【仮面ライダー剣】南条光「ヒーローなんていないんだ!」【モバマス】 (78)

P『光……いるか?』

南条「……」

P『あんなことがあって辛いのは分かる…それに立ち向かえだなんて俺は言わない……でも、せめて皆の所に来ないか?』

P『2週間も家に引きこもりっぱなしで、皆心配してるんだ』

P『辛かったら…皆に頼ってもいいんだぞ。 俺にも、ちひろさんにも…皆にも』

P『麗奈がさ、どうせロクなもん食ってないだろうって光に弁当作ってきたんだ。 アイドルなのに…手に絆創膏貼りまくってさ…』

P『ここに…置いてくよ」

P『じゃあ…行くよ。 何時でもいい、俺たちに頼ってくれ』

P『……じゃあな』

プロデューサーが帰っていく。
途端に、家が静かになった。

アタシは何も思ってないのにな、プロデューサーも皆も心配しすぎだ。
アタシは何も思わない。 辛いとも、悲しいとも、苦しいとも。



2週間前、アタシの父さんと母さんが死んだ。

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本当は買い物だけで終わるはずだったのに、アタシのワガママでデパートの屋上でやってたヒーローショウを父さんと母さんと一緒に観た。

帰り道はもう真っ暗で、夕飯時なんかとっくのとうに過ぎていたけど、父さんと母さんはアタシのヒーローショウの感想をニコニコしながら聞いていたんだ。

でも、青信号の交差点を右折した時に居眠り運転のトラックが突っ込んできて、突っ込んでき、て、突っ込んで……きて……。

気づいたら、アタシだけ車から放り出されて、父さんと母さんは取り残されたままだった。

南条『父さん!! 母さんっ!!!』

足が挟まれたのか、アタシがいくら力を込めても父さんと母さんを引っぱり出せない、

助けれない。

南条父『光…早くにげるんだっ。 火がガソリンに引火するっ』

南条母『私たちの事はいいから早く逃げてひかるぅっ!!』

何処から出ているんだろう。 トラックから出てる火が、父さんと母さんの車に燃え移っている。

南条『嫌だ嫌だいやだ!! 置いていけないよ父さんと母さんを置いてなんていけない!!』

南条父『光っっ!!!!』

南条『あっ』

ばんっ、って、父さんの腕がアタシを突き飛ばして、その直後に車は一気に炎に包まれた。

南条『ーーーー!!』

なんで、アタシの力じゃ父さんと母さんを助けれないの?
なんで、助けに来ずに遠くから眺めてるだけの人がいるの?

なんで

なんで

なんで、ヒーローは来ないんだ?

