京介「別れよう」 あやせ「え……」 (1000)

あやせが作ってくれた晩御飯を一緒に食べ、まったりとした時間を過ごし、
彼女が帰宅するため玄関に立ったタイミングで切り出した。

京介「あやせ」

あやせ「はい、なんですかお兄さん」

京介「キスがしたい」

あやせ「」

あやせ「な……だ、ダメです! 急に何てこと言うんですか変態!」

京介「俺たち付き合い始めてもう四ヶ月だろ? そろそろキスくらい良いんじゃないか」

あやせ「時期とかそういう問題じゃありません! あと『くらい』って何ですか」

京介「駄目か?」

あやせ「ダメです」

京介「どうしても?」

あやせ「どうしてもです!」

京介「そうか……」

あやせ「大体お兄さんはスケベで変態ですから、キ、キ、キスを許したらその次その次って、どんどんエスカレートして行くに決まってます!」

京介「そこは否定できない」

あやせ「ほらやっぱり。だからダメです。結婚するまで清い交際でいましょう」

京介「……」

京介「なら」


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玄関の隅にあやせを追い詰め、ジッと目を見つめ、そっとその頬に手をかける。優しく、優しく。

あやせ「な……な……」

口をパクパクさせるあやせさん可愛い。
そのまま顎に手を移し、軽く持ち上げる。あくまで優しく。

京介「あやせ」

あやせ「え……や……」

ゆっくりと唇を近付ける。大丈夫、食事のあとちゃんと歯を磨いたので口臭対策は万全だ。

あやせ「嫌っ!!」

唇と唇の距離があとちょっと、という所でバチンッと強烈な音が響いた。遅れてジンとした痛みが頬に広がる。
見ると、羞恥か怒りか、恐らく両方だろう。顔を真っ赤にしたあやせが俺を涙目で睨んでいた。

京介「あやせ……」

あやせ「なん、で、こんな。ダメって言ったじゃないですかぁっ!」

京介「すまない」

あやせ「謝るくらいなら最初からしないでくださいっ。わた、わたし、ダメだって言ったじゃないですかぁ」

ポロポロと涙を流すあやせ。泣かせてしまった罪悪感に囚われる。
どうすればいい。抱きしめて泣き止むまで待てばいいのか?
いや、手を繋ぐことさえ慣れていない俺たちだ、拒否されそうな気がする。

京介「すまない。俺が悪かった」

結局謝ることしかできず、玄関にはしばらく静かな泣き声だけが響いた。

あやせ「……帰ります」

送って行くよ、と言える雰囲気であるはずも無く、あやせは泣きながら出て行った。

京介「何やってんだろうな俺は……」

後で謝罪のメールを送っておこう。あやせは優しいから許してくれるだろうけど、でも……。


あの晩から2日経った。
当日と昨日それぞれ一回ずつメールを送ったが、あやせからの返信はない。
傷つけてしまった事を後悔するが、それとは別に、キスすら許してくれない今の関係に疑問を抱く。

京介「結婚するまで清い交際で、か……」

あの日のあやせの言葉を思い出す。
俺の身勝手な焦りから無理やりキスを迫ったことは大いに反省すべきである。しかし、だ。
あんな可愛い彼女を持って、何もせずにおられようか、いや無理だ!

あやせは貞操観念が強すぎるから婚前交渉なんてとんでもないと思っているだろうが、
ヤりたい盛りの男子学生にそれは酷というものである。
セックスが無理ならせめてキスだけでも、と思う俺はおかしくないよな?
思えば黒猫と付き合っていた時も、彼女の極度の恥ずかしがりのお蔭で深い仲になる事は出来なかった。

つまり、未だ童貞の俺は焦っていた。


『そりゃお前、付き合って四ヶ月でキスもまだとか異常だよ、異常』

赤城に相談したのだが、返事はいい加減なものだった。

『今時しっかりした考えの子だとは思えないか?』

『俺なら無理だね。襲う』

すみません、無理やりキスしようとして拒否されました。

『相手の子は高1だろ? もうちょっと年が近い相手の方がいいんじゃないか?』

『めちゃくちゃ可愛いんだよ』

『はいはいごちそうさま。しかし、うーん』

『なんだよ』

『高坂お前まだ童貞だろ、だから焦るんだよ。今度ソープ行くか?』

なんで童貞ってお前が知ってるんだよ! というかこの言い方、こいつひょっとして既に……!?

『浮気したと思われて刺されそうだから却下だ』

『ばれなきゃいいんだよ。てか刺されるとか怖いな』

『それに俺も最初は彼女がいいな』

『乙女か! めんどくさいカップルだな』

『面倒で悪かったな。でもこのままじゃ続けていくのが辛い』

『できればうまく行って欲しいけど、彼女が拒否してるんじゃなぁ』

『一人で発散するのも限界がある。正直、すごいムラムラする』

『やっぱ風俗しかないんじゃね?』

それしかないのか? あやせを裏切ることになるようで心苦しいが。

『そもそも結婚までさせてくれないってなら、あと何年我慢するつもりだよお前』

『俺が大学卒業して就職して、彼女も進学してたらその卒業を待つとして』

『長すぎるな』

『だな』

『早くて7年か? 俺なら別れて新しい女を探すな』

……。

『ま、決めるのは高坂だ。がんばれよ!』

お礼を告げ、赤城とのLINEを終了させる。そのままスマホをベッド脇に置き、天井を見ながら考える。
別れる、か……。別れたくはない、けど今のままじゃ俺が耐えられなくなり関係が破綻しそうで怖い。

あやせに謝罪メールを送っておこう。そしてしっかり考えよう。


それからさらに3日。毎日メールを送っているが、あやせからの連絡は無い。
以前のように着信拒否されてたら心が折れそうなので電話はかけていないが、こうも音沙汰無いと不安が募るばかりだ。

と、電話をするべきか悩んでいたら、不意にチャイムが鳴った。
宅配は何も頼んでないからあやせだろうか、と逸る気持ちを抑えつつ扉を開けると、果たしてそこには彼女の姿があった。

学校帰りだろうか制服姿で、手には通学鞄と買い物袋を下げている。

あやせ「こんばんは、お兄さん」

京介「あ、ああ。こんばんはあやせ、久しぶりだな」

ニコニコと笑顔のあやせ。一週間近く会ってなかったというのに、まるで何も無かったかのようだ。
何も無かった事にしたいんだろうか……?

あやせ「上がってもいいですか?」

京介「あ、悪い。どうぞ遠慮なくしていってくれ」

あやせ「ではお邪魔します。晩御飯まだですよね?」

勝手知ったる何とやら、あやせは荷物を降ろすとうちに常備してある自分用のエプロンを身に着けた。

あやせ「今日はちょっと手の込んだ物を作ろうと思ってるんです」

京介「そうか、楽しみだな」

あやせ「少し時間がかかるので、お兄さんは勉強でもしながら待っていてください」

京介「分かった」

フンフンと鼻歌を歌いながら料理の支度を進めているあやせ。その様子からは特に何のてらいも感じられない。
どうする、あやせがあの事を無かったことにしたいのなら、それに乗っかった方が良いのか?

いや、それは駄目だろう。男としてきちんとケジメは付けておくべきだ。
とはいえ、それは食事の後でもいい。しっかりと味わおう……。


京介「ご馳走様でした」

あやせ「はい、お粗末様でした」

あやせが作ってくれたのはビーフストロガノフ? とかいうシチューだった。

京介「美味かったよ」

あやせ「それは良かったです。圧力釜があればもっと楽に作れるんですけど。あ、今度の休日一緒に買いに行きませんか?」

楽しそうに、恐らくデートを提案してくるあやせ。

京介「そうだな、それもいいかもな」

あやせ「何だか引っ掛かる言い方ですね……。とりあえずお皿片付けますね」

京介「あー、あやせ」

あやせ「はい?」

手を止めこちらを見つめてくる。俺はススッと位置をずらし、あやせと相対した。

京介「すんまっせんでしたあああああーーー!!」

そして流れるように土下座。満腹にはちょっと辛い体勢だ。

あやせ「……」

あやせ「えっと、どういうことでしょう? もしかして何かわたしに謝るようなことをしでかしたんですか?」

京介「とぼけなくて良い。俺はあやせに酷い事をした」

あやせ「何を言っているのか分かりませんので顔を上げてください」

京介「そういう訳にはいかない。俺はあやせの心を傷付けたんだ。許して貰えるまで顔は上げられない」

しばしの沈黙、そして

あやせ「もう、仕方の無い人ですね……」

ふう、と溜息が聞こえる。

あやせ「あの時は、もの凄くショックでした」

あやせ「お兄さんだって男の人ですから、いやらしい気持ちになるのは仕方ないことだと思うんです」

あやせ「お兄さんがわたしを求めてくれるのは、その、う、嬉しいですけど。わたしたちにはまだ早すぎると思うんです」

キスをしたかっただけなのが、俺が身体を求めていたみたいに聞こえてしまうのは気のせいだろうか。

あやせ「だから結婚するまで今のままでいましょう。わたしも頑張りますので、お兄さんも頑張ってください」

今の台詞からだと、あやせも何かしらの性衝動に耐えているように受け取れる。
それを強い意志で律しているのだろうか。分からない、普段のあやせからはそんな気配は微塵も感じ取れないからな。

あやせ「毎日メールを貰っていたのに返事をしなくてごめんなさい。あとあの時叩いてしまってごめんなさい」

あやせ「だからもう顔を上げてください。わたしはもう気にしていませんから」

京介「本当に悪かった」

言って体を起こす。あやせはちょっと恥ずかしげに俯いていた。
とても可愛いのだが、何かしたいという気持ちは沸いてこなかった。


やや気まずい空気を吹き飛ばすかのように、あやせはちょっと声を上げて言った。

あやせ「それじゃ片付けてしまいます。その後お出かけの事を決めましょう!」

京介「待ってくれ、まだ話には続きがあるんだ」

あやせ「?」

京介「真面目な話なのでちゃんと聞いて欲しい」

神妙に語る俺に何かを感じたのか、あやせは浮きかけた腰を落とし正座する。

京介「俺はあやせとキスがしたい。もっと言うと、抱きしめたりイチャイチャしたり」

あやせ「……」

京介「その、セックスもしたい」

顔が熱くなるのが分かる。

京介「さっきあやせが言ってた通り、俺だって男なんだ。彼女がいればエッチな事したいに決まってる」

京介「だけどあやせがとても貞操観念のしっかりした子だっていう事も分かっている、つもりだ」

京介「そこをあえて頼む、俺とエッチしないか?」

あやせ「……」

あやせ「……」

あやせ「お兄さんはさっき約束した事も守れないんですか?」

あやせ「結婚するまでお互いに頑張りましょうって言ったばかりですよね?」

京介「いや、それは一方的に告げられただけで約束とは……」

ああん? と睨まれた。めっちゃ怖いです。

京介「しかし現実問題として、俺はお前にムラムラしている。結婚までこんな状態でずっと我慢していろって言うのか?」

あやせ「はい」

京介「せめて本番なしでも、手とか口とか……」

あやせ「意味が分かりませんけど、とても変態的な事を言われたとは分かります。通報しますよ?」

やべえよ、あやせさん既に目のハイライト消えてるよ。
どうしよう、次の提案したらマジで殺されるかもしれない。

京介「えーーーっと……その、ふ、風俗とか」
あやせ「」

あ、駄目だこれ。一層雰囲気が変わった。俺終わったわ。

あやせ「話というのは以上ですか? ならもういいですよね?」

京介「ア、ハイ」

あやせ「はぁ、お兄さんが変態だというのは分かっていましたけど、ここまでだったなんて」

京介「そうは言うがなあやせ。年頃の男なんてこんなもんだぞ」

あやせ「スケベ」

京介「ごめんなさい」



あやせが食器を洗っている短い時間で俺は考えた。とても考えた。

『俺なら別れて新しい女を探すな』

……。





あやせ「お待たせしました。それじゃ、デー、お出かけの事でも決めましょう」

京介「……」

あやせ「お兄さん? また変な事でも考えてるんですか?」

あやせ「ダメですよ、結婚するまでは」

京介「ああ、それはもう分かった」

京介「だから、」


京介「別れよう」

あやせ「え……」

言ってしまった。言葉を出してしまった以上、もう止めることは出来ない。


あやせ「えっと、もしかして怒りました? でもそんな手には引っ掛かりませんよ。結婚するまでは許すつもりはありません」

京介「いや、もう良いんだ。今日までありがとう、楽しかったよ」

あやせ「そういう冗談はいいですから、次のお休みの話をしましょう」

京介「うちに置いてある荷物とかはあんまり無いよな。後でまとめて送るようにする」

あやせ「あ、そうだ。圧力釜の他にもここにあったら便利だと思ってた物があるんです」

京介「もう放課後や仕事終わりにここに来なくていい。今までたくさん料理してくれて助かった」

あやせ「食洗機はさすがに高すぎてお兄さんのお小遣いじゃ買えないでしょうけど、わたしのお給料を足せば」

京介「どうせいつか桐乃には伝わるだろうから、あやせから言いづらいなら俺から言っても良い」

あやせ「そうだ、今度桐乃も連れて一緒にお出かけしましょう。3人でお買い物とかとても楽しいと思うんです」

京介「あやせは可愛いからすぐに次の彼氏が見付かるさ。でも高校生はすごくスケベだから気を付けろよ?」

あやせ「可愛いとか恥ずかしい事を言っても誤魔化さ」
京介「あやせ」

少し強い口調で告げる。

京介「別れよう」

あやせ「嫌です」

京介「俺の勝手で悪いが、聞き入れてくれ」

あやせ「嫌です」

京介「もう無理なんだよ……分かってくれ」

あやせ「嫌です」


京介「あやせ!」

あやせ「なぜですか! 意味が分かりません!」

京介「俺たち付き合い始めて何回手を繋いだっけ。あやせは未だにデート、って口にするのも恥ずかしがるよな」

あやせ「手くらいいつでも繋げるじゃないですかっ。デ、デートだって言えます。ほら、デートデート」

あやせ「あれですか、キスしないからですか!? そういう愛の形だってあります!」

京介「確かに現代でもプラトニックな関係ってのはどこかにあるだろうよ」

あやせ「だったら!」

京介「でも、俺にはそうじゃない」

京介「あやせには理解できないだろうが、俺に取っては身体の関係も大事なんだよ。性欲も勿論あるけど、それだけじゃないんだ」

あやせ「だ、だったら……だったら……」

あやせはギュッと身体を縮こめた。

あやせ「キス……してもいいですから……そんな悲しい事を言わないでください……」

京介「無理しなくていい。きっとあやせに合うヤツがどこかにいるから、今度はその出会いを大切にしてくれ」

あやせ「なんでそんなこと言うんですかっ。わたしはお兄さんが良いんです!」

京介「その気持ちは嬉しいけど、俺とあやせじゃ決定的に恋愛観が違いすぎる」

あやせ「たった四ヶ月で何が分かるって言うんですか! 違うならこれから埋めていけばいいじゃないですか!」

京介「その言葉が出た時点で無理だ」

あやせ「意味が分かりません!!」

京介「あまり大きい声を出さないでくれ。近所迷惑だ」

あやせ「……」

冷たく告げると、あやせは静かになった。
可愛い顔が涙でグシャグシャだ……俺が泣かせてしまった。


あやせ「分かりました」

京介「そうか」

おもむろにあやせは制服のリボンを外し始めた。
しかしこれを受け入れる訳にはいかない。その手を掴み動きを止める。

あやせ「離してください!」

京介「辞めろ、自棄になるんじゃない」

あやせ「何でですかエッチすれば良いじゃないですか!」

あやせ「お兄さんはしたい事が出来て、わたしは別れなくて済む。誰も損しません!」

京介「そういう事じゃないんだよ、分かってくれあやせ」

あやせ「今のお兄さんはわたしにエッチを拒否されたからちょっと短絡的になってるだけです! だからエッチすれば元に戻ります!」

京介「確かに短絡的だと思わないでもない。だけどな、俺はこれでも必死に考えたんだ。その末の結論だよ」

あやせ「だからって、なんでいきなり別れ話になるんですかっ。わたしに隠れて浮気でもすれば良かったのに!」

京介「そんな事できる訳ないだろっ。大体お前はそれで平気なのかよ!」

あやせ「平気な訳ないです! でも別れるよりはマシです……」

その場にへたり込むあやせ。顔を覆いヒックヒックと泣いている。この間から泣かせてばかりだな俺。

京介「もう遅い。送ることは出来ないけどタクシーでも呼ぶから帰るんだ」

あやせ「泊めてください……わたし我慢できますから、痛くても恥ずかしくても我慢しますから」

京介「駄目だ。これ以上遅くなったら親御さんも心配するだろうから今日はもう帰れ」

あやせ「『今日は』……ならまた来てもいいですよね」

京介「それも駄目だ。言葉の綾ってやつだ」

あやせ「嫌です、それならここから動きません」

どうすれば納得してくれるんだろう。そもそも納得するしないの話じゃ無いか。
だからと言って今のあやせを抱く訳にはいかない。辛い未来しか見えない。


京介「それならこうしよう。婚約するんだ」

あやせ「?」

面を上げるあやせ。酷い顔になってるな……このまま帰したらあやせの両親に殺されかねないな俺。

京介「俺が就職して、あやせが大学を出てそれでもまだ双方に結婚の意思があったら結婚しよう」

京介「それまでは別れたままだ。俺は新しい彼女を作ってその子とエッチして性欲を解消する、お前は俺を想って一人で居るといい」

京介「早ければ7年後には一緒になれるだろ」

我ながら酷い提案だと思う。

でもこれで俺に愛想尽かしてくれれば良い。
万が一受け入れるにしても、側にいない相手を7年も想い続けるなんて無理だ、やがて自然消滅するだろう。

あやせ「お兄さんが他の人とエッチするなんて嫌です。でも7年は長すぎます……」

京介「だろう、だからもう諦めて新しい恋を探すんだ」

あやせ「……」

あやせ「分かりました。『今日は』帰ります」

京介「そうか。じゃあタクシーを呼ぶからその間に顔を洗ってくるといい」

あやせは頷くと洗面所に入って行った。何だろう、急に素直になったのが逆に怖い。



あやせ「遅くまでお邪魔してごめんなさい。お休みなさい」

京介「ああ、お休み」

タクシーが遠ざかるのを眺めながら……俺は心がズキズキ痛むのを感じていた。

今ので別れた事になるんだろうか、ならないんだろうなぁ。
今日は帰るって言ってたから、明日来る可能性もありそうだ。



明けて翌日。

大学は午前中で終わったので午後から丸々フリーだったが、予感があったので家で大人しくしていた。
そろそろ高校が終わる時間か、放課後になって真っ直ぐうちに向かうとしたらぼちぼちだな。

とかウダウダ考えていると、ピンポーンとチャイムが来客を告げた。
やっぱり来たか、と溜息を吐きながら腰を上げると

ピポピポピポピポピポ  ドンドンドンドンドン!  ガチャガチャガチャ!!

チャイム連打の後に扉を殴打する音が続き、ドアノブが回される。怖っ。
あやせがこんな乱暴な行動に出るとは思えないので、そうなるとあいつしか居ないな。

京介「居ません」

桐乃「早く開けろっ」

仕方なく鍵を外すと同時に扉がバンッと開かれる。

京介「何の用だよ」

我が妹は返事もせず靴を脱ぐと勝手に部屋に上がって行った。
そのまま中央でこちらを振り返り、手を腰に当てつつ俺を睨みつけてくる。

大変ご立腹な様子だ。

桐乃「あんたどういうつもりよ!!」

京介「あやせの事か?」

桐乃「他にないでしょ!」

京介「別れた」

桐乃「あんたが一方的に決めただけでしょ。あやせは納得していない!」

京介「俺とあやせじゃ合わなかったんだよ、仕方ない」

桐乃「聞いた。その、セ、セ……ッス出来ないからって別れるなんてあんたおかしい」

京介「じゃあどうしろって言うんだ。浮気しろとでも?」

桐乃「一人で処理すればいいじゃない」

処理とか言うな。

京介「お前がよくやってるゲームを思い出してみろ、男の性欲はそんなんじゃ治まらないんだよ」

桐乃「現実とゲームを一緒にすんな」

京介「だから男の現実を語ったんだろうが」

桐乃「う……だからってあやせが可哀想じゃない!」

京介「そうは言うがな、じゃあ付き合って四ヶ月でキスも出来ず、結婚するまでセックスも禁止と言われてずっと我慢できるか?」

桐乃「そりゃあたしだって好きな人とはキスとかセ……したいとか考えないでもないケド」

考えるのか。というかこっちチラチラ見るな。


桐乃「でもあんたはあやせの彼氏なんだから、そこは受け入れなきゃダメでしょ」

京介「無茶言うな。7年も我慢してたら爆発するわ」

桐乃「え、爆発するの……?」

チラッと視線を俺の股間に向ける桐乃。賢いけどアホだこいつ。

桐乃「と、とにかく! 別れるのは無し! あやせと仲直りして!」

京介「仮によりを戻しても、あやせが身体を許してくれない限り、俺はいつかあやせを裏切る。ならそうなる前に別れた方がお互いのためなんだよ」

桐乃「……もう、何なのよ。あんたもあやせも。あー、もう、訳分かんない!」

京介「そんなに難しい話でもないだろ。俺はセックスがしたい、あやせはしたくない。それだけだ」

桐乃「あんた、あやせの身体だけが目当てだったの。見損なった」

ギロッと睨みつけてくる。

京介「そんな訳ないだろ! あやせは大好きだ。でもな、愛してるっていうだけじゃ恋愛関係は継続できないんだよ」

桐乃「じゃああやせがヤらせてくれたら仲直りできるってワケ?」

京介「下品な言葉を使うな。でも、そうだな。仮にあやせが今セックスさせてくれたとしても、もう無理だと思う」

桐乃「何で!?」

京介「昨日あやせにも同じ事を言ったけどな、俺とあやせじゃ恋愛観が違いすぎるんだよ。言い換えれば価値観の相違だな」

桐乃「そんなのいくらでも埋められるでしょ!」

京介「……なあ桐乃、付き合って四ヶ月経ってもキスはおろか手も満足に握れないのってどう思う?」

桐乃「随分奥手だなぁ、とか?」

京介「正直に」

桐乃「……そりゃおかしい、と思う、ケド……。でもそんなの人それぞれじゃん!」

京介「あやせに取ってはおかしくないんだろう。俺は駄目だ。だから埋められない」


しばらく睨みあう俺と桐乃。目を逸らしたら負けだ。

桐乃「そう、あんたの決意が固いことは分かった」

京介「分かったならはよ帰れ」

すると桐乃は無言でスマホを取り出し、どこかに電話をかけだした。

桐乃「あ、あたしー。うん、ちょっとあのバカの事で相談があって。うんうん、そう。大丈夫? なら待ってるねー」

京介「おい」

桐乃「応援呼んだ。ここで待つから」

京介「沙織か?」

桐乃「黒いのも呼んだ方が良かった?」

嫌な笑顔を向けられる。このヤロウ。妹だから野郎じゃないか。

京介「あー、俺ちょっと図書館で勉強してくるわ」

桐乃「逃げたら部屋荒らしてあんたの趣味をネットで公開する」

京介「やっぱり家で勉強するかなー」

桐乃「ふん」




しばらくして。

沙織「やあやあ、お招きに預かり参上したでござるよ」

黒猫「なんだか分からないけど来たわ」

oh...

桐乃「なんで黒いのもいるのよ。呼んでないんだケド?」

沙織「いやあ、京介氏のピンチという事でござったから、少しでも人手があった方が良いかと思いまして」

黒猫「そうね、京介の事は本当はどうでも良いのだけれど、世話になった恩を忘れるほど愚かなつもりも無いわ」

桐乃「あっそ。勝手にすれば」

黒猫「ええ、勝手にさせて貰うわ」

スタスタと黒猫は部屋に上がって来て、茫然としている俺の横をすり抜けるとベッドに腰掛けた。家主俺なんだけど……。

桐乃「ちょっとあんた、客に対してお茶も出せないの?」

沙織「いやいやお構いなく」

京介「あ、ああ。ちょっと待っててくれ」

自分のも含めてコップを4つ出し、ペットボトルを出そうと冷蔵庫を開いた。
嫌でも鍋が目に入る。中身はビーフストロガノフだ。心を込めて作ってくれたんだろうな、ものすごい美味しかった。

お茶を取り出し冷蔵庫を閉じる。鍋はもう見えない。

京介「待たせたな」

沙織「ありがとうでござる」

黒猫「頂くわ」

桐乃「安物じゃん。もっと良い物を用意しとけっつーの」

三者三様の言葉を貰いながら俺もお茶を飲む。
昨日あやせと一緒に飲んだ時と同じ味だった。


黒猫「それで、一体何があったのかしら?」

京介「あー、その。あやせと別れた」

沙織「むむ」

黒猫「!」

黒猫がビクッと震えたのが分かったが、あえて無視だ。
桐乃が黒猫に若干冷たい視線を向けている気がするが、やっぱり無視だ。

桐乃「まだ決まってない! あんたのは別れたい、ってだけでしょ」

黒猫「よく分からないわね。詳しく説明して頂戴」

桐乃「要約すると、こいつはあやせとセ……エッチしたい、けどあやせは結婚するまでエッチしたくない。だから我慢できないから別れるって」

間違ってないけどすごい誤解を受けそうだ!

黒猫「最低ね」

沙織「うーむ、京介氏がそんな女性の身体だけを目的とした付き合いをされる人だとは、拙者にはとても思えないでござるが」

京介「ありがとう沙織、お前は良いヤツだよ!」

沙織「いやいやはっはっは。で、一つ確認でござるが、京介氏はあやせ殿とまだ性交渉をしていないのでござるか?」

黒猫「!!」

無視だ無視。

京介「まあ何だ、性交渉とか以前の話だな」

沙織「と言うと」

京介「キスもまだだ」

黒猫「フ……」

なに勝ち誇ってるんですか黒猫さん。あなただってホッペ止まりじゃないですかー。


沙織「お二人は付き合い始めて結構経っておられませんでしたか」

京介「四ヶ月だな」

沙織「恋愛ごとの発展については人によって差異があれど、四ヶ月でキスすらまだとは……うむむ」

桐乃「ねえ、黒いのと付き合ってる時はどうだったの?」

黒猫「な、ななななな何を突然言っているの桐乃!?」

京介「言う訳ないだろ。と言うか少しは気を使えよ」

黒猫「そ、そそそそそそうよ! 羞恥心というものを持ってないのあなた!」

桐乃「あたしの事じゃないしー。でもそっか、言えない事をしてたってワケねw」

沙織「拙者もそこは気になるでござるな。今回の件についても参考になるやもしれんでござる」

ニヤニヤしながら言われても説得力ないでござるよ。

黒猫「………………よ」

桐乃「ん?」

黒猫「何も……よ」

桐乃「聞こえない、もっと声大きくして」

黒猫「だから! な、何も、して、ない、わよ……」

桐乃「え、マジで……?」

コクン、と頷く黒猫。

桐乃「え、だって、夏休みずっと一緒にいたよね? え、マジで??? キスも?」

何だろう、桐乃と沙織からの視線がものっすごく冷たい物になってるような。え、俺が悪いの?


沙織「つまり、京介氏はヘタレ、と」

京介「ちげーよ! 俺だって本当は色々したかったさ! でも黒猫がちょっとそんな雰囲気出しただけで恥ずかしがって逃げるんだ、どうしろって言うんだよ!」

黒猫「あ、ご、ごめんなさい……」

京介「あああ、いや黒猫は悪くないよね! ガッついた俺が悪いんだ、うん」

どうするんだよ、変な空気になっちまったじゃねーか。

桐乃「まあ、うん。ヘタレは置いとくとして」

沙織「そうですな。京介氏が一般男性並の性欲を持っていると判明した所で、そうなると問題はあやせ殿でござるか」

桐乃「あやせめちゃくちゃ身持ちが固いからね~。さすがにキスもまだとは思わなかったケド」

京介「女性に言う話じゃないだろうけど、ぶっちゃけると俺はあやせを抱きたい。しかし彼女は結婚まで駄目だと言う。打つ手なしだろ」

沙織「だから別れて新しい女性を探したい、という事ですかな」

京介「聞こえは悪いが……まあ、そう言う事だ」

黒猫「その、京介の彼女は、こ、行為自体を嫌がっている訳ではないのでしょう?」

京介「あー、どうなんだろうな。でもあやせの言ってる事を振り返ると嫌がってる感じではない、かな」

別れを切り出した時にあやせから迫られたのは別だよな。平静では無かったし。

京介「きっとあやせに取っては結婚=子どもを作るって事なんだろう。もしかしたら避妊すら拒否されるかもしれん」

黒猫「つまり、結婚まで京介のせ、性欲を何とかすれば良いのではないかしら」

なんでこいつらとこんな生々しい話をしないといけないんだろうな……。

桐乃「でも京介変態だし、結婚まで何年も我慢し続けるなんて無理っしょー」

黒猫「例えば、例えばよ。京介がそういう気分になった時に、他の人が相手をすれば……わ、わ……しとか」

京介「え、何だって?」

顔を真っ赤にしてまで言うことか。聞こえなかったけどね!
そもそも黒猫じゃそういうの無理だろ? 聞こえなかったけどね!!

黒猫「……最悪だわ……なんで私がこんな……」

ブツブツ言いながら黒猫は布団に潜り込んでしまった。
ふと桐乃と沙織に視線を向けると慌てて目を逸らされた。


沙織「京介氏に我慢をして貰うというのはあまり現実的ではござらんな!」

桐乃「そ、そうよね! 変態だもんね!」

場の空気を変えるように殊更大きな声を出す二人。大声で変態とか言うな。

沙織「しかし困りましたな。あやせ殿は貞淑な方。それに結婚まで綺麗な身体でいたいという気持ちは現代日本に於いて貴重でござる。その考えを変えさせるというのは困難を極めるかと」

むむむ、と桐乃が腕を組んで唸っている。
と思いきや妙案が浮かんだようで、とても良い笑顔で次のように仰った。

桐乃「あ、こういうのはどうかな。あたしの持ってる純愛系のエロゲーをあやせにプレイして貰うの。エッチがとても素晴らしい物だって思って貰えるかも!」

……は?

京介「いや、何言ってんのお前。あやせがそんなのプレイする訳ないだろ」

桐乃「そこはあんたが口八丁手八丁で丸め込むのよ。彼氏なんだしイケるイケる」

京介「え、もしかして俺が貸すの?」

桐乃「当たり前でしょ?」

京介「お前の持ち物ならお前が渡せよ。あやせだぞ、下手すると俺が通報されかねん」

桐乃「以前よりは受け入れるようになってくれてるから平気だって! それにあたし嫌われたくないしー」

京介「俺なら嫌われても良いってのかよ……」

桐乃「あれあれー? 別れたい相手なら嫌われてもむしろどんと来いじゃない?www」

京介「ぐ……」

沙織「やって損無し。そうと決まれば善は急げでござるな。早速きりりん氏の家に向かうでござるよ」

京介「なあ、せめてエロゲーじゃなくてギャルゲーにしないか?」

桐乃「はあ? エロシーンが無いと意味ないのに何言ってんの?」

すごくアホの子を見る目でそう言われた。納得いかねー。

その後、いつの間にか枕を抱き込んで丸くなって寝ていた黒猫を起こし、三人は出て行った。



ややあって。

桐乃「はいこれ! すっごく面白いんだから!」

とても爽やかな笑顔で兄にエロゲーを渡す妹の図。
えーと「リアル妹がいる大泉君のばあい」か。やっぱり妹物なんだな。

桐乃「最後までちゃんとやってよね。めっちゃ感動するから!」

え、俺もやらないといけないの?

桐乃「本当は妹の友達であやせっぽい攻略キャラがいるのが一番良かったんだけどね。まあ、このゲームにも妹の友達がいるから。良い子だから!」

クルッとパッケージの裏を返す。ああ良かった、エロい絵はあまり載ってない。いや一つでもあるとアウトな気がするが。

桐乃「あ、貸すだけだからね。これ初回版なんだから無くしたり壊したりしたら殺すよ?」

京介「はいはい分かった分かった」

桐乃「いい、ちゃんと最後までプレイしなさいよ。後で感想聞くからね!?」

京介「あー、気が向いたらな」

まだ何か喚いていた気がするが、俺の考えは既に別の所にあった。
一度別れを告げた相手に、どうやってエロゲーを渡せって言うんだ。

このミッションは果てしなく難易度が高い、そう思った。



京介「この栞ちゃんって、何となく桐乃を思い出すな」

ツンツンしていて生意気で兄妹仲はあまり良くなくて、でも心の奥底には兄への秘めた想いが……そんなに似てないな、うん。
大体この兄は俺と違い妹の事をとても大事にしている。
かつて冷戦状態だった我が家とは大違いじゃないか。

ゲームはオーソドックスなアドベンチャーゲームだった。
画面にキャラの立ち絵と背景と文章が表示され、読み進めていくと自分の行動を決める選択肢が出てくる。
それによりストーリーが変化して行き、たまに全画面使った絵、いわゆるエロ絵が描写される。エロくない絵も勿論あるが。

京介「妹の友達って、この美紀って子の事だよな」

ツインテールを大きなリボンでくくっている、いかにも妹! って感じのビジュアルを持つ栞ちゃんと違い、
イケイケで若干派手。エッチな事にも積極的だ。あやせとは大違いだな。

京介「麻衣ちゃん良い子だな……」

THE妹キタ。こんな妹が欲しかったんだよ俺は。
可愛くて健気で甘えん坊で、俺の周りには居ないタイプだ。今時こんな子いるかっ。
あ、ブリジットがいたな。

何だかんだ言いつつゲームを楽しんでいる俺であった。




土曜日。

結局あやせにどう連絡すれば良いのか案が浮かばないまま朝を迎えた。
本当なら今日はあやせとデートだったかも知れない。
そう言えば昨日あやせ来なかったな。てっきり来るとばかり思ってたんだが。

考えていても仕方ない、メールしよう。

京介「『大事な話がある、うちに来てくれ』っと。仰々しいかな」

また別れ話をされると思われたら来ないかも知れない。『大事な』を削っておくか。

ドキドキしながら送信し、ドキドキしながら返信を待ってたらすぐにピロリンとスマホが鳴った。ドキドキしながらメールを開く。

『分かりました。13時頃にお伺いします』

さて、どうなる事やら。



あやせ「こんにちはお兄さん」

京介「ああ、こんにちは。上がってくれ」

現れたあやせに笑顔は無かった。沈痛な面持ちでも無く、とてもフラットな状態に見える。
さすがに今日は買い物袋を持っていなかった。当たり前か。

あやせ「それでお話って何でしょう。この間の続きですか?」

腰を落ち着かせると同時にこれである。表面を取り繕っているだけで、内心焦っているのだろうか。

京介「あー、そうだな。続きと言えば続きなんだが」

キュッとあやせが身体を硬くするのが分かった。
どうしよう、どう切り出せばいい。

京介「えーとだな、あやせにとあるゲームをやって貰いたいんだが……」

あやせ「はい?」

想像もしてなかったんだろうな、こんな事を言われるなんて。
キョトンとした顔をしている。ああ可愛いなぁ。


あやせ「今このタイミングでゲーム? 意味が分かりません」

京介「そうだろうな。俺も分からん」

あやせ「……もしかして、昨日桐乃や沙織さんたちが来ていた事と関係があるんですか」

京介「え゜」

いやいや何で知ってるんだよ。え、盗聴でもされてるの?
あー、きっとアレだよね。うちの前まで来てたんだけど三人を見掛けて引き返したんだよね、そっかあ。

あやせ「分かりました。他ならぬお兄さんの頼みですから、彼女として聞かない訳にはいきません」

京介「……おう」

咄嗟に『彼女』の部分を否定してしまいそうになったが堪えた。

立ち上がり、机の引き出しに隠していた「リアル妹がいる大泉くんのばあい」を取り出す。

京介「これなんだが」

あやせ「はあ」

パッケージを手に取り、繁々と眺めるあやせ。変態と罵られるか通報されるか、さあどっちだ。

あやせ「可愛い絵柄ですけど、これってエッチなゲームですよね?」

京介「ああ、まあ、そうかな」

あやせ「そうですか」

京介「その、嫌なら良いんだぞ。そりゃ嫌だよな、すまん」

あやせ「構いません。桐乃が普段どんなゲームをやっているのか気になっていましたし、丁度良い機会です」

あれえ、予想と違う反応が来た。

あやせ「でもわたしの家ではこんなゲームをする事はできません」

ん?

あやせ「なのでお兄さん、ここでやらせてください」

んん?

あやせ「その、お兄さんと一緒ならエッチなゲームでも耐えられると思うんです」

京介「えーっと、あやせさん?」

あやせ「いいですよね?」

ニッコリ、と今日初めての笑顔を浮かべる。

あやせ「いいですよね」

京介「はい……」



かくして我が家で、なぜか女の子と一緒にエロゲーをプレイするという事態に相成った。
かつて桐乃に無理やりしすしすをやらされた過去が思い起こされる。

タイトル画面に隠された秘密があるため、あらかじめセーブデータは削除しておいた。

あやせは真面目に文章を読み進めている。そっと横顔を覗くとその表情は真剣その物だ。
桐乃経由で俺から託されたゲームだから、そこに込められた意味を読み取ろうと必死なのかも知れない。

やがて、最初の選択肢に当たる。
栞ちゃんがおしっこしてる最中にトイレに入ってしまい、その場から立ち去るか観察を続けるかという二択だ。

あやせ「……」

あやせの手は完全に止まっている。怖くて顔を見ることが出来ない。

あやせ「お兄さん」

京介「は、はいっ!」

あやせ「これはどうすれば良いんですか?」

京介「はっ、好きな方を選べば良いと思われます、サー!」

あやせ「何ですかそれ……」

あやせ「これって、選んだ方で話の内容が変わるんですよね?」

京介「そうなるかな」

あやせ「どちらを選んだら栞ちゃんの話になるんですか?」

え、栞狙いなの?

あやせ「だってこの子、ちょっと桐乃みたいだから」

何とも反応に困ること言ってくる。

京介「えーとな、栞ちゃんのシナリオにはここからじゃ行けないんだ」

あやせ「そうなんですか?」

京介「ああ、一度ゲームをクリアして、最初からやり直すと栞ちゃんのシナリオに入れるようになる」

あやせ「詳しいんですね……」

昨晩の内にフルコンプしたからな!

あやせ「ではこのまま最後までやってみます」

京介「そうか」

あやせ「はい。それで、ここはどちらを選べば良いんですか?」

京介「どっちでも良いッス!」

あやせ「だから何ですかそれ……」

言いながらマウスを動かすあやせ。その後しばらく沈黙が続いた。


あやせ「『兄の童貞は妹のもの』」

京介「ゲームの話だからな!?」

ストーリーは予想通り麻衣シナリオへと分岐した。
そしてエッチシーンへ。

あやせ「……」

麻衣ちゃんの嬌声が響く中、ただ無言でマウスをクリックしているあやせさんが怖いです。
と思いきや、主人公のペニスを麻衣ちゃんが取り出した絵が表示された時に、その手が止まる。

あやせ「モザイクがかかっていてよく分かりません」

京介「そうしないと販売できないからな」

あやせ「そうなんですか」

そのままゲームは進み、挿入シーンへ。だがあやせの手が止まる事は無かった。
ゲーム内では結ばれた二人が幸せそうにしている。

果たしてこんな事であやせが考えを改めるようになるんだろうか?


やがて物語は佳境を迎えていた。麻衣ちゃんが帰るシーンだ。
カチッカチッとクリック音が続く。
俺は泣きそうになっていたが、あやせは最後まで冷静だった。

スタッフロールを終え、タイトル画面に戻る。

あやせ「麻衣ちゃんの話はこれで終わりですか? 続きはないんですか?」

京介「あー」

あやせ「あるんですか?」

答えづらい事を聞いてくる。

京介「栞ちゃんのシナリオをやれば分かるよ」

あやせ「そうですか」

と言う訳で、今度は栞シナリオをスタート。
最初っからクライマックスだ。

ネタバレ全開なので詳細は伏せるが、あやせは食い入るように画面を見つめながらクリックしていく。


あやせ「にゅるにゅる……れろんれろん……」

栞ちゃんが言うキスの感想をオウム返しに呟いてる。
チラリとあやせを横目で見ると、バッチリ目が合ってしまった。慌てて逸らされる。

反応が薄いのが気になっていたが、あやせにも何か感じ入る物があったのかも知れないな。

そしてエピローグを経てタイトル画面へ。
鮮烈なソレにガツンと殴られるような衝撃を受ける。ああ、何度見ても感動する。

あやせ「……」

あやせ「あの、続きは無いんですか?」

京介「あとは美紀ちゃんのシナリオだけど、繋がりは全くないな」

あやせ「涼さんは優しいから、麦わら帽子を拾ってくれます。そこから続く話も無いんですか!?」

思った以上に喰いついてきた。実は相当のめり込んでいたんじゃないか?

京介「俺もそう思って調べてみたんだが、これ結構前の作品みたいで、続編とかは絶望的らしい」

あやせ「そうなんですか……」

ガッカリしてるなぁ。そんなに気に入ったのならプレイして貰った甲斐もあるってもんだ。選んだのは桐乃だけどな!

京介「疲れたろ、お茶淹れるから休憩しよう」

あやせ「あ、すみません。お言葉に甘えさせて貰います」

言いながらあやせは机から離れ、定位置となっている自分のクッションに移動した。


京介「どうだった?」

お茶を飲み一息ついた所で尋ねてみる。

あやせ「そうですね、とても面白かったと思います。音楽と声と絵が付くだけで、こんなにも臨場感が得られるんだと感動しました。これは小説には無い物だと思います」

京介「そうか」

あやせ「桐乃がハマるのも少しは理解できたつもりです」

桐乃がハマってるのは別の理由からな気がするが、指摘する必要もないか。

あやせ「ただ、エッチなシーンは必要だったかと言われると、ちょっと」

京介「いわゆる恋愛ゲームだからな。セックス抜きには語れないって事だろう」

あやせ「……でもこれって高校生がやっちゃダメなゲームですよね?」

京介「むう」

あやせ「年齢制限が付いてるのって、そういう意味だと思います」

京介「ならあやせは、世の学生カップルがエッチしてる事については」

あやせ「早すぎると思います」

京介「そうか……」

やはりこの程度であやせの考えを揺るがす事は出来ないよな。うん、分かってた。

あやせ「でも」

あやせ「好きな人と結ばれるというのは、とても幸せな事だと気付かされました」

あやせ「麻衣ちゃんも栞ちゃんも、すごく幸せそうでした。作り物だとは分かっていても、そこには真実があると思うんです」

京介「あやせ」

あやせ「なぜお兄さんがわたしにこのゲームを薦めたのか、何となく分かりました」

京介「そうか」


あやせ「わたしはお兄さんと別れたくありません。でも、まだ身体を重ねる覚悟が出来ません……」

あやせ「だからもう少し時間をくれませんか? 覚悟を決める時間を」

京介「その、無理しなくてもいいんだぞ?」

あやせ「無理なんかじゃありません! 今、わたしの裡にお兄さんに抱かれたいっていう確かな想いがあります!」

あやせ「でもそれはとても小さくて、わたしの気持ちに追い付いてないんです」

あやせ「だから時間をください。この想いを育むだけの時間を……」

正直、あやせがここまで言ってくれるとは思ってなかった。
感動という言葉では表現仕切れない強烈な感情が溢れてくる。

京介「ありがとう。あやせにそこまで言われちゃ、俺も待つしかないよな。彼氏として!」

あやせ「お兄さん!」

パァ、と顔を輝かせるあやせ。うん、やっぱり笑顔が良いに決まっている。
と思ったら次の瞬間泣き始めた。

あやせ「うっ、うう……。良かった……ありがとうございます」

京介「ごめんな、ここしばらく酷い事ばかりしてたな俺。辛かったろ?」

あやせ「いいえ、わたしが悪かったんです、だから良いんです。わたしこそごめんなさい」

やばい、あやせが愛おしすぎて今すぐ押し倒したい!
突き動かされる衝動に身を任せてしまいそうになるのを必死で抑える。耐えろ俺!!



あやせ「ごめんなさい、最近泣いてばかりですね、わたし」

テヘッと可愛らしく舌を出すあやせ。ラブリー。

あやせ「さっきは恥ずかしい事を言っちゃいましたし……」

京介「泣いているあやせも、ポエマーなあやせもどちらも可愛いよ」

あやせ「ま、またお兄さんはすぐそんな事を言うんですから!」

京介「真っ赤になっているのも可愛い」

あやせ「もう! 知りません!」

京介「プイッと横を向いてるのも可愛い」

あやせ「うう……お兄さんだって、その、格好良いですよ、とても」

京介「……そうかい」

あやせ「赤くなっていても素敵です」

京介「もういい、ストップ! 俺が悪かった!」

ふふふ、と楽しげに笑うあやせ。さっきまで俺がこの笑顔を奪っていたんだよな……。
ふう、と息を吐く。

京介「あやせ、改めて言わせてくれ。今回の件は俺が全面的に悪かった、許して欲しい」

あやせ「もう良いですよ。わたしも悪かったのでお互い様って事にしましょう」

京介「そうはいかない。俺は焦ってたんだ、早く童貞卒業したいって。だからあやせの気持ちも考えずに突っ走ってしまった」

京介「口では性欲だけじゃない、とか綺麗事を言いながら、結局エッチしたかっただけなんだよ」

京介「俺は最低なヤツだ。だけどあやせが大好きだから別れたくない」

京介「だから身勝手だとは思うが、許して欲しい。そしてまた以前のように仲良くしたい」

あやせ「お兄さん……」

あやせがスッと近付いてくる。その両腕が優しく俺の背中に回され、

あやせ「ん……」

京介「!」

一瞬だけ触れ合った。

京介「え、今」

あやせ「許します! だってわたしはお兄さんが大好きなんですから!」

京介「あ、ありがとう」

あやせ「だけどこれ以上はまだダメですよ! ふふふ」

ウインクしつつ人差し指を立て口に添えるあやせ。さすがモデルさん、絵になる。そしてムラムラする。

京介「あやせえええーーー!!」

あやせ「きゃあっ」



このあと滅茶苦茶セックスした。



京介「……という夢を見たんだ」

桐乃「はああああああああ!?」

桐乃「え、何? 夢オチ? 何それふざけてんの!?」

桐乃「ちょっと、どこからどこまでが夢なの? 何なの、バカなの? 死ぬの?」

京介「まあ落ち着けマイシスター。最後の襲った段だけ冗談だ。夢でもなんでもない」

桐乃「あんたあたしをからかってバカにしてるだけじゃないの!? ぶっ飛ばすわよ!」

京介「いや、これでも桐乃には感謝してるんだ。お前のアイディアがなければあやせとは和解できなかったと思う。だからその拳を抑えてくれ」

桐乃「チッ」

京介「ありがとうな桐乃。お前と大泉家のおかげだよ」

桐乃「ふん、言ったでしょ神ゲーだって」

いや言ってない。

桐乃「そう言えばあんたからはまだ感想を聞いてなかったわね。で、どうだった?w」

京介「今度あやせも交えてゆっくり語らないか? あやせもあのゲーム随分気に入ってたみたいだし」

桐乃「今日学校でたっくさん話をしたから大丈夫よ」

京介「高校でエロゲーの話なんてするなよ……」

桐乃「うっさい。で、で、誰がお気に入り? やっぱり麻衣ちゃん? 可愛いよね~~」

京介「栞ちゃん」

桐乃「ん?」

京介「栞ちゃんかな。やっぱメインヒロインだけあってしっかりしてる」

桐乃「はあ? メインヒロインは麻衣ちゃんでしょ、あんたどこ見てたのよ!」

京介「お前こそ分かってない。調べたんだが、シナリオライターの人は妹物の第一人者みたいじゃないか」

京介「その人が描く実妹ストーリーこそ本物! 麻衣ちゃんも素晴らしかったけど栞ちゃんには勝てないな!」

桐乃「え、なに、あんたそういう趣味だったの? 血の繋がった妹に欲情するとかマジキモいんですケド」

京介「ちげーよ! 何でお前が引いてるんだよ! そもそもお前が薦めてきたゲームじゃねーか!」

桐乃「ちょっと近寄らないで欲しいんですケド……」

京介「ばっ、誰がお前みたいなやつに欲情するかよ!」

桐乃「はあ!? あたしみたいな可憐な乙女捕まえて何言ってんの!?」

京介「ふっ、乙女なんてどこに居るのかね~?」

桐乃「うぐぐぐ、ムカつく……!」


京介「分かったならお子ちゃまは帰れ。あやせの爪の垢でも煎じて飲ませて貰うんだな」

桐乃「言うに事欠いて、カリスマモデルでもあり現役JKのあたしにお子ちゃまとか!」

京介「自分でカリスマとか~」

桐乃「死ねっ!」

ブンッと桐乃のキックが飛んでくる。が、予測済みだったので華麗に回避。

桐乃「避けるなっ! 当たれっ死ねっ!」

京介「もう俺だけの身体じゃないんだ、怪我する訳にはいかないな!」

桐乃「こ……のおっ!」

怒りに任せて思い切り拳を振り上げる桐乃。
しかし勢いに体勢が追い付かず、拳を振り下ろしたままにたたらを踏む。

桐乃「きゃあっ」

京介「桐乃!」

こけそうになった桐乃を抱き止める。相変わらず危なっかしいヤツだ。

京介「全く、そんなんだから何時まで経ってもお子様なんだよ」

桐乃「……もう子どもじゃない」

京介「はいはい、子どもはみんなそう言うんだよ」

ポンポンと頭を叩いてやる。

桐乃「子ども扱いすんなっ」

言うと、桐乃はギュウッと身体を押し付けてきた。とても柔らかいです。

桐乃「あたし、もう高校生だよ。身体だって前より成長してるし、えと、胸だって大きくなってるし!」

なぜ潤んだ瞳で見上げてくる。やめろ、俺は現実の妹に萌えるような男じゃない。多分。

桐乃「前より女っぽくなってるでしょ」

京介「あ、ああ……そうかもな」

桐乃「ねえ京介……。あたしとあやせ、同い年なんだよ?」

京介「知ってる」

桐乃「あたしだってエッチできるんだよ?」

京介「……そ、そうか。成長したな……」

桐乃「京介とあやせがエッチするかも、って思ったらすごく切なくなったんだよ?」

え、何この流れ。てかなんでこいつこんなにしおらしいの?

京介「ああ、知人の生々しい話ってキツイよな、うん分かる分かる」

桐乃「こっち見て」

京介「拒否する」

桐乃「京介」

やめろヤバいどうしようあやせを裏切れないああしかし身体は正直だ畜生!

桐乃「腰に硬い物が当たってるんだけど」

京介「」

桐乃「触ってもいい……よね?」



ピンポーン


桐乃「」

京介「」

『あれ、お留守かな?』

この声は……

ガチャ

『あ、鍵開いてる。開けちゃってもいいのかな』

あやせ「こんにちは、お兄さん居ますかーー……」

あやせの眼前に広がるのは、隙間0の密着状態で抱き合ってる男女。つまり俺と桐乃。

あやせ「えっと、桐乃?」

京介「ち、違うんだあやせ、誤解だ!!」

桐乃「そう、そうよ、誤解だから!!」

あやせ「はあ」

まだ理解出来ていないのだろう、呆けた返事をするあやせ。

京介「桐乃のヤツが転んでさ、咄嗟に抱きとめただけなんだよ! なっ桐乃!」

桐乃「そそそう、そうなの! それ、それだから!」

あやせ「はあ」

あやせ「えっと、帰った方が良い、ですよね……?」

京介「待ってえええー、帰らないでええええ!!」

桐乃「良いから! 居て良いから!」


あやせ「……何時まで抱き合ってるんですか?」

京介桐乃「!!」

シュバッと離れる俺たち。
お互いに顔が真っ赤なのはあやせに見付かった焦りからだろうか。いや考えてはいけない。

あやせ「浮気ですかお兄さん。よりによって桐乃と……」

桐乃「ち、違っ」

あやせ「この間やったゲームに実の妹が出てたのは、この布石だったんですね」

京介「誤解だあーーー!」

あやせ「わたしでさえ、まだあんなにしっかりと抱き締めて貰った事が無いのに……」

京介「話をしよう、な、あやせ。話せば分かる」

あやせ「浮気をした男の人ってみんなそう言うんですよね」

桐乃「落ち着いてあやせ。ただの勘違いだって」

あやせ「そうですよね、桐乃とても可愛いし。わたしより妹の方が良いんですよね、栞ちゃんみたいに」

京介「大丈夫だ、俺はあやせの方が好きだ!!」

あやせ「ありがとうございます。でもだからって許しません」

京介「だから誤解だ! 俺は浮気なんてしてないっ」

あやせ「本当ですか?」

京介「ああ!」

あやせ「桐乃ってとっても柔らかかったでしょう?」

京介「ああ!」

あやせ「良い匂いもしますよね」

京介「ああ!」

桐乃「ちょ」

あやせ「本当はドキドキしてませんでした?」

京介「少し!」

あやせ「お兄さんは正直ですね」

京介「ありがとう!」

あやせ「…………ちょん切りますよ」

京介「ごめんなさいごめんなさい」

俺の数少ない必殺技の一つ、その場ジャンピング土下座を披露する。必ず殺すと書いて必殺、主に俺のプライドが死ぬ。


あやせ「はぁ、もういいです。折角気合いを入れて来たのに、なんだか気が抜けました」

桐乃「あやせ、あのね。本当に違うから」

あやせ「桐乃」

桐乃「は、はい……」

あやせ「今度から気を付けてね?」

床に額を擦り付けてる俺でも分かる、今あやせはとてもニッコリ笑っているに違いない。

桐乃「キヲツケマス……」

あやせ「じゃあ、気を付けて帰ってね」

桐乃「え? あ、はい。帰ります……」

あやせ「また明日、学校で」

桐乃「うん、じゃあね」

パタン、と扉が閉じる音がする。
スタスタと足音が近付いて、俺のすぐ傍で止まった。

あやせ「妹に手を出すスケベで変態なお兄さんには罰が必要ですね」

ああ、今あやせはどんな表情で俺を見下ろしているのだろう。とてもガクブルです。


あやせ「立ってください」

無言で立ち上がる。恐る恐るあやせの顔を窺うと、そこには上気した肌が……え?

あやせ「ん……」

そのまま身を任せてくる。唇と唇の距離が一つになる。
俺からは動けない、これは罰だから。

あやせ「ふう、これで二回目ですね」

あやせ「さっきはショックでした。お兄さんに無理やりキスを迫られた時よりも、別れを切り出された時よりも」

あやせ「桐乃は素敵ですから。わたしじゃ桐乃相手に勝ち目ないって」

京介「そ」

そんな事は無い、と言おうとしたら再びあやせに口を塞がれた。短いキス。

あやせ「これで三回目です。お兄さんが今まで誰と何回キスをしたかは知りませんけど、これできっとわたしの方が多いですよね」

あやせ「黒猫さんよりも……」

京介「お前だけだよ」

あやせ「え?」

京介「昨日のがファーストキスだ。だからキスはあやせ、お前としかしたことない」

あやせ「ふふ、そうなんですか。じゃあファーストキス同士だったんですね。素敵です、うふふ」

京介「ああ、安心してくれ」

あやせ「でもハグは桐乃が先ですね」

京介「あ、あれは」

あやせ「良いです、浮気は男の甲斐性とも言いますから、許します」

あやせ「でもいくら桐乃が相手でもキス以上は絶対ダメです!」

京介「しねーよ」

あやせ「本当ですか? お兄さんスケベだから信用できません」

京介「面目次第もございません」

あやせ「だから……」



あやせ「お兄さん、わたしに溺れてください」

あやせ「わたしとお兄さん、二人で気持ち良くなりましょう?」

京介「それって」

あやせ「はい、今日は覚悟してここに来ました」

あやせ「わたしを愛してください!」

発作的にあやせをかき抱く。スッポリとその細見の身体が腕に収まる。

京介「あやせ、嬉しいよ」

あやせ「わたしもです」

そのまま、ゆっくりと口づけた。

あやせ「お兄さんからのキスは初めてですね」

京介「これからいくらでもしてやるさ」






ふと微睡から覚醒する。
横を見ると、最愛の彼女が微笑をたたえて俺を見詰めていた。

あやせ「おはようございます」

京介「おはよう」

時計を見ると夜というには若干早い時間帯。

京介「悪い、ちょっと寝てたみたいだな」

あやせ「とても可愛い寝顔でした」

うわ、恥ずかしい。

京介「本当はもっとゆっくりしたいんだが、明日も学校あるよな?」

あやせ「……そうですね」

京介「そんな顔しないでくれ。いくらでも会えるんだから」

あやせ「折角繋がりあえたんだから、もっと一緒に居たいです……。でも、今日はこれで帰ります」

京介「あっと、その前にシャワーでも浴びていった方がいいと思うぞ」

あやせ「あっ……はい……」

あやせ「では、ちょっと失礼して」

そっとベッドから抜け出して、服を手に洗面所に歩いて行くあやせ。
情事のあと着替えずにいたから当然裸だ。

後ろ姿の、つまりお尻にどうしても目が惹きつけられる。
自重しろ俺の息子。

この間に俺も着替えておこう。シャワーはあやせを送った後でいい。



あやせ「お待たせしました。あれ、京介さんもう着替えたんですか」

京介「ああ、あやせを送った後でも入るよ」

あやせ「ありがとうございます」

京介「いいって。それより、その、大丈夫か?」

あやせ「えと、何がでしょう?」

京介「女の子って最初は痛いって言うだろ? 血も出たし」

あやせ「とても優しくして貰えたから大丈夫です。痛みはもう引きました」

京介「そうか、なら良いんだけど」

あやせ「まだここに違和感はありますけど、それもおに、京介さんに刻まれた証だと思えば」

そっと下腹部に手をあてるあやせ。身体を重ねて尚、愛しさが増してくる。

京介「あやせはポエマーだな」

あやせ「女の子はいつだって詩人なんです」

とか意味不明な事を言ってる。浮かれてるのはお互い様だな。

京介「もう女の子、じゃないだろ?」

あやせ「……そうですね、京介さんに女にして貰いました。わたし、今日の事忘れませんから」

京介「俺もだ」

あやせ「幸せです」

京介「俺の方が幸せだ。あやせ、愛してる」

あやせ「はい、わたしも愛してます、京介さん!」


とりあえずここまで。あと半分くらいあります。

不慣れなものですから、不備や設定におかしな点などがあれば遠慮なく指摘してください。

では今日は寝ます、お休みなさい。


こんばんは、後半戦という名の蛇足を投下していきます。

なお、登場人物の口調やモノローグが怪しかったり、
物語優先のせいで言動が捻じ曲げられていると感じられるかもしれません。

全て私の技量不足のせいなのですが、生暖かい目で見守って頂ければ幸いです。


後日談


高校の教室にて。

桐乃「あやせ、昨日はごめんね。あいつとは本当に何でもないから」

あやせ「大丈夫だよ桐乃、もう怒ってないから。メールでもたくさん謝ってもらったし」

桐乃「うん、でも顔を見てちゃんと謝っておきたかったから」

あやせ「桐乃は優しいね」

桐乃「そんな事ないって。んで、あれからどうなったの?」

あやせ「どう、って…………別に、何も無かったよ?」

桐乃「んー?」

あやせ「えっと、何かな?」

桐乃「あやせ昨日と違うんだよねー。うーん、柔らかくなったと言うか」

あやせ「気のせいだと、思うよ」

桐乃「そっか」

桐乃「あ、そうだ。折角だし他のゲームもやらない? あたしのお勧めはね~」

あやせ「桐乃、あまりいかがわしいゲームばかりやるのもどうかと思うよ」

桐乃「あやせも大泉くん気に入ってたでしょ? 他にも色々あるよ」

あやせ「う、うーん」

桐乃「どうせならあいつも入れて三人でやってみる?w」

あやせ「桐乃、京介さんにはわたしが居るんだから、あまり変なゲームを教えないで」

桐乃「ん?」

あやせ「ん?」

桐乃「ううん、きっと聞き間違いだと思う」

あやせ「うん」


桐乃「でもそっか、あやせから見れば、あいつがエロゲーやってるのって浮気されてるようなもんか」

あやせ「京介さんの事は信じてるけど、やっぱりちょっと複雑かな」

桐乃「んん?」

あやせ「?」

桐乃「……」

桐乃「ねえ、やっぱり昨日あたしが帰った後に何かあったんじゃないの?」

あやせ「そんな事ないって。京介さんはとっても優しくしてくれたよ?」




桐乃「と言うやり取りがありましてー」

京介「おい」

桐乃「ここに裁判を開廷したいと思います」

京介「おい」

沙織「なるほどなるほど、いきなり呼び方が京介さん、に変わったでござるか」

黒猫「生意気ね、京介を京介と呼んでいいのは私だけよ」

桐乃「異議あり! あたしも京介と呼ぶし!」

沙織「異議を認めるでござる」

桐乃「っしゃ」

黒猫「その勝ち誇った顔を辞めなさい」

京介「おい」

桐乃「うるさいわね、何よ」

京介「それは俺の台詞だ。なんでお前らここに集まってる。あとなんで俺は縛られてるんだ」

桐乃「決まってるでしょ。昨日あやせに何をしたの、さっさと白状しなさい!」

京介「黙秘する」

沙織「黙秘権の行使を認めません。でござる」

京介「裁判の体を為した私刑じゃねーか!」

黒猫「被告人に人権は無いわ。さっさと真実を語りなさい」

京介「……黙秘する」

黒猫「そう、言えないような事を彼女にしたのね。汚らわしい」

桐乃「あたしが帰った時あやせ物凄く怒ってたのに、なんで急に仲良くなってるのよ」

京介「あやせとの事を喋るなら、その前にお前とした事も言わなきゃならないけどな」

桐乃「はあ!? あんたバッカじゃないの!? 言ったらマジ殺すわよ!!」

沙織「詳しく」

黒猫「……どういう事かしら?」

京介「ああ、実はな」

桐乃「滅殺!!」



桐乃「さて、このバカは黙ったままだし、どうしよう」

黒猫「貴方、もう少し手加減を覚えた方がいいのではないかしら」

沙織「大体想像は付きますわ。お二人とも本当は気付いていらっしゃるのではないですか?」

桐乃黒猫「……」

沙織「京介さんは気絶したまま。それに復活しても喋ってくれないと思われますので、ここで取るべき手段は一つしかありません」

桐乃「それは?」

沙織「ずばり、家探しでござる!」

黒猫「ふ、我が力を持ってすれば、隠された真実を闇より手繰り寄せるなど赤子の手を捻るようなもの」

桐乃「そういうの良いから。探すわよ!」



沙織「血の跡が残ったシーツ、何かを拭き取った大量のティッシュ、封が切られたコンドームの袋」

黒猫「」

桐乃「」

沙織「思ったよりも生々しかったでござるなー」

黒猫「」

桐乃「」

沙織「いやー、しかし京介氏も隅に置けないでござるな。あれからまだ数日しか経ってないのに、もうここまで進展してるとは」

黒猫「ふ、ふふふ、不潔よ……」

桐乃「京介とあやせが……京介が……あやせに……」

沙織「何にしても目出度いでござるな。恐るべきはエロゲーの持つ力なり」

桐乃「沙織あんた良く冷静でいられるわね」

沙織「拙者これでも花も恥じらう乙女。内心ドキバクでござるが、三人揃って放心してしまうと進行が止まる故」

黒猫「本音を言いなさい」

沙織「今すぐここから逃げ出したいくらいに恥ずかしいですわ……」

桐乃「はぁ、もう起こってしまった事はしょうがない。あたし達が焚き付けた部分もあるし」

黒猫「これもまた運命の理……」

桐乃「親友の門出を祝うしかないっしょ!」

黒猫「そうね、悔しいけれど私は既に環から外れた身。どうしようも無いわ」

沙織「二人とも、ティッシュをクンカクンカしながら言っても格好付かないでござるよ?」

桐乃「それもそうか。使用済みのコンドームを探す方が先よね!」

黒猫「乗ったわ」

沙織「おうふ」




京介「……はっ」

気が付くと部屋には薄闇が射していた。あのバカ、どんだけ全力で俺を殴ったんだ。
あーくそ、まだ縛られたまんまじゃねーか。これ鬱血してるんじゃないか?

京介「おい、誰か居ないのか? 桐乃ー、黒猫ー」

桐乃黒猫沙織「」

京介「おわっ」

京介「何だ居たんなら返事しろよ。ていうか、いい加減これほどいてくれ」

桐乃「ドロッとしてペチャっとして……」

黒猫「呪いが呪いが……」

沙織「」

何なんだ。どうも様子がおかしい。俺が気絶してる間に何が起こったんだ……って。

使用済みコンドーム「やあ」

京介「何てこった」

どうしたものか。やはり昨晩の内に全部処理しておくべきだったか。こうなったら後の祭りだけどな。


ピンポーン


四人「ビクッ」

『京介さーん、わたしですよー』

あやせさんまた絶妙なタイミングですね!
いや落ち着け、俺は今回完全に被害者だ。何も悪い事してない、うんオッケー。

京介「開いてるから勝手に入ってくれ。あと助けてくれ!」

あやせ「意味がよく分からないですけど、お邪魔しまーす」

桐乃「こんばんは……」

黒猫「ふん」

沙織「お邪魔してるでござる」

京介「ヘルプミー」


あやせ「……一体何ですか。なんで京介さんは椅子に縛られてるんですか? はっ、もしかしてそういう趣味ですか? やっぱり変態ですね」

京介「ちげーよ! いいからほどいてくれ!」

沙織「ああ、申し訳ござらん。紐は拙者がほどくから、あやせ殿はゆっくりくつろがれるとよろしいかと」

あやせ「……」

あやせの目が怖い!

あやせ「なんで京介さんの部屋に皆さんが集まってるんですか? 早速浮気ですか?」

京介「そんな訳ないだろう。俺はあやせ一筋だぜ!」

あやせ「冗談です」

いや冗談に聞こえなかったですよ?

あやせ「ねえ桐乃、ここで何をしてたの? 何で京介さんを縛っ……て……」

使用済みコンドーム「やあ」

あやせ「」

あやせはコンドームに視線を乗せたまま固まっている。そりゃそうか、昨日の今日で恥ずかしくない訳がない。

桐乃「あ、あはは。えっとね、あやせ」

あやせ「うっ……ううう……」

京介「あ、あやせ!?」

いきなりあやせは泣き出した。それはそうだ、睦言をつまびらかにされて、それを親友に見られて恥ずかしくないのがおかしい。

桐乃「ご、ごめんあやせ! あたしそんなつもりじゃ無くて……」

するとあやせはキッと俺を睨みつけた。あれえ?

あやせ「昨日あんなにわたしを愛してくれたのに! なんでもうエッチしてるんですか!!」

京介「???」

あやせ「酷いです……今までは冗談の延長で済んでたのに、これじゃ本当の浮気じゃないですかあ……」

京介「あの、あやせさん?」

ていうか沙織、早くほどいてくれよ! 縛られたままじゃ慰めもできない。
桐乃も黒猫も沙織もポカーンとして動きが止まっている。


あやせ「桐乃、昨日のは何でもないって言ってたよね」

桐乃「う、うん、そうだよ!」

あやせ「じゃあこれは何なのよ!!」

ビシッと使用済みコンドームを指さすあやせ。

あやせ「京介さんを動けないようにして無理やり襲ったの? 四人で同時にエッチしたの!?」

桐乃「そ、そんな訳ないじゃん!」

あやせ「じゃあ別々にエッチしたの!?」

桐乃「落ち着いてあやせ、何もしてないから」

あやせ「嘘吐かないで!」

あー、そういう事か。なるほど、確かに紛らわしいかも知れない。

京介「あやせ、よく見ろ。それは俺たちが使ったやつだ」

あやせ「俺たち? 俺たちって誰と誰ですか!?」

京介「俺と、あやせだ」

あやせ「……?」

京介「俺とあやせが昨日使ったやつだよ。それをこいつらがゴミ箱から引っ張り出しただけだ」

あやせ「…………」

あやせ「そうなの? 桐乃」

桐乃「そ、そうだよ! あたしがこんなやつとエッチする訳ないじゃん!」

黒猫「全く勘違いも甚だしいわね」

沙織「ござるござる」

あやせ「う……」

あやせ「うわああああああああん」

叫ぶやいなや、脱兎の如く部屋から飛び出ていくあやせ。

京介「あやせ!」

こてん。そうだった俺動けないじゃん!

京介「あやせーーー、カムバーーーーーッ!!」

桐乃「あたしが行くっ」

黒猫「はあ、面倒臭い女ね」

それには深く同意するが、受け入れるのが男の矜持と思い黙っておく事にした。
あとお前が言うな。




あやせ「ご迷惑をおかけしました」

沙織「いやいや、拙者たちもちと調子に乗りすぎていたでござる」

桐乃「ごめんね、あやせ」

黒猫「ふん」

京介「もうこんな事はするなよ?」

桐乃「うっさい死ね!」

酷くね?

