貴音 「Once @gain」 (841)

・貴音の一人称語り。独自設定、内容いじりあり。
・長編になりそうな予感。
・地の文・キャラ崩壊注意。

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冬が終わり、もうすぐ春がやって来ようかという頃。

わたくしは月を眺めるため、とある建物の屋上にいました。

やはり、月を見ると落ち着きますね。

つらいことや、悲しいことがあった後でも、月を見ているとなぜか心が安らぎます……

……そう、たとえ『つらいこと』があったとしても。

貴音「……わたくしはこれから、どうすれば良いのでしょうか」

ふと、わたくしの口から漏れた言葉。

それは、わたくしの今の状況を示すにはぴったりの言葉でした。

言葉とともに、涙も溢れそうになります。


その時。






『君、やり直したくはないかい?』




わたくし以外に誰もいないはずのこの場所に、声が……?

もしや、も、物の怪の類でしょうか……

貴音「ひっ……な、何奴!」

『そんなに怪しいものじゃないよ。安心して』

声は聞こえますが、姿は見えません。もしや、本当に物の怪なのでは……

貴音「姿を現しなさい!」

『姿、かぁ……無い物は見せられないんだよなぁ、これが』





『だって僕、神様だし』




貴音「……は?」

……幻聴、でしょうか。

自分で自分を神だと名乗る声が聞こえるなど、普通のことではありません。

『幻聴じゃないよ、ちゃんと僕が喋ってるんだから』

貴音「・・」

心が読めるのでしょうか?まこと、面妖な……

『そりゃ僕、神様だし。心ぐらい読めるさ』

『なんなら、四条 貴音ちゃん……君がなぜここにいるのか当ててみせようか?神様はなんでも知っているんだよ?』

貴音「……」

『貴音ちゃん、君は星井 美希ちゃん、そして我那覇 響ちゃんと一緒に、アイドルユニット【プロジェクト・フェアリー】として活動していた』

『その人気は凄まじく、瞬く間に君達はトップアイドルになった』

『でも、IU(アイドルアルティメイト)で765プロのアイドル、萩原 雪歩ちゃんに負けて所属していた961プロをクビになった……そうだね?』

「……その通りです」

ですが、そのようなことは多くの人が知っている事実。『自身が神様である』という証明にはなりません。

『あっ、信じてないな!?』

「当然です。このような面妖なこと、信じられる訳が……」

『ふむ。じゃあ、これならどうかな?』

『765プロのプロデューサー……確か赤羽根くんって言ったっけ?』

『……僕は、君が彼のことを慕っていることも知ってるよ』

貴音「っ……///」

……そう。わたくし、四条 貴音は、アイドルとして活動していました。

わたくしは『必ずアイドルになる』と心に決め、故郷……『古都』を出てこの東京までやってきました。

しかし東京に出て来たはいいものの、頼れる知人もおらず、途方に暮れていたのです。

幸いにも黒井殿にすかうとされ、アイドルになることはできたのですが、『本当にアイドルをやれるのか』という不安でいっぱいでした。

あの時もわたくしは、一人で月を眺めていました……

その時わたくしに優しい言葉をかけて下さったのが、765プロのプロデューサーである、赤羽根殿だったのです。

あの時は、赤羽根殿にみっともない姿を見せてしまいました……

ですがあの方は、そんなわたくしに優しい言葉をかけて下さり、さらに弱いわたくしを受け入れて下さいました。

そのような恥ずかしいところを見られたからこそ、わたくしは赤羽根殿を頼ることができたのです。



そしていつしか、あの方への信頼は、あの方をお慕いする気持ちへと変わっていき……

『《慕う》って言葉、二つ意味があるよね。【尊敬する】って意味と【恋慕する】って意味』

『この場合、どっちの意味を取るべきなのかな?」

貴音「それは……言えません///」

『まあ、神様だからなんでもお見通しだけどね。貴音ちゃんは……』

貴音「言わないでくださいませ!///」

……話を元に戻しましょう。

信頼できる仲間や、黒井殿が雇ったとれーなー殿によるれっすん。

そのおかげでわたくしと響、そして765プロから引き抜かれた美希と共に結成したゆにっと『プロジェクト・フェアリー』は、破竹の勢いでおーでぃしょんを勝ち進み、瞬く間にトップアイドルになることができました。


しかし……


IU本戦・決勝戦で、わたくし達は765プロのアイドルであり、わたくしの友である、萩原 雪歩殿に負けたのです。

その勝負自体に悔いはありませんでした。

しかし黒井殿は、『弱者には用はない』と言ってわたくし達を解雇しました。

わたくし、そして響は、居場所を失ってしまったのです。


元々765プロ出身であった美希はそのまま765プロへ復帰しました。

ですが『古都』から出てきたわたくしは勿論、沖縄県出身の響には寄る辺もなく、アイドルとして復帰しようにもこれからどうすれば良いのかすらわかりませんでした。

『響と一緒に、765プロに来ないか?』



赤羽根殿は、そんなわたくし達を765プロへ迎え入れようとして下さいました。

大変嬉しい誘いではあったのですが……これ以上赤羽根殿にご迷惑をおかけすることはできないと思い直し、わたくしはその誘いを断ったのです。

ーーあれから数日。

わたくしは未だ、これからどうすれば良いのかを見つけておりません。

響と連絡は取れず、途方に暮れてこうして月を眺めている時に、今の面妖な状況に出くわした、という訳でございます。

『回想、終わったみたいだね』

貴音「なんと……そこまでお見通しなのですか」

『そりゃね。僕、神様だし』

貴音「これは、信用せざるを得ませんね……」

『まあ、よく考えたらいきなり神様ですー、とか言って信用してもらえるわけないしね。分かってもらえて良かったよ』

貴音「しかし……神様ともあろうお方が、このような所で何を?」

『最初に言ったでしょ?《やり直したくはないか》ってさ』

貴音「!!」

『僕、君の大ファンでさ。君がアイドルやってるところを、ずっと見てきたんだ』

『本当はサインもらったりしたいんだけど、こういう思念体みたいな感じだからできなくてね』

『で、君のために何かしてあげられることはないか……って考えてたら、こんな所で貴音ちゃんが困ってるじゃないか』

『で、助けてあげたい、って思って話しかけた訳』

貴音「わたくしのふぁんだったのですね……ありがとうございます」

……しかし、《やり直す》とは、どういう意味なのでしょうか?

『僕は、君が輝いているところをもっと見ていたい。ついでに言うと、君には幸せになってもらいたいんだ』

貴音「幸せに……?どのような意味なのでしょうか……」

『簡単なことじゃないか、貴音ちゃんが765プロのプロデューサー……赤羽根くんとくっ付いちゃえばいいんだよ』

『まあ要するに、君が胸の中に秘めているその思いを、成就させちゃえばいいって訳』

貴音「なっ!!!///」

『あ、その顔かわいい』

顔が熱くなっていくのが分かります。今、わたくしの顔は真っ赤になっているに違いありません、恥ずかしい……

貴音「で、ですがわたくしは……」

『赤羽根くんの誘いを断った。もうあの人に頼ることはできない。……そう言いたいんだね?』

貴音「……はい」

神様は本当に何もかもお見通しなのですね……

『それなら、無かったことにすればいいって思わない?』

貴音「そんなこと言われましても……一度言ったことは取り消せません」

『そりゃそうだ。たとえその記憶がすべての人間から消えたとしても、《事実》は変わらないからね』



『なら、その《事実》を起こさなければいい』

貴音「もう起こってしまったからには、もう……」

『……僕は神様だよ?大抵のことはできる。流石に死者を蘇らせる、なんてことはできないけどね』








『ーー貴音ちゃん、『タイムリープ』って知ってる?』



本日の投稿は以上です。
「もし、貴音の『とっぷ・しーくれっと』がタイムリープしたことだったら?」というイメージです。


週一くらいのペースで投稿できれば、と思ってます。
それでは、また。

たとえ読者が二人でも、私は書き続ける……っ!


こんにちは。今週の投稿、始めます。

貴音「『たいむりーぷ』……?何なのでしょうか、それは」

『時間遡行、とでも言えばいいかな。君の現在の《意識》をそのまま過去の時間に……過去の貴音ちゃんの体に送る、ってことさ』

『赤羽根くんの誘いを断る前に戻せば、その事実を《無かったこと》にできる』

貴音「!?」

『簡単に言うと、過去に戻ってもう一度961プロに入り直すところからやり直せる、ってことだよ』

『……いや、961プロに入るよりも、君は765プロに入る方が合ってると思うなぁ』

『もしやるとすれば、貴音ちゃんが上京してきた頃まで戻すほうが無難かな?』

過去を変える……そのようなことが可能なのでしょうか?

そもそも、過去や未来を変えてしまっても大丈夫なのでしょうか……


『過去を変える、とか聞いて戸惑うかもしれないけど、大丈夫だよ』

『この世界の、今の時間軸はパラレルワールド……平行世界になって、修正された未来が本当の世界になるはずだから』

まこと、難しい話ですね……

しかしおぼろげながら、『もう一度』やり直すことができる可能性がある、ということは分かりました。

書かないだけで、見てる人は沢山いるからそういう言い方は無いと思うな

『で、どうするの?タイムリープするかい?』

貴音「それは……」

確かに、魅力的な話ではあります。

なにせ、自分の過去、過ちを変えられる、というのは素晴らしきことです。

ですが、本当にそれで良いのでしょうか?

未来とは自分で切り開くもの。

一度間違った道を歩んだとしても、その過去を踏まえつつ、そこからやり直すことが人生の定め……

その定めを、無理やり変えてしまっても構わないのでしょうか?

貴音「……申し訳ございません、少し時間を下さいませ……」

『……まあ、すぐに決めろっていうのも酷だしね。仕方ないよ』

『そうだなぁ……明日のこの時間、この場所にまた来てくれるかい?』

『その時に、どうするのか聞かせてほしい』

『君がどんな決断をしたとしても、それが君の人生だ。僕はその決断についてとやかく言うつもりはないから、しっかり考えてほしいな』

貴音「……分かりました。お気遣いありがとうございます」

『焦らなくてもいいからね。ゆっくり考えておいで』

貴音「はい。……では、失礼します」

そう言ってわたくしは、その場所を立ち去りました。

>>35 さん
おっしゃる通りです…
コメが付かないってことは、読んでる方がいないとばかり…言い方がよくありませんでしたね、すいません。


少し席を外します。

再開します。

……気が付くと、もう朝になっていました。

かなりの時間が経っているようです。もう夕方すぎくらいでしょうか。


あの後何があったのかは、よく覚えておりません。

ただ分かるのは、自分が自分の部屋に帰って床に就いたこと……

その間の記憶は、全くと言っていいほどありません。


とりあえずしゃわーを浴び、食事を取ることに致しましょう。

わたくしは、どうするべきなのでしょうか。


『時を超える』。

そのような面妖なことを、わたくしは行うかもしれないのです。

過去を変えること、それが正しいという確証もありません……

こういう悩んだ時には、気分転換が必要ですね。

てれびでも見ることに致しましょう。





『今回のゲストは、今最も有名なアイドル!萩原 雪歩さんです!』

『よ、よろしくお願いしますぅ!』

貴音「っ……」

ちくり、と胸が痛くなりました。

目の前が真っ暗になったような、そんな感じ。

わたくしは、少しの間呆然としていました。

『さて、それでは聞いて頂きましょう。萩原 雪歩さんの新曲、『First stage』です!』


てれびの中の雪歩殿は、とても輝いて見えました。

かつての臆病だった彼女とは違う、『信念』を持ったその表情。

彼女の努力が垣間見える、そのぱふぉーまんす。

……今のわたくしには、眩しすぎます。

わたくしはそっと、てれびの電源を切りました。

かつてわたくしも、あの場所にいたのですね。

すてーじで輝く雪歩殿を見て感じるのは、あの場所で輝き続ける彼女への『羨望』。


……そして、もう一度あの舞台に立ちたいという、わたくしの『意志』。






『もう一度……あの場所に立ちたい』






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『やあ、来たね。君の決断を聞かせてくれるかな?』

数時間後、わたくしは昨日と同じ場所に立っていました。

貴音「……時を巻き戻すことは……過去を変えることは、許されざる行為かもしれません」

貴音「それでもわたくしは……あの方とともに、頂点に立ちたい。まだ、あの場所にいたい」

貴音「わたくしはまだ、輝いていたいのです……!」

気付けばわたくしは、涙を流しておりました。



貴音「お願いします……わたくしを過去へ戻してください……」


『……そう、決めたんだね』

貴音「……はい」

『ほら、泣かないで。可愛い顔が台無しだ』

少しの時間、わたくしが泣き止むのを待って、神様は再び喋り始めました。

『落ち着いた?それじゃあ、タイムリープのルールを説明しておこうかな』

貴音「るーる、ですか……」

『うん。主なルールは三つある』


『一つは、タイムリープは一度しかできないってこと。一度やったら、もう二度とタイムリープさせてあげることはできないんだ』

失敗は許されない、ということですね……。

『二つ目は、過去の世界では僕と貴音ちゃんは接触できないってこと。一度過去に飛んだら、一人でやっていかないといけない』


『そして、最も大切なルール……三つ目は、《タイムリープしたことを他言してはいけない》ってこと』


貴音「誰にも言ってはならない、という訳ですね」

『そういうこと。もし、貴音ちゃんが跳んだ先の世界でこのことを話したら、貴音ちゃんの《意識》は、強制的に今の時間軸に戻されてしまうんだ』

『だいたい話し終わって一分後くらいかな?何をしようが、その時点で君の《意識》は今の時間軸に戻される』

『だから、このことは必ず誰にも言ってはいけないよ?』

貴音「……分かりました」

三つのるーる、ですか……
心に刻んでおかねばなりませんね。

『これ以外は、自由に行動してくれて構わないからね』

『例えば、願い通りに765プロに入ってもいいし、もう一度961プロでやり直してもいい』

『そんなことはしないとは思うけど……アイドルをやらなくても構わない』


『どう行動するかは……貴音ちゃん、君次第だ』

……わたくしの心は、もう決まっています。

765プロに入り、あの方とトップアイドルを目指す。



必ずや、あの方と、あの場所に。

『それじゃあ、行くよ』

その言葉が発されると、わたくしの体はぼんやりと光り始めました。

少しずつ、意識が遠のいていきます。

これがたいむりーぷ、なのですね……



『頑張ってね。応援してるよ、貴音ちゃん』


ーーその言葉を聞くとともに、わたくしは完全に意識を失いました……

本日の投稿は以上です。


更新はまた来週に。
それでは、また。

ちなみに、予備知識を。
必要ないとは思いますが…。


・タイムリープ(time leap): 体ではなく、意識のみを時間遡行させること。体ごと時間遡行することは『タイムトラベル(time travel)』と呼ぶ。

基本、雑談歓迎です。


こんにちは。今週の投稿、始めます。


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……気付けば、わたくしは布団の上で眠っておりました。

貴音「夢……だったのでしょうか?」

気付けば、・に涙を流した後が。
面妖な夢を見たものです……

貴音「……はて?」

部屋を見回すと、幾つかの違和感を感じました。

部屋にあったはずの写真が……『プロジェクト・フェアリー』の皆と共に撮影したはずの写真がありません。

家に多数備蓄されていた、かっぷらぁめんもありません。

赤羽根殿に買って頂いた、わたくしの宝物……月長石の首飾りもありません。

極め付けは、部屋のかれんだー。

かれんだーが示していたのは、およそ一年前の日付。

丁度わたくしが、この東京にやって来た頃の日付だったのです。

貴音「なんと……!」

このような摩訶不思議な現象が、あるものなのでしょうか……?

貴音「ーー夢では、なかったのですね……」

前作と同じ失態を……!

やはり『ほお』の字が反映されないようです。

>>66 の『・』は『ほお』で脳内変換宜しくお願いします。

とりあえずわたくしは、目覚ましのためにしゃわーで熱いお湯を浴び、朝食を摂って一息つきます。



過去に戻ったのは、事実。

では、ここからどうすべきなのでしょうか……

まずは赤羽根殿を探すべきなのでしょうか。

それとも、765プロの場所を探すのが先なのでしょうか。

それとも……

ふと、響の顔が頭に浮かびました。

響は今、どうしているでしょう。

彼女もまた、この頃に沖縄から上京してきているはずですね。

彼女は今、元気にしているでしょうか。

その時、わたくしは気付きました。

貴音「ーーこのままだと響は、961プロに入ってしまうのでは……!?」

……こうしてはいられません、まずは響を探さねば。


わたくしは素早く着替え、財布などといった必要最低限の物を手にして家を出ました。






初めて東京に来た頃はこの人の多さに戸惑ったものですが、もう慣れてしまいました。

一年もここで過ごしたのです。当然のことと言えましょう。



さて、響はどこにいるのでしょうか?

わたくしが初めて響と出会ったのは、961プロの事務所内。手がかりは無いに等しいですね……

かつて響から聞いた話によると、響が961プロに入った時期はわたくしとほぼ同じ。

この頃ならまだ、響は961プロに入ってはいないはずです。

とりあえず、ぶらぶらと色々なところを回ってみることに致しましょうか。




……はっ!


美味しそうな匂いにつられて、ついらぁめん屋さんの前に……!

こんなことではいけません。早く響を見つけなくては……

ーーそういえば、響はたくさんの動物を飼っていましたね。

響は『みんな、自分の家族なんだぞ!』と言っておりました。

……何度会っても、わたくしはヘビ香殿にだけは慣れることができませんでしたが。


貴音「ならば、怪しいのは……」

わたくしは、『ぺっとしょっぷ』なる場所にやって来ました。

動物を見るのならば、やはりここでしょう。

ここになら、響はいるのでは……?






……すると。




ちょうどそこから、一人の人物が姿を現しました。



「うう、ヒマワリの種は重いぞ……二袋も買うんじゃなかった……」

ぽにーてーるにされた長い黒髪。

浅く日に焼けた、褐色の肌。

そして、肩に乗せられたハム蔵殿。



あれは、まさしく……

ふ……筆が進まない……!

本当に申し訳ありませんが、今回の投稿はここまでとさせて下さい。

鬱エンドにはさせない、させないぞ……!
それでは、また。

誰かが見ていると信じて……!


こんにちは。今週の投稿、始めます。

貴音「ひび……」

……おっと。

今、わたくしと響は初対面のはず。ここで名前を呼んでしまうと、ややこしいことになってしまいます。

ここは……

貴音「ーーもし」

「ん?自分に何か用?」

貴音「はい。その荷物、重そうですね……お手伝い致しましょうか?」

「え、手伝ってくれるの?でも、知らない人だし……」

貴音「わたくしは怪しい者ではありません。ただ、困っている人を見過ごせなかっただけです」

響「そっか、それならお願いしようかな。自分、我那覇 響だぞ!」

貴音「わたくしは四条 貴音と申します。以後、お見知り置きを」

なんとか接触を図ることができましたね。

少し人を疑う心が足りないような気もしませんが……それも響の良いところです。


ーーそれにしても、ひまわりの種とは重いのですね……

響の家にやって参りました。

何度か訪問したことがあるので、既に場所は分かっております。

……最初から響の家に向かっていれば良かった、という気もしなくはないですが。


まあ、見知らぬ人物が家の前にずっといるという状況は警察を呼ばれてもおかしくないでしょうし、これで良かったのでしょう。

いわゆる『結果おーらい』、という奴です。

響「いや〜、助かったぞ。ありがとう、貴音!」

貴音「いえ、大したことでは……」

響「あ、良かったら上がっていってよ!お礼もしたいしさ!」

わたくしは居間に通されました。

部屋の隅では、イヌ美殿がすやすやと眠っております。

貴音「失礼します……」

適当なところに座るよう促され、わたくしはとりあえず床に座りました。

響「はい、食べて食べて!」

貴音「ありがとうございます、響殿」

響「あ、呼び捨てでいいよ。なんか『殿』って付いてたら気持ち悪いしさ」

貴音「そうですか。ーーでは、『響』と呼ばせて頂きますね」


まこと、ありがたいことです。今まで呼び捨てで話していたので、こちらの方が気楽で済みます。

運ばれてきたのは、じゃすみんの香りのお茶と、甘い匂いが漂う揚げ菓子。

貴音「さーたーあんだぎーに、さんぴん茶……沖縄出身、なのですね」

響「うん、そうだぞ。自分、アイドルになるために東京に来たんだ」

貴音「なんと、奇遇ですね。わたくしもアイドルを目指して、ここに来たのです」

響「貴音もなの?もしかして自分たちが出会ったのって、運命なのかもね!」

貴音「ふふ、そうかもしれませんね」

ーーその運命を知っているからこそ、わたくしはここにいるのですよ、響?

……まあ、このことを口にするわけにはいかないのですが。

響「それで、貴音はどうやってアイドルになるつもりなの?」

貴音「……二つほど、事務所に心当たりがあります」

響「二つ?」



貴音「はい。……一つは、765プロという事務所。小さいですが、仲間との信頼を大切にする事務所だと聞いております」

貴音「もう一つは、961プロという事務所。設備が整っており、素早く成長できるらしいのですが、実力がない者はすぐに切り捨てられる事務所だと聞いております」

響「へぇー、いろいろ調べてるんだね。自分さっぱりわかんなくって、困ってたんだ」

貴音「わたくしは、765プロに入りたいと思っております。仲間との団結は、大切な物だと思っておりますゆえ……」

貴音「ーー響は、どうするつもりなのですか?」

響「自分か?自分は……」








響「今の話を聞くところだと、自分は961プロにしようかな、って思う」




今週はここまでにしようと思います。

週一投稿で一回十数レス……
少し少ない気もしますが、こんな感じで投稿していこうと思っています。
必ず完結はさせますので、しばらくお付き合い下さい。

……贅沢は言いませんが、応援して頂ければありがたいかな〜って。


それでは、また来週に。

コテハン外しました。


こんにちは。今週の投稿、始めます。

……なんと。響は961プロを志望しているのですか……。

ですが、961プロに入っては前の時間軸と同じことになってしまうでしょう。

……確かに、わたくしがとやかく言うべきことではないかもしれません。

ですがわたくしは……響と敵同士にはなりたくありません。響とともに、アイドルとしての道を歩んでいきたいのです。

響には申し訳ないですが、なんとかやめさせなければ……

貴音「ーーなぜ、961プロに?」

響「……自分、早くトップアイドルにならなくちゃいけないんだ。それが、故郷のみんなとの約束だから」

貴音「ですが、実力を示せなければ、すぐに辞めさせられてしまうのですよ?」

響「もしそんなことがあったら、自分の実力はその程度だった、ってことだしね」

響「しかも、そんなところで完璧な自分が負けるわけないさー」

貴音「……」

確かに、響のダンスの能力はとても高いとは思います。

あのダンスは、765プロの菊地 真以外に匹敵する者はそういないでしょう。

……ですが、私は未来を知ってしまっているのです。

961プロに足りない物。

その『足りない物』が無ければ、到底トップアイドルの座に立ち続ける事は不可能。

……ですが、765プロには、その『足りない物』がありました。

それは、『仲間との絆』。

つらいことや厳しいことも、仲間がいれば乗り越えられる。

そんな仲間の大切さを、765プロはわたくしに見せてくれました。

あのトップアイドルになった雪歩殿でさえ、仲間との絆がなければあの場所にいなかった、といった言葉を言っていたことがあります。

『信頼できる仲間』が存在する765プロでなら、きっとトップアイドルも夢ではありません。



ーーそもそも、わたくしが961プロのことを出さなければ、このようなことにはならなかったのでは……。

これは失敗しましたね……困りました。

響「ーーねえ、貴音は、早くトップアイドルになりたくないの?」

響「貴音だって、こっちに来た以上、結果を残さなくちゃいけないんじゃないの?」

貴音「っ、それは……」

確かに、いち早くトップアイドルにたどり着かねばならないのも事実。

961プロには、それを成し遂げるだけの実力はありました。


ですが、わたくしは……

貴音「ーーいいえ、わたくしは961プロには入りません」

貴音「確かに765プロは小さく、事務所としては弱小かもしれません」

貴音「ですが、765プロには、961プロに無い物があります」

貴音「それは『仲間との団結』。仲間との信頼がなければ、どこかで行き詰まってしまう……わたくしはそう思うのです」

貴音「響……貴女にも分かるはずですよ。仲間と……『たくさんの家族と日々を過ごす』貴女なら」

響は、はっとした表情を浮かべました。

仲間との絆……響の場合は家族ですが……その大切さを良く知っているはずです。

ーー特に、多くの動物たちと暮らす響なら。



貴音「それに……例え一人でトップアイドルになったとしても、そこから先に存在するのは『孤独』のみ」

貴音「支え合う仲間がいなければ、一度頂点に上り詰めても、そこで崩れてしまうでしょう」



貴音「響……『わたくしと共に』、トップアイドルを目指して頂けませんか?」

響「貴音……」

響「ーー貴音の言うとおりだぞ。自分、勘違いしてた」

響「自分も、765プロに行く。そして、貴音やまだ見ぬ仲間と一緒に、トップアイドル目指して頑張るぞ!」

響「仲間がいれば、『なんくるないさー』!」

なんとか響を説得することができたようですね。





ーー少々、無理に言いくるめた気もしなくはないですが。

とりあえずひと安心です。これで、おそらく響が961プロに入ることはないでしょう。

あとは、765プロに入って頂点を目指すのみ。





……赤羽根殿のことも、忘れてはいませんよ?

そもそも、わたくしが過去に戻ったのは……///

……ごほん。なんでもありません。

とりあえず連絡先を交換し(この頃のわたくしはまだ携帯電話を所持していなかったので、家の電話番号を響に伝えました)わたくしは響の家を後にしました。

そう言えば、ハム蔵殿とイヌ美殿以外の動物を見ていませんね……どこか他の部屋にいたのでしょうか?

ヘビ香殿に遭遇しなかった事は幸いでした……かつてと同じように、腰を抜かしてしまうわけにはいきません。


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しばらくして、わたくしは家に帰り着きました。

疲れがたまっているのか、眠気が襲ってきます。

あまり疲れるようなことはしなかったはずなのですが……時間遡行とは、疲れるものなのでしょうか?

少し仮眠をとることにいたしましょうか。

クゥゥゥ

貴音「///」

それにしても、お腹が空きました……。つい、腹の虫が粗相を……。

そういえば、昼食を取っていませんでした。これでは眠れません。

ああ、らぁめんが食べたいです……
買い出しに行かねばなりませんね。






貴音「……もしわたくしが、無事に765プロに入ることができたなら……またらぁめんを奢ってくださいね、あなた様♪」


今週の投稿は以上です。

ようやく響が合流して一歩前進、といったところでしょうか?
早く765プロを探しに行かないと……。


それでは、また来週に。

響いじめは他所でどうぞ

こんにちは。今週の投稿、始めます。

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貴音「おはようございます……」

貴音「……おや、思ったより早く起きることができましたね」

響と再会した次の日、私は朝早くに目を覚ましました。

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貴音「おはようございます……」

貴音「……おや、思ったより早く起きることができましたね」

響と再会した次の日、私は朝早くに目を覚ましました。

連投失礼しました。

再開します

……よく晴れた、気持ちの良い朝です。

このような朝は、散歩に行くに限りますね。

手早く朝食を摂り、しゃわーを浴びたわたくしは、下着とTしゃつ、それに臙脂色のじゃーじを身に付けて部屋を出ました。

これは961プロ時代、レッスンで使っていたものです……おそらく765プロでもこのじゃーじを使うことになるでしょう。

わたくしは近所の公園にやって参りました。

天気の良い中での散歩は、まこと良きものですね。清々しい気分が味わえます。

公園の中では走っている男性や、わたくしと同様に散歩を楽しむ女性など、様々な人がいました。

すると、どこからかわたくしを呼ぶ声が。

「貴音~!」

聞きなれた、その声の持ち主は……

貴音「おや、響ですか。ごきげんよう」

響「やっぱり貴音だった!はいさい、貴音!」

水色(と言うよりは浅葱色、と表現すべきなのでしょうか?)のじゃーじを身に付け、イヌ美殿を連れた響が、わたくしの前に現れました。

……ところで響は、このような珍しい色のじゃーじをどこで手に入れたのでしょうか?