南条「……」

結局、父さんと母さんは死んでアタシとトラックの運転手が生き残った。

そこから先の事は良く覚えてない。
色んな大人が来て、プロデューサーやちひろさんが忙しそうに色んな所に連絡してて、葬式に事務所の殆どのアイドルが来てたぐらいしか。

南条「プロデューサー…ごめんな」

プロデューサーや事務所の皆はアタシが落ち込んでるんだろうと思ってるんだろうけど、それは違うんだ。
父さんと母さんが死んだっていうのに、何も感じないんだ。

悲しみも苦しみも、涙さえ流れないし、何もする気が起きない。

まるで心が死んでしまったようだ。

南条「……」

あぁ、でもーーーアタシの大好きな特撮が目に入った時、何故か無性に腹が立って……憎くなって、ついTVの画面にリモコンを思い切り投げつけたんだっけ。

毎週欠かさず見てたのにな、何でなんだろう。

南条「……暇だなぁ」

TVを壊しちゃったせいで全く番組を見れなくなったのは失敗だった。
ずっとこの静かな家に1人だけっていうのは凄まじく暇だ。 暇で暇で胸が苦しくなる。

外に出るのも近所のコンビニに食べ物を買いに行く時ぐらい。 麗奈が言ってたように最近はカップラーメンとかコンビニ弁当しか食べてない。

南条「弁当と言えば麗奈がアタシに作ってくれたんだっけ、麗奈がお弁当を作るなんて今日は大雪だね」

南条「そうだ。 せっかくなら麗奈のお弁当外で食べよう」

家の中で1人寂しく食べるのも飽きた。 せっかく麗奈が作ってくれたお弁当なんだ、外で食べたほうが美味しいだろうし、気晴らしにもなるだろう。

南条「1人ぼっちのピクニックか。 まぁたまには良いよね」

南条「行ってきます。 父さん。 母さん」

ーーーいってらっしゃい。 なんて言葉は当然返ってこなかった。

今日はここまで。

南条Pの皆ごめんね。 絶対鬱エンドで終わらせないからそれで許して下さい。

南条「良い天気だなぁ…」

雲ひとつない青空、いやになるくらい差し込む日光。
ピクニックにはもってこいの日だ。

南条「とは言っても…ここら辺に公園って言ったらあそこにしかなかったよな」

まだアタシがアイドルになる前、一度だけ父さんと母さんと一緒にお弁当を食べに行った公園。

南条「一緒に食べようか、父さん、母さん」

写真の父さんと母さんに微笑みかけて言う。

本当に、家族と一緒のピクニックには最適な日だ。

「ねぇあの人じゃない?」
「あっ本当にいたんだ」
「おい行っちまうぞ」

公園の近くでちょっとした人だかりが出来ていた。
何だろう? 有名なアイドルでも見つかったのかな?

アタシは全然有名じゃないから街中で騒がれたことはないけど実際に遭遇したら嬉しい反面ちょっと困るなぁ。
アタシも気になるけどついていくのはやめーー


「あれだろ? 今ネットで話題になってる『ヒーロー』だろ?」



南条「……」

やっぱり、行こうかな。


南条「……」

「……チッ」

どうやら皆が付いて行ってるのはあの赤いシャツの人みたいだ。
でも…ヒーローって感じはしないな……。

「何だよお前ら」

苛立ったような口調で赤いシャツの人は振り返る。

「君凄いね! 話題だぜ」
「早く名乗り出なよ。 お礼が出るって」

「……」

……あれ? 赤いシャツの人、何のことか分かってないみたいだ。

「そうよ早くしなさいよ。 連絡先はねーー」

女の人が赤いシャツの人に携帯を見せて、動画を流し出した。

南条「…」

アタシは後ろからそれを覗き見た。


『悪い人に襲われた私を助けてくれた、男の子を探しています』

若い女の人が赤いシャツの人そっくりの似顔絵を持って、動画の向こうの人に訴えかける。

『会ってお礼がしたいんです。 見つけてくれた人にもお礼をします。
お願い。 私のヒーローを見つけて下さい!』

?「……っ」

この人がヒーロー?

南条「……なんで」

南条「ヒーローなんてーーー」

ヒーローなんて……ヒーローなんてっ。

「やっほー。私のヒーロー」

南条「えっ?」

?「!」

今動画でこの赤いシャツの人を探していた人と、長身の男の人が、赤いシャツの人の前に出てきた。

「あなたのやり方、真似させてもらったわけ」

「全くしつこいなっ。 そんなにジョーカーを助けたいのか?」

「……」

南条「!」

長身の男の人が、腰に当てたバックルにカブトムシの絵のカードを入れた瞬間、バックルの側面から赤いカードが出て腰に巻きつき、ベルトになった。

「イイの? みんな見てるよ」

「俺は仮面ライダーだ!」

挑発するように言った赤シャツの人の言葉を意に介さず、長身の男の人は宣言するように言った。

南条「仮面…ライダー?」


仮面ライダー。
ここ最近最も有名な都市伝説だ。
人を襲う異形の化け物と日夜戦う戦士、それが仮面ライダー。

本当に……いたのか。

「変身!」

男がバックルについてる取っ手を操作した瞬間、長方形の青い壁の様なヴィジョンが出現する。

「っ」

南条「なっ!?」

そのヴィジョンから逃げるように赤シャツの人が、宙を飛んだ!?