あやせ「もう、桐乃、すごい恥ずかしかったんだからね」

桐乃「ごめんごめん、あやせがこいつに鬼畜な事されてないか心配でさ~」

あやせ「そんな事ない、京介さんすごく優しかったもの」

桐乃「そっか……。うん、そっか。おめでとう!」

あやせ「桐乃……ありがとう」

桐乃「あーあ、あやせに先を越されちゃったかぁ」

あやせ「ふふ、桐乃は素敵なんだから、すぐに良い人が見付かるよ」

京介「なんだ桐乃、お前まだ処」

桐乃「死ねっ!!」

言い終わらない内に神速の右ブローがガードを突き抜けボディにスルッと入ってきた!

黒猫「幾らなんでもデリカシーが無さすぎるわ、当然の結果ね」

あやせ「わたしも今のはフォローできません……」

沙織「京介氏は相変わらずでござるなあ、はっはっは」

桐乃「ふん!」

桐乃「それじゃ帰る。あやせ、そのバカの手当よろしくね」

黒猫「下らない……さようなら」

沙織「まあまあ黒猫氏、そんなに落ち込まずに。このまま残念会にでも行くでござるよ」

黒猫「はっ、私が落ち込んでいるですって? 貴方図体だけじゃなくてその目も」

桐乃「良いからいいから。行こう黒猫。後でたくさん泣こう、ね?」

黒猫「は、離しなさい! わ、私は別に泣いてなんか……いないわよ……」

沙織「それではお邪魔しました。あやせさん、京介さんをよろしくお願いいたしますわ」

桐乃「じゃね~~」

あやせ「皆さん……ありがとうございます」




目が覚めると自室のベッドの上だった。あー、腹が痛ぇ。

あやせ「あ、目が覚めました?」

京介「おう。もしかして看病してくれてたのか? 悪いな」

あやせ「さっきのは京介さんが悪いんですからね」

京介「返す言葉もございません」

あやせ「後で桐乃に謝っておいてくださいね」

京介「そうだな、メールでも送っておくよ」

すっかり日は暮れ、窓の外は暗闇が支配していた。

あやせ「ごめんなさい、今日は用事があって遅れたのでお買い物が出来なかったんです」

京介「いいっていいって、気にすんな」

京介「それよりも悪いな、こんな時間まで。送るよ」

あやせ「ありがとうございます。本当は今日は大事なお話があったんですけど、また明日にしますね」

京介「大事な?」

あやせ「ええ、わたし達の将来に関する事です。ふふ」

……何だろう、嫌な予感しかしない。
いや、俺も男だ! あやせの純潔を奪った以上、腹を括る!

京介「そっか、じゃあ明日の楽しみにしておくよ」

あやせ「はい! あ、まだちょっと傷が残ってるのでエッチはダメですよ?」

駄目かー。そっかー。

あやせ「……キスなら、何時でも大丈夫でっ」

重なる二人の影。顔を離すと、ポーッとしたあやせ。
おっと、俺は紳士だから初体験を済ませたばかりの彼女に無理はさせないぜ。やせ我慢だけど。




『今日は少し遅くなるので、16時頃にうちに来てくれ』

『分かりました。お買い物をしてから伺います』

『桐乃、昨日はデリカシーのないことをして悪かった。お詫びに大学の良いやつを紹介するから許してくれ』

『余計なことすんな! 死ね!』

『そう怒るなって、かなりの優良物件だぞ?』

『それ以上言ったら着拒するからね』

『マジすみませんでした。着拒は勘弁してください <(_ _)>』

『もういいから                                     昨日は二回も殴ってごめん』

『なんだよお前、可愛い所あるじゃないかw』

あれ、次に送ろうとしたメールが返ってくるぞ。
折角あやせの可愛い写真を送ろうと思ったのに。

……受信拒否しやがったな、畜生!




あやせ「京介さん、いい加減にしてください」

京介「はい」

あやせ「もうちょっとデリカシーを学んでください」

京介「はい」

あやせ「桐乃を説得するの大変だったんですよ?」

京介「申し訳ありません」

あやせを通じて何とか桐乃の着信・受信拒否は解除されたものの、変わりにお説教を受けていた。

ちなみに、その後送られてきた桐乃からのメールは簡潔に『バーカ』だった。
ムカついたのでそれに返信はしていない。

あやせ「本当に仕方のない人……あ、ご飯できたので正座崩しても良いですよ」

京介「はい」

あやせ「それはもう良いですから」

苦笑するあやせを見てお許しが貰えたと判断し、足を伸ばす。いててて。

京介「今日も美味そうだな」

あやせ「愛情いっぱい込めました」

京介「空腹と愛情、どちらがより優良なスパイスなんだろうな」

あやせ「わたしとしては愛情に勝って欲しいです」

京介「そうだな、俺たちラブラブだもんな!」

あやせ「ラ……そうですね。ええ。では頂きましょう」

ご飯は勿論美味しかった。食後のデザートにあやせを、と思ったが紳士な俺は自重した。やせ我慢だけど。



京介「さて、大事な話ってなんだ?」

あやせ「はい。えっと」

あやせは軽く深呼吸すると、俺をジッと見据えながらこう言った。

あやせ「わたし、高校辞めて働きます」

……。

んー、ぼくなにをいわれたかわかんない。

京介「ごめんよく聞こえなかった、もう一度」

あやせ「わたし、高校辞めて働きます」

京介「ワンスアゲイン」

あやせ「……高校を退学します。しかる後にモデル業に専念して収入増加を目指します」

京介「は? いや何言ってるんですかあやせさん」

あやせ「本気です」

京介「何のために?」

あやせ「言わないと分かりませんか?」

京介「ああ分かんねーな。ちゃんと言葉に出してくれ」

あやせ「あなたと結婚するためです」

あやせ「わたしはあなたと関係を持ったので、もう結婚を前倒しするしかありません」

あやせ「本来、セ……エッチは子どもを作るための行為です」

あやせ「7年も待てないなら、結婚を早くすればいい、それだけです」

京介「いやいやいや、何でそうなる? ちょっと短慮に過ぎないかそれ」

あやせ「わたしはそういう覚悟を持って、あなたと関係を結びました」

あやせ「京介さんはわたしと結婚したくないんですか?」

京介「結婚はバッチ来いだが、早過ぎるだろ」

あやせ「でも京介さん言ってましたよね、婚約して7年待って、そして結婚するって」

あやせ「わたしは京介さんが他の女性を抱くのが嫌でした。そして京介さんはわたしを抱きたかった」

あやせ「ならもう結婚するしかないじゃないですか」

唖然とする。え、この子の愛重すぎない? いや俺がいい加減なだけなのか?

京介「ちょっと論理が飛躍し過ぎてやしませんかね……」

あやせ「いいえ、一部の隙もない完璧な論理です!」

ドヤァ、という擬音がどこからか聞こえてきた。そのくらい見事なドヤ顔だった。

京介「あやせが前から言ってた覚悟って、俺に抱かれる覚悟じゃなくて、結婚する覚悟?」

あやせ「はい!」

京介「学校辞めて、仕事をする覚悟?」

あやせ「はい!」

いやあ、俺って愛されてるなー。愛っていうか執着、執念だなこれー。

京介「ちょっと落ち着こうな」

あやせ「わたしは冷静ですよ?」



考えろ、考えるんだ俺。なぜこうなった? あやせとセックスしたからか?
いや、あやせと関係を持った以上いつかは結婚するだろうと、そういう覚悟なら俺もしてた。

つまり時期の問題なのか?
あやせを高校中退させてまでするべきものなのか、結婚って。
しかもあやせは自分が働いて稼ぐつもりだ。俺の大学卒業まで待つつもりは無いらしい。

見方を変えると、あやせの人生を犠牲にして結婚という契約に縛り付けるようなもんだ。
子どもが出来たらモデル業なんて無理だろうし、タイミングによっては俺はまだ学生だ。
そういう意味では金銭面での不安が残る。バイトしなきゃな。

結婚は早めにしておいて、子どもは俺が就職するまで待って貰う……駄目だな、あやせは避妊に否定的だ。
避妊を否認する、なんちゃって。

そもそも親をどうやって説得しよう。うちも大概だが新垣家の両親を説得できる気がしない。
最悪駆け落ちか。全てを捨てて新天地での生活ってのも悪くないかもな~。

あやせの人生を大事にするなら、いっそ別れるのも選択としては有りか?
ヤリ捨てするみたいで嫌だな。俺どんだけ無責任だっての。

それにこれだけ俺を愛してくれる女性、もう生涯出会えないかも知れない。
ふと誰かの姿が脳裏をよぎったが、無理やり頭から追い出した。

ああ、あやせが学校辞めるとなると桐乃は激怒するだろうな。
いやこの際桐乃はどうでもいいか。上手く説得できれば強い味方になりそうだな。いや桐乃はどうでもいいか。
親父を説得するのに効果は抜群だ。桐乃はどうでもいいんだってば。

あやせを中退させるくらいなら、俺が大学を辞めてすぐ働いた方がいいんじゃないか。
それだと新垣家を納得させられないかー。高卒の働き口なんてたかが知れてる。
公務員ならいけるかな。地方公務員なら転勤ないし受けだって悪くないだろう。

結婚せずに関係は続けて行き、あやせには未婚の母になって貰う。最悪だ何を考えてるんだ俺は。
でも父親不明の婚外子なら新垣の親だって邪険には出来まい。
落ち着いた頃に誠意をもって当たれば認めてもらえるかも。いや駄目っぽい。
早ければ来年出産、俺の卒業・就職まで丸4年。子どもは三歳くらいか?
女の子だとあやせに似て可愛いんだろうな~。
桐乃とかデレデレだろうな。桐乃はどうでもいいから。



あやせ「落ち着きました?」

京介「大丈夫、俺は極めて冷静だ」

嘘です。生まれて一番頭脳を高速回転させたよ、知恵熱出そうだよ!

京介「今の話、誰かに相談とかしているのか?」

あやせ「いいえ、自分で決めました」

京介「そうか」

あれえ、さっきと一転、今度は何も浮かんでこないよ。
もう脳みそはオーバーヒートか。思考回路はショート寸前か。今すぐ逢いたいのか誰にだ。

あやせ「京介さん、わたしとこうなった事……後悔してますか?」

京介「そんな訳ない!」

あやせ「でもさっきから、すごく悩んでます」

京介「あやせとは納得した上でエッチしたんだ。いつか結婚するだろうともちゃんと考えていた。ただ、いきなり過ぎて考えが追い付いてないんだよ」

あやせ「わたし、京介さんを困らせてますね」

京介「俺としては、あやせに学校を辞めて欲しくない。今すぐ働くなんて自分を犠牲にするような真似をして欲しくない」

あやせ「なんで犠牲って思うんですか! 好きな人と一緒になるために必要な事です」

溝が埋まったと思っていたのは俺の勘違いだったのか? まるで違う世界に住んでいるみたいだ。

京介「とりあえず、学校を辞めるのは絶対に駄目だ。モデルなら今までだってやって来れただろ」

あやせ「出産するまでにしっかりお金を貯めておかないと、京介さんが就職するまで貯蓄が持ちません」

京介「それなら俺が大学を辞める。責任を取るべきは男の俺だ」

あやせ「それこそ絶対ダメです! いま結婚したいのはわたしの我が儘なんですから、京介さんはしっかり勉強して、就きたい仕事に就いてください」

あやせ「京介さんが稼げるようになるまで、わたしが京介さんと子どもを支えます!」

あやせ「それに妊娠したって、妊婦モデルやパートとか、仕事はあります」

駄目だ、どうにも説得できそうにない。
何か突破口は無いのか……。


ふと思い付く。

京介「あやせは今何歳だっけ?」

あやせ「……15歳ですけど……もうすぐ16になります!」

京介「なら、どちらにしろ今すぐの結婚は無理だ。ちょっと考える時間が欲しいので、せめていきなり学校を辞めるのだけは勘弁してくれ」

あやせ「分かりました。確かにいきなりだとは思うので。でもわたしはもう決めたので、考えを変えるつもりはありません」

京介「ああ、分かった」

時計を見ると、既に新垣家の門限近かった。

京介「げ、あやせ門限だ。送るから急いで帰ろう」

あやせ「気付いてました。でも近い内に結婚するんですから、泊まっていっても問題ありません」

京介「家に連絡してないだろ、駄目だ。節度を守ったお付き合いで行こう」

あやせ「桐乃に泊めて貰う事になら出来ると思います」

京介「バレた時が悲惨だな。あやせの親御さんに絶対結婚を認めて貰えなくなるぞ」

あやせ「それは……確かにそうかもです」

良かった。それなら駆け落ちしましょう! とか言われたらどうしようかと思った。
あやせは良い所のお嬢さんだから、そんな発想ないのかもな。




さて翌日。

考えなんてまとまるはずも無く、俺は一人でうんうん唸っていた。
親父に相談するのが一番か。ぶっ飛ばされそうだけど、それでも最後には何かしらの知恵を授けてくれそうだ。
いや、一人暮らしの家に女子高生を連れ込んでいたしたんだ、下手すりゃ勘当されるかも。

そうなると、もう俺に悩みを打ち明ける相手なんて居なかった。あいつらしか……。
続けて世話になるのは気が引けたが、もはや背に腹は代えられぬ!

『もしもし、どうされましたか京介氏』

『助けて沙織えも~ん』




桐乃「今度は何。今あんたの顔見たくないんですケド」

黒猫「全く、私たちを再び召喚するなんて、貴方の心臓には毛が生えているのかしら」

沙織「まあまあお二人とも、京介氏は本気で困っている様子。これに応えるのが女意気ってものでござろうよ」

桐乃「ふん。どうせあやせ絡みなんでしょ、さっさと話しなさいよ」

黒猫「くだらない惚気話とかなら、本気で呪いをかけるわよ」

京介「ありがとうな、三人とも。これからする話は他言無用でお願いする。あやせ本人にもだ」

沙織「元より承知でござる」

そして俺は昨日の話を三人に聞かせた。

途中で桐乃があやせに連絡を取ろうとしてそれを止めたり、
結局惚気話じゃない地獄に堕ちろ的な励ましを受けたり、
多少脱線はあったものの思っている事は全て伝えられた。


沙織「ふむ、何とも困りましたな」

桐乃「何よ簡単じゃない、あんたが大学辞めて働けばいいじゃん」

京介「話聞いてなかったのかよ。それはあやせが強く反対している」

桐乃「そんなの関係ない。あんたは大学を辞めたくないから、あやせの提案に乗っかってるだけ!」

桐乃「責任取る取るって口では言ってるけど、実際には自分の事しか考えてないじゃない!」

京介「何だと」

桐乃「本当にあやせが好きなら、全部投げ捨ててでもあやせを幸せにするって気概を見せなさいよ!」

桐乃の言葉に俺はかつてないほど苛立たされた。気が付いたら口汚い音が出てしまっていた。

京介「チッ。世間を知らないガキが、知った風な口を利くなよ」

桐乃「あたしはあんたよりずっと早く仕事を始めて、努力を怠らず学業と陸上と仕事と趣味を全て並立させて、結果としてあんたよりも遥かに世間の評価を得てる。世間を知らないのはどっちよ!!」

桐乃「知った風な口を利くな? それはこっちの台詞よ!!」

京介「確かにお前はすごい頑張っている。ああ、知っているさそんな事くらい! だけどな、お前のそれは所詮おままごとなんだよ。子どもが親の庇護下の元、ぬくぬくと守られながらやりたい事をやってるだけだ!」

違う、こんな酷い事を言いたくない。桐乃は本物だ。すごいヤツなんだ。
一番近くで見ていたんだから俺が一番知っている。

京介「お前が俺に人生相談を持ちかけてきた時から、いや小さい時から。どれだけ俺がお前の為に頑張ったか知ってるのかよ!! いいよなお前は自分のしたいようにやってれば、後は俺や親父が何とか片付けてくれるんだから。そして俺は優秀な妹の捨て駒さ、便利に使うだけ使われてポイ捨てされる道化だよ!」


黒猫「二人とも、やめ、辞めて……」

桐乃「ふ、ふふふ……!」

ヒートアップしていく空間。怒りで震えている桐乃。涙目でオロオロする黒猫。黙って成り行きを見守る沙織。
自分を律する事が出来ず、妹に暴言を吐いてしまった愚かな俺。そして

桐乃「ふざけんなっ! あんたがどれだけあたしを守って来たか、知ってるに決まってるでしょ! あんたはあたしのヒーローなんだから、ずっと憧れてた、ずっとずっと見てきた。ずっとずっとずっと……好きだった!!」

突然の桐乃の告白。想定外のそれに俺の頭は真っ白になる。

桐乃「趣味の事でお父さんやあやせ達から守ってくれた時、嬉しかった! 小説を何とかしてくれて嬉しかった! アメリカまで追っかけて来てくれた時、どうにかなりそうなくらい嬉しかった! 黒猫と付き合いだして悲しかったけど仕方ないと思った! 一緒に結婚写真撮れて嬉しかった! 夜中にベッドに忍び込んでドキドキした! エロゲーを一緒にやるだけでも楽しかった! あやせと付き合うって聞いた時、悲しくて悲しくて泣いたけど、やっぱり仕方ないって思った今度こそ諦めようって!」

京介「桐乃……お前……」

桐乃「なのに肝心のあんたがそんなにフラフラしてたら諦めきれないじゃないっ! 一昨日黒猫と一緒にワンワン泣いて、これでもう終わりって決めたのに、またしがみ付きたくなるじゃないっ! ふざけるなっ、どれだけあたしの想いを弄べば気が済むのよ!!」

ぜえぜえと息を切らしながら一気に捲し立てた後、桐乃は我に返ったように大人しくなった。

ある時期から桐乃の俺を見る目が熱を帯びた物に変わっていたのは分かっていた。
だけど桐乃は妹だ。愛しているが、それはあくまで家族愛であり、大事な守るべき俺の妹なんだ。
俺はそれを言い訳に目を逸らし続け、そして今桐乃に言われるまで気が付かない振りをしていた。

なんて情けない……みっともない兄貴なんだ。

京介「桐乃」

ビクッと桐乃の身体が震える。恐る恐るこちらを窺う瞳はまるで苛められている小動物のようだ。俺が桐乃にこんな顔をさせたんだな……。
だけど、情けない兄貴でも最後に伝えなきゃならない事がある。俺は


黒猫「待って」

黒猫を見やると、さっき俺と桐乃に挟まれて泣きそうになっていた者とは別人のように凛とした雰囲気を身に纏っていた。

黒猫「私も貴方が好きよ」

桐乃「!!」

黒猫「あの夏の日、私から告白したのに一方的に振ってしまってとても後悔した。それでも変わらず友達でいてくれた貴方が好きです」

黒猫「桐乃に比べれば貴方との付き合いは短いけど、それでも貴方とは確かに通じ合っている期間があったと確信している」

黒猫「都合の良い事を言っているのは分かっているわ。だけどやっぱり私は貴方を諦めきれない」

黒猫「だから、あやせ--さんと別れて、もう一度私と付き合ってください。お願いします」

京介「…………」

俺が頭の中で返事を組み立てていると、おずおずと沙織が提言して来た。これは槇島さんか。

沙織「差し出がましいようですが言わせてください。京介さん、しっかり答えを出してください。あなたはここで未来を選ばないといけません」

沙織「どなたを選んだとしても、きっと誰もあなたを恨んだりしません。ここに居ないあやせさんも」

沙織「後の事はわたくしがフォローしますから、あなたは自分の心のままに行動してください」

沙織「……エロゲー展開的に三人とも選ぶというのもありですかな、むふふ」

槇島沙織だったり沙織・バジーナだったり忙しいヤツだ。だけど俺はいつもこの人に助けられてるな。

京介「ありがとうな、沙織」


俺の心は最初から決まっている。

京介「二人ともありがとう、気持ちはとても嬉しい。だけど、俺はあやせを愛しているんだ」

京介「だから二人の想いには応えられない。すまない」

桐乃も黒猫も何も言わない、言えない。だから俺は続ける。

京介「桐乃、さっきは酷い事を言ってすまなかった。あれはちょこっと本心だけど、俺はそれよりもお前を大事に思っている

京介「お前は俺の大事な『妹』だからな」

桐乃「……!」

京介「この先どんな事があっても、俺たちは家族だ。お前が俺を求める限り、俺はお前の兄貴としてお前を守り続ける。いつかお前に好きな人が出来て、その人が俺と交代するまで、ずっとずっとだ」

桐乃「へ、へへへ。あたしが彼氏作らなかったら結婚しなかったらどうするつもりよ」

京介「それなら死ぬまでお前を守るさ」

桐乃「あっそ……グスッ。そんなら死ぬまであたしを守って、って言いたいけどそれじゃダメ。自分の事は自分で守れるようになるから……兄貴はあやせを守って!」

京介「お前がそう望むのなら、俺はあやせを守る。いつか子どもが産まれたから、その子も守ってみせる」

桐乃「うん、それなら良いよ…………う、うううぁぁぁぁぁ」

沙織「きりりんさん。頑張りましたね」

槇島さんが声をかけると、桐乃はその胸に顔を埋め大声を上げた。


桐乃に語りかけている間、黒猫は微動だにせず俺を待っていた。
泣き虫のはずなのに、今はとても晴れやかな笑顔を浮かべている。

京介「黒猫……瑠璃、お前と付き合っていた期間は短かったかも知れないけど、とても充実した、楽しい……幸せな時間だったよ」

黒猫「そう。今とどっちが幸せかしら?」

京介「比べられないな。あの時があるから今の俺が存在する。もしも黒猫と付き合っていなかったら、俺はあやせとも付き合えてなかったかも知れない」

京介「でも、強いて優劣を付けるなら」

黒猫「良いわ。意地悪で聞いただけだから、答えは要らない」

京介「そうか。……お前は妹じゃないから、俺とずっと一緒って訳にはいかないかも知れない。だけどな」

京介「俺たちは確かに通じ合っていたよ。あの絆があるから、きっと『友情』は永遠に続く」

黒猫「そう、そうね。私たちは永遠の存在。だからきっと繋がりが途切れる事はない」

黒猫「だけど勘違いしないで頂戴。私は諦めが悪い女なの。貴方の事を諦めるつもりは無いわ」

黒猫「だから一旦身を引くけど、あやせさんと別れる事があったら私の元に馳せ参じなさい」

京介「瑠璃、お前は強いな。だけど俺の事は諦めてくれ、あやせと別れるつもりは無い」

黒猫「ふふ、二連続で振られてしまったわね。……いつか後悔するわよ、こんな良い女を振ってしまったのだから」

京介「そうだな、お前は良い女だよ。だから、ずっと桐乃と友達でいてくれ」

黒猫「最後まで妹の心配なんてとんだシスコンだわ。貴方に言われるまでもなく、桐乃は私の……大切な、友達よ」

京介「そうか。ありがとう、黒猫」

笑顔で、それでも涙を静かに流して、黒猫は俺に背中を向けた。


最後に沙織を見る。桐乃はいつの間にか泣き止んでおり、それでも気まずいのだろう俺から顔を背けていた。
俺が口を開くより先に沙織が語りだした。

沙織「わたくしも京介さんをお慕い申しておりました」

京介「えっ」

桐乃「えっ」

黒猫「何ですって」

沙織「ですけれど、わたくしはきりりんさんや黒猫さん、ましてやあやせさん程の強い想いを持っている訳ではありませんでした」

沙織「京介さんに拒絶されるのが怖かったわたくしは、結局、沙織・バジーナの眼鏡を最後まで外せませんでした」

沙織「今伝える事が出来ただけでわたくしは満足です。ですから京介さんは、お気になさらず先にお進みくださいませ」

沙織「きりりんさんと黒猫さんの事はお任せください。あと、あやせさんの相談に乗れなくて申し訳ありません」

京介「……ありがとう沙織。お前は本当にいいヤツだよ。これからも頼る事があるだろうけど、よろしくな!」

沙織「はい」

京介「俺はこれからあやせの所に行ってくる。スペアキーを置いておくので、適当に郵便受けにでも入れておいてくれ」

沙織「行ってらっしゃいませ」

京介「じゃあな!」

桐乃黒猫沙織「……」

「あーあ、振られちゃった」

「でも後悔は無いわ」

「そうですな。言うべき事はきちんと伝えられたでござる」

「どうする? また残念会やる?」

「それも良いわね」

「それでしたら拙者良い場所を知ってるでござるよ!」

「んじゃ行こ! あ、でもその前にーっと」

「……」

「……」

「……」




走りながらあやせに電話をかける。
こんなに胸が高揚してるのは初めてあやせを抱いた時以来か。

あれから数日しか経っていないのに、ものすごく過去のように思える。

『はい、もしもし』

『あやせ、今から出られるかっ。いつもの公園で待ってるな!』

一方的に告げ、電話を切る。
あやせは必ず来てくれる。だから俺はあやせに伝える言葉をしっかりと考えておこう。

桐乃たちはちゃんと俺の相談に乗ってくれた。
これといったアドバイスは無かったけど、俺の背中をしっかりと押してくれた。
その想いを無碍にはしない。





あやせ「もう、さっきの電話は何なんですか? 京介さんじゃなかったら絶対来てませんよ」

京介「すまない、どうしても伝えたい事があったんだ」

あやせ「……はい」

あやせ「ちゃんと聞きます。言ってください」


俺の言葉は決まってる。あやせからの返事だって分かる。

色々説得しなきゃいけない事はあるだろうけど、それがなんだ!

俺たちには未来がある、心強い仲間もいる。きっと何とかなるさ!



「新垣あやせさん、俺と--」





   終


本編は以上となります。
まとまりの悪い内容となりましたので反省しきりです。


現在、他エンドではありませんが、おまけを書いている途中です。

ですが、短くまとめるつもりがどんどん長くなっていき、
しかも想定してなかった話になってしまっているため
書き直すべきか悩んでいる所です。

なのでおまけを投下するにしても時間がかかるかもしれません。


それでは、今夜はこの辺で。お休みなさい

沙織って元々京介に好意持ってたっけ?


こんばんは。何とか書き切ったので、おまけを投下していきます。

蛇足のさらに蛇足になっていまいました。
ウダウダと無駄に長いのでご了承くださいませ。


>>84
二次創作ゆえの都合の良い解釈と思ってください。PSP版の内容は既に忘れました……。


おまけ? 婚約編


あやせにプロポーズして無事受け入れて貰えた翌日。

俺たちはフワフワした気分で会っていた。

あやせ「京介さん!」

部屋に入ってくるなり抱きついてくる。フワリと良い匂いが広がる。

京介「あやせ、嬉しいけどまだ日が高いから、その、後で、な」

あやせ「なっ! これはただのハグで、そういう意味じゃありません! 変態!」

京介「婚約者に変態はないだろー」

あやせ「確かに婚約しましたけど、式までは節度あるお付き合いをしないとダメです」

京介「抱きついてきたのはあやせなんだが」

あやせ「こ、これは親愛のあらわれです! ノーカンです!」

京介「そっか。なら、結婚式までエッチも駄目か?」

あやせ「ダメに決まってます! …………でも、京介さんがど、どうしてもって言うなら……ぃぃ、ですよ」

京介「ぁあやせええええええ!」

俺の迸るリビドーはもはや誰にも止められないぜっ!







あやせ「男の人って一度許すとドンドンエスカレートするって本当なんですね」

京介「」

あやせ「今日はわたし達が結婚するために必要な色々を話し合うために、ここに来たんです」

京介「」

あやせ「なのに、まだ夕方なのに、あ、あんなに激しく……」

京介「」

あやせ「京介さんは性欲の塊ですか、ケダモノなんですか。結婚前に妊娠したらどう責任取るつもりなんですか」

京介「それは勿論」

あやせ「誰が喋っていいと言いました」

あやせ「まだ反省が足りていないようなので、今日はそのまま過ごしてください」

ガチ切れあやせさんに逆らえる筈もなく、俺は平身低頭の状態でお叱りを受けるしかなかった。




あやせ「それでは話し合いを始めましょう。ここからは喋って良いですよ」

あやせ「ただし姿勢を崩すのは禁止です。トイレも禁止です。そのくらい耐えられますよね?」

京介「はい……」

あやせ「まず、わたし達は婚約しました。それはとても嬉しいんですけど、昨日はそれだけで頭が一杯になってしまったので大事な事を確認できていません」

あやせ「京介さんはわたしが学校を辞めて働く事を認めてくれたんですよね?」

京介「それは駄目だ。あやせは学校を卒業してくれ」

あやせ「働かないと生活できません」

京介「俺が働く。大学を辞める」

あやせ「それはダメです。譲れません」

京介「譲ってくれ、俺はもう決めた。大学を辞めて働き口を探す。そしてお前といつか産まれてくる子のために、家庭を作り上げる」

あやせ「大体わたしが学校を卒業するまで待つなら、京介さんが大学を卒業するまで待っても大して変わりません」

京介「いいや、あやせの高校卒業を待つつもりは無いぞ」

あやせ「意味が分からないんですけど……」

京介「あやせの高校は、既婚者は通えない校則になっているのか?」

あやせ「どうでしょう。え、まさか」

京介「奥さんは高校生とか最高だろ!」

あやせ「……」

あやせ「婚約破棄って慰謝料貰えましたっけ」

京介「すみませんでしたあああーー!!」




あやせ「冗談です」

京介「さっきはちゃかしたけど、俺は本気だ。大学を辞めて働く。あやせはそのまま高校に通えばいい」

あやせ「名前が変わるから周囲にばれるじゃないですか。恥ずかしいですよ……」

京介「そんなに嫌か?」

あやせ「嫌、では無いですけど。高坂あやせ、か……高坂桐乃……桐乃が妹……ふふふ」

あやせ「悪くないですね!」

いきなり心変わりした理由について大いに気になったけど、まあいいさ。

後で問い詰めてやる。勿論ベッドの上でだ! ぐふふふ。

あやせ「それでも、妊娠したら学校を休まないといけません。それは困ります」

京介「桐乃と一緒に卒業できないからか?」

あやせ「はい!」

桐乃愛されてるなぁ。お兄ちゃんちょっとジェラシー。

京介「家が近いんだし桐乃とはいつでも会えるだろ。それでも駄目か?」

あやせ「桐乃とはずっと一緒に居たいですから」

京介「うーむ」

あやせ「ね、だからわたしが働いた方が良いですって」

京介「いや待て。高校辞めたら桐乃と一緒に卒業なんて絶対無理じゃないか」

あやせ「前提が違います。高校を辞めないなら桐乃と一緒に居られるんですから、その機会をみすみす逃したくありません」

京介「ならあやせが卒業するまで避妊を徹底する。これならどうだ!」

あやせ「赤ちゃんを作るつもりもないのにエッチだけするんですか? 最低です」

京介「『リアル妹がいる大泉君のばあい』であやせだって見ただろ? セックスってのは愛を確認し合う作業でもあるんだ」

あやせ「それは分かっています。でも、夫婦なら避妊する必要なんてありません」


京介「……赤ちゃんを作らないセックスってのも、一応あるにはあるが……」

あやせ「避妊せずに、ですか?」

京介「ああ」

あやせ「信じられません」

京介「オーラルセックスやアナルセックスって言葉があるくらいなんだ」

あやせ「オーラルは口ですよね。アナルって何ですか? って口!?」

あやせからアナルって言葉が飛び出すとか、とても……興奮します。

京介「栞ちゃんや麻衣ちゃんが口で、その、男のアレを舐めたりしてただろ。ああいうの」

あやせ「……」

京介「アナルセックスってのは。まあ、ぶっちゃけるとお尻だ。お尻の穴」

あやせ「」

あ、オーバーヒートしたっぽい。潔癖なあやせにはもう有り得ない世界の話なんだろう。

あやせ「はっ。……さては京介さん、適当な事を言って誤魔化そうとしてますね」

京介「いや、本当にあるんだ」

あやせはスクッと立ち上がるとパソコンの前に移動した。

そのままブラウザを起動しgoogle先生に「あなるせっくす」と入力する。

wikipediaを読み込んでいるようだ。そして戻ってくる。

あやせ「……嘘じゃない事は確認しました。疑ってごめんなさい」

京介「無理もない、気にすんな」

あやせ「だからと言って、絶対やりませんからね!?」

デスヨネー。

あやせ「お尻の穴は排泄器官なんです、性行為をするための場所じゃありません! 全く信じられません!」

京介「お尻は無理でも、口ならOKって事か?」

少しの期待を込めて尋ねてみる。ほら、男ってみんなスケベだからさ。

あやせ「はあ? 今そんな話はしていません、バカですかお兄さんは」

あれえ、呼び方が昔に戻ってる。

室内に漂っていた若干エロティックな気配は見事に消え去っていた。主に俺の所為で。


京介「あー、ちょっと休憩しよう。お茶の追加を出すよ」

あやせ「そんなこと言って足を伸ばすつもりでしょう、ダメです。私が用意するのでお兄さんはそのままで居てください」

バレテルし。




京介「さて」

あやせ「話を戻しましょう。まとめると、わたしが高校に通ったまま結婚するのは無理があるという事です」

京介「八方塞がりだな」

あやせ「ですから、最初に提案した通り、わたしが学校を辞めて働けばいいんですよ」

京介「あやせは俺をヒモ扱いするつもりか?」

あやせ「ヒモって何ですか?」

wikipediaによると「自らは働かず、女性を自分の性的魅力や権力などで惹きつけて経済的に頼る、あるいは女性を人材供出して収入源とする男性のこと」とある。

あやせ「なるほど、確かにヒモですね。何か問題があるんですか?」

京介「大有りだっての。状況だけなら確かにヒモなんだが、物凄く世間体が悪いんだ。うちの親もあやせの親も認めてくれる訳ない」

あやせ「なるほど……つまり親を説得出来れば良い訳ですね」

京介「出来ると思うか?」

あやせ「分かりませんけど、どうせ最終的には話をしないといけないんです、やってみないと分かりませんよ!」

京介「うちはまだいいさ。俺はあまり期待されてない息子だから、逆にあやせみたいな可愛い嫁が出来るとなったら喜ばれるかもしれん。主にお袋に」

京介「親父にはぶっ飛ばされるだろうけど、それは覚悟の上だ」

京介「でもあやせの方はどうだ? 大事に大事に育てた一人娘が、どこの馬の骨とも知れない男と結婚、しかも高校中退してまでだ。あげくに、その男は働かないと来てる。100%無理だ」

あやせ「頑張って説得します!」

あやせは現実が分かっていないのだろうか。結婚という言葉の前でただ浮かれているだけにしか見えない。

京介「やっぱり高校は出た方が良い」

あやせ「まだ言ってる」

京介「だからこうしよう。すぐに結婚するんじゃなくて、せめてあやせの高校卒業まで待つんだよ」

あやせ「まだ3年近くあるんですよ」

京介「頑張って働いてたら3年なんてあっという間さ」


あやせ「その、エッチはどうするつもりですか? 耐えられるんですか?」

京介「エッチ禁止?」

あやせ「勿論です。この際、もう関係を持ってしまった事は置いておきましょう、でも結婚するまではダメです!」

京介「えー、さっきは良いって言ってたじゃん」

あやせ「それでお兄さんに襲われましたからね。自業自得と思ってください。絶対ダメです」

京介「もうあやせの身体を知ってしまったんだ、我慢できない自信がある」

あやせ「お兄さんはスケベで変態ですからね」

京介「あやせこそどうなんだよ。俺の味を覚えてしまって、我慢できるのか?」

あやせ「いやらしい言い方しないでください! その、わたしの方は別に気持ち良いとかそういうのは無いので……」

京介「え、気持ち良く無かった?」

あやせ「はい、全く。京介さんがわたしの身体を色々触ってくれてる時も、ああ赤ちゃんみたいだな、とかムズムズするかな、とか、そんな感じで」

うわマジかー。頑張ってたつもりなんだけどこうハッキリ言われると凹むわー。

あやせ「あ、その、腰を動かしてる時とか必死で良いと思います!」

京介「……俺が不甲斐ないばかりに申し訳ない。死んでお詫びします……」

あやせ「死ぬのはダメです! ほら、お互い初心者じゃないですか、だからこれから色々経験を積んで行けばいいんです、ね」

京介「……一緒に練習してくれるか?」

あやせ「ええ、勿論です!」

京介「……一緒に気持ち良くなれる研究とかしても良い?」

あやせ「はい。わたしは京介さんの奥さんになるんですから、将来豊かな夜の営みを送れるようになるのは、きっと幸せに繋がります!」

京介「……結婚式までにエッチしても良い?」

あやせ「あ、それはダメです」

あやせ手強いなさすがあやせ。



あやせ「もう、すぐエッチな話題に持っていこうとするんですから」

京介「しかしだ。あやせ、もう少し楽に考えられないか? 現状お前のその貞操観念の高さが足を引っ張っていると言える」

京介「いいじゃないか、もうヤッてしまったんだ。一緒に気持ち良いことしようぜ! みんなやってるんだ、平気へーき」


あやせ「…………」

あやせ「……お兄さん、見損なわないでください」

あれ、チャラ男風に冗談投げかけただけなんだけど、逆鱗に触れたっぽい?

あやせ「確かに身体は許しましたけど、わたしは自身の信念まで曲げたつもりはありません」

あやせ「あなたがわたしの存在を軽視するのなら、それなりの対処を取らせて頂きます」

あやせ「わたしにはわたしの誇りがあるんです!」

マズい。こんなに本気で怒ったあやせは見た事がない。

俺は言っちゃいけない事を言ってしまったようだ。

京介「すまない、調子に乗った……」

あやせ「適当に口だけ謝罪して、また時間が過ぎればわたしを弄ぶつもりですか? わたしの身体はわたしの物です、あなたの自由にはさせません」

京介「本当にすまなかった!」

あやせ「謝れば何でも許して貰えるとは思わないでください。わたし達は別の人間なんです、相容れないものがあります」

京介「ごめんなさい!!」

あやせ「結婚の約束は無かった事にしてください。今のあなたをとても信頼できません」

サーッと血の気が引いていく。ここまで怒らせてしまったのか。

京介「何でもするから許してください! ごめんなさい!!」

あやせ「結構です。して欲しい事なんてありません」

にべもなく断られる。

京介「どうすれば許してくれる!? 俺はあやせと別れたくない!」

あやせ「別れるとまでは言ってません、ただ婚約を解消するだけです。後はお互いの関係を一度見直しましょう」

京介「別れる前提にしか聞こえない」

あやせ「今はわたしも冷静じゃありませんので、少し時間を置きましょう。今日は帰ります」

京介「あやせ……」

あやせは立ち上がると玄関まで歩いて行く。靴を履き、こちらに背中を向けたまま

あやせ「さようなら」

とだけ告げて出ていった。

今までも俺の軽率な言動であやせを何度も傷付けた事があるが、今回はそれらの比ではなかった。

修復できそうにないくらい、深い亀裂を感じた。

どうしよう、どうすれば良いんだ。

ほんの30分前までは楽しく将来を夢見て会話を交わしていたのに……。全て、俺が壊してしまった。

京介「うわああああああああ!」




深夜になった。

だけど俺には何も出来ない。動く気力が沸かない。

ただボーっと座ったまま、宙を見つめていた。

俺があやせに別れを切り出した時、あやせもこんな気持ちだったんだろうか。こんな気持ちにさせてしまっていたのか。


そんな折、スマホが着信コールを流し出した。
あやせか!?

焦って画面を見ると、そこには『桐乃』の文字。

藁にもすがる思いで通話ボタンを押す。


『あんたあやせに何したのよ!』

『あやせがどうかしたのか!?』

『とぼけないで! いきなりウチに来たと思ったらめちゃくちゃ泣き出して、もうグチャグチャだったんだから!』

そうか、桐乃の下に行ってたか。

『あやせはどうしてる?』

『今は泣き疲れてあたしのベッドで眠ってる。だから抜け出して電話してるの。あと、あやせの家にはお母さんからウチに泊まるって連絡して貰った』

『そうか。その、何か言ってたか?』

『……何も。何も教えてくれないのよ! ただ、ずっとあんたに謝ってた!』

!!!

なぜあやせが俺に謝るんだ。逆じゃないか。

『あんたに酷い事を言ったって。どうしよう、別れたくないよってあたしにすがり付いて泣いたのよ!』

『あんた昨日あれだけ気合い入れて告白しに行ったんでしょ! なんでこんな事になってるのよ!』

『しっかりしてよ……昨日の兄貴すごく格好良かったよ、だから安心してあやせを任せられると思ったのに……』

電話口から桐乃のすすり泣く声が聞こえてくる。

『俺があやせを傷付ける事を言ってしまったんだ。酷く、本当に傷付けてしまった』

『今回ばかりは仲直りできないかもしれない。そのくらい強く怒らせてしまった』

『……どうにもならないの?』

『どうにかしたいとは思ってる。だけどどうすれば良いのか分からない』

『昨日あたし言ったじゃん、全部を投げ捨ててあやせを選べば良いって。それが出来ないの!?』

『そのつもりだった。だけど上手くいかなかったんだ……』

『何なのあんた達。最近喧嘩ばかりしておかしいよ』

切っ掛けは何だったろう。ああ、俺がキスを迫ってからか。やっぱり俺からなんだな。


『ねえ、こんなこと言いたくはないんだけど……』

『あんた達、合わないんじゃないの? こんなに二人共が辛い思いするなら、いっそ別れた』

『桐乃!!』

『それ以上、言うな……』

『ごめん……』

『俺こそ怒鳴って悪い。あと迷惑掛けてすまなかった』

『迷惑なんてないよ。あやせはあたしの大事な友達なんだから』

『そして俺の大事な彼女でもある』

『ふん、あんだけ泣かせてよく言う。バーカ』

『そうだな、俺は大馬鹿野郎だ。昨日たくさん反省したのに、全然学習してない』

『分かれば良いのよバカ兄貴。あんたはバカなんだから、下手に悩まずに行動すればいいのよ』

『あたしはいつもそれに助けられてた。だからきっとあやせだって助けられる』

『そうか。ありがとうな、桐乃』

『キモい』

『今はまだあやせに会えない。悪いけど今夜はあやせに付いてやっててくれないか』

『言われなくたって、そのつもりだし』

『ああ、それじゃ遅いからもう切るな。電話くれて助かったよ桐乃、おやすみ』

『ふん……オヤスミ』



通話を終了させると一気に寂しくなる。

だけどいつの間にか動く気力が沸いていた。

まだ終わった訳じゃないんだ、いくらでも取り戻せる!



先ほどの桐乃との会話を思い出す。あやせは俺と別れたくないと泣いていたと。

ならば二人の想う先は一緒だ。ただ歩む速度が違うだけなんだ。

だったら脚の速い方が合わせればいい。それはどっちだ。当然俺に決まっている。


あやせは結婚するまでセックスしない事を自分の誇りだと言っていた。

なら簡単じゃないか。結婚まで俺が我慢すればいいだけだ。

今までオナニーだけでやって来れたんだ、できるさ!!

よし、そうと決まれば今日は寝よう。

明日は土曜だからきっとあやせは桐乃の部屋にずっと居る。

ここには来てくれないだろうから俺から押しかけるまでだ!


お休みなさい!



朝になった。

気合充分、身支度を整えると実家に向けアパートを出た。


京介「ただいまー」

佳乃「あら京介。どうしたの?」

京介「ちょっとな。あやせ来てるだろ?」

佳乃「ええ、桐乃の部屋に居るはずよ。だけど今は会わない方が良いんじゃないかしら」

京介「何とかしてみせるよ。親父は?」

佳乃「居るわよ。呼んだ方がいい?」

京介「いや、いい。後で顔を出すから出掛けないように言っておいてくれないか」

佳乃「はいはい、伝えておきます」

お袋との会話を終了させるとそのまま二階に上がり、桐乃の部屋までやって来た。

コンコン

『……何の用?』

どうやら玄関でのやり取りで俺の来訪は察知されてたようだ。

今となっては懐かしい、桐乃の不機嫌な声が扉越しに聞こえる。

京介「俺だ。開けてくれ」

『何の用かって聞いてんの』

京介「あやせに会いたい」

『会ってどうすんのよ』

京介「まずは昨日の事を謝る。そして、伝えたい事がある」

なにやら会話が交わされてる気配がする。

『嫌だってさ』

そりゃそうか。

京介「あやせ、聞こえてるだろ? 俺は覚悟を決めた。だから顔を見せてくれ!」

……。

京介「桐乃、ここを開けてくれ」

『ダメって言ってるでしょ』

京介「大丈夫だ! 桐乃、俺に任せろ!」

扉のすぐ向こう側で、ビクッと空気が動いた――気がした。

そしてカチリと鍵が外される音が続く。

ゆっくりと扉が開き、桐乃が顔を出した。

桐乃「……あやせをお願い」

京介「ああ」

桐乃と入れ替わるように部屋に入る。

すれ違いざま

桐乃「久しぶりに聞いたなー」

と、嬉しそうに呟く声が耳に残った。

扉を後ろ手に閉め、部屋には俺とあやせだけが残される。




あやせはベッドの脇に体育座りしており、顔を腕に埋めていた。

呼吸の為に上下する胸の動きが無ければ、まるで彫像のようだ。

京介「あやせ、昨日はすまなかった」

京介「俺はお前とセックスが出来て、調子に乗ってたんだ」

京介「だから昨日はあやせの矜持を踏みにじるような酷い発言をしてしまった。何を言っても許して貰えると思い上がっていた」

京介「不思議だよな。最初はキスだけで良かったはずなんだ。それがどんどんとあやせが欲しくなっていって」

京介「終いにはあやせと会う度にセックスしたくて仕方なかった」

京介「それが、お前の覚悟――学校を辞め、働きに出ようとまでする強い想い――に寄っかかってるなんて考えもしないで」

京介「俺もあやせを抱いた時に覚悟は出来てるつもりだった。だけど、あやせと比べると凄くちっぽけな物だったって分からされたよ」

京介「昨日あやせに怒られてさ、俺はどれだけあやせに甘えてたか思い知らされた」

京介「そして痛感した。今の俺じゃあやせの隣に立つ資格なんて無い」

京介「改めて、昨日はごめんなさい。そして」

京介「俺と別れてくれ」

あやせ「え……」

初めてあやせに動きがあった。緩慢に顔を上げ、焦点の合ってない瞳で俺を見る。涙の跡が痛々しい。


あやせ「い……嫌……嫌です……」

あやせ「やっぱり嫌いになんてなれません……別れるなんて嫌です……」

京介「大丈夫だ、悪いようにはしない。だから一度受け入れてくれ」

あやせ「何でそんなこと言うんですか……昨日わたしがあんなこと言ったからですかぁ」

京介「心配しなくて良いから」

あやせは俺の声を防ぐため耳に両手をあててギュッと力を込めた。

そんな手首を極力優しく握り、それでも強引に引き離す。

あやせ「離してください! 聞きたくありません!」

京介「悪いな、一方的に決めるぞ。俺とあやせは今この瞬間別れた。もう恋人じゃない、他人だ」

あやせ「う……うっぅ……」

乾いていた頬に新しい涙が流れる。ずっと泣いていたんだろうか。目が充血していて酷い有様だ。

京介「そして俺の決意を聞いてくれ」

あやせ「これ以上何があるって言うんですか。放っておいてください……もう疲れました……」




京介「あやせ!! 俺と! 結婚を前提にお付き合いしてください!!!」


あやせ「……はい? あ、はい。……はい?」

京介「結婚するのはあやせが高校を卒業してからだ。それまでに両家を何としてでも説得してみせる」

あやせ「はあ」

京介「いま俺はNEW京介として生まれ変わった! だからエッチ無しでも平気だ」

あやせ「信用できません」

あ、ちょっといつものあやせっぽい。

京介「信用してくれ。結婚するまで性交渉は無しだ。何ならキスですら我慢できる」

あやせ「キスくらいなら……」

京介「ありがとう。まあ、それは一旦置いておくとして」

京介「俺は大学を辞めて働く。元々大学には将来なりたい物を見付けるために通っていただけだからな。今の俺には、あやせと家庭を築くという目標がある。それが俺の人生だ」

あやせ「でも」

京介「大丈夫だ、俺に任せろ!」

あやせの反論を強引に遮る。


京介「前にも少し考えたんだけどな、俺は地方公務員を目指そうと思う」

あやせ「市役所ですか?」

京介「ああ。さすがに無職じゃ問題外だろうけど、市役所勤務ならあやせの親父さんにも多少受けはいいだろ?」

あやせ「高卒者で市役所って受けられるんですか?」

京介「分からん。だけど何とかなるって!」

あやせ「もう、無計画ですね」

京介「仮に応募があっても高卒の枠なんてたかが知れてるだろう。だから、一度で駄目なら二度だ。あやせが卒業するまでに就職してみせる」

京介「そしてあやせは少しずつでいい、両親に俺の存在をアピールしてくれ。いきなり挨拶に行っても断られる未来しか見えないからな!」

あやせ「ふふ、そうかもですね」

京介「両家の許可さえ取れれば、後はもう俺たちを止めるものはない」

京介「あやせの卒業式の後すぐに結婚式なんて良くないか?」

あやせ「それは素敵ですね!」

京介「そうだろそうだろ。だから、あやせは安心して学校に通ってくれ。そして俺が迎えに行くのを待っててくれ」

あやせ「……分かりました。そこまで仰るのなら、わたしは京介さんに……あなたに付いて行きます、どこまでも」

京介「ああ、付いてきてくれ。ずっと一緒だ」


京介「ただまあ。俺の給料が上がるまではしばらく二人で働かないといけないだろうから、そこは申し訳ないと思う」

あやせ「京介さんは知らないでしょうけど、わたし今でもかなり貰っているんですよ? 卒業して本格的にモデル活動を開始したら、きっともっと増えます」

京介「奥さんの方が稼ぎが良いってのも、今の時代珍しくないからな。じゃあ当面の目標に、あやせの収入を上回る、も加えておくか」

ふふふ、と笑い合う俺たち。もう大丈夫だ。

あやせ「ところで一ついいですか? なぜわざわざ一度別れて、もう一度付き合おうって言ったんでしょう」

京介「ケジメだよ。あやせとの関係を一度清算してやり直したい思いもあったし、俺がNEW京介になるために必要な儀式でもあった。要は俺の我が儘だな」

あやせ「訳が分かりません。本当に仕方のない人ですね、京介さんは」

京介「そうだろそうだろ、はっはっは」

あやせ「褒めてません、もう」

暖かい気持ちに浸りながら、そのままあやせと将来の夢を語り合った。いつか実現してみせる、そんな夢。




コンコン、と控えめにドアがノックされた。

京介「どうぞー」

桐乃「あれ、あやせ寝ちゃった?」

自分のベッドで安らかな寝息を立てているあやせを見て、桐乃は優しく笑顔を浮かべる。

京介「ああ疲れてたんだろうな、グッスリだ」

桐乃「上手くいったみたいね」

京介「言ったろ、任せておけって」

桐乃「うん、兄貴がああ言った時は必ず何とかしてくれるから、信じてたよ」

桐乃「でもリビングまでプロポーズの叫びが聞こえてきたから、お父さんもお母さんもソワソワしてる」

京介「そうだな、結婚の許可を貰いに行くとするか」

桐乃「あやせは?」

京介「このままにしておこう。桐乃はどうする?」

桐乃「一緒に降りるよ。どんな話をするか興味あるし」

京介「んじゃ一緒に行くか」


階段を降りる最中、背後から、かろうじて聞き取れるほどの小さな声が届いた。

「おめでとう、京介」





親父はさすがに手強かった。まず大学を辞めて就職する許可を得るのが大変だった。

若いから判断を誤っているだけだ、夜間でもいいから行け、それなら生活が落ち着いたら改めて大学に通い直せ等々。


そして結婚の許しを得ようとしたら、いきなり殴られた。

お袋と桐乃が止めなきゃもう2~3発は貰ってたかもな。

それでも俺は怯まず続けた。俺たちがいかに互いを必要としているか、桐乃も必死に口添えしてくれた。

未成年同士が結婚するには両親の同意が絶対必要だ。ここで負ける訳にはいかない。あれ、あやせが卒業する頃には俺二十歳越えてるじゃん。まあいい、これは通すべき筋だ。

やれ子どもが結婚するなんてまだ早い、相手の親御さんに顔向けできん、今ならまだどうにでもなるから考え直せ、せめて大学を出てから就職するまで待てないのか等々。

それでも決意を固めた俺は揺るがない。なにより桐乃とお袋が味方してくれたので、最終的には条件付きでOKを貰えた。

曰く「アパートを引き払って家に戻れ。結婚するまでは俺がお前を監督し、見極める」との事。

あと「結婚までに新垣さんと性的接触を持つことは許さん」とも言われた。既にヤッちゃってるとは言えなかったので黙って頷いた。


大介「そしてこれが最後だ。新垣家のご両親の説得はお前の力だけで行え。俺は助けん。それが出来なければ、当然今までの話は全て無しだ」

京介「言われるまでもないさ!」

大介「お前はまだスタートラインにも立っていない事を忘れるな。社会を知らない未熟な存在であると自覚しろ」

京介「ああ、分かってる」

大介「それならばもういい。話は終わりだ。京介、途中で諦める事だけはするな」

京介「親父、ありがとうな」

ちなみにお袋はすんなり了承してくれた。結納がどうとか孫がどうとか言ってた気がするが今はスルーした。



その後、目を覚ましたあやせを伴って改めて親父とお袋に挨拶。

あやせも親父もガチガチに緊張していたのが何だか可笑しかった。



後日


アパートを引き払う最終日。あやせに手伝って貰いつつ荷物を纏めていく。

京介「ふう、こんなもんか。物がなくなるとこんなに広かったんだな、この部屋」

あやせ「ここで色々ありましたね」

京介「そうだな。付き合う前からも、付き合ってからも、ずっとあやせがこの部屋に居た気がするよ」

あやせ「はい。わたしに取っても思い出深い場所になりました」

あやせ「わたし達が初めて結ばれた場所でもあります……」

京介「あー、ああ、そうだな」

あやせ「京介さん、お願いがあります。最後に、この思い出の場所でわたしを抱いてくれませんか?」

京介「……それは駄目だ。約束を破っちまう」

あやせ「これはわたしの我が儘です。これから卒業するまで我慢しますから、覚えておけるように京介さんの温もりをわたしに刻んでください」

京介「ポエマーあやせは久しぶりだな」

既に大きな荷物は実家に運んでおり、今は段ボールが数個置いてあるだけの状態だ。勿論ベッドは無い。

京介「ここで良いのか?」

あやせ「はい」

京介「分かった。次にあやせを抱くのは結婚式の後だ。だから、今日はお前をメチャクチャにする!」

ごめんな親父、だけど今日だけだから許してくれ……と心の中で言い訳。



潤んだ瞳のあやせとキスを交わし、そのまま服を脱がせて行く。

まだ明るい時間、窓から射しこむ光の中で、均整の取れた美しいプロポーションが現れる。

京介「綺麗だよ、あやせ」

あやせ「京介さん……」

ブラジャーを外すためあやせの背中に手を回し……あれ、こうだっけ? うーん、ホックを外すのって難しいよね?



「ちょおおおっと待ったあああああ!!!」

その時、バン、と大きな音を立てて扉が開け放たれた!

固まる俺とあやせ。玄関でこちらを見据えている桐乃、横から顔だけ出して覗き込んでいる黒猫と沙織。

京介「……オハヨウゴザイマス」

沙織「おはようでござる!」

黒猫「朝から盛っているなんて……救いようの無い変態ね」

桐乃「最後の手伝い兼パーティしようとみんな誘ったんだけど、やっぱ正解だったわね」

京介「え、鍵かけてたよな? どうやって」

すると部屋に入って来た三人は顔を見合わせて笑った。

桐乃「じゃーん! これです!」

差し出される三本の腕、その先には見覚えのある鍵が3つ……。

桐乃「スペアキーのスペアでーす!」

京介「はあ!? そんなもん俺知らねーぞ!」

桐乃「いやー、すぐにアパートを出る事になったから使う機会ないと思ってたんだけど、最後に役に立ったね~w」

黒猫「これもまた契約という名の呪い……ふふ」

沙織「拙者は別に要らなかったのですが、仲間外れも寂しかったのでおまけでござる」

京介「何してくれちゃってんのお前ら!?」

腕に抱いたままのあやせがプルプルと震えているのに気付く。

あやせ「……お兄さん」

とても怒ってらっしゃる! 俺悪くないよね!?


あやせ「酷いです! わたしだってスペアキー欲しかったのを我慢してたのに!」

え、怒る所そこ?

京介「俺は無実だ!」

あやせ「知りません!」

黒猫「……とりあえず服を着た方が良いのではないかしら?」

あやせ「!!」

そうだった、あやせは下着姿のままだ。俺の腕を振りほどくと、床に落ちた服を拾い洗面所にダッシュで消えた。

桐乃「お父さんに言っちゃおっかな~」

京介「未遂なので勘弁してください!」

桐乃「え~、でもぉ~。あたし達が入らなかったら絶対エッチしてたしぃ~」

京介「何でもするので許してくださいっ!」

沙織「ん?」

黒猫「今」

桐乃「何でもするって言ったよね?」

ニヤリ、と笑う三人。早まったか!?

京介「お、お金は無いぞ!」

桐乃「兄貴が貧乏なのなんて周知の事実よ」

黒猫「そうね。それにお金が無くても出来る事なんてたくさんあるわ」

沙織「あれ、でも京介氏はバイトを始めたと聞いておりましたが」

桐乃「あーそれはね~www」

京介「桐乃、あやせがいるんだから」

桐乃「あそっか」

あやせ「わたしが居ると都合が悪いんですか?」

ビックゥ。マジでビビった、マジでビビった!


あやせ「婚約者に隠し事ですか? 浮気なんですか? 婚約解消しますよ?」

京介「俺はあやせ一筋だ! 後ろ暗い事なんてしてない!」

あやせ「……ふふ、冗談ですよ。今更京介さんを疑うなんてありません」

桐乃「そーそー。兄貴はあやせにベタ惚れなんだから浮気なんて有り得ないって」

沙織「いやー、お互い愛し愛されてますなあ」

あやせ「でもそれなら、何をわたしに隠そうとしてるんですか?」

京介「あー」

あやせ「あ、その、無理に聞き出そうとしてる訳ではないので」

京介「いや、そうだな。家に着いてからでも良いと思ってたが、世話になった三人がここに居るんだ。今がベストか」

桐乃「おー」

事情を知っている桐乃は目をキラキラと輝かせている。



俺は隅に置いていた鞄を開け、中に納めていた小さな箱を取り出し、あやせに差し出した。

あやせ「……」

京介「バイトだけじゃ全然足りなくて、大した物じゃないんだけどな」

ブンブンと頭を横に振るあやせ。目は箱に釘づけだ。

貯金をはたいて、さらに土下座して親父からお金を前借りしたのは内緒だ。

アドバイザーとして桐乃を伴い宝石店に行き、奇跡的に俺とあやせのサイズに合ったそれを見付けた時は運命を感じたね。

知ってたか? こういう物ってその場ですぐに持って帰れないんだぜ。

急いで欲しかった俺はごねてごねて、ディスプレイ品を買ったんだけどな。桐乃はもうあの店行けない、とかぼやいてた。

あやせ「開けてもいいですか?」

京介「勿論だ」

恐る恐る手を伸ばし、箱を開けるあやせ。

あやせ「……2個ありますね」

中には、対となるリングが入っている。

京介「俺とあやせのだよ。婚約と言っても口約束だけだろ? ちゃんと形になる物が欲しくってな」

あやせ「着けて貰っても良いですか?」

俺は黙って箱からあやせの指輪を取り外す。手に持った箱をどうしようか逡巡していると沙織がススッと出て来て無言で手の平を広げてくれたので、遠慮なく預けた。

あれ、婚約指輪って左手の薬指でいいのか? 右手? しまった、ちゃんと調べてないぞ。

と、あやせが左手を上げてくれた。そのまま薬指に指輪を装着させる。

あやせ「ピッタリです」

嬉しそうに眺めるあやせ。笑顔が本当に綺麗だな、贈って良かった。

そして順番交代。今度は俺があやせに指輪をはめて貰う。

京介「ありがとう」

あやせ「それはこちらです。とても幸せです、ありがとうございます」

こうして桐乃、黒猫、沙織に見守られながら、ささやかな儀式は終了した。




「「「おめでとう!」」」

三人が持ち込んだお菓子やジュースを食べながら飲みながら、祝福を受ける。

あやせ「素敵な指輪ですね。わたしこんなに幸せでいいんでしょうか」

あやせはほうっと溜息を吐きながら指輪を眺めている。

既製品だけどこういう物ってめっちゃ高いんだよな。値段を見た時は衝撃を受けたもんだ。

京介「おっと、これで満足して貰っちゃ困るな。俺はもっともっとあやせを幸せにするぞ」

あやせ「京介さん……」

あやせの視線が熱い。そういやエッチ途中だったよなー。でももう無理か。約束を守れたからよしとしよう。ちくしょう。

あやせ「その、後で……ね……」

そっと俺にだけ聞こえるように囁かれた。良いのかな? 良いのかな!?

京介「うへへへへ」

桐乃「キモい」

黒猫「だらしない顔を晒して……全く」

沙織「聞いておりますぞ京介氏、お父上との約束があるとか。拙者たちも見届け人となりますので、自重してくだされ」

……情報源は桐乃か。

京介「へっ、俺は約束は必ず守る男だぜ?」

桐乃「エッチ寸前だったじゃん。お父さんに言うよ?」

京介「申し訳ございませんでしたあああ!」

あやせ「わたしから誘ったから、京介さんは悪くないの! だから」

桐乃「ジョーダンだって。言うワケないじゃん」

黒猫「でもそうね、何でもするという約束は果たして貰わないといけないわね」

あやせ「……そんな約束したんですか」

あやせの目が久々に怖い。

俺が必死に言い訳をしている間、三人は頭を付き合せてヒソヒソと密談していた。



桐乃「決まったわよ! あんた、あやせとデートして来なさい」

京介「おう?」

桐乃「残りの荷物はあたし達が何とかするから。兄貴ここんとこバイトと勉強ばかりであやせとまともに会ってないでしょ」

京介「勿論構わないが、そんなんでいいのか?」

桐乃「そんなんって何よ。あやせとデートしたくないの?」

京介「したい!」

桐乃「はい、けってー。んじゃ行ってらっしゃい。あ、エッチは無しだかんね?」

あやせと顔を見合わせ、ん、と小さく頷き合う。

京介「んじゃ行くか」

あやせ「はい、行きましょう!」



三人に見送られながら、手を繋いで歩き出す。

京介「急だったから、まずどこに行くか決めないとな。行きたい所あるか?」

嬉しそうに笑顔を見せるあやせの左手が、キラリと太陽の光を反射して一瞬輝いた。

あやせ「どこへだって行きます。あなたと一緒なら!」






    終


以上となります。

進展しているようで進展していなくて、それでもやっぱりちょっとずつ前に進んでいる二人でした。
本当はもっとゆる~い話になる筈だったのに、どうしてこうなった……。


この後の展開は考えていませんが、紆余曲折を経ながらPSP版の未来に収束して行くんでしょう。きっと。



今回のことで、自分には簡潔に文章をまとめる才能が無いと痛感しました。

乱筆乱文お許しください。


それでは機会がありましたら、またいつかどこかで。


かなかなちゃんの口調、難しいッス……。


こんばんは。懲りもせずまたやって来てしまいました。


物語を動かす都合上、加奈子をかなり恣意的・奔放なキャラとして表現しています。

不快に思われる方がいらっしゃるかもしれませんので、先に謝っておきます。ごめんなさい。


では、投下していきます。


 if もしも京介が桐乃の提案を拒否したら 編


>>21 途中から

桐乃「あ、こういのはどうかな。あたしの持ってる純愛系エロゲーをあやせにプレイして貰うの。エッチがとても素晴らしい物だって思って貰えるかも!」

……は?

京介「いや、何言ってんのお前。あやせにそんなのプレイさせる訳ないだろ」

桐乃「なにあんたエロゲーバカにしてんの? あれは純文学すらも越えた究極の娯楽媒体よ! やらない人は人生の95割損してるわ!」

京介「馬鹿にするつもりはないが、あやせには理解して貰えないだろうな。却下だ却下」

桐乃「純愛系が気に入らないのなら、調教系もあるケド……」

京介「なお悪いわ! アホかお前!」

桐乃「え、陵辱系がいいの? あたしもさすがにそれはちょっと」

京介「通報どころか殺されるわ! だからエロゲーから離れろって」

桐乃「さっきから否定ばっかりして、じゃああんたに対案があんの!?」

京介「だから悩んでるんだろうが。もうちょっと真面目に考えてくれ」

やっぱエロゲーをバカにしてるでしょあんた! とか騒いでる桐乃を無視して考えを進める。

だが俺一人では解決策が出るはずも無く、救いを求めて沙織に視線を向ける。

沙織「ふむ、ではこうするのはどうでござろうか」

沙織「現在あやせ殿は京介氏に振られるかもしれないと、かなり不安に思われている様子」

沙織「少々気が咎めるでござるが、そこに付け入る隙があるやも」

京介「具体的には?」

沙織「手っ取り早いのは京介氏が浮気する事ですかなあ。勿論演技でござるよ?」

桐乃「あ、分かる分かる。あたしの好きな彼が別の女とホテルに入っていく所を見てしまった! 揺れ動く乙女心! ってやつよね。王道だわ~」

沙織「さすがにホテルはやり過ぎかもしれませぬが、そこまでやらなくてもある程度の効果は見込めるかと」

京介「うーーん、浮気ねえ……」

正直気が乗らない。しかし他に案が浮かばないのも事実だ。


桐乃「じゃあそれで決まりとして」

京介「おい、勝手に決めんな」

桐乃「いいじゃんやってみれば。ダメ元だって」

京介「むう」

桐乃「はい決まり。……で、誰が浮気相手になんの?」

シン、と鎮まりかえる室内。そうか、浮気するって事は相手ありきだよな、当然。

チラリと桐乃に目を向ける。顔を逸らされる。

妹は選択にも入らないだろ。そもそも桐乃はあやせに対する最後の切り札だ。うかつにカードを切ったら俺が切られる。物理的に。

チラリと沙織に目を向ける。顔を逸らされる。

確かに槇島さんは凄い美人だが、俺とは釣り合いが取れてなさすぎる。現実感が無いな。

チラリと黒猫に目を向ける。顔を逸らされ……布団に包まっているから分からん。

黒猫か……。この中ではベストだろうが、そもそもこいつじゃ浮気の演技にならないような。おい何を考えてるんだ俺。



ゴクリ、と誰かが唾を飲む音が耳に届く。

この場に居ない、ある程度の関係を持つ女性たちを頭に浮かべる。

麻奈実、はそもそも演技できそうにないな。即効でバレそうだ。いや、あいつはあやせと仲良しだから先に断ってくるか。

加奈子、はノリが良いし面白がって協力してくれそうだが、ライブの一件で気まずいからなあ。

瀬菜、は腐ってるからなー。赤城の手前あまりそういう事を頼みたくない。そもそも真壁と付き合ってたな、無理だわ。

櫻井、は……。あやせと面識が無いから成功しそうだが、加奈子と同様に気まずいし、そもそも連絡先知らねーよ。ゲーセンに行けば会えるかな?

ブリジット、いや俺ロリコンじゃないし。そもそもどう言って頼むんだよ。『あやせとセックスしたいから浮気の協力してくれ』 『セックスってなんですか?』 ああ想像でもブリジットは天使だな。

性教育は受けてるか。でも天使だからきっと知らないね、うん。




京介「黒猫か、加奈子かな……」

ポツリと呟く。布団が少しだけ跳ねた。

……。

桐乃「あっそ。って、黒いのはともかく、なんで加奈子が出てくるワケ!?」

なんで不機嫌なんだよお前。

京介「協力して貰えそうな相手で現実的に有り得るラインを狙ってみた」

桐乃「学校は違っちゃったけど事務所は同じなんだから、あやせと気まずくなるだけじゃん」

京介「あいつなら平気だろー。ケラケラ笑って全部流してくれるさ」

桐乃「うぐぐ、そうかもしれないケド……」

その時、それまで沈黙を保っていた聖なる布団の封印が解かれた。というか黒猫がモソモソと這い出てきた。

黒猫「ちょっと待ちなさい」

パンパンと服をはたきつつキリッとした顔で。

黒猫「果たしてあのメルルもどきは京介に相応しいのかしら」

桐乃「あんた自分が選ばれたいからって、あたしの友達を悪く言うと怒るよ?」

黒猫「そ、そんなつもりはないわ……」

途端にオドオドする。弱ぇー。

桐乃「加奈子はちょっとふざけてるけど根は真面目だし演技力高いし、京介とも仲が良いから確かに有りかもしれない」

黒猫「そう……」

桐乃「でも加奈子かあ。うーん、加奈子かー。ねえ、なんで急に加奈子が出てきたの?」

京介「さっき答えたぞ」

桐乃「そうじゃなくて。あんたと加奈子、確かに仲良さそうだったけど、恋人ごっこを頼めるくらいだったっけ?」

こいつライブ会場での大告白を知らないんだろうか。あれだけ派手にやらかしたんだから事務所伝手に聞いててもおかしくないはずなんだが。

キッパリ断ったけどな!

京介「ま、それなりにな」

桐乃「ふーん。あっそ」

フイッと顔を背けられる。


京介「何だよ拗ねんなよ」

桐乃「はあ!? 拗ねてないし! ただ、あやせも加奈子も黒猫もあたしのとも……その、アレだから、ちょっと考えただけ!」

黒猫の手前ではっきり「友達」って口に出すのが恥ずかしかったんだな。今さら照れることかね~。

沙織「ふむ」

それまで黙って聞いていた沙織が、不意に寄り添ってきた。

沙織「京介さん、わたくしでは相手として相応しくありませんか……?」

腕を組んでくる。豊満なアレが密着して、とても柔らかくて、アレがアレしそうだ!