響は961プロのレッスンの時もこのじゃーじを使用しておりました。

しかし、かつて961プロにいた時に、『フェアリー』の皆と運動用品店に赴いた際、そこに浅葱色のじゃーじは置いておりませんでした。

そういえば、わたくしのものも珍しい色をしておりますね……

ーーじいやは、一体どこでこれを……?

響「……貴音、どうしたの?考え事なんかして。自分で良ければ、相談に乗るぞ?」

貴音「いえ、大したことではありません。大丈夫ですよ」

貴音「それはともかく、響も散歩ですか?」

響「うん、イヌ美の散歩中なんだ!貴音も一緒にどう?」

貴音「それは良き考えです。ご一緒させて頂きましょう」

わたくしは響と他愛ない話をしつつ、散歩を楽しみました。

響「あ、そうだ。貴音はお昼、何か用事ある?」

貴音「ええ。今日は765プロの事務所の場所を探そうと思っています」

響「やっぱり!ねぇ、一緒に行かない?」

貴音「勿論です。では十時頃、ここで集合に致しましょうか」

思ったよりすんなりと話がつきました。

わたくしは最初から響を誘って765プロを探す予定を考えていたのです。

しかし朝早くに電話をするのもどうかと思い、後回しにしたのですが……

偶然響と出会ったことにより、電話する手間が省けましたね。

響と別れ、家に帰り着きました。

軽く汗をかいてしまったので、再び浴室へ。

起床後や運動後は温かいお湯を浴びるに限ります……わたくしは本当にしゃわーが好きなのだ、とつくづく思います。


上がったらいつもの服装に着替え、ゆっくりとすることに致しましょう。






十時前。

わたくしは先ほどの公園にやってきておりました。

変装がいらない、というものは楽ですね。嬉しいようで悲しいような……そんな気が致します。

さて、響はまだでしょうか……?

響「ごめんごめん、待った?」

貴音「いいえ、そうでもないですよ。では、行きましょうか」

そう言っている間に響はやって来ました。


いざ、765プロへ……!

……とは言ったものの。





響「貴音~、いつになったら着くんだ……?」

貴音「さ、さあ……?」

二人とも765プロの場所を知らないため、わたくし達はあちらこちらを彷徨うばかりになっていました。

いんたーねっとなどを使うことができれば住所を調べることができるのですが、わたくしは機械に疎く……迷子になってしまいそうです。

765プロほどの有力な事務所なら、小さいながらも建物がありそうな物ですが……

響「うぎゃー、どうすればいいんだ~・・」

響も響で、あたふたしてばかり。都会の人ごみにはまだ慣れていないようです。

貴音「響、携帯電話で検索したりはできないのですか?」

響「自分、とっちで買おうと思ってて……まだ持ってないんだ」

貴音「むぅ……仕方ありません、もう少し探してみましょう」

時折甘味を食べなどしつつ、あちらこちらと探して見ましたが、なかなか見つかりません。

かれこれ二時間は探し続けているのですが、なぜ見つからないのでしょうか?

うう、お腹がすいてきてしまいました……

貴音「お腹が、すきました……」

わたくしの腹の虫が、粗相をしてしまいそうです……

響「自分も。何か食べよっか?」

貴音「そう致しましょう……おや、『たるき亭』ですか」

響「ここ、居酒屋だぞ……あ、でも定食なんかもあるみたい」

貴音「我慢できません、ここにしましょう!」

響「うぎゃっ、引っ張るな~!」

「いらっしゃいませ~」

思ったより店内は広々としており、なにやら美味しそうな匂いが……じゅるり。



……はっ!失礼致しました。

居酒屋という形式上、昼間の客は少ないようですね。

黒い背広を着た、なにやら面妖な雰囲気を醸し出している年配の男性が一人、奥の方にいるだけです。


全身真っ黒……というわけではありませんが、背広も、革靴も、ねくたいさえ真っ黒です。面妖な……

奥の方の、男性から少し離れた場所に席を取ります。

少しして、名札に『小川』と書かれた女性がやって来ました。

小川「ご注文はどう致しましょう~?」

貴音「……では、日替わり定食とやらを」

響「自分もそれでお願いするぞ!」

小川「畏まりました。少々お待ち下さい~」


……声が765プロの水瀬 伊織に似ているのは気のせいでしょうか?

小川「お待たせしました、『日替わり』です~。ごゆっくりどうぞ~」

あっという間に定食が運ばれてきました。以外と早いですね……

もう待ちきれません!

ひびたか「「いただきます!」」

ふむ、この生姜焼き……しっかりと味が染み込んでいます。添えられたきゃべつにたれが絡んで、まこと美味です。

……こほん、グルメレポートではありませんでしたね。


わたくし達が定食を食べ終えてすこし後、がたっ、と音がしました。

奥にいた男性が席を立ったようです。

「いやぁ、やはり昼食はたるき亭き限るねぇ。お勘定を……っ!!」

……視線を感じます。

先程の男性のものに違いありません。

もしや、噂に聞く『なんぱ様』なのでは……?



そう思った瞬間。








「ティン、と来た!」




本日の投稿は以上です。

誤字があったので、訂正を。

>>133
『とっちで』→『こっちで』

>>138
『以外と』→『意外と』

>>139
『たるき亭き』→『たるき亭に』


三つも間違ってしまい、申し訳ありません。

……そろそろ、貴音達は765プロに入れるでしょうか?

それでは、また来週に。

ーーりっちゃん、誕生日おめでとう。

そんなゴミ屑が通りますよ、っと。


こんにちは。今週の投稿、始めます。

貴音「!?」

……何なのでしょうか?

「そこの君達、、少し時間をもらえるかな?」

響「もしかして、自分たちのこと?」

「その通りだよ。いや、君たちに何か光るものを感じてね」

貴音「光るもの、ですか……もしや、噂に聞く『なんぱ様』なのですか?」

「な、ナンパ?……はは、違うよ。私はこういう者だ」

わたくし達は、名刺を渡されました。






765プロ代表取締役 社長
高木 順二朗





……これは!

社長「君達にはトップアイドルになれる素質がある!ぜひ、我が765プロでアイドルをやらないかね?」

なんと、この男性は765プロの社長だったのですか!

ですが、かつての赤羽根殿の話が本当ならば、765プロの社長は『高木 順一朗』殿のはずですが……

貴音「申し訳ございませんが、高木殿」

社長「おや、なんだね?」

貴音「わたくしの知る話では、765プロの社長は『高木 順一朗』殿であったはずなのですが」

社長「なんと、『先代』を知っているのかね?」

社長「君が言う『高木 順一朗』は私のいとこでね。最近社長の座を私に譲り、自分は会長として活動するようになったのだよ」

これは一体……?

高木殿が言っていることは本当のようですが、(わたくしは嘘をある程度見破ることができるのです)赤羽根殿が嘘をつくとは思えません。

……もしや、わたくしが時間遡行をした影響で、歴史が食い違ってきているのでしょうか?

響「貴音、この人は本当に765プロの社長なのかな?」

貴音「おそらく、間違いありません。この方が嘘を言っているようには見えませんので」

わたくしと響は、こっそりと会話を交わします。

高木殿に聞かれては、失礼に値する内容ですので……。

響「そっか。実は自分達も、765プロに用があったんだ」

社長「おお、本当かね!では、少し事務所で話をさせてはもらえないだろうか?」

社長「美味しいお茶とお茶菓子を用意しようじゃないか」

なんと!これは魅力的です。

……あまり食いしんぼうな面を出すと、はしたないでしょうか……///

社長「勘定は、私が持っておくことにしよう。事務所は上にあるから、先に上がっていてくれないかね?」

響「わかったぞ!行こ、貴音!」

貴音「ええ。ありがとうございます、高木殿」

社長「ははは、構わんよ」

少し急な階段を上がり、(えれべーたーがあったのですが、故障しておりました)突き当たりまで歩くと、一つの扉が。

扉には『765』の文字。わたくしが想像した事務所とは全く違うものでした。

取り敢えず、扉を開けて中に入ることに致します。

そこにあったのは、961プロの事務所をぐっと縮めたかのような内装。

奥の方には事務机が三つ並んでおり、そのうちの一つに女性が座っています。

黒髪に近い、濃い深緑色の髪をして、黄色……より少し薄い(ひよこ色、と表現することに致します)色をした『かちゅーしゃ』を付けたその女性は、ゆっくりと紅茶を飲んでいました。



とても若々しい風貌をしております。もしや、765プロのアイドルなのでしょうか?

その女性はちらっとこちらを見て、そのまま固まりました。

その後すぐにあたふたとし始めましたが……どうしたのでしょうか?


「ピヨッ!……気付かなくて申し訳ございません……いらっしゃいませ!」

その後、その女性は素早く紅茶のかっぷを机に置き、立ち上がってわたくし達に挨拶をしました。

「ーーあの、どういったご用件でしょうか?」

響「自分達、高木社長に呼ばれて来たんだ。先に上がっておいてくれって」

「もしかしてスカウトされたとか……?」

貴音「その通りです。ところで、貴女は……?」

小鳥「あ、申し遅れました。私、この765プロで事務員をしております、音無 小鳥と申します!」

貴音「なんと、事務員殿だったですか!てっきり、アイドルの一人かと」

小鳥「そ、そんなとんでもない!私みたいな二十[チョメチョメ]歳のおばさんが、アイドルなんて……」


その年齢なら、まだ若いくらいかと思われるのですが……

その時、事務所の扉が再び開かれました。

社長「おっと、待たせたね。じゃあ、ついて来てもらえるかな?」

小鳥「お疲れ様です、社長。私、お茶とお菓子用意してきますね♪」

社長「おお、すまないね小鳥君。頼むよ」

小鳥「はい。お任せください♪」

わたくし達は応接室に通されました。

社長「では、そこにかけてくれたまえ」

貴音「失礼致します」

響「し、失礼します、だぞ」

響、それは丁寧になっていないのでは……?

社長「ははは、そんな硬くならなくても大丈夫だよ。別にとって食おうって訳じゃないからね」

社長「それじゃあ今から我が765プロの営業方針について説明していくから、楽にして聞いてほしい」



その後、わたくし達は事務所の方針やその他諸々のことを聞きました。

かつて赤羽根殿がおっしゃっていた内容と相違ありません。とても良き事務所です。

社長「別に今日答えを出してくれという訳じゃあないからね。ゆっくり考えてくれればいい」

高木殿はそう締めくくりました。ですが、わたくしの心はもう決まっております。

貴音「高木殿……わたくしの答えはもう決まっております」

社長「……む?どういうことかね?」

響「自分達、最初からここに入るつもりでいたんだ」

響「だから765プロの事務所を探してたんだけど、なかなか見つからなくて。だから社長に会えてラッキーだったぞ!」

社長「ということは……」

貴音「はい。これからよろしくお願い致します、高木殿」

こうしてわたくしは、晴れて765プロの一員となることができました。

貴音「ふぅ……」

ようやく、ここまで来たのですね……。

もう少しであなた様にお会いできると思うと、胸の高まりが止みません……///

今週の投稿は以上です。


それでは、また。

>>167
応援するからさ
不必要に煽るなよ
これから黙々と投下した方がいいよ君

確かに煽るのはよくないぞ、無駄に荒らしが出てくるからな
構想自体は面白いから、頑張ってくれ


だが>>168、少し言い方がきついんじゃないか?
長編はもともとコメ付きにくいもんだしさ

>>168 さん、 >>169 さん

ありがとうございます。
これから無駄なことはやめておきますね。

確かに口が悪かった
申し訳ない

前も言ったけど見てる人は多いから頑張って

>>173 さん

そんな、とんでもないです。悪いのは私ですから。
ご意見ありがとうございました。

ご期待に添えるよう、頑張ります!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


社長「では明日から早速、活動を始めていくことにしよう」

社長「他の候補生の皆との顔合わせもしたいから、明日の九時頃、またここに来てくれるかね?」

昨日そう高木殿に言われ、わたくしと響は事務所を出て、その場で別れました。

今日から再び、アイドルとしての日々が始まるのですね……!

わくわくとした気持ちが止まらず、昨夜はあまりよく眠ることができませんでした。

それでは、事務所へ参りましょう。

八時半頃、わたくしは事務所に到着しました。

ここに、赤羽根殿がいるのですね……

いざ、参ります!



貴音「ーーおはようございます!」

ーー気負いすぎたあまり、わたくしらしからぬ大声で挨拶をしてしまいました……///

小鳥「おはよう、貴音ちゃん」

事務員殿が、わたくしに挨拶を返します。

貴音「おはようございます、事務員殿」

小鳥「じ、事務員殿って……なんか堅苦しいわねぇ……」

小鳥「貴音ちゃん、もう少し柔らかくしてくれないかしら?私達、もう仲間なんだから」

貴音「柔らかく、ですか……?」

小鳥「ええ。なんだか距離を感じちゃうというか……何かいい方法は……」

小鳥「ーーそうだ!貴音ちゃん、私あだ名なんかで呼ばれ慣れてるから、何かあだ名で呼んでみない?」

貴音「あだ名、ですか?」

小鳥「私とある子に、『ピヨちゃん』って呼ばれてたりするから……貴音ちゃんも、どうかなって」


貴音「ふむ……では『小鳥嬢』と呼ばせて頂きます」

小鳥「こ、『小鳥嬢』・・……いや、まだマシかも。それでいきましょう♪」

しばらく時間が経ちました。

事務所の中には、まだ小鳥嬢しかいません。妙ですね……

貴音「小鳥嬢、他の者はいないのですか?」

小鳥「ああ、みんなならどこかで一度集まってから来るはずよ。顔合わせはインパクトだ、って社長が」

貴音「……面妖な」

社長は少し、変わったことが好きなようです。

響「はいさーい!」

そのような話をしていると、ちょうど響がやって来ました。

貴音「これ、響。挨拶はしっかりとせねばなりませんよ」

響「うぐっ、ごめん……おはようございます!」

貴音「おはよう、響ちゃん」

小鳥「おはよう、事務員さん!」

小鳥「うーん、やっぱりしっくり来ないわね……響ちゃん、私のこと、何かあだ名で呼んでみない?」

響「えっ、あだ名?」

小鳥「そう、あだ名よ。実はかくかくぴよぴよで……」

響「なるほど……うーん、そうだな……なら、『ピヨ子』って呼んでもいいかな?」

小鳥「『ピヨ子』?」


響「そうだぞ。昨日初めて会った時、『ピヨッ!』て言ったでしょ?」

響「名前も『小鳥』だし、ちょうどいいかなって思ってさ!」

小鳥「なるほど、面白いわね。それでいきましょう♪」

小鳥嬢は、あだ名が好きなのでしょうか……?

そうこうしている間に、九時になりました。

ふむ、なにやら騒がしいような……



社長「やあ、おはよう!」

小鳥「おはようございます、社長」

そうこうする間に、高木殿が事務所に入ってきました。

貴音「おはようございます、高木殿」

響「はいさい!……じゃなかった。おはようございます!」

社長「おお。四条くんに我那覇くん、おはよう」

社長「ーーうんうん、二人とも元気そうで何よりだ。では、お待ちかねの対面式と行こうかね」

響「どんな子がいるんだろ?自分、楽しみだなぁ~♪」

貴音「ふふっ、そうですね」



ーーわたくしは、もう既に全員の顔と名前が一致するのですが……。

わたくしの『とっぷ・しーくれっと』を隠すため、初対面のふりをしておきましょう。

……こう見えて、演技には自信があるのですよ?

社長「おっほん。ーーでは諸君、入ってきたまえ!」

扉が開かれ、次々と見知った顔が入ってきます。

予想以上の人数だったのか、響はあたふたとしていますね。



ーーしかし……入って来た中に、赤羽根殿はいませんでした。

短いですが、今週の投稿は以上です。

乙であった

>>182
貴音「おはよう、響ちゃん」

小鳥「おはよう、事務員さん!」

うわっ、やらかした……
申し訳ありませんでした!

>>182
小鳥「おはよう、響ちゃん」
響「おはよう、事務員さん!」

で脳内補完をお願いします。

>>189 さん、ありがとうございました。

社長「さあ諸君、朝礼を始めようじゃないか!」

社長「さて、まずは新人の二人の紹介と行こうかね。二人とも、自己紹介をしてくれたまえ」

響「分かったぞ!……自分、我那覇 響!なんでも得意だけど、ダンスなら絶対に負けないぞ!よろしく!」

貴音「わたくし、四条 貴音と申します。皆様にお会いできて光栄です。以後、お見知り置きを」

促されるまま、わたくし達は自己紹介を行いました。


……少し堅苦しかったでしょうか?

社長「うむ、ありがとう。では諸君、二人に自己紹介を」

春香「私からでいいかな?……えーっと、天海 春香です!」

春香「趣味はお菓子作りで、えーっと……歌うことが好きで、えーっと……と、とにかくよろしくお願いします!」

千早「如月 千早です。……歌うことだけは、誰にも負けません。以上です」

春香「ち、千早ちゃん!ちょっと素っ気なさすぎじゃない?」

千早「そうは言っても……私には、歌しかないから。春香も知っているでしょう?」

「……zzz」

「こら、美希!起きなさい!」

美希「あふぅ……律子は厳しいの」

律子「律子『さん』でしょ?ほら、ちゃっちゃと自己紹介する!」

美希「むぅ……ミキの名前は星井 美希なの。おやすみ……」

律子「全く、美希は……名前も出たし、次は私ね。秋月 律子よ。アイドルと事務員を兼任してるわ。よろしくね!」

雪歩「は、萩原 雪歩ですぅ……得意なことといったらお茶を入れることくらいですけど……よ、よろしくお願いしますぅ……」

真「ボクは菊地 真。響と同じで、ダンスには自信があるんだ。……男の子じゃないから、そこんとこよろしくね!」

やよい「高槻 やよいですー!元気にアイドル、やってます!よろしくおねがいしまーす!」

伊織「水瀬 伊織よ。完璧なアイドル目指してるわ。まあ、もう完璧に近いけど。よろしくね、にひひっ♪」

あずさ「三浦 あずさです〜。一応アイドルの中では最年長だから、いつでも頼ってちょうだいね~?」

「「んっふっふ~」」

亜美「亜美で→す!」

真美「真美で→す!」

亜美「我ら双子の双海姉妹を、なめてはいけませんぞ?」

真美「よろしくね、ひびきん、お姫ちん!」

貴音「お姫ちん……ですか///」

亜美「うん!」

真美「お姫様みたいな感じだから、『お姫ちん』だよ!」

社長「これで全員だね。諸君、仲良くしてくれたまえよ!」

……そこで、自己紹介は終わってしまいました。

赤羽根殿は、いらっしゃらないのでしょうか……?

貴音「ーー高木殿、少しよろしいでしょうか?」

社長「む?なんだね、四条君?」

貴音「その、『プロデューサー』はいないのですか?」

社長「ああ、君達のプロデューサーかね?」

社長「実はまだ、私のティン線……ごほん、琴線に触れるような逸材がいなくてね、まだ一人もいないのだよ」

なんと、赤羽根殿はいないのですか!?

もしや、これも時間遡行の影響なのでしょうか……困りました……。

このまま赤羽根殿がいなければ、わたくしは……!

社長「むむ……そんながっかりした顔をしないでくれたまえよ。できる限り早く、プロデューサーを迎え入れるようにはする」

社長「少しだけ、待っていてはくれないかね?」

貴音「ーー分かりました」

寂しいですが、あの方が来て下さることを信じて、待つことに致しましょう。

響は早くも、765プロの皆と馴染んでいるようです。

これも、一種の才能なのかもしれません。

春香「貴音さんも、こっちに来てくださいよー!私が作ったお菓子もありますよー!」

天海 春香の声が聞こえます。

お菓子、ですか……じゅるり。

……はっ!

ーーいえ、やはり食欲には勝てません。いざ!


ーーーーーーーーーー


貴音「……まこと、美味です!」

このくっきーといい、ぱうんどけーきといい、素晴らしき美味しさです。

それに雪歩殿のお茶がよく合い……わたくしはとても幸せです。

少し自粛しなくては、すぐに無くなってしまいそうです。それほどの美味しさなのです!

春香「えへへ、そんなに美味しそうに食べてもらえると、私まで嬉しくなっちゃいますっ!」

伊織「ほんと、春香の作るお菓子は美味しいのよね……。見習いたいもんだわ」

ぼそっと、水瀬 伊織が口を挟みます。

納得です。何度も言いますが、それほどの美味しさなのです!

思わず、わたくしの食いしんぼうな面が出てしまいます……。手が出るのを抑えられなくなりそうです。


ええい、静まりなさい……わたくしの食欲!

765プロの面々と話していると、すぐに仲良くなれそうな気がしてきます。これも765プロの特色なのでしょう。

自然とみんなが仲良くなれる……そんな雰囲気が醸し出されています。

気付けば、時間はお昼過ぎになっていました。



貴音「あの、レッスンなどは無いのでしょうか?」

律子「レッスン?……ああ、今日は全員休みよ」

律子「今日はあなた達の歓迎会なんだから、もっとゆっくりしてちょうだい」

貴音「なんと。てっきり厳しいレッスンが待っているものかと思いました」

律子「まあまあ、まずは親睦を深めましょ。レッスンは明日でもできるじゃない?」

律子「時間も時間だし……さあみんな、お昼ご飯の時間よ!」

そう言うとどこからか、律子嬢はたくさんの食べ物を持ってきました。

……思わず、わたくしの腹の虫が。

律子「ふふ、体は正直なのね。ほら、食べて食べて!」

そこまで言われては、断るのが無礼というもの……では、お言葉に甘えて。


千早「四条さん……結構食べるんですね……」

如月 千早が驚いた顔でこちらを見ています。

少し食べ過ぎてしまいました……皆に引かれてしまったでしょうか……?

春香「でも、貴音さんってとっても美味しそうに食べますよね。そこも貴音さんのいいところだって思いますよ!」

やよい「そうですよ!たくさん食べることはいいことですー!」

……そんなことはなかったようです。


わたくしが満腹になる頃、『親睦を深める会』は終わりました。

わたくしが食べる量は、一般男性が食べる量以上だと言われたことがあります。

ですがどれだけ食べたのかは、わたくし自身も見当がつきません……。


ふぅ……まこと、美味でした……ごちそうさまでした。

少々ネタ寄りでしたが、今週の投稿は以上です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


765プロに入って数日。

わたくしはレッスンをこなしつつ、日々を過ごしておりました。

とは言っても、わたくし達はまだ入社したばかり。まずは基礎を作るための体力作りの鍛錬ばかりです。

この頃のわたくしの体は激しい運動に慣れていなかったので、とても助かりました……

身体能力は戻った時点のまま……これが『意識だけ』の時間遡行の弱点、と言えましょう。

もっとも『意識』のみは未来のものであるため、こつは既につかめています。

そのためか、鍛錬自体はそこまで厳しいものには感じられませんでした。

ーーですが、本格的なレッスンはもう少し先のようですね……。

そしてとある朝。

わたくしと響は、他愛ない話をしながら事務所へと向かっておりました。

響「でさー、春香が……」

貴音「ふふ、春香らしいですね」

765プロの皆と親しくなるのに全くと言っていいほど時間がかからなかったためか、今では全員下の名前で呼ぶようになっております。

呼び捨てでなければ、なぜか違和感を感じるような……そんな気がするのです。不思議なものですね……。

そしてわたくしは、いつものように事務所に到着しました。

貴音「おはようございます」

響「おはようございまーす!」

小鳥「うふふ。貴音ちゃん、響ちゃん、おはよう」


おや……なにやら小鳥嬢がご機嫌に見えます。何かあったのでしょうか?

貴音「小鳥嬢、なにやらご機嫌ですね。何かあったのですか?」

小鳥「うふふ、実はね……」







小鳥「この事務所に、待望のプロデューサーが来ることになったのよ!」

……なんと!!!

ついに、この時が来たのですね!

貴音「なんと!どんな方なのですか?」

小鳥「私自身もまだ会ったことはないんだけど……聞いた話だと男性で、優しい誠実な方だそうよ?」

響「へぇ、プロデューサーかぁ……どんな人か気になるなぁ」

貴音「おや、響は嬉しくないのですか?」

響「嬉しいに決まってるぞ!でも、あんまり実感が湧かなくて……」

そこまで長くアイドルとして活動していない響としては、そこまで実感が湧かないのも無理もないかもしれません。

貴音「して、その方はいついらっしゃるのでしょうか?」

小鳥「今日の朝礼で顔合わせだって、社長からメールで回ってきたけど。貴音ちゃん、見てないの?」

貴音「めーる、ですか……生憎、わたくしは最近の機械に疎く、携帯電話なるものを持っておりませんゆえ」

小鳥「あ……そういえば、そうだったわね……今度、見に行きましょうか」

貴音「はい、よろしくお願い致します」

まさか、携帯電話を持っていない煽りが早くも現れるとは……

やはり、持っておかねば不便なのでしょうか。



持っていたとしても、使いこなせるかどうか不安ですが……



さて、朝礼の時間が近づいて参りました。

事務所には既に全員が揃っており、朝礼が始まるのを待っております。

まだ知らされていないのか、入ってくるであろうプロデューサーのことは話題に上がっておりません。

そして、階段を上ってくる音が……

社長「やあ、おはよう諸君。それじゃあ、朝礼を始めようかね」

真「社長、今日の朝礼、なんか早くないですか?」

社長「その通り。実は、皆に言っておかねばならないことがあるのだよ」

雪歩「言っておかないといけないこと?……もしかして、悪い話ですか?例えば、倒産とか……!?」

社長「そ、そんな縁起の悪い話はよしてくれたまえ……逆だよ、君たちにとってはいい話に違いない」

社長「ついに、我が765プロにプロデューサーが来ることになったのだよ!」

その言葉が放たれた途端、事務所内がより一層騒がしくなりました。

新しいプロデューサー、その言葉は皆を大いに喜ばせる言葉だったのです。

勿論、それはわたくしにとっても嬉しい言葉に違いありません。

春香「い、いったいどんな人なんですか!?」

社長「ははは、そう焦らなくてもいいじゃないか。優秀な人材であることは、私が保証するよ」

社長「では、紹介しよう。入ってきてくれたまえ!」

事務所の扉が開かれました。


そして、一人の男性が事務所に入って来ます。

黒縁の眼鏡に、ぴしっとした黒い背広。それに、青地に黒の縞模様が施されたねくたい。

優しげな表情を浮かべた、まだ二十歳くらいの男性は、皆の顔を見渡してこう言いました。






P「は、初めまして。ここでプロデューサーとして働く事になった、赤羽根です。よろしくお願いします!」






ようやくバネさん参戦。
今週の投稿は以上です。

ーーああ。

夢では、無いのですね……?

