女神「眠りなさい、勇者……魔王が再び蘇る時まで」(391)

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勇者「何かあったの? 騎士君、微妙に変な感じだったけど」

魔法「そうだねぇ……どうやら私達と相部屋になると彼が大変って話かな」

勇者「えー? ちゃんと寝巻きに着替えて出てきたのに、何か気を使わせるような事あったかなぁ」

魔法「まあ、お風呂に入っている間に少しは解消できるだろうけどもね」


騎士「……」

騎士「……ふう」

騎士「何やってんだ俺……死にたい」

騎士「……はあ」ホカホカ

勇者「なんでお風呂から出るなり溜……」

魔法「ほほう」

騎士「え、どうかした?」

勇者「なるほど……魔法使いちゃんの言っていた意味が分かった」

魔法「だろう。案外いいものなのだよ」

騎士「なにがだ?」

魔法「なあに、気にすることは無いよ」ゴチソウサマデシタ

……
騎士「ん……」

騎士(勇者が……いない?)ボー

勇者「むにゃむにゃ……」トテトテ

騎士(トイレ、か……っ!)

騎士「」バッスラァッ

勇者「むにゃ……」ボフ

騎士(なんだ……寝ぼけて俺のベッドに飛び込んだだけか)シャーー チン

騎士(……あ、俺何処で寝よう)

騎士(え、勇者のベッド?)

騎士(いやいやソファーに……いや体力の回復を優先させるべきだよな)モゾモゾ

騎士(……まだベッドが温かい)モゾ

騎士(……そしてこの香り)クンカ

勇者「すぅ……すぅ」

魔法「すー……すー」

――……
眼前に覆いかぶさるように木々が枝を伸ばしている。
その先に切り立った崖と、降ってきそうな鉛色の雲が見える。
手足の感覚が無い。こんこんと雪が降りしきる寒さの所為か、血を流しすぎた所為か。
蘇生の加護があるとは言え、山岳地帯を強引に抜けようとした結果はあまりにも惨めで孤独だった。

まどろむ中で苦い思い出が夢となる。
一週目は任された使命に潰されそうで、常に焦燥感に駆られていた。
そのお陰で二週目からは余裕を持つ事ができたが……。
今は右や左がやっと分かったぐらいだ。少しずつでも前に進もう。

……
勇者「あっさだよー!」カァンカァン

魔法「装備で鳴らすのは止めなさい。他の宿泊客に迷惑だよ」

勇者「おっとと失礼」

騎士「……ふぁ」ボー

魔法「時たま朝に弱いね」

騎士「……すまない、善処するよ」

騎士(あれでしっかり寝れるわけが無い)

戦士「なんかよー騎士って旅には向いていないよな。なんで宿屋でそんな眠そうな顔なんだ?」

騎士「ちょっとな」

勇者「いやーにしてもごめんねぇ。ベッド奪っちゃってたなんて」

僧侶「勇者さんはよく寝ぼけて誰かのベッドに潜りますよね」

騎士(できるだけ勇者とは相部屋にならない方がいいな)

魔法「買物は昨日のうちに終わっているし、今日はもうすぐにでも出発するかい?」

勇者「少しでも先に進まないとね」

戦士「今日は本当に戦闘が多いな」

勇者「騎士君がいなかったら結構きっついよね」

魔法「こっちはどうかしら?」

騎士「これは、止めておいたほうがいいかも」

騎士「こっちはいけそうだな」

戦士「塩漬けにして保存食にできねーかな」

騎士「一時間、二時間で出来たっけ?」

魔法「無理無理。諦めなさい」

戦士「ちぇー」

僧侶「野営の準備できましたよー」

勇者「そーいえば、何か思い出したりした?」

騎士「これといってさっぱり」

戦士「どうしたもんかねぇ……」

騎士「大事な使命とか無ければいいんだがなぁ」

僧侶「書簡とか分かりやすい物があればいいんですけどねぇ」

騎士「でもまあ……正直このままでもいいかな」

魔法「君自身の問題だからあまり口出しする事じゃないけれども、流石にそれはどうかと思うな」

騎士「うーん、皆との旅は楽しいからなぁ」

勇者「あたしとしてはやっぱり記憶は戻って欲しいけど」

勇者「それで旅から外れるかもと思うと……ううむ」

戦士「あーそれはあるな」

戦士「魔物との戦い方じゃ、まだまだ教わる事もあるし抜けられると困るな」

騎士「いやー記憶戻る雰囲気も無いし、そんな身構えなくても大丈夫だと思うぞ?」

騎士(そもそも”思い出した”ら逆に面倒だし)

僧侶「それにしても、本当に騎士さんは何者なのでしょうね?」

魔法「もしやあの神殿に祭られていた神の使いだったりしてね」

戦士「あれだけ廃れていてか? もうとっくに神様自体いなくなっているだろ」

騎士(ところがどっこーい)

僧侶「何処かの地域で信仰されていれば、いなくなる事はありませんよ?」

戦士「いやーあれだけでかい神殿があれで、一体何処で信仰しているって?」

騎士(全世界)

魔法「むしろ……あの神殿の神様を調べた方が、騎士に繋がる情報が得られるかもしれないね」

勇者「かと言ってもそんな情報はもう……ね」

騎士(……時々魔法使いは鋭い事を言うよなぁ。ちょっと怖い)

勇者「結構冷え込むねー」

戦士「雨じゃない分いいけどもな」

僧侶「寝れないほどじゃなくてよかったですよね」

魔法(寒い……)ブル

騎士「俺の分も使うか?」

魔法「え……それじゃ騎士が」

騎士「まー火の番でもしてるよ」

戦士「おいおい、寝ないつもりかー?」

騎士「じゃあ火の番しながら寝てみるよ」

勇者「燃えるよ!?」

騎士「……っは」ビク

騎士(夜明け前か)ウトウト

騎士(ここらへんは確か、桑の木が多かったな)

騎士(朝食にでも摘んでおくか?)


僧侶「桑の実って美味しいんですね」パクパク

騎士「そう言ってもらえると取ってきた甲斐があるよ」パク

戦士「なんだよそんな早起きできんならいつもしろよ」モックモック

勇者「なにか原因でもあるのかなぁ」パクパク

魔法(明らか私達が原因なのだろうが……天然と無頓着に言っても改善されないだろうし)

……
勇者「町だー!」

戦士「そんなに張り切る事か?」

勇者「だってここ英雄の町だよ? あたしのご先祖様のだよ? いやー一度来たかったんだよね!」

僧侶「英雄ですか?」

魔法「確か勇者*****の生まれ故郷だったかな」

騎士(……懐かしいなぁ)

勇者「これがかの有名な勇者*****の像!」

騎士「もはや人の形をしていない……」

僧侶「どんな鎧かも分からないですね」

戦士「この像の装備品って残っていないのか?」

勇者「何故か全て失われているんだよ……あればあたしももっと貫禄がつくかなぁ」ガチャガチャ

魔法「見た目も大切だけど、貴女はその行動で示す方が合っていると思うよ」

騎士(もう撤去しちまえばいいのに。最後に見た時でさえだいぶ削れていたんだし)

騎士(まあ、まともに残っていないのは有り難いんだけどな)

勇者「あ」

魔法「どうかしたかい?」

勇者「三人部屋と二人部屋で組んだ方が安い」

騎士「ぶーーーっ!」

戦士「おっしゃ、くじ引きだな」

僧侶「こうして見ると、いつもの宿泊も変化があって楽しいですよねっ」

魔法(一番、騎士と二人っきりになったら困る子が何かを言っているよ)ヒソヒソ

戦士(全くだな)ヒソ

僧侶「な、なんですか二人して!」

騎士「……」ガチャガチャ

戦士「……」ガチャガチャ

戦士「お前、装備の手入れの仕方とかはバッチリだな」ガチャガチャ

騎士「手が勝手に動くと言うか、きっと体が覚えているってやつなんだろうな」ガチャガチャ


勇者「あんな話しているからてっきり、僧侶ちゃんとのペアかと思ったのに」

魔法「残念だね……フラグが立ったと思ったのに」

僧侶「酷くないですか?!」

魔法「真面目な話、騎士と二人っきりになって大丈夫かい?」

僧侶「……それはもう仲間ですもの」

勇者「わー凄い目が泳いでいる……」

戦士「そうだ、お前対人剣術習うつもりはないか?」

騎士「対人? 俺が?」

戦士「記憶が戻らなかったらどうするんだよ?」

戦士「今のところ、お前には兵士の道しかないだろ。それなら必須だぞ」

騎士「それもそうか……だがいいのか? 戦士さんの負担になるだけでは?」

戦士「んなもん、その倍お前が戦闘で頑張れ」

騎士「わーぉ」

戦士「違う! そう構えるな! 腰を入れろ! 相手を意識しろ!」バシィ

騎士「ぐ、やあぁっ!」ガキィィン

戦士「人間相手にその太刀筋はなんだ!」キィィンバシィ

騎士「がっ! はあぁぁ!!」キィンキィィンギィン

戦士「甘い! そんなんじゃ盗賊一人捕まえられんぞ!」ギィンバシバシィ

騎士「ぐうおおぉぉ!」ギィィン

――……
「お前……本当に勇者かよ」

「こんなんで魔王を倒せるのかねー」

「元々はただの町人で剣なんか握った事も無いんだぞ。手加減してくれ!」ボッロボロ

戦士にボコボコにされたからだろうか。痛い夢を見た。
様々な国を回り、多くの兵士に手合わせを願われた。唯一残った期待の勇者だからだ。
そしてその度に、ボコボコにされて皮肉を言われた。
何が『これが俺達の命運を分ける人なのか』だ。泣きたいのはこっちだ。

勇者「起っきろー」カンカン

魔法「何で二人して寝坊?」

僧侶「き、騎士さんに至っては何故かボロボロですし」

騎士「ふ、これで少しは俺も強く……」ボロッボロ

勇者「えっ、騎士君もう十分強いのに?!」

戦士「ふぁー……。魔物との戦闘にはあまり効果が無いだろうけどさ」

騎士(まー自分にまだ伸び代があるのが分かっただけでもいいか)

騎士(戦士の言うとおり、後の事も考えないとだしな)

戦士「相変わらず、何処の店を回ってもお前の装備を交換する事は無いな」

騎士「ほんと、自分でもいい物使っていると思うよ」

騎士(これ神器で揃えるのに8回死んだけど)

魔法「その分お金は浮くし、戦闘も期待に応えてくれる。こちらとしても良い事ずくめだけどね」

戦士「後は対人技術だなぁ」ガッシ

騎士「……精進します」

僧侶「たった一晩で凄く仲が……」

勇者「何があったんだろう」ゴクリ

戦士「ほぼ棒打ち」

騎士「めった打ち」

魔法「あら拷問」

勇者「装備も整ったし行こっか」

騎士(しまった墓参り……いや、魔王を倒してからにするか)

戦士「そういえばそろそろ砦か?」

騎士「え、砦? この近くに?」

魔法「魔物達の砦だよ。次の町との間にあるのさ」

騎士(魔物のかよ。超やべぇ)

騎士「なんでまたそんな所に。国は兵士動かさないの?」

僧侶「防衛線を張ってはいるけど攻める事はないようですね」

……
勇者「結構物々しいね」

騎士(めっちゃ要塞だ!)

戦士「よっし、あたしと騎士で特攻」

騎士「特攻?! ああ、勇者さん達は後方援護とか?」

勇者「んー騎士さんいれば問題無い気がするけどなぁ」

魔法「いざとなったら戻っておいで。いつでも魔法を撃てる準備はしておくから」

僧侶「回復魔法もスタンバイしていますからねっ」

騎士「要塞だよなぁ……罠とか地の利とか流石に危険があると思うが」


砦のボスの首「」ゴロンゴロ

騎士「んなこたーなかった」

騎士「上手に焼けました」ジュゥゥ

戦士「肉もいっぱい手に入ってよかったな」

魔法「本当、魔物が食べられるなんてもっと早くに気付くべきだったね」

僧侶「お肉♪ お肉♪」

勇者「おいしそー」ジュルリ

戦士「残りは燻製にでもするか?」

魔法「折角部屋もあるんだし試してみようか?」

騎士「一室だけ異様な匂いがするようになるのか……修繕するにしても後の人は可哀相だな」

勇者「魔物が使っていたとはいえ、野営中にベッドで寝れるとはー」ウキウキ

魔法「おや、全部二人部屋なのね」

戦士「そんなに敵の数もいなかったからな」

騎士「殆どボロボロだけどな。ベッドなのに快適じゃない部屋がちらほら」

魔法「何処が使えそう?」

騎士「一番右が二つ。右から二番目と真ん中が一つ。左から二番目がぎりぎりってところだ」

騎士「俺は左の部屋に寝るよ」

戦士「いいのか?」

騎士「野宿に比べればまだマシなレベルだから構わないさ」

……
騎士「町との間、というわりにこの町まで結構日数かかってるよな」

戦士「真ん中って言ったっけか?」

勇者「あー前の町から砦までの距離の二倍はあったからね。砦からこの町まで」

魔法「保存食が得られたのは運が良かったね」

騎士「というか得られなかったらどうするつもりだったんだ」

僧侶「毎日、倒した魔物を解体でしょうか」

騎士「相当時間かかってるだろうなぁ、それ」

戦士「じゃああたしら宿屋に」

魔法「くじ引きの用意しておこうか」

騎士「えー」


女神(おや、中々良いようですね)

騎士(何がです?)

女神(彼女達との信頼がより高まっているようですね)

騎士(そんな事が分かるのですか?)

女神(詳しい胸中までは分かりませんが、人同士の想いは分かりますよ)

騎士(俺から女神様だから、俺の気持ちは気付かなかった、と)

女神(ドン引きですけどね)

騎士(えー)

女神(それはいいとして、これからも頑張っていくように)

女神(貴方の働き次第ではより良い関係が気付けるでしょう)ニヤニヤ

騎士(うーん)

女神(あら? 皆さん好みでないと?)

騎士(いえ、やはりこうしていると、女神様が一番だなぁと)

女神(マジキチ)

女神(魔王を倒した時点で契機満了ですよ?)

女神(そうしたらもう、私ともこうして話す事はできなくなるのです)

女神(飽くまでも貴方の思いは夢のようなもの。追いつけないものの為に人生を無駄にする気ですか?)