京介「ぎゃ、逆だ逆! 槇島さんは魅力的過ぎて俺とは釣り合わない! だから離れてくれー!」

沙織「そうですか、残念ですわ」

あっさりと離れる。空いた隙間がちょっと寂しい……じゃなくて!

ポカーンとしていた桐乃と黒猫がハッとして詰め寄ってきた。

桐乃「ちょちょっと、何してんのよあんた!」

黒猫「ふ、不潔だわ!」

京介「落ち着け、離れろ! 俺からは何もして無い!」

わいわいギャーギャー騒ぐ。ああ、この時間が楽しい。




落ち着いてから。

沙織「つまりですな」

沙織「浮気なのですから、相手が一人である必要はないのでござるよ」

桐乃黒猫『なるほど!』

なるほどじゃねーよ。

京介「どんだけ俺を最低男にしたいんだっての」

桐乃「良いじゃん良いじゃん。浮気は男の甲斐性、ハーレムは男のロマン、妹は嫁。そう、エロゲーみたいに!」

京介「言っておくがお前だけはねーぞ。あと妹が嫁になるのはフィクションの中だけだ」

桐乃「はあ!? 何あんたあたしをそういう目で見てたの? うわキモ」

京介「もうそれでいいから、ちょっと黙ってろ」

桐乃「チッ」

京介「舌打ちすんな。んで、だ。浮気するってだけでも難易度高いのに、複数相手とか無理ゲー過ぎやしませんかね」

沙織「京介氏なら大丈夫でござる。拙者、京介氏のハーレム力を信じております故」

京介「そういう信頼は要らなかったなー」

黒猫「それで。結局、浮気相手は私とあのメルルもどきで決まりなのかしら?」

桐乃「悩んでても仕方ないし、それで行ってみよー。早速加奈子に連絡してみるね」

俺が口を挟むより早く桐乃は電話をかけ出した。

桐乃「あ、加奈子? あたしー。今大丈夫? あ、そうなんだ。ちょっとあいつの事で話があってさー。うんそう、京介」

桐乃「それがねー、ちょっと電話じゃ話しづらい事でさー。今から出られない? ……そっか。仕事じゃ仕方ないね」

桐乃「電話なら大丈夫かな? ん、じゃああいつと変わるね。うん、ここに居るよ」

ほれ、とスマホを渡される。


京介「もしもし……」

『おー、京介か。久しぶり!』

京介「おう、久しぶり」

『あんま時間ないからヨー、用があるならさっさと言ってくれ』

京介「その、言いにくいんだけどさ」

『……』

京介「俺とあやせが付き合ってるのは知ってるよな?」

『そりゃ勿論。で、それがあたしとカンケーあんのか? 惚気話だったら切るぜ』

京介「その、だな。ちょっとあやせと上手くいってなくてな」

『へー』

京介「別れようかどうしようか、みたいな話になっててな」

『……おう』

京介「だけどあやせは別れたくないって泣くし、俺も出来ればそうしたく無くてな」

『…………ぉぅ』

京介「で、色々考えてどうすれば別れなくて済むかってな」

『言っとくがあたし処女だぜ? そんな別れ話の相談されたってナンモできねーヨ』

電話口の向こうから「かなかなちゃん! そんな恥ずかしい事を言っちゃダメだよ!」とか聞こえる。やっぱ天使だ。
いや待て、処女って言葉を知っているのか……。

俺が一人でショックを受けていると。

『どした? あー、ひょっとして照れてるのか? オメー案外純情だなー』

ひひひ、と笑われる。

京介「あ、ああ、悪い。相談って言うのとはちょっと違うんだけどな」

『よくわかんねーなー。いま現場にいてあんま時間ないんだヨ。パパッと言ってくれ、パパッと』

京介「そうだな……。加奈子!」

『おう』

京介「俺の浮気相手になってくれ!」

ガチャッツーツー



京介「……切られました」

事の成り行きを見守っていた三人にそう報告する。

桐乃「あっっったり前でしょ! あんたバカじゃないの! あんたバカじゃないの!」

黒猫「『俺の浮気相手になってくれキリッ』……ふっ」

沙織「京介氏のハーレム力も大した事なかったでござるな……」

死にたくなっていると、今度は俺のスマホに加奈子から電話が掛かって来た。

京介「……はい」

『さっきはビックリしてスマホ落としちまったんだヨ』

『詳しく聞きたいけどもう時間ねーから、仕事終わったらアパート行くわ。前と変わってねーよな?』

京介「ああ」

『多分あと2時間くらいだから。……んじゃーなー』

そして通話を終了させる。

桐乃「加奈子なんだって?」

京介「仕事終わったらうちに来るってさ」

桐乃「そっか。話を聞いてくれる気にはなってくれたんだね。あんなんで」

黒猫「『俺の浮気相手になってくれキリッ』」

桐乃「ぷぷっ」

京介「辞めてくれーー!!」





加奈子「京介ぇ、わざわざ来てやったぜーー」

京介「悪いな、上がってくれ」

桐乃「やっほ」

黒猫「……」

沙織「こんばんはでござる」

加奈子「よー桐乃……と、野良猫だっけ?w」

黒猫「ふ、見た目が軽いだけじゃ無くて中身も相応に弱いようね。ならば良いわ、しかと聞きなさい! 我が名は」

桐乃「そういうのいいから。ほら、喧嘩しないの」

加奈子「それとあんたは会ったことあったっけ」

沙織「拙者、沙織・バジーナと申す者。よろしくでござる!」

加奈子「あっそ。まーどーでもいいけどヨー」

加奈子「なんでこんなに人がいんだよ。てっきり京介と桐乃だけだと思ってたのに」

京介「ああ、簡単に流れを説明するから、まあくつろいで聞いてくれ」





加奈子「結局あやせとエッチしたいだけじゃねーの」

京介「そうだな」

加奈子「なんだよー、浮気って言うからもう二人はヤッちまってたもんだと思ったぜ」

加奈子「そんなモン、チュッとしてガッとやればなるようになるって」

京介「あやせの意志を尊重したいんだよ」

加奈子「メンドくせーなー。京介ってまだ童貞だろ?」

八つの眼が俺に集中する。

京介「…………」

加奈子「なるほどなー。そりゃ仕方ないか。エッチしたいかー」

加奈子「ならこうしよーぜ。あたしも適当な所で処女捨てたかったし、京介エッチしよーぜ!」

ふむ。なるほど意味が分からん。

桐乃黒猫『ダメッ!』

加奈子「なんでだよー。浮気を持ちかけて来たのはそっちなんだし別にいいじゃねーか。減るもんじゃねーし」

京介「お前はもう少しあやせの慎ましやかさを見習ったらどうだ」

加奈子「なんでだよ。現役女子高生アイドルの処女だぜ? 欲しくても貰えるもんじゃねーぞ」

加奈子「京介だってエッチしたいだろー、うりうり」

やめろ身体を擦り付けてくるな、ああ柔らかいなぁ。

加奈子「ほらスケベな顔してる。我慢すんなヨー」

桐乃「加奈子っ、離れなさいっ」

黒猫「はした……ないわよっ」

二人が引き離してくれた。正直助かった。


加奈子「ちぇー、なんで桐乃たちが邪魔すんだよー」

桐乃「そういうのは好き同士でやるものでしょっ。こいつにはあやせがいるからダメだって!」

加奈子「だってぇ~加奈子ぉ京介のこと好きだしぃ~」

……。

桐乃「はあああああ!? 何ソレ!」

加奈子「あれ桐乃知らなかったっけ? あたし正月に京介に告白したんだよ。スッパリと振られたけどなー」

軽く笑う加奈子。こいつまだ俺のことを……。

桐乃「知らなかった……」

ガックリと項垂れる桐乃。まあショックだよな。

沙織「やはり京介氏は立派なハーレム力を持ってござったな」

加奈子「ライブ会場でさー、大勢ファンが見ている中での告白だったから、翌日はネットニュースにもなったんだぜ」

黒猫「く、やるわね……」

加奈子「ほらほら、据え膳喰わぬは何とやらって言うだろ。ヤろーぜー、京介ぇー」

桐乃「だからダメだって! 大体、浮気の『振り』なんだからあやせに現場を目撃されないと意味ないから!」

加奈子「あー、それもそっか」

桐乃「でしょ。だから加奈子も諦めて――」


加奈子「んじゃー、桐乃はあやせを連れて偶然ホテルの前を通ってくれよ」

加奈子「あたしらはホテルでしっぽりやってるからさ~」

黒猫「待ちなさい。私だって浮気相手の一人なのだから、当然私も付いていくわ」

加奈子「んだよオメー、邪魔すんのかヨ」

沙織「いきなり3Pとか京介氏はさすがでござるな。拙者尊敬しますぞ」

黒猫「さんっ」

加奈子「なんだよ京介、三人でヤりたかったのかよ。そんなら早く言えよ~」

京介「待て待て待て待て。俺の意志を無視して勝手に話を進めるな」

京介「これはあくまで浮気の演技だ。ホテルなんて行く訳ねーだろ」

加奈子「あたしはここでも別にいいぜ?」

京介「しつこいぞ、ヤらねーっての。俺はあやせが良いんだ」

加奈子「頭かったいなぁ。硬くするのはチンコだけで良いだろー」

京介「お前さっきから発想も発言もおっさん過ぎるぞ……」

加奈子「……加奈子とエッチしてくれるならぁ、メルルのコスプレするよぉ~?」

グフッ。今のは効いたぜ……。

加奈子「メルルの恥ずかしい所、見せちゃっても良いよ? やんっ」

桐乃「マジで!?」

なんでお前が喰いついてるんだよ。

黒猫「それなら私は……夜魔の女王で……は、は、恥ずかしいと、とこ、所を……み、みせ……」

ゴクリ。

黒猫「う……うっうっ……」

京介「泣くほど恥ずかしいなら言うなよ!?」

沙織「いやあ、しっちゃかめっちゃかでござるなー」

こうして夜は更けていった。




土曜日。



そういや昨日あやせ来なかったな。てっきり来るとばかり思ってたんだが。

昨日は深夜まで騒ぎながら浮気作戦を練ったが、結局無難にデートしてる所を見せ付ける、という事で落ち着いた。

泊まろうとする加奈子を止めるのが一番大変だった……。

あまり時間を空けても良くないだろうと、決行は今日になっている。




加奈子「ごめーん、待ったぁ~?」

京介「いいや、今来た所だぜ!」

などと寸劇をしながら加奈子と待ち合わせ。

計画では桐乃があやせを連れ出して、俺たちが会っている所を遠目から偶然見付ける、という手筈になっている。

加奈子「んじゃ早速いこーぜ」

と、加奈子は俺に身体を押し付けて来た。腕を組まれる。

京介「おい、近すぎるぞ」

加奈子「くっ付かないとデートっぽくないだろ? ひひひ」

京介「お前仮にもアイドルだろ? パパラッチとか良いのかよ」

加奈子「ぜーんぜん? あたしとしては既成事実が出来てむしろバッチ来い、みたいな?」

こえー、この女こえー。

俺たちは腕を組みながら駅に入り、電車に揺られて一路秋葉原へと向かった。

あやせに取っては敵地だが、今回の協力者である面々にはホームグラウンド。土地勘がある方がいいだろうという判断だ。

あと地元だといつ誰に見付かるか分からないという心配もあった。



土曜のアキバはさすがの人出だ。こんなんで本当に俺達を見付けられるのだろうか。頼むぞ、桐乃。

加奈子「うへえ、オタクだらけだぜ」

京介「おいアイドル」

加奈子「誰もあたしらの事なんか気にしてないっての」

あてどなく街を歩く。そもそも桐乃達がいないとアキバのショップなんて分かんねーよ。

加奈子「京介ぇ、どっか入ろーぜ」

京介「そうは言うが俺詳しくないんだよ」

加奈子「あ、スタバあるじゃん。ここにしよーぜ」

加奈子は手早くスマホでカフェを検索していた。

京介「おう、行くか」



加奈子は慣れた様子で、なんたら言う長い名前のメニューを頼んでいた。俺は無難にコーヒー。だってメニューいきなり見たって咄嗟にそれしか頼めないって。

並んで席に座りちびちび飲む。

加奈子「いる?」

京介「いらねーよ」

加奈子「遠慮すんなよー」

加奈子はスプーンにクリームを掬うと、いきなり俺の口に突っ込んできた。甘っ。

加奈子「うまいだろー?」

ニコーと笑う彼女に文句は言えなかった。




さて、何となくカップルらしい事をしてしまったが、首尾はどうなっているだろうか。

とか考えていると沙織からメールが届いた。

『ターゲットは無事に対象を発見した模様。現在店外にて観察中なり。そのまま作戦継続を願う』

『チームKK了解』

ちなみに沙織はさらに離れた場所から、俺たち全体を俯瞰でコントロールする任務に就いている。

加奈子「どーした?」

京介「ああ、無事に発見して貰えたらしい」

加奈子「そっか。ならもっとイチャつかないとなー。ほら、あーん」

やっぱりクリームは甘かった。



店を出た俺たちは再び腕を組み、ブラブラとアキバを歩く。

加奈子「なあ京介よー」

京介「なんだ?」

加奈子「これであやせと上手くいかなかったらどーすんだ?」

京介「別の作戦を考えるまでだ」

加奈子「そっかー。この際あやせと別れてさ、あたしと付き合っちゃえよ」

京介「……冗談でもそんな事を言うな」

加奈子「怒んなよ、あたしは本気だぜ?」

京介「お前の気持ちは嬉しいけどな、っと」

メールが届く。

『チームKKは本来の目的を完遂せよ。ターゲットが不審を抱いている模様』

京介「その話はまた今度だ。笑顔でいこうぜ」

加奈子「ちぇ、仕方ねーな」

ニコニコ。

京介「お前笑顔上手いな、さすがアイドル」

加奈子「笑いたくない時でも笑わないといけないからな。そーゆー仕事だし」

ポンポンと空いた手で頭を叩いてやる。

加奈子「なんだよー、やめろよー、もっとやっていいぜー」

グリグリと頭を擦り付けてくるのが何だか可愛くて、しばらく弄ってやった。





加奈子「お待たせ」

京介「おう」

乱れた髪を直しに行ってた加奈子が戻ってくる。

加奈子「んで、これからどーすんのさ」

京介「さっきも言ったけど俺詳しくないからなぁ。早めに黒猫と合流するか」

加奈子「ケッ」

電話を掛ける。

京介「黒猫か。悪いんだけど予定を早めて合流できないか?」

『分かったわ。どこに向かえば良いのかしら』

京介「……分からん」

『はぁ、仕方ないわね。LINEで位置情報でも送って頂戴』

京介「ああ、じゃあ送るからここで待ってるな」

素早く黒猫に位置を知らせ、沙織にも合流を早めると連絡しておいた。

『作戦変更了解。全体計画に支障無し。ただしターゲットは相当焦っている模様。覚悟せよ』




五分もせずに黒猫はやって来た。

黒猫「待たせたわね……何をやってるのかしら」

京介「ん? 別にお前を待っていただけだぞ」

黒猫「なぜ貴方たちが腕を組んでいるのか、と聞いているのよ」

加奈子「だってぇ~加奈子たちぃ~、ラブラブだしぃ~?」

黒猫「なっ、恥を知りなさい」

加奈子「デートの邪魔だしぃ、野良猫はどっか行ったらいいんじゃないのぉ~?」

黒猫「ふん、メルルもどきの分際で、弁えなさい」

加奈子「京介ぇ、こんなヤツ放っといていこーぜー」

言って俺の腕をグイグイ引っ張る加奈子。なぜここで修羅場が発生しているんだろう……。

黒猫「待ちなさい、京介を好きにして良いのは彼女である私だけよ。貴方こそ消え去りなさい」

加奈子「へっ、京介の彼女はあたしだっての。オメーこそ消えろ」

京介「お、おいお前達、これ演技だよな? な?」

周囲に届かないよう小さく告げるが、睨みあった二人の視線は動かない。

黒猫「仕方ないわ、最初からこうするしか無かったのね」

そして黒猫も、空いた俺の腕に掴まってきた。既に顔が真っ赤だ。

京介「おい、お前こういうの苦手だろ? 無理しなくて良いんだぞ」

黒猫「いいえ、偽物に貴方を好きにさせる位なら、この程度何でもないわ」

加奈子「ケッ」

黒猫「……ふん」


左腕に加奈子、右腕に黒猫。何とも人目を引く状況だ。

京介「お前達、今日はあやせを牽制するのが目的なんだからな、忘れるなよ」

黒猫「勿論分かっているわ。そこのメルルもどきが余計な事をしなければ、ね」

加奈子「あーあー、どこかで猫が喚いてるわ。人間様には猫語なんて理解できなぁい」

黒猫「そう、喧嘩を売っているのね。所詮虚像でしかない仮初の存在が、永遠の絆を手にした我らに勝てると思わない事ね」

加奈子「何を言われてるのか加奈子分かんなぁ~い」

黒猫「良い度胸ね……地獄に堕としてあげるわ」

京介「お前らそこまでにしろ! これ以上喧嘩を続けるなら今日はもう終わりだ」

ピロリン、と携帯がメールの着信を告げたが、両腕を縛られていては確認できない。そんな状況でも無いが。

京介「仲良くしろとまでは言わないが、せめてもうちょっと大人しくしてくれ」

黒猫「……分かったわ」

加奈子「貸しだかんな、京介」

京介「とりあえず歩こうぜ。あやせもそろそろ限界のはずだ」



黒髪のコスプレ美少女とアキバ系アイドルの二人に挟まれて、それはもう衆目を集めに集めまくっていた。

俺達の移動に合わせて、モーゼの十戒の如く人垣が割れて行く。なんだこれ。



あやせ「……」

次の一歩を踏み出した時、退いた通行人の後ろから彼女は登場した。半歩遅れて桐乃もいる。

京介「あやせ……」

対峙する俺達のただならぬ雰囲気に、周りがざわつき始めた。

涙を浮かべながら俺を睨みつけるあやせ。ゆっくり近付いて来て、手を振り上げ――

パアン!

乾いた破裂音が響いた。

パシャパシャとカメラのシャッター音が続く。あー、ツイッターやフェイスブックに載りまくるんだろうなぁ、とぼんやり考える。


あやせ「これはどういうことですか」

京介「……見たまんまだ」

あやせ「言い訳しないんですか」

京介「ああ」

あやせ「そうですか」

俯きグッと両拳を握り込むあやせ。地面にポタポタと水滴が落ちて行く。

そのまま後ろを振り向き、無言で歩き去って行った。

桐乃「ちょ、ちょっと、あやせちょっと待って!」

桐乃「台本と違うじゃない、あんたどういうつもりよ! 早くあやせを追いかけて!!」

京介「……」

桐乃「もういいっ」

そして桐乃も走り出し、すぐに視界から消えた。

加奈子「どーゆーつもりよ京介、これでいーんかよ」

黒猫「なぜ黙ったままなの。今ならまだ追いつけるわ」

スッと、二人が俺の腕を離してくれた。



だから俺は限界まで息を吸い込むと、


京介「あやせえええええええええ!!!」

京介「俺はっ!! お前がっ!! 好きだああああああ!!!」

京介「今日やっていたデートはっ!! 全部嘘なんだああああああ!!」

京介「俺がデートしたい相手はお前だけだあああああああ!!!」

京介「だからあやせ!! 戻って来てくれええええええええ!!!」


大絶叫で告白した。


ぜえぜえと呼吸を繰り返す。周囲の時間は完全に止まっていた。

皆、期待を込めて一方を見ている。

そしてすぐに動きがあった。あやせが去ってから1分も経っていないのだから、そんなに距離が空いている訳じゃない。

人ごみからあっという間に飛び出して来た彼女は、そのままの勢いで俺にぶつかって来た。

強く強く抱き締められる。応えて俺も力いっぱい抱き締め返した。

やがて、取り巻くように俺達を見ていた群衆から、最初はまばらに、次第に大きく拍手が巻き起こる。

黒猫「とんだ茶番だわ」

加奈子「やってらんねー」

言いながら二人もしっかり拍手をしてくれていた。




場所が変わってここは秋葉原のカラオケルーム。

沙織「いやはや、大騒動でござったな」

大きなカメラを横に置きながら沙織が言う。

あの後すぐに現れた沙織は、いかにもテレビ収録でございといった感じで俺達を連れ出してくれた。

沙織「あれで誤魔化されてくれれば良いのですが、そう簡単にはいきませぬよなあ」

黒猫「ふっ、手遅れね」

スマホを操作していた黒猫が画面をみんなに見せてくれる。

桐乃「うわー」

そこには

『秋葉原で大告白劇に出会った件』
『痴情のもつれ 秋葉原で起きた三又男の末路』
『おい、すげー美少女が冴えない男を取り合ってるぞwww』
『【恋愛】かなかなちゃん  あの男の正体を探すスレ【再び】』

とかとか。それはもう大盛況だった。

加奈子「おー、あたしのツイッターも大反響だぜ」

京介「大丈夫なのか?」

加奈子「みんな肯定的だなー。以前にライブでやらかしてるからな~w」

見せて貰うと、彼氏おめでとう! のメッセージだらけ。なんだこれ。

加奈子「これで既成事実も出来たし、付き合うしかないだろ~」


黒猫「それを言うなら、ほら」

黒猫が次に見せてくれた画面には。

『白昼の東京・秋葉原で起きた、美少女が巻き起こした騒動 ――渦中のプレイボーイの正体に迫る――』

でっかく俺の写真が載っており、ガッチリと脇を固める黒猫と加奈子の姿。角度的に黒猫がより強く寄り添っているように見える。一応申し訳程度にモザイクはかかっていた。

黒猫「これはマスメディアが、私の存在をより強く認識していた証拠だわ。つまり私の方が相応しいという事ね」

加奈子「はー? オメー何言ってんだ」

桐乃「げっ、なによこれ!?」

京介「どーしたー?」

沙織「どれどれ……むふふ。なるほど、これは大変でござるな~」

桐乃「ちょっ、勝手に見るな!」

沙織「いつの間にか三又男が、きりりん氏も含めた四又になっているようでござる」

京介「うへえ」


自分が取った行動の結果なのだが、ちょっとやり過ぎてしまったようだ。

桐乃「あんたが台本通り動かないからこうなるのよ。なんであんな恥ずかしい事したのよ」

京介「よく分かんねーな。ただ、あの時はああするのが一番正解だと思ったんだ」

桐乃「はあ? 何それバッカじゃないの」

黒猫「何とも合理性に欠けるわね。もう少し考えてから行動を取れないのかしら」

沙織「まあまあ、それが京介氏の良い所ではありませんか」

京介「俺の味方はお前だけだよ、沙織!」

加奈子「あたしもいるぜー」


桐乃「で、これからどうする?」

沙織「ふむ」

桐乃「今日の偽装デートはあやせの心を動かすためのものだったけど、これは成功したと言えるのかな」


あやせ「……」

ぎゅーっ

京介「あの、あやせさん。そろそろ離して貰えませんかね……?」

ぎゅぎゅーっ

あれからあやせは一言も喋っていない。ただ俺に必死にしがみ付いているだけだ。

加奈子「なー、あやせよー。京介はもうあやせ一人だけのモンじゃないんだからさー、少しはこっちにも分けてくれよー」

ぎゅぎゅぎゅーっ

京介「嫌だってさ」

加奈子「京介よぉ、やっぱあやせとは別れてあたしと付き合おうよ~。ピッチピチだぜー」

あいてててて、あやせにつねられた。

黒猫「ふっ、ビッチビッチの間違いじゃないのかしら」

加奈子「年中発情してる野良猫が何を言ってるんだか」

黒猫「……ここまで謂れのない侮辱を受けたのは初めてだわ。表に出なさい」

桐乃「はいストーーーップ、そこまで!」

沙織「みんな仲良くするでござるよ」


京介「もうこの二人の事は放っておいて話を進めようぜ」

桐乃「そうねー。この様子を見ているとあやせの独占欲を刺激するのは成功したっぽいケド」

沙織「進展したとは言い難いでござるなー」

究極のショック療法を試してみた結果、あまり関係は進まなかったでござる。



加奈子「独占欲ね。なるほどなるほど」

加奈子「なー京介よー、とりあえずあたしとキスしようぜ」

ビクリ、と胸に顔を埋めたままのあやせが震えた。

京介「なにゆえ」

加奈子「まだあやせとしてないんだろ? あたしもまだだしさー」

加奈子「やっぱ京介の事が好きなんだわ。だから初めては京介がいいかな~」

京介「断る。俺も最初はあやせが良い」

加奈子「なんだよ京介もファーストキスかよ、丁度良いじゃん」

ガシッと加奈子に頭を掴まれる。そのまま、んー、と唇を付きだして顔を寄せて来た。

京介「おいやめろ! 誰か加奈子を止めてくれ!」

弾かれたように動き出す桐乃と黒猫。だが間に合いそうにない。

あやせ「ダメッ!」

何よりも早く動いたのはあやせだった。叫びながら身体を起こすと、そのままの勢いで俺の顔に顔を重ねてくる。

あやせ「……」

京介「……」

狭い室内に静寂が満ちる。5秒か、10秒か。

やがてゆっくりと、互いの唇が離れる。

ほう、と吐息を漏らすあやせが堪らなく艶めかしい。もう一回やっても良いだろうか?


加奈子「なんだよあやせ、やれば出来るじゃんか」

沈黙を破ったのはこの一連の行動の起点となったお騒がせ娘だった。ニマニマといやらしい笑顔を浮かべている。

京介「おまっ、今のは振りだったのか!?」

加奈子「本気だったよ。あやせが動かなかったら京介のファーストキスはあたしが貰ってたね」

あやせ「加奈子……」

加奈子「でもよー、彼女がいるのに先にしちゃったら悪いじゃん? だから最初は譲ろうと思ってさー」

何だか含みのある言い方をする。

あやせ「加奈子?」

加奈子「隙ありっ」

ズキュウウウン、とどこかから聞こえてきそうな、情熱的なキスだった。

加奈子「ぷはっ。京介のセカンドキスいーただきっ。あたしのはファーストだぜ!」

あやせ「」

あー、あやせ完全に放心してますわ。

加奈子「あれ? あやせにはちょっとショッキングだったかな。動かないならもっかいキスしよっか」


京介「何してんのお前!? 駄目に決まってんだろ!」

黒猫「そうよ、次は私の番だわ」

京介「へ? むぐっ」

頬に柔らかい手が添えられたかと思ったら、いきなり首をゴキっと音が出そうなくらい回されて、そのまま黒猫にキスされた。

黒猫「…………ふぅ。これで以前の呪いは新しい物に上書きされたわ」

どこか晴れ晴れとした表情で告げる黒猫。首痛いんですけど。

加奈子「やるじゃん、猫」

黒猫「ふ、貴方に出来て私に出来ない道理などないわ」

あやせ「」

桐乃「」

沙織「おやおや、京介氏のハーレム力がここまで増大してるとは、これは拙者も読み違えておりました。バイストンウェルから地上に出た成果ですかな、はっはっは」

加奈子「んじゃ順番だから次はあたしな!」

黒猫「それは駄目。京介は私のモノよ」

加奈子「何だよケチくさいこと言うなよ~」


京介「俺の身体はあやせのもんだっての。お前ら何してくれちゃってんの!」

加奈子「素直になれよー。こんなに可愛い女の子に迫られて本当は嬉しいんだろ~?」

あやせ「! そうなんですか!? 京介さん!」

京介「そんな訳ないだろ! 落ち着けみんな!」

桐乃「あ、あ、あ……」

桐乃「あたしもするっ!」

京介「お前は絶対駄目だ!!」

桐乃「何でよ!!!」

沙織「拙者なら良いのでござるか? 一人だけ仲間外れは寂しいでござるよ」

京介「辞めろー! 誰か助けてーー!!」



全員に揉みくちゃにされながら、こんなエンディングもたまには良いか、と思ってしまった俺は。

やっぱりエロゲーに毒されている。





   もしも京介が桐乃の提案を拒否したら

   → 全員とイチャイチャできる



      終


以上となります。


加奈子の口調って本当に難しいですね。ちゃんと書けた気がしません。


それでは今日は寝ます。お休みなさい~


オハヨウゴザイマス。なぜか3時過ぎに目が覚めてしまったので、本当にちょっとだけ……。



 if もしも最初から加奈子と付き合っていたら 編


正月ライブのあの日、俺は加奈子から情熱的な告白を受けた。ファンが大勢いる中でだ。すげー度胸だよあいつは。

だから俺は――

京介「加奈子! 俺もお前が好きだああああ!!」


えんだああああああ、とか雄叫びが飛び交っている中。無理やりステージに押し上げられた。

加奈子「京介!」

ステージ中央で待つ加奈子の許に辿り着くと、ファンが見守る中、あいつはそんなこと気にもせずに強引にキスしてきた。

加奈子「これでオメーはもうあたしのモンだからな。誰にも渡さなねーヨ」

ニヘヘ、と笑う加奈子に降り注ぐスポットライト。とても眩しかった。

――こうして俺にはちょっとだけ有名人な彼女が出来た。


ライブが終わった後、二人して事務所のマネージャーとかお偉いさんに絞られた。

俺はどちらかと言えば巻き込まれた口なので、主に加奈子がお説教を受けてたがどこ吹く風。

結局、ファンの応援がより高まった事や、俺が桐乃の兄であり、あやせやブリジットの信頼も篤いとあって無罪放免となった。

叱られちまったな、とそれですら楽しそうに笑える彼女が鮮烈だった。



加奈子との交際は順調そのものだった。

当初こそあやせや黒猫との衝突があったが二人で乗り越え、桐乃は憑き物が落ちたように大人しくなったし、麻奈実は素直に祝福してくれた。


加奈子は性的な事にもアグレッシブさを発揮したので、そりゃもう二人で色々やった。あの小柄な身体で俺の欲望を受け入れてくれる様は感に堪えなかった。

メルルのコスプレエッチ? やったに決まってるだろ! 当たり前だ!



そして……

とある日。すっかり見た目も性格も大人しくなった俺の奥さんが懐かしい口調で次のように言った。

「京介よー、いま幸せかー?」

「当たり前だろ。お前がいて、もうすぐ子どもが産まれる。これ以上の幸せなんか無いな」

「何だよ幸せの絶対値が低いヤツだなー。あたしはもっとオメーを幸せにするぜー?」

「そうだな、現状に満足せずに頑張るよ」

グリグリと頭を撫でる。

「なんだよー、やめろよー、もっとやれよー」

うっとりと俺に身を預ける彼女の美しい黒髪を手櫛で梳く。

「……私も今とても幸せですよ、あなた」

「ああ」



「何年経ってもバカップル~」

妙ちくりんな韻を付けた歌を口ずさみながら、美しく成長した我が妹が廊下を通り過ぎて行ったのだった。




   もしも最初から加奈子と付き合っていたら

   → 概ね順調な人生が送れる



       終




以上です。眠さに耐えながら資料も見ずに即興で書いたので、クオリティはお察しです。

それではまた。



あーもー朝だよー。

過去作晒してみ。絶対読んだことあるわこの完成度


 if もしも桐乃がエロゲーの選択を失敗したら 編


>>22 から


ややあって。

桐乃「はいこれ! すっごく面白いんだから!」

とても爽やかな笑顔で兄にエロゲーを渡す妹の図。

えーと「穢翼(あいよく)のユースティア」か。珍しく妹物じゃないんだな。


京介「なあ、これ穢れってタイトルにあるけど大丈夫なのか?」

パッケージを裏に返すと、思っていたのと違ってエロい絵はほとんど載っていない。

小さくゲームの説明が書いてあるので流し読みした。

桐乃「あー、それ超ネタバレだから言えない!」

京介「なんか暗そうなゲームだけど、陵辱系とかそういうんじゃないなら良い」

桐乃「そこは任せて。エロゲー史に残る名作中の名作だから!」

京介「お前がそこまで言うんなら期待できそうだな。ところで妹がいないゲームを買うなんて珍しいじゃないか」

桐乃「んー、一応いる、かな? でもそんなこと関係ないくらい面白いから! マジ神ゲー中の神」

こいつがここまで褒めるんだ、どうしても興味が沸いてくる。

桐乃「あ、貸すだけだからね。これ初回版なんだから無くしたり壊したりしたら殺すよ?」

京介「ああ、了解した」

後なにか喚いていた気がするが、適当にあしらって帰ってもらった。

さて。




京介「へえ、最近のエロゲーって主人公にも声が付いてるんだな」

しかもめっちゃイケメンボイス。

ヒロインも可愛い。ただ世界観が暗すぎる、牢獄とか娼館とか。いきなり人が殺されまくるし。

これあやせにプレイさせても大丈夫なんだろうか……?

京介「この子がユースティアか」

タイトルになってるくらいなんだ、メインヒロインで間違いないだろう。

……。

やがて幻想的なオープニングテーマが流れ、本格的に物語が始まる。

……。

…………。

………………。

……………………。



京介「はっ」

気が付いたらとっくに翌日を迎えていた。寝食を忘れてゲームに打ち込むなんて……。

やっべえ、マジやっべえよこのゲーム! 超おもしれー、神ゲーだわ!

京介「うっ」

自覚したら途端に食欲と睡眠欲が襲って来た。でも続きをやりたくて仕方ない。

チラリと時計を見ると朝4時。今から寝れば10時には起きられるかな?

でも終わらせてないゲームをあやせに薦めるのもなぁ。

京介「うん、仕方ないよな」

見えない誰かに言い訳をしながら、俺はゲームを続けるのであった――




目が覚めると夕方になっていた。どうやらパソコンに突っ伏して寝てしまってたらしい。

画面を見るとまだ物語の途中だ。リシアという名の若い王女と行動を共にしている所だった。

恐らく佳境に入ってるとは思うのだが、これ後どれくらいあるんだろう?

京介「あ、やべ。大学行ってねーわ」

曜日を確認すると今日は土曜、授業は取っていない。ホッと一息つく。

京介「腹減ったなー」

コンビニに行くのもかったるいし、適当にインスタントラーメンで済ませるか。

無理な体勢で寝ていた所為か、立ち上がると身体がバキバキいった。

と、その時。

ピンポーン

京介「はいはい」

来客を報せる音に答え、扉を開ける。そこにはあやせが立っていた。

あやせ「……こんにちは」

京介「お、おう」

暗い表情でそれでも気丈であろうとしているあやせ。一方俺は……

京介(マズい、あやせのこと完全に忘れてたーー!)

あやせ「ごめんなさい、ご迷惑だとは思いましたが、どうしても我慢できなくて来てしまいました」

京介「あ、ああ。いや、良いんだ」

あやせ「良いんですか!?」

パァ、と一気に明るくなる。後ろ暗さから適当に返事しただけなんだが、勿論あやせが知る由もない。


あやせ「その、上がっても良いですか?」

京介「ああどうぞ」

彼女を伴い室内に引き返し、俺は自分の迂闊さを呪った。

あやせの視線はパソコンに固定されている。画面にはプレイ中の「穢翼のユースティア」が。脇にはパッケージを置いたままだ。

あやせ「……不安で不安でどうしようもなくて、ずっと連絡が来るのを怯えながら過ごしていました」

京介「……そうか」

あやせ「その間、お兄さんは、このタイミングで、ゲーム、ですか」

京介「待て、これにはちゃんとした理由があるんだ!」

あやせ「いえ、良いんです。ゲームをやる事が悪いだなんて思っていません」

あやせ「ただ、わたしってゲームよりも価値が無いんだなぁ、って思っただけです」

京介「それは違う、誤解だって!」

あやせ「大丈夫です、わたしはこの位でお兄さんを嫌いになんかなりません。だから安心して続きをしてください」

京介「いいから聞けって! これはあやせと仲直りするために桐乃が授けてくれた秘策なんだ!」

あやせ「え、桐乃が?」

さすが桐乃効果。名前を出しただけで一気にあやせが大人しくなる。

京介「ああ。今はまだ内容までは言えないけど、これで何とかなるって」

あやせ「そうですか、桐乃が……」

あやせ「それって、エッチなゲームだからですか?」

京介「……」

あやせ「わたしが身体を許さなかったのがいけないんですよね。だからお兄さんがそういう物に手を出してしまう……」

なにか激しく誤解していらっしゃる!


あやせ「エッチなゲームで、その、性欲を解消するくらいなら、わたしを使ってください」

京介「だから自棄になるなって」

あやせ「いいえ、今日は冷静です。しっかり考えて出した結論です」

え、なら良いのか? いやいや待て待て。なんか今日のあやせはおかしい。

刹那的と言うか……。ああそうだ、カイムに自分を選んで貰えなかった時のエリスそっくりだ!

自分の存在意義を見出せない、相手に見て貰えるためなら何でもやる、そんな状態だ。

今のあやせを放置するのは危険過ぎる、それこそ自殺しかねない。

だからってこんなあやせを抱いて何が解決できるって言うんだよ。

あやせ「ダメなんですか?」

京介「あ、いや」

あやせ「そうですか、わたしはもうお兄さんに抱かれる価値もないんですね……」

京介「駄目だっ」

反射的にあやせの腕を掴む。何が駄目なのかは分からないが、このままでは何かが決定的に終わってしまう予感がした。

覚悟を決めろ高坂京介! お前は男だろうが!!

京介「あやせ、お前を抱く」

あやせ「お兄さん!」

京介「心配するな、お前は無価値なんかじゃない。俺が今からそれを証明してやる!」

あやせ「はいっ」





電話の音で目が覚めた。

周囲は真っ暗だ。まともに寝ていないから爆睡しちまったらしい。

スマホを手繰り寄せると桐乃からのコールだった。

京介「もしもしー」

『あやせそっちに行ってない!?』

ちら、と横を見ると、健やかな寝息を立てている彼女。

京介「いるぞ?」

『はぁ……良かった』

京介「どーした? 何かあったのか?」

『ふざけないでっ。あやせの家から、まだ帰って来ないってウチに連絡あったのよ!』

スマホの時計を確認すると、確かに門限をぶっちぎっていた。

『あやせには電話繋がらないしさ、捜索願出すかどうするかって騒いでたからとりあえず待ってもらって』

京介「悪い、それどころじゃなくて連絡する余裕が無かった」

『何かあったの?』

京介「あー。ちょっと場所変えるから待ってくれ」

スヤスヤと眠り続けるあやせを起こさないよう、そっとベッドから出ると洗面所に入った。

京介「待たせた。ちょっとあやせには聞かせたくなかったんだ」

『あやせに何があったの!?』

京介「うちに来た時から様子がおかしくてな。一人に出来ない状態だった」

『様子がおかしいって……』

京介「ぶっちゃけると、病んだエリスにそっくりだった」

『……それは危険ね』

京介「ああ、帰したらそれこそ何をするか分からない予感がしたので、うちに泊めた」

『そっか。それなら良かった……ワケじゃないけど、分かった。今からそっち行くね』

それはヤバい。俺もあやせも素っ裸だし、それで無くても勘の良い桐乃の事だ、ヤッたってバレテしまう。

京介「もうこんな時間なんだ。女の一人歩きは危ない、来なくても大丈夫だ」

『それならお父さんと行くし』

それは俺にとってのゲームオーバーだよ桐乃さん!

京介「今あやせはグッスリ眠ってる。もう落ち着いたから明日でも大丈夫さ」

『そう? 分かった、それなら明日朝そっち行くね。あ、あやせの家にはあたしから言っとくから』

京介「助かる。ただ俺の事は」

『分かってるって。適当に誤魔化しておくから』

後は簡単に言葉を交わし、電話を切った。ふう、命拾いしたぜ。

スマホの画面には、他に麻奈実と加奈子からの着信履歴が残っていた。放っておく訳にもいかねーし、連絡しておくか……。



あやせ「誰と電話していたんですか?」

京介「おわっ」

洗面所から出ると、暗闇の中、電気も付けずにあやせが立っていた。

あやせ「誰と電話していたんですか? 相手は女性ですか?」

京介「桐乃だよ。お前が帰って来ないからって、家から連絡があったらしい」

あやせ「そうですか。桐乃と」

京介「ああ。あやせの家には桐乃が伝えてくれたから安心してくれ」

静謐な空間に浮かぶあやせの裸体は、とても神聖で侵されざるモノに見えた。

あやせ「二人とも起きたのなら丁度良いです。もう一度しましょう?」

京介「まだ痛いだろ? 無理すんな」

あやせ「痛みはもう引きました。それよりも満たされない心の方が痛いです」

京介「……」

あやせ「ね、しましょ? わたしは京介さんが望むのなら、どんな事だって出来ます。桐乃には出来ない事だってやれます」

京介「何でそこで桐乃が出てくるんだよ」

言いながらあやせの手を取り、ベッドまでの短い距離を歩く。

その途中で、桐乃には渡さない、という呟きが聞こえた。 気がした。



俺達は獣のように交わった。





翌朝、チャイムが桐乃の来訪を告げたので、あやせと二人で迎えた。

桐乃「おはよ、あやせ」

あやせ「おはよう桐乃。昨日はごめんね」

桐乃「あやせが無事だったら良いよ」

桐乃「それに元気になったみたいで良かった。こないだ学校で会った時は大変だったもんね~」

あやせ「もう、京介さんの前で変なこと言わないで。わたしはもう大丈夫だから」

桐乃「そうなの? ……あんた、あやせに変な事してないでしょうね」

ギロリと睨まれる。

京介「当然だろ」あやせ「したよ」

ん?

あやせ「京介さんとセックスしたよ」

桐乃「……え?」

あやせ「祝福してくれるよね、わたし達、親友だもんね?」

桐乃「……」

あやせ「京介さんと何度も何度も愛し合ったの」

桐乃「……」

あやせ「祝福してくれるよね?」

桐乃「……うん」

あやせ「桐乃ならそう言ってくれるって絶対思ってた。ありがとう!」

桐乃「……うん」

あやせ「これからも友達でいてね。あ、京介さんと結婚したら桐乃がわたしの義妹になるんだね! そうしたらずっと一緒だね!」


桐乃「……」

桐乃「おめでとう、あやせ。あたしちょっと用事を思い出したので帰るね」

あやせ「うん、またね」

京介「お、おい桐乃」

フラフラとした足取りで立ち去って行く桐乃。放ってはおけない。

京介「ちょっと桐乃を家まで送ってくる。あやせはうちで待っててくれ」

あやせ「なぜですか?」

ガシッと腕を強い力で掴まれた。

京介「今の桐乃は危なっかしすぎる。家まで送ってくるだけだから、手を離してくれ」

あやせ「桐乃は強い子だから大丈夫ですよ」

京介「そういう訳にはいかないだろ。桐乃だって女の子なんだ、何が起こるか分からん」

あやせ「わたしより桐乃を選ぶんですか?」

京介「なんでそうなるんだよ……。お前さっきからおかしいぞ!」

あやせ「おかしいのは京介さんです。桐乃はあくまで妹なんですよ?」

京介「家族なんだから大事にするのは当たり前だ」

あやせ「そうですか。わたしが家族じゃないから捨てられるんですね」

……駄目だ、桐乃も気になるが、今のあやせを一人にすると何をしでかすか分からない。

結局、家に電話を掛けて親父に迎えに出てもらう事にした。後で説教されるだろうなぁ。



京介「あやせ、ちょっとそこに座りなさい」

あやせ「? はい」

ピトッとくっ付くように俺の真横に正座する。

京介「……まあいいか。なんで桐乃にあんなこと言ったんだ」

あやせ「わたし達が関係を持った事ですか?」

京介「ああ、わざわざ言うような事じゃないだろ。物凄いショック受けてたじゃないか」

あやせ「それは勿論、桐乃に釘を刺すためです」

京介「あいつは妹だぞ?」

あやせ「京介さんと桐乃は仲が良すぎます。わたしが嫉妬するくらいに」

京介「心配させたのは悪かった。だけど考えすぎだ。俺達はただの兄妹だ」

あやせ「桐乃はそう思っていないんじゃないですか?」

あやせ「京介さんだって本当は気付いてるんじゃないですか? 桐乃の気持ちに」

京介「……なんの事だか分かんねーな。家族としては愛してるが、それだけだ」

あやせ「分かりました、そこまで仰るのなら、もうこれ以上は言いません」

あやせ「だから、嫉妬する隙間もないくらい、わたしを愛してください」

蠱惑的な笑みを浮かべ、しな垂れかかってくるあやせ。

あやせ「ちょっとコツを掴めたと思うんですよ、ふふ」

俺にはそれを跳ね除ける事など出来なかった――





   もしも桐乃がエロゲーの選択を失敗したら

   → 病んだあやせと肉欲に溺れるようになる





      終


こんばんは、以上となります。


今回は書いていて辛かったので適当な所で切り上げてしまいました。

恒例となりつつある予防線という名の言い訳ですが、

そろそろネタも無くなってきたためサクッとこの辺で。


>>168
恥ずかしながら、人目に付く場所に作品を晒したのは今回が初めてとなります。



ちなみに、登場させた「穢翼のユースティア」は実在のゲームで本当に名作だと思いますが、

私は同ブランドの「夜明け前より瑠璃色な」の方が好きだったりします。朝霧麻衣ちゃん可愛いんじゃあ~。



それではお休みなさいー。


 おまけ ハーレム? 編



>>153 から


どうしてこうなった。

沙織「それでは第一回、京介氏会議を始めるでござるー」

いえーい、と合いの手を打つみんな。狭い室内にギュウギュウに押し詰まった状態で、なんでこいつらこんなに元気なんだ。



秋葉原での騒動から一週間、全員の休みを調整してうちに集合していた。

沙織「一回目という事もあり、まず議題は京介氏の所有権についてでござる!」

京介「もはや物扱いかよ……」

あたしに決まってるでしょ、いーやあたしだね、聞き捨てならないわね、などとワイワイ騒いでる面々の中、あやせがスッと挙手した。

沙織「あやせ殿、どうぞ」

あやせ「普通に考えたら彼女であるわたしだと思うのですが、如何でしょうか」

京介「異議なし」

少し離れた場所から控えめに意見を出してみたが、誰もこっちを見ようともしない。寂しいぜ……。

沙織「却下でござる。全員が京介氏と関係(注:キス)を持ってしまった以上、誰が彼女だとかは意味を為さないでござるよ」

京介「誤解を招く言い方すんなっ」

叫びながら恐る恐る横を見ると、そこには

麻奈実「きょうちゃん、後でお話があります」

ニコニコ笑顔の幼馴染がいた。こえー。

京介「麻奈実、誤解すんな。俺は潔白だ」

キスは(強引に)されたけどな!


麻奈実「でもぉ、あの記事にもあったし」

例のアキバでの記事である。

webに掲載されていたそれをロックが見付ける→田村家に知られる→それならお前も行って来い、と麻奈実が送り出される ←イマココ

京介「ゴシップなんか本気にすんなって」

麻奈実「彼女のあやせちゃんだけならともかく、こんなに大勢がきょうちゃんのために集まってるって、おかしいよ~」

京介「おかしいよなぁ……」

麻奈実「きょうちゃんの事だから、みんなを不幸にはしないと思うけどぉ。でもやっぱり、あやせちゃんが可哀想だよ」

京介「俺はあやせ『だけ』を愛しているんだけどな」

だけ、の部分を全員に聞こえるように強調して言ってみたが、喧々諤々としている会議場には届かなかったようだ。

麻奈実「みんなきょうちゃんが好きなんだね。もてもてだねぇ」

にへら、と締まらない笑みを浮かべていた麻奈実だが、不意に表情を厳しくし、ある一点に冷たい視線を向けた。

その先にいるのは……桐乃、か?

京介「麻奈実?」

麻奈実「ううん、何でもない。そうだ、お茶を淹れるね~」

台所に向かうその後ろ姿からは、何も読み取ることが出来なかった。





麻奈実「どうぞ~」

和菓子と湯呑みが並べて置かれる。菓子は実家から持って来ていたらしい。

テキパキと全員に配っていく様子を眺めながら、それらを口に運ぶと、以前と変わらない味がした。

京介「相変わらず旨いな」

麻奈実「えへー、ありがとう。最近きょうちゃん余りうちに来てくれなくなったけど、いつでも歓迎だよ?」

京介「ああ、近い内に顔を出してみるわ」

麻奈実「うん、待ってるねぇ」

と、そこへ加奈子が割り込んで来た。

加奈子「さっきから師匠ばっか京介と喋ってズルいぞー」

京介「お、会議はもういいのか?」

加奈子「休憩ちゅー」

見ると、全員がテーブルを囲みながら、ズズッとお茶を飲みつつこちらを窺っていた。腕の動きが完璧にシンクロしていてちょっと気味が悪い。

加奈子「それよりもさー、師匠と京介ってメチャクチャ仲良いけど、もしかして師匠も京介軍団に入りたかったりする?」

京介「なんだよその軍団って」

沙織「我々チームの名前でござるよ。呼称が無いと不便であるからと、今さっき決めた所でござる」

黒猫「京介ハーレムという案もあったのだけれど、そっちが良かったかしら?」

京介「是非軍団でお願いします!」


加奈子「んでさー、師匠も軍団に入る?」

麻奈実「ええ~、わたしは良いよぉ」

ブンブンと手を振る麻奈実。良かった、これ以上増えたら収拾付かないぞ。

麻奈実「それにわたしは毎日でも大学できょうちゃんと会ってるから、そんな必要ないかなって」

……。

何だろう、麻奈実の発言でみんながイラッとしたのが伝わってきた。

当の本人は、分かってか分からずか、ほんわかとお茶を飲んでいる。

桐乃「……会議を再開しましょ。加奈子こっち戻って」

加奈子「へいへーい」

さっきまでオープンに話し合っていた会議が、今度は顔を付き合せてのヒソヒソモードに切り替わっている。

内容が気になるが、それよりも。

京介「麻奈実さぁ、あんまりみんなを刺激するような事は言わないでくれよ」

麻奈実「んん~、なんのことぉ?」

京介「いや、分からないなら良いんだ」

麻奈実「そう? あ、お店のお手伝いがあるからわたしそろそろ帰るね」

京介「そうか。わざわざ来てもらって悪かったな、心配してくれたんだろ?」

麻奈実「ふふ、きょうちゃんは何でもお見通しだねぇ」

京介「分かるのはお前の事くらいだよ」

麻奈実「駄目だよきょうちゃん。そういう台詞はあやせちゃんに言ってあげて」

京介「善処する」

玄関まで送った所で、麻奈実は声を落として俺にだけ聞こえるように言ってきた。

麻奈実「きょうちゃん、分かってると思うけど――桐乃ちゃん『だけ』は、絶対、駄目だよ?」

京介「あ……」

麻奈実「それじゃあね、また~」

手を軽く振りながら麻奈実は出て行った。

みんなに呼び戻されるまで、俺は立ちすくんだままだった。






沙織「あやせ殿30%、きりりん氏25%、黒猫氏20%、加奈子殿15%、拙者10%、という割り当てになったでござる」

京介「何だそりゃ」

沙織「このスカウターで計った、京介氏に対する愛情値配分ですな」

それはスカウターじゃなくてただのグルグル眼鏡だ。

桐乃「んなっ、異議あり! 異議あり!」

加奈子「そうだよー、あたしがあやせの半分とか低すぎるぜー」

あやせ「わたしも納得できません。せめて96%はください」

黒猫「呆れた傲慢さね。精々均等に20%でしょう。そういう意味では私に不満は無いわ」

沙織「バランス良く配分できたと思ったのですが……しょぼーん」

桐乃「あたしは高すぎるっつーの。こいつの事なんかどーでもいいし、あっても0.1%くらいだし!」

黒猫「はいはい、言ってなさい」  加奈子「桐乃ぉ、素直になろうぜ~」

うがー! と吠えて地団駄を踏む桐乃。一階に迷惑だから辞めなさい。


沙織「とまあ、軽いジョークで場を暖めた所で」

沙織「実際、誰かが京介氏を占有すると先ほどのように騒動が生じるため、平等に、という結論になったでござる」

沙織「元彼女であるあやせ殿に配慮した上で、この様になりました」

あやせ「元じゃありません!」

一枚のメモを出される。

 月:あやせ
 火:桐乃
 水:黒猫
 木:加奈子
 金:沙織
 土:あやせ
 日:みんな♪

京介「……なんだこりゃ」

黒猫「見て分からないかしら? 京介軍団のローテーションよ」

京介「そんくらい分かるっての。全部あやせで良いだろうが、こんなん却下だ却下」

加奈子「往生際が悪いぞ京介~。諦めろってー」

黒猫「貴方は私たち全員の純潔(注:キス)を奪ったのだから、責任を取って貰わないといけないわ、観念なさい」

京介「ぐ……。あ、あやせはこれで良いのかよ!?」

あやせ「それは、良くないに決まってますけど」

桐乃「民主主義に則って多数決で決めたの。だからガタガタ文句言わない!」


京介「一夫一妻制も大事にしてくれませんかね……」

加奈子「堅いこと言うなってー。全員とエッチして、一番カラダの相性が良い相手を最後に選べばいいだろ~」

「「「「「……」」」」」

あやせ「想像したんですね、いやらしい」

京介「……してませんよ?」

最低だの節操がないだの悪しざまに言われる中、加奈子だけはフリーダムだった。

加奈子「なんだよー、みんな嫌なのか? あたしはいつでもカモンだぜ」

加奈子「加奈子ぉ、早く京介に処女あげたいなっ」

きゃは、とか言いながら笑顔の加奈子。こうまでストレートに好意をぶつけられて、嬉しくない訳がない。

京介「ありがとうな、加奈子」

加奈子「お、とうとうヤる気になったか? よっしゃ! って、あたしの番まで大分あるじゃん」

黒猫「盛りの付いた犬みたいに鼻息を荒くして、いやらしい……」

あやせ「加奈子、いい加減にして。京介さんはわたしの彼氏なんだから、あなたと、え、エッチなんかしないわ」

加奈子「あたしはあやせの後でもいいぜ。京介が童貞じゃないと嫌、とか気にしないし」

あやせ「なっ。し、しません! 結婚まではダメですっ!」

加奈子「あやせは堅いなー。猫は?」

黒猫「そもそも複数人と関係を持つ、という事が非道徳的だわ。勿論反対よ」

加奈子「古い古い、時代はフリーセックスだぜ! な、桐乃」

桐乃「はあ!? なんでそこであたしに振るのよ! そんなの知らないし!」

加奈子「そんなに派手な外見してて、案外純情なのなー」


桐乃「大体あたしがこいつと、エッチとかするワケないでしょ!」

加奈子「それもそっか、考えてみたら妹だもんなー」

桐乃「……!」

加奈子「じゃああんたは? えーっと、沙織、だっけ」

沙織「わたくしは構いませんわ」

えっ、と驚きの声が異口同音に重なる。

沙織「確かに結婚まで清い身体でいたい、という気持ちはあります。ですが、同時に京介さんに抱かれたいという想いもありますわ。わたくしの場合、待っていても今後京介さんとそういう機会は訪れないでしょうから、今が好機ととらえております」

意外な人物からの意外な言葉に、場が完全に鎮まりかえる。

沙織「……以上でざる、ニン」

加奈子「お、おォ、そっか。これで賛成2、反対2、無効1だな。どーするよ、京介ぇ?」

京介「どうするも何も、俺は最初からあやせだけだって言ってるだろ」

あやせ「京介さん……」

加奈子「なんだよ、ちぇー。こんな美少女を複数はべらせるチャンスなんてもう来ないぜー?」

加奈子「大体オメー、あやせと結婚するまでガマンできんのかヨ?」

そうだった、そもそもそれが問題だったんじゃないか。すっかり忘れてた。

加奈子「無理ですって顔に書いてるし、ガマンすんなよー」

そして加奈子は俺の耳元に口を寄せて、そっと囁いた。

加奈子「メルルのぉ、ちっちゃなお手々やお口でぇ、気持ち良いいことしちゃうよぉ?」

ゴクリ。思わず唾を飲み込む。こいつ、どこでこんな恐ろしいセリフ覚えてきやがった!

そのまま、目を瞑って唇を接近させてくる加奈子。しかし。

ゴツン! と鈍い音が響き、頭を押さえた加奈子があやせに引き摺られて戻っていった。

加奈子「ってぇ~~」

あやせ「自業自得よ加奈子」

沙織「日曜日はみんなの日。抜け駆け禁止と決めたばかりでござろうに」

黒猫「恥を知りなさい」

口々に諌められ、ぶーぶー文句を漏らす加奈子。ただ桐乃だけは黙ったままだった。





京介「このローテーションは何とかならねーの? 休まる時が無いんだが」

沙織「そうですなあ……。削るとしたら土曜か日曜ですが」

 土:あやせ
 日:みんな♪

黒猫「日曜は外せないわね。そうなると土曜かしら?」

あやせ「なっ、反対です、反対!」

京介「そもそもこの『みんな♪』って何だよ……」

沙織「それは勿論、京介軍団会議を行う日でござるよ」

京介「はぁ、さいですか」

加奈子「観念して受け入れろよ京介ー。甲斐性見せろって」

その時、桐乃がポツリと呟いた。

桐乃「あたし、外れるよ……」

あやせ「桐乃?」

黒猫「貴方らしくないわね。一体どうしたのか言って御覧なさい」

沙織「そんな寂しい事を言わないで欲しいでござるよ。きりりん氏も先ほどまでノリノリだったではありませぬか」


桐乃「いやー、ほら、だってさ、考えてみたらあたしって妹じゃん? 京介の取り合いに参加するのっておかしいって」

たはは、と力なく笑う桐乃。


――桐乃ちゃん『だけ』は、絶対、駄目だよ?


桐乃「だからさ、ほら、後はみんなでやってくれれば、あたしはお邪魔だからさ」

加奈子「なんだよ桐乃、尻尾巻いて逃げ出すのかよ。今更それはねーだろー」

桐乃「あたしは『妹』だから、みんなと同じにはいられないよ。当たり前だよね。あはは、バッカみたい」

……。

桐乃「……帰るね」

京介「桐乃っ!!」

立ち去ろうとした桐乃を掴まえると、そのまま抱き締め、俺から初めて、キスをした。

桐乃「っ」

一回目はあのカラオケルームで。みんなと押し合いへし合いしてる時に一瞬接触しただけの、事故みたいなもんだった。

二回目の今。間違いなく感情を込めたこれは、桐乃に通じるだろうか?

唇を離す。


京介「桐乃、お前が好きだ」

桐乃「!!」

あやせ「……」

京介「兄妹だとか、そんな事はもう関係ない。俺は一人の女性としてお前が好きだ」

桐乃「……でも、」

京介「だから、もう俺の前から居なくなるな。ずっと傍にいてくれ!」

桐乃「……何よもう、まるでプロポーズみたいじゃない。あやせがいるんだから言い方には気を付けなさいよね」

そっと腕を緩める。桐乃はもう逃げようとはしなかった。

京介「あやせ、悪い」

あやせ「……」

京介「俺にとっての一番はあくまでお前だ、それは変わらない。だけどな、桐乃を手放すなんて俺には出来ない」

京介「呆れたなら振ってくれて良い。だけど、赦されるなら――」

あやせ「良いですよ。わたしには京介さんしかいません。それは桐乃にも同じ事なんです」

あやせ「わたしを一番に愛してくれるなら、もうそれ以上望みません。だから、桐乃も同じように愛してください」

桐乃「あやせ……ごめん……」

あやせ「良いのよ、桐乃。本当は桐乃がずっと辛い想いをしてたの知ってたのに知らん振りしてた。わたしは悪い女だよね。だからお相子、ね?」

桐乃「ううっ、あやせぇっ」

わっと泣き付く桐乃をよしよしと宥めているあやせ。これにて一件落着かな。

黒猫「何を三人だけで雰囲気を出しているのかしら。納得いかないわ」

加奈子「桐乃ばっかりズルいぞー。あたしだって京介に愛を囁かれたい!」

沙織「そうですな。京介軍団には我々だっているのですぞ」

それまで黙って見守ってくれていた三人が、我先にと群がってくる。

結局揉みくちゃにされながら、俺はふと麻奈実の事を考えていた。


――桐乃ちゃん『だけ』は、絶対、駄目だよ?


悪いな麻奈実。俺は駄目な兄貴だ。



だって、俺の妹や彼女達がこんなに可愛いんだから、受け入れるしかないだろ?







沙織「それでは第二回、京介軍団会議を始めるでござるー」

いえーい、と合いの手を打つみんな。狭い室内にギュウギュウに押し詰まった状態で、やっぱりなんでこんなに元気なんだ。

沙織「まず、この一週間にあった出来事を報告し合うでござる」

はい?

京介「ちょっと待て、俺はそんなの聞いてねーぞ!」

黒猫「報告・連絡・相談は基本よ。そんな事も知らないのかしら」

ええー……。

チラリと特定の人物に目配せしたが見てもらえなかった。これは危険だ。

逃げようにも上座に座らされ、両脇をあやせと桐乃が固めているため無理っぽい……。

あやせ「では、わたしからですね――」


月曜日、仕事があって来るのが遅れたあやせの手料理を食べつつ、門限ギリギリまで談笑した。

火曜日、目を合わせると照れてしまう桐乃のため、久々にシスカリで遊んだ。新しいバージョンだったらしいが名前が長すぎて覚えられなかった。

水曜日、黒猫に招かれて五更家で晩飯をご馳走になった。成長した日向ちゃんはやっぱりオマセさんで、珠希ちゃんは天使だった。

木曜日、加奈子に襲われた。

金曜日、沙織を襲った。

土曜日、あやせと久々にデートした。さり気なく肩を抱こうとしたら抓られたので、手を繋ぐ事で妥協した。それでも楽しかった。




桐乃「二つほど、もの凄く気になる点があったんだケド」

黒猫「奇遇ね、私もよ」

あやせ「……」

帰りたい ああ家はここだった 帰れない。字余り。

加奈子「思ってたほど痛くなかったぜ? 血も出なかったしなー」

沙織「拙者は結構痛かったでござる。でも京介氏に乱暴に組し抱かれて、あれはあれは良いものでござったなー」

桐乃「えーと、加奈子? その、間違いだったらごめんね? そんな事ないと思うんだけど、一応ね」

加奈子「エッチしたよ?」

あやせ「……」

桐乃「ちょっとあんたどういう事よ! あやせやあたしならともかく、何で加奈子が最初なのよ!!」

襟首を掴まれガクンガクンと振り回される。やめてくださいしんでしまいます。

京介「すまん、魔が差した」

言い訳できる余地など無いので、素直に謝る。

加奈子「京介も男だったって事だよなー。あたしの魅力には逆らえなかったってワケだ」

だってよー、部屋に来るなり外に追い出されて、やっと入れて貰えたと思ったらメルルコスで抱きついて来たんだぜ?

あれに逆らえるヤツが果たして居るのだろうか、いや居はしない!

その気になれば小柄な加奈子をどかせるなんて訳ないが、そこはほら男の子ですから。

初体験がコスプレセックスって業が深いよな……。


加奈子「ヤりたいなら桐乃も押し倒しちゃえよ。京介ならきっと受け入れてくれるって」

桐乃「あ、あたしは別にっ、そんなのしたくないしっ?」

あやせ「……」

黒猫「追及は後で幾らでもなさい。まだこちらが残っているわ」

沙織「何でも聞いてくだされ」

黒猫「沙織、先程の貴方の言い方だと、京介に押し倒されたように聞こえたのだけれど」

沙織「そうですな。台所で料理の準備を進めていた所、急に後ろから、こう、ガバッと」

黒猫「……何てことかしら。強姦は犯罪よ、看過できないわ」

沙織「いやいや。拙者もある種期待はしておりましたので、あれは合意の上での事でござるよ。照れりこ」

あの日は最初から槇島沙織さんだった。あの抜群のプロポーションで台所に立っていたんだぜ?

前日に加奈子と初体験を迎えたばかりの俺は、それはもうムラムラしていた。

だから衝動を抑えきれず襲ってしまった。沙織もそれを望んでいた節があったしな、というのは俺の身勝手な願望か。

黒猫「貴方が良いと言うのなら、私から言える事は無いわ。いえ、でも、うぅ」

沙織「拙者は後悔しておりません」

あやせ「……」


加奈子「やってみて分かったんだけどさ、エッチってものすげー良いぜ? なんて言うか、心が満たされるって言うか?」

沙織「好きな殿方に包まれるのが、あんなにも幸せになれる物とは思いもしませんでしたな」

桐乃「へ、へぇー。ま、まぁあたしは知ってたけどね!」

黒猫「貴方の知識は所詮ただの受け売りでしょう。でもそうね、そんなにも良い物なら興味は無いと言えない事もないことはないわ」

加奈子「メンドくせー猫だなー。正直に言っちゃえよ、京介とエッチしたいって」

黒猫「ふ、貴方とは多少歩み寄れたと思っていたのだけれど、やはり私達は相容れない存在のようね」

沙織「折角みんな京介氏と付き合えるようになったのですから、仲良くするでござるよー」

桐乃「うー、何だろう、すっごく納得いかない! あやせもなんか言ってやりなさいよ!」

あやせ「……」

桐乃「あやせ? さっきからずっと黙ってるケド、そんなに嫌だった?」

あやせ「……」

あやせ「……京介さん」

京介「はいっ」

あやせ「わたしを一番に愛してくれるって約束しましたよね?」

京介「はい、しました」

あやせ「わたしが結婚まで身体を許さないって言ったから、加奈子や沙織さんを抱いたんですか?」

京介「いや、それは違う。俺が俺の意志で、彼女達とセックスしたいからやった。あやせの代替じゃない」

ソレを認めてしまったら、俺はもう最低野郎ですらない、ただの人間の屑だ、外道だ。


あやせ「そうですか。でも、口ではわたしだけと言いながら、結局欲に溺れてしまったんですね」

京介「言い訳はしない。どんな罰でも受ける」

あやせ「なるほど、覚悟は出来ていた、という訳ですね。それでしたら」

あやせ「わたしも抱いてください」

桐乃黒猫『!』

京介「……良いのか? お前、ずっと結婚まで駄目だって言ってたろ」

あやせ「はい。他の人に先を越された焦りも勿論有りますけど、それよりも、わたしも京介さんに包まれて幸せを感じたいです」

あやせ「加奈子と沙織さん、お二人の様子を見てそう考えを改めました」

京介「ヤケッパチになってるんじゃ無いなら良い。分かった、明日お前を抱く!」

あやせ「はい、お願いします!」

桐乃「待って待って! あやせを抱くって事は、同じように、その、あたしともエッチするってコト?」

京介「なぜそうなる」

桐乃「だって先週、あやせと同じようにあたしも愛するって約束したじゃん?」

京介「したくない相手に無理やりする訳にはいかんだろ。大体お前とセックスするのは、ちょっと幾らなんでもなぁ」

桐乃「そ、そうよね!? そうよね! まだ早いよね!」

京介「いや、時期の問題では」


黒猫「ならば次は私の番ね」

京介「お前はもっと無理じゃないか……」

黒猫「ふふ、侮らないで頂戴。私は以前とは違う。貴方の魂を烙印としてこの身に刻み付ける為なら、地獄の劫火の熱ですら耐えられるわ」

京介「そっか。ありがとうな、黒猫」

思わずその頭を撫ででやる。艶やかな黒髪の感触が心地良い。

黒猫「くすぐったいわね。でも続けて頂戴」

加奈子「おー、ズりーぞー。次あたしな、あたし!」

はいはいっと。残った手で加奈子をグリグリする。

えへへ、とはにかむ彼女は、とても美しく、愛おしく思えた。

沙織「これで収まる所に収まった感じですかな。あ、京介氏の男性器を我々の女性器に収めた、という意味ではござらんよ?」

はっはっは、と笑う沙織にドン引きする一同。

沙織「拙者らはもはや一蓮托生。京介軍団の結束もより固くなるでしょう。この際、京介≪竿姉妹≫軍団と名を改めるのも良いかもしれませんな~」

あやせ「竿……」

桐乃「姉妹……」

京介「それだけは辞めてマジで。いやマジで」

黒猫「絶好調ね沙織……」






沙織「それでは第三回、京介軍団会議を始めるでござるー」

いえーい!


月曜日、約束通りあやせと愛を交わした。ああ愛おしい。

火曜日、桐乃は来なかった。

水曜日、現れたのは白猫だった。何だかんだあった末に懇願されて瑠璃を縛り、事に及んだ。初体験が緊縛プレイって、変な方向に目覚めなきゃ良いけどな。

木曜日、加奈子は仕事のため無理だった。ブリジットとのツーショット写真を送ってくれたので寂しくなかったもん。

金曜日、前回はいきなり沙織を襲ってしまったので、反省した俺は紳士であろうとした。無理だった。

土曜日、今週もあやせとデートした。彼女の身体を気遣い、エッチな事はしなかったぞ?



