【百合】安価で設定もらって百合SSかくよ (73)

主人公女の子
>>2 名前
>>4 年齢と性格


相手の女の子
>>6 名前
>>8 年齢と性格


>>10 話の舞台・二人の境遇


これはひどいと判断したら最安価します



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1432974911

智子

篠原

メリー

15歳
ツンツンしてるようで実はドM

夏海

12
怖がりでおどおどしている

20
元気いっぱいいつも笑っている

16
あらあらうふふお姉さん

家出少女と家主

女の子①

名前:智子
年齢・性格:15才・ツンツンしてるようでドM

女の子②

名前:夏海
年齢・性格:元気いっぱいいつも笑ってる

設定:家出少女と家主

なんか細かい要望とかあれば適当にどうぞ

エロ有りのガチ百合なのか
ほのぼの系のゆるゆりなのか

温かいものを食べる



五月が終わろうとしている。


今日は梅雨入り前とは思えない暑さ全開の猛暑日だった。各地で気温は30℃を超えるところもあり、外国では道路が溶けてるとのことだ。

そんな暑い日なのだが、智子は今日もクーラーの効いた部屋で、面白くもない夕方のテレビに目を向けていた。

あいつは昼寝を終えてすぐに買い出しに行ったが、午後六時を過ぎた今も帰ってこない。


ひょっとして道路で倒れて溶けているんじゃないか、そんな妄想をしていたところに、玄関のドアが強く叩かれた。


「智子ちゃーん! あけてー!」

智子(そんなに買い物したのかよ……)はぁ


がちゃっ

智子「自分で開けられないの……うわっ!!」

夏海「見てこれ! 買ってきたー♪」

智子「えぇ!? スーパー行ったんじゃなかったの!?」

夏海「もちろんスーパーの買い物もしてきたよ?」がさっ


自分でドアが開けられない人というのは、つまり両手が塞がっている人だ。

この家の本当の主・夏海も例外ではなく、右手にスーパーのエコバッグ、左手にはそれよりも大きな家電量販店の紙袋をさげていた。

夏海「よいしょ、よいしょ」

智子「…………」


首筋に汗をうかべながら両手に持った重そうな荷物を中まで運び、「急いでいれなきゃくさっちゃうね!」と買ってきた食品の方を冷蔵庫に乱雑にしまう夏海。

智子はさっきからずっと気になっている方の大きく膨らんだ紙袋……スーパーに行くといって家を出た夏海が何故か持って帰ってきた、家電量販店の紙袋の中身を確かめた。


智子「え……これ買ったの!?///」がさがさ

夏海「買った! 売り切れてなくてよかった!」


智子「ってことは、ソフトはもちろん……」

夏海「もちろん! スプラトゥーンだよ♪」

智子「…………」はぁ

智子「あのさぁ! 夕飯の材料買いにスーパーに行ったその足で、『あ、そういや乾電池足りなくなってたな』感覚でWii U買ってくるかね普通!!」

夏海「だって智子ちゃんもこれやりたがってたじゃん」

智子「やりたかったけどさ! これ……いくらしたの!?」

夏海「さんまんえん……くらい?」

智子「…………」はぁ


夏海は大学の三年生。二人が今いる部屋から徒歩で通える圏内に部屋がある。

その部屋自体は別に大したことないのだ。中学生の智子でも「まあこんなものだろう」と想像のつくほどの、いかにも学生用の安い物件。

しかし……そこに住む夏海は、驚くほどに金使いが荒い。

くコ:彡

夏海「私がごはん作ってる間にさー、なんかその……コードとかテレビにつないどいて! 私そういうのよくわかんないから、智子ちゃんの方が得意でしょ」

智子「よくわかんないくせに、簡単に買うんだね……」

夏海「ごはん食べたらやろうねー♪」


……相変わらずこの夏海という女は掴めない。

見た目こそ大人しめなコンサバ女子のくせに、その性格は明るくて……明るすぎて、行動は理に適ってないことが多くて、一言で言うなら「破天荒」だ。

智子「テレビこれ、HDMI対応なのかな……!? あ、よかったついてる」

夏海「へぇ~、今って黄色とか白とか赤のやつをつなぐんじゃないんだねぇ」

智子「そんなのも知らなかったの!?」

