豊音「白い横顔」 (10)

初めて見た時、綺麗だと思った。

吸い込まれそうな紅い瞳、純白の服に漆黒の長髪。

時が止まったように私は彼女と目を合わせていた。

私は恋に落ちた。


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硝子の向こうに燦然とする数多の光。

彼女の深紅の瞳は優しい目で街の光を眺めていた。

「豊音」

口惜しいがその横顔を見つめるのをやめて話しかけた。

「ん?」

「楽しい?」

「ちょー楽しいよー」

満面の笑みを浮かべる彼女。

私もつられて口元が緩む。

豊音の笑顔は人を幸せにする。

私も幸せになる。

もしこの試合に負けてしまったとしたら、豊音は笑ってくれるだろうか。

ネガティヴな思考がふとよぎった。

「ねえシロ」

「なに?」

私の暗い予想は豊音の言葉で遮られる。

「シロの横顔、綺麗だね」

「急にどうしたの」

「なんかね、シロ、って感じがする」

顔が熱くなっていくのが分かった。

誤魔化すように言葉を出すついでに口から熱を吐き出す。

「豊音の横顔は豊音、って感じがするから私も好きだよ」

「あはは」

何もできないから気持ちだけでも鼓舞しようと思ったが、必要なく感じた。

今更そんな話をするのもダルいと思ったし、褒められて嬉しいとも思えた。

画面の向こうに豊音の泣き声が聞こえる。

私も悲しかった。

いや、確かに悲しかったが今すぐ豊音を慰めて、抱き締めたいという気持ちが湧いた。

豊音が控え室に帰って来る。

私は気持ちとは裏腹に、身体を動かせなかった。

豊音が笑顔でいたから迷っていた。

塞も、胡桃も、エイスリンも、みんな豊音に対してどういう態度を取ればいいか分からずに困惑していた。

「ただいま戻ったけどー」

豊音は色々な色紙を見せてくれて、嬉しいと言ったが私はその瞳に溜まる涙を見つけた。

やがてその重みに耐えられなくなり、豊音の頬を涙が流れる。

「私が、みんなと一緒にこのお祭りに参加することができた」

泣きながら笑う彼女は、強く、美しく見えた。

「大事な思い出の記念になるんだよ」

私の予想を裏切り、豊音の笑顔はいつも通りみんなを幸せにしてくれたのだ。

ホテルでみんなが寝静まった頃、私はベランダに出て物思いに耽っていた。

高い所から見る夜景はまるで星を見下ろしているかのようだ。

天国があったらこんな感じだろうか。

「シロ」

背後から豊音の声が聞こえた。

振り返らずに返事をする。

豊音は隣にやってきて私の顔を覗き込む。

さっきは逆だったのにな、と微笑む豊音に笑顔で応えた。

「終わっちゃったね」

「そうだね」

意味もなく手を握りたくなった。

豊音は不思議そうにしてたがお構いなしに指を絡める。

心臓の鼓動がうるさくなるがそれでも言おうと、決意を固める。

「豊音、好きだよ」

豊音は焦る様子もなく、柔らかな声色で応える。

「うん」

豊音の目は艶やかな朱色をしていた。

頷く彼女が天使に見える。

掌で、それぞれの想いを伝えあった。

「大事な思い出、もう一個増えちゃった」

「うん」

私達の夏は終わってしまった。

だけど、これからは新しい世界が私達の前に開けていくだろう。

終わり

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