桐乃「先週も思ったんだけどさ」

黒猫「そうね、恐らく私も同じ事を考えているわ」

加奈子「あやせばっかりデートしてズルいぞ!」

沙織「曜日設定を間違えてしまいましたかなあ」

あやせ「正妻として、これだけは譲れません!」

加奈子「あやせは竿姉妹№3なんだから、ここは長女に譲ろうぜー」

沙織「次女でも良いでござるよ?」

黒猫「ふ、第三位は我ら四天王の中でも最弱……」


桐乃「ナチュラルにあたしをディスんのやめてくんない?」

黒猫「それは貴方が逃げたからよ」

沙織「そうですなー。なぜきりりん氏は火曜日に行かなかったのでござるか?」

桐乃「だって、学校であやせと会ったら、朝からずっとフワフワのウフフ状態で」

桐乃「ああ昨日エッチしたんだなーって思ったら、そんな部屋に一人で行くのが恥ずかしくなったって言うか……」

あやせ「桐乃可愛いっ」

桐乃「でもそっか。あやせも黒いのもしちゃったんなら、残るはあたしだけなんだねー」

そんな視線を俺に向けるな。

京介「あの時は勢いでキスや告白をしたが、妹を抱くのはさすがにちょっと」

桐乃「あたしだけ除け者にするっての!? 世の中の兄妹なんて大半がエッチしてるっての!」

京介「それはそういうゲームの中だけだ」

桐乃「うぐぐ……! 良いじゃんちょっとくらい。先っちょだけ、先っちょだけだから!」

京介「落ち着けマイシスター。先だけでもアウトだ。普通の兄妹はセックスなんてしない。オーケー?」

桐乃「キスしたくせに……。キスは良くてエッチはダメなの!? あやせと同じように愛してくれるんじゃなかったの!」

あやせ「京介さん、どうしてもダメなんですか?」

京介「あやせに頼まれても、こればかりはなぁ」

あやせ「わたしも好きな人に抱かれる幸せを知りました。桐乃だけ知らないなんて可哀想です」

京介「だけど、それは近親相姦になるんだぞ?」


沙織「ふむ。京介氏、知っておられますか? 日本に於いて近親相姦は別に罪でもなんでも無いでござる」

京介「え……、マジで?」

沙織「然り。近親婚は禁止されておりますが、近親相姦自体はタブー扱いこそされど、罰則などは一切ありませぬ」

えー、お兄ちゃんかなりショック。日本の倫理観ってどーなってんの? 俺が言えた義理じゃないけど。

沙織「故に、避妊さえしっかりしておれば問題ないかと」

加奈子「腹括ろうぜー。一気に四人の処女を喰っちまったんだ。今さら妹が加わったって京介への評価は変わんねーって」

最低野郎 → 近親相姦上等五又野郎にクラスチェンジ!

京介「って、なりそうなんだが」

黒猫「既に地に墜ちているのだから、後は地中に沈むだけよ。むしろ人目に付かなくなって良いのではないかしら」

地虫となって這いずり、汚泥を啜り草の根を齧って死に抗う生活を送れって言うんですね。分かります。

黒猫「そこまで卑屈にならなくても……」

クイクイ、と袖を引っ張られる。

桐乃「ねえ、京介……ダメ、かな?」

潤んだ瞳で上目遣いは卑怯だ。

桐乃「あたし、京介と、エッチ……したい」

あああああああああああもう! 可愛いなあああああ!!

京介「……はぁ、分かった。好きな女にここまで言わせて、何もしなかったら男が廃るってもんだ」

桐乃「じゃあ!」

京介「ただし覚悟しとけよ。俺はここ最近で一気に経験値を積んでレベルアップした。初心者に耐えられるかな~?」

ニヤリ、といやらしい笑みを作ってみる。

桐乃「望む所よ。あたしだってこれまでに培った経験があるんだから返り討ちにしてやるっての!」




残された四人はヒソヒソと。

加奈子「実際の所どーだった?」

あやせ「うーん、心は満たされたけど、肉体的な気持ちよさは別に?」

黒猫「痛かっただけね」

沙織「最初は余裕ありませんでしたが、二度目は割と普通でしたかなあ」

加奈子「あたしもそんなモンかなー。京介が鼻息を荒くしてる所はちょっと可愛かったカモ」

黒猫「私は身動きが取れない状態だったから割と冷静に観察出来ていたのだけれど、その、アレしてる時の京介は滑稽そのものだったわ」

あやせ「凄いですね。わたしは必死にしがみ付いていただけなので、よく覚えていません」

沙織「いやいや、黒猫殿の気性を考えると、今のはただの強がりでござろう」

黒猫「なっ」

沙織「回数を重ねる毎に気持ち良くなれると言われてますが、いざ体験してみるとそれは事実であると思いましたな」

加奈子「ほほー、そんじゃ次が楽しみだなー」

あやせ「いずれにしても、京介さんにはもっと頑張って貰わないといけないみたいですね」


……全部聞こえてるぞ。女同士だとあけすけに話をするんだなぁ。桐乃なんて真っ赤になってるし。俺ちょっと落ち込んでも良いよね?

結局、デートについては持ち回りにしようという案で落ち着いた。





さて、桐乃を抱くにあたり、俺にはクリアしないといけない課題があった。

月曜日、大学構内にて。

京介「よっ、待たせたな」

麻奈実「ううん、いいよぉ~」

人の居ない場所を選んでベンチに並んで座る。

麻奈実「最近みんなと仲良くしてる? あやせちゃん泣かせてない?」

京介「あー、まー、それなり、かな」

麻奈実「ふうん。昨日加奈子ちゃんから、精の付く料理を教えて欲しいってめえるが来てたんだけど、あれってどういう意味なんだろうね?」

加奈子ーーっ、選りによってこいつに聞くかぁ。次会った時にお仕置きだな、決定。

京介「さーてね。加奈子の考えてる事なんて俺には見当も付かないさ」

麻奈実「きょうちゃん、何か誤魔化してるでしょ? わたしには分かるんだからね」

京介「何の事やら」

麻奈実「ぶう。なら良いよ、もうっ」

ぷんすか怒る麻奈実を宥めながら空を仰ぎ見た。ああ、良い天気だ。気が重いなあ。

麻奈実「それで、お話ってなあに?」

京介「俺さ、桐乃を抱くよ」

天を見上げたまま、世間話をするように切り出した。

麻奈実「ふうん」

だから麻奈実も、いつもと変わらない調子で応えてくれる。

麻奈実「抱くって、つまりそういう事だよね?」

京介「そうだな」

麻奈実「桐乃ちゃんとせっくすするって事だよね」

京介「そうだな」

麻奈実「気持ち悪いよ」

京介「そうだな」


麻奈実「そっか。うん、分かったよ」

へ?

まさかあっさり了承されるとは思っていなかったので、拍子抜けする。

麻奈実は立ち上がると俺の正面に移動した。俺も視線を降ろし、その顔をしかと見つめる。

麻奈実「きょうちゃん、勘違いしないで」

さながらRPGのラスボスの如く、その雰囲気が変貌する。

麻奈実「わたしは、分かったって言っただけで、許したなんて言ってない」



たむらまなみが あらわれた!

コマンド?

→ にげる

しかし まわりこまれてしまった!



大魔王からは、逃げられない。ああ、知っていたさ! そもそも逃げるつもりなんて端からない!

京介「そこを許してくれ」

麻奈実「常識で考えて。そんなの認めるはずない」

京介「それでもだ」


麻奈実「あやせちゃんはどうするの? 桐乃ちゃんと付き合いたいから捨てるの?」

京介「いいや、あやせと別れるなんて俺には無理だ」

麻奈実「ごめん、何を言っているのか分からない」

京介「あやせとは別れない。桐乃とも付き合う」

麻奈実「……じゃあ、加奈子ちゃんは? 槇島さんは?」

京介「みんなと付き合う。というか、既に付き合ってる」

麻奈実「きょうちゃん、冗談を言ってるのなら怒るよ?」

京介「冗談なんか言ってない。俺は先日から全員と付き合っている。これはみんな承知の上だ」

麻奈実「最低だよ、それは。誰も幸福にならない。今からでも遅くないから、桐乃ちゃん以外の誰か一人にしなさい」

京介「聞けないな。俺は誰かを切り捨てるんじゃなくて、全員を選んだ。だからみんなを幸せにしてみせる!」

麻奈実「きょうちゃんらしいね。でも、一度に複数の人と関係を持つなんて人としてやって良い事じゃない」

京介「ふっ、俺は自ら近親相姦上等五又野郎の称号を得ようとしているんだ。今更だな」

麻奈実「百歩譲って、色んな人と付き合うのは良いとして、桐乃ちゃんだけは駄目」

京介「妹だからか?」

麻奈実「うん。妹と好き合うなんて異常だよ。お互い家族愛と勘違いしてるだけ」

京介「俺と桐乃は愛し合っている。もうエッチする約束もした」

麻奈実「それだけは辞めて!」

京介「近親相姦が法律で禁止されていなくてもか?」

麻奈実「そんなの当然知ってるよ。でも駄目。わたしが『嫌』だから。駄目」


京介「悪いな。俺はもう決めたんだ。だから麻奈実、認めてくれ」

麻奈実「……そう。もう決めたんだ。それなら、わたしがどれだけお願いしてもきょうちゃんは変えないよね」

黙って頷くと、パンッと麻奈実に平手打ちされた。

麻奈実「最低だね。この先、誰も幸せになれないのを分かってて、それでも今の道を選ぶんだね」

再び頷くと、今度は反対側の頬を打たれた。痛ぇ。

唇が切れたんだろう。つう、と血が滴る感触がある。

麻奈実「それじゃあ、わたしがこうしても良いんだよね?」

いきなり麻奈実が唇を押し付けて来た。

麻奈実「んっ」

俺が茫然としていると、そのまま流れで血を舐め取られる。

京介「麻奈実……」

麻奈実「さっき全員を選ぶって言ってたよね。それなら、わたしだってその中に入る資格あるよね?」

麻奈実「桐乃ちゃんの事は認められないけど、黙って見逃す事にします。交換条件だよ」

京介「……そうか。ありがとうな」

結局、麻奈実は俺達の事を許してくれたんだ。それならば。

京介「これからもよろしくな!」

麻奈実「うんっ」






月曜日、両頬を赤く腫らした俺を見てもあやせは何も言わないでくれた。とてもそんな気分では無かったのでエッチはしなかった。

火曜日、桐乃を抱いた。禁忌を犯す背徳感からか異様に興奮した。桐乃からの反撃は案の定大した事なかった。

水曜日、黒猫がうちで料理を作ってくれたんだが、精力増強効果のある食べ物ばかりだった。勿論いたした。

木曜日、ノリノリな加奈子と色々やった。色々。

金曜日、二連続で紳士になれなかった俺は今度こそと気合いを入れて沙織を迎え入れたのだが。裸エプロンには勝てなかったよ……。

土曜日、順番により桐乃とデートの予定だったが、ちょっとした約束があったので夕方から待ち合わせ、結局家でダラダラ過ごした。今週はセックスばかりしていたので深く反省し、ジャレついてくる桐乃をあしらっていたら最後には切れられた。





沙織「えー、第四回、京介軍団会議を始めるでござる、が」

いえーい! あれ、俺だけ?

女性陣からの視線は一様に冷たい。

麻奈実「よろしくねぇ」

ニコニコ。相変わらず強い人だ。

桐乃「コレどーゆーこと?」

沙織「京介氏、とりあえず説明を要求するでござる」

いつもは上座に俺、左隣にあやせ、右隣に桐乃が座るのだが、今日は俺と桐乃の間をこじ開けて強引に麻奈実が座していた。

京介「えー、あー」

麻奈実「わたしもきょうちゃんの恋人になりました~」

……。

怒号が巻き起こる。

かくして順調に、近親相姦六又野郎にクラスチェンジしたのであった。




この後、俺はさらに変身を二度遂げて八又野郎にまで登り詰めるのだが、それはまた別のお話――







    終



 if ブリジット・エヴァンスの場合 編



>>?? から


最近かなかなちゃんのようすが変なんです。

お仕事中なのに急にニヘラと笑ったり、ひとりでクネクネしたり。電話をじっとみつめてためいきをついたり。

どうしたんですか、って聞いても、おめーにはまだ早いって言って教えてくれません。

でも、少し前からかなかなちゃんはきれいになりました。前もきれいでしたけど、今はもっとです。

マネージャーさんもスタッフさんもほめてます。

あ、マネージャーさんっていうのは、前のマネージャーさんじゃなくて今のマネージャーさんです。分かりにくいですね、えへへ。




変わったと言えばあやせさんもです(本当はあやせさま、なんだけど、それは嫌だって言われたのであやせさんです)。

撮影中なのに急にニヘラと笑ったり、ひとりでクネクネしたり。電話をじっとみつめてためいきをついたり。

どうしたんですか、って聞いても、顔を赤くするだけで教えてくれません。

わたしもう12才です、大人です。ぷんぷんです。

少し前からあやせさんもきれいになりました。大人のふんいきです。アダルトです。

なのに水着のお仕事はへらしたみたいです。マネージャーさんも困っていました。





そういえば、お二人とも同じころにきれいになりました。

何かあったんでしょうか?

何かあったと言えば、かなかなちゃんとあやせさんと前のマネージャーさんのデートをスクープされた時はちょっとだけ大変でした。

今が大事な時期だからって、社長さんにずっと怒られていました。

でもかなかなちゃんはずっとニコニコしていました。わたしならきっと泣いてます。

あやせさんはだまっていましたけど、時々なにか言い返していました。ちょっとだけこわかったです。

恋をしたらきれいになるって言うので、もしかしたらそれのおかげなのかもしれません。

お二人とも前マネージャーさんが好きなんでしょうか?

恋のさやあてなんでしょうか。意味は分かりませんけど。

わたしにはまだ早いと思いました。



でも、ちょっとだけ

お二人がうらやましかったんです。






「ブリジット、ちょい写メ撮らせてくれよー」

「いいよー」

ある日、かなかなちゃんにお願いされて一緒に写真をとりました。

急にどうして? と思ったら

「今日は京介の所に行けないからヨー、これくらい送っておこうかなって。オメーはサービスだサービス」

キョースケってなんでしょう。聞いたことがあるような気がします。

「なんだオメー忘れちまったのかよ、京介だよ京介。桐乃のアニキ。前にマネージャーしてたの覚えてねーか?」

忘れてたけど、今思い出しました。笑顔がやさしかったお兄さんです。

あれ、前のマネージャーさんってことは。

「もしかしてデートしてた人?」

「そそ、ニュースになったアレ」

ということは、かなかなちゃんの彼氏さんでしょうか。きょーすけさんの名前を出すたびにかなかなちゃんはうれしそうに笑うので、きっとそうなんだと思います。

え、ってことは……。

「ええ~、今わたしぜったい変な顔してたよ。とりなおして~」

なぜだか、急に恥ずかしくなってきました。

「良いって良いって。京介はオメーのこと気に入ってっからよ、問題ねーって」

そう言われて、わたしはますます恥ずかしくなりました。ふしぎです。





えと、くるす・かなこ、っと。

お家に帰ったあと、パソコンであの時のニュースをけんさくしました。

『白昼の東京・秋葉原で起きた、美少女が巻き起こした騒動 ――渦中のプレイボーイの正体に迫る――』

漢字はむずかしいです。でもなんとなく読めます。

大きくきょーすけさんとかなかなちゃん、あと知らない人の写真がのっていました。

モザイクがかかっているのではっきりとは見えませんけど、きっとすごい美人さんです。この人の方がきょーすけさんと仲が良さそうに見えます。かなかなちゃんは平気だったんでしょうか。

きょーすけさんは、思い出のとおりやっぱりやさしそうな人でした。

画面を下にスクロールさせると、何枚目かの写真で、あやせさんがきょーすけさんを叩いていました。ええー?

小さく『痴情のもつれ』と書いてあります。読めません。

分かる所だけを読んでみると、かなかなちゃんと美人さんがきょーすけさんとデートしている所にあやせさんが出てきて、きょーすけさんを叩いたみたいです。

恋のさやあてです。ドキドキします。

そのあとの写真ではあやせさんときょーすけさんが抱きあっていました。ドキドキします。

あれ、でもかなかなちゃんは……?

記事はそこで終わっていました。これ以上は分かりません。

かなかなちゃんは、うれしそうにきょーすけさんにメールを送っていました。だからきっとつきあっているんだと思います。

そうすると、あやせさんはふられたんでしょうか?

聞いてみたいけどそれはダメです。大人はよけいなことを聞かないものです。





次の日、あやせさんと事務所で出会ったら、ものすごくニコニコしてました。

うう、やっぱり気になります。

でもガマンして、どうしたんですか? とだけ聞きました。

「ふふ、ブリジットちゃんにはまだ早いよ」

かなかなちゃんと同じことを言われました。わたしもう12才なのにー。

あやせさんが歩いていったあと、マネージャーさんが出てきました。

今のマネージャーさんは大人の女の人です。だから何でも相談できます。

「そうね、彼氏さんと上手くいったんじゃないかしら? やっと大人になったのよ」

あやせさんはわたしから見たら大人ですが、マネージャーさんからだと子どもなんでしょう。

それよりもあやせさんの彼氏さんはだれでしょうか。気になります。

「余りプライバシーに首を突っ込むものじゃないわ。知りたいなら自分で尋ねなさい」

わたしもマスコミに色々調べられて嫌な思いをしたことがあるので分かります。

だから、ごめんなさい、とあやまりました。

「良いのよ、ブリジットも女の子だものね。それじゃ、また後でね。遅れないようにしてね」

手をふってわかれたあと、わたしは考えました。

かってに調べられて、あやせさんは良い気持ちがしません。

だから気になるけどもうやめようと思いました。






そして次の日。

今日はステージのお仕事でした。かなかなちゃんもいます。

たくさんのファンの人たちといっしょに会場をもりあげました。

お仕事が終わったので車に乗って事務所に帰っている時でした。

「おっ、京介じゃねーか」

眠くてぼーっとしていたけど、かなかなちゃんのその声で目がさめました。

赤信号で停まっているわたしたちの車のすぐ側をきょーすけさんが通っていました。

写真と同じです。

あれ、横にいるのはあやせさん……? とても仲が良さそうに手をつないで歩いています。

「か、かなかなちゃん、見ちゃダメ!」

「なんだよ? おー、そういや今日はあやせの日だったな」

あれ、いいの?

すぐに車が動き出したので、お二人は見えなくなりました。

わたしは運転席のマネージャーさんに聞こえないように、小さくかなかなちゃんに話しかけます。

「怒ってないの?」

「あ? なんで?」

「だって、きょーすけさんはかなかなちゃんとつきあってるんだよね?」

「あー」

かなかなちゃんはひひひ、と笑うと、内緒だぜって言いながらわたしだけに聞こえるように教えてくれました。

「あたしたち一緒に付き合ってるんだよ。みんなには言うなよー?」

意味が分かりません。

でもケンカにはならないみたいなので、ほっとしました。






それから何日かたちました。

今日はかなかなちゃんのようすがおかしいです。ずっとフラフラしています。

「だいじょうぶ? つらいならお休みした方がいいんじゃない?」

「あー、大丈夫だって。仕事はちゃんとやる。ちょっと昨日ヤりすぎただけだから心配すんなって」

てつやでゲームでもしてたんでしょうか?

わたしも時々遅くまでアニメをみてて、お母さんに怒られるから分かります。

でもやっぱり心配なので、マネージャーさんに休ませてあげて、って言いにきました。

「あれは自業自得なのよ……。全く加奈子には困ったものね。言っても聞かない子だし、どうしたものかしら」

じごうじとく、小学校の授業で習った気がします。えーと、自分のせいで何かがおこること? 忘れました。

「そうだ、ブリジットは加奈子の彼氏さんを知らないかしら?」

「えっ。えと、知っているような、知らないような」

「微妙な所かー。彼氏さんに直接言うのが一番効果的だと思うんだけどねえ」

もしかしたらきょーすけさんとお話できるかもしれません。

そう考えたら、わたしは自分でもびっくりするくらい大きな声を出していました。

「し、知ってます!」

「あらそう? なら伝言お願い出来るかしら」

「はい!」





どうしよう、ウソついちゃった……。

もちろんきょーすけさんの連絡先なんて知りません。

ケータイのメモを開いて、マネージャーさんが入力した文を読み直しました。

『加奈子の仕事に悪影響が出ています。やめろとまでは言いませんが、少し自重してもらえると助かります』

内容がちゅーしょー的でよく分かりません。

でも大事なことだと思うので、絶対きょーすけさんに会わないとっ。

何か方法はないかとウンウン悩んでいたら、かなかなちゃんからメールが届きました。

『今日はめいわくかけた。マネージャーに言ってくれたらしいな、サンキュー』

かなかなちゃんのメールは漢字が少なくて読みやすいです。

『いいよー。早く元気になってね。もうてつやしちゃダメだよ!』

『おう、気をつけるわー』

あ、きょーすけさんの連絡先を聞いてみてもいいかな? 教えてくれるかな?

『ちょっといい?』

『おー、なんでもいいぜー』

『きょーすけさんのアドレス教えてもらえないかな』

『いいけど、なんで?』

ううう、理由なんて思いつきません。正直に書いた方がいいんでしょうか。

『あやせさんのことで相談があるの』

かなかなちゃんのことを相談するのに、かなかなちゃんにそれを言うのは違うと思いました。

なのでまたウソをついてしまいました。わたし悪い子です……。

『そっか。あやせのことなら、たしかに京介のが良いかもなー』

きょーすけさんは京介って書くんですね。おぼえておきます。

そしてきょーすけさんのアドレスが送られてきたので、かなかなちゃんにお礼とお休みなさいを送っておきました。






『こんばんは、ブリジット・エヴァンスです。お久しぶりです。おぼえていますか? いきなりメールをしてごめんなさい』

ドキドキしながら送ったのですが、お返事はありません。知らないアドレスからメールが来たらわたしもこわいです。

『くるすかなこさんにアドレスを教えてもらいました。信じてください』

だからもう一回送りました。やっぱりお返事はありませんでした。

なんでもないことのはずなのに泣きたくなりました。ふしぎです。

どうしよう、わたしの写真を送れば信じてもらえるのかな? と思っていたら、お返事が来ました!

『おー、ブリジットちゃんか。久しぶりだな。どうした?』

信じてもらえた。うれしい!

『いきなりごめんなさい。かなかなちゃんのことでご相談があります』

『加奈子の事で? 分かった、どうぞ』

『むずかしいので、できれば会ってお話がしたいです』

『そうか。分かった。明日でいいかな?』

明日は土曜日なのでちょうどいいです。

そのあと、時間と場所を決めてお休みなさいと送ったら、ちゃんとお休みって返ってきました。うれしいです。

よかった、約束できました。







今日は朝からドキドキしていました。

変なかっこうしてないかな? かみの毛はねてないかな? 何度も鏡でかくにんしました。うん、バッチリです。

待ちあわせはわたしのお家の近くの本屋さんです。きょーすけさんが気をつかってくれたみたいです。

かなかなちゃんやあやせさんにだまって、きょーすけさんに会うのが、なんだか悪いことしてるみたいです。

時間にあわせて本屋さんに行くと、きょーすけさんはもう待っていました。

「ごめんなさい、お待たせしました」

「いいや、今来た所だから大丈夫だよ。それよりブリジットちゃん、しばらく会わない間に随分大人になったなー」

「ありがとうございます」

ドキドキして、それしか言えません。

「うん、凄く美人になった。もう中学生だっけ?」

びじんって言われました。とてもうれしいです!

「あ……う……はい、そうです」

「そっか。学校は楽しい? 友達は出来たか? まさか苛められてないだろうな」

「え、えと、その」

まるでお父さんみたいなことを言うので、ちょっとおかしくなりました。

「ああ、悪い。いきなりで一方的に質問し過ぎだな」

「いえ、だいじょうぶです。学校は楽しいです! 友だちはたくさんできました! いじめは分かりません!」

「そうか」

あ、やさしく笑ってるこの顔はおぼえてます。

「っと、ずっと立ち話って訳にもいかないな。どこか座れる場所に移動するか」

「はいっ」


わたしが中学生なので、きっさ店には入れないってきょーすけさんは言いました。そうなのかな? もう大人なのになあ。

けっきょく、公園のベンチにならんで座りました。とちゅうの自動販売機でジュースを買ってくれました。

「それで、加奈子の相談って何だ?」

「えっと、これです。マネージャーさんからです」

『加奈子の仕事に悪影響が出ています。やめろとまでは言いませんが、少し自重してもらえると助かります』

うわちゃー、ときょーすけさんは顔を手でおさえて上を見ました。わたしもいっしょに上を見ました。青空です。

「あー、なるほどなぁ……なるほど」

わたしには意味が分からないけど、きょーすけさんは分かるみたいです。やっぱり大人は違います!

「うん、分かった。充分気を付けるってマネージャーさんに伝えておいてくれるか?」

「はい」

……ようじは終わりました。もう帰らないとダメなのかな。もうちょっといたいなぁ。

「ところで、ブリジットちゃんはこれの意味分かるの?」

「いいえ、ぜんぜん分かりません!」

きょーすけさんが話を続けてくれたので、わたしはうれしくて大きな返事をしました。

「そっか、それなら良いんだ。やっぱ天使だわ」

テンシ? エンジェルかな?

「意味が分からないと天使なんですか?」

「いやいや、気にしなくていいから」

「はい」


……。

あれ、もう終わり?

きょーすけさんを見ると、コーヒーをグビリと飲んでいます。コーヒーは苦いので苦手です。

わたしは買ってもらったオレンジジュースを飲みました。甘くておいしいけど、きょーすけさんとつり合うためにはコーヒーくらい飲めないとダメなのかな。

って、今なんだか恥ずかしいことを考えてしまいました。あわわわ。

せっかくなので、わたしはずっと気になっていたことを聞いてみることにしました。

「あの、聞いてもいいですか?」

「おう、何でも答えるぞ」

「この間かなかなちゃんに教えてもらったんですけど、きょーすけさんは、かなかなちゃんとあやせさんといっしょにおつきあいしてるんですか?」

「ぐふっ」

やっぱり変なことを聞いてしまったんですね。きょーすけさんはむせてゴホゴホいってます。

「あー、その、なんだ」

わたしはちゃんと聞こうと思って、じいっときょーすけさんを見つめました。

「……ああ、そうだ」

なんだかマジメな顔をしています。キリッとしていてかっこいいです!

「大人の人って、二人と同時におつきあいできるんですか?」

「ブリジットちゃん、それは違う」

「?」

「普通はさ、一人としか付き合えないんだよ」

あ、やっぱりそうなんですね。アニメでもマンガでもふつうはそうです。好きな人を取りあってケンカになります。

「俺達は何と言うか、そう、普通じゃ無かったんだ」

「そうなんですか」

たしかに、かなかなちゃんもあやせさんも、すてきできれいです。モデルさんやアイドルのお仕事をやってるギョーカイ人です。

あれ、だったらわたしは?


「だから俺達の事は参考にしたら駄目だ。ブリジットちゃんも好きな人くらい居るだろ? それは一人だけだよな」

わたしに好きな人……。うーん、分かりません。お父さんはこの場合違いますよね。それくらいは分かります。

「よく、分かりません……」

「そっか、初恋はまだか~」

初恋。それはとても甘くて切ないモノ。心がドキドキするモノ。その人のことを考えると、フワフワしてべんきょうも手につかなくなるモノ。

そうだとは知っていても、やっぱりよく分かりません。

でもきょーすけさんのお話を聞いてると、ちょっとモヤモヤします。これはなんでしょう。ふしぎです。

「ま、気にすんなって。もうちょっと大きくなったら自然に好きな人くらい出来るって!」

「そうなんですか?」

「おう、みんなそうだからな!」

それを聞いて思いました。やっぱりわたしはまだ大人じゃないんだ、って。

「それで、話を戻すんだけどな」

「はい」

「俺達が付き合ってる事は秘密にして欲しいんだ。世間体が悪いからさ、あやせや加奈子にどんな影響が出るか分からねーんだ」

「かなかなちゃんにも内緒って言われました。だからだれにも言いません!」

「そっか、ありがとな」

わわわ、クシャクシャッて頭をなでられました! せっかくととのえたかみがバラバラになったけど、もっとなででほしいです。

「あ、悪い。つい……」

「いえ、うれしかったので平気です!」

続けてほしくてそう言ったけど、きょーすけさんは手を離してしまいました。残念です……。


「さて、そろそろ戻ろうか。家まで送るよ」

「あ……」

楽しかったので忘れてました。急にきょーすけさんとはなれるのがさびしくなったけど、ワガママは言えません。

「わたしのお家はこっちです!」

だから、明るくそう言いました。

帰り道、

「あの、また連絡してもいいですか?」

「勿論さ! ブリジットちゃんのお願いなら何時だって聞くぜ!」

「ありがとうございます!」

おそるおそる聞いてみたら、きょーすけさんはあっさりと答えてくれました。とても心がフワフワします。ふしぎです。

お家に送ってもらって、きょーすけさんが見えなくなるまで手をふり続けて、お部屋にもどって。

はぁ、次いつ会えるのかな……。







告白されました。

学校の男の子だけど、知らない人です。わたしをずっとおうえんしてたって言ってくれました。

告白されるのははじめてじゃないけど、今までとはちょっと違います。

なんだかこわいです。きょーすけさんはやさしかったのに、この人はとても、ギラギラ? しています。

「ごめんなさい、お仕事があるからおつきあいできません」

いつもこう言っておことわりしています。今までならそれでだいじょうぶでした。

だけど、この人は違いました。とてもしつこいんです。

好きならなんでもできる、おれはあきらめない、仕事しながらだってつきあってる人はおおぜいいる、もっとちゃんと考えてくれ、とか色々言われました。

それでもわたしは、ごめんなさい、としか言えません。

そしたらとうとう、カベに押しつけられてしまいました。

わたしが痛がっていると、ごめん、と言いながらも手をはなしてくれません。

これがカベドン? でもわたしが知ってるのは、もっとすてきなモノです、こんならんぼうじゃありません。

きょーすけさんなら、きっともっとやさしくしてくれます。

男の子は、ジリジリとわたしにきょりをつめてきました。もしかしてキスするつもりなんでしょうか?

そう考えたら、急に悲しくて、こわくて、涙が出てきました。

だれか助けて! かなかなちゃん! きょーすけさん!!

こわくてこわくて、助けてほしいのに、声が出ません。




けっきょく、かくれてようすを見てくれていた女の子の友だちが、他の男の子を呼んで助けてくれました。

きょーすけさんは来てくれませんでした。当たり前です、学校にいるわけないんですから……。

友だちにつきそってもらってお家に帰って、お部屋でひとりで泣きました。

きょーすけさんの声が聞きたいです。やさしくなぐさめてもらいたいです。でも、電話番号を知りません。

あの時に聞いておけばよかった、すごくこうかいしました。



『いきなりごめんなさい。今いいですか?』

『おう、どうした?』

『会いたいです』

『分かった、すぐに行く』



どうして、とも何があったのか、とも聞かずに、来てくれるってお返事がありました。

わたしはうれしくてうれしくて、まだ涙がとまりませんでした。





チャイムがなりました。

今日はお母さんはお仕事でまだ帰っていないので、ちゃんとドアインターホンで外をかくにんします。

これだけはぜったい守りなさい、ってしっかりしつけられました。

きょーすけさんが心配そうな顔をして立っていたので、わたしはドアをあけて、とびつきました。

あとで考えると、とても恥ずかしいことをしました。でもやっぱり恥ずかしくありません。ふしぎです。

きょーすけさんを抱きしめて、わたしはまた少しだけ泣きました。

泣き止むまで、やさしく頭をなでてくれました。とてもフワフワします。

ずっとげんかんにいるのもおかしいので、わたしのお部屋に入ってもらいました。お父さんいがいの男の人を入れるのははじめてなので恥ずかしいけど、きょーすけさんなので平気です。

きょーすけさんは、だまって、やさしく、そばにいてくれました。



「ごめんなさい、ごめいわくをおかけしました」

「おいおい、お願いは何時でも聞くって言ったろ? 俺は約束は必ず守る男だぜ?」

「それなら、ありがとうございます」

「ああ」

……。

いきなりなのに何も聞かずに来てくれて、今もわたしをだまって見守ってくれているやさしい人。

気がついたら、しんぞうがドキドキしていました。これは病気じゃありません。なんとなく分かります。

「あの、聞いてもらえますか?」

「ああ、いくらでも聞くさ」




わたしの話を聞き終えたきょーすけさんは、ものすごく怒りました。そいつの家を教えろ、おれがなぐりに行ってやる! とか言ってました。

だけどぼうりょくはダメです。それに知らない人なので、クラスも知らないし、もちろん家も分かりません。

ぼうりょくはぜったいダメですけど、わたしのことで怒ってくれるきょーすけさんがとてもうれしかったです。



おちついて、けっこう遅くなってたので残念ですけどきょーすけさんには帰ってもらいました。

もしもお母さんが帰ってきてたら、色々聞かれて恥ずかしかったと思うので、きっとこれでせいかいです。

電話番号はちゃんと教えてもらいました。

「何かあったら、何もなくても、何時でも電話してきていいからな」

と言ってくれたので、えんりょせずにかけようと思います。

今日は辛いこともあったけど、トータルだとプラスだったと思います。

だって、ようやく気づけたんだから。

これがわたしの、初めての恋――








「なー、あやせよー、最近ブリジットの様子、変じゃね?」

わたしも自分でそう思います。

「だよね、最近ずっとニコニコしてるし」

恋をするってすてきです。いつでも楽しい気分になれます!

「なんかさー、気が付いたらクネクネしてるんだぜ? あれ絶対何かあったって」

きょーすけさんのことを考えたら、ドキドキしてフワフワして、からだがかってに動いちゃいます。

「電話を見詰めて、溜息吐いてるよね。あれってやっぱり……」

いつでも電話していいって言われましたけど、やっぱりそれはむずかしいです。だからいつもメールです。お返事がとどくまでがとても楽しみです。

「だよなァ、あれってやっぱそーだよなー」

ピロリン、とケータイがなったので、いそいで画面を開くと、そこにはやっぱり『京介さん』の文字が。

ワクワクしたりドキドキしたり、今とってもしあわせです!

「え゛」

すぐ後ろで声が聞こえたのでふり向いたら、かなかなちゃんがわたしのケータイをのぞいてました。


「か、かなかなちゃん! ダメだよかってに見たら!」

「……マジでか」

「どうしたの、加奈子」

「いや、ちょっと、さすがのあたしも完全にこれは想定外だった」

かなかなちゃんはすごくショックを受けてるみたい。そうだよね、おつきあいしてる男性とかってにメールのやりとりしてたら嫌だよね……。

「えーと、あんまり考えたく無いんだけど、加奈子の反応から何となく察しは付くんだけど」

「なんでー? なんでそうなんのー? あいつどんだけ天然ジゴロなんだっつーの」

「はぁ、そうなのね……。呆れた」

あわわわ、あやせさんに呆れられてます。あやせさんには嫌われたくありません!

「あ、あの」

「いいのよブリジットちゃん、あなたは悪くないから」

「でも」

「いいの、あなたのその想いはとても素敵なモノ。だから大事にして、ね?」

いいのかな? いいって言ってくれてるから良いんだよね?


「それよりもさァ、どーするよコレ」

「とりあえず緊急会議が必要ね」

「だよなー。ったく、あのロリコンが。ぜってーゆるさねー」

ロリコン。ロリータコンプレックス。知ってます、大人の男の人が、小さな女の子を好きになることです。

お母さんからは、とてもきけんな人たちだから近づくなって言われてます。

でも、それって。それって。

き、き、きょーすけさんが、わ、わ、わたしのことを!?

まさか、でも、なんで、あれれ。ドキドキがやばいです、今までで一番ドキドキしてます!

きょーすけさんは大人でおつきあいしてる人もいるから、とうぜんこの初恋はあきらめていました。

だけど、だけど、きょーすけさんがわたしみたいな子を好きになる人なら、わたし子どもでよかった!!





きっとそれはかんちがい。だけど、かんちがいするくらい良いですよね?

恋する女の子はむてき、そうマンガにも書いてあります。

今のわたしはむてきです!

だからきっと、うまくいきます!


えへへ、きょーすけさんにどんなお返事を送ろうかな。好きですって書いたらおどろいてくれるかな。

かなかなちゃんとあやせさんがさわいでる中、わたしはすてきな未来をそうぞうして、想いをはばたかせるのでした。






    ブリジット・エヴァンスの場合

    → 未来は常に未知数






       終


こんばんは、以上となります。


明らかにブリジットの年齢設定を間違えてしまいました。大目に見て貰えると助かります。

あと、投下した後でいくつか呼称を間違えているのに気付いてしまいました。すみません。



それではまた~。

赤城√はないんですか(絶望)


>>239,240

浩平「なあ高坂、お前ホモについてぶっちゃけどう思ってる?」

京介「お前の妹の栄養源」

浩平「俺さ、最近ちょっとおかしいんだよ」

自分から尋ねておいてこの反応。殴りてぇ。

浩平「ふと気が付いたらお前の事ばかり考えてるんだ。ははっ、気持ち悪ぃよなこんなの」

京介「赤城……お前……」

浩平「悪ぃな、急にこんな話をしちまって。もう卒業式まで会う事も無いだろうから、言っておこうと思ってな」

京介「実は俺も、そうなんだ」

浩平「高坂?」

京介「気が付いたらお前の姿を目で追ってた。この気持ちは自分でもどうにもならなかったよ」

浩平「高坂……いや、京介」

京介「浩平……」

夕暮れ時の教室。俺達以外、世界に誰もいないのでは、と錯覚してしまう。

近付いて行く二人の距離。そして――




瀬菜「とまあ、オーソドックスな展開ですけどこんな感じがやっぱり一番だと思うんですよ」

京介「この展開までベッタベタだな!」

瀬菜「で、実際どうなんですか? お兄ちゃんと進展ありましたか?」

京介「ある訳ねーだろーが! 身内を巻き込むな! 妄想は己の内に留めておけっての!」

ガララララ

黒猫「こんにちは」

瀬菜「あたしの見立てでは、高坂せんぱいは受けだと思うんですよ。普段は突っ込みなのに、実は突っ込まれるっていうギャップ萌え?」

京介「五更、丁度良い所に! こいつを何とかしてくれ!」

黒猫「さようなら」

ガララララ ピシャッ!

京介「うおーーーーい!!」

放課後のゲーム研究会、腐った妄想は続いて行く……。




こうですか!? わかりません!

ごめんなさいもう無理です許してください。

こういうありがちなストーリーでも、ホモは鳥肌が立ちます。私には無理です。ふしぎです。不思議じゃねーよ。


それでは~。


 おまけ あやせ 編




どう考えてもおかしいです、異常です。

そもそも京介さんと付き合っていたのはわたしなのに、

気が付けば他の女性とも交際関係にあるという、全く不義理な事をやられちゃってます。

しかも最近はわたしの扱いがぞんざいになってるんです。もしかして軽く見られているんでしょうか?


これは、お仕置きしなきゃダメですよね。




「で、それを聞かされた俺はどうすれば良いんだよ……」

「勿論、お仕置きの内容を考えてください」

あ、すごく嫌そうな顔をしてますね。やっぱり気が進まないんでしょうか。

「あの、あやせさん。私めはどちらかと言うとSだと思うんです」

「はい」

「なので、自分への罰を考えるなんて対極に位置する事だと思うんです」

「はい」

「そういう相談は、私めの居ない場所で、他の人にやって頂けないでしょうか」

「ダメです。それを考えるのもお仕置きの一部です」

ニッコリ。対京介さん奥義の一つを披露しました。これをすると、大抵はわたしの言う事を聞いてくれるので重宝してます。


「はぁー。そもそもだ、あやせ」

「何ですか?」

「俺はお前を蔑ろにしたつもりは全く無いんだが」

「いいえ、この間みんなで旅行に行った時とか酷かったです」

「そんな事は無いと思うんだけどなぁ」

「あの旅行中に、わたしと何回会話を交わしたか覚えてますか?」

「そんなん覚えてる訳ないだろ。普通くらいじゃないか?」

「たった23回です! 23回!」

なぜでしょう、京介さんの頬がヒクヒクと引き攣ってます。

「あの時は桐乃やブリジットちゃんとばかりお喋りしてました。夜は黒猫さんとも良い雰囲気でした」

「わたしは京介さんともっとお話ししたかったのに、全然こっちを向いてくれませんでした」

「そうか……俺は知らず知らずの内にあやせを傷付けていたんだな。悪かった」

神妙な表情を浮かべる京介さんは凛々しくて素敵です。だからと言って許しませんけど!

「ですので、お仕置きです」

ええー、マジでぇー。と頭を抱える京介さん。先ほどの精悍さはどこへ消えたのでしょうね。

「ああそれなら、あやせの思うお仕置きとは違うかも知れないけど、今ちょっと計画してる事があるんだよ」





――ふむふむ。なるほどです。

「それは素敵ですね!」

「だろう?」

「分かりました、そういう事なら許します」

「そっか。ありがとな」

「ただし、もしも約束を違えた場合は……」

わたしはまだ何も言ってないのに、京介さんから笑顔が消え、その顔は恐怖に彩られていきました。不思議ですね。

少し可哀想になったので宣告は辞めておきましょう。

「いえ、京介さんが約束を破るなんて絶対ありませんから、信じます」

「……お、おー。絶対だ。絶対あやせを一番にするからな!」

「はい!」



そして次の日、京介さんは居なくなりました。





京介さんのアパートから灯が消えて既に二週間以上。

会いたい……。

桐乃も黒猫さんも、沙織さんも加奈子もブリジットちゃんも、みんなみんな憔悴していました。

お姉さんだけは余り変わった様子は見られません。お姉さんには何年もの間に蓄積された京介さんへの信頼があるのでしょう。それはまだわたしには無いモノなので、羨ましいです。

最近は学校帰りに京介さんのアパートへ寄り道するのが日課になっています。

今日は居るかな。明日ならどうだろう。そんな都合の良い妄想を浮かべては、絶望を抱いて帰宅する毎日。

会いたい、会いたいです。今すぐに抱き締めて愛してるって言って欲しい。これ以上はわたしの心が持ちそうにありませんでした。

だから膝を抱えて、京介さんの部屋の前でうずくまりました。少しでも京介さんの近くで存在を感じたい。

「……何してんだよ」

!!

「京介さんっ!?」

「どうやったらあたしと京介の声を聞き間違えるのさ……」

加奈子でした。そういえば今日は木曜日、加奈子の日です。ここに来ていても不思議じゃありません。

「そっか。まだ、なんだな……」

力なく項垂れる彼女には、いつもの快活な面影がまるでありません。


「あやせよー、オメー最近ちゃんと寝てるか? ひでークマが出来てんぞ」

「加奈子だってわたしのこと言えないよ。お仕事に影響出るからちゃんと寝なきゃ」

お互い悲しいのに、少しだけ笑い合う事が出来ました。

「はァー、京介も罪なヤツだよな。こんな可愛い彼女達に、こんだけ辛い想いをさせてんだ。帰ってきたら絶対ぶっ飛ばす」

「暴力はダメだよ。ちゃんと笑顔で迎えましょ、ね」

「あやせがそれを言うかぁ」

「それってどういう意味?」

「あー、分かんねーならいいさ」

わたし達は二人並んで座りました。

「ねえ加奈子。京介さんが戻って来たらなんて声を掛けるか考えた?」

「そーだなー。取り敢えず殴って、抱きついてワンワン泣くかな」

「ふふ、加奈子は可愛いね」

「へっ、現役女子高生アイドル舐めんなヨ。可愛いに決まってるだろーが」

一緒にお喋りしてる内に段々元気が出てきます。やっぱり友達って凄いですね。

「さって。今日もダメそうだし、あたしはもう帰るわ」

「わたしは家も近いし、もうちょっとここに居るね」

「もう九月だし陽が落ちるの早くなってっから、あんま遅くまで残んなよー?」

じゃあなー、と手を振りながら加奈子は暮れの街角に消えていきました。

わたしもあと少ししたら帰ろうっと。




夕陽が遠くのビル群にかかり始めた頃、アパートを後にしました。

その時です。



あの人が、

絶対に見間違える筈のない、あの人の姿が、遠くに見えました。

「京介さんっ!!」

気が付いたら走っていました。もう自分ではどうしようも出来ません。突き動かされる衝動に身を任せ、あっという間に距離を縮めて行きます。

「あやせっ!」

そのままの勢いで飛び付きました。ああ、この温もり、この匂い、間違いありません!

京介さん、京介さん、京介さん!!

自然と嗚咽が漏れ、彼の肩を濡らしてしまいます。

「全く……あやせは甘えん坊だな」

優しいその声、笑顔、背中に回された腕。こんなにも愛おしいモノがこの世の中に存在するなんて信じられません!

「会いたかった……会いたかったです……」

「俺もだよ」

暮色に包まれながら、わたし達はキスをしました。





京介さんに連れられて、久しぶりに彼の部屋に入りました。

「んで、なんであやせはあんな所に居たんだ?」

「京介さんを待っていたからです」

「そっか、ありがとな。ただ、ちゃんと昨晩『家に着いたらメールする』って連絡したろ?」

「待ち切れなかったんです」

「さっきのあやせ凄かったもんな。愛されてるって実感したよ」

「もう、すぐに恥ずかしい事を言うんですから!」

ほんの他愛のない言葉のやり取りでもこんなに心が温かくなれるのなら、会えなかった期間も必要な物だったのかもしれません。

「でも加奈子には悪いことしました。少し前まで一緒に待っていたんです」

「そうなのか。あいつ短気だしなぁ」

「そもそもは『昨日帰って来る予定』だったじゃないですか。一日伸びたのなら二日もある、って考えてしまいます。加奈子は今日も無理だろうと思ったみたいですよ」

「俺そこまで無能じゃないっての。一日遅れる理由だって、ちゃんと全員にメールしたぞ?」

「そうですそれです。疲労で寝込んでしまったって書いてありましたけど、大丈夫なんですか?」

「おう、所詮は疲労だからさ、寝たらすっかり元気だよ。心配させたな」

「本当そうです。あなた一人の身体では無いんですから、気を付けてくださいね。それで、あの、首尾は如何ですか?」

「ん、バッチリだ。後は明日の最終試験に合格すれば晴れてゲットだぜ!」

「おめでとうございます!」

「気が早いっての。でもありがとうな。あやせを一番にするって約束は必ず守るからな!」

「はい!」

その後は、会えなかった期間のあれこれをお互い交換し合いました。






日曜日、早速みんなで集合です。

京介さんの取り合いは、それはもう壮絶な物でした。

黒猫さんやブリジットちゃんは泣き出すし、桐乃や加奈子はベッタリで離れません。沙織さんやお姉さんですら、いつもより立ち位置が50cmは近かったです。

でもわたしには約束があるので、全然焦りません。




さらに次の日曜日。

「おォ~、でっけー車だなー」

「かなかなちゃん、いっしょに並んで座ろうね!」

ホテルを見た時と同じような会話をする加奈子とブリジットちゃん。あれから少ししか経っていないのに、とても懐かしいです。また水族館に行きたいな。

「それじゃ、出発しんこー!」

「待ちなさい。貴方なにさり気なく助手席に乗ろうとしているのかしら? そこは私の席だと前世から決定しているのよ」

「はー? いつそんなの決まったんですかぁー。何時何分何秒、地球が何回まわった時~?www」

「はいはい、いいからお前ら喧嘩すんな。今日は助手席はずっと予約で埋まってんだ」

『はあ!?』

桐乃と黒猫さんの声が見事にシンクロしています。この二人はとても仲が良いので、時々羨ましくなります。わたしと桐乃じゃ滅多に喧嘩にならないので。

あとごめんなさい。助手席は譲りません。それが約束、ですからね。ささやかで、とても大きな約束。


運転席に京介さん、その隣にわたし。

二列目に加奈子とブリジットちゃん、三列目に沙織さんとお姉さん。残った二列目と三列目の席を賭けて、桐乃と黒猫さんは言い合いをしていましたが、結局行きと帰りで交代する事になったみたいです。

そして車は動き出しました。ガチガチに緊張している京介さんがちょっと可愛いです。写メ撮っておこうかな?

「京介よー、オメー免許取り立てだろ? こんなでけー車で大丈夫なんか?」

「悪い、運転中は話し掛けないでくれ」

「……あっそ」

あ、加奈子詰まらなさそう。京介さんにすげなくあしらわれてショックみたいです。

「お二人とも申し訳ござらん。拙者がもう少し小さければ窮屈な思いをさせずに済むのでござるが」

「良いよぉ。こういうのも楽しい思い出になるよ~」

「ふふ、そう言う事よ。貴方は貴方らしく、いつものように堂々としてなさい。調子が崩れるわ」

確かに沙織さんはちょっとだけ身体が大きいので、一番後ろの席はキュウキュウです。

本当はもっと余裕のある車をレンタルしたら良かったんでしょうけど、サイズが大き過ぎて京介さんが「うん、これ無理」と言ったので仕方ないです。

「ブリジットちゃんお肌スベスベだね。うへへへへぇ」

桐乃はみんなでお風呂に入った時と似たような事を言っていますが、あの時より悪化していませんか、これは。

「きりのさん、こわいです……」

「えっマジで!?」

ほら見てください。案の定ブリジットちゃんに拒否されて落ち込んでいます。自業自得ですね。





「そう言えば今日はどこに行くんですか?」

途中、コンビニで休憩している時にそう尋ねたら、予想もしていなかった答えが返って来ました。

「あれ、言ってなかったっけか。あの時の水族館だよ」

「え……」

「あやせ、あん時ちょっと後悔してたろ? だから今日はリベンジだ!」

嬉しい。ちゃんと見ててくれたんですね。ちょっと涙が出そう。

「ありがとうございます……」

「おう」

「よーよー京介ぇ。あやせばっかり構ってないでこっちも相手してくれよー」

「そーよ。あんた二週間以上あたしらの事をほったらかしにしてたんだからさ、しっかり埋め合わせしなさいよね!」

「あんな形での試練はもう御免だわ。次にまた私達を置いて何処かへ去ろうものなら、呪いと呼ぶのも烏滸がましい程の苦痛を死ぬまで与え続けるわよ」

「なんだよ、毎日ちゃんとメールで報告してただろ? 全員に違う内容の文章を送るのって、考えるの大変だったんだぜ」

「でも、きょーすけさんと会えなくて、とってもさびしかったです……」

「でござるな。まるで京介氏に捨てられたかと錯覚してしまうような日々だったでござる」




「みんな大げさだよぉ。きょうちゃんは『免許合宿』に参加してただけなんだから~」

そんな秋の日の出来事。






     終われ



おはようございます、以上となります。


なんとも強引極まりない展開です。本当になんだこれ。


それではまた~。


 おまけ 彼女たちの流儀 編



あれから数年が経過した。

ふと、あの日の幼馴染の言葉を思い出す。

「誰も幸せになれない、か……」

呟いて周囲を見渡すが、あれほど賑やかだった彼女達の笑い声はもうここには無い。

最初こそ順調だったものの、常にあやせと桐乃を優先していた俺では全てを平等に愛する事など出来るはずも無く。

気が付けば瑠璃が、沙織が、ブリジットが、加奈子が、どんどんと俺に別れを告げて去って行った。

桐乃は両親にその関係を知られてしまい、何処かへと連れて行かれた。連絡先は分からない。

あやせは桐乃が居なくなった頃からおかしくなり、遂に心を壊して今は病院に隔離されている筈だ。見舞いを新垣の家によって禁じられた為、今どうなっているのかは知る由もない。

麻奈実はずっと俺に寄り添ってくれていたが、ある日唐突に「わたし結婚するんだぁ」と言って出て行った。なぜそうなったのかは不明だが、きっと俺の力が足りなかったんだろう。



だから俺は、最後まで残ってくれた彼女を一生をかけて愛すると誓った。

そう、みんなも大方想像出来ているとは思うが





フェイトさんだ。


……あるぇー?





京介「ちょっと待て」

桐乃「なんでよ、これからが良い所なのに。絶望に打ちひしがれた京介が、真実の愛を求めて旅立ち、やがて苦難の末に愛する妹を発見して大団円っていうラブストーリーよ?」

沙織「涙無しでは語れないでござるなー」

黒猫「なぜ真っ先に脱落するのが私なのか説明して頂戴」

ブリジット「かなかなちゃん、フェイトさんってだれ?」

加奈子「知らねーなぁ。どーせ京介に引っかけられた女の一人だべ?」

あやせ「加奈子、知らないなら適当な事を言わないの。桐乃の小説を盗作した、救いようのない極悪人よ」

麻奈実「あやせちゃん、女の子がそんな怖い顔をしちゃ駄目だよ~」

人数が増えて、増々カオスを超えて終末が近付いている。実にミッシング。

京介「大体、妄想オチは先日使ったばかりだからもう無理だ」

桐乃「先日って?」

京介「気にすんな、こっちの話だ」

あやせ「気になる所は他にもたくさんあるよ、桐乃。何でわたしが心を壊すの? 今こんなにも満たされているのに」

全員『……』

あやせ「あれ?」


麻奈実「わたしがきょうちゃんを捨てていきなり結婚なんてするかなぁ」

沙織「現実をなぞらえてのNTRは結構クるものがありますな」

ブリジット「えぬてぃーあーるってなんですか?」

黒猫「所謂寝取られね。恋人や妻を他の人に取られてしまうシチュエーションを指す事が多いわ」

ブリジット「よく分かりませんけど、わたしはきょーすけさんが大好きだからだいじょうぶです!」

黒猫「そう。良い子ね」

京介「おい黒猫、ブリジットちゃんに俗悪な単語を教えるなよ」

黒猫「ロリコンは黙ってなさい」

京介「俺は紳士だぜ? 天使に手を出すものか!」

YES! ロリータ NO! タッチ。

桐乃「ブリジットちゃんは天使、分かる! 可愛いは正義!」

俺と桐乃は頷き合うと、ガッチリと握手した。

加奈子「うわー引くわー」

あやせ「ブリジットちゃんこっちに来て。あそこに近付いてはダメよ」

ブリジット「きょーすけさんは、とってもやさしいですよ?」

概ね全員から、このロリコンめ! という目を向けられた。おっかしいなぁ、俺何もしてないのになー。

沙織「失敬、拙者が迂闊な事を口走ったからですな。気を付けまする」





黒猫「こほん、話を戻しましょう。なぜ京介が最後に選ぶのが私ではなく妹になるのかしら」

桐乃「そりゃモチロン『妹空』の流れを汲む新作小説のプロットだからよ。ヒロインは妹に決まってるでしょ」

加奈子「女子高生アイドルがメインヒロインでいーじゃねーかよー。今アイドルブームだぜ?」

黒猫「かつて恋人だった相手と再び恋仲になり、そこから共に歩んで行くというストーリーも運命的で良いと思うのだけれど」

あやせ「妹の友達と、喧嘩や和解を繰り返しながら少しずつ距離を縮めていくというのも素敵だと思う」

沙織「たまには変り種も良いではないでしょうか。所属するコミュニティの主催者とオフ会で出会い、互いに惹かれあっていく、とか如何でござろう」

麻奈実「う~、幼馴染ってだけじゃ弱いかなぁ」

ブリジット「みなさんすごいですね! わたしはお話を作れないから、そんけいします!」

キラキラと純粋な瞳でみんなを見上げる(加奈子だけは彼女より背が低いが)ブリジット。彼女ーズは直視出来ずに目を逸らしている。ああ、俺達はいつの間にか汚れ切ってしまってたんだな……。

黒猫「大体、何でまた急にスイーツ(笑)小説を書くようになったのかしら。貴方もう断筆したのでは無かった?」

桐乃「スイーツ言うな。うーん、なんでだろ。前々から編集部に打診されてたってのもあるケド、今すごく楽しいから、それを残しておきたかったから、かな?」

黒猫「……そう。ならば私は貴方を応援するわ。心行くまで書きなさい」


桐乃「あんがと。ちょっとだけあんたの出番増やしてあげる。勇者京介に最後に立ちはだかる邪鬼眼使い、ブラックキャットとかどうかな」

ん?

黒猫「なぜ急に英語になるのかしら。普通に夜魔の女王(クイーン・オブ・ナイトメア)にして頂戴」

いや待て、突っ込むべきはそこじゃない。というかクイーン以下略だって英語じゃねーか。

桐乃「版権的に難しいんじゃないかなー。そもそもあんた、いつまでマスケラのコス着てんのよ」

沙織「拙者はやはり侍ですかなあ。刀剣マスターとかも憧れますな」

加奈子「そんならあたしはアイドル……は無さそうだからダンサーとかか?」

ブリジット「かなかなちゃんなら、バードでもいけそうだね!」

あやせ「わたしは、そういうの知らないから」

黒猫「アサシン」

あやせ「?」

黒猫「アサシン。或いはバーサーカー」

あやせ「良く分かりませんけど、そういうのがあるならそれで良いです」

良いのかよ!!

麻奈実「えーっとぉ、わたしは?」

そりゃもう、全員一致でこれしか無いわ。

『村人A!』

麻奈実「そっか。じゃあそれでいいよ~」

あやせと同じくゲームの知識に乏しい麻奈実が、ふにゃりと笑った。


桐乃「あたしは、メインヒロインで伝説の勇者の末裔でプリンセスでソードマスターで」

盛り過ぎだ! というか勇者京介が居るなら、勇者が二人になるじゃねーか!

桐乃「あと妹!」

妹だからメインヒロインにしたいんじゃねーの? あれ、俺がおかしいのか?

桐乃「囚われの姫君なワケだから、悪い邪鬼眼使いに幽閉されて勇者京介が来るのを、塔の上で待ってるの」

勇者でソードマスターなら自力で脱出しろよ。

桐乃「さっきからうっさいなー。あんたも文句ばっかり言ってないで案を出しなさいよ」

京介「それじゃ言わせて貰うけどな」

桐乃「うん」

京介「なんで! 急に! ファンタジーに! なるんだよ!!」

桐乃「あんた聞いてなかったの? ちゃんと『真実の愛を求めて旅立ち』って言ってるじゃん」

呆れた様子の桐乃。どう考えたって俺が正しい、よな?

京介「え、なに? 旅立ちってそういう意味? 『冒険の旅』とかそう言うの?」

桐乃「あったり前でしょ。王様に面会して50ゴールドとひのきの棒を貰ってからが旅の始まりよ!」

あっれえ、冒頭明らかに現代日本だったよな? どこに行けば王様に会えるんだよ、イギリスか?

桐乃「誰がいつどこで日本なんて言ったのよ。ちゃんとバックログ確認して」

京介「俺にエロゲーの機能は備わってない」

桐乃「エロゲー主人公みたいな生活送ってるくせに」

むむむむむ、と睨み合う。先程の握手は遠い幻想の彼方だ。

沙織「まあまあ、京介氏もきりりん氏も喧嘩はやめるでござるよ」

あやせ「桐乃楽しそう」

ブリジット「ケンカしてるのに楽しいですか?」

加奈子「喧嘩するほど仲が良いってゆーしなー。ほっときゃいいんだよ」



ま、こんな感じで俺達は日々楽しく喧嘩したりイチャイチャしながら過ごしていた。






桐乃「出来たー!」

とある日、アパートにやって来るなり桐乃はそう言った。

京介「お、小説か? 早かったな」

桐乃「読む? 読みたいよね? そこまで言うなら読ませてあげてもいいよ」

京介「どこまでだよ。まあ、読むけどさ」

どれどれ……。



まとめると次のような感じだった。

『城下町チバに住むナンパな遊び人キョーは、天涯孤独の身だと思っていた自分に妹がいると知って、彼女を探す旅に出る事にしました』

『まず酒場で旅の仲間を募ろうとしたキョーですが、無職だと登録できないため無理でした。登録するためには王様に会って許可をもらわないといけません』

『国王ダイスケはとても厳しい人。ナンパなキョーのことを認めてくれません。だからキョーは何ももらわずに、仲間もあきらめて旅に出ることにしました』

『旅はつらいものでしたが、キョーは持ち前のナンパスキルを駆使して、女性ばかりを仲間として加えることに成功します。侍のサーオ、ダンサーのカナ、バードのビディ、アサシンのアヤ。みんな得がたい仲間です』

『長い旅の果て、ついにキョーは妹が囚われている闇の塔にたどりつきました。ちなみに、ここに来るまでに仲間たちはみんな死にました(笑)。でもキョーは遊び人なので気にしません。ひどい男でした』

『塔には悪い魔法使いのブラックキャットが待ち構えていました。邪鬼眼(ダークフォースアイズ)という魔法を使う恐ろしい相手でしたが、キョーは秘められた力を解放して何とか勝ちました。実はキョーは勇者だったのです。だから今まで転職できなかったのです』

『妹姫キリノと感動の再会を果たしたキョーは、そのあまりの美しさに一目ぼれしてしまいます。勇気を出して告白したら、キリノ姫も実はキョーのことが好きだったので、ふたりは結婚して末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし』




桐乃「どうよ? 完璧っしょ!」

京介「突っ込み所しかねええええええ!」

桐乃「は? あんたちゃんと読んだの? 読解力ないんじゃない?」

うわ、すげえムカつく。

京介「大筋はまあいい、特に矛盾は無いと思う。だけど細部の設定がガタガタじゃねーか!」

桐乃「書いてないだけで設定はたくさんあるから。行間から読み取りなさいよ」

京介「書いてないのに分かる訳ねーだろ……」

桐乃「ほらほら、ラストとか特に感動的でしょ? キョーが告白してキリノが受け入れるシーン。泣けるよね? ね?」

京介「一目惚れはまあ良い、確かにあるかもしれん。だけど今まで存在すら知らなかったのに、なんで当たり前のように『実は好きだった』なんだよ! あと姫って、どこの国の姫だよ、疑問点しかねーわ!」

桐乃「えー、じゃあここは? キョーを庇って次々に仲間たちが死んでいくシーン。すっごく良いでしょ?」

京介「主人公を先に進めるために仲間が一人ずつ倒れていくってのは王道かもしれないけどさ、だったら(笑)とか本文に書くな! 鬼かお前! あと仲間の死を少しは悼め! 鬼かキョーは!」

桐乃「……仲間を口説いていく所も苦労したよ。京介がエッチ中に言ってくれたセリフを参考にしてみたんだ」

京介「それはむしろ知りたくなかったわ! あとパーティのバランスおかしいだろ! 後衛入れろよ!」

桐乃「…………無職の遊び人だけど、実は転職できなかったのは勇者だったからっていう伏線回収もバッチリ」

京介「世界観的に遊び人が職業じゃない事にビックリだよ! そんで勇者が転職できないなら、なんで途中で勇者になれるんだよ!」

桐乃「何よ、文句ばっかり……」

しまった、言い過ぎたか? いやでも、これを世に出そうって言うなら注意すべき所はしないと駄目だ。俺の役目として。

桐乃「頑張って書いたのに……喜んで貰えると思ったのに……」

京介「あああ、面白かったかな! うん、面白かった!!」

俺弱ぇー。


桐乃「グスッ。テキトーなこと言わなくて良いよ、どうせそんなの思ってないんでしょ」

京介「いやいや、ここ、冒頭で『ここはチバの街』と一言だけ登場の村人Aとか、さり気なく麻奈実をディスってる所なんて、お前の腹黒さが抜群に反映されてて最高!」

桐乃「……」

京介「あと、ダイスケとキリノだけ名前が省略されてないとか、ちょっぴり現実感があって良いね! だったら主人公もキョースケにしろよとか思ってないし!」

桐乃「……」

京介「思い出にしたいとか言ってたのに、結局キリノ姫以外みんな死んじまってるのとか、独占欲、じゃなくて愛の深さを感じるなー。あー俺愛されてるなー」

桐乃「……ふふ、ふふふ。何よ、やっぱりあたしのことバカにしてんじゃん」

京介「その、な、悪かった。泣かせるつもりは無かったんだ」

桐乃「はぁ、良いよもう。突っ込み所が多かったって事は、そんだけ改善する余地があるって事でしょ」

京介「まあ、そうな」

桐乃「だったらもっと仕上げてやるっての! 見てなさい、次は完璧な作品にしてみせるから!」

京介「分かった待ってるよ」

桐乃「ふん」

京介「ところで、タイトルが『未定』になってるのが気になるんだが」

桐乃「あー。ファンタジーだから『妹空3』だとおかしいかなぁ、と思ってまだ決めてないんだ」

京介「そっか」



後日、桐乃が持ってきた第二稿にはちゃんとタイトルが印字されていた。

『ドラゴン・妹空・クエスト3 そして伝説へ…』

京介「ドラゴンいねーよ! あとこれじゃ発売できねーだろ!!」

また泣かれた。






桐乃「原稿通ったよー」

京介「え、マジで?」

あれが? いやいや、桐乃が必死になって書き上げた作品なんだ、俺がそんなこと考えちゃ駄目だ。

桐乃「タイトルはさすがに変更されたケドね」

京介「当たり前だ。んで、新しいタイトルはどんなんだ?」

桐乃「これ」

『最終ファンタジー ~妹空外伝~』

ギリギリだった。ギリギリアウト。

京介「すげーな、出版社も冒険してるんだなー」

桐乃「ファンタジー小説としての最後を飾る作品、って意味だってさ。こじ付けだけどw」

京介「中身はドラクエ風味なのに、タイトルはFFって嫌味どころじゃないよな」

桐乃「今はスクエニに合併してるんだから問題ないっしょ」

問題ありまくりだっての。

京介「ともかくお疲れさん。次の日曜にみんなでパーティやろうな」

桐乃「うん!」





『おめでとー!』

ジュースで乾杯する。桐乃は照れ照れだ。

みんなで菓子を摘まみながら談笑して、その後『最終ファンタジー』のお披露目となった。

緊張しながら全員に原稿を配っていく桐乃。タイトルを見られるなり、

黒猫「アウトね」

沙織「アウトですな」

あやせ「そうなんですか?」

率直な感想を受けてショックなご様子。仕方ねーヤツだ。

加奈子「とりあえず読んでみよーぜ。あたしがどんな扱いになってるか気になるしよー」

桐乃「ブリジットちゃん大丈夫? あまり難しい漢字は使ってないはずだけど」

ブリジット「それならだいじょうぶだと思うので、読んでみますね」



小説を読み進める速度は個人差が出るけど、時々読めない漢字を教えたりしたので、やっぱりブリジットが一番最後だった。

沙織「さて」

京介「黒猫、大体は俺が既に言ってあるので、あまり厳しい意見は言わないでやってくれな」

黒猫「誰かさんじゃあるまいし、そんなデリカシーに欠ける事はしないわ」

えー、以前桐乃の作品をボロクソにけなしてたよな? 今あえて指摘しないけど。

加奈子「なーなー桐乃よー、なんであたし死んでんだ?」

桐乃「んー、行きがかり上、何となく?」

なにそれひどい。

沙織「拙者は敵と相討ちなので、これはこれで見せ場として有りでござるな」

ブリジット「わたし命をかけた聖歌でキョーさんを助けてます。かっこいいです!」

黒猫「私なんてエターナルフォースフレイムをマホウカンタで反射されて死んでるのよ。色々アウト過ぎるわ」

京介「まあまあ、これはフィクションなんだから気にすんなって」

黒猫「タイトルと言い内容と言い綱渡り過ぎるわ。訴えられたら負けるかもしれないのよ?」

京介「出版社がOK出したんだから何とかしてくれるだろ。だから黒猫もあまり言ってやるなって」

これ以上言われたらまたまた泣くかもしれないしな!

黒猫「ふぅ、そうね。お祝いの場なのだから、言うべき言葉は他にあるわね。……桐乃、面白かったわよ」

桐乃「そ、そう?」

黒猫「ええ。この間はスイーツ(笑)とか馬鹿にして御免なさい。ちゃんと小説の体を成しているわ」

桐乃「そっか。ありがと黒猫」

黒猫「うっ。で、でも、ここの部分はいただけないわね――」

照れ隠しなのだろう、原稿をめくって何かを指摘する黒猫の首筋は赤く染まっていた。

麻奈実「わたしの出番は~?」

頑張れ村人A。

あやせはずっとプルプル震えていた。どうやらアサシン=暗殺者と知って激しくショックを受けた模様。明日は優しくしよう、と心に決めたのだった。






それからなんやかんやありつつ季節は巡り、無事に小説は発売された。

『あの妹空の作者が放つ本格ファンタジー小説。触れたら最後、日本全土がラグナロク! これが最後の壮大なクエスト!』

とか大々的に広告を打ち出してたな。キャッチコピーもやっぱりアウトだった。

売り上げについては知らん。テレビで特集もされてたし、多分売れたんじゃねーの?