「……」

南条「えっ!?」

男の人が青いヴィジョンを通り抜けた瞬間特撮に出てくるような姿に変わった!?

「…」シュウウウウウ

「う、うわあああああああ!!」
「キャアアあああああああ!!」

南条「な、何なんだいったい!?」

赤いシャツの男が金色のカブトムシの怪人になり、途端に周りに集っていた人たちは逃げ出した。

まさか、赤いシャツの人は人間じゃなくて、仮面ライダーが戦ってきた怪人なのか?!

「ふんっ」

「はああぁぁぁ……」

剣を構え対峙する仮面ライダーと怪人。
仮面ライダーは両手で握り腰を低く構え、対照的にカブトムシの怪人は片手で剣を握り大きく構える。

「君! 何やってるんだ!! 早く逃げろ!」

南条「え? ちょっ、ちょっとっ」

いきなりスーツを着たおじさんに手をグイッて引っ張られてそのまま連れ出された。

仮面ライダーと怪人の戦いが、どんどん遠ざかっていく。

南条「っ……!」


ーーー
ーー


麗奈『ヒーローなんているわけないじゃない』

南条『いるよ! きっとどこかにヒーローはいる。 アタシはそう信じてる!』

麗奈『人々のピンチに颯爽と現れて助けてくれる?
そんな都合の良い神様みたいな存在が本当にいると思ってんの南条?
本当にいるのならとっくのとうにこの世から犯罪も戦争も無くなってるわよ』

南条『うっ…』

麗奈『そーれーにー。 このアタシ、レイナ様がいる限りこの世に正義は栄えないのよ!!
ハーッハッハッハッ…ゲホッげほっ』

南条『何おー!!』

P『こらこら。 またやってんのかお前らは』

麗奈『げっ』

南条『プロデューサー!』

麗奈『別に悪いことなんてしてないわよ。 私は親切に南条に現実という物を教えていただけよ』

P『ヒーローはいないってか? いや、そうとも言い切れないぞ』

南条・麗奈『『えっ?』』

P『今ネットで話題になってるんだが、仮面ライダーっていうーーーー』

ーーー
ーー


南条「……」

ヒーロー…。

理由は分からないけど、ヒーローっていう言葉が頭の中をぐるぐると駆け回る。

アタシのーーーーーを助けてくれなかったヒーローが今戦ってる。
そう思うだけでアタシの経験した事のない感情が渦巻く。

「何なんだよっ。 仮面ライダーとか知らないけど他所でやれっていうんだよ! 巻き込まれたらどうするんだ!! 勝手にやってろっていうんだよ」

走りながら、アタシの手を引っ張りながらおじさんはそう毒づく。
異常事態にテンションが上がって、思った事をそのまま口走ってるようだ。

南条「っ……」

また、説明できない感情が渦巻いた。

南条「…して…」

「え?」

南条「離してっ!!」

「お、おいっ」

掴まれた手を引っ離してきびすを返す。
不意を突いたからか、子供のアタシの力でも簡単に手を離せた。

南条「行かなきゃ……!」

足が、体が自然と向かう。

仮面ライダーと怪人が戦ってる公園へ。

南条「はぁ…はぁ…ハァ……」

さっきの公園に着く。
でも、

南条「いない……?」

仮面ライダーと金色の怪人は、何処かへと姿を消していた。

南条「何処にいったんだっ」

まださほど時間はたっていない。 遠くには行ってないはずだけど…。

「ウァアアあああああああ、アアッ!」

南条「!」

あの男の人の…、仮面ライダーの声だ。
まさか、負けたのか!?