騎士(じゃあ再度契約するとか)

女神(使命をもたない貴方に行える契約はありません。そもそも同じ人間に二度の契約は行えません)

騎士(神の僕的なのは)

女神(天寿を全うしたら考えてあげましょう)

騎士(うーむ、駄目かぁ)

女神(当たり前です)

勇者「騎士君騎士君」ツンツン

騎士「……どうかした?」

勇者「いやー礼拝中に眉間に凄い皺作ってたからどうしたのかなって」

騎士「え、マジか。僧侶も見た?」

僧侶「ええ、確かに何事かとは思いましたが」

騎士「うーむ」

騎士(気をつけないとだなぁ)

勇者「そーいえば、あれから戦士ちゃんとは訓練してないみたいだけど」

騎士「流石に野営中にやるのは自殺行為だからなぁ」

騎士「戦士には町にいる間だけって事で頼んでいるんだ」

勇者「ほうほう……いっそ魔法ちゃんにも頼んでみたら?」

騎士「魔法使いに? そうだな、魔法戦士になれたらいいな」

騎士「ま、そこまでは時間は取れないだろうから、剣を伸ばしたほうがいいんだろうけども」

騎士(一年かかって回復魔法小が習得できなくて諦めたなんて言えない)

勇者「レディースデー?」

戦士「そ、女性客のみだと安くなるんだとよ」

魔法「私達で四人部屋と騎士の一人部屋の組み合わせが一番安くなるのだよ」

僧侶「それにしても、こんな所の宿屋でレディースデーとは効果が……」

戦士「いや、ここは色んな国へ行くルートになるからな」

勇者「そういえば結構物資も充実しているよね」

魔法「そんな訳で騎士には一人部屋でお願いするよ」

騎士「そこで申し訳無さそうにされると俺も困る。というか、皆と一緒の部屋がおかしいからね!」

勇者「凄い強調したね」

騎士「だって四人とも仲間はずれごめんね、ぐらいの感覚でしょ」

勇者「さて」

戦士「何だよ改まって」

勇者「遂に騎士君のあたし達に対する好感度がmaxのあたりまで高まったよ!!」

魔法「どんな基準なんだい?」

勇者「あたし達の呼び方とか」

僧侶「飽くまで仲間としての好感度という事ですか?」

勇者「そうそう。まずはそこに辿り着かないと、一歩は踏み出せないでしょう」

勇者「で、三人は騎士君の事をどう思ってる?」ニヤニヤ

戦士「何だよ、その手の話がしたいだけかよ」

勇者「えーしようよー! あたし達、列記とした乙女だよー?!」

魔法「乙女は魔物の肉にかじりついたりはしないでしょうけどもね」

勇者「ぶー! そういう魔法使いちゃんはどうなのさ」

魔法「勿論良く思っているよ」

戦士「あっさりと肯定しやがったな」

魔法「そうかい? 彼、良い人じゃないか」

僧侶「確かに優しいですよねぇ」

戦士「まーそこは否定はしねーけども、そんな言うほどかぁ?」

戦士「つーか、僧侶も満更でもないのか」

僧侶「なな何を言っているんですか! 私はそんな軽い気持ちであの方を想っている訳でありません!」

勇者「鞍替えかー」

魔法「所詮、ただの一目惚れなのだろうしね」

僧侶「三人して苛める……」

僧侶「そういう勇者さんはどうなのですかぁ……」

勇者「わーごめんごめん、そんな拗ねないで」

勇者「あたしはまあ、好きだよ」

戦士「何となくそんな気はしていた」

勇者「いやーというより、まともに異性と接する機会が無かったからなぁ」

魔法「家柄?」

勇者「うん。稽古とか一緒に鍛練していた人はいたけど、父さんが凄い眼光放ってたし」

戦士「そりゃあ誰も親密にはなりたくはないわな」

勇者「だから異性として好きなのかはちょっと分からないなー」

魔法「抱き締めたい、抱き締められたいと思うのならそうだよっ」

勇者「なんと?! そうなると、むむ……」

戦士「唯一の経験者が異常者だから当てになんないぞー」

勇者「やっぱあたしは分からないなー」

勇者「尊敬の好きなのか恋愛の好きなのか……うーん」

戦士「別に急いで答え出す事でも無くないか?」

魔法「そういえば戦士はどうなんだい? 強い人が好きだと言っていなかったかい?」

戦士「そりゃあ今は頼もしいが、本来の職を考えるとちょっとなー」

戦士「まー良くは思っている、程度かねー」

勇者「超上から目線」

戦士「いけ好かないからしないが、これでも貴族から色々と来ているぞ」

魔法「人柄は置いておくにしても、職業上は有望株だものね」

僧侶「……あの、ここだけの話でお聞きたいのですが」

勇者「え、そんな改まってどうしたの?」

僧侶「あ、いえ……その彼から何かされた、とかありますか?」

戦士「ちょっと打ち首にしてくるわ」

勇者「あたし取り押さえるね」

僧侶「あ、違、そうじゃないんです! その……もし二人部屋で一緒になったらと」

魔法「そこまで不安かい?」

僧侶「すみません……この間のは虚勢です」

勇者「うん、言わなくても分かってた」

魔法「私は大歓迎だけどもそういうのは無いね」

勇者「大歓迎なんだ……」

戦士「魔法使いぱねぇ……ま、あいつはそういう事しなさそうだけどもな」

僧侶「さっき打ち首とか言っていましたよね?」

戦士「信頼してるからこそだ」

勇者「そこは戦士ちゃんに同意だね」

魔法「冷静に考えなくてもハーレムだというのに……もっと求めてくれればいいものを」

勇者「魔法使いちゃん……」

騎士「そういえば、今日は稽古どうするんだろう……」

騎士「確認……いや、なんか入り辛いな」

騎士「型の練習と素振りでもしておくか」ガチャ


勇者「騎士くーん、晩御飯食べにありゃ?」ガチャガチャ

魔法「外出しているのだろうか?」

勇者「うーん、男の人ってこんなものなのかなぁ。四人もいて丸放置って」

戦士「正直、枯れてるんじゃないかと思う」

僧侶「枯れてますか? 活力で溢れているような方じゃないですか」

勇者「流石僧侶ちゃん」

騎士「ふー流石に疲れ……なんで扉に張り紙」

騎士「『帰ってき次第、あたし達の部屋に来る事!』? なんで走り書き? 怒ってる?」

騎士「あ……晩飯すっぽかして稽古してたからか?」

騎士「すまん、入るぞー」コンコン

魔法「やっと帰って来たのだね」

勇者「もー遅いよ。お腹ペコペコ」

騎士「え、もしかして待っていた?」

僧侶「部屋は違うわけですからせめてご飯はご一緒にと思いまして……」

戦士「おー来てたのか。ちゃんと服着てくるわー」ホカホカ

勇者「戦士ちゃんノーガード過ぎるよ!」

騎士(俺、男として思われてないのかなぁ)

騎士「それじゃあ、俺は部屋に戻って寝るよ」

戦士「おうおやすみー」

勇者「おやすみ~」

魔法「では、また明日」

僧侶「おやすみなさい」


騎士「……さて」

騎士「素振りをもう千回しておくか」

――……
「止めろ……! 逃げろ、皆、逃げ……」

「た、助け……勇者様!」

「誰か! うわああぁぁ!」

弱かった自分。非力だった自分。
力ばかりがあってもそれを使いこなす技量がなくて。
多くの人を守れなかった。
掬っても掬っても零れ落ちる命……。
あの時、ただただ愚直に強さを求めていた。

勇者「あ、そうだ言い忘れていたんだけど、今日は戦士ちゃんと騎士君お休み」

戦士「はぁ?!」

魔法「まだ伝えてなかったのかい?」

勇者「いやーごめんごめん」テヘペロ

騎士「何かあったのか?」

勇者「うん、ちょっと魔力を高める訓練をしておこうと思ってね」

僧侶「急激に上がるわけではないのですが、一通りやって覚えておけば、道中でも少しずつできますので」

魔法「現状、剣は騎士と戦士で間に合いそうだからね。なら勇者は……正直不得手なのだけども、魔法を伸ばすしかないのだよ」

勇者「普通、不得手云々って自分で言うものだと思うなー……そりゃ苦手だけどさ」

魔法「大丈夫だ」

戦士「何が? いや何処が?」

魔法「スパルタさ」

勇者「ひいぃぃ!」

戦士「んじゃあ、あたしらはあたしらで特訓とするかねぇ」

戦士「前みたいにあたしに打ち込んでこい。叩きのめしてやる」

騎士「わ、分かった」

騎士「っふ」キィンキィィン

戦士「お、素振りとかしてたのか?」キィンギィン

騎士「っは」ギンキィンガキィィン

戦士「随分上達……」キィィンギィン

騎士「っや」キィンキンギィィン

戦士(え、何これ強くね?)

戦士「打ち込み止め! よし、模擬戦やってみるか」

騎士「えっもう?」

戦士「なんか型とかしっかりしているし、模擬戦やった方がよさそうだからな」

騎士「上達している実感はないが、戦士がそう言うのなら……」


勇者「え、今日何してたの?」

僧侶「まさか二人だけで魔物と戦っていらしたのですか?!」

戦士(こいつやべぇ)ボロボロ

騎士(やっぱつえぇ)ボッロボロ

戦士「なあ、魔法使い。お前騎士については調べてたりするのか?」

魔法「彼自身というより、彼に繋がりそうな情報は調べているけども。どうかしたのかい?」

戦士「あいつ、すげー勢いで対人剣術が上達しているんだよ。天賦の才ってやつかな」

戦士「もしかしたらどっかの場所じゃ有名かもしれないから、調べついてるかなぁと思ったんだが」

僧侶「そんなに凄いんですか?」

戦士「勇者と同じくらいだよ」

勇者「へーあたしは子供の頃からずっと習っていたからなぁ」

勇者「泣いていい?」

戦士「一月以内にあたしも泣くわ」

騎士(そういえば、二泊は初めてだな)

騎士(流石にこれ以上の鍛練は明日きつそうだ)

騎士(礼拝しにいくか)


女神(暇つぶしの感覚で来られても困るのですが)

騎士(サーセン)

女神(おや?)

騎士(どうされました?)

女神(随分と強くなっていっているようですね)

騎士(そうですか? 全く実感は無いですし、戦士にもボッコボコにされてるんですけどね)

女神(現状、貴方の潜在能力はかなり高いですからね)

女神(加護による身体能力強化で慣れてしまっているのでしょうが、異常な速さで強くなっていってますよ)

騎士(潜……なんですか?)

女神(一言で言えば、貴方の中に眠る伸び代みたいなものです)

騎士(それ伸びたりするもんなんですか?)

女神(普通はおいそれと起こりえませんが、何分貴方は人の理にはいませんので)

騎士(そもそも人外になってからしばらくして、強くなる実感がなくなったんですが)

女神(そうですね、少し説明をしておきましょうか)

女神(例えばある人の能力値の限界が100だとします。当然100に達すれば、それを越えて成長する事はありません)

女神(が、契約による加護などの場合はその限りではありません)

女神(ある人が加護を受けた際の限界を200だとします)

女神(その者の本来の能力が50。加護で150付与された場合、200に達してしまい、成長は止まってしまいます)

騎士(じゃあなんです。すぐに実感できなくなったのは、身体能力強化がとんでもない効果であるという事ですか?)

女神(そういう事です)

騎士(て、考えなくても女神様本人との契約だから、加護の効果も最高値であってもおかしくないのか)

女神(当然でしょう)エッヘン

女神(それでは話を戻します。潜在能力を伸び代と言いましたが、言葉のあやですね。失礼しました)

女神(潜在能力は成長速度のようなものです)

女神(伸び代は個々に決まっている能力の成長しうる限界値です。限界に近ければ近いほど成長し辛くなりますが)

騎士(つまり潜在能力が高ければ最後までぬくぬくと筋力なんなり上がると)

女神(大抵はそこに達する前に潜在能力が塵になるのですけどもね)

女神(そこで、人の理を越えた貴方の話になる訳です)

騎士(『今』の俺の潜在能力は高いと仰りましたよね)

女神(本来、伸び代があるものの、能力強化の弊害で成長は止まっている)

女神(それでも尚戦い続けた貴方の体には、経験値が蓄積されていくのです)

女神(そしてその経験値は潜在能力として昇華されるのです!)

女神(伸び代が無ければ無駄になるところですが、まだまだ発達途上ですからね)

女神(そして貴方は加護の肉体強化を切っているので、貴方自身の力はがんがん上がっているのですよ)

騎士(最終的に100になったとして、加護を利用して250になりますか?)

女神(勿論なりますとも。飽くまで成長限界であって、力を振るう分には問題ありません)

騎士(おおっ! ってこれ以上強くなったら魔王瞬殺かもしれない)

騎士(待てよ! まさか実はもう魔法が使えるようになってたりして!)

女神(魔法を使っていないのに、魔力周りが鍛えられる訳がないでしょうに)

騎士()

女神(因みに、今の貴方は魔法使いの卵lv3程度の魔力です)

騎士()

女神(先天性と言えるほどに魔力が低いですね。ですが、その分身体的な能力の伸び代はかなり高いのですよ?)

女神(10を平均とした時、筋力や耐久等は18ほど。感覚や器用さは13。魔力は1でしょうか)

騎士()

女神(ですがこれは誇っていいのですよ。これほど戦士として優秀な……勇者*****聞いていますか?)

勇者「さーて、今日はがんがん進むよ!」

戦士「次は……ここの道中って」

魔法「要塞があるね」

騎士「わーぉ」

僧侶「昔戦争をした際に造られた要塞ですが、今では関所みたいになっています」

勇者「と言ってもほぼ観光地状態だけどもねー。取り締まっているわけでもないし」

騎士「ああ、なんだ。ただの要塞跡か」

戦士「で、今は魔物に占拠されてると」

騎士「わーぉ」

騎士「すげぇやばそうな要塞だった件」

勇者「多分、要塞のトラップも起動しているんだろうね」

戦士「流石にそこは固いだろう」

騎士「トラップまであるのかぁ……」

魔法「と言っても、別の場所にワープさせる程度のものさ」

騎士「それはそれで十分困るだろう」

僧侶「こんな所で孤立したら……」ブルブル

勇者「騎士君はしんがりをお願い」

戦士「中は結構入り組んでいる。背後を突かれるとやばいからな」

騎士「それでも俺が最前線の方が良くないか? どの道正面が戦力集中するんじゃないか?」

魔法「中には大量の骸骨剣士がいるらしい。知能もあるだろうから、背後を叩いてくるだろうね」

騎士「ああ、そういう事か」

僧侶「が、頑張っていきましょう!」

騎士(意外と狭いな……それにしても戦争か)

騎士(眠っている間に色んな事があったんだなぁ)

魔法「トラップは壁や床にあるそうだ。気をつけて」

戦士「勇者、もうちっと先に行ってくれない?」

勇者「それあたしが押すって意味?!」

僧侶「初めてきましたが、凄いしっかりとした作りですね……」カチ

勇者「……」

戦士「……」

魔法「……」

騎士「なんかすぐ目の前から凄い不吉な音がし」ヒュン

騎士「たんだけど、やっぱりこうなりますよねー」

僧侶「ごめんなさい! ごめんなさい!」

騎士(何処かの部屋? 出口は一つ、通路の先はt字路で敵が行き交っているな……)

騎士「参ったな……こりゃ救援待ちかも知れない」

僧侶「き、騎士さんでもこの状況は危険なのですか?」

騎士「対人剣術における実戦経験が乏しいからなぁ」

騎士「あれの大群を一人で相手する事となると……不味いだろうな」

騎士(困ったな……強化の加護を発動させておくか?)

騎士(すぐに切り替えられるものじゃないし、今のうちにやって……)ヒュン

骸骨「ガカッ!」ドシャ

骸骨「アアアァァ」ゾロ

骸骨「アアァ オオォォ」ゾロゾロ

騎士(おくべきだったかっ)

騎士「回復に専念してくれ」

騎士「出入り口は一つ……俺が食い止める」

僧侶「わ、分かりました!」

騎士(なんとしても、耐えなければ)ヒュンヒュン

騎士(焦るな……もう俺は力を使う技量はあるんだぞ)シュバズザン

騎士(だが……数が多すぎる)ザシュ ブシュゥ

僧侶「回復魔法・中!」パァ

騎士(猛攻が止む気配が無い……この喧騒で勇者達が駆けつけてくれればいいが)ザン ザン

騎士「はぁ……はぁ……ぐっ」ザシュ

騎士「っち……」ギィィンギィン

僧侶「か、回復魔法・中!」パァ

騎士(不味い……血を流しすぎたか)キィィンザン ズザン

騎士(このままじゃ……また……)

騎士「……堪るか……何度も……奪われて」キィィンギィン

騎士「守りきる……今度こそ……」ザン ザシュ

僧侶「はぁ……はぁ……回復魔法・中! ……騎士さん」

騎士「二度と……あんな……!」ザンズザンザン

……
騎士「……ん」

騎士「……あれ?」パチ

僧侶「き、騎士さん!? 良かったぁ! 勇者さん! 騎士さんが目覚めましたよ!」

騎士(ここは……ベッド? 部屋の造りは要塞みたいだが)

勇者「あぁ良かったぁ……。大丈夫? かなり出血が酷かったみたいだけど」

騎士「あ、ああ……少し頭がぼーっとするが、大丈夫そうだ」

騎士「それより俺はどうなったんだ?」

勇者「いやーもう凄いというか凄まじかったよ。騎士君一人であの大群を殆ど切り伏せてるんだもの!」

僧侶「戦闘中、騎士さんが出血過多で気を失ってしまったんです」

勇者「そのすぐ後にあたし達が到着して援護に入ったんだけど」

勇者「いやーまさか僧侶ちゃんが騎士君を庇いつつ震えながら、骸骨剣士を相手に牽制しているだなんて思わなかったよ」

騎士「そう、か……」

勇者「どうしたの? 気絶したとは言え、騎士君の大勝利だよ?」

騎士「いや……すまない、僧侶。結果的に助かったとは言え、守り抜く事ができなかった」

僧侶「そんな事ありません! 騎士さんがいなかったら……いえ、私がもっと魔法が使えていれば」

騎士「違う、俺は……俺が……!」

勇者「止ーめ。絶望的な状況から二人助かった。それでいいでしょ」

勇者「騎士君も! 僧侶ちゃんも! 全力を賭して勝った! 悪いも何もない!」

勇者「どれだけ力があろうと、全てを望んだ方向に進められる訳じゃない。だからあまり気にもしない!」

勇者「騎士君に至っては病み上がりなんだから深く考えない! いい?」

騎士「……っぷ、はっはは!」

僧侶「騎士さん?」

騎士「まさか……勇者に説教される時が来るとはなぁ」

勇者「むぅ……。まあ、これはうちの教えだから何ともなぁ」

騎士「全てを望んだ方向にってやつが?」

勇者「うん……勇者*****は不死身で人外の力を持っていたとされるけど、様々な挫折や苦労をしたと言われているんだ」

勇者「だからそういう教訓があるんだ」

騎士「そっか……そりゃそうだな」

騎士(俺は一体何に成ったつもりでいたのだろうか……)