桐乃は当分の間嬉しそうにしてたので、反応は上々だったんだろう。何が受けるか分かんねーもんだ。






桐乃「印税が入ったので、モデルになってくれたみんなへのお礼を兼ねて旅行に行こうと思いまーす」

おおー! と大盛り上がり。

あやせ「桐乃、嬉しいけどそういうお金は大事に使わなきゃダメだよ」

桐乃「ダイジョブだいじょぶ。かなり入ったから、心配しないで!」

加奈子「へェー。いくら儲けたんだヨ」

なぜか黒猫が変わりにレクチャーしてくれた。それによると、一般的な印税は10%で、販売価格×10%×発行部数、らしい。

頭の中で簡単に計算する。確か価格は1,700円だったっけ。あ、発行部数知らねーや。計算しやすく仮に1万部としておこう。


…………俺は考えるのをやめた。


加奈子「小説家って儲かるんだなー。あたしも何か書いてみよっかな」

黒猫「そんなに簡単に売れる物が書ける訳ないでしょう。莫迦なの貴方」

たちまち恒例の口喧嘩が始まったが、もはや日常と化していたので誰も気にしない。

ブリジット「あの、わたしも行っても良いんでしょうか?」

桐乃「もっちろん! ブリジットちゃんが来てくれないと意味ないわ! 一緒にお風呂入ろうね~~」

桐乃がハァハァ言ってる。ブリジットが引いてるじゃないか。

ブリジット「パパとママにきょかをもらわないといけないので、お家に帰ってからお返事しますね」

あやせ「どうせならみんなで行きたいから、わたしも一緒に言ってあげるよ?」

ブリジット「はい! あやせさんなら安心です!」

沙織「ところでどこに行くのでござるか? 無難ですがネズミ―ランドも楽しいでござるよ」

桐乃「もう決めてるの」

桐乃が口にしたのは、房総半島にある、地域の者なら誰でも名前を耳にした事がある有名なホテルだった。

桐乃「みんなで泊まれる部屋を借りてさー、あ、温泉を貸し切りにしようと思ってるんだー」

麻奈実「はぁ~、随分羽振りが良いんだねぇ」

京介「全員でお泊り会か。一度もやったことないから楽しみだな」

ブリジット「あわわわ。きょーすけさんといっしょにお泊りとか恥ずかしいですっ」

なぜか空気が凍りつく。

桐乃「あんたバカなの? あんただけ別の部屋に決まってるでしょ」

黒猫「常識で考えて頂戴」

京介「なんだよ、俺だけ仲間外れかよ」

沙織「パジャマパーティに混ざろうとは、無粋の極みでござるよ」

加奈子「あたしは構わないんだけどなー。でもたまにはガールズトークも良いか」

俺そっちのけで、あれをしよう、これを食べようと盛り上がる彼女ーズ。いいもん、一人で部屋を満喫してやるもんねっ。






無事に全員の外泊許可が取れ、やってきました旅行当日! 本日は晴天なり。ひゃっほう。

東京駅に集合して、JR外房線の特急に揺られること約2時間。到着した駅からさらに歩いて10分。

加奈子「おォ~、でっけーホテルだなー」

ブリジット「かなかなちゃん、いっしょにホテルの中たんけんしようね!」

沙織「黒猫氏、エステでもどうでござるか?」

黒猫「結構よ。見ず知らずの他人に肌を晒すなんて想像しただけでゾッとする」

あやせ「桐乃、後で海に行こうね」

桐乃「もっちろん!」

麻奈実「それじゃあわたしも桐乃ちゃん達と一緒に行こうかな」

うーん、実にゆりんゆりんしています。俺はここにいるぞー。





ホテルに入り、チェックイン中にそれは発覚した。

沙織「大部屋は6人まででござったか」

黒猫「誰か一人あぶれるのね」

あやせ「仕方ないですね、わたしが京介さんと一緒の部屋になります。仕方ないですから」

麻奈実「えぇ~、それならわたしが一緒に泊まるよ~」

これ纏まりそうにねーな。フロントの人の視線がめっちゃ痛いんですけど。

桐乃「ふははははは、騙されたわねみんな! 京介と一緒の部屋に泊まるのは、出資者であり妹でもあるあたしよ!」

加奈子「何だよ桐乃ズりーぞ」

桐乃「何とでもいいなさい。今日のあたしに逆らえる者などいないっ! オーケー?」

黒猫「く、最初から全て計算尽くだったのね」

京介「あのー、全員が泊まれる部屋とかないッスかね?」

ホテル受付「申し訳ございません。和室特別室などが御座いますが、本日は全て満室となっております」

京介「はぁ、という訳だみんな。確かに俺と桐乃が同室なのが一番問題無い」

桐乃「はい、決まり決まり。さっさとチェックインしましょ」

結局押し切られ、みんな不承不承に受け入れるしかなかった。




桐乃「うっわあ。見て見て、海が見渡せる!」

室内に入った俺達を迎えたのは、一面のオーシャンフロント。見事なもんだ。

桐乃「あたしここっ、ここ取った!」

窓際のベッドにダイブする桐乃。テンション高すぎだろ。

桐乃「うっわ、フカフカ。ねえ、京介も寝てみなさいよ」

京介「良いから。荷物置いたらみんなの部屋に行くぞ」

桐乃「ええー。まだいいじゃん」

ブーブー言う桐乃を押して、メゾネットルームとかいう部屋に向かった。

京介「うわっ、なんだこりゃ」

桐乃「おおー、ホームページで写真は見てたけど、本物は凄いね」

まず広い。もう広いなんてもんじゃない。超広い。

あと超螺旋階段。約20段。長さで言うと……分からん。ヤバイ。凄すぎ。

それに超二階。超ベッドルーム。それに超オーシャンビュー。海とか平気で出てくる。

とにかくお前ら、メゾネットルームのヤバさをもっと知るべきだと思います。

そんなヤバイ部屋を取ってくれた桐乃とか超偉い。もっとがんばれ。超がんばれ。



……ふう、興奮して長くなってしまったぜ。


麻奈実「桐乃ちゃん、こんな素敵な部屋を取ってくれてありがとう」

桐乃「ふははは、もっと感謝するがよい!」

桐乃も謎テンションでご満悦だ。

しばらくみんなでワイワイガヤガヤ。

沙織「さて、夕食までそれなりに時間がありますが、どうやって時間を潰しましょうか」

たんけん! 海! 温泉! みんなが口々に提案する中、あやせが一冊の本を取り出して言った。

あやせ「ここに行ってみませんか?」

まっぷる千葉・房総。付箋がビッシリと貼ってある。この旅行を楽しみにしてたんだなぁ。

あやせが指しているのは、すぐ近くにある水族館だった。

加奈子「おー、いーんじゃね?」

黒猫「でも夕食までに帰って来られるかしら」

桐乃「多少遅れたって問題ないわよ。んじゃ行こー」

徒歩で行ける距離なので全員でテクテク移動。落ち着いたら免許を取りに行くか。親父、金出してくれるかなー。バイトすっか。





水族館は楽しかった。ちょっと侮っていたけど、いや、中々どうして。

女性陣も勿論楽しんでいたが、やはりブリジットのはしゃぎようは断トツだった。

館内はとても広く、晩飯までの時間では半分も見て回れなかったので、それだけが心残りだった。

あやせ「ごめんなさい、明日にすれば良かったですよね……」

加奈子「気にすんなって。また来ればいいんだからよー」

ホテルに戻り、レストランでディナーに舌鼓を打つ。

食事の後メゾネットルームに再び集合。

桐乃「みんな、言ってた通り水着持って来たよね?」

黒猫「ええ、一応。でもここの海は遊泳禁止よ? 何に使うつもりなのかしら」

沙織「プールがありますが時間ではありませんな」

桐乃「ふっふっふ。実はチェックインの時にこっそり予約してたんだ。いやー、空いててラッキーだわ、さすがあたし!」

あやせ「何を予約したの?」

桐乃「お・ふ・ろ」

テヘリ、と舌を出す桐乃。可愛い。


加奈子「風呂なんて予約しなくてもいつでも入れるだろー?」

黒猫「とても嫌な予感がするのだけれど」

あやせ「……そうね、わたしもです」

麻奈実「あー、そっかぁ。きょうちゃんと一緒にお風呂入るのなんて何年ぶりかなぁ」

沙織「なるほど、そのための水着でござったか。さすがきりりん氏」

加奈子「そーゆーことかよ。んじゃさっさと行こうぜー」

ブリジット「えーっと、いっしょにおふろ、ですか?」

桐乃「そっ、貸切露天風呂。人数オーバーだけど追加料金だけで入れるから問題ないっしょ」

黒猫「問題だらけだわ」

あやせ「むしろ問題しか無いと思います」

ブリジット「きょーすけさんといっしょにおふろですか?」

うん、と頷く桐乃を見て、ようやくブリジットは理解が追い付いたのだろう。一気に真っ赤に茹で上がった。

桐乃「うっわ、ちょー可愛いんですケド。ね、ね、ブリジットちゃん、洗いっこしようね!」

ブリジット「ああああああのあの、男の人といっしょにおふろに入るのは、ダメなことだと思います!」

あやせ黒猫『同感』

桐乃「えー、良いじゃん。みんなでくんずほぐれつしようよ」

加奈子「そーそー、今さら恥ずかしがるような間柄でもねーだろ」

あやせ「でも……」

黒猫「あやせ、貴方は仕事で水着を披露する機会もあるのだからまだ良いでしょう。私は無理だわ」

あやせ「わたしだって京介さんと交際を始めてからそれ系の仕事を減らしました。変わりません」

沙織「気楽に考えるでござるよ。水着着用なれば、それはプールと変わりませぬ」

ブリジット「……分かりました! わたし入ります!」

桐乃「ktkr」

加奈子「オメーらも覚悟決めろって。ブリジットが入るってんだ、逃げんなよー」

桐乃「あっ、もう時間! ほら行くよみんな! 京介、あたし達も荷物取りに戻るよ!」

京介「へいへい」

否定したくなかったし肯定したら殴られそうだったので、ずっと沈黙を保っていた俺の久々の台詞はこれだけだった。




貸切風呂の受け付けを済ませ、そそくさと脱衣所に移動する俺達。

結局あやせも黒猫も強引に連れて来られていた。

係員が一瞬だけのぞかせた、まるで汚物を見るかのような視線がとても心に刺さりました。ええ、刺さりましたとも。

みんなが服を脱ぐ所を眺める訳にもいかなかったので、さっさと水着に着替えて風呂場に入る。

トランクスを降ろした時に、あわわわとか聞こえたけどきっと気のせいだろう、うん。

京介「おお、露天風呂だけあって良い眺めじゃねーか」

加奈子「ホント―だなー。なかなかのモンじゃねー?」

声がしたので横を見ると、全裸の加奈子が立っていた。ん? 全裸?

京介「おまっ、水着はどうした!?」

加奈子「えー、別に要らねーだろ。なに、今さら照れてんの? 一緒に風呂にも入った事あるじゃねーか」

ブリジット「かっ、かなかなちゃん! もどって!」

その時、脱衣所への扉が少しだけ開き、ブリジットが顔だけ出して加奈子を呼びに来た。んだが……。

お気付きだろうか? この扉は全面ガラス製で多少曇っているだけなのだ。つまり――

加奈子「ブリジットよー、裸見えてるけど良いのかー?」

紳士な俺は咄嗟に顔を逸らしたので勿論見ていない。日本人よりも白いその肌とか、成長途中の胸とか。見てないから!

ブリジットの悲鳴を後ろに聞きながら、俺はこのあと自分に降りかかるであろう運命を覚悟した。





おっかしいなぁ。桃色でキャッキャウフフな展開を期待してたんだけどなー。

桐乃「わー、ブリジットちゃん肌スベスベだねー。ハァハァ」

黒猫「桐乃、それ以上は辞めなさい。事案になるわ」

ブリジット「みなさんとってもスタイルが良いですね。すてきです」

沙織「ありがとうございます。でもブリジットさんだってとても素敵ですよ」

ブリジット「でもわたし、おっぱい小っちゃいし……」

加奈子「オメーあたしにケンカ売ってんのかヨ」

あやせ「加奈子は成長しないね。身体が」

加奈子「うっせ。っかしーなァ。揉まれたら大きくなるってアレ、ウソなのか?」

麻奈実「ブリジットちゃんはいぎりすの人だから、大きくなったらわたし達よりすたいる良くなるよぉ」

沙織「それにブリジットさんのスタイルは年齢から考えると充分発育が良い方だと思いますので、気にしすぎですわ」

桐乃「ダメよっ。ブリジットちゃんは今のままでいて! 大きくなっちゃダあうっ」

黒猫「少し黙りなさい」

あー、みんなで仲良くしてるみたいだけど、混ざりたいなぁ。


麻奈実「あやせちゃんも黒猫さんも綺麗な黒髪で羨ましいな」

あやせ「ありがとうございます。でも……」

沙織「あら、わたくしがどうかしましたか?」

あやせ「沙織さんを前にすると、モデルをやってる自信なんて吹き飛びます……」

加奈子「そーだなー。何やったらこんなにスタイルが良くなるんだよ」

沙織「月並みですけど、バランスの良い食事と適度な運動でしょうか。後は美しい姿勢を意識するのも効果的と思いますわ」

黒猫「貴方、普段から今言った事を実践しているのかしら?」

沙織「……申し訳ありません、特にはしておりません」

麻奈実「えへへ、神様って残酷だね~」

加奈子「師匠にそれ言われてもなー。師匠だってナイスバディだぜ?」

麻奈実「そお? そっか、わたしないすばでぃなんだ。ありがとうね、加奈子ちゃん」


見たいなー。そろそろこれ外してくれないかなー。

桐乃「なんか、ソワソワしてるあの物体がキモいんですケド」

黒猫「駄目よブリジット、アレを見たら目が腐るわ」

ブリジット「でも、さっきはうっかりしてたわたしが悪かったので、そろそろゆるして上げてほしいです」

これは間違いなく天使ですわ。そろそろ大天使に昇格してもおかしくないんじゃね?

あやせ「ブリジットちゃんがそう言うなら……。でも京介さんはスケベで変態ですから、どうしましょう」

加奈子「一度取ってやりゃいーんじゃねー? んで勃起でもしたら袋叩きにしよーぜw」

ブリジット「ボッキ? 聞いたことがあります。たしか性教育の授業で…………ぁぅ」

ブリジット「か、かなかなちゃん! え、え、エッチなことを言っちゃダメです!」

うおおおお! ブリジットの口からエッチとか言われると俺はもー!

桐乃「うおおおお! ブリジットちゃんの口からエッチとか言われたら、あたしはもー!」

麻奈実「う~ん、桐乃ちゃんも一緒に正座して貰った方が良かったのかなぁ?」

黒猫「救いようのない兄妹ね」

沙織「とりあえず京介さんを解放いたしましょう」

あやせ「それならわたしが。良いですか京介さん、今からタオルを外しますけど、怪しい動きをしたら通報しますからね」

京介「はっ、心得ております」

あやせ「大丈夫かなぁ……はい」

まず両手首を、そして目を覆っていたタオルが外され、視界を取り戻した。

最初に飛び込んできたのは、見慣れたあやせの裸体……じゃなくて水着姿だ。

京介「おおー」

風呂場に水着の美少女達。これみんな俺の彼女なんだぜ!?

普段見られる仕事をしているからだろう、あやせ・桐乃・加奈子は堂々としたもんだ。天使はモジモジしていた。

一方、黒猫・沙織・麻奈実は余りこちらを見ようともしない。ベッドの上で裸になるのとは訳が違うようだ。


桐乃「感想はー?」

京介「うん、みんな綺麗だ」

笑顔になったり照れたり、反応は様々だけど、率直な意見は好評でした。

加奈子「なんだ勃起してねーのか。オメーそれでも男かヨ」

七人の視線が俺の股間に集中する。ブリジットだけはそのあと慌てて逸らしていた。あわわわ。

京介「何度も言ってるが俺は紳士だからな。TPOは弁えるさ!」

加奈子「ほっほー。そんなら前にやったアレしても平気なんだろーな」

京介「アレって何だ。いや、やっぱ言わなくて良い」

加奈子「あたしの身体を使ってゴシゴシってさー」

京介「時と場所と場合と全部すっ飛ぶじゃねーか! 駄目に決まってんだろ!」

桐乃「うっわ、引くわー」

麻奈実「きょうちゃん、こんな所でそんな事したら、いくらなんでも……怒るよ?」

京介「する訳ねーだろ!」

ブリジット「ゴシゴシ……?」

あやせ「ブリジットちゃん、側に居たら変態菌が感染するからあっちに行きましょう」

黒猫「下衆が」

おっかしいなぁ。桃色でキャッキャウフフな展開を期待してたんだけどなー。





ゆっくり暖まりたかったけど貸し切りの時間制限があるため、結構忙しない風呂を済ませて。

三度メゾネットルームに集合。

加奈子「ガールズトーク! はっじまっるよぉ~~~~~~~♪」

桐乃「WHOOOOOOO!」

あやせ「き、桐乃?」

沙織「相変わらず加奈子殿のメルルは完璧でござるな。拙者、感服いたしました」

麻奈実「あにめは観ないから分からないけど、加奈子ちゃんは可愛いねぇ~」

ブリジット「めーるめるめるめるめるめるめ~」

なぜかブリジットがめてお☆いんぱくとを口ずさんでいた。可愛い。

ところで俺がここに居て後で怒られないだろうか。

黒猫「誰も気にしていないようだから、別に居ても良いのではないかしら」

京介「んー、まあ、適当な所で切り上げればいっか」

黒猫「そうしなさい」

言って、ちょこんと俺の横に座る黒猫。パジャマ姿が新鮮だ。

黒猫「な、何?」

京介「いやさ、普段のコスプレも良いけど、パジャマ姿ってなんかドキドキするよな」

黒猫「ふふ、そう? 褒められたと思って一応礼を言っておくわ」

ちょっとだけ距離を詰めて来た。風呂上りの良い香りがする。

黒猫「いやらしい顔をしてるわよ」

さらに近くなる。

京介「黒猫……近い、ぞ」

黒猫「あら、貴方はTPOを弁えた紳士なのでしょう? なら、こんな大勢が居る場所で興奮なんてしないわよね」

そして俺の肩に頭を乗せて来た。猫は飼い主が風呂から上がると、身体をスリスリと摺り寄せてくるらしい。なるほど、つまりマーキングされてるのか。


世界に俺達二人だけしか存在しないかの如く、静寂に包まれる。

比喩では無く、本当に静かだった。

……。

めっちゃ見られてますがな。

目を瞑り俺に身体を預け、陶然とした様子の黒猫には気の毒だが、声を掛けない訳にもいかない。

京介「お、おい、黒猫」

黒猫「何よ。無粋な真似はしないで頂戴」

京介「いいから、見ろ。正面」

黒猫「はぁ、全くしょうがないわね。一体何だと言う……のよ……」

<●> <●>×6。もうね、本当こんな感じ。

黒猫は黙って俺から離れ、立ち上がるとそのまま部屋の反対側まで歩いて行き、さも何事も無かったかのように振る舞った。

黒猫「あら、どうかしたのかしら?」

そんなに顔を真っ赤にしてちゃ説得力なんて欠片もねーぞ。

あやせ「見せ付けてくれますね」

ブリジット「あわわわ。大人のふんいきです!」

沙織「黒猫氏も中々やりますなー」

しばらく弄られた。




乙女の会話に花が咲き、一人また一人と眠さに負けて脱落する中、出て行く機会を見失っていた俺もいつしか夢の住人に。

「……好き」

不意に、唇に湿った感触を感じる。

だが波音に包まれ微睡の淵に沈みかけていた俺は、そのまま意識を手放したのだった。






京介「んあ」

目を覚ますとメゾネットルーム。あー、昨晩は結局あのまま寝てしまったのか。

もう一つの部屋を取った意味が無かったけど、ま、こう言うのも旅の思い出になるよな。

周囲を観察するとまさに祭りの後の様相だった。折角ちゃんとしたベッドが数を用意されていたのに、誰も使ってないって笑えるよなー。

……いや待て。一人足りないぞ。

桐乃はアホ面下げて爆睡している。黒猫は丸くなってスヤスヤと。あやせと沙織、麻奈実は綺麗な姿勢で眠っていた。加奈子は、あーあーヘソ出してるよ。風邪引くぞー。パジャマを直してやった。

ブリジットが居ないのか。こんな早朝にどこへ?

答えはすぐに見付かった。何という事はなく、普通に中二階のベッドで穏やかに眠っていた。

そういや昨日はいの一番に落ちてたもんな。夜中に目が覚めて移動したとかだろう。うん。

何か引っ掛かりを感じつつも、もう一眠りするため、俺は空いてるベッドに潜り込んだ。





朝食はバイキングだ。テンション上がるぜ!

桐乃「バイキングってテンション上がるよねー」

ぞろぞろと連れ立って会場に入る俺達。昨日の移動中や水族館、晩飯時もそうだったけど、やっぱ彼女達は目立つ。

美少女が七人も居て男は俺一人だけって、どんな状況か勘ぐられても不思議じゃないよなー。

分かってるさ、俺は精々引き立て役。良くて芸能事務所集団とそのマネージャーとしか思われないだろ。はっはっは。


「京介さん、喉は乾いてませんか?」「京介、ほらこれ食べて美味しいよ」「京介、新しい料理を取ってきたわ」


……おっかしいなぁ、殺意の込もった視線を感じる。


「へっ、モテないヤローどもがこっち見てるぜ」「こらぁ、そんな本当のこと言っちゃ駄目でしょ」「京介氏の魅力を喧伝するのに良い機会かもしれませんな」


憎しみで人が殺せたら、とか物騒な呟きが聞こえたけど、きっと気のせいだな!


「あ、あの、きょーすけさん。えと、あの、あ、あーんしてください!」


ざわ・・・ざわ・・・

なるほど、四面楚歌とはこんな状態を指すんだな。まさに針のむしろ。獅子身中の虫、これは言い過ぎか。

えー、何で急にー?

心当たりがこれっぽっちも全く微塵も無いので、俺には彼女の突然の行動が理解出来なかった。

そういう事にしておこうぜ。





ふぅ、死ぬかと思ったぜ。

当たり前だが、一人のあーんを受けてしまったら、他の子たちも同様に迫って来たので全て受けざるを得なかった。

お陰で何を食べたのかサッパリ覚えてない。むしろ食事前よりも体重が落ちてるんじゃねーの?

画期的なダイエット方法だなこれ。本にしたら売れるかな、俺が世間体的に死ぬな。

桐乃「あー、恥ずかしかった」

黒猫「貴方ノリノリだったじゃない」

加奈子「あたしは楽しかったぜー」

麻奈実「みんなにご飯を食べさせて貰ってる時のきょうちゃん、可愛かったよ~」

あやせ「恥ずかしかったけど、旅の恥はかき捨てと言いますし、これも良い思い出になりますね」

沙織「ですな。実に得がたい時間でござった」

部屋に戻った俺達は、荷物を片付けながら時間まで過ごした。

そしてロビーに集合しチェックアウト。桐乃が追加料金を払っているのを眺めながら、俺はこの旅で一円も使っていない事を反省していた。

男としてこれは情けなさすぎるよなー。

だがしかし、俺と麻奈実以外はみな仕事を持っていたり実家が裕福だったりで、金銭的に非常に潤っている。

うーむ、何か打開策はないものか。

桐乃「それじゃ帰るよー。家に着くまでが遠足だからね!」

京介「せんせー、おやつはバナナですか?」

桐乃「300円以内に含まれません。んじゃ、ゴー!」





往路と同じルートを辿り、東京駅で解散。

そのまま千葉組はまとまって帰路に着いた。

その帰りの電車の中で、ピロリン、とメールが届いた。

『ごめんなさい』

簡潔な内容。何に対して謝罪をしているのか分からないので、

『うれしかったよ』

と、俺も一言だけ返事をする。何が、とは書かなかったけど、きっとこれで良い。

京介「よっしゃ、明日からまた頑張るか!」







    終


こんばんは、以上となります。


みなさん地震は大丈夫でしたか? 我が家は軽微な揺れだけで済みました。

いつも以上にとっ散らかった内容になってますが、ご容赦ください。


それではまたー。


 おまけ ツンデレ検討委員会 編



 一


 とある日曜日の昼下がり。

 閑静な住宅街の一画に建築された、平凡なアパートの一室にて。

「それでは、第21回、京介軍団会議を始めるでござるー」

 室内には男女合わせて八名――男性一名、女性七名――がひしめき合っていた。彼と彼女達各員が恋人関係にある事を知る者は少ない。

 一同の中で最も長身の少女が場を進行させる役目を担っていた。少女の名は槇島沙織。全体の均衡を保つ事を自らの命題としており、その世話焼き好きな性格と相まって、全員から厚い信頼を得ていた。

 槇島の発言に合わせて参加者が気勢を上げる。皆が揃えて片手を突き上げ、いえーい! と楽しそうに声を発する。纏っている空気は楽しげであり、参加者間の仲は良好のようだ。

「本日の議題はずばり! ツンデレ、でござる!」

 槇島は怪しい武家言葉を操りながら会議を取り仕切っている。そんな彼女の発言を受けて、別の少女から疑問の声が上がった。

「つんでれ、って何ですか? 聞いたことがある気がします」

 一同の中で最も幼いその少女は日本人離れした容貌を持っていた。それもそのはず、少女は豊かな金髪をたくわえたイギリス人であり、年齢から考えると豊かな肢体の持ち主でありながら、年齢相応の無邪気さを兼ね揃えた、皆のマスコット的存在である。名をブリジット・エヴァンスと言う。


 エヴァンスの疑問に答えたのはさらに別の少女だった。彼女達は唯一の男性であるその恋人を中心とした運命共同体であり、あらゆるものが偏らないように、例えば誰かが発言しては別の誰かが継ぐと言うような、連環の関係を無意識に構築していた。

「非常に曖昧なのだけれど、そもそもは、人前ではツンツンしているけれど二人きりになった途端にデレデレする、と言った解釈だったと思うわ。ただし現在は――」

 少女の講釈が続く。いわゆるゴシックロリータファッションに身を包むこの少女は五更瑠璃と言う名を持つが、とある理由で皆からは黒猫と呼ばれている。

「――と言う訳で、ツンデレは発祥から現在に至るまでに分岐を重ねて既に当初の意味を失ってると言えるわね。私の見立てでは――」

 五更は興に乗ってさらに説明して行くが、難解な言い回しも多く、エヴァンスには理解が出来なかった様子である。

「ごめんなさい。よく分かりませんでした」

「黒猫あんたねぇ、ブリジットちゃんにそんな言い方しても難しいでしょうが。もっと考えなさいよ!」

 次に発言したのは、ライトブラウンに染めた髪を伸ばす、美しい少女であった。実は、唯一の男性はこの少女の実兄であり、集まっているメンバーの中でも殊更歪な関係にある。他人には告げられない禁忌の情愛を交わす兄妹であるが、ここの面々はそれを受け入れてくれたため、彼女にとっては何よりも捨て難い大切な空間となっていた。

「なら貴方なら、どの様な説明をすると言うのかしら。是非とも拝聴したいわね」

「ふん、そんなの簡単よ! 良い、ブリジットちゃん。ツンデレって言うのはね」

 少女の名前は高坂桐乃。兄の名前は高坂京介。以降は京介及び桐乃と記述する事とする。

「『嫌い、でも本当は好き』これだけよ!」

「それなら分かります! つまり、きりのさんみたいな人ですね!」

 エヴァンスの率直な評に桐乃は鼻白んだ。やや気性の荒い彼女だが、エヴァンスを強く気に入っているため反論するのを躊躇っているのが見て取れる。


「へっ、桐乃のどこにデレ要素があるんだよ。あっても精々ツンツンツンデレくらいだろ」

 その京介の評価は概ね正しいらしく、ほぼ全員が頷いていた。そんな中で桐乃に肩入れする人物が一人。

「そんな事ないです。桐乃はとても可愛らしい素直な子ですよ」

「あやせぇ~、愛してるっ!」

 ひしと抱き合う二人。実際には京介を挟んで座っているため彼を巻き込んでの抱擁だが、それはそれで幸せを感じる彼女達であった。

 あやせと呼ばれた少女もまた、美しい外見をしていた。流れるような黒髪と人目を引く整った顔立ち。モデルとしての仕事をこなしているため、その立ち振る舞いもまた洗練されている。将来高坂の名前を貰う事になるこの少女の現在の姓は新垣と言った。

「ツンデレの定義は人それぞれですので、長くなるためそれは一旦置いておきましょう。本日は、全員の属性を決めて、それで遊……意見をくみかわすのが目的でござる」

 人数が多いため話題が逸れ続けるのが常であり、槇島はそれを調整する役どころが多かった。

「よく分かんねーけど、面白そーじゃねーの? やってみんべ」

 一同の中で最も小柄な少女、来栖加奈子。桐乃や新垣と同級生だが、エヴァンスよりも背が低く、破天荒な性格でありながら己の未成熟な身体を少々気にしている節がある。その反動か性に積極的なためしばしば周囲を惑わせるが、実は現役のアイドルであり、舞台の上ではその片鱗を欠片も覗かせない。

「ではまず京介からかしらね。と言っても、彼の属性なんてこれしか無いのだけれど」

 五更は一度言葉を切り、見渡す。意志の疎通はすぐさま完了したようで、タイミングを合わせて全員が口を開いた。

『ツッコミ!』

「なんでいきなりお笑いジャンルなんだよ! 出だしがツンデレなんだから他にもっとあるだろーが!」

「無いわね」

「それは無い」

「見事な突っ込みでござるなあ」

 口々に否定され、京介は自分のアイデンティティについて悩みだした。そこに来栖が畳み掛ける。

「あたし達全員に突っ込んでおいて、何を今さら言ってるんだよー」

 実に下品であるが、年若くまた唯一京介と肉体関係を結んでいないエヴァンスには通じなかったようだ。

「わたしはきょーすけさんにつっこまれたことってあんまり無いです」

 エヴァンスにとっては「会話に於ける突っ込み」というニュアンスだったのだが。

「ちょっとあんた! 『あんまり』って何!? あんたとうとうブリジットちゃんにも手を出したの!?」

 桐乃に首を揺さぶられ誤解を解く事が出来ない京介に集まる視線は、永久凍土もかくや、と言うほど冷気に満ちていた。

「通報します」

 スマートフォンを取り出す新垣を止める者は、ここには居なかった。





 二


「いい、きょうちゃん。ブリジットちゃんはまだ小さいんだから、せっくすはやったら駄目なんだよ? 常識で考えて」

 正座した京介に説教しているのは田村麻奈実。彼の幼馴染であり、最も彼の事を知る人物である。可愛い顔立ちをしてはいるが垢抜けておらず、以前には京介から地味だと評されていた。大学に進学した頃から、それは脱却しつつある。

「あ、あ、あの、せ……せ……とか、やってないです! わたしにはまだ早いです!」

 顔を赤くしながら必死に否定するエヴァンスのお陰もあり、警察への連絡はなんとか免れた模様。そもそも彼女の発言から端を発しているのだが、それは敢えて指摘する事でもない。

「別にいーんじゃねーの? 今時エッチなんて中学生でもやってるっしょ」

 しかし空気を読まない来栖はこの話題を続けたいらしく、過激な内容を口走った。

 あわわわ、と漏らしながら沈黙するエヴァンス。その変わりではないが、田村が矛先を来栖に変更した。

「加奈子ちゃん。前から言おうか悩んでいたんだけど、あなたはもう少し慎みを持った方がいいよ?」

「そうだな、お前はもうちょっとブリジットちゃんに気を使え」

 ここぞとばかりに加勢する京介だが、田村に一睨みされて即座に口をつぐんだ。理不尽だ、とモゴモゴ呟いている。

「えぇ~、でもよ~」

「加奈子ちゃん……それ以上言うと『怒るよ』」

 尚も続けようとする来栖だが、上記の田村の発言を受けて黙り込む。これこそが田村の切り札であり、全てを制圧する魔王の威光であった。田村が魔王を自称している訳では無く、これはあくまで京介や桐乃から見た感想である。あしからず。

 室内は田村の怒気にあてられ静寂に包まれたが、勇気を出してそれを破ったのは当の来栖であった。

「はァ……わりーなブリジット。調子に乗った」

「い、いいよぉ。わたしの言い方が悪かったんだから、かなかなちゃんは気にしないで」

「おっ、そうか? オメーがそう言うなら気にしねーわ」

「少しは気にして」

 反省が足りていない来栖に呆れた様子の新垣が追撃するが、何はともあれこれで騒動は収まった。と思わせておいて。


「あ、あの……聞いても良いのかな」

「おー、何だ? 今さら何を聞かれたって驚きやしねーよ」

「えっと、その。本当に良い?」

「いーから言えって」

「うん、それじゃ……。あの、みなさん、もしかして、きょーすけさんと、エッチしたんですか?」

 蒸し返すエヴァンスの発言内容は、性的な事柄に興味を持つ年頃の少女としては無理のないものかも知れない。

 ただし、それに答えられる者などこの場には居なかった。全員があらぬ方向に目を逸らし、嵐が過ぎ去るのを待つ。

 エヴァンスの想いは京介に集中しているため、結局ターゲットは彼になった。

「きょーすけさん、どうなんですか?」

「……当方と致しましては誠実にお答えしたいと考えておりますが、諸般の事情があるためそれを述べるのは躊躇われる所存で御座いますので、沈黙をもって回答とさせて頂ければ僥倖であります」

「どうなんですか?」

 遠回しな表現で誤魔化そうとした京介だが通用する筈も無く、さらに詰め寄られる結果となった。

「……ブリジットちゃんにはまだ早い」

「そうなんですか。わたしだけまだなんですね……わたしが子どもだから……」

 そして正直に言わないから、さらに人を傷付ける結果になる。

「あのねブリジットちゃん。女の子なんだから好きな人とエッチな事をしたいって思いは分かるの。だけど、さっき自分でも言ってたでしょ? まだ早いって。だから、ね?」

 助け舟を出す新垣だが、彼女だって京介とセックスをしていたのだ――そう考えてしまうエヴァンスに対しては、もはや疎外感を生み出す結果としかならなかった。

「はい、分かります。みなさん、変なことを聞いてしまってごめんなさい。わすれてください」

 しかしエヴァンスはとても「良い子」なので、そう言ってこの場を収めるしか無かった。なぜあんな事を聞いてしまったのだろう、という強い後悔を残しつつ。





 三


 しばしの休憩を挟み、されど会議は進む。

「京介氏は『ツッコミ』で決定したでござる」

「はいはい、突っ込む突っ込む。ならボケはいねーのか?」

「なるほど、ツッコミが有ればボケもまた有る。真理ですな」

「強いて挙げるのなら田村先輩ではないかしら。ボケと呼ぶには少々微妙だけれど、あの独特の空気感は近しい物があるわ」

「ふむ。麻奈実殿、如何でござるか?」

「自分じゃ分からないけど、それでいいよぉ。えへへ、きょうちゃん、わたし達ぺあだね~。吉本目指そっか?」

「お前ならピンで通用するさ。頑張ってR-1優勝目指してくれ」

「うん、がんばるよ~」

 先程までの流れを吹き飛ばすかの如く、和気藹々と会話が重なる。

「あたしはなんになるんだ? カッコイイの頼むわ」

 素行不良、エロマスター、メルルもどき、などと言われた来栖は、

「喧嘩ならいつでも買ってやんぜー」

 見えない相手にジャブを繰り出していた。アイドルとして相応しくあるべく自己研鑚を怠らない彼女の動きにはキレがあり、京介はつい見惚れてしまうのだった。

「かなかなちゃんは歌って踊れる『アイドル』だよっ」

「それなんか違くね? 仕事でやってんだから。もっと面白そうなのくれよー」


 不良娘、エロガキ、メルルもどき。出て来たのは先程と大差無かった。

「喧嘩ならいつでも買ってやんぜー」

「天丼乙」

「おお、先程の芸人ネタをここで被せてくるとは、きりりん氏もやりますな。座布団一枚取られたでござるよ」

 きりりんとは桐乃がネット上で使うハンドルネームの事である。五更を黒猫と呼ぶのもそれと同じくする。

「は? 別にそんなんじゃないし」

「いやいやご謙遜召されるな。拙者感動したでござる」

「もう、そういうのいいから。今は加奈子の事でしょ」

「確かにそうでしたな。加奈子殿は……なんでござろう」

 乱暴だけど優しい、ぶっきらぼうな様で仲間想い、ロリでエロ、不真面目なのに真面目、生意気な割に素直、ツインテール、歌も踊りも一流のアイドル。様々な人物評価が並べられる。

「なーんか、しれっと悪口言われてんな。ま、いーケドよー」

 やがて議論は尽くされ、結論を迎える。

「加奈子殿は『ツインテロリ』ですな」

「外見をそのままゆっただけじゃん。納得いかねー」


「俺だってツッコミには納得いってないんだ。受け入れろ」

「京介には『近親相姦七又野郎』って立派なヤツがあるじゃねーのw」

「それ久々に言われたわ! 忘れてたのに……」

「きんしんそーかんってなんですか?」

「いいかブリジットちゃん、それは危険なワードなんだ。もう口にしちゃいけない」

「そうなんですか? 分かりました、もう言いません!」

「では流れで、次はブリジット殿にいたしましょう」

 槇島が言い終わるかどうか、というタイミングで、京介と桐乃の声がハモった。

『天使!』

「あわわわ。それはさすがに恥ずかしいです」

「やはりこの兄妹は事案まっしぐらね。危険だわ」

「大丈夫です。最近は便利になっているので、いつでもすぐに通報できます」

「通報前提で考えるのはそろそろ勘弁してくれませんかね……」

 五更と新垣の冷たい視線を浴びながら、京介は恋人という言葉の持つ意味について思案に暮れるのであった。


「ブリジットは素直デレで良いのではないかしら?」

「素直クールなら聞いたことあるケド、そんなのあんの?」

「どうだったかしら……。ふと思い浮かんだので、よく分からないわね」

「んじゃGoogle先生に聞いてみましょ」

 桐乃は京介のパソコンを使い、ブラウザに「素直デレとは」と入力し検索をかけたが、結果は芳しくなかった。

「んー、無さそう」

「そう。無いものは仕方ないわね」

「まあまあ、無ければ作ってしまえば良いのでござるよ」

 そして桐乃、五更、槇島の話し合いが始まった。

「今日の議題はわたし達あんまり参加できないよねぇ」

「そうですね。オタクの世界は広すぎて知識が追い付きません」

 この中でも、特に田村と新垣はアニメやゲームに精通していないため、言われるがままである。

「ではブリジット殿は『素直デレ』に決まりでござる」

「はい! でも素直デレ、ってどうすれば良いんですか?」

「素直で且つデレデレだから、そのままで居れば良いのよ」

「分かりました! わたしきょーすけさんのこと、大好きです!」

「ぐふっ」

 胸を撃たれた仕草を見せ、そのまま突っ伏す京介。遺された者達はエヴァンスの純真さを心の底から称賛するのであった。





 四


「次は私ね」

「黒いのは『邪鬼眼厨二病』で良いじゃん」

「……その言葉を聞くのも久しぶりね。スイーツ(笑)は語彙が少ないから、どうしても一度覚えてしまった単語を繰り返しがちなのよね。分かるわ」

 睨み合う桐乃と五更。基本的には仲が良くたまに軽い口論をしている二人だが、今よりも桐乃と仲を深めたい新垣はその関係を羨望していた。

「お二人とも喧嘩はよすでござるよ。邪鬼眼も厨二病も良いイメージはありませぬ。故に、別の何かを考えましょう」

「それなら黒猫さんの見た目そのままにゴスロリで良いんじゃないですか?」

「あやせ、勘違いしないで頂戴。私が身に纏っている物は所謂ファッションとしてのそれでは無いわ。『夜魔の女王』の装束であり、我が魂を現世に顕現させ続ける為に必要な拘束具でもある。それは即ち――」

「あ、はい。分かりました」

「ちょっと待ちなさい。貴方いま完全に私の事を『何この痛い言動してる女』と思ったでしょう。訂正しなさい」

「いえ、そんな事は思っていませんので。ごめんなさい」

「謝ったわね。つまり認めたという事。ふふ、良いわ。ならば――」

「もー、ケンカは辞め! だいたい黒猫、あんたいつまでそのコスプレしてんのよ! マスケラはとっくに終わってんのよ!?」

 マスケラとは、数年前に放映されていたテレビアニメシリーズのタイトルであり、五更はその登場人物の一人である夜魔の女王(読みはクイーン・オブ・ナイトメア)の格好を模している。

「終わっていないわ」

「終わったじゃん」

「終わってない」

「あのー、桐乃さん。その辺で……」

 オズオズと進言する京介。


「今あんたは関係無いんだから黙ってなさい!」

「成程、そう言う事なのね桐乃。貴方、私に嫉妬しているのでしょう。幾ら京介が『この姿をした私』が大好きだからとは言え、妬むのは見当違いよ」

「はあ!? そんなん知るかっ! 大体あんたそれずっと着てるって、つまり何年も成長してないってコト? うっわ」

「……言ってはいけない事を言ってしまったようね」

「ケンカはダメだよ! かなかなちゃん、止めるのを手伝って」

「ほっときゃいーんじゃねーの? いつもの事じゃん」

「いいから! 手伝って!」

「仕方ねーなァ。んじゃま、奥の手でも使うか。二人ともー、ケンカ辞めたら今度京介がすっごいのしてくれるってヨー」

「御免なさい桐乃。向きになり過ぎたわ」

「あたしも言い過ぎたからおあいこにしましょ。ごめんね、黒猫」

 まさに効果覿面。二人は強く握手をし、京介は一人頭を抱えるのであった。

「いやはや、京介氏は愛されてますなあ」

「かなかなちゃん、すっごいのって何?」

「秘密」

「えー、ズルいよー」

 田村の視線がまたぞろ厳しくなりつつあったので、来栖はこれでも必死に誤魔化していた。

「結局、黒いのは何になるのかな。やっぱクーデレ?」

「会話の中身から考えるに、ここは『夜魔の女王』しかありませんな」

「私はそれで構わないわ」

「んじゃけってー。よろしく、夜魔の女王」

「先程は失礼な態度を取りごめんなさい、夜魔の女王」

「貴方たち、やはり私を莫迦にしているのではなくて?」





 五


「さて、取りを飾るのはあやせ殿ですな」

「あやせは簡単だよねー」

「そうね。とても簡単だわ」

「拙者も同感でござる」

 口には出さないだけで京介も同様の意見を持っていた。言ったら絶対後が怖いからと、自ら地雷原に飛び込む真似はしないが。

「そうなの? わたしそう言うの詳しくないから」

「あやせは『ヤンデレ』。はい終わり」

「それではまとめるでござる」

「待って、桐乃待って。デレは分かるけど、やんって何?」

「ヤンとは即ち病み。貴方の持つ強大な病み属性を考慮すると、他には有り得ないわね」

「闇属性、ですか。余り良い気持ちにはなれませんね。わたしのどこが闇なんですか?」

「強いて挙げるなら全て、だわ」

「自分じゃ分かりません。わたしはこんなにも明るく京介さんを愛している自信があるのに」

「桐乃ちゃんが太陽ならあやせちゃんは月だよね。静かに照らしている感じかなぁ」

「そして月は蔭るモノ。ふふっ」

 田村の精一杯のフォローも、五更により即座に台無しにされた。


「あやせはねー、デレが強過ぎるんだよ。京介を想い過ぎてそれが暴走してるの」

「う、うーん。桐乃がそう言うなら、そうなのかな……」

「たまにすげー目で京介を見てる時があるぜ? ありゃ下手するとトラウマになるっつーの」

 来栖により自身では気付いていなかった事実を突き付けられた新垣は、次にエヴァンスに視線を移し無言で意見を促す。

「えっと、その……。あやせさんは、たまに、ちょっとだけこわいです」

 純粋なエヴァンスにすらその様に見られていたと知り、新垣はかなりのショックを受けた模様だ。

「そう、そうだったのね。わたしは京介さんの重荷になっていたのね……闇でごめんなさい……」

「だーかーらー、そーゆーのがダメなの! もっと楽~に行きましょ!」

「ありがとう桐乃。でもわたしは所詮闇の女。だったら闇らしく、陰から京介さんを見守る事にするよ」

 こうなると後は果てしなく落ち込んで行くだけである。桐乃は助けを求めて京介を見た。

「あやせ、お前はそんな事をしなくて良い。今まで通り、俺の傍に居てくれ」

「こんな闇のわたしでも良いんですか?」

「ああ、俺は病んでようが健やかだろうが、いつものあやせが良い」

「分かりました。京介さんがそこまで仰るのなら、わたしはわたしのままでいますね」

「なーんか、あやせだけ京介に口説かれてるみたいで面白くねーな。ズルいぞー」

「それなら加奈子も闇に堕ちちゃえば?」


「あたしはアイドルだぜ? キャラじゃねーっての」

 その話題に桐乃が乗って来る。

「最近はまゆちゃんみたいなヤンデレアイドルも受けてるから、案外イケるかもよ?」

「まゆちゃん? そんなアイドルいたっけな。もしかしてAKBのまゆゆか? でも病んでねーよなー?」

 そこに槇島が口を挟む。

「緒方智絵里殿もヤンデレの素質があると言われてますな」

 さらにエヴァンスが参加する。

「あっ、それなら知ってます! テレビ観てました。アイドルマスターシンデレラガールズですよね!」

 さらにさらに五更も加わる。

「貴方達は何を言っているのかしら? 凛こそが至高。クーデレでありヤンデレ」

「はー? しぶりんのヤンデレ属性は二次創作限定でしょうが。まゆちゃんこそが公式推しの究極ヤンデレだっての!」

「桐乃、貴方は分かっていないわ。二次創作でそうであると言う事は、ユーザーに取っては最早それが常識」

 そして再び桐乃と五更の言い争いが始まるが、今度は誰も気に留めなかった。

「ヤンデレも萌えにおける立派な一つのジャンルでござる。自信を持つと良いでござるよ」

 新垣にそう伝える槇島により、ヤンデレ論争は一先ず終結した。





 六


「それでは、本日のまとめに入るでござる」

「あれ、あたしは?」

「桐乃は一番最初に決まったでしょう。もう忘れてしまったのかしら?」

「え、もしかしてツンデレ? あたしの番あんだけ?」

「いいえ、貴方は『ツンツンツンデレ』よ。良かったわね」

 即座に異議を申し立てる桐乃だが、当たり前の様に却下された。

「それでは今度こそ会議を進めて良いですかな?」

「あれぇ、沙織ちゃんは~?」

「いやいや、拙者などただの『オタク』で結構でござるよ」

「実はお嬢様オタク」

「眼鏡を外すと超美人オタク」

「きりりん氏も京介氏も照れる事を言わないで欲しいでござるよ」

 本当に照れている様子の槇島を見やりながら、せめてぐるぐる眼鏡さえ無ければ、と残念に思う京介であった。


「ツッコミ&ボケ、ツンツンツンデレ、ツインテロリ、素直デレ、ヤンデレ、夜魔の女王、オタク。ふむ、中々のラインナップになりましたな!」

「きょうちゃん、わたし達のこんび名どうする?」

「お前、本気でデビューする気かよ……。適当に『魔王とその従者』でいいんじゃねーの」

「んー? 何で急にしゅうべるとなの?」

「シューベルトの魔王には、父と息子と魔王しか出ねーだろ。適当なんだから気にするなって」

「そっか、分かったよぉ。よろしくね、魔王さん」

 田村の真意を計りかねて思案する京介であったが、柔らかく微笑む幼馴染を見て余計な考えは追い払った。

「じゃあ、あたしとあやせとブリジットちゃんで『デレシスターズ』ね!」

「何がじゃあ、なのかは分からないけど、桐乃とブリジットちゃんとトリオって言うのは悪くないかな」

「がんばります!」

「それじゃ、親睦を深めるためにも、今度一緒にお風呂行きましょ!」

「ごめんなさい、それはちょっと……」

 エヴァンスにあっさりと断られ落ち込む桐乃。提案時にのぞかせた欲望丸出しの顔が敗因だろうと新垣は分析する。

「残された拙者らは如何いたしますかな。無難に『チーム残りもの』とかどうでござろうか」

「そんな笑神様に登場するみたいな名前は嫌だっての。ここはやっぱ『かなかなと仲間たち』だろー?」

「巫山戯ないで頂戴。貴方と馴れ合うなんて御免だわ」

「今になってそんなこと言うなよー。あたしと猫の仲だろ?」

「貴方と親睦を深めた事象など、どこの世界線にも存在しないわ」

「はっはっは、お二人はすっかり仲良しですなあ。まっこと良きことなり」

「沙織、貴方のその顔に付いている二つのまなこは空洞なのかしら? どこをどう見たらそう見えると言うの」

 纏まりそうで纏まらない三人であった。





 七


「本日の会議もつつがなく終了したでござるな」

「そうだっけ?」

「つつがあったよなあ」

 ヒソヒソと会話する桐乃と京介。槇島は聞こえてか聞こえずか、コホンと一つ咳払い。

「それでは会議の終了を宣言するでござる。お疲れ様でした! まーたらーいしゅーー」

『お疲れ様でしたー!』

 慣れたもので、全員の声が綺麗に重なる。

「提案したい議題があれば、いつものようにメールかLINEをしてくだされ。何も無ければ拙者が勝手に考えておくでござる」

 そのまま流れで部屋の片付けに入る。新垣と田村は使った食器を洗い、京介と五更とエヴァンスはテーブル周りの食べかすを掃除。桐乃と槇島と来栖は散らばった資料の整理や残されたお菓子の収納など。


 瞬く間に室内は綺麗になり、そのタイミングで桐乃が切り出した。

「ねえねえ、今から銭湯行かない? 京介の運転でさ」

「うーん、今月ちょっとピンチなんだよなぁ」

「なら今日は言いだしっぺのあたしがレンタカー代を出すからさー。良いでしょ、ね、ね?」

「折角のお誘いなのですが、このあと用事があるので帰らないといけないのでござるよ」

「私もパス。知った人だけなら兎も角、大衆浴場は無理だわ」

「そっかー。他の人は?」

「あの、あやせさん」

「いいよ。ブリジットちゃんの家にはわたしから電話しとくね」

「ありがとうございます!」

「あたしはモチロンいいぜー。なんなら混浴でもいいぜー」

「……加奈子ちゃん?」

「あー、混浴は無くていいぜー」

「わたしはどうしようかなぁ。今日は家のお手伝いをしようかと思ってたんだけど」

「電話してみたらどうだ? 俺と一緒に銭湯行くっつったら、絶対背中押されると思うんだが」

「じゃあそうしてみるよ~」

 そうして賑やかに話をしながら部屋から出て行く面々。

 とある日曜日の夕暮れ時。

 閑静な住宅街の一画に建築された、平凡なアパートのその一室はかくして静けさを取り戻す。

 週が一巡りした時、再び活気に包まれるのだが、それまでしばしの休憩となる。

 彼らの行く先には、幸福が満ちている。





    終


こんにちは、以上となります。


くどくて読みにくいかな、と反省しております。


それではまた~。


 if もしもみんな広島弁だったら 編



加奈子「のー京介ぇー、どっか遊びに行こーやー」

京介「えー、たいぎいわ。一人で行きんさいや」

ブリジット「あの、うちも行きたいです」

京介「はぁ、ブリジットちゃんがそう言うなら行こうかの」

加奈子「なんか納得いかんわ」

桐乃「ちょっと、うちらも当然行くで。の、あやせ」

あやせ「ほーじゃね。どこ行こうかぁ」

沙織「ほいじゃカープ観に行こうや。今日試合やっとるで」

京介「カープのチケット今から行って取れるわけないじゃろ」

桐乃「どーせい言うんよ。他になんか行く所あるん?」

麻奈実「そいじゃぁ、みんなで平和記念館でも行く?」

ブリジット「あそここわいけぇ、えーです」

黒猫「アニメイトでええじゃん」

あやせ「嫌じゃ」

京介「さえんのう。どっか行くならはよ決めよーで」

沙織「今年まだ宮島行っとらんけえ、行ってみん?」

ブリジット「鹿に触りたいけぇ、うちはそれでえーです」

黒猫「仕方ないのぅ。ほいじゃそれで決定かのう?」

麻奈実「きょうちゃんと一緒に宮島行くの久しぶりじゃけぇ、楽しみじゃわぁ」

京介「なら車借りる準備するけ、みんな出掛ける支度してや」

加奈子「沙織、ちょっとあれ取って。あがーな高い所にあったら、うちの背じゃたわんわ」

沙織「これ? ほい」

加奈子「サンキュー」

あやせ「えっと混んどらんとええけどねぇ」

桐乃「大丈夫じゃろ。フェリーに乗るの久しぶりじゃけぇ、楽しみじゃ」

京介「わしも宮島行ったのぶり前じゃけ、道を覚えとるか自信ないわ」

ブリジット「ほいなら今日はうちが助手席でナビ操作します」

京介「おー、頼むわ」

加奈子「そんなんいけんわー。ブリジットせこいでー」

ブリジット「えへへ、きょーすけさんがええ言ってくれたけぇ、変わらんでえ」

沙織「そいじゃ遅くなる前に出よーで」

京介「丁度車も借りられたけ、行くで」

桐乃「おー!」





    もしもみんな広島弁だったら

    → 個性が無くなる




       終


 if もしもみんな広島弁だったら2 編



京介「わしらもう別れようで」

あやせ「何アホな事ゆーとるん?」

京介「ええじゃろ。いい加減たいぎいんじゃ」

あやせ「わたしは嫌じゃ。別れるくらいなら死ぬる」

京介「それはいけんで」

あやせ「理由を言いんさいや」

京介「ゆうたじゃろ、たいぎいって」

あやせ「わたしのどこがたいぎいんじゃ」

京介「すぐはぶてるじゃろーが」

あやせ「そんなん、京介さんが桐乃達に甘い顔するのがいけん」

京介「そがいな事ゆうても、桐乃は妹じゃけ仕方ないじゃろ」

あやせ「ほいなら加奈子やブリジットちゃんはどうなんよ」

京介「みんな大切じゃ」

あやせ「えー加減にしんさいよ」

京介「勿論あやせも大切じゃ」

あやせ「京介さん……」

京介「あやせ……」



加奈子「あれ何やっとるん?」

桐乃「知らんけど、ほっときゃえーよ。アホらし」

麻奈実「仲えーよねぇ」

ブリジット「うちもたまにはきょーすけさんとケンカしたいわ」

沙織「そんなええもんでものうで?」

黒猫「喧嘩せんだって仲良うなれるんじゃし、やらんでええもんはやらんでええじゃろ」





    もしもみんな広島弁だったら2

    → 名前を消したら区別が付かなくなる




       終




反省した結果がこれである。

実際は、これの七割くらいの要素で喋ってますかね。

意味が分からない部分があったら遠慮なく聞いてください。


それではまた~。


 おまけ 恋する秋に桜咲く 編



とある土曜日、黒猫とデートしていた時の出来事だ。

秋葉原で黒猫の買い物に付き合い、流れでゲームセンターに来ていた。

煌びやかな装飾と騒音に包まれたそこで、黒猫がプレイするのはやはり対戦格闘ゲーム。

あいっっかわらず強ぇーー。バッタバッタと対戦相手を薙ぎ倒して行く彼女に、俺は自分の事じゃないのに誇らしさを感じていた。

そんな具合に斜め後ろから黒猫の様子を眺めていた時。

??「はれ? 高坂?」

振り返るとそこには――赤い配管工の姿をした小さなおっさんが。

京介「俺にマリオの知り合いはいねーんだが」

赤い帽子に赤いインナー、青いオーバーオールに白い手袋、そして『付け髭』。どっからどう見ても、誰もがマリオだと言うに決まってる。

??「なっ、何言ってんの? あたしだよ! 櫻井、櫻井秋美!」

自分の顔を指差しながら詰め寄ってくる櫻井。いやまあ、声でなんとなくは分かってたけどさあ。

京介「お前さー、なんでマリオなの?」

櫻井「いやー、家で服を探してたら青いオーバーが見付かって、こりゃマリオになるしかないかなって! 帽子と髭はここに来る途中で買ったんだ」

京介「……そーかい。似合いすぎて今にもマンマミーアって叫び出しそうだよ」

櫻井「にひひ、そう? そう思って貰えるなら嬉しいな!」

言って、片腕を突き上げピョンピョンその場でジャンプする櫻井。


櫻井「とと、挨拶がまだだったね。高坂久しぶり!」

京介「ああ、あの時以来だな。元気にしてたか?」

去年の10月に、地元のゲーセンで櫻井に告白された事を思い出す。あれから丁度一年くらいか。今までの俺の短い人生から考えても、この一年は有り得ないくらい密度が濃かった。櫻井はちゃんとした時間を送ってくれていたんだろうかね?

櫻井「家はこっちに引っ越しちゃったけどさ、それなりに適当に生きてるよ。高坂は?」

京介「ああ、俺もまあ適当にな。普通の大学生してるよ」

櫻井「ふーん、そっかそっか。んで、こんな所で一人で何してんの? もしかして暇? だったらさ、あたしと――」

クイクイ。袖が引っ張られたので見ると、いつの間にか黒猫が俺の傍に立っていた。

京介「お、ゲームはもう良いのか?」

黒猫「ええ。それよりも」

半身を俺に隠しながらジッと櫻井を見詰める黒猫。警戒心が強いなあ。

櫻井「んんー? あれ、もしかして高坂の連れ? なーんだ、一人じゃなかったんだ。あれ、でも。この服装、どっかで見たことあるよーな」

黒猫「……誰?」

京介「あー、中学の時のクラスメートだよ」

櫻井に告白された事は黙っておいた方が良いだろう。これで嫉妬深いヤツだから、どんな騒動になるか分からねーしな。

櫻井「あああ! 思い出したっ! webニュースで見たコだ!」

むむむ、と腕を組んで考え込んでいた櫻井だが、そう叫ぶとピョンと軽くステップを踏んで黒猫をズビシッと指差した。

黒猫「随分と騒々しいマリオね」


櫻井「そーだよ高坂、あたしあのニュース見た時ビックリしたんだよ! どーなってんの?」

京介「どう、と言われてもなぁ」

櫻井「あたしが告白した時、キミ好きな人がいるってゆってたじゃん! だからてっきり田村ちゃんと付き合う物だと思ってたのに、ニュースだと三人から取り合いされてたしさっ」

黒猫「『告白』? 『好きな人』?」

おおう、あっさりバラしやがったぜこいつ。

櫻井「あれからあんま経ってないのに、何があったか分からなくてもう混乱してたんだよっ! てかさ! すっごい美人だねキミ! ……で、このコ誰?」

京介「こいつは――」

黒猫「私は京介の彼女よ」

櫻井「彼女! ……そっか、彼女かぁ。……じゃなくて! 田村ちゃん諦めてこのコと付き合うことになったの?」

困ったぞ。まさか麻奈実とも付き合ってる、なんて言える訳がない。さて、どうやって誤魔化したものか……。

黒猫「悪いけれど私達は今デートをしているのよ。余計な詮索はしないで頂戴」

櫻井「えっ、あっ、ごめんね、邪魔だったね。彼女さんには面白くない話だったよね」

黒猫「告白とかのくだりは非常に興味深いけれど、それは後で京介からじっくりと聞き出すから良いわ。そう、じっくりと」

櫻井「あー、ごめんね高坂。なんか余計なこと言っちゃったみたいだね」

京介「いや――」

黒猫「大丈夫よ、貴方は気にしないで頂戴。全てはこの男が自ら蒔いた種。それでは私達はもう行くわ。じゃあね、マリオさん」

黒猫に手を掴まれ引っ張り動かされる。俺はトボトボと連行されるのみだ。

櫻井「あっ! 高坂! あたしいつもここにいるからっ! また来てね!」

京介「おう、またなー」

こうしてかつての級友との再会は終わった。

翌日の会議では、当然櫻井が議題に上がったのだった。




次の土曜日、沙織とデートしていた時の出来事だ。

秋葉原で沙織の買い物に付き合い、流れでまたゲームセンターに来ていた。用心して先週とは別の場所にした。

俺たちは手を繋いで、二人で出来そうなゲームを物色しつつ店内をゆっくり歩いて回っていた。

と、沙織と話しながら歩いていたら、正面から何かにぶつかる。

京介「おっと、悪い」

??「……」

それは小さなクマの着ぐるみだった。若干プルプル震えているように見える。

まあ、クマって言うか櫻井なんだけどな。着ぐるみと思ったのはパジャマみたいな服だった。こいつのファッションセンスはとても残念なんだよ。

櫻井「こぉ~~~さかぁ~~~~~」

京介「よっ、一週間ぶり。お前こっちのゲーセンにもいるんだな」

出来ればデート中には会いたくなかったぜ。どんな騒動に発展するやら。

櫻井「どぉーーーゆーーーことだよこれはっ! 手なんか繋いじゃってさ! まるでデートしてるみたいじゃん!」

被っていたフードを外し顔を出すと、両手を上げて荒ぶるクマのポーズを取る櫻井。

沙織「成程、この方が櫻井殿ですな。ふむふむ」

なぜかニヤニヤしてる沙織。なんとなくこの後の展開が読めてしまうんだが。

沙織「まるで、じゃなくて、本物のデートをしているでござるよ」

櫻井「にゃんですとっ!?」

そのまま固まる櫻井。


櫻井「……あー、あー! 分かった、この背の高い人は高坂のお姉さん! 姉弟ならデートしてても不思議じゃないよねっ」

沙織「いえ、正真正銘の恋人同士でのデートでござるよ?」

櫻井「おぅぅぅまいっがっっ!」

何だか悶えている。ちょっと面白い。

沙織「なんとも愉快な御仁ですなあ」

櫻井「えーーっと、彼女さん?」

沙織「拙者、沙織・バジーナと申す者でござる」

櫻井「拙者? バジーナ? まあいいや。あたしは櫻井秋美です。で、ちょっと高坂借りるねっ。すぐ返すから」

京介「お、おい」

グイグイと櫻井に腕を引っ張られて、沙織から少し距離をあけられてしまう。そのまま小声でヒソヒソと怒鳴ってきた。器用な真似するヤツだ。

櫻井「どーーなってんのさ! 先週の美人な彼女とはもう別れたのっ!?」

いえ、堂々と一緒に付き合ってます。と答えられるはずがなく、俺が返答に困って黙っていると。

櫻井「なんだいなんだい、そんでもう次の彼女作っちゃってるとかどーなってんの! キミがそこまでプレイボーイとは思って無かったよ!」

ここ最近の俺の立ち振る舞いを思えば、それも否定できなかった。

櫻井「なんだよー、それならあたしと付き合ってくれよー! あーでも、もう彼女いるから無理かあ!」

ちくしょー、と地団駄を踏んでいる。いちいちリアクションが派手でやっぱり面白れーわこいつ。

櫻井「……はぁ、もういい。あんまり彼女を泣かせる真似をしたらダメだかんねっ」

京介「分かった」




その次の土曜日、加奈子とデートしていた時の出来事だ。

秋葉原で加奈子のミニライブを観て、終わった後フリーにしたと言うので一緒に街を歩いていた。

本来は先週が加奈子、今週が沙織の番だったんだが、加奈子がどうしても俺をライブに呼びたいと駄々をこねたのでこうなった。

閑話休題。

腕に抱きついてくる加奈子を伴い、ブラブラとアキバを散策していた、その時。

バッタリ。まさにそんな表現がピッタリなくらい、見事に櫻井と遭遇した。

京介「……ぉぅ」

櫻井「……」

これだけの人混みの中で、なぜエンカウントしてしまうんでしょうね。神様って残酷です。

加奈子「あん? 京介、こいつ誰?」

京介「櫻井って中学のクラスメート」

加奈子「あー、覚えてるぜ。去年京介に告って振られたマリオだろー」

混ざってる混ざってる。


京介「お前、そんなハッキリ言うなよ」

櫻井「えーっと、高坂? そのコは誰? キミの何かな?」

加奈子「なんだオメー、アキバにいてあたしのこと知らねーのかよ」

櫻井「知らないよ! ……って、あれ? なんだか見たことあるよーな」

加奈子「へっ、よーやく気付いたか。まァ、当然だけどよ」

櫻井「あああ! 思い出したっ! webニュースで見たコだ!」

むむむ、と腕を組んで考え込んでいた櫻井だが、そう叫ぶとピョンと軽くステップを踏んで加奈子をズビシッと指差した。これ先々週も見たぞ。

加奈子「webニュース? あー、あの時のアレか。なんだヨ、あたしの正体に気付いた訳じゃないのかよ。あたしもまだまだだなー」

櫻井「正体がどうとか、どうでもいいけどさ! 高坂! キミ何をやってるのさ!」

京介「あー、その、なんだな」

櫻井が何を言いたいのかくらい、さすがに分かる。

櫻井「ってその前にちゃんと確認しとかないと! えっと、このコはキミのなんなのかな?」

京介「かの」

加奈子「彼女でーーっす」

きゃは、と笑いながら空いた手でポーズを決める加奈子。うん、様になってる。

櫻井「ぬがぁああああぁぁぁっ!」

櫻井は頭を抱えてのたうちまわっている。すごく目立っているけど恥ずかしくないんだろうか、こいつは。


加奈子「うっせー女だなぁ。京介ぇ、ほっといて行こーぜー」

櫻井「待った待った! ちょっと待ったあ!」

復活した櫻井が、歩き出そうとしていた加奈子の行き先を塞いだ。

加奈子「なんだよ、邪魔すんのかよ」

櫻井「えーっと、彼女さん? え? 恋人としての彼女?」

加奈子「さっきからそー言ってんだろ。ケンカ売ってんのか? あ?」

京介「加奈子、周りの目もあるんだから少しは抑えろって。さっきからなんでそんなに喧嘩腰なんだよ」

加奈子「だってこいつ、さっきからウゼーし。デートの邪魔するし」

櫻井「ごめんね、すぐ終わらせるからね。ちょっと、高坂ちょっと」

先週と同じ様に櫻井に腕を引っ張られて、今度は通りの端まで連れて行かれるが、加奈子が俺の腕を離さないので一緒に来てしまっている。

櫻井「なんで彼女さんも付いてくるのさ」

加奈子「なんでオメーが京介を持って行くのをあたしが黙って見てなきゃいけないんだよ」

櫻井が困ったように俺を見る。

京介「加奈子は少々の事には動じない強い子だから大丈夫だ」

だから言ってみ、と目で促す。加奈子は俺の言葉を受けて、へへ~、とご満悦だ。


櫻井「んじゃさ! 言うけどさ! なんっっっで、あたしじゃ無くてこんなチンチクリンと付き合ってるのさ!」

おう、時間が止まるのを感じたぞ。

加奈子「いー度胸じゃねーか。ここまで真っ向からケンカを売られたら、買わなきゃアイドルの名がすたるってもんだぜ!」

櫻井「え? アイドルなの? アイドルが男の人と付き合って良いの!?」

加奈子「あたしはいーんだよ、このチビ!」

櫻井「チビって! チビにチビってゆわれた! そっちこそチビじゃないか!」

さっきから思ってたんだけど、この二人って似てるよなー。すっげえ相性悪そう。

それはともかく目立ってしまって仕方がない。俺は自由になった両手をそれぞれ、口喧嘩を続ける二人の頭に乗せ、強めに上から抑え込んだ。

京介「お前ら少し落ち着け。喧嘩すんな」

そのまま加奈子の頭を撫でる。櫻井が静かになったのを確認して、そっちの手はどけた。

櫻井「……」

櫻井に羨ましげな視線を向けられて、加奈子は勝利を確信したようだ。勝ち誇った表情をしている。

櫻井「はあ、分かったよ。高坂がそーゆー男だって知って幻滅した。……じゃね」

毎週、恋人をとっかえひっかえしてるナンパ師だとでも思われたのだろう。実際はもっと最低野郎なので、去って行く櫻井を追いかけて誤解を解くなんて俺には出来なかった。




翌土曜日、麻奈実とデート……ではなく、田村屋を手伝う麻奈実を手伝った。

以前よりも親密になった俺たちにより強く結婚を薦めてくるようになった麻奈実の家族だが、そんなに悪い気はしなかった。



さらに翌土曜日、両親が居ないというのでブリジットの家にお呼ばれした。

練習中という事で残念ながら手料理は食べられなかったが、宿題を教えたり、一緒にテレビを観たりして楽しく過ごした。



そんな風に日々を過ごしていき、櫻井との偶然の再会があった事を忘れてしまった頃。




今日は桐乃とアキバデートだ。俺は気が進まなかったが、彼女の強い意向もあり、やっぱりあのゲーセンに来ていた。

どうか、出会いませんように――

京介「あ」

櫻井「あ」

いたよ。出会ってしまったよ。クソ気まずいんですが!