声のした方向へ駆け走る。

南条「あ、あれは……!?」

最初に目に飛び込んできたのはさっきの金色の怪人とは違う別の怪人。

赤い体にパイプの様なものが何本もくっ付いていて、まるで防護マスクをつけているかのような顔。

さっきの金色の怪人はまだ生物って感じがしたけど、この怪人は科学の力で作られた凶悪なサイボーグって感じだ。

そしてーーー。

南条「か、変わった?」

さっきまで青色をベースにした意匠だった仮面ライダーの姿が、眩いばかりの黄金色になっていた。

構える剣も、鋼色の片手剣から金に輝く両手剣に変わっている。

まるで、王様みたいだ。

「フウゥゥゥゥ……!」

怪人が右手を上げる。

途端、赤い稲妻が怪人の腕から迸って、仮面ライダーに直撃する!

「……」

南条「!」

仮面ライダーは、全く微動だにしない。 稲妻が当たった胸の鎧からは煙がくすぶっているだけで、傷の一つもついていない。


「ヌウウ……!」

「ヌァァアアアア!!」

唸り声を上げ、仮面ライダーに向かってパンチを浴びせる赤い怪人。

「……、ハぁッ!!」

だけど、仮面ライダーは容易く剣で受け止めて。

「ウェアアアアアアアッ!! グヘァ!」

逆にパンチ一発で怪人をふっとばして壁にめり込ませた。

南条「な……あ…」

パンチ一発。

たったのパンチ一発で、赤い怪人の体は至る所が裂けて、謎の液体が血のように大量に漏れて、溢れ出している。

「ア……ア…アァ…」

【Spade Ten,Jack,Queen,King,Ace】

ゾンビみたいに、尚も仮面ライダーへと手を伸ばす怪人に……、

【Royal Straight Flush】

「はぁぁぁ……ハアアァッッ!!」

「ウウウゥゥゥゥ、ウァアアアアァァァーーー!!」

南条「うわぁっ!!」

仮面ライダーの必殺技が、目も眩む程の光と立っていられなくなるぐらいの衝撃を撒き散らしながら叩き込まれる。

南条「あ…あぁ……」

怪人は、足跡のように残る灰を残して、消滅した。


南条「あれが……仮面ライダー…」

圧倒的な力で敵を難なく倒す。
さっきの金色の怪人も……同じように、倒したんだろうか。

だけど、そんなスゴい力を持ってる人でも、怪人を倒しても、アタシは……アタシは……。

南条「ヒーローだなんて……ヒーローだなんてっ……!」

南条「……あれ?」

変身を解いた仮面ライダーが、そのまま気を失ったみたいに倒れこんだ。

脳裏に、昔見た特撮番組で、強大な力を使う代償に命を無くした特撮ヒーローが浮かんだ。

南条「えっ……。 そ、そんな!?」

南条「だ、大丈夫か!? しっかりしろぉ!!」

必死に体を揺さぶる。
まさか、まさかまさかまさかまさかまさか。

死ーーー。

「……スゥー……スゥー…」

南条「……は?」

呑気に寝息を立てながら、アタシよりも下級生の男の子みたいな無邪気な顔で寝ていた。


南条「……どうしよう、これ」


「う……うわっ! わああ!」

南条「お、目が覚めたみたいだな!」

起きたばっかりなのに元気が良いな。 寝起きドッキリとかで良いリアクションをしそうだ。

「どこだココは!」

南条「ここは……アタシの隠れ家、かな」

アタシと何回か共演したことのある薄幸そうな子が所属していた事務所の跡地だ。
つい最近倒産してしまって、まだ新しい人は来てないと思ってココを選んで、仮面ライダーを運んできたんだ。

南条「アタシの名前は南条光! えっと、良かったらそっちも名前教えてほしいな、仮面ライダーさん」

「お前、アンデッド!?」

南条「アンデッド? 何だそれ。 アイドルのユニットか何かか?」

「……」

南条「自分で言ってたじゃないか、『俺は仮面ライダーだ!』って」

「あ」

「そうか…俺あの後寝ちゃったのか…。 変だなぁ…今迄こんなこと無かったのに」

南条「ふーん……。 なぁ、その……一つ教えて貰っても…いいか?」

多分アタシは、コレを知りたかったから、この人をここまで運んで、二人きりになったんだろうか。

「別に…いいけど」

南条「何で、なんで……仮面ライダーなんてやってるんだ?」

何で、なんで……あの時、来てクレナカッタンダ?