夏海「いやー私ほんとコード系苦手なの! いじってるだけで頭こんがらがっちゃうんだよねーコードだけに? あははは!」

智子「コード系ってなんだよ……」


智子がWii Uの新品コードと格闘していると、夏海はテーブルの上に何かを置いた。


智子「……このたこ焼き機は何ですか」

夏海「今日たこ焼きなの!」

智子「なんでこんな時に限ってこんな忙しいメニューなの……しかもイカのゲームする前にタコ食べる皮肉!」

夏海「だってたこ焼き食べたいねんもん!」

智子「急に大阪弁!?」

夏海はいっちょまえにたこ焼きの準備を始めるも、大して作り慣れているわけではなさそうで……ゲームの配線に集中しながらも、智子は夏海のことをちらちら気にしていた。


夏海「よーし、焼こうー!」

智子「普通さぁ……こんなゲーム一緒に買ってきたらさあ、パパッと食べれるメニューにしてすぐゲームできるようにしようとかは思わないの?」

夏海「せやからたこ焼き食べかったゆうてるやん? それにたこ焼きの材料買ってからWii U買ったしね」

智子「…………」


じゃあタコ買った買い物袋持って家電量販店に乗り込んだのかよ、と智子はツッコミたくなったが、さっきからずっとツッコんでばっかりいるので流石に疲れてきてしまった。

今に始まったことじゃない。夏海はずっと、こんな感じの人なのだ。

ーーーーーー
ーーーー
ーー


夏海「智子ちゃんゲームうまいねぇ~……」

智子「別に……こんなの、普通だよ」

夏海「いやいやすごいって。智子ちゃんはこのゲームやるために生まれてきたのかな」

智子「どんだけつまんない宿命背負ってんの……」


たこ焼きを焼き疲れ、そして食べ疲れた夏海は「智子ちゃんがやってるとこ見たい!」と駄々をこね、智子がゲームをしている様子を隣で横になりながら見ていた。


智子「ねぇ……もしかして眠いの?」

夏海「眠くないよ~」

智子「眠くない人って、横になって目を閉じたりしないんだよ……」

夏海「わーバレたぁ、本当は眠いです……」

1はこのスレを書くために生まれてきたのかな

智子「眠いならこんなとこじゃなくて、布団敷いて寝た方がいいよ……お風呂は入らないの?」

夏海「んーいいや。明日日曜日だし、起きたら入るよ」

智子「……あっそ」

夏海「あれっ、消しちゃうの? 智子ちゃんゲームやってていいよ?」

智子「いいよ……夏実が寝るなら、うるさくできないじゃん」

夏海「別にいいんだけどなー私は……ふぁぁ」


大して進んだわけでもないゲームデータをセーブし、智子はWii Uの電源を切った。

出しっぱなしのたこ焼きの残骸を全てキッチンに持って行き、夏海と自分の布団を敷く。

目に入った時計は、午後9時。

智子「あのさ……夏海、寝るの早いよね」

夏海「えーそうかなぁ」

智子「そうだよ。いつも大体9時とか10時に寝ちゃって……今時小学生だって寝ないよ」

夏海「ん~ほら! 最近は暑いからさ、体力奪われちゃうんだよね~……」

智子「まだ20歳のくせに……」


そして智子が簡単に夕飯の片付けをしている間に、夏海はすっかり熟睡モードに入っていた。

顔こそ笑っているが、確かにどこか疲れているようにも見える。そんな夏海の隣に座って、智子は携帯電話を手に取った。

この家に来てどれくらい経つだろう。

中学3年にあがり、ゴールデンウイークが終わった頃から智子は壮大な五月病にかかった。身の回りの全てが嫌になってしまった。

本格的になってきた吹奏楽部の練習も嫌、

そこでのくだらない人間関係も嫌、

夏は受験の天王山とか言って、変に気合を入れ始めた学校も塾も嫌、

志望校のことで口を出してくる親も嫌。


今まで我慢してきた全てが決壊して、智子は家を飛び出した。ご丁寧に追跡されないように携帯を設定して、家に戻らない決意を固めた。

もうそろそろ、家出から3週間ほど経つのだろうか。

【安価】提督「艦娘を惚れさせた後突き放して反応を見たいんだが」4周目の5
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夏海と出会ったのは、家を飛び出して何時間もたたない頃だった。