この日が来るのを、どれほど待ちわびたことでしょう。

……ようやく『再会』できましたね、あなた様。

P「……」チラッ

貴音「っ……///」

不意に、赤羽根殿と目が合いました。

久しぶりにお会いしたからでしょうか?目が合うだけで胸が高鳴ります。

おそらく、今のわたくしの顔は真っ赤になっていることでしょう……気付かれていなければ良いのですが。

まるで病のような、この気持ち。

わたくしは再認識しました……わたくしは、やはりこの方を好いているのだと。

わたくし達の時と同様に、事務所の皆の自己紹介が終わった後、歓迎会が開かれました。

わたくしとしては、また美味しい食べ物が食べられるというだけで幸せでいっぱいです。

ましてや、赤羽根殿が近くにいて下さる……そのことも合わせると、わたくしの胸は幸せで張り裂けてしまいそうに感じます。

これから毎日このような日々が続くと思うと、嬉しくてなりません。

真美「兄ちゃん、いくつなの?」

P「はは、いくつに見える?」

あずさ「プロデューサーさんって、ここに来る前は何をされていたんですか?」

P「大学で勉強してました。プロデューサーとしての仕事はだいたい研修で学んだので、安心して下さい」

おやおや、赤羽根殿は早速質問攻めにあっているようですね……ふふっ。

やはり765プロの雰囲気がそうさせるのでしょうか、もうすっかり皆と打ち解けているように見えます。

先程までの敬語も取れ、より親しみやすい雰囲気を醸し出しておられます。



ーー出遅れてしまいました。

こうしてはいられません、わたくしも赤羽根殿とお話しせねば!

貴音「……プロデューサー?」

P「あっ、君は……確か、四条 貴音ちゃんだったね。改めてよろしく」

貴音「はい、よろしくお願い致します」

貴音「皆と同様に、わたくしのことは下の名前で……『貴音』と呼んで下さいませ」

P「分かった。よろしく、貴音」



久しぶりにお話しすることができました。とても嬉しいです……。

少しの間、わたくしと赤羽根殿は談笑を交わしました。

P「……にしても貴音って、少し変わってるよなぁ」

貴音「ふふ、そうかもしれませんね。よく言われます」

P「うん。なんだか個性的で、ミステリアスな感じがするよ」

貴音「ーー昔はとても気にしていて、何とか直そうとしたこともあるのですが……」

貴音「これも個性の一つとして、わたくしの武器とすることに致しております」

貴音「アイドルたるもの、何かしらの個性はあった方が良いでしょうから。ふふっ♪」

P「へぇ……もうそんなことまで考えてるのか。偉いなぁ」

貴音「いえ、そんなことは……」

961プロにいた頃はセルフプロデュースが基本でしたので、自分の売り出し方などは自分で知っていなくてはなりませんでした。

……ということも、誰にも話すことはできません。

うっかり喋ってしまうと、前の時間軸に強制送還させられてしまいますので……



その後もいくつか会話を交わし、赤羽根殿との会話はそこで途切れました。

赤羽根殿との会話が終わった後、わたくしは皆と会話をかわしつつ、ひたすら料理を食べておりました。

あまりにも美味な料理の数々に、わたくしの箸は止まりません。ああ、幸せです……。


……まこと、美味です。……ふむ、これもまた。


ーーはしたない、と思われてしまうでしょうか?

やがてわたくしが満腹になる頃、歓迎会は終わりました。

赤羽根殿は楽しそうに笑っておられます……まこと、良き笑顔です。

前回と同じようにレッスンは無く、そのまま解散となりました。

私の個人的な都合上、今週の投稿は以上となります。

短くて申し訳ありません……。



響「貴音!自分と一緒に帰ろうよ!」

貴音「勿論です。では、行きましょうか」

響に誘われ、わたくし達は一緒に帰ることとなりました。

事務所から外に出てみると、もうすっかり辺りは暗くなっており、少しだけ欠けた月が顔をのぞかせております。

流石に都会の中では、輝く星空を見ることは難しいですが……。

P「あれ、貴音に響じゃないか」

響「あ、プロデューサー!」

ちょうどそこに、赤羽根殿が姿を見せました。

どうやら帰る時間がわたくし達と重なったようです。

貴音「プロデューサーも、今からお帰りですか?」

P「ああ、そうだよ」

響「あれ?そういえばプロデューサー、仕事があるんじゃないの?」

P「ああ、仕事は明日からだって社長に言われたんだよ」

P「今日やったのは、みんなと喋ることで顔と名前を一致させたくらいかな」

今日のレッスンが無かったのとは違い、事務作業は毎日行われているはずです。

おそらく、『初日から作業をさせるのは酷だ』と小鳥嬢と律子嬢、それに高木殿が考えたのでしょう。

P「そうだ、家まで送って行くよ。俺、車で来てるんだ」


響「えっ、いいの?」

P「もちろん。こういうのもプロデューサーの仕事だと思うしさ」

響「ラッキー!ありがとう、プロデューサー!」

貴音「ふふ、ありがとうございます」

P「どういたしまして。じゃあ、駐車場まで行こうか」

わたくし達は、そのまま裏の駐車場に向かいました。

駐車場には、自動車が三台。

一つはわごん車。律子嬢が使っているものです。

二つ目は普通の乗用車。おそらく、高木殿のものでしょう。

ということは、残った最後の一つが彼の自動車に違いありませんね。


案の定、赤羽殿は自動車の鍵を取り出して、その自動車の扉の鍵を外しました。

P「開いたぞ。さあ、好きなところに乗ってくれ」

響が近寄るより早く、わたくしは『助手席』の扉を開き、そこに座りました。

たとえ響といえど、この席を譲る訳には行かないのです……!

P「ん?貴音、なんで助手席なんだ?」

貴音「助手席から見える景色は、まこと良きものですので。……だめ、ですか?」

P「いや、別に構わないけどさ。てっきり響の隣に座るのかと思って」

単に赤羽根殿の隣に座りたかった、というのが本音なのですが……恥ずかしくて口には出せません。

自動車はゆっくりと動き始めました。

車内では、響を交えて他愛ない会話が交わされます。





……ですが、楽しい時間というものはすぐに過ぎ去ってしまうもの。

あっという間に響の家の前まで着いてしまいました。

P「えっと、ここだったかな?」

響「うん、間違いないぞ。それじゃあまた明日ね、二人とも!」

貴音「ええ。ごきげんよう、響」

P「ああ、また明日」


響が降り、自動車はわたくしの家に向かって走り始めました。

再び交わされ始める、他愛ない会話。

こうしてお話ししているだけでも、わたくしは幸せです……。

この時間が、永遠に続けばいいのに。……そう、思ってしまいます。

早く、赤羽根殿を『あなた様』とお呼びしたい。共にらぁめんを食べに行きたい。あなた様との逢瀬を楽しみたい……。

そのような思いばかり、私の頭の中に浮かんできます。




そしてやはり、楽しい時間とは早く過ぎ去ってしまうもの。

気がつくと、わたくしが住む家の前に到着しておりました。

P「ここで良かったかな?」

貴音「あ……はい。ありがとうございました」

P「どういたしまして」


名残惜しいですが、時間も時間ですし……仕方ありませんね。

貴音「……それでは、プロデューサー。ごきげんよう」

P「ああ、また明日。ーー明日は、もっと色々話そうな?」

貴音「……!」

P「いやぁ、もうちょっと話していたそうだったからさ」

P「俺ももう少し話していたかったけど、時間も時間だし」

P「だから、『また明日』」

貴音「……くすっ。あなた様は、なんでもお見通しなのですね」

P「あ、あなた様!? なんだそれ!?」

貴音「これからはあなた様を、そうお呼びさせていただくことに致します。よろしいでしょうか?」

P「なんかこそばゆいけど……まあ、いいか。好きに呼んでくれ」

貴音「かしこまりました、あなた様♪」


別れの挨拶をしたのち、赤羽根殿の自動車は、再びゆっくりと走り始めました。





今日は、本当に良き日でした。

ーーこうしてまた、あの方にお会いすることができたのですから。

早く呼びたいあまりつい、あの方を『あなた様』とお呼びしてしまいましたが、少々早すぎたでしょうか?

……まあ、前の時間軸でも会ったその日から『あなた様』とお呼びしていましたし、大丈夫でしょう。



また明日からも、よろしくお願いしますね、あなた様。

今週の投稿は以上です。



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次の日、わたくしは普段より少し早めに目を覚ましました。

何を隠そう、今日は赤羽根殿との初めてのレッスンなのです。

赤羽根殿が入社したと同時に、わたくしと響は本格的なレッスンに参加することを許されました。とても喜ばしいことです!

赤羽根殿に、少しでも良い印象を持って頂かなければ……。

いつもより念入りに体を清め、しっかりと朝食を摂ります。

わたくしが出せる最大のパフォーマンスを、あの方にお見せしなければなりません!

貴音「すぅ、はぁ……よしっ」

やる気は十分。いざ、事務所へと参りましょう……!



貴音「たのもう!」

P「……貴音?」

貴音「あっ……///」

……少々意気込みすぎたようです。

赤羽根殿も唖然としておられます、恥ずかしい……///

顔から火が出そう、とはこのことに違いありません。

貴音「お見苦しいところをお見せして、申し訳ございません……」

P「いや、別に気にしてないよ。ちょっとびっくりしただけだから」


P「それに、なんか可愛かったし。貴音の新しい可愛さを発見した、って感じかな?」

貴音「か、かわ!?」///

……うぅ///

みるみるうちに、自分の顔が赤くなっていくのが分かります。

お慕いする男性に『可愛い』と言われると、嬉しいですが恥ずかしいですね……

P「さて、今日の予定は……うん、レッスンだな」

P「来たばっかりで悪いんだけど、準備してくれるか?」

貴音「わ、分かりました」

恥ずかしさのあまり、わたくしはその場からそそくさと逃げ出してしまいました……。

レッスンのために借りた場所へ向かい、更衣室でじゃーじに着替えます。

765プロの事務所はそう広くないため、レッスンは基本的にどこか他の場所を借りて行われるのです。


今回は千早、春香、やよいとのボーカルレッスン。

気合を入れて臨むことに致しましょう……!

P「よーし、今日は俺がレッスンを見るからな」

今日はトレーナーをつけず、赤羽根殿が全てのレッスンを担当されるようですね。

P「まずはみんなの歌唱レベルを知りたいし、一曲ずつ歌ってみてくれないか?」

春香「分かりました!じゃあ、私から行きますね!」

P「お、まずは春香からか。頼むよ」

春香「はいっ!」

……


P「……うん、なんというか」

春香「す、すみません。私、歌うのは好きだけどあんまり上手じゃなくって」

P「いや、悪くはないと思うよ」


この頃の春香はまだ、歌うことがあまり得意ではないようです。

すぐ横で千早が、少し険しい顔をしています。

『口出ししたいけど、できない』……そんな顔です。

P「そんなに上手くない、と感じるかもしれないけど、春香は楽しそうに歌えるじゃないか」

P「ただ上手けりゃいい、って訳じゃないんだから、もう少し自分の歌に自信を持ってもいいと思う」

P「上手さなんて、これからのレッスンで伸ばしていけばいいだけだからさ」

春香「プロデューサーさん……ありがとうございます!私、もっと頑張りますね!」



たった一回聞いただけで、春香の歌の本質を見抜くとは……赤羽根殿は只者じゃありませんね。

あの時間軸で、765プロのアイドル全員をトップアイドルにした手腕は本物のようです。

まだ新人であるにもかかわらず、その片鱗が現れているように感じます。

P「さ~て、次は誰の番だ?」

やよい「じゃあ、私が歌いまーす!」

赤羽根殿が話すやいなや、さっとやよいが手をあげました。

P「やよいだな。よし、頼む」

やよい「うっうー!行きますよぉ~!」

……


やよい「あの、プロデューサー、どうでしたか?」

P「うん、なんだか元気が湧いてくる歌声だなぁ、って思ったよ」

P「そうだな、『元気をくれるアイドル』として売り出していくのがいいな」

やよい「私、それくらいしかできませんから……えへへ」

やよいの歌声を聞くと、本当に元気が湧いて来る気がします。

癒されるような、元気付けられるような……うまくは言えませんが。

やよい「私、あんまり歌が上手じゃないんですけど……これでいいんですか?」

P「まあ、直したほうがいいところは幾つかあったかもしれない。でもな?」

やよい「ーーでも?」

P「一生懸命に歌うやよいは、きっとみんなに元気を与えられるはずだ」

P「春香と同じように、少しづつうまくなっていけば大丈夫だよ」

やよい「えへへ、照れちゃいます~……プロデューサー、ありがとうございます!」

さて、残るはわたくしと千早の二人。

千早の後に歌うのは、少し気が引けますね……。

完成度が高い歌、千早の歌を聞いた後では、わたくしの歌はどうしても霞んで聞こえてしまうでしょうから。

ここはわたくしが、先に歌うことに致しましょう。

貴音「プロデューサー、次はわたくしが歌ってもよろしいでしょうか?」

P「分かった、次は貴音だな。千早は、最後でいいか?」

千早「はい、構いません」

千早「まだ聞いたことがない四条さんの歌、気になりますし……」

春香「そういえば私も、まだ貴音さんの歌聞いたことないなぁ。楽しみです!」

やよい「私もです!ワクワクしちゃいます~!」

そこまで期待されると、少々歌いづらいですね……少し緊張してしまいます。


ですが、期待には答えねばなりませんね。

貴音「ご期待に応えられるように頑張ります。それでは、聞いて下さい……」

……


貴音「……ふう。いかがでしたか?」

千早「あ……」

春香「……」

やよい「……」

P「……!」

皆、驚いた顔で口を開けたまま、何も喋りません。

何かまずいことでもしてしまったのでしょうか……?

春香「ーー貴音さん、めちゃくちゃ上手じゃないですか!私、感動しちゃって……!」

やよい「はわぁ……びっくりしすぎて、何も喋れませんでした……」

千早「……なんて素敵な歌声……今の私じゃ、全然敵わない……!」

貴音「ーーなんと」

ーー 体は過去のものですが、技術は未来のものであることを忘れていました……。

アイドル候補生としては、やりすぎであったかもしれません。

P「ーーすごいじゃないか、貴音!俺も感動した!」

貴音「あ、ありがとうございます……」

P「こんなにすごい歌唱力を持ってるなんて、思ってなかったよ」

P「社長は本当に、金の卵を見つけてきたんだなぁ……」

……怪しまれてはいないようですね。

しかし、そんなに褒められると照れてしまいます……///

P「さて、最後は千早だ。今の歌の後で歌いにくいかもしれないけど、いけるか?」

千早「……はい、大丈夫です。むしろ、やる気が湧いてきました」

春香「え、なんで?」

千早「今の四条さんの歌を聞いて、正直今の自分じゃ勝てないって、そう思ったの」

千早「でも、負けていられない。こんなところで諦めるわけにはいかない」

千早「そう思ったら、なぜか頑張れる気がして……」

わたくしに対する『対抗心』が、千早に火をつけたのかもしれませんね。

『765プロの歌姫』である千早なら、きっと素晴らしい歌を披露してくれるに違いありません。

わたくしも期待して聞くことに致しましょう。


P「それじゃあ千早、頼む」

千早「はい……では、聞いて下さい」

遅れてすいませんでした……。

中途半端かもしれませんが、今回の投稿は以上です。


……



千早「~~~♪」

貴音「……!」

……流石は千早、ですね。

周りの人々を魅了するような、素晴らしい歌声です。

ーーですが……。

P「……これまたすごいな」

やよい「そうですよね!千早さんなら、貴音さんにだって負けないです!」

P「ああ、そうだな。千早には『歌姫』の称号がピッタリだ」

千早「私には、歌しかありませんから」

千早「ーーですが、まだ……」

P「うん。貴音も千早も、まだまだこれからだな」

春香「え?」

……やはり、赤羽根殿は見抜いておられましたか。

やよい「でも、貴音さんも千早さんも、とっても上手でしたよ?」

P「それは分かってる。でも、まだ足りない部分がいくつかある、っていうことだよ」

千早「そうですね。私も、まだ私自身の歌が完璧だとは思ってませんし……」

貴音「わたくしもそう思います。まだ足りない部分がある、という点には同意せざるを得ません」

春香「えええっ!? あんなに上手だったのに?」

甘いですよ、春香。

『歌う』ということは、そんなに楽な物ではありません。

P「まず一つ挙げるとすれば、貴音は途中で声を伸ばしきれてなかった」

P「これは単純に、肺活量とかの問題だろうな」

P「音程なんかは何の問題もなかったから、あとは細かいところを直していくだけでいいと思う」

貴音「やはり、ですか。見抜いておられたのですね」



『未来』の技術に、『過去』の体がついて行っていない、と言ったところでしょうか。

やはり、鍛え直さねばなりませんね……。

P「千早は……なんと言うか、まだ表現力が足りないんじゃないかと思う」

P「なんかこう……うまく言えないけど、気持ちがこもりきってないっていうかさ」

P「上手いんだけど、聞いててなんだか悲しくなる……そんな歌だった」

千早「……!」

千早ははっとした表情を浮かべました。

自分の足りないものを的確に指摘された、と感じたからでしょうか?

P「あと、歌ばかりやって他のレッスンが足りてないことがバレバレだぞ?」

千早「そんなことまで気が付くんですね。ですが、歌にはそんなもの必要ないですし……」

P「そんなことはないよ。ビジュアルレッスンも、ダンスレッスンも」

P「全く関係がなさそうなグラビア撮影やCMなんかの仕事でも、全て歌を引き立たせるための役割を担ってくれると俺は信じてる」

P「食わず嫌いじゃ、何も始まらない。あらゆる経験は、きっと千早を成長させてくれると思うよ」

千早「……」

P「ーーどうしても、嫌か?」

千早は返事をしません。

自分の信念は曲げたくない、でも赤羽根殿が言っていることも正しい……おそらくそう思っているのでしょう。

彼女のぷらいどが、まだ邪魔をしているのかもしれません。

千早「……プロデューサー」

しばらく時間が経ったのち、ようやく千早は口を開きました。

千早「ーー少しだけ、あなたを信じてもいいですか?」

P「ああ、勿論。きっと千早を、今以上に成長させてみせるよ」

P「いや、今の言葉はちょっとおかしかったな。……俺は誰一人、諦めるつもりはない」

P「夢は大きく。みんなまとめて、トップアイドルにしてみせる!」

P「ーーとは言っても俺、まだ新人だからなぁ」

P「すぐに、って訳にはいかないかもしれないけど。ははは……」





みんなまとめて、トップアイドル。

あの時間軸で本当にそのことを実現していたのですから、きっと……。


その後、基礎的な鍛錬などをこなしてボーカルレッスンは終了。

そしてわたくしは赤羽根殿と営業周りを行い、その日の予定は終了となりました。

レッスン編終了。
これからはレッスン内容やライブ内容などはあまり出さないかもしれません。

今回の投稿は以上です。

Pたか「「ただいま戻りました」」

小鳥「プロデューサーさん、貴音ちゃん、おかえりなさい♪」

ようやく事務所に帰ってきたのは、もう日も沈みかけた夕暮れ時。

赤羽根殿は自分の机の椅子に、わたくしはそふぁーに腰掛け、一息つきます。

P「貴音、もう帰っても大丈夫だが……どうする?」

貴音「いえ、まだ少しやりたいことがありますので」

P「そっか。帰る時は言ってくれよ?」

P「ーーさて、と。俺は事務仕事をするかな」

休む暇なく、赤羽根殿はぱそこんを開き、事務作業に取り掛かります。

途中小鳥嬢の助けを借りながらも、着実に仕事をこなしているようです。

律子「ただいま戻りました~」

小鳥「あ、おかえりなさい、律子さん♪」

P「おかえり、律子」

少しして、律子嬢が事務所に帰ってきました。

律子「お疲れ様です。私も手伝いますよ」

P「いや、疲れてるだろ?もう少し休みなって」

律子「ですが……」

P「いいからいいから。事務員兼任とはいえ、仮にも律子はアイドルなんだから。今はプロデューサーの俺に任せとけって」

律子「はぁ、じゃあお言葉に甘えます。でも、すぐに参加しますからね!」

……

P「ーーうっしゃ、終わった!」

小鳥「私も終わりました……ふぅ」

律子「お疲れ様でした、プロデューサー殿。仕事、早いですね」

P「一応、学んではいるからな。コツさえつかめば、なんとか」

数十分後、三人は今日の事務仕事を終わらせてしまいました。

律子「そうですか……私はもう上がりますけど、お二人はどうします?」

小鳥「私も上がろうかな。ちょっとやりたいこともあるし……」

P「じゃあ、俺ももう上がるか。社長もいないんでしたっけ?」

小鳥「はい。社長なら『大きな仕事が入るかもしれない』って、朝から出張に行ってますよ?」

P「そっか。みんなも直帰みたいだし、戸締りして帰るか。貴音も帰る準備しとけよ」

貴音「はい。少々お待ち下さい……」

小鳥「じゃあ、鍵は私が持っておきますね」

律子「お願いします、小鳥さん」

小鳥「はい、任されました♪」

P「それじゃ、解散ですね。お疲れ様でした~」

ことりつ「お疲れ様でした~」

ーーわたくしも帰ることに致しましょう。

P「貴音、お疲れさん」

貴音「はい。お疲れ様でした」

P「もう遅いし、今日も送っていこうか?昨日の話の続きもしたいしさ」

貴音「良いのですか?では、お言葉に甘えて……」



昨日と同じように(昨日とは違い、響はいませんが)、わたくしは助手席に乗り込みます。

しーとべるとを締めると、自動車はゆっくりと走り始めました。

自動車はわたくしの家に向かって走り続けます。


P「……そういえばさ」

貴音「はい、なんでしょう?」

P「今日のレッスン、本当にすごかったよ。歌、本当に上手いんだな」

貴音「いえ、とんでもありません……わたくしなんて、まだまだです」

P「そう謙遜しなくても。みんな本当に、見所のあるアイドルばっかりだよ」

P「正直みんな、候補生とは思えないくらいの仕上がりだった」

貴音「……そんなに褒めても、何も出ませんよ?」

P「それだけの物だった、ってことだよ」

P「貴音は……千早と二人で歌姫系のユニットとして売り出したら、大ブレイク間違いなしだと思うんだけどなぁ」

貴音「デュオユニット、という訳ですか?」

P「うん。そうだな……輝く感じの『星』に、売り出していくスタイルの『歌姫』を加えて、『スターライト・ディーヴァ』なんてどうだろう?」

P「……なーんてな。まあ、まだ全員をきちんと見たわけじゃないからなんとも言えないけどね」

貴音「ふふ、あなた様は本当に仕事熱心なのですね」

P「ははは……ずっと、こういう仕事をするのが夢だったんだ。だから色々考えちゃってさ」

P「拾ってくれた高木社長には、本当に感謝してるよ」

……本当は、また響、美希と共に『プロジェクト・フェアリー』として活動したいのですが……。

赤羽根殿の方針もあるでしょうし、わがままは言っていられませんね。

その後もいくつか会話を交わし、わたくしは家に帰り着きました。

はい、ただの交流回でした。

今回の投稿は以上です。



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赤羽根殿が事務所にやって来てから数週間。

トレーナー殿や赤羽根殿、高木殿など様々な人々のおかげで、わたくしはデビューしてすぐに多くの人気を獲得することができました。

それは事務所の皆も同じことで、今の765プロのアイドルは全員、デビューして数週間にもかかわらず売れっ子アイドルなのです。

……仕事がうまく行った時に赤羽根殿がして下さる『なでなで』、あれは素晴らしきものです。くせになってしまいます……///

さて、今日は朝早くに事務所に集合、とのことですが……。

おっと、もう朝礼が始まるようですね。



P「さて、みんな集まったな?今から重大発表をするぞ!」

赤羽根殿は全員が集合するやいなや、そうおっしゃいました。

一体何なのでしょうか?

P「さて、俺からの重大発表は三つだ。よく聞いてくれよ……」

P「一つ目、律子が本格的にプロデューサー業を始めることになった!」

あみまみ「「ええ〜!りっちゃんアイドル辞めちゃうの!?」」

律子「見事にハモったわね……大丈夫よ、これまで通り兼任で頑張るから」

律子「事務作業に割ける時間は少なくなるけれど、プロデューサー殿もいてくれるからね」

律子「ふふふ……新ジャンル、『プロデューサー系アイドル』の開拓よ!」

ーーふふ、律子嬢らしい考えですね。

P「さて、どんどん行くぞ。二つ目!」

P「……律子が早速ユニットを組んで売り出すそうだ。これから早速、メンバーの発表がある」

その言葉が発されると、場の空気が一瞬で変わりました。

ーーユニットを組むということはそれだけ売り出しやすくなり、トップアイドルに近付きやすくなるということですから。

もし、自分が選ばれたら……そう皆が考えるのも無理もありません。



P「じゃあ律子、発表よろしく」

律子「分かりました。それじゃあ、発表するわよ……」

事務所には、先程以上の緊張感がな漂っていました。

どこからか『ごくり』、と息を飲む音が聞こえてくるような気も致します。


……その静寂の中、律子嬢が口を開きました。

律子「それじゃ、まずリーダーから発表するわね」

律子「リーダーは……あなたよ、伊織」

伊織「!!」

皆はどよめき、伊織に拍手が送られます。

伊織「ま……まあ、とっ、と、当然よね~♪」

伊織「このスーパーアイドル伊織ちゃんが、選ばれないわけがないわよね……!」

P「おいおい、そう言う割には声が震えてるし、にやけ顔が隠せてないぞ?」

伊織「うるさいわよ、このへっぽこプロデューサー!///」

そう悪態をつきながらも、伊織はほっとした表情を浮かべています。

律子「全く、素直じゃないんだから……まあいいわ」

律子「続いて、二人目。二人目は……あずささん、お願いします」

再びどよめきが起こり、あずさに拍手が送られます。

あずさ「あ、あらあら~?」

律子「あずささん、同じく前に出て下さいね」

あずさ「わ、私なんかでいいのかしら~? 他のみんなだって、十分すごいのに……」

律子「私が選んだのはあずささんです。もっと自信を持って下さい♪」

律子「さあ、これで最後のメンバーね。三人目は……亜美、あんたよ」

亜美「ええっ!? 亜美が!?」

三たびどよめきと拍手が起こります。



……しかし、真美の表情が僅かに曇ったように見えました。

亜美「な、なんで亜美なのさ!」

亜美「こんなおっちょこちょいの亜美なんかより、真美の方が向いてるっしょ!」

真美「亜美……」

亜美は律子嬢に抗議します。何か思う節があるのでしょうか。

……いや、真美の気持ちをいち早く感じ取ったからに違いありません。

P「……よし、そこは俺が説明しよう」

真美「え、兄ちゃんが……?」

P「ああ。実は、このことは前から律子に相談を受けててさ。俺もユニットの編成に携わったんだよ」


赤羽根殿はそう言うと鞄から企画書を取り出します。

そして、それを磁石でほわいとぼーどに貼り付けました。

P「おっと、まだユニット名を発表していなかったな。ユニット名は……『竜宮小町』」

P「メンバー全員に水……海に関する文字が付いているから、そう決めたんだ」

伊織「『水』もそうだけど、『瀬』『浦』『海』の三文字ね?」

P「その通り。先にメンバーを決めたから、後付けの名前なんだけどな」

貴音「……」

響「そんな険しい顔してどうしたの、貴音?」

貴音「あ……いえ。なんでもありませんよ、響」

竜宮小町……前の時間軸には存在しなかったユニットです。

律子嬢がプロデューサーとして活動するという、前の時間とのずれを修正するためのものなのでしょうか?