櫻井はまず俺を見て、視線を桐乃に移し、指を絡めあって繋いでるいわゆる恋人つなぎを凝視し、そしてまた俺に戻ってきた。

罵詈雑言を浴びせられるくらいは覚悟するかなーとボンヤリ考えたが、櫻井は俺に何かを言うことなく、きびすを返し雑踏に消えて行った。

桐乃「知り合い?」

京介「櫻井」

桐乃「あー。あの人がそうなんだ」

桐乃にはかつての中学時代の失敗談を話しているし、そこから櫻井と再会する手助けもしてもらっている。ほとんど筒抜けだった。

桐乃「折角仲直り出来たのに追いかけなくて良いの?」

京介「今の俺は、櫻井に思われている以上に非道徳的なことをしてるからな。なんて説明すればいいのやら」

桐乃「うーん、でも、あたしは京介が誤解……でもないか。悪いことしてるって思われたままなのは面白くない」

京介「面白さで判断されてもな。事実悪い事をしてるんだぜ?」

桐乃「あたしたち誰も悪いなんて言ってないじゃん。あたしの大切な恋人を勝手に悪人扱いしないで」

京介「……そっか」

桐乃「うん。だからダメ元で行ってきなさい、よ!」

よ、と同時に背中を強くはたかれる。だから俺はその痛みに押されるように走り出した。




とは言え、だ。ただでさえ人が多い土曜のアキバから、小柄な櫻井を探し出すなんて無策で出来ることじゃない。

あいつの家なんて知らないから歩いてった方向も分からねーし。

運を天に任せて適当に走り回るのは最終手段だな。まずは……。



京介「見付けたぞ」

櫻井「げ」

先程の櫻井は物を考えるのも億劫な様子だった。だから、人の流れに逆らわずに動いたんじゃないかと推測し、それに従ってゲーセンを順番にあたっていったら二カ所目ですんなり発見できた。帰宅されてたらお手上げだったぜ。

巨大メダルゲームの筐体に座り、無為に手を動かし続けているその姿は痛々しくて話しかけるのを躊躇われたが、それでも俺は意を決して空いていた隣の席に座った。

京介「わざわざ探したんだぜ? げ、は無いだろー」

櫻井「……新しい彼女とよろしくやってれば良いじゃん」

京介「その彼女に、お前を追いかけるように言われたんだよ」

櫻井「え? なんで?」

ちょっとだけ言いよどむ。

京介「自分の恋人を悪く思われたままなのが嫌なんだとさ」

櫻井「ノロケたいならどっか行ってよ。キミが動かないならあたしが出て行く」

京介「そうはいかねーな。俺はお前にちゃんと話をするって決めた」

櫻井「……そ。だったら勝手にすればぁー?」

京介「じゃあ勝手にするな。まず場所を変えるぞ」

櫻井「ヤだ。メンドイ」

京介「良いから行くぞ。ほれ」

櫻井の腕を取り、強引に立たせる。

櫻井「わっとっと。分かった、分かったから! 行くから手を離して! せめてメダルを預けさせてーっ!」




他の人に話を聞かれると困るので、俺たちはカラオケ店に来ていた。

持ち込んだ缶ジュースで喉を潤し、緊張しつつ告白していく。

最初は一人と付き合っていたが、段階的に恋人が増えて行き、今では同時に七人と付き合っていること。

そのことを全員が承知しており、かつ定期的に集会を開いているので皆の仲は良く、現在の関係は良好なこと。

毎回連れている相手が違うのは、ローテーションでデートする相手を変えているからであり、それも円満な話し合いで決まったこと。

彼女たちは現状に幸せを感じており、誰も俺を悪人とは思ってないこと。

自分で口にするには照れる内容もあったが、大体は伝えられたはずだ。しっかし改めて整理するとやっぱとんでもねーよなこれ。

京介「――と、まあ。こんな感じだ」

櫻井「…………それを聞かされてあたしはどーすればいーのさ」

京介「無茶なことを言ってるとは思うが、出来れば俺たちの関係を認めて欲しい。あと彼女たちを悪く思わないで欲しい」

櫻井「高坂さあ、この話って冗談じゃないんだよね?」

京介「ああ。ほらこれ」

スマホを操作して、いつだったか全員で行った旅行の集合写真を見せる。

セルフタイマーで撮ったそれは、俺を中心に全員がギュウギュウにくっ付いていてみんな笑顔を見せている。

櫻井「はえー、本当なんだ……って、あれ、これ田村ちゃんじゃない? ちょっと髪を伸ばしてるけど」

京介「そうだな。麻奈実もいる」


櫻井「はぁ~~~~~~っ。すごいね、外国人もいるんだ。みんな綺麗だね」

京介「ああ、俺には勿体ないくらい出来た彼女たちだよ」

櫻井「あたし、こないだ高坂と会った時、別れ際に幻滅したってゆったじゃん?」

京介「ああ。無理もないと思う」

櫻井「それがさ! 実はもっと酷くて! 同時に七人と付き合ってて! そりゃ幻滅ってゆーか、もうあきれるしかないっての!」

京介「はっはっは」

櫻井「なに爽やかに笑ってんだよ、この節操無し! あたしが告白した時、誰とも付き合ってなかったんでしょ!? なんで一年でこんなに増えるんだよ! どんだけテクニシャンだっての!」

京介「照れるなあ」

櫻井「褒めてないっ!」

興奮を鎮めるように、櫻井はジュースを一気飲みした。

櫻井「ぷはぁっ。……はぁっ、あたしも大概ダメ人間だけど、まさか、あの高坂がここまで堕ちてるなんて」


櫻井「んでさ、話は分かったけど、ちょっと納得するのは難しいかな」

京介「まあ、普通そうだよなあ。んじゃ忘れてくれ、な?」

櫻井「こんなドギツイ話を聞かせておいて勝手だねキミは!? 忘れられる訳ないじゃん!」

京介「なら認めてくれ」

櫻井「うがああああああ! あいっかわらずキミは身勝手な男だねっ! そこは昔から全然変わってない!」

京介「おう、任せてくれ」

櫻井「……ならさ、こうしようよ。今度全員が集まる時にあたしも連れてって。そんで、本当に彼女たちに不満が無いか確認する」

不満はたっくさんありそうだけどなぁ。

櫻井「そこで問題が無ければキミたちの関係を認めてあげる。どーよ?」

京介「うーん」

現状、俺たちの関係に問題は無いはずだ。毎週のように賑やかに楽しく過ごしてて、本当に今のままで良いのか、逆に俺が不安を覚えるくらいだからな。

京介「よし、それでいこう! 櫻井さえ良ければ明日うちに集まるんだけど、それでどうだ?」

櫻井「明日かよっ! いいよ、行ってやろーじゃん! 女はどきょーだ!」

カラオケルームのレンタル時間は残ってたが、桐乃に連絡したらまだアキバに居るとのことだったので、本日はこれで解散となった。

桐乃「ま、そこそこ上手くいったんなら良かったじゃん?」

合流した桐乃はさっぱりとした笑顔でそう言った。自分のデートの時間を充ててくれたのに嫌な顔一つしないとは、本当に優しい妹で彼女だな。頭が上がらねーよ。





櫻井「ど、どぉも~~~」

うちにやって来た櫻井は、ノースリーブにチェックのネクタイ、フリルの付いたスカート、ハイニーソという、いつか見たようなアイドルスタイルだった。気合の入りようを窺わせた。

京介「よく来たな、上がってくれ」

京介「みんな、こいつが櫻井だ。今日は俺たちを取り巻く状況を視察しに来たみたいなもんだ。いつも通りにやってくれ」

櫻井「よ、よろしくお願いしまっす」

櫻井の言葉を受けてみんな口々に挨拶を返す。一部ガン付けてる者もいたが、言って改めるようなヤツじゃないしとりあえず放置だ。

テーブルを囲んで実に九人がグルリと座る。狭ぇー。

沙織「さて皆様。いつもでしたらここで会議を開くのでござるが、本日は櫻井殿がおられるため、まずは自己紹介でもどうでござろうか?」

ふむ。悪くないな。

沙織「と言う訳で、まずは言いだしっぺの拙者からでござる。以前にお会いした時にも名乗りましたが、拙者、沙織・バジーナと申します。以後お見知りおきを」

ども、と軽く頭を下げる櫻井。こいつ緊張してんなー。

どうやら座った順に自己紹介をするらしく、次は麻奈実が口を開いた。

麻奈実「田村麻奈実です。きょうちゃんと同じ大学に通ってます。19歳です。櫻井さんとは中学の時に一緒だったので、知らない仲じゃないけど、一応、ね?」

櫻井「田村ちゃん久しぶりー。えっと、次はあたしかな? んじゃ、っと」

櫻井は立ち上がると、コホンと一つ咳払い。

櫻井「櫻井秋美です! 高坂や田村ちゃんとは中学三年の時クラスメートでした! 今ニートです! よろしくでっす!」

元気にそう言って着席した。ってこいつ今ニートかよ! 前から学校嫌だ嫌だって言ってたからその片鱗はあったけど、本当に困ったヤツだぜ。


ブリジット「ブリジット・エヴァンスです。中学一年生です。12才です。よろしくおねがいします!」

櫻井「え、キミ12歳なの? え……それでこのスタイル? えっ、高坂ってロリコン?」

この展開は予測してたので、俺は必死に言い訳をした。

加奈子「来栖加奈子。アイドルやってる女子高生だ。オメーとはよろしくするつもりは無いケド、ま、よろしくな」

あやせ「新垣あやせです。京介さんと『一番最初にお付き合い』してました。加奈子と、こちらの桐乃と同じで高校一年です。よろしくお願いします」

櫻井「あー、高坂を引っぱたいたコね! ニュースで見たよ!」

京介「高坂京介、大学一年だ。最近やっと運転免許を取ったのでいつか自分の車が欲しいと思ってる。以上」

桐乃「あたしは高坂桐乃! 容姿端麗、学業優秀、運動万能、品行方正のパーフェクトソルジャー! 読者モデルで陸上選手で小説家で妹で彼女です!」

誰が品行方正だ、誰が。他の部分は否定しねーが。

櫻井「ちょおおおおぉっと待ったぁあああああ! なに!? 妹って何!?」

桐乃「えっと、血がつながった兄妹で、あたしが下の女の子。京介が上の男の子?」

櫻井「そーゆーことを聞いてるんじゃなああああい! 妹って、えー? 近親相姦?」

うん、と同時に頷く俺と桐乃。

櫻井「なんじゃああああそりゃああああぁっ!」

うるせえよ。あと狭いんだから暴れるな。階下に迷惑だろーが。


櫻井「百歩譲って他のコは良いよ。なんだよ妹って! あたし妹に負けたのかよ!」

黒猫「気持ちは分からないでもないけれど、少し静かにして頂戴。まだ私の挨拶が終わってないわ」

櫻井「…………どぞ」

黒猫「我が名は黒猫。現世に於ける仮の名もあるけれど、貴方に告げる必要は無いわね。京介の高校時代に付き合っていたわ」

櫻井「はぁ、そッスか」

毒気を抜かれたように返事をする櫻井。

沙織「さて、これで全員の挨拶が終わりましたな。櫻井殿、如何でしたかな?」

櫻井「うーん。みんなが仲良さそうなのは分かったけどさ、あたしが言うのもなんだけど、高坂のどこがそんなに良いの? みんなこんなに綺麗なのにさ!」

加奈子「あ? オメーあたしらのことバカにしてんのか? 好きだから好き、そんなもんだろーが」

あやせ「京介さんは後先考えずに行動したり理不尽だったりウソつきでスケベで変態だったりしますけど、お節介焼きでお人好しで責任感があって、とても、優しい人です」

櫻井「……そうだね。それはあたしも身をもって知ってる」

桐乃「あたしたちの関係がおかしなモノだってのは言われなくても分かってるケド、本人たちは満足してるんだから、黙っててくれないかなー」

櫻井「妹さんにそう言われてもなー。でも、そっかあ。うーーーーん」

腕を組んでなにやら思案する櫻井。さて、どんな結果が出てくるかな。


櫻井「うん、現状は分かったよ。みんなが今を良いって思ってるなら、部外者のあたしがどーこー言えることでもないしね!」

京介「櫻井」

櫻井「もっとも、だからと言って納得した訳じゃないよ! あたしを振って選んだ恋人が、実は七人もいました、なんて心の整理が追い付かないって!」

黒猫「それは尤もね」

櫻井「だから現状維持! キミたちのことはモチロン誰にも言わない、約束する!」

京介「お前の約束はあんま信用できないんだよなあ」

櫻井「そこは信じてよ! 良い流れだったんだから、茶々入れないの!」

京介「はは、悪かったって。信じるよ」

櫻井「うん。じゃあさ! じゃあさ! みんなの馴れ初めを教えてよ!」

ガラリと話題を変えてくる櫻井。みんな自分の恋愛を話す場が欲しかったのだろう、嬉々として語っていく。

一部軋轢がない訳ではなかったけど、ひとまずこれで落着、かな?





櫻井「やっほ」

あくる日曜日。チャイムが鳴ったので玄関を開けると、なぜかそこに居た。

京介「……おう」

櫻井「遊びに来たよ! 上げて!」

突然の来訪者に室内の面々が気付いたようで、にわかに色めき立つ。追い返す訳にもいかないので仕方なく入ってもらった。

麻奈実「櫻井さん? どうしたの~?」

櫻井「一人でゲームしてても面白くなかったからさ、遊びに来た!」

加奈子「お呼びじゃねーよ。帰れ」

櫻井「あれれぇ? アイドルがそんな汚い言葉づかいで良いのかな~? かなかなちゃんっ」

加奈子「馴れ馴れしーんだよ。あたしをそー呼んでいいのはブリジットとファンだけだ」

ブリジット「かなかなちゃんっ」

ブリジットがギュッと加奈子に抱きついた。いと麗しきかな。


黒猫「それで、本当は何しに来たのかしら?」

櫻井「遊びに来たってゆったじゃん。あと、あたしの中では先週の件はまだ片が付いてないから、それの見極めに!」

沙織「確かに現状維持と仰られてましたな。しかし先週から今週にかけて何かが変わった訳ではないでござるよ?」

櫻井「ふふふ、あま~い! 実に甘いね! キミたちは内輪だから気付いてないだけで、外からじゃないと分からない違和感ってものが存在するのだよワトソン君!」

あやせ「違和感ってなんですか?」

櫻井「それを見極めるために来たのさ!」

すげえ得意気だ。でもバカだなこいつ。

京介「根拠なくただ言ってるだけかよ」

黒猫「道化ね」

加奈子「帰れ」

櫻井「キミたち酷いね! もうちょっとオブラートに包もうよ! 泣いちゃうよ!?」

桐乃「相変わらず騒がしい人だね……」

桐乃にまでこんな評価をされる女、櫻井。

櫻井「まーまー、あたしのことは気にしないでさ! 会議? 続けてよ!」

京介「ったく、仕方ねーヤツだな。んじゃ櫻井もこう言ってるし、続けよーぜ」

こうして、時々櫻井のツッコミを貰いつつ、俺たちは賑やかに会議を進めていった。





次の週。

櫻井「また来たよー!」



さらに次の週。

櫻井「クリスマスパーティやろうよ~」



さらにさらに次の週。

櫻井「初詣どこ行こっか?」



……。

櫻井「みんなもう冬休みだよね? どっか遊びに行こ~よ~」





気が付いたらいつの間にか櫻井が俺たちの集団に馴染んでいた。専用のマグカップまでちゃっかり置いてやがる。侮れない女だぜ。

そんな正月明けのある日曜日。今日はあやせと加奈子とブリジットが揃って仕事の為ここには来てない。

京介「お前さあ、いつまでここに居るつもりなんだ?」

麻奈実が淹れてくれたお茶を飲みながら、ずっと確認したかった事を思い切って聞いてみた。

櫻井「はれ? あたし? いたらダメだった?」

桐乃「いきなりどーしたのよ。あんま冷たいコト言ってると、あやせに告げ口するよ?」

京介「告げ口は勘弁してくださいっ! ……じゃなくて。櫻井がうちに来るようになって、もう一ヶ月半が経った」

櫻井「ほほー、もうそんなになるのか~」

京介「お前、当初は俺たちを見極めるためとか言ってたじゃないか。あれどーなってんの?」

櫻井「おおう! 今それを聞きますか!」

仮面ライダーが変身する時みたいな謎のポーズを取る女、櫻井。

黒猫「そう言えばそんな話だったわね。すっかり忘れていたわ」

沙織「櫻井殿の適応能力は中々大したものでござったなあ」

京介「元ぼっちだけどな」

櫻井「ぼっち違う! 学校がつまんないから行ってなかっただけ! ただの不登校っ!」

ぷりぷり怒る櫻井。からかうと面白いんだよな、こいつ。


京介「分かった分かった、俺が悪かった。元不登校児な」

うがー! と威嚇されたので爽やかな笑みを返しておいた。

桐乃「キモい」

黒猫「ニタニタしていやらしいわね」

麻奈実「きょうちゃん、TPOを弁えてるんじゃなかったの?」

京介「お前ら酷いなっ!? 俺の素敵スマイルを馬鹿にすんなよ!」

櫻井「ダイジョブだいじょぶ、あたしはキュンってしたから!」

京介「嘘くせー。でもありがとな、櫻井」

櫻井「……お、おぉ」

なぜかそっぽを向かれてしまった。はて?

桐乃黒猫『……』

沙織「こほん。……つまり京介氏は、櫻井殿に我々の関係の審査をして欲しいのですかな?」

京介「そーだな。別に櫻井が居たら駄目って言ってるつもりは無い。ただ、ダラダラと引き伸ばして良い事でもないだろ?」

櫻井「ふぅむ、ふむふむ」


京介「俺たちの事を大分理解して貰えたと思うし、もうそろそろ納得出来てないか?」

櫻井「うん、良いんじゃない?」

お、なんかあっさり風味だ。

櫻井「ここしばらく、ずっとキミたちに混ざって色々やったけど、誰もが幸せそうだったよ」

櫻井「あんなのを見せられてさー、そりゃちょっと歪な関係だとは思うけど、ああも幸せそうだと認めるしかないって!」

京介「そっか。ありがとな、櫻井」

櫻井「う……。別に、キミにお礼を言われる筋合いなんて無いし! ただ……」

途中で口をつぐむ櫻井。いつも言いたい事をズバズバ言ってくる彼女にしては珍しい。

櫻井「……その、認めてしまったら、あたしはもうここに来られなくなるかなって」

京介「櫻井……」

櫻井「高坂と一緒にさ! みんなと一緒にさ! 色んなことをやって! すっごく楽しかったんだ!」

桐乃も黒猫も、沙織も麻奈実も、みんな俺と櫻井を見守って、黙ってくれている。

櫻井「だから! だから! あたし、もっとここにいたいんだ! 高坂と、みんなと一緒にいたい!」

京介「あのなぁ、誰が来るなって言ったよ。櫻井はここに居て良いんだ」

櫻井「……さっきダメって言ってなかった?」

京介「え、俺そんなこと言ってた?」

みんなに聞いてみた。


桐乃「それっぽいニュアンス的なのは言ってたかな?」

黒猫「最初に『いつまでここに居るつもりなのか』という風に言っていたわね」

沙織「拙者も確かに耳にしたでござるよ」

麻奈実「きょうちゃん酷いよぅ」

京介「誠にすみませんでしたぁあああああ!!」

俺の必殺技の一つ、とりあえず土下座を披露する。とりあえずその場を凌げれば良い、という時に使うので、割と多用する。

使いすぎて最近軽く見られているのが弱点だ。そりゃそうか。

櫻井「いや、そこまで謝らなくてもいいから!」

しかし耐性の無い櫻井には効果大だった!

桐乃「コレ、適当にやってるだけだから無視していいよ」

黒猫「そうね。京介は土下座を軽く扱い過ぎているわ」

彼女ーズにはバレバレだった!

櫻井「えー、高坂って簡単に土下座するような人間なの? ちょっと幻滅」

また幻滅されてしまった。しかし今回は俺が悪いな。今回も、か。

京介「その、悪かった。咄嗟にやってしまったけど、確かに誠意に欠ける行動だった」

櫻井「いいよ、幻滅したってのは冗談だから! 許す!」

京介「そうか、ありがとな。居ても良いって言ったのは本気だからな」

櫻井「にひひ、分かった! じゃあ遠慮なく来るよ!」

そう笑う櫻井は、とても魅力的だった。





櫻井「――とゆーわけでぇ、あたしも高坂と付き合うことになったから! よろしくっ!」

『はあ!?』

俺も含めた何人かの声が重なり、全員の視線が俺を射抜く。

翌日曜日、そんな櫻井の爆弾発言から始まった。

京介「ちょっと待て! いつ俺がお前と付き合う事になった!?」

櫻井「えー、先週熱烈な告白してくれたじゃない」

京介「マジで記憶に無いんだが」

何人かが俺を射殺しそうな目で睨み付けている。主にあやせと桐乃だが。

櫻井「『ずっと俺の傍にいてくれ! 俺から離れないでくれ!』って」

京介「いやいやいやいや」

櫻井「もうアレって告白ってゆーか、プロポーズだよね! だよね!」

何人かが櫻井を呪い殺そうとしている。主に黒猫と加奈子だが。

櫻井「あたしもそれを受けたしさ! これってもう付き合うってゆーか、結婚秒読みじゃない!?」

京介「待て待て待て待て」

ブリジットはポカーンとしている。沙織と麻奈実は事態の推移を見守る、いつもの態勢だ。


京介「みんな落ち着け。櫻井も落ち着け。俺はお前に告白なんてしてない」

櫻井「えっ? ……えっ?」

京介「確かに『居て良い』とは言ったけど、それは友達的なアレであって、恋愛的な要素は含んでいない!」

櫻井「全然?」

京介「全然」

櫻井「これっぽっちも?」

京介「これっぽっちも」

櫻井「……うっそだぁ!」

京介「本当だ」

何とも気まずい空気になってしまった。しかし俺たちの状況を考えると、ここを曖昧なままにしておく訳にはいかないんだよ。

櫻井「…………そっか。うん、そうだよね。あたしもさ、ちょっとおかしいって思ってたんだ!」

笑おうとして、でも失敗して泣きそうな顔になって、なお気丈に声を張り上げる櫻井。

櫻井「ドキドキしながら高坂からの連絡を待ってても何も来ないしさ! デートのお誘いとか無いしさ! 考えてみたら好きだとも付き合ってとも言われてないしさ!」

櫻井「あたしだって女の子だから、好きな人から期待を持たせるようなこと言われて! やっぱどうしてもそれにすがっちゃうんだよ!」

櫻井「内心は気付いてたんだ、これはあたしの勘違いだって。高坂にはそんな気ないって。でも、勢いで通せば何とかなるかなーってバカなこと考えたりして」

櫻井「だから、うん。分かってた! だから良いんだ! ごめんね、高坂」


京介「いや、俺こそすまなかった。もっと言葉を選ぶべきだった。期待を持たせてしまったのなら、それは俺が悪い」

櫻井「……本当に悪いって思ってる?」

京介「ああ」

櫻井「じゃあさ! じゃあさ! あたしのお願いを一つ聞いて!」

んん? なんだが雲行きが怪しくなってきた気がするぞ。

京介「それはお願いによるな」

櫻井「えーー、良いじゃん。聞いてよ~!」

ジタバタジタバタ、さっきまでのしおらしさはどこへ消えたよ。あと狭いんだからやめろってば。

京介「とりあえず言ってみ? それで判断する」

櫻井「も~、高坂はワガママだなぁ。それじゃ言うから、ちゃんと聞いてね!」

どっちがワガママだよ! と突っ込みたいのをグッと堪えて続きを待つ。櫻井はスゥッと息を吸い込み。

櫻井「……櫻井秋美は! 高坂京介のことが! だいっっ好きです! だから――」

櫻井「あたしと! 付き合ってええええええええっ!」


なるほど、こう来たか。

京介「ごめんなさい」

櫻井「え? なんで!? ここは『俺も好きだよ』って来る流れじゃない!」

京介「お前は何を言ってるんだ」

櫻井「だぁ~かぁ~らぁ~! まずあたしが付き合ってるって暴走するじゃん? で、それを諌められるじゃん? そしたらあたしが涙を流しながら謝って撤回するじゃん? お願い聞いてくれるじゃん? だから告白して結ばれるじゃん?」

どこが「だから」なのかがサッパリ分からん。

京介「なにお前、今日のここまでの流れ、全部計算してたのか?」

櫻井「もっちろん!」

やっべえええ、この女ちょー怖えええええ。

ほら見ろ、黙って見てくれていた他のメンバーも全員ドン引きだよ!

京介「そんな計算高い女はごめんだ」

櫻井「いや~、ここに来て最後に断られるとは思わなかったよ! やるね高坂!」

女は生まれながらにして女優。よく分かりました。

櫻井「うん、今日はあきらめるよ! また来週告白するからよろしくね!」

京介「……勝手にしろ」

そういやこいつ、学校に行かなくて済む、ただそれのためだけに学年一位の成績を収めてたんだよな。筋金入りのバカだ。

櫻井「うん! 勝手にするよ!」

満面の笑みを浮かべそう宣言する櫻井を見て、俺は、いつか根負けして彼女を受け入れる未来が訪れる、そう確信した。

櫻井「あたしはあきらめないから! 覚悟しててね高坂っ」





    終


こんばんは、以上となります。


櫻井は露出が少ないため情報量が少なく、キャラを掴みきれていません。

とりあえずこんなものかな、と無理やり着地させました。


それでは、また~。


 おまけ ブリジット 編



きょーすけさんとお付き合いするようになってから一年近くが経ちました。あっという間でした。

みなさんそれぞれ学年が一つ上がって(あきみさんは違いますけど)、わたしももちろん中学二年生です!

かなかなちゃんだけ、お仕事が増えて学校にあまり行けなかったみたいで、ちょっとピンチでした。

出席日数は何とかできるけど、テストをがんばらないとダメだったみたいで、みなさんでお勉強を教えていました。

わたしだけ中学生なのでお手伝いできません。だけどかなかなちゃんの力になりたかったので、わたしも一緒にお勉強しました。

おかげで、かなかなちゃんはぶじに進級できたし、わたしも成績がすごく上がりました!

パパもママも喜んでいます。あやせさんのおかげだって言ってました。

本当はあやせさんだけの成果じゃないんだけど、その方が色々と都合が良いのでだまっていました。てへ。



学校生活は順調です。お友達はたくさんできたし、テストはバッチリだし、わたしが外国人だからという理由でいじめられることもありません。

前よりも告白される回数が増えたけど、今までならお仕事を理由にお断りしてたのが、

「ごめんなさい。今お付き合いしてる方がいるんです」

と、相手に伝える内容を変化させたら、みんな簡単にあきらめてくれるようになりました。

女の子のお友達には彼氏が大学生だと知られて、とてもうらやましがられます。えっへん。

たまに、どんなエッチしてるの? とかすごいことを聞かれます。もちろん秘密です!


もっとブリジットが積極的になったの見たいな


 おまけ 高坂京介の苦悩 編



櫻井からの告白攻勢を適当に凌ぎながら迎えた三月、俺はとても困窮していた。

何に困っているかだって? そんなの決まっているだろ!


京介「金が無えええええええええ!!」


ただでさえ休み無く全員に時間を使っていて、勉強できるのは授業中と寝る前だけだ。

そんな状態でバイトする余裕などある訳がなく、実家からの仕送りに全てを頼っている現在。

あのイベントを前にして、俺は非常に行き詰っていた。



っと、話を進める前に今の俺たちのステータスでも確認しておこう。


高坂京介  大学一年 俺。近親相姦七又野郎の称号を持つが、近々それが八又野郎になりそうな予感がする。

新垣あやせ 高校一年 大事な恋人。全ては彼女から始まった。たまに怖い。

高坂桐乃  高校一年 パーフェクトソルジャーな妹。少し性格が丸くなったかな?

五更瑠璃  高校二年 黒猫。レアキャラとして白猫も実装されているが、滅多に出会えない。

槇島沙織  高校二年 頼れるみんなの相談役、沙織・バジーナ。実は超お嬢様。

来栖加奈子 高校一年 アイドル。小柄な毒舌家だが、根は優しく仲間想い。

田村麻奈実 大学一年 幼馴染。実家は和菓子屋。俺の事を最も理解している人物だ。

ブリジット・エヴァンス 中学一年 天使。本人は自分を子どもだと言うが、どんどん女らしく育っている。

櫻井秋美  ニート  かつてのクラスメート。目下の目的は俺を攻略する事のようだ。


――こんな感じかな?



で、だ。この内、あやせ、桐乃、沙織、加奈子、櫻井は仕事をしていたり実家が裕福だったりで、金銭的に余裕がある。

黒猫はバイトをしているが、まあ普通かな。麻奈実も実に普通だ。ブリジットは小遣い制なので年相応。

俺、貧乏。


みんな気を遣ってくれて、なるべく俺がお金を使わないで済むようにしてくれてはいる。

だがそうは言っても、移動代やデート資金、たまにホテルにも行くので、どうしたって金が足りないのさ!

そして、そんな俺が今抱えている最大の悩みは、そう、ホワイトデーだ。

バレンタインの三倍返しって言うだろ? そんなん無理だっての!

……ちなみに桐乃の手作りチョコで俺は死ぬ思いをした。どうやったらチョコを毒に錬成できるんだろーな。




京介「と言う訳で、大学の休みを利用して短期のバイトをしようと思ってるんだが」

あやせ「アルバイトをする事については反対しませんけど、会える時間が減るのは困ります」

沙織「そもそもホワイトデーのお返しなど、気持ちがこもっていれば、どんな物でも構わないでござるよ」

櫻井「高坂があたしと付き合ってくれるなら、それでいーよ!」

ブリジット「あの、わたしはたいした物をあげられなかったので、そんなお返しとかは……」

加奈子「折角京介がバイトして稼いで来るって言ってるんだし、こーゆー時は素直に貰っとけばいーんだヨ」

麻奈実「それならお父さんに相談してみよっか?」

黒猫「店長に聞いてみないと分からないけれども、私のバイト先で一緒に働くというのはどうかしら?」

桐乃「あんたのバイトって古本屋でしょ? 二人雇う余裕なんてあるのかな」

京介「うーん。俺としては短期で集中して出来て、給料が多いバイトが一番なんだが」

そんな都合の良い物が存在するだろうか。

京介「大学の先輩に聞いたら治験を薦められたな」

『絶対ダメ!』

京介「ですよねー」

ブリジット「ちけんって、なんですか?」

黒猫「簡単に言えば、薬の実験台よ。副作用が出る事もあるらしいわ」

ブリジット「……そんなのダメです! 絶対ダメ!」

京介「そんな危険なもんじゃないって。かなり割が良いみたいだし」

沙織「しかし、いくら京介氏が健康とは言え、万が一を考えるとやはり」

うーん、困った。大学の掲示板に貼り出されてた募集をちゃんと見ておけば良かったぜ。

ところで、これは後で知った事なんだが、治験は原則二十歳かららしい。元々この時点では受けられなかったんだな。



京介「そうなると何があるかな……。日雇いの肉体労働か、あるいは家庭教師か」

……。

桐乃「それよっ!」

黒猫「決まりね」

京介「え、決まったの?」

桐乃「京介はあたしの専属家庭教師ね! 報酬は弾むわよっ!」

黒猫「待ちなさい、何を勝手に進めているのかしら。貴方には家庭教師の必要は無いでしょう? それなら私の方が適正だわ」

桐乃「そんなの二年の予習をすれば良いだけですしぃ~」

黒猫「それならば私は高三という大事な時期を迎えるわ。やはり京介の教えを請うのは私であるべきね」

沙織「高三になると言うのであれば拙者も同じですな。であれば、ここは一つ拙者に」

あやせ「最近ちょっと成績が落ちていたので、家庭教師をつけるのは良い機会かもしれません」

麻奈実「う~ん、わたしはきょうちゃんに教えて貰うのは無理かなぁ」

ブリジット「あのあの、わたしも漢字のお勉強がしたいかなって思ってます」

加奈子「そんなこと言うならさー、あたしが一番勉強できねーから、あたしに教えてくれよー。また落第しかけるのは嫌だしさー」

櫻井「勉強とかいいから、あたしの部屋でイチャイチャするバイトとかどうかな! お給料出すよ!」

櫻井だけ別次元に吹っ飛んでいた。当然却下だ。

しかし、全員が各々自分の主張をするからかなりカオスだな。どうしたもんだか。


あやせ「誰かが独り占めするんじゃなくて、みんなでローテーションを組めば良いんじゃないでしょうか」

京介「今と変わってないような気がするんだが」

桐乃「何言ってんの。あたしたちは勉強して成績が上がる。京介はお給料が貰える。これぞまさにWIN-WINの関係!」

麻奈実と櫻井は除外するとして、そうなると教える対象は中一、高一、高二か。それなら何とかなるかもしれない、が。

京介「桐乃と沙織は俺が教えるには少々荷が重いな。あやせと黒猫は目指している大学次第か。加奈子とブリジットちゃんは問題ないだろ」

黒猫「勿論、京介と同じ大学よ」

あやせ「わたしも黒猫さんと同じです」

京介「そっか。うーん、それなら自分の経験をそのまま活かせそうだから、何とかなるか?」

桐乃「ちょっと待ったあ! なんであたしはダメなのよ!」

京介「そりゃ、お前ら二人は俺のレベルを越えてるからだよ。東大クラスは無いと家庭教師は務まらないんじゃないか?」

沙織「先程の拙者の台詞とは若干違ってきますが、何も受験対策を教えて欲しいと言っている訳ではござらんよ。普通の学習指導で問題ないでござる」

桐乃「うんうん、それそれ」

京介「それで良いって言うなら、まぁ良いけどさ……。しかしそうなると困ったな、六人も面倒見切れねーぞ。かと言って二週間に一度だと頻度が低すぎる気がするし」

あやせ「頑張ってください」

あやせさんあっさり言ってくれますね!


黒猫「そんなに難しい話でもないでしょう? 一日に二軒回れば良いだけではないかしら」

京介「なるほど。一日に一人って限定する必要は無いか。それなら六人で週三日……。ふむ」

それでも六人は多いと思うが、みんな知人な訳で、やってやれない事は無さそうだ。

京介「ただし保護者の許可は取ってもらうからな。家庭教師の報酬は安くないんだ。多少は負けるにしても、それなりの金額は頂く事になると思うぞ?」

加奈子「あたしの給料知らねーだろ。京介を雇えるくらいには貰ってるぜー」

桐乃「ふっ、あたしなんてモデル業よりも印税でガッポガポだからね。チョーよゆーだっての」

ブリジット「わたしはママに聞いてみないと分かりません」

京介「お前らは学生なんだから、そこは保護者に出してもらおうぜ。それが絶対条件だな」

その後、それぞれの仕事のスケジュールと移動時間を考慮に入れながら予定を組んだ。

月:あやせ→桐乃

水:黒猫→加奈子

金:沙織→ブリジット

首尾よく許可が得られたら、こんな感じにしようと思うんだがどうだろうかね?

櫻井「あたしたちはどうしよっか」

麻奈実「良い機会だから私も免許を取りに行こうかなぁ。櫻井さんもどう?」

櫻井「今のとこ間に合ってるからパス。メンドクサイし!」




俺が短期の家庭教師をする事については、概ね問題無く受け入れられた。

あやせの親は、俺が桐乃の兄だという事で信頼してくれた。お袋からは値切られた。黒猫の家は、なぜか日向ちゃんや珠希ちゃんが後押ししてくれた。加奈子が勉強する気になったと、姉の彼方さんは諸手を上げて賛成してくれた。沙織も、香織さんが適当ながら喜んでくれた。ブリジットの親とは英会話になるので、意志を疎通させるのが大変だった。



あやせは非常に良い生徒だった。成績は並より少し良い、といった所か。学習意欲が高く、素直に言う事を聞いてくれるのもあって、とてもスムーズに教えられた。

桐乃は実に教え甲斐の無い生徒だった。なにしろ頭が良い。しかも俺が来る前に予習を済ませており、空いた時間を作っては遊ぼうと誘ってくるので、何とも扱いが難しかった。

黒猫は平均的だったかな。学力も態度も普通。どちらかというと、しばしば日向ちゃんと珠希ちゃんが覗きに来るので、そっちの対応で時間を取られていたかもな。

加奈子は問題児だった。学力に問題があるのは落第騒動の時に知っていたから良いとして、いや良くは無いが、とにかく真面目に勉強しようとしない。ご機嫌を取るのに苦慮した。

沙織も良い生徒だった。桐乃ほどでは無いが非常に優秀なので、俺が教えられる事はあまり無かったな。常にお嬢様モードだったので、そちらの方面で俺はドギマギしっぱなしだったよ。

ブリジットは素直なので教えてて楽しかった。ただ、時々ジッと何かを考え込む姿勢を見せ、それが気になった。その正体が何か判明するまでは、あと少し時間が必要になる。





そんなこんなで時間は流れて行き、ホワイトデーのお返しを何にしようか考えていた時に俺は気付いてしまった。

京介「報酬後払いじゃねーか!」

馬鹿か俺は。いま手元に金がなきゃ意味ねーだろ!

貯金に手を付けるのは本当に困った時だけだ。となれば、やっぱ日雇いのバイトか? それか親父に頭下げて仕送りの前借り出来ねーかな。いや、計画的に使ってないと思われて怒鳴られて終わりそうだ。

京介「うんむむむむ……!」

俺が悩んでいると。

櫻井「さっきから急に叫んだり頭抱えたり、何してんのさ?」

京介「……何してるは俺の台詞だ。なぜ平日にお前がここにいる」

櫻井「えー、いいじゃない。可愛い彼女が遊びに来てあげてるんだからさ!」

京介「お前を彼女にした覚えはないぞ」

櫻井「もうあきらめてあたしを受け入れようよ~。最近、ちょっとそれも悪くないかもって思ってるでしょ? でしょ?」

京介「ノーコメントだ」

櫻井「素直じゃないなあ。でもさ、あたしの手応え的に後少しって所だよね!」

京介「だからノーコメントだって」

櫻井「ちぇー。んで、んで、さっきから高坂は何を悩んでいるのかな?」

京介「お前も当事者の一人なんだよなあ。でも櫻井なら言っても良いか」

櫻井「お! 意外な所であたしの好感度を稼ぎに来たね! 良いよそれ! 一気に好きから大好きにランクアップ!」

むしろ櫻井との繋がりが最も薄いからこそなんだが、敢えて言う必要は無いよな。べ、別に好感度を上げたいからじゃないんだからねっ!


京介「お金が無い」

櫻井「はれ? そのためにバイトしてたんでしょ? みんなとデートする時間を潰してまでさ」

京介「報酬は後払いなんだよ。だから三月末までは……貰えない」

櫻井「なるほど~。高坂ってほんっと計画性ないよね!」

京介「うるせ。さっき猛烈に反省したわ。で、金が無いからホワイトデーのお返しも用意出来ない」

櫻井「あたしは高坂が付き合ってくれるならそれで良いよって、この前ゆったじゃん」

京介「どうしたもんかなー。インターネットでバイト情報でも探してみるか」

スルーかよ! と騒ぐ櫻井を尻目に、俺はブラウザを立ち上げた。

日雇いバイトで検索をかけると出るわ出るわ。後ろから覗き込む櫻井を若干気にしつつ、俺は色々見て回った。

お、これなんか良さそうだな。ダメダメ、ここ超ブラックだから!

これとか未経験者歓迎ってなってるし俺でも出来そうだ。こんなの危険だから反対!

これ時給すげー高いな、これにしよ。え~、これコンパニオンだよ? そもそも高坂には無理じゃん。


京介「お前さっきからうるさいぞ! 全然決まらねえ!」

櫻井「でもコンパオンは無いよ~。大体、ホワイトデーのお返しなんて適当で良いってさおりんも言ってたじゃん」

京介「みんなから気持ちのこもったチョコを貰ったんだから、それに応じないと男が廃るってもんだ」

櫻井「プライドじゃご飯は食べられないよ! もう気持ちを込めた肩叩き券で良いじゃん」

……肩叩き券、なるほど。

京介「その案もらった! 櫻井サンキュな!」

櫻井「え? ほんとに肩叩き券にするの? えー、それって誠意足りてなくない?」

京介「お前が言い出したんじゃねーか! ま、見てな。気持ちも誠意も精一杯込めてやるさ」

くっくっく、度胆を抜いてやるぜ!




そしてホワイトデー直近の日曜日。

京介「みんな悪い、バイト代が間に合わないので、こんな物しか用意出来なかった」

差し出すのは八枚の封筒。

桐乃「何コレ?」

京介「ああ、こっちにサンプルを用意しておいた。これだ」

そこには「マッサージ券(※ブリジットちゃんと櫻井は肩たたき)」と書かれた一枚のカード。

黒猫「……お金が無いのは仕方ないけれど、これは少し陳腐ではないかしら」

ブリジット「あの、わたしは肩たたきですか?」

櫻井「本当に肩叩き券……ぜんっぜん誠意こもってないじゃないのさ!」

あやせ「仕方ないですね。わたしはこれでも気にしません」

加奈子「はぁ、しょうがねーなー。ま、一応貰っておくヨ」

麻奈実「わたしはまっさーじ好きだよ~」

そうして伸ばされた手を、さっと回避する俺。

京介「おっと、これで判断するのはまだ早いぜ?」

沙織「何かまだ用意しているのでござるか?」

京介「……ふふふ、何を隠そう! この中に一枚! 『何でもしてあげる券』が入っている!」

ばばーん! どうだ、恐れおののくが良い!

桐乃「うわー、ありがち」

黒猫「やはり陳腐ね」

あれえ? もっと驚いて貰えると思ったのにー。

ブリジット「なんでもしてもらえる……」

加奈子「桐乃と猫はいらないみたいだから、残ったもんで決めよーぜ」

桐乃「はあ!? 誰も要らないなんて言ってないし!」

黒猫「そうね。私は陳腐だと指摘しただけ。勿論、貰える物は頂くわ」

麻奈実「二人とも可愛いねぇ」


沙織「しかし京介氏、この封筒は見たところ全く同じ物を使用しておりますが、これはもしかして」

京介「そうさ! 中身が分からないままみんなに選んで貰う、これは運試しだ!」

桐乃「八分の一の確率……12.5%かあ……ソシャゲでSレア引くよりはずっとマシかな」

あやせ「本当に何でもしてもらえるんですか?」

京介「ああ、俺に出来る事なら何でもだ。ただしお金がかかる事はバイト代が入ってからだな。あと、他人に不利益を与えたり誰かを傷付ける事は絶対禁止だ」

加奈子「ほほー、てことはエロいことならいーんだな?」

ブリジット「!」

櫻井「じゃあ! あたしと付き合って!」

桐乃「毎日学校に送り迎えしてもらうとか?」

京介「む……。期間を設けておこう。長くても一週間、これも追加な」

桐乃と櫻井から後出しズルいって文句を言われた。

沙織「それではどうやって取っていきましょうか。やはりここは公平にジャンケンでござるかな?」

そして始まるウルトラジャンケン大会。八人でやってるもんだから全然終わりゃしねー。

それでも、時間はかかったが封筒を選ぶ順番が決まり、それぞれ慎重に一枚ずつ引いて行く。そして……。

「やったあ!」

落ち込む七人と、喜色を浮かべる一人。

京介「んじゃよろしくな。何をすればいいかは考えといてくれ」

果たして、彼女が選んだ「して欲しい事」とは。




京介「悪い、待たせたな」

櫻井「ホントだよ。デートで彼女を待たせておいて遅刻なんて減点対象だよ!」

京介「悪い悪い。お詫びじゃないけど、今日は櫻井の行きたい所に全部付き合うからさ」

櫻井「……秋美」

京介「ん?」

櫻井「今日のあたしは高坂の彼女! だから呼ぶなら秋美! あ・き・み! ドゥーユーアンダースタン?」

京介「はいはい分かった分かった。我が儘な姫様だぜ、ったく」

櫻井「そーだよ? 今日のあたしはお姫様なんだから、大事にして! だから、さんはいっ」

京介「んじゃ行こーぜ……秋美」

秋美「うんっ!」



運良く「何でもしてあげる券」を引き当てたのは櫻井、じゃなくて秋美だった。彼女が望んだ事は、

秋美「それじゃ次の土曜日、あたしにデート権ちょうだい! 一日彼女ね!」

だった。秋美はあれでも彼女では無いので、今までにもデートに誘われていたのを全て断っていた。だからこその、この要望なんだろうな。



秋美「行きたい所はたくさんあるんだ~。ショッピングでしょ! 映画館でしょ! あとレストランとかカフェも良いよね!」

京介「お前にしちゃ随分普通だな。もっと奇抜な物を考えてるかと思ってたよ」

秋美「そこはほら、あたしだって女の子ですから、やっぱり記念すべき最初のデートは思い出に残る物にしたいって訳」

京介「分かってるとは思うが今の俺は貧乏だからな。あんま奢ったりとか出来ねーぞ?」

秋美「そんなの承知の上だよ! ほんと高坂は甲斐性無いなぁ~」

京介「お前さあ、俺には名前で呼べって言って、自分は名字で呼ぶんだな」

秋美「んん? あー、そっかそっか。あたしにとっては高坂ってずっと高坂だったから、これが一番しっくり来るんだよね~」

京介「それじゃ俺もお前の事は櫻井って呼ぶな」

秋美「わー、待って! 待って! 呼ぶ、呼ぶから!」

スウハアと深呼吸してる秋美。柄にもなく緊張してやがる。

秋美「その、きょ、京介……?」

京介「……おう」

やっべ、上目遣いとか卑怯だろ! 秋美は元々非常に顔立ちが良いから、それでこの仕草とかキュンキュン来るっての!

秋美「あ~、いま照れたでしょ! ね、ね、照れてるよね!?」

京介「うっせ。先行くぞ櫻井」

言い捨てて歩き出す俺。秋美は慌てて追いかけて来る。

秋美「ちょ、冗談だから! 待って! ごめんって京介~!」

京介「こっちこそ冗談だって。ほら行こうぜ、秋美」

秋美「うん! ……へへ、なんだか名前で呼び合うのって照れるね」

追い付いた秋美と横に並び、そのままショッピングモールに向かう俺たち。距離は近いけど手を繋ぐ事はない。なぜならこれは恋人「ごっこ」でしかないからだ。



秋美とは様々な店を見て回った。映画は観なかった。曰く「二時間もスクリーン観てるくらいなら、その時間で京介とお喋りしたいなっ!」だとさ。まったく可愛い事を言ってくれる。

昼食は俺の予算に合わせてファストフードだ。

京介「悪いな。もっと良い店に行ければ良かったんだが」

秋美「もー、京介は今日謝り過ぎ! それにその言い方はお店に悪いよ! あたしはハンバーガー大好きだから全然ここで問題無いし、京介と一緒だからどこでも平気!」

京介「そっか。ありがとな、秋美」

ポテトをついばむ秋美は、本当に幸せそうだった。

食事を終えた後はショッピングの続きだ。秋美は興味を引かれた店に片っ端から突撃して、俺が後から付いて行く。これ可愛いだの、あれはヘンテコだの、手当たり次第に手に取っては意見を交わす。

喉が乾いたらカフェに入り休憩しつつ、やっぱりお喋りに花が咲く。二人とも終始笑顔だった。


しかし楽しいと時間はあっという間に過ぎてしまうもので、気が付けば既に帰宅を考える頃合になっていた。

ショッピングモールを後にした俺たちは、その足で駅へと向かった。

京介「今日は楽しかったよ」

秋美「そーだね、すっごい楽しかった! でもちょい待ち、なに勝手に終わらそうとしてんのさ。まだ一日は終ってないよ!」

京介「なら適当な所で晩飯でも食べるか? 予算が厳しいのでまた色気の無い場所になっちまうけど」

秋美「あたしは牛丼屋でも何でも良いけどさ、それよりももっと素敵な提案があるんだ!」

京介「ほほう、拝聴しようじゃないか」

秋美「うん、うちに来て!」



秋美「ここがあたしの部屋だよ。さ、入って入って!」

なぜだか断る気になれなかった俺は、結局秋美の押しに負けて彼女の家にやって来てしまった。

通された部屋は広い、のだが……。

京介「お前なー、中学の時から全然変わってねーな。なんだこの部屋、掃除しろよ!」

ただ一言、汚かった。お菓子やジュース、ゲームソフトや何かのディスク、あと衣類……と、チラチラ見えるカラフルな何かが部屋中に散らばっている。

秋美「まーいいじゃん、気にしない気にしない」

京介「今からでも麻奈実を呼んで、また掃除して貰うか?」

こんな時間に来てもらおうなんて思ってないけどな。

秋美「こら! 今はあたしとデート中なんだから、他の女のこと口にしちゃダメだよ!」

京介「お前、案外独占欲強いのな。それと、デートならもうちょい綺麗な部屋に案内して欲しかったぜ」

秋美「にひひ、京介にはありのままのあたしを見てもらいたかったのさ!」

京介「良い話風に言っても駄目だ。掃除するぞ」

秋美「ええー、メンドクサイ~」

京介「いいからほら、さっさとゴミ袋持って来いって」


こうして急遽、彼女の部屋の大掃除が始まった。とは言えこの時間に掃除機をかけても良いものか判断が付かなかったため、極力音を出さないように注意しつつ行った。

食い散らかしのゴミをまとめ、投げっぱなしのマンガ本やゲームを片付け、服は洗面所に持ち込む。その途中で秋美がカラフルな何かを慌てて回収していたが、バカめ、バッチリ目に焼き付けたわ!



京介「ま、こんなもんだろ」

そんなに本格的な掃除は出来なかったけど、パッと見は綺麗になった。

秋美「おおー、久しぶりにゴロゴロできる!」

嬉しそうに絨毯の上を転がり回る変な女、秋美。

秋美「ほんとゆーと部屋一面に布団やマットを敷き詰めてもっとゴロゴロしたいんだけどさ、それは次の楽しみに取っとくよ」

京介「次があるかはさて置いて、ここで何をするつもりなんだ?」

秋美「ちぇ~、つれないなぁ。とりあえずさ、ご飯食べよ!」

家政婦さんが作り置きしてくれていたという料理を秋美が運んで来て、二人で分けながら食べた。全然足りないけど、そこはまあ我慢しよう。

秋美「ゲームしよ! ゲーム!」

京介「素敵な提案って一緒にゲームする事か?」

秋美「そーだよ? 寝そべってダラダラゴロゴロしながら、好きな人と一緒に好きなことして過ごす。それがあたしの夢!」

京介「そいつぁとっても素敵な夢ですことね」

秋美「でしょ! でしょ! じゃあ決まりね!」

ハイテンションな秋美には俺の嫌味など全く届いていない。嬉しそうにゲームを選んでいる彼女の姿を見て、まだ一日は終ってないから良いよな? と俺は自分に言い訳をした。

秋美「あ、ちなみにお父さんもお母さんも、決算? で忙しいから? 今日は帰れないってゆってた」

頑張れ俺! 負けるな俺!




……気が付いたら朝だった。遠くから小鳥のさえずりが聴こえてくる。

どうやらレースゲームをしている最中に共にぶっ倒れたらしく、テレビにゲーム画面を映したまま、俺も櫻井もコントローラを側にほっぽり投げて床に突っ伏して寝ていたようだ。あー、腰痛え。

ふむ、腰が痛いとな?

念のため、あくまで念のため、自分と隣で未だ眠っている櫻井の着衣に乱れがないか確認する。勿論、何かがあった痕跡など無い。残念なような安心したような。

京介「おい、櫻井、朝だぞ起きろ」

櫻井「んぅ……。ふあぁ~~。あ~~、京介だぁ、おはよぉ~~。えいっ」

寝ぼけて抱きついてくる櫻井。以前の俺だったら思い切り焦っている所だろうが、残念だったな、今の俺は最早チェリーにあらず! まるで動揺などせんわ!

京介「こ、こ、こら。良いからはな、離れろって、この!」

動揺などせんわ。



櫻井「昨日は楽しかったよ! 京介と色んな所を回ってさ! あと朝チュンしちゃった!」

今日は日曜日。平日は家庭教師をやる都合上、全員と会うのを制限しているが、日曜だけは集合だ。

桐乃「朝チュンって……! あたしだってまだやったコトないのに!」

黒猫「……破廉恥だわ」

沙織「ゆうべは おたのしみでしたね」

朝チュンの意味が分かる三人からは上記のお言葉を頂きました。分からない残りの面子は、と言うと。

ブリジット「かなかなちゃん、朝ちゅんってなに?」

加奈子「知らねーなぁ。この反応から、ロクでもないことだってのは分かるケドよー」

黒猫「朝チュンというのは」

――解説中――

あやせ「へぇ。一日限定の恋人『ごっこ』のはずが、そのまま朝まで同衾ですか。そうですか」

麻奈実「きょうちゃんはすっかりぷれいぼおいだねぇ。節操が無さ過ぎてメッしちゃうよ?」

櫻井「いや~、照れちゃうね京介!」

京介「お前なにしれっと嘘吐いてるんだよ! 俺は潔白だ! 何もしてないって!」

あやせ「京介さんのその台詞は聞き飽きました」

京介「一緒にゲームしてただけだって! そんで力尽きて寝ちまったんだよ! 信じてくれって!」

沙織「成程。一緒にエロゲーをやって、そのまま力尽きるまで行為に及んだと、そういう事ですな」

京介「違ーよ! 沙織、お前分かっててワザと言ってるだろ!」

櫻井「もー、こうなったら良いじゃん。あたしと付き合おうよ~」

京介「そんでお前はほんっとめげないな! 感動すら覚えるよ!」

桐乃「さっきからウルサイ。興奮しすぎ」

沙織「成程。昨晩の興奮が現在までまだ続いていると。京介氏のスケコマシパワーには拙者も感心しきりでござるよ」

京介「沙織ーー!!」

てんやわんやだった。




さて、そんな風に櫻井との関係をなあなあにしつつ、また時が流れて行った。

京介「やった! 俺はやったぞ!」

手元にはズラッと並べられた紙幣。そう、ようやく月末を迎え、報酬を手に入れる事が出来たのさ!

中々どうして、ちょっと馬鹿に出来ないだけの金額になった。

生徒一人当たりで見ると、週一ペースなのでこの一ヶ月で四回しか授業をしてない。一回90分なのでたった六時間だ。これで成果があるとはとても思えないが、元々そういう条件での短期契約だったので、あまり気にしないでおこう。

とは言え、彼女たちの厚意に甘え、その家族に金銭的負担をかけた訳だし、いい加減な使い方は出来ないよな。

だから、貰った給料で最初にする買い物は彼女たちが喜ぶ物にしたい、そう決めていた。



京介「ただまあ、もうホワイトデーのお返しを改めてするってのも時期が過ぎてるし、こうなった」

桐乃「おおー、いいじゃんいいじゃん! たまにはこんなのもアリだよね~」

ブリジット「あわわ、美味しそうなケーキがたくさんあります!」

あやせ「このお店、テレビ番組で優勝した事があるパティシエさんがいるので有名ですよね」

加奈子「こんだけあると食べきれねーな。ま、がんばって食うケドよー」

事前に予約しておいたホールケーキ三個、その他にも店の売りだというシュークリームを人数分。万札が飛んでしまったが、これでも八人へのお返しを考えると安い方だろ。

沙織「ところで京介氏、この家にケーキナイフは有るのでござるか?」

麻奈実「見た事ないよぉ」

黒猫「そんな時は普通の包丁を温めて使えば良いのよ」

櫻井「ふえー、瑠璃ちゃん物知りだね!」

女性陣のテンションはおしなべて高い。そんな彼女たちを見ていれば、俺だって自然と浮き浮きしてくるってもんさ。


櫻井「京介も嬉しそうだね~」

京介「まあな。一ヶ月頑張ったのがこうして形になったんだ。これが勤労の喜びってやつかね」

櫻井「あたしニートだから分かんな~い」

京介「櫻井、お前頭良いんだから、今からでもどこか大学目指したらどうだ?」

櫻井「それっ!」

急に櫻井が俺をズビッと指差した。一体何だ?

櫻井「なんで前みたく秋美って呼んでくれないのさ! 今さら櫻井に戻されても寂しいよ」

京介「あれは一日限定の筈だろ?」

櫻井「うわ、律儀とゆーか、融通が効かないとゆーか。あたしはあれからずっと京介って呼んでるんだからさ、京介だって秋美でいいじゃんか~!」

桐乃「頭が固いだけだよね」

黒猫「ええ。モラルを破りまくっているのに、随分と都合の良い事だわ」

あやせ「頑固が行き過ぎて暴走しますしね」

麻奈実「きょうちゃんは一度決めたら絶対変えないもんねぇ」

聞こえてるぞ。


京介「俺にとって櫻井はずっと櫻井だったからな。付き合ってる訳でもないのに、急に呼び方を変えるのは難しいんだよ」

櫻井「え~、それなら付き合ってよ~。いーでしょ、もうそろそろさ~」

櫻井が俺に再び告白をしてから約三ヶ月。のらりくらりとかわし続けてきたけど、そろそろ誤魔化すのにも限界を感じていた。

京介「……そうだな。それも良いかもな」

だけど今までずっと断ってきて、ここで素直に受け入れるのが気恥ずかしかったので、そんな返事でやっぱり誤魔化した。

櫻井「……えっ」

全員が俺に注目している中、俺は限りなく自然に、気にしてない風を装って台所に包丁を取りに動く。

櫻井「高坂! じゃなくて京介! もう一回! もう一回ゆって!」

コンロに火をつけ包丁を炙る。黒猫の言った通りならこれでケーキが上手く切れるようになる筈だ。

櫻井「こらあ、何無視してんのさ! さっきのセリフ、もっかい、プリーズプリーズミー! カモン! ヘイ!」

京介「二度は言わん」

ブリジット「きょーすけさん、照れてるのかな?」

沙織「照れてますなあ」

加奈子「さっさと素直になればいいのに、メンドーなヤツだぜ」

だから聞こえてるっての。


櫻井「そこを曲げてもう一度! あたしを喜ばせると思ってさ! ね! ね!」

おお、ケーキがスイスイ切れるぞ、こりゃ凄い。

四方八方から呆れと侮蔑の視線が降り注いでくる。マゾなら悶えている所だな。けど俺はMじゃないので、結局折れた。

京介「それも良いかも、と言ったかもな」

櫻井「それって、付き合って、ってあたしへの返事だよね?」

京介「さてね。ご想像にお任せするさ」

桐乃「この期に及んで往生際の悪い」

ブリジット「きょーすけさん、ちょっとカッコ悪いです……」

さすがに悪足掻きし過ぎたか。そろそろ真っ向からぶつけよう、と思ったその前に。

櫻井「うん、想像した! 想像して自分の都合の良い結果しか出なかったので、そうする!」

にこやかに、力強く宣言する櫻井の姿があった。

櫻井「なるよ! あたし京介の彼女になる! そーゆーことでいいんだよね!? なっていいんだよね!?」

京介「……ああ」

櫻井「いよっ――しゃああ! やったあ! いえ~~い! ふううぅ!」

感極まった櫻井が謎の踊りと共にピョンピョン跳ね回る。おい止めろ、ケーキが崩れる!

事態を静観していた他の彼女たちも、やがて口々に祝福の言葉を櫻井へと投げかける。加奈子も、そっぽ向きながらしっかりおめでとうって伝えていたのが俺には嬉しかったよ。

その後俺はさっきまでの煮え切らない態度についてみんなからこってり絞られた。とても反省してます。


雰囲気はすっかり俺と櫻井の交際開始おめでとうパーティになってしまったが、ま、たまにはこういうのも良いよな?

櫻井「でも良かったのかな? 彼女が一人増えるってことは、京介の負担が増えることになるじゃない」

京介「おいおい、今更そんな事を言うなって。大体お前はもう俺たちの仲間になってたんだ。それが彼女に変化したって大差ないだろ」

櫻井「それもそっか! じゃあこれからよろしくね、京介!」

京介「ああ、こっちこそよろしくな、さくら――」

櫻井「それっ!」

またズビシッと指差される。

京介「悪い、うっかりしてたよ。よろしくな、秋美!」





    終


こんばんは、以上となります。


元々特にストーリーの骨子を決めずに書いていたのですが、何でもしてあげる券を誰に当てさせるかで

ランダムツールを用いて10回無作為に抽出した所、3回も櫻井が選ばれてしまいました。

そして気が付けば彼女の話に。流れはいま櫻井に来ている! のかもしれない!


それでは、また~。


 if もしも京介が大学四年生までに誰か一人に決めて選んでなかったら 編



四月、桜の舞う季節。

俺たちは、たまに口喧嘩したり意見の相違から冷戦になったりと紆余曲折はありつつも、大局的に見れば良好な人間関係を維持しており、順調に友情や愛情を育み成長していた。

俺と麻奈実は単位を落とす事なく進級を重ね四年になり、昨年から就職活動もしている。

あやせと桐乃は揃って高校を卒業したが、あやせの学力では桐乃の希望する大学に付いて行く事は不可能だったので、今年から別々の大学に通う事になった。

そのあやせは俺と同じ大学に見事合格した。たった一年でも一緒にキャンパスに通える事が、何よりも嬉しいようだ。

桐乃はと言えば、高校を卒業したら海外へ行くつもりでいたらしい。元々は中学卒業の頃から計画していたのだが、そこを俺とあやせが拝み倒して無理やり引き留めた過去がある。今回については「大事な彼氏もできたし、あたし一人だけ抜けるのは悔しいじゃん」とか言って結局取り止めた。

黒猫はあやせより一年早く、俺の大学に合格している。俺が彼女の目指す目標になっているのだとしたら申し訳ない、もっと自分の人生を大事に考えて欲しいって伝えた事があるが「勘違いしないで頂戴。私は私の意志に従って決めているに過ぎないわ」と一蹴された。

沙織は昨年から、激烈に有名なお嬢様大学に通っている。だからといって俺たちの付き合いに変化が生じたかと言えばそんな事はなく、今でもみんなの頼れる相談役だ。

加奈子は何とか高校を卒業出来たが、進学はせずにアイドル業に専念するようだ。徐々に知名度は上がって来ているが、まだまだ全国区には遠い。頑張れ!

ブリジットは今年高校に入学した。最近はすっかり大人びて来ており、もう誰も彼女を子どもだなんて言えないな。芸能界での活動を少しずつ広げていて、たまにテレビドラマでチョイ役で見られるようになった。

秋美は……特に変化無し、以上。


秋美「あたしの扱い雑すぎないっ!?」

京介「そう思うなら働け。もしくは仕事しろ」

秋美「嫌でござる! 絶対に働きたくないでござる!」

京介「く……、この勝ち組ニートめ」

秋美「京介もあたしと結婚したら楽できるよ~。どう? どう? 魅力的な提案だと思わない?」

京介「今でもダメ人間街道まっしぐらなのに、これ以上は人として堕ちたく無いっ! ゆえに却下だ!」

秋美「ちぇ~」



しかし、結婚、か……。

気が付けば俺も21歳。障害が無ければ来年には卒業し、就職している筈だ。

いつまでも今の関係が続くとは思ってない。が、この心地良い空間を手放したくない。

そろそろ一人に絞って他のみんなとの関係を清算しなければいけないんだろうけど、優柔不断な俺は決意出来ずに悶々とした日々を過ごしていた。

そんな俺のもとに、一人の少女が約束を果たしにやって来る――




チャイムが鳴ったので玄関を開けると、美しく成長したブリジットが立っていた。

京介「よく来たな、上がってくれ」

ブリジット「こんにちは、お邪魔しまーす」

京介「二人だけで会うのは久しぶりだな」

ブリジット「そうですね。今日が来るのをとても楽しみにしていました」

この年度末は、それぞれの受験が重なったりバイトや仕事の都合があったりで、みんなで集まる事はあってもツーショットの機会はなかなか得られなかった。

京介「こないだのドラマもちゃんと録画しといたぜ。少ししか映らなかったけど存在感は抜群だったな」

ブリジット「まだまだ下手っぴなので恥ずかしいです。でも、そう言ってもらえたなら嬉しいです」

京介「ああ。美人でスタイル良くて日本語ペラペラで金髪で、これでテレビ局がほっとく訳ねーって」

ブリジット「もう、褒め過ぎですよ、京介さん。でも、もっとテレビに出られるようにわたし頑張りますね!」

京介「ああ、応援してる!」

お互いに近況を報告しつつ、談笑する。やっと取れたデートの時間だったが、ブリジットからのたっての願いで今日は家でゆっくり話をする約束になっていた。



不意に会話が途切れる。だがそんなのはこの何年もの間に幾度もあり、無言の空間だって今日の小春日和の中ではむしろ心が休まるってもんだ。

喋らなくても想いが通じ合っているなんて、なんと素敵な事だろうと考えていた、その時。

ブリジット「あの、京介さん」

京介「おう。どーした?」

彼女の曇りなき碧眼が俺をジッと捉えている。

ブリジット「……お話があります」

京介「……うん」

どうやらかなり大事な話のようだ。絨毯の上で正座をしている彼女の両手は強く握り込まれており、全身を硬くしているのが分かる。

ブリジット「わたし、高校生になりました。もう15歳です」

京介「ああ、大きくなったな。もうブリジットちゃんは子どもじゃないよ」

ブリジット「あの日から、高校生になれるのをずっとずっと待ってました。ガマンしてガマンして、時々ガマンできなくなったけど、それでも必死にガマンを続けて」

京介「……」

ブリジット「何度も家で一人で泣きました。なんでわたしだけ、って。でも、それももう終わりです!」


立ち上がったブリジットは、そのまま俺の傍までやって来る。

ブリジット「京介さん、わたし、頑張りました。だから、もう良いですよね? もうガマンしなくても良いですよね?」

京介「そっか。あの時の約束から、もう二年も経ったんだな」

ブリジット「はい。京介さんに相応しい女性になれるよう、ずっと今日まで自分を磨いてきました。だから」

京介「ありがとう、嬉しいよ。俺なんか大した男じゃないのにさ、そこまで想われて、本当に果報者だよ俺は」

ブリジット「そんなことありません! 京介さんは素敵な人です! わたしには京介さんしかいません!」

くそっ、涙が滲んでくる。ここまで深く純粋に俺を慕い続けてくれて、それがどれほど幸福な事か分かるか!?

ブリジット「きょーすけさん、わたしを、愛してもらえませんか」

懐かしいイントネーションで俺を呼ぶブリジット。それは、あの日、月に見守られながらの告白の再現だった。

京介「ああ、喜んで」

だから俺は、あの時の約束を果たす。ブリジットを優しく抱き締め、長い長いキスをした。






ブリジット「ふふ、うふふふ。ふふふふっ」

さっきからブリジットが気味悪いくらい笑顔だ。もう笑いが堪えられないらしい。

京介「すごいニヤニヤしてるぞ?」

ブリジット「だって、やっとやっと結ばれたんです! これほどの幸せはありません!」

事を終えた俺たちは、順番にシャワーを浴び身支度を整え、再びテーブルを挟んで座っていた。

積年の想いを爆発させたブリジットは、それはもう俺がたじろぐ程に貪欲で――いや、ここまでにしておこう。

とにかく、彼女は美しかった。それだけだ。

ブリジット「京介さん、とても素敵でした。あんなにも力強くわたしを……」

うっとりと宙を見つめるその様は、先程までの情事に意識が飛んでいるようで、端から見てるとフワフワしてて実に危なっかしい。というか不審人物そのものだった。

京介「その、な。喜んで貰えて男冥利に尽きるってもんだけど、もう少し抑えよう。な?」

ブリジット「それは無理です! 今のわたしは無敵です、誰にも止められません!」

ついには両腕で自分の身体を抱き締め、ゴロゴロと転がり始める。こりゃ重症だ。

彼女が落ち着くまでしばらく時間を要した。


ブリジット「ふぅ、少しだけドキドキが治まりました」

京介「ほれ、お茶飲め」

ブリジットが喉を潤している間に、俺は疑問に思っていた事を口に出す。

京介「あのさ、ヤった後で言うのもおかしいんだけど、本当に良かったのか?」

ブリジット「え……後悔してるってことですか!?」

コップを取り落しそうになる程に狼狽えている。

京介「違う違う、後悔なんてする訳ない。じゃなくて、ブリジットちゃんは今や女優の卵だ。これからが大切な時期なのに、男の影があってこの先に悪影響が出ないかな、とかさ」

ブリジット「なんだ、そんなことですか。焦っちゃいました。わたしにお付き合いしてる人がいるのは事務所も承知していますので、問題ないですよ」

京介「そんなもんなのか? あやせにしても加奈子にしても、割とそこら辺自由だよな」

ブリジット「もちろん、相手が同じ男性だなんて知られたらスキャンダルですから、そこは秘密にしてます」

京介「世間に明るみにされたら、俺が生きていけねーな」

ブリジット「それに昔と違って、今は恋人がいることを公表している人もたくさんいますから、京介さんは気にしなくても平気です」

京介「そか。ブリジットちゃんがそう言うなら、もう気にしない事にするよ」

ブリジット「……わたしは、いつまで『ちゃん』付けされるのか、そっちの方がよっぽど気になります」

ああ。もう何年もブリジットの事は「ブリジットちゃん」と呼んでいたので、全然気にしてなかった。


ブリジット「京介さんと結ばれて、わたしは身も心もあなたのモノになりました。もう女の子じゃありません。これからは呼び捨てにしてください」

京介「そうだな。……愛してるよ、ブリジット」

ブリジット「~~っ!」

一気に赤面したブリジットが身悶えしている。

ブリジット「京介さんに名前を呼び捨てにされただけで、こんなにも愛が感じられるとは思いませんでした」

京介「こんな事くらいで大袈裟なヤツだな。いくらでも呼んでやるぞ? ブリジット可愛いよブリジット」

ブリジット「ううぅ……。そんなに何度も名前を呼ばれると……ドキドキがまたすごいことになってます」

京介「ブリジットは本当に素直で良い子だな。こんなに綺麗でしかも女優をやってる彼女を持てるなんて、俺は幸せだよ。だから二人でもっと幸せになろうな、ブリジット」

ブリジット「……もうガマンできませんっ。えいっ」

急にブリジットが伸し掛かってきた。

ブリジット「京介さん、今わたしすごいことになってます。京介さんのせいですよ? だから責任取ってくださいっ」

京介「さっきヤったばかりじゃねーか。まだ痛いだろ? 無理すんなって」

ブリジット「いいえ、そんなの気にしてられません! もう無理です、襲っちゃいます!」

京介「きゃーー!」

その後、体力の続く限りブリジットに搾り取られた。白人女性すごい。アグレッシブ。




さて日曜日。今日は全員が集まる日だ。

ブリジット「京介さ~~ん」

語尾にハートマークが見えそうな雰囲気を醸し出しつつ、ブリジットが俺に抱き付いてスリスリクンクンしている。

『……』

他の女性陣の目は冷え切っている。やめてっ、私は汚物なんかじゃないわっ!

