年」

謙吾「お前は…!」

理樹(もしかしてこれ毎回やるのか)

来ヶ谷「やあ。ここでお姉さんの登場だ」

理樹「来ヶ谷さんっ」

すまん、明日ちゃんと更新する

続く

謙吾「さてと…そろそろ俺は帰るとするかな。またな理樹!」

理樹「う、うん…」

来ヶ谷「ここで会ったのも何かの縁。どうだ、私と街を練り歩かないか?お姉さんのような美少女と二人きりだと鼻も高いだろう……いや、鼻が伸びる方か…?」

理樹「いやいやいや…」



喫茶店

来ヶ谷「私達がちゃんとしたカフェに来るのは…初めてだな」

理樹「そうだっけ?」

来ヶ谷「…なんだ?」

理樹「いや…なんだか来ヶ谷さんの2人でいたのは初めてじゃない気が…」

来ヶ谷「………はっはっはっ!理樹くんは案外ロマンチストなんだな。それとも口説いているのか?」

理樹「いやいやいや!」

来ヶ谷「冗談だ。それよりどうだここのコーヒーの味は」

理樹「うん、比べるのもアレだけど缶コーヒーより全然美味しいね」

理樹(謙吾や小毬さんと色々飲んできたばっかりだけど…)

来ヶ谷「そうだろう…実を言うとここは私のお気に入りなんだ。つまり知る人ぞ知る隠れスポットというやつだ」

理樹「それを僕に教えていいの?」

来ヶ谷「いつかのお礼さ」

理樹(来ヶ谷さんはいつも意味深なことを言う。それは後に意味が分かったり、分からなかったりすることもある。だけどそういう時にどういう意味か聞いても必ずはぐらかされるんだ)

来ヶ谷「ところで少年は最近元気がないようだが」

理樹「うん。恭介はお見通しだったみたいだね…」

来ヶ谷「失恋か?」

理樹「ぶっ!」

来ヶ谷「ふふっ、図星のようだな。まったく、理樹くんほど分かりやすい人間はそういない」

理樹「げほげほ…失恋と言えば失恋なんだけどさ……」

来ヶ谷「私も恋はしたことがある」

理樹「えっ、本当に!?」

来ヶ谷「その反応は結構失礼だと思うが…」

理樹「あ…ごっ、ごめん!でも意外だなぁ、いつも我が道を行くって感じの来ヶ谷さんにそんな人がいたなんて…」

来ヶ谷「ちなみに私もそれで失恋した」

理樹「ええーーっ!」

来ヶ谷「だからなんなんだ」

理樹「ごめ…」

来ヶ谷「謝るな」

理樹「はい…」

来ヶ谷「……何度かは叶ったんだがな…」

理樹「えっ?」

来ヶ谷「こっちの話だ。…それより私から聞いておいてなんだが今の君の落ち込みようは失恋のレベルじゃないがいったいどうしたんだ?」

理樹「……」

来ヶ谷「おっと、 少年の機微に触れてしまったかな」

理樹「ううん、別に気にしてないよ」

来ヶ谷「じゃあ、どんな事情かは知らないがこっちから勝手に理樹くんにアドバイスをしよう」

理樹「いつもそうなんだけどね…」

来ヶ谷「その落ち込む原因に手が届くなら真っ向からぶつかっていくといいだろう。複雑骨折をするぐらいなら気持ちよく折れた方が回復は早い」

来ヶ谷「だが、もはや今はどうしようもないところにいるなら、これからはただ、ひたすら他の楽しいことをして無理やりにでも気を紛らわせたらいい。他人と触れ合う内に気がつけば傷が浅くなっていることもあるだろう」

理樹「そういうものなのかな…」

来ヶ谷「そういうものだ。……どれ、長話をしてしまったな。これからスケジュールが詰まっているしそろそろここを出よう」

理樹「スケジュールって?」

来ヶ谷「ああ!」




カランカラン

来ヶ谷「さて、次は葉留佳君かな」

理樹(なるほど、スケジュールってそういう…)