短いけどここまで。

どうやって運んだのとか聞かないで。 俺も本編を見たとき同じこと思ったから。


「まぁ、仕事だから」

南条「仕事……? あんな化け物と戦うのが?」

「いや、あいつらから、人を守るのが」

南条「……」

怪人を倒すことじゃなくて、怪人から、人を守ることが仕事。
さらっと言った言葉だったけど、口だけとは言えない何かがあった。

南条「人類の平和と自由を守る! ってやつか?」

「…俺、そろそろ行くよ。 君もこんなところに居たら危ない。 送って行くよ」

南条「帰るところ……アタシに帰るところなんてない!」

部屋を出て屋上に行く。
意味なんてない。 ただ、何となく屋上に行くのが良いと思っただけだ。


屋上の柵に手をついて夜景を見る。
車、ビル、看板。
アタシが何を思おうと関係なく世界は動いていく。

今アタシの家は……たぶん、真っ暗だ。

「光ちゃん!」

やっぱり、彼はここに来た。

南条「その……家に、居ずらいんだ」

ウソは……言ってない。

南条「…なぁ、ヒーローって、いると思う?」

「ヒーロー?」

南条「友達にさ、ヒーローなんていないって言われちゃってさ。 本当にヒーローがいるんなら、この世から戦争も犯罪も消えてる……って」

「……」

南条「だけど、あんたを見たとき思ったんだ。 ヒーローはいるじゃないか! って。
だから、つい、もっと話が聞きたくて…」

これは、……ウソだ。


「……俺はーーー」

南条「そうだ! 明日1日だけ、アタシのヒーローになってくれないか!」

「へ?」

彼の言葉を遮るように言った。

南条(なんでだ…急に、聞くのが怖くなって……)

「はは、なんだよそれ」

南条「い、いいだろ! アタシがほっといたら、あのまま寝てただろーなー。 きっとマスコミも来てただろーなー」

言いながらチラっ、チラっと顔を見る。 けど微笑みを浮かべたままで余裕は消えてない。

「だけど言ったろ。 俺には仕事が」

南条「えーっと…その……あ!」

ポケットに固い紙の感触があった。

南条「じ、じゃあ! これ、捨てちゃおっか…なー…」

青いカブトムシの絵が描かれたカードを持った手を、柵の前に突き出す。

「うわあっ!! な、何でそれっ!!」

余裕の表情から一転。 あたふたとポケットをまさぐってテンパる仮面ライダー。

南条(運んでたときにポケットから落ちたから後で渡そうと思ってたのに……ああああアタシは何やってんだ何で麗奈みたいなことしちゃってんだ!!?)


♪〜

「ちょちょ、ちょっと待って、待ってっ、ねっ?」

「もしもし?」

やばいこのままじゃ帰ってしまう! どどどうしよう!?
そういえばこの前麗奈が…

南条「ごめん!」

「ウェっ!?」

携帯をひったくる。 耳に当てて……。

南条「き、きゃーエッチー、助けてー」

麗奈がプロデューサーにやってたイタズラを咄嗟に真似する。
うぅ…棒読みだぁ…

『え、エッチ? え…剣崎君?』

何とか騙せたみたいだやった!

