医者「あなたの余命はあと10秒です」男「何ィッ!?」(24)

かかりつけの病院にて──



医者「あなたの余命はあと10秒です」

男「何ィ~ッ!」

医者「カウントダウンを開始します」

医者「10……9……8……7……6……」

男(ま、まずいッ! どうにかしなくてはッ!)

男(──そうだッ!)

男「時間よ、止まれッ!」





ピタァッ!





男(ふう……間に合った)ホッ…

男(時間を停止させたことで、全ての人や物は動かなくなる)

男(もちろん私だけは、時間が停止している世界で自由に行動できるが)

男(肉体そのものは時を刻むのをやめるという非常に都合のいい状態になるので)

男(余命が10秒だろうと、0.1秒だろうと、死なずに済む……)

男(しかも、時間はずっと止めていられるので、じっくりと対策を練られる)

男(なんとしてもこの間に、私の死の原因を突き止め、取り除かなくては……)

男(ちなみに、なぜ私が時間を止める能力を持っているのかというと──)

男(私は天才だからだ!)

男(まずは、死因探しだ)

男(カルテはどこかな……?)キョロキョロ

ナース「……」

男「お、ナースが持ってた。借りるよ」サッ

ナース「……」

男「せっかくだ、おっぱいを揉んでおこう」モミ…

ナース「……」

男(時間停止中だからもちろん怒られないし、そもそも反応すらない)

男(ちなみにこのナース──医者の妻である)

男(しかし、私が寝取ってしまった)

男(夫が全然相手してくれないの、という相談を受けたのがきっかけで)

男(あれよあれよと不倫関係になってしまったのだ)

男(もう、このナースの心に夫である医者はいないだろう)

男(私は天才だから、そういうテクニックにも長けているのだ)

男「さて、カルテをのぞくか」

男「ふむふむ……」

男(む、脳に腫瘍が発見されたというわけか。しかもかなり大きい)

男(これがなにかの拍子で破裂したら、たしかに即死してしまうだろう)

男(なるほど……余命10秒を宣告されてしまうわけだ)

男(おっと……5秒か)

男(──となると、なんとしてもこの時間停止中に腫瘍を取り除かねばならない)

男(しかし、いくら天才とはいえ私は医学の素人)

男(私にはこれを取り除く知識も、技術もない)

男(ならば、玄人になればいいッ!)

男(勉強する時間はいくらでもあるのだから……!)

男(私は天才だから、勉強すればすぐに名医になれる!)

(時間は止まっているが)およそ一年後──



男(時間停止の世界で一年ほど勉強し、私は名医級の医学のスペシャリストとなった)

男(いや……名医級どころか、ブラックジャック級といってよかろう)

男(さっそく、鏡を通じて自分の脳を透視する)ジッ…

男(なぜ、透視なんかできるかだって?)

男(それは私が天才だからだッ!)

男(しつこいようだが、私は天才なので)

男(痛みを感じなくなる能力と、物をスパスパ切断する能力も持っている)

男(知識、無痛、切断──三拍子そろった! これでセルフ手術が可能ッ!)

男(いよいよ、この時間停止の世界からおさらばする時がきたッ!)

男(レッツ、オペ!!!)

しかし──

男(ぐ……! 誤算だ……!)

男(頭を切り開くと、腫瘍は見た目以上にデリケートな場所にあることが分かった)

男(これじゃ取り出せないッ!)

男(なにをどうやっても、脳を傷つけてしまう!)

男(つまり、私の余命は5秒のまま!)

男(オーマイゴッドッ!)

男(だが私はすかさずここで思い出す!)

男(私はどんな病気をも治せる能力を持っていることに!)

男(手をかざし念じるだけで、不治の病だろうが何だろうが、一瞬で治すことができる!)

男(むろん、自分自身にも有効だ!)

男(なぜこんな能力を使えるかって?)

男(私は天才だからに決まってるだろうがッ!)

男「……」パァァ…

男(私の能力によって、脳の腫瘍はきれいさっぱりなくなった)

男(さすが私ッ! さすが天才ッ! これでもう私は死ななくて済む!)

男「さてと……一年ぶりに時間を動かすとするか」



男「──時間よ、動けッ!」

医者「5……4……3……」

男(そういえば、私の余命は5秒だったんだな)

男(脳の腫瘍を取り除いた以上、もはや私の命を脅かす要因はなくなったわけだが)

医者「2……1……」

男(私が死ななかったら、この医者ビックリするかな?)

医者「0」ヒュッ

男「!?」

男「な……!」ブシュゥゥゥゥゥ…

医者「君が悪いんだよ」

男(ま、まさか……)

男(メスで頸動脈を斬ってくるなんて……ッ!)

男(よくよく考えたら、腫瘍がいつ破裂するかなんて、秒単位で分かるわけない)

男(最初からこの医者は私を殺すつもりだったんだ……自分の手で!)

男(10秒後に私を斬るつもりだったから、余命10秒を宣告したんだ!)

男(ぐ……意識が薄れて、きた……)

男(さすがに、天才である私も……この状況から復活できる能力はない……)

男(しかし……なぜ、私は……こうして、この医者に殺されるのだろうか……?)

男(最後の力を……振り絞り、読心能力で彼の心を……探って、みるか……)

男(なぜ他人の、心を……読めるかって? 決まってる、だろう……?)

男(私は……天才……だからだ)

医者『君が悪いんだよ……』

医者『私はこんなにも君を愛しているのに、君は決して振り向いてはくれなかった』

医者『君を嫉妬させるために、好きでもないナースと結婚したら』

医者『そのナースと肉体関係を結ぶ始末』

医者『ならばいっそ君のことは忘れてしまいたいのに、定期的に検診にはやってくる』

医者『弄ばれてる気分だったよ』

医者『それに……あの脳の腫瘍がある以上、君は近いうちに死んでしまう』

医者『だから……いっそこの手で、と君を斬ることに決めたのだ』

医者『憎いがゆえ、愛するがゆえ、私は君を殺したのだよ』

男(……)

男(な、るほど……)

男(そういう、こと……だったか……)

男(こんな……の……いくら私が天才でも……分かる、わけ……ない……)ガクッ







END

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