今回の投稿は以上です。

……ちょっと不調かもです……。

P「さて、それじゃあ亜美の選考理由を発表しようかな」

……話が本題へと入り、真美の顔つきが少し強張ります。





P「突然だが伊織、亜美と真美の大きな違いって分かるか?」

伊織「えっ……と、突然何なのよ?」

P「まあまあ、いいから」

伊織「そ、そんなこと言われても……」

真美「いおりんひどいよ→!亜美と真美の違いくらい見分けてよね!」

亜美「そうだYO!」

伊織「見分けるくらいならこの事務所の全員ができるわよ。でも、『大きな違い』って言われたら……」

亜美「……あり?そういやそだね」

真美「亜美と真美、おっきい違いなんてあるっけ?よく分かんないや」

彼女達二人には、身長や体重などの違いはほとんどありません。

髪型や利き手などの一部を除けば、まるで鏡に写したかのようにそっくりなのですから。

亜美と真美の大きな違い、それは。

貴音「もしや、性格……でしょうか?」

真美「いやいや~、それはないYO、お姫ちん」

P「いや、正解だ」

亜美「ええっ、嘘でしょ?」

真美「亜美と真美、そんな性格に違いなんてないと思うけど……」

P「いや、確かにある。ちょっと試してみようか?」

あみあみ「「 ? 」」

……試すとは、どうするのでしょうか?






P「亜美、真美、いつもみたいに俺に抱きついてみてくれないか?」





……一瞬で、周りの空気が凍りついたような気が致します。

伊織「この変態!ど変態!」

真「プロデューサー、もしかして……」

P「ま、待て!誤解だから!」

P「ちゃんと俺なりの考えがあるんだって!信じてくれよ!」

P「別にやましい気持ちはないから、安心してくれ」

P「『いつも通りに』イタズラする感じでやってくれればいいからさ」


亜美「なーんだ、イタズラなら、亜美達におまかせだよ!」

真美「えっ!ちょっと、亜美・・」

亜美は普通に赤羽根殿に抱きつきましたが、(飛びかかった、の方が正しいかもしれません)真美は少し躊躇しています。




真美「……えいっ!」

少ししてから、真美も赤羽根殿に抱きつき(飛びかかり)ました。

P「うぐっ……よし、降りてくれ。いてて……」

さて、これで何が分かったのでしょう?

P「さて、これで分かったか?」

やよい「うう~、分からないかも……」

春香「うーん……」

貴音「もしや」

千早「もしかして、抱きつく『前』の行動に意味があったのでは?」

P「うん、正解」

ーーむぅ、先に答えられてしまいました……。

P「亜美は抱きつくのに抵抗がなかったが、真美には少し躊躇があった」

P「その少しの『ためらい』の差が、選考の理由だよ」

P「真美は亜美と比べて、自分の行動に躊躇が多くなり始めているからな」

律子「ーー『竜宮小町』に必要だった要素は三つよ」

律子「一つ目は、『メンバーをまとめるリーダー』。これは伊織ね」

律子「二つ目は『やんわりと、かつしっかりリーダーを支えられる裏のリーダー』。これはあずささん」

律子「そして三つ目が、『ためらわずにメンバーを引っ張るムードメーカー』……これが亜美の仕事よ」


律子嬢と赤羽根殿は、それぞれの役割がきちんと決められているとおっしゃいました。

亜美が真美より優っている点を生かした結果、という訳だったようですね。

P「真美には、すまないことをしたと思ってる」

P「でも、亜美よりも少し大人な真美なら、一人でも十分トップを目指せるって思ったんだ」

P「だから真美を竜宮には入れなかった。……分かってくれるか?」

そう言って赤羽根殿は、真美に視線をやります。

真美「……」


少しの間が空いたのち、彼女は口を開きました。

真美「……兄ちゃんもりっちゃんも、そんなに真美のことを考えててくれたんだね」

真美「そこまで期待されちゃ、頑張らないわけにはいきませんな!」

真美「真美、めっちゃがんばっちゃうかんね→!」


そこにあったのは、いつも通りの真美の笑顔でした。

二人の意向を汲み取り、元気を取り戻したようです……本当に良かった。

P「ーーさて、これで終わりじゃないぞ。三つ目の発表だ」

春香「あ……あはは、忘れてました……」

千早「もう、春香ったら……」



そういえば、まだ三つ目が残されていましたね。

最後に持ってくるあたり、重要なことである予感が致します。




P「三つ目は……俺もユニットを受け持つことになった、ということ」

P「竜宮のメンバーは律子、それ以外のメンバーは俺が担当する」

P「そこで俺に担当されるメンバーの中から、ユニットをまず一つ出そうと思うんだ」

P「ユニットの内容までは、まだ決めてない。みんなで相談して決めてほしい」

as「「「 …… 」」」

P「そんじゃ、これで発表は終わりだ。俺は事務仕事してるから、なんかあったら声をかけてくれ」


そう言うと、赤羽根殿は自分の机に向かい、ぱそこんを立ち上げました。

……再びほんの僅かの静寂が、場を包みます。

竜宮の小ネタ回( α)でした。

今回の投稿は以上です。

おっと…プラスが抜けてますね、申し訳ありません。


……


春香「……という訳で、誰がユニットとして活動するのかを決めようと思います!」

春香「司会は私、天海 春香でお送りします!」



千早「……誰に言ってるの、春香?」

春香「ふ、雰囲気だよ、雰囲気!」

春香が持ち前のりーだーしっぷで場をまとめます。

春香「まずみんなに聞くよ。ユニットメンバーに入りたい人!」

すかさず、わたくしを除いた全員の手が上がりました。

真「ユニットの方が早くトップアイドルに近づけるもんね。そりゃみんな手を挙げるか」

雪歩「わ、私だって……トップアイドル目指してるんですぅ!」

皆はそれぞれに自分の思いを語ります。

当然のことでしょう……この場にいる全員が、トップアイドルを夢見ているのですから。

貴音「……」

ですが、わたくしは何も喋らずにいました。

響「あれ、貴音はユニットに入りたいって思わないの?」

そんな中、響がわたくしに声をかけました。

『違う時間軸で』とはいえ、わたくしは一度トップアイドルを経験した身……。

芸能界については、この場にいるアイドルの誰よりも分かっているつもりです。

わたくしにはわたくしの考えがあるのですよ、響?




貴音「確かに、ユニットとして売り出せばトップアイドルに近づきやすいでしょう……ですが」

響「?」

貴音「ーーですが、一度他のユニットが売れた後に出たユニットの方が、売り出しすい気もするのです」

貴音「『あの最近売れているユニット、○○と同じ765プロ発のユニット』というように、名前が知れ渡るのも早くなりそうですし、注目もされやすいでしょうから」


有名なアイドルグループの姉妹ユニットなどが比較的売れやすい、という傾向からの考えです。

売れているアイドルと同じ事務所出身、と言うことも注目を集める要素の一つではありますからね……。

貴音「それにプロデューサーは、『まず一つユニットを出す』とおっしゃいました」

貴音「時間が経てば二つ目、三つ目のユニットを作るということも十分に考えられます」

貴音「同じような売り出し方さえしなければ、『二番煎じ』などと言われることもないでしょうから」

貴音「ーーこれがわたくしの考えです」

わたくしはそう、話を締めくくりました。

千早「……なるほど。四条さんの意見にも一理あるかもしれないわね」

やよい「はわわ、貴音さんすごいですっ!」

やよい「まるで、ずっと前からアイドルをやってたみたいです~!」

貴音「ふふ……」





ーー否定できないのが辛いところです。

雪歩「でも、そうなると私達だけで決めるのもなかなか難しいよね……」

雪歩「プロデューサーにはプロデューサーの考えがあるんじゃないかな、って思うし」

真「そうだね。きっとボク達の売り出し方なんかも決まってるだろうし、勝手に決めたらまずいよ」

真美「んっふっふ~、それじゃあ兄ちゃんに突撃だ→!」

こうして話し合いの結果、結局赤羽根殿に決めて頂くことになりました。




P「……なるほど、それで俺に聞きに来たのか」

春香「はいっ!プロデューサーさんに決めて欲しいんです!」

P「そうか……なら、俺の考えを聞いてくれるか?」

事務仕事をしていた赤羽根殿に経緯を話します。

彼はこちらに向き直ると、喋り始めました。

P「俺は、まず貴音を売り出していきたい」

貴音「!」

……なんと。わたくし、ですか?



P「初めのレッスンの時、貴音と千早の歌声を聞いて、なんだか心に響いてくる『何か』があったんだ」


P「多分社長が言う『ティンと来た』って奴なのかもしれない」


P「この子達ならすぐにトップアイドルになることも夢じゃない……そう思えた」

P「だけど考えているうちに、千早はソロで売り出した方がいいような気がしてさ」

P「それに対して貴音は、誰かと一緒にいた方が輝ける気がするんだ」

P「言うなれば千早は一人でも輝ける星、貴音は他人の要素があってこそ輝ける月って感じかな」

わたくしが月、ですか。……何ともろまんちっくな例え方ですね。

P「もちろん、全員にトップアイドルを目指せる才能があると思う」

P「みんなにもそれぞれ、光る部分を感じたからな」

P「でもまず、俺は貴音のプロデュースに力を入れてみたいと思ってる」

P「……どうかな、貴音」

赤羽根殿は、そうわたくし達に告げました。

そこまで期待されては、わたくしも応えないわけにはいきません。

貴音「ーーあなた様、約束して頂けますか?」

P「……ん?」


貴音「例えわたくしのプロデュースに力を入れるとしても、皆を見捨てたりしない」

貴音「全員を均等にプロデュースし、必ず全員をトップアイドルにする、と」

P「……ああ、任せとけ。みんなまとめて、トップアイドルにしてみせる!」

ーー『みんなまとめて、トップアイドル』。

それが、決して変わらぬ赤羽根殿の信念。

以前から、そして前の時間軸でもおっしゃっていたその言葉。


信じても、いいのですね……?


貴音「分かりました、あなた様」


貴音「必ずや、あなた様の期待に応えて見せましょう……!」

P「……ありがとう」

そう言いながら、赤羽根殿は微笑みました。


背後から拍手が聞こえてきます。

本当に良き仲間を持ったものです……。私は幸せ者ですね。

P「じゃあ、早速だけど……貴音は、どんなユニットを組みたいと思ってる? 」

P「もちろん、ソロとして売り出すこともできる。そこは貴音次第だ」

貴音「そう……ですね……」


あの時聞いた、赤羽根殿のゆにっと案。あれもなかなか良い案ではあります。

しかし、やはりわたくしは……

貴音「ーー実はこうだったら、というものはあるのですが」

P「!そういうのが聞きたかったんだ……で、どんなのだ?」

わたくしがユニットとして活動するなら、やはりこれしかありません。





もう一度。もう一度だけ、『あのユニット』で。






貴音「わたくしと、美希。そして、響の三人で構成されるユニット」

貴音「ユニット名は……『プロジェクト・フェアリー』」

『フェアリー再結成』……やりたいことを一つ消化できました。

今回の投稿は以上です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『プロジェクト・フェアリー』の結成から、少し経ちました。

『ボーカル』のわたくし、『ビジュアル』の美希、そして『ダンス』の響。

前の時間軸と同様に、ユニットデビューしてすぐに話題のユニットとなることができました。

わたくし達だけでなく、皆人気が出てきているのは言うまでもありません。

共に活動し、側にいてくれる響と美希。そして、赤羽根殿。

こちらの時間軸に来る前に、わたくしが理想として思い描いていた通りです。

あまりにも嬉しくて、売れ始めた日の夜は、思わず家で涙してしまいました。


……嬉しくて涙する、ということもあるのですね。

こんなところを『あの時間軸の』あの方が見たなら、『泣き虫だな』とわたくしをからかうのでしょうか?

『今の』あなた様が見たら、どのような反応をするのでしょう?

……いいえ、たとえ違う時間軸であったとしても、『あなた様』は『あなた様』。

わたくしが恋い慕う方であることに違いはありません。

対応の違いなど、どうでも良いことなのです……全く同じ人物なのですから。


……


さて、今日は久しぶりの休日。

昨日、『せっかくの休みなんだから、ゆっくりしなよ』と、赤羽根殿はおっしゃいました。

ですが、あの方のことを考えてしまったからか、わたくしは赤羽根殿に会いたくて仕方なくなってしまいました……。

ああ、あなた様……わたくしはあなた様にお会いしとうございます……。



気付かぬうちにわたくしは、小鳥嬢に選んで頂いたすまーとふぉんを取り出していました。

連絡先の『お気に入り』の項目から、赤羽根殿の番号を見つけ出して電話をかけます。

数回のこーる音ののち、通話が繋がりました。


P『はい、赤羽根です』

貴音「あなた様、でーとして、くれま・す・か?」

P『ぶふぉっ!』

P「ゲホッ、ゲホッ……」

貴音「だ、大丈夫ですか?」

P『あ、ああ、なんとか……貴音なんだな?』

貴音「はい。その通りでございます」

P『どうしたんだ?今の、真美の『Do-Dai』だろ。モノマネか?』

ーーそういえば真美の持ち歌に、このような歌詞があったような気がしますね。

貴音「……いいえ、これはわたくしの意思」

貴音「あなた様とでーとしたい、というだけなのです」

貴音「これから苦楽を共にしていくあなた様と、少しでも親睦を深められたら、と」

P『そうか……でも、俺仕事中だし……今は休憩してるけど』

貴音「むぅ……」

P「それにデートっていうのは少しまずいかもしれないしなぁ……」

ーー確かに、アイドルにすきゃんだるはご法度です。

場合によっては、アイドルを引退せざるを得ないかもしれないのですから。

引退はあくまで極論ではありますが、まいなすいめーじを生むかもしれないのは間違いありません。

ですが、わたくしは諦めきれません。なんとか策はないでしょうか?

……そう考えているうちに、一つの考えが頭に浮かびました。



貴音「……もしもし、あなた様?」

P『ん、どうした?』

貴音「では、お食事に行くこともだめなのでしょうか?」

P『うーん……それならなんとかセーフかな』

P『お昼頃になったら、どっか食べに行こうか?』

ーーやりました!

貴音「ふふっ♪ では、今から事務所へ向かいますね」

P『え、ちょっとまt』

わたくしは通話を切りました。

赤羽根殿が何か言おうとしていた気も致しますが……大丈夫でしょう。

さて、こうしてはいられません。

あの方とお食事に行くのですから、それなりにお洒落をしていかねばなりません……!

早速、お気に入りの服を取り出してそれに身を包みます。

前の時間軸での月光石の首飾りがあれば、最高なのですが……無い物は仕方ありません。



準備は整いました。いざ、事務所へ!

今回の投稿は以上です。

貴音「おはようございます」

十時頃、わたくしは事務所に到着しました。



小鳥「あら?おはよう、貴音ちゃん。今日はオフじゃなかった?」

貴音「はい。プロデューサーとの待ち合わせがありますので」

貴音「それに、なんとなく来たくなってしまいまして……」

小鳥「ふふっ、なるほどね。その気持ち、少し分かるかも」

貴音「おはようございます」

十時頃、わたくしは事務所に到着しました。



小鳥「あら?おはよう、貴音ちゃん。今日はオフじゃなかった?」

貴音「はい。プロデューサーとの待ち合わせがありますので」

貴音「それに、なんとなく来たくなってしまいまして……」

小鳥「ふふっ、なるほどね。その気持ち、少し分かるかも」

おわっ、二重投稿してる…

>>381 はスルーでお願いします。

貴音「なんと……小鳥嬢もですか?」

小鳥「ええ。私もお休みの日でも、なんとなくここに来たくなることがあるもの」

小鳥「社長を除けば私が一番の古株だし……その気持ち、よく分かるわよ♪」


小鳥「あ、プロデューサーさんなら、向こうで書類整理してるわ」

貴音「そうですか。ありがとうございます」

小鳥嬢の言葉通り、赤羽根殿は少し奥で企画書をまとめていました。

貴音「おはようございます、あなた様」

P「おはよう、貴音。本当に来たんだな……」

貴音「いけませんでしたか?」

P「いや、そうじゃないけどさ」

P「ただせっかくの休みなのに、わざわざ来なくても、って思って」

P「事務所だったら、気が詰まって休みづらい気がするんだけどなぁ」

貴音「それは違いますよ、あなた様。事務所にいても、有意義な休みは取ることはできます」

P「そうか?なら良いんだけど」


事務所にいたとしても、ゆっくりとくつろいだり、雑誌を読んだりなど、充実した休日を過ごすことができるのは事実ですから。

ーーそれに、あなた様にお会いできるだけで、わたくしは……///

雑誌などを読んだり、赤羽根殿が作業をしているところを眺めたりしているうちに、お昼時となりました。

切りのいいところまで済んだのでしょうか、赤羽根殿は立ち上がって伸びをしています。

彼が腰をひねると、ばきばきと少々痛々しい音がなりました。

P「ふう、お待たせ。それじゃあ行くか!」

貴音「はい、あなた様♪」

P「それじゃあ音無さん、少し留守を頼みます」

小鳥「はい。行ってらっしゃい、プロデューサーさん♪」

小鳥「貴音ちゃんも、楽しんできてね?」

貴音「はいっ♪」

ふふ……胸が踊りますね。


……


お腹が、空きました……。

通りを歩いているだけで、辺りの飲食店が気になって仕方がありません。

P「何を食べようかなぁ……貴音は、何か食べたいものあるのか?」

貴音「はい。今回は、わたくしのとっておきの店を紹介致しましょう」

P「へぇ……そりゃ楽しみだ」

さらに歩き続けて数分。

貴音「着きました」

P「え!? ここって……」

やって来たのは、前の時間軸でよく通っていたらぁめんの店。

この店の魚介出汁のらぁめんは絶品なのです……!

P「そういえば好物の欄に書いてあったような……ちょっと意外だな」

貴音「そうかもしれませんね。ですが、わたくしはらぁめんが大好物なのです」

P「そうなのか……実は俺もラーメン好きなんだ。さあ、入ろうか」

わたくしがらぁめんを好むようになった理由は、絶対に話すことはできません。

あの時間軸で、赤羽根殿に連れて行って頂いた店がこの店だということも含め、全て『とっぷ・しーくれっと』なのです。

貴音「たのもう!」

店員「いらっしゃいませー」

いつものように店の中に入ります。

店内に入るや否や、削り節の香ばしい匂いが漂ってまいりました。

それだけで、さらに食欲が湧いて参ります。

わたくしの腹の虫が、粗相をしなければ良いのですが……。

わたくし達は隅の方にある座席に座りました。

あまり有名な店では無いため、席を確保するのは容易です。

店員「ご注文はお決まりですか?」

貴音「わたくしは特製らぁめんを。大盛りで」

P「俺は特製つけ麺かな。同じく大盛りで」





P「うまっ!貴音、いい店知ってたんだな」

貴音「お気に召して頂けましたか?」

貴音「この店は、わたくしのお気に入りの店の一つなのですよ」

P「そうなのか。これはいい店を知ったな、これからも度々来よう」

あなた様に喜んで頂けて、わたくしは幸せです。

あなた様の笑顔を見ると、わたくしまで嬉しくなってきます。


……


P「ふぅ、ごちそうさまでしたっと。本当にうまかったなぁ……」

貴音「ふふっ。よろしければ、また、二人で食べに来ませんか?」

P「こっちからお願いするよ。また来ような、貴音」

貴音「……はいっ♪」

店から出ました。

事務所に帰ろうとすると、赤羽根殿はわたくしを引き止めました。



P「さて、と……まあ、このまま事務所に帰るのもなんだしな」

P「腹ごなしも兼ねて、ウィンドウショッピングでもしないか?」

貴音「そ、それはもしや……!」

P「まあ、言い訳は立つしな。これはただの『買い出し』だ」


P「……『デート』もどきでよかったら、付き合うよ」


今回の投稿は以上です。

貴音「ああ、あなた様……感謝致します!」

ついに……! ついに、念願の赤羽根殿との逢瀬です!

あまりの嬉しさで、もはや何も考えられません……///

P「よしっ、じゃあ行くか!」

貴音「--はいっ♪」




そうしてわたくし達は、(前の時間軸で)赤羽根殿と来たことのある通りにやってきました。

洋服を売る店や、装飾品を売る店など、様々な店があるのがここの良いところです。

いつか美希も、『この通りはおすすめなの!』と言っていたような気が致します。


あの時雑誌のインタビューの回答を考えるべく、この通りで赤羽根殿と歩き回ったことは忘れられません。

P「よし……とりあえず歩くか」

P「どこに入るかは、見ながら決めよう」

貴音「ええ、そう致しましょう」


わたくし達はぶらぶらと通りを歩き始めました。

P「……でさ、その時雪歩が……」

貴音「なんと、そのようなことが……おや」



しばらく歩き続けると、とある店がわたくしの目に留まりました。

……あの店は。

P「ん?どうした、貴音」

忘れもしない、あの店。

ーー何を隠そう、前の時間軸で赤羽根殿にあの月光石の首飾りを買って頂いた店なのですから。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


P『これ?……貴音がトップアイドルになったご褒美だよ』

P『まあ、事務所も違うし、俺がプロデュースした訳でもないから、変かもしれないけど』

P『でも、貴音がまだアイドルとして活動する前から、俺は貴音を見てきた。貴音の努力は、人一倍知ってるつもりだから』

P『……だからさ。一ファンとして、そしてプロデューサーもどきとして、これを貴音に送るよ。……貰ってくれるかな?』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そう言ってあなた様は、わたくしの首にその首飾りをかけて下さいましたね……。

あの時のお言葉……わたくしは片時も忘れたことはありませんよ、あなた様。



P「この店が気になるのか?」

貴音「……はい」

P「アクセサリーの店か……貴音だって女の子だもんな。それに、いろいろ使えそうなものも売ってるみたいだ」

P「じゃあ、入ってみようか?」


……


店内には数々の品物がありました。

ぴあすや指輪、耳飾り(耳に穴を開けなくていい物まであるそうです)などの装飾品をはじめ、時計なども置いてあります。

それにしても、この着ぐるみのようなものは、一体……面妖な。



P「じゃあ、少し見てくるよ。貴音も色々見てくるといい」

貴音「そうですね。では、後ほど……」

店内を歩き回っていると、わたくし はいつの間にか首飾りを置いてあるところにたどり着いていました。

貴音「!」

わたくしは、そこにあった一つに目をやります。

少し青みがかった石が使われているその首飾りは、わたくしを捉えて離しません。

ーーなぜならこれは……以前、赤羽根殿に送って頂いた品と、全く同じものなのですから。

P「それ、欲しいのか?」






貴音「ひゃあ!」

いつの間にか、隣には赤羽根殿が。

全く気付きませんでした……!

貴音「お、お、驚かさないで下さいませ!」

P「ご、ごめん。そんなに驚くとは思わなくてさ」

貴音「あなた様は、いけずです……」



いきなり隣から声がすれば、驚かない訳がありません……。

しかし本当に、いつの間に隣に現れたのでしょうか……?

P「ーーふーん、月長石……ムーンストーンか。貴音にぴったりだな」

貴音「わたくしは月の導きに捉われたのかもしれませんね……ふふっ♪」

P「ははは、貴音らしいよ」


とっさに嘘をついてしまいました。

嘘をつくのは心苦しいですが……わたくしがここにいるためには、仕方がありません……。

貴音「ところであなた様、他の場所はもうご覧になったのですか?」

P「まあな。あらかた見終わって、使えそうなものはいくつか見繕ってきた」

わたくしが思っていたより、早く済んだようですね。

P「で、どうするんだ、それ。買うのか?」

P「買うなら、一緒に精算に持っていくけど」

貴音「……」

貴音「ーーやめておきます」



ーー赤羽根殿に迷惑をかけるわけにはいきません。買って頂くなど、もっての外。

それに……あれは、赤羽根殿が送って下さったからこそ大切なのです。

自分で買ってはただの装飾品に過ぎません。わたくしがそれを持つ意味は無くなってしまうでしょう。

もう一度手元に持っていたいのは山々ですが、ここは我慢です。

貴音「お時間を取らせてしまい申し訳ございません。行きましょう」

P「……」

P「……先に出て、ちょっと待っててくれ。清算してくるから」

貴音「はい……分かりました」


今回の投稿は以上です。

店から出て、再びわたくし達は、ぶらぶらと通りを歩き始めました。

様々な店のしょーうぃんどうを眺めながら、通りをゆっくりと歩いて行くわたくし達。

何気ない時間が、本当に愛おしく感じられます。

あまり言葉を交わすようなことは致しませんでしたが……それでもわたくしの心は暖かなものでした。

お慕いする方の隣にいるということは、こんなにも心地よいものなのですね……///

その後は洋服の店で衣装を見繕い、甘味を味わいなどしつつ、しばらく歩き続けました。



しかし、やはり楽しい時間は早く終わりを告げるもの。

ーー気付けばもう、事務所の前に着いていました。

Pたか「「ただいま戻りました」」

小鳥「おかえりなさい、プロデューサーさん、貴音ちゃん。」

P「遅くなりました。留守番ありがとうございます、小鳥さん」

P「……危なかった、昼休憩終わりかけだ」

どうやら、昼休憩が終わる前に戻ってこられたようです。

赤羽根殿は席に着くと、少し急いで事務作業の準備に取り掛かりました。

ぱそこんを起動し、手帳を確認する赤羽根殿。切り替えが早いわね、と小鳥嬢が呟いています。

P「少し早いけど、始めるか。貴音は帰ったりしないのか?」

貴音「はい。そろそろ皆も帰ってくるでしょうし、このまま残ろうと思います」

P「そっか。帰る時になったらいつもみたいに言ってくれよ?送っていくから」

そのままわたくしは午前中と同じような行動をしたり、帰ってきた仲間と談話したりしました。

仲間たちと過ごす時間、これもまた良きものです。



気がつくと空は闇に染まり、もう夜が訪れようとしていました。

貴音「あなた様、そろそろ」

P「ん、分かった。切りのいいところまで終わらすから、ちょっと待ってくれ」

しばらく響き渡るかたかた、ときーぼーどを叩く音。

そしてすぐに、ぱそこんの電源は落とされました。


P「よしっ……これでいい。行こうか」

貴音「はい」


……


駐車場に着きました。

貴音「では、いつも通り……」

わたくしは毎回のように、助手席側の扉に手を掛けます。

しかし、赤羽根殿はそれを引き止めました。

P「ちょっと待った」

貴音「?」

P「渡したいものがあるんだ。えっと……」

赤羽根殿は、背広のぽけっとに手をやります。

……そして、白い包装紙で包まれた、小さめの箱を取り出しました。

P「はい、これ。受け取ってくれ」

貴音「これは……? 開けても、よろしいでしょうか?」

P「ああ。開けてごらん」

貴音「……!」

包装紙に包まれていた、しんぷるな白い箱の中から出てきたのは……すてんれす製の鎖が付いた、あの首飾りでした。

貴音「あなた様、これは!」

P「いつも頑張ってる貴音に、俺からのプレゼントだよ。驚いた?」

貴音「どうして、これを……」

P「どうしてって……貴音、あのとき欲しそうにしてただろ?」

P「店から出るときも、少し名残惜しそうにしてたし」

P「ーーそれに、貴音に似合うと思ったから」




P「……だからさ。一ファンとして、そしてプロデューサーとして、これを貴音に送るよ」

P「……貰ってくれるかな?」

貴音「あなた様っ……!」

わたくしの頬を、一筋の涙が伝いました。

ーーまた、この言葉を……あなた様の口から聞くことができる日が来るとは。

P「な、なんで泣くんだ!? 嫌だったか?」

あたふたとしておられる赤羽根殿。

その様子が可笑しくて、涙を流しながらも思わず少し笑ってしまいました。

貴音「ふふっ、これは違うのです……」

貴音「『嬉しくて泣く』、ということもあるのですよ?」

涙は止まりません。これでは、泣き虫と呼ばれても仕方ありませんね……。

ですが、あなた様の前でなら……わたくしは泣き虫でも構いません。





貴音「あなた様。この首飾り、あなた様の手でわたくしにつけていただけませんか?」

P「もちろん、構わないよ」



首飾りが首に掛けられた瞬間、わたくしは赤羽根殿に抱きつきました。

そのまま顔を、彼の胸元に押し付けます。

P「た、貴音!?」

貴音「ーー少し、このままでもよろしいでしょうか……あなた様」

P「……ああ。落ち着くまで、そのままでいいよ」

幸いにも、人の気配はありません。



もう少しだけ、このままで……。

最初の方から存在が提起されていた『首飾り』がメインの回でした。

このアイテムが、後々のストーリーに関わってきたり…関わってこなかったり。


今回の投稿は以上です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


再び、数週間が経ちました。

『プロジェクト・フェアリー』の人気は未だに健在。

皆も全員力をつけてきており、テレビなどで皆の顔を見ることも多くなってきました。

これもみな、わたくし達を支えて下さる皆様のおかげです。

それだけでなく、皆の知名度が上がったおかげか、様々なお仕事が事務所に入ってくるようになりました。

それにしてもつい最近の料理対決の番組……あれはまこと、面妖かつ素晴らしきものでした。




……げろっぱ。




さて、本日も無事に仕事を終えることができました。

撮影が長引き、遅くなってしまったので、赤羽根殿と共に夕食(無論らぁめんです)を取っているところなのですが……。






P「どうした、貴音?いつもより少食だな」

貴音「はい。今日は少し、減らしておこうかと……」

ーー本当は、いつもの半分くらいしか食べておりません。

普段なら大盛りにするところを普通にするだけで、これほど違うとは……!