都会に住んでいた智子は、とりあえず知り合いのいなそうな場所まで逃げてやろうと思っていた。

電車に乗って自宅から離れようとし、適当に乗り換えたその電車……その中で初めて夏海と出会った。


この路線が国内で一番痴漢被害を出していることは噂には聞いていたが、まさか本当に目の前にするとは思っていなかった。智子の角度からははっきり見えていたその現場……

無計画に家を飛び出して、今後の展望を必死に考えていた智子はその痴漢現場を見て、「これは使える」と思ってしまった。

そこからの展開は、思った以上にトントン拍子に運ばれていった。

わざと大袈裟に痴漢を摘発し、夏海を助けてあげた。

今でこそわかるが、夏海はあの時本当に怖がっていたようだ。こんなに元気で明るくて破天荒な夏海だが、初めて会った時の痴漢に怯えていた表情は今でも忘れられない。

痴漢は慌てて逃げていったが、智子にとっては好都合だった。警察に厄介になるのは智子も困るのだ。


一緒に目的の駅まで降りてやり、人目から遠ざけたところで落ち着かせると、智子は夏海にとても感謝された。

「助けてあげたんだから泊めてくれてもいいでしょ」くらい高圧的に行こうと思っていたが、逆に夏海の方から「是非泊まっていってください!」と言われるほどだった。

家出してきた旨を伝え、親や友達への連絡も絶対にしないようにと伝えると、夏海はうんうんと頷いた。

「智子ちゃんは私の命の恩人だから、いくらでもここにいていいよ」……夏海はそんなことまで言ってくれた。別に痴漢が包丁を突きつけたわけでもないのに、いつの間にか智子は夏海の命の恩人になっていた。


智子はなるべく部屋から出ないようにしていた。家出してきて捜索中の身である以上、実家から離れていても人目に触れるのは避けたかった。

夏海が大学に行っている間、蒸し暑い平日の昼間も、学校の皆は相変わらずくだらない授業を受けているんだと思うと、その環境から脱出することができている自分に酔えた。

最初こそ、夏海が智子のいないところで何とか私を実家に返そうと画策しているのではないかと不安になっていたが、数週間が過ぎて……夏海にそんな気は全く無いのだとわかった。

智子(変な女……)じっ

夏海「…………zzz」すぅすぅ


暑いのが苦手なのか、夏海はいつもクーラーもガンガンにかけて眠る。

眠っていながらもしかと離さないエアコンのリモコンを、一本一本指を離して奪い取り、案の定18℃という地球に優しくない表示がでているそれを適当な温度まであげてやる。

……私がいなかったらこの女、絶対風邪引いてる。

冷えないように毛布をかけてやり、その隣に横たわって、智子は眠くもない目を閉じた。

眠る時は、明日のことは考えない。

明日のことを考えると、自然と未来のことを考えてしまう。

真面目に通い続けていた学校を無断でずっと休み続け、勉強が大事だと言われる時期に何もせず、自分の抜けた吹奏楽部の穴を誰が埋めているか……そんなことまで考え出した日には、とてもじゃないが眠れない。


何も考えたくない。私は全てを置いて逃げてきた。

未来に目を向けるのが嫌だから逃げてきたのだ。だから私は、ひたすら何も考えないようにして、今日も必死に眠りにつく。


ーー
ーーーー
ーーーーーー


夏海「ふぁぁあ……」むくっ


智子「……おはよ」

夏海「あー智子ちゃん……早いねー、もう起きてたんだ」

智子「……そんな早くないでしょ、もう9時だよ」

夏海「えへへへ……あーっ、結構進んでるー!」


当たり前のように12時間睡眠を決めた夏海は、ねぼけ眼をこすりながらテレビの画面に夢中になった。

智子が現実逃避で再開したゲームを、プレイしている智子以上に楽しそうな眼で見ている。

夏海「すごいね~今のゲームって。こんなに綺麗なんだぁ」

智子「……夏海もやる?」

夏海「私はいーや。下手だし……見てる方が楽しいよ」

智子「下手なくせに、衝動買いしてくるかね普通……」

夏海「あははは!」


今日も絶好調に変な女だと夏海を眺め、トイレに行きたいからとコントローラーを押し付けた。

「私わかんないよ!?」と焦る夏海に、「ゲームなんだから適当でいいんだよ」と言い、智子はトイレに向かった。

トイレから出た智子は、廊下の入り口からふと部屋全体を見渡した。

一応住まわせて貰っている身だからと、夏海がいない昼間などは智子が申し訳程度の掃除をする。そのおかげでそこそこ綺麗な状態を保ててはいるのだが、それが智子にある違和感を抱かせた。