加奈子「はァ、とーとーブリジットにも手を付けやがったかー」

桐乃「くっ、今のブリジットちゃん相手だとロリコンって言えない!」

秋美「年齢的にはロリかもだけど、これだけ成長してるとね~。あ~あ、あたしにも少しおっぱい分けて欲しいな」

あやせ「わたしや桐乃、加奈子が初体験したのも高校一年の時でしたから、それを考えるとこうなってもおかしくはないですけど……」

麻奈実「ぶりじっとちゃんも大人になったんだねぇ」

黒猫「ずっと子どもだと思っていた相手にまで手を掛ける。まさに鬼畜の所業ね」

沙織「いやいや。よくぞ今まで我慢を出来たものだと、拙者は京介氏の忍耐強さを賞賛するでござるよ」

ブリジット「京介さん。んっ……」

京介「んっ、んーんー」

うちにやって来た時から他の者は目に入ってないようで、人目も憚らずいきなりキスされた。


麻奈実「ふわあ。大胆だねぇ」

加奈子「ブリジット、成長したな……」

桐乃「さすが海の向こうの人、一度火がついたら積極的だね。うわー」

あやせ「何を感心してるのっ。こら、ブリジットちゃん、離れて! はーなーれーてー!」

ブリジット「あうっ」

京介「ふう、あやせサンキュ。んで。ブリジット、人前でいきなりキスとかするもんじゃありません」

ブリジット「……でも、わたしの京介さんへの溢れる愛を伝えるには、これでも足りません……」

秋美「あたしたちだって普段もっとイチャコラしたいのをガマンしてるんだからさー」

ブリジット「みなさんズルいです。わたしは京介さんとお付き合いを始めてから、三年間ずっとガマンしてたんです。だから、遅れた分を取り戻さないと、みなさんに追い付けません!」

沙織「無理に追い付かなくとも、ブリジット殿は京介氏と仲睦まじいではありませんか。時間だってこれからいくらでもあるのですから、そう焦らずとも大丈夫でござるよ」

ブリジット「沙織さんがそう言うなら……。分かりました、今後はもうちょっと抑えてみるよう努力します」

ある日を境にして、ブリジットの沙織への信頼度は天を衝かんばかりに上昇していた。俺ちょっと寂しい。

加奈子「まー、そー言っても、京介は来年には社会人になるんだぜ? あんま時間はないカモなー」

あやせ「加奈子っ」

加奈子「だってヨー、就職したら今のように自由な時間なんて取れなくなるし、そこから目を背けてちゃダメだろー」

……。

室内がシン、と静まり返る。みんな分かってて敢えて考えないようにしていた事を、この場にぶつけてくるとか、加奈子にしか出来ねーよ。


京介「……本当なら、もっと前から、誰か一人だけに決めておかなきゃいけなかったんだよな」

あやせ「!」

桐乃「ちょ、ちょっと! 今そんな話をする必要ないでしょ!」

黒猫「そうね。あと一年はあるのだから、無理に今しなくてもいいのではないかしら」

京介「いいや、ブリジットともエッチをして、ある意味みんな横並びになった今だからこそだ」

ブリジット「そう、ですか……」

悪いなブリジット。身体を重ねてすぐにするような話じゃねーよな。だけど俺は決意した!

京介「だから俺は決めた。俺は――」

ごくり、誰かが唾を飲み込む音が聞こえる。もしかしてそれは俺だったかもしれない。

京介「みんながっ! 好きだああああああ! 誰か一人なんて選べるもんかあああああああ!!」

そして、そんな情けない告白をした。


……。

麻奈実「ふふ、きょうちゃんらしいね」

黒猫「はぁ、どんな決意かと思ったら……分かっていた事だけれど、やはり貴方は大莫迦ね。先程までの緊張を返して欲しいわ」

あやせ「えっと、結局誰かを選ぶんじゃなくて現状維持って事ですか?」

加奈子「そーゆーことだよな。ってことは、誰かが京介をあきらめるまで終わらないチキンレースが開催されるのか?」

京介「あんま物騒なこと言うなよ。もうみんなでサウジアラビアにでも移住するか? なっ」

桐乃「あんたバカでしょ!? いいえバカね! 選べないから一夫多妻制の国に行こうなんて、もうワケ分かんない!」

沙織「そもそもイスラム圏では特別な事情が無い限り、妻は四人まででござるよ」

秋美「へぇ~、さおりん詳しいんだね!」

沙織「ふふふ、拙者も一夫多妻制の可能性を探っておりましたので、かつて調べた事があるのでござるよ」

京介「まあ、移住は冗談だけどさ。誰か一人だけを選べないってのは今の俺の素直な気持ちだ」

ブリジット「京介さん……」


加奈子「できればあたしを選んでほしーけど、みんなと一緒にいるのも楽しーんだよなー」

秋美「だよね! ずっとみんなと一緒にいたいよね! そうだ、いっそのことみんなで暮らそーよ! お、良い案じゃないコレ?」

沙織「悪くありませんな。それならアパートの一室ではなく、大きな家を借りるのはどうでござろうか」

黒猫「そうね。日向も珠希も手が掛からなくなっているから、私に異存は無いわ」

桐乃「おー、ソレ楽しそう! あたし広いコレクションルームが欲しいな!」

あやせ「京介さんと桐乃と一つ屋根の下の生活……それは素敵かもしれません」

麻奈実「大きな台所があると嬉しいなぁ。加奈子ちゃん、一緒にお料理のお勉強しようね~」

京介「待てーーい! 待て待て! お前ら何を勝手に盛り上がってるんだ!」

ブリジット「ダメなんですか?」

京介「駄目に決まってるだろ! 大体お前らほとんど学生で未成年じゃないか! どうやって親に許可して貰うんだよ!」

秋美「つまり成人していて学生でもないあたしならオッケーってことだよね! だよね!」

京介「お前は働いたら考えてやる」

秋美「酷い! そんなの無理!」


沙織「しかし、実際問題として京介軍団は既に九名。これ以上増えるとご近所への迷惑や部屋の広さ的にも無理があるかと」

京介「近所には既に迷惑掛けまくってるよ……。大家さんに変に疑われないよう根回ししたり、お隣さんと下の住人には定期的に挨拶したり、アパートの周りの掃除をせっせとやったりさ……」

ブリジット「あの、まだ増える可能性があるんですか?」

あやせ「……へぇ。それは知りませんでした。詳しく説明をして頂けませんか」

京介「ねーよ! ある訳ないだろ! 秋美が増えたのだってイレギュラーだったんだぞ!」

桐乃「あたしは日向ちゃんとか怪しいと思ってるんだけどなー。ブリジットちゃんと同い年くらいでしょ、確か」

黒猫「なっ! 京介、貴方……もし、妹に手を出したら……」

京介「こえーよ! 日向ちゃんとか無いから!」

桐乃「えっ。もしかして、珠希ちゃん……? ちょっとそれは、いくらなんでも」

京介「あーもう、反論するのもメンドくせえ」



沙織「話が逸れてしまいましたな。どうでござるか、京介氏。今のままでは部屋のキャパを越えてしまいかねません」

京介「現状既に越えてしまっているんですが……。せめて俺が就職するまでは今のままを希望する」

黒猫「来年になれば私と沙織も二十歳を迎えるし、同棲を始めるにあたっての障害は無くなるわね」

加奈子「なんだよ、ズリーぞー」

黒猫「ククク、何とでも言うが良いわ。自らの産まれの遅さを呪う事ね」


麻奈実「わたしはきょうちゃんと一緒に住むって言ったら、多分お父さんもお母さんも賛成してくれると思うよぉ」

京介「そりゃ田村家はそうだろーな。結婚前段階だと誤解されそうだが」

麻奈実「結婚。きょうちゃんと結婚かぁ。えへへ~」

トリップした麻奈実は放っておこう。

桐乃「大学に近い所に家を借りてくれるなら、あたしも通学のためって理由で許してもらえそうだけど」

京介「気軽に家を借りるって言うが、そもそも先立つ物が無い。このアパートの契約を継続するのだって、親父に頭を下げまくって何とか認めて貰ったんだぞ?」

あやせ「そこはわたしたちを頼ってもらえれば。全員で出し合えばかなりの金額になりますよ?」

沙織「ですな。全員で住むのですから、皆で出し合うのが当然ではないかと」

秋美「おっきいテレビ置こうね! そんで、みんなでゲームやろ!」

黒猫「それならばシアタールームも欲しいわね」

加奈子「あたしは歌とダンスの練習ができるスタジオが欲しいなー」

桐乃「おっきなお風呂も欲しいよね! みんなで一緒に入るの!」

俺を置いて再び盛り上がり始める彼女たち。あれが欲しいだのこれが必要だの、夢がどんどんと膨らんでいってるようだ。これは俺が言っても、もう止まりそうにねーな。


そんな時、一人だけ会話に加わろうとしないブリジットに気付いた。

京介「どした?」

ブリジット「あの、その。わたしだけまだ高校生だから、きっと許してもらえません。またみなさんと差が付くなあって思って」

京介「そっか……」

年齢の差だけは、どう努力したって埋めようがない。

京介「そんなに気にすんなって。一緒に暮らしていると嫌な所も目に付くようになる。もしかしたら一緒じゃない方が良い関係を継続出来るかもしれねーぞ?」

ブリジット「でも、わたしだってみなさんと、京介さんと一緒に暮らしたいです」

まあ、そう反論するよな。でもこればっかりはどうしようもない。

ブリジット「ただでさえ、今までの三年間でたくさん差ができてしまっているのに、これでもう追い付けなくなります」

京介「ブリジット……」

ブリジット「だからわたし、やっぱり遠慮しません! みなさんがいる所でも京介さんとイチャイチャします!」

京介「え゛」

ブリジット「不公平感をなくすためだから仕方ありません! ですよね!?」

言いながらブリジットが俺に飛び付いてくる。そのまま強く抱擁され、唇を塞がれた。


桐乃「あっ! またやってる! ブリジットちゃんズルい!」

秋美「それならあたしも! あたしにもキスして~!」

ブリジット「えへへ、わたしだって京介さんを愛しているんだから、みなさんには負けません!」





こうして俺たちのドタバタな毎日は続いて行く。



思えば始まりはあやせとのキス騒動からだったな。どんな選択肢を選んだら、こんな奇跡的な未来に辿り着けるんだか。

まあでも、当時の落ち込んでた俺にメッセージを届ける事が出来たら、こう伝えてやりたいね。

お前の人生は自分で思っているほど平凡じゃねーぞ、だから諦めるな。そして、


俺の妹と彼女たちがこんなに可愛いんだから誰も選べるわけがない、ってな。








    もしも京介が大学四年生までに誰か一人に決めて選んでなかったら

    → 少し積極的になったブリジットが見られるよ! やったね!





       終


こんばんは、以上となります。


今回は>>383さんの書き込みを見てイマジネーションが刺激されたので書いてみました。


それでは、また~。

ハーレム全員引き連れて街中とか遊園地とか海とか人の多いところでデートしよう

8人の親にどういう風にご報告&説得をするかの会議とか?

桐乃の葛藤と解放とかどうだろう


>>436

 おまけ たまにはこんなデート 編



秋美が彼女に加わり、そして迎えた夏の季節。

秋美「みんな夏休みでしょ? 海いこーよ! 海!」

黒猫「嫌よ」

京介「俺はバイトをしたいんだが」

あやせ「それなら夏休み期間中、ずっと家庭教師をやって頂けませんか?」

桐乃「あっ、じゃあ、あたしも!」

加奈子「京介はスパルタだからなぁ。もうカテキョはいらねーや」

ブリジット「かなかなちゃん、夏休みの宿題は?」

加奈子「……そーだった。それがあったヨ。京介ぇ、やっぱあたしにも教えてくれー」

京介「加奈子お前、答えだけ教えて貰う気満々だろ。そんなセコイ真似をさせる訳にはいかねーな」

加奈子「えー、いーじゃねーか。仕事しながら自力であんだけの量やるなんて無理ムリ。京介が教えてくんなきゃツイッターに問題のせてファンにやらせるぜ?」

京介「お前それ絶対やるなよ!? 絶対駄目だからな!? ……はあ、分かったよ。教えてやるよ」

加奈子「やったね!」


ブリジット「あの、わたしは……?」

京介「勿論ブリジットちゃんなら大歓迎さ」

ブリジット「やったあ! これでまたきょーすけさんと一緒にお勉強できます」

黒猫「私は夏期講習を既に申し込んでいるから、今回はパスね」

沙織「おお黒猫氏はやる気に満ち溢れておりますな」

黒猫「ふっ、見てなさい。来年は必ず京介と一緒にキャンパスを歩いてみせるわ」

京介「そっか。ああ、待ってるよ」

沙織「拙者が受ける大学はそんなに偏差値が高くありませんので、今のままでも大丈夫そうでござる」

京介「そうなると、あやせ、加奈子、ブリジットちゃんの三人か。これならスムーズに運べそうだな。希望するなら週二でも出来そうだぞ」

桐乃「ちょっと待ちなさい! なんであたしが自然に外されてるのよっ!」

京介「お前なあ、前回の家庭教師の時の事もう忘れたのかよ? 俺が行く前に全ての課題を終わらせて、余った時間で遊びまくってたじゃねーか。またあんなのされたらかなわねーっての」

桐乃「そ、それは……。ちょっとでも京介と一緒に遊びたかったから、かな?」

京介「ローテーションを崩してまで作ってもらった時間でそれをやっちゃ駄目だろ。だからお前は却下だ」

桐乃「うぐぐ……! 今度はマジメにやるから! ならいいでしょ?」

京介「桐乃が本気で取り組みだしたら、それはそれで俺では制御できないんだよなぁ」

桐乃「……」

京介「今回はなるべくローテーションを崩さないように予定を組むからさ、それで勘弁してくれ。な?」

桐乃「……分かった」


京介「よし、良い子だ。んじゃ家庭教師のスケジュールでも組むか?」

秋美「待った! 待った! なんで勉強の話になってるのさ。今は海! うーみー!」

黒猫「だから嫌だと言ったでしょう」

秋美「なんでさ! 夏と言えば海、照りつける太陽に焼ける白浜! そして水着のあたしたちに目が釘付けの京介! これしかないじゃん!」

麻奈実「去年海に行った時に散々注目されたもんねぇ。あれはちょっと恥ずかしかったよ~」

京介「これだけ綺麗所が揃ってるとな」

加奈子「へへー。それに水着なら去年たくさん見せ付けたしなー。温泉だろ、海にプールに」

秋美「温泉!? なにそれズルい! あたし知らないよ!」

黒猫「貴方が加わる前の事なのだから、知らなくて当然でしょう」

秋美「むう。なら温泉は今度行こーね! そんでさ、なんで瑠璃ちゃんはそんなに海が嫌なの?」

黒猫「単純に、見ず知らずの他人に肌を晒すのが嫌なだけよ」

麻奈実「ふふふ、黒猫さんは可愛いねぇ」

秋美「そーだよ! こんなにキレイなんだから、もっと堂々としてよーよ!」

黒猫「う……、そんな事を言っても、駄目なものは駄目よ」

秋美「それにさー、海岸で京介と腕を組んで歩いて、あたしの彼氏はこんなにカッコイイんだぞーって自慢したくならない?」

京介「いや、別に格好良くは無いと思うぞ……」

あやせ「しっ、いま良い所なんだから、話の腰を折らないでください」

京介「すみません……」

黒猫「腕を組んで浜辺を歩く二人。足跡は波に攫われ、水平線に沈む太陽が二人の距離を少しずつ近付ける……」

加奈子「ぜってー二人だけになることは無いと思うケドなー」

桐乃「いま良い所なんだから、茶々入れないの」

加奈子「へーへー」


秋美「ね、悪くないでしょ? 海って素敵なシチュエーションを活かさない手はないって! 京介もそー思うよね!?」

京介「あ、ああ。そうだな。黒猫みたいな美人と一緒に居られたら俺も鼻が高いよ。周りに自慢出来るな」

黒猫「……そ、そう。京介がそう言うのなら、か、考えない事も無いわね……クッ」

桐乃「嬉しいなら素直に喜べばいいのに」

麻奈実「可愛いねぇ」

ブリジット「行くならみなさん一緒が良いです。くろねこさんも行きませんか?」

黒猫「ブリジットにまでそう言われたら、頷くしかないわね。はあ、仕方ないわ。私も行く事に異存は無いわ」

沙織「決まりましたな。それでは日取りを決めて、早速水着を買いに行くでござるよ」

京介「え、水着なんて去年ので充分だろ? みんなスタイルがそう変わった訳じゃないしさ」

……。

あやせ「京介さんは本当にデリカシーが足りませんね」

桐乃「スケベ」

黒猫「救いようがないわね」

ブリジット「わ、わたしはちょっとは大きく……なって、ますよ?」

加奈子「ほほー、今どんだけ?」

秋美「いいなぁ。あたしもう成長終わってるからさ」

沙織「水着にもその年の流行などがありますので、やはり年頃の女性としては、新作が欲しくなるのでござるよ」

麻奈実「きょうちゃん、メッだよ?」

とほほ。





秋美「うぅ~~~~みい~~~~~~っ!!」

お約束の女、秋美。

ブリジット「あきみさん、恥ずかしいですよっ」

黒猫「目立ちたくないと言っているのに……全く、困った人だわ」

加奈子「ほっといてさっさと場所取りに行こーぜ」

秋美「あ、待って! 置いてかないでー」

俺たちは少し前に免許を取った麻奈実の運転する車とで二台に分乗し、はるばる海水浴場へとやって来た。

天気は少し曇っているけど、逆に暑すぎなくて丁度良いかもな。

京介「しっかし、すげー人数だな」

桐乃「みんな海に入りに来てるのよね。どんだけ暇なんだっつーの」

沙織「はっはっは、我々もその一員でござるよ、きりりん氏」

歩きながら空いている場所を探す。程なくして、海の家からはやや距離がある場所にスペースを発見した。

京介「うっし、ここにするか。みんな、荷物置いてって良いぞ。後は俺がやっとく」

ご多分に漏れず、男の俺は下に海パンを履いて来ているので、脱ぐだけで着替え完了だ。なんて楽チンなんだろう。


麻奈実「それじゃあ行ってくるねぇ」

桐乃「更衣室を探さないとねー」

あやせ「あそこに海の家があるから、あっちに行ってみましょ」

ゾロゾロと女性陣が離れて行き、残ったのは俺と加奈子と秋美。ふむ?

秋美「んじゃ、着替えよっか」

加奈子「そーだな」

言いながら躊躇無く服を脱ぎだす二人。

京介「お、おい! お前ら何してんの!?」

当然ながら周囲には大勢の人がいる。その内の何人か、主に男性諸氏がこちらをガン見していてかなり落ち着かない。と言うか面白くねー。

加奈子「心配すんなって、ちゃんと下に水着を着てるからさー」

秋美「そーそー、京介って意識し過ぎ~」

京介「そうは言うがな……あーもう、勝手にしろ!」

段々と肌色が増していく二人をなるべく視界に収めないようにしつつ、俺はレジャーシートを広げパラソルを立てた。

秋美「じゃーん! どう京介? 見て見て!」

京介「おおー」

加奈子「お、スケベな顔してんぞ? ひひ、見惚れたか?」

水着には詳しくないからよくは分からないが、両者とも派手な柄のビキニだった。二人とも似た体型をしているからか、受ける印象は近い物がある。ただ、秋美とはまだ「そういう事」をしていないので、ちょっとだけ余計にドキドキした。


京介「ああ、二人ともよく似合ってるよ。綺麗だ」

加奈子「へへー、ステージ衣装でもここまで露出は多くねーからなー」

京介「そうだな、とても魅力的だ。ファンがいたら大興奮だろーな」

加奈子「京介だから特別に見せるんだぜー、感謝しろよ」

京介「ありがとな。光栄だよ」

秋美「あたしはっ? あたしはどう?」

京介「秋美は……おっぱい小っちゃいな」

秋美「んなっ!」

胸を庇いつつ片足を後ろに引いて半身に構えられた。

秋美「ちょっっとそれどーゆーことさっ! かなちゃんだっておっぱい無いじゃん!」

加奈子「ケッ、あたしはこの身体で京介を魅了してるからいーんだヨ」

あんまり大きな声でそんな話をしないで欲しいんですが。

京介「悪かったって。秋美だって充分魅力的だよ。もっとヘンテコな格好を想像してた」

秋美「な~んかナチュラルに下げられてる気がするなぁ。水着はみんなで選んだからね、本当はもっと違うのにしたかったけど止められたんだ」

加奈子「すっげー派手なヤツとか、気味悪ぃ柄のワンピースとかさ。みんなで必死に止めたんだぜ? 感謝しろよー」

京介「派手なヤツは見たかった……い、いや。うん、良くやったぞ加奈子!」


秋美「ほらほら、しっかりフリル付いてるでしょ? ここ見て!」

ズイッと接近して来た秋美が水着の端を見せ付けてくる。よく観察すると、確かにフリルやリボンがこしらえてあり秋美らしかった。

京介「ああ、可愛いな。あと近いから離れてくれ」

秋美「なあに? 照れてるー? あたしの身体で悩殺されちゃう!?」

京介「はいはい、されるされる。分かったら離れてくれ、準備が出来ねーだろ」

秋美「むー、なんかおざなり。これが恋愛経験値の差ってやつか~」

加奈子「それより京介もさっさと水着になったらどーよ」

秋美「あ、そうだね。脱ぐの手伝おっか?」

京介「いらねーよ!」

言いながらTシャツとジーンズを脱ぐ。めっちゃ視線を感じるぜ。

秋美「おおー、男の人が脱ぐ所ってドキドキするね!」

加奈子「へっ、あたしは何度も見てるから別にって感じだなー」

秋美「くっ、羨ましい! でもそー言いながらかなちゃんもガッツリ見てるじゃん!」

加奈子「それはそれ、これはこれってヤツ」

京介「あまり恥ずかしい事を言わないでくれませんかねえ」

ほら、周囲の目がちょっと痛い。



他のみんなが戻って来るまで、シートに三人並んで座り待つ。なぜか密着されて、こう、モチモチの肌の感触とかさあ!

京介「なんで二人ともくっ付いてるんだよ。あっついだろ」

加奈子「別にいーだろー。減るもんじゃねーしよ」

秋美「そうそう、京介はもうちょっと欲望に忠実になってさ、あたしをガバッと来てもいいんだよ?」

京介「お前、よくそんな恥ずかしげも無く言えるな。感心するわ」

秋美「だって、あたしたち付き合い始めてもう三ヶ月なのに、京介って何もしてくれないじゃん」

加奈子「なんだ、オメーまだなんかよ。エッチは良いぜー、病みつきになるね!」

秋美「ほうほうっ」

加奈子「最初はそーでも無かったけどさ、最近は京介がどんどん巧くなってっから、そりゃもうあたしらはもがっ」

京介「加奈子、ちょっと黙っとこうな」

放置しとくと加奈子がとんでもない事を口走りそうだったのでとりあえず手で塞いでおく。

秋美「えー、もっと聞きたいよ!」

京介「周りを見てみろ」

秋美「えー? あー」

静かに聞き耳を立てていた野次馬はたちまち喧噪を作り出す。

秋美「へへ……ちょっと恥ずかしいね」

京介「分かったなら、もうちょっと弁えてくれ」

加奈子「もーっ、むーっ」

おっと、加奈子を抑えたままだった。手を離す。

加奈子「ふいーっ。もっと優しくしてくれよー。例えばキスでふさぐとかさー」

どこに居てもぶれない加奈子はさすがだ。



しばらくして。

加奈子「お、あっちの方がなんかザワザワしてんぞ?」

おいアレ見ろよ、なんだあの集団レベルたけー、お前ちょっと声かけて来いよ、無理に決まってんだろ相手にされねーよ。とか漏れ聞こえた内容からおおよその見当は付いた。

あやせ「お待たせしました……って、なんでそんなにくっ付いてるの! 離れて!」

先頭に立ってたあやせが駆け寄って来ると同時にグイグイ身体を割り込めて俺と加奈子を離す。

加奈子「えー、今日は誰の番でもないんだし、いーじゃねーかよー」

あやせ「加奈子はもう充分京介さんエキスを補充したでしょ、次はわたしと交代っ」

桐乃「それなら反対側はあたしがもーらいっ。秋美さん交代ね~」

秋美「仕方ないなー。しっかり堪能したから良いよっ」

なんか周りからヒソヒソと聴こえてくるけど、きっと碌な内容じゃないだろーな。うん、あんま気にしないでおこう。

沙織「お待たせいたしました。更衣室が随分と混んでおりましたので、着替えに時間がかかってしまいました」

京介「ああ、良いって。気にすんな」

長身でプロポーション抜群の超美人。この美少女集団の中でも一際目立ってるのは流石だ。沙織はやや布地が大き目の、落ち着いた色合いのビキニだった。しかし隠そうとしても隠しきれないあちこちが、男たちの目を惹きつけて離そうとしない。

俺たちの中でもう一人特に目立っているのは、ブロンドヘアーを長く伸ばしている少女。水着がワンピースタイプなのはいかにも彼女らしい。キャンプで想いを打ち明けられて以降、俺はブリジットに前よりも魅了されていた。

ブリジット「あぅ……。きょーすけさんにすごく見られてます」


黒猫「餓えた野獣のような目でブリジットを見るのは止めなさい。それならば、その、わ、私を見るべきだわ」

黒猫はブリジットよりもさらに露出が少なかった。パッと見、そこら辺にある普段着のような服装をしている。しかしこれも水着らしい。

黒猫「桐乃とあやせに選んで貰ったのよ。あまり肌が見えなくて残念だったかしら? ふふ」

挑発的な笑みを浮かべる彼女は、太陽の下いつもより輝いて映った。

麻奈実「きょうちゃん、えっちな目でみんなを見てるね。みんなきょうちゃんに褒めて貰いたいから頑張って水着を選んだんだよ~」

麻奈実はビキニタイプの水着に、パレオって言うんだっけ? スカートの様な物を身に着けていた。密かにスタイルの良い麻奈実だが、水着姿だとそれを隠す事は出来ず、やはり他の者同様に人目を惹いている。

桐乃「ちょっと、さっきからみんなばっか見て、今あたしたちが一番近いんだから、もっとこっちを見ろっつーの」

あやせ「そうですよ、見るならまずはわたしか桐乃にしてください。ね、桐乃とっても素敵ですよね」

あやせと桐乃はどうやらお揃いのビキニで色違いらしい。紺のあやせと赤の桐乃、いかにも彼女たちらしかった。モデルをやっている二人のスタイルの良さや肌の美しさは今更言うまでもないよな。

京介「みんなとても綺麗だよ」

俺は順番に時間をかけて全員を褒めた。正直歯が浮くような台詞を言った気もするが、折角の海で水着なんだし、このくらい罰は当たらないよな?

「なんだあの男、たいしたツラでもないのにカッコ付けやがって」

ただし当然この様な妬みは伝わって来る。こればかりはどうしようもない、想定済みだったので俺は甘んじて受け入れた。

もっとも、桐乃や加奈子に代表される気の強い組はそういうのが聞こえてくる都度、相手に聞こえるように俺の素晴らしさを喧伝していた。恥ずかしいけど嬉しかったよ。



しっかりと身体をほぐした後は全員で海に突撃!

水しぶきを上げながら波間ではしゃぐ彼女たちは、贔屓目無しにいつもより120%眩しく見えた。

それだけに大変だったのはナンパの対処だ。ちょっと単独~少人数で行動しようものなら、あっという間に誰かに声を掛けられる。

ブリジット「きょ、きょーすけさん……」

京介「もう大丈夫だから、一人になるんじゃないぞ」

舌打ちを残して去って行く男たち。腕に抱き付かれた柔らかい感触に想いを馳せる暇も無く、今度はあっちで沙織たちが絡まれてるし!

京介「ほら行こう、ブリジットちゃん」

ブリジット「は、はいっ!」

強く繋がれた手は、とても温かかった。



結局俺たちは集団で行動を取る事にした。

みんなで泳ぎ、休み、海の家で食事を摂り、また遊ぶ。

たまに、臆面も無く「そんなに独り占めしないで誰か分けてくれよ」という下卑た輩も居たが、勿論相手にしなかった。

桐乃「うぷぷっ、『全員俺の大事な彼女だ。手を出したらタダじゃ済まさねーぞキリッ』だって~」

黒猫「あんなに堂々と宣言出来るなんて、どれだけ豪胆な神経をしているのかしらね」

加奈子「でもスカッとしたぜ。あの男の顔見たか? なっさけないツラしてやがったぜ」

沙織「どちらかと言うと、信じられない、見てはいけないモノを見てしまったかの様な表情でしたわね」

ブリジット「それに、ああ言ってもらえてとっても嬉しかったです!」

麻奈実「きょうちゃんはすっかりぷれいぼおいだねぇ」

あやせ「汚らわしい人たちです。わたしの身体は京介さんだけの物なのに」


秋美「でも、手を出すなって言うなら、早くあたしには手を出して欲しいかなーなんて」

京介「おま、弁えてくれって言ったばかりだろ!」

ブリジット「……」

麻奈実「櫻井さん、後でお説教ね」

秋美「なんでーっ!?」

加奈子「ひひひ、ザマーミロ」

秋美「むっ。こうなったらかなちゃんも巻き込んでやる! さっきかなちゃんがさ――」

加奈子「ば、バカっ、やめろっての! 師匠は怒らすとこわいんだぞっ!」

たちまち追いかけっこを始める二人。

黒猫「この二人も随分仲良くなったわよね」

京介「良い事だよ。喧嘩してるよりずっと良い」

桐乃「さ、二人はほっといて帰る前にもうひと泳ぎしましょ!」

ブリジット「……はいっ」

加奈子・秋美『あっ、待ってー!』

ところでこれは後日伝え聞いた噂話なんだけど、千葉県のとある海水浴場には、とてつもない美少女軍団を連れたハーレムマスターなる人物が現れる事があるらしい。一度お目にかかってみたいもんだぜ。なあ?



夕刻、すっかり遊び疲れた俺たちは帰りの途上にあった。

京介「あー、海で泳いだ後はすげー身体が重い」

沙織「申し訳ござらん。京介氏一人にばかり負担をかけてしまって……」

京介「気にすんなって。疲れちゃいるけど、みんなを送り届けるのは俺の仕事だ。それに麻奈実だって運転してるんだしさ」

チラリとバックミラーを確認すると、一定距離を開けて後ろに麻奈実の運転する車が見える。あのトロくさい麻奈実が大丈夫だろうか、とちょっと心配してたのは内緒だ。

俺と助手席の沙織が黙ると、車内にはスウスウと静かな寝息が三つ重なる。

京介「今日も楽しかったな」

沙織「そうですな。とても大切な記念になりました」




次の日曜日。

秋美「じゃあ温泉行こっ!」

京介「先週海に行ったばかりじゃねーか! しばらく駄目!」

秋美「え~、いいじゃん。ケチー!」

京介「だいたい、バイト代が出ないと俺は金欠なんだ。温泉なんかとても無理だっての」

秋美「それじゃさ! あたしが京介の分もお金出すよ! その代わり一緒の部屋にしようね! そんでさ、うへへへ」

全員『絶対ダメ!』



後日、千葉県近郊のとある温泉宿にもハーレムマスターが出没するという噂が流れたらしい。

その正体は、誰にも分からない。





    終


こんばんは、以上となります。


今回は>>436さんの案で書いてみましたけど、こんな物で良かったでしょうか?

次は>>437さんの案でこれから書き始めます。


それでは、また~。


>>437

 おまけ 新生活のその前に 編



ここまでの事を簡単にまとめてみよう。

優柔不断な俺は誰も選べなかった。

そしたらいっそ全員で暮らそうか、と秋美が提案した。

たちまちの内にそれは受け入れられ、俺の意志そっちのけで話は進んでいった。

しかし俺はまだ学生の身、親の脛を齧っているただの若造だ。おっと、この際、桐乃に手を出してしまって親の信頼を裏切っている事については黙認してくれると助かる。

せめてあと一年、俺が就職するまで待てないかと言ってみたが、誰も聞き入れてくれなかった。とにかく今すぐが良いんだとさ。

家賃については全員で出し合う事でまとまった。

家探しはちょっと大変だった。なにしろ九人が住むからには、最低でも個室が九個必要だ。

沙織のマンションにする案もあったけど、立地面で折り合いが付かずそこは流れた。

結局、カラオケルームやダンススタジオが欲しいという加奈子の案は却下され、それ以外で条件に合う家を見付ける所までは漕ぎ着けた。

敷金や礼金などは、一番自由に出来る金を持っている桐乃が一時的に負担する形になった。

後は折角見付かった家が埋まる前に、契約を結ばないといけない。

さあ、ここからが大変だ。





京介「まず、単独で親の許可を得られそうなヤツはいるか?」

真っ先に手を挙げたのは秋美、次いで加奈子と沙織、最後に麻奈実が続いた。

秋美「はれ? みんな自信なさげ?」

京介「本当に大丈夫か? お前、めっちゃ親に愛されてたじゃん。手放してくれるかな」

秋美「だーいじょうぶだって! 可愛い子には旅をさせよ、ってゆーでしょ。ちょっとおねだりしたらイチコロよ!」

京介「そーかなぁ。まあ、そう言うなら任せてみるか」

秋美「うん! まーかせて! 京介が関わってるって知られたら絶対反対されるだろうから、そこは上手くごまかしてみせるから!」

果てしなく不安だ。

加奈子「うちは、まァ大丈夫だとは思うケド……分かんねーな。さっぱり読めねー」

京介「彼方さんか」

何度か会った事があるけどあの人は底が知れない。あっさり賛成してくれそうな気もするし、ケラケラ笑いながら斬り捨てられそうな気もする。

加奈子「とりあえず聞いてみる。ダメだって言われたら家を出るだけだしな!」

京介「せめて穏便に頼む」

沙織「拙者も恐らく大丈夫だとは思いますが、一応姉さんに確認だけはしてみるでござるよ」

京介「その、親には確認しなくて良いのか?」

沙織「知りません」

京介「はあ、そうですか……」

仮にも金を出してくれている存在じゃないのかね? って、余所の家の事情に突っ込む訳にもいかねーか。


京介「麻奈実は問題無さそうだな」

麻奈実「そうだねぇ。きょうちゃんの名前を出したら確実だと思うよぉ」

京介「そうだな。ただ、田村家から高坂家へ変な情報が伝わらないように注意して貰わないといけないな」

麻奈実「そうなの?」

京介「ああ。親父には保証人になって貰わないといけないからな。少しでも心証を良くしたい」

沙織「それですが、やはり学生である京介氏では契約の審査に通らない可能性が高いと思うのでござるよ。ここは姉さんを頼って――」

京介「保証人は制度上仕方ないとしても、それ以外の部分で他の人を頼るようじゃ駄目だ。俺たちだけの力で成し遂げられないようなら、やっぱ俺が就職するまで待つ方が良いな」

沙織「そうですか……」

桐乃「審査って結局の所、支払い能力がどれだけあるかってコトでしょ? ならあたしに任せて! 秘策があるから!」

秘策ねえ……。桐乃の事だから、すごく単純な力押しに決まってるだろうけど、ここは一つ頼らせて貰うかね。

京介「それで、残ってるのはあやせ、桐乃、黒猫、ブリジット、か」

あやせ「わたしだってもう大学生です。普通に家を出ておかしくない年齢ですから、そこを切っ掛けにして説得してみようとは思います」

京介「あやせの両親がそれを認めてくれるかどうかだな」

あやせ「後は、桐乃や他の友達とのシェアハウスって事も付け加えてみようかと」

京介「俺が居ると逆効果だな」

あやせ「そこは……嘘を吐くしかありません」

出来れば親を騙すような真似はして欲しくない。しかし今更そんな虫のいい事は言えないな。俺自身が親を騙し、世間の目を欺き、みんなを囲って、これで良識ある人間だなんて言える筈がない。


京介「はは、俺は死んだら地獄に落とされそうだな」

沙織「大袈裟でござるよ。これはただのシェアハウスもどき、それだけの話でござる。それに以前にも申しましたが我々は一蓮托生。京介氏が地獄に落ちるなら、皆も一緒でござるよ」

桐乃「ふっ、あたしは天国に行くから、上から引っ張ってあげるね!」

黒猫「貴方じゃ蜘蛛の糸ですらなさそうね」

桐乃「ソレどーゆー意味よ! めっちゃ頑丈なワイヤーロープだっての!」

麻奈実「わたしは体力に自信ないから、梯子が良いなぁ」

秋美「じゃあさ! 楽できるようにエレベーターにしよ!」

ブリジット「あの、そもそもみなさんが幸せを感じてるなら、地獄に落ちることは無いと思います」

あやせ「それ以前に、気安く死ぬだなんて言わないでください。京介さんにはあと80年は生きていてもらいたいですから」

京介「100歳越えかぁ。頑張るよ」

加奈子「じゃあ、あたしも80年生きて、京介と一緒に死ぬかなー」

秋美「それだけ長生きしたら、死ぬ時はたっくさんの子どもや孫に囲まれて逝けそうだね!」

ブリジット「京介さんとの、子ども……」


加奈子「あたしはきっと女の子を産むと思うんだ。そんな気がするぜ」

黒猫「奇遇ね、私もよ」

あやせ「わたしもなぜかそんな気がします」

桐乃「みんな一人だけとか遠慮しいね。あたしは男の子も女の子も産むわよ!」

麻奈実「わたしは女の子二人欲しいかなぁ」

沙織「おやおや、女の子ばかりですな。かく言う拙者も実は」

ヤバい、なんか知らないが会話がおかしな方向に滑り出している。これは止めないと危険だ!

ブリジット「わ、わたしは――」

京介「おっとお! あやせの話は終わりだな、次行こうぜ次!!」

秋美「えーっ、あたしの赤ちゃんの夢も聞いてよ~!」

京介「また今度な! また今度! 次は桐乃の番だな! さ、話を進めようぜ!」

桐乃「大事な話だったと思うんだけどなぁ。変な所でヘタレるんだから」

全員を孕ませるとか俺どんだけ計画性無いんだよ。あと鬼畜か!



京介「……さて、真面目な雰囲気で行くぞ。桐乃については、正直に俺と一緒に暮らす事を打ち明けた方が良いだろうな」

桐乃「お父さんが許してくれるかなあ」

京介「黙ってたって住所でバレるし、あの親父の事だ、絶対桐乃の様子を見に来るに決まってる」

桐乃「でもそうなると、大きな家に男が一人だけ、後はみんな女の子だよ? 堅物のお父さんがそれを見逃してくれるかな」

京介「そこは必死に説得するしかねーな。あるいは、誰か一人に結婚を約束してる恋人役をやって貰って、他の者には手を出す訳がないって方向で何とか押し通せないか……」

あやせ「はいっ! わたしが適任だと思います!」

麻奈実「多分わたしが一番すむうずに済むと思うよぉ?」

加奈子「いーや、師匠が相手でもここはゆずれねーな」

ブリジット「うぅ、立候補したいけど、わたしだとさすがに無理がある気がします」

秋美「京介と同い年だし、あたしなら不自然じゃないよね!」

沙織「ご両親へ与える印象を鑑みると、わたくしも悪くはないと思いますわ」

黒猫「京介と交際していた経験を持つ私ならば説得力も増すのではないかしら?」

桐乃「さりげなーく、あたしなんてどうかな、トカ……」

京介「桐乃は論外、ブリジットは年齢的にアウトだろうな。そうなると」

ブリジット「あと三年早く産まれたかったです……」

桐乃「くうううっ! 妹であるコトがこんなにも恨めしく思えたのは初めてよっ! 初めてじゃないケド!」


京介「なんだそりゃ。とにかく、総合的に考えると麻奈実が一番無理がないだろう」

麻奈実「……」

京介「それでも俺はあやせを推したい」

あやせ「!」

加奈子「えー、あやせで良いならあたしでも良いじゃんかよー」

京介「これには理由があるんだよ。お袋には、俺とあやせが付き合ってるって知られてる。当然親父にもそれは伝わっているだろう」

沙織「成程。結婚を前提としたお付き合いとするならば、最も無理のない設定ではありますな」

黒猫「そう言う設定ならば仕方がないわね」

秋美「はー、しょうがないなー。じゃあ設定上あやせちゃんに譲るけど、今回だけだかんね!」

あやせ「設定設定って。見ててください! わたしが一番京介さんに相応しいって義父様に認めてもらって(婚約者としての)権利を勝ち取ってみせます!」

京介「みんな、そんなにカリカリすんなって。全ては親父を説得出来てからだ」

加奈子「誰のせーだと思ってるんだか」

京介「……ま、まあ。うん、次行こうな、次! で、黒猫はどうだ?」


黒猫「私は……どうかしらね。この間も言った通り、妹達はもう私が居なくても大丈夫だと思うわ。家賃や生活費についてはバイト代と、足りない部分が発生したらその時は家に頼れば何とかなるでしょうけど」

ふと、頭に黒猫の親父さんを思い浮かべる。あの日、温泉宿で俺は偉そうに啖呵を切ったが、蓋を開けてみればあやせと付き合っているという、何とも親父さんには不義理な事をやってしまっていた。きっと失望されただろうな。

黒猫「日向と珠希には、私と京介が付き合っている事は知られているから、きっとお父さんもその事を承知している筈よ。だから、京介の名を出せば案外簡単に許して貰えるかもしれないわね」

……はい?

京介「ちょっと一つ確認したいんだが」

黒猫「何かしら?」

京介「え? 黒猫の親父さん、俺とお前が付き合ってるって知ってるの?」

黒猫「恐らくはそうね。お父さんは貴方の事を気に入っているから、むしろ推奨されている部分も無きにしも非ずだわ」

うーん、どうしようこの逃げ道を塞がれた感。

黒猫「だから、許可を貰う時には、当然京介にも同行して貰うわよ?」

桐乃「ちょい待ったあ! なにあんた、着々と既成事実を積み上げて行ってるのよ!」

黒猫「あら。何かおかしな所があったかしら? 私と京介が交際しているのは事実であり真実。親にも認められている以上、これより簡単な方法は無いと思うわ」

秋美「むー、そんな手があったかあ。あ~~でも、うちの親は京介の事をまだ敵視してるだろーしなぁ」

あやせ「むむむ、さすがは黒猫さん。思わぬ所から強敵出現です」


沙織「しかし、京介氏のお父上にはあやせ殿を婚約者として紹介し、黒猫氏のお父上には京介氏が恋人として認識されているとなれば、どこかで齟齬が生じてもおかしくはないでござるよ」

黒猫「そこはみんなで口裏を合わせて頂戴」

嘘を嘘で塗り固めていくと、いつかどこかで破綻しそうなんだよなぁ。本当にこれで大丈夫なんだろうか?

黒猫「最悪、私が大学を卒業するまでもてば良いわ。その後ならどうにでも出来るわ」

京介「なあ、やっぱみんなにこんなに嘘を吐かせてさ、この計画には無理があるんじゃないかと、今更にして思うんだが……」

黒猫「本当に今更ね。もう計画は動き出しているのよ、後戻りは出来ないわ。覚悟を決めなさい」

加奈子「あたしは別にウソなんてついてないしなー」

沙織「拙者もでござるよ」

京介「…………そうだな、俺がいつまでもウジウジしてちゃ駄目だよな。いざとなったら俺が全ての責任を取れば良いんだし、やってやろうじゃねーか!」

黒猫「そうそう、考え無しに勢いだけで突っ走るのが貴方の良い所なのだから、その調子でお願いするわ」

あやせ「あと、京介さん一人だけに責任を取ってもらう訳にはいきません。何があってもわたしはお供しますから」

麻奈実「それはみんな同じだよ。連帯責任で、何かあったらみんなで一緒に怒られようね?」

京介「分かった。沙織がさっき言った通り俺たちは一蓮托生なんだ。何かあっても全員で引っ被れば被害は1/9で済むしな!」

でも実際に何かが起こったら、その時は男である俺一人だけが非難を受けるようにしないとな。


京介「んじゃ、五更家には近い内に挨拶に伺うとして、残るは」

ブリジット「……」

京介「ブリジットだけは俺の頭じゃどうにもならない。みんなの知恵を貸してくれ」

沙織「イギリスでは家からの独立はどのように取り扱われているのでござるか?」

ブリジット「えっと、どうなんでしょう? 少なくとも高校を出るまでは親元にいるのが普通だと思います」

桐乃「そーゆー時はインターネッツの出番よ!」

黒猫「では桐乃が調べてる間、私もこちらで情報を探してみるわ」

桐乃はパソコンに、黒猫はスマホを取り出して色々と検索し始める。

秋美「毎日じゃなくてさ、週に何日かだけ住みに来るとかどうかな?」

沙織「最終的な落としどころとしては、その辺りが無難ではありましょうか」

加奈子「いきなりダキョーすんなって。まずは当たって砕けよーぜ」

ブリジット「あんまり砕けたくはないよぉ」

加奈子「んじゃ、まずはあたしが説得にいこーか? 知らない仲じゃないんだしさー」

ブリジット「かなかなちゃんだけだと……どうかなぁ。せめてあやせさんが一緒なら平気かも」

加奈子「そりゃどーゆー意味だよ? って、考えてみたらあたし英語話せねーな!」


あやせ「わたしの力が必要ならもちろん手伝うよ。だけどわたしもそれほど英会話はできないから、役に立てるかな」

ブリジット「そこはわたしが通訳します!」

麻奈実「国が違えば考え方も変わるから、あっさりと認めてくれるかもねぇ」

京介「そうだな。まずはやってみてからか」

桐乃「う~~ん。それはどうかなぁ。ここには、イギリス人は子どもとの繋がりは基本的に18歳までと割り切っているって」

沙織「逆に言えば、それまでは手放さない、という事でござるか」

黒猫「でも若くしてホームステイするのも推奨されているわ。今回のこれがホームステイとして見なされるかは分からないけれど。あと家を出たらルームシェアをするのが普通みたいだから、それが早まっただけと捉えられない事もないわね」

京介「ふうむ。まあ、取っ掛かりとしてはそこら辺からか?」

ブリジット「かなかなちゃんとあやせさんが一緒なら、もしかしてお仕事関係だとごまかせるかもしれません」

京介「それについては詳しくないから、ブリジットの裁量に任せるよ」

ブリジット「はい! お任せくださいっ!」

その後は細かい部分を詰めて解散となった。それぞれが作戦に従い行動する中、俺は桐乃と連れ立って実家へと向かった。



京介「ごちそーさん」

桐乃「ごちそうさまでした」

急な帰宅だったが、お袋は文句を言いつつもちゃんと俺の分まで夕食を用意してくれた。そのまま親父とお袋が食べ終わるのを食卓で待ち、話を切り出す。

京介「二人とも、相談とお願いがあるんだ」

佳乃「仕送りの増額ならダメよ?」

京介「ちっげーよ! 真面目な話なんだ」

大介「言ってみろ」

よし、頑張れ高坂京介!

京介「今のアパートを出て、別の場所で家を借りたいと思ってる」

大介「なぜだ」

京介「……一番の理由は、手狭になったからだ。あと、俺も順調に行けば来年には社会人になるから、心機一転したいって気持ちもある」

大介「一人暮らしをする上であそこは充分だと思うが」

京介「一人で暮らすつもりじゃないって言ったらどうする?」

佳乃「あら」

大介「……お前も成人して既に親の手からは離れつつある。だが、学生でありこちらに金銭面で頼っている内はまだまだ子どもだ。簡単には認められんな」


京介「家賃についてはバイトでも何でもしてなんとかするし、その目途は付いてる。ただ学費と保証人だけはどうにもならないから、それをお願いしたい」

大介「相手は誰だ?」

佳乃「もしかしてあやせちゃん?」

京介「ああ」

桐乃「……」

大介「確か、新垣議員の娘さんだったか。桐乃の同級生だったな。まだ未成年である女性とお前は同棲したいと言っているのが分かっているのか?」

京介「あやせだってもう大学生だ。自分の事は自分で責任を取れる。これは俺たちが話し合って決めた事なんだ」

大介「話にならんな。お互い学生の身分で同棲など許さん。せめて新垣さんが卒業するまでは待てないのか」

京介「ああ、待てない。それに親父は勘違いをしている」

大介「何をだ」

京介「別に俺たちは二人だけで住む訳じゃない。全部で、九人、だ」

大介「……お前は何を言っているんだ」

京介「シェアハウスって聞いたことないか? 一軒の家に複数の人々が集まって暮らす、そういう形態が最近流行ってるんだよ」

佳乃「夕方のニュースとかで観たことはあるけど、それを京介とあやせちゃんが?」

京介「ああ、他に七人な。みんな気心の知れた仲間だ。だからふしだらな付き合いをする訳じゃない」


大介「……なるほど。お前がそれを自力で成すと言うのなら、俺から言えることはない。だが――」

親父がギロリと桐乃を睨む。

桐乃「っ」

大介「なぜこの場に桐乃がいるのか疑問だったが、まさか」

京介「ああ、桐乃も一緒だ」

佳乃「……あなたたち」

大介「駄目だ」

京介「これはあくまでシェアハウスだ。だからお袋が危惧するような事は何も無い」

あー、堂々と嘘を吐くのってすげえ心が痛む。だけど俺は顔に出さない様に気を付けながら続ける。

京介「一緒に暮らそうとしている仲間たちは、桐乃を中心に構成されたコミュニティだ。桐乃が居ないと成り立たない」

大介「京介、お前の転居と学費、保証人については了解した。家賃は先ほど自分で言った通り自力で何とかしろ。だが桐乃はまだ18歳だ。家から出ることは許さん」

桐乃「なっ、なんで!? 海外に行くって言った時は反対しなかったじゃん!」

大介「それとこれとは話が違う、それだけだ。それに大学に通うなら、うちからで充分だろう」

京介「そこを許してくれ。さっきも言ったけど、桐乃が居ないと駄目なんだよ」

大介「それならば、そのシェアハウスとやらを諦めるんだな。他が誰かは分からんが、皆若いんだろう。そんな集団生活がいつまでも続くとは思えん。いずれ瓦解する」

桐乃「そんなコトないっ! あたしたちはみんな確かに若いケド、本気で一緒に生活したいって思ってる!」

大介「それはただの幻想に過ぎん。駄目だ」

京介「親父っ!」

テーブルに両手をつき、頭を下げる。

京介「そこをお願いしますっ! 認めてください!」

桐乃「あ、あっ……お願いしますっ」

隣で桐乃も頭を下げる気配がした。

大介「頭を下げても駄目な物は駄目だ。話はこれで終わりだ」


京介「……親父、俺は桐乃の兄貴だ」

大介「それがどうした」

京介「俺はっ! 桐乃と桐乃を取り巻く全てを守るって誓った! 勿論桐乃の友達だってそうだ!」

大介「……」

京介「今回集まったヤツらは、桐乃の学校の友達から例の趣味の仲間まで様々だっ! みんなが桐乃を慕って集まってくれたんだよ!」

桐乃「……」

京介「普段接点すら存在しない異なる世界のヤツらを引き合わせたのは桐乃だ! これはすげえ事なんだよっ! 俺じゃとても真似できねえ!」

佳乃「……」

京介「だから、どうか! どうか桐乃がこれから作ろうとしてる新しい世界を認めてやって欲しい! 危険な事はさせないっ、俺がずっと守るって約束するっ!」

隣から小さく鼻をすする音が聞こえる。だが俺は顔を上げない。まだ言い足りないからだ。

京介「親父だって知ってるだろ、桐乃はずっと努力をして、全てを頑張ってきた! 勉強だって陸上だってモデルだって小説だって、そして趣味だって、全てを捨てずにトップを維持してここまでやって来れた! だったらこれからだってやって行けるに決まってる!」

中には俺が手を貸した事件だってあったさ。だけどそれだって全て桐乃が諦めなかったからこその結果だ。そうだろ?

京介「桐乃は自慢の妹だ! そして自慢の娘なんだろ!? だったら、もっと桐乃を信じてやってくれ! 桐乃が信じている未来を、親父も信じてくれ! お願いしますっ!!」

ああ、なんて茶番なんだろう。既に桐乃に手を出してしまっている俺が言えた義理なんてどこにも無い。だけど、それでもこれは俺の偽らざる本心なんだよ。

京介「お願いしますっ! 桐乃の可能性を側で見させてください! お願いしますっっ!!」


……。

佳乃「わたしは、別に構わないと思ってるわ」

京介「お袋……」

顔を上げお袋を見ると、その表情は穏やかだ。隣の親父は目を瞑り腕を組んで、むすっと黙り込んでいる。

佳乃「そりゃあたなたち二人だけならちょっと、って思うけど、他にも桐乃の友達がいるんでしょ? なら大丈夫よ」

桐乃「お母さん……」

大介「……京介、一つ確認だ」

京介「ああ、何でも聞いてくれ」

大介「その、集まった桐乃の仲間の中に、あいつは含まれているのか?」

京介「あいつ?」

誰だ?

大介「以前に桐乃が連れて来た、あの、偽、か、彼氏だ」

京介「は? もしかして御鏡か?」

大介「ああそいつだ。……それで、どうなんだ?」

京介「居ないよ。男は俺一人だけだ、安心してくれ」

大介「何いっ!? 男はお前一人だけだと!? それで倫理や道徳が保てるのかっ! いや、しかしそれならばむしろ安全なのか?」

何やら後半は口の中でブツブツ呟いている。だが、これはもしかして良い方向に風が吹いているか?


京介「安心してくれ、俺はあやせと結婚の約束をしているから、他の子になんて絶対に手を出さない!」

マジでごめんなさい。

佳乃「あらら、婚約までしてるのね」

大介「むうう、それなら……いや、しかし、うぐぐぐぐっ」

親父は桐乃を溺愛してるから出来ればずっと家に居て欲しいんだろうけど、さっきまでの態度を考えるとかなり軟化していた。あと一押しだと、俺は桐乃に目配せした。

桐乃「……それなら、あたし彼氏を作らないし、結婚もしないから! だから安心して!」

大介「よし分かった!」

あっさりだなおい!!

佳乃「良いの、桐乃? そんな約束して」

桐乃「うん!」

京介「親父、許してくれるのか?」

大介「……ふう、仕方無いな。二言は無い。許可した以上はもう止めはしないから、その仲間たちとの生活で存分に見識を広げて来ると良い」

京介「ありがとうございますっ」

桐乃「ありがとう、お父さん!」

大介「ただし京介、新垣さんとは節度を守ったお付き合いをするんだ。あと、先程の約束は必ず守れよ」

京介「ああ! 桐乃は俺が必ず守る!」

桐乃「……きょ……兄貴」



それからいくつかの細かいやり取りをして、俺と桐乃は二階へ上がり、今や桐乃の物置と化している俺の部屋に移動した。

京介「ふう、途中どうなる事かと思ったけど、なんとか許して貰えたな」

桐乃「……」

京介「どした? まだ緊張してるのか?」

俯いて黙っていた桐乃が、ガバッと抱き付いてきた。

京介「お、おい! 下にはお袋たちが居るんだぞ!?」

桐乃「……兄貴、京介……嬉しい。ありがと」

そのまま頬に湿った感触があった。

京介「へっ、お前に素直に礼を言われるとか、何だか妙な感じだな」

桐乃「最近のあたしは前よりずっと素直でしょ。だから、ありがと。大好き……愛してる」

京介「ああ、俺もだよ。ただまあ、親父たちには盛大に嘘を吐いちまったな。お前にも変な約束をさせてしまったし」

桐乃「ウソは京介と付き合うようになってからずっとだから今さらだよ。それに約束だって……」

言いながらスリスリと俺に頬擦りする桐乃。くすぐったいけど、ストレートな親愛の表現に俺の心は満たされていた。

桐乃「兄妹だから元から結婚できないし、付き合ってるって言わなくたってずっと一緒にいられるし。だから、今と変わらないから、いい」

京介「そっか」


桐乃「うん。ねえ、それよりもさ」

京介「おう、どーした」

桐乃「今あたし、すっごくエッチがしたい」

京介「……はあ!?」

桐乃「さっき京介がお父さんを必死に説得してた時から、もうずっとドキドキしてて、ちょっと治まりそうにないカモ」

京介「だーめ。約束したばかりだし、そもそも家じゃ無理だ。今度までお預けだな」

桐乃「ダメ?」

京介「そんなにジッと見られても駄目。我慢しなさい」

桐乃「……分かった。でもキスならいいよね?」

京介「ああ」

そして俺たちは情熱的なキスをする。

粘膜の触れ合う湿った音が室内に響き、やがて二人の唇は離れ、つう、と唾液が糸を引いて消えた。


桐乃「……おっきくなってるよ?」

京介「ただの生理現象だ。気にするな」

桐乃「あのさ、本番は無理でも口とか」

京介「教育的指導!」

桐乃「あいたっ」

チョップを喰らわす。

京介「どんだけエッチしたいんだっての。今日は駄目。お袋に疑われない内に、ほらさっさと部屋に戻る」

桐乃「ちぇー。分かった……それじゃ戻る、お休み、京介」

京介「ああ、お休み」

桐乃が出て行き、隣室の扉が開閉する音を聞きつつ、一息つく。

ちくしょう、我慢しろって言ったのは俺の方なのに悶々とさせやがって、危うく襲う所だったよ!

あー、疲れた。今からアパートに戻るのも面倒だし今日はここで寝るか。

風呂に入るまで横になっておこうとベッドに寝転んだ時に、携帯がメールの着信を知らせた。

内容は……あやせから、桐乃とイチャイチャし過ぎないように釘を刺す物だった。女の勘ってこえー。


ところでこれは余談だが、夜になって寝ようとした時どこからか微かな『音』が聴こえてきて中々寝付けなかった。壁が薄いしな。それだけ。




それからの事も簡単に述べておこうか。

秋美、加奈子、沙織の三人はあっさりと許可が貰えたらしい。

麻奈実は、なぜ俺が挨拶に来ないのかと言う流れになって、結局二人で、あくまで同居であり結婚を前提とした物では無い、と説明した。

あやせは一回の説得では許して貰えなかったようで、二度三度と諦めず懇々と説明を繰り返したと言っていた。最終的には『とっておき』を使って許可を得たらしいが、その内容までは教えてくれなかった。

黒猫の家には約束通り訪問した。黒猫の親父さんと会うのは久しぶりだったけど、どうも俺が約束を果たした物と思い込んでいる様で、またも心が痛んだ。

そしてブリジットは、当初の予定通りあやせと加奈子が揃って説得に行ったようだ。ブリジットの通訳を挟みつつ説明をしていたが、思っていたよりも簡単に許して貰えたらしい。

そんなこんなで、晴れて全員で住めるようになった訳だ。やったね!



賃貸物件の下見には親父と桐乃に同行して貰った。

大介「随分と大きな家だな……」

そりゃ九人で住むんだ、でかいに決まってる。三階建て、和洋室が大小合わせて十部屋、ばかでかいリビングダイニングキッチン付き、駐車スペースも三台分だ。

築年数はそこそこだけど、家賃を九人で割ったら実に手頃な金額になるので無理なく住めそうだ。実際は部屋の広さに合わせて若干比率を変えてるけど、そこまで詳しく言う必要はないよな? 桐乃が一番広い部屋を取ったくらいかな。



一番心配だった入居審査については――

桐乃「はい、これ」

差し出される一通の通帳。なにこれ?

桐乃「支払い能力を認めてもらえばいいんでしょ? こんだけあれば数年は余裕で暮らせるよ」

えーっと、どれどれ。と、不動産屋さんと一緒に覗き込む。

京介「……なんじゃこりゃあ!!」

とんでもない桁の金額が記入されている。えっと、この点が百万だから……。

京介「なんでお前こんなに持ってんの!?」

桐乃「モデル代は趣味で消えてるから、これはほとんど印税ね。ほら、あたしってベストセラー作家だしぃ」

パねぇッス桐乃さん。

桐乃「あと、保険でこれ出してもいいって」

も一つ差し出されたのは名刺。

京介「こっちは?」

桐乃「あたしの担当編集者。小説家ってちゃんとした収入がないじゃん? だから身分を証明してもらうのに使ってもいいってさ」

京介「お前、随分と買われてるんだなあ」

桐乃「へへー、次回作もここで出すのが条件だけどね」

しかしこれなら、桐乃が契約者になった方が良いんじゃないか?

桐乃「妹だからダイジョーブ! だってあたしたち、ずっと一緒だもんね!」

と言ってた通り、謎パワーで審査は通った。不思議だね。




そこからは本当に忙しかった。

引っ越しの手続きから準備、住民票の移動や各種ライフラインの移設申し込み、その他各種の細々とした処理などをクリアしていき、気が付けばもう新居での生活がスタートさ!