南条「この人、剣崎って言うんだ…。 ごめん! この人しばらく帰れないんだ!」

ピっと、電源を切る。

南条(や、やっちゃった〜〜っっ)

麗奈にいつもイタズラなんて止めろって言ってるのに…まさかアタシがこんな事をするなんて……

でも

南条(ちょっと、楽しい?)

久しぶりに『楽しい』って思ってしまう。
何でかな、アタシは、悪い子になっちゃったみたいだ。

南条(……別に、いいかな)

「はぁ〜……」

南条「よろしくな! 剣崎!」

剣崎「……はぁ〜……」

ここまで

少しだけ投下します



ーーー
ーー


南条「どこ行こっか剣崎」

剣崎「どこ行くって…考えてなかったのかよ…」

剣崎とアタシが出会った翌日、デート当日。
でも、デートなんてしたことないアタシにはどこにいけばいいかなんてよく分からない。

南条「アタシデートなんて初めてだからな。 剣崎は? デートぐらいしたことあるだろ?」

剣崎「………いよ」

南条「え?」

剣崎「デートなんてしたことないよ…。 だから彼女もいたことない。 ………自分で言ってて悲しくなってきた……」

はぁー…ってため息をつく剣崎。
意外だなぁ、身長も高いし、顔も、その、結構良い方だと思うけど……剣崎もデートしたことないんだ。

剣崎「はぁー……」

またため息をついている。
あ、あんまり触れちゃダメだったみたいだな。

南条「そ、そうだ剣崎。 遊園地行こうよ! ほら、丁度あっちにあるし」

道路の向こう側に、遊園地がある。 昨日屋上からも眩い電飾が見えていた。

南条「ほら! 早く行こ「危ないっ!!」

南条「え?」

プーッププーッ!!

南条「ひっ……!!」

トラックが、クラクションを撒き散らしながらアタシに、アタシにーーーー。


剣崎「っ!」

南条「うわぁっ!」

剣崎が横から、突進するようにアタシを抱き抱えて転がって何とか……、トラックに轢かれずに済んだ。

「あぶねぇだろ!!」

剣崎「す、すいません!」

南条「……あ」

南条「あ、あぁ、あああアアアああっ」

剣崎「光、ちゃん…?」

手が震える体が震える。 ダメだダメだ思い出すな考えるな。 考えたらダメだダメなんだ。
考えたら、アタシはきっとーーー。

剣崎「光ちゃん!!」

南条「っ!」

剣崎「大丈夫か…?」

南条「……」

剣崎「光ちゃ「なーんちゃって!!」

剣崎「は?」

南条「大丈夫だよ剣崎! ほら、早く行こうよ!」

剣崎「……」

剣崎の手を引っ張って遊園地に入る。

楽しめると、良いな。

本当に短いけどここまで。

剣崎「うぉおおおおおおおお!」

南条「キャーーーー!」






南条「ジェットコースター楽しかったな剣崎!」

剣崎「あぁ…、うん、そうだね…」

南条「もう一回乗ろう!」

剣崎「ウェッ!?」





南条「次あれ乗ろアレ!」

剣崎「ま、また絶叫マシン……」







南条「次はあそこにしようか」

剣崎「お、お化け屋敷…」


南条「いやーーーっ楽しかったな!」

剣崎「そ、そう…良かったね」

南条「どうしたんだ剣崎? 仮面ライダーなのにだらしないな」

剣崎「余計なお世話だ。 それに、そろそろカード返してくれよ」

南条「まだデートは終わってないだろ。 まだまだこれからだよ!」

剣崎「あーはいはいそうですか…」

何だか剣崎を振り回すのが楽しくなって来ちゃった。

何だかんだ付き合ってくれるし、面白いし。

南条(こんなんじゃ、麗奈の事言えないな)

南条「次どこ行こっか」

剣崎「うーんそうだな……お、あそこ良いじゃん」

南条「どこ?」

剣崎が指さす方に目を……!?