騎士(絶大な力を誇るとされた魔王でさえ、人間の支配に至らない。俺が阻止している)

騎士(だからといって俺が全能な訳がないだろう……まさか自分の生き様の教訓を、自分で学ぶ時が来るとはな)

勇者「おっと言い忘れてた。それから町に駐屯する兵士に連絡し、ここにも兵士が派遣されたところだよ」

魔法「あれからもう四日だ。無事で何よりだよ」

騎士「四日?!」

戦士「お、元気そーじゃねーか。全く心配かけさせやがって」

騎士「四日も眠っていたのか……」

魔法「むしろ死んでもおかしくない状態だったのだよ……」

勇者「魔法使いちゃんと僧侶ちゃんは一日目で泣いていたもんね」

魔法「当たり前だろうに」

僧侶「うぅ~」カァ

騎士「……やばい、凄いキュンときた」

魔法「因みに昨晩、結局二人とも泣いたわ」

勇者「てへっ☆」

戦士「流石に三日も目を覚まさないと、な」

騎士「そうか……」

騎士「心配をかけてすまない。それとありがとう」

勇者「何が?」

騎士「まさか……皆が泣いてくれるとは思いもしなかった」

魔法「何を当たり前な事を言っているんだい」フゥ

戦士「お前なぁ。まさか部外者気取りだったのか? 悪いけどもう一蓮托生だと思っているんだからな」

勇者「そうそう。大切な仲間だよ……行くならとことん、地獄まで!」

僧侶「流石にそれはどうかと……」

騎士「……ありがとう、本当に」

……
騎士「よし、完全回復!」

勇者「おおー!」

戦士「こっちは準備できたぞー」

僧侶「本当にもう大丈夫なのですか?」

騎士「……あれだけレバーやらほうれん草やら食わされれば大丈夫さ」

魔法「しっかり全部食べてくれるものだから、何処まで食べられるかつい試したくなってね」

騎士「一食丸々ほうれん草はいじめかと思った」

戦士「流石にあれはあたしもドン引きだわ」

魔物の群れが騎士に蹴散らされた!


勇者「色々とあったけど町に到着!」

騎士「やっと調子が戻ってきた感」

戦士「あれでか……なんかまた騎士が強くなっている気がするな」

魔法「そうねぇ……まあ、出会った時よりもずっと強くなっているのは確かだね」

騎士「そうか?」

騎士(あんまり実感はないんだけどなぁ)

僧侶「それでは私達は」

戦士「あいよ。こっちも宿屋に向かってるわ」

女神(……そのような事が)

騎士(やっぱり、俺はまだまだ未熟ですね)

女神(珍しく殊勝な様子だと思いましたがそういう事とは……)

女神(貴方は人の理から外れて生きているからこそ、様々な事を経験しているでしょう)

女神(それと同様に、人の理に収まる事で経験する事が欠落しています)

女神(悲観する気持ちは分かりますが、これも一つの経験とし自分の中で大切にしていくのですよ)

女神(貴方はもう、一人ではないのですから)

騎士(ええ、そこはもう本当に痛感していますよ)

勇者「あれ? 珍しく早いね」

騎士「今日くらいは早めに切り上げようと思ってな」

僧侶「そういえば……騎士さんは何かを思い出していたりしませんか?」

騎士「なんにも。いきなりどうした? 何か寝言でも言っていたとかか?」

僧侶「いえ……あの要塞での戦いの時、色々と呟かれていたので……」

勇者「そうなの?」

騎士「あの時は俺も必死でよく覚えていないなぁ」

騎士(そういえば必死だった上に失血で意識が朦朧としていたからなぁ……危ない危ない)

宿屋
戦士「……」

騎士「……」

勇者「前衛と後衛で分かれたね」

騎士「というかもう三人、二人部屋がデフォルトになりつつある件」

戦士「いや、正直言って四人部屋って結構珍しいからな」

勇者「今時、そんな大勢で旅をする人っていないもんねー」

勇者「ふっふふふ」

騎士「なにその不敵な笑みは」

戦士「あー……そういえば久しぶりだし、騎士は初めてか。頑張れよ」

騎士「なにその言い方怖い」

勇者「騎士くーん!!」ガバァ

騎士「うぉっ」ガチャガチャ

勇者「魔法使いちゃんや僧侶ちゃんが引くからできなかったけども……」ギュゥ

勇者「あァ……」ギュウ

戦士「あーあー始まった」

戦士「ラヴラヴねー熱い抱擁ねー」

騎士「いや、確かに抱きつかれてるけど」ギュウ

騎士「効果音がおかしい! 御互いフルプレートの鎧だぞ?!」ギュウ

勇者「あァん……この滑るようなフォルム……装飾よりも機能性を追及しつつも、目が覚めるような美しさ」ウットリ

騎士「勇、者? 勇者? おい、戻って来い! 勇者ーーーー!」

戦士「本性だからどうにもなんねーよ」

騎士「何これ?」

戦士「鎧大好きなんだよ。装備も装備者も」

勇者「鎧'`ァ'`ァ」

騎士「何それ、鎧フェチ?」

戦士「だいぶ前からだし、無機物だからフェティシズムってやつじゃね?」

勇者「中の人も大好きだよ!」

騎士「中の人とか言うな!」

勇者「別に普通だよー」ギュウ

戦士「今度はあたしか」

勇者「うぇへへ……」ギュウ

騎士「なんか以外というか予想外な一面だなぁ」

勇者「もうねー……鎧着ている人萌える」ギュウ

戦士「こいつガチで言ってるからな」

騎士「鎧脱いだ人は?」

勇者「私服いいよねっ。ギャップが堪らないよね!」

騎士「わーぉ」

騎士「つまり前衛職バンザイか」

勇者「うん♪ あー戦士ちゃんの私服とか見てみたーい」

戦士「最低でも魔王を倒さないとな」

勇者「ぶー! でもまあいっか」

勇者「うぇへへ……貴重な鎧分も増えて、あたし幸せ♪」

騎士「ミー?」

戦士「ユー」

騎士「そんな目で見られていたのか……やばい、興奮してきた」

勇者「でも寝巻き姿はなんかどうでもいい」

戦士「基準わっかんね」

騎士「というかそれこそ、鎧と服ってそれだけでギャップがある気がするんだけど……」

勇者「えーそうかなぁ」

――……
「*****? *****じゃないか!」

「久しぶりだなぁおい! お前は変わっていないな! 女神様との契約ってやつか?」

「懐かしいなぁ*****。お前が魔王を倒した後の祭りを覚えているか? 俺もあの場にいたんだぜ」

「いやぁ*****のしどろもどろな演説。今でも笑っちまうよ!」


「もう、あれから十年も経っちまったんだなぁ」


魔王を倒し一夜が明けた。
そして二週目の旅が始まり、郷友と再会した時の事。
自分にとっては一晩眠った程度だった。
もう……戻る事はできない。
自分の置かれている立場を再認識するばかりであった。

魔法「そういえば剣の練習をしていないのだね」

騎士「戦士が付き合ってくれないんだ」

戦士「いやもう勝てねーのがみえてるんだもの」

僧侶「え? そんな簡単に追いつけるものなのですか?」

勇者「やー追い越してるし、まず有りえないんだけどね」

戦士「お前本当に何者なんだよ」

騎士「さあ?」

騎士「騎士って名乗ってる自分が言うのもあれだけど」

騎士「戦士はどうして騎士と名乗っていないんだ?」

僧侶「そういえばそうですね……何か理由でもあるのですか?」

戦士「兵士とか騎士ってのはさぁ、国があって初めて存在するものじゃんか」

戦士「だから魔王討伐部隊の中に騎士としていると、国やその騎士自身の売名行為的な感じになるって事でさ」

魔法「でも本音は討伐部隊が何かしらの失態をした場合、その非難を受けるのを避けたい、とかだったりしてね」

騎士「ああ……なるほど」

戦士「まーそっちが正しいとはあたしも思うけどな」

勇者「そしてあたしは何も成し遂げていないのに勇者として追い立てられ」ブツブツ

魔法「不満だったのかい?」

勇者「せめて旅に関するスキルを身につけさせて欲しかったよぉ」

戦士「あんたはちゃんとやれてるよ」ヨシヨシ

魔法「私としては普通に、ああ、勇者だなぁと思ったけれどもね」

僧侶「何というか、勇者としての気質が溢れているのですよね」

騎士(俺なんて剣術すら知らずに追い立てられたからなぁ)シミジミ

戦士「なんか騎士が感慨深げに……」

勇者「そろそろ中ボスだね」

騎士「中ボス……?」

騎士(そういえばこの辺りに何時も占拠される古城があったが……まだ残っているのか)

騎士(いや、今までの流れだと……いやいやまさかそんな)

戦士「お、見えてきたな」

僧侶「ここに、魔物が……」ゴクリ

騎士「やっぱり要塞だった件」

魔法「あら立派なつくり」

騎士「要塞多すぎだろ……常識的に考えて」

戦士「記憶を失ったお前が常識とほざくか」

勇者「あはは、確かにそうだね」

魔法「遊んでいないで行くよ」

僧侶「流石に緊張してきました……」

騎士(まあ、側近とか四天王クラス以下は全員小物だし俺を知らないだろうし大丈夫だろう)

ボス「ガハハハハ! よくぞ殺されに来たな!」

ボス「下等な人間如き、我が手で屠ってくれわ!」ヒュパ

生首「さあ! かかってく、る……」ゴロンゴロン

騎士「……」スラン

戦士「ひでぇ」

勇者「酷いよ騎士君」

僧侶「流石にそれは……」

魔法「うん、あんまりだと思うね」

騎士「あれ、なんか非難されてる?」

勇者「なんだろう……あたしこのままじゃいけない気がする」

戦士「というかあたしら全員、騎士に依存しているからなぁ」

魔法「そうだね……騎士には少し下がってもらっでもいいかな?」

騎士「頑張ったら出る杭打たれたでござるの巻き」

僧侶「そ、そういう意味ではないのですが」

騎士「言わんとしている事は分かっているから、気分を害しているってわけじゃないよ」

魔物の大群が現れた!

魔物a「ゲッヘヘ! あの要塞を落とすのに体力を消耗したところを狙う! なんという策略か!」

魔物b「汚いなさすが魔物aきたない! 俺はこれで魔物aを軍師と呼ばざるを得なくなったなあまりにも孔明過ぎるでしょう!」

戦士「ならしにぁー丁度いい!」

勇者「消耗している騎士君は背後に回って!」

騎士「一戦につき一合すらも打ち合っていなかったけど?!」

魔法「まあまあここは私達に任せたまえ」

僧侶「そうです、これぐらい私達も頑張らないと! 負んぶに抱っこと言うわけには行きません!」

ワーワー
騎士「……」ボー
カエンマホウ・キョウ!
騎士「……」ボー
ユウシャマワリコメ! リョウカイ!
騎士「……」ウズウズ
サガッテ!ライゲキマホウ・キョウ!
騎士「……」バッ


勇者「ああ、騎士君が未だかつてない勢いで魔物の首を撥ねていく!」

魔法「凄い勢いでフラストレーションが貯まっていったみたいだね」

戦士「どんだけ堪えが利かないんだ」

僧侶「まだ半数も居たのにもう全滅……」

騎士「……ふう」スッキリ

勇者「小さい町だなー」

戦士「ま、行商のルートとしてもあんまりだからな」

騎士「流石に聖堂は無いのか」

魔法「物資を買ったらすぐに宿屋かい?」

僧侶「何かするにしても何もないですからねぇ」

騎士(数百年前から発展していないだなんて……)

戦士「もはや三人部屋と二人部屋が鉄板だな」

僧侶「町の規模からして三人部屋すら無いかと思っていたぐらいですからね……」

勇者「……それにしてもこれは由々しき事態だよ」

僧侶「騎士さん……」

戦士「まあ、ダメだろうな」


魔法「……ふふ」ジー

騎士(何だろうこの部屋が監獄に見える)

魔法「あぁ……待ち望んだ展開が遂に……」ズリ

騎士「なんでにじり寄る?」サ

魔法「ふふ……男と女が一つの部屋にいるならやる事は一つじゃないか」ズリ

騎士「信頼の証とか言ってた格好良い魔法使いに戻ってくれ」

魔法「大丈夫、しっかりとリードして上げるから」ヌラ

騎士「舌なめずりしないでくれ!」

魔法「ふふ……そんなに嫌なら窓から逃げ出せばいいのに」ギュウ

騎士(ほんの一時の関係ならそうするさ!)

魔法「あら……随分と鼓動が早いのね……緊張しているのかい?」スリスリ

騎士「待て、マジで勘弁してくれ。こういうのはよくない」

魔法「大丈夫。ちゃんと避妊魔法をかけてあるから」スリスリ

騎士(え、そんなのあるの未来すげぇ)ズリ

魔法「あら……中々良い物を持っているじゃないか」ヌラ

騎士「わーぉ」

――……
「ふふ……何を遠慮なさっているのですか?」

「もしかしてこちらの経験はあまりないのでしょうか?」

「ふふ、それでしたら不肖私めが勇者様の……あ!」

気付けば夜の草原を旅の荷物を抱えて走っていた。
あの場に留まって尚、欲情を抑える事なんてできないだろう。

二週目、魔王を倒した勇者として再度旅をする。
多くの人々が自分に敬意と期待の眼差しを向ける。その一方では貴族達は夜伽相手に差し出してきた。
だけどそれを受け取る訳にはいかなかった。
この時代に生きる事ができない自分が行為に至るのは、あまりにも無責任な上に軽率だ。
何よりも彼らは俺の肩書きの栄誉欲しさでしかないのだ。

魔法「ふ、ふふふ……」ツヤツヤ

騎士「……」

戦士「かつてない笑顔だなぁおい」

魔法「それはもう……当然じゃないか」ギュ

騎士「……っう」

勇者「騎士君が汚されたぁ!」

僧侶「ゆ、勇者さん!」

騎士「……いや、俺の意思の弱さが招いた結果だ」

戦士「まー仕方ねぇよ。女のあたしでもこいつにはドキっとする時あんだもの」

戦士「男のあんたにぁー無理無理」

勇者「むぅ、緑一点を独り占めなんて」

魔法「ふふふふふ。実に充実した一晩だったよ」

僧侶「ま、魔法使いさん! 不潔です!」

騎士「あれ、俺軽蔑されるかと思ったのに」

戦士「いやもう、魔法使いと二人きりって時点で見えていたオチだからな」

勇者「……騎士君どうだったの?」ヒソ

魔法「おや? やはりそっちの好きだったのかい?」

勇者「まだ、分からないけど……その、後学の為に」

魔法「そうだねぇ彼は正真正銘初めてのようだったよ」

勇者「……ずるい」

魔法「なあに、何度か経験を積ませて、勇者の時でも優しくリードできるように取り計らいはするよ」

勇者「べべべ別にまだその気になっているわけじゃないよ?!」

魔法「これはこれで面白い物が見れそうだね」ニヤニヤ

魔法「そうだね、むしろ御互い初々しくやる方がいいかい?」ニヤニヤ

騎士「ぅぁぁぁぁぁ……」

戦士「こっちはこっちで凄い落ち込んでいるし」

騎士「もうダメだ……男としての誇りも意地もあったもんじゃない」

僧侶「だ、大丈夫ですよ騎士さん!」

騎士「……何が?」

僧侶「だ、大丈夫ですよ!!」

騎士「何が?!」

勇者(何て健気な励まし……)

戦士(ノープラン励まし……)

魔物の群れは騎士に首を刎ねられた!