夏海「わー! これ難しいねー!」

智子「……ねえ」

夏海「あれ~おっかしいなあ、智子ちゃんみたいに上手にできないよ」

智子「ねえ!」

夏海「わっ……な、なに?」

智子「あの……あんたさ、結構衝動買いとか激しいんでしょ」

夏海「えっ? う、うん」

智子「他にはどんなもの買ったわけ? 私がここに来る前とか」

夏海「…………」


この家には生活に必要なある程度のものは揃っているものの、夏海の趣味がわかるようなものや、娯楽に興じた何かというものは見受けられないのだ。

だからこそ真新しいゲーム機が、部屋全体を見渡した時に違和感を放っている。

たったそれだけの単純な疑問だった。

……がしかし、それが私と夏海の関係の、核心をついていた。

夏海「……色々買ったけど、結構すぐに飽きて売っちゃった!」

智子「えぇ……じゃあこのWii Uもすぐに売るの?」

夏海「これは大丈夫だよ。だって智子ちゃんのために買ってきたんだから」


智子「……えっ」


夏海の言葉で、智子はずっと “気づきたくなかったこと” に気づいてしまった。


素人目で見てもわかる。夏海はゲームなどを好むタイプの子じゃない。

つまりこれは、ほぼ100%智子のために買っている。

何万円もする高価なものを、勝手に住み着いている自分に衝動買いしてくる。

智子はそこから、ゲームに触れるのがどこか嫌になってしまった。

その後は携帯をいじりながら、目の当てられないような夏海の下手なプレイングを横目で見ていた。


言葉にできない虚しさが、智子の心をしめつける。


静かにそんな痛みに耐えている私を、空腹なんだと勘違いした様子の夏海は、急いで遅めの朝食の準備を始めた。

しかしきりきりと痛む胸は、食べ物など受け付けない。


結局その日曜日は……面白いこともなにもなく、無為に過ぎていってしまった。

涼しい部屋にずっといたくせに「暑くて疲れたね」などという夏海は、今日も早い時間に寝てしまった。

ーーーーーーー
ーーーー
ーー


とある平日の、早朝。

話し声で、目が覚めた。

知らない人の声がしたのだ。


恐る恐る周りの状況に気を配る。知らない人の声だと思ったのは、なんと電話をしている夏海の声だった。

寝起きの私の耳が勘違いしているのではない。夏海の声はいつもの明るさなど欠片も含んでいなかった。

暗く、重く、悲しげな声をしていた。

夏海「……ごめんなさい」

『~~~~~!』

夏海「……うん、ごめんなさい……」


夏海は、電話の向こうの相手にしきりに謝っていた。

少し離れた所で寝たふりをしている智子には、電話口の相手の声までは上手に聞き取れないが、だいぶ高圧的な態度で夏海に向かって話していることだけは感じ取れた。

恐らく、誰かに怒られている。

電話はどうやら、向こう側からぷつりと切られた。

夏海はゆっくりと携帯を机に置くと、大学に行く準備を始めた。


智子「……誰?」

夏海「わっ! と、智子ちゃん……起きてたの!?」

智子「今の電話、誰?」

夏海「え、えっと……友達!」


智子「……夏海、彼氏いるの?」

夏海「ええっ!! い、いないよ……?」

智子「……ふーん」


じゃあ、あの高圧的に話していた男は誰なのだろう。智子はそこまでは聞こうとしなかった。



夏海が大学に行き、智子は今日も主婦層が見るテレビ番組を興味無さげに見ていた。

これならゲームをしていた方が楽しいはずだが、智子のためだけに無理をして買わせたような高額なゲーム機だと思うと、触ることすら嫌になってしまっていた。

また今日も、退屈でつまらない一日が始まる。

そんな時に、机の上に置いてある携帯電話が鳴った。

智子(なに……夏海携帯忘れてるじゃん……!)

机の上で鳴っているのは、夏海の携帯電話だった。

もしかしたら、朝に電話をかけてきた相手の男かもしれない。

名前を確かめるだけのつもりだった。

手に取った智子の目に入ったのは、期待とは違った文字だった。


智子(お父さん……?)