葉留佳「おおーっ!理樹君と姉御じゃないッスか!」

理樹「や、やあ」

来ヶ谷「じゃあ私はこれで」

理樹(もはや退場する説明すらしないのか…)

葉留佳「理樹くん理樹くん!今から遊びに行きやしょう!」

理樹「ごめん、今日はそろそろ帰ろうかと思ってたんだ」

葉留佳「ってちょっとー!?」

理樹「冗談だよ」

葉留佳「もぉ人が悪いなー理樹くんは!ぷんぷん!」

理樹「ところでどこ行くの?」

葉留佳「えっとねー実は映画のチケットが2つあるんだけど」

理樹(べ、ベタだ!)





映画館

『地の利を得たぞ!』

『僕の力を見くびるな』

葉留佳「あわわわ…」

理樹「ごくり…」


…………
……



理樹「いやー鳥肌ものだったね」

葉留佳「やはは。面白かった?」

理樹「うん!」

葉留佳「次はどこ行く!?」

理樹「ま、まだどこか行くの!?もう夕方だけど…」

葉留佳「ふぇっふぇっふぇっ…!今日はどうせ金曜日、このまま寮の門限ギリギリまで遊びに行こうじゃないですカ!」

理樹「ええーーっ」

葉留佳「私はね、みんなみたいにあんましかっこいい台詞言えないからこうやって理樹くんに息つく暇もなく楽しんでもらうしか理樹くんを元気付ける方法知らないの」

理樹「葉留佳さん…」

理樹(そうか、葉留佳さんは葉留佳さんなりに…)

葉留佳「私も落ち込んでいてどうしようもなかった時があったの。そこに手を伸ばしてくれた人がいて、それが私…ぎゃっ!」

ゴンッ

西園「……三枝さん。1人で時間を取りすぎです…」

葉留佳「角ッ!本の角ッ!?」

理樹(い、一所懸命深いこと言おうとしてたのに!)

西園「さ、直枝さん。行きましょう」

葉留佳「む、無念なり…」

バタン

理樹「うわぁ…」

本屋

西園「…あとは、これも必須ですね」

理樹「うん…」

理樹(僕らは本屋に来ていた。そして何故か西園さんの荷物持ちをされていた…)

西園「これぐらいでしょう…直枝さん、お会計に行きましょう」

理樹「はい…」


店員「ありがとうございましたー」

ガラッ

理樹「よっと…西園さんはいつもこんなに買ってるの?」

西園「私ですか?そうですね、ここまでは流石に無いです」

理樹「えっ?」

西園「……?」

理樹(どうも会話がかみ合っていない気がする…)

西園「ああなるほど。言うのを忘れていましたこれは貴方にプレゼントするために買ったんです」

理樹「ええーっ!?」

西園「日頃の感謝を込めて…それとも本は読みませんか?」

理樹「いや読むけど…これ全部で物凄くかかったんじゃないの!?」

西園「私は普段あまりお小遣いを使いませんし気にしないでください」

理樹「いやいやいや!本当に悪いって」

西園「貴方は本当に面倒臭い人です」

理樹「ええー…」

西園「それじゃあこうしましょう。私が貴方にその本を貸します。私が欲しいと言えば返してください」

理樹(それでも違う気がするけどここで引き下がらないと更に面倒臭そうな目を向けられそうだ…)

理樹「ちなみこの本はどんな本なの?」

西園「それは衝撃の感動作です。雪の積もる街に両親の仕事の事情で住むことになった少年が5人の少女たちとの出会いを通じて失っていた記憶を取り戻す物語。泣けます」

理樹「へえ。じゃあこれは?」

西園「それもオススメです。さすらいの人形遣いの青年が、海辺の田舎町で偶然出会った少女達と紡ぐひと夏の物語。泣けます」

理樹「…これは?」

西園「坂の上にある進学校に通う素行不良の生徒はある日、坂の途中で足を止めていた見慣れぬ女生徒に出会います。気まぐれからその女生徒に声をかけ、運命が回り始める物語。泣けます」