騎士「フゥー……フゥー……!」

戦士「ああ、不甲斐無さが怒りに変わりに魔物に八つ当たりを!」

勇者「破壊神! 流石騎士君破壊神! これはもう鬼神君と呼ばざるを得なくなった!」

僧侶「……なんて勇ましいのでしょう」

魔法「ふふ、今夜も愉しませてくれr」

戦士「騎士を囲め! 手を出させるな!」

勇者「アイサー!」

魔法「じゃあ勇者で」ガッシ

勇者「隊長! 魔法使いちゃんには意味がありません!」

戦士「よし、あたしら三人の無事は確保された」

勇者「ちょーーー!?」

ジュァーーー
勇者「おっ肉♪ おっ肉♪」

戦士「騎士が仲間になってから、野営時の食事がすっごい豪華になったな」

魔法「結構料理も上手だね」

騎士「上手なレベルなのかこれは?」ジュァッジュァッ

僧侶「料理屋さんの厨房にいる方のような動きじゃないですか」

騎士(やー数年旅していればある程度は身につくからなぁ)

勇者「あたしも料理くらいできるようにならないとかなぁ」ハァ

戦士「あたしぁー剣さえあればいいや」

魔法「何時か私の事も料理して貰いたいな」

僧侶「やっぱり……女性たるもの料理は会得すべきでしょうか……」

騎士「なんか今おかしな発言が聞こえた」ジュアァァ

戦士「安定の魔法使い」

騎士「……?」

戦士「どうした?」

騎士「いや、向こうの方角が光った気がしたが……気の所為か」

勇者「あっちは次行く町だよね」

魔法「……アーメン」

僧侶「ま、魔法使いさん不吉な事をしないで下さい!」

戦士「いやーあながち有ると思うぜ」

騎士「……魔物の襲撃か?」

勇者「うん、騎士君と出会うまでに一ヶ月旅をしていたんだけども」

戦士「その時点で二つほど町がやられていたからな」

騎士「……そうか」

戦士「今からじゃどうせ辿り着けないんだ。とっとと寝て早朝にここを発とうぜ」

町 ワイワイガヤガヤ
勇者「意外と普通だね」

魔法「負傷者が目立つけどもね。防衛は成功ってところだろうか?」

騎士(ここら辺は確か軍事力高かったな)

騎士(町と町との間隔が短いから一箇所襲撃されると、機動部隊が一気に集まるんだよなぁ)ウンウン

戦士「なに一人で納得しているんだ?」

勇者「それじゃいつも通り」

戦士「うーい」

魔法「私達は道具屋に寄ってから向かうよ」

騎士「俺達が先立ったら宿屋の前で待ってるな」

戦士「あいよー」

魔法「……?」

聖堂
女神(あらあらうふふ)ニヤニヤ

騎士(来るなり何ですか)

女神(いえいえ、まさか……そうですか)ニヤニヤ

女神(遂に貴方にも春が来たのですね。私は嬉しく思いますよ)

騎士(ああ、逆レイプでしたよ)

女神()

騎士(ああ……なんで振り払えなかったんだ)

女神()

女神(貴方を押し倒すとは中々の兵ですね)

騎士(妖艶さに負けた感ですけどね)

女神(ですがまあ、貴方が立派に人間社会への復帰ができているという事は喜ばしい限りです)

騎士(……)

女神(どうかしましたか?)

騎士(やっぱり俺は……女神様とこうして話せなくなるのは嫌ですね)

女神(それが人の理なのです……私は貴方が異形になってほしくないのです)

騎士(あ、卑怯な言い回し)

騎士(そんな事を言われたら引き下がるしかないじゃないですか)

女神(私はそれが一番だと思っていますので)

騎士(……そうですか)

女神(本当に貴方が信じる道を外さずに天寿を全うした時、仕えさせる事も考えています)

騎士(うーん……)

女神(私と共には生きられません。貴方はしっかりと今を生き、しかる後の悠久で共になればいいではないですか)

騎士(あれ、今凄い事を言われた気がする。俄然やる気が出てきた)

女神(私とて貴方の事を好いていますからね)

勇者「それじゃあ宿屋に向かおうか」

騎士「それはいいが……僧侶? さっきから一言も喋っていないが大丈……」

僧侶「……大丈夫です」フラフラ

騎士「あ、ダメだ」

勇者「……かなり熱いよ!」ヒタ

騎士「……」

騎士「よし、宿屋までは俺が負ぶっていく。勇者は道具屋で解熱剤を」

騎士「戦士達がまだいたら医者を呼んできてくれ」

勇者「わ、分かった!」

医者「ふむぅ……ただの疲労からくる風邪でしょうな」

戦士「問題ないんだな」

医者「しっかり休み、栄養を取っていれば数日で回復するでしょう」

勇者「よ、良かったぁ……」

魔法「これではしばらくは休憩かねぇ」

僧侶「……だ、大丈夫、です……明日には」

騎士「どう見てもダメだな」

勇者「よっし、今日から五日間お休みを取ろう!」

勇者「元々一日の休みもなくガンガン進んでいたのがおかしかったんだよ!」

戦士「あたしらはいいけど……魔法使いも大丈夫か?」

魔法「あら? これでも結構体は鍛えているのだよ」

魔法「まあ二人に比べたらお話にもならないだろうけどね」

騎士「強いな」

魔法「あら、強い女は嫌いかい」スリスリ

勇者「……ぶー」

魔法「私が僧侶の看病をするよ」

騎士「大丈夫なのか?」

魔法「風邪をひいていると分かっていれば魔法で障壁を作っておくもの」

魔法「そうそううつる事は無いでしょう」

騎士「魔法すげぇ」

戦士「あたしも始めて知ったわ、すげぇ」

勇者「……」ジー

戦士「……」ジー

騎士「……」

騎士「凄い居心地が悪いんだけど俺が何かしたか?」

勇者「いやぁ……そういう訳じゃないんだけど」

戦士「あたしは勇者がじっと見ているから真似しただけだ」

騎士「じゃあ勇者だけか」

勇者「じゃあ?!」

騎士「ああ、そうか」バッ

勇者「?」

戦士「両手広げて何やってんだ?」

騎士「え? ウェルカム?」

戦士「騎士が変態になった!」

勇者「騎士君! 酷いよこんな!」

騎士「あれー?」

騎士「いや……てっきりまた飛びつきたくなっているのかと」

戦士「最低だな勇者」

勇者「あたしー?!」

騎士「そういう事で無いならないでいいんだが」

戦士「抱きつかれるの嫌だったのか」

勇者「えーー!」

騎士「あれ受身側って結構痛いんだな」

戦士「ああ、そうだとも」

勇者「っあーー! ごめんーー!」

勇者「それに関しては本当にごめんなさい……」

騎士「気にするほどじゃないが……むしろ今は何で勇者がそんな状態なのかを」

勇者「……」

戦士「どうした?」

勇者「お、おやすみ!」バッ

騎士「えー」

戦士「無いわー」

――……
「げほっごほっ……ぜぇぜぇ……」

「グルルル……」

体が重く意識が朦朧とする。犬型の魔物が遠くからこちらを窺っている。
魔物にして見れば病に侵されていようと立派な肉なのだろう。
数刻と経たずあの牙が容赦なく自分を引き裂く事を想像するのは簡単だった。


病を治す魔法は無い。何より自分には魔法の才が微塵も無い。
二週目、森の中で倒れた。これほど重い症状は一週目ではなかったことだ。
が、それはそういった状況に陥る前に魔物に殺されていたからなのだろう。
二週目と言えど死ぬ時は何時も、孤独を強く感じるものだった。

勇者「という訳で騎士君を凄く意識しちゃうんだけどどうしたらいい!?」

魔法「看病をしている私にわざわざそんな事を相談しにきたのかい?」

勇者「たかだか、的な言い方しないでよ~」

魔法「そうだねぇ……どうせ数日休むのだし、騎士とデートでもしてくればいいじゃないか」

勇者「その手があったか!」

勇者「え、でもこんな町でデートって……?」

魔法「二人で色々と回ればいいじゃない。独占できるのだよ」

勇者「いやだから何処を回れと?! ただの町だよ?」

魔法「そうねぇ……」

魔法「二人で道具屋で買出ししたり」

勇者「買出し初日でしちゃったじゃん」

魔法「二人で武具屋でウィンドウショッピングしたり」

勇者「買い換えられる装備が無い事前提なんだね」

魔法「二人でちょろっと郊外に出て魔物を倒したり」

勇者「ねえ! それはおかしくない?!」

魔法「いや、全部おかしいのだが?」

勇者「ぶー! 魔法使いちゃんにからかわれた!」

騎士「何を話してからかわれたかは知らないがご愁傷様だな」ペラ

勇者「……騎士君は何をしているの?」

騎士「折角数日あるのだし、少し本をと思ってね」ペラ

勇者「へーどんなの?」

騎士「酪農特化の国を治める角と翼を持った激強い魔王のお話」

勇者「おお! それ大人気なお話なんだよ! 何か覚えていたりする?」

騎士「いやーさっぱりなんだよな」ペラ

勇者「それねー一冊目はかなり昔に書かれたものなんだよ」

勇者「それを十年かそれくらい前に全く別の人が、書き直しと続編を書き始めたんだって」

騎士(そりゃあその一冊目は俺が人間だった時代だもの……店頭に置いてあって吹いたよ)

勇者「そっかぁ読書かぁ」

騎士「どうかしたか?」

勇者「いやぁ暇ならどっか出かけたり、しないかなぁと思ったり」

騎士「なんか歯切れが悪いな? でもまあ、少しは体を動かすか」ノビー

勇者「え、出かける?!」

騎士「お、おう……勇者はどっか行きたい所があるのか? ついていくぞ」

勇者「え、ええと、えっとね!」

魔法「で、この町を襲った魔物勢の襲撃に成功したと」

勇者「ぐすん……こんな……ぐすん」

魔法「まあ、デートできたのだし良かったのでは?」ジャラジャラ

勇者「お礼の金貨袋の中身を確認しながら言わないでくれない?!」

魔法「ふーむ、なら騎士を連れ出して迫ったらどうかね」

勇者「いきなり何言っているの?!」

魔法「少なくても勇者が誠実な態度で臨めば、決して彼は邪険にしないと思うが」

勇者「ねえ、交際すっ飛ばして誠実も糞もないよね」

魔法「なら秘密道具を渡しておこうか」

勇者「そんなの物に頼らなくたって見せてください!」

勇者「き、騎士君」

騎士「どうした?」

騎士(なんか今日はやけに絡まれるな)

勇者「その、さ。ちょっと話したい事があるんだけど、外いいかな?」モジモジ

騎士「そりゃ構わないが……」

騎士(久しぶりに記憶について追究されるか? にしてもなんで余所余所しいの? てか外?)

勇者「あ、あたしさ! その……」

騎士「……?」

勇者「~~~っ! 騎士君の事が好きなの!」

騎士「……え? あ、ああ、俺も勇者の事が好きだが」

勇者「そういう意味じゃなくて! そのー、さ」

勇者「んーーー……ぎゅ」ガッ

騎士「目を瞑って迫ってきたから意味は分かったが、いきなりそれは感心できないぞ」

勇者「うぅ~~ダメ? あたしみたいな子供じゃダメ?」

騎士(なにこの上目遣い興奮する)

騎士「そういう事でなくてだな……こういうのはもっとしっかりと交際した上でだな」

勇者「魔法使いちゃんとは?」

騎士「ありゃあ俺が犯されたんだ」

勇者「言い切った?!」

騎士「そりゃ認めたくはないが事実だからなぁ」

勇者「むぅ……」

騎士「それに、さ。魔王を倒してもいないのに未来を約束する事はできない」

勇者「むむぅ……」

勇者「秘密道具、魔法使いちゃんがくれた粉! ふぅーーー!」パァ

騎士「ちょ、不安満点の道具じゃないげほっ」モワモワ

勇者「うっわ凄い舞ってげほ、ごほ」

騎士「ごっほげほ……なんのごほ、粉ごほ」パタパタ

勇者「げっほごほ……さあごほんごほん」パタパタ

騎士「神経毒ごほだったらげほどうするごほ」パタパタ

騎士「ダメだけほ……ここ離れたごほ早い」パタパタ

騎士「ふう……やっと落ち着いた」

勇者「いやーはは、びっくりだね」

騎士「そーだな。どんな危険な物かも知らないでなー」ギリギリ

勇者「ご、ごへんなひゃい」

騎士「全く……普通は疑うところだろう」

勇者「うー……だってこういう気持ちすら初めてで……不安だったんだもん」モジモジ

騎士(……なにこの小動物可愛い)

騎士「初めからそういう素直な気持ちで行ってくれればいいものを」ギュウ

勇者「騎士君……?」

騎士「……ん」チュ

勇者「ん、む……んん」チュパ

騎士「……」

勇者「騎士……君」ポォ

騎士「え、なんで俺キスしたの?」

勇者「えっ」

騎士(なんだこれ……頭がぼーっとする……それに勇者可愛い)

騎士(落ちつけ、何かがおかしいし勇者可愛い……ダメだ気をしっかり勇者抱きたい)

騎士「ってさっきの粉媚薬か何かか?!」

勇者「……」

騎士(はっ……! 勇者が俯いたまま反応が無い! 勇者のうなじエロい大丈夫か?!)

勇者「騎士君……あたし……何だか」ハァハァ

騎士(はい強制イベントー勇者ペロペロ)