実際、まだ食べ足りないのですが……


P「貴音、少し無理してるだろ。まだ食べたそうな顔してるじゃないか」

貴音「……あなた様」

P「……ん?」

貴音「わたくしが物を食べる量は、一般の女性のそれよりもはるかに多い……そのことは、わたくしも分かっております」

貴音「もちろん、あなた様もご存知のはずです」

P「まあ、そうだな。男である俺と同等か、それ以上の量食べてるし」

貴音「はい。……そこで一つ、思ったことがあるのです」

P「?」

貴音「あなた様は……異常とも言える量を平然と平らげるわたくしを見て、どう思われますか?」

貴音「もしや……『はしたない』、とお思いに……?」


P「……いや、別になんとも思わないけど」

貴音「例えそれが、引くくらいの量だったとしても、ですか?」

P「なんとも思わないって。むしろ、嬉しそうに何かを食べてるのを見るの、俺は好きだよ」

P「……例えば、いつもの貴音みたいにさ」

貴音「……///」

貴音「ま……まことですか、あなた様?」

P「うん。いつもクールに振る舞ってる貴音が、何かを食べているときは嬉しそうにニコニコしている」

P「そのギャップが『可愛い』、って思うんだよなぁ」

貴音「はぅっ……///」

ま、また可愛いと言われてしまいました……///

赤羽根殿は、わたくしが照れることをわかっておっしゃっているのでしょうか?

ーーそのようなことはない、とは思いますが。

P「我慢しないで、しっかり食べなよ。今日は俺の奢りだ」

P「別に変に気にしたり、遠慮しなくてもいいんだぞ?」

P「それも貴音の個性だ、別にいいじゃないか」

貴音「し、しかし……」



貴音「……すみません、替え玉をお願い致します……」

ーーあなた様は、本当にいけずな方です。

ですが……そんなあなた様だからこそ、わたくしはあなた様に惹かれたのかもしれませんね……。



替え玉を食べ終わり、結局いつも通りの量を食べ終えたわたくしは、すでに食べ終えていた赤羽根殿と共に店を出ました。

もう遅いので、なるべく早くに家に帰るために、素早く自動車に乗り込みます。

勿論、乗り込むのは助手席です……!

いつも通りしーとべるとを締めるとすぐに、自動車は動き始めました。

貴音「ーーそういえば明日は、『竜宮小町』のオーディションでしたね、あなた様」

P「そうだな。『これに勝てばランクが上がるチャンスだ』って、律子も張り切ってたよ」

『竜宮小町』は現在『フェアリー』と同等の人気と知名度を誇っており、次のオーディションに勝てばアイドルランクが上がる、というところまで来ていました。

そして明日が、その『竜宮小町』のオーディションの日なのです。

わたくし達のゆにっと『プロジェクト・フェアリー』よりも早くトップアイドルに近い存在になる、というのは嬉しいようで悔しいような気が致しますが……。

P「実は明日、『フェアリー』のメンバーでそのオーディションを見に行こうと思ってるんだ」

貴音「なんと。そうなのですか?」

P「ああ。響も美希も明日はレッスンしかないし、いい刺激になるだろうと思ってさ」

貴音「そうですね。良い機会かと思われます」

貴音「ぜひ、連れて行って下さいませ」

P「ああ、言われなくてもそのつもりだ」


れべるの高いパフォーマンスを見ることもまた、修練の一つ。一つでも多くのものを学ばねばなりません。

小ネタ、そして導入部…といったところでしょうか。

今回の投稿は以上です。


……


そして翌日。

わたくし達は、オーディションが行われる会場に来ていました。

会場にいるのは、どこかで見たことがあるようなアイドル達ばかり。

自分が出る訳ではないのに、少し緊張してしまいます。

ーーこの場の空気がそうさせるのでしょうか……?

響「ううっ、結構緊張感あるね。自分、なんだか緊張してきたぞ」

P「別に響が出る訳じゃないんだから大丈夫だよ。リラックスリラックス」

響は周りの緊張感を感じ取り、かなり緊張しているようです。

美希「あふぅ……プロデューサー、もう帰ってもいい?」

P「美希は緊張感無さすぎ」

美希は美希で、いつものようにあくびをしています。

大物なのか、ただ緊張感が無さすぎるだけなのか……おそらく両方かと思われます。




伊織「あら。あんた達、来てたのね」

丁度、準備運動をしていた伊織が声をかけてきました。

P「ああ、『竜宮小町』のパフォーマンスを参考にしようと思ってな」

あずさ「伊織ちゃん、せっかく応援に来て下さったんだから……」

あずさ「プロデューサーさん、わざわざありがとうございます♪」

伊織「……来てくれてありがと」

すかさずあずさが伊織をたしなめます。

伊織も小さめの声で、感謝の言葉を述べました。

亜美「あ、兄ちゃんだ!見に来てくれたの?」

律子「来て下さったんですね、プロデューサー殿。わざわざすいません」

亜美はいつも通り元気いっぱいですし、律子嬢もにこやかに挨拶をしています。

見たところ、どうやら今日の『竜宮小町』のこんでぃしょんはかなり良いようですね。

これなら、このオーディションを勝ち抜くことは容易いでしょう。

伊織「私達の出番は62番、一番最後よ。この伊織ちゃん達の華麗なパフォーマンスに酔いしれるといいわ!」

その時、拡声器を持った男性が一人、舞台に上がりました。

貴音「……おや、始まるようですよ?」

P「そうみたいだな。みんな、よく見ておこう」

P「『竜宮』のみんなは、持てる力を出し切って頑張ってくれよ」

律子「激励ありがとうございます、プロデューサー殿。さあみんな、円陣組むわよ!」

律子嬢を含めた四人が、円陣を組み始めました。

律子「765プロ、ファイトーッ」

いおあずあみ「「「おー!」」」

周りに配慮して、少し音量は少なめです。





円陣が終わると、ちょうど舞台の男性が拡声器のすいっちを入れ、喋り出しました。

スタッフ「えー、これよりオーディションを開始します。出場する方々は、舞台の方にお集まり下さい……」


……


多くのアイドル達によるパフォーマンスが行われ、『竜宮小町』の出番が近づいてきました。

今まで見たところ、『竜宮小町』に匹敵するようなユニットはありません。

このまま順調にいけば、勝ち上がるのは容易でしょう。

スタッフ「ありがとうございました。では次に61番、お願いします」


ーーおや、もうそんなところまで来ていたのですか。

最後の『竜宮小町』は62番目……これはランクアップ間違いなしでしょうね。








……そう、わたくしは思っていました。









伊織「……何よ、あれ・・」

あずさ「……!?」

亜美「……!」

そのユニットがパフォーマンスを始めた途端、会場の空気が一変しました。

かなり洗練された、切れのあるダンス。それに歌もかなりの物です。

律子「こんなことって……!」

会場内の人々は皆、その三人組の男性ユニットのパフォーマンスに惹きつけられていました。

常に冷静な律子嬢さえ、驚きを隠せずにいるほど。



……あれこそまさに、トップアイドルの器かもしれません。

スタッフ「……ありがとうございました。では最後に62番、お願いします」

スタッフの方からの指示が聞こえます。

伊織「い、行くわよみんな!」

あずさ「え、ええ……」

亜美「あ、うう……」

律子「ほら、亜美!」

亜美「う、うん」

亜美は緊張のためでしょうか、震えて進むことができないようです。

凄まじいパフォーマンスを見せつけられた後です、仕方がないことではありますが……。


……


その後の『竜宮』のパフォーマンスは、お世辞にも良いものであるとは言えませんでした。

亜美は動きが硬く、いつもの元気の良さもありません。

伊織は状況を打破しようと自分のことで精一杯になり、周りから浮いてしまっています。

二人の息が合わないせいで、あずさのふぉろーも行き届いていません。

結局状況は良くならないままで、そのままパフォーマンスは終了しました。


スタッフ「これで全てのグループの演技が終了しました。それでは、結果発表に参りたいと思います」

スタッフ「今回のオーディションで選考されたのは61番……」





スタッフ「961プロ所属『ジュピター』の皆さんです。おめでとうございます」



貴音「っ……!?」

ーー961プロ・・

スタッフ「それ以外の皆様は、お帰り頂いて結構です。皆様本当にお疲れ様でした」

まさか961プロからも参加するユニットがいるとは、思いもしませんでした……。



ですが、わたくしがいた時間軸には、あの様なユニットは存在していません。

あれは961プロにおける『プロジェクト・フェアリー』に代わるユニット、という訳でしょうか?

わたくしがこの時間軸に来たことで、このような影響まで……!



あずさ「ごめんなさい、伊織ちゃん、亜美ちゃん……私がもっとちゃんとしてれば」

亜美「あずさお姉ちゃんのせいじゃないよ、亜美が緊張しちゃって動けてなかったからだし……」

伊織「そんなことはないわ、リーダーである私の責任よ……!」

わたくし達は、オーディション会場から出ました。

『竜宮小町』の皆は、悔しそうな表情を隠せていません。

かなりの実力差を見せつけられては、無理もないことです……。

今のわたくし達では、あの『ジュピター』なるユニットに勝利することは到底不可能でしょう。

悔しいですが、実力差がありすぎます……!



その時。

「ふん……765プロも、その程度か」

伊織「だ、誰・・」

後ろから聞こえた声の主は……先程のオーディションで『竜宮小町』を制した、『ジュピター』の一人でした。

「黒井のおっさんが『気を付けろ』なんていうから少し期待してたんだが……がっかりだぜ」

「まあまあ、そこまで言うことないだろう?」

背の高い、金髪の男性が茶髪の男性を諌めます。

伊織「何なのよ、あんた達は!?」







「俺達は961プロ所属のアイドルユニット、『ジュピター』さ」

「よろしくね、エンジェルちゃん達♪」

ライバル、『ジュピター』登場です。もっとも、あまり出す予定はありませんが。

なおこの世界の黒井社長は、765プロを毛嫌いしてはいますが、嫌がらせまではしてきません。(SPで嫌がらせ描写はなかった気もしますし……)


今回の投稿は以上です。


……


突然、わたくし達に接触してきたユニット『ジュピター』。

961プロのアイドルが、わたくし達に何を……?



北斗「まだ自己紹介がまだだったね。俺は伊集院 北斗」

北斗「そしてさっき失礼なことを言ったのが、天ヶ瀬 冬馬さ」

冬馬「ちょっと待て北斗、失礼なことってなんだよ!」

北斗「……いきなり悪態をつくのはどうかと思うぞ?」

冬馬「うっ、それは……悪かったよ」

翔太「僕は御手洗 翔太だよ。よろしくね」

緑がかった髪をした少年が、わたくし達に自己紹介を続けます。

金髪が伊集院 北斗、茶髪が天ヶ瀬 冬馬、緑髪が御手洗 翔太……そう覚えることに致しましょう。

少々、荒っぽい覚え方ではありますが……。

P「……ごほん。それで、君達は俺達に何か用があるのかな?」

P「俺でよければ、話を聞くけど」

赤羽殿の対応に応え、天ヶ瀬 冬馬が口を開きました。



冬馬「いや、別にこれといった話はないんだが……」

P「……挑発しに来ただけってことか?」

冬馬「いや、そんなつもりはない。これは宣戦布告だ」

P「宣戦布告?」

冬馬「ああ。一つ言っておきたくてな」

冬馬「ーー今まで全くの無名だったのが嘘みたいに、765プロは力をつけてきている。それは認めるぜ」

冬馬「だが、最強の座は俺達『ジュピター』が頂く!」

冬馬「正々堂々勝負して、最終的には俺達が勝つ……そう決めてるからな」


最初の印象とは違い、わたくしは天ヶ瀬 冬馬から誠実な印象を受けました。

『正々堂々』が似合う熱血漢……といったところでしょうか?

P「ーーいや、そうはさせないさ。勝つのは俺達、765プロだ!」

P「確かに今回、『竜宮』は負けたかもしれない。今はそっちの方が実力があるのも分かる」

P「でもこっちだって、まだ伸び代がある。それに、他のアイドル達もいる」

P「……例えば、ここにいる『プロジェクト・フェアリー』の三人とか、な」

赤羽根殿からの信用が伝わってきた気が致します。

目の前で言われると嬉しい反面、少し恥ずかしいですね……。

翔太「そういえば、他にもメンバーがたくさんいたんだったね」

翔太「また戦う機会があるかも。楽しみだなぁー♪」

北斗「翔太の言う通りだな。次に戦える時を、楽しみにしとくよ」

冬馬「……言っておくが、俺達もまだ本気じゃない。もっと腕を磨いておけよ!」

そう言うと、そのまま三人は去って行きました。






P「……何だったんだ、あいつらは?」

その場に残されたのは、静寂のみ。

亜美「そんなのわかるわけないっしょ、兄ちゃん……」

突然やって来て、言いたいことだけ言って嵐のように去っていく。

そんな彼らを見て、わたくし達は唖然とすることしかできませんでした。

本当に、何だったのでしょうか?『宣戦布告』、と言ってはいましたが……

伊織「ーー何だったかはよく分からないけど、あいつらが私達のライバルであることは分かったわ」

伊織は、そう言って立ち上がりました。

もう負けない……そんな思いが伝わってくるような気が致します。



伊織「プロデューサー……さっきは間に入ってくれてありがとう。感謝するわ」

珍しく、伊織は素直に赤羽根殿に感謝の気持ちを伝えます。

律子「本当にすいませんでした、プロデューサー殿」

律子「あの時は『竜宮』のプロデューサーである私が、なんとかすべきだったのに……」

P「いや、大したことじゃないって。俺だって、765プロのプロデューサーだからな」

赤羽根殿は、にっこりと笑みを浮かべます。

P「今日負けたからといって、別に気にすることはないさ」

P「またレッスンを積んで、強くなればいいだけのことだろ?」

律子「……ええ、そうですね!」

律子「ありがとうございます、なんだか吹っ切れちゃいました♪」

それに応じて、律子嬢にも笑顔が戻りました。

美希「……」

ーーふと隣を見ると、美希が震えています。どうしたのでしょうか……?

響「美希、どうしたんだ?お腹痛いの?」

貴音「何かあったのですか、美希?」

貴音「もしや、先ほどの『ジュピター』なるユニットが関係するのでは?」

わたくしと響が声を掛けると、美希は顔を上げて言いました。

美希「心配してくれてありがと。しんどいとかじゃないから、安心してほしいな」

美希「ミキ、さっきのパフォーマンスを見て、怖くなっちゃって。あんなにすごいパフォーマンス、初めて見たから」

美希「でもね。それと同時に、すっごくワクワクしたんだ」

美希「いつかミキ達もあんなすごいことをしてみたいって、そう思った。メラメラーって、やる気が湧いてきたの」


美希「だからミキ、変わる!今日……ううん、今から!」

美希「もうテキトーにやったりしない……マジメに頑張るの!」





美希「ミキ、変わるからっ……!だから……よろしくお願いします、なの!」

そう言うと美希は、わたくし達に向かって頭を下げました。

ーーそこまで言われては、応えないわけにはいきませんね。

貴音「ええ。……こちらこそ、これからもよろしくお願い致します」

響「当然だぞ!みんなでトップアイドル、目指そうね!」

響の意思も変わらないようです。

これからが、わたくし達『プロジェクト・フェアリー』の本当の始まりなのですね……!

P「美希……!よく言ってくれた!」

赤羽根殿が少し真剣な表情で喋り始めます。

P「俺達は、本気でトップアイドルを目指しに行く。ここからまた、再出発だ!」

P「……だからみんな、俺について来てくれ!」

響「当然だぞ!」

貴音「ええ、言うまでもありません」

美希「うんっ!」

赤羽根殿の言葉をきっかけに、律子嬢も喋り始めます。

律子「私達だって、負けていられないわ!」

律子「プロデューサー殿の言う通り、一度負けたからって、へこむ必要なんてないのよ!」

律子「次は『ジュピター』にも負けないんだから。行くわよ、みんな。私について来て!」


いおあずあみ「「「……はいっ!」」」

確かに、『竜宮小町』はこのオーディションに負けてしまいました。

しかしそれによって、よりわたくし達の団結が強まった気がします。





目指すは、トップアイドル。

負ける訳には、いきません……!


今回の投稿は以上です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『ミキ、変わるからっ……!だから……よろしくお願いします、なの!』



美希のその意思は、半端なものではありませんでした。

……それは、わたくしがいつもより早めに事務所に着いた時のこと。

貴音「おはようございます」

小鳥「おはよう、貴音ちゃん。今日はいつもより早いわね?」

わたくしが事務所に着いた頃、小鳥嬢は事務所の掃除をされていました。

貴音「はい、今日はいつもよりも早くに目が覚めまして……おや?」

そこにはいつもとは違い、美希がいました。

雑巾を手にした彼女は、わたくしに向かって手を振っています。

美希「あ、おはよーなの、貴音!」

やよい「うっうー!おはようございますー!」

小鳥嬢とやよいだけでなく、美希も掃除に参加していたようです。

貴音「美希ではありませんか。一体どうしたのです?」

美希「前に言ったでしょ?『ミキ、変わる』って!」

小鳥「美希ちゃん、プロデューサーさんと私の次にやって来て、『ミキも手伝うの!』って言ったのよ?」

小鳥「突然だったから、びっくりしちゃったわ~」

美希「えへへ〜。ミキね、自分が変わるために、少しでも皆の役に立とう、と思ったの」

美希「だからやよい達と一緒に、毎週この時間にお掃除するって決めたんだ〜」

貴音「なんと、そうだったのですか!」

なるほど。これが美希の第一歩、という訳なのでしょうね。

思わずくすり、と笑みが漏れてしまいました。

貴音「では、わたくしも及ばずながら助力致しましょう」

やよい「貴音さんもですか?ありがとうございますっ!」

貴音「いえ、当然のことです。始めましょうか」


……


数分後、わたくしがゴミ袋を縛って、掃除は終了となりました。

やよい「はわわっ、いつもより早く終わっちゃいました〜!」

小鳥「本当ね。みんなのおかげだわ」



美希「まだまだこんなものじゃ足りないの!ミキ、お仕事もレッスンも頑張っちゃうから!」

貴音「ふふ。ですが、張り切りすぎもよくありませんよ?」

そんな中ふと、事務所にこーひーの香りが漂って参りました。

そう言えば、小鳥嬢は『自分と赤羽根殿の次に』美希がやってきた、とおっしゃいましたね。

赤羽殿の机を見ると、起動されたままのぱそこんと、数枚の資料が置かれています。

もう既に彼はやって来ている、ということで間違いありません。

いつもこのような朝早くから……大変なのでしょうね……。

貴音「……して、小鳥嬢。プロデューサーもいつもこのような時間に来ておられる、ということですよね?」

小鳥「ええ。いつも私の次に事務所に来るのよ」

小鳥「社長がいるときは、いつも社長が一番なんだけど……社長、いつも色々なところで営業とかしてるから」

小鳥「今日も何かの下見とかでいないらしいし……一番大変なのは社長なんじゃないかしら」

縁の下の力持ち、という言葉に相応しい人物だということでしょう。

この事務所に入った日、高木殿に出会えたのは本当に幸運だったのですね……。

もしあの日に出会っていなかったらと思うと……!

P「社長も音無さんも早いから、俺じゃ絶対に勝てないんだよなぁ」

貴音「!」


そう言いながら、後ろからこーひーかっぷを持った赤羽根殿が近づいて来ました。

貴音「おはようございます、あなた様」

P「ああ。おはよう、貴音」

P「今日は午前中レッスンで、午後からはレコーディングだったな」

P「『フェアリー』三人でで、としてはこれが初レコーディングだ。頑張っていこう!」

貴音「はいっ♪」

今日はわたくし達三人で行う、始めてのCDレコーディングです。





ーーもっとも、わたくしにとっては初めてではないのですが……。

驚くべきことに、曲は前の時間軸と同じ、『オーバーマスター』。

事務所が違うにも関わらず、全く同じ楽曲が用意されるとは思いもよりませんでした。

二重の意味で、これがわたくし達にとっての『始めての曲』となるのですね……まこと、嬉しきことです。

ーーですが……だからこそ、失敗は許されません。

その時、奥の方から響が姿を現しました。

響「……あれ?貴音、来てたんだ。おはよう!」

貴音「おはようございます。いつの間に来ていたのですが、響?」

響「三人でのレコーディングって初めてだから、完璧にしたくって。ちょっと練習してたんだ」

貴音「そうですね。是非、素晴らしき一枚にしてみせましょう」

響「うん。自分、頑張るぞ!」

そんな話の途中、赤羽根殿がきーぼーどを叩く音が止まりました。

P「帰ってきたか、響。これでみんな揃ったな」

P「それじゃあ出発だ。貴音、響、美希。駐車場に集合な」

500レス達成…!長かったような、短かったような。

少し長すぎる気もしますが、まだ続きます。もうしばらくお付き合い下さい。

今回の投稿は以上です。


……


いつものように、わたくしは助手席へ。

美希「あれ?貴音、助手席なんだ」

P「まあ、もはや定位置だからな。貴音は助手席が好きなんだよ」

貴音「ふふ、その通りです」


……本当はあなた様の隣にいたいだけ、なのですよ?

P「ーーよし。準備完了、っと」

P「シートベルトは閉めたか?それじゃあ、出発するぞ」

たかみきひび「「「はーい」」」

赤羽根殿のその一言とともに、自動車は走り出します。



……そして十数分後、わたくし達はレッスンスタジオに到着しました。

更衣室に移動し、じゃーじに着替えます。

いつも通り、皆のじゃーじはそれぞれのいめーじからーに合った色となっております。

時間は限られておりますし、ゆっくりしてはいられません。急いでレッスンルームへ向かいましょう。





ふむ……そういえば、美希の黄緑色のじゃーじも珍しいですね。

ーーまあ、どうでも良いことではありますが。

レッスンルームには、既に赤羽根殿がいらっしゃいました。

P「みんな来たか。今日は久しぶりに、俺がレッスンを見るよ」

P「みんながどれくらい成長したか、俺に見せてくれ!」

赤羽根殿にレッスンを見て頂くのは、本当に久しぶりです。

これは良いところを見せねばなりません!

P「ダンスは頭に入ってるな?それじゃあ一度曲に合わせてやってみよう!」

美希「ーーじゃあミキ、本気出しちゃってもいい?」

響「えっ……本気って?」

美希「うんっ♪ ミキ、やるからにはもう手を抜きたくないな〜って。いいよね?」

P「……まあ、一度やって見せてくれ。じゃあいくぞ」

わたくし達がそれぞれの位置に着くと、音楽が流れ出します。



貴音「……!」

ーー始まってすぐ、わたくしははっと息を飲みました。

真ん中にいる美希の動きに、いつも以上の切れがあるのです。

これが美希の、全力ですか……!

ですが、わたくしも負けてはいられません。

響と美希のばらんすを調節し、崩れつつある立ち位置を調節せねば……。

『経験』だけはこの事務所の誰にも負けていないのですから、これくらいのこと……!