『カンパーイ!!』

手に手にグラスを持ち、一斉に声を上げる。

桐乃「ここから新しい暮らしが始まるのよっ」

京介「まだ段ボール開け終わってないけどな」

あやせ「そこは追々やっていきましょう。時間はたくさんありますからね」

秋美「これでず~~っとイチャイチャできるね、京介!」

ブリジット「学校が遠くなったので、前より早起きしないといけないのだけは誤算でした……でも嬉しいです!」

麻奈実「わたし朝早いから起こしてあげるよぉ」

加奈子「さすが師匠! 伊達に年を」

麻奈実「なあに?」

加奈子「……なんでもないです」

沙織「いやあ、コレクションを厳選するのが実に大変でござった」

黒猫「早速、日向と珠希が遊びに来たいって言っていたわ。呼んでも良いかしら?」

桐乃「ほんとっ!? いや~、ひなちゃんもたまちゃんもしばらく会ってないケド、きっと可愛くなっているんだろうなぁ~」

黒猫「貴方には少し自重して欲しいわね」


京介「みんなテンションたけーな」

あやせ「そういう京介さんだって、笑っていますよ?」

京介「だって楽しいもんな」



嘘に嘘を重ねて無理矢理作り上げたこの新生活。

きっとこの先には色んな困難が待ち構えているだろうけど、一人じゃ太刀打ち出来なくても全員で力を合わせれば何とかなるよな。

そう、果てなき未来へと想いを馳せた。


桐乃「さあ、これからみんなで幸せになるわよっ!」






    終


こんばんは、以上となります。


今回は>>437さんの案で書いてみましたが、ちょっと無理やり感が強かったですね。

次は>>438さんの案で。桐乃の葛藤と解放かぁ……難しそう。


それでは、また~。

おつ
黒猫姉妹出してほしい


>>438

 おまけ 桐乃の葛藤と解放 編



あたしには好きな人がいる。

その人は、不器用だけどとても優しくて、普段はぶっきらぼうなのにあたしが本当に困っているとどんなコトをしてでも助けてくれる、結構なツンデレさん。萌え。

いつから好きになってたかなんて、もう憶えてない。昔は憧れてただけだったと思う。あたしにとって、その人はどんなアニメの主人公よりもヒーローだったから。

だけどある時、ちょっとした事故があって、その人はヒーローじゃなくなってしまった。当時仲の良かった近所のお姉さんにも酷いコトを言われた。だからあたしはその人と距離を開けるようになった。抱き始めていた淡い想いはどこかへと消えた、はずだった。

それでも、憧れか恋心からだったかもう忘れちゃったケド、小さなアピールはたくさんしてたと思う。全然気づいてくれなかったけどねw

そしてあの日。


――人生相談


あたしとその人を再び結びつけてくれた、起死回生の一発。

勉強も陸上も読モも、全部がんばって努力してトップグループを維持し続けてたあたしにだって、できないコトはある。そう、例えば人には言えないちょっとした「秘密」に関係してるコトとか。

だからあたしはその人に人生相談を持ちかけた。想像もしてなかったと思うあたしの秘密を打ち明けられたその人は、面食らってはいたけどバカになんてせず、ちゃんとあたしの話を聞いてくれた。協力するって約束してくれた。

そして、その人に言われた通りに行動したら、あたしの秘密を共有できる新しい友達ができた。そんな存在が自分にも作れるなんて思ってなかったから、とてもとても嬉しかった。


>>486

 おまけ 黒猫三姉妹 編



黒猫「ただいま戻ったわ。さ、遠慮しないで入りなさい」

日向「お邪魔しまーーっす!」

珠希「お、おじゃまします」

桐乃「きたあああああああああっ! うっひょおおおおお、たまちゃん可愛いいいい!」

京介「少し落ち着け珠希ちゃんが怯えてるだろ。二人とも、ここが俺たちの家だ。さ、みんな待ってるから上がってくれ」

日向「ねえねえキリ姉、あたしは可愛くないの?」

桐乃「ううんっ、そんなことモチロンないよっ! ひなちゃんだってとっても可愛い! 大きくなっちゃって、出るとこ出ちゃってても最高っ!」

日向「……ありがと。でも、後半はいらなかったかなー」

黒猫「良いから早く上がりなさい」


桐乃「おっと、こっちだよー。たまちゃん、お姉ちゃんとおててつないで行こうねぇ~。フヒッ」

珠希「……えっと」

黒猫「すぐそこなのだから要らないでしょう。少し自重して欲しいと言ったのに、全く」


沙織「やあやあ、お二人ともよくぞ参られた」

あやせ「こんにちは。やっぱり黒猫さんの妹さんだから、二人ともとってもキレイね」

日向「こんにちはっ、ありがとうございます! モデルをやってる人にそう言われたらとっても照れますね」

あやせ「あら、わたしの事を知っているの?」

日向「はいっ。雑誌でよく見ます!」

黒猫「殆ど面識がないでしょうから、二人ともまずは挨拶なさい」

日向「はいはーい! 五更家次女、日向、ピッチピチの高校一年生でっす! 理想の男性は高坂くんみたいな人です!」

加奈子「おお、なんだァ、オメー見る目あるじゃねーの。ま、京介はやらねーけどな」

珠希「姉さま、わたし英語であいさつができません」

黒猫「ブリジットの事? 大丈夫よ、彼女は日本語が非常に堪能だから安心して」

珠希「そうなんですか? 分かりました。えーと、五更珠希です。小学六年です。よろしくおねがいします」

ブリジット「うん、よろしくね~」

京介「折角だし俺たちも自己紹介しようぜ。まずは俺からな――」




日向「え゛。ブリジット、さんってあたしと同い年、ですか……?」

ブリジット「同級生なんだから敬語はいらないよー。よろしくね、日向」

日向「よ、よろしく……。おおう、なんだか絶望的に越えられない壁ってやつを目の当たりにしてしまったぜ。くっ、あたしの体型がちょっと平均より下なのは絶対ルリ姉の遺伝子のせいだっ」

黒猫「ククク、どうやら死にたいらしいわね。――そう、分かったわ。お望み通り縊り殺して上げる」

京介「やめろって。物理的に抹殺するのはお前らしくない、せめて呪いに留めておこうぜ」

日向「言いすぎましたァ、ごめんなさいっ」

黒猫「全く仕方のない子ね。珠希、あなたからは何かあるかしら?」

珠希「ふわぁ。みなさんとてもおきれいです。みなさんおにぃちゃんのお嫁さんなんですか?」

日向「あっ、それあたしも気になってた! なんで高坂くんこんなハーレムなの!? 実際どうなの!? ルリ姉とまた付き合い始めたとしか聞いてなかったからさー」

京介「あー……何と言えば良いのやら」

あやせ「わたしは京介さんの『婚約者』よ」

秋美「あやせちゃんのそれは、ただの設定じゃないか! あたしだって京介の彼女だよ!」

珠希「?」

日向「んんん? どゆこと?」


麻奈実「わたしはきょうちゃんの幼馴染で彼女だよ~」

加奈子「あたしがいっちゃん最初に京介とヤッたんだぜ。つまり初めての女ってワケ、そこんとこ間違えんなよ!」

珠希「??」

日向「Oh……」

沙織「それなら拙者は二番目の女でござるな。もっとも二番目で終わるつもりはありませんが」

桐乃「あたしなんか妹で彼女だもんね! これってもう順番とか突破してない? むしろ京介と同質の存在って感じ!」

珠希「妹なのに、彼女ですか?」

日向「……何だか踏み込んではいけない世界を垣間見てる気がする」

黒猫「ちょっと貴方達、妹に変な事を吹き込まないで頂戴。今日は私が京介の彼女でしょう?」

京介「もう手遅れだと思うぞ」

黒猫「……そうね。全く、こんなにいきなり秘密をばらしてしまうなんて、今後大丈夫なのかしら」

日向「ねえ、高坂くんってルリ姉と付き合ってるんだよね? 家庭教師の時もイチャイチャしてたし、こないだなんてお父さんに挨拶までしてたじゃん?」

黒猫「ふっ、こうなってしまっては仕方がないわね。日向、貴方が目撃したのはあくまで現世に於ける私の仮の姿。真実ではあるけれど、そこには一側面しか写してないわ」

日向「もうちょっと分かりやすく言ってよー」


珠希「つまり、お父さんにあいさつしてた時も、今みなさんとお付き合いしてるのも、全てがおにぃちゃんと姉さまの真実なんですね。これこそが契約に基づいた魂の形であり、永遠へと至る愛の情景です」

黒猫「そう言う事よ。珠希、成長したわね」

珠希「えへへ」

京介「おい黒猫、珠希ちゃん悪化してるじゃねーか」

日向「最近のたまちゃんはルリ姉の悪い所をどんどんと吸収しててさー。……じゃなくって!」

黒猫「京介も日向も聞き捨てならないわね。私のどこに悪の因子が存在しているのかしら」

日向「それは今いいから! なんでみんな平然としてるの!? 本当に高坂くんハーレム状態!?」

加奈子「ま、そーゆーこった。誰にもゆーんじゃねーぞ」

黒猫「勿論お父さんには絶対秘密よ?」

日向「こんなこと誰にも言えないよっ。あ゛ーー知らなきゃ良かった」

珠希「わたしも絶対言いません」

黒猫「そう。良い子ね」




秋美「じゃあさ! 話も終わったことだしみんなでゲームしよ! ゲーム!」

桐乃「あたしはたまちゃんとアニメが観たいな~。ね、たまちゃんメルル観たいよね?」

日向「あたしはブリジットにもっと話を聞きたいかな?」

珠希「わたしも芸能界のお仕事にきょうみがあります」

桐乃「う、アニメじゃ釣れないお年頃になってしまったのね……」

麻奈実「桐乃ちゃんだって半分芸能人みたいなものじゃないのかな?」

桐乃「モデルじゃちょっと違う気がするケド、それもそっか。ならたまちゃん、あたしがモデルについてのお話をしよっか?」

珠希「はい、聞きたいです」

あやせ「それならわたしも」

ブリジット「どんな話をすればいいかな。アイドルのことならかなかなちゃんの方が詳しいよ」

加奈子「おー、知らなくていい裏事情まで何でも教えてやるぜー」

沙織「声優とかの話題でよろしければ、拙者もそれなりに精通しているでござる」

黒猫「ならば私は作監の話でもすれば良いのかしら」


日向「あたしが聞きたいのはもっと別のことだよ。ブリジット、耳貸して」

ブリジット「ん? どうぞ」

日向「高坂くん……もう……とか……するの?」

ブリジット「……その質問には答えられません」

日向「えー、いいじゃん。やっぱあたしと同い年の子がもう済ませてるかとか、知りたいじゃない?」

加奈子「なんだヨ、内緒話かと思ったらエロい話か? それならあたしに任せなって!」

日向「ち、ちちちち違うし!」

麻奈実「加奈子ちゃん、メッだよ」

加奈子「えー、こいつだって高校生だろ? だったら問題ないって。ちっこいのはあっちで桐乃たちと話してるから聞こえないだろーしさ」

秋美「ブリジットちゃんはあまり下ネタとか得意じゃないしさ、それならあたしがこっそり教えてあげるよ!」

ブリジット「秋美さん!」

黒猫「待ちなさい。日向にはまだ早いわ」

加奈子「だーいじょーぶだって。猫が京介とヤッたのだって高校の時だったろー? なら同じじゃんか」

黒猫「んなっ」


京介「……混ざれない」

沙織「それなら珠希殿の方に参加されてはどうですかな?」

京介「こっちに居ない間にどんな話をされたか気になって、結局戻って来るオチしか見えないな」

秋美「京介は……だから、ブリ……ちゃんだって……から……エロよ」

日向「はーほーへえーー。ちらっ」

ブリジット「うっ」

加奈子「それに……たちみんな……そりゃもー……ワケよ。たとえばさ……」

日向「……」

京介「麻奈実、あれほっといて良いのか? 出来れば止めて欲しいんだが」

麻奈実「う、う~ん。こしょこしょ話ならいいかな、って」

沙織「京介氏が止めれば済むのではないですかな?」

京介「だってさあ、さっきから日向ちゃん、俺をすげえ目で睨んでるんだもん」

ブリジット「あはは、何を話してるんでしょうね」

黒猫「実の妹に房事をつまびらかにされているとしたら、これ程の恥辱は無いわね。せめて話半分に聞いて欲しいものだわ」

京介「俺なんか実の妹とアレしてるって知られる事になるんだぜ? それに比べたらマシだろうさ」

日向「…………」


秋美「――とまあ、こんな所かな!」

加奈子「あたしはもっと言いたいことあるぜ。京介はあれでコスプレ好きだし、何より眼鏡をかけた時なんて――」

京介「教育的指導!」

加奈子「あてっ。何すんだヨー」

麻奈実「そうだねぇ。きょうちゃんってあたしが眼鏡外してる時とかけてる時じゃ、明らかに反応が違うもんねぇ」

京介「麻奈実っ、お前まで乗ってどーするんだよっ」

ブリジット「……今度伊達眼鏡でも用意しよっかな」

京介「是非そうしてくれ!」

秋美「京介だって反応してるじゃん」

京介「いやいや秋美、よく考えてくれ。眼鏡をかけたブリジットだぞ? それってもう完全体じゃないか!?」

日向「……高坂くん」

京介「はいっ」

日向「高坂くんって、節操が無い変態だったんだね」

京介「お前ら、日向ちゃんに何を吹き込んだんだよ」

日向「あたしは高坂くんのこと、優しくて勇気があってカッコ良くて、そんな人がルリ姉の彼氏だと思ってたから友達にすごく自慢してたのに」

黒猫「『だと思ってた』とはどう言う意味かしら。正真正銘の彼氏よ」


日向「こんな見境のない外道だったなんて、ガッカリした」

加奈子「おっと、京介を悪くゆーのだけは見逃せねーなあ。確かにスケベで変態だけどよ、こいつはあたしらを本気で愛してくれてる」

秋美「京介は本当にスケベで変態だけど、今の関係はむしろあたしたちから望んでなった物だからね」

沙織「京介氏がスケベで変態なのは事実ですから拙者もそこは否定しませんが、皆、今の全員が対等な関係である事を気に入っているでござるよ」

麻奈実「きょうちゃんがすけべで変態なのは昔っからだしねぇ。でも今みんな幸せだよぉ」

黒猫「日向、私達は全員が納得して京介と交際しているのよ。だからそこを貶めるのなら、例え貴方でも許さないわ。ただスケベで変態なのは真実よ」

京介「庇うか貶すかどっちかにしてくれませんかね……」

ブリジット「あの、京介さんはとても優しい人だから、わたしたち全員を優しく扱ってくれてるよ。外道とか、そんなことは絶対ないから!」

京介「ブリジットだけは俺の味方だって信じてたよっ! あと眼鏡かけてくれっ」

ブリジット「きゃっ」

桐乃「あっ、さっきから様子が変だから黙って見てたら、何どさくさ紛れにブリジットちゃんに抱き付いてるのよ!」

あやせ「ズルいです。それなら『婚約者』であるわたしを抱きしめてください」

珠希「抱っこするならわたしもして欲しいです」

京介「おっと悪かったブリジット。ちょっとみんな落ち着こう、な?」


日向「はぁ~~~。これだけ全員に惚気られると、もう怒る気もなくなるよ」

京介「照れるなあ」

日向「高坂くんは反省して」

京介「すみません」

日向「途中まではお父さんに告げ口してルリ姉を無理やり連れ戻すことも一つの手段として考えたけど、それはやっちゃダメだって分かったからやらない」

黒猫「日向……」

日向「その代わり約束して。絶対にルリ姉を幸せにするって。今も幸せそうだけど、まだまだ足りない。もっと幸せにしてくれないと許さないから」

京介「そんなの日向ちゃんに言われるまでもないさ! 俺は全員を幸せにしてみせる。だから、勿論黒猫とだって一緒に幸せになってみせる! 見ててくれ!」

日向「全員とか、高坂くんにそんな甲斐性があるとは思えないんだけどなー。でも、そこまで言うなら分かった。期待せずに待っててあげる」

京介「ああ、ありがとな」

黒猫「日向、ありがとうね」

日向「ううん。あたしも酷いこと言ってごめんね」

京介「そんな事はないさ。日向ちゃんは至極当然の反応をしたまでだ。それに日向ちゃんは優しいからな、黒猫を心配してくれたんだろ? だったら俺は黒猫の彼氏として、逆にお礼を言わなきゃいけないくらいだ」

日向「お、おぉ」

珠希「……」

京介「だから、やっぱりありがとう」

日向「……うん。……ねえ、高坂くんって、こんなにたくさんの彼女が欲しかったの? もっと増やしたいとか考えてる?」

京介「え。今でも充分すぎるほど多いからなぁ。誰かを削るなんて絶対無理だけど、増やすのは考えた事もないな」

日向「……そっか」




桐乃「うーーん、この流れって」

あやせ「良くないよね」

秋美「最初の挨拶であんなこと言ってたしね」

麻奈実「まだ部屋は空いてるけど、でも、う~ん」

加奈子「これ以上増えてさらに順番が回ってくんのが遅くなるのはもうヤだぜ」

沙織「確かに、今でも土日を挟むと二週に一度の時もありますからなあ」

ブリジット「でも、ちょっぴり応援したい気持ちもあります」

黒猫「貴方達、先程から顔を突き合せて何をコソコソとしているのかしら?」

桐乃「なっ、なんでもありませんっ!」

黒猫「……非常に怪しいのだけれど」

珠希「おねえちゃんは前からおにぃちゃんがうちに来るととてもうれしそうでしたから、きっと好きなんだと思います」

加奈子「やっぱそーかー」

黒猫「ちょっと、なぜ珠希までそこに混ざっているの? ちゃんと私にも聞こえる声で話しなさい」


珠希「いくら姉さまでもそれは聞けません。これは刻印を刻まれた者のみが参加を許される、云わば魔女の夜宴。祝福されし聖天使の資格を有している姉さまでは、今この場に並ぶことは不可能なのです」

黒猫「……何て事かしら。いつの間にか神猫こそが私のあるべき姿であると看破されていたのね」

あやせ「会話の内容がまるで理解できない……」

京介「いやー、珠希ちゃんだいぶ拗らせてんなあ」

日向「最近はルリ姉が家に置いてった何とかノート? をずっと読んでて、増々酷くなっていってるんだよね」

黒猫「ふっ、ふふふ……良いわ。珠希がそこまで成長していたとは、私にとってはむしろ僥倖。ならば二代目黒猫を襲名させましょう。そして私は今日から黒猫の名を棄て神猫となる!」

京介「彼氏特権で却下だ」

日向「妹特権でも却下だよ」

桐乃「親友特権でも当然却下ね」

黒猫「なっ……なぜ!?」

京介「なんでそこまで驚くのか、こっちが逆になぜって言いたいわ!」

珠希「姉さま、待ってください。わたしはまだまだ修行が足りていませんから、今のわたしにその名前は重すぎます」

秋美「さっきからこの展開なんなんだろーね」

沙織「麗しき姉妹愛ですな」


黒猫「そう……。珠希がそう言うのなら、もう少し先に延ばしましょう。今の志を忘れず、弛まぬ努力を続けると良いわ」

珠希「はい!」

黒猫「みんな騒がせたわね。そう言う訳で、残念だけれど二代目黒猫の襲名披露は流れたわ」

ブリジット「あはは、残念、でした、ね……」

麻奈実「でもちょっと神猫さんは見てみたかったかなぁ」

加奈子「へっ、それでも猫は猫のまんまなんだな」

京介「俺は白猫の方が好きだなー」

黒猫「そ、それは、いつもの黒猫の姿よりも、と言う意味かしら?」

京介「いやいやいやいや、黒猫は黒猫で素敵だ! 白猫はたまにしか見られないから、新鮮で良いなぁ、とかそんなんだって!」

黒猫「そう……。分かったわ、それならば次回のデートでは白猫として降臨するわ。おまけで眼鏡のオプション付きよ」

京介「マジで!? やったぜ!」

日向「はぁ、ごちそうさま」

珠希「ごちそうさま!」




日向「こんにちはーーっ! また遊びに来たよーー」

珠希「こんにちは、おじゃまします」

京介「おう、良く来た……な……」

黒猫「貴方達……」

桐乃「キタワーーーーーキマシタワーーーーー! 眼鏡萌え! ダブル眼鏡! うっひょおおおおお!」

あやせ「き、桐乃……」

珠希「えへへ、レンズはないですけど」

日向「ど、どうかな? 似合ってるかな?」

京介「ああ、二人共とっても素敵だ! グッと来た!」

日向「そ、そおかー。グッと来たんだあ」

麻奈実「わたしたち普段から眼鏡かけてるのにね」

沙織「拙者のは少々特殊ですからなあ」

秋美「むう、負けれられないね、これは!」

加奈子「ケッ。今度眼鏡かけてユーワクしてやる」

ブリジット「……」

秋美「あっ、一瞬の間にブリジットちゃんが眼鏡かけてるし!」

ブリジット「えへ」

京介「うおおおおお、ブリジットーーー!」

日向「ちょ、ちょっと高坂くん! 折角用意したんだからこっち見てよ! こっち!」

珠希「おねえちゃん、がんばです!」







    終


こんにちは、以上となります。


俺妹ポータブル続をやり直したくなって来た。


それでは、また~。

乙です
これは日向ちゃんや珠希ちゃんが仲間入りするのを書いてくれるんですね


>>517

 if もしも日向と珠希が軍団入りを希望したとして、それを成功させるには 編



検証のための前提条件1:高坂京介は五更日向を異性として認識していない。妹みたいなものである。

反証1:ブリジットだって似たようなものだったじゃん? あと妹が駄目なら桐乃の存在は?

検証のための前提条件2:小学生はダメ。ゼッタイ。

反証2:まったく、小学生は最高だぜ!!



黒猫「ねえ、京介」

京介「おう、どーした?」

約束通り白猫で登場した彼女とのデートを済ませて、ネオン輝くうふふなホテルで夜の運動会をこなした後のピロートークをしていた時の事。

どうでも良いけど、みんなで一緒に住むようになって一番困ったのが、自室でエッチをするのが難しくなった事だ。一応俺の部屋だけ一階にあるという最低限の配慮はなされているけど、一つ屋根の下だと中々難しいよな。

本当にどうでも良かったな。


黒猫「最近の日向をどう思っているかしら?」

京介「何で急に日向ちゃん? まあ、成長して可愛くなったと思うよ」

黒猫「いえ、そう言う意味の質問ではないわ。ここの所、日向がグイグイ来てるでしょ。それについてよ」

京介「あー。うーん。あれは何だろうな? 姉の彼氏に興味があるのか? それとも、単に俺をからかって遊んでるだけとか」

黒猫「……これは駄目ね。日向には諦めて貰うしかないのかしら」

京介「よく分からんが、あまり厳しい事は言わないでやってくれな」

気付いてない訳がない。昔の俺とは違い、今の俺は数多の修羅場をくぐり抜け恋愛経験値を上げまくった近親相姦八又野郎だ。

それでなくても日向ちゃんの感情表現は豊かで、またそれを隠そうとしてないから丸分かりだった。

しかしあくまで彼女は黒猫の妹であり、それだけだ。日向ちゃんがどこまで本気なのかは不明だが、適当にあしらっていればいつかは熱も冷めて、近い年齢の彼氏を作るだろうさ。

黒猫「では質問を変更するわ。珠希はどう思う?」

京介「珠希ちゃんも可愛いよな。ただ、厨二病的素質を小六で発現させてるのは幾らなんでも早すぎるかな」

黒猫「あの子は素直だから、このまま真っ直ぐ成長していけば二代目黒猫を継げる日もそう遠くないでしょうね」

真っ直ぐか……? むしろ正道を全力で逆走してるような。


黒猫「ロリコンの京介としては、もしかして日向より珠希の方がストライクの可能性が微レ存?」

京介「いつになったら俺のロリコン疑惑は晴れるんですかね……」

黒猫「貴方は大学四年、ブリジットは高校一年。この意味が分かるかしら?」

京介「……ぐう」

黒猫「そう、ぐうの音も出ないのね」

いやいや、出しただろ!? 今出してたよね、俺!

京介「とまあ、冗談は置いといて。小学生とか有り得ないな。珠希ちゃんは絶対に無い」

黒猫「そう……」

なぜ少しだけ残念そうなんだろう。彼女の思考が読めない。俺の恋愛経験値もまだまだって事だな!




日向「ねえねえ高坂くん、これどう思う?」

京介「んー?」

ある日の事。遊びに来ていた日向ちゃんが差し出したのはティーン向けの雑誌だった。

日向「ほらここ、この写真見て」

そこには、いわゆる読者モデルが爽やかなポーズを取って写っていた。ふ、あやせや桐乃には比ぶべくもないな。

日向「この子たちってみんな高校生なんだ。みんな可愛いけど、あたしも負けてないと思わない? 思うよね?」

京介「ああ、みんな可愛いな」

日向「あたしより?」

京介「日向ちゃんだって可愛いさ。さすが黒猫の妹だけあって、将来美人になるのは間違いない、俺が保証する」

日向「そ、そお? へへへ、そっか~。あたしも可愛いか~」

加奈子「あからさまに誘導してんなー」

ブリジット「日向だって年頃の女の子だもん」


日向「おっとっと、そうじゃなかった。この子たち見てどう思う?」

京介「ん? だからみんな可愛いよ」

日向「そうじゃなくてー。ムラムラする?」

京介「……なんですと?」

日向「現役女子高生を見て、性的に、興奮しないかって聞いてるの!」

秋美「ほほう、これはまた随分と露骨なアピールで来たね!」

沙織「ブリジット殿も女子高生なのですが、さすがに女優と比べると分が悪いですかな」

京介「うーん……ずっとあやせや桐乃を見てたから、俺の目は相当肥えてると思う。読者モデルとしては可愛いけど最低でも二人と同等レベルにいないと、その、ムラムラまでは行かないな」

日向「そっか」

桐乃「えへへー」

あやせ「桐乃、すごい笑顔だね」

麻奈実「あやせちゃんもだらしない顔してるよぉ?」


日向「それじゃ、高坂くんの恋愛対象って何歳から?」

京介「むう。難しい事を聞いてくるな」

日向「ブリジットがいるんだから、最低でも高校一年は入るんだよね?」

ブリジット「わたしが京介さんと付き合い始めたのは中一の時だよ」

珠希「わたしも来年には中学生になります」

黒猫「早いものね。ついこの前まで小学生だと思っていたのに」

珠希「姉さま、わたしまだ小学生ですよ」

日向「なるほど、中学一年の頃から……。中学一年と付き合ってたの!?」

京介「……ぐう」

日向「反論できないってことは、中学生でも対象になるんだね。そっかあ」

京介「あー、ほら。好きになったら年齢は関係ないって言うだろ? だから俺は決してロリコンじゃない、たまたまブリジットが中学生だった、それだけなんだよ」

沙織「何とも苦しい言い訳でござるな」


麻奈実「でもきょうちゃんって、元々はおっぱい大きな人が好きだったんだけどなぁ」

加奈子「おっぱい大きくて眼鏡かけてて、あと黒髪ロングが好きなんだろ? って髪を伸ばした師匠ってマジラスボスじゃね?」

秋美「ぐぬぬ! あたしにあとちょっとおっぱいがあれば!」

加奈子「オメーの場合、あとちょっとじゃ全然足りねーだろー」

秋美「なんだい! かなちゃんだってぺったんこじゃないか!」

日向「なるほど、おっぱいの大きさが決定力かあ」

京介「いや、そう言う訳では」

あやせ「そっか、お姉さんの存在が京介さんの性的嗜好に強く影響を与えた可能性があるのね……」

桐乃「あたしだって髪を黒く戻せば――」

あやせ「だ、ダメだよ! 桐乃はそのままじゃないとダメ!」

黒猫「……私も成長が終わってしまったし、どうすればブリジットみたいな体型になれるのかしら」

ブリジット「分かりません。気がついたら勝手に大きくなってしまったので……」

黒猫「クッ――これが持つ者と持たざる者の覆せない差なのね」

珠希「大人になるのって大変なんですね」




日向「とりあえず高坂くんがおっぱい星人で、中学生相手でも平気な人だってのは分かった」

京介「え、まだ続けるの?」

日向「もっちろん! ねえねえ高坂くん、あたしのおっぱいどう? 好き? そそる?」

黒猫「止めた方が良いわよね」

桐乃「えー、面白いからもうちょっと見てようよ」

秋美「継続に一票!」

京介「……ノーコメントでお願いします」

日向「ぶっぶー! そんな情けない回答は受け付けていません。ちゃんと答えてくれないと、このまま胸を押し付けちゃうよ」

あれえ? 快活でおしゃまな子ではあったけど、日向ちゃんってこんなキャラだったっけ。成長したら変わるのか、それとも大胆になれる「何か」があるのか……。

日向「そんなに悩むほどかなあ。ほら、ちょっと小さいけど、張りはいいしぷにぷにしてて柔らかいよ? 触る?」

桐乃「触っても良いのっ!?」

珠希「桐乃お姉ちゃん、おねえちゃんのおっぱい触りたいんですか?」

桐乃「ああっ、そんな純真な目であたしを見ないでっ」

何やってんだか。


京介「生憎と俺には自由に出来るたくさんのおっぱいがあるので、間に合ってる」

……。

日向「ドン引きだよ高坂くん……」

あやせ「京介さん……」

桐乃「フォローしたいけど、今のは無理かな……」

加奈子「あたしはいつでもウェルカムだぜ」

秋美「あ、ならあたしも! あたしもオッケー!」

沙織「そこは無理に張り合わなくても良いと思うのでござるよ」

黒猫「張り合おうにも、それに足るだけの物が無いと……いえ、これは言わぬが華ね」

秋美「瑠璃ちゃんだっておっぱいぺったんこ同盟の一員なのに、何をゆってるんだよ!」

黒猫「なっ。私は少々慎ましやかなだけで、割と普通の筈よ。一緒にしないで頂戴」

ブリジット「黒猫さんはとてもキレイだし、バランスの取れた素敵なプロポーションだと思いますよ?」

加奈子「ブリジット、オメーがそれをゆってもイヤミにしかなんねーぞ」

麻奈実「きょうちゃんは胸の大きさで人を選んだりしないから大丈夫だよ~。ね?」

京介「そ、そうだな。俺は大きくても小さくても、どんなおっぱいでも好きだ! 大きければ夢が詰まってる! 小さくてもロマンが溢れてる! だから俺はみんなのおっぱいが大好きだ!」

……。

日向「さらにドン引きだよ高坂くん……」

あやせ「普通は? 普通はどうなんですか!?」

麻奈実「あやせちゃん、落ち着いて」

珠希「大人になるのって本当に大変なんですね」




日向「高坂くんがおっぱいなら何でもウェルカムで、中学生でもオッケーな人だってのは分かった」

京介「もうそろそろ終わりで良いんじゃないでしょうか」

日向「つまり、高坂くんの守備範囲は思ってたよりも広い!」

京介「聞いちゃいねえし」

日向「それって、あたしでもイケるってことだよね! ね、そうだよね?」

この喰いつき方、秋美にそっくりだなしかし。

加奈子と秋美はどこか似ている。秋美と日向ちゃんも何か似ている。つまり、加奈子≒日向ちゃんが成り立つ! いや、無いな。

桐乃「今日のひなちゃんはいつにも増してグイグイ来てるねー」

秋美「あー、あたしなんか分かるな~。あきらめてたのにさ、実は自分の入れる余地があるって分かったら、そりゃもう行くしかないじゃん?」

ブリジット「確かにそうですね。わたしもそんな感じでしたから」

日向「おーい、黙ってないで何か言ってよ高坂くーん」

さて、どうしよう。キッパリと拒絶するのは簡単だけど、それをやって日向ちゃんを傷付けたり、何よりもうここに来なくなるのは寂しいので避けたい。かと言って受け入れるのかと問われれば、それは無い。それに女子高生はブリジットで間に合っているし。いやいや、若いから良いって言ってるんじゃないからな?


ぷにょん、と俺の思考を中断する柔らかい感触が右腕を襲った。

日向「ねえどう? ルリ姉よりもずっと若くてピッチピチの肌だよ。これ結構恥ずかしいね」

黒猫「姉を貶めつつ肉体的接触を図るなんて、腕を上げたわね日向」

あやせ「そこ喜ぶ所なんですね」

ブリジット「それならわたしもー」

ぼよん、と左腕にも深く沈み込む感触が。

珠希「わたしもー」

ぺたん、と正面からぶつかってくる珠希ちゃん。

桐乃「あっ、ズルい! あたしもっ」

ドカッと桐乃が背中にのしかかって来た。

京介「ぐへ。おい桐乃、重いぞ」

桐乃「……女の子に一番言ってはならない言葉を言ってしまうなんて、万死に値する!」

言うと同時に桐乃は正面に回り込んで珠希ちゃんごと俺を抱き締めた。

珠希「桐乃お姉ちゃん、苦しいです……」

桐乃「あ~~~、天国はここにあったんだ~~~クンカクンカ」


沙織「いやはや仲が良くて結構ですな。記念に写真を撮っておきましょう」

あやせ「ならわたしは空いた背中に――」

加奈子「おっとー、そこはあたしのモンだぜ!」

あやせ「むむ」

後ろだから見えないけど、何やら二人が殺気を放ちあっているのが伝わってくる。

麻奈実「けんかは駄目だよぉ。だからここはわたしが取るね~」

あやせ・加奈子『あっ』

柔らかな身体が押し当てられ、麻奈実の両腕が俺の首に優しく回された。

麻奈実「えへへ~、きょうちゃん成分充填中だよ」

沙織「はいチーズッ」

珠希「苦しいです……」




日向「もー、折角アピールしてたのにブリジットが乱入するからメチャクチャになっちゃったよ」

ブリジット「あはは、ごめんね、つい」

日向「仕方ないなぁ。ここは気を取り直して……こほん。ねえねえ高坂くん――あれっ、いない?」

秋美「京介ならトイレに行くって言って逃げてったよ」

日向「こ、高坂くんのヘタレーーーー!」



本当にトイレに行ってただけなのに、リビングに戻った俺を待っていたのは仁王立ちで怒り心頭の日向ちゃんだった。

まだ珠希ちゃんにジャレついてた桐乃にチョップをしつつ、許しを請うてみたら。

日向「だったらあたしとデートして! あ、もちろん二人っきりでだよ」

考え方も秋美に似てるなぁ。おっと、あんまりこんな事を考えてたら日向ちゃんに失礼だな。ちゃんと一個の人間として扱わないと。

てな訳で日向ちゃんが行き先に指定したのは、千葉県が、いや日本が世界に誇るあの王国。

ブリジット「いきなりあそこはやめておいた方がいいんじゃないかなーって」

黒猫「私も同感ね。悪い事は言わないから、あそこはやめておきなさい。それが貴方の為よ、日向」

日向「分かった、二人がそう言うならやめとく。ちぇ、高坂くんと行きたかったなー」

京介「まあ、あそこは年中無休だし行こうと思えばいつでも行けるんだ。またの機会にしようぜ」

日向「うん、そうだよね、いつでも行けるよね! 楽しみに待ってるよ!」

桐乃「あ~あ」

あやせ「京介さんが考え無しに発言するのはいつものことだから」




結局、あそこに行きたいここに行きたいって揉めた挙句、決まったのは普通の動物園だった。

日向「えー、あたし動物見て喜ぶような年じゃないんだけど」

とか不満を漏らしていた日向ちゃんだったけど、

日向「すっげえええええ! あれ見て、ちょーでかい! うわ、鼻ながっ」

それなりに楽しんでいるようで何より。


そんなこんなで二人で色々と見て回り、あっという間に時間は過ぎ去っていった。

京介「大体全部見る事が出来たし、時間も頃合だな。そろそろ帰るか」

日向「えー、もうちょっと遊ぼうよー」

京介「そうは言っても、この辺で他に遊ぶ所ってあったっけな」

日向「とりあえず探してみよ」

二人並んでスマホで検索。

日向「これって所は無いねー」

京介「カラオケとかボウリングみたいなのだったら、たくさんあるけどな」

日向「ボウリングだとイマイチだなあ。カラオケなら密室だからもしかして……でも、決め手に欠けてるかなあ」

何やらブツブツ呟いてるけど、小さすぎてよく聞き取れなかった。

日向「…………」

京介「日向ちゃん?」

日向「……よし」

スマホの画面に目を向けたまま、手を動かさずに考え込んでいた日向ちゃんは、何かを決めたみたいで顔を上げた。

日向「高坂くん、うちで一緒に晩ご飯食べよっ」




日向「たっだいまー」

京介「お邪魔します」

正直な所、黒猫の親父さんとお袋さんとは究極に顔を合わせづらい。渋る俺だったが、日向ちゃんがどうしても手料理を振る舞いたいと退かなかったので根負けした。

珠希「おかえりなさい、おねえちゃん。と、あれ、おにぃちゃんも?」

日向「うん。今日は高坂くんに、ルリ姉直伝の料理の腕前を披露してやるのだっ」

珠希「そうなんですか。わたしもお料理できるようにならないとダメですね」

日向「たまちゃんもがんばってるし、だいぶ上手になってるよ。お母さんはまだご飯作り始めてないよね?」

珠希「お父さんもお母さんも、お昼頃に急にご用事が入ったので慌てて出かけました」

日向「ありゃ。ずっと一人で留守番してたの?」

珠希「はい」

京介「珠希ちゃんはしっかりしてるけど、最近は物騒だから気を付けてくれよな」

珠希「はい、任せてください」

日向「ん~、そうなるとあたしで全部作らないとダメかぁ。お父さんとお母さんは何時に帰ってくるか言ってた?」

珠希「遅くなるからしっかり戸じまりして寝なさいって言ってました」

京介「それはあまり良くないな。今日はうちに泊まるか?」

日向「むむ、チャンス到来? あーでも、あっちの家だとみんないるもんなぁ。ここは地の利を活かして……」

またも日向ちゃんがモゴモゴと口の中で呟いているが、例によって聞き取れなかった。


珠希「おねえちゃん、今日はわたしたちお泊りですか?」

日向「高坂くん!!」

京介「お、おう?」

日向「二人だけだと不安だから、今日は泊まっていって!」

京介「……それなら二人ともうちに来れば良いじゃないか。客間は……使えたっけな。まあ黒猫も居るし」

日向「そ、それは~。ほら、あたしって枕を変えると眠れないから」

京介「枕くらい持ってくれば良いんじゃないか?」

日向「今からご飯を作るから、食べてお風呂入ってからだと遅くなるしっ」

京介「まだ間に合うから、家に連絡して二人分多く作って貰えば済むさ。風呂だってあんまり広くないけどちゃんとあるぞ」

日向「……」

珠希「おねえちゃんから闇の波動を感じます。まさかこれは――暗黒面としての覚醒っ!?」

京介「ははは、珠希ちゃんは大袈裟だなぁ。日向ちゃんみたいな朗らかな子がそんなダークサイドなんて」

日向「高坂くん」

あれ、おかしいな、俺でも日向ちゃんの背中から黒いオーラが立ち昇っているのが見える。遂に俺も念能力に目覚めたか?

日向「い・い・か・ら・泊・ま・るっ!!」

京介「はいっ」

こうして一宿一飯の恩義にあずかる事となったとさ。レンタカーの延長しないとなぁ。




京介「ふぃ~」

日向ちゃんの料理は、まあ普通に食べられた。麻奈実や黒猫と比べたらどうしたって腕が落ちるのは仕方ないけど、もうちょっと練習すれば美味しくなりそうだ。料理出来ない俺が偉そうに言える立場じゃないけどな。

今は食後の風呂に浸かっている。着替えは親父さんのを借りる手筈となった。珠希ちゃんが律儀に電話して確認し、娘の安全を守ってくれるとはなんと頼もしい未来の息子だと感動されたようだ。こうして誤解の種が積み上がって行くんだな。

京介「しかし、日向ちゃんか……」

どうしたもんかな。慕ってくれるのはそりゃ嬉しいが、うーん。

日向「呼んだー?」

京介「おわっ!?」

ガチャリと脱衣所への扉が開き、バスタオルだけを纏った姿の日向ちゃんが現れる。慌てて顔を壁面に向けた。

京介「な、な、なにしてんのっ?」

日向「着替えを持って来たんだけど、声をかけても反応なかったのであたしも入ろうかと思って」

京介「全く意味が分かんねえ!」

日向「お風呂場なんだからそんなに大声だしたらご近所さんまで聞こえちゃうよ」

京介「む」


日向「ほらほら、背中ゴシゴシしてあげるから、上がって上がって」

京介「いえ、結構です」

日向「遠慮しなくていいから。あれだけ彼女がいて一緒に暮らしてるのに、一緒にお風呂入ってないなんて無いでしょ?」

京介「それは、まあ……。じゃなくて、日向ちゃんは恥ずかしくないのか?」

日向「べっつに~。高坂くんはあくまでルリ姉の彼氏だからねっ。あ、もしかして高坂くん恥ずかしいの? あれあれ~?」

困ったぞ。まさか日向ちゃんがこんな強硬手段に訴えてくるとは思わなかった。

日向「ダメだよー。いくらあたしが魅力的だからって、彼女の妹に欲情するのは変態すぎるよ?」

近付いてきた日向ちゃんに腕を引っ張られる。

日向「ほら、洗うから早く出てってば」

京介「いえ、結構です」

日向「たまちゃん呼んじゃうよ?」

京介「それはマジで勘弁して……」

日向「じゃあ勘弁してあげるから観念して」

上手いこと言った、みたいに得意気な顔を作る日向ちゃんは可愛かった。


はあ、仕方が無い。さっき日向ちゃん自身が言ってたじゃないか、相手はあくまで交際相手の妹。だからこれはただのスキンシップ。いやらしい事なんて無い。うん、オーケイ。

俺は日向ちゃんに背を向け立ち上がると、手早くタオルで股間を隠しながら湯船から出た。

日向「はいはい洗っちゃうよ。ここに座ってー」

京介「ああ、頼むわ」

こしこしとスポンジが俺の背中を擦っているが、おそらく珠希ちゃんでも洗う時のやり方なんだろうな、少し物足りない。

京介「もっと強くしてくれても大丈夫だぞ」

日向「そうなの? んしょ、んしょ」

しかしこれ人様には見せられないな。日向ちゃんは可愛いから、きっと彼女を好きな男子とか居るだろう。このシーンを目撃したら屋上めがけてダッシュしそうだ。

日向「にゅふふ、やっぱ男の人って背中大きいね。たまちゃんとは大違いだよ。はぁー、大変たいへんたい」

京介「おい、変な所で言葉を切るな。まるで俺が変態みたいじゃないか」

日向「高坂くんがスケベで変態だってのは、みんなが口を揃えて証言してたじゃん? だから変態なのは揺るぎない事実なのです」

京介「ったく、俺みたいな紳士を捕まえて何て言い草だ。それならその変態に自分から背中を流させてくれって言ってきた日向ちゃんはもっと変態だな」

日向「……」

あれ、軽口の応酬を繰り広げてたつもりなんだけど、日向ちゃんは黙り込んでしまった。言い過ぎたか?


しばらく、日向ちゃんの息遣いと俺を洗う音だけが浴室内に響く。

京介「あのさ、さっきのは――」

日向「高坂くんはさ」

沈黙に堪りかねて失言の謝罪をしようと思った矢先、日向ちゃんが俺の台詞を遮るように口を開いた。

日向「こんな風にお風呂に押しかけてきて、男の人の背中を洗ってるあたしをどう思う?」

京介「え……」

日向「昔キリ姉のことをビッチさんって呼んだことあるけど、今のあたしの方がよっぽどビッチだよね」

京介「そんな事はないさ! 日向ちゃんは、大好きな姉と交際してる男の事を見極めようとしてるだけだ。そこに不純な気持ちは無い。だろ?」

日向「そんなことあるよ。あたしは珠希みたいに純粋じゃない。好きな人がいたら、その人を知りたいって思うし、エッチなことをしたいって思う、普通の女の子だよ」

京介「……」


日向「――はい、背中終わりっ」

どんな反応も逆効果になる気がして動けないでいると、日向ちゃんは手を止めて、風呂桶で湯を汲み取り俺の頭からザバッとかけた。

京介「ぷわっ」

日向「ひひひ、変な声~」

京介「何も頭からいかなくても良いだろ」

日向「よっし。それじゃー」

背後で布の落ちる音がしたと思いきや、後ろから柔らかい「何か」が覆いかぶさって来た。

京介「お、おいっ、何してんだ!?」

日向「うわー、これって本当にビッチくさい。こんなの学校の友達にも言えないよ~」

京介「絶対言うなよ!?」

日向「だから声大きいって。たまちゃんが来たらどうするつもりなの。ではこちらも洗いましょっかね~」

探り探り動かされていた日向ちゃんの手が、俺の股間のタオルを掴む。

平常心、平常心だ俺。こう言う時は素数を数えれば良いと聞いた事がある。よし!


京介「って平常心なんぞ無理に決まってるわああーー!」

日向「わあっ」

勢い良く立ち上がった俺は、つんのめったらしい彼女を見ないように注意しつつ浴室の出口に向かう。

日向「えっ、待って」

京介「黙らっしゃい小娘。未通女の分際でそんな大胆な行動はお兄さんが許しません! 風呂から出たら教育的指導だからな!」

日向「え~~」

京介「返事は『はい』だっ」

日向「……はい」

京介「よろしい。ではまた後でなっ。ああ、あと、背中流してくれてありがとな」

日向「……うん」




珠希「お風呂どうでした?」

京介「あー、良かった、かな」

珠希「それは良かったです。ところでおねえちゃんを見てませんか? さっきからどこにもいないんです」

京介「なんか、風呂から出る時にうひょおー、とか聞こえたから近くに居るよきっと」

珠希「もしかして一緒に入ってたんですか?」

京介「ははは、珠希ちゃんはユーモアのセンスがあるなあ」

珠希「わたしは姉さまを目指しているので、ユーモアよりも闇の眷属としての才能が欲しいです」

京介「出来ればそれは目指して欲しくなかったなー」

珠希「……ダメなんですか?」

うっ。うるうるとした瞳で俺を見上げる珠希ちゃん。これはヤバい。何がヤバいって可愛すぎてお持ち帰りしたくなる! 性的な意味ではなく。

京介「駄目な事なんてないさ。俺は黒猫も白猫も神猫もそれ以外も、全てを含めた五更瑠璃という女の子を好きになったんだ。だから珠希ちゃんが選んだその道だって、いつか花開く時が来る」

それ以外と言えば一度だけ「ククク、貴方が私を捨てた時に、復讐の天使である『闇猫』が全ての愛を破壊するわ。出来ればそんな未来が訪れないようにして頂戴」とか言われた事があるな。闇猫、聞くだに恐ろしい存在だぜ……。

俺が黒猫への愛を再認識している間、珠希ちゃんはジッと何かを考えていた。闇の……とか呟いてた気がする。



なぜか珠希ちゃんに催促されて、黒猫が実家に遺して(隠して)いたらしい運命の記述(デスティニー・レコード)を彼女と一緒に読む。相変わらず難解で、何が書いてあるのかサッパリ分かんね。

日向「……なんで二人でルリ姉の秘密ノートを読んでるの?」

珠希「あ、おねえちゃん」

京介「よう、小娘。ちょっとこっち来い」

日向「ええ~~」

京介「来なかったら、今度から『ひなビッチちゃん』って呼ぶぞ」

日向「それは嫌だよ!? 分かったよ、もおー」

おずおずと近付いてきた日向ちゃんに、最近のマイブームである脳天唐竹割りをお見舞いする。勿論手加減はしてるぜ?

日向「いたっ」

京介「これは教育的指導である。今後みだりにあの様なアレを行う事を禁ずる」

日向「……淫らになら良いの? あたっいたっ」

京介「全然懲りてねーな。やっぱひなビッチちゃんは違うわ」

珠希「ひなびっち?」

日向「ほらあー、たまちゃんに変な言葉を教えないでよー。だからそれは禁止っ」


京介「なら反省しとけ。そしたら前みたいに呼んでやるさ」

日向「ちぇ~。高坂くんはいけずだなぁ」

京介「反省してないみたいだし、もう一発いっとくか」

日向「したっ、反省しましたっ」

振り上げた片手をゆっくり降ろして、そのまま日向ちゃんの湿った髪の毛を優しく撫でる。

日向「あ……」

京介「叩いて悪かったな。さっきのアレは忘れるから、無かった事にしてまた元通りにしようぜ」

日向「……え……」

珠希「さっきまで楽しそうだったのに、どうして今おねえちゃんはそんなに泣きそうな顔をしてるんですか?」

日向「も、もぉ~。たまちゃんは変なことを言うね。あたしはいつでも笑顔だよ」

珠希「……」



京介「さってと。二人はいつも何時頃に寝てるんだ? まだ結構時間あるよな。何して過ごそうか」

珠希「わたしはいつも10時くらいに寝ます」

日向「あたしはまあ、適当に。テレビ観たり雑誌読んだり、たまに勉強してるかな」

京介「そっか。じゃあ珠希ちゃんが寝る時間まで、テレビでも観るか?」

珠希「おにぃちゃん、運命の記述がまだ途中ですよ」

京介「……そうだったな。それじゃ続きを読むか」

珠希「はい!」

その後、呆れた様子の日向ちゃんに見られながら、一緒にノートを読み、闇の儀式とやらに付き合わされた。若干疲弊した。



深夜になり、それぞれ自分の部屋に戻って行った日向ちゃんと珠希ちゃんを見送った俺は、リビングに敷かれた布団を横目にソファに腰掛け直して深夜番組を眺めていた。

今の五更家は社宅のため空いた部屋が無いようで、それなら一緒に寝ようよと提案するひなビッチちゃんはチョップで撃退した。

彼女不在の彼女の実家に泊まるなんて、そうそう無い経験だよな。ま、今の俺は可愛い妹を守るガードマンだ。せいぜい気張って起きているとしよう。



で、目が覚めると、なぜか両側から二人に抱き付かれた状態だった。

見計らったかの様なタイミングで帰宅したご両親にバッチリ目撃されたけど、瑠璃の妹にまでこんなに懐かれて五更家は安泰だな、とか訳の分からない事を言って破顔していた。それでいいのか五更家。




日向「ねえねえ高坂くん、これどう思う?」

京介「んー?」

ある日の事。遊びに来ていた日向ちゃんが差し出したのはまたもティーン向けの雑誌だった。

日向「ほらここ、ここ読んで」

そこには「年上の男性に片想いした時の対処法 ~彼を落とす18のテクニック~」との特集記事があった。

京介「……」

無言で突っ返す。

日向「えー、ちゃんと読んで感想聞かせてよ。どう、これとか効きそうじゃない?」

日向ちゃんはあれからも全然めげてなかった。黒猫の妹なのに、なんでこんなに打たれ強いんだか。

沙織「ほうほう、テクニック其の三『押してダメなら引いてみよう! 恋のかけ引きはヒット・アンド・アウェイ』でござるか」

日向「うわっ、ビックリした。……どうですか、沙織さん。あたしが急に来なくなったら高坂くんは寂しくなって会いに来てくれると思いません?」

沙織「どうですかな……。京介氏は能動的な方ではありませんので、引いたらそれで終わりになる可能性もあるやもしれませぬ」

日向「えー、それはヤだなぁ」


麻奈実「でもきょうちゃんは底抜けに優しくてお人好しだから、なんだかんだで心配して様子を見に行くかも?」

加奈子「なーんか面白そーな話をしてんなァ。あたしにも読ませてくれよー」

ブリジット「あ、わたしも読みたい」

たちまち集まって来た女性陣が雑誌を取り囲んであれやこれやと話し始める。

秋美「これは? 京介の性格を逆手に取って、悩みを相談しながらデートを繰り返すの。そんでさ、あなただけが特別なの感を出していくとかさ!」

あやせ「シンプルだけど、この共通の話題を持つっていうのは大事だと思う。例えば……京介さんのシスコンを利用して、珠希ちゃんの相談をしてみるとか」

黒猫「ここの、言葉遣いを正す、と言うのは京介には当て嵌まらないわね。私達の中でも正常な言語感覚を持っているのはあやせとブリジットくらいではないかしら」

桐乃「けっこー過激なコトも書いてあるよね。最後のコレなんか『それでもダメなら既成事実を作っちゃえ!』だしね。酔わせて襲って~、とかさ。うっはー、こんな記事まであるんだ」

加奈子「あたしがそんな感じだったなー。でもあん頃はまだ童貞だったから通用したと思うけど、最近は余裕あっからヤり棄てされて終わりとかになると目も当てらんねーぞ?」

ブリジット「京介さんはそんな無責任な人じゃないよ! 一度関係を持ってしまえば、最後まで責任を持って優しくしてくれるよ」

加奈子「わあってるって。ジョーダンだから怒んなヨー」

日向「なるほど……やっぱり既成事実しか……」

麻奈実「みんな、珠希ちゃんもいるんだからあんまりえっちな話をしちゃだめだよ。きょうちゃんは優しいから、やっぱりすとれえとに告白するのが一番だと思う」

沙織「確かに、ブリジット殿もそれで成功しましたから、同級生の日向殿が上手くいく可能性はありますな」

日向「ふむふむ。最後は王道かあ~」


俺の目の前で俺をどうやって攻略するか相談を重ねる彼女たち。取り残された俺と珠希ちゃんは、ただそれを外から眺めるしか出来なかった。

京介「珠希ちゃん、あっちで俺と遊ぶか? お姉ちゃんたちの話はしばらく終わりそうにないし」

珠希「わたしだって女の子ですから、恋のお話にはきょうみがありますよ?」

京介「なん……だと……」

かつてない程の衝撃に見舞われる。天津飯がナッパに片腕を落とされた時や、るろうに剣心で神谷薫のあのシーンを読んだ時のそれを軽く凌駕する。どんだけショック受けてんだよ俺。

珠希「わたしもちゃんと考えました。姉さまみたいになるには、やはり姉さまと同じく闇の伴侶を見付けなければいけないのだと気付きました」

その間も、とつとつと珠希ちゃんは語る。

珠希「でも、闇の伴侶を見付けるのはとても難しいです。そしてわたしは世界の真実に辿り着いてしまいました」

京介「……」

珠希「見付からないのでしたら、すでに『居る』人でいいんじゃないのかな、って」

まさか、既に珠希ちゃんには好きな人が!? いやいや落ち着け、クールになれ。珠希ちゃんだって小学六年だ、好きな人がいたっておかしくない年齢だ。

珠希「幸いにも闇の獣であるおにぃちゃんはたくさんの彼女さんを作っていますから、わたしがそこに加わっても問題がありません」

……ん?

珠希「黒猫も神猫も受け入れられるおにぃちゃんは、まさに永遠を誓う伴侶に足る存在。だから――」

ソファに腰掛けていた俺の横に居た珠希ちゃんは、そのまま背を伸ばして俺の頬に軽く接触した。


珠希「これで『契り』は結ばれました。これ以上の『呪い』が欲しければ、次はおにぃちゃんからしてください」

クール、つまり冷静。そう、俺は紳士でありジェントルであるからして、例え小学生からキスをされたからって本気にはしない。これはただのおままごと、うん、そうだね。

珠希「わたしは本気ですよ? 伝わらなかったのでしたら、もう一度するしかないです」

再び接近してくる珠希ちゃんを回避するため勢い良く立ち上がった所で気付いた。全員から見られている事に、だ。

……。

京介「あの、違います。誤解です」

あやせ「そうですか。他に言い残したいことはありませんか?」

桐乃「ズルい! 次にキスするのはあたしっ! ほらたまちゃん、お姉ちゃんにちゅっとしちゃって!」

加奈子「そっちかよ!」

沙織「きりりん氏はブレませんなぁ」

麻奈実「小学生相手は……人としてやっちゃいけない範囲を逸脱しすぎてるよ」

秋美「誤解って言ったって、あたしたちキスしてる所バッチリ見ちゃったし!」

ブリジット「わたしは何とも言えません……」


日向「まさか珠希に先を越されちゃうなんて。あたしだって、まだそこまではやってないのに~」

黒猫「『まだそこまで』? 『もうどこまで』なら済ませているのかしら。詳しく教えなさい」

珠希「この間、一緒にお風呂に入っていましたよ?」

日向「あ、こらっ」

よし、逃げよう。

どこか遠く、誰も居ない平穏な世界を目指し俺は旅立つ。

あやせ「どこへ行くつもりですか? 何があってもわたしはお供するって誓ったのを忘れたんですか?」

旅立ちは失敗した。

両脇をあやせと麻奈実に抱えられ、連行される先は弁護士の居ない裁判所か、はたまた地獄の断頭台か。

唯一味方をしてくれそうな可愛い小悪魔たちは、ニコニコと俺を見送るのみであったとさ。





    もしも日向と珠希が軍団入りを希望したとして、それを成功させるには

    → 先住嫁に認めてさえもらえれば、後は押せ押せで可能性があるかもしれませんね?





       終


こんばんは、以上となります。


京介が二人を受け入れる未来は来るのでしょうか。


それでは、また~。


 おまけ ヤキモチと嫉妬と独占欲 編



お題:誰が一番ヤキモチ妬きか


加奈子「そりゃ、やっぱあやせじゃねーの?」

黒猫「異議無し」

あやせ「えー、そんなことないって。わたしより桐乃の方がヤキモチ妬きだよ」

桐乃「え、あたしってサバサバしてない?」

沙織「きりりん氏は京介氏を馬鹿にされると猛烈に怒りますな」

麻奈実「きょうちゃんを悪く言っていいのは自分だけ、みたいな感じかなぁ」

秋美「ほめても怒るよね」

ブリジット「京介さんの素敵な所を知っていいのは自分だけ、みたいな感じですか?」


日向「ルリ姉もこれで結構嫉妬深いよ?」

珠希「一度おにぃちゃんとお別れした時も、ずっとおにぃちゃんとまたお付き合いできるって信じていました」

あやせ「そう言えば、アパートで黒猫さんと初めて対面した時なんて、ものすごく独占欲を剥き出しにしていましたね」

黒猫「あやせ、それは諸刃の剣よ」

加奈子「どーゆー意味だ?」

沙織「簡単に言うと、お互い様、ですかな」

桐乃「RPGで言うと、敵に攻撃したら自分もダメージを受ける武器ね。つまり『そのセリフそっくりそのまま返すぜこの泥棒猫』って感じかな?」

秋美「ああ、瑠璃ちゃんって時々京介に愛を語って、自分のゆった言葉でダメージを受けてるもんね!」

ブリジット「その場合、京介さんはダメージを受けてないからちょっと違うような気も」

日向「ルリ姉は基本的に自爆が多いよ」

麻奈実「まとめると、あやせちゃん、桐乃ちゃん、黒猫さんの三強になるのかな?」

沙織「対抗意識を燃やす、という意味では加奈子殿やブリジット殿、秋美殿も当て嵌まりますかな」

黒猫「あやせは事ある毎に『最初に付き合っていた』だの『婚約者』だのと口に出すから、対抗意識も相当強いわよ」


あやせ「そ、それなら黒猫さんだって」

黒猫「あら、私は貴方に告げた事がある筈よ。私は京介が桐乃とセックスをしたとしても気にしない。それを含めて全てを受け入れると。まさか現実になるとは思っていなかったけれど」

桐乃「ちょっとあんた、そんなコトあやせと話してたの!?」

黒猫「ええ。何かおかしいかしら?」

桐乃「割と全部おかしい」


加奈子「そー言えば、あやせがアパートで新妻ごっこしてる時なんてひどかったぜ。差し入れ持ってっただけなのに門前払いされたしよー」

日向「あー、あたしも一回だけルリ姉に頼まれて様子を見に行ったことあるよ! その時はあやせさんがシャワー上がりで、そりゃーもうエッチした後みたいに見えたもん」

ブリジット「なんで日向が様子を見にいったの?」

あやせ「あの時は、お姉さんと加奈子と黒猫さんと沙織さんが京介さんのお世話役を取り合ってて、それで桐乃がものすごい剣幕で怒っちゃったのよ。『京介の邪魔をするな!』って感じで」

沙織「懐かしい話ですな。その後きりりん氏の要請で、当時京介氏の事を大嫌いと公言していたあやせ殿が世話役に指定されたのでござるよ」

日向「へぇ~、へぇ~。嫌いって言ってたのになんで付き合い始めたんですかっ?」

秋美「そこら辺ならあたしも聞いたことあるから知ってるよ。口では嫌いって言いながら、実はもうずっと大好きで、ガマンできずに自分から告白しちゃったんだよねー。うわー、恋してるっ!」

あやせ「あ、あれは……。京介さんが悪いんですよ、わたしにウソをつくから。だからわたしもそのウソに乗らざるを得なかったと言いますか……」

日向「高坂くんがウソをつくの? 聞いたことないけどなあ」

桐乃「あー」


あやせ「京介さんは、わたしにばかりウソをついたりセクハラしたり、結婚してくれって言ってきたり。そう、わたしに『だけ』!」

麻奈実「あやせちゃんの独占欲はもう自然に身に付いちゃってるんだねぇ」

珠希「わたしもおにぃちゃんにプロポーズして欲しいです」

黒猫「さる筋からの情報によると、京介はあやせの声を聞くと頭がおかしくなるらしいから、他の者では難しいかもしれないわね」

日向「それって、あやせさんの真似をすればあたしにもセクハラしてくれるってことかな?」

加奈子「よっしゃ、試してみよーぜ」



桐乃「お兄さんっ」

京介「……おう」

加奈子「おにーさん」

京介「怪しい呼び込みみたいだな」

日向「おにーいさんっ」

京介「さっきから何の遊びなんだ?」

秋美「お兄さん、あたしといいことしよぅ?」

京介「だからその呼び込みみたいなのはやめろって」

ブリジット「お、おにいさん……?」

京介「合格!」

珠希「おにぃさん、通報しますよ?」

京介「やめてえええーーー!」




加奈子「ケッ、成功したのはブリジットだけかよー」

麻奈実「珠希ちゃんに通報されるって思って、きょうちゃんしょっくで寝込んじゃったね」

珠希「ごめんなさい……」

あやせ「いいのよ、珠希ちゃんは何も悪くないから」

黒猫「ええ、あの男こそが全ての元凶。純真な珠希を誑かすなんて許せない」

日向「あの、あたしの心配はしてくれないのかなー、って思ったりして」

黒猫「日向、貴方は強い子よ。挫けずに頑張りなさい」

日向「なんか納得いかない」

ブリジット「まあまあ。黒猫さんは日向のこともちゃんと見てくれてるから大丈夫だよ」

秋美「くぅ、これが勝者の余裕ってやつかあ!」

桐乃「それにしても、実の妹であるあたしに対してあの反応は淡泊すぎない? あれじゃ兄貴失格よ!」

沙織「拙者も妹属性を持っているはずなのですが、何しろこの身長ですから」

加奈子「そんならあたしだって妹だし」

桐乃「加奈子はねぇ。無理があるってゆーか。うん、無理」

加奈子「あんだよ、本当の妹なのに真っ先にダメだったヤツに言われたくねーな」


あやせ「そもそもわたしの真似をしたって京介さんはセクハラしてくれるかなぁ。最近は全然セクハラしてくれなくなったし」

秋美「あやせちゃん、まるでセクハラして欲しいみたいだね」

あやせ「そっ。……そんなことは、ありません、よ?」

黒猫「目を逸らしながら言っても説得力は皆無よ。大体が京介との関係にあってセクハラが成立するのかしら」

麻奈実「そこはぁ、やっぱり嫌だって感じたらせくはらになるんじゃないかなぁ?」

ブリジット「でも、わたしたちって大抵、セクシャルな要望をされると受け入れてしまってるような……」

沙織「そんな事はないでござるよ。かなりの変態スキルを必要とする行為を求められた時はきっぱり断っております」

日向「た、例えばっ!?」

桐乃「その、お、お尻……トカ……?」

珠希「?」

黒猫「珠希、耳を塞いでなさい。聞いたら耳が腐って落ちてしまうわよ」

珠希「そうなんですか? はい、これでもう聞こえません」

加奈子「へっ、オメーらまだまだだなァ。京介との変態プレイであたしに勝てるヤツなんていねーだろ」

秋美「むっ! そんなことないよ、あたしだって結構やるよ! 例えばさ――」

加奈子「甘いね! あたしなんて――」



ブリジット「……そんなことまで」

沙織「まさか、眼鏡にそのような使い道があったとは、拙者もまだまだでござったな」

あやせ「京介さんがみなさんとそんなことをしてたなんて……。これは負けてられません!」

麻奈実「きょうちゃんには後で怒っておかないと駄目みたいだね」

黒猫「クッ、そんな屈辱的な体勢、私には不可能だわ……でも魂の絆を深めるためには……」

桐乃「……こうなったら禁断のアレに手を出すしかないわね。正直、あたしにもできるかどうか分かんないケド」

日向「キリ姉、禁断のアレって何ナニ?」

桐乃「モチロン、究極の愛がないとできないプレイよ。ズバリ、す」

沙織「ていっ!」

黒猫「はああっ」

あやせ「桐乃っ!? 大丈夫!?」

桐乃「きゅう」

沙織「危機は去りましたな」

黒猫「ええ、まさに間一髪だったわね。越えてはいけないラインと言う物があるのを、後でしっかりと教育しておかないと……京介に」

ブリジット「なんだったのか、とても気になります」

加奈子「知らなくていーんじゃねー? ロクなもんじゃなさそーだし」

珠希「姉さま、まだ耳を閉じてないとダメですか?」




麻奈実「なぜかえっちの暴露大会になっちゃったねぇ」

ブリジット「とても、とても勉強になりました!」

日向「実は半分くらいしか分からなかったかも」

加奈子「さっさとテキトーな男つかまえて処女捨ててくればー?」

日向「えっ、それは嫌だよ、初めては高坂くんがいいよっ」

桐乃「その気持ちは分かるケド……」

黒猫「日向、貴方の気持ちは理解できるわ。でも、京介が貴方を受け入れてくれる可能性は低いと思う」

秋美「んとさ! あたしの時は再会して告白してから、彼女にしてもらえるまでに半年近くかかったんだよ。だからあきらめないでアタックし続けるのもいいと思うよ!」

あやせ「そんなに長くかかりました?」

秋美「うん、10月から翌年の4月までかかったかな~」

沙織「秋美殿の不屈の闘志と強靭な精神には見習うべき部分が多々ありますな」

日向「秋美さん、ありがとうございます、あたしがんばります! ルリ姉、いくらルリ姉に言われたってあたしあきらめないよっ」

黒猫「そう。ならば全力を尽くしなさい。生半な覚悟ではあの男には届かないわよ」


麻奈実「きょうちゃんは優しいから本気でお願いしたら付き合ってくれるかもしれないけど、それだけじゃきっと続かないよ?」

桐乃「京介に愛し続けてもらうためには、こっちの愛も同じだけ必要だケド、やっぱり良い女であるために磨くコトも続けないとね」

加奈子「あたしは練習を欠かしてねーぜ」

ブリジット「かなかなちゃん、すごい努力家だもんね。わたしも負けないようにしないとっ」

秋美「うぅ、自分磨きはあたし何もやってないよ……」


珠希「ただいま戻りました」

桐乃「あれ、たまちゃんどこか行ってたの? おトイレ?」

珠希「おにぃちゃんのお部屋にお見舞いに行ってました」

沙織「京介氏の様子はどうでしたか?」

珠希「ベッドの上でうんうん唸っていましたから、頭をなでて、ちゅーをしておきました」

あやせ「むっ」

麻奈実「あやせちゃん、小学生相手でも嫉妬するんだ。可愛いねぇ」

日向「たまちゃん、ちゅーってほっぺにしたんだよね?」

珠希「いいえ、お口に」

加奈子「オメー、なに勝手にやってんだよ」


黒猫「珠希、貴方は先日、より強い呪いをかける場合には京介からするように言っていたわよね。チグハグじゃないかしら?」

珠希「姉さま、それは違います。今回は契りでも呪いでもなく、あくまでお見舞いなのです。だからセーフです」

日向「お見舞いなら口にキスをしてもセーフ……よしっ」

秋美「あ、日向ちゃんが猛ダッシュ! ――したと思ったら捕まっていた!」

桐乃「ふっ、あたしの俊足から逃げられると思わないでね」

日向「キリ姉、はーなーしーてー!」

ブリジット「珠希ちゃん、寝てる間に男子とかにキスされたらとても嫌だよね? だから、寝てる人に勝手にキスしたらダメだよ?」

珠希「はい、分かりました。それは嫌なのでもうしません。ではおにぃちゃんを起こしてごめんなさいして、改めてちゅーしてきます」

あやせ「ふふ、珠希ちゃんは素直で良い子だね。でも、ダメだよー?」

珠希「姉さま、あの、あやせさんから強大な闇の波動を感じます」

黒猫「珠希、そこまでにしておきなさい。これ以上は憤怒の悪魔の封印が解かれてしまうわ」

珠希「……はい。残念です」

沙織「憤怒の悪魔。つまり悪魔王サタンですな。成程」

あやせ「誰がサタンですか。わたしはこんなにも平和主義者だと言うのに」


加奈子「だーれが平和主義者だってか」

あやせ「加奈子、何か言いたいことがあるの?」

加奈子「おーこわ。べっつに~」

麻奈実「あやせちゃんはとても優しい人だよね。……きょうちゃんと桐乃ちゃんが絡まなければ」

あやせ「確かに京介さんに対しては、ほんのちょっぴりだけキツイ態度を取っていた時期もありましたけど、今は京介さんと結ばれてとても満たされていますから、そんなハイキックとかはもうしません」

秋美「フラグが立った!」

日向「てゆーか、よく高坂くんもハイキックとかされてあやせさんと付き合おうと思ったよね」

あやせ「そこはほら、やっぱりわたしたちには『愛』があったから」

黒猫「今とてもイラッとしたわ」

桐乃「京介があたしに、自分が認めない限り彼氏には渡さないって言ってくれたのだって今にして思えば愛だよね。特大の愛」

日向「えっ、キリ姉て彼氏いたの!?」

桐乃「ううん、京介だけだよ。最初で最後の恋人。あたしは全て京介だけのモノだから」

麻奈実「当時のきょうちゃんのそれは多分ただの家族愛だと思うよ? でも今はこうなっちゃってるし、もう良いのかなぁ」

珠希「おにぃちゃんと姉さまがお付き合いしていた時も、すごくラブラブしていましたよ?」

日向「あ~、あれは完全にバカップルだったね~」


黒猫「貴方達、迂闊な事を口にすると今後この家の出入りを禁止するわよ」

加奈子「えー、いーじゃん。聞かせてくれよ」

秋美「なれ初めは教えてもらったけど、どんな交際をしてたのかは結局秘密だったもんね!」

日向「初めて高坂くんをうちに連れて来た時にさー、ルリ姉いきなりお風呂に入ってて」

沙織「ほほう。黒猫氏とは思えぬ大胆な行動ですな」

黒猫「日向、覚悟は既に完了していると言う事ね」

日向「おっと! キリ姉助けてぇん。ルリ姉がいじめる~~」

桐乃「そうねぇ。京介が黒猫と別れた後とか大変だったかな。もうボロッボロに泣きじゃくって、立ち直らせるのに苦労したんだから」

黒猫「……」

珠希「姉さま、お顔が真っ赤ですよ?」

あやせ「そこまで京介さんに想われていたなんて、確かに愛があったと認めてあげなくもないですが。……わたしが別れを切り出したら京介さん泣いてくれるかな」

桐乃「京介に別れ話をされた時のあやせはいつ死んでもおかしくない状態だったから、多分あやせからそれを切り出すのは無理じゃないかなー」

日向「おお、意外な話が飛び出した。へぇ~、あやせさんにもピンチな時があったんですね」

あやせ「ま、まあ恋愛に障害は付き物なのよ? でもそれを乗り越えたからこそ、完全なるつながりが生まれたの」


加奈子「あんなの、あやせがさっさとエッチさせときゃ済んでた問題じゃねーか」

日向「あれ? もしかして高坂くんって性欲魔人?」

桐乃「割と」

加奈子「けっこー」

沙織「たまに暴走しますな」

ブリジット「情熱的だよ」

秋美「無理して紳士ぶろうとしてるけど、中身は結構ケダモノだよ!」

珠希「おにぃちゃんは闇の獣ですから」

麻奈実「眼鏡を外すとしょんぼりするから可愛いよぉ」

あやせ「耳元でたくさん愛を囁いてくれるから、とても幸せな気分になれるかな」

日向「はぁ~、あたしも早くエッチしたいな~」

黒猫「待ちなさい、なぜ珠希が自然に混ざっているのかとても気になるわ。まさか、貴方既に……」

珠希「姉さま、わたしとおにぃちゃんはまだ唇での契りしか交わしてません。純潔を捧げるにはまだ呪いの深度が足りません」

桐乃「たまちゃんの本気がどこまでのものなのか分かりにくいなぁ」

珠希「もちろん一生添い遂げる覚悟です」

あやせ「むむ」


加奈子「ちっこいのに、なかなかたいしたタマじゃねーか」

麻奈実「加奈子ちゃん、そこは感心する所じゃないよ。珠希ちゃんはまだ小学生なんだよ?」

珠希「来年には中学生なので大丈夫です!」

黒猫「珠希、青少年健全育成条例と言う物があるからそれは無理だわ。いいえ、年齢によっては強姦罪に問われるわね。大人になるまで我慢なさい」

ブリジット「あの、それだとわたしもダメなんですけど……」

沙織「本来ならばブリジット殿相手でも、真剣交際でないと判断されて京介氏が懲役刑を受ける可能性が高いですな」

ブリジット「そ、そんなことありません! わたしたちは真剣です!」

沙織「それを判断するのは残念ながら当人たちでは無いのでござるよ」

黒猫「そうね。世間一般から見れば、京介は複数の女性と同時に関係を持ち、しかも全員と同居までしている品性下劣な人間の屑と思われるわ」

桐乃「……ちょっと、確かに京介のしているコトは正しいとは言えないケド、そこまで悪し様に言う必要ないんじゃない?」

麻奈実「でも、それが外から見たわたしたちの現実だよ」

桐乃「……チッ」


秋美「う~ん、空気悪いなあ。あたしたちが黙ってれば秘密は漏れないでしょ? 大丈夫じゃないかな!」

あやせ「でも、人の口に戸は立てられぬって言いますから、どこからバレるかなんて誰にも分かりません」


ブリジット「わたしの存在が、京介さんを苦しめることになるんですね……」

加奈子「おいオメーら、ブリジットをイジメてんじゃねーよ」

黒猫「勘違いしないで頂戴。ブリジットは私達の仲間よ。愛し合う二人を止めるなんて無粋な真似をするつもりは無いわ」

ブリジット「黒猫さん……」

黒猫「でも日向と珠希は違う。もしも貴方達が軽率な行動を取ったとしたら、その結果京介は世間から追い払われ、最悪の場合私達も二度と会えなくなる、そんな可能性だってあるのよ」

日向「そんなの……嫌だよ……」

黒猫「だから呉々も軽はずみな行動は取らない様に慎みなさい。ただ、もしも、もしも京介が貴方達を受け入れる事があれば、その時は私がどんな手を使ってでも京介と貴方達を守ってみせる」

珠希「姉さま……」

桐乃「なに一人だけ良いカッコしてんのよ。あたしだってひなちゃんやたまちゃんを守るに決まってるっての! そんなの言わなくたってみんな同じでしょ!?」

沙織「はっはっは、そうでしたな。我々は一蓮托生、もはや誰か一人だけが責任を被れば済むような関係ではありません!」

麻奈実「ふふ、そうだね。歪んだ関係でも、人が増えればきっといつか円形に近づくよねぇ」

秋美「――とのことですが、良識派の最後の一人であるあやせちゃんから一言っ!」


あやせ「……はぁ、みなさん仕方のない人たちばっかり」

桐乃「ふっ、いい、あやせ。この世には、仕方ないで済ませていいことなんて、本当は一個だってないのよ!」

あやせ「なあに、それ?」

桐乃「いや~、言ってみたかったのよコレ」

秋美「あはは! ちょー久しぶりに聞いたよソレ!」

麻奈実「ふふふ、本当にそうだねぇ」

加奈子「……なんだろーな。昔の京介を知ってるヤツらだけで盛り上がってる感じで、すげー面白くねーぞ」

黒猫「今の桐乃の台詞のどこに笑える要素が含まれているのか、全く理解出来ないのだけれど。分かるように説明して頂戴」

桐乃「ふふ~ん、秘密ですぅ~。これは京介の過去を知ってる人だけの、特別で大切な想い出ですからぁ~」

ブリジット「ちょっとだけ、イラッとしたかなーって」

日向「温厚なブリジットをここまでイラつかせる桐乃さん、マジパねえ!」

あやせ「……京介さんの過去話は後でしっかり聞かせてもらうからね、桐乃。それで、日向ちゃんと珠希ちゃんのことだけど」

珠希「はい」

あやせ「わたしは、良いと思ってる。本心を言えば面白くないけど、それでも二人の想いを知ってしまったから」

日向「あやせさん……」


あやせ「京介さんは本気の想いを無碍にするような人じゃないから、いつか成就するかもしれない。――ただし! わたしが京介さんの『一番』で『婚約者』なのは変わらないから、そう簡単には届かせてあげないからね?」

加奈子「出たよ、あやせの独占欲」

日向「うん、分かりました。がんばって、いつか高坂くんを振り向かせてみせる!」

珠希「わたしもがんばります!」


沙織「さてさて、話が一段落した所でまとめに入りましょう」

秋美「なんのまとめ?」

沙織「勿論、当初のお題目であった『誰が一番ヤキモチ妬きか』であります」

ブリジット「やっぱりあやせさんだと思います」

桐乃「そーね。京介を想う気持ちで負けてるつもりはないケド、嫉妬深さでは完敗かも」

黒猫「京介をより深く愛しているのは私だけれど、あやせの黒い情念には負けるわ」

あやせ「何とでも言ってください。わたしのヤキモチが一番強いのなら、つまり京介さんへの想いが最も強いということですから!」



加奈子「んじゃ決まった所でさっきのエピソードを教えてくれよー」

桐乃「え~、イヤ」

あやせ・黒猫『桐乃?』

桐乃「……はぁ、もう仕方ないなー」

加奈子「おいおい、桐乃」

ブリジット「仕方ないで済ませていいことなんて本当は一つもない、でしたっけ?」

桐乃「あははっ。それじゃえっとね、あれは京介が中学三年の時かな――」


京介「うーーーん、うーーーん」






    終


こんばんは、以上となります。


書いている途中で、あやせと日向ちゃんを初対面として扱っていた(>>501)ミスに気付いてしまいましたけど、適当に見逃してください。

ところで、そろそろ〆に入ろうと思っているのですが、もうちょっと書いていたい気持ちもあります。困りました。


それでは、また~。


 if もしも京介が創作物で定番のアレになったら 編



はて、ここはどこだろう。