左馬介「問おう、アンタが俺の主か」切嗣「……何、だと…」 (23)


衛宮切嗣は困惑していた。

聖杯戦争に向け、遂に召喚した英霊……サーヴァントの言葉に。

その、姿に。


左馬介「俺と同じ国の人間だろう、言語も合わせたつもりだが」

左馬介「もう一度問おう、お前が俺の主でいいんだな」


引き締まった顔立ちに黒い瞳。

流れる様に、硬質ながらも揺れる黒い髪。

そして、その下に着ている武者鎧に近い防具に、腰の刀。


どう見ても聖剣『エクスカリバー』の鞘である『全て遠き理想郷』に関わる者とは思えない。

どう見ても所縁のある人物とは思えない。

衛宮切嗣は二度目の問いに気づくと、静かに応えた。


切嗣「……君が鞘の持ち主なら、そうだろうな」

左馬介「見覚えはあるが違う」

切嗣「…………」


即答された切嗣は、背後のアイリスフィールに視線を向けながら、首を振って思考を放棄した。




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─────── ・・・ 数日後


アイリ「……当初の計画とは違ったけれど、結果だけを見れば凄い幸運よ」

アイリ「『彼』の名は明智秀満……様々な文献や説があったけど、『彼』自身の言葉から真名は『明智左馬介秀満』で確実ね」

アイリ「冬木の地にも何度か足を運んだ事はあるようね、生前は何かの理由で霊地を巡ってたらしいわ」

切嗣「……日本人の英霊が出るとはね、まさか」

アイリ「それだけではないわ、彼はどうやら『ちょっとした怪物みたいな存在』を退治したみたい」

アイリ「当時の事を考えたらきっと大袈裟に書いてるんでしょうけど、『幻魔王』なんて言われてるのを倒したみたい」

アイリ「面白いわね、白蛇の怪物だなんて」


切嗣「……日本人の文献はともかく、逸話の中でも有名なのはやはり織田信長が討たれた当時に存在していることか」

切嗣「恐らくその辺りで多少は他のサーヴァントよりはマシになる、あの男……左馬介が宝具を複数持っているのもプラスだ」

アイリ「幾つかのデメリットはあっても、やはり最優のサーヴァントは伊達ではないようね」

切嗣「ああ」





切嗣「……エクスカリバーを握った事があると言われた時は何の冗談かと思ったが」

アイリ「そうね……」







< タッタッタッタッ


< 「あははは! ねー見て見てサマノスケ! あれなぁに?」

< 「切嗣が心配するぞ、そんなに走ったら」

< 「ねー、あれなぁに!」

< 「あれは……」



切嗣「……」

アイリ「あなた、複雑な表情になってるわよ」

切嗣「そう見えるかい」

アイリ「ええ、何か気になる?」

切嗣「気にもなるさ、宝具の特殊性があるとはいえ『霊体になれない』のは……ね」

アイリ「それでも左馬介なら問題ないわ、ましてや戦場となるのは日本なのよ?」

アイリ「目立たないという意味ではアリじゃないかしら」

切嗣「……そうかな」


切嗣(だがアイリ、君は気づいているかい?)

切嗣(彼の持つ宝具は一歩間違えれば、無差別に人の魂を吸い上げかねない代物だ)

切嗣(英霊と言っても、このサーヴァントは危険だ……そもそもがこの聖杯戦争に召喚された事が異常なのだから)

切嗣(何もなければ、勝つだけだ……だが……)


アイリ(……心配そうね)

アイリ(でも何故かしら、『彼』を見ていると……何処か頼りになりそうな気はするのよね)