電話は、夏海のお父さんからかかってきていた。

智子(じゃあ……お父さんに怒られてたのか)

あの夏海でも、父親に怒られることがあるのか。それなら別人と紛うようなトーンの低い声での電話も納得がいく。

智子も自分の父親のことが大嫌いだったから、その気持ちはよくわかるのだった。


コール音が止むと、携帯は音声メッセージを取得した。

退屈で仕方なかった智子は、夏海がどんなことで怒られているのか気になって、興味本位でその留守電を聞いてみた。

そこで伝えられた言葉は……智子を大きく揺り動かした。

『どうして五月のクレジットがあんなに高くなったのか、それだけでいいから教えなさい』

『内容も確かめたけど、本当に夏海が買っているのかどうか心配になったから電話しているんだ。誰かにカードを盗まれたとかじゃないのか?』

『そうじゃなければ、誰かに脅されて買い物をさせられているのか? ちゃんと納得のいく説明をしなさい……わかったな』


智子「っ……!!」


智子は、身の毛がよだつ思いがした。

本当の夏海に、気づいてしまった。

この部屋に、夏海の破天荒な衝動買いの痕跡が無いのは、買ってもすぐに飽きて売ったとかではない。そもそも衝動買いなどしていないのだ。

つまらなそうにしている私に、慣れない手つきで豪華な料理を……高価な食材を買ってきて毎日もてなそうとしているのは、全て私のためだ。

夏海は本来、あんなに元気で底抜けに明るい子ではないのだ。私と一緒にいるときだけ、無理に明るく振舞って、無理に破天荒なキャラクターを演じて、毎日それだけで疲れているのだ。


何のために?


私のためだ。




数週間ぶりに、外に出た。


焼けるように暑い外の気温は、快適なエアコン世界で何日も過ごしていた智子を一気に弱らせた。

目がまともに開けられないくらい眩しい。外の世界はこんなにも過酷なものだったのか。


携帯で地図を表示して、ほとんど見知らぬ土地を歩く。


目指すのは、夏海のいる大学だった。

ふらふらで汗だくになりながら、智子は大学に辿り着いた。


背の小さい、いかにも子供な自分を珍しそうに見る学生たちの間を通り抜けて、智子は夏海を探した。


夏海の机を勝手に漁って、取っている講義から教室から、全てを調べておいた。


これだけたった一人の姿を探すのに集中していると、外見的に特徴の薄いコンサバ女子の夏海でも案外簡単に見つかるものだった。


しかし、その様子は……智子がいつも家で見ている、呆れてしまうほどに明るい『あの夏海』ではなかった……

智子「夏海……!!」


夏海は、ひとりぼっちだった。


広い教室に一人、はじっこの席で本を読みながらお昼ご飯なのであろう菓子パンをかじっている。


いつもの破天荒な明るさなど全くない、暗い顔をしているように見えるのは、夏海の周りの子が皆楽しそうに会話を繰り広げているコントラストで際立つものだけではない。


こんな夏海は、見たことがなかった。


そして、気づいてしまった。


そんなひとりぼっちな夏海が、家出をする前の自分の姿と同じだということに。


安いパンをかじっているのは、家で待っている私のために豪華な料理を作るためなのだろうか。


つまらなそうに本に視線を落としているのは、携帯を忘れて目のやり場が他に無いからなのか。


夏海は大学三年生だ。


こんなにつまらない顔で、ここまでの毎日を過ごしていたのか?