理樹「感動物が多いね…」

西園「はい。やはり心がどうしようもないほど沈んでいる時は泣くとスッキリしますから」

理樹(なるほど…西園さんも気を使ってくれてたんだ)

西園「あっ…今のは聞かなかったことにしてください」

理樹「いやもう遅いから」

西園「さて…そろそろ鈴さんがやってくる頃かと思います」

理樹「えっ、鈴が?」

西園「本は私が後ほどお渡ししますのでお預かりしましょう」

理樹「ち、ちょっと置いてかないで…」

西園「それでは」

理樹(グッと親指を立てられても…)

10分後

理樹(そろそろ日が落ちるといった頃に鈴はやってきた)

鈴「待ったか」

理樹「待ったね…」

鈴「恭介にお前が落ち込んでるからなんかしろって言われた」

理樹「ざっくり言うね…」

鈴「ちなみに作戦名は『オペレーション・理樹を慰めようの会』だった」

理樹「カオスだねぇ」

鈴「とにかく行くぞ!」

理樹(今日は観念しておこう)

理樹「分かったよ。これからどこに連れて行ってくれるの?」

鈴「こっちだ!」

ダダダッ

理樹「ねえどこ行くかそろそろ教えてよ!」

理樹(僕の前を一心不乱に走る鈴。今まで誰かの後ろを走っていたことを考えると感慨深い気持ちになった)




鈴「おーい!」

理樹「…っ?」

理樹(そろそろ横腹が痛くなってきたと思ったら鈴が先の人物に声をかけた)

理樹「誰?」

理樹(最初は暗くてよく見えなかったけど次第にそのお馴染みの背丈と制服で後ろからでもその人が分かった)

恭介「おお、来たか」

恭介「もう気付いているだろうが次は俺と鈴でお前を楽しませてやる。そう…言うなればサタデーナイトフィーバーだぜっっ」

理樹「サタデーは明日だけどね…」

恭介「さあ2人はどこ行きたい?」

鈴「あたしはそこのアイス屋さん行きたい!」

理樹(と、すぐそこのアイスクリームの屋台を指差す鈴)

恭介「おいおい、こんな時間に食ったら太っちまうぜ…理樹からもなんとか言ってやってくれ」

鈴「わたしはガリガリだからよゆーだ」

理樹「いつも運動してるし別にいいんじゃない?」

理樹(心なしか鈴が楽しんでるような気がするけどそんな姿を見てるほうが逆に落ち着く自分がいる)

恭介「しょうがねえなぁ。今日は財布に余裕もあるし好きな味を買ってやろう」

鈴「うーうん」

理樹(鈴は不満そうに首を横に振り、屋台のメニューを指した)

恭介「な…3つか!?アイスクリーム3つ乗ったのが欲しいのか?3つ…ここぞとばかりにこのイヤしんぼめ!」

理樹(そんなこんなで街を適当に闊歩した僕らだった)




理樹「そういえば今日真人はどうしたの?」

恭介「ん?ああ、あいつはどうせ部屋で理樹と一緒だから帰ってきたらなんか仕掛けてくるらしいぜ」

理樹「何そのトラップを仕掛けるみたいなニュアンスは」

鈴「次はあれ行こう」

恭介「おっ、いいな」

理樹「えっ?」

理樹「………っ!」

理樹(鈴が指差した方向にあったのは…ゲームセンターだった)

理樹「あ……う」

鈴「あのクレーンゲームなんてどうだ?」

_____________

理樹『ゲームに興味あるの?』

沙耶『ま、まさかっ!見るからにくだらなそうじゃないの…』

理樹『ちょっとだけやってみたら?取ったぬいぐるみはもらえるし』



沙耶『いよっしゃ、取ったぁぁ!!』

理樹『あはは…』

_____________

理樹(………)

鈴「どうした理樹?行こう」

理樹「うん……あ、あれ?」

理樹(妙に肌が冷たかった。手を当てるとどうやら僕の肌は濡れているらしかった)