剣崎「ほら、ヒーローショー。 面白そうじゃん」

南条「……」

剣崎「懐かしいなぁ…子供の頃、俺もよく連れてってもらったな」

南条「……」


『みんなーっ! 早く悪の首領の手下にな、…じゃなかった。 ヒ、ヒーローをよぶのよ!』


南条「……他のにしようよ」

剣崎「え?」

南条「下らないよ…ヒーローショーなんて……」

ヒーロー、なんて

剣崎「で、でも……」

剣崎「光ちゃんのTシャツ、あのヒーローショーのキャラだよね?」

南条「!?」

しまった……。

いつも着てるから無意識の内にこれを選んでしまっていたんだ。

『あぁーっもー! 早く声合わせて呼びなさいってのよ! あぁっ、泣かないで!』

南条「………」

剣崎「はは、何かおかしな事になってるみたいだ。
面白そうだしさ、行こうぜ」

南条「しつこいよ剣崎……。 アタシは……アタシは…」


南条「ヒーローなんて、嫌いなんだ」


剣崎「えっ……」


南条「だって、皆自分の事しか考えてないじゃないか」

南条「自分の身を犠牲にして人を助けるヒーローなんていない、いたとしても、そんなの唯の偽善者だ」

ーーーーー

『うわっ、燃えてんじゃん』
『すっげー、映画みたい』
『ちょっと、車にまだ人がいるみたいよ』
『本当だ。 でも俺らじゃどうしようもないよ。 救急車が来るのをまつしかないって』

ーーーーー


そう、どんな人間も自分の事しか考えてないし、考えれない。

全てを救うヒーローなんて、TVの中だけだ。

剣崎「……そんなことないっ」

剣崎「ヒーローは、いる…!」

剣崎「…俺もっーーー?」

南条「…」

剣崎の言葉を遮るように、携帯が鳴った


剣崎「もしもし……いや、そんなんじゃないって! ……何だって?」

アタシの手から携帯を取って、電話に出た剣崎の顔が、険しくなった。




剣崎「分かった…直ぐ行くっ」


剣崎「光ちゃん……カード、…返してくれないか」

南条「今日は、アタシだけの『ヒーロー』って、約束だろ…」


また、怪人が出たのか?


剣崎「分かってくれ…。 俺が今行かないと、人が死ぬかもしれないんだ!」

南条「っ……」

カードを、剣崎の手に、渡した……

剣崎「……ごめんよ」

その言葉だけを残して、剣崎は去っていく


南条「やっぱり……ヒーローなんて……いない」

ヒーローなんていない、誰かを、アタシを守ってくれるヒーローなんていない。 それをアタシは学んだはずだ


ーーーじゃあ、何でこの足は、剣崎を追ってるんだろう

ーーー
ーー


遊園地からかなり離れてしまった。



剣崎も徒歩で、道を確認する為に何回か携帯を確認して立ち止まっていたのが幸いした。

アタシは剣崎を見失わずについて行く事が出来た。


南条「ここに入っていった……よな」

元々は倉庫だったのか、がらんと広がったフロアに足を踏み入れーーー

『チェェエエエエエエアアァァァアアアア!!』

「ウェァアッッッ」

南条「うわぁあっっ!」

人間とは思えない咆哮が聞こえた瞬間、変身した剣崎が吹っ飛ばされてきて、アタシの目の前の柱を粉砕した

生存報告代わりに1レスだけ投下

1

南条「け、剣崎っ!」

剣崎「つっ…お前….なにしてんだ!!」

南条「そ、それは……」

???『クァアアアッ』

剣崎「くっ!」


『チェエアアッ! トゥアッ!』

剣崎「クッ、ダァッ! ぐあっ! うぐぁっっ!!」


駆け寄ってきた緑の化物が剣崎を圧倒する。

化物の手に握られた歪な短剣が剣崎の鎧にぶつかるたび、剣に激突するたびに、火花が散り剣崎は退いていく。

この化物は……強いっ。

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