智子は無性に心が苦しくなった。


拒絶オーラを出して、周りの楽しげな人たちとの接触を断っている夏海の背に、一歩一歩近づいていった。


智子「……夏海」

夏海「っ!?///」びくっ


智子「……今、大丈夫?」

夏海「とっ……智子ちゃん……!」



智子「大学の授業って、こんな簡単にサボっていいものなの?」

夏海「わかんない……けど、私の周りの人はもっとサボってるみたいだし……それに今のが最後の講義だったから、今日はもう帰っても大丈夫だよ」

智子「ふーん……」


学校を出て家に帰る道でも、夏海のテンションは暗いままだった。

やっぱり夏海の普段は “こっち” なのだ。私にだけ見せていた破天荒な笑顔は、全て作ったものだった。

夏海「どうしよ、夕飯の買い物する?」

智子「……いいよ、家にいっぱい買ってあるじゃん」

夏海「そう……だっけ」

智子「…………」



智子「……この留守電を、聞いちゃった」

夏海「!!!」


家に帰って、夏海が忘れていった携帯を見せた。

音声メッセージを聞いた夏海は、大きく眼を見開いて……固まってしまった。


智子「私が……来てからなんでしょ、こんなにお金使うようになったのって」

夏海「…………」


智子「ゲームなんか滅多に買わない、高いごはんも買わない、クーラーだって……こんなに強く付けたりしないんでしょ」

夏海「…………」

智子「出て行って欲しいなら……そう言ってくれればいいのに!!///」きっ

夏海「えっ……」


智子「無理にお金使って! 無理に元気に振舞って! 私にばっかり、優しくして……!!」


智子「こんなこと知っちゃったら、私……もうここにはいられないじゃん……!///」ぽろぽろ


智子は、泣きながら夏海の腕を掴んで訴えた。


智子は夏海のことが好きだった。

身を置いてもらっているからこそ、本当は迷惑をかけないようにしたかった。

自分のせいで夏海が親に怒られたりしているのを見るのは、忍びなかった。

無理に明るく振る舞う夏海が、いじらしくて仕方なかった。

智子「こんなことするくらいなら……怒ってよぉ……!」ぎゅっ

智子「なんで、なんで何も言ってくれないの……///」


夏海「…………」


夏海は智子の頭を撫でた。

優しい、優しい手だった。


夏海「智子ちゃんは……神様がくれた、宝物だから」


智子「っ…………」

夏海の声は、やはり今までとは別人のように弱々しく、でも柔らかい声だった。


夏海「ずっとひとりぼっちで……友達のいない私に、神様が出会わせてくれた……大事なお友達だと思ってる」

智子「え……」


夏海「智子ちゃん……もうわかるでしょ。私……智子ちゃんの他に友達なんていないの」


夏海「地味で、暗くて、目立たなくて……何が楽しいのかもわからないまま、流されるように毎日を生きてる」


夏海「でもね、智子ちゃんが来てくれてから……私はそんな毎日も楽しく思えるようになったんだよ」


夏海は、智子を抱き寄せた。

夏海の温かな胸は、20歳相応のそれだった。

夏海「私も昔ね、家出したいって思ったこと……何回もあった。楽しいことが何にもなくて、嫌なことしかない毎日から、何度も逃げたくなった」


夏海「でも私には智子ちゃんと違って、そこから逃げる勇気さえなかった。現実と戦うわけでもないのに、ただ負けを選んでた」


夏海「だから私にとっては、智子ちゃんの方が輝いて見えるの……自分の気持ちを大切にして、実行にも移せて。智子ちゃんが本当は家出なんかするような子じゃない、真面目だったこと……なんとなくだけど、わかってたよ」