ーーなんとか、ばらんすを崩すことは無いまま曲は終了しました。






美希「はあっ、はあっ……ど、どうだった?」

P「……」

聞こえてくるのは、わたくし達の息遣いのみ。

赤羽根殿は、何もおっしゃいません。

ほんの少しして、赤羽根殿は口を開き、こう呟きました。






P「ーー今のままじゃ、ダメだな」

美希「……!?」




美希「そ、そんなのってないの!」

美希の顔には焦りが浮かんでいます。

せっかく本気を出して、完璧に踊りきることが出来たのに、褒めてもらえなかった……それが原因でしょう。

響「なんで!? 美希、いつも以上に完璧だったよね!?」

美希「ミキ、本気出したのに……!」

P「だからこそ、だ」

美希「!?」

P「確かに、今の美希はすごかった。あれだけのパフォーマンスはそう見たことがないよ」

P「でもな、あれが通用するのは『美希がソロで活動していたら』の話だ」

P「今のじゃ、一人で突っ走っていただけにすぎない」

P「貴音が上手くとりなしていなかったら、バラバラになってしまっただろう。……これはソロじゃない、『ユニット』なんだ」

貴音「まさに、その通りです」

貴音「あれでは『竜宮小町』の二の舞になって終わり、でしょうね」

P「その通り……美希、お前はリーダーなんだ」

P「リーダーが周りのことを考えられないなんて、話にならないぞ」

美希「……」

P「それに、最初から本気を出せていなかったのも問題だな」

P「……美希、お前はまだ、ちゃんとしたリーダーとは言えないよ」

美希「そんなぁ……」

美希はしょんぼりと項垂れました。

響「ちょっと、あんまりだぞプロデューサー!」

響「美希だって頑張ってるんだし、そこまで……」

P「まてまて、さすがに叱って終わりじゃないって……確かに、美希が突っ走ってしまっていたのは事実だ」

P「……でもな、全員があのレベルまでたどり着けばいいだけの話」

P「三人ともあれだけの動きができれば、トップアイドルは狙えると思う」

P「まだまだ、『プロジェクト・フェアリー』の活動は始まったばかりだ。ゆっくり一歩ずつ、進んでいけばいいさ」

P「ごめんな、少し言い過ぎたかもしれない」

しょげてしまった美希を撫でながら、赤羽根殿はこうもおっしゃいました。

響「……そうだよね!もっと自分達が上手くなればいいだけの話さ〜!」

響「よーっし、もっと頑張るぞ!」

P「その意気だぞ、響」

P「今の美希以上の実力が出せれば、『jupiter』なんて目じゃない。みんなで頑張っていこう!」

その後、細かい動きの確認や立ち回りの指導を受けるなどして、レッスンは終了しました。



美希のあの行為が良い刺激になったようで、今回のレッスンは大成功。

また一歩、前に進めた気が致します。

美希「さっきは、一人で突っ走っちゃってごめんなさい」

美希「ミキ、リーダーなのに、みんなのことちゃんと見てなかったよね……」

響「大丈夫さー。すぐに自分達も美希に追いつくから、心配しないでほしいぞ」

貴音「そうですよ。わたくしも精進致しますゆえ……」

美希「ーーありがと、二人とも。美希、リーダーとしてもっと頑張るの!」

勿論、『フェアリー』の間での反省会も忘れませんでした。


今回の投稿は以上です。


……


さて……次はついにレコーディングですか。

ですがもうお昼時です、少々お腹が……。

P「そういえば、腹減ったなあ……。なんか食べに行くか?」

貴音「是非!」

P「お、おう……」

そのままレコーディングに向かえるよう、スタジオの近くで昼食をとることになりました。

P「さて、何食べたい?ラーメンか?」

貴音「あなた様、わたくしはらぁめんしか食さない訳ではありませんよ?」

P「あ、ごめん。でも貴音はいつもラーメン食べてるイメージがさ」

……否定できないのが辛いところです。家では、他のものを食べるように心がけてはいるのですが。

P「……で、結局何を食べるんだ?」

P「店に入るにしても何か買うにしても、早く決めるべきだと思うぞ」

美希「じゃあ、ミキのお気に入りのお店を紹介するの。ついて来て!」

美希に促されるまま、わたくし達は足を動かします。

……一体どこへと向かっているのでしょう?






P「ーーで、ここが?」

美希「うん。ここなの!」

わたくし達がやって来たのは……なんと『おにぎり専門店』。

このような店があるのですね。初めて見ました……!

店の中に入ります。

入ってみると、店内はそこまで広くありませんでした。

どうやら店内で食べるのではなく、持ち帰り専門のようです。

そして漂ってくる炊きたてのお米のにおい……これはたまりません。

美希「さっ、何か頼もっ!」

P「そうだな。俺が奢るから、好きなのを頼んでいいぞ」

具材は昆布や鮭のような定番から滅多に見られない変わり種まで、様々なものがあるようです。

響「自分、美希のオススメが食べたいな!」

貴音「そうですね。美希、注文を頼めますか?」

美希「分かったの。すいませーん、これとこれとこれ、あとこれも……」

数分後。

美希「これがミキのお気に入りなの!食べて食べて!」

すたじおの前の公園のべんちで、わたくし達はおにぎりを食べることになりました。

響「美希、これ何が入ってるんだ?」

美希「ヒミツなの!まず食べてみて?」

貴音「ふむ、ではまずわたくしが」

わたくしはその、海苔が巻かれていないしんぷるなおにぎりを一口かじりました。





貴音「……なるほど」

響「何が入ってたの、貴音?」

貴音「ふふ。食べてみれば分かりますよ、響」

響「むぅ〜、なんなのも〜!」

P「おっ……これ、うまいな」

美希「でしょ?響も、早く食べてほしいな!」

響「わ、分かったぞ……はむっ」

響は、おそるおそる一口かじりました。




響「……これ、何も入ってないぞ!?」

そう……このおにぎりには何も具が入っていませんでした。

美希「そうだよ?具は何も入ってないの」

美希「なんて言ったってこれ、『塩むすび』だもん」

貴音「ですが、この『塩むすび』……かなり美味ですね」

P「そうだよな。なんというか……米の旨みがしっかりしててさ、美希が勧めるのも分かる気がする」

美希「でしょでしょ?」

響「ほんとだ、これ美味しい!」

美希のおすすめは、皆に好評だったようです。


その後、他のおにぎりも美味しく頂きました。

昨日が美希誕だったので、急遽美希会を挟ませて頂きました…美希、誕生日おめでとう。

今回の投稿は以上です。




そして、ついにレコーディングの時間がやってきました。

P「これが、記念すべき『フェアリー』としてのデビューシングルだ!」

P「……みんな、楽しんで来いっ!」

ひびたかみき「「「はいっ!」」」


……


……ふぅ。

失敗も無く、見事一発で収録を終えることができました。

これはとても素晴らしい一枚になった、と自負しております。

特に、美希の歌声。あれはとても素晴らしいものでした。

まるで曲に引き込まれそうな……そんな雰囲気が彼女の歌にはあったのです。

P「……お疲れ様。すごく良かったぞ!」

P「いやぁ、今までで一番良かったんじゃないか?」

響「ふふん!そりゃそうだぞ。自分達、完璧だからな!」

響が胸を張って、そう答えます。

確かに今回は、今まで以上の力が出せたような感覚でした。

美希「ミキ達なら、もっともっと上を目指せるって思うな!」





美希「これからもよろしくね、プロデューサー……ううん、ハニー♪」





P「ぶふっ!? な、なんだそれ!?」

美希「ミキ、これからはプロデューサーのことハニーって呼ぶね。はい、決まりっ!」

P「決まり、って……流石にマズ」

美希「ーーダメ?」


P「……好きにしてくれ……時と場合を考えてくれよ?」

涙目での上目遣い……美希、恐ろしい技を使いますね……!


その後挨拶をするなどして、わたくし達はすたじおを後にしました。

P「えっと、みんな今日はこのまま直帰だったよな。送って行くよ」

美希「本当?やったあ!」

貴音「いつもすみません、あなた様」

響「本当にそうだぞ。ありがとう、プロデューサー!」

P「ははは、じゃあ行こうか」




駐車場に着きました。

いつものように、すかさず助手席に乗り込みます。

美希「貴音、やっぱりそこなんだね?」

貴音「ええ。勿論です」


美希の『はにー』に対抗するためにも、絶対にこの場所は譲れません……!


……


しばらくして響、美希の家に到着し、車内に残っているのは赤羽根殿とわたくしのみとなりました。

P「さて、あとは貴音だな」

貴音「はい。よろしくお願い致します、あなた様」

P「おう、じゃあ行くぞ」

P「それにしても、今日の収録は大成功だったな」

P「美希と響の歌声を、貴音がまとめあげる……かなりいい感じだった」

貴音「ありがとうございます」

P「今日はみんな調子良かったし、言うことなしだよ」

P「それにしても、貴音って本当に歌が上手いよな」

P「ダンスやビジュアルも基礎がしっかりしてるし。頭一つ抜き出ているっていうか、なんというか」

P「何か秘訣でもあるのか?それとも、アイドルにある前までに何かやってたとか……」



貴音「っ……!」

P「?」

……言えるわけがありません。

わたくしが別の時間軸から来たことを話してしまえば……その時点で終わり。

わたくしは、この世界から消えてしまうのですから。

貴音「……あなた様」

貴音「ーー人には誰でも、秘密が一つや百個はあるものです」

貴音「お答えしたいのは山々なのですが……本当に申し訳ございません」

貴音「申し訳ありませんが、それは『とっぷ・しーくれっと』とさせて下さいませ」



P「いや、別にいいよ。まあ、誰にだって知られたくないことくらいあるよな」

P「気になるけど、貴音が話したくないなら、別に話さなくていいさ」

貴音「ーーお気遣いありがとうございます、あなた様」






本当に申し訳ありません。このことだけは、誰にも話すことはできません……。

『とっぷ・しーくれっと』でございます、あなた様。


今回の投稿は以上です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


貴音「おはようございます」

今日もわたくしは、いつものように事務所へとやって参りました。

貴音「……おや?」

ですが今日は、いつもとは様子が違います。

P「……zzz」

ーーいつも美希が愛用しているそふぁーで、赤羽根殿が眠っておられたのです。

よほどお疲れだったのでしょうか、眼鏡はかけっぱなし、書類は出しっぱなしです。

最近忙しかったのですから、無理もありません……。

もしかすると、わたくし達は赤羽根殿に負担をかけ続けてしまったのかもしれませんね。

感謝の気持ちを込めて、何か一つでもお返しができれば良いのですが……。

貴音「!」

ーー良いことを思いつきました!

一応他に事務所に誰もいないことを確認して、わたくしはそふぁーに腰を下ろします。

そして眠っている赤羽根殿の頭を、わたくしの膝へ。

いわゆる、『膝枕』というやつです。

これで少しでもあなた様の疲れが癒せればいいのですが……ふふっ♪

ですがこの体勢、少し恥ずかしいですね……///


……


P「んんっ……しまった!寝てたか……!?」

貴音「お目覚めですか、あなた様?」

P「た、貴音?これって、まさか」

貴音「はい、膝枕です♪」

P「!?……ご、ごめんな、すぐにどくよ」

貴音「ーーあなた様は最近、少々根を詰めすぎかと思われます。少しお休みになってもよろしいのでは?」

P「そうは言っても、仕事しないとさ」

貴音「そう言って、このまま『明日の分の仕事』をなさるつもりですか?」

P「!……バレてたのか」

わたくしは、赤羽根殿がもう既にすべき仕事を終えているのを確認していたのです。

貴音「今はまだ、時間に余裕がございます。わたくしの膝で、ゆっくりとお休み下さい」

P「貴音……ありがとう。もう少し休ませてもらうよ」

貴音「はい。お休みなさいませ、あなた様」

そう言うと赤羽根殿は、すぐに寝入ってしまわれました。よほどお疲れだったのでしょうね……





今はただ……しばしお休みください、あなた様。


……


赤羽根殿が起きたのは、数十分後でした。

P「うーん、よく寝た!本当に気持ち良かったよ。ありがとうな、貴音」

貴音「いえ、お役に立てて何よりです」

P「これは何かお返ししないとな。何がいい?」

貴音「ではよろしければ、頭を撫でて頂けませんか?」

P「……えっ、そんなことでいいのか?」

貴音「はい。あのひとときは、何物にも変えがたい物ですから」

そう言ってわたくしは、頭を差し出します。

少し訝しげな表情を浮かべつつも、赤羽根殿はゆっくりとわたくしの頭を撫で始めました。

わたくしの胸の奥に、じんわりと温かさが広がっていくようです……。

貴音「はやぁ……」

P「ーー本当にこんなことでいいのか?もっと他のことにすればいいのに」

貴音「先程も申し上げましたが、この時間は何物にもかえがたいものなのですよ?」

貴音「こうしているだけで、わたくしは幸せです」

P「そういうもんなのか……? よしよし」

貴音「……///」

赤羽根殿のなでなでは、本当にくせになってしまいます……。

これだけで幸せな気分になれるのですから、不思議なものです。

この時間がずっと続けばいいのに、とも思ってしまいそうです。

P「貴音の髪、さらさらでふわふわだな。枝毛なんかもないし、綺麗だ」

貴音「ふふっ、髪は女の命ですから」

貴音「そんなことよりあなた様、もっと……」

P「はいよ」

貴音「〜♪」




そのまま撫でられ続けて数分。

貴音「ふふ……///」

P「貴音、そろそろいいか?」

貴音「ーーはっ!……も、申し訳ありません……」

気付けば、かなりの時間が過ぎておりました。

なでなでおそるべし、ですね……


……


数分後、次々と事務所に人が集まってきました。


全員集まったところで高木殿による朝礼があり、皆はそれぞれの仕事へ。

赤羽根殿はそのまま春香と雪歩を送りに行ってしまわれました。少し寂しいですね……

ですが、赤羽根殿もいつもわたくしに付いているわけにもいかないのです。仕方ありません。

今日は『フェアリー』としての活動ではなく、わたくしひとりでの活動。

さて、今日のお仕事は……。


『幻のらぁめんを食す旅』……!? なんと面妖な!

つい、腹の虫が粗相をしてしまいました。





こうしてはいられません。いざ、参りましょう……!

今回は小ネタをお送りしました。

文章が増してしょうもなくなりつつある…
年末も近いですし、そろそろ締めに近づきたいところ。

今回の投稿は以上です。

>>563
>>564

『何ものにも代えがたい』でしたね…
訂正をお詫び申し上げます。


……


貴音「ふぅ……」

『幻のらぁめん』の仕事を終え、わたくしは事務所へと向かいます。

幻のらぁめん、というのは伊達ではありません。まこと、素晴らしき一杯でした。

貴音「おや……?」

事務所に帰り着いてみると、赤羽根殿と小鳥嬢、そして高木殿がなにやら話しています。

P「本当ですか?なら……」

社長「ほう、それもいいね。では……」


……少々聞き取りづらいですね。少し近づいてみましょう。




小鳥「ですから、ここで……ってうわぁっ!? た、貴音ちゃん!?」

社長「き、聞いていたのかね!?いつからそこに……」

貴音「申し訳ありません、驚かせるつもりはなかったのですが……」

P「ーー頼むから気配を消すのはやめてくれ、怖いから……」

気配を消していたつもりはないのですが……申し訳ないことをしてしまいましたね。


貴音「ーーして、何のお話をされていたのですか?」

P「まあ、遅かれ早かれ伝わる話だしな。話しておくよ……実は、オールスターライブを開催しようと思っているんだ」

P「765プロのアイドルが全員出演する、一大イベントだよ」

貴音「なんと!」

社長「そこで、だ。海の見える旅館でも貸し切って、合宿でもしようかと思っていてね」

社長「三人で、そのための計画を練っていたのだよ」

P「これからのさらなる飛躍と、オールスターライブの成功のためにどうかな、ってさ」

小鳥「少し慰安旅行も兼ねて、みんなで楽しんじゃいましょ!」

合宿……なんとも楽しそうな響きです。

仲間達とさらに親睦を深めることができ、自分自身の鍛錬にもつながる……なんと素晴らしきことでしょう!

貴音「それは素晴らしきことです!して、それはいつになりそうなのですか?」

P「はは、それはまだ決まってないんだけどな」

社長「みんなの了承を得た上で決めることにするつもりだが……行けるなら、早く行きたいだろう?」

社長「今月中に行けるようにはするからそのつもりでいてくれたまえ、四条君」

貴音「ふふっ、分かりました」

P「貴音は今日の仕事はもう終わりだったっけ。もう帰るのか?」



貴音「はい。合宿の準備をしようかと」

P「気が早いな!?」


……


さて、早速準備をせねばなりません!

『善は急げ』という言葉があります。

準備は早ければ早いほど良いのです……早くしすぎて困ることはありませんから。

確か高木殿は『海の見える旅館』とおっしゃっていましたね。

ではまず、水着を見に行きましょうか。

そうしてわたくしがやって来たのは、事務所の近くにある大手でぱーとの水着売り場。

びきにと呼ばれる一般的なものから、わんぴーす型の物、さらにはなんとも面妖なものまであります。


水着といっても、様々なものがあるのですね……少々驚きました。



さて、どのようなものを選ぶべきなのでしょうか?

思った以上の種類のため、選ぶのに時間がかかりそうです。





け、けっして、赤羽根殿を誘惑しようなどというやましい思いはありませんよ?

ですが、『似合ってるよ』という一言を期待することくらいは、構いませんよね……///

貴音「失敗は許されません……いざ!」

もうちっとだけ続くんじゃ。

短いですが、今回の投稿は以上です。


……


数分の試行錯誤の末、最終的にわたくしの手元に残ったのは三つ。

一つ目は濃い桃色(わたくしのいめーじからーである臙脂色に似ています)と黄緑色を基調とした、びきに型のもの。

二つ目は黒地に白い水玉模様、胸元に赤いりぼんをあしらったわんぴーす型のもの。

そして三つ目は、黒地に濃い桃色の線が入っており、胸元に白いりぼんをあしらったこれまたわんぴーす型のもの。

どれも捨てがたいですね……迷いどころです。






P「あれ、貴音じゃないか」

貴音「ひゃあ!」

突然声をかけられ、妙な声を出してしまいました。お恥ずかしい……///



そして驚くべきことは、声の主が赤羽根殿であった、ということでした。

貴音「あ、あなた様でしたか……驚かせないでくださいませ……///」

P「ごめんごめん。水着を選んでたのか?」

貴音「はい。して、あなた様はなぜここへ?」

P「ん、俺か?丁度事務所の備品が切れててさ、ちょっと買い物だよ」

P「音無さんが手が離せなかったから、代わりに買いに来たんだ」

そう言って彼は、予備のせろはんてーぷやすてぃっくのりを買い物かごから出しました。

P「ーーへぇ、可愛い水着だなぁ。どれにするつもりなんだ?」

貴音「それが、少々決めかねておりまして……困っていたのです」

貴音「もしよろしければ、あなた様の意見をお聞かせいただけますか?」

P「俺か?そうだな……」




P「むむむ……」

P「うーん、難しいな。選べないよ」

少しの思案の後、赤羽根殿はそう呟きました。



貴音「あなた様もですか?」

P「ああ。困ったな、全部買う訳にはいかないし」

貴音「そうですね、グラビア撮影の際でもなければ、水着など使いませんし……」

P「……それだっ!」


P「それだよ、貴音!グラビア撮影の時のため、って事にして経費で全部買っちゃえばいいんだ!」

貴音「そ、そのようなことが可能なのですか?」

P「ああ、大丈夫だ……多分。いざとなったら俺がポケットマネーで買うよ」

P「……きっとどれも、貴音に似合うからさ」

貴音「まあ……///」

そんな事をおっしゃられては、照れてしまいます……///

P「よし!そうと決まれば、早速購入だ!」

P「ほら、行くぞ貴音!」

気付けば赤羽根殿は、わたくしの手を握っておりました。

貴音「あ、あなた様……!?」///

わたくしはそのまま少し強引に手を引かれ、引きずられるように歩き始めます。


……


P「ふう、いい買い物したな」

水着の精算を終え、水着売り場を後にしたわたくし達は、休憩所へ。

手を取られたときは、思わず胸がときめいてしまいました。

ああ、あなた様……///

P「買った水着は貴音が持っておいてくれ。必要になったらまた言うからさ」

貴音「良いのですか?事務所の備品となるのでは……?」

P「おいおい、元々は合宿のための物だろう?必要な時にちゃんと持って来てくれれば、それでいいって」

貴音「そうでしたね……ありがとうございます」

P「おっと、もうこんな時間か。そろそろ事務所に戻らないと」

P「それじゃまた明日な、貴音」

貴音「はい。それではごきげんよう、あなた様」





ふふ、合宿が待ち遠しいですね。まこと、楽しみです。

次回から少しの間、合宿編です。
なお水着はアニマス、g4uのものを参考にしています。

今回の投稿は以上です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


青い空、白い雲。そして、さんさんと降り注ぐ太陽の光……

わたくし達は、ついに合宿の日を迎えました!

やよい「うわぁ~。凄いね、伊織ちゃん!」

伊織「そうね。ま、私の別荘の近くの海の方がすごいけど♪」

あずさ「あらあら、広くて迷っちゃいそうだわ~?」

目の前に広がるのは、きらきらと光り輝く大海原。

この日が来ることを、どれほど待ちわびたでしょうか……!

亜美「ねぇねぇ!早く泳ごうYO!」

真美「そうだそうだ!せっかく来たのに、時間がもったいないじゃん!」

律子「全く、あんた達は遊ぶことばっかり……」

小鳥「まあいいじゃないですか律子さん。せっかくの海なんですよ?」

律子「……仕方ないわね。まあ、せっかくの海なんだし……遊びましょうか!」

あみまみ「「イェーイ!」」

雪歩「ついにこの新しいスコップの出番ですぅ!」

真「ゆ、雪歩……穴を掘るのもほどほどにね?」

春香「さあ、泳ぐぞー!ほら、千早ちゃんも早く早く!」

千早「えっ?ちょ、ちょっと春香……」



皆、とても楽しそうです。

久しぶりの休暇にも等しいのですから、無理もないかもしれませんね。






P「はあ~、しんどかった。なんで俺だけ荷物持ちなんだよ……」

ちょうどその頃、赤羽根殿が大量の荷物を抱えてやって来ました。

律子「わざわざすいませんね、プロデューサー殿」

小鳥「流石は男の人ですよね~。頼りになります♪」

P「二人とも、なんか楽しんでないか……?」

今日の彼はいつもの背広ではなく、赤いTしゃつに膝が隠れるくらいのずぼん、といった出で立ちです。

貴音「お疲れ様です、あなた様。荷物、ありがとうございました」

P「はは……そう言ってもらえると、少しは慰めになるよ」

赤羽根殿は砂浜にれじゃーしーとを敷き、そこに座りました。

P「貴音、今日はその水着にしたんだな。似合ってるよ」

貴音「まあ……/// ありがとうございます♪」

今日のわたくしの水着は、以前赤羽根殿と購入したうちの一枚、黒地に白い水玉模様をあしらったわんぴーす型のものです。

『似合っている』の一言……どれほど期待したことでしょうか……///

……とそこへ、響と美希が。

響「貴音、泳がないの?自分久しぶりの海だから、早く泳ぎたいぞ!」

美希「そうだよ、貴音!せっかく来たんだから、いっぱい遊ぶの!」

小鳥「そうよ。滅多とない機会なんだから、楽しまなきゃ!」

貴音「そう、ですね。では行きましょうか」

準備運動をきちんとし、わたくし達は海へ入りました。

暑い日差しの中の海は、少し冷たくて気持ちが良いですね。

そもそもわたくしは、海に来たのはこれが初めてなのですが。

貴音「これが……海なのですね」

初めての海……これが、わたくしが合宿が楽しみで仕方がなかった原因のうちのひとつなのです。

真「響!クロールであの岩のところまで競争しようよ!」

響「いいね、それ!自分、負けないからな!」


美希「ミキ、少し眠くなっちゃったの……あふぅ」





そのうちに響は真と競争を、美希は昼寝を始めてしまいました。

さて、わたくしは何を致しましょうか?



貴音「……む?」



ーーどこからか、美味しそうな匂いが……。

間違いありません!これはらぁめんのにおいです!

噂に聞く『海の家』が、この近くにあるに違いありません!

においに導かれるまま、わたくしは歩みを進めます。

そしてたどり着いたのは、まさしく『海の家』でした。

おや、このちらしは?



『海の家特製・大盛り限定ラーメン!一人で三杯食べ切れたら無料!』



……なんと!

これは見逃せません、早速注文を……!

貴音「店長殿、この限定・大盛り特製らぁめんとやらを!」


制限時間は三十分。

戦いの始まりです。いざ、参ります!

塩味のあっさりとした出汁、細めのすとれーと麺。厚切りの焼豚……。

素晴らしい逸品が、そこにはありました。

箸が止まりません!ああ、幸せです……!

素早く一杯目を空にし、二杯目へと入ります。その二杯目も程なく完食し、三杯目へ。





……おや?なにやら人だかりが。

P「ちょっと失礼……やっぱり貴音か」

貴音「おや、あなた様。どうなさったのですか?」

P「どうしたもこうしたもない。目立ちすぎだ」

P「人気アイドルなんだから、目立たないようにしないと。気を付けてくれよ?」

貴音「なんと」

ーーらぁめんに気を取られて、つい自分の立場を忘れていました。

畏れ多くも、わたくしは人気アイドルの一員。人目を気にしなければならないのは当然です。

貴音「申し訳ございませんでした、あなた様……」

P「次から気をつけてくれればいいよ。ほら、行こう」

貴音「はい……」

……反省です。

まさか年をまたいでしまうとは…もう半年以上書き続けている訳で。

いつも読んで頂いている皆様、「乙」して下さっている皆様に心より感謝申し上げます。
できるだけ早くに終えられるよう努力しますので、もうしばらくお付き合い下さい。


今年の投稿は、これで以上です。
それでは皆様、よいお年を。


……


このようにして午前は過ぎ、午後はレッスンをして過ごしました。

場所を変えることによって皆の意気が高まり、良きレッスンとなった気がします。

広々とした温泉に浸かり、りらっくすすることもできました。

ーー浴場を出た所で、何やら赤羽根殿とハム蔵殿が意気投合しているように見えたのは、気のせいでしょうか……?