……
戦士「なんだ? 二人して昨晩はどうしたんだ?」

勇者「えへへへ~何でもないよ~」ギュウ

騎士「うがー……」

戦士「そして騎士のかつてない苦渋の顔」

戦士「今度は勇者に押し倒されたのか?」

騎士「うがーーー!!」

勇者「えへへへー」ギュウ

騎士「あれは事故だからな! 事故だぞ!!」

勇者「えへへーそれでもいいよー」ギュウ

騎士「うがああぁぁぁ!」ガリガリ

戦士「お、おお凄い頭を掻き毟って……他人が見たら精神いかれたと思うだろうな」

騎士「……」ユサユサユサ

魔法「あらあら、今までにない形相でどうしたというのだい?」ニヤニヤ

騎士「お前が……お前が変な物を渡さなければ」ユサユサユサ

僧侶「騎士さん、落ち着いてください! そんなに魔法使いさんの肩を掴んで全力で揺らさないで下さい!」

魔法「私は構わないよ」ニヤニヤ

騎士「心底楽しそうな顔だな!」ユサユサユサ

魔法「心外だね。悩める少女を助けただけよ……君もしっかりと楽しめたのだろう」ニヤニヤ

騎士「御互い意識朦朧とした中だけどな!」ユサユサユサユサユサ

魔法「朦朧……?」ピタ

騎士「……勇者が粉を吹いて盛大に舞って、二人して何度も咳き込んだんだが?」ピタ

魔法「ちゃんと用法容量は教えたよ?」

騎士「……勇者」

戦士「僧侶は熱が引いて明日には動けはする感じだとよ」

勇者「えへへへ~~」

戦士「お前幸せそうだな」

勇者「うん、とっても!」

戦士「そりゃあ良かったな」

戦士「ちゃんと告白はできたのか?」

勇者「う、い、一応は」

戦士「そうかい。じゃあその様子だと騎士もokしたのか」

勇者「」

戦士「おいおい何だよそりゃ……」

勇者「あ、あたしの所為じゃないよ! 魔法使いちゃんの秘密の道具だよ!」

戦士「いや、キスせがんだのはその前なんだろ」

勇者「ぁー」

戦士「ま、どっちにしろ答えは出さないか断るんじゃねーの」

勇者「えぇ?!」

戦士「だって騎士はもうあたしらと共に、魔王を倒す事を考えているんだろ?」

戦士「その上でそう言われたらまあそうなるだろうよ」

勇者「う~」

戦士「んじゃまーあたしはあたしで騎士に決闘を挑んでみるかねぇ」

勇者「え、今更するの? 見た限りでもとっくに追い越されてると思うよー?」

戦士「そりゃああたしも思うさ。なら尚更直接力量の差を知りたいじゃねーか」

勇者「ふーん」

騎士「はぁ……朝から疲れた」ガチャ

戦士「そんなところに悪いが決闘だ。騎士がどんだけ強くなったか知りたい」

騎士「ああ……なんて災難な休暇だ」

勇者「……ちょっと待って戦士ちゃん。その決闘に他の他意は無いよね?」

戦士「あ? そりゃあ予約不可の凄腕の剣士だったらあたしだって唾つけるさ」

勇者「なーーー!」

戦士「開始と同時に剣が弾かれていた件」

勇者「騎士君ぱねぇ」

騎士「俺すげぇ」

戦士「試しにあたしから全力で打ち込みしてみた」

勇者「騎士君余裕で捌ききる」

戦士「騎士ぱねぇ」

騎士「俺やべぇ」

戦士「お前どんなドーピングをしたんだ?」

騎士「俺失格ぇ」

勇者「スポーツ選手?」

戦士「ま~いいや。これで初めてだよ」

戦士「上司やら何やら。立場ある相手以外に負けるのは」

騎士「そうか?」

勇者「はっ! ダメだよ! 戦士ちゃんダメだよ!」

勇者「騎士君……魔王を倒した後でもいい。あ、あたしと付き合って下さい!」

騎士「何でここで告白?! 昨晩も言ったが俺は約束をするつもりはない。というより約束なんてできない」

戦士「残念、勇者。決まりだな」

騎士「なあ、さっきから何の話だ?」

戦士「あたしが完全にお前に惚れたって話だ」

騎士「ふーん……えっ」

騎士「おかしい! なんでそうなった!」

戦士「お前のが強かったじゃん」

騎士「そこ?! そこだけ?!」

勇者「凄い偉い人ぐらいだよね。戦士ちゃんが勝てないのって」

騎士「というかそれ、戦士より上の階級が凄い偉い人しかいないとか?」

戦士「……っは! そういえばそうだっ!」

騎士「えっ」

勇者「戦士ちゃんは何とか佐で、その上の人って何とか将っていう人達ばっかりだよねぇ」

騎士「えっ」

騎士「と、とりあえずその話はおいとくにしろ、色々と基準とかがおかしいだろ」

戦士「そんなん個人の価値観だろ」

騎士「いや、ちゃんと御互いにだな……」

戦士「勇者と魔法使いはどうなんだよ」

騎士「……」

戦士「つー訳でよろしく」

騎士「軽くないか?! 何で?! 普通こんなものなのか?!」

戦士「つってもあたしは初めてだからよろしくっ」

騎士「ええぇぇ……」

戦士「んだよ、嫌そうだな」

騎士「自己嫌悪の渦中にいるんだよ!」

戦士「据え膳食わぬは男の恥って言うだろ」

騎士「というか何で俺なの? 何時の間にフラグ立ててたんだ?」

戦士「そりゃ各々に聞いてくれよ」

戦士「つーかあたしの目からしても、今のお前は高い水準にいると思うぞ?」

騎士「えー?」

騎士(町人aだったんだけどなぁ)

戦士「そりゃ顔は普通だとは思うが、身を挺して僧侶を守ったり」

戦士「料理できるわ優しいわ。時々微妙な時はあっけどあたしらを気遣ってくれるし」

騎士「……そう言われると気恥ずかしいな」

戦士「そうかー?」ヌギヌギ

騎士「[>escape」

戦士「逃がさねぇよ」ガッシ

騎士「」

魔法「騎士の目が死んでいるのだけども一体何があったんだい?」

戦士「わりい、ムリヤリ食ってもらった」

僧侶「?」

勇者「食った、の間違いじゃないの?」

戦士「いや、流石に……あたしはこういうの疎いからさ。騎士に任せっきりだった」

魔法「あら。それはそれは」ジー

騎士「……何だよ」

魔法「戦士の意外な一面に萌えたのだろう?」ヒソ

騎士「」ビク

騎士「今日は一人にしてくれ……」

魔法「あらそう? 僧侶も回復したのに残念だね」


僧侶「あの……本当に何があったんですか?」

戦士「昨日があたしでその前が勇者が迫った」

僧侶「え、ええぇ?!」

勇者「えへへへー」

魔法(私は話を聞いているから多少は平気でしょうが……硬派な彼には酷な話よねぇ)

戦士「てか、僧侶がそんな驚く事か?」

僧侶「あ、い、いえ別に何でもないデスよ?」

魔法「ほう……」ニヤリ

勇者「ま、まさか僧侶ちゃんまで……」

戦士「本当に鞍替えかー」

僧侶「そそそそういう言い方をしないで下さい!」

戦士「だってなー……あんだけ熱弁振るっていたのになー」

魔法「僧侶は騎士の事をどう思ったのだい?」

勇者「どういう事?」

魔法「いやね、国に居る想い人を蹴るほど騎士に惹かれるところがあるって事じゃないか」

戦士「あ、聞いてみてー」

勇者「ぅー倍率上がるのは芳しくないけど聞いてみたい」

僧侶「ああぁぁあぁ魔法使いさん?!」

僧侶「うぅ……多分、お話しても皆さんにはあまり伝わらないとは思いますが」

僧侶「あの要塞で騎士さんが決死の覚悟で私をお守り下さった時なのですが」

僧侶「はっきりと聞いた訳でもないですが……守り抜くや奪われて、といった事を呟いていまして」

魔法「生死を掛けた戦闘で過去の記憶がフラッシュバックでもしていたのかもしれないね」

僧侶「正しい事は分かりませんが……ただうわ言のように呟きながら戦う騎士さんの背中が」

僧侶「勇ましくも寂しくもあり、胸を締め付けられる思いでした」

僧侶「もしかしたら……私達四人がいても尚、あの方の心は孤独なのかもしれない……」

僧侶「何か支えになりたい、力になりたい……あの方の傍らに居たい」

僧侶「そう思っている内に、騎士さんの事で頭がいっぱいで……」

僧侶「もう何と言いますか。籠手を外して素手で触れて欲しい、その手を握り返して傍に居ますと伝えたいのです」

勇者戦士魔法「」

勇者「純粋だ……純情だ……」

戦士「何てこった……聖女がここにいる……」

魔法「ぐ……自覚しているが、こうも煌々とする光に照らされては、いかに自分が汚れているかを思い知らされる」

僧侶「ちょ、何を言っているのですか?! ああ、そんな崇めるような仕草をしないで下さい」

勇者「いやーもう……四人しかいないのに十人くらいいる倍率になってそー」

戦士「ちっと、流石に勝てる気しないわ」

魔法「……」

僧侶「……ま、魔法使いさん?」

魔法「おふざけの話はいいにしても、僧侶も自分の気持ちを騎士に伝えておくべきだろうね」

勇者「え、何でこのタイミングで真面目モードに」

魔法「孤独を感じている、って所は同感。まあ……それに行動する事まで考えていなかったがね」

魔法「何より、騎士の記憶の断片でも触れられたのは僧侶だけだからね。そういった意味でも支えられるのは僧侶だけだろうね」

騎士「俺……何やっているんだろう」

騎士「ダメだよなぁ……こんな事」

騎士「もっと意識を強く持たなくては」パンパン

騎士「何があろうと次こそはしっかりとっ」グッ


僧侶(これダメじゃないですか?! 私、不戦敗ですか?!)

魔法(ここに面白い効果の粉薬があるのだが)

僧侶(使いません!)

戦士(つってもなんだかんだで押しに弱いからなぁ)

勇者(あー……確かに)

騎士「……」ッフォンッフォン

騎士(こういう時こそ素振りだな)ッフォンッフォン

騎士「……」フォンフォンフォンフォンフォン


僧侶(凄い勢いで素振りをしているのですが?!)

戦士(あー分かるわー気持ち落ち着けたい時とかさー)

魔法(なるほど、ストレスが蓄積されていたのだね)

勇者(僧侶ちゃん……流石に可哀相)

僧侶(嫌なことを言わないで下さい!)

勇者「いやーここのお店の料理も美味しかったねー」サスサス

戦士「あの肉、たまらなかったなぁ」

魔法「あ、騎士。言い忘れていたのだけど君の荷物は、二人部屋の方に移しておいたから」

騎士「……何故?」

魔法「ふふふ」ニヤニヤ

騎士(まさか魔法使い……いや違う、この顔は楽しみではなく既に楽しいだ!)

騎士「……っは!」バッ

僧侶「っな、なんでしょうか……」ビク

魔法「ふふふ」ニヤニヤ

騎士(そんなオチだろうと思ったさっ!)

戦士「ちゃっかり騎士を向こうに追い立ててたんだな」

魔法「当然じゃないか」ニヤニヤ

勇者「凄い楽しそー」

魔法「さぁて……彼がハーレムを取ってしまうか否か」

戦士「取るだろ」

勇者「取るだろうね」

魔法「しかしそこには苦渋の決断が存在する……明日、彼がどんな顔で出てくるのやら」ニヤニヤ

戦士「あたしが言うなって話だけど難儀なもんだよなぁ」

勇者「そうだねー……流石にこれで僧侶ちゃんだけ断る事はできないもんね」

僧侶「私は……私も騎士さんの事をお慕いしています」

騎士「わー色々と端折ったー」

僧侶「うぅ、騎士さんを前にしたらもう何を言えばいいか」カァ

騎士(あれ……?)

僧侶「そ、その……三人と比べて、私なんて魅力的ではないと思います」

騎士(おかしいな……)

僧侶「た、例え一夜限りの仮初の恋だとしても、その……私を貰って頂く事はできないでしょうか?」

騎士(最後が一番まともだなんてっ)

……
僧侶「……」ジー

騎士「僧侶?」

僧侶「やはり……駄目なのですね」ギュウ

騎士「……何がだ?」

僧侶「また……そう寂しそうになさるのですね」

僧侶「私達にはそれを埋める事ができないのですね」

騎士「……」

騎士「僧侶、ありがとう」ギュ

魔法「あら……」

僧侶「どうされました?」

騎士「……?」

勇者「ま、魔法使いちゃん? ダメだよ? 嫌な事を言っちゃダメだよ?」

魔法「そうじゃない……騎士の顔つきが変わったのだよ」

戦士「なんつーかちょっと吹っ切れた感じだな」

騎士「そうか?」

騎士「そうだな……正直、これほど皆に好かれていたとは思っていなかった」

騎士「ありがとう皆……ただでさえ、俺は拾ってもらった身だと言うのに」

魔法「……」

戦士「なーに湿っぽい事言ってんだよ」

勇者「そうそう、水臭ーい」

僧侶「そうですよ。私達は強い絆で結ばれた仲間ではないですか」

魔法「……」

魔法「そうだねぇ、確かにこの絆はそうそう千切れないな」ギュゥ

戦士「……そうだな、あたし達の友情パワーなら魔王も怖くないな」ギュ

勇者「……互いが互いを信頼しあう最高の仲間だもんね」グイ

騎士「なんか言動に摩擦を感じるぞー」ヒッパリダコ

勇者「ところでこれからはどうする?」

騎士「何の話だ?」

戦士「連日は流石にあれだしな」

騎士「何それ怖い」

僧侶「二日に一度でしょうか?」

騎士「え、マジなんの話」

魔法「じゃあ初めどおり、私勇者戦士僧侶の順で夜伽って事で問題ないか?」

騎士「え?」

勇者「賛成ー」

戦士「異議なーし」

僧侶「右に同じく」

騎士「え?」

魔法「野営中、騎士が警戒するようになってしまった」

戦士「残念だな」

木「当たり前だ」

勇者「こっちにこよーよ。焚き火暖かいよー」

木「断る」

僧侶「あぁ……凄い勢いで拒絶されていく……」

戦士「出て来いよー。あたしらも宿に泊まった時だけに自重するからよー」

魔法「本気で拒絶しているのなら、私達の前からいなくなっているさ」

魔法「私達の事を好いてはいるが、みだりやたらに肉体関係を持つのは間違っている……そんなところかね」

木の上「……魔法使いは超能力者か何かか?」

戦士「ちょっと待て、声の位置が凄い高いぞ」

僧侶「登った?!」

勇者「ねえ本当?! これガチ拒絶じゃないの?!」

ワイワイ ギャーギャー
騎士(全く……まさかこんな事になるとは)

騎士(……そりゃあ四人の事は好きさ)

騎士(一人を決められないくらい……だからこそ駄目だろう。いやどっちにしても駄目だろ)

騎士(それに魔王を倒した後の事も……その後、俺はどうすれば彼女らと共に生きられる?)

騎士(時代に置いて行かれた俺がこの世界で何を?)

騎士(いや、それは初めからか……なら尚更、今後の立ち振る舞いを考えずに関係を築く事など)

魔法「……」グイ

勇者「……」ギュ

戦士「……」ガッシ

僧侶「……」ギュ

騎士「どうしてこうなった」

魔法「逃がさない為」

勇者「捕らえる為」

戦士「傍に置く為」

僧侶「共に居たい、て皆さん?!」

騎士「何だろう、凄い僧侶に癒される」

魔法「な、何て事……!」

勇者「く、あたし達をかませ犬にするなんて!」

戦士「こ、孔明の罠か!」

僧侶「えー?!」

勇者「あ、そうそう次の町、鍛冶が発展しているんだよ」

騎士「そうなのか?」

騎士(俺のいた時代は鉱山やその麓にそういう町があったんだけどなぁ)

騎士(まあ、運搬方法やその技術が上がってるだろうしそういう事もあるか)


町人a「……」ガッチャガチャ

町人b「……」ガッシャガシャ

兵士a「……」ガシャーンガシャーン

騎士「わーぉ」

騎士「もう発展とかじゃないよね! 何これ!」

勇者「過剰供給なんだよ」

町人c「ふんぬっ!」メリメリガショーン

騎士「体つきが前衛型飛び越えてるよね?!」

戦士「装備しっぱなしだから鍛えられちまったんだろ?」

兵士b「……」ズシーンズシーン

騎士「なにあの巨人怖い」

僧侶「この光景、観光名所として紹介されているんですよ」

騎士「あるあ……ねーよ」

魔法「そうかしら」ペラ

騎士「あるあ……ねー、ある……馬鹿な」

戦士「おー流石だなぁ。一気に新調しちまうか」

勇者「最近装備の出費が無かったからお金たんまりだよ!」

僧侶「私達は関係ありませんね……」

魔法「騎士はどうするんだい?」

騎士「買い換える必要は無いかなぁ」

勇者「金属製の装備品なら強化してもらえるよ」

騎士「いや、もしこれが借り物とかだったらマズイからな」

騎士(神様達の世界の金属だしそもそも神器だし弄るわけにもいかんよなぁ)

僧侶「では私達は恒例の」

魔法「あー……僧侶は知らないのか」

勇者「え、何? 聖堂に行っちゃまずい?」

戦士「勇者もか? まーあたしも来るのは初めてだし寄っていくか」

騎士「どうかしたのか?」

魔法「聖堂に行けば分かるよ。私もついて行こう」


騎士「聖堂が何かすっごい物々しい何この要塞」

騎士「あぁ違う神様を奉っているのか」

魔法「こういった鍛冶を中心に栄えている所はこの神様だね」

勇者「おおー! すっごい! なにあのカラクリ!」

戦士「何かよく分からねーがそうしたカラクリの神様なんだとよ」

騎士(随分と未来チックな神様だな……)

神様(旅人の入信者とは珍しいな。私の名を貶めないよう励むがいい)

騎士(わーぉ)

騎士(うわちゃあ、契約のこれって女神様限定の念話じゃなかったのかぁ)

神様(ほう、私の声が聞こえる者とは更に珍しいな)

騎士(女神xxxxx……今は女神xxxか。と契約を結んでいる者です)

神様(なるほど。確かあの者は他宗に寛容だったな。どうだ、私を信仰してはみないか?)

神様(カラクリなどと言われているが、何れ更なる発展を遂げ機械と呼びえる物が生まれ)

神様(そして機械が全てを支配する時代が来るだろう)

騎士(は、はぁ……しかし自分は女神xxxを崇拝しております故、申し訳ございませんが……)

神様(そうか……残念ではあるが無理強いはできんからな。お前には機械の体が似合いそうなのだがな)

騎士(何それ怖い)

騎士(やばい、何かこの神様物騒だ)

騎士「それじゃあ宿を取りに行くか」

勇者「えーもおー?」

戦士「なんだ? 珍しくはえーな」

騎士「信仰している神様じゃないしな」

魔法「そうね……信仰する気も無いのに何時までもいるのは失礼だものね」

騎士(よし!)