夏海「そんな子を助けたいと思った。力になりたいと思った。家出したいなら、何日でも匿ってあげようと思えた」


夏海「私は……智子ちゃんが好きだから」


暑い夕暮れの日差しが窓から差し込んで、泣いている二人を照らした。

夏海「智子ちゃんの前では、今までの自分がやめられる気がした」


夏海「どうしても友達でいたくって、全然違う自分を演じてた」


夏海「智子ちゃんに……何でもしてあげたかった」

智子「…………」


夏海「変…だったよね。無理なことしすぎてさ……私友達いないから、どうしていいかわかんなくて……下手くそで……///」ぽろぽろ

智子「夏海……」

夏海「迷惑だなんて思ったこと、一回もないよ……?」


夏海「初めて会った時……私を電車で助けてくれたあの時からずっと、私は智子ちゃんが大好きなの……///」


夏海「だから、これからも、ずっと一緒にいたいよ……!!」

智子「夏海ぃ……!」


夏海は、強く強く智子を抱きしめた。

智子は夏海が好きで、夏海は智子が大好きだった。


だからこそ智子は、もうこんな日々を続けてはいけないのだと……そう思えるようになった。

智子「私……帰る」

夏海「えっ……」


智子「夏海のこと、好きだから……もう迷惑は、かけないようにする」

夏海「と、智子ちゃん……!」


智子「夏海が頑張ってるとこ、この一ヶ月ずっと側で見てた! 夏海の方が私よりも大変そうなのに……それで私がワガママ言ってたら、おかしいじゃん……!」


智子「夏海のお父さんにも、謝る……全部私のせいだったって、ちゃんと言う……」



智子「これからもずっと……夏海と一緒にいたいから……!!///」

夏海「っ……!」



最後の夜は、二人で夕飯を作った。


買ってしまった高価な食材。智子は少し気が引けたが、食べない方がもったいないんだと自分を納得させて、ありがたく使った。

二人で一緒に作ったごはんは、今までで一番おいしいごはんだった。


智子がシャワーを借りていると、夏海が入ってきた。

「お世話になったから背中を流したい」……そんなことを言う夏海だが、お世話になったのはどう考えても智子の方だった。


決して広くない風呂場に二人……誰かとこんなことをするのは、お互い初めてだった。


くすぐったくて、楽しくて、触れ合うたびに幸せだった。

智子「やっぱり夏海……そうやって元気にしてたら、友達たくさん出来そうだよ」

夏海「そ、そんなことないよぉ……」

智子「えー……でも、彼氏の一人くらい作れそうだけど」


何気なく言った智子の一言に、夏海は大きく反応した。

そして、シャンプーで眼があけられない智子の手をとって、耳元で囁いた。


夏海「智子ちゃん、私……女の子しか、無理なの」


智子「……えっ」




夏海「男の人なんて、話すのもダメなの……自分のお父さんでさえ無理。昔っから、女の子しか好きになれない」


夏海「いじめられたこともあった。だから、それがバレるのが嫌だから、友達の作り方もわからないままここまで来ちゃったのかもしれない……」

智子「……そうなんだ」


夏海「智子ちゃんと初めて会った時……私、本当の本当に怖かったの」

智子「ああ……痴漢されちゃってる時?」


夏海「私にとっては死活問題だった。だから、智子ちゃんが本当に……私にとっての小さな救世主様に見えた」

智子「……ふぅん」

夏海「ねえ、智子ちゃん」

智子「……なに?」


夏海「智子ちゃんは……やっぱり普通に、男の人が好きなの?」

智子「…………」


智子「私は……別に性別を好きになってるわけじゃないから」

夏海「えっ……?」


智子「身体とか、性別とか……どうでもいい。ただ私は……夏海のことが、好きだよ」


夏海「……!!」どきっ

シャワーで泡を流した智子は、夏海が泣いていることに気がついた。


智子「……なんで泣いてるの?」

夏海「う、ううん……嬉しかったの……///」ぐす

智子「嬉しい?」

夏海「えへへへ……///」


濡れている指で夏海の涙をぬぐってあげると、夏海は今までで一番の最高の笑顔になった。


夏海「……やっぱり智子ちゃんは、神様がくれた贈り物な気がするよ」

智子「……そう?」


夏海「誰かに対してこんなに大好きになった気持ち、初めて……///」ちゅっ

智子「んわっ!」

夏海「智子、ちゃ……智子ちゃん……///」


智子「な、夏海……ん……っ」


夏海「離れたくない、離れたくないよぉ……!」


智子「…………」ぎゅっ


ぬるいシャワーが打ち付ける中、声にならない声で夏海は泣いた。


自分よりも大きな夏海を抱きしめて、智子は……絶対に夏海の元へ戻ってくることを誓った。

夜……布団は一枚だけ敷いた。


無論、夏海が一枚しか敷いてくれなかった。


夏海「誰かと手繋いで寝るの、初めてだよ」

智子「……私も」


手をつないで寝るだけだと思っていたのに、夏海は風呂場で許されたように、もう一度頬にキスをしてきた。


二人で過ごす、最後の夜。


今後もずっと、忘れることが無いようにと、


二人はお互いに、愛を刻んだ。

ーーーーーー
ーーーー
ーー


それから数ヶ月経って……夏海には、だんだんと友達ができはじめた。

智子の前でだけ演じていた自分を、普段の自分に近づけだすと……話しかけてくれる子が増えて、次第に気兼ねない関係の友達になっていった。

携帯の連絡先も親ぐらいしかいなかったのに、いつの間にかいろんな友達で埋まっていた。


でも、その中にはひとつだけ、普通の友達とは違う扱いの子がいる。

直接会うことは少ないが、こまめに連絡をとっている。

受験勉強が忙しいけど、夏休みはこっちに来てくれるらしい。

今度はちゃんと、荷物を持って。


5歳年下の、私の彼女。


~fin~

ドM設定が……

>>69
申し訳ない

家出の身分で、しかも相手が元気で明るいのでドMを扱えなかった

安価だけでここまで作れるなんて凄い……
感動した

やるじゃn

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