浴衣のまま、『フェアリー』の三人で部屋に戻ります。

部屋は男性組、中学生組、高校生組、大人組、そしてわたくし達フェアリー組の五つに分かれています。

わたくしとしては、女性陣全員で一つの大部屋が良かったのですが……。

そこまでの大部屋が存在しない以上、致し方ありませんね。

響「うーん、いいお湯だったね!広々としてて、気持ちよかった~!」

美希「そうだよね~。あんなに広いお風呂、久しぶりだったの!」

貴音「ええ。まこと、良き湯でした」

やはり、合宿を行ったことは間違いではありませんでしたね。

企画して下さった高木殿に、感謝しなくてはなりません。




響「ところでさ……自分、ちょっと海を見に行きたいんだけど、二人とも付いてきてくれないかな?」

美希「え~、昼間に散々遊んだから、もういいって思うな」

響「それとこれは別なの!夜の海は、星が出てて綺麗なんだぞ!」

貴音「……天体観測、という訳ですか?面白そうですね」

響「そうでしょ?ここ、空気がけっこうきれいだから、きっと星も綺麗さー」

美希「うーん。眠いけど、気になるかも……」

夜の海辺での天体観測……なかなかろまんてぃっくですね。

満点の星空の下で、赤羽根殿と二人きりになれたとしたら……///

ふふっ、きっと素晴らしき夜となるでしょうね。

きっと夜の逢瀬も、風情があって良いことでしょう……。


ーー流石にそううまくはいかないでしょうが。

響「だけど、自分達三人だけで歩くには、夜は少し危ないかな……?」

美希「そうかもね。ミキ、ちょっと怖いの」

貴音「それなら、保護者を付ければ良いのでは?大人の誰かが付き添ってくだされば、大丈夫でしょう」

響「そうだね。それじゃ行こっ!」

わたくし達は、大人組がいる部屋へと向かいました。






響が、大人組の部屋の扉を叩きます。

響「おーい……あれ?誰もいないのかな?」

貴音「いえ、それはないでしょう。ちゃんと明かりがついていますよ」

響「うーん……もう一回やってみようかな」

響が扉を叩こうとした瞬間、中から律子嬢が顔を出しました。

律子「誰かと思ったら……何か用かしら?」

響「自分達、星を見に行きたいんだけど……誰か大人に付き添ってもらいたいな、って思って」

律子「あー、なるほど。確かに星、綺麗でしょうね」

律子「……でも、今は手が空いてないのよ。それに一応、私まだ未成年よ?」

美希「え?何かあったの、律子?」





律子「……」

美希「……さん」

律子「実際に見た方がわかりやすいかもね。見てみる?」

貴音「はあ……では、失礼します」

わたくしはそっと、中を覗きました。




響「うっ、お酒くさいぞ……」

中を覗くと、そこには……

小鳥「飲んでますか~、あずささ~ん!」

あずさ「うふふふふふ〜。飲んでますよ~♪」

小鳥「さささ、飲んで飲んで!今日は飲み明かすピヨ~!」

あずさ「わぁ~、いいですねぇ。楽しそうです~♪」



……お酒を飲んで、すっかり出来上がってしまっている二人が。

律子「……分かったでしょ?」

貴音「ええ、よく分かりました」

美希「ダメな大人の典型的例、って感じなの……」

これは……流石にどうしようもありませんね……。

律子「あの二人の介抱しなきゃならないから、私も行けないの。ごめんなさいね」

響「ううん、別に大丈夫さー」

律子「そうね……あっ、プロデューサーに頼んだらどうかしら」

律子「社長と一杯やってなければ、私なんかより頼りになってくれると思うわよ?」

美希「あ、ハニー男の人だもんね」

律子「こら、外では控えなさいってば」

律子「ーーまぁ、そういうことね。そういうことで悪いけど、他をあたってちょうだい」

律子「……ってわあっ!? 小鳥さん、大丈夫ですか!? ……ごめん、ちょっと行ってくるわ」

貴音「はあ……お気をつけて」

そのままゆっくりと、扉は閉まりました。



中から、何やら面妖な声が聞こえてきます。まこと、面妖な……。






そうしてやって来た、男性陣の部屋。

男性陣、と言っても赤羽根殿と高木殿しかいませんが……。

部屋の明かりがついていることを確認し、わたくしは扉を叩きます。

数秒後、赤羽根殿は出てきました。

P「あれ、どうしたんだ、みんなして」

貴音「あなた様、少しよろしいでしょうか?……響」

響「了解さー!」

P「うわあっ!?」

響が赤羽根殿に飛びかかり、においをちぇっくします。

響「うん、大丈夫。お酒のにおい、しないぞ」

貴音「ありがとうございます、響」

P「お酒は飲んでないけど……いったいなんなんだ……?」

美希「実は、かくかくしかじかなの」

響「プロデューサー、いきなりあんなことしてごめんね……」

響「うう、今更になって恥ずかしくなってきた……///」



P「そういうことだったのか。実は俺も、ちょっと気になってたんだ」

貴音「と、いうことは、あなた様」

P「ああ。俺で良かったら、付き合うよ」


……


そうしてわたくし達は、海辺へと足を運びました。

空には満天の星、そして見事な満月が輝いています。

まこと、素晴らしい光景です。わざわざやって来た甲斐がありましたね。

先程まで眠そうにしていた美希も、とても楽しそうです。

この素晴らしい星空なら、無理もないかもしれません……。

美希「うわぁ~!ハニー見て!キラキラしてて、綺麗なの!」

P「そうだなぁ。それに、月も綺麗だ」


貴音「!」

P「ん?どうした、貴音?」

貴音「い、いえ。なんでもありません」






P「あ、夜の海といえば。こんな話知ってるか?」

響「えっ、なになに?」

P「ちょっとした怪談話なんだけどさ、海に現れる幽霊の話」

貴音「」

P「今日みたいな満月の夜……」

貴音「め、面妖なぁぁぁぁ!!」

P「……た、貴音!?」

わたくし、このような物の怪の類や、幽霊の類などが出てくる話は大の苦手でして……。

お化け屋敷などももちろん無理ですし、心霊写真や怪奇現象などはもってのほか。

聞きたくありません、見たくありません、知りたくありません……!

響「プロデューサー、続き話してよ!自分、気になるぞ!」

貴音「ひ、ひ、響!もうやめましょう!やめです、やめ!」

美希「むぅー、美希も聞きたいの。貴音って、案外怖がりさんなんだね。あはっ☆」

貴音「み、美希まで!?」

二人は、怖くないのでしょうか!?

……ぶるぶる。

P「うーん、貴音も怖がってるし、無理に話すのもどうかと……」

響「そ、そうだけどさ……でも自分、気になって眠れなくなっちゃうよ!」

……仕方がありません。


わたくしは覚悟を決めました。

貴音「……あなた様、お話し下さい」

P「え、大丈夫なのか?」

貴音「わたくしは耳を塞いでおりますので、どうかお早めに……」

P「でも、無理はよくな」


貴音「早くしてくださいませ!」

P「あ、ああ……分かったよ」

P「ーーごほん。じゃあ話すぞ?……それは今日みたいな満月の夜……」

P「とある女性が三人、夜の海辺にやって来たんだそうだ。ちょうど今のみんなみたいに、星でも見に来たんだろう」

P「三人がしばらく海辺にいると、突然雲が月を隠して、辺りは真っ暗になった」

P「……するとどこからか、ヒタヒタという音が聞こえてきたそうだ」

貴音「」

み、耳を塞いでも、話が聞こえてくるではありませんか……!

聞くまいと思えば思うほど、話はわたくしの頭に残ってしまいます……!

P「そのヒタヒタという音は、次第に近くなって来る。三人もなんの音だろう、と気になってきた」

P「そして音がする方を見ると、全身がびしょ濡れの、長い髪の女の幽霊が……」




貴音「ひぃやぁぁぁぁぁ!!!」

P「ごふぅっ!」

思わずわたくしは、赤羽根殿にしがみついてしまいました。

もう限界です!面妖なっ、面妖なあっ!

美希「貴音、どうせ作り話だよ?」

貴音「聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない……」

響「そ、そうだって。きっと作り話だからさ……」








貴音「おばけなんてなーいさ、おばけなんてうーそさ……」

P「……ダメだ。現実逃避してる……よしよし」

そう言って赤羽根殿は、わたくしの頭を撫でて下さいました。

……ふふっ、落ち着きます……///

P「そろそろ帰って来い、貴音。どうせ作り話なん……!」

そう言いかけて、赤羽根殿は口をつぐみ、周りを見回しました。


美希「あれ?ハニー、どうしたの?」

P「……いや、なんでもない。気のせいだと思う」

響「えー、なになに?」

P「ーーみんな、今の音、聞こえなかったのか?」

美希「なんのこと?ミキ、さっぱり聞こえなかったの」

響「自分も。貴音は?」

貴音「わ、わたくしも、特には……」

P「気のせいかな。そうならいいんだが」


ーーその時雲が月を隠し、辺りが薄暗くなりました。

そして。






ヒタ…ヒタ…





たかひびみき「」

響「う、あああ……」

美希「これって、もしかして……」

P「ーー逃げろぉっ!」

皆、一目散に走り始めました。は、は、早く逃げなくては……!

貴音「!」

っ、体が、動きません!

貴音「ひいっ……あ、あなた様ぁ……」

腰が抜けてしまいました……。

足に力が入らず、立ち上がることができません……!

P「貴音っ!……しっかり掴まってろよ!」

赤羽根殿が、わたくしの体を抱き上げました。



ーーこれは、俗に言う『お姫様抱っこ』では……///

わたくし達はそのまま、走って旅館まで帰りました。……ただ、わたくしは走っておりませんが。

本当に、あの音の正体はなんだったのでしょうか?

ーー思い出しただけで、寒気がします。忘れることに致しましょう。





おばけなんてなーいさ、おぼけなんてうーそさ……

あけましておめでとうございます。
年初め、ということもあり、いつもより多い投稿でしたが…いかがだったでしょうか?

今年も私のssにお付き合いいただけると幸いです。
早く終わらせたい、と言った割には、まだまだ続きそうな気配ですが…

今回の投稿は以上です。今年もよろしくお願いします。


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明くる朝がやって来ました。

昨晩は、本当に恐ろしい夜でした……!

思い出しただけで、寒気が致します。

ーーただ……赤羽根殿に『お姫様抱っこ』をされるという、嬉しい誤算はありましたが。

さて……今日は一日、ひたすらレッスンだと聞いております。

わたくし達の本来の目的……『オールスターライブ』に向けての特訓、という訳ですね。



本番では、ファンの皆様にみっともない姿は見せられません。心して取り掛かりましょう。




律子嬢いわく、旅館から少し離れた場所にレッスンスタジオがあり、そこで特訓が行われるようです。

全体練習を行う機会は滅多とないですし、きっと良い刺激となることでしょうね。

P「よーし、そろそろ出発するぞ。みんな、準備はいいか?」

as「「「はいっ!」」」

赤羽根殿と律子嬢、それぞれが運転する自動車に乗り込み、わたくし達はレッスンスタジオへと向かいました。

着いてみるとスタジオは思っていたよりも広々としており、作りもしっかりとしたものでした。

このような都会から離れた場所に、このような設備が……まこと、驚くべきことです。

P「早速だけど、更衣室で着替えてきてくれ。更衣室は入って一番奥にあるからな」

「「「はーい」」」





律子「一分一秒でも惜しいんだから、ちゃっちゃと着替えちゃいなさい!」

P「……みんな、もう行っちゃったぞ?」

律子「……嘘!?」

皆動きやすい服装に着替え、準備運動を行います。

その後柔軟体操をしっかりと行い、レッスンの準備は整いました。

P「よーし、アップは終わったな?まずはダンスレッスンからだ」


そう言って赤羽根殿は、数枚のCDを取り出しました。

千早「プロデューサー、それは?」

P「オールスターライブに向けての新曲だよ。まずは、あらかたの動きを覚えてもらう」

P「みんなに一曲ずつ、『フェアリー』と『竜宮』に一曲ずつ。そして全員の二曲、新曲を用意させてもらったよ」

P「一人ひとり、しっかりマスターしてくれよな」

春香「わっ、本当ですか?」

雪歩「えへへ、嬉しいですぅ」

美希「新曲なんて、久しぶりなの!ミキ、本気出しちゃおっかな~?」

P「おお、やる気満々だな。さて、まずは全体曲の一曲目、行くぞ!」


……


P「……よし、一旦休憩だ。ちゃんと水分補給しろよ~」

亜美「うぐぐ……兄ちゃん、りっちゃん並に鬼軍曹だYO……」

真美「なんかいつもよりしんどい気がする……」

真「亜美も真美もだらしないなぁ。まだまだ続くんだから、気を引き締めていこうよ!」

伊織「アンタが体力あり過ぎなだけでしょ……?」

貴音「ふう……」

なかなか、はーどなレッスンでした。

かつての961プロのレッスンよりも、今回のレッスンの方が厳しいような気も致します。

ですがこれだけのものを続ければ、確実に実力は付いてくるに違いありませんね。

今回、わたくしの歌う新曲は四曲。

どれも歌い甲斐のある曲です。自然と気合が入ってくるように思われます……!




響「四曲もあるのか……少し緊張するなぁ……」

P「ん?響らしくないな」

響「だってオールスターライブが成功したら、『フェアリー』はトップアイドルに王手でしょ?」

響「もし失敗したらと思うと……」

美希「そんなの関係ないの。ミキ達なら、きっとうまくいくって思うな?」

貴音「そうですよ、響。きっと良き方向へと向かいます」

P「二人の言う通りだ。本番で失敗しないように、今練習するんじゃないか」

P「お前達なら、きっとやれる。みんなで頑張っていこう!」

響「プロデューサー……うんっ、自分も頑張るぞ!」






その後練習と休憩の繰り返しが数回続いたのち、昼食の時間となりました。

午後のレッスンに支障をきたさないよう、よく考えられた献立です。

美希「うわぁ、おにぎりがいっぱい!幸せなの~♪」

やよい「はわぁ……数えきれないです~」

小鳥「午後からのレッスンのことをよく考えて食べてね。……特に貴音ちゃん!」

貴音「なんと!」

釘を刺されてしまっては、仕方ありません……。



夕食まで、我慢……ふぁいとです、わたくし!


少し短いですが、今回の投稿は以上です。

>>661
as「「「はいっ!」」」

尻の穴で返事したのか

>>672 さん

asは『オールスターズ』の略です。
(ちなみに>>336などで既出)

スレ返し失礼しました。

なんでこんなことを…ミスです、申し訳ありません。

皆様の寛大さに涙が出そうです…
こんなしょうもない作者ですが、これからもお付き合い頂けると幸いです。

今回の投稿、始めます。


……


さて。昼休憩も終わり、れっすんも後半戦へ。


そんな時に赤羽根殿は、わたくし達全員を集めました。

まだ準備運動も始めていないのですが……。

P「みんな集まったな。突然だが、ここでちょっとした発表がある」

P「今回のライブ限定で、ユニットを組むことにした」

P「午後からは、オールスターライブ限定ユニットでの練習をしてもらうぞ」

真美「えっ、ユニット!?」

P「そうだ。何せ特別なライブだからな、何か特別なことしたいだろ?」

亜美「んっふっふ~、兄ちゃんは亜美達のこと、よく分かってますなぁ~」

真美「真美、めっちゃ嬉しいよ!ありがと、兄ちゃん!」

『竜宮小町』の結成時、一番羨ましがっていたのは真美でした。

ようやく念願が叶った、という訳でしょう。

律子「それじゃ、ユニットの振り分けを言うわね」

律子「まず一組目は、春香・伊織・雪歩。王道アイドルである三人を集めたユニットよ」

律子「二組目は、亜美・真美・やよい。元気さが売りのユニット」

律子「三組目は、美希・真・響。ダンサブルな曲が似合うユニットね」

律子「そして四組目は、千早・あずささん・貴音。765プロが誇る三大歌姫のユニット、ってとこかしら」

律子「それぞれのユニットでまとまって行動すること。良いわね?」

それぞれの特色を生かしたユニット、という訳ですね。腕がなります……。






早速千早、あずさと集合し、打ち合わせを行うことに。

千早「まさか本当に、四条さんとユニットを組むことになるなんて……」

あずさ「そういえば、そんな話を聞いたことあったわね~」

あずさ「確か『フェアリー』が出来る前、千早ちゃんと貴音ちゃんの二人で組む案が……」

貴音「確かに、そのような話もありましたね」

千早「あずささんが『竜宮』に抜擢されてから、こんなユニットは結成し得ないと思ってました」

千早「お二人とユニットを組むことができて、本当に嬉しいです。よろしくお願いします!」

貴音「ふふっ、こちらこそ」

あずさ「私も、足を引っ張らないように頑張っちゃうわよ~♪」

早速、本番に向けての曲の練習が始まりました。


足を引っ張らぬよう、気を引き締めねばなりませんね。


……


発声練習や基本的な歌合わせ、一つ一つの動きの確認などをして、練習は終了しました。

流石は千早にあずさ……歌のれべるが半端なものではありません。

他の動き一つ一つも、かつて共にレッスンを行った時より格段に上達しているように思われます。

それだけではありません。特に千早は笑顔も増え、表情も明るくなりました。

ーーこれも赤羽根殿の指導の賜物なのでしょうか?




最後の全体練習が終わる頃、外はもう真っ暗になっておりました。

P「うわ、暗っ……もうこんな時間だったのか」

春香「レッスンに集中しすぎて、全く気付きませんでしたね……」

P「全くだ。それだけいいレッスンになったってことだろうし、良しとするか」

P「それはさておき、これで合宿は終了だ。みんなお疲れ様!」

律子「本当にみんな、よく頑張ってたわよ。きっとオールスターライブもうまくいくわ!」

P「おいおい、律子もレッスンしてた側だろ?」

律子「あっ、そうでしたね……あはは」

P「はは。大丈夫か、律子?」

律子嬢も疲れている様子です。

アイドルとプロデューサーの兼任というものは、かなり堪えるものなのでしょう……。

そんな時、小鳥嬢からある提案が。

小鳥「みんな、本当にお疲れ様」

小鳥「疲れている中悪いんだけど……みんな、ちょっといいかしら?」

春香「なんですか、小鳥さん?」

小鳥「実は合宿の打ち上げに、海辺でバーベキュー大会を予定しているの。みんな、時間は大丈夫?」

……なんと!

響「本当に!?自分、お腹ぺこぺこだったんだ~!」

やよい「はわわ、バーベキューなんて贅沢です~!」

小鳥「みんな大丈夫みたいね、良かったわ……」

小鳥「先に社長が仕込みをしていてくれているはずだから、行きましょうか♪」






その後わたくし達は、高木殿が連れて来たやよいの弟妹を交えて、ばーべきゅーを楽しみました。

皆と食す料理はとても美味で、わたくしの箸はいつも以上に止まることがないほど。

最初から最後まで、まこと楽しき合宿となりました。

ーー『オールスターライブ』で歌う曲の一つに、『フラワーガール』という曲があります。

恋する女性の心情を描いた曲である、とわたくしは感じました。

……まるで、わたくしの心の内を暗示しているような……そんな曲。

ーーこの曲は……プロデューサー、あなた様のことを思って歌います。



期待していて下さいね、あなた様。

ダラダラと長引いてしまいそうなため、勝手ながらオールスターライブの内容はカットさせて頂きます。

今回の投稿は以上です。


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オールスターライブは、見事大成功を収めました。

かなり大きな会場だったにもかかわらず、座席はすぐに完売。物販の売れ行きもかなりのものだったそうです。

わたくし達も失敗をすることなく、普段以上の実力を発揮することができた、と感じます。

支えて下さった皆様には、感謝の気持ちが絶えません……。

オールスターライブが成功したことを皮切りに、わたくし達の知名度はさらに上昇。

入った当時は空きが多かったほわいとぼーども、いまでは真っ黒です。



その人気と知名度のおかげか、765プロによる生放送番組『生っすか!?サンデー』も放送を開始しました。

過去の世界のわたくしでも、ここまでの知名度は無かったでしょう。

ここまで来られたのも、全て仲間達とファンの皆様のおかげです。

もうひとつ変わったことと言えば、『竜宮小町』と『フェアリー』に続く、新ユニットの結成でしょうか?


やよいと真美の『わんつーているず』、雪歩と真の『ザ・モノクローム』の二つが、新たに結成されました。

春香は正統派アイドルとして、千早は歌姫系アイドルとしてそれぞれ単独で活動することに決めたようです。

さらなる躍進を図るべく、『竜宮小町』に律子嬢が参加するようになったことも見逃せません。

さらにオールスターライブの成功がきっかけとなり、わたくし達全員のアイドルランクはAランクまで上昇。

765プロのアイドル、13人全員によるユニット『765pro allstars』としてのお仕事も来るようになりました。

ここまで来ればもう、ほとんどトップアイドルといっても過言ではないでしょう。


しかし、アイドルランクにはまだ上が存在します。

真の頂点……Sランクにならねば、真のトップアイドルとは言えません。

ーーオーバーランク、と言われるものも存在するようなのですが……どうすればそこに到達することができるのでしょうか?






そんな中、765プロに一枚の封筒が届けられました。

小鳥「ご苦労様です。……あら?」

貴音「どうされたのです、小鳥嬢?」

小鳥「あ、貴音ちゃん。実はこの封筒、差出人が書いてなくて……」

貴音「はて、それは妙ですね……」

P「音無さん、俺が開けますよ」

小鳥「いえいえ、プロデューサーさんに何かあったらいけませんから」

P「何言ってるんです、俺だって音無さんに何かあったら困りますよ」

小鳥「ぴよ……それじゃあ、お願いします」



赤羽根殿は手袋をはめて封筒を受け取ると、ぺーぱーないふで封を開けました。

P「……!これは」

貴音「どうされたのです?」

P「見てくれ、貴音。……961プロからだ」



赤羽根殿から手渡された、一通の手紙。

そこにはライブバトルの日程と会場名、そして正々堂々、小細工なしでの勝負がしたいなどの旨が記されていました。

貴音「あなた様……これは」

P「ああ。向こうはおそらく、『フェアリー』との対決を希望しているんだろう」

P「前の『竜宮小町』のオーディションの時の事を考えると、間違いないはずだ」

貴音「わたくしも同意見です。これは、わたくし達へ向かってのものに思えます」

『ジュピター』の三人……そして961プロがわたくし達を認めた、ということなのでしょう。

まこと……喜ばしいことです。

P「日付は一ヶ月後か。……これで優秀な成績を残せば、トップアイドル間違いなしなほどの大勝負だ」

P「負ける訳にはいかないぞ、しっかり調整していこう!」

貴音「はい、あなた様!」

『竜宮小町』の雪辱を晴らす時です、心して取り組みましょう……!

とは言っても、わたくし達の実力もかなりついていると感じます。

……少なくとも、いつかのレッスンで美希が出した『本気』についていける程には。

今までの成長した分を全て出し切れば、少なくとも互角には戦えるでしょうか?

ーーまあそれは、実際に勝負しなくては分かりませんが。

P「以前よりも、『フェアリー』のレベルは格段に上がっている」

P「一番そばで見てきた俺が言うんだから間違いないさ」

貴音「ええ、そうですね……ですが」

P「ああ。向こうのレベルも、上がっていると見るべきだろうな」

P「ここからおよそ一ヶ月、しっかりトレーニングしていこう」






それからおよそ一ヶ月、ライブバトルの日まで、わたくし達は鍛錬と調整を念入りに行いました。

『ジュピター』のアピールのたいみんぐなどの研究も怠らず、対策も十分に行いました。

勝てる確率は、おそらく五分。

ーー厳しい戦いになりそうですね。




ーーですが、ここで負けるようではトップアイドルなど夢のまた夢。

わたくしの……いえ、『わたくし達の』夢のために、決して負けるわけにはいかないのです。



ついにジュピターとの決戦回です。
そろそろ、最終局面に差し掛かりつつあります。もう少し、お付き合いを。

今回の投稿は以上です。

あっと…先週の1/21はこのssの主人公である貴音の誕生日だったそうで。
当日にもこっそり投稿したかったのですが、まだ書溜めが追いつかず…
遅ればせながら、お姫ちん誕生日おめでとう。


いつも乙して頂いている皆様、本当にありがとうございます。


……


そして迎えた、ライブバトル当日。

わたくしと美希、響、そして赤羽根殿は記されていた会場を訪れていました。

調整のおかげか、いつもより体が動くような気が致します。

……こんでぃしょんは最高、と言えるでしょう。

P「ついに……この日が来たな」

響「そう……だね」

美希「響、緊張してるの?」

響「し、しないわけないでしょ!?美希はどうなんだよ~!」

美希「ミキも緊張、してるよ?」

響「え、美希も?珍しいね」

美希「ミキだって、緊張くらいするの」

美希「でも、それ以上にワクワクの方が大きいってカンジかな」

美希「こういうのって、楽しまなきゃ損だって思うの。あはっ☆」

P「大した奴だよ、美希は……俺なんか、緊張しっぱなしだっていうのに」

響「プロデューサーが緊張してどうするんさ……」

貴音「そうですよ、あなた様。別にあなた様が出る訳ではないのですから」



ーーわたくし達と同じ視点で物事を見て下さる赤羽根殿だからこそ、同じ緊張を味わっているのかもしれません。

会場はかなり有名な場所であり、控え室や舞台も豪華な作りになっています。

このライブバトル自体も有名なものらしく、『フェアリー』や『ジュピター』以外にも多くの有名アイドルが参加している模様。

これだけの整った環境なのです、『優秀な成績を残せばトップアイドル』、というのもうなずけます。






そんなことを考えながら控室で待機していると、突然ノックの音が。

美希「あふぅ……誰?」

P「俺が出るよ」

赤羽根殿は返事をすると、扉を開けました。

扉を開けると、そこには天ヶ瀬 冬馬が立っていました。

冬馬「よっ、邪魔するぜ」

P「お、お前は……!」








P「お前は確か……ピピン板橋!」

冬馬「俺は天ヶ瀬冬馬だ!文字数しか合ってねぇじゃねーか!?」

P「ははは、まあ冗談はさておき」

P「どうしたんだ、いきなりやって来て。また挑発か?」

冬馬「うぐっ……前は悪かったって。今回は激励に来たんだよ」

貴音「激励、ですか。敵であるわたくし達に?」

冬馬「まあ、なーーだが、俺は……俺達はお前らのことを敵じゃなくてライバルだと思ってる」

冬馬「お前らはすごいよ。本当にそう思う」

冬馬「全くの無名だった事務所から、全くの無名だったアイドルが13人も出てきて、その全員がトップに王手をかけてるなんてさ」

冬馬「しかもそのアイドル達を育て上げたのは、最近入ったばかりのプロデューサーときてる」

冬馬「普通だったらありえない話だ……でも、お前らはそれをやってのけた」

冬馬「だから、俺達は……最大限の敬意をもって戦わせてもらう」



わざわざ、その話をするためにここに……?

初対面のとき感じたいめーじは、どうやら本当だったようです。

冬馬「勝つのは俺達『ジュピター』だ、それは譲らねぇ」

冬馬「だが今日は、来てくれて本当に感謝してる。お互い、全力を尽くそうぜ!」



冬馬「……っとと、もうこんな時間か。そろそろリハーサルだから、俺は行くぜ!また後でな!」

そう言うと、天ヶ瀬 冬馬は去って行きました。






P「……相変わらず変な奴だなぁ」

貴音「はい……悪い者ではないようなのですが」

わざわざ対戦相手の控え室に現れては、激励をして素早く立ち去る。

そこまで接点のない相手に、そこまでするものでしょうか?

するとしても普通は挨拶程度かと思われますが……『正々堂々が似合う熱血漢』であるだけでなく、『変な奴』でもあるのかもしれません。


……


予行を終え、本番が始まろうとしている頃、わたくし達は舞台袖で待機していました。

響は絶えずそわそわとしており、美希も緊張を隠せていません。

ーーそれは、わたくしも同様。

落ち着いたように見せてはいますが、背筋や手にとめどなく汗が湧き出てきます。

前の時間軸で既に何度か経験していたとしても、この時間に慣れることはできそうにありません……。

赤羽根殿も先程まで険しい顔つきを浮かべておられましたが、深呼吸をしたためでしょうか、落ち着きを取り戻しています。

そして彼は腕時計を覗き込んで、わたくし達の方に向き直りました。

P「よし、そろそろ時間だな。円陣でも組もうか」

響と美希、そしてわたくしは無言で頷くと、全員で円陣を組みます。





P「ーーなんども言うようだが、ここで優秀な成績を残せばトップアイドルの仲間入りだ」

P「みんなの力なら絶対大丈夫だ、落ち着いて行こう!」


たかひびみき「「「はいっ!」」」


P「……行って来い、『プロジェクト・フェアリー』!」



ステージ裏を通って、舞台へ。

大勢の人々が、歓声と共にわたくし達を迎えます。



響「みんな、お待たせ~!」

美希「ミキ達『フェアリー』のステージを見に来てくれて、ありがとうなの!」

貴音「皆様、今宵は共に楽しみましょう……!」


運命の舞台が、今、幕を開けました。

最終決戦開始。いつも通り、ライブシーンはカットです。

今回の投稿は以上です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『ジュピター』との決戦の舞台であるライブバトルから、数ヶ月。

あの日、『ジュピター』と『フェアリー』の勝負は引き分けに終わりました。

……結果は同着の一位。お互いに譲らず、最終的な点数は同点だったとか。

同点である『ジュピター』以外の他のユニットを大きく引き離しての優勝であったためでしょうか、何の問題もなく『フェアリー』はトップアイドルの座を獲得しました。

その後、翌週にアリーナで行われた961プロとの合同ライブにより、765プロのアイドル全員にトップアイドルの称号が与えられたのです。

『所属アイドル全員がトップアイドルである』事務所になったためか、事務所の忙しさはより一層のものとなりました。

朝早くにお仕事に向かい、帰るのは夜遅く……といった毎日。

確かに忙しくて仕方のない毎日ではありますが、それを楽しんでいる自分がいるのも事実です。

この『トップアイドル』という場所が、わたくし自身が望んだものであるのも関係するのかもしれませんね。






そんなことを考えつつ床に就こうとしていると、すまーとふぉんに着信が。

貴音「……はて、誰からでしょう」

夜遅くに、いったい何なのでしょう……?