理樹「雨でも降ったかな…ごめん恭介、僕の顔に何かかかってる?」

恭介「……!」

理樹(恭介は僕のほうを見て驚いている。そして僕にこう言った)

恭介「…理樹、お前は泣いているんだ…」

理樹(言われて初めて気がついた。目のほうを指ですくうと確かに水はそこから溢れていた。久しぶりに流した訳でもないのに何故気付かなかったのか…僕はまだ彼女のことが心の中に根強く生きているらしい)

恭介「鈴っ」

鈴「なんだ?」

理樹(恭介がクレーンゲームの賞品で夢中になっている鈴を呼び出した)

恭介「理樹は疲れたらしい。今日はもう帰ろう…」

鈴「分かった」

理樹(鈴はぬいぐるみ達に未練を残す素振りを見せなかった。それとも僕のために気を使ってそうしたのかは知らない)




……………
………

理樹・真人部屋

理樹「ただいま…」

真人「おー!おかえりなすったな理樹っちよぉ!さ、今日は飯にするか?風呂にするか?それとも…筋肉いっとくか?」

理樹「あはは…」

真人「……どうした、気分が悪いのか?」

理樹「いや…まぁ」

真人「……ま、疲れたんならさっさと寝ちまいな。今日は謙吾の旦那のところで泊まってくるぜ」

理樹(真人は何かを察したように余計な詮索はせずさっさと部屋を出ていってしまった。今はそれがとてもありがたい。今日一番楽しみにしてたのは真人だったろうに…あとで謝っておこう)

理樹「……」

理樹(歯を磨いてパジャマに着替えると強烈な眠気が襲ってきた。…といっても病気ではない、心地いい眠気が……僕を…)




……………



理樹「んん…」

真人「おお、理樹。起きたか?」

理樹「…うん。おはよう」

真人「おう!朝飯はどうする?今日は休みだから急ぐ必要はねえが…」

理樹「いや、行くよ。恭介達が待ってたらいけないからね」

真人「おっ、元気になったな!」

理樹「えへへ…そうかな」





食堂

理樹(僕と真人以外は既にテーブルについていた)

恭介「…そこで次はサプライズで理樹に……」

理樹「おはようみんな!」

恭介「どわぁ!?」

理樹「どうしたの?」

恭介「い、いやなんでもないぜ…」

クド「わふー!なんでもないのですっ!」

来ヶ谷「ふふっ、もう”いい”のか?」

理樹「うん」

理樹(今度は来ヶ谷さんの意味深な言葉も理解出来た)

謙吾「なんだかよく分からんが理樹が無事元気に戻ったようだな。よーし今日は早速野球の練習だ!」

葉留佳「いや謙吾くんは剣道あるじゃん」

謙吾「ふっ、1日ぐらいなんとかなるさ!」

理樹「あはは!」


……………
………



理樹(僕は昨日、夢を見た。僕はこれまで一度も見たことがなかったけど本やテレビで聞いた通りなら合っているはずだ。何故なら僕が体験したことはまさしく『夢』そのものだったからだ)



………
……………

少し前


理樹「ここは……」

理樹(僕は広い雪原に立っていた。どこを見渡しても白一色。しかし不思議とパニックにはならない。ここにいるのは当然のことと思えた)

理樹「誰かいるのかな?」

理樹(僕以外の誰かを探しに僕は歩いた。行けども行けども待っていたのは雪だけ…寒くて歩くのも気だるくなってきたと思えばようやく白以外の色を見つけた)

理樹「………?」

理樹(『それ』はとても美しく思えた。黄金色の何かが倒れている…僕はそれに向かって走っていく。するとどうした訳か『それ』に近づくたび大地の雪は溶け、みずみずしい草木が生えていった。そしてその倒れているのが僕の一番会いたかった人だと分かった頃、もはや辺りは夏草に変わっていた)

沙耶「…………」

理樹「…沙耶」

続く

理樹(沙耶がいたことに疑問は感じなかった。僕が感じたのは、ただ安堵の気持ちだけ)