─────── ・・・某日、冬木市



……それは、とある深夜に起きた事。

僅かに変わってしまった未来で起きた、僅かな変化。

その変化に巻き込まれたのは、冬木市に点在する内の1つ、神社を管理する者達だった。

暗闇の中で、『それ』を目の当たりにした青年が声を漏らす。



「……へ、へへ…………」

「おいおい、本当に出てきちまったよ……」


足元に転がる『血で陣を描くのに使った』刷毛が、堂内に水溜まりに沈む様な音を出した。

青年は改めて、手元の……自身の家に後生大事に蔵へ仕舞われていた一冊の本で描かれた魔法陣の様な絵を見る。


「悪魔か何かの儀式かとは思ってたけどさ」


青年は額から流れる汗が拭けずにいた。

確実に異形の存在であるのは、一目で分かったのだ。

しかし、それまで恐らく悪魔らしい悪魔を見たとしても飄々と対応出来る気はしていた。

だが青年の眼前にいる存在は……『格』が明らかに違ったのだ。






【無礼な虫ケラだ】









闇の中で佇む長身の影は、一対の紅い瞳を背後の青年に向けた。

その声は畏怖の感情を腹部から押し出そうとする程の、強烈な気を纏っている。

青年は息を飲むことも出来ずに影を見ていた。



【この私を誰だと思っている、聖杯を介してこんな所に喚び出すとは】

【だが都合が良い……これはいい】


声が、ぶれている。

青年は僅かな余裕が未だ残っている頭で、そう思った。

長身の影は暫く手に持つ杖と共に周囲を見回すよう、くるりと回った。

そして結論付けるかの如く、眼を細めた。



【どうやら再び未来の地上に君臨出来た様だなァ】



青年は気づいていない。

災いを呼べる一人の怪物を喚んでしまった事に。





https://youtu.be/RjEE6UPgAWo









ギルデンスタン【この私、『ギルデンスタン』が再びこの地上を支配するチャンスが巡ってきたのだ】



ギルデンスタン【聖杯のシステムを乗っ取るには及ばんが、貴様を介せばその限りでは無い】



ギルデンスタン【小童、死にたくなければ名乗れ】


「は……は……ぃ」


龍之介「俺、雨生龍之介……です…」




ギルデンスタン【龍之介か、蘭丸の奴を思い出すわ……欠陥だらけではあったがな】

ギルデンスタン【宜しい、光栄に思え龍之介】





ギルデンスタン【この私がお前を最強の戦士にしてやろう】





直後、とある深夜の神社で1つの悲鳴が響き渡り続けた。




────────── ・・・ 数日後・某所



…………「冬木市内の下水道に異変?」



「市内の作業員が複数行方不明に、一部のメディアが下水道で『奇妙な肉塊』を見つけています」

「念の為、教会が調べますが……どうにも今回の聖杯戦争参加者の可能性が出ていますな」

「どう思われる?」


時臣「……先日のキャスターかもしれないな」


「やはり、そう思われますか」


時臣「現状として、今この地にいるマスター含めサーヴァントの特性としては、『外』から来た魔術師二人しか候補がいない」

時臣「そして……もう一人の外からの参加者はかのロード・エルメロイだ……神秘の秘匿を破るとは思えないな」

時臣「未だ聖杯戦争は始まっていないというのに、これはどうしたものか……」


「では……綺礼」


言峰「……アサシンを向かわせましょう、今夜の『催し』には一人居れば事足りるのですから」

時臣「いや、事の騒ぎを一度片付けてからにしよう」

時臣「この戦い、我々の勝利を確固たる物にするなら万全にして臨むべきだ」


言峰「……」



< ギィィ……


言峰「……」

言峰「何の真似だ、アーチャー」


< スゥゥ……

ギルガメッシュ「何、ちょっとした土産をとな」


言峰「土産…?」


ギルガメッシュ「ああ、気色の悪い『蟲』がいたのでな、この我を薄汚い眼球で見ていたから捕り殺した」

ギルガメッシュ「時臣の奴に渡して調べさせろ、二度と我に害虫駆除をやらせるな」

< ヒュンッ

< ドシャッ


言峰「これは……使い魔、か…?」

言峰(いや、だがこれは……)


ギルガメッシュ「知らん、それを調べるのが貴様ら雑種の仕事だ」

ギルガメッシュ「……フン」

< スゥゥ……


言峰(随分機嫌が悪いな、余程不快だったのか)

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