【モバマス】前川みくの回想 (7)

初投稿です。超短編です。
それでも問題ないという人だけどうぞ。



みくは寮の自室を整理していた。
ユニットを組むことになった相方の多田李衣菜が、
ユニット結成以来たびたび部屋に押しかけては泊まっていくので
彼女のための荷物や布団置き場を本格的に用意することにしたのだ。
お互いに些細なことで言い合いになる。
だけどもみく自身はそれはお互いの大事なコミュニケーションだと考えている。
はっきりと言葉で伝えられることがどれほど大事なことかは、
346プロに所属してからの色々な出来事がみくに教えてくれた。
「この箱はなんだったっけ?」
段ボール箱の蓋を開ける。その中にあったのはアルバムだった。
何枚かの写真は自室に飾ってあるが、他にも多くの写真がそこに収められていた。
「懐かしいにゃあ…」
思わずねこ語が飛び出す。写真の中には顔がやけに赤いものがちらほらとあった。
「これ、怒られたときの写真…」
具体的に何をしてしまったのかは思い出せなかったが、
とにかく両親から烈火の如くに叱られたときの写真であることはわかった。
みくには、そのような両親の叱責がどれほど自分のためであったかが素直に飲み込めた。

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アイドルになるためのオーディションに合格したことが知らされたときは有頂天だった。
上京してキュートなネコミミアイドルになるときが来たと大はしゃぎした。
そして両親と大喧嘩した。まだ若いと。でも最後には送り出してくれた。
きっとあの時両親が自分を止めたのは、
本気の「覚悟」かどうかを確かめたかったのだとみくは解釈している。
新幹線のホームで目に涙を浮かべながら見送ってくれた父と、やたらと気遣う言葉をかけてきた母。
不安を隠して、精一杯強がって新幹線に飛び乗ったのはやっぱり自分の若さだったんだろう。

紆余曲折あってアイドルユニット「*」として活動することになったのは、
梅雨と夏の狭間の日差しが強くなっていったころだった。
ユニットとしての初仕事を終えた日、みくは引きつった声で両親に電話していた。
具体的にどんな風な話をしたかは良く覚えていない。
初仕事のこと、その経緯、彼女達のプロデューサーのこと、とにかくたくさん。
そんな支離滅裂になりそうな通話の向こう側にあった涙をみくははっきり感じ取っていた。
もっと気の利いた言葉はなかったかな、と少しだけ後悔した。

まだまだ自分はアイドルとしては新人の部類。みくは冷静に自分自身を見つめていた。
トップアイドルになるためにやらなければならないことはたくさんある。
昨日の成功が明日の成功を保証してくれるわけでもないアイドル業界では、「安心」は買えない。
いつだって不安が心の中にある。でもみくは進んでいく気持ちに揺らぎはない。
大事な仲間が、ユニットの相方がいる。大事なのは仲間が「そこにいる」ことだ。

前川みくは視線を窓の外に移す。
さっきまで外を駆け抜けていた建物たちはその速度を落としている。
346プロのフェスが終わった直後のまとまったオフ。みくは一度実家に帰ることにした。
片道数時間の旅、それでも思い出すことや話したい土産話は頭の中に溢れてくる。
新幹線のアナウンスが響く。もうすぐ大阪だ。

以上になります。
全体的な発想の元ネタはサザンオールスターズの「心を込めて花束を」です。
HTML化依頼に行ってきます。

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