沙耶「……ん」

理樹「……」

理樹(髪を撫でてみる。いつか、同じように撫でていたような気がする)

沙耶「……んー…」

理樹(鼻をつまむ)

沙耶「……もがっ」

理樹(徐々に苦しげな顔に変化して、最後には起きた)

沙耶「ううん…」

理樹「おはよう」

沙耶「………えっ?」

沙耶「……理樹くんか」

理樹「寝顔可愛かったよ」

沙耶「あいかわらず変態ね。いっつも私の数少ない隙を見計らうんだから…っ」

理樹「まあ、今やその隙も突けなくなっちゃったけどね。今までどこ行ってきたのさ?」

沙耶「……?さあね。どっちかというとあなたが私のところへ来たのよ」

理樹「僕が君のところへ?…確かにそうかもしれない」

理樹(もっと喋りたいことはいっぱいあった。しかし、もし、もう一度会えることがあったら最初にこれだけは言っておこうと決めていた言葉があった)

理樹「やっと会えた」

沙耶「はぁ?それどういう……っ!」

沙耶「…嘘…そんなのって…」

理樹「……?」

沙耶「…奇跡ね」

理樹(今度は僕が沙耶の言葉に疑問を持つ方だった)

理樹「今更どうしたの?さっきから僕らは会ってたじゃないか。驚くなら起こした時に驚くはずじゃないの?」

沙耶「何か言う前にこれがジョークじゃないと約束して」

理樹「冗談じゃないよ」

沙耶「………」

理樹(沙耶は右手を顎に添えて俯いた。僕にどう説明しようか思案しているらしい)

沙耶「最初から話すわ。…私、最後に理樹くんを見たあと、タイムマシンで過去に戻ったみたいなの」

理樹「知ってるよ」

沙耶「でもそんなのありえない。多分、そのタイムマシンも私の妄想。私がそうしたいと願ったのか、誰かがタイムマシンを用意してくれたのか分からないけどね…とにかく、私は私の頭の中で過去に戻った妄想をしているだけ…そして今もその妄想の中にいるわ」

理樹「なら僕も君の妄想の一部?」

沙耶「あるいはね。…私はその夢とも言える____ううん、『夢』そのものの中でこれまで過去のあなたと成長してきたわ。私は人生をやり直した」

沙耶「そしてスパイである私を知らない貴方とこれまで生きてきた」

理樹「学校も一緒に通ってるの?その…”僕”とは」

沙耶「うん。あなたやあなたのお友達も一緒だわ」

理樹「みんな気がいい奴だよ」

沙耶「ふふっ…分かってる。時々バカをしでかすけどね」

沙耶「まあ、それから色々あって、眠くなっちゃって…気がついたらここへ」

理樹「僕も眠ったらここへ来たんだ。これこそ僕の夢かな?でも僕は普通の夢は見れないはずなんだけどな…」

沙耶「そりゃ普通の夢じゃないからじゃないの?私も、理樹くんも、どちらも自我を持ってる夢」

理樹「確かに」

理樹(ということはここはいったい…)

沙耶「ま、ここがどこかなんてどうでもいいわね。重要なのは私の理樹くんに本当の意味で再会できたことだしっ」

理樹「あはは…沙耶は変わったね。前は論理的じゃなかったら納得出来ないって性格だったのに」

沙耶「そんなのやり直した時から考えてないわ。…それより行きましょう理樹くん」

理樹「どこへ?」

沙耶「どこへでも」







理樹(それから沙耶と何をしたかは覚えていない。ただ、別れ際の言葉は覚えていた『夢だって生きていなかったら見ることさえ出来ない』と)

理樹(沙耶がどこにいるのかは分からない。この世界にいるかどうかすら分からないけど、生きているならまた会えるかもしれない。そう思うと不思議と元気が湧いてきた)

……………
………





理樹「んん…」

真人「おお、理樹。起きたか?」

理樹「…………」

理樹「…うん。おはよう」






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