神様(心外だな。私は信者を取って食うつもりはないのだぞ? ただ、お前の魂なら質の良い機械が組めそうだというのに……)

騎士(うおぉぉ物騒の域を超えた! 失礼します!)

騎士「」

僧侶「ど、どうされたのでしょうか?」

魔法「さっきの聖堂で何かを思い出したのかい?」

騎士「完全に初体験だ……きっと」

騎士(というより未知との遭遇)

魔法「ふむ……まあ、なんとも無いのならそれで構わないが」

戦士「なんとも無いって雰囲気じゃねーけどな」

勇者「ここから先は町が多いんだよねー」

騎士「魔物の拠点とかは無いのか?」

戦士「少し先にある国に兵士が周辺を巡回しているらしくてな」

騎士「……そうなのか?」

僧侶「ここからしばらくは道中が楽になりますね」

魔法「二日くらいで次の町に着く距離だからね」

騎士「そうか……」

騎士「で、こうなった訳か」

魔法「順番通りだろう」

騎士「……俺ちょっと素振りにいってこようかなぁ」ガチャガチャ

騎士「?!」ガチャガチャガチャ

魔法「とっくに魔法で施錠しているさ」

魔法「ふふ、逃げられるとでも思っているのかい?」ヌラ

戦士「あぁ……ここは魔女の籠の中なのか」

――……
「ゴフッ……ぐふふ、やはり貴様は女神と契約を」

「何者かとの契約をしているとは思っていたが……よりにもよってあの女神か」

「愚かな。人の理を捨てたところで、本当に我を倒す事ができるとでも?」

「何度でも蘇ってやろう……貴様の精神が壊れるまで……ぐふふふ、ごふっ……」


二週目での魔王との戦いは呆気ないものだった。
不死身の契約は他の神でも出来るらしいが、こうして魔王が滅びるまで束縛されるのは女神xxxxxだけのようだった。
精神が壊れる、という言葉に戦慄を覚えもしたが……これが最後だ、魔王-----。

騎士「……」スバババ

騎士が魔物の群れを薙ぎ払った!

戦士「拠点がないつっても敵は強いな」ザシュ

魔法「流石の君でも一撃必殺の漏れが出てくるのだね」

騎士「俺も神じゃないからな。限界だってあるさ」

勇者「これからあたし達の出番も増えるかな?」

戦士「それでも騎士を全面に押し立てて戦えばそんなにないだろうけどな」

勇者「町だよー!」

騎士「何か本当に近いな……これから先しばらくこんななのか」

魔法「これが地図だ」ガサガサ

騎士「……近いな」

戦士「だから密集してるっつたろ」

僧侶「これだけ密集しているのはここだけですけどね」

騎士(この先の国の位置は……)

戦士「ま、その代わりこの近隣は本当にちっさい町ばかりだからな」

魔法「娯楽施設も無いからね」

僧侶「そうなのですか?」

勇者「なんか生活が不便そう……」

戦士「ま、娯楽に関する物資は近くの大国からガンガン流れてくるからな」

勇者「近隣の町が食料作って、国で趣向品系を作ってるって事?」

魔法「惜しい。国は食料も趣向品も作っている。言ってしまえば趣向品を作る余裕があるって事さ」

騎士「……」ッフォンッフォン

戦士「……」ッフォンッフォン

勇者「……」ッフォンッフォン

僧侶「いくらやる事が無いとはいえ三人して素振りをしないで下さい」

魔法「……」ビュンビュン

騎士「なっ!?」

勇者「魔法使いちゃん棍術に長けてるって話だよ」

戦士「だからそんなに長い杖使っていたのか……」

魔法「ま、勇者と戦士がいるだけで出番はないけれどもね」

魔法「……」フンス

騎士「すっげ……」

戦士「一対二なのに勝ちやがった……」

僧侶「魔法使いさん……凄すぎます」

勇者「魔法使いちゃんのいる国とあたしの家近かったからなー。ちょっとだけど話は聞いていたけどほんと凄いね」

魔法「ま、軽い打撃を連続で浴びせているだけだからね。堅い敵に襲われたら魔法一択だよ」

戦士「天才がしれっと言っていやがる」

騎士「天才こえぇ」

騎士「……」

勇者「地図をなんか眺めてどうかしたの?」

騎士「いや……大した事じゃないから気にしないでくれ」

勇者「ふーん。まあいっか」

勇者「それでさ……今晩あたしの番だけども」

騎士「……しばらくは日にちが狭まるな」

勇者「あーうん。その、あたしは今日は別にいいかなーって」

騎士「ああ、明日は魔王が全戦力を投入してくるのか」

勇者「酷っ!」

勇者「ぶー! あたしは騎士君といちゃラブしたいだけなのー!」

騎士「なんでまた……あんだけがっついていたのに」

勇者「そんな目で見ないで! 騎士君を取られたくない一心だったの!」

騎士「実際はもっと恋人らしい事がしたい、と?」

勇者「そりゃあ恋人は愚か親しい異性とか憧れだったんだもん……」

騎士(そういえば……今まで俺もそういう人には縁が無かったなぁ)ナデナデ

勇者「えへへへー」

――……
「いくら勇者とは言え、君のような若い者一人に任せるなんて」

「本当にすまないのぅ」

三週目、ある町で防衛の依頼を受けた。
今の自分にとって難しい話ではなかった。

だが、そこは広範囲に生命力を徐々に奪う魔方陣が敷かれていた。


「我々如き雑兵がお前に勝てるとは思っていない。だがこの命を捨石にすれば」

「貴様に痛みを与える事くらいはできるのだ」

「さあどうする? 陣の外、町の前まで後退して背水の陣をしくか? それともここで我々を全て討ってみせるか?」

勇者「おーでっかい国ー」

戦士「全国でも屈指の国だからな」

騎士「そんなに凄いところなのか……」

魔法「生活水準、軍事、政治、治安等……あらゆる水準が高いのさ」

僧侶「一部が突出している国がある為屈指の国、とされていますが、移住したい国第一位を不動のものとしていますよ」

騎士「そうか……そんな国なのか」

勇者「わー凄い凄い! これは何処でご飯食べるか迷っちゃうね!」

戦士「本当に食う事ばっかだな」

勇者「ぶー! なんだよ、戦士ちゃんだってガッツリ食べる癖にぃ!」

戦士「あたしぁーあんたみたくがっついてはいないからな」

兵士「……あの、失礼ですがもしや勇者様方でしょうか?」

魔法「如何にも。我々は魔王討伐を命じられた者達です」

兵士「おお! やはりそうでしたか! ささ、どうぞこちらへ!」

僧侶「え、え? こちらってそちらの方角はお城では……」

兵士「そうですとも! 王様が貴女様方をお待ちしています!」

勇者「えぇ?! なんで?!」

騎士「今までそんな事無かったもんな」

王様「このような無礼な謁見をさせてしまい大変申し訳ない」

勇者「あ、頭を下げないで下さい!」

戦士「もしかしてあたしらに魔物討伐でも頼みたいとかか?」

王様「いやいや。ただこの国はかつて、とある勇者様と繋がりがありましてな」

騎士「……」

王様「古の話ですし、皆さんに直接関する出来事でもありませんが」

王様「私もこうして勇者様方にお会いしたかったのですよ」

魔法「失礼ではありますが、一国の王が大役を担っているとは言え勇者にその敬称をつけるのは問題があるのでは?」

王国「勇者とは……一言では言いえぬ重きものをその双肩に乗せ、そしてそれを誰かに見せぬものです」

王国「私などより、よっぽど立派な事ですよ」

勇者「いやー緊張で死ぬかと思った」

僧侶「私、一言も喋れませんでした」

戦士「すげー目が泳いでいたな。そんなに緊張するかよ?」

魔法「君はこういう公の場が多くて慣れているだけだろう……それでその性格だから尚質が悪い」

騎士「それにしても、この後パーティを開くだなんて」

勇者「あたし絶対出る!」

魔法「国王の厚意を無碍にはできないからね」

僧侶「おまけに今日はお城の客室で泊まれるだなんて……」

戦士「久々に贅沢できるんだ。ここで満喫しておかないとだな」

騎士「俺の部屋も衣裳部屋も向こうだからここでお別れだな」

魔法「ではまた会場でな」

僧侶「……」

勇者「僧侶ちゃんどうしたの? 騎士君の背中をじっと見ちゃって」

戦士「あいつ、なんか様子おかしくねーか?」

魔法「……はあ、結局私と僧侶だけか」

勇者「何それ。凄い酷い事言われた気がする」

僧侶「物凄く様子がおかしいです。怒っているとは違うのですが……なにかぴりぴりしていると言いますか」

魔法「パーティが気晴らしになればいいんだが……」

メイク師「はーい、リラックスリラックス」

騎士「お、俺は別に良くないか?」ドキドキ

メイ「ダメダメ。男性でもしっかりとすべきです」

メイ「だいたい、少し顔色が良くないではないですか。体調は大丈夫ですか?」

騎士「ちょっとした疲労だから問題ない」

メイ「じゃ、それを隠してより男前に仕立てますねー!」

騎士「わ、分かった」

騎士(こんな事になるとは流石に思わなかったな……)

騎士(にしてもこの町……いや国か)

騎士(……来てしまったか)

勇者「わー見て見て! ドレスがいっぱい!!」

戦士「ちょっと待て。お前だって何だかんだで良家のお嬢様だろ。ドレスぐらい珍しくないだろ?」

勇者「あの家だよ?! そんな豪華絢爛としたものがあるとでも?!」

僧侶「で、ではどういった格好が取り揃えているのでしょうか?」

勇者「ピシっとした軍服みたいなのばっかだよー! そりゃあカッコイイんだけどさー!」

魔法「それは見た事があるな。一昨年くらい前に近隣の国を回っていたね」

勇者「そうそう、あんな感じの服ばっかなんだよー」

魔法「あまりにも凛々しくて思わず涎を垂らしてしまったよ」

勇者「もう魔法使いちゃんの前じゃ着れない」

――……
「ぐぅ……くそっ……」

「ここ、までか……ふ、ふふ……遂に勇者を出し抜いて……」

「残った者は40か……このまま人間の町に雪崩れ込むぞ!」

「し、しかしそれでは……」

「我々の目的は勇者の足止めではない。勇者よ……今一度守れぬ苦しみに苛むがいい」

「止めろっ! 行くなぁ!」ズリ ズリ

「無駄だ……両足を砕かれたお前ではな」

「行かないでくれ……頼む……止めてくれ、止めろーー!!」

騎士「っはぁ!!」ガバ

メイ「きゃあ!」

騎士「はぁっ! はぁっ!」

メイ「大丈夫でしょうか? 突然、凄いうなされ始めたので起こそうとしたのですが……」

騎士「あ、ああ……すまない……寝てしまったか」チラ

騎士(酷い面だ……汗で化粧もぐちゃぐちゃじゃないか)