わたくしは、重い瞼ををこすりながら着信欄を開きました。

貴音「これは……?」

めーるを開いてみると、差出人は春香となっていました。

夜遅くに申し訳ない、明日の朝早くに事務所に集まってほしい……とのことです。

明日の朝、何があると言うのでしょう?



貴音「……ふむ」

了解の意を示す返信をし、わたくしはそのまま床に就きました。


……


次の朝早く、13名のアイドルと小鳥嬢が事務所に集まりました。

どうやら……赤羽根殿は呼ばれていないようですね。

美希「あふぅ……まだ眠いの」

春香「ごめんねみんな、こんな早くに呼び出して」

伊織「別に構わないわよ。それより、要件を言ってちょうだい」

春香「それもそうだね。……実はみんなに、頼みたいことがあるんだ」

雪歩「えっ、頼み……?」

真美「わざわざこんな時間じゃなくてもいーじゃん……真美もまだ眠いよ」

亜美「そーだYO……昼とかでもよくない?」

春香「ううん、今じゃなきゃダメ」

春香「今じゃないと、プロデューサーさんが来ちゃうから……」

あずさ「……うふふ、なんとなく分かった気がするわ~♪」

あずさ「プロデューサーさんがこの場にいてはいけないってことは、プロデューサーさんに聞かれてはいけないってこと」

あずさ「春香ちゃんはプロデューサーさんに、ここにいるみんなで何かしようとしてるんじゃないかしら?」

春香「わっ、正解ですっ♪」

……何か特別なことをするのでしょうか?

春香「実は、いつもお世話になっているプロデューサーさんに何かできたらなって考えてて」

春香「サプライズを企画してみようかな、な〜んて……」

小鳥「なるほど……だからプロデューサーさんには内緒なのね?」

小鳥「お世話になっているプロデューサーさんを労おう、ってことかしら」

律子「ふふっ、春香らしいって言えば、春香らしい考えね」

春香「えっ、そうですか?」

真「そうだと思うよ。春香って、そういうの大切にするタイプだし」

真「みんなの誕生日は、どんなに忙しくてもパーティーを計画するくらいだもん」

亜美「あっ、そういえば亜美達の誕生日もそうだったYO!」

真美「みんな忙しいはずなのに、全員集合してたよね……あれ、はるるんが集めてくれたんだ」

伊織「そういえばそういう集まりの前は、いつも春香があっちこっち走り回ってたわよね」

伊織「この中でも一、二を争うほどの忙しさなのに、ね」



どうやら皆、それぞれ心当たりがある様子です。

わたくしも、そのような場面を幾つか目にしたことがあります。

やよい「ということは、春香さんに感謝しないといけないですね!」

やよい「春香さん、いつもありがとうございます〜!」

春香「えへへ。みんなにそう言われると、なんだか照れちゃうなぁ……///」

その言葉を聞いた春香は、少し恥ずかしそうにほおを掻きました。


確かに春香は、仲間内で喜ばしいことがあれば、常に祝い事をしようとしていました。

おそらく、『誰よりも仲間を大切にする』という彼女の思いが、そうさせるのでしょうね……。

貴音「……して、さぷらいず、とは何をすれば良いのでしょうか?」

美希「そうだよね。ハニー、何したら喜んでくれるかな?」

響「確かにそうだぞ。何をすればいいんだろ?」

響「プロデューサーが喜びそうなことって、あんまり思いつかないよ……」

春香「やっぱりここは感謝の気持ちを込めて、パーティーをしたいな、って思うんだけど……」

千早「やっぱりそこに落ち着くのね……春香らしいといえば、春香らしいけれど」

春香「楽しいし、万人ウケするし、いいでしょ?千早ちゃん、パーティーだよ、パーティー!」

やよい「はわっ、私もパーティー、だーい好きです~!」

律子「確かにプロデューサー殿にはお世話になってるし……良いんじゃないかしら♪」

話し合いの結果、ぱーてぃーを開くこととなったようです。

ーーまた、美味しいものが食べられるのでしょうか……じゅるり。

ついに最終章に入りました。(少し無理がある展開になるやもしれませんが)

果たしてこのスレだけで終われるのだろうか、次スレ立ててほんの少しだけで終わりとかはちょっと…
とりあえず、今回の投稿は以上となります。


……


とんとん拍子で計画は進み、一週間が経つ頃には、準備は粗方終了していました。

あと準備すべきは、事務所の中だけです。

春香「……みんな、ちゃんと道具持ってきた?」

やよい「はい、持ってきました!」

真「バッチリだよ。……でも、いつ飾り付けする?」

小鳥「えっと……プロデューサーさんは、今日は事務仕事ばっかりみたいね」

小鳥「滅多なことが無い限り、外には出ないんじゃないかしら」

春香「プロデューサーさんをどうやって外に出すか……それが問題だね」

春香の言う通り、赤羽根殿をどう外に出すか……これが問題となりそうです。

伊織「話をぶった切るようで悪いんだけど……」

伊織「私達『竜宮』メンバーは、もうすぐ番組の収録に行かなきゃならないわ……」

あずさ「始まる前までには、帰ってこれると思うけど……みんな、手伝えなくてごめんなさいね」

亜美「みんな、準備は任せた〜!」

響「なんくるないさー。そんなことより、お仕事頑張ってよね!」

千早「ーー話を戻すわね。確かに、プロデューサー自体が一番の砦ね」

千早「上手い方法が、あればいいのだけれど……」

雪歩「確かに……見たところプロデューサー、あんまり動かなさそうだよね」

真「仕事中のプロデューサー、集中してるしなぁ……どうする?」

真美「じゃあ真美が、イタズラしてなんとかするYO!」

真「……また怒られても知らないよ?」

真美「うぐっ……やっぱ今のナシね」




そんな中、美希がようやく目を覚ましました。

美希「あふぅ……なんの話?」

響「あっ、美希。じつはかくかくだぞだぞで」

美希「ふーん……要するにハニーを外に連れだせばいいんだね?」

響「うん。何かいい案ある?」

美希「そんなの簡単だよ。だって……」

美希「今からミキが、ハニーをデートに連れ出すから♪」

as「「「!!!」」」

美希「ーーってことで、ハn」

真「ちょっと待ったっ!」

美希「真クン、止めないでほしいの!」

真「デートなんてズル……ま、まずいよ!」

雪歩「そうだよ、うらやま……と、とにかくだめですぅ!」

美希「え〜……」

春香「そ、それなら私が!」

亜美「はるるんズルいYO!それなら亜美が!」

真美「ま、真美だって!」

美希の『でーと』発言を皮切りに、その場にいたアイドル全員が立候補しました。

……無論、わたくしもです!

全員赤羽根殿のことを少なからず思っている、とわたくしは践みました。

仕方のないことであるとは思いますが、何という競争率でしょう……!



千早「……やっぱりみんな、プロデューサーのこと」

伊織「そ、そうよ。悪いかしら?」

あずさ「……運命の人かも、なんて思ってたりするのよね。うふふ……」

……皆の目から火花が散っているかのようです。

やよい「け、ケンカはダメです!めっ、ですよ!」

美希「でもここは、正々堂々戦うべきだって思うな!」

響「た、戦いって何なんだ!?」

美希「それはもちろん、ハニーを手に入れるのは誰か、っていうのを決める戦いなの!」

千早「そ、そんな大それた話だったかしら……?」

春香「最終的に決めるのはプロデューサーさんだから、私達がどうこうできる話じゃないけどね……」

春香「誰が勝っても恨みっこなしだよ、みんな!」

皆はその言葉を聞き、真剣な表情で頷きました。

あずさ「まあそれは置いておいて、まずは今の話をしないとね〜?」

美希「そ、そうだったの!ハニーとのデート!」

真「……どういう形式にする?」

亜美「んっふっふ〜。ゲームなら、亜美にお任せだよ〜♪」

真美「なんの、真美だって!」

律子「待ちなさい、『竜宮』メンバーは今から収録だって言ってるでしょう? 」

伊織「ーーなんなのよもうっ!」

律子「伊織、さっきあんた自身が言ってたことじゃないの……」

律子「我慢しなさい。ほら、行くわよ?」

律子「みんな、準備の方はよろしくね?」

そう言って律子嬢は、伊織、あずさ、亜美を連れて事務所を出ます。



ですが、わたくしは……律子嬢が少し悔しそうな顔をしたことを、見逃しはしませんでした。

雪歩「仕方ないとはいえ、律子さん達にはなんだか悪いことしちゃった感じだね……」

雪歩「でもこれで、ライバルが四人減った……!」

春香「そうだね……いい方法もないし、ここはじゃんけんで!」

他に方法も見つからず、(小鳥嬢を除く)その場にいる全員が右手を出します。

春香「行くよ、じゃーんけーん……」








貴音「あなた様。最近また、新しいらぁめんのお店を見つけたのですが……」

P「ん?……ちょうどお昼時だし、行ってみるか」

貴音「はいっ!」

貴音「さああなた様、早く参りましょう!」

P「わ、分かったから引っ張るなって!」





ふふっ……。完全勝利、です。

キリがいいところまで行ったら、次スレに移行することにしました。
次スレの件は、また後々に。

今回の投稿は以上です。


……


P「今日の店のもうまかった……。貴音はいいラーメン屋を探すのがうまいよなぁ」

貴音「そうでしょうか……ふふっ」

前回のでーと(のようなもの)と同じような事をしたのち、わたくし達は事務所に帰り着きました。

時計は夕方頃の時刻を指し示しております。そろそろ頃合いでしょうか?


……


P「今日の店のもうまかった……。貴音はいいラーメン屋を探すのがうまいよなぁ」

貴音「そうでしょうか……ふふっ」

前回のでーと(のようなもの)と同じような事をしたのち、わたくし達は事務所に帰り着きました。

時計は夕方頃の時刻を指し示しております。そろそろ頃合いでしょうか?

端末の調子が悪かったのか、連投になってしまってました…申し訳ないです。

>>770は無視して下さい。




P「あれ……事務所の電気が付いてないじゃないか。何かあったのかな?」

貴音「さあ……わたくしには、なんとも」

わたくしは、『さぷらいず』のために事務所の電気は切る、との連絡があったことを思い出しました。

P「心配だな、とにかく行ってみよう」

春香「ーーあっ。お帰りなさい、貴音さん、プロデューサーさん!」

貴音「ただいま戻りました、春香」

扉の前には、春香が待ち構えていました。

予定よりも早く帰ってきてしまったときのための見張りだと、これまた連絡にあったのを思い出します。

P「ただいま。……それにしても春香、何かあったのか?」

春香「えへへ、入ってみたら分かりますよ♪ 」

春香「……ささ、中へどうぞ!」

P「ただいまー……!?」

軋んだ音を立てて扉が開かれると、事務所の明かりが付けられました。

それと同時に響き渡るくらっかーの破裂音。

事務所内は見事に飾り付けが完了しており、ほわいとぼーどには『プロデューサーさん、いつもありがとうございます』の文字が。

ーー驚きからでしょうか、赤羽根殿はぽかんとした表情を浮かべておられます。

P「……なんだこれ?」

春香「何って、書いてある通りですよ?……では、みんなを代表して私からメッセージを」





春香「ーーいつもありがとうございます、プロデューサーさんっ♪」


……


謙遜する赤羽根殿を納得させ、ぱーてぃーが始まりました。

春香「じゃじゃーん!今回はいつもより多めにお菓子を用意してますから、どんどん食べて下さいね!」

雪歩「わ、私もいつもより高級な茶葉を用意しました……えへへ」

春香が用意したたくさんのお菓子がてーぶるに並べられ、雪歩のお茶が皆に配られます。

これほどまでの物とは……素晴らしき光景です……!

律子「春香、また腕を上げたわね。すっごく美味しいわよ」

P「本当だ。こりゃすごいな」

春香「えへへ、ありがとうございます♪」

春香はまた腕を上げたようで、用意されていたお菓子はあっという間になくなっていきます。



……わたくしの腕も、止まることを知りません。

早くも、皿の上は空っぽになりつつあります。

小鳥「あらら、もうなくなっちゃいそうね……よーし、それなら私のとっておきのお菓子を!」

真美「おおっ、やるぅ〜!」

亜美「さすがピヨちゃん、太ももだYO!」

小鳥「太っ腹の間違いかしら……?とにかく、持ってくるわね♪」

そう言って小鳥嬢は、給湯室の方へと歩いて行きました。






しばらく談笑を楽しんでいると、隣に赤羽根殿が。

P「貴音、隣いいか?」

貴音「おや、あなた様。どうぞお掛け下さい」

P「ありがとう。……にしても貴音、もしかしてラーメンを食べに外に出たのって……」

貴音「ふふっ、お気付きになりましたか。全てはこれの準備のためだったのですよ」

P「ーー全く気付かなかった。俺、今でもまだ驚いてるよ」

P「まあとにかく、俺のためにこんなパーティーを開いてくれてありがとうな」

P「ここまで来られたのはみんなの力だと思うけど……とても嬉しいよ」

貴音「お礼なら、春香に……。この案を出したのは、間違いなく春香ですから」

P「はは、そうだな」

赤羽根殿は少し照れくさそうな表情を浮かべつつ、お笑いになりました。



そう言いながら彼は、持っていたお茶を飲み干します。

わたくしも、それに合わせてお茶を飲み干しました。

P「おっと、お茶飲みきっちゃったか。新しいの淹れてくるよ」

貴音「あなた様、それならわたくしが」

P「いいっていいって。貴音の分も淹れてくるから、ちょっと待っててくれな」

そう言って彼はふたつの湯のみを持って、給湯室へと向かいました。


……


貴音「……おや?」

赤羽根殿が給湯室へと向かったのち、わたくしは一枚のはんかちを拾い上げました。

男性用のもののように見えますが……赤羽根殿のものでしょうか?

もしそうであるならば、お届けせねばなりませんね。

はんかちを手に、わたくしも給湯室へ向かうことに。

いざ給湯室の前まで来てみると、なにやら話し声が聞こえてきます。

これは……小鳥嬢の声ですか。

お話をしていらっしゃるのであれば、邪魔をする訳にはいきません。


わたくしが引き返そうとすると、小鳥嬢が話している内容が、ふと耳に入りました。

小鳥「そういえば、プロデューサーさんって彼女さんとかいらっしゃるんですか?」

貴音「!!」


ーーとても気になります。

しかし、立聞きなどという不埒な真似をするわけには……!

しかし、わたくしの足は意思とは反対に給湯室の方へと戻っていくのです。

ああ……お許し下さい、あなた様……!

P「はは、まさか。彼女なんていませんよ」

小鳥「本当ですか?プロデューサーさんの事を慕ってる人、たくさんいると思いますよ?」

P「またまた。慕われはしても、俺みたいなのを好きになるなんて」



ーーいけず。

わたくしの思いは、全く届いていなかったのですね。本当に鈍感で、いけずな方です。

……『彼女はいない』、と聞いて、少しほっとは致しましたが。

小鳥「じゃあ、プロデューサーさんが気になる子はいるんですか?」

小鳥「ーー例えば、アイドルのみんなとか」

P「アイドルのみんな、ですか?」








P「何言ってるんですか。みんなのことは、アイドルとしか見ていませんよ」

P「というか、そんな目で見ることなんてできません」







貴音「……!?」

そんな……!

赤羽根殿は、わたくし達のことを恋愛対象として見ては下さらないのですか……!?



ーーもはや何も聞こえません。涙が溢れ出てきてしまい、わたくしのほおを濡らします。





つらさのあまり、わたくしは走ってその場から逃げ出してしまいました……。






P「ーーあれ、今誰かいたかな?……気のせいか」

P「というより音無さん、俺自身がスキャンダルの種を蒔いてどうするんですか……」

P「確かにみんな魅力的ですけど、そんな目で見たらまずいですって。俺も考えないようにしてるんですから」

小鳥「……嘘ばっかり。私が見抜いていないと思ったら大間違いですよ?」

小鳥「プロデューサーさん、本当は貴音ちゃんのこと……」





P「っ……!いつからそれを?」

小鳥「ずっと前からですよ。だから彼女さんがいないのは分かってましたけど、こうでもしないとプロデューサーさん話に食いついてくれないでしょう?」

小鳥「そのことを知っているからこそ、私もあなたを諦めたんですから」

P「……参ったな」

小鳥「……プロデューサーさん、貴音ちゃんがトップアイドルになった今なら、ある程度の融通は利くんじゃないですか?」

小鳥「女優や歌手に転身、なんてことも可能でしょうし」

小鳥「もっと前向きに考えてみてもいいじゃないですか。それがプロデューサーさんの幸せでもあるんですから」

P「……」

P「ーーまあ、それはおいおい考えていきますよ。とりあえず戻りましょう」


今回の投稿は以上です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


貴音「……おはようございます」

……翌日。


わたくしはほとんど眠れていない状況で、事務所へと足を運びました。


P『何言ってるんですか。みんなのことは、アイドルとしか見ていませんよ』

P『というか、そんな目で見ることなんてできません』





昨日給湯室前で聞いたあの言葉が、未だにわたくしの耳から離れません。

わたくしがこちらの時間軸へ来た意味が、崩れ去っていくような……そんな心地が致しました。

『トップアイドルになる』『赤羽根殿と結ばれる』……それこそが、わたくしが目指した未来。

しかし彼はわたくし達のことを、『そのような目では見ることができない』、とおっしゃっていました。





わたくしの思い描いていた未来は、存在しえないものなのでしょうか……?

勿論、無理に言い寄ることも可能でしょう。

ですが……赤羽根殿のあの言葉が本当ならば、それはただお互いを傷つけるだけです。


それに……もし無理に彼を奪うようなことになってしまっては、わたくしの大切な、仲間の気持ちを踏みにじることになってしまうのではないでしょうか?

よその世界から来たにも等しいわたくしが、皆から赤羽根殿を奪ってしまうことになりかねないのでは……?

貴音「……」

そう考えると、どうしても行動に起こそうという気にはなれません。


わたくしは、どうすれば……。


……


響「おはようございまーす!」

そんなことを考えていると、響が事務所へとやって来ました。

貴音「おはようございます、響」

響「おはよ、貴音。今日も頑張ろうね!」

貴音「……ええ、そうですね」

響「……?」

貴音「……どうかしましたか?」

響「貴音、目が真っ赤だぞ?もしかして眠れなかったの?」

貴音「ーーええ。昨夜はどうも、寝つきが悪く」



実は、寝付けなかっただけではなく、昨夜涙を流したことも関係しています。

それもまた、寝付けなかった原因の一つなのですが……それを言う訳にはいきません。



響「ーー貴音、もしかして悩みとかあるんじゃない?」


響はわたくしに不審そうな目を向けながら、そう言いました。

貴音「……はて、なんのことですか?」

響「ここにいる誰よりも付き合いが長いし、なんとなくだけど……分かるんだ」

響「それに……貴音は、自分の一番の友達だから」

貴音「響……」





(『隠し事はなしだぞ!自分達、仲間である以前に……友達でしょ?』)

貴音「っ……」

ーーふと、前の時間軸の響の言葉が頭に浮かびました。

気のせいか、目の前の響とあちらの時間軸の響が重なって見えるような気が致します。

貴音「大丈夫ですよ、心配ありません。大したことではないのです」

響「……本当に?」

貴音「はい」

響「それならいいけどさ。何かあるなら相談してよね?」



そのまま響は少し散歩してくる、と言って事務所を出て行きました。



『へへ〜。自分達、親友だもんね!』


『貴音、今度遊びに行こうよ!』


『へへーん。自分達なら、絶対負けっこないさー!』



もう一つの時間軸での響との思い出が、わたくしの頭の中を巡ります。

先程の言葉の影響なのでしょうか?かつての楽しかったこと、悔しかったこと……。

様々な出来事が、思い浮かんでは消えていきます。

神様の言う話では、過去が分岐したこの世界とあの世界は、平行世界の関係である……とのことでした。

それならば、同じ人物がそれぞれの世界に一人ずついることとなります。

もちろん……それは響とて例外ではありません。


そこで一つ、わたくしは疑問を抱きました。


ーーあちらの時間軸の響は、今頃どうしているのでしょうか?

こちらの時間軸へとやって来る前、響(もちろん向こうの響ですが)との連絡はつきませんでした。

電話をしても応答はなく、送っためーるにも返信はなし。

行方も分からず、足取りもつかめない。


一体、何があったのか……。

そのことを全く考えずに、わたくしは今までこの時間軸で過ごしてきました。

思い返せば、わたくしはなんということをしていたのでしょうか。

貴音「もしや、わたくしは……!」

自分を『親友』と呼んでくれた『親友』を、わたくしは『見捨てていた』のかもしれません……。

貴音「……」





響。

ーーもう、貴女を一人にはさせませんよ。




わたくしの心の中で固まった、とある決意。

それを実行すべく、わたくしは携帯電話を取り出し、『お気に入り』の項目を開きます。

そして……赤羽根殿の番号へ電話を掛けました。





貴音「ーーあなた様ですか?貴音です」

貴音「実は……」


今回の投稿は以上です。


……


とある建物の屋上に、わたくしは再び立っていました。

あの夜と同じような満月が、わたくしを照らしています。




その時……がちゃり、と音を立てて、屋上の扉が開かれました。

P「いたいた……どうしたんだ、こんなところに呼び出して」

もちろん、やって来たのは赤羽根殿。



ーーわたくしが朝にかけた電話は、彼をここに呼び出すためのものだったのです。

貴音「お待ちしておりました、あなた様」

貴音「お忙しい中に呼び出してしまい、申し訳ありません」

P「いや、別に構わないよ」

P「ただ……珍しいな。貴音に呼び出されるなんて」

貴音「そう……ですね。あなた様から呼び出されることはあれど、わたくしから呼び出すのは初めてやもしれません」

貴音「ですがどうしても、あなた様にお伝えしておきたいことがございまして……」

P「伝えたいこと?俺にか?」

貴音「はい。どうしても、今伝えねばならないことなのです」

P「そうか……ここを指定したのは、何か理由があるのか?」

貴音「ええ。他の者には、聞かれたくない内容でしたので」

貴音「ここは人の来ることのない、静かな場所……ここなら、他に誰も来ることはないでしょうから」

貴音「月もよく見えることですし、わたくしのお気に入りの場所、と言っても過言ではありません」

貴音「つらいときや、悲しいとき……そんな時は必ず、わたくしはここを訪れます」

P「へえ、ここが貴音のお気に入りの……確かに、月がよく見えるな」

P「それにしても、人に聞かれたくない、か」

P「……ははっ、まるで告白でもするみたいだな……なーんて」

貴音「……」

P「……あれ?」

貴音「……本当に、いけずな方……」

深くため息をついてから、わたくしは再び口を開きました。

貴音「本当に、あなた様はいけずです」





貴音「ーーご覧下さい、あなた様……今宵は、月が綺麗ですね」

P「ん?……ああ、そうだな。今日は特に綺麗に見える」

貴音「ええ、まことに」

貴音「そして……ご存知ですか、あなた様」


貴音「かつて、とある英文をそのように訳した人物がいることを」

貴音「『あい らぶ ゆう』……それが、その英文です」

P「……」

貴音「そして……これは今のわたくし自身の気持ちでもあります」

貴音「……あなた様」











貴音「わたくしは、あなた様を……お慕いしております」

貴音「プロデューサーとしてーーそして、一人の殿方として」












P「貴音……」

貴音「……分かってはいるのです」

貴音「この思いは許されるものではない、ということは……重々承知しております」

貴音「ただ、伝えておきたかった。それだけなのです」

貴音「……それにあなた様が、わたくし達アイドルのことをそのような目で見ていないことも知っています」

P「ーーえっ?」





貴音「申し訳ありません。給湯室の前にて、立聞きをしてしまいました」

貴音「小鳥嬢に、そうおっしゃっていた……そうですよね?」

P「そ、それは……」

貴音「それによってわたくしも、決心がつきました」







貴音「ーーあなた様に、わたくしの『とっぷ・しーくれっと』をお伝えする決心が」


……


決して話すことはない、と思っていたこのことを話す時が来るとは……夢にも思いませんでした。

そうすれば、この時間軸からわたくしの意識は消え、あちらの時間軸へと戻ります。

この体がどうなるのかは、わたくしは分かりません。

ですが……もしこの思いが、叶わぬものなのならば……


……わたくしは『親友』のため、もう一度世界を越えてみせましょう。






貴音「ーーわたくしはこの世界の……いえ、この時間の人間ではありません」

貴音「たいむりーぷ……時間遡行、というものをご存知でしょうか。わたくしはそれによって、この時間へとやって来たのです」



ぼんやりと、わたくしの体が光り始めました。

……かつてわたくしが、この時間軸へとやってきたときのように。

P「貴音……体が……!」

貴音「……このことを話せば、わたくしの意識は元の時間へと戻されます」

貴音「これはおそらく、その影響でしょう」

神様の話では……もって一分。

残された時間は、もうあまりありません。

貴音「トップアイドルになるため。そしてあなた様にもう一度出会うために、わたくしは時を超えました」

貴音「過去の栄光も、大切な親友も捨てて……わたくしはもう一度やり直すことに決めたのです」

貴音「ですがかつて所属していた961プロを解雇されたのち、わたくしは響と全くと言って良いほど出会っていません」

貴音「そのままわたくしは、この時間へと跳んだ」

貴音「わたくしは……彼女を見捨てたのかもしれません」

貴音「あなた様へのこの想いが叶わぬものなのならば、わたくしがこの場所にいる理由はございません」

貴音「それならば、わたくしは置き去りにしてきた響のそばにいるべきです」



わたくしを取り巻く光は、次第にその輝きを増していきます。

ーー流石に全ては話し切れませんか。そろそろ潮時でしょう……。

P「ま、待ってくれ!俺は……」

貴音「……もう、何もおっしゃらないで下さいませ、あなた様」

貴音「消えるのが、余計につらくなってしまいます」

P「貴音っ……違う、違うんだ……!」






ほおを伝う涙は吹く風によって飛ばされ、夜空へと消えていきます。

わたくしの体も、少しづつ消えていくようです。

これが……この世界での、わたくしの終わり。


P「貴音……っ」

貴音「このまま消えてしまうことを、お許し下さいませ」

貴音「さようなら、あなた様……お元気で」







ーーわたくしの意識は、そこで再び途切れました。






【To be continued…】


……


今回の投稿は…そして、このスレにおける投稿は、これで以上となります。



貴音の消失による語り部の変更により、次スレに移行させていただきます。

このスレ内でも書き終えられそうな雰囲気ではありますが、キリもいいですので。





これまでお付き合いしていただいた皆様に、最大級の感謝を。

次スレの方も、どうぞよろしくお願いします。

貴音「Never @gain……」
貴音「Never @gain……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1459521603/)

お待たせしました、次スレへの誘導をさせて頂きます。読んで頂ければ幸いです。

それでは、このスレはHTML化を。

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