騎士「すまないが、俺は欠席にしておいてもらえないか? 流石に出席できる面ではないだろ」

メイ「……分かりました」

騎士「夜風に当たったくらいで落ち着きはしないか……」ザッザッ

騎士「……なんだ? 共同墓地か?」ザッ

墓守「おや、こんな所に人とは珍しい」

騎士「ここでは共同墓地が当たり前なのですか?」

墓守「いえいえ。ここはですね、この国の歴史なのですよ」

騎士「歴史……? 一体何があったというのですか?」

墓守「少し長くなりますがよろしいでしょうか?」

墓守「かつて不死身の勇者がおられた時代の事」

騎士「……」

墓守「その時、ここはまだ町としての大きさしかなかったという」

墓守「当時の兵士達は、魔物の大軍がここに襲撃しようとしている事を掴む事に成功しました」

墓守「ですがそれに抵抗できるだけの力が無い町でもありました。そんな時、不死身の勇者様が現れたそうです」

墓守「彼はまだまだ若い青年だというのに、快く引き受けて死地へと向かっていったのです」

墓守「それこそが魔物達の狙いであった事を、彼も我々のご先祖も知らずに」

墓守「しばらくして勇者様の叫ぶ声が町に届き、何事か斥候を出しました」

墓守「この襲撃そのものが罠で、勇者様が魔物に蹂躙されているなどと誰が想像できたでしょうか」

墓守「何よりもそんな状況となっても尚、彼は獣のように遠吠えを上げて戦い続けている」

墓守「多くの者が涙しました。不死身と言えど痛みや死ぬ苦しみが無いはずが無い」

墓守「それでも彼は戦い続けている。苦しみを耐え抜いて……多くの者が勇者様の援護をすべく出撃しようとしました」

騎士「……それで、勇者様は?」

墓守「……その時の町長は彼らを止めました。勇者様が必死に戦っているのは我々を守る為」

墓守「ここで我々が判断を違えれば、彼の決死の防衛を無にする事になる」

墓守「町長は……結果として勇者様を見捨てるご判断をしました」

墓守「戦えない者を最優先に他の国や町へ移動。その護衛に当らない兵士は町に残り、魔物の襲撃に備えました」

墓守「避難が終わるよりも早く、魔物達が町に入り込んできました」

墓守「兵士達は必死に戦い、民間人を逃がすだけの時間を稼ぐ事ができたそうです」

墓守「ただし、勇者様に防衛を依頼した町長と牧師を除いて」

騎士「……え?」

墓守「町長は町の行く末を最後まで見届けたい、と長の役目をご子息に譲りその場に留まり」

墓守「牧師もまた最後まで見届ける責任があるとして……」

騎士「……そうですか」

墓守「そして生き残った人々と町長のご子息は荒れ果てた町に戻り」

墓守「また勇者様が訪れた時には胸を張って誇れるように、大きな……大きな町にしようと」

騎士「……」

墓守「今となってはこの国の子供が必ず学ぶ歴史でもあります」

騎士「そうでしたか。わざわざお話いただきありがとうございます」

墓守「あまり公にはされていませんが……この話には続きがありましてね」

墓守「最後の最後まで牧師は手記を書き続けていたのですよ」

騎士「それには……なんと?」

墓守「……きっと、勇者様がここへ立ち寄る事は無いのかもしれない」

墓守「それでも私は残り少ない時間でここに記そうと思う」

墓守「貴方に全てを押し付けてしまった事の謝罪」

墓守「本来であれば君はごく一般的な青年だったと聞く。なのに我々は君一人に依存した」

墓守「本当に申し訳ない。謝罪程度でどうにかなるとは思えないが、それでも言わずにはいられない」

墓守「そしてもう一つ、心からの感謝を伝えたい」

騎士「……感謝?」

墓守「どう足掻いても勝てないのであれば、諦める事だって見捨てる事だってできたはず」

墓守「それでも君は戦い続けた。一心不乱に形振り構わず」

墓守「君の姿はこの町の……全ての人々の心に焼き付いて消えないだろう」

墓守「君が魔王を倒した、町を救ったという話はよく聞くものの、誰一人君の戦う姿を語る者はいなかった」

墓守「君がどれほどの苦しみの中で、どれほどの想いで戦っているか……我々は初めてその断片に触れた」

墓守「非武装の者でさえ声高らかに勇者様救出を唱えた。だけどそれは貴方に対し報いる行為にはならないし、今の我々では報いれない」

墓守「だからこそこの町をより良い場所へと発展させよう。貴方が守って下さった町であると誇りを持って」

墓守「そして、もしも……もし、貴方にとって辛い記憶ばかりのこの町を訪れて下さった時に私の我々のこの想いを伝えたい」

墓守「心から感謝していると」

騎士「……ぁ」ボロ

騎士「ぁ、ぅ……違う……俺は……感謝なん……」ッボロッボロ

騎士「そんな……なんで……」ッボロッボロ

墓守「……」

墓守「私はね……その牧師の直接の家系の者なのですよ」

墓守「だからこそ……その時に命を散らした兵や町長、私のご先祖様が眠るここを守っています」

騎士「……」ッボロッボロ

墓守「貴方は確か、勇者様方ご一行の方ですよね」

騎士「ぁぁ……」ッボロッボロ

墓守「……ではこれは私の独り言です」

墓守「また訪れて下さりありがとうございます。ここに来るという事は、並ならぬ苦悩の上なのでしょう」

墓守「それでも尚、来てくださり当時の方々の言葉を聞いて下さった」

墓守「この町……この国と勇者様の事を誇りに思っています。今を生きる我々もまた同じ気持ちです」

墓守「……ありがとうございます」

騎士「ぐ……ぅぅ、っぐぅ」ッボロッボロ

騎士「ぅぁぁ、ああぁぁぁぁ!」

戦士「なんだぁ? 騎士の奴どこにいるんだ?」

魔法「全く見当たらないね。これはもうここに来ていないと見るべきかな」

僧侶「どうかなさったんでしょうか?」

勇者「なんか心配だなぁ」

戦士「もう式は始まっちまったし、あたしらは終わるまでは出られないな」

魔法「折角、着飾って誘惑しようと思っていたのだが……残念な事だ」

……
戦士「あーやっと終わったぜ」

魔法「とりあえず騎士の部屋にでも行ってみようか」

勇者「もしかしたら外で素振りしていたりしてー」

僧侶「あ、なんかありえそうですね」

戦士「騎士ーいるかー?」ガチャ

騎士「あ……」

メイ「あら?」

勇者「なんだかんだで騎士君も男の子だよねー」スラァ

戦士「あたしら四人がいるっつーのにな」フォンフォン

魔法「正直、これは来るものがあるね」ゴゴゴ

僧侶「あら、いい所に持ちやすい燭台が」ガチャ

騎士「うおおぉぉぉ待て! お前ら待て! 落ちつけ!!」

メイ「……っは、まさか騎士さんは皆さんに如何わしい事をしてらっしゃるのですか?!」

騎士「強要されてるんだよ!」

騎士「お前らも物騒な物を仕舞え! 色々とあったんだよ!」

魔法「その女性とかい?」ゴゴゴ

メイ「あたしはまだ何もされてませんよ?」

勇者「……まだ?」ヒュォン

騎士「なんで油を注ぐの?!」

僧侶「では何があってこうなっているのか、ご説明いただけますか?」

騎士「ちょっとあってだな……とてもお前らに合わせられる顔じゃなかったんだ」

メイ「それなので、皆さんにご心配をかけないようにと、化粧で誤魔化して欲しいとの事でして」

騎士「そのフォロー、もうちょっと早くても良かったよね?」

メイ「まあ、ばれてしまったので化粧は落としてしまいますね」

騎士「度々すまないな」

メイ「はい、しっかりと落ちましたよ。では私はこれで失礼しますね」

勇者「むー……その色々って何さ」

騎士「やましい事ではないが……ちょっとな」

魔法「……ちょっと、何?」グィ

勇者「ま、魔法使いちゃんが騎士君の胸倉を……」

僧侶「ええ?! ど、どうして」

騎士(めっちゃ怒ってる? 何で?!)

魔法「答えなさい、騎士」

騎士「い、いや本当に大した事」

魔法「答えろと言っているのだよ」グイ

戦士(やべぇ、超こえー)ヒソヒソ

勇者(あたし、魔法使いちゃんだけは絶対に怒らせないようにする)ヒソヒソ

僧侶(わ、私も……)ヒソヒソ

魔法「騎士……私はね、つかなくていい嘘をつかれるのが大嫌いなのだよ」

魔法「最近の君を見ていれば大した事があるのぐらい分かる」

魔法「それでも尚、君は大した事は無いと私達に嘘を吐きかけるか?」

騎士「……すまない」

騎士「少しだけ……記憶の断片を思い出した」

騎士「多分、この国だと思う……この国の人々を俺は救えなかった」

騎士「大勢が死んだ……守れなかった。それ以上は分からないが……俺にとって居るのが辛い場所なんだ」

魔法「……初めからそれを言えばいいのに」スッ

騎士「だけどこの国に着て良かった……この国の歴史を知った……守れなかった事へは慰めにはならないが」

騎士「記憶を全て取り戻せた時……きっと前に進める」

騎士「悪い、凄い湿っぽくなっちまったし、心配をかけていたみたいだな」

魔法「一つは私が強要したのだから気にすることは無いが、後半は許さない」

僧侶「わ、私達は大切な仲間です。き、騎士さんとは、それ以上の」ゴニョゴニョ

勇者「もっとあたし達を頼って。君みたいな力は無いけど、持たれかかってくるのをぐらい支えられるよ」

戦士「そーいうこった。あたしらだってあんたの記憶喪失には気ぃつかってんだぞ。一人で背負い込むな」

騎士「……ありがとう。俺は何時も同じ所で足踏みをしているな」

女神(まさか……貴方がここに訪れるとは思っていませんでした)

騎士(冷静ではなかったので、初めにここに立ち寄るのも忘れていましたけどね)

女神(……また一段と成長したようですね)

騎士(どうでしょうか……俺はいつも過去を悔やみ、立ち止まってばかりです)

女神(今日、貴方が数百年越しに経験した事は何物にも変えがたい宝です)

女神(魔王ももう目と鼻の先……その先の貴方の人生においてきっと役立つ事でしょう)

騎士(だと……いいのですがね)

女神(ここから先は人間の居住地も少なく、聖堂があるのもここだけでしょう)

騎士(昔は国もあったのですがねぇ)

女神(場所が場所だけに忌み地とされていますからね)

女神(ゆきなさい勇者*****……これが最後の戦いです)

騎士(……っふ)

騎士(女神xxxxxのご意向のままに)

騎士(我は剣。女神xxxxxの煩悶、断ち切って見せましょう)

勇者「騎士君のあれ……どういう事なんだろう」

戦士「あたしの知る限り、この国は至って平和だからな」

魔法「別の国と混同している可能性はあるだろうけど……」

魔法「この国の歴史と言っていた……だとしたらやはりこの国なのだろう」

僧侶「もっと小規模の事件に巻き込まれた、とかでしょうか?」

勇者「国々に伝わらない程度の?」

魔法「断定は出来ないけど、そんなところかもしれないねぇ」

勇者「ここから先は町の数も激減……そして険しい道の果てに魔王がいるんだね」

戦士「だな。流石のあたしらも全力で行かないとだな」

魔法「とは言え、やはり突破の要は騎士だというのが情けない話だな」

僧侶「わ、私も全力でサポート致します!」

勇者「さあ、皆行くよ!!」


勇者「騎士君の猛進余裕でした」

戦士「安定の突破力」

魔法「道中と変わらない進行速度だったね」

僧侶「ごく普通に魔王のいる禍々しい城まで……」

騎士「なんかごめん」

勇者「ここに……魔王が」

戦士「遂にここまで来たか」

魔法「扉越しでこのプレッシャー……一筋縄ではいかなさそうね」

僧侶「い、行きましょう!」

騎士(これで……全てを終わらす)


魔王「良くぞ来た。勇者よ」

魔王「っくふふふ、久しいな勇者よ」

勇者「お前とはこれが初めての対面だ! そして最後だ!」

魔王「お前のような小娘に言ったのではない。そこの勇者*****に言ったのだ」

勇者「え……えっ?!」

戦士「まさか……騎士……」

僧侶「そん、な。勇者*****……?」

魔法「……」

騎士(当然、そうなるよな……)

騎士「そうだ、俺は勇者*****だ」

戦士「何で、隠して……」

魔王「あれから数百年、勝手も状況も分からんからなぁ。下手に身分を明かすのは得策じゃ無かろうて」

魔法「……そういう事だったか」

騎士「どうであれ騙していた。すまない」

魔王「謝る事はないだろう。どの道、その者達は死ぬのだからな」

勇者「騎士君が何者であろうと関係ない! あたし達はお前を倒す!」

魔王「関係ない? 何を言っている。お前達はその男とも戦うのだぞぉ?」

戦士「なに?!」

騎士(何を言って……?)

魔王「何故お前達に付き、常に最前線で戦っていた? 楽であっただろう? どれだけ成長できた?」

勇者「……な」

魔王「神々の伝説の武具は集めたか? 最高級はそいつが装備しているが、それだけしか存在しないとでも?」

魔王「当然だろう? 神々がただ一式作って終わりだと思っているのか? まだまだ各地にあるぞ?」

戦士「……てめぇ何が言いたい」

魔王「勇者*****は我が死ねば消える。そして我が目覚めれば現れる。こやつも疲れていたのだ」

魔王「だが我が寿命でもって死すれば目覚める事はない。こやつも本当の死が得られる」

魔王「だから我々魔王側についたのだ」

騎士(そう来たか……魔王)

騎士(既に騙していたという事実がある中、何を言っても言い訳にすらならない)

騎士(俺は四人の初撃を掻い潜って魔王を討たなきゃいけないのか?)

騎士(人を騙すには真実九割って事か……やってくれたな)

勇者「そんな……どうして」

戦士「ふざけるな……こいつは、仲間だ……」

魔法「騎士……君は……」

僧侶「嘘だと……言って下さい!」

騎士(その言葉に意味はないだろうな……)

戦士「こんな……こんな事……」

戦士「あるあ……ねーよ!」

勇者「ないねぇ」

魔法「まあないね」

僧侶「あるわけないに決まってるじゃないですか」

騎士「……え?」

魔王「なに?!」

戦士「騎士もさーあたしらがあんたを妄信的に慕っているとでも思ってんのかよ」

勇者「騎士君の背中を見ていれば何が真実かなんて簡単に分かるよ」

魔法「そういう事だ。良かったな、良き想い人に囲まれて君は幸せ者だ」

僧侶「そ、そうです! 私達は貴方を、勇者ではなく貴方として見てきているのです」

騎士「皆……」

魔王「……っふん下らん茶番だ。ならば我が力でねじ伏せてくれる!」

勇者「さあ! 最後の戦いだよ!」

戦士「よっしゃあ! 全力で決めてやるぜ!」

魔法「例え騎士に頼っていたとしても、怠惰でここまできたのではないからね」

僧侶「今こそ私達の力を!」

騎士「すまない、皆。俺一人にやらせてくれないか?」

勇者「騎士君?」

騎士「君達にしても背負った使命であるのは分かっている……だが、俺もずっとこの双肩に背負ってきた事なんだ」

戦士「……っち、しゃーねーな」

魔法「そうだな、君が納得するまで一人で戦うといい」

僧侶「でも、私達の力が必要であればすぐに仰ってくださいね!」

魔王「くっくくく、本当にいいのか? 我とて今回ばかりは全力だぞ」

騎士「後が無いからか?」ヘラ

魔王「……貴様との茶番に飽きたからだ!」ゴッ

騎士「ぐぉ!」

魔王「魔力を放出しただけでそれか?」ドゴォ

騎士「がぁ!」

騎士(一瞬で真横に?! こいつ本当に強く……)

魔王「どうしたぁ! 反撃せんのかぁぁ!」ゴァァ

騎士「ぐっ、く、はあぁ!」シャァン

魔王「ふぅむ」ギィィン

騎士「っな……」

魔王「さあお前の太刀は受け止めてやったぞ? 次はどうする?」

騎士(こいつ……ここまで強く? こりゃあやべぇな)バッ

魔王「そぉうら、捌ききってみろ!」ドドドド

騎士「うぐああぁぁぁ」ガガガガ

魔王「ふんっ!」ドゴォ

魔王「なんと矮小か……我が本気を出してしまえば貴様もこの程度なのか」

魔王「時には肉薄したものだが実につまらん事よぉ!」

騎士「ぐく……くそ、ここまで……強かったのか」ガラガラ

勇者「き、騎士君!」

戦士「これほどなのか……魔王は」

魔法「不味いね……私達が協力したところで」

僧侶「女神xxx……我らをお守り下さい」

魔王「どうした? 本当にお前の全力はその程度なのか?」

騎士「……っは、すぐにそのへらず口、叩ききってやるよ」

魔王「なんと……もしや貴様、仲間が出来て弱くでもなったというのか?」

騎士「なっ……あ」

魔王「そうか……貴様の力はその程度だったのか」

魔王「っふ……ふふ、くふふふはははははは! たまらん! 愉快だ!」

魔王「本当にその程度の力で我に楯突いていたとは! だがそれもここまでだ!」

魔王「貴様さえ堕ちればこの世界は我が手中に収めたも同然!」グッ

魔王「滅びろ、勇者*****! 塵となれぃ!」ゴァ

……ォォン
勇者「騎士、君……」ガラガラ

戦士「嘘、だろ……こんな」

魔法「……」

僧侶「いや……いや、騎士さん」

魔王「くふふふふ、くはははははは!! なんと愉快な事か! これほどの愉悦とは!」

騎士「」ガラガラ

魔王「ほう……? 形は残っていたか。流石はと言ったところだろうか?」
  _
騎士\ \フッ
     ̄
魔王「しかし、それもこ騎士「残像だ」

魔王「……な、に?」ゴクリ

騎士「考えてみたら契約による特典の肉体強化をきったままだったよ」

騎士「お前がべらべら喋っていてくれて助かったよ」ニヤ

魔王「ぐ、ふんぬ!」ブォン

騎士「確かにお前は強い。こうして肉体強化無しでは手も足も出なかった」ッフ

騎士「だからと言って、負けてやるわけにもいかないがな」ヒュォン

騎士「これが最後だ。魔王、全力で行くぞ」チャキン

魔王「ぬおおおお!」ドドドド

騎士「……」ッフ

騎士「といやー!」ズバァン

魔王「ぐあああぁぁ! 何故だ! 何なのだその力は!!」

騎士(あれで発展途上だったんです、なんて言えないなぁ)

勇者「騎士君……あんなに強く」

戦士「いやいや、今までより三倍は強くなっているだろうが」

魔法「勇者*****……女神の加護を受け、不死身の戦士となった者」

魔法「彼の言っていた契約とやらは加護の事なのだろうな」

僧侶「それでしたら何故今までそれだけの力を?」

魔法「真意は分からないが、勇者*****である事を隠す為にも、その力を抑えていたのだろうね」

魔王「ま、待て! 我と協力すればこの世界を思いのままに……!」

騎士「本当に余裕がないんだな。そんな無様な命乞い今までしなかったのにな」

魔王「は、話し合おうじゃないか! 人間は争いが嫌いなのだろう?!」

騎士「……お前は俺から多くのものを奪った。時間を時代を……そして俺が掬おうとした人々を……」

騎士「今更、どうにかなるとでも……? これが最後なんだよ」シャキン

魔王「た、頼むぅ! 見逃し」

騎士「……」シャー チン

生首「」ゴロンゴロン

騎士「最後の最後でそれか……興醒めだ」

女神「勇者よ……よくぞ魔王を倒しました」パァァァ

戦士「お、おいおい、まさか……本物の……」

僧侶「そんな……こんな奇跡が……主よ」

勇者「というか途中からあたし全然戦っていない」

魔法「むしろ騎士しか戦っていない」

女神「……勇者*****もよく頑張りましたね」ニコリ

騎士「……え、営業スマイル」ボソ

女神「……」ニゴリ

勇者「……?!」ガクガク

戦士「なんだ、このプレッシャーは!」

女神「貴方という人は何故そうも……」

騎士「何故か契約の時を思い出してしまって……それにしても何故光臨なさったのです?」

女神「これで貴方の契約が終わります。その儀を取り計らいにきました」

騎士「ああ……これで本当に終わりなのですね」

女神「貴方の人生はこれからなのですよ」

女神「辛い事、苦しい事、不安な事ばかりでしょう。ですが今の貴方ならきっと乗り越えていけるはずです」

戦士「やべぇ完全に二人の世界だ」

勇者「もしかして騎士君の礼拝の長さって……」

魔法「こうして普通に会話している所を見ると、普段から会話をしていたのだろうね」

僧侶「むー少し妬けますね」

パァァ
女神「さあ、これで終わりです。よくここまで戦い耐え抜きましたね」

女神「私は貴方の事を誇りに思いますよ……」

騎士「はい……あ」ポロ

勇者「騎士君……」

騎士「はは……みっともないな。だけどやはり寂しいです。もう女神様と話す事ができなくなるなんて」ポロポロ

騎士「これで……俺の事を知る人物は誰も……」ポロポロ

戦士「……騎士」

女神「貴方は過去に囚われ過ぎです……貴方は何と呼ばれているのです?」

騎士「え……?」

女神「貴方の周りに貴方を勇者という記号で見る者はいますか?」

女神「さあ、前を向き歩きなさい。貴方はこれからなのですよ」パァァ

騎士「……」

僧侶「騎士さん……」

魔法「まさかとは思ったが……本当に君が勇者*****だとはね」

騎士「えっ!」

戦士「おいおい、答え出ていたのかよ?!」

魔法「それはそうさ。共に旅をして得た情報だけでも自ずと辿り着く」

魔法「が、それを否定する要素もありはしたからねぇ」

僧侶「さ、流石は天才と呼ばれる方ですね」

勇者「出切れば魔法使いちゃんの推理を聞きたいなー」

魔法「そうだなぁ……では歩きながら話そう。こんな所で立ち話と言うのもあれだからな」

魔法「まずは騎士がいた神殿。確実な情報ではないけど女神xxxxxが祀られ、その女神様は我々が信仰している女神xxxと同一である」

戦士「そうなのか?」

騎士「それで合っている。しっかし情報が残っているとは思ってもいなかったな」

魔法「そして古銭の年代は女神xxxxxがいた時代だ。次に旅慣れ、というレベルではないか」

魔法「魔物を食す知識は経験則なのだろう? 毒で死んでも復活できるからな」

魔法「それと合わせて対人剣術の低さだ。そんな条件に当てはまるには、長く魔王がいた時代ならではだろうな」

騎士「切れ者こえぇ」

勇者「聞いておいてなんだけど何でここまで分かるのドン引き」

魔法「僅かではあるけども、勇者*****の武勲については今の時代でも残っている」

魔法「僧侶が聞いた騎士のうわ言からも繋がる話さ」

戦士「なんかこう聞くと判断材料って山盛りだったんだな」

僧侶「あの……それで否定する要素というのは?」

魔法「一つは不死身という点だ」

魔法「本当に不死身であれば、魔物の拠点で僧侶を守る上でもう少しやりようがあったはずだ」

魔法「あの状況下で無理にでもそれを隠す必要があるとも思えない」

魔法「自分で言うのものなんだが、君が私達の事を信頼してくれていると思っていたからな」

騎士「蘇生の加護は消失していたんだよ……女神様の名前が変わったりしたあたりで、契約の内容がかなり下方修正されていたんだ」

戦士「それ笑えねーな」

勇者「それどころか泣ける」

騎士「むしろ泣いた」

魔法「もう一つ最大の要因だがね……まさか自分の末裔と関係を結んだからね。流石に人としてありえないだろう」

勇者「……はっ!」

騎士「あーそれか……」

魔法「騎士の言った私が初めてだというのが嘘なのか本当なのかも悩んだものでね」

魔法「そこで決断しきれずにいたのだよ」

勇者「き、騎士君……変態っ」

戦士「失望したぜ……」

騎士「お前ら……」

僧侶「それで……実際はどうなんですか」ジー

騎士「そんな目で見るな。誤解だ。それに……あんまり話したくはないんだがなぁ」

戦士「やっぱそうなのかよ?」

騎士「違ーう……勇者の家系の立場とかがだ」

僧侶「……それってまさか」

騎士「俺の発言は本当だ。今まで性交経験は無い。勇者から俺の子孫だと言われた時」

騎士「内心かなりうろたえて、いや軽くパニックを起こしていたな」

魔法「やはりそっちか……」

騎士「流石は魔法使い……俺と同じ結論に至っているな」

勇者「な、納得しないで! じゃああたしの家はなに?! 全く関係ないの?!」

騎士「俺の祖父はあの魔王を初めに討った勇者として祭り上げられ、その子孫の俺達は死地へと追い立てられた」

騎士「俺は男兄弟だったから詳しくは知らないが、女性は討伐には行かせなかったらしい」

魔法「とすると……君の両親の時点から違う家系であると?」

騎士「恐らく伝説の勇者の血族、特に四回魔王を倒した俺の、という捏造で従姉妹やはとこの家系を利用したんだろうな」

勇者「この血、全部流しきっていい?」スラァン

戦士「お、落ちつけ!」ガバ

騎士「悪い意味の捏造じゃない。少しでも人々を安心させる為の……英雄の象徴が欲しかったんだろう」

騎士「つっても……直前の三度目の時点で俺が旅経ってから50年以上経っているんだけどさ」

魔法「勝手にやられていた可能性は?」

騎士「魔法使いは俺に夜這いが成功すると思っているのか?」

魔法「連勝の勝ち越しは伊達ではないという事か……」

戦士「おい、ちょっと待て。魔法使いどういう意味だ」

勇者「え、抜け駆け?! 何時から?!」

僧侶「ずるいです!」

魔法「未遂だよ未遂」ハハハ

戦士「こいつ抜け抜けと……」

騎士「ま、俺についてはそんなところだ」

魔法「私としては謎が解けて良かったよ」

僧侶「それにしても……もう本当にこれで平和なのですね」

騎士「俺が女神様と交わした契約は、瀕死の俺を救う代わりに復活を繰り返す魔王を完全に討つ事」

騎士「少なくともあの魔王は二度と蘇らない。そういう意味では本当に平和になる」

勇者「あたしら途中から全然戦っていない……」

戦士「……全くだな」

魔法「さて、これからは一気に王国に戻るわけだが……」

僧侶「?」

勇者「騎士君は……どうするの?」

騎士「何がだ?」

戦士「まず戻った時だよなぁ。お前勇者*****として名乗るのか?」

騎士「俺が名乗ったら勇者の家系がやばくなるか、勇者との関係が疎遠になるかだな」

勇者「わーーーー!」

騎士「俺は……名無しの騎士でいいさ。遠い世界のどこかの国の……」

魔法「では騎士の立ち位置はそれに決まりで」

騎士「えっ」

勇者「軽っ!」

戦士「待て待て待て! これ本人にとってはデリケートな問題だろ?!」

僧侶「さ、流石の私でもそれはないと思います!」

魔法「なに、道中で仲間になった者で最も貢献してくれた、と報告すれば彼もまた順当な報酬が得られるだろう」

勇者「そこ?! 問題そこ?!」

魔法「では皆、大事なのはなんだと思っている」

勇者「え?」

戦士「話を聞く限り、今後の事じゃないのか?」

魔法「そうかなるほど。君達にとって今後の騎士とどう時間を共有していくかは眼中に無いのだな。では私と僧侶で二人締めしようか」

僧侶「ええ?!」

勇者「あーー! なにそれーーー!」

戦士「てんめぇ! また抜け駆けか!!」

騎士「さりげなく俺の扱い酷かったよな」

魔法「それで騎士はどうしたいの?」

騎士「俺かー……なんかもう魔王討伐の無い生活って実感がないんだよなぁ」

勇者「あ、あたし達にとっても凄い大事な事なんだよ?」

騎士「……」

僧侶「……ごくり」ジー

騎士「……今の時代って重婚ってできるのか?」

戦士「そうきたか!」

魔法「問題ないわ」

僧侶「即答?!」

勇者「えぇ?! あたしのとこも魔法使いちゃんとこ、戦士ちゃん達の所だって認めていないよね?」

魔法「禁止という訳ではないし、私達の功績を盾にすればそのくらいまかり通るさ」

勇者「い、一応あたし達英雄扱いされるんだよ。そんな邪欲にどっぷりはー……」

魔法「おや、立派な英雄になりたいのかい?」

魔法「面倒な事だよ。政治に使われたりなんだり。おまけに所属する国はばらばらだから、勝手に対立させられる時だってくるだろう」

魔法「だったら英雄として正義の象徴にされる前に、俗世という泥で顔を汚しておいた方が生活しやすくなるだろう」

戦士「そしてあたしらにとっても良い話、と……」

僧侶「な、なるほど……」ゴクリ

騎士「そこはいいんだが……四人が今後どう暮らすかによって色々と変わってくるんだよなぁ」

勇者「五人で暮らす? あははは……父さんが殴りこみにきそう」

戦士「それどの道絶対祝儀だよな。あたしはー……流石にいきなり軍を辞めるって訳にもいかないしな」

僧侶「私は教会がある所でしたら移動できますが」

魔法「私も戦士同様すぐにとはいかないな……契約の問題もあるだろうし」

騎士「五人で暮らす事前提でいいのか?」

勇者「どうせ暮らすなら皆一緒がいいじゃん!」

戦士「つーか分散したらしたで面倒、つーかどっちかに騎士が偏ったら嫌だしな」

僧侶「それに五人で暮らすと言っても今までも寝食を共にしてきましたしね」

騎士「……住む場所をまず考えないとか。魔法使いや戦士は仕事を続けたいか?」

魔法「私はメインは魔法の研究だからね。その気になれば自宅でもできるし、国が近ければそこで雇われればいい」

戦士「あーあたしは正直、続けたいんだよなぁ」

騎士「勇者、仮に五人で住むとして戦士達の国の近く、あるいは国でも大丈夫か?」

勇者「あたしはそういうしがらみは無いから平気だよー」

戦士「家柄以外は、だな」

騎士「魔法使いはどのくらい時間かかりそう?」

魔法「そうだね……一年の内には準備が整うと思う」

騎士「んー……具体的な事は凱旋の後とするか」

……
勇者「あたしや戦士ちゃんはしばらく催事で引っ張り凧になりそうだよ」

騎士「立場柄仕方が無いよなぁ」

魔法「私も一旦国に戻って色々と面倒を押し付けられるね」

僧侶「教会で色々とあるかとは思いますが、催事という程の事はありませんね」

戦士「なんだよ……しばらく騎士と僧侶でしっぽりかよ」

騎士「いや、俺もしばらく旅に出ようと思う」

勇者「えぇ?!」

魔法「その後の事は大丈夫なのかい?」

騎士「いくつか物件の候補はつけた。皆で見ておいてくれ」

騎士「半年……いや九ヶ月くらいで戻ってくるよ」

僧侶「差し支えないようでしたら、どちらに向かうかを伺っても宜しいでしょうか?」

騎士「あらゆる所だ」

騎士「俺が今まで立ち寄った所、守った所……守れなかった所、大切な場所……帰るはずだった場所」

魔法「そうか……そうだな、君はそれをすべきなのかもしれないな」

騎士「悪いな、我侭を言って」

勇者「ちゃんと帰ってきてよ……」ギュ

戦士「なんか……お前が勇者*****だと思うと、何時の間にか消えてあたしらとは別の時代で目覚めそうで怖いな」

騎士「もう終わったよ……こうして凱旋して何日も経つなんて初めの事なんだ」

……
騎士「お、あったあった」

騎士「自分で建てたとは言えでかい墓だな」

騎士「誰か掃除してくれてたのかな……ありがたい話だ」

騎士「ただいま……俺、全部やり遂げたよ。こんな事でしか親孝行できなくてごめん」

騎士「……」

騎士「それじゃあ行ってきます。近い内にまた来るから。はは、その時は驚かせるだろうけどさ」

騎士「さ、て神具の返却も済んだし……良し、八ヶ月で戻れそうだな」

騎士(それにしても、見事に俺についてはあまり触れられていないな)ザッザッ

騎士(まあ助かる事ではあるけども……やっぱちょっと残念だな)ザッザッ

騎士(英雄の家、か……四人はわざわざ郊外に決めたのか)ザッザッ

騎士(報奨金があるとは言え、俺も職を探さないとだな)ザッ

勇者「騎士君! 皆ー! 騎士君が帰って来たー!」

戦士「お、案外早いじゃねーか!」

僧侶「騎士さん、お久しぶりです!」

魔法「待っていたよ。必ず戻ってきてくれるとね」

騎士「当たり前だ。だから要らない心配だって言っただろ」

騎士(俺にはもう帰るべき場所は四人のところしかないんだ)

騎士「だけどそれも、幸せの事なんだ」

勇者「え、何がー?」

騎士「何でもないよ……ただいま、四人とも」


女神「眠りなさい、勇者……魔王が再び蘇る時まで」 完

    . . : : : :: : : :: : ::: :: : :::: :: ::: ::: :::: 猿……
   . . .... ..: : :: :: ::: :::::: :::::::::::: : :: 水遁……

        λ_λ . . . .: : : ::: : :::::::::::   レス容量制限……
       /:彡ミ゛ヽ;)ー、 . . .: : : :::::::   誤字……
      / :::/:: ヽ、ヽ、 ::i . .:: :.: ::: .::
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 ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄ ̄ ̄ ̄



え? マニ? 2getロボ?



クミロミ様信仰者のまろにはよく分からない単語でおじゃるな

とりあえずは今日はここまでで
個別ルートはこの話前提だと誰かに刺されるdeadendしか見えないから困る

女神様はサイトでまとめる時におまけで書けたらいいなぁ何も考えていないけど

サイトのurlか検索ワードprz
過去に作品書いてるならそれも読んでみたい

そういえばここスレを落とすって時はどうするんだろう
速報みたく申告しないか?

誤字とか脱字は誰でもまぁあるけど
内容ありきたりな上にダラダラしててつまらん
あと地の文が見るに耐えん…

結論…ゴミ

>>311
旅芸人「遂に魔王が蘇った!」
辺りで検索すれば多分
とりあえずおやすみ

>>313
俺の人生よりよっぽどいい評価だありがとう

乙(´ω`)乙
良いもの読ませて貰ったよぉ

旅芸人「遂に魔王が蘇った!」
の続きドコー!?

自己解決

女神「……」

*****「……」

女神「……え、あれからまだ4,50年程しか経っていないような」

*****「40年ですな」

女神「……」

*****「とある洞窟内部の調査中に崩落事故」

女神「……」

女神「よ、四人は……?」

*****「勿論健在ですよ」

*****「今でも皆で楽しく暮らしていますよ。あ、いました、が正しいか」

女神「……」

*****「自分はどうしたらよいでしょうかね?」

女神「……幽霊のような形で四人に別れを告げに行くぐらいならできますが」

*****「それはそれで不完全燃焼な別れ方になるでしょうから、今のままでいいですね」

女神「そ、そうですか」

女神「……こういっては失礼ですが彼女達が亡くなり、転生するタイミングで貴方も転生しますか?」

*****「そんな事が出来るのですか?」

女神「これでも最大の信仰を得ている神ですからね」

*****「……因みに今の自分は女神様の僕的なのになる事ってできますか?」

女神「ええ、それ自体は問題ありません」

*****「それでは僕ルートでお願いします」

女神「悩まないのですか?!」

*****「むしろ悩む要素がないですね」

*****「例え互いに来世を迎えたとしても、それは自分ではないでしょうし彼女達も同様」

*****「楽しい事嬉しい事……辛い事苦しい事全てが今の自分を形成する欠片なのです」

*****「人間は……自分が自分である為には驚く程多くの物が必要なのですよ」

女神「……成長しましたね」

*****「いやいや……老いたのですよ」

女神「神の従者になるという事は、その先に命はありません」

女神「神と共に生き、神より先か神と共にか。滅び消える時まで使命を全うするのです」

女神「そして二度と命ある者として生まれ出でる事はありません」

*****「構いませんよ」

女神「……」

女神「……その真っ直ぐな瞳は変わりませんね」

*****「はっはっはっ、勿体無きお言葉」

女神「流石に今の姿のまま僕になるつもりはないでしょう」

女神「貴方の人生の中で何時の時代の自分でありたいか、思い浮かべなさい」パァァ

騎士「……」

女神「やはりその姿ですか」

騎士「人は大抵、若い頃の自分を望みます。そして俺の若い頃はこれしかないのですよ」

騎士「この装備は当然、見せ掛けですよね」

女神「当然です。と言いたい所ですが、現段階で人々が作れる装備よりも遥かに高性能ですよ」

騎士「神器のレプリカくらいに見ていいのでしょうか?」

女神「その認識で問題ないでしょうね」

女神「さあ、ついていらっしゃい。これからは学ぶ事が大量にありますよ」

騎士「人の人生とてそのようなものですよ」

女神「人の理の外にある事柄ですよ。今までの常識など通用はしませんよ」

騎士「良くも悪くもこれで俺も完全に人外な訳ですな」

女神「……今ならまだ間に合いますよ?」

騎士「いやいや、長い長いセカンドライフが楽しみなのですよ」

騎士「これからもよろしくお願いします」

女神「ええ……こちらこそ末永く、ね」

はいはい、蛇足蛇足

もう安易におまけとか言わない
思いついてからサイトで書きゃいいんだ
荒ぶる魔王みたく

無いよっこのスレではもう書かないよっ

書き溜め中の話がいくつもあるから
そっちを終わらしたいし投下したい
と思ったら書いてもいないネタもあった遅筆杉